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日機連18高度化-14
平 成 1 8 年 度
我が国製造業のサプライチェーンにおける
ミクロ分析事業報告書
平成 1 9 年 3 月
社団法人
株式会社
日本機械工業連合会
ニッセイ基礎研究所
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://keirin.jp/
序
我が国機械工業における技術開発は、戦後、既存技術の改良改善に注力することか
ら始まり、やがて独自の技術・製品開発へと進化し、近年では、科学分野にも多大な
実績をあげるまでになってきております。
しかしながら世界的なメガコンペティションの進展に伴い、中国を始めとするアジ
ア近隣諸国の工業化の進展と技術レベルの向上、さらにはロシア、インドなどBRI
Cs諸国の追い上げがめざましい中で、我が国機械工業は生産拠点の海外移転による
空洞化問題が進み、技術・ものづくり立国を標榜する我が国の産業技術力の弱体化な
ど将来に対する懸念が台頭してきております。
これらの国内外の動向に起因する諸課題に加え、環境問題、少子高齢化社会対策等、
今後解決を迫られる課題も山積しており、この課題の解決に向けて、従来にも増して
ますます技術開発に対する期待は高まっており、機械業界をあげて取り組む必要に迫
られております。
これからのグローバルな技術開発競争の中で、我が国が勝ち残ってゆくためにはこ
の力をさらに発展させて、新しいコンセプトの提唱やブレークスルーにつながる独創
的な成果を挙げ、世界をリードする技術大国を目指してゆく必要があります。幸い機
械工業の各企業における研究開発、技術開発にかける意気込みにかげりはなく、方向
を見極め、ねらいを定めた開発により、今後大きな成果につながるものと確信いたし
ております。
こうした背景に鑑み、当会では機械工業に係わる技術開発動向等の補助事業のテー
マの一つとして株式会社ニッセイ基礎研究所に「我が国製造業のサプライチェーンに
おけるミクロ分析事業」を調査委託いたしました。本報告書は、この研究成果であり、
関係各位のご参考に寄与すれば幸甚です。
平成19年3月
社団法人
会
日本機械工業連合会
長
金
井
務
はしがき
本報告書は、日本自転車振興会から自転車等機械工業振興事業に関する補助金の交
付を受けて社団法人日本機械工業連合会が行った「平成18年度機械工業における技
術開発動向の調査等補助事業(機械産業高度化対策及び産業協力)」の一環として、
株式会社ニッセイ基礎研究所が受託した「我が国製造業のサプライチェーンにおける
ミクロ分析事業」の成果を取りまとめたものである。
製造業では国際機能分業が進む中、サプライチェーンの付加価値・収益構造を業務工程
別に把握した上で、我が国産業として高い国際競争力かつ付加価値創出力を有する工程を
国内で維持・強化しつつ、結果として国内の付加価値向上につながる国際機能分業体制を
構築していくことが求められている。
サプライチェーンの実態に則して、より細分化した工程別の付加価値・収益構造を把握
するためには、個別企業の財務データを用いた分析が必要となるが、そのような定量的研
究はこれまでほとんどなかった。
本調査は、自動車産業及び電機産業を調査対象として、 サプライチェーンの付加価
値・収益構造をミクロの視点から定量分析し、加えて法人課税や企業立地優遇措置など主
要制度に基づく工場立地の国際競争力を主要国間で比較分析し、企業立地や国際機能分業
のあり方、そのために必要とされる施策について検討を行ったものである。
本調査を実施するにあたり、日本自転車振興会並びに社団法人日本機械工業連合会
のご高配に深謝するとともに、格別のご指導をいただいた経済産業省製造産業局参事
官室に対し、心から謝意を表するとともに、本報告書が我が国製造業の国際競争力強
化および国内での付加価値最大化に関心をもつすべての機関において有益な指針とな
り、我が国製造業の企業活動が活性化されることに貢献できれば幸甚である。
平成19年3月
株式会社
ニッセイ基礎研究所
代表取締役社長
竹
原
功
<
目
次
>
序
はしがき
Ⅰ
主要製造業の付加価値・収益構造に関わるミクロ分析
1.付加価値・収益構造に関わるミクロ分析について····························
1
1-1. 分析の目的 ································································
1
1-2. 分析手法 ··································································
1
(1) サプライチェーンの業務工程別分析 ·········································
1
(2) 付加価値分配構造の分析 ···················································
3
2.自動車産業のサプライチェーンにおける業務工程別分析······················
4
2-1. 我が国の自動車産業 ························································
4
(1) 直近3年平均値を用いたスマイルカーブ現象の検証 ···························
4
(2) スマイルカーブの長期推移に関わる考察 ····································· 10
(3) 自動車の1台当り付加価値構造に関わる考察 ································· 16
2-2. 欧州の自動車産業におけるスマイルカーブ現象の検証 ·························· 18
(1) 分析対象企業の選定 ······················································· 18
(2) 分析結果 ································································· 18
2-3. 自動車産業における日本企業と欧州企業の比較 ································ 21
(1) 付加価値率の比較 ························································· 21
(2) 売上高営業利益率の比較 ··················································· 22
3.電機産業のサプライチェーンにおける業務工程別分析························ 23
3-1.スマイルカーブ現象の検証 ·················································· 23
(1) データの制約と分析手法 ··················································· 23
(2) 業務工程区分と分析対象企業・事業セグメントの選定 ························· 23
(3) 分析結果 ································································· 25
(4) 補足:付加価値指標と売上高の相関分析 ····································· 28
3-2.主要企業の付加価値指標の時系列分析 ········································ 30
(1) 付加価値率の比較 ························································· 30
(2) 補足:付加価値分配構造の比較 ············································· 31
4.主要企業の付加価値構造の国際比較········································ 41
4-1.分析手法 ·································································· 41
(1) 分析対象とする財務指標 ··················································· 41
(2) 分析対象企業 ····························································· 41
4-2.自動車産業 ································································ 42
(1) 付加価値率の比較 ························································· 42
(2) 分配構造から見た付加価値率の比較 ········································· 43
(3) 付加価値分配率の比較 ····················································· 46
(4) 付加価値額の分配構造の比較 ··············································· 48
4-3.電機産業 ·································································· 52
(1) 付加価値率の比較 ························································· 52
(2) 分配構造から見た付加価値率の比較 ········································· 53
(3) 付加価値分配率の比較 ····················································· 56
(4) 付加価値額の分配構造の比較 ··············································· 58
5.まとめ·································································· 62
Ⅱ
立地条件の国際比較に基づく収益シミュレーション
1.分析の目的······························································ 64
2.分析対象の選定·························································· 64
2-1. 分析対象国 ································································ 64
2-2.分析対象地域 ······························································ 65
3.事業所投資回収モデル(動態モデル)の概要································ 67
4.シミュレーション結果(まとめ)·········································· 69
4-1.2007年度税制改正実施前ベースの試算 ········································ 69
4-2.減価償却制度見直しを織り込んだ試算 ···································· 69
5.我が国への政策的インプリケーション······································ 74
<資料編>事業所の立地選択要因の分類········································ 77
Ⅰ.主要製造業の付加価値・収益構造に関わるミクロ分析
1.付加価値・収益構造に関わるミクロ分析について
1-1.分析の目的
経済のグローバル化が進展する中、製造業では国際機能分業が進み、サプライチェーン
は複雑化している。こうした中、サプライチェーンの付加価値・収益構造を業務工程別に
把握した上で、我が国産業として高い国際競争力かつ付加価値創出力を有する工程を国内
で維持・強化しつつ、結果として国内の付加価値向上につながる国際機能分業体制を構築
していくことが重要である。
サプライチェーンの実態に則して、より細分化した工程別の付加価値・収益構造を把握
するためには、個別企業の財務データを用いた分析が必要とみられるが、そのようなミク
ロの視点での定量的な研究はこれまでほとんどなく、また有ったとしても定性的・概念的
であることが否めない。
そこで本章では、主要な製造業のサプライチェーンの付加価値・収益構造をミクロの視
点から定量分析し、企業立地や国際機能分業のあり方、そのために必要とされる施策につ
いて検討を行う。これにより、我が国製造業の国際競争力強化および国内での付加価値最
大化に資することを目的とする。
分析対象として、付加価値額や輸出額などの面から我が国を代表する産業であり、かつ
近年国際競争の激化している、自動車産業および電機産業を取り上げる。
1-2.分析手法
(1)サプライチェーンの業務工程別分析
①分析する収益指標について
各産業の主要企業(有価証券報告書を発行する上場企業)の財務データを用いて、各産
業あるいは製品のサプライチェーンの業務工程別付加価値・収益構造を分析する。ここで
は、各業務工程のデータとして、当該工程を主たる業務としているとみられる主要企業の
全社ベースの数値あるいは事業部門の数値を用いることとする。
まず、企業ベースの付加価値は、集計法を用いて以下の算式により試算することとする
(ただし、賃借料は非開示の企業もあるため、開示している企業のみ加算することとする)。
付加価値=人件費(売上原価中)+人件費(販売費・一般管理費中)+営業利益
+減価償却費+賃借料
我が国企業の場合、付加価値は基本的に人件費関連課目が有価証券報告書にて開示され
ている、単体ベースの全社ベースでしか算出できない(まれに決算補足資料等において、
1
連結ベースの労務費を開示する事例があり、この場合は連結ベースの算出が可能となる)。
また、販売費・一般管理費中の人件費について研究開発費に含まれる人件費を除いたベー
スで開示する企業が多く見られ、この場合も付加価値は算出できない。
単体ベースの分析では国内の連結子会社と海外事業が織り込めないが、国内のサプライ
チェーン構造の傾向を考察するためには単体ベースの分析でも有用であると考えられる。
企業ベースの付加価値による分析アプローチは、事業構造が比較的専業化し、かつ本体で
主要な事業を担っている産業のケースに適している。自動車産業はこのようなケースに近
いとみられる。
一方、企業ベースの付加価値アプローチは、より多角化(総合化)が進んでいる電機産
業には適さないと思われるため、これを補完するため、連結決算で開示される「事業セグメ
ント」等の事業単位データも併用することとする。ただし、「事業セグメント」のデータを用
いる場合、付加価値は算出することができず、分析する収益指標は営業利益および EBITDA
(償却前営業利益=営業利益+減価償却費)となる。
財務データを用いたミクロ分析アプローチでは、企業が単品経営を行っていない限り、
分析対象に完全に合致するデータを取得することが難しい面もあるが、実態の傾向を読み
取るには極めて有用な分析手法であると思われる。
②スマイルカーブ現象の検証
①で述べた分析アプローチにより主要企業群の財務データを取得・加工し、その分析数
値を用いて、自動車産業および電機産業について「スマイルカーブ現象」(製造業の業務工
程別の付加価値率あるいは利益率は、部材生産とアフターサービスで高い一方、加工組み
立ては低いという現象を指す)の検証を行う。
自動車産業では工程間で擦り合せ作業が行われ、その中核に位置する完成車メーカーの
収益性が必ずしも低くないため、「スマイルカーブ現象は当てはまらない」というイメージ
が一般に持たれているが、その実態を検証したい。
ここで分析対象とする業務工程がサプライチェーンの実態に則して、どれだけ細分化で
きるかが分析手法のポイントの1つとなるが、セミマクロデータと産業連関表を用いた分
析(原材料・部品、加工組立、サービス等の3分法が一般的)に比べ、ミクロ分析アプロ
ーチでは、より細分化した工程の設定が可能であるとみられる。
因みに、自動車産業では日本企業のケースを想定すると、原材料、2次サプライヤ(部
品)、1次サプライヤ(部品)、完成車、車体、商社、完成車輸送、ディーラー、オートロ
ーン、補修・改造用部品、カー用品、中古車、までの細分化が可能である。また電機産業
では、例えばデジタル家電や白物家電など家電製品のケースを想定すると、デバイス材料、
デバイス部材、デバイス製造装置、デバイス(半導体、液晶パネルなど)、家電製品(セッ
ト製品)、家電量販、などに区分することができる。
「スマイルカーブ現象」の検証では、分析する収益指標として、付加価値率(=付加価
2
値÷売上高、単体・全社ベース)、EBITDA マージン(=EBITDA÷売上高、連単・全社ベ
ースあるいは連結事業セグメント)
、売上高営業利益率(連単・全社ベースあるいは連結事
業セグメント)を取り上げる。
また自動車産業については、アニュアルレポートなどで人件費データを開示している欧
州企業(連結ベース)との業務工程別付加価値構造の比較を試みる。因みに米国企業の大
半は人件費データを開示していないため、分析対象としない。
③自動車の製品1単位当たりの価格構造分析
自動車産業では事業の専業化が相対的に進んでいて、製品単位の分析に落とし込むこと
が比較的可能であると思われるため、既述の付加価値分析の結果を用いて、製品1単位当
たりの価格構造の分析(各工程別付加価値と外部流出額に分解)を行なう。因みに、この
分析手法ではマッキンゼーによる調査が有名である。
(2)付加価値分配構造の分析
(1)で算出した企業ベースの付加価値データを用いて、各産業の主要企業の付加価値
分配構造(単体・全社ベース)を考察する。付加価値の労働(人件費)、企業(営業利益)、
設備(減価償却費)への分配率を算出し、その変化を分析する。
付加価値の試算が可能である欧州企業(連結ベース)や一部の企業が人件費データを開
示している韓国企業(単体ベース)の代表的企業との国際比較も可能な範囲で試みる。
目先の利益確保のみ優先するのでなく、労働および設備への適正な分配を行うことが企
業のサステナビリティ(持続可能性)の観点から重要であるとの視点から考察を行う。
3
2.自動車産業のサプライチェーンにおける業務工程別分析
2-1. 我が国の自動車産業
(1)直近3年平均値を用いたスマイルカーブ現象の検証
①業務工程区分と分析対象企業の選定
自動車産業の業務工程を上流から下流に向けて、原材料、2次サプライヤ(部品)、1次
サプライヤ(部品)、完成車、車体、商社、完成車輸送、ディーラー、オートローン、補修・
改造用部品、カー用品、中古車と 12 の工程に区分し、各工程を主たる業務としているとみ
られる主要企業を下記の通り分析対象として選定した。
なお、主要企業であっても開示データの制約から付加価値を試算できない企業は、分析
対象から除外されている。また、特に原材料工程では自動車向け事業のウェイトが高い企
業は少ないため、兼営する自動車向け以外の事業ウェイトが高い企業を次善の策として選
定せざるをえない。ここでは自動車用鋼板・鋼材を手掛ける鉄鋼2社を選定した。
<原材料>JFE スチール、大同特殊鋼(2社)
<2次サプライヤ(部品)>曙ブレーキ工業、小倉クラッチ、シロキ工業、太平洋工業(4
社)
<1次サプライヤ(部品)>アイシン精機、市光工業、オイレス工業、カルソニックカン
セイ、ケーヒン、小糸製作所、サンデン、スタンレー電気、住友ゴム、デンソー、東海
理化、豊田合成、日信工業、フタバ産業、ボッシュ、横浜ゴム(16 社)
<完成車>ダイハツ工業、トヨタ自動車、日産自動車(3社)
<車体>関東自動車工業、トヨタ車体、日産車体(3社)
<商社>豊田通商(1社)
<完成車輸送>ゼロ(1社)
<ディーラー>愛知トヨタ自動車、東日カーライフグループ(2社)
<オートローン>オリエントコーポレーション(1社)
<補修・改造用部品>エイケン工業(1社)
<カー用品>イエローハット、オートバックスセブン(2社)
<中古車>オークネット、ガリバーインターナショナル、ケーユー、ユー・エス・エス(4
社)
②分析結果
図表 1-1 は、業務工程別に分類された企業の付加価値率の 2003~2005 年度平均値(単体・
全社ベース)をプロットし、各工程の企業の単純平均値を折れ線グラフで結んだものであ
る。03~05 年度は直近の3年実績である。
分析結果によれば、同じ業務工程に属する企業間でも、必ずしも同種の製品や事業を扱
4
っているわけではないため、付加価値率にバラツキが見られる。しかし、各工程の企業の
平均値を見れば、我が国の自動車産業では商社の付加価値率をボトムとするスマイルカー
ブが概ね成立していると思われる。
原材料から車体までの工程を見ると、加工組立工程に相当する車体メーカーの付加価値
率が最も低くなっている。完成車メーカーは一部部品内製を行っているとはいえ、組立加
工工程が中心であるため、業種(工程)特性として付加価値率は相対的に高くなく、平均
値を比較すれば原材料メーカーや部品メーカーを下回っている。
一方、完成車輸送以降を見ると、オートローンや輸送に加え、アフターサービスに相
当する補修・改造用部品や中古車オークションの付加価値率が極めて高くなっている。
図表 1-1
日本の自動車産業:工程別付加価値率(単体・全社ベース、03~05 年度平均)
80%
ユー・エス・エス
70%
60%
50%
オリエントコーポレーション
40%
オイレス工業
JFEスチール 太平洋工業
30%
ゼロ
フタバ産業
20%
大同特殊鋼
小倉クラッチ
サンデン
オークネット
エイケン工業
デンソー
ボッシュ
小糸製作所 住友ゴム
横浜ゴム
シロキ工業
トヨタ自動車
日産自動車
曙ブレーキ
カルソニックカンセイ ダイハツ工業
10%
東日カーライフグループ
トヨタ車体
愛知トヨタ自動車
関東自動車工業
日産車体
ガリバーインターナショナル
オートバックスセブン ケーユー
イエローハット
豊田通商
0%
原材料メーカー
2次サプライヤ
1次サプライヤ
完成車メーカー
車体メーカー
商社
輸送
ディーラー
オートローン
補修・改造用
カー用品
中古車
備考:折れ線グラフは各工程に分類された企業の単純平均値を結んだ線。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
次に工程別の付加価値率と EBITDA マージンおよび売上高営業利益率を比較してみよう。
ここでは簡単化のために原材料からディーラーまでの工程を分析対象とし、図表 1-1 と同
様に各工程に分類される企業の値をプロットし、それらの単純平均値を折れ線グラフで結
んだ。なお、付加価値率(図表 1-2)、EBITDA マージン(図表 1-3)、売上高営業利益率(図
表 1-4)のグラフは、比較しやすいように目盛りを同じにしてある。
付加価値率の工程間格差は大幅である一方、EBITDA マージン、売上高営業利益率では
格差は縮小し、工程によっては大小関係が入れ替わっている(図表 1-2~図表 1-4)。例え
5
ば、完成車メーカーは付加価値率ではサプライヤを大幅に下回っているが、営業利益率で
は上回っている。
図表 1-2 自動車産業:工程別付加価値率(単体・全社ベース、03~05 年度平均)
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
原材料メーカー
2次サプライヤ
1次サプライヤ
完成車メーカー
車体メーカー
商社
輸送
ディーラー
備考:折れ線グラフは各工程に分類された企業の単純平均値を結んだ線。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-3 自動車産業:工程別 EBITDA マージン(単体・全社ベース、03~05 年度平均)
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
原材料メーカー
2次サプライヤ
1次サプライヤ
完成車メーカー
車体メーカー
商社
備考:折れ線グラフは各工程に分類された企業の単純平均値を結んだ線。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
6
輸送
ディーラー
図表 1-4
自動車産業:工程別売上高営業利益率(単体・全社ベース、03~05 年度平均)
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
原材料メーカー
2次サプライヤ
1次サプライヤ
完成車メーカー
車体メーカー
商社
輸送
ディーラー
備考:折れ線グラフは各工程に分類された企業の単純平均値を結んだ線。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
これは企業による収益のコントロール余地が各指標により異なっているためであると考
えられる。すなわち、企業による収益指標のコントロール余地(コントロールできる変数
の多さ)について、大きい(多い)順に示すと、営業利益率、EBITDA マージン、付加価
値率になると思われる。まず付加価値率が主として工程特性(加工度)により決定され、
経営による付加価値分配の意思決定の結果、EBITDA マージンや営業利益率が決まってく
ると考えられる(図表 1-5)。
仮に同一の市場シェアを持つ2社が同一スペックの製品を同一の製造プロセスにより生
産している場合、2社の付加価値率に格差が付く余地は極めて少ないであろう。しかし、
付加価値から人件費が控除されて EBITDA が算出される際、さらに減価償却費が控除され
て営業利益が算出される際には、各社の経営判断が介在し経営の巧拙が影響する余地が増
えてくる。例えば、人件費については人事評価・給与体系、採用計画など人事管理戦略や
労使関係、減価償却費については設備投資や研究開発投資など先行投資戦略により影響を
受けると考えられる。また、会計方針や決算対策など企業会計・決算に対する考え方の違
いによっても変動しうるであろう。
実際には同じ工程に分類されている企業間で全く同一の製品を扱っているわけではなく、
また価格支配力・ブランド力、原材料等のバーゲニングパワー・節約努力(原単位や歩留
まりの改善努力)などにより付加価値率に勿論格差が生じるものの、付加価値率が工程の
加工度の特性を最も安定的に反映する指標であると言える。
7
図表 1-5 自動車産業:工程別付加価値率、EBITDA マージン、営業利益率(工程別単純
平均値:単体・全社ベース、03~05 年度平均)
40%
EBITDAマージン
付加価値率
営業利益率
35%
30%
25%
20%
人件費+賃借料
15%
10%
減価償却費
5%
営業利益
0%
原材料メーカー
2次サプライヤ
1次サプライヤ
完成車メーカー
車体メーカー
商社
輸送
ディーラー
備考:1.EBITDA=営業利益+減価償却費、EBITDA マージン=EBITDA÷売上高
2.各工程に分類された企業の単純平均値。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
③補足:付加価値指標と売上高の相関分析
原材料からディーラーまでの工程における分析対象企業 32 社のデータ(03~05 年度平均
値)を用いて、付加価値額と売上高の回帰分析を行うと、決定係数が 0.9035 となり、付加
価値の絶対額と売上規模の間には強い正の相関関係があるとの結果が得られた(図表 1-6)。
すなわち、売上規模が大きいほど付加価値額も大きくなる傾向が強い。
一方、付加価値率と売上規模については、決定係数がゼロに近く、両者の間に相関関係
はほぼ見られない(図表 1-7)。すなわち、売上規模が大きくなり付加価値率の分母が大き
くなっても、分子の付加価値額も大きくなる傾向があるため、付加価値率は必ずしも小さ
くならないということを示している。業務工程の川上から川下にかけて中間財の投入規模
が必然的に大きくなり売上規模が大きくなっても、付加価値率は必ずしも小さくなるとは
限らないことを示唆していると思われる。
以上の関係は後述の電機産業でも同様に見られるため、普遍的な関係であると考えられ
る。
8
図表 1-6 自動車産業:付加価値と売上高の相関関係
(単体・全社ベース、03~05 年度平均)
20,000
y = 0.1912x + 76.738
R2 = 0.9035
18,000
16,000
(
付 14,000
加
価 12,000
値
10,000
)
億 8,000
円
6,000
4,000
2,000
0
0
10,000
20,000
30,000
40,000
50,000
60,000
70,000
80,000
90,000 100,000
売上高(億円)
備考:回帰線は付加価値を売上高により線形回帰したもの。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-7 自動車産業:付加価値率と売上高の相関関係
(単体・全社ベース、03~05 年度平均)
40%
30%
付
加
価 20%
値
率
y = -9E-07x + 0.2421
R2 = 0.0445
10%
0%
0
10,000
20,000
30,000
40,000 50,000 60,000
売上高(億円)
備考:回帰線は付加価値率を売上高により線形回帰したもの。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
9
70,000
80,000
90,000 100,000
(2)スマイルカーブの長期推移に関わる考察
直近3年平均の財務データを用いた分析によれば、我が国の自動車産業ではスマイルカ
ーブ現象が概ね成立していることがわかった。それでは長期ではどうであろうか。ここで
は長期データを用いた検証を行いたい。
(1)①で示した分析対象企業について、1986 年度から 2005 年度までの 20 年間の毎年の
各工程別単純平均値を5年ごとの単純平均値にまとめて、工程別の付加価値率、EBITDA
マージン、売上高営業利益率について長期の時系列分析を行うこととする。1986 年度から
2005 年度までの 20 年間、91 年度から 05 年度までの 15 年間、96 年度から 05 年度までの
10 年間に分けて、スマイルカーブ現象の検証を行った。
なお、原材料から商社までの工程に分類される企業群については、20 年分のデータを取
得できるが、完成車輸送以降の川下工程に分類される企業群については、新興企業が含ま
れていたり、一部の企業で事業再編が行われているため、必ずしも 20 年分のデータを連続
的に取得できない。一部の工程で5年平均データが欠落しているのはこのためである。
①付加価値率の分析
まず 86~05 年度の工程別付加価値率を5年ごとの単純平均値で見ると、03~05 年度デー
タで検証したのと同様に、我が国の自動車産業では商社の付加価値率をボトムとして、最
上流の原材料および最下流の中古車に向けて付加価値率が上昇しており、スマイルカーブ
が概ね成立しているように思われる(図表 1-8~1-10)。
図表 1-8 工程別付加価値率(86~05 年度、工程別単純平均値、単体・全社ベース)
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
FY86-90
FY91-95
FY96-00
FY01-05
0%
原材料メーカー 2次サプライヤ
1次サプライヤ 完成車メーカー
車体メーカー
商社
輸送
ディーラー
オートローン
補修・改造用
備考:各工程に分類された企業の毎年の単純平均値を 5 年毎に単純平均したもの(以下同様)
。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
10
カー用品
中古車
図表 1-9 工程別付加価値率(91~05 年度、工程別単純平均値、単体・全社ベース)
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
FY91-95
FY96-00
FY01-05
0%
原材料メーカー 2次サプライヤ
1次サプライヤ 完成車メーカー
車体メーカー
商社
輸送
ディーラー
オートローン
補修・改造用
カー用品
中古車
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-10
工程別付加価値率(96~05 年度、工程別単純平均値、単体・全社ベース)
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
FY96-00
FY01-05
0%
原材料メーカー 2次サプライヤ
1次サプライヤ 完成車メーカー
車体メーカー
商社
輸送
ディーラー
オートローン
補修・改造用
カー用品
中古車
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
5年ごとのスマイルカーブは過去 20 年間で多少の変動があるものの、基本的に各工程の
加工度特性を示していることから、極めて安定的な形状を維持していると言える。
細かく見れば、例えば、部品内製を一部手掛ける完成車メーカーの付加価値率は本来車
体メーカーより高いとみられるが、86~90 年度、91~95 年度、96~00 年度の 15 年間では
車体メーカーを下回る一方、直近の5年間(01~05 年度)で上回っている。
01~05 年度平均と 86~90 年度平均を比べると、完成車での付加価値率向上が 3.7 ポイン
11
トと最も大きい一方、2次サプライヤ(▲3.6 ポイント)、原材料(▲2.7 ポイント)、車
体(▲1.8 ポイント)での低下が比較的大きくなっている。ただし、いずれの変化幅も 20
年間の長期の変動としては大幅ではなく、付加価値率は長期的に極めて安定した指標であ
ると言える。
②EBITDA マージンの分析
次に 86~05 年度の工程別 EBITDA マージンの推移を見ると、付加価値率と同様に安定
的な形状を持つスマイルカーブを描いている(図表 1-11~1-13)。ただし、付加価値率のグ
ラフと目盛りを同じにしてあるため容易にわかるように、工程間の格差は付加価値率に比
べ大幅に縮小している。既述の通り、付加価値から EBITDA が算出される際に控除される
人件費および賃借料は経営にとってコントロール可能な変数であるため、工程固有の加工
度特性を最も明確に反映すると思われる付加価値率に比べ、EBITDA マージンでは工程間
の格差が緩やかになると考えられる。
01~05 年度平均と 86~90 年度平均を比べると、
完成車での EBITDA マージン向上が 3.1
ポイントと最も大きいが、付加価値率より改善幅がやや縮小している。一方、オートロー
ンでは付加価値率がやや改善していたが、EBITDA マージンの低下が▲2.9 ポイントと最
も大きかった。付加価値率が低下していた原材料と車体では EBITDA マージンが各々0.7
ポイント改善している。付加価値率の変化方向と EBITDA マージンの変化方向が異なりう
るのは、経営が人件費をコントロールすることができるためであると考えられる。ただし、
付加価値率と同様、いずれの変化幅も大幅ではなく、自動車産業では EBITDA マージンも
5年平均で見れば長期的に安定した指標となっている。
図表 1-11 工程別 EBITDA マージン(86~05 年度、工程別単純平均値、単体・全社ベース)
40%
35%
FY86-90
FY91-95
FY96-00
FY01-05
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
原材料メーカー 2次サプライヤ
1次サプライヤ 完成車メーカー
車体メーカー
商社
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
12
輸送
ディーラー
オートローン
補修・改造用
カー用品
中古車
図表 1-12 工程別 EBITDA マージン(91~05 年度、工程別単純平均値、単体・全社ベース)
40%
35%
FY91-95
FY96-00
FY01-05
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
原材料メーカー 2次サプライヤ
1次サプライヤ 完成車メーカー
車体メーカー
商社
輸送
ディーラー
オートローン
補修・改造用
カー用品
中古車
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-13 工程別 EBITDA マージン(96~05 年度、工程別単純平均値、単体・全社ベース)
40%
35%
FY96-00
FY01-05
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
原材料メーカー 2次サプライヤ
1次サプライヤ 完成車メーカー
車体メーカー
商社
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
13
輸送
ディーラー
オートローン
補修・改造用
カー用品
中古車
③売上高営業利益率の分析
さらに 86~05 年度の工程別営業利益率の推移を見ると、付加価値率および EBITDA マ
ージンと同様に安定的な形状を描いている(図表 1-14~1-16)。ただし、EBITDA マージ
ンに比べ、工程間の格差はさらに縮小している。特に原材料から車体までの工程における
工程間格差が大幅に縮小している。EBITDA から営業利益が算出される際に控除される減
価償却費が経営にとってコントロールしうる変数として追加されるため、営業利益段階で
は工程固有の加工度の特性がさらに薄まることになると考えられる。
01~05 年度平均と 86~90 年度平均を比べると、完成車での営業利益率の向上が 3.4 ポイ
ントとやはり最も大きく、オートローン 2.6 ポイント、原材料 1.1 ポイント、車体 1.1 ポ
イントの各々改善となっている。一方、ディーラーが▲1.6 ポイントと最も低下が大きかっ
た。ただし、付加価値率および EBITDA マージンと同様、いずれの変化幅も大幅ではなく、
自動車産業では営業利益率も5年平均値でみれば長期的に安定した指標となっている。
図表 1-14
工程別営業利益率(86~05 年度、工程別単純平均値、単体・全社ベース)
40%
35%
FY86-90
FY91-95
FY96-00
FY01-05
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
原材料メーカー 2次サプライヤ
1次サプライヤ 完成車メーカー
車体メーカー
商社
輸送
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
14
ディーラー
オートローン
補修・改造用
カー用品
中古車
図表 1-15
工程別営業利益率(91~05 年度、工程別単純平均値、単体・全社ベース)
40%
35%
FY91-95
FY96-00
FY01-05
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
原材料メーカー 2次サプライヤ
1次サプライヤ 完成車メーカー
車体メーカー
商社
輸送
ディーラー
オートローン
補修・改造用
カー用品
中古車
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-16
工程別営業利益率(96~05 年度、工程別単純平均値、単体・全社ベース)
40%
35%
FY96-00
FY01-05
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
原材料メーカー 2次サプライヤ
1次サプライヤ 完成車メーカー
車体メーカー
商社
輸送
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
15
ディーラー
オートローン
補修・改造用
カー用品
中古車
(3)自動車の1台当り付加価値構造に関わる考察
①分析手法
自動車産業では事業の専業化が相対的に進んでいるため、簡単化の前提を置けば、製品
単位の分析に落とし込むことが可能であると思われる。ここでは、2-1.(1)で行った工
程別の付加価値率分析の結果を用いて、自動車1台当たりの販売価格(ディーラー価格)
を各工程別の付加価値と外部流出額(原材料購入費と物流費等の2項目のみと仮定)に分
解することを試みたい。
ここでは原材料メーカーからディーラーまでの工程を分析対象とする。各工程の販売価
格は付加価値、物流費、物流費以外の外部流出額(これを原材料購入費とみなす)の3項
目により構成されると仮定し、販売価格に占める付加価値の比率(A)は 2-1.
(1)の分析
結果(直近3年平均の付加価値率)の概数(整数値)を用い、物流費の比率(B)は各工程
の代表的企業の売上高に対する物流関係費用の比率(直近2年平均の概数)を用いること
とする。100%-(A)-(B)は物流費以外の外部流出額の比率であるが、これを原材料購入費
の比率とみなすこととする。簡単化のために原材料は直前の工程のみから購入すると仮定
する。例えば、完成車メーカーは1次サプライヤのみから購入し、原材料メーカーからは
購入しない。
なお、完成車メーカーの付加価値率(19%)のうち、車体メーカーの付加価値率(14%)
との差分(5%)を部品内製化による付加価値取込み分とみなす。
以上のように各工程の販売価格に対する3項目の比率を用意し、どれか1つの工程の販
売価格の絶対値を当てはめれば、ディーラー価格の付加価値構造を分析することができる。
ここでは完成車メーカーの販売価格として、トヨタ自動車の連結ベースの車両平均価格を
用いた(直近3年の実績は 03 年度@206 万円/台、04 年度@200 万円/台、05 年度@208
万円/台であったが、ここでは下限の@200 万円/台を採用した)。
②分析結果
ディーラー価格(244 万円/台)の構造を分析すると、各段階の付加価値はディーラー39
万円、完成車メーカー38 万円(うち車体組立分 28 万円、部品内製分 10 万円)、1次サプラ
イヤ 42 万円、2 次サプライヤ 28 万円、原材料メーカー25 万円と試算された(図表 1-17)。
各段階の付加価値額の合計 172 万円、物流費等の合計 28 万円に対して、このモデルにお
ける外部流出額(このモデルで最も川上に位置する原材料メーカーによる原材料購入費)
は 45 万円と試算された。
16
図表 1-17
自動車の1台当り販売価格構造の分析(ディーラー価格の内訳)
価格構造
(万円/台)
ディーラー
17
販売価格
付加価値
物流費等
完成車メーカー 販売価格
付加価値(車体)
付加価値(部品内製他)
物流費等
1次サプライヤ 販売価格
付加価値
物流費等
2次サプライヤ 販売価格
付加価値
物流費等
原材料メーカー 販売価格
付加価値
物流費等
原材料購入費
244
39
5
200
28
10
8
154
42
2
111
28
2
81
25
11
45
販売価格対比
比率
100%
16%
2%
82%
11%
4%
3%
63%
17%
1%
45%
11%
1%
33%
10%
5%
18%
ディーラー
100%
16%
2%
82%
完成車
100%
14%
5%
4%
77%
1次サプライヤ
2次サプライヤ
備考
原材料メーカー
ディーラー2社単純平均値
愛知トヨタ自動車:納入費(売上比)
トヨタ連結ベース車両平均価格
車体メーカー3社単純平均
完成車2社平均-車体3社平均
トヨタ:運賃・販売諸掛(売上比)
100%
27%
1%
72%
16社単純平均値
デンソー荷造運搬費(売上比)
100%
25%
2%
73%
4社単純平均値
曙ブレーキ:荷造運送費+業務委託料(売上比)
100%
31% 鉄鋼2社単純平均値
14% JFEスチール:製品発送費+外注費(売上比)
55%
備考1:太線の四角で囲まれた数値はインプット項目。付加価値部分に網掛けを付した。
備考2:各工程の販売価格から付加価値および物流費等を控除した数値は直前の工程の販売価格(当該工程の原材料購入費)と仮定した。
備考3:完成車メーカーは 1 次サプライヤのみから原材料を購入すると仮定している。
備考4:販売価格に占める付加価値の比率は 2-1.
(1)の分析結果(03~05 年度平均値)の概数を用い、同物流費等の比率は各工程の代表的企業の売上高に対する物流関係費用の比率
(04~05 年度平均値の概数)を用いた
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
2-2. 欧州の自動車産業におけるスマイルカーブ現象の検証
ここでは英国貿易産業省(DTI)“THE VALUE ADDED SCOREBOARD”(2005 年版)
のデータ(2004 年連結ベースの付加価値額、売上高営業利益率等)を用いて、欧州の自動
車産業における業務工程別の付加価値率や利益率を考察し、スマイルカーブ現象の検証を
行いたい。
(1)分析対象企業の選定
“THE VALUE ADDED SCOREBOARD”
(2005 年版)の業種分類のうち、Automobiles
& parts(投資会社 1 社を除く 19 社)および Steel & other metals の中の鉄鋼2社の合計
21 社を分析対象企業とした。
業務工程を上流から下流に向けて、原材料、2次サプライヤ(部品)
、1次サプライヤ(部
品)、完成車、ディーラーと5つの工程に区分し、分析対象企業群について主たる業務を勘
案して各工程に下記の通り分類した。
我が国のケースと同様に、原材料工程以外では自動車関連事業への専業化が進んでいる
ものの、原材料工程では必ずしも自動車向けのみを取り扱っているわけではない鉄鋼メー
カー(2社)を選定せざるをえなかった。
<原材料>Arcelor(ルクセンブルグ)
、Corus(英国)(2社)
<2次サプライヤ>Trelleborg(スウェーデン)、Burelle(フランス)(2社)
<1 次サプライヤ>Robert Bosch(ドイツ)、Michelin(フランス)、Continental(ドイツ)、
ZF(ドイツ)
、Valeo(フランス)、GKN(英国)
、MAHLE(ドイツ)、Hella(ドイツ)
、
Behr(ドイツ)(9社)
<完成車>DaimlerChrysler(ドイツ)
、Volkswagen(ドイツ)、BMW(ドイツ)、Peugeot
(PSA)
(フランス)、Renault(フランス)、Porsche(ドイツ)、AvtoVAZ(ロシア)
(7
社)
<ディーラー>D'leteren(ベルギー)(1社)
(2)分析結果
①付加価値率の分析
図表 1-18 は、5つの業務工程に分類された企業の 2004 年の付加価値率(連結ベース)
をプロットし、各工程の企業の単純平均値を折れ線グラフで結んだものである。
分析結果によれば、日本と同様に、同じ業務工程に属する企業間でも、付加価値率にバ
ラツキが見られる。しかし、各工程の企業の平均値を見れば、素材メーカー(鉄鋼メーカ
ー)の付加価値率が相対的に陥没しているものの、欧州の自動車産業では、加工組立工程
18
に相当する完成車メーカーの付加価値率をボトムとするスマイルカーブが概ね成立してい
ると思われる。
完成車メーカーでは、我が国に比べ企業間格差が大幅となっている。日本メーカー3社
の付加価値率は 16~20%のレンジにあったが、欧州メーカー7社では 23~36%のレンジに
ある。ただし、組立加工工程中心の業種特性は変わらず、工程間でみた付加価値率は相対
的に低く、分析対象とした工程の中では最も低くなっている。
図表 1-18
欧州自動車産業:工程別付加価値率(04 年連結ベース)
50%
Michelin
Trelleborg
GKN
MAHLE
Robert Bosch
40%
ZF
Continental
Burelle
BMW
Hella
30%
Behr
Arcelor
Porsche
Corus
20%
D'leteren
Renault
Volkswagen
DaimlerChrysler
Peugeot(PSA)
AvtoVAZ
10%
0%
原材料メーカー
2次サプライヤ
1次サプライヤ
完成車メーカー
ディーラー
備考:折れ線グラフは各工程に分類された企業の単純平均値を結んだ線。
資料:DTI“THE VALUE ADDED SCOREBOARD”(2005 年版)よりニッセイ基礎研究所作成。
②売上高営業利益率の分析
次に売上高営業利益率を考察し、付加価値率と比較してみよう。各工程に分類される企
業の値をプロットし、それらの単純平均値を折れ線グラフで結んだものが図表 1-19 である。
付加価値率と比較しやすいように、図表 1-18 と目盛りを同じにしてある。
付加価値率では工程間格差が大幅であり、かつ原材料メーカーの付加価値率の陥没を除
けばスマイルカーブが概ね成立していたが、売上高営業利益率ではその格差が大幅に縮小
しているだけでなく、完成車メーカーの利益率が最も高くなるなど工程間の大小関係が入
れ替わり、もはやスマイルカーブとは言えなくなっている。
2-1.で既述の通り、付加価値から営業利益が算出される際に控除される人件費、賃借料、
減価償却費は、いずれも経営にとってコントロール可能な変数であるため、工程固有の加
工度特性を最も明確に反映する付加価値率に比べ、売上高営業利益率ではその加工度特性
19
の格差の影響が薄まるものと考えられる。欧州の自動車産業のケースでは、営業利益率段
階において工程間の加工度特性の格差が完全に解消してしまっているとみられる。
図表 1-19 欧州自動車産業:工程別売上高営業利益率(04 年連結ベース)
50%
40%
30%
20%
Porsche
10%
Trelleborg
Continental
Arcelor
AvtoVAZ
Peugeot(PSA)
Volkswagen
DaimlerChrysler
0%
原材料メーカー
Renault
2次サプライヤ
1次サプライヤ
完成車メーカー
備考:折れ線グラフは各工程に分類された企業の単純平均値を結んだ線。
資料:DTI“THE VALUE ADDED SCOREBOARD”(2005 年版)よりニッセイ基礎研究所作成。
20
ディーラー
2-3. 自動車産業における日本企業と欧州企業の比較
ここでは 2-1.および 2-2.の分析結果を統合し、自動車産業における日本企業と欧州企
業の工程別付加価値率および営業利益率の比較を試みたい。
(1)付加価値率の比較
ここでは欧州企業のケースに合わせて、原材料、2次サプライヤ、1次サプライヤ、完
成車、ディーラーの5つの業務工程を分析対象とし、各工程に分類された企業の単純平均
値を比較する。
自動車産業における日本企業と欧州企業の付加価値率を工程別に比較すると、原材料メ
ーカーを除き、欧州企業が日本企業を 10 ポイント以上上回っている(図表 1-20)。完成車
メーカーでは日本企業が 18%、欧州企業が 28%と 10 ポイントの格差が付いている。この
格差については、ブランド力が主因であるとみられる。
原材料メーカーでは、我が国の鉄鋼メーカーが技術優位性や業界再編による市場支配力
の向上などを背景に高収益を確保しており、欧州企業の付加価値率を上回る唯一の工程と
なっている。
図表 1-20
自動車産業の工程別付加価値率、営業利益率の日欧比較(工程別単純平均値、
日本:単体ベース 03~05 年度平均、欧州:04 年連結ベース)
50%
付加価値率(欧州)
付加価値率(日本)
営業利益率(欧州)
営業利益率(日本)
40%
30%
20%
10%
0%
原材料メーカー
2次サプライヤ
1次サプライヤ
完成車メーカー
ディーラー
資料:有価証券報告書、DTI“THE VALUE ADDED SCOREBOARD”(2005 年版)よりニッセイ基礎研究所作成。
21
(2)売上高営業利益率の比較
付加価値率では原材料を除くすべての工程において、欧州企業が日本企業を 10 ポイント
以上上回っていた。しかし、売上高営業利益率の段階では、日本企業と欧州企業の間の格
差は大幅に縮小し、とくに1次サプライヤ、完成車メーカー、ディーラーでは格差がほぼ
解消し、同水準の利益率となっている(図表 1-20)。また原材料メーカーでは、付加価値率
が欧州企業を若干上回っていた日本企業がその格差を拡大している。
このことは売上高比率で見て、人件費あるいは減価償却費が日本企業より欧州企業の方
がより多く計上されていることを意味する。この背景には、日本企業のコストコントロー
ル力の強さや欧州企業の労働分配率の高さがあると思われる(付加価値分配構造の国際比
較については4.で詳細な分析を行う)。
22
3.電機産業のサプライチェーンにおける業務工程別分析
3-1.スマイルカーブ現象の検証
(1)データの制約と分析手法
2.で行ったように自動車産業におけるスマイルカーブ現象の検証では、各工程を主た
る業務としているとみられる主要企業を分析対象として選定した。このため、財務データ
を用いたミクロ分析アプローチは、自動車産業のように各業務工程での専業化が進んでい
る業種でなければ適用するのが難しい。
従って、企業ベースの付加価値アプローチは、より多角化(総合化)が進んでいる電機
産業には適さない。そこでここでは、連結決算で開示される「事業セグメント」の事業単位
データを用いて、各業務工程に近いと思われる各社の事業セグメントを選定するアプロー
チを代替的に採ることとする(専業化の進んでいる、ごく一部の企業については全社ベー
スの数値を用いた)。ただし、事業セグメント情報の開示データでは、付加価値を算出す
ることができず、分析する収益指標は営業利益および EBITDA(償却前営業利益=営業利
益+減価償却費)となる。
なお、そもそも電機産業における主要企業では、販売費・一般管理費中の人件費が研究
開発費に含まれる人件費を除いたベースで開示されているために、付加価値を算出できな
い事例がかなり多く見られた(付加価値を算出できた主要企業は9社にとどまった)。
(2)業務工程区分と分析対象企業・事業セグメントの選定
ここでは最終製品群をデジタル家電や白物家電など家電事業と想定する。事業セグメン
ト情報で開示されているデータは、個別製品単位ではなく事業単位であるため、薄型テレ
ビなど特定の製品を想定することはできない。
家電事業の業務工程を上流から下流に向けて、デバイス材料、デバイス部材、デバイス
製造装置、デバイス(部品)、セット製品(黒物系、白物系)、家電量販と6つの工程に区
分し、各工程を主たる業務としているとみられる主要企業の事業セグメントを下記の通り
分析対象として選定した。
なお、自動車産業における原材料工程と同様に、デバイス材料、デバイス部材、デバイ
ス製造装置、デバイスに各々分類される事業セグメントには家電製品向けだけでなく、産
業用機器向けなど家電製品用以外の事業も含まれている。財務データから家電製品に厳密
に対応したサプライチェーンに関わるデータを取得することはできないため、ここでは各
工程とデータの対応に関わる厳密性を多少犠牲にせざるをえない。
<デバイス材料:10 社>
z
JSR/多角化事業
z
日立化成工業/エレクトロニクス関連製品
23
z
住友ベークライト/半導体・表示体材料
z
東京応化工業/材料事業
z
日東電工/電子材料
z
住友化学/情報電子化学
z
旭硝子/電子・ディスプレイ
z
信越化学工業/電子材料事業
z
SUMCO/全社
z
コマツ電子金属/全社
<デバイス部材:3社>
z
凸版印刷/エレクトロニクス系事業
z
大日本印刷/エレクトロニクス
z
HOYA/エレクトロオプティクス
<デバイス製造装置:4社>
z
東京エレクトロン/産業用電子機器
z
アドバンテスト/半導体・部品システム事業+メカトロニクス事業
z
ニコン/精機事業
z
キヤノン/光学機器及びその他
<デバイス:8社>
z
シャープ/電子部品等
z
松下電器/デバイス
z
東芝/電子デバイス
z
富士通/デバイスソリューション
z
日立製作所/電子デバイス
z
三菱電機/電子デバイス
z
エルピーダメモリ/全社
z
NEC エレクトロニクス/全社
<家電:6社>
z
シャープ/エレクトロニクス機器(白物系と黒物系の区分なし)
z
松下電器/AVC ネットワーク(黒物系とみなした)、アプライアンス(白物系とみなし
た)
z
東芝/デジタルプロダクツ(黒物系とみなした)、家庭電器(白物系とみなした)
z
日立製作所/デジタルメディア・民生機器(白物系と黒物系の区分なし)
24
z
三洋電機/コンシューマ部門(白物系と黒物系の区分なし)
z
三菱電機/家庭電器(白物系と黒物系の区分なし)
<家電量販:4社>
z
ヤマダ電機/全社
z
エディオン/全社
z
ビックカメラ/全社
z
ギガスケーズデンキ/全社
(3)分析結果
①EBITDA マージンの分析
図表 1-21 は、家電事業のサプライチェーンにおける業務工程別に分類された主要企業の
事業セグメントの EBITDA マージン(連結ベース、2003~2005 年度平均値)をプロットし、
各工程ごとの単純平均値を折れ線グラフで結んだものである。
分析結果によれば、同じ業務工程に属する企業の事業セグメント間でも、必ずしも同種
の製品や事業を扱っているわけではないため、EBITDA マージンにバラツキが見られる。
しかし、各工程に分類された企業の事業セグメントの平均値を見れば、我が国の家電事業
のサプライチェーンにおいて、家電量販のマージンをボトムとするスマイルカーブが概ね
成立していると思われる。
加工組立工程に相当する家電での EBITDA マージンは4%と、自動車産業における車体
(5%)より若干低いレベルにとどまっているが、完成車(9%)と比べると大幅に下回
っている。家電メーカーでも完成車メーカーと同様に、部品内製化による付加価値の一部
取り込みを図っているが、家電産業では水平分業の進展や国際競争の激化により、セット
工程の付加価値が低下傾向にあるとみられる。一方、完成車メーカーは工程間の擦り合せ
作業において中核に位置し、強いコストコントロール力を持つとみられる。
加工組立より川上の工程を見ると、逆に家電産業の EBITDA マージンが自動車産業を大
幅に上回っている。材料工程においては、自動車産業でも鉄鋼メーカーの競争力が強く、
工程の単純平均値は 17%となっているが、家電産業では信越化学(主力製品はシリコンウ
エハー)、SUMCO(同シリコンウエハー)、JSR(同フォトレジスト、液晶ディスプレイ材
料)など世界市場で高シェアを占める半導体・液晶材料メーカーの収益性が高く、同 26%
に達している。さらに家電の部材工程では、HOYA(同マスクブランクス、液晶用マスク)
が極めて高い収益力を誇り、工程の平均値が 32%に達する。また、自動車産業における部
品メーカー(1次・2次サプライヤ)の平均値は8~9%である一方、家電産業における
デバイス製造装置メーカーは 15%、デバイス(部品)メーカーは 14%といずれも2桁のマ
ージンを確保している。
一方、加工組立より川下に位置する販売工程では、家電産業の EBITDA マージンが自動
25
車産業を下回っている。すなわち、自動車ディーラーが7%であるのに対して、家電量販
では3%にとどまっている。この格差の要因は、①販売する製品が自動車ディーラーでは
メーカー系列で棲み分けがなされている一方、家電量販では各社とも同じような品揃えと
なって過当競争となりやすいこと、②デジタル製品を中心に家電製品のライフサイクルが
自動車よりかなり短いことが①の要因に拍車をかけていること、③自動車ディーラーでは
メーカー主導で系列の再編が行われている一方、家電量販にはメーカーが十分な影響力を
及ぼせていないこと、などが挙げられる。
図表 1-21
日本の電機産業:工程別 EBITDA マージン
(連結・事業セグメントベース、03~05 年度平均)
50%
40%
30%
20%
10%
0%
デバイス材料
デバイス部材
デバイス製造装置
デバイス(部品)
家電
黒物系
白物系
家電量販
-10%
備考1:各業務工程区分に近いと思われる各社の連結事業セグメントを選定した。
備考2:折れ線グラフは工程別単純平均値。
備考3:家電では、黒物系と白物系を分けて開示している企業は各々プロットしたうえで、両者の加重平均値も「家電」
にプロットした。黒物・白物別の開示がない企業は「家電」にプロットしている。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
②売上高営業利益率の分析
次に売上高営業利益率を考察し、EBITDA マージンと比較してみよう。各工程に分類さ
れる企業の事業セグメントの値をプロットし、それらの単純平均値を折れ線グラフで結ん
だものが図表 1-22 である。EBITDA マージンと比較しやすいように、図表 1-21 と目盛り
を同じにしてある。
これまでの分析結果と同様に、利益率の工程間格差は、売上高営業利益率の段階では
EBITDA マージンより小さくなっている。工程間の大小関係は EBITDA マージンとほぼ同
じだが、異なっている点は家電の利益率(1.9%)が家電量販(2%)をわずかながら下回
26
り、利益率のボトムとなっていることである。
自動車産業における工程別営業利益率は1~11%のレンジにある一方、家電産業では2
~20%のレンジにあり、自動車産業に比べ工程間格差が大幅となっている。家電産業では
デバイス部材(20%)およびデバイス材料(16%)の利益率の高さが際立っているが、デ
バイス(部品)は4%にとどまっている。加工組立工程を見ると、家電(2%)は自動車
産業の車体(3%)および完成車(6%)を下回っている。販売工程では、家電量販と自
動車ディーラーは同水準(2%)となっている。
EBITDA マージンと売上高営業利益率の差分は減価償却費(売上高比率)に相当する。
この差分を工程別に見ると、デバイス材料 9.9%、デバイス部材 11.4%、デバイス製造装
置 4.1%、デバイス 10.2%、家電 2.6%、家電量販 0.8%となっている(図表 1-23)。加工
組立型に近いデバイス製造装置を除き、サプライチェーンの川上に位置する工程ほど減価
償却費比率が高い、すなわち設備集約的であると言える。因みに自動車産業では、原材料
6.1%、2次サプライヤ 4.8%、1次サプライヤ 4.5%、完成車3%、車体 2.1%、ディーラ
ー4.4%となっており、情報投資が必要とされるディーラーを除き、やはりサプライチェー
ンの川上に位置する工程ほど減価償却費比率が高くなっている。ただし、加工組立より川
上に位置する工程に着目すると、家電産業は自動車産業に比べ設備集約度が高いとみられ
る。
図表 1-22
日本の電機産業:工程別売上高営業利益率
(連結・事業セグメントベース、03~05 年度平均)
50%
40%
30%
20%
10%
0%
デバイス材料
デバイス部材
デバイス製造装置
デバイス(部品)
-10%
備考:図表 1-21 と同様。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
27
家電
黒物系
白物系
家電量販
図表 1-23
日本の電機産業:工程別 EBITDA マージンと営業利益率の比較
(連結・事業セグメントベース、03~05 年度平均)
40%
EBITDAマージン
営業利益率
30%
減価償却費
20%
10%
0%
デバイス材料
デバイス部材
デバイス製造装置
デバイス(部品)
家電
黒物系
白物系
家電量販
備考:各工程に分類された企業の事業セグメントの単純平均値。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
(4)補足:付加価値指標と売上高の相関分析
電機産業では付加価値を算出できた主要企業は9社にとどまった。サンプル数は少ない
が、自動車産業と同様に、付加価値額(03~05 年度平均値)と売上高(同)の相関分析を
行うと、決定係数が 0.7879 となり、両者の間には比較的強い正の相関関係があるとの結果
が得られた(図表 1-24)
。
一方、付加価値率と売上規模については、決定係数が 0.0685 と小さく、両者の間に相関
関係はほぼ見られない(図表 1-25)
。
以上のように、付加価値指標と売上高の相関分析では、自動車産業と全く同様の結果が
得られた。
28
図表 1-24 電機産業:付加価値と売上高の相関関係(単体・全社ベース、03~05 年度)
8,000
キヤノン
7,000
y = 0.1645x + 139.39
R2 = 0.7879
6,000
松下電器
(
付
加 5,000
価
値
4,000
)
億
円 3,000
2,000
日東電工
三洋電機
住友化学
1,000
ヤマダ電機
住友ベーク
ビックカメラ
東京応化
0
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
30,000
35,000
40,000
45,000
売上高(億円)
備考:回帰線は付加価値を売上高により線形回帰したもの。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-25
電機産業:付加価値率と売上高の相関関係(単体・全社ベース、03~05 年度)
35%
日東電工
キヤノン
30%
東京応化
住友ベークライト
25%
住友化学
付
20%
加
価
値
15%
率
松下電器
y = -2E-06x + 0.2228
R2 = 0.0685
三洋電機
10%
ビックカメラ
ヤマダ電機
5%
0%
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
売上高(億円)
備考:回帰線は付加価値率を売上高により線形回帰したもの。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
29
30,000
35,000
40,000
45,000
3-2.主要企業の付加価値指標の時系列分析
電機産業では付加価値を算出できた主要企業は9社にとどまったが、ここではその中か
ら、我が国製造業が強みを有する川上のデバイス材料系の3社(住友ベークライト、東京
応化工業、日東電工)とセット系大手2社(キヤノン、松下電器産業(以下、松下電器))
を取り上げ、直近5年間の財務データを用いて付加価値指標の比較分析を行う。
ただし、キヤノンおよび松下電器は複合経営を行っており、両社ともキーデバイスを内
製したり、またキヤノンはデバイス製造装置事業を行い、生産設備の内製化にも取り組ん
でいるため、セット工程のピュアプレーヤーではないことに留意されたい。一方、デバイ
ス材料系3社はピュアプレーヤーに近い。ここでは工程分類の厳密性を多少犠牲にしつつ
簡単化のため、デバイス材料系とセット系の二分法を用いることとする。
(1)付加価値率の比較
ここでの分析対象企業5社の直近5年間(2001~2005 年度)の付加価値率(単体・全社
ベース)の動きを見ると、多少の変動はあるものの比較的安定しており、企業間の大小関
係は全く変わっていないことがわかる(図表 1-26)。付加価値率は当該企業が主として扱う
製品や業務工程の加工度特性を反映する、財務指標として安定性が極めて高いと考えられ
る。
5社の中で最も高い付加価値率を確保している日東電工など、川上のデバイス系が総じ
て高く、セット系大手の松下電器が最も低いことは、スマイルカーブ現象を反映している
と思われる。一方、ここではセット系に分類したキヤノンは、日東電工に次ぐ付加価値率
を確保し、デバイス系の東京応化工業および住友ベークライトの水準を上回っている。自
動車産業や電機産業では、各工程に分類される企業の平均値を見る限り、スマイルカーブ
が概ね成立していたが、キヤノンはスマイルカーブから上方に外れた外れ値の位置にある
と考えられる。
キヤノンは、例えばセット製品の一事例であるデジカメを主力とするカメラ事業で高い
収益性を維持している。この高収益性の背景として、①キーデバイスとしての重要度が増
している画像エンジンやレンズなどの内製により、高画質化など製品差別化を図っている
ことに加え、②新製品のタイムリーな上市により、発売から値下げに入るまでの期間に他
社よりもより多くの売上を上げることができること、③ブランド力が強いこと、④徹底し
た在庫管理により、在庫品の廃棄や投げ売りの必要がないこと、⑤付加価値の高いデジタ
ル一眼レフカメラのウェイトが高いこと、⑥「セル生産方式」のフル活用など製造現場で
のコストダウン努力を継続していること、などが挙げられる。部品調達、マーケティング、
ブランド、在庫管理、生産技術・工場管理など複数の戦略間で最適なバランスが図られて
いるようにみえる。キヤノンの事例は、部品生産の付加価値が一部取り込まれているもの
の、急速にコモディティー化していると言われるデジカメ事業においても、戦略間の最適
30
バランスを図ることに成功すれば、セット製品に付加価値を取り戻すことができることを
示唆しているように思われる。
図表 1-26
電機産業:デバイス材料系企業とセット系企業の付加価値率
(単体・全社ベース)
35%
30%
25%
20%
15%
10%
2001
キヤノン
2002
松下電器
2003
2004
住友ベークライト
東京応化
2005
日東電工
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
(2)補足:付加価値分配構造の比較
①付加価値率の内訳
分析対象企業5社の直近5年間(2001~2005 年度)の付加価値率(単体・全社ベース)
の内訳を分配面から見てみよう。付加価値率は以下の算式に分解できる(ただし、賃借料
は非開示の企業もあるため、売上高賃借料率は開示している企業のみ加算することとする)。
付加価値率=売上高人件費率+売上高営業利益率+売上高減価償却費率+売上高賃借料率
5社の付加価値率について分配面からの内訳を示したものが図表 1-27~1-31 である。直
近5年間における5社に共通した傾向は、人件費率が大幅に低下し、減価償却費率もやや
低下した結果、営業利益率が大幅に高まっていることである。
31
図表 1-27
住友ベークライト:付加価値率の内訳(単体・全社ベース)
30%
25%
4.1%
4.7%
3.8%
4.6%
20%
8.5%
15%
10%
3.4%
13.2%
15.8%
17.8%
18.1%
15.5%
5%
9.3%
6.7%
0%
1.6%
2.2%
2001
2002
営業利益率
2003
人件費率
2004
償却費率
2005
賃借料率
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-28
東京応化工業:付加価値率の内訳(単体・全社ベース)
30%
6.6%
25%
6.0%
6.5%
5.4%
6.2%
20%
14.1%
15%
18.3%
10%
15.6%
16.2%
17.7%
5%
0%
9.2%
1.8%
2001
3.8%
4.6%
6.0%
2002
2003
2004
営業利益率
人件費率
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
32
償却費率
2005
図表 1-29
日東電工:付加価値率の内訳(単体・全社ベース)
35%
30%
5.6%
5.6%
7.2%
7.7%
5.5%
25%
12.9%
20%
10.7%
9.8%
16.9%
16.8%
2004
2005
15.2%
15%
17.6%
10%
14.6%
5%
9.9%
6.5%
0%
2001
2002
営業利益率
2003
人件費率
償却費率
賃借料率
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-30
キヤノン:付加価値率の内訳(単体・全社ベース)
35%
30%
5.1%
25%
4.5%
4.1%
4.8%
9.6%
8.1%
7.7%
15.8%
16.8%
16.8%
2003
2004
2005
4.9%
20%
11.0%
10.6%
15%
10%
5%
11.3%
13.3%
0%
2001
2002
営業利益率
人件費率
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
33
償却費率
図表 1-31
松下電器:付加価値率の内訳(単体・全社ベース)
20%
15%
3.3%
2.1%
2.0%
2.1%
1.7%
10%
13.8%
10.6%
9.6%
1.2%
2.1%
2.8%
2003
2004
2005
10.7%
11.5%
1.2%
2002
5%
0%
2001
-2.4%
-5%
営業利益率
人件費率
償却費率
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
②付加価値分配率
次に付加価値が人件費、営業利益、減価償却費(設備)の三大要素にどう分配されたの
かを分配率(付加価値に占める構成比)で確認しておこう。直近5年間の5社の分配率(単
体・全社ベース)は概ね同じような動きを示している。
すなわち、付加価値率の内訳の分析結果と同様に、労働分配率(=人件費÷付加価値)
は大幅に低下し、減価償却費(設備)分配率(=減価償却費÷付加価値)も低下した結果、
営業利益分配率(=営業利益÷付加価値)が大幅に高まっている(図表 1-32~1-34)。ただ
し、減価償却費分配率では、キヤノンが 2005 年に反転し、日東電工が 2003 年度以降下げ
止まりの傾向を示しており、これらの企業では単体ベースで積極的な設備投資スタンスに
転じているとみられる。
34
図表 1-32
電機産業:デバイス材料系企業とセット系企業の労働分配率
(単体・全社ベース)
100%
キヤノン
松下電器
住友ベークライト
東京応化
日東電工
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
2001
2002
2003
2004
2005
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-33
電機産業:デバイス材料系企業とセット系企業との営業利益分配率
(単体・全社ベース)
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2001
2002
2003
2004
2005
-10%
-20%
キヤノン
松下電器
住友ベークライト
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
35
東京応化
日東電工
図表 1-34
電機産業:デバイス材料系企業とセット系企業の償却費(設備)分配率
(単体・全社ベース)
25%
20%
15%
キヤノン
松下電器
住友ベークライト
東京応化
日東電工
10%
2001
2002
2003
2004
2005
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
③付加価値額の分配構造
さらに付加価値の絶対額とその分配構造を見てみよう。
直近5年間の付加価値額(単体・全社ベース)の動きを見ると、デバイス材料系3社お
よびキヤノンが増加傾向を示す一方、松下電器は強含み横ばい圏となっている(図表 1-35
~1-39)。2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率成長率を算出すると、東京応化工業
が 10%、日東電工が 18.2%、キヤノンが 12.2%と2桁成長となる一方、住友ベークライト
が 5.7%、松下電器が 2.2%と1桁の成長にとどまった。因みに、売上高の年率成長率は住
友ベークライト 2.5%、東京応化工業7%、日東電工 18%、キヤノン 9.8%、松下電器 3.5%
となっており、売上高成長率の相対的に高い企業が付加価値の成長力も高くなっている。
人件費の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減率は、住友ベークライト▲
14.9%(05 年度と 01 年度の差分:▲82 億円)、東京応化工業1%(同4億円)、日東電工
1.8%(同 26 億円)、キヤノン 1.2%(同 85 億円)、松下電器▲5.6%(同▲1,111 億円)と
なっている。人件費は、売上高や付加価値の成長率が相対的に低かった、松下電器および
住友ベークライトで大幅に減少する一方、成長力の高い日東電工、キヤノン、東京応化工
業でも小幅の増加にとどまった。この結果、労働分配率は各社とも大幅に低下した。因み
に、住友ベークライトにおける人件費の減少は、退職給付引当金繰入額の大幅減が主因で
ある。
36
各社の人員数の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減率は、住友ベークライ
ト▲1.8%(05 年度と 01 年度の差分:▲126 人)、東京応化工業▲0.6%(同▲33 人)
、日東
電工 1.7%(同 205 人)、キヤノン 0.2%(同 127 人)、松下電器▲2%(同▲3,855 人)と
なっている(図表 1-40)。2001 年度から 2005 年度にかけて売上高がほぼ倍増した、日東電
工での人員増加率が際立っている。
各社の減価償却費の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減率は、住友ベーク
ライト▲5.3%(05 年度と 01 年度の差分:▲9億円)、東京応化工業 3.4%(同6億円)、
日東電工 8.4%(同 58 億円)、キヤノン 9.4%(同 364 億円)
、松下電器▲12.3%(同▲529
億円)となっている。減価償却費は、売上高や付加価値の成長率が相対的に低かった、松
下電器および住友ベークライトで減少し、特に松下電器での減少幅が大きい一方、成長力
の高いキヤノン、日東電工、東京応化工業で増加し、特にキヤノンおよび日東電工での増
加幅が大きかった。
この結果、各社の営業利益の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減率は、住
友ベークライト 82%(05 年度と 01 年度の差分:151 億円)、東京応化工業 61.3%(同 65
億円)、日東電工 49.5%(同 510 億円)、キヤノン 21.1%(同 2,231 億円)、松下電器(01
年度が赤字のため増減率は算出不可)(同 2,162 億円)となった。
図表 1-35
35,000
30,000
25,000
住友ベークライト:付加価値分配構造(単体・全社ベース)
(百万円)
人件費
賃借料
減価償却費
営業利益
20,000
15,000
10,000
5,000
0
2001
2002
2003
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
37
2004
2005
図表 1-36
東京応化工業:付加価値分配構造(単体・全社ベース)
(百万円)
25,000
人件費
減価償却費
営業利益
20,000
15,000
10,000
5,000
0
2001
2002
2003
2004
2005
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-37
140,000
120,000
100,000
日東電工:付加価値分配構造(単体・全社ベース)
(百万円)
人件費
賃借料
減価償却費
営業利益
80,000
60,000
40,000
20,000
0
2001
2002
2003
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
38
2004
2005
図表 1-38
キヤノン:付加価値分配構造(単体・全社ベース)
(百万円)
800,000
人件費
減価償却費
営業利益
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
2001
2002
2003
2004
2005
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-39
800,000
松下電器:付加価値分配構造(単体・全社ベース)
(百万円)
人件費
減価償却費
営業利益
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
2001
2002
2003
▲ 100,000
▲ 200,000
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
39
2004
2005
図表 1-40
60,000
電機産業:デバイス材料系企業とセット系企業の人員数(単体・全社ベース)
(人)
(人)
6,000
50,000
5,000
40,000
4,000
30,000
3,000
20,000
2,000
10,000
キヤノン
住友ベークライト(右軸)
日東電工(右軸)
1,000
松下電器
東京応化(右軸)
0
0
2001
2002
2003
2004
備考:臨時雇用者・嘱託者を除く。
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
40
2005
4.主要企業の付加価値構造の国際比較
4-1.分析手法
(1)分析対象とする財務指標
ここでは自動車産業および電機産業における代表的な大企業を取り上げ、直近5年間
(2001~2005 年度)の財務データを用いて付加価値構造の国際比較分析を行う。分析対象
とする財務指標は以下の通りである。
我が国の代表的企業については2.および3.での分析結果を用い、海外企業については
アニュアル・レポートなど財務報告書に掲載されている財務データを分析した。
z
付加価値率およびその内訳(分配構造)
z
付加価値分配率(労働分配率、営業利益分配率、償却費(設備)分配率)
z
付加価値額およびその内訳(分配構造)
z
人員数
(2)分析対象企業
分析対象企業は業界を代表するグローバル企業であるとともに、財務データから付加価
値を算出できることが必要条件である。海外企業については、付加価値の試算が可能であ
る欧州企業あるいは一部の企業が人件費データを開示している韓国企業の代表的企業から
選定した。分析した財務データは、我が国企業および韓国企業は単体ベース、欧州企業は
連結ベースである(いずれも全社ベース)。
自動車産業では完成車メーカーを取り上げ、電機産業では複合経営を行う総合型企業を
取り上げた。分析対象企業は以下の通りである。
なお、電機産業における分析対象企業に選定したキヤノンについては、主力事業である
事務機器、カメラ、半導体・液晶製造装置が精密機械分野に分類されることが多いが、カ
メラ事業の主力であるデジカメは代表的なデジタル家電の1つであり、またデバイス製造
装置は電機産業のサプライチェーンの一角を担う工程であるため、ここでは電機産業に分
類することとする。
<自動車産業:4社>
z
トヨタ自動車
z
日産自動車
z
ダイムラー・クライスラー(ドイツ)
z
フォルクスワーゲン(ドイツ)
41
<電機産業:5社>
z
キヤノン
z
松下電器
z
サムスン電子(韓国)
z
シーメンス(ドイツ)
z
フィリップス(オランダ)
4-2.自動車産業
(1)付加価値率の比較
直近の5年間(01~05 年度)の付加価値率の動きを見ると、欧州メーカー2社が日本メ
ーカー2社を常に上回っている(図表 1-41)。2001 年に収益が悪化したダイムラー・クラ
イスラーの 01~02 年の動きを除けば、各社は同様の動きを示しており、企業間の大小関係
も余り変わっていない。日本メーカー2社は 19~21%、ダイムラー・クライスラーは 22~
24%、フォルクスワーゲンは 22~26%のレンジで変動しており、安定性が高い。
2-3.(1)で既述した通り、日本メーカーと欧州メーカーの格差は、ブランド力に起因
するとみられる。ブランド力を背景に車種構成や平均単価の格差をもたらしていると考え
られる。
図表 1-41
自動車産業:主要企業の付加価値率の国際比較
28%
26%
24%
22%
20%
18%
16%
2001
トヨタ自動車
2002
2003
日産自動車
2004
ダイムラー・クライスラー
備考:日本企業2社は単体・全社ベース、欧州2社は連結・全社ベース。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
42
2005
フォルクスワーゲン
(2)分配構造から見た付加価値率の比較
次に付加価値率の内訳を分配面から考察してみよう。05 年度の付加価値率を見ると、日
本メーカー2社は欧州メーカー2社より3~4ポイント下回っている。
一方、分配面を見ると、売上高人件費率は欧州メーカーが 15~17%と非常に高いのに対
して、日本メーカー2社は8~9%と欧州メーカーより7~9ポイント下回っている(図
表 1-42)。売上高減価償却費率も日本メーカー2社が欧州メーカー2社より1~3ポイント
下回っている。この結果、売上高営業利益率では日本メーカー2社が付加価値率の格差を
解消して、欧州メーカー2社を5~7ポイント上回っている。
さらに各社ごとに5年間の動きを見たものが図表 1-43~1-46 である。トヨタ自動車は付
加価値率がほぼ 19~21%のレンジで変動する一方、売上高人件費率が8~9%、売上高減
価償却費率がほぼ3%で推移した結果、売上高営業利益率は8~10%のレンジで変動して
いる(図表 1-43)。日産自動車もほぼ同様の動きであるが、付加価値率がほぼ 19~20%の
レンジで変動する一方、人件費率がほぼ9%、減価償却費率が2~3%、賃借料率がほぼ
1%で推移した結果、営業利益率は6~9%のレンジで変動している(図表 1-44)。
一方、ダイムラー・クライスラーは付加価値率がほぼ 22~24%のレンジで変動する一方、
売上高人件費率が 17~18%、売上高減価償却費率が4~5%で推移した結果、売上高営業
利益率は0~3%のレンジで変動している(図表 1-45)。フォルクスワーゲンもほぼ同様の
動きであるが、付加価値率がほぼ 22~26%のレンジで変動する一方、売上高人件費率が 15
~16%、売上高減価償却費率が5~6%で推移した結果、売上高営業利益率は0~5%の
レンジで変動している(図表 1-46)
図表 1-42 自動車産業:主要企業の付加価値率構造の国際比較(2005 年)
25%
営業利益率
人件費率
4.0%
償却費率
20%
2.9%
5.9%
3.1%
15%
8.2%
8.7%
10%
5%
8.3%
17.2%
6.5%
1.5%
1.7%
ダイムラー・クライスラー
フォルクスワーゲン
0%
トヨタ自動車
15.4%
日産自動車
備考1:図表 1-41 と同様。
備考2:日産自動車は賃借料を開示しているが、ここでは売上高賃借料率分(0.4%)を除いて掲載した。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
43
図表 1-43
トヨタ自動車:付加価値率の内訳(単体・全社ベース)
25%
20%
3.1%
15%
8.7%
2.9%
2.7%
8.6%
2.6%
2.9%
8.8%
8.2%
7.6%
8.3%
2004
2005
8.7%
10%
5%
9.0%
9.9%
9.3%
2001
2002
2003
0%
営業利益率
人件費率
償却費率
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-44
日産自動車:付加価値率の内訳(単体・全社ベース)
25%
20%
0.8%
1.8%
15%
9.8%
0.4%
0.3%
1.6%
0.4%
0.4%
2.9%
3.1%
9.0%
8.7%
7.1%
6.2%
6.5%
2003
2004
2005
2.8%
9.3%
9.4%
10%
5%
8.0%
9.2%
2001
2002
0%
営業利益率
人件費率
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
44
償却費率
賃借料率
図表 1-45
ダイムラー・クライスラー:付加価値率の内訳(連結・全社ベース)
30%
償却費率
人件費率
営業利益率
25%
4.3%
20%
3.9%
4.3%
4.0%
5.0%
15%
10%
16.4%
17.8%
17.0%
2.5%
2.3%
2.7%
1.5%
2002
2003
2004
2005
17.2%
16.7%
5%
0%
0.0%
2001
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-46
フォルクスワーゲン:付加価値率の内訳(連結・全社ベース)
30%
償却費率
人件費率
営業利益率
25%
5.3%
5.6%
6.3%
20%
6.3%
5.9%
15%
14.9%
15.3%
10%
15.4%
16.4%
15.8%
5%
5.2%
4.9%
0.7%
0%
2001
2002
1.7%
0.1%
2003
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
45
2004
2005
(3)付加価値分配率の比較
直近5年間の付加価値分配率を見ると、分配構造から見た付加価値率の分析結果と同様
に、労働分配率(=人件費÷付加価値)では欧州メーカー2社が常に日本メーカー2社を
大幅に上回り、減価償却費(設備)分配率(=減価償却費÷付加価値)でも欧州メーカー
が日本メーカーを上回った結果、営業利益分配率(=営業利益÷付加価値)では逆に日本
メーカーが欧州メーカーを常に大きく上回っている(図表 1-47~1-49)。
直近5年間の労働分配率はダイムラー・クライスラーが 71~77%、フォルクスワーゲン
が 59~71%のレンジで推移する一方、トヨタ自動車は 40~46%、日産自動車は 45~49%の
レンジで変動している(図表 1-47)。また、減価償却費(設備)分配率はダイムラー・クラ
イスラーが 16~23%、フォルクスワーゲンが 21~29%のレンジで推移する一方、トヨタ自
動車は 13~15%、日産自動車は8~16%のレンジで変動している(図表 1-48)。
この結果、営業利益分配率はダイムラー・クライスラーが0~11%、フォルクスワーゲ
ンが0~20%のレンジで推移する一方、トヨタ自動車は 40~46%、日産自動車は 34~45%
のレンジで変動している(図表 1-49)。
欧州メーカーは付加価値を人的費用に相対的に厚く分配する一方、日本メーカーは営業
利益に相対的に厚く分配する傾向があるようにみえる。設備に対する分配は欧州メーカー
が相対的に厚くなっている。
図表 1-47
自動車産業:主要企業の労働分配率の国際比較
80%
70%
60%
50%
40%
30%
2001
2002
トヨタ自動車
2003
日産自動車
2004
ダイムラー・クライスラー
備考:日本企業は単体・全社ベース、欧州企業は連結・全社ベース。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
46
2005
フォルクスワーゲン
図表 1-48
自動車産業:主要企業の償却費(設備)分配率の国際比較
30%
25%
20%
15%
10%
トヨタ自動車
日産自動車
ダイムラー・クライスラー
フォルクスワーゲン
5%
0%
2001
2002
2003
2004
2005
備考:図表 1-47 と同様。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-49
自動車産業:主要企業の営業利益分配率の国際比較
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2001
2002
トヨタ自動車
2003
日産自動車
2004
ダイムラー・クライスラー
備考:図表 1-47 と同様。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
47
2005
フォルクスワーゲン
(4)付加価値額の分配構造の比較
さらに付加価値の絶対額とその分配構造を見てみよう。
直近5年間の付加価値額の動きを見ると、各社とも循環変動を示しているが、その中で
日本メーカー2社が増加傾向を示す一方、欧州メーカー2社は弱含み横ばい圏となってい
る(図表 1-50~1-53)。2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率成長率を算出すると、
トヨタ自動車が 3.5%、日産自動車が 4.3%と1桁ながら堅実な成長基調となる一方、ダイ
ムラー・クライスラーが1%、フォルクスワーゲンが▲0.7%と横ばい圏にとどまった。因
みに、売上高の年率成長率はトヨタ自動車 5.3%、日産自動車 6.6%、ダイムラー・クライ
スラー▲0.1%、フォルクスワーゲン 1.8%となっており、付加価値の成長力が高かった日
本企業が欧州企業を大幅に上回っている。
人件費の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減率は、トヨタ自動車 3.6%(05
年度と 01 年度の差分:1,109 億円)、日産自動車 3.5%(同 437 億円)、ダイムラー・クラ
イスラー0.6%(同 6.4 億ユーロ)、フォルクスワーゲン 2.6%(同 14.3 億ユーロ)となっ
ている。人件費の伸び率は、売上高や付加価値の成長率が相対的に高かった日本企業が欧
州企業を上回っているが、低成長にとどまった欧州企業でも人件費が強含み傾向であるた
め、欧州企業の高水準の労働分配率が高止まっている。
各社の人員数(臨時雇用者を除く)の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減
率は、トヨタ自動車▲0.4%(05 年度と 01 年度の差分:▲1,022 人)、日産自動車 1.5%(同
1,815 人)、ダイムラー・クライスラー0.5%(同 6,921 人)
、フォルクスワーゲン 1.6%(同
20,801 人)となっている(図表 1-54)。売上高や付加価値が低成長にとどまった欧州企業
が人員数を強含み横ばいに維持する一方、成長率の高かった日本企業も人員数を微減ある
いは小幅増にとどめている。
各社の減価償却費の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減率は、トヨタ自動
車4%(05 年度と 01 年度の差分:436 億円)、日産自動車 22.4%(同 669 億円)、ダイムラ
ー・クライスラー▲5.5%(同▲15.4 億ユーロ)
、フォルクスワーゲン 4.7%(同 9.5 億ユ
ーロ)となっている。減価償却費は、売上高や付加価値の成長率が相対的に高かった日本
企業で増加する一方、成長率が低かった欧州企業ではダイムラー・クライスラーで減少し
たが、フォルクスワーゲンでは増加している。
この結果、各社の営業利益の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減率は、ト
ヨタ自動車 3.2%(05 年度と 01 年度の差分:991 億円)、日産自動車 1.2%(同 119 億円)、
ダイムラー・クライスラー151.7%(基点となる 01 年の水準が低すぎるため成長率が異常
に高くなっている)
(同 21.9 億ユーロ)、フォルクスワーゲン▲23.2%(同▲29.8 億ユーロ)
となった。
48
図表 1-50
2,500,000
2,000,000
トヨタ自動車:付加価値分配構造(単体・全社ベース)
(百万円)
人件費
減価償却費
営業利益
1,500,000
1,000,000
500,000
0
2001
2002
2003
2004
2005
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-51
800,000
日産自動車:付加価値分配構造(単体・全社ベース)
(百万円)
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
2001
2002
営業利益
2003
減価償却費
資料:有価証券報告書からニッセイ基礎研究所作成。
49
2004
賃借料
人件費
2005
図表 1-52
40,000
ダイムラー・クライスラー:付加価値分配構造(連結・全社ベース)
(百万ユーロ)
営業利益
減価償却費
人件費
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
2001
2002
2003
2004
2005
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-53
25,000
フォルクスワーゲン:付加価値分配構造(連結・全社ベース)
(百万ユーロ)
人件費
減価償却費
営業利益
20,000
15,000
10,000
5,000
0
2001
2002
2003
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
50
2004
2005
図表 1-54
400,000
自動車産業:主要企業の人員数の国際比較
(人)
(人)
80,000
70,000
380,000
60,000
360,000
50,000
40,000
340,000
30,000
ダイムラー・クライスラー
フォルクスワーゲン
トヨタ(右軸)
日産自動車(右軸)
320,000
20,000
10,000
300,000
2001
2002
2003
2004
2005
備考1:日本企業は単体・全社ベース、欧州企業は連結・全社ベース。備考2:臨時雇用者を除く。
備考3:期末ベース。ただしダイムラー・クライスラーは年間平均ベース。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
51
4-3.電機産業
(1)付加価値率の比較
直近の5年間(01~05 年度)の付加価値率の動きを見ると、欧州メーカー2社が日本メ
ーカー2社を常に上回り、サムスン電子も IT バブル崩壊の 2001 年を除き日本企業を上回
っている(図表 1-55)。市況変動の激しい DRAM や液晶などデバイス事業のウェイトが高
いサムスン電子では変動幅が比較的大きいが、その他の企業の動きは安定しており、企業
間の大小関係も変わっていない。キヤノンは 27~30%、松下電器は 14~15%、サムスン電
子は 24~37%、シーメンス 38~45%、フィリップス 32~37%のレンジで変動しており、日
本企業の安定性が特に高い。
電機産業でも自動車産業と同様に、欧州企業が相対的に高い付加価値率を確保している。
これは欧州企業には株主価値を減じることなく、人的費用に厚く分配するという高いハー
ドルが課されているために、必然的に高い付加価値率を追求しなければならず、付加価値
の高い事業へ集中していく企業行動が欧州の産業界に定着していることが背景にあるので
はないかと思われる。デバイス系事業のウェイトが高いサムスン電子がセット系企業に分
類される日本企業2社を上回っているのは、スマイルカーブ現象を反映していると思われ
る。
図表 1-55
電機産業:主要企業の付加価値率の国際比較
50%
45%
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
2001
キヤノン
2002
2003
松下電器
サムスン電子
2004
シーメンス
備考:日本企業およびサムスン電子は単体・全社ベース、欧州企業は連結・全社ベース。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
52
2005
フィリップス
(2)分配構造から見た付加価値率の比較
05 年度の付加価値率を見ると、キヤノンはサムスン電子に対して 1.8 ポイント、シーメ
ンスに対して 14.7 ポイント、フィリップスに対して 2.5 ポイント、各々下回っている。松
下電器はサムスン電子に対して 17 ポイント、シーメンスに対して 29.9 ポイント、フィリ
ップスに対して 17.7 ポイント、各々下回っている。
一方、分配面を見ると、売上高人件費率はシーメンスが 35.3%、フィリップスが 22.5%
と欧州メーカーが際立って高いのに対して、日本メーカー2社は8~10%とシーメンスに
対して 26~28 ポイント、フィリップスに対して 13~15 ポイント、各々下回っている(図
表 1-56)。売上高減価償却費率はキヤノンと欧州企業2社が5%前後とほとんど差異がない
一方、松下電器が 1.7%と最も低く、サムスン電子は設備集約型の半導体・液晶事業のウェ
イトが高いことから 8.8%と最も高くなっている。この結果、売上高営業利益率ではキヤノ
ンが 16.8%と付加価値率の格差を解消して、欧州メーカー2社を 12~13 ポイント、サムス
ン電子を3ポイント上回っている。松下電器は最も低い 2.8%にとどまった。
さらに各社ごとに5年間の動きを見ると、キヤノンは付加価値率が 27~30%のレンジで
変動する一方、売上高人件費率が8~11%、売上高減価償却費率が4~5%で推移した結
果、売上高営業利益率は 11~17%のレンジで変動している(図表 1-30)。松下電器は付加
価値率が 14~15%のレンジで変動する一方、人件費率が 10~14%、減価償却費率が2~3%
で推移した結果、営業利益率は▲2~3%のレンジで変動している(図表 1-31)
。日本企業
2社に共通しているのは、直近5年間では人件費率が低下傾向である一方、営業利益率が
上昇傾向にあることである。
一方、サムスン電子は付加価値率が 24~37%のレンジで変動する一方、売上高人件費率
が7~8%、売上高減価償却費率が8~10%で推移した結果、売上高営業利益率は7~21%
のレンジで変動している(図表 1-57)。付加価値率および営業利益率の変動幅が相対的に大
きい。
欧州企業では、シーメンスは付加価値率が 38~45%のレンジで変動する一方、売上高人
件費率が 31~36%、売上高減価償却費率が5~7%で推移した結果、売上高営業利益率は
0~4%のレンジで変動している(図表 1-58)。直近5年間では人件費率が上昇しつつ付加
価値率も上昇傾向にあり、この結果営業利益率は必ずしも高水準ではないが向上が図られ
ている。フィリップスは付加価値率が 32~37%のレンジで変動する一方、売上高人件費率
が 22~26%、売上高減価償却費率が5~8%で推移した結果、売上高営業利益率は▲1~
5%のレンジで変動している(図表 1-59)。
53
図表 1-56
電機産業:主要企業の付加価値率構造の国際比較(2005 年)
50%
40%
償却費率
人件費率
営業利益率
4.5%
30%
5.0%
4.8%
20%
8.8%
35.3%
7.7%
8.1%
1.7%
10%
16.8%
9.6%
22.5%
14.0%
4.1%
4.4%
シーメンス
フィリップス
2.8%
0%
キヤノン
松下電器
サムスン電子
備考:図表 1-55 と同様。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-57
サムスン電子:付加価値率の内訳(単体・全社ベース)
40%
0.1%
35%
0.3%
30%
7.9%
25%
0.1%
7.9%
0.1%
8.6%
0.4%
8.4%
8.8%
8.1%
20%
7.7%
9.8%
8.1%
15%
10%
5%
7.1%
18.8%
20.9%
16.5%
14.0%
7.1%
0%
2001
2002
営業利益率
2003
人件費率
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
54
2004
償却費率
賃借料率
2005
図表 1-58
シーメンス:付加価値率の内訳(連結・全社ベース)
50%
45%
40%
4.8%
4.5%
35.7%
35.3%
4.5%
4.9%
35%
7.2%
30%
25%
20%
15%
32.4%
34.7%
31.2%
10%
5%
0%
-5%
-0.4%
2001
2.3%
3.1%
4.5%
4.1%
2002
2003
2004
2005
営業利益率
人件費率
償却費率
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-59
フィリップス:付加価値率の内訳(連結・全社ベース)
40%
35%
30%
8.3%
6.9%
7.1%
25.7%
26.4%
1.4%
1.4%
2002
2003
7.7%
5.0%
25%
20%
24.0%
15%
25.1%
22.5%
10%
5%
0%
-1.5%
2001
5.0%
4.4%
2004
2005
-5%
営業利益率
人件費率
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
55
償却費率
(3)付加価値分配率の比較
直近5年間の労働分配率を見ると、キヤノンは低下傾向にあり、常に欧州メーカー2社
を大幅に下回る一方、サムスン電子に対しては 2004 年まで上回っていたが 2005 年で同水
準となった(図表 1-60)。シーメンスが 79~82%、フィリップスが 65~79%のレンジで推
移する一方、キヤノンは 01 年の 40%から 05 年に 26%まで低下している。サムスン電子は
23~29%のレンジで推移している。
松下電器は 01 年度の 94%から 05 年度に 68%まで低下しているものの、欧州企業2社に
拮抗し高い水準にある。2001 年の IT バブル崩壊による収益の大幅悪化から回復が図られて
きたものの、付加価値額はキヤノンを下回るなど相対的に高い水準にはなく、結果として
労働分配率が高くなっている面があると思われる。
図表 1-60
電機産業:主要企業の労働分配率の国際比較
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
2001
キヤノン
2002
松下電器
2003
サムスン電子
2004
シーメンス
2005
フィリップス
備考:日本企業およびサムスン電子は単体・全社ベース、欧州企業は連結・全社ベース。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
一方、直近5年間の減価償却費(設備)分配率を見ると、キヤノンが 14~18%、松下電
器が 12~22%、サムスン電子が 21~40%、シーメンスが 10~19%、フィリップス 16~26%
のレンジで推移している(図表 1-61)。松下電器、シーメンス、フィリップスが低下傾向に
ある一方、キヤノンも 04 年まで低下していたが、05 年に反転している。最も高い水準にあ
るサムスン電子では半導体・液晶の設備投資の動きに対応して、大幅な変動を示している。
56
この結果、営業利益分配率はキヤノンでは 01 年の 42%から 05 年に 57%まで高まり、ま
たサムスン電子では 29~56%のレンジで推移しており、この2社が際立って高い水準にあ
る(図表 1-62)。一方、松下電器は 01 年度▲16%から 05 年度 20%へ、シーメンスは 01 年
▲1%から 05 年9%へ、
フィリップスは 01 年▲5%から 05 年 14%へ高まっているものの、
キヤノンおよびサムスン電子との格差は大きい。
欧州メーカーでは付加価値が人的費用に相対的に厚く分配される一方、キヤノンおよび
サムスン電子では営業利益に相対的に厚く分配されているようにみえる。設備に対する分
配はサムスン電子が相対的に厚くなっている。
図表 1-61
電機産業:主要企業の償却費(設備)分配率の国際比較
45%
キヤノン
松下電器
サムスン電子
シーメンス
フィリップス
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
2001
2002
2003
備考:図表 1-60 と同様。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
57
2004
2005
図表 1-62
電機産業:主要企業の営業利益分配率の国際比較
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2001
2002
2003
松下電器
サムスン電子
2004
2005
-10%
-20%
キヤノン
シーメンス
フィリップス
備考:図表 1-60 と同様。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
(4)付加価値額の分配構造の比較
直近5年間の付加価値額の動きを見ると、サムスン電子およびキヤノンが高成長を示す
一方、松下電器が微増、欧州企業2社が横ばいあるいは微減となっている(図表 1-38~1-39、
図表 1-63~1-65)。2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率成長率を算出すると、サム
スン電子が 22.5%、キヤノンが 12.2%と2桁成長となる一方、松下電器が 2.2%、シーメ
ンスが 0.1%、フィリップスが▲1.6%にとどまった。因みに、売上高の年率成長率はサム
スン電子 15.4%、キヤノン 9.8%、松下電器 3.5%、シーメンス▲3.5%、フィリップス▲
1.5%となっており、付加価値の成長力が高かったサムスン電子およびキヤノンの伸びが際
立っている。
人件費の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減率は、サムスン電子 19.3%(05
年度と 01 年度の差分:2.4 兆ウォン)
、キヤノン 1.2%(同 85 億円)、松下電器▲5.6%(同
▲1,111 億円)、シーメンス▲0.4%(同▲4.6 億ユーロ)、フィリップス▲4.2%(同▲12.9
億ユーロ)となっている。人件費は、売上高や付加価値の成長率が相対的に低かった、松
下電器および欧州企業で減少する一方、成長率が極めて高かったサムスン電子では大幅な
増加となったが、キヤノンでは小幅の増加にとどまった。この結果、サムスン電子を除い
て各社の労働分配率が低下傾向となっている。
各社の人員数の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減率は、
キヤノン 0.2%(05
58
年度と 01 年度の差分:127 人)
、松下電器▲2%(同▲3,855 人)、シーメンス▲2%(同
▲37,700 人)
、フィリップス▲6%(同▲44,943 人)となっている(図表 1-66)。売上高や
付加価値が低成長にとどまった、松下電器および欧州企業において人員数が減少する一方、
成長率の高かったキヤノンも人員数を横ばい圏にとどめている(サムスン電子では人員数
が非開示)。
各社の減価償却費の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減率は、サムスン電
子 12.3%(05 年度と 01 年度の差分:1.9 兆ウォン)、キヤノン 9.4%(同 364 億円)
、松下
電器▲12.3%(同▲529 億円)、シーメンス▲14%(同▲28.4 億ユーロ)、フィリップス▲
13.3%(同▲11.6 億ユーロ)となっている。減価償却費は、売上高や付加価値の成長率が
高かったサムスン電子およびキヤノンで大幅に増加する一方、成長率が低かった松下電器
および欧州企業2社で大幅に減少した。
この結果、各社の営業利益の 2001 年度から 2005 年度までの4年間の年率増減率は、サ
ムスン電子 36.9%(05 年度と 01 年度の差分:5.8 兆ウォン)、キヤノン 21.1%(同 2,231
億円)、松下電器(01 年度が赤字のため増減率は算出不可)
(同 2,162 億円)、シーメンス(01
年度が赤字のため増減率は算出不可)
(同 34.2 億ユーロ)、フィリップス(01 年度が赤字の
ため増減率は算出不可)
(同 18.2 億ユーロ)となった。
図表 1-63
25,000
20,000
サムスン電子:付加価値分配構造(単体・全社ベース)
(10億ウォン)
人件費
賃借料
減価償却費
営業利益
15,000
10,000
5,000
0
2001
2002
2003
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
59
2004
2005
図表 1-64
40,000
シーメンス:付加価値率分配構造(連結・全社ベース)
(百万ユーロ)
営業利益
減価償却費
人件費
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
2001
2002
2003
2004
2005
▲ 5,000
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
図表 1-65
12,000
フィリップス:付加価値率分配構造(連結・全社ベース)
(百万ユーロ)
営業利益
減価償却費
2003
2004
人件費
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
2001
2002
▲ 2,000
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
60
2005
図表 1-66
600,000
電機産業:主要企業の人員数の国際比較
(人)
(人)
60,000
500,000
50,000
400,000
40,000
300,000
30,000
200,000
20,000
シーメンス
フィリップス
キヤノン(右軸)
松下電器(右軸)
100,000
10,000
0
0
2001
2002
2003
2004
備考1:日本企業は単体・全社ベース、欧州企業は連結・全社ベース。
備考2:サムスン電子は非開示。
資料:財務報告書からニッセイ基礎研究所作成。
61
2005
5.まとめ
【スマイルカーブ現象の検証】
サプライチェーンの各業務工程に分類された主要企業の付加価値率あるいは EBITDA マ
ージンの平均値をとれば、我が国の自動車産業および電機産業においてスマイルカーブが
概ね成立しているとみられる。欧州の自動車産業においてもほぼ同様の結論が得られた。
スマイルカーブの収益率指標には本来、業務工程固有の加工度特性を最も明確に反映す
るとみられる付加価値率をとるべきと考えられる。一方、EBITDA マージンおよび売上高
営業利益率は、経営による付加価値分配の結果決まってくる財務指標のため、工程間の加
工度特性の格差の影響が薄まるものと考えられる。
【企業立地や国際機能分業のあり方】
①付加価値率の高い川上の材料・部品工程の国内集積
スマイルカーブの検証から、我が国の自動車産業および電機産業のサプライチェーンに
おいて材料や部品など川上の業務工程の付加価値率あるいは EBITDA マージンが高いこと
が示された。また、これらの工程は相対的に設備集約的であることもわかった。特に電機
産業の川上工程は自動車産業に比べ設備集約度が高いとみられる。
設備集約型の川上工程は、消費地立地に基づいて立地を分散させるより、少数の拠点で
集中生産を行った方が効率的であることが多い。また、設備集約型事業は、人件費や電力
費がコスト競争力の決定的要因となる事業に比べ、立地環境や経営戦略次第で国内立地で
も競争力を確保できる可能性が高いと考えられる。さらに、自動車産業における部品や電
機産業におけるデバイス材料・部材の領域では、我が国企業の競争力が強い。
従って、材料・部品など付加価値率が高く設備集約的な川上工程が、国内に集積するこ
とを維持・促進するための環境整備が求められる。設備集約型の川上工程の国内立地を促
進するためには、投資回収(キャッシュフロー)に大きな影響を与える法人課税(減価償
却制度や実効税率等)など制度面について国際競争力の観点からの配慮が不可欠であると
考えられる。この点に関連して、次章では工場立地に関わる主要制度に基づく立地競争力
の国際比較分析を行いたい。
②国内の加工組立工程のマザー工場への進化
一方、加工組立工程では付加価値率が相対的に低いものの、自動車産業における完成車
メーカーのように、サプライチェーンの中核を成して付加価値規模が相対的に大きい面が
あり、この点は見逃せない。ただし、競争力を逸した加工組立工程を国内に維持するのは
効率的ではない。国の GDP 規模を維持するためにも、川上の材料・部品工程に加え、比較
優位な加工組立工程を国内に立地・集積させることも重要である。
加工組立工程が比較優位を維持・強化するためには、セット製品の差別化や加工組立工程
62
そのもののコストダウンだけでなく、技術開発機能、設計・試作機能、部材・生産設備の
内製機能などとの一体化を図り、マザー工場に進化していくことが求められる。加工組立
工程がマザー工場への進化に成功すれば、キヤノンのようにスマイルカーブから上方に外
れた外れ値に位置することも可能になると考えられる。
【付加価値分配のあり方】
主要企業の付加価値構造の国際比較から、欧州企業では労働分配率が極めて高い一方、
我が国企業では営業利益への分配が比較的高いという傾向が見られた。
製造業では、設備や研究開発への継続的投資により付加価値を向上させ、労働分配を増
やしつつ持続的な利益成長を図ることが重要であると考えられる。一方、多くの日本企業
では、先行投資に耐えうる構造へ底上げするために、過剰な労働や設備を適正規模へ削減
することにより、営業利益を捻出することに迫られていたとみられる。ただし、このよう
な段階は経営の求心力を保つため、明確な戦略の下に短期間で完了することが肝要である。
目先の利益確保のみ優先するのでなく、労働(人件費)および設備(減価償却費)への
適正な分配と利益成長を両立させることこそが企業のサステナビリティ(持続可能性)の
観点から重要であると考えられる。
63
Ⅱ.立地条件の国際比較に基づく収益シミュレーション
1.分析の目的
製造業の国際競争力は、経営能力や技術力など企業そのものの競争力に加え、工場立地
に関わる制度面にも大きな影響を受ける。従って、我が国に立地する製造業が高い国際競
争力を維持するためには、我が国が企業立地に関わる制度面での優位性を持つことも求め
られる。そこで本章では、工場立地に関わる主要な制度に基づく立地競争力の国際比較分
析を行うこととしたい。
ここでは、分析対象産業として、国際競争の激化している自動車、半導体、液晶パネル
を取り上げ、企業の経営力や技術水準が同じであるとの前提の下で、日本、韓国、中国、
台湾、米国、ドイツの特定地域における工場立地に関わる主要な制度(法定実効税率、減
価償却制度、自治体の企業立地優遇措置)をピックアップし、我が国製造業の工場が立地
した場合のキャッシュフローや投資回収期間などを対象国間で比較分析することとする。
また、2007 年度税制改正において実施された減価償却制度の見直しの影響についても、併
せて分析を加える。
なお、平成 17 年度において(株)ニッセイ基礎研究所が経済産業省製造産業局参事官室
から委託を受けて実施した「平成 17 年度製造産業技術対策調査等(製造業企業の立地戦略
に関する調査)」では、同様の分析が日本、韓国、中国、米国、ドイツの5か国を対象に行
われた。ここでは、同調査で用いられた「事業所投資回収モデル」を活用して地域レベル
での事業所の投資回収シミュレーションを行い、分析対象国に半導体・液晶の主要な生産
国の1つに成長した台湾を加えることとした。因みに、我が国唯一の DRAM メーカーであ
るエルピーダメモリは昨年末に同国での合弁生産計画を発表した。さらに今回の調査では、
2007 年度税制改正において実施された減価償却制度の見直しを織り込んだシミュレーショ
ンを行い、税制改正実施前のケースと比較してその影響を分析した。
2.分析対象の選定
2-1.分析対象国
分析対象産業である自動車、液晶パネル、半導体において我が国にとって主要な競合国
であり、かつ企業立地に関わる主要な制度が体系的に整備され、その情報入手が比較的容
易であると思われる国を選択することとする。
以上の観点から、分析対象国は日本、米国、ドイツ、韓国、中国、台湾の6か国とする。
64
ただし、液晶産業では米国およびドイツに工場が所在していないため、日本、韓国、中国、
台湾を分析対象とする。
各国における工場立地に関わる主要な制度(法定実効税率、減価償却制度)のまとめを
図表 2-1 に示す(自治体の企業立地優遇措置は後述)。以降、本調査でのシミュレーション
の前提条件として使用することとする。
図表 2-1 主要国の法人実効税率と減価償却制度の比較
国 名
日本
韓国
中国
法定実効税率
法人税率
27.98%
25.00%
住民税率・
11.56%
2.50%
事業税率
合計
39.54%
27.50%
5年
4年
減価償却制度 償却期間 半導体
10年(5年) ⇒ 5年
4年
(製造装置) 液晶
10年
8年
自動車
償却可能限度額
95% ⇒ 100%
100%
残存簿価
5% ⇒ 0% (備忘価額1ウォン)
残存割合(残存価額)
10% ⇒ 0%
5%
台湾
米国
ドイツ
24.00%
25.00%
31.91%
22.10%
3.00%
-
8.84%
16.21%
27.00%
25.00%
40.75%
38.31%
3年
5年
10年
3年
3年
-
5年
-
7年
6年
-
6年
100%
0
10%
100%
0
10%
100%
100%
0 (備忘価額1ユーロ)
0%
0%
備考:1.日本の実効税率は法人事業税において外形標準課税(2004 年度導入)の対象となる資本金 1 億円超のケース。
法人税率は 30%だが、法人税の計算上、法人事業税は損金算入されるため、その点を調整して算出している。
2.韓国の実効税率は課税標準 1 億ウォン超過のケース。住民税は法人税の 10%。
3.中国の法人税率は 30%だが、ここでは沿海経済開放区、経済特区および経済技術開発区の旧市街地の生産型
外資企業の軽減税率(24%)を用いた。中国の税率の 3%は地方税。
4.米国の州法人税はカリフォルニア州の例。連邦税の最高限度税率は 35%だが、連邦税の計算上、州税は損金
算入されるため、その点を調整して算出している。
5.韓国の償却期間は、標準耐用年数では半導体・液晶 5 年、自動車 10 年だが、標準耐用年数のプラスマイナス
25%の選択が可能であるため、ここではマイナス 25%のケースを選択することとした。
6.中国では、半導体生産設備は特別な償却方法として「最短償却年限を 3 年とする資産」に指定されている(「電
子設備」は通常 5 年)
。
7.日本の赤字部分は 07 年度税制改正を示す。税制改正前では液晶製造装置の償却期間は基本 10 年だが、半導
体に準拠して 5 年が認められるケースがある。
資料:日本機械輸出組合資料、財務省 HP「法人税など(法人課税)に関する資料(平成 18 年4月現在)
」
「平成 19 年度
税制改正の要綱」等よりニッセイ基礎研究所作成。
2-2.分析対象地域
各国の特定地域として、分析対象産業の主力企業が直近において大型の最先端工場の建
設(建設中のプロジェクトを含む)を行った地域を選択することとした。
なお、最先端工場とは、半導体では 300 ミリウエハー対応のライン(前工程:ウエハー・
プロセス)、液晶では薄型テレビ向けなどの大型パネル工場(投入するガラス基板が第6世
代以降の工場)を指すこととする。
以上の観点から選定した分析対象地域の一覧を図表 2-2 に示す。
65
図表 2-2 分析対象地域の一覧
業種
自動車
国
日本
米国
ドイツ
韓国
中国
液晶パネル 日本
韓国
中国
台湾
半導体
日本
米国
ドイツ
韓国
中国
台湾
州或いは県
市
立地企業名
福岡県
ミシガン
ブランデンブルグ
全羅北道
広東省
三重県
忠清南道
-
台中県
広島県
アリゾナ
ザクセン
京畿道
-
台中県
京都郡苅田町
ランジング、デルタタウン
ルートウィヒスフェルデ
全州市
広州市
亀山市
牙山市湯井面
北京市
后里
東広島市
チャンドラー
ドレスデン
竜仁市器興区
上海市
后里
日産自動車、トヨタ自動車九州
GM
ダイムラークライスラー
現代
広州本田汽車(広州汽車/本田技研工業)
シャープ
S-LCD(サムスン電子/ソニー)
京東方科技集団
AU Optronics
エルピーダメモリ
インテル
インフィニオンテクノロジーズ
サムスン電子
SMIC
Rexchip Electronics Corp.(エルピーダ/PSC)
備考:液晶産業では米国、ドイツに工場が所在していないため、分析対象は日本、韓国、中国、台湾とする。
資料:各社 HP 等からニッセイ基礎研究所作成。
66
3.事業所投資回収モデル(動態モデル)の概要
z
各産業とも初期投資額を 1,000 億円と想定し、追加投資は想定しない。簡単化のため、
全額が図表 2-1 に掲げた償却対象の製造設備分と仮定し、それ以外の機械装置や土地・
建物は分析の対象外とした。
z
初期投資から創出される生産金額は、市場環境などの変化を織り込まず、毎期一定で
あると仮定する。初年度からのフル稼働を想定し、生産金額は生産能力ベースの数値
を算出する。生産金額を決定する係数である(増収額(t)/設備投資(t-1))は、業界
データおよび代表的企業の分析、業界アナリストへのヒアリングなどにより算定し、
所与とする。
z
生産金額に対応する事業所段階の利益として、まず減価償却費控除前粗利益を算出す
る。同利益を決定する係数である償却控除前粗利益率(売上比)は、代表的企業の分
析から推定し、所与とする。次に減価償却費は単純化のため定額法を想定し、分析国
の償却期間、残存割合、残存簿価を加味して毎期算出する。工場の間接コスト比率(売
上比)は代表的企業の分析から推定し、所与とする。償却控除前粗利益から減価償却
費および間接コストを差引いた数値を各期の事業所課税所得とする。金融費用は分析
の対象外とする。
z
分析対象地域の各自治体の企業立地優遇措置として、補助金の交付および税の軽減を
キャッシュフロー計算に織り込む。企業立地優遇措置は図表 2-3 を前提とする。
z
以上の手順により算出した毎期のキャッシュフローは、そのままの数値を使用し、割
引キャッシュフロー(DCF)は算出しないこととする。
z
このモデルでは、工場が立地する国の減価償却制度、立地する地域の実効税率および
自治体の企業立地優遇措置の違いが、工場新設の投資回収期間へ及ぼす影響を考察す
ることができる(その他のあらゆる条件は比較国間で同一であると仮定)。
z
シミュレーションに用いたモデル工場の概要は図表 2-4 の通りである。
図表 2-4 各産業におけるシミュレーションの前提条件とモデル工場の概要
単位:億円
自動車
前提
初期投資
増収額(t)/設備投資(t-1)
償却控除前粗利益率(売上比)
工場間接コスト比率(売上比)
モデル工場 生産金額
(年間)
償却控除前粗利益
工場間接コスト
半導体
1,000
350.00%
25.71%
4.66%
3,500
900
163
1,000
70.00%
50.37%
5.84%
700
353
41
液晶
1,000
140.00%
34.00%
6.90%
1,400
476
97
資料:業界データ、主要企業のリリース資料およびアニュアル・レポート、業界アナリストへのヒアリングなどからニ
ッセイ基礎研究所作成。
67
図表 2-3 各自治体の企業立地優遇措置のまとめ
補助金(助成金)
業種
自動車
国
州或いは県
市
税制上の優遇措置
利用要件
福岡県
京都郡苅田町
韓国
全羅北道
全州市
-
-
中国
広東省
広州市
-
-
米国
ミシガン
ドイツ
ブランデンブルグ ルートウィヒスフェルデ
ランジング、デルタタウン
内容
利用要件
-
-
●設備投資×2.5%+新規常用雇用×30万円 ①交付対象事業は製造業
※上限:8億円
②新たに土地を取得すること(賃借を含む)
③設備投資(土地を除く)100億円以上(300億円未
満)
④県民の新規常用雇用150人以上(300人未満)
●設備投資×3%+新規常用雇用×30万円 ①設備投資(土地を除く)300億円以上
※上限:10億円
②県民の新規常用雇用300人以上
※上段の①、②は同様。
日本
-
-
●法人税(15%):二免三半減
●地方税(3%):二免三半減
●10年以上の経営期間を申請する
生産型外資企業
●単一事業税(州税1.9%分)の免
除
※最高20年、プロジェクト費用の全
額まで免除
●生産、研究開発、卸売・貿易、オ
フィス経営を行っている企業
●新規もしくは拡張プロジェクトに
おいて一定数以上の新規雇用創出
効果がある場合
※設備投資に対する奨励金率(上限):
●大企業20%
●中堅・中小企業30%
①過去3年間の年平均減価償却費の少なくとも1.5倍 ※所得控除の上限(対設備投資): ①製造業または製造業にサービス
の設備投資額、または終身雇用の現状比15%増
●大企業12.5%
を提供する事業
②売上高の50%以上を他地域で上げること
●中堅・中小企業20%
②投資が東部ドイツで実施されるこ
と
●設備投資額×10%(県営産業団地)
●設備投資額×5%(その他)
※上限:
・①~④を満たす場合:20億円
(単年度10億円)
・①~③を満たす場合:10億円
①製造業全般
②設備投資(土地を除く)100億円以上
③新規雇用常用労働者30人以上
④地元市町も一定の支援をする場合
日本
広島県
韓国
京畿道
竜仁市器興区
-
-
中国
-
上海市
-
-
●法人税(15%):三免三半減
●地方税(3%):二免三半減
●ハイテク産業
台湾
台中県
后里
-
-
●法人税:五免
●ハイテク産業
米国
アリゾナ
チャンドラー
-
-
ドイツ
ザクセン
ドレスデン
●奨励率(上限):設備投資×20%
※最大補助率(対奨励率):
・設備投資5,000万ユーロ未満:100%
・同5,000万~1億ユーロ:50%
・同1億ユーロ超:34%
【三重県:産業集積促進補助金】
①日本標準産業分類のF製造業のうち、情報通信関
●設備投資×15%
連の業種に属する工場、事業所の新設(集積の核と
※上限:90億円(最大15年間に分割して交付) なる企業に限定)
②投下固定資産総額600億円以上(新規立地)
③事業従事者600人以上、うち常用雇用者300人以
上
【亀山市:企業立地奨励金】
①投下固定資産総額600億円以上(事業所新設)
●固定資産税の90%
②新規雇用者数が300人以上
※上限:45億円(最大15年間に分割)
東広島市
68
半導体
交付額
日本
三重県
亀山市
韓国
忠清南道
牙山市湯井面
液晶パネル
-
-
-
●データ・プロセシング、研究開発、技術設計、コー ※所得控除の上限(対設備投資): ①製造業または製造業にサービス
ル・センターなど特定産業に関連する企業
●大企業15%
を提供する事業
●製造業企業の大半
●中堅・中小企業27.5%
②投資が東部ドイツで実施されるこ
と
-
-
-
中国
-
北京市
-
-
●法人税(15%):三免三半減
●地方税(3%):五免五半減
台湾
台中県
后里
-
-
●法人税:五免
備考:京都郡苅田町および東広島市では、土地、建物に係る固定資産税や用地取得費が補助対象となるが、ここでは考慮しない。
資料:日本機械輸出組合資料、各自治体HP等よりニッセイ基礎研究所作成。
-
●ハイテク産業
●ハイテク産業
4.シミュレーション結果(まとめ)
この事業所投資回収モデルを用いて、各産業の分析対象地域における工場新設(投資額
1,000 億円)の投資回収期間を試算した結果を図表 2-5 に示す。また、スプレッドシートを
抜粋した産業別のシミュレーション結果を図表 2-6~2-8 に示す。
図表 2-5 投資回収期間のシミュレーション結果(まとめ)
日本
自動車
半導体
液晶
韓国
中国
同左
全羅北道全州市
広東省広州市
24.5か月
同左
44.0か月
同左
37.8か月
21.2か月
京畿道器興区
41.2か月
忠清南道湯井面
35.3か月
16.3か月
上海市
38.7か月
北京市
31.6か月
07年度税制改正前ベース
07年度税制改正
織り込みベース
福岡県京都郡苅田町
24.7か月
広島県東広島市
45.3か月
同左②
三重県亀山市①
43.8か月
38.8か月
台湾
米国
ドイツ
ミシガン州
ブランデンブルグ州
ランジング・デルタタウン ルートウィヒスフェルデ
台中県
38.5か月
台中県
31.6か月
22.7か月
アリゾナ州チャンドラー
44.9か月
16.5か月
ザクセン州ドレスデン
41.4か月
備考:三重県亀山市の①は償却期間=10 年のケース、②は同5年のケースを示す。
資料:ニッセイ基礎研究所試算。
4-1.2007 年度税制改正実施前ベースの試算
我が国の 2007 年度税制改正実施前のベースで比較すると、どの産業においても我が国で
立地するケースの投資回収期間が最も長いと試算された。我が国は法定実効税率が相対的
に高く、償却期間も相対的に長く、償却可能限度額も唯一 95%であった(他国は 100%)。
自治体の企業立地優遇措置も海外に比べ規模が小さい。
一方、自動車では中国、半導体では台湾、液晶では中国および台湾で各々立地するケー
スの投資回収期間が最も短かった。主要6か国で比較する限り、中国あるいは台湾の立地
競争力が最も優位であるとの試算結果となった。中国および台湾では法定実効税率が極め
て低いうえに、地域で思い切った免税措置が採られ、減価償却制度でも注力すべき半導体
では償却期間を我が国より2年も短い3年に設定するなど、メリハリの利いた政策が打た
れている。台湾では半導体とともに重点産業の1つである液晶も、償却期間が3年と設定
されており、2007 年度の税制改正後の我が国より2年も短い。
我が国での立地における投資回収期間は、自動車では中国での立地と比べて8か月強、
半導体では台湾での立地と比べて7か月弱、液晶では中国および台湾での立地と比べて、
我が国の償却期間を 10 年とした場合 12 か月強、同5年とした場合7か月強遅れると試算
された。特に技術進歩の早い半導体産業や液晶産業では、投資回収期間の数か月オーダー
の格差が、次世代製品への大型投資のタイミングに大きな影響を及ぼすと考えられる。
4-2.減価償却制度見直しを織り込んだ試算
我が国では、2007 年度税制改正により残存価額が撤廃され、液晶を含むフラットパネル
ディスプレイ製造装置の法定耐用年数が 10 年から5年に短縮された(ただし、液晶製造装
69
置の法定耐用年数は、これまでも半導体に準拠して5年が認められるケースがあった)。
この税制改正を織り込むと、我が国での立地における投資回収期間は、自動車では▲0.2
か月、半導体では▲1.3 か月短縮されると試算された。液晶では税制改正前の償却期間を
10 年とした場合▲6か月、同5年とした場合▲1か月短縮されると試算された。この結果、
半導体では米国を 0.9 か月下回るものの、自動車および液晶では依然として我が国が比較
国間で回収期間が最も長い。
自動車産業では、投資効率が半導体や液晶に比べ著しく高いため、1,000 億円の投資から
創出される毎年の粗利益が相対的に大きいことに加え、償却期間が 10 年と分析対象産業の
中で最も長いことから、税制改正における残存価額撤廃の効果が極めて小幅にとどまると
試算された。
すなわち、自動車産業のケースでは、残存価額が撤廃されたことによる年間の償却額の
増加は 10 億円(=1,000 億円÷10 年-1000 億円×0.9÷10 年)となり、これに税率を乗じ
た節税効果(=キャッシュフロー増効果)は年4億円(=10 億円×0.3954)にとどまると
試算される(図表 2-6)。一方、5年償却の半導体産業では残存価額の撤廃による年間の償
却額の増加は 20 億円(=1,000 億円÷5年-1000 億円×0.9÷5年)となるため、節税効
果(キャッシュフロー増効果)は年8億円(=20 億円×0.3954)と自動車産業の2倍に達
する(図表 2-7)。液晶産業の場合も税制改正前の償却期間を5年とした場合、半導体と同
様である(図表 2-8)。
70
図表 2-6 自動車産業:工場の投資回収シミュレーションの結果(スプレッドシート抜粋)
単位:億円
日本(福岡県京都郡苅田町)
07年度税制改正前ベース
経過年数
生産金額
償却控除前粗利益
償却控除前粗利益率(売上比)
減価償却費(A)
粗利益
間接コスト
間接コスト比率(売上比)
税引前利益=課税所得(B)
実効税率
実効税率による法人税額(C)
自治体の企業立地優遇措置(D)
(うち補助金)
(うち税軽減)
企業立地優遇措置の累積値
キャッシュフロー(A+B-C+D)
累積キャッシュフロー
(対初期投資)
回収期間(月)
1
3,500
900
25.71%
90
810
163
4.66%
647
39.54%
256
10
10
10
491
491
49.1%
2
3,500
900
25.71%
90
810
163
4.66%
647
39.54%
256
0
0
10
481
972
97.2%
3
3,500
900
25.71%
90
810
163
4.66%
647
39.54%
256
0
0
10
481
1,453
145.3%
24.7
4
3,500
900
25.71%
90
810
163
4.66%
647
39.54%
256
0
0
10
481
1,934
193.4%
07年度税制改正織り込みベース
5
3,500
900
25.71%
90
810
163
4.66%
647
39.54%
256
0
0
10
481
2,415
241.5%
1
3,500
900
25.71%
100
800
163
4.66%
637
39.54%
252
10
10
10
495
495
49.5%
2
3,500
900
25.71%
100
800
163
4.66%
637
39.54%
252
0
0
10
485
980
98.0%
3
3,500
900
25.71%
100
800
163
4.66%
637
39.54%
252
0
0
10
485
1,465
146.5%
24.5
4
3,500
900
25.71%
100
800
163
4.66%
637
39.54%
252
0
0
10
485
1,950
195.0%
5
3,500
900
25.71%
100
800
163
4.66%
637
39.54%
252
0
0
10
485
2,435
243.5%
71
単位:億円
韓国(全羅北道全州市)
経過年数
生産金額
償却控除前粗利益
償却控除前粗利益率(売上比)
減価償却費(A)
粗利益
間接コスト
間接コスト比率(売上比)
税引前利益=課税所得(B)
実効税率
実効税率による法人税額(C)
自治体の企業立地優遇措置(D)
(うち補助金)
(うち税軽減)
企業立地優遇措置の累積値
キャッシュフロー(A+B-C+D)
累積キャッシュフロー
(対初期投資)
回収期間(月)
1
3,500
900
25.71%
119
781
163
4.66%
618
27.50%
170
567
567
56.7%
2
3,500
900
25.71%
119
781
163
4.66%
618
27.50%
170
567
1,134
113.4%
3
3,500
900
25.71%
119
781
163
4.66%
618
27.50%
170
567
1,700
170.0%
21.2
4
3,500
900
25.71%
119
781
163
4.66%
618
27.50%
170
567
2,267
226.7%
中国(広東省広州市)
5
3,500
900
25.71%
119
781
163
4.66%
618
27.50%
170
567
2,834
283.4%
備考:累積キャッシュフローの太字は投資回収の完了を示す。
資料:ニッセイ基礎研究所試算。
1
3,500
900
25.71%
90
810
163
4.66%
647
18.00%
116
116
116
116
737
737
73.7%
2
3,500
900
25.71%
90
810
163
4.66%
647
18.00%
116
116
116
233
737
1,474
147.4%
3
3,500
900
25.71%
90
810
163
4.66%
647
18.00%
116
58
58
291
679
2,152
215.2%
16.3
4
3,500
900
25.71%
90
810
163
4.66%
647
18.00%
116
58
58
349
679
2,831
283.1%
米国(ミシガン州ランジング・デルタタウン)
5
3,500
900
25.71%
90
810
163
4.66%
647
18.00%
116
58
58
407
679
3,509
350.9%
1
3,500
900
25.71%
143
757
163
4.66%
594
36.90%
219
11
11
11
529
529
52.9%
2
3,500
900
25.71%
143
757
163
4.66%
594
36.90%
219
11
11
23
529
1,058
105.8%
3
3,500
900
25.71%
143
757
163
4.66%
594
36.90%
219
11
11
34
529
1,587
158.7%
22.7
4
3,500
900
25.71%
143
757
163
4.66%
594
36.90%
219
11
11
45
529
2,116
211.6%
5
3,500
900
25.71%
143
757
163
4.66%
594
36.90%
219
11
11
56
529
2,644
264.4%
ドイツ(ブランデンブルグ州ルートウィヒスフェルデ)
1
3,500
900
25.71%
167
733
163
4.66%
570
32.51%
185
241
200
41
241
792
792
79.2%
2
3,500
900
25.71%
167
733
163
4.66%
570
32.51%
185
0
0
0
241
551
1,343
134.3%
3
3,500
900
25.71%
167
733
163
4.66%
570
32.51%
185
0
0
0
241
551
1,895
189.5%
16.5
4
3,500
900
25.71%
167
733
163
4.66%
570
32.51%
185
0
0
0
241
551
2,446
244.6%
5
3,500
900
25.71%
167
733
163
4.66%
570
32.51%
185
0
0
0
241
551
2,998
299.8%
図表 2-7 半導体産業:工場の投資回収シミュレーションの結果(スプレッドシート抜粋)
単位:億円
日本(広島県東広島市)
07年度税制改正前ベース
経過年数
生産金額
償却控除前粗利益
償却控除前粗利益率(売上比)
減価償却費(A)
粗利益
間接コスト
間接コスト比率(売上比)
税引前利益=課税所得(B)
実効税率
実効税率による法人税額(C)
自治体の企業立地優遇措置(D)
(うち補助金)
(うち税軽減)
企業立地優遇措置の累積値
キャッシュフロー(A+B-C+D)
累積キャッシュフロー
(対初期投資)
回収期間(月)
1
700
353
50.37%
180
173
41
5.84%
132
39.54%
52
10
10
10
270
270
27.0%
2
700
353
50.37%
180
173
41
5.84%
132
39.54%
52
10
10
20
270
539
53.9%
3
700
353
50.37%
180
173
41
5.84%
132
39.54%
52
0
0
20
260
799
79.9%
45.3
4
700
353
50.37%
180
173
41
5.84%
132
39.54%
52
0
0
20
260
1,059
105.9%
07年度税制改正織り込みベース
5
700
353
50.37%
180
173
41
5.84%
132
39.54%
52
0
0
20
260
1,318
131.8%
1
700
353
50.37%
200
153
41
5.84%
112
39.54%
44
10
10
10
278
278
27.8%
2
700
353
50.37%
200
153
41
5.84%
112
39.54%
44
10
10
20
278
555
55.5%
3
700
353
50.37%
200
153
41
5.84%
112
39.54%
44
0
0
20
268
823
82.3%
44.0
4
700
353
50.37%
200
153
41
5.84%
112
39.54%
44
0
0
20
268
1,090
109.0%
5
700
353
50.37%
200
153
41
5.84%
112
39.54%
44
0
0
20
268
1,358
135.8%
72
単位:億円
韓国(京畿道器興区)
経過年数
生産金額
償却控除前粗利益
償却控除前粗利益率(売上比)
減価償却費(A)
粗利益
間接コスト
間接コスト比率(売上比)
税引前利益=課税所得(B)
実効税率
実効税率による法人税額(C)
自治体の企業立地優遇措置(D)
(うち補助金)
(うち税軽減)
企業立地優遇措置の累積値
キャッシュフロー(A+B-C+D)
累積キャッシュフロー
(対初期投資)
回収期間(月)
1
700
353
50.37%
238
115
41
5.84%
74
27.50%
20
291
291
29.1%
2
700
353
50.37%
238
115
41
5.84%
74
27.50%
20
291
583
58.3%
3
700
353
50.37%
238
115
41
5.84%
74
27.50%
20
291
874
87.4%
41.2
4
700
353
50.37%
238
115
41
5.84%
74
27.50%
20
291
1,165
116.5%
中国(上海市)
5
700
353
50.37%
50
303
41
5.84%
262
27.50%
72
240
1,405
140.5%
1
700
353
50.37%
300
53
41
5.84%
12
18.00%
2
2
2
2
312
312
31.2%
2
700
353
50.37%
300
53
41
5.84%
12
18.00%
2
2
2
4
312
623
62.3%
備考:累積キャッシュフローの太字は投資回収の完了を示す。
資料:ニッセイ基礎研究所試算。
3
700
353
50.37%
300
53
41
5.84%
12
18.00%
2
2
2
6
312
935
93.5%
38.7
4
700
353
50.37%
100
253
41
5.84%
212
18.00%
38
19
19
25
293
1,228
122.8%
台湾(台中県)
5
700
353
50.37%
0
353
41
5.84%
312
18.00%
56
28
28
53
284
1,511
151.1%
1
700
353
50.37%
300
53
41
5.84%
12
25.00%
3
3
3
3
312
312
31.2%
2
700
353
50.37%
300
53
41
5.84%
12
25.00%
3
3
3
6
312
623
62.3%
3
700
353
50.37%
300
53
41
5.84%
12
25.00%
3
3
3
9
312
935
93.5%
38.5
米国(アリゾナ州チャンドラー)
4
700
353
50.37%
100
253
41
5.84%
212
25.00%
53
53
53
62
312
1,247
124.7%
5
700
353
50.37%
0
353
41
5.84%
312
25.00%
78
78
78
140
312
1,559
155.9%
1
700
353
50.37%
200
153
41
5.84%
112
39.53%
44
268
268
26.8%
2
700
353
50.37%
200
153
41
5.84%
112
39.53%
44
268
535
53.5%
3
700
353
50.37%
200
153
41
5.84%
112
39.53%
44
268
803
80.3%
44.9
4
700
353
50.37%
200
153
41
5.84%
112
39.53%
44
268
1,070
107.0%
ドイツ(ザクセン州ドレスデン)
5
700
353
50.37%
200
153
41
5.84%
112
39.53%
44
268
1,338
133.8%
1
700
353
50.37%
167
186
41
5.84%
145
40.18%
58
126
68
58
126
380
380
38.0%
2
700
353
50.37%
167
186
41
5.84%
145
40.18%
58
0
0
0
126
253
633
63.3%
3
700
353
50.37%
167
186
41
5.84%
145
40.18%
58
0
0
0
126
253
887
88.7%
41.4
4
700
353
50.37%
167
186
41
5.84%
145
40.18%
58
0
0
0
126
253
1,140
114.0%
5
700
353
50.37%
167
186
41
5.84%
145
40.18%
58
0
0
0
126
253
1,393
139.3%
図表 2-8 液晶産業:工場の投資回収シミュレーションの結果(スプレッドシート抜粋)
単位:億円
日本(三重県亀山市)
07年度税制改正前ベース
償却期間=10年
73
経過年数
生産金額
償却控除前粗利益
償却控除前粗利益率(売上比)
減価償却費(A)
粗利益
間接コスト
間接コスト比率(売上比)
税引前利益=課税所得(B)
実効税率
実効税率による法人税額(C)
自治体の企業立地優遇措置(D)
(うち補助金)
(うち税軽減)
企業立地優遇措置の累積値
キャッシュフロー(A+B-C+D)
累積キャッシュフロー
(対初期投資)
回収期間(月)
1
1,400
476
34.00%
90
386
97
6.90%
289
39.54%
114
9
9
9
274
274
27.4%
2
1,400
476
34.00%
90
386
97
6.90%
289
39.54%
114
9
9
18
274
548
54.8%
3
1,400
476
34.00%
90
386
97
6.90%
289
39.54%
114
9
9
27
274
822
82.2%
43.8
4
1,400
476
34.00%
90
386
97
6.90%
289
39.54%
114
9
9
36
274
1,096
109.6%
07年度税制改正織り込みベース
償却期間=5年
5
1,400
476
34.00%
90
386
97
6.90%
289
39.54%
114
9
9
45
274
1,370
137.0%
1
1,400
476
34.00%
180
296
97
6.90%
199
39.54%
79
9
9
9
310
310
31.0%
2
1,400
476
34.00%
180
296
97
6.90%
199
39.54%
79
9
9
18
310
619
61.9%
3
1,400
476
34.00%
180
296
97
6.90%
199
39.54%
79
9
9
27
310
929
92.9%
38.8
4
1,400
476
34.00%
180
296
97
6.90%
199
39.54%
79
9
9
36
310
1,238
123.8%
5
1,400
476
34.00%
180
296
97
6.90%
199
39.54%
79
9
9
45
310
1,548
154.8%
1
1,400
476
34.00%
200
276
97
6.90%
179
39.54%
71
9
9
9
317
317
31.7%
2
1,400
476
34.00%
200
276
97
6.90%
179
39.54%
71
9
9
18
317
635
63.5%
3
1,400
476
34.00%
200
276
97
6.90%
179
39.54%
71
9
9
27
317
952
95.2%
37.8
4
1,400
476
34.00%
200
276
97
6.90%
179
39.54%
71
9
9
36
317
1,270
127.0%
5
1,400
476
34.00%
200
276
97
6.90%
179
39.54%
71
9
9
45
317
1,587
158.7%
単位:億円
韓国(忠清南道湯井面)
経過年数
生産金額
償却控除前粗利益
償却控除前粗利益率(売上比)
減価償却費(A)
粗利益
間接コスト
間接コスト比率(売上比)
税引前利益=課税所得(B)
実効税率
実効税率による法人税額(C)
自治体の企業立地優遇措置(D)
(うち補助金)
(うち税軽減)
企業立地優遇措置の累積値
キャッシュフロー(A+B-C+D)
累積キャッシュフロー
(対初期投資)
回収期間(月)
1
1,400
476
34.00%
238
239
97
6.90%
142
27.50%
39
340
340
34.0%
2
1,400
476
34.00%
238
239
97
6.90%
142
27.50%
39
340
681
68.1%
3
1,400
476
34.00%
238
239
97
6.90%
142
27.50%
39
340
1,021
102.1%
35.3
4
1,400
476
34.00%
238
239
97
6.90%
142
27.50%
39
340
1,362
136.2%
中国(北京市)
5
1,400
476
34.00%
50
426
97
6.90%
329
27.50%
91
289
1,650
165.0%
備考:累積キャッシュフローの太字は投資回収の完了を示す。
資料:ニッセイ基礎研究所試算。
1
1,400
476
34.00%
180
296
97
6.90%
199
18.00%
36
36
36
36
379
379
37.9%
2
1,400
476
34.00%
180
296
97
6.90%
199
18.00%
36
36
36
72
379
759
75.9%
3
1,400
476
34.00%
180
296
97
6.90%
199
18.00%
36
36
36
108
379
1,138
113.8%
31.6
4
1,400
476
34.00%
180
296
97
6.90%
199
18.00%
36
21
21
129
364
1,503
150.3%
台湾(台中県)
5
1,400
476
34.00%
180
296
97
6.90%
199
18.00%
36
21
21
150
364
1,867
186.7%
1
1,400
476
34.00%
300
176
97
6.90%
79
25.00%
20
20
20
20
379
379
37.9%
2
1,400
476
34.00%
300
176
97
6.90%
79
25.00%
20
20
20
40
379
759
75.9%
3
1,400
476
34.00%
300
176
97
6.90%
79
25.00%
20
20
20
60
379
1,138
113.8%
31.6
4
1,400
476
34.00%
100
376
97
6.90%
279
25.00%
70
70
70
129
379
1,518
151.8%
5
1,400
476
34.00%
0
476
97
6.90%
379
25.00%
95
95
95
224
379
1,897
189.7%
5.我が国への政策的インプリケーション
【企業の立地最適化行動=国内立地の比較優位と比較劣位の比較検討】
自動車、半導体、液晶を分析対象とした事業所投資回収シミュレーションによれば、我
が国での立地における投資回収期間は、2007 年度税制改正による減価償却制度の見直しを
織り込んでも、韓国、中国、台湾のアジア主要国より長いと試算された。
自動車産業の国内立地には、部品産業の集積や熟練工の活用、開発と生産の一体化によ
る技術開発の加速化など、比較優位な側面もある。
一方、半導体や液晶の先端ラインの立上げには、プロセス技術者やオペレーターの高い
熟練度を要する。また技術の世代交代とともに我が国が強みを持つ部材・装置技術の重要
性が高まっており、部材・装置メーカーとのコ・ワークが欠かせない。我が国の大手デバ
イスメーカーは、製造プロセスの心臓部となる設備集約的な半導体の前工程(シリコンウ
エハーに IC 回路を作り込む工程)および液晶の前半工程(薄膜トランジスタ形成、液晶注
入等)の先端ラインへの投資は基本的に国内に集中している。
合理的な自動車メーカーや電機メーカーであれば、国内立地のこれらの優位な側面と税
制面での劣位を比較検討して、グローバルな視点から立地最適化を図っていると見られる。
企業側からすれば、国内立地の比較劣位な側面が比較優位な側面を上回れば、海外移転を
進めざるをえないであろう。
このため政策側には、国内での付加価値創造の重要な担い手である自動車産業や電機産
業の生産拠点を国内に引き止めるべく、産業集積や産業人材など比較優位な側面を維持・
強化する施策とともに、税制面での比較劣位を解消していく施策を講じることが求められ
る。
【設備集約型産業の立地競争力を大きく左右する法人課税制度】
特に半導体産業では設備集約度が高く、基本的に減価償却制度および実効税率の違いが
立地条件の競争力に大きな影響を及ぼすと考えられる。先端ラインへの投資額は、微細化
とウエハーの大口径化の進展に伴い、増加の一途を辿っていくため、法人課税制度の優劣
は企業の立地選択において今後ますます重要な要素となってくるだろう。税制が現状のま
まであるならば、技術の世代交代が進むとともに、前工程ラインのアジアへの移転リスク
が高まる可能性があるとみられた。
実際、我が国唯一の DRAM メーカーであるエルピーダメモリは、昨年末に台湾での最先
端工場の合弁投資計画(台湾の大手半導体メーカーである Powerchip Semiconductor Corp.
との合弁)を発表した。同社は我が国を含む内外の複数の立地候補地を比較検討したとさ
れる。同社の今回の意思決定は、我が国の大手半導体メーカーが 90 年代に日米半導体摩擦
や顧客の海外展開への対応のため、どちらかと言えば「海外立地ありき」で中国、米国、
シンガポールなどに DRAM を中心とする一貫工場を相次いで立ち上げた事例とは異なり、
74
合理的な内外の立地最適化の結果、我が国が選択されなかったと捉えるべきであろう。逆
に、工場立地に関わる合理的な意思決定の下では、国内で投資促進に向けた制度の整備が
進展すれば、立地を国内に再び戻す「国内回帰」もありうると考えられる。
【さらなる制度改革の必要性】
減価償却制度については、2007 年度税制改正により残存価額が撤廃されたものの、自動
車では、できれば償却期間を米国(7年)やドイツ(6年)の水準まで短縮することが望
ましいと思われる。半導体および液晶では、激化するアジア勢との競争を考えた場合、償
却期間を5年から中国、台湾、韓国の水準まで、すなわち1~2年短縮することが望まし
いと思われる。
加えて、アジア立地に対する競争力を抜本的に強化するためには、法定実効税率のさら
なる引下げも検討課題であるように思われる。
【抜本的な制度改革を活かすためには低収益構造からの脱却が不可欠】
我が国の製造業は全体としては海外企業と比べて依然低収益にとどまっているとみられ
る。この低収益構造は、需要増に合わせた先行投資が十分に行われず、競争力のある設備
への更新が進まないことに起因する。老朽設備の蓄積が供給過剰と生産性低下を招いてき
た。根底には長期ビジョンを欠く横並びの投資行動がある。
我が国企業が税制のインセンティブの大きいアジアに工場を立地したり、あるいは仮に
我が国で税制のイコールフッティングに向けて、中国、台湾、韓国などアジア主要国と同
様の制度が採り入れられたとしても、我が国企業が横並びの経営マインドや投資スタンス
をそのまま持ち込み、現状の低収益構造のままであるとすれば、課税所得が赤字となり、
キャッシュ増(節税効果)をもたらすはずの税制の恩典をフルに享受できない可能性があ
る。
従って、我が国企業が税制のインセンティブをフルに享受する前提として、横並びの投
資行動=低収益構造から脱却する経営努力が不可欠であると思われる。逆に言えば、我が
国でアジア主要国並みの税制の恩典が整備される場合、あるいは我が国企業が税制の恩典
の大きいアジア立地を選択する場合、それを契機に横並びの経営マインドから脱却し、税
制の恩典をフルに享受しつつ、タイムリーかつ十分な先行投資を行うならば、海外大手並
みの高収益体質を構築することが可能となろう。
【求められる産業政策と租税政策の一体化を図った明確な国家戦略】
半導体の減価償却期間は中国および台湾では 3 年と日本より2年も短い。また液晶では、
日本が 5 年に対して、韓国では 4 年、さらに台湾では 3 年と設定されている。生産工程に
用いるデバイス製造装置は各国間で大きな差異がないにもかかわらず、償却期間には大幅
な格差が生じている。
75
アジア主要国では、国が描く産業構造ビジョンの中で強化すべき産業領域が明確化され
ており、当該領域に対しては国際的に比較優位な減価償却制度を設定するという、産業政
策と租税政策の一体化を図った明確な国家戦略が採られているように思われる。日本にお
いても、国として強化すべき産業領域の明確化と、産業構造ビジョンと法人所得課税体系
の最適化を図ることが求められる。
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<資料編>事業所の立地選択要因の分類
ここでは、事業所の立地選択要因を(1)時間的要因、(2)1次的原価要因、(3)そ
の他非原価要因、の3つに大分類し、各々に当てはまる項目を整理した。
(1)時間的要因(※Time to Market に関わる要因)
①部材要因
¾
開発、工場立上げ、デイリーの生産工程におけるサプライヤとの擦り合せ作業の必要
性
(例)半導体・液晶産業では世代交代とともに技術難易度が高まり、部材・装置産業
とのコワークの重要性が増している。
¾
⇒
サプライヤとの近接性あるいはアクセス可能性
⇒
サプライヤとの人的ネットワークや信頼感(=ソーシャル・キャピタル要因)
キーパーツ(キーデバイス)のコストに占める比率
⇒
¾
高ければ国内立地で多機種をスピーディに立上げ(例:デジタルカメラ)
金型・生産設備の内製化拠点(※一品物を作る強さを持つ国内生産が望ましい)との
アクセス
⇒
製品ライフサイクル短縮化に対応した生産システムの進化を支える生
産設備内製化拠点と近接した立地の追求
②自社内要因
¾
¾
技術開発や量産立上げのスピードアップのための自社事業所間の近接性・一体性
・開発拠点と生産拠点の近接性・一体性
⇒
技術開発スピードに関わる
・部材拠点と製品拠点の近接性・一体性
⇒
量産立上げスピードに関わる
海外拠点では製品ライフサイクル短縮化を受けて、消費地立地から一拠点での集中生
産へ転換するモデルもありうる(※輸送費率、関税の勘案が前提)
③ユーザー要因
¾
顧客との近接性(顧客の開発ニーズや生産プロセス上の相互調整作業などユーザーニ
ーズの取り込み作業、IT でのやりとりでなく対面での作業の必要性)
77
(2)1次的原価要因
(注)「時間的要因」および「その他非原価要因」も最終的には原価に影響すると見られるため、1次的
効果として直接的にコストに効く要因をこれらと区別する目的で「1次的原価要因」とした。
①部材物流要因
¾
部材の輸送コスト・輸送難易度
⇒
部材産業との近接性
②インフラ・ユーティリティ要因(※電気・工業用水等の用役、道路・港湾等の交通イン
フラ)
¾
インフラ・ユーティリティ単価
③労働力要因
¾
人件費単価
④製品物流要因
¾
製品の輸送コスト、輸送難易度
※石油化学品(とくにエチレン)、自動車は輸送コストが高い
⇒
消費地立地型
⑤政府要因
¾
税制(法人税、減価償却税制、不動産税制、関税)
※特に法人税、減価償却税制は設備集約型事業の投資回収に直接的に効く
¾
企業誘致策(※ここではインセンティブなど金銭的項目のみを含み、インフラ整備な
どは「その他非原価要因」に分類)
78
(3)その他非原価要因
①インフラ・ユーティリティ要因
¾
政府等によるインフラ・ユーティリティの整備状況
¾
インフラ・ユーティリティの供給安定性
※電力単価が安くとも、停電が多いとプラント運転が不安定となりコスト高に
⇒
ユーティリティ単価だけでなく、その供給安定性を含めた総合評価が必要
②労働力要因
¾
労働生産性=労働投入原単位
・ プロセス技術者・オペレーターの熟練度
・
IT 教育の普及度
・ 立地国の治安状況
⇒
⇒
⇒
歩留まり(不良率)に影響
熟練度の高いプロセス技術者・オペレーターの確保可能性
守衛の数に影響
※労働力は単価と生産性との総合評価が必要
¾
労働力確保可能性(立地地域の労働需給、労働者の勤務・居住地に対する志向・意識)
¾
海外立上げ要員の維持・育成
¾
海外生産拠点の増加に伴い工場立上げ要員の負荷が増加しすぎる場合、消費地立地か
⇒
国内立地の必要性
ら一拠点での集中生産へ転換するモデルもありうる(※輸送費率、関税の勘案が前提)
③技術要因
¾
キーテクノロジー(コア技術)集約型製品
⇒
偽造対策、製造技術ノウハウのブラックボックス化など知財保護が必要
¾
技術のグルーピングによる立地集約(生産技術、基礎研究、開発・試作など)
¾
製品は現地仕様なのか、世界標準なのか?
⇒
開発機能の立地決定因
④自社内要因
¾
土地勘(創業の地、既存拠点立地)
⑤産学連携要因
¾
大学・研究機関等との近接性あるいはアクセス可能性
⑥リスク分散要因
¾
災害リスク、カントリーリスクを勘案
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非 売 品
禁無断転載
平成18年度
我が国製造業のサプライチェーンにおける
ミクロ分析事業報告書
発
行
発行者
平成19年3月
社団法人 日本機械工業連合会
〒105-0011
東京都港区芝公園三丁目5番8号
電 話 03-3434-5384
株式会社ニッセイ基礎研究所
〒102-0073
東京都千代田区九段北四丁目1番7号
電 話 03-3512-1797
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