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家族関係と子どもの性格特性及び親和傾向に関する研究 -家族イメージ
家族関係と子どもの性格特性及び親和傾向に関する研究 -家族イメージ法からとらえた家族- Study on family relationship, children’s character and affiliation. -family relationship recognized through family image test- 臨床心理学研究科 臨床心理学専攻 07-0721 増田寛子 【問題と目的】 子どもが問題行動を起こす要因として、子ども自身の素質や性格特性、社会環境など があげられており、それぞれが相互に影響を及ぼしている。特に家族は子どもの発達に 重要な基盤となっていると考えられる。家族関係が子ども自身の性格特性に影響を及ぼ し、身近な対人関係を良好に保つことができない可能性が高いことは否めない。家族関 係に関する研究については様々なものが行なわれてきたが、中でも子どもの認知してい る家族は子どもの発達や精神的な健康に影響があり、子どもの視点からみていくことは重 要であると考えられる。 よって、本研究ではまず中学生および大学生の家族イメージに着目し、子どもの認知 する家族関係について FIT から捉えた家族イメージを類型化することを第 1 の目的と した。次に、FIT から捉えた家族イメージをより詳しく見るため、家族満足度および言 語的両親イメージについての関連を見ることを第 2 の目的とした。最後に、類型化され た FIT を中心に親和動機尺度、情緒安定性尺度との関連性についてみることを第 3 の 目的とした。さらに、中学生と大学生に発達的な違いがあるか否かについても検討した。 【方法】 本研究では千葉県私立中学校 2 年生計 125 名、千葉県私立大学生 85 名を対象として質問 紙調査を行い、中学生 64 名、大学生 83 名の計 147 名を分析対象とした。平均年齢は、17.0 歳、SD=3.62(中学生 13.6 歳(SD=0.49)、大学生 19.7 歳(SD=2.60))であった。調査時 期は 2008 年 9 月~11 月で、中学生は担任教師を通して配布・回収し、大学生は講義の時 間に口頭で説明し配布・回収した。質問紙の構成は次の通りである。 1 1)家族関係に関する尺度および質問項目 ①FIT(Family Image Test) Kvebaek,D.(1980)の Family Sculpture Technique に基づき亀口ら(1988)が開発し たシンプルな形の家族関係の投影法の一種である。 「パワー」 「配置」 「向き」 「結びつき」 「距 離」「面積」を数値化した。 ②感情語を中心とした 12 形容詞対の項目:荘厳ら(2005) 感情語を中心とした 12 形容詞対がそれぞれ反意語の対構造になっており、この項目から 回答者の負担を考慮し、平均点の高い 5 項目を抜粋して使用した。抜粋した項目は、 「暖か い-冷たい」 「強い-弱い」 「激しい-穏やかな」 「固い-柔らかい」 「大きい-小さい」の 5 項目である。5 項目それぞれについて 5 件法で回答を求めた。 ③家族満足度を測る質問項目 今の家族関係がどれくらい満足かについて、満足から不満足の間を 5 件法で求めため、 その理由を自由回答で回答を求めた。 2)対人関係に関する項目:親和動機尺度 杉浦(2000) 他者と友好的になりそれを維持しようとする欲求を親和動機といい、 「拒否不安」、 「親和 傾向」の 2 つの下位尺度から構成され、全 18 項目 5 件法で回答を求めた。 3)情緒安定性に関する項目:Big Five 尺度 和田(1996) 形容詞による性格特性語を用いて簡便に 5 因子を測定する尺度である。この下位尺度の 情緒安定性の質問項目の抜粋である。全部で 12 項目について、7 件法で回答を求めた。 【結果と考察】 はじめに FIT と家族満足度の関連性を調べた結果、中学生は「父親パワー」 「父母の結び つき」「父子の結びつき」「母子の結びつき」が強くなるほど家族満足度が高くなり、同様 に大学生は、「子どもパワー」「父母の結びつき」「父子の結びつき」「母子の結びつき」が 強くなるほど家族満足度が高くなる傾向が見られた。さらに、中学生の FIT と言語的両親 イメージの関連性について調べた結果、 「父親パワー」が強いほど父親を「強い」 「大きい」 、 母親を「穏やか」とイメージし、 「母親パワー」が強くなるほど母親を「暖かい」 「強い」 「大 きい」とイメージする傾向が見られた。父母の結びつきが強くなるほど父親を「穏やか」、 母親を「柔らかい」とイメージし、父子、母子の結びつきが強くなるほど父親を「強い」、 母親を「暖かい」 「柔らかい」とイメージする傾向が見られた。父子の距離が遠いほど父親 2 を「弱い」とイメージする傾向が見られた。同様に大学生では、 「父親パワー」が強いほど 父親を「強い」「激しい」「固い」「大きい」とイメージし、「母親パワー」が強いほど母親 を「強い」 「大きい」とイメージする傾向がみられた。子ども自身のパワーが強いほど母親 を「大きい」とイメージする傾向がみられた。関係性では父母の結びつきが強いほど父親 を「暖かい」「強い」「穏やか」 「大きい」、母親を「暖かい」 「穏やか」とイメージする傾向 がみられた。「父子の結びつき」が強いほど父親を「暖かい」 「穏やか」 、母親を「暖かい」 とイメージし、 「母子の結びつき」が強いほど母親を「暖かい」「柔らかい」 「大きい」とイ メージする傾向が明らかとなった。 次に、FIT でイメージしている家族関係をより総括的に捉えるため、FIT の「パワー」 「配 置」「向き」「結びつき」「距離」「面積」を元にクラスター分析を試みたが、要因が多いこ と、分布が極端に偏っていることから、全項目を使用せず、言語的両親イメージと家族満 足度と関連性の示された「パワー」と「結びつき」を元に類型化した。その結果、2 つのク ラスターに分かれ、第 1 クラスターの特徴は「父親パワー」が強く、 「父母の結びつき」 「父 子の結びつき」「母子の結びつき」が高く、家族を肯定的に捉えていると考え、「ポジティ ブ群」と命名した。第 2 クラスターは「父親パワー」が弱く、「父母の結びつき」 「父子の 結びつき」「母子の結びつき」低く、家族を否定的に捉えていると考え、「ネガティブ群」 と命名した。次に、親和動機尺度の因子構造および信頼性の検討をするために、因子分析 を行なったところ、既存尺度と同じ第 1 因子「拒否不安」(α=.911)、第 2 因子「親和傾 向」(α=.876)が抽出され、十分な信頼性も得られたため以降の分析に使用した。 中学生と大学生の発達的差異および家族イメージの違いによって「情緒不安定」 「親和傾 向」の得点に違いが見られなかった。「拒否不安」において家族イメージのネガティブ群で は中学生と大学生の違いがみられなかったが、ポジティブ群において中学生は大学生より 「拒否不安」が高かった。また、中学生において家族イメージのネガティブ群とポジティ ブ群に違いが見られなかったが、大学生において家族イメージのネガティブ群はポジティ ブ群より「拒否不安」が高い傾向がみられた。したがって、中学生および大学生は家族イ メージの違いが子どもの情緒不安定になることがほとんどないが、大学生の場合家族イメ ージの違いにより「拒否不安」になる傾向が示された。よって、家族イメージのネガティ ブな人は家族関係のイメージの不安定さから不安が喚起され、その不安を軽減させるため、 友達からも嫌われたくないという欲求が高まると考えられる。また成長とともに拒否不安 が低くなり、発達とともに落ち着いてくることが示され、先行研究と同様の結果が得られ 3 た。 4