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1 - 日本食品添加物協会

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1 - 日本食品添加物協会
第36回
食品添加物メディアフォーラム
2016.9.27
消費者のリスク判断の方法
公益財団法人 食の安全・安心財団 理事長
東京大学 名誉教授
唐木 英明
[email protected]
90+20
KARAKI 2016
1
判断は立場に
より異なる
原告は接種後の体調不良はワクチンの被害と判断
・子宮頸がんで年間3
千人死亡
・副作用情報により厚
労省は接種の推奨を中
止する判断(助かる命
が助からないという事
実は放置する判断)
・名古屋市の7万人の調査では、ワクチンと健康被害は無関係と判断(メディアは
「おかしい」と判断)・WHOはじめ内外の専門家は「副作用」ではなく思春期の女
性に見られる症状と判断・メディアはこの事実をほとんど無視する判断
・接種した人の障害を神奈川県が救済する判断・現在は国や医薬品医療機器
総合機構が療費等給付の判断 →接種していない人の障害は無視する判断
・メディアは科学の判断を無視して「人情話」と「民意=売上」を重視する判断
・政治家は「民意=次の選挙」を重視するポピュリズムの判断
判断の根拠は多様
KARAKI 2016
2
食品添加物に対する50%の消費者の判断は「不安」
2013年 食品安全委員会 食品安全モニター・アンケート調査
KARAKI 2016
3
判断には職務経験(知識)がある程度影響する
2003年 食品安全委員会 食品安全モニター・アンケート調査
KARAKI 2016
4
判断とは?
進化論的目的 リスク管理
・自分と子供の命を守る
・自分の評判を守る
方法 本能+他力本願
・信頼する人(権威)の判断に従う
・多数の判断やうわさ話に従う
・最後に自分で考える
判断が必要な事項
・日常生活のすべて
・食品添加物
・残留農薬
・遺伝子組換え作物
・福島県産農産物
・子宮頸がんワクチン
・原発再稼働
・ ・・・
決定要因 情報+感情
結果 白黒判断
・危険情報・恐怖・うわさ(権威
者や多数の意見)・報道・利害・
倫理・不公平感・不信・未知
性・リスクコミュニケーション
・行動のための判断は二分法
安全or危険 受容or拒否
・ただし利害がなければ判断
しない →どっちでもいいよ!
KARAKI 2016
5
リスクを判断する方法
• 多くのリスクは「適切に管理されている」と認められてい
るが、一部のリスクは判断に違いがある
• 「リスクの判断」とは「リスク管理の程度の判断」であり、
典型的には次の2つに分かれる
① 厳重なリスク管理(最小のリスク)を求める感情的
(本能的)判断
② 現実的なリスク管理を求める(被害が出ない範囲で
ある程度のリスクを受け入れる)論理的(理性的)判断
• 判断が分かれる原因はどこにあるのか?
KARAKI 2016
6
判断の決定要因
1.消費者と供給者の立場の違い
2.危険回避の生存本能
3.知識と経験とリスク最適化
4.情報のアンバランスと判断力
5.信頼する人に依存する本能
6.自分の利益と楽観バイアス
7.先入観と確証バイアス
8.対話(リスクコミュニケーション)
KARAKI 2016
7
判断の決定要因
1.消費者と供給者の立場の違い
立場
食品を例にとると、消費者は「毎日口にするものだから、
リスクは出来る限り小さくすべきであり、とくに化学物質
や放射性物質の混入はゼロにすべき」という「リスク回
避」を主張する。これを「絶対安全論」あるいは「ゼロリス
ク論」と呼び、多くの人が賛同する「理想論」である。
供給者(事業者)は「リスクは出来ればゼロにしたいが、
技術的や費用面で現実的でない場合もあり、科学的根
拠に基づいて健康に被害を与えないレベルまでリスクを
下げることでよしとすべき」という「リスク最適化」を主張
する。これを「実質安全論」あるいは「現実論」と呼ぶ。
KARAKI 2016
8
判断の決定要因
2.危険回避の生存本能
本能
恐怖:危険なものに出会った時の感情で、逃走行動につ
ながる。恐怖感がない動物は逃げないため死に絶える。
不安:「対象がある場合に恐怖を、対象が不明のときに
不安を感じる」(ジーグムント・フロイト)。対象がよくわか
らないとき、判断の遅れが生命の危険につながる。動物
は「正体がわからないものは危険」と単純に判断して、
直ちに逃げ出す。
→ 人間も「未知のもの」に不安を感じ、そのリスクをゼ
ロにすべきと本能的に判断する。例えば、添加物、残留農
薬、遺伝子組み換え(GM)作物、BSE、放射能・・・
KARAKI 2016
9
危険を逃れる判断=リスク評価
① 動物は知識と経験に頼って「安全」と「危険」を判断する
不 明
安全
境界
不安
危険
恐怖
境界
リスク大
リスク小
② しかし、自分では判断できない部分が大きい
「よく分からない」ことは大きな不安材料でありストレス
解決法は「不明=危険」と判断すること(本能的判断)
不 明
安全
危険
恐怖
境界
KARAKI 2016
10
Eureka!
↓
Heuristic
ヒューリスティク
「このあたりだろう」と、
パッと見当で指すんですね。
それがいい手で…。
heuristic
少ない努力で直感的に結論を求める方法
直感の7割は正しい
例)暗証番号を忘れた!
1)順番にしらみつぶしに調べる(コンピューターが使う方法)
2)誕生日などの手掛りを使って試行錯誤で調べる(ヒューリスティク)
→しらみつぶしに調べれば時間がかかるが、必ず正解に到達
ヒューリスティクは短い時間で答えが出るが、まちがいも多い
危険を逃れるための判断は一瞬で行う必要がある。
だから、直感的な判断(ヒューリスティク)をする。
KARAKI 2016
11
ヒューリスティクの例
質 問
1)年収800万円と1000万円の管理職があります。
あなたはどちらに就職しますか?
2) 平均年収が500万円のA地区で、
年収800万円の管理職があります。
平均年収が2000万円のB地区で、
年収1000万円の管理職があります。
あなたはどちらに就職しますか?
・個人により判断が違う
・悪いことに気を取られて
経済的合理性とは違った判断をする
12
食品添加物に対する50%の消費者の判断は「不安」
検証:この本能的判断は正しいのか???
2013年 食品安全委員会 食品安全モニター・アンケート調査
KARAKI 2016
13
残留農薬を
例にとると
60%が不安なのに
無農薬野菜はこれしかない!?
有機JAS認定食品の消費市場規模
年間販売額1250億円(2009)
国内食品消費80兆円のおよそ0.16%
生鮮品等・加工品・外食
生鮮品等消費15兆円のおよそ1%
野菜・穀物・乳肉卵・魚介類
(2002年 ハーベスト・リサーチ)
全農地の0.18%(2008年オーガニックマーケットリサーチ)
参考
ヨーロッパ各国 7-10%
米国
3-4%
韓国
0.46%
KARAKI 2016
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スーパーで残留農薬や
添加物を気にする人は
ほとんどいない
買い物で注意するのは
価格と品質
(n=400,複数回答: 荒井2010)
KARAKI 2016
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アンケートと
消費行動の
差の原因は?
「聴かれて出てくる不安」
・買うか、買わないかを決めるのは
価格、産地、期限、評判などの総合的な判断
「危険」という情報はその一つに過ぎない
・アンケートは筆記試験と同じ!
「危険」という「知識」をもっていることを示す
⇒消費者は必ずしも「強い不安」を感じてはいない
不安は知識レベルで終わり
消費行動には影響しないとも多い
しかし、そうでない場合もある(BSE、放射能など)
その見分けが重要
KARAKI 2016
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判断の決定要因
3.知識と経験とリスク最適化 1
理性
知識と経験を積んでリスクを総合的・理性的に判断でき
るようになると適切な判断ができる。
例えば、添加物については
①
②
③
④
⑤
化学物質の用量作用関係の原理
食安委によるリスク評価と一日摂取許容量の意味
厚生労働省による規制値設定の方法
地方自治体による監視指導の方法とその結果
厚生労働省による輸入食品監視業務の方法と結果
などを理解すればリスク軽減の程度を理解し、追加のリ
スク管理が必要か判断が可能になる。しかし、これがで
きる人は少ない
KARAKI 2016
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危険を逃れる判断=リスク評価
① 動物は知識と経験に頼って「安全」と「危険」を判断する
不 明
安全
境界
不安
危険
恐怖
境界
リスク大
リスク小
② しかし、自分では判断できない部分が大きい
「よく分からない」ことは大きな不安材料でありストレス
解決法は「不明=危険」と判断すること(本能的判断)
不 明
安全
危険
恐怖
境界
③ リスク評価により科学の力で「不明を分類」する(難しい!)
安全
不 明
危険
恐怖
境界
KARAKI 2016
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判断の決定要因
3.知識と経験とリスク最適化 2
理性
リスクの最適化:一つのリスクを小さくすると別のリスク
が大きくなることを考慮したリスク管理策の策定
例えば、添加物を廃止したら、食品の質と安全性が低
下する
例えば、原発を止めれば火力発電に頼るためCO2が増
えて温暖化のリスクが大きくなり、石油輸入により貿易
収支が悪化する
→ 「リスクの最適化」を判断するためには豊富な知識
と経験が求められる。
KARAKI 2016
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判断の決定要因
4.情報のアンバランスと判断力
ジャンク
情報
情報がなければリスク判断はできない。情報源は多様
だが、問題は情報の多くが「危険を伝える情報」であり、
「安全を伝える情報」はほとんどないこと → 「情報の
アンバランス・情報の非対称性」
それは、危険情報を重視する本能的判断 → 危険を
伝える情報は売れるが、安全を伝える情報は売れない
→ 多くの人が目にするのは危険情報ばかりになり、
「やはり危険だ」という判断になりがち。情報の量ではな
く質を判断する能力、メディアリテラシーが必要。
KARAKI 2016
20
化学物質の「量と作用の関係」
摂取期間も重要
食品添加物と健康食品のどちらが危険か?
致死量
薬品と
健康食品の
有効量
一日摂取許容量
一生の間毎日食べても
健康に影響がない量
基準値
食品に
含まれる
添加物・
残留農薬の量
安全な量
少量
リスク大
健康影響が
起こらない量
(無作用量)
安全係数
1/100
注意
化学物質の量
KARAKI 2016
健康被害あり
その程度は
量に比例する
リスク小
危険な量
多量
21
食品と医薬品に含まれる化学物質の安全性
分 類
対 象
化学物
質量
食 品
すべて
微 量
特定保健用
食品
機能性表示
食品
いわゆる
健康食品
添加物・
残留農薬
医薬品
健康成人
多 量
健康成人
多 量
すべて
多量***
すべて
ごく微量
病人
多 量
摂取期間 安全性
判断
評価
季節
自己
長期
自己
長期
自己
長期
自己
長期
自己
必要期間
医師
食経験*
国の
審査
企業の
届出
なし
国の
審査
国の
審査
効果
毒性
無効
無害
微効
無害?**
微効
無害?**
不明
不明***
無効
無害
有効
微害****
* 食経験では、リスク評価で得られるほどの精密な安全性の確認はできない
** 多くの場合、体に影響がある量を長期間摂取するが、長期摂取の影響が分かっていないものもある
*** 「いわゆる健康食品」はデータが公表されないので、安全性も毒性も評価できない
**** 医薬品は副作用の可能性があるので、医師の判断で、必要な期間だけ、注意深く摂取する
KARAKI 2016
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食品添加物に対する消費者の判断
判断には職務経験(知識)がある程度影響する
2003年 食品安全委員会 食品安全モニター・アンケート調査
×発がん性化学物質は
規制により全面使用禁止
(例外はタバコと酒)
という事実が知られていない
X
X
KARAKI 2016
X
23
工業生産物
医薬品
放射線・
紫外線
アルコール
職業
性生活・
出産
普通の食べ物
ウイルス
おこげ
タバコ
農薬
主 婦
大気汚染・
公害
食品添加物
ガンの原因は
なんだと思いますか?
ガンの専門家
食 事
喫 煙
ウイルス、細菌
運動不足
30%
30%
5%
5%
米国での調査
黒木登志夫「暮らしの手帖」1990年4・5号
24
活性酸素の作用
紫外線
放射線
ストレス
たばこ
食事
呼吸:酸素
ミトコンドリア
活性酸素
免疫
酸化障害
DNA
タンパク質
脂肪
ガン
病気
老化
DNA修復酵素
・活性酸素消酵素
アポトーシス
SOD カタラーゼ
(細胞の自殺)
グルタチオン・ペルオキシダーゼ
・抗酸化物質
ビタミン類 ポリフェノール
野菜・果物の化学物質
・発がん性物質
食べすぎとタバコが最大の危険!
軽い運動
25
判断の決定要因
5.信頼する人に依存する本能
信頼
メディアリテラシーを身に着け、リスクを理解し、リスク
最適化を判断することは不可能。
進化の過程で人間が身につけた解決法は、信頼できる
人(知識と経験がある人、神仏)に依存すること。
人間は信頼できる人の言うとおりに行動して、危険から
逃れた経験を持つ。だから、現代人も信頼できる人に
相談したいという本能を持つ。
重要なことは、「本当に信頼できる人」を見つけること。
→ 現在の社会ではそれがむずかしい!
KARAKI 2016
26
直感で答える
20代男性 72%
30代女性 80%
平均
60%
60代以上 40%
誰に誘導されて
いるのか?
KARAKI 2016
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リスクの時代変化
安心社会
山中の村落:閉鎖型社会
・他の村落から距離的に遠い
・村外との行き来がほとんどない
・一生村落の中だけで暮らす
・固定した人間関係
・個人より村落の利益を優先
・しきたりから外れると村八分
・排他的(よそ者)感情が強い
・「あめとむち」の相互監視
・不確実性や不信が小さい
安心な社会
・自分と相手の立場や
利害の理解が大事
(=関係性の検知能力)
・「信頼が前提」で
「信頼できるか?」は不要
・(=ヤクザの世界:山岸俊男)
写真:九州がんセンター 癒し憩い画像データベース http://iyashi.midb.jp
KARAKI 2016
28
サルも「郷に入っては郷に従う」
閉鎖型社会で暮
らすための習性
南アフリカの野生ザルは群れを移ると、過去の食習慣
を捨てて新しい群れのルールに従ってえさを食べた。野
生動物も社会的学習によって環境に適応していた。朝日
新聞朝刊(2013年04月26日)
群1:赤はまずいトウモロコシ→青を選ぶ
群2:赤は美味しいトウモロコシ→赤を選ぶ
群1のサル少数を群2に移す→これまでの
習慣で青を選ぶはずなのに、周りのサルの
真似をして、まずいはずの赤を食べた
・自分の経験より多数の意見に従う
・多数の意見は正しいことが多い
・違うことをすると仲間はずれになる
KARAKI 2016
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リスクの時代変化
大都市:開放型社会
信頼社会=不安社会
・膨大な人数が住む
・人の動きが激しい
・出会う人は他人ばかり
・流動的人間関係
・個人の利益を優先
・法律と社会制度、
警察と裁判所
・不確実性が大きく、不安な社会
・他者の立場に立ち行動を予測する
能力(=信頼性の検知能力)
・信頼関係の構築が大事
・「協力と裏切り:どちらが得か」
(=商人の世界:山岸俊男)
KARAKI 2016
30
リスクの時代変化
・科学技術の発展により環境破壊、公害、化学物質、
原子力など新たなリスクが出現した
・リスクを五感で認識することは困難で、専門家が科学的手段を
使って初めて認識できる(科学が認めないリスクは存在しない)
・その被害はすべての人に「平等」に現れ、将来世代にも影響を
与え、すべての人を不安に陥れる。これをベックは「リスク社会」
と呼んだ
・リスク社会では、科学者集団の合意による「科学的合理性」、
「不確実性」、そして科学者の「価値判断」への疑問が出された
・科学者は真実を伝えているのだろうか? 政府の意向で真実を
曲げでいるのではないだろうか?
KARAKI 2016
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科学に不信を持たせる「不確実性」
リスク評価=未来予測=不確実=確率論と安全係数
化学物質・放射線・病原微生物・プリオン
健康被害なし
ある確率で健康被害あり
安全
不明(不確実)
健康被害あり
危険
リスク大
リスク小
不確実領域のどこに規制線を引くのか?
・ゼロリスク側=リスクは小さい・費用は大きい
・リスク受容側=リスクは大きい・費用は小さい
科学は確率を示すだけ
・行政は科学を拠りどころにしてリスク最適化を考える
・一般の人はゼロリスクを求め、科学に「行政側」の
レッテル貼りをする なぜ?
KARAKI 2016
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ラ ベ リ ン グ
「レッテル貼り」
科学者の信用を落とす手段
•多くの人が科学と科学者を信じ、科学の情報を求め、科学者の
判断を求めている
•意見の対立があるとき、科学的な裏付けがある方が勝つ
しかし
•科学と科学者に不信が生まれると状況は変わる
•判断の根拠は先入観と感情しかなくなる
•これが感情論者の狙い!
その手段は
•「御用学者」、「企業の手先」、「上から目線」などのレッテル貼り
と、「悪い評判」を流すこと
•「人は悪い評判を信じる」という本能的判断を利用して先入観を
持たせる手段
KARAKI 2016
33
科学を否定して科学(者)の信頼を低下させた事件
〇農水大臣罷免要求 2005 「全頭検査は世界の非常識」という
科学的な正論を述べた島村農水大臣に大きな抗議活動
〇食品安全委員会委員罷免要求 2005 米国産牛肉の安全性を
述べた委員の罷免を国会で野党が要求
〇「BSEのリスク、自動車事故より低い」米農務次官 2006 科学
的に正しいこの発言にメディアが反発の記事
〇イタリア・ラクイラ地震事件 2009 地震判定委員会委員を「世
論操作を図る政府に癒着し従った」として起訴
〇食品安全委員会委員国会承認否決事件 2009 米国産牛肉の
リスク評価を行った研究者の委員就任を「米国産牛肉輸入再開の
道を開いた」として否決
〇福島第一原発事故 2011 低線量放射線の科学的事実を説明
した研究者を「避難を遅らせて住民に危険を負わせた」として告訴
〇子宮頸がんワクチンの副作用調査 2016 名古屋市の調査に
民間団体が抗議、名古屋市は結論を撤回
その他多数
KARAKI 2016
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判断の決定要因
6.自分の利益と楽観バイアス
利益
本能的にはリスクは避けるが、これを逆転させるのが
「利益」。
毎年4000人もの死者を出す自動車の廃止運動がない
のは、多くの人が自動車の利益を実感しているから。
そこには自分は事故に会わないという「楽観バイアス」
がある。宝くじを買い続けるのも同じ心理バイアス。
逆に「自分の利益が見えない時」には小さなリスクも拒
否する → 添加物、残留農薬、遺伝子組み換え作物、放射
能・・・
KARAKI 2016
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直感的な判断:ヒューリスティクの特徴
ほとんどの場合直感で判断し、行動する
・危険情報重視 ・利益情報重視
・安全情報無視 ・信頼する人に従う
・前例に従う
・迷ったら本能に従う
・結論は「白か、黒か」
これは進化の中で得た生き残り作戦
・危険情報と利益情報を無視したら死ぬ
・安全情報を無視しても実害はない
・経験者以外が自分で判断したら死ぬ
・理性的な判断は時間がかかる
・直感的判断なら一瞬で対処できる
KARAKI 2016
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判断を迷わせる「利益」
不安
危険情報
重視!
安全情報
・自分に利益がなければ、小さな危険情報も信ずる
・背景にあるのは確証バイアス
不安
危険情報
重視!
利益
安全情報
情報を伝える
のはメディア!
・自分に利益があれば、多少の危険情報は無視する
・「費用を削減できる」のも企業の利益
・背景にあるのは楽観バイアス
KARAKI 2016
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利益がリスク
感覚を変える
リスクが大きいのはどれ?
小
リスク
大
健康被害なし
不確実領域
健康被害あり
(許容できるリスク)
(安全係数)
(許容できないリスク)
規 制
食品添加物
残留農薬
遺伝子組換え食品
中国産食品
低線量
放射線
普通の食品
(食中毒・過食・野菜不足)
喫煙・飲酒
いわゆる健康食品 自動車
主に個人の注意
思い込み
厳しい規制で
安全が守られている
自分の利益が見えない
気になる!(先入観)
自分に利益がある
気にならない!(楽観バイアス)
KARAKI 2016
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リスク判断の決定要因
7.先入観と確証バイアス
先入観
ある「判断」をし、それを確信すると、先入観になる。
先入観ができると、それと一致する情報だけを集めて
「やっぱりそうだ」と確信して安心する。先入観と違う情
報は無視したり反発する。これを「確証バイアス」と呼ぶ。
こうして、強固な先入観を持った人たちが集まり、別の
先入観を持った人たちと対立する。両派ともは自分の
意見にあった情報しか聞こうとしないので、両派が和解
したり妥協したりすることはほとんど不可能。
それではどうしたらいいのか?
KARAKI 2016
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リスク判断の決定要因
8.対話(リスクコミュニケーション)
専門家のリスク判断
・科学的判断
・確率論
・受容可能なリスク
・科学の不確実性と変化
・リスクの比較
・統計的数値
・原因が何でも死は死
対話
個人のリスク判断
倫
理
の
壁
・感情的判断
・白か黒か
・ゼロリスク
・科学的真実は不変
・目の前の一つのリスク
・自分はどうなるのか
・因果関係が大事
相互理解の壁
情報・知識・倫理観・恐怖感の差
KARAKI 2016
40
専門家と一般人のリスク判断の違い
全死因
782.9
がん
229.4
心疾患
119.3
脳血管疾患
109.7
肺炎
74.2
不慮の事故
31.6
自殺
25.0
老衰
18.0
腎不全
14.1
肝疾患
13.2
交通事故
10.5
列車事故
航空機事故
食中毒
0.03
0.009
0.008
10万人あたりの死亡率(平成11年)
専門家と一般人のリスク判断の違い
リスク大
許容できない
リスク
がん死のリスクは受動
喫煙や野菜不足より小
100mSv
このレベルの放射線を避
ける対策が、もっと大きな
リスクをもたらす可能性を
考慮する(リスク最適化)
状況により
許容できるリスク
ALARP領域
20mSv
許容できる
リスク
通常の
規制値
1mSv
0mSv
ゼロリスク
ALARP:as low as reasonably practicable
KARAKI 2016
放射線に関する
国際放射線防
護委員会(ICRP)
勧告
42
リスクコミュニケーションの目的と対照
情報提供・
対話・説得
型リスコミ
十分な情報が
ないため判断
しかねている
多数
確信派 B
確信派 A
多くの場合敵対関係
対話は必要だが合意は困難
情報提供・
対話・説得
型リスコミ
目的:リスク管理策に対する理解と合意を得ること・不安対策
対象:十分な情報がないため判断しかねている多数
方法:情報提供・対話・説得による理解者獲得のための闘い
KARAKI 2016
43
リスコミの目的=不安対策
不安を感じる理由は①科学的根拠に疑問、②事業者
への不信、③情報提供が不足、④過去の不安事例
→ 不安の原因は情報と知識の不足
2013年 食品安全委員会 食品安全モニター・アンケート調査
KARAKI 2016
44
知識と情報があれば不安は解消するのか?
9割が「食品添加物を理解している」と思っている
2014年 食品安全委員会 食品安全モニター・アンケート調査
KARAKI 2016
45
理解と不安の関係。①理解すれば不安は小さくなる。
②理解すれば不安は大きくなる。③理解できないから
判断できない。
2013年 食品安全委員会 食品安全モニター・アンケート調査
①
①
+
②
③
KARAKI 2016
46
理解すると、不安が小さくなる人と、
逆に不安が大きくなる人がいる!
多い
本当に理解しているのか?
情報が判断に影響
←情報量
適切な情報
による判断
情報を得た
ための不安
→少ない
情報不足
の不安
直感的
感情的
←
・情報を得ることで論理的な判断が
可能になる(欠如モデル)
・ただし情報を得たための不安もあ
る(欠如モデル批判)
・情報源の信頼度、情報の質、受け
手の知識と経験や先入観などで「知
れば知るほど不安」に!
判断
KARAKI 2016
→
論理的
科学的
47
難解な情報は判断を助けない
半数が医学に関する陰謀論を信じている
REUTERS, March 19, 2014
医学関係の以下の6つの陰謀論に関して米シカゴ大学が調査した
ところ、米成人の半数近くがそのほとんどを信じていた。
•製薬業界の圧力でFDAは代替医療が広まらないようにしている
•携帯電話の発がん性を大企業の意向で保健当局が放置している
•遺伝子組換え食品は人口を減らすための秘密プログラム
•水道水へのフッ化物添加は化学工業の副産物処分のため
•ワクチン接種は精神疾患の原因であることを政府は隠している
•CIAは予防接種を装ってアフリカ系米国人をHIVに感染させている
半数以上が信じていなかったのはHIVの話だけ。
研究を主導した Oliver教授は、医学に関する情報は難解で理解
が困難なため、理解ができる明快な話を信じる人が多いので
はないかとのことだ。
KARAKI 2016
48
科学を否定して科学(者)の信頼を低下させた事件
〇農水大臣罷免要求 2005 「全頭検査は世界の非常識」という
科学的な正論を述べたことに大きな抗議活動
〇食品安全委員会委員罷免要求 2005 米国産牛肉の安全性を
述べた委員の罷免を国会で野党が要求
〇「BSEのリスク、自動車事故より低い」米農務次官 2006 科学
的に正しいこの発言にメディアが反発の記事
〇イタリア・ラクイラ地震事件 2009 地震判定委員会委員を「世
論操作を図る政府に癒着し従った」として起訴
〇食品安全委員会委員国会承認否決事件 2009 米国産牛肉の
リスク評価を行った研究者の委員就任を、「米国産牛肉輸入再開
の道を開いた」として否決
〇福島第一原発事故 2011 低線量放射線の科学的事実を説明
した研究者を「避難を遅らせて住民に危険を負わせた」として告訴
〇子宮頸がんワクチンの副作用調査 2016 名古屋市の調査に
民間団体が抗議、名古屋市は結論を撤回
その他多数
KARAKI 2016
49
「安心の条件」は
納得(=理解と信頼)
2013年 食品安全委員会 食品安全モニター・アンケート調査
知識
行政を信頼
事業者を信頼
感覚的判断
KARAKI 2016
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理解して信頼すれば(納得すれば)
不安は小さくなる
論理的理解
感情的(本能的)
判断 人間の世界
理屈は分かるけど
それほんとう?
総合的理解
感情的理解
理屈は分からないけど
あなたが言うなら!
理屈は分かった!
それがいい!
論理的(理性的)
判断 科学の世界
いっしょに考えて
解決を支援する
KARAKI 2016
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リスクコミュニケーションの成功の鍵
① 科学教育とリスク教育の強化
② 根拠がない危険情報に反論するシステム
③安心=安全+信頼(=納得)
信頼の要素=意図、能力、そして行動
信頼の条件=逃げず(責任を認める)
隠さず(事実を明らかにする)
嘘つかず(真実を述べる)
⇒結果とプロセスの重視
新豊洲市場問題
透明性と説明責任
KARAKI 2016
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最後に、自分の判断は正しいのか?
ラベリング
1. 「情報のアンバランス」と「レッテル貼り」に惑わされ
ていないか?
2. 「確証バイアス」と「楽観バイアス」に陥っていない
か?
3. 「個人の利益」と「社会の利益」のバランスを考えた
判断か?
4. 科学的根拠に基づいて「リスク最適化」の立場に
立った判断か?
5. 意見が違う相手と真摯に議論し、相手の主張を理解
する努力をした結果か?
KARAKI 2016
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