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藤野上席特別教授の2015年度風景画教室の様子

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藤野上席特別教授の2015年度風景画教室の様子
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2015 年度風景画教室
横浜国立大学理工学部 建築都市・環境系学科 都市基盤 EP
平成 27 年度土木工学演習
― 町に出て橋の絵を描こう(3 回)-
作品集
第 1 回:10 月 12 日
第 2 回:10 月 31 日
第 3 回:11 月 3 日
横浜ベイブリッジ@大桟橋
陣ヶ下渓谷公園
櫻道橋
【参加メンバー】
上原 麻衣(理工学部 建築都市・環境系学科 都市基盤 EP 3 年生)
伊藤 遥香(
同上
)
戸部 真世(
同上
)
高橋 将也(
同上
)
井川 広大(
同上
)
特別参加
花島 崇(株式会社 日本構造橋梁研究所)
講師
広瀬 晴美(女子美術大学准教授)
担当教員
藤野 陽三(先端科学高等研究院)
2
建築都市環境系学科 都市基盤 EP
1363025 上原麻衣
今まで黒や灰色といった暗い色を、明暗を出すために多用していた。しかし、
黒は強すぎるので使わないほうが良いという広瀬先生の指摘により、暗い部分は
青や紫などの寒色系を使ってみた。すると絵のイメージが今までと変わり、明る
く色味が増した印象になった。実際に見たままを絵に描くと黒や茶色、緑だけの
素っ気無い印象になってしまうが、あえて様々な色を入れることによって生き生
きとした感じになったことに驚いた。
今回風景画教室の最後に数人で絵を見せあったとき、同じ風景を描いているは
ずなのに全く違う絵が並んでいたことがとても面白かった。「絵に正解はない」
と藤野先生が仰っていたように、普段授業は成績で比較されてしまうが絵は各々
の個性が肯定されるものであり、この講義ではお互いを評価しあうのがとても楽
しかった。
「櫻道橋」
広瀬先生講評:
風景画には構図を決めるにあたり、遠景、中景、近景を意識して構成するという描き方
がありますが、この作品はその要素がうまく組み合わされていることで、画面からの迫
力や奥行きを感じる、鑑賞者の目を引く作品となっています。本人のコメントにもあり
ますが、影の色を寒色系の色で表現したことが作品の色を豊かにしています。また、ガ
ードレールはアウトラインを強調し、中景と遠景に控える橋は色鉛筆で色の重なりを重
視した表現の違いもこの作品の魅力になっています。構造物の形はよく観察をしてくだ
さい。やや石橋が左に傾いて見えることが残念です。次回は大きなスケッチブックで描
くことを勧めます。画面が大きくなると手も大きく動かすことができるので、全体をよ
く見ることができるでしょう。
3
建築都市・環境系学科 都市基盤 EP 3 年生
伊藤遥香
3 回に渡って風景画教室に参加しましたが、とても楽しかったです。私が参加
したのは 1 回目と 3 回目のみだったのですが、それぞれの橋の違いや周りの風
景を楽しみながら描くことができました。
初回の大桟橋からの風景画は、橋以外も描いて良いとのことだったので山下公
園と氷川丸を描きました。この風景画で一番難しかったのは船の立体感の出し方
です。色塗の際に影を強調して立体感を出すようにアドバイスをいただきました
が、納得のいくように描けませんでした。
3 回目に描いた 2 つの橋は、描くにあたって橋の構造をよく観察することがで
きとても勉強になりました。1 枚目に鋼橋、2 枚目にアーチ橋を描かせていただ
きました。鋼橋は至る所にトラス構造が使われていて、実物を再現して描くのは
とても難しかったです。
「横浜大桟橋から」「西之橋」
広瀬先生講評:
スケッチ(Sketch)とは、描く対象の概略や印象をうつしとった図画または素描とい
う意味をもちます。本人のコメントを読むと、スケッチと絵画の間で揺れているよう
に感じました。現場では必ず作品を 2 枚仕上げる作画の速さです。スケッチに慣れて
いる感じがしましたが、船の立体感や橋のトラス構造の表現に苦労をしていたようで
す。しかし、作品からは当日の天気や西之橋と上を走る自動車専用道路の複雑な構造
がよく伝わってきます。次回風景を描く機会には大きなスケッチブックで描いてみま
しょう。船も橋も大きく捉えることができ、また細部まで描きこむことができるでし
ょう。印象をうつしとるだけではなく、対象物の質感や特徴を更に観察し、表現でき
ると思います。構図の決め方や色を選ぶセンスが良いので、大きな作品を見たいと思
います。
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5
建築都市・環境系学科 都市基盤 EP 3 年生
戸部真世
今回、私が土木工学演習のプレゼミで風景画教室を選択した理由は幾つかあり
ます。他の多くの教授陣が土木についての内容で行うのに対して「風景画」は最
近絵を描いていなかった私にはとても魅力的に感じたからです。また、単純に藤
野先生とお話しをする機会が今までなかったため、良い機会だと思ったからで
す。
初回、ベイブリッジは色鉛筆を使って描きました。大きな橋梁は緩やかなカー
ブを描いているため、それを表現するのが難しかったです。また、画用紙のサイ
ズが大きかったため色鉛筆で塗る作業が大変でした。その反省を生かして次の陣
ヶ下渓谷の橋梁は水彩絵の具を使いました。桁の底が微妙に湾曲していたところ
を色の塗り分けで表現するのに苦戦しましたがうまく塗れたと思います。
2 回の参加で少ない時間でしたが、大変お世話になりました。ありがとうござ
いました。
「陣ヶ下渓谷公園」
広瀬先生講評:
陣ヶ下渓谷の上を走っている環状線の橋梁は橋脚に特徴がありました。その特徴を画
面の真中へ思い切って配置した構図が目を引く作品です。本人のコメントにもあるよ
うに、画材を色鉛筆から、水彩に変えて描くことで広い面積や、橋梁のグレーのトー
ンを表現しやすかったのではないでしょうか。常緑樹の緑と橋梁のコンクリートのグ
レーと色味が限られている中で、個々の樹木の色の差や、グレーの中にも暖色を入れ
るなど表現の工夫が見られます。近景に陣ヶ下公園の道標を配置したことで、画面全
体が引き締まり、奥行き感が増しました。限られた時間の中で集中し、作品を仕上げ
ることの大切さを学んだ作品だと思います。現地の下見などの事前準備もありがとう
ございました。
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建築都市・環境系学科 都市基盤 EP 3 年生
363082 高橋将也
中学生以来の写生だったのでどこから描き始めればいいのかわからず、構想段
階でかなり時間を要してしまいました。結局右の主塔手前の一本を軸に描き始め
ましたがベイブリッジの縦横比を上手に表現するのが難しく、ベイブリッジのダ
イナミックさに欠けてしまいました。また、描く物体の範囲も難しく、どの大き
さの物体までを描くのか、消去する物体はどれかを決定するのに苦戦しました。
一番経験不足と感じた点は橋に対して遠くの建造物等を描く際の遠近感の表現方
法でした。橋と奥の建造物のラインが一致してしまうのをうまくずらして描けま
せんでした。久しぶりに時間をかけて絵を描いてみて気分がすっきりしました。
まだまだ改善したい点ばかりですが、一枚の絵がかけて満足しました。
「ベイブリッジ」
広瀬先生講評:
中学生以来の写生でなかなか最初は手が動かなかったかもしれませんが、時間が経つ
につれ、手の動きは描きすすむ喜びを心に伝えてくれます。鉛筆という画材でベイブ
リッジを描くことは簡単なことではありません。お天気の良い日だったので、海面か
らの反射光が白いベイブリッジを輝かせ、ケーブルなども見にくかったと思います。
絵を描くときに学生によく言うことは「見えないから描かないのではなく、見えてい
るところからその先を想像して描く」ということです。今回のように広い風景のどこ
までを描けばよいかに迷ったら、自分はこの絵で何を描きたいのかを考えてください。
ベイブリッジの特徴を観察して描きたいのか、風景の一部として捉えたいのかアプロ
ーチの方法はいろいろあります。また、鉛筆での描画には鉛筆を硬軟何種類か用意す
ることをすすめます。最初は B,2B,H,2H 位を用意しましょう。硬軟の鉛筆での描き分
けもできるようになるとグレーの幅が広がり、作品に奥行ができるでしょう。
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建築都市・環境系学科 都市基盤 EP 3 年生
井川広大
私は、小学生の頃は絵を描くのが嫌いでした。というのも、私には兄がいて兄
はとても絵が上手なのです。そんな兄の描く絵と比較されて自分の絵の下手さが
嫌になり絵を描くことが嫌いになってしまったのです。
ですが、高校の頃の美術の授業をきっかけに絵を書くのが好きになりました。
というのもその授業では、今までの私が経験した授業とは違い、自由に絵を描く
ことができました。それによって自分の中で絵を描くことの楽しさに気付くこと
が出来ました。そして今回の機会にもう一度楽しく絵を描こうと思い、風景画教
室に参加させていただきました。
この橋を描く上で最も注意したのは、石造りの重厚さと、絡まるつたの自然で
す。今回の機会でどうすればもっと上手く書くことが出来るか知ることができ、
また自分の絵に成長を感じることができ、より絵を描く楽しさを知ることが出来
ました。
「櫻道橋」
広瀬先生講評:
櫻道橋から奥のトンネルへと続くアーチの連続が画面に奥行を出す効果的な構図にな
っています。鉛筆に色鉛筆での着彩は水彩とは違い、淡い色調を感じさせる画風にな
りがちですが、この絵からは強さを感じます。先に述べた構図の力もありますが、迷
いなく引かれた鉛筆の線が活きていて、目を引きます。ややパースに違いはあっても、
それは枚数を重ねて描き続けていけば上がる技量です。橋に絡む枯れたツタの表現に
は工夫がみられます。描きたいものを思いっきり描き切ることは絵を描く上で、重要
な要素です。本人のコメントにもあるように、嫌いだった絵がまた好きになり、絵を
描くことの楽しさを知ったとのことです。絵は描かなければ、その時のまま。描き続
ければ必ず自分の心に響いてきます。これからも絵を描き続けてください。
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株式会社 日本構造橋梁研究所
花島
崇
2015 年風景画教室に特別に参加させて頂いたことを感謝致します.学生さん
は「何このオヤジ?」ときっと思ったに違いありません.でもそんなことを少し
も出さず受け入れて下さった YNU の学生さんに感謝します.そして絵を描く喜
びと楽しさと難しさを 40 年ぶりに思い出させて下さった藤野陽三先生,廣瀬晴
美先生に感謝致します.わずか 3 回でしたが本当に幸せな日々でした.おそらく
私にとって今年一番の充実した時間を過ごせたと思います.しかし毎回悩みまし
た.海や空の色は本当に青なのか,青じゃなく見えているのになぜ青色で描いて
しまうのか,見えている形をなぜ思い通りに紙面に落とせないのか(これは単な
る技量不足か),目が悪いはずなのになぜかどんどん細かな部分までが見えてく
る,一体どこまで表現すればいいのか,あー目の前の電柱もこっちの木も邪魔
だ,引っこ抜いてしまえ!等々です.ただ時間を重ねるたびに少しずつ分かって
きたこと,私は一体何の答えを求めて絵を描いているのだろうということです.
何がしかの正解を求めて書いているのでしょうけれど,その正解って何だろうと
いうことです.寸分も狂わず写真のように似せること,これが正解?ならば写真
撮って貼っておけばいいじゃないか.じゃあ,似てなくてもいいのか?いや,ち
がう.一体正解ってなんだろうと,そして私は何のために絵を描くのだろうと
….深い.おそるべし風景画.すぐには出ないこの答えを探しに,来年もまた是
非是非参加させて下さい.ありがとうございました.
「櫻道橋」
9
広瀬先生講評:
絵を描くのは 40 年ぶりという、社会人として多忙な日々を送られている中での参加
でした。対象物をよく観察して、表現している真摯な姿勢を感じる作品です。水彩で
着彩するまでの鉛筆での下描きの段階で何度も描きなおしをし、納得のいく線が引け
るまで繰り返し描かれていました。そうして選ばれた線による確かな下描きに、透明
水彩の淡い色の塗り重ねが美しい作品になりました。表現には一回で決めなければな
らないこともありますが、何度も同じ線を繰り返し引き、臨界点のような「これだ」と
思える境地に達することもあるのです。本人のコメントの中にも繰り返し描きなおす
苦悩が読み取れますが、諦めずに描き切るという重要なことを経験されたと思います。
描きすすむにつれ、細部が気になりだしたら、もう 1 度最初に戻って、なぜこの場所
を選んだのかを思い出してください。広がる風景からこの場所を切り取りたいと思っ
たことには、理由があったはずです。その最初の印象を大切にしましょう。
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先端科学高等研究院
藤野陽三
横浜ベイブリッジを再び,描けたのはとても嬉しかったです.2004 年に
MM21 のインターコンチネンタルホテルの脇の公園から横浜ベイブリッジを描
きました(図).今回はもっと近くで描き
たいと思い,絵を描く場所として大桟橋
を選びました.本当はもっと近い場所と
思い,いろいろ捜したのですか,橋のそ
ばは港湾管理区域で入れないため,諦め
ました.
風景画教室の初日の 10 月 12 日(日
曜日)は秋の快晴で,大変気持ちよく絵
がかけました.今回はベイブリッジを強
調した絵にしたく,白さで橋が浮かび上
がるように描いた積もりです.手前の大
桟橋がやや単調(実際にも単調)に描か
れているのが,橋を浮かび上がらせるこ
横浜ベイブリッジ(2004 年)
とになったのかどうか? 家内がこの絵
を見て,
「色が鮮明できれい」でと言って
くれました.2016 年の我が家の年賀状にはこの絵を使いました.
横浜ベイブリッジ(2015 年 10 月 12 日)
11
今年描いたほかの絵も作品集に入れさせていただきます.
3 枚目のは 8 月に描いたものです.と
いうのも 8 月 26 日にこの赤レンガ倉
庫の中のレストランを借り切ってお祝
いの会が開かれたので,その建物を描
いておくのがよいと思って描いたので
した.アメリカ土木学会に,1990 年
に 創 設 さ れ た George. Winter 賞
(Medal) というのがあります.その賞
は土木工学の専門以外に,何か秀でた
ことや社会的貢献の大きいことをした
人に贈られるユニークな賞で有名なの
だそうです.アメリカの友人が私が橋
の絵を描くのを知っており,その賞に
推薦してくださったら,2015 年の賞
に私が選ばれたのです.4 月にはアメ
リカのオレゴン州ポートランドで行わ
れた授賞式に家内と行ってきました.
その受賞のお祝いの会が開かれたのが
この赤レンガ倉庫なのです.広瀬先生を
はじめ,風景画教室で一緒に絵を書いた
昔の学生さんや友人ほか 300 名を越え
る方々に来ていただいたのは大変な幸
せでした.
広瀬先生講評:
風景画教室を横浜国立大学で開講してからはまだ2年目ですが、その前から藤野先
生は描き続けていらっしゃるので、「ベイブリッジ」の作品も数点あると思います。
2004 年と 2015 年の作品を並べてみるとその時々の季節感や作者の感じ方があり、
同じ橋を描いていても違ってみえることを教えてくれます。
絵描きに連作「シリーズ」を制作する人が多いのは、一つのテーマを掘り下げてい
きたいという想いと、シリーズを制作することによって作者の世界観をよりはっきり
伝えたいという想いがあるからです。そのような意味からも、ここに並べられた藤野
先生の「橋」の連作は先生の表現の特徴をよく知る機会を与えてくれました。よく観
察をし、しっかりと描かれる構造物と対照的に空や海や時に緑の表現はゆったりと筆
を大きく動かし、のびのびとしたタッチで描かれています。
「ベイブリッジ」の海の表
現、
「赤レンガ倉庫」の空の表現にそれを強く感じます。実際の橋などの構造物に、色
を塗装されることは少ないようですが、先生の絵の中では風景の中の空や緑が橋や倉
庫の色と響きあい、色彩のハーモニーを奏でていることに鑑賞者は気づくでしょう。
12
上
原
麻
衣
高
橋
将
也
藤
野
陽
三
風景画に参加してくれたメンバーと
伊
藤
遥
香
花
島
崇
井
川
広
大
13
横浜ベイブリッジ
@大桟橋より
14
あとがき
私が横浜国立大学に移った昨年 2014 年も風景画教室を開催できましたが,
打越橋と MM21 の2回限りでした.今年は,風景画教室を横浜国大の講義の中
の一部に取り込んでいただき,本格的に再開できた記念すべき年となりました.
東大時代の 5 回に比べ 3 回とやや少ないですが,風景画教室と言える教室を行
えることは誠に嬉しいことでした.また,コンサルタントエンジニアの花島崇さ
んが特別参加してくださり,描く橋の選定や呑み会のアレンジで強力なパワーを
発揮くださいました.花島さんが加わり,私も心強かったことも確かです.参加
してくれた学生さんも皆さん熱心で,一回一回が楽しい充実した教室になったと
思います.
広瀬先生には遠い横浜までおいでくださり,誠にありがとうございました.
あと何年続くかは分かりませんが,できるだけ長く,風景画教室が開催できる
ように頑張りたいと思っています
藤野
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