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ile.19<判決原文> F 東京都銀行税事件

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ile.19<判決原文> F 東京都銀行税事件
F ile.19< 判 決 原 文 >
東京都銀行税事件
第 1 審 : 東 京 地 裁 平 成 1 2 年 ( 行 ウ ) 第 2 5 6 号 、 261な い し 264号 、 平 成 1 4 年 3 月 2 6 日 判 決 (TAINS判 例 検 索 Z
999-8042、判例時報1787号42頁)
控 訴 審 : 東 京 高 裁 平 成 1 4 年 ( 行 コ ) 第 9 4 号 、 245な い し 261 号 、 平 成 1 6 年 1 月 3 0 日 判 決 (TAINS判 例 検 索 Z9
99-8066、判例時報1814号44頁)
第1審:東京地裁平成12年(行ウ)第256号、同第261号ないし第280号各東京
都 外 形 標 課 税 条 例 無 効 確 認 等 請 求 事 件 ( 却 下 、 棄 却 、 一 部 認 容 )( 双 方 控 訴 )
原告ら
被告ら
株式会社第一勧業銀行ほか17行
東京都、東京都知事
判決骨子
1 原告らの本件条例無効確認請求、更正処分及び決定処分差止請求、並びに租税債務不
存在確認請求にかかる訴えは、いずれも不適法であるから却下する(請求の趣旨第1項
な い し 第 4 項 )。
2 本件条例は地方自治法(ママ)72条の19に違反する無効なものであり(憲法違反
の 主 張 等 そ の 余 の 違 法 事 由 に 関 す る 主 張 に つ い て は 判 断 す る ま で も な い 。)、 原 告 ら が
本件条例に基づいて既に納付した金員は誤納金となる。したがって、原告らの誤納金の
返還及びそれに対する還付加算金の支払を求める請求は理由がある。ただし、還付加算
金 の 割 合 に つ い て は 、 一 部 、 被 告 東 京 都 の 主 張 に 基 づ き 減 額 す る 。( 下 記 3 と と も に 、
請求の趣旨第5項)
3 原告らの国家賠償請求については、本件条例の制定による信用低下等に基づく損害が
認められるので、当初原告ら1行当たり1億円(ただし、原告八十二銀行、原告福岡銀
行及び原告みずほ信託銀行については、各1000万円)とこれに対する遅延損害金の
支払を求める請求は理由がある(上記2とともに、請求の趣旨第5項)
4 請求の趣旨第6項の通知処分取消請求及び過納金返還等の請求は、請求の趣旨第5項
の請求に対し、当該通知処分が無効ではないことを前提とする予備的請求であるところ
、上記2のとおり本件条例が無効である以上同通知処分も無効であって、請求5につい
て一部棄却すべき点は請求6についても同様であるから、請求の趣旨第6項の請求につ
いては判断の必要がない。
以上
判決要旨
第1 事案の概要
被告東京都が平成12年4月1日に制定した「東京都における銀行業等に対する事業
税 の 課 税 標 準 等 の 特 例 に 関 す る 条 例 」( 東 京 都 条 例 第 1 4 5 号 。 以 下 「 本 件 条 例 」 と い
う 。) は 、 各 事 業 年 度 の 終 了 の 日 に お け る 資 金 の 量 が 5 兆 円 以 上 で あ る 銀 行 業 等 を 行 う
法人に対し、制定日から5年以内に開始する各事業年度の法人事業税について、課税標
準を業務粗利益とし、税率を原則として3パーセントとして課税するものであるところ
、本件は、原告らが、本件条例は憲法及び地方税法に違反して無効であると主張して、
行政事件訴訟法3条4項の無効等確認の訴えとして、本件条例の無効確認を被告東京都
に 対 し ( 請 求 1 )、 ま た 、 被 告 東 京 都 知 事 に 対 し ( 請 求 2 ) 求 め る と と も に 、 い わ ゆ る
無名抗告訴訟として被告東京都知事に対し本件条例に基づく更正処分及び決定処分の差
止め(請求3)を、同法4条後段の当事者訴訟又は民事訴訟として被告東京都に対し本
件条例に基づく租税債務不存在確認(請求4)を求め、さらに、原告らが平成12年事
業年度分につき留保文言を付した上で本件条例に基づき計算された事業税額を被告東京
都に申告納付したことから、被告東京都に対し、主位的に同事業税額の誤納金としての
還付及び還付加算金の支払並びに本件条例の制定に関係する一連の行為及び公布行為が
違法であるとする国家賠償及び同賠償額に対する遅延損害金の支払(請求5)を、また
、原告らが同申告納付後直ちに同事業税が過大申告であったとして更正の請求を行った
のに対し被告東京都知事が「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の通知処分
をしたことから、予備的に被告東京都知事に対し同通知処分の取消し、被告東京都に対
し同事業税額の過納金としての還付及び還付加算金の支払並びに前記国家賠償及び同賠
償額に対する遅延損害金の支払(請求6)を求めた事案である。
第2 争点
(1) 請求1ないし4に係る訴えの適法性(争点1-本案前の争点)
ア 請求1は被告東京都に対し、請求2は被告東京都知事に対し、それぞれ本件
条例の無効確認を求める請求であるところ、被告らは本件条例が抗告訴訟の対
象としての処分性及び原告適格を欠く旨を主張し、また、被告東京都は請求1
につき被告適格を欠く旨主張する。
-1-
イ
請求3は、被告東京都知事に対し本件条例に基づく更正処分及び決定処分の
差止めを求める無名抗告訴訟としての予防的不作為訴訟であるところ、被告東
京都知事は、その無名抗告訴訟としての適法要件を欠く旨主張する。
ウ 請求4は、被告東京都に対する当事者訴訟又は民事訴訟としての本件条例に
基づく租税債務の不存在確認請求であるところ、被告東京都は、訴えの利益を
欠く旨主張する。
(2) 本件条例の適法性・有効性(争点2-請求1ないし6の本案の争点)
原告らは、本件条例が憲法14条、31条、94条、地方税法72条の19、
72条の22、6条2項に反して違憲・違法であるから本件条例は無効である旨
主張し、被告らはこれを争う。
(3) (請求5の誤納金返還請求部分につき)本件通知処分の有効性並びに誤納金及
び還付加算金額(争点3)
原告らは、本件条例は違憲・違法・無効であるから本件通知処分の瑕疵も重大
かつ明白である旨主張し、誤納金の還付及び還付加算金の支払を求めるのに対し
、被告東京都はこれを争う。
(4) (争点3につき消極の場合、請求6の過納金返還請求部分につき)本件通知処
分の取消事由の有無並びに過納金及び還付加算金額(争点4)
(5) (請求5又は請求6の国家賠償請求部分につき)被告東京都の責任原因(争点
5)
原告らは、本件条例の公布行為及び制定に関係する一連の行為は違法であり、
同公布行為をした被告東京都知事、制定に関連する一連の行為をした被告東京都
知事ほか被告東京都の職員、都議会議員には故意・過失がある旨主張し、被告東
京都はこれを争う。
(6) (請求5又は請求6の国家賠償請求部分につき)原告らの損害(争点6)
第3
1
当裁判所の判断
争点1(請求1ないし4に係る訴えの適法性)について
本件条例が施行されても、それだけでは原告らを含む特定の者に具体的な納税義務
が当然に発生するものではなく、繰延税金資産の減少もまた本件条例による事業税を
負担すべきことが確定して初めて生ずるものであるから、本件条例の施行により、直
接的かつ具体的に原告らの権利・義務が形成され、あるいはその範囲が確定されるも
のでないことは明らかである。したがって、本件条例の施行については、本件条例の
規定に基づく原告らの申告又は行政庁の具体的な処分を待たずに、直ちに原告らの権
利義務に影響を及ぼすものではなく、本件条例の制定には行政処分性は認められない
と解するほかない。
請求1ないし4の趣旨は、本件条例に基づいて何らかの不利益処分が行われるのを
防止するために、本件条例が無効であることをあらかじめ確定しておくことにあると
解されるところ、現行訴訟制度の下においては、その訴訟形態が行政訴訟であるか民
事訴訟であるかを問わず、法令違反の結果として将来なんらかの不利益処分を受ける
おそれがあるというだけで、行政庁の処分権限の発動を差し止めるため、事前にその
前提となる法令の効力の有無の確定を求めたり、当該処分権限の発動をしないことを
命令したり、当該処分権限の発動により具体的に確定される権利義務関係につき同発
動前にこれを差し止めるために当該権利義務関係の不存在の確認を求めることが当然
に許されるわけではなく、当該法令自体によって侵害を受ける権利の性質及びその侵
害の程度・当該法令違反に対する制裁としての不利益処分の確実性(本件では更正処
分及び決定処分等)及びその内容又は性質等に照らし、同処分を受けてからこれに関
する訴訟の中で事後的に当該法令の効力を争ったのでは回復し難い重大な損害を被る
おそれがある等、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある
場合は格別、そうでない限り、あらかじめ当該法令の効力の有無の確定を求める法律
上の利益を認めることはできないものと解すべきである。
当初原告らは、平成12事業年度に係る本件条例に基づく事業税につき留保文言を
付した上で本件条例に基づく事業税の申告納付をしているのであって、原告らは、平
成13事業年度以降についても同様の申告納付をすることにより、加算金の賦課や刑
罰法規の適用、さらには免許の取消し等の行政処分を回避し、その上で更正の請求を
し、本件通知処分のように更正の請求に理由がない旨の通知処分がされたときには同
処分を争い、その中で本件条例の無効を主張することも可能であり、そうした今後の
事業年度についての申告納付による経済的不利益によって倒産の危機に直面するなど
、本件の請求5又は6のように不利益処分を待って本件条例の効力を争い事後的に誤
納金又は過納金の返還及び金銭賠償を求めたのでは回復し難い重大な損害を被るおそ
れがある等の特段の事情の存在は、いまだこれを見いだすことができない。
よって、請求1ないし4に係る訴えについては、その訴訟形態を問わず、いずれも
不適法なものであって、却下を免れない。
2
争点2(本件条例の適法性・有効性)について
事業税の沿革、特にシャウプ勧告によって、これをそれまでの応能原則に基づく課
-2-
税から応益原則に基づくに変更する法改正がされたのに、それが施行されないままに
終わり、それ以前の制度が復活して現行法に至っていること、例外4業種について収
入金課税が採用された立法理由、並びに租税一般の本質に照らして、地方税法72条
の19の文言をみると、同条は、例外4業種以外の事業について「事業の情況に応じ
」て外形標準を用いることとする場合にも、応能原則に基づく課税であることを当然
の前提としているものというべきである。具体的には、応能原則に基づいて、所得を
課税標準とすることにより適切な担税力の把握ができるか否かを第一に検討し、所得
が当該事業の担税力を適切に反映するものである場合には、原則どおり所得を課税標
準とすべきであって、この場合には外形標準課税をすることは許されず、例外4業種
の場合と同様に当該事業の収益構造等の事業自体の客観的性格又は法律上の特別の制
度の存在などから法人税法の例によって算定した所得が当該事業の担税力を適切に反
映しない場合に、初めて外形標準を用いることができるというべきである。すなわち
、ここでいう「事業の情況」とは、当該事業の収益構造や法律上の特別の制度の存在
など当該事業が順調に行われていてもなお所得が担税力を適切に反映しないといった
事業自体の客観的情況を意味するのであって、その時々の景気状況や経営の巧拙に基
づく業績状況といった事業自体の客観的性質に基づかない事態は含まれないものと解
するのが相当である。
以上を前提に、本件外形標準課税が地方税法72条の19の要件を充たすものか否
かを検討すると、まず、銀行業等については、所得を課税標準とした場合に事業の性
質や法令上の制度の存在により適切な担税力の把握ができないとの事情は見当たらな
い。
被告らは、銀行業においてはバブル期よりも大きな業務粗利益をあげていながら法
人事業税をほとんど負担していない事態を「事業の情況」としているが、このような
事態は、バブル崩壊という一時的な景気状況を直接のきっかけとして生じたものにす
ぎないし、原告の中にも一部法人事業税を納めている銀行があることからもうかがえ
るように、個々の銀行のそれまでの業績の推移や経営者の手腕といった主観的事情に
よって左右されるものであって、銀行業自体が有する客観的情況とは到底いい難いも
のである。また、銀行業等の場合、貸倒れは必然的に伴うものであるから、貸倒損失
分のリスクを見込んで貸出金利を高く設定することにより、客観的な事業の性格ない
し構造として、事業存続のために十分な利益(所得)が得られようになっているもの
と認められ、貸倒損失を控除した所得こそがその担税力を示すものであって、この点
では他の一般事業会社と異なるものではない。しかも、銀行業等については、一般に
は統一的な経理基準により適正な記帳がされ監査等も実施されているのであるから、
所得を捕捉するのに困難があるとか、所得が適正に算出されていないとはいえないこ
とも明らかである。
したがって、銀行業等については、所得が当該事業の担税力を適切に反映するもの
であり、原則どおり所得を課税標準とすべきであって、この場合に外形標準課税をす
ることは許されないものというほかなく、銀行業等については、地方税法72条の1
9が外形標準課税を許す「事業の情況」があるものとは認められないのであって、本
件条例は、同規定に反して違法であり、無効なものといわざるを得ない。なお、被告
らは課税自主権に基づく裁量権を有すると主張するが、地方公共団体は法律の定める
範 囲 内 で の み 課 税 自 主 権 を 行 使 で き る に す ぎ な い か ら ( 憲 法 9 4 条 )、 同 主 張 は 理 由
が な い 。[ 4 2 頁 ~ 4 4 頁 ]
3
争点3(本件通知処分の有効性等)及び争点4(本件通知処分の取消事由の有無等
)について
本件通知処分は、本件条例が有効であることを前提として同条例に基づいてされた
ものであるところ、租税法律主義にかんがみれば、課税処分においてその根拠となる
法令が無効であることは、当該課税処分につきこの上ない極めて重大な瑕疵があると
いうべきであって、その瑕疵が明白なものか否かにかかわらず無効というほかない。
そうすると、各当初原告の別紙3(a)欄記載の各既納税額は、無効な本件条例に
基づいて算出され、納付されたものであり、これを是認した本件通知処分にはそもそ
も無効であって公定力は生じていないから、同処分を取り消すまでもなく、平成12
事業年度に係る旧基準税額と既納税額との差額は各当初原告にとっては損失であり、
被告東京都にとっては法律上の原因を欠いた利得であるから、各当初原告は、同差額
(それぞれ各当初原告に対応する別紙2(a)欄記載のとおり)を誤納金としてその
還付を請求し、同誤納金額に対する還付加算金の支払を求めることができるものと認
められる。
以上のとおり、本件通知処分については、上記のとおり無効であると判断すべきと
ころ、請求6は、争点3について本件通知処分が無効でないとした場合の予備的請求
であるから、本件通知処分を無効と判断する以上、請求6については判断する必要が
なく、同請求に係る争点4については判断をしない。
4
争点5(被告東京都の責任原因)について
本件条例は法律に反して違法無効なものであるから、その制定行為もまた違法な行
-3-
為 で あ る と こ ろ [ 5 5 頁 ~ 5 6 頁 ]、 こ れ に 関 与 し た 被 告 東 京 都 の 職 員 は 、 条 例 案 の
立案に当たって、地方税法72条の19にいう「事業の情況」の意味につき、その職
責にある者として当然抱くべき疑問に想到せず、その結果、同条の解釈に不可欠な立
法資料等の調査を怠り、被告東京都知事及び都議会に対する正確な情報を提供すべき
義務を怠ったものである。特に、その所管局の責任者である主税局長は、現行の事業
税につき、所得課税という応能原則による課税が行われていることを認誠しながら、
あくまでこれが応益原則に基づくものと強弁し、かつ、銀行の業務粗利益が一般事業
会社の売上総利益に相当するとの誤った説明を行い、都議会議員らの判断を誤らせる
に至ったのであるから、ほとんど重過失に近い過失があったといわざるを得ない。
また、被告東京都知事は、政府をはじめとする関係諸団体や有識者が本件条例案に
対して疑問を呈し、都議会においても、全国銀行協会の杉田会長があるべき法解釈に
ついて適切な意見を述べているのであるから、これらの意見等を虚心坦懐に聴いたな
らば、法律や会計に専門的知識がなくても、上記のように所管局職員が職務を怠って
いるのではないかとの疑問を抱き、ひいては、本件条例が法令に違反している可能性
が高く、本件条例を制定した場合には違法に原告らの権利を侵害することとなること
を十分に認識し得るのが通常であると考えられる。したがって、被告東京都知事は、
補助機関の不十分な検討や誤った説明等を看過し、これに対する適切な指揮監督をせ
ず、違法な内容の条例案を議会に提出して成立させるに至らせたのであって、このよ
うな結果を招いた点に過失があったといわざるを得ない。さらに、被告東京都知事は
、本件条例に関する審議の冒頭において銀行業が配当を行っているとの事実を指摘し
ているところ、この配当は過去の積立金を原資とするものであって直近年度の利益に
よるものではないから、本来、条例制定の理由とはならないばかりか、都議会議員ら
に対し、銀行が配当を行うに足りる業績を挙げながら税金を負担していないとの誤解
を与える不適切な発言といわざるを得ない。これが、都議会議員らの銀行業に対する
意識に大きく寄与し、地方税法との整合性について慎重かつ専門的な検討を経ないま
ま、違法な条例の制定に至ったのであるから、被告東京都知事には、少なくともこの
ような重要な発言をするに当たってその内容を十分に吟味しなかったために、このよ
うな結果を招いたことに過失があったといわざるを得ない。
5
争点6(原告らの損害)について
本件条例は、平成12年3月30日に少なくとも適式に成立し、同日の時点で今後
施行されることは確実であった上、これを無効とする公権的判断は下されていなかっ
たし、その内容や銀行の財務内容に与える影響について広く具体的に報道がされてい
たのであるから、一般取引界においては、その時点において、本件条例が有効との前
提の下にそれによって銀行の財務内容にどのような影響が出るかを具体的に認識し、
その認識を前提として原告らに対する評価を行っていたと認めることができ、その認
識内容は、その時点において本件条例が有効との前提で繰延税金資産の再計算をした
結果と一致するものと考えるのが相当である。そうすると、原告らは、これにより、
純資産及び当期利益に関する原告らのいわゆる経営・財務指標上も減益として消極的
な評価を受けることになり、また、同様に、自己資本が減少したかのように評価され
ることとなって、銀行経営の健全性を判断するための基準である自己資本比率が各当
初原告につき別紙8のとおり減少するとの評価を受け、当初原告らの信用を著しく低
下 さ せ た も の と 認 め ら れ る [ 6 8 頁 ~ 6 9 頁 ]。 さ ら に 、 本 件 条 例 制 定 の 結 果 、 別 紙
7記載のとおり、平成12事業年度以降の事業税負担の増加によって将来の利益の減
少が見込まれるかのような様相を呈することとなり、その額が決して小さいものとは
いえないことから、各当初原告の債務返済能力に対する信頼である各当初原告の信用
も低下したものと認められる。
また、上記のように自己資本比率が低下(別紙8)したとの評価を受けることによ
り、銀行業等を行う当初原告らの根幹的な収入源である「貸出」の余力が低下すると
の営業上の損害も生じたものと認められる。すなわち、自己資本が低下する場合には
、自己資本比率を維持するためにリスク・アセットの上限額も低下させなければなら
ず、それに伴い、貸出余力の上限も低下することになる。この結果、原告らは、一般
取引界によって認識されているそれぞれの自己資本比率を維持しようとすれば、その
貸出余力低下分に相当する貸出を実行することが制限され、貸出を実行すれば得られ
たであろうはずの「利子収入」の最大額が減少することとなったものと認められ、各
当初原告の貸出余力低下額及びそれに係る利子収入の最大額の減少額は、別紙12に
記載のとおりであると認められる。
上記のような信用の低下及び営業上の損害はその内容及び程度に照らし、当初原告
らに重大な無形の損害を及ぼしたとみるべきであって、これは誤納金の納付によって
生ずる還付加算金相当分の損害とは全く別個のものであり、その支払を受けることで
は解消しないものと考えるべきである。そして、以上の事情を総合考慮し、本件条例
の制定により当初原告らが被った無形損害の金銭的評価は、原告八十二銀行、原告福
岡銀行及び原告みずほ信託銀行を除く各当初原告1行については、それぞれ1億円を
下 ら な い も の と 認 め る の が 相 当 で あ る [ 7 0 頁 ~ 7 1 頁 ]。 他 方 、 原 告 八 十 二 銀 行 及
び原告福岡銀行は、他の当初原告らとは財務内容が大きく異なっており、本件条例の
-4-
制定による財務諸表上の繰延税金資産の減少額や貸出余力低下額に係る利息収入の減
少上限額が、他の当初原告に比べて極端に少ないこと、原告みずほ信託銀行は、その
自己資本比率が他の当初原告らに比べて極めて自己資本比率が高く、非公開会社であ
って、少なくとも投資家間における信用の低下について他の公開会社である当初原告
らと同列に論ずることはできないことなどを考慮して、本件条例制定により被った無
形損害の金銭的評価はそれぞれ1000万円と認めるのが相当である。
第4
結論
よって、被告東京都知事に対する請求2及び3に係る訴え及び被告東京都に対する請
求1及び4に係る訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、誤納金返
還請求及び損害賠償請求である請求5については、原告八十二銀行、原告福岡銀行及び
原告みずほ信託銀行の国家賠償請求のうち各1000万円を超える部分及びこれに対す
る遅延損害金支払請求部分並びに原告らの各誤納金額に対する還付加算金支払請求のう
ち平成14年1月1日から支払済みまで年4.1パーセントの割合による部分を超える
部分には理由がないからこれを棄却することとし、その余は原告らの請求を認容する(
請求6は、請求5に対し、本件通知処分が無効ではないことを前提とする予備的請求で
あるところ、前記のとおり本件条例が無効である以上本件通知処分も無効であって、請
求5について一部棄却すべき点は請求6についても同様であるから、請求6については
判 断 の 要 を み な い 。)。
第5
付言
なお、付言するに、本件条例については、前記認定のとおり都議会において圧倒的多
数の賛成の下に制定されたものであり、都民の多くがこれに賛意を表していたことは当
裁判所に顕著な事実である。これらのことには、長期にわたる厳しい経済状況の下にお
いて、そのような事態の発生と銀行業との関連についての一定の考え方が影響を与えて
いる可能性がうかがえないでもない。もとより、このような厳しい状況をより早期に解
消し、かつその再発を防止するために、そのような考え方の当否も含めて事態の原因を
究明することは有益なことであるし、その結果、法的責任を有する者があると判明した
場合には、その責任を厳正に追求することも必要となろう。しかし、それらは、冷静か
つ専門的な見地から、それにふさわしい法的手続に則って行われるべきものであり、現
行の地方税法の下での銀行業に対する事業税の課税のあり方とは全く無関係の問題であ
る。
本判決は、このような見地から、本件条例が事業税に関する地方税法の定めに違反す
るものか否かという点について判断を示したものである。したがって、本判決は、現行
の地方税法が立法論的にみて妥当なものか否かや、事業税以外の法定外税のあり方とい
った点にも、何らふれていない。前者については、検討の要否も含めて立法府たる国会
の職責に属する事柄であるし、後者については、地方税法の法定外税に関する定めに則
ってその当否を検討すべき問題であって、いずれも本件とは無関係の問題である。
判決主文
1
2
原告らの被告東京都知事に対する訴えをいずれも却下する。
被告東京都は、原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告に対し、
それぞれ同各原告に対応する別紙2(e)欄記載の各金員並びに同各金員のうち同各原
告に対応する別紙2(a)欄記載の各金員に対する別紙2(f)欄記載の各日から平成
13年12月31日までは年4.5パーセントの割合、平成14年1月1日から支払済
みまでは年4.1パーセントの割合による各金員、及び同各原告に対応する別紙2(c
)欄記載の各金員に対する平成12年10月24日から支払済みまで年5パーセントの
割合による各金員を支払え。
3 被告東京都は、原告三菱信託銀行に対し、46億1937万4900円並びにうち3
7億0081万6600円に対する平成13年8月3日から、うち7億1855万83
00円に対する同年7月30日からそれぞれ平成13年12月31日までは年4.5パ
ーセントの割合、平成14年1月1日から支払済みまではそれぞれ年4.1パーセント
の割合による金員、及び2億円に対する平成12年10月24日から支払済みまで年5
パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告東京都は、原告ユーエフジェイ銀行に対し、95億8595万0800円並びに
うち65億0885万9500円に対する平成13年7月29日から、うち28億77
09万1300円に対する同年8月3日からそれぞれ平成13年12月31日までは年
4.5パーセントの割合、平成14年1月1日から支払済みまではそれぞれ年4.1パ
ーセントの割合による金員、及び2億円に対する平成12年10月24日から支払済み
まで年5パーセントの割合による金員を支払え。
5 原告らの被告東京都に対するその余の請求のうち、金員請求に関する2項ないし4項
に記載の部分以外の部分を棄却し、その余の請求に係る訴えをいずれも却下する。
6 訴訟費用は被告らの負担とする。
-5-
7
判
この判決は、2項ないし4項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告東京
都が、各原告につき附帯請求部分を除く当該原告の請求認容額の6割(ただし、1万円
未満切捨て)に相当する金員の担保を供するときは、当該原告の仮執行を免れることが
できる。
以上
決(平成14年3月26日言渡・被告控訴)
当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり(略)
主
1
2
文
原告らの被告東京都知事に対する訴えをいずれも却下する。
被告東京都は、原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告に対し、
それぞれ同各原告に対応する別紙2(e)欄記載の各金員並びに同各金員のうち同各原
告に対応する別紙2(a)欄記載の各金員に対する別紙2(f)欄記載の各日から平成
13年12月31日までは年4.5パーセントの割合、平成14年1月1日から支払済
みまでは年4.1パーセントの割合による各金員、及び同各原告に対応する別紙2(c
)欄記載の各金員に対する平成12年10月24日から支払済みまで年5パーセントの
割合による各金員を支払え。
3 被告東京都は、原告三菱信託銀行に対し、46億1937万4900円並びにうち3
7億0081万6600円に対する平成13年8月3日から、うち7億1855万83
00円に対する同年7月30日からそれぞれ平成13年12月31日までは年4.5パ
ーセントの割合、平成14年1月1日から支払済みまではそれぞれ年4.1パーセント
の割合による金員、及び2億円に対する平成12年10月24日から支払済みまで年5
パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告東京都は、原告ユーエフジェイ銀行に対し、95億8595万0800円並びに
うち65億0885万9500円に対する平成13年7月29日から、うち28億77
09万1300円に対する同年8月3日からそれぞれ平成13年12月31日までは年
4.5パーセントの割合、平成14年1月1日から支払済みまではそれぞれ年4.1パ
ーセントの割合による金員、及び2億円に対する平成12年10月24日から支払済み
まで年5パーセントの割合による金員を支払え。
5 原告らの被告東京都に対するその余の請求のうち、金員請求に関する2項ないし4項
に記載の部分以外の部分を棄却し、その余の請求に係る訴えをいずれも却下する。
6 訴訟費用は被告らの負担とする。
7 この判決は、2項ないし4項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告東京
都が、各原告につき附帯請求部分を除く当該原告の請求認容額の6割(ただし、1万円
未満切捨て)に相当する金員の担保を供するときは、当該原告の仮執行を免れることが
できる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
(原告ら)
1 (下記2の予備的併合関係にある請求との間での主位的請求)
原告らと被告東京都との間で、被告東京都が平成12年4月1日に制定した「東京
都 に お け る 銀 行 業 等 に 対 す る 事 業 税 の 課 税 標 準 等 の 特 例 に 関 す る 条 例 」( 東 京 都 条 例
第 1 4 5 号 。 以 下 「 本 件 条 例 」 と い う 。) が 無 効 で あ る こ と を 確 認 す る ( 以 下 「 請 求
1 」 と い う 。)。
2 (請求1と単純併合又は予備的併合関係にある請求)
原告らと被告東京都知事との間で、本件条例が無効であることを確認する(以下「
請 求 2 」 と い う 。)
3 被告東京都知事は、原告らに対し、本件条例に基づく平成13年4月1日に開始す
る事業年度分の事業税に係る更正処分及び決定処分をしてはならない(以下「請求3
」 と い う 。)。
4 原告らと被告東京都との間で、原告らが、本件条例に基づき平成13年4月1日に
開始する事業年度に係る事業税を納付する租税債務を有しないことを確認する(以下
「 請 求 4 」 と い う 。)。
5(1) (原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く原告らにつき後記6
(1)の予備的請求との間での主位的請求)
被告東京都は、原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告
に対し、それぞれ同各原告に対応する別紙3(e)欄記載の各金員並びに同各
金員のうち同各原告に対応する別紙3(c)欄記載の各金員に対する別紙3(
i)欄記載の各日から支払済みまで年4.5パーセントの割合による各金員、
及び同各原告に対応する別紙3(d)欄記載の各金員に対する平成12年10
月24日から支払済みまで年5パーセントの割合による各金員を支払え(以下
「 請 求 5 ( 1 )」 と い う 。)。
-6-
( 2 ) ( 原 告 三 菱 信 託 銀 行 に つ き 後 記 6( 2 )の 予 備 的 請 求 と の 間 で の 主 位 的 請 求 )
被告東京都は、原告三菱信託銀行に対し、46億1937万4900円並び
にうち37億0081万6600円に対する平成13年8月3日から、うち7
億1855万8300円に対する同年7月30日からそれぞれ支払済みまで年
4.5パーセントの割合による金員、及び2億円に対する平成12年10月2
4日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え(以下「請求
5 ( 2 )」 と い う 。)。
(3) (原告ユーエフジェイ銀行につき後記6(3)の予備的請求との間での主位
的請求)
被告東京都は、原告ユーエフジェイ銀行に対し、95億8595万0800
円並びにうち65億0885万9500円に対する平成13年7月29日から
、うち28億7709万1300円に対する同年8月3日からそれぞれ支払済
みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び2億円に対する平成12年
10月24日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え(以
下 「 請 求 5 ( 3 )」 と い い 、 請 求 5 ( 1 ) な い し ( 3 ) を 併 せ て 「 請 求 5 」 と
い う 。)。
6(1) (原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く原告らにつき請求5
(1)と予備的併合関係で、かつ、次のアとイとの間では単純併合の関係にあ
る請求)
ア 原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告が申告納付し
た平成12年4月1日に開始する事業年度に係る事業税が過大申告であった
として同各原告に対応する別紙3(g)欄記載の各日に行った各更正請求に
対し、被告東京都知事が平成13年8月30日付けで同各原告に対してそれ
ぞれした「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の各通知処分を取
り 消 す ( 以 下 「 請 求 6 ( 1 ) ア 」 と い う 。)。
イ 被告東京都は、原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原
告に対し、それぞれ同各原告に対応する別紙3(e)欄記載の各金員並びに
同各金員のうち同各原告に対応する別紙3(c)欄記載の各金員に対する別
紙3(j)欄記載の各日から支払済みまで年4.5パーセントの割合による
各金員、及び同各原告に対応する別紙3(d)欄記載の各金員に対する平成
12年10月24日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支
払 え ( 以 下 「 請 求 6 ( 1 ) イ 」 と い う 。)。
(2) (原告三菱信託銀行につき請求5(2)と予備的併合関係で、かつ、次のア
とイとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 原告三菱信託銀行が申告納付した平成12年4月1日に開始する事業年度
に係る事業税が過大申告であったとして別紙3(g)欄の(旧三菱信託銀行
分)欄及び同(g)欄の(旧日本信託銀行分)欄記載の各日に行った各更正
請求に対し、被告東京都知事が平成13年8月30日付けで原告三菱信託銀
行及び訴訟承継前第277号事件原告日本信託銀行株式会社に対してそれぞ
れした「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の各通知処分を取り
消 す ( 以 下 「 請 求 6 ( 2 ) ア 」 と い う 。)。
イ 被告東京都は、原告三菱信託銀行に対し、46億1937万4900円並
びにうち37億0081万6600円に対する平成13年10月7日から、
うち7億1855万8300円に対する同年10月13日からそれぞれ支払
済みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び2億円に対する平成1
2年10月24日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払
え ( 以 下 「 請 求 6 ( 2 ) イ 」 と い う 。)。
(3) (原告ユーエフジェイ銀行につき請求5(3)と予備的併合関係で、かつ、
次のアとイとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 原告ユーエフジェイ銀行が申告納付した平成12年4月1日に開始する事
業年度に係る事業税が過大申告であったとして別紙3(g)欄の(旧三和銀
行分)欄及び同(g)欄の(旧東海銀行分)欄記載の各日に行った各更正請
求に対し、被告東京都知事が平成13年8月30日付けで訴訟承継前第26
5号事件原告株式会社三和銀行及び訴訟承継前第268号事件原告株式会社
東海銀行に対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないことにした
」 旨 の 各 通 知 処 分 を 取 り 消 す ( 以 下 「 請 求 6 ( 3 ) ア 」 と い う 。)。
イ 被告東京都は、原告ユーエフジェイ銀行に対し、95億8595万080
0円並びにうち65億0885万9500円に対する平成13年10月11
日から、うち28億7709万1300円に対する同年10月13日からそ
れぞれ支払済みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び2億円に対
する平成12年10月24日から支払済みまで年5パーセントの割合による
金員を支払え(以下「請求6(3)イ」といい、請求6(1)ないし(3)
の 各 ア 及 び イ を 併 せ て 「 請 求 6 」 と い う 。)。
7 訴訟費用は被告らの負担とする。
8 仮執行宣言
-7-
(被告ら)
1 (本案前の答弁)
(1) 原告らの請求1ないし4に係る訴えをいずれも却下する。
(2) 請求1ないし4に係る訴訟費用は原告らの負担とする。
2 (本案の答弁)
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
( 3 ) 請 求 5 ( 1 ) な い し ( 3 )、 請 求 6 ( 1 ) な い し ( 3 ) の 各 イ に つ き 、 仮 執
行免脱宣言
第2
事案の概要
本件条例は、各事業年度の終了の日における資金の量が5兆円以上である銀行業等を
行う法人に対し、制定日から5年以内に開始する各事業年度の法人事業税について、課
税標準を業務粗利益とし、税率を原則として3パーセントとして課税するものであると
ころ、本件は、原告らが、本件条例は憲法及び地方税法に違反して無効であると主張し
て、行政事件訴訟法3条4項の無効等確認の訴えとして、本件条例の無効確認を被告東
京 都 に 対 し ( 請 求 1 )、 ま た 、 被 告 東 京 都 知 事 に 対 し ( 請 求 2 ) 求 め る と と も に 、 い わ
ゆる無名抗告訴訟として被告東京都知事に対し本件条例に基づく更正処分及び決定処分
の差止め(請求3)を、同法4条後段の当事者訴訟又は民事訴訟として被告東京都に対
し本件条例に基づく租税債務不存在確認(請求4)を求め、さらに、原告らが平成12
年事業年度分につき留保文言を付した上で本件条例に基づき計算された事業税額を被告
東京都に申告納付したことから、被告東京都に対し、主位的に同事業税額の誤納金とし
ての還付及び還付加算金の支払並びに本件条例の制定に関係する一連の行為及び公布行
為が違法であるとする国家賠償及び同賠償額に対する遅延損害金の支払(請求5)を、
また、原告らが同申告納付後直ちに同事業税が過大申告であったとして更正の請求を行
ったのに対し被告東京都知事が「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の通知
処分をしたことから、予備的に被告東京都知事に対し同通知処分の取消し、被告東京都
に対し同事業税額の過納金としての還付及び還付加算金の支払並びに前記国家賠償及び
同賠償額に対する遅延損害金の支払(請求6)を求めた事案である。
1
法令の定め
(1) 地方税法72条の12は、法人事業税の課税標準を、電気供給業、ガス供給
業、生命保険業及び損害保険業以外の事業については各事業年度の所得及び清
算 所 得 に よ る と 規 定 し 、 同 4 業 種 ( 以 下 「 例 外 4 業 種 」 と い う 。) を 除 き 所 得
課税としているが、その一方で、地方税法72条の19は、同4業種以外の事
業についても、事業の情況に応じ、資本金額、売上金額、家屋の床面積若しく
は価格、土地の地積若しくは価格、従業員数等を課税標準とし、又は所得及び
清算所得とこれらの課税標準とを併せて用いることができる旨規定する(以下
、各事業年度の「所得及び清算所得」以外の課税標準を「外形標準」といい、
外 形 標 準 を 用 い た 課 税 を 「 外 形 課 税 」 又 は 「 外 形 標 準 課 税 」 と い う 。)。
(2) 地方税法72条の22第9項は、同法72条の19によって所得及び清算所
得以外の課税標準を用いて事業税を課する場合における税率は、所得及び清算
所得を課税標準として同法72条の22第1項、2項、6項及び8項の税率に
よる事業税の負担と著しく均衡を失することのないようにしなければならない
旨規定する。
2
前提事実(次の事実は、括弧内に認定根拠を掲げた事実のほかは、当事者間に争い
の な い 事 実 で あ る 。)
(1) 原告ら
ア 原告日本興業銀行を除くその余の原告ら及び次のイないしエの各合併によ
る訴訟承継前原告らは、それぞれ銀行法4条1項に基づく免許(銀行法平成
10年法律第131号附則2条1項参照)を受けた銀行であり、原告日本興
業銀行は、長期信用銀行法4条1項に基づく免許(長期信用銀行法平成10
年法律第131号附則2条1項参照)を受けた長期信用銀行である。
イ 商号変更前の第266号事件原告株式会社住友銀行は、平成13年4月1
日、商号を「株式会社三井住友銀行」に変更し、同月2日、訴訟承継前第2
61号事件原告株式会社さくら銀行を吸収合併した。したがって、原告三井
住友銀行は、同日をもって訴訟承継前第261号事件原告株式会社さくら銀
行より、同銀行の一切の権利義務を承継した。
ウ 原告三菱信託銀行は、平成13年10月1日、訴訟承継前第277号事件
原告日本信託銀行株式会社及び訴外東京信託銀行株式会社を吸収合併した。
したがって、原告三菱信託銀行は、同日をもって訴訟承継前第277号事件
原告日本信託銀行株式会社より、同社の一切の権利義務を承継した。
エ 商号変更前の第265号事件原告株式会社三和銀行は、平成14年1月1
5日、商号を「株式会社ユーエフジェイ銀行」に変更し、同日、同銀行を存
-8-
続会社として、訴訟承継前第268号事件原告株式会社東海銀行と合併した
。したがって、原告ユーエフジェイ銀行は、同日をもって訴訟承継前第26
8号事件原告株式会社東海銀行より、同銀行の一切の権利義務を承継した。
(2) 被告ら
被告東京都は、本件条例を制定した地方公共団体である。
被告東京都知事は、被告東京都の長であり、地方自治法16条2項に基づき
本件条例を公布した者であり、かつ、本件条例に基づき事業税に係る更正・決
定を行う権限を有する者(本件条例16条1項及び2項)である。
(3) 本件条例の審議・制定
ア 被告東京都知事は、平成12年2月7日、東京都庁での記者会見において
、後記(5)の外形標準課税の構想による本件条例の案を平成12年東京都
議会第1回定例会に提案する旨発表した。
イ 被告東京都知事は、同月23日開会の東京都議会第1回定例会に本件条例
の議案(第206号議案)を提出し、同議案は、同月29日から同年3月2
日までの間、東京都議会本会議で審議された。
ウ 同年3月22日には、東京都議会財政委員会において、本件条例案につい
て集中審議が行われ、同委員会は、同月23日、本件条例案につき採決をし
、委員全員の賛成で可決した。
エ 東京都議会本会議は、同月30日、本件条例案につき採決をし、反対者1
人を除く賛成多数で可決した。
オ 被告東京都知事は、同年4月1日、本件条例及び東京都における銀行業等
に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例施行規則(平成12年東京
都規則第260号)を公布し、本件条例は、同日施行された(本件条例附則
1 条 )。
(4) 本件条例の趣旨
本件条例の趣旨は、地方税である法人事業税の課税標準について、地方税法
72条の19に基づき、同法72条の12の課税標準とは異なる課税標準の特
例 を 定 め る こ と に あ る と 規 定 さ れ て い る ( 本 件 条 例 1 条 )。 す な わ ち 、 被 告 東
京 都 は 、 法 人 の 行 う 「 銀 行 業 等 」( 本 件 条 例 2 条 1 項 ) に 対 す る 事 業 税 の 課 税
標 準 を 、 各 事 業 年 度 の 「 所 得 」( 同 法 7 2 条 の 1 2 ) か ら 本 件 条 例 2 条 3 項 に
定 め る 「 業 務 粗 利 益 等 」( 以 下 「 業 務 粗 利 益 等 」 と い う 。) と い う 外 形 標 準 に
変更するべく、本件条例を制定したものである。
(5) 本件条例の概要
ア 本 件 条 例 は 、 本 件 条 例 2 条 1 項 に 定 め る 「 銀 行 業 等 」( 以 下 「 銀 行 業 等 」
と い う 。) に 対 す る 法 人 事 業 税 の 課 税 標 準 を 業 務 粗 利 益 等 と す る 外 形 標 準 課
税 ( 以 下 「 本 件 外 形 標 準 課 税 」 と い う 。) を 規 定 し て い る 。 た だ し 、 そ の 対
象 を 、 各 事 業 年 度 の 終 了 の 日 に お け る 「 資 金 」( 本 件 条 例 2 条 2 項 ) の 量 が
5 兆 円 以 上 で あ る 銀 行 業 等 を 行 う 法 人 ( 以 下 「 銀 行 等 」 と い う 。) に 限 定 す
るとともに、平成12年4月1日以後5年以内に開始する各事業年度分の法
人 事 業 税 に つ い て の み 適 用 す る こ と と し て い る ( 本 件 条 例 3 条 3 項 )。 ま た
、銀行業等に対する法人事業税の税率は、原則として100分の3である(
本 件 条 例 5 条 )。
イ 本件条例における法人事業税の確定手続としては、確定申告納付制度が採
用 さ れ て お り ( 本 件 条 例 9 条 1 項 )、 本 件 条 例 の 適 用 を 受 け る 銀 行 等 は 、 原
則として、各事業年度の終了の日から2か月以内に、当該事業年度の業務粗
利益等及び事業税額等を記載した申告書を提出の上、被告東京都知事に対し
て 法 人 事 業 税 を 納 付 し な け れ ば な ら な い ( 本 件 条 例 9 条 1 項 及 び 2 項 )。 銀
行等がかかる申告書を提出しなかった場合には、被告東京都知事が、調査に
よって、業務粗利益等及び事業税額を決定する権限を有するとともに(本件
条 例 1 6 条 2 項 )、 銀 行 等 が 、 申 告 書 を 提 出 し た 場 合 で あ っ て も 、 業 務 粗 利
益等又は事業税額が被告東京都知事の調査と異なる場合には、被告東京都知
事 が 、 こ れ を 更 正 す る 権 限 を 有 す る ( 本 件 条 例 1 6 条 1 項 )。
(6) 本件条例に基づく課税
ア 原告三井住友銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く原告ら、前記(1)
イ及びエの各商号変更前の原告ら並びに前記(1)イないしエの各合併によ
る各訴訟承継前原告ら(以下、これらを併せて「当初原告ら」といい、その
個 々 の 者 を 「 各 当 初 原 告 」 と い う 。) の う ち 、 原 告 日 本 興 業 銀 行 を 除 く そ の
余の者は、前記(1)アのとおりいずれも銀行であり、本件条例2条1項1
号の定める銀行法その他の法律の規定によりその業務を行っている者であっ
て、原告日本興業銀行は、前記(1)アのとおり長期信用銀行であり、本件
条例2条1項2号の定める長期信用銀行法の規定によりその業務を行ってい
る者であって、平成12年3月31日の時点で当初原告らにつき本件条例2
条2項の定める「資金」の量は、別紙4「資金量一覧表」記載のとおりであ
り、いずれも5兆円以上であった。
イ 当 初 原 告 ら は 、 そ れ ぞ れ 、 平 成 1 2 事 業 年 度 分 に つ き 、「 本 件 条 例 が 違 憲
-9-
・違法であることを主張して係争中であり、今回の納付申告により本件条例
の 合 憲 性 ・ 適 法 性 を 認 め る も の で は な い 旨 を 念 の た め 付 記 す る 。」 と の 留 保
文言を付して、本件条例に基づき計算された事業税額(以下「既納税額」と
い う 。) を 被 告 東 京 都 に 申 告 納 付 し た 。
各当初原告について、平成12事業年度につき申告納付した各既納税額は
各当初原告に対応する別紙3(a)欄各記載のとおりであり、各納付日は各
当初原告に対応する別紙3(f)欄各記載のとおりである。
また、各当初原告について、地方税法72条の12に従い事業税の課税標
準を「所得」として従来の税率で税額を算出すると、各当初原告に対応する
別紙3(b)欄各記載の旧基準税額となる。
ウ 各当初原告は、それぞれ、上記各申告納付後直ちに、各当初原告が申告納
付した平成12年4月1日から開始する事業年度(以下「平成12事業年度
」 と い う 。) に 係 る 事 業 税 が 過 大 申 告 で あ っ た と し て 、 被 告 東 京 都 知 事 に 対
し更正の請求を行った。これに対し、被告東京都知事は、平成13年8月3
0日付けで、各当初原告に対してそれぞれ「理由がないと認め、更正しない
こ と に し た 」 旨 の 通 知 処 分 ( 以 下 「 本 件 通 知 処 分 」 と い う 。) を 行 っ た 。 各
当初原告について、各更正請求日は各当初原告に対応する別紙3(g)欄に
、前掲「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の通知処分のされた
日は各当初原告に対応する別紙3(h)欄にそれぞれ記載のとおりである。
3
争点
(1)
請求1ないし4に係る訴えの適法性(争点1-本案前の争点)
請求1は被告東京都に対し、請求2は被告東京都知事に対し、それぞれ本
件条例の無効確認を求める請求であるところ、被告らは本件条例が抗告訴訟
の対象としての処分性及び原告適格を欠く旨を主張し、また、被告東京都は
請求1につき被告適格を欠く旨主張する(争点1のア[請求1及び2に係る
訴 え の 適 法 性 ])。
イ 請求3は、被告東京都知事に対し本件条例に基づく更正処分及び決定処分
の差止めを求める無名抗告訴訟としての予防的不作為訴訟であるところ、被
告東京都知事は、その無名抗告訴訟としての適法要件を欠く旨主張する(争
点 1 の イ [ 請 求 3 に 係 る 訴 え の 適 法 性 ])。
ウ 請求4は、被告東京都に対する当事者訴訟又は民事訴訟としての本件条例
に基づく租税債務の不存在確認請求であるところ、被告東京都は、訴えの利
益 を 欠 く 旨 主 張 す る ( 争 点 1 の ウ [ 請 求 4 に 係 る 訴 え の 適 法 性 ])。
(2) 本件条例の適法性・有効性(争点2-請求1ないし6の本案の争点)
原 告 ら は 、本 件 条 例 が 憲 法 1 4 条 、3 1 条 、9 4 条 、地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 、
72条の22、6条2項に反して違憲・違法であるから本件条例は無効である
旨主張し、被告らはこれを争う。
(3) (請求5の誤納金返還請求部分につき)本件通知処分の有効性並びに誤納金
及び還付加算金額(争点3)
原告らは、本件条例は違憲・違法・無効であるから本件通知処分の瑕疵も重
大かつ明白である旨主張し、誤納金の還付及び還付加算金の支払を求めるのに
対し、被告東京都はこれを争う。
(4) (争点3につき消極の場合、請求6の過納金返還請求部分につき)本件通知
処分の取消事由の有無並びに過納金及び還付加算金額(争点4)
(5) (請求5又は請求6の国家賠償請求部分につき)被告東京都の責任原因(争
点5)
原 告 ら は 、本 件 条 例 の 公 布 行 為 及 び 制 定 に 関 係 す る 一 連 の 行 為 は 違 法 で あ り 、
同公布行為をした被告東京都知事、制定に関連する一連の行為をした被告東
京都知事ほか被告東京都の職員、都議会議員には故意・過失がある旨主張し、
被告東京都はこれを争う。
(6) (請求5又は請求6の国家賠償請求部分につき)原告らの損害(争点6)
ア
4
当事者の主張(別紙5)
上 記 の 各 争 点 に 対 す る 各 当 事 者 の 主 張 は 、別 紙 5「 当 事 者 の 主 張 」の と お り で あ る 。
第3
1
争点に対する判断
争点1(請求1ないし4に係る訴えの適法性)について
(1) 請求1及び2について
ア 本件において、請求1及び2が、その請求の趣旨のとおり、全く一般的に
本件条例が無効であることの確認を求めるものであるならば、同各請求に係
る訴えは、いずれも具体的争訟性を欠き、その訴訟形態の如何を問わず、い
ずれも不適法なものである。すなわち、裁判所法3条1項にいう「法律上の
争訟」として裁判所の審判の対象となるのは、当事者間の具体的な権利義務
ないし法律関係の存否に関する紛争に限られ、このような具体的な紛争を離
- 10 -
れて、裁判所に対して抽象的に法令の有効・無効の判断を求めることはでき
ないのであるから(最高裁判所昭和27年10月8日大法廷判決・民集6巻
9号783頁、最高裁判所平成元年9月8日第二小法廷判決・民集43巻8
号889頁、最高裁判所平成3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4
号 5 1 8 頁 参 照 )、 具 体 的 争 訟 性 を 欠 く 訴 え は 不 適 法 と い わ ざ る を 得 な い の
である。
イ 原告らは、本件条例は、まさに大手銀行という特定の者に対する課税処分
ないし行政処分そのものである旨主張するが、本件条例が施行されても、そ
れだけでは原告らを含む特定の者に具体的な納税義務が当然に発生するもの
ではなく、本件条例の課税要件を充足した納税義務者の申告又は行政庁の更
正処分若しくは決定処分によって納付すべき税額が確定し、具体的な租税権
利義務関係となるのであって、そうした行為により具体化された権利義務な
いし法律関係を争うのではなく、単に本件条例の無効確認を求めるというの
では、本件条例の適用を受ける可能性のある者につき上記確定行為がされれ
ば具体的権利義務又は法律関係が生ずる可能性があるという抽象的な関係を
問題とするにすぎないし、本件条例上の課税要件への具体的事実の当てはめ
を問題とするものでもないから、結局のところ、請求1及び2は、文字どお
り本件条例の一般的・抽象的憲法ないし法律適合性の審査を求めているにす
ぎないのであって、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関
する紛争を対象としているものと認めることはできず、原告らの上記主張に
は理由がない。
また、原告らは、本件条例の制定自体により損害を被ったとして、これを
理由に本件条例が抗告訴訟の対象となる行政処分性を有する旨主張するが、
行政主体や行政庁の何らかの行為により損害を被る者があったとしても、そ
のことのみによって当該行為が行政処分であることにはならないのであって
、当該行為が損害を受ける者の法的地位に直接的かつ具体的な影響を及ぼす
場合に、はじめて当該行為が行政処分性を有するものとなるのである。この
ことは、行政主体等の事実行為たる不法行為により法的地位に影響を受けず
に単に事実上損害を被る者があった場合に、当該事実行為が行政処分となる
わけではないことを考えれば明らかである。そして、原告らの主張する損害
は、いずれもその繰延税金資産の減少に端を発するものであるところ、これ
が本件条例制定自体による直接的な効果として具体的に発生するならば、本
件条例もまた行政処分性を有することとなるが、繰延税金資産が減少するの
は少なくとも本件条例の適用を受けて事業税の負担をすべき者に限られると
ころ、本件条例が制定されただけでは原告らがその適用を受けるとは確定し
ておらず、適用を受ける可能性があるにすぎないことは上記のとおりであり
、原告らが主張する損害は、いずれもこの可能性の存在という事実状態に基
づくものにすぎないのである。したがって、この点の原告らの主張も理由が
ない。
ウ さらに、原告らは、第二種市街地再開発事業の事業決定に行政処分性を認
めた最高裁平成4年11月26日第一小法廷判決(民集46巻8号2658
頁)を引用し、中間段階の行為が条例制定行為のような、一見すると一般的
な処分であっても、当該中間段階の行為による効果が、利害関係人の権利に
どのような変動が生ずるかがある程度具体性をもって予測される場合につい
ては、なお処分性が肯定される場合があるとして、本件においても行政処分
性が認められると主張する。
もとより、上記最高裁判決の事案は、租税に関するものでもなければ、条
例の効力が問題となったものでもないから、租税に関する本件条例が抗告訴
訟の対象となるか否かという争点にとっては、正に事案を異にするものとい
わ ざ る を 得 な い が 、 こ の 点 を 措 く と し て も 、 上 記 最 高 裁 判 決 は 、「 再 開 発 事
業計画の決定は、その公告の日から、土地収用法上の事業の認定と同一の法
律 効 果 を 生 ず る も の で あ る か ら ( 同 法 2 6 条 4 項 )、 市 町 村 は 、 右 決 定 の 公
告により、同法に基づく収用権限を取得するとともに、その結果として、施
行地区内の土地の所有者等は、特段の事情のない限り、自己の所有地が収用
されるべき地位に立たされることとなる。しかも、この場合、都市再開発法
上、施行地区内の宅地の所有者等は、契約又は収用により施行者(市町村)
に取得される当該宅地等につき、公告があった日から起算して30日以内に
、その対償の払渡しを受けることとするか又はこれに代えて建築施設の部分
の譲受け希望の申出をするかの選択を余儀なくされるのである(同法118
条 の 2 第 1 項 1 号 )。 そ う で あ る と す る と 、 公 告 さ れ た 再 開 発 事 業 計 画 の 決
定は、施行地区内の土地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすもの
であって、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である
。」 と 判 示 し た も の で 、 こ の 判 示 か ら す れ ば 、 同 最 高 裁 判 決 が 、 第 二 種 市 街
地再開発事業の事業計画決定に行政処分性を肯定したのは、①事業計画決定
が土地収用法20条の事業認定と同一の効果を持つことから、市町村が収用
- 11 -
権限を取得するとともに、その結果として、施行地区内の土地所有者等が、
自己の土地を収用されるべき地位に立つこと、②施行区域内の土地所有者等
が公告の日から30日以内に地区外に転出するか、建築施設の譲受け希望の
申出をなすかの選択を余儀なくされる効果等があるからであり、すなわち、
公告された再開発事業計画の決定が、施行地区内の土地の所有者等の法的地
位に直接的かつ具体的な影響を及ぼすものであることから、同決定が抗告訴
訟の対象となる行政処分に当たると判断したものと考えられる。
これに対し、本件においては、前記イのとおり、本件条例が施行されても
、それだけでは原告らを含む特定の者に具体的な納税義務が当然に発生する
ものではなく、本件条例の課税要件を充足した納税義務者の申告又は行政庁
の更正処分若しくは決定処分によって納付すべき税額が確定し、具体的な租
税権利義務関係となるのであり、繰延税金資産の減少もまた本件条例による
事業税を負担すべきことが確定して初めて生ずるものであるから、本件条例
の施行により、直接的かつ具体的に原告らの権利・義務が形成され、あるい
はその範囲が確定されるものでないことは明らかである。したがって、本件
条例の施行については、本件条例の規定に基づく原告らの申告又は行政庁の
具体的な処分を待たずに、本件条例の施行そのものによって、直ちに原告ら
の権利義務に影響を及ぼすものではなく、この点で、上記最高裁判決の立場
を前提としたとしても、本件条例の制定には処分性は認められないと解する
ほかない。
エ なお、仮に、請求2が、本件条例の制定行為とは別個に本件条例の公布行
為そのものを独立の行政処分と捉え、当該公布行為のみの取消しを求める趣
旨であるとしても、同請求に係る訴えはやはり不適法なものといわざるを得
ない。すなわち、条例は、議会の議決によって成立するものであり、その成
立した条例の内容を住民に知らせるための表示行為が条例の公布であって、
これにより条例は住民に対し現実にその拘束力を発動させることとなるが、
条例の公布行為自体は、既に一定の内容をもって成立している条例を周知さ
せるために外部に表示する行為であって、条例の制定行為に対する付随的な
ものにすぎないから、条例の公布行為のみを捉えて、これを抗告訴訟の対象
とすることはできない。
(2) 請求1ないし4について
ア 原告らは、本件において、請求1及び2の本件条例の無効確認請求のみな
らず、請求3において本件条例に基づく事業税に係る更正処分及び決定処分
の予防的不作為請求を、請求4において本件条例に基づく租税債務の不存在
確認請求をしており、これらの請求態様及び原告らが「本件訴訟の対象たる
紛 争 は 、『 法 律 上 の 争 訟 』 で あ り 、 か つ 『 紛 争 の 成 熟 性 』 を 有 す る の で 、 他
の訴訟要件を充足する限り、本件の無効確認訴訟、更正処分・決定処分差止
訴訟及び租税債務不存在確認訴訟のうち、少なくともいずれか一つは、現時
点において訴訟提起をすることが適法とされなければなら」ない旨主張して
いることからすると、本訴の趣旨とするところは、本件条例に基づいて原告
らに対し事業税に係る更正処分等の何らかの不利益処分が行われるのを防止
するために、その前提である本件条例が無効であることを主文又は前提問題
についての理由中の判断としてあらかじめ確定しておくことにあるものと解
せられる。
イ ところで、前記のとおり具体的・現実的な争訟の解決を目的とする現行訴
訟制度の下においては、その訴訟形態が、法定の抗告訴訟、無名抗告訴訟、
公法上の当事者訴訟、民事訴訟のいずれであるかを問わず、法令違反の結果
として将来なんらかの不利益処分を受けるおそれがあるというだけで、その
処分権限の発動を差し止めるため事前にその前提となる法令の効力の有無の
確定を求めたり、当該処分権限の発動をしないことを命令したり、当該処分
権限の発動により具体的に確定される権利義務関係につき同発動前にこれを
差し止めるために当該権利義務関係の不存在の確認を求めることが当然に許
されるわけではなく、当該法令自体によつて侵害を受ける権利の性質及びそ
の侵害の程度、当該法令違反に対する制裁としての不利益処分の確実性(本
件では更正処分及び決定処分等)及びその内容又は性質等に照らし、同処分
を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に当該法令の効力を争ったので
は回復し難い重大な損害を被るおそれがある等、事前の救済を認めないこと
を著しく不相当とする特段の事情がある場合は格別、そうでない限り、あら
かじめ当該法令の効力の有無の確定を求める法律上の利益を認めることはで
きないものと解すべきである(最高裁判所昭和47年11月30日第一小法
廷判決・民集26巻9号1746頁、最高裁判所平成元年7月4日第三小法
廷 判 決 ・ 集 民 1 5 7 号 3 6 1 頁 参 照 )。
ウ これを本件についてみるに、本件条例によれば、本件外形標準課税は、平
成12年4月1日以後開始する事業年度の末日における資金量が5兆円以上
の 銀 行 業 等 に 適 用 さ れ る も の で あ り ( 本 件 条 例 3 条 1 項 及 び 3 項 )、 さ ら に
- 12 -
、資金量が5兆円以上であることのほか、課税標準となる業務粗利益等の総
額や外国事業分の業務粗利益等の控除の有無及び算定、被告東京都分の業務
粗利益等の算定根拠となる分割基準の算定等を経て具体的な租税法律関係が
定まるべきものであり、本件条例の適用される5年間につき、原告らのすべ
てが本件条例の適用対象となるか否か、各原告につきどのような具体的租税
法律関係が生ずるかについては、原告ら自らの主張する銀行業の置かれた昨
今の厳しい経済状況にかんがみても、必ずしも定かでなく、原告らのいずれ
についても、本件条例の適用さらには不利益処分としての更正処分又は決定
処分等が行われることが確実であるとは必ずしもいい切れない。
また、原告らに対して本件条例が適用され、本件条例に基づく事業税を納
付すべきこととなったとしても、原告らが本件条例の効力を無効と考えるな
らば、被告東京都知事が本件条例に基づいてする事業税の更正処分及び加算
税の賦課決定処分又は原告らが申し立てた更正の請求に理由がないとの通知
処分の効力を争う中で本件条例の効力を問題とすれば足りるのである。原告
らの主張する種々の損害は、それがあまりにも重大なものであって、事後的
な救済を待っていては倒産の危機が生ずるといった事情が認められない限り
、同各処分の効力を争う訴訟等において本件条例の効力について適正な判断
がされ、さらに、それでもなお回復できない損害については、原告らが本件
において被告東京都に対して損害賠償請求を併合提起しているように、金銭
賠償を求めることによって、その損害は補填されるものと考えることができ
るのであるから、あえて現時点において本件条例の無効を確定させる必要は
ないというべきである。
エ 原告らは、本件条例に基づく事業税の申告をしない場合には、被告東京都
知事が本件条例に覊束される結果、原告らに対して更正処分ないし決定処分
を 行 う こ と は 確 実 で あ り 、 こ の 場 合 、 本 件 条 例 に よ り 「 加 算 金 」( 本 件 条 例
20条)等が課されることになり、また、故意不申告罪が成立する場合には
、それぞれ原告らの代表者等及び原告ら自身について、刑罰が課されること
に な り ( 本 件 条 例 1 4 条 )、 こ の よ う に 加 算 金 等 が 課 さ れ 、 ま た 原 告 ら 及 び
その代表者等に対して刑罰が科される場合には、金融再生委員会により、原
告らの免許が取り消され、又は業務停止等が命じられる可能性が十分に存在
す る の で あ り ( 銀 行 法 2 7 条 、 長 期 信 用 銀 行 法 1 7 条 )、 将 来 確 実 に さ れ る
ことになる違法な更正処分又は決定処分に伴うこうした損害は、原告らにと
って回復し難い重大な損害である旨主張する。
しかし、当初原告らは、前記前提事実(6)のとおり、平成12事業年度
に係る本件条例に基づく事業税につき留保文言を付した上で本件条例に基づ
く事業税の申告納付をしているのであって、原告らは、平成13事業年度以
降についても、同様の申告納付をすることにより上記のような加算金の賦課
や刑罰法規の適用、さらには免許の取消し等の行政処分を回避し、その上で
更正の請求をし、本件通知処分のように更正の請求に理由がない旨の通知処
分がされたときには同処分を争い、その中で本件条例の無効を主張すること
も可能であり、そうした今後の事業年度についての申告納付による経済的不
利益によって倒産の危機に直面するなど、本件の請求5又は6のように不利
益処分を待って本件条例の効力を争い事後的に誤納金又は過納金の返還及び
金銭賠償を求めたのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等の特段
の事情の存在は、いまだこれを見いだすことができない。
原告らは、その主張に沿うものとして小早川教授・鑑定意見書を引用する
が 、 同 鑑 定 意 見 書 6 頁 に お い て も 、「 現 実 に 不 利 益 処 分 が 行 わ れ る 前 で あ っ
て も 、 司 法 的 介 入 を 拒 否 す る 理 由 は な い 」 と さ れ る の は 、「 そ れ が 真 に 救 済
を必要とするものである限り」という条件を充たす場合に限定されており、
原告らについては、上記のとおり事前の救済についての真の必要性があると
は認められない。この点につき、原告らは「本件条例の制定自体により、各
種の不利益処分を回避する必要から、不本意ながらも本件条例に従った新基
準税額の納付を行うために必要な莫大な資金を調達しなければならず、原告
らの企業活動にとって大きな制約となり、原告らの営業活動に対する影響は
多種多様に現われ、これら無形損害は甚大かつ広範に生じ、仮に過誤納金還
付請求が認容されたとしても、原告らに返還される金額は、各年度の過誤納
金にとどまり、原告が現に被っているこれら甚大かつ広範な損害を填補する
も の で は 全 く な く 、 国 家 賠 償 請 求 に し て も 、『 本 件 条 例 が 制 定 さ れ な か っ た
としたらあったであろう原告らの状態』を回復することは現実的には不可能
であり、救済として全く不十分といわざるを得ず、今般の銀行業を巡る極め
て厳しい我が国の経済環境からすれば、将来金銭的に事後的な措置を得たと
しても、原告らの救済として時機を失することは明白である」旨主張する。
しかし、新基準税額の納付のために資金調達コストが必要であるとしても、
その範囲・程度と同コストが各原告の営業活動に及ぼす影響は、各原告ごと
にも異なるものと考えられるが、原告らはその実態を個別具体的に主張立証
- 13 -
しようとしない。確かに、原告らの営業は、その主張するとおり「信用」に
基づくものであるから、上記の点を個別具体的に主張立証することは困難で
あると考えられるが、本件における原告らの主張立証は極めて抽象的なもの
にとどまっており、これを前提とする限り、原告らの本件誤納金又は過納金
還付請求及び国家賠償請求が認容されてもなお原告らに回復し難い損害が生
じているとまでは認められないし、ましてや、今後の事業年度についての申
告納付による経済的不利益によって倒産の危機に直面するとは到底認められ
ない。したがって、原告らのこの点に関する主張も理由がない。
オ よって、請求1ないし4に係る訴えについては、その訴訟形態を問わず、
いずれも不適法なものであって、却下を免れない。
2
争点2(本件条例の適法性・有効性)について
(1) 争点2についての判断の位置付け
前記1に説示したように、本件条例の無効確認を求める請求1及び2に係る
訴えはいずれも不適法であり、本件条例の無効を前提問題とする請求3及び4
に係る訴えもいずれも不適法であり、したがって、請求1及び2の対象として
又は請求3及び4の前提問題としては、本件条例の適法性・有効性について判
断する必要はない。他方、請求5の誤納金還付請求又は請求6の通知処分取消
請求及び過納金還付請求は、本件条例が無効であることを法律上の前提とする
ものであるから、以下においては、同各請求の前提問題として、本件条例の適
法性・有効性について判断する。
(2) 事業税の沿革
本件条例は、前記前提事実(5)アのとおり、法人の事業税を外形標準を課
税標準として課するためのものであるところ、法人の事業税ないしこれに類す
る 税 の 歴 史 的 沿 革 に つ い て 、 次 の 事 実 を 認 め る こ と が で き る ( 公 知 の 事 実 )。
ア 事業税の沿革は、明治11年に地方税規則により府県税として創設された
「営業税」にさかのぼり、同税は、業種別の定額で納税義務を課すものであ
った。明治21年からは市町村がこれに附加税を課した。
イ 明治29年に、営業税法により国税としての営業税が創設された。この制
度は、24の主要な業種の営業について、売上金額・従業員数等の外形標準
により、課税を行うもので、府県及び市町村はこれに附加税を課す一方で、
24の業種以外の営業に対しては、府県が営業税を課し、市町村がこれに附
加税を課した。
ウ 大正15年に営業税法が廃止されて営業収益税法が制定され、営業税の課
税標準は外形標準から純収益に改められた。
エ 昭和15年、地方税法(同年法律第60号)が制定され、国・地方を通ず
る税制の全面的改正の一環として、国の営業収益税と地方の営業税とが、国
税である営業税に統一され、府県は、国からの還付を受けることとなった。
オ 昭和20年、敗戦後の民主化の流れの中で地方自治制度にも変革があり、
その一環として、昭和22年、国税であった営業税が地方に移管され、道府
県の独立税としての営業税となった。この営業税は純益に課税されるものと
されたが、地方税法48条の3において、特別の必要がある場合においては
営業税の課税標準に関しては営業の種類を限り内務大臣の許可を受け48条
の規定による純益のほかその標準を併せ用い又は48条の規定による純益に
よらないこともできる旨の例外規定が置かれていた。
カ 昭和23年、地方税法が全部改正された際(同年法律第110号、以下「
2 3 年 法 」 と い う 。)、 事 業 税 が 創 設 さ れ て 営 業 税 は 廃 止 さ れ た 。 こ の 時 の
地方税法は65条において事業年度の所得を原則的な課税標準とした上で、
6 9 条 1 項 前 段 に お い て 、 現 行 の 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 と ほ ぼ 同 様 に 、「 事
業税の課税標準については、事業の情況に応じ、第63条第1項の所得によ
らないで資本金額、売上金額、家屋の床面積若しくは賃貸価格、土地の地積
若しくは賃貸価格、従業員数等を標準とし、又は同項の所得とこれらの標準
とを併せ用いることができる。この場合における賦課率は、命令で特別の定
をなすものについてはその定により、その他のものについては、第67条の
賦課率による場合における負担と著しく均衡を失することのないように、こ
れ を 定 め な け れ ば な ら な い 。」 と 定 め た 。
この改正において、外形課税を設ける際の許可制が廃止され、内閣総理大
臣への報告と、内閣総理大臣が不適当と認めた場合の地方税審議会による審
査の制度が設けられることとなり、これに伴い、現行地方税法72条の22
第9項と同一の「著しく均衡を失することのないように」という規定が、外
形課税の限界を画する規定として設けられた。
キ 昭和24年の地方税法改正(同年法律第169号)において、外形課税が
課せられる「例外業種」として、電気供給業、ガス供給業及び運送業(運送
取 扱 業 を 含 む 。) が 盛 り 込 ま れ た 。 昭 和 2 4 年 5 月 7 日 衆 議 院 地 方 行 政 委 員
会における地方税法の一部を改正する法律案に対する提案理由説明では、こ
- 14 -
れらの業種においては「料金統制」が行われており、その統制料金の決定に
際しては既に税相当額が織り込まれている旨の説明があった。
ク 昭和24年9月にシャウプ勧告(一次)が公表された。同勧告は、当時の
事 業 税 に つ き 、「 事 業 税 は 消 費 者 に 轉 嫁 さ れ な い も の と さ れ て い る よ う で あ
る。事業税が純所得に課せられているという事実は、事業主は全税額を負担
すべきものであるという趣旨を示すにほかならない。純所得税というものは
非 轉 嫁 性 の も の と 考 え ら れ る の が 普 通 で あ る 。」 と み た 上 、「 都 道 府 県 が 企
業にある種の税を課すことは正当である。というのは、事業および労働者が
その地方に存在するために必要となって来る都道府県施策の経費支払を事業
とその顧客が、援助することは当然だからである。たとえば、工場とその労
働者がある地域で発展増加してくれば、公衆衛生費は当然増大して来るので
あ る 。」 と の 理 由 か ら 、「 従 っ て 、 わ れ わ れ は 事 業 税 の 存 続 を 勧 告 す る も の
ではあるが、それは次の二つの目的を達成するように改革すべきものである
と考える。即ち、第一に、純益を課税標準として累積的に圧迫することを幾
分緩和すること、第二に、賦課徴税方法を一層簡易化し、原則として國税の
賦課徴収の結果に依存しないようにすること。の二つである。最善の解決方
法は、單に利益だけでなく、利益と利子、賃貸料および給與支拂額の合計に
課税標準を拡張してこれに税率を適用することである。右の課税標準を別な
方法で定義すると、それは全収入額から、資本設備、土地、建物等他の企業
からの購入の金額を差引いたものがそれである。この差引額は、原料等、他
の事業から購入したものの價値に、その企業が附加したところの額である。
」と勧告した。この勧告に基づき、新たに地方税法(昭和25年法律第22
6号、以下、昭和29年法律第95号による改正前のこの法律を「25年法
」 と い う 。) が 制 定 さ れ ( 同 法 附 則 2 条 で 2 3 年 法 を 廃 止 )、「 附 加 価 値 税
」 が 創 設 さ れ た ( 同 法 2 3 条 な い し 7 4 条 )。 そ の 課 税 標 準 は 、 附 加 価 値 、
すなわち、法人の場合は、総売上金額からいわゆる必要経費等の特定の支出
を 控 除 し た 金 額 と さ れ た が ( 同 法 3 0 条 4 項 、 7 項 )、 実 施 時 期 は 昭 和 2 7
年1月1日の属する事業年度分以降等とされた。
その後、昭和25年9月にシャウプ勧告(二次)が公表され、それに基づ
き、昭和26年、附加価値を、控除法のみでなく加算法によっても算出する
こ と が で き る 旨 の 法 改 正 が さ れ た ( 昭 和 2 6 年 法 律 第 9 5 号 )。
ケ シャウプ勧告に基づく附加価値税は、その実施が2度にわたって延期され
た 後 ( 昭 和 2 7 年 法 律 第 2 1 6 号 及 び 昭 和 2 8 年 法 律 第 2 0 2 号 )、 昭 和 2
9年の法改正(同年法律第95号)により、遂に一度も実施されることのな
いまま廃止され、それまでの事業税制度と特別所得税制度が統合され、現行
の「法人事業税」の制度が創設された。
附加価値税を廃止する理由については、改正案の立案担当者である自治庁
税務部長が同年3月8日の衆議院地方行政委員会において次のとおり説明し
ている。
「理論的には、附加価値税は非常によろしいのであります、よろしいのだ
が、経済の基礎が非常に浅いものだから千億にもなろうとする税金の賦課方
法をかえるといたしますと、業界によって非常に重くなったり、軽くなった
りいたします。このような負担の激変を与えること、この激変に打ちかつた
めには、現在のわが国の産業界の基礎があまりに弱すぎるのではなかろうか
。そういうようなものについてはやむを得ず従前通りにしておくよりいたし
方ないのではなかろうか。こういう考え方が根本にあるわけであります・・
・( 中 略 )・ ・ ・ し か し な が ら も う か れ ば 府 県 の 経 費 を 分 担 す る け れ ど も 、
損をすれば府県の経費を分担しないというような事業税の姿は、これが国税
でありました時代には、所得税を補完する性質の税として、一応理論的にも
うなずけるだろうと思うのでありますが、府県の独立税になった場合には、
所得税の補完税という観念はとれないと思うのであります。やはり事業の分
量に応じて、府県の経費を分担するという考え方が事業税の中に織り込まれ
るべきではなかろうかというふうに考えるのであります。そういう意味合い
からは、やはり所得課税というものは必ずしも適当でないし、やむを得ず従
来通り踏襲するだけであって、やはり事業の分量に応じて経費を分担しても
らうような課税方式の方が、府県税としての事業税にはふさわしいのだとい
う考え方をとっておるのであります、従ってまた収入金額課税をやって来た
ものは、今後も収入金額課税をやってもらいたい。もし負担が重すぎるなら
ば、税率の問題ではなかろうかというふうな考え方に立ったわけであります
。・ ・ ・( 中 略 )・ ・ ・ 現 在 に お き ま し て も な お 料 金 統 制 が 厳 格 に 行 わ れ て
おる事業につきましては、収入金額課税を踏襲するということにいたしたわ
け で あ り ま す 。」( 第 1 9 回 国 会 衆 議 院 地 方 行 政 委 員 会 議 録 第 2 5 号 1 1 頁 )
同委員会の審議においては、事業税が応益的性格を有するとの前提に立つ
同部長の説明に対し、その前提と法案の内容との関係について疑義が示され
たが、本会議においては、附加価値税は「今日の経済情勢から見てこの際こ
- 15 -
れを廃止」するとの改正趣旨が報告され、可決され、参議院においても同部
長がほぼ同旨の説明をして可決された(同会議録)第25号、第30号、第
1 9 回 国 会 衆 議 院 会 議 録 第 3 4 号 、 同 国 会 参 議 院 会 議 録 第 1 4 号 )。
また、同改正においては、外形課税が課せられる例外業種に「生命保険業
」が新たに加えられた。これは、生命保険業は、利益を契約者に配当金とし
て割り戻すため、事業規模の割には課税上の純益が生じない事業構造になっ
て い る か ら で あ る と さ れ た 。 ま た 、 運 送 業 の う ち 、「 地 方 鉄 道 事 業 及 び 軌 道
事業」以外は、所得課税とされた。これらについて、自治庁税務部長は提案
理 由 と し て 、「 生 命 保 険 業 を 新 た に 加 え ま し た の は 、 現 在 は 大 部 分 相 互 保 険
の形態をとっておりますために、税務計算上の利益が上って来ないと思いま
す。利益が上って来れば全部契約者に割りもどしてしまう。従って税務計算
上の利益が上って来ないと思いますが、相当大規模に事業活動をやっており
ます。それならば事業活動の規模に応じてある程度の税金を負担してもらい
たい。それでは契約者に配当した、言いかえれば割りもどした部分は損金に
見ない。益金にみなして行く方法もあるのでありますが、こういうことは生
命保険業が長くやって参りました経営方針に対しまして、大きな影響を与え
る こ と に な っ て 参 り ま す 。課 税 方 法 が 生 命 保 険 業 の 経 営 の 妙 味 と い い ま す か 、
そういうものにつきまして特別な変更を加えるということにもなりまして
業界も喜びませんので、そこで収入金額を課税標準として、生命保険業にも
事業税を課するという方式に改めることにいたしたわけであります。現在で
は生命保険業がほとんど事業税を負担しておりませんが、こういう形式をと
ることによりまして、平年度1億6千万円程度の税金を納めることになるわ
けであります。そこに但書を加えておりますが、これは地方鉄道軌道整備法
によりまして、全く採算の立たぬ鉄軌道であり、ほうっておけば解散してし
まう。しかし国全体の見地から採算のとれないような鉄軌道なんだが、それ
を存続させて行かなければならぬ。こういうようなものにつきましては、地
方鉄道軌道整備法によりまして国から補助金を与えることになっております
。採算の立たない鉄軌道を国全体の見地から、なお存続さして行くわけなの
でありますから、料金統制が行われておりましても、転嫁を可能とするよう
な料金のきめ方が事実上不可能であります。従いまして、こういうものにつ
きましてだけは所得を課税標準とする規定を挿入することにいたしたのであ
り ま す 。」 と 説 明 し た ( 第 1 9 回 国 会 衆 議 院 地 方 行 政 委 員 会 議 録 第 2 5 号 )。
コ 昭 和 3 0 年 、 外 形 課 税 が 課 せ ら れ る 例 外 業 種 に 、「 損 害 保 険 事 業 」 が 新 た
に 加 え ら れ た ( 同 年 法 律 第 1 1 2 号 )。 昭 和 3 0 年 5 月 2 7 日 の 衆 議 院 地 方
行政委員会における地方税法の一部を改正する法律案に対する提案理由説明
では、損害保険事業の場合、所得の相当部分を資産の運用による利益に求め
る構造となっているが、法人税法の規定により、配当所得が益金に算入され
ず、法人税の課税標準たる所得を課税標準とする事業税の課税が、損害保険
事業について必ずしも適正を得ていないからであるという説明がされた(第
2 2 回 国 会 衆 議 院 地 方 行 政 委 員 会 議 録 第 1 2 号 2 0 頁 )。
また、同年6月20日の同委員会における審議において、政府委員として
出席した同改正法案立案担当者である自治庁税務部長は、外形標準課税はや
め ら れ な い か と の 質 問 に 対 し 、「 事 業 税 と い う も の の 性 格 を 考 え ま し た 場 合
には、所得を課税標準とすることは本来の筋ではないのじゃないか、やはり
付加価値的なもの、あるいは従業員数その他の外形的なものを課税標準に採
用 し た 方 が い い の じ ゃ な い か 、 こ う い う 考 え 方 を し て お り ま す 。」( 第 2 2
回国会衆議院地方行政委員会議録第24号10ないし11頁)と答弁した。
さ ら に 、 同 部 長 は 、「 外 形 標 準 に よ っ て 事 業 税 を 収 入 金 額 に か け る と い う こ
と を 、 ど う い う ふ う な 基 準 で 今 後 と も お や り に な る 考 え で あ る か 。」 と の 質
問 に 対 し 、「 将 来 外 形 課 税 の 範 囲 を ど う 広 げ て い く と か い う ふ う な こ と は 、
現 在 の と こ ろ 考 え て い な い わ け で あ り ま す 。」 と し た 上 で 、 当 時 外 形 課 税 の
行 わ れ て い た 業 種 を 三 つ に 分 類 し 、 第 一 類 型 に つ い て は 、「 国 が 料 金 統 制 を
行なっておる企業でありまして、しかもその企業が独占的な形態を持ってい
る 、・ ・ ・( 中 略 )・ ・ ・ そ の 料 金 が ・ ・ ・( 中 略 )・ ・ ・ 必 ず 守 ら れ 得 る
ものなら、料金を決める場合に織り込まれたものだけは事業税として府県へ
支払ってもらう、そうするためには売上金額の何パーセントを事業税とする
と い う ふ う な き め 方 を す る の が 、 一 番 適 当 だ と 思 わ れ る 」、 第 二 類 型 に つ い
て は 、「 企 業 が 相 互 組 織 を と っ て い る も の で あ り ま し て 、 生 命 保 険 業 が こ れ
に類すると思われます。相互組織をとっておりまするので、通常利益と思わ
れるようなものが増加して参りましても、これをすべて配当をしてしまいま
すと、自然税法上の利益というものは上って参りません。相当な規模で事業
を行っておるにもかかわりませず、事業税を負担しないということになって
し ま う 」、 第 三 類 型 に つ い て は 、「 損 害 保 険 業 は 、 事 業 の 性 格 か ら い た し ま
して、資産の運用によりまする収益というものを中心にして運営されて参っ
て き て お り ま す 。・ ・ ・( 中 略 )・ ・ ・ 収 益 の 大 部 分 が 配 当 所 得 な ん で あ り
- 16 -
ま す け れ ど も 、 配 当 所 得 が 益 金 に 算 入 さ れ ま せ ん 。・ ・ ・( 中 略 )・ ・ ・ 自
然生命保険事業に準じまして、収入金額を課税標準とするように今回改めた
い」と説明した(第22回国会衆議院地方行政委員会議録第24号15ない
し 1 6 頁 )。
サ 昭 和 3 2 年 ( 同 年 法 律 第 6 0 号 )、 地 方 鉄 道 事 業 及 び 軌 道 事 業 に つ い て 所
得課税とされた。昭和32年2月28日衆議院地方行政委員会における地方
税法の一部を改正する法律案に対する提案理由説明では、バス事業との負担
の均衡を図るためであるとされた。
この結果、外形課税が課せられる「例外業種」は、電気供給業、ガス供給
業、生命保険事業、損害保険事業の4業種となって、現行法に至っている。
(3) 現行の事業税の性格
ア 以上の法人事業税ないしそれに類する税の変遷によると、それらの税は、
国税とされたこともあれば地方税とされたこともあり、また、課税標準が純
益課税とされたことも、外形課税とされたこともあって、各時代における立
法により事業税ないしそれに類する税の立法上の性格付けは変転しているも
のということができるが、その経過としては、明治時代の外形標準による営
業税から純収益を課税標準とする営業税ないし営業収益税を経て、昭和23
年に、現行法とほぼ同様の、原則として所得を課税標準とし、例外的に収入
金額を課税標準とする事業税が創設された。
この制度の下で、シャウプ勧告がされたのであるが、同勧告は、事業税は
純所得課税であって、事業主が事業の経費からではなく自らの所得から支払
うものであるとの理解の下に、新たに異なった立法政策を採用し、これを附
加価値税に改めるべきであるというものであった。すなわち、一般に、事業
税を応益原則、すなわち、行政サービスへの対価とみる立場では、事業税は
所得からではなく経費から支払われるべきものと考えられるのであるから、
この勧告は、従来の事業税が応能原則によって課されていたものと理解した
上、これを応益原則に基づく内容に変更すべきものとの立場に立つものであ
る。
この勧告に基づく25年法において、応益課税の考え方により、事業税に
代わり収入金課税ともいうべき附加価値税が創設されたにもかかわらず、同
税は一度も実施されることなく廃止され、昭和29年に、再びほぼ現在の事
業税が復活したのである。このように25年法が実施されないままに終わっ
た理由は、前記のとおり「今日の経済情勢から見て」とされているが、その
具体的内容は、自治庁税務部長の答弁からすると、賦課方法の変更に伴う負
担の激変に産業界が耐えられないこと、すなわち、収入金課税にはほとんど
の業界が耐えられないから、所得への課税に復さざるを得なかったことにあ
ったと認められる。そして、地方税法を所管する当時の自治庁においては、
その後も、事業税が応益的性格をもつとの見解の下に、所得への課税は望ま
しいものではなく収入への課税を行うべきものとしながらも、収入への課税
を行う業種は、いわば23年法の延長線上にある前記(2)コの三つの類型
に限るとし、これ以外の類型に収入金課税を拡げるとの展望は何ら示してい
ないし、ましてや現行法72条の19によって、各都道府県がこれ以外の類
型に外形標準課税を行い得るとの見解が示されたこともない。むしろ、前記
の質疑内容からは、このように例外を限定しない限りは、従来行われてきた
例外的な収入金課税すら存続が危うくなる可能性も存在したものとうかがわ
れるところである。
このような経緯からすると、25年法が採用した応益的な考え方は、事業
税の賦課を正当化する理由ないしは制度の理想として所管官庁において維持
されていたものの、これをそのまま税制に反映させることは納税者の能力を
超えるものであったことから、これを廃止せざるを得なくなり、現実の税制
としては、納税者の能力に応じた所得課税を基本とする制度を維持せざるを
得なかったものということができる。
イ 以上のような経緯を前提として、現行の法人事業税についての定めをみる
と、課税標準については、地方税法72条の19により「法人の行う事業に
対する事業税の課税標準は、電気供給業、ガス供給業、生命保険業及び損害
保 険 業 に あ っ て は 各 事 業 年 度 の 収 入 金 額 、・ ・ ・( 中 略 )・ ・ ・ そ の 他 の 事
業 に あ っ て は 各 事 業 年 度 の 所 得 及 び 清 算 所 得 に よ る 。」 と 定 め ら れ 、 課 税 標
準は、原則として「各事業年度の所得及び清算所得」とし、電気供給業、ガ
ス供給業、生命保険業及び損害保険業の例外4業種については例外的に「収
入金額」としている。したがって、少なくとも現行地方税法の解釈において
は、地方税法72条の12が大半の業種について所得を課税標準としている
ことから、事業税が「所得課税」という意味での応能課税の立場を原則とし
ていることは否定できない。その上、応益原則からすると、税率は比例税率
とすべきところ、現行法は法人につき原則として累進税率を採用しており、
こ の こ と も 現 行 法 が 応 能 課 税 の 立 場 に 立 つ こ と を 裏 付 け る も の で あ る 。な お 、
- 17 -
所得税法及び法人税法は、その課税標準の算定に当たり、事業税額を経費又
は損金に算入することを認めており、このことは、事業税は事業の費用ひい
ては行政サービスの対価であるとの考えに立つものとみえないでもないが、
これらは、あくまで所得税法及び法人税法がそれぞれ所得税及び法人税の課
税標準を算出するに当たって事業税をどのように扱うかという技術的な規定
にすぎないのであるから、事業税自体の課税標準が原則として所得とされて
いる以上、他の税法の技術的な規定の内容によって、事業税の本質が左右さ
れるものではない。
したがって、現行の法人事業税は、応益課税の考え方による税制とするこ
とが立法論としては望ましいとされながらも、現実的にはこれが採用されな
いまま、所得課税として存続し続け、所得税ないし法人税の附加税的なもの
として現実に存在し、機能してきたものということができる(なお、被告ら
は、事業税が狭義の応能原則に基づくものであるとすると、法人税について
附加税を課することを禁じた法人税法158条に反すると主張するが、同条
は、他の租税の税額を課税標準として課される租税という意味での狭義の「
附加税」を課すことを禁じたものであって、他の租税の課税標準を課税標準
として課される租税という意味での広義の「附加税」を課すことを禁じたも
のでないことは、法人住民税に関する規定(地方税法23条以下、292条
以下)をみても明らかであり、現行の法人事業税は、法人税の税額を課税標
準とするものではないから、同条にいう「附加税」に当たらないが、この点
を措き、仮に、同条が広義の「附加税」を課すことをも禁じたものであると
しても、同条は、地方公共団体が法律に基づかないで独自の条例で附加税を
課することを禁じたにすぎず、地方税法が附加税の定めを置くことは、一般
法に対する特別法の関係からしても、何ら禁じられるものではないから、被
告 ら の 主 張 は 失 当 で あ る 。)。
現在、政府・与党内で、現行法人事業税を抜本的に改正して外形標準課税
に す る こ と の 検 討 作 業 が 行 わ れ て い る が ( 公 知 の 事 実 )、 こ れ も 現 行 の 事 業
税が応能課税とされているための限界を認めつつ、法律改正により応益課税
化しようとしているものと理解することができる。
乙第1号証の4において、金子宏教授が、我が国の事業税の課税根拠につ
いては利益説の立場をとる見解が圧倒的に多いとしつつ、現在の事業税制度
は必ずしも利益説の考え方に即した制度とはなっておらず、現行の事業税は
応能課税と応益課税の混合タイプであり、しかも応能課税の要素のより強い
混合タイプであるとした上で、制度を利益説の考え方に従って仕組み直すべ
きか否かを検討しているのも、上記の現行事業税の位置付けの理解に沿うも
のということができる。また、乙第1号証の8(現代地方自治全集18・地
方 税 [ 総 論 ]、 浅 野 大 三 郎 、 7 7 頁 以 下 ) が 、 地 方 税 に お け る 税 負 担 の 求 め
方 に 関 す る 原 則 の 一 つ と し て 、 応 益 原 則 を 掲 げ 、「 租 税 は 、 個 別 に 受 け る 行
政サービスの対価として納めるものではなく、住民が負担能力に応じて納め
るべきものであるということが今日の通念になっている。しかし、このこと
は課税に当たって応益性を考慮することを否定するものではない。行政によ
って利益を受ける者に対して租税を課することは、一般に理解を得やすいし
、 合 理 性 も あ る 。」 と し た 上 で 、「 な お 、 応 益 原 則 を 考 慮 し て 課 税 す る と い
うことは、必ずしも応益の程度に応じて税額を定めることを意味するわけで
は な い 。 税 額 は 負 担 能 力 を 示 す 指 標 に 基 づ い て 決 定 す る の が 原 則 で あ る 。」
とするのも上記理解に沿うものである。
ウ 以上のように現行の事業税について応能課税が原則となっているものと考
え る こ と は 、租 税 の 本 質 的 な 性 質 と し て 応 能 原 則 が あ る こ と に か ん が み れ ば 、
むしろ当然のことといえる。
美 濃 部 達 吉 博 士 は 、「 租 税 と は 、 國 家 又 は 地 方 公 共 團 體 が 収 入 の 目 的 を 以
つて其の統治権に基づき報償としてではなく一般人民から其の資力に應じて
均 等 に 徴 収 す る 金 銭 又 は 金 銭 的 価 格 に 於 い て の 給 付 を 謂 ふ 。」 と 定 義 し 、 そ
の 解 説 の 中 で 、「 租 税 は 報 償 の 性 質 を 有 し な い 。」、「 租 税 は 一 般 人 民 に 対
し 其 の 資 力 に 應 じ て 均 等 に 賦 課 す る も の で あ る 。」 と 述 べ て い る ( 美 濃 部 達
吉 ・ 日 本 行 政 法 [ 下 巻 ] 1 1 0 5 頁 以 下 )。
ま た 、 田 中 二 郎 博 士 は 、「 租 税 と は 、 国 又 は 地 方 公 共 団 体 が 、 そ の 課 税 権
に基づき、特別の給付に対する反対給付としてでなく、これらの団体の経費
に充てるための財力調達の目的をもって、法律の定める課税要件に該当する
す べ て の 者 に 対 し 、 一 般 的 標 準 に よ り 、 均 等 に 賦 課 す る 金 銭 給 付 で あ る 。」
と 定 義 し 、 そ の 解 説 の 中 で 、「 租 税 は 特 別 の 給 付 に 対 す る 反 対 給 付 ( 報 償 )
の 性 質 を 持 た ず 、 一 方 的 に 課 徴 さ れ る も の で あ る 。」、「 租 税 は 、 法 律 の 定
める課税要件に該当するすべての者に対し、一般的標準により、均等に課税
されるのを原則とする。すなわち、租税は、担税力に基礎を置く均等性の要
請 に 応 ず る も の で な け れ ば な ら な い 。」 と 述 べ て い る ( 田 中 二 郎 ・ 租 税 法 [
第 三 版 ] 1 頁 以 下 )。
- 18 -
そして、金子宏教授は、租税を「国家が、特別の給付に対する反対給付と
してではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律
の定めに基づいて私人に課する金銭給付である」と定義し、その解説の中で
、「 租 税 は 、 特 別 の 給 付 に 対 す る 反 対 給 付 の 性 質 を も た な い ( 租 税 の 非 対 価
性 )。」、「 租 税 は 、 国 民 ( 住 民 ) に そ の 能 力 に 応 じ て 一 般 的 に 課 さ れ る 点
に 特 色 を も つ 。」 と 述 べ て い る ( 金 子 宏 ・ 租 税 法 [ 第 8 版 ] 9 頁 以 下 )。
さ ら に 、 清 永 敬 次 教 授 は 、「 租 税 と は 、 国 又 は 地 方 公 共 団 体 が 、 収 入 を 得
ることを目的にして、法令に基づく一方的義務として課す、無償の金銭的給
付 で あ る 。」 と 定 義 し 、 そ の 解 説 の 中 で 、「 租 税 は 、 無 償 の 金 銭 的 給 付 で あ
る。無償ということは、租税がこれを負担する者に与えられるなんらかの利
益 と 直 接 結 び つ か な い も の で あ る こ と を い う 。・ ・ ・ も っ と も 、 租 税 を 公 の
サービスの利益の対価と見る考え方(いわゆる利益説)も一般的には成立し
ないわけではないが、租税を負担する個々の者とある特定の利益とを直接結
び つ け て 観 念 す る こ と は 困 難 で あ ろ う 。」 と 述 べ て い る ( 清 永 敬 次 ・ 税 法 [
第 5 版 ] 2 頁 以 下 )。
以上のような我が国の代表的な学者による租税の定義とその性質の説明か
らして、一般的に、租税は、そもそも国民の資力ないし能力に応じて課され
るものであり、公共サービスの対価としての性質を有しないものと考えられ
ているということができるのであって、その意味において、具体的な租税法
令を解釈するに当たっては、特別な規定がない限りは、上記の租税の基本的
性格にしたがって、応能原則により課税されているものと解釈をすべきであ
り、しかも、憲法14条の定める平等原則からすると、一般に租税は担税力
に応じて負担させるべきものであって、担税力との均衡を著しく失する課税
には憲法上の問題も生ずるところであり、応能原則はこのことを課税法律関
係において実質的に担保する働きを持つものということができるから、応益
課税の考え方は、課税標準の選択等具体的な立法を根拠づける一つの要素に
はなり得るとしても、法により定められた税の具体的な姿としては、明示的
な立法がない限り、性質上当然に応益課税として純化された税というものは
想定し難いというべきであって、そうした明文の規定がない場合に、解釈論
において現存する税を純粋な応益課税によるものと解釈することは困難であ
る。
エ 他方、神野直彦教授の論文である乙第1号証の7(ジュリスト1181号
7頁以下)は、本件外形標準課税は地方税法72条の19に基づいて導入可
能であるとの立論をするものと解されるが、その全体的な論調は、立法論な
いしはあるべき姿としての法人事業税を説き、現状においては法人の所得を
課税標準とする租税が法人住民税に加えて法人事業税が道府県税として二重
に 課 税 さ れ る と い う 異 様 な 事 態 が 生 じ て い る と の 理 解 か ら 、「 窮 余 の 一 策 」
として地方税法72条の19による外形標準課税を行うことを是とするもの
であり、現行法に基づいて上記異常な事態を解決するとすれば同規定を用い
るしか考えられないというにすぎないのであって、その必要性を強調するあ
まり、現行法の解釈としての領域を越えたものとの感が否めないが、その点
を除いた現行法の位置づけについては、むしろ上記の説示に沿うものという
ことができる。
なお、事業税に関する多くの文献が応益原則に言及し、その中には、所管
官庁関係者の執筆するものを中心として、現行法もまた応益主義を採用して
いるかのように記載するものもあるが、これらには、所管官庁が理想とする
法制が実現できなかった経緯からして、何とかこれを実現したいとの願望が
無意識的にせよ込められている可能性がないとはいえないことに留意すべき
であって、前記認定の経緯を客観的にみる限り、実定法としての地方税法は
、事業税を応能課税を基本として定めているといわざるを得ず、このような
法制の下では、応益原則は行政サービスを受ける者は税金もまた負担すべき
であるといった程度の事業税を課することを正当化するための理由の一つと
して機能しているにとどまると考えるべきである。
また、被告らは、本件条例の適法性の根拠として、東京高等裁判所昭59
年2月15日判決(判例時報1105号37頁及びその原審である東京地方
裁判所昭和57年5月31日判決(判例時報1043号7頁)を引用するが
、これらの裁判例は、個人事業主の事業税の課税標準の算定について、いわ
ゆるみなし法人課税に当たり、事業主報酬を必要経費として控除することを
認めないことの違憲性が争われた事案に関するものであり、上記原審判決は
、事業税の物税たる性質から事業主報酬は当然に必要経費に算入されるべき
である旨の同事件原告らの主張に対し、事業税の課税客体が事業であり講学
上の物税に属すること及び課税根拠が応益性の原則に求められる旨の同事件
原告の主張を認めた上で、このことから直ちに事業税の課税標準算定に当た
り事業主報酬が控除されなければならないことを意味するものではない旨判
示したところ、これは、応益原則から一定の結論を導き出しているものでは
- 19 -
ない上、同判決がさらに「事業税の性格及び課税根拠からは、事業税の課税
標準は、事業が受ける行政サービス等の受益量をより正確に反映するもの、
例えば、収入金額、資本金額、従業員数あるいは付加価値等の外形基準によ
る こ と が 合 理 的 と も 考 え ら れ る の で あ る 。」 と 説 示 す る 部 分 は 、 当 該 事 案 の
結論を導く上で必要な部分ではなく、その後の事業税の沿革及び現行法が種
々の見地から個人事業に対しては所得を課税標準とした経緯に触れているこ
とからして、むしろ、個人事業について一切外形標準課税を認めない現行法
を前提として、現行法の解釈論を越えた一つの立法論の可能性を述べるにす
ぎないものと解される。さらに、上記控訴審判決においては、応益原則につ
い て は 直 接 触 れ る こ と な く 、 事 業 税 が 物 税 で あ る と す る 点 に つ い て も 、「 講
学上のいわゆる人税、物税の種類区分は必ずしも明確ではない」とも説示し
ており、なおさら、現行の事業税が応益原則のみに基づくものであることを
認めたものとはいえないのであって、これらの判決の説示をもって被告らの
主張を根拠づけることはできない。
さらに、被告らは、仮に地方税法72条の12が応能主義に基づく規定で
あるとすると、外形基準を用いる同法72条の19自体が全く不要とならざ
るを得ず、同法自体が自己矛盾を来すこととなると主張する。しかし、法定
の例外4業種と同様に応能原則の観点からも例外的な取扱いをすべき「事業
の情況」にあると認められる事業が特定の都道府県にのみ存在するときには
、応能原則を採りつつ同法72条の19を適用して外形標準課税を行うこと
ができるのであり、同条は、適用される機会は少ないものと予想されるとは
いえ、このような事態を想定した規定ということができるのであるから、地
方税法自体が自己矛盾を来しているとはいえない。
(4) 地方税法72条の19の解釈
ア 以上の観点から、地方税法72条の19の規定をみてみると、法人につい
ては、原則として法人税法の課税標準である所得の計算の例によって算出し
た所得を課税標準としつつ、例外4業種についてこのような所得を課税標準
としていない理由は次のとおりと考えられる。
まず、電気供給業及びガス供給業については、同法72条の14第4項等
によって定まる収入金額を事業税の課税標準としているが、これらの事業は
いわゆる公益事業であり、料金について認可制が採られ、低く抑えられてい
るため、所得もまた本来あるべき額より低くなっており、これを課税標準と
したのでは、事業規模に比較して事業税の負担が少なくなりすぎる一方で、
これらの事業の認可料金の中には事業税が含められており、かつこれらの事
業は地域的独占事業であるため、これらの法人は、事業税の負担を確実に消
費者に転嫁することができる構造となっており、所得の多寡によらずして担
税力が確保されているものということができるため、経費の多寡による担税
力の変動を考慮する必要がないことから、収入から経費を控除して所得を算
出することなく、収入を基本的にそのまま課税標準としたものということが
でき、したがって、応能原則に基づいて担税力に応じた課税をし得るか否か
を検討し、当該事業独自の構造的な情況により所得が担税力を適切に表さな
いことから、所得に代わって収入を課税標準としているものということがで
きる。
次に、生命保険業及び損害保険業については、地方税法72条の14第5
項及び6項によって定まる収入金額を事業税の課税標準としているが、これ
らの事業を行う法人は莫大な資金を投資して利益を上げるものの、その資金
は基本的に保険加入者の保険料に由来するものであり、保険料納付者の期待
に応えることにより事業が成り立っている面があるため、これらの事業の利
益の大部分を配当に回さざるを得ない構造となっている。そのため、税法上
の保険事業の所得計算においては、第1に、法人税法上の法人の利益におい
て は 、 受 取 配 当 等 が 益 金 に 算 入 さ れ ず ( 同 法 2 3 条 )、 第 2 に 、 契 約 者 配 当
に関して特別な定めが置かれ、法人税法60条では、契約者配当が、基本的
に 保 険 料 の 払 い 戻 し で あ る と の 考 え 方 か ら 、「 保 険 業 法 ( 平 成 7 年 法 律 第 1
05号)に規定する保険会社が各事業年度において保険契約に基づき保険契
約者に対して分配する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の
額 に 算 入 す る 。」 と 規 定 し て 、 配 当 の 支 払 額 を 原 則 と し て 損 金 の 額 に 算 入 す
るという通常の法人とは異なる取扱いを容認している。その結果、これらの
事業においては、法人税法の例によって算定した所得は、会計学上の一般通
念としての所得とは大きく異なるものとなっており、その結果、これを指標
とすることが事業規模や利益の大きさから想定される担税力を十分に表すこ
とのできない構造となっているために、損金の控除を考慮しない収入を課税
標準としているものと解することができる。
イ すなわち、これらの例外4業種について、その課税標準を定めるに当たっ
ては、応能原則に基づいて所得を課税標準とすることにより適切な担税力の
把握ができるか否かを検討し、当該事業の収益構造等の事業自体の客観的性
- 20 -
格又は法律上特別の制度があることによって、所得を課税標準としたのでは
適切な担税力の把握ができない場合に、外形標準を用いることとしたものと
いうことができる。
地方税法72条の19のこのような規定の仕方は、前記の租税の本質とも
いうべき性格と、事業税の立法の変遷における現行法の位置付けを踏まえて
立法されたものというべきであり、前記のように事業税の理想としての応益
原則を課税を正当化する一つの要素として念頭に置きつつも、現実に存在し
ている事業税は、例外4業種に対する外形標準課税の部分を含めて、すべか
らく応能原則を大原則とし、例外4業種以外の業種については、応能原則そ
のままに所得課税がされ、例外4業種についても、所得を課税標準とするも
のではないが、適正な担税力の指標として所得が十分に機能しないために所
得に代わる担税力の指標として収入を課税標準とするものとして立法された
ものと解すべきである。したがって、被告らが事業税は応益課税の考え方に
立脚するものであるとして縷々主張する点並びにこれに沿う三木義一教授の
意見書(乙3の63、Z3の83)及び占部裕典教授の意見書(乙3の85
)は、一つの財政学的見地からの法人事業税のあるべき姿を立法論としてい
うものとしては理解でき、また傾聴に値すべきものとも思われるが、現行の
事業税に関する規定においては、法人事業税を応益課税として純化させて課
税標準等に関する関係諸規定をこれにふさわしいものとすることはいまださ
れていないものというほかなく、そのため、現行の地方税法の規定自体は、
憲法14条に根拠づけられた税の本質に関する大原則の一つである応能課税
から脱却しておらず、その結果、条例による法人事業税の課税のあり方にも
制約がされているものと解さざるを得ないのであって、この点に関する被告
らの主張は、現行の地方税法72条の19の解釈としては採用できない。
ウ 以上の考察からすれば、地方税法72条の19は、例外4業種以外の事業
について「事業の情況に応じ」て外形標準を用いることとする場合にも、応
能原則に基づく課税であることを当然の前提としているものというべきであ
る。具体的には、応能原則に基づいて、所得を課税標準とすることにより適
切な担税力の把握ができるか否かを第一に検討し、所得が当該事業の担税力
を適切に反映するものである場合には、原則どおり所得を課税標準とすべき
であって、この場合には外形標準課税をすることは許されず、例外4業種の
場合と同様に当該事業の収益構造等の事業自体の客観的性格又は法律上の特
別の制度の存在などから法人税法の例によって算定した所得が当該事業の担
税力を適切に反映しない場合に、初めて外形標準を用いることができるとい
うべきである。すなわち、ここでいう「事業の情況」とは、当該事業の収益
構造や法律上の特別の制度の存在など当該事業が順調に行われていてもなお
所得が担税力を適切に反映しないといった事業自体の客観的情況を意味する
のであって、その時々の景気状況や経営の巧拙に基づく業績状況といった事
業自体の客観的性質に基づかない事態は含まれないものと解するのが相当で
ある。
この観点からすれば、地方税法72条の22第9項が、いわゆる均衡要件
として、同法72の19によって外形標準を用いて事業税を課する場合にお
ける税率が、所得及び清算所得を課税標準とする場合における負担と著しく
均衡を失することのないようにしなければならないことを定めているのは、
事業税は応能原則に基づいて所得を課税標準として課されるべきものである
から、たとえ例外的に所得ではなく外形標準を用いる場合であっても、原則
である所得を課税標準とする場合の税負担と均衡を失することのないように
しなければならないことを規定したものと解される。
エ 甲第99号証において森信茂樹教授が、地方税法72条の19により外形
標準課税をすることができるのは、所得基準では恒常的に税収が上がらない
という点について制度的な特別の理由のある場合に限って、限定的に課税標
準を変えることを容認したものであり、①所得計算を行うに当たって「法律
による特別の規定」があること、②その結果、所得基準では事業規模に比較
して「税負担が少なくなりすぎること」という二つの基準が備わった場合と
いうように、極めて限定的に解釈されるべきであるとしていることや、甲第
186号証において中里実教授が、同規定の「事業の情況」とは「事業自体
の客観的性質および特別の法制度上の理由による事業税負担の恒常的な過少
性が存在する情況」を意味するものと解されるべきであるとしているのも、
上記の説示と同趣旨をいうものと解される。
また、甲第85号証において、碓井光明教授が、地方税法72条の19の
外 形 標 準 課 税 の 存 在 意 義 は 、「 外 部 か ら 把 握 す る こ と の 容 易 な 課 税 標 準 に よ
る課税」ということにあり、所得課税の理念を基礎において、所得を直接に
は把握しないものの簡易な外形的課税標準を用いて所得に間接的に接近する
のと同じ結果をもたらす趣旨のみにおいて許容されていると理解すべきであ
っ て 、 所 得 課 税 に お け る 一 種 の 推 計 課 税 と 同 じ 結 果 を 、「 外 形 課 税 」 の 形 式
- 21 -
で実現する制度であると解し、したがって、地方税法72条の19は所得を
直接に把握することを要請する同法72条の12の例外規定である以上、当
該規定は限定的に解釈されるべきであって、具体的には、外形課税は、①外
形課税によらねばならない必要性と、②当該外形課税の合理性がなければ許
容 さ れ ず 、 い わ ゆ る 推 計 課 税 に お い て 、「 推 計 の 必 要 性 」 と 「 推 計 の 合 理 性
」が要件と解されているのとパラレルに考えることができるとして、外形標
準課税によらなければならない必要性を厳格に求めるのも、アプローチは異
な る も の の 、そ の 趣 旨 に お い て は 上 記 の 説 示 と 軌 を 一 に す る も の と 解 さ れ る 。
(5) 本件外形標準課税への当てはめ
ア 以上を前提に、本件外形標準課税が地方税法72条の19の要件を充たす
ものか否かを検討すると、まず、上記(4)ウに説示したとおり、当該事業
につき所得を課税標準とすることにより適切な担税力の把握ができるか否か
を第一に検討すべきところ、銀行業等については、所得を課税標準とした場
合に事業の性質や法令上の制度の存在により適切な担税力の把握ができない
ことは何らうかがわれない。
被告らは、銀行業においてはバブル期よりも大きな業務粗利益を上げてい
ながら法人事業税をほとんど負担していない事態を「事業の情況」としてい
るが、このような事態は、バブル崩壊という一時的な景気状況を直接のきっ
かけとして生じたものにすぎないし、原告らの中にも一部法人事業税を納め
ている銀行があることからもうかがえるように、個々の銀行のそれまでの業
績の推移や経営者の手腕といった主観的事情によって左右されるものであっ
て、銀行業自体が有する客観的情況とは到底いい難いものである。
また、銀行業等の場合、貸倒れは必然的に伴うものであるから、貸倒損失
分のリスクを見込んで貸出金利を高く設定することにより、客観的な事業の
性格ないし構造として、事業存続のために十分な利益(所得)が得られよう
になっているものと認められ、貸倒損失を控除した所得こそがその担税力を
示 す も の で あ っ て 、 こ の 点 で は 他 の 一 般 事 業 会 社 と 異 な る も の で は な い ([
中 里 実 教 授 ・ 鑑 定 意 見 書 ])。 し か も 、 銀 行 業 等 に つ い て は 、 一 般 に は 統 一
的な経理基準により適正な記帳がされ監査等も実施されているのであるか
ら、所得を捕捉するのに困難があるとか、所得が適正に算出されていないと
はいえないことも明らかである。
したがって、銀行業等については、所得が当該事業の担税力を適切に反映
するものであり、原則どおり所得を課税標準とすべきであって、この場合に
外形標準課税をすることは許されないものというほかなく、銀行業等につい
ては、地方税法72条の19が外形標準課税を許す「事業の情況」があるも
のとは認められないのであって、本件条例は、同規定に反して違法であり、
無効なものといわざるを得ない。
イ なお、被告らは、本件外形標準課税の選択につき課税自主権に基づく裁量
権 を 有 す る 旨 を 主 張 す る 。 し か し 、 憲 法 9 4 条 は 、「 地 方 公 共 団 体 は 、・ ・
・( 中 略 )・ ・ ・ 法 律 の 範 囲 内 で 条 例 を 制 定 す る こ と が で き る 。」 と 規 定 し
、 地 方 税 法 2 条 は 、「 地 方 団 体 は 、 こ の 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ っ て 、 地 方
税 を 賦 課 徴 収 す る こ と が で き る 。」 旨 定 め て い て 、 地 方 公 共 団 体 は 法 律 の 定
める範囲内でのみ自主課税権を行使できるにすぎない。そして、地方税法7
2条の19の解釈においては、前記(4)ウに説示したとおり、例外4業種
以外の事業について外形標準を用いることとする場合には、当該事業につき
所得を課税標準とすることにより適切な担税力の把握ができるか否かを第一
に検討し、所得が当該事業の担税力を適切に反映するものである場合には原
則どおり所得を課税標準とすべきであって、この場合に外形標準課税をする
ことは許されず、所得が当該事業の担税力を適切に反映するものである場合
になお外形標準により事業税を課税する裁量は一切認められていないものと
いうほかなく、上記アのとおり、銀行業等については、所得が当該事業の担
税力を適切に反映すると認められるのであるから、銀行業等に対して外形標
準課税を行うことを許す裁量権は認められていないといわざるを得ない。し
たがって、この点に関する被告らの主張は理由がない。
(6) 結論
よって、本件条例は、本来は外形標準を課税標準として事業税を課すること
のできる場合ではないのに、地方税法72条の19に反して、外形標準を用い
て銀行業等に対し事業税を課することを定めた条例であり、憲法違反の主張等
原告らのその余の主張について判断するまでもなく、違法なものであり、無効
であるというほかない。
なお、条例は、行政処分と異なり、公定力を有するものではなく、しかも、
本件のように、地方公共団体に与えられた権限を越えて、実体法規に違反した
内容の条例を制定した場合には、そもそも公共団体の有する条例制定権を越え
て違法に条例を制定したものといわざるを得ないから、このような場合には、
当該条例がいかに適式な手続を経て制定されたものであっても、取消訴訟によ
- 22 -
り取り消されるまでもなく、そもそも無効であるというほかない。
3
争点3(本件通知処分の有効性等)及び争点4(本件通知処分の取消事由の有無等
)について
(1) 更正の請求に対する拒否処分が無効となる場合について
本件通知処分は、更正の請求に対する拒否処分として課税処分の一つである
というべきところ、課税処分に課税要件の根幹に関する内容上の過誤が存し、
徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしん酌してもなお、被課税者に同処
分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情
のある場合には、その過誤が明白なものか否かにかかわらず、当該処分は当然
無効と解するのが相当である(最高裁判所昭和48年4月26日第一小法廷判
決 ・ 民 集 2 7 巻 3 号 6 2 9 頁 参 照 )。
(2) 本件通知処分の効力について
本件通知処分は、本件条例が有効であることを前提として同条例に基づいて
されたものであるところ、本件条例が無効であることは前記2で判示のとおり
であり、租税法律主義にかんがみれば、課税処分においてその根拠となる法令
が無効であることは、当該課税処分につきこの上ない極めて重大な瑕疵がある
というべきであって、本件通知処分には、課税要件の正に根幹に関する内容上
の過誤が存するというほかない。そして、一般に、課税処分が課税庁と被課税
者との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する
必要のないことからすれば、本件通知処分については、上記瑕疵の重大性に照
らし、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしん酌してもなお、被課税者
に同処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外
的事情のある場合に当たるものというべきである。
よって、本件通知処分はその瑕疵が明白なものか否かにかかわらず無効であ
るというほかない。
(3) 誤納金返還請求について
そうすると、各当初原告の別紙3(a)欄記載の各既納税額は、無効な本件
条例に基づいて算出され、納付されたものであり、これを是認した本件通知処
分はそもそも無効であって公定力は生じていないから、同処分を取り消すまで
もなく、平成12事業年度に係る旧基準税額と既納税額との差額は各当初原告
にとっては損失であり、被告東京都にとっては法律上の原因を欠いた利得であ
るから、各当初原告は、同差額を誤納金としてその還付を請求することができ
るというべきである。そして、前記前提事実(6)イのとおり、各当初原告の
平成12事業年度に係る旧基準税額は別紙3(b)欄記載の「旧基準税額」で
あると認められ、各原告につき、別紙3(a)欄記載の各既納税額のうち、別
紙3(b)欄記載の「旧基準税額」を超過する各金額はそれぞれ誤納金に当た
り、その額は、別紙3(c)欄にそれぞれ記載したとおりとなる(これはそれ
ぞ れ 別 紙 2 ( a ) 欄 に 記 載 し た も の と 同 じ で あ る 。) か ら 、 原 告 ら は 、 同 誤 納
金の還付及びこれに対する還付加算金の支払を求めることができるものと認め
られる。
(4) 還付加算金請求の認められる範囲について
もっとも、原告らの誤納金還付請求に対する附帯請求である還付加算金の請
求については、地方税法附則3条の2第3項及び同条1項に規定する特例基準
割合が、平成13年中は年4.5パーセントであったが、平成14年中は年4
.1パーセントとなったことが認められるため、還付加算金の割合は、平成1
3年中の期間については年4.5パーセント、平成14年中の期間については
年4.1パーセントとなる。したがって、原告らへの誤納金還付額に対する遅
延損害金の請求のうち、平成14年1月1日から支払済みまでの分の還付加算
金の支払を求める部分は年4.1パーセントの割合により同支払を求める部分
に限り理由があり、その余の還付加算金の請求には理由がない。
(5) 争点4について
以上のとおり、本件通知処分については、上記(2)のとおり無効であると
判断すべきところ、請求6は、争点3について本件通知処分が無効でないとし
た場合の予備的請求であるであるから、本件通知処分を無効と判断する以上、
請求6については判断する必要がなく、同請求に係る争点4については判断を
しない。
4
争点5(被告東京都の責任原因)について
(1) 本件条例制定に至る事実経過
当事者間に争いのない事実、次の判文中に掲記の各証拠及び弁論の全趣旨に
よれば、次の各事実を認めることができる。
ア 平成11年夏ないし秋頃、被告東京都知事及び極く少数の被告東京都の職
員 が 秘 密 裏 に 東 京 都 の 独 自 の 銀 行 税 構 想 を 検 討 し 始 め た ( 争 い が な い )。
イ 同年11月以降複数回、全国銀行協会に対して匿名の投書が送付されてき
- 23 -
た。それらの投書は、東京都が銀行業のみを対象とする新税導入の準備を進
め て い る 事 実 を 告 げ 、「 情 報 は 一 切 公 開 す る 予 定 は な く 、 と に か く 銀 行 業 界
に検討の余地や反論の時間を与えないようにする極めて非民主主義的な手法
が 採 ら れ よ う と し て い る 」、「 あ く ま で も 極 秘 裏 に 作 業 が 進 め ら れ て い る 。
来年2月の都議会定例会に条例案が提出されるが、その公表は直前を予定し
ており、中身を十分明らかにすることなく可決成立させることを意図してい
る 。」、「 タ イ ム リ ミ ッ ト は お そ ら く 年 内 い っ ぱ い と 思 わ れ る 。」 と 、 警 告
を発する内容であった。
ウ 上記各投書の送付を受けた全国銀行協会は、同月下旬、銀行に対する新税
導入構想につき地方税を所管する自治省を訪問し、一地方団体による外形標
準 課 税 導 入 の 可 否 に つ い て 確 認 し た と こ ろ 、 自 治 省 は 、「 今 日 の 経 済 取 引 は
、都道府県にまたがって行われており、外形標準課税を1つの地方公共団体
が 導 入 す る の は 事 実 上 困 難 で あ る 。」、「 仮 に ど こ か の 都 道 府 県 で 外 形 標 準
課税の導入構想があるのであれば、自治省にも当然話があるはずであるが、
現 段 階 で は 、 そ う い う 話 は 全 く 聞 い て い な い 。」 と の 回 答 で あ っ た 。
エ 平成12年1月初め、自治省が被告東京都の主税局税制課に銀行新税構想
の有無を電話で問い合わせたところ、被告東京都の税制課は全面的にその構
想 を 否 定 し た ( 争 い が な い )。
オ 全国銀行協会は、同月17日、被告東京都の主税局を訪問して税制部長ら
と面談し、前記イの各投書を見せて銀行業だけを対象とする新税構想の有無
を 問 い 質 し た 。 こ れ に 対 し 、 税 制 部 長 は 、「 そ の よ う な 構 想 は 検 討 し て い な
い 。 仮 に 外 形 基 準 を 採 用 す る と な れ ば 条 例 を 作 ら な け れ ば で き な い 。」「 こ
の種の案件は、公開の場において議論していくものであり、いきなり明日か
ら 導 入 と い う こ と は 全 く あ り 得 な い 。」 と の 回 答 を 行 い 、 銀 行 業 に 賦 課 す る
新 税 構 想 を 全 面 的 に 否 定 し た ( 争 い が な い )。
カ ところが、被告東京都知事は、同年2月7日、臨時記者会見を開き、法人
事業税について、大手金融機関を対象とする外形標準課税を導入する方針を
発 表 し た 。 そ の 際 、 被 告 東 京 都 知 事 は 、「 事 前 に 情 報 が 漏 れ る と 、 キ ー キ ー
い う 人 も で る だ ろ う し 、 銀 行 の 反 発 も あ る だ ろ う か ら 」、「 実 は こ こ に い る
柿 沼 局 長 も 知 ら ず に や っ て き た こ と で す 。」、「 今 日 ま で 全 く そ の 秘 密 裏 に
こ と を 行 っ て き ま し た 。」 と の 趣 旨 の 発 言 を し 、 さ ら に 、 こ の 日 の 発 表 に つ
き「いってみりゃ、ヘッドスライディングのホームスチールみたいなもんだ
な 。」 と 発 言 し た 。 極 秘 裏 に 外 形 標 準 課 税 の 準 備 を 進 め た こ と に 関 し 、 被 告
東京都知事は、同年3月22日の都議会において「途中で雑音が入らずに済
み ま し た か ら 。 入 り か か っ た こ と は あ り ま し た け れ ど も ね 。」、「 決 し て 密
室だけでものをするつもりはございません。だからこそ、今度も事前に議会
筋にもお話ししましたし、参考人も呼んでいただいて、開かれた形で議論し
た じ ゃ な い で す か 。」 と 答 弁 し た ( 都 議 会 で の 発 言 に つ き 、 乙 5 の 6 [ 1 1
頁 ])。
なお、被告東京都の主税局税制部長は、同年2月7日、全国銀行協会に電
話をし、銀行業等に対して賦課する外形標準課税導入構想を事前に知ってい
たこと、及びこの構想を他言しないよう止められていたことを認めた。この
電 話 の 後 、 被 告 東 京 都 は 、 全 国 銀 行 協 会 に 対 し 、「 銀 行 業 等 に 対 す る 外 形 標
準課税の導入について」と題する本件条例案の簡潔な資料を送付した(争い
が な い )。
キ 全国銀行協会会長は、同日、被告らの外形標準課税導入の方針発表は極め
て 唐 突 で あ り 絶 対 反 対 で あ る と の コ メ ン ト を 出 し た ( 争 い が な い )。
ま た 、 同 月 8 日 、 本 件 条 例 の 構 想 に つ き 、 経 団 連 は 、「 唐 突 で あ り 、 容 認
で き な い 」 と の コ メ ン ト を 発 表 し 、 越 智 通 雄 金 融 再 生 委 員 長 は 、「 課 税 の 公
平性の観点から問題がある。業務粗利益に3パーセントの税率で課税するの
は極めて過重な負担で、資本注入している銀行の返済能力にも著しい影響を
与える。金融行政当局としては到底容認できない。東京を中心に営業する銀
行だけを目標にすることは、他の道府県の金融業への課税とのバランスを欠
く 。」 旨 を 述 べ 、 堺 屋 太 一 経 済 企 画 庁 長 官 は 、「 い わ ば 企 業 の 人 頭 税 の よ う
な も の で 非 常 に 慎 重 な 取 扱 い が 必 要 だ 。」 と 指 摘 し 、 保 利 耕 輔 自 治 大 臣 は 、
「都が財政上苦しくなっていることは理解しないといけないが、税の導入は
よくよく考えてやらないと後々問題も出てくると述べ、その他、宮沢喜一大
蔵大臣、深谷隆司通産大臣、青木幹雄官房長官も、負担の公平や税の中立性
、金融システムの安定など、慎重に検討すべきだとの見解を明らかにした旨
の新聞報道がされた。さらに、その直後から、高木勝・明治大学教授、深尾
光洋・慶応大学教授、石弘光・一橋大学学長、加藤寛・千葉商科大学学長(
政 府 税 制 調 査 会 会 長 )、 宮 脇 淳 ・ 北 海 道 大 学 教 授 、 本 間 正 明 ・ 大 阪 大 学 副 学
長、林宜嗣・関西学院大学教授、水野忠恒・一橋大学教授らの学者のほか、
他府県知事、経済界等からも、本件条例の及ぼす悪影響や、銀行だけに課税
することの不合理性が唱えられている旨の報道がされた。同月14日には、
- 24 -
小 渕 恵 三 内 閣 総 理 大 臣 が 、 衆 議 院 予 算 委 員 会 で 、「 地 方 税 法 で は 条 例 に 基 づ
いて外形標準課税を実施する場合、所得による課税の負担と著しく均衡を失
することのないようにしなければならないと規定しており、この点について
慎重な検討がなされる必要がある」旨答弁した。
ク 被告東京都の主税局職員は、同月9日、同主税局を訪れた全国銀行協会企
画部長ほか2名に対し、本件条例案の内容を説明し、同月16日、本件条例
案を全国銀行協会に送付し、同月28日にも、本件条例案に関する資料を同
協 会 に 送 付 し た ( 争 い が な い )。
ケ 前記カの構想発表から1週間後の同月14日、本件条例案に対し、都議会
の主流派である自民・公明両党が議員総会で賛成を決定し、民主・共産両党
も賛成の意向を示し、3月30日の本会議では圧倒的多数の賛成で本件条例
案が成立することが確実となった。
コ 日本銀行総裁は、同年2月15日、記者会見において、被告らの外形標準
課 税 構 想 の 発 表 直 後 か ら 銀 行 株 が 急 落 し た 事 実 を 指 摘 し た 上 、「 金 融 シ ス テ
ムの破綻の瀬戸際で、リストラを実行し大規模な構造改革に取り組む金融機
関の経営に対し、被告東京都の外形課税導入は悪影響を与えかねない」との
重大な懸念を示した。また、自治省は、被告東京都との間で局長級協議を開
き再考を促したが、被告東京都側は外形標準課税導入を強調し翻意の余地を
示 さ な か っ た ( 争 い が な い )。
サ 同月16日、都議会会議運営委員会に本件条例案が提示された(争いがな
い )。
シ 被告東京都知事は、同月18日、本件条例の問題性を主張する保利耕輔自
治大臣との会談に関し、被告東京都知事は、記者会見で「話し合う余地はな
い し 、 小 骨 一 本 抜 か な い 。」、「 会 う と い う な ら 会 う が 、 結 果 と し て ( 保 利
大 臣 を ) 傷 つ け た く な い 。」 と 発 言 し 、 本 件 条 例 案 を 見 直 す 意 思 が 全 く な い
こ と を 強 調 し た ( 争 い が な い )。
ス 保利自治大臣は、同月21日、被告東京都知事と会談し、大手銀行に対象
を絞った新税案は不公平であり、所得による課税に比して著しく不均衡であ
るなどの懸念を伝えたが、その際、納税者となる銀行側への説明が不十分で
あり、極めて唐突である旨を伝えた。しかし、被告都知事は再考要請を拒否
し た ( 争 い が な い )。
セ 全国銀行協会は、被告東京都の外形標準課税導入構想の発表直後から、導
入反対を唱えてきたところ、被告東京都は、同日に至って、ようやく全国銀
行協会に対する意見交換会を開催した。しかし、全国銀行協会がそれまで出
席を求めてきた本件条例の責任者の一人である被告東京都の主税局長は意見
交換会に出席しなかった。原告らは、本件条例案作成前の段階で新たな納税
義務者となる原告らに議論の余地を与えなかった被告らの態度を厳しく批判
した。その後も、全国銀行協会は、被告東京都に対し、同主税局長を交えた
意見交換会を再三にわたって申し入れたが、被告東京都はこれを拒否した(
争 い が な い )。
ソ 政府は、同月22日、本件条例に対する統一見解を閣議口頭了解として発
表し、被告東京都に対し、本件条例案の問題点が次のとおりの問題を孕むも
のであるとして慎重な対応を求めた。
(ア) 銀行業という特定の業種のみに対して外形標準課税を新たに導入す
ること、資金量5兆円以上の銀行業等に対象を限定することに合理的
理由があるか疑問がある。
(イ) 地方税法72条の19により外形標準課税を導入する場合には所得
等を課税標準とする場合の「負担と著しく均衡を失することのないよ
う に し な け れ ば な ら な い 」( 地 方 税 法 7 2 条 の 2 2 第 9 項 ) と さ れ て
おり、この規定との関係において、本件条例案には疑問がある。
(ウ) 法人事業税の税額は、法人税の課税所得の計算上損金の額に算入さ
れる(法人税法22条3項)こと等から、本件条例案によれば、実際
上、今後、被告東京都以外の地方団体の法人関係税及び地方団体全体
の地方交付税原資が減少することになる。
(エ) これまで、政府税制調査会を中心に、47都道府県全てにおいて幅
広い業種を対象に薄く広く負担を求める外形標準課税を導入すること
を検討している中で、被告東京都だけが独自に銀行業等という特定の
業種について業務粗利益を課税標準として導入することが妥当か疑問
がある。
(オ) 日本経済の状況を考えると、金融システムの安定を確保することが
喫緊の政策課題である。このため、金融機関の健全性強化のための自
助努力に加えて、国としても公的資金を用い、最大限の取組みを行っ
ているところである。今回の本件条例案は、こうした金融安定化策と
整合性を欠くものである。本件条例案が実施されることとなれば、銀
行等の自己資本の減少とともに、不良債権処理の遅延、経営健全化計
- 25 -
画の履行及び公的資金返済への支障、金融再編への悪影響、金融機関
間における競争条件の不均衡といった問題が生ずることが懸念される
。また、世界の金融センターを目指す東京金融市場に対する予見可能
性、信頼性について、国際的な疑念を招くおそれがある。
タ 被告東京都知事は、同月23日開会の東京都議会第1回定例会に本件条例
の議案(第206号議案)を提出し、同議案は、同月29日から同年3月2
日 ま で の 間 、 東 京 都 議 会 本 会 議 で 審 議 さ れ た ( 争 い が な い )。
チ 政府税制調査会は、同月25日、被告東京都が本件外形標準課税導入方針
を発表したことを受けて、急遽、地方法人課税小委員会を開催した。同委員
会は、大手金融機関に対象を絞ったことなど、本件条例には問題が多いとの
認 識 で 一 致 し 、「 1 年 ぐ ら い は 納 税 者 に 議 論 を 投 げ か け 、 意 見 を 聞 く べ き だ
」など、被告東京都の手続が性急だったことを批判する発言が相次いだ。
ツ 同月29日には、同調査会の総会において、本件条例の性急な条例制定手
続に批判が集中した。この総会では、被告らが唐突に銀行向けの課税を発表
したことは危険な大衆迎合主義である、などと厳しい批判が続出した。
被告東京都知事は、同日の東京都議会本会議での質問に答えて、本件条例
に つ き 、「 銀 行 に 対 し て な ぜ 外 形 標 準 課 税 を 行 う か と い う 理 由 で あ り ま す が
、これは、銀行業は十分な収益を得、既に二千億円を超える配当も行ってお
るにもかかわらず、不良債権処理の結果、都道府県の行政サービスの対価と
しての事業税をほとんど負担しておらず、また、そうした状況が今後急に好
転することは見込まれないこと。そして、銀行業の税収は、バブル期には二
千二百億円、現在は百億円程度と、極めて乱高下した不安定なものでありま
して、応益課税としての事業税の機能を喪失していることなど、銀行特有の
事 業 の 状 況 を 踏 ま え 、 地 方 税 法 の 規 定 に 基 づ い て 行 う も の で あ り ま す 。」 な
どと述べた。
また、翌3月1日の同本会議においては、被告東京都の主税局長が、本件
条 例 に お い て 課 税 標 準 を 業 務 粗 利 益 と し た こ と に つ い て 、「 業 務 粗 利 益 は 銀
行の基本的業務をすべてカバーした指標でありまして、一般企業でいえば、
売上高から売上原価を差し引いた売上総利益に相当いたします。銀行の事業
活動の規模を適格に反映した客観的な基準であるとともに、銀行の収益力に
裏 づ け ら れ た 担 税 力 も 一 定 程 度 反 映 を さ れ て お り ま す 。」 と 述 べ た 。
テ 東京都議会予算特別委員会において、同年3月13日、当時の杉田力之全
国銀行協会会長、神野直彦東京大学教授及び糸瀬茂宮城大学教授が参考人と
して本件条例案について意見陳述を行い、同月13日から同月16日までの
間 及 び 同 月 2 7 日 、本 件 条 例 案 は 同 特 別 委 員 会 で 審 議 さ れ た( 争 い が な い )。
この委員会で杉田会長は、本件条例案と地方税法72条の19との関係に
つ き 、「 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 で は 、 事 業 の 状 況 に 応 じ 、 課 税 標 準 の 特 例 を
設けることができるとなっております。皆様ご承知のとおり、電気、ガス、
生保、損保の4業種に対しては、40年以上の長きにわたり、収入金額が課
税標準になっております。この理由は、電気、ガスについては、料金が認可
制で低く抑えられていること、また、生保、損保については、所得の計算上
、益金不算入とされる配当が、利益のうちの大きなウエートを占めているこ
と、及び契約者への配当が、事業税の課税標準の計算上、損金の額に算入さ
れること、こうしたことから、所得を課税標準とした場合、事業規模に比較
して事業税が少なくなりすぎてしまうためとされております。銀行業には、
このような4業種にある事情は存在しておりません。ここでさらに重要な点
は、この4業種は、そういった制度上、収益構造上の事業特性から、こうし
た課税標準を適用することが望ましいとの判断のもと、地方税法において明
確に規定されているということであります。したがいまして、これらの業種
以外の法人に対して課税標準を変更するに当たっては、特例があるから何で
もできるということではなく、誰から見ても納得できる、制度上、収益構造
上の合理的な理由が必要なのではないかと強く思うわけでございます。果た
して、都の掲げる事由は、この特例を適用するに足るものでありましょうか
。都の説明によれば、銀行は、税収動向が不安定であることや、繰越欠損金
控除により今後も税収が見込めないこと等が銀行特有の事業の状況であると
し て お り ま す 。・ ・ ・( 中 略 )・ ・ ・ し か し な が ら 、 税 収 動 向 が 不 安 定 な の
は、所得を課税標準とする現在の法人事業税そのものの特徴であり、銀行と
いう事業に限った特徴ではございません。大手銀行と同程度に、所得、すな
わち税収が変動している業種は、他に幾つも存在しているのであります。都
が説明するような収益の変動とは、事業の状況ではなく、むしろ経済の状況
というべきものであります。これをもって事業の状況と解するのは、まさに
恣 意 的 と い わ ざ る を 得 な い の で あ り ま す 。」 と 指 摘 し 、 神 野 教 授 は 、 本 件 条
例案に賛成しながらも、立案の過程について「あえて苦言を申し上げれば、
このプランが作成されてくる過程でもって、課税される銀行業の方々の声に
十分に耳を傾けられてきたでしょうか。そして、何よりも、決定するのは東
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京都民ですから、東京都民に、またその東京都民の代表者である皆様方に、
決定のプロセスがオープンにされていたでしょうか。決定さえよければ、つ
まり、結果さえよければそれでいいというわけにはいかないだろうと思いま
す 。 必 ず 決 め 方 の プ ロ セ ス と い う の は 結 果 に 含 ま れ ま す 。」 と 指 摘 し た 。
また、同月14日の委員会においては、C主税局長が、所得課税は基本的
には応能原則によるものであるから、地方税法は、事業税につき、応能課税
である所得課税を使って、しかも応益課税であるとの擬制をしているとの見
解を示し、銀行の業務粗利益が一般企業の売上総利益に当たるとの説明をく
り返した。
ト 同月22日には、被告東京都知事が出席した東京都議会財政委員会におい
て、本件条例案について集中審議が行われ、同委員会は、同月23日、本件
条 例 案 に つ き 採 決 を し 、 委 員 全 員 の 賛 成 で 可 決 し た ( 争 い が な い )。
ナ 同月30日、都議会議員全9会派中、1会派(1名)を除く、8会派(1
23名)賛成という圧倒的多数の賛成をもって、本件条例は可決成立した(
争 い が な い )。
(2) 被告東京都の本件条例制定行為の違法性
被告東京都知事、被告東京都の主税局長以下本件条例の制定に携わった同主
税局職員、東京都議会を構成する東京都議会議員は、本件条例の内容が、前記
2のとおり、地方税法72条の19に反するにもかかわらず、それぞれ、本件
条例の議案の立案行為、当該議案の東京都議会への提出行為、当該議案の議決
行為及び本件条例の公布行為を行ったのであり、これらの行為は、地方公共団
体の職員として違法な条例の制定により他人の財産権を侵害してはならない義
務があるにも関わらず、これに違反して客観的に違法な内容の本件条例の制定
に向けた一連の行為をしたものというべきであって、その結果、後記5のとお
り、原告らに損害を与えたものと認められるのであるから、これらの行為が、
国家賠償法1条1項にいう違法性を有することは明らかである。
本件条例制定の目的が税負担の公平性の確保及び都の安定的な税収の確保に
あり、多数決による議会の議決を経て制定されたものであるとしても、その立
案過程には、条例に賛成する神野教授ですら指摘するように、課税される納税
者の意見を十分に聴かず、都議会議員にも立案過程を明らかにせずにされたと
いう問題があるし、後記認定のとおり、条例案自体が十分な調査検討に基づく
ものではなく、被告東京都知事をはじめとする提案者側の説明にも誤りや不適
切な点が多々存在していた点で大いに問題がある上、そもそも地方自治体の条
例制定権は、憲法94条の定めるとおり「法律の範囲内で」与えられたもので
あり、地方税法においても、同法「の定めるところによって、地方税を賦課徴
収 す る こ と が で き る 。」( 同 法 2 条 ) と 規 定 さ れ て い る 以 上 、 同 法 に 違 反 す る
条例を制定する裁量権がないことは明らかであるから、地方自治体の制定する
条例が同法に違反する限り、国家賠償法上も当該条例制定の目的のいかんや議
会の議決によってこれを正当化することはできないといわざるを得ない。
(3) 被告東京都知事ほかの故意・過失
ア 本件条例は、地方税法72条の19に基づくものであるが、法的素養を有
する者が同条とその引用する同法72条の12とを併せ読めば、同法72条
の19にいう「事業の情況」とは、日常用語的な意味ではなく、例外4業種
について例外的取扱いをする根拠となった事情に準ずるようなものに限定さ
れるのではないかとの疑義を抱くのが通常であると考えられる。そして、こ
の「事業の情況」についての解釈を行う法律家としては、そのような疑義が
生じた以上、上記両条を中心とする事業税の立法の沿革に遡って調査を遂げ
、その調査結果を踏まえ、両条の立法趣旨を理解した上でなければ、上記「
事業の情況」の意義を確定し得ないとの態度を取るのが、専門家として採る
べき途であると考えられる。
このような観点からすると、法律の専門家ではない被告東京都知事や都議
会議員はともかくとして、都税に関する条例制定に関する事務を所管し、こ
れらの者に的確な情報を提供すべき立場にある東京都主税局の担当者らは、
その所管する地方税に関する法令の専門家として、上記のような調査を遂げ
て正確な情報を被告東京都知事及び都議会に提供すべき義務を有していたも
のと考えられる。
しかし、本件全証拠によっても、このような調査に基づいて条例制定の可
否が論じられた形跡はなく、本件における被告ら提出の証拠にも、前記両条
制定時の国会議事録が含まれていないことからすると、これらの調査が全く
行われなかったか、行われたとしてもきわめて不十分なものにとどまったと
認めざるを得ず、東京都主税局の担当者らには、この点において、十分な調
査をせず被告東京都知事らに的確な情報を伝えなかったことにつき、過失が
あったといわざるを得ない。
イ 特に、東京都主税局長は、都議会において、現行の事業税につき、所得課
税という応能原則による課税が行われていることを認識しながら、あくまで
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これが応益原則に基づくものと強弁し、かつ、銀行の業務粗利益が一般事業
会社の売上総利益に相当するとの誤った説明を行い、都議会議員らの判断を
誤らせるに至ったのであるから、これらについての過失が問われなければな
らない。すなわち、現に行われている事業税の課税が応能主義によっている
ことを認識している以上、上記アの疑問と相まって、本件条例のような課税
が可能か否かには強い疑問を抱くべきであるにもかかわらず、法の明文に規
定されていない応益原則によって本件条例が正当化されると考え、都議会に
おいてもそのような説明をしたことは、所管局の責任者としては、ほとんど
重過失に近い過失があったといわざるを得ない。
また、銀行の業務粗利益が一般事業会社の売上総利益に相当するものでな
いことは、本件において被告らも認めているところであり、それは、前者が
貸倒損失を控除していない点にある。すなわち、銀行業の中心を占める貸金
業においては資金の供給者から銀行が資金を調達して、資金の需要者に貸し
付けるのであるが、一般事業会社における売上に相当するのは需要者から回
収する貸付元本とその利息、仕入に相当するのは借受元本とその利息という
ことになり、双方の元本額は等しいから、貸倒れが全くないと仮定すると、
貸付利息から借受利息を控除した業務粗利益が売上総利益に相当することと
なるが、貸金業には貸倒れが必然的に発生するものであるから(これは、製
造業において仕入れた原料のすべてが製品として仕上げられるわけではなく
、一定量の欠陥品や製作の失敗による無駄が生ずることと同じであり、それ
ら の 発 生 は 売 上 高 の 減 少 と な っ て 売 上 総 利 益 に 反 映 し て い る の で あ る 。)、
この額を控除しない業務粗利益は、売上総利益とは異なったものといわざる
を得ないのである。そして、バブル崩壊後に不良債権が大量に発生した銀行
業においては、この点こそが、日常用語的意味における事業の情況として、
もっとも重視すべきことというべきである。このことからすると、仮に被告
ら の 主 張 す る よ う に 、「 事 業 の 情 況 」 の 意 義 を 柔 軟 に 解 釈 し 、 裁 量 の 余 地 の
あるものと解したとしても、このような重要な点を反映しない業務粗利益を
もって課税標準としたことは、条例の立案に当たって、当然に考慮すべき事
由を考慮しなかったに等しい点において、条例制定権に伴う裁量権の範囲を
逸脱したものとの疑いも生じかねないものである。
以上のようなことは、会計や金融について専門的知識を有しない者でも通
常の常識人であれば容易に想到し得るところであるから、その点につき誤っ
た説明をした主税局長には、やはり重過失に近い過失があったというべきで
ある。
ウ 被告東京都知事には、以上のような主税局長をはじめとする補助機関に対
する適切な指揮監督をしなかった点に過失があるといわざるを得ない。
すなわち、上記(1)に認定した事実によれば、本件外形標準課税の構想
が発表された直後から政府関係者が、同構想について適法性に疑問があるこ
となどを理由として、本件条例の制定に対する反対意見や慎重論を述べ、税
法学者をはじめとする決して少なくない数の法律学者等の有識者が、本件外
形標準課税は憲法14条及び地方税法に違反する旨や当初原告ら大手銀行に
過重な負担を強いるものである旨の意見を公表し、その旨が新聞等で報道さ
れ、さらには、閣議口頭了解としての政府の統一見解において、本件条例案
が地方税法上の問題点を含む複数の問題を孕むものであるとして慎重な対応
を求め、自治大臣も、被告東京都知事に対して、本件条例案の再考を直接求
めているし、都議会においても、全国銀行協会の杉田会長があるべき法解釈
について適切な意見を述べているのである。これらの意見等を虚心坦懐に聴
いたならば、法律や会計に専門的知識がなくても、前記ア及びイのように所
管局職員が職務を怠っているのではないかとの疑問を抱き、ひいては、本件
条例が法令に違反している可能性が高く、本件条例を制定した場合には違法
に原告らの権利を侵害することとなることを十分に認識し得るのが通常であ
ると考えられる。そうであるならば、被告東京都知事は、地方公共団体の執
行機関として、地方公共団体の事務を、自らの判断と責任において、誠実に
管 理 し 及 び 執 行 す る 義 務 を 負 う の で あ る か ら ( 地 方 自 治 法 1 3 8 条 の 2 )、
所管局に再調査を指示するなどして本件条例案の適法性につき慎重な検討を
すべきであったのに、これを怠り、政府・政府関係者や多数の法律学者等の
見解をあえて無視し、同見解と異なる解釈を再考することなく、既に主流派
により本件条例案に対する賛成が表明されていて、本件条例案の可決が確実
視される状況において、本件条例の議案を都議会に提出し、可決された本件
条例につき、地方自治法176条4項により法令に違反する議会の議決を再
議に付すことなく本件条例を公布したのであるから、被告東京都知事には、
補助機関の不十分な検討や誤った説明等を看過し、これに対する適切な指導
監督をせず、違法な条例を成立させるに至らせたのであって、このような結
果を招いたことに過失があったといわざるを得ない。
エ 被告東京都知事は、前記(1)ツのとおり、本件条例の制定理由の第1と
- 28 -
し て 、「 銀 行 業 が 十 分 な 収 益 を 得 、 既 に 二 千 億 円 を 超 え る 配 当 も 行 っ て い る
」 に も か か わ ら ず 、「 事 業 税 を ほ と ん ど 負 担 し て 」 い な い と の 指 摘 を 行 っ て
いる(被告らが本件第1回口頭弁論期日前に提出した証拠の中で、本件条例
に関する唯一の法律専門家の見解を記載した乙第1号証の6において、事業
の 状 況 を 判 断 す る 際 に 、「 決 定 的 な の は 、 所 得 が な い と し な が ら 1 9 9 8 年
度 で 大 手 銀 行 が 2 6 0 0 億 円 も の 配 当 を し て い る 事 実 で あ ろ う 。」 と の 記 載
が あ る の も 、 同 様 の 指 摘 と 思 わ れ る 。)。 こ れ を 素 直 に 聞 く 限 り 、 健 全 な 常
識を有する通常人ならば、銀行業においては、当該年度の業績として多額の
配当を行うに足りる所得を得ながら、それをまず株主への配当に充て、残っ
たわずかな額のみを事業税として納付しているものと理解し、銀行業につい
ての事業税の制度には何らかに欠陥があり、これを是正する必要があると考
えるのも、無理からぬところである。健全な常識を有する通常人である都議
会議員らの中にも、このように考えて本件条例の制定に賛成した者が多いと
考えられる。
しかし、証拠及び弁論の全趣旨によると、銀行各社が直近年度に行った配
当のほとんどは、その原資を当該年度の利益とするものではなく、従前から
の積立金を原資とするものであったことが認められるのである。これらの積
立金は、過去の年度における税引後利益を全額配当にまわすことなく、将来
業績が悪化した際にも安定的な配当が可能となるようにあらかじめ積み立て
られたものであって、いわば既に税金を払い終わったものであるから、バブ
ルの崩壊によりまさに過去に危惧した事態が発生した時期にこれを用いるの
は当然のことである。仮に、銀行業に対して何らかの公的援助を行う場合に
は、このような配当の事実も援助の可否の決定に当たって考慮すべき事項で
あると考えられるが、これとは逆に新たな税負担を求める際には、このよう
な事実は全く根拠にならないものというべきである。このこと自体は、被告
らも、本件訴訟においては認めており、上記の配当の事実は、地方税法72
条の19にいう「事業の情況」の判断に当たって考慮したものではなく、同
条該当性があるとの前提の下に本件条例の制定に踏み切るか否かの判断に当
たって考慮した事由にすぎないとしている。
そうすると、被告東京都知事が、このような配当原資についての説明をし
ないまま、本件条例の制定理由の第1に配当の事実に言及したのは極めて不
適切であるばかりか、本来、制定の理由とはならない事項にあえて言及して
いる点において、意図的なものがあるとみられてもやむを得ないところであ
る。このような不適切な発言が本件条例に関する審議の冒頭においてされた
ことが、都議会議員らに銀行業について誤った認識を抱かせたことは否定で
きず、このことが都議会議員らの銀行業に対する意識に大きく寄与し、地方
税法との整合性について慎重かつ専門的な検討を経ないまま、違法な条例の
制定に至ったのであるから、被告東京都知事には、少なくともこのような重
要な発言をするに当たってその内容を十分に吟味しなかったために、このよ
うな結果を招いたことに過失があったといわざるを得ない。この点において
、被告東京都知事は、前記のように単に補助機関に対する指導監督上の責任
があるのみならず、自己の不適切な発言についても責任を免れない。
オ 被告東京都は、本件条例による外形標準課税の導入につき適法性を唱える
学者の意見や文献があった旨主張するが、そのような学者は、その数だけ見
ても上記のとおり違法性を指摘する学者に比して圧倒的少数であり、被告ら
の上げる文献も何ら具体的な記述や論証により本件条例の適法性を根拠づけ
るに足りるものではない。
また、被告東京都は、全国知事会議の設置した「法人事業税外形課税実施
問題研究会」が取りまとめた52年外形課税実施案で、法改正によらず、条
例により外形課税を実施することが可能とされ、本件条例のような外形標準
課税の導入については実務上容認されていた旨主張する。しかしながら、同
実 施 案 は 、「 全 都 道 府 県 が 統 一 し て 実 施 す る こ と 」 を 前 提 と し て 外 形 標 準 課
税実施案の作成を検討したものであって、本件のように一地方団体のみが単
独で外形標準課税を導入することを前提としたものではないし、同案におい
て は 、 外 形 標 準 課 税 を 導 入 す る と し て も 、「 主 と し て 製 造 業 を 行 う 法 人 に 限
定 」 し て お り 、「 銀 行 業 等 」 が 外 形 標 準 課 税 の 課 税 対 象 と し て 適 当 で あ る と
の 報 告 で は な い 上 、 同 実 施 案 は 、 昭 和 5 3 年 1 月 2 0 日 の 協 議 の 結 果 、「 最
近の異常とも見られる深刻な不況にかんがみ、実施の時期に配慮を加える必
要がある」等の理由により、結局実施を延期されているのであって、同実施
案における検討を参照したとしても、本件外形標準課税が違法であると認識
しなかったことを正当化できるものではない。
さらに、本件外形標準課税については、前記のとおり閣議口頭了解が発表
されているところ、被告東京都は、同了解の表現が「疑問がある」といった
ものにとどまり、違法であるとの指摘はない旨主張するが、憲法において条
例制定権や法律により一定範囲の自主課税権が認められている地方公共団体
- 29 -
に 対 し 、 政 府 が 閣 議 の 了 解 と の 形 式 に よ り 統 一 見 解 を 発 表 し 、「 合 理 的 理 由
があるか疑問がある」等の指摘を行うからには、その「疑問」はかなり深刻
な問題点を指摘するものと捉えるべきであって、しかも、前記(1)ソ(イ
)のとおり、本件条例案につき地方税法の関係規定との関係において本件条
例案には疑問があると指摘されており、この点は法律上の問題点の指摘にほ
かならず、全体として地方公共団体の有する憲法上の自治権に配慮して「疑
問がある」といった表現を用いたからといって、同指摘が何ら違法性を指摘
するものではないということは到底できない。
被告東京都の引用する、自治大臣による「直ちに違法とまでは言えない」
との発言についても、同発言のあった同じ地方行政委員会において、保利大
臣 は 、「 解 釈 の 問 題 と し て 非 常 に 難 し い 問 題 だ な と 思 っ て 、 東 京 都 に は 、 こ
う い う 点 は い か が な も の で し ょ う か と 申 し 上 げ た 経 過 が あ り ま す 。」、「 私
は、実はこれは法律に合っているのか合っていないかの判断というのは、日
本の三権分立の思想でいきますれば、司法の判断、裁判所の判断ということ
に な る の だ ろ う と 思 い ま す 。」 と も 答 弁 し て お り 、 同 大 臣 の 発 言 の 一 部 を 捉
えて本件条例が適法であると認識したことを正当化することはできないとい
わざるを得ない(なお、前記閣議口頭了解及び自治大臣の発言は、いずれも
本件条例と地方税法72条の19との関係には直接ふれていないが、これは
、前記2(3)エのとおり、所管官庁である自治省が立法論としては事業税
を応益原則に基づくものとすることが妥当と考えていることと無関係ではな
いと考えられるのであり、このこともまた同条の立法資料を検討すれば容易
に 看 取 で き る と こ ろ で あ る 。)。
結局のところ、被告東京都知事ほか本件条例の制定に関与した被告東京都
の職員らが、真に上記のとおりむしろ少数といえる学者の意見等に全面的に
依拠して本件条例の制定関連行為を行ったのであれば、そうした行為は著し
く慎重さを欠くものといわざるを得ず、上記のとおり本件条例案につき種々
問題が指摘されていた状況にかんがみれば、本件条例の違法性を認識しなが
らあえて本件条例の制定のための行為をしたものと評価することもやむを得
ないというべきである。
カ 上記の被告東京都知事ほかの行為が、公権力の行使に当たり、その各職務
を行うについてされたものであることは明らかであるから、被告東京都は、
原告らに対し、国家賠償法1条1項に基づき、これら故意又は過失による行
為に基づく違法な本件条例の制定により原告らが被った損害の賠償をすべき
義務があるというべきである。
5
争点6(原告らの損害)について
(1) 繰延税金資産の減少について
ア 〔証拠略〕によれば、当初原告らは、それぞれ、平成12事業年度3月期
末において、本件条例案が都議会において可決されて成立したことに基づき
、税効果会計の適用により、繰延税金資産を再計算し、各当初原告の繰延税
金資産及び当期利益は、別紙6の各当初原告に対応する欄記載の額が減少し
た旨財務諸表等に記載したことが認められる。
イ ( ア ) 税 効 果 会 計 と は 、「 貸 借 対 照 表 に 計 上 さ れ て い る 資 産 及 び 負 債 の 金
額と課税所得の計算の結果算定された資産及び負債の金額との間に差
異がある場合において、当該差異に係る法人税等の金額を適切に期間
配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益の金額と法
人税等の金額を合理的に対応させるための会計処理」をいい(財務諸
表 規 則 8 条 の 1 1 )、 こ の 税 効 果 会 計 の 適 用 に よ り 資 産 と し て 計 上 さ
れる金額を「繰延税金資産」という(同規則8条の12第1項1号)
。
す な わ ち 、 企 業 会 計 上 の 「 利 益 」 は 、「 収 益 」 か ら 「 費 用 」 を 控 除
す る こ と に よ っ て 得 ら れ 、 一 方 、 税 法 上 の 「所 得 」は 、「 益 金 」 か ら 「
損金」を控除することによって得られるが、企業会計上の収益・費用
と税法の定める益金・損金は必ずしも一致しないため、企業会計上の
「利益」と税法上の「所得」の間には差異が生じ得る。この差異は、
具体的には、企業会計上の収益・費用と税法の定める益金・損金の範
囲がそもそも異なることにより生ずる永久差異と、範囲は同じでも認
識の時点が異なることにより生ずる一時差異とに分けられ、具体的に
は、交際費・寄付金の損金算入限度超過額、受取配当金の益金不算入
額等は「永久差異」の例であり、資産評価損・貸倒損失等の税務否認
額、減価償却費・引当金等の損金算入限度超過額等は「一時差異」の
例である。そして、これらのうち、永久差異については、そもそも企
業会計上の収益・費用と税法の定める益金・損金の範囲が異なること
から、期間の経過によっても解消されることはないが、一時差異は、
収益・費用又は益金・損金として認識する時期が異なることにより生
- 30 -
ずる差異にすぎないため、最終的にはその差異は解消されることにな
る。例えば、貸倒引当金は、企業会計上は企業が貸倒れによる損失が
見込まれると判断した時点で「費用」として計上することになるが、
税法上は貸出先が倒産していること等の厳格な要件があり(法人税法
5 2 条 、 同 法 施 行 令 9 6 条 参 照 )、 こ の 要 件 を 充 た し て い な い 場 合 に
はその処理が否認される。すなわち、企業会計上は「費用」として認
められるものについても税法上は「損金」として算入することを認め
られないことがある。この場合、税法上貸倒引当金の損金算入が否認
された時点では、企業会計上の処理と税法上の処理に一時的に差異が
生ずることになるのであるが、その後貸出先が倒産に至るとか債権放
棄等によって税法上貸倒引当金の損金算入が認容される時点になれば
、最終的に企業会計上の処理と税法上の処理の差異が解消されること
になる。旧来の企業会計は、このような一時差異が生ずるにもかかわ
らず、これを無視して当期に納付すべき税額をそのまま税引前当期利
益から控除していたのであるが、このような会計処理は当該期の企業
の業績を適切に反映していないことから、一時差異にかかる税金の額
を適切な会計期間に配分して計上することとしたのが税効果会計であ
る ([ 朝 日 監 査 法 人 ・ 意 見 書 ])。
(イ) 税効果会計に基づく具体的な処理としては、税務上の確定申告によ
る要納付税額をそのまま企業会計上の税費用として計上するのではな
く、一時差異等に係る税金の額を加減することにより企業会計上の税
引前当期利益に対する法人税等の額を算出し、この額を税務上の確定
申告による要納付税額が上回る場合には、その差額は次年度以降の利
益が負担すべき法人税等の前払分として、将来の期における税金の支
払 額 を 減 少 さ せ る こ と か ら 、「 繰 延 税 金 資 産 」 と い う 勘 定 で 貸 借 対 照
表上に資産計上することになる。したがって、繰延税金資産は、将来
の 期 に お け る 税 金 の 支 払 額 を 減 少 さ せ る 効 果 を 有 す る も の で あ り 、「
繰延税金資産の減少」は、将来の期における税金の減額効果という経
済的利益を受けられなくなることを意味する。他方、税務上の確定申
告による要納付税額が会計上の税引前当期利益に対する法人税等の額
を下回る場合には、当該下回る金額は次年度以降に支払うべき法人税
等 の 未 払 分 と し て 、 将 来 の 税 金 の 支 払 額 を 増 加 さ せ る こ と か ら 、「 繰
延税金負債」という勘定で貸借対照表上に負債計上することになる。
繰延税金資産又は繰延税金負債として計上される一時差異等に係る税
金の額は、前払分の回収又は未払分の支払が行われると見込まれる期
、すなわち一時差異等が解消すると見込まれる期の税率に基づいて計
算されるところ、その税率としては、利益を課税標準として課される
税金の所得に対する負担割合を意味する法定実効税率(法人税率・住
民税率・事業税率を元に算出される、それらの税金の所得に対する負
担 割 合 を い う 。) が 使 用 さ れ る 。 そ し て 、 繰 延 税 金 資 産 と 繰 延 税 金 負
債の差額を期首と期末で比較した増減額は、当期に納付すべき法人税
等 の 調 整 額 と し て 、「 法 人 税 等 調 整 額 」 と い う 勘 定 で 損 益 計 算 書 上 に
計 上 し な け れ ば な ら な い ([ 朝 日 監 査 法 人 ・ 意 見 書 ])。
(ウ) ところで、税効果会計を採用した場合において、税法令の改正など
により税負担の変更があったときには、財務諸表に将来の法人税等の
支払額に対する影響を適正に反映するという税効果会計導入の趣旨、
及び商法の会計規制の重要な目的である適正な配当可能利益の計算を
担保する必要から、過年度に計上された繰延税金資産及び繰延税金負
債につき、変更された税負担に基づく法定実効税率を算出して繰延税
金 資 産 の 再 計 算 を 行 う こ と が 求 め ら れ ([ 神 田 教 授 ・ 鑑 定 意 見 書 ])
、再計算により修正された差額は、損益計算書上、通常は税率変更に
係る改正税法令が公布された日を含む事業年度の「法人税等調整額」
に加減して処理される。
(エ) 税効果会計により計上される繰延税金資産及び当期利益は、各種の
税のうち「利益に関連する金額を課税標準とする事業税」に限って計
上されるものであるところ、本件条例が有効であるとすると、東京都
における銀行業等に対する法人事業税の課税標準が平成12事業年度
において従来の所得から外形基準である業務粗利益に変更され、業務
粗利益は「利益に関連する金額を課税標準とする事業税」には含まれ
ないから、法定実効税率の算出に使用される事業税に本件条例に基づ
く事業税を含めることはできず、その結果、当初原告らの法定実効税
率は減少し、将来の税負担軽減額相当分として資産計上されていた繰
延税金資産及び当期利益が減少することとなる。
ウ 原告らは、本件条例制定の結果、本件外形標準課税の対象となることが確
実であった各当初原告が繰延税金資産の再計算による修正を商法32条2項
- 31 -
、証券取引法193条及び財務諸表規則1条1項により強制的に要求され、
繰延税金資産をそれぞれ各当初原告に対応する別紙6記載の金額だけ減少さ
せることとなり、同額の損害を現実に受けた旨主張する。
しかしながら、本件条例は、前記2のとおり無効であるから、当初原告ら
に対して本件条例が有効に適用されることを前提とする当初原告らの繰延税
金資産の減少は、客観的には生じなかったものというほかない。前記アのと
おり、各当初原告は、その各繰延税金資産が別紙6の各当初原告に対応する
欄記載の額だけ減少した旨財務諸表等に記載したことが認められるが、財務
諸表において繰延税金資産を含む資産の計上額を減少させる会計処理が行わ
れるのは、原告らの主張するとおり、会社の財産が減少したという「事実が
発生」した場合に、その「事実が認識」され、財産の減少が「財務諸表上に
貨幣的に表現される」のであって、客観的に会社の繰延税金資産が減少した
という事実が発生しなければ、いくら財務諸表においてその計上額が減少し
たとしても、同額の損害が発生したことにはならないのは明らかである。よ
って、繰延税金資産の減少自体を損害とする原告らの主張には理由がないと
いうほかない。
他方、客観的には資産の減少が生じていないとしても、その事実に反して
財務諸表上当該資産の計上額が減少し、さらには当期利益の計上額を減少し
たかのように記載することを余儀なくされる場合には、同記載により当該会
社の信用低下等の損害が発生し得ることはいうまでもないし、当該会社はそ
のような一般取引界の認識を前提とした行動をとることを余儀なくされ、こ
の面においても営業上無視し得ない損害を被ることがある。そこで、これら
の損害については、項を改めて検討する。
(2) 信用低下及びそれによる営業上の損害
ア 本件条例は、平成12年3月30日に少なくとも適式に成立し、同日の時
点で今後施行されることは確実であった上、これを無効とする公権的判断は
下されていなかったし、既に成立以前から、その内容や銀行の財務内容に与
える影響について広く具体的に報道がされていたのであるから、一般取引界
においては、その時点において、本件条例が有効との前提の下にそれによっ
て銀行の財務内容にどのような影響が出るかを具体的に認識し、その認識を
前提として原告らに対する評価を行っていたと認めることができる。そして
、この時点における一般取引界における上記認識の具体的内容は、その時点
において本件条例が有効との前提で繰延税金資産の再計算をした結果と一致
するものと考えるのが相当であるから、そのような行為をすべき義務ないし
必要があったか否かにかかわらず、前記(1)アの原告らの財務諸表等への
記載と一致するものと考えられる。そうすると、原告らは、これにより、純
資産及び当期利益に関する原告らのいわゆる経営・財務指標上も減益として
消極的な評価を受けることになり、また、同様に、自己資本が減少したかの
ように評価されることとなって、銀行経営の健全性を判断するための基準で
ある自己資本比率が各当初原告につき別紙8のとおり減少するとの評価を受
けることとなったと認められる。経営・財務指標や自己資本比率(銀行法1
4条の2、長期信用銀行法17条参照)は、その会社の財務状態、経営の健
全性等を表す指標であり、自己資本が特定の銀行の安全性と健全性を表わす
重要な指数であることは公知の事実であり、上記繰延税金資産及び当期利益
の減少につき広く新聞報道もされたことが認められるから、当期利益や自己
資本比率といった指標が悪化したとの評価を受けることは、当初原告らの信
用を著しく低下させたものと認められる。
さらに、本件条例制定の結果、本件条例が公権的に無効であると判断され
るまでの間は、別紙7記載のとおり、平成12事業年度以降の事業税負担の
増加によって将来の利益の減少が見込まれるかのような様相を呈することと
なり、その額が決して小さいものとはいえないことから、各当初原告の債務
返済能力に対する信頼である各当初原告の信用も低下したものと認められる
。
以上のように本件条例の制定により当初原告らの信用が低下したことは、
非公開会社である原告みずほ信託銀行株式会社を除く各当初原告の株価が、
本件外形標準課税の構想を発表した平成12年2月7日から同月15日にか
けて、別紙11の1及び2記載のとおり、著しく下落したことが認められる
ことからも明らかである。
イ また、上記のように自己資本比率が低下(別紙8)したとの評価を受ける
こ と に よ り 、 銀 行 業 等 を 行 う 当 初 原 告 ら の 根 幹 的 な 収 入 源 で あ る 「貸 出 」の 余
力が低下するとの営業上の損害も生じたものと認められる。すなわち、自己
資本が低下する場合には、自己資本比率を維持するためにリスク・アセット
の上限額も低下させなければならず、それに伴い、貸出余力の上限も低下す
ることになる。この結果、原告らは、一般取引界によって認識されているそ
れぞれの自己資本比率を維持しようとすれば、その貸出余力低下分に相当す
- 32 -
る貸出を実行することが制限され、当該貸出から得られる可能性のある利子
収入につきこれを得られる可能性がなくなったということができる。すなわ
ち、貸出を実行すれば得られたであろうはずの「利子収入」の最大額が減少
することとなったものと認められる。証拠及び弁論の全趣旨によれば、各当
初原告の貸出余力低下額及びそれに係る利子収入の最大額の減少額は、別紙
12に記載のとおりであると認められる。
ウ その後、当初原告らの株価が回復していることから、株価の一時的な下落
を損害として直接評価することは困難であるし、貸出余力の上限の低下を直
接損害として評価することも困難ではあるものの、銀行業自体がもともと信
用を基礎として成り立っているものであることに加え、経済の国際化による
競争の激化によって、信用状態のわずかな変化も銀行にとっては大きな影響
を及ぼす状況が生じていると考えられることからすると、上記のような信用
の低下及び営業上の損害はその内容及び程度に照らし、当初原告らに重大な
無形の損害を及ぼしたとみるべきであって、これは誤納金の納付によって生
ずる還付加算金相当分の損害とは全く別個のものであり、その支払を受ける
ことでは解消しないものと考えるべきである。そして、以上の事情を総合考
慮すると、本件条例の制定により当初原告らが被った無形損害の金銭的評価
は、原告八十二銀行、原告福岡銀行及び原告みずほ信託銀行を除く各当初原
告1行については、それぞれ1億円を下らないものと認めるのが相当である
。
エ 他方、原告八十二銀行及び原告福岡銀行は、他の当初原告らとは財務内容
が大きく異なっており、原告八十二銀行は、本件条例の制定による財務諸表
上の繰延税金資産の減少額は2億3000万円で、貸出余力低下額に係る利
子収入の減少上限額は2300万円にすぎず、本件条例が有効であるとした
場合に増加することとなる事業税額も5年間で1000万円と当初原告らの
中でも極端に少ない。原告福岡銀行についても、本件条例の制定による財務
諸表上の繰延税金資産の減少額は6800万円と当初原告らの中では極端に
少なく、貸出余力低下額にかかる利子収入の減少上限額についても800万
円と当初原告らの中では極端に少なく、本件条例が有効であるとした場合に
増加することとなる事業税額も5年間で4500万円と原告八十二銀行に次
いで少ない。
また、原告みずほ信託銀行については、本件条例制定前において、その自
己資本比率が50.0781パーセントであり、その余の当初原告らの自己
資本比率が概ね10パーセント前後であるのと比較して極めて自己資本比率
が高く、本件条例の規定を前提として繰延税金資産及び当期利益が減少した
としても、その自己資本比率は49.0321パーセントに低下するにすぎ
ず、その結果、貸出余力低下額にかかる利子収入の減少上限額は1700万
円と原告福岡銀行に次いで少ない上、原告みずほ信託銀行は、非公開会社で
あって、少なくとも投資家間における信用の低下について他の公開会社であ
る当初原告らと同列に論ずることはできない。
これらの事情を考慮すれば、原告八十二銀行、原告福岡銀行及び原告みず
ほ信託銀行が本件条例の制定により被った無形損害の金銭的評価はそれぞれ
1000万円と認めるのが相当である。
(3) 損害賠償請求についての結論
以上のとおり、原告八十二銀行、原告福岡銀行及び原告みずほ信託銀行を除
くその余の各当初原告は、それぞれ1億円、原告八十二銀行、原告福岡銀行及
び原告みずほ信託銀行は、それぞれ1000万円の各損害を被ったものと認め
られ、これらの損害は、被告東京都知事らによる違法な本件条例制定のための
各行為に基づくものであるから、同各行為と各当初原告に発生した損害との間
には相当因果関係があるものと認められる。よって、各原告(各当初原告の損
害 賠 償 請 求 権 を 合 併 に よ り 承 継 し た 者 を 含 む 。) は 、 被 告 東 京 都 に 対 し 、 国 家
賠償法1条に基づいて、それぞれが被った損害の賠償を請求することができる
というべきであり、原告八十二銀行、原告福岡銀行及び原告みずほ信託銀行を
除くその余の各当初原告についてそれぞれ1億円、原告八十二銀行、原告福岡
銀行及び原告みずほ信託銀行についてそれぞれ1000万円及び同各金額に対
する平成12年10月24日(本件訴状送達日の翌日)から民法所定の年5パ
ーセントの割合による遅延損害金の支払を求める原告らの請求は、いずれも理
由があるものと認められる。
第4
1
結論
よって、被告東京都知事に対する請求2及び3に係る訴え及び被告東京都に対する
請求1及び4に係る訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、請求
5については、誤納金返還請求及び損害賠償請求として、被告東京都に対し、①原告
三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告に対して、それぞれ同各原告
に対応する別紙2(e)欄記載の各金員並びに同各金員のうち同各原告に対応する別
- 33 -
紙2(a)欄記載の各金員に対する別紙2(f)欄記載の各日から平成13年12月
31日までは年4.5パーセントの割合、平成14年1月1日から支払済みまでは年
4.1パーセントの割合による各金員、及び同各原告に対応する別紙2(c)欄記載
の各金員に対する平成12年10月24日から支払済みまで年5パーセントの割合に
よる各金員の支払を、②原告三菱信託銀行に対して、46億1937万4900円並
びにうち37億0081万6600円については平成13年8月3日から、うち7億
1855万8300円については同年7月30日からそれぞれ平成13年12月31
日までは年4.5パーセントの割合、平成14年1月1日から支払済みまではそれぞ
れ年4.1パーセントの割合による金員、及び2億円に対する平成12年10月24
日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員の支払を、③原告ユーエフジェ
イ銀行に対して、95億8595万0800円並びにうち65億0885万9500
円については平成13年7月29日から、うち28億7709万1300円について
は同年8月3日からそれぞれ平成13年12月31日までは年4.5パーセントの割
合、平成14年1月1日から支払済みまではそれぞれ年4.1パーセントの割合によ
る金員、及び2億円に対する平成12年10月24日から支払済みまで年5パーセン
トの割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の被
告東京都に対する金員請求には理由がないからこれを棄却することとする(請求6は
、請求5に対し、本件通知処分が無効ではないことを前提とする予備的請求であると
ころ、前記のとおり本件条例が無効である以上本件通知処分も無効であって、請求5
について一部棄却すべき点は請求6についても同様であるから、請求6については判
断 の 要 を み な い 。)。
2 なお、付言するに、本件条例については、前記認定のとおり都議会において圧倒的
多数の賛成の下に制定されたものであり、都民の多くがこれに賛意を表していたこと
は当裁判所に顕著な事実である。これらのことには、長期にわたる厳しい経済状況の
下において、そのような事態の発生と銀行業との関連についての一定の考え方が影響
を与えている可能性がうかがえないでもない。もとより、このような厳しい状況をよ
り早期に解消し、かつその再発を防止するために、そのような考え方の当否も含めて
事態の原因を究明することは有益なことであるし、その結果、法的責任を有する者が
あると判明した場合には、その責任を厳正に追求することも必要となろう。しかし、
それらは、冷静かつ専門的な見地から、それにふさわしい法的手続に則って行われる
べきものであり、現行の地方税法の下での銀行業に対する事業税の課税のあり方とは
全く無関係の問題である。
本判決は、このような見地から、本件条例が事業税に関する地方税法の定めに違反
するものか否かという点について判断を示したものである。したがって、本判決は、
現行の地方税法が立法論的にみて妥当なものか否かや、事業税以外の法定外税のあり
方といった点にも、何らふれていない。前者については、検討の要否も含めて立法府
たる国会の職責に属する事柄であるし、後者については、地方税法の法定外税に関す
る定めに則ってその当否を検討すべき問題であって、いずれも本件とは無関係の問題
である。
3 以上の次第で、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、6
2条(被告東京都知事は全部勝訴ではあるが、被告東京都の損害賠償債務の発生は被
告 東 京 都 知 事 の 行 為 に 起 因 す る こ と に か ん が み 同 条 の 趣 旨 を 類 推 す る 。)、 6 4 条 た
だし書、65条1項本文を、仮執行の宣言及び同免脱宣言につき行政事件訴訟法7条
、民事訴訟法259条1項及び3項を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日
平成14年1月15日)
(東京地方裁判所民事第3部
澤諭)
別紙一覧表
別紙番号
(別紙1)
(別紙2)
(別紙3)
(別紙4)
(別紙5)
(別紙6)
(別紙7)
(別紙8)
(別紙9)
(別紙10)
(別紙11の1)
(別紙11の2)
裁判長裁判官
藤山雅行
標 目
当事者目録
認容額一覧表
請求額一覧表
資金量一覧表
当事者の主張 省略
繰延税金資産減少額一覧表 省略
法人事業税比較一覧表 省略
自己資本比率比較一覧表 省略
自己資本比率適用基準一覧表 省略
納税額一覧表 省略
株価比較一覧表 省略
株価変動グラフ 省略
- 34 -
裁判官
村田斉志
裁判官
廣
(別紙12)
貸出余力低下額及び利子収入減少額一覧表
(別紙1)
当事者目録
東京都千代田区内幸町1丁目1番5号
第256号事件原告
省略
株式会社第一勧業銀行
( 以 下 「 原 告 第 一 勧 業 銀 行 」 と い う 。)
杉 田 力 之
同代表者代表取締役
東京都千代田区有楽町1丁目1番2号
株式会社さくら銀行訴訟承継人第261号事件原告兼第266号事件原告
( 平 成 1 3 年 4 月 1 日 の 商 号 変 更 前 の 商 号 は 「 株 式 会 社 住 友 銀 行 」)
株式会社三井住友銀行
( 以 下 「 原 告 三 井 住 友 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
西 川 善 文
東京都千代田区大手町1丁目5番5号
第262号事件原告
株式会社富士銀行
( 以 下 「 原 告 富 士 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
山 本 惠 朗
東京都千代田区丸の内2丁目7番1号
第263号事件原告
株式会社東京三菱銀行
( 以 下 「 原 告 東 京 三 菱 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
三 木 繁 光
東京都千代田区大手町1丁目1番2号
第264号事件原告
株式会社あさひ銀行
( 以 下 「 原 告 あ さ ひ 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
伊 藤 龍 郎
名古屋市中区錦3丁目21番24号
株式会社東海銀行訴訟承継人第268号事件原告兼第265号事件原告
( 平 成 1 4 年 1 月 1 5 日 付 け 商 号 変 更 前 の 商 号 は 「 株 式 会 社 三 和 銀 行 」)
株式会社ユーエフジェイ銀行
( 以 下 「 原 告 ユ ー エ フ ジ ェ イ 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
寺 西 正 司
大阪市中央区備後町2丁目2番1号
第267号事件原告
株式会社大和銀行
( 以 下 「 原 告 大 和 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
海 保
孝
横浜市西区みなとみらい3丁目1番1号
第269号事件原告
株式会社横浜銀行
( 以 下 「 原 告 横 浜 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
平 澤 貞 昭
長野市大字中御所字岡田178番地8
第270号事件原告
株式会社八十二銀行
( 以 下 「 原 告 八 十 二 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
茅 野
寛
富山市堤町通り1丁目2番26号
第271号事件原告
株式会社北陸銀行
( 以 下 「 原 告 北 陸 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
大 島 伸一郎
福岡市中央区天神2丁目13番1号
第272号事件原告
株式会社福岡銀行
( 以 下 「 原 告 福 岡 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
寺 本
清
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
日本信託銀行株式会社訴訟承継人第277号事件原告兼第273号事件原告
三菱信託銀行株式会社
( 以 下 「 原 告 三 菱 信 託 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
内 海 英 郎
東京都中央区八重洲1丁目2番1号
第274号事件原告
安田信託銀行株式会社
( 以 下 「 原 告 安 田 信 託 銀 行 」 と い う 。)
同代表者代表取締役
衛 藤 博 啓
東京都千代田区丸の内1丁目4番3号
第275号事件原告
ユーエフジェイ信託銀行株式会社
( 平 成 1 4 年 1 月 1 5 日 付 け 商 号 変 更 前 の 商 号 は 「 東 洋 信 託 銀 行 株 式 会 社 」。 以 下
「 原 告 ユ ー エ フ ジ ェ イ 信 託 銀 行 」 と い う 。)
- 35 -
同代表者代表取締役
東京都中央区京橋1丁目7番1号
第276号事件原告
同代表者代表取締役
大阪市中央区北浜4丁目5番33号
第278号事件原告
同代表者代表取締役
東京都千代田区丸の内1丁目6番2号
第279号事件原告
同代表者代表取締役
東京都千代田区丸の内1丁目3番3号
第280号事件原告
同代表者代表取締役
原告ら訴訟代理人弁護士
同
同
同訴訟復代理人弁護士
同
同
原告ら訴訟代理人弁護土
同
同
同
同
同
同
東京都新宿区西新宿2丁目8番1号
被
告
同代表者知事
同所
被
告
被告ら訴訟代理人弁護士
同訴訟復代理人弁護士
同
被告ら訴訟代理人弁護士
被告ら指定代理人
同
同
同
同
同
同
同
土
居
安
邦
中央三井信託銀行株式会社
( 以 下 「 原 告 中 央 三 井 信 託 銀 行 」 と い う 。)
古 沢 照一郎
住友信託銀行株式会社
( 以 下 「 原 告 住 友 信 託 銀 行 」 と い う 。)
高 橋
温
みずほ信託銀行株式会社
( 以 下 「 原 告 み ず ほ 信 託 銀 行 」 と い う 。)
山 田 正 次
株式会社日本興業銀行
( 以 下 「 原 告 日 本 興 業 銀 行 」 と い う 。)
西 村 正 雄
園 部 逸 夫
西 村 利 郎
岩 倉 正 和
小久保
崇
矢 嶋 雅 子
岡 田 純 一
櫻 庭 信 之
佐 藤 丈 文
弘 中 聡 浩
斎 藤 玄 太
中 山 龍太郎
飛 田
博
櫻 井 由 章
東
石
京
原
都
慎太郎
東京都知事
上 谷
笹 本
山 口 健
半 田 良
小 林 紀
中 村 次
松 田 英
直 井 春
小 嶋
武
利
宮 崎 俊
川 村 栄
石原慎太郎
清
摂
司
樹
歳
良
智
夫
稔
幸
郎
一
以 上
(別紙2) 認容額一覧表
(日付は平成13年)
----------------------------------------
|
|(a)
|(b)
|(c)
|
| 原
告
名
|誤納金請求認容額 |損害賠償請求金額|損害賠償請求認容|
|
|
(千円)|
( 千 円 ) | 金 額 ( 注 )( 千 円 |
|----------+---------+--------+--------|
|第一勧業銀行
|
5789635|
100000|
100000|
|三井住友銀行
| 16633029|
200000|
200000|
|富士銀行
|
8577623|
100000|
100000|
|東京三菱銀行
|
7322203|
100000|
100000|
|あさひ銀行
|
4113081|
100000|
100000|
|ユーエフジェイ銀行 |
9385950|
200000|
200000|
|(旧三和銀行分)
|(6508859)|(100000)|(100000)|
|(旧東海銀行分)
|(2877091)|(100000)|(100000)|
|大和銀行
|
1078529|
100000|
100000|
|横浜銀行
|
532399|
100000|
100000|
- 36 -
|八十二銀行
|
13172|
100000|
10000|
|北陸銀行
|
163018|
100000|
100000|
|福岡銀行
|
14594|
100000|
10000|
|三菱信託銀行
|
4419374|
200000|
200000|
|(旧三菱信託銀行分)|(3700816)|(100000)|(100000)|
|(旧日本信託銀行分)| (718558)|(100000)|(100000)|
|安田信託銀行
|
1035318|
100000|
100000|
|ユーエフジェイ信託銀行
1792369|
100000|
100000|
|中央三井信託銀行
|
4191352|
100000|
100000|
|住友信託銀行
|
2264864|
100000|
100000|
|みずほ信託銀行
|
849477|
100000|
10000|
|日本興業銀行
|
4284830|
100000|
100000|
|----------+---------+--------+--------|
|
合
計
| 72460825| 2100000| 1830000|
----------------------------------------
----------------------------------------
|
|(d)
|(e)
|(f)
|
| 原
告
名
|請求元本額
|請求認容元本額
|誤納金に係る還|
|
|
(千円)|
(千円) |付加算金発生日|
|
|
|
|(月/日)
|
|----------+---------+---------+-------|
|第一勧業銀行
|
5889635|
5889635|
8/3|
|三井住友銀行
| 16833029| 16833029|
8/3|
|富士銀行
|
8677623|
8677623|
8/3|
|東京三菱銀行
|
7422203|
7422203|
8/3|
|あさひ銀行
|
4213081|
4213081|
8/3|
|ユーエフジェイ銀行 |
9585950|
9585950|
|
|(旧三和銀行分)
|(8608859)|(8608859)|
7/29|
|(旧東海銀行分)
|(2977091)|(2977091)|
8/3|
|大和銀行
|
1178529|
1178529|
7/30|
|横浜銀行
|
632399|
632399|
8/3|
|八十二銀行
|
113172|
23172|
7/28|
|北陸銀行
|
263018|
263018|
7/30|
|福岡銀行
|
114594|
24594|
7/30|
|三菱信託銀行
|
4619374|
4619374|
|
|(旧三菱信託銀行分)|(3800816)|(3800816)|
8/3|
|(旧日本信託銀行分)| (818558)| (818558)|
7/30|
|安田信託銀行
|
1135318|
1135318|
8/3|
|ユーエフジェイ信託銀行
1892369|
1892369|
8/3|
|中央三井信託銀行
|
4291352|
4291352|
8/3|
|住友信託銀行
|
2364864|
2364864|
8/3|
|みずほ信託銀行
|
949477|
859477|
7/27|
|日本興業銀行
|
4384830|
4384830|
8/3|
|----------+---------+---------+-------|
|
合
計
| 74560825| 74290825|
|
----------------------------------------
(注) 損害賠償請求認容額に対する遅延損害金の起算日はいずれも平成12年10月2
4日である。
(別紙3) 請求額一覧表
(日付はすべて平成13年)
----------------------------------------
|
|(a)
|(b)
|(c)
|
| 原
告
名
|既納金額
|旧基準税額
|過誤納金額
|
|
|
(千円)|
(千円)|
(千円)|
|
|
注1|
注 2 | (( a ) - ( b )) |
|----------+---------+-------+---------|
|第一勧業銀行
|
5921310|3131075|
5769835|
|三井住友銀行
| 16633029|
0| 16633029|
|(旧さくら銀行分) |(8736462)|
(0)|(8736462)|
|(旧住友銀行分)
|(7896585)|
(0)|(7896685)|
|富士銀行
|
8577523|
0|
8577623|
|東京三菱銀行
| 13953419|6641215|
7322203|
|あさひ銀行
|
4113081|
0|
4113081|
|ユーエフジェイ銀行 |
8365950|
0|
8385950|
- 37 -
|(旧三和銀行分)
|(6508859)|
(0)|(6508859)|
|(旧東海銀行分)
|(2877091)|
(0)|(2877091)|
|大和銀行
|
1904410| 825830|
1078529|
|横浜銀行
|
532399|
0|
532399|
|八十二銀行
|
129292| 115119|
13172|
|北陸銀行
|
163018|
0|
163018|
|福岡銀行
|
44595|
30000|
14584|
|三菱信託銀行
|
4419374|
0|
4419374|
|(旧三菱信託銀行分)|(3700615)|
(0)|(3700516)|
|(旧日本信託銀行分)| (718558)|
(0)| (718558)|
|安田信託銀行
|
1035318|
0|
1035318|
|ユーエフジェイ信託銀行
1792369|
0|
1792369|
|中央三井信託銀行
|
4191352|
0|
4191352|
|住友信託銀行
|
2264864|
0|
2264864|
|みずほ信託銀行
|
849477|
0|
849477|
|日本興業銀行
|
4284830|
0|
4284830|
----------------------------------------
-------------------------------
|
|(d)
|(e)
|
| 原
告
名
|損害賠償請求金額|請求元本額
|
|
|
(千円)|
(千円)|
|----------+--------+-------+-|
|第一勧業銀行
|
100000|
5889635|
|三井住友銀行
|
200000| 16633029|
|(旧さくら銀行分) |(100000)|(8836462)|
|(旧住友銀行分)
|(100000)|(7995565)|
|富士銀行
|
100000|
8677623|
|東京三菱銀行
|
100000|
7422203|
|あさひ銀行
|
100000|
4213081|
|ユーエフジェイ銀行 |
200000|
8585950|
|(旧三和銀行分)
|(100000)|(6608859)|
|(旧東海銀行分)
|(100000)|(2977691)|
|大和銀行
|
100000|
1178529|
|横浜銀行
|
100000|
632399|
|八十二銀行
|
100000|
113172|
|北陸銀行
|
100000|
263018|
|福岡銀行
|
100000|
114594|
|三菱信託銀行
|
200000|
4519374|
|(旧三菱信託銀行分)|(100000)|(3800516)|
|(旧日本信託銀行分)|(100000)| (818558)|
|安田信託銀行
|
100000|
1135318|
|ユーエフジェイ信託銀行
100000|
1892359|
|中央三井信託銀行
|
100000|
4291352|
|住友信託銀行
|
100000|
2364864|
|みずほ信託銀行
|
100000|
949477|
|日本興業銀行
|
100000|
4384830|
-------------------------------
----------------------------------------
|
|(f) |(g) |(h)
|(i)
|(j)
|
| 原
告
名
|納付日 |更正請求|更正請求否|誤納金に係|過納金に係|
|
|
|日
|認通知日 |る還付加算|る還付加算|
|
|
|
|(月/日)|金発生日 |金発生日 |
|
|
|
|
|(月/日)|(月/日)|
|----------+----+----+-----+-----+-----|
|第一勧業銀行
| 7/2| 7/8| 8/30|
8/3| 10/7|
|三井住友銀行
| 7/2|7/10| 8/30|
8/3|10/11|
|(旧さくら銀行分) | 7/2|7/10| 8/30|
-|
-|
|(旧住友銀行分)
| 7/2|7/10| 8/30|
-|
-|
|富士銀行
| 7/2| 7/3| 8/30|
8/3| 10/4|
|東京三菱銀行
| 7/2|7/10| 8/30|
8/3|10/11|
|あさひ銀行
| 7/2| 7/6| 8/30|
8/3| 10/7|
|ユーエフジェイ銀行 |
|
|
|
|
|
|(旧三和銀行分)
|6/28|7/10| 8/30| 7/29|10/11|
|(旧東海銀行分)
| 7/2|7/12| 8/30|
8/3|10/13|
|大和銀行
|6/29|7/10| 8/30| 7/30|10/11|
- 38 -
|横浜銀行
| 7/2| 7/9| 8/30|
8/3|10/10|
|八十二銀行
|6/27|7/11| 8/30| 7/28|10/12|
|北陸銀行
|6/29|7/24| 8/30| 7/30|10/23|
|福岡銀行
|6/29|7/12| 8/30| 7/30|10/13|
|三菱信託銀行
|
|
|
|
|
|
|(旧三菱信託銀行分)| 7/2| 7/6| 8/30|
8/3| 10/7|
|(旧日本信託銀行分)|6/29|7/12| 8/30| 7/30|10/13|
|安田信託銀行
| 7/2|7/11| 8/30|
8/3|10/12|
|ユーエフジェイ信託銀行 7/2| 7/9| 8/30|
8/3|10/10|
|中央三井信託銀行
| 7/2|7/11| 8/30|
8/3|10/12|
|住友信託銀行
| 7/2| 7/4| 8/30|
8/3| 10/5|
|みずほ信託銀行
|6/28| 7/5| 8/30| 7/27| 10/7|
|日本興業銀行
| 7/2| 7/4| 8/30|
8/3| 10/5|
----------------------------------------
注1 既納税額とは、被告東京都が平成12年4月1日に制定した「東京都における銀行
業 等 に 対 す る 事 業 税 の 課 税 標 準 等 の 特 例 に 関 す る 条 例 」( 東 京 都 条 例 第 1 4 5 号 ) に
基づき納付した、平成12年4月1日に開始する事業年度にかかる事業税額
注2 旧基準税額とは、地方税法72条の12に従い事業税の課税標準を所得とし、従来
の税率で算出された平成12年4月1日に開始する事業年度にかかる事業税額
(別紙4) 資金量一覧表
(平成12年3月31日現在)
(単位:百万円)
-------------------------------
|? |
当初原告銀行名
| 資 金 量 額
|
|
|(いずれも「株式会社」は省略)|
|
|--+---------------+----------|
| 1|第一勧業銀行
|
35056562|
| 2|さくら銀行
|
33342655|
| 3|富士銀行
|
32015560|
| 4|東京三菱銀行
|
46324908|
| 5|あさひ銀行
|
22133354|
| 6|三和銀行
|
33855251|
| 7|住友銀行
|
34299831|
| 8|大和銀行
|
25296807|
| 9|東海銀行
|
20563402|
|10|横浜銀行
|
8908705|
|11|八十二銀行
|
5076412|
|12|北陸銀行
|
5304877|
|13|福岡銀行
|
5719384|
|14|三菱信託銀行
|
33217544|
|15|安田信託銀行
|
7758509|
|16|東洋信託銀行
|
19811025|
|17|中央三井信託銀行
|
42878157|
|
|(旧三井信託銀行)
|(29908460)|
|
|(旧中央信託銀行)
|(12969696)|
|18|日本信託銀行
|
5988560|
|19|住友信託銀行
|
33928098|
|20|みずほ信託銀行
|
12553581|
|21|日本興業銀行
|
26233322|
-------------------------------
(注1) 原告中央三井信託銀行は、平成12年4月1日の三井信託銀行と中央信託銀行
との合併後の会社である。原告中央三井信託銀行の数字は、旧三井信託銀行と旧
中央信託銀行の平成12年3月31日現在の資金量の合計額である。
(注2) 原告みずほ信託銀行は、平成12年10月1日の第一勧業富士信託銀行と興銀
信託銀行との合併後の会社である。原告みずほ信託銀行の数値には興銀信託銀行
の資金量は含まれていない。
略称一覧
略称
「本件条例」
「請求1」
事 項
被告東京都が平成12年4月1日に制定した「東京都にお
ける銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する
条 例 」( 東 京 都 条 例 第 1 4 5 号 )
原告らと被告東京都との間で本件条例が無効であることの
- 39 -
「請求2」
「請求3」
「請求4」
「 請 求 5 ( 1 )」
「 請 求 5 ( 2 )」
「 請 求 5 ( 3 )」
「請求5」
「請求6(1)ア」
「請求6(1)イ」
「請求6(2)ア」
「請求6(2)イ」
確認を求める請求
原告らと被告東京都知事との間で本件条例が無効であるこ
との確認を求める請求
被告東京都知事が原告らに対し本件条例に基づく平成13
年4月1日に開始する事業年度分の事業税に係る更正処分
及び決定処分をしてはならないとの不作為を求める請求
原告らと被告東京都との間で原告らが本件条例に基づき平
成13年4月1日に開始する事業年度に係る事業税を納付
する租税債務を有しないことの確認を求める請求
被告東京都が、原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ
銀行を除く各原告に対し、それぞれ同各原告に対応する別
紙3(e)欄記載の各金員並びに同各金員のうち同各原告
に対応する別紙3(c)欄記載の各金員に対する別紙3(
i)欄記載の各日から支払済みまで年4.5パーセントの
割合による各金員、及び同各原告に対応する別紙3(d)
欄記載の各金員に対する平成12年10月24日から支払
済みまで年5パーセントの割合による各金員を支払うこと
を求める請求
被告東京都が、原告三菱信託銀行に対し、46億1937
万4900円並びにうち37億0081万6600円に対
する平成13年8月3日から、うち7億1855万830
0円に対する同年7月30日からそれぞれ支払済みまで年
4.5パーセントの割合による金員、及び2億円に対する
平成12年10月24日から支払済みまで年5パーセント
の割合による金員を支払うことを求める請求
被告東京都が、原告ユーエフジェイ銀行に対し、95億8
595万0800円並びにうち65億0885万9500
円に対する平成13年7月29日から、うち28億770
9万1300円に対する同年8月3日からそれぞれ支払済
みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び2億円
に対する平成12年10月24日から支払済みまで年5パ
ーセントの割合による金員を支払うことを求める請求
請求5(1)ないし(3)
原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原
告が申告納付した平成12年4月1日に開始する事業年度
に係る事業税が過大申告であったとして同各原告に対応す
る別紙3(g)欄記載の各日に行った各更正請求に対し、
被告東京都知事が平成13年8月30日付けで同各原告に
対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないこと
にした」旨の各通知処分の取消しを求める請求
被告東京都が、原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ
銀行を除く各原告に対し、それぞれ同各原告に対応する別
紙3(e)欄記載の各金員並びに同各金員のうち同各原告
に対応する別紙3(c)欄記載の各金員に対する別紙3(
i)欄記載の各日から支払済みまで年4.5パーセントの
割合による各金員、及び同各原告に対応する別紙3(d)
欄記載の各金員に対する平成12年10月24日から支払
済みまで年5パーセントの割合による金員を支払うことを
求める請求
原告三菱信託銀行が申告納付した平成12年4月1日に開
始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして別
紙3(g)欄の(旧三菱信託銀行分)欄及び同(g)欄の
(旧日本信託銀行分)欄記載の各日に行った各更正請求に
対し、被告東京都知事が平成13年8月30日付けで原告
三菱信託銀行及び訴訟承継前第277号事件原告日本信託
銀行株式会社に対してそれぞれした「理由がないと認め、
更正しないことにした」旨の各通知処分の取消しを求める
請求
被告東京都が、原告三菱信託銀行に対し、46億1937
万4900円並びにうち37億0081万6600円に対
する平成13年10月7日から、うち7億1855万83
00円に対する同年10月13日からそれぞれ支払済みま
で年4.5パーセントの割合による金員、及び2億円に対
する平成12年10月24日から支払済みまで年5パーセ
ントの割合による金員を支払うことを求める請求
- 40 -
「請求6(3)ア」
「請求6(3)イ」
「請求6」
「例外4業種」
「外形標準」
「外形課税」又は
「外形標準課税」
「業務粗利益等」
「銀行業等」
「本件外形標準課税」
「銀行等」
「当初原告ら」
「各当初原告」
「既納税額」
「平成12事業年度」
「本件通知処分」
「平成13事業年度」
「財務諸表規則」
「小早川教授・鑑定意見書」
「適法3要件」
「新基準税額」
「旧基準税額」
「早期健全化法」
「首藤教授・鑑定意見書」
「他業種法人」
「碓井教授・鑑定意見書」
「首藤教授・意見書」
「不良債権処理額」
「52年外形課税実施案」
原告ユーエフジェイ銀行が申告納付した平成12年4月1
日に開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったと
して別紙3(g)欄の(旧三和銀行分)欄及び同(g)欄
の(旧東海銀行分)欄記載の各日に行った各更正請求に対
し、被告東京都知事が平成13年8月30日付けで訴訟承
継前第265号事件原告株式会社三和銀行及び訴訟承継前
第268号事件原告株式会社東海銀行に対してそれぞれし
た「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の各通
知処分の取消しを求める請求
被告東京都が、原告ユーエフジェイ銀行に対し、95億8
595万0800円並びにうち65億0885万9500
円に対する平成13年10月11日から、うち28億77
09万1300円に対する同年10月13日からそれぞれ
支払済みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び
2億円に対する平成12年10月24日から支払済みまで
年5パーセントの割合による金員を支払うことを求める請
求
請求6(1)ないし(3)の各ア及びイ
地方税法72条の12の定める、電気供給業、ガス供給業
、生命保険業及び損害保険業の4業種
事業税につき、各事業年度の「所得及び清算所得」以外の
課税標準
外形標準を用いた課税
本件条例2条3項の定める「業務粗利益等」
本件条例2条1項の定める「銀行業等」
本 件 条 例 の 定 め る 、「 銀 行 業 等 」 に 対 す る 法 人 事 業 税 の 課
税標準を業務粗利益等とする外形標準課税
各事業年度の終了の日において本件条例2条2項の定める
「資金」の量が5兆円以上である銀行業等を行う法人
原告三井住友銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く原告
ら、第266号事件原告株式会社住友銀行(商号変更前)
、訴訟承継前第261号事件原告株式会社さくら銀行、訴
訟承継前第277号事件原告日本信託銀行株式会社、第2
65号事件原告株式会社三和銀行(商号変更前)並びに訴
訟承継前第268号事件原告株式会社東海銀行
当初原告らの個々の者
本件条例に基づき計算された事業税額
平成12年4月1日から開始する事業年度
被告東京都知事が平成13年8月30日付けで各当初原告
に対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないこ
とにした」旨の通知処分
平成13年4月1日から開始する事業年度
財務諸表等の用語、株式及び作成方法に関する規則(昭和
38年大蔵省令第59号)
甲第166号証[小早川光郎東京大学教授・鑑定意見書]
予防的不作為訴訟の適法要件について、下級審の裁判例が
挙げるとされる、①行政庁が処分をすべきことについて法
律上覊束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残さ
れていないために、第一次的な判断権を行政庁に留保する
ことが必ずしも重要でないと認められること(一義的明白
性 )、 ② 事 前 審 査 を 認 め な い こ と に よ る 損 害 が 大 き く 、 事
前 の 救 済 の 必 要 が 顕 著 で あ る こ と ( 緊 急 性 )、 及 び ③ 他 に
救済方法がないこと(補充性)という3要件
本件条例に基づいて計算された税額
地方税法72条の12の原則規定に従い課税標準を所得と
して従来の税率で計算した事業税額
「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律」
甲第167号証[首藤重幸早稲田大学教授・鑑定意見書]
銀行業等以外の事業を行う法人
甲第85号証[碓井光明東京大学教授・鑑定意見書]
甲第100号証[首藤重幸早稲田大学教授・意見書]
貸 倒 引 当 金 繰 入 額 ( 一 般 及 び 個 別 )、 貸 出 金 償 却 及 び 不 良
債権売却損等
法人事業税外形課税実施問題研究会(16都道府県 委員
- 41 -
「本件公布行為」
「本件条例制定関係行為」
「弥永助教授・鑑定意見書」
「個別実務指針」
「神田教授・鑑定意見書」
「朝日監査法人・鑑定意見
書」
「大阪府条例」
「損害合計額」
「23年法」
「25年法」
「繰延税金資産」
長福岡県副知事)が昭和52年11月30日に取りまとめ
た「法人事業税の外形課税の実施に関する報告」
被告東京都知事が本件条例を公布したこと
被告東京都知事、主税局長以下主税局職員、東京都議会を
構成する東京都議会議員その他被告東京都の公務員が行っ
た、本件条例の議案の立案行為、当該議案の東京都議会へ
の提出行為、当該議案の議決行為及び本件条例の公布行為
等の一連の行為
甲第157号証[弥永真生筑波大学助教授・鑑定意見書]
個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針
甲第158号証[神田秀樹東京大学教授・鑑定意見書]
甲第159号証[朝日監査法人・鑑定意見書]
大阪府の外形標準課税条例
各当初原告がそれぞれ被った損害の合計額として主張して
いる、別紙6記載の各損害額にそれぞれ金1億円を加算し
た金額
昭和23年法律第110号により全部改正された地方税法
昭和29年法律第95号による改正前の地方税法(昭和2
5年法律第226号)
税効果会計の適用により財務諸表等規則8条の12第1項
1号に基づき資産として計上される金額
- 42 -
控訴審:東京高裁平成14年(行コ)第94号、第245号ないし第261号東京都外形
標 準 課 税 条 例 無 効 確 認 等 請 求 控 訴 事 件 ( 却 下 、 棄 却 、 一 部 認 容 )( 一 審 原 告 上 告 )
判決要旨
( 文 中 の 頁 数 は 、 判 決 書 の 頁 数 を 示 す も の で あ る 。)
第1
判決主文
末尾添付のとおり
第2
事案の概要〔7頁~〕
本件は、一審被告東京都が、各事業年度の終了日に資金量5兆円以上の銀行業等を行
う法人に対し、業務粗利益を課税標準として税率100分の3の法人事業税を課税する
本件条例を制定したことについて、納税義務者である一審原告らが、本件条例は憲法及
び地方税法の関係する条項に違反して無効であると主張して、一審被告東京都及び一審
被 告 東 京 都 知 事 に 対 し 、 本 件 条 例 の 無 効 確 認 請 求 ( 請 求 1 及 び 2 )、 一 審 被 告 東 京 都 に
対し、平成13事業年度(平成13年4月1日から開始する1年間の事業年度)分の事
業税を対象とする本件条例に基づく更正処分及び決定処分の差止め請求(請求3)並び
に本件条例に基づく租税債務不存在確認請求(請求4)をするとともに、一審被告東京
都に対し本件条例に基づき計算し申告納付した事業税額について、一審被告東京都に対
し、主位的に、誤納金としての還付及び還付加算金の支払請求(請求5の一部)を、予
備的に、一審被告東京都知事に対し、一審原告らの過大申告を理由とする更正請求につ
いて一審被告東京都知事が行った「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の通
知処分の取消しを請求し、それを前提に一審被告東京都に対し、上記事業税額の過納金
としての還付及び還付加算金の支払請求(請求6の一部)をし、そして、本件条例制定
に至る一審被告東京都知事及び一審被告東京都の担当職員等の一連の行為等が違法であ
り故意・過失があることを理由として、一審被告東京都に対し、国家賠償請求(請求5
及び6の残部)を求めた事案である。
原判決は、請求1ないし4については不適法な訴えであるとして却下したが、請求5
については、本件条例が地方税法72条の19に違反し無効なものであり、平成12事
業年度分の事業税に関する一審被告東京都知事の通知処分も無効であるとして、誤納金
の還付請求を認めるとともに、本件条例制定に至る一連の行為等は国家賠償法上違法で
あり、一審被告東京都の担当者及び一審被告東京都知事に過失が認められるとして、国
家賠償請求を認めた。
原判決に対し、一審原告ら及び一審被告東京都が控訴をした。一審原告らは、控訴審
係属中に平成13事業年度分の事業税を納付したことから、その事業税を対象とする本
件条例に基づく更正処分等の差止請求(請求3)及び租税債務不存在確認請求(請求4
)に係る訴えに代えて、一審被告東京都に平成13事業年度分として納付した事業税額
について、主位的に、誤納金の還付及び還付加算金の支払請求(控訴審における追加的
請求6)を、予備的に、一審被告東京都知事に対するその通知処分の取消しと一審被告
東京都に対する過納金の還付及び還付加算金の支払の請求(控訴審における追加的請求
7)を、さらに、平成14事業年度分の事業税を対象とする本件条例に基づく租税債務
不存在確認請求(控訴審における追加的請求5)に係る訴えを本件訴訟に併合して提起
し、各訴えは、一審被告らの同意を得た上で本件訴訟と併合して審理されることとなっ
た ( 行 政 事 件 訴 訟 法 1 9 条 1 項 )。
したがって、控訴審において判断を求められているのは、
① 本 件 条 例 の 無 効 確 認 請 求 ( 原 判 決 に お け る 請 求 1 及 び 2 )、
② 平成14事業年度分の事業税を対象とする租税債務不存在確認請求(控訴審におけ
る 追 加 的 請 求 5 )、
③ 平成12事業年度分及び平成13事業年度分の各事業税を対象とする誤納金還付(
主 位 的 )、 通 知 処 分 の 取 消 し と 過 納 金 還 付 請 求 ( 予 備 的 ) 及 び 国 家 賠 償 請 求 ( 平 成 1
2事業年度分を対象とするもの及び国家賠償請求が原判決における請求5及び6、平
成13事業年度分を対象とするものが控訴審における追加的請求6及び7)
である。
(なお、原審で原告であった富士銀行は、商号変更により一審原告みずほコーポレート
銀行となり、原審で原告であった日本興業銀行の訴訟を承継し、原審で原告であった第
一勧業銀行及び安田信託銀行は、商号変更によりそれぞれ一審原告みずほ銀行及び一審
原告みずほアセット信託銀行となった。また、控訴審において、一審原告北陸銀行は、
原判決で誤納金還付請求が認められた平成12事業年度分の事業税額の一部の還付を受
け た こ と か ら 、 そ の 請 求 額 を 減 縮 し た 。)
第3
1
当裁判所の判断〔12頁~〕
本件条例の無効確認請求(請求1及び2)及び租税債務不存在確認請求(控訴審に
おける追加的請求5)に係る訴えの適法性について〔12頁~〕
(1) 本件条例の無効確認請求(請求1及び2)の法律上の争訟性等について〔1
- 43 -
2頁~〕
本件条例の無効確認請求(請求1及び2)は、法律上の争訟性を欠き、また
、本件条例の制定・公布が抗告訴訟の対象となる行政処分性を有すると解する
ことはできないから、同請求に係る訴えは不適法である。その理由は、次のと
おり付加するほか、原判決〔13頁13行目冒頭から同17頁11行目末尾ま
で の 「( 1 ) 請 求 1 及 び 2 に つ い て 」 欄 〕 の と お り で あ る 。
「本件条例の制定や施行自体に法律上の争訟性や行政処分性が認められるた
めには、本件条例の制定なり施行によって一審原告らの「具体的な」権利義務
や 法 的 地 位 に 対 し 、「 直 接 的 な 」 影 響 を 及 ぼ す こ と が 必 要 で あ る が 、 条 例 の 制
定なり施行は、一般的な規範を定立することを目的とするものであって、条文
の文言上その適用対象として規定されている個人や法人の「具体的な」権利義
務や法的地位に「直接的な」影響を及ぼすような内容を持つものではない。そ
うした内容を持った例外的な条例もあり得るが、本件条例は、その文言や内容
を精査しても、各事業年度の終了の日における資金の量が5兆円以上である銀
行業等を行う法人を課税の対象として規定するにとどまり、本件条例の制定・
施行が直ちに一審原告らの「具体的な」権利義務や法的地位に「直接的な」影
響を及ぼすものであるとは認められない。本件条例の制定過程では、一審被告
東京都の職員、一審被告東京都知事、東京都議会議員らが、一審原告らも含め
た大手の銀行30行に適用されることになることを予測し、その前提で、本件
条例案の準備、審議における説明・答弁・質疑等が行われたが、そこで問題と
なっている本件条例の「適用」は、あくまでもこれが制定・施行された場合の
適用可能性のことであって、法律的に当然に適用されることを前提とする趣旨
のものではない。また、繰延税金資産及び当期利益の減少についても、実際上
の関連性は認められるとしても、法的な意味では、本件条例の制定・施行後、
一審原告らに本件条例に基づく具体的な租税権利義務関係が生じて初めて関連
性が問題となる点に変わりはなく、上記の「直接的に」及ぼした「具体的な」
権 利 義 務 へ の 影 響 で あ る と 評 価 で き な い 。」
(2) 一審原告らの「回復し難い損害」について〔14頁~〕
不 利 益 処 分 の 根 拠 法 令 で あ る 本 件 条 例 の 無 効 確 認 請 求 ( 請 求 1 及 び 2 )、 平
成14事業年度分事業税について予想される不利益処分によって具体的に形成
される権利義務関係の不存在確認請求(控訴審における追加的請求5)は、本
件条例の効力を争うことにより、一審被告東京都知事の不利益処分を事前に予
防することを求めるものであるが、このような予防的訴訟は、現行行政事件訴
訟法の構造等から例外的なものであり、これが認められるためには、不利益処
分を受けてから、それに関する訴訟の中で、事後的に不利益処分の根拠となる
法 令 の 効 力 を 争 っ た の で は 、「 回 復 し 難 い 損 害 」 を 被 る お そ れ が あ る 等 事 前 の
救済を認めないことを「著しく不相当とする特段の事情」があることが必要で
あり、本件においては、こうした特段の事情を認めるに足りる証拠はないので
、標記の各請求に係る訴えはいずれも不適法で却下を免れない。その理由は、
以下のとおり付加するほか、原判決〔17頁12行目冒頭から同21頁19行
目 末 尾 ま で の 「( 2 ) 請 求 1 な い し 4 に つ い て 」 欄 〕 の と お り で あ る 。
「一審原告らが「回復し難い損害」と主張するものは、社会的信用や評価の
低下に代表されるように、具体的な損害についての法的な評価が困難なもので
あるし、そもそも一審原告らの事業活動には、銀行を取り巻くここ数年の厳し
い経済情勢、基本的な経営方針、事業の組織、営業活動の実情といった各一審
原告固有の事情から、国家の経済政策といった社会一般の事情まで、多種多様
な諸要因が複合的に影響し作用を及ぼしている。そして、本件条例の事業税の
納税が、一審原告らの事業活動に具体的にどの程度の悪影響を及ぼし、それが
他の影響を及ぼした要因と比べて、法的な意味で決定的なものないしは主因的
なものであったかを確定することは、その性格上困難である。また、一審原告
らは、留保文言付きの事業税の申告納付をしていると主張するが、これに必要
な多大な資金の調達が、一審原告らの事業活動に影響を及ぼしているが、これ
についても、多種多様な諸要因の複合的な作用が働くものであることから、こ
の資金調達の一審原告らの事業活動に与えるマイナスの影響の具体的な程度や
法的な評価を確定することは、困難である。そのほか、一審原告らが「回復し
難い損害」と主張する繰延税金資産及び当期利益の減少等の損害は、本件条例
の効力を争い誤過納金の還付や国家賠償を求める事後的な救済方法によって、
確定され決着されるべき事項であって、一審原告らの「回復し難い損害」を基
礎 付 け る も の で は な い 。」
2
本件条例の適法性・有効性について〔16頁~〕
(1) 現行事業税の性格〔30頁~〕
現 行 事 業 税 の 導 入 に 至 る 経 過 〔 1 7 頁 ~ 〕、 本 件 条 例 に 至 る ま で の 外 形 標 準
課 税 に 関 す る 議 論 等 ( 立 案 担 当 者 、 所 管 官 庁 等 の 考 え 方 〔 2 1 頁 ~ 〕、 本 件 条
例 以 前 の 外 形 標 準 課 税 導 入 に 向 け た 動 き 〔 2 4 頁 ~ 〕、 学 界 等 有 織 者 の 議 論 〔
- 44 -
2 7 頁 ~ 〕、 内 閣 法 制 局 部 長 の 国 会 答 弁 〔 2 9 頁 ~ 〕) に よ れ ば 、 事 業 税 の 立
案担当者は、実際上の理由から「所得」を事業税の課税標準としているが、事
業 税 は 応 益 的 な 考 え 方 に 基 づ き 構 成 さ れ る べ き も の で あ り 、「 所 得 」 以 外 の 付
加価値等の課税標準による課税が可能であれば、その採用を広げていくべきと
の 立 場 に 立 っ て い た 〔 3 0 頁 ~ 〕。
一 方 、 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 の 「( 事 業 税 の 課 税 標 準 の 特 例 )」 と い う 条 見
出 し 等 か ら 見 て 、 事 業 税 の 原 則 的 な 課 税 標 準 は 、「 所 得 」 で あ り 、 外 形 標 準 課
税 は 例 外 的 な も の で あ る 。 そ し て 、 同 条 が 外 形 標 準 課 税 を 認 め る 要 件 は 、「 事
業の情況に応じ」という文言上解釈の幅のある一般的な表現であって、例外4
業種と関連付けた表現となっていないことなどから見ると、同条は、例外4業
種に準ずる事業自体の客観的性格や法律上の特別の制度の存在が必要であると
解 す べ き で は な く 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し て 課 税 す る と 適 当 で な い 場 合 に 、
「所得」以外の適当な外形基準による課税(外形標準課税)を、地方公共団体
の裁量によって行うことを認める趣旨の規定である。同条の「事業の状況に応
じ 」の 解 釈 運 用 は 、応 益 的 な 考 え 方 を 基 本 と す べ き で あ り 、ま た 、原 則 と し て 、
地 方 公 共 団 体 の 合 理 的 な 裁 量 に ゆ だ ね ら れ て い る 〔 3 6 頁 ~ 〕。
地方税法72条の19による立法裁量権の行使結果は、納税義務者の税負担
に直接的かつ重大な影響を及ぼすし、法律で原則的に明定されている課税標準
の例外を条例で制定することを許容するものであるから、全くの自由裁量では
ないが、同条の条文上の表現や構造から見て、同条の解釈論に、地方公共団体
の裁量に対する制約原理を求めることには限界がある。そうした制約原理(法
的な歯止め)として機能するものは、地方税法72条の22第9項が定める、
外形標準課税の課税標準及び税率の決定に、それによる税負担が「所得」を課
税標準とする場合の税負担と著しく均衡を失することのないように求める、い
わ ゆ る 「 均 衡 要 件 」 で あ る 〔 3 9 頁 ~ 〕。
(2) 地方税法72条の19の解釈〔40頁~〕
ア 適用される基本的な場合〔40頁~〕
事業税の課税客体である事業の担税力を数量的に測定し、公共施設や公共
サービスの受益の程度を反映するものは、課税客体である事業の規模・活動
量であるので、事業税の課税標準も、事業の規模・活動量にできる限り対応
す る も の で あ る 必 要 が あ る 。 し た が っ て 、「 所 得 」 に よ る 課 税 が 適 当 で な い
場 合 と い う の は 、 基 本 的 に は 、「 所 得 」 に よ る 課 税 が 事 業 の 規 模 ・ 活 動 量 か
ら測定される課税客体である事業の担税力と対応しないものとなっているこ
とである。
地方税法72条の19は特例的な課税であり、課税標準は納税義務者の税
負担に直結し大きな影響を与えるものであるから、税負担と事業の規模・活
動量が対応しないとの判断に当たっては、慎重な考慮が必要である。具体的
には、事業活動が相当規模であるのに、税負担がその規模ないし行政サービ
スの受益の程度に比して「著しく」ないし「相当程度」低いことと、そのこ
とが「常態化」している場合に、同条による外形標準課税が可能となる。
イ 特定の事業、業種に限った適用〔42頁~〕
地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」という文言自体を素直に読
めば、問題となる事業なり業種ごとに、外形標準課税の課税標準を検討する
ことを許容しているものと考えられる。そして、同条の「事業の情況に応じ
」は、事業税の税負担が、公共サービスの受益の程度、具体的には、事業の
規 模 ・ 活 動 量 に 比 し て 、「 著 し く 」 な い し 「 相 当 程 度 」 低 い こ と が 「 常 態 化
」している場合に満たされるから、個々の事業なり業種ごとに、そうした常
態が生じているかを吟味するのが自然である。そして、少なくとも、一審被
告東京都が、本件条例案を検討する当時までの議論は、物品販売業、石油精
製業、製造業という特定の事業・業種に限って適用することが当然の前提と
なっていたことを考慮すると、地方税法72条の19は、特定の事業、業種
に限定した外形標準課税の導入を許容しているとの解釈も十分成り立ち得る
。
ウ 東京都のみにおける適用〔44頁~〕
理論的に見て、全国一律の外形標準課税導入が望ましい形態であるが、地
方税法72条の19は、例外4業種のように、法律という明確な形式で全国
一 律 に 外 形 標 準 課 税 を 課 す る 方 法 と は 別 に 、「 事 業 の 情 況 に 応 じ 」 と い う 事
業ごとの検討が可能な要件の下に、外形標準課税を導入する道を開いている
ので、特定の地方公共団体の条例による外形標準課税の導入を認めていると
解される。
ただ、特定の地方公共団体が外形標準課税を導入する際には、他の地方公
共団体に与える影響が大きいことから、地方税法72条の22第9項の均衡
要件の吟味をより慎重に行う必要がある。
(3) 本件外形標準課税と地方税法72条の19〔45頁~〕
ア 銀行業等への限定について〔45頁~〕
- 45 -
大手の銀行の一審被告東京都に納付する法人事業税額が昭和59年度以後
不安定な状況にあること、その一方で、大手の銀行の業務粗利益や銀行の資
金利益は、平成2年度から若干の増加ないし横這いの傾向で推移しているこ
と 、 銀 行 業 等 に お い て は 、 不 良 債 権 処 理 、 貸 倒 処 理 の 継 続 に よ り 、「 所 得 」
を課税標準とすると、銀行業等の法人事業税額が、現状でも既に相当程度減
少しているのに、今後も当分の間減少が見込まれる状況であり、業務粗利益
や資金取引から推認される銀行業等の事業の活動量は、そのような減少傾向
と相当程度対応しないものとなっていたし、このような傾向や状況は、不動
産業等他の業種と異なるものであるから、銀行業等について、地方税法72
条の19の「事業の情況」が認められる。
イ 資金量5兆円以上との限定について〔49頁~〕
本件条例が、銀行業等のうち資金量が5兆円以上のものに限定しているこ
とは、安定した法人事業税収入を得るために、必要な限度で線を引いた面が
あったことは否定できない。しかし一方、適用を受ける事業者の税負担を概
して増やす結果となる外形標準課税の導入の検討に当たっては、中小事業者
への影響を検討することが必要であり、このような政策的な判断を認めるこ
とに強い異論があるとは考えられず、中小事業者への間接的な影響がある中
小金融機関を納税義務者としなかったことは、妥当な政策的配慮と評価でき
る。そして、銀行の資金童や業務純益に関する資料を考慮して資金量5兆円
で線を引いた一審被告東京都の裁量権行使は、政策的な判断として一応の合
理性が認められる。
ウ 業務粗利益を課税標準としたことについて〔51頁~〕
本件条例が課税標準として採用した「業務粗利益」については、一審被告
東京都が、一般事業会社の「売上総利益」との対比から、銀行業等に対する
外形標準課税の課税標準として最適であると判断した点や、銀行業等の課税
標準において貸倒損失、信用リスク・プレミアムを考慮する方法について、
な お 検 討 を 加 え る 必 要 が あ り 、「 最 適 の 」 課 税 標 準 と は 考 え ら れ な い 。
しかし一方、銀行業における「業務粗利益」は、当初、業法上の規制、監
督上の必要から導入されたものであるが、その後の法規の改正等により、銀
行業の経営状況等の情報を対外的に提供する機能を付与され、ディスクロー
ジ ャ ー 誌 な ど 銀 行 業 界 か ら 対 外 的 な 情 報 発 信 に お い て 、「 業 務 粗 利 益 」 が 銀
行業の基本的業務の収益ないし粗利益を示すとしたり、一般事業会社の「売
上総利益」に相当するものとして、一般的、日常的に用いられていることか
ら 見 て 、「 業 務 粗 利 益 」 か ら 銀 行 業 の 奴 益 や 業 務 の 活 動 量 を 測 定 す る こ と も
、許容されるアプローチの一方法である。そして、地方税法72条の19は
、「 等 」 と い う 地 方 公 共 団 体 に 一 定 の 裁 量 を 認 め た 表 現 で あ る こ と も 考 え れ
ば、事業税の課税の局面において、その課税客体である事業としての銀行業
等 の 規 模 ・ 活 動 量 を 測 定 す る も の と し て 、「 業 務 粗 利 益 」 を 課 税 標 準 と し て
採用した一審被告東京都の裁量判断が、合理性を欠くものとは断定できない
。
エ 結論〔58頁~〕
以上のとおり、本件条例制定に当たっての一審被告東京都の裁量判断は、
いずれも地方税法72条の19において許容される範囲内のものであると認
められるので、本件条例は同条に違反しない。
(4) 本件外形標準課税と地方税法72条の22第9項〔58頁~〕
ア 均衡要件の意義と一審被告東京都の説明〔58頁~〕
本件条例は、一審被告東京都だけでの外形標準課税の実施であるので、均
衡要件に対するより慎重な考慮が必要となる。
資金量が5兆円以上となる大手銀行30行が昭和59年度から平成10年
度までの間に一審被告東京都に納付した法人事業税の年間平均額と、本件条
例による法人事業税額の増額見込額を比較し、また、上記30行が同期間に
納付した事業税額が一審被告東京都の全事業税額に占める割合と、本件条例
の適用初年度の確定申告納税額が一審被告東京都の全事業税額に占める割合
を比較すると、これらはいずれも見合ったものとなっている。
イ 不均衡の程度と比較する期間〔60頁~〕
地方税法72条の22第9項が「著しく」という解釈上幅のある表現を用
い て い る こ と 、 同 法 7 2 条 の 1 9 の 適 用 の 前 提 で あ る 、「 所 得 」 を 課 税 標 準
とする事業税の税負担と事業の規模・活動量とが対応していない状況が「常
態」化しているか否かを判定するためには、過去数年間の状況の吟味が不可
欠であること、本件条例の適用年度は5年間であるので、地方税法72条の
19の適用も一定期間継続することが前提であることからして、均衡要件の
判断に当たっては、過去や将来の一定期間における税負担を比較吟味した結
果も勘案要素となると解される。具体的には、均衡要件の判断については、
外形標準課税が導入された後の2、3年度の比較を基本としながら、過去数
年間の課税実績からの推計による比較のほか、外形標準課税導入の目的等関
- 46 -
連する諸般の事情を、客観的な資料に基づき総合勘案すべきである。
税負担の比較〔64頁~〕
税負担を比較した場合の差額ないしその割合(倍率)がどの程度になれば
著しく均衡を失していることになるかについて、具体的な線引きは困難であ
るが、均衡要件の総合判断では、税負担の比較値ないし割合が勘案要素とし
て比重が高い。本件条例案の検討過程において一審被告東京都は増加割合は
10倍を超えると試算していたこと、本件条例の適用初年度(平成12事業
年度分)及び第2年度(平成13事業年度分)における増加割合は、約7.
7倍及び約3652倍となること、第2年度における一審原告八十二銀行の
増 加 割 合 は 約 4 . 9 倍 と な る こ と が 認 め ら れ 、 こ れ ら を 見 る 限 り は 、「 所 得
」を課税標準とした場合の推計事業税額がゼロの銀行がほとんどであるとの
事 情 を 割 り 引 い て も 、 本 件 条 例 に よ る 事 業 税 の 税 負 担 は 、「 所 得 」 を 課 税 標
準 と し た 場 合 の 税 負 担 と 比 較 し て 、「 著 し く 」 均 衡 を 失 し て い る 可 能 性 が 大
きい。
エ 一審被告東京都の検討の評価〔66頁~〕
一審被告東京都の均衡要件の判断の基礎資料は、上記アの過去15年間に
おける大手銀行30行の事業税額と一審被告東京都の全事業税額に占める割
合程度のものしかなく、本件条例が適用されることとなる年度(5年間)に
つ い て は 、 銀 行 に お け る 不 良 債 権 処 理 の 継 続 で 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と す る
銀行業等の税負担がゼロないし限りなく低くなるとの、見込み以上の具体的
な推計や検証作業がされたことを認めるに足りる証拠はない。そして、一審
被告東京都が過去の実績から割り出した、大手銀行の事業税額が全事業税額
に占める割合等によっては、上記ウの比較値による税負担の不均衡の推認を
覆 す こ と は で き な い 。 か え っ て 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し た 場 合 の 税 負 担 が
ゼロとなる銀行がほとんどであるのに、本件条例による納税額が相当額に上
るのは、貸倒損失等を考慮しない「業務粗利益」を課税標準としたことに起
因し、均衡要件との関係でも、課税標準における貸倒損失等の扱いについて
はなお検討が必要であったと考えられる。
地方税法72条の19に基づく外形標準課税が同法72条の22第9項の
均衡要件を満たすことについては、外形標準課税を導入する地方公共団体側
に、客観的な資料に基づき積極的に証明すべき責任があるが、結局、本件条
例 に よ る 税 負 担 が 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し た 場 合 の 税 負 担 と 、「 著 し く 均
衡を失する」ものではないと認めるに足りる証拠はなく、一審被告東京都は
この証明ができていないといわざるを得ないから、本件条例は、地方税法7
2条の22第9項の均衡要件を満たしていると認めることはできない。
(5) 結論〔69頁~〕
以上のとおり、本件条例は、地方税法72条の19には違反したいが、同法
72条の22第9項に違反するものであり、違法なものである。そして、地方
税法72条の22第9項の歯止め的な機能から見て、本件条例は、地方税法上
与えられた条例制定権を超えて制定されたものであって、無効である。
3 本件通知処分の有効性等について〔70頁~〕
一審被告東京都知事の通知処分は、拠るべき条例の根拠を欠く重大な瑕疵があるか
ら、無効であり、同処分を取り消すまでもなく、一審原告らは、納付した事業税額(
平成12事業年度分及び平成13事業年度分)の旧基準額との差額部分を誤納金とし
て還付請求することができる。
4 一審被告東京都の責任原因について〔70頁~〕
本件条例は地方税法に違反し無効なものであるが、地方公共団体が制定する条例が
法律に違反するからといって、その制定に向けた一連の行為が、直ちに一審原告らと
の関係で国家賠償法上も違法となるわけではない。すなわち、条例の制定に向けた行
為は、多種多様な背景事情や諸条件、関係者の意見や対立する利害などを総合勘案し
調整しながら行われ、地域社会の代表者である地方公共団体の議会の議員の審議、そ
の多数決による議決によって決定されるべきものであるから、条例の制定に向けた一
連の行為が国家賠償法上の違法性を具有すると認めるためには、個々の地域住民・法
人の権利との関係で、条例制定過程に関与した責任者が職務上尽くすべき法的義務に
違反したものと客観的に評価できることが必要である。
本件条例は、地方税法72条の19を制定根拠とするものであるが、同条の「事業
の情況に応じ」などの要件を一応満たしているから、同条違反を前提とする法的義務
違反は問題とならない。一方、本件条例は、地方税法72条の22第9項の均衡要件
に 違 反 し て い る が 、 均 衡 要 件 は 、「 著 し く 均 衡 を 失 す る こ と の な い 」 と い う 文 言 上 解
釈の幅がある一般的な要件への当てはめの問題であり、一義的な規定に適合するか否
かが問題となるわけではない。この均衡要件の判断に当たっては、外形標準課税導入
前後の税負担の推計等関連する諸般の事情の総合勘案が避けられないが、一審被告東
京都も、本件条例の検討過程で均衡要件に対する一応の吟味検討を加えている。そし
て、本件条例の無効事由は、本件条例が均衡要件を満たすと認めるに足りる客観的資
料に基づく検討ができていないというもので、明白に均衡要件に違反するというもの
- 47 ウ
ではない。以上のほか、本件条例の制定に至るすべての事情を総合勘案してみても、
一審被告東京都の本件条例の検討に関する一連の行為全体が、客観的に職務上尽くす
べき法的義務に違反し「違法な」ものであるとまでは、評価できない。
したがって、一審原告らの国家賠償請求は、その余の点について判断するまでもな
く理由がなく、一審被告東京都側の違法性と過失を認めた原判決は失当である。
第4
結論〔74頁~]
原判決中、一審原告らの一審被告らに対する本件条例の無効確認請求(請求1及び2
)に係る訴えを却下した部分は相当であり、本件条例は地方税法72条の22第9項(
均衡要件)に違反し無効であることから、一審原告らの一審被告東京都に対する平成1
2事業年度分の事業税を対象とする誤納金の還付請求(請求5の一部)を認めた部分は
相当であるが、一審原告らの一審被告東京都に対する国家賠償請求を認めた部分(請求
5の残部)は失当である。
控訴審における追加的請求については、一審原告らの一審被告東京都に対する、平成
14事業年度分の事業税を対象とする租税債務不存在確認請求(控訴審における追加的
請求5)に係る訴えは、不適法であって却下を免れないが、平成13事業年度分の事業
税を対象とする誤納金の還付請求(控訴審における追加的請求6)は、本件条例が地方
税法72条の22第9項に違反し無効であることから、理由がある。
判決主文
1
一審被告東京都の控訴及び一審原告らの当審における追加的請求に基づき、原判決の
うち、一審原告らの一審被告東京都に対する金員請求に係る部分を、次のとおり変更す
る。
(1) 一審被告東京都は、一審原告らに対し、別紙2の各一審原告に対応する(a)
欄記載の各金員並びに(b)欄記載の各金員に対する(c)欄記載の各日から平
成13年12月31日までは年4.5%の割合、平成14年1月1日から支払済
みまで(ただし、一審原告株式会社北陸銀行の(ア)欄については同年2月21
日まで)は年4.1%の割合による各金員及び(d)欄記載の各金員に対する(
e ) 欄 記 載 の 各 日 か ら 支 払 済 み ま で 年 4 . 1 % の 割 合 に よ る 金 員 を 、( ア ) 及 び
(イ)の区分があるものについてはその区分に応じて支払え。
(2) 一審原告らの一審被告東京都に対するその余の金員請求をいずれも棄却する。
2 一審原告らの一審被告東京都に対する、一審原告らが本件条例に基づき平成14年4
月1日に開始する事業年度に係る事業税を納付する租税債務を有しないことの確認請求
に係る訴えを却下する。
3 一審原告らの控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、一、二審を通じてこれを3分し、その1を一審原告らの、その余を一審
被告東京都の各負担とする。
5 この判決は、1(1)項に限り、仮に執行することができる。ただし、一審被告東京
都が、各一審原告につき附帯請求部分を除く当該一審原告の請求認容額の6割(1万円
未満切捨て)に相当する金員の担保を供するときは、当該一審原告の仮執行を免れるこ
とができる。
----------------------------------------
判
主
1
決(平成15年1月30日言渡・上告)
当事者の表示
別紙1当事者目録記載のとおり
文
一審被告東京都の控訴及び一審原告らの当審における追加的請求に基づき、原判決の
うち、一審原告らの一審被告東京都に対する金員請求に係る部分を、次のとおり変更す
る。
(1) 一審被告東京都は、一審原告らに対し、別紙2の各一審原告に対応する(a)
欄記載の各金員並びに(b)欄記載の各金員に対する(c)欄記載の各日から平
成13年12月31日までは年4.5%の割合、平成14年1月1日から支払済
みまで(ただし、一審原告株式会社北陸銀行の(ア)欄については同年2月21
日まで)は年4.1%の割合による各金員及び(d)欄記載の各金員に対する(
e ) 欄 記 載 の 各 日 か ら 支 払 済 み ま で 年 4 . 1 % の 割 合 に よ る 金 員 を 、( ア ) 及 び
(イ)の区分があるものについてはその区分に応じて支払え。
(2) 一審原告らの一審被告東京都に対するその余の金員請求をいずれも棄却する。
2 一審原告らの一審被告東京都に対する、一審原告らが本件条例に基づき平成14年4
月1日に開始する事業年度に係る事業税を納付する租税債務を有しないことの確認請求
に係る訴えを却下する。
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3
4
一審原告らの控訴を棄却する。
訴訟費用は、一、二審を通じてこれを3分し、その1を一審原告らの、その余を一審
被告東京都の各負担とする。
5 この判決は、1(1)項に限り、仮に執行することができる。ただし、一審被告東京
都が、各一審原告につき附帯請求部分を除く当該一審原告の請求認容額の6割(1万円
未満切捨て)に相当する金員の担保を供するときは、当該一審原告の仮執行を免れるこ
とができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
〔一審原告ら〕
(控訴の趣旨)
1 原判決のうち、一審原告らの敗訴部分を取り消す。
2 一審原告らと一審被告東京都との間で、一審被告東京都が平成12年4月1日に制
定した「東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例」
( 東 京 都 条 例 第 1 4 5 号 。 以 下 「 本 件 条 例 」 と い う 。) が 無 効 で あ る こ と を 確 認 す る
。
3 一審原告らと一審被告東京都知事との間で、本件条例が無効であることを確認する
。
4 (原判決で1000万円の限度でしか認容されなかった国家賠償請求について)
一審被告東京都は、一審原告八十二銀行、一審原告福岡銀行及び一審原告みずほ信
託銀行に対し、それぞれ1億円及びこれに対する平成12年10月24日から支払済
みまで年5%の割合による金員を支払え。
(以下5ないし7項は、控訴審における追加的請求)
5 一審原告らと一審被告東京都との間で、一審原告らが、本件条例に基づき平成14
年4月1日に開始する事業年度に係る事業税を納付する租税債務を有しないことを確
認する。
6 主位的請求
(1) (一審原告ユーエフジェイ銀行、一審原告大和銀行及び一審原告中央三井信
託銀行を除く一審原告らについて後記7(1)の予備的請求との間での主位的
請求)
一審被告東京都は、一審原告ユーエフジェイ銀行、一審原告大和銀行及び一
審原告中央三井信託銀行を除く一審原告らに対し、それぞれ同各一審原告に対
応する別紙3(c)欄記載の各金員並びに同各金員に対する別紙3(g)欄記
載の各日から支払済みまで年4.1%の割合による各金員を支払え。
(2) (一審原告ユーエフジェイ銀行について後記7(2)の予備的請求との間で
の主位的請求)
一審被告東京都は、一審原告ユーエフジェイ銀行に対し、101億0082
万9300円並びにうち83億4828万6300円に対する平成14年8月
2日から及びうち17億5254万3000円に対する同年5月16日からそ
れぞれ支払済みまで年4.1%の割合による金員を支払え。
(3) (一審原告大和銀行について後記7(3)の予備的請求との間での主位的請
求)
一審被告東京都は、一審原告大和銀行に対し、17億8161万3300円
並びにうち16億0635万1200円に対する平成14年7月1日から及び
うち1億7526万2100円に対する同年8月2日からそれぞれ支払済みま
で年4.1%の割合による金員を支払え。
(4) (一審原告中央三井信託銀行について後記7(5)の予備的請求との間での
主位的請求)
一審被告東京都は、一審原告中央三井信託銀行に対し、37億3229万2
300円並びにうち34億2735万4000円に対する平成14年7月25
日から及びうち3億0493万8300円に対する同年8月2日からそれぞれ
支払済みまで年4.1%の割合による金員を支払え。
7 予備的請求
(1) (一審原告ユーエフジェイ銀行、一審原告大和銀行、一審原告みずほコーポ
レート銀行及び一審原告中央三井信託銀行を除く一審原告らについて上記6(
1)と予備的併合関係で、かつ、次のアとイとの間では単純併合の関係にある
請求)
ア 一審原告ユーエフジェイ銀行、一審原告大和銀行、一審原告みずほコーポ
レート銀行及び一審原告中央三井信託銀行を除く各一審原告が申告納付した
平成13年4月1日に開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったと
して同各一審原告に対応する別紙3(e)欄記載の各日に行った各更正請求
に対し、一審被告東京都知事が平成14年8月14日付けで同各一審原告に
対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の各通
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知処分を取り消す。
一審被告東京都は、一審原告ユーエフジェイ銀行、一審原告大和銀行、一
審原告みずほコーポレート銀行及び一審原告中央三井信託銀行を除く各一審
原告に対し、それぞれ同各一審原告に対応する別紙3(c)欄記載の各金員
並びに同各金員に対する別紙3(h)欄記載の各日から支払済みまで年4.
1%の割合による各金員を支払え。
(2) (二審原告ユーエフジェイ銀行について請求6(2)と予備的併合関係で、
かつ、アとイとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 一審原告ユーエフジェイ銀行が申告納付した平成13年4月1日に開始す
る事業年度に係る事業税が過大申告であったとして別紙3(e)欄の(旧三
和銀行)及び(旧東海銀行)記載の各日に行った各更正請求に対し、一審被
告東京都知事が平成14年8月14日付けで一審原告ユーエフジェイ銀行に
対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の各通
知処分を取り消す。
イ 一審被告東京都は、一審原告ユーエフジェイ銀行に対し、101億008
2万9300円並びにうち83億4828万6300円に対する平成14年
10月4日から及びうち17億5254万3000円に対する同月5日から
それぞれ支払済みまで年4.1%の割合による各金員を支払え。
(3) (一審原告大和銀行について請求6(3)と予備的併合関係で、かつ、アと
イとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 一審原告大和銀行が申告納付した平成13年4月1日及び平成14年3月
1日に各開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして同年7月
4日に行った各更正請求に対し、一審被告東京都知事が同年8月14日付け
で一審原告大和銀行に対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しない
ことにした」旨の各通知処分を取り消す。
イ 一審被告東京都は、一審原告大和銀行に対し、17億8161万3300
円及びこれに対する平成14年10月5日から支払済みまで年4.1%の割
合による金員を支払え。
(4) (一審原告みずほコーポレート銀行について請求6(1)のうち一審原告み
ずほコーポレート銀行に係る請求と予備的併合関係で、かつ、アとイとの間で
は単純併合の関係にある請求)
ア 一審原告みずほコーポレート銀行が申告納付した平成13年4月1日に開
始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして平成14年7月4日
に行った各更正請求に対し、一審被告東京都知事が同年8月14日付けで一
審原告みずほコーポレート銀行に対してそれぞれした「理由がないと認め、
更正しないことにした」旨の各通知処分を取り消す。
イ 一審被告東京都は、一審原告みずほコーポレート銀行に対し、157億5
089万7500円及びこれに対する平成14年10月5日から支払済みま
で年4.1%の割合による金員を支払え。
(5) (一審原告中央三井信託銀行について請求6(4)と予備的併合関係で、か
つ、アとイとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 一審原告中央三井信託銀行が申告納付した平成13年4月1日及び平成1
4年3月25日に各開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとし
て同年7月9日に行った各更正請求に対し、一審被告東京都知事が同年8月
14日付けで一審原告中央三井信託銀行に対してそれぞれした「理由がない
と認め、更正しないことにした」旨の各通知処分を取り消す。
イ 一審被告東京都は、一審原告中央三井信託銀行に対し、37億3229万
2300円及びこれに対する平成14年10月10日から支払済みまで年4
.1%の割合による金員を支払え。
イ
〔一審被告東京都〕
1 原判決のうち、一審被告東京都の敗訴部分を取り消す。
2 一審原告らの控訴審における追加的請求5(平成14事業年度分の事業税の租税債
務不存在確認請求)に係る訴えを却下する。
3 一審原告らの一審被告東京都に対する金員請求(原判決における請求5及び6並び
に控訴審における追加的請求6及び7)をいずれも棄却する。
4 一審原告らの控訴を棄却する。
〔一審被告東京都知事〕
1 一審原告らの控訴を棄却する。
2 一審原告らの一審被告東京都知事に対する控訴審における追加的請求7をいずれも
棄却する。
第2
事案の概要
本件は、一審被告東京都が、各事業年度の終了日に資金量5兆円以上の銀行業等を行
う法人に対し、業務粗利益を課税標準として税率100分の3の法人事業税を課税する
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本件条例を制定したことについて、納税義務者である一審原告らが、本件条例は憲法及
び地方税法の関係する条項に違反して無効であると主張して、一審被告東京都及び一審
被告東京都知事に対し、本件条例の無効確認請求(請求1及び2。以下「請求1」ない
し 「 請 求 6 」 と い う 表 現 は 、 原 判 決 に お け る も の と 同 じ 表 現 を 用 い る こ と と す る 。)、
一審被告東京都に対し、平成13事業年度(平成13年4月1日から開始する1年間の
事業年度)分の事業税を対象とする本件条例に基づく更正処分及び決定処分の差止め請
求(請求3)並びに本件条例に基づく租税債務不存在確認請求(請求4)をするととも
に、平成12事業年度分として留保文言を付した上で、一審被告東京都に対し本件条例
に基づき計算し申告納付した事業税額について、一審被告東京都に対し、主位的に、誤
納金としての還付及び還付加算金の支払請求(請求5の一部)を、予備的に、一審被告
東京都知事に対し、一審原告らの過大申告を理由とする更正請求について一審被告東京
都知事が行った「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の通知処分の取消しを
請求し、それを前提に一審被告東京都に対し、上記事業税額の過納金としての還付及び
還付加算金の支払請求(請求6の一部)をし、そして、本件条例制定に至る一審被告東
京都知事及び一審被告東京都の担当職員等の一連の行為等が違法であり故意・過失があ
ることを理由として、一審被告東京都に対し、国家賠償請求(請求5及び6の残部)を
求めた事案である。
原判決は、請求1ないし4については不適法な訴えであるとして却下したが、請求5
については、本件条例が地方税法72条の19に違反し無効なものであり、平成12事
業年度分の事業税に関する一審被告東京都知事の通知処分も無効であるとして、誤納金
の還付請求を認めるとともに、本件条例制定に至る一連の行為等は、国家賠償法上違法
であり、一審被告東京都の担当者及び一審被告東京都知事に過失が認められるとして、
国家賠償請求も認めた(ただし、一審原告八十二銀行、一審原告福岡銀行及び一審原告
みずほ信託銀行の国家賠償請求については、1000万円の損害額の限度で認容した。
)。
原判決に対し、一審原告ら及び一審被告東京都が控訴をした(なお、原審で原告であ
った株式会社富士銀行は、商号変更により一審原告みずほコーポレート銀行となるとと
もに、原審で原告であった株式会社日本興業銀行の訴訟を承継し、また、原審で原告で
あった株式会社第一勧業銀行及び安田信託銀行株式会社は、商号変更により、それぞれ
一 審 原 告 み ず ほ 銀 行 及 び 一 審 原 告 み ず ほ ア セ ッ ト 信 託 銀 行 と な っ た 。)。 控 訴 審 に お い
て、一審原告北陸銀行は、原判決で誤納金還付請求が認められた平成12事業年度分と
して納付した事業税額の一部(2190万2100円)の還付を原審の口頭弁論終結日
の後(平成14年2月21日)に受けたことから、還付を受けた分の請求額を減縮した
(附帯請求との関係においても、還付日の翌日以後で対象となる元本額が減額されるこ
と と な る 。)。 ま た 、 一 審 原 告 ら は 、 控 訴 審 係 属 中 に 平 成 1 3 事 業 年 度 分 の 事 業 税 を 納
付したことから、平成13事業年度分の事業税を対象とする本件条例に基づく更正処分
等の差止請求(請求3)及び租税債務不存在確認請求(請求4)に係る訴えに代えて、
一審被告東京都に平成13事業年度分として納付した事業税額について、主位的に、誤
納金の還付及び還付加算金の支払請求(控訴審における追加的請求6)を、予備的に、
一審被告東京都知事に対するその通知処分の取消しと一審被告東京都に対する過納金の
還付及び還付加算金の支払の請求(控訴審における追加的請求7)を、さらに、平成1
4事業年度分の事業税を対象とする本件条例に基づく租税債務不存在確認請求(控訴審
における追加的請求5)に係る訴えを本件訴訟に併合して提起し、各訴えは、一審被告
ら の 同 意 を 得 た 上 で 本 件 訴 訟 と 併 合 し て 審 理 さ れ た ( 行 政 事 件 訴 訟 法 1 9 条 1 項 )。
したがって、控訴審において判断を求められているのは、
① 本 件 条 例 の 無 効 確 認 請 求 ( 原 判 決 に お け る 請 求 1 及 び 2 )、
② 平成14事業年度分の事業税を対象とする租税債務不存在確認請求(控訴番におけ
る 追 加 的 請 求 5 )、
③ 平成12事業年度分及び平成13事業年度分の各事業税を対象とする誤納金還付(
主 位 的 )、 通 知 処 分 の 取 消 し と 過 納 金 還 付 請 求 ( 予 備 的 ) 及 び 国 家 賠 償 請 求 ( 平 成 1
2事業年度分を対象とするもの及び国家賠償請求が原判決における請求5及び6、平
成13事業年度分を対象とするものが控訴審における追加的請求6及び7)
である。
本件に関係する地方税法の定め及び前提事実については、原判決12頁1行目と2行
目との間に次のエないしキを付加するとともに、控訴審における当事者の主張として本
判 決 添 付 別 紙 4 の と お り 付 加 す る ほ か 、 原 判 決 の 、「 第 2 事 案 の 概 要 」 の 「 1 法 令
の定め」から「4 当事者の主張」まで(原判決7頁10行目から同13頁10行目ま
で)に記載のとおりであるからこれを引用する。
「エ 一審原告北陸銀行は、富山県知事に対し、平成13年9月28日付けで、事
業税の分割基準となる従業員数及び事業所数の訂正による分割基準の修正に関する
届出をし、富山県知事は、この届出に基づき分割基準の修正を行うとともに、一審
被告東京都知事に対し、同年11月30日付けで、一審原告北陸銀行の分割基準の
修正を行った旨の通知(地方税法72条の49第11項)をした。一審原告北陸銀
行 は 、 一 審 被 告 東 京 都 知 事 に 対 し ( 東 京 都 中 央 都 税 事 務 所 長 を 経 由 し て )、 同 年 1
2月17日、更正請求書を提出し、一審被告東京都知事は、平成14年1月25日
- 51 -
付けの法人事業税更正処分を行い、一審原告北陸銀行は、同年2月21日、平成1
2事業年度の既納税額(1億6301万8600円)のうち、2190万2100
円の還付を受けた。これにより、一審原告北陸銀行の平成12事業年度の既納税額
は、同月22日以降1億4111万6500円となった。
オ 原 審 で 原 告 で あ っ た 株 式 会 社 富 士 銀 行 は 、 平 成 1 4 年 4 月 1 日 、「 株 式 会 社 み ず
ほコーポレート銀行」に商号変更して一審原告みずほコーポレート銀行となるとと
もに、同日、一審原告みずほコーポレート銀行を存続会社として、原審で原告であ
った株式会社日本興業銀行と合併し、その権利義務を承継取得し、本件訴訟も承継
した。また、原審で原告であった株式会社第一勧業銀行及び安田信託銀行株式会社
は、同日、それぞれ「株式会社みずほ銀行」及び「みずほアセット信託銀行株式会
社」に商号変更して、一審原告みずほ銀行及び一審原告みずほアセット信託銀行と
なった。
カ 一審原告らは、それぞれ、平成13事業年度分の事業税についても、平成12事
業年度分と同様な留保文言を付して、本件条例に基づき計算された事業税額を一審
被告東京都に申告納付したが、各一審原告についての各既納税額及び納付日並びに
地方税法72条の12に従い事業税の課税標準を「所得」として従来の税率で算出
した税額は、別紙3(a)欄及び(d)欄並びに(b)欄にそれぞれ記載されたと
おりである。そして、各一審原告は、それぞれ、上記各申告納付後直ちに、各一審
原告が申告納付した平成13事業年度に係る事業税が過大申告であったとして、一
審被告東京都知事に対し更正請求を行い、一審被告東京都知事は、平成14年8月
14日付けで、各一審原告に対して、それぞれ「理由がないと認め、更正しないこ
とにした」旨の通知処分を行った。各一審原告について、各更正請求日及び通知処
分がされた日は別紙3(e)欄及び(f)欄にそれぞれ記載されたとおりである。
キ なお、一審原告ユーエフジェイ銀行は、平成14年1月15日に、原審で原告で
あった株式会社三和銀行が商号変更した銀行であり、同日、原審で原告であった株
式会社東海銀行との間で、ユーエフジェイ銀行を存続会社として合併したので、一
審原告ユーエフジェイ銀行は、平成13事業年度に係る事業税としては、自己に係
る分のほか、地方税法72条の13第7項に基づき、平成13年4月1日から平成
14年1月14日までを1事業年度とする株式会社東海銀行の分の事業税を納付し
ている。同様に、一審原告みずほコーポレート銀行は、平成14年4月1日に、原
審で原告であった株式会社富士銀行が商号変更した銀行であり、同日、原審で原告
であった株式会社日本興業銀行との間で、みずほコーポレート銀行を存続会社とし
て合併したので、一審原告みずほコーポレート銀行は、平成13事業年度分に係る
事業税としては、自己に係る分のほか、地方税法72条の13第7項に基づき、平
成13年4月1日から平成14年3月31日までを1事業年度とする株式会社日本
興業銀行の分の事業税を納付している。
また、一審原告大和銀行は、平成14年3月1日に、訴外大和銀信託銀行株式会
社との間で、一審原告大和銀行を分割会社として会社分割を行ったことから、一審
原 告 大 和 銀 行 は 、 地 方 税 法 7 2 条 の 1 3 第 8 項 に 基 づ き 、「 平 成 1 3 年 4 月 1 日 か
ら平成14年2月28日まで」及び「平成14年3月1日から同月31日まで」を
各1事業年度として、事業税を納付している。同様に、一審原告中央三井信託銀行
は、平成14年3月25日に、訴外三井アセット信託銀行株式会社との間で、一審
原告中央三井信託銀行を分割会社として会社分割を行ったことから、一審原告中央
三 井 信 託 銀 行 は 、 地 方 税 法 7 2 条 の 1 3 第 8 項 に 基 づ き 、「 平 成 1 3 年 4 月 1 日 か
ら平成14年3月24日まで」及び「平成14年3月25日から同月31日まで」
を 各 1 事 業 年 度 と し て 、 事 業 税 を 納 付 し て い る 。」
第3
1
当裁判所の判断
本件条例の無効確認請求(請求1及び2)及び租税債務不存在確認請求(控訴審に
おける追加的請求5)に係る訴えの適法性について
(1) 本件条例の無効確認請求(請求1及び2)の法律上の争訟性等について
当裁判所も、本件条例の無効確認請求(請求1及び2)は、法律上の争訟性
を欠き、また、本件条例の制定・公布が抗告訴訟の対象となる行政処分性を有
すると解することはできないから、同請求に係る訴えは不適法であると判断す
るものであるが、その理由は、引用の末尾に次のとおり付加するほか、原判決
1 3 頁 1 3 行 目 冒 頭 か ら 同 1 7 頁 1 1 行 目 末 尾 ま で の 「( 1 ) 請 求 1 及 び 2
について」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
「オ 本件条例の制定や施行自体に法律上の争訟性や抗告訴訟の対象とな
る行政処分性が認められるためには、本件条例の制定なり施行によって一
審 原 告 ら の 「 具 体 的 な 」 権 利 義 務 や 法 的 地 位 に 対 し 、「 直 接 的 な 」 影 響 を
及ぼすことが必要であると解されるものであるが(最高裁判所平成4年1
1 月 2 6 日 第 一 小 法 廷 判 決 民 集 4 6 巻 8 号 2 6 5 8 頁 )、 そ も そ も 、 地 方
公共団体における条例の制定なり施行は、一般的な規範を定立することを
目的とするものであって、条文の文言上その適用対象として規定されてい
る個人や法人の「具体的な」権利義務や法的地位に「直接的な」影響を及
- 52 -
ぼすような内容を持つものではない。例外的に、そうした内容を持った条
例があり得ることは否定できないが、甲1号証により認められる本件条例
の条文の文言や内容を精査してみても、本件条例は、各事業年度の終了の
日における資金の量が5兆円以上である銀行業等を行う法人を課税の対象
として規定するにとどまるのであるから、本件条例の制定・施行が直ちに
一審原告らの「具体的な」権利義務や法的地位に「直接的な」影響を及ぼ
す も の で あ る と は 認 め ら れ な い 。 確 か に 、〔 証 拠 略 〕 に よ れ ば 、 本 件 条 例
の制定過程においては、一審被告東京都の主税局長ら関与した職員、一審
被告東京都知事、本件条例案の審議に参加した東京都議会議員らが、一審
原告らも含めた大手の銀行30行に適用されることになることを予測し、
その前提で、本件条例案の準備、審議における説明・答弁・質疑等が行わ
れたことが認められるが、そこで問題となっている本件条例の「適用」と
いうのは、あくまでもこれが制定・施行された場合の適用可能性のことで
あって、上記本件条例の文言等に照らして、法律的に当然に適用されるこ
とを前提とする趣旨のものと見ることはできない。また、一審原告らは、
本件条例の制定・施行によって、繰延税金資産及び当期利益の減少という
直接的な影響を受けたと主張するが、この点についても、実際上の関連性
は認められるとしても、法的な意味では、本件条例の制定・施行後、一審
原告らに本件条例に基づく具体的な租税権利義務関係が生じて初めて関連
性が問題となる点に変わりはなく、本件条例の制定自体が一審原告らに対
し、上記の意味で「直接的に」及ぼした「具体的な」権利義務への影響で
あ る と 評 価 す る こ と は で き な い 。」
(2) 一審原告らの「回復し難い損害」について
標記の各諸求は、不利益処分(一審被告東京都知事による更正処分及び決定
処 分 を 指 す 。) の 根 拠 法 令 で あ る 本 件 条 例 の 無 効 確 認 を 求 め ( 請 求 1 及 び 2 )
、並びに平成14事業年度分事業税について予想される不利益処分によって具
体的に形成される権利義務関係の不存在確認を求める(控訴審における追加的
請求5)もので、それぞれ異なる請求なり訴訟形態をとってはいるが、その法
律的な意味での目的が、本件条例の効力を争うことにより、一審被告東京都知
事の不利益処分を事前に予防することにある点では共通であると考えられる。
当裁判所は、そうした不利益処分が行われる前にその予防を目的として提起さ
れる訴えがすべて不適法であると考えるものではないが、行政処分の取消訴訟
を中心に構成されている現行行政事件訴訟法の構造等から見ると、このような
予防的訴訟は例外的なものであり、これが認められるためには、不利益処分を
受けてから、それに関する訴訟の中で、事後的に不利益処分の根拠となる法令
の 効 力 を 争 っ た の で は 、「 回 復 し 難 い 損 害 」 を 被 る お そ れ が あ る 等 事 前 の 救 済
を認めないことを「著しく不相当とする特段の事情」があることが必要である
と考える(最高裁判所昭和47年11月30日第一小法廷判決民集26巻9号
1 7 4 6 頁 )。 そ し て 、 本 件 に お い て は 、 こ う し た 特 段 の 事 情 を 認 め る に 足 り
る証拠はないといわざるを得ないので、標記の各請求に係る訴えはいずれも不
適法で却下を免れない。その理由は、引用の末尾に以下のとおり付加するほか
、 原 判 決 1 7 頁 1 2 行 目 冒 頭 か ら 同 2 1 頁 1 9 行 目 末 尾 ま で の 「( 2 ) 請 求
1ないし4について」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
「オ 一審原告らが本件条例の制定・施行による「回復し難い損害」と主
張するところのものは、社会的信用や評価の低下に代表されるように、具
体的な損害についての法的な評価が困難なものであるし、そもそも一審原
告らの事業活動には、銀行を取り巻くここ数年の厳しい経済情勢はもちろ
んのこと、基本的な経営方針、事業の組織、営業活動の実情といった各一
審原告固有の事情から、国家の経済政策といった社会一般の事情まで、多
種多様な諸要因が複合的に影響し作用を及ぼしていることは公知の事実で
ある。そして、本件条例の事業税の納税が、一審原告らの信用低下等に実
際上何がしかの悪影響を及ぼしたことは否定できないが、一審原告らの事
業活動に具体的にどの程度の悪影響を及ぼし、それが他の影響を及ぼした
要因と比べて、法的な意味で決定的なものないしは主因的なものであった
かを確定することは、その性格上困難であるし、控訴審で提出された証拠
を勘案しても、これを確定するに足りる証拠があるとはいえない。また、
一審原告らは、不利益処分を回避するために、留保文言を付した事業税の
申告納付を行うという策を講ずることによって、法的な救済措置を求めて
いる間に不利益処分を受ける可能性を減少させているところ、他方で、こ
の申告納付をするために多大な資金の調達を余儀なくされ、このことが一
審原告らの事業活動に影響を及ぼしていることも否定できないところでは
あるが、この点についても、上記と同様に、多種多様な諸要因の複合的な
作用が働くものであることから、上記資金調達が一審原告らの事業活動に
与えるマイナスの影響の具体的な程度や法的な評価を確定することは、本
件全証拠によっても困難である。そのほか、一審原告らが「回復し難い損
- 53 -
害」と主張するところの繰延税金資産及び当期利益の減少等の損害につい
ては、仮に、これらが、一審原告らが主張するとおり、本件条例の制定・
施行と法律的な因果関係が認められる経済的な価値を有する資産の減少と
評価できるとしても、これらは、本件条例の効力を争い誤過納金の還付や
国家賠償を求める事後的な救済方法によって、確定され決着されるべき事
項であって、一審原告らの「回復し難い損害」を基礎付けるものと解する
ことはできない。
以上を総合すると、一審原告らの控訴審における主張立証を踏まえても
、請求1及び2並びに控訴審における追加的請求5について、事後的な救
済を待っていたのでは、一審原告らが「回復し難い損害」を被るおそれが
ある等、事前の救済を認めないことを「著しく不相当とする特段の事情」
が あ る も の と 認 め る こ と は で き な い 。」
2 本件条例の適法性・有効性について
請求5及び請求6のうちの平成12事業年度分の事業税を対象とする誤過納金還付
請求並びに控訴審における追加的請求6及び7(平成13事業年度分の事業税を対象
とする誤過納金還付請求)は、本件条例が違法で無効であることを前提としている。
こ の 点 に つ い て 、 原 判 決 は 、 事 業 税 の 沿 革 等 か ら 見 て 現 行 事 業 税 は 、「 所 得 課 税 」
と い う 意 味 で の 応 能 課 税 の 立 場 を 原 則 と し て 採 っ て お り 、「 事 業 の 情 況 に 応 じ 」 例 外
的に外形標準課税とする余地を認める地方税法72条の19は、事業の収益構造等事
業 自 体 の 客 観 的 性 格 や 法 律 上 の 特 別 の 制 度 の 存 在 な ど か ら 、「 所 得 」 が 当 該 事 業 の 担
税力を適切に反映しない情況にある場合に、初めて外形標準課税を認めているものと
解されるところ、本件条例が対象とした銀行業等において、所得を課税標準とした場
合に、事業の客観的性格や法令上の制度の存在により適切な担税力の把握ができない
事情はうかがえないなどとして、本件条例は、同条の要件がないのに外形標準課税を
賦課することとした点において違法で無効なものであると判断している。当裁判所も
、本件条例は地方税法に違反して無効なものであると考えるが、その理由は原判決と
異なり、本件条例は同法72条の19には違反しないが、同法72条の22第9項に
違反することにより無効となると考えるものであり、その理由は以下に述べるとおり
である(なお、原審、控訴審を通じて、当事者双方から、自らの主張を裏付けるもの
として、学者、元行政官僚、政治家等有識者の意見書が多数提出されているが、それ
らの意見書は、それぞれの観点からの参考意見を述べるものであることにかんがみ、
以下の認定において、これに適合する意見又は異なる意見を述べた個々の意見書を網
羅 的 に 摘 示 す る こ と は し な い 。)。
(1) 現行事業税の導入に至る経過
現行事業税の導入に至る経過については、原判決22頁10行目の「乙6の
3・4・7、乙7の35」を「乙6の3・4・7・21ないし26・29・3
0、乙7の35・36」に改め、同26頁13行目及び27頁25行目の「第
2 5 号 」 の 後 に 「( 乙 6 の 2 9 )」 を 、 同 2 8 頁 1 5 行 目 及 び 2 9 頁 1 1 行 目
の 「 第 2 4 号 」 の 後 に 「( 乙 6 の 2 6 )」 を そ れ ぞ れ 付 加 し た 上 、 以 下 の と お
り付加、訂正するほかは、同22頁6行目冒頭から同29頁18行目末尾まで
の 「( 2 ) 事 業 税 の 沿 革 」 欄 記 載 の と お り で あ る か ら 、 こ れ を 引 用 す る 。
ア 原 判 決 2 6 頁 1 4 行 目 冒 頭 か ら 1 6 行 目 「 さ れ た が 、」 ま で を 次 の と お り
改める。
「同日の委員会における自治庁税務部長の説明では、事業税の条文の構
成 に つ い て 、「( 前 略 ) 今 回 の 事 業 税 の 立 案 に あ た り ま し て は 、 法 人 の 課
税標準は所得または収入金額によるんだということにいたしまして、収入
金額が例外であって、所得が原則なんだというような書き方はやめたので
あります。とにかく事業に応じて所得をとるものもあるし、収入金額をと
る も の も あ る と い う よ う な 立 案 に い た し て お り ま す 。( 中 略 )」 と の 説 明
がされていた(第19回国会衆議院地方行政委員会議録第25号10頁)
。」
イ 原判決27頁25行目末尾の次に、行を改めて次のとおり加える。
「同月13日の同委員会においては、政府委員の自治庁税務部長は、個
人事業税には基礎控除があることから、事業税は純益課税ではないのかと
の 質 問 に 対 し 、「 事 業 税 の 性 格 を ど う 見 て 行 く か と い う こ と に つ き ま し て
は、実定法を基礎にして考えるよりいたし方ないだろうと思うのでありま
す。その際にやはり事業税は府県の経費分担だという思想を出しながらも
、特に零細な事業につきましてはそこに多少負担の緩和をはかって行かな
ければならない、こういう考え方をとっておるというふうに見るべきだろ
うと思うのであります。ただ、御趣旨のような生活費を差引いた純益とい
うのでありましょうか、そういう形ではなしに、税率も標準税率をとって
おりますし、すべての事業に課税するという建前をとっているということ
から考えて参りますと、やはり事業をして行く場合には、事業に対する地
方団体の施設もあることなんだから、その分量に応じて経費を負担して行
くのだ、しかしながら、課税標準をどうするかということについては、税
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金を緩和しなければならぬとかいろいろな関係があるものだから、ある種
のものについては収入金額をとる、ある種のものについては所得をとる、
しかしながら、零細なものについてそこに若干の考慮を払う、こういうよ
うな姿になっておると言わざるを得ないのじゃないかと思っております。
」と答弁した。これに対し、事業税の本質は応益税的性格かとの質問がさ
れ、自治庁税務部長が府県の経費を分担するという意味があると答弁した
ことに対し、さらに、応益税であるならば、法人にもっと課税すべきでは
ないかとの質問がされ、自治庁税務部長は、不徹底な点があることを認め
た上で、徹底するためには、売上金額等別の課税標準を用いた方がよいと
答弁している。また、同日の同委員会において、法人と個人の事業税の間
に格差があるので、個人事業税の基礎控除の引き上げ等緩和措置をもっと
と る べ き で あ る と の 質 問 と の 関 連 で 、 自 治 庁 税 務 部 長 は 、「( 前 略 ) 事 業
税は経費のうちから払わるべき税金だという建前をとっておるわけであり
ます。従いまして法人税や所得税の計算をいたします場合に、支払いまし
た 事 業 税 額 は 、 全 部 経 費 と し て 控 除 し て 行 き ま す 。( 中 略 ) 要 す る に 経 費
のうちから払わるべき税金なのであって、それだけの経費はやはりその事
業の対価を受けた場合に常に控除してもらいたい。すなわちそこからでき
た品物を買って行く人がありましたならば、買って行く人たちに一応それ
だけのものを背負わして行きたい、こういう考え方をとっておるのであり
ま す 。( 後 略 )」 と 答 弁 し た ( 第 1 9 回 国 会 衆 議 院 地 方 行 政 委 員 会 議 録 第
3 0 号 7 な い し 1 0 頁 )。 同 委 員 会 の 審 議 に お い て は 、 以 上 の 質 疑 に 代 表
されるような零細な個人事業者の事業税負担が法人の事業税負担よりも重
いので、一層の基礎控除の引き上げ、税率の引き下げ等緩和措置が必要で
あるとの質問がされ、その関連で事業税の性格に関する答弁がされている
。」
ウ 原判決28頁8行目末尾の次に、行を改めて次のとおり加える。
「同年6月6日の衆議院地方行政委員会における審議において、政府委
員として出席した同改正法案立案担当者である自治庁税務部長は、事業税
を純益課税にしないで外形課税で説明しようとするので、無理が生じてく
る と の 質 問 に 対 し 、「( 前 略 ) 事 業 税 の 課 税 標 準 を 何 に 求 め る か と い う こ
とは非常にむずかしい問題でありますけれども、純益に求めるよりも、売
上金額とか、付加価値額とか、あるいは従業者数とかいう形に求めた方が
、事業税の性格ならいってもむしろ望ましいのではないか、こういう感じ
を持っております。しかし課税事務の簡素化の問題その他の問題もござい
ますので、多くのものにつきましては、法人税や所得税にそのまま乗っか
る と い う 方 式 を 採 用 し て 参 っ て お り ま す 。」 と 説 明 し て い る ( 第 2 2 回 国
会 衆 議 院 地 方 行 政 委 員 会 議 録 第 1 5 号 9 頁 )。」
エ 原判決28頁14行目末尾の次に、次のとおり加える。
「さらに、付加価値税的なものはやめるべきであるとの質問に対し、自
治 庁 税 務 部 長 は 、「 か つ て 国 税 で あ り ま し た 場 合 の 営 業 税 と 、 現 在 府 県 の
独立税としての事業税とは全くその存在理由を異にしているだろうと思い
ま す 。( 中 略 ) 今 の こ の 事 業 税 を む し ろ 全 体 の 納 得 の 得 ら れ る よ う な も の
に育てていきたいというふうな考え方を持っているわけであります。事業
税はもうけから払うのか、経費から払うのかという考え方に立ちました場
合には、やはりもうけのうちから払う税金じゃなしに、元来事業をやって
いきます以上は、それだけのものを経費として考えていってもらわなけれ
ばならないのではないだろうか、こういうふうに思うのでございます。そ
の場合にどの程度負担してもらえるかということになって参りますと、沿
革的な事情もございますし、あるいは負担する場合の難易の問題もござい
まして、従来通り所得を課税標準にしているわけでございますけれども、
料金統制の行われているもの等につきまして、漸次売上金額と課税標準と
するように切りかえていっているわけであります。こういうように個々に
いろいろ問題が起きております点を率直に見詰めまして、是正をはかりな
がら事業税というものを育てていきたい、こういう考え方を現在のところ
い た し て い る わ け で あ り ま す 。」」
(2) 本件条例に至るまでの外形標準課税に関する議論等
上記認定の昭和29年、30年及び32年の地方税法の改正(それぞれ各年
の法律第95号、法律第112号及び法律第60号)により、現行事業税の基
本的な構造が確立されたものと考えられる。
ア 立案担当者、所管官庁等の考え方
こうした法改正の立案担当者であるとともに、地方税法を所管していた旧
自治庁ないし自治省担当者の事業税の性格や外形標準課税の位置付けに対す
る理解は、事業税の課税客体である事業は、道路、港湾、橋梁、公衆衛生施
設等の都道府県の施設を利用し、又はこれらの行政サービスを受けてその活
動を行っていることから、事業税は、基本的には、これらの公共施設の設置
- 55 -
や行政サービスに必要な経費について応分の負担を求めるという応益原則に
基づく税であること、その課税標準も事業の規模・活動量を最も端的に表現
す る も の で あ る こ と が 望 ま し く 、 そ う い う 意 味 で は 、「 所 得 」 よ り も 、「 売
上金額」等のいわゆる外形的なものを課税標準とすることがより適当である
というものである。例えば、乙1の57(地方税昭和33年1月号の旧自治
庁税務局府県税課担当者の事業税に関する解説)では、現行地方税法72条
の 1 9 に 相 当 す る 当 時 の 7 2 条 の 1 8 第 1 項 の 実 質 的 意 義 に 関 し て 、「( 1
)事業税は、その沿革上ここに規定されているような課税標準であったのが
、所得金額に統一され、例外的に収入金額をも採用しているが、本来の性格
として、所得を課税標準とすべきものではなく、現在の経済情勢上やむを得
ず所得を中心として課税標準としているものの、事情が許せばここに規定さ
れ て い る 思 想 即 ち 外 形 標 準 課 税 の 方 向 に 向 か う べ き も の で あ る こ と 。( 2 )
そのために、全国的に、一律に改正は行われ難いが、特定の都道府県におい
て、外形標準課税を行い得るならば、法定外普通税の如く国家の許可を得な
く て も 実 施 で き る こ と 。( 3 ) 税 率 は 、 法 第 7 2 条 の 2 2 第 1 0 項 に 、 法 定
の課税標準の場合の負担と著しく均衡を失することのないようにしなければ
ならないと規定されているが、これは、個々の納税者ごとに判断するのでな
く、この制度に包含される全体についての税負担と考えるべきものであるこ
と。課税標準に変更があれば個々には税負担の変動があるのは当然であり、
個々の税負担を法定の方法による場合と同じくするならば、この制度の大半
の 意 義 が 失 わ れ る 。( 以 下 略 )」 と 、 ま た 、「 事 業 の 情 況 に 応 じ 」 に 関 し て
、「 事 業 の 情 況 に 応 じ て こ の 方 法 が と れ る の で あ る が 、 一 定 の 業 態 ( 例 え ば
、物品販売業或はその特殊なる形態である百貨店業)を対象とし、或は一定
規模以上のものに限定し、或は法人、個人を区分して適用することもできる
。 何 れ の 場 合 に お い て も 、 条 例 上 明 ら か に し て お か な け れ ば な ら な い 。」 と
それぞれ解説が加えられている。この解説は、昭和35年に初版が刊行され
た自治庁税務局編「地方税法逐条解説 事業税編」にも引き継がれている。
一方、国や地方の税制全体の在り方を検討する政府の税制調査会において
も、制度論としてではあるが、事業税を「所得」以外の基準によって事業の
規模・活動量に応じた課税とするための検討が続けられた。早期の段階のも
の で あ る 昭 和 3 9 年 1 2 月 の 「「 今 後 に お け る わ が 国 の 社 会 、 経 済 の 進 展 に
即応する基本的な租税制度のあり方」についての答申」では、事業税につい
て「事業税の課税の根拠は、事業が収益活動を行なうに当たっては、地方団
体の各種の施設を利用し、その他の行政サービスの提供を受けていることか
ら、これらのために必要な経費を分担すべきであるとする考え方によるもの
であるが、課税に当たって事業そのものを課税客体としているのは、事業が
収益活動を行なっている事実に着目してその担税力を見出そうとするもので
あるからである。したがって、事業税は事業の規模ないし活動量あるいは収
益活動を通じて実現される担税力をなんらかの基準によって測定して課税す
ることが望ましいと考えられる。このような意味において、現行の事業税は
、大部分の事業について、所得金額を課税標準としていることは、法人税又
は所得税の附加税的な色彩をもち、所得に対する課税の重複とみられる等問
題があると考えられる。したがって、事業税の課税標準については、事業の
規模ないし活動量あるいは収益活動を通じて実現される担税力を表わす何ら
かの所得金額以外の基準を求めて、これを課税標準とすることが適当である
と 考 え る 。」 と し た 上 で 、 具 体 的 な 外 形 基 準 の 在 り 方 に つ い て の 検 討 を 行 っ
ている。
本件条例案の検討が始められた前後の平成11年7月には、政府税制調査
会の下に置かれた地方法人課税小委員会が、地方税を安定的で税収の変動が
少 な い も の と し て 地 方 分 権 を 推 進 す る た め に 、「 特 に 、 都 道 府 県 の 最 大 の 税
目である法人事業税に外形標準課税を導入し、応益課税としての事業税の性
格を明確にするとともに、都道府県税収の安定化を図ることが重要な課題と
な っ て い る 。」 と し 、 具 体 的 に は 、「 法 人 事 業 税 は 、 法 人 の 事 業 活 動 と 地 方
の行政サービスとの幅広い受益関係に着目して事業に対して課される税であ
ることから、その課税標準は、法人の事業活動の規模をできるだけ適切に表
す も の で あ る こ と が 望 ま し い 」 が 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し て い る た め 、「
事業活動の規模との関係が適切に反映されず、本来の応益課税の性格から見
て 、 望 ま し い あ り 方 に な っ て い な い 」 の で 、「 法 人 事 業 税 へ の 外 形 標 準 課 税
の導入は、法人の事業活動と地方の行政サービスとの受益関係に着目して事
業に対して課する税としての性格の明確化を図るという観点からも、大きな
意 義 を 有 す る 改 革 に な る も の と 考 え る 。」 と し た 上 で 、 具 体 的 な 外 形 基 準 に
ついて検討している。
イ 本件条例以前の外形標準課税導入に向けた動き
本件条例以前においても、地方税法72条の19を活用して外形標準課税
を導入しようとする動きがなかったわけではない。すなわち、昭和49年に
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、千葉県では、一定規模以上の石油精製及び石油化学企業の2業種に限って
、売上金額を課税標準とする外形標準課税導入の試みがされたが、他の地方
自治体や旧自治省等から、特定の業種に限った外形標準課税の導入について
、税負担の均衡を失うなどの批判がされて、結局導入が見送られた。
その後も、全国知事会が昭和52年11月30日に「法人事業税の外形課
税の実施に関する報告」をし、その中で「法人事業税外形課税実施案要綱」
を 公 表 し た 。 そ の 内 容 は 、「 事 業 税 の 物 税 と し て の 性 質 を 明 確 に し 、 行 政 サ
ービスに対する法人の税負担の適正化及び都道府県税収の安定化」を目的と
して、法改正によらず、全国の都道府県が地方税法72条の19に基づく特
例条例を制定して外形標準課税の導入を図ることを提言するものであって、
主として製造業を行う法人で資本又は出資金額が5億円以上のものを納税義
務 者 と し 、 課 税 標 準 は 、「 所 得 」 と 外 形 標 準 、 具 体 的 に は 、 い わ ゆ る 加 算 法
による付加価値(所得並びに給与、利子及び賃借料の合計金額)を併用する
方式によるというものである。同年末の外形標準課税の本格導入の問題は、
地方財政制度審議会や政府の税制調査会においても検討されたが、厳しい経
済情勢下にあるし、政府において関連する一般消費税の検討が行われていた
こと、また、国と地方の財源配分をどうするかについても結論が出ていない
ことから見送られることとなった。この全国知事会の提案の検討過程で、旧
自 治 省 税 務 局 の 担 当 者 が 地 方 税 制 に 関 し て 共 同 執 筆 し た 文 献 (「 昭 和 5 2 年
改 正 地 方 税 制 詳 解 」) に お い て は 、 全 国 知 事 会 で 製 造 業 の よ う に 一 定 の 業
種の法人に限定して外形標準課税の導入が検討されていることを念頭に置い
た 上 で 、 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 の 「 事 業 の 情 況 に 応 じ 」 に つ い て 、「「 事 業
の情況に応じ」とは、たとえば①相当規模の事業活動を行っているにもかか
わらず、その事業の規模に比して税負担が著しく低いことが常態であるため
一定期間の所得を課税標準としては、受益の程度に応ずる負担を求めること
が困難な情況にある場合、②所得を課税標準としているため同一規模の事業
を行っている異種の事業の間に税負担の不均衡が生じている情況にある場合
等をいうものと考えられる。したがって、知事会試案のように例えば製造業
のように一定の業種の法人に限定して外形課税を行うことも可能であると考
え ら れ る 。」 と 説 明 さ れ て い る 。 ま た 、 昭 和 5 3 年 3 月 3 0 日 の 参 議 院 地 方
行政委員会において、この点の経緯に関する質疑が行われた際に、政府委員
である旧自治省税務局長は、都道府県が個別に外形標準課税を導入すること
と 地 方 税 法 7 2 条 の 2 2 第 9 項 の 均 衡 要 件 と の 関 係 に つ い て は 、「 地 方 税 法
の現行法から申しますと、いまお話しのように外形標準課税の仕組みを導入
できる、その場合の税率は現行の所得課税の負担と均衡を失しないように決
めなければならないと、こう書いておるわけでございます。そういたします
と、いまお話しのように、得するところだけが外形課税をやり、そうでない
ところは所得課税をやるということになりますと、全体として所得課税を行
った場合との負担のバランスというものはこれはとれない結果になりますか
ら、法はそういうことは予定していないと私は考えております。したがって
、外形課税を導入する場合には、所得課税負担との均衡を失しないようにす
るためには、どうしても一律に外形標準課税方式を導入するということでな
け れ ば 適 当 で な い と 、 か よ う に 思 っ て お る 次 第 で ご ざ い ま す 。」 と 答 弁 し 、
引き続き外形標準課税を導入する業種を増やしていくことについて問われて
、「( 前 略 ) 法 律 で 外 形 課 税 が 導 入 で き る の は 、 事 業 の 状 況 に よ り 導 入 で き
ると、こう書いてあるわけです。ですから、すべての事業を通じて事業税に
外形課税を一律に導入するということは法律は予定してないと私は思うんで
ございます。知事会の提案も、製造業に限定をしてやりたいということでや
っておりますから、まあそういう事業の状況に応じてやるという税法上の考
え方に即しておると思うわけであります。その製造業をさらに個別に分けて
、何業はやるが何業はやらないということになりますと、これはなかなか選
別なり整理はむつかしいという感じがいたしますから、もし現行法を活用し
ますならば、知事会が考えてこられたような形ではないだろうかと、かよう
に 思 い ま す 。」 と 答 弁 し て い る ( 第 8 4 回 国 会 参 議 院 地 方 行 政 委 員 会 議 録 第
5 号 6 頁 )。
ウ 学界等有識者の議論
事業税の性質については、学界では、戦前の営業税時代から、これを収得
税(人税)である所得税と対置する収益税(物税)と位置付ける見解が一般
的であり、戦後事業税として改正された後にも、事業税が収益税の性質を持
っていることは異論がないこと、事業税の課税根拠に関する論説には、上記
アで認定した立案担当者等と同様な見解をとる旧自治省関係者が執筆したも
のが少なくないこともあって、事業が都道府県の公共サービスから利益を受
けているという事実に着目し、事業税を公共サービスの受益の対価として根
拠付ける「利益説」の立場をとる見解が多い。
地方税法72条の19に関して具体的な解釈論を展開したもので、旧自治
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省関係者以外の学者のものとしては、上記イ認定の千葉県における外形標準
課 税 導 入 の 動 き に 関 連 し て 、「 地 方 税 法 が 「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し て い る 以
上、所得が零または赤字である場合までも課税対象にするということは、許
されないものといわねばならない。外形課税によらねばならない必要性とし
ては、例えば、売上金額を課税標準とする方が公平な課税を実現できるとか
、徴税能率を高めるというような場合が考えられる。さらに、外形課税の合
理性を担保するような税率が採用されねばならないが、すべての事業に公平
な一本の税率というものは考えられない。事業の種類や規模により、売上原
価や費用に大きな差異があるのが当然であろう。むしろ、特定の種類の事業
について規模等を考慮して税率を定めることの方が合理性を有する可能性が
あるものと考えられる。したがって、千葉県のように、石油精製・石油化学
企 業 に 限 定 し て 外 形 課 税 を 実 施 す る こ と も 、「 所 得 」 課 税 の 趣 旨 を 全 く 無 視
するようなものでない限り、許されるわけである。因みに、地方税法は、事
業税について、所得を課税標準とする方法と外形課税の方法を併せ用いるこ
と を 明 文 で 許 容 し て い る こ と に 注 目 し て お き た い 。」 と し て 、 地 方 税 法 7 2
条の19の規定による外形標準課税を認めるために、その必要性と税率面に
おける合理性を求める見解(昭和61年に公表された碓井光明東京大学法学
部 教 授 の も の ) や 、「 現 在 の 事 業 税 制 度 は 、 必 ず し も 利 益 説 の 考 え 方 に 即 し
た制度とはなっていない。それは、若干の業種を除いて純収益(所得)を課
税標準としている点では、むしろ能力説の考え方に近く、他方、法人税およ
び所得税の税額計算において経費として控除することが認められている点で
は、利益説の考え方を反映している(法人事業税について累進課税が採用さ
れ て い る こ と も 、 利 益 説 の 考 え 方 で は 説 明 で き な い 。)。 い ず れ に し て も 、
現行の事業税は応能課税と応益課税の混合タイプであり、しかも応能課税の
要 素 の よ り 強 い 混 合 タ イ プ で あ る 。」 と す る 見 解 ( 上 記 ア 認 定 の 政 府 税 制 調
査会地方法人課税小委員会の報告を契機として、平成11年に公表された金
子宏東京大学名誉教授のもの)があることが認められる。
いずれにせよ、本件条例の構想が公表された後の議論(原判決48頁23
行目冒頭から同49頁23行目末尾までのキ欄参照)と比べると、地方税法
72条の19の具体的な解釈論についての学界における検討はそれほど突っ
込んだものではなかったのではないかと推認される。
エ 内閣法制局部長の国会答弁
なお、本件条例案に対しては、平成12年2月22日に政府が具体的な問
題点を指摘して東京都に対し慎重な対応を求める統一見解(その詳細につい
ては、原判決51頁8行目冒頭から同52頁9行目末尾までのソ欄説示のと
おり)を公表しているが、その一方で、同月24日の衆議院地方行政委員会
で政府参考人として出席した内閣法制局第一部長が、地方税法72条の19
の 解 釈 に つ い て 質 問 さ れ て 、「( 前 略 ) 事 業 税 と い い ま す の は 、 事 業 活 動 が
地方公共団体のサービスを受けて行われるという点に着目した、事業に対す
る課税であるというふうに考えられております。お尋ねの72条の19は、
事業の状況に応じて外形標準課税をすることができるという旨を規定してお
るわけでありますけれども、これは、こうした事業税の本来の性格、応益課
税であるという本来の性格に照らしまして、特定の事業については、事業税
の課税標準として所得以外のものを用いる方が受益との関係でより適切であ
るというふうに判断される場合ということになろうと思います。さらに具体
的に申し上げますと、基本的には、所得を課税標準としてとっていたのでは
事業税の負担がその受益の程度に比して相当に低いということが常態化して
いるような業種が、同条の規定による外形標準課税の対象になるというふう
に考えられます。ほかにも、例えば、非常に景気感応性が高くて毎年の事業
税の納付額が大きく極端に動くというふうなことで、地方公共団体の安定的
なサービスの提供に障害があるというようなことがあれば、そういうものも
対 象 と し て 考 え て い い の で は な い か と い う ふ う に 考 え て お り ま す 。」 と 答 弁
し て い る ( 第 1 4 7 回 国 会 衆 議 院 地 方 行 政 委 員 会 議 録 第 3 号 2 9 頁 )。 こ の
答弁は、本件条例案公表後のものであるが、その内容から見て、上記アない
しウ認定の本件条例以前の議論を踏まえ、それをまとめたものと推認され、
従前の議論を理解する上で参考になると考えられる。
(3) 現行事業税の性格
ア 立法経過の理解
上記(1)認定のとおり、昭和29年及び30年の地方税法の改正過程で
、立案作業に当たった旧自治庁担当者は、提案理由の説明においてはもちろ
ん、外形標準課税や付加価値税的な考え方を批判する質問に対しても、事業
税の基本的な理念として、事業者が事業を行うに当たっては、公共施設を利
用したり行政サービスを受けることになるので、その経費を分担してもらう
という応益的な考え方が採られるべきであるとの立場からの答弁が繰り返さ
れ て い る ( 例 え ば 、「 事 業 の 分 量 に 応 じ て 、 府 県 の 経 費 を 分 担 す る と い う 考
- 58 -
え 方 が 事 業 税 の 中 に 織 り 込 ま れ る べ き で は な か ろ う か 」「 事 業 税 は 府 県 の 経
費 分 担 だ 」 等 )。 そ の 上 で 、 そ う し た 基 本 的 な 考 え 方 か ら の 帰 結 と し て 、 事
業税の本来の姿としては、付加価値等による外形標準課税が望ましいとして
い る ( 例 え ば 、「 理 論 的 に は 、 附 加 価 値 税 が 非 常 に よ ろ し い の で あ り ま す 」
「純益に求めるよりも売上金額とか、付加価値額とか、あるいは従業者数と
かいう形に求めた方が、事業税の性格なら(ママ)いってもむしろ望ましい
の で は な い か 」「 所 得 を 課 税 標 準 と す る こ と は 本 来 の 筋 で は な い の じ ゃ な い
か、やはり付加価値的なもの、あるいは従業員数その他の外形的なものを課
税標準に採用した方がいいのじゃないか、こういう考え方をしております。
」)。 一 方 で 、「 所 得 」 な り 「 純 益 」 を 課 税 標 準 と し た 理 由 に つ い て は 、 戦
後の経済情勢、特に企業の担税力への配慮、従前と異なる取扱いをすること
による徴税・納税事務の負担という、理論的というよりは、実際上の理由に
よ る も の で あ る と 説 明 し て い る ( 例 え ば 、「 経 済 の 基 礎 が 非 常 に 浅 い も の だ
から千億にもなろうとする税金の賦課方法をかえるといたしますと、業界に
とって非常に重くなったり、軽くなったりいたします。こうような負担の激
変(中略)に打ちかつためには、現在のわが国の産業界の基礎があまりに弱
す ぎ る の で は な か ろ う か 。( 中 略 ) や む を 得 ず 従 前 通 り に し て お く よ り い た
し 方 な い の で は な か ろ う か 。」「 や む を 得 ず 従 来 通 り 踏 襲 す る だ け 」「 課 税
事 務 の 簡 素 化 の 問 題 そ の 他 の 問 題 も ご ざ い ま す 」「 沿 革 的 な 事 情 も ご ざ い ま
すし、あるいは負担する場合の難易の問題もございまして、従来通り所得を
課 税 標 準 に し て い る わ け で ご ざ い ま す 」)。 そ の 上 で 、 応 益 的 な 考 え 方 に よ
る事業税を育てて行きたい旨明確に答弁している。
以上の説明・答弁から見て、立案担当者は、事業税について、その性格か
ら見て応益的な考え方に基づき構成されるべきものであり、実際上の理由か
ら 所 得 を 課 税 標 準 と し て い る が 、「 所 得 」 以 外 の 付 加 価 値 等 の 課 税 標 準 に よ
る課税が可能であるならば、その採用を広げていくべきであるという立場に
立っていたことが明らかである。
確かに、昭和29年の地方税法の改正において、事業税において応益的な
考え方による制度設計を徹底させようとしたシャウプ勧告やそれに基づく附
加価値税が一度も実施されないまま廃止され、所得が原則的課税標準として
採用された経過からすると、現行事業税を応益的な考え方だけで理解するこ
とには、なお慎重な検討を要するともいえよう。しかし、上記(1)認定の
立案担当者の説明・答弁によれば、例えば、事業税の課税標準を定める条文
(現行地方税法72条の12)では、所得と収入金額について、条文上の表
現面で優先劣後を付けず並列的に規定するなど、将来の立法論にとどまらず
、現行法の立案に当たっても、シャウプ勧告やそれを受けた附加価値税が実
現しようとした応益的な考え方を、可能な限り条文中に取り込もうとしてい
たことが認められる。また、一審原告らは、上記(1)認定の説明・答弁は
、明文で外形標準課税を認める例外業種を拡大する方向での法改正に際し、
これを直接的な対象としたものであって、地方税法72条の19の解釈運用
が直接議論の対象とされていたわけではないと主張する。しかし、上記の説
明や答弁によると、所得を課税標準とすることは本来望ましくなく、応益的
な考え方に基づき外形基準を課税標準とする余地を広げていくべきであると
の基本的な立場を一貫させていることから見て、地方税法72条の19の解
釈運用においても、積極的な立場をとるものと考えられる。
イ 戦前の営業税制度の影響
一審原告らは、事業税の前身である営業税は、明治11年までさかのぼる
ことができるが、少なくとも終戦当時の営業税は、純益(所得)課税を原則
としていて、その例外として認められていた外形標準課税は、純益、営業純
収益等の所得の捕捉が困難な場合にこれを補うため徴税の便宜から設けられ
たものであって、その点は昭和29年に創設された現行事業税においても引
き継がれているのであり、したがって、現行地方税法72条の19が許容す
るものも、営業税時代と同趣旨で、所得の捕捉の困難な情況を前提としてい
ると解すべきであると主張する。そこで、以下この点について検討する。
〔証拠略〕によれば、明治29年に国税として創設された営業税、大正1
5年に府県税として存置された営業税、昭和22年に国税から地方税に移管
された営業税及び昭和23年に営業税に代わって創設された事業税には、原
則か例外かはともかくとして、いずれも外形標準課税の規定が設けられてい
たこと、明治29年に創設された営業税においては、主要24業種に限るも
のではあるが、本来純収入ないし営業純収益を課税標準とすべきところ、帳
簿が未整備な小営業者等がおり、個別調査も煩に耐えないことから外形基準
(「 建 物 賃 貸 価 格 、 従 業 者 、 売 上 金 額 、 資 本 金 額 、 収 入 金 額 、 請 負 金 額 及 び
報 償 金 額 」。 な お 、 戦 前 の 法 規 上 の 文 言 に つ い て は 、 必 要 に 応 じ て 現 代 語 標
記 に よ っ て お り 、 以 下 も 同 様 で あ る 。) を 課 税 標 準 と し た と 解 さ れ て い た こ
と、しかし、外形標準課税によると課税の負担が営業の利益や収益の実際と
- 59 -
合わず負担の均衡を失するという批判があったことから、大正15年の改正
で国税としての営業税を廃止し、国税としては、営業純益を課税標準とする
営業収益税が創設されたこと、その際、府県税としては内務、大蔵両大臣の
許 可 を 受 け て 、「 営 業 の 収 入 金 額 ( 売 上 金 額 、 請 負 金 額 、 報 償 金 額 の 類 を 含
む )、 資 本 金 額 、 営 業 用 建 物 の 賃 貸 価 格 、 従 業 者 の 数 」 を 課 税 標 準 と す る 外
形標準課税を採用することが認められた(地方税に関する法律施行規則2条
1項)が、これは小営業者の純益の調査が大営業者と比べて困難であること
に対応するものと解されていたこと、昭和15年の改正で府県税の営業税も
国税としての営業税に統合され、昭和22年の地方税法の改正で、営業税は
国から地方に移譲されて、純益を課税標準とする地方税としての営業税にな
ったが、営業の種類を限り内務大臣の許可を受け純益以外の外形基準を採用
することが認められていたこと、この外形標準課税も営業者が実際の営業の
収益を証すべき帳簿を整備していない等収益の算定が困難な場合を補うため
に設けられたものと解されていたこと、昭和23年に営業税が廃止されて創
設された事業税は、所得を原則的な課税標準としながら、現行地方税法72
条の19に相当する条文(69条1項前段)が設けられたが、当時、この条
文は、例えば、露天商のように事業形態によって純収益ないし所得の把握が
困難な場合に、外形基準による課税を認めたものと解されていたこと、昭和
29年の改正時において、現行地方税法72条の19に相当する条文案につ
いて、政府委員の旧自治庁税務部長が「従来あった規定と同じであります。
」と説明していること(第19回国会参議院地方行政委員会議録第30号2
6 頁 )、 ま た 、 昭 和 2 9 年 改 正 に 関 す る 旧 自 治 庁 関 係 者 の 解 説 の 中 に は 、 現
行地方税法72条の19に相当する条文について、徴税の便宜を図るための
規定であるとか、小規模な事業に適用することとなるという趣旨の説明がさ
れていることが認められる。また、一審原告らが当審で提出した有識者の意
見書には、戦前の営業税や営業収益税における外形標準課税は、基本的には
記帳慣行等が未整備で収益の捕捉が困難である中小事業者を想定していたも
ので、それも改正過程で縮小されていった経過から見て、現行事業税が応益
的なものではあり得ない旨の見解が見られるし、上記旧自治庁税務部長の説
明から見て、昭和29年改正の立案担当者において、それまでの外形標準課
税に関する基本的な考え方を転換する意図はなかった旨の見解が見られる。
以上によれば、戦前の営業税時代の外形標準課税は、主として帳簿類が未
整備な小規模な営業者を想定して、その純益ないし所得の捕捉が困難な業種
に営業税の課税を可能とするために、導入されていたのであり、このような
解釈は、昭和22年改正による営業税及び昭和23年改正による事業税にお
いても同様であったと認められる。そして、同年改正による地方税法におけ
る現行地方税法72条の19に相当する条文(69条1項前段)は、既に説
示(原判決23頁6行目冒頭から同21行目末尾までのカ欄説示)したとお
り、現行事業税法72条の19とほぼ同様な文言である(ただ、外形基準に
係る「家屋の床面積若しくは価格、土地の地積若しくは価格」が「家屋の床
面積若しくは賃貸価格、土地の地積若しくは賃貸価格」となっている点が目
立 つ 程 度 で あ る 。) と こ ろ 、 上 記 昭 和 2 9 年 改 正 に 関 す る 立 案 担 当 者 で あ っ
た旧自治庁関係者の説明ないし解説に照らすと、同条による外形標準課税が
許容される場合についての解釈が、戦前の営業税時代と同様なものであると
の理解が成り立たないわけではない。
しかし、このような理解は、昭和29年及び30年の地方税法の改正過程
で行われた上記(1)で認定した説明・答弁の内容に反するものであるし、
昭和29年の改正に関する上記旧自治庁関係者の説明においては、その冒頭
で は 、「 事 業 税 は 所 得 を 課 税 標 準 に す る の が 原 則 だ と か 、 収 入 金 額 を 課 税 標
準にするのが原則だとかいうふうにきめてしまいませんで、それぞれの実態
において所得を課税標準に用いるものもあれば、収入金額を課税標準に用い
る も の も あ る と い う 趣 旨 を 現 わ し て い る つ も り で ご ざ い ま す 。」( 第 1 9 回
国会参議院地方行政委員会議録第30号25頁)と説明していること、また
、いずれの説明等も、所得の捕捉の困難性を指摘するものではないし、限定
的な解釈の必要性について言及するものでもないことなどから見て、これら
の説明等が直ちに上記アの認定を覆すものとは評価できない。そして、戦前
からシャウプ勧告前の昭和23年の改正までの経過が上記のとおりのもので
あったとしても、シャウプ勧告、附加価値税の導入の議論を重ねている過程
の中で、地方税法の立案担当者が応益的な考え方を重視するようになってい
ったと認めることとは、何ら矛盾するものはないと考えられる。むしろ、上
記(1)認定の説明・答弁にもあるとおり、所得税法及び法人税法の課税標
準の算定に当たって、事業税額を経費又は損金に算入することが認められて
いるのも、原判決がいうところの技術的な規定にとどまらず、事業税がその
本質において事業遂行に当たっての行政サービスの受益と対価関係にあるべ
きものであることを勘案してのものであると解されるところである。
- 60 -
いずれにしても、以上に述べた現行事業税に対する応益的な考え方につい
ては、上記(2)ア及びイで認定したその後の旧自治庁及び自治省関係者が
執筆した資料や国会答弁においても一貫している。
ウ 事業税の関係規定の表現
一 方 、 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 は 、「( 事 業 税 の 課 税 標 準 の 特 例 )」 と い う
条見出しの下に、例外4業種以外の事業についての外形標準課税について規
定している。この「特例」という表現から見る限りは、事業税の地方税法上
に お け る 原 則 的 な 課 税 標 準 は 、「 所 得 」( 正 確 に は 、「 所 得 」 と 「 清 算 所 得
」 で あ る が 、 以 下 中 心 的 な 「 所 得 」 の み を 表 記 す る こ と と す る 。) で あ る と
いわざるを得ない。上記(1)の説明・答弁によれば、立案担当者において
も、応益的な考え方が望ましいとはいっても、実際上適用される課税標準と
しては、所得の場合が圧倒的であることは、自認していたところであるし、
現に、例外4業種の東京都の事業税額総額に占める割合は、3.39%にと
どまること(平成12年度)から見て、現行地方税法においては、外形標準
課税は例外的なものと位置付けられる。その意味では、現行事業税は、上記
(2)ウで認定した金子教授の「応能課税と応益課税の混合タイプであり、
しかも応能課税の要素のより強い混合タイプ」というとらえ方が、その法的
性格についても的確に表しているものと考えられる。
その上で、例外4業種(地方税法72条の12が「収入金額」を課税標準
とすることを認める電気供給業、ガス供給業、生命保険業及び損害保険業)
以外の事業に外形標準課税を認める要件として地方税法72条の19が定め
て い る も の は 、「 事 業 の 情 況 に 応 じ 」 と い う 文 言 上 解 釈 の 幅 の あ る 一 般 的 な
表現によるものであって、例外4業種と関連付けた表現とはなっていない。
この表現を字義どおり理解する限り、原判決が採用したような例外4業種に
準ずるような事業自体の客観的性格や法律上の特別の制度が存在する場合に
限って、外形標準課税の導入を認めていると解することは、狭きに失するこ
とは明らかである。昭和22年に改正された営業法48条の3の「営業の種
類を限り」という表現(原判決22頁25行目冒頭から同23頁5行目末尾
までのオ欄説示のとおり)が、昭和23年の地方税法の全面改正で事業税に
引 き 継 が れ る 際 に 、「 事 業 の 情 況 に 応 じ 」 と な っ た こ と か ら 、 特 定 の 事 業 に
限定した外形標準課税の導入は解釈論として困難となったとの一審原告らの
主張は、これに沿う見解もあるが、条文の文言を見る限り、このような理解
をすることは困難である。
以上に認定したところに、上記(1)及び(2)認定の事実を勘案すれば
、地方税法72条の19は、原則的な課税標準である「所得」を課税標準と
し て 課 税 す る と 適 当 で な い と 考 え ら れ る 場 合 に 、「 所 得 」 以 外 の 適 当 な 外 形
基準による課税(外形標準課税)を、地方公共団体の裁量によって行うこと
を認める趣旨の規定であると解するのが相当である。こうした解釈は、少な
くとも、昭和29年の改正以来の経過や議論になじむだけではなく、立案時
以上に地方分権の推進が求められ、そのための財源的な裏付けの必要性が高
ま っ て い る 現 在 の 社 会 情 勢 に も 、 適 合 し て い る と い え る 。 現 行 事 業 税 は 、「
所 得 」 を 原 則 的 な 課 税 標 準 と し 、 そ の 現 実 の 適 用 の 場 面 に お い て も 、「 所 得
」を課税標準とする課税が圧倒的に多いという意味において、応能課税の要
素が強いものと評価できるが、そうであるからといって、事業税の本来的な
姿である応益課税を選択することができるとする72条の19の解釈適用の
場面においては、その発動のための要件を満たしている以上、応益的な考え
方を基本とすべきであると考えられる。いずれにせよ、この「事業の情況に
応じ」という一般的な表現の解釈運用に当たっては、原則として、地方公共
団体の合理的な裁量にゆだねられていると認められるところである。
エ 均衡要件の位置付け
上記ウのとおり、地方税法72条の19は、地方公共団体が、応益的な考
え方に立って、一定の立法裁量(もちろん、合理的なものである必要がある
。) を 認 め て い る と 解 さ れ る の で あ る が 、 そ の 立 法 裁 量 権 の 行 使 の 結 果 は 、
納税義務者の税負担に直接的かつ重大な影響を及ぼすことになるし、法律で
原則的に明定されている課税標準の例外を条例で制定することを許容するの
であるから、これが地方公共団体の全くの自由裁量にゆだねられると解する
ことはできない。そのような解釈は、法令の明文の規定又はその趣旨に反す
る条例制定を許さないとする憲法94条及び地方自治法14条1項の趣旨に
反することになるし、税目の新設又は変更における地方公共団体の選択を総
務大臣の同意に係らせている法定外普通税についての地方税法259条の規
律とも整合性がとれないこととなる。一方、地方税法72条の19自体の条
文上の表現や構造から見て、同条の解釈論の中で、そうした外形標準課税に
関する地方公共団体の裁量に対する制約原理を導き出すことには限界がある
と思われる。そして、地方税法の中で、そうした制約原理(法的な意味での
歯止め)として機能することが期待されているのは、地方税法72条の22
- 61 -
第9項のいわゆる「均衡要件」であると解される。すなわち、同項は、外形
標準課税の税率決定に、その外形標準課税による税負担が所得を課税標準と
する場合の税負担と著しく均衡を失することのないように定めるべきものと
しているのである。この均衡要件は、実質的には、昭和23年の地方税法の
全面改正の際に創設された規定であり、その当時適用されていた営業税法4
8条の3が営業税の原則的課税標準である「純益」に代えて、外形基準とす
べき特別の必要がある場合には、営業の種類を限り、内務大臣の許可を受け
ることを要件としていた(原判決22頁25行目冒頭から同23頁5行目末
尾までのオ欄説示のとおり)のを廃止して、上記の均衡要件を創設した経緯
にかんがみると、均衡要件は、実質的には内務大臣の許可に代替する法的な
機能を期待されているものと考えられる。したがって、地方税法72条の2
2第9項は、地方公共団体が事業税に外形標準課税を導入するに当たっては
、均衡要件を満たすこと、すなわち、従前の課税標準及び税率による税負担
と「著しく均衡を失することのない」ように、外形標準課税に係る条例を制
定することを要求している規定と解すべきである。
以上によれば、地方税法は、一方で、原則的課税標準を「所得」としてそ
の 税 率 を も 法 定 し 、 他 方 で 、 地 方 公 共 団 体 に 対 し 、「 事 業 の 情 況 」 と い う 解
釈に幅のある表現で外形標準課税を導入できるようにするとともに、均衡要
件により、原則的課税標準及び税率による税負担と、著しく均衡を失しない
ように定めるべきことを求めているものということができる。
(4) 地方税法72条の19の解釈
ア 適用される基本的な場合
地方税法72条の19の解釈適用に当たっては、事業税が公共施設や行政
サービスの受益に対する経費を分担するという応益的な考え方に立つべきで
あ る こ と 、「 所 得 」 以 外 の 課 税 標 準 を 条 例 に よ っ て 採 用 す る 道 を 開 い て い る
同条の適用が検討されるのは、原則的な課税標準である「所得」による課税
が適当でないと考えられる場合であることは、上記(3)で認定したとおり
である。また、事業税の課税客体は事業(その収益活動)であり、事業税の
担税力も課税客体である事業に求められることは争いがないところである。
そして、課税客体である事業の担税力を数量的に測定するとともに、公共施
設や公共サービスの受益の程度を反映するものとしては、課税客体である事
業の規模・活動量が端的な指標であると考えられるので、事業税の課税標準
も、事業の規模・活動量にできる限り対応するものである必要があると考え
ら れ る 。 し た が っ て 、「 所 得 」 に よ る 課 税 が 適 当 で な い 場 合 と い う の は 、 基
本 的 に は 、「 所 得 」 に よ る 課 税 が 事 業 の 規 模 ・ 活 動 量 か ら 測 定 さ れ る 事 業 の
担税力と対応しないものとなっていることが基本となる。この考え方は、例
外4業種について「収入金額」が課税標準として採用されていること(地方
税法72条の12)にも対応している。すなわち、電気供給業及びガス供給
業については、公益事業であるため料金認可制が採られ、料金が低く抑えら
れていること、また、生命保険業及び損害保険業については、保険契約者の
保険料を投資して大きな利益を上げているが、この利益の大部分は配当に回
されること、これらの理由により「所得」を課税標準とする事業税額が事業
の規模・活動量と対応しないものとなることから、外形標準課税が採用され
ている。
ただ、事業の規模・活動量については多義的なとらえ方ができるものであ
るので、税負担と事業の規模・活動量が対応しないといっても、もともと厳
密な意味での定量的な対応関係を求めることは困難であり、抽象的・擬制的
なアプローチに頼らざるを得ないのであって、この点に関して、例外4業種
に準ずる事業自体の客観的性格や法律上の特別の制度の存在が必要であると
する原判決が採用した考え方は、事業税の関係規定の表現や構造から見ても
狭きに失し、これを採用できないことは、既に(3)ウで述べたとおりであ
る。そうはいっても、地方税法72条の19は特例的な課税であること、課
税標準は納税義務者の税負担に直結し大きな影響を与えるものであることか
ら、税負担と事業の規模・活動量が対応しないとの判断に当たっては、慎重
な考慮が必要であると考えられる。上記(2)イで認定したとおり、昭和5
2年に全国知事会の外形課税の提案がされた前後に公表された旧自治省税務
局の担当者の論説では、地方税法72条の19により外形標準課税ができる
一つの場合として、事業活動が相当規模であるのに、その規模に比して税負
担 が 「 著 し く 低 い こ と 」、 そ し て 、 そ の こ と が 「 常 態 化 し て い る こ と 」 を 挙
げているし、また、上記(2)エで認定したとおり、本件条例の構想公表後
に さ れ た 内 閣 法 制 局 第 一 部 長 の 国 会 答 弁 で も 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と す る 税
負 担 が そ の 受 益 の 程 度 に 比 し て 「 相 当 に 低 い こ と 」、 そ し て 、 そ の こ と が 「
常態化していること」が、同条の外形標準課税の対象となる要素としている
のも、同様な考察に基づくものであって、基本的に是認できる考え方である
と評価できる。
- 62 -
イ
特定の事業、業種に限った適用
次に、地方税法72条の19が、特定の事業、業種に限って外形標準課税
を導入することを許容する趣旨であるか否かを検討する。同条の「事業の情
況に応じ」という文言自体を素直に読めば、問題となる事業なり業種ごとに
外形標準課税の課税標準を検討することを許容しているものと考えられる。
そして、同条の「事業の情況に応じ」は、上記アで検討したとおり、事業税
の税負担が、公共サービスの受益の程度、具体的には、事業の規模・活動量
に 比 し て 、「 著 し く 」 な い し 「 相 当 程 度 」 低 い こ と が 「 常 態 化 」 し て い る 場
合に満たされるものであることとすれば、個々の事業なり業種ごとに、そう
した常態が生じているかを吟味することになるのが自然である。現に、例外
4業種のように、法律で明定されているとはいえ、事業ないし業種単位での
例外が認められていること、上記(2)ア認定のとおり、旧自治庁税務局の
担当者の昭和30年代の現行事業税に関する解説書では、地方税法72条の
19の「事業の情況に応じ」の解釈として、物品販売業、百貨店業といった
一定の業態を対象とする外形標準課税が認められるとの考え方が紹介されて
いる。また、上記(2)イ認定のとおり、千葉県では昭和49年に、一定規
模以上の石油精製及び石油化学企業に限った外形標準課税導入の動きがあっ
たこと、この動きは税負担の均衡を失うなどの批判で見送られたが、このよ
うな石油精製・石油化学企業に限定しての外形課税も、上記(2)ウ認定の
と お り 、「 所 得 」 課 税 の 趣 旨 を 全 く 無 視 す る よ う な も の で な い 限 り 許 容 さ れ
るとの学者の見解が公表されていること、その後も、上記(2)イ認定のと
おり、全国知事会は昭和52年に、主として製造業を行う法人を対象とする
外形標準課税の導入を提案し、この提案に対しては、旧自治省税務局長が国
会で、製造業に限定しての導入は、地方税法の「事業の情況に応じ」という
文言に則している旨を答弁しているところである。それにもかかわらず、本
件条例に対しては、その構想が公表された直後である平成12年2月22日
に閣議口頭了解として発表された政府の統一見解を始め、特定の事業に限定
した外形標準課税の導入には問題がある旨の指摘が多く(ただし、上記(2
)エ認定の本件条例案公表後の内閣法制局第一部長の国会答弁では、上記ア
認定の要件を満たしている業種は、地方税法72条の19の外形標準課税の
対 象 と な る と し て い る 。)、 本 件 訴 訟 に お い て も 、 多 数 の 有 識 者 か ら 同 様 な
指摘がされているところである。しかし、少なくとも、一審被告東京都にお
いて、本件条例案が検討されていた当時までの議論は、以上のとおり、物品
販売業、石油精製業、製造業というように特定の事業・業種に限って適用す
ることが当然の前提となっていたことを考慮すると、地方税法72条の19
は、特定の事業に限定した外形標準課税の導入を許容していると解するのが
相当であり、このような解釈も十分成り立ち得るところである。
なお、昭和23年の地方税法の改正により、それまでの地方税法48条の
3 が 「 営 業 の 種 類 を 限 り 」 と 規 定 し て い た の を 、「 事 業 の 情 況 に 応 じ 」 と い
う表現に改められたことは既に認定したとおりであるが、このことから、特
定の事業に限った外形標準課税の導入の余地がなくなったと解すべきでない
ことは、上記(3)ウに説示したとおりである。
ウ 東京都のみにおける適用
一審原告らは、本件条例が、一審被告東京都のみにおける外形標準課税の
実施である点を問題としている。この点については、上記(2)アで認定し
た、昭和30年代の旧自治庁税務局の担当者の解説書では、特定の都道府県
における外形標準課税も認められる旨の説明がされている。一方、本件条例
の構想が公表される前に公刊されていた旧自治庁・自治省関係者の論説中に
は、地方税法72条の19が道府県ごとに適用される場面は、現実にはほと
んど考えられない旨述べているものがあるし、また、上記(2)イで認定し
た、昭和52年の全国知事会の外形標準課税の提案後に行われた旧自治省税
務局長の国会答弁では、地方税法72条の22第9項の「所得」による税負
担との均衡を失しないようにするためには、全国一律の外形標準課税の導入
でないと適当でないとしている。これらに基づき、一審原告らは、旧自治庁
・自治省関係者も、事業税における外形標準課税は、法律によって一律にす
べての道府県に適用しないと、現実には機能しないものと考えていたと主張
する。確かに、昭和52年の全国知事会の外形標準課税導入の提案、また、
本件条例案が公表された後に、平成12年2月22日に閣議口頭了解として
発表された政府の統一見解、本件条例を契機とする旧自治省や政府の税制調
査会における外形標準課税導入の議論も、全国一律の導入が妥当であるとい
う立場を前提としており、それが理論的に見ても望ましい形態であることは
確かであるといえる。
しかし、地方税法72条の19が、例外4業種のように、法律という明確
な 形 式 で 全 国 一 律 に 外 形 標 準 課 税 を 課 す る 方 法 と は 別 に 、「 事 業 の 情 況 に 応
じ」という、事業ごとの検討が可能な要件の下に、外形標準課税を導入する
- 63 -
道を開いていることからは、同条は、特定の地方公共団体の条例による外形
標準課税の導入を認めていると解さざるを得ない。ただ、特定の地方公共団
体が外形標準課税を導入する際には、他の地方公共団体に与える影響が大き
いことから、この面からも「所得」を課税標準とした場合の税負担の均衡、
つまり、地方税法72条の22第9項の均衡要件の吟味をより慎重に行う必
要があると考えられる。
(5) 本件外形標準課税と地方税法72条の19
ア 銀行業等への限定について
本件条例は、その2条1項に定める銀行業等を行う法人であって、各事業
年度の終了の日における資金量5兆円以上であるものを納税義務者としてい
る。本件条例が、地方税法72条の19に基づき銀行業等に限って外形標準
課税を導入する理由について、一審被告東京都側の公式の説明の要旨は、以
下のとおりである(本件条例制定後公表された一審被告東京都主税局の担当
者の解説である乙3の20・21、本件条例案を審議した東京都議会の会議
録 で あ る 乙 5 の 1 な い し 8 )。
「法人事業税は都道府県が提供する行政サービスと事業活動の受益関係に
着目したものであり、その課税標準は、法人の事業活動の規模をでぎるだけ
適切に表すものであることが、税負担の公平性の確保のためには望ましい。
また、行政サービスの安定的な供給のためには、税が安定的で変動が少ない
ものである必要がある。銀行業等が十分な収益を上げながら不良債権処理に
係る損失額が多額であるため、一審被告東京都の行政サービスの対価として
の法人事業税をほとんど負担しておらず、そうした情況が今後急に好転する
ことが見込まれない。具体的には、銀行業等の収益は、大手銀行19行の業
務粗利益で見ると、バブル経済期の平成2年3月期に約5兆6000億円で
あったものが、平成11年3月期には約7兆5000億円を超えているのに
対し、事業税額は、大手銀行のものがバブル経済期に約2200億円で一審
被告東京都の全事業税収の約14%であったものが、現在は約100億円程
度で全事業税収の約1.5%にまで落ち込む見込みである。このようにバブ
ル経済期よりも本業での利益を上げながら、法人事業税の負担をしていない
業 種 は 、 銀 行 業 等 ( 本 件 条 例 2 条 1 項 に 定 義 が あ る 。) だ け で あ る し 、 銀 行
業等の法人事業税の税収は、他の業種と比べて極めて不安定である。以上か
ら見て、銀行業等に関する限り、構造的に事業活動の規模に見合った納税が
期 待 で き な い 「 事 業 の 情 況 」( 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 ) に あ る こ と に な り 、
応益課税としての法人事業税がその機能を喪失している。そこで、銀行業等
に 限 っ て 同 条 に 基 づ き 、 外 形 標 準 課 税 を 導 入 す る 必 要 が あ る 。」
〔証拠略〕によれば、大手の銀行19行ないし30行が一審被告東京都に
納付する法人事業税額が昭和59年度以後不安定な状況にあり、特に平成5
年度以降減少幅が大きいこと、その一方で、大手の銀行19行ないし30行
の業務粗利益や銀行の資金利益は、平成2年度から平成10ないし11年度
までの間、若干の増加ないし横ばいの傾向で推移していること、一審被告東
京都においては、本件条例案を検討する際に、昭和60年度から平成10年
度までの法人事業税額や平成2年度から平成11年度までの業務粗利益の推
移等について、銀行業等と不動産業、建設業及び証券業との比較検討を行っ
ているが、その結果によれば、不動産業等においても法人事業税額が減少し
ているが、これらにおいては業務粗利益も減少していること、一審被告東京
都の全法人事業税のうち大手の銀行30行が占める割合は、昭和59年度か
ら平成4年度までの間は、10%を上回るか10%相当であったものが、平
成6年度から平成11年度までの間は、平成8年度(10.8%)及び10
年度(5.8%)を除いて、1ないし3%の間にとどまったこと、銀行業の
事業税額が業務粗利益の傾向に反して減少しているのは、いわゆるバブル経
済の崩壊以降、不良債権処理を進めるため貸倒処理を本格化したことが影響
していることが判明した。そして、以上の事実と銀行業等においては、今後
も当分の間継続して、不良債権処理、貸倒処理を継続する必要性が高いこと
( 公 知 の 事 実 ) か ら 見 て 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と す る 法 人 事 業 税 の 課 税 に よ
っては、銀行業等の法人事業税額が、現状においても既に相当程度減少して
いるのに、今後も当分の間減少が見込まれる状況であり、少なくとも業務粗
利益や資金取引から推認される銀行業等の事業の活動量は、そのような減少
傾向と相当程度対応しないものとなっていたし、このような傾向や状況は、
不動産業等他の業種と異なるものであったのであるから、銀行業等について
、上記(4)アで認定した地方税法72条の19の適用を許容することがで
きる「事業の情況」が生じていると判断することができる。
一審原告らは、銀行業の上記のような情況について、バブル経済期及びそ
の崩壊後の経済情勢が銀行業に影響を及ぼした結果であって、銀行業等の事
業自体の客観的性質に基づかない事態であるから、地方税法72条の19の
「事業の情況」には当たらないと主張し、これに沿う有識者の意見書(例え
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ば、甲276)を証拠として提出する。しかし、地方税法72条の19の「
事業の情況に応じ」の解釈運用は、上記(3)ウで認定したとおり、基本的
に は 、 地 方 公 共 団 体 の 合 理 的 な 裁 量 に ゆ だ ね ら れ て い る も の で あ る し 、「 事
業 の 情 況 に 応 じ 」 の 解 釈 と し て 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と す る と 、 事 業 の 規 模
が同一である異種の事業との間で、事業税の税負担の不均衡が生じている情
況がある場合(昭和52年の全国知事会の外形標準課税の提案前後に公表さ
れた旧自治省税務局担当者の論説)や、景気感応性が高くて毎年の事業税納
付額が大きく極端に変動するため、地方公共団体の安定的な行政サービスの
提供に障害がある場合(本件条例の構想公表後の内閣法制局第一部長の国会
答弁)が含まれるとの見解もあることを考えると、上記一審原告らの主張は
採用できない。
イ 資金量5兆円以上との限定について
銀行業等への限定が地方税法72条の19において許容されるとしても、
各事業年度の終了日における資金量が5兆円以上のものに限定していること
についても許容されるのかが問題となる。この点については、上記(2)ア
で認定した、昭和30年代の旧自治庁税務局の担当者の解説書では、対象事
業を限定するだけではなく、その中の一定規模以上のものに限定することも
許される旨の説明がされている一方、上記(2)イで認定した、昭和52年
の全国知事会の外形標準課税の提案後に行われた旧自治省税務局長の国会答
弁においては、特定の事業に限った外形標準課税を認めた上で、その事業を
更に個別に分けて適用の有無を変えることは、その選別や整理が困難である
としており、消極的なニュアンスがうかがわれる。また、本件条例について
理解を示している有識者も、全銀行業等を納税義務者とした上で、資金量5
兆円未満のものについては課税免除とした方が問題が少なかったのではない
かとの見解を述べている。以上から見ると、特定の業種の中で、更に外形標
準課税が適用されるものとそうでないものとの区別を設けることについては
、慎重な考慮と検討が必要であると考えられる。
一審被告東京都側は、公式の説明において資金量による限定を設けた理由
と し て 、「 中 小 金 融 機 関 へ の 配 慮 」 を 挙 げ て い る 。 す な わ ち 、 一 般 的 に も 中
小事業者に厳しい経済情勢下にある中で、その資金繰りに無視できない影響
を及ぼす中小金融機関に対して、実質的に見れば増税の効果を伴う本件条例
による課税を適用することは、中小事業者にも相当程度の影響を及ぼす可能
性は否定できず、そうした事態が生じないように適用対象外にしたというこ
とである。一方、本件条例案の検討過程の資料によれば、本件条例による課
税 に よ っ て 、 大 手 の 銀 行 3 0 行 ( い ず れ も 資 金 量 5 兆 円 以 上 で あ る 。) に つ
いては税収が120億円であったものが1130億円増加するのに対し、資
金量3兆円以上5兆円未満の銀行については、税収が11億3000万円で
あったものが2億4000万円増加するに過ぎないことが認められ、このこ
とからすると、本件条例の資金量5兆円という要件は、どちらかというと、
安定した法人事業税収入を得るために、必要な限度で線を引いた面があった
ことは否定できないところである。そして、本件条例の制定目的の一つとし
て、一審被告東京都の安定的な税収の確保があったことは争いがなく、その
目的に照らして、必要性の点から線引きしたことも、理解できないではない
。しかしながら、税負担の公平性の観点からは、この理由だけから線引きの
合理性を根拠付けることは困難である。
そこで、更に検討するに、法人事業税の課税標準を地方税法72条の19
を適用して「所得」から外形基準に改めるに当たっては、中小事業者の事業
活動に与える影響を考慮する必要があることについては、昭和29年、30
年の地方税法改正の国会審議の際も上記(1)認定のとおり議論されている
ところである。また、上記(2)アで認定した、昭和39年に外形標準課税
の導入方向を示した政府の税制調査会の答申においても、中小事業者への考
慮が検討されているし、上記(2)イで認定した、昭和49年の千葉県にお
ける導入の検討の際も、一定規模以上の事業者を対象として外形標準課税を
導入することが検討されている。以上から見て、適用を受ける事業者の税負
担を概して増やす結果となる外形標準課税の導入の検討に当たっては、中小
事業者への影響を検討することが必要であり、このような政策的な判断を認
めることについて強い異論があるとは考えられない。本件条例における中小
事業者への影響は、中小金融機関に対する外形標準課税の適用を通じてのも
のであるという意味で、間接的ではあるが、基本的には中小事業者に対する
妥当な政策的配慮と評価することができる。そして、一審被告東京都が資金
量5兆円で線引きした資料によれば、平成11年3月期において、資金量5
兆円以上の大手銀行30行の資金量の合計が、3800以上ある民間預金取
扱機関の全資金量の55.7%を占めていること、また、大手銀行24行の
業務純益の総額が138行の銀行の業務純益総額の74.1%を占めている
ことが認められ、これらを考慮して資金量5兆円で線を引いた一審被告東京
- 65 -
都の裁量権行使については、地方公共団体の政策的な判断として一応の合理
性が認められ、地方税法72条の19の適用においても許容され得るものと
考えられる。
ウ 業務粗利益を課税標準としたことについて
本件条例は、課税標準(外形基準)として「業務粗利益」を採用している
。 一 審 被 告 東 京 都 側 の 、 公 式 の 説 明 に お け る こ の 点 の 要 旨 は 、「「 業 務 粗 利
益」が銀行の基本的な業務をすべてカバーした指標で、一般企業でいえば、
売上高から売上原価を差し引いた売上総利益に相当する概念ないしはそれに
近い概念である。そして、銀行の事業活動の規模を的確に反映した客観的な
基準であるとともに、銀行の収益力に裏付けられた担税力も一定程度反映さ
れ て い る も の で も あ る こ と か ら 、 課 税 標 準 と し て 最 適 で あ る 。」 と い う も の
である。同じ証拠によれば、一審被告東京都が他の外形基準として「資本金
」、「 資 金 量 」 を 検 討 し た こ と は 認 め ら れ る ( 前 者 に つ い て は 各 銀 行 ご と に
大きな差異があること、後者については現実の銀行等の活動量を十分に反映
す る と は 言 い 難 い こ と 等 か ら 採 用 さ れ な か っ た 。) が 、 具 体 的 に ど の よ う な
経過で「業務粗利益」の採用に至ったかをうかがわせる直接的な証拠はない
。上記(2)アで認定した、平成11年7月の政府の税制調査会地方法人課
税小委員会の報告を契機とした、上記(2)ウ認定の金子教授の論説が、企
業会計上の売上総利益(企業の売上高から売上原価を控除した金額)が「企
業の公共サービスからの受益ないし活動規模を測定する指標」として適切な
選択肢として説明されていることを参考にした可能性も否定できない。
これに対し、一審原告らは、銀行業における「業務粗利益」は、一般事業
会社における「売上総利益」とは法律上も会計上も全く異なる概念であり、
銀行の貸付業務において必然的かつ経常的に発生し、銀行業が新たに生み出
した付加価値ではない貸倒損失等や信用リスク・プレミアムが控除されてい
ないことから、銀行業の事業活動量を適切に表す指標とはいえないので、本
件 条 例 は 、「 業 務 粗 利 益 」 を 課 税 標 準 と し た 点 だ け で も 違 法 で あ る と 主 張 す
る。そして、この一審原告らの主張に沿った有識者の意見書が控訴審だけで
も多数提出されており、これらによれば、銀行業の「業務粗利益」は、業務
収益から業務費用を差し引いた金額でも、業務純益でもなく、一般事業会社
の「売上総利益」とは会計学上も対応しない概念であること、また、金融実
務に通じた者の感覚によれば、銀行の貸倒損失部分は貸付業務において不可
避的に発生するととらえられていることが認められる。この点から見ると、
一 審 被 告 東 京 都 の 説 明 の う ち 、「 業 務 粗 利 益 」 を 一 般 事 業 会 社 の 「 売 上 総 利
益」との対比から、銀行業等に対する外形標準課税の課税標準として最適で
あると判断した点には、検討を加えるべき余地があったといわざるを得ない
。一方で、本件条例案の検討が始められた前後の平成11年7月の政府の税
制調査会地方法人課税小委員会の報告において、導入を図ることが望ましい
外 形 基 準 と し て 、「 事 業 活 動 に よ っ て 生 み 出 さ れ た 価 値 ( 事 業 活 動 価 値 )」
、「 給 与 総 額 」、「 物 的 基 準 と 人 的 基 準 の 組 合 せ 」 及 び 「 資 本 等 の 金 額 」 が
提案されており、上記金子教授の論説もそうした提案を前提に「売上総利益
」の提案をしていることが認められることからすると、一審被告東京都が検
討したことが認められる「資本金」や「資金量」以外の外形基準についても
、銀行業等への当てはめを含む検討が十分行われるべきであったとも考えら
れる。その際、例外4業種である生命保険・損害保険業においては、課税標
準が「収入金額」とされているものの、この収入金額の算定に当たっては、
営業保険料総額から純保険料部分を除くために、収入保険料に一定割合を乗
じた額が「収入金額」とされており(地方税法72条の14第8項及び第9
項 )、 こ の 純 保 険 料 部 分 が 信 用 リ ス ク ・ プ レ ミ ア ム に 相 当 す る と の 見 方 が で
きることとの対比からするると、銀行業等の課税標準においては、貸倒損失
ないし信用リスク・プレミアムを何らかの形で考慮する方法について、なお
検討を加える必要があったともいえそうである。
一 方 、〔 証 拠 略 〕 に よ れ ば 、 銀 行 業 に お け る 「 業 務 粗 利 益 」 は 、 計 算 書 類
上独立の勘定項目ではないが、平成元年の銀行法施行規則の改正により、銀
行が銀行法24条1項を背景として監督官庁に提出することが求められてい
る「決算状況表」の記載事項となり、現在も金融庁の事務ガイドラインで、
銀行の金融庁長官への決算情報の一部として報告を求められていること、当
初は、監督官庁の監督事務のためのものであって、一般や外部への開示は予
定されていなかったが、投資家、利用者等に対するディスクロージャーを充
実させる観点から、全国銀行協会連合会統一開示基準が平成2年に改正され
、「 業 務 粗 利 益 」 が 開 示 項 目 に 追 加 さ れ 、 さ ら に 、 平 成 1 0 年 1 2 月 に 施 行
された金融システム改革法による銀行法21条1項の改正により、銀行法施
行規則19条の2で業務の状況を示す指標の一つとして、銀行の主要な営業
所に備え置き公衆の縦覧に供する説明書類における開示事項に加えられたこ
と 、 実 際 上 も 、 各 銀 行 の 一 般 向 け の デ ィ ス ク ロ ー ジ ャ ー 誌 に は 、「 業 務 粗 利
- 66 -
益 」 に つ い て 、 例 え ば 、「 銀 行 の 基 本 的 な 業 務 か ら の 収 益 で す 。」、「 収 益
の 大 き さ を 表 す 「 業 務 粗 利 益 」」、「 業 務 粗 利 益 ・ 業 務 純 益 は 、 銀 行 の 利 益
をみるうえで重要な指標です。銀行が本業でどれだけの利益をあげたかを示
す銀行特有の指標で、一般企業でいう「売上総利益・営業利益」に相当しま
す 。」、「 業 務 粗 利 益 と は ‥ ‥ ‥ 銀 行 本 来 の 業 務 に よ る 「 収 益 」 と 「 費 用 」
の差額(収支)です。一般の企業で言う経費控除前の「売上総利益」にあた
り ま す 。」、「 業 務 粗 利 益 は 、 一 般 に 銀 行 の 本 来 業 務 に か か る 収 益 性 を 示 す
と い わ れ て い る も の 」 で あ る 、「 業 務 粗 利 益 と は 、( 中 略 ) 信 用 金 庫 の 基 本
的 業 務 の 粗 利 益 を 示 す も の で す 。」 等 と し て 記 載 さ れ て い る こ と 、 決 算 説 明
会における資料にも銀行業の損益や利益を示す指標の一つとして記載されて
いること、全国銀行協会が作成した銀行のディスクロージャーを解説するパ
ン フ レ ッ ト に も 、「 業 務 粗 利 益 」 に つ い て 「 銀 行 が 本 来 の 業 務 で ど れ く ら い
の 利 益 を あ げ て い る か が わ か り ま す 。」 と の 説 明 が さ れ て い る こ と が 認 め ら
れ る 。 以 上 に つ い て 、 一 審 原 告 ら は 、「 業 務 粗 利 益 」 は 、 専 ら 銀 行 監 督 目 的
で監督官庁が導入したもので、事業活動量の測定との関連性は全くないし、
また、上記資料における説明は、いずれも一般の素人向けのものであって、
法律学、会計学等専門的な検討が加えられた上でのものではないと主張する
。 し か し な が ら 、「 業 務 粗 利 益 」 の 当 初 の 導 入 目 的 が 業 法 上 の 規 制 、 監 督 上
の必要性にあったとしても、その後の法規の改正等により、銀行業の経営状
況等の情報を対外的に提供する機能を付与されていたことは明らかであるし
、また、上記のディスクロージャー誌等の記載は、一般向けの分かりやすさ
を 優 先 し た 面 が あ る と は い え 、「 業 務 粗 利 益 」 が 、 銀 行 業 界 か ら の 対 外 的 な
情報発信において、銀行業の基本的業務の収益ないし粗利益を示すとしたり
、一般事業会社の「売上総利益」に相当するものとして、一般的、日常的に
用いられている概念であることは否定できないところである(甲307は、
こ の 認 定 に 反 す る も の で は な い 。)。 し た が っ て 、 こ う し た 情 報 発 信 を 受 け
て 、「 業 務 粗 利 益 」 を 用 い て 銀 行 業 の 収 益 や 業 務 の 活 動 量 を 測 定 す る 要 素 と
して用いることも、許容されるアプローチの一方法であると評価することが
可能である。
と こ ろ で 、 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 は 、 外 形 基 準 に つ い て は 、「 資 本 金 額 、
売上金額、家屋の床面積若しくは価格、土地の地積若しくは価格、従業員数
等」と定めるだけで、外形基準がどのようなものであるべきかといった定義
も さ れ て い な い し 、「 等 」 と い う 表 現 か ら 明 ら か な と お り 、「 資 本 金 額 」 以
下の具体的な外形基準は、例示的なものにとどまっている。したがって、上
記(4)アで述べた「事業の情況に応じ」の解釈を前提とすると、地方税法
72条の19は、事業の規模・活動量をできる限り適切に反映し得るもので
あって、徴税・納税事務の観点から合理的なものと解される客観的な指標で
あれば、同条の外形基準として採用することを許容していると考えられる。
この点について、一審原告らは、この「等」という表現は、上記(3)イ認
定のとおり、大正15年の改正で府県税として存置された営業税について、
地方税に関する法律施行規則2条1項により外形標準課税の課税標準とする
ことが認められていた「営業の収入金額(売上金額、請負金額、報償金額の
類 を 含 む )、 資 本 金 額 、 営 業 用 建 物 の 賃 貸 価 格 、 従 業 者 の 数 」 に お け る 「 の
類を含む」を基本的には引き継いだものであること、この「の類を含む」と
いう表現は、営業税(府県税)が小規模な個人営業者のみを対象とするもの
で あ る と こ ろ 、 各 業 種 ご と に 、「 収 入 金 額 」 に 相 当 す る 概 念 に つ い て 「 売 上
金額、請負金額、報償金額」などというように、呼称が区々に分かれていて
逐 一 条 文 に 列 挙 す る こ と が 困 難 で あ っ た こ と か ら 、「 の 類 を 含 む 」 と い う 表
現でまとめて規定する趣旨であり、個別に掲げられたもの(売上金額、請負
金額、報償金額)と同質で何らかの共通性が認められるものに限られると解
釈 さ れ る こ と 、 し た が っ て 、「 の 類 を 含 む 」 を 基 本 的 に 引 き 継 い だ 現 行 地 方
税 法 7 2 条 の 1 9 の 「 等 」 も 、「 資 本 金 額 、 売 上 金 額 、 家 屋 の 床 面 積 若 し く
は価格、土地の地積若しくは価格、従業員数」と同質で何らかの共通性が認
め ら れ る も の に 限 っ て 外 形 基 準 と 認 め る 趣 旨 で あ る と こ ろ 、「 業 務 粗 利 益 」
は同条が具体的に規定する外形基準と全く異質であり何らの共通性も認めら
れないから、同条が許容する外形基準とはいえないと主張し、これと同じ見
解の有識者の意見書が提出されている。しかし、戦前の法律の施行規則上の
「の類を含む」という表現と、現行法律上の「等」という表現が、法制上の
概念として同質のものと理解することができるのか疑問である上、その点を
譲って同趣旨の表現であると仮定しても、上記大正15年改正後の営業税(
府県税)の外形基準に係る「の類を含む」は、法律施行規則上規定されてい
た外形基準の一つである「収入金額」に関するものであって、しかも、カッ
コ内の具体例(売上金額、請負金額、報償金額)の末尾に付されたものであ
り 、「 収 入 金 額 」 以 外 の 外 形 基 準 ( 資 本 金 額 、 営 業 用 建 物 の 賃 貸 価 格 、 従 業
者の数)も含めた全体に係っているものではなかったのに対し、現行地方税
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法72条の19の「等」は、同条が規定する外形基準の末尾にその全体を受
ける形で規定されており、規定中の位置付けにおいて明らかに異なる点があ
るから、上記一審原告らの主張のように解釈しなければならないとは、直ち
には考えられない。そして、上記(3)イで認定したとおり、シャウプ勧告
やこれを受けた附加価値税の検討を経て、昭和29年、30年の地方税法改
正の立案担当者の基本的な立場が、できる限り応益的な考え方に立った事業
税を実現することを重視するものとなったこと、また、例えば、上記平成1
1年7月の政府の税制調査会地方法人課税小委員会の報告のように、本件条
例に至る間の外形標準課税に関する議論においては、事業活動価値や付加価
値等を反映する適切な外形基準を幅広く検討する手法がとられ、その前提と
して「等」について上記主張のように限定的にとらえる考え方は採られてい
ないことも合わせ考えると、現行地方税法72条の19の「等」が、具体的
に規定された外形基準と同質で何らかの共通性のあるものに限って許容する
趣旨であるとの、上記一審原告らの主張は採用できない。
以 上 を 総 合 す る と 、「 業 務 粗 利 益 」 を 本 件 条 例 の 課 税 標 準 ( 外 形 基 準 ) と
して採用したことには、以上述べてきたような会計処理との整合性や貸倒損
失等の考慮といった問題点から、一審被告らが主張するような「最適の」課
税標準であったとは考えられない。しかし、ここで問題となっていることは
、事業税の課税という局面において、事業としての銀行業等の規模・活動量
を表すものとして「業務粗利益」を採用した一審被告東京都の裁量判断の合
理 性 で あ り 、 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 は 、「 等 」 と い う 地 方 公 共 団 体 に 一 定 の
裁 量 を 認 め た 表 現 を 採 っ て い る 上 に 、「 業 務 粗 利 益 」 が 、 銀 行 業 界 か ら 対 外
的に、銀行業の業務や収益の状況に係る情報を伝える概念として、一般的、
日常的に活用されていることも合わせ考えれば、事業税の課税客体である事
業 と し て の 銀 行 業 等 の 規 模 ・ 活 動 量 を 測 定 す る も の と し て 、「 業 務 粗 利 益 」
を課税標準として採用した一審被告東京都の判断が、合理性を欠くものと断
定することはできない。
エ 結論
以上のとおりであるので、本件条例制定に当たっての一審被告東京都の裁
量判断は、いずれも地方税法72条の19において許容される範囲内のもの
であると認められるので、本件条例は同条に違反しないものと考えられる。
(6) 本件外形標準課税と地方税法72条の22第9項
ア 均衡要件の意義と一審被告東京都の説明
上記(3)エで認定したとおり、地方税法72条の22第9項の均衡要件
は、同法72条の19の解釈運用における地方公共団体の裁量判断に対する
歯止めとしての機能を果たすものである。しかも、本件条例は、一審被告東
京都だけでの外形標準課税の実施であるので、上記(4)ウで認定したとお
り、均衡要件に対するより慎重な考慮が必要となる。また、均衡要件は、直
接的には外形標準課税の税率を問題としているが、本件条例の100分の3
と い う 税 率 を 直 接 吟 味 す る わ け で は な く 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し た 場 合 の
税負担と外形標準課税による税負担とを比較することを求めている。そして
、税負担は、基本的には課税標準に税率を乗ずることによって決まることか
ら、均衡要件の吟味、すなわち、税負担の均衡を比較検討する際には、外形
標準課税における課税標準いかんについても、間接的に問題とならざるを得
ないことになる。
本件条例における均衡要件に関する、一審被告東京都の公式の説明の要旨
は 、「 過 去 数 年 間 に お け る 本 件 条 例 の 適 用 対 象 と な り 得 る 資 金 量 5 兆 円 以 上
の大手銀行30行について、過去数年間の法人事業税の税収実績と、本件条
例による課税との均衡により判断した。ここ数年間はバブル経済期をはさん
で極めて不安定な形で推移していることを考慮し、バブル経済期前、バブル
経済期、バブル経済期後(バブル経済崩壊後)のいずれの時期をも含んだ期
間である昭和59年度から平成10年度までを選択した。その間における大
手銀行30行の一審被告東京都における法人事業税の税収実績の年間平均額
は約1088億円であり、一方、本件条例による法人事業税額の増額見込み
は 約 1 1 3 0 億 円 で あ る こ と か ら 、 均 衡 し て い る 。」 と い う も の で あ る 。〔
証拠略〕によれば、一審被告東京都の全事業税額のうち、資金量5兆円を超
える銀行30行が納付した事業税額の占める割合の、昭和59年度から平成
10年度までの平均が約9.8%であるのに対し、本件条例が適用された初
年度(一審原告らの事業年度では平成12年度であり、一審被告東京都に納
付 さ れ る の は 平 成 1 3 年 度 と い う こ と に な る 。) の 確 定 申 告 納 税 額 約 1 0 2
9億円が一審被告東京都の全事業税額に占める割合は約9.6%であり、こ
の納税額や割合だけを比較する限度では、見合ったものとなっていることが
認められる。
イ 不均衡の程度と比較する期間
地 方 税 法 7 2 条 の 2 2 第 9 項 が 税 負 担 の 均 衡 に つ い て 求 め て い る の は 、「
- 68 -
著 し く 均 衡 を 失 す る こ と の な い よ う に 」 す る こ と で あ っ て 、「 著 し く 」 と い
う文言上解釈の幅がある一般的な表現となっているので、その解釈適用に当
たっては、どの程度の不均衡に至ると著しく均衡を失することになるのかが
問題となる。この点について、一審原告らは、同条8項により法人事業税に
認められる制限税率(超過税率)が標準税率の1.1倍であることから、同
条9項の均衡要件の解釈に当たっても、これと統一的に解釈されるべきであ
り、同条8項の趣旨にかんがみれば、この1.1倍と「若干の差異」しか許
容されず、いかに緩やかに解するとしても2倍を超えることは論外であると
主張し、同様な見解を述べる有識者の意見書が控訴審でも提出されている(
なお、原審で提出された甲225号証(碓井教授の意見書)では、本件条例
の よ う に 特 定 事 業 に 限 っ た 外 形 標 準 課 税 に お い て は 、「 1 . 5 倍 を 超 え る 場
合は当然に違法であり、1.2倍を超える場合も違法とされる疑いがある」
と の 見 解 が 示 さ れ て い る 。)。 標 準 税 率 と 異 な る 税 率 を 適 用 す る と い う 点 で
は、外形標準課税は制限税率適用と類似する場面と見られないではないし、
均衡要件の歯止め的機能からすると、このような考え方が出てくることも理
解 で き な い で は な い 。 し か し 、「 1 . 1 倍 」 と 「 著 し く 」 と で は 、 表 現 自 体
として見た場合かい離がある上に、制限税率を規定する地方税法72条の2
2第8項は、昭和50年の法改正(法律第18号)で導入されたものである
(例えば、甲227)ところ、同じ条文中で規定されている均衡要件につい
ては表現が改められていないこと、そもそも、地方税法72条の19の外形
標 準 課 税 は 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と す る 税 負 担 が 事 業 の 規 模 ・ 活 動 量 と 「 著
しく」ないし「相当程度」対応しないことを前提としているのに、外形標準
課 税 に よ っ て も 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と す る 場 合 の 1 . 1 倍 な い し そ れ に 準
ずる程度といった課税しかできないとするのでは、税負担と事業の規模・活
動量の不均衡が解消できないこと等の事情を総合すると、均衡要件が歯止め
的機能を期待されていることを考慮しても、狭きに失するといわざるを得ず
、結局、上記見解を解釈論として採用することはできない。
また、一審原告らは、一審被告東京都が税負担の均衡を過去数年間の平均
値を基礎として検討していることについて、単年度を基礎とすべきであると
主張し、本件条例適用の初年度(平成12事業年度)における「所得」を課
税標準とした場合の一審原告らの推計事業税額(107億4489万190
0円)に対し、本件条例による外形標準課税による一審原告らの事業税額(
832億0571万7800円)は約7.7倍となること、また、第2年度
(平成13事業年度)における「所得」を課税標準とした場合の一審原告ら
の推計事業税額(2477万2700円)に対し、本件条例による外形標準
課税による事業税額(904億6486万4200円)は約3652倍とな
る こ と か ら 見 て 、「 著 し く 」 均 衡 を 失 し て い る こ と は 明 ら か で あ る と す る 。
確かに、税負担の均衡を問題にする以上、同じ年度について外形標準課税を
適用した場合と「所得」基準による場合とを比較することが基本となると考
えるのが事柄の性格に適合していると考えられる。しかし、地方税法72条
の22第9項が「著しく」という解釈上幅のある表現を用いていることに加
え て 、 上 記 ( 4 ) ア 認 定 の と お り 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と す る 事 業 税 の 税 負
担と事業の規模・活動量とが相当程度対応していない状況が「常態」化して
い る こ と が 、 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 の 適 用 の 前 提 で あ っ て 、「 常 態 」 化 の 有
無を判定するためには、過去数年間の状況の吟味が不可欠であるし、均衡要
件においては、外形標準課税の導入がそうした状況への対処として必要かつ
合理的なものとなっているかも実質的には検討されることとなると考えられ
ること、また、本件条例の適用は平成12年4月1日以後5年以内に開始す
る各事業年度分の法人事業税についてであるので、地方税法72条の19の
適用も一定期間継続することが前提であると考えられることからして、過去
や将来の一定期間(将来については見込みのもの)における税負担を比較吟
味した結果も勘案要素となると解される。この点について、平成12年2月
24日の衆議院地方行政委員会において内閣法制局第一部長は、地方税法7
2 条 の 2 2 第 9 項 の 解 釈 に つ い て 「( 前 略 ) 7 2 条 の 2 2 の 第 9 項 に あ り ま
す「著しく均衡を失する」というのはどういう意味かということであります
けれども、これも今申し上げましたように、いわゆる外形標準課税は、主と
して特定の業種の税負担がその受益の程度に比してかなり低いという場合に
、その負担の程度を引き上げで受益との均衡を図るということを目的に導入
するというものでありますから、それを導入することによって、所得を課税
標準とし続ける場合に比べてですが、ある程度事業税の負担が増加するとい
うことは法の予定するところだと言えるかと思います。したがって、問題は
、何をもって、あるいはどの程度になると、外形標準課税による事業税負担
が、所得を課税標準とする場合に比べて著しく均衡を失すると言えるほどに
重いということになるのかということであろうかと思いますが、これは事柄
の性格上、なかなか画一的に、あるいは定量的に基準を設定するということ
- 69 -
は困難であろうと思いますので、いろいろな要素を総合的に勘案して、究極
のところは社会通念に照らして判断するしかないということだろうと思いま
す。その際、考慮すべき主な要素としては、やはり外形標準課税をすること
によって増加する税負担の額がどれぐらいであるか、あるいは負担の増加割
合がどれぐらいであるかというようなことになろうかと思いますけれども、
これも、導入する年とか、その後2、3年とかいう短い期間ではなくて、中
長期的に見て負担の均衡が図られているかということだろうと思いますけれ
ども、今回の東京都案のように、一定の期間を限って措置するという場合に
は、その限られた期間内全体を比較するということになろうと思います。ほ
かにも、外形標準課税を導入することとした目的であるとか、あるいは、外
形標準課税をすることによって、所得その他法定されている他の課税標準を
引き続き用いる類似の業種等と負担のバランスがどうであるかといったよう
なことも、いろいろなことを考えなければいけないということだろうと思い
ま す 。」 と 答 弁 し て い る ( 第 1 4 7 回 国 会 衆 議 院 地 方 行 政 委 員 会 議 録 第 3 号
29頁)が、均衡要件の趣旨から見て、その解釈運用に当たって基本的に是
認できる考え方であると考えられる。
いずれにせよ、当裁判所も、均衡要件の判断については、外形標準課税が
導入された後の2、3年度の比較を基本としながら、過去数年間の課税実績
からの推計による比較のほか、外形標準課税導入の目的、本件条例のように
、一審被告東京都に限って、しかも特定の業種に限って導入する場合には、
他の道府県に及ぼす影響や、他の業種との負担の均衡等関連する諸般の事情
を、客観的な資料に基づき総合勘案すべきであり、このように解することが
、地方税法72条の22第9項の条文の表現及び同条項に期待されている機
能に適合するものというべきである。
ウ 税負担の比較
〔証拠略〕によれば、本件条例の検討過程において、一審被告東京都は、
資金量5兆円を超える大手銀行30行の平成11年3月期の「所得」を課税
標準とした場合の事業税額が約120億円ないし122億円であるところ、
本件条例が制定適用されることにより推計事業税額がその10倍を超える約
1250億円になるとの推計をしていることが認められる。これは、本件条
例案の検討過程における、従来の「所得」を課税標準とする課税済みの資料
に基づく推計ではあるが、本件条例の検討過程において入手可能な直近の年
度の課税実績に基づく推計であるし、一審被告東京都において本件条例によ
る影響を推測する有力な資料となったものであると推認される。そして、上
記イで認定した一審原告らの主張の根拠となっている〔証拠略〕によれば、
一審原告らに対して本件条例が適用された結果、その初年度(平成12事業
年度)には約7.7倍、そして第2年度(平成13事業年度)には約365
2倍という大幅な事業税負担の増加が生じたことが推認できる。もっとも、
この推計においては、一審原告らの大半の銀行(一審原告ら17行中、初年
度 で は 1 2 行 、 第 2 年 度 で は 1 6 行 ) に お い て 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と す る
課税では事業税額がゼロとなるのであって、その点が上記の著しい倍率に影
響を及ぼしている。本件条例の適用第2年度で、唯一「所得」を課税標準と
した場合の事業税額(2477万2700円)を推計することができる一審
原告八十二銀行については、本件条例に基づく納税額は1億2225万65
00円であり、税負担の比較割合は約4.9倍となっている。こうした「所
得」を課税標準とした場合に課税額がゼロとなる事業者については、そもそ
も地方税法72条の19が外形標準課税を適用して課税することはできない
( 均 衡 要 件 以 前 の 問 題 で あ る 。) と の 見 解 ( 例 え ば 、 甲 8 5 、 甲 9 8 及 び 甲
102の碓井教授の見解)があるが、上記(3)ア認定のとおり、同条は、
外形標準課税の解釈適用に当たっては、できる限り応益的な考え方に基づく
べ き で あ る と 解 さ れ る と こ ろ 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し た 事 業 税 額 が ゼ ロ と
な る と い う こ と は 、 か え っ て 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し た ま ま で は 、 事 業 の
規模・活動量に対応した税負担と程遠い状況となっていることを推認させる
側面もあると考えられるので、そのような場合であるからといって、同条を
適用することは一切できないとする見解は採用できない。しかし一方、均衡
要件の判断(地方税法72条の22第9項の適用)という局面においては、
「所得」を課税標準とした事業税額がゼロとなっていることが影響している
とはいえ、結果的に税負担の間に大きな不均衡が発生していることは、均衡
要件の基本となる不均衡の程度(著しいか否か)を判断する際に、無視でき
ない勘案要素となることは否定できない。
税負担を比較した場合の差額ないしその割合(倍率)がどの程度になれば
著しく均衡を失していることになるかについて、具体的な線引きをすること
は困難であり、結局のところ、上記イ認定のとおり総合判断によるしかない
が、そうはいっても、税負担の比較値ないし割合が勘案要素における比重が
高いものであることはいうまでもない。そして、上記の本件条例案を検討す
- 70 -
る過程における一審被告東京都の10倍を超えるという比較値(平成11年
3月期の「所得」に対するものであるので平成10事業年度のものというこ
と に な り 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し た 税 負 担 が 現 実 の も の で 、 本 件 条 例 に よ
る 外 形 標 準 課 税 の 適 用 結 果 が 推 計 値 で あ る 。) や 、 本 件 条 例 に よ る 外 形 標 準
課税を適用した初年度(平成12事業年度分)及び第2年度(平成13事業
年 度 分 ) に お け る 約 7 . 7 倍 及 び 約 3 6 5 2 倍 と い う 比 較 値 (「 所 得 」 基 準
を課税標準とした税負担が推計値で、本件条例による外形標準課税の適用結
果 が 現 実 の も の で あ る 。)、 第 2 年 度 に お け る 一 審 原 告 八 十 二 銀 行 の 約 4 .
9倍という比較値を見る限りは、約7.7倍及び約3652倍という比較値
について「所得」を課税標準とした場合の推計事業税額がゼロの銀行がほと
んどであるとの事情を割り引いて考慮してみても、本件条例による外形標準
課 税 を 適 用 し た 結 果 と し て の 事 業 税 の 税 負 担 は 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し た
場 合 の 税 負 担 と 比 較 し て 、「 著 し く 」 均 衡 を 失 し て い る 可 能 性 が 大 き い と い
わざるを得ない。
エ 一審被告東京都の検討の評価
これに対し、一審被告東京都が本件条例の検討過程で均衡要件を充足する
と判断した基礎資料で、証拠上明らかなものは、上記ア認定の過去15年間
(昭和59年度から平成10年度まで)における大手銀行30行の事業税額
と一審被告東京都の全事業税額に占める割合程度のものしかない。こうした
過去数年間の課税実績の評価が、均衡要件判断の勘案要素の一つであること
は 、 上 記 イ で 説 示 し た と お り で あ る が 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し た 場 合 と の
税負担の均衡という意味においては、本件条例が適用されることとなる年度
(5年間)における比較も有力な勘案要素というべきところ、一審被告東京
都 は 、 こ の 点 に 関 し て 銀 行 に お け る 不 良 債 権 処 理 の 継 続 に よ っ て 、「 所 得 」
を課税標準とした場合には銀行業等の税負担がゼロないし限りなく低くなる
という見込みを立てていたことが認められる(本件条例の構想公表日が作成
日とされる乙3号証の17。なお、乙3号証の99・101は本件訴訟係属
後 に 作 成 さ れ た こ と が 明 ら か で あ る 。) が 、 本 件 条 例 の 検 討 過 程 に お い て 具
体的な推計とそれを基礎にした検証作業がされたことを認めるに足りる証拠
はない。また、平成12年3月に公表された全国銀行協会の「都の答弁・説
明に対する7つの疑問点」においては、一審被告東京都が根拠として挙げる
過去15年間の数値について、仮に、大手銀行19行の昭和55年度から平
成11年度までの間に一審被告東京都に納付済みの事業税額を基に、本件条
例で採られている「業務粗利益」×3%の計算式を当てはめて事業税額を推
計すると、昭和55年度から平成11年度までの間に事業税約3800億円
が支払超過となっており、その大半は平成6年度から平成11年度までの間
に生じているとの反論がされている。全国銀行協会の詳細な推計根拠が明ら
かでないので、この反論をそのまま採用することはできないが、少なくとも
、こうした推計が可能であること自体から見れば、一審被告東京都において
も、過去15年間の主要銀行30行の既納付の事業税額を基として、これら
各年度ごとに本件条例の課税標準及び税率で再計算して推計した事業税額を
算出することが可能であり、これらを比較することにより、一審被告東京都
の立場から見れば、どの時点からかはともかく、本件条例の適用年度以前か
ら「望ましい」事業税額になっていたことが判明するはずであり、その年度
以降においては、相当程度「所得」を課税標準とする場合を上回る結果とな
ることを認識し得たはずである。さらに、本件条例が銀行業等という特定の
業種に限って外形標準課税を導入するものであることから、一審被告東京都
の全事業税額において大手銀行の事業税額の占める割合という観点からの検
討が行われたことは理解できないではないが、一方、平成2年度から平成1
1年度の間に、事業活動価値基準、物的人的基準、給与基準等といった他の
外形基準によって推計した資金量5兆円以上の銀行の事業税額が、一審被告
東京都の全事業税額に占める割合の平均値はおおむね2%以下である(事業
活動価値基準による推計値では2%を上回ってはいるが、2.09%である
。) と の 推 計 が あ り 、 上 記 ア 認 定 の 一 審 被 告 東 京 都 が 主 張 す る 9 . 6 % な い
し9.8%という割合と相当かい離があることも合わせ考えると、一審被告
東京都が過去の実績から割り出した、一審被告東京都の全事業税額に占める
大手銀行の事業税額の負担割合だけから、本件条例により一審原告らが受け
る税負担が「所得」を課税標準とした場合の税負担と比べて著しく均衡を失
していない税負担となっているものと認めてよいか疑問が残るところであ
る。
以上によれば、上記ア認定の一審被告東京都の説明や均衡要件の判断に当
たっての上記基礎資料によっては、上記ウ認定の比較値による税負担の不均
衡(の可能性)の推認を覆すことはできないと評価せざるを得ない。かえっ
て、税率と共に、本件外形標準課税による税負担に影響を及ぼす課税標準と
して「業務粗利益」を採用したことについては、上記(5)ウで認定した問
- 71 -
題 点 が あ り 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し た 場 合 の 税 負 担 が ゼ ロ と な っ て し ま う
銀行がほとんどとなっているのに、本件条例による納税額が相当額に上るの
は、貸倒損失等を一切考慮しない「業務粗利益」を課税標準としたことに起
因することは明らかであって、均衡要件との関係でも、課税標準における貸
倒損失等の扱いについてはなお検討が必要であったということになる。そし
て、地方税法72条の19に基づき導入した外形標準課税が同法72条の2
2第9項の均衡要件を満たすことについては、外形標準課税を導入する条例
を制定した地方公共団体側において、客観的な資料に基づき積極的に証明す
べき責任があるところ、以上を総合勘案すると、本件条例による税負担が、
「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し た 場 合 の 税 負 担 と 、「 著 し く 均 衡 を 失 す る こ と の な
いよう」なものであることを認めるに足りる証拠はなく、一審被告東京都は
、本件条例が均衡要件を満たすことの証明ができていないことになる。した
がって、本件条例は、地方税法72条の22第9項の均衡要件を満たしてい
ると認めることはできない。
(7) 結論
以上のとおりであるので、本件条例は、地方税法72条の19には違反しな
いが、同法72条の22第9項には違反するものであり、憲法違反の主張等一
審原告らのその余の主張について判断するまでもなく、違法なものである。そ
して、地方税法72条の22第9項の歯止め的な機能から見て、本件条例は、
地方税法上与えられた条例制定権を超えて制定されたものであって、無効であ
るといわざるを得ない。
3 本件通知処分の有効性等について
当裁判所も、本件通知処分(控訴審では、原判決が対象とした平成12事業年度に
係 る も の に 加 え て 、 平 成 1 3 事 業 年 度 に 係 る も の も 対 象 と な る 。) は 、 拠 る べ き 条 例
の根拠を欠く重大な瑕疵があるから、無効であると判断するが、本件通知処分を取り
消すまでもなく、一審原告らが納付した事業税額(平成12事業年度分に係る請求5
及び平成13事業年度分に係る控訴審における追加的請求6)のうち、旧基準税額と
の差額部分は、これを誤納金として還付請求することができると考えるところであり
、その理由は、平成13事業年度に係る既納税額、旧基準税額及び誤納金額(一審被
告 東 京 都 の 不 当 利 得 額 ) が 当 判 決 別 紙 3 の ( a )、( b ) 及 び ( c ) 欄 記 載 の と お り
である点を付加するほかは、原判決44頁17行目冒頭から46頁20行目末尾まで
の3欄記載のとおりであるから、これを引用する。なお、控訴審における追加的請求
7は、平成13事業年度分の事業税に係る一審被告東京都知事の通知処分が無効でな
いことを前提とするものであって、控訴審における追加的請求6を主位的請求とする
予備的請求であるので、主位的請求を認める以上判断は不要となることは、請求6に
ついてと同様である。
4 一審被告東京都の責任原因について
(1) 本件条例の制定に至る事実経過
本件条例の制定に至る事実経過は、原判決46頁21行目冒頭から55頁1
3行目末尾までの4(1)欄記載のとおり(ただし、同51頁5行目「その後
も 、」 か ら 同 7 行 目 末 尾 ま で を 「 そ の 後 も 、 全 国 銀 行 協 会 と 一 審 被 告 東 京 都 と
の間で、同主税局長を交えた意見交換会を実施することが検討されたが、銀行
側 の 出 席 者 等 を め ぐ り 調 整 が 付 か ず 、 結 局 実 施 さ れ な か っ た 。」 と 改 め る 。)
であるから、これを引用する。
(2) 一審被告東京都の本件条例制定行為の違法性
原判決は、一審被告東京都知事、一審被告東京都の主税局長以下本件条例の
制定に携わった同主税局職員、東京都議会を構成する東京都議会議員による、
本件条例の議案の立案行為、当該議案の東京都議会への提出行為、当該議案の
議決行為及び本件条例の公布行為等の本件条例制定に向けた一連の行為は、本
件条例の内容が地方税法72条の19に違反する客観的に違法なものであるこ
とから、全体として国家賠償法1条1項の違法性を有するものであると判断し
ている。
当裁判所は、上記2認定のとおり、本件条例は地方税法に違反し無効なもの
であると考える(ただし、違反する条項が原判決の説示する72条の19では
な く 、 7 2 条 の 2 2 第 9 項 で あ る こ と は 、 上 記 2 認 定 の と お り で あ る 。) が 、
地方公共団体が制定する条例が法律に違反するからといって、その制定に向け
た一連の行為が、直ちに一審原告らとの関係で国家賠償法上も違法となると評
価すべきではないと考える。すなわち、条例の制定に向けた行為は、地方公共
団体レベルでの立法行為とはいえ、関連する地域社会の実情や社会一般の経済
情勢等多種多様な事情や諸条件、関係者の意見や対立する利害などを総合勘案
し調整しながら行われるものであるとともに、地域社会の代表者である地方公
共団体の議会の議員の審議、その多数決による議決によって決定されるべきも
のであるから、条例の制定に向けた一連の行為が国家賠償法上の違法性を具有
すると認めるためには、個々の地域住民・法人の権利に対応した関係において
、条例制定過程に関与した責任者が職務上尽くすべき法的義務に違反したもの
- 72 -
と客観的に評価できることが必要である。
本件条例は、地方税法72条の19を制定根拠とするものであるが、上記2
認定のとおり、同条の「事業の情況に応じ」などの要件を一応満たしていると
評価することができるから、同条に違反することを前提とする法的義務違反を
問題とすることはできない。一方、本件条例は、地方税法72条の22第9項
の均衡要件に違反しており、一審被告東京都のこの点に関する検討は、結果的
には十分ではなかったといわざるを得ない。しかし、均衡要件は、上記2(6
) で 認 定 し た と お り 、「 著 し く 均 衡 を 失 す る こ と の な い 」 と い う 文 言 上 解 釈 の
幅がある一般的な要件への当てはめの問題であり、同条8項が規定する事業税
の超過税率における制限税率のような一義的な規定に適合するか否かが問題と
なるわけではない。そして、上記2(6)イ認定のとおり、この均衡要件の判
断に当たっては、外形標準課税導入後何年間かについての予測に基づく税負担
を推計したり、過去数年間の課税実績から当該外形標準課税による場合の税額
を推計する等関連する諸般の事情の総合勘案がその性格上避けられないもので
ある。上記2(6)認定のとおり、一審被告東京都においても、本件条例の検
討過程において、均衡要件に対する一応の吟味検討を加えてはいるが、本件条
例の無効事由は、本件条例が均衡要件を満たすと認めるに足りる客観的資料に
基づく検討ができていないというものであって、明白に均衡要件に違反すると
いうものではない。以上から見ると、一審被告東京都の本件条例の検討に関す
る一連の行為全体が、客観的に職務上尽くすべき法的義務に違反したものであ
るとまでは、評価することはできない。確かに、上記認定の事実によれば、一
審被告東京都知事及び一審被告東京都の担当者は、本件条例の立案、検討を秘
密裡に進め、全国銀行協会の問い合わせにも、銀行業のみを対象とする新税構
想を検討している事実はない旨返答しながら、東京都議会に本件条例案を提出
する直前までその公表を先送りにしてきたことが認められる。しかしながら、
一審被告東京都知事は、本件条例案を東京都議会に提出する約半月前には、記
者会見を開き本件条例の構想を公表していること、東京都議会においては、本
件条例案の提出を受けた平成12年2月23日以降東京都議会の本会議の審議
及び予算特別委員会における参考人意見聴取を含む審議を経て、同年3月30
日の本会議において圧倒的多数の賛成により本件条例が成立するまで、審議が
重ねられたことが認められるのであって、もとより、条例の構想や条例案の公
表時期、内容、方法等は多分に一審被告らの政治的判断にゆだねられるべき事
柄であることをも考慮すると、本件条例の立案、検討が秘密裡に行われた等の
上記行為を、一審原告らとの関係で違法と評価することはできない。
また、一審原告らは、一審被告東京都知事や一審被告東京都の担当者が、東
京都議会において、貸倒損失を控除していない「業務粗利益」が一般事業会社
の「売上総利益」に相当する旨や、配当原資(過去の年度において積み立てら
れたもの)の説明なしに大手銀行が巨額の配当を実施している旨誤った発言を
し た 点 を 問 題 に す る 。 こ の う ち 、「 業 務 粗 利 益 」 を 外 形 基 準 と し た こ と に つ い
ては、上記2(5)ウで認定したとおり問題点があるし、これを一般事業会社
の「売上総利益」に相当すると説明することには、少なくとも会計学上正確で
ないことは否定できない。しかしながら、銀行業界においても、一般向けのデ
ィスクロージャー誌や決算説明会において「業務粗利益」が一般事業会社の「
売上総利益」に相当する旨の説明がされていたし、少なくとも、事業の規模・
活動量の測定との関係では、一般事業会社の「売上総利益」に比肩すべきもの
ということができるから、一審被告らの上記説明が、東京都議会の判断を誤ら
しめるものであったと評価することはできない。また、大手銀行の配当原資へ
の言及がなかったとの点についても、説明の真意は十分理解可能なものであっ
て、違法とはいえない。このほか、関係者の意見聴取の機会が十分であったと
はいいにくい点があったことや、本件条例の構想公表後、本件条例についての
一審被告東京都知事の発言に誤解を招きかねないような表現があったことは否
定できないが、これらの点を含む本件条例の制定に至るすべての事情を総合勘
案してみても、本件条例に至る一審被告東京都及び一審被告東京都知事の一連
の行為が、客観的に職務上尽くすべき法的義務に違反し「違法な」ものである
と評価することはできない。
したがって、一審原告らの国家賠償請求は、その余の点について判断するま
でもなく理由がなく、一審被告東京都側の違法性と過失を認めた原判決は失当
である。
第4
結論
以上のとおりであるので、原判決中、一審原告らの一審被告らに対する本件条例の無
効確認請求(請求1及び2)に係る訴えを却下した部分は相当であり、本件条例は地方
税法72条の22第9項(均衡要件)に違反し無効であることから、一審原告らの一審
被告東京都に対する平成12事業年度分の事業税を対象とする誤納金の還付請求(請求
5の一部)を認めた部分は相当であるが、一審原告らの一審被告東京都に対する国家賠
- 73 -
償請求を認めた部分(請求5の残部)は失当である。また、一審原告らの一審被告東京
都に対する、平成14事業年度分の事業税を対象とする租税債務不存在確認請求(控訴
審における追加的請求5)に係る訴えは、原判決において平成13事業年度の事業税を
対象とする同様な請求(請求4)に係る訴えを却下したのと同じ理由から、不適法であ
って却下を免れない一方、平成13事業年度分の事業税を対象とする誤納金の還付請求
(控訴審における追加的請求6)は、上記のとおり本件条例が地方税法72条の22第
9項に違反し無効であることから理由がある。
したがって、まず、原判決中金員請求に関する部分を変更することとし、一審原告ら
の一審被告東京都に対する平成12事業年度分及び平成13事業年度分の各事業税を対
象とする誤納金の還付請求を認め、その余の金銭請求(国家賠償請求)を棄却し、次に
、一審原告らの一審被告東京都に対する平成14事業年度分の事業税を対象とする租税
債務不存在確認請求に係る訴えを却下し、原判決中の本件条例の無効確認請求に係る訴
えを却下する部分の取消し等を求める一審原告らの控訴を棄却し、訴訟費用の負担及び
仮執行宣言関係については、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法67条2項、61条、6
4条及び65条1項本文並びに259条1項及び3項を適用して、主文のとおり判決す
る。
(口頭弁論終結日
平成14年11月5日)
(東京高等裁判所第2民事部
別紙1
裁判長裁判官
森脇勝
裁判官
林道晴
裁判官
藤下健)
当事者目録
東京都千代田区内幸町1丁目1番5号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
同代表者代表取締役
東京都千代田区丸の内2丁目7番1号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
同代表者代表取締役
東京都千代田区大手町1丁目1番2号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
同代表者代表取締役
株式会社みずほ銀行
(一審では、株式会社第一勧業銀行)
工 藤
正
( 以 下 「 一 審 原 告 み ず ほ 銀 行 」 と い う 。)
株式会社東京三菱銀行
三 木 繁 光
( 以 下 「 一 審 原 告 東 京 三 菱 銀 行 」 と い う 。)
株式会社あさひ銀行
梁 瀬 行 雄
( 以 下 「 一 審 原 告 あ さ ひ 銀 行 」 と い う 。)
名古屋市中区錦3丁目21番24号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
株式会社ユーエフジェイ銀行
同代表者代表取締役
寺 西 正 司
( 以 下 「 一 審 原 告 ユ ー エ フ ジ ェ イ 銀 行 」 と い う 。)
東京都千代田区有楽町1丁目1番2号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
株式会社三井住友銀行
同代表者代表取締役
西 川 善 文
( 以 下 「 一 審 原 告 三 井 住 友 銀 行 」 と い う 。)
大阪市中央区備後町2丁目2番1号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
株式会社大和銀行
同代表者代表取締役
勝 田 泰 久
( 以 下 「 一 審 原 告 大 和 銀 行 」 と い う 。)
東京都千代田区丸の内1丁目3番3号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
株式会社みずほコーポレート銀行
一審原告株式会社日本興業銀行訴訟承継人
(一審では、株式会社富士銀行)
同代表者代表取締役
齋 藤
宏
( 以 下 「 一 審 原 告 み ず ほ コ ー ポ レ ー ト 銀 行 」 と い う 。)
横浜市西区みなとみらい3丁目1番1号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
株式会社横浜銀行
同代表者代表取締役
平 澤 貞 昭
( 以 下 「 一 審 原 告 横 浜 銀 行 」 と い う 。)
長野市大字中御所字岡田178番地8
控訴人兼被控訴人(一審原告)
株式会社八十二銀行
同代表者代表取締役
成 澤 一 之
( 以 下 「 一 審 原 告 八 十 二 銀 行 」 と い う 。)
富山市堤町通り1丁目2番26号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
株式会社北陸銀行
- 74 -
同代表者代表取締役
福岡市中央区天神2丁目13番1号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
同代表者代表取締役
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
同代表者代表取締役
東京都中央区八重洲1丁目2番1号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
犬 島 伸一郎
( 以 下 「 一 審 原 告 北 陸 銀 行 」 と い う 。)
株式会社福岡銀行
寺 本
清
( 以 下 「 一 審 原 告 福 岡 銀 行 」 と い う 。)
三菱信託銀行株式会社
内 海 暎 郎
( 以 下 「 一 審 原 告 三 菱 信 託 銀 行 」 と い う 。)
みずほアセット信託銀行株式会社
(一審では、安田信託銀行株式会社)
同代表者代表取締役
衛 藤 博 啓
( 以 下 「 一 審 原 告 み ず ほ ア セ ッ ト 信 託 銀 行 」 と い う 。)
東京都千代田区丸の内1丁目4番3号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
ユーエフジェイ信託銀行株式会社
同代表者代表取締役
土 居 安 邦
( 以 下 「 一 審 原 告 ユ ー エ フ ジ ェ イ 信 託 銀 行 」 と い う 。)
東京都港区芝3丁目33番1号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
中央三井信託銀行株式会社
同代表者代表取締役
古 沢 熙一郎
( 以 下 「 一 審 原 告 中 央 三 井 信 託 銀 行 」 と い う 。)
大阪市中央区北浜4丁目5番33号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
住友信託銀行株式会社
同代表者代表取締役
高 橋
温
( 以 下 「 一 審 原 告 住 友 信 託 銀 行 」 と い う 。)
東京都千代田区丸の内1丁目5番1号
控訴人兼被控訴人(一審原告)
みずほ信託銀行株式会社
同代表者代表取締役
津 田 弘 通
( 以 下 「 一 審 原 告 み ず ほ 信 託 銀 行 」 と い う 。)
上記17名訴訟代理人弁護士
園 部 逸 夫
同
西 村 利 郎
同
岩 倉 正 和
同
櫻 庭 信 之
同
矢 嶋 雅 子
同
佐 藤 丈 文
同
弘 中 聡 浩
同
飛 田
博
同
福 岡 真之介
同
斎 藤 玄 太
同
中 山 龍太郎
同
櫻 井 由 章
同
小久保
崇
同
岡 田 純 一
訴訟復代理人弁護士
高 崎
仁
同
紺 野 博 靖
同
木目田
裕
東京都新宿区西新宿2丁目8番1号
控訴人兼被控訴人(一審被告)
東
京
都
同代表者知事
石 原 慎太郎
( 以 下 「 一 審 被 告 東 京 都 」 と い う 。)
同所
被控訴人(一審被告)
東京都知事石原慎太郎
( 以 下 「 一 審 被 告 東 京 都 知 事 」 と い う 。)
上記2名訴訟代理人弁護士
上 谷
清
同
岡 田 良 雄
同
橋 本
勇
同
半 田 良 樹
同
黒 野 徳 弥
同
西 島 良 尚
同
上 松 信 雄
訴訟復代理人弁護士
笹 本
摂
同
山 口 健 司
上記2名指定代理人
中 村 次 良
- 75 -
同
同
同
同
同
同
同
同
同
別紙2
別紙3
控訴人(一審原告)別
控訴人(一審原告)別
川
平
江
松
小
直
添
宮
柏
村
野
村
田
嶋
井
田
崎
誤納金額等一覧表 省 略
還付加算金発生日等一覧表
栄
善
利
英
春
和
俊
省
一
彦
明
智
稔
夫
美
郎
徹
略
別紙4 控訴審における当事者の主張
1 一審原告らの主張
(1) 本件条例の無効確認請求の争訟性について
ア 「法律上の争訟」と認められるためには、当事者間の具体的な権利義務又は
法律関係の存否に関する紛争であって、法律の適用により終局的に解決し得べ
きものであればよいのであり(最高裁判所昭和29年2月11日第一小法廷判
決 民 集 8 巻 2 号 4 1 9 頁 等 )、 権 利 義 務 ・ 法 律 関 係 が 金 銭 的 な 場 合 に そ の 金 額
が確定していることまで要求されているわけではない。そうすると、一審原告
らの具体的な事業税の納税額が確定していないことから、本件条例の無効確認
請求を不適法とした原判決は誤りであるし、都市再開発法に基づく第二種市街
地再開発事業において、払渡しの「対償」の金額がいまだ具体的に確定してい
ない中間段階にある事業計画決定に処分性を認めた最高裁判所平成4年11月
26日第一小法廷判決民集46巻8号2658頁の趣旨に反するものである。
そもそも、本件においては、将来分の納税額が全く不明ということではなく、
年度末ないし納期を迎えなくても、それ以前の段階で予想事業税額を証拠化し
、具体的納税額を証明することが相当程度可能であり、一審原告らの上記請求
は、全くの抽象的な将来の事象についての判断を求めているわけではない。
イ 一審原告らは、本件条例により、過大な事業税の納付を強いられただけでな
く 、 事 業 税 の 法 定 実 効 税 率 を 「 当 然 に 」、「 直 接 」 減 少 さ せ 、 繰 延 税 金 資 産 及
び当期利益を著しく減少させるという資産減少による財産的損害を被っており
、後者の減少額は、事業税額確定以前の本件条例制定時において「既に」具体
化している(本件条例の本来的、少なくとも副次的な効果が個別具体的に発生
し て い る 。) の で 、 そ の 点 か ら も 本 件 条 例 無 効 確 認 請 求 の 争 訟 性 が 認 め ら れ る
。原判決は、国家賠償請求の判断の中で、本件条例が無効と判断されれば繰延
税金資産の減少は生じなかったことになる旨判示しているが、そうであるとす
れば、本件条例が有効か無効かを判断することによって、具体的な権利義務に
関する争いを解決し得ることになり、換言すれば、本件条例の無効確認請求が
争訟性の要件を満たしていることを意味する。
ウ 一 審 被 告 ら は 、、 本 件 条 例 が 東 京 都 議 会 で 可 決 成 立 す る 以 前 か ら 、 一 審 原 告
らが資金量5兆円以上の大手銀行として本件条例の適用対象となることが確実
なものと認識していた。現に、本件条例制定当時、一審原告らの資金量は、い
ずれも5兆円を超えていて安定的傾向を示して推移しており、一審原告らが本
件条例の適用を受けることは確実であった。仮に、本件条例制定当時の客観的
な状況を基礎として、本件条例の適用対象から外れる「特段の事情」が認めら
れる銀行があるとすれば、その特定の銀行に限って争訟性の要件を満たさない
とすれば足りるはずである。
エ 平成12事業年度の課税処分に関する争いと、平成13事業年度以降の各課
税処分に関する争いは、全く同一の争点であり、本件条例自体の無効確認の判
断 ( 従 前 の 一 審 被 告 ら の 活 動 等 か ら 見 て 、「 判 決 主 文 」 に お け る 判 断 が 必 要 で
あ る 。) を も っ て 、 平 成 1 2 事 業 年 度 以 降 の す べ て の 課 税 処 分 に 関 す る 争 い が
一回で解決される。つまり、本件条例の違憲性・違法性に関する争いは、既に
十分煮詰まっているといえる。これを不適法とすると、かえって、一審原告ら
は、平成14年事業年度以降についても、納税の都度、誤過納金の還付請求を
繰り返し行わなければならないことになるが、それは、不当な行政処分からの
国民の権利保護を図るという行政事件訴訟法の趣旨にもとり、訴訟経済にも反
する。
オ 本件条例の無効確認請求は、その課税要件への具体的事実の当てはめが問題
となるのではなく、課税要件を定める本件条例の違憲性・違法性が争いとなっ
ており、当てはめ以前の段階において、既に繰延税金資産及び当期利益が減少
して一審原告らの財産権が侵害されている。
カ 以上のとおりであるので、本件条例の無効確認請求については、争訟性が肯
認されるべきであり、これを認めなかった原判決は違法である。
- 76 -
(2)
本件条例の無効確認及び租税債務不存在確認の各請求の適法性について
裁判を受ける権利の実効性を確保するためには、違法な行政処分に対する「
事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情」の要件を殊更に
厳格に解すべきではない。最高裁判所昭和47年11月30日第一小法廷判決
民集26巻9号1746頁及び同平成元年7月4日第三小法廷判決判例時報1
336号86頁に対する一般的な理解から見ても、事後的な救済を待っていて
は、一審原告らに「倒産の危機」が生ずるといった事項を「特段の事情」を要
求する原判決は、厳格に過ぎるというべきである。
一審原告らは、本件条例の制定自体により、上記(1)のとおり、繰延税金
資産及び当期利益の減少に加え、その社会的信用・評価が著しく低下したこと
による具体的な損害を被っている。しかも、この信用は、各事業年度に本件外
形標準課税がされる度に一層低下するが、いったん低下した信用はその性質上
容易に回復されないので、事後的な金銭賠償を受けたとしても、原状回復はま
ず不可能であって、救済としては不十分である。そのため、一刻も早く本件条
例が無効であることを確定して、信用の低下を防ぐ緊急の必要性がある。
原判決は、本件外形標準課税による事業税額の納付に必要な資金調達コスト
の実態について、一審原告らの個別具体的な主張立証がないことから、回復し
難い損害の発生を否定しているが、上記納付に必要な資金調達コスト及び逸失
利益は、甲245号証及び246号証の1ないし17のとおりである。一方、
本件条例による信用や社会的評価の低下とそれが営業活動に及ぼす被害につい
ては、損害発生を基礎付ける具体的事実の立証が十分であるので、その損害額
は民事訴訟法248条の適用により認定することが可能であると考えられる。
イ 上 記 最 高 裁 判 所 昭 和 4 7 年 1 1 月 3 0 日 判 決 が 採 っ て い る と 考 え ら れ る 、「
紛争の成熟性」に関する判断基準から見ても、①一審原告らが本件条例の適用
・執行を受けることは確実であること、②一審原告らは、本件条例が憲法上の
基本権である法の下の平等(憲法14条)に違反するものであり、また、一審
原告らの営業の自由(憲法22条1項)及び財産権(憲法29条1項)を侵害
するものであるから、無効であると主張していること、③一審原告らは、本件
条例による申告・納付義務を履行しない場合には、刑罰、加算金・延滞金を課
され、免許が取り消される可能性もあるところ、こうした不利益処分を受ける
か、その不利益処分を回避すべく、多大な資金調達費用を負担し多大な運用益
を逸してでも本件条例による申告・納付義務を履行するかという選択を余儀な
くされていること、④本件条例が無効と判断されない限り、一審原告らは毎年
毎年、上記③の選択を余儀なくされる上、どちらを選択しても、加算金等か、
資金調達費用等に伴う損害かのいずれかが発生するとともに、一審原告らの信
用が更に低下する等新たな損害が今後も継続的に発生することになるのである
から、一審原告らをこのような状態から救済する真の必要性があること、⑤銀
行の業務の枢要を占める「信用」は、いったん低下すれば容易に回復されない
性質のものであり、今般の銀行業を巡る極めて厳しい経済環境からしても、誤
過納金の還付請求等、金銭的、事後的な救済では不十分であり、本件条例の即
時無効判断によって一審原告らを救済する真の必要性があることから、上記判
決の基準を満たし、本件条例の無効確認請求等には、原告適格及び訴えの利益
が認められるべきである。
ウ 仮 に 、 上 記 確 認 の 各 請 求 が 認 め ら れ る た め に 、「 一 義 的 明 白 性 」、「 緊 急 性
」及び「補充性」という3要件を満たすことが必要であるとしても、以上のと
おり、本件条例の制定自体により、一審原告らは、事業税の納付のための莫大
な資金調達コスト、巨額の逸失利益の発生による損害を受けているだけでなく
、憲法上保障された営業の自由(同法22条)や財産権(同法29条)に係る
権利である「信用」の低下による損害をも被っているので、上記3要件は満た
されており、上記確認・差止めの各請求は、適法ということになる。いずれに
せよ、これらの請求に係る訴えを却下した原判決は違法である。
(3) 本件条例の憲法14条違反について
ア いわゆるサラリーマン税金訴訟の最高裁判所昭和60年3月27日大法廷判
決 民 集 3 9 巻 2 号 2 4 7 頁 が 、「 国 税 」 の 定 立 に つ い て 憲 法 1 4 条 1 項 に 係 る
合 憲 性 審 査 基 準 を 明 ら か に し て い る が 、 ① こ の 判 決 は 、「 国 会 」 が 定 立 し た 「
国法」たる所得税法に関する判例であるのに対し、本件条例は「地方議会」で
ある東京都議会が制定した「条例」であること、②国会と裁判所との間では権
力分立原理の下での「同格の機関への敬譲」という考え方から、正確な資料を
基礎とする国会の政策的技術的な裁量的判断を尊重する憲法解釈が考えられる
が 、「 国 会 」 と は 同 格 で な い 「 地 方 議 会 」 に 対 し て 憲 法 解 釈 上 こ の 「 敬 譲 」 と
いう考え方を持ち込むことは無理であること、③立法府が租税法を定立する場
合には、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な
資料を基礎としていることが立法裁量の前提であるところ、本件条例は、その
制定過程において、慎重かつ十分な調査・検討を実施し、正確な情報に基づい
て制定されたものとは到底認められず、議会での審議過程でも、重要な立法事
- 77 ア
実について十分な調査、審議を経ず誤認・誤解したまま制定されたものである
こと、④地方税に関しては、立法裁量を認める根拠である高度な政策的・技術
的観点からの第一次的判断が既に地方税法という形でされており、その地方税
法の枠組みの中で残された条例制定裁量は、国税の定立に関する立法裁量と比
べてかなりの程度制約されているのであるから、本件条例の合憲性審査におい
ては、いわゆるサラリーマン税金訴訟の最高裁判所判決で採られた判断基準や
立法裁量論は適用されるべきではない。
イ 仮に、上記最高裁判所判決の合憲性審査基準によるとしても、上記判決は、
国税について、抽象的な目的のみをもって「目的の正当性」の要件が充足され
ていると判断しているのではなく、立法目的を基礎付ける立法事実を具体的か
つ 実 質 的 に 検 討 し て い る し 、「 目 的 の 正 当 性 」 に つ い て は 、「 著 し く 不 当 」 で
あることまでは要件とされていない。上記判決後に出された最高裁判所判決(
森林法事件に関する最高裁判所昭和62年4月22日大法廷判決民集41巻3
号408頁、郵便法事件に関する最高裁判所平成14年9月11日大法廷判決
)を総合すれば、最高裁判所は、経済的自由の規制立法の合憲性審査に当たっ
て、事案の特性に応じて、規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段の合
理性及び必要性、つまり規制法の合理性及び必要性を、立法事実の検証に基づ
いて検討するという枠組みをとっている。以上を本件条例に当てはめると、①
a 本件条例は、制定当時の大手銀行に対する批判的な国民感情に乗じて、税
金を最もとりやすい大手銀行をねらい撃ちして「懲罰的」に事業税を課したも
のであり、租税本来の正当化根拠とは全く無関係な極めて無定見なものである
こと、b 一審被告東京都が本件条例の制定根拠として挙げる「安定的な税収
の確保」という目的を考慮しても、資金量5兆円以上の大手銀行というように
、納税義務者を恣意的に選択することは、いかなる租税原則からも許容される
ものではないし、銀行業について事業税の税収の落ち込みがあるという点も、
事業税が「所得」を課税標準とする限り景気に応じて税収が変動することは、
当然のことで、むしろ、地方税法は、このことを織り込み済みであるのである
から、銀行業のみを他と区別して重い法人事業税を課す根拠とはならないとい
うべきである。現に、銀行業よりも事業税額が不安定な業種が複数存在してい
ることからすると、一審被告らの主張する「安定的な税収の確保」は、本件条
例 の 立 法 目 的 と し て 正 当 で は な い と い う べ き で あ る 。 ② ま た 、「 税 負 担 の 公 平
性の確保」という立法目的についても、一審被告らが唱える「応益原則」に立
脚するとしても、a 事業所(店舗)数及び従業員数を比較しても、大手銀行
の事業規模が他業種よりも特に大きいわけでないし、一審被告らの提出した資
料で見ても、平成元年度から9年度までの事業規模に応じた事業税負担の低下
の程度が、銀行業よりも著しい業種が複数存在すること、b 銀行業の中だけ
で比較しても、資金量の違いによって、その受ける行政サービスの受益量に差
異があるとは考えられないこと、c 「業務粗利益」は事業活動量の計測とは
全く関連のない計数であるのに、銀行業における「業務粗利益」の推移と、そ
れと対応しない他業種の「売上総利益」の推移とを比較して、大手銀行に対し
てだけ外形標準課税を適用しようとすることは、合理的な事実的根拠が欠落し
ているといわざるを得ないこと、d むしろ、バブル経済法崩壊後の低迷する
経済状況下で、銀行業の業績は極めて悪化し、破綻するものも見られ、経営継
続中のものも組織・人員・店舗の削減等のリストラ・合理化を行っており、銀
行業の事業活動が縮小していることは公知の事実であることから見て、本件条
例 は 、「 税 負 担 の 公 平 性 の 確 保 」 を 実 現 す る も の と は ほ ど 遠 い と い わ ざ る を 得
ない。以上のとおり、一審被告らが主張する本件条例の目的は、いずれも立法
事実に支えられたものではないことが明らかであるから、大手銀行のみを対象
とした本件条例は憲法14条1項に違反する。
ウ また、本件条例は、一審被告らの主張する立法目的を実現するため、銀行業
に限定して課税標準を業務粗利益とするとの手段を採用したが、この点におい
ても、憲法14条に違反するといわざるを得ない。すなわち、①a 一審被告
東京都が平成13年度に見込んでいた銀行業等からの事業税の税収は、法人事
業税額の総額の12.8%、納税実績値における比率で9.61%であるとこ
ろ、一審被告東京都による行政サービスは、そのほとんどが不特定多数の都民
や銀行業等に限定されない法人一般に向けられたものであり、事業税の税収に
対応するような、大量の行政サービスを資金量5兆円以上の大手銀行のみが受
益していることを認めさせるものでは全くない。b 外形標準課税の課税標準
として他に考えられる、付加価値基準、給与基準、物的・人的基準、従業員基
準を採用した場合や、所得基準と給与基準の併用及び所得基準と物的・人的基
準の併用を採用した場合における事業税額の負担割合と比べても、本件条例に
よる負担割合は6倍から11倍もの極度に重い事業税を課していることになる
。c 一審原告らは、本件条例により、繰延税金資産の減少額3583億03
00万円及び外形標準課税が適用される5事業年度分の納税見込額2373億
円の負担を強いられるほか、負担額の資金調達・運用量ないし貸出金量を補う
- 78 -
ために必要な金額や不良債権処理原資を調達しなければならず、また、自己資
本比率の低下等による影響も受けていることから見て、本件条例は、一審原告
ら銀行業等に対して過重な負担を強いるものである。②そして、本件条例は、
納税義務者である大手銀行のみならず、他の地方公共団体、更には不良債権処
理に関する国策、国民成長率を含む国民経済全体といった銀行業等以外の関係
に対しても、重大な影響を与えている。以上によれば、本件条例は、立法目的
との整合性を有しないだけでなく、手段の相当性も認められないことから、憲
法14条1項に違反する。
エ さらに、上記森林法事件に関する最高裁判所大法廷判決が採用する比較考量
によっても、①本件条例の目的は、懲罰的、濫用的なものであること、②大手
銀行に対する課税上の差別の必要性についても、合理性が認められないこと、
③本件条例の内容も、応能・応益いずれの見地から見ても、大手銀行を他業種
から不合理に差別してねらい撃ちしたもので、極めて不当なものであること、
④本件条例によって、一審原告らの財産権は、本来、憲法84条の租税法律主
義により保障されているはずであるので、税金という形をとって侵害されるこ
と、⑤本件条例による財産権の侵害の程度は、所得基準の課税の7.7倍ない
し約3652倍という甚大なものであることから、本件条例が憲法14条1項
に違反することは明白である。
(4) 本件条例の憲法94条違反について
ア 憲法上地方公共団体に認められる課税権は、抽象的に認められた租税の賦課
、徴収の権能であり、その具体化は、法律又はそれ以下の法令の規定を待たざ
る を 得 な い も の で あ り 、 地 方 公 共 団 体 に 課 税 自 主 権 が あ る と は い っ て も 、「 法
律 」 に よ る 統 制 を 受 け る の で あ る ( 地 方 自 治 法 2 2 3 条 、 地 方 税 法 2 条 )。 そ
して、地方自治の制度的保障の見地から、法律と条令との適合性を判断するに
は、第1に、条例が法律に整合的であるか否かが検討され(憲法91条の要請
)、 第 2 に 、 当 該 法 律 が 地 方 自 治 の 本 旨 に 反 す る も の で は な い か が 検 討 さ れ る
(憲法92条の要請)のであって、地方自治の本旨なり、条例が民主的自治立
法であるという一事のみをもって、条例が法律に優先すべきであるとか、法律
を当該条例と整合するように解釈すべきであるということにはならない。そし
て、憲法94条によって、条例が法律に整合しなければならないとされる「法
律」とは、当該条例の根拠法に限定されるものではないし、また、当該「法律
」との整合性を検討するに当たっては、個別の規定だけではなく、法律全体の
構造と趣旨に照らして、実質的に判断されるべきである。
イ ①本件条例は、その適用期間の5年間で、地方税レベルだけでも、他の地方
公共団体の地方税を1050億円ないし2790億円減少させるものであって
、国及び他の道府県に与える影響は大きく、著しく財源上の不均衡を生じさせ
るものであるから、課税権の調整を担う地方税法の趣旨、目的及び効果に矛盾
抵触するといわざるを得ない。②また、本件条例は、その内容を客観的に考察
すると、実質的には法定外税の性質を持つものであり、それにもかかわらず総
務大臣の同意(地方税法259条)等法定外税として適法な手続をとらずに制
定 さ れ た も の で あ る 点 で も 地 方 税 法 に 違 反 し て い る 。 本 件 条 例 は 、「 銀 行 の 不
良債権処理の促進」や「金融システムの安定化」という国の経済政策を阻害な
いし遅延させるものであって、国の経済施策に照らしても適当でないと評価さ
れるものであるから、仮に、本件条例の制定について、法定外税の手続を経よ
うとしても、総務大臣の同意すら得られなかったことが推測され、その意味で
も重大な瑕疵があるのであって、この点からも、本件条例は、地方税法の趣旨
、目的及び効果に矛盾抵触しているというべきである。これらから見て、本件
条例は、地方税法の「法律の範囲内」という制限を逸脱しているので、憲法9
4条に違反する。
ウ また、本件条例が施行された結果、実際に一審原告らの不良債権処理の原資
(剰余金)が大幅に減少し、不良債権処理の促進の障害となった上、約半分の
大手銀行が、平成12年3月期において、金融早期健全化法により義務付けら
れた経営健全化計画を達成できなくなるとともに、本件条例により一審原告ら
の最終利益が減少することによって、一審原告らの国に対する公的資金の返済
が遅れ、金融機能ないし金融システムの安定化の障害ともなっている。以上か
ら見て、本件条例は、金融機能安定化法や金融早期健全化法等の趣旨、目的及
び効果に明らかに矛盾抵触しており、この点でも「法律の範囲内」という制限
を逸脱し憲法94条に違反する。
(5) 本件条例の憲法31条等違反について
ア 憲法はその31条又は13条により、適正手続を保障しているのであるから
、本件条例の制定行為について、一審原告らには、あらかじめ不利益の内容が
告知され、弁解と防御の機会が与えられるべきであった。しかしながら、一審
被告らは、本件条例案の立案過程において、密室による検討をするだけで、大
手銀行からの問い合わせに対しても、虚偽の回答をして本件条例の構想を秘匿
していた。また、本件条例の構想発表後も、全国銀行協会との間で、形式的な
- 79 -
意見交換会を1回開催しただけで、十分な資料も交付せず、責任者である一審
被告東京都の主税局長との意見交換会の開催も拒否し続けた。これらのことか
ら明らかなように、一審被告らには、納税者である一審原告らの意見に耳を傾
け、場合によっては本件条例の撤回や修正を含めて検討しようとする姿勢など
全くなかったのであり、一審原告らに対する告知・聴聞の機会を欠いたものと
いわざるを得ない。さらに、本件条例案についての東京都議会の審議において
も、議員らは、銀行憎しの世論に安易に迎合し、審議前に既に本件条例を可決
するとの結論を先に決めており、また、一審被告東京都知事や一審被告東京都
の主税局長らは、審議において、必要かつ重要な情報を提供しないばかりか、
誤った情報を提供して、都議会議員の認識を誤らせたまま本件条例を成立させ
ている。いずれにせよ、本件条例案の審議において、一審原告らの反対意見な
どがまじめに検討された形跡はなく、一審原告ら納税義務者や利害関係人の意
見が、条例の可否や修正に影響を及ぼし得るような実質的な告知・聴聞が行わ
れたと評価することはできない。一審被告らが主張するように、本件条例を「
応益課税」の見地から根拠付けるのであれば、納税者や利害関係者に対する実
質的な告知・聴聞の機会の付与が、より一層強く、求められることになるが、
以上のとおり、本件条例の制定過程において、一審被告らが当然行うべきであ
った、納税者や利害関係者に対する実質的な告知・聴聞の機会の付与が全くな
かったことになるので、本件条例の制定行為が憲法31条又は13条に違反す
ることは明らかである。
イ また、本件条例は、一審原告らを含む大手銀行という特定の者にだけ適用す
ることを最初から意図しており、いわば名宛人を「特定」して制定されたので
あるから、一般性を持つ法規範には該当せず、法規としての本質である法の一
般性を欠いているというべきであるので、憲法31条にいう「法律」に該当し
ないというべきである。
ウ なお、①本件条例による一審原告らの財産権侵害の程度が非常に大きく、ま
た、不良債権処理の促進という「国策」にも反し、その社会的影響があまりに
大きいこと、②一方、本件条例の目的と称するところの一審被告東京都の「安
定的な税収の確保」及び「税負担の公平性の確保」の必要性は、一審被告東京
都自らの放漫財政により招いた財政危機を原因とするところが大きいこと、③
本件条例の適用を受ける一審原告らから、意見聴取する手続を履践することは
、可能でありかつ極めて容易であった上、本件条例の制定に当たって、一審原
告らが被る重大な損害に関して告知及び聴聞等の慎重な手続の履践を排除する
ほどの「緊急性」は全く認められないことから見れば、憲法31条又は13条
に基づく適正手続の保障が行政手続についても適用ないし準用され得るとした
、いわゆる成田新法事件に関する最高裁判所平成4年7月1日大法廷判決民集
46巻5号437頁の判示によっても、本件条例の制定行為について、一審原
告らに憲法31条又は13条の保障が及ぶことは明らかである。
(6) 事業税の性格について
ア 現行事業税に至る沿革を客観的な立法資料等によって振り返ると、①明治1
1年に導入され事業税の創設まで続いた営業税及び昭和23年創設の事業税は
、いずれも純益課税(所得課税)を原則としていたのであり、外形標準課税を
許容する営業税時代の規定及び昭和23年当時の地方税法(以下「昭和23年
法 」 と い う 。) 6 9 条 1 項 は 、 純 益 、 営 業 純 収 益 な い し 営 業 収 益 ( 所 得 ) の 捕
捉の困難性を補うため、徴税の便宜上設けられたこと、②昭和29年に創設さ
れた現行事業税は、それ以前の事業税と連続しており、現行地方税法72条の
19(当時は、72条の18)は、昭和23年法69条1項をそのまま承継し
た規定であること、③地方税法による例外業種に対する収入金課税は、これと
は全く異なる理由で導入されたもので、所得の捕捉の困難性を理由に導入され
てきた「条例」による外形標準課税と例外業種における外形標準課税とでは別
個の根拠付けがされてきたこと、④昭和29年及び30年の旧自治庁関係者に
よる国会答弁は、事業税の原則が所得課税であることを前提に、その例外とし
て、地方税法により例外業種に対して収入金課税を行う正当化の理由を、応益
的見地から説明したものに過ぎないこと、⑤また、その答弁は、地方税法によ
る例外業種について収入金課税を行うことに関する議論であり、所得の捕捉の
困難性を理由に導入された「条例」による外形標準課税の規定(現行地方税法
72条の19)に関する議論ではないことが明らかである。以上の経過から見
て 、 事 業 税 は 、 応 能 的 な 課 税 と し て 「 純 益 ・ 収 益 課 税 」、 更 に は 「 所 得 課 税 」
へと進歩・改善を遂げてきたのであり、これが、立法府における議論もなく、
地方自治体の行政サービスに対する応益税に「変身」することなどあり得ない
(むしろ、応益税に立脚したシャウプ勧告に基づき昭和25年に創設された附
加価値税が、結局実施されることなく昭和29年に廃止され現行の事業税に至
ったことからすると、現行事業税は、応益課税の否定の上に成り立っていると
い え る 。)。 そ し て 、 現 行 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 は 、 昭 和 2 3 年 改 正 時 の 条 文
をそのまま踏襲しているから、法律の文言に変化がない以上、その意義も昭和
- 80 -
2 3 年 当 時 と 同 様 に 、「 所 得 」 課 税 が 原 則 と 解 す べ き で あ る 。
ま た 、「 法 人 の 事 業 税 の 課 税 標 準 」 を 定 め る 地 方 税 法 7 2 条 の 1 2 は 、「 所
得」と「収入金額」を課税標準として明示的に定めている以上、いずれかが原
則でいずれかが例外であるとの規定をわざわざ置く必要がないことは当然であ
っ て 、 地 方 税 法 7 2 条 1 項 も こ れ を 受 け て 、「 所 得 」 と 「 収 入 金 額 」 と を 列 記
しているに過ぎない(なお、この「所得」は、企業の収益活動の成果として生
み出された現実の「所得」であり、法人税法及び所得税法の「所得」と同じ概
念 で あ る こ と は い う ま で も な い 。)。 そ し て 、 外 形 標 準 課 税 に つ い て 定 め る 同
法72条の19の見出しも「事業税の課税標準の特例」とされていて、所得課
税が原則であることを明記している。現に、東京都の全事業税の税収(平成1
2年度)のうち、地方税法72条の19の例外4業種が占める割合はわずか3
.39%であり、全国規模で見ても、例外4業種が占める割合は5%程度とい
われており、95%ないしそれ以上が所得基準による事業税の税収で占められ
ており、納税の実態から見ても、事業税は所得課税を原則としていることが明
らかである。
ウ さらに、法人税法及び所得税法における損金又は経費算入の該当項目は、種
々の政策的理由により定められており、法人税法上事業税額が損金に算入され
るからといって、事業税が応益課税か応能課税かの判断の決め手になるわけで
はない。
エ このほか、①税率の差異は、累進税率を採用する場合でも軽減税率を採用す
る場合でも、納税義務者の担税力を考慮して設けられるものであって、事業税
が基本税率と軽減税率を採用しているからといって、このことから直ちに事業
税が応能原則に立脚していることを否定できないこと、②法人税額を課税標準
として課され、法人税の附加税と解される法人住民税のような課税も禁止され
ていないこと、③二重課税を禁ずる明文の規定は存在しておらず、地方税法も
二重課税を禁じているとは解されないこと、④海外投資等損失準備金に係る積
立金額の損金算入を認める特別措置は、銀行の経営基盤を強化し国際競争力を
強めるためという政策的な優遇措置であり、この措置が設けられていることと
、事業税が応益課税であるかという議論とは関連がないことから、現行事業税
が応能課税を原則としていることを否定することはできず、これらを根拠とし
て事業税が応益課税によっているとする一審被告らの主張は失当である。
(7) 地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」について
ア 銀行業を含めた現代の大企業においては、会計制度も発展・浸透し、適正な
記帳がされ、外部監査や当局の検査も十分に実施されているから、外形標準課
税の前提である「所得の捕捉の困難」な情況は通常考えられないから、地方税
法72条の19の適用場面は現実的にはほとんどない状況になっている。この
点 は 、 旧 自 治 庁 ・ 自 治 省 関 係 者 も 認 め て お り ( 例 え ば 、「 実 際 に は 相 当 に 局 限
さ れ る こ と と な る 。」、「 外 形 課 税 の 規 定 は 、 現 在 で は 有 名 無 実 と な っ て お り
」 等 )、 法 律 に よ っ て 一 律 に す べ て の 道 府 県 に 適 用 し な い と 、 現 実 に は ワ ー ク
しないことを認めていた。
イ 現行地方税法は、事業税の課税標準が「所得」であることを大前提とした上
で、その「例外」として72条の19を置いていることからすると、例外の採
用を制限する同条の「事業の情況」という概念は、厳格に解釈されるべきであ
る 。 こ れ を 緩 や か に 解 釈 す る と 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 の 中 心 に 据 え て 各 種 の 規
定を置いている現行事業税制度の趣旨が実質的に潜脱されることになり、枠組
み法としての地方税法の意味が失われることになる。したがって、地方税法7
2条の19を根拠として外形標準課税を導入するには、外形標準課税によらな
ければならない「必要性」と当該外形標準課税の「合理性」がなければならな
い。この観点から見ると、同条の「事業の情況」は、例外4業種と同様な「事
業自体の客観的性質及び特別の法制度上の理由による事業税負担の恒常的な過
少性が存在する情況」ないし「事業税負担を過少ならしめる事業構造の恒常性
」が存在する場合においてのみ、同条の外形標準課税を認める趣旨であって、
その時々の経済情勢に応じて変化するようなものを含む趣旨とは解されない。
確かに、銀行業等の事業税負担額は大きく落ち込んではいるが、これは専ら景
気 の 影 響 を 受 け て の も の で あ り ( 同 様 な 事 態 は 他 業 種 に も 発 生 し て い る 。)、
例外4業種のような所得を恒常的に過少ならしめる事業構造が認められるわけ
で は な い 。 事 業 税 の 物 税 と し て の 本 質 か ら 見 て も 、「 事 業 の 情 況 」 は 、 あ る 事
業の客観的性質のみを考慮したときに所得基準で課税することがなじまない場
合で、かつ、その事業になじむ外形基準を採用することが可能である場合を指
す趣旨でなければならない。しかも、一審被告東京都は、バブル経済期以降の
「業務粗利益」ないし「売上総利益」又は事業税負担額の増減という表面上の
数値を比較しただけで、事業規模と事業税負担額との相関関係に関する比較・
検討を全く行っておらず、この点だけからも見ても本件条例の「立法事実」に
関する検討の欠如が顕著である。現に、本来合理的とされる税負担と比較して
、本件条例による大手銀行の事業税負担額は、6倍ないし11倍もの極度に重
- 81 イ
いものとなっている。
また、一審被告らが引用する平成12年2月24日の内閣法制局第一部長の
答 弁 は 、 2 日 前 の 閣 議 口 頭 了 解 を も 合 わ せ 考 え れ ば 、「 事 業 の 情 況 」 の 意 味 を
限定的に解釈する趣旨であって、広範に地方税法72条の19の適用を認める
趣旨と理解することは到底できない。いずれにせよ、銀行業等の「所得」が低
く事業税負担が小さいことは、バブル経済崩壊後の経済状況の変化により、不
良債権処理額が増加した結果であり、税負担を過少ならしめる恒常的な事業構
造が認められる例外4業種とは全く異なるものであるので、本件条例による外
形標準課税の「合理性」は認められない。さらに、一審被告らが主張する昭和
52年の全国知事会の外形標準課税導入案に対する旧自治省の見解は、学界と
実務において支持された見解ではないし、仮に、この見解によるとしても、銀
行業等の不良債権額は年度によって大きな変化があるので、税負担が著しく低
いことが「常態」であるとは認められないこと、事業税の納付額が近時落ち込
んでいる業種は銀行業等に限られないこと、後記(8)のとおり、銀行業等の
「業務粗利益」と一般事業会社の「売上総利益」との比較は不合理であること
などから、銀行業等は、上記見解の要件を満たしていない。
一方、一審被告らが主張する「不公平」論による「事業の情況に応じ」の解
釈論は、事業税に関し地方公共団体に実質的に「白紙委任」することを認める
に等しく、地方公共団体の恣意的な課税に対する地方税法のチェック機能を失
わせるものである。また、法定外税創設において総務大臣の同意を要するとし
た地方税法の規定を完全に潜脱してしまうし、自治体間の税源配分の均衡化・
適正化や事業活動に対する予測可能性を与えようとする地方税法自体の趣旨を
も完全に否定することになる。
なお、この法定外税との関係では、本件条例は、実質的に法定外税の性質を
持ちながら、総務大臣(当時は、自治大臣)の同意を得なかっただけでなく、
東京都議会においても、本件条例は法定外税を創設するものとして上程された
り審議されたりしておらず、地方税法259条及び731条2項にも違反して
いると考えられる。
ウ そもそも、地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」は、昭和22年の
営業税法において外形標準課税を許容する要件であった「営業の種類を限り」
が現行法に至る過程で削除されたことからも明らかなとおり、例外4業種以外
の法人・個人を区別せず、全業種に一括一律に外形標準課税を導入することを
予定した規定である。そもそも、地方税法は、すべての税目にわたり、均一課
税を原則としつつ、不均一課税を例外と位置付けている(同法6、7条)ので
、明文で認められている場合でない限り、納税者に応じて区別した課税をする
ことは許されないし、不均一課税は課税の公平を著しく損ねることから、同法
72条の19がこれを許容しているとは解されない。また、事業税は、納税者
の人的側面・事情とは無関係に課税される「物税」であるから、すべての事業
を通じてできるだけ均一に課税することが必要である。むしろ、事業税におい
ては、行政サービスの受益に応じて、広く薄く税負担を分担する仕組みが「税
負担の公平の確保」の観点からも重要であり、外形標準課税は、本来的に業種
を 限 定 せ ず 、「 広 く 、 薄 く 」 一 律 に 負 担 を 求 め る 制 度 を 導 入 す る こ と を 原 点 と
しなければならない。以上から見て、銀行業等のみに限って外形標準課税を導
入 し た 点 だ け で も 、本 件 条 例 は 、地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 に 反 し 違 法 無 効 で あ る 。
昭和52年の全国知事会の外形標準課税導入案も、一地方団体のみが単独で
外 形 標 準 課 税 を 導 入 す る こ と を 前 提 と し た も の で は な い し 、「 主 と し て 製 造 業
を 行 う 法 人 に 限 定 」 し た も の で あ り 、「 銀 行 業 等 」 が 外 形 標 準 課 税 の 課 税 標 準
として適当であるとは全く報告されていない。この提案を受けた旧自治省側の
国会答弁も、外形標準課税で得する地方公共団体が実施し、そうでない地方公
共団体が所得課税ということになると、全体として所得課税を実施した場合と
バランスがとれなくなるので、地方税法はこのような事態を予定しておらず、
所得課税負担との均衡を失しないためには、一律の外形標準課税の導入が適当
である旨認めている。この提案は、結局、その当時の深刻な経済状況を考慮し
て実施が見送られたが、当時よりも本件条例制定時の経済状況は悪化してお
り、この提案は、その意味からも本件条例を正当化する根拠にならない。
エ 以上から明らかとおり、銀行業等には地方税法72条の19の「事業の情況
」が認められないし、本件条例は、業種を特定し、しかもそのうちの資金量5
兆円以上の大手銀行のみの「事業の情況」に着目して外形標準課税を導入しよ
うとするものであるから、地方税法72条の19に違反し無効である。
(8) 課税標準としての「業務粗利益」について
ア 業務粗利益は、地方税法72条の19が規定する「資本金額、売上金額、家
屋の床面積若しくは価格、土地の地積若しくは価格、従業員数」に含まれない
ことは文言上明らかであるし、会計学上これらと全く異質で何らの共通性のな
いものである。同条がこれらの末尾に付した「等」の意味は、大正15年創設
の営業税(府県税)に関する「地方税に関する法律施行規則」2条1項の「営
- 82 -
業 の 収 入 金 額 ( 売 上 金 額 、 請 負 金 額 、 報 償 金 額 の 類 を 含 む )」 と い う 文 言 中 の
「の類を含む」に由来するものであり、この「類」は、当時営業税(府県税)
が小規模な個人営業者のみを課税対象とし、各業種において「売上金額、請負
金額、報償金額」の呼称が区々であったものを逐一条文に列挙せずにまとめて
規定する趣旨で設けられたものであるから、これを承継した現行地方税法72
条の19の「等」もこれと同様に、条文に列挙されている「資本金額、売上金
額、家屋の床面積若しくは価格、土地の地積若しくは価格、従業員数」のいず
れかを各業種に言い換えたもののみを指すと解釈すべきであるので、これら列
挙 さ れ た も の と 全 く 異 質 で 何 ら の 共 通 性 も 認 め ら れ な い 「 業 務 粗 利 益 」 は 、「
等」に含まれないことが明らかである。
イ そ も そ も 、 事 業 税 の 課 税 標 準 に 関 し て 一 審 被 告 ら が 主 張 す る 「 事 業 規 摸 」、
「事業活動量」という概念は、それ自体非常に抽象的で、課税標準の適法性を
基礎付ける具体的な根拠や基準とならない。一審被告らが「業務粗利益」を課
税標準とする根拠の資料として主張する「ドクター・ビッグバンのよくわかる
銀行のディスクロージャー」は、会計学等の素人に対して銀行のディスクロー
ジャー誌の概要を説明することを目的としたものに過ぎず、そこでは事業の規
模や活動量を念頭に置いた解説は一切されていないし、これを作成した全国銀
行協会も、業務粗利益が事業活動量を表すという認識はなく、そうした記載も
ないことから、この資料が業務粗利益が銀行業等の事業活動量を表すことの根
拠とはなり得ない。
「 業 務 粗 利 益 」 が 事 業 活 動 量 を 適 切 に 表 す 指 標 で あ る か 否 か は 、「 付 加 価 値
」( 企 業 の 事 業 活 動 に よ っ て 新 た に 生 み 出 さ れ た 価 値 ) を 表 現 す る も の で あ る
か否かという観点から検討する必要がある。そして、銀行の貸出業務(リスク
を 引 き 受 け る こ と に 対 す る 対 価 を 受 け 取 る こ と が そ の 本 質 で あ る 。) に お い て
は、複数年度に及んで行われる一連の「貸付」活動と「回収」活動が不可分一
体 と な っ て お り 、 そ の 過 程 で 必 然 的 か つ 経 常 的 に 発 生 す る 「 貸 倒 損 失 等 」( 貸
倒損失、貸倒引当金繰入額その他の不良債権処理額)は、貸出利息収入と本質
的に対応する「直接的な費用」であるから、いかなる意味においても銀行業が
事業活動によって新たに生み出した価値ではなく、銀行業の付加価値を構成し
ない。また、貸倒損失等を予測して銀行業によって積み立てられる「信用リス
ク・プレミアム」に相当する部分も、同様に銀行業の付加価値を構成しない。
したがって、貸倒損失等も信用リスク・プレミアムも控除されないスプレッド
全体を付加価値とみなすことはできない。一審被告東京都が本件条例制定に当
たり参考にしたとするイタリアの州生産活動税においても、貸倒損失等は控除
(損金算入)されているし、例外4業種の生命保険業及び損害保険業において
も、銀行業の貸倒に相当する純保険料部分が課税標準から控除されているので
あ っ て 、 こ れ と の バ ラ ン ス か ら 見 て も 、「 業 務 粗 利 益 」 を そ の ま ま 課 税 標 準 と
することは不当である。一審被告らは、銀行の主観性や恣意性が入り込む余地
のある貸倒引当金は課税標準から控除すべきでないと主張するが、引当金計上
は、金融検査マニュアルに準拠した自己査定に基づき企業会計に従って認識・
計上され、監査役及び公認会計士ないし監査法人の監査、金融当局の金融検査
等による厳格な審査を受けているものであるので、銀行の恣意は入りようがな
い。以上のとおり、貸倒損失等や信用リスク・プレミアムを控除していない「
業務粗利益」は、付加価値の観点から見て、事業活動量を適切に表す指標とい
うことはできないから、これを課税標準とすることは、何らの正当性もない。
ウ ま た 、「 業 務 粗 利 益 」 は 、 銀 行 法 上 認 め ら れ た 基 本 的 業 務 か ら 生 ず る 「 株 式
売買損益」及び「金銭の信託運用損益」を含んでおらず、銀行の基本的業務か
ら生じた収益を網羅するものではない。現に、銀行業の実績は、バブル経済崩
壊後の低迷する経済状況下で極めて悪化し、中には破綻するものも見られ、経
営継続中のものも組織・人員等のリストラ・合理化を行っており、事業活動量
が低下していることは公知の事実である。それにもかかわらず、銀行業の「業
務粗利益」はバブル経済崩壊後も増加しているのであり、このことから見ても
、「 業 務 粗 利 益 」 が 銀 行 業 の 事 業 活 動 量 を 表 す も の で な い こ と は 明 ら か で あ る
。
エ 「業務粗利益」は、専ら銀行監督目的で当局が導入した概念であって、事業
活動量の計測とは全く関連のない計数であり、一般事業会社の財務諸表に表示
される売上高とは異質なものであるし、売上高のように収益のみを示す内容の
ものでもないから、一般事業会社における「売上総利益」とは法律学上も会計
学上も全く異なる概念であり、これに類似するとか相当するとする一審被告ら
の主張は誤っている。
オ 以 上 か ら 見 て 、「 業 務 粗 利 益 」 は 、 銀 行 業 等 の 課 税 標 準 と し て 不 合 理 で あ り
、これを課税標準とした点でも、本件条例は、地方税法72条の19に違反し
無効である。
(9) 地方税法72条の22第9項の均衡要件について
ア 地方税法72条の22第9項の均衡要件は、昭和23年の改正で、従前、内
- 83 -
務・大蔵大臣の許可を必要としていた許可制の廃止に代えて設けられた、当時
の地方税法69条1項後段に由来するものであり、地方税法の下では、事業税
を含む一切の法定税について、地方公共団体による課税標準自体の変更を認め
ないのが原則であるところ、地方税法72条の19はその唯一の例外として、
地方公共団体に対して事業税について所得課税の例外としての外形標準課税を
許容するものであるが、地方税法はこれを認めるに当たって、地方公共団体の
恣意的な導入を排除する「歯止め」として均衡要件の規定を設けたのである。
したがって、そのような恣意を許すように解釈することは許されない。本件条
例のように、特定業種のうちの特定規模の企業のみを対象とする外形標準課税
は、それだけの理由からも地方税法72条の19に違反するが、仮にこれが許
されるとしても、地方税法72条の22第9項については、より一層厳格な解
釈が必要となる。そういう観点から見ると、外形標準課税の導入の目的が「税
収の増加」にあることが明白な場合は、地方税法72条の22第9項の趣旨に
違反する。
イ また、一審被告らは、地方税法72条の22第9項の税負担の比較を過去の
複数年度の比較によることが許されると主張する。しかし、同項には過去の複
数年度の比較を前提とすることをうかがわせる文言は見当らないし、こうした
比較を認めると、過去の期間の抽出方法により数値の操作による恣意的な運用
が可能となってしまい、同項の「歯止め」が効かなくなるので、そのような解
釈は許されない。一審被告らが引用する平成12年2月24日の内閣法制局第
一部長の答弁も、外形標準課税導入後の期間の比較を問題としているのであり
、2日前の閣議口頭了解を合わせ考えれば、この答弁を一審被告らの主張の根
拠 と す る こ と は で き な い 。 恣 意 的 な 解 釈 を 許 さ な い と い う 趣 旨 か ら は 、「 あ る
べき所得」という不明確な概念を同項の「均衡」の解釈に持ち込むことも許さ
れない。
ウ さらに、地方税法72条の22第9項の「著しく均衡を失しないJは、他の
地方公共団体への影響の観点から、地方自治体の課税自主権の行使の上限に相
当する事業税の制限税率を標準税率の1.1倍と定めた同条8項と統一的に解
釈されるべきである。すなわち、同条8項の趣旨は、税制を変更するに当たっ
て当然生ずる「若干の差異」を許容する趣旨に過ぎないことからすると、同条
9項の場合に、新基準(外形基準)による事業税収総額が旧基準(所得基準)
によるそれの2倍を超えるといったことは論外である。
エ 本件条例による外形標準課税の導入目的が「税収の増加」に当たることが明
白な場合であるので、本件条例は、それだけの理由から地方税法72条の22
第9項に違反する。また、本件条例の制定に当たって、一審被告東京都がバブ
ル経済期を含めるために、過去の複数年度の税負担の比較を行っており、この
点からも、本件条例は、地方税法72条の22第9項に違反する。さらに、本
件条例による外形標準課税が導入された平成12事業年度に係る、一審原告ら
の法人事業税については、新基準による納税額は旧基準によるものの約7.7
倍にも達するし、平成13事業年度に係る法人事業税に至っては、新基準によ
る納税額が旧基準によるものの約3652倍という異常なものとなっている。
これらから見ても、本件条例は、地方税法72条の22第8項の制限税率をは
る か に 上 回 り 、「 明 ら か に 」 著 し く 均 衡 を 失 す る も の で あ り 、 地 方 税 法 7 2 条
の22第9項に違反する。
(10) 国家賠償請求について
ア 本件条例の制定行為の違法性及び故意・過失は、本件条例の内容それ自体の
違憲性ないし違法性が認められるかという点及び一審被告東京都知事らの本件
条例の制定行為を構成する各行為が、公務員の職務上の行動準則に違反してい
たかという点を総合的に考慮した上で、本件条例の制定行為全体が客観的な法
秩序の要請に適合しないと判断できる場合には、国家賠償法1条1項の「違法
性」が認められ、かつ、それと一元的に、本件条例の制定行為に当たっての一
審被告東京都知事らの「故意・過失」を認めることができる。在宅投票事件に
関する最高裁判所昭和60年11月21日第1小法廷判決民集39巻7号15
12頁が国会議員の立法行為への国家賠償法の適用について判示しているが、
①上記判決の事案は「立法の不作為」が直接の論点となっていて、しかも、立
法行為を行う行わないという「立法制定自体」のみが問題となっていたのに対
し 、 本 件 で は 条 例 が 現 に 立 案 ・ 制 定 さ れ た こ と (「 作 為 」) が 論 点 と な っ て い
て 、 し か も 、「 立 法 行 為 の 過 程 」 も 問 題 と な っ て い る こ と 、 ② 上 記 判 決 で は 憲
法51条の免責特権が認められる国会議員の活動内容が問われているのに対し
、本件ではそのような免責特権が認められていない一審被告東京都知事らの行
為が問題となっていることなど、上記判決の事案は、本件とは明らかに事案を
異にし、本件は上記判決の射程外である。
イ 本件条例が違憲・違法であることは、上記のとおりであり、一審被告東京都
知事らの本件条例の制定に向けた一連の行為には、以下に述べる数々の公務員
としての職務上の行動準則違反が認められ、本件条例の制定行為全体が客観的
- 84 -
な法秩序の要請に適合しないので、国家賠償法1条1項の違法性及び故意・過
失が認められる。すなわち、一審被告東京都知事及び一審被告東京都の主税局
長らにおいては、①本件条例の制定に当たり必要な調査を行うべきであったの
に、本件条例と憲法及び地方税法その他の関係法令との関係、銀行業の実情等
も含めた立法事実の有無、業務粗利益や銀行業の収入といった基本的な概念等
について必要な調査義務を尽くさなかったこと、②本件条例の制定に当たり、
極く少数の者によりあえて密室で検討し、更には、虚言を用いて一審原告らを
欺くなどして、納税者である一審原告らの意見を反映させる機会を意図的に奪
ったこと、③本件条例の構想公表直後から相次いだ政府関係者、法学者等有識
者の批判的な指摘や反対意見から、本件条例が違憲・違法である可能性を認識
しながら、本件条例の立案・東京都議会への提出・公布などの本件条例の制定
行為をあえて強行したこと、④東京都議会における審議の際に、虚偽又は誤導
の答弁を行ったこと、以上の行為は、いずれも職務上の行動準則に反するもの
である。また、東京都議会議員においても、本件条例案の審議に際し、本件条
例の違憲・違法である可能性を認識していた以上、本件条例案を否決すべきで
あったのに、あえてこれを可決成立させた違法がある。
ウ 「繰延税金資産」については、一審原告らが将来の課税所得をこれに応じて
減少させる権利ないし利益を有していたものであるが、本件条例が適用された
ことにより一審原告らの上記権利ないし利益は現実に失われたのであるから、
その減少は、当期利益の減少と共に、民法及び国家賠償法上の損害を構成する
というべきである。事後的に、裁判により本件条例の無効が確定したからとい
って、一審原告らの繰延税金資産という企業価値を構成するものが低下した事
実までも回復させるわけではないから、一審原告らに発生した損害が遡って否
定 さ れ る 性 質 の も の で は あ り 得 な い 。 こ の 点 は 、「 当 期 利 益 」 の 減 少 に つ い て
も同様である。一審原告八十二銀行、一審原告福岡銀行及び一審原告みずほ信
託銀行についての、平成12事業年度における繰延税金資産及び当期利益の減
少額は、それぞれ2億3000万円、6800万円及び11億5600万円に
も及んでいる。
また、本件条例の構想の公表によって下落した一審原告らの株価についても
、 そ の 後 発 表 前 の 水 準 に 株 価 が 回 復 し た と し て も 、「 回 復 す る ま で の 間 」 に 一
審原告らが被った損害は回復されるものではない。さらに、本件条例が一審原
告らの営業活動に及ぼす影響は多種多様であって、日々その損害が波及し莫大
な金額に及ぶことは、経済社会の通常の経験則上当然に認められ得るところで
あり、このような悪影響による財産的及び非財産的損害の具体的な損害額につ
いては、民事訴訟法248条に基づき認定されるべきである。
原判決が少額な損害の認定をした一審原告八十二銀行及び一審原告福岡銀行
は、一審原告らの中では相対的に小規模な地方銀行であるが、これら両行にお
いては、かえって貸出余力の低下による影響が大きく、得べかりし利益である
利子収入の減少額は、優に1億円を超えている。同じく原判決が少額の損害額
を認定した一審原告みずほ信託銀行は、非公開会社であるといっても、資金調
達・運用の円滑化の観点からは、預金者を含む債権者等に対する信用確保が極
めて重要である等の点は、公開会社と変わらないし、自己資本比率が他の一審
原告らと比較して極めて高いために、かえって、本件条例により現実に低下す
る同比率は大きくなっており、貸出余力の低下による利子収入の減少額は、優
に1億円を超えている。
以上によれば、一審原告らには原判決以上の損害額の賠償請求が認められる
べきであるし、また、他の一審原告らと比べて低額の損害賠償しか認められな
かった上記一審原告3行についても他の一審原告らと同様な損害額の賠償請求
が認められるべきである。
2
一審被告らの主張
(1) 本件条例の無効確認請求の争訟性について
一審原告らの本件条例の無効確認請求は、本件条例が一般的・抽象的に憲法な
いし法律に適合するか否かの審査を求めるものである。しかし、本件条例が制定
され施行されただけでは、一審原告らに具体的な納税義務は生じないのであるか
ら、いずれにせよ、当事者間の具体的な権利義務又は法律関係に関する紛争を対
象 と す る も の と は い え な い の で 、「 法 律 上 の 争 訟 」 に 当 た ら ず 、 こ の 請 求 に 係 る
訴えを却下した原判決は相当である。
(2) 租税債務不存在確認請求の適法性について
標記の訴えは、要するに、本件条例が一般的・抽象的に憲法ないし法律に適合
するか否かの審査を求めるものであるから不適法であり、この請求に係る訴えを
却下した原判決は相当である。
(3) 本件条例の憲法14条違反について
ア 本件条例は、一審原告らを含めた大手銀行をねらい撃ちしたものではない。
すなわち、銀行業等(特に、大手銀行)については、他の大規模企業には全く
- 85 -
見られない特有の問題があることが明確に証明され、別扱いをすることに十分
な合理性があると判断されるに至った。そこで、一審被告東京都知事は、資金
量5兆円以上の大手銀行に限って外形標準課税を行うこととする本件条例案を
提案し、東京都議会で原案どおり可決されたのである。確かに、本件条例の適
用を受ける課税対象法人事業者の数は限られるが、合理性に裏打ちされて、別
異の取扱いを定めるものであるから、憲法14条に違反するものではない。
イ ここ数年にわたっての銀行業等の業務粗利益と事業税額の推移、他の業種の
売上総利益と事業税額の推移と対比し、これを法人の事業活動が地方公共団体
の行政サービスから受ける受益という観点から見ると、銀行業等の「事業の情
況」は、負担の公平を著しく損なうものであることが明らかであった。そこで
、本件条例は、そうした銀行業等の「事業の情況」にかんがみ、銀行業等に対
して所得課税を継続すると当該事業の活動量に応じた課税ができないため、外
形標準課税を導入して税負担の実質的な公平性を確保しようとしたものである
。また、昭和59年度から平成10年度までの15年間の一審被告東京都の法
人事業税の税収額について、全法人と主要銀行とを比較すると、主要銀行の税
収動向が不安定であることは明らかであり、これによって表される銀行業等の
法人事業税の不安定性は見逃すことができない事態である。本件条例は、この
ような銀行業等特有の事業の情況にかんがみ、外形標準課税を導入することに
より、銀行業等からの法人事業税の税収を安定させ、一審被告東京都の安定的
な税収を確保しようとしたものであり、いずれの立法目的も正当であることは
明らかである。
ウ 銀行業等は、不良債権処理に係る損失額が多額に及ぶため、いわゆるバブル
経済期よりも業務粗利益を上げていながら、所得課税による法人事業税をほと
んど負担していないのが実情であり、しかも、このような情況は銀行業等のみ
に限られる特有なものである。本件条例は、銀行業等のこうした事業の情況に
かんがみ、地方税法72条の19に基づき、銀行業等に限定して外形標準課税
を行うこととしたものであって、外形標準課税の対象を銀行業等に限定したこ
とは区別態様として合理的であり、実質的公平を図る方策として、公平性の原
則に適合するものである。ちなみに、本件条例に基づく申告納税の初年度であ
る平成13年度の銀行業等の納税額は1029億円であり、同年度の事業税納
税総額1兆0709億円の9.6%となるところ、昭和59年度から平成10
年度までの15年間における事業税納税総額に対する主要銀行の納税額の割合
は9.8%であったから、上記初年度の比率はこの範囲内に収まっている。
また、一審原告らは、本件条例が目的と手段との関連性においても著しく合
理性を欠くと主張するが、上記イの正当な目的を実現する手段として、銀行業
等の業務を最もよく網羅的に表す「業務粗利益」を課税標準としたものである
から、本件条例は、その目的と手段の関連性においても合理性を有することは
明らかである。
エ 本件条例が適用対象を資金量5兆円以上の銀行業等に限定したのは、中小金
融機関を含む中小零細企業に配慮したためであり、こうした選択は一審被告東
京都の政策的判断にゆだねられるべき問題である。東京都内の事業所77万1
655中、その98.2%である75万7876が中小規模事業所であり、そ
のうちには最先端技術を有するものも少なくなく、その経営安定化と活性化は
、一審被告東京都の主要な政策目標の一つである。こうした中小企業に資金を
供給する役目を果たしているのが、信用金庫、信用組合等のいわゆる中小金融
機関であり、これらの金融機関に外形標準課税を適用するとその経営に与える
影響のほか、その税負担増が貸出金利の引上げといった形で中小零細企業に転
嫁されることが憂慮されることから、本件条例の適用対象から除外したもので
ある。
(4) 本件条例の憲法94条違反について
地方公共団体も憲法上独立の統治団体であって憲法上固有の課税権が承認され
て い る 。 こ の 地 方 公 共 団 体 ( 地 方 税 法 上 は 「 地 方 団 体 」) の 課 税 権 は 、 地 方 自 治
に不可欠の要素であり、地方公共団体の自治権の一環として憲法によって直接に
地方公共団体に与えられている。地方税法3条は、同法の定めるところにより、
地方公共団体が条例により課税要件等を規定することができるとしており、この
意 味 で 同 法 は 「 枠 法 ( 準 則 法 )」 で あ る と さ れ て い る 。 そ し て 、 地 方 税 法 7 2 条
の19も、超過課税、法定外税及び不均一課税(同法6条)と並んで、地方公共
団体の課税自主権の行使を認めた規定であり、地方税法72条の19に基づく本
件条例も、課税自主権行使の一つである。課税自主権の行使の適否は、最終的に
は、当該地方公共団体の住民の判断によることになり、司法の判断においても、
そうした地方公共団体の判断は最大限尊重されるべきである。
そして、地方分権一括法が制定され、国と地方との関係を対等に位置づけて地
方の自主性を高めようとしている今日、地方公共団体の課税自主権については、
自主財政主義の趣旨にかんがみて、国法といえども地方公共団体の自主(独立)
財源の確保等その自主性を十分に尊重すべきであって、特に、外形標準課税を「
- 86 -
一般概念」で地方公共団体の条例に委任している地方税法72条の19の解釈に
ついても、そうした考え方が当てはまるものというべきである。
(5) 本件条例の憲法31条等違反について
ア 行政処分の手続に憲法31条の適用ないし類推適用があることは別段異論が
ないが、多元的価値観等の調整過程を経て一般的・抽象的な規範を定立する立
法行為には、憲法31条を類推適用する余地はなく、その点は、国の立法行為
に限らず、本件条例の制定のような、地方自治及びこれに基づく立法権が憲法
上保障されている地方自治体の立法行為についても同様である。そもそも、本
件条例のような租税に関する法律、条例は、これに基づく一定の手続(納税義
務者による申告、行政庁による更正・決定処分等)を経ることによって、初め
て国民・住民の具体的納税義務が生ずるのであり、法律、条例が施行されても
、それだけでは具体的納税義務は生じないので、この点で本件条例の制定・施
行と行政処分たる課税処分とを同視することはできない。本件条例は、平成1
2年4月1日以降開始する事業年度の末日における資金量が5兆円以上の銀行
業等に適用されるものであることを一般的、抽象的に定めているのに過ぎず、
一審原告らが主張するように、一審原告ら大手銀行を特定の名宛人とするもの
ではない。
イ 一審原告らは、本件条例の立案過程で、一審被告東京都が銀行側の問い合わ
せに虚偽の回答をしたことが、憲法31条の適正手続に違反すると主張するが
、条例案の立案過程は、地方自治体内部において条例提案権者が行っている単
なる準備行為に過ぎず、適正手続の問題とは無関係な場面である。本件条例の
制定過程においても、東京都議会の公聴会等で銀行側の意見聴取の機会も設け
ているし、他の参考人の意見も聴いた上で、東京都議会議員の圧倒的多数の賛
成により可決成立したもので、適正手続を問題にする余地は全くない。
ウ 仮に、一審原告らが主張するように、成田新法事件に関する最高裁判所平成
4年7月1日大法廷判決の判示の趣旨が及ぶとしても、本件条例により「制限
を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度」の点に関しては、一審原告らが
主 張 す る 繰 延 税 金 資 産 及 び 純 利 益 の 減 少 、 資 金 調 達 コ ス ト は 、「 法 律 上 の 損 害
」に当たらないし、仮に、これに当たるとしても、一審原告らの企業規模から
すれば、決して大きいものであるということはできない。また、一審原告らの
信用や国際競争力の低下についても、企業に対する信用は、企業の経営状況・
経営能力全体に対する評価の結果であって、租税制度のみによって決まるもの
ではない。更にいえば、一審原告らに信用や国際競争力の低下が仮にあるとす
れば、それは多額の不良債権を抱えその処理が一向に進まないばかりか増加さ
えしていることに起因していることは、社会一般に認知されているところであ
る。一方、本件条例により「達成しようとする公益の内容、程度、緊急性」の
点に関しては、1200万人の都民を抱える一審被告東京都には、膨大な行政
需要にこたえ行政サービスを提供する責務があり、税収の落ち込みにより厳し
い財政運営を迫られる中、投資的経費の削減、経常経費の見直し、全職員の給
料カット等、歳出削減に最大限の努力を行ってきているが、それにも限界があ
り、本件条例の制定により見込まれる増収(年間1000億円程度)を行政サ
ービスに振り向けることにより、これをはるかに超える効果が見込まれる。以
上のとおり、上記判決が示した基準に照らした比較考量によっても、一審原告
らに告知及び聴聞の機会が保障されるものではない。ちなみに、地方税法上条
例制定に当たって聴聞を義務づけられているのは、固定資産税に関する同法3
50条2項のみであって、事業税にはそうした規定はない。
(6) 事業税の性格について
ア 事業税は、事業に担税力を見い出し、地方公共団体の提供する行政サービス
を受けながら事業を営んでいるという、事業と行政サービスとの受益関係に着
目して課される「応益税」である。
すなわち、昭和29年及び30年の地方税法改正においても、所管官庁であ
る当時の自治庁は、国会答弁等において、事業税の法的性格は応益的性格が前
提であることが立法過程において一貫して説明されている。また、そこでは、
外形標準課税を例外業種に限定するような説明はされておらず、むしろ、漸次
課税標準を売上金額に切り替えて行って、いろいろな問題の是正を図りながら
、事業税を育てていきたい旨の将来展望が示されている。昭和29年の改正法
も、応益原則を事業税の課税の正当根拠としていたシャウプ勧告の趣旨をでき
る限り生かそうとして制定されたものである。結局、立法当時のわが国の経済
状況等から、大半の業種の課税標準を「所得」とせざるを得なかったのである
が、事業税の制度的な本質としては、応益原則に立脚して制定されていること
は明らかである。
イ ま た 、 租 税 が 、 原 判 決 が い う よ う に 、「 能 力 に 応 じ て 課 さ れ る も の で あ り 、
」「 公 共 サ ー ビ ス の 対 価 と し て の 性 質 を 有 し な い 」 も の で あ る か ら と っ て 、 直
ちに応能原則に結びつくものではない。能力に応じた課税とは、租税の負担能
力 で あ る 担 税 力 を 意 味 す る も の (「 応 能 」 の 概 念 ) で あ っ て 、 課 税 の 根 拠 を 示
- 87 -
す 基 本 的 考 え 方 で あ る 「 応 能 原 則 」、「 応 益 原 則 」 と 相 互 に 対 応 す る 関 係 に あ
る わ け で は な い 。 ま た 、 課 税 標 準 は 、「 応 能 原 則 」、「 応 益 原 則 」 と い っ た 税
の性格に従って論理必然的に決定されるものではなく、その時々の財政上の理
由 や 経 済 の 状 況 に 応 じ て 、 租 税 政 策 に よ り 選 択 さ れ る べ き も の で あ り 、「 応 能
原則」によっているからといって、直ちに「所得」を課税標準とすべきである
と い う こ と に は な ら な い 。 憲 法 1 4 条 は 、 確 か に 、「 担 税 力 に 応 じ た 課 税 」 を
求 め て い る が 、 そ れ は 、「 応 能 」 概 念 を 要 請 す る に と ど ま り 、 所 得 を 課 税 標 準
とする「応能原則」とすることまで求めているものではない。そして、事業税
の課税標準としての「所得」は、応能原則とされる法人税法等の「所得」概念
と は 異 質 で あ り 、 応 益 原 則 に 基 づ く 概 念 で あ り 、 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 は 、「
所得」を課税標準としたのでは事業税の応益税としての性格を適切に反映でき
ない場合を想定して、その場合の是正措置として設けられているものである。
ウ さらに、法人税額や所得税額の算出に当たって、事業税額を損金や経費に算
入することが認められているのは、原判決がいうような技術的な規定にとどま
らず、事業税が事業の費用、行政サービスの対価であるという応益的な考え方
に基づくものである。また、地方税法72条の14や72条の15は、法人の
国外所得を除外して所得計算しているが、これは、国外の事業活動は都道府県
の提供する行政サービスとの応益関係がないからであり、この点は事業税を応
能税であるとすると、整合性ある説明ができなくなってしまう。
エ 以上のほか、①比例税率とするか累進税率とするかの問題は、応益原則であ
れば、必ず比例税率でなければならないという性格の問題ではないこと、②法
人事業税は法人税の附加税ではないこと、③政府の税制調査会の外形標準課税
導入の動きは、必ずしも法律改正による事業税の応益課税化ではなく、応益課
税としての税の性格の明確化を一層図ろうとするものであること、④法人事業
税は所得を課税標準とすることで、原則的には禁止されている法人住民税との
二重課税となっていること、⑤海外投資等損失準備金等事業税が応益課税であ
ることからしか、説明できない事業税特有の加算減算項目があることを合わせ
考えれば、現行事業税が応益原則に基づいて課される税であることは明らかで
あり、これを所得課税を原則とする応能原則の立場に立つものと判断した原判
決には、重大な誤りがある。
(7) 地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」について
ア 一審原告らは、戦前の営業税からの沿革から見て、現行地方税法72条の1
9の「事業の情況」とは、所得の捕捉の困難性が認められる業種あるいは小規
模な事業など極めて限定された場合にのみ適用される趣旨と解すべきであると
主張する。しかし、こうした主張は、大正15年の営業税が、現行事業税とは
異なる時代背景の下に成立したものであることや、地方税制についての考え方
が、明治憲法と現行憲法とでは全く異なることを完全に無視した議論であり、
「事業」を課税客体とする応益税としての現行事業税は、原則として営業収益
に課される大正15年当時の地方税である営業税や、この営業税を改組してす
べて営業収益を課税標準とした昭和15年の国税である営業税とは、税の性格
が基本的に異なるものである。また、地方税法72条の19が現実にはワーク
しない規定であるとの一審原告らの主張も誤りであることは、現に、昭和52
年に全国知事会がこの規定を活用して、製造業を対象とした外形標準課税を導
入しようとした経過や、当時の自治省税務局長の国会答弁から明らかである。
その他一審原告らが引用する有識者の意見は、外形標準課税はすべての業種を
対象として「広く薄く」課税すべきものであるとするが、これらの意見は、地
方税法72条の19の規定の解釈適用による外形標準課税を論ずるものではな
く、法律改正による立法論としての外形標準課税を主眼として述べるもので、
筋違いの議論である。
イ 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 の 「 事 業 の 情 況 に 応 じ 」 は 、 文 字 ど お り 読 め ば 、「 事
業のそのときの情況、状態、有様に応じて」としか読めず、例外4業種につい
て例外的取扱いをするに至った事情ないしはこれに準ずる事情があることを要
件としていないのであるから、その文理からは、原判決のような限定的な解釈
をすることはできない。原判決がいうような限定的な解釈は、本件訴訟が提起
された後に初めて言い出された極めて特異な見解である。また、原判決がいう
ように、法人事業税が応能課税であるとすると、応益課税の考え方を採ってい
ることが明らかな例外4業種についての説明と矛盾するし、例外4業種につい
て は 、「 所 得 」 が 担 税 力 の 指 標 と し て 機 能 し て い な い と い う の で あ れ ば 、 同 じ
応 能 課 税 で あ る 所 得 税 に つ い て も 、「 所 得 」 は 担 税 力 の 指 標 と し て 適 切 で な い
ということになりかねない。
そもそも、事業税の課税客体は「事業」であり、課税標準もこの課税客体を
数量化したものであるから、事業税の課税標準としての「所得」は、事業の規
模又は活動量を表す指標であることになり、法人税等の課税標準である「所得
」とは明らかに意味が異なっている。事業税の課税標準を規定する地方税法7
2 条 1 項 は 、「 所 得 及 び 清 算 所 得 又 は 収 入 金 額 」 と 並 列 的 に 規 定 す る だ け で 、
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「所得」が原則で「収入金額」が例外であるとは規定していないのである。
確かに、地方税法72条の12は、大半の業種の課税標準を「所得」と規定
している。しかし、地方税法72条の19が例外4業種について「収入金額」
と い う 外 形 標 準 課 税 標 準 を 採 用 し て い る の は 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と す る と 、
その事業の規模又は活動量が大きいにもかかわらず、事業税額が本来負担すべ
き税額よりも少額となり、事業税の応益的性格が反映できなくなるためである
。 例 外 4 業 種 以 外 の 業 種 に つ い て 、「 所 得 」 を 事 業 税 の 課 税 標 準 と し た の は 、
事業税の応益的性格を認めつつも、昭和29年等立法当時の経済情勢に配慮し
ただけのものである。事業税の課税客体と課税標準の関係や、事業活動と都道
府県の提供する行政サービスの応益関係に着目すれば、事業税の課税標準は、
事業の規模や活動量を最も適切に表すものであることが望ましく、本来的には
、所得よりも、例外4業種に適用されているように、外形的なものとすること
が適当である。したがって、地方税法の事業税の関連諸規定を総合して体系的
に 解 釈 す れ ば 、 地 方 税 法 7 2 条 の 1 9 の 存 在 意 義 は 、「 事 業 の 情 況 」 に よ っ て
、所得を課税標準とすることが相応しくない不都合・不合理な情況がある場合
に、同条の規定を用いて外形標準課税を行うことができるとするところにあり
、「 事 業 の 情 況 に 応 じ 」 は 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し て 課 税 す る と 不 公 平 な 結
果となる事情を広く含む概念ということになる。
ウ 地方税72条の19は、要件自体が不確定概念で、発動のための具体的適用
要件が定められていないのであるから、地方公共団体が条例によりその具体的
な定めをすることについて、一定の立法裁量を与えたものと解するほかはない
。そして、その立法裁量を行使するに当たっては、事業税の性格である「応益
原則」や法の一般原則である「公平原則」に照らして、適法性、妥当性を判断
すべきことになる。前者からは、課税標準が事業の規模や活動量を適切に反映
するものであることが求められるし、後者からは、同一規模の事業を行ってい
る他の業種と比較して税負担が著しく低くならないようにすることが求められ
る。
旧自治省の公式見解における地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」
の 解 釈 は 、「 ① 相 当 規 模 の 事 業 活 動 を 行 っ て い る に も か か わ ら ず 、 そ の 事 業 の
規模に比して税負担が著しく低いことが常態であるため一定期間の所得を課税
標準としては、受益の程度に応ずる負担を求めることが困難な情況にある場合
、②所得を課税標準としているため同一規模の事業を行っている異種の事業の
間に税負担の不均衡が生じている情況にある場合」の例示のいずれかに該当す
る場合には、一定の業種の法人に限定して外形標準課税を導入することができ
るものとしている。また、本件条例の構想が公表された直後の平成12年2月
24日の衆議院地方行政委員会で示された内閣法制局の見解(以下「内閣法制
局 見 解 」 と い う 。) に お け る 「 事 業 の 情 況 に 応 じ 」 の 解 釈 は 、「 ① 基 本 的 に は
、所得を課税標準としてとっていたのでは事業税の負担がその受益の程度に比
し て 相 当 に 低 い と い う こ と が 常 態 化 し て い る よ う な 業 種 」、 ② 「 非 常 に 景 気 感
応性が高くて毎年の事業税の納付額が大きく極端に動くというふうなことで、
地方公共団体の安定的なサービスの提供に障害があるもの」のいずれかに該当
すると判断される場合を指すとするもので、この場合には、当該業種について
地方税法72条の19を適用して、外形標準課税を導入することができるとし
て い る 。「 事 業 の 情 況 に 応 じ 」 の 解 釈 は 、 基 本 的 に こ の 2 つ の 見 解 に よ る べ き
であると考えられる。
エ 銀行業等においては、いわゆるバブル経済期よりも大きな業務粗利益を上げ
、事業活動も活発に行われ、それに応じた行税サービス(ママ)の受益がある
にもかかわらず、不良債権処理に係る損失が多額に及ぶため、最終的には所得
が極端に減少する情況にあるから、事業の活動量に比して事業税負担が著しく
低いことが常態化し、一定期間の所得を課税標準としたのでは、行税サービス
(ママ)の受益の程度に応ずる事業税負担を求めることが困難な情況にある。
税収動向も極めて不安定であり、今後も、相当の事業年度にわたって不良債権
処 理 を 行 わ な け れ ば な ら な い た め 、 所 得 の 発 生 が 見 込 ま れ ず 、「 所 得 」 を 課 税
標準とした事業税であれば、事業活動に見合った負担をほとんど期待できない
。こうした情況は、銀行業等の事業構造によるものであり、しかも、銀行業等
のみに認められるものであって、他の業種との間で税負担の不均衡が生じてい
る 。 つ ま り 、「 所 得 」 を 課 税 標 準 と し た の で は 、 税 負 担 の 公 平 性 ・ 安 定 性 が 確
保できず、応益税とされる事業税の機能を維持できないこととなっていた。東
京都における銀行業等のこのような情況は、具体的には、旧自治省の公式見解
や内閣法制局見解によれば、地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」外
形標準課税を導入できる場合に該当することは明らかであり、税負担の公平性
・安定性を確保するために、本件条例により外形標準課税が導入されたのであ
る。
銀行業等がバブル経済期よりも大きな業務粗利益を上げながら、法人事業税
をほとんど負担していない事態は、バブル経済とその崩壊後におけるわが国の
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金融政策とその下における銀行業等の経営実態等を反映したもので、決して、
原判決がいうような一時的な景気状況や個々の銀行の経営手段の相違によって
もたらされたものではない。銀行業等がバブル経済期よりも大きな「業務粗利
益」を上げていることは、政府の低金利政策と深く結びついており、わが国金
融における制度的・構造的問題に係わっている。
以上のとおり、本件外形標準課税は、地方税法72条の19の「事業の情況
に応じ」を適切に適用したものであって、原判決は、同条の誤った解釈適用に
より、本件外形標準課税の適法性について誤った結論を出している。
(8) 課税標準としての「業務粗利益」について
ア 地方税法72条の19を適用して外形標準課税を行う揚合には、課税標準と
しての「所得」が事業の規模又は活動量を表す指標としての課税標準として不
適切であるということが出発点である。銀行業等とそれ以外の業種を比較する
際に、どのような指標を用いるのが適切であるかについては、検討の余地があ
る。同条が規定する「売上金額」は、銀行業等における売上に相当する経常収
益に該当すると考えられるが、その大半を占める資金運用収益は、金利変動の
影響を強く受けることから安定性に欠けるので不適当である。売上金額に最も
近い外形基準としては、資金調達費用を差し引いた「業務粗利益」が考えられ
、これによれば、貸出金利と借入金利の双方について金利変動の影響が相殺さ
れる結果、比較的安定しており、比較対照の指標として適当であると考えられ
る。銀行業等以外の業種における「売上総利益」は、売上高から売上原価を差
し引いたものであり、銀行業等の「業務粗利益」とそれ以外の業種の「売上総
利益」は、いずれも「売上」から「仕入」を差し引いた「粗利」であるから、
銀行業等における業務粗利益は、その他の業務における売上総利益に相当する
もので、相互に比較可能な概念といえる。この比較対照はあくまで事業の規模
又 は 活 動 量 を 比 較 す る と い う 土 俵 に お け る も の で あ り 、「 業 務 粗 利 益 」 と 「 売
上総利益」が法律学上、会計学上厳密な意味で同じものであって違いがないと
いっているわけではない。
なお、加算型の付加価値が事業税の外形基準として相応しいことは確かでは
あるが、銀行の付加価値については明確な定義が定まっていない。一般に付加
価 値 は 、「 支 払 利 子 - 受 取 利 子 」 と し て 計 算 さ れ る の が 基 本 と い わ れ て い る が
、銀行における支払利子は、預金者に対するものであるので、企業への貸付利
子である受取利子より少なく、付加価値がマイナスとして計算されてしまうこ
とから、銀行業等にそのままこれを適用することはできない。
イ 「業務粗利益」は、当初は銀行に対する監督当局による監督目的から導入さ
れたものであるが、その後、銀行法施行規則19条の2等に規定されるディス
ク ロ ー ジ ャ ー の 開 示 項 目 と さ れ た の で あ っ て 、「 業 務 粗 利 益 」 は 、 単 に 監 督 目
的にとどまらず、投資家だけではなく、広く一般の利用者等を保護するために
、対外的な公表が義務付けられた指標であり、あたかも、証券取引法の適用の
ある限られた大会社の損益計算書に記載を求められている「売上総利益」と同
様 の 重 要 性 を 有 す る 指 標 と 考 え ら れ る 。 そ し て 、「 業 務 粗 利 益 」 は 、 銀 行 業 等
の固有業務をはじめとするほとんどの業務から生じた収益を示す指標であり、
銀行業等の業務活動の成果をほとんど綱羅している。全国銀行協会の「ドクタ
ー・ビッグバンのよくわかる銀行のディスクロージャー」でも、一般事業会社
の 損 益 計 算 書 と 銀 行 の 損 益 計 算 書 は 基 本 的 に 同 じ で 、「 売 上 総 利 益 」 と 「 業 務
粗利益」とを同じ概念として認識している。このほか、個別の銀行や信用金庫
等 の デ ィ ス ク ロ ー ジ ャ ー 誌 や ホ ー ム ペ ー ジ 等 で も 、「 業 務 粗 利 益 」 が 「 売 上 総
利 益 」 に 相 当 す る と か 、「 業 務 粗 利 益 」 が 銀 行 の 本 来 業 務 に 係 る 収 益 性 を 示 す
ものである等の説明がされている。
ウ 「 業 務 粗 利 益 」 は 、「 売 上 総 利 益 」 と 同 様 に 、 貸 倒 損 失 を 控 除 す る 前 の 数 値
であるし、本件外形標準課税における「業務粗利益」は、銀行業等における「
事業」を数量化したものであるから、当然に貸倒損失を控除すべきということ
にはならない。過去の貸付の失敗から発生した貸倒損失は、銀行の収益を生み
出すための資本である「貸付元本」としての貸付金が侵食ないし毀損されたの
であって、銀行の現在の事業の規模又は活動量とは何ら関連性を有しないし、
会計上も貸出金利息に直接対応する費用ではあり得ない。貸倒れは、損益計算
書上貸倒引当金繰入額又は貸出金償却として「営業経費」のうち「その他の経
常費用」に計上されるだけで、会計上「売上」の減少とは評価されないし、所
得税法上、貸倒引当金は売上原価とは別に引当金として必要経費に参入(ママ
) さ れ ( 同 法 5 2 条 )、 法 人 税 法 上 も 、 貸 倒 引 当 金 は 売 上 原 価 と は 別 に 引 当 金
と し て 損 金 に 算 入 さ れ る こ と に な っ て い る か ら ( 同 法 5 2 条 )、 貸 倒 れ は 、 会
計上も税法上も「売上原価」を構成しない。また、貸倒引当金の計上に当たっ
て は 、 例 え ば 、 不 良 債 権 の 債 務 者 区 分 の 認 定 (「 破 綻 懸 念 先 」 等 ) に お い て 、
銀行の恣意が入らざるを得ない。いずれにせよ、貸倒による元本の毀損分を、
外形標準課税の課税標準から控除することは相当でない。
エ 以 上 の と お り で あ る の で 、「 業 務 粗 利 益 」 は 、 地 方 税 7 2 条 の 1 9 の 規 定 に
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よる外形基準として適当である。
地方税法72条の22第9項の均衡要件について
ア 地方税法72条の22第9項の均衡要件の解釈に関する旧自治省の公式見解
は、外形標準課税採用の趣旨の一つに「安定的な税収の確保」があり、単年度
の税収による判断では、単発的偶発的な事情等による税収の変動の影響を受け
る可能性があって適当ではなく、相当期間における税収の平均値等を参考にす
ることが適切妥当であるので、当該業種の一定期間における所得課税を行った
場合の事業税収入と外形標準課税を行った場合の事業税収入とが著しく異なら
ないような水準とすることが適当であるというものである。また、内閣法制局
見解でも、外形標準課税によって増加する税負担の均衡については、当該外形
標準課税を導入する年とか、その後2、3年とかいう短い期間ではなくて、中
長期的に見て税負担の均衡が図られるかという問題であるし、また、外形標準
課税を導入することとした目的等の事情も考慮すべきであるというものである
。一審被告東京都が本件条例の税率を決定する際に、バブル経済期前、バブル
経済期、バブル経済期後の15年間(昭和59年度から平成10年度まで)の
税収実績を勘案し、所得課税との均衡が図られることを確認したことは、以上
の旧自治省の公式見解や内閣法制局見解に沿ったものである。そして、上記(
3)イで述べたとおり、本件条例に基づく申告納税の初年度である平成13年
度の銀行業等の納税額は1029億円で、同年度の事業税納税額総額1兆07
09億円の9.6%であるところ、この割合は、昭和59年度から平成10年
度までの15年間における事業税納税総額に対する主要銀行の納税額の割合で
ある9.8%の範囲内に入っており、銀行業等と全業種との対比における納税
割合の不均衡は、本件条例によって是正され適正に均衡が回復されたと評価す
べきである。
イ 一審原告らは、平成13事業年度に係る法人事業税負担が所得基準(旧基準
)による事業税額と比較して約3652倍にも相当するから、不均衡が著しい
旨主張するが、比較の対象となっている一審原告らの平成13事業年度に係る
所得基準(旧基準)による事業税額はわずか2477万2700円であり、し
かもその内訳は、一審原告ら17行中実に16行が事業税額がゼロとなるため
、残る1行の地方銀行(八十二銀行)の事業税額に相当する。このようなゼロ
に近い数値を分母にとれば、倍率が無限大に近い数値になることは当然であり
、この3652倍という倍率は何ら意味がない。むしろ、3652分の1に近
い負担で済むのは、莫大な貸倒損失を所得から控除しているからであり、この
ような事態は多くの業種中銀行業等にしか生じていない。上記の倍率は、所得
基準(旧基準)によると、銀行業等の事業税負担が一審被告東京都の行政サー
ビスの受益の大きさに見合うものでないことを如実に示しているともいえるの
である。
ウ また、一審原告らは、地方税法72条の22第8項が事業税の制限税率を標
準税率の1.1倍と低く設定していることから、同条9項の税負担の均衡につ
いても、この上限を超えることが許されないかのように主張するが、同条8項
中に掲げられる条項には、同条9項は含まれていないから、同条8項の適用を
受けないことは明らかである。さらに、一審原告らは、本件条例の適用により
、他の道府県の税収額が年間210億円、5年間で1050億円も減少すると
主張するが、一審原告らが上記イの主張の根拠とする甲257号証によれば、
一審原告らの平成13事業年度に係る所得基準(旧基準)による事業税額は、
実に16行でゼロであり、残り1行についてもわずかに2477万2700円
であるので、他道府県の税収に年間210億円もの減収が生ずるはずはないし
、法人事業税、法人道府県民税・法人市町村民税及び法人税の実行税率(ママ
)、 東 京 都 と 他 道 府 県 の 分 割 割 合 を 考 慮 す る と 、 平 成 1 3 事 業 年 度 に お け る 本
件条例の影響により生ずる他道府県の減収額は、精々2200万円程度であり
、今後も銀行業等の各事業年度の所得が発生しないことが見込まれることから
、一審原告らが主張するような大幅な減収額が生ずるはずがない。
エ 一審原告らが他の付加価値基準によった場合の納税分と主張するところも、
銀行業にもかかわらず一般事業会社と同じ「支払利子」のみの計算方法をとり
、「 支 払 利 子 - 受 取 利 子 」 と し て 付 加 価 値 を 計 算 し て い る が 、 銀 行 の 支 払 利 子
は、預金者への支払利子であるため、企業への貸付利子である受取利子より少
ないため、実際に利ざやが出ているにもかかわらず、付加価値の計算ではマイ
ナスとなるという不適切な計算となっており、このことだけからも上記主張は
不適切である。
(10) 国家賠償請求について
本件条例は、憲法や地方税法72条の19等の法律の規定に抵触するものでは
ないから、本件条例制定行為は、国家賠償法1条1項の「違法性」を有しない。
また、本件条例の制定過程において、一審被告東京都の主税局長らが採っていた
解釈は、当時における通説的なものであり、原判決が指摘するような調査義務や
情報伝達義務が生じることはないし、事業税が応益原則に立脚するものであり、
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(9)
地方税法72条の19は、所得が事業の規模又は活動量を適切に表さない状況が
存する場合に適用されるべき規定であることは、立案当時の見解・実務の扱いか
らすれば明らかであった。さらに、一審被告東京都の担当者や一審被告東京都知
事が本件条例の構想公表後各界から出された慎重論を無視したとの点も、このこ
とにより直ちに「故意・過失」が認められるわけではないし、閣議口頭了解や当
時の自治大臣の発言も決して本件条例が違法であるとまで明言しているわけでは
ない。銀行業が十分な収益を得て巨額の配当をしているとの説明についても、多
額の金員を配当する能力があることは客観的な事実であるので、こうした説明を
したことに「過失」があるとはいえない。
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