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保険会社がひた隠す “上皮内癌の嘘”
seimeihoken2_honbun.indd 1 保険会社がひた隠す “上皮内癌の嘘 ” 貴方が乳癌や大腸癌になったとき 保険金は無事に支払われるか? 2016/10/24 16:2 目次 保険会社がひた隠す “ 上皮内癌の嘘 ” ――貴方が乳癌や大腸癌になったとき保険金は無事に支払われるか?―― <序論> 7 Ⅰ.上皮内癌についての予備知識 1.上皮内癌の概念と定義 23 (1)上皮内癌の語源 23 (2)「上皮内」は一つの意訳 23 (3)分類により定義が異なる 24 (4)上皮内浸潤についての扱いからして異なる 26 (5)上皮外に浸潤していても上皮内癌としている分類もある 26 (6)転移していても上皮内癌としていることさえある 27 (7)他臓器に浸潤していても TNM 分類では上皮内癌 31 (8)TNM 分類の定義は時代とともに変わる 35 (9)約款上の定義は普遍的でなければならない 36 2.「約款上の上皮内癌」の定義 37 (1)国際疾病分類上の要件 37 (2)国際疾病分類・腫瘍学上の要件 40 (3)“ がん保険の趣旨 ” と “ 契約者側の合理的利益 ” 上の要件 42 3.0 期不担保規定と重症癌 47 (1)重症癌でも 0 期ならば不担保にしてよいのか 47 (2)0 期を不担保にする趣旨は上皮内癌と同じ 47 (3)「0 期に重症癌が含まれていること」を知らずに商品を作った 48 (4)「0 期は全て軽症癌」というのが契約時の共通認識 49 (5)信義則に反する 50 (6)公序良俗違反でもある 50 (7)浸潤性大腸粘膜癌と偶発的微小癌くらいしかない 50 4.上皮・間質・基底膜 51 (1)上皮とは 51 (2)間質とは 52 (3)基底膜とは 52 (4)腺上皮の基底膜は複雑に入り組んでいる 52 (5)腺癌では間質浸潤の有無を判断しにくい 54 (6)腺癌は全て浸潤癌として扱われることが多い 54 5.上皮内浸潤について 56 (1)浸潤性増殖とは 56 (2)腫瘍境界が判らないと根治は難しい 58 (3)浸潤性増殖は悪性シグナル 58 (4)上皮内浸潤と間質浸潤 59 (5)上皮内浸潤があれば ICD-O では “ がん ” 59 (6)TNM 分類では上皮内浸潤の存在を無視している 60 (7)上皮内浸潤があれば「約款上の上皮内癌」ではない 60 seimeihoken2_honbun.indd 2 2016/10/24 16:2 seimeihoken2_honbun.indd 3 Ⅱ.乳管上皮内癌は「約款上の上皮内癌」ではない 1.乳腺は複雑に分岐した管状構造になっている 65 2.乳癌の種類 65 (1)乳癌には乳管癌と小葉癌がある 65 (2)間質浸潤の有無により浸潤性と非浸潤性とに分けられる 67 (3)上皮内浸潤の有無は腫瘍名からは判らない 67 (4)上皮内浸潤はほぼ必発 67 3.国際疾病分類の観点から 67 (1)ICD の原発区域に限局している必要がある 67 (2)顕在化した時点でもはや「約款上の上皮内癌」ではない 76 (3)ITC という名の極小転移 77 4.国際疾病分類・腫瘍学の観点から 78 (1)上皮内には限局していない 78 (2)「②非浸潤性」でもない 79 (3)「③非侵襲性」について 81 5.“ がん保険の趣旨 ” と “ 契約者側の合理的利益 ” から 82 (1)局所切除のみでは根治せず後遺症も残る 82 (2)0 期乳癌の治療内容 82 (3)0 期でも手術だけでは根治できない 83 (4)乳管上皮内癌という診断を信用していない 84 (5)しかも 3 枚だけみて上皮内癌とは酷い 84 (6)癌死リスクが 1.0 ~ 2.6% もある 85 (7)乳房は女性の命 85 6.「逆ざや」解消のために支払から不払いに変えた 86 (1)乳管上皮内癌は全乳癌の 16%以上 86 (2)最初は支払っていたのに途中から不払いに変えた会社が多い 87 (3)「逆ざや」とは 88 (4)生命保険の三利源 89 (5)天に唾する行為 90 (6)支払総額を 2%以上も減らせる 90 (7)自ら毒まんじゅうを作って食べた 91 (8)自らの過ちを被害者に転嫁した 92 7.ある女性特定治療特約から 93 (1)女性特有臓器の手術を保障した保険 93 (2)乳房のみ上皮内癌を不担保 93 (3)検査手術を除外したもの 93 (4)根治手術の適用外なのが「約款上の上皮内癌」 94 (5)「約款上の上皮内癌」に該当するのは偶発的微小癌だけ 94 (6)「局所切除のみで後遺症を残さずに根治する」ことを示したもの 95 2016/10/24 16:2 8.立証責任の観点から 96 (1)誰が何を立証しなければならないのか 96 (2)①か②かは大問題 96 (3)一義的な立証責任は契約者側にある 97 (4)「非上皮内癌については未請求」というのが保険会社の論理 98 (5)実は「浸潤の可能性があれば浸潤癌」ということになっている 98 (6)性状コードのコーディングガイドライン 98 (7)“ がん保険の趣旨 ” からしても同じ 101 (8)立証責任は保険会社にある 101 (9)立証不能につき支払うしかない 102 9.0 期不担保規定があっても不払いは許されない 102 (1)重症癌は不担保にできない 102 10.提訴は避けがたい 103 (1)正論の通じる相手ではない 103 (2)会社の方針で “ 毒まんじゅう ” を食べた 104 (3)契約者の無知と誤解に乗じたもの 104 (4)裁定審査会とは 105 (5)取り扱われた事案の概要 105 (6)裁定審査会の裁定から 106 (7)基本的な判断原理さえ理解していない 107 (8)百害あって一利なし 111 11.裁判の壁を乗り越える 111 (1)裁判を阻む3つの壁 111 (2)弁護士費用は幾らか 112 (3)遅延損害金や過剰払込保険料も取り戻せる 113 (4)10 人で訴訟を起こせば弁護士費用は半分以下になる 114 (5)弁護士は簡単には見つからない 115 (6)先ずは関心をもって貰う必要がある 115 (7)なぜ関心を示さないのか 116 (8)やはり集団訴訟が望ましい 116 (9)集団で戦えば必ず勝てる 117 (10)人数的には可能 118 (11)ホームページを通じてまとめる 118 12.「がん保険フォーラム」の活用に当たって 119 (1)まずは率直なご意見やご体験を聞かせてください 119 (2)今のところ仲間も弁護士もいない 120 (3)弁護士への相談は別ルートで個別に行う 120 (4)難しく考えない 121 seimeihoken2_honbun.indd 4 2016/10/24 16:2 seimeihoken2_honbun.indd 5 Ⅲ . 大腸粘膜癌は「約款上の上皮内癌」ではない 1.大腸粘膜の構造 125 2.大腸粘膜癌には広義と狭義の 2 つがある 125 3.続発性悪性新生物を伴ってくることは稀だがある 126 4.上皮外に浸潤していれば「約款上の上皮内癌」ではない 127 5.ICD9 商品においては全て支払われていた 128 6.ICD10 典拠を口実に不払いした 130 7.ICD9 では予め注釈しておく必要があった 132 8.TNM 分類の不当援用による不払い 134 9.「ICD-O は TNM 分類とは無関係」と明記されている 135 10.しかも保険料を安くしていない 135 11.致死的でも TNM 分類を悪用して支払わない 136 12.住友生命のように ICD10 商品でも支払っている会社もある 137 13.他の ICD10 商品でも非上皮内癌とされている 139 14.“ 毒まんじゅう ” と知りつつ食べた 142 15.独力では通じない 143 16.裁定審査会は全く信頼できない 143 17.集団訴訟が望ましい 147 18.「がん保険フォーラム」を活用してください 148 19.0 期不担保規定と肛門管の粘膜癌 149 20.肛門管病変の見落としによる不当不払い 149 Ⅳ . 酷すぎる不当不払いの実態 1.致死的腫瘍まで不払いにしている 155 2.「約款から逸脱した判断基準」を使い分けて騙す 155 3.MDS では「ICD-O2 を援用」 157 4.卵巣の境界悪性腺腫では「ICD-O2 を無視」 158 5.上皮内癌では「ICD-O を無視」して「TNM 分類を不当援用」 161 6.性状不詳では「TNM 分類を無視」 162 7.ルール F に違反している 163 8.「TNM 分類とは無関係」という言葉の真意 163 9.ICD-O 上の転移が TNM 分類では転移ではない 164 10.TNM 分類における原発・続発についての補足 166 11.TNM 分類 0 期をもって「約款上の上皮内癌」としてはいけない 167 12.上皮内癌や皮膚癌では「主治医の判断」を誘導して悪用 168 13.都合が悪いときは「主治医に訂正させる」 171 14.性状不詳では「主治医判断を完全無視」 173 15.ルール F(形態コードマトリックスの概念) 174 2016/10/24 16:2 16.転移リスクがあれば悪性 176 17.軽症性を喧伝して、致死性を隠す 177 18.ICD-O と WHO 分類 179 (1)WHO による腫瘍分類は他にもある 179 (2)保険会社の主張するような定義は書かれていない 181 (3)冒頭の説明文を拡大解釈したもの 182 (4)「粘膜内癌は “/2:上皮内癌 ” である」などとは書かれていない 185 (5)「/2:上皮内癌」か否かは枝葉末節 186 19.GIST などが WHO 分類で「/3:悪性」であることは無視 186 Ⅴ.不当不払いにされないために 1.これは他人事ではない 191 2.不当不払いにされるリスクは “ がん ” に罹るリスクよりも高い 192 3.とりわけ乳管上皮内癌の不払いは深刻 193 4.支払うか否かは保険会社により異なる 193 5.保険会社に聞けばよい 194 6.悪徳会社はボイコット 194 7.大手 4 社への質問と回答 195 8.契約者が質問しない限り “ 嘘 ” を続ける 198 9.情報は共有して活用する 198 10.何をどのように聞くか 200 11.ホームページに “ ひな型 ” を用意した 200 Ⅵ.不払い保険金の回収 1.集団訴訟が突破口になる 203 2.集団訴訟の前提問題 203 3.1 ~ 2 年後の提訴に向かって 204 4.投書モデル 204 5.本名や年齢などを明かす必要はない 214 6.弁護士には個人的に別ルートでアプローチする 214 7.裁判の進捗状況も掲載 214 <おわりに> 218 <謝辞> 221 seimeihoken2_honbun.indd 6 2016/10/24 16:2 seimeihoken2_honbun.indd 7 P rologue 序論 2016/10/24 16:2 seimeihoken2_honbun.indd 8 2016/10/24 16:2 seimeihoken2_honbun.indd 9 序論 乳癌のために乳房を全摘し、現在は抗癌剤を服用している。 そのせいか、吐き気や疲労感を覚えることが多いが、今は我 慢して治すことに専念したい。療養期間は長くなるが、“ が ん保険 ” に入っていたお陰で、生活費や医療費の心配はしな いで済みそうだ。余ったお金で乳房再建術も受けられるだろ う。 「“ がん保険 ” に入っていて本当によかった」 と思うのは このような時であり、困ったときに確実に支払われるのでな ければ高い保険料を払い込んで来た意味がありません。 ところが、何日も前に請求した “ がん保険金 ” が支払われ ない。 その理由を尋ねたところ、 「上皮内癌だから」 と保険会社 からいわれて途方に暮れたことはないでしょうか。 「そんな馬鹿な」と思われるかもしれませんが、実は、こ のような不払いは保険会社によっては日常茶飯事であり、ま た、今はお元気な貴方も数ヶ月後には乳癌になって同じ被害 に遭っているかもしれません。 因みに、 乳癌は働き盛りを襲う “ がん ” であり、40 歳代 に罹患のピークを迎え、その年代の女性が罹る “ がん ” の約 5 割を占めていて、WHO の乳腺腫瘍分類によれば「新たに 診断される乳癌の 20 ~ 25%は乳管上皮内癌である」とのこ とですので、 「上皮内癌につき不払い」 とされるリスクはか なり高いことが解ります。 つ まり、 誰もが 不当不 払いのリ スクに晒されているので あって、これは決して他人事ではありません。 そして、 「乳房全摘後に抗癌剤まで投与されたのに、 不払 いとは怪しからん」などと、たとえ貴方がその不当性を訴え たとしても、保険会社には全く通じません。 9 2016/10/24 16:2 それどころか、保険会社から意味不明の専門用語ばかり聞 かされた貴方は心底疲れ切ってしまう筈で、そんな時、相談 できる仲間や弁護士がいれば随分救われるかもしれませんが、 残念なことに、同じ悩みを抱えた仲間が大勢いながら互いに 連絡を取る手立てさえなく、また、“ がん保険医学 ” に精通 した弁護士は殆どいません。 もとより、 「上皮内癌は不担保」と約款に書いてあり、また、 診断書に書いてある病名が「乳管上皮内癌」なのですから、 「乳 管上皮内癌は上皮内癌だから支払われない」という説明に全 く反論できないのも無理はありません。 しかし、臓器全摘後に抗癌剤まで投与されながら「上皮内 癌につき不払い」とは、いくら何でも酷すぎます。したがっ て、そこに何か裏があるのは間違いありません。 因みに、WHO の乳腺腫瘍分類には「乳管上皮内癌と診断 されたケースの 1.0 ~ 2.6%が、8 ~ 10 年後には死亡してい る」とあり、 「最初の診断時に浸潤癌の混在を見落としたり、 再発時に浸潤癌に進行したりしているため」とのことですの で、貴方の癌が乳管上皮内癌であったというのは実は誤診で、 本当は浸潤癌だったのかもしれません。 そして何よりも “ がん保険の趣旨 ” からして、 「局所切除 のみで後遺症を残さずに根治する」軽症癌を不担保にするこ とはあり得ても、死亡率 1.0 ~ 2.6%もの重症癌を不払いに する理由などない筈です。 ここで注意していただきたいのは、 「上皮内癌の定義は学 派により様々で、同じ学派でも時代により変わる」というこ とで、 「約款上の上皮内癌」 と「医療現場の上皮内癌」 とは 異なるということです。 「約款上の上皮内癌」ならば必ず「局所切除のみで後遺症 10 seimeihoken2_honbun.indd 10 2016/10/24 16:2 seimeihoken2_honbun.indd 11 序論 を残さずに根治する」ところ、とりわけ「医療現場の上皮内 癌」 に お い て は、 膀 胱 CIS の よ う に「隣 接 臓 器 に 転 移 し て 進行癌以上に予後不良な癌」まで上皮内癌にすることがある のですから、これを口実に不払いにされるのでは堪ったもの ではありません。 要するに、乳管上皮内癌は「医療現場の上皮内癌」ではあっ ても、その大部分は「約款上の上皮内癌」には該当しないの ですが、診断書を書く主治医が知っているのは医療に関する ことだけで、 「約款上の上皮内癌」 については何も知りませ んので、 保険会社から上皮内癌か否かと聞かれれば、 「医療 現場の上皮内癌」について回答することになります。 つまり、本来ならば主治医に質問する時に「約款上の上皮 内癌」の定義を提示しておくべきところ、その手順を踏まず に「医療現場の上皮内癌」に該当するか否かを答えさせるカ ラクリになっているのですから、実際には「約款上の上皮内 癌」ではないものが「上皮内癌につき不払い」にされること になります。 「約 款 上 の 上 皮 内 癌」 は(A) 国 際 疾 病 分 類、 (B) 国 際 疾 病 分 類・ 腫 瘍 学、 (C)「“ が ん 保 険 の 趣 旨 ” と “ 契 約 者 側 の 合理的利益 ”」という、3 つの普遍的原理により定義されて います。 これに対して、 「医療現場の上皮内癌」は UICC の TNM 分 類に代表されるように、臨床的実用性を重視する傾向があり、 そのために様々な例外ルールが設けられていて普遍的原理を 逸脱していることが少なくありません。結果的に、転移を伴っ ていたり進行癌以上に予後不良であったりするものまで上皮 内癌にするという具合に、上皮内癌の基本概念と根本的に矛 盾していることさえあるのですが、それも臨床的実用性の観 11 2016/10/24 16:2 点からすれば十分な合理性があり、使用方法さえ誤らなけれ ば害はありません。つまり、医療のために使用する限りにお いて有益無害なのであって、保険業に流用されることなど全 く想定されていないのですから、無批判にそれを援用すると ころからして根本的に誤っているのであり、 その結果、 「約 款上の “ がん ”」を「約款上の上皮内癌」と偽って不払いに するという不当行為が多発しています。 「約款上の上皮内癌」であるためには、 (A)国際疾病分類上の原発部位内に限局し、 (B)国 際 疾 病 分 類・ 腫 瘍 学 に お け る「① 上 皮 内、 ② 非 浸潤性、③非侵襲性」という 3 要件を満たし、 (C)局所切除のみで後遺症を残さずに根治する という、3 つの普遍的原理を満たしていなければなりません。 ところが、医療現場においては、 (A)他臓器まで癌細胞が広がっていたり、 (B) ITC(極小転移)や上皮内・外への浸潤を伴ってい たり、 (C)臓器全摘しても根治できなかったり しても上皮内癌にすることがあるのですから、 「医療現場の 上皮内癌」をもって「約款上の上皮内癌」とされては大変です。 そして、本書のメインテーマである乳管上皮内癌は、 (A)続発部位まで癌細胞が広がっていたり、 (B)極小転移や上皮内浸潤を伴っていたり、 (C)局 所切除のみでは根治できないため、 乳房を全摘 したり抗癌剤を投与したりする ことが多いのですから、その大部分は「約款上の上皮内癌」 には該当しません。 さらに、もう一つのメインテーマである大腸粘膜癌も、 12 seimeihoken2_honbun.indd 12 2016/10/24 16:2 seimeihoken2_honbun.indd 13 序論 (A)続発部位まで癌細胞が広がっていることがあるほか、 (B)その大半は上皮外に浸潤し、 (C)穿孔性腹膜炎や大出血により死亡するリスクさえある のですから、その殆どは「約款上の上皮内癌」には該当しま せん。 つまり、乳管上皮内癌や大腸粘膜癌の大部分は “ がん保険 医学 ” 的には非上皮内癌なのであって、 「 約款上の上皮内癌」 に該当するのは極一部に過ぎません。 ところが、多くの保険会社は、それらの全てを上皮内癌と して不払いにしていて、様々な手段を駆使しながらその不当 性を誤魔化しています。 たとえば、“ ご契約のしおり ” に「上皮内がん(非浸潤が ん、大腸の粘膜がんを含みます)については、お支払いしま せん」などと書いて、あたかも「非浸潤がん」や「大腸の粘 膜がん」の全てが「上皮内がん」に該当するかのように誤解 させているのも、ゴマカシの手口に他なりません。 ここで、 「小型ペット(犬、 猫を含みます) の持ち込みを 許可します」という表示を思い浮かべてみてください。これ を見て犬や猫の全てが小型ペットに該当するなどと誤解する 人はいない筈で、 「大型犬もいれば野良猫もいる」 という正 確な知識に基づいて、 「小型ペットに該当するのは犬や猫の 一部に過ぎない」という話になる筈です。 同様に、 「約款上の上皮内癌」 について正確な知識をもっ ているならば、 「非浸潤性乳管癌(乳管上皮内癌の別名) は 間質には浸潤していないかもしれないが、乳管上皮内に浸潤 しているから浸潤癌である」ことや、 「“ 大腸の粘膜がん ” の 大部分は上皮外に浸潤しているから上皮内癌ではない」とい う真実に基づいて、それらの全てが “ 上皮内がん ” に該当す るなどとは誤解しない筈です。 しかし、一般人は正確な知 13 2016/10/24 16:2 識を 持ち合 わせて いません ので誤 解し、 保険会社の罠に嵌 まってしまうことになります。 つまり、本来ならば(非浸潤がん、大腸の粘膜がんを含み ます)という余計な注釈をすることからして間違っているの であり、仮に注釈するとしても(“ 非浸潤がん ” や “ 大腸の 粘膜がん ” の一部も含みます)と正しく記載すべきなのです が、 「一部」 という一言を故意に省略して誤解を誘導してい るのですから、全く油断も隙もありません。 既にお気づきのことと思われますが、乳管上皮内癌や非浸 潤性乳管癌という病名であるから上皮内癌に間違いないとか、 “ 大腸の粘膜がん ” が “ 上皮内がん ” であることは “ ご契約 のしおり ” に書かれているとおりであるなどといった考えは、 思い込みに過ぎないのであり、先ずはそれらを全て捨て去る 必要があります。 それらの偏見から離れて、ご自身の罹った腫瘍が本当に「約 款上の上皮内癌」に該当するものなのかについて、本書を通 じてもう一度原点から見つめ直してみてください。 そうすれば、本当は浸潤癌なのに上皮内癌として不当不払 いにされていたことを、はたと知る筈です。 つまり、貴方は騙されていた訳で、騙し取られた保険金は 勿論のこと、遅延損害金や過剰に払い込んだ保険料などを回 収する権利も有しています。 したがって、直ぐに全てを取り戻したいと思うのは当然な のですが、その権利を行使することは簡単ではありません。 何故なら、保険会社は収益と信用を死守しようと必死だか らで、たとえば乳管上皮内癌や大腸粘膜癌について支払うと、 それだけで一年当たりの支払総額は約 5.2%も増える計算に なりますし、過去 10 数年間の不当不払いについての賠償責 14 seimeihoken2_honbun.indd 14 2016/10/24 16:2 seimeihoken2_honbun.indd 15 序論 任を負うことになります。 さらに、“ がん ” を上皮内癌と偽って不払いにしていたこ とになれば、会社の信用は地に墜ちますから、保険会社は不 払いは正当なものであるとして、その不当性を徹底的に否定 してくるはずです。 このようなことから、保険会社との折衝は平行線を辿った あげく暗礁に乗り上げてしまう筈で、そのタイミングを見計 らったように保険会社から「裁定審査会への申立」を勧めら れることもあります。 因 み に、 裁 定 審 査 会 と は、 「高 い 専 門 性 に 基 づ い た 中 立・ 公正な裁定」を謳い文句にした裁判外紛争解決手続機関で、 生命保険協会に設けられています。 表向きは第三者機関なのですが、少なくても “ がん保険 ” については、その謳い文句とは裏腹に、“ がん保険医学 ” に ついての基本的な知識さえ知らない委員が、保険会社の意見 を無批判に採用して裁定しているように見受けられます。 つまり、実質的に保険会社の傀儡機関とみられても致し方 ないところがあり、そこに申し立てても有害無益なことが少 なくないようです。 結局、保険金を回収するためには裁判に訴えるしかないの ですが、契約者独りで保険会社の弁護士軍団に敵う筈があり ません。 まず、約款解釈と “ がん保険医学 ” に精通した弁護士に依 頼する必要がありますが、このような弁護士を見つけること からして不可能に近い筈です。 仮に見つけたとしても訴額 100 万円~ 300 万円程度の事 件を請け負ってくれるとは限りませんし、たとえ依頼を受け てくれたとしても、“ がん ” に罹りながら不当不払いにされ 15 2016/10/24 16:2 た貴方にとって弁護士費用は大変な負担であり、仮に勝訴し たとしても手元に残る金額は僅かということになりますので、 提訴はハイリスク・ローリターンとして敬遠することになり ます。 つまり、保険金を回収するには裁判しかないが、裁判を起 こすのは極めて難しいという事情があり、その足下を見なが ら保険会社は不当不払いを増長させるという悪循環になって います。 いわば、八方塞がりの状態になっている訳ですが、そこで 気落ちしてはいけません。 何故なら、これらの困難は独りで提訴するときの話で、も しも集団訴訟を起こすことができれば、そこに大きな風穴が 開くからです。 たとえば、10 人で訴訟を起こせば訴額は 10 倍になります し、100 人 な ら ば 100 倍 に な り ま す。 訴 額 が 何 千 万 ~ 何 億 円にもなる集団訴訟ならば真摯に取り組んでくれる弁護士も 出 て く る で し ょ う し、 原 告 1 人 当 た り が 負 担する弁護士費 用も軽減します。 結局、集団訴訟に向けて、お互いの面識もない被害者同士 をオーガナイズするには如何すべきかという問題になる訳で、 これはウエブサイトを利用すれば何とかなりそうです。 ウエブサイトを通じて、同じ被害に遭った仲間同士で情報 と意見を共有することさえできれば、集団訴訟への機運は自 ず と 高 ま っ て 行 く こ と に な る 筈 で、 そ れ を 祈 念 し て、 こ の 度「が ん 保 険 フ ォ ー ラ ム 」(http://ganhohiroba.com) と い う Hp を開設することにしました。 因みに、このウエブサイトの目的は集団訴訟だけではあり ません。 16 seimeihoken2_honbun.indd 16 2016/10/24 16:2 seimeihoken2_honbun.indd 17 序論 不当不払いの全面解決を祈願したものであり、未だ被害に は遭っていない契約者の方々にも積極的にご参加いただけれ ばと願っています。 たとえば、特定疾病保険(注)の契約内容は各社とも殆ど 同じであるにも拘わらず、乳管上皮内癌や大腸粘膜癌につい て支払う会社もあれば支払わない保険会社もあるという具合 に、不払い実態は会社によってかなり違います。 しかも、“ 逆ざや ” 問題を生じるまでは乳管上皮内癌や大 腸粘膜癌については原則的に支払っていたのに、“ 逆ざや ” 後に不払いに転じた会社が多いようで、実際、 「SM 社では大 腸粘膜癌について支払っているが、XY 社では支払っていな い」などということが現実にあり、貴方が大腸粘膜癌などに 罹ったときに保険金が支払われるか否かは、何処の保険会社 と契約しているかにより著しく変わってきます。 そ れも、 本来な らば不 払いにし た分だけ保険料を安くす べきところ、XY 社では不払い分を会社の収益にしただけで、 保険料は安くしなかったというのが真相のようです。 したがって、SM 社のような保険会社と契約する方が絶対 に得なのですが、今まではその会社を見つける術がなかった ため、営業職員に勧められるまま XY 社と契約するしかあり ませんでした。 しかし、何処の会社が支払い何処の会社が不当に不払いに しているのかについて、 「がん保険フォーラム」 を通じて知 ることができれば、これからは不当不払いにする会社との契 約を避けることができます。 ただし、ここで留意しておきたいのは、このように有益な 情報は天から降ってくるものではなく、皆様のご協力により 一つ一つ積み重ねられて行くものであるということです。 保険は住宅の次に高い買い物と言われています。 17 2016/10/24 16:2 マンションを購入する前は勿論、購入後であっても不明な 点を尋ねれば不動産業者は丁寧に教えてくれるように、説明 責任に関わる権利義務関係は保険商品でも変わらない筈です。 つまり、契約予定者や既契約者には “ がん保険 ” の分から ない点について質問する権利があり、保険会社には回答する 義務がありますから、貴方が契約を予定している会社や既に 契約している会社に、 「大腸粘膜癌や乳管上皮内癌について 支払うか否か」などについて質問すれば、保険会社は回答し てくる筈です。 したがって、甲社の “ がん保険 ” に入っている貴方は、 「甲 社では大腸粘膜癌を不払いにしている」などといった回答を 得ることができる訳ですが、ここで注意しておきたいのは、 個人レベルの質問と回答だけでは「甲社については解っても、 乙社や丙社などについては不明なまま」ということで、これ では支払ってくれる会社を探し出すことはできません。 しかし、甲社のことしか知らない貴方と、乙社のことしか 知らない人とが情報交換すれば、甲社と乙社の両方を知るこ とになる訳で、さらに、丙社のことや丁社のことを知ってい る仲間も加わわれば、全ての保険会社についての情報を入手 することができることになります。 このことから、 「がん保険フォーラム」では、 「保険会社へ の質問文(ひな型)」という Word 形式ファイルを添付して、 保険会社への質問をサポートするとともに、 「保険会社への 照会と回答」というコーナーを設けて、その情報交換を促す ことにしました。 つきましては、この雛型を利用して積極的に質問し、各保 険会社の支払状況を明らかにしていただければと願っており ます。 18 seimeihoken2_honbun.indd 18 2016/10/24 16:2 seimeihoken2_honbun.indd 19 序論 そして、乳管上皮内癌や大腸粘膜癌の先には、解決すべき もう一つ大きな問題があります。 それは、 1.再 発して手の施しようのない脳腫瘍が「良性である」 として不払いにされたり、 2.腎 臓・膀胱・前立腺などを全摘された尿路癌や、食 道切除例や、膵臓全摘例などが「上皮内癌である」 として不払いにされたり、 3.眼 球、手足、耳などを切除されたケースが「皮膚癌 である」として不払いにされたり、 4.骨 髄異形成症候群や GIST や膵島細胞腫瘍などの致 死的腫瘍が「性状不詳である」として不払いにされ たり、 -------- 等々、本当は “ がん ” なのに、保険会社から「良性」 ・ 「上皮内癌」・「皮膚癌」・「性状不詳」などとして不当に不払 いにされているケースが他にも沢山あることで、しかも、そ れが生命を脅かす程に重症であればある程、異義申立する余 裕さえないという理不尽な構造になっていることです。 いうまでもなく、これらは「重症癌患者を相互支援する」 という “ がん保険 ” の精神に反していて、人道的にも極めて 問題なのですが、それを解決するためには周到な準備が必要 であり、一朝一夕にはできません。 急がば回れというように、先ずは、乳管上皮内癌や大腸粘 膜癌に専念して「がん保険フォーラム」の成熟を促しながら、 そこで育まれた協力体制と意識改革が、これら重症癌におけ る不当不払いの是正にも繋がって行くことを心より願ってお ります。 ※注:特 定 疾 病 保 険 と は「“ が ん ”、 急 性 心 筋 梗 塞、 脳 卒 中」 を 保 19 2016/10/24 16:2 障した “ がん保険 ” で、三大疾病保険とか重大疾病保険など と呼ばれることもあります。 “ がん保険 ” は、 「“ がん ” に罹患して診断確定されたとき」 に支払われる「診断給付型」のものと、 「“ がん ” の治療のた めに入院や手術などをしたとき」に支払われる「治療給付型」 のものとに大別できますが、一般的に特定疾病保険には「診 断給付型」のものが多く、本書で単に「特性疾病保険」と呼 んでいる場合は「診断給付型」のものを意味します。 因 み に、 「治 療 給 付 型」 で は「上 皮 内 癌 や 皮 膚 癌 も 担 保 し て い る」 こ と が 多 い の で す が、 「診 断 給 付 型」 で は「上 皮 内 癌や皮膚癌を支払対象から除外している」ことが多く、特定 疾病保険でも「上皮内癌や皮膚癌については不担保にしたり、 一部給付にしたりしている」のが一般的です。 20 seimeihoken2_honbun.indd 20 2016/10/24 16:2