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ニコチン依存症管理料について
在宅医療インフォメーション No.17 平成18年4月、診療報酬改定に伴い「ニコチン依存症管理料」が新設された。これは喫煙を単なる 嗜好の問題としてとらえるのではなく、 「ニコチン依存症」という疾病であるとの位置づけが確立され たことになる。 「ニコチン依存症」と診断された患者は、日本循環器学会などの関連9学会が作成した 禁煙治療プログラムによって治療を行うことになる。今後は疾病予防の観点からも禁煙治療の普及が 医療費の抑制になると考えられる。本紙は禁煙治療に積極的に取り組まれている先生方に現状と課 題についてご執筆頂いた。今後の診療の参考になれば幸いである。 禁煙治療に対する保険適用とその背景 ―ニコチン依存症管理料について― 大阪府立健康科学センター 健康生活推進部 中村正和 はじめに 1.禁煙治療普及のための 制度化の必要性 2006年度の診療報酬の改定において、ニコチン 依存症が治療の対象となる病気として認識され、 「ニコチン依存症管理料」が新設され、外来での禁 煙治療に対する保険給付が開始されることになっ た。ニコチンパッチについては、その使用をめぐっ て一時混乱があったが、2006年5月24日に薬価収載 が決定し、2006年6月から「ニコチン依存症管理料」 の算定に限って保険薬として処方が可能になった。 本稿では禁煙治療に対する保険適用の必要性をは じめ、今回の「ニコチン依存症管理料」の概要やそ の新設に至る経過、今後の課題などについて述べ ることとする。 たばこをやめることの困難さは、 ヘロインやコカイン、 アルコールと同等であり、依存症を引き起こす原因薬 物のニコチンには、精神依存性だけでなく、身体依 存性があることも明らかになっている1-2)。英米では約 70%の喫煙者が禁煙したいと思い、年間約30∼45% が禁煙を試みているが、禁煙成功率はわずか2∼3% に過ぎないと報告されている1-3)。一方わが国でも、 2003年の国民健康・栄養調査4)によると、たばこを吸 わずに1日過ごすことが「とても難しい」 と答えた割合 は男47%、女35%で、 「難しい」 と答えた割合をあわ せると、男87%、女81%にのぼっている。 欧米ではニコチン依存症を「再発しやすいが、繰 1 用の対象となる禁煙治療プログラムの検討、禁煙治 療を保険適用した場合の医療費への影響の推定、 諸外国での禁煙治療の実態の把握などを行った。 そして、2005年6月に日本循環器学会が厚生労働省 保険局医療課に対して医療技術評価希望書を提出 したほか、日本気管食道科学会が日本循環器学会が 提出した同じ内容の医療技術評価希望書を資料とし て、日本医師会長宛に禁煙治療に対する保険給付の 要望書を提出した。さらに、日本循環器学会や日本 肺癌学会などの禁煙に取り組む9学会(前記2学会の ほか、日本呼吸器学会、日本産科婦人科学会、日本 小児科学会、日本心臓病学会、日本口腔衛生学会、 日本口腔外科学会、日本公衆衛生学会)が厚生労働 省保険局医療課長に対して禁煙治療の保険適用の 要望書を提出した。 これらの動きを受けて厚生労働省は、2006年度の 診療報酬の改定にむけて、2005年11月9日の中央社 会保険医療協議会・診療報酬基本問題小委員会に ニコチン依存症に対する禁煙治療の保険適用を提 案した。その後、保険適用をめぐりさまざまな議論が あったが、2006年2月15日の中央社会保険医療協議 会総会において、 「ニコチン依存症管理料」が新設さ れ、禁煙治療に対する保険適用が2006年度より開始 されることになった。 なお、上述の9学会が2005年12月に禁煙ガイドライ ン 9)を刊行したが、その中で喫煙を病気と捉え、喫 煙者を「積極的な禁煙治療が必要な対象」 とするとと もに、禁煙治療に対する保険適用を緊急に解決す べき問題点として位置づけたことが今回の保険適用 を検討ならびに決定する際の重要な根拠資料となっ たものと考えられる。 り返し治療することにより完治しうる慢性疾患」と 捉え、政府機関がエビデンスに基づいた禁煙治療の ガイドラインを作成し、高血圧や糖尿病などの疾患と 同様、医療の中でその治療に取り組めるよう、保険 適用などの制度化を進めている5)。 しかし残念ながら、わが国においてはこれまで 医療の場での禁煙治療は自費で行われており、禁 煙治療が日常診療の一環として普及していない現 状にあった。2005年に大阪府立健康科学センター が実施した調査結果6)によると、ニコチン依存症の 患者(後述するニコチン依存症に関するスクリーニ ングテスト (TDS)により判定)の6割が禁煙したい と思っているにもかかわらず、病気で受診した際に 医師から禁煙をすすめられた割合は3割程度であ り、具体的な禁煙方法まで指導を受けた割合は5% に満たなかった。 禁煙を希望する喫煙者が禁煙しやすい環境をつ くるためには、禁煙治療を保険適用化して医療サー ビスの一環として提供し、その普及を図ることが必要 である。英国では1999年より国民保健サービス (NH S)の一環として禁煙治療のサービスを実施され、 2004年の1年間に喫煙者の約5%がこのサービスを 利用して禁煙開始日を設定している。わが国でもこ の英国並みに禁煙治療を国民が利用すれば、医療 費の削減額が単年ベースで9年目から禁煙治療費を 上回り黒字に転じ、15年目には1,704億円の黒字とな る7)。15年間の累積額でみると3,386億円の黒字とな る。また、喫煙率は自然禁煙による変化と合わせて 今後15年間で、男性では27.2%、女性では5.5%減少 させることが期待できると考える7)。 2.保険適用にいたるまでの経緯 3.保険適用の内容 私たちは2004年度より厚生労働省の第3次対がん 総合戦略研究事業( 「効果的な禁煙支援法の開発と 普及のための制度化に関する研究班」 、主任研究者 大阪府立成人病センター調査部長 大島 明先生) とし て、医療の場での禁煙治療の制度化を目的に政策 提案を行うための研究を実施してきた8)。この研究班 の目的は、医療等の場での禁煙治療の制度化を目指 してエビデンス構築のための研究と政策提言を行う ことにある。本研究の一環として、2006年度の診療 報酬の改定に合わせて、医療の場での禁煙治療に 対する保険適用の実現を図るべく、政策提言のため のエビデンスを収集・整理するとともに、医学会や日 本医師会等の団体・組織と協同して厚生労働省に 対して政策提言を行った。具体的には、禁煙治療の 保険適用を申請するための「医療技術評価希望書」 の作成にあたり、ニコチンの依存性や禁煙治療の有 効性に関する科学的根拠に関するレビュー、保険適 2006年度の診療報酬改定において新設された「ニ コチン依存症管理料」は、外来患者を対象としてい る。 「ニコチン依存症管理料」の対象患者や施設基準 等の条件は以下のとおりである。 まず対象患者は、①ニコチン依存症に関するスク リーニングテスト (TDS)10)でニコチン依存症と診断さ れた者、②1日の喫煙本数×喫煙年数(ブリンクマン 指数)が200以上の者、③直ちに禁煙することを希望 し、 「禁煙治療のための標準手順書」11) (日本循環器 学会、日本肺癌学会および日本癌学会により作成) に そった禁煙治療プログラムについて説明を受け、当 該プログラムへの参加について文書により同意して いる者である。 禁煙治療プログラム (図参照)の内容は、上述の手 順書によると12週間にわたり、①初診、②初診から 2週間後、③4週間後、④8週間後、⑤12週間後の合 2 ●喫煙状況等の把握 ●呼気一酸化炭素濃度検査 ●禁煙開始日の設定 ●問題点の把握とアドバイス ●禁煙治療薬(ニコチンパッチなど)の 選択と処方 ●喫煙状況や離脱症状の確認 ●呼気一酸化炭素濃度検査 ●問題点の把握とアドバイス ●禁煙治療薬(ニコチンパッチなど)の 選択と処方 初診 再診1∼再診 4 再診1 再診2 禁煙開始日(2週間後)(4週間後) 再診3 (8週間後) 再診4 (12週間後) 184点 184点 180点 230点 184点 診療報酬点数 図 標準禁煙治療プログラム るので医療機器としての承認を得ている必要がある。 当該技術の保険点数は、初回230点、2回∼4回目 (再診)184点、5回目180点である。ニコチンパッチ (ニコチネルTTS) の薬価は、同TTS30 401.80円、T TS20 374.30円、TTS10 355.80円である。 今回新設された「ニコチン依存症管理料」について は、①施設基準が厳しい(病院にとっては敷地内禁 煙の条件、診療所にとっては呼気一酸化炭素濃度測 定器の設置の条件、さらに看護師を雇用していない 診療所では専任看護師の配置の条件) 、②未成年者 が治療対象とならない、③12週間を超えて治療がで きない、④再治療がすぐにできない、⑤入院患者が 対象になっていない、などの問題点が現場から指摘 されている。特に未成年者の禁煙治療に対する保険 適用を難しくしているブリンクマン指数に関わる対象 患者の要件については今後見直しのための検討が 必要と考える。また、最近、診療所の中には経営上 等の理由から看護師を雇用していない施設があるこ とから、専任看護師の配置の条件を必須条件とする のかどうかについても検討が必要である。なお、敷 地内禁煙については特に病院が同管理料を算定す る際に問題となるが、敷地内禁煙は今後医療機関が 目指すべき内容であり、患者や職員の禁煙の動機や 禁煙率を高める効果も期待できることから見直しは 必要ないと考える。 同管理料の効果については、中央社会保険医療協 議会の診療報酬改定結果検証部会による検証の対象 となった。算定要件として示されている禁煙成功率 の地方社会保険事務局長への報告は年1回の頻度と 計5回の治療を行う。その具体的な内容は、 (1)喫煙 状況、ニコチン依存度、禁煙関心度の把握、 (2)喫煙 状況とニコチン摂取量の客観的評価と結果説明(呼 気中CO濃度測定等)、 (3)禁煙開始日の設定、 (4)禁 煙の実行・継続にあたっての問題点の把握とアドバイ ス、 (5)禁煙治療方法の選択と説明などである。禁煙 治療の手順と方法の詳細については、上記3学会の 標準手順書(各学会のホームページで閲覧可能) を参 照されたい。この手順書には、外来での対象患者の スクリーニング方法や計5回の禁煙治療の方法が具 体的に述べられているほか、禁煙治療に関する問診 表や禁煙宣言書などの禁煙治療に役立つ6種類の帳 票、禁煙治療場面での患者との問答集、ニコチン製 剤の使い方が示されていて、禁煙治療を実施する上 で有用と思われる。 次に、施設基準は、①禁煙治療を行っている旨を 医療機関内に掲示していること、②禁煙治療の経験 を有する医師が1名以上勤務していること、③禁煙治 療に係る専任の看護職員を1名以上配置しているこ と、④呼気一酸化炭素濃度測定器を備えていること、 ⑤医療機関の構内が禁煙であることである。さらに、 算定要件は、①「禁煙治療のための標準手順書」 (日 本循環器学会、日本肺癌学会および日本癌学会によ り作成) にそった禁煙治療を行うこと、②本管理料を 算定した患者について、禁煙の成功率を地方社会保 険事務局長へ報告すること、③再治療に関しては、 初回算定日より1年を超えた日からでなければ、再度 算定することはできないこととしている。なお、呼気一 酸化炭素濃度測定器については、保険診療で用い 3 されており、その報告内容は、本管理料を算定した 数、12週間にわたる計5回の禁煙治療を終了した者 の数、そのうち禁煙に成功した者の数(呼気一酸化 炭素濃度測定器を用いて喫煙の有無を確認) である。 この報告のデータを収集し解析することにより、 「ニコ チン依存症管理料」を用いて実施された禁煙治療の 実施数と治療終了時12週時点での4週間継続禁煙率 を算出することができ、全体での分析結果に加えて、 地域別、医療機関別の成績の検討も可能になる。 また、本管理料の結果の検証作業として、2006年7月 1日現在の本管理料の届出医療機関を対象として、①ニ コチン依存症管理料算定医療機関の実態把握と、②禁 煙治療の実施状況と禁煙率の把握を目的とした調査が 実施されることになった。すでに、1次調査が2006年12 月から2007年1月にかけて実施され、届出医療機関にお ける禁煙治療の実施状況や体制、治療終了時ならびに 治療終了後3ヵ月後時点の算定患者の禁煙状況に関わ るデータの把握が行われている。この調査は2007年3月 にも同じ医療機関を対象として実施され、治療終了後6 ヵ月後の禁煙状況についても把握される予定である。 が実現した。今後、今回の保険適用の措置が所期 の成果をあげるよう、禁煙治療の実施機関を増やす とともに、指導者教育の充実を図り、治療の普及度 や効果をモニタリングすることが重要である。さらに 多くの喫煙者が禁煙治療にアクセスできる仕組みとし て、わが国で広く実施されている健診の場でのニコ チン依存症のスクリーニング体制の構築と医療機関 と連携した治療体制の整備が今後の課題である。 〈参考文献〉 1)U.S. Department of Health and Human Services. The health consequences of smoking: nicotine addiction. A Report of the Surgeon General. Atlanta(GA): US Department of Health and Human Services. Public Health Services, Centers for disease Control, Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion, Office of Smoking and Health, 1988. 2)Royal College of Physicians. Nicotine addiction in Britain: a report of the tobacco advisory group of the Royal College of Physicians. Royal College of Physicians of London, 2000. 3)U.S. Department of Health and Human Services. Healthy people 2010. U.S. Department of Health and Human Services, 2000. 4)厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室:平成15年国 民健康・栄養調査結果の概要. 2005. 5)中村正和:禁煙治療の制度化の必要性と欧米の動向. 公衆 衛生 68(12) :948-952, 2004. 6)大阪府立健康科学センター:ニコチン依存症と禁煙行動の 実態に関する調査. 2005. 7) 中村正和:禁煙対策について, 平成18年度日本癌学会シン ポジウム, 2006年7月, 東京. 8) 中村正和:医療の場における効果的な禁煙治療法の開発と 普及のための制度化に関する研究. 平成17年度厚生労働 科学研究費補助金 第3次対がん総合戦略研究事業「効果 的な禁煙支援法の開発と普及のための制度化に関する研 究」平成17年度 総括・分担研究報告書(主任研究者:大 島 明), 2006. 9)9学会合同研究班編:禁煙ガイドライン. Circulation Journal, 69(Suppl.Ⅳ) :1005-1103, 2005. 10)Kawakami N, et al:Development of a screening questionnaire for tobacco/nicotine dependence according to ICD-10, DSM-III-R, and DSM-IV. Addictive Behavior, 24:155-166,1999. 11) 日本循環器学会, 日本肺癌学会, 日本癌学会: 禁煙治療の ための標準手順書. 2006年3月. おわりに わが国の成人男性の喫煙率は減少しつつあるもの の、まだ欧米先進国の約2倍の高さにとどまっている。 男性の肺癌年齢調整死亡率は、1995年からゆるやか に減少しつつあったが、2004年には増加に転じた。ま た、わが国の喫煙による超過死亡数は2000年で11.4万 人と推計されており、総死亡の12%を占め、今後、高 齢化と相まって、さらに増加するものと予想されている。 これらの健康被害を抑止するためには、喫煙者層 への禁煙の働きかけが特に重要であり、そのために は禁煙治療普及のための制度化とたばこ価格・税の 大幅引き上げなどの環境整備を強力に推進する必要 がある。禁煙治療の制度化に関しては、本稿で述べ たように、2006年度から「ニコチン依存症管理料」が 新設され、医療の場での禁煙治療に対する保険適用 4 診療所における禁煙治療の実際 NPO法人京都禁煙推進研究会 理事長/田中医院 院長 田中善紹 米国AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality) のガイドラインが5Aで表現され分りやすい。 Q. 診療所の特徴 診療所の通院患者数は病院より多い。その結果、 喫煙者と接する機会も多くなるので、診療所での 禁煙治療は大変重要となる。診療所の院長は患者 とのつながりがあり、日常生活でも接する機会が多い ので影響力も強い。従って、すべての診療所の医師 が禁煙治療に関心を持ち、あらゆる機会を通じて 禁煙啓発を行うことで、より多くの喫煙者を禁煙に導 くことが可能となる。 その中で一番大事なのは日常診療の場であり、ま ず、すべての外来患者はもちろん、同居家族の喫煙 についても問い、禁煙をすすめることが大事である。 そして、次の段階として、時間をかけた禁煙治療の 場としての禁煙外来を設定し利用するようにしたい。 当院での喫煙実態調査では、初診男性患者の喫 煙率は53.1%とわが国での男性喫煙率に近い数字 であった。一方、当院定期通院男性患者の喫煙 率は25.5%と初診の約半数となり禁煙先進国並で あった。即ち、初診患者は定期通院することなく 日常は健康生活を送っているので、禁煙に対して関 心は低く一般男性と同じ喫煙状況を示す。一方、定 期通院中の喫煙者は医師の積極的なはたらきかけ の結果、禁煙していくものと推定される。 以上より、診療所に定期通院する患者に、まず 禁煙をすすめることが効果的である。しかし、病気 による診療所受診は禁煙導入の絶好の機会と言え るので、初診患者に対しても必ず禁煙をすすめる努 力は必要である。 ステップ1:Ask 日常診療の場で患者に喫煙の有無を必ず問い記 録する。小児の受診に際しては、家族、特に両親の 喫煙状況を問うことが必要である。喫煙者全員に TDSスコアをとっておけば、禁煙治療の対象になる かの判定が可能となる。 ステップ2:Advise 喫煙者であることが分ったときは、 禁煙をすすめる。 患者が受診した病気と関連して喫煙の害を説明する のが効果的である。また、小児の受診の際には、 気管支炎などの呼吸器疾患は親の喫煙が関連して いることもあり、親はもちろんのこと同居の祖父母な どについても「こどものために禁煙は必要です」と きっぱり言うことが必要である。 「少しならよい」など と医師が喫煙容認の態度を示すのはもってのほかで あり、折角禁煙する気持ちになっている患者が再喫 煙をしてしまうこともある。また、 「本数を減らすだけ では不十分」 「軽いタバコに変えても意味がない」 こともはっきり伝えておく。 ステップ3:Assess 医師の積極的な取り組みにより、どんな喫煙者も 禁煙に関心を持つようになってくるが、禁煙に対する 意思をしっかり判定する。まず、禁煙に関心を持た ないと、どの喫煙者も禁煙に成功することはない。 機会をみて「その気にさせる」のが患者と長く接する 一般診療所の強みである。禁煙に関心を持ったタイ ミングを見計らってニコチン製剤の話をし、禁煙に関 するパンフレットや禁煙外来の案内を渡す。禁煙治 療の患者要件に合致するかも判定しておく。 W . 一般外来での禁煙指導 一般外来の中での簡単なアドバイスで禁煙する者 は結構多く、 パンフレットを渡すだけでも効果はある。 院長オリジナルのパンフレットは通院患者に説得力 がある。 一般外来では、病気で来院した機会をとらえて 「きっぱりタバコをやめましょう」 とはっきり言い、患者 さんにあわせた観点から簡単な禁煙アドバイスを行 うことが第一歩である。 一般臨床の場での手短な禁煙指導法の手順として、 ステップ4:Assist 禁煙に関心を持って禁煙に挑戦しようということに なれば、個々に応じたアドバイスするための禁煙支援 のプログラム作りに入る。禁煙治療保険適用の対象 患者は、今回公表されている「禁煙治療のための標 準手順書」 (以下標準手順書) をもとに行う。実は、 5 つで簡単にできることなので、今回の保険適用をきっ かけに、是非、禁煙外来を開設して頂きたい。 このステップ4の段階にいたるまでが大変で、多くの 喫煙者は無関心期にあり、禁煙の動機づけを行うの に一番苦労する。まず、タバコを吸いたくなったら、 「ガムをかむ」 「お茶をのむ」 「深呼吸をする」などの 代償行動療法、すなわち、タバコから逃げる方法を アドバイスする。禁煙に対しての動機づけがしっかり できている人には、これだけの指導でも十分禁煙に 成功する。 2.初回指導 予約診療で約30分間の個人指導を行う。できるだ け家族も同伴する。禁煙治療に際しては専任の看護 職員(看護師または准看護師) が介助する。 ①喫煙歴、病歴、禁煙の動機の確認 標準手順書の帳票1「禁煙治療の概要説明資料」 、 帳票2「禁煙治療に関する問診票」 、帳票3「喫煙状況 に 関 する問 診 票 」、を 用 いて 説 明と問 診を行う。 禁煙治療を受けることの同意は必須である。自ら禁 煙外来を受診する者は何らかの動機を持っているの で、禁煙の動機の再確認を行う。タバコを吸いたくな ったらこの動機を思い起こすよう指導しておく。 「初心忘れるべからず」である。 ②ニコチン依存度の評価 TDSスコアが5点以上は保険治療の対象となりう る。ニコチン依存症管理料算定患者の要件を満たさ ない者は自費での禁煙治療となる。ニコチン依存度 テスト (FTND) も測定する。必ずしも依存度と禁煙 成功とは相関しないが、依存度の著しく高い者はニ コチン製剤の使用をすすめる。 ③喫煙の害の説明 最近ではタバコの害を承知している者が多いの で、一般的な話よりも本人の病状などにあわせて身 近な問題として説明する。できるだけ視覚的資料を 利用する。 ④行動療法の説明 タバコを吸うかわりに、お茶をのむ、深呼吸する、 アメ (ノンカロリー) をなめるなど、他の行動に置き換 える代償行動療法も指導する。 ⑤ニコチン製剤の説明 ニコチン製剤はニコチンパッチ(以下パッチ) 、ニコ チンガム (以下ガム)の使用法を説明したうえで処方 する。それぞれに利点、欠点があり、個々に応じた 使用法を選択するが、ニコチン補充作用はパッチの 方が強く効果は高いので、現在はパッチを使用する のがほとんどである。ガムは喫煙欲求にどうしても耐 えられないときに追加使用することを許可している。 パッチの効果発現には時間がかかるので、この間も ガムを使用する。 ガムのみを使用する場合は4∼5ダース処方する。 1日の使用個数は特に制限せず、常に携行してタバコ を吸いたくなれば使用するよう指導する。 ⑥呼気CO濃度の測定 呼気一酸化炭素濃度測定器を用いて呼気CO濃 度の測定を行い、帳票 4「呼気一酸化炭素濃度検査 について」に記入する。タバコの本数と相関するので タバコの害を数字で実感できて有用である。 ステップ5:Arrange 上記のステップだけで、定期的に通院する患者は、 次回の受診までに禁煙に成功することも結構あるが、 途中で禁断症状などが強くなり禁煙に自信が持て なくなったときは、禁煙外来を受診するようすすめ ておく。当初から、なかなか決断できない人、何回も 禁煙に失敗している人や依存度の高い人などは、 禁煙外来の受診を最初からすすめる。 E . 禁煙外来の実際 禁煙治療の保険適用となる患者は、標準手順書 に従い禁煙治療を行う。対象とならない患者は自 由診療につき、保険診療と明確に区別するため診 療録(カルテ) は別に作成する。当院の自由診療での 初回指導料は3000円、2回目以降は1000円として いる。 ニコチン製剤については、きめ細かな対応がで きる院内処方とし、実費を徴収している。これらの費 用設定は診療所ごとで異なるので、各施設の状況で 決定すればよい。 ニコチン依存症管理料を算定し保険診療を行う 場合は、施設基準や対象患者の要件などが規定さ れており、それに従って保険請求を行う。12週間で 5回の指導が標準手順書で規定されており、それに 従って治療する。 1.禁煙外来への導入 一般外来での勧誘、禁煙外来パンフレットの配布、 ホームページを利用した広報活動などで、禁煙希望 者は禁煙外来を予約する。喫煙者の7∼8割は禁煙 を希望しているとも言われている。禁煙外来受診の 動機は、病気と関連しているものが最も多い。また、 ニコチン製剤を使用することで比較的離脱症状に 苦しむことなく禁煙できるという事実は、今まで何度 も禁煙に失敗した喫煙者にとっても大変魅力的で ある。理由はともかく、禁煙外来を受診するには、 まず、本人が禁煙に対して意欲を持つことが必要で ある。 一方、禁煙外来の存在自体が禁煙に踏み切るきっ かけとなることもある。診療所では院長の気持ちひと 6 ⑦禁煙開始日設定と禁煙日誌の説明 帳 票 5「 禁 煙 宣 言 書 」に 記 名 する。できるだけ 翌日を禁煙開始日とし、再診日までの禁煙状況を 帳票 6「禁煙日記」に記録する。再診までの期間はニ コチン製剤を使用してでも断煙(タバコを吸わない状 態)するよう指導する。 ⑧再診日の決定 禁煙に成功した者のほとんどは1週間以内に断煙 している。また、AHRQのガイドラインでも指導から1 週間以内の再診をすすめており、およそ1週間後に 再診日を設定し、その日までの1週間の禁煙をまず頑 張るよう励ます。1週間くらいなら頑張れるのである。 標準手順書では再診1は2週間後となっているが、禁 煙開始直後はこまめに受診する方が効果的である。 しないように指導する。万が一再喫煙しても、そこで もう一度禁煙を開始する。あきらめず何回でも禁煙 に挑戦するよう指導する。 ニコチン製剤の処方時、外来通院患者は再診時 に短時間の助言を行った。 「禁煙は続いています か?」 「つい1本と思って吸わないように」などの簡単 な言葉かけだけでも、禁煙を見守ってくれている 人がいるということで禁煙持続に効果がある。 R . 当院での禁煙外来の成績と特徴 禁煙導入の確認は初回再診時の呼気CO濃度測 定で行い、以降の確認は、3カ月後と1年後にハガキ による自己申告で行った。追跡不能や返事のない者、 初診のみで以降の受診がない者は、すべて禁煙失 敗例とした。 パッチの使用枚数は 2∼134枚で平均 21枚(中間 値 17枚)であった。1年間の禁煙成功例でのパッチ の使用枚数は 4∼92枚で平均 22枚(中間値 14枚) で あり、失敗例でも使用枚数はあまり変わらないことに なる。標準の 4週使用、4週減量、合計 8週間の使用 にこだわる必要はない。 総受診回数は 1∼31回で平均 3.2回(中間値 2回) であった。 禁煙導入の目安とも言える3カ月間の禁煙継続例、 禁煙成功の目安とされる1年間の禁煙継続例を図に 示す。ニコチン製剤を使用しなかった者で禁煙成功 率が高い傾向にあるが、これはニコチン製剤の効果 を否定するものではない。禁煙に取り組む動機がは っきりし、意欲が高い者や依存度の低い者が多く含 まれていた可能性がある。パッチの方がやや成功率 が高いがニコチン製剤間の差はあまりない。 3.再診の指導 再診は一般外来の診察時間内に行っている。再 診する者のほとんどは断煙しており、まずはそれを誉 める。 保険適用をする場合は標準手順書に従った日に再 診をする。 ①初診後の喫煙状況、禁煙補助剤の使用状況の把握 最初の2∼3日についタバコを2∼3本吸っていた としても、途中からタバコを吸わなくなればそれで よしとする。ニコチンパッチやニコチンガム使用上の 問題点を整理し対処方法を指導する。 ②呼気CO濃度の測定 一気に正常化するので、健康を自覚できて有効で ある。 ③禁煙開始後の問題点の整理 特に、ニコチン製剤の副作用に対する対策を指導 する。禁煙後に体重は平均 2∼3kg 増えると言われ ており、味覚も改善し食欲もでるので意識的に食 事制限をするようにする。 ④ニコチン製剤の処方 再診以降の処方は、初回処方後1週間の使用状 況と本人の使用感により使用量を決定した。 ⑤今後の受診方法の説明 再診以降の受診は、ニコチン製剤が必要となった とき、再喫煙の心配があるときに患者自らの意思で一 般外来を受診する。保険診療の場合は、禁煙開始日 から2週間後、4週間後、8週間後と12週間後の受診 が決められている。 N群:ニコチン製剤を使用せず G群:ニコチンガムのみを使用 P群:主にニコチンパッチを使用し、 ニコチンガムの併用も許可 % 80 60 3カ月 68.2 1年 54.5 40 48.8 48.1 45.8 30 33.3 33.6 20 4.フォローアップ 3 回目以 降 の 受 診 は 個 人 差 が かなりあるので、 受診日を決めるより、いつでも受診してよいことを伝 えておく。保険適用をする場合は標準手順書に従っ た日に再診をする。禁煙導入がうまくいくと、つい 1 本 吸ってもまた禁煙ができると思ってしまうので、再喫煙 0 なし(N) n=22 ガム(G) n=120 パッチ(P) n=108 1995年4月∼2002年3月 図 3カ月と1年の禁煙成功率 7 全体 n=250 〈参考文献〉 1)田中善紹、藤井恒夫:当院における禁煙外来の現状。 日本胸部臨床 56:583-588, 1997 2) 田 中 善 紹: 「 禁 煙 指 導 」。 ガイドライン 外 来 診 療 2 0 0 1 、 泉孝英監修、日経メディカル開発、東京、281-288, 2001 3)田中善紹:一診療所における禁煙外来の成績。 日医雑誌 130:1765-1768, 2003 4)田中善紹:診療所でもできる禁煙外来。 日経メディカル 4月号:95-98, 2004 5)田中善紹:禁煙維持の方法。治療 87:1961-1964, 2005 6)京都禁煙推進研究会編:さよならタバコ卒煙ハンドブック。 京都新聞出版センター 7) 中村正和、田中善紹: 「禁煙外来マニュアル」 。 日経メディカル開発、東京、2005 ニコチン製剤に対する個人の使用感は多様であり、 パッチとガムの両者を実際に使用した上で個々のニコ チン製剤の使用法を決定することは合理的である。し かし、現在ではニコチンパッチを使用する人がほとん どで、補完的にニコチンガムを使用し禁煙のお守りと して財布などに入れてもらっている。ニコチン製剤使 用も大事だが、何より動機づけが一番大事である。 診療所における禁煙外来のポイント ①実際に行われている禁煙外来を参考に、自 医院の実状にあわせたスタイルで無理なく行 うことが大事である。 ②ニコチン製剤は院内処方とした方がよりきめ細 かに使用でき、受診者の費用負担も少ない。 ③できるだけ医院のスタッフもまきこみ、特に フォローアップに参加させる。「禁煙は続い ていますか?」「タバコをやめて、最近顔色 が良くなってきましたよ」などの、簡単な声か けだけでも効果は大きい。 〈連絡先〉 〒604-8336 京都市中京区三条大宮町243 TEL 075-822-3233 FAX 075-822-3235 ④ 通院患者は定期フォローが容易だが、禁煙 外来だけの受診者はフォローアップが難し い。メールやハガキは手短で利用しやすいが、 電話でのフォローは難しい。 NPO法人京都禁煙推進研究会事務局 TEL 075-822-3514 FAX 075-822-3235 http://web.kyoto-inet.or.jp/people/zensyou/ メール:[email protected] (平日午前中と水金午後2時∼4時) ⑤禁煙治療の保険適用をきっかけにして、禁煙治 療を受ける喫煙者が増えることが予想される。 8 病院における禁煙外来の実際 石川県立中央病院 呼吸器内科 診療部長 西 耕一 (1)禁煙治療は呼吸器内科医の使命の一つ (3)保険診療の施設条件 保険診療で禁煙治療を行う際、受診者や施設に 様々な条件が課せられているが、病院で最も問題 となるのは、敷地内禁煙という施設基準である。 病院機能評価においても現時点で求められる施設 基準は建物内禁煙までであり、禁煙治療を保険適 応で行うことのみを目的として、敷地内禁煙を導入 することは実際かなりの困難を伴う。当病院におい ても、禁煙治療を保険適応にするために病院の敷 地内を禁煙にするという院内のコンセンサスは当初 得られず、保険診療による禁煙治療は2006年4月時 点で開始できなかった。ところが、それについて地 元マスコミが報道したところ、院長の英断で事態は 急転し、2006年8月から敷地内禁煙と同時に禁煙外 来で保険診療による禁煙治療ができるようになっ た。当病院の場合、マスコミの報道をいわば神風と して利用し、敷地内禁煙にこぎつけたようなもので あり、 “分煙でよい”、 “やりすぎ”、 “タバコがストレ スの解消になっている”、 “守れない”などといった 後ろ向きの意見を持つ職員がいまだにいる(職員 722名中111名、15.4%)のが実情である(図1)。病 院の施設内禁煙は、患者だけでなく、職員の健康 にも良い結果をもたらすため、施設内禁煙は素晴 らしい施設基準と思われるが、乗り越えるにはか なり高いハードルでもある。 タバコにより様々な呼吸器疾患のリスクが高まるこ とが知られている (表1) 。私は、タバコにより取り返し のつかない呼吸器疾患になり、苦しみながらお亡く なりになる患者様を多く診るにつけ、一人でも多くの 喫煙者が取り返しのつかない御病気に罹患する前 に禁煙できるよう支援することが、呼吸器内科医の重 要な使命の一つではないかと思うようになった。そこ で、石川県立中央病院では、呼吸器内科医による禁 煙外来を1999年10月22日から開設した。 本稿では、約7年余に及ぶ禁煙外来の臨床経験と 2006年4月から保険適応となったニコチン依存症管理 料の条件に基づいて、病院における禁煙外来の実 際について概説したい。 表1:喫煙がリスクを高める主な呼吸器疾患 1.肺がん 2.慢性閉塞性肺疾患 3.気管支喘息 4.自然気胸 5.間質性肺疾患 (ア)RB-ILD(respiratory bronchiolitis -associated lung disease) (イ)DIP(desquamative interstitial pneumonia) (ウ)肺好酸球性肉芽腫症 図1:敷地内禁煙を良くないと判断した病院職員の理由 6.睡眠呼吸障害 7.呼吸器感染症 24 8.急性好酸球性肺炎 60 4 8 8 (2)禁煙外来の診療体制 12 禁煙外来では初診で30分程度、再診でも10分程 度は必要で、通常の診療より余裕をもって行う必要 がある。そこで、当院では完全予約制とし、原則的 に、金曜日午後3時から4時までを初診枠とし2名まで の予約、同様に午後4時から5時までを再診枠とし4 名までの予約と限定している。 14 9 20 111名から 150の回答 隠れて吸う人がいる・増える 分煙でよい ゴミが増える やりすぎ 火事が恐い タバコがストレスの解消になっている 効果なし・守れない その他 (4)禁煙外来の実際 (イ)禁煙治療の内容 ①禁煙治療の理論と禁煙成功までのプロセス (図2) 禁煙治療に入る際、まず禁煙治療の理論と禁煙成 功までのプロセスを示すようにしている。理論や今後 の期待されるプロセスが示されると、受診者は安心 して禁煙に挑戦することができるように思われる。 保険診療で禁煙治療を行う際、 「禁煙治療のため の標準手順書」 (日本循環器学会、日本肺癌学会及び 日本癌学会により作成) に則した禁煙治療プログラム について説明を受け、当該プログラムへの参加につ いて文書による同意した者を対象患者とすることが 条件となっている。 図2:禁煙治療の理論と禁煙成功までのプロセス (ア)初診時の対応 ①評価項目 喫煙状況、基礎疾患、家族歴、禁煙の動機、禁煙 挑戦歴、禁煙外来を受診した理由の確認 1. 喫煙状況:保険診療の場合、治療の対象者はブ リンクマン指数(=1日の喫煙本数×喫煙年数)が200 以上であることが求められている。未成年の喫煙者 ではブリンクマン指数200未満が多いので、その場合 厳密には保険の適応にならないことになる。 2. 基礎疾患、家族歴:喫煙がリスクを高める疾患が 基礎疾患や家族歴にあれば、受診者の動機を高め るために利用することができる。 3. 禁煙の動機:禁煙準備期にあり直ちに禁煙しよう と受診した高い動機をもつ者が保険診療による禁煙 治療の対象者となる。周りに勧められて仕方なく受 診したような動機の低い受診者の場合は、厳密には 保険給付の対象とはならない。動機が低い受診者に 対しては、基礎疾患や家族歴などから受診者と関連 性の高いタバコによる健康被害や禁煙のメリットにつ いて話し合い、次いで行動療法や薬物療法により以 前より禁煙が容易になったことについて説明し、動 機が高まった時点で禁煙治療を開始する。 4. 禁煙挑戦歴:以前に禁煙挑戦歴があった場合に は、禁煙を失敗した原因について確認する。その原 因に対する対策をあらかじめ相談し決めておくこと は、禁煙を成功させるために重要である。 5. 禁煙外来を受診した理由:禁煙外来を受診してまで 禁煙に挑戦しようとした理由を確認しておくと、再喫煙の 危機が生じた場合に患者指導に生かすことができる。 ②ニコチン依存症の診断 タバコ依存症スクリーニングテスト (TDS) を用いる。 TDSは精神医学的な見地からニコチン依存症をスク リーニングする目的で開発されたものであり、保険診 療ではTDSが5点以上でニコチン依存症と診断され ることが対象者の条件となっている。 ③呼気一酸化炭素(CO)濃度 薬事法により承認が得られたハンディタイプの呼気 CO濃度測定器を用いて測定する。呼気COは半減 期が3∼5時間と短く、禁煙後すぐに正常値に戻るた め、禁煙を維持する励みにもなる。この呼気CO濃度 測定は保険診療の条件にもなっている。 禁煙開始 禁煙成功 (2∼3ヶ月) タバコ (ニコチン) に対する 身体的依存 心理・行動的 依存 禁煙補助薬 (ニコチンパッチ・ガム) 行動療法 ②行動療法(図3) 禁煙を達成した受診者が実際に行って有用であ った行動療法を受診者に配布する「禁煙日記」に記 載している。受診者には、それらを参考に各自にあ った行動療法を行うように指導している。 図3:有効な行動療法 2% 2% 3% 7% 飲み物(お茶、水、ほか) 3% 食べ物(ガム、 あめ、ほか) 4% 深呼吸 35% 口の中に何かを入れる 体を動かす 6% 寝る (早寝・昼寝) 6% テレビ・ラジオ・音楽 場所を変える 32% 歯磨き その他 ③薬物療法(表2) 薬物療法としては、ニコチンガムとニコチンパッチの 2種類のニコチン製剤が使用できる。ただし、これら の薬剤は同じニコチン製剤といっても使用目的が異 なる。ニコチンガムはニコチン離脱症状(喫煙欲求、 怒りっぽさ、不安、イライラ等) の“対症治療薬”で、ニ コチン離脱症状が発現した時に必要時使用する。一 方、ニコチンパッチはニコチン離脱症状のいわば“予 防薬”で、定期的に貼付することにより、ニコチン離 脱症状の発現自体をあらかじめ抑制する。また、前 者は医師の処方がなくても薬局で購入することがで きるが、後者は医師の処方が必要である。 10 表2:2種類の薬物療法 チン過量投与となることはまずない。ニコチンパッチ を使用しながらもニコチン離脱症状に負けてタバコを 吸うよりは、ニコチンガムを併用した方がむしろ安全 で禁煙を達成しやすいものと考えている。 ④禁煙開始日の設定 禁煙に対する動機が確認あるいは高まり、行動療 法や薬物療法について理解していただいた段階で、 速やかに断煙する (1本も吸わない) よう勧めている。 例外は、喫煙本数が多く、一気に断煙する勇気の出 ない受診者の場合である。このような場合、行動療 法で1日20本程度に本数を減らした上で、断煙に踏 み切る際に薬物療法を併用するよう指導している。 また、実際に禁煙する際には、タバコ、ライター、灰皿 は処分し、周囲の人に禁煙を宣言し、自ら退路を断 つよう勧めている。 ⑤禁煙日記 当院では、行動療法のスキルなども記載された禁煙 日記を受診者にお渡しし、外来診察の度に途中の経 過を共有することにより禁煙治療に役立たせている。 <ニコチンパッチ> ・効果:ニコチン離脱症状の予防 ・投与法:1日1回定期投与 (処方例) ニコチネルTTS30 1枚/日:4週間、次いで ニコチネルTTS20 1枚/日:2週間、次いで ニコチネルTTS10 1枚/日:2週間 ・投与期間:原則最大10週 <ニコチンガム> ・効果:ニコチン離脱症状の軽減 ・投与法:必要時投与 (処方例) ニ コレット 4∼ 12枚( 最 大 24枚 )/日: 4週間、次いで 1日の 使 用 個 数 を 1週 間 に 1∼ 2個 ず つ 減量、次いで 使用個数が1∼2個となったら中止を検討 ・投与期間:原則最大12週 (ウ)再診時の対応 ①再診日の設定 禁煙開始後なるべく早期、理想的には1週間以内、 遅くても2週間以内が望ましい。保険診療の場合は、 2週目、4週目、8週目、および12週目の計4回の再診を 行うことが勧められている。 ②評価項目と介入 喫煙・禁煙状況、禁煙して良かったこと、禁煙し て辛かったこと、喫煙再開の誘因、良かった行動療 法、薬物療法の使用状況、呼気CO濃度などについ て評価する。喫煙・禁煙状況が順調に禁煙してい る場合は、禁煙して良かったことを励みに、今後も 油断することなく1本も吸わないよう指導する。全く 禁煙できなかった場合は、禁煙して辛かったことや 再喫煙の誘因などについて傾聴し、その内容を共 感的に要約し、禁煙の障害となった要因を整理し て、対策を一緒に検討する。また、禁煙に挑戦する 気持ちが揺らいでいる受診者については、禁煙外 来を受診した理由や禁煙して良かったことなどを確 認し、動機を再び高める必要がある。もし、薬物療 法が不十分でニコチン離脱症状を十分抑えること ができなかった場合は、ニコチンパッチの増量かニ コチンガムの併用を勧める。それでも禁煙できない 受診者に対しては、機会を改めて禁煙に挑戦する ように指導している。 1. 薬物療法の適応:原則的にほとんどの受診者に対 してニコチンパッチを中心とした薬物療法を勧めてい る。例外は、1日の喫煙本数が5本未満で起床後早期 の喫煙欲求もなく、ニコチンに対する依存度がかなり 低いと判断された受診者や医学的に投与が禁忌とな っている受診者である。 2. ニコチンパッチの使用法と副作用対策:ニコチンパッ チは添付文書通りの使用を原則的に指導している (処 方例:ニコチネルTTS30 1枚/日 (4週間)→ニコチネル TTS20 1枚/日 (2週間)→ニコチネルTTS10 1枚/日 (2週間) の計8週間コース) 。ただし、喫煙本数が20本/ 日以下の場合は、初期投与量が少なめで十分な場合 もある (処方例:ニコチネルTTS20 1枚/日) 。投与時期 は、通常、朝1回の貼り替えが勧められる。薬剤の投 与期間は原則8週間の使用が勧められるが、受診者に よっては短期投与で済む場合がある。禁煙を継続して の長期投与は許されるが、例え少ない本数であっても 喫煙を継続しながらニコチンパッチを使用することは許 されない。このような場合は、一旦薬物療法を中止し、 行動療法のみで禁煙への挑戦を続けるか、一旦禁煙 への挑戦自体を中止し、別の機会に改めて禁煙に挑 戦することを勧めたい。最も多い副作用は、接触皮膚 炎で約30%の受診者に認められる。毎日貼る部位を 変えても良くならない場合は、1日中貼らないようにする か(例:朝貼って夜はがす) 、抗ヒスタミン薬や副腎皮質 ホルモンを含む軟膏を塗布することで対応している。 3. ニコチンパッチとニコチンガムとの併用:ニコチン パッチにニコチンガムを併用しても、ガムのせいでニコ (エ)禁煙外来の終了 保険診療で行う禁煙指導は12週目が最終回とな る。当院の場合、禁煙治療終了のけじめとして表彰 状をお渡ししている。 11 図4:受診者が保険治療の適応外となった理由 (オ)フォローアップ 禁煙外来終了者に対しては、6ヶ月∼1年毎に電話 ないしハガキによるフォローアップを心がけている。 表3に当院の禁煙外来を簡単にまとめる。 1 1 入院 通院困難 表3:禁煙外来まとめ TDS<5 <初診時の対応> ●評価項目 ・喫煙状況(ブリンクマン指数) ・基礎疾患、家族歴 ・禁煙の動機と準備性 ・禁煙挑戦歴 ・禁煙外来を受診した理由 ●ニコチン依存症の診断 ・タバコ依存症スクリーニングテスト (TDS)検査 ・呼気一酸化炭素(CO)濃度 ●治療 行動療法+薬物療法 8 (イ)受診回数の問題 ニコチン依存症管理料点数は“初回の当該管理 料を算定した日から起算して12週間にわたり計5回 の禁煙治療を行った場合に算定する”とされ、施設 基準でも“ニコチン依存症管理料を算定した患者 (=5回算定終了者)のうち、喫煙を止めたものの割 合(=成功率)を社会保険事務局長に報告している こと”が定められているが、当院では禁煙を継続し ている受診者の中で6名が5回未満の受診で通院を 自主的に中止している。受診者にすれば、 「禁煙が 継続できれば5回も受診する必要がない」わけであ り、施設基準や算定要件における成功率調査は、 ニコチン依存症管理料“5回”算定終了の如何を問 わず、 “調査時点”での禁煙継続でも良いのではな いかと思われる。 <禁煙開始時期> ●受診後なるべく早期 <再診時の対応> ●再診時期 ・原則的に2週間後、4週間後、8週間後、12週間後 ●評価項目 ・喫煙・禁煙状況、禁煙して良かったこと・辛かっ たこと、喫煙再開の誘因、良かった行動療法、 薬物療法の使用状況、呼気CO濃度 ●介入 ・禁煙の障害となった要因の整理・対策 <外来終了時期> ●計5回診察の終了時(12週後) (6)読者の皆様へのメッセージ <フォローアップ> ●6∼12ヶ月毎(ハガキ、電話) 生活習慣病予防の観点から禁煙の必要性を感じ る人が増加していることや、健康増進法の施行によ り喫煙エリアが制限されつつあることなどから、禁煙 を希望する喫煙者は増加している。増加しつつある 禁煙治療の需要に対して、病院における禁煙外来の 果たす役割は今後ますます大きいものと考えている。 少しでも多くの医師が禁煙治療に従事することを望ん でやまない。 (5)問題点 保険診療による禁煙治療を実際に行ってみて、気 になったのは以下の2つの点である。 (ア)対象者の条件 2006年8月に当院で保険診療による禁煙治療を開 始してから、保険給付の対象者の条件を満たせず自 由診療となった者は計10名であるが、その理由の多 くは、入院患者であることであった(図4) 。入院は禁 煙のとても良いきっかけとなるので、入院患者にニコ チン依存症管理料を請求できないのは当然としても、 薬剤費の負担だけでも3割に減らせるとさらに素晴ら しい保険診療制度になると思われる。 〈参考文献〉 (1)中村正和、田中善紹編著:全臨床医必携禁煙外来マニュ アル。日経メディカル開発、東京、2005年 (2)京都禁煙推進研究会編:さようならタバコ卒煙ハンドブック。 京都新聞出版センター、京都、2002年 (3)中村正和、大島明、増居志津子:個別健康教育禁煙サポ ートマニュアル。法研、東京、2002年 (4)新版喫煙と健康―喫煙と健康問題に関する検討会報告書。 保健同人社、東京、2002年 (5)阿部真弓:禁煙外来。芳賀書店、東京、1999年 (6)高橋裕子:禁煙指導の本。保健同人社、東京、1998年 〈連絡先〉〒920-8530 金沢市鞍月東2丁目1番地 TEL(076)237- 8211(代) 12 マイクロCOモニターを使用した 呼気一酸化炭素濃度測定の意義と方法 フクダライフテック株式会社 呼吸循環推進部 五味昌浩 有用ですが、侵襲的な方法であり、分析にも費用が かかります。一方、呼気中のCO濃度測定は、非侵襲 的に、かつ短時間に測定することが可能で、さらには 血中COHb濃度とよく相関することから、喫煙状況の 客観的指標として広く用いられています(図1)1)。 平成18年4月、診療報酬改定に伴う、 「ニコチン依 存症管理料」算定には、施設基準 「禁煙治療を行う ための呼気一酸化炭素濃度測定器を備えているこ と」 (一部省略)が必須条件となり、当社製品も、適応 基準品として4月より発売を開始致しました。 「マイクロ COモニター」は、携帯性に優れた重量わずか約160 g。小型・軽量・スタイリッシュなデザインで院内に限 らず集団検診などでも場所を選ばずご使用頂けま す。測定方法は非常に簡単で、肺の中に空気をため た状態で息を止め、15∼20秒後にゆっくり測定器に 向けて吐き出すだけの、患者様に優しいシンプル機 能です。測定項目としては、呼気一酸化炭素ガス濃 度(実測値)及び血中一酸化炭素ヘモグロビン濃度 (理論値)が可能となり、喫煙者に常に異常の認めら れる数少ない検査項目となります。呼気中の一酸化 炭素濃度は、タバコに含まれる約200種類以上ある有 害物質の中のひとつで、一般的には喫煙本数に比例 して測定結果が変化するため、患者様の喫煙状態を 把握し、喫煙者または非喫煙者の識別にご使用頂け ます。一酸化炭素は、体内で動脈硬化を促進し心筋 梗塞や脳梗塞などを引き起こす原因となり、また、酸 素の運搬を妨害するため持久力が低下したり、作業 能率が落ちることも認知されておりますので、患者様 の禁煙を動機付ける検査として非常に効果的と考え ております。 表1:血中COHbレベル上昇に対する急性の生体反応 COHb% 健康成人 心疾患患者 0.3∼0.7 正 常 正 常 1∼5 血流増加 酸素欠乏感を感じうる 2∼9 運動耐容量減少 より少ない運動で胸痛 16∼20 頭痛、視力低下 重篤な心障害のある患者では死亡することもある 20∼30 動悸、頭痛、吐きけ、手先の器用さの減退 30∼40 激しい頭痛、吐きけ、嘔吐 50∼ 昏 睡 60∼70 死 亡 (%) 14.0 12.0 血 中 C O H b 濃 度 タバコに含まれる有害成分:一酸化炭素 10.0 8.0 6.0 4.0 タバコ 煙 中 の 一 酸 化 炭 素 濃 度 は 、2 0 , 0 0 0 ∼ 60,000ppmであり、自動車の排気ガスと同等レベルと されています。この煙を肺内に吸い込むことで、急速 に体内に吸収されます。 一酸化炭素は毒性が強く、閾値を超えた場合に死 に至る場合もあります(表1)1)。これは、酸素に比べ て一酸化炭素は200倍以上ヘモグロビンと結合しや すく、カルボキシヘモグロビン (COHb) を形成します。 非喫煙者での末梢血中のCOHb濃度は1%前後であ るのに対して、常習喫煙者では2%以上となり、高い 場合は10%近くまで上昇します。 血中COHb濃度は、喫煙状況の客観的指標として 2.0 0 0 10 20 30 40 呼気CO濃度 50 60 70(ppm) 図1:呼気中CO濃度と血中COHb濃度の関係 呼気一酸化炭素濃度の測定意義 呼気中のCO濃度測定意義としては、マイクロCOモ ニターを使用し、呼気中COを測定することで、喫煙 の有無や程度を安価で非観血的に、かつ短時間に 13 〔測定準備〕 1. マイクロCOモニター 2. マウスピース 〔ディスポーザブル〕 3. サンプルコネクター 4. アルカリ乾電池 〔9V 6F22形〕 評価できる事が挙げられます。 また、一般医による禁煙のアドバイスやリーフレット 等を渡すだけのカウンセリングに比べると、呼気中 CO濃度を測定し、フォローすることで禁煙率が高ま るとも言われております。さらに、呼気中CO濃度の半 減期は4∼5時間と短く、禁煙後すぐに正常値に戻る と言われており、禁煙の効果を客観的なデータとして 明示する事で、動機付けの効果や、禁煙を続ける励 みに用いる事ができます。呼気中CO濃度は喫煙本 数と相関しており、例えば、1日20本程度の喫煙者で は20ppm前後、30本程度の喫煙者では30ppm前後 と同等の結果が得られる傾向にあります(図2)2)。 マイクロCOモニター (Micro Medical社製) ※測定を始める前に、マイクロCOモニターが温度差のある環境下である 場合は、室温になるまで本体を放置して下さい。 ※スイッチの接触状況、乾電池の極性、表示部などの点検を行い、機器が 正確に作動することを確認して下さい。 〔操作方法〕 1. 本体の裏側の電池カバーを開け、アルカリ乾電池 〔9V 6F22形〕 を正確に接続する。 2. サンプルコネクターを本体に差し込み、マウスピー スをサンプルコネクターに 接 続する。 (ppm) 60 50 呼 気 中 C O 濃 度 40 30 20 3. 本体の電源スイッチを「COPPM」にスライドさせる と、アラーム音の後にカウントダウンがはじまるの で、その際に大きく息を吸ってもらい20秒後に液晶 の表示部が「Blow」の表示になるまで息を止めて もらいます。 10 非 喫 煙 者 前 喫 煙 者 軽[ 度1 ∼ 喫 15 煙 者本 ] [ 中 16 等 ∼ 度 25 喫 煙本 者] [ 重 26 度 喫本 煙以 者上 ] [ ] 内は1日喫煙本数 図2:喫煙習慣と呼気中CO濃度との関係1) 〔測定方法〕 マイクロCOモニターは、呼気中の一酸化炭素濃度 をセンサーにて検知しその濃度を測定する装置です。 マウスピースを通して呼気を吹き込むCOセンサー はセンシング電極、カウンター電極、リファレンス電極 の3つからなる。センシング電極では、 “CO+H 2 O→ + CO2+2H +2e-” と一酸化炭素が酸化され電位が発生 し、その電位により、カウンター電極で“1/202+2H++2e→H2 O” と酸素が還元され水が生成される。リファレ ンス電極には常に220mVのバイアス電圧が供給され 電極電位の一定した電極で、上記で発生した電位と リファレンス電極との電位差を液晶表示部にCO濃度 として表示する。 4. 「Blow」の表示を確認 した後、マウスピースを 咥え 息 が 漏 れない ように、ゆっくりと吐き 続けます〔 約 2 0 秒 程 度を目安にする〕 。この 際に 、肺 にある空 気 を全て吐き切るように する。 14 〔結果説明〕2) 1.測定の意味を患者様に十分説明する。 2.非喫煙者の測定値と比較する。 3.大気汚染の上限値と比較する。 4.1日の平均喫煙本数と比較する。 5.2∼4測定結果より喫煙レベルを判定する。 6.一酸化炭素が与える影響について患者様 に説明する。 5. 繰り返し測定する時 は必ず電源スイッチを OFFにして、サンプル コネクターを外し少な くとも1 分 間 経 過 後 、 次の測定を開始して 下さい。マウスピース は、患者様ごとに交換 し、使用済みのマウ スピースは必ず廃棄 して下さい。 呼気一酸化炭素濃度に影響を及ぼす主な要因2) 喫煙本数に比べて高い場合 1.当日の本数が多い 〔測定時における注意事項〕 1. 喫煙直後は、肺内に残留しているCO濃度を主と して測定する事となる為、血中COHbレベルを反 映した数値とならない為、喫煙後最低15分間は時間 を空けること。 2. 一酸化炭素の半減期〔約4∼5時間〕が短い為に、 早朝よりタバコをやめて受診した場合、普段の測 定値よりも半分以下の数値になる為、出来るだけ 抜き打ち的に測定することなど工夫する。 〔数値が 低い場合に、逆に喫煙していた事に安心感を与 える恐れがある為〕 〔トラブルシューティングに関する事項〕 1. 液晶画面に「9A5」の表示が出たときは、電源スイ ッチをOFFにしてサンプルコネクターを外し、約2分 間外気に触れさせてから測定を開始する。 「9A5」 の表示が続く場合には、センサー部分が呼気によ り湿っている場合があるため、外気に長時間触れさ せる事で水分を取り除いて下さい。 2. 液晶画面に「6At」の表示が出る場合か、電源ス イッチを入れてすぐにアラーム音を発する場合 は、電池が消耗しているので、速やかに交換する こと。 3. 液晶画面に「bt2」の表示と電源スイッチを入れ てもすぐにアラーム音が3回発生する場合は、内 蔵リチウム電池及び、キャリブレーションの必要 がありますので、速やかにご購入先へご連絡し て下さい。 1.当日の本数が少ない 2.直前にタバコを吸った 2.最後の喫煙から時間が経っている 3.深く吸い込む 3.浅く吸い込む 4.根元近くまで吸う 4.根元まで吸わない 5.吸うピッチが早い 5.吸うピッチが遅い 図3:呼気中CO濃度結果票 ( 「禁煙治療のための標準手順書」3)より抜粋) 〔測定結果の解釈〕 喫煙状況と呼気中CO濃度の関係は、次のように 報告されている2) 。 〈参考文献〉 1)中村正和:喫煙と呼気一酸化炭素―その測定の意義と実 際.小橋恭一(編著).呼気生化学―測定とその意義―.大阪, メディカルレビュー社,p106-113,1998. 2)中村正和,増居志津子,大島 明:個別健康教育禁煙サポー トマニュアル[改訂版].東京:法研,p83-85,2002. 3) 日本循環器学会,日本肺癌学会,日本癌学会:禁煙治療のた めの標準手順書.2007年1月,第2版. (3学会の各ホームページに内容掲載。http://www.j-circ.or.jp/, http://www.haigan.gr.jp/osirase.html,http://www.jca.gr.jp/) 0ppm ∼ 7ppm : ノンスモーカー(%COHb : 0∼1.12) 8ppm ∼ 14ppm : ライトスモーカー(%COHb : 1.28∼2.24) 15ppm ∼ 24ppm : ミドルスモーカー(%COHb : 2.40∼3.84) 25ppm ∼ 34ppm : ヘビースモーカー(%COHb : 4.00∼5.44) 35ppm 以上 喫煙本数に比べて低い場合 : 超ヘビースモーカー(%COHb : 5.60以上) 15 「禁煙治療のための標準手順書」が第2版に改訂されました。 2006年3月に公表した「禁煙治療のための標準手順書」から2007年1月の第2版への改訂に伴う主な変更点 を下記に示します。 ( )内に示したページは、第2版における該当ページです。 1.ニコチンパッチが保険適用されたことに関係した修正(p3,5,9,18,25,27) 2006年6月1日付けでニコチンパッチが薬価基準に収載されたことを受け、ニコチンパッチに関する記述を修正し ました。 2.診療スケジュールの起算日の変更(p3,5,8∼13,28,30,32,33) 厚生労働省からの通知文と手順書に相違がありましたので、現場の混乱を避けるため、初回診察後の診療スケジ ュールの起算日を禁煙開始日から初回診察日に変更して、通知文の内容に統一することとしました。 3.呼気一酸化炭素濃度測定器についての記述の追加(p3,8) 呼気一酸化炭素濃度測定器が薬事法により医療機器として承認されている必要があることについての記述を追加 しました。これは保険診療を行う大前提ですが、呼気CO測定器の「イキイキモニター」が薬事法に基づく医療機器の 承認を得ていなかったという問題があったため、注意喚起の意味で記述を追加しました。 4.新たな章の追加(p4) ニコチン依存症管理料の対象患者や施設基準、算定要件などを記した「禁煙治療を始めるにあたって」 という章を 新たに起こしました。 5.ニコチン依存症のスクリーニングテスト (TDS)への注の追加(p6) 川上憲人教授(東京大学) に確認し、TDSの質問8の「精神的問題」について注を入れてわかりやすくしました。 6.帳票4「呼気一酸化炭素濃度検査について」の説明文の変更(p21) 「測定当日の喫煙状況を反映」から「測定前日から当日の喫煙状況を反映」に変更しました。 7.禁煙治療の新しい薬剤に関する記述の変更(p41) 「資料2. ニコチン製剤の使い方」において、禁煙治療の新しい薬剤としてバレニクリンやリモナバンを紹介していま すが、バレニクリンについては、臨床試験が終了したことから表現を少し変更しました。一方、リモナバンについては、 その後FDAから禁煙治療薬としての承認が難しいとの見解が発表され、わが国での臨床試験はおこなわれない見通 しとなったため、リモナバンに関する記述を削除しました。 8.「第2版作成者名簿」の追加(p44) 日本循環器学会禁煙推進委員会の委員に変更がありましたので、 「第2版作成者名簿」 を追加しました。 ※日本循環器学会・禁煙推進委員会のホームページより転載。第2版につきましては、学会ホームページをご参照ください。 http://www.j-circ.or.jp/kinen/ HOT Wave No.17 19 4 原口輝夫 9 FAX.03 (5684) 1308 定価262円(税抜250円)V6013EM E. No. 074012 16