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 Title
Author(s)
D-乳酸のメンブレン発酵プロセスに関する研究
耳塚, 孝
Editor(s)
Citation
Issue Date
URL
2014-07
http://hdl.handle.net/10466/14170
Rights
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/
大阪府立大学博士論文
D-乳酸のメンブレン発酵プロセスに関する研究
2014年7月
耳
塚
孝
目次
第一章 序論
1
第一節 概要
1
第二節 既往の研究
2
2.1.発酵プロセスの問題点について
2
2.2.メンブレンバイオリアクターについて
5
2.3.分離膜について
7
2.3.1.分離膜の種類、モジュールについて
7
2.3.2.分離膜を用いたろ過運転方法について
7
2.3.3.MF 膜および UF 膜の膜素材特性について
9
2.4.MFR システム(Membrane-integrated fermentation reactor system)について
11
2.5.D-乳酸発酵について
11
2.6.乳酸のメンブレン発酵プロセスについて
13
第三節 本研究の目的
14
引用文献
16
第二章 乳酸のメンブレン発酵プロセスにおける
光学純度向上について
第一節 概要
第二節 材料と試験方法
2.1.微生物と培養条件
2.2.種培養液の調整方法
2.3.バッチ発酵プロセスの試験方法
2.4.限界フラックスの決定方法
2.5.メンブレン発酵プロセスの試験方法
2.6.乳酸イソメラーゼおよび乳酸デヒドロゲナーゼ活性測定方法
2.7.乳酸、酢酸、エタノール、糖(スクロース、グルコースおよびフルクトース)、
乳酸光学純度および微生物濃度の分析方法
第三節 結果
3.1.D-乳酸菌のスクリーニングについて
3.2.D-乳酸菌のバッチ発酵プロセスについて
i
20
20
20
20
22
22
22
22
23
23
24
24
24
3.3.D-乳酸菌のメンブレン発酵プロセスについて
3.4.乳酸イソメラーゼおよび乳酸デヒドロゲナーゼ活性評価について
第四節 考察
第五節 まとめ
引用文献
26
30
30
33
34
第三章 乳酸のメンブレン発酵プロセスにおける
副原料削減について
37
37
38
38
37
38
38
第一節 概要
第二節 材料と試験方法
2.1.微生物と培養条件
2.2.種培養液の調整方法
2.3.バッチ発酵プロセスの試験方法
2.4.メンブレン発酵プロセスの試験方法
2.5.乳酸、酢酸、蟻酸、エタノール、糖(スクロース、グルコースおよび
フルクトース)、乳酸光学純度および微生物濃度の分析方法
第三節 結果
3.1.バッチ発酵プロセスにおける酵母エキス濃度の影響について
3.2.メンブレン発酵プロセスにおける酵母エキス濃度の影響について
第四節 考察
第五節 まとめ
引用文献
39
39
39
42
46
50
51
第四章 乳酸のメンブレン発酵プロセスにおける
乳酸カーボン収率向上について
53
第一節 概要
第二節 材料と試験方法
2.1.微生物と培養条件
2.2.種培養液の調整方法
2.3.バッチ発酵プロセスの試験方法
2.4.メンブレン発酵プロセスの試験方法
2.5.連続発酵プロセスの試験方法(ケモスタットカルチャー)
2.6.乳酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、グリセロール、エタノール、
ii
53
54
54
54
54
54
55
糖(スクロース、グルコースおよびフルクトース)、乳酸光学純度および
微生物濃度の分析方法
第三節 結果
3.1.D-乳酸生産酵母のバッチ発酵プロセス
3.2.D-乳酸生産酵母のメンブレン発酵プロセスについて
3.3.D-乳酸生産酵母の連続発酵プロセスについて
第四節 考察
第五節 まとめ
引用文献
55
56
56
60
60
63
65
66
第五章 まとめ
68
謝辞
71
iii
第一章 序論
第一節 概要
化学工業は化石資源を原料にした化学プロセスの展開により発展してきたため、地
中より採掘された化石資源は炭素最終形として二酸化炭素となり、その排出量が増加
している。そのため地球温暖化問題につながっている可能性もある。また、化石資源
の価格が高騰している。一方で、化石資源に依存しないバイオマスから発酵プロセス
により、飼料用添加物であるアミノ酸、食品となる酒類(エタノール)やおよび酢酸など
が生産されている。二酸化炭素排出量の削減と、化石資源価格の安定化という観点
において、化石資源に依存しないバイオマスから発酵プロセスによる化学品製造技術
が、これから重要になってくると考えられる。
化石資源に依存しないバイオマスから製造されるポリマー(バイオベースポリマーと
称される)としてポリ乳酸(PLA)に関する研究開発が、世界中で行われている。PLA は、
乳酸(2-ヒドロキシプロピオン酸)を脱水重縮合することで得られるポリマーであり、生分
解性プラスチックの原料である。生分解性プラスチックは、使用後に廃棄すると自然界
に存在する微生物により分解される 1,2)。現在 PLA の世界生産量は、年間 10 万トンの
規模にまで増加している 3)。PLA の原材料となる乳酸は、脱水重縮合において反応阻
害がなく高重合度の PLA を得るために、99.9%以上の化学純度かつ 99.8% e.e.
(enantiomeric excess) の光学純度が求められる。また、PLA は L-乳酸からなるポリ L乳酸(PLLA)と D-乳酸からなるポリ D-乳酸(PDLA)、および L-乳酸および D-乳酸から
なるポリ DL-乳酸(PDLLA)の 3 種類に分類されるが、現在生産されている PLA は
PLLA である。これらすべてホモポリマーで結晶性が良好であり、融点は 170℃である。
この融点では繊維にした場合ではアイロンをかけることができないなどの問題があり、
PLA は、その用途が限定されている 4)。近年、PLLA と PDLA を溶融状態で混合し冷
却したポリマーでは、ポリ乳酸の光学異性体がステレオコンプレックスを形成すること
が発見された。この PLA はステレオコンプレックス PLA(sc-PLA)と言われ、ホモポリマ
ーよりも融点が 50℃ほど高いという特徴を有する 5)。高い融点を持つ sc-PLA はアイロ
ンがけが可能な繊維として、用途の拡大が期待されている。sc-PLA の製造には高純
度の L-乳酸だけでなく、高化学純度かつ高光学純度の D-乳酸を安価に製造する技
術が求められている。
D-乳酸製造技術としては、発酵プロセスで製造することが高い光学純度で得られる
ため、化石資源由来の原料であるナフサから製造される乳酸ニトリル(ラクトニトリル)を
加水分解し乳酸を生成する化学プロセスよりも有利であると考えられる。発酵プロセス
-1-
は、発酵原料である糖を微生物の働きにより乳酸などの化学品を製造するプロセスで
ある。この微生物の働きを代謝と呼び、微生物細胞内で各種酵素の働きにより Fig. 1-1
に示すような化学物質の変換が行われ、様々な化学品が製造される。発酵プロセスの
単位体積あたりの生産速度は細胞(微生物)の濃度、言い換えるとその増殖速度に依
存するため、化学プロセスに比較して発酵プロセスは単位体積あたりの生産速度が著
しく低い。つまり、発酵プロセスに経済的な競争力を持たせるためには、単位体積あた
りの生産速度を高めることがとても重要である。単位体積あたりの生産速度を高めるた
めには、微生物濃度を高めることが必要となる 6)。そのためには増殖速度に影響を及
ぼす増殖阻害物質(代謝副産物など)の蓄積および生産物阻害を避ける必要があり、
培養液中からそれら物質を取り除くことが重要である。そこで、分離膜と発酵槽を組み
合わせたメンブレンバイオリアクターが考案されてきた。微生物を分離膜によって阻止
し、メンブレンバイオリアクター中に保持しつつ、増殖阻害物質や生産物を分離膜によ
るろ過により透過液側に取り除き、新たな発酵原料を供給することで微生物がバッチ
発酵プロセスよりも継続して増殖することができるようになり、バッチ発酵プロセスよりも
微生物濃度を高めることができるようになる。このようにメンブレンバイオリアクターを用
いて発酵原料供給と生産物のろ過分離を連続的に行い、微生物濃度を高めることが
できるプロセスを、メンブレン発酵プロセスと総称されている。メンブレン発酵プロセス
は古くから研究されており、高い単位体積あたりの生産速度が得られている 7, 8)。筆者
が属する東レの研究グループにおいても、排水処理プロセスで開発されてきたポリフッ
化ビニリデン膜(PVDF 膜)9)およびろ過運転手法である限界フラックス解析 10)のメンブ
レ ン 発 酵 プ ロ セ ス へ 適 用 を 行 う こ と を コ ン セ プ ト に し た MFR シ ス テ ム
(Membrane-integrated fermentation reactor system)を提案している。MFR システムを
用いたピルビン酸のメンブレン発酵プロセスでは、400 時間にわたって分離膜閉塞が
なく連続運転が可能であり、バッチ発酵プロセスに対して 4 倍以上の単位体積あたり
の生産速度向上の効果が得られた 11)。
これまでに乳酸のメンブレン発酵プロセスが、単位体積あたりの生産速度を向上さ
せることができるという報告は多くある 12-19)。メンブレン発酵プロセスとバッチ発酵プロ
セスの培養環境は異なることから、単位体積あたりの生産速度向上以外にも様々な効
果が得られると考えられるが、その効果についてはほとんど解析されていない。そこで
本博士論文では、MFR システムを用いた D-乳酸のメンブレン発酵プロセス研究にお
いて、メンブレンバイオリアクター技術の学術的、工学的知見を深め、本技術の有用
性を明らかにするとともに、本技術を確立することを目的とした。
第二節 既往の研究
2.1.発酵プロセスの問題点について
化学プロセスと発酵プロセスを比較すると、発酵プロセスは単位体積あたりの生産
-2-
-3-
速度が著しく低い。発酵プロセスは、発酵原料である糖を微生物の働きにより乳酸な
どの化学品を製造するプロセスである。そのため、発酵プロセスの単位体積あたりの生
産速度は微生物の濃度に依存しており、微生物の濃度を高めるためには、その増殖
速度に依存していることが原因の一つである。単位体積あたりの生産速度を高めるこ
とができれば、発酵槽の体積を小さくすることが可能となり、設備投資額を削減するこ
とができる。発酵槽の体積を小さくすることができれば、その用役として使用される滅菌
水や蒸気、クリーンエアーなどについても使用量が削減できるようになる。発酵プロセ
スで微生物が物資を生産するときの単位体積あたりの生産速度 P(g/L/h)は、(1-1)で
表される。
P = vp・X
(1-1)
vp は微生物当たりの生産速度(g/h/g-cell)であり、X は微生物濃度(g-cell/L)である。
つまり単位体積あたりの生産速度を向上させるためには、微生物濃度を高めることが
必要となる 6)。バッチ発酵プロセスでは、微生物が発酵原料である糖を消費し発酵時
間が経過することで増殖し微生物濃度が高くなり単位体積あたりの生産速度が徐々に
向上する。しかしながら、最も高い微生物濃度に到達したときには発酵原料である糖
が消費されてしまっており、発酵が停止する。つまり、発酵時間と共に微生物濃度が変
化するため単位体積あたりの生産速度が変化する。そのため、バッチ発酵プロセスの
単位体積あたりの生産速度は、発酵原料である糖が完全に消費される発酵時間内に
生産された生産物量から算出される平均の単位体積あたりの生産速度で評価される。
バッチ発酵プロセスにおいて、単位体積あたりの生産速度を高めるためには、微生物
の対数増殖期の増殖速度を高める方法がとられる。微生物の増殖速度 rx は、(1-2)で
表される。
rx =μ・X
(1-2)
μは比増殖速度とよばれ、微生物の単位時間、単位質量あたりの微生物の乾燥質量
増加であり比増殖速度(g/g/h)と呼ばれる。微生物の増殖速度を高める方法としては、
比増殖速度を高めることが考えられる。比増殖速度は、発酵温度、pH、通気攪拌条件
や発酵培地中の増殖に影響する栄養素の濃度設定などに依存するが、主としては発
酵原料である糖濃度に依存し、増殖阻害物質がある場合はその濃度にも依存する。
比増殖速度を高めることで速く微生物濃度が高くできるようになったとしても、バッチ発
酵プロセスでは発酵原料である糖が完全に消費された後に微生物を廃棄することに
なり、単位体積あたりの生産速度向上には限界があった。
そこで、微生物の増殖速度を高める方法以外で単位体積あたりの生産速度を向上
-4-
させる研究が行われてきた。その方法は、微生物は透過しないが培養液中に存在す
る代謝産物(生産物や副生産物)を透過する分離膜を利用するというものである。微生
物濃度を高めるためには、増殖阻害物質の蓄積および生産物阻害を避けるために、
培養液中からそれら物質を取り除くことが重要であり 20)、分離膜を用いれば微生物と
それら物質を分離することができる。更には、増殖阻害物質や生産物を取り除くと共に、
新たな発酵培地を供給することで微生物の増殖を継続することができるようになる。こ
のように発酵原料供給および微生物と生産物のろ過分離を連続的に行い、微生物濃
度を高めることができることからメンブレン発酵プロセスと呼ばれ、分離膜と発酵槽を組
み合わせたメンブレンバイオリアクターが考案された。
メンブレン発酵プロセスでは様々な微生物種で適用が可能であり、Escherichia coli
を用いた場合では乾燥菌体重量濃度で 190 g/L まで微生物濃度を高めることができ、
Pichia pastoris を用いた場合では乾燥菌体重量濃度で 450 g/L まで微生物濃度を高
めることが可能である 21)。このようにメンブレンバイオリアクターを利用することで微生
物濃度を高めることができるが、CO2 や代謝熱の発生速度、酸素の消費速度が高まり、
培養液の粘度が増加することなどが想定される 22)。これらの影響による生産性の低下
を最小限に抑えるためには、発酵槽の選択は重要である。発酵業界で広く利用されて
いる発酵原料供給機能を備えた通常の攪拌機付きの発酵槽や、酸素供給能力を改
善したエアリフト型の発酵槽などがメンブレンバイオリアクターにおいても利用されてい
る 23, 24)。
2.2.メンブレンバイオリアクターについて
メンブレンバイオリアクターは、分離膜を利用したバイオリアクターであり、分離膜の
種類の選択によって、微生物もしくは酵素をバイオリアクター中に保持することができ
る。発酵プロセスにおいて用いられるメンブレンバイオリアクターは、発酵槽に分離膜
を設置することにより、微生物は発酵槽中に保持し、培養液中に含まれる低分子量の
生産物をろ過分離しながら、発酵生産を行うことが可能になる 25)。メンブレンバイオリア
クターには分離膜を発酵槽の内部に設置するタイプ(浸漬型)と外部に設置するタイ
プ(外部型)がある(Fig. 1-2)。分離膜が発酵槽の外部に設置されたタイプでは、例え
ばエタノールや乳酸といった代謝生産物を乳酸菌や酵母を用いた嫌気発酵で生産す
る多くの研究例がある 7, 12-13, 15-18, 26)。一方、好気発酵では、循環ライン部分で酸素が
欠乏するため、微生物濃度を高めることが困難になり研究例がほとんどない。また、外
部型では循環ポンプが必要となり、循環動力コストが発生するという欠点や構造が複
雑になるため滅菌が難しく、長期間継続するメンブレン発酵プロセスにおいてはコンタ
ミネーションのリスクが高いという欠点があった 7)。
一方、外部型に比較して浸漬型は運転に必要なエネルギーが少ないことや設置場
所が省スペースで済むため 27)、地方自治体などの排水処理プロセスにおいて大規模
-5-
-6-
な外部型メンブレンバイオリアクターが稼働している。特に、メンブレン発酵プロセスに
おいては、滅菌が容易であるかが重要であり、メンブレンバイオリアクター全体を同時
滅菌することができる浸漬型は、滅菌操作が簡便であるという利点を有する。外部型
に比較して浸漬型の利点と欠点をまとめる。
利点
・液体の循環が不要である。
・滅菌操作が簡便である。
・メンブレンバイオリアクター内の均一性が高い。
(pH,温度、溶存酸素)
欠点
・体積当たりの膜面積を高めることが困難である。
2.3.分離膜について
2.3.1.分離膜の種類、モジュールについて
分離膜は化学プロセスにおいて、分離膜種類の多様性と運転エネルギーが少なく
低コストであるという理由から、蒸留、抽出およびろ過の単位操作に採用されている 28)。
発酵プロセスにおいても、分離膜を利用する検討が進んでいる 29)。培養液中には、発
酵原料由来の微粒子や、微生物の死骸、一次代謝産物および二次代謝産物などの
様々な物理的・化学的に性質が異なる物質が含まれている。例えば微粒子において
は、直径数 10 オングストロームから数ミリメートルまでのものが含まれている 30)。分離膜
は Table 1-1 にまとめられるように、分離する物質の大きさや分子量にあわせて分離膜
を選択することができる多様性がある。
メンブレンバイオリアクターにおいては微生物の分離で Microfiltration 膜(MF 膜)が
よく用いられ、酵素の分離では Ultrafiltration 膜(UF 膜)がよく用いられる。分離膜を用
いて微生物と培養液中の生産物をろ過分離するためには、分離膜をろ過対象液側(1
次側)と透過液側(2次側)がろ過後に混合してしまわないように物理的に分けた形状
にするためのモジュール化が必要である。膜モジュールの形状としては、中空糸膜形
式や、チューブラー形式、平膜形式、スパイラル形式、回転平膜形式などがある。実
験室でのメンブレンバイオリアクターにおいては、作製が比較的容易である中空糸膜
形式もしくは平膜形式がよく利用されている。
2.3.2.分離膜を用いたろ過運転方法について
分離膜を用いたろ過運転では、フラックス(m3/m2/day)(単位膜面積あたりのろ液の
流速)をろ過速度の指標として用いられる。ろ過運転するためにはろ過対象液側(1次
側)と透過液側(2次側)の圧力差が必要であり、この圧力差を膜間差圧
(transmembrane pressure: TMP)と呼んでいる。分離膜が閉塞していくと同じフラックス
-7-
-8-
を得るためには高い TMP が必要になる。そのため TMP が分離膜の閉塞の指標として
用いられる。分離膜を用いたろ過運転方法は、一定の TMP でろ過運転する方法と、
一定のフラックスでろ過運転する方法の2種類がある。一定の TMP で運転する方法で
は、最初に急激なフラックス低下が発生し、その後徐々にフラックスが低下する。一定
のフラックスで運転する方法では、最初は TMP が緩やかに上昇するが、突然 TMP が
急激に上昇する。またろ過方式には、対象液をすべてろ過する全量ろ過方式と分離
膜面に対して平行な液流れ(クロスフロー)により分離膜面を洗浄しつつろ過するクロ
スフローろ過形式がある 31)。メンブレンバイオリアクターのろ過運転方法としては、一定
のフラックスで運転制御するほうが安定した処理量が得られることから適していると考
えられている 32)。また、メンブレンバイオリアクターでは連続運転であるため全量ろ過
方式は行えず、分離膜面を洗浄しつつろ過するクロスフローろ過形式が適している。
どちらの運転方法で、どちらのろ過方式であったとしても、高い単位体積あたりの生産
速度を得るためには、高いフラックスで運転することが重要である 6)。
2.3.3.MF 膜および UF 膜の膜素材特性について
排水処理プロセスの一つである膜分離活性汚泥法に用いられる分離膜は分離膜メ
ーカーによってこれまで繰り返し改良されているが、メンブレン発酵プロセスに用いら
れる分離膜は現在市販されている分離膜を用いて検討されている。
分離膜の素材には Table 1-2 に示したような種類 33)があり、それぞれの特徴をまと
めた。分離膜メーカーが独自の設計思想で得意な保有技術を活用し、排水処理プロ
セスの要求を満たす高性能分離膜の研究・開発を行っている。各素材の特徴から MF
膜を作るために適した素材、UF 膜を作るために適した素材、およびどちらの膜でも作
れる素材がある。排水処理プロセスへ適用するために必要な分離膜特性としては、
・分離膜が閉塞しにくくかつ物理洗浄の回復性が高いこと。
(ランニングコスト低減のために薬液洗浄の頻度を減らすことができる)
・薬品への耐久性が高いこと。
・物理強度が高いこと(安全確保のために分離膜破断を起こさない)。
が求められており、それぞれ目的に応じて分離膜素材が使い分けられている。閉塞の
しやすさの指標として膜素材の“親水性の程度”が用いられる 34)。親水性の程度は、
水との接触角やゼータ電位などを測定し評価することができるが、分離膜のような多孔
質体の場合はその測定が難しい。更には閉塞のしやすさは膜モジュール構造、ろ過
運転方法などの影響も受けるため、分離膜素材として閉塞のしやすさを定量的に比較
することが難しい。一般的に分離膜の閉塞物質として疎水性のものが多いと考えられ
ており、より親水性の素材のほうが閉塞しにくいと考えられている。また、ポリスルフォン
(PSf)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)といった素材が薬品への耐久性が高い。強度に
ついては、分離膜素材本来の特性と膜モジュール構造の双方が影響するが、ポリエ
-9-
- 10 -
チレン(PE)や PVDF は、「しなやか」であり、物理的強度が高い。MF 膜の素材として
は、総合的に判断すると PVDF 膜が最も良いと考えられている 34)。
2.4.MFR システム(Membrane-integrated fermentation reactor system)について
前述のように、メンブレン発酵プロセスは、単位体積あたりの生産速度が高められる
が、その高い単位体積あたりの生産速度を長期間継続することができればその利点は
更に大きくなる。メンブレン発酵プロセスを長期間継続することで、メンブレンバイオリ
アクターの稼働率が向上し、必要なメンブレンバイオリアクターのサイズを小さくするこ
とができる。つまり、メンブレン発酵プロセスは、微生物濃度を高めることで単位体積あ
たりの生産速度が高まり、長期間継続することにより設備稼働率も向上し、設備投資額
を削減することが可能となる。
排水処理プロセスにおいては、20 年以上前から活性汚泥を分離膜で分離するメン
ブレンバイオリアクターが利用されてきた 35, 36)。排水処理プロセスにおいては、長期間
継続するろ過運転を実現するために分離膜の汚れ付着を防止し分離膜閉塞を抑制
することが重要な課題であった。そのため排水処理プロセスが実稼働している現場で、
閉塞が起こりにくく長期間継続できるろ過運転を実現するために、分離膜およびろ過
運転方法の研究・開発が行われてきた 37)。排水処理プロセスにおいて研究・開発され
てきた分離膜閉塞を抑制するろ過運転方法の一つに限界フラックス解析 10)を用いて
ろ過運転条件を決定するという方法がある。
筆者が属する東レの研究グループでは、メンブレン発酵プロセスにおいてあまり研
究されてこなかった長期間継続するという課題を設定し研究を行ってきた。具体的に
は、排水処理プロセスで開発されてきた PVDF 膜 9)を連続発酵プロセスへ適用し、限
界フラックス解析を用いてろ過運転条件を設定することをコンセプトにした MFR システ
ムを提案し研究を進めている 11) 。本研究では浸漬型メンブレンバイオリアクターの
MFR システムを用いており、その概略装置図を Fig. 1-3 に示す。
2.5.D-乳酸発酵について
D-乳酸は一般的に Lactobacillus 属の乳酸菌によって作られることが知られている。
例えば Lactobacillus bulgaricus はラクトースを原料として D-乳酸を生産すること 38)、
Lactobacillus coryniformis subsp. torquens はセルロースを原料にして D-乳酸を生産す
ること 39)、Lactobacillus delbrueckii や Sporolactobacillus inulinus はデンプンを原料と
して D-乳酸を生産すること 40)などが知られている。最近の研究では、D-乳酸の光学純
度 を 改 善する ため に、 ヘテロ乳酸発酵菌( L- 乳酸と D- 乳酸を生産する )であ る
Lactobacillus plantarum の L-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を破壊することで、15%e.e.
の光学純度から 99.6% e.e.まで向上させることに成功した研究がある 41, 42)。さらに、遺
伝子組換え技術を用い、L. plantarum のカーボン代謝をホスホケトラーゼ経路からペ
- 11 -
- 12 -
ントースリン酸経路に変更することにより、アラビノース資化性を大幅に改善し、アラビ
ノースからの乳酸収率を向上させている 43)。これら乳酸菌は生育に多くの栄養素を要
求し、微生物濃度を高めることが困難であることから 44)、遺伝子組換え技術により E.
coli の D-乳酸発酵能力を改良することが研究されている 45, 46)。例えば、E. coli にスク
ロース利用遺伝子を導入し、スクロースを発酵原料にすることができるようにする研究
47)
や、変異体の代謝フラックスを解析する研究 48, 49)が行われている。一方、E. coli は
低い pH での耐性が低く、生育阻害が起こるため、D-乳酸発酵において中和を行う必
要がある。D-乳酸の発酵プロセスにおいて中和を行う必要が無くなれば、培養液から
D-乳酸を精製することが簡単になる(例えば解塩プロセスが不要になる)ため、酸性に
対して耐性のある Saccharomyces cerevisiae の遺伝子組換えを行った D-乳酸のバッチ
発酵プロセスの研究がある 50)。
しかしながら D-乳酸発酵の研究は、L-乳酸発酵の研究よりも歴史が浅く、ここ最近
になって sc-PLA の原料となることで注目され研究が行われはじめた。
2.6.乳酸のメンブレン発酵プロセスについて
乳酸のメンブレン発酵プロセスは多くの研究がある。しかし、それらのほとんどが L乳酸のメンブレン発酵プロセスの研究である。乳酸のメンブレン発酵プロセスにおける
最初の研究は、攪拌機付きの発酵槽の外部に UF 膜を取り付けた外部型メンブレンバ
イオリアクターを用いた L. delbreuckii による検討である 12)。単位体積あたりの生産速度
は、76 g/L/h という速い生産速度が得られている。これは発酵槽体積が 0.7 L に対して
460 cm2 という大きな分離膜面積が利用されているために実現できた生産速度である。
残念ながら分離膜のろ過運転方法は最適化されていないため発酵継続時間は 52.5
時間と短い。そこで、同じメンブレンバイオリアクターと乳酸菌を用いたメンブレン発酵
プロセスで、分離膜のろ過運転方法の検討が行われ外部型ではクロスフローの速度
が高いほどろ過性が良好になることを明らかにし、発酵継続時間を 140 時間まで伸ば
すことに成功した研究がある 13)。また Lactobacillus casei ssp. rhamnosus を用いた乳酸
のメンブレン発酵プロセスの研究では、ろ過の開始前後でのタンパク質発現解析を 2
次元電気泳動で行い、異なる電気泳動パターンになることを明らかにし、メンブレン発
酵プロセスとバッチ発酵プロセスでは微生物の代謝が大幅に異なることが示唆されて
いる 14)。
メンブレンバイオリアクターの構成で特徴的な研究としては、メンブレンバイオリアク
ター2つ連結した研究 15)や、UF 膜と電気透析膜を連結したメンブレンバイオリアクター
の研究 16)がある。微生物濃度を高めるということがメンブレンバイオリアクターに期待さ
れる特徴であるが、微生物濃度が 100 g/L 以上になると分離膜のろ過フラックスが急激
に低下することが明らかにされ 17)、必要以上に微生物濃度を高めないように濁度をモ
ニタリングし、微生物を抜き取りながら微生物濃度を一定に保つような制御を行ったメ
- 13 -
ンブレン発酵プロセスの研究 18)がある。この方法では分離膜の閉塞を改善することが
できるが、一部の微生物を廃棄することになり、発酵原料が有効に乳酸生産に使用さ
れていないと考えられる。乳酸のメンブレン発酵プロセスを長期間継続する研究として
は、セラミック膜を用いた攪拌機付きの発酵槽の浸漬型メンブレンバイオリアクターで、
Lactococcus lactis を用い発酵継続時間を 600 時間にまで伸ばすことに成功した研究
がある 19)。しかしセラミック膜の閉塞が起こるため段階的にフラックスを下げながらのろ
過運転であり、単位体積あたりの生産速度は徐々に低下している。
このように乳酸のメンブレン発酵プロセスは、微生物濃度を高めることができ、単位
体積あたりの生産速度が高いが、それを長期間継続するためには、微生物濃度の制
御、最適な分離膜の選定および操作条件の最適化などが必要である。
第三節 本研究の目的
これまでに乳酸のメンブレン発酵プロセスが、単位体積あたりの生産速度を向上さ
せることができるという報告は多くある 12-19)。メンブレン発酵プロセスとバッチ発酵プロ
セスの培養環境が異なることから微生物のタンパク質発現状態(代謝状態)が大幅に
異なることが示唆されているのみであり、単位体積あたりの生産速度向上効果以外に
もこの代謝状態の違いから得られる様々な効果について解析されていない。またメン
ブレン発酵プロセスを長期間安定に継続するためには、微生物濃度の制御、最適な
分離膜の選定および操作条件の最適化などが必要であり、D-乳酸のメンブレン発酵
プロセスは技術確立できていない。
そこで本博士論文の目的は、MFR システムを用いた D-乳酸のメンブレン発酵プロ
セス研究において、メンブレンバイオリアクター技術の学術的、工学的知見を深め、バ
ッチ発酵プロセスとメンブレン発酵プロセスの微生物の代謝状態の違いから得られる
本技術の有用性を明らかにするとともに、長期間安定に継続することで本技術を確立
することを目的とし、
第一章では、本博士論文の研究領域における背景の研究についてまとめた。
第二章では、D-乳酸を高蓄積濃度かつ高光学純度で生産できる微生物をスクリー
ニングし、選択した D-乳酸菌の MFR システムを用いたメンブレン発酵プロセスの比較
を行い、バッチ発酵プロセスと比較すると共に、光学純度が向上するメカニズムについ
て考察した。
第三章では、第二章で選択した D-乳酸菌を用いたメンブレン発酵プロセスにおい
て、副原料濃度を検討することで、メンブレン発酵プロセスが更に長期間安定して継
続できることを明らかにした。また、メンブレン発酵プロセスを評価するために膜面積あ
たりの乳酸生産量により、既往の乳酸のメンブレン発酵プロセスの研究と比較を行っ
た。
第四章では、D-乳酸生産酵母を用いたメンブレン発酵プロセスとバッチ発酵プロセ
- 14 -
スの比較を行い、メンブレン発酵プロセスでは D-乳酸カーボン収率が向上するメカニ
ズムについて考察した。
第五章では、本博士論文の結論をまとめた。
- 15 -
引用文献
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- 19 -
第二章 乳酸のメンブレン発酵プロセスにおける
光学純度向上について
第一節 概要
sc-PLA の製造には高純度の L-乳酸だけでなく、高化学純度かつ高光学純度の D乳酸を安価に製造する技術が求められている。D-乳酸は一般的に Lactobacillus 属の
乳酸菌によって作られることが知られている。例えば Lactobacillus bulgaricus はラクト
ースを原料として D-乳酸を生産すること 1)、Lactobacillus coryniformis subsp. torquens
はセルロースを原料にして D-乳酸を生産すること 2) 、Lactobacillus delbrueckii や
Sporolactobacillus inulinus はデンプンを原料として D-乳酸を生産すること 3)などが知ら
れている。最近の研究では、D-乳酸の光学純度を改善するために、ヘテロ乳酸発酵
菌(L-乳酸と D-乳酸を生産する)である Lactobacillus plantarum の L-乳酸デヒドロゲナ
ーゼ遺伝子を破壊することで、15% e.e.の光学純度から 99.6% e.e.まで向上させること
に成功した研究がある 4, 5)。さらに、遺伝子組換え技術を用い、L. plantarum のカーボ
ン代謝をホスホケトラーゼ経路からペントースリン酸経路に変更することにより、アラビノ
ース資化性を大幅に改善し、アラビノースからの乳酸収率を向上させている 6)。しかし
ながら D-乳酸のメンブレン発酵プロセスに関する研究はほとんど行われていない。
そこで本章の目的は、D-乳酸を高蓄積濃度かつ高光学純度で生産できる D-乳酸
菌をスクリーニングし、選択した 3 種の Sporolactobacillus 属有胞子乳酸菌の MFR シ
ステムを用いたメンブレン発酵プロセスの比較を行い、バッチ発酵プロセスと比較する
と共に、光学純度が向上するメカニズムについて考察した。
第二節 材料と試験方法
2.1.微生物と培養条件
本章で使用した微生物については Table 2-1 にまとめた。Sporolactobacillus terrae
ST316 は土壌より単離したものであり、筆者が所属する東レの研究グループで保存し
ている。Table 2-1 に示した微生物は、MRS 培地 7)に CaCO3 を 4 g/L になるように添加
した培地を用いて培養をした。D-乳酸を高蓄積濃度かつ高光学純度で生産できる微
生物をスクリーニングする培地には、100 g/L グルコース、5 g/L 酵母エキス、2g/L
MgSO4・7H2O、0.1 g/L MnSO4・5H2O、0.1 g/L FeSO4・7H2O および 57 g/L CaCO3 の組
成に調製し使用した。乳酸発酵培地は、75 g/L サトウキビ由来の原料糖(ムソー株式
会社製)および 5g/L 酵母エキスの組成に調製し使用した。原料糖は 97%(w/w)スク
- 20 -
- 21 -
ロース、1% (w/w)グルコースおよび 1% (w/w)フルクトースを含み、残り 1% (w/w)
は各種アミノ酸、ビタミン類である。すべての培地は 121℃、20 分間のオートクレイブ滅
菌を行った。微生物のスクリーニング試験は 37℃、3 日間、静止培養で行った。
2.2.種培養液の調製方法
種培養は、前々培養として 5ml の MRS 培地を加えた試験管に、プレートから数コ
ロニー接種した。前々培養は 37℃、1 日間、100 rpm の振盪培養を行った。次ぎに前
培養として 50ml の乳酸発酵培地を加えた三角フラスコに、前々培養液を 5ml 接種し、
37℃、1 日間、100 rpm の振盪培養を行った。この前培養液を、次ぎのバッチ発酵プロ
セスおよびメンブレン発酵プロセスに種培養液として接種した。
2.3.バッチ発酵プロセスの試験方法
バッチ発酵プロセスの試験は、2 L 発酵槽(ABLE 株式会社製)を用いて行った。
乳酸発酵培地 1 L を発酵槽に仕込み、温度 37℃、攪拌速度 300 rpm、窒素を 50
mL/min の通気速度で供給する嫌気発酵条件で行った。発酵中の pH は 2.5 mol/L の
Ca(OH)2 を添加することで pH 6.0 に維持した。植菌量は培養液の 10% (v/v)接種した。
培養液を採取し、乳酸、酢酸、エタノール、糖濃度、および微生物濃度を測定した。
2.4.限界フラックスの決定方法
限界フラックスは、MFR システムを用いステップワイズフラックス法 8)により、次のよう
に決定したフラックスとした。バッチ発酵プロセスの試験で得られた培養液を用いて、
MF 膜によるろ過運転を開始し、透過液は発酵槽に戻した。一定のフラックスで 15 分
間ろ過運転を行った後に膜間差圧(TMP)を測定した。この TMP 測定操作を、フラック
スを変更することで繰り返し行った。これらのフラックスと TMP の結果をプロットすると、
フラックスと TMP の相関関係が直線から高めに外れはじめるフラックスがあり、そのフ
ラックスを限界フラックスとした。
2.5.メンブレン発酵プロセスの試験方法
メンブレン発酵プロセスは、2 L 発酵槽に 1.5 L の乳酸発酵培地を仕込み MFR シス
テム 9)を用いて行った。MF 膜としては、Morikawa らの報告にある PVDF 膜 10)を使用
した。選択した D-乳酸菌を用いたメンブレン発酵プロセスは、37℃、pH 6、窒素を 50
mL/min の通気速度で供給する嫌気発酵条件を維持した。ろ過条件としては、限界フ
ラックス以下にフラックスを設定し、植菌後の 24 時間から攪拌速度を 800 rpm に上げ、
ろ過運転および乳酸発酵培地の供給を開始することでメンブレン発酵プロセスを開始
した。分離膜のろ過速度はペリスタポンプで制御した。ろ過運転は 9 分間毎に 1 分間
停止した。発酵原料供給量および中和剤供給量の和と、ろ過量が等しくなるように重
- 22 -
量制御を行い、発酵槽内の培養液量が一定になるようにした。培養液を採取し、乳酸、
酢酸、エタノール、糖濃度、および微生物濃度を測定した。
2.6.乳酸イソメラーゼおよび乳酸デヒドロゲナーゼ活性測定方法
乳酸イソメラーゼおよび乳酸デヒドロゲナーゼ活性測定は、Sakai ら 11)の報告の方法
に従って行った。培養液 5 ml を 8,000 g で 10 分間遠心分離することで微生物を回収
し、10 mmol/L Tris-acetate buffer (TAB)(pH 7.2)を用いて 2 回洗浄し、微生物懸濁
液を調製した。これを氷冷しながら、30W で 5 秒間超音波照射し、5 秒間停止を繰り返
すことで、10 分間細胞を超音波破砕した。その後 8,000 g で 15 分間遠心分離すること
で上清を回収し粗酵素溶液とした。この粗酵素溶液を乳酸イソメラーゼおよび乳酸デ
ヒドロゲナーゼ活性測定に利用した。
乳酸イソメラーゼ活性は、10 mmol/L D-乳酸リチウムもしくは L-乳酸リチウム、10
mg/L Triton X-100、100 mmol/L TAB(pH7.2)および粗酵素溶液もしくは微生物懸濁
液を 0.5 ml に調製し反応液とし、37℃で 2 時間反応した。この反応液を沸騰水中に
10 分間入れることで、反応を停止させた。反応液中の D-乳酸および L-乳酸を次ぎに
示す HPLC 分析方法で定量をした。D-乳酸および L-乳酸の変換比率から乳酸イソメラ
ーゼ活性を算出した。乳酸イソメラーゼ活性 1 unit(μmol/min)は、37℃において 1 分
間に 1μmol の D-乳酸もしくは L-乳酸を異性化させるために必要な酵素活性と定義を
した。
L-乳酸デヒドロゲナーゼ活性および D-乳酸デヒドロゲナーゼ活性は、F-kit(ロシュ株
式会社製)を用いて測定した。
2.7.乳酸、酢酸、エタノール、糖(スクロース、グルコースおよびフルクトース)、乳酸
光学純度および微生物濃度の分析方法
バッチ発酵プロセスおよびメンブレン発酵プロセスで採取した培養液は、8,000 g で
5 分間の遠心分離することで微生物を除去した上清中の乳酸、酢酸、エタノールおよ
び糖(スクロース、グルコースおよびフルクトース)を分析した。乳酸および酢酸濃度は、
電気伝導度検出器を備えた HPLC(株式会社島津製作所製)を用いて決定した。
HPLC 分析条件としては、Shim-pack SPR-H カラム(株式会社島津製作所製)を 45℃
に保温して用い、移動相として 5 mmol/L の p-トルエンスルホン酸溶液を 0.8 mL/min
の速度で流し、反応相として 5 mmol/L p-トルエンスルホン酸、20 mmol/L Bis-Tris
(pH 6.5)および 0.1 mmol/L EDTA・2Na 溶液を 0.8 mL/min の速度で流した。D-乳酸
および L-乳酸の光学純度も HPLC を用いて決定した。HPLC 分析条件としては、
TSK-gel Enantio L1 カラム(東ソー株式会社製)を 37℃に保温して用い、移動相として
8 mmol/L CuSO2 溶液を 1.0 mL/min の速度で流した。分析サンプルは 0.22μm のフィ
ルターを通してから HPLC 分析を行った。スクロース、グルコースおよびフルクトースの
- 23 -
濃度は、F-kit(ロシュ株式会社製)を用いて分析を行った。エタノールの濃度は、水素
炎イオン化検出器を備えた Shimadzu GC-2010(株式会社島津製作所製)を用いたガ
スクロマトグラフ法を用いて決定した。キャピラリーカラムとしては GC TC-1(GL サイエ
ンス株式会社製)を用い、カラム、インジェクター、およびディテクター温度はそれぞれ、
45℃、200℃、および 250℃で行い、ヘリウムキャリアガスは 3 mL/min で流した。微生
物濃度は波長 600 nm の吸光度である OD600nm を測定した。D-乳酸の収率 Y(%)は、
消費した糖(スクロース、グルコースおよびフルクトース)の量 S (g)と生産した D-乳酸
量 L(g)から(2-1)により算出した。
Y =L/S・100
(2-1)
D-乳酸の光学純度 O (% e.e.)は、D-乳酸濃度 DL(g/L)および L-乳酸濃度 LL
(g/L)から(2-2)により算出した。
O =(DL-LL)/(DL+LL)・100
(2-2)
第三節 結果
3.1.D-乳酸菌のスクリーニングについて
D-乳酸を生産することが知られている Lactobacillus 属から 18 株、Leuconostoc 属か
ら 8 株、Sporolactobacillus 属から 4 株および Pediococcus 属から 1 株の合計 31 株の
D-乳酸の蓄積濃度と D-乳酸の光学純度を測定し、D-乳酸生産能力を評価した。D-乳
酸生産能力を Table 2-1 に示す。高い D-乳酸光学純度を有する乳酸菌として、
Lactobacillus delbrueckii ( 2 株 ) 、 Leuconostoc mesenteroides ( 4 株 ) 、
Sporolactobacillus inulinus (1 株)、Sporolactobacillus laevolacticus (2 株)および
Sporolactobacillus terrae (1 株)を選択した。これらの乳酸菌から更に 70 g/L 以上の
D-乳酸蓄積濃度を有する乳酸菌として、S. inulinus JCM 6014 (98.0% e.e., 72.4 g/L)、
S. laevolacticus JCM 2513 (98.2% e.e., 81.4 g/L)、S. laevolacticus JCM 2515 (98.0%
e.e., 82.7 g/L)および S. terrae ST 316 (98.0% e.e., 83.0 g/L)を選択した。なお、次の
評価を行う乳酸菌として、S. inulinus JCM 6014、 S. laevolacticus JCM 2513 および S.
terrae ST 316 を選択した。
3.2.D-乳酸菌のバッチ発酵プロセスについて
3.1.で選択した S. inulinus JCM 6014、 S. laevolacticus JCM 2513 および S. terrae
ST 316 のバッチ発酵プロセスの試験を行った。乳酸を経済的に生産するために、安価
なサトウキビ由来の原料糖 12)を発酵原料にしたバッチ発酵プロセスの試験結果を Fig.
2-1 に示す。すべてのバッチ発酵プロセスにおいて糖は完全に消費された。S. inulinus
- 24 -
- 25 -
は 89 時間後に 77 g/L の D-乳酸を蓄積し、単位体積あたりの生産速度は 0.86 g/L/h
であり、 S. laevolacticus は 68 時間後に 78 g/L の D-乳酸を蓄積し、単位体積あたりの
生産速度は 1.10 g/L/h であり、S. terrae は 68 時間後に 71 g/L の D-乳酸を蓄積し、単
位体積あたりの生産速度は 1.00 g/L/h であった。D-乳酸収率について算出した結果、
S. inulinus、 S. laevolacticus および S. terrae でそれぞれ 88%、89%および 86%であっ
た。D-乳酸の光学純度については、S. inulinus および S. laevolacticus は培養前期(誘
導期および対数増殖期前期)に一時的に光学純度が低下するが、対数増殖期中期
以 降 に 光学 純 度が 増 加 し、 最終 的に 、 D- 乳 酸の 光学 純 度は 、 S. inulinus で は
96.4%e.e.であり、S. laevolacticus では 98.0% e.e.であった。一方の S. terrae は他の 2
株と異なりバッチ発酵プロセスを通して徐々に光学純度が向上し、最終的に D-乳酸の
光学純度は 97.0% e.e.であった。
3.3.D-乳酸菌のメンブレン発酵プロセスについて
選択した S. inulinus JCM 6014、 S. laevolacticus JCM 2513 および S. terrae ST 316
のメンブレン発酵プロセスの試験を行った。限界フラックス解析をそれぞれの 3 株のバ
ッチ発酵プロセスの培養液を用いて試験した結果、S. inulinus、 S. laevolacticus およ
び S. terrae でそれぞれ 0.55 m3/m2/day、0.60 m3/m2/day および 0.25 m3/m2/day であっ
た。これら結果からメンブレン発酵プロセスのろ過運転条件として、限界フラックス以下
のフラックスで運転することにするため S. inulinus および S. laevolacticus では 0.5
m3/m2/day(希釈率 0.17 /h)とし、S. terrae では 0.25 m3/m2/day(希釈率 0.08 /h)とした。
このろ過運転条件で、3 株のメンブレン発酵プロセスの試験を、それぞれ 304、310 およ
び 320 時間継続した。
S. inulinus を用いたメンブレン発酵プロセス(バッチ発酵時間も含まれている)の試
験結果を Fig. 2-2 に示す。S. inulinus はメンブレン発酵プロセスにおいて、D-乳酸を 64
g/L 蓄積し、副生産物として酢酸とエタノールは 1.0 g/L 以下であった(Fig. 2-2a)。単
位体積あたりの生産速度は 8.9 g/L/h であり、 D-乳酸の収率は 96%であった(Fig.
2-2b)。次ぎに、S. laevolacticus を用いたメンブレン発酵プロセスの結果を Fig. 2-3 に
示す。S. laevolacticus はメンブレン発酵プロセスにおいて、D-乳酸を 67 g/L 蓄積し、
副生産物として酢酸とエタノールは 1.5 g/L 以下であった(Fig. 2-3a)。単位体積あたり
の生産速度は 12.2 g/L/h であり、D-乳酸の収率は 96%であった(Fig. 2-3b)。D-乳酸の
メンブレン発酵プロセスでは、バッチ発酵プロセスに比較して単位体積あたりの生産速
度が、S. inulinus および S. laevolacticus でそれぞれ 10 倍から 11 倍に向上していた。
また、この 2 株についてはメンブレン発酵プロセスでの光学純度がバッチ発酵プロセス
と比較して向上した。S. inulinus ではバッチ発酵プロセスの 96.4% e.e.からメンブレン発
酵プロセスの 98.8% e.e.に向上し(Fig. 2-2c)、S. laevolacticus ではバッチ発酵プロセス
の 98.0% e.e.からメンブレン発酵プロセスの 99.8% e.e.に向上した(Fig. 2-3c)。
- 26 -
- 27 -
- 28 -
- 29 -
一方、S. terrae を用いたメンブレン発酵プロセスの結果を Fig. 2-4 に示す。S. terrae は
メンブレン発酵プロセスにおいて、D-乳酸を 62 g/L 蓄積し、副生産物として酢酸とエタ
ノールは 1.0 g/L 以下であった(Fig. 2-4a)。単位体積あたりの生産速度は 5.9g/L/h で
あり、D-乳酸の収率は 75%であった(Fig. 2-4b)。光学純度については徐々に低下し最
終的に 85% e.e.にまで低下した(Fig. 2-4c)。これらの結果から S. inulinus と
S. laevolacticus はメンブレン発酵プロセスにおいてバッチ発酵プロセスよりも生産速度、
収率および光学純度のいずれも向上したが、S. terrae は収率および光学純度につい
て バ ッ チ 発 酵 プ ロ セ ス よ り も 低 下 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。 S. inulinus 、 S.
laevolacticus および S. terrae を用いたメンブレン発酵プロセスでは、微生物濃度であ
る OD600nm は単調に増加し、それぞれ 70、90 および 72 に達した。
3.4.乳酸イソメラーゼおよび乳酸デヒドロゲナーゼ活性評価について
メンブレン発酵プロセスにおいて光学純度が向上することについて解析するために、
3 種の D-乳酸菌においてバッチ発酵プロセスの結果 Fig. 2-1 に(1)と記している誘導
期と Fig. 2-1 に(2)と記している対数増殖期後期における乳酸デヒドロゲナーゼ活性
と乳酸イソメラーゼ活性を測定した結果を Table 2-2 に示す。3 種の乳酸菌において D乳酸デヒドロゲナーゼ活性および L-乳酸デヒドロゲナーゼ活性の両方を有しており、
いずれの D-乳酸菌においても D-乳酸デヒドロゲナーゼ活性のほうが高かった。
乳酸イソメラーゼ活性を測定したところ、3 種の D-乳酸菌において L-乳酸から D-乳
酸へ変換する乳酸イソメラーゼ活性が確認されたが、D-乳酸から L-乳酸へ変換する乳
酸イソメラーゼ活性は確認されなかった。S. inulinus および S. laevolacticus は対数増
殖期後期には乳酸イソメラーゼ活性が増加したが、S. terrae は乳酸イソメラーゼ活性
は変化しなかった。
第四節 考察
31 株の乳酸菌の D-乳酸生産能力を評価した。評価基準は sc-PLA の原料として重
要な高光学純度かつ低コストで製造するために必要な高い蓄積濃度とした。その結果、
S. inulinus、S laevolacticus および S. terrae が高い蓄積濃度(70 g/L 以上)かつ高い光
学純度(98% e.e.以上)であり選択した。光学純度について他の D-乳酸菌と比較して
みると、Lactobacillus delbrueckii (98.3% e.e.) および Leuconostoc mesenteroides
(97.2% e.e.) とほとんど同じくらいの高い光学純度で D-乳酸を生産することができて
いる。しかしながら、今回の試験では L. delbrueckii および L. mesenteroides は蓄積濃
度がとても低く選択からはずした。Lactobacillus lactis の変異株の乳酸生産能力を研
究した例 13)では 98.0% e.e.の D-乳酸が生産されている。また、D-乳酸の光学純度を改
善するために、ヘテロ乳酸発酵菌 (L-乳酸と D-乳酸を生産する) である Lactobacillus
plantarum の L-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を破壊することで、15% e.e.の光学純度か
- 30 -
- 31 -
ら 99.6% e.e.まで向上させることに成功した研究がある 4, 5)。今回の研究で選択されて 3
種の Sporolactobacillus 属は従来の研究例と比較しても同等レベルの光学純度で D乳酸を生産できている。Sporolactobacillus 属は有胞子乳酸菌に分類され、古くから D乳酸を生産することが知られていた 14)。Fukushima らが S. inulinus が高い光学純度で
D-乳酸を生産することを明らかにしたが、Sporolactobacillus 属の他の種においても高
い光学純度で D-乳酸を生産できることは知られていなかった。本研究の D-乳酸菌のス
クリーニング結果によって、有胞子乳酸菌が高い光学純度で D-乳酸を生産できること
を明らかにした。
これまでに乳酸のメンブレン発酵プロセスが、単位体積あたりの生産速度を向上さ
せることができるという報告 15-22)は多くあるが、それらはすべて L-乳酸を生産する研究
で あ り 、 D- 乳 酸 の メ ン ブ レ ン 発 酵 プ ロ セ ス の 研 究 は な か っ た 。 本 研 究 は
Sporolactobacills 属を用いた D-乳酸のメンブレン発酵プロセスの研究であり、バッチ発
酵プロセスでの単位体積あたりの生産速度 0.86-1.10 g/L/h からメンブレン発酵プロセ
スでは 8.9-12.2 g/L/h へとバッチ発酵プロセスの 10 倍以上高い単位体積あたりの生産
速度を初めて達成した。発酵原料によって D-乳酸の光学純度に影響することが知ら
れている 23)ため発酵原料の選択が重要である。例えばコーン、ポテト、ビート、米およ
びサトウキビを発酵原料にした D-乳酸発酵の評価研究がある 24)。本研究ではサトウキ
ビ由来の原料糖を発酵原料とし、S. inulinus および S laevolacticus を用いた場合には
メンブレン発酵プロセスにおいてバッチ発酵プロセスよりも高い光学純度で D-乳酸を
生産することを明らかにすることができた。特に S. laevolacticus を用いたメンブレン発
酵プロセスではバッチ発酵プロセスでの光学純度 98.0% e.e.から 99.8% e.e.という大幅
な向上効果が得られた。
このメンブレン発酵プロセスにおいて光学純度が向上するというメカニズムについて
解明するために、乳酸デヒドロゲナーゼおよび乳酸イソメラーゼ活性について調べた
(Table 2-2)。Lactobacillus 属や Leuconostoc 属の乳酸菌では、L-乳酸デヒドロゲナー
ゼ活性が欠失しているため D-乳酸を高い光学純度で生産できることが知られている 25)。
S. inulinus、S laevolacticus および S. terrae は L-乳酸デヒドロゲナーゼ活性も有してい
るにも関わらず、高い光学純度で D-乳酸を生産する。これら 3 種の有胞子乳酸菌は
L-乳酸から D-乳酸へ変換する乳酸イソメラーゼ活性も有している。このような乳酸異性
化反応は、化学反応と酵素反応の融合反応においての研究例 26)を除いて、初めて観
察されたものである。メンブレン発酵プロセスで光学純度が向上した S. inulinus および
S. laevolacticus は、この乳酸イソメラーゼ活性が発酵時間の経過にしたがい高くなる
(誘導期で 8 U/mg protein から対数増殖期後期で 24-27 U/mg protein)が、逆にメンブ
レン発酵プロセスで光学純度が低下した S. terrae はこの乳酸イソメラーゼ活性が一定
のまま(誘導期および対数増殖期で 5-6 U/mg protein)であることが、メンブレン発酵プ
ロセスでの光学純度の向上や低下という現象の一因であると考えられる。S. inulinus お
- 32 -
よび S. laevolacticus のバッチ発酵プロセスにおける対数増殖期以降に D-乳酸光学純
度が向上する現象は、おそらく L-乳酸デヒドロゲナーゼ活性により生産された L-乳酸
が乳酸イソメラーゼによって D-乳酸に変換される速度が高まっていくためであると考え
られる。そしてメンブレン発酵プロセスにおいてはバッチ発酵プロセスの対数増殖期後
期の状態が継続するために、これら 2 種の有胞子乳酸菌ではバッチ発酵プロセスより
も更に高い光学純度になると考えられる。一方の S. terrae のバッチ発酵プロセスでは、
誘導期においては D-乳酸デヒドロゲナーゼ活性(0.003 U/mg protein)のほうが L-乳酸
デヒドロゲナーゼ活性(0.04 U/mg protein)よりも弱く、対数増殖期後期においてはそ
の逆となるため、D-乳酸光学純度が発酵時間の経過に従い徐々に上昇することとなっ
たと考えられる。S. terrae のメンブレン発酵プロセスでは徐々に D-乳酸光学純度が低
下していくが、乳酸デヒドロゲナーゼおよび乳酸イソメラーゼ活性の解析だけでは説明
ができない。S. terrae は独自の L-乳酸を生産する代謝活性を持っていると考えられ、
更なる研究が必要である。
第五節 まとめ
1) 31 株の乳酸菌の D-乳酸生産能力を評価した結果、S. inulinus、S. laevolacticus
および S. terrae の 3 種の有胞子乳酸菌が高い D-乳酸蓄積濃度(70 g/L 以上)か
つ高い光学純度(98% e.e.以上)で D-乳酸を生産する能力を有していることを明ら
かにした。
2) これら 3 種の有胞子乳酸菌を用いたメンブレン発酵プロセスの検討を行った結
果、バッチ発酵プロセスに比較して約 10 倍以上の単位体積あたりの生産速度を
達成し、更には S. inulinus および S. laevolacticus では光学純度が向上することを
明らかにした。
3) これら 3 種の有胞子乳酸菌の乳酸デヒドロゲナーゼおよび乳酸イソメラーゼ活性
評価を行った結果、すべての有胞子乳酸菌が L-および D-乳酸デヒドロゲナーゼ
活性を有し、更には L-乳酸を D-乳酸に変換する乳酸イソメラーゼ活性を有するこ
とを明らかにした。
4) S. inulinus および S. laevolacticus を用いたメンブレン発酵プロセスにおいて、バ
ッチ発酵プロセスよりも光学純度が向上するメカニズムについては、メンブレン発
酵プロセスではバッチ発酵プロセスの対数増殖期後期の状態が継続されるため、
乳酸イソメラーゼ活性が高くなり光学純度が向上すると考察した。
- 33 -
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第三章 乳酸のメンブレン発酵プロセスにおける
副原料削減について
第一節 概要
筆者が属する東レの研究グループにおいても、排水処理分野で開発されてきたポリ
フッ化ビニリデン膜(PVDF 膜)1)およびろ過運転手法である限界フラックス解析 2)のメン
ブ レ ン 発 酵 プ ロ セ ス へ 適 用 を 行 う こ と を コ ン セ プ ト に し た MFR シ ス テ ム
(Membrane-integrated fermentation reactor system)を提案している。限界フラックスを
メンブレン発酵プロセスのろ過運転条件に利用することで、分離膜閉塞を防ぐことがで
きる。しかしながら、メンブレン発酵プロセスを長期間継続すると培養液の性質が時間
経過とともに変化するため、更なる長期間継続するメンブレン発酵プロセスを確立する
ためには、MFR システムを用いるだけでは十分ではない。例えば微生物濃度が上昇
することで培養液の粘度が上昇したり、微生物の死骸などの廃棄物質の蓄積による分
離膜閉塞が発生する。Levent らは微生物濃度が急速に上昇することで、分離膜のろ
過性が減少する結果を報告している 3)。
乳酸菌は栄養要求性が複雑であり 4)、Tejayadi らの研究によると乳酸製造コストの約
38%を高価な栄養成分である酵母エキスやポリペプトンといった副原料が占めている
5)
が、それらを削減することは困難であると報告している。なぜならば、Hurok らが
Enterococcus faecalis RKY1 の乳酸発酵において酵母エキスが非常に重要な役割を
果たしていることを報告しているためである 6)。この研究は、酵母エキス濃度が 25 g/L
までは乳酸生産性と相関関係があることを示している。さらに Choudhury らはメンブレ
ン発酵プロセスにおいて、Lactobacillus rhamnosus NRRL B445 株を用いた場合、酵
母エキス濃度を削減することで微生物濃度を制御することができるが、乳酸生産性に
多くの影響を与えてしまうことを報告している 7)。第二章のスクリーニングにおいて選択
した Sporolactobacillus laevolacticus JCM 2513 は他の乳酸菌よりもアミノ酸の要求性
が低いことが知られている 8)。メンブレン発酵プロセスにおいて副原料を削減すること
ができれば、原料コストの削減と精製プロセスにおける負荷低減の2つの観点から魅
力的なプロセスになるだろうと考えられる。
そこで、本章の目的は、第二章で選択した S. laevolacticus を用いたメンブレン発酵
プロセスにおいて、更なる長期間継続できるメンブレン発酵プロセスを確立するために、
発酵培地中の副原料を削減することを検討した。
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第二節 材料と試験方法
2.1.微生物と培養条件
本章で使用した微生物は S. laevolacticus JCM 2513 である。種培養液の調製時に
は、MRS 培地 9)に CaCO3 を 4 g/L になるように添加した培地を用いた。バッチ発酵プ
ロセスで用いた乳酸発酵培地は、100 g/L サトウキビ由来の原料糖(ムソー株式会社
製)、10 g/L 酵母エキス、2 g/L MgSO4・7H2O、0.1 g/L MnSO4・5H2O、0.1 g/L FeSO4・
7H2O の組成に調製し使用した。メンブレン発酵プロセスで用いた乳酸発酵培地は、
80 g/L サトウキビ由来の原料糖、10 g/L 酵母エキス、2 g/L MgSO4・7H2O、0.1 g/L
MnSO4・5H2O、0.1 g/L FeSO4・7H2O の組成に調製し使用した。これら培地は 121℃、
20 分間のオートクレイブ滅菌を行った。
2.2.種培養液の調製方法
種培養は、前々培養として 5ml の MRS 培地を加えた試験管に、プレートから数コ
ロニー接種した。前々培養は 37℃、1 日間、100 rpm の振盪培養を行った。次ぎに前
培養として 50ml の乳酸発酵培地を加えた三角フラスコに、前々培養液を 5ml 接種し、
37℃、1 日間、100 rpm の振盪培養を行った。この前培養液を、次ぎのバッチ発酵プロ
セスおよびメンブレン発酵プロセスに種培養液として接種した。
2.3.バッチ発酵プロセスの試験方法
バッチ発酵プロセスの試験は、2 L 発酵槽(ABLE 株式会社社製)を用いて行った。
乳酸発酵培地 1 L を発酵槽に仕込み、温度 37℃、攪拌速度 120 rpm、窒素を 50
mL/min の通気速度で供給する嫌気発酵条件で行った。発酵中の pH は 2.5 mol/L の
Ca(OH)2 を添加することで pH 6.0 に維持した。また、種々の酵母エキス濃度でバッチ
発酵プロセスを試験した。培養液を採取し、乳酸、酢酸、蟻酸、エタノール、糖濃度、
および微生物濃度を測定した。
2.4.メンブレン発酵プロセスの試験方法
メンブレン発酵プロセスは、2 L 発酵槽に 1.5 L の乳酸発酵培地を仕込み MFR シス
テム 10)を用いて行った。MF 膜としては、Morikawa らの報告にある PVDF 膜 11)を使用
した。D-乳酸菌を用いたメンブレン発酵プロセスは、37℃、pH 6、窒素を 100 mL/min
の通気速度で供給する嫌気発酵条件を維持した。ろ過条件としては、限界フラックス
以下にフラックスを設定し、植菌後の 24 時間から攪拌速度を 800 rpm に上げ、ろ過運
転および乳酸発酵培地の供給を開始することでメンブレン発酵プロセスを開始した。
分離膜のろ過速度はペリスタポンプで制御した。ろ過運転は 9 分間毎に 1 分間停止し
た。第二章より S. laevolacticus の限界フラックスは 0.600 m3/m2/day であることから、ろ
過フラックスとして 0.530 m3/m2/day(希釈率 0.17 /h)の一定速度で運転した。発酵原料
- 38 -
供給量および中和剤供給量の和と、ろ過量が等しくなるように重量制御を行い、発酵
槽内の培養液量が一定になるようにした。培養液を採取し、乳酸、酢酸、ピルビン酸、
コハク酸、グリセロール、エタノール、糖濃度および微生物濃度を測定した。
2.5.乳酸、酢酸、蟻酸、エタノール、糖(スクロース、グルコースおよびフルクトース)、
乳酸光学純度および微生物濃度の分析方法
バッチ発酵プロセスおよびメンブレン発酵プロセスで採取した培養液は、8,000 g で
5 分間の遠心分離することで微生物を除去した上清の乳酸、酢酸、蟻酸、エタノール
および糖(スクロース、グルコースおよびフルクトース)を分析した。乳酸、酢酸および
蟻酸濃度は、電気伝導度検出器を備えた HPLC(株式会社島津製作所製)を用いて
決定した。HPLC 分析条件としては、Shim-pack SPR-H カラム(株式会社島津製作所
製)を 45℃に保温して用い、移動相として 5 mmol/L の p-トルエンスルホン酸溶液を 0.8
mL/min の速度で流し、反応相として 5 mmol/L p-トルエンスルホン酸、20 mmol/L
Bis-Tris (pH 6.5)および 0.1 mmol/L EDTA・2Na 溶液を 0.8 mL/min の速度で流した。
D-乳酸および L-乳酸の光学純度についても HPLC を用いて決定した。HPLC 分析条
件としては、TSK-gel Enantio L1 カラム(東ソー株式会社製)を 37℃に保温して用い、
移動相として 8 mmol/L CuSO2 溶液を 1.0 mL/min の速度で流した。分析サンプルは
0.22μm のフィルターを通してから HPLC 分析を行った。スクロース、グルコースおよび
フルクトースの濃度は、F-kit(ロシュ株式会社製)を用いて分析を行った。エタノールの
濃度は、水素炎イオン化検出器を備えた Shimadzu GC-2010(株式会社島津製作所
製)を用いたガスクロマトグラフ法を用いて決定した。キャピラリーカラムとしては GC
TC-1(0.53 mm i.d. by 15 m)(GL サイエンス株式会社製)を用い、カラム、インジェクタ
ー、およびディテクター温度はそれぞれ、45℃、200℃、および 250℃で行い、ヘリウム
キャリアガスは 3 mL/min で流した。微生物濃度は波長 660 nm の吸光度である
OD660nm を測定した。D-乳酸の収率 Y(%)は、消費した糖(スクロース、グルコースおよ
びフルクトース)の量 S (g)と生産した D-乳酸量 L(g)から(2-1)により算出した。
Y =L/S・100
(2-1)
第三節 結果
3.1.バッチ発酵プロセスにおける酵母エキス濃度の影響について
10 g/ L、5 g/L、3 g/L、および 1 g/L の酵母エキスを含む乳酸発酵培地を用いて、S.
laevolacticus のバッチ発酵プロセスを試験した。これらのバッチ発酵プロセスの試験結
果を Fig. 3-1 に示す。いずれの酵母エキス濃度での試験においても、糖を消費しきっ
たときには、主な副生産物として酢酸が 0.7 g/L 蓄積されていた。糖を消費しきったとき
のバッチ発酵プロセスの結果のまとめを Table 3-1 に示す。酵母エキス濃度が 5 g/L も
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しくは 3 g/L において高い収率が得られているが、酵母エキス濃度を 10 g/L にすると
収率が低下した。3 g/L にまで酵母エキス濃度を削減すると、単位体積あたりの乳酸生
産速度が低下したが、D-乳酸収率は低下しなかった。
3.2.メンブレン発酵プロセスにおける酵母エキス濃度の影響について
メンブレン発酵プロセスの発酵条件は、基本的にバッチ発酵プロセスの条件と等しく
行いたいが、D-乳酸カルシウムが 70 g/L で析出してしまったため、原料糖を 80 g/L に
下げた乳酸発酵培地を用いた。最初に、10 g/L 酵母エキスを含む乳酸発酵培地を用
いてメンブレン発酵プロセスの試験を行った。次ぎに、メンブレン発酵プロセスにおい
て段階的に酵母エキス濃度を下げてメンブレン発酵プロセスの試験を行った。具体的
には微生物の増殖を早めるために植菌から 140 時間までは供給される乳酸発酵培地
の酵母エキス濃度を 5 g/L で試験し、その後、3 g/L 酵母エキスを含む乳酸発酵培地を
供給して 257 時間まで試験した。酵母エキス濃度を下げてもなお、原料である糖を完
全に消費できていたため酵母エキス濃度を 1 g/L に下げて 812 時間まで試験を継続
した。この 2 つのメンブレン発酵プロセス試験結果の OD660nm およびフラックスの経時
変化を Fig. 3-2 に示す。Fig. 3-2A は、メンブレン発酵プロセスにおいても 10 g/L 酵母
エキス濃度のほうが 3 g/L 酵母エキス濃度よりも微生物増殖速度が速いことを示してい
る。Fig. 3-2B は、10 g/L 酵母エキス濃度の試験ではフラックスが徐々に低下していくが、
酵母エキス濃度を段階的に削減した試験ではフラックスの低下が起こらないことを示
唆している。
酵母エキス濃度を段階的に下げたメンブレン発酵プロセスの試験結果を Fig. 3-3 に
示す。1 g/L の酵母エキス濃度に削減後(257-812 時間)の乳酸濃度は 64.4-69.5 g/L、
単位体積当たりの生産速度は 10.9-12.1 g/L/h、収率は 93.3-100.5%であった。主な副
産物としては、酢酸濃度が 1.3-3.4 g/L、蟻酸濃度が 0.0-0.2 g/L、エタノール濃度が
0.9-2.1 g/L であった。また、D-乳酸の光学純度は 99.6-99.9% e.e.であった。酵母エキス
濃度を 3 g/L から 1 g/L に変更したとき(200-300 時間)から、酢酸濃度が 1.3 g/L から
2.5 g/L に増加し、蟻酸濃度が 2.4 g/L から 0.1 g/L に減少した。
1 g/L の酵母エキス濃度におけるバッチ発酵プロセスおよびメンブレン発酵プロセス
の比較結果を Table 3-2 に示す。バッチ発酵プロセスにおいて 1 g/L 酵母エキス濃度で
は単位体積あたりの乳酸生産速度が 0.25 g/L/h と著しく低かったが、メンブレン発酵プ
ロセスにおいては単位体積あたりの乳酸生産速度が 11.2 g/L/h であった。10 g/L 酵母
エキス濃度の場合では、バッチ発酵プロセスに比較して、メンブレン発酵プロセスでは
約 10 倍の単位体積あたりの乳酸生産速度向上であるが、1 g/L 酵母エキスの場合で
は、単位体積あたりの乳酸生産速度が 44.8 倍も向上した。
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第四節 考察
Hurok らは E. faecalis RKY1 を用いた乳酸発酵において酵母エキス濃度が 25 g/L
までは乳酸生産性と直線的な相関関係があることを示しており、酵母エキス濃度が乳
酸生産の非常に重要な因子であることを報告している 6)。有胞子乳酸菌においても酵
母エキス濃度が乳酸生産の非常に重要な因子であるかを確認するために、10 g/ L、5
g/L、3 g/L、および 1 g/L の酵母エキスを含む乳酸発酵培地を用いて、S. laevolacticus
のバッチ発酵プロセスを試験した。その結果、バッチ発酵プロセスでは酵母エキス濃
度が低いほど、単位体積あたりの乳酸生産速度、微生物濃度が低下する傾向(Table
3-1)を示し、他の乳酸菌の結果と同じく有胞子乳酸菌においても乳酸生産に酵母エ
キス濃度が非常に重要な因子であることが明らかになった。
一方でメンブレン発酵プロセスにおいて、酵母エキス濃度が高いほど Fig. 3-2 に示
されるように早く微生物濃度が高められる。単位体積あたりの生産速度を高めるために
は、微生物濃度が高められることは重要なことである。しかしながら、Fig. 3-2 に示され
るように酵母エキス濃度が 10 g/L のままだと 0.530 m3/m2/day から 0.480 m3/m2/day へ
とフラックスが低下した。微生物濃度が高くなることのみでフラックスが低下するわけで
はなく、排水処理プロセスの研究において Huang らは、可溶性の有機化合物が分離
膜のろ過性に悪影響を及ぼすことを報告している 12)。微生物の増殖速度が速いフェ
ーズにおいてフラックスを低下させる原因物質を生産しているのではないかと予想され
る。Fig. 3-2 から、酵母エキス濃度を削減することにより微生物増殖速度を制御し必要
以上に微生物濃度を高めないことで分離膜を閉塞する物質の代謝生産を抑制するこ
とが可能となり、メンブレン発酵プロセスにおいてフラックス低下を引き起こすことがなく、
長期間安定に継続することができるようになったと考えられる。つまり、限界フラックス
によるフラックス設定というろ過運転条件の設定に加えて、微生物濃度を必要以上に
高めないように抑制するという培養条件の設定が、メンブレン発酵プロセスを長期間安
定に継続するために重要であることを明らかにすることができた。
酵母エキス濃度を段階的に下げたメンブレン発酵プロセスでは、酵母エキス濃度を
3 g/L から 1 g/L に変更したとき(200-300 時間)から、酢酸濃度が 1.3 g/L から 2.5 g/L
に増加し、蟻酸濃度が 2.4 g/L から 0.1 g/L に減少した。乳酸だけが生成されるホモ乳
酸発酵から、蟻酸、CO2、酢酸、あるいはエタノールなどの他の代謝産物も同時に生
成されるヘテロ乳酸発酵への変化は、Streptococcus lactis13)や Lactococcus lactis14)に
おいて報告されている。その変化は、糖消費速度に依存していると言われている。具
体的メカニズムは、糖消費速度によって、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ
活性(GAPHD)による解糖速度の制御および GAPDH 活性が制限されるとグリセルア
ルデヒド-3-リン酸とジヒドロキシアセトンリン酸が蓄積され、ピルビン酸-蟻酸リアーゼ活
性が阻害され蟻酸が低下する 14)。そのためメンブレン発酵プロセスにおいても、糖消
費速度の変化によりホモ乳酸発酵からヘテロ乳酸発酵への変化が起こったと推測され
- 46 -
る。あるいは、酵母エキス削減により ATP の欠乏を引き起こし、細胞内の酸化還元バラ
ンスが変化したのではないかと考えられる。ATP 欠乏により、アセチル-CoA リガーゼが
活性化し、ATP を生産するが酸化還元バランスを保つために NAD+依存型の蟻酸デヒ
ドロゲナーゼが活性化し、蟻酸を消費したのではないかと推測される。これら推測を確
認するためには、メンブレン発酵プロセスにおけるピルビン酸-蟻酸リアーゼ、アセチル
-CoA リアーゼおよび NAD+依存型の蟻酸デヒドロゲナーゼの活性の確認をする必要
がある。
バッチ発酵プロセスとメンブレン発酵プロセスの比較では、Table 3-2 の結果から明ら
かなように、微生物あたりの単位体積あたりの D-乳酸生産速度は両プロセス共に、約
0.1 g/L/h/OD660nm であり大きな違いはなかった。つまりプロセスの違いがあったとしても
微生物自体の D-乳酸生産能力に違いはなく、メンブレン発酵プロセスにおいて 44.8
倍もの単位体積あたりの生産速度の向上は、微生物濃度を高めることにより達成でき
たことを示している。本研究では、副原料の削減によって微生物の増殖を抑制すること
で、メンブレン発酵プロセスを約 1 ヶ月もの長期間の維持に成功した。副原料削減が
可能であるということは、メンブレン発酵プロセスにおける重要な特徴である。
分離膜を使わない連続発酵プロセス(ケモスタットカルチャー)では、微生物がウォッ
シュアウトする希釈率で運転することはできない。言い換えると連続発酵プロセスにお
いて高い単位体積あたりの生産速度を得るためには、微生物の増殖速度を高めること
でのみ達成できる 15)。しかしながら、微生物の増殖速度は、発酵培地中の増殖に影響
する栄養素(例えば酵母エキスなど)の濃度設定に依存している。それ故に、連続発
酵プロセスにおいて高い単位体積あたりの乳酸生産速度を得るためには、発酵培地
中の増殖に影響する栄養素の濃度を高濃度で供給する必要がある。メンブレン発酵
プロセスでは、供給される発酵原料に含まれる酵母エキスの濃度を低減させたとしても、
高い単位体積あたりの生産速度を得られることを示しており、連続発酵プロセスよりメ
ンブレン発酵プロセスのほうが発酵培地中の増殖に影響する栄養素の濃度設定で有
利であることが明らかになった。
有胞子乳酸菌は、バッチ発酵プロセスにおいて最大の単位体積あたりの生産速度
が得られない 1 g/L 酵母エキス濃度に削減したとしてもメンブレン発酵プロセスにおい
ては、単位体積あたりの乳酸生産速度に悪影響はなかった。Choudhury らの L.
rhamnosus NRRL B445 によるメンブレン発酵プロセスにおける酵母エキス削減の研究
では、酵母エキス濃度を 16 g/L から 3.2 g/L に削減することで単位体積あたりの乳酸生
産速度が低下する結果が報告されている 7)。このことからメンブレン発酵プロセスにお
ける副原料削減の影響は、微生物の種類によって異なることが明らかとなった。メンブ
レン発酵プロセスは、微生物を選ぶ必要はあるが様々な発酵製品を製造するプロセス
において、副原料削減の可能性があると考えられる。
これまでに乳酸のメンブレン発酵プロセスが、単位体積あたりの生産速度を向上させ
- 47 -
ることができるという報告は多くある 3, 16-22)。しかしながら乳酸のメンブレン発酵プロセス
が工業化された例はなく、その主たる原因は分離膜の性能が低く、価格が高いためで
あると考えられる。これまでのメンブレン発酵プロセスの研究では、単位体積あたりの
生産速度を評価することがほとんどであり、そのため分離膜の閉塞が起ころうとも短期
間でも高い単位体積あたりの生産速度を達成しようとするものが多かった。そのため培
養液体積に対して非常に大きな膜面積を利用することで、151 g/L/h などの非常に高
い単位体積あたりの生産速度を達成している報告がある 17, 19, 22)。しかしながらこの場
合は分離膜コストが大きくなってしまうと予想される。メンブレン発酵プロセスにおいて
は、分離膜コストを削減することは重要である。それ故に本研究とこれまでのメンブレン
発酵プロセスの研究を(3-1 式)で表される膜面積あたりの乳酸生産量 I(g/cm2)を用い
て比較した。膜面積あたりの乳酸生産量 I は、単位体積あたりの生産速度を P(g/L/h)、
メンブレン発酵プロセスの継続時間を T(h)、分離膜面積を M(cm2)、培養液体積を V
(L)として(3-1)で算出される。
I = P・T・V / M
(3-1)
膜面積あたりの乳酸生産量 I(g/cm2)が大きくなるほど必要な分離膜面積が小さく、
コンパクトなメンブレンバイオリアクターが設計できることを示している。膜面積あたりの
乳酸生産量を算出するためには、使用した分離膜面積が明記されている必要がある
が、膜面積あたりの乳酸生産量を算出できるこれまでの乳酸のメンブレン発酵プロセ
スの研究 3, 6, 7, 17-22)結果と本研究の結果の比較を Table 3-3 に示す。本研究結果は、こ
れまでの研究結果と比較して最も高い単位体積当たりの生産速度は得られていない。
またメンブレン発酵プロセスの継続時間においても最も長い結果ではない。しかしなが
ら、最も小さい分離膜面積において比較的良好な単位体積あたりの生産速度および
メンブレン発酵プロセスの継続時間を達成しているために、膜面積あたりの乳酸生産
量は最も高い結果となっている。この結果が得られた理由は、分離膜のろ過性能を最
大限に発揮させるという MFR システムのコンセプトに加えて、副原料を削減するという
培養条件からのアプローチを加えることにより、メンブレン発酵プロセスが更に安定し
て長期間継続できるようになったためであると考えられる。MFR システムを用いたメン
ブレン発酵プロセスは、これまでの研究と比較して膜面積あたりの乳酸生産量が 6.3 倍
高い値を示しており、分離膜コストを削減できる可能性が高いことが示された。
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第五節 まとめ
1) バッチ発酵プロセスでは、有胞子乳酸菌においても他の乳酸菌と同様に、酵母
エキス濃度を削減するほど、単位体積あたり乳酸生産速度、微生物濃度が低下し、
乳酸生産に酵母エキス濃度が非常に重要な因子であることが明らかになった。
2) 限界フラックス以下のろ過運転条件の設定に加えて微生物濃度を必要以上に
高めないようにするという培養条件の設定が、メンブレン発酵プロセスを長期間安
定に継続するために重要であることを明らかにすることができた。
3) バッチ発酵プロセスでは単位体積あたり生産速度が非常に低い 1 g/L 酵母エキ
ス濃度においてさえもメンブレン発酵プロセスにおいては、乳酸蓄積濃度
64.4-69.5 g/L 、 単 位 体 積 あ た り の 生 産 速 度 10.9-12.1 g/L/h お よ び 収 率
93.3-100.5%という良好な乳酸生産性を約 1 ヶ月もの長期間にわたって継続するこ
とに成功した。
4) 膜面積あたりの乳酸生産量を用いこれまでのメンブレン発酵プロセスの研究と比
較した結果、本研究の MFR システムを用いたメンブレン発酵プロセスは、膜面積
あたりの乳酸生産量が従来の研究よりも 6.3 倍高い値を示しており、分離膜コスト
を削減できる可能性が高いことを明らかにすることができた。
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- 52 -
第四章 乳酸のメンブレン発酵プロセスにおける
乳酸カーボン収率向上について
第一節 概要
S. laevolacticus をはじめとして乳酸菌による乳酸のメンブレン発酵プロセスにおいて
は、低い pH では微生物増殖が阻害されてしまう。そのため CaCO3、Ca(OH)2、NaOH、
もしくは NH4OH などが、乳酸の中和のために加えられる。そのためポリマー原料となる
フリー乳酸を得るためには、解塩やイオン交換などの精製工程が必要となり、乳酸のコ
スト増となっていた。
一方で、乳酸を生産する技術として、遺伝子組換え酵母を用いた発酵技術が幅広
く研究されている。Saccharomyces cerevisiae のような酵母は乳酸菌よりも低い pH に対
して耐性がある。最近では遺伝子組換え酵母による L-乳酸製造が開発され、大量生
産の検討がおこなわれている。酵母はエタノールを生産する微生物であり、ピルビン
酸がピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC: EC 4.1.1.1)によってアセトアルデヒドに変
換され、アセトアルデヒドはアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH: EC 1.1.1.1)によってエ
タノールに変換されることでエタノールが生産される。遺伝子組換え技術により外来の
L-乳酸デヒドロゲナーゼ(L-LDH: EC 1.1.1.27)の遺伝子を発現させることで、ピルビン
酸から L-乳酸を生産することができるようになる。このような乳酸生産酵母の最初の報
告は Dequin ら 1)、その後、Porro ら 2)によって行われた。しかしながら両報告ではかな
りの量のエタノールが副生産されている。S. cerevisae はエタノール生産に関係する 3
つの PDC 遺伝子(PDC1, PDC5, and PDC6)を持っている 3, 4)。酵母の PDC 活性は、
主に PDC1 と PDC5 遺伝子によるものであり 5, 6)、そしてこれら遺伝子の発現は自己調
節によって制御されている。PDC1 遺伝子を削除すると PDC5 プロモーターが働き、
mRNA が発現する 7)。乳酸生産酵母の改良検討では、PDC1 プロモーター制御下に
牛由来および Bifidobacterium longum 由来の L-LDH 遺伝子を染色体に相同組換え
法により挿入し、PDC1 を完全に不活性化した報告がある 8)。この乳酸生産酵母は、中
和を行うバッチ発酵プロセスで、グルコースから乳酸(55.6 g/L)とエタノール(16.9%)を
生産し、中和を行わないバッチ発酵プロセスにおいても、乳酸(50.2 g/L)を生産した。
遺伝子組換え酵母による D-乳酸生産の報告としては、Leuconostoc mesenteroides
subsp. mesenteroides strain NBRC3426 の D-LDH 遺伝子を単離し、酵母の PDC1 遺伝
子座に相同組み換えにより挿入した報告がある 9)。本報告では、D-乳酸を生産するた
めには、ピルビン酸基質親和性(Km = 0.3 mM)が優れる L. mesenteroides 由来の
- 53 -
D-LDH 遺伝子を用いた場合に D-乳酸をより生産することができたと報告されている。
筆者が属する東レの研究グループにおいては、更にピルビン酸基質親和性が優れる
(Km = 0.07 mM)とされるアメリカブトガニ(Limulus polyphemus)由来の D-LDH10)の遺
伝子クローニングを行い、酵母の PDC1 遺伝子座に相同組み換えにより挿入した D乳酸生産酵母(SW092-2D (pdc1::Lp.D-LDH-TRP1))を作製している 11)。
そこで本章では、D-乳酸生産酵母を用いたメンブレン発酵プロセスを世界で初めて
検討し、バッチ発酵プロセスとメンブレン発酵プロセスで D-乳酸の生産性を比較し、乳
酸カーボン収率向上のメカニズムについて考察した。
第二節 材料と試験方法
2.1.微生物と培養条件
本章で使用した D-乳酸生産酵母は、SW092-2D (pdc1::Lp.D-LDH-TRP1)11)である。
乳酸発酵培地は、75 g/L サトウキビ由来の原料糖(ムソー株式会社製)、1.5 g/L 硫安、
152 mg/L ウラシル、760 mg/L ロイシン、152 mg/L ヒスチジン、4.3 g/L アデニンの組
成に調製し使用した。種培養液の調製時には、YPD(10 g/L 酵母エキス、20 g/L ペ
プトン、20g/L グルコース)培地を用いた。これら培地は 121°C、20 分間のオートクレイ
ブ滅菌を行った。
2.2.種培養液の調製方法
種培養は、前々培養として 5ml の YPD 培地を加えた試験管に、プレートから数コロ
ニー接種した。前々培養は 30℃、1 日間、100 rpm の振盪培養を行った。次ぎに前培
養として 50ml の YPD 培地を加えた三角フラスコに、前々培養液を 5ml 接種し、30℃、
1 日間、100 rpm の振盪培養を行った。この前培養液を、次ぎのバッチ発酵プロセスお
よびメンブレン発酵プロセスに種培養液として接種した。
2.3.バッチ発酵プロセスの試験方法
バッチ発酵プロセスの試験は、2 L 発酵槽(ABLE 株式会社社製)を用いて行った。
乳酸発酵培地 1 L を発酵槽に仕込み、温度 30℃、攪拌速度 120 rpm、空気を 50
mL/min の通気速度で供給する嫌気発酵条件で行った。発酵中の pH は 2.5 mol/L の
Ca(OH)2 を添加することで pH 4.5 に維持した。培養液を採取し、乳酸、酢酸、ピルビン
酸、コハク酸、グリセロール、エタノール、糖濃度および微生物濃度を測定した。
2.4.メンブレン発酵プロセスの試験方法
メンブレン発酵プロセスは、2 L 発酵槽に 1.5 L の乳酸発酵培地を仕込み MFR シス
テム 12)を用いて行った。MF 膜としては、Morikawa らの報告にある PVDF 膜 13)を使用
した。D-乳酸生産酵母を用いたメンブレン発酵プロセスは、30℃、pH 4.5、空気を 50
- 54 -
mL/min の通気速度で供給する微好気発酵条件を維持した。ろ過条件としては、限界
フラックス以下にフラックスを設定し、植菌後の 24 時間からろ過運転および乳酸発酵
培地の供給を開始することでメンブレン発酵プロセスを開始した。分離膜のろ過速度
はペリスタポンプで制御した。ろ過運転は 9 分間毎に 1 分間停止した。D-乳酸生産酵
母の限界フラックスを測定した結果、0.550 m3/m2/day であることから、ろ過フラックスと
して 0.500 m3/m2/day(希釈率 0.17 /h)の一定速度で運転した。発酵原料供給量およ
び中和剤供給量の和と、ろ過量が等しくなるように重量制御を行い、発酵槽内の培養
液量が一定になるようにした。培養液を採取し、乳酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、グ
リセロール、エタノール、糖濃度および微生物濃度を測定した。
2.5.連続発酵プロセスの試験方法(ケモスタットカルチャー)
連続発酵プロセスの試験は、2 L 発酵槽を用いて行った。乳酸発酵培地 1.5 L を発
酵槽に仕込み、温度 30℃、攪拌速度 400 rpm、空気を 50 mL/min の通気速度で供給
する微好気発酵条件で行った。連続発酵では、培地供給速度を 6 mL/h(希釈率
0.004 /h)の一定速度とした。培養液を抜き出す配管の先端を発酵槽内の 1.5 L 培養
液上面にセットし、ろ過ポンプを培地供給速度よりも高い設定として常時運転した。そ
の結果、培養液は 1.5 L で一定状態となった。培養液サンプルを採取し、乳酸、酢酸、
ピルビン酸、コハク酸、グリセロール、エタノール、糖濃度および微生物濃度を測定し
た。
2.6.乳酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、グリセロール、エタノール、糖(スクロース、グ
ルコースおよびフルクトース)、乳酸光学純度および微生物濃度の分析方法
バッチ発酵プロセス、メンブレン発酵プロセスおよび連続発酵プロセスで採取した培
養液は、8,000 g で 5 分間の遠心分離することで微生物を除去した上清の乳酸、酢酸、
ピルビン酸、コハク酸、グリセロール、エタノールおよび糖(スクロース、グルコースおよ
びフルクトース)を分析した。乳酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸およびグリセロール濃
度は、電気伝導度検出器を備えた HPLC(株式会社島津製作所製)を用いて決定した。
HPLC 分析条件としては、Shim-pack SPR-H カラム(株式会社島津製作所製)を 45℃
に保温して用い、移動相として 5 mmol/L の p-トルエンスルホン酸溶液を 0.8 mL/min
の速度で流し、反応相として 5 mmol/L p-トルエンスルホン酸、20 mmol/L Bis-Tris
(pH 6.5)および 0.1 mmol/L EDTA・2Na 溶液を 0.8 mL/min の速度で流した。D-乳酸
および L-乳酸の光学純度についても HPLC を用いて決定した。HPLC 分析条件として
は、TSK-gel Enantio L1 カラム(東ソー株式会社製)を 37℃に保温して用い、移動相と
して 8 mmol/L CuSO2 溶液を 1.0 mL/min の速度で流した。分析サンプルは 0.22 μm の
フィルターを通してから HPLC 分析を行った。スクロース、グルコースおよびフルクトー
スの濃度は、F-kit(ロシュ株式会社製)を用いて分析を行った。エタノールの濃度は、
- 55 -
水素炎イオン化検出器を備えた Shimadzu GC-2010(株式会社島津製作所製)を用い
たガスクロマトグラフ法を用いて決定した。キャピラリーカラムとしては GC TC-1(0.53
mm i.d. by 15 m)(GL サイエンス株式会社製)を用い、カラム、インジェクターおよびデ
ィテクター温度はそれぞれ、45℃、200℃、250℃で行い、ヘリウムキャリアガスは 3
mL/min で流した。微生物濃度は波長 600 nm の吸光度である OD600nm を測定した。
カーボン収率 YC(%)は、消費した糖(スクロース、グルコースおよびフルクトース)の炭
素モル数 SC (mol)と生産された各代謝産物の炭素モル数 MC(mol)から(4-1)により
算出した。また OD600nm からの炭素モル数の算出は、Xie らの報告にある乾燥菌体重
量(Dry Cell Weight: DCW と略す)の換算値(0.40 g-DCW/L/OD600nm)を用いて算出し、
そしてカーボン重量の換算値(0.47 g-carbon/g-DCW)を用いて算出し、炭素モル数を
求めた 14)。
YC =MC/SC・100
(4-1)
第三節 結果
3.1.D-乳酸生産酵母のバッチ発酵プロセスについて
D-乳酸生産酵母を用いたバッチ発酵プロセスの検討結果を Fig. 4-1 に示す。培養
45 時間後では、30.8 g/L の D-乳酸を蓄積した。D-乳酸の単位体積当たりの生産速度
は、0.684 g/L/h であった。副生産するエタノールは 20.4 g/L 蓄積した。OD600nm は 10.7
にまで到達した。OD600nm 当たりの乾燥菌体重量(Dry Cell Weight: DCW と略す)は
0.40 g-DCW/L/OD600nm14)であることから、45 時間で乾燥菌体重量は 5.04 g/L まで増加
したといえる。20 時間以降に一旦グルコースおよびフルクトース濃度が上昇しているが、
これは最初の培地中にあるグルコースを消費した後に、スクロースを加水分解するイン
ベルターゼ酵素を D-乳酸生産酵母が生産し始めたためであると考えられる。培養 45
時間後では、1.66 g/L のグリセロール、0.35 g/L の酢酸、0.29 g/L のピルビン酸、0.07
g/L のコハク酸が蓄積していた。バッチ発酵プロセスにおける各代謝産物のカーボン
収率を算出し Table 4-1 にまとめる。糖が代謝された物質として、97.5%を把握できてい
ることが確認された。
ここで乳酸カーボン収率を 4Phase(Phase 1: 0-15 時間、Phase 2: 15-25 時間、
Phase 3: 25-40 時間、Phase 4: 40-45 時間)に分割し、それぞれの区画において解
析をおこなった結果を Table 4-2 にまとめる。その結果 Phase 1(誘導期)では 26.0%、
Phase 2(増殖期)では 40.9%、Phase 3(定常期前期)では 47.6%、Phase 4(定常期後期
糖濃度 5 g/L 以下)では 76.8%とバッチ発酵プロセスが経過するに従い乳酸カーボン
収率が向上していることが明らかになった。また、乳酸生産に適した代謝変化が起こっ
ていることを確認するために、乳酸カーボン収率/エタノールカーボン収率を算出した
ところ、Phase 1: 0.54、Phase 2: 1.79、Phase 3: 1.82、Phase 4: 4.33 と変化しており、乳酸
- 56 -
- 57 -
- 58 -
- 59 -
生産に適した代謝変化が起こっていることが明らかになった。
3.2.D-乳酸生産酵母のメンブレン発酵プロセスについて
D-乳酸生産酵母を用いたメンブレン発酵プロセスの検討結果を Fig. 4-2 に示す。糖
を 2 g/L 以下まで消費した後(207 時間以降)では、乳酸濃度は 47-52 g/L であり、単位
体積あたりの生産速度は 7.1-8.1 g/L/h(平均約 7.50 g/L/h)であり乳酸カーボン収率は
69-79%であった。エタノール濃度は 8.0-10.0 g/L であり、ピルビン酸濃度は 0.1-0.2 g/L
であり、コハク酸濃度は 0.1 g/L であり、酢酸濃度は 0.3-0.7 g/L であった。また D-乳酸
の光学純度はメンブレン発酵プロセスにおいて 99.9% e.e.であった。 本結果から、D乳酸生産酵母によるメンブレン発酵プロセスは安定した単位体積あたりの生産速度お
よび乳酸カーボン収率を 350 時間にわたって継続することを明らかにすることができた。
エタノールは糖が消費しきるまで(183 時間以前)は 14.5 g/L まで蓄積していたが、
徐々に低下し約 8 g/L となった。OD600nm は単調に増加し 132.8 まで増加し、DCW は
53.12 g/L まで増加した。バッチ発酵プロセスと比べると、グリセロールがメンブレン発
酵プロセスでは低い濃度であり、250 時間以降では更に低下した。ピルビン酸とコハク
酸についてはバッチ発酵プロセスとほぼ同じ濃度であった。
メンブレン発酵プロセスにおける各代謝産物のカーボン収率(207 時間以降)を算出
し Table 4-1 に示す。バッチ発酵プロセスと同様にメンブレン発酵プロセスにおいても、
糖が代謝された物質として、103.8%把握できていることが確認された。Table 4-1 の結
果から、メンブレン発酵プロセスはバッチ発酵プロセスと比較して、乳酸カーボン収率
が大幅に高く、エタノール、CO2、グリセロール、および DCW が大幅に低いことが明ら
かになった。
3.3.D-乳酸生産酵母の連続発酵プロセスについて
糖濃度の変化により D-乳酸生産酵母の代謝がどのように変化するかを確認するた
めに、非常に小さい希釈率(希釈率 0.004 /h)での連続発酵プロセスを検討した結果を
Fig. 4-3 に示す。植菌から 46 時間の時点で培地供給および培養液の抜き出しを開始
し、連続発酵プロセスを開始した。培地供給および培養液の抜き出しを開始後は、
OD600nm が 10-13.6 程度の範囲で一定となっており、定常状態の運転ができているもの
と考えられる。植菌から 89 時間には糖濃度がほぼゼロとなっている。
しかしながら、植菌から 89 時間では乳酸が 6.37 g/L であったが、257 時間では 16.8
g/L まで向上した。逆にエタノールが 22.6 g/L から 14.2 g/L にまで低下した。その他の
代謝産物としては植菌から 89-257 時間では、ピルビン酸が 0.35-0.49 g/L であり、コハ
ク酸が 0.29-0.35 g/L であり、酢酸が 0.12-0.33 g/L であり、グリセロールが 0.74-1.49 g/L
であった。
- 60 -
- 61 -
- 62 -
第四節 考察
本章では D-乳酸生産酵母を用いた D-乳酸のメンブレン発酵プロセスにおいも、単
位体積あたりの生産速度は予想通りに、バッチ発酵プロセスで 0.684 g/L/h からメンブ
レン発酵プロセスでは 7.49 g/L/h へ約 11 倍向上した。一方で、バッチ発酵プロセスで
は 39.0%の乳酸カーボン収率であったにも関わらず、メンブレン発酵プロセスでは
74.6%まで向上するという予想外の結果が得られた。
この乳酸カーボン収率向上がもたらされるメカニズムとして、最初に予想できること
は、メンブレン発酵プロセスでは微生物を乳酸生産するために長期間利用することが
できるため、細胞構成(細胞壁や細胞膜、核など)するために消費されるカーボンが減
少し、乳酸カーボン収率が向上するというメカニズムである。具体的には、バッチ発酵
プロセスでは、6.20%のカーボンが細胞に転化されているが、メンブレン発酵プロセス
では 1.36%のカーボンが転化されていた(Table 4-1)。つまりこの差 4.80%ほどのカー
ボンは、乳酸カーボン収率の向上に寄与し得ると考えられる。しかしながら、今回の
35.6%もの乳酸カーボン収率向上という結果は、上述のメカニズムだけでは説明でき
ない。
そこで乳酸カーボン収率向上メカニズムを理解するために、バッチ発酵プロセスを
細かな Phase に分けて解析した結果、Phase 4 の乳酸カーボン収率は 76.8%であり、メ
ンブレン発酵プロセスの乳酸カーボン収率とほぼ同じであることから、メンブレン発酵
プロセスの代謝はバッチ発酵プロセスの定常期後期である Phase 4 と同様な状態であ
ると考えられる。Tristan らは、S. cerevisiae のバッチ発酵プロセスによるエタノール発酵
を 6 つの Stage に分類(Stage 1 誘導期(微生物の増殖前 0-18 時間)、Stage 2 増殖期
前期 (18-21 時間)、Stage 3 増殖期後期(21-32 時間)、Stage 4 定常期前期(32-45 時
間)、Stage 5 定常期中期(45-60 時間)、Stage 6 定常期後期(60-95 時間))し、それぞ
れの Stage での遺伝子の発現を解析し、すべての Stage で発現されている遺伝子が異
なることを明らかにした 15)。例えば、Stage 5 から 6 にかけては、250 種の遺伝子が高発
現され、逆に 100 種の遺伝子が低発現されていた。この遺伝子発現が変化した数は、
微生物の増殖状況が明らかに異なる増殖期から定常期へと変化する際とほほ同じ変
化数である。今回我々が検討したバッチ発酵プロセスの定常期後期 Phase 4 は糖濃度
が 2 g/L 以下であり、Tristan らの論文の Stage 6 に近い状態である。つまり、Phase 4 で
は、酵母にとって代謝が大幅に変化するような状態と言える。
今回の D-乳酸生産酵母はクラブツリー効果陽性 16, 17)である。クラブツリー効果とは、
逆パスツール効果と言われており、通常の微生物は基本的に解糖系の代謝は酸素供
給条件によって制御されるが、クラブツリー効果陽性酵母は、解糖系の代謝制御が酸
素供給条件ではなく、糖濃度によって強く制御されると理解されている。Hendrik ら 17)
は、クラブツリー効果陽性酵母は、糖が存在する場合は糖がない場合よりも PDC 活性
が平均 6 倍上昇するが、クラブツリー効果陰性酵母(Candida utilis など)は糖濃度で
- 63 -
PDC 活性は変化しないことを明らかにしている。クラブツリー効果陽性酵母が、糖存在
時に PDC 活性が向上するということは、エタノール生産の代謝が糖濃度で制御されて
いる直接的な証拠であると言える。またクラブツリー効果が現れ始める糖濃度は、
Verduyn ら が 150 mg/L であることを報告している 18)。Verduyn らの結果は、150 mg/L
の糖濃度以下ではクラブツリー効果が現れないということを示唆している。糖濃度がほ
ぼゼロとなる状況を継続できるメンブレン発酵プロセスでは、クラブツリー効果が現れ
ず代謝が糖濃度による制御から酸素供給条件による制御を受ける状態となり、PDC 活
性が向上せずエタノールを生産し難い代謝状態になっていると予想される。今回のメ
ンブレン発酵プロセスの検討では通気を 50 mL/min で行っており、クラブツリー効果が
現れない状態で酸素を供給することで TCA サイクルが働き、ミトコンドリアの呼吸代謝
により細胞内の酸化還元バランスが取られつつ、ATP 供給が行われるようになったと考
えられる。D-乳酸生産酵母にとって乳酸排出にエネルギーが必要であるため解糖系
で供給される ATP だけでは十分ではなく、TCA サイクルから供給される ATP が必要で
あることが知られている 19)ことから考えると酸素供給は重要であると言える。また、グリ
セロール生産は S. cerevisiae において NADH の細胞内濃度が過剰になった場合に、
酸化還元バランスを保つためにグリセロールを生産することが知られている 20)。メンブ
レン発酵プロセスは、バッチ発酵プロセスと比較してグリセロール濃度が低いため、酸
化還元バランスの保たれる理想的な代謝に近い状態になっているものと考えられる。
以上のことから、メンブレン発酵プロセスにおいて乳酸カーボン収率が大幅に向上
するメカニズムは、D-乳酸生産酵母にとって低い糖濃度(150 mg/L 以下)ではクラブツ
リー効果が現れず、酸素供給条件によって代謝制御が行われることで、乳酸排出のた
めの ATP 供給および細胞内の酸化還元バランスを保つことができるようになるためで
あるという仮説を立てた。この仮説を確認できる方法として、酸素供給を行いながら糖
濃度変化させることで D-乳酸生産酵母の代謝がどのように変化するかを確認するため
に、非常に小さい希釈率(0.004 /h)での連続発酵プロセスを検討した結果、糖濃度が
限りなくゼロに近い状態を継続すると、乳酸濃度が 6.37 g/L であったが、時間経過と共
に 16.8 g/L まで向上した。逆にエタノール濃度が 22.6 g/L から 14.2 g/L にまで低下す
ることから代謝状態がエタノール生産から乳酸生産に変化していくことが確認され、仮
説が正しいことが明らかにされた。今後、この D-乳酸カーボン収率向上を更に理解を
深めるためには、メンブレン発酵プロセスにおける遺伝子発現の変化を解析すること
や、メタボローム解析により代謝変化がどのように起こっているかを解析することが必要
である。
- 64 -
第五節 まとめ
1) バッチ発酵プロセスにおける乳酸カーボン収率は 39.0%であるが、バッチプロセ
スを 4 つの Phase(誘導期、増殖期、定常期前期、定常期後期)に分類し解析した
ところ、誘導期: 26.0 %、増殖期: 40.9 %、定常期前期: 47.6 %、定常期後期
76.8%と大きく乳酸カーボン収率が異なることを明らかにした。
2) バッチ発酵プロセスにおける定常期後期の乳酸カーボン収率が、メンブレン発
酵プロセスの乳酸カーボン収率と同等であることから、メンブレン発酵プロセスは
バッチ発酵プロセスの定常期後期の状態が維持されるプロセスであると考えられ
る。
3) メンブレン発酵プロセスでは微生物を乳酸生産するために長時間利用すること
ができるため、バッチ発酵プロセスに対して、細胞を構成するために消費されるカ
ーボンが減少し、乳酸カーボン収率が 4.8%ほど向上する可能性があると考えられ
る。
4) D-乳酸生産酵母にとって低い糖濃度(150 mg/L 以下)ではクラブツリー効果が
現れず、酸素供給条件によって代謝制御が行われることで、乳酸排出のための
ATP 供給および細胞内の酸化還元バランスを保つことができるようになるためであ
るという仮説を立てた。非常に小さい希釈率での連続発酵プロセスを検討すること
で糖濃度が限りなくゼロに近い状態を継続すると、D-乳酸生産酵母の代謝状態が
エタノール生産から乳酸生産に変化していくことが確認され、この仮説が正しいこ
とを明らかにした。
- 65 -
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- 67 -
第五章 まとめ
これまでの乳酸のメンブレン発酵プロセスの研究では、バッチ発酵プロセスとは培養
環境が異なることから、微生物のタンパク質発現状態(代謝状態)が大幅に異なること
が示唆されているが、十分な解析がされていない。また、メンブレン発酵プロセスを長
期間安定して運転するためには、微生物濃度の制御、最適な分離膜の選定および操
作条件の最適化など、D-乳酸のメンブレン発酵プロセスの技術確立が必要である。そ
こで、本研究ではバッチ発酵プロセスとメンブレン発酵プロセスを比較し、メンブレン発
酵プロセスの有用性を明らかにするとともに、長期間安定して運転できることを実証す
ることを目的として以下にまとめる結果を得た。
第一章では、本博士論文の研究領域の背景をまとめた。
第二章では、D-乳酸を高濃度かつ高光学純度で生産できる微生物を選択するため
に種々の乳酸菌の D-乳酸生産能力を評価したところ、Sporolactobacillus inulinus、
Sporolactobacillus laevolacticus、および Sporolactobacillus terrae の 3 種の有胞子乳
酸菌が 70 g/L 以上の高い D-乳酸濃度、かつ 98% e.e.以上の高い光学純度で D-乳酸
を生産する能力を有していることを見出した。これら 3 種の有胞子乳酸菌は、バッチ発
酵プロセスにおいて、誘導期および対数増殖期前期は光学純度が低く、対数増殖期
中期以降に光学純度が増加した。S. inulinus および S. laevolacticus を用いたバッチ発
酵プロセスの発酵終了後の光学純度は、それぞれ 96.4% e.e.および 98.0% e.e.であっ
た。また、S. inulinus および S. laevolacticus を用いたメンブレン発酵プロセスの D-乳酸
の光学純度は、それぞれ 98.8% e.e.および 99.8% e.e.に向上した。一方、S. inulinus お
よび S. laevolacticus を用いたメンブレン発酵プロセスの単位体積あたりの D-乳酸生産
速度は、いずれもバッチ発酵プロセスに比較して、10 倍以上向上した。バッチ発酵プ
ロセスに比べ、メンブレン発酵プロセスでは、D-乳酸の生産速度および光学純度が向
上し、メンブレン発酵プロセスの有用性が明らかとなった。
さらに、これら 3 種の有胞子乳酸菌の乳酸デヒドロゲナーゼおよび乳酸イソメラーゼ
活性を評価した結果、すべての有胞子乳酸菌が L-および D-乳酸デヒドロゲナーゼ活
性を有し、L-乳酸を D-乳酸に変換する乳酸イソメラーゼ活性を有することが示唆された。
S. inulinus および S. laevolacticus を用いたメンブレン発酵プロセスでは、乳酸イソメラ
ーゼ活性が高い対数増殖期後期の状態が長く継続されるため、バッチ発酵プロセスよ
りも光学純度が向上すると考えられる。
第三章では、S. laevolacticus を用いたメンブレン発酵プロセスを長期間安定して運
- 68 -
転するためのメンブレン発酵プロセスの技術確立を目指し、発酵培地成分の影響を検
討した。まず、種々の濃度の酵母エキスを含む発酵培地を用いて、S. laevolacticus を
用いたバッチ発酵プロセスを検討したところ、酵母エキス濃度が低いほど、単位体積あ
たりの D-乳酸生産速度が低下し、酵母エキス濃度が D-乳酸生産に重要な因子である
ことを見出した。一方、S. laevolacticus を用いたメンブレン発酵プロセスでは、微生物
が十分生育した後、酵母エキス濃度が低下しても良好な乳酸生産性を示し、代謝産
物によるメンブレンの目詰まりが抑制された。1 g/L の酵母エキスを含む発酵培地を用
い、ろ過運転条件を限界フラックス以下に設定したメンブレン発酵プロセスでは、ろ過
分離される D-乳酸濃度は 64.4~69.5 g/L であり、収率 93.3~100.5%の良好な D-乳酸
生産を約 1 ヶ月の長期間にわたって継続することに成功した。本操作条件では、単位
体積あたりの D-乳酸生産速度は 10.9~12.1 g/L/h に達しており、膜面積あたりの乳酸
生産量は既往のメンブレン発酵プロセスよりも 6.3 倍向上し、分離膜のコストを削減で
きることが示唆された。分離膜のろ過性能を最大限に発揮させるという運転条件に加
え、発酵培地成分を制限することにより、微生物濃度や微生物代謝を必要以上に生じ
させないことで、長期間、高効率に D-乳酸を生産できるメンブレン発酵プロセスの操作
条件を確立することができた。
第四章では、ピルビン酸から乳酸を合成する乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入し
た遺伝子組換え酵母(D-乳酸生産酵母)を用いたメンブレン発酵プロセスの D-乳酸カ
ーボン収率がバッチ発酵プロセスよりも向上する理由について検討した。D-乳酸生産
酵母を用いた微好気条件でのバッチ発酵プロセスでは、 D- 乳酸のカーボン収率は
39.0%であったが、メンブレン発酵プロセスでは 74.6%に向上した。バッチ発酵プロセ
スと比べ、メンブレン発酵プロセスでは D-乳酸生産酵母の細胞構成に消費されるカー
ボンが少なく、D-乳酸の生産に用いられるカーボンが 4.8%向上したと考えられる。メン
ブレン発酵プロセスでは酵母細胞を長期間利用しているためであると考えられる。しか
しながら、細胞構成に消費されるカーボン効率改善以上に D-乳酸カーボン収率が向
上している。
そこで、バッチ発酵プロセスを誘導期、増殖期、定常期前期、定常期後期の 4 つの
Phase に分類して解析したところ、誘導期の乳酸カーボン収率が 26.0%であるのに対し、
増殖期、定常期前期および定常期後期ではそれぞれ、40.9%、47.6%および 76.8%で
あり、各 Phase で乳酸カーボン収率が大きく異なることを見出した。バッチ発酵プロセス
における定常期後期の乳酸カーボン収率はメンブレン発酵プロセスの乳酸カーボン
収率と同等であることから、メンブレン発酵プロセスはバッチ発酵プロセスの糖濃度が
低い定常期後期の状態が維持されるプロセスであると考えられる。
発酵培地中の糖濃度が高いと、酵母は酸素を用いた代謝が抑制され、エタノール
の合成が促進される(クラブツリー効果)。D-乳酸生産酵母において、バッチ発酵プロ
セスの定常期後期の低い糖濃度で代謝がどのように変化するかを確認するために、
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低い希釈率で連続発酵プロセスを操作し、微好気条件下で糖濃度がゼロに近い状態
を継続したところ、代謝状態がエタノール生産から乳酸生産に変化していくことが確認
された。低い糖濃度(150 mg/L 以下)では D-乳酸生産酵母のクラブツリー効果が薄れ、
通常の微生物のように通気条件によって解糖系やトリカルボン酸(TCA)サイクルの代
謝が促進さるようになり、乳酸生成のために必要なエネルギー(ATP)供給が促進され
ると共に、細胞内の酸化還元バランス(NADH/NAD+)を保つことができるようになった
ためであることが示唆された。
本研究により、D-乳酸のメンブレン発酵プロセスは単位体積あたりの生産速度を高
めるだけでなく、メンブレン発酵プロセスとバッチ発酵プロセスの培養環境は異なること
から、用いる微生物によって違いはあるが光学純度が向上する効果、副原料を削減す
ることができる効果および D-乳酸カーボン収率が向上する効果などが得られることを
明らかにすることができた。また、本技術は分離膜ろ過を効率的に行うことに加えて、
微生物の培養条件の設定を行うことで、長期間安定して継続できるようになることを明
らかにすることができた。今後は本技術のスケールアップ検討として、膜モジュールの
スケールアップに加えて、発酵原料の連続供給システムの構築を行う。また、本技術
を D-乳酸生産だけでなく様々な発酵生産物に適用を検討し、メンブレン発酵プロセス
が工業的に利用されていくことで発酵プロセスの効率化に貢献していきたい。
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謝辞
本博士論文を完成させるために、長い間ご指導ご鞭撻頂きました大阪府立大学大
学院工学研究科物質・化学系専攻の荻野博康教授には深く感謝申し上げます。
また、同専攻の小西康裕教授、武藤明徳教授には本博士論文を完成させるための
様々なアドバイスやご指摘を頂き感謝申し上げます。
東レ株式会社において、MFR システムを用いたメンブレン発酵プロセスの研究を進
めることができたのも、先端融合研究所の米原徹所長をはじめ、山田勝成博士、澤井
秀樹さん、澤井健司さん、羅景洙さん、守田健さん、佐々木七生さん、小林宏治さん、
塚田剛士博士、また地球環境研究所の辺見昌弘所長、峯岸進一博士、武内紀浩さん
の皆様と研究を行えたお陰であり、感謝申し上げます。また京都学園大学バイオ環境
学部の清水昌教授には本研究を進めるために様々なアドバイスを頂き感謝申し上げ
ます。
最後になりましたが、私を家族としてずっと励まし支えてきてくれた父の耳塚國男、
昨年他界してしまった母の耳塚美智子、姉の岡本恵子、妻の耳塚眞奈美には心より
感謝申し上げます。
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