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沖縄感性・文化産業の構築に向けた基礎調査について

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沖縄感性・文化産業の構築に向けた基礎調査について
沖縄感性・文化産業の構築に向けた基礎調査報告書(概要編)
序.調査の目的と対象範囲
<調査の目的>
2010 年 6 月に閣議決定された政府の「新成長戦略」では、アジア市場の成長を取り込む「ア
ジア経済戦略」の中で、
「クリエイティブ産業」を対外発信する方向性が示され、その基本方針
を受けて経済産業省が産業政策の具体的な方向を示した「産業構造ビジョン 2010」では、「文
化産業立国」が打ち出されている。
一方、内閣府沖縄総合事務局では、沖縄地域が目指すべき将来像を示すための「沖縄地域経
済産業ビジョン-中間報告-」を 2010 年 3 月に策定し、今後強化すべき産業分野の一つとし
て「沖縄感性・文化産業」を位置づけている。また、沖縄県の「沖縄 21 世紀ビジョン」におい
ても、芸術文化、エンターテイメント文化、食文化等を戦略的に創造・育成することが示され
ている。
本調査は、この「沖縄感性・文化産業」について現状や市場規模を把握し、経済効果を分析
するとともに、その基盤となるプラットフォーム構築のあり方について検討、取りまとめを行
うことで、同産業分野を「OKINAWA ブランド」として定着させる施策の効果的な展開と方向
性を示し、ひいては沖縄の観光振興を促進することを目的として実施する。
<調査の対象範囲>
沖縄感性・文化産業は「沖縄地域経済産業ビジョン-中間報告-」により次のように定義さ
れている。
◎ 「沖縄地域経済産業ビジョン-中間報告-」による「沖縄感性・文化産業」の定義
工芸品、美術・骨董品、織物、出版物などのほか、芸能、音楽、映像、ファッション、デザインな
ど、生活者の感性に訴える商品・サービスを創出する産業を「沖縄感性・文化産業」と位置づける。
つまり、
「沖縄感性・文化産業」とは、生活者の感性をとらえ、それに合った沖縄独特の斬新
な商品やサービスを企画・開発したり、それを生活者にうまく提案するための新しい流通の仕
組みの構築といった取組をみせる産業(企業群)と考えることができる。
こうした特性をもつ沖縄感性・文化産業について、その市場規模等を産業連関表等の統計を
元に試算するが、それらの統計には沖縄感性・文化産業に沿った産業分類がなされていない。
このため、本調査では、定量データ分析の際、沖縄感性・文化産業に該当するであろう業種範
囲を設定し、それらを沖縄感性・文化産業とみなすこととしている。したがって、以降の定量
データ分析では、上記「沖縄地域経済産業ビジョン-中間報告-」の「沖縄感性・文化産業」
に定義されない企業群も含まれているので注意されたい。
業種の範囲設定に当たっては、上記「沖縄地域経済産業ビジョン-中間報告-」の定義に加
え、政府の「文化産業立国」の業種設定もふまえて、以下のとおり設定している。
① 織物・ファッション
② 工芸・美術・骨董品
③ 出版物
④ ソフトウェア
⑤ 映像・写真
⑥ 音楽
⑦ 放送
⑧ 舞台芸能
⑨ 著述・芸術
⑩ デザイン
⑪ 建築設計
⑫ 広告
⑬ 文化関連教育
i
1.沖縄感性・文化産業の市場規模
沖縄感性・文化産業の市場規模を県内関連業種の生産力の面から把握したのが下表である。
沖縄感性・文化産業の県内生産額は約 1,508 億円であり、全産業の生産額(5 兆 7,669 億円)
の 2.6%にあたる。業種別の割合を見ると、「建築設計」、「広告」
、「新聞」
、「民間放送」、「ソフ
トウェア業」などの比重が高く、これらの業種で沖縄感性・文化産業全体の約 75%を占める。
図表概-1 沖縄感性・文化産業の市場規模(県内生産額)
沖縄感性・文化産業
① 織物・ファッション
市場規模
業種分類
県内生産額(百万円)
織物
948
0.6
染色整理
228
0.2
1,930
1.3
595
0.4
日用陶磁器
1,053
0.7
漆器製造業
278
0.2
新聞
21,258
14.1
出版
1,896
1.3
ニュース供給・興信所
3,953
2.6
15,101
10.0
映像情報制作・配給業
3,237
2.1
映画館
1,253
0.8
写真業
3,227
2.1
織物製衣服
その他のガラス製品
② 工芸・美術・骨董品
③ 出版物
④ ソフトウェア
ソフトウェア業
⑤ 映像・写真
⑥ 音楽
-
⑦ 放送
割合(%)
-
-
公共放送
5,145
3.4
民間放送
17,126
11.4
有線放送
4,670
3.1
⑧ 舞台芸能
興行場・興行団
969
0.6
⑨ 芸術・文化団体
著述・芸術家業
7
0.0
⑩ デザイン
デザイン業
1,184
0.8
⑪ 建築設計
建築設計業
38,459
25.5
⑫ 広告
テレビ・ラジオ広告
新聞・雑誌・その他の広告
21,808
14.5
音楽教授業
1,287
0.9
スポーツ・健康教授業
3,424
2.3
その他の教養・技能教授業
1,802
1.2
150,838
100.0
⑬ 文化関連教育
沖縄感性・文化産業計
全産業
5,766,899
沖縄感性・文化産業の比重
2.6%
資料:2005年産業連関表、2005年工業統計表、2004年サービス業基本調査(ともに沖縄県)
より作成 ii
沖縄感性・文化産業の市場規模(県内生産額)は前記のように約 1,508 億円であるが、その
生産活動は原材料の調達需要や所得創出による消費需要を誘発し、地域経済に波及効果をもた
らす。本調査では、県公表の 2005 年沖縄県産業連関表の 35 部門表と基本分類表(行部門 404
×列部門 350)をベースに、沖縄感性・文化産業及び観光需要分析用の産業連関表(52 部門)
を作成し、経済波及効果の分析を行った。その結果によれば、沖縄感性・文化産業の県内生産
(約 1,508 億円)は地域経済に約 1,119 億円の波及効果をもたらし、合わせて約 2,627 億円の
産業規模となる。その乗数効果は約 1.74 倍であり、沖縄感性・文化産業関連の生産額は全産業
の 4.6%を占める。
① 沖縄感性・文化産業の県内生産額
約1,508億円
② 生産活動に伴う原材料・サービス調達の需要増に対応して
新たな生産活動が起こる(生産連関需要)
約738億円
③ ①②によって発生した雇用者所得が新たな消費需要を生み
出し、それに対応して生産活動が起こる(最終消費需要)
約381億円
約
1
.
7
4
倍
約2,627億円
これを、沖縄経済をこれまでけん引してきた観光、建設、食品の各産業部門と比べると下表
のようになる。沖縄感性・文化産業の関連分野を含めた産業規模は、観光関連の 0.43 倍、建設
関連の 0.23 倍、食品関連の 0.50 倍であり、現状ではまだ小さい。但し、沖縄感性・文化産業
の乗数効果(1.74)は食品産業より大きく、建設業、観光関連産業と同程度の高さになってお
り、その成長が地域経済に及ぼすインパクトは大きいと言える。
図表概-2 主要産業部門(観光、建設、食品)との乗数効果及びウェイトの比較
沖縄感性・文化産業
観光関連産業
建設業
食品産業
県内生産額(A)
約1,508億円
約3,538億円*
約6,391億円
約3,233億円
生産連関需要(B)
約738億円
約1,714億円
約2,970億円
約1,582億円
所得創出による
約381億円
約877億円
約1,950億円
約453億円
最終消費需要(C)
関連産業の生産額
約2,627億円
約6,129億円
約1兆1,311億円
約5,269億円
(D=A+B+C)
乗数効果
1.74
1.73
1.77
1.63
(D/A)
全産業に占める
4.6%
10.6%
19.6%
9.1%
比重
*2005年観光収入(約3,984億円)に関連各業種の県内自給率を乗じた県内生産分
注:億未満を四捨五入しているため「関連産業の生産額」(D)は必ずしもA~Cの合計と一致しない
iii
<沖縄感性・文化産業の定量情報のまとめ>
沖縄感性・文化産業について、市場規模のほかにも集積状況等の整理を行っている。ここで
はそれらの定量情報を「市場規模」、「成長トレンド」、「生産性」、「波及力」、「観光需要拡大へ
の寄与度」という指標にまとめて一覧整理する。各指標について相対的に高い数値・傾向を示
しているものを網掛け表示したのが本頁~次頁下の表である。
まずは、市場規模(県内生産額)の大きな業種の中で、成長トレンドが上向いているソフト
ウェア業が注目される。生産性を改善する余地があり、その実現によりさらなる成長が期待さ
れる。民間放送業は成長トレンドは横ばいであるが、地域経済への波及力が相対的に大きい。
これも生産性が低く、その向上による成長のテコ入れが期待される。広告業は地域経済への波
及力が最も大きい業種であるが、成長トレンドが下向きとなっている。最も市場規模の大きい
図表概-3 沖縄感性・文化産業の定量指標一覧
市場規模
(県内生産額/百万円)
成長トレンド
織物業
948
⇘
染色整理業
228
⇗
1,930
⇒
595
⇗
1,053
⇒
278
⇘
新聞業
21,258
-
出版業
1,896
-
ニュース供給業
3,953
-
ソフトウェア業
15,101
⇗
映像情報制作・配給業
3,237
-
映画館
1,253
⇗
写真業
3,227
-
-
-
公共放送業
5,145
-
民間放送業
17,126
⇒
有線放送業
4,670
-
興行場・興行団
969
⇘
著述・芸術家業
7
⇘
学術・文化団体
-
-
沖縄感性・文化産業
① 織物・ファッション
関連業種
織物製外衣・シャツ製造業
ガラス・同製品製造業 ② 工芸・美術・骨董品 陶磁器・同関連製品製造業
漆器製造業
③ 出版物
④ ソフトウェア
⑤ 映像・写真
⑥ 音楽
⑦ 放送
⑧ 舞台芸能
⑨ 芸術・文化団体
音声情報制作業
⑩ デザイン
デザイン業
1,184
⇗
⑪ 建築設計
建築設計業
38,459
-
⑫ 広告
広告業 21,808
⇘
音楽教授業
1,287
⇗
スポーツ・健康教授業
3,424
⇘
その他の教養・技能教授業
1,802
-
⑬ 文化関連教育
iv
建築設計業は成長トレンド及び経済波及力が把握できないが、建築需要の縮小という流れの中
で、恐らく下向きになっていると考えられる。新聞業についても成長トレンドは把握できてい
ない。
市場規模は大きくないが、デザイン業、音楽教授業などは成長トレンドが上向いており、今
後の伸びが期待される。織物製外衣・シャツ製造業と陶磁器・同関連製品製造業は横ばいであ
るが、観光需要の拡大を含めて地域経済への波及力が大きく、生産性の向上等による成長のテ
コ入れが期待される。観光需要の拡大には、ガラス・同製品製造業、織物業、興行場・興行団
も貢献している。ガラス製品は市場規模は小さいものの成長トレンドは上向いている。織物業
は集積度の高さが生産性の高さに結びついておらず、その改善が課題である。興行場・興行団
は市場規模が落ち込んでおり、その回復が望まれる。
集積度
特化係数
生産性
(対全国比)
波及力
(影響力係数)
観光需要拡大
への寄与度
0.15
0.927
△
0.14
-
0.71
1.004
○
0.24
0.16
0.971
○
0.45
0.27
1.042
○
0.56
1.78
-
0.61
0.69
0.925
1.34
0.11
0.962
0.69
1.02
1.043
0.62
0.46
0.964
0.45
0.39
0.927
0.52
0.64
1.043
0.99
0.73
0.847
1.15
-
-
0.80
0.63
0.986
1.29
0.37
1.091
1.81
1.01
1.004
1.05
0.18
0.863
0.32
-
0.35
-
-
0.16
0.27
-
0.74
0.61
-
1.97
0.08
1.579
0.71
0.61
-
1.68
0.60
-
1.78
0.21
-
1.27
※従業者数ベース
1.38
0.39
△
v
0.69
2.沖縄感性・文化産業の構築による地域経済への寄与度
沖縄感性・文化産業について、統計データにもとづく市場規模や集積状況の定量的な整理と
ともに、関係者のヒアリングにもとづいて各業界の現状と課題について定性的な整理を行って
いる。ここではそれらの定量情報、定性情報をふまえて、各業種分野について以下の点を総合
的に検討し、沖縄感性・文化産業の構築による地域経済への寄与度を整理する。
◇ 市場規模と成長トレンド
◇ 地域経済への波及力と観光需要拡大への寄与度
◇ 商品開発、ビジネスモデルの構築など業態革新的な動きの有無
◇ 企業同士の連携、行政との連携などの推進体制づくりの有無
図表概-4 沖縄感性・文化産業の構築による地域経済への寄与度の検討
業種分野
沖縄感性・文化産業の構築による地域経済への寄与度
・ 市場規模は約 19 億円。地域経済への波及力が大きく、観光需要拡大へ
の寄与度も高い。
衣料・ファッション
(服飾デザイン含む)
・ 県内ビジネスシーンを対象としたかりゆしウェアは需要が一巡して頭打ち
状態だが、今の時代の感性を捉えた新しい沖縄スタイルの構築、地域独
自の素材開発や「エコ」のコンセプトを組み込んだ高付加価値化など、県
外カジュアルシーン等に対応したデザイン性・機能性の高い新商材の開
発や供給体制づくりが進められている。
・ 焼き物・琉球ガラス・琉球漆器合わせて市場規模は約 19 億円。土産品
として人気があり観光需要拡大への寄与度が高い。焼き物は地域経済へ
工芸品
(工芸デザイン含む)
の波及力も高い。
・ しかし、量産モノの工芸品は付加価値が低く、リピーターには魅力の弱い
商材になってきている。沖縄のライフスタイル・シーンに合ったデザイン性
の高い新商材を開発し、県内外の市場に展開していこうという試みが、流
通・生産の両サイドから起こっている。
・ 出版の市場規模は約 19 億円。
・ 沖縄ブームの中で沖縄関連書籍の全国市場はある程度の規模を持つと
出版
考えられるが、その多くを県外の出版社がつくる本が占めており、県内の
出版社がつくる「沖縄県産本」はおおむね県内市場を対象にしている。沖
縄県産本の県外流通のルートは細く、県外市場への展開に向けて、新た
な流通のあり方を模索していくことが課題。
vi
・ 市場規模は約 151 億円と大きい。企業数が増え、売上高も伸びている
が、低賃金を売りにした収益性の低い受注開発の業態が多く、生産性は
全国平均より低い。
ソフトウェア
・ 近年、高度技術を売りにした収益性の高い受注開発やハイリスク・ハイリタ
ーンの自社製品開発など、付加価値の高い業態に転換する企業が出て
きており、県内外の企業との連携も図られている。
・ 地理的優位性やGIX等インフラを生かしたアジア市場への展開も企図さ
れている。
・ 映像、写真とも市場規模は約 32 億円。
・ 県内の映像制作は部分的な業務受注が大半で低収益体質だが、その体
質を転換すべく、自社でコンテンツを企画・制作して流通までコントロール
映像・写真
するビジネスモデルの構築が一部で進められており、関係企業で業界団
体を構築する動きも出てきている。県内市場から出発しているが、全国・
海外市場への展開も見すえられている。
・ 写真業では、デジタル化でフィルム現像の需要が減る中、固定客を取り
込む新サービスの開発が進められている。
・ コンサートの興行収入も含めて、沖縄インディーズの市場規模は 30 億円
以上と見られる。イベント興行では県外客の割合が高く、観光需要の拡大
に寄与。
音楽
・ 沖縄のアーティストの多くが東京のメジャーレーベルから全国市場に売り
出される中で、沖縄を拠点に全国市場へ展開するインディーズレーベル
の動きも力強く出てきており、沖縄で音楽産業を構築する可能性がある。
・ 県内インディーズレーベルの中にはアジア市場への展開を企図する動き
もあり、販路開拓のネットワークを構築しつつある。
・ 市場規模は公共・民間・有線合わせて約 269 億円と大きく、地域経済へ
の波及力も大きい。
・ ネット配信の拡大で地上波放送のメディアとしての優位性が揺らぎつつあ
り、ローカル放送局にも事業モデルの転換が迫られている。制作費・放送
放送
枠・ネットワークを生かして自らコンテンツを企画・制作する事業に乗り出し
ており、クリエイターとの連携により県内市場でそのビジネスモデルのひな
型ができつつある。
・ 県外市場への展開では、別の事業パートナーが必要となり、そのためのネ
ットワークづくりが課題となる。
vii
・ 舞台興行の市場規模は約 10 億円。舞台で生計を立てられる実演家は
全体の数%程度で、大半は教室経営で生計を立てているレッスンプロであ
る(教室経営の市場規模は約 18 億円)。
・ 2010 年に「組踊」がユネスコの世界無形文化遺産リストに登録されたのを
芸能
(文化関連教育含む)
契機に、「琉球舞踊」も含めて、沖縄の伝統芸能をブランド化していこうと
いう期待が高まっている。
・ 近年、ショー的な要素を加えた新しい舞台興行の形態も出てきており、観
光集客に一役買っている。
・ 産業として成り立たせるには、舞台プロの層を拡大していくことが必要であ
り、そのための仕組みとして、観客に見せる場とそれをマネジメントする人
材が求められる。
・ 市場規模は約 385 億円と大きいが、建築需要の減少に対応して建築設
計士の数も減少。また、鉄筋コンクリート造(RC 造)が主流だった県内の住
宅市場が木造にシフトしてきており、本土の大手ハウスメーカーにシェアを
奪われる可能性がある。建築需要が減り、建築形態も変わってくる中で、
建築設計
沖縄の建築設計業には技術開発や市場開拓が問われるようになってい
る。
・ 業界の一部の動きであるが、一つの試みとして、沖縄の風土に適した機能
性・デザイン性の高い住宅を開発する実験が進められており、気候特性の
近いアジア地域への市場展開も見すえられている。
・ 市場規模は約 218 億円と大きく、地域経済への波及力も大きい。しかし、
景気の低迷で企業が広告費を削る中、テレビ局・新聞社などのメディアは
売上が毎年 10%程度減少しており、それに連動して広告会社の売上も落
ちている。そこに大手や異業種が参入してきているため、競争が一段とき
びしくなっている。
広告
・ 広告業(広告代理店)は、メディアの広告枠を広告主(クライアント企業)
に売り、その手数料をメディアから得ている。その広告枠の値段が沖縄は
東京に比べてかなり低いが、広告コンテンツの企画・制作にかかる手数・
時間にほとんど違いはないため、生産性が低く現れている。
・ 県内外の市場に向けて魅力的なコンテンツを作り、それに対するクリエイ
ティブ・フィーを取れるようなビジネスの開発が必要。
viii
3.沖縄感性・文化産業の構築に向けた取組の方向性
各業界の現状と課題についての認識をふまえて、沖縄感性・文化の産業化を下記のような三
層の同心円で考えてみる。この図式は三つの部分から成る。
ⅰ.感性・文化の産業化のベクトル
一つ目は、感性・文化の産業化の流れであり、同心円の中心から外側に向かっていくベクト
ルである。ベクトルの起点である同心円の中心層は、沖縄の歴史の中で蓄積されてきた伝統文
化であり、それをいかに継承するかが問題となる。第二層は、中心層の伝統文化をベースとし
ながらも今の時代の感性を取り込んで新しい文化を創造していく活動であり、創作文化という
形で現れる。第三層は、第二層の創作文化の中から市場に通用する秀逸の作品を産業化する営
みである。ここでは数多く生まれる創作文化を目利きし市場化のふるいにかける評価システム
が地域で機能しているかどうか、市場化する作品をヒットさせるための仕掛けが打たれるかど
うかが重要な要因となる。第三層の外側にはマーケットが広がっており、そこでのビジネス展
開で得られた収益の一部を同心円の中心層や第二層に還元して、伝統文化の継承や新しい文化
の創造に資するという自律的な循環図式となっている。
図表概-5 沖縄感性・文化の産業化を考える基本図式
すり 合わせ
地域の 感性
-県内市場-
収 益
現地の 感性
-県外市場-
( 全国~海外)
一部還元
ヒット させる仕掛け
文化の 継承
( 伝統文化)
“ 意味” の 再認識
市場化の ふるい
( 評価システ ム)
編集・表現
ix
ⅱ.文化の創造と継承における緊張関係
二つ目は、文化の創造(創作文化)と文化の継承(伝統文化)の間にしばしば生じる緊張関
係である。文化の創造は、伝統文化をベースにしながらも、今の時代の感性に合わせてそれを
編集し新しい表現を生み出して、マーケットに発信する。それは形式的な文化の変容を伴うた
め、しばしば文化を継承する立場からの警戒心を呼び起こす。しかし、文化の継承とは本来、
“形”を残していくだけでなく、その形が生まれてきた“意味”も含めて伝えていくものであ
り、その“意味”はむしろ伝統文化を客観視して編集・表現する過程で、改めてはっきりと見
えてくる場合もある。前頁の図式は、文化の創造と伝統文化が緊張関係を乗り越えて、そうし
た形で相互に影響を及ぼしあうことにより、沖縄文化の求心力が高まるという循環を描いてい
る。
ⅲ.県内市場から県外市場に出て行くときのハードル
三つ目は、マーケット展開において県内市場から県外市場(国内及び海外)に出て行くとき
のハードルである。地域の伝統に根ざした文化の創造は、地域の固有性が色濃く出てくる。そ
れは県内市場では受け入れられやすいが、全国・海外の市場に展開していくとなると、そのま
までは受け入れにくく、展開先の現地の感性とのすり合わせが必要になるであろう。それは地
域の固有性を消すことを意味しない。むしろ地域の固有性があってこそ外の世界にメッセージ
を発することができる。地域の固有性の中に外の世界にも通じる本質的な要素を見出し、それ
を現地の感性とすり合わせながら新しい形で表現し、市場に発信していく企画力・演出力が、
ハードルを乗り越える原動力となる。
マーケット展開では観光との連携も重要である。沖縄の観光はきれいな海を売りとしたリゾ
ート観光で伸びてきて、現在、年間入域客数は約 600 万人に達しているが、さらに持続的に成
長していくためには、沖縄の地域資源を生かした新しい観光価値を創造・提供していくことが
不可欠となっており、その一環として、沖縄特有の文化資源を生かした観光メニューの開発が
求められている。観光客は、旅行会社が用意する文化体験メニューに飽き足らず、より地域の
生活に密着した場面での文化活動へのアクセス・参加を求めるようになっている。地域におけ
る文化創造は観光客を惹きつけ、観光客の視線は新しい文化の創造を刺激する。そのためには、
地域における文化創造と観光客を結びつける仕掛けが必要であり、文化を生かした観光商品を
地域が主体となって企画・開発し、市場に流通させ、国内及び海外から観光客を呼び込んでく
るという体制づくりが求められる。
特に、沖縄の伝統芸能は、
「組踊」のユネスコの世界無形文化遺産リストへの登録を契機とし
て、世界的なブランド力を持つようになることが期待されている。そのブランド価値を実現す
るためにも、観光客にも分かりやすいような舞台プログラムの開発等によって、集客力を高め
ていく工夫が必要である。
x
4.沖縄感性・文化産業の基盤となるプラットフォーム構築のあり方
最後に、沖縄感性・文化産業の構築に向けた取組の方向性をベースに、先進事例調査(金沢
市のファッション産業創出の取組)から得られるポイントを参考として、沖縄感性・文化産業
の構築を支えるプラットフォームのあり方を検討したのが下図である。伝統と創造の連携によ
り新しい文化を生み出し、関連企業を巻き込んでビジネス化し、中核機関を窓口にして全国、
海外の市場に売り込んでいく(あるいは全国、海外から観光客を呼び込んでくる)というイメ
ージである。次頁以降でプラットフォームを構成する各機関の役割・機能について説明する。
図表概-6 沖縄感性・文化産業の構築を支えるプラットフォームのイメージ
<全国、海外>
観光市場
移輸出市場
市場情報
・ ワンストップの窓口機能
(市場と県内関係者をつなぐ)
販路開拓、集客促進
中核機関
(沖縄観光コンベンションビューロー等)
・ 市場調査~需要把握
・ ビジネスモデルの構築
・ 知的財産権の管理
ビジネス化
ライフスタイル関連企業
(ファッション・工芸品等)
観光関連企業
文化創造
専門教育機関
(県立芸大、琉大等)
ソーシャルビジネス
(企業、NPO等)
・ プレーヤー、プロデューサー等
人材の育成
その他関連企業
(エンターテイメント等)
評価の仕組み
(メディア等)
伝統文化
拠点施設
(国立劇場等)
・ 文化創造プロジェクト の
推進
コンテンツ関連企業
(音楽・映像等)
・ 展示・発表の場の提供
・ 集客・交流機能の強化
行政・支援機関
(沖縄県、産業振興公社、沖縄総合事務局等)
xi
・ プロデュース機能創出支援
・ ソーシャルビジネスの促進 など
ⅰ.中核機関
プラットフォームの中核機関が担う役割は、マーケティングをふまえたビジネスモデルの構
築と、市場と生産者をつなぐワンストップの窓口機能である。
それは、金沢の文化産業創出の中核機関である金沢ファッション産業創造機構の取組に典型
的に見られる。同機構は、市内の伝統工芸にデザインをかけ合わせた新商材を海外市場へ売り
込むために、海外展示会への出展や常設アンテナショップの出店などグローバル市場の動向を
探るマーケティング調査の拠点を設けるともに、アートを市場で売るためのビジネスモデルを
設計し、その生産・供給の仕組みを整えている。海外展開の意欲をもつ伝統工芸メーカーやデ
ザイナーを一元的に束ねて現地の市場につないでいる。
沖縄においても、一部ではあるが、同様の取組が進められようとしている。㈱プラザハウス
は、沖縄の工芸品を、沖縄の生活シーンにとけ込むアイテムという切り口からデザインし直し、
生活シーン別の商品群を揃えて統一ブランドで売り出そうとしている。インポート・ブランド
を取り扱う同社は海外のデザイナー等とのネットワークが広く、沖縄の伝統工芸に海外デザイ
ンを取り入れた商品開発も進めており、今後、販路開拓が期待される。
こうした取組を、一分野ではなく、沖縄感性・文化産業トータルで進めていくことが求めら
れ、観光分野における海外客を含めた誘客プロモーションや受入体制の整備を担っている財団
法人沖縄観光コンベンションビューロー等の役割がさらに期待される。観光と感性・文化産業
をリンクさせてトータルで海外市場に売り込むとともに、市場と県内関係者をワンストップで
つなぐ窓口の機能などが考えられる。
ⅱ.拠点施設
文化の創造には拠点施設が不可欠である。金沢の取組では、21 世紀美術館が、観覧に体験と
交流の要素を取り入れ、市民自らが美術館を使って学び・楽しめるような施設運営に取り組ん
でおり、地方都市の美術館では異例の集客力を誇っている。産業界とも連携してミュージアム
グッズの開発製造・販売を行うなど、文化創造を媒介とした産業振興にも取り組み、文化産業
創出の一拠点となっている。
沖縄では、国立劇場おきなわが「親子劇場探検ツアー」を夏休みに開き、子供や親に組踊の
良さを分かりやすく伝えるワークショップを行うなど、観劇客の層を広げるための取組を始め
ている。今後、サブカルチャーの制作・発表を含め、マーケット(県内市場、観光市場)が求
める企画を年間通じて行い、集客・交流機能を強化していくことが望まれる。
ⅲ.文化創造のソーシャルビジネス
伝統と創造の連携により新しい文化を生み出す仕組みとして、ソーシャルビジネスの展開が
期待され、県内でそのモデルができつつある。現代版組踊では、文化を核とした地域の再生を、
民間主体の持続的な事業として展開していくソーシャルビジネス的な事業モデルを構築してい
る。TAO Factory はプランやアイディアを出すだけで、舞台の興行は地域の運営組織が主体と
なって行っており、その収入も地域に帰属する。TAO Factory の収入基盤は立ち上げ段階の育
成を含めた事業支援に対する報酬であり、複数の地域とつながることによって経営基盤を強化
している。
また、琉球放送㈱は、社会のニーズを捉えた企画を立て、県内のクリエイターを集めてコン
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テンツを制作し、それをメディアで発信して消費者のマインドを動かし、新しい社会的動きを
作り出している。最初からビジネスの話をするのではなく、皆で知恵を出し合って試行錯誤を
繰り返し、面白い企画を作り出していく一方で、それをビジネス化する場面では、権利関係を
きちんと整えて、ビジネスが回る仕組みを構築する。
「コワイハナシ」と「ホームソング」でそ
の事業モデルのひな型ができている。
こうした民間事業者の創意工夫が、文化創造を生み出す機能を担っていくものと考えられ、
その活動の広がりが期待される。
ⅳ.専門教育機関
文化創造には担い手となる人材が必要である。文化創造のプレーヤー、それをビジネス化す
るプロデューサーの“卵”を育て、人材のすそ野を広げていくことが基盤となる。金沢の取組
では、金沢美術工芸大学がファッションデザインの専門課程を設け、人材育成・供給の役割を
担っている。沖縄では、県立芸術大学等の専門教育機関において、関連産業のニーズと結びつ
いた実践的な人材育成プログラムを開発し、
“卵”人材を育成・供給する役割を担っていくこと
が望ましい。
“卵”人材は、上記のような民間事業者のビジネスプロセスに身を置き、実践経験を積み重
ねる中で感性や経営ノウハウを養って、プロフェッショナルへと育っていく。特にプロデュー
サーには、文化の創造に対する理解力や評価眼が求められ、それは自らが創作の経験や能力を
ある程度持っていないと難しい。実践の場では、文化創造のプレーヤーを育てるとともに、そ
の中から経営センスを持った者をビジネス化のプロデューサーに育てていくというような、複
合的な人材育成を進めていくことが望ましい。
ⅴ.行政・支援組織
文化の創造を担うのはプレーヤーであるが、そのビジネス化の中心はプロデューサーである。
プロデューサーは、プレーヤーを束ねて文化創造のかじ取りを行い、その創作物を市場に出し
てビジネスとして成立する仕組み(ビジネスモデル)を作り上げる。創作物を評価し、市場化
に向けた演出を行い、ヒットさせる仕掛けを打ち、知的財産戦略も含めたビジネスモデルを構
築し、一方では、文化のコンテクストを汲み取りながらプレーヤーを巻き込み、地域内外の企
業と連携・協働する仕組みをつくるなど、プロデューサーにはさまざまな役割・機能が集中す
る。このプロデュース機能を後押しすることでビジネスが回るようになれば、その文化創造に
関わるプレーヤーの雇用も生み出されるし、文化という公共財を継承・発展させる社会的な基
盤も築かれていく。プロデュース機能がうまく働くかどうかが感性・文化産業構築の成否を分
けるカギであり、そこに政策資源を集中投入して効果を高めていくことが求められる。
具体的には、上記のようなソーシャルビジネス的な展開を広げるために、プロデュース機能
を資金、ネットワーク等の面から支援することが考えられる。ただし、支援は立ち上げ段階(3
年程度)に限り、その間に民間主体の持続的なビジネスモデルを構築できるように後押しする
ことが求められる。また、ソーシャルビジネス単体の活動に止まらず、社会貢献への関心を高
めつつある営利企業との連携を促進することで、広域的な展開と事業の拡大を図っていくこと
が必要である。
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ⅵ.評価の仕組み
創造活動により生み出された文化はビジネス化の可能性を孕むが、その中から市場が求める
レベルに達する秀逸のものだけがビジネス化のラインに乗っかってくる。そこでは数多く生ま
れる創作文化を目利きし、市場化のふるいにかける評価の仕組みが地域で機能しているかどう
かが重要なファクターとなる。例えば、京都はサブカルチャーの層が厚く、上にあがってくる
までには相当もまれて良いものだけが残る。すなわち、文化を消費する地元市場が存在し、そ
の市場の洗練された目に創作文化が絶えずさらされ、良いもののみが支持されて、そうでない
ものは脱落していくという淘汰の仕組みが働いている。沖縄は現状ではその仕組みが弱いが、
例えばオフィスユニゾンのように、地元市場の評価(格付け)を代弁して消費者に分かりやす
く示すメディアの構築に取り組む動きもある。そうした仕組みをプラットフォームに組み込ん
でいくことが望ましい。
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