黒田明伸『貨幣システムの世界史〈非対称性〉をよむ』

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黒田明伸『貨幣システムの世界史〈非対称性〉をよむ』
2008 年 11 月 28 日(金)
「グローバル・ヒストリーと世界史」読書会
黒田明伸『貨幣システムの世界史〈非対称性〉をよむ』
(岩波書店、東京、2003 年)
評者:後藤敦史(日本史・D2)
序章
貨幣の非対称性
◆貨幣の非対称性
20 世紀初頭、揚子江流域…銅 1300 文相当の一元銀貨 1 枚が、銅 1000 文で流通
⇒本来貨幣とは、対称性を前提にしているはず??―cf. 貨幣量の増減と物価の関係
⇔(but)貨幣の歴史=非対称的な事例に彩られた歴史
◆手交貨幣の特質
手交貨幣―預金貨幣成立以前においては、手交貨幣が主流
⇒特質:手交貨幣は必ずしも還流しない―本書の核心的命題
=①零細額面貨幣…中心市場から離れるほど、少額取引が増加
→中心市場に還流する場合には、高額面貨幣に置換
②農村市場の季節性…農繁/農閑期の季節性に合わせて貨幣が待機される
◆多元的な貨幣論
本書の課題…通貨が垂直的市場・水平的市場の関係の中で競合的に共存する論理を解明
⇒一国一通貨制度が唯一の安定した存在形態ではないことを示す
第1章
越境する回路―紅海のマリア・テレジア銀貨
◆マリア・テレジア銀貨の流通
20 世紀前半、アフリカ・西アジア紅海周辺地域において、マリア・テレジア銀貨が流通
⇒発行地オーストリアでは流通していない銀貨―cf. エチオピア:同銀貨が行財政の中心
◇マリア・テレジア銀貨をめぐる争い
1935 年
イタリアのムッソリーニ政権=オーストリアより同銀貨の鋳造権を獲得
《目的》同銀貨の流入を留めてエチオピアに打撃を与える
⇒同銀貨流通地域に大きな混乱…現地品調達ができず貿易できない商人も
⇔中東地域に権益を持つ英・仏・ベルギーが同銀貨の鋳造を開始
◇マリア・テレジア銀貨の流通の実態
=輸出産品の購買に使用―銀貨は日常の少額取引に用いるには高額すぎる
⇒大きな地域間を跨ぐ決済通貨として機能
⇒各地域を面ではなく線として結ぶ大きな「回路」として流通
◆マリア・テレジア銀貨の流通回路
〈疑問〉なぜ同銀貨の供給途絶は混乱を招いたか??―cf. 年間供給量=総流通量の約 6%
◇流通回路の特質
=大きな季節性の存在⇒回路は円滑に循環するシステムではない
1
⇒分散されて各地に在庫されるマリア・テレジア銀貨は容易に還流せず
=回路の外部から同銀貨を追加供給し続ける必要
◇マリア・テレジア銀貨が語る貨幣論
マリア・テレジア銀貨の回路の存在
⇒個々人の判断や発行主体の権能でもなく、回路自体に同銀貨が選好される要因
=両替相場や公定相場とは別の評価に従って同銀貨が選好されていたことを示す
第2章
貨幣システムの世界史
◆地域流動性と支払協同体
◇見えざる合意
事例①1931 年末、米国ワシントン州テンニネオ
テンニネオ銀行の窓口業務の停止→テンニネオにおいて取引の混乱が生じる
⇒テンニネオ商工会議所は預金の 25%にあたる証書(木片)を発行
⇒木片の担保は薄弱だったにもかかわらず、町の人々は取引を維持
事例②第二次世界大戦直後のドイツ
紙巻煙草を媒介とした取引が成立―制度的な指示もなく煙草が通貨として機能
⇒①②=制度的な通貨供給が麻痺しても、取引を媒介する財を通貨として機能させるよ
う、地域の人々の間に緩い合意が自ずと出来る
◇地域流動性と支払協同体
事例③1606 年、中国福建省泉州…旱魃により米価高騰と私鋳銭が横行
⇒官による米廉売や私鋳銭の禁止はせずに、相場に任せて海商から米を集積→成功
〈疑問〉なぜ劣悪な私鋳銭が受領されたのか??
=泉州という市場が自律的に通貨を創造することで財(米)の流通を維持
⇒米の高い販売可能性が私鋳銭をも受領させる結果に
⇒「地域流動性」
:ある限られた空間における取引の媒介機能の総体(⇔「地域兌換性」)
=ある空間的まとまりにおいて、財の販売可能性を実現させる機能
「支払協同体」:地域流動性の構成内容の中で、手交貨幣を独自に創造する機能範囲
◆銅貨の世界と金銀貨の世界
◇東アジアと西欧
・中世東アジア…中国・朝鮮・日本において見られる銅銭の使用
→農民の通貨使用の頻度を高める傾向
※中国の銅銭…素材の市場価格>銅銭の額面、という傾向
⇒資産用となる官銭を大量投入することで地域貨幣の自己組織化をある
程度は制御しつつも、その運用を自己組織に委ねたのが中華帝国
・中世西欧…領主・商人間の銀貨使用と農村での商品貨幣乃至バーター取引の乖離
→農民の通貨使用の頻度を抑制する傾向
⇒東アジアと西欧の通貨世界は 12 世紀頃までは棲み分け
◆モンゴル帝国と貨幣システム
2
◇モンゴル帝国の出現
東西に跨る帝国の出現⇒様々な取引費用を軽減させて遠隔地交易を飛躍させる
―cf. ヨーロッパでは 13 世紀より銀貨鋳造が激増→世界各地の通過が変化
⇒・地域間決済通貨としての銀の使用が西から東へ延伸
・銭貨、貝貨など地域流動性の形成に適した通過が広がる
◇モンゴル帝国の崩壊
ユーラシア大陸の多くの地域で貨幣収縮=中央アジア経由の東西交易が縮小
―cf. 1360 年代になってロンドンの銀貨鋳造量が激減
◆本位貨幣制と世界経済システム
◇モンゴル帝国崩壊により銀流通が停滞して以降の世界の動き
①地域兌換性を有する貴金属を何とか獲得しようとする動き―ex. 中国の租税銀納化
→1570 年代からの南米銀の世界的流通により解決
②地域流動性を独自の手段で維持しようとする多様な動き
→②-A:銀以外の流出しにくい零細額面通過への転換
②-B:バーター取引への回帰
②-C:閉鎖的な地域団体の効力によって、団体内部の債務・債権関係として取引処理
◇世界経済システムの形成
「本位制」=一定地域内の流動性全体を均質にとらえられる状態に置くことで、地域兌
換性と地域流動性を制御するシステム
⇒本位制の方向が芽生えるのは、西欧世界に顕著な②-C の道
=地域流動性の自律性を削ぎつつ、それを為替送金網に結びつけながら地域
兌換性と融合させていく過程
↓
世界経済システム=②-C(西欧)が②-B(東欧・中南米)を「辺境」として従いな
がら形成される
⇔②-A(東アジア)も独自の繁栄を謳歌しながら 19 世紀を迎える
⇒19 世紀末からの国際金本位制=地域流動性の自律性を世界規模で奪っていく過程
第3章
競存する貨幣たち―18 世紀末ベンガル、そして中国
◆競存する貨幣と市場の重層性
「競存貨幣」
:政治権力に依らず自由に民間で発行された諸通貨が相互に競争しながら併存
◇貝貨と銀貨
貝貨…地域内の小口取引に使用 ⇔ 銀貨…外部との交易や納税に使用
⇒〈従来の経済理論〉貨幣総量から考えて銀貨が流出すれば貝貨安に
⇔(but)18 世紀末にベンガル銀が中国に流出するも貝貨高が生じる
⇒地域間を往復する銀貨と地域内にとどまる貝貨とでは、流通回路が異なる
⇒銀・貝貨の比価=回路の交差点における変換比率に過ぎず、二つの回路に流れる通
貨の総量の比率には影響されない
3
◇中国・インドの銀流通の特徴
=政府の指定する品位高の銀貨 ⇔ 民間では質を落とした銀単位を創出
=民間の商慣行で積極的に独自の銀貨をもとうとしていた傾向
◆銀の流入と中国・インド社会
◇16~18 世紀のインド・中国=中南米産銀を大量に吸収
→通貨の流通自体は拡大するも、統一には向かわず競争的な通貨が存続
⇒当時の銀貨流通=・収穫期の支払に使用されて現地に蓄蔵される銀貨
・租税徴収のために使用されて外部に流出する銀貨
◇貨幣需要の二つの動機
①大きな周期で季節的な需要変動に対応できるように通貨を設定する動機
②非周期的で安定した需要に適した通貨を保持しようとする動機
⇒①②の対立は、小口取引/大口取引、零細額面/高額面、という逆方向に、それぞれ
通貨を設定させることに
=中国・インドが銀を大量に吸収しながらも物価上昇を伴わなかったのは、量社会とも
に市場が競存貨幣のシステムになっていたことによる
第4章
中国貨幣の世界
◆中国貨幣史の特徴
中国貨幣史:様々な私的で地域的な現地通貨が出現することに対して、王朝が統一的形態
を付与してそれを秩序立てようとする、二つの力の拮抗の歴史
中国銅銭:①空間的な画一性に加えて、時系列的な一貫性を保持しようとする傾向
―cf. 歴代王朝は一貫して 1 枚当り 4g 弱、品位 8 割以上の銅銭を鋳造
=先行する王朝が発行した銅銭の慣習に制約を受ける
②零細額面通貨でありながら貴金属通貨と固定費で結ばれることはない
―cf.「短陌」=まとめ方によって集合単位を差別化する慣行
・宋…銅銭 77 枚=100 文を公定短陌として民間のそれを放任
◆紙製通貨と中国貨幣史
伝統中国:銀行制度とは無関係に大量の紙製通貨を流通させる
―南宋・元=限定的枚数で「鈔」を発行し、その相当部分を、財政業務を通じて回収
⇒この構造を維持している期間は紙製通貨の受領性を保持
⇔(but)紙製通貨への依存を強めると、本来兌換されるはずの銅銭鋳造に消極的に
⇒地域市場は様々な代用貨幣を創出していかざるを得ず
◆銀の大量流入の意義
16 世紀以降の銀の大量流入⇒王朝の銀依存財政への転換につながる
=政府のストックと民間のストックとが異なった形態で形成されることによって、流
通の安定化が得られることに
4
第5章
海を越えた銅銭―環シナ海銭貨共同体とその解体
◆環シナ海銭貨共同体
◇ジャワの万暦通宝
1596 年のオランダ人の日誌=ジャワ西部バンテンで万暦通宝が流通
→万暦通宝の入手が困難になると、宋代の咸平元宝を模した通貨が流通
―特徴①悪貨でも、官銭と同様の文字を鋳込んで使用される
②明白な私鋳銭が行われて、それがジャワの人々に受領される
⇒西日本から中国海岸部を経て東南アジアへと至るシナ海を囲む地域に共通の構造
=日常的売買用の銅銭(通用銭)と資産保蔵用の銅銭(基準銭)という二重構造
◆中世日本における基準銭の形成とその消失
◇貫高制から石高制へ
西日本…1568 年後半から数年の間に銀遣いから米遣いが専らに
⇒16 世紀を通じて形成された貫高制が世紀末には石高制になる不可思議な趨勢
◇私鋳銭と環シナ海密貿易
15 世紀後半~…中国漳州を中心に、西日本も含む環シナ海密貿易ネットワークが形成
⇒このネットワークの中で漳州の私鋳銭が継続的に西日本に流入
⇒結果①鐚銭の流入…通用銭を増加させることで日常取引が銭使用に導かれる
②精銭の供給土地売買や手形振出のような中・長期的取引も銭建志向に導かれる
=知行の統一を図る大名にとって銭建の財政樹立が魅力ある課題に
◇明朝の倭寇対策
1566 年、漳州地方が制圧され、海禁が解除される=密貿易ネットワークの解消
⇒1568 年後半より西日本各地で銭建の土地取引等が急減
+基準銭機能が米遣いに移行(関東では永楽銭換算など、地域差あり)
⇒石高制への移行は、精銭供給の断絶に伴う動揺に端を発する
◇近世日本へ
17 世紀後半以降の日本=貨幣供給の行政的管理を実現
⇒地域の通貨供給に弾力性を与える自立的な手段は早いうちに消滅
◆環シナ海銭貨共同体の解体
環シナ海銭貨共同体=ある地域での銅銭の動きは遠距離の銅銭受給にも影響
⇔ただし、銅銭が海を越えた貿易収支の決済通貨として機能していたわけではない
=銅銭の流れは輸入側の需要に応えた一方通行的なものに過ぎず
↓
17 世紀後半以降~…各地の行政権力に対応したそれぞれの銭貨発行という方向
―cf. 日本の寛永通宝、阮朝のベトナム銅銭
⇒宋銭を共有する環シナ海銭貨共同体は過去のものに
第6章
社会制度、市場、そして貨幣―地域流動性の比較史
◆自律的/他律的な地域流動性
5
◇自律的な地域流動性
事例:20 世紀初頭の太原県城外の市場、晋祠鎮=地域的紙幣(銭票)流通の事例
⇒特徴①銭票の維持する空間の物価動向は、より広い市場の商品相場とは無関係
②銭票発行は金融業者に限らず穀物店や酒屋などが自由に参入
⇒小農の農作物販売=季節性を強く帯び、それが貨幣需要にも季節性を与える
⇒現地の商店の自由な銭票発行制度によって貨幣需給が調整される
=農民・商人が、制度的規制に依らず、地域流動性を安定化させる空間を共有
―債権・債務関係を伴わない外部貨幣(outside money)を自ら創造
◇他律的な地域流動性
事例:14 世紀のイングランドの市場町、コールチェスター
⇒特徴①想定される住民数に比して、住民同士の債務訴訟が多い
※コールチェスターの公民は自らの法廷をもち、独自の司法機能を有す
②支払は日々行われるよりも、まとめての精算の方が圧倒的に多い
⇒1363 年以降、イングランドでは鋳造額減少
⇒通貨供給不足→信用取引による現金取引の代替が進行…訴訟増加も招く
⇒地域における小口規模における信用取引により貨幣需給を調整
=公民による法廷という法共同体の機能を前提に、地域流動性を安定化
―債権・債務関係に基づいて取引を処理する内部貨幣(inside money)を創造
↓
中世末~近世初頭の西欧世界
=日常的取引において貨幣は専ら計算単位として現れ、実際には信用 or 商品貨幣に
よって取引が行われる
◆地域流動性の座標
◇地域流動性の調整
手段①自律的な秩序に任せて現地通貨を創出する―晋祠鎮の事例
②他律的な秩序に依拠して貨幣使用を信用取引に代替―コールチェスター
◇地域流動性の座標
小農の経営の自由度と農村市場の発達とは正の関係にある
⇒経営の制約が少ないほど農村市場は密に存在し得て、公式の通貨制度を欠いても地域
流動性を保持するための自律的通貨制度が創出される
⇔経営の自由度の少ない小農―寡頭支配者が対外流動性の獲得へ傾斜する世界
⇒世界システム論における「辺境」=寡頭支配者による地域外志向の兌換性に対して、
地域内志向の自律的流動性が犠牲となる構造
◆近世日本から明治日本へ
◇近世日本の村落機能
村落の融通機能(頼母子講など)―村役人を結節点として比較的小口の金額を低額融通
⇒村という団体組織により内部貨幣を形成し、貨幣需給に弾力性を与える構造
◇明治期日本
6
=きわめて多数の銀行類似機関が地方に誕生
⇒地方の遊休資金を現地に集約させることが可能に
―作用①貨幣需給の季節的逼迫に対して緩衝機能を果たす
②地域外から供与された信用が、同質の新規信用として在来の資金在庫に上積
⇒資金の流れが立体的に―より安定した回路が形成されることに
―cf. 中国における回路…資金はそのままの形では流通せず、中央―地方の間で
通貨が兌換される必要→生産地での買付が抑制されることも
◆伝統市場の四類型
①現地通貨を創出して流動性を保持―中国 etc.
②頻繁に信用取引を行うことで流動性を維持―イングランド etc.
③兌換性のある貨幣とバーター取引の複合―近代ポーランド etc.
④上記①~③の混合―ムガル期インド
※近世日本―外見上は①と共通するが、地域流動性においては②が近い
↓↓
資本主義発達史の再検討を要する
⇒参入障壁が低く、自由な競争の場(中国)よりも、貨幣使用の制限と地方共同体内の
融通が行われる方(イングランド)が、地域工業化のための資金蓄積を準備する
第7章
本位制の勝利―埋没する地域流動性
◆一国一通貨制の形成
◇一国一通貨制=きわめて現代的な事象
⇒一国一通貨制の浸透過程とは、対置される第二の道(中国などに存在した道)を埋
没させ、国境内部で流通する通貨間の関係が対称化していく過程
◇一国一通貨制の形成過程
19 世紀末~一次世界大戦=ロンドンを中心とする貿易の多角的決済の急発展期
⇒スターリング・ポンドを基軸とする国際金本位制の成立=国際貿易の持続的発展
=小農生産物の輸出吸引とその逆方向への紙幣の浸透→紙幣と現地通貨のデノミ進行
⇒1900 年頃~=世界的に紙幣通貨の受領が始まる/普及が深化する
―条件:少額紙面に比重を置いた発行→兌換を確実にする高水準の準備金が必要
=各地経済の季節的変動に応じるために兌換準備を集荷地近辺に分散
◆世界恐慌
◇1907 年の世界恐慌
〈従来の理解〉信用の膨張が主、豊作に伴う農作物調達資金移転による通貨逼迫が従
⇒(but)後者こそが国際金本位制が小農経済と連結したことによる必然的所産
⇒国際金本位制=現地通貨をポンドに連結させたことで、却って農民に手交される
資金の季節調整のための弾力性が失われる結果に
7
終章
市場の非対称性
◆「財の交換」と「時の交換」
〈従来の理解〉違ったモノを持つ者同士が自分の持つモノとは異なったモノを欲する、と
いう初期条件の上で「財の交換」を考察
〈歴史的現実〉誰もが似たようなモノを持って、似たようなモノを欲する
⇒それを欲し、それを処分したい「時」に差があるからこそ交換が発生
―ex. 甲・乙・丙それぞれが米を有している時、探求されるべきは、それを交
換することによって財を得ることのできる「時」
⇒「時の交換」論=生産と交易の境目が可変的
⇒なぜ貨幣が生成するのか、という点をより明瞭に
=分散するモノが市場という「空間」で「時間」差を伴いながらの交換を
媒介するために貨幣が生成される
【評価】
・複雑な貨幣の歴史を、実証・理論の両面から描き出した、必読の書
↕ ↕
・国際金本位制の形成過程の説明が不十分ではないか??
⇒「貨幣は対称のはず」と考える多くの人にとって、
「非対称の貨幣」から「対称の貨幣」
への移行は興味深い
―だからこそ、スターリング・ポンドを基軸とする国際金本位制の確立を、イギリス
による覇権確立、とはまた別の側面から描き出してほしかった
・環シナ海銭貨共同体は本当に解体したのか??
=一方で自律的な地域流動性を保ちながら 19 世紀まで独自の道を歩んだ東アジア
⇒疑問①権力に依る貨幣供給システムの確立(日本やベトナム)とそうでない中国との
差違はどこから生まれたのか??―地勢的要因?政治権力の性格?
疑問②日本近世史からの疑問【勝亦 2004】→近世日本においては、銭貨は補助的貨幣
という役割だけではなく、紀伊国など「銭遣い」圏も存在していた
⇒東アジアの銭貨のその後の役割を詳細に見れば、18 世紀の環シナ海世界内の貨幣シス
テムは黒田氏の展望とはまた違う姿を示す可能性
【参考文献】
加藤博「書評:黒田明伸『貨幣システムの世界史』」(
『史学雑誌』112 編 9 号、2003 年)
勝亦貴之「日本近世の貨幣流通に関する試論―黒田明伸著『貨幣システムの世界史』を手
掛かりとして―」(『歴史の理論と教育』117 号、2004 年)
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