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音環境の政治的正しさをめぐって

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音環境の政治的正しさをめぐって
騒音・振動概究会資料
資料番号 鐸一29倉8−5駐
音環境の政治的正しさをめぐって
0簸Po翫ic屋COπec敏ess o{Aco騒s毒ic E慕viぎ。鼓磁e蕊
永旙幸司
Koji N鑓ε血&ね
福島大学
F臨簸s臨a、u滋騰婁s重勢
2008年10月i7日
㈹日本音響学会 騒音・振動研究委員会
音環境の政治的正しさをめぐって
0澄Poii綴cai Co翼ec雛es80{Aco嚢s慧。 E簸vi紛磁e鑑
永軽 幸司
Koji灘9曲霧ね
福島大学
F戯賎s薮畑&u感v8器脅
内容擾擾二政治的歪しさとは,言葉,表現,行動などが,公正さを類したもの
であること,差携的ではないことを意味する概念である.本稿では,環境影響
評緬における音環境の詳細,ハイブリッド車の走行音,音響式信号機,街頭宣
伝敷送という垂種の音環境に臠するの麗題について,政治的死しさという視点
からの検討を行った.そして,音環境の政治的正しさを実現するためには,音
環境をめぐる多様な評癒のあり方を包括的に検討する必要があること,検討の
際には闘かれた議論が行われる必要があることを旛締した.
まで,各々の視点に立脚して為されたものであり,
1 はじめに
そこから逃れられない1募そして,個々の視点
音琿境の歪しさを評慰する視点は,評極すべき
そのものには,勉の椀点に対する優越性を示す根
対象,評癌の文賑等に応じて多数存在するであろ
撫は含まれない.従って,異なる視点から対立す
う.縫えば,環境影響評緬の際に見られる環境
る評極が下された際,各々の視点に基づいた言説
基準との整合性」li,21という視点がそのiつであ
は平行線を遷るの券であり,単にそれらを比較す
り,音環境のバ夢アフリー建国が検討される際
に見られるギ視覚障害者の移動の鍔滑さの確保]
ることから繋立を講整することは,原理的に不可
能である.そのような中で,認立を解消していく
という視点もそのiつである.
ためには,懇々の視点闇の関係性を整理するため
個々の視点から詳細された音環境の死しさは,
それぞれの評懸が行われた文脈において,正当な
の,メタレベルの視点が必要となる.
そこで本稿では,そのようなメタレベルの幌点
ものである.すなわち,同一の音環境に対して異
のiつとして,彩政治的正しさ雌という概念を導入
なった視点からの評価が可能であり,視点が異な
する.そして,実在の音環境の開題に対してこの
れば評緬もまた異なるものとなり得る.そして,
その差異は,時に,対立を孕む.例えば,高尾山
視点からの検討を行うことを通して,この概念の
有効性を検討したい.
天狗裁判潤において,騒音に係りギ環境基準を
クリアすればよいのか」が争点のiつとなったこ
とは,上で溺示したギ環境基準との整合性」とは
異なった視点から騒音について評緬することが可
能であり,その詳細は「環境基準との整合性3か
ら得られる評麺と財立することがあることの証左
となろう.また,轍客施設における音による移動
支援方策ガイドライン塁綱の中で,撹覚瞳害者
を対象とした誘導鈴等が,騒音問題を引き起こす
2 政治的正しさとは
政治的正しさは,「<言葉・表現・行動などが>
公正さを窮した;差罰的でない」綱ことを意味
する機念である.C加重と鍼斑擁yによれば,こ
の概念は非群纏的であり,反覇権主義であり,闘
かれた議論が行われることをその理念とする羅
という.この概念は,欝8懇年代以降のアメリカを
可能性があることが言及されていることは,「視覚
中心に「社会にみられる様々な差尉・不公平を是
障害者の移動の円滑さ」という視点もまた数ある
正・撤廃していこうという動き」の旗葎ともなり
綱,障害者問題を含む,少数者の開題を考える際
視点のiつであり,その評麺とは対立する評懸を
下す視点が存在することを示している.
に援罵されてきた.
音環境に濁する舞々の視点からの評癌は,あく
過度の政治的証しさの追求は,逆差潮と捉えら
雛顯本音響学会騒素振麩頚究会費耕
i
鋪一2碧駐8−5§
れたり劉,言葉狩りとして揮捻されたり1鶏1と
いった翼題を引き起こすなど,不毛なものとなり
ましい騒音影響に関する渥内騒音レベルの指録」
を基本として設定されたものである.言い換えれ
かねない危険性を孕んではいるli耳しかし,そ
の危険性を踏まえた上で,上述の理念に基づいた
議論を行うことは,一定の効力を持つものである
ば,蔓麹であれば室内における会話妨害が,後聞
と考える.
評価をするにも弱題点が含まれている,不十分な
であれば睡鰻妨害が評癒される視点に過ぎない.
しかも,松井らli71が指摘するように,それらの
ものである.従って,音環境に関する絶の視点か
らの繊判に対して,環境基準,あるいは,要請酸
3 事例検討
以下では,実在の音環境の問題を事綱とし,政
度との整合盤のみから,音環境について問題なし
として片付けようとする議論は,多様な議論の可
治的正しさという観点からの検討を行う.
籠牲がある中での弛の擬点の一方的な無視という
暴挙であり,政治的に正しくない.
3.1 環境影響評癒をめぐって
音環境を評擁する弛の複点としては,例えば,
環境影響評極は,「環境の保全について適正な
資することを霧的」として実施されるものである
自然公園等におけるしずけさの確保の観点li81
や,オオタカ生息地等における野生動物保護の観
点1瑚,あるいは,音環境の快適性を詳細する観
点1瑚,さらには,サウンドスケープ論に見られ
li器このような趣旨に基づいて実施される環境
る美的観点12§1やヂ無徳」の観点12ilなど,多様
影響評緬は,ヂ環境基準などあらかじめ定められた
なものが挙げられる.このような視点の多様牲が
適切に確保され,総合的な評簸が為されてはじめ
醗慮がなされることを確保」することにより,ヂ現
在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に
基準や目標と照らして,それをクリアすればよし
とする」というヂ基準クリア型」の考え方ではな
く,「よりよい環境保全措置によって環境影響が最
の評緬が為されたことになり,同時に,そのよう
大限園避・低減されているかどうかについて,事
な評極こそ,政治的に正しいものとなり得ると考
業者自らが説明責任を果たす」ことが求められる
える.
「ベスト追求型」の考え方で行われることが求め
られているli31.
織様の議論は,環境影響評癒に留まらず,騒音
対策を考える議論全般に適用再議であると考える.
このような考え方を音環境の問題に当てはめる
なお,以上の観点から,鷺頭で挙げた高尾出天
て,「ベスト追求型」の考え方に基づいた音環境
と,単に,環境基本法をその根撫とする「騒音に
狗裁判における「環境基準をクリアすればよいの
係る環境基準」(以下,ヂ環境基準」),あるいは,
か」という論点について言うならば,裁判の原告
騒音規正法をその根撚とする「自動車騒音に係る
翻がヂしずけさの確保」や「音の風景」の保全と
要請限度」(以下,ギ要請限度」)等と照らし合わ
いった環境基準とは異なる詳細の視点を挙げてい
せた評無を行うだけでは,そもそも,環境影響評
無法の求めるギ評麺」を行ったことにならないこ
る141以上それらの評無の視点を尊重せず,環境
基準一本に絞った評無でよしとする方略は,少な
とは自明である.評極の際には,少なくとも,例
えば拙台布環境影響評懸技衛マニュアル1掻1に溺
くとも政治的には正しくないと言わざるを得ない.
記されているように,晦に対する影響を躍避ある
3.2 ハイブリッド車の走行音をめぐって
いは低減しようとしているのか」を,言い換えれ
ガソリンエンジンと電気モーターを傍絹するハ
ば評簸の撹点を明確にすることが求められ,その
イブリッド車は,醗存のガソリン車と比べてガソ
上で,設定した評癒の視点に合致した評麺が為さ
リン消費量が少ないため,二酸化炭素擁鐵量有
害物質擁轟量共に削減できる,環境開題に対応し
た自動車として人気を集めている.さらに,ハイ
ブリッド車は,特にモーター使用時において,低
騒音であるという特徴も持つ.騒音対策の一環と
して,騒音規歪法を根鎚とした自動車単体の騒音
規制が鰯定され,それが低騒音化技衛の海上に伴
い顯次強化されてきた1221という騒音政策の流れ
れる必要がある.
この条件を溝たした時,環境基準,あるいは,
要請鰻度との比較も,環境影響評緬を行う際の1
つの評癒の視点になり縛る.これらの評懸の視点
は,環境基準であれ1瑚,要請鰻度1瑚であれ,
ギ生活の中心である屋内において睡醸影響及び会
話影響を適切に防止する土で維持されることが望
鰻矯本音響学会騒春振動覇究会資料
2
舞一2む§8−5む
を考えると,このような低騒音の自動車の趨現は
そして,ハイブリッド車に音を付撫する形での
望ましいことであると言えよう.
解決策について考えると,ハイブリッド車以外の
しかし,自動車走行音が環境騒音と比してあま
普通自動車の走行音にマスクされることのない音
りにも静かであれば,その音を車の存在や接近を
が付撫されてはじめて,撹覚障害者にとってハイ
知るための情報として利罵することが園難とな
ブリッド車登場以前と講等の歩行環境が確保され
る.これは,梶覚障害者にとっては,「自動車の位
ると言えよう.そのような音が付撫された場合,
置が分からないことJ l231を意味するため,彼ら
道路沿線の騒音レベルは,現状から大輪には改善
/彼女らは歩行するときに非常に危険性が増すこ
されないであろう.騒音を大幅に低減できる技衛
が実用化されているにも関わらず,その性能を十
とを強く危惧している123,2曝さらには,ハイ
ブリッド車等の電気モーター車が増えれば,晴鰻
考であっても,狭い艶地や静かな交差点での事故
が増え,社会問題化すると予濡する騒音蘇究者ま
分に引き轟せないような施策を行うことは,道銘
沿線住民に我慢を強いることを意味し,政治的に
正しくないと考える.
でいる12鼻
このようなハイブリッド車が低騒音であること
この問題の根源は,ハイブリッド車のような低
が引き起こすことの対策のiつとして,ハイブ
の走行妾をかき消してしまうような高騒音の自動
騒音車の技衛が闘発されているにも間わらず,そ
リッド車に何らかの音を付撫するという策が提案
車が走り続けることを許されていることにある.
されている1騒,2尋アメリカ議会では自動車の
最低騒音レベルの法案化の検討が始まっていると
従って,自動車騒音の単体規制の強化というこれ
言われており12§1,羅に,車載用の音源を開発し
マスクしてしまうような高騒音を発する自動車の
たという自動車メーカーも存在する12鼻こうし
た,妾を付加することで視覚障害者が安全・安心
に歩行できる状溌を作り鐵そうという発想は,一
走行を制限することこそが,撹覚障害者にとって
晃すると,政治的に正しそうに見える.
理化に寵する法律(通称ジ省エネ法」)13茎1におい
ここで,視覚障害者による自動車走行音が聞こ
て,自動車の燃費基準にトップランナー方式(現
えにくいことによって生じる開題についての書及
を検討すると,大型車の音は普通自動車の音を満
在利絹可能な機器の中で巖高の値を省エネ基準と
までの流れを更に推し進め,低騒音車の走行蕎を
も,道艶沿線住民にとっても政治的に正しい解決
策であると考える.現在,エネルギーの痩馬の合
してしまうので困る1281,真上の高速道艶の音が
して定める方式)が採矯されていることを考えれ
ば,騒音に対する規憲彗嬉に録して同様の方式を求
下の大通りの音と混ざり合い横懸のタイミングが
めることも,不合理ではなかろう.
わからない12§1,あるいは,工事等の大きな畜が
3.3 音響式信号機をめぐって
手がかりとなる自動車走行音をマスクしてしまう
13§1等のように,具体的には,手がかりとしたい
音響式信号機は,8本における最も一般的な,
自動車走行音が,絶の音にマスクされる時に開題
視覚陸害者を対象とした音を用いたバリアフリー・
が発生することが,ハイブリッド車が登場する以
デザインのiつである.しかしながら,その音量
前から,指摘されてきていることがわかる.また,
ろであれば間こえることが擾擾されている123し
これらを合わせて考えれば,ハイブリッド車の走
行畜の開題は,以繭から指摘され続けている,手
設定に関して,公醐された公式なガイドライン
1321では,正常な聴力を有する者が信号機周辺の
定められた範囲において聴取できることが,定性
的に求められているのみである.そのため,例え
ば松野ら1331が示すように,信号機により音圧レ
がかりとなる自動車走行音が弛の音にマスクされ
ベルの設定はまちまちなのが現状である.
ることによって発生する問題のバリエーションに
バリアフリー・デザインとしての音は,音量が小
過ぎないことがわかる.ここで問題となるのはハ
イブリッド車の走行音と飽の環境騒音とのS賛比
さすぎると視覚璋害者の役に立たない1341.従っ
である.すなわち,ハイブリッド車に音を付撫す
薩害者が安全かつ安心に横断歩行する権利を阻害
ることだけがこの周題の解決策なのではなく,ハ
イブリッド車の走行音がマスクされないような音
するという点において,政治的に正しくない.
その一方で,大きすぎれば周辺住民との題に騒
環境とすることもまた,iつの解決策なのだ.
音問題を引き起こす.このような音量設定は,視
ハイブリッド車の走行音については,静かなとこ
麟B本春響学会騒音振勢礒究会資料
て,そのような音量設定の音響式信号機は,視覚
3
翼一2融§8−5君
覚障害者の安全かつ安心を確保するという目的の
128,3母その一方で,それらの音は勉の手がか
りとなる音をマスクすることもあるため,観覧障
ために,音響式信号機の周辺住民に我慢を強いる
ことになり,これは信号機周辺に住む者という少
数派の権利が講限されるという点において,政治
害者の中にもその存在を嫌うものがいる1371.
欝葎としての利罵という点については,視覚障
害者がそのように科用している音は人によって異
的に死しくない.
では,講者にとって政治的に正しい音環境を実
なっていることが報告されている128しこのこと
より,環境下にある,より多くの音が㌶き取れる
状溌を確探することが,政治的に正しい音環境の
現するには, どうしたらよいのか.
視覚障害者が安全かつ安心に横瀬歩行をするの
に必要な音量が,信号機の周辺住民に騒音と見な
満たす範囲の中で音量を設定すれば良い.
あり方だと考えられる.それゆえ,iつiつの街
頭宣伝は,環境下の他の音をかき消さない程度の
音量で放送されていることが,政治的に正しいあ
しかし,覇者の要求が相容れない場合,懸難に
り方だと言えよう.
される音量を下渥っているならば,講者の要求を
直面する.どちらか一方の要求を完全に取り入れ
また,上溝らの実験1371によると,街頭宣伝
た場合,上述のように,地方にとって政治的に正
放送を必要とはしない視覚障害者が望む街頭放送
しくない音環境になる.そして,講者に妥協を求
の畜量,すなわち,彼ら/彼女らにとっての街頭
め,いわば,痛み分け的な音量設定をした場合,
放送の音量の許容値の平均と標準偏差(実験に驚
部分的とはいえ再考の権利を抑圧することにな
り,講者にとって政治的に正しくない音環境とな
る.このような場合,そもそも,現行の音響式信
号機が不適切な方式であると考えるのが妥当であ
いた鵜綴音のL遵鐙)は,音楽の場合で66.3±3君
達B,広告アナウンスの場合で§8.6土4.§d醸3であっ
た.この時,それらの音を羅印として絹いている
視覚障害者は,中にはそれらの音に望む音塁とし
ろう.
て,それらを必要としないものより大きな纏を示
餐鑓曲桟ねらの実験1351によれば,視覚障害者
が安全かつ安心に音響式信号機を利潤するには,
したものがいたものの,内観報告の中でおおよそ
9割のものが,街頭宣伝は「盲導鈴や音…響信号と
信号機の音量(L遵磁灘)は,スピーカが設置され
違い絶繋的に利用できるものではない」と述べて
た直下の位置において,その環境下で最も大きい
いた.
と考えられる状溌の環境騒音レベルから約i蕪B
高いレベルである必要があるという.この知見に
従えば,住宅街の道跳のように,普段の環境騒音
レベルはそう高くないものの,大型車等が通ると
騒音レベルが一時的に引き上げられるような状況
では,普段の環境騒音レベルから見れば蕊照懲を
大権に超えるレベル差で音響式信号機が鴨らされ
る必要があることになる.これを実現した場合,
霧辺住民にとっての政治的歪しさは確保されない
これらを踏まえれば,槻覚障害者の便益という
観点からは,徳頭宣伝放送の音量は,それらを必
薄能牲が高いと考える.
使矯の難聴者にとっては,より低い騒音レベルの
撹覚競害者の道跳横断を支援する方法として,
街頭宣伝放送の音量の許容纏を設定することが,
エスコートゾーンなど新たな有効なものが提案さ
政治的に正しレ、ことだと転、えよう.
れている現在,音響式信号機の方式そのものを見
直す必要があるのではないか.
また,高齢者に鋸を海けると,老人性難聴の特
要としないものにとっての許容値をもってその規
鋼値とすることが,政治的に正しい判懸であると
考えられる.
次に,補聴器使用の難聴者について検討すると,
彼女ら/彼らにとっては,ギ騒音が大きく,また音
楽などをやっている環境の下では言葉をききとり
にくい」1381ことが知られている.従って,補聴器
徴のiつとして周波数分解籠の低下が挙げられ,
同様の議論は,誘導鈴(盲導鈴)等,飽の音を
これにより,聞きたい音がジ騒がしいところだと
篤いたバリアフリー・デザインについても可籠で
聞き取りにくくなる」ことが知られている13gし
あろう.
そして,佐々木1嘆§1は,高齢者をとりまく音環境
を良くする要件のiつとして,ギ周囲に鋭く,大き
3.4 街頭宣伝放送をめぐって
な音がなく高齢者が瞳騒感を抱かないこと」を挙
蕎店街などの街頭で放送されている宣伝放送は,
げている.これらは,高齢者にとっても,より低
視覚陸害者にとって場所を知るための臼鶏となる
い騒音レベルをもって街頭放送の親綱値とするこ
鯵暮本書響学会騒音振動彌究会資料
4
繋一2書癖8−5§
4 考察
とが,政治的に疑しいということを意味するもの
である.
鋳章での検討が示すように,音環境の政治的延
さらに,痴呆高齢者に目を海けると,いろいろ
しさを追求することは,音環境に対する多種多
様な要望が共存できる環境の構築を目指すこと
に勉ならない.従って,政治的に正しい音環境の
実現のためには,音環境に対する多様な評緬のあ
り方を包括的に検討する必要がある.このような
包括的な検討を可能とするためには,検討対象と
する音環境に係る全ての当事者(現実的には,よ
り多くの当事者)の検討の過程への参撫が欠かせ
ないであろう.そのためには,永繕が指摘するよ
うに,当事者を巻き込んだ濃厚な音環境コミュニ
ケーションが必要であり,それを基盤とした音環
境パートナーシップの構築が必要であろう14琳
また,音環境に漏する多様な評緬のあり方を包
括的に検討する必要があるということは,言い換
えれば,音環境の開題を考える際に,特定の立場
にのみ呼応した検討をもって十分とするのは,片
手落ちの議論であると漸じざるを得ない.昨今,
特にバリアフリーの文脈等で,特定の視点のみか
らの音環境に対する提案がなされる事例が散見さ
れる.しかし,それらはその提案が対象とする立
場の者において局所的に要望が満たされるかもし
れないが,環境全体を視野に入れると,開題を横
にずらしたに過ぎない.そのような提案は,多く
な音に溢れて騒がしい状態は,彼らにとって,ス
トレスを感じやすく,疲れやすい環境であり,大
音量のB G擬が流れるショッピングセンターは,
そのような場訴の典型擁だという1償,姐,4録彼
ら/彼女らの立場を考えた場合にも,より低い騒
音レベルをもって街頭放送の規簿1値とすることが,
政治的に正しい.
そして,音に過度に敏感なアスペルガー症候群
の子供の手記14農1によれば,大きな音のする環
境,様々な音が混ざっている環境は,疲れやすく
ストレスを感じる環境であるという.彼ら/彼女
らの立場においてもまた,より低い騒音レベルを
もって街頭放送の規簿1値とすることが,政治的に
正しい.
また,大門ら1蝿は,商店街で流されている
βG瓢の反対派が少数派と見られているのは,
籔GMを震いてはいないヂ無評麺」のものまでが
受容派に括られているからであり,決して,多数
派が積極的に放送を求めているわけではないと論
じている.そして,放送積極派が黎G擁を求める
理由も,ヂ活気がでる」や「イメージがよくなる3
といった,場の雰囲気作りを求める程度のもので
あることを示している.これらは,音量が舗限さ
の場合,本質的な解決策にはなり得ないであろう.
れた中でもある程度実現可能なことであると考え
そして,本稿で示した音響式信号機の事例のよ
る.それゆえ,街頭放送の規鰯値をより無い騒音
レベルに設定することは,決して,放送を求めて
うに,現行のあり方では当事者の要望が掛麹的に
しか溝たされないような翼題においては,システ
ムの変更など,音環境のあり方の抜本的な変更を
いるものの正当な権利を麟隈するような,不公正
なものではなかろう.
しない限り,政治的正しさは実現されないであろ
以上より,街頭宣伝放送の音量は,それらを必
要としない視覚障害者や,痴呆高齢者のような,
より静かな環境を必要とするものにとっての許容
う.この種の問題の解決のためには,窺存の枠縄
を超えた,柔軟な発想が求められる。そのために
も,特にバリアフリーの問題のように音を利駕し
値をもってその規欝髄とすることが,政治的に正
ない形での解決策もあり得る分野の問題を考える
しいと考える.
際には,音の専門家の闘で絹じた議論を行うので
はなく,音以外の分野の専轡家と積極的に脇艪す
以上を踏まえて,現行の条倒で定められている
拡声器の痩馬基準をみると,ヂ敷地境界で55遣B」
ることが必要不薄欠であろう.
(擁えば広島渠生活環境の保全等に関する条携に
おける第一種区域における規簿1値)のような事例
5 おわりに
も散見されるが,ヂ音源直下より鎗搬離れた地点
で70磁3」(鑓えぱ福島県生活環境の保全等に関
する条擁)といった明らかに政治的に正しくない
レベルを基準としている事擁もみられる.今後,
政治的な正しさという観点から,拡声器の綾羅に
蒼頭でも述べたとおり,政治的正しさという概
念は,開かれた議論が行われることをその理念と
する.本稿で示した議論も,多様な視点からの建
設的な撹判や鋭評に曝され,議論が深化すること
を通して,真に政治的に正しい畜環境のあり方を
係る基準,規簿糖を見直す必要があろう.
鮭絹本音響学会騒音振動羅究会費稗
5
翼一2§春8−5む
1瑚環境影響評無法,(平成§年法律第8i号〉.
示すことになるであろう.そして,そのような議
i論が行われたとき,政治的正しさという観念は,
1綱環境影響評麺凝度醗究会編環境アセスメン
畜環境の聡題を考えるにあたり真に有効な概念と
トの最新知識,(ぎょうせい,東京,2§鋳).
して機能すると考える.
1璃仙台市環境局環境部環境計霞課,紬台南環境
参考文献
影響評癒技衛マニュアル,(独台毒環境局環境
部環境計錘課,仙台,欝欝》
鶴擁えば,福島県,福島桑環境影響評無妓籍指
針,(2容馨7/.
1覇中央環境審議会,騒音の評麺手法等の在り方
について 答申,(鰺§8).
121例えば,仙台市環境局環境部環境計爾課,
仙台市環境影響評緬技衛指針マニュアル,
1欝1中央環境審議会騒音振動部会騒音評麺手法
等専門委員会,騒音の評綱手減等の在り方
について(自動車騒音の要請限度) 報告,
〈茎㈱).
圏蕨客施設における音による移動支援方策に
臠する麟究会,‘蕪客施設における音による
移動支援方策ガイドライン,背公共交通機関
蕨客施設に移動繕滑化整備ガイドライン追補
(茎鰯).
1覇松井利仁,平松幸三,縛騒音に係る環境基
準」の問題点に臠する考察,雛音響学会騒音・
版,(交通エコ窪ジー・モビリティ財懇,東京,
振動羅究会資料聾2蓼総52,(2馨総).
2蹴)、
1豊81W蜜羅翼e滋癒幾騨搬宅魏,G繋髄魏歓
141辰濃和男,高尾出にトンネルは似合わない,
C{)簸藁澱議漁誌y簸0誌eラ(要護》§).
(岩波書店,東京,2倉碧2).
1瑚讐本騒音翻御工学会,音とアメニティ,絹本
絹Kα殴。登詮鐵編綴,‘‘R鷺po鍛鷺D S(》羅。
騒音制郷工学会,東京,欝§2).
嚢NV璽ON擬猛㌶丁 至s T薮璽()RY− A餐D
蟹露丁蘇鍍)墨AD獺,蹄P蹴.孟蹴猛伽e94,
12§1平松幸三,‘鷲の流れに耳をすませて,鴛サウ
鴛094雛4,(魏護).
ンドスケープ4,(2§§2),巻頭.
綱争磯もic認ぎOGryecも,}}小西友七・南鐵康選編,
1鱒小泉試栄,峰岸純夫,大門爆慰,鳥越けい子,
ジーニアス英和大事典,(大修館書店,東京,
毒‘平成鰺年度シンポジウムヂ天狗の聴いた
2倉劔一20倉2).
音暴景」∼高尾出の無縫をめぐって∼第3
17P撒9簸塾C蓋。董,」倉拠W蕊脚煽丁嚢eP慮
毒ics猿遣P憾鋤魏yo墨Po臨。綴C鍵繋ec搬ess
部 高尾山の懸値をめぐって,}’サウンドス
ケープ,§,ii−24,(2§§7).
(Pぎa£geぎP磁》董懸盤劔sヲ輪s縫}o鶏,鐙92),茎L生
1221経本騒音劇御工学会編,‘‘自動車騒音の規鰯,蹄
18】寺澤盾,嘱英訳聖書と差別表現,”英語青年,
騒音舗御工学ハンドブック債料編],(技報
懲5(6),i7,α9弱).
堂,東京,2巷倉i),聾.25i−254.
綱例えば,外岡秀俊,‘‘ポリティカル・コレクト
123i高橋良彰,9ハイブリッド車乗車体験記,”点
ネス論争,米で活発化 弱者への偏見正す動
字民報,磐7,i弓,(2馨碧7》
き,分朝霧新聞,鐙92年7月欝欝付夕刊,文
12絹小懸鶴保子,{‘ハイブリッドカー試乗体験,茸’
化欄,(i弱2).
点字民報,5総,i345,〈20舞8).
1瑚例えばジェームズ・フィン・ガーナー〈デー
125]土肥哲也,憶0年後の交通騒音事情,”騒音嗣
ブ・スベクター,遜口佐紀子訳),政治的に疋
御,3尋(護),329−323,(2G{絡).
しいおとぎ話,(D獲C,東京,鐙§5).
1瑚浅田彰,混筒井康隆氏はやはり間違っている,”
126】裁田真樹,ξ‘音の視点から考える地球環境開題
筒井康隆碧断筆」めぐる大論争,(勧懲叛,東
について,}’騒音鰯郷工学会講論集,欝74鎗,
(2倉倉8.§),
京,鐙95),麹.264−277,
麟類本音響学会騒音振動硯究会資料
6
鋼一2藝騒8一憩
127】‘‘ハイブリッド車 音で接近を警告,}フ河北新
13§1高橋玲子,{‘姦による移動支援に望むこと∼
報,鱒§8年8月28i3付,経済面,(2鼕鼕8).
授賞障害者の立場から∼,雛騒音制御,27(2),
82−8§,(2㈱).
1281永幡幸司,乱‘視覚障害者が音から場漸を特定
する過程について,う’音響学会誌,5環§),垂総
1371上鐵麻理,永幡幸覇,山内勝題,毒‘視覚瞳
毅7,(2馨倉§).
害者が考える街頭宣伝放送の適切な音量に
ついて,㌻’騒音鱗郷工学会講論集,捻i一捻4,
12§1総目が見えない人が外に畠るとき,羅ることつ
(2馨鉱勢
てなに?,磐楠敏雄監修,知っていますか? 視
覚障害者の暮らし,(解敏幾販社,大薮,欝§7),
1381鈴本淳一,小林厨夫,耳科学一難聴に擁む,(中
茎〉茎瓦婆{)一45.
公新書,東京,2騒綴),鼻翼危
13婿掻英弘,復党障害者に接するヒント,(解放鐡
13§1野口貴世,轟補聴器を利用する高齢者の醐こ
販社,大阪,欝97),麹.§&72・
え」の実情と音環境,勢騒妾麟御,2駐くi),29−
33事(2韓5).
13ilエネルギーの綾絹の合理化に臠する法律,(昭
和騒年法律第鐙骨,最終改亜:平成2§年
1鱒1佐々木實,塙齢者をとりまく畜環境霧題へ
法律第禦号).
の提言,蹄騒音羅騨2§(i),8−9,(2碁客5).
132!警察庁,麟視覚障害者用信号装置に関する基
1鰯クリスティーン・ボーデン,私は誰になってい
本的な考え方について,77静轟県福雛のまち
くの?,(クリエイツかもがわ,京都,2嚢総),
づくり条例施設設備マニュアル,(i弱§),麹.
茎墓》.8塁一89.
i27−i28.
1鯛クリスティーン・プライデン,私は私になつ
1331松野博文,北山一郎,大森清博,市原考,漂田
ていく,(クリエイツかもがわ,京都,2総護),
敦史,垂‘視覚障害者のための誘導システムの
翼}.錘7449,
開発(そのi)一視覚障害者絹音響式信号機
14塞1小澤勲,認知症とは何か,(岩波新書,東京,
等の実態調査(神戸市西区・中央区)一,鱒平
鱒蕊),鱒ほ23426.
成焉年度兵庫渠立福祉のまちづくり工学概
究訴報告集,慧2一鷺6,(2倉総).
1441高橋紗都,高橋尚美,うわわ手嬢と私のアス
ペルガー症候欝,(クリエイツかもがわ,京都,
1341永幡幸斑,{‘視覚障害者には役立たない視覚障
蜘8).
害者のための音によるバリアフリーデザイン
の事擁について,鱒騒音劃御,鱒(5),39昏鎗6,
獅1大門信葱,永幡幸司,‘‘街鋒に流されるB GM
〈2鰯).
に録する人々の意識一福島市内におけるケー
ススタディー,}’サウンドスケープ,5,35護4,
闘K・ji翫9融ね,K就S鞭y鼠¥磁騰磁誕齪i
(20§3)、
U曾δ翫,S強塾4(癒註。亙w灘iy&,斜A茎〉墨盈砿s撫{iy
ひ簸綴織臨e80滋忍8ve短b隷CO嘘墨CS}9簸S
14§1永繕幸霧,‘魑去の騒音開題に音環境の未来
韮Gごv捻縫&簸y油茎}滋ye{i,”No捻8CoR捻oi El簸9}一
を診る一警笛による騒音と拡声器騒音を事例
登ee撫gJ・鵬撮,55(2),2i7−223,(2暮嚇
に一,}’騒音舗御,3蟹媛),34↓351,(2倉倉§).
難羅本書響学会騒音振動砥究会費舞
7
翼一2溺8−5§
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