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ラマン分光法を用いたその場観察による強誘電体薄膜の

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ラマン分光法を用いたその場観察による強誘電体薄膜の
特別研究報告
ラマン分光法を用いたその場観察による強誘電体薄膜の構造評価
Characterization of ferroelectric thin-film structure by in-situ observation
using Raman spectroscopy
指導教員:河東田 隆 教授
高知工科大学
大学院 基盤工学専攻
電子・光システム工学コース
西出 正道
2010/02/16
目次
第1章
序論 .................................................................................................................................. 2
1.1 研究背景 .................................................................................................................................. 2
1.2 強誘電性の発生機構 .............................................................................................................. 2 | 1
1.3 本論文の構成 ........................................................................................................................... 3
第2章
実験装置 .......................................................................................................................... 5
2.1 化学気相成長法 ...................................................................................................................... 5
2.2 スパッタリング装置 ................................................................................................................... 6
2.4 X 線回折装置 .......................................................................................................................... 7
2.5 走査型電子顕微鏡 .................................................................................................................. 8
2.6 原子間力顕微鏡 ...................................................................................................................... 9
第3章
顕微ラマン分光法による PZT マイクロカンチレバー動作のその場観察..................... 20
3.1 ラマン分光法を用いた PZT 薄膜のドメインの体積分率の評価 .......................................... 20
3.1.1 実験方法 ......................................................................................................................... 20
3.1.2 実験結果及び考察 ......................................................................................................... 22
3.1.3 課題 ................................................................................................................................. 22
3.2 PZT マイクロカンチレバーの評価.........................................................................................
22
マイクロカンチレバーの評価
3.2.1 実験方法 ......................................................................................................................... 22
3.2.2 実験結果及び考察 ......................................................................................................... 23
第4章
その場観察ラマン分光法によるチタン酸鉛膜形成後の応力変化の評価................... 37
4.1 基板の作成 ............................................................................................................................ 37
4.1.1 Pt/MgO ........................................................................................................................... 38
4.1.2 Pt/Ti/SiO2/Si ................................................................................................................... 40
4.2 実験方法 ................................................................................................................................ 41
4.3 実験結果及び考察 ................................................................................................................ 41
第5章
結論 ................................................................................................................................ 65
引用文献 ............................................................................................................................................ 67
謝辞 ................................................................................................................................................ 70
第1章
章 序論
1.1 研究背景
強誘電体は圧電性や強誘電性、高い誘電率を有することから、圧電アクチュエーターやセンサ
ー、強誘電体不揮発性メモリ(FE-RAM)、積層セラミックスコンデンサなど多肢に渡る分野で利用さ
れている [1]。最近ではこれらのデバイスが実際に市場で販売されており、今後ますますその発展
が期待される。強誘電体デバイスの特性をより向上させるためには、強誘電体の特性が発現する
機構の理解が重要となる。この観点から現在、電気的、光学的、電子的などの様々な方面からの
構造解析が行われている。これまでは強誘電体材料の静的な評価は数多く行われてきたが、強誘
電体の特性は構造のダイナミックな変化を伴うことが多く、電界印加時における結晶構造の変化な
どを、その場観察で評価することは非常に重要である。さらにデバイスに形成した際、形成プロセス
やデバイス形状などの影響により、材料レベルでの解析結果が直接デバイスに適用できない可能
性も考えられる。そのためあらゆる形状において、動作中における結晶構造の解析が必要不可欠
である。同様に、強誘電体膜の成長過程を制御することも重要である。従来使用されてきたバルク
では、バルク作成後にポーリング処理などの後処理により配向を制御することができたが、膜の形
態をとると、基板からの作用により後処理による配向の制御が難しく、さらに残留応力の発生などの
理由から、成長過程での結晶構造の制御が望まれる。現在まで、このような評価はX線回折法やラ
マン分光法などを用いて行われているが、その数はまだまだ少ない。本研究ではラマン分光法を
用いたその場観察手法の確立を目的に、2つのテーマを設定した。ひとつは、圧電デバイスのひと
つであるマイクロカンチレバーの動作下における結晶構造変化のその場観察。もうひとつは、気相
成長後の強誘電体膜のドメイン形成過程の評価である。ラマン分光法を用いた理由については、
各章で詳しく述べる。
1.2 強誘電性の発生機構
本節では、代表的な変位型の強誘電体であるチタン酸鉛(PbTiO3:PTO)について解説する。チタ
ン酸鉛の結晶構造はペロブスカイト構造である。ペロブスカイトとはABX3(A, B: 陽イオン, X: 陰イ
オン)の化学組成を持つ化合物の中で,Aのイオン半径がX のイオン半径と同程度であり,かつX
の陰イオン配位数6,すなわち,XがX6八面体席を占有できる大きさの化合物はペロブスカイト構
造あるいはペロブスカイト構造と密接に関係する結晶構造をとりやすい。Aとしてはアルカリ土類金
属,アルカリ金属および希土類金属が,また,Xとしてフッ素,塩素や酸素などが典型的であるが,
Bの種類はAやXの電荷にも依存してきわめて広い。ペロブスカイトは, 天然鉱物CaTiO3(灰チタ
ン石)の名称であるが,上記の条件を満たす多くのABX3化合物が類似の結晶構造をとることから,
広くペロブスカイト型化合物という名称が用いられている [1]。図
図 1-1 に理想的なペロブスカイト構
造を示す。理想的なペロブスカイト構造は立方晶で,面心に位置するOが作る正八面体の中心に
サイズの小さいTi4+が位置し,Pb2+は立方体の頂点に位置する。ペロブスカイト型化合物は室温で,
立方晶をとるものは少なく,立方格子から歪んだ構造をとる。その歪みの大きさや対称性と許容因
|2
子(t)とは密接な関係がある。理想的な値はt=1であるが、実際には0.75<t≤1の範囲でペロブスカイ
ト型構造が出現し,tが小さくなるにつれて立方晶からの歪みの度合いが大きくなる。t=1の時には
三つのイオンはお互いに接していることを意味し,0.9<t≤1.1で安定なペロブスカイト構造を持つ。
チタン酸鉛は,A サイト(Pb)とB サイト(Ti)の正イオンと,八面体を形成する酸素負イオンとの電荷
中心が相転移温度(キュリー温度:Tc)以上の原形相である立方晶系(点群Oh-m3m)では一致し,自 | 3
発分極を持たない。相転移温度以下では,各イオンの変位により対称性の低い正方晶系(点群
C4v-4mm)へ変化し,自発ひずみが発生しc軸方向に伸びa軸方向に縮むと共に,正イオンと負イオ
ンとの電荷の中心がずれるため,電気双極子モーメントをもつようになり,自発分極が発生する。自
発分極の方向は6つの〈100〉方向のうち,1つの方向を向いている。外部電場が加わると,各イオン
の変位により,ひずみが生じると共に分極も変化する。すなわち,イオン変位が分極とひずみを引
き起こしている。変位方向に電気的な自発分極を生じるので強誘電性が発現する。
1.3 本論文の構成
本論文は以下に述べる5章によって構成される。
第1章である序論では,本研究の概要について簡潔に述べ,強誘電性の発生機構の基礎的な概
論を示した。
第2章では,化学気相成長法やX 線回折装置,顕微ラマン分光法など,本研究で用いた結晶成
長装置や評価技術の原理について解説を行った。
第3章では,顕微ラマン分光法を用いて、チタン酸ジルコン酸鉛マイクロカンチレバーの電圧印加
時における結晶構造の変化、及びマイクロカンチレバーの動作原理について評価を行ったので報
告する。
第4章では,チタン酸鉛厚膜形成後の降温過程におけるドメイン形成過程を、ラマン分光法を用い
てその場観察したので報告する。
最後に第 5 章において,本研究の全体の総括を行う。
|4
図 1-1 ABX3 ペロブスカイト構造
第2章
章 実験装置
本章では、本実験で使用した実験装置について簡単に解説し、実際の構造について説明する。
|5
2.1 化学気相成長法
化学気相成長法(Chemical vapor deposition: CVD)装置は基本的にガス供給系、反応系、排気
系より成る。まず、ガス供給系について、CVD 法では種々の反応ガスとそれを輸送するキャリアガ
スが用いられる。本研究では反応ガスとしては酸素ガス(O2)を、キャリアガスとしては窒素ガス(N2)
を使用している。反応ガスとキャリアガスの流量はマスフローコントローラ(MFC)により精度良く制御
している。原料の適当な蒸気圧を得るために、原料の入った容器の温度は一定に保たれ、温度制
御されている。鉛原料である Pb(DPM)2 は常温で固体であるため、常時、融点以上を保ち液体とし
て反応室に供給をおこなっている。チタン原料である Ti(i-OC3H7)4 は原料を有機溶媒で溶かした
液体原料であり、バブリング法により供給をおこなっている。原料ガスの停滞をできるだけ減少させ
るために切り替えバルブには、基本的に三方弁バルブの組み合わせで構成しており、原料から反
応室までのステンレスの配管は、気化した原料が配管内凝固することを防止するために下流(反応
室側)程、温度を高くし温度勾配を設け、温度調節器にて制御をおこなっている。
次に、図
図 2-1 に CVD 装置の反応部の模式図を示す。加熱方式としては、基板のみを加熱し
800℃まで加熱可能な抵抗加熱方式を採用している。また、反応室はステンレス製であり反応室の
内壁は冷却水で冷却するコールドウォール型を用いている。本装置は減圧 CVD であるため、ロー
タリーポンプ、ターボ分子ポンプを用いて反応室内を真空に保っている。
本研究で用いた反応室の特徴を図
図 2-2 に示す。熱対流によって起こる原料ガスの不均一さを
避けるために、基板回転を行い膜の均一性向上をねらっている。図
図 2-2 に示すように、原料供給ノ
ズルを反応室側面から挿入することで、未反応原料ガスを容易に排気することができ、副成物の生
成と原料ガスの基板表面への再吸着を抑制することを可能にしている。
図 2-3 に“その場観察成長”システムの模式図を示す。“その場観察成長”は、成膜中の任意の
時間に反応炉内にプローブを挿入して行い、その場観察成長しないときは、原料ガスの付着を防
ぐためャッターを閉め、点線の位置にプローブを格納している。反応炉内は真空であるため、レー
ザー光を大気中から反応炉内に導入するために、石英製の測定窓を設けている [1]。光源には、
アルゴンイオンレーザーの 514.5 nm の輝線を用いた。測定窓から導入されたレーザー光は、ミラー
によって向きを変え、集光レンズによって収束される。基板が取り付けられているヒーター部分を上
下に動かすことによって、レーザー光の焦点を基板に合わす仕組みになっている。基板表面での
レーザー光の出力は 0.13 mW、プローブ径は 100 µm である。基板からの散乱光は、集光レンズに
よって集光され、入射光と同じ光路を通って大気中に導出される。導出された散乱光は、分光器に
よって分光される。分光器のグレーティングには 2400 本/mm を採用し、1cm-1 以下の波数分解能
がある。また、マルチチャンネル型ディテクターを採用することにより、最短 1/100 秒で S/N 比の高
い測定が可能となっている。
2.2 スパッタリング装置
固体表面に高運動エネルギー粒子が入射すると,固体表面近傍の試料原子が入射イオンエネ
ルギーの一部を得て真空中に放出される。この現象をスパッタリングと呼ぶ [2]。スパッタリングが
起こるのは次のように説明できる。固体表面に入射したイオンはその大部分が試料内部に進入す
るが,そのとき試料原子との弾性衝突により固体内原子にその運動エネルギーを試料原子に与え
る。その運動エネルギーが試料原子のまわりの他の原子によって形成されるポテンシャル障壁を
越えるのに十分なとき,その原子ははじき出され,さらに近傍の原子と順次衝突を重ねることによっ
て,衝突カスケードが生じる。この衝突カスケードが固体表面に達したとき,固体表面近傍の原子
の運動エネルギーが表面結合エネルギーを越えるのに十分であれば,その試料原子は固体表面
から真空中に放出される。図
図 2-4にスパッタ現象の模式図を示す。スパッタリングを効率よく起こし
てスパッタ原子をターゲットから飛び出させて基板上に薄膜を形成させるのがスパッタ装置である。
特徴として,膜の付着力が強く,比較的高融点材料の作製が可能であり,ターゲット組成に近い薄
膜作製が可能であるなどが挙げられる。また,電子やイオンによる原子の励起,イオン化が行なわ
れるため化学反応が促進され,熱平衡で行うよりも低温で物質の合成を行うこともできる。一般にス
パッタリングは,平行平板電極間のグロー放電により放電空間にプラズマを発生させ,プラズマ中
に存在するスパッタ正イオンが電極近傍の電位降下で加速され,ターゲット陰極表面に衝突し,タ
ーゲット表面をスパッタする。スパッタ粒子は,陽極上に配置された基板上に堆積して,ターゲット
材料からなる薄膜を形成する。2 極DCグロー放電型のスパッタ装置にターゲットとして絶縁物を用
いてスパッタさせようとしても,ターゲット表面が正電位に帯電し,陽極とターゲット表面との間の電
位差が消失するため放電が持続せずスパッタを起こさせることはできないが,直流電源を高周波
電源に代えることで,絶縁物ターゲット表面にイオンと電子が交互に衝突し,絶縁物ターゲット表面
でもグロー放電が維持される。プラズマ中の電子は,イオンよりも移動度が大きいため,ターゲット
表面に電子が過剰に蓄積し,ターゲット表面は直流的に負電位バイアスされ絶縁物ターゲットでも
スパッタすることが可能になる。このように,高周波グロー放電を用いたスパッタ装置は,導電体か
ら絶縁体に至る任意の材料を薄膜化することができる。
本研究では,白金(Pt)およびチタン(Ti)を下部電極として基板上に作製するためにスパッタリング
法を用いた。スパッタガスにアルゴン(Ar)を用い,薄膜作製にあたっては一回ごとに処理生産する
バッチ式のスパッタ装置を使用している。図
図 2-5に本研究で使用したスパッタ装置の概略図を示
す。
図に示したRF電極においてはターゲットを除く電極は一定の距離を隔て,その間に絶縁体を挟
んだカソード・シールドで覆われている。シールドは陰極のターゲット面以外で放電が発生すること
を防止するためである。電極サイズは2 インチである。電源は電波法で決められた工業バンドの周
波数13.56 MHz で最大出力300 WのRF電源を使用している。また,RF電源と負荷とのインピーダ
|6
ンス整合とるため,陰極と電極の間にマッチング・ボックス(整合回路)が設けられている。RF電源出
力部に挿入した通過型電力計により進行波と反射波を観測しながら調整を行い,反射波を最小に
抑えることが重要である。
2.3 顕微ラマン分光装置
図 2-6に本研究で使用した顕微ラマン分光装置の模式図を示す。光源には、アルゴンイオ
ンレーザーの514.5 nmの輝線を用いた。分光器に導入されたレーザーは、はじめにレーザー
バンドパスフィルタによって、514.5 nm以外の成分が除去される。そして2つの対物レンズによ
って、平行なビームとなる。そして2つのミラーで、ノッチフィルタに到達したビームは反射して、
顕微鏡の光学系に導入される。ノッチフィルタはこの角度ではミラーとして働く。顕微鏡内に導
入されたレーザーは、ミラーにより下方に向きを変え、対物レンズを通して試料に照射される。
顕微鏡に取り付けられたCCDカメラによって、レーザーの焦点位置を確認したり、試料表面を
見て任意の場所を測定することができる。
顕微鏡には対物レンズが3つあり、10倍、50倍、100倍となっており、これを変えることにより、
ビーム径が変わり、分解能も変わる。対物レンズ50倍が標準設定となっており、このときのビー
ム径は数µmである。試料で反射したレーザーは、同じ光路で分光器に戻る。ここではじめにノ
ッチフィルタに到達するが、ノッチフィルタとレーザーが、この角度であると反射せず、レーザー
は通過する。このとき、レーザーの波長である514.5 nmの成分だけが除去される。つまり、レイ
リー光は、除去され、ラマン散乱光のみ残る。そしてスリットにより光が絞られ、ラマン散乱光の
みプリズムミラーに到達する。プリズムミラーに到達したラマン散乱光は、向きを変え、グレーテ
ィングにより分光される。グレーティングは2つあり、2400 本/mm と1800 本/mm である。グレ
ーティングの溝数が多いと分解能が上がる(1.3倍)が、固定モードで測定できる領域が小さく
(0.75倍)なる。またグレーティングの位置を制御するモーターにエンコーダ付きステッピングモ
ーターを採用しているため、グレーティングの位置精度は通常のモーターより格段に向上して
いる。グレーティングにより分光されたラマン散乱光は、プリズムミラーで向きを変え、CCD検出
器で光学的信号を検出される。検出器にはマルチチャンネル型ディテクターを採用することに
より、最短1/100秒でS/N比の高い測定が可能となっている。検出された信号は、PCによって処
理され、ラマンスペクトルとして表示される。
2.4
X 線回折装置
本研究では,作製した薄膜の面方位の決定及び結晶性の評価のためにX 線回折装置を用いた。
X 線回折法(XRD:X-Ray Diffraction)とは,スリットにより平行にしたX 線を試料に入射し,試料か
らのX 線の反射を観測して回折条件を満足した角度位置を求め,結晶の面方位を測定する方法
である [3]。回折現象を観測するためには,さらに格子間隔と同程度の波長の「光」が必要である。
これには中性子線や電子線も該当するが,実験室系での測定にはX線が最も広く,日常的に利用
されている。固体は,結晶質と非結晶質とに分けられる。結晶は原子が三次元空間で規則的に周
|7
期性を持つような状態である。また結晶は最小単位である単位格子によって定義付けられる。結晶
と単位格子は7 種類の結晶系と14 種のBravais 格子に分類される。今規則正しく並んだ原子で
作られる格子面に対してθの角度でX 線が入射したとき入射ビームに対して2θの角度の方向にX
線が観測されたとすると,その時の条件は次式で示される。
|8
2d sinθ= nλ (n は整数) (2.1)
これをブラッグ(Bragg)の回折条件式という。図 2-7に結晶の断面とX 線回折装置の概略図を示す。
原子が平行に並んでいる原子面の間隔をd(Å),面に対する入射角と反射角θとする。a の原子面
によって散乱されたX線とb の原子面によって散乱されたX 線の光路差2d sinθが波長の正数倍
nλに位相が一致して散乱線が増幅され回折線を観測することができる。回折角θが分かれば面間
隔d が求まる。
X 線回折装置はX 線発生部,ゴニオメータ,X 線検出器,計数装置,システムコントローラ,コン
ピュータシステムで構成されている。X 線の発生源として,銅(Cu)のターゲットを用いている。この
ターゲットに高エネルギーの電子を衝突させることによって,X 線を発生させている。Cu から発生
されるX 線の波長はλ=1.5418nm である。このゴニオメータは独立に回転する軸を2つもち,試料
面へのX 線の入射角と反射角が等しくなるようX 線検出器が試料の2 倍の速さで回転するように
システムコントローラで制御されている。X 線源から発生したX 線はソーラ・スリット,発散スリットを
通り,細い平行ビームとなって試料に入射する。試料に入射したX 線は回折現象を起こす。回折
光(反射光)は受光スリット,ソーラ・スリット,散乱スリットを通りシンチレーション・カウンタで検出され
る。検出されたX 線は計数装置,システムコントローラを経てコンピュータシステムに記録される。X
線源からX 線は完全な平行光ではなく分散と呼ばれる広がりを持っているため,各スリットを用い
て分散を制限,制御し空間分解能を改善させている。発散スリットは水平方向の分散を制限し,散
乱スリットは水平方向の分散を制御している。受光スリットは測定の空間分解能を決めている。ソ
ーラ・スリットは回折面に垂直な方向の分散を制限している。シンチレーション・カウンタはX 線が
入射すると蛍光を発する。蛍光を発する物質はNaCl 単結晶が使われ,X線量のエネルギーに比
例した光子数を発生させる。発生した光子は電気量に変えられ電圧パルスになる。この電圧パル
スをカウントすることによって回折強度がわかる。強度が強い,つまり電圧パルスのカウント数が多
いとき(2.1)式の条件を満たし,回折ピークとなり結晶の面方位がわかる。
2.5 走査型電子顕微鏡
走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)とは、細く絞った二次元的に走査
する加速電圧数数十kVの電子線を固体表面に照射することにより、図 2-8ように発生する電
子線または光を検出、増幅、輝度変調し、走査に動機させたブラウン管上に画像として再生す
る顕微鏡である [4]。加速された電子線を試料の表面に照射すると、図 2-8のようにその試料
の表面から、二次電子、反射電子、オージェ電子、X線、蛍光が発生する。また、入射電子は
試料電流となり,半導体材料ではキャリアを励起するので、もし試料が薄ければ、他の一部は
透過する。SEMは、図 2-9に示すように、大きく分けると本体部と電気系部とから構成されてい
る。本体部は、電子光学系、試料ステージ、2次電子検出器や電子光学系内部と試料室を真
空にするための排気系から成る。電子光学系は、数keVから数十keVのエネルギーをもった細
い走査電子ビームをつくるためのもので、電子銃、コンデンサレンズ、対物レンズから構成され | 9
る。また、これにビームを走査するための走査コイル等が付属している。電気系部は、電子銃
に供給する安定化高圧電源、信号増幅・処理器等から構成されている。SEMの原理は、まず
電子銃・電子レンズの電子光学系により、できるだけ細い電子ビームを作り、試料面を偏向磁
界によりX-Y軸走査させる。発生した二次電子は二次電子検出器によって集められ、増幅され
て表示ブラウン管の輝度信号となる。また、ブラウン管に写し出された画像はそのまま観察さ
れるか、カメラにより写真登録される。SEMの倍率は、試料上の走査幅とブラウン管の画面、あ
るいは記録写真画像の幅の比である。
2.6 原子間力顕微鏡
本研究では,主に試料表面の粗さ測定のために原子間力顕微鏡を用いている。原子間力顕微
鏡(AFM: Atomic Force Microscope)とはカンチレバーと呼ばれる探針のプローブと試料表面との
間にかかる原子間力(引力,斥力)を利用し,原子間力が一定になるように探針を制御することによ
って,試料表面の凹凸を測定し,それを画像化する顕微鏡である [5]。図2-10にカンチレバーの模
式図と装置の概略図 [6]を示す。AFMは図2-10に示した鋭利な先端をもつ探針であるカンチレバ
ーと試料表面の距離を一定に保つよう自動調整しながら,試料表面に沿って探針を走査すること
で表面の凹凸を測定することができる。カンチレバーの先端にある探針は数µmである。図2-10に
示したように,探針/試料間に原子間力が働くと,カンチレバーにたわみが生じ,このたわみをレ
ーザー反射光のふれとしてフォトダイオードで検出する仕組みとなっている。検出されるカンチレバ
ーの変位は探針と試料の表面に作用する力を示しており,その力を一定に保つようにピエゾ素子
のZ 軸を上下させ,高さ方向の情報を得ることができる。また,同時にXY 軸方向にもスキャンする
ことによって3 次元の表面形状を得ることができる。AFM の最大の特徴は「力」を検知するので,
走査トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)では,試料が電気伝導性を持つこと
が必要だが,観察試料の導電性を要求しないため,絶縁体試料を観測することが可能である。
STM・AFM のように極微なプローブを走査することによって像を得る顕微鏡のことを走査プローブ
顕微鏡(SPM:Scanning probe microscope)と呼ぶ。本研究で使用したAFM 装置では原子レベル
での観察ができ,XY 軸は1µm~10µm,Z 軸は10nm~2µm までの測定が可能である。
| 10
図 2-1 反応室の模式図
| 11
図 2-2 反応部での原料の流れ
| 12
図 2-3 その場観察装置の模式図
| 13
図 2-4 スパッタ現象の概念図
| 14
図 2-5 スパッタリング装置の概略図
| 15
図 2-6 ラマン分光装置の概略図
| 16
図 2-7 回折の模式図と回折装置の構成
| 17
図 2-8 入射電子と物質の相互作用
| 18
図 2-9 走査電子顕微鏡の概略図
| 19
図 2-10 AFM の模式図
第3章
章 顕微ラマン分光法による PZT マイクロカンチレバー動作のその場
マイクロカンチレバー動作のその場
観察
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は高い圧電性と強誘電性を有することから、圧電デバイスや不揮発
性メモリにおいて非常に重要な材料である。最近では、この PZT 薄膜の圧電性を利用した MEMS
(Micro electric mechanical system)ベースのマイクロカンチレバーがアクチュエーターやセンサー
などに利用されている [7; 8; 9]。PZT マイクロカンチレバーは外部電界により先端を上下に変位さ
せることができる。PZT の変位メカニズムには 2 つの種類があることが知られている。まず一つ目は、
外部電界により単位格子が伸び縮みする Intrinsic な変位(逆圧電効果)。二つ目は、ドメイン壁の
移動に伴う変位(90°ドメイン反転)である。Kim 等は後者の 90°ドメイン反転を利用することで、PZT
薄膜の圧電性が向上すると報告している [10]。それゆえ、電界印加時のマイクロカンチレバーに
おいてどのような結晶構造の変化が生じているかを調べることは、その特性を向上させるうえで非
常に重要である。電界下における PZT 薄膜中の 90°ドメイン反転に関しては、Lee 等や中島等がそ
れぞれシンクロトロン XRD 及び顕微ラマン分光法を用いて報告しているが [11; 12]、実際のデバイ
スにおいてドメインの変化を観測したという報告は、Morioka 等の XRD を用いた評価 [13]を除い
てほとんどない。そこで本研究では、高い空間分解能を有し結晶構造の変化に敏感な顕微ラマン
分光法を用いて、電界印加に伴う PZT マイクロカンチレバーの結晶構造変化を評価した。本章で
は、まずラマン分光法を用いて PZT 膜中のドメインの体積分率を評価する方法を開発し、次にその
手法を用いて、PZT マイクロカンチレバーの結晶構造の変化を評価した。
3.1 ラマン分光法を用いた PZT 薄膜のドメインの体積分率の評価
ラマン分光法を用いた PZT 薄膜の a/c ドメイン量の評価については、Nishida 等によりすでに報告
されている [14]。しかしながら、彼等の評価手法では偏向測定を行う必要があり、面内配向の秩序
性がない多結晶膜に適用することが難しい。本章で使用する PZT マイクロカンチレバーは面内秩
序性が低いため、偏向測定によるピークの分離が難しく、同手法を用いることができない。そのた
め、偏向測定を行わずにドメイン量を評価できる手法が必要となる。本節では、面内秩序性をもた
ない PZT 膜に対しても適用できるドメイン量の評価手法について検討を行った。
3.1.1 実験方法
試料には、パルス化学気相成長法(MOCVD)を用いて(100)MgO 単結晶基板上にエピタキシャ
ル成長した PZT 膜を用いた。PZT 膜の Zr/(Zr+Ti)比は 0.35、結晶方位は(100)/(001)優先配向であ
り、c ドメイン(001 面)の体積分率(以下 Vc と呼ぶ)は 64、80、90 及び 96%となっている。PZT 膜の
配向量をコントロール手法は Y. K. Kim 等により報告されている [15]。上記の Vc の値は逆格子マッ
ピング法(RSM)を用いて評価した。
| 20
ラマン分光測定は Ar+レーザー(514.5 nm)を用いて、後方散乱配置により行った(図 3-1)。レー
ザースポットは直径約 2 µm、レーザーパワーは数 mW とした。レーザーの偏向状態を解消するた
めに(後述する)、λ/2 波長板を図 3-2 のような回転機構に取り付け、常に回転させることで入射光
を円偏向とした。
正方晶相の PZT は点群 C4v に属しており、以下に示す 8 個のラマン活性な光学基準振動が存在 | 21
する [16]。
3A1+B1+4E
B1 モードは一つの E モードと縮重しており、Silent モードと呼ばれている。さらに長距離力の影響に
より各モードは異なる振動数をもつ横光学モード(Transverse Optical Mode: TO)と縦光学モード
(Longitudinal Optical Mode: LO)に分離する。通常 LO モードの方が TO モードに比べ高い振動数
を持つ。ラマン散乱の散乱効率 S は次のように表わされる。
∝ ∙ ∙ ここで 及び は入射光及び散乱光の偏向ベクトル。はラマンテンソルである。各振動モードの
ラマンテンソルは以下のように表わされる。
= = = = ここで A1 モードのラマンテンソル a は非常に小さいことが知られている。このため、図に示すような
散乱配置では、a ドメインからは A1、B1 及び E モードを、c ドメインからは B1 モードのみを観測する
ことができる。a ドメインの面内配向が完全にランダムな場合は、各モードのピーク強度と Vc の関係
は以下のように表わされる。
∝ ∙ (1 − )
∝ ∙ (1 − )
!"#$%& ∝ ' ∙ + () + ) ∙ (1 − )
ここで A、Ba、Bc 及び E はそれぞれ A1、a ドメインの B1、 c ドメインの B1 及び E モードの散乱効率を
表わす。Bc は Ba の 2 倍であることは容易に分かる。上記の式から、A1 または E モードの絶対強度
を用いて Vc を見積もることができると考えられる。しかしながら、ラマン散乱の強度は試料の表面状
態や角度等に強く影響を受けることから、絶対強度ではなく相対強度から Vc の見積もりを行うのが
望ましい。そのため、本実験では Silent モードと A1 モードの強度比 Iratio (=*+ / *,-./ )と Vc の関係
を求めた。なお、面内配向のバラつきがラマン散乱強度に与える影響を抑えるために、λ/2 波長板
を回転させて入射光を円偏向とした(図 3-2)。
3.1.2 実験結果及び考察
実験結果及び考察
図 3-3 に各 Vc を有する PZT 膜より得られたラマンスペクトルを示す。すべての膜において典型的
な正方晶相 PZT のラマンスペクトルが得られた。Vc の値が増加するに伴い、A1 モードの強度が
Silent モードの強度に対して低下していることが分かる。各モードの強度を求めるために、ローレン
ツ関数を用いてフィッティングを行った。その結果を図
図 3-4 に示す。フィッティングにより得られた
図 3-5 に示す。図
図 3-5 から分か
Silent モードと A1 モードの強度比を Vc に対してプロットしたものを図
図 3-5 のデータに対し
るように Vc とピーク強度 Iratio の比が線形の関係になっていることが分かる。図
線形フィットを行うことにより、A1(2TO)及び A1(3TO)モードの強度比と Vc の関係に関して以下の式
が得られた。
(2TO): = −(4)&"5 − 0.51577)/0.00417
(3TO): = −(4)&"5 − 1.3851)/0.01329
これらの関係を用いることで PZT 膜の Vc の評価が可能であると考えられる。
3.1.3 課題
PZT では Zr/(Zr+Ti)比によってラマン散乱のピーク強度が変化することが知られており、他の組
成比を持つ PZT に今回の結果を適用する場合は、定量的な分析ではなく定性的な分析となる。
3.2
PZT マイクロカンチレバーの評価
3.2.1 実験方法
実験に使用した PZT マイクロカンチレバーは
Pt/LaNiO3/(100)/(001)PZT/LaNiO3/Pt/Ti/SiO2/SOI(Silicon On Insulator)の多相構造を持つ。PZT
膜は化学溶液法を用いて製膜されている。Zr 及び Ti の仕込み組成を Zr/(Zr+Ti)比=0.35 として、
スピンコーターで LaNiO3/Pt/Ti/SiO2/SOI 基板上に塗布後、250 ºC で乾燥、650 ºC での焼成により
結晶化した。PZT 薄膜の膜厚は 1.1 µm、配向は(100)/(001)配向である。Pt 及び LaNiO3 は RF ス
パッタリング法を用いて製膜した。得られた多層構造体は MEMS 技術によりカンチレバーに形成さ
れる。作製方法の詳細は [17; 18]で報告されている。図
図 3-6 にマイクロカンチレバーの写真及び
模式図を示す。カンチレバーの長さ、幅及び厚さはそれぞれ 1000、300 及び 5 µm である。
ラマン測定はレーザースポットの直径を 1~2 µm とし、後方散乱配置で行った。レーザーは Ar+レ
ーザーを用いた。波長は 514.5 nm である。測定場所は図
図 3-6(b)の赤点で示すように、カンチレバ
ーの上部電極の近傍で行った。カンチレバーへの電圧の印加は、上部電極をグラウンドに、下部
電極を電源に接続し、0-13V の範囲で行った。電圧の印加とともにカンチレバーが曲がるため、オ
ブリークフォノンによる波数シフトや、測定面と入射光の角度に依存したラマン強度の変化が起こる
ことが予測される。これを防ぐために、図
図 3-7 のように試料台を傾斜させ、入射光と測定面が常に
同じ角度を保つようにした。
| 22
3.2.2 実験結果及び考察
実験結果及び考察
図 3-8 に各印加電圧時に得られたラマンスペクトルを示す。全スペクトルにおいて、正方晶 PZT
に特徴的な E(2TO)、Silent、A1(2TO)、E(3TO)及び A1(3TO)モードのラマンピークが観測された。ま
た、スペクトルに大きな変化はないことから、結晶点群の変化などの大きな結晶構造の変化はして
いないことがわかる。図
図 3-9 に Silent モードのピーク強度で規格化したラマンスペクトルを示す。同 | 23
図から明らかなように、電圧印加に伴って A1(3TO)モードの強度が低下している。これは電圧の上
昇に伴って 90°ドメイン反転が生じ、c ドメインの体積分率(以下 Vc と呼ぶ)が増加していることを示し
ている。各ピークの強度及びピーク位置を求めるため、ピークフィッティングを行った。フィッティン
グ結果を図
図 3-10 に示す。フィッティングにより得られた A1(2TO)及び A1(3TO)モードの強度比
(Silent モードに対する)の印加電圧に対する変化を図
図 3-11 に示す。各強度比は電圧上昇に伴い
単調に減少している。このことから、ドメイン反転に対してはしきい値が存在しないことを示してい
る。
次に電圧印加前と後の PZT のラマンスペクトルを比較した(図
図 3-12 に示す)。印加電圧を除去し
た際、A1(3TO)モードの強度は印加前の状態に戻っていることがわかる。図に電圧除去後の A1 モ
ードの強度比を白四角で示している。どちらの強度比も電圧を除去するとほぼ初期状態に戻って
いることから、ドメインの変化は可逆的なものであることがわかった。
図 3-13 には A1(2TO)モードのピーク位置の印加電圧に対する変化を示す。ピーク位置は電圧
の印加に伴い高波数側へシフトした。Ohno 等の研究によると、A1(2TO)モードのピーク位置は圧縮
応力に対して-13.6 cm-1/GPa の割合で低下することがわかっている [19]。よって、電圧の印加に伴
い PZT 膜には引っ張り応力が導入されていると考えられる。シフト量から応力値を計算したところ、
150 MPa の引っ張り応力がかかっていることがわかった。電圧印加に伴いカンチレバーが曲がるが、
Si が元に戻ろうとする力が a ドメインにかかり、引っ張り方向の応力になったと考えられる。カンチレ
バーは PZT が面内方向に縮むことにより、曲がるので、a ドメインにおける逆圧電性は、カンチレバ
ーの駆動にあまり寄与していないと考えられる。一方ドメイン反転による変化は非常に大きいことか
ら、ドメイン反転がカンチレバーの駆動力になっていると考えられる。この結果は Morioka 等の
XRD を用いた実験報告と一致することから、ラマン分光法は有用であることがわかった。
| 24
Scattered light
Incident light
a domain
c domain
z
PZT film
x or y
Substrate
図 3-1 後方散乱配置の模式図
| 25
図 3-2 λ/2 波長板の回転機構
波長板はモーターの力で常に回転している。
| 26
Vc=64%
A1(3TO)
Vc=96%
E(3TO)
Silent
A1(2TO)
A1(1TO)
E(2TO)
Vc=90%
E(1TO)
Intensity (arb. unit)
Vc=80%
200
400
600
-1
Raman shift (cm )
図 3-3 異なる c ドメイン体積分率(Vc )を有する PZT 膜から得られたラ
マンスペクトル
| 27
Vc = 80 %
Intensity (arb. unit)
Vc = 64 %
100
200
300
400
500
600
700
100
200
-1
400
500
Vc = 96 %
A1(2TO)
200
300
400
500
700
Raman shift (cm )
Vc = 90 %
100
600
-1
Raman shift (cm )
Intensity (arb. unit)
300
600
700
100
200
-1
Raman shift (cm )
300
400
A1(3TO)
500
-1
Raman shift (cm )
図 3-4 フィッティング結果
黒線は測定データ、赤線はフィッティング結果を示す。
600
700
Intensity ratio IA1(2TO)/ISillent
| 28
0.3
(a)
0.2
0.1
60
65
70
75
80
85
90
95
100
Intensity ratio IA1(3TO)/ISillent
Volume fluction of c-domain
0.6
(b)
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
60
65
70
75
80
85
90
95
Volume fluction of c-domain
図 3-5 A1(TO)モードの強度比と Vc の関係
(a) A1(2TO)モード、(b) A1(3TO)モード
100
| 29
1 µm
(a)
Top electrode
1µm
300µm
PZT film
Bottom electrode
(b)
図 3-6 PZT マイクロカンチレバーの写真(a)と模式図(b)
模式図における赤点は測定ポイントを表す
| 30
図 3-7 試料台の模式図
| 31
E(2TO)
E(silent)+B1
0V
A1(3TO)
A1(2TO)
E(3TO)
Intensity (arb. unit)
3V
6V
9V
13 V
200
300
400
500
600
700
-1
Raman shift (cm )
図 3-8 電圧印加時にマイクロカンチレバーからえられたラマンスペクトル
| 32
Intensity (arb. unit)
0V
6V
13 V
A1(3TO)
A1(2TO)
200
300
400
500
-1
Raman shift (cm )
600
図 3-9 Silent モードの強度で規格化したマイクロカンチレバーのラマンスペクトル
| 33
Intensity (arb. unit)
E+B1
A1(2TO)
200
300
-1
Raman shift (cm )
図 3-10 フィッティング結果
| 34
1.04
1
∆IA (2TO)
1.00
0.96
0.92
1.04
1
∆IA (3TO)
1.00
0.96
0.92
0
2
4
6
8
10
12
14
Applied voltage (V)
図 3-11 A1(2TO)及び A1(3TO)モードの比強度の変化量
| 35
Intensity (arb. unit)
0V
13 V
After removing voltage
200
300
400
500
-1
Raman shift (cm )
600
図 3-12 Silent モードのピーク強度で規格化したマイクロカンチレバ
ーのラマンスペクトル: 電圧印加前と電圧印加後の比較
-1
Peak shift of A1(2TO) mode (cm )
| 36
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-2
0
2
4
6
8
10 12
14
Applied voltage (V)
図 3-13 電圧印加に伴う A1(2TO)モードのピーク位置の変化
電圧印加前からの変化量で表示している
第4章
章
その場観察ラマン分光法による
その場観察ラマン分光法によるチタン酸鉛膜
ラマン分光法によるチタン酸鉛膜形成後
チタン酸鉛膜形成後の
形成後の応力変化の評価
強誘電体は自発分極、圧電性、高い誘電率を持つことから、強誘電体不揮発メモリ(FERAM)や
Micro Mechanical electrical system (MEMS)、ダイナミックメモリなど多肢にわたる用途で用いられ
ている。FERAM の分野では、より微細で高性能なデバイスを実現するために、強誘電体薄膜の物
性及び製造に関する研究が盛んに行われており、一方 MEMS の分野ではより大きな圧電特性を
得るために、マイクロスケールの膜厚を有する厚膜の研究が盛んである。いずれの分野でも重要な
ことは、強誘電体結晶の配向、及び残留応力の制御である。強誘電体セラミックスなどでは、通常
ポーリング処理により結晶配向を制御しているが、膜になると基板からのピニングによりポーリング
の効果が得られないことが知られている。応力に関しても同様に、基板が存在することで、基板と膜
の格子定数及び熱膨張係数の違いによる残留応力が生じる。
強誘電体膜の配向は構造相転移時において膜に蓄積された歪に影響されると考えられている。
図 4-1 に MgO 基板上に強誘電体膜を形成した際の、降温過程における応力変化とドメインの形
成に関するモデルを示す [20]。まず、膜は製膜温度 TG で形成される際に、基板との格子定数の
違いから歪(ミスフィット歪)を受ける。この歪は膜成長に伴い大きくなるが、ある臨界点を超えると転
位が膜中に導入され、歪が緩和される。ミスフィット歪が有限の値を持つのは、エピタキシャル成長
した薄膜のみと考えられており、厚膜の取り扱いでは通常無視される。製膜後の降温過程では熱
膨張係数の違いによる熱歪が導入される。そして、構造相転移時(Tc)に膜に蓄積された歪を緩和
するように、ドメイン構造が形成される。つまり、強誘電体膜の結晶配向を制御するうえでは、膜形
成後の応力制御が非常に重要であるといえる。しかしながら、強誘電体膜の応力の評価は、X 線
回折法やラマン分光法などを用いて多く行われている一方、実際に膜成長後の降温過程をその
場観察したという報告は数例しかなく [21; 22]、基板の種類が及ぼす影響などについては調べら
れていない。そこで本研究では、有機金属化学気相成長(MOCVD)-ラマン分光複合装置を用い
て、Pt/MgO 及び Pt/Ti/SiO2/Si の 2 種類の基板上に PbTiO3 膜を形成し、その後の降温過程にお
ける結晶構造の変化をその場観察により評価した。
4.1 基板の作成
DRAM や強誘電体メモリ(FRAM)等の次世代メモリの開発では,セラミックスとメタルの界面制御
技術が必須となる。なぜならPTO,PZT などの強誘電体は結晶であるので,その薄膜成長には下
地となる電極材料が重要となってくる。特に複合酸化物を材料に用いたFRAM では,セラミックス
とメタルの界面がそれぞれの単機能を確保するだけではなく,デバイスに必要な特性そのものを実
現する部分としての役割を果たす。界面が複合酸化物薄膜を形成する薄膜成長部となり,強誘電
体薄膜の結晶性,電気特性を決定する。よって,より良好な電極の形成が必要とされている [23]。
強誘電体薄膜の電極に要求される特性としては,
1.電気抵抗が充分低い。
2.強誘電体材料との格子定数のミスマッチが小さい。
| 37
3.耐熱性が高い。
4.反応性が低い。
5.拡散バリア性が高い。
6.下地(SiO2など),強誘電体との密着性が良い。
などが挙げられる [24]。そこで本研究では,上記の条件を満たす材料として白金(Pt)を強誘電体
薄膜の下部電極として用いることにした。面心立方晶(fcc)であるPtは,ペロブスカイト結晶との格子
定数のミスマッチが小さく,エピタキシャル関係が成り立つ条件を満たしている。また,自己配向性
が強いため(111)に結晶方位が揃いやすく,結晶性の良好なペロブスカイト(111)配向膜を得ること
ができる [25]。しかも,耐熱性と耐酸化性を持った貴金属である。しかしPt電極を用いた場合,グレ
インが柱状構造となってしまい,その粒界に沿ってPTの構成元素である鉛(Pb)や酸素(O2)がPt 電
極を通して下地の基板に拡散してしまう。その結果,薄膜中にPbやO欠損等の欠陥が形成されて
しまい,これらが空間電荷となりえる。強誘電体メモリにおける多くの性質,書き換え耐性,データ
保持特性などが電極付近の空間電荷に強く依存することが指摘されている。Oイオンはペロブスカ
イトの酸素八面体の頂点を形成しているが,Oイオンの欠損により酸素八面体に歪みが発生してB
サイトのTi イオン等の運動を阻害してしまう。ペロブスカイト型の強誘電体はイオンの変位により分
極する物質であるから,これより分極量が減少してしまうのである。PT、PZT 膜をメモリに応用して
いくうえで鉛欠損及び酸素欠損を防止することが必要となり,電極材料にPb の拡散バリア効果の
大きな材料を用いる事がその解決策の一つとなる。そこで,基板とPt 電極の間にバリア層として
SrRuO3,RuO,IrO2,LaSrCoO3などの酸化物電極を用いることもある。また,Si(100)基板を用いた
場合,基板と電極の密着性の問題や,基板と電極との反応生成物(シリサイド化合物やPt-Pb 拡散
層)の形成などの問題もある。これについては,Si(100)基板上にアモルファスのSiO2 を反応生成
物の形成を防ぐバリア層として,さらに,SiO2とPt電極との密着性を高めるため,Ti を挟んだ
Pt/Ti/SiO2/Si(100)構造が取られている。本研究でも,Pt/Ti/SiO2/Si(100)構造を作製した。
4.1.1
Pt/MgO
PT などのPb 系強誘電体薄膜は下地層の電極材料の結晶性に強く影響される。特にPT,PZT
は<100>方向つまりc軸が分極軸であり,強誘電性を得る為には膜を(001)面に配向させる必要が
ある。その為にPt(100)下部電極が必要となる。下部電極が配向すればその上に作製した強誘電
体膜も容易に配向する可能性があり,すぐれた強誘電性が得られることが考えられる。そこで,結
晶性の良いPt(100)下部電極を得ることを目的に作製を行った。従来 RF スパッタリング法による
Ar ガス中でのPt 下部電極膜の作製では<111>方向に配向した膜が得られ,<100>方向の薄膜
作製が困難である。なぜならPt は自己配向性が強く細密充填構造であるFCC 構造をとるために,
スパッタリング法により製膜すると(111)面に強く配向してしまうからである。そこで,薄膜作製プロセ
ス条件の改善および基板材料であるMgO(100)単結晶基板の前処理を行なうことで,基板材料と
同一の方向に成長させたPt 下部電極膜(エピタキシャル膜)を得ることができるという報告 [26]か
| 38
ら,これを参考に作製を試みた。以下にMgO(100)単結晶基板の洗浄方法ならびにPtの製膜条件
を示す。基板には(100)面でへき開後,鏡面研磨したMgO 単結晶(タテホ化学工業製,寸
法;10mmφ,厚さ0.5mm)を用いた。
MgO基板の洗浄方法
② 有機アルカリで超音波洗浄(5 分間)
② アセトンで超音波洗浄(5 分間)
③ イソプロピルアルコールで超音波洗(5 分間)
④ 中性洗剤と綿コットンを用いて表面を擦り洗い(10 分間)
⑤ 超純水流水洗浄
⑥ N2 ブロー乾燥
⑦ 110 ºC のオーブンで乾燥(30 分間)
Ptの製膜条件
・基板設定温度: 500 ºC
・成長圧力: 0.35 Pa
・RF Power: 35 W
・ガス流量: Ar=3 sccm, O2=1 sccm
薄膜を製膜する上で重要なことの一つに基板表面の状態が挙げられる。膜質を制御するために
は成膜方法、製膜条件等は重要だが、これら以外に基板表面(成膜後は膜と基板の界面)の状態
が非常に重要となる。特に基板表面の洗浄度が膜の特性を大きく左右することが知られている。そ
こで、MgO 基板表面の清浄化を図るために洗浄方法の検討を試みた。MgO は大気中、常温常圧
下において容易に H2O や CO2 と反応し、水和物や炭酸塩を生成し、表面近傍の結晶性に乱れを
生じることが知られている。このような表面状態の MgO を強誘電体膜の基板に用いた場合、膜の
結晶性及び電気的特性に悪影響を及ぼすことが考えられる。そこで、MgO 単結晶表面の清浄化
を行い、結晶性を修復するために、基板表面の洗浄を試みた。洗浄方法として中性洗剤(界面活
性剤)を用いて擦り洗いを行なう方法を用いた。一般に界面活性剤は疎水基と親水基からなる為、
表面張力の低下、乳化、分散等により、付着粒子を除去する効果がある。本研究で用いた中性洗
剤の主成分は陰イオン系界面活性剤である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)であ
る。
作成した Pt/MgO 基板の XRD スペクトルを図
図 4-2 に示す。同測定から Pt は(100)面にエピタキシ
ャル成長していることがわかった。
| 39
4.1.2
Pt/Ti/SiO2/Si
本研究では, SiO2薄膜の作成に酸素雰囲気中でのアニールを、また、Pt及びTi薄膜の作成に
RF スパッタリング法を用いた。以下にSi(100)基板の洗浄方法を示す。
| 40
Si基板の洗浄方法
① 有機アルカリで超音波洗浄(5 分間)
② アセトンで超音波洗浄(5 分間)
③ イソプロピルアルコールで超音波洗(5 分間)
④ N2 ブロー乾燥
はじめに基板表面の脱脂を行なうために強い脱脂作用のある半導体用洗浄液セミコクリーン
23(有機アルカリ)で超音波洗浄を行い,次にアセトンで超音波洗浄を行い,アセセトンを除去する
ためにイソプロピルアルコールで超音波洗浄を行なった。最後にN2ブローを用いて乾燥を行った。
まず,はじめにPt/Ti/SiO2/Si(100)構造について説明する。本研究では,Pt/Si(100)というSi 上に直
接Pt を形成する構造はとっておらず,Pt/Ti/SiO2/Si(100)構造を形成した。以下に,Pt電極の製膜
条件を示す。
Ptの製膜条件
・基板設定温度: 600 ºC
・成長圧力: 0.35 Pa
・RF Power: 35 W
・ガス流量: Ar=3 sccm
スパッタガスにはアルゴン(Ar)のみを使用し,設定基板温度を600 ºCとした。Si(100)基板上にPtを
直接製膜した場合,Ptの表面には金属色の光沢はなく,変色,剥離,ざらつきなどが生じることが
報告されている。これは,製膜時の高い基板温度が原因でSiとPtの反応生成物(Pt-Si)が生じたた
めであると考えられる。Pt電極上に作製するPT やPZT などの強誘電体薄膜の製膜温度は非常に
高いため,強誘電体薄膜を作製する過程においてもSiとPt の反応生成物が生じることが予想され
る。そこでSi とPtの反応生成物を抑えるため,Si(100)基板上にバリア層としてSiO2を100 nm製膜し
た。アニールはN2ガス及びO2ガスの流量をそれぞれ100 sccmとし、950 ºCで3時間行った。
SiO2/Si(100)構造の基板にPtを製膜した場合,Si とPtの反応生成物は形成されず,表面状態も金
属色の光沢があることが報告されている。また, PtとSiO2の密着性を高めるために,両者の間にTi
層を形成した。Tiの製膜条件を以下に示す。
Tiの製膜条件
・基板設定温度: 700 ºC
・成長圧力: 1 Pa
・RF Power: 35 W
・ガス流量: Ar=3 sccm
図 4-3に作成したPt/Ti/SiO2/Si(100)のXRDスペクトルを示す。Pt膜は完全に(111)面配向してい
る。これはPtの強い自己配向性に起因している。また、図
図 4-4にAFMにより測定したPtの表面プロ
ファイルを示す。同膜の二乗平均面粗さ(RSM)は4.8 nmであり、良好な膜が得られているように思
われる。
4.2 実験方法
基板として(111)Pt/Ti/SiO2/Si および(100)Pt/MgO 基板を用いた。PbTiO3 の製膜条件を以下に示
す。
製膜温度
:576 ºC
成長圧力
:600 Pa
Pb キャリアガス流量
:50 sccm
Ti キャリアガス流量
:30 sccm
O2 ガス流量
:100 sccm
図 4-5 に作成した PT 膜の断面 SEM 写真を示す。作成した膜の膜厚はどちらも約 1.5 µm であ
った。膜形成後にプローブをチャンバー内に挿入し、PT 膜のラマンスペクトルを測定した。その場
観察時にはサンプルは高温にさらされるため、揮発性の高い酸素の欠損が懸念された。そのため、
測定は O2 ガス雰囲気中で行なった。チャンバー内の気圧は 400 Pa に設定した。室温まで降温し
た後には、サンプルをチャンバーから取り出し XRD による測定を行なった。
4.3 実験結果及び考察
実験結果及び考察
(1) PT 膜の配向性
図 4-6 に製膜後の降温過程で各基板上の PT 膜から得られたラマンスペクトルを示す。従来のバ
ルクでの実験報告と同じく [27; 28]、温度の低下に伴い徐々にラマンスペクトルが変化し、常温付
近では完全に正方晶相の典型的なラマンスペクトルへと変化している。図中には正方晶 PT のピー
ク名を示している。PT 以外のラマンピークは観測されないことから、異相は形成されていないと考え
られる。PT 膜の結晶性に関する情報を得るために、同時に偏向測定を行った。図
図 4-7 に偏向測定
の結果を示す。Pt/MgO 基板上の PT 膜に関しては、点線で示す箇所で若干のピークの分離が確
| 41
認できる。これは面内配向に秩序性が存在していることを示している。温度変化に伴うピーク位置
の推移から考えると、Cross 偏向時に 200 cm-1 付近及び 500 cm-1 付近で観測されるピークは、それ
ぞれ E(2TO)及び E(3TO)モードであると考えられる。同様に、Parallel 偏向時に 500 cm-1 付近で観
測されるピークは A1(3TO)モードであると考えられが、200 cm-1 付近のピークに関しては不明である。
後述するが、理論的には A1(2TO)モードと E(2TO)モードは、立方晶相において T1u モードへと縮退 | 42
する。しかしながら、Burns 等が報告しているように、A1(2TO)モードと E(2TO)モードの縮退は単結
晶 PT においても確認されておらず、詳しいことはわかっていない [29]。一方の Pt/Ti/SiO2/Si では
ピークの分離は確認できないことから、面内方向でランダムに配向していると考えられる。ここで、
偏向測定によりピークの分離が観測されることは注目に値する。立方晶相(O1h に属する)では基準
振動として 3 つの T1u および 1 つの T2u モードが存在しており、これらのモードは正方晶相(C4v に属
する)においてそれぞれ A1+E および B1+E モードへと分離する。正方晶相におけるこれらのモード
はすべてラマン活性であり、ラマン分光法により観測することができるが、立方晶相における振動モ
ードはいずれもラマン不活性であり、そのため、立方晶相ではピークは観測されないはずである
[29]。立方晶相におけるラマンピークの観測は、PT 単結晶においてもいくつか報告例がある [27;
30]。Fontana 等は立方晶相で観測されるピークは 2 次のラマン散乱であり、Soon 等は格子振動の
揺らぎによるものと考察しているが、詳細な原因については不明である。どちらの報告でもピークの
縮退の分離については言及していない。本実験ではピークの縮退の分離が観測されることから、
PT 膜は高温において擬立方構造を有しているものとして考察を行なった。室温まで降温した後に
は、サンプルをチャンバーから取り出し、XRD による測定を行った。図
図 4-2 図 4-8 に各 PT 膜から
得られた θ-2θ スペクトルを示す。まず、PT 膜及び基板以外の回折ピークは観測されないことから、
異相は形成されていないことがわかる。これはラマンスペクトルの結果と一致する。次に PT 膜の結
晶配向であるが、どちらの基板上でも PT の回折ピークは(001)及び(100)面のものが支配的であり、
(001)/(100)優先配向であることがわかる。また、Pt/MgO 基板上では(001)面のピークが強く、
Pt/Ti/SiO2/Si 基板上では(100)面のピークが強く出ている。これは Pt/MgO 基板の方が分極軸方向
に多く配向していることを示している。
(2) 基板が PT 膜の応力に及ぼす影響
次に in-situ 測定の結果を詳しく見ていく。まず得られたラマンスペクトルから、PT 膜のキュリー温
度を見積もった。PT や BaTiO3(BT)などの変位型強誘電体の構造相転移は、高対称相における特
定の基準振動モードの凍結により説明されている [31]。この特殊な振動モードはソフトモードと呼
ばれており、PT の正方晶相では A1(1TO)及び E(1TO)がこれに相当する。ソフトモードの振動数は
相転移点でゼロになることから、このソフトモードの周波数の温度依存性を調べることでキュリー点
を決定することができる。本実験では、PT 膜からのラマンシグナルを効率よく測定するために、ホロ
グラフィックノッチフィルターを用いており、低波数領域の測定が難しくなっている。そこで、E(1TO)
モードよりも高波数側に位置する A1(1TO)の周波数に着目して実験を行った。正確なピーク位置を
求めるためにピークフィッティングを行った。図 4-9 及び図
図 4-10 に各温度でピークフィッティングを
行った結果を示す。96 ºC のフィッティング結果において、図中で 1,2,3 及び 4 と表記したピークが
A1(1TO)モードである。A1(1TO)モードが何本かのピークに分離する理由については Foster 等やそ
の他の研究者によって説明されている [32; 33; 34]。A1(1TO)モードは図
図 4-11(a)のように、分極軸
方向に対して振動しており、このため図 4-11(b)のようなポテンシャル形を持っている。このポテン
シャルの非調和性により、フォノンのエネルギー準位が等間隔でなくなり、ピークの分離が起こる。 | 43
ここでは、フィッティングが容易であること、最も高波数に位置するという理由から、ピーク 4 に注目
し、その温度変化を調べた。A1(1TO)モードの周波数の温度依存性を図
図 4-12 に示す。温度上昇
に伴い周波数が急激にゼロに近づいていることが分かる。これまで報告された実験結果から、単結
晶、膜に関わらず A1(1TO)モードの周波数は完全にゼロにならない事がわかっているため、周波数
が最も低くなった温度をキュリー温度とした [35; 36; 28]。キュリー温度は Pt/Ti/SiO2/Si 及び
Pt/MgO 基板上の膜でそれぞれ約 477 及び 485 ºC であった。これは単結晶のキュリー温度より若
干低い。この原因としては、膜中に導入された応力の影響が考えられる。静水圧が強誘電体のキ
ュリー温度を低下させることが実際に報告されており [37]、Cerdeira 等は、正方晶相のユニットセ
ルの体積は立方晶相のそれより大きく、このことから、静水圧は立方晶相を安定化させる効果があ
ると考えている [38]。この効果によりキュリー温度の低下が引き起こされる。この考えに基づくと、今
回作成した PT 膜には圧縮方向の応力が導入されている可能性がある。図
図 4-13 にはバルクの PT、
Pt、MgO 及び Si の格子定数の温度依存性を示している。PT は製膜時の温度では立方晶相である
が、このときの PT の格子定数は Pt 下部電極のそれよりも大きく、これにより圧縮方向の歪が膜に発
生すると考えられる。1 節でも述べたように、ミスフィット歪は厚膜になると転位の導入により緩和され
る。薄膜では 450 ºC 付近との報告もされていることから、厚膜になったことで歪が緩和し、薄膜より
もバルクに近い値になったと考えられる。応力の温度変化に関しては、E(2TO)モードの周波数の
温度依存性から調べた。図
図 4-14 に E(2TO)モードのピーク位置の基板温度依存性を示す。
E(2TO)モードのピーク位置は基板温度の上昇に伴い低波数側にシフトし、460 ºC 付近から高波数
側へとシフトしている。460 ºC 以下での変化の仕方は従来のバルクの実験報告と一致している。
460 ºC 以上での変化の仕方は Bartasyte 等の報告と一致している [39]。図
図 4-14 には比較のため
に、単結晶 PT のモード周波数 [31]を同時に示している。単結晶 PT のピーク位置 ω0 を応力ゼロ
の状態と考え、PT 膜のピーク位置 ωfilm が単結晶のピーク位置からどれぐらいシフト(∆ω=ωfilm-ω0)
しているかをもとに応力状態を考察する。バルクにおける E(2TO)モードのピーク位置と静水圧の関
係は [38; 40; 19]等が調べている。彼等の実験から、E(2TO)モードのピーク位置は静水圧に対し
て低波数側へシフトする性質があることがわかっている。一方、Bartasyte 等が行なった薄膜におけ
る研究では、XRD とラマンスペクトルのそれぞれから得られた応力値を比較し考察を行っているが、
これらの実験結果を見たところ、2 軸性の圧縮応力に対しては E(2TO)モードは高波数側にシフトす
ると考えられる。図 4-15 に ∆ω=ωfilm-ω0 の基板温度依存性を示す。キュリー温度付近である 485
ºC において PT/Pt/MgO は高波数側に、PT/Pt/Ti/SiO2/Si では低波数側にシフトしている。このこと
から、Pt/MgO 基板上では PT 膜に圧縮応力が、Pt/Ti/SiO2/Si 基板上では引っ張り応力が蓄積され
ていると考えられる。PT 膜の配向は圧縮応力下では c ドメインが、引っ張り応力下では a ドメインが
多くなると考えられており、上記の結果は図
図 4-8 の XRD の結果とよい一致を示している。また、製
膜直後での両膜のピーク位置のずれは少ないが(図
図 4-6 からわかるように、製膜直後ではバックグ
ラウンドの違いを除いて両者に違いはほとんど見られない)、温度低下に伴いずれが大きくなって
いる。これは図
図 4-1 のモデルとよい一致を示している。この応力の違いに関してだが、図
図 4-13 の
格子定数差から考えると、Si 上では MgO 上よりも Pt には強い引っ張り応力が発生する。また、Pt、 | 44
MgO 及び Si の熱膨張係数は 8.8*10-6、11*10-6 及び 2.6*10-6/ºC であることから、MgO 基板上では
温度低下に伴い Pt には圧縮応力が、Si 基板上では引っ張り応力が生じる。このような違いが PT
膜の応力に影響したものと考えられる。しかしながら、実際に高温で Pt の格子定数がどのようにな
っているのか明らかではない。さらに結晶配向は両者で異なっており、これによる影響も考えられる。
よって、今後更なる調査が必要と思われる。
(3) 製膜後の相転移過程の可逆性
製膜後の相転移過程の可逆性
次に一度室温まで降温したサンプルを、再度温度を上げ、2 回目の降温過程(以後 2nd cooling
呼ぶ)における結晶構造の変化を調査した。この結果を、製膜後の降温過程(以後 1st cooling 呼ぶ)
で得られた結果と比較することで、1st cooling における結晶構造の変化をより詳細に考察すること
ができると考えられる。サンプルには PT/Pt/Ti/SiO2/Si を用いた。図
図 4-16 に 1st 及び 2nd cooling の
各温度で得られたラマンスペクトルを示す。比較のために両スペクトルを重ねて表示してある。同図
からわかるように、全温度領域で両スペクトルは完全に重なっており、結晶構造が同一であることを
示している。図
図 4-17 には 1st 及び 2nd cooling 後に測定した XRD スペクトルを示す。フィッティング
等を行い両者のスペクトルを比較したところ、変化はほとんど観測されなかった。図
図 4-18 及び図
図
4-19 にはフィッティングより得られた A1(1TO)及び E(2TO)モードの周波数の温度依存性を示してい
る。フィッティングの精度の問題もあるが、全温度領域でに大きな違いはないように思われる。ただ、
キュリー温度よりも少し低温の 470 ºC 付近において、E(2TO)モードのピーク位置のずれが大きくな
っているように見える。そこで、470 ºC 付近で得られたラマンスペクトルの比較を行なった(図
図 4-20)。
図 4-20 から明らかなように、470 ºC 付近では 1st と 2nd cooling のスペクトルは大きく異なっている。
2nd cooling のラマンスペクトルは 1st cooling のラマンスペクトルに比べ、(同じ温度にもかかわらず)
よりシャープな形をしている。これは 2nd cooling のほうがより正方晶相に近いことを示しており、この
ことから正方晶相の安定性が 1st cooling よりも高くなっていると推測できる。この違いについて、測
定場所の違いの影響も考えられるが、低温及び高温領域ではスペクトルに違いは見られないこと
から、同影響は無視できると考えている。つまり、1st cooling においてキュリー温度以下でドメイン
が形成される際に、結晶になんらかの変化(例えば転位などの不可逆的な変化)が発生しているも
のと考えられる。これは、配向など PT 膜の特性を制御するためには、製膜過程及びその後の降温
過程での制御が重要であることを示唆している。
| 45
Tc~R.T.
Td~Tc
図 4-1 製膜後の降温過程における応力の蓄積・開放のモデル Ref. [23]
| 46
MgO(100)
Pt(100)
図 4-2 Pt/MgO の XRD スペクトル
Si (400)
Pt (111)
Intensity (arb. unit)
| 47
20
30
40
50
60
2θ (deg.)
図 4-3 Pt/Ti/SiO2/Si の XRD スペクトル
70
| 48
RSM = 4.8 nm
図 4-4 Pt/Ti/SiO2/Si 基板の表面 AFM 像
| 49
図 4-5 チタン酸鉛の断面 SEM 写真
| 50
576 ºC
Intensity (arb. unit)
478 ºC
318 ºC
224 ºC
96 ºC
200
400
600
-1
Raman shift (cm )
図 4-6 製膜後の降温過程で PT/Pt/MgO(黒線)及び PT/Pt/Ti/SiO2/Si(赤線)から得
られたラマンスペクトル
Unpolarized
Parallel
Intensity (arb. unit)
Intensity (arb. unit)
Unpolarized
Cross
200
400
-1
Raman shift (cm )
| 51
Parallel
Cross
400
-1
Raman shift (cm )
(a)
(b)
Unpolarized
Parallel
Cross
200
400
-1
Raman shift (cm )
Intensity (arb. unit)
Intensity (arb. unit)
Unpolarized
(c)
600
Parallel
Cross
400
-1
Raman shift (cm )
600
(d)
図 4-7 製膜直後の偏向測定で得られた PT のラマンスペクトル
PT/Pt/MgO の低波数側(a)及び高波数側(b)、 PT/Pt/Ti/SiO2/Si の低波数側(c)及び高波数側(d)
20
Pt/Ti/SiO2/Si
30
40
2θ (deg.)
図 4-8 チタン酸鉛の XRD スペクトル
Pt (100)
(002)
MgO (100)
(100)
(001)
Pt/MgO
(200)
(002)
Pt (111)
(101)
(100)
(001)
Intesity (arb. unit)
| 52
50
Intensity (arb. unit)
Temperature: 96 ºC
E(1TO)
E(2TO)
1
2
100
E+B1
3+4
| 53
A1(2TO)
200
300
400
-1
Raman shift (cm )
Temperature: 318 ºC
Intensity (arb. unit)
E(1TO)
1+2
E(2TO)
E+B1
A1(2TO)
3 4
100
200
300
400
-1
Raman shift (cm )
Temperature: 465 ºC
Intensity (arb. unit)
3
4 E(2TO)
E+B1
100
200
300
400
-1
Raman shift (cm )
の結果
Temperature: 576 ºC
4
Intensity (arb. unit)
図 4-9 PT/Pt/MgO のピークフィッティング
3
E(2TO)
E+B1
100
200
300
-1
Raman shift (cm )
400
Temperature: 96 ºC
Intensity (arb. unit)
E(1TO)
E(2TO)
E+B1
3+4
1 2
| 54
A1(2TO)
100
200
300
400
-1
Raman shift (cm )
Intensity (arb. unit)
Temperature: 318 ºC
E(1TO)
E(2TO)
1
2 34
100
Intensity (arb. unit)
3
100
A1(2TO)
200
300
400
-1
Raman shift (cm )
Temperature: 465 ºC
E(2TO)
E+B1
E+B1
4
200
300
400
-1
Raman shift (cm )
ティングの結果
4
Intensity (arb. unit)
図 4-10 PT/Pt/Ti/SiO2/Si のピークフィッ
Temperature: 576 ºC
3
100
E(2TO)
200
E+B1
300
-1
Raman shift (cm )
400
| 55
(a)
Energy (eV)
(b)
E4
E3
E2
E1
E0
4
3
2
1
Oxygen displacement relative to Pb (Å)
図 4-11 A1(1TO)モードの振動パターン(a)及び同モードのポテンシャルエネルギー(b) [34]
| 56
150
-1
Raman shift (cm )
145
140
135
130
125
Pt/MgO
Pt/Ti/SiO2/Si
120
115
110
477 ºC
100
200
300
400
485 ºC
500
600
Temperature (ºC)
図 4-12 A1(1TO)モードのピーク位置の温度依存性
| 57
Lattice constant (Å)
5.48
Si
5.44
5.40
4.2
MgO
PTO
4.0
Pt
3.8
0
100
200
300
400
500
Temperature (°C)
図 4-13 格子定数の温度依存性
600
| 58
-1
Raman shift (cm )
220
200
180
Pt/MgO
Pt/Ti/SiO2/Si
Single crystal (G. Burns et al.)
100
200
300
400
500
600
Temperature (ºC)
図 4-14 E(2TO)モードのピーク波数の温度依存性
| 59
5
Compressive
Tensile
-1
∆ω (cm )
0
-5
Pt/MgO
Pt/Ti/SiO2/Si
-10
-15
100
200
300
485 ºC
400
500
Temperature (ºC)
図 4-15 ωfilm-ωo の基板温度依存性
| 60
576 ºC
Intensity (arb. unit)
478 ºC
318 ºC
224 ºC
96 ºC
200
400
600
-1
Raman shift (cm )
図 4-16 1st 及び 2nd cooling において PT/Pt/Ti/SiO2/Si から得られたラマンスペクトル
黒線:1st cooling、 赤線:2nd cooling
(002)
(101)
(001)
(100)
Intesity (arb. unit)
(200)
st
1 cooling
Pt(111)
| 61
nd
2 cooling
20
30
40
2θ (deg.)
図 4-17 1st 及び 2nd cooling 後に得られた XRD スペクトル
50
| 62
-1
Raman shift (cm )
150
140
130
1st cooling
2nd cooling
120
0
100
200
300
400
500
600
Temperature (ºC)
図 4-18 A1(1TO)モードのピーク波数の温度依存性
| 63
-1
Raman shift (cm )
220
200
1st cooling
2nd cooling
180
0
100
200
300
400
500
600
Temperature (ºC)
図 4-19 E(2TO)モードのピーク位置の温度依存性
| 64
478 ºC
Intensity (arb. unit)
472 ºC
465 ºC
452 ºC
425 ºC
200
400
600
-1
Raman shift (cm )
図 4-20 470 ºC 付近のラマンスペクトル
黒線:1st cooling、 赤線:2nd cooling
第5章
章 結論
本研究はラマン分光法を用いたその場観察手法の開発及び、同手法を用いてこれまで知られて
いなかった物質構造に関する知見を得ることを目的に行なわれた。
第 2 章の「顕微ラマン分光法を用いた PZT マイクロカンチレバー動作のその場観察」では、ラマン
分光法を用いた新しい PZT 薄膜のドメインの体積分率の評価手法を開発した。この手法では PZT
の面内配向に依存せず評価が行えることから、様々な状況下で適用できると期待できる。
同手法を用いて、電圧印加に伴う PZT マイクロカンチレバー(同デバイスで使用されている PZT
膜が評価の対象となる)のドメイン構造の変化を評価した。この結果、電圧印加に伴い PZT 膜中の
a ドメインは c ドメインへと可逆的な変化することが明らかになった。この変化は(本実験で印加した
電圧の範囲では)電圧に対してリニアであり、しきい値は存在しないことがわかった。また、a ドメイン
にかかる応力を評価したところ、電圧印加に伴い PZT 膜には引っ張り応力が発生していることがわ
かった。マイクロカンチレバーでは PZT 膜の面内方向の伸縮が駆動力になっている。このことから、
圧電性による a ドメインの面内方向への伸縮はカンチレバーの動作に寄与しておらず、ドメイン反
転が主要な役割を果たしていることが明らかになった。a ドメインに引っ張り応力が発生する原因と
しては、マイクロカンチレバーの曲がりに伴って発生する、Si 基板の復元力が働いたためと考えら
れる。同効果がドメインの可逆的な反転を可能にしていると考えられる。
以上の結論とし、ラマン分光法は実デバイスにおいても構造評価の手法として有用であることが
わかった。現在のところ定量分析にはやや難があるが、フィッティング技術などをより向上させること
ができれば、将来的には定量分析も可能になると考えられる。
第 3 章の「その場観察ラマン分光法によるチタン酸鉛膜形成後の応力変化の評価」では、化学気
相成長法を用いて各種基板上に PT 膜を形成後、降温過程における応力変化を、ラマン分光法を
用いてその場観察した。製膜直後では基板の違いによるラマンスペクトルの違いは、結晶の面内
秩序性を除き、ほとんど観測されなかった。これは厚膜となったことでミスマッチ歪が緩和されたた
めと考えられる。基板の違いは降温過程で明瞭に現れた。E(2TO)モードのピーク位置より応力状
態を考えたところ、キュリー温度以上において、Pt/MgO 基板上では圧縮応力が、Pt/Ti/SiO2/Si 基
板上では引っ張り応力が PT 膜に蓄積されていることがわかった。これは XRD による PT 膜の配向
性の評価とよい一致を示した。これは、従来から予測されていたように、圧縮応力が強いほど c ドメ
インの割合が大きくなことを示している。同手法を用いてより多くの実験を行うことで、結晶の配向の
制御が可能になると考えられる。
さらに、製膜後の降温過程と再度温度を上げた後の降温過程のラマンスペクトルを比較した。こ
の結果、相転位後である 470 ºC 付近でスペクトル形に違いが見られた。これは製膜後の相転移過
程が不可逆的なものであることを示している。2 度目の相転移過程では、同じ温度でも 1 回目に比
| 65
べスペクトルが鋭く現れており、より正方晶相近いと予測される。この結果から、PT 膜の特性を制御
する上では、1 回目の降温過程を制御することが重要であると考えられる。よって、ラマン分光法に
よるその場観察手法は、PT 膜の特性を制御する上で非常に重要な技術になりえる可能性があると
いえる。
| 66
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ferroelectric PbTiO3 thin films by Raman spectroscopy. : Phys. Rev. B, 79 (2009) 104104.
46. 松岡学.
松岡学 強誘電体 PbTiO3 薄膜のその場観察気相成長 高知工大 卒業論文.
47. —. プラズマアシスト気相成長法による鉛系強誘電体の作成と評価 高知工大 修士論文.
48. T. Kobayashi, M. Ichiki, R. Kondou, K. 5akamura, and R. Maeda. Fabrication of
piezoelectric microcantilevers using LaNiO3 buffered Pb(Zr,Ti)O3 thin film: J. Micromech.
Microeng. 18 (2008) 035007.
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謝辞
河東田教授には修士1年より二年間ご指導頂きました。この限られた時間の中で研究の方針,姿
勢など多くのことを教わりました。特に、「強誘電体」や「ラマン分光法」という非常に興味深い分野
に出会わしていただいたことに感謝しております。今後さらに研究分野で勉学に励む所存ですの
で、これからもご指導いただければと思います。二年間ご指導頂いた電子・光システム工学科教職 | 70
員の方々並びに秘書の安岡さん、中村さんに心から感謝致します。
研究や学会発表を行うにあたり,多大なご協力をしていただいた防衛大学校の西田准教授、山
本教授に深く感謝いたします。両先生のおかげで現在の自分があると思います。東京工業大学の
舟窪准教授、同研究室の方々には大変お忙しい中にもかかわらず、快くご協力してくださいました
ことに心より感謝いたします。本学の真田教授、成沢教授には貴重な実験装置を貸していただきま
した。さらに、真田教授には進路のご相談までさしていただき、大変感謝しております。又本大学に
出向されておられる、赤木、上条研究員の両氏には研究、私生活の境なくさまざまなご意見をいた
だきました。ありがとうございました。同研究室生の院生である江頭(通称マグナム A)、葛原、田井
氏の三名には研究の手伝いや研究室の管理、後輩の面倒まで幅広く力を貸していただきまして、
大変助かりました。私の力量不足のためうまく指導できませんでしたが、熱心に本研究を手伝って
くれました 4 年の松岡、湯浅君にも感謝申し上げます。他の 4 年生である川谷、塩田、関根、橋詰
君には研究室をにぎやかにしていただき、楽しく実験をすることができました。皆さんの協力に対し
心より感謝しております。本研究はこれら多くの方々のご指導とご援助により達成されたものであり,
ここに心より感謝の意を表します。
学会・学術会議等での口頭発表
・顕微ラマン分光法による MEMS ベース PZT カンチレバー動作のその場観察
葛原 希亮,西出 正道,小林 健,森岡 仁,舟窪 浩,西田 謙,山本 孝,河東田 隆
第 26 回強誘電体応用会議(FMA-26),2009/5/27~2009/5/30,コープイン京都,29-P-10
・顕微ラマン分光法による PZT カンチレバー動作のその場観察
西出正道,葛原希亮,小林健,森岡仁,舟窪浩,山本孝,西田謙,河東田隆
2009 年春季第 56 回応用物理学関係連合講演会,筑波大学,2009 年 3 月 31 日,31a-ZH-4
学会・学術会議等での口頭発表 予定
・ラマン分光法を用いたチタン酸鉛膜のドメイン形成過程のその場観察
西出 正道, 松岡 将史, 田井 丈詞, 西田 謙, 山本 孝, 舟窪 浩, 河東田 隆
2010 年春季第 57 回応用物理学関係連合講演, 東海大学, 2010 年 3 月 17 日
・その場観察ラマン分光法によるチタン酸鉛膜形成後の応力変化の評価
西出 正道, 松岡 将史,田井 丈詞, 西田 謙, 山本 孝, 舟窪 浩, 河東田 隆
第 27 回強誘電体応用会議(FMA-27),2010/5/26~2009/5/29,コープイン京都
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