Comments
Description
Transcript
20 鶏コクシジウム病と鶏壊死性腸炎の発生と対策
鶏コクシジウム病と鶏壊死性腸炎の発生と対策 中越家畜保健衛生所 佐藤圭介 五十嵐紗代子 市村有理 はじめに 濱崎尚樹 小林淳壱 小見 清 農場概要 鶏 コ ク シ ジ ウ ム 病 は Eimeria 属 原 虫 の 感 染 当 該 農 場 で は 5万 羽 の 肉 用 鶏 が 12 棟 の 平 飼 に起因した腸炎を主徴とする疾病であり、鶏 い鶏舎に飼養されており、鶏舎の管理は基本 の疾病の中で最も被害が大きいものの一つで 的に2人で行われていた。鶏舎毎にオールイン ある。オーシストの経口摂取によって感染が ・オールアウトを実施しており、アウト後の 成立するため、平飼い鶏舎での発生が多い。 鶏舎消毒には逆性石鹸とオルソ剤を混合して 鶏 に 寄 生 す る Eimeria 属 原 虫 は 9種 が 報 告 さ れ 使用していた。ワクチンは0日齢で鶏コクシジ て お り 、 野 外 で は 通 常 2~ 3種 の 混 合 感 染 が 多 ウム5価生ワクチン、14日齢でニューカッスル いと考えられている(1,2)。 E . acervulina 、 E. 病生ワクチンを接種していたが、鶏コクシジ maxima 及び E.tenella の3種 は 幼雛 期 に 問題 と ウムワクチンを接種しないほうが飼養初期の なりやすく、ブロイラーで発生の中心となる 増体量がよいとの畜主の印象から、平成26年1 種である[3]。ワクチンについては、現在国内 月に導入したロットから接種を中止していた。 では E . acervulina 、 E.maxima 及び E.tenella の 3種に対する3価生ワクチン及び E.mitis も含ま 発生概要 れた5価生ワクチンと、 E.necatrix 単味の生ワ 平成26年10月17日に5号舎で33羽が死亡した クチンが販売されている(4)。ブロイラーで問 ため畜主から通報があり、鳥インフルエンザ 題となる3種のうち、 E . acervulina 及び E.maxi 簡易検査及び病性鑑定を実施した。さらに、2 ma の 感 染 で は 小 腸 に 病 変 が 形 成 さ れ 、 水 様 性 3日に13号舎でも13羽が死亡し、同様の対応を の下痢が認められる。 E.tenella の感染により 取った。両日ともに生存鶏に症状はみられず、 盲腸に出血性病変が認められ、多量の鮮血便 急死した死亡鶏が鶏舎内に散在していた。鳥 が排泄される[3]。 インフルエンザ簡易検査は発生鶏舎それぞれ 一方、鶏壊死性腸炎は Clostridium perfrin 死亡鶏5羽の気管スワブをプールして実施し、 -gens A型 ま た は C型 を 経 口 摂 取 し 、 小 腸 内 で 陰 性 で あ っ た 。 後 日 の 聞 き 取 り に よ る と 3、 7 増殖することにより引き起こされる。発症に 及び22号舎で同様の死亡例がみられた(図1)。 は鶏コクシジウムの感染等の因子が菌増殖の 促進要因となると考えられている(1,2)。平飼 い の 3~ 6週 齢 の ブ ロ イ ラ ー に 好 発 し 、 突 発 的 な発生、高い死亡率及び小腸粘膜の壊死等を 主徴とし、鶏コクシジウム病と同規模の被害 をもたらしている[3]。 今 回 、 管 内 ブ ロ イ ラ ー 農 場 で E . acervulina 及 び E.maxima の 感 染 に よ る 鶏 コ ク シ ジ ウ ム 病 と鶏壊死性腸炎の合併症が発生したので、そ の概要を報告する。 図1 発生概要 当該農場では入雛を鶏舎毎に5回に分けて実 施した。鶏コクシジウム種の鑑別として、S 施しているが、死亡率の増加はこれら5鶏舎で YBR Green法 に よ る リ ア ル タイ ム PCRを実 施 27日齢前後にみられ、その後終息した(図2)。 した。 4 病理組織学的検査:No.1、3及び6の3検体 のホルマリン固定臓器(心臓、肺、肝臓、 脾臓、腎臓、脳、気管、十二指腸、小腸遊 離 部 、 盲 腸 ) に つ い て HE染 色 を 実 施 し た 。 また、腸管についてグラム染色を合わせて 実施した。 成績 病 性 鑑 定 成 績 に つ い て 、 17日 及 び 23日 と も に同様の所見であったため合わせて述べる。 1 図2 鶏舎毎の死亡率の推移 解剖学的検査 病 変 は 全 て の 個 体 で 小 腸 に 限 局 し 、 10羽 中 8羽 の 小 腸 が 暗 赤 色 に 腫 大 し 、 10羽 中 2羽 今回の発生に対し、中止していたワクチン の小腸が腫大し粘膜の充血が認められた。7 接種の再開を指導し、その効果判定のため鶏 羽中5羽の小腸に偽膜の形成も観察された。 舎の糞便検査を実施した。また、逆性石鹸と また、死亡鶏の体重にバラツキが認められ オルソ剤は混合せず個別に使用することや、 た。 踏込消毒槽を逆性石鹸からオーシスト殺滅効 2 病理組織学的検査 果のあるオルソ剤に変更すること、各鶏舎専 検査した3検体に共通して、十二指腸から 用長靴の設置及びホイールローダー等各鶏舎 小腸遊離部にかけて絨毛の壊死及び偽膜の で共通して使用する機材の消毒を指導した。 形成が認められ、病変部に鶏コクシジウム オ ー シ ス ト 及 び 菌 体 が 観 察 さ れ た ( 図 3)。 材料及び方法 1 観察された菌体はグラム染色によりグラム 陽性桿菌であることが確認された。 検 査 材 料 : 10月 17日 に 5号 舎 で 死 亡 し た 鶏5羽 ( No.1~ 5) 及 び 23日 に 13号 舎 で 死 亡 した鶏5羽(No.6~10)について病性鑑定を 実施した。また、ワクチン接種済ロットに ついて、7号舎に導入した鶏の糞便を6、13、 16、 20及 び 27日 齢 に 鶏 舎 内 か ら ま ん べ ん な く約20g採取した。 2 細菌学的検査:No.1、2、3、6及び7の5検 体の主要臓器及び小腸内容物について、血 液 寒 天 ( 好 気 、 嫌 気)、 DHL寒 天 ( 好 気 ) 及 び 卵 黄 加 CW寒 天 培 地 ( 嫌 気 ) を 用 い 37℃ 24 時間培養した。 3 図3 寄生虫学的検査:細菌検査と同様の5検体 病理組織学的検査成績 の小腸内容物及び7号舎の糞便について、鶏 コクシジウムオーシストの検出及びOPGの測 定を浮遊法及びマックマスター法により実 3 寄生虫学的検査 検査した5検体全てに鶏コクシジウムのオ ーシストが確認され、OPGは10 2.0 ~10 5.3 /gで あった。リアルタイムPCRでは E . acervulina 及び E.maxima の特異遺伝子が検出された(表 1)。 表1 寄生虫学的検査成績(小腸内容物) 図4 ワクチン接種済ロットの死亡率の推移 7号 舎 の 糞 便 中 オ ー シ ス ト 数 の 推 移 は 図 5の と お り で あ り 、 13日 齢 か ら 検 出 さ れ 始 め 、 そ の後OPGは10 4~10 5/g程度まで上昇した。 4 細菌検査 検査を実施した5検体全てにおいて、小腸 内容物から C.perfringens A型が有意に分離 された。いずれの検体も主要臓器から有意 菌は分離されなかった。 以上の検査成績から、本症例は鶏コクシ ジウム病と鶏壊死性腸炎の合併症と診断さ れた。 5 ワクチン接種済ロットの調査成績 農場では次回から鶏コクシジウム3価生ワク チンを種鶏場で接種した雛を導入し、その死 図5 ワクチン接種済ロットの糞便中オーシス ト数の推移 亡率推移を図4のとおりまとめた。7号舎では1 6及び24日齢前後に死亡率が増加し、それぞれ 考察 病 性 鑑 定 を 実 施 し た 。 そ の う ち 24日 齢 で 死 亡 鶏コクシジウム病と鶏壊死性腸炎の合併症 した鶏は、検査成績から鶏コクシジウム病と の発生機序として、鶏コクシジウムが腸管に 鶏壊死性腸炎の合併症と診断された。その他 感染することにより鶏壊死性腸炎の発生を導 の 11鶏 舎 で は 死 亡 率 の 増 加 は 認 め ら れ な か っ く と 考 え ら れ て い る が [ 3]、 本 症 例 に お い て た。 も 、 E.acervulina 及 び E.maxima が 小腸 に感 染 したことにより、粘膜の損傷及び腸内細菌叢 の変化を引き起こし、損傷部に C.perfringens A型が増殖したことが考えられた。 死亡率の増加は入雛した5鶏舎において27日 齢前後で確認され、その後終息した。これら の死亡率の増加は一時的であり、感染した鶏 の一部が死亡し、その他は回復したものと考 たことが推察された。ワクチンメーカーによ えられたことから、ほぼ同じ日齢で鶏コクシ ると、ワクチン株の糞便中オーシスト数は投 ジウムに感染していたことが推察された。 与後早い段階から上昇することにより、接種 本症例が発生した要因としては、以下の3点 が考えられた。 後 3週 間 で 免 疫 が 付 与 さ れ る が 、 7号 舎 の 糞 便 中 オ ー シ ス ト 数 は 接 種 13日 後 か ら 上 昇 し て い まず、鶏コクシジウムワクチンの接種を中 た。また、逆性石鹸とオルソ剤の個別消毒及 止していたことにより、鶏コクシジウムに対 び病原体持ち込み防止対策の実施を指導した する感受性が高まっていたことが考えられた。 が、これらは前回から改善されず、引き続き 次に、当該農場ではアウト後の消毒作業時 発生要因となったことも考えられた。この結 に逆性石鹸とオルソ剤を混合して使用してい 果から、ワクチン接種だけではなく、総合的 るが、2種類以上の消毒薬を混合すると互いの な対策を実施する必要があると考えられた。 効果が低下する場合が多く(5)、また製薬会社 本症例のみならず、適切な消毒の実施及び によるとそれら2剤を混合するとオルソ剤の有 病原体持ち込み防止対策を講じることは疾病 効成分による消毒効果が減弱するといわれて の発生を予防する上で重要である。それらの いる。このことから、鶏コクシジウムのオー 着実な実施に向けて、今後も農場及び管理獣 シストを十分に殺滅できていなかったことも 医師とともに検討していきたい。 推察された。 さらに、当該農場では各鶏舎専用長靴を設 参考文献 置しておらず、アウト後の除糞や入雛前のモ (1) 農 林 水 産 省 消 費 ・ 安 全 局 : 病 性 鑑 定 マ ニ ミガラの運搬に使用するホイールローダーの ュアル,第3版,358-359,374-375,全国家畜 消毒を怠っていたため、それらを介し発生が 衛生職員会,東京(2008) 拡大したことも考えられた。 (2) 鶏病研究会:鳥の病気,第7版,94-95,1 以上のこと及び鶏コクシジウムワクチンは 10-113,鶏病研究会,東京(2010) 鶏壊死性腸炎の発生予防にも効果があると報 [3] 川原史也:鶏病研究会報,第49巻増刊号, 告されていることから[6]、本症例の発生要因 19-24,鶏病研究会(2013) となったと考えられる鶏コクシジウム病対策 (4) 小沼操,明石博臣,菊池直哉,澤田拓士, に 重点 を置 き、 上 記 に つ い て E.acervulina 及 杉本千尋,宝達勉:動物の感染症,第2版,11 び E.maxima が含まれた鶏コクシジウム3価生ワ 4-115,近代出版,東京(2006) クチン接種の効果を検討した。 (5) 竹 内 啓 , 酒 井 健 夫 , 安 里 章 , 稲 葉 右 二 , ワクチン接種済ロットの死亡率推移では、7 門平睦代,下村嘉久,田浦保穂,豊浦雅次: 号 舎 を 除 い た 11鶏 舎 で は 死 亡 率 の 増 加 は 認 め 診療獣医師のための保健衛生指導マニュアル, られなかったことから、ワクチン接種による 122,日本獣医師会(2001) 効果が現れているものと考えられた。一方、 [6] Bangoura B,Alnassan A.A.,Lendner M., ワクチンを接種したにもかかわらず7号舎では Shehata A.A.,Kruger M.,Daugschies A.:E 同様の死亡例が発生したが、その要因として xp Parasitol,145,125-134(2014) ワクチンによる免疫付与が間に合わず発生し