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ピラミッドの底辺の富 - Strategy

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ピラミッドの底辺の富 - Strategy
この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった
2014 年 3 月 31 日以前に発行されたものです。詳細は www.strategyand.pwc.com. で
ご確認ください。
ピラミッドの
底辺の富
低所得市場は世界の最も豊かな企業に自社を繁栄させ、
意欲的な低所得者に成功をもたらす驚異的な機会を提供している。
著者:C・K・プラハラード、スチュアート・L・ハート
監訳:高松 越百
この記事は約10 年前に書かれ、プラハラード教授の『ネクス
異なるアプローチが必要で、政 府や NGO などと連 携し、イノ
ト・マーケット』の基になったものである。プラハラード教授は
ベーションに根ざした分散化したシステムを構築していかなけ
『コア・コンピタンス経営』で知られ、企業戦略家として最も影
ればならないが、すでにそれを実現した多国 籍 企 業もある。
響力のある人のひとりである。BOP(ピラミッドの底 辺)にあ
新興国の経済力は当時想定されていたよりもずっと早く巨大
る第4層(1日4ドル以下で生活している40∼50 億もの人達)の
化しており、それは一部の富裕層だけに依存したものではない。
市場こそが21世紀の多国籍企業が積極的に開拓すべき巨大な
第 4 層の経済力の爆発でさらに加速して行くであろう。多国籍
事 業 機 会で あり、第 4 層 が 希 望 の な い 貧 困 から 抜 け 出す 意
企 業 の 経 営 者 は 第 4 層 が見 えな い ふりをすることも可能 で
欲を喚起することで持続可能なグローバル経済の安定と繁栄
あるが、そうすることにより逸 失する利 益 は 計り知 れ ない。
を実現すべきであると説く。そのためには既存のやり方とは
今一度、プラハラード教 授の主張に耳を傾けてみよう。
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特集 ◎ 勝ち続ける組織
C・K・プラハラード
スチュアート・L・ハート
ミシガン大学ビジネススクール 元 教 授。
ノース カ ロ ラ イナ 大 学 ケ ナ ン・フ ラ グ
インタラクティブ・イベント・エクスペリエ
ラー・ビジネススクール 教 授および同校
ンス 分 野 のパイオニア企 業 で あ るプラ
のセンター・フォー・サステ ナブル・エン
ジャ社(カリフォルニア州サンディエゴ)
タープライズ 共 同 ディレクターを 経て、
の創業 者でもある。2010 年 4月、死去(享
コーネル大学ジョンソン経営大学院のサ
年 68 歳)。
ミュエル・C・ジョンソン記念講座教授。
高松 越百(たかまつ こすも)
([email protected])
ブーズ・アンド・カンパニー 東 京オフィス
のヴァイス・プレジデント。自動車/製造
業プラクティスのリー ダー。約20 年 のコ
ンサルティング経験を持ち、自動車、自動
車部品、飲料・小売、ハイテク機 器などの
顧客に対して、市場戦略策定から、サプラ
イチェーン改革、戦 略 的 調 達 など幅 広い
分野での提言を行う。
図表1 : 世界経済のピラミッド
1人当たり年間所得*
層
人口(百万)[2002]
2万ドル超
1
75∼100
1,500ドル∼2万ドル
1,500ドル未満
2&3
1,500∼1,750
4
4,000
* 米ドル建て購買力平価に基づく
出所:国連「世界開発報告」
冷 戦の 終 結に伴い、旧ソビエト連 邦とその同盟国、および
多国籍企業にとって、今は新しい包括的な資本主義のレン
中国、インド、ラテン・アメリカは、閉ざされてきた自国市場を
ズを通してグローバル化戦略を見つめるときである。世界経
外国投資に次々と開放した。この重要な経済的および社会的
済のピラミッドの底辺で競争するための経営資源と粘り強さ
変 化は多国 籍 企 業に 新しい 巨 大 な 成 長 機 会を提 供した が、
を持つ企業が期待できる報酬には、成長、利益、および人類へ
その当初の期待はまだ実現していない。
の計り知れない貢献が含まれる。人間の基本的要求を満たす
そもそも、多国 籍 企 業 の 製 品を 切 望 する途 上 国 数億 人の
現代的なインフラや製品がいまだにない国々は、全世界のた
「中間層」消費 者の見込 みが、極めて過 大に評価された。さら
めに環 境 上持続可能な技 術と製品を開発するための理 想的
に悪いことに、アジアとラテン・アメリカの金融 危 機が、新興
な実験場である。
市場の魅力を大きく低下させた。結果として、世界の多くの多
さらに、多国籍企業が「ピラミッドの底辺(貧困層)」に投資
国籍企業はこれらの市場への投資を減速させ、リスクと報酬
することは、数十 億の人々を 貧 困と絶 望 から脱 出させ、社 会
の構造を再考し始めた。この 後 退は、2001年 9 月の 米国での
的崩 壊、政 治 的 混 乱、テロ 行為、および 裕 福 な 国と貧しい 国
テロ攻撃を受け、さらに顕著になる可能性がある。
の格 差が 拡 大し続ければ間違いなく続く環 境の崩壊を防ぐ
過去10 年間の多国籍企業の新興国市場戦略のほとんどは
ことを意味する。
精彩を欠いたが、以前に考えられていたよりも実際はずっと
世界の 40 億人の最貧困層(世界人口の 3 分の 2 )とビジネス
大きい市場機会がそこにまだ存在する。市場機会の本当の源
をするには、技 術およびビジネスモ デル に お ける 徹 底 的 な
泉は、途 上国世界 のわずかな富 裕層ではなく、また勃興しつ
イノベーションが必要となる。多国籍企業には、製品やサービス
つある中所得層の消費 者でさえない。それは、初めて市場 経
の価格とパフォーマンスの関係の再評価が求められる。資本
済に参加する数十億の意欲的な貧困層である。
効率の新たな水準、および財務的成功を測定する新たな方法
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が要求されるだろう。多国籍企業は、
「 大きいことは良いこと
いないという見方がある。しかし実際には、第 4 層は数兆ドル
だ」という理念から、
「 世界規模の能力と結びつき高度に分散
規模の市場なのである。世界銀 行の予測によると、世界 の人
した小規模な業務」の理 念へと、規模についての理 解の変容
口増 加の 大部分は貧困層で 起こり、貧困層の人口は今 後 40
を迫られるだろう。
年間で 60 億人超に増える。
要するに、最貧困層は世界の最も裕福な企業に新しい経営
貧 困 層は成 長可能 な 市 場では ないとの 認 識 は、貧 困 層 の
課題を突き付けている。それは文化的側面に敏 感で、環境上
中での 最 貧困層における非 公 式 経 済(一 部 の 推 定 では途 上
持続可能で、かつ経済的利益を産む方法で製品とサービスを
国の全経 済活動の 40 ∼ 60 %を占める)の重要性の高まりを
生 産・分 配することにより、貧困層に販 売し彼らの 生 活の改
考慮に入れてい ない。第 4 層の人々の 多くは農 村 か 都 市のス
善に役立つことである。
ラム街やバラック地区に住み、たいてい自分たちの資産(例え
ば、住 居、農 場、事 業)の法的所有権あるいは証書を持ってい
消費者の 4つの層
ない。彼らは正式な教育をほとんどあるいは全く受けておら
ず、従来型の流通・信用およびコミュニケーションを通じて彼
世界経済のピラミッドの頂 点にいるのは、7,500万∼1億人
らに接触するのは困難である。通常、第 4 層において利用可能
の裕福な第1層の消費者である(図表1参照)。これは、先進国
な製品とサービスの品質は低く、数量は少ない。それゆえ、頂
の中高所 得 者と途 上国の 少 数の 裕 福なエリートで構成され
点だけが目に付く氷山によく似て、この世界人口の巨 大なセ
るコスモポリタンなグループである。ピラミッドの中間の第 2
グメントは、その大 規模な 市場 機 会とともに、多国 籍 企 業 の
および 第 3 層には、先 進 国 で の 貧しい 層と、途 上 国にお いて
目からは大部分が見えないままになっている。
勃興しつつある中間層がおり、後者は多国籍企業のこれまで
幸いなことに第 4 層市場は技 術革新に対して広く開かれて
の新興国市場戦略のターゲットである。
いる。多国 籍 企 業は過去 50 年間の 先 進国における環 境 面で
いま考慮すべきは、ピラミッドの底辺にいる40 億の第 4 層の
の失敗を繰り返さないように、製品やサービスの革新におい
人々である。米ドル建て購買力平価に基づく彼らの1人当たり
て先導役になることができる。今日の多国籍企業は天然資源
年間所得は、まともな生活を維持するのに必要と見なされる
の豊かな時代に発展したため、資源集約型で過度に汚染をも
最 低限 度の 1,500ドル 未満である。その内の 10 億(人 類の 約
たらす製品とサービスを生 産する傾向があった。世界人口の
6 分の1 )の人々においては、1日の所得が1ドル未満である。
約 4 %に過ぎない 2 億 7,000万の米国民は、地球のエネルギー
さらに留意すべき事実は、富裕層と貧困層の所得格差が拡
資源の 25 %超を消費している。新興市場でこのような消費パ
大していることである。国 際 連 合によると、世界 の 最富 裕層
ターンを繰り返すことは破滅的である。
20 %は、1960 年に全所得の約 70 %を占めていた。2000 年に
我々は、権利を奪われた第 4 層の人々が第1層の富裕な人々
この 数字は 85 %に達した。同期間に世界 の最 貧困層 20 % の
の生活様 式と安 全をいかにして混乱させうるかを見てきた。
わずかな所得は、2.3 %から1.1%に減少した。
すなわち、貧困は不満と過激主義を生むのである。完全な所得
この 極 端な富の 分 配 の 不 平 等は、貧 困 層が人口の 大 半 を
の 平 等 は 観 念 的 な 夢 想 で は あ るが、人々 を 貧 困 か ら 脱 出
構成しているにもかかわらず、世界の市場経済に参加できて
させ、より良い生 活へ のチャンスを与えるために商業的開発
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図表 2 : 第 4 層におけるイノベーションと多国籍企業にとっての意味合い
イノベーションの推進力
多国籍企業にとっての意味合い
貧困層におけるテレビと情報へのアクセス増加
第4層は多くの製品とサービスに気付きつつあり、
その便益を分かち合いたいと切望している
規制緩和、および政府と国際的支援の役割の低下
多国籍企業が途上国に参入しやすい投資環境、
および非政府組織の協力拡大
第1、2、3層における世界的な過剰生産能力と
熾烈な競争の組み合わせ
第4層は利益ある成長のための
巨大な未開拓市場を意味する
過密都心部への移住を阻止する必要性
多国籍企業は農村の人々のための製品とサービスを
創出しなければならない
を利用することは、グローバ ル 経 済 の 安定と繁栄、および欧
米多国籍企業の継続的な成功にとって極めて重要である。
層には買う余裕がない、あるいは役に立たない。
• 仮 定③ 先進国市場だけが新技術を正しく評価し、対価を
支払う。貧困層は旧世代の技術を利用できる。
目に見えない機会
• 仮 定④ 貧 困 層は 我々のビジネスの 長 期 的 存 続にとって
重要ではない。我々は第 4層を政府と非営利組織に任せること
世界の多国籍企業上位 200 社の圧倒的多数が先進国を本
ができる。
拠 地 と する 企 業 で あ る。ワ シ ントン D.C.を 本 拠 地 と する
• 仮 定⑤ 経営者は人 道 主義的な特 徴を持つ経営課題には
Institute for Policy Studies が 2000 年12 月にまとめたリス
奮起しない。
トによると、このうち米 企業が最も多く82 社、日本企業が 41
• 仮 定⑥ 知 的 興 奮 は先 進 国 市 場にあ る。貧 困 層を相 手に
社で第 2 位である。したがって、ビジネスについての多国籍企
働きたいと考える有能なマネジャーを見つけるのは難しい。
業 の見 方が、第1層の消費 者についての 知 識や 親 交によって
規 定されるのは不思議 なことではない。市場機 会の認識は、
これらの 仮 定はいずれも貧困層の 価値を見えにくくする。
多くの 経営 者 が 適 応してい る思考方法および 利 用する分析
それは歩道で 20ドル札を見つける人の話に似ている。従来の
ツールによって決まる。多くの多国籍企業は、所得水準または
経済知識によれば、札が本当に存在したのなら誰かがすでに
先進国にふさわしい製品とサービスの選択に基づいて市場を
拾っているはずで、ほとんど起こりえないことである。この 20
判断するため、無意識に貧困層を切り捨てている。
ドル札に似て、貧困層は通常の経営論理を寄せ付けないが、
多国籍企業が第 4 層の市場の潜在力を正しく評価するため
だからといって利益ある成長 のための大きな 未 開 領域 では
には、これまでの先進国向けではない、途 上国特有の慣行を
ないとは言えないのである。第 4 層における技 術革新の推 進
受け い れる必 要 が あ る。我々は再 検 討しなけ れば ならない
力と企業にとっての機 会を熟 考されたい(図表 2 参照)。多国
通説として以下を特定した。
籍 企 業はこの市場が大きな 新しい 挑 戦を突き付けているこ
• 仮定① 我々の現在のコスト構造では貧困層市場で競争し
品質・持続可能性および収 益 性をどのように組み合わせるか
て利益を出せないため、貧困層は我々の対象消費者ではない。
である。
• 仮定② 先進国市場で販売される製品とサービスは、貧困
さらに、多国籍企業はどのように市場で取引するかを徹 底
とを認識しなければならない。それはすなわち、低コスト・高
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図表 3 : 貧困層のための新たな戦略
生 産、マーケティング、流通を分散させ、貧困層の人々が買い
物をする数千の小売店をつなぐ販売チャネルを素早くつくっ
プライス・パフォーマンス
品質の見方
た。また HLL は洗 剤ビジネスのコスト構 造を改め、低 価 格で
ウィールを提供できるようにした。
・製品開発
・生産
・流通
・新たな配送形式
・劣悪な条件(熱、ほこりなど)
に対し頑丈な製品の創造
ビジネス情 報・市 場 調 査サービ スの IndiaInfoline.com に
よると、今日、ニルマとHLL は洗 剤 市 場で拮 抗 する競 争相 手
となっており、それぞれ 38% の市場シェアを持っている。洗剤
収益性
持続可能性
ビジネスにおけるニルマとHLL の競争についてのユニリーバ
独自の分析では、貧困層市場にはさらなる利益拡大の可能性
・資源集約度の低下
・リサイクル性
・再生可能エネルギー
・投資集約度
・利幅
・数量
があることを示している(図表 4 参照)。
通説とは対照的に、とりわけ多国籍企業がそのビジネスモ
デルを転換すれば、貧困層は非常に利益の高い市場となる可
能 性 がある。第 4 層はハイマージンを 追 求 できる市場ではな
く、数 量と資本効率で収 益を上げる市場である。現在の基 準
的に再考することなく、これらの新しい 機 会を生かすことは
による利幅は小さくなりそうだが、販 売数 量は極めて多くな
できない。図表 3 は、第 4 層で 利 益をもたらす 市場をつくるた
る可能性がある。売上高総利益率だけに注目する経営陣は貧
めには、全く新しい視点を必要とする分野がいくつか(決して
困層にある機会を見逃すであろうが、技術革新を実行し包括
全てではない)あることを示している。
的な経済的利益に着目する経営陣は報われるであろう。
ニルマは世界最大のブランド洗剤メーカーの 1つになった。
第 4 層のパイオニア
一方、HLL はライバルの出現によって刺激され、ビジネスモデ
ルを転換したことにより、1995 年から2000 年に年率 20% の
英ユニリーバの子会社で、インドで最も良く経営されてい
収 益 成 長 率 と 同 25 % の 利 益 成 長 率 を 記 録した。同 期 間 に
る会 社のひとつとして広く認 知されてい るヒンドゥスタン・
HLL の時価総額は120 億ドルに増えたが、これは年率 40% の
リーバ( HLL )は、貧困層市場を開拓する多国籍企業のパイオ
成 長 率である。HLL の 親 会 社であるユニリーバもまた、その
ニアである。50 年以上前から、HLL は多国籍企業の製品を買
子会社のインドにおける経 験から恩 恵を受けた。ユニリーバ
う余 裕 が あ る インド の 少 数 のエリート の 役 に 立ってきた。
はブラジルの貧困層向けに新たな洗剤市場を創出するため、
1990 年代に、地元 企業のニルマが主に農 村 地 域の貧しい消
HLL の(製 品あるいはブランド では なく)ビジネス 原 則を投
費 者に洗 剤製 品を提 供し始めた。実際 のところ、ニルマは新
入し、
「 アラ( Ala )」ブランドは大 成 功を収めている。より重要
し い 製 品 構 築、低 コ スト 製 造 プ ロ セ ス、広 範 な 流 通 ネット
なのは、ユニリーバが企業戦略の優先事項として貧困層を選
ワーク、日々の購入のための特 殊包 装、割安な価格設 定を含
んだことである。
む新しいビジネスシステムを創造した。
ユニリーバの例が明確に示すように、第 4 層を相手にするに
HLL は当 初、典 型 的 な 多国 籍 企 業 型 の 考え 方 でニルマの
は、現地の市場条件に対応するために最高の技術とグローバ
戦略を否定した。しかし、ニルマが急 成長するのに伴い、HLL
ルな資源基盤をひとつにまとめる必要がある。ゴールは安く
は自分たちが無 視していた市場で地 元 の競 合 企 業が成 功し
て質の低い製品ではない。第 4 層の潜在性は起業家志向なし
ていることを認識した。HLL は最終的に自らの弱みと機会を
には現実のものとなり得ない。経営者にとって真に戦略的な
認め、1995 年この市場に自社製品を投入し、従 来のビジネス
課題は、現在は絶望的な貧困しか存在しないところに活発な
モデルを根本的に転換した。
「 ウィール( Wheel )」と呼ばれる
市場を思い描くことである。まったく組 織化されていないセ
HLLの新しい洗剤は、製品中の水分に対する油分の割合が大幅
クターで市場インフラを構築するには、途 方もなく大きい想
に低くなるように組 成されており、貧困層がしばしば河川や
像力と創造性が要求される。
他の公共用水施設で衣類を洗うという事実に対応している。
第 4 層市場で事 業をすることは、既存 の市場での事 業を改
HLL はインド農村部の豊富な労働力を活用するため、製品の
善したり、効率化させたりすることと同じではない。まずは、
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図表 4 : インド洗剤市場におけるニルマとHLLの比較( 1999 年)
ニルマ
HLL
(ウィール)
HLL
(ハイエンド製品)
総売上高
(百万ドル)
150
100
180
売上高総利益率
(%)
18
18
25
93
22
ROCE(使用総資本利益率、%) 121
出所:1999年8月10日の経営学会大会
(Academy of Management Meeting)での、
ユニリーバのシニア・ヴァイス・プレジデント、
ジョン・リプリーによるプレゼンテーション
第 4 層のニーズと課題に合わせて商業インフラを構築する必
これら 4つの要素それぞれについて、技術・ビジネスモデル
要がある。そのようなインフラの 構築は、工場・プロセス・製
および 管 理プ ロセスの革 新が 求められる。そして、ビジネス
品・研究開発といった一 般的なものと同様に、必要な投 資と
リー ダーは、進 んで実 験、協 力、現 地 社 員へ の 権 限 付与 を行
みなさなければならない。
い、競争力と富の新しい源泉を創出しなければならない。
しかし、従来の投資戦略とは異なり、これを1社でできる企
業はない。現 地 政 府機 関・非政 府 組 織( NGO )
・地 域 社 会・金
購買力の形成
融機関・その 他の 企 業 など、複 数のプレイヤーが 参加しなけ
ればならない。購買 力の 形成、欲 求の 形成、アクセスの向上、
国際労働機関の 2001年版「世界雇 用報告」によると、約 10
現 地に合わせた 解 決 策 の 調 整という4つ の 要 素が、第 4 層 市
億人(世界の労働人口の約 3 分の 1 )が、不完全雇用であるか、
場での成功のカギとなる(図表 5 参照)。
自身や家族を支えることができない低所得労 働に就いてい
る。世界の貧困層が自分の力でこの絶望のラインを超えられ
るよう支 援することは、企 業がビジネスで成 功するとともに
社会に貢献するための機会である。これを効率的に行うには
図表 5 : 貧困層における商業インフラ
2 つの介入が不可欠である。すなわち、1つは信用の供与、もう
1つが貧困層の所得能力を高めることである。先見の明のある
少数の企業がこの道をすでに進み始めており、驚くほどの成果
購買力の形成
を上げている。
・信用へのアクセス
・所得創出
貧困層はこれまで商業信用を利用できなかった。貧困であり
ながら銀 行を利用している人でも、従 来 の銀 行システムでは
担保無しに信用を得ることは困難であった。ペルーの経済学者
アクセスの向上
欲求の形成
・流通システム
・通信リンク
・消費者教育
・持続可能な開発
エルナンド・デ・ソトはその革 新的研究「資本主義 の謎:なぜ
資本主義は欧米では勝利し、その他の所ではどこでも失敗する
のか」の中で、商業信用は市場 経 済構築の中核を成すことを
論証している。米国では、信用を受けられるようになったこと
地域に適した
ソリューション
・ターゲットとする
製品の開発
・ボトムアップ型
イノベーション
で資力の乏しい人々が制度的に純資産を蓄え、住居・自動車・
教育といった主要な財・サービスを購入できるようになった。
途上国の大部分の人々は「非公式」あるいは法の枠を超えた
経 済の中で生きている。これは、自分たちの資 産の法的所有
権を確保したり、小規模 企業を設 立したりするのにあまりに
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時間とコストがかかって手が出せないためである。途上国政府
れまでグラミン銀行は、完全に手作業で現場ベースの運営を
は貧困サイクルから貧困層を解放しようと政府補助金を給付
しており、効 率 の 悪 い 構 造であった。現 在、グラミン・テレコ
しているが、ほとんど成 功していない。たとえ貧困層が政 府
ム(農 村 電 話 サービ ス 提 供 事 業 者)や グラミン・シャクティ
の支援を受けて小規模なビジネスを始めることができたとし
(再生可能エネルギー源の開発事 業 者)などの 組 織再編によ
ても、地 元 の高 利 貸しによる信用に依 存しているため、成 功
り、グラミン銀行はプロセスを自動化するための技 術インフ
することはまず不可能である。インドのムンバイの地 元貸 金
ラを構築している。グラミン銀行がオンライン・ビジネスモデ
業 者は、1日で 20%もの利子を取っている。これは、野菜 行商
ルを開発するのに伴い、収益性が大きく高まり、マイクロクレ
人 が 朝 100 ルピー( 2.08ドル)を 借りると、夜には 120 ルピー
ジット革命の加 速における情 報 技 術 の重 要性 が浮かび上 が
( 2.50ドル)を返さなければならない計算になる。
ることになるであろう。
貧困層が経済的に自立できるように彼らに信用を供与しよ
おそらく、グラミン銀 行の成 功を測る最も適切な 基 準は、
うというのは、決して新しいアイデ アではない。1851年 設 立
同行が世界を刺激した超 少額融 資に対する組 織的関心のグ
の I.M.シンガー 社 が、ミシンを購入する方法として 数百万人
ローバ ルな爆 発的高まりである。2001年 の世界 銀 行の調査
の女性にどのように信用を供 与したかをよく検 討されたい。
で人口の73% の所得が月5,000 ランド( 460ドル)に満たない
それらの女性のほとんどは、100ドルもの高額な値段を支払
南アフリカでは、低所得顧客向けリテール・バンキング・サー
うことはできなかったが、月5ドルであれば支払可能だった。
ビスが最も競争が激しく急成長する市場の1つになっている。
同じ論理 が ずっと大きな規模 で第 4 層に当てはまる。世界
1994 年、アフリカの消費者向け銀行大手である南アフリカ・
で初めて商業 銀 行事 業に超 少額 融 資モデルを導入したバン
スタンダード銀 行は、貧困層に銀 行サービスを提 供すること
グラデシュのグラミン銀行の事例が参考になる。バングラデ
で収 益を増やすために、低コストで顧客数重視のオートバン
シュのチッタゴン大学経 済学部 教 授であったムハマド・ユヌ
クEと名付けられた電子バンキング・ビジネスを立ち上げた。
ス が 20 年 あまり前に始 めたグラミン 銀 行 は、貧 困 層 向 け融
現 在、2,500 機 の 現 金自動支 払機と 98 カ所のオートバンクE
資サービスの先駆けとなり、数千の超少額融資事業者が後に
センターを持つスタンダード銀行は、南アフリカの黒人居住区
続いた。それにより、途 上国から米国や英国を含む豊かな国
や国内他行のサービスが不足している地域で最大の存在感を
まで、世界で 2,500万人の顧客が同サービスを利用している。
誇っている。南アフリカの『サンデー・タイムズ』紙によると、
グラミン銀行のプログラムは、最低所得層の顧客に信用を
2001年 4月時点 でスタンダード 銀 行 は 約 300万の 低 所 得層
供 与する際 の問題(担保 の欠 如、高信用リスク、契 約の履 行)
の顧客を抱え、さらに毎月約 6 万人ずつ顧客を増やしている。
に 対 処するため に作 成 さ れて い る。230万人の 顧 客 の うち
スタンダード銀行はオートバンクE 口座を開設する顧客の
95% が女 性 だが、彼 女らは農 村 地 域における伝 統 的な 稼 ぎ
最低所得は定めていないが、定期的な所得は必須としている。
手で あり起 業 家 でも あ るため、男 性 よりも 信 用リスクが 低
これまで銀行口座を使ったことがない者でも、わずか 8ドルの
い。融 資を受ける候 補 者は、地 域 社 会で家 族 以 外 の 者 5 名に
預金で口座を開設することができる。顧客はキャッシュカード
よる徹 底 的 な 評 価と了承を 受け な け れば ならない。同 行 の
を発行してもらい、様々なアフリカの言語を話すスタッフから
セールスとサービス担当者が農村を頻繁に訪れ、借入金があ
その使用法の説明を受ける。少額の均一料金がATM 取引ごと
る女性や投 資 対 象となるプロジェクトを調査している。この
に課金される。利子が付く「貯金財布」がすべての口座に設け
方法により、欧米で一 般 的な大 量 の 書 類と難 解 な 文 言を要
られ、貧困層顧客に貯蓄を奨励している。預金の利子率は低い
せず、融資のデュー・デリジェンスが達成される。
が、瓶に現金を貯めるよりはいい。
現在、グラミン銀行は 1,170 の支店を持ち、バングラデシュ
『サンデー・タイムズ』紙は、スタンダード 銀 行が 低 所 得 顧
の半数を超す4 万以上の村でマイクロクレジット・サービスを
客に対する融 資プログラムも検 討していると報じている。超
提供している。1996 年時点でグラミン銀行は返済率 95% と、
少額融資サービスのコンピューター化は、全体的運営を効率
インド亜 大陸のどの銀行よりも高い返 済率を達 成した。しか
的にするだけでなく、担保や正式な住所がない個人にも融資
し、同行のサービスが普及したことで現地の競合事業者も増
するため、より多くの人 が 利 用で きるようになる。諸 経 費 や
え、ここ数年で資産と利益は縮小している。
書類作 業 が 少ないので、オートバンクE のコストは従 来 型の
さらに、グラミン銀 行の利益率の評価は容 易ではない。こ
支店よりも 30 ∼40%低い。
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1999 年のマイクロクレジット・サミットにおいて、国連はシ
新を志向し、それによって先進国の持続不可能な技 術が取っ
ティグル ープやモンサント・カンパニーなどの 大手 多国 籍 企
て代わられ、先見の明のある多国籍企業の富が増加した。
業 数 社と共 同で、2005 年までに世界 の 1億の 最 貧 困 家 庭 が
例えば、ユニリーバの子会社 HLL はインドで現実的で低価
基 本的な信用を利用できるようにする、という目標を設 定し
格 か つ 低 エ ネル ギ ー 消 費 の冷 凍 方 法 が な い ことに 立 ち 向
た。残 念 ながら、この取り組み の 達 成は、高取引コスト、自動
かった。HLL の研究所は従来とは根本的に異なる冷凍方法を
化の 欠 如、農 村 地 域の 情 報・通 信インフラの不足によって遅
開発し、アイスクリームを標 準的な 非冷凍トラックで国中に
れている。
配送できるようにした。このシステムは使用電力量を減らし、
これらの問題に対処し超少額融資の発展を加速させるため、
危険で汚染源となる保 冷剤を不要にした。おまけにこの新し
欧 州復 興開発銀 行の創設者・初代総裁で 1980 年代にフラン
いシステムは生産と使用コストの双方が従来の方法よりも安
ソワ・ミッテラン仏 大統領の首席補佐官でもあったフランス
いのである。
人 銀 行家ジャック・アタリは、プラネットファイナンスを創 設
電 気・水・冷凍およびその 他の 多くの 基 本 的なサービスす
した。そのウェブサイト( www.planetfinance.org )は、世界
べてが、途 上国では市場 機 会を生む。米 NGO のソーラー・エ
の 数千 のマイクロクレジット・グル ープを1つのネットワーク
レクトリック・ライト・ファンド( SELF )は創 造 力を生 かした
でつなぎ、超 少額 融 資を扱う銀 行が解決 策を共 有し、コスト
技術とマイクロクレジット金融を応用して、アフリカやアジア
を削減できるよう支援している。
の 僻 村に住む人々に電 力サービスを提 供している。このサー
最 終 的には、超 少 額 融 資に関 連 する数百万の 小規 模 融 資
ビスが なければ、これらの人々はお 金をかけて、照明や調理
の追跡および処理を自動化するソリューションの開発が可能
のために有害な灯油/ろうそく/木 材あるいは動 物の糞を
になるはずである。処 理および取引コストを 十 分に下げるこ
燃やさなければならない。SELF の農村電力化システムは、再
とができれば、これを一括してシティグループのような多国籍
生可能資源を用いた小規模オンサイト発電をベースとするも
金融機関に流通市場で販売することができる。これにより超
のである。リボルビング・ローンの資 金により、村民は金融手
少額融資に利用できる資本は、寄付者や政府から集められた
段を手にしてこれらの電 力システムを自身で運営し、しかも
現在の資本を超えて大きく拡大するであろう。
雇 用 も 生 み 出 さ れて い る。SELF は 1990 年 の 設 立 以 降、中
米国ではここ10 年で超 少額融資が都市部貧困地区におい
国、インド、スリランカ、ネパール、ベトナム、インドネシア、ブ
て根付いている。例えば、ショアバンク・コーポレーションは、
ラジル、ウガンダ、タン ザニア、南 アフリカ、およびソロモン
問題を抱えるシカゴ 南部の貧困層を相手に銀 行業で収 益を
諸島においてプロジェクトを立ち上げている。
上げられることを実 証した。グラミンと同 様 のプ ログラムで
小規 模 分 散 型エネル ギ ーソリューションに焦 点を 当てた
あるプロジェクト・エンタープライズ(ニューヨーク市)はマイ
SELF や そ の 他 の NGO の成 功 は、米 国 のプラグ・パワー(燃
ノリティーの起業家を対象としている。
料電池)やハネウェル(小型タービン)など欧米企業の注目を
いくつかの多国籍銀行は、途上国で超小規模銀行サービス
集め始めている。それらの企業は、他の企業や組 織が立ちは
を提 供し始めている。例えば、シティグループはインドのバン
だかる先 進国市場に自社 技 術を 無 理して時期尚早に投 入し
ガロールで、預金額 25ドル以上の顧客に対して年中無休サー
ようとするよりも、第 4 層の広く開かれた市場での事業に合理
ビスを実験的に導入しているが、初期の結果は非常に良好で
性を見出している。数十億人の潜在的顧客が世界にいるなか
ある。
で、そのようなイノベーションに投資することは、十 分に実行
する価値があると言える。
欲求の形成
アクセスの向上
第 4 層において持続可能な 製品の技 術革新が始まり、消費
者教育を通じて販売が促進されると、貧困層の選択にプラス
第 4 層のコミュニティは物理的にも経済的にもしばしば孤立
の影 響が及ぶだけでなく、究極的にはアメリカ人やその 他の
しているため、貧困層の発展には流 通システムと通信リンク
第1層の人々の生活様 式も変化する可能性がある。実際 20 年
の改善が 不可欠である。大きな新興市場国のほとんどは、人
間を振り返ると、第 4 層を 最初の市場として「突 破的」技 術革
口の半数以上にアクセスできる流通システムを持っていない
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(したがって最貧困層の消費者は地元の製品/サービス/貸
金業者に依存したままである)。
農 村部 の 貧困層の顧客 のニーズに応 える独自の流 通シス
の富 裕層と貧困層を相互に繋ぐ単一市場を想像することが
可 能 と な っ た。こ の プ ロ セ ス は「デ ジ タ ル 化 に よ る 格 差
(digital divide )」を「デジタル 化 の 配 当( digital dividend )」
テムを設計した多国籍企業はほとんどない。農村部での効率
に変える可能性がある。
的な流 通においては創造性に富む 地元 企業が先を進 んでい
ロンドンに拠点を置くワールドテルは電気通信組合が新興
る。例えばインド では、アービンド・ミルズがブル ージーンズ
国市場での 通 信開発に資 金供 給するために設 立した企業で
の 全く新しい流 通システムを 導入した。世界 第 5 位のデニム
あ るが、現 在 の 会 長 兼 CEOで あ るサム・ピト ロ ダ は 10 年 前
メーカーであるアービンドはインド国内のデニム販売には限
「村 落 電 話」のアイデ ア を 持 ってインド にや って 来 た。彼 の
りがあると判断した。1本 40 ∼ 60ドルのジーンズは大衆には
元々のコンセプトは、地 域 社 会の電話を起 業家に運営させ、
手が出ず、既存の流 通システムではわずかな町や村にしか流
そ の 起 業 家(通常は女 性)が 電 話 の 使 用料 を徴収し、電 話を
通しない。そこでアービンドは「ラフ&タフ」ジーンズを導入し
維持するために一定の歩 合を賃金として受け取るというもの
た。これはジーンズを作るための材料(デニム生地、ジッパー、
であった。今日では、インド の 大 部分から世界 中 の 誰にでも
リベット、パッチ)を揃えた価格 6ドルのキットである。キットは
電話をかけることが可能である。
地 元 の 数千 の 仕 立 屋(そ の 多くは農 村部 の小さな 町や 村 に
ほか にもファックスサービ スを 導入したり、低 コスト の E
あった)のネットワークを 通じて提 供され、仕 立 屋も自身の
メールやインターネットアクセスを試したりしている起 業 家
利益のためにキットを広範に販売しようとした。ラフ&タフ・
がいる。これらの 通 信リンクは、農 村の 機能や農 村と国内の
ジ ーン ズ は 現 在 インド で 最 も 売 れて い るジ ーン ズ で あり、
他 地 域や 世界とのつな がりを劇 的に 転 換さ せ た。グローバ
リーバイスなど米欧のブランドを軽く凌駕している。
ル・ブロードバンド接続の登場により、第 4 層における情報ビ
また多国籍企業は、第 4 層の企業の製品を第1層市場に流通
ジネスの機会は大きく広がるであろう。
させ、貧困層の企業に国際市場への最初の結び付きを与える
インド のコ ー デクトや ラテン・アメリカ の セ ルニコス・コ
役 割を果 たすこともできる。実際、伝 統 的な知 識 基 盤を活用
ミュニケーションズといったベンチャー企 業は、貧困層の 特
するため の 提 携 関 係を 通じ、より持 続可能で、ときにはより
定 の 要 求 に 適 合する 情 報 技 術 やビ ジ ネスモ デル の 開 発 を
優れた製品を第1層の消費者に提供することが可能である。
行っている。共有アクセスモデル(例えば、インターネット・キ
ザ・ボ ディショップ・インターナ ショナル の CEOで あ るア
オスク)、ワイヤレス・インフラ、集 束テクノロジー 開 発 によ
ニータ・ロディックは 1990 年代初め、先 住 民から現 地の原料
り、企業は接続コストを大幅に低下させている。例えば、先進
や 製 品 を 調 達 するプ ログ ラム「援 助 で は なく取引 を( trade
国 で は 通 常、音 声 お よ び デ ー タ 接 続 に1回 線 当 たり850 ∼
not aid )」により、この戦略の力を実証した。
2,800ドルのコストが企業にかかる。コーデクトはこのコスト
もっと最 近では、スターバックスがコンサベーション・イン
を1回線 当たり400ドル 未満に抑えており、100ドルにするこ
ターナショナルと協力して、メキシコのチアパス地 方の農 家
とが目標である。そうなれば、途 上国世界 の 事 実 上すべての
から直 接コーヒーを 調 達 するプ ログラムを 先 駆 的に実 施し
人々に通信機会が提供されるだろう。
た。これらの農 場は日陰 を 使ってコーヒー豆を有 機 栽 培し、
ビジネスと発展の非常に大きな機会を認識したヒューレッ
スズメの生 息環境を保護している。スターバックスはこの製
「 世 界 を 電 子 的 に包 含 する( world
ト・パッカ ード( HP )は、
品を高品質のプレミアムコーヒーとして、米国の消費 者に販
e-inclusion)」というビジョンを掲げ、世界の貧困層のニーズ
売している。メキシコの農家はビジネスモデルから仲介業 者
に合う技 術・製品・サービスを提 供することに注 力している。
を排 除 するこの 調 達 契 約により、経 済 的に 恩 恵 を 受けてい
HP はこの 戦 略 の 一 環として、僻地 の 村に「テレセンター」を
る。この直 接的関係は第1層市場とその顧客の期待について
展開・運営するため、マサチューセッツ工科大学メディアラボ
の地元農家の理解や知識を高めるという効果もある。
および、ホセ・マリア・フィゲーレス・オルセン元大統領が主宰
情報の不足は持続可能な発展を阻む単独で最 大の障害か
する「コスタリカの 持 続的発 展 のための財団」と合弁 事 業を
もしれない。人 類の半 数 以 上はまだ1度も電話をかけたこと
始めた。こうした町のデジタル 拠 点 では、低 価 格 の高 速イン
がない。しかし、電話とインターネット接続が存 在するところ
ターネット接 続を村レベルで 利 用できる現 代 的な情 報 技 術
では、歴 史 上初めて真に持 続可能な経 済 発展を求めて、世界
設備が、与信手段と共に提供されている。
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現代的な情報通信設備を第4層の村々に提供することで、
遠隔教育/遠隔医療/超小規模銀行取引/農業相談サービス
のような応用が可能になる。
このような 情 報 通 信 技 術を 第 4 層 の 村々に 提 供 すること
少なくできる。彼らは「保管による利便性」にお金を使う。第 4
で、遠隔教育/遠隔医療/超小規模銀行取引/農業相談サー
層 の 消 費 者 は 現 金 に 貧 窮し、居 住 スペースも 限ら れて い る
ビス/環境モニタリングを含む数多くの応用サービスが可能
ため、毎日買い 物するがその 量は少ない。彼らは家 庭 用品を
になり、これらのすべてが、小規模 企 業/経 済 発 展 /世界市
保管する場所的余裕がなく、購入するものの選択肢が限られて
場へのアクセス促進を支援するのである。Lincos と名付けら
いる。つまり、1回分の包装を求めているのである。これには、
れたこのプロジェクトは、中央アメリカ/カリブ諸国/アジア
資力の乏しい消費者にとって試行という利点がある。彼らは製
/アフリカ/中 央ヨーロッパ で、現 在のパイロット地 域 から
品を一度に大 量には購入しないため、購入のたびにブランド
拡大することが見込まれている。
を切り替えることができる。
すでにインドでは、パーソナルケア用品やその他の消耗品
地域に適したソリューション
(シャンプー、茶、風 邪 薬 など)の 30% が1回 分 の 包 装 で 販 売
されている。そのほとんどの値段は1ルピー(約1セント)である。
新たな世紀に入り、世界の多国籍企業上位 200 社の売上高
もし包装の技術革新がなければ、これによって大量の廃棄物
合計は、世界全 体 の国内 総 生 産( GDP )の 約 30% 近くを占め
が 排 出されるであろう。ダウケミカルとカーギルは、完 全な
るようになった。だが、それらの 企 業 が雇 用するのは 世界 の
生分解性を持つ有機プラスチックの実験をしている。このよう
労働力の 1% にも満たない。世界の経済単位上位 100 のうち、
な包 装 は 第 4 層にお いて 明らかに強 みが あ るが、世界 の 4つ
51は民間企業である。第三世界諸国は依 然として、絶対的な
の階層すべてにおいても市場に革命を起こすであろう。
経済の停滞や低迷に苦しんでいる。
多国籍企業にとって最高のアプローチは、地域の能力と市場
多国籍企業が 21世紀も繁栄しようとするのであれば、その
知 識を世界 の ベストプラクティスと結 合させることである。
経 済 基 盤を拡 充し、より広く共 有しなければ ならない。多国
第 4 層に参入する多国籍企業がイニシアチブを取るにしても、
籍企業は貧富の格 差の縮小にもっと積極的な役割を果たさ
第 4 層からの 地 方企 業 が イニシアチブを取るにしても、発 展
なければならない。これらの 企 業が 第1層の顧客による消費
の原 則は同じである。それは、新しいビジネスモデルが 現 地
を優先するいわゆるグローバル製品だけを生 産するなら、こ
の人々の文化や生活様式を破壊してはならないということで
れは達 成できない。多国籍企業は地 域の市場と文化を育て、
ある。欧米 のシステムの 複製ではなく、現 地の 知 識とグロー
現地特有の解決策を構築し、最貧困層で富を生み出す必要が
バルな知識の効果的な結合が求められる。
ある。富を搾取するのではなく、これらの国々で富を創出する、
インドの乳業の発展は多国籍企業に多くの知識を与えてく
ということが指針となるであろう。
れる。その転換は 1946 年ごろから始まった。この年は、グジャ
これを実行するには、多国籍企業は自社の先進技術と地域の
ラート 州に拠 点を 置くキラ地 区乳 業 協同 組 合がヴェルガー
実態を見抜く力を組み合わせなければならない。包装につい
ゼ・クーリエンの主導 のもと自らの 処 理 工場を 建 設し、現 在
て考えてみよう。第1層諸国の消費者には可処分所得があり、
インド で 最も知られているブランドの 1つである「アムール」
大量購入品(例えば、サムズ・クラブのような大型店の10ポンド
を生み出した年である。
の 箱 詰洗 剤)を保管 できるスペースがあり、買い 物の回数を
欧米の大規模産業化した酪農場と異なり、インドでは牛乳
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は多くの小さな農村で作られている。農民は水牛あるいは乳牛
それでも、多国籍企業がこの道に乗り出す説得力のある理由
をそれぞれ 2∼3 頭しか所有せず、日に2回、村の収 集センター
がある。
に牛乳を運ぶ。彼らは届けた牛乳の量と含有脂肪分に基づき、
料金を毎日受け取る。牛乳は小型冷蔵トラックで中央処理工場
• 経営資 源 : 貧困層向けに複雑な商業インフラを構築する
に運ばれ、そこで低温殺菌される。その後、鉄道貨車が牛乳を
ことは、多大な資 源と経営能 力が 要求される。環 境的に持 続
主要都市に輸送する。
可能な製品とサービスを開発するには、相当な研究が必要で
農 村 ベースの 牛 乳 生 産 から世 界 水 準 の 処 理 施 設 に 至 る
ある。流 通チャネルと情 報 通 信ネットワークは、開 発と維 持
バリューチェーン全体が慎重に管理されている。キラ地区協同
に 高 い コ ストが か か る 。現 地 の 起 業 家のほとんどは、この
組 合 は 獣 医 療 や 牛 の エサ やりといった サー ビ スを 農 家 に
インフラを構築するための経営上または技術上の資源を持って
提 供している。協同組合は低温殺菌牛乳/粉ミルク/バター
いない。
/チ ーズ / 離 乳 食 /そ の 他 の 製 品 の 配 送 も管 理してい る。
• 活用 : 多国 籍 企 業は、エイボン、ユニリーバ、シティグル ー
アムール協 同 組 合 の 独自性は、分 散 化され た 生 産と現 代 的
プその 他が示したように、中国からブラジルあるいはインド
処理・配送インフラの効率性との融合にある。その結果、それ
へと、1つの市場から別の市場 へ知 識を移転することが でき
まで辺境に追いやられていた村の農家は安定した収入を得る
る。実 施 方法や製品は地 域のニーズに応えるためにカスタマ
ことができるようになり、活発な市場参加者に変わったので
イズする必要があるものの、独自のグローバルな知識基盤を
ある。
持つ多国籍企業には、現地の起業家が容易に手に入れること
20 年前のインドでは牛乳の供給が不足していたが、今では
が できない 強 みが ある。
世界最大の牛乳生産国となっている。インド酪農開発委員会
• 橋 渡し : 多国 籍 企 業 は商 業 インフラの 構 築、知 識 へ のア
に よる と、同 国 の 酪 農 協 同 組 合 の ネットワ ー クに は、現 在
クセス、経営 構 想 力、財務 的 資 源の 提 供にお いて、橋 渡し 役
1,070万 の 個 人 農 場 主 が 参 加 し、285 以 上 の 地 区 の 9万
になることが できる。多国 籍 企 業という触 媒 が なければ、善
6,000 の村で170 の乳生産者組合が運営されている。牛乳生
意の NGO 、コミュニティ、地元政府、起業家、さらには国際開
産 量は 1974 年以 降、年 率 4.7%で 増 加している。インドの 1人
発機関でさえ、貧困層の発展に取り組むにあたり四苦八苦し
当たりの牛乳供給可能量は、20 年間で 1日107グラムから213
続けるであろう。多国籍企業は、第 4 層市場の発展に必要な
グラムに増加している。
多様な主体を統合する最適な位置にいるのである。
• 移 転 : 多国 籍 企 業は貧 困 層から学んだことを 他 の 第 4 層
すべてを1つに
市場に活用できるだけでなく、イノベーションを第1層に至る
上部の市場に移転することができる。これまで見てきたよう
購 買 力 の 形成、欲 求の 形成、アクセスの 向 上、現 地 の 解 決
に、第 4 層は持 続可能 な生 活のための試 験 場である。貧困層
策 の 調 整という貧 困 層 の ため の 商 業 インフラ の 4 要 素 は、
のためのイノベーションの多くは、資 源とエネルギーを大 量
相互に関連するものである。1つでイノベーションが起これば、
に消費する先進国世界の市場に採用することができる。
他の要素のイノベーションに活用される。企業は関係者の1つ
にすぎない。多国籍企業は NGO 、地域・州政府、地域コミュニ
ただし多国 籍 企 業 の 経営 者は、第 4層で求められるビジネ
ティと協力しなければならない。
ス・リーダーシップの性質を認識することが必須である。創造
さらに、誰かがこの革新を起こすための主導的役割を果た
性、イマジネーション、曖 昧 さに対 する寛 容 性、スタミナ、情
さなければならない。問題は、なぜそれが多国籍企業である
熱、共 感、勇気は、分析スキル/知能/知 識と同じくらい重要
べきなのか、という点である。
となりうる。リーダーは、第 4 層という状 況における持続可能
多国 籍 企 業 の 経営 陣は 気持ちとしては納 得するかもしれ
な開発の複雑さや機微を深く理解する必要がある。最後に経
ないが、大 企 業 が小さな 地 域 組 織に本当に利 点を見 出すか
営者は、広範な組織や人々と協力するための、人間同士および
は明らかでない。多国籍企業は村の起業家のコストや対応力
異文化同士を結びつけるスキルを身につけなければならない。
に勝つことができない可能性が 高い。実際、地 域の起 業家と
多国籍企業は、貧困層にある事 業 機 会を実現するために、
企 業に力を与えることが、第 4 層 市 場 の 発 展 のカギ である。
組 織インフラを構 築しなければ ならない。これはつまり、地
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新しいビジネスモデルが
現地の文化や生活様式を破壊してはならない。
欧米のシステムではなく、
現地の知識とグローバルな知識の効果的な結合が求められる。
域の支援基盤の構築、貧困層のニーズに合わせた研究開発の
カでは、飲 用/調 理 用/洗 濯 用/掃 除 用の 安 全な 水の 供 給
再 設 定、新たな 提 携 関 係 の 構 築、雇 用 集 約度の向 上、コスト
方法に関する研 究 が 優 先 事 項であ る。また、第1層で の 解 決
構 造 の改 革が必 要になるということである。これらの 5 つの
策 を 地 域 ニーズ に 適 応 さ せることも 求 めら れる。例 え ば、
組 織 的 要 素 は 明らかに相 互に関 連しており、相 互に 補 強し
様々な食品や飲料製品に1日に必要なビタミンを加えること
合うものである。
ができる。途上国世界を通じた流通網やブランドを確立して
• 地 域の支 援 基 盤 の 構 築 : 貧困層に力を与えるということ
い るコカ・コーラのような企 業にとって、貧 困 層は 水や 栄 養
は、既存の力関係を脅かすということである。カーギルがイン
食品のような製品の広大な未開拓市場となる。
ドのヒマワリ種子事 業で直面したように、すぐに地元の反 対
さらに研究開発では、地域の慣行から有用な原則や潜在的
が 起きる可能 性 が ある。カーギル の 事務所は 2 度 放 火され、
な用途を特定しなければならない。第 4 層では重要な知 識が
地元政治家は、地域の種子事業を破壊しているとして同社を
世代から世代へ口頭で伝えられている。伝統を尊重しながら
非 難した。しかしカーギルは 諦めなかった。カーギルが農 家
もそれを科学的に分析するという意 志を持てば、新しい知識
教 育、訓 練、農 業 投 入材(種や肥 料、農 薬 など)の 提 供に投 資
の獲 得につながる。ボディショップの創造性に富んだ CEOで
したことで、農家は土地生産性を大きく向上させた。今では、
あるロディックは、地元の儀式や慣習の基礎の理解を前提と
カーギルは農家の友人と見なされている。政治的反対は消滅
したビジネスを構築した。例えば、皮 膚を洗うためにパイナッ
した。
プルのスライスを使うアフリカ人女性がいることに彼女は気
類似の問題を乗り越えるため、多国籍企業は、地 域の政 治
付いた。表面的にはこの 慣習は意味 のない儀 式に思える。し
的 支 援 基 盤を構 築 する必 要がある。モン サントとゼネラル・
かし、パイナップル の 活 性 成 分は、死 んだ 皮 膚 細 胞を除 去す
エレクトリックを見ると分かるように、既得 権に対 抗 できる
る力が化学合成品よりも優れていることが研究で判明した。
NGO 、地域社会のリーダー、地元当局との連合を確立するこ
多国籍企業は、中国/インド/ブラジル/メキシコ/アフリカ
とが不可欠である。このような連合を形成するのは非常に時
などの新興国市場で研究開発施設を展開するべきであるが、
間のかかるプロセスである。各プレイヤーにはそれぞれの課
今のところ大きな 取り組みをしている企業はほとんどない。
題 が ある。多国 籍 企 業は、それらの 課 題を 理 解し、共 通 の 期
ユニリーバは例外である。同社はインドで高い評価を受ける
待を設定する必要がある。中国ではこの問題はあまり重荷に
研究センターを運営し、
「インドに似た市場」の問題を専門分野
ならない。地元の官僚は地元の起 業家でもあるため、自身の
とする 400 人以上の研究者を雇用している。
企業と村、町、県 の 共 通の利益を容 易に見出すことができる
• 新たな提携関係の構築 : 多国籍企業は従来、新市場に参入
ためである。インドやブラジルなどの国では、このような構造
するためだけに提 携を組 んできた。今日、多国 籍 企 業はその
は存 在しない。相 当な 議 論、情 報 共 有、各構 成 員に対 する利
提 携 戦 略を拡 大する必 要がある。第 4 層市場に参入するため
益の説明、地元の議論への気配りが必要である。
に提携を組むことにより、多国籍企業は途上国の文化や地域
• 貧困層に焦 点を当てた研究開発の実 施 : 地域ごとおよび
の知識の本質を見抜く力を得ることができる。多国籍企業は
国ごとに貧困層の独自の 要求に着目した研究開発や市場調
同時に自社の 信 頼も高められる。また、市場あるいは原料へ
査を行うことが必要である。例えば、インド/中国/北アフリ
の優先的または独占的アクセスを確保できるかもしれない。
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我々は 3 種 類 の重 要な 関 係 を 予見する。それらは、地 元 企 業
物流のアプローチを微調整することでは達 成できない。ビジ
や 協同 組 合(キラ地 区乳 業 協同 組 合など)との 提 携、地 元 お
ネスプロセス全体を製品自体ではなく機能性に注目して再考
よび国際 NGOとの提携(コーヒーでのスターバックスとコン
する必 要がある。例えば、金融サービスを支 店 のみにおいて
サベーション・インターナショナルの提 携など)、政 府との提
午 前 9 時 から 午 後 5 時 まで 提 供 する必 要 は な い。このような
携(例えば、メルクが生物 資 源調査権と引き換えに熱 帯雨林
サービスは、貧困層顧客にとっての便利な時間と場所で(例え
保護を促進するコスタリカとの最近の提携)である。
ば、午 後8 時以降に彼らの自宅で)提 供すればよい。現金自動
国家あるいは中央政府との関係に依存したビジネスモデル
支払機は交番や郵便局といった安全な場所だけに設置すれば
構築 の困難さと複 雑さを考えると(例えば、大 規模インフラ
十分である。保安の手段として用いられる虹彩認識を、面倒な
開発)、地方および地域レベルでの提携が増えると予想される。
個人識別番号やIDカードの代替にすることができる。
そのような提携関係で成功するためには、多国籍企業の経営
コスト構造を下げるには、投資コストを削減する方法に関す
者は、自分とは異なる課 題、あるいは異なる教育および経 済
る議論も必要となる。これは、必然的に生産・流通システムを
的背景を持つ者と協力することを学ぶ必要がある。経済的/
発展させるための情報通信技術の利用拡大につながる。先に
知 的/人種 的 および 言 語 的 多様 性を いかに 管 理し、それら
述べたように、村ベースの電話はすでに途上国世界を通じた
からいかに学ぶかは、難しいがやりがいのあることである。
コミュニケーションの様式を変えつつある。インターネットが
• 雇用集約度の向上 : 第1層市場に慣れた多国籍企業は、資本
加わると、我々は貧困地域や農村地域のコミュニケーションと
集約度と労働生産性の観点から考え、判断する。それとは全く
経済発展創造における全く新しい方法を手にする。情報通信
反 対の論理が第 4 層には当てはまる。貧困層には無 数の人々
技術の創造的な利用は、これらの市場において製品とサービ
がいることから、生産および流通アプローチは、アービンド・
スへのアクセス/流通/信用管理に関連するコストを大幅に
ミルズのラフ&タフ・ジーンズの場合のように、多くの者に仕
削減する手段となるだろう。
事を提供しなければならない。アービンド・ミルズは、ジーンズ
のコストがリーバイスよりも 80%低いにもかかわらず、多く
共通の利害
の地元仕立屋を在庫管理業者/販売促 進業者/流通業者/
サービス提供業者として雇用した。多国籍企業が多数の人間を
第 4層市場を構成する40 億の人々の消費者としての出現は、
直接従 業員として雇 用する必要はないが、アービンドが実証
多国籍企業にとって大きな機会である。それは企業/政府/
したように、第 4 層の組織モデルは、貧困層における雇用集約
市民社会にとっても、共通の利害で団結するためのチャンスで
度(と所得)を高め、彼らを新しい顧客に仕立てる必要がある。
ある。実際、貧困層のための戦略を追求することで、自由貿易や
• コスト構 造の 根本改 革 : 多国籍企業は、第1層に比べ大幅
グローバ ル 資 本 主義 の支 持 者と、環 境 的および 社 会 的 持 続
にコスト水準を低下させなければならない。貧困層が買うこと
可能性の支持者との対立が解消すると、我々は信じている。
が で きる価 格 の 製 品や サービ スを 生み 出すには、コストを
ただし、現在 第1層の消費 者に提 供されている製品とサー
大幅に削減する必要がある。それは例えば、現在の10%に相当
ビスは第 4層に適しておらず、第 4層市場にアクセスするには、
するコストである。しかし、これは 現 在の 製 品 開 発 /生 産 /
第 2 層や第 3 層で用いられるアプローチとも根本 的に異なる
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特集 ◎ 勝ち続ける組織
アプローチが必要となるであろう。技術/信用/コスト/流通
な成 長と発 展というコンセプトを中心に形成された 継ぎ目
における革新は極めて重要な必須の条件である。グローバル
のない市場において、世界中の貧困層と富裕層をつなぐところ
に展開する多国籍企業のみが、この機会から利益を得るのに
に大きな事業機会があるのである。
必要なイノベーションの泉に手を出すための、技 術面/経営
まとめると、我々は商業史で最大となる潜在性を持った市場
面および財務面の資源を持っている。
機会のほんの表面をこすり始めたところである。より包含的な
第 4 層における新しい商取引は、食 料/衣 類 /住 居などの
資本主義にコミットする民間企業は繁栄し、その繁栄を恵まれ
基本的要求を満たすビジネスに限定されない。貧困層は金融
ない者と共有する機会を得る。まさに真の意味で、ピラミッド
サービス/携帯電話通信/低価格コンピューターなど、高度な
の底 辺の富は我々のグローバ ルな目標 の中で 最も高いもの
技術を要するビジネスを待っている。実際、姿を現しつつある
なのである。
多くの「突破的」技術革新(例えば、燃料電池、太陽光発電、衛星
Reprint Number: 02106
通 信、バイオテクノロジー、薄 膜 マイクロ 電 子、ナノテクノロ
ジー)にとっては、貧 困 層こそが 最も魅 力 的 な 最 初 の市 場と
なる可能性がある。
現在までは 3 種類の組織がこれを主導している。すなわち、
アムールやグラミン銀行などの地元 企業、世界資源研究所/
SELF /レインフォレスト・アライアンス/環境防衛基金/コ
ン サベ ー ション・イン ター ナ ショナル な ど を はじ め とする
NGO 、そして、ス ターバックス /ダ ウ/ヒューレット・パッ
カード/ユ ニリーバ /シティグル ープ/デュポ ン/ジョンソ
ン・エンド・ジョンソン/ノバ ルティス/ ABB など少数の多国
籍企業や「持続可能な開発のための世界経 済人 会議」のよう
なグローバ ルなビジネス・パートナーシップ である。しかし、
今のところ、多国籍企業に比べて経営資源がはるかに少ない
NGO や地元企業のほうがより革新的で、これらの市場におい
て存在感がある。
欧米資本家は一般的に、民間企業セクターが取引するのは
富裕層であり、貧困層や環境を保護するのは政府とNGOだと
暗に規定しており、それは悲劇的である。この暗黙の区別は、
多くの人々が認識しているよりも強 力である。多国籍企業の
経営者/国家の政策立案者/ NGO 活動家はすべて、この伝統
的な役割分担に悩まされている。この枠組みを壊し、持続可能
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