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Munster Essen Bremen

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Munster Essen Bremen
高岡未来トランスポートビジョン
ドイツ 海外視察
報 告 書
Munster
Essen
Oberhausen
Bremen
Darmstadt
Frankfurt
CONTENTS
都市1 環境首都 ミュンスター
視察1 環境+生活の質 両面を実現するカーフリー団地------------P.11
視察2 適正規模で豊かな時間を過ごせるミュンスター中心部-----P.15
(参考)自転車のまちミュンスター-----------------------------------------------------P. 8
都市2 欧州文化首都 エッセン
視察3 文化創造による産業転換---------------------------------------------------P.
9
都市3 新都市と公共交通の整備 オーバーハウゼン
視察4 専用道による公共交通機能の強化-----------------------------------P.14
都市4 歴史都市 ブレーメン
視察5 歴史的空間を最大限活かすトランジットモール------------------P.16
(参考)ブレーメン観光協会の観光政策--------------------------------------------P.21
都市5 中心市街地再生 ダルムシュタット
視察6 トランジットモール+商業誘致による中心市街地再生------P.22
参考資料
参考1 出典・参考文献----------------------------------------------------------------------P.25
参考2 視察参加者---------------------------------------------------------------------------P.25
参考3 視察スケジュール--------------------------------------------------------------------P.26
参考4 参加者集合写真--------------------------------------------------------------------P.27
都市1 環境首都 ミュンスター
【都市概要】
・ドイツ北西部の人口 28 万人(ミュンスター大学の学生約 4 万人)の都市。
・1990 年前後から地球温暖化問題に取り組み始め(ローカルアジェンダ)
、1997 年には「環境首都」
を受賞。着実な CO2 の削減が進められている。
視
1
察
エコ団地
環境+生活の質 両面を実現するカーフリー団地
車の保有を禁止するカーフリー団地は、自転車の交通分担率が高いミュンスターな
らではの取り組みである。気候変動(温暖化)対策と、QOL(生活の質)の両面
を高いレベルで実現している先進例である。
1.ヴァイセンブルグカーフリー団地の概要
・ドイツ在住で環境NGO活動を行っている近江まど
か氏の WEB サイト「ドイツ環境ジャーナル」出典1を
参考に団地の概要を整理する。
・1996 年にミュンスター市は州政府主催の「カーフリ
ー団地モデルプロジェクト」への応募を議決した。
これが団地建設の始まりである。
・1997 年、州・市政府や都市開発研究所、市民団体、
カーフリー団地入口
入居希望者が、ワーキンググループを結成。
・1999 年に建設開始。2001 年∼入居。
・街の中心地からミュンスター中央駅を挟んで、二キ
・団地入口にはポールが立てられ自動車の進入ができ
なくなっている。
・手前右は訪問客用駐車場。
ロメートル南に立地している。軍用地だった約四ヘ
クタールの土地が利用。
・車を所有していない人しか入居できない仕組み。
・今回は近江氏にコーディネートいただき、カーフリ
ー団地の自治会長を努める Anke Feige 氏にお話を
聞くことができた。
・Anke 氏によると、現在、全体計画の2/3は建設済
みである。130 世帯、452 人が居住している。最終的
には約 200 世帯になる予定である。
・3∼4部屋の賃貸が標準であり、いろいろな大きさ
の住居があり、購入も可能である。
・この団地は、社会福祉住宅であり、所得の低い方が
中心に入居している。
・自動車を所有しない人のみ入居できる点が特徴であ
1
Anke Feige 氏による説明
・カーフリー団地について、7年前からこの団地に住
んでいる Anke Feige 氏(写真左)に話を伺った。
Anke 氏は地質学者であり、環境政策のNGOにも
参加。団地の自治会長も努めている。
・隣は通訳頂いた泊知子氏(写真右,ミュンスターの
エコ団地在住)。
り、車の登録で分かることになっている。
・このような団地が可能な条件は、中心部に近いとい
う点である。バスも多く走っている。健康であれば
十分可能である。
・勤務先が変って車が必要になったときなどは1、2
年は猶予がある。会社と相談してうまく調整できな
ければ団地を退去しなければならない。
・建物の屋根にはソーラパネルを設置予定であったが、
今は緑化になっている。
・事業主体は、この団地は私企業のプロジェクトであ
団地内のコミュニティスペース
り、LEGという会社が建設、運営している。
・建物の中には完成予想の模型があり、計画の進捗が
分かるようになっている。
・周辺の緑地は、住民の共同の庭。
2.民間会社が運営できる理由
・引き続き、Anke 氏に民間会社が建設、運営できる理
由を訊ねた。(以下 Anke 氏の説明)
・社会福祉住宅であり、周辺の賃貸住宅との差額はミ
ュンスター市が出している。水周りなどを除くと平
米あたり5ユーロである。周辺の相場は 10∼12 ユー
ロである。
・ミュンスター市には社会福祉住宅が不足しており、
民間による社会福祉住宅の整備も進められている。
・州のコンテストに入賞したことで、初期投資にも補
助があった。
団地内の通路
・団地建設には4つの条件が必要だった。カーフリー
団地をつくりたいという市民団体、コンテストを開
催した州、政治、そして事業を引き受ける企業であ
・通常は自動車が通ることがなく、子供の絶好の遊び
場になっている。
・通路上で住民同士の井戸端会議が多く、コミュニテ
ィの結束力を高めている。
る。
3.通路がコミュニティスペースに、一方で使いづ
らい点も
・続いて Anke 氏が団地内を歩きながら、ハード的な部
分でのよいところ、悪いところを説明して下さった。
(以下 Anke 氏の説明)
・道路は車が通れない幅であるが、芝生の部分は石を
敷きつめ硬くなっており、緊急車両やゴミ収集車が
通っても大丈夫になっている。車が来ないことから、
子供たちの絶好の遊び場になっている。
・バルコニーは全ての建物についている。冬に暖かい
設計である。
2
南側のバルコニー
・全ての建物にバルコニーがついており、窓を大きく
することにより冬の暖かさを確保している。
・1 階の住宅には小さな庭が付く。
・ソーラパネルはついていないが、低エネルギー基準
は満たしている。
・建物の地下室は自転車などの保管用であるが、スロ
ープがきつすぎて外からの通用口がつかえず、エレ
ベーターで運ばなければならない。
・建築家はカーフリー団地として、特に自転車利用の
しやすさに対する配慮が必要だった。しかし駐輪場
に屋根が無いなど問題は多い。
建物前面の駐輪場
・駐輪場には屋根が設置されておらず、2人乗り用の
自転車などは道にはみ出るなど使い勝手が悪い。
4.共同の部屋がコミュニティの中心
・団地内には住民がお金を出し合って借りている部屋
があり、様々なコミュニティ活動に使われている。
Anke 氏がこの部屋に参加者を案内し、コミュニティ
活動などについて説明して下さった。
(以下 Anke 氏の説明)
・住民の会があり、月に5ユーロずつ集めこの部屋を
借りている。私は自治会長をつとめている。
・日曜の午後は、みんなでここでコーヒーを楽しむ。
当番がクッキーやお菓子を焼くことになっている。
お金をかけないで楽しめる。
・バーベキューを行うこともあり、フリーマーケット
などのイベントも年に1度開いている。
・この部屋は貸し出しもしており、絵画教室が開催さ
共同の部屋の様子
・絵画教室で描かれた絵が飾られている。
・住民同士で共有する時間が絆を強めている。
れているほか、結婚式にも利用されている。
5.最大の長所はコミュニティの絆とそれによる
生活の質の高さ
・カーフリー団地の長所、短所について質問し Anke
氏から回答を頂いた。
(以下 Anke 氏の説明)
・長所は、コミュニティが優れていることである。い
ろいろな人と知り合える。ドイツでもつきあいの無
い団地も多い。
・ドアから出たら道端でだれかと話をする。とても環
境がよい。お年寄りの方が小さな村から引越しされ
てきたが、村とおなじくらい交流があり満足だと言
っている。
・子供たちに特によい。どこでも安心して遊ぶことが
できる。
3
団地内はみんな顔見知り
・通りすがりのおじいちゃんが、笑顔であいさつ。
・Anke 氏は団地の人ほぼ全員の顔と名前が分かるそ
うである。
・短所は住民の方でこっそり車を持つ人がでてきてい
る。フライブルグのように、高い駐車料金を支払っ
て車を持つという方法も可能ではないかと思う。
6.車を使いたいときはカーシェアリング
・電車やバスでは行けないところはカーシェアリング
の車を使うことができる。
・この団地の入り口に9台あり、インターネットで予
約できる。自動車のメンテナンスなども不要であり、
とても楽である。
カーシェアリング用駐車場
・インターネット等で予約し無人貸し出しシステムで
利用できる。
7.今後広まる可能性のあるカーフリー団地
・最後にカーフリー団地の今後の広まりについて質問
し Anke 氏から回答を頂いた。
(以下 Anke 氏の説明)
・本団地はとてもよいモデルになっている。他の地域
で建設される可能性は高い。
・車の無い生活を楽しみたいと考えている。外に出て
も車の音がしない。とても静かである。中心部まで
自転車で 10 分である。
団地内の風景
・将来的にカーフリー団地は増えていくと考えている。
・自動車の危険や騒音が全く無い、人間中心の街区で
ある。
8.総括:社会的エコロジーへの展開
高岡の社会に活かすべきポイント
・先行するフライブルグのヴォーバン地区に対し次の
ような評価がある。
「ヴォーバン地区は、都市部にお
いて、利便性や文化性、経済性を損なわずに、環境
負荷の極めて低い生活様式を提供している」出典2。
・ヴァイセンブルグ・カーフリー団地では、上記の評
価と同様の感想を持った。居住空間として最も重要
な「生活の質を高める住環境」と、気候変動に配慮
した「環境性能」を両立している点が見事である。
これは社会的エコロジーへの展開といえる。
・今回のプランでは、ゾーン1にスマート・シティを
建設し、産業イノベーション、交流機能強化につな
げる提案をしているが、車との関係性に気をつけて
QOL(生活の質)を高める空間創造を併せ持つこ
とが必要である。
4
団地内を自転車で走る子供達
・特に子供、お年寄りに優しいまちである。
・人間の発達や福祉など生活の質と環境のバランス
がうまくとれている。
視
2
察
中心市街地
適正規模で豊かな時間を過ごせるミュンスター中心部
目抜き通りであるプリンツィパルマルクト通りを背骨とし、一定のエリアが歩行者
ゾーンとなっている。大聖堂、教会があり、商店、オープンカフェ・レストランが
並ぶこの通りは、休日をゆっくり過ごしたくなるまちである。
1.休日をゆっくり過ごしたくなる中心部
・ミュンスターは、国連環境計画の「最も暮らしやす
い街コンテスト」人口 20∼75 万人の部において
2004 年最優秀賞を受賞するなど、生活の質に重点を
置いたまちづくりが進められている。
・戦後復興の際に、8世紀の町並みを活かしたまちづ
くりを行うという機運があり中心部の景観形成が進
んだ。1950 年代から幹線道路整備の際に併せて自転
車道整備を進めて、1970 年代から中心市街地に入る
自動車交通を抑制する方向へ踏みだした。戦争で破
壊されていた旧市街地を取り囲む城壁跡は、自動車
のための環状道路にする計画だったが、自転車や歩
プリンツィパルマルクト通り
・1 階は商店が並び、オープンカフェ・レストランも
ある。通りは歩行者ゾーンでこの日は自転車レース
が開催のためフェンスが設置されていた。
・奥に見えるのはランベルティ教会。
行者のための道路(プロムナード:環状自転車道)
に変更するなど、特に自転車ネットワーク整備に力
点が置かれた出典3。
歩行者専用道路
(20∼9 時自転車通行可)
歩行者専用道路(自転車通行可)
一方通行(自転車双方向通行可)
図1
ミュンスター中心部
歩行者ゾーン・自転車道
5
出典3
2.歩行者ゾーンの面的広がり
・図1に示すように大聖堂 Dom を中心にミュンスター
中心部は歩行者専用道が広がり、人間中心のまちに
なっている。
・自動車は、中央駅と南西方向から中心部の近くまで
アクセスできるが、中心部を通り抜けることはでき
ない。
・目抜き通りであるプリンツィパルマルクトには商店
やカフェ・レストランが並び、ちょっと歩くと大聖
プリンツィパル通りのオープンカフェ
・歩行者ゾーンに面してのオープンカフェはとても気
持ちがよく、人で賑わっていた。
堂や教会など歴史的な建造物に出会える。
・ドイツでは日曜・祝日に商店の営業が規制されてい
る。訪れたのは祝日であったため飲食店以外の店舗
は開いてなかったが、ショーウィンドウが美しく飾
られ閑散とした雰囲気は皆無であった。
3.総括:歴史的まちなみと何を組み合わせるか
・ミュンスターのまちは、歩いていてとても楽しく、
視察参加者からは「いいまちだ!」という声が何度
も聞かれた。
・歴史的な町並み、歩行者優先ゾーン、商店、オープ
ンカフェ・レストラン、これらの要素が連続してつ
ながっていると、人は歩き、滞在したくなる空間が
生まれる。
路地に面したカフェ・商店
・各路地にもオープンカフェや商店が並び、歩いてい
て楽しく、疲れたらお茶ができる。
・今回のプランでは、ゾーン2歴史街区において、歩
行空間確保やアート活用を提案している。歴史的空
間を歩行者専用ゾーンにし、アートと商業・飲食を
連携させることにより、滞在したくなる街を生み出
している点を参考にしたい。
ショーウィンドウ
店舗前面の工夫
・洋服、靴、鞄などの店舗が多いが、画廊など、高い生
活の質に必要な店舗も見られた。
・日曜、祝日は商店の営業が規制されているため、いか
に商品を見せるかという点で工夫されているケースが
多い。
6
自転車レースの様子
路地の賑わい
・自転車のまちにふさわしく、普段は歩行者ゾーンであ
る目抜き通りを使って自転車のイベントが行なわれて
いた。
・中心部に広がる歩行者ゾーンの路地は、歩いて楽しく、
ぶらぶらできる通りになっている。
中心部のレストラン(オープン)
アートパフォーマンス
・レストランは店舗前面のオープンの部分にテーブル・
イスを並べて営業しており、とても気持ちの良い食事
ができる。
・大道芸などのアートパフォーマンスはそれほど多くは
無かったが、たまに出会うと、とても質が高かった。
大聖堂Domと広場
プリンツィパルマルクト通りの夜景
・戦争により爆撃された大聖堂が修復されている。広場
では週 2 回マーケットが開かれる。
・全体的に通りの照明は暗めである。
・店舗のショーウィンドウはライトアップされており、
歩いていて楽しい。
7
(参考)自転車のまちミュンスター
・今回の視察テーマからは外れるが、ドイツで最も自
転車利用率が高いミュンスターについて補足する。
―『生活道路の総合研究 報告書』出典3より整理―
経緯
●1993 年州の自転車交通モデル都市に推薦
新しいモビリティのモデル都市」を宣言
●1995 年自転車駐輪場附置義務条例を制定
●1999 年中央駅前に約 3,300 台収容の自転
車駐輪場を整備
歩道内の自転車走行空間
・レンガ色の通行帯が多く、うっかり歩いていると
ベルを鳴らされる。
●2004 年「自転車交通コンセプト 2010」を
策定
イン
フラ
●自転車走行空間ネットワーク(2008 年)
313km
⇒自転車道(分離された歩道含む)約 298km
自転車専用道路 9km
自転車通行可バス専用車線 3km
利用
状況
●1日あたりの自転車利用トリップ
車道内の自転車走行空間
約37 万トリップ
・バス停が連続する区間では、自動車とバスの間の
車線が自転車走行帯となっていた。
(中央駅周辺)
●自転車分担率(2007 年調査)
37.6%
(自動車は 36.3%)
※フライブルク、ブレーメンは 20%未満
自動車
バス+鉄道
自転車
歩行者
城壁跡のプロムナード
・都市の外郭である城壁跡を自転車と歩行
者の道路にしている。
図2
ミュンスター市交通手段分担率の推移
出典3
交差点の様子
・自転車が直線的に横断できるように工夫。
8
都市2 欧州文化首都 エッセン
【都市概要】
・ルール工業地帯の中心都市。鉄鋼、石炭などの重工業から 60 年代以降の産業転換を経て、管理中枢
機能(本社機能)、流通、教育、軽工業を中心とした都市に再生。
・人口約 58 万人、2010 年の欧州文化首都に選出。
視
3
察
創造都市
文化創造による産業転換
ルール工業地帯の産業遺産としてユネスコ世界遺産に登録されているツォルフェ
ライン炭鉱業遺産群。その一角のレッド・ドット・デザイン・ミュージアムは、新
しい産業創造の拠点、広域交流の拠点となっている。
1.ツォルフェライン炭鉱業遺産群の概要出典4
・ツォルフェライン炭坑は 1847 年に採掘開始。1986
年の閉山まで 140 年の歴史を持つ。ツォルフェライ
ン炭坑の第 12 立坑は、バウハウスの影響を受けて
「世界で最も美しい炭坑」と呼ばれていた。
・このような歴史を受け、ツォルフェライン地区の建
築群の保存、再生を目指す動きが進み、ドイツ産業
デザインの歴史を踏まえ、デザイン産業を中心とす
る創造産業の集積を目指すこととなった。
・図3に示すように、ツォルフェラインは、第 12 立坑
エリア(図中A)、第 1/2/8 立坑エリア(図中B)
、
コークス製造エリア(図中C)の3つのエリアで構
第 12 立坑
・ツォルフェライン地区のシンボルとなっている第
12 立坑。フリッツ・シュップ、マルティン・ク
レーマー設計
成されている。
図3
ツォルフェライン炭鉱業遺産群平面図
9
出典5
・今回見学した第 12 立坑エリア(A)は、デザイン産
業の拠点となるデザイン・センター(ボイラーハウ
ス跡)
、ビジターセンターであるルール・ミュージア
ム(石炭洗浄工場跡)となっている。
・第 1/2/8 立坑エリア(B)は、舞台技術、ダンス、
音楽講演会場となっている。
・また、コークス製造エリア(C)は、コークス炉を
使ったスケートリンク、プール、アート展示場とし
て利用されている。
ルール・ミュージアム入口
・ルール地方の炭坑文化を展示するルール・ミュー
ジアム。
・入り口はガラス張りのエスカレーター。
2.デザイン・センターの概要
・第 12 立坑エリアの旧ボイラーハウスは、ノーマン・
フォスターの設計によりリニューアルされ、ノルト
ライン・ヴェストファーレン・デザイン・センター
(以下デザイン・センター)となっている。デザイ
ン・センターはエッセン市で戦後設立された産業デ
ザインに関する非営利組織を前身とし、ツォルフェ
ライン開発にともなってこの地に移転している。
・デザイン・センターはレッド・ドット・デザイン賞
を創設し、優れたプロダクト・デザインに授賞を行
うほか、デザイン関連の貿易フェア、会議、ワーク
ショップ、コンサルティングサービスを行っている。
・さらにレッド・ドット・デザイン・ミュージアムを
NRWデザイン・センター
・ボイラーハウス跡を利用した施設。デザイン・セ
ンター、レッド・ドット・ミュージアムなどが入
る。
併設し、受賞作品の展示を行っている。出典4
3.レッド・ドット・デザイン・アワードとは
・レッド・ドット・デザイン・アワード(Red dot desaign
award)は、IF(International Forum Design Award)、
IDEA(Industrial Design Excellence Awards)と共に
世界的なデザイン賞の一つである。1955 年に創設さ
れ半世紀以上にわたり毎年開催されており、国際的
な審査員団が選定する優れたデザイン作品に与えら
レッド・ドット・デザイン・ミュージアム入口
れている。
・2011 年は世界 40 カ国から計 6,468 作品が応募。プ
ロダクトデザイン部門では 60 作品、コミュニケーシ
ョンデザイン部門(広告、ポスター等)では 127 作
品が選定されている。出典6
10
・デザインセンターの中心部分がレッド・ドット・
デザイン・ミュージアムとなっており、有名なロ
ゴが来訪者を迎えてくれる。
4.レッド・ドット・デザイン・ミュージアム
デザインの種を保存し、創造する空間
・レッド・ドット・デザイン・ミュージアム(以下、
RDDM)は、レッド・ドット・デザイン賞を受賞
したプロダクトデザインが展示され、保存される場
所である。
・受付から2階に上がり展示空間に入ると、炭坑跡地
としての荒々しい空間の中に、自動車が上から吊り
下げられており、入場者の心を一気に惹きつける。
・ミュージアム内部には順路は設定されていない。巨
大な工場跡地を探検する気分で、様々な空間に配置
された洗練されたプロダクトデザイン群に出会うこ
とができる。マップ片手に目的地を探すのではなく、
未開の地を切り開き、偶然の発見に驚くという体験
RDDM展示空間
・展示空間に入るなり、荒々しい工場跡地に、吊り
下げられた自動車が目に飛び込み、強いインパク
トを受ける。
に満ちている。このような楽しさは新築のミュージ
アムでは難しく、工場跡地という空間利用を上手く
活用している。
・展示空間には、全体位置図や、階段、エレベーター
の位置を示すサインはほとんど皆無である。通常の
ミュージアムとは違い、自分で発見し、たどりつく
楽しさを演出する工夫と思われる。
・2階は、まとまりのある展示空間になっており、デ
ザインそのものを鑑賞し、それを基に新しい発想を
得ることができるスペースとなっている。
壁際の展示
・一方2階の廊下周辺は、工場跡地ならではの空間を
活かした展示に様々な箇所で出会うことができ、そ
・壁際は自然光とスポット光を上手く組み合わせ、
家具の展示空間となっている。
の大胆さに驚きながら進むことになる。また壁際を
利用した展示では、一階で見上げていた家具を、や
や見下ろすアングルで鑑賞でき、見る角度によるお
もしろさ、様々なアングルからのデザインの工夫な
どを見学することができる。
・3階に上がろうとして階段を探しても見つからない。
さらに上に展示空間がありそうなのだが、外周の廊
下を一周しても階段が無いことに気づく。実はやや
見えにくいところにエレベーターが設置されており、
3階以上にはエレベーターを使う設計になっている。
・展示は、インテリア、家電製品、照明機器、キッチ
ン、水周り、電子機器、映像機器、オフィス用品、
スポーツ用品、腕時計等々多岐にわたる。
11
2階への階段
・階段の場所を示す表示や、空間全体の位置図等の
サインは極力省かれている。
・自分で発見し、たどり着く楽しさに満ち溢れてい
る。
2階の展示空間その1
2階の展示空間その2
・2階にはややまとまりのある展示空間があり、テーマ
別に展示されている。各デザインの解説は廊下の柱等
に設置されている。
・工場跡地の雰囲気を部分的に活かしながら、展示空間
としての質を確保している。
・ここは水周り関係のデザイン。
2階の展示空間その3
工場跡地を利用した展示その1
・1階から見上げていた家具類を、今度は見下ろす角度
で鑑賞できる。手前のボードはデザインの解説。
・無骨で荒々しい工場内部の空間を活かし、立体的で自
由な展示を随所に見ることができる。
工場跡地を利用した展示その2
4階の展示空間
・石炭を運ぶコンベアを利用した掃除機の展示。
・工場跡地を偲ばせる装置自体にも目が行くようになっ
ている。
・3、4階の展示空間は狭いが、下まで見渡せるポイン
トが多く、全体の空間把握が可能である。
12
・3階、4階の展示空間は広く無いが、いろいろなア
ングルで工場跡地全体を見ることができる楽しさが
ある。
・そして2階、1階と戻りながら、まだ見ていない空
間を探すと、意外にも出会っていなかったデザイン
を発見することができて、また見入ってしまう。
・各展示物のデザインを楽しむことはもちろん、ミュ
ージアム全体の空間デザインや、そこで演出されて
いる偶然の発見を楽しみながらあっという間に時間
が過ぎてしまう仕掛けとなっている。よいデザイン
を創造的に鑑賞するためには、よい空間が必要であ
工場跡地を利用した展示その3
・展示空間として様々な空間を活用している点が特徴
である。
・デザイン自体が見えづらい場合もあるがワクワク感
は高い。
り、このミュージアムは工場跡地の特性を活かした
空間デザインとプロダクトデザインの組み合わせが
秀逸であるといえる。
5.総括:創造都市としての機能
・ツォルフェライン炭鉱業遺産群の再生は、ブラウン
フィールドである工場跡地を活用し、デザイン等の
創造性を活かした産業転換を図る、創造都市の王道
ともいえる手法である。
・2010 年の来訪者は約 170 万人であり交流人口が増加、
デザインセンターや教育施設を連動させた地区内の
文化創造機能も機能している。さらに 2010 年にはル
工場跡地を利用した展示その4
・一見、何に使われていたのか分からないような空間
を活用することにより、プロダクトデザインの魅力
を強調している展示も多くみられた。
ール地方全体が「欧州文化首都」に選ばれ、音楽祭、
国際美術展など 2500 に及ぶイベントが開催され、ア
ートマネジメントの力が急激に伸びている。
・高岡の課題である、ものづくりを活かした産業政策、
交流政策の推進に、未来トランスポートビジョンで
提案しているプロダクト・デザイン・ミュージアム
が有効である点は確認できたように感じる。
・展示空間として大規模工場跡地を活用することによ
り、産業転換の方向性を示すとともに、全国から交
流人口を惹きつけ、そこで新しいデザインが創造さ
れるクリエイティブ・コアへ発展させることが、高
岡の産業政策に求められる。
車の裏側から入口の望む
・入口からの直線的な空間と、吊り下げられた自動車
がさまざまな場所から見え、来場者に自分の位置を
把握させる機能を担っている。
13
都市3 新都市と公共交通の整備 オーバーハウゼン
【都市概要】
・人口は約 22 万人。19 世紀中頃から、炭鉱、製鉄業が発展。中心を担ったのはグーテホフヌンクスヒ
ュッテ(GHH)社であり、1990 年前後に操業停止。
・かつて GHH 社の溶鉱炉が 3 基あった場所を新都心ノイエ・ミッテと位置づけ、大規模ショッピング
センター「ツェントロ」を整備(1996 年開業)
。ツェントロまでトラム・バスの専用道を新しく整備
している。
視
4
察
公共交通
専用道による公共交通機能の強化
ショッピングセンター開発に伴い建設された公共交通の高架専用道(トラッセ)は、
トラムとバスが高速で走行することにより、高い速達性を確保するユニークな取り
組みである。
1.ツェントロの開発
・ツェントロ開発とそれにあわせた公共交通整備に関
しては、立命館大学教授近藤宏一氏がまとめた『ド
イツにおける「まちづくり」と公共交通の整備につ
いて(2001 年)』に掲載されていることから、その
内容を参考に概略を整理する。
・オーバーハウゼン市は製鉄と炭坑で栄えた工業都市
である。しかし製鉄所と炭坑が 1992 年までに閉鎖
され,4 万人分の雇用が喪失、失業率は 15%にまで
上昇した。こうしたなかで新都心としてドイツでも
例外的な巨大ショッピングセンターを開発し,注目
トラッセの駅からの動線
・トラッセ(専用道)の駅からは、屋根がかかった歩
行空間を歩き、ツェントロへアクセスできる。こち
ら側には駐車場がなく、ゆとりのある空間である。
された。
<ショッピングセンターの概要出典7>
名
称
「ツェントロ」(CentrO.)
核店舗
百貨店(カウフホフ Kaufhof)
規
床面積7万㎡
駐車台数約 1 万台
敷地面積 150ha
従業員数は 6,500 人
模
※イオンモール高岡の商業床面積は
64,000 ㎡、駐車台数は 3,600 台)
来客数
1日の来客数は 7 万人
その他
周辺にはアリーナ、事務所ビル、展示会場が
併設され新都心を形成
ツェントロの内部
・ショッピングモール型の商業施設であり、約 600
mの吹き抜け二層式モールに約 200 店舗が並ぶ。
注:2001 年時点の数値
14
2.ツェントロ開発と公共交通整備
・ツェントロの開発にあたっては旧市街とも中央駅と
も離れているので、交通の確保が課題であり、市当
局には市民が自動車でツェントロへ行く習慣をつく
らないようにしたいという狙いがあった。
・また、旧市街とツェントロを便利に結ぶことで旧市
街にもツェントロの波及効果が及ぶことを期待して,
利便性の高い公共交通機関の設定へむけて様々な予
測やシミュレーションを行った結果、新型トラム
(LRT)が導入された。
<新型トラムの概要出典7>
路
線
1路線
中央駅横の停留所から専用高架線を望む
・手前は中央駅横の停留所。トラムが見えているとこ
ろからは専用高架線(トラッセ)であり、トラムと
バスが高速で運行する。自動車は入れない。
延長8km
・市内を南北に走り中央駅へ、そこから高架専
用線(トラッセ)でツェントロを経てもう一
つの旧市街へと北上
開業年
1996 年
費
総投資額:336 百万 DM(約 235 億円)
用
州、連邦の助成:231.4 百万 DM
市交通局の負担:104.6 百万 DM(約 73 億円)
※ドイツマルク 70 円換算
利用者
・1日 7 万人の来客中、2 万人∼2 万 1 千人程
度がトラム、バスを利用(約1/3)
その他
・バス路線も同時に再編
・トラムの 専用道(高架)に市内各地からのバ
ス路線が乗り入れ多くの地域とツェントロを
直結
ツェントロに隣接する駅の様子
・中央駅からは連続した高架でツェントロに隣接す
る駅に到着する。信号、交差点が一切無いため速
達性が高い。
3.総括:速達性の高さによる利便性
・今回はスケジュールの都合で関係者へのヒアリング
等はできなかったが、高架専用線トラッセは速達性
が高くストレスが少ないことを実感した。トラッセ
をトラム、バスが走ることにより、中央駅周辺への
アクセス性は非常に高いと推測される。
・日本では現在、軌道上をバスが走行することはでき
ないが、例えばトランジットモール区間で組み合わ
せるなど高岡においても参考にできる。柔軟な発想
により交通を考えていく必要性を強く認識すること
トラム内部の様子
・高速運行の横を、対向するトラム、バスがすれ違う。
専用道の走行性は高く、揺れなどは少ない。
ができた。
15
都市4 歴史都市 ブレーメン
【都市概要】
・ドイツ北西部の人口 55 万人の都市。港湾都市であり、第二次世界大戦で大規模な空襲にあっている。
・造船や重工業施設が 70 年代までに閉鎖され、航空宇宙産業とサービス業に転換している。
視
5
察
歴史都市
歴史的空間を最大限活かすトランジットモール
ブレーメンでは、歴史的街区を歩行者中心の空間とし、新しいトラムを通すことに
より重厚かつ賑わいのある中心部が生まれている。歴史、交通、商業が連携した魅
力的な空間創出に成功している。
1.中心部の歴史性
・ブレーメンは 1200 年の歴史を持つ古いハンザ都市で
あり、中心部にある市庁舎はヴェザー・ルネッサン
ス様式でユネスコの世界文化遺産に登録されている。
隣の二つの塔を持つ大聖堂は 1042 年に建築が開始、
マルクト広場の平和と権利のシンボル「ローラント
像」も世界遺産登録されている。※出典8
・重厚な歴史的空間は、一帯が歩行者専用ゾーンとな
っており、オーバーン通りはトラムが走るトランジ
ットモールとなっている。
・目抜き通りや路地空間には商業施設が張り付き、中
中心部の様子
・左が市庁舎、右が大聖堂、重厚で歴史を感じる景観。
周辺は歩行者ゾーンとなっており、市民、観光客が
自動車を気にせず歩くことができる。
心部の広場では市も開催されている。オープンカフ
ェもあり歩いてとても楽しい空間となっている。
・今回の視察参加者にとっては、
「歴史を活かした歩い
て楽しいまち」を、十分に体験できた都市であった。
2.公共交通と歩行者を中心とするまちづくり
・1990 年の都市交通マスタープランで路面電車を基軸
とする公共交通体系が示され、1998 年に路面電車の
延伸、新車両の導入(93∼96 年で 78 編成)、駅前広
場への乗り入れ、トランジットモール(公共交通と
トランジットモール
歩行者の通り)の導入が進められた。※出典9
・中心部を歩行者ゾーン化する取り組みも、公共交通
の再生と歩調を合わせて、90 年代から進められた。
・駅から大聖堂までの約1km が歩行者の流れの中心軸
として位置づけられ、オールドタウンの入口となる
ゼーゲ通りからは歩行者専用ゾーンになっており、
16
・市庁舎横のオーバーン通りは、約 800mにわたりト
ランジットモール空間となっている。
・中心部へはトラムで気軽に来ることができ、飲食、
買物、観光を楽しむことができる。
直交するオーバーン通り(トランジットモール)に
つながるところが中心部である。
・ゼーゲ通りと直交する路地はアーケードやパッサー
ジュの半屋外の空間として整備され、一体的なまと
まりをもって歩きやすい空間となっている。
・マルクト広場周辺の中心部は、市庁舎、大聖堂、大
型商業施設などが連なる目抜き通りであり、トラン
ジットモール空間を走るトラムがアクセントとなっ
て活気を生んでいる。
・大聖堂横のドーム広場は、北側に道路が接し落ち着
ゼーゲ通り
・中央駅と中心部を結ぶ中心軸。歩行者ゾーンであり
中央部にカフェもある。
きが無かったが、近年パビリオンが自動車交通の多
い道路を仕切るように建てられ(設計競技で採用)
都市空間として再生している。※出典10
・交通面からみるとブレーメン中心部は、歴史的な重
厚感にトラムの現代デザインを入れ、歩行者専用ゾ
ーンを拡大することにより、歩きたくなる楽しいま
ちを実現しているといえる。
ショッピング・パッサージュ
・人が通らない小路にガラスの屋根を架け歩行者ゾー
ンとすることにより商業が集積している。
ブレーメン中心のシンボ
ル・市庁舎(左)と大聖堂(右)
図4 ブレーメン中心部トラ
ンジットモール・歩行者
専用ゾーン
※グーグルマップをベースに作成
17
ドーム広場の市
ドーム広場北側のパヴィリオン
・野菜、果物、肉類、パン、花などが露店市で売られ
ている。
・交通量の多い道路と広場を仕切るように建てられ、
広場の落ち着きを創出。
3.商業政策からみるブレーメンのまちづくり
・ブレーメン中心部の商業政策について、ブレーメン
商工会議所にインタビューしている先行調査を参考
に、その概要を整理する。
<ブレーメン中心部の商業政策出典11>
商業の
状 況
・郊外の小売店の面積は 12 年間で 40 万㎡増え
市内中心地の小売店面積を逆転。
・過去 10 年強で中心部における商業施設の売
上は 15%増。(郊外は 2 倍に増加)
・5年ほど前までは大きな空き店舗があった
トランジットモールに面した商業店舗
が、市の投資で開発を促進。
・店舗の質は中の下くらいであり、高所得層は
ハンブルクに買物に行く。
商 業
・郊外に 44,000 ㎡の大型商業・娯楽複合施設
政 策
「Space Park」を開発(商工会議所も整備を
・店舗の質は高いと感じたが、商工会議所の評価では
高所得者層への対応が不十分であるとのこと。
推進)。
・商店街から反発があり対応策として、中心市
街地への再整備費用として市から 7,000 万マ
ルク(4,000 万ユーロ)の資金援助を受ける。
・商業者など利害関係者と話し合い、改善点リ
ストを作成。公共工事として、オーバーン通
り(トランジットモール区間)の整備を実施。
・街灯やライティング等の整備も実施。
波 及
・投資が呼び水となり、建物所有者の金融機関
効 果
や民間事業者などが投資したため、全体規模
として2億ユーロの投資が行われた。
市の資金で整備されたオーバーン通り
・トランジットモールになっているオーバーン通り
を、市の資金援助を活用し高質化している。
・民間投資に対する助成は、壁面修復の支援策
として経費の 10∼20%を助成した程度であ
注:ヒアリングは 2007 年に実施。
り、特別な誘導策は行っていない。
18
トランジットモールその1
トランジットモールその2
・オーバーン通りは歴史的建築物と商業施設が並ぶ。
トラムが走行しないときは、人は自由に通りを歩く
ことができる。
・トラムが近づくと自然に歩行者が道をゆずる。慣れ
ていないと少々気になるが、市民生活に溶け込んで
いる。
マルクト広場
ブレーメンの音楽隊
・中心のマルクト広場は飲食店が並ぶ。広場の一部は
オープンカフェ・レストランとなっている。
・世界遺産になっている市庁舎の入口左側に音楽隊の
像がたっており、観光客が絶えず訪れる。
ブレーメン商工会議所
中央駅前の様子
・マルクト広場に面して建つ商工会議所。
・訪問の際には Torsten Gruneward 氏に対応していただ
き情報交換等で有意義な時間を過ごすことができた。。
・従来は3箇所に分かれていた乗降場を集約し4面6
線のトラム、バス乗降場を整備。歩行者は自由に横
断することが可能。
19
・ヒアリング結果をみると、ブレーメンにおいても郊
外型商業の開発圧力が高く、郊外の売上が伸びてい
る点は、日本の都市と共通している。
・一方、郊外の売上が伸びる中、市の投資を呼び水に
民間投資が中心部に行われており、売上を伸ばして
いる点が興味深い。
4.総括:歴史的空間と交通、賑わいの連続性
・ミュンスターの中心部と同様に、ブレーメンの中心
部も歩いて楽しく、回遊性や滞在の魅力の大きい街
夜間の景観(ゲーゼ通り)
・日本と比べると暗めの照明。街路灯ではなく建物に
取り付けたライティングとショーウィンドウによ
る灯りである。
であった。
・歴史的な町並み、歩行者ゾーン、公共交通、商店、
オープンカフェ・レストラン、これらの要素が連続
してつながることにより、歩きたくなるまち、滞在
したくなる空間が生まれている。
・歩行者ゾーンは、中央駅から中心部へ向うゼーゲ通
り、トランジットモールであるオーバーン通りを軸
とし、マルクトプラッツ、ドーム広場等、中心部の
広場を取り囲むように面的に広がっている。1本の
通りだけではなく、そこからつながる路地に賑わい
ゾーン広がっている点も、歩いていてとても楽しい
要因である。
・ブレーメンでは観光客をはじめとする交流人口が中
心部を訪れ、ゆっくり歩きながら時間消費すること
目抜き通り(オーバーン通り)
・トランジットモールになっていることで目抜き通り
であることが認識できる。
・歴史街区と商業空間の連続性が高く、路地への広が
りもまとまりがある。
により、郊外の商業が伸びている中で、一定の成長
を実現しているのではないかと推測される。
・高岡のビジョンにおいて次の3点が参考になると考
えられる。
①歴史街区と商業・飲食(オープンカフェ等も)を
連続性をもってつなげていく
②歩行者と公共交通優先ゾーンを目抜き通りから路
地へ広げていく
③それにより、交流人口を中心部の再生へつなげて
いく
・歴史・交通・商業の魅力的な連携が高岡においても
魅力的な路地(ベットヒャー通り)
・20 世紀初頭、コーヒー商人ロゼリウスが中世の町
並みを再現しようとして建設。
・他にも魅力的な路地がたくさんある。
カギとなる。
20
(参考)ブレーメン観光協会の観光政策
・今回のブレーメン訪問中、ブレーメン観光協会長の
Peter Siemering 氏から観光政策についてヒアリン
グすることができた。
―以下 Siemering 氏のプレゼンテーション要旨―
・ブレーメンはドイツ 12 の都市の一つである。ブレー
マーファーフェンとで一つの州になっており、州の
人口は 65 万人である。
・ブレーメンの認知度では、1位が音楽隊、2位がサ
ッカーチーム、3位が港である。以下、ローランド
訪問時の様子
・会長である Siemering 氏に対応いただいた。
像、ヴェザー川、市庁舎などが続く。
・マーケティングの目標は4つであり歴史、産業イノ
ベーション、イベント、港である。
・産業イノベーションであるが、EUの宇宙開発の会
社があり、日本の方もよくお見えになる。見本市を
開催しているほか、ドイツで2番目に大きいベンツ
の工場があり、お客さんが車を取りに来る際に工場
見学や観光ができるように協会がサポートしている。
(観光客の状況)
・観光客の平均年齢は 44 歳。消費額は 45 ユーロであ
る。仕事で来訪された方の 70%は宿泊されている。
・宿泊者は、月に 140 万人である。近年は増加傾向に
プレゼンテーションの様子
・Siemering 氏がパワーポイントを用い観光政策につ
いて説明。
ある。
・一人当たりの1日の消費額は、宿泊者は約 178 ユー
ロ、日帰り客は 32 ユーロである。
(近年の事業)
・観光業の従事者は 28,700 人。
・上海万博に出展しアジアの方に興味を持
(観光協会の組織)
ってもらった。
・70 人の職員と 70 人のガイドで構成されている。
・DMC(ディスティネーション・マネジメント・カ
ンパニー)であり、旅行の手配からアドバイス、ガ
イドなど全て行っている。
・日本やアジア向けには、ブレーメン単体
ではなくハンザ同盟のようなエリアで
周遊できるよう計画していきたい。
・オクトーバーフェスティバルや、クリス
・出資の 51%は市であり、あとは民間である。
マスマーケットなどはイベントとして
・年間の収入の 62%は収益事業、19%は市の補助、の
とてもすばらしい。
こりはプロジェクト費である。
・科学・化学フォーラムや卓球大会など国
・2010 年には、約 5 万 2 千人の方がサービスカウンタ
際的な大会の開催にも力を入れている。
ーに連絡し、2 万 5 千回ガイドをしている。38 万 8
・高岡市とも、お互いの市同士で紹介しあ
千人がツーリストインフォメーションを訪れ、6 万 4
うような事業を進めていけば、関係が深
千人の宿泊手配をしている。
まると思う。
21
都市5 中心市街地再生 ダルムシュタット
【都市概要】
・ダルムシュタットはヘッセン州第 4 の都市であり、人口約 14.4 万人。最も近い大都市はフランクフ
ルト・アム・マインで北に約 30km。
・1899 年にエルンスト・ルートヴィヒ大公によってマチルダの丘に設けられた芸術家村により、ドイ
ツにおけるアール・ヌーヴォー(ユーゲントシュティール)の中心地であった。
・芸術、工芸の伝統を受けて、工科大学、音楽大学院が有名。
視
6
察
中心市街地
トランジットモール+商業誘致による中心市街地再生
人口15万人弱の都市の中心市街地が、トランジットモール化と商業誘致によって
賑わいのある活き活きとした空間に再生されている。ルイーゼン広場には自然に人
が集まる工夫が仕掛けられている。
1.中心市街地再生の概要
・ダルムシュタットの中心市街地の再生とトランジッ
トモールの導入に関しては、
(財)愛知県市町村振興
協会による『平成 20 年度海外派遣研修報告書(2008
年)
』に掲載されている。その内容を基に概要を整理
する。
<ダルムシュタット再生の概要出典12>
経 緯
・1970 年代初め、郊外のインターチェンジ付近
に大規模小売店の計画が立案。(売り場面積
65,000 ㎡)
・市都市計画局は市議会の協力を得て、市有地で
ルイーゼン・センター(第1次整備)
・ルイーゼン広場からルイーゼン・センター(商業施
設)を望む。
・この奥に、市街地誘致に成功した商業施設カールシ
ュタットが続く。
あった中心市街地の土地の売却を条件に、大規
模小売店を郊外から市街地へ誘致。
整 備
内 容
第1次整備
ルイーゼン広場の大改造
・大規模小売店を中心部に誘致すると共に、ルイ
ーゼン広場周辺を大改造(1977 年完成)
・自動車とバス、トラムで混雑していたルイーゼ
ン広場をトランジットモール化。
・幹線道路は地下化し自動車交通を処理。
・地下駐車場を整備(860 台)。
・地元商店街の店舗等を入居させるためのルイー
ゼン・センターを建設。その並びに誘致した大
規模小売店舗が建設された。
⇒中心部の交通渋滞と買い物客の駐車場問題が
一挙に解決。
22
ルイーゼン広場(第1次整備)
・地上はトラム、バスと歩行者のトランジットモール。
・公共交通利用者が多く、広場はターミナルとなってお
り、ひっきりなしにトラム、バスがやってくる。
整 備
内 容
第2次整備
「カレー」ブロック整備
・1997 年ルイーゼン・センターに隣り合わせた
「カレー」ブロックが竣工
・電力公社の赤レンガ造りの建築物を保存し音楽
ホールを整備。
・食料品、衣料品売場、レストランが立地。
・約 350 台分の地下駐車場を整備。
第3次整備
「ブルーバー」ブロック整備
・2006 年に竣工。
カレー・ブロック(第2次整備)
・ワンブロック離れた場所に家電量販店が出店、
中心部と繋ぐ通路、若者の集まるファッション
・デパートも入った中庭を持つ商業施設。
・音楽ホールと一体化している
を中心としたモールとして整備。
⇒周辺に新しい小売店舗が増える等、既存市街地
にも活況が見られるようになった。
運 営
・ダルムシュタットマーケティング GmbH が中心
部エリアをマネジメント。
組 織
・市の外郭組織であり、商店街組合の組合員から
の会費と市からの補助金で運営。
・①個人経営商店の強化、②魅力あるブロック(地
域)にする、③マーケティングの活用によって
客の購買力を高める、④郊外からの集客力を高
める手段を講ずる、の4点が組織目標。
・郊外にライバル店が出店したが、ほぼ売上を落
とさずに乗り切ってきた実績を持っている。
ブルーバー・ブロック(第3次整備)
・高級感のある路面店が通りに並んでいる雰囲気が形
成されている。
・上階は集合住宅になっている。
地下道入口
・広場南側の幹線道路。自動車は地下
道に入る。公共交通は写真左の車線
からルイーゼン広場へ入っていく。
図5
ルイーゼン広場と周辺の商業開発位置出典13
23
トランジットモール1
カレーとブルーバーの間の通り
・ルイーゼン広場を中心とするトランジットモール区間
には、バス、トラムが次々やってくる。
・人口規模に対して公共交通の便数が多く、また利用者
も多い。
・それぞれのブロックが通りに面して商業施設を構えてい
るため、賑わいがあり人通りも多い。
2.総括:トランジットモールと商業活性化
・ミュンスター、ブレーメンに続き、中心市街地を自
動車から開放し、商業施設の立地を計画的に行うこ
とによる中心市街地の活性化事例を見ることができ
た。
・目抜き通りをトランジットモールにし、そこから歩
行者専用の路地空間を広げ、商業エリアを車から開
放している点は、ブレーメンと同様である。
・しかしダルムシュタットの不思議な点は、ルイーゼ
ン広場に集まるバス、トラムの数の多さ、乗降客数
の多さである。前述の(財)愛知県市町村振興協会
トランジットモール2
・バスとトラムが数珠繋ぎになって停まることもあり
壮観である。
・歩行者と公共交通が輻輳しているが、危険な感じが
しない点が不思議である。
の報告書では、1日あたりの公共交通利用者数は約
10万人という記載もあった。人口15万人弱の都
市において信じがたい利用者数である。ルイーゼン
広場を中心とする中心市街地政策と、公共交通活性
化政策がどのように結びついているのか興味深く、
今後の研究課題であるといえる。
・ドイツでは、人口 15 万人弱の都市が中心市街地から
車を排除し、商業施設を計画的に整備し、賑わいを
創出している。高岡のビジョンにおいても、交通と
商業の連携が重要な課題であり、トランジットモー
自然に人が集まる空間
ルの可能性について検討を進める必要性を強く感じ
・交通ターミナル、商業空間、人が中心の憩いの場所、
複数の機能が組み合わさって自然と人が集まる空間
になっている。
た。
24
参考1 出典・参考文献
1.WEB サイト「ドイツ環境ジャーナル」,近江まどか,(http://blog.goo.ne.jp/madokuccia)
2.『低炭素社会への道程』,遠州尋美・柏原誠編著,2011 年,法律文化社
3.『生活道路の総合研究 報告書』,財団法人国際交通安全学会,2010 年
4.『大分経済同友会 フランス・ドイツ経済事情視察報告書
∼交通とアートのまちづくりを考える
∼』,大分経済同友会,2011 年
5.ツォルフェライン炭鉱業遺産群パンフレット
6.ノルトライン・ヴェストファーレン・デザイン・センターWEB サイト(http://en.red-dot.org/)
7.
『ドイツにおける「まちづくり」と公共交通の整備について−ケルン市,オーバーハウゼン市での
ヒアリングを中心に』,近藤宏一氏,立命館経営学(第 40 巻 第 4 号),2001 年
8.『ブレーメン紹介パンフレット』,ブレーメン観光協会提供
9.
『都市と路面公共交通 欧米にみる交通政策と施設』,西村幸格・服部重敬著,2000 年,学芸出版社
10.『ドイツ流街づくり読本 ドイツの都市計画から日本の街づくりへ』水島信,2006 年,鹿島出版会
11.
『平成 19 年 12 月
海外調査報告書』, 財団法人地域総合整備財団,まちなか再生ポータルサイ
ト(http://www.machinakasaisei.jp/index.html)
12.『平成 20 年度
海外派遣研修報告書』,財団法人愛知県市町村振興協会研修センター,2008
13.ルイーゼン広場 WEB サイト(http://www.luisenplatz.de/)
参考2 視察参加者
曽田
康司
高岡市議会議員
中村 総一郎
高岡商工会議所 議員
服部
恵子
高岡商工会議所青年部
2〇14新高岡協議委員会委員
宮重
光男
高岡商工会議所青年部
2〇14新高岡協議委員会委員
水持
直久
高岡商工会議所青年部
2〇14新高岡協議委員会委員
大野
英樹
高岡商工会議所中小企業支援部 主事
亮
株式会社計画情報研究所 主任研究員
米 田
25
参考3 視察スケジュール
1.エコ団地視察(ミュンスター)
日
時
10月3日(月・祝)
場
所
ヴァイセンブルグカーフリー団地
対応者
案内
10:00∼12:00
Anke Feige 氏
通訳 泊知子 氏
2.中心市街地視察(ミュンスター)
日
時
10月3日(月・祝)
場
所
ミュンスター中心部
13:00∼16:30
3.創造都市視察(エッセン)
日
時
10月4日(火)
10:00∼12:30
場
所
ツォルフェライン炭鉱業遺産群
レッド・ドット・ミュージアム
4.公共交通視察(オーバーハウゼン)
日
時
10月4日(火)
13:30∼15:00
場
所
オーバーハウゼン
中央駅∼チェントロ
5.観光政策ヒアリング(ブレーメン)
日
時
10月5日(水)
場
所
ブレーメン観光協会
対応者
観光協会長
9:00∼10:00
Peter Siemering 氏
6.訪問(ブレーメン)
日
時
10月5日(水)
場
所
ブレーメン商工会議所
対応者
国際部上級専門員
10:00∼12:00
Torsten Gruneward 氏
7.中心市街地視察(ブレーメン)
日
時
10月5日(水)
場
所
ブレーメン中心部
13:00∼18:30
8.中心市街地視察(ダルムシュタット)
日
時
10月6日(木)
15:30∼17:00
場
所
ダルムシュタット中心部
26
参考4 参加者集合写真
2011.10.3 ヴァイセンブルグ・カーフリー団地
2011.10.5
27
ブレーメン観光協会
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