...

ベンゾジアゼピン受容体作動薬に対する処方抑制施策

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ベンゾジアゼピン受容体作動薬に対する処方抑制施策
!B
臨
ぷ、
事決
向精神薬処方の最適化一一多剤併用を回避せよ!
奥村泰之: ベンゾジアゼピン受容体作動薬に対する処方抑制施策の国際動向. 月刊薬事 58 (8): 39-45, 2016.
Web転載許諾済み
ベンゾジアゼピン受容体作動薬に
対する処方抑制施策の国際動
奥村泰之
O阻 店1URAY
:
出U戸 k
i
べンゾジアゼピン( BZ)受容体作動薬は,利便性が高い一方で,減薬−休薬時の離脱症状などの有害事象発現リス
クへの懸念がある。諸外国では BZ受容体作動薬の適正使用を促すため,処方抑制の施策が導入されてきている。日本
では診療報酬改定による抗不安薬と睡眠薬の多剤処方の抑制施策が導入されているが,精神科外来患者の 3
2
'
1
も
に BZ
受容体作動薬が多剤処方されている。患者の不利益を最小限にするため, BZ受容体作動薬の処方抑制施策を段階的に
施行するととが求められる。
Keyword 診療報酬改定,処方制限,睡眠薬,抗不安薬,適正使用
E
猷 聞における BZ系薬剤の処方抑制施策
はじめに
ベンゾジアゼピン(BZ
)受容体作動薬(BZ系薬剤と
非 BZ系薬剤の両者を含む)は,抗不安作用,催眠鎮静
1
.施 策
米国では,高齢者はメデイケアとよばれる公的医療保
作用,抗痘撃作用,筋弛緩作用など多様な効能を有し,
0
0
6年 1月 外来薬剤料をカバーす
険に加入している。 2
精神科にとどまらずさまざまな診療科で活用されてい
る任意保険であるメデイケア・パート Dにおいて, BZ
る。一方で,持ち越し効果,記憶障害,ふらつき・転
系薬剤が保険給付の対象外とされた 3)。その結果, BZ
倒,依存性などの BZ受容体作動薬による有害事象の発
系薬剤が保険給付となるメデイケア加入者は,他の医療
現には用量反応関係があると考えられている l)。BZ受
保険(メデイケイドあるいは民間医療保険)を併用して
容体作動薬の処方ガイドラインでは
耐性と依存形成の
いる人に限定されることになった。低所得者に対する公
リスクを避けるため, 2∼ 4週間以内の短期使用にとど
的医療保険であるメデイケイドは, BZ系薬剤への処方
めるよう推奨されている 2)。こうした事実から,諸外国
抑制施策に地域差があり,①完全に保険給付,②条件っ
では BZ受容体作動薬の処方抑制施策が導入され,それ
きで保険給付,③保険給付の対象外ーーとする州に分か
らの有用性が評価されてきている( 図 l)。本稿では,
れた 4)。なお,ゾルピデムなどの非 BZ系薬剤は施策の
BZ受容体作動薬に対する国家レベルの処方抑制施策の
適用範囲外となっている 4。
)
国際動向を紹介するとともに,わが国における処方抑制
施策の課題を展望することを目的とする。
2
. 施策の評価
Ongらの報告によると,施策導入前の 2
0
0
5年と導入 2
年目の 2
0
0
7年における不安症の新規治療者を比較した
5
.
4
%
結果,保険給付対象である向精神薬の処方割合が 7
医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構研究部
題薬 事
2016.6 (
V
o
l
.
5
8No.8) ー 39(1895)
置
一一
向精神薬処方の最適化一一多剤併用を回避せよ!
−罰百寄E喜一米国
~幽圃圃
BZ系薬剤の保険給付対象外施策の導入
日
本
「精神科継続外来支援・指導料 J(頻回の精神医
学的援助の評価)の新設
1
〉間 |全メラト二ンの上市
・
-Ill
盈DI;WJ'
j
I
オランダ
RmDI-抗不安作用・催眠鎮静作用を目的とした BZ受容体作
動薬の保険給付対象外施策の導入
−冨週・
田本
抗不安薬・睡眠薬多剤処方における「精神科継
続外来支援 ・指導料j減算規定の導入
1
1
1
1
m
園
_
_
J
_
一
フランス
I
l
l
盈E彊11-BZ系薬剤の医療の質に基づく支払い方式による報
酬の上乗せ施策の導入
l
l
l
l
m
I
B
m
ト
i
i
フランス
I
I
施策の導入
四
回
日本
抗不安薬・睡眠薬多剤処方における減算項目拡
大施策の導入
米国
BZ系薬剤の保険給付対象外施策の撤廃
I
l
l
彊盟理圏一 BZ系睡眠薬と非 BZ系睡眠薬の保険償還率の削減
図 1 ベンゾジアゼピン受容体作動薬に対する処方抑制施策の国際動向
から 5
0
.
0%に減少した一方で,代替療法となりうる行動
薬剤の処方割合は,施策導入前後の月に 2
7%から 17%
) この結
的ケアの実施割合の増加が認められなかった 5。
に急減した 4)。一方 で 全 米 に お け る BZ系薬剤の処方
果は,施策により介入へのアクセスが阻害 されたことを
件数は,施策導入前の 2
0
0
5年が 1
,
4
7
2万件,導入 4年目
示唆する 5)
。加えて,保険給付対象である抗うつ薬や抗
0
0
9年が 2
,
1
6
6万件であり, 47%の増加が認められ
の2
不安薬の処方割合が増えたため 年間 薬剤料の総額が
た6)
。 これらの結果は,総体として施策による BZ系薬
1
2
5米ドルから 1
5
4米ドルに増加してしまい,施策によ
。
剤処方の減少効果が認められなかったことを示唆する 6)
る医療費抑制の効果は認められなかった 5)
。
B
r
i
e
s
a
c
h
e
rらの報告によると,施策導入前の 2
0
0
5年
0
0
6年におけるナーシングホームへの新
と導入 l年 目の 2
3
. 施策か 5の教訓
施策導入による BZ系薬剤処方の減少効果すら認めら
4つの可能性があげられてい
規入所患者を比較した結果 大腿骨頚部骨折の年開発生
れなかった理由として
.
4
%から 1
2
.
4
%に増加していた 4)
。 この結果は,施
率が 6
る6)
。第 1に
, BZ系薬剤の薬価が安いため,患者は休薬
策による BZ系薬剤に起因する有害事象 の減少効果が認
よりも自由診療を希望していることが考えられる 。第 2
。
められなか ったことを示唆する 4)
に
, BZ系薬剤を長期に使用しているため,患者 は休薬
BZ系薬剤をメデイケイドの保険給付対象外としたテ
, 医師は
困難であると信じている可能性がある 。第 3に
ネシー州では,ナーシングホーム入所者における BZ系
BZ系薬剤を減薬・休薬することを 重要視していな い懸
40(1896)
一
審薬 事
2016.
6(
V
o
l
.
5
8No.
8
)
|
'
.
=
:
r
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一」
ベンゾジアゼピン受容体作動薬に対する処方抑制施策の国際動向
念がある 。第 4に,メデイケア以外の医療保険により
BZ系薬剤の保険給付を受けている可能性がある 。
3
. 施策か 5の教訓
施策導入による BZ受容体作動薬の処方減少効果が認
0
0
6年の施策導入前より,この施策は患者の
なお, 2
められたことは貴重な事実である 。た だ し 減 少 し た
健康や生活の質に害を及ぼす可能性があると強く批判さ
BZ受容体作動薬の代わりに 非薬物療法などが実施さ
れてきた 3)
。そして 2
0
1
3年 1月
メデイケアは施策を撤
れているのか情報が不足しているため,この施策により
。こ
廃し
, BZ系薬剤は 再び保険給付の対象になった 7)
何らかの有害事象が増えている可能性は否定できないと
の施策変更は処方割合の過剰な増加を招いていないか,
。加えて
指摘されている 10)
今後の影響の評価が待たれる 。
0
1
0∼
適用範囲外となる BZ受容体作動薬の処方量が, 2
てんかん患者など施策の
2
0
1
4年の聞に 14%増加していることが報告されてい
鶴
dラン夕、における 82受容体作動薬の
処方抑制施策
l. 施 策
オランダでは,すべての国民は公的医療保険に加入し
0
0
9年 1月,抗不安作用・催眠鎮静作用を目的
ている 。2
とした BZ系薬剤と非 BZ系薬剤が,保険給付の対象外
る11)
。 この処方量の増加は適応外処方の増加を示唆す
るのか,今後の検討が待たれる 。
5
フランスにおける 82系薬剤の
軍」
処方抑制施策
l
.施 策
とされた 2)
。メデイケアの事例と異なり, ① てんかん,
フランスでは,すべての国民は公的医療保険に加入し
② 2種類以上の抗うつ薬で改善が認められない不安症,
0
1
2年 1月,プライマリケア医による BZ系薬
ている 。2
③高用量の BZ受容体作動薬を使用する必要性がある複
剤などの適正使用を促すため
数の精神疾患の併存, ④終末期一一の患者は,施策の適
ayf
o
rp
e
r
f
o
r
m
a
n
c
e)による報酬の上乗せ施策
方式(p
。
用範囲外とされた 2),8)
。これは,プライマリケア医に 2つの臨
が導入された 12)
医療の質に基づく支払い
床指標に関する成果を求め,成果を達成すると年間最大
4
9
0ユーロの報奨金を与えるものである 12),13)
。第 lの指
2
. 施策の評価
H
o
e
b
e
r
tらの報告によると,施策導入前の 2
0
0
8年と
2週間以上の長
標は, BZ系薬剤の新規使用者のうち, 1
0
0
9年における不安症と不眠障害の新規治
導入 l年目の 2
期使用の割合を 12%以下にすることである 。第 2の指標
療者を比較した結果, BZ受容体作動薬の処方割合は,
5歳超の患者のうちジアゼパムなどの長時間作用型
は
, 6
3
.
7
%から 3
0
.
1%,不眠障害では 6
7
.
0
%から
不安症では 3
BZ系薬剤の処方割合を 5%以下にすることである 。な
5
9
.
1%に減少した 9)
。 この結果は 施策による BZ受容体
)
お,非 BZ系薬剤は施策の適用範囲外となっている 13。
。
作動薬の処方減少効果が認められたことを示唆する 9)
K
o
l
l
e
nらの報告によると
施策導入前の 2
0
0
7
/
2
0
0
8年
∼ 2
年目の 2
0
0
9
/
2
0
1
0年における BZ受容体作動
と導入 1
2
. 施策の評価
被用者医療保険全国金庫の報告によると, BZ系薬剤
5
.
6日か
薬の四半期あたりの処方日数を比較した結果, 1
の長期使用の割合は,施策導入前の 2
0
1
1年が 1
5
.
0
%,導
ら1
3
.
5日に減少した s)o BZ受容体作動薬の短期使用者
0
1
4年が 1
4
.
7
%であり,実質的な変化が認め
入 3年目の 2
0日未満)における処方日数は, 1
9.
9日
(四半期あたり 6
。
) 一方で, 6
5歳超への長時間作用型 BZ
られなかった 14
9
.
0日に減少した一方で,長期使用者(四半期あた
から 1
系薬剤の処方割合は, 2
0
1
1年が 1
3
.
7
%
,2
0
1
4年が 1
0
.
8
%
0日以上)における処方日数には変化が認められな
り6
であり, 2
.
9
%ポイントの減少が確認された 14)
。 しかし
。 この結果は
かった 8)
施策による BZ受容体作動薬の
R
a
tらの報告によると
長時間作用型の代替としてクロ
処方日数の減少効果は,短期使用者の減少に起因して認
チアゼパムなどの短時間作用型 BZ系薬剤の処方が 20%
)
められたことを示唆する 8。
増加しており,短時間作用型は長時間作用型 BZ系薬剤
.
3
%ポイント高いことが
よりも長期使用となるリスクが 7
覇薬 事
2016.6 (
V
o
l
.
5
8N
o
.
8
) - 4 1(1897)
向精神薬処方の最適化一一多剤併用を回避せよ!
)
表 1 欧州 8カ国における BZ受容体作動薬と徐放性メラ卜二ンの保険給付と売上高( 2005∼2011年
保険給付
徐放性メラトニン上市後の売上高の変動
BZ系薬剤
徐肢性
メラトニン
ギリシャ
。
非 82系薬剤
フィンランド
乙
斗
ム
×
デンマーク
×
×
×
国
。
。
82系薬剤
非 BZ系薬剤
ノルウエー
×
×
×
ー+
ー
オランダ
×
*
×
*
。
・
−
ー
英国
フランス
スウェーデン
。
。
。
。
。
。
×
徐放性
メラトニジ
ー令
ー
ー令
ー
×
−・
一
×
令
ー
・
−
ー
ー令
ー
+
−
ー
BZ:べンゾジアゼピン
*・ 2009年から保険給付対象外
保険給付 .
o二保険給付 ム二部分給付,×二保険給付対象外
売上高 ↓二減少,→
二横ばい, ↑二増加
〔
Cl
a
yE,e
ta
l EurJC
l
i
nPharmacol
,
6
9:1
-1
0
.
2
0
1
3より 〕
示されている 13)。これらの事実から 施策に実質的効果
は認められなかったと考えられている 13)
,15
。
)
より 奏 効 しない場合に限り短期使用にとどめること一一
と提案されている 16)
。 この施策変更は,治療へのアクセ
スを阻害せず、に処方割合の減少につながるか,今後の影
3
. 施策か 5の教訓
響の評価が待たれる。
施策に実質的効果が得られなかった教訓として 2つあ
げられている 13)
。第 lに,長時間作用型から短時間作用
型 BZ系薬剤への処方変更が進んでしまうのではなく,
欧州における保険給付と売上高の動向
長期にわたる不安症などへの治療のためには, BZ系 薬
C
l
a
yらは,欧州における BZ受容体作動薬とメラト ニ
剤よりも抗うつ薬への切り替えが進む方向性が望まし
ン受容体作動薬である徐放性メラトニンの保険給付と売
かったと指摘されている 。第 2に
臨床心理士による認
上 高 を 比 較 し て い る (表 1
)l0)
。欧州では徐放性メラト
知行動療法などを診療報酬で評価するために,現行予算
0
0
7∼ 2
0
0
8年 に 上 市 さ れ て い る 。上 市 前 後 の
ニ ン が2
の一部を移行する施策を検討するよう提案されている 。
2
0
0
5∼ 2
0
1
1年の売上高を検討した結果,各国の売上動向
0
1
4年 1
2月から規制当局は, BZ系 睡 眠 薬 と 非
なお, 2
は,以下の 3類型に分類できるこ とが明らかにな った O
BZ系睡眠薬の医療保険による償還率を 65%から 15%に
大幅削減する施策を導入している 14)。この施策を導入し
8日を超えて睡眠薬を長期使用するこ
た合理性として, 2
l
. 82系薬剤・非 82系薬剤の減少事例
第 1の類型として, BZ系 薬 剤 と 非 BZ系薬剤の両者の
との有効性は不確かであること,その一方で有害事象
売上が減少した国として
(例:日中の眠気,認知機能障害,転倒,交通事故)の
ン マ ー ク が 該 当 す る こ と が 確 認 さ れ た。 こ れ ら の 国 で
。加えて
発生リスクが上昇することが説明されている 16)
は,徐放性メラトニンが上市され,そのシ ェアが増すと
不眠障害治療として, ①全例に睡眠衛生指導を実施する
ともに BZ受容体作動薬の売上が減少していた。
こと, ② 必要性がある場合は,認知行動療法を第一選択
の治療とすること, ③ 睡眠薬の使用は,これらの治療に
42(
1898)一 自
薬
事
2016.6 (
Vol.58No.8)
ギリシヤ,フィンランド,デ
玉
三
乞一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一」
ベンゾジアゼビン受容体作動薬に対する処方抑制施策の国際動向
2
. 82系薬剤の減少・非 82系薬剤の増加事例
第 2の類型として
BZ系薬剤の売上が減少した一方
で非 BZ系薬剤の売上が増加(あるいは横ばい)した国
として,ノルウェー,オランダ,英国が該当することが
示された。例えば英国では
するよう規制が強化された 18),19)。なお,この施策のな
かでは,抗不安薬と睡眠薬を別々に評価しており, BZ
受容体作動薬という作用機序に基づいた分類にはなって
いない 19)
。
2
0
0
4年に BZ系薬剤は短期
使用にとどめるよう保健省が注意喚起を行った。その
後
, BZ系薬剤の売上が減少した一方で非 BZ系薬剤の売
2
. 施策の評価
奥村らの報告によると,施策導入前の 2
0
1
1年と導入 3
上 は 増 加 し 総 体 と し て BZ受容体作動薬の売上は減少
年目の 2
0
1
4年における精神科外来患者を比較した結果,
していた。診療ガイドラインによる支持を得られず,徐
.
5
%
施策の適用範囲である睡眠薬の多剤処方の割合が 4
放性メラトニンのシェアが伸びなかった。
から 2
.
4
%に減少し抗不安薬の多剤処方の割合が 1
.
6
%
3
. 82系薬剤の横ばい・非 82系薬剤の増加事例
。施
薬の多剤処方の割合の変化は認められなかった 19)
から 0
.
9
%に減少した一方で,総体として BZ受容体作動
第 3の類型として, BZ系薬剤の売上が横ばいである
策導入 3年目における BZ受容体作動薬の多剤処方の割
一方で非 BZ系薬剤の売上が増加(あるいは横ばい)し,
0
.
5
%,3種類が 8
.
3
%
, 4種類が 2
.
5
%
,5
合は, 2種類が 2
総体として BZ受容体作動薬の売上が増加した国とし
種類以上が 0
.
9
%であった 19)
。すなわち,精神科外来患
て,フランス,スウェーデンが該当することが明らかに
者の 3
2
.
2
%は
, BZ受容体作動薬を 2種類以上処方されて
BZ受容体作動薬が保険給付
いる状況であった。 これらの事実から,施策に実質的効
なった。これらの国では
の対象である一方で徐放性メラトニンは保険給付の対象
。
果は認められなかったと考えられている 19)
外である。そのため,徐放性メラトニンのシェアが伸び
なかったと考えられている。なお
この類型は日本の認
3
. 施策か 5の教訓
知症患者に該当し, BZ系薬剤の処方割合が横ばいであ
施策に実質的効果が得られなかった教訓として 3つあ
る一方で非 BZ系薬剤の処方割合が増加し総体として
。第 1に,多剤処方の発生予防のために
げられている 19)
BZ受容体作動薬の処方割合が増加していることが示さ
は,減収を前提とした懲罰的規制ばかりではなく,睡眠
れている 17)
。
衛生指導などの非薬物療法を十分実施する診療時間を確
保できるよう,通院・在宅精神療法の診療報酬などの見
踏 ζ日本における抗不安薬と睡眠薬の
多剤処方抑制施策
直しが必要であると提起されている 。第 2に,現存する
多剤処方の減少のためには,漸減法や隔日法などの減薬
法を無理なく実施できるよう,診療報酬上の評価が必要
, BZ受容体作動薬同
であると指摘されている 。第 3に
l. 施 策
2
0
0
8年 4月,精神科外来において 服用状況や副作用
士の併用は合理性を欠くため,規制対象薬として抗不安
の有無などの確認を主とした支援をすると, 1日あたり
薬と睡眠薬を別々に評価するのではなく, BZ受容体作
5
5点算定できる「精神科継続外来支援・指導料」が新
動薬に変更する必要があると提案されている 。
。 これは
設された 18)
頻回の精神医学的援助が必要で
0
1
2
あるときに適用される精神科専門療法料である 。2
年 4月,抗不安薬または睡眠薬が多剤( 3種類以上)処
方されている場合に,「精神科継続外来支援・指導料」
日本における BZ受容体作動薬の
処方抑制施策
が 20%減算されるという多剤処方抑制施策が導入され
日本における BZ受容体作動薬の処方抑制施策は,諸
た18),19)
。2
0
1
4年 4月,減算対象の項目は,「処方料と薬
外国のものと比べて寛容である 。すなわち,オランダの
剤料(院内処方)」あるいは「処方せん料(院外処方)」
ように BZ受容体作動薬を保険給付の対象外とすること
にも拡大され,抗不安薬と睡眠薬の多剤処方をより抑制
もなく 2),英国のように適応となる使用継続期間を短期
自薬 事
2016.6 (
V
o
l
.
5
8N
o
.
8
)-
43(1899)
向精神薬処方の最適化一一多剤併用を回避せよ!
(
2∼ 4週間)に制限することもしていない 20)。精神科外
どが該当する。特に
ペントバルピタールカルシウムと
来における多剤処方の抑制施策が施行されているもの
ベゲタミン③は過量服薬時の死亡リスクが高いため,新
の,一般身体科における処方抑制施策は導入されていな
規処方を禁止するなどの施策が求められるだろう 21)。
い 18)。加えて薬理学的作用機序からは, BZ受容体作動
受容体作動薬が 32%の精神科外来患者に処方されてい
4
. 適応外処方薬の治験実施
第 4に
, BZ受容体作動薬の代替となりうる適応外処
る状況である 19)。筆者は,日本において BZ受容体作動
方薬について,治験実施が必要であろう。例えば,催眠
薬の処方抑制を達成するためには,①処方抑制施策の導
鎮静作用を目的とした適応外処方薬として,抗うつ薬で、
入,②安全性に優れる代替薬のシェア拡大,③安全性に
あるミアンセリンやトラゾドンなど,また抗精神病薬で
劣る代替薬のシェア縮小,④適応外処方薬の治験の実
あるクエチアピンなどが使用されている。これらの薬剤
施,⑤非薬物療法の診療報酬評価一ー といった包括的な
は
, BZ受容体作動薬の処方抑制施策を導入すると,
施策を導入する必要があると考えている。
シェアを増す可能性がある。しかしまずは適応拡大の
薬同士の併用は合理性を欠くなかで, 2種類以上の BZ
有効性と安全性を評価することが求められよう。
l
. BZ受容体作動薬に対する処方抑制施策の導入
第 1に,オランダの事例のように 2),一部の例外を除
5
. 非薬物療法の診療報酬評価
いて BZ系薬剤と非 BZ系薬剤を保険給付の対象外とす
第 5に
, BZ受容体作動薬の代替となりうる非薬物療
る処方抑制施策を導入する必要があろう。一部の例外と
法について,診療報酬による評価が必要であろう。オラ
しては,①短期間の使用,②終末期,③てんかん一ーな
ンダの事例のように 10l, BZ受容体作動薬の使用が減っ
どが該当する可能性がある。また,処方の激的変化に伴
たとしても,非薬物療法の実施が増えたのか情報が不足
い有害事象の発生が増加する可能性があるため,緩和措
しているのであれば 治療へのアクセスが阻害されてい
置として施策の適用範囲を BZ受容体作動薬の新規使用
る可能性や,何らかの有害事象が増えている可能性を否
者に限定するなどの配慮が必要であろう。保険給付の対
定できない。非薬物療法の実施状況を把握するために
象外とすることに強い障壁がある場合は,フランスの事
は,漸減法や隔日法の実施,睡眠衛生指導,不眠障害へ
例のように 14),保険償還率を下げるべく,薬剤料や処方
の認知行動療法など,診療行為別に診療報酬評価するこ
せん料を減算することで対応する可能性もあるだろう。
とが望ましい。
2
. 安全性に優れる代替薬のシェア拡大
第 2に,ギリシャなどの事例のように io
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作動薬よりも安全性の高い代替薬のシェア拡大が必要で
おわりに
本稿では,①米国,オランダ,フランスにおける BZ
あろう。日本の場合,徐放性メラトニンは上市されてい
受容体作動薬に対する処方制限施策の動向,②欧州にお
ないものの,同クラスのメラトニン受容体作動薬である
ける BZ受容体作動薬と徐放性メラトニンの保険給付と
ラメルテオンが該当すると思われる。一方で,メラトニ
売上高の動向,③日本における BZ受容体作動薬の処方
ン受容体作動薬と比較すると BZ受容体作動薬の薬価は
制限施策の課題一ー を展望した。政策担当者は,諸外国
格段に安いため,後発薬の上市が待たれる。
の経験をもとに,患者の不利益を最小限とするために
BZ受容体作動薬の処方抑制施策を段階的に施行し施
3.安全性に劣る代替薬のシェア縮小
第 3に
, BZ受容体作動薬よりも安全性の低い代替薬の
策の影響評価を継続していくことが求められよう。
シェア縮小が必要であろう。日本の場合,バルビツール
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酸系睡眠薬であるペントバルピタールカルシウムなど,
非バルビツール酸系睡眠薬であるブロモバレリル尿素な
44(1900)
一 器薬
事
2016.6 (
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べンゾジアゼピン受容体作動薬に対する処方抑制施策の国際動向
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