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ゲート 自衛隊彼の地にてザク戦えり ID:69576

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ゲート 自衛隊彼の地にてザク戦えり ID:69576
ゲート 自衛隊彼の地に
てザク戦えり
メガネラビット
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
兵器﹃ザク﹄
﹃門﹄が銀座に現れる丁度一年前⋮日本の最高技術を駆使して作られた有人式歩行戦闘
それらは日本を守る最先端の兵器として、自衛隊に配備された。
そして﹃門﹄が銀座に現れ、異世界から謎の軍が攻めて来た。
だがMSの力にそれらはなすすべもなく敗れた。
そして特地にMSと自衛隊が配備される事が決定した。
この物語は伊丹二等陸尉と一癖も二癖もあるパイロット達、そしてMSの記録であ
る。
目 次 登 場 人 物 紹 介︵M S パ イ ロ ッ ト︶ これまで登場したMSの紹介※随時更
新 ││││││││││││││
本編
プロローグ:18mの巨人 ││
第壱話:緑の巨人 ││││││
第弐話:銀座の三銃士 ││││
第参話:帝国軍進撃 │││││
第四話:第3偵察隊 │││││
第 五 話:エ ル フ と 炎 龍 と ザ ク と ⋮ 第六話:噂 │││││││││
第七話:アルヌス駐屯地 │││
第八話:支援 ││││││││
第十三話:門をくぐり抜けた先に⋮ │││││││││││││││
第十二話:皇女、アルヌスへ ※挿絵有
第十一話:交渉と交易と拘束 │
絵有 │││││││││││││
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿
第九話:運搬と混乱 │││││
78
83
101 89
149 122
168
9
29 22
33
41
53
63
第十四話:日本常識が異世界に通用す
180
1
│
るとは限らない ││││││││
第 十 四・五 話:陸 の 王 者、7 4 式 第 二 十 一 話:希 望 と 絶 望 の 間 で ⋮ 第 二 十 二 話:ヤ オ、絶 望 を 知 る 第 二 十 三 話:伊 丹 と 鷲 谷 な ら ⋮⋮ 318
329
194
282 263 242 227 215
第 二 十 話:ダ ー ク エ ル フ の 災 難 第十九話:大蛇と鋸鮫 ││││
第十八話:アルヌスへ帰還 ││
第十七話:歓迎されざる者 ││
第十六話:日本観光 │││││
第十五話:妨害 │││││││
207
292
310
│
称︶
搭乗機体:EMS│10ヅダ︵本作品ではMS│10/04陸戦用高機動ザクⅡと呼
機体ネーム:︿ゴースト・ファイター﹀
階級:三等陸佐
名前:鷹 橋谷
名前は吹き替えを担当した大塚明夫さんをアナグラムで少しもじってつけました。
さい。
この方は機体ネームで分かると思いますが、エルマー・スネル大尉をイメージして下
所属部隊:陸上自衛隊東部方面隊第16旅団1個MS連隊第1分隊
搭乗機体:MS│06JザクⅡ特別仕様機体
機体ネーム︿ホワイト・オーガー﹀
階級:一等陸尉
名前:大明 和夫
登場人物紹介︵MSパイロット︶
1
登場人物紹介(MSパイロット)
2
所属部隊:陸上自衛隊東部方面隊第16旅団1個MS連隊第3分隊
この方も機体ネームで分かると思いますが、ジャン・リュック・デュバル少佐をイメー
ジして下さい。
こちらも名前は吹き替え担当の土師孝也さんのアナグラムです。
ちなみに機体ネームの︿ゴースト・ファイター﹀の事に関してですが、当人は幽霊の
ようにぬらりくらりと戦うことが好きなので問題ないという設定です。
名前:鷲谷 秀人
階級:二等陸尉
機体ネーム:︿イーグル﹀
搭乗機体:MS│05BザクⅠ偵察仕様機
所属部隊:陸上自衛隊東部方面隊第16旅団1個MS連隊第2分隊のち第3偵察隊
この方は名前のとおりヒデト・ワシヤ中尉です。
MS IGLOOの中で唯一日本人らしい名前のキャラなのでそのまま引用させて
もらいましたwww
名前:桝田 天雄
3
階級:三等陸佐
通信ネーム:︿ドロップ﹀
搭乗車両:74式戦車1号車
所属部隊:陸上自衛隊東部方面隊及び第1戦闘団第1分隊1号車砲手
この方はデメジエール・ソンネン少佐です。名前は同じくアナグラムでもじりまし
︵│︳│;︶
た。ネームの︿ドロップ﹀はソンネン少佐が飲んでいる錠剤から取りました。
あのドロップって薬だよね
名前:五十部 陸人
階級:二等陸尉
通信ネーム:︿エンスト﹀
車がエンストするのでそのまんまの意味です。
車と聞いてピッタリな役柄だと思いこちらも参戦しました。通信ネームはよく彼の戦
この方はハーマン・ヤンデル中尉です。こちらも同じく名前はアナグラム。74式戦
所属部隊:陸上自衛隊東部方面隊及び第1戦闘団第1分隊2号車砲手
搭乗車両:74式戦車2号車
?
登場人物紹介(MSパイロット)
4
名前:西幸 小勝
階級:一等陸曹
通信ネーム:︿ルーキー﹀
搭乗車両:74式戦車2号車
所属部隊:陸上自衛隊東部方面隊及び第1戦闘団第1分隊2号車運転手
この方はレイバン・スラー軍曹です。いつも先輩方に振り回されて苦労している新人
ですwww
でも運転技術はピカイチです。
名前:多那城 梶 読み:たなじょう かじ
階級:2等陸佐
機体ネーム︿ツァリアーノ﹀
搭乗機体:MS│06J型指揮官仕様ザクⅡ
所属部隊:特地特別編成偵察隊セモベンテ2個小隊
元人物:フェデリコ・ツァリアーノ
今後登場確定人物です。
名前はアナグラムです。ネーミングセンス無くてすみません⋮
5
フェデリコ・ツァリアーノは連邦軍人ですけど、ザクを操縦していたので特別出演と
言う形で登場させていただきます。
ていうかあのシーンは絶対に必要になるので⋮
名前:日笠 江和夫 読み:ひがさ えわお
階級:1等陸曹
機体ネーム︿ボロゴノフ﹀
搭乗機体:MS│06J型ザクⅡ
所属部隊:特地特別編成偵察隊セモベンテ2個小隊
こちらもセモベンテ隊から。
名前:十谷部 緋佐間 読み:とやべ ひさま
階級:2等陸曹
機体ネーム︿スチュアート﹀
搭乗機体:MS│06J型ザクⅡ
所属部隊:特地特別編成偵察隊セモベンテ2個小隊
こちらもセモベンテ隊から。
名前:健也 和菜 読み:たかなり かずな
階級:2等陸曹
登場人物紹介(MSパイロット)
6
機体ネーム︿ジャクソン﹀
搭乗機体:MS│06J型ザクⅡ
所属部隊:特地特別編成偵察隊セモベンテ2個小隊
同じくセモベンテ隊から。
名前:間雉 幸原 読み:まきじ こうはら
階級:3等陸曹
機体ネーム︿クルス﹀
搭乗機体:MS│06J型ザクⅡ
所属部隊:特地特別編成偵察隊セモベンテ2個小隊
同じくセモベンテ隊から。
名前:辺田 読み:へんだ
階級:3等陸曹
機体ネーム︿ペンター﹀
搭乗機体:MS│06J型ザクⅡ
所属部隊:特地特別編成偵察隊セモベンテ2個小隊
同じくセモベンテ隊から。
声優が分からなかったからペンターをもじって名前を作った。
7
でも作中でツァリアーノが﹁伏せろ
︵│︳│;︶
﹂って叫んだあと﹁なんです ﹂って言ったか
ら絶対に声優はいるんだよね⋮誰なんだろう
?
所属部隊:特地炎龍討伐特別降下部隊
搭乗機体:MSM│07Di ゼーゴック
機体ネーム︿ダイバー﹀
階級:3等空尉
名前:堀之内 勇見 読み:ほりうち ゆうけん
登場確定人物です。
スナイパーとなりました。
でもあんな超弩級宇宙艦隊決戦砲なんて配備できるわけないので、搭乗機体はザクⅠ
この方はあのヨルムンガンドの砲術士を務めたアレクサンドロ・ヘンメさんです。
元人物:アレクサンドロ・ヘンメ
所属部隊:特地第1MS狙撃部隊1分隊
搭乗機体:MS│05L ザクI・スナイパータイプ
機体ネーム︿ヨルムンガンド﹀
階級:1等陸尉
名前:阪疋 飽津 読み:さかひき ほうつ
?
!
登場人物紹介(MSパイロット)
8
元人物:ヴェルナー・ホルバイン
こちらはエントリィィでおなじみのヴェルナー・ホルバインさんです。
なぜこの方を選んだかと言うと、あまり話せないですが炎龍討伐の最期の自衛隊参戦
の時に出演されます。
どのような形で出撃するのかは後のお楽しみにということで。
こちらも同じく登場確定人物です。
この人は原作では海兵ですけど、空自のMSのパイロットなので空自となりました。
この計画にはガンダムで有名なバンダイ社からデータ提供されており、開発には日本
であった。
防衛省によるザクⅡ開発計画を開始したのは、イオネスコ型核融合炉が開発した翌年
防衛に使用することが決定された。
なかったが、研究を進めていくうちに量産体制が整いその結果、その有り余る力を国土
ていたロボット技術に目を付けた。最初は日本の技術力を世界に発信するためでしか
だがこの核融合炉をもっと効率よく何かに使えないかと模索した結果、近年注目され
電を可能とし、日本の原子力発電は新たな一歩を進むことになる。
長い年月をかけ、ついに日本は核融合炉の小型化に成功。従来の物よりも高い電力発
るMSの動力﹃イオネスコ型核融合炉﹄だった。
軽量化かつ小型化を重視するため、その参考になったのが機動戦士ガンダムに登場す
当初の開発目標は従来の原子力発電を一新するというのが始まりだった。
開発経緯
MS│06J 陸戦型ザクⅡ
これまで登場したMSの紹介※随時更新
9
これまで登場したMSの紹介※随時更新
10
の名だたる大企業が多数参加している。
参加した企業は︻ここから先は機密情報となっており閲覧できません︼などである。
機体の各関節部は車メーカー、機内コックピットは電子機器メーカーが担当してい
る。
こうして最初に開発が成功した機体はMS│01﹃クラブマン﹄と名付けられ、今後
のMS開発の土台となる。
最初のデータ収集実験は東富士演習場で極秘裏に開始され、実験内容は移動実験や物
を掴む実験など基本的な動作の実験が行われた。
収集したデータを基に翌年にはMS│02を開発し、今度は攻撃データの収集を開始
した。
それでもMS用の大型武装はまだ開発段階では無かったため、肉弾戦が主な収集デー
タとなった。
更に翌年に本格的なMS用大型武装の開発が始まり、それを使いこなすための新しい
MSの開発が開始された。
そして完成したのが、MS│03﹃ヴァッフ﹄である。
MS│02に比べて大分人型に近づいた機体であり、ザクシリーズのまさしく基にも
なった機体でもある。
11
だが開発はここで困難を極めることとなる。
宇宙航空研究開発機構
装甲や武装の強化により重量が増加し、機動力がMS│02より6割ほど低下してし
まったのだ。
日本政府はJ A X Aに背中のランドセルや脚部に搭載する新型バーニアの開発を依
頼する。
そこでJAXAは新型ロケットに搭載予定だったエンジンを小型化し、それを搭載す
る提案を出した。
すると機動性能は飛躍的に向上し、MS│04プロトタイプ・ザクが完成した。
そして翌年には本格的な自衛隊配備用機体の開発が開始され、MS│05JザクⅠが
完成した。
この機体が自衛隊初のMSとなり、215機が生産されて五つの各方面隊の駐屯地に
配備された。
だが動力パイプをすべて装甲内に収納したことやジェネレーターの出力不足が重な
り、あまり良い運動性能は出せなかった。
そのためすぐに次のザクが作られるようになった。
Japan
こうして様々な研究と開発の結果、MS│06JザクⅡが現在の主力MSとなった。
ちなみに05や06についているJの意味は、原作の陸戦型という意味のほかに日 本
これまで登場したMSの紹介※随時更新
12
という意味も込められている。
ビーム兵器はビッグガンは完成しているものの、あまりにも大きすぎるため設置時間
がかかり過ぎる問題が浮上し、現在はアルヌス駐屯地防衛用固定砲台として3機が配置
されている。
│基本性能│
型式番号:MS│06J 所属:陸上自衛隊第16旅団、特地派遣部隊、
製造:MS開発共同チーム
生産形態:量産機 全高:18m
本体重量:56.2t 全備重量:74.5t 装甲材質:極秘情報のため閲覧禁止
出力:976kW 推力:43,300kg
センサー有効半径:3,000m∼3,500m
固定武装:Sマイン、デコイ︵フレアタイプ、チャフタイプ両方装備︶、左腕に対人用
13
機関銃GAU│19を2門、右腕防御盾、
武装:120mm重機関砲、280mm爆破砲、ヒート・ホーク、クラッカー、3連
装脚部ミサイルポッド、175mm重狙撃砲、シュツルムファウスト
MS│06J 陸戦型ザクⅡ特地仕様改修機
この機体は装備・武装・機能ともに通常機とは何ら変わりないが、日本駐屯地仕様の
ザクとは一つだけ変わっている点がある。
それはミノフスキー粒子発生装置が搭載されていることだ。
この装置の影響で通常のザクⅡよりも高い連携が見られ、更には特地での長距離通信
でも革命的な活躍を見せた。
だがこの粒子を浴びた電子製品はたちまち使用不可能となってしまう。
そのため、日本製の電子製品には万が一を考慮してミノフスキー粒子対策装置が取り
付けられている。
また特地に派遣されてからは様々な改修が施されており、様々なバリエーションのも
のが存在する。
これまで登場したMSの紹介※随時更新
14
MS│06J型ザクⅡ大明和夫一等陸尉専用機 通称︿ホワイト・オーガー﹀
ホワイト・オーガー
大明和夫専用機であり、愛機である。
機体色は白で塗装されており、 白 き 鬼と仲間内から呼ばれている。
右肩の盾には東部方面隊のエンブレムを囲むように黒いトカゲのステッカーがペイ
ントされている。
特地に派遣されてからはミノフスキー粒子発生装置が搭載されている。
MS│06K長距離砲撃用MSザクキャノン
155mm榴弾砲を装備した長距離攻撃用MS
自走砲に使われた榴弾砲を使用することにより、コストの削減と攻撃力の向上を図っ
た。
原作の180mmキャノンは開発コストと砲弾の巨大化による運用の不便さが懸念
され開発は断念せざるを得なかった。
│基本性能│
型式番号:MS│06K 15
所属:特地派遣部隊
製造:MS開発共同チーム
全高:18.4m
頭頂高:17.7m 本体重量:59.1t 全備重量:83.2t
装甲材質:極秘情報のため閲覧禁止
出力:976kW 推力:41,000kg センサー有効半径:4,400m 武装:155mm榴弾砲、2連装スモークディスチャージャー、2連ロケット弾ポッ
ド、ほかMS用装備 MS│05JザクⅠ
ザクⅡの全世代機として登場し、現在も第一線で活躍する自衛隊MSの一つ。
現在は災害時の補給支援や駐屯地の防衛、政府関係機関施設の防衛などが主な任務と
これまで登場したMSの紹介※随時更新
16
なっている。
特地ではザクⅡ特地仕様改修機と同じくミノフスキー粒子発生装置が取り付けられ
ている。
この機体もまた様々なバリエーションが存在する。
│基本性能│
型式番号:MS│05J 所属:陸上自衛隊第16旅団、特地派遣部隊、
製造:MS開発共同チーム
生産形態:初期型量産機
全高:17.5m
本体重量:50.3t
全備重量:65.0t
装甲材質:極秘情報のため閲覧禁止
出力:899kW
推力:40,700kg
センサー有効半径:2,900m
固定武装:Sマイン、デコイ︵フレアタイプ、チャフタイプ両方装備︶、左腕に対人用
17
機関銃GAU│19を2門
武装:105㎜初期重機関砲、120㎜重機関砲、280mm爆破砲、ヒート・ホー
ク、クラッカー
MS│05JザクⅠ偵察仕様機
鷲谷秀人二等陸尉が乗る機体であり、深部偵察隊偵察用MSである。
当機は偵察用のため通信範囲・レーダー索敵範囲・カメラズーム倍率・装甲板強化な
ど様々な改良が施されている。
rung︶
察
第3偵察隊からの評判も良く、仲間内からのMSのあだ名は﹃旧ちゃん﹄。
│基本性能│
偵
型式番号:MS│05J│A︵A=Aufkl
所属:陸上自衛隊第16旅団、特地派遣部隊、
製造:MS開発共同チーム
生産形態:初期型量産機
全高:17.5m
本体重量:50.5t
ä
これまで登場したMSの紹介※随時更新
18
全備重量:65.2t
装甲材質:極秘情報のため閲覧禁止
出力:899kW
推力:40,700kg
センサー有効半径:3,400m
固定武装:Sマイン、デコイ︵フレアタイプ、チャフタイプ両方装備︶、左腕に対人用
機関銃GAU│19を2門
偵察用装備:小型UAV、深部偵察用ドローン
武装:105㎜初期重機関砲、120㎜重機関砲、280mm爆破砲、ヒート・ホー
ク、クラッカー
MST│05V対空攻撃用MSザクタンク
4問の大型対空機関砲を装備したMST。
ちなみにMSTのTとはタンクという意味である。
胴体部分はMS│05B旧ザクのパーツを使った防衛用MSで、前線での戦闘はあま
りなく、後方から特殊弾を使用し、上空の敵航空兵器を破壊するのが主な役割である。
19
│基本性能│
型式番号:MST│05V
所属:特地派遣部隊
生産形態:現地改造機 頭頂高:17.7m 重量:51.8t 固定武装:4連装対空機関砲、スモークディスチャージャー
MWT│05V土木工事用作業車
MWT│05Vから一切の武装を排除して、土木工事に特化した車両に改修した。
胴体部分は対空用と同じ、旧ザクの物を代用している。
MWTのMWはモビルワーカーという意味で作業用車を表しており、MSTが攻撃・
防衛用、MWTが作業用という分け方になっている。
右腕:ショベル 左腕:アーム付き伐採用チェーンソー
車体前方:ドーザーブレード
車体後方:リッパー
これまで登場したMSの紹介※随時更新
20
EMS│10 ヅダ
鷹橋谷三等陸佐専用機。
対炎龍戦を想定して開発された実験機であり、その機動性は高い。
機体には様々な武装を付けることが可能であり、盾には格闘専用のピックが装備され
ている。
だが装甲板の耐久力が低く、一定数の速度を超えてしまうと装甲が剥がれ落ち、最後
にはブースターがオーバーヒートを起こして爆発してしまう欠点があった。
だがそれを抜けば他の性能は他のMSの性能を大きく上回る機体である。
ちなみに当機はMS│09ドムとMS│07Bグフの実験機でもある。
│基本性能│
型式番号:EMS│10 所属:特地派遣部隊
製造:MS開発共同チーム
生産形態:試作機 頭頂高:17.3m 21
重量:61t
出力:1,050kW
推力:58,700kg
武装:120mm重機関砲、240mm爆破砲、シュツルム・ファウスト、ヒートホー
ク、135mm対艦狙撃砲、シールド︵白兵戦用ピック装備︶ 本編
我々はあの事件をこう呼ぶ。
なぜこのような事態になったのか。それは数か月前の出来事からすべてが始まった。
そしてその時が着々と近づく。
一瞬たりとも気が抜けない。ミスをすれば自分が死ぬ。誰しもがそう思っていた。
緊張と恐怖が彼らを包んでいた。
おそらく彼らにとってはこれが最初の実戦だろう。訓練の時とは比べ物にならない
衛隊員が息を殺してじっとしていた。
その足元には地面を掘って造った塹壕がある。その中には多数の銃火器を持った自
だが暗闇のせいなのかどことなく赤にも見える。
18mはあろうその巨体は緑色に塗られ、ピンク色のモノアイが光っていた。
そして睨み合うように反対側には巨大な人影が見える。
その先には数千を超える人影が見える。だがそれは人ではなくモンスターの軍勢だ。
夜の広大な野原にいくつもの照明弾が打ち上げられていた。
プロローグ:18mの巨人
プロローグ:18mの巨人
22
に配備することが決定しました。﹂
﹂
この発表に記者からの質問が殺到する。
記者﹁なぜザクを開発出来たのですか
防衛大臣﹁極秘情報ですのでお答えできません。﹂
防衛大臣﹁現在生産しているザクⅡとザクⅠは全部で300機です。それらのすべて
?
?
記者﹁では、ザクを一体いくつ配備するのでしょうか
﹂
防衛大臣﹁本日付けでMS│06J 通称ザクⅡとMS│05J通称ザクⅠを自衛隊
そして﹁そうかえん﹂から数日後のニュースで防衛省が記者会見を行った。
この登場に世界中が驚愕した。
目の前に緑色の巨人、ザクがあったのだから。
徐々に揺れは激しくなっていく。そして揺れが収まると観覧客たちは驚いた。
歩くごとに地面が大きく揺れ、観覧客たちは不安を募らせる。
そこへ近づく謎の巨大な人影。
見学する大勢の人で賑わっていた。
自衛隊の東富士演習場では富士総合火力演習、通称﹁そうかえん﹂が行われ、それを
それはGATEが銀座に出現する丁度1年前・・・
﹁銀座事件﹂と。
23
を配備します。﹂
記者﹁やはり隣の国との問題対策でしょうか
﹂
ん。あくまで防衛のための兵器です。ご安心を。﹂
?
ディレル﹁そうだな。近々話し合おう。﹂
?
中国
﹂
﹂
?
笑わせるな。あんなアニメのおん
秘書﹁そのようです、大統領。日本に設計図の要求をしますか
ディレル﹁ほぅ、日本はついに人が乗るロボットまで開発したか。﹂
アメリカ
そして、各国の反応も・・・
次の日の新聞は飛ぶように売れ、ネットでの反応も次々と高まっていく。
一斉にカメラのフラッシュがたかれる。
者会見を終了します。﹂
防衛大臣﹁各地の自衛隊駐屯地に配置して国土防衛に努めます。それではこれにて記
記者﹁今後はザクをどうするおつもりでしょうか
﹂
防衛大臣﹁それもお答えできません。ですがこれは戦争行動に使うわけではありませ
?
董 徳愁﹁日本め、我々に対する警告のつもりか
ぼろ兵器など我らの敵ではないわ
!
プロローグ:18mの巨人
24
25
﹂
政府関係者﹁ですが、董主席。あの兵器の映像をご覧になられたでしょう。どうです
工作員を派遣してあの兵器の設計図を入手しますか
?
﹂
?
の文を書き、国会議事堂の前で抗議デモ活動を行っていた。
だがこれを良く思わない者たちもいた。市民団体のデモ隊は横断幕や旗などに抗議
り出され、ザクの人気は急上昇した。
そして日本は空前のザクブームとなった。自衛隊仕様のザクのプラモデルなどが売
ジェガノフ﹁ふふふ・・・面白くなりそうだ。﹂
副大統領﹁分かりました。﹂
はあの兵器の事をよく知る必要がある。今回は様子を見てみようじゃないか。﹂
ジェガノフ﹁そうだな、日本より我々のほうが上手く扱えるかもしれない。だが今回
兵器の設計図を手に入れるのはどうでしょうか
副大統領﹁そのようです、ジェガノフ大統領。アメリカや中国に先立たれる前にあの
ジェガノフ﹁ふむふむ、日本が新兵器開発に成功か・・・。﹂
ロシア
政府関係者﹁分かりました。﹂
董 徳愁﹁今は様子見だ。﹂
?
﹃9条を守れ
﹄
﹃新兵器開発断固反対
﹂
?
﹄
当然見せてくれると思ったディレルだったが、当時の北条重則内閣総理大臣は意外な
はくれないか
ディレル﹁それでは本題に入ろう。ザクの事についてだが、設計図を我々にも見せて
ザクの事についての話し合いが行われた。
アメリカのディレル大統領はますますザクを気に入り、その後行われた首脳会議にて
この事を機に、市民団体のデモ隊は抗議する内容を失い解散した。
の輸送など、目覚ましい活躍を見せた。
ビルなどに取り残された生存者を救助し、瓦礫の撤去に更には物資の入ったコンテナ
えに、
巨大なザクは瓦礫で塞がれ、通常の重機では通れない道も難なく通ることが出来たう
日本政府はすぐさま自衛隊を派遣した。その時最も活躍したのがザクだった。
日本と友好的な国に巨大台風が直撃し重大な被害をもたらした。
災害派遣だ。
だがその数日後、市民団体のデモ隊を黙らせることが起こった。
﹄
!! !!
!!
﹃兵器開発を中止せよ
プロローグ:18mの巨人
26
27
返事を返した。
北条﹁それはできません。﹂
﹂
あまりにも意外な返事にディレルは驚いたが冷静に対応する。
ディレル﹁なぜだ
真似は出来ないと申したのです。﹂
この言葉に董主席が食って掛かった。
!
そして新しい部隊も新設された。
製造されていた。
こうしてMS│06Jが自衛隊に配備され、その頃にはザクはもう約1,000機は
わせていなかったため断念した。
何とかしてザクを手に入れようとしたディレルだったが今は揺さぶるネタを持ち合
にしよう。﹂
ディレル﹁そうか。そこまで言うなら我々もしつこく交渉はしない。この話は終わり
上げただけです。﹂
北条﹁独占ではありません。これは日本防衛のための兵器なので公表出来ないと申し
董 徳愁﹁日本だけで独占しようと言うのか
﹂
北条﹁これは日本の兵器であり、日本を守る兵器です。それを他国に売り出すような
?
プロローグ:18mの巨人
28
陸上自衛隊第16旅団3個MS連隊
1個連隊につき約300名近くののMS操縦者がいた。
それらが各地の駐屯地に拡散し、国土防衛に努めた。
その後大きな事件も無く抗議団体も現れなかった。
それから数か月後・・・
あの事件は起きたのだ。
﹂
!!!
していた。
そして三人目はゴスロリ衣装を着ており、身長の何倍もありそうな大きな斧を振り回
持っていた。
二 人 目 は 水 色 の シ ョ ー ト カ ッ ト の 幼 い 顔 の 女 の 子。手 に は 水 晶 が 装 飾 さ れ た 杖 を
一人目は美しい金髪の長い髪の毛にとがった耳。おそらくエルフの類だろう。
すると、頭の中に何かのイメージが映し出される。
伊丹﹁痛ぇ∼
エスカレーターの前にある柱に気がつかず額を思いっきりぶつけてしまったのだ。
そして到着したと思った瞬間、彼の頭に衝撃が走る。
そう言いながら電車を降りて、上りエスカレーターで上へとあがっていく。
伊丹﹁今日は絶好の同人誌即売会日和だな。﹂
彼はオタクであり、自衛隊員である。
そして心を躍らせながらスマートフォンを片手に歩いているのは伊丹耀司。
その日はよく晴れていた。
第壱話:緑の巨人
29
第壱話:緑の巨人
30
どれもこれも恰好は異世界系アニメとかでよく目にするような格好だ。
なぜこんなイメージが自分の頭に流れ込んできたのか分からなかった。
意識が戻ると伊丹は再び立ち上がり、目的地である会場へと向かった。
まさか自分があんなことに巻き込まれるとも知らずに・・・
同時刻││銀座近く自衛隊駐屯地
今日はよく晴れている。
こんな日にはMSにでも乗ってひとっ走り行きたいものだ。
そんなことを考えながら葉巻を吸う一人の男性。
彼は大明和夫一等陸尉、MSパイロットだ。
すると彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
﹂
その教官はお前と私だってこの間
鷹﹁こんな所にいたのか、大明。そろそろ訓練の時間だぞ。﹂
大明﹁おぉ、鷹。こんな所に何しに
﹂
鷹﹁おいおい⋮はぁ⋮﹂
大明の気の抜けた返答にため息を漏らした鷹。
?
?
鷹﹁とぼけるな、今日は新人のMS操縦訓練だろ
の会議で決まっただろう
?
﹂
大明﹁そうだったかな
?
31
すると大明が妙な事に気がついた。
大明﹁おい、なんか銀座の方、やたらと鳥が飛んでいるな。﹂
鷹﹁おい、とぼけてもむだ⋮いや確かに多いな⋮それに⋮鳥にしてはでかくないか
﹂
?
巨大な鳥らしき飛行物体が銀座上空を飛び回り、更には街の方からは煙が三本ほど
昇っている。
﹂
大明﹁おい、今日の訓練は中止だ。すぐMSで向かうぞ。何か嫌な予感がする。﹂
鷹﹁お前の勘はよく当たるから嫌いだ。よし、行くぞ
そう言うと二人はザクに乗り込み銀座へと向かった。
そして大明の予想は的中した。
冗談ならあまりにもひどすぎる。
!
早く逃げるんだ
死にたいのか
﹂
銀座の上空を鎧をつけたワイバーンが飛ぶなんて冗談なんか。
ここは危ない
﹂
!!
!?
伊丹は全速力で走り、民間人の避難誘導を行った。
あ、あなた誰
伊丹﹁おい
女性﹁え
!
伊丹は女性をかばい、何とか盾になろうとした。
その時だった、伊丹のすぐ近くにワイバーンが迫って来ていた。
!?
!
伊丹﹁お⋮俺は⋮﹂
!?
第壱話:緑の巨人
32
ワイバーンに乗った騎士が槍を構え、伊丹はぐっとこらえこの後来るであろう痛みに
備えた。
だが、その痛みは来なかった。
なぜなら襲い掛かろうとしたワイバーンが巨大な手によって掴まれていたからだ。
その巨大な手とは⋮
伊丹﹁⋮ザク⋮﹂
めた。
踏み殺してやる
﹂
ザクのコックピット内では大明が楽しそうにしていた。
!!
上空には武装したワイバーンが多数
!!
大明﹁やはり当たったか
﹂
鷹﹁敵は騎兵隊2個大隊ほど
大明﹁行くぞ
!
!!
120mmの弾丸は道路に大きな穴をあけ、敵を粉々にしていく。
そう言うと道路上にいる敵騎兵隊に向かってマシンガンを連射した。
!!
﹂
そして白いザクは120mmザクマシンガンを構えると謎の敵軍に向かって撃ち始
え。大明和夫一等陸尉。﹂
伊丹﹁我に⋮この場を譲られたし。貴官は⋮民間人の皇居への⋮避難誘導を行いたま
そして赤いモノアイが点滅し始めた。どうやらモールス信号のようだ。
アンテナがまるで鬼の角のように立っていた。
伊丹の目の前にいるザクは緑色ではなく白く塗られており頭部には一本のブレード
伊丹﹁⋮ザク⋮﹂
第弐話:銀座の三銃士
33
兵士A﹁なんなんだ
あれは
﹂
隊列を乱すな
﹂
所詮は蛮族共でさえ手懐けられ
!!
あのオークを一体でも多く殺せたら、それ相応の扱
!
兵士B﹁あんな巨大なオークがいるなんて報告には無かったぞ
!?
我ら帝国の敵ではない
﹂
!!
!
!!
!
隊長﹁うろたえるな 陣形を整えろ
る程度だ
いを約束するぞ
!!
ず動けなかった。
そして、ゆっくりとその足は下された。
兵士A﹁嫌だ⋮やめろおおぉぉぉぉぉぉぉ
﹂
兵士がダメなら翼竜はどうだ
!!
ワイバーン隊
!!
そんな兵士の断末魔の悲鳴はザクの鋼鉄のブーツによって踏み潰された。
﹂
隊長﹁くそっ 役立たずめ
クに攻撃せよ
あのオー
!
!!!!
足元にいる兵士達は急いで逃げようとするが、恐怖で腰が抜け、足にうまく力が入ら
するとザクの足が上へと上がっていく。
絶望を目の当たりにした兵士達は顔を真っ青にしてザクを見上げる。
兵士A﹁そ⋮そんな⋮﹂
だが、最新鋭の強化装甲によって全て弾かれ、刃は粉々になる。
隊長のその言葉を聞いた周りの兵士達は一斉に剣や槍をザクの足に突き刺した。
!!!
!!
!!
第弐話:銀座の三銃士
34
35
害鳥が
﹂
ワイバーンに乗った敵兵が槍などを投げて応戦するが、ザクにはかすり傷にもならな
い。
大明﹁邪魔なんだよ
!!
ゴースト、右側にまわり込め
逃げるな
戦え
!!
﹂
﹂
誇りを忘れ
!
にげろおぉぉぉ
それでも帝国軍の端くれか
!!
!!
逃走へと変わる。
お前ら
!
兵士B﹁無理だ⋮あんなのに勝てるわけがない
﹂
隊長﹁お、おい
たのか
!!!
その光景を見て兵士達は次第に後ずさりを始めるが、一人の兵士の声によってそれは
!
していく。
﹂
大明﹁もっと距離を詰める
鷹﹁分かった
!!
大明はザクの白き巨大な手でワイバーンを次々と地面へ叩き落とし、敵の赤い血で汚
!!
徐々に距離を詰めていくザク。
!!
!
叩きこむ。
大明﹁逃がすと思うか
ゴキブリ共
﹂
!!!
すると門のすぐ横の道から鷹の乗ったザクが飛び出してきて進路を塞いだ。
!!!
勝てないと察したのか門へと引き返していく敵兵達に、大明は容赦なくマシンガンを
!!
第弐話:銀座の三銃士
36
﹂
﹂
隊長﹁何故だ⋮無敵であるはずの我ら帝国が、何故こんなにも無様に負けているのだ
⋮何故だ⋮何故⋮﹂
鷹﹁このまま挟み撃ちだ
なんて呼ばれるようになった。
こうして伊丹耀司、大明和夫、鷹 橋谷の三人は昇進し、銀座の英雄、銀座の三銃士
谷殿。それでは表彰の授与を行います。﹂
でMSを操作し、国民をかばい戦いました。一等陸尉、大明和夫殿。三等陸佐、鷹 橋
ての誇りであります。三等陸尉、伊丹耀司殿。そして、この銀座事件で巧みな操縦技術
くの国民を救いました。銀座の英雄、二重橋の英雄と呼ばれた彼の活躍は日本国民すべ
防衛省大臣﹁今回、このような事態に際して彼は避難誘導と救命活動に奔走し、数多
数日後
そして大明のザクマシンガンの最後の弾丸によって帝国軍は敗北した。
﹂
!!!!!!!!
!!
隊長﹁何故だああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
大明﹁食らいやがれ
!!!!!
37
なっちゃったんだ⋮
それからというものの新聞や雑誌では一面大見出し記事、テレビでも特番で取り上げ
られ、一時期は有名人となった三人。
その中でも伊丹は・・・困っていた。
周りの仲間から面白半分冗談半分でからかわれていたからだ。
それからまた数日後
自衛隊本部から新しい戦闘服が支給された。
それがどういう事を意味するのかすぐに分かった。
門の向こう、通称﹃特別地域﹄略して﹃特地﹄に自衛隊を派遣することが決定したの
だ。
それに伴い、MSを1個連隊分戦力として投入する事も決定した。
そして3か月後、門の向こうに送り込む先行部隊が銀座に集結していた。
銀座事件で亡くなった人の遺族が周りにいる中、新しく就任した総理大臣、本位慎三
がこれから特地に向かう自衛官に演説を行った。
本位﹁北条前首相、そして各党の皆様の尽力によってこの法案が可決し、そしてつい
に諸君らを特地に派遣する運びとなりました。派遣部隊の諸君、諸君らの任務は誠に重
大であります。﹂
1ヶ月前から先行部隊が何度も入ってはいるが、特地で
演説が終わると次は今回の特地派遣部隊の指揮官である狭間陸将の演説が始まった。
狭間﹁指揮官の狭間である
MSパイロット﹁MS確認動作用意、始め
さ。﹂
大明﹁はっはっは
﹂
門の向
いいじゃねぇか、どうせ奴らにはかすり傷さえつけられはしない
鷹﹁おい、新人。少し口調が軽いぞ。これから戦場に行くっていうのに⋮﹂
鷲谷﹁各関節動作確認良しっと⋮ブースター噴出機能正常っと⋮﹂
鷹﹁モノアイ起動⋮カメラ動作確認良し。﹂
大明﹁レーダー稼働⋮グリーン。問題無し。﹂
!
!!
それに門の向こうにはMSをも超える敵がいるか
しれないという心構えでいてくれ
細心の注意を払って任務に当たってくれたまえ
MSパイロット諸君
もしれない
まもなく突入だ
!!
!
全員が敬礼を行った後、素早い行動で装甲車や戦車、MSに乗り込んだ。
以上だ
﹂
!
何が起きるかなど誰も分からない。したがって門を越えた瞬間から戦闘が始まるかも
!
!
!!
!
鷹﹁甘いんだよ、お前は。さっきの狭間司令官が言ったのをもう忘れたのか
?
第弐話:銀座の三銃士
38
39
こうには我々のMSを上回る敵がいるかもしれないんだぞ
﹂
大明﹁はっは、だったらなぜ銀座に攻め入った時にそれを使わなかった
自衛官﹁突入
﹂
それに、奴
らの装備は見る限り、俺たちを倒す事なんて出来やしないよ。よし、そろそろ行くぞ。﹂
?
!?
大明﹁敵影確認
﹂
すると目の前に火の光がいくつも見えた。
鷲谷﹁すげぇ広い・・・﹂
ようやく外に出た。目の前には広大な野原が広がっていた。
鷲谷のそんな愚痴を聞きながら五分ほど進むと目の前が徐々に明るくなっていく。
鷲谷﹁暗いっすね・・・なんだか不気味です。﹂
門の中は薄暗くライトが無ければ一寸先も見えない状況だ。
立膝をついた状態のザクが一斉に動き出し、戦車と一緒に門の中へと入っていった。
!!
二つの世界をつないだものを人はこう呼んだ
これはある世界とつながったもう一つの世界の物語
その声に反応し、装甲車から続々と武装した自衛官が飛び出し隊列を組んでいく。
!!
第弐話:銀座の三銃士
﹃GATE﹄と⋮
40
お教え頂きたい。﹂
?
皇帝陛下はこの国をどのようにお導きになるおつもり
?
痛ましい事である。だが我が帝国は
?
ぬな
﹂
まさか他国の軍勢が帝都を攻撃するなど⋮裁判ごっこに明け暮れようとする者はおら
展を成し遂げてきた。戦争に百戦百勝はありえない。ゆえに此度の戦いの追及はせん。
危機に遭遇するたびに皇帝元老院、そして国民が心を一つにして立ち向かい、更なる発
進軍してくるのではないかと不安なのであろう
いた軍事的な優位が失せた事も確かだ。帝国に服している諸国が反旗を翻し、帝都まで
モルト﹁ガーゼル侯爵、貴殿の心中は察するものである。此度の損害で帝国が有して
スを除いて。
王座に深々と座る一人の男、皇帝陛下と呼ばれるその男、モルト・ソル・アウグスタ
ガーゼル侯爵の耳が痛くなるような質問に周りの議員たちはざわめきたてる。
か
かなる対策をお考えですかな
ガーゼル﹁大失態でしたな皇帝陛下、帝国の保有する総戦力のなんと6割を損失。い
自衛隊がアルヌスの丘にたどり着いたその日、帝都では緊急の会議が行われていた。
第参話:帝国軍進撃
41
?
送り込んだ軍はわずか2日で壊滅してしまった。
モルト皇帝の冗談混じりの一言に周りの議員が少し笑う。
だがガーゼル侯爵は不服だった。
ガーゼル﹁自分の責任を不問に⋮﹂
ゴダセン﹁しかしいかがなされる
無論我らも丘を奪還
それにあの緑の巨人、我々の攻撃
だがアルヌスの丘が点滅したと思った次の瞬間、周りが吹き飛んだ
しかも門は奪われ、敵はこちらに陣を築こうとしているのですぞ
あんな魔術わしは見たことも御座いません
せんと迫りました
のです
!
?
﹂
﹂
﹂
枢密院議員A﹁なら戦えばよいのだ 兵が足りなければ属国から集めればよい
て、再び門の向こうに攻め込むのだ
﹂
﹂
元老院議員B﹁ゴダセン議員の二の前になるぞ
元老院議員A﹁力ずくで戦ってどうする
!!
元老院議員C﹁脳筋突撃馬鹿は黙ってろ
枢密院委員A﹁何だと貴様
!!
!!
!!
!!
﹂
そし
!!
!!
逃げ帰ってきた兵士たちは悪魔の化身、地獄からの使者などと怯えております
はすべてはじかれ、更には謎の鉄の杖を振り回し、兵たちを次々と殺していくのです
!!
!
﹂
枢密院委員B﹁お前らは何もしないで、謎の敵軍にこのままアルヌスの丘が占領され
!!
!!
!
続けるのを黙って指をくわえながら見ていろとでも言うのか
!!
第参話:帝国軍進撃
42
周りからはヤジが飛び交い、周りは騒然となる。
するとモルト皇帝が手を挙げた。
それを合図に先ほどのヤジがぴたりと止まった。
モルト﹁事態を座視することは余は望まん。ならば戦うしかあるまい。属国や周辺諸
大陸侵略を狙う異世界の賊徒を撃退するために援軍を求めると
!!
﹂﹂﹂
一斉に歓声が巻き起こり、モルト皇帝に忠誠を誓う声が響き渡った。
ガーゼル侯爵﹁皇帝陛下、アルヌスの丘は人馬の骸で埋まりましょうぞ
モルト皇帝はニヤリと不気味に笑った。
﹂
我らは連合諸王国軍ゴドゥ・リノ・グワバンを糾合し、アルヌスの丘へと攻め入る
国に使節を派遣せよ
な
﹂
!!
﹁﹁﹁モルト陛下に忠誠を
!!!
ランは続々と合流する諸王国軍の隊列を見ていた。
デュラン﹁連合諸王国軍か⋮﹂
?
そこに顔馴染みでもあるリィグゥ公が話しかける。
リィグゥ公﹁さて、デュラン殿。どのように攻め込みますかな
アルヌスに先発した
そしてアルヌスの丘奪還作戦当日、小高い丘に佇む一人の男、エルベ藩王国国王デュ
すぐさまこの情報は周辺諸国の軍に伝わり、連合諸王国軍が結成された。
!
!!
43
第参話:帝国軍進撃
44
帝国軍の情報によると異世界の兵達は穴や溝を掘って籠もっている様子だ。これほど
の軍をもってすれば鎧袖一触、戦いにもなりますまい。これほどの人数を相手にする敵
が哀れで仕方ない。﹂
﹂
それなら帝国が保有する軍だけで事足りるはず⋮﹂
デュラン﹁そうですな⋮だがそれほどの敵ならばなぜモルト皇帝は連合諸王国軍を呼
集したのか
リィグゥ公﹁我々に手柄を立てさせてくれるのでは
その様子は見張りの自衛官からもハッキリと見えていた。
早朝、諸王国軍は自衛隊の陣地があるアルヌスへと進撃を開始した。
だが次の日⋮彼らは予想すらつかぬ結果を知る事となった。
いや、もはや勝つ事しか考えていなかった。
リィグゥ公をはじめとしたそこにいる者達は、勝てると信じていた。
オーガー程度でしょう、我らの敵ではありません。﹂
ぞ。どうやら敵には巨大な緑色の巨人がいるそうだが、せいぜいオークかジャイアント
二十一ヵ国総勢合わせて三十万を号する我らが合流すれば、自ずと勝敗は決しましょう
リィグゥ公﹁ハハッ、貴公も歳に似合わず神経が細かい事だ。敵はせいぜい一万ほど。
ぞ。﹂
デュラン﹁それなら有難いのだがな。リィグゥ公殿、戦いに油断や慢心は禁物です
?
?
45
自衛官A﹁⋮ん
あ、あれは⋮敵襲
総員戦闘配置
!!
﹂
!!
MS│06K ﹃ザクキャノン﹄である。
バンカーから肩に巨大な砲を積んだMSが出てきた。
自衛官A﹁MS│06Kによる長距離砲撃支援、用意
﹂
に、MSパイロット達はMSに乗り込んで準備を開始した。
戦闘配置という掛け声とともに大勢の自衛官が64式を準備し、戦車乗員は74式
?
﹂
前衛のアルグナ王国軍、モゥドワン王国軍、続いてリィグゥ公国軍、ア
﹂
騎士兵﹁そ⋮それが、帝国軍の姿は一兵もおりません
デュラン﹁うむ。それで、帝国軍と合流は出来たのか
ルヌスへの前進を開始しました
騎士兵﹁報告
すると伝令の騎士兵が駆け足でデュランの前までやってきて、報告を行った。
の報告を今か今かと待ちわびていた。
自衛隊が着々と迎撃準備を行っているとも知らない連合諸王国軍は、帝国軍との合流
して固定砲台にする事も可能となっている。
自走砲に比べ、地形を気にせずに砲撃支援が出来ることのほかに、胴体部分を切り離
る。
このMSは長距離攻撃に特化しており、主に砲撃による長距離支援を得意としてい
!!
﹂
!! ?
!
!
第参話:帝国軍進撃
46
デュラン﹁なに
﹂
後衛も残していないのか
そして次の瞬間⋮
パイロット﹁砲撃開始
﹂
!!
デュラン﹁なっ、何事だ
アルヌスが噴火したのか
﹂
!?
見えた。
?
ているのだ
﹂
な力と恐怖、そして何事も近づけさせないような強固な身体⋮⋮我々は⋮一体何と戦っ
デュラン﹁な、何だあの巨人は⋮エムロイの神官だとでも言うのか
一方的で圧倒的
デュランの目には砂色の巨人が肩に担いだ砲を味方に向かって撃ち続けているのが
!?
そこには巨大な爆発に次々と飲み込まれる兵士たちの姿があった。
今まで聞いた事のないような爆発音に、デュラン達は何事かとアルヌスへと向かう。
が出来上がっていた。
155mm砲弾は巨大な爆発を生み出し、砲弾が落ちた中心部には大きなクレーター
そのまま敵軍の中心部へと落ちていった。
ザクキャノンの155mm榴弾砲から砲弾が発射され、弧を描く。
!!
!
次のはワイバーン部隊を大幅に増やした航空戦力主力の部隊だ。
だがしばらく経つと連合諸王国軍は二度目の攻勢に打って出た。
!?
47
﹂
自衛官A﹁敵上空に敵翼竜部隊を多数確認
闘用意
MST│05V対空戦闘用戦車、対空戦
!
されて死んでいった。
地上の歩兵や怪異達は落ちてきた翼竜やその搭乗者に驚き、運の悪いものは下敷きに
けられて血肉を土に滲み込ませるかの二択を強制的に選ばされた。
その相棒を駆っていた者は相棒と同じ最期を迎えるか、翼竜から落ちて地面に叩きつ
バーン部隊に襲い掛かり、大量の破片が翼竜の身を切り裂いていく。
ザクタンクの給弾が終わった次の瞬間、バルカン砲からおびただしい量の弾がワイ
その時だった⋮
あともう少しでこの槍をあの巨人共の目に突き刺すことが出来る。そう思っていた
うな気がしていた。
第一陣をいとも簡単に大勢屠り、その赤く光る眼で心も何もかも見透かされているよ
まなこ
翼竜の搭乗者は目の前にいるザクタンクを恐れていた。
した。
その様子を見てワイバーン部隊が一斉に槍を構え、ザクタンクに向かって突撃を敢行
関砲に給弾を行う。
MST│05V 通称﹃ザクタンク﹄対空戦闘特化改修車が4問の巨大なバルカン機
!
第参話:帝国軍進撃
48
その夜、残った者達との、おそらく最後になるであろう会議が行われていた。
﹂
王A﹁十万を超えた諸王国軍はすでに半数が存在せぬ⋮なぜこのような事態に⋮﹂
王B﹁帝国軍はどこで何をしておるのか
王A﹁しかし、デュラン殿
我々の力では⋮﹂
デュラン﹁このまま逃げて帰るわけにはいかん⋮せめて一矢報いてやらねば⋮﹂
王C﹁いや、帝国軍とてかなう相手では無い。ここはもう引くしかないのでは⋮﹂
!?
だが自衛隊はそんな彼らを見過ごさなかった。
辺りは暗く、月の明かりも無い、これならあの異界の敵を葬り去れる。
そしてデュランは残った兵力を総動員し、アルヌスへと向かった。
れば気づかれることなく、敵陣へ迫れるはず⋮﹂
デュラン﹁⋮夜襲ならあるいは⋮今夜は新月⋮この闇夜に乗じ、丘の裏手から仕掛け
!
地面が三分に敵が七分だ
戦闘配置
総員戦闘配置
!
三度目だぜ、今度は夜襲か
!!
﹂
自衛官A﹁ニッフィー3、ニッフィー3、敵を視認。地面が三分に敵が七分、繰り返
す
自衛官B﹁またか、くそ
!
!
﹂
! !!
49
急げ急げ急げ
自衛官C﹁DVD途中なのに⋮﹂
自衛官A﹁つべこべ言うな
﹂
!!!
﹂
この明るさ
自衛隊員﹁照明弾、てぇ
デュラン﹁なんと
﹂
先ほどまで暗かった野原がいきなり明るくなる。
!
走れ
!!
危機を察したのか、デュランが馬を走らせた。
人は走れ
﹂
!!
!!
馬は駆けよ
﹂
デュラン﹁全軍突撃
自衛隊員﹁撃てぇ
﹂
走れ走れ
一部のザクがマシンガンの銃口にM│120専用特殊照明弾頭を取り付けている。
ザクもM│120A1マシンガンやザクバズーカに弾を装填していく。
文句を言いながらも自衛隊員は64式やM249軽機関銃を準備する。
!
デュラン﹁止まるな
走れ
続け
﹂
!!!
デュランは爆発を振り切り、少しでも敵の陣地へと向かって駆け出していく。
!
それらがデュランの後方で爆発を生み出していく。
き、光の矢となって敵に飛んでいく。
64式、M249、74式、そしてザクの持つ120mmマシンガンが一斉に火を噴
MSパイロット﹁撃てぇ
!!
!
!
!
!!
!!
!!
第参話:帝国軍進撃
50
今お助けいたします
﹂
だが馬が鉄柵に引っかかり、デュランは馬から投げ出されてしまった。
兵士A﹁デュラン様
﹂
!!
デュラン﹁逃げろ
皆逃げるんだ
﹂
!!
!!
奪っていく。
デュラン﹁おのれ⋮
﹂
弓を拾い上げたデュランは矢を一本を放ったが、全くの無意味だった。
﹂
デ ュ ラ ン﹁な ぜ だ ⋮ な ぜ、こ ん な こ と に ⋮ ふ ふ ⋮ ふ ふ ふ は は は っ は は っ は は
あーーーはっはっはっはっはははは
だって事か⋮どんな国か知らねーけど、もう末期症状じゃねぇのかな
﹂
伊丹﹁しっかし⋮銀座と併せて約十二万か⋮ちょっとした地方都市一個分の人が死ん
次の日、辺りには兵士や翼竜の死体が大量に転がっていた。
狂ったように笑い出したデュランは爆発によって吹き飛ばされた。
!!
!!
だがそんな命令もむなしく、目の前から飛んでくる光の矢が部下や仲間たちの命を
!
助け出されたデュランは仲間に撤退命令を出した。
兵士B﹁盾を前へ
!!
!!
?
51
諸王国軍のほぼ全滅という報告を受けたモルト皇帝は安心したような表情を浮かべ
た。
モルト﹁これで近隣諸国が我が帝国を脅かす不安は消滅した。アルヌスより帝都に至
る町・村を焼き払い、井戸には毒を投げ入れ、食料・家畜は運び出せ。さすればいかな
る軍とて立ち往生し、付け入るスキは現れぬであろう。﹂
﹂
マルクス﹁焦土作戦ですか⋮税収の低下と内部の離反が心配です。﹂
モルト﹁離反とは
!
﹁陛下
﹂
﹂
すると扉が開く重々しい音が部屋に鳴り響いた。
せておくがよかろう。﹂
モルト﹁ふっふっはっは 一網打尽に元老院を整理する良い機会だ。枢密院に調べさ
す。﹂
マルクス﹁カーゼル侯が中心となり、元老院で陛下の罷免を企てる動きが見られま
?
ピニャ﹁無論、アルヌスの事です。連合諸王国軍が無残に敗走し、帝国の聖地たるア
若々しい女性の声、モルト皇帝の実の娘、ピニャ・コ・ラーダだ。
?
!!
モルト﹁わが娘よ、何用だ
???
第参話:帝国軍進撃
52
﹂
ルヌスの丘に敵軍が居座っていると聞きました。この事態に陛下は何をなされている
のですか
ピニャ﹁悠長な
それでは敵の侵入を防ぐ事は出来ぬ
﹂﹂
!!
らえぬか
﹂
ピニャ﹁わらわが
我が騎士団と共に
﹂
?
この後ピニャが思いもよらぬ助けを受けるとは誰も思わなかった。
ピニャ﹁・・・確かに、承りました。﹂
モルト皇帝の馬鹿にした態度にピニャは顔を赤らめた。
モルト﹁そうだ、もしそなたのしている事が兵隊ごっこで無ければ、の話だがな。﹂
?
敵兵についてあまりにもよく知らぬ。丁度良い、そなたの騎士団と共に偵察に行っても
モルト﹁ピニャよ、そなたの言葉のとおりだ。だが我らはアルヌスの丘にたむろする
!!
マルクス﹁我々はこの期間に兵を集め、必ずや丘を││﹂
!?
?
君が行くんだ
﹂
それがいいかもしれませんね。﹂
檜垣﹁それがいいかもじゃない
﹂
友好的な関係を結んできたまえ。﹂
める。
伊丹耀司二等陸尉、第三偵察隊の指揮を命ずる
そういうと頭を掻きながらテントを出ようとする伊丹。すると檜垣がそれを一旦止
!
伊丹﹁はぁ⋮まぁ、そういうことなら。﹂
檜垣﹁よろしい
!
伊丹﹁はぁ⋮分かりました。﹂
﹂
の任務はそのうちの一つの指揮だ。担当地域の住民と接触して民情を把握、可能ならば
檜垣﹁そんな事言うわけないだろう⋮⋮まずは六個の深部情報偵察隊を編成する。君
?
!
?
伊丹﹁⋮まさか一人で行けと
!!
伊丹﹁調査ですか
教や政治形態の調査が必要だという結論に達したわけだ。﹂
檜垣﹁⋮というわけで、今後の方針を決めるためにも、我々はこの地の人間、産業、宗
仮設のテントの中で檜垣三佐が伊丹に今後の行動予定についての話をしていた。
第四話:第3偵察隊
53
檜垣﹁あぁ、それと1部隊につき、一体の偵察用MSとそのパイロットを部隊に編成
しておいてあるから上手く扱え。﹂
そしてテントから出て装備を整え、自分が隊長を担当する第三偵察隊の集合場所へと
向かう。
第三偵察隊、集合しました
﹂
そこにはもうすで十二名の隊員が整列していた。
桑原﹁集まれ
!
発しよっか。﹂
栗林﹁この人大丈夫なの
﹂
偵察MSのパイロットって。﹂
栗林の不安の一言は今の彼には届かなかった。
?
?
鷲谷二等陸尉です。﹂
伊丹﹁えーっと⋮確か君だよね
こ
伊丹﹁あの日新橋でゆりかもめに乗り損ねたばっかりに、気づけば隊長か⋮じゃあ出
士長、黒川二等陸曹、そして鷲谷二等陸尉の姿があった。
陸士長、勝本三等陸曹、東陸士長、栗林二等陸曹、仁科一等陸曹、笹川陸士長、古田陸
伊丹がおやっさんと呼んだ桑原陸曹長のほかに、倉田三等陸曹、富田二等陸曹、戸塚
伊丹﹁おやっさん、あ、えっと⋮⋮第3偵察隊の隊長になった伊丹です。﹂
!
鷲谷﹁あ、ハイ
!
伊丹﹁じゃあ同じ階級だからため口でいいよ。俺も敬語とか慣れないから。んで
?
第四話:第3偵察隊
54
55
﹂
あまり見た目は旧ザクと変わってないけど⋮⋮﹂
﹂
でも内部はかなり改良されてるんですよ
?
れが例の偵察用MS
鷲谷﹁そう見えるでしょ
伊丹﹁何が改良されてんだ
?
伊丹﹁ふーん、で
武装は
﹂
﹂
そして次の村、また次の村へと移動し情報をかき集めた。
た。
最初は警戒こそされたものの敵意が無いとわかると積極的に話を進めることが出来
そこで村長から近くの村の情報などをもらった。
まず最初に向かったのはコダ村と呼ばれる小さな集落。
MS│05BザクⅠ偵察仕様機一体となっている。
六個深部偵察隊の編成は軽装甲機動車一両、高機動車一両、七三式小型トラック一両、
そして鷲谷は意気揚々とMSに乗り込んだ。
鷲谷﹁頑張ります
伊丹﹁これなら大抵の攻撃は何とかなるだろう。じゃ、情報収集よろしく。﹂
鷲谷﹁105mm旧ザクマシンガンが一丁と予備弾薬が一つ。﹂
?
れているわけですよ。﹂
鷲谷﹁カメラのズーム倍率や通信範囲、熱源レーダー索敵範囲、装甲板の強化等々さ
?
?
?
!
第四話:第3偵察隊
56
道中は敵の攻撃も無く穏やかに移動した。
伊丹﹁空が蒼いねぇ。流石は異世界。﹂
空を見上げ、のんきな事を言う伊丹に反して倉田は落ち込んでいた。
倉田﹁こんな風景なら北海道にだってありますよ。俺はドラゴンがいたり妖精が飛び
﹂
交っているようなファンタジーな光景を想像していたのにこれまで通ってきた集落に
﹂
?
?
いたのは人間ばっかりだし。なんかガックリっす。﹂
﹂
﹂
伊丹﹁異世界ってだけでも十分ファンタジーだろ。そんなに猫耳娘がいいのか
お前俺の嫁悪く言うと怒るよ
マジで
倉田﹁俺も俺も。じゃあ一緒に歌いましょうよ。﹂
伊丹﹁え
﹂
倉田﹁別に猫娘でも、妖艶な魔女とかでも。って隊長の好みって何ですか
﹂
鷲谷﹁あ、それ俺も思った。﹂
﹂
伊丹﹁俺は⋮魔法少女かな
倉田﹁まじっすか
伊丹﹁ん
倉田﹁へぇ∼そこっすか∼⋮⋮﹂
伊丹﹁メイコンのエミュが、デヘヘ⋮﹂
?
鷲谷﹁あ、でも俺メイコンのOP歌えますよ
?
!?
!!
?
?
!?
57
伊丹﹁お
いいねぇ
﹂
!!
その歌を聞いていた栗林が呆れていった。
栗林﹁何よこれ⋮﹂
そうこうしているうちに日は少し沈み夕方になっていた。
すると桑原が妙な質問をした。
?
﹂
最悪、こっちに投棄して退却って可能性まであるし。﹂
桑原﹁けど、なんで持ち込んだ武装はそろって旧式なんですかね
すけど⋮﹂
桑原﹁捨ててもいい武器って事ですか
?
しな。﹂
鷲谷﹁後、本土の防衛が手薄になるのを心配したんじゃないですかね
?
桑原﹁適材適所ですな。おい倉田、この先の小川で右折して川沿いに進め。しばらく
わざ旧式で乗り込んでくるほど馬鹿じゃないですしね。﹂
敵さんもわざ
伊丹﹁それに最新式は電子装備満載だけど、衛星が無いんじゃGPSも役に立たない
?
伊丹﹁予算じゃないかな
車両は一応現役で
インカムが入っている事に気がついてない三人は楽しそうに歌った。
三人﹁今っすぐ♬メイコン♪メイコン♪ゥワフワフ♬♪﹂
そう言うと男三人でアニメのOPを歌い始めた。
!
行ったらコダ村の村長が言ってた森が見えてくるはずだ。﹂
倉田﹁了解。﹂
すると川が見えてきた。
伊丹﹁お、言った通りの川だ。頼りにしてるよ、おやっさん。﹂
﹂
それに、集
桑原﹁頼られついでに意見具申します、伊丹隊長。森の手前でいったん野営しましょ
う。﹂
伊丹﹁賛成。﹂
倉田﹁一気に乗り込まないんですか
伊丹﹁今入ったら何がいるか分からない森の中で夜になっちゃうでしょ
こ
ん
ち
は、
ご
き
げ
ん
い
か
が
﹂
﹄へへへっ⋮⋮ってあれ
﹂
こ の 任 務 は 友 好 的 な 関 係 を 結 ぶ の が 目 的 だ か ら ね。
に
サヴァール ハル ウグルゥー
倉田﹁棒読みっすねぇ。駅前留学通った方が﹃うるせぇ
﹂
?
よ
落があるとしたら、住んでる人を脅かす事にもなるし⋮俺たち国民に愛される自衛隊だ
?
?
伊丹が特地の言葉の翻訳本を倉田に投げつけた。
話を逸らすな⋮ん
﹂
!?
すると倉田が何かに気づいた。
伊丹﹁こら
!
!
?
?
桑原﹁あれは
!
第四話:第3偵察隊
58
59
﹂
彼らの目の前に移ったもの、それは巨大な黒い煙だった。
伊丹﹁火事
倉田﹁燃えてますね。﹂
?
伊丹﹁あれま
﹂
双眼鏡をのぞき込むとそこには⋮⋮
桑原﹁というより、怪獣映画です。﹂そういって桑原は伊丹に双眼鏡を渡した。
伊丹﹁盛大にな。大自然の驚異
﹂
近くに行ってみると、森が赤く燃えていた。
!?
﹂
?
栗林﹁伊丹隊長、これからどうしますか
﹂
?
?
伊丹﹁栗林ちゃーん、おいら一人じゃ怖いからさ、一緒についてきてくれる
﹂
冗談を言って緊張を解そうとしているが全然解れず、むしろ高まっている気がする。
倉田﹁回復薬がいくらあっても足りないよ。﹂
た後、大剣で倒したいとかいうなよ。﹂
鷲谷﹁ありゃエンシェントドラゴンですよ、桑原曹長殿。それと倉田、この光景を見
伊丹﹁おやっさん、古いっすね。﹂
桑原﹁首一本のキングギドラか
一匹の赤い鱗を持つ竜が口から炎を吐いて暴れていた。
!
第四話:第3偵察隊
60
栗林﹁嫌です
﹂
攻撃しますか
伊丹﹁あ、あぁそう。﹂
鷲谷﹁どうします
?
﹂
﹂
?
すか
﹂
伊丹﹁いや、そうじゃなくてね⋮さっきのコダ村で聞いただろう
全員、移動準備
﹂
あるって。おやっさん、野営は後回しかな。﹂
桑原﹁了解です
!!
あの森には集落が
栗林﹁ドラゴンの習性に関心がおありでしたら、隊長自身が追いかけてみてはどうで
ドラゴンさぁ、何も無いただの森を焼き討つ習性ってあると思う
伊丹﹁今はまだだ。あの竜の事に関しての情報が少なすぎるからな。それと⋮⋮あの
?
!
れていた。
木は黒く焼け焦げ、煙が辺りを包んでいた。
桑原﹁まだ地面が温かい⋮⋮﹂
MSのサーマルで探せそうか
?
倉田﹁これで生存者がいたら奇跡っすよ。﹂
?
鷲谷﹁無理ですね。残骸にもこんなに余熱が⋮﹂
伊丹﹁どうだ
﹂
そして、全員が森のなかほどに着いた頃には炎がいつの間にか降った雨によって消さ
!
?
?
61
辺りの残骸の下には黒く墨になった腕が天に向かって伸びていた。
倉田﹁あ、隊長⋮あれって⋮﹂
伊丹﹁言うなよ⋮﹂
倉田﹁うぇ⋮吐きそうっす⋮﹂
全員で辺りを調べたが生存者は現れなかった。
伊丹は井戸に座ると水筒の水を一口飲んだ。
栗林﹁隊長、この集落には建物のような構造物が三十二軒。確認した遺体は二十七体
で少なすぎます。大半はがれきの下敷きになったと思われます﹂
伊丹﹁一軒に三人と考えても、百人近い人数が全滅か⋮⋮﹂
栗林﹁酷いものです。﹂
伊丹﹁この世界のドラゴンは集落を襲うことがあるって報告しておかないとな。﹂
栗林﹁GATEの防衛戦で登場した小さなドラゴンでも腹部を12.7mm徹甲弾で
どうにか貫通ということでした。﹂
伊丹﹁ちょっとした装甲車だね。ドラゴンの巣と出没範囲を調べておかないとねっと
⋮⋮﹂
そう言いながら井戸にバケツを放り込んだ伊丹。
するとコーンと不可解な音が聞こえてきた。
第四話:第3偵察隊
62
﹂
急いで井戸の中を調べるとそこには⋮⋮
伊丹﹁人だ⋮人がいるぞ
金髪の美しい女性が水面に浮かんでいた。
!!!
上げてくれ
伊丹﹁鷲谷
!
た。
﹂
伊丹﹁人命救助
一同﹁了解
急げ
﹂
!
﹂
!
﹂
目を開けろ 鷲谷、サーマルで体温を調べてくれ
!
!
救出したエルフを地面に寝かせ、頬を叩いて生存確認を行った。
伊丹﹁おい、大丈夫か
﹂
!!
!?
を拭くものを車から取って来てくれ、急いで
栗林・鷲谷﹁了解
!
栗林、体
おでこはおそらく伊丹が投げ入れたバケツが当たったのだろう、赤く腫れていた。 そのエルフの瞳からは涙が流れているように見えた。
伊丹﹁人ではなく、エルフなんだけど⋮﹂
!
!
鷲谷の旧ザクがゆっくりとロープを上げていくと、伊丹が謎の娘を背負って登ってき
﹂
鷲谷﹁了解
!
伊丹はロープを伝って井戸の中へと降りていく。
第五話:エルフと炎龍とザクと⋮
63
第五話:エルフと炎龍とザクと…
64
栗林は車からタオルを取りに行った。
﹂
鷲谷﹁伊丹隊長、危なかったっすね。あともう少し遅かったら低体温症で死んでいま
したよ。身体のほとんどが青色ですよ。﹂
伊丹﹁分かった。黒川二曹、そっちで診てくれないか
黒川﹁分かりました。﹂
?
伊丹隊長
﹂
﹂
緊迫した状況の中一人、倉田がデジカメで救出したエルフを撮影していた。
倉田﹁エルフっすよ
伊丹﹁そうだねぇ、何だ倉田、お前エルフ萌えか
!!
絶対
﹂
伊丹﹁そーねー、いたらいいね⋮﹂
?
見せ物じゃない
﹂
特に倉田
﹂
それにしてもエルフっすよ、しかも金髪の 流石特地ですね
希望が
倉田﹁自分はケモノ娘一筋ですが エルフがいるんならケモノ娘もいるはずっスよね
?
!
興奮する倉田に伊丹は引いていた。
栗林﹁あっち行く
!
栗林の怒号に周りにいた隊員が波のように引いていった。
倉田﹁かぁ∼
!!
見えてきたぁーー
!!
!!!
!!
倉田はいまだに興奮していた。
!!
!!
!!
!
65
するとそこへ黒川が走ってきた。
あの子。﹂
黒川﹁失礼します。﹂
伊丹﹁どう
黒川﹁それでこれからどうしましょう
﹂
?
﹂
黒川﹁さぁ、どうでしょうか 二尉が特殊な趣味をお持ちだとか、あの子がエルフだ
伊丹がニコニコと笑いながら黒川に話すが彼女は笑いながら答えた。
伊丹﹁僕人道的でしょ
黒川﹁隊長ならばそう言ってくれると思っていましたわ。﹂
いう事にして連れ帰りましょ。﹂
伊丹﹁そうねぇ⋮集落は全滅しているし⋮ほっとくわけにはいかないでしょ。保護と
?
伊丹﹁そりゃよかった。﹂
黒川﹁体温が回復してきています。命の危険は脱しました。﹂
?
伊丹﹁これよりコダ村経由でアルヌス駐屯地に帰還します。﹂
エルフの娘と全員が車に乗ったのを確認し、コダ村に向けて移動を始めた。
倉田・伊丹﹁あ、あははははは⋮﹂
彼女は笑っていたが男二人の笑顔は引きつっていた。
からとかいろいろと理由を申し上げては失礼になるかと。﹂
?
第五話:エルフと炎龍とザクと…
66
倉田﹁隊長⋮猫耳娘の前にドラゴンが来たら嫌ですね⋮﹂
伊丹﹁言うなよ⋮本当になったらお前のせいだからな。﹂
だが倉田のフラグ回収は起きず、無事にコダ村へと到着した。
到着早々、村長に謎のドラゴンの情報を片言ながらなんとか伝えた。
この謎のドラゴンは炎龍と呼ばれる存在らしく、人々からは恐れられていた。
炎龍は一度村や集落を襲うと人の味を覚え、また次の村などを襲うらしい。
コダ村の住民が急いで持てるだけの荷物を馬車に積み込み始めた。
どうやらこの村を捨てて、安全な場所まで逃げるようだ。
同時刻││コダ村のはずれ
小さな家に住む魔導士のカトー・エル・アルテスタンは弟子のレレイ・ラ・レレーナ
と一緒に馬車で移動しようと荷造りをしていた。
﹂
すると村の近くで巨大な人影が動いているのが見えた。
﹂
カトー﹁なんじゃ、あれは
レレイ﹁巨大な⋮人
?
村へ到着するとどうやら車軸が折れた馬車が道を塞いでいて皆立ち往生していた。
荷造りが終わり馬車で村へと向かっていく。
カトー﹁巨人じゃな⋮緑色の⋮﹂
?
67
﹂
カトー﹁はぁ∼これまた大きいのぉ⋮なんだか不気味じゃ⋮﹂
い、今こっちを見おったぞ、レレイ
すると自分たちの方に巨人の赤い目が向いた。
カトー﹁ひぃ
!!
﹂
?
ちょ、ちょっと
レレイ
!
!!
レレイ﹁お師匠、様子を見てくる。﹂
カトー﹁え
﹂
カトー﹁聞いた事のない言葉じゃの。兵士か
女もおるのか。﹂
着て、あちこちを動き回っている人を発見した。
すると自分たちの聞いた事が無い言葉をしゃべり、見たことも無いような緑色の服を
見たことが無い⋮新しい種族
レレイ﹁赤い一つ目の緑色の巨人⋮私は今までこのような種族がいるなんて書物でも
!!
?
暴れ馬の前足がレレイを襲おうとした次の瞬間⋮
すると先ほどまでもだえ苦しんで倒れていた馬が突然起き上がり、暴れ出した。
レレイ﹁医術者⋮﹂
すると少女を緑の服を着た女性が脈拍などを計っている。
レレイ﹁危険な状態⋮﹂
少女の隣では馬が苦しそうに暴れていた。
カトーの声を無視して先に進むと数名が地面に倒れていた。
?
第五話:エルフと炎龍とザクと…
68
目の前の暴れ馬が消えた。
土埃が起こり、先ほどの馬はどこかなのかと右に目をやるとそこには無残な肉塊に
なった馬らしきものが家の壁に埋まっていた。
﹂
更に左に目をやると、先ほどからこちらを見ていた謎の巨人の持つ武器らしきものが
こちらに向けられていた。
レレイ﹁あの巨人が⋮私を助けた
伊丹﹁鷲谷⋮今の良く当てたな
﹂
だが意外な言葉が鷲谷の耳に入った。
当然怒られると思った。
すると通信機から伊丹の声が聞こえてきた。
そう考えただけで鷲谷の背中を悪寒が走った。
それも目も当てられないような姿で⋮
なく少女が死んでいた。
先ほど少女が襲われていたのでつい助けたが、すこしでも銃口がずれていたら馬では
鷲谷﹁⋮つい反射的に撃っちゃったけど⋮当たってなくて良かった∼⋮﹂
その謎の巨人⋮旧ザクのコックピットにいる鷲谷は硬直していた。
?
鷲谷﹁とっさのまぐれですよ⋮正直自分でも信じられないくらいっすよ。すこしでも
!
69
﹂
ずれてたらみんなの方へ飛んでいましたからね⋮すみません。﹂
伊丹﹁いやいや、謝んないでよ。正直凄いよアンタ
鷲谷﹁ありがとうございます⋮ふぅ。﹂
しばらくすると⋮
住民たちを手助けしつつ、安全が確認できる所まで逃げていく。
敵のテリトリーのため応援を呼ぶ事も出来ない状況の中、伊丹たちは何とかコダ村の
ぎで車軸が折れたり、逃避行は困難を極めた。
だが道はこの前の雨でぬかるんでおり、そのせいで車輪が埋まったり、荷物の詰め過
その後皆の移動準備が整い、ようやく移動することができた。
!!
等身大の球体関節人形か
﹂
こ
空を無数のカラスが飛び回り、自身の身長の倍以上はあろう巨大なハルバードを持っ
﹂
たゴスロリ少女が道の真ん中で座っていた。
うわぉ
!?
伊丹﹁ゴスロリ少女
倉田﹁えっ
!! !?
きて。﹂
話し通じてる
﹂
?
勝本﹁了解﹂
伊丹﹁⋮⋮⋮あれ
?
伊丹﹁あー勝本、古田。もしかしたら銀座で連れ去られた娘かもしれない、様子見て
!?
鷲谷﹁なんだか家出した未成年者に職質している新人警官みたいっスねw﹂
﹂
﹂
﹂
?
車列が前で止まると、ゴスロリ少女が起き上がり口を開いた。
﹂
謎の少女﹁ねぇ、貴方たちはどこからいらして、どちらへ行かれるのかしらぁ
伊丹﹁え∼っと⋮なんて言った
子供達﹁神官様だ
﹂
謎の少女﹁どこから来たのぉ
みな
子供﹁コダ村からです
老婆﹁村を皆で逃げ出しまして⋮﹂
男性﹁炎龍が出て来て、ここまで来ました。﹂
謎の少女﹁嫌々連れていかれるってわけじゃないのねぇ
﹂
すると車の中にいた子供たちが飛び出して口々にこう言った。
黒川﹁見た目は子供のようですが⋮﹂
倉田﹁さぁ⋮分かんねぇっス⋮﹂
?
優しいし、悪い巨人さんじゃないよ。﹂
謎の少女﹁それにしても⋮随分と変わった格好ねぇ⋮この巨人さんは⋮﹂
しれない。
子供や大人たちが手を合わせたりしている所を見ると何やら宗教的な存在なのかも
?
!
?
!!
子供﹁でも色々助けてくれるんだ
!
第五話:エルフと炎龍とザクと…
70
71
謎の少女﹁この変な人たちはぁ
﹂
﹂
子供﹁この人たちも助けてくれたんだ、いい人たちだよ。﹂
謎の少女﹁これどうやって動いてるのかしらぁ
乗り心地、その言葉に少女が反応する。
子供﹁分かんない、僕が知りたいよ。でも乗り心地は荷車よりずっと良いよ
?
伊丹﹁オイオイ
待て待て
隊長
﹂
﹂
小銃に触るなって
?
﹂
﹂
MSや車の中は冷房器具がつけられていて快適だが、荷車の人達は照らしつける太陽
数キロ歩いただろうか⋮辺りの景色も野原から岩肌が見える丘へと変わった。
そしてその謎の少女も一緒に同行する事となった。
しばらく攻防戦が続いたが、伊丹が窓側半分、少女が車内側半分で決着がついた。
伊丹はグイッと膝を動かして少女をどかせるが、少女も負けじと座りなおす。
!!
⋮ちょっとつめてぇ∼。﹂
謎の少女﹁へぇ∼、乗り心地がいいのぉ 私も感じてみたいわぁ、これの乗り心地♪
!
?
なに持ち込んでんだ
倉田﹁羨ましいっス
伊丹﹁わぁ
子供﹁せまいよ、お姉ちゃん。﹂
!
!!
!
!
そしてなぜか⋮伊丹の膝の上に少女が座る。
!!
!
の日差しで体力が消耗している。
伊丹﹁なぁ、鷲谷。こっちの世界の太陽って日本より暑くないか
鷲谷﹁外気温は日本より少し高いってところですかね。﹂
伊丹﹁どおりで暑いと思ったわけだよ。﹂
伊丹はふと後ろを向いた。
長い列の後ろにはギラギラと太陽が輝いていた。
その太陽の中に鳥のようなものが近づいてくるのが見えた。
こんな開けた場所で
総員戦闘配置
﹂
﹂
あれは⋮⋮炎龍
?
!
すると鷲谷から通信が入った。
﹂
先に自分が行きます
﹂
鷲谷﹁後方に巨大な熱源反応を確認 こちらにまっすぐ来ています
です
伊丹﹁なっ
鷲谷﹁後方の列が襲われそうです
!!
!
!! !!
﹂
!
トカゲ野郎
!
﹂
鷲谷は炎龍に向かって攻撃を行った。
伊丹たちの車は向きを変え、急いで向かった。
伊丹﹁俺たちも向かうぞ
鷲谷は105mm旧ザクマシンガンを構え直すと、後方の列に向かって行った。
!!
!
!!
鷲谷﹁こっちだ
!!
第五話:エルフと炎龍とザクと…
72
73
メリザは目をつぶった。
伊丹﹁鷲谷
状況は
﹂
そこにようやく伊丹たちの先行隊がやってきた。
メリザ﹁巨人⋮さん⋮﹂
﹂
なぜなら家族に覆いかぶさるように鷲谷の乗る旧ザクが火炎を防いでいたからだ。
だが炎龍の火炎は家族には届かなかった。
﹂
トカゲのくせに空なんか飛び回りやがって
﹂
﹂
立つんだ
!
!!
だが炎龍は弾丸を次々と避けていく。
鷲谷﹁クソッ
鷲谷は走って向かった。
急いで
!!
メリザ﹁ダメ⋮もう足が⋮お前たちだけでも逃げて
子供﹁母ちゃん
﹂
その先には多数のコダ村の人たちがいる。
火炎を吐く準備をしている。
すると炎龍の口の中が赤く光り始めた。
!
子供﹁そんなの嫌だ
父﹁メリザ
!!
!
!
そんな家族に向かって炎竜は火炎を吐こうとした。
!
!
!!
第五話:エルフと炎龍とザクと…
74
﹂
鷲谷﹁大丈夫です 1200度のナパームにも耐えられる強化装甲ですよ
カゲ野郎の吐くブレスごときでザクはやられませんよ
﹂
すると炎龍がまた飛ぼうと翼を広げた。
鷲谷﹁飛ばして⋮堪るかってんだよ
﹂
鷲谷﹁これで終わりだ
だが⋮
カチッ
鷲谷﹁あれ
﹂
カチッ、カチカチカチ⋮
た⋮た⋮弾切れです
絶好のチャンスだろ
なぜか弾が発射されない⋮
伊丹﹁どうした、鷲谷
﹂
!!
!!
!
鷲谷﹁え⋮な、なんで⋮あっ
伊丹﹁嘘だろ
﹂
!!
﹂
鷲谷はマシンガンを構え、炎竜の頭に銃口を突きつけた。
旧ザクの手が炎龍の足を掴むと、地面に向かって叩き落とした。
!!
!!
!!
その衝撃でマシンガンを遠くに落としてしまった。
すると炎龍が尾を振り回し、旧ザクを吹っ飛ばした。
!!
!
?
!
こんなト
!?
75
炎龍は伊丹たちに向かって火炎を吐いていた。
だがマシンガンを取りに行っている余裕も無い。
鷲谷は急いで起き上がると炎龍の腕を掴んで動きを封じた。
﹂
﹂
勝本、パンツァーファウスト
﹂
﹂
行進間射撃なんて無
鷲谷﹁伊丹隊長 俺が押さえている間にパンツァーファウストを叩きこんでください
﹂
﹂
さっさと撃て
おっと、後方の安全確認っと
伊丹﹁分かった
勝本﹁了解
一同﹁馬鹿、遅いよ
勝本﹁東、揺らすな
!
東﹁無茶言わんでください コンピューター制御じゃないんだ
理だよ
!
!
!
!
伊丹﹁このままじゃ鷲谷のMSに当たる
鷲谷、避けろ
﹂
!!
かって投げた。
すると謎の少女が後ろのドアを蹴り開け、屋根に上がり巨大なハルバードを炎龍に向
!
放たれた弾頭は炎龍ではなく鷲谷の乗る旧ザクに向かっていった。
すると勝本がガク引きしてしまった。
舗装されていない場所を走っているため、車の揺れがとてつもない。
!
!
!! !
!
!
!!
第五話:エルフと炎龍とザクと…
76
ハルバードが地面に刺さると勢いよく盛り上がり、その衝撃で鷲谷のMSは倒れ、炎
龍がバランスを崩した。
そして弾頭は炎龍の左腕の付け根に当たり、腕を吹き飛ばした。
炎龍の叫び声は空気を震わせ、吹き飛ばされた腕は地面に落ちる。
﹂
そして炎龍は翼を広げ、遠くへ飛んで行った。
倉田﹁お、終わったんスかね
伊丹﹁あぁ⋮多分な。﹂
伊丹たちは村長たちを見送ると、残った者たちの事について考えた。
ちのことで精一杯、他の者たちの心配をしている余裕は無いらしい。
ケガをしている者たちはどうするのか村長に聞いたが、村長や他の村人たちも自分た
生存者の大半は近隣の身内や他の街や村で生活する事となった。
伊丹は泣いている女の子の頭を優しくなでた。
しかった。
どんな世界でも子供に罪は無い。その事を改めて実感した伊丹はどこか胸の内が苦
伊丹は泣いている女の子を銀座事件の被害者の女の子と照らし合わせていた。
その中に子供の親もいた。
その夜、炎龍によって亡くなった人たちの埋葬が行われた。
?
77
残ったのはケガをした女性や男性、身内を亡くした子供や老人などだ。
後は他の理由で残った数人。
﹂
伊丹は残った者たちの方を見ると、笑顔でVサインを出した。
伊丹﹁ま、いっか。大丈夫、まーかせて
伊丹﹁⋮え、何この空気
伊丹﹁鷲谷
﹂
その腕どうする気だ
これよりアルヌスに帰還する
﹂
﹂
黒川も笑っていたが、伊丹は先ほどの黒川を知っているせいか、少し引いた。
伊丹のその笑顔に安心したのか皆笑顔になった。
!
黒川﹁いえ、二尉ならそうおっしゃると思っていました。﹂
全員乗車
黒川は純粋に笑っているようだ。
伊丹﹁僕人道的でしょ
!
?
!!
?
全員が乗り込むと鷲谷のMSが炎龍の腕を担いでやってきた。
?
アルヌスへと帰っていった。
こうして特地の生物との戦いに勝った伊丹たちは、二十五人ほどの村人たちを連れ、
伊丹﹁そうだな、持って帰れる情報は極力持って帰るか。﹂
そうすればMSの装甲とかにも応用できないかなって思って。﹂
鷲谷﹁日本の研究機関に提出して特地の生物の遺伝子情報を解析してもらうんすよ。
?
とある町││とある酒場
﹂
﹂
そこではコダ村の生存者の話で持ちきりだった。
客達﹁炎龍を追い払った
客A﹁嘘だ、そんなの絶対無理だ
﹂
﹂
客B﹁魔導師やエルフだって古代龍を倒すなんて不可能だ
新生龍や翼竜の間違いだったんじゃないか
メリザ﹁本当に炎龍だよ、この目で見たんだ
﹂
﹂
本当に炎龍だったのか
客C﹁それにあの炎龍相手にコダ村は四分の一の犠牲ですんだんだぜ
客達﹁いったい誰が
ピニャが隊長を務める帝都隠密偵察隊だ。
﹂
?
謎の傭兵団の事について先に聞いたのは茶色の髪の女騎士、ハミルトン・ウノ・ロー
騎士ノーマ、どう思われます
ハミルトン﹁緑の斑服を着た正体不明のヒト種と、緑色の巨人による謎の傭兵団・・・
?
!!
!?
そんな客達の噂話を聞き耳立てて聞いていた四人組の男女がいた。
!?
?
!
?
!
第六話:噂
第六話:噂
78
79
だ。
ノーマ﹁どうって・・・汚い酒場にまずい酒としか・・・﹂
ハミルトンの質問に若干ウンザリとした表情で返したのは、ノーマ・コ・イグルーだ。
グレイ﹁ノーマ、我らはアルヌスへの隠密偵察任務の途中、炎龍の話をしているのだ。﹂
ノーマのふざけた返答に更に返したのはグレイ・コ・アルドだ。
ピニャ﹁グレイ、少し声が大きいぞ。﹂
ピニャは少し強めの口調でグレイを叱った。
ただ単に村人たちの見間違
彼らはアルヌスの丘に居座る異世界の軍の情報を掴むべく、道中の酒場に立ち寄って
いた。
ノーマ﹁それにしても、本当に炎龍でしたのでしょうか
えという事も考えられます。﹂
確かに龍といえど数多くの種類がいる。
ノーマ﹁はっは、私は騙されないぞ。そんな噂話。﹂
メリザ﹁本当に炎龍だよ、お客さん。この目で見たんだ、間違いない。﹂
ピニャが疑問に思っている所に先ほどの噂話の元である女性、メリザがやってきた。
?
﹂
ハミルトン﹁まぁまぁ、私は信じるから、良かったらその斑服の人達のこと、詳しく
聞かせてくれない
?
第六話:噂
80
ハミルトンがお金を見せると、メリザはひったくるようにそのお金をもらった。
奪ったと言った方が正しいかもしれない。
メリザ﹁ありがとよ、若い騎士さん。こりゃあとっておきの話をしないといけない
ね。﹂
メリザが一つ咳払いをすると、周りの話し声がピタリとやみ、酒場を盛り上げていた
楽しい音楽も消えた。
皆その話を聞きたがっているのだ。
メリザ﹁コホン、コダ村から逃げる私達を助けてくれたのは、緑の服を着た人達が十
﹂
二人と大きな緑色の巨人さん一人。女が二人いたよ。﹂
客A﹁女はどんな姿だった
男性客陣﹁おおおおっ
﹂
その話に男性客が興奮する。
だけど腰はちゃんとくびれてんだよ。﹂
さらっとした異国風美女。もう一人は栗色の髪で小柄な可愛い娘。牛みたいな胸でさ、
メリザ﹁男ってのは皆、それだねぇ。まぁいいや。一人は背が高くてきれいな黒髪の
?
に白い線が入っていたね。巨人さんの持つ巨大な鉄の魔法の杖からは炎が吐き出され、
メリザ﹁次に巨人の話をしようかね。巨人さんは凄く大きくて、身体中は緑色で所々
!!
81
地面を深くえぐり、大きな爆発を起こすんだ。﹂
メリザの話に皆食い入るように耳を傾けていた。
メリザ﹁それでね、炎龍が現れて私達に向かって炎を吐こうとしたんだ。あの時は死
を覚悟したねぇ。でも巨人さんが守ってくれてあたしたちは助かったんだ。巨人さん
それをもろに食らって無事だ
は炎龍の炎をもろに食らっても焦げ目一つすら無いんだ。﹂
そのことに周りがざわつき始めた。
客B﹁炎龍の炎って騎士の鎧も溶かすほどの高温だろ
なんて・・・﹂
吹っ飛んだんだ
﹂
たんだ。﹃コホウノ・アゼンカクニ﹄って唱えるととんでもない音と一緒に炎龍の左腕が
一人が黒くて特大の、まるで鉄の逸物のような魔法の杖を取り出して、呪文を唱え始め
を封じたんだ。すると後から来た緑の人の頭目が何かを叫んだんだ。すると緑の人の
だけどそんな攻撃、巨人さんには効きやしない。巨人さんは炎龍の腕を掴むんで、動き
面にたたき落としたんだ。炎龍も負けじと尾を振り回して巨人さんを吹っ飛ばしたん
メリザ﹁話はまだ終わってないよ。それでね、空を飛ぼうとした炎龍の足を掴んで地
!?
ピニャ﹁妾は緑の巨人に興味がある。女、その巨人の姿見た目をもう少し詳しく教え
ハミルトン﹁凄い人たちのようです。いかがでしょう、ピニャ殿下。﹂
!
第六話:噂
82
て欲しい。﹂
メリザ﹁いいよ。巨人さんは目が一つしかないんだ。その目は左右にギョロギョロと
動いていて、目の色は赤いんだ。最初は少し怖いと思ったけど、特に何もしてこないし、
緑の人達とも仲が良さそうに見えたよ。﹂
ピニャ﹁そうか、詳しく教えてくれて感謝する。﹂
周りからは他の客達からの質問が続々と出てきて少しうるさくなってきたが、ピニャ
には聞こえなかった。
ピニャ﹁︵全身緑色の赤い一つ目の巨人、炎龍の炎にも耐えられる強い身体・・・確か
アルヌスの丘から帰還した兵士の話に同じ特徴の巨人がいる事を聞いたな。まさか・・・
いや、まさかな。︶﹂
ピニャは不吉な予感を感じ取っていたが、考えすぎかと酒を一口飲んだ。
その数日後、彼らがその者達から助けを得ることなど誰も知る由が無かった。
伊丹﹁あれ
﹂
連れてきちゃまずかったですか
﹂
?
!!
で、どうだ
狭間﹁おう
!
何か分かったか
?
﹂
?
柳田﹁伊丹の隊がコダ村からの避難民を護送してきました。その避難民を保護という
拉致とか強制連行とか言われて面倒になるのは避けたい。﹂
狭間﹁う∼ん・・・意思の疎通が上手く出来ていない状況でそれはまずいだろう。後々、
柳田﹁・・・住民をこちらに何人か招ければもっと情報が分かるのですが・・・﹂
その後は各偵察隊の報告を事細かに説明した。
言語の問題はありますが、各隊平穏な一時接触はできたようです。﹂
柳田﹁ハッ
!
柳田﹁狭間陸将、偵察隊の一次報告書がまとまりました。﹂
いる部屋へとやってきた。
そしてすべての偵察隊の報告をまとめた資料を小脇に抱えた柳田二尉が狭間陸将の
檜垣﹁まずくないわけないだろう・・・はぁ・・・陸将に報告してくる。﹂
?
檜垣﹁誰が連れて来ていいと言った
帰還した伊丹を待ち受けていたのは、檜垣三佐の怒号だった。
第七話:アルヌス駐屯地
83
﹂
形でこちらで受け入れるのはどうでしょうか
?
今から連絡して明後日までには左腕を持ち帰ってもらうとしよう。﹂
!
﹂
こっちの怪獣は俺たちのMSより弱いのか
ちょっと一服つきあえ。﹂
なんだか拍
?
同じだよ。簡単だったね。﹂
大明﹁はっはっは なんだ
子抜けだな。俺たちを満足させるような戦いはねぇのかねぇ
!
するとそこに報告を終えた柳田がやってきた。
柳田﹁鷲谷
?
?
に暴れていて大変だったけど、あんなの訓練時の時に比べたら子供とじゃれているのと
鷲谷﹁・・・それでね、俺はトカゲ野郎の腕を抑えこんで、動きを止めたんだ。確か
時の事について話し合っていた。
一方その頃鷲谷はバンカーにて大明や他の偵察隊MSパイロットたちと一緒に戦闘
無事に報告を済ませた柳田二尉は部屋を静かに退出した。
よし
狭間﹁確かにこちらの生物の遺伝子情報についてはまだ詳しくわかってないからな。
を持ち帰ってきました。それを研究機関に提出してくれとの報告もあります。﹂
柳田﹁それと同じく伊丹の隊なんですが、鷲谷二尉が炎龍と言われる危険生物の左腕
﹂
狭間﹁なるほどな・・・いいんじゃないか
!
!
第七話:アルヌス駐屯地
84
85
呼ばれたのは屋上だった。
そこには伊丹の姿もあった。
﹂
柳田﹁・・・お前たち、わざとだろ
伊丹・鷲谷﹁何がです
﹂
?
﹂
?
あっ
!
然の音信不良・・・避難民を放り出せとでも言われると思ったんだろう
アハハ・・・﹂
伊丹﹁いや、こっち異世界だし・・・電断層やら磁気嵐のせいじゃ
てMSのミノフスキー粒子が原因かな
?
柳田はタバコを吸いながら説明を続けた。
伊丹﹁MSか・・・﹂
目は集まっていたんだ。﹂
手が出るような世界との接点が突如日本に開いた。それに門が開く前も我々日本の注
大な量の鉱石・地下資源。しかも文明レベルは圧倒的にこちら側が有利。そんな喉から
山だ。公害や環境汚染のない手つかずの大自然に、世界経済をひっくり返しかねない膨
柳田﹁全くもって足りないね・・・いいか伊丹、鷲谷。この世界│││特地は財宝の
鷲谷﹁いずれは精神的にお返しする予定ですよ。﹂
柳田﹁ふん、誤魔化しやがって。裏の方の身にもなってみろ。﹂
?
もしかし
柳田﹁とぼけるなって。定時連絡を欠かさなかったお前らがドラゴンの戦いの後、突
?
第七話:アルヌス駐屯地
86
柳田﹁そうだ。日本・・・いや世界で初めて核融合炉の小型化に成功。そして人が乗
り、従来の兵器を圧倒的に上回る兵器︹MS︺の動力源でもある。この開発成功には一
体どれだけの時間がかかったか私にもわからない。おかげで今、日本の原子力発電所は
皆イヨネスコ型核融合炉を使っている。考えてもみろ、小型の核融合炉が手に入った
﹂
ら、世界の大半の連中が考える事を。﹂
鷲谷﹁兵器利用っすか
﹂
とってはまさに最悪の組み合わせだな。﹂
伊丹﹁何が言いたいんだ
鷲谷﹁まさかそんな日本の自慢話するために呼んだわけでは無いですよね
遠回しに説明する柳田に若干イライラしてきた二人は本題を問い詰めた。
﹂
ダーや通信機器などといった電子装置を壊さずに完全に無効化する未知の物質。敵に
柳田﹁実際は電波妨害発生物質だが、呼び慣れたそっちの方が説明がしやすい。レー
伊丹﹁ミノフスキー粒子・・・﹂
よって生まれるあれだよ・・・﹂
発したらその被害は計り切れない。それに我々の利点は動力源だけでは無い。それに
柳田﹁あぁ、小型の核融合炉搭載の巡航ミサイルが遠くから飛んできて、頭の上で爆
?
柳田﹁・・・なぁ、二人とも永田町の連中は知りたがってんだよ。アメリカはともか
?
?
87
く中国やロシアなんて大国を敵に回すほどの価値がこの特地にはあるのか・・・いやあっ
﹂
てもらわないといけないんだ。﹂
鷲谷﹁その価値があったら
報に一番近い場所にいるんだ。﹂
﹂
地
?
伊丹・鷲谷、あんたらには近
鷲谷﹁だからって年も行かないような子供なんかに金銀財宝がどこにありますか
て聞くんすか
柳田﹁知っている人間を探して情報を得られるだろう
っ
柳田﹁お前たちはこの土地の人間との信頼関係を築いてきたんだ。お前たちは重要情
とこないんだよ、連れてきた避難民と世界情勢との関わりが。﹂
伊丹﹁柳田さん、あんたが真の愛国自衛官ってことは十分分かった。だけど全然ピン
柳田が鋭い眼光で二人を見る。
だ。﹂
ら縁を切られ見捨てられても、こことMSさえあれば不便無く暮らしていけるってこと
特
柳田﹁世界では持つ者が絶対勝者なんだ。極端な話、日本が世界のあらゆるところか
?
柳田がニヤリと笑った。
なよ。﹂
日中に大幅な自由行動が許可される。だが最終目的はお互い一つっていうのを忘れる
?
?
第七話:アルヌス駐屯地
88
﹂
伊丹﹁全くたまらないねぇ、柳田さんあんたってせこいよ。﹂
鷲谷﹁俺らが一番大変なんじゃないですか
屋上に残された二人も階段をスタスタと降りていった。
伊丹﹁当たり前だ。﹂
鷲谷﹁手伝いますよ、隊長。﹂
伊丹﹁まぁ、しゃあない。とりあえず、飯と寝床かな。﹂
鷲谷﹁お互い大変っすね。﹂
残された二人は顔を見合わせ、大きなため息を一つついた。
柳田は手をヒラヒラさせながらその場を後にしていった。
てもらうぞ。﹂
柳田﹁まぁそういう仕事だ、今まで税金でのんびり暮らししてきた分、ビシバシ働い
?
その時の伊丹の一言
伊丹﹁書類はもーイヤ
!
レードで土をかき集め、後ろ側に付けられた三本のリッパーで均等にならしていく。
そして右腕のショベルで根っこを掘り起こし、車体の前方に付けられたドーザーブ
チェーンソーによって伐採していく。
近くの生い茂った木を、作業用MWTの左腕に付けられた二本のアームとハサミ型
数日後、アルヌス駐屯地のすぐそばに本格的な村を作る事が決定した。
﹂
伊丹はその中で一番面倒くさい報告書の作成も加わり大変な一日を過ごした。
たりした。
設住宅を立てるべく第三偵察隊の者たちと一緒にテントを立てたり、食料の配給を行っ
柳田の長ったらしい講義の後、伊丹と鷲谷は保護する事となった元コダ村の人達の仮
第八話:支援
89
第八話:支援
90
﹂
そんな光景をじーっと見続けるひとりの少女と老人がいる。
カトー﹁なんじゃこれは
レレイ﹁どうやら私達の家を作っているらしい。﹂
カトー﹁ふぅ・・・これでようやく荷車から荷物を降ろせるわい。わしゃあ寝る
そう言ってカトーはテントの方へとフラフラ歩いて行ってしまった。
いた。
レレイ﹁どうかしたか
﹂
﹂
レレイはしばらくこの状況を観察していると向こうに救出したエルフの娘、テュカが
!!
?
その中には元板前の古田陸士長が、大根のかつらむきをしている。
そこでは数人の自衛官が食事の準備をしていた。
仕方なく次は料理をしている所へと近づいた。
だが見張りの自衛官によって止められてしまった。
レレイはいまだに伐採作業を続けているMSTに近づいていく。
で・・・︶﹂
レレイ﹁︵賢者として理解不能なことを放っとくわけにはいかない・・・もう少し近く
カリするでしょうね。あとで教えてあげなきゃ。﹂
テュカ﹁いえ・・・こんなすごい光景見過ごしたなんて知ったらお父さん、きっとガッ
?
91
︶﹂
古田﹁︵出店資金のために入隊したはいいけどここでも包丁をふるうことになるとは
ねぇ・・・ん
﹂
・・・あぁ、大根だよ。だいこん。﹂
古田﹁そうそう、大根。﹂
レレイ﹁だ・い・こ・ん
古田﹁ん
レレイは謎の白い植物をじっと見続けている。
古田が近づいてきたレレイに気がついたのか、包丁を止めた。
?
テュカ﹁私はコアンの森、ホドリューの娘、テュカ・ルナ・マルソー。それと・・・﹂
ロゥリィ﹁私はロゥリィ・マーキュリー。暗黒の神、エムロイの使徒。﹂
レレイ﹁レレイ・ラ・レレーナ。﹂
カトー﹁儂はカトー・エル・アルテスタン。こっちは弟子の・・・﹂
その次に住民の名前登録を行った。
仮設のプレハブ住宅も完成した。
は見事に整地され、伐採された木も綺麗に積まれている。
そして数時間で整地が終わった。あれほどまでデコボコで木が生い茂っていた野原
レレイは彼ら自衛隊の事をもっとよく知るために日本語の勉強を始めたようだ。
レレイ﹁︵彼らの事を知るには、まず彼らの言語を学ぶのが先決・・・︶﹂
?
?
第八話:支援
92
テュカは最後に何か言いたそうだったが聞き取れなかった。
﹂
黒川﹁老人三人、中年のケガ人が三人、後は子供十九人です。﹂
伊丹﹁で、子供の内三人は大人って
伊丹﹁じゃあもう一人は
﹂
﹂
鷲谷﹁本当にエルフだって思い知らさせられますね・・・﹂
レレイ﹁テュカは百六十五歳。﹂
日本語を大分覚えたのか、今度はレレイが日本語で話し始めた。
黒川の隣ではレレイが片手で十五を数えている。
黒川﹁はい、この子は十五歳で大人だそうですよ。﹂
?
まだ十五にも見えないけど・・・本当に
黒川﹁あの神官少女だそうです。﹂
伊丹﹁え
?
?
﹂
?
︶﹂
?
結局謎の神官少女の年齢は分からなかった。
伊丹﹁︵何歳なの・・・
レレイ﹁恐くて聞けない・・・﹂
だがレレイは首を横にプルプルと振った。
伊丹﹁じゃあ何歳か聞いてくれる
レレイ﹁子供違う。年上、年上の年上、もっと年上。﹂
!?
93
その夜、元コダ村の人達は今後の生活について話し合っていた。
カトー﹁彼らには何から何まで世話になってしまった。こんな立派な家まで建てても
らって・・・じゃが生活費はどうにか自分達で何とかしたい。でも年寄りとケガ人と子
供ばかりじゃなぁ・・・﹂
テュカ﹁・・・丘の兵隊に身売りするしかないかも・・・﹂
テュカや他の女性たちは顔を赤らめている。
するとレレイが提案を出した。
レレイ﹁彼らに仕事があるか聞いてみればいい。﹂
カトー﹁そうじゃな、見たところ丘の周りには翼竜の死骸が転がっとる。竜の鱗は大
変貴重じゃ。あれをどうにかすれば生活費は何とかできる。﹂
次の日・・・
レレイとカトーは伊丹に翼竜の鱗の事を話した。
だが、カトーが言った通り、竜の鱗は貴重品だ。
一枚だけで最低でも銀貨三十枚ほどの高値が付く。
ダメかと思ったカトーだったが、意外な言葉がレレイから聞かされた。
第八話:支援
94
カトー﹁なんと
ここにある竜の鱗、好きに取っていいとな
レレイ本当か
!?
﹂
!?
﹂
?
﹂
?
レレイ﹁鱗二百枚、爪三本、換金するならちゃんとした大店に任せたい。﹂
つ飲み込んだ。
テュカはその普段の生活では到底お目にかかることのない光景に、生唾をゴクリと一
ロゥリィ﹁大金持ちぃ
鱗だけでは無い、爪も三本入っている。
そこには麻袋の中に翼竜の鱗がぎっしりと入っていた。
ロゥリィがそう言って後ろを振り返る。
ロゥリィ﹁フゥン・・・じゃあ私たちぃ・・・﹂
レレイ﹁そう、銀貨一枚で最大五日は暮らしていける。﹂
テュカ﹁これ一枚でデナリ銀貨、三十枚から七十枚になるの
男達が鱗を剥ぎ取り、それを女や子供たちが丁寧に血や汚れを洗い流していく。
そして村人たちと協力して翼竜の鱗を次々と回収していく。
この言葉にカトーは口をあんぐり開けて呆然と立っていた。
らいくらでも持ってって。﹂
伊丹﹁いいよ、取ってって。どうせ射撃訓練の的にしかならないし。自活に役立つな
レレイ﹁そう言っている。﹂
!?
95
カトー﹁鱗はまだいくらでもあるからのぉ・・・おお、そうじゃ。テッサリア街道の
先にあるイタリカに旧い友の店がある。ジエイカンたちに運んでもらおう。﹂
すると外から駆動音が聞こえてくる。
食料を積んだトラックがプレハブ住宅の前で止まり、運転席から鷲谷が出てきた。
﹂
﹂
その音を聞くや否や、子供たちが飛び出てくる。
皆元気か
子供達﹁鷲谷お兄ちゃんだ
鷲谷﹁おお
?
!!
栗林﹁鷲谷
荷物降ろすの手伝って
﹂
そして一人一人に食料を手渡していく。
するとリストを見た鷲谷が妙な事を言いだした。
﹂
?
!
鷲谷﹁どうしてテュカさんのところの食料が二人分なんだ
か
誰か一緒に住んでいるの
そして助手席から栗林がやれやれといった表情で出てきた。
鷲谷はどうやら子供に好かれやすい性格のようだ。
!
!
栗林は肩をすくめて言った。
ベッドも。﹂
栗林﹁いいや、一人だよ。なぜかいつも二人分の食料を求めてくるんだ。服も部屋も
?
第八話:支援
96
鷲谷﹁脳内彼氏でもいるのか
﹂
﹂
カトー﹁いやいや、いつも助かっておる。それで頼みがあるんじゃが・・・いいかの
鷲谷﹁いいえ、これが私達の仕事ですから。﹂
カトー﹁いつもすまないのぉ。﹂
すると部屋から話の人物であるテュカとレレイ、カトーとロゥリィが出てきた。
栗林﹁伊丹隊長じゃないんだから。﹂
?
は言わん。どうかの
﹂
なんで、テュカさんはいつも二人分の食料とかを要求してくるんでしょうか
﹂
鷲谷﹁お金なんていりませんから、安心して下さい。一つこちらからもいいですか
カトーは恐る恐る顔を覗き込むようにして言った。
?
そうして全員に食料を配り終えた二人は、アルヌス駐屯地まで戻っていった。
鷲谷﹁分かりました。では、先ほどの話は上に報告しておきますね。﹂
彼女らエルフは貴重な存在で、わしらにもよぉ分からんのじゃ。﹂
カトー﹁う∼む・・・わしらとエルフの生活は似て異なるものじゃからのぉ。それに
?
?
カトー﹁竜の鱗をイタリカという町まで運んでもらいたいんじゃ。もちろんタダでと
鷲谷﹁出来ることなら何でも。﹂
?
97
それから数日後・・・
イタリカに竜の鱗を届ける事が決まり、運搬はやはり提案を出した第三偵察隊が行く
事になった。
その当日、伊丹はデスクで自分のスマホをいじっていた。
伊丹は好きなWeb小説の情報を調べているらしい。
伊丹﹁特地にミノフスキー対策のアンテナ設置されたって本当だったんだ。お、いつ
﹂
の間にか更新されている。要チェック要チェック。﹂
ちょっといいですか
そんな伊丹に黒川が話しかける。
黒川﹁伊丹二尉
?
﹂
Web小説はいつ消えるか分かんないからなぁ・・・﹂
!!
伊丹﹁あっぶねぇ∼、危うく見逃すところだった。﹂
鷲谷﹁伊丹二尉
伊丹﹁おぉ これは保存せねば
だが黒川の声は、当の本人には届いていない。
?
?
!
第八話:支援
98
﹂
鷲谷と栗林は、シカトし続ける伊丹に段々イライラしてきた。
栗林﹁二尉
鷲谷・栗林﹁隊長
﹂
!
!!
呼ばれてますよ
!
﹂
!!
居たなら返事してくれよ
﹂
﹂
無視し続けた隊長が悪い
﹂
と鈍い音が部屋に響き、伊丹は激痛のあまり椅子から飛び降りて、両太ももを
栗林、鷲谷
抑えながら床をゴロゴロと転がりまわる。
伊丹﹁痛ぇ
鷲谷・栗林﹁ずっと居ました
!
!
伊丹﹁だからって二人で蹴らなくてもいいじゃん
!!
!!
ゴッ
伊丹の太ももの裏側を思いっきり蹴り上げた。
鷲谷・栗林﹁二尉
鷲谷と栗林は互いに顔を見合わせうなづき、伊丹の左右後方にまわり込むと、
だが自分の世界に入ってしまった伊丹は、無視し続ける。
伊丹﹁隊長さん
﹂
伊丹﹁ようやく特地で携帯使えるようになったからなぁ♪﹂
!
!
黒川﹁テュカの様子が変なんです。﹂
める。
伊丹は蹴った事に不満を漏らしていたが、黒川はそんな伊丹の言葉を無視して話し始
!
!
99
伊丹﹁テュカが
す。﹂
﹂
?
ていて違うものなので分からずじまいです。﹂
?
で生きているかのように振舞う﹄葬送の習慣に似たものかもしれません。﹂
?
ク
ロ
そいつは困ったなぁ・・・栗林に任せると拳で分
黒川﹁はい、現段階ではそれしか方法が無いと・・・ケドあまり打ち解けてくれなく
伊丹﹁う∼ん・・・やっぱりよく話し合ってみるしかないんじゃないかな
﹂
黒川﹁それならまだいいのですが・・・もしかして﹃亡くなった家族を一定期間まる
鷲谷・栗林﹁︵うわっ・・・俺︵鷲谷︶と同じ考えだ・・・︶﹂
伊丹﹁う∼ん・・・もしかして脳内彼氏でもいたりして
﹂
鷲谷﹁カトー先生にも尋ねてみたんですが、彼女らエルフは貴重な存在で、生活も似
栗林﹁まだ日本語が十分ではないので要領を得なくて・・・﹂
黒川﹁レレイちゃんに聞いてみたんですが・・・﹂
伊丹﹁理由は聞いてみた
﹂
人分のものには一切手を付けていないんです。ちなみに、要求してくる衣服は男性物で
鷲谷﹁はい、食事や衣服、部屋やベッドの数まで二人分なんですよ。それなのに、一
?
人気者の黒川ちゃんに
?
て・・・﹂
伊丹﹁え
!?
第八話:支援
100
からせようとするからなぁ・・・﹂
栗林﹁そ、そんなことないですって
﹂
!!
栗林は必死に否定するが、若干当たっている所が何とも言えない。
もう
分かった、すぐ行く。まぁ、今から偵察ついでに鱗を売りに行く彼
桑原﹁隊長そろそろ出発時間です。﹂
伊丹﹁え
?
まさかその街でとんでもない事態に巻き込まれることなど誰一人として知らずに。
そう言って、伊丹たちは部屋から出ていった。
女らを連れて、街まで行く事だし・・・時間があったら俺も話してみるよ。﹂
?
伊丹﹁よし
弾込め
安全装置
!
﹂
!
﹂
!
﹂
!!
た。
そこには門を包んでいるドームから一体のMSが出てくる光景が目に移り込んでき
ゲート
伊丹の声に驚いた周りの隊員も同じ方向に目を向ける。
伊丹﹁なんだ鷲谷、あれって、えぇ
鷲谷﹁・・・伊丹隊長・・・あれ見てください・・・﹂
全員が車両に乗り込もうとした時、鷲谷が何かを見つけた。
一同﹁了解
伊丹﹁営門出たらすぐ戦闘地域になる。各員それなりに気を張ってくれ。﹂
伊丹の掛け声とともに64式に装填し、安全装置の確認を行い、整列する。
!
桑原﹁隊長、準備完了しました。﹂
9x19mmパラベラム弾を慣れた手つきで詰めていく。
栗林は64式の弾倉に7.62x51mm NATO弾、鷲谷は9mm拳銃の弾倉に
イタリカという交易都市に向かうため、伊丹率いる第三偵察隊は準備を整えていた。
第九話:運搬と混乱
101
ザクとは違う形状、青をベースとしたカラーリング、モノアイの可動範囲の形状も全
く異なる。
それはMS IGLOOを見ている者なら誰しもが知っている機体。
一定の速度を超えると空中分解を引き起こし、更にはプロパガンダに利用された不運
なMS。
EMS│10 ヅダ
なぜこのような所にヅダがいるのか
ロットスーツ姿で現れた。
鷹﹁あれが今回の実験機か・・・ん
おぉ
鷲谷じゃないか
﹂
!
鷲谷﹁お久しぶりです、鷹二等陸佐殿。あのMSは一体・・・それにそのパイロット
!
伊丹をはじめとした第三偵察隊のメンバーが頭を悩ませていると、そこに鷹がパイ
?
?
これは今回の特地での新型機の試験で、私がパイロットに呼ばれたんだ。
スーツも・・・﹂
鷹﹁これか
?
第九話:運搬と混乱
102
103
政府
今回の試験が成功すれば、特地でのMSでの戦闘が大きく優位になる。あのMSは、こ
﹂
の前、お前が炎竜と交戦した報告を受けて上の連中が急きょ作ったんだ。﹂
鷲谷﹁なるほど・・・﹂
鷹﹁試験は明日からだ。お前も見に来るか
村についた偵察隊の一行は機動車に鱗の入った袋を乗せた。
レレイ﹁︵ジエイカン達がいれば街まで安全に行ける。︶﹂
テュカ﹁ねぇレレイ、そのリュドーって人の店があるイタリカって遠いの
レレイ﹁少しだけ、テッサリア街道を西に進んだ場所にある。﹂
そしてレレイ達を乗せた車両はイタリカへと向かった。
?
その頃、日本ではとあるお昼のニュース番組で特地の特集が放送されていた。
﹂
鷹に見送られた第三偵察隊は車両を走らせ、レレイ達がいる村へと向かった。
鷹﹁あぁ、気をつけてな。﹂
す。﹂
鷲谷﹁行けたら行きますよ。自分はこれから任務に向かいますのでこれで失礼しま
?
司会者﹁人類の歴史は戦争と侵略と破壊、そして迫害の繰り返しと言ってもいいで
しょう。スペイン人によるインカ帝国の征服、アメリカのインディアン虐殺、ナチスド
イツによるユダヤ人の処刑、そして現在問題となっている中東の紛争・・・強者が弱者
を武力で攻撃する行為は今も世界中で続いております。﹂
今
司会者の後ろにある巨大なモニターには第二次大戦の古い白黒映像や現代紛争の写
﹄
記者A﹁本位総理 特地での戦闘で出た民間人の被害者数を明白にしていただきたい
?
真など、様々な戦いの記録が映し出されていた。
司会者﹁もしかすると、我々日本人も同じことをしているのではないでしょうか
回は銀座に突如として現れた、門について考えていきましょう。﹂
﹃MSは本当に自衛隊に必要なのか
﹄
新聞でも一面はいつも特地のことについてばかりが載っていた。
﹄
?
国会では本位総理が記者たちの質問攻めにあっていた。
?
?
MSの必要性は
﹃特地での民間人死者100人 政務次官答弁に虚偽か
﹃自衛隊の失態か
?
﹃不透明な特地での戦闘 国会で追及へ﹄
第九話:運搬と混乱
104
!
105
﹂
記者B﹁政府は自衛隊の行動を完全に把握していないのではないでしょうか
本位総理は記者たちの質問に一つずつ答えていく。
﹂
?
﹂
某有名掲示板では、MSの自衛隊配備と特地の自衛隊派遣の反対派と賛成派によって
その過激な映像で活動を休止していた市民団体がまたデモ活動を開始したのだ。
あった。
その中にはMSの圧倒的な力によって帝国軍が敗れる様子などが映っているものも
銀座事件の一部始終を収めた動画が動画投稿サイトにUPされていたのだ。
特地とMSの議論はネットの世界でも繰り広げられている。
た﹂
ニュースキャスター﹁北条元総理の任期満了に伴い就任した本位総理大臣の会見でし
受けております。﹂
トの報告では近辺に民間人の存在がいないか確認を取ってから攻撃したという報告を
本位﹁それにつきましては、現在調査を進めておりますが、搭乗していたMSパイロッ
記者A﹁MSによる被害は無かったのでしょうか
称﹃怪獣﹄によるものでありまして、そのために自衛隊は武器を使用したものです。﹂
本位﹁えー政務次官が国会で答弁した通り、民間人の被害者は特地での災害・・・通
?
!
第九話:運搬と混乱
106
毎日のようにお祭り状態となっている。
特地とMSの話題は世界各国でも・・・
中華人民共和国 北京
董 徳愁﹁特地か・・・なぜ門は日本なんかに・・・北京に門が開いてくれれば誰に
﹂
﹂
も邪魔されずにすべての問題が解決していただろうに・・・特地が必要なのは日本など
では無く我が国だとは思わんかね
政府関係者﹁その通りです、董 徳愁主席。日本だけの独占は許せません
アメリカ合衆国 ワシントンD.C. ホワイトハウス
董 徳愁﹁確かにMSは我々にとっても厄介な存在だ。対策も考えなくてはな・・・﹂
じるのでは・・・﹂
政府関係者﹁ですが、主席。日本にはMSがあります。あれのせいで工作に支障が生
もう一つの中国を作るのだ。そうなれば喜ばしい限りだ。﹂
この国にとって重くなりすぎた。出来ることなら半分を特地に送り出したい。特地に
は友好的に接しながら、その行動に制約を課すように工作したまえ。13億人もの民は
董 徳愁﹁せめて日本海のどこかの島にでも現れてくれさえすれば・・・日本政府に
!
?
107
・・・
ディレル﹁全く日本軍は一体全体何をしているんだ
門の周りに亀みたいに立て籠
ディレル﹁だけど考えてもみろ 門の向こうはフロンティアだよ
あの向こうにはど
はいえ、むやみやたらに攻撃を行えば、市民団体やマスコミが黙っていません。﹂
秘書﹁自衛隊は過去の戦いから学んだのです、ディレル大統領。それにMSがあると
・・・
もって。あのMSの力を総動員すれば国の占拠も容易いだろうに・・・﹂
!
?
﹂
?
ずです。﹂
例えば陸軍や海兵隊の派遣とかは
ディレル﹁少なからずな。だがそれだけでは不足なのだよ。どうだろう
的に関与するべきか
?
もっと積極
政府関係者﹁ですが日本は我々の同盟国です。門から得られる利益は我々にもあるは
資源、経済的優位性に汚染の無い大自然。更には異世界生物の遺伝子情報などなど・・・﹂
れほどの可能性が詰まっているか君たちも考えたまえ。手付かずの貴重な鉱石や燃料
!
﹂
?
武器や弾薬、
?
中の栗は、日本だけに拾わせよう。﹂
ディレル﹁そうだな、肩入れしすぎて我々にも火の粉が降りかかるのは避けたい。火
兵器の支援のみに限られては
くわからない事もあります。深い肩入れは禁物かと・・・。どうでしょう
戦力的にも予算的にももう余力はありません。それに、あのMSの情報ですら未だによ
政府関係者﹁大統領、残念ながら我が国は現在問題の中東紛争の支援で手一杯です。
?
第九話:運搬と混乱
108
ロシア連邦 モスクワ クレムリン
ジェガノフ﹁門か・・・厄介なものになりそうだ・・・。﹂
政府関係者﹁はい、もしあの門から莫大な量の資源が発見されたら、我々の存在も危
うくなります。﹂
ジェガノフ﹁そうだな・・・アメリカも中国も、あの特地の資源を狙っているだろう
からな。今の日本は地球一個分の資源を持ったも同じ・・・﹂
そ
それに
政府関係者﹁いっそのこと、日本に工作員を送り込み、あの門を破壊しましょう
うすれば・・・﹂
ジェガノフ﹁あの門がどのような物質で作られているのか分からないのにか
!
はまだよく様子を見てみようじゃないか・・・﹂
ジェガノフ﹁それに今の日本は、まだそこまで大きな動きは見せないだろう・・・今
政府関係者﹁確かにそうですが・・・﹂
らの非難は当然のごとく起きるだろう。そうなってしまえば元も子もない。﹂
えば、特地に大勢の自衛隊が取り残され、それが我々の行ったことだと知れば世界中か
い。そもそも門の向こう側にはまだ自衛隊が大勢いる。それなのに門を破壊してしま
門の周辺は隔離されていて、更にはMSも配備されている。近づく事さえ容易では無
?
109
場所は戻って特地へ・・・
アルヌス駐屯地 基地司令官室
﹂
狭間﹁・・・分かりました、ではそのように手配します、嘉納大臣。フー・・・﹂
狭間陸将が自分のデスクで深いため息を一つついた。
﹂
政
府
あれは﹃ドラゴン﹄による被害だと報告したの
?
するとそこに柳田が書類を持ってやってきた。
柳田﹁失礼します。狭間陸将、滑走路の施設状況と・・・どうかしましたか
疲れた表情を見て柳田が疑問に思った。
狭間は重たい口を開けて、先ほど電話で話していた事の内容を伝えた。
﹂
狭間﹁民間人に被害が出たときの状況について参考人招致だそうだ。﹂
柳田﹁いったい誰をです
ではなかったのですか
柳田﹁伊丹二尉と鷲谷二尉をですか
狭間﹁伊丹二尉と鷲谷二尉、それから現地被災者数名、だそうだ。﹂
?
?
自衛隊の失態ではないかとね・・・で、伊丹二尉と鷲谷二尉はイタリカか
わ れ わ れ
﹂
狭 間﹁も ち ろ ん 報 告 し た よ。だ が な、先生 の 中 に は 疑 っ て い る 方 々 が い る よ う だ。
?
?
第九話:運搬と混乱
110
柳田二尉、何か報告に来たんじゃなかったのか
﹂
滑走路の施設状況の確認と、ドダイⅡ50機、ファットアンクル改30機
いているのだろう
この装置で向かっている方向が分かるのか
︶﹂
?
明しちゃってぇ・・・こっちは昔陸曹候補生の過程で散々怒鳴られながらハイポート走
倉田﹁あーあー、鬼軍曹って呼ばれてた桑原曹長おやっさんが孫娘見るような目で説
そんな光景に倉田が愚痴を言う。
その視線に気がついたのか桑原がコンパスの説明を始める。
レレイは桑原の膝の上に置いてあるコンパスに目をやった。
レレイに説明をもらいながら桑原は地図にその情報を書き加えていく。
?
レレイ﹁アッピア街道ロマ川デュマ山脈︵すごく正確な地図・・・一体どうやって描
桑原﹁今走っているのがテッサリア街道で・・・ここがイタリカか。﹂
そして伊丹たちはというと、現在イタリカに向かってテッサリア街道を走っていた。
?
柳田﹁はい、現在向かっている途中です。﹂
狭間﹁そうか・・・で
柳田﹁は
その言葉に柳田は本題を思い出し、報告を始めた。
?
の搬入完了を報告します。﹂
!
111
させられたってのに・・・﹂
﹂
一方ではテュカとロゥリィが何か話しているが、特地語なので分からない。
どう思う
二人とも顔を赤らめている様子を見て、恋バナのようだ。
しばらく進むと、鷲谷から通信が入った。
鷲谷﹁伊丹隊長、前方に煙を確認しました。﹂
伊丹﹁やだなー、この道あそこに向かってない
?
い。
﹂
その事に気づいたレレイは持ち替えて再び双眼鏡を覗き込む。
レレイ﹁あれは煙。﹂
伊丹﹁煙が上がっている理由は分かる
レレイ﹁畑焼く煙ではない、季節違う。人のした何か・・・
﹃鍵﹄
でも大きすぎる。﹂
レレイは桑原から借りた双眼鏡で煙のある方角を覗き込むが、反対のため何も見えな
伊丹は嫌そうな顔をしながら後ろにいるレレイに問いかけた。
?
桑原﹁あの辺りがイタリカのはずですが・・・﹂
?
?
﹂
伊丹﹁﹃鍵﹄じゃなくて﹃火事﹄ね。なぁ、鷲谷。そのMSであの煙の原因って調べら
れる
鷲谷﹁了解しました。﹂
?
第九話:運搬と混乱
112
﹂
そう言うと鷲谷は旧ザクの肩から何かを発射する。
伊丹﹁鷲谷、今発射したのは何だ
鷲谷﹁偵察用小型UAVです。﹂
﹂
?
面に映し出される。
鷲谷に言われたとおりに1番のボタンを押すと、画面が切り替わり、白黒の映像が画
す。﹂
鷲谷﹁画面の下の番号ボタン1番を押してください。UAVからの映像が映るはずで
伊丹﹁あぁ、あるぞ。﹂
鷲谷﹁伊丹隊長、車の中にモニターがありますよね
大きさは分かりやすく説明するとBF4のUCAVほどである│
飛行距離は最大40kmほどで、最大飛行時間は7時間ほどである。
帰還し、充電を行う。
自動操縦システムを搭載しているので、バッテリー残量が残り少なくなると自動的に
いる。
旧ザク偵察仕様機に搭載されている装備の一つであり、主に遠距離偵察を目的として
もので、直訳すると﹁無人航空機﹂である。
│UAVとはUnmanned Aerial Vehicleの頭文字を取った
?
113
そこには衝撃的な内容が隊員たちの目の中に飛び込んできた。
イタリカの街が、謎の武装勢力│盗賊│によって攻撃されているものだった。
﹂
拡大してよく見てみると攻撃を行っている盗賊の姿格好や持っている武器などがそ
れぞれ異なっている。
城壁の上では老若男女問わず懸命に街を守ろうと戦っている。
その中に、赤髪を後ろに束ねた女性が弓で次々と盗賊を倒しているのもある。
伊丹﹁うわ∼、絶賛戦闘中だね・・・﹂
倉田﹁この中に交易しに行くんですよ・・・正気の沙汰じゃないっす・・・﹂
すると盗賊たちが後退を始めた。
引き返す盗賊団を尻目に安堵の表情を浮かべる町の人達。
鷲谷﹁丁度いいタイミングで引き返してくれましたね・・・隊長、どうします
加したピニャたちは、盗賊との戦闘で疲労しきっていた。
その頃、イタリカでは盗賊の襲撃を受けたイタリカを守るべく、急きょ街の防衛に参
そう言って再び車とMSを走らせた第三偵察隊一行・・・
伊丹﹁このまま見捨てて帰るわけにもいかないでしょ・・・危険だが、行くしかない。﹂
?
ピニャ﹁ノーマ
ハミルトン
無事か
!
﹂
!?
グレイ﹁薄情ですな姫様、小官の心配はしてもらえんのですか
ピニャ﹁グレイ、お前が無事なのは分かりきっているだろう。﹂
その言葉にグレイは大口を開けて笑った。
するとハミルトンが口を開いてピニャに一つ問いかけた。
は・・・﹂
﹂
盗賊どもはまた来るぞ
﹂
三日持ちこたえ
急げ
! !!
ピニャは悔しそうに拳を強く握りしめる。
急げ
!
ピニャ﹁お前たち 休んでいる暇は無いぞ
死体を片づけ、柵を補強するのだ
!!
!
けてみればまさかアルヌスの丘に攻め入った連合諸王国軍の敗残兵崩れの盗賊団だと
!
!
きたという知らせが入ったからてっきり異世界の軍隊だと思ったから
急いで駆けつ
ピニャ﹁ぐっ・・・仕方ないだろう フォルマル伯爵領に大規模な武装集団が攻めて
?
?
ハミルトン﹁姫様ぁ、なんで私達こんな所で盗賊を相手に戦っているんですか
﹂
仲間が無事な事を確認したピニャのそばに白髪の大柄な騎士、グレイが近づく。
ほど疲れている。
ハミルトンは息を荒くしながら答え、ノーマに至っては腕だけを上げ、声も出せない
ハミルトン﹁生きて・・・ま∼∼す・・・﹂
!
!!
れば妾の騎士団が到着する
!!
第九話:運搬と混乱
114
115
﹂
ピニャの命令にやれやれといった表情で作業を開始する兵士たちにも疲労がたまっ
ている。
ピニャ﹁グレイ、門の調子はどうだ
?
今のところは問題ありません
﹂
そっちの兵士たちを交代で食事と休息を取らせろ
グレイ﹁ダメですなぁ、いっそのこと家具や木材で塞いで敵が来たら火でもかけます
か。﹂
﹂
ピニャ﹁そうか、ご苦労。ノーマ
敵影はないな
ノーマ﹁はい
!
執事﹁連中と話し合いで解決は出来ないでしょうか
な
﹂
﹂
は殺されるぞ。妾も五十人百人とは正気を保つ自信は無い。ミュイ伯爵令嬢はどうか
ピニャ﹁簡単だ、門を開け放てばよい。その代わり、全てを失うぞ。女は陵辱され、男
?
すると執事がこんな提案を言ってきた。
館の中へと入り、重たい鎧を脱ぎソファにどっかりと座り込む。
メイド長・執事﹁﹁お帰りなさいませ、皇女殿下。﹂﹂
周りに指示を飛ばし、食事を取るため館へと戻っていった。
!!
?
!
!!
その言葉にまだ十一歳のミュイ令嬢は最悪の事態を想像し、顔を青くさせる。
?
第九話:運搬と混乱
116
丁度良くメイド長が食事を運んできた。
ピニャ﹁う∼ん・・・物足りん、肉は無いのか
ピニャ﹁お前、攻囲戦の経験があるのか
﹂
﹂
メイド長﹁疲労の強い時に味の濃いもので胃を満たすと、お体にさわります。﹂
?
妾が起きなかったらなんとする
﹂
ピニャ﹁そうか、では客間で休ませてもらう。火急の伝令はそのまま通せ・・・もし
メイド長﹁今は帝国領になっておりますロサの街で一度経験しております。﹂
?
││最初はお遊び程度で始めた薔薇騎士団も成長していくにつれそれが教育に良い
││ピニャが隊を率いる薔薇騎士団が設立された十二歳の頃の夢だった
││ピニャは昔の夢を見た
ピニャは目に涙をため、眠りについた。
最悪・・・こんなものが妾の初陣だと・・・﹂
ピニャ﹁ふぅ・・・正規兵は少数、民兵は勇敢な者から死んでいく・・・士気は最低
メイド長の答えに安心したのか、ピニャは客間のベッドに体を沈める。
メイド長﹁水をぶっかけて叩き起こしてさし上げますとも。﹂
?
117
とされ、本格的な教官による軍事教練で強くなっていった
││そして正式に騎士団として設立されたが、戦いに出されるのはいつも男性たちに
よる騎士団ばかり・・・ピニャの初陣がこのような戦いによって開始されたのがとてつ
もなく悔しかったのだろう・・・その時だ・・・
ピニャの顔に冷たい水がかけられた。
敵か
﹂
その冷たさと衝撃で飛び起きたピニャは目の前にいるメイド長の方を向いた。
ピニャ﹁なっ何事か
!?
ピニャ﹁なっ、なんだあれは・・・あの攻城用の木甲車みたいなものも気になるが、そ
除き穴から向こう側を見ると、そこには信じられない光景があった。
グレイ﹁姫様、こちらからどうぞ。﹂
到着すると周りの民兵が騒然としていた。
ピニャは急いで濡れた髪をタオルで拭き、鎧をつけて東門に向かった。
官も未だ信じられませんが・・・﹂
グレイ﹁はたして敵か味方か・・・ともかく東門にてご自分の目でご覧ください。小
だがメイド長の隣にいるグレイは焦る様子も無くピニャの問いに答える。
!?
の後ろのあの巨人は一体なんだ
﹂
何者だ
ノーマ
﹂
他にはいるか
敵ではないなら姿を見せろ
を着ているな・・・持っているものは武器なのか
ノーマ﹁他に敵は見えません
!!
!
﹂
?
﹂
?
﹂
﹂
使徒に魔導師にエルフ・・・なんなんだこ
グレイ﹁見た限りではここのミュイ様と変わりませんな。﹂
!!
物が現れる。
ピニャ﹁あ・・・あれは
グレイ﹁あれが噂に聞く死神ロゥリィですか
ロゥリィ・マーキュリー
すると二人の後ろから大きな紫色のハルバードが現れ、その次にそれを抱えている人
と精霊魔法の組み合わせは厄介だ。油断しているうちに弩銃で仕留めるか
ピニャ﹁あの杖の形・・・リンドン派の正魔導師だ。エルフまでいる・・・正魔導師
しばらくすると荷車から二人降りてきた。
奇怪な鉄製の荷車に壁上の弩銃や兵士たちのボウガンが向けられる。
!!
?
ピニャ﹁どうやらあれは木ではなく鉄か・・・中の連中は見たことのない斑の柄の鎧
り込む。
ピニャの目には巨大な黒い丸太を担いだ緑色の変な一つ目の巨人と奇怪な荷車が映
!?
!
ピニャ﹁あぁ、以前国の祭祀で見たことがある。﹂
?
!
ピニャ﹁あれで齢九百を超える化物だぞ
!!
第九話:運搬と混乱
118
119
の組み合わせは・・・﹂
普段なら到底あり得ない光景に呆然とするピニャは、顎に手を付け考え始める。
もしロゥリィ達が盗賊の味方なら最悪以外の何物でもない。
街のす
亜神たる使徒を含め、神という存在は人には理解出来ない考えを持っている。
神の行いはただの気まぐれとさえ言える。
決断しろ、もう時間は無いぞっ どうすればいい
?
だからロゥリィ達が盗賊の味方でも不思議ではない。
ピニャ﹁︵どうするピニャ
!
賊に与しているのか
否、それならばもうすでに町は堕ちているはず・・・︶﹂
べてが・・・この街の者すべての運命が妾の決断にかかっている・・・ロゥリィ達は盗
?
︶﹂
かんぬき
彼女たちが何用でここに来たかは知らぬが、こうなったら入場を拒むか強引
!
ピニャが下を見るとそこには先ほどの荷車の中にいた斑服を着た者達と同じ格好の
するとロゥリィ達が自分では無く、なぜか地面の方をじっと見続けている。
た。
覚悟を決めたピニャは、グレイの静止も無視して扉の閂を外し、思いっきり扉を開け
に仲間にするまでだ
に負ける
ピニャ﹁︵・・・だが妾にはもう士気を上げる術はない このままでは確実に盗賊ども
ピニャは目の前の事態に必死に思考を巡らせ、最善の策を考える。
?
!!
!
第九話:運搬と混乱
120
男│伊丹│が気絶している。
この状況から察するに、ピニャが扉を勢いよく開けたせいで顎に当たり、脳震盪を起
﹂
こして気絶してしまったのだろう。
ピニャ﹁もしかして・・・妾が
あんなことし
扉の前に人がいるかもとか思わないの
突入しますか
﹂
しばらくすると伊丹が顎をさすりながら起き上がった。
応答して下さい
?
どうやら無事なようだ。
鷲谷﹁伊丹隊長
!!
伊丹﹁で
今どういう状況なのか誰か説明してくれる
﹂
?
周りにいる民兵や騎士たちは一歩、また一歩と後ずさりし、後に残ったのはピニャだ
?
鷲谷﹁了解。﹂
伊丹﹁ちょっと気を失ってた、安心してくれ。状況を確認するから、待機しててくれ。﹂
!
?
その問いに何も答えず、ただうなづく三人は気絶している伊丹を引きずりながら城壁
?
ドワーフやオークだって気をつけるわ
!
!?
の中へと入っていく。
﹂
?
テュカ﹁あなた一体全体どういうつもり
ゴブリン以下よ
ちゃんとノックしたでしょう
てっ
!!
テュカはピニャに怒りながら水筒の中の水を伊丹の顔にかけて、起こそうとする。
!
121
けになった。
ピニャ﹁・・・妾
﹂
ファーストコンタクト
これが自衛隊とピニャたちとの最初の接触となった。
?
ハミルトン﹁あれが噂になっている緑の巨人と緑の人ですか、炎龍を倒したっていう
現在に至る│
フォルマル伯爵領にいた兵士たちも元から少ないため、そこを盗賊たちに襲撃され、
う余裕の無くなった両家は兵を全て引き揚げ、結果不正がはびこり治安が悪化。
更には帝国の異世界│日本│出兵に参加した両家の当主が戦死、フォルマル家にかま
姉がミュイの後見人を巡って話し合いから取っ組み合いの喧嘩にまで勃発。
現当主は今年十一歳になるミュイだが、前当主が急死し、他家に嫁いでいた長姉と次
口は五千人を超え北門は切り立った断崖と川に面している。
│イタリカはテッサリア街道とアッピア街道の交点に位置する巨大な交易都市で、人
会話が出来るようになった。
なぜか伊丹は顎を打った衝撃で、特地語が頭にインプットされ本を必要としなくても
第三偵察隊は一度攻撃を受けた南門の守備、鷲谷は西門の守備にまわった。
隊も防衛戦に参加することになった。
伊丹達はイタリカの現在置かれている状況をピニャたちに説明され、急きょ第三偵察
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
122
123
⋮いいんですか
あんな怪しい連中を中に入れて
﹂
?
そんな周りの注目を集めている鷲谷は困惑していた。
それは周りの民兵や正規兵も同じだった。
ン。
目の前のありえない光景に口をあんぐりと開け、呆然としているピニャとハミルト
く。
その謎の人物は巨人の手の上で一度伸びをすると、城壁の上に降り階段を下ってい
と顔の部分が黒い蟲甲のようなもので覆われた謎の兜を被った人が出てきた。
そう言いながら巨人を見ていると胸の黒い部分に穴が開き、その中から緑色の変な服
なくなってしまうからな。﹂
緑の人しか配置しない。あんな巨人が門の周りでうろちょろしてたら来る盗賊共も来
ピニャ﹁だが安心しろ、ハミルトン。あの巨人は西門にまわした。この南門にはあの
ピニャは車のそばにいる自衛隊と、城壁外部にいるザクⅠを見つめた。
ピニャ﹁そうだな、妾もさすがに驚いた。城壁を超えるほど大きいとはな⋮﹂
は⋮﹂
ハミルトン﹁それにあの緑の巨人、酒場での噂は聞いていましたがあれほど大きいと
ピニャ﹁贅沢は言っていられない、使える者なら何でも使うまでだ。﹂
?
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
124
﹂
鷲谷﹁なんで俺、周りから変な目で見られてるの
か。
注目を集めるのは簡単である。
鷲谷が現れたことで徐々に困惑し始めるイタリカの者達。
このままでは変な噂や疑いの目がかけられてしまう。
!!
そう思った伊丹は咄嗟に頭の中で設定を作りあげた。
伊丹﹁え、えっと⋮皆さん、ご安心ください 彼は巨人を調教する調教師です
﹂
!!
よね。﹂
栗林﹁鷲谷、こっちの世界じゃMSなんて無いんだからちゃんと考えてから行動して
た。
無理矢理な設定だったが、何とか理解してくれたのを確認してほっと胸をなでおろし
ん、ご安心を
皆さ
そんな中からパイロットスーツに身を包んだ人が出てくるなんて誰が想像できよう
見えない。
そう、この世界ではMSなど存在しないので周りの人達から見たら緑色の巨人にしか
﹂
栗林﹁多分MSから降りたことなんじゃないかな
?
鷲谷﹁あっ⋮﹂
?
!!
125
鷲谷﹁へへへっ、悪りぃ悪りぃ。﹂
そんな会話をしていると鷲谷の近くにノーマがやってきた。
ノーマ﹁巨人の調教師殿、西門までご案内します。﹂
鷲谷﹁よろしくお願いします。﹂
鷲谷は階段を上ってザクに乗り込むと、城壁の上にいるノーマに案内され歩いていっ
た。
西門にたどり着くと周りのかがり火を片づけてもらうために一緒に手伝った。
全てのかがり火を片づけた頃にはかなり日が落ち、辺りが暗くなっている。
鷲谷は一旦ザクの中に戻るとLEDライトを持ち出し、ノーマに手渡した。
鷲谷﹁これは懐中電灯と言います。辺りが暗いのでこれ使うと明るいですよ。﹂
あ、明るい
これを貸してくれるのか
﹂
ノーマに使用用途を伝えると、実際に目の前で使ってみせた。
ノーマ﹁おぉ
!
?
かった。
ノーマは周りの兵士たちに東門に行くように指示を出すと、自らも東門へと歩いて向
ノーマ﹁そうか、 承 った。﹂
うけたまわ
鷲谷﹁はい。それと兵はいらないので、全員東門の防衛にまわしてください。﹂
!
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
126
せっこう
その間、道は明るく歩きやすかったそうだ。
鷲谷は伊丹に敵の斥候が来ていること、敵の数は500∼600、多くて700ほど
﹂
﹂
いること、南門の伊丹達は囮で第二次防衛戦で迎え撃つ予定なことなど細かな情報をも
らい、緊急時には救援に駆けつけることなど通信で会話した。
するとロゥリィが伊丹の通信機で鷲谷に話しかけてきた。
守る、ですか
?
そんな貴方がどういう
ロゥリィ﹁ねぇ、ワシヤァ。ワシヤにとって守るってなあにぃ
鷲谷﹁え
ロゥリィ﹁貴方は巨人の調教師で、本来は帝国の敵でしょぉ
?
すか
﹂
も、この街の人達には何の関係もありません。それに⋮人を助けるために理由がありま
ために戦いますが、人を助けるためにも戦います。たとえそれが敵国の街だったとして
鷲谷﹁やっぱり自分は国民を守り、国を愛する自衛官です。確かに自分は国民を守る
鷲谷はその質問にしばらく考え、そして質問を返した。
のよぉ。﹂
神、戦うことには必ず理由があるわぁ。その理由が嘘だった場合、魂を汚すことになる
理由で戦いどういう理由でこの街を守るのか、気になったのよぉ。エムロイは戦いの
?
?
鷲谷の返答に口角を上げ、嬉しそうに笑うと更に通信で返した。
?
127
ロゥリィ﹁イタミとほぼ一緒だけど、人を助けるためには理由はいらないってところ
が気に入ったわぁ。﹂
鷲谷﹁お気に召していただけて光栄です、神様。﹂
そんな会話をしているうちに辺りは暗闇に包まれた。
12時を過ぎ、1時⋮2時⋮刻一刻と時間は過ぎ、そして3時になったその時だった
⋮
東門と西門に無数の火矢が降り注ぐ。
火矢による集中攻撃を受けています
﹂
西門にいる鷲谷のMSには無害だが、東門の兵士たちにとってはまさしく地獄の雨で
数は騎兵が100
!
ある。
鷲谷﹁攻撃です
!!
﹂
?
れ。﹂
伊丹﹁そうか⋮鷲谷、とりあえず敵勢力を排除して。排除し終わったら連絡してく
桑原﹁まだなにも。﹂
伊丹﹁東門からの応援要請は
桑原﹁盗賊といっても元正規兵だそうですし。﹂
数の部隊でMSを足止めか⋮よくまぁ考えたもんだよ。﹂
倉田﹁〇三〇〇、夜襲には絶妙な時間だな。で、戦力の大半を東門に集中させて、少
!
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
128
鷲谷﹁了解
﹂
らない民間人だ。
陥落するのは時間の問題だ。
!!
弓兵、放てぇ
!!
東門はまさしく戦場と変わっている。
押し返せ
!
でいる。
弓やボウガンを使って盗賊を押し返そうとするが、盾を上にし弓矢からの攻撃を防い
ノーマ﹁ひるむな
﹂
いくら西門の人員を東門にまわしたとはいえ、彼らの大半以上は武器を持ったことす
問題は東門の方だ。
それに弾が尽きてもザクの身体そのものが強力な兵器なのでそこまで焦る事は無い。
が出来る。
それでも280mmのバズーカの威力は強力で、爆風だけでも馬ごと吹き飛ばすこと
なかった。
しかも今回使用しているバズーカは単発式であり、一発撃っては装填しなければなら
だが騎兵との間がかなり離れており、一発では仕留めきれない。
鷲谷はバズーカを構え、一番前に入る騎兵隊に向かって攻撃を行った。
!
129
更にはセイレーンの精霊魔法によって矢がすべて無力化されている。
あっという間に城壁に取りつかれ、はしごを上ってやってくる。
盗賊たちは必死に街を守ろうとしている街の者を嘲笑うがごとく、ニヤニヤと不気味
に笑う。
盗賊如きが城市を陥そうなど
﹂
そう。この盗賊たちはここに死に場所を求めてきているのだ。
│これこそが戦争、敗走し身を落とせども我らは戦士⋮
│
わかりやすい敵の殺戮、わかりやすい自分の死⋮
これこそ我らの戦争、エムロイへ捧げる賛歌
生意気な
すると敵が一塊になって突撃してきた。
流石のノーマもこれほどの数の盗賊を相手には出来ない。
更に最悪な事に倒した敵に躓き後ろに転んでしまった。
!!
!!
次々と民兵が殺され、城壁に次々と盗賊が上ってくる。
ノーマ﹁クソッ
!
次から次へと上ってくる盗賊を倒していくが数が多い。
!
これを盗賊たちが見逃すはずも無く、絶体絶命のその時⋮ノーマが腰に何か固いもの
があるのに気がついた。
︶﹂
それは先ほど、鷲谷に渡されたLED懐中電灯だった。
ノーマ﹁︵これを使えば
緊急会議が行われていた。
加茂﹁ぜひ自分達に行かせてください
﹂
!!
!
すぐにでも出られます
!
第一戦闘団を指揮する加茂と柘植はやる気になっているが、それは健軍によって止め
柘植﹁第一戦闘団編成完結
﹂
イタリカで激戦が行われているその時、アルヌス駐屯地ではどの戦闘団が出動するか
その隙に急いで城壁から降りていった。
いきなり目に飛び込んできたまばゆい光に驚き、目を押さえる。
ノーマは咄嗟に手に取ると、それを盗賊たちの顔に向けてスイッチを入れた。
!
地面をちんたら移動していたら到着に時間がかかり過ぎる 陸将、是
﹂
!!
られる。
健軍﹁ダメだ
!
非私の第四戦闘団を
!!
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
130
131
確かに今は少しでも早くイタリカに到着する必要がある。
だが航空兵器を持っているのは第四戦闘団だけではない。
大明﹁なら俺たちの第六戦闘団も早く行けるぞ。﹂
│第六戦闘団とはMSのみで編成された戦闘団のことである。
この戦闘団の指揮官は鷹、副指揮官は大明となっている。│
﹂
大明﹁俺たちの第六戦闘団のドダイⅡを使えば、ヘリより早く到着できるぜ。どうせ
お前ら、ワルキューレの騎行がやりたいだけだろ
図星なのか、顔をしかめる健軍と用賀。
狭間﹁第六戦闘団の出動を命じる。今は速度と火力が必要だ。第四戦闘団はMS帰還
狭間は現在のイタリカの状況を考え、そして今回出撃する戦闘団を発表した。
?
﹂
ヅダを今回の作戦に使用してもよろしいで
用のファットアンクル改に乗って戦闘後の支援を行え。﹂
一同﹁了解
テストもかねて。﹂
鷹﹁陸将、自分からも一ついいですか
しょうか
?
!!
鷹﹁了解しました、ありがとうございます。﹂
こるか分からないからな。﹂
狭間﹁う∼ん⋮いいだろう、だがあまり無茶な操縦はするな。今回の実験機は何が起
?
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
132
健軍・用賀﹁︵くそ∼
せっかくの機会が
︶﹂
!!
ため、全力をもって出撃する
過日ア
!!
現在街は大規模
守備目標はイタリカの街 敵目標は﹃盗賊団﹄
ルヌス駐屯地を攻撃した敵武装勢力の敗残兵の集まりだと思われる
!
﹄搭乗
﹂
や陥落するだろう
ヨ
我ら第六戦闘団編成後初の出動だ
﹂
必ずやイタリカの街を﹃死守セ
!!
!!
ドダイⅡに乗り込んでいく。
鷹﹁では陸将、行って参ります。﹂
狭間﹁ん、鷹二佐、気をつけてな
大明﹁加茂、柘植。お留守番頼んだぜ
!
﹂
大明は嫌味な笑顔を加茂と柘植に見せた。
!
﹂
大明の作戦発表に気合が入ったのか、パイロット達は目に闘志を燃やしながらザクや
パイロット達﹁おう
!!
!!
な攻撃を受けており、すでに被害は甚大 今ここで我々が征かねばイタリカの街は必ず
!!
!!
請が入った。我が第六戦闘団六〇一中隊はこの命を受け、治安回復と敵武装勢力排除の
大明﹁第三偵察隊がいるイタリカの街の代表、ピニャ・コ・ラーダ氏より緊急支援要
れからの作戦について発表した。
悔しがる健軍と用賀を尻目に、大明はMSパイロットとドダイⅡのパイロット達にこ
!!
!!
!
133
加茂﹁ぐうう∼
﹂
次は我々第一戦闘団を
﹂
!!
﹂
?
︶﹂
?
ぞ。﹂
!
!
も楽しみにしている。
狭間﹁︵こいつらの頭の中にはギレン・ザビでもいるのか
?
狭間の脳内ではMSがドダイⅡから降下し敵を殲滅する光景がハッキリと映し出さ
な⋮ハァ⋮︶﹂
この後の展開が予想できる
先ほどまで第四のワルキューレの騎行のことをとやかく言っていたわりには、自分達
大明﹁いいセンスだ
﹂
MS IGLOOの﹃死守セヨ ﹄の約20分戦闘用BGMのCDを用意しておいた
鷹﹁あぁ、全MSに高性能大型スピーカーとお前のコックピット内にコンポ、それと
大明﹁例の物はつけたか
二人は楽しそうに会話していた。内容は⋮
狭間は大明と鷹の方を見た。
る第四と高速輸送のできる第六しかないのに⋮どうしちゃったんだこいつらは
狭間﹁︵よっぽど溜まってるんだろうなぁ⋮現在の編成上出せるのは空中機動のでき
狭間は悔しがる二人の声を聞いて眉間を押さえた。
柘植﹁狭間陸将
!!!!!!!
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
134
れていた。
それはさながら地球降下作戦のようだ。
﹂
全MSの発進準備が完了し、ザクを乗せたドダイⅡは滑走路へと向かう。
鷹﹁MSリーダーより全機、出撃
﹂
﹂
なのになぜ⋮ノーマはどうした
!
﹂
ピニャ﹁味方があまりにも脆すぎる⋮士気はあがっていたはずなのに⋮敵は元正規兵
場所は戻りイタリカの東門⋮
ザクを乗せたドダイⅡは滑走路を次々と飛び立っていった。
!!
とはいえ作戦も何もないただの力押しではないか
無事だったか
ノーマ﹁ここにいます
ピニャ﹁ノーマ
!!
!!
?
ピニャ﹁︵現実と頭で考える事はこんなにも違うのか⋮︶﹂
ピニャは敵にほぼ落とされている東門を見ながら下唇を噛んだ。
ピニャ﹁そうか⋮それより⋮﹂
ました。﹂
ノーマ﹁はい、巨人の調教師からもらったこのカイチュウデントウのおかげで助かり
!
135
そんな事を考えている間に仲間は次々とやられ、そして最後の兵士がやられた。
門が開け放たれ、そこから不気味に笑いながら盗賊たちが入ってきた。
そして民兵たちは驚くべき光景を目の当たりにする。
仲間や友、家族や恋人の裸にされた死体を馬で引きずりながら入ってきたのだ。
しかもその死体を投げつけてきたのだ。
明らかな挑発行為に我慢できなくなった民兵たちが柵から飛び出していく。
南門では戦いの神であるロゥリィの身体を死んだ魂たちが通り抜け、エムロイの許に
召される。
それは彼女にとっては麻薬や媚薬のように作用する。
戦えない事に身を悶えながら必死にこらえる。
西門ではすでに鷲谷が騎兵隊の排除に成功しているが、バズーカの残弾は0、Sマイ
ンも使ったため武装はもうない。
e
c
目標
南門には敵は来ない、西門の敵は片づけた。援軍の誘導も行わなければならないた
r
!
め、伊丹は栗林と富田、ロゥリィの四人で東門の援護に向かった。
3
﹂
伊丹﹁六〇一、こちら第三偵察隊。敵は東門にて戦闘中。繰り返す、敵は東門
は発色信号で伝える、送れ
伊丹は六〇一に通信で報告を終える。
!!
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
136
ク
リ
なんで
﹂
伊丹﹁栗林、暗視装置外しとけよ。﹂
栗林﹁へ
?
﹂
!!
音楽流すぞ
﹂
鷹﹁全機10時の方向、攻撃態勢を取れ 朝日を背に突入を開始する
全機降下準備
!!
前に任せる。﹂
大明﹁そうこなくっちゃなぁ
!!
降下
降下
﹂
!
色がパイロット達の心を燃やす。
全機、降下
!
そしてその時は来た⋮
大明﹁降下地点到達
!!
ドダイから次々とザクが降下していく。
!
大明、後はお
!!
ザクに取り付けられた大型スピーカーからバイオリンやピアノ、様々な金管楽器の音
大明は意気揚々とコンポにCDを入れ、再生ボタンを押した。
!!
!!
伊丹からの報告を受信した大明は鷹に東門にて戦闘が行われている事を知らせた。
そう言いながら窓から身を乗り出し、発色信号弾を空に打ち上げる。
伊丹﹁それにもう夜明けだ。無駄に怒られたくなかったら外しとけ。﹂
栗林﹁壊しませんよ
富田﹁お前戦闘で壊すだろ。﹂
?
137
イタリカ降下防衛作戦、開始。
東門では戦闘とは名ばかりの残虐な殺戮が繰り返されている。
こっちは武装しただけの民兵、相手は訓練を積んだ元正規兵。
このままではイタリカは盗賊共の手に落ちる、そう思った次の瞬間⋮
盗賊と民兵の間に一人の少女が高笑いしながら舞い降りた。
着地と同時に大きな風が巻き起こる。
赤と黒を基調とした服、身の丈に合わない巨大なハルバード。
周りの者達が呆然としていると、今度は聴いたことのない音楽が聴こえてきた。
躍動感溢れる演奏と轟音のような音⋮
民兵も盗賊も思考が追い付かないでいた⋮盗賊共は辺りを見渡す。
すると⋮
それも違う⋮目を凝らしてよく見ると何かが降ってきた。
上空に巨大な鳥が飛んでいるのが見えた。いや、鳥ではない⋮
では竜か
まなこ
﹂
!
﹂
あ と で ビ ー ル お ご っ て や る M S リ ー ダ ー に 代
!
全機、攻撃開始
!!
大 明﹁キ ラ ー 隊、よ く や っ た
キラー3│2﹁城門に命中を確認
すると先頭にいるザクがバズーカを構え、城門付近の敵を一掃した。
降りてくるザクは数を増していく。
かった。
ま さ か あ の 巨 人 が 空 か ら 降 り て こ よ う と は 盗 賊 は お ろ か 民 兵 す ら 想 像 も し て い な
緑の巨人⋮ザクⅡだ⋮
忘れたくても忘れられぬ悪魔の使い⋮
彼らには見覚えがあった、アルヌスの丘へと攻め入った時に見たあの光景⋮
黒き杖と棍棒を携え、降りてきたのは鉄の巨人⋮
緑の体⋮赤き眼⋮
それは徐々に大きくなり、そして盗賊共の目の前に着地した。
?
わって私が指揮を執る
!!
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
138
!
139
大明の命令を聞くと、パイロット達は容赦ない攻撃を浴びせる。
城壁外部のみ攻撃を行え
﹂
120mmザクマシンガンの一斉射撃、74式戦車のライフル砲が105mmなので
味方がいる
城壁のバリスタで反撃しようと試みる。
!
た対空兵器を確認、まだ装填前です。﹂
﹂
大明﹁リーパー2│1、目標を攻撃、破壊せよ
リーパー2│1﹁了解
﹂
リーパー2│1﹁リーパー2│1よりホワイト・オーガーへ。城壁上に敵に鹵獲され
!!
その威力は語らずとも分かるだろう。
大明﹁城壁内部へは攻撃を行うな
!
次々と盗賊共が屠られていく、だがやられっぱなしの盗賊団ではない。
!
く。
石で作られた城壁は赤く熱され、まるで溶けた飴のようにドロドロと流れ落ちてい
木製のバリスタに火が付き、城壁ごと粉々になる。
そして高く振り上げ、バリスタに向かって一気に叩き下ろす。
加熱された刃の部分がオレンジ色に光り始める。
に持ち替える。
リーパー2│1のザクはバリスタの前まで近づき、ザクマシンガンからヒートホーク
!
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
140
弓兵が大明の乗っているホワイト・オーガーに矢を放つが、かすり傷にもならない。
大明はあえて、撃たずにじりじりと距離を詰める。
そして巨大な足で踏みつぶそうと右足を高く上げ、地面へと降ろす。
だがなぜか大明は兵士たちを踏みつぶさず、ギリギリのところで止めた。
盗賊共は何が起きたか分からない、もしかしたら助けてくれるのか
あまりにも圧倒的な力の前に盗賊たちは逃走を始める。
絶命していく。
少し離れた場所にいた者は服や鎧、皮膚に火が燃え移り地獄の苦しみを味わいながら
れる。
スラスター発射口の近くにいた兵士は一瞬にして消し炭になり、跡形も無く消し去ら
そんなのが体に吹き付けられたらどうなるか⋮
を浮かすために、そこから発せられる熱は何千度にも達する。
ザクの足の裏には脚部スラスターが取り付けられており、74.5tもあるこの機体
徐々に明るさは増していき、熱も放ち始めた。
すると足の裏の大きな穴が明るく光り始めた。
そんな盗賊たちの希望を打ち砕く事がこれから起きようとはだれも考えつかない。
?
141
トラッカー2│2﹁トラッカー2│2よりホワイト・オーガーへ。城外の敵騎兵と歩
兵約100、東に後退中。﹂
﹂
大明﹁了解した、ホワイト・オーガーよりジャッカル1、3。パイソン2、3。東に
・・
後退する敵集団を攻撃せよ
四方八方をザク囲まれ、逃げ道の絶たれた盗賊たちは武器を捨てて投降し始める。
る。
地面に出来た穴の中に血肉や糞尿が溜まり、肉が焼ける焦げた匂いが辺りに立ち込め
騎兵隊に無数の鉄球が降り注がれ、人馬を無残な肉塊に変える。
Sマインだ。
クの上で炸裂する。
騎兵隊がザクの足元を通ろうとしたその時、肩や足から何かが発射され、それらがザ
た。
これ以上逃げ場はないため、ザクの下を強行突破しようとするがそれが命取りだっ
その騎兵隊の進行方向に1機のザクが見える。
とするので一列に並び始める。
案の定120mmを避けるように馬を走らせ逃げようとし、全員同じ方向に逃げよう
大明の命令で3機のザクは敵をある方向に誘い出すように射撃を加える。
!
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
142
だが城壁内部の盗賊たちはまだ諦める様子はない。
ロゥリィと盗賊たちが睨み合う中、伊丹達がようやく到着した。
︶﹂
彼女を援護する 離れるな ︵俺の見立てが正しければ彼女はとてつ
三人は急いで高機から降りて、64式に着け剣を行う。
伊丹﹁着け剣
!!
もなく強いはずだが、本当にあの人数と戦えるのか
!
富田﹁あの突撃馬鹿
突撃にぃ、前
﹂
!!
﹂
さっき離れるなって言ったのに
伊丹﹁今は言っている場合じゃない
!!!
のように回している。
!!
重ねたぐらいに過ぎない。
盗賊たちは盾を使って防御するが、そんなものはエムロイの神にとっては段ボールを
盗賊﹁テストゥド隊列
﹂
重さは自分の何倍もあるかもしれないハルバードを軽々と扱い、まるでバトンガール
いる。
ロゥリィは笑いながら次々と盗賊の体を真っ二つにしたり、頭を吹き飛ばしたりして
その光景はありえないの一言しか思いつかない。
単発撃ちで近くの盗賊を倒していくと、ロゥリィの姿が見えた。
!!
!
そんな事を考えていた次の瞬間、栗林が一目散に突撃しに行った。
?
!
143
ちょこまか動きやがって
刃と刃が重なり合い、火花が散る。
おい、槍持っている奴は足を狙え
そんなポジティブ思考な栗林は何事も無かったかのように敵を倒していく。
力があるからだけじゃなくって在庫一掃の64式だから実質問題ないか。︶﹂
﹂
栗林﹁あちゃ∼⋮二脚取れちゃった、武器陸曹に怒られるなぁ⋮︵ま、89式より威
すると64の二脚が取れてしまった。
剣を64で受け止めホルスターから9mm拳銃を抜き、早撃ちで相手をしとめる。
ちにする。
すぐさま銃剣を引き抜くと、襲い掛かってくる盗賊たちをヒラリと避けながら返り討
そのまま引き金を引いて銃弾を腹にねじ込む。
その大男の脇腹に栗林の64式の銃剣が突き刺さる。
る。
するとロゥリィに身長の二倍はあろう男がとげの付いたハンマーで叩き潰そうとす
まま重なり合った刃の上に降りたち、時計回りに回転して盗賊たちを薙ぎ払う。
だがロゥリィは上に勢いよくジャンプし、盗賊の一人にハルバードを突き刺すとその
!!
ロゥリィは盾ごと盗賊たちを横に真っ二つにする。
盗賊﹁クソッ
!!
盗賊たちも大分頭を使うようで、足元を狙って槍を突き出した。
!
﹂
栗林に近づく盗賊をロゥリィが倒し、ロゥリィに攻撃しようとするのを栗林が阻止す
る。
あの二人の背中を守るぞ
二人のコンビネーションはまさしく完璧だ。
ハミルトン﹁敵は怯んでいる
この時を逃すな
﹂
﹂
!!
連中に我々の力を見せてやれ
今が好機だ
ノーマ﹁隊伍を組んで押し返せ
!!
!!
エムロイの神君よ
﹂
!!!!
首領﹁み⋮認めんぞ⋮こんなものが⋮戦いであってたまるものか⋮そうは思わないか
首領は虫の息ながらロゥリィに伝えた。
しまった。
だが次の瞬間、バズーカの爆発で吹き飛ばされロゥリィのハルバードに突き刺さって
顔をしていた。
勝つはずだった戦いに負け始めている光景に盗賊の首領は苦虫を噛み潰したような
!!
!!
その光景を見て、先ほどまで士気が落ちていた民兵たちが立ち上がった。
!!
お互いの背中を預け合うほどだ。
﹂
伊丹﹁あの二人、息ピッタリだな⋮富田
富田﹁了解
!
自衛隊の参戦により優勢だった盗賊団は一気に劣勢に陥っている。
!!
⋮エムロイの神君よ⋮わ⋮我らに答えを
!!
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
144
145
ロゥリィは地面に首領を叩き付け、息の根を止める。
首領がやられた事により盗賊たちの士気は大幅に落ちてしまう。
だが、まだ負けていないとでも言うように戦い続ける盗賊たち。
r
e
c
物陰に隠れて
﹂
退避されたし
カウ
!!
3
繰り返す
こちらゴースト・ファイター1、これより場内の敵勢
どうしたものかと伊丹が悩んでいると、無線機に通信が入った。
伊丹﹁皆さん急いで逃げて
!!
鷹﹁7⋮6⋮5⋮4⋮﹂
その通信を聞いた伊丹はロゥリィを抱え、富田は栗林を担いで急いで離れる。
!
鷹﹁第三偵察隊、聞こえるか
10⋮9⋮8⋮﹂
力を掃討する。付近にいる味方勢力は退避されたし
ント10で攻撃を開始する
!
?
すると城壁を楽々とヅダが飛び越え、道の上に着地する。
!!
盗賊たちの悲痛な断末魔⋮悲鳴が聞こえてくる。
内部に残った盗賊たちに120mmが襲い掛かる。
鷹﹁3⋮2⋮1⋮﹂
そして⋮
影に隠れた。
民兵たちはこれから何が起こるのか全く分からなかったが、伊丹の指示に従い建物の
!!
そして120mmが撃ち終わる頃には、盗賊団は壊滅していた。
ハミルトン﹁化物だ⋮﹂
今まで見たことのない戦いにピニャは目を見開き、目の前の光景に唖然としている。
│鋼鉄の巨人⋮なんなのだこれは⋮
全てが叩き壊されていく⋮
何者も抗うことのできない絶対的な暴力⋮
ちょうしょう
誇りも⋮名誉も⋮一瞬にして否定する⋮
これは⋮女神の嘲 笑 │
気づけばピニャの頬には涙が伝っていた⋮
﹂
その後、後から駆け付けた第四戦闘団によって周辺の安全確保と負傷者の救出が行わ
状況終了
!!
れた。
﹂
!!
!
全員よくやった
大明﹁こちら大明、敵集団は壊滅。周囲に敵影無し
鷹﹁ん
!
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
146
147
伊丹﹁終わったかぁ⋮﹂
伊丹はようやく終わった戦いにほっとしていると、民兵の一人がやってきた。
﹂
民兵﹁ありがとう、おかげでこの街は救われました。あなた方はどこの軍隊なのです
か
そして⋮伊丹の左目にストレートパンチがお見舞いされる。
伊丹は勝利したことが嬉しいのかと勘違いし、ニッコリと笑い返す。
そしてニッコリと笑う。
ロゥリィは伊丹を指でつついて顔を向かせる。
しかも左手が胸に当たっている⋮
さっきから伊丹にお姫様抱っこしてもらっているのだ。
するとロゥリィがある事に気がついた。
イタリカ降下防衛作戦は盗賊団の壊滅という結果で終わった。
富田﹁私達は自衛隊です。﹂
?
第十話:イタリカ降下防衛作戦 ※挿絵有
148
その時、イタリカの街に悲痛な男の叫び声がこだました⋮
急ぎすぎだ
わたくし
後続が追い付いていないぞ
﹂
!!
シュ・フレ・カルギー。
パナシュ﹁ボーゼス
!!
⋮⋮⋮パナシュ⋮私達、間に合うかしら⋮
﹂
は少しでも早くイタリカに到着する必要があるわ
?
!!
それに今
や自衛官たちが投降者を監視したり、負傷者の手当をしたり、瓦礫の撤去にいそしんで
そんなイタリカの周りの野原にはファットアンクル改が着陸しており、辺りにはザク
いや⋮もう戦闘は終わっているのだ⋮⋮
数は足りなくても戦い方はあるわ
ボーゼス﹁いいえ、まだ遅いわ ピニャ姫様が私 達を待っておられるのよ
!
パナシュ﹁⋮⋮⋮姫様ならきっと保たせるさ⋮﹂
!!
!!
!!
その後ろを何とかついてきているのは白銀のショートヘアー、白薔薇隊隊長のパナ
レスティー。
先頭を切って馬を走らせるのは金髪縦巻ロールの美女、黄薔薇隊隊長ボーゼス・コ・パ
だったピニャ率いる薔薇騎士団が全速力で向かっていた。
イタリカの防衛戦が終わったその頃、本来ならばイタリカでの戦闘に参加する予定
第十一話:交渉と交易と拘束
149
第十一話:交渉と交易と拘束
150
いる。
グレイ﹁終わりましたな⋮﹂
ピニャ﹁確かに盗賊は撃退した⋮﹂
ノーマ﹁はい⋮我らの勝利です⋮﹂
ピニャ﹁違う 勝利したのはエムロイの使徒ロゥリィとジエイタイ⋮そしてあの巨人
一瞬にして盗賊共を滅却したあの巨人たちと強大な魔導が
?
ろう⋮﹂
ハミルトン﹁そんなことは
﹂
?
そんな不安を抱えつつ館へと戻り、自衛隊との交渉を行った⋮⋮が今のピニャの耳に
ば妾は取りすがって慈悲を乞い⋮足の甲にキスしてしまうかもしれない⋮⋮﹂
!?
!!
ピニャ﹁無いと言い切れるか 実際街を救ったのは彼らだぞ
もし彼らが開城を迫れ
の穀倉地帯であるイタリカは敵の物になる⋮⋮民はそれを歓喜の声で迎え入れるであ
このイタリカに向いたとしたら⋮妾もミュイ公女も虜囚の辱めを受け、帝国を支えるこ
でしまったのではないか
ピニャ﹁妾はイタリカを救うつもりで、もっと恐ろしく悍ましいものを引きずり込ん
その言葉にハミルトンの顔は一気に不安の表情に包まれる。
続けている我らの敵⋮﹂
たちだ⋮⋮我々では無い⋮⋮そしてジエイタイと巨人は聖なるアルヌスの丘を占拠し
!
151
は何の内容も入って来ない。
ハミルトン﹁此度はイタリカ救援に感謝し、その対価の交渉を行いたい。第二の使節
の往来の無事と諸経費については慣例通りとする。第三のアルヌス共同生活組合の貿
﹂
易特権についても問題ない。ただし捕虜の権利はこちら側にあると心得ていただきた
い
﹂
わけではないが、せめて人道的に扱って欲しい。﹂
ハミルトン﹁ジンドウテキ
レレイ﹁友人や知人に対するように無礙に扱わないこと。﹂
その言葉にハミルトンが食って掛かる。
ハミルトン﹁友人や知人が村や街を襲い、略奪などするものか
何事も問題なく事は進み、ピニャ、ミュイ、そして鷹の順番で署名が行われ、交渉は
レレイ﹁条文通りで問題ない。﹂
協定に関してだが⋮﹂
ハミルトン﹁⋮⋮了解した。では捕虜と交易に関しては以上だ。残りは軍隊の退去と
!!
?
レレイ﹁それが彼らのルール。﹂
﹂
めに五人ほど確保できればそれで構わない。ただこちらの習慣やしきたりに干渉する
鷹﹁復興のために労働力が必要なのは理解しました。こちら側としては情報収集のた
!
第十一話:交渉と交易と拘束
152
終わった。
グレイ﹁どうなりましたか
ですか
﹂
﹂
ノーマ﹁勝利者にしては随分と少ない要求ですね。で、このまま駐留してここを占領
イタリカでの交易の租税免除だ。﹂
ピニャ﹁捕虜数名の引き取りと費用こちら持ちで施設の仲介と無事の保証、それから
?
!
伊丹﹁あの子とあの子とあの子、それからあの子に、あの頭に羽が付いたファンタジー
れて帰る捕虜を決めていた。
そして捕虜の待機場所ではハミルトンと伊丹、栗林、黒川、鷲谷の四人が駐屯地に連
ハミルトンがどんな魔法を使ったのか知りたいものだ⋮﹂
ピニャ﹁あぁ、勝者に当然の権利を放棄させるとは⋮恐ろしいほどの交渉能力だ⋮⋮
とがありません。﹂
グレイ﹁それでは向こうが丸損じゃないですか そんな条件を飲む軍隊など聞いたこ
ピニャ﹁いいや、直ちに退去するらしい。﹂
?
153
﹂
?
な子も。﹂
﹂
鷲谷﹁全員女の子ですね⋮⋮若い娘だけ選んでません
伊丹﹁気のせい気のせい。﹂
﹂
黒川﹁偶然とでも言うんですか
伊丹﹁偶然だよ偶然。﹂
栗林﹁そうは思いませんが
伊丹﹁偶然だってば。﹂
?
く。
民はザクに手を振ったりお礼を言ったりして見送った。
本来の目的である鱗の交易も終わり、第三偵察隊も帰っていった。
!
すると道中⋮⋮⋮
全車停止。﹂
鷲谷﹁⋮⋮うわぉ⋮すげぇ、ベルばらだぁ⋮⋮﹂
?
﹂
そんなこんなで全て無事に終わり、第六と第四がファットアンクルに乗って帰ってい
黒川﹁まぁあの子たちの将来のことを考えると分かりますけど⋮﹂
?
隊長、前方から土煙を上げながら何かがこちらに接近中
鷲谷﹁ん
?
また煙
伊丹﹁え
?
鷲谷のMSのモニターには美女が馬に乗って走ってくるのがハッキリと映し出され
ている。
伊丹﹁こちらからも確認した。まぁ揃いも揃って美人ばっか⋮﹂
倉田﹁俺、実物の金髪縦巻ロール見たの初めてっすよ⋮⋮﹂
伊丹﹁全員敵対行動は避けろ。協定違反になりかねん。﹂
そしてそのベルばら騎士団が車の前までやってきた。
ヌ
ス
の
丘
﹂
の中の連中も見たことない服を着ているな。︶貴様たち、どこから来た
そしてボーゼスが富田の胸ぐらをつかむ。
そこに武器を置いた伊丹が近づく。
﹂
﹂
パナシュ﹁︵なんだこの巨人は⋮⋮ジャイアントオーガーのように見えるが⋮⋮それ
に荷車
﹂
富田﹁えーと⋮私たち、イタリカから帰る。﹂
ル
貴様らが異世界の敵か
富田が口にした次の瞬間⋮
富田﹁⋮⋮⋮アルヌス・ウルゥ﹂
ア
パナシュ﹁どこへ
?
パナシュ﹁なんだと
!!
騎士団の全員が一斉に槍を構え、剣を抜き、戦闘態勢に入る。
!!!
?
伊丹﹁えーと⋮部下が何か失礼をいたしましたか
?
第十一話:交渉と交易と拘束
154
?
155
﹂
そんな伊丹の首筋に剣が構えられる。
パナシュ﹁降伏なさい
伊丹﹁逃げろ
今は逃げろ
行け
!!
﹂
更にはボーゼスが伊丹の左頬に平手打ちをする。
伊丹は何とか話し合いで解決しようとするがパナシュは聞く耳を持たない。
!!
!!!
だが実際は⋮⋮
ピニャ﹁なんてことをしてくれたんだ
貴様ら
﹂
!!!!
当たったところからは血が滴り落ち、ボーゼスは何が起きたか分からない表情で突っ
ブチ切れしたピニャがボーゼスに向かって杯を額めがけて投げつけた。
!!
ボーゼスたちは当然、礼を言われるだろうと思っていた。
しながらイタリカへと向かった。
ボーゼスとパナシュは伊丹を睨みつけると、拘束して馬で引きずったり蹴とばしたり
その場にはもう車もザクもいなかった。
車のエンジン音とブースターの音に驚いた馬が少し暴れ、何とか落ち着かせた頃には
場を離脱する。
伊丹の命令に少し戸惑いながらも全員車を走らせ、鷲谷はブースターを噴射してその
!!
第十一話:交渉と交易と拘束
156
立っていた。
パナシュ﹁ひっ、姫様
﹂
私たちが何をしたと言うのですか
でしたが、敵の指揮官を捕虜にしたのですよ
戦いには間に合いません
!
﹂
り素直に謝罪されてはいかがでしょう
?
﹂
ピニャ﹁妾に頭を下げろと言うのか
!
グレイ﹁そうですが、此度は幸いなことに死人が出ておりません。策など弄されるよ
ピニャ﹁そうなれば負けるのは確実に我々の方だ。﹂
しないとは限りません。﹂
グレイ﹁これを口実に戦争を仕掛ける⋮⋮帝国の常套手段ですが、彼らが同じことを
伊丹はメイドたちに抱えられ、別の部屋へと向かった。
メイド長﹁かしこまりました。﹂
ピニャ﹁メイド長、彼を頼む。﹂
ただ揺れるだけであった。
ハミルトンが必死に伊丹に問いかけるが、目を開けたまま気絶しており、前後左右に
ピニャは左の方をチラリと見た。
ピニャ﹁結んだその日に協定破り⋮⋮しかもよりによって⋮﹂
ピニャはため息をつき、頭を抱えながら椅子に座り込む。
!!
!
157
グレイ﹁では戦いますか
巨人たちと。﹂
ろ。﹂
ジエイタイと死神ロゥリィ・マーキュリー⋮⋮そしてあの
富田﹁︵本気で言ってるのか
この突撃白兵戦中毒爆乳馬鹿娘は⋮⋮⋮︶多分大丈夫だ
あ、でもオタク的にはあんなキャラにいじめられて本望だったりして。﹂
栗林﹁隊長⋮⋮今頃死んでたりして⋮まぁあんだけ酷い目にあっていたからなぁ⋮
そしてイタリカの城壁外では⋮⋮
しょうが⋮⋮﹂
グレイ﹁小官はごめん被りますな。ま、どうなるかはイタミ殿のご機嫌次第なんで
その言葉にピニャは奥歯を噛みしめる。
?
栗林﹁今なんて言った⋮⋮
﹂
すると栗林が手に持っている双眼鏡を落とす。
富田﹁そうじゃないだろ、ああ見えて隊長、レンジャー持ってるからな。﹂
・・・・・
その言葉に富田が倉田の頭にチョップを食らわす。
倉田﹁そうそう、あのベルばらは隊長の趣味じゃないし。﹂
?
?
第十一話:交渉と交易と拘束
158
鷲谷﹁伊丹隊長がレンジャー持っているって言ったの。﹂
鷲谷はタブレット端末を操作しながら栗林に事実を告げる。
だが栗林は頭を抱え、ゴロゴロと地面を転がりまわりながらその事実を受け入れよう
としない。
栗林の話によればキャラが全く合わないのだ。
レンジャーとは地獄のような訓練課程をくぐり抜け、鋼のような強靭な肉体と精神を
合わせ持ち、何十キロという装備を担いで敵地に潜入し、どんなに過酷な任務でも遂行
する⋮⋮⋮それがレンジャー。
フォックスハンティング
だ が そ の 伊 丹 は 戦 う ど こ ろ か 逃 げ る の は 自 衛 隊 一 で あ り、一 度 伊 丹 を 目 標 に し た
追 跡 訓 練でも開始前に忽然と姿をくらまし、今まで一度も捕まった事が無い。
ゆえに栗林が唸るのもうなづける。
まさかゲーム
﹂
その事を伝えるとレレイはクスッ笑い、ロゥリィとテュカの二人に至っては大笑いし
ている。
栗林﹁ところで鷲谷、何やってんの
?
│旧ザク偵察仕様機に搭載された偵察装備の一つである。
鷲谷﹁んなわけねぇだろ、ドローンで偵察してんだよ。﹂
?
159
UAVは高度からの長距離偵察だが、ドローンは接近偵察を得意としている。
入り組んだ建物や敵のアジトなどを偵察する際に使用される。
また、ダクトなどの小さな隙間に進入する際にはプロペラが回転し、走行モードにも
なる。
どんな風景にも溶け込める最新鋭の光学迷彩や消音モーターを搭載しており、自衛隊
での愛称は﹃シャドウ﹄と呼ばれている│
栗林﹁ふーん、ちょっと見せて。﹂
鷲谷が持っているタブレット端末にはドローンから送られたイタリカの城壁の様子
が映し出されている。
ズームアップすると人の表情までハッキリと分かる。
あと皆にこれ渡しとい
鷲谷が画面をタッチする、すると城壁上の兵士││ピニャの騎士団に同行していた帝
﹂
国兵││に赤い枠がつく。
栗林﹁今何したの
鷲谷﹁マーキングだよ。こうしたほうが分かりやすいだろ
て。﹂
鷲谷﹁そのサングラスはこっちの端末とリンクしているから、こっちでマーキングし
そう言われて受け取ったのはサングラスだが、ただのサングラスでは無い。
?
?
第十一話:交渉と交易と拘束
160
た兵士がそっちに映る仕掛けになっているんだ。﹂
﹂
栗林﹁ふーん、色んな装備がついているんだね、旧ちゃんって⋮⋮﹂
鷲谷﹁まぁな、さーてと⋮そろそろ行きますか
富田﹁そうだな、おやっさんここ頼みます。﹂
て歩いていく。
耳には鷲谷から手渡された小型のインカムがつけられている。
鷲谷﹁テュカさん、城壁上の帝国兵だけ眠らせてもらえますか
?
来た。
民兵たちにとっては忘れ物か何か取りに来たと思ったのか、怪しまれずに入る事が出
草むらから残りの五人がゆっくりと出て来て、周囲の安全を確認する。
全員が寝たことを確認すると、手を振って合図を出す。
テュカは帝国兵を確認し、眠りの精を呼び出して兵士たち全員を眠らせる。
テュカ﹁分かったわ。﹂
﹂
門のすぐそばまでやってくるとロゥリィ、テュカ、レレイの三人は堂々と門に向かっ
夜でほとんど何も見えない草むらの中を気づかれないように歩いていく。
八人で行うことにした。
今回の伊丹の救出には富田、倉田、栗林、古田、鷲谷、ロゥリィとレレイとテュカの
?
161
栗林﹁ねぇ、鷲谷。隊長がいそうな場所って分かる
ろうかな
﹂
﹂
あの姫様はそんな事しそうにないから恐らく中央の屋敷で看病受けてるんじゃないだ
鷲谷﹁そうだなぁ⋮⋮敵なら牢屋に監禁して尋問したり拷問したりするだろうけど、
?
ヴ ォ │ リ ア・バ ニ ー
鷲谷はゆっくりと窓の高さまでドローンを上昇させる。
鷲谷﹁︵了解︶﹂
栗林﹁︵二階に明かりが⋮鷲谷、頼む︶﹂
そんな光景に顔をニヤつかせている伊丹のすぐそばまで八人は迫っていた。
プルのペルシアの四人だ。
メイドはヒトのモーム、メデュサのアウレア、首狩ウサギのマミーナ、キャットピー
娘など、まさしく天国とも言っていい状況だ。
左右にはアニメでしか見たことのないようなメイド服に身を包んだケモノ娘にモン
だ。
目が覚めるとアキバのメイドカフェならぬメイドホテルとでも言わんばかりの状況
そして伊丹はその言葉通り、最高のおもてなしを受けていた。
富田﹁よし、まずはそこを目指そう。﹂
?
第十一話:交渉と交易と拘束
162
離れろって
︶﹂
︶﹂
もっとよく見せろ
興奮するな
!
!!!!!
カメラに映っていたのは、ベッドの上で横になっている伊丹とその周りにメイドたち
鷲谷
!!
がいる光景だ。
ケモノ娘だぁ
!!!!!
鷲谷﹁︵うわ∼うらやましい⋮⋮︶﹂
倉田﹁︵ケッ
やめろ
!
すると興奮した倉田がタブレットを引き寄せる。
鷲谷﹁︵おい馬鹿
!
ヴ ォ │ リ ア・ バ ニ ー
メイド長﹁恐らくイタミ達の手の者でしょう。こちらまでご案内しなさい。他の者で
それと虫の羽音のような音もわずかながらに聞こえます。﹂
マミーナ﹁階下より何者かが鎧戸をこじ開け、窓より侵入しようとしているようです。
メイド長﹁どうしました、マミーナ。﹂
すぐに気づかれた。
る。
だがメイドの中には遠くの物音すらも敏感に感じ取る事の出来る首狩りウサギがい
具を破壊して中に侵入する。
部屋の中も目立った動きは見えないのでばれてはいないと思い、そのままドアの留め
興奮した倉田を栗林が羽交い絞めにして何とか落ち着かせる。
!!
!
163
あったらいつも通りです。﹂
ペルシア﹁かしこまりました。﹂
キャットピープルのペルシアがそう言うとマミーナとペルシアは部屋を後にする。
どうやらこの世界では人間以外の他種族が人間と一緒に働く事は珍しい⋮というよ
りは滅多に無い事らしい。
先代が開明的な方だったようで、ヒト種以外の者も積極的に雇い入れていたらしい。
大半は趣味というのもあったらしいが⋮もし日本に他種族を招き入れていたら、差別
どころかむしろ大歓迎で受け入れているだろう。
途中、アウレアに生気を吸い取られそうになったが、モームが止めてくれた。
﹂
この世界の他種族にはそれぞれの特性などがある事が分かった。
そんなことをしていると富田たちが部屋に入ってきた。
倉田﹁たーいちょ、一人だけずるいっスよ。後ろ弾しますよ
伊丹﹁後で紹介してやるよ。﹂
?
襲撃とイタミへの﹃ジンドウテキ﹄ではな
そんな一方、倉田たちが来たことなどまるで知らないピニャは、自室として今使って
いる部屋で報告書を書いていた。
│協定違反を無かった事には出来ないか
?
第十一話:交渉と交易と拘束
164
い扱い│
⋮⋮⋮⋮無理│
⋮⋮⋮⋮不可
│アルヌスの彼らの砦に報告される前にイタミの部下を捕えるか、口封じをすること
は出来ないか
│あの巨人たちを買収し、こちらの戦力として加える事は出来ないか
能│
﹂
⋮⋮⋮もしかしたらあやつら妾を苦しめるためにわざと
イタミを残したんじゃないだろうな
?
上
そう思い立ったピニャは早速、羊皮紙に羽ペンで書き始める。
皇帝に報告書を送ろう。﹂
父
いたけだか
⋮ 彼 ら の 真 の 力 を 知 っ て い る の は ま だ 妾 し か い な い ⋮ ど う し た も の か ⋮⋮︶そ う だ、
るまい、ジエイタイ側の官僚たちを怒らせてしまえば、結果は火を見るよりも明らかだ
きた。あの恐るべき力を知らない帝国の官僚たちがいつものように恫喝し居丈高にふ
どうかつ
を与えてしまう⋮あやつらは妾に圧倒的な武力を見せつけ、帝国との交渉仲介を求めて
ピニャ﹁︵彼 らに謝罪するのが一番良い解決方法かもしれないが、それだとつけ入る隙
ジエイタイ
告書の前で何度も何度も深いため息をつく。
誰もいない部屋でブツブツと念仏のように独り言を話すピニャは、途中まで書いた報
?
どうやって倒すと言うのだ
ピニャ﹁⋮炎竜ですら撃退し、盗賊共を一瞬にしてほぼ全滅にまで追い込んだ連中を
?
?
165
だがペンを持つ手が徐々に震えだし、何と片手で折ってしまった。
理由は単純⋮こんな報告した所で誰も信じないだろうからだ⋮
当の二人にイタミを篭
自分でさえ信じられないものを他人がどうやって信じるのだろうか
ピニャは頭を抱えて机に突っ伏す。
ピニャ﹁イタミさえ口をつぐんでくれさえすれば⋮⋮そうだ
?
﹂
ボーゼスはパレスティー侯爵家の次女だし、パナシュは格下のカル
ギー男爵家だが、あの二人に迫られて堕ちない男はいない
絡させればいい
!
ピニャ﹁連中は盗賊共を一瞬にして壊滅させ、炎龍とも互角⋮いや、それ以上の力を
姫のためを思ってしたことが裏目に出てしまったからだ。
ピニャのその言葉に二人は、悲しげな表情を浮かべる。
したイタミ殿に﹃ジンドウテキ﹄で無い扱いをした。どちらも重大な協定違反だ。﹂
ピニャ﹁ボーゼス、パナシュ。お前たちは往来を保証したジエイタイを襲い、捕虜と
ピニャが紅茶を一口飲むと丁度いいタイミングで二人がやってきた。
ずればいい︶﹂
ピニャ﹁︵イタミ程度の男には惜しい二人だが帝国の命運がかかった重大な任務と命
早速行動に移したピニャはメイドを呼んで二人を連れてくるように命令する。
!
!
﹂
持っている。この一件を口実に戦端を開かれれば、帝国がどうなるか⋮言わずともわか
るな
ピニャ様と帝国のため、この身を捧げましょう
﹂
そしてボーゼスは支度をするために、部屋を出ていった。
一方その頃、伊丹隊長がいる部屋では自己紹介が行われていた。
伊丹﹁ペルシアさん、こいつは部下の倉田だ。よろしく。﹂
!!
すると倉田が急に立ち始め、自身の自己紹介を始めた。
!!
!!
倉田﹁じっ自分はっ倉田武雄三等陸曹であります 二十一歳独身
﹂
よろしくお願いし
ボーゼス﹁⋮⋮⋮貴族の家に生まれた娘として、その手のたしなみも心得ております。
だが覚悟を決めたのか、口を開いた。
ボーゼスは顔を赤らめ戸惑う。
ピニャ﹁⋮⋮此度の事は無かったことにする必要がある、お前自身の体でな。﹂
ただ下を向いて返事をするだけだった。
ボーゼス﹁⋮⋮⋮はい⋮﹂
ピニャの問いにボーゼスは⋮
?
まっす
!!
第十一話:交渉と交易と拘束
166
167
緊張のあまり顔を赤くし、大声で言う倉田。
そんな倉田が面白いのか、ペルシアはクスッと笑うと⋮⋮
ペルシア﹁はい、よろしくですニャ。︵おかしなヒト⋮⋮男の視線といえば欲情と怯え
だけだったのに⋮⋮⋮こんなの初めて⋮⋮︶﹂
と内心思いつつ、返事をした。
その返事に倉田は興奮して、飛び跳ねていた。
その後は全員で記念写真を撮ったり、また会話を始めたりと思い思いの事をする。
鷲谷﹁了解。﹂
は﹃文化交流﹄ということで。﹂
伊丹﹁そうだな、鷲谷、おっさんに連絡しといて。おやっさん達には悪いけど、ここ
で普通に出ますか。﹂
富田﹁この状況じゃあ無理に脱出する必要はありませんね。夜が明けたら曹長達呼ん
伊丹﹁なごんじまったなぁ⋮というわけで状況はさっき話した通りだ。﹂
群のことについてなど、全員楽しそうに会話をしている。
盗賊達との格闘戦闘、絶滅したはずのメデュサの生態、異世界の服の生地やMSの大
ている。
イタリカを盗賊達から救ったおかげであっという間に場は和み、それぞれ会話を始め
たちが淹れてくれた紅茶でお茶会を行うことにした。
メイドたちとの自己紹介を終えた一行は、休憩のため持ってきていた菓子類とメイド
第十二話:皇女、アルヌスへ ※挿絵有
第十二話:皇女、アルヌスへ ※挿絵有
168
169
そんな彼らがいる部屋のドアの前でただ一人たたずむ女性がいる。
伊丹を暴行し手荒くあしらった張本人、ボーゼスだ。
彼女は先ほどまで身に着けていた重苦しい鎧を脱ぎ、淡い紫色のネグリジェのような
薄手の色っぽい服を着ている。
豊満な胸と引き締まった腰回りの肌が、薄い生地の向こうにうっすらと見える。
││まさか自分が痛めつけた男に身を捧げるなんて││
だが、これも帝国とピニャ様のため⋮⋮
覚悟を決めたボーゼスはゆっくりと⋮扉を開けた⋮
ボーゼスの目に飛び込んできた光景⋮それは⋮⋮
昼間逃げたはずの伊丹の部下が、メイドたちと仲良くお茶会をしている光景だった。
会話に夢中になっているせいで、周りの者達はボーゼスが部屋に入ったことに気づか
ない、と言うよりかはただ気づいていないだけなのだが、ボーゼスにとってはそれが無
第十二話:皇女、アルヌスへ ※挿絵有
170
視されたことだと勘違いし、胸の内に激しい怒りを覚えた。
そしてその怒りの矛先は伊丹に向けられた。
ツカツカと早足でそばに近寄ると手のひらにありったけの力を籠め、その渾身の一撃
﹂
と手のひらと頬の肉が勢いよくぶつかる音が部屋中に響き渡り、その瞬
を伊丹の左頬に叩きこんだ。
バチィン
間、伊丹は心の中で思った⋮
伊丹﹁どうして俺だけいつもこうなるの
と⋮⋮
そしてピニャは恐る恐る口を開いて問いただした。
る。
そして全員の目の前には、顔面蒼白で今にも気絶しそうな表情を浮かべたピニャがい
した一同。
その後、栗林と富田の二人に軽く取り押さえられたボーゼスを連れて、広間へと移動
!?
!
171
ピニャ﹁⋮⋮で
その顔の傷はどうした
﹂
?
帝国の未来を左右する事態だ。ピニャは必死にもう少しここに居て欲しいと交渉す
このままアルヌスに彼らを帰せば、どんな報告をされるか分からない。
しかも、伊丹を目に見えるほど暴行を加えたのだから、慌てない方がおかしい。
したのだ。
その言葉にピニャは慌てる。それもそのはず、協定を結んだその日に協定違反を起こ
レレイ﹁そちらのことはそちらで解決してくれ⋮⋮と言っている。﹂
富田﹁あー⋮自分たちは隊長を連れて帰りますので⋮﹂
ピニャは必死に頭を悩ませると、富田がレレイを介して伝える。
ピニャ﹁この始末⋮⋮一体どうしてくれよう⋮⋮﹂
まう。
その言葉にピニャはまるでこの世の終わりのような顔をしながら頭を抱え、俯いてし
ボーゼス﹁⋮⋮⋮わ⋮わたくしが⋮やりました⋮⋮﹂
さな声で言った。
しばしの沈黙が流れるが、この空気の重みに耐えられなくなったのか、ボーゼスが小
いたような傷がある。
伊丹の顔には先ほどボーゼスに引っ叩かれ赤く腫れあがった跡のほかに、猫が引っ掻
?
るが⋮
倉田﹁お誘いはありがたいんですが、伊丹隊長と鷲谷二尉は国会に参考人招致されて
まして、今日にはアルヌスに帰らないとやばいんです。﹂
レレイ﹁イタミとワシヤは日本の元老院に報告を求められている。それ故に今日には
急ぎ戻らなければならない。﹂
その言葉にピニャは更に驚愕する。
こ
こんな小部隊の隊長と巨人の調教師が、エリートキャリア
︶﹂
二人の報告一つでジエイタイと巨人たちが動き出す可能性が
ピニャ﹁︵げ、元老院だと
の人間だったのか
のまま黙っていかせてはならない
!!
イタミ殿。﹂
!!
﹂
姫様が護衛や従兵なしでは断るかなーと思ったんだけど⋮﹂
富田﹁隊長、いいんですか
﹂
えーっと⋮招致まで時間があまりないですし車内も狭いので、殿下とあと
?
ピニャ﹁了解、感謝する。メイド長、妾の従兵を呼んでくれまいか
一人か二人ほどでしたら⋮⋮﹂
伊丹﹁え
長か上位の指揮官に正式に謝罪しておきたい。よろしいか
ピニャ﹁で、では│││妾もアルヌスへ同道させてもらう 此度の協定違反、タカ団
すると何を思ったのか、ピニャは急いで立ち上がり、とんでもない事を言い始めた。
!!
!?
!!
?
?
!?
伊丹﹁あれぇ
?
第十二話:皇女、アルヌスへ ※挿絵有
172
173
そんな伊丹の考えなんかお構いなしにピニャは話を進めていく。
ピニャ﹁ハミルトン、妾の代行と代官の選任を任せる。パナシュとボーゼスは治安維
持を頼む。アルヌスへは妾一人で行く。﹂
殿下を一人で敵地に行かせるわけにはゆきません
そんなとんでもない事を部下が黙っているわけも無く⋮
﹂
﹂
ボーゼス﹁おっ、お待ちください
パナシュ﹁私達も同行を
!!
くことにした。
するとノーマが近づき、自分も行くと言い出した。
ピニャは理由を問いただした。
?
高機動車へと乗り込んだ。
身支度が終わり、朝日が完全に昇りきった朝の8時頃、三人は不安を胸に抱きながら
結局、ピニャの他にボーゼス、ノーマの二人が一緒に行く事になった。
ピニャ﹁分かった、そこまで言うならお前も連れていこう。﹂
を救われました。騎士として礼を言わなければ気が済みません。﹂
ノーマ﹁殿下、私も一緒に同行してもよろしいでしょうか
私はワシヤ調教師殿に命
ピニャは冷静に考え、確かに一人で行くのは危険と判断したのかボーゼスを連れてい
!
!
第十二話:皇女、アルヌスへ ※挿絵有
174
イタリカを出発してから1、2時間ほど経っただろうか。
ピニャが車の揺れで吐き気を催していた。
﹂
聖地とはいえ元はただの丘だったはずだが⋮﹂
アルヌスです
そんな時、ボーゼスが窓の外を見て叫ぶ。
ボーゼス﹁⋮殿下
ピニャ﹁もう着いたのか
!!
師なのか
﹂
ピニャ﹁あの杖⋮イタミ達が持っている物と同じ形だが、ジエイタイの兵は皆、魔導
する自衛官達、射撃訓練をする自衛官達を見送っていく。
道中、ハイポート走をする自衛官達や骨組みだけの訓練用スケルトンハウスで訓練を
ノーマ﹁麓を掘り返していますよ。丘の上にあるあれが、ジエイタイの砦か⋮﹂
!?
!
武器。原理は炸裂の魔法が封じられた筒で鉛の塊を弾き飛ばしている。﹂
レレイ﹁違う、あれは魔導ではない、
﹃ジュウ﹄あるいは﹃ショウジュウ﹄と呼ばれる
するとレレイが詳細な説明を始める。
のかもしれません。﹂
ボーゼス﹁もしかしたら、ジエイタイには希少な魔導師を大量に養成する方法がある
?
175
ピニャ﹁武器であるなら作ることが出来る⋮とするとすべての兵に持たせることも
⋮﹂
レレイ﹁そう、彼らジエイタイはそれを成し、
﹃ジュウ﹄による戦い方を工夫し、今に
至っている。﹂
ピニャは黙々と訓練をする自衛官達を見て、恐怖を感じていた。
││戦い方が根本的に違う││
││我々の今までの歴史の中で磨いてきた戦意と戦技を用いた戦列も⋮
彼らの持つ﹃ジュウ﹄の前ではただの無意味なものにしかならない││
レレイ﹁だから帝国軍も連合諸王国軍も敗退した。﹂
ピニャはチラリと傍らにある64式を見る。
ピニャ﹁戦況を一方的にしないためにも是非とも﹃ジュウ﹄を手に入れなければ⋮﹂
こんな状況に置かれてもまだ戦おうという強い意思がある。だがレレイに無意味と
一蹴された。
T
U
S
K
レレイが杖で窓の向こうを指すとそこに映っていたのは、特地仕様74式戦車とザク
の合同訓練の様子だ。
ドイツ軍
追
加
装
甲
板
7 4 式 に は ア メ リ カ か ら 送 ら れ て き た 戦車市街地戦生存性向上回収キット と 第 二 次
大 戦 時 に 独軍 も 使 用 し て い た シュルツェン と 有 刺 鉄 線、更 に は 追 加 の ス モ ー ク デ ィ ス
第十二話:皇女、アルヌスへ ※挿絵有
176
チャージャーも付いている。
ザクの方もシールドと頭部とコックピットの周りに追加装甲を付けている。
足にはミサイルポッド、シールドの内側にはシュツルムファウストが2本マウントさ
れており、ヒートホークも腰に装備されている。
よく見ると74式とザクに日本刀が首に刺さり血を流している炎龍のイラストが描
かれていた。
74式とザクが轟音を轟かせながら進んでいく光景に、三人は驚きを隠せない。
レレイ﹁﹃ショウジュウ﹄の﹃ショウ﹄とは小さいという意味。それなら対になる大き
い銃がある。実際に巨人たちが持っているのがそれ。﹂
しょうせい
ピニャ﹁コダ村の連中が言っていた﹃鉄の逸物﹄と同じ物なのか⋮ 鉄の天馬、鉄の
﹂
象、鉄の鳥、あんな物を作る職人などドワーフの匠 精にもいない
界の怪物⋮⋮⋮なぜこんな連中が攻めて来たんだ⋮
グリフォン
ピニャの呟きに何を今更と言った感じでレレイは一言⋮
レレイ﹁帝国は⋮鷲獅子の尾を踏んだ。﹂
その一言にボーゼスがレレイを睨みながら一喝する。
?
﹂
あれはまさしく異世
!
ボーゼス﹁帝国が危機に瀕しているというのに、その言い草はなんですか
だがレレイは表情を崩さず、その言葉に返す。
!!
?
177
﹂
レレイ﹁私は流浪の民、ルルドの一族。帝国とは関係ない。﹂
テュカ﹁はーい、私はエルフでーす
ロゥリィ﹁フッ⋮﹂
ピニャ﹁あぁ⋮イタリカで見た、白の巨人と青の巨人だな⋮﹂
ボーゼス﹁殿下、あれを⋮﹂
並んでいた。
MSが並んだ整備場を少し進むと、通常のザクと一緒にホワイト・オーガーとヅダが
だが三人から見れば何をしているのか見当もつかない。
節部分に油を差し、泥や硝煙反応によってついた火薬汚れなどを洗い落としている。
作業着で身を包んだ大勢の整備員が、ガスバーナーや工具を片手に整備点検をし、関
しばらく進むとMSが何機も並んで整備を受けている整備場が見えてきた。
屯地の光景はまさしく異様に見えるだろう。
そんなやりとりをして、営門を通り駐屯地に到着した三人だったが、彼らの目には駐
ピニャ﹁︵帝国は国を支配すれど⋮人の心までは支配できず⋮か⋮︶﹂
しがる。
三人のまるで関係ない他人事のような表情と返答にボーゼスは奥歯を噛みしめて悔
!
第十二話:皇女、アルヌスへ ※挿絵有
178
巨
人
ノーマ﹁彼らはここで体を休めているのでしょうか
﹂
そんな部屋の中でピニャとボーゼスの二人は、今後のことについて考えていた。
月が紅く輝き、窓から部屋に差し込む光がとても美しく幻想的だ。
その夜⋮⋮
汗をダラダラと流しながらも無事に会談は終わった。
そして狭間との話し合いを行ったが、柳田からの痛い質問がいくつも投げられ、冷や
途中ピニャは伊丹に説得の機会を設けようとするが、逃げられてしまった。
部へと案内された。
その後、ピニャ達三人は狭間陸将との今回の協定違反についての話し合いのため、本
三人はあらためて自衛隊の強さを思い知った。
い⋮﹂
ピニャ﹁ジエイタイの調教師はあの巨人を手なずける方法をよほど熟知しているらし
ボーゼス﹁あの恐ろしい力を持つ巨人が微動だにしていませんよ⋮﹂
?
179
ボーゼス﹁⋮⋮連中はやはり協定違反を開戦の口実にするつもりでしょうか
﹂
ピニャ﹁いや、そうであれば我々の訪問を受け入れ、このように丁重に扱ったりはし
?
ないだろう。⋮⋮妾には分からない。文化や世界が違い過ぎて、彼らがどのような理由
で戦っているのか見当もつかん。それを知るためにも⋮⋮﹂
ピニャは黙って外の門を包んでいるドームを見つめる。
ま、まさか
﹂
その視線に気がついたのか、ボーゼスは少し慌てた表情を浮かべ始める。
ボーゼス﹁⋮ピニャ様
!?
ピニャ﹁⋮⋮⋮⋮行くしかあるまい⋮⋮﹂
?
﹂
!?
テュカ﹁確か門の向こうってニホンの街なんだよね。楽しみー
クしていると、事務所にレレイがやってきた。
﹂
?
レレイはまだ寝間着姿のまんまだ。
テュカ﹁あ、レレイ。おはよー、昨日は部屋に戻ってなかったけどどうしたの
レレイ﹁泊めてもらった。﹂
あえてどこにとは言わなかった。
﹂
テュカが自分の命を救ってくれた異世界の人達の故郷がどんなところなのかワクワ
!
ね。レレイも一緒に連れていく。﹂
栗林﹁そう、こっちの世界には﹃ヒト﹄以外の種族が住んでいることを伝えるために
テュカ﹁門の向こうに行くの
話の内容は、今日テュカを日本に参考人招致のため連れていくという内容だ。
ロゥリィ、栗林と倉田と富田が話していた。
旧コダ村の難民キャンプに建てられたアルヌス共同生活組合の事務所で、テュカと
第三偵察隊がイタリカから戻って次の日の朝⋮
第十三話:門をくぐり抜けた先に⋮
第十三話:門をくぐり抜けた先に…
180
181
と聞いてきた。
すると先ほどからスティック菓子をポリポリと食べていたロゥリィが、自分は行って
はいけないの
﹂
?
テュカは冬服だが、レレイはさほど変わった点は見つからない。
どうやら着替えに若干時間がかかっていたらしい。
富田﹁すみません、支度に時間がかかってしまって。﹂
伊丹﹁遅いぞー、なーにやってた
そしてようやく一行がやってきた。
そんな暑い日差しが照り付ける中、二人は待っていた。
こちらの季節はほぼ夏だが向こうの季節は冬で、こちらとはあべこべになっている。
出しながら待っていた。
そして一時間後⋮門を包んでいるドームのそばで、伊丹と鷲谷の二人は汗をだらだら
た。
こうして、レレイ・ロゥリィ・テュカのいつもの三人組が参考人招致に行く事になっ
OKが出たのは言うまでもない。
け、伊丹隊長に連絡を取った。
栗林たちは最初こそ少しだけはぐらかすような回答をしたが、ロゥリィの気迫に負
?
ロゥリィもハルバードの刃の部分が布で覆われているが、それ以外は変わってはいな
い。
﹂
﹂
﹂
そんな刃物むき出しのまんまじゃ
邪魔なんだけどぉ。﹂
するとロゥリィが布のことに関して文句を言いだしてきた。
ロゥリィ﹁ねぇ、これはずしちゃだめぇ
置いていってほしいくらいよ
栗林﹁だーめ 向こうには色々と決まりがあるの
捕まるわ
しるし
!
?
ロゥリィ﹁神意の徴を置いていけるわけないでしょお
!
!
栗林﹁じゃあ我慢して
?
!
﹂
!
市ヶ谷会館と伊豆には連絡してあるけど
?
鷲谷﹁柳田ぁ、聞いてないぞ
柳田﹁あれ、そうだっけ
まぁ、二泊三日
ノーマ・コ・イグルー侍従武官のお三方がお忍びで同行される、よろしくな。﹂
柳田﹁ピニャ・コ・ラーダ殿下とボーゼス・コ・パレスティー侯爵公女閣下、それと
ピニャ達だった。
助手席から降りてきたのは柳田だ。そしてその後ろに乗っていたのは⋮
りの乗用車が止まった。
そしてようやく伊丹達が出発しようとしたとき、目の前に政府高官が乗るような黒塗
今回は栗林と富田が護衛同伴として行く事になっている。
!
?
第十三話:門をくぐり抜けた先に…
182
183
の臨時休暇、たっぷり楽しんでこいよ。﹂
笑って水に流せよ、女々しいぞ。﹂
伊丹﹁あのねぇ、このお姫様たちに俺が一体どんな目にあわされたか分かってんの
柳田﹁誤解なんだろ
﹂
?
﹂
?
た。
ドーム内に設置された指紋認証装置や3D顔認証装置を通り、門の中へと入っていっ
い、全員を引き連れてドームの中へと入っていった。
伊丹は受け取った封筒の中身を確認し、いくら入っているのかを確かめると懐にしま
柳田﹁狭間陸将からだ、娘っ子達の慰労に使えってさ。﹂
中身はどうやら現金のようだ。
そう言うと柳田は少し分厚くなった封筒を伊丹に渡した。
柳田﹁しょうがないだろ、通訳できる人材がまだ少ないんだから。﹂
鷲谷﹁だからってなんで俺たちと一緒なんだよ。﹂
のことを知っておきたいという要望も当然だろ
柳田﹁いちいち気にするな、殿下には帝国との仲介役をしてもらう。その為に我が国
伊丹﹁全く笑えねぇって⋮﹂
?
第十三話:門をくぐり抜けた先に…
184
暗く長いトンネルの中を進み続け、ようやく外の明かりが見えてきた。
そこから冷たい風が肌に吹きつける。
長い事暗い所に居続けたせいで一瞬目がくらむがそれもつかの間、彼女たちの目の中
に飛び込んできた光景⋮⋮それは⋮⋮
摩天楼だった⋮
185
天に向かってそびえたついくつもの巨大な建物⋮
﹂
それともこれが巨人の家
﹂
一面ガラス張りのものから、円柱形のもの、宮殿風造りの巨大な時計のついたものま
で数多くである。
ボーゼス﹁これは⋮壁
ピニャ﹁⋮いや、中に人の姿がある
?
﹂
?
うか⋮
﹂
ノーマ﹁これが人の家だとすると、巨人たちの家はいったいどれほどのものなのだろ
レレイ﹁それか人口がとても多いかのどちらか。﹂
ロゥリィ﹁イタミの国はそれだけ狭いのぉ
レレイ﹁どうやら、限られた土地に高い建物を作って有効的に活用している。﹂
!
?
悠々と飛んでいた。
ピニャ﹁あれは巨人たちを乗せていた鉄の鳥だ
﹂
ピニャ﹁⋮我々帝国は、このような優れた技術を持った国家を相手に、戦争を始めて
レレイ﹁あれは人も乗せるらしい、しかも10人や20人の比ではない。﹂
!
!!
ボーゼス﹁いえ、それらよりもはるかに大きいと思われます
﹂
空 を 見 上 げ れ ば 巨 大 な 黒 い 鳥 │ │ 羽 田 空 港 に 着 陸 す る 旅 客 機 │ │ が 彼 女 ら の 上 を
?
第十三話:門をくぐり抜けた先に…
186
・・・・・・・
しまったのだな⋮⋮﹂
日本の今では当たり前となった光景に驚愕している特地組の皆さんを尻目に、受付で
伊丹は書類記入をしようとしていた。
すると⋮
駒門﹁情報本部から参りました駒門です。皆さんの案内とエスコートを仰せつかりま
した。﹂
と自己紹介をした謎の男性がやってきた。
冬物の分厚いロングコートに黒い七三分けの髪、無機質な目の男性がニヤリと不気味
に笑う。
﹂
その様子を見て伊丹と鷲谷はすぐに感づいた。
鷲谷﹁おたく⋮公安の人でしょ
?
﹂
?
は大学で学んだ知識を生かして一般 M
S
P 候補生からMS適性試験に無事合格。
モビルスーツ・パイロット
せてもらいました。鷲谷秀人、大学では工学部に所属し、21で自衛隊に入隊。その後
駒門﹁くっくっく⋮流石は銀座の三銃士の一人だ。こちらでアンタたちの事を調べさ
の自衛官が全員おたくみたいになれる職場なら情報漏洩なんかしないでしょ
伊丹﹁アンタの周りに漂っている空気とオーラが他の人と何か違ってんだよね。生粋
﹂
駒門﹁やっぱり⋮分かりますか
?
パイロットの中では最優秀の成績を出している⋮にもかかわらず軽い性格と発言であ
まりよい勤務態度ではないらしいな。﹂
鷲谷﹁余計なお世話っすよ。﹂
駒門﹁伊丹耀司、平凡な大学を平凡な成績で卒業後、一般幹部候補生からブービーで
三尉に任官。ビリの奴はケガしたからで本当はアンタがビリ。勤務成績は不可になら
ない程度に可。業を煮やした上官によって幹部レンジャーに放り込まれる。何度か脱
落しかけるもバディに迷惑かけまくって金魚のフンのようにぶら下がって修了⋮﹂
伊丹﹁よくもまぁそこまで調べたもんだ⋮﹂
駒門﹁その後は習志野に異動して万年三尉のはずが⋮例の事件で昇進。同僚からは
すると駒門の顔が急に険しくなる。
?
初、かつ唯一の特殊部隊である。
rces Group、この名前は一部の人は聞いたことある名前だろう。陸上自衛隊
││S⋮⋮正式名称は特殊作戦群、英語省略名はJGSDF Special Fo
駒門﹁⋮そんなあんたがなんで﹃S﹄なんぞに
﹂
事実なので何も言えない伊丹はポリポリと頭を掻きながら聞く事しか出来ない。
シ﹄⋮コテンパンな評価だねぇ⋮くっくっくっ⋮﹂
﹃オタク﹄﹃ホントの意味で月給ドロボー﹄﹃反戦自衛官の方が主張が分かるだけまだマ
187
第十三話:門をくぐり抜けた先に…
188
訓練や任務内容、銃火器や装備等は創設時から一切公表されていないが、将来的には
アメリカ陸軍特殊部隊グリーンベレーやデルタフォースと同様、他国における特殊偵察
や直接行動、情報戦などの多様な任務を遂行可能な世界水準の特殊部隊を目指している
といわれる⋮⋮
そう、伊丹は特戦群なのである││
伊丹は頭を押さえため息を一つつくと、特戦群になった経緯を説明した。
伊丹﹁⋮聞いた話なんですが、働き蟻の約二割は怠け者なんですって。その二割を取
り除くとあら不思議、残った八割の中から二割の怠け者が生まれるそうです。最初は屁
理屈で言ったつもりなんですけどねぇ⋮そしたらどうやって上に伝わったのか、優秀な
﹂
ものを集めても二割が怠けるなら最初から怠け者を入れておこうという話になって
いって⋮﹂
S
駒門﹁んで気づいたら特殊作戦群に
そんな気が抜けるような入隊理由を聞いていた一同の中、一人だけ絶望と驚愕の表情
同人誌即売会力、恐るべし⋮
としてでもそれだけは阻止したくって⋮無我夢中でやったら入ったって感じっすね⋮﹂
伊丹﹁そうっすねぇ、まぁ大半の理由は年末の三日休日を止めるって言われたから何
?
189
を浮かべる人物がいた。
栗林だ。
伊丹が話し終わると同時に走り出し、フェンスにしがみついて泣きながらうわ言をブ
ツブツとしゃべり始めた。
もはや現実を認めたくないといった感じだ。
そんな様子を見て駒門は腹を抱えて笑い出したが、すぐに姿勢を正すとピッと敬礼を
する。
流石は公安といった感じだ。
駒門﹁アンタやっぱりただ者じゃないよ、働き蟻の中で怠け者を演じられるアンタを
俺は尊敬するよ。﹂
そう言って駒門は他の公安の人と一緒にどこかへ行ってしまった。
﹂
一同は国会行きのバスに乗り込むが、先ほどの衝撃発言が忘れられないのか栗林は後
部座席でまだブツブツと言っている。
ノーマ﹁ワシヤ殿、彼女はいったいどうしてしまったんだ
?
﹂
鷲谷﹁ほっといてあげてください。今はそっとしておきましょう。そのうち治りま
す。それで、隊長。このまま国会に行きます
?
第十三話:門をくぐり抜けた先に…
190
伊丹﹁いや、まだ時間があるしテュカの服もこのままじゃあまり良くないだろ。飯
食った後、スーツ買いに行くぞ。まずは飯だね、そこ右に曲がって。﹂
一同を乗せたバスは銀座の街の中を走っていく。
﹂
一方特地組の皆様方は銀座の街並みに驚きを隠せない。
レレイ﹁すごい人の数⋮﹂
ロゥリィ﹁ここは市場なのかしら
ロゥリィ﹁何かの儀式かしら
﹂
レレイ﹁木に装飾が施されている。﹂
ために飾られているのか見当もついていない。
だがクリスマスツリーなんて知らない彼女たちにはそれが何のためにあるのか、何の
そして時期は冬、そうクリスマスツリーだ。
その木には電飾やきらびやかな箱や玉などがついている。
テュカは道に立てられた一本の木を指さす。
テュカ﹁お祭りでもやるのかしら⋮あ、あれ見て。﹂
?
そして一行が最初に到着したのは、人気牛丼チェーン店﹃牛野屋﹄
?
191
富田﹁なんで⋮牛丼なんですか
﹂
﹂
鷲谷﹁でも、お姫様に牛丼食わして大丈夫なんでしょうか
伊丹﹁普通に食ってるからいいんじゃね
そんなお姫様たちはというと⋮
ピニャ﹁なかなかいけるな。﹂
ボーゼス﹁お肉が柔らかいですわ。﹂
化⋮﹂
﹂
ノーマ﹁甘辛く煮込んだ牛肉とふっくらと炊き上げたご飯、恐るべし⋮二ホンの食文
?
?
し⋮﹂
伊丹﹁文句なしだ、鷲谷。それにこの辺じゃコーヒー一杯で500円超える所もある
からいいんだけど⋮﹂
鷲谷﹁はぁ⋮久しぶりに日本に帰って来て、最初に食った飯が牛丼って⋮まぁ美味い
栗林﹁世知辛いっすねぇ⋮﹂
伊丹﹁参考人招致までは出張扱いだから、一食500円までしか出ないんだよ⋮﹂
?
そういうのもあるのか⋮﹂
ピニャ﹁どうやらニホンの人間は卵を生で食べるらしい⋮﹂
ノーマ﹁生卵
結構満足していた。
!
第十三話:門をくぐり抜けた先に…
192
次に一行が向かったのはスーツで有名な﹃洋服の愛山﹄
栗林﹁おぉ、スタイルがいいとスーツも似合うわねぇ。ロゥリィとレレイはどうする
﹂
﹂
!?
これで全ての準備が整った一同は国会へと向かった。
驚いていた。
ピニャ﹁なんだと
は低層階級の者でも買える値段らしい⋮﹂
ノーマ﹁どうやったらこのような仕上がりの良い生地が出来上がるのか⋮しかもこれ
ボーゼス﹁それをこれほど扱っているとは⋮よほどの豪商ですわ。﹂
⋮﹂
ピニャ﹁この服の生地と仕立て⋮妾達の物より数段上だ⋮相当高価な物に違いない
一方、お姫様方は⋮
ゴスロリ風民族衣装で誤魔化しておこう⋮︶あ、領収書は自衛隊でお願いします。﹂
伊丹﹁︵テュカはこれでよし、レレイも民族衣装っぽいし大丈夫だろう。ロゥリィは⋮
ロゥリィ﹁私も、これ神官の正装だもの。﹂
レレイ﹁不要﹂
?
193
警視庁の横を通り、国会議事堂の敷地内へと入っていく。
ピニャ﹁︵ここが二ホンの元老院⋮︶﹂
伊丹﹁じゃ富田、あとよろしくー﹂
富田﹁分かりました。﹂
﹂
伊丹達は先に降りて国会へと入っていく。
ピニャ﹁妾達も降りるのではないのか
まもなく、帝国と日本による最初の会合が始まる⋮⋮
ピニャ﹁承知した。︵いよいよだ⋮︶﹂
ますので。﹂
富田﹁別の会合場所に向かいます。一応殿下は日本には来ていないことになっており
?
置した収容施設で保護しておりまして⋮総収容者数は約六千人です。﹂
菅原﹁では最後に先の事件での捕虜の人数とその扱いですが、現在国内の無人島に設
外交は順調に進み、最後に捕虜の収容者人数とその扱いの話へと進んでいく。
要人の相互訪問に日本語の習得人材の派遣等々⋮⋮
帝国側の交渉当事者の贈賄の額の確認
宿泊地や費用の支払い
日本の交渉団の人数
捕虜となった帝国側の重要人物を提案
だがピニャは講和のために来たのではなく、あくまで仲介役として来たのだ│
たった一言で国の命運⋮今後の運命にも関わってくる。
│外交とは言葉による戦争と言ってもいい⋮
これより、帝国と日本国との最初の外交が始まった。
そこには首相補佐官の白百合玲子と外務省の菅原浩二がいた。
ピニャ達は国会議事堂を少し離れ、別の会合場所である高級ホテルにいた。
第十四話:日本常識が異世界に通用するとは限らない
第十四話:日本常識が異世界に通用するとは限らない
194
195
ピニャ﹁︵ろ⋮六千人
白百合﹁⋮は
そ、そんなに⋮︶﹂
﹂
?
あぁ、殿下ご安心ください。戦国時代ならいざ知らず、現在の我が国
ピニャ﹁み、身代金はいかほどに⋮
ピニャは生唾をゴクリと飲み込み、身代金の総額を声を震わせながら訪ねた。
その言葉にピニャは目頭を押さえ、俯く。
ピニャ﹁︵身代金が一体いくらになるのか想像すらできん⋮︶﹂
で引き渡したいと思っております。﹂
未だに病院で寝たきりのままの者もいます。我が国としてはそちらの求めに応じる形
苦慮しております。中にはザクによって精神的ストレスによる悪夢や幻覚、幻聴作用で
菅原﹁外見が人間では無い者達も多数おり、階級の高い軍人も多いようで正直扱いに
!?
やすくなるな⋮︶﹂
ピニャ﹁︵この情報があれば子弟を出征させている元老院議員や貴族との仲介がやり
菅原はそう言いながら名簿をピニャの前に差し出す。
す。﹂
菅原﹁殿下のためにもこの名簿の中で指名なされる若干名なら即時引渡しが可能で
譲歩﹄を期待しております。﹂
には身代金の習慣も奴隷制もございませんので。ですが、今回は金銭以外の﹃何らかの
?
第十四話:日本常識が異世界に通用するとは限らない
196
あと、その名簿の写しも必要になります。ピニャ様、差し出がましい事をして
ボーゼス﹁あの、今回は無理かもしれませんが、一度彼らに会うのをお許しいただけ
ますか
同じく某有名動画投稿サイトもこの機会を逃すまいと生放送を開始。それによってま
日本の豊島区に本社を構える某有名動画投稿会社や、港区六本木に日本本社を構える
と書き込まれ、その情報が拡散し公共放送局開局以来の高視聴率に達していた。
なため低視聴率をキープしているが、某巨大掲示板サイトに﹃特地参考人招致実況スレ﹄
日本公共放送局が義務的に放送している国会中継は、いつもなら面白味に欠ける番組
同時刻、国会議事堂では⋮
こうして日本と帝国との第一回会議は無事終了した⋮
渡しします。﹂
菅原﹁わかりました、次にお越しの際に手配しましょう。名簿も後程翻訳した物をお
ピニャ﹁⋮⋮そうか⋮﹂
申し訳ありません。実はわたくしの親友の夫君がこちらに出征しておりまして⋮﹂
?
197
すます注目度はあがっていった。
この生放送は中国、ロシア、そしてアメリカの各大統領も見ていた。
そして、注目の三人が第一委員会室へとやってきた。
その意外な姿に議員たちは驚きを隠せないでいた。
伊丹、鷲谷、テュカ、レレイ、ロゥリィの順番に参考人用の椅子に着くと、参考人招
致が始まった。
最初の質問者は幸原みずき議員だ。
彼女は野党に所属している議員で、大の自衛隊嫌いでもある。
MSの自衛隊配備や特地の自衛隊介入について何かにつけて講義していた。
今回の参考人招致で自衛隊の非を認めさせ、内閣を突き上げようと考えている。
彼女は椅子から立ち上がると、
﹃特地民間人犠牲者100人﹄という文字が大きく書か
れたフリップボードを机に突き立てる。
幸原﹁伊丹参考人に単刀直入にお尋ねします。自衛隊の保護下にあった避難民の四分
﹂
の一、約100人が特地怪獣、通称ドラゴンの犠牲になってしまったのはなぜでしょう
か
来ると思っていた。だが相手はあの伊丹だ、当然のことながら伊丹の回答は⋮
伊丹の経歴や、ニュースや新聞で優秀な自衛官だと聞いていたため、真面目な回答が
?
伊丹﹁えーそれはドラゴンが強かったからじゃないですかねぇ。﹂
適当であった。
その答弁はあなたの力量不足の責任転嫁なのではないですか
﹂
現場の指揮官として大勢の犠牲者が出てしまったことをあなたはどう受けとめてい
幸原﹁わ、私は自衛隊の方針や政府の対応に問題は無かったのかと訊いているんです
るのですか
!!
﹂
?
あの場にジャイアントバ
?
すか
﹂
ネットやGPSも、軍が開発したものを民間用に改良したんですよ
?
それを知っ
のに⋮大体皆さんは軍事を悪だと言いますがあなたたちは軍事の何を知っているんで
ズーカやビームライフルやメガ粒子砲とかあったらももっと早く大勢の人命が救えた
たのに64式でどうやって立ち向かえっていうんですか
伊丹﹁ハッキリ言って豆鉄砲でしたよ、あの時105mmマシンガンですら避けられ
幸原は伊丹の予想外の答えに間抜けな声を出してしまった。
幸原﹁⋮は
伊丹﹁銃の威力に。﹂
幸原﹁︵よしっ、自衛隊の非を認めさせ││︶﹂
伊丹﹁大勢の方が亡くなったのは大変残念に思います、あと力不足を感じましたね⋮﹂
ボードを何度も勢いよく叩き声を荒げ、息を荒くして伊丹を睨み付ける。
!?
!
てあなたたちは使うのをやめますか
?
第十四話:日本常識が異世界に通用するとは限らない
198
?
199
伊丹の挑発ともとれる言葉に幸原と同じく自衛隊を嫌う野党議員たちからヤジが飛
んでくる。
すると防衛副大臣の渡辺良三から補足説明が入る。
渡辺﹁特地から持ち帰った特地甲種害獣、通称ドラゴンの左腕のサンプルを解析した
結果、鱗の強度はタングステン並。モース強度で言うとダイヤモンドに次ぐ﹁九﹂、それ
でいて重さは七分の一です。更に報告によると口から超高温の火炎を吐くことが確認
されています。いわば空飛ぶ戦車です。彼が64式小銃を豆鉄砲と言った事もうなづ
﹂
けます。そのような状況下で犠牲者をゼロにするのはいささか酷な話では無いでしょ
うか
﹂
?
﹂
その時、周りに民間人がいるにもかかわらず機関砲を発射した
ことに問題はありませんでしたか
?
鷲谷﹁確かに私は105mmザクマシンガンを発射しました。ですがあの時私は周り
?
退しようとしましたね
幸原﹁そしてあなたはドラゴンの出現時、105mm重機関砲を使用しドラゴンを撃
鷲谷﹁はい、間違いありません。﹂
長を務める偵察隊のMSパイロットであることは間違いありませんね
幸原﹁分かりました⋮えーでは鷲谷参考人にお尋ねします。あなたは伊丹参考人が隊
的確な返答に幸原は、ここは一旦引くことにした。
?
第十四話:日本常識が異世界に通用するとは限らない
200
に民間人がいないことを確認し、射線上も確認した上で攻撃を加えました。確かに民間
﹂
﹂
人の犠牲者について問われると、何とも言えません。ですが今は残された保護民の将来
をサポートするのが、今我々自衛隊の出来る最大の支援ではないでしょうか
先ほどの伊丹の発言に比べるとまともな回答である。
﹂
次は特地からの参考人に対象者を変える、最初はレレイから始まった。
幸原﹁日本語は分かりますか
レレイ﹁はい、少し。﹂
?
不自由の定義が理解不能、自由でないという意味ならヒトは生まれ
幸原﹁今は難民キャンプで生活されているそうですが、不自由はありませんか
レレイ﹁不自由
?
?
答えを返した。
レレイは一瞬、なぜこのような質問をするのか戸惑いの表情を浮かべながら、質問の
自衛隊そのものが悪者のような意地の悪い質問を出した。
次に幸原は100名の犠牲者が出た自衛隊の対応に問題などは無かったかと、まるで
リが無い。﹂
レレイ﹁衣・食・住・職・霊、全てにおいて必要は満たされている。質を求めるとキ
あまりにも哲学的な返答に困惑した幸原は質問を言い直した。
ながらに自由では無いはず。﹂
?
201
レレイ﹁⋮ない。﹂
﹂
幸原﹁MS⋮モビルスーツによって何か問題などは起きませんでしたか
レレイ﹁⋮モビル⋮スーツ
﹂
?
がモビルスー
?
テュカはレレイに通訳で教えてもらうと、
テュカ﹁えぇ、自前ですよ。触ってみます
?
これに周りの議員や報道関係者は一斉にカメラのフラッシュをたく。
と言いながら耳をピコピコと動かした。
﹂
幸原はまず、テュカの耳が本物なのか確認するべく耳の質問をした。
レレイには今後の通訳をしてもらうため、席にはまだ戻らずにいた。
そして質問者がレレイからテュカに移り変わる。
ない。﹂
ツは頭脳も良く、性格も温厚。彼らには数多く助けてもらった。問題どころか感謝しか
やトロール、ゴブリンなどは頭が悪く、性格も粗暴な者達が多い。だが彼らモビルスー
レレイ﹁彼らはとても利口でジエイタイとも良い信頼関係を築いている。大抵の巨人
ツなのかと理解したレレイは、一旦の間を置いて質問の答えを返す。
の人が時々モビルスーツと呼んでいたのを思い出し、あの巨人の種族名
初めて聞く名前に首をかしげるが、しばらく考え、あの緑色の巨人たちをジエイタイ
?
フラッシュが収まると、幸原は先ほどレレイにしたのと同じ質問を聞く。
この質問にテュカは苦しそうな表情を浮かべた。
テュカ﹁よく⋮わからない。その時は気を失っていたから⋮⋮巨人については、彼ら
は私が今まで知る種族の中でも最も強いわ。彼らなら⋮きっと⋮⋮お父さん⋮⋮﹂
と最後辺りは少し小さく答えた。
そして⋮ロゥリィの番がやってきた。
﹂
幸原はロゥリィの格好を見て喪服だと勘違いし、家族を失った可哀想な少女と決めつ
けてしまう。
幸原﹁難民キャンプでの生活を教えてくれる
︵食事の言い回しかしら
?
以外のこともするけどぉ。﹂
幸原﹁い、命を⋮頂く
︶﹂
る、祈る、命を頂く、祈る、そして夜になったら眠るぅ。まだ肉体を持つ身だからそれ
ロゥリィ﹁エムロイに仕える使徒として信仰に従った生活よぉ。朝目が覚めると生き
?
しまっている。
﹂
幸原には少し変わった宗教を信じる少女という勝手なイメージがインプットされて
ロゥリィ﹁そう、食べること、殺すこと、エムロイへの供儀、色々ねぇ。﹂
?
幸原﹁あなたのご家族が亡くなった原因として自衛隊の対応は問題なかった
?
第十四話:日本常識が異世界に通用するとは限らない
202
203
レレイ﹁⋮⋮⋮質問の意味がよくわからないと言っている。ロゥリィの家族はもう│
│﹂
幸原﹁資料によれば、ドラゴンの襲撃を受けた際、避難民の四分の一もの犠牲者を出
しておきながら、自衛隊員には死者どころかケガ人すらいません。身を挺して戦うはず
﹂
の自衛隊員が、自身の安全を第一に考え、その結果民間人を危険にさらしたのではあり
ませんか
日本語で││││
!?
?
耳を塞いでしまう。
幸原﹁い、今なんと
﹂
大声でマイクにしゃべったおかげでハウリングを起こし、その場にいる全員が思わず
ロゥリィ﹁あなたおバカぁ
﹂
そして、ロゥリィはこの質問を返した。
この質問にロゥリィは驚き、あっけにとられる。
!?
﹂
ロゥリィ﹁あなたはおバカさんですかって尋ねたのよぉ、お嬢ちゃん。﹂
幸原﹁あ、あなた日本語が分かるのですか
たのか、それが知りたいのでしょぉ
イタミ達は頑張ってたわぁ、難民を盾にして安全
ロゥリィ﹁そんなことはどうでもいいわぁ。イタミやワシヤ達がどうドラゴンと戦っ
?
して何が悪いのかしらぁ
お嬢ちゃん
炎龍
彼らが死んだら、あなたたちのように雨風凌げる安全な場所
な場所で戦ってたなんてことは絶対に無いわよぉ。そもそも兵士が自分の命を大切に
?
でただ駄弁っているだけの人を一体誰が守ってくれるのかしらぁ
?
?
それどころか家、食事、水、仕事、彼らに必要な物全てを無料で与え
?
﹂
?
されたことに完全に頭に来たようだ。
幸原﹁お、大人に対する礼儀がなってないようねぇ⋮お嬢ちゃん
﹂
幸原は自分より明らかに若い少女にお嬢ちゃん呼ばわりされ、更にはおバカさん扱い
な質問に対する答えよぉ、お分かりかしらぉ、お嬢ちゃん
でしょうねぇ。イタミ達は誰にも出来ない事をやり遂げたわぁ、それがあなたのおバカ
そんな事も理解出来ない元老院議員ばかりじゃこの国の兵士や巨人たちも苦労してる
た。そんなことまでする軍隊は私が知る限り、この世にはジエイタイしかいないわぁ。
を救ったのよぉ
四分の一が亡くなったとあなたは言ったけどぉ、それは違うわぁ。イタミ達は四分の三
を相手に生きて帰ってくる、まずはその事を褒めるべきでしょうにぃ。それと避難民の
?
?
第十四話:日本常識が異世界に通用するとは限らない
204
205
﹂
そういった習慣はないのですか
﹂
他に誰がいますか 特地ではどうか知りませんが、この国では年長
ロゥリィ﹁それってもしかして私のことぉ
幸原﹁そうです
?
今ここで彼女を止めないとイタリカの二の舞になる
﹂
﹂
﹂
つまり⋮信じられないで
!
しょうがこのロゥリィ・マーキュリーさんはこの場にいる誰よりも年長なのです
幸原﹁一体いくつだと言うのですか
ロゥリィ﹁961歳よぉ。﹂
!?
その衝撃発言に皆目を丸くし、顔を青ざめさせる。
幸原﹁テュ⋮テュカさんは
﹂
テュカ﹁165歳。﹂
幸原﹁まさか
?
!!
年齢がかけ離れている例がある事を忘れてはいけません
伊丹﹁えー皆様、我々は時として年齢を武器に使うことがあります。ですが、外見と
つく。
そう思った伊丹はロゥリィを椅子に戻らせ、幸原の重大な勘違いを正すため質問台に
!!
ロゥリィの口が紫色に変わり、ハルバードを包んでいる布を解こうとした。
!?
!?
ロゥリィ﹁これは驚いたわねぇ⋮たかが││﹂
者は敬うものです
!! !
!?
第十四話:日本常識が異世界に通用するとは限らない
206
レレイ﹁私は15歳。﹂
レレイだけは見た目と合ってるので安心したのか、ため息を漏らす。
レレイ﹁イタミ、かわって。代わりに説明する。私は門の向こうでは﹃ヒト種﹄と呼
ばれる種族。寿命は大体60から70年前後。住民のほとんどがヒトである。テュカ
は不老長命のエルフ、中でも希少な妖精種で寿命は一般のエルフより遥かに長く永遠に
近いと言われる。ロゥリィは元々はヒトだけど亜神となった時、肉体年齢は固定され
た。通常は千年ほどで肉体を捨て霊体の使徒、そして真の神となる。したがって寿命と
言う概念が無い。﹂
レレイのとんでも特地説明に度肝を抜かれた議員たちやテレビやパソコンの前の視
聴者は硬直していた。
幸 原 は 自 分 よ り は る か に 年 上 の 者 ⋮ と 言 う よ り か は 神 に 対 し て と ん で も な い 事 を
言ってしまった事にショックを受け、この後質問する予定だった原稿やフリップボード
を片づけ、そそくさと自分の席へと戻っていった。
た。
鼻につく火薬の香りが、その凄まじさを物語っている。
彼は配属先の戦車部隊がどこなのか探していた。
本日付けで第1小隊に転属の野郎ってのは。﹂
あの五十部とペアを組むとは
?
丁度休憩中の戦車乗員達がいたので、話しかけてみる。
おめぇか
西幸﹁申し訳ありません、第一戦闘団第301中隊第1小隊はどこでしょうか
﹂
戦車長A﹁あぁ
西幸﹁はっ
?
戦車長A﹁ヒッヒッヒッヒ おめぇも運のねぇ奴だな
なぁ。﹂
!
!
!
!
﹂
そして野原に響く砲撃音、74式戦車特地仕様型が砲撃訓練をしている最中であっ
肌を焼くように当たる。
青空が広がり、巨大な入道雲がふわふわと優雅に浮かんで、じりじりと暑い日差しが
自衛官が戦車乗員用ヘルメットを片手に歩いていた。
日本で参考人招致が行われているその頃、特地のアルヌス駐屯地の野原では、一人の
第十四・五話:陸の王者、74式
207
第十四・五話:陸の王者、74式
208
西幸﹁五十部二等陸尉は撃破記録保持の優秀な戦車長と聞いておりますが⋮﹂
戦車長B﹁奴の二つ名は死神って言うんだ⋮﹂
西幸﹁えっ⋮﹂
戦車長A﹁あの丘の上でエンストしている74式だ、そこに居るぜ。﹂
丘の上にはまるで陸の王者とでも言うような佇まいで74式が一台停まっていた。
│74式戦車特地仕様型
全長9.5mに及ぶこの戦闘車両は度重なる改良と改修の結果、初期型とは異なる高
性能を獲得し、現在の特地派遣部隊専用戦闘車両として使用されている。
その最大の特徴は油気圧サスペンションによる姿勢変更機能を有することであろう
│
すると砲塔がうなりをあげながら西幸の方へと向いた。
﹂
そして外部スピーカーを通して五十部と思われる男性の声が聞こえてきた。
五十部﹁誰だ貴様は⋮﹂
西幸﹁配属を命じられた西幸小勝一等陸曹であります
すると五十部は⋮
五十部﹁さっさと乗れ。﹂
乗れと言ってきた、初対面なのにもかかわらず。
!
209
西幸﹁はぁ
﹂
﹁ふ∼ん、あんな若い子で大丈夫か
﹂
そう言われ、若干蟠りを残しつつ運転室へと入り込む。
五十部﹁乗れば分かる、俺にあいさつなど不要だからな。﹂
?
?
西幸﹁配置につきました
⋮しかし、この車体はエンストしているのでは
﹂
?
﹂
!
西幸﹁何ッ
﹂
エンジンがつき、車体が小刻みに震え始めた。
!?
すると⋮
西幸は心の中からエンジンはかかると言い聞かせながらもう一度エンジンをかけた。
五十部﹁もう一度だ⋮﹂
西幸﹁しかし││﹂
五十部﹁迷うな、疑うな。﹂
西幸﹁⋮⋮駄目です、反応なし
そう言われ、エンジンをかけるが⋮
ンジンは必ずかかる。﹂
五十部﹁そうじゃねぇ、この74が貴様を試したがってんだ。お前を気に入れば、エ
!
五十部﹁俺が決めるんじゃない、この74が決める。俺はただ見守るだけだ⋮﹂
???
﹂
五十部﹁ふっふふふふ、快調だな⋮よーし一号車前へ
西幸﹁りょっ⋮了解
戦闘速度へ
﹂
すると目の前に同じ74式が四両、列をなしてこちらにやってきた。
﹂
五十部﹁ハンドルそのまま
西幸﹁くそぉぉぉぉぉ
!!
他の74式がギリギリ避けていく。
﹂
そんな暴走族状態の五十部の車両を敵チームのBIG RED1が発見した。
死神様のお出ましだ
!!
﹂
!
増速
直ちに戦闘訓練に参加する
﹂
誰が駆け足って言った
車酔いしやすい人が乗ればすぐにでもノックダウンだろう。
﹂
これ以上はサスペンションの負荷に危険が
西幸﹁起伏が激しい
これが命令だ
五十部﹁へっぴり腰
!
もう半ばやけくそ状態の西幸はそのまま突っ走る。
!!!!
!!
74式がキャタピラを回転させ、前へと進み始める。
﹂
五十部﹁ひぃーやっはははははは 一曹
せよ
!
デコボコな野原を爆走するため、車体の揺れが激しくなる。
!!
!
!
!
!
だが五十部はそんなことお構いなしのようだ。
!
!
!!
BIG RED1﹁こちらBIG RED1
!
第十四・五話:陸の王者、74式
210
211
BIG RED2﹁返り討ちだぜ
﹂
BIG RED3﹁お祓いなら任せな
﹂
五十部たちもそれを確認したようだ。
五十部﹁左45度
﹂
!!
!!
五十部﹁命中
﹂
五十部は照準を合わせ、装填を確認すると同時に訓練用ペイント弾を発射する。
車体がBIG REDチームと並走状態になる。
!
﹂
BIG RED2﹁ちくしょぉぉぉ
﹂
!
﹂
!?
﹂
残ったBIG RED4も間もなくやられた。
BIG RED3﹁なっ、何ぃ
素早く装填すると、BIG RED3に見事に行進間射撃で命中させる。
五十部﹁続けて行進射
が、どれも外れてしまう。
だが彼らもやられっぱなしではいられない、何とか一撃お見舞いしようと発射する
!!
五十部﹁命中
続けて次のターゲットに照準を合わせ再び発射する。
当たった個所に青いペイントがべったりとつき、撃破判定用の白旗が上がる。
!
!
第十四・五話:陸の王者、74式
212
西幸はそんな彼の戦い方を見てあっけにとられていた。
たった一両で四両の戦車を相手に勝ったのだから。
夕暮れ時⋮疲れ切った西幸は戦車から転げ落ちるように降りた。
膝に手をついて、肩で息をする。
額にはうっすら汗がついていた、それもそうだろう。
彼は今までやったことのないような運転を先ほどからしていたのだから。
ふと後ろを振り向くとそこには顔に傷跡、顎鬚を蓄えた歴戦の戦士と言った印象を持
つ人物の姿があった。
そしてもう一人、女性がいる。
本来ならば女性自衛官は戦車に乗る事は出来ない、だが彼女は堂々とした顔立ちで戦
車のハッチから顔をのぞかせている。
五十部﹁五十部陸人二等陸尉だ、ふっふっふ⋮﹂
伊野黒﹁同じく伊野黒宇城恵二等陸尉だ。よろしくな、新顔。﹂
213
西幸﹁あっ、あの五十部二等陸尉
西幸﹁いっ、いえ
・・・・
女性自衛官は戦車には乗れないのでは⋮﹂
別にそういうわけでは⋮﹂
伊野黒﹁それともあたしが女なのが気に入らないのか
﹂
こいつの装填速度にかなうやつは俺は今まで見たことが無いからな。﹂
五十部﹁あぁ、それか。それなら問題は無い。檜垣三佐には話し合いで解決してある。
!
!?
﹂
西幸﹁西幸小勝です、よろしくお願いします
!
﹂
井須野木﹁そんなに硬くならなくてもいいぜ、それと五十部のことは気にすんな、あぁ
!
伊東﹁俺は伊東賢太郎だ、よろしく
井須野木﹁お前か、今日から配属の新人は。俺は井須野木添拓、よろしくな。﹂
すると彼の背後から二人の男性がやってきた。
た。
まるで五十部自身が死神のような雰囲気に、彼は飲み込まれるような感覚に陥ってい
れ。﹂
五十部﹁もしもその死神が見えたら、どんな面してるのか俺は見たい。必ず教えてく
西幸﹁わ⋮私には⋮﹂
かしくなっちまって病院送り⋮どうやら俺の背中には死神がついてるんだとよ⋮﹂
五十部﹁なら黙ってろ、俺は口で戦う奴とは付き合わん主義でな⋮お前の前任者はお
!
第十四・五話:陸の王者、74式
214
見えて実はけっこう優しいからさ。﹂
伊東﹁そうそう、おかしくなったって言ったのも単なる熱中症だ。﹂
西幸﹁は、はぁ⋮﹂
﹂
井須野木﹁それよりも、今日はお前さんの配属記念日だ。一杯やろうぜ。﹂
あっ、ちょっ、ちょっと
伊東﹁そうだな、こっち来いよ。﹂
西幸﹁えっ
!
そう言われ、西幸はテントの方へと連れて行かれた。
!
﹂
伊丹﹁分かんねぇ、けど公安の人達からの情報だから大丈夫じゃね
?
﹂
伊丹﹁近づかれやすくなるか⋮まぁ怪しい奴が来たら、栗林がどうにかしてくれるで
出来ないと思いますし。でもその分⋮﹂
下鉄の方が連中もうかつには手は出せないでしょうね。こんな街中でドンパチなんて
鷲谷﹁う∼ん⋮まぁ、重要人物だけ乗せたバスで移動するより、民間人が大勢いる地
?
鷲谷﹁それにしても、本当にバスが襲われるんですかね
の子連れてたら怪しいタレント事務所のプロデューサーみたいだ。視線が痛てぇ⋮︶﹂
伊丹﹁︵バスが狙われてるから移動手段を変えるのは分かるけど⋮こんな格好した女
工作員が囮に引き寄せられている時、伊丹達は地下鉄丸ノ内線のホームにいた。
案の定、バスは足止めを食らった。
地下鉄で移動する事となった。
だがバスは某国の工作員が妨害するというタレコミがあり、危険性が高いので急きょ
・・
わけにはいかず、今日は市ヶ谷で一泊していく予定だ。
国会参考人招致、そして日本と帝国との外交も無事終了し、このまま特地へと帰る⋮
第十五話:妨害
215
第十五話:妨害
216
しょ。﹂
鷲谷﹁国際問題に発展しないとイイんですけど⋮﹂
するとやってきた電車の中で富田たちと合流した。
伊丹﹁富田、栗林、ごくろーさん。﹂
下
墓
所
富田﹁急に四ツ谷から地下鉄に乗って移動するって言われたんで慌てましたよ。バス
を囮にするなんて話聞いてなかったんで。﹂
地
見ると富田の腕をボーゼスがしっかりと抱きしめている。
お嬢様方も初めての地下鉄に怯えているようだ。
富田﹁丸の内線が走り出したら急に怯え始めまして⋮カタコルーベか、地の奥の魔窟
にでも連れて行くのかって⋮あっちじゃ地下を走る乗り物なんて無いですから⋮﹂
ロゥリィも怯えているが、彼女は別のことで怯えていた。
﹂
ロゥリィ﹁地面の下はハーディの領域なのよぉ⋮あいつやばいのぉ。二百年前もお嫁
﹂
に来いってぇ、しつこくってしつこくってしつこくってしつこくって
伊丹﹁それでなんで俺にしがみついてんの
!!
駒門﹁よぉ、予定を早めて箱根に向かうぞ。﹂
そんな事を話していると霞ヶ関駅で駒門が乗ってきた。
ロゥリィ﹁あいつ男嫌いだからハーディよけになるかもしれないでしょぉ。﹂
?
217
鷲谷﹁バスの方は
リ
﹂
いや待てよ、最近報告に出た件⋮あの少
?
駒門﹁えっ
ちょっ、ちょっと待てよ
こっちにも色々段取りってもんが││﹂
伊丹﹁てな訳で駒門さん、俺らここで降りるよ。﹂
どうしても我慢出来ないらしく、仕方なく銀座駅で降りることとなった。
そんな事を話していると、ロゥリィが早く降りたいと言ってきた。
女コールガール組織ならあるいは⋮﹂
こんな容姿の工作員は養成していないよ⋮ん
ロ
駒門﹁まぁ、お前さんも気をつけろよ⋮ってその好みだったら大丈夫か、某国だって
伊丹﹁ふーん、そんなもんですかねぇ。﹂
にでもかかったんだろうが、我々がそれを知っていれば問題はない。﹂
人まで分かった。情報を提供している奴をつきとめるために泳がせている。色仕掛け
ハニートラップ
駒門﹁見事にひっかかったよ。移動手段の変更を知らなかった時点で情報漏洩者は二
?
!
﹂
?
駒門﹁威力偵察、示威行動⋮デモンストレーションって言ったところか。いつでも﹃お
伊丹﹁敵さん、地下鉄まで止めてする目的は何だと思う
このまま乗っていたら足止めを食らっていただろう、伊丹の判断が功を奏した。
すると先ほど乗っていた丸の内線が架線事故の影響で運休した。
鷲谷﹁いいやん、一駅分くらい歩いたって。﹂
!?
第十五話:妨害
218
客さん﹄に手を出せるって警告だろう。だがバスと地下鉄、二度失敗している。そろそ
ろ直接手を出してくるだろう。例えば││﹂
その時、フードを被った男がロゥリィのハルバードをいきなりひったくったが、なぜ
いきなりこけやがって⋮﹂
かその男は逆にハルバードに押しつぶされ気絶していた。
駒門﹁まったく、なにやってんだ、こいつは
﹂
伊丹﹁あっ、それは││﹂
駒門﹁あ、なんだ
?
ペキンッ
駒門がハルバードを持ち上げようとした次の瞬間⋮
?
伊丹﹁了解しました⋮﹂
そう言って駒門は救急車に乗せられ運ばれていった。
!!
伊丹﹁⋮⋮JRで秋葉原寄ってからメシを││﹂
栗林﹁とっとと市ヶ谷に直行してさっさとホテルに行きますよ
﹂
駒門﹁こっ、腰がぁ∼⋮と、とりあえず今日は、いっ、市ヶ谷会館へ⋮﹂
腰の骨をやってしまった。
!
219
少し都心部から離れた住宅街、そこにある二階建てアパートの一室⋮
明かりが点いていないので一見誰もいないように見えるが、そこにはメガネをかけた
あ お い り さ
女性が一人震えながらペンタブで同人誌を描いていた。
彼女の名前は葵 梨紗、同人誌作家だ。
眠気を押し殺し、食事も我慢して⋮と言うよりももう食料が無いのを我慢して次の同
人誌即売会の新刊を描いている。
梨紗﹁ケータイもガスも止まった⋮そろそろ水道もやばい⋮パソコンが止まったら破
滅だからなんとしても電気代とネット代は死守しなくちゃ⋮てか腹減ったぁ⋮﹂
部屋の気温は外と同じくらい寒く、息を吐けば白くなるほどだ。
梨紗﹁この冬の同人誌即売会を乗り切れれば、シリアルと豆乳だけの極貧生活からも
おさらば⋮明日までには入稿しないと⋮﹂
すると玄関口が開く音が聞こえ、寒風が一つ入ってくる。
振り返るとそこには伊丹の姿があった。
伊丹﹁エアコンぐらいつけろよ、寒いぞこの部屋。﹂
第十五話:妨害
220
ご⋮ごはん⋮﹂
梨紗は伊丹の中学時代の後輩でよく知っていた、まさしく天の助けと言えるタイミン
グだろう。
梨紗﹁せ、先輩
れをギリギリで避け、伊丹の後ろに隠れる。
火事
﹂
伊丹﹁梨紗、落ち着けって。実はホテルから焼け出されちゃってな⋮﹂
梨紗﹁えっ
いた。
﹄と書かれて
一瞬にして元気になり、一番好みのロゥリィに向かってダイブしたが、ロゥリィはそ
すると先ほどまでの疲れや眠気はどこへやら⋮
梨紗が顔をあげ伊丹の後ろにいるロゥリィ達を見る。
てさ。﹂
で悪いけどかくまってくれよ、俺の知ってるとこで人目につかないのお前んちしかなく
伊丹﹁はいはい、そんな事だろうと思ったよ、ほら。あー、皆構わず入ってくれ。急
!!
パソコンでその情報を調べてみると、
﹃市ヶ谷会館でぼや騒ぎ、放火か
?
腐腐ふふふ怖怖ふ⋮⋮⋮﹂
梨紗﹁⋮⋮ホンモノなのね⋮コスプレじゃなく⋮うふ⋮うふふ⋮うふフフふ怖ふふ腐
そのすぐ横の関連記事には目の前にいるロゥリィの写真が掲載されていた。
?
?
221
﹂
ロゥリィ﹁ここにもハーディがいたぁ∼∼﹂
テュカ﹁ねぇ、なにコレ
一同﹁え⋮えぇ∼∼∼∼∼
﹂
伊丹﹁あーこれは⋮俺の﹃元﹄嫁さんだ。﹂
?
ぎっ く り 腰
駒門さんを放り出してきてよかったんですか
﹂
富田﹁そうですよ隊長、元奥様とはいえ民間人を巻き込むのは危険すぎます。それに
梨紗﹁フーーン、なーんでそんな危ない話に私を巻き込むかなー。﹂
伊丹﹁││というわけ。﹂
伊丹は梨紗に事の状況を説明した。
食事を済ませ、全員寝袋にくるまって寝ていた。
予想外の発言に今日一番驚いた一同であった。
!!!!
?
﹂
鷲谷﹁あの状態じゃ足手まといになるだけだし、ここまでくると駒門さん自身が怪し
くね
?
第十五話:妨害
222
富田﹁駒門さんが情報漏洩を
鷲谷﹁んで
﹂
明日の予定はどうします
﹂
?
が尾行されてるって事だ。﹂
伊丹﹁いやその周りがさ、ここで何かあれば⋮って、あって欲しくはないけど俺たち
?
同時刻、アメリカ、
こうして最初の一日が終わった。
鷲谷﹁それじゃおやすみ∼⋮﹂
してくれ。﹂
び込みでなんとかなるよ、金も陸将からたんまりもらってるし。じゃ富田、四時に起こ
伊丹﹁せっかくの休日までつぶされてたまるか。買い物して温泉行くぞ。宿なんか飛
?
223
ホワイトハウスの大統領室にはモニターを見ながらコーヒーを飲むディレルが、優雅
に椅子に座っていた。
﹂
ディレル﹁⋮ふむ、工作員による三回の妨害が全て失敗し、更には対象者を逃すか⋮﹂
グラハム﹁申し訳ありません、大統領。目標が予測不能な行動をするもので⋮﹂
﹂
ディレル﹁まぁいい、場合によってはこちらが何とかしよう⋮それと、例の情報は
グラハム﹁それについてもまだ分かっておりません⋮やはり無いのでは⋮
?
その人物とは⋮
ジェガノフ﹁⋮全く誰だね
こっちは忙しいんだが││﹂
そしてホットラインの受話器を手に取ると、ある人物に電話をかけた。
そう言うとディレルは通信を終了した。
グラハム﹁了解しました。﹂
ているかもしれない。もう少しだけ調査を進めてくれ。﹂
それこそ我々の数年⋮いや数十年先の技術力を持っている。新兵器や新技術を開発し
ディレル﹁そうだな、私の考えすぎかもしれない⋮だが日本は未だによく分からない、
?
ジェガノフは予想外の相手に驚きを隠せないでいたが、冷静さを何とか保っていた。
ロシア連邦大統領、ジェガノフだ。
ディレル﹁あぁ、そちらは夜だったね、すまない。﹂
?
第十五話:妨害
224
ジェガノフ﹁ディレル⋮何の用だ
﹂
﹂
ジェガノフ﹁知っていたのか、我々の工作員がいることを
けと
邪魔だから我々に手を引
?
その言葉にジェガノフの顔はより一層険しいものとなる。
ディレル﹁なに、少し相談があってだね⋮日本の特地の﹃お客様﹄のことについてだ。﹂
?
﹂
?
﹂
?
﹂
?
﹂
?
ディレル﹁それでこそだ。西と東、大国同士お互い仲良くやろうではないか。﹂
ジェガノフ﹁⋮⋮分かった、協力しよう。﹂
MSなどの情報は欲しいだろ
ディレル﹁もちろん﹃お客様﹄は君の方にも一人お送りするよ。それに君にとっても
ジェガノフ﹁それでそれは私にメリットはあるのかね
かつに手が出せない。そこでだ、君と協力してぜひご招待したいと考えている。﹂
いてもおかしくはない。特地の方々を我がアメリカにご招待したいが、それが原因でう
や科学力は我々のそれを大きく凌駕している。日本が新兵器や秘密兵器などを隠して
ディレル﹁日本は島国、我々アメリカや君のロシアより国土は小規模⋮しかし技術力
ジェガノフ﹁どういうことだ
ディレル﹁いやいや、その逆だよ。我々と手を組まないか
だがディレルから返ってきたのはこれまた予想外の言葉だった。
?
225
ディナー
私はこれから夕食なんでな。﹂
こんな夜更けに。﹂
私はこれから寝る所││﹂
董﹁ジェガノフ大統領、どうした
ジェガノフ﹁董、少し話がある。﹂
董﹁なんだね
チラリと時計を見ると、受話器を手に取りジェガノフは董につなげた。
協力⋮聞こえはいいが、それは被害を最小限にするための策でしかない。
ジェガノフは受話器を置き、あごに手を置いて考え始めた。
明日。それではお互いの成功を願って。﹂
らくアイツも増えすぎた国民を特地に送りたいと考えているはずだ。詳しい事はまた
ディレル﹁そうか、私はこれから昼食だ。それと中国の董にも聞いておいてくれ。恐
ランチ
ジェガノフ﹁そうだな、そろそろいいか
?
董﹁ディレルが
なんでまた。﹂
から協力しろとな⋮﹂
ジェガノフ﹁ディレルが日本の特地来賓者のことについて相談してきた。連れて帰る
ジェガノフは少し間を置いて、董に先ほどの話をした。
?
!
は一つ、東側同士で手を取らないか
﹂
面倒な仕事を我々に押し付けて、最後の美味しい所を独り占めしようとする気だ。ここ
ジェガノフ﹁なんでも、日本の技術力に対して注意を払っているようだ。恐らく奴は
?
?
第十五話:妨害
226
﹂
董﹁そうだな、欲の皮の突っ張ったあのアメリカ人に良いように使われるのは癪だし
⋮良いだろう。﹂
ジェガノフ﹁よし、ならここは一旦協力したふりをしよう。それでいいな
?
董﹁あぁ、こちらも出来る限りの支援はしよう。それではまた明日、おやすみ。﹂
ジェガノフ﹁あぁ、いい夜を⋮﹂
ジェガノフが董と話し終え、再び受話器を戻す。
﹂
・
﹂
すると丁度いいタイミングで夕食の知らせが入る。
ジェガノフ﹁今日のメインは何だ
シェフ﹁小牛のステーキにございます。﹂
﹂
ジェガノフ﹁⋮⋮ライスを用意できるか
シェフ﹁ライスですか
?
?
ジェガノフ﹁あぁ、久しぶりに⋮米が食いたくなった。﹂
?
﹂
?
本位﹁なに
﹂
?
現在警察が犯人と来賓を捜索中で報告を待っています。﹂
・
なぜその第一報が今なのかね
?
官僚﹁しかし⋮﹂
本位﹁君はその間の六時間を無駄にしたんだ。﹂
官僚﹁そ、それは⋮状況をある程度把握してからご報告をしようと⋮﹂
本位﹁⋮⋮分かった、で
﹂
官僚﹁昨夜11時頃に投宿先の市ヶ谷会館で火災が発生しまして、放火と思われます。
?
模様です。﹂
官僚﹁お休みのところ申し訳ありません、総理。特地からの来賓が行方不明になった
本位﹁⋮なんだね
目をこすり、眠気を押し殺しながらスマホを手に取る。
だがそれは一通の電話によって起こされる。
総理大臣官邸では、本位総理がベットの上で眠っていた。
参考人招致の翌日、早朝5時⋮
第十六話:日本観光
227
第十六話:日本観光
228
本位﹁もういい。﹂
そう言いながら電話を切り、スマホをベッドへと叩き付ける。
﹂
本位﹁何がキャリア官僚だ、聞いてあきれる 即時即決がなぜできんのだ ﹃門﹄の
先ほどまで寝ていた本位は遅い報告による苛立ちで完全に目が覚めていた。
出現とMSの自衛隊配備によって我が国が置かれた状況を全く理解していない
!
各国に輸出
あの機動兵器を
?
無茶を承知の非常識な連中の主張など受け流しておけばいい。それより
るのではと恐れてのことだが⋮一国の首都のど真ん中に多国籍軍を
各国軍配備⋮我が国が特地にある無尽蔵の資源を手に入れ、それを元にMS等を強化す
本位﹁⋮資源輸出国が主張する国連による﹃門﹄の共同管理とMSの国際輸出による
!
!
││EUはロシアの影響で特地という名の資源発掘地に強い関心を示している。イ
んな事をしたら各国からの非難集中で戦争勃発なのは間違いない││
が特地に強い関心を示しているのが嫌なのだろう。SLBMを撃つかもしれないが、そ
││﹃門﹄が邪魔な存在で仕方がないロシア。ロシアの強引な資源外交の影響でEU
門の出現時の動画でまたMSへの興味をさらに強めている││
るが、いつまで後方支援だけでとどまっているかどうか不安要素が残っている。 彼も
ディレル
││アメリカは特地の資源を目当てに同盟国という理由で自衛隊を後方支援してい
も問題は米露中とEU各国連中だ。﹂
?
229
ギリスのEU離脱という大きな損失で金融を中心としての機能が大きく低下している
のが原因だろう││
本位﹁︵影響力の急激な低下さえなければロシアはおとなしくしているだろうし、常識
が一応通用するアメリカとEU各国は少し取り分があればそれで満足するだろう⋮だ
が一番厄介なのは⋮中国だ︶﹂
││特地の資源を一番欲しがっている中国は、13億の国民全員を豊かにすると約束
したが現在は資源輸入国第一位となっていて、今は周辺諸国との軋轢を生んでいる。国
内は格差による腐敗と矛盾だらけでその不満をそらすために外へのはけ口を求めてい
る。環境汚染問題や諸島問題も浮上している。だが特地さえあれば資源もあるし、国民
を大勢移動させることが出来る。中国はそれを狙ってくるだろう││
本 位﹁︵そ ん な 国 が 我 が 国 に 頭 を 下 げ る と は 到 底 思 え な い ⋮ い ず れ 友 好 的 な 態 度 を
とってくるだろうが、その時が要注意だ。それなのに⋮︶頭でっかちの無能官僚どもめ
⋮﹂
そう言いながらウイスキーグラスにウイスキーを注ぎ入れる。
そしてそれを飲み、政界の愚痴をこぼし始める。
非
政
府
組
織
非
営
利
団
体
本位﹁北条さん⋮あんたはよく我慢出来たよ⋮結局、官僚だって学歴なんかより人間
の質で決まる⋮野党やマスコミ、NGO団体やNPO団体、更には左翼に右翼、旅行会
第十六話:日本観光
230
社に芸能界まで特地に入れろ入れろってうるさいし⋮はぁ、胃が痛い⋮特地からのお客
人を無事帰さんと講和の交渉が全て水の泡になっちまう⋮﹂
そう言うと先ほどベッドに叩きつけたスマホを手に取り嘉納に電話をかけた。
本位﹁⋮嘉納さん、本位です。こんな朝早くからすみません、実は特地の来賓が﹃雑
音﹄にうんざりして逃げ出しまして⋮えぇ、たった今報告を受けたところです。それで
嘉納さんには今の担当を替わって﹃特地問題対策担当大臣﹄を兼任してもらえないかと
⋮丸投げになってしまって申し訳ありませんが⋮はぁ⋮いえそんな⋮では明日⋮﹂
辞めてやる
絶対辞めてやるぞ、こん畜生め
!!
甘い香りが部屋全体を包み込んでいた。
材料はあまりなかったため、卵と牛乳と食パンでフレンチトーストを作っている。
伊丹は朝食作りのため、台所に立っていた。
ロゥリィは膝をつき、両手を組んで朝日が差し込む窓に向かって祈りを捧げている。
朝早く起きたのは伊丹とロゥリィの二人だった。
﹂
会話が終わると、今度は先ほどよりも強くスマホを叩き付け、ベッドへと潜りこんだ。
本位﹁くそっ
!
それから一時間ほど経った朝6時⋮
!
231
するとその甘い匂いに誘われたのか、鷲谷がのそのそと起きてきた。
鷲谷﹁おはようございます⋮ふわぁ∼⋮﹂
伊丹﹁おぉ、おはよー。﹂
鷲谷﹁おっ、フレンチトーストか⋮美味そう。俺になんかできることあります
伊丹﹁じゃあ、皆を起こしておいて。﹂
鷲谷﹁りょーかい、先に顔洗いますね。﹂
鷲谷﹁︵うわぁ∼腐ってる、この姫様たち⋮︶﹂
そんな光景を見て鷲谷は⋮
ピニャ﹁貴様、ずるいぞ⋮﹂
ボーゼス﹁それでしたら語学研修の件はこの私を⋮﹂
ピニャ﹁そうだった⋮それにしても良い。文字が読めないのが恨めしいな⋮﹂
ボーゼス﹁殿下、ここは異世界です⋮﹂
ピニャ﹁うむ、これほどの芸術がこの世にあったとは⋮﹂
ボーゼス﹁で、殿下⋮これは⋮﹂
姿があった。
﹂
居間へ戻ると、そこには梨紗が描いたBL同人誌をまじまじと見るボーゼスとピニャの
寒い12月の朝は身に応える⋮そんな事を考えながら顔を洗った後、皆を起こそうと
?
﹂
内心ちょっとがっかりしていた。
伊丹﹁どうした、鷲谷
﹂
?
﹂
!
﹂
第一﹃敵﹄が俺達の居場所知ってんならどこだって危険だ。人目が
多い方がよっぽど安全だぜ、そうだろ
ちょっとの人生だ
伊丹﹁それとこれとは別だ。いいか、俺のモットーは喰う、寝る、遊ぶ、その合間に
富田﹁あのー、それどころじゃないと思うんですが⋮﹂
伊丹﹁よーし、今日は遊ぶぞ
朝食をとった後、伊丹は全員に今日の予定を伝えた。
伊丹﹁そうか、あのーお二人とも⋮朝飯食べる
鷲谷﹁い、いえ⋮なんでもありません⋮皆を起こしますね⋮﹂
?
お買い物
原宿
渋谷
!
﹂
!
押さえて大笑いしている。
はいはい
!
その言葉に栗林は口をポカンと開け、富田は目を点にし、ロゥリィに至ってはお腹を
?
!
!
すると一番先に梨紗が手を挙げた。
梨紗﹁はぁい
!
第十六話:日本観光
232
233
ロゥリィ﹁私は別にぃ││﹂
梨紗﹁黒ゴスのいい店知ってるよ。﹂
﹂
泊めてあげたのにぃ
かくまってあげたのにぃ
?
伊丹﹁何でお前まで⋮﹂
こっ ち
皆だって買い物したいでしょ
?
女子チームは目的地を決定したようだ。
?
富田﹁え
じゃあどこに
﹂
鷲谷﹁そうだねぇ、秋葉とか
?
絶対にある
﹂
﹂
?
というわけで隊長、俺も富田と一緒に秋葉まで行きます
富田﹁秋葉に﹃芸術﹄が⋮ですか
鷲谷﹁そう
よ。﹂
!
?
?
?
鷲谷﹁富田、ここは俺に任せてくれない その﹃芸術﹄は図書館には無いからねぇ。﹂
場の図書館にでも││﹂
富田﹁ボーゼスさんとピニャさんが﹃この世界の芸術﹄の資料を見たいそうなので近
伊丹﹁俺は中野か秋葉なんだけど富田は
﹂
ロゥリィ﹁まぁ、こっちの世界の服にもちょっと興味があるしぃ、行くわぁ。﹂
?
梨紗﹁えぇーー 私だけ仲間はずれ
これっていぢめ
? !!
栗林﹁まぁ、せっかく東京に帰ってきたし⋮﹂
?
!
第十六話:日本観光
234
伊丹﹁分かった。その後は俺はちょっと用事があるから途中で単独行動で。14時に
金を渡すから。﹂
新宿アルタ前広場に集合して、その後は箱根で温泉だ よし、じゃあ全員荷物をまとめ
て
!
張ブックス﹄、アニメのグッズを多数取り扱っている﹃アニメ│ト│﹄へと足を運んだ。
ピニャ達はその中央通りに面している有名な同人誌ショップ﹃とらのすあな﹄や﹃夕
ゲームの映像がひっきりなしに流れている。
建物には様々なアニメのポスターや新製品の広告などが貼ってあり、新作アニメや
なるほどである。
観られる場所が所狭しとある。PCパーツや家電製品の店に至っては数えるのも嫌に
ここにはラノベや漫画を取り扱っている専門店がいくつも立ち並び、アニメや映画が
鷲谷たちは都道437号線中央通り、通称﹃電気街﹄に向かった。
単独行動とそれぞれに分かれた。
10時、秋葉原駅に到着した伊丹達のグループ。ピニャ達は同人誌ショップ、伊丹は
開始した。
伊丹は狭間陸将から渡された封筒の中の現金を鷲谷と梨紗に渡し、各自別れて行動を
!
235
パラダイス
そこでピニャ達を待っていたもの、そこは⋮﹃楽 園﹄だった。
ピニャ﹁こ⋮これは⋮﹂
ボーゼス﹁殿下、ここは異世界です。﹂
ピニャ﹁分かっている⋮だがこれは凄い⋮﹂
ボーゼス﹁えぇ、﹃芸術﹄がこんなに⋮﹂
富田﹁えーっと⋮これは⋮﹂
鷲谷﹁これが彼女たちの﹃芸術﹄です。というわけで富田、後任せたよ。﹂
・・・・
鷲谷はどうするんですか
﹂
鷲谷はそう言うと伊丹から渡された現金の約三分の一を富田に手渡した。
富田﹁えっ
?
富田﹁えぇ
ちょっ、ちょっと
﹂
そう言い残して鷲谷はノーマを連れて書店へと行ってしまった。
鷲谷﹁12時に秋葉原駅のビッグガメラ前に集合ね、昼は寿司だから。﹂
!?
く。﹂
鷲 谷﹁俺 は ノ ー マ さ ん と 一 緒 に まともな 書 店 に 向 か う か ら、彼 女 た ち の 護 衛 よ ろ し
?
!?
鷲谷はノーマを先ほどの同人誌ショップではなく、一般向けの本を取り扱っている
ノーマはそれを考えただけで恐ろしくなってきた。
製版だけでどれだけの莫大な金と人と時間がかかるだろうか⋮
それを庶民でも買える金額で⋮⋮
それだけではない、その本が大量に生産されているのだ。
まるでそのまま魔法で本の中に閉じ込められたようだ。
写真
⋮⋮だがこちらの世界の本は文字だけでなく鮮やかな色で塗られた絵がある。
そんな高価なものが貴族ではない庶民達が買えるわけがない。
印刷技術など持っているはずもないので、世界に一冊しかない本もある。
見た目をよくするために様々な装飾を施すため、その分の金も必要となる。
本が汚れたり破れたりするのを防ぐために表紙を布や質の良い革を糸で縫い、更には
がかかる。
一冊を書くのが大変なのはもちろんだが、本を一冊作るのにもそれなりの時間と労力
ノーマが驚くのも無理はない。
ノーマ﹁︵先ほどの店もすごかったが、ここもすごいな⋮︶﹂
﹃過去屋書店﹄へと案内した。
第十六話:日本観光
236
237
鷲谷﹁それで、どんな本をご所望で
﹂
﹂
?
それは銃についての本だった。
!
それこそ最新のライフルやショットガンのほかに、マスケット銃や火縄銃のことにつ
薬の材料や更には銃の歴史についても書かれていた。
ノーマがページをめくっていくと、そこには銃の内部の解説や弾の構造、使用する火
ノーマ﹁︵こっ、これは⋮彼らが使っている武器⋮銃
︶﹂
するととある一角のブースに彼の目を引く本があった。
その後は書店内を散策しながらめぼしいものを手に取っていく。
そう言ってひらがなとカタカナの書き方本と小学生辺りが習う漢字の本を手に取る。
た手順で行くのが無難ですね。﹂
鷲谷﹁そうですねぇ⋮まずは簡単なひらがなやカタカナから始めて、次に漢字といっ
ノーマ﹁まずはどんな文字から始めればよいだろうか
鷲谷が連れて行ったのは、教科書やドリルなどが置かれているブースだ。
鷲谷﹁じゃあここら辺ですね。﹂
そう結論付けたノーマはまず日本語を学ぶことにした。
まずは言語だ、言葉が分からなければ講和も順調には進まない。
鷲谷の声でふと我に返ると、どんな本を持って帰ったらいいか考えた。
?
第十六話:日本観光
238
いても書かれていた。
ノーマ﹁︵これさえあれば⋮我々にも銃を作る事が⋮︶﹂
最初こそはそう考えたが、鷲谷の方をふり返り冷静に考えて無理だと諦めた。
ノーマ﹁︵駄目だ⋮今ここで我々が再び攻勢に転じれば、捕まった捕虜たちの命が危う
くなる。それに、我々にはこの様な精巧な武器は作れそうにない⋮作れたとしても我々
が一つ作る間に彼らは何十何百と作っている事だろう⋮それでは意味が無い。これは
講和のため、元老院議員たちにこのニホンの技術力を証明するための資料として持って
行こう。︶﹂
ノーマはもう二、三冊銃の本を手に取ると、鷲谷と一緒に会計のレジに並んだ。
12時、秋葉原駅で富田達と合流した鷲谷は近くの回転寿司屋へと向かって歩いてい
た。
道中富田の顔色を見てみると、とても青ざめていた。
239
どうやら周りは女性ばかりなのに対し、体格のいい大柄な男が女性向け男性同性愛本
のフロアにいるのが違和感だったらしく、周りから変な目で見られていたらしい。
大方、あちらの気があると思われたらしい。
そのおかげで神経をすり減らし、今に至ると言うわけだ。
一行が到着したのは﹃スシタロー﹄という有名な回転寿司チェーン店だ。
﹂
でしょうか⋮﹂
時間的にも客は少なかったので、テーブル席に座ることが出来た。
ピニャ﹁ここは⋮
ボーゼス﹁小さな皿に乗った米と⋮肉
﹂
?
中に放り込んだ。
その時、三人の口の中に衝撃が走った。
﹂
!?
﹂
ピニャ﹁こ、この独特の香りは
ノーマ﹁も、もしかして⋮魚
!?
!?
ボーゼス﹁二ホンでは魚を生で食べるのですか
﹂
ピニャ達三人は流れてきたマグロの赤身を手に取るとしょうゆをつけて、それを口の
鷲谷﹁こっちの小皿にしょうゆを入れてそれにつけて食べます。﹂
ピニャ﹁どうやって食べるのだ
鷲谷﹁寿司っていう日本の代表的な料理ですよ。﹂
?
?
第十六話:日本観光
240
三人は生魚のうまさに驚きを隠せないでいた。
それもそのはず、帝都で出される魚料理のほとんどは焼くか蒸すかして、ある程度火
を通してある。
だがただ切っただけの魚の切り身に、酢を混ぜた米を組み合わせただけの簡単な料理
がこんなにも美味しいだなんて⋮
三人の常識は完全にいい方向に崩壊していた。
これを父や他の者にも食べさせてやりたい。﹂
こうしてピニャ達の日本観光は大満足で終了した。
?
それぞれ思い思いの買い物が出来て満足した一同は、お互い買った物を見せ合った
新宿アルタ前
古田っていう
気づけば三人は流れてくる寿司を無意識のうちに手に取って食べていた。
富田﹁そんなに気に入ったのでしたら、今度作り方を教えましょうか
なら頼む
同じ偵察隊の隊員が元料理人なので、作り方も知っているはずです。﹂
ピニャ﹁そ、そうか
!
富田﹁分かりました、帰ったら相談してみますね。﹂
!?
241
後、疲れを癒すために箱根の温泉旅館へと向かった。
その様子を陰から監視する怪しい男がいた。
アメリカのCIA工作員だ。
copy
o v e r
ボール﹁ボールよりルナ2、ザビはサイド3へと向かった。どうぞ﹂
roger
o
u
t
o v e r
ルナ2﹁了解、監視を続行しつつ箱根にて中国とロシアの部隊と合流せよ。どうぞ﹂
ボール﹁了 解、通信終了﹂
彼らはこの後起こる戦闘も、その結果さえ⋮まだ知らない。
オペレーターA﹁対応03、よろし
﹂
グワジン﹁こちらグワジン、目標Aを捉えた。﹂
2,3とする。﹂
排
除
オペレーターA﹁グワジン、北北東150に熱源三。十時から十一時、目標 A │1,
アルファ
二人とも銃口を目標に向けており、いつでも射撃が出来る体制を整えていた。
にしたようなマークがついている。
下にはGWAZINE01,02と同じように表示されており、上には﹃♀﹄を逆さ
すぐ近くには同じく四角で囲われた特戦群の隊員が二名いる。
それぞれA1,A2,A3と表示されている。
モニターには敵工作員とみられる武装した三人の人影が四角で囲われており、上には
目の前には女性オペレーターが特戦群の隊員に情報を送っている。
作戦司令を行っていた。
佐が箱根の温泉旅館﹃山海楼﹄にやってきた伊丹達とは別のお客様をお出迎えするため
敵 工 作 員
防衛省広域指揮運用センター、その指令室では嘉納と統幕作戦室長の竜崎一史一等陸
第十七話:歓迎されざる者
第十七話:歓迎されざる者
242
?
243
グワジン﹁了解。﹂
他のオペレーターも別の隊員に指示を出している、その指示には一切の迷いも躊躇の
かけらもない。
有効的かつ周囲の敵の仲間に異変を悟られないよう的確な命令を出して、相手を確実
に屠るための命令を出している。
オペレーターB﹁ザンジバル、ポイント3へ移動。﹂
グワジン、目標A│1,2,3排除。﹂
オペレーターC﹁チベ、新たな熱源二。三時、距離⋮﹂
オペレーターA﹁クリア
嘉納﹁ふむ、来賓たちはどうしている
﹂
?
?
竜崎﹁えー、ただ今露天風呂を満喫中のようです。録画しますか
﹂
砕する作戦に大別されます。今回の作戦で行われているのは前者に当たります。﹂
察活動とゲリラ戦が混ざった不正規戦と、イラク戦争のような敵の要点のみを一気に粉
映画の中か、途上国のものになりましたからねぇ。現代戦はアフガニスタンのような警
竜崎﹁そうですね。昔のような真正面から全力でお互いがぶつかり合うような戦争は
じゃ、まるでシュミレーションゲームみたいだ。﹂
嘉納﹁正直言って、今の戦争がこんなんだとは思わなかったぜ。ここから見る限り
この様子を見て嘉納は現代の戦い方にあっけにとられていた。
!
第十七話:歓迎されざる者
244
嘉納﹁許可する⋮じゃねーよ。﹂
中央のモニターにはドローンから映像が送られてきており、危険な事態が迫っている
とも知らずに特地御一行は、日本の露天風呂の美しさに見とれている様子がはっきりと
わきあいあい
映っている。
そんな和気藹藹とした場所に近づく輩について、竜崎が詳細な説明を始めた。
竜崎﹁現在﹃特戦﹄が警護する﹃山海楼﹄に未確認の武装集団が接近を試みている状
況です。装備を見る限り、国内の民間デモ集団では無い事が確認されています。﹂
嘉納﹁特殊作戦群か⋮確か伊丹もそうだったな。﹂
竜崎﹁はい、ですが特戦群と言いましても戦闘のプロばかりとは限りません。毒物や
﹂
心理戦といった特技をもって隊員となっている者もいます。﹂
嘉納﹁伊丹は
﹂
?
それもそのはず、なぜならそれは⋮
周りの隊員はそれを聞いて下を見ながら肩を震わせ、クスクスと笑っていた。
水、爆発物も扱えるって書いてあったが
嘉納﹁なんだそりゃ、俺が見た資料じゃ射撃はもちろん、格闘戦に心理戦、空挺に潜
嘉納はその言葉に顔をしかめる。
竜崎﹁危険をいち早く察知する能力、つまり⋮逃げ足です。﹂
?
245
竜崎﹁大臣、その資料は破棄してください。それは欺瞞情報、冗談です。嫌味も含ま
れていますが。﹂
嘉納﹁おいおい、嫌味かよ⋮。﹂
竜崎﹁奴は怠けることが自分の仕事と勘違いしているようで⋮群内でアニメや漫画を
布教したりしています。しかも捕まえようとすると忽然と姿をくらまし、今まで奴を捕
まえたことがある人間はいません。﹂
嘉納﹁なんだそりゃ⋮伊丹がすごいのか特戦のレベルが低いのか⋮﹂
竜崎﹁痛しかゆしです。﹂
ブラボー
そんな事を話している間にも特戦群の隊員は次々と敵目標を倒している。
我々の守備
オペレーターD﹁ドロス、目標 B │8,9,10を排除。目標B集団は後退を開始。
﹂
集団A、Cも同じく後退をしています。合流するつもりのようです。﹂
嘉納﹁うーん⋮連中は何を考えているんだ
﹂
﹂
何か嫌な予感がする。﹂
竜崎﹁恐らく守備の薄いポイントを見つけているのではないでしょうか
が想像以上で混乱しているのでは
嘉納﹁そいつらの顔、確認できねぇか
竜崎﹁まだ状況は終了していませんが、何をお考えで
?
?
嘉納﹁もちろん政治だよ。俺は政治家だからな。﹂
?
?
?
竜崎﹁分かりました。ドロスの部隊に目標B│8,9,10の顔を確認するように伝
えてくれ。﹂
﹂
﹂
オペレーターD﹁了解。ドロス、先ほど排除したB│8,9,10の顔を確認してく
ださい。﹂
ドロス01﹁こちらドロス、了解。﹂
ドロス02﹁なぁ、こいつら妙に装備良くね
ゲーマーに偽装を
とにかく確認しないとな。こちらドロス、
ドロス01﹁今どきのサバゲーマーもこんな感じだぜ
ドロス02﹁マジで
?
目標B│8は黒人
!?
その顔を見てドロスは驚愕の表情を浮かべた。
﹂
﹂
ドロス02﹁こちらドロス どうなっている
嘉納﹁なっ
驚きの報告はまだ続いた。
!
繰り返す
ドロス01﹁こちらドロス、黒人だけじゃない 目標B│9はロシア人だ
黒人だ
あぁ、ク
!
!!
!?
!!
!
分に覆い被せる。そして9mm拳銃のフラッシュライトで目標B│8の顔を確認した。
そう言いながらバックパックから携帯偽装網を取りだし、排除したB│8の死体と自
これよりライトを使い確認する。﹂
?
?
?
!
第十七話:歓迎されざる者
246
247
ソッ
どうすれば
﹂
最悪だ、B│10は中国人
竜崎﹁大臣
﹂
!!
﹂
エージェントに黒人が混ざってる国なんざ
しかもロシアや中国と手を組んでるだなんて、最悪だ
嘉 納﹁今 す ぐ 首 相 官 邸 に 繋 い で く れ
ア メ リ カ
同盟国しかいねぇだろ
!!
!?
て、冷や汗をかいている。
・・
!?
?
撃となっていただろうね。﹂
何が目的だ
!
みがあるんだが、いいかな
﹂
ディレル﹁なぁに、友の窮状を救うのは当然だろう。そこでだ、モトイ。ちょっと頼
本位﹁︵クソッ
この野郎⋮︶あ、ありがとうございます、大統領。﹂
のようだな。危ない所だったな、表沙汰になれば不祥事が相次ぐ君の内閣のとどめの一
機関が日本の新聞社に持ち込まれる寸前に押さえたんだが⋮その声色を聞く限り本物
官僚の不正・汚職・裏献金といった政治関連の事が書かれているそうだ。我が方の調査
ディレル﹁私は日本語は読めないので本当かどうかは分からないが、どうやら大臣や
本位﹁だ⋮⋮大統領、この資料をどうやって⋮
﹂
彼のその手元には分厚く積み上げられた何かの資料があった。本位はその内容を見
ていた。
指令室が騒然としている頃、首相官邸ではディレル大統領からの電話に本位が対応し
!!
!
!
!
?
第十七話:歓迎されざる者
248
本位﹁︵来たな⋮MSのことか
︶MSのことでしたらその件だけは⋮﹂
本位﹁それは⋮いささか強引ではないでしょうか
・・・・
戦
群
邪
魔
﹂
が残念な事に周りのガードが優秀でまだ面会できてないんだ。なんとかならないかな
特
ディレル﹁なぁに、満足する分け前を期待する側の少々のお節介だと思ってくれ。だ
?
と董も﹃送迎員﹄を送ったって言ってたな。﹂
知だが直接招待しようとうちの﹃送迎員﹄を送ったんだ。あぁ、そういえばジェガノフ
ディレル﹁その資料と同じ筋からね。それでだ、そちらは真夜中なので失礼なのは承
本位﹁ど、どうしてそれを⋮﹂
たい。﹂
がお忍びで来ているらしいじゃないか。そこで、是非彼女たちを我が合衆国にご招待し
ディレル﹁大丈夫だよ、もっと別のことだ。今、そちらに特地から高貴なご身分の方
?
﹂
?
つこいからね。﹂
ディレル﹁あぁ、もちろんだとも。ジェガノフと董にもそう言っておくよ。彼らはし
したからといって責任転嫁するのだけはやめていただけますね
う。しかし私にできるのはガードをどうにかする事までです。彼女たちが招待を拒否
本位﹁︵チクショウ⋮どこまでいっても傲慢な奴だ⋮︶⋮⋮分かりました、いいでしょ
私と君との友情の証として、モトイ。﹂
?
249
本位﹁では成功をお祈りしております。おやすみなさい、大統領。﹂
﹂
ディレル﹁私も嬉しいよ、ではおやすみ。まぁこっちは今からブランチだけどね、ハ
ハハッ
嘉納﹁作戦中止 一体どういうことですかい総理
││﹂
ディ レ ル
だけどここまで内閣
大統領に何言われたか知らねぇが
!!
本位﹁こらえてください、嘉納さん⋮⋮私だって悔しいんです
のスキャンダルを握られては仕方ないんです⋮⋮﹂
!
!?
本位は先ほどまでつけていた受話器を再び耳に当てると、作戦中止の命令を下した。
すると間髪入れずに今度は嘉納から電話がかかってきた。
とは言っていないのだ。
だが内心安心もしていた。彼はガードをどうにかする事だけで特戦群を退去させる
ホワイトハウスで喜んでいるディレルとは対照的に、本位は悔しがっていた。
はな。﹂
ディレル﹁まさかMSの情報を探して出てきたものが、こんな形で効力を発揮すると
口飲んだ。
その顔はとてもうれしそうな表情をしており、椅子に深々と座り込んでコーヒーを一
そう言い残してディレルは受話器を置いた。
!
第十七話:歓迎されざる者
250
嘉納﹁だからって⋮﹂
本位﹁待ってください、確かに私は特戦群をどうにかするとは言いました。ですが来
賓を引き渡すとは言っていません。今ここで私が政権を投げ捨てれば、握られた秘密は
無価値のものとなります。﹂
嘉納﹁本位さん、あんた⋮そんなことしたら⋮⋮﹂
﹂
本位﹁わかっています、私の政治家人生はこのためにあったのかもしれません⋮嘉納
さん、後を⋮MSを⋮日本を頼みます
りに敵を倒している。
畜
敵
の
待
ち
﹂
伏
せ
だ
﹂
!
いる自殺行為のようなものだ。
こにいるのか分からないため、サラミスの行為はまさしく自分の居場所を敵に知らせて
アメリカ工作員のサラミスがサイレンサーの付いたMP7の引き金を引くが、敵がど
!!
生
だがまだ命令は下していない⋮何も知らない特戦群の隊員はオペレーターの指示通
嘉納﹁あんの馬鹿野郎⋮腰抜けのくせに最後は粋がりやがって⋮﹂
泣いているのを悟られないように⋮
本位はそう言い残し、静かに受話器を置いた。
!
Ambush of enemy
サラミス﹁Damnit
!
闇雲に撃つな
ハイデッガー﹁サラミス
!
251
隊長のハイデッガーが射撃を止めさせるが、間もなくサラミスの頭に大きな穴が開
き、脳漿を辺りにぶちまけながら絶命した。
ハイデッガー﹁マゼラン、ホワイトベース、一時後退 ︵自衛隊の特殊部隊がいるな
んて聞いてないぞ⋮︶﹂
そこを狙い、撃った。
何が日本人の装備は拳銃
ダブルタップで確実に
USMCFR に い た 俺 で さ え 手 玉 に 取 ら れ て い る
海 兵 隊 偵 察 部 隊
まずは手足を狙ってくる
ガー
弾丸はまっすぐ飛んでいき、マゼランとアナンケの命を刈りとった。
最新の装備を使ってるぞ
ド
すると待ち伏せされているとも知らない敵工作員部隊が沢に降りてきた。
ムサイ﹁了解。﹂
ださい。﹂
オペレーターA﹁A│6∼10は南南東に後退、ムサイは二時方向の沢に向かってく
逃すはずが無く、オペレーターが近くの沢に向かうように指示を出す。
ハイデッガーの命令通りに残りの隊員は南南東に後退を始めるが、特戦群はそれを見
!
ハイデッガー﹁マゼランとアナンケがやられた ︵クソッ
だけだ
頭を狙ってきているじゃないか
!
?
!
なんとか全滅を避けて、他の工作員部隊と合流することが出来た。
⋮︶﹂
!!
!!
!
第十七話:歓迎されざる者
252
C
I
A
国家安全部
対外情報部
この作戦にはアメリカのほかに中 国やロシアも参加している。
彼らも自衛隊の特戦群によって半数がやられており、すでに疲弊しきっていた。
すると対外情報部保有スペツナズのザスローン部隊隊長のマカロフが撤退案を具申
した。
﹂
ちょっと待て
マカロフ﹁おい ここは撤退してもう一度機会をうかがった方がいいんじゃないのか
⋮⋮﹂
チャック﹁だめだ、この作戦は米露中三ヶ国同時大統領命令だ。ん
!
に渡った。各位状況を中止し、待機位置に復帰せよ。﹂
オペレーターA﹁ゲームの主導権は彼らに渡った。繰り返す、ゲームの主導権は彼ら
全員が照準器を覗き込み、引き金を引こうとしたその時⋮⋮
グワジン﹁こちらグワジン、射撃準備完了⋮﹂
ムサイ﹁ムサイ、いつでも撃てます⋮﹂
ヨーツンヘイム﹁こちらヨーツンヘイム、位置についた⋮﹂
全員、引き金に指を当ていつでも撃てる状態だった。
いた。
総合隊長のチャックが無線を聞いている時、すぐそばに特戦群の部隊が配置について
?
?
253
その通信を聞いて全員引き金をから指を離し、待機位置まで後退した。
や
チャック﹁よし、上で話はついた。予定通り護衛の自衛官を排除し、来賓を迎え入れ
るぞ。部屋は買収した仲居に確認済みだ。﹂
言いたいのか
﹂
マカロフ﹁おい待てよ それじゃあ俺たちの仲間が半分殺られたのも予定通りだって
!
﹂
!?
﹂
チャン・ウェイ
?
た。
張﹁おいやめろ
少し頭を冷やせ。アメリカも少し物言いがきつすぎるぞ
﹂
!
?
起きてきた。
伊丹﹁いてぇ⋮栗林のやつ、もろ食らわせやがって⋮ん
﹂
その山海楼の一室では、先ほど酔った栗林のアッパーを食らって気絶していた伊丹が
一触即発の状態ながらも作戦を開始した工作員部隊は山海楼へと向かった。
シアは先頭に行け、中国は後方を警戒。俺たちは左右を警戒する。さぁ行け。﹂
チャック﹁ふん、中国にもまともな奴はいたようだな。よし、作戦を開始するぞ。ロ
!
マカロフがチャックに殴りかかろうとした時、中国国家安全部の張 偉がそれを止め
マカロフ﹁なんだと貴様
まともに動けてたら、上が切り札を使う前に突破できたんじゃないのか
チャック﹁自衛隊の特殊部隊がいたのは想定外だった。だけど、お前たちがもう少し
!?
ふと広縁のほうに目をやると、そこにはロゥリィの姿があった。
伊丹は酒と氷の入ったバーボングラスを片手に持つロゥリィの美しさに度肝を抜か
れていた。
その美しい肌や髪は月に照らされ、まるで一種の芸術作品のようにも思える程だ。
頬は赤く火照り、浴衣の掛襟が解けて鎖骨や胸元などが見えている。
そこにいるロゥリィは少女という見た目にも関わらず大人びた雰囲気を醸し出して
いた。
性欲を持て余す男性が見ればエロチシズム性質を呼び起こさずにはいられなくなる
だろう。
伊丹の視線に気がついたロゥリィが右手の人差し指をクイクイと動かすと、若干酔っ
ているのも相まってフラ∼っと近づこうとする。
だがそれはいつの間にか伊丹の胴体を抱いていたレレイによって意識を戻される。
しょうしん
伊丹はレレイの腕を離させると、風邪をひかないように布団をかける。
﹂
最初は二十代のロゥリィの姿を拝みたいとか、陞 神したら姿形は自由に変えられると
かそんなことを話していた。
だがロゥリィが一番気になっていたことはそんな事では無かった。
ロゥリィ﹁そんなことよりぃ、この近くで誰か戦っているでしょお
?
第十七話:歓迎されざる者
254
255
ロゥリィは外での戦いにすでに感づいていたようだ。
ロゥリィ﹁おかげで全然眠れないわぁ、蛇の生殺しよぉ。どうしてくれる
殺らせるかぁ、ヨージがなんとかしてよぉ。﹂
わたしに
?
てれび〟ってゆーのでやってたの
?
伊丹﹁な、なんとかって⋮なにをでしょうか⋮﹂
﹂
ロゥリィ﹁言わなきゃわからなぁい 例えばあの
とかぁ
?
私がこどもぉ
象にそんなことしたら││﹂
ロゥリィ﹁あら
ヨメもいるんだぞ
﹂
﹂
伊丹﹁見た目は完璧に子供でしょうが 世間様はそういうのを許さないんだって
?
?
元
ロゥリィ﹁ここに世間様なんていないわぁ、それにぃそういう仲になったからって周
られてしまう。
伊丹は必死に椅子を後ろにずらして逃げようとするが、あっという間に目の前まで迫
!
?
!
!
伊丹﹁観たの えーっと⋮こっちの世界には児童福祉法という法律があって子供を対
どうやって彼女たちがそのカードを入手したのかは不明である。
聴が出来ない内容が映るチューナーが使われているようだ。
どうやらこの旅館のテレビには、プリペイドカードを入れると18歳未満の方はご視
?
第十七話:歓迎されざる者
256
りに言いふらす趣味なんてないしぃ。﹂
ロゥリィの体が少しずつ伊丹の体に密着していく。
﹂
ここで
少女の柔肌が伊丹の鍛え上げられた筋肉に触れていくたびに、鼓動が早く強くなって
いくのを感じる。
伊丹﹁違うんだ
まずは話を聞いてくれ
﹂
鷲谷﹁分かりました、話なら後で聞きます。ところで⋮どうして僕はロゥリィに睨ま
!!
と⋮﹂
鷲谷﹁隊長、いくら九百歳越えの合法ロリだからと言って手を出すのちょっとどうか
口を開いた。
その瞬間を見てしまった鷲谷と二人の間に異様な空気が流れ始め、間を持って鷲谷が
!
?
なんてったって九百年分の﹃経験﹄値が 体が⋮勝手にっ
!!
ロゥリィ﹁ホントにぃわたしが⋮こどもにみえるぅ
伊丹﹁︵断じて否
﹂
?
既に私服に着替えていた鷲谷が、ふすまを開けて部屋に入ってきた。
鷲谷﹁隊長、起きてますか
ロゥリィがその決めゼリフを言おうとしたその時⋮
ロゥリィ﹁⋮⋮ねぇえ⋮﹂
決めゼリフなんかつぶやかれたら││︶﹂
!!
!
257
れているんでしょうか⋮﹂
ロゥリィ﹁あともうちょっとだったのにぃ
﹂
﹂
早く逃げましょう
!
!
鷲谷﹁すいません⋮ってそんなこと話している場合じゃなかった
すぐ近くまで敵の工作員が来ています
!!
﹂
伊丹﹁んな急に言われたって皆を起こさなきゃならないし⋮第一どこから逃げるのさ
!
?
ニヤしながら二人に話しかけた。
ロゥリィ﹁ねぇ、それって私が倒しちゃダメぇ
﹂
二人が悩んでいるその時、先ほど邪魔されてご機嫌斜めだったロゥリィが今度はニヤ
鷲谷﹁う∼ん⋮﹂
?
第十七話:歓迎されざる者
258
伊 丹 達 が 泊 ま っ て い る 部 屋 の 隣 に は 大 き な 日 本 庭 園 が 広 が っ て い る。庭 に は 大 小
様々な岩があり、灯篭がぼんやりと輝いている。池には赤と白と黒の配色が美しい錦鯉
が優雅に泳いでいた。
そんな芸術的な庭に不似合いな団体が入ってきた。
黒や迷彩柄のBDUの上にタクティカルベストを羽織り、そのポーチの中には弾薬が
詰まった予備弾倉やサイドウェポンなどを入れている。
頭部はニット帽やバラクラバを被り、首回りにはアフガンストールを巻いている。
それぞれの手には国籍が特定されないように自国以外で製造された銃を持っている。
クリス・ヴェクターやカールグスタフM/45、MP5K PDWにステアーTMP
など様々である。
カンパニー
その中の一人、ハイデッガーはこの作戦を怪しんでいた。
ハイデッガー﹁︵CIAやロシア、中国の戦闘要員が一夜にして半滅だ⋮情報不足な上
に作戦や編成が乱暴すぎる。上の連中は何を考えているんだ⋮︶﹂
そんな事を考えながら部屋の窓の前まで近づき、仲間が開けて部屋に突入しようとし
たその時⋮
何かが窓ごと仲間の体を横に真っ二つにした。
上半身が宙を舞い、下半身は糸が切れたように力なく崩れる。
259
月で照らされて輝く血液、信じられないものを見るような仲間達の表情。
そして窓を突き破って何かが岩の上に降り立った。
それに反応して銃のフラッシュライトをその何かに向けた、そこにいたのは⋮
ロゥリィ﹁みなさまぁ、こんな夜分にご足労様ぁ。ウフ♡﹂
着物姿のロゥリィだった。
その瞬間、ロゥリィの目の前にいた隊員たちは先ほどの仲間と同じように首や胴体を
ジ
ム
﹂
﹂
巨大なハルバードで切り落とされた。
吉姆﹁阿阿阿
ボール﹁HOLY SHIT
現在、謎の敵性人物と交戦中
﹂
﹂
﹂
!!
く。
く た ば れ、 ば け も の
あの女は
﹂
タンク﹁ルナ2ダウン
張﹁去死吧你、怪物
!!
日本の庭は死角が多すぎる
!!
!
!!
キャノン﹁なんなんだ
マカロフ﹁クソッ
!
!
隊員は一心不乱に手持ちの銃で応戦するが、彼女はそれを物怖じもせず突き進んでい
その中からは少女の高笑いも聞こえている。
辺りには味方の悲鳴や怒号が銃声と混じり合い、弾丸が飛び交う。
!!
!!
﹂
ロゥリィ﹁ほらほらこっちよぉ
や め ろー
キャノン﹁HeT
﹂
!!
朦朧としていた。
日本の攻撃か
﹂
!?
﹂
あんなのを連れて帰る事
どう見ても自衛隊の要員
何があった
﹂
それなら上で解決してあるはずだ
チャック﹁︵あぁ⋮くそっ⋮どうなってんだ
オペレーター﹁どうした
ルナ2、応答しろ
何なんだあの化け物女は
オペレーター﹁どうした、応答しろ
冗談じゃない
!!
! !!
!
!!
チャック﹁⋮違う⋮キモノ姿の⋮少女が⋮仲間を次々と⋮あぁ⋮ぐふっ
?
!?
ハ イ デ ッ ガ ー﹁︵く そ っ た れ
︶﹂
もしかしてあれが目標の来賓か
なんて無理だ
じゃない
!
!
!?
︶⋮こちらルナ2、作戦は失敗した⋮﹂
総合隊長のチャックは先ほどロゥリィに胴体を切られ負傷し、出血多量状態で意識が
!!
ロジャー﹁DAMNIT
ロジャー
後ろだ
﹂
F○CK YOU ハイデッガー、作戦は失敗だ
っ
!!
!
敵から目を離すな
!
﹂
!?
ろうぜ
ハイデッガー﹁馬鹿やろう
﹂
!!
!
ずらか
だがそれは木や岩に当たるだけで、目標のロゥリィには全く当たっていない。
相棒のロジャーはKSGをロゥリィに向かってぶっ放している。
!!
!
!
!
!!
ロジャー﹁え
?
第十七話:歓迎されざる者
260
!!
261
ロジャーがふと後ろを振り向く。
彼が最後に見た光景は、幼い少女が自分に向かって斧を振り下ろす瞬間だった。
次の瞬間、彼の首と胴体は離ればなれになり、首がコロコロとハイデッガーの前を転
がる。
ハイデッガーは自分の相棒が目の前で殺された事による怒りと恐怖心で、もはやまと
もな状態では無かった。
﹂
気づいた時には、彼はサイレンサー付きマグプルPDRを雄叫びを上げながら乱射し
ていた。
ハイデッガー﹁⋮こんのっ⋮化け物がぁぁぁぁぁぁっ
そして弾切れを見計らって突撃し、ハルバードを横に払った。
ロゥリィは咄嗟にハルバードを盾にして弾を全弾防いだ。
!!
﹂
彼はギリギリでそのハルバードを避けて、池に落ちた。
こいつは俺がっ⋮っ
近くにいた安全部の仲間が応戦する。
ハイデッガー﹁邪魔するな
!?
彼は残った左腕でスプリングフィールドXDをホルスターから引き抜きロゥリィに
右腕が無かったのだ。
そして自分の体に違和感がある事に気づいた。
!
第十七話:歓迎されざる者
262
向かって撃ち続けた。
だが血が体から抜けていき、視界が徐々にぼやけていく。
そして、ハイデッガーは意識を永遠に闇へと落とした。
後に残ったのは、見るも無残な姿になった庭とそこに転がる数々の死体。
頭が、腕が、足が、胴体が、まるでそこら辺の石のように転がっている。
そしてその中でただ一人、戦いの余韻に浸っているロゥリィが岩の上で佇んでいた。
身体中に敵の返り血を浴びており、その顔はとてもとても嬉しそうに笑っていた。
リィが作り出した阿鼻叫喚の地獄絵図を見ていた。
しばらく経って最初に声を発したのは伊丹だった。
!
﹂
富田、鷲谷、栗林
﹂
﹂
!
今す
ピニャ殿下とボーゼスさんと
使えそうな武器や弾薬を回収
始末に公安が来るだろうし、こいつらの仲間もまだこの近くにいるかもしれない
ぐずらかるぞ
三人﹁はい
ピニャ﹁承知した⋮﹂
梨紗﹁わ、分かったわ。﹂
ノーマさんも着替えて出発の準備を
伊丹﹁梨紗とレレイとテュカは荷物をまとめてくれ
!
投擲武器や近接武器も忘れず回収するぞ
皆準備を進めている中、四人は工作員の死体に向かって合掌した。
!
!
! !!
伊丹﹁天災だと思って成仏してください
﹂
!
!
伊丹﹁⋮やばい⋮こんな光景を何も知らない警察が見たら面倒だ
そうでなくても後
亜神の力を目の当たりにした伊丹達は先ほどの酒の酔いも完全に醒め、呆然とロゥ
第十八話:アルヌスへ帰還
263
!
A S V a l
栗林﹁ウヒョー♪KSGにShaft、P90にPP│2000もあるじゃん
たことないよ
﹂
﹂
鷲谷﹁すげぇ⋮B&T社のAPCにARX160も⋮こんなのFPSか映画でしか見
!
﹂
?
﹂
ノーマ﹁こちらの書店でジュウの本を手に入れましたので、少しだけなら⋮﹂
ピニャ﹁よく知っているな。﹂
です。﹂
ノーマ﹁それは﹃ケンジュウ﹄
﹃はんどがん﹄と呼ばれている比較的小さい﹃ジュウ﹄
ピニャがそれを拾い上げたと同時にノーマが口を開いた。
ピニャは敵が落としたベレッタBU9ナノを見つけた。
世界の兵達も、死神ロゥリィの手にかかればこうも容易くやられるのか⋮ん
ピニャ﹁そうか、ボーゼスは亜神の戦いを見るのは初めてだったな。無敵に見える異
ボーゼス﹁⋮死神ロゥリィ⋮噂に聞いた通りすさまじいですね⋮﹂
戦いに慣れているおかげか、吐いたりすることはなくとも冷や汗は掻いていた。
ピニャ達は目の前の惨たらしい光景をまだ見続けていた。
ロゥリィを引っ張って部屋の浴室へと連れて行く。
目の前の最新PDWやSMG、SGの数々に興奮する栗林や鷲谷を尻目に、伊丹は
!!
ボーゼス﹁それでピニャ様、それをどうする気ですか
?
第十八話:アルヌスへ帰還
264
265
ピニャ﹁これを国に持ち帰る。ボーゼス、ノーマ、お前たちも今の内に一つ拾ってお
け。早くしないとワシヤ達に気づかれるぞ。﹂
ボーゼス﹁わ、分かりました。﹂
ノーマ﹁それでは私はこれを││﹂
あつい、あつい
﹂
ボーゼスはUSSRマカロフPB/6P9、ノーマはグロック17を手に取り懐の中
しみるぅ
﹂
!
に入れた。
乱暴にしないでぇ
こっちの飛び道具は弓矢とは違うんだぞ
!
一方伊丹はロゥリィの身体中についた血を熱いお湯で落としていた。
ロゥリィ﹁やぁん、ヨージぃ
伊丹﹁まったく無茶しやがって
!
ないか
﹂
伊丹﹁当たらなければって、シャアじゃないんだから⋮って、おい⋮当たってるじゃ
!!
!
ロゥリィ﹁当たらなければどうということはないわぁ。﹂
!
伊丹﹁え
﹂
だが彼女は亜神、伊丹は亜神の力を目の当たりにすることとなる。
ろう。
紅い血が傷口から滴り落ち、普通の人間ならば即死か運が良くても激痛は免れないだ
ロゥリィの身体には生々しい銃傷がいくつもできていた。
!!
!?
第十八話:アルヌスへ帰還
266
傷口からゴポゴポと音を立てながら透明な液体が体内に残った弾丸を押し返した。
そしてその液体が皮膚となり、それらを塞いだ。
﹂
先ほどまであった痛々しい傷口はもうどこにも無かった。
ロゥリィ﹁驚いたぁ
伊丹﹁⋮あぁ⋮﹂
れた。
神になるにはそれ相応のメリットとデメリットがある事を、伊丹は今一度考えさせら
繰り返しているのだ。これ以上の苦しみはどこにも無い。
ただの人が死ぬには致命傷を一回負えば済むのだが、彼女はそれを何十回、何百回と
00年以上も続けているのだ。
普通に聞けば誰もが欲しがるような力だが、ロゥリィからしてみればこの苦しみを9
それを聞いた伊丹は、ロゥリィが人の姿をした神であることを改めて実感した。
よぉ。﹂
ない⋮いえ、死ねない。けど肉体があるから快楽も痛みも感じる⋮呪いみたいなもの
な傷を負っても再生するの。バラバラにしてもくっつけたらつながるしぃ、亜神は死な
ロゥリィ﹁昇神した日から太ったことも痩せたこともない。ヨージ、この体はねどん
?
267
全員の支度が終わると、急いで旅館を後にした。
伊丹達は周辺を警戒しながら坂道を下っていく。
道路照明灯が暗い箱根の道を照らしており、吐息は白くなりどれほど寒いのかが分か
る。
そんな中、いつもは愚痴をあまりこぼさない富田がため息とともに先ほどの戦闘やこ
れまでの妨害の愚痴を漏らした。
富田﹁なんか最近こんなのばっかですね⋮﹂
伊丹﹁ちくしょう、全然休暇になってねぇ∼⋮﹂
栗林﹁あの旅館が防衛省共済組合の施設でよかったですよ。飛び込みで普通の旅館に
﹂
﹂
入っていたら、民間人にも被害が及んでいたかもしれません。今頃公安が後片付けして
るのかな
伊丹﹁連中はどこのだと思う
す。﹂
らく道中ばったり出会ったとかではなく最初から来賓目的で協力していたと思いま
鷲谷﹁聞こえてきた言語は英語、ロシア語、中国語の三つです。会話してましたし、恐
?
?
伊丹﹁やっぱり
﹂
はぁ⋮まさか三大国がわざわざ手を取り合うなんて、相当特地の情
報が欲しいんだな⋮﹂
鷲谷﹁もしかしたら来賓を人質にMSの情報提示を要求するかもしれませんよ
伊丹﹁どっちにしろ良い事はないな。﹂
その時、前方を歩いていた富田が伊丹を呼んだ。
富田﹁隊長、前方に⋮﹂
前には一台のワゴン車が止まっていた。
伊丹は三人の顔を見ると首を縦に振り、三人も答えるように頷く。
判断できた。
?
いいよね
﹂
?
伊丹﹁ゴメンねぇ、悪いけど降りてくれない
栗林﹁悪人なら撃ち殺してもいいよね
﹂
?
﹂
その時、頭に固く冷たい金属製の何かが突きつけられ、男にはそれが何なのか一瞬で
車内には大柄なスペツナズ隊員が一人で仲間の帰りを待っていた。
そして再びマガジンを装填すると、ワゴンへと向かっていった。
る事を確認する。
鷲谷はPP│2000の安全装置を解除し、マガジンを一度引き抜くと弾が入ってい
?
?
鷲谷﹁いいんじゃね
?
第十八話:アルヌスへ帰還
268
269
﹂
連れて行けないし、縛ってもすぐ逃げそうだし。映画みたい
富田﹁いや駄目だろ。まだ酔ってんのか
栗林﹁じゃあどうする
?
お、あったあった、鹵獲っと♪﹂
﹂
レレイ﹁殺傷せずに無力化できればよい
鷲谷﹁できるの
こっ ち
﹂
下手に日本で逃げ隠れするより﹃門﹄の向こう側の方が
?
伊丹達は先ほどのワゴン車を使って山を下り始めた。
すると数秒も経たずにいびきを掻きながらぐっすりと眠ってしまった。
レレイは一回頷くと、スペツナズ隊員に向かって睡眠の呪文を唱えた。
?
伊丹﹁⋮⋮なぁ、やっぱ直接銀座に行くのやめない 待ち伏せされてたらきついよ
﹂
﹂
に首絞めたり頭殴りつけて気絶させようとしても、下手したら死んじゃうだろうし⋮
?
富田﹁じゃあどうしますか
安全スよ
?
?
?
皆が愚痴をそれぞれこぼし合っていると、ピニャが伊丹に先ほどから気になっている
⋮﹂
鷲谷﹁慣れ親しんだ自国よりよく分からない異世界の方が安全ってどんな皮肉だよ
?
第十八話:アルヌスへ帰還
270
事を問いかけた。
﹂
米露中共同で襲撃なんて普通あり
ピニャ﹁伊丹殿、少し尋ねたい。そもそもなぜ妾達が逃げ隠れしなければならないの
だ
﹂
﹂
栗林﹁そうですよ、一体何が起こっているんです
えませんよ
ピニャや栗林の質問に伊丹は、
伊丹﹁実は⋮⋮俺にもよく分からん
話せば分かる
﹂
!!
?
た。
栗林
栗林﹁隊長⋮⋮いい加減にしないと後ろ弾しますよ
伊丹﹁お、落ち着け
!
ろうか
﹂
伊丹﹁いえ、それはありません。﹂
?
下
鉄
での火事と先ほどの襲撃⋮⋮怪しい出来事が多すぎる。妾は二ホンとの交渉の仲介の
ピニャ﹁だが初日から度重なる予定と乗り物の変更、地獄の乗り物が止まり、投宿先
地
立場上言えないのだ。これは妾の推測であるが⋮⋮妾達は売り渡されたのではないだ
ピニャ﹁落ち着かれよ、クリバヤシ殿。貴殿はイタミ殿の部下であろう。イタミ殿は
!
﹂
キメ顔で返した。栗林はそのムカつくキメ顔に、マグプルPDRの銃口を静かに向け
!
?
?
?
271
ためにここまで来た⋮⋮だが妾達の護衛は飢えたコボルトの前に置かれるがごとく外
﹂
された⋮⋮これまでの状況を察するに、講和を進めたい勢力と、それを良しとしない勢
力がせめぎ合っている⋮⋮違うか
アンタの性格的に考えて。﹂
う∼ん⋮⋮容姿はエルフ、性格は黒ゴス⋮保護欲があるのはプラチ
ナブロンドの魔導師⋮⋮かな
梨紗﹁誰が好み
買ってるなんてなぁ⋮⋮﹂
伊丹﹁エルフに亜神に魔導師⋮か。そんなファンタジーな存在が自販機でジュース
だ。
食事と休憩を行うことを決めた。飲み物や食べ物を買いに行ったのはいつもの三人組
ピニャの考察を聞きながら高速道路を走っていた一行は、パーキングエリアにて軽い
?
いけそう
﹂
?
彼女達を一目見ようと﹃大きなお友達﹄が総動員で押し寄せてくるわ。少なくとも千人
梨紗﹁大丈夫、あの国会中継のネットの反応を見た限りだといけるわ。うまくいけば
伊丹﹁どうだ
全員が食事を取っている間、梨紗はスマホ片手にある事をしていた。
三人が戻ってくると全員に飲み物とパンが配られた。
梨紗﹁当たり前よ、何年付き合ってると思ってんのよ。﹂
伊丹﹁おぉおぉ、大変よく分かってらっしゃることで。﹂
?
?
?
はね。﹂
伊丹﹁工作員達も群衆の中で派手な事は出来ないだろうしな。﹂
梨紗﹁他のサイトや掲示板にも仕込みしておくから、昼まで寝てていーわよ。﹂
伊丹﹁おぅ、サンキュー。︵これでようやく終わる⋮⋮この長い追いかけっこともおさ
らばだ⋮⋮︶﹂
夜が明けて昼の2時になる少し前、世間は別の事で慌てていた。
本位総理が緊急入院した後、突然の辞意表明を発表したのだ。
これにより野党勢力は一斉に本位総理の辞意を﹃無責任﹄と批判。
銀座では栗林志乃の妹、栗林菜々美がこのニュースの街頭インタビューを行ってい
た。
だが道行く人たちからの答えはテンプレ的なものばかりであった。
特に特徴のないありきたりな映像ばかりに、撮影スタッフも終始呆れていた。
スタッフ﹁栗林ちゃ∼ん、そんな質問じゃありきたりな答えしか返ってこないよー。
そろそろ使える絵作らないと⋮⋮同期でレギュラー狙ってる子、沢山いるんでしょー
?
第十八話:アルヌスへ帰還
272
273
︶﹂
﹂
?
奈々美、頑張らなきゃ
スタイルだけが取り柄の色物系女子アナで終わるつもりー
奈々美﹁うぅ⋮⋮︵気をしっかり
!
?
グラハムがそこまで考えていると、近くにCIA局員がやってきた。
そんな報告は無いが⋮⋮﹂
CIA局員﹁グラハム局長、今日は何かイベントでもありましたっけ
グラハム﹁なに
﹂
て我々が速やかに護衛を排除して来賓を回収。そのまま合衆国へと││︶﹂
CIA
の連中にパニックを起こさせ、同時に周辺のTV局の回線をロシアに切断させる。そし
ザスローン
ネでの謎の少女の襲撃による部隊全滅も想定外だ⋮⋮だがまだ手はある⋮まずは中 国
国家安全部
グラハム﹁︵まさか首相の辞任という形で切り札を帳消しにするとは⋮⋮更にはハコ
彼はドームに囲われた門がある場所を見ながら、作戦のことについて考えていた。
そんな彼女たちの近くには米露中合同工作員チームのグラハムが潜んでいた。
ろうと決意を固める。
スタッフからも痛い一言を言われ、落ち込みかけるが自信を奮い立たせ、何とか頑張
!
た。
人は群衆となり道路にまで溢れかえり、車はまともに進む事すらできなくなってい
その数は軽く千人を余裕で超えていた。
グラハムが辺りを見渡すと、周りはとてつもない人によって溢れかえっていた。
?
第十八話:アルヌスへ帰還
274
﹂
この予想外の出来事に、
﹃門﹄の警備をしている自衛官や警察官は群衆整理と状況把握
を始める。
あそこにTV局がいるから誰か聞いてこい
﹂
巡査A﹁本庁も抗議デモの話は聞いていません。﹂
自衛官A﹁入り口の封鎖は
巡査B﹁とにかく状況把握だ
!!
?
奈々美﹁TV局うちだけだって
局長賞狙えるかも
﹂
!
﹂
?
そのすぐ近くまで伊丹達は来ているのだが、
﹃大きなお友達﹄の影響で交通渋滞が発生
奈々美﹁あぁ、みんな特地から来た女の子を見ようと集まったみたいですよ。﹂
巡査A﹁すみません、これはなんの集まりなんですか
スタッフ﹁てことは他のカメラ、全員一般人か⋮⋮すげぇな⋮⋮﹂
!
どうやらTV局のカメラは奈々美の局だけなようだ。
メラを設置し始める。
一方群集の方は、異世界から来た亜神やエルフをカメラに収めようと三脚を立て、カ
陣形を組む。
暴徒鎮圧用のポリカーボネート製ライオットシールドと警棒を装備して、群集の前に
いベストやヘルメットを被る。
万が一に備えて機動隊が投石やナイフといった武器から身を守るべく、防刃性能の高
!
275
し立ち往生していた。
﹂
梨紗﹁まいった∼⋮⋮まさかここまですごいなんて⋮⋮正直﹃大きいお友達﹄ナメて
た⋮⋮﹂
富田﹁全然動きませんねぇ⋮⋮どうします
﹂
?
﹂
?
ぱり今日はやめて梨紗の部屋に泊まらないか
栗林﹁んで、明日になって工作員部隊の待ち伏せを強行突破しますか
﹂
に銀座事件の遺族にとっちゃ、ロゥリィ達は初めて見る異世界の﹃敵国人﹄だぜ
やっ
伊丹﹁まずいなぁ⋮⋮この群集の中にどんな奴がいるのか分からないってのに⋮それ
突然のロゥリィの登場により、銀座の街は騒然とし始める。
に道が出来たのだ。
その声を聞いた周りの人は驚き左右に分かれ、まるでモーゼの十戒の海が割れるよう
ロゥリィ﹁ねぇあなたぁ、ギンザはどっちぃ
彼女は一度、身体を伸ばすと近くにいた人に話しかけた。
そう言って車から降り始めた。
ロゥリィ﹁大丈夫よぉ。﹂
すると道中買った花に埋もれたロゥリィが、
伊丹﹁歩いていくしかないよなぁ⋮⋮でも危険すぎるし⋮⋮﹂
?
?
?
第十八話:アルヌスへ帰還
276
鷲谷﹁銀座の街が戦場に変わりますよ
﹂
﹂
?
﹂
三人﹁了解
て
﹂
伊丹﹁富田二曹、栗林二曹、鷲谷二尉。もし彼女達を害する者があれば、かまわず撃
伊丹は三人の方を向いて、命令を下した。
伊丹﹁どこに行っても問題事か⋮本当に借金取りから逃げてるみたいだ⋮⋮﹂
たのに逃げたら、何のために首相が辞任して梨紗が人集めしたんですか
鷲谷﹁それだとアメリカの強引な要求で突破されます。それにこんだけの人が集まっ
伊丹﹁じゃあ市ヶ谷駐屯地にでも逃げるか⋮⋮﹂
?
いて。あと、早く借金返せよ。﹂
伊丹﹁悪いな梨紗。一緒に行けるのはここまでだ、助かったよ。車は適当に放ってお
その横顔を見た梨紗はあまりの迫力に飲み込まれそうになっていた。
彼らの周りをいつもとは違うオーラが包み込んでおり、顔はこわばっていた。
そして準備が終わると、四人は一度深呼吸をした。
栗林と富田はそれぞれ手持ちの武器をお互い交換する。
伊丹はスプリングフィールドXD、鷲谷はPP│2000のまま。
四人は工作員部隊から鹵獲した銃火器を手に取り、準備を始める。
!
!
梨紗﹁冬コミで同人誌が売れたらね。ねぇ、次はいつごろ来れる
伊丹﹁そんなんなら、なんで離婚したんだ
﹂
言って言っても来るかもって待ってるのは⋮⋮ダメかな⋮
﹂
﹂
梨紗﹁あ、あのさ⋮⋮先輩って来るって言っても来ないときあるでしょ
伊丹﹁⋮⋮好きにしろよ。﹂
奈々美﹁ちょっとお姉ちゃん、なにしてんの
﹂
﹂
映像を少しでも多く作ろうと姉のもとへと近づく。
﹂
最初はレポートを続けていたが、姉の姿を見ると特地の情報⋮⋮というよりは使える
その道中には奈々美達の中継班もいた。
たちがスマホやデジタルカメラのレンズを向けて写真を撮っている。
左右には異世界からの美女を見ようと、日本各地からネットの情報を見て集まった人
彼女達は伊丹達に守られながら献花台へと向かっている。
だから無理
伊丹﹁分かんねぇな、しばらくは無理そうだ。年末に休暇取れたら連絡するよ。﹂
?
梨紗﹁だって⋮⋮結婚してあげるから養ってとゆーのはダメじゃない
?
?
?
?
あんたこそなにしてんの
?
︵姉妹会話シーンは下の名前で行います︶
志乃﹁あれ、奈々美
?
!?
277
全国ネット
やっほ∼、お母さん。元気
﹂
﹂
?
奈々美﹁TVの中継だけど⋮﹂
志乃﹁うそ、生中継
奈々美﹁ねぇ、あの三人にインタビューってできない
?
﹂
?
る。
そんな様子を遠くから見るグラハムは、駒門と会話していた。
駒門﹁よぉ、グラハム。﹂
?
⋮⋮つ、つながらない⋮⋮駒門、貴様
!!
どうやら全員CIA局員なんだよねぇ⋮﹂
グラハム﹁な、なに
﹂
ところでグラハム⋮⋮今特地のお客様に近づく怪しい連中を逮捕しているんだが⋮⋮
駒門﹁あぁ、悪質サバゲーマーの件か。それなら後で外務省から連絡が届くはずだ。
グラハム﹁駒門か、ハコネの件は話がついていたはずだ。どうなっている
﹂
この衝撃の内容にテレビの司会者やゲスト、そして画面の前の視聴者たちは驚愕す
かしたら今ここでも狙ってるかも⋮⋮おっと行かなくちゃ、それじゃまたね奈々美。﹂
行され電車は止められる。挙句の果てにはホテルが燃やされ旅館が襲撃される⋮もし
志乃﹁実はアメリカがロシアや中国と協力して拉致しようとしているのよ。バスは尾
奈々美﹁誰に
志乃﹁あー無理無理、早く特地に戻らないと⋮昨日から狙われてるのよ。﹂
?
?
!?
第十八話:アルヌスへ帰還
278
279
駒門﹁すまねぇな。よぉ伊丹、霧払いは済ませたぜ。﹂
この緊急事態にホワイトハウスで中継を見ていたディレルは、近くにあったゴミ箱を
蹴り飛ばして、激高した。
しかもCI
だ、だが⋮まだロシアと中国のチームはい
ディレル﹁なんだあの女自衛官は カメラの前で余計な事をペラペラと
Aチームが日本側に取り押さえられただと
る⋮⋮悔しいが彼らに任せるしか⋮﹂
!
ジェガノフ﹁ディレル、すまないが私達のチームは撤収させてもらう。﹂
あともう少しで特地の情報が手に入るというのに
!!
董﹁私も撤収命令を出させてもらう。﹂
ディレル﹁な、なぜだ
﹂
その時、タイミングよくジェガノフと董が同時にテレビ通話回線を開いてきた。
!?
!!
もはやディレルの怒りは最高潮に達していた。
そう言い残して二人は回線を切った。
ジェガノフ﹁というわけで、すまないがここまでだ。﹂
はとてもじゃないが無理だ。﹂
董﹁それに箱根の襲撃作戦ではかなりの優秀な人材を失った。もうこれ以上続けるの
もに作戦を続けるのも困難だ。﹂
ジェガノフ﹁これ以上危険を冒すわけにはいかないのでな。それにこの群集ではまと
!?
第十八話:アルヌスへ帰還
280
ディレル﹁ク、クソッたれ共が
モトイめ
﹂
ジェガノフめ
れだから東側の連中は嫌いなんだぁぁぁぁぁぁぁ
!
董め
!!
くそぉぉぉぉ
!!!
こ
!!
一方ロシアでは、ジェガノフがホットラインで董と話していた。
妾は⋮⋮この戦争を終わらせる。﹂
て く れ。我 々 は 明 朝 出 立 し 帝 都 へ と 向 か う。講 和 の 交 渉 を 準 備 し な け れ ば な ら な い。
があり過ぎる。このまま帝国が戦争を続ければ敗北⋮⋮いや滅亡する。︶二人とも、聞い
ピニャ﹁︵イタリカやアルヌスで見た物はその一端でしかなかった。あまりにも格差
横にはボーゼスやノーマの姿もある。
ピニャは自室にて日本での出来事の記録を書いていた。
そして一行はそれぞれの場所へと一時帰還した。
来た。
ディレルの目論見が失敗に終わり、伊丹達も無事に門の前まで何事も無く帰る事が出
!!!!
!!
281
董﹁これでアメリカは当分の間、
﹃門﹄のことは諦めるだろう。それにしてもあのディ
レルの顔、今思い出しただけでも笑えてくる。﹂
・・
ジェガノフ﹁そうだな⋮⋮そろそろ私達も動き始めるとしよう。﹂
・・・・
董﹁そうだな⋮⋮あの計画を進めなければな。﹃門﹄のことについてはその後だ。﹂
ジェガノフ﹁あぁ⋮⋮この計画は必ず成功させなければならない⋮⋮﹃鉄人計画﹄を
開始するぞ。﹂
非番の自衛官達は荷台のMSが何なのか気になり、スマホやデジカメを片手に外に出
が2台、土煙をあげながら基地の中を通過していく。
オリーブドラブカラーに塗られた非武装のMS用大型輸送車両サムソントレーラー
れてきた。
一方アルヌスでは新たに配備される試験用MSが2機、
﹃門﹄の向こうの日本から送ら
始した。
一緒に外務省の菅原と護衛の自衛官が数名同行することとなり、水面下での交渉を開
ピニャ達は早朝にアルヌスを出発し、イタリカを経由して帝都への帰路についた。
雅にお茶や食事を楽しんでいた。
だが征服戦争が日常茶飯事の帝都では珍しい事では無く、何も知らない貴族たちは優
を行ったりして再編をしていた。
日本への進撃、そしてアルヌス攻防戦で壊滅的な損害を出した帝国軍は、緊急の募兵
その帝国が日本と開戦しておよそ五か月になろうとしている。
帝国││覇権国家であり列国中の王として君臨するこの国に名前は無い。
第十九話:大蛇と鋸鮫
第十九話:大蛇と鋸鮫
282
283
ていた。
サムソントレーラーはMS格納整備場の前に止まると、エンジンを停止させた。
そして数名の自衛官がMSを固定しているワイヤーとカバーを外すと、1機のMSが
そこに寝転がっていた。
砂色をベースとし、胴体とスカートはオリーブ色で塗装されている。
頭部のモノアイ可動範囲は凸ような特徴的な形状をしている。
傍らには同じ色で塗装された長距離ライフルが固定されている。
左肩のショルダーアーマーには大口を開け、今にも獲物に食らいつきそうな蛇のマー
クがペイントされている。
MS│05L ザクⅠスナイパータイプ
MSが携行出来る大きさにまで改良されたビームライフルを装備した初の機体であ
る。
背中のバーニア・ランドセルを、サブジェネレーター搭載大型ランドセルに換装する
ことで長射程のビーム・スナイパー・ライフルが使用可能になっている。
移動しながらの射撃は困難を極めるため、機体は常に停止したまま狙撃を行う必要が
ある。
2台目には水中用MSズゴックを改良したMSが同じくワイヤーで固定されていた。
第十九話:大蛇と鋸鮫
284
MSM│07Di ゼーゴック
右腕はセンサーに改造され、固定武装は左腕のクロー内に搭載されたバルカン砲一門
のみとなっている。
投下して攻撃する所は原作と変わっていないが、違っている点が一か所ある。
それはただ落下するのではなく飛行が可能という所だ。
機体にはノコギリザメのペイントが施されている。
その二機を他の隊員と共に狭間と柳田がまじまじと見ていた。
狭間は初代ガンダムを見ていた世代であり、彼にとってもなじみ深いものでもあっ
た。
ガンダムが使用していたライフルに特に興味を持っていたため、初となるビーム兵器
の完成にとても喜んでいた。
﹂
狭間﹁おぉ⋮⋮これがか⋮うむ、やはりMSはビーム兵器に限るな。それで試験パイ
﹁俺だ
?
﹂
ロットは誰だ
!
そこには無精髭を生やした陸自隊員と小麦肌に焼けた空自隊員がいた。
二人が声のする方へと振り向く。
???
285
阪疋﹁阪疋飽津一等陸尉だ。本日付けでMS│05Lの技術試験担当パイロットに配
属された事を報告します。﹂
堀之内﹁堀之内勇見三等空尉、本日付けでMSM│07Di技術試験担当パイロット
配属を報告します、よろしく。﹂
狭間﹁二人とも、よろしく頼むな。﹂
阪疋﹁んで、こいつが最新ビームライフルか⋮⋮﹂
柳田﹁えぇ、試作ビーム・ライフル及び搭載MS、通称ヨルムンガンド。敵主力兵器
を射程外から狙い撃つ大蛇⋮⋮ビッグガンを改修しMSが携行できるサイズまでに小
型化、その威力はイージス艦クラスの艦船やほぼ全ての地上・航空兵器を撃破可能とい
う桁違いの数値です。ミノフスキー散布時の最大有効射程は30km。分かりやすく
﹂
これなら本国も絶大な期待を持つはずだ⋮﹂
言うと東京中心部から立川までの距離ですね。﹂
阪疋﹁なるほど
堀之内﹁こっちは
!
W
C
輸送機から投下し地上陣地を攻撃、作戦終了時は再びガウにて回収します。﹂
い ま す。本 機 は 大量兵器輸送用コンテナ を 搭 載 し 各 種 兵 装 に 換 装 可 能 で す。ガ ウ 大 型
L
にも耐えられるズゴックを代用することで、高高度の気圧にも耐えられる構造となって
柳田﹁モビルダイバーシステム⋮⋮機動管制ユニットであるゼーゴックは深海の水圧
?
第十九話:大蛇と鋸鮫
286
﹂
堀之内﹁海のMSを空に使うか⋮まるで俺みたいだ⋮⋮﹂
柳田﹁前は海自に
﹂
?
﹂
?
ハミルトン﹁本日の予定はキケロ卿との午餐、デュシー侯爵家で晩餐パーティー、そ
た。
その帝都皇宮サデラの丘にある館では、ピニャが沐浴中に今日の予定を確認してい
輸送します。ゼーゴックはLWCが届き次第、試験を開始します。﹂
かねて帝都郊外の皇室庭園付近で行います。三偵の隊員と一緒にファットアンクルで
柳田﹁いえ、ここでは狭すぎます。ザクスナは議員たちへのデモンストレーションも
狭間﹁試験会場はここで
ゴックの方はLWCの方がまだ届いていないので四日後ぐらいになります。﹂
柳田﹁ザクスナの方は比較的早く試験が開始できますので後二日か三日ほど。ゼー
狭間﹁試験日はいつだ
彼は首飾りの錆びだらけの銛の先を見ながらそう言った。
戦っている。﹂
堀 之 内﹁い や、俺 の 家 系 が 漁 師 だ っ た ん だ。爺 さ ん は 今 で も 現 役 だ。銛 一 本 で 鮫 と
?
287
後任隊長は
の間にシャンディーとの面談を入れています。白薔薇隊隊長の後見人事について意見
があるそうです。﹂
﹂
ピニャ﹁シャンディー・ガフはパナシュと姉妹の契りを交わした仲だろ
彼女で決まったんじゃなかったか
?
ピニャ﹁これか⋮ん
第一陣は十四名
十五名だったはず⋮﹂
ハミルトン﹁捕虜の返還希望名簿の草案にお目は通されましたか
?
﹂
ピニャ﹁それは後にしよう、先にスガワラ殿を午餐に連れて行かなければならん。﹂
ハミルトン﹁パナシュと一緒にアルヌスに行きたいと⋮⋮﹂
?
?
か
﹂
ピニャ﹁大丈夫じゃないって言ったら代わってくれるか
ハミルトン﹁無理ですね。﹂
二人は笑いながら顔を見合わせた。
そして十時辺り、食堂では菅原が座って待っていた。
菅原﹁⋮⋮遅いな⋮十時になるぞ⋮﹂
﹂
た。スガワラ殿との引き合わせがうまくいけば名簿に載せます⋮⋮本当に大丈夫です
ハミルトン﹁残りの一名はキケロ卿用です。卿の甥御が捕虜名簿に記載されていまし
?
ピニャ﹁おはようスガワラ殿、相変わらず早いな。﹂
?
?
第十九話:大蛇と鋸鮫
288
菅原﹁おはようございます、ピニャ殿下。今日もお美しい。︵あんたが遅いんだよ︶﹂
菅原は内心不満を思いながら朝食を始めた。
ピニャ﹁キケロ卿邸で午餐、その次はデュシー家で晩餐⋮⋮胃袋が全く足りない⋮﹂
﹂
ならぜひ頼む。﹂
菅原﹁我が国でも﹃腹は身の内﹄と言います。いい胃薬があるので取り寄せましょう
か
ピニャ﹁本当か
あっ、スガワラ殿、彼がキケロ卿だ。キケロ・ラー・
?
ピニャがいう主戦派とは軍備を再建した後にアルヌスへと再び進行する計画を立て
だからだ。﹂
顔が利く重鎮でもある。妾が彼を選んだ理由としては、彼が主戦派の中でも話せる御仁
マルトゥス。帝国開闢以降の名門の流れをくむマルトゥス家の一族だ。元老院に広く
ピニャ﹁だから言ったであろう
菅原﹁なるほど⋮胃が足りない理由が分かった⋮⋮﹂
りの菅原にとっては少々重たいメニューであった。
テーブルの上には子豚の丸焼きやムニエルなどが並べられており、朝食を終えたばか
貴族や侯爵たちが楽しそうに食事をしたり会話をしている。
大きなベランダにこれまた大きなテーブルが置かれており、その両サイドには帝国の
会話を弾ませながら朝食を終えた二人はまずキケロ卿邸の午餐に出席した。
?
?
289
ている、所謂徹底交戦派。
それに対して自衛隊と講和を計画する講和派がいる。
﹂
その講和派を増やすために主戦派の中でも広く顔が利く彼を彼女は選んだのだ。
ピニャ﹁キケロ卿、こちら二ホン国の外交特使のスガワラ殿だ。﹂
キケロ﹁二ホン⋮⋮はて、失礼ながら初めて聞く名だ。どのような国なのかね
菅原﹁そうですね⋮四季があり、森や水のきれいな国です。﹂
できる二ホンとはいったいどこにあるのかな
﹂
キケロ﹁いやはや⋮失礼したスガワラ殿、この剣といいこれほどの逸品を作ることが
これらの品々も貴族だからこそその美しさや素晴らしさが分かるというもの⋮⋮︶﹂
ピニャ﹁︵帝国にはない謙遜から入ると言う彼の手法は鮮やかなものだ⋮⋮異世界の
じまじと見てみたりしている。
の美しさと切れ味に度肝を抜かれ、周りの貴族たちは扇子を手に取ってみたり、布をま
最初は﹃所詮自然だけが取り柄だけ﹄だと思っていたキケロ卿はその中にある日本刀
漆が塗られた漆器や美しい柄の千代紙、真珠のネックレスに万年筆等⋮⋮
次に菅原は日本から持ってきた特産品の数々をテーブルに並べた。
その言葉にキケロ卿とそのご夫人は、あからさまに馬鹿にするような目線を送る。
?
菅原﹁我が国は﹃門﹄の向こうにございます、残念ながら現在は帝国と戦争状態にあ
?
りますが⋮⋮﹂
この言葉にキケロ卿の顔は一気に青くなった。
スガワラ殿も
これはまさしく売国に等
すぐ別の部屋にピニャと一緒に連れて行かれ、詳しい話を聞くことになった。
キケロ﹁ピニャ殿下 これはいったいどういうことですか
﹂
菅原﹁それも良いですが、まずはこれを一度ご覧ください。﹂
なぜこれが
数か月もすれば再編成された新生帝国軍十万が再び
敵国と秘密裏に交渉し、剰え使者まで招き入れるとは
このままで済むと思わんことだ
しい行為ですぞ
!?
こ、これは出征した甥の名ではないか
!?
そう言って一枚の紙を手渡した。
﹂
キケロ﹁なんだこれは⋮⋮なっ
⋮⋮まさか生きているのか
!!
!
﹂
!?
をすれば甥の命も⋮⋮︶﹂
キケロ﹁︵殿下の交渉次第で捕虜の返還条件が左右されるというわけか⋮⋮その邪魔
菅原﹁はい。強いて言えば、殿下のお骨折りがその代わりとなりましょう。﹂
キケロ﹁身代金もなしに無条件で
いただく代わりに殿下からご要望のあった数名の返還を無条件で行います。﹂
菅原﹁はい、現在は我が国で捕虜となっております。ピニャ殿下に仲介の労を担って
!?
!!
!!
!
!!
﹃門﹄を越えて貴国を滅ぼしてくれようぞ
第十九話:大蛇と鋸鮫
290
291
﹂
・・・・・
ピニャ﹁妾は今宵、デュシー家令嬢の誕生パーティーによき知らせを持って出席する。
卿もいかがかな
ここで断ってしまえば甥の帰還は更に絶望的なもの
!?
﹁⋮⋮アルヌス⋮あそこに﹃緑の人﹄と﹃緑の巨人﹄が⋮⋮﹂
そして││││
こうして帝国の主戦派議員への工作は着々と進んでいた。
│﹂
に⋮⋮︶ぜひともそのよき知らせが届く場に、私もご相席させていただきます、殿下│
捕虜となっている者がいるのか
キケロ﹁デュシー侯のご令嬢とは面識はございませんが⋮⋮︵まさかデュシー家にも
?
新たなる戦いの種も近づきつつあった⋮⋮
???
そのPXは各地の紛争地帯に店舗を構えており、あのユーゴスラビア紛争の戦場のど
した。
そこでアルヌス共同生活組合は駐屯地の購買部を通じて難民キャンプにPXを開店
務連絡が面倒という問題が浮上した。
収入源を確保したのはいいのだがイタリカまでは距離があり、自衛隊に頼もうにも事
料の配給を終了した。
その難民キャンプは、翼竜の鱗が収入源として確保されたため上層部は生活用品や食
となった。
僚、自衛隊員等。講師は第三偵察隊隊員とカトー・エル・アルテスタンとレレイが担当
研修生はピニャ率いる薔薇騎士団のメンバーと従者、日本からは外務省や防衛省の官
で行われた。
アルヌス駐屯地幹部は前から要請があった語学研修を開始、研修場所は難民キャンプ
国軍の大きな動きも無い状態が続いていた。
自衛隊がアルヌスに駐屯地をかまえて後、イタリカ攻防戦を境に周辺は平穏になり帝
第二十話:ダークエルフの災難
第二十話:ダークエルフの災難
292
293
真ん中にも開店するという無謀さで有名なコンビニDMZグループが引き受けてくれ
たのだ。
更にはバンダイナムコホールディングス全面協力でガンプラの販売も開始した。
バンダイ社やコンビニDMZ社の社員は、目の前で本物のMSが動いていることに感
動し涙を流す者までいたほどだ。
そのおかげか、テントサイズのPXに大勢の自衛官や休憩中の薔薇騎士団が次々と商
品を買い求めに来たのだ。
テントではあまりにも小さすぎるため、PXを大きく建て替えるが大繁盛の影響で人
手不足に陥っていた。
そこで組合はフォルマル伯爵家に人手を要請。
︶循環を生むことになる。
そこから亜人種のメイド達がやってきたことにより﹃大繁盛↓人手不足﹄という謎の
悪︵
が不足。
これにより特地貨幣が溜まりに溜まっており、逆に日本製品を仕入れるための日本円
組合はイタリカと帝都にPXを新設していき、その結果泥縄式に経営範囲が拡大。
め、組合としては彼らの要望に応えるしかなかった。
さらには日本製品と特地でとれた原産品を取引したいという商人が次々と集まり始
?
第二十話:ダークエルフの災難
294
政府がこれを買い取り、日本円に両替えをする形で確保していた。
雇用人が増えたため、食堂を建設すれば非番の自衛官も来て﹃大反響↓人手不足↓
フォルマル﹄という繰り返し。
更には従業員の宿舎や商人達の宿、商店や避難民の仕事場や家などを作るために埃を
被っていたMWT│05V土木工事用作業車をまた引っ張り出して作業させたり、その
伐採した木を使ってドワーフが家を建てたり、もはや難民キャンプという規模を越えて
一つの街が出来上がってしまっていた。いつまでも難民キャンプと呼ぶわけにもいか
ず、新コダ村と改名。
街が栄え詐欺や万引きといった犯罪が増加したため、組合は治安維持係を設立。
対策長はロゥリィ、その部下にイタリカ攻防戦で盗賊団にいたセイレーン種のミュー
ティ・ルナ・サイレスが配属された。
更にはイタリカと新コダ村に大規模な武装勢力が来ても対処できるように、白と黒に
塗装され右肩には警務と書かれた警務用MS│05JザクⅠがそれぞれ三機配備され
ることも決定した。
そんな急激な開拓が進んでいる新コダ村に一人の兵士がやってきた。
辺りは暗くなっているが街の明かりがほどよく灯っている。
295
彼はイタリカや帝都へ運ぶ商品輸送団の護衛兵として雇われに来たのだ。
﹂
面接を無事終えて仕事を得た彼は、自分へのご褒美にデリラが働いている酒場兼食堂
へとやってきたのだ。
﹂
﹂
エール、一つくれ
!
デリラ﹁いらっしゃーい
兵士﹁フゥ⋮おーい姉ちゃん
﹂
デリラ﹁エールは無いけどビールならあるよ
こ
!
!
!
なんだそれ
?
﹂
そして兵士は並々注がれた泡の立ったビールを一口喉の向こうへと流し込んだ。
二人はビールの入ったジョッキで乾杯し合った。
兵士﹁おぅ、こっちこそな。﹂
しくな。﹂
男性客﹁そりゃよかったな、今組合には隊商が八つあるんだ。一緒になった時はよろ
デリラ﹁ほい、ビールお待ちどぉさん。﹂
カの間の隊商護衛の仕事にありつけたぜ。﹂
兵士﹁あぁ、死神ロゥリィを目にしたときは冷汗が出たけど、なんとか本部とイタリ
の面接か何かか
男性客﹁アルヌスでしか飲めねぇ代物だ、強くはないがうまいぞ。おめぇさんも組合
こ
兵士﹁ビール
?
?
泡がはじける
﹂
シュワシュワと炭酸ガスの独特な喉越しに兵士は舌鼓を打つ。
冷えててうめぇ
兵士﹁っかー
﹂
!
って誘われたんだけど俺は故郷に帰ったんだ。その後イタリカ襲った連中、貧
?
ばされた。
﹂
大の男がこそこそ内緒話かい
ケツ
デリラ。﹂
その光景を見ていた伊丹はデリラに冗談を言った。
その時、伊丹と鷲谷、ロゥリィと桑原と黒川の五人がやってきた。
いんだよ
デリラ﹁おとつい来やがれ あたいの尻はアンタみたいな三下が触れるほど安くはな
!
次の瞬間、セクハラ客はデリラご自慢の回し蹴りを食らって二、三メールほど吹き飛
すると後ろに座っているセクハラ客がデリラのお尻をいきなり揉んだのだ。
?
間真面目に仕事するに限るな、へっへっへ⋮⋮﹂
デリラ﹁なんだいなんだい
?
デリラが店自慢の特地産の魚を使った寿司を持ってきた。
﹂
乏くじ引いて死神当てちまったようだな、行かなくて良かったぜ。聞くだけ野暮か、人
ないか
兵士﹁ここ攻め入った時はれっきとした兵隊だったんだがよ、負けた後は盗賊になら
?
!
⋮ところで前は何してたんだ
!
アルヌス
男性客﹁だろ
?
!!
伊丹﹁じゃあいくら払えば触らしてくれる
?
第二十話:ダークエルフの災難
296
297
鷲谷﹁隊長、それセクハラ。﹂
デリラ﹁イ、イタミのだんな
ま呼ばせている。
やだぁもう///﹂
料理長﹁イタミとワシヤの旦那
奥の﹃貴賓席﹄空いてますぜ。﹂
伊丹と鷲谷は特地の人達から﹃旦那﹄と呼ばれており、二人も良い気分なのでそのま
!
﹂
ロゥリィ﹁テュカぁ、誰か探してるのぉ
テュカ﹁違う違う、ちょっとね⋮﹂
もしかして男
そう言ってテュカはどこかへ行ってしまった。
?
﹂
どうやら誰かを探しているようだが⋮それはこの場にはいない人物だ。
その時食堂の近くに話の中心人物であるテュカがやってきた。
けば⋮⋮﹂
黒川﹁テュカのことです。ますます症状が酷くなってきています、このまま放ってお
伊丹﹁んで、黒川。話ってのは
ドーラ﹁ハァイ、オ待ちどぉサマぁ。﹂
しばらく待つとドーラがビールを五つ、慣れた手つきで運んできた。
ロゥリィ﹁ドーラ、ビール五つねぇ。﹂
伊丹﹁いいよ料理長、ここがいいんだ。﹂
!
?
?
第二十話:ダークエルフの災難
298
﹂
ビールおかわり
﹂
﹂
逃げちゃい
黒川﹁ああして毎日この時分にここにいるはずのない人を探しているんです。どうす
るおつもりですか
鷲谷﹁ドーラちゃーん
!
ロゥリィ﹁⋮でも黒川、むりやり現実をわからせる必要あるのかしらぁ
けないのぉ
?
!
?
彼女が星に輝く夜空を見上げながら昔のことを思い出していると、予想外の人物が話
それが誰しも出来るわけでは無い⋮彼女はそれを知っている⋮
だがその数々の出会いと別れを繰り返しそれを乗り越えることが出来た。
彼女⋮ロゥリィ・マーキュリーも挫け、泣き、足掻き、苦しむことはあった。
だが必然と別れはやってくる、それはどの生ける者には必ず付いてくるもの⋮死⋮
だ。
彼女は約九百六十年生きてきている、もちろんその間に沢山の友人や恋人がいたはず
ロゥリィは分かっていた、正しい事だけでは救えないことを。
ロゥリィ﹁それはそうだけどぉ⋮⋮﹂
者を思い描き長命のエルフの永遠に近い﹃今﹄を消費するだけでは寂しすぎます。﹂
るのです。おそらくテュカの父親はもう亡くなっているでしょう、現実と妄想の間で死
黒川﹁いけないに決まってますわ、人は現実を受け止めてこそ﹃明日﹄を生きていけ
?
299
を進めた。
いよいよ﹃あっち﹄に行ってしまうか
伊 丹﹁じ ゃ あ 黒 川、俺 達 が 寄 っ て た か っ て テ ュ カ に 現 実 を 見 さ せ て み た と し よ う。
﹂
テュカはそれをすべて受け止め認めると思うか
もしれないぞ
?
﹂
深くなったわ︶ドーラ、おかわりねぇ。﹂
鷲谷﹁じゃあ俺もおかわり
﹂
黒川﹁ではこのままにしておけと
する
﹂
添い続けられる立場ではないんだ。現実を突きつけた次の日に撤退命令が出たらどう
?
!
伊丹﹁﹃心﹄の内が分かる程お前はテュカを知っているのか
俺達はテュカの心に寄り
ロゥリィ﹁︵一番現実に背を向けているこの男が⋮どうしてそのことを││益々興味
?
!
ない。余計こじれるだけだ。﹂
では明日の準備があるので先に失礼します
!
ロゥリィ﹁飲みなさいよぉ、おバカさん。それにしても、あんな冷たい言い方する必
そう言って黒川は怒りながらその場を後にし、その後ろを桑原がついていった。
桑原﹁あ、では自分が二曹を送っていきます、金は置いときますね。﹂
黒川﹁わかりました
﹂
伊丹﹁あぁそうだ、悪い事は言わない。最後まで責任を持てないなら何もするんじゃ
?
?
第二十話:ダークエルフの災難
300
要は無かったんじゃないのぉ
伊丹﹁なにがだ
﹂
ロゥリィ﹁うそつきぃ。﹂
﹂
伊丹﹁生憎、俺は誰にでも優しくできる程、懐は深く広くないんだ。﹂
?
﹂
定員は一人にしときなさい。﹂
伊丹﹁どうしてだ
ロゥリィ﹁女にモテるからよぉ。﹂
伊丹﹁それ逆に嫌われるんじゃないか
﹂
ロゥリィ﹁別に何でもないわよぉ。︵ホントはわざと冷たくしてたくせに。︶その懐の
?
ないといけないのよぉ。﹂
あるのよぉ。死とはまさしく生の終焉⋮最良の死を迎えるには最良の尊い人生を送ら
ロゥリィ﹁あらぁー、それは誤解よぉ。死を司るというのは生を司るということでも
とか呼ばれてるくせに。﹂
伊丹﹁へぇ⋮ロゥリィは優しいな、死と断罪の神とかエムロイの使徒死神ロゥリィだ
女なのよぉ。﹂
れるわよぉ。逆に優しくしてもらえるのが一人だけなら、その座が欲しいって思うのが
ロゥリィ﹁女から見て誰にでも優しくする男って、誰にでも股を開く女みたいに見ら
?
?
301
伊丹﹁最良の人生⋮⋮ねぇ⋮⋮﹂
おかわりぃ
﹂
ケプッ⋮﹂
僕にもおきゃわりぃ∼
ロゥリィ﹁そうよぉ⋮ドーラ
鷲谷﹁ドーラちゅわ∼ん
!
!
﹂
鷲谷﹁あぁーずりー
店主
何だこの店は
﹂
この店はガキに酒を飲ますのか
!!
﹂
!
﹂
隊長、ぼぉくにも優しくしてくらさいよぉ∼
ロゥリィ﹁残念だったわねぇ、ワシヤァ。﹂
鷲谷﹁うるへぇ∼⋮﹂
﹁おい
!
酔いつぶれて動けなくなるふりをして自室へと連れ込み、そのまま夜の営みまで持っ
実はロゥリィはこんなことを考えていたのだ。
ある者は顔面を蒼白にさせ、ある者は震え、ある者は杯を落とした。
そこには黒いマントを羽織り、目元と長いエルフ耳を出した女性がいる。
!?
!
伊丹﹁まったく⋮とりあえずロゥリィは寝床までは運んでやりますかな。﹂
鷲谷﹁今頼んだのがぁ∼四杯目でゅえーす
お前何杯目だ
伊丹﹁おいおい、そのへんにしとけよ。酔いつぶれて倒れても知らねーぞ。特に鷲谷、
!
!
!
?
そんな三人で楽しく酒を飲んでいたその時だった⋮
!
その声に周りの者達は一斉にその声を荒げた人物を見た。
???
て行こうと計画していたのだが⋮⋮さっきの彼女、ダークエルフの女性の一声により全
てが台無しになってしまったのだ。
あともう少しだったのに⋮⋮ほんのちょっとだったのに⋮⋮なのに⋮なのに⋮
このロゥリィ・マーキュリーを⋮⋮ガキ扱い
ドンッ
という音が静かになった食堂に響き渡る。
だがそれは意外な人物によって更なる混乱へと発展する。
周りの者達はこの後起こるであろう血の雨の惨劇を想像させられていた。
一睨みで十人は軽く殺せるだろう、そう思える程の眼力だった。
彼女の顔には青筋が立ち、その目は獲物を刈りとる毒蛇のようだ。
!?
この野郎
馬鹿野郎
!
あぁん
!!
﹂
何やら様子がおかしい、皆がそう思っていた次の瞬間⋮⋮
鷲谷はスッと徐に立ち始める。
おもむろ
どうやら先程の音は杯をテーブルに勢いよく叩き付けた音らしい。
その音の先には、たった今四杯目のビールを飲み終えた鷲谷の姿があった。
!
鷲谷﹁なんだぁてめぇ
!
!?
第二十話:ダークエルフの災難
302
303
だみごえ
いつもの鷲谷とは到底思えないぐらいの重低音の濁声でダークエルフの女性に罵声
を浴びせたのだ。この事態に流石の伊丹やロゥリィは目を丸くした。
﹂
﹂
んな事も知ら
温厚の代表と言ってもいいほど笑顔が絶えない鷲谷が、あんな風に豹変するだなんて
﹁なんだお前は
思いもしないのだから。
ねぇのかこの野郎
ところか
あぁん
リー様だこの野郎
﹂
﹂
鷲谷﹁961だ馬鹿野郎
﹂
!
﹂
!
でもなぁ⋮⋮てめぇがガキ呼ばわりし
しかもこいつはあのエムロイの使徒、ロゥリィ・マーキュ
ヤオ﹁いくつだと言うんだ
たこいつはもっと年取ってんだぞこの野郎
鷲谷﹁かっ∼、大層長生きされてるご様子で
ヤオ﹁あぁ、そうだ。今年で315になる。﹂
?
!!
!
?
鷲谷﹁その耳はエルフだな⋮見たところ三十代っぽいが⋮こっちの世界じゃ三百って
ちらに﹃緑の人﹄と﹃緑の巨人﹄がおられると聞き、用件ありて参った次第だ。﹂
ヤオ﹁我が名はヤオ・ハー・デュッシ、シュワルツの森のデュッシ氏族デハンの娘。こ
!!
!
!
鷲谷﹁なんだじゃねぇよ⋮まず最初に話しかけた奴が挨拶すんだよぉ
???
!!
ヤオ﹁なっ
この野郎
せ、聖下だったとは⋮ロゥリィ聖下、先程はとんだ無礼を⋮⋮﹂
鷲谷﹁あぁ、そうだ。もっと地面に頭こすりつけてちゃんと謝りやがれ
﹂
ちゃんとまともな服
!!
はずだ。﹂
この野郎
﹂
鷲谷﹁うるせぇ 馬鹿野郎この野郎
んだよ
!
える。﹂
鷲谷﹁あんだてめぇ⋮殺る気か
あぁん
﹂
!?
鷲谷﹁駄目だ
こういった調子乗った奴にはたっぷり教育してやらねぇと気が済ま
ロゥリィ﹁も、もういいわよぉ⋮私も全然気にしてないしぃ⋮⋮﹂
ヤオ﹁いいだろう⋮貴様がその気なら受けて立とう。﹂
?
ヤオ﹁酒の邪魔をされただけでそれだけ切れるとは、貴様はよほど肝が小さい男と見
!
俺達の楽しみを台無しにしただけで万死に値す
礼な事を言った⋮それは謝る⋮だからと言ってそれ以上に責めたてられる謂れは無い
ヤオ﹁貴様⋮⋮先程から馬鹿野郎馬鹿野郎とうるさいぞ⋮確かに私は聖下に対して失
!
伊丹﹁な、なぁ鷲谷⋮⋮もう、その辺にしておいた方が⋮⋮﹂
﹂
鷲谷﹁大体なんだその恰好は それじゃまるで売婦じゃねぇか
着やがれ馬鹿野郎
!
!
!?
その時、ヤオの頭の中で何かが切れる音がした。
!!
!! !
!
第二十話:ダークエルフの災難
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305
ねぇんだよこの野郎
いいだろう。﹂
﹂
鷲谷﹁いい度胸じゃねぇか⋮俺は女だからって容赦はしねぇからなこの野郎
ヤオ﹁元より手加減してくれだなんて頼んだ覚えはないが⋮⋮﹂
辺りの空気が一層張り詰め、息苦しさすら感じる。
周りの者はもはや一歩も動けない状態にあった。
ここまで緊迫した現場を見るのは初めてらしい。
!!
そして双方同時に動いた
!!
これほど賑わってない食堂は見たことが無い。
ばされ、地面へと落ちていく。
風が揺らぎ、松明の炎がゆらゆらと動く。それによって火の粉がまるで雪のように飛
二人はファイティングポーズを取り、一触即発の状態にまで発展した。
﹂
ヤオ﹁教育されるのはまず貴様だ、その下品極まりない言葉遣いを一番に直した方が
!!
第二十話:ダークエルフの災難
306
﹂
と思いきや⋮⋮
鷲谷﹁あっ
れた。
﹂
ツケといて∼
また来るわぁ
伊丹﹁あ∼ばよ∼、とっつぁ∼ん
ロゥリィ﹁じゃあねぇ
﹂
!
の
離せ
離せえぇぇぇぇぇぇぇぇ⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
冷やかしなら帰って。﹂
﹂
ヤオ﹁いや、ここには料理を食べようと思ってきたんだ。﹂
料理長﹁お客さん、何にする
デリラ、ダークエルフのお姐さんにビール一杯
料理長﹁あいよ
離しやがれ
馬鹿
あんた、どうすん
﹂
おめぇさんよ、さっきの話を聞く限りじゃあ緑の人と巨人を訪ねて
ドワーフ﹁よぉ
ヤオ﹁適当に酒と焼き物を頼む。﹂
?
!
!!
鷲谷﹁離せ 俺はあいつに一発お見舞いしなけりゃならないんだ
野郎この野郎
料理長﹁はやっ
!!
デリラ﹁さ∼すが、イタミの旦那。逃げっぷりは流石だね。んで
!
!
!!
!
!
鷲谷は伊丹とロゥリィにまるで担架のように担がれて強制的にその場を後にさせら
!?
!!!! !
!
?
!
?
307
来たってぇ
﹂
メイア﹁訳ありだにゃ
話してみ
﹂
?
﹂
?
とりあえず話は食ってからでもいいんじゃない
﹂
それで話だが⋮無論それ相応の報酬を用意し
?
ことなど││﹂
デリラ﹁はいお待ち
ヤオ﹁これがビールか⋮⋮ん うまい
てある。﹂
!
?
した。
﹂
これでもまだ足りぬと言うの
!
すでに親類縁者とも別離は済ませてある
!!
ヤオ﹁金剛石の原石だ それも人の頭ほどの大きさだ
なら我が身を捧げることも厭わぬ
!!
!
そして革袋の口を縛っている紐をほどくとその中身が輝きを放ちながらその姿を現
に乗せた。
そう言ってヤオは手持ちのバックから革袋に包まれた巨大な石の塊をテーブルの上
!?
!
ヤオ﹁なぜだ 緑の人と巨人は高潔な者達と聞いている。ならば困った者を見捨てる
メイア﹁多分無理かもしれないニャア⋮⋮﹂
ドワーフ﹁知ってるっちゃあ知ってるけど⋮⋮﹂
君らは彼らがどこにおられるか知っているのか
ヤオ﹁あ、あぁ⋮此の身がここまで来たのはその人達と巨人の力を借りるためだ。諸
?
?
第二十話:ダークエルフの災難
308
客A﹁おいおい
﹂
ねぇ
俺が
﹂
人の頭ほどの金剛石だと
客B﹁俺でどうだ
﹂
﹂
客C﹁しかも自分の体まで差し出すって
だ
だがヤオは彼らでは力不足と感じていた。
﹂
爵位が領地付きで買えるぜ
﹂
こりゃ相当の値打ちもん
!!
ダークエルフの女は早々抱けるもんじゃ
客B﹁ダークエルフ謹製のハーディの護符まで付いてるぜ
!?
ヤオ﹁その勢いはありがたいがそなたらでは力不足だ。﹂
﹂
客A﹁その頼み事ってなんなんだ
ヤオ﹁手負いの炎龍退治だ
?
そんな中彼ら││自衛隊とMS││の噂を耳にしたのだ。
が続いた。
そこから先は呪詛の声が毎日響き、木の皮を煮詰めて食べると言う昆虫のような生活
大勢の同胞や友人、仲間、家族を焼き殺し、喰い殺した。
ヤオの話によると数ヶ月前、シュワルツの森で左手と左目を失った炎竜が村を襲い、
!
!!
!
客A﹁いやいや俺がやる
!!
!!
!!
周りの戦士や兵士たちは一斉に手を上げる。
!?
!!
!!
ヤオ﹁⋮⋮それでもできると言うのなら頼むが⋮できるか
﹂
?
客A﹁いやいや無理無理、命がいくつあっても足りねぇよ⋮⋮神や使徒ならともかく
⋮⋮﹂
客B﹁緑の人と巨人が引き受けてくれるといいな⋮⋮﹂
そしてその場にいる全員が思った⋮⋮
﹁︵こいつ⋮⋮とことん運がねぇ⋮⋮︶﹂
309
J改が三機待機していた。
堀之内
神子田。﹂
迷子だけは勘弁だけどな。﹂
!!
その近くには今か今かと興奮している神子田と久里浜、堀之内の三人がいた。
久里浜
﹂
お前こそ、ダイブしすぎて気失うなよ
﹂
神子田﹁ここには米軍も民間機も、邪魔なビルも騒音を気にする住宅街も無い
だけの空だぜ
久里浜﹁当たり前よ
堀之内﹁はしゃぎすぎて地面とキスするなよ
久里浜﹁おいおい、俺を誰だと思ってんだ
!
堀之内︽六〇三、了解︾
コ ピー
西本︽三二〇、了解︾
コ ピー
神子田︽六八〇、了解︾
コ ピー
さんと鳥さんに迷惑かけなきゃ自由に飛んでいい、ただし墜落するなよ
︾
タワー︽こちらアルヌスタワー、六八〇、六〇三、三二〇、離陸を許可します。陸自
神子田と久里浜は一緒の機体に、堀之内は担当のコ・パイロットと一緒に搭乗した。
?
?
!
!
?
!
俺ら
新コダ村の騒動の翌朝、空自区域のバンカー近くには燃料満タンに補給したF│4E
第二十一話:希望と絶望の間で⋮
第二十一話:希望と絶望の間で…
310
?
311
一方近くの森で一晩野宿したヤオはF│4のジェット音で目を覚ました。
一瞬自分がなぜここにいるのか分からなかったが、宿が無かったから森で野宿をした
ことを徐々に思い出した。
朝の風の精霊の心地よいそよ風を感じていると、精霊達が騒いだ。
そして風を切る音が段々と近づいてくるのを感じた。
つるぎ
その方向へと目をやると、ヤオはそこに映った光景に驚きを隠せなかった。
︾
︾
︾
︾
自分の上を、銀色に輝く剣がとてつもない速さで飛んでいた。
ついて来れるか、西本ぉ
!!
右にブレイク
ケツ獲ったぞぉ
後ろにつかれた
みずはら
瑞原、目離すなよぉ
!!
神子田︽どぉだぁ
西本︽くそっ
西本︽まだまだぁ
神子田︽オラー
!
︾
一緒に飛ばないんですか
堀之内︽⋮⋮⋮⋮︾
空
コ・パイ︽三尉⋮⋮
堀之内︽⋮⋮俺の海だ⋮⋮︾
?
コ・パイ︽三尉
︾
そんな二人が追いかけっこをしているもっと上では堀之内が優雅に飛んでいた。
!!
!!
!
!
!!
!
?
?
第二十一話:希望と絶望の間で…
312
コ・パイ︽えっ
︾
堀之内︽掴まってろ
舌を噛むなよ
︾
そして通信に彼の雄叫びが木霊した。
次の瞬間、彼の機体は真っ逆さまに落ちていった。
?
あいつまた
︾
︾
堀之内︽イィィィィィヤッホオォォォォォォォォォォォ
!?
ブレイク
︾
!!!!!!
!
?
ブレイク
!!
神子田︽えっ
西本︽なっ
!
!
﹂
!!
目の前にある荷車には酒や工芸品の数々がぎっしりと詰まっていた。
揮官用ザクの三機、そして外交官の藤堂鉄男がいた。
同時刻、基地ではファットアンクルの前に第三偵察隊の隊員と旧ザク、ザクスナ、指
ヤオは荷物をまとめて一目散に走り始めた。
⋮同胞を助けてくれるに違いない
ヤオ﹁人が⋮乗っている⋮彼らの噂は本当だった│││彼らなら炎龍を倒してくれる
そしてヤオはその光景を見て、歓喜に打ち震えていた。
二機は左右に回避し、堀之内はその二機の間をすり抜けるように落ちていった。
!?
313
﹂
日本酒まであるよ
こんだけあるんだから一本ぐらい無くなっても分からんよな
柳田﹁日本の伝統工芸品に現代の利器の数々⋮⋮おぉ
特級
?
!
寒中梅の
!
んで、こっちは活動資金の硬貨か。﹂
?
どうかつ
れ
じゃないんです。特地の政体は維持していく方針の可能性もありますし、禍根は残せま
てるわけにはいかないんですよ。今は二十一世紀であって、十九世紀の帝国主義時代
塊になって攻めてきても返り討ちにすることが出来るでしょう。ですがヘタに波風立
柳田﹁確かに今の日本にはMSがあります。あれさえあれば中国や韓国、北朝鮮が一
た。
そう言って柳田は親指でザクを指したが、藤堂は残念そうにため息をついて否定し
柳田﹁言えばいいじゃん、あっちでもこっちでも。今の俺達にはMSがあるんだ。﹂
あ
いいから胸張って言ってみたいですよ、﹃やれるもんならやってみな﹄って。﹂
ですよ。白樺ガス田や尖閣諸島のようにすぐ武力武装をちらつかしてきます。一度で
藤堂﹁連中は賄賂と恫喝が外交の基本と思ってますからねぇ、隣の中国なんて典型的
わいろ
柳田﹁発展途上国の役人連中には随分と効くだろうな。﹂
使ってでも不平不満分子をこちら側に取り込むのはもう基本ですよ。﹂
藤堂﹁えぇ、協同組合から買い上げてもらったやつです。抱かせ食わせ飲ます、金を
柳田﹁自分達で飲んでんじゃないだろうな
藤堂﹁やめてくださいよ、柳田さん。これは俺達外交官の武器弾薬なんですから。﹂
?
せん。今は講和派を一人でも増やすのが第一優先目標なんです。﹂
一方伊丹の方は⋮⋮
鷲谷﹁うげぇぇぇぇ⋮⋮気持ち悪りぃ⋮﹂
伊丹﹁だから言っただろ、飲みすぎるなって⋮お前昨日の事覚えてるか
るぜ
神様に好かれたオタク自衛官だってな
たなじょう かじ
﹂
﹂
まぁ仲良くしようじゃないか。﹂
伊丹﹁あ、どうもよろしくお願いします。鷲谷⋮⋮誰
?
なった凄腕パイロットですよ
自衛隊内じゃ有名な人なのに⋮⋮﹂
?
?
伊丹﹁へ∼⋮でもザクスナの評価試験を帝国議員達に見せる予定だよな
それで充分
鷲谷﹁え⋮知らないんすか 多那城二佐は日本全国陸上自衛隊MS射撃大会で一位に
?
?
多那城﹁今回一緒に行動することになった多那城梶二等陸佐だ。アンタの噂は聞いて
た。
右頬に長い切り傷をつけており、まさにベテランと呼ぶに相応しい風格をまとってい
人のパイロットが近づいてきた。
昨日の酒で完全にグロッキー状態になっている鷲谷とそれを介抱している伊丹に一
伊丹﹁︵これは教えない方が良さそうだな⋮︶﹂
先は全く⋮⋮﹂
鷲谷﹁えっとぉ⋮⋮四杯目のビールを飲む前あたりは覚えてるんですけど⋮そこから
?
?
第二十一話:希望と絶望の間で…
314
315
なんじゃないか
﹂
﹁通常機と試作機の違いを見せつけるためです。﹂
そんな伊丹の質問に答える人物がいた。
?
立っていた。
?
和賀佐﹁あら 私は本音を言っただけよ
わ が さ な み き
英雄なら英雄たる姿があるべきだと......
?
まぁ本当の英雄は帝国軍と戦ったMSとそのパイロットなんですけどね⋮﹂
?
槲手﹁和賀佐評価員⋮申し訳ありません、彼女は少しその⋮言い方に少々問題が⋮﹂
伊丹﹁悪かったね⋮パッとしなくて⋮﹂
し良い姿勢と態度をした方がよろしいかと。﹂
⋮⋮テレビで拝見していましたが⋮やはりあまりパッとしませんね。英雄ならもう少
和賀佐﹁ふーん⋮あなたがあの銀座事件の英雄と言われた伊丹耀司二等陸尉ですか
ます。﹂
槲手﹁同じく防衛省から参りました、槲手緋尾井技術試験員です。よろしくお願いし
か し わ で ひ お い
今回の評価試験に同行させてもらいます。﹂
和賀佐﹁あぁ、申し遅れました。防衛省から参りました、和賀佐波木技術試験員です。
伊丹﹁えーっと⋮どちら様で
﹂
振り返ると赤いスーツと赤髪が特徴的な女性と、緑色のスーツを着た男性がその場に
???
第二十一話:希望と絶望の間で…
316
こら
伊丹﹁鷲谷⋮このやり場のない怒りはどこにぶつけたらいい
鷲谷﹁隊長、今は堪えて下さい。﹂
二名が乗り込んだ。
﹂
品が乗った荷車、数名の外交官と評価試験員二名、第三偵察隊の隊員とMSパイロット
そんなこんなで全ての準備が整い、ファットアンクルにMS三機と議員達への手土産
?
﹂
﹂
ファットアンクルは左右のティルトローターを回転させ、離陸体制を整える。
任されて
柳田﹁んじゃ伊丹、後は任せたぞ
伊丹﹁おう
!!
!!
﹂
?
の人は何でもありだな⋮﹂
ヤオ﹁鉄の逸物⋮空飛ぶ剣⋮空飛ぶ箱舟⋮そして鋼鉄の緑の巨人⋮ここまで来ると緑
彼らを乗せたファットアンクルは基地へと向かうヤオの頭上を通過して行った。
すから。﹂
藤堂﹁大丈夫ですよ、伊丹さん。ここにいるほとんどがアフリカや中東で経験済みで
一日半馬車で移動します。皆さんまさか革靴じゃないですよね
伊丹﹁イタリカで一度給油のため着陸します。そこから先は帝都近郊の山中に降りて
ファットアンクルはゆっくりと地面から離れ、無事離陸した。
!
317
だが彼女は未だ、絶望が待ち受けている事を⋮⋮知らない⋮⋮
︶﹂
!?
ヤオ﹁そっ、そなた達
緑の人であろう
此の身の話を聞いてくれないか
?
我が名は
?
部族は滅びの道を⋮⋮我が一族に救いの手を差し伸べて欲しい
サ
ヴァー
ル
ハ
ル・
ウ
グ
ルゥー
自衛官﹁こんにちわ、ごきげんいかが
カタコトの挨拶だった。
﹂
切に頼む
﹂
!!
ヤオ﹁︵半日かけて声をかけてみたが⋮⋮まさか言葉が通じないとは⋮⋮良くても片
この事実に当人は項垂れるしかなかった。
その後もヤオは片っ端から当たってみたがどれもカタコトで終わってしまっている。
?
?
その緑の人││自衛隊員から返ってきた返事は、了承ではなく⋮⋮
!
ヤオ・ハー・デュッシ、シュワルツの森よりまかりこした。数ヶ月前、炎龍が突然現れ、
!
ヤオは一目散に駆け寄り、願いを話した。
近くには96式装輪装甲車と警務用MS│05J、見張りの自衛官数名がいた。
してあの服を着た者達のことなのか
のあの不埒者や言葉遣いの汚い男、店の中にいた者も緑の斑服を着ていたな⋮⋮もしか
ヤオ﹁︵緑の人⋮緑の巨人⋮確か特徴は緑の斑服を着ている⋮⋮あっ、そういえば昨日
第二十二話:ヤオ、絶望を知る
第二十二話:ヤオ、絶望を知る
318
319
言しか喋れない⋮⋮早くまともに喋れる者を探さないと⋮こうしている間にも同胞は
次々と炎龍の餌食に⋮⋮︶﹂
そんな彼女に一人の男性が声をかけてきた。
声をかけた彼は彼女の身体にしか興味が無いらしく、先程から緑の人を探している様
なら俺が案内してやるよ。﹂
子を見てある策を思い浮かべた。それは案内すると嘘をついて、その身体に肉欲の限り
﹂
?
道中、ナンパ男と同じくヤオの身体で肉欲を発散させようと男が声をかけてきた。
し始めた。
その後、ヤオは村で自衛隊と喋れる人、もしくはこちらの言葉が分かる自衛隊員を探
らんでもないのに⋮⋮後、財布落としたぞ。﹂
ヤオ﹁まったく⋮商売女とでも勘違いしたのか 礼儀をわきまえてくれれば誘いに乗
ナンパ男は股間を押さえ、うさぎ跳びのように跳ねながら森から逃げていった。
彼が受けたのは肉欲の発散ではなく⋮⋮金的だった。
だが長命のエルフは長く生きてるその分、戦闘経験も多く積んでいる。
?
をぶつけようというものだ。今で言うナンパである。
居場所を知っているのか
ナンパ男﹁なぁ、アンタ。緑の人を探しているのか
ヤオ﹁本当か
?
ナンパ男﹁あぁ、こっちだ。ついてきな。﹂
!?
第二十二話:ヤオ、絶望を知る
320
﹂
先程のナンパ男と比べるとこちらは正直に言ってきてるので、マナーとしては最低限
を弁えている。
そんな男の股間部を見てヤオは笑顔で⋮⋮
ヤオ﹁そなたのモノで満足させてくれるなら乗ってやらんこともないが
と言ってしまった。
﹃さてん﹄という異世界の布らしい。﹂
この光沢⋮⋮美しい生地だな。﹂
仕立て人﹁そうだろう
ヤオ﹁ん
この生地にヤオは目が止まった。
い。
脇には箱に入れられた美しい光沢が特徴的な生地がある。どうやらこれが原因らし
しばらく歩くと今度は何やら揉めている二人の男性を見つけた。
男は自分のモノが小さい事を気にしていたため、泣きながら走っていった。
?
Wikipediaより参照・抜粋
ても使われる││
な雰囲気を持つためドレスやハンドバッグ、パジャマや時にはコスプレ衣装の生地とし
などといった糸を使って作られるしゅす織りの織物で、非常に美しい光沢を放ち、豪華
││サテン生地とは絹やナイロン、ポリウレタンにアセテート、ポリエステルや綿糸
?
?
321
頼むよ、お得意先の
商人﹁だからここでは小売りはしていないんですよ、帝都やイタリカの支店で買って
いただくしか││﹂
仕立て人﹁ログナンやデアビスの支店にも行ったが在庫なしだ
!
﹂
﹄ってね。いいか
こ
今、帝都の社交界はアルヌス
こ
貴族に言いつかってるんだよ。﹃他家の娘よりも素晴らしいドレスを我が娘のために作
れ、できなければ⋮⋮分かってるな
?
ヤオ﹁ふむ、ではこうすればどうだ 仕立て人から保証金をもらい、帝都の支店まで
困り果てた両者に、ヤオは助言を与えた。
もしこれを逃せば、自分の首が解雇的にも物理的にも飛んでしまう。
めている。
必死に探してようやくこの生地を見つけることが出来たらしく今こうして揉めに揉
生地も特地では到底作ることが出来ないような質の素晴らしいものばかり。
つけたらしい。
日本が持ち込んだドレスや装飾品、それらが特地貴族婦人達の競争心や虚栄心に火を
のせいで大変な事になってんだよ
?
!
仕立て人﹁そのまま私が荷を買い取ってもいいので
流石ダークエルフですな。﹂
商人﹁なるほど、それなら品物が届かなくても損しませんな。﹂
品物を運んでもらう。保証金の預り証と引き換えに支店で品物を引き取るのだ。﹂
?
?
第二十二話:ヤオ、絶望を知る
322
かんち
︶﹂
商人﹁奸智に長けてますな。﹂
ヤオ﹁︵常識じゃないか
﹂
我が名はヤオ・ハー・デュッシ
たは炎龍を手負いにした巨人達の仲間か
ヤオ﹁聞こえるか
シュワルツの森より来た。そな
ヤオは足元まで駆け寄り、ダメ元でザクに話しかけた。
また街をうろついていると、今度は警務用ザクⅠを見つけた。
?
!
ヤオは諦めず、もう一度話しかけた。
だった。
当然のことながらザクは何もしゃべらず、赤く光るモノアイで彼女を見続けるだけ
!?
?
頼む
﹂
ヤオ﹁そなた達を率いている将軍はいるのか いるならばどうか此の身の話を聞いて
ほしい
!!
?
仁﹁なんだったんだ
あいつは⋮⋮﹂
ヤオはようやく諦めて、街の方へと歩き始めた。
返ってくるのは無言、ただただ視線が彼女に刺さるだけだった。
!
?
323
街に戻りまたしばらく歩いていると、PXにたどり着いた。店内は広く、棚には様々
な商品が並んでいる。客の中には非番の自衛官や薔薇騎士団もおり、皆思い思いに好き
な物を購入していく。
︶﹂
ヤオ﹁︵昨日は夜でよく分からなかったが、こんなでかい店は始めて見た⋮⋮品揃えも
凄いな⋮⋮ん
かを持っているはずだ。
ヤオはメイアにどうやって日本語を覚えたのか聞く事にした。
メイア﹁いらっしゃいませー⋮ってにゃんだ昨日の⋮⋮緑の人は見つかった
この﹃赤本﹄で覚えたにゃ。﹂
ヤオ﹁その事なんだが⋮⋮そなた今先ほどあの者らの言葉を⋮⋮﹂
メイア﹁あぁ、﹃二ホン﹄語
?
表紙には﹃ニホン語日常会話集﹄﹃アルヌス共同生活組合編集カトー・エル・アルテス
メイアが懐から一冊の赤い本を取り出した。
?
﹂
だが日本語が喋れるということは勉強したということであり、そのための教科書か何
本語で喋っているだけだった。
最初は自衛官達の方が特地言語で喋っているように見えたが、よく見るとメイアが日
メイアの姿があった。
ヤオが会計カウンターの方を見ると、そこには楽しそうに非番の自衛官と話している
?
﹂
タン監修﹄
﹃部内での教育目的以外の使用を禁ず 用済み後は要焼却処分すべし﹄と書か
れている。
ヤオ﹁これは買えるのか
﹂
ヤオ﹁そこを伏して頼む そなたも昨日此の身の話を聞いたであろう
が通じずに困り果てているのだ
が店にやってきた。
﹂
緑の人に言葉
どうすればよいのか迷っていると、関西弁なまりの強い警務自衛官とMSパイロット
いという事情もある。
何より亜人種である自分達を受け入れてくれたフォルマル家の顔に泥を塗りたくな
だが今ここで下手をしてクビになれば、仕送りをしている家族が路頭に迷う。
くらいだ。
彼女は決してヤオのことが嫌いな訳で貸さないわけでは無い、むしろ貸してあげたい
いきなりの出来事にメイアは驚くが、これはどんなに頼まれても渡せないものだ。
ヤオは勢いよくカウンターに頭を打ち付けるほど深々と頭を下げた。
!
?
な立派な本、私達の給料じゃ買えにゃいし。﹂
メイア﹁非売品にゃ。組合の従業員か語学研修性だけに支給されるにゃ。第一にこん
?
!
警務官﹁メイアちゃーん、巡回や。なんか困ったりしとらんか
?
第二十二話:ヤオ、絶望を知る
324
325
メイア﹁あ、はい。大丈夫です。﹂
なぁ、こちらのエルフ、被害届のあった女じゃないか
警務官﹁そうか、そらえかった。﹂
﹂
?
⋮あ∼、誘ってきたのに股間蹴られて財布盗まれた与太話のやつか
パイロット﹁ん
警務官﹁え
﹂
?
?
ベッピンさん。なんだか鞭でも持たせたいなぁ⋮⋮で
どうする
﹂
警務官﹁駐屯地と街の事については警務隊の管轄や、しょうがないやろ
?
メイア﹁絶対に何か勘違いしてるにゃあ⋮⋮﹂
ヤオは二つ返事で了承し、二人についていった。
話の内容を伝えたかったパイロットのミスとも言えるが⋮
る。
犯罪がホン
だが実際の所は事件の容疑者として話を聞くだけであり、完全にヤオの勘違いであ
会った、と⋮
ヤオはその言葉を聞いて歓喜に震えた。ようやくまともに会話が出来る緑の人と出
パイロット﹁それもそうか⋮⋮あー、えーっと⋮あなた、話少し聞かせて、欲しい。﹂
地裁に送りゃえぇ。﹂
マやったらフォルマルはんのとこに引き渡しゃええし、日本人の被害者がおったら東京
?
?
パイロット﹁見た目は二十代後半、褐色肌に銀髪とエルフ耳。汚れたマントに革鎧の
?
第二十二話:ヤオ、絶望を知る
326
基地の取調室に連れてこられたヤオは、まさか自分が事件の容疑者として疑われてい
るとは思わなかったらしく、何も言葉が出てこなかった。
狭い鉄筋コンクリート製の無機質な取調室が張り詰めた冷たい雰囲気を作り出す。
警務官と彼女の間には無言の時が流れ、更にヤオを緊張させる。
そもそも言語が分からないため、覚えたての特地言語だけでは彼女の細かな言い分は
理解出来ない。
どうしたものかと警務官が困り果てていると、取調室のドアをノックする音が聞こえ
てきた。
警務官は﹁どうぞ﹂と入室を許可すると、ドアの方へと振り返る。
そこにはレレイの姿があった。
327
警務官﹁やぁ、レレイさん。お待ちしておりました。恐喝事件の嫌疑で取り調べたん
ですが⋮逆に襲われたとか助けてくれとか⋮どうも被害者の訴えと話が食い違うんで
すよ。自分の翻訳ではどうしようもなく⋮お願いします。﹂
レレイ﹁わかった⋮⋮ヤオ・ハー・デュッシ、話を聞かせて。﹂
そこからは順調だった。
ヤオの証言によりナンパ男は街の警務隊のミューティとロゥリィによって取り押さ
えられ、真実が明るみとなった。
どうか緑の人の将軍に会わ
レレイ﹁ヤオ・ハー・デュッシ、貴方の無実は証明された。私はこれで失礼します。﹂
﹂
﹂
ヤオ﹁待ってくれ 我が一族が炎龍に襲われているのだ
﹂
﹂
せてはくれまいか
レレイ﹁炎龍
ヤオ﹁そうだ⋮左腕と片目の無い⋮⋮﹂
御身は顔が利くようだし口添えも頼む
レレイ﹁二ホン人に助けて欲しいと伝えればいい
ヤオ﹁あぁ
?
!!
!!
!
レレイについてきてと言われ、ヤオは手荷物を持って狭間陸将のもとへと向かった。
ようやく自分の伝えたいことが伝えられてヤオの顔は安堵の表情に包まれる。
!!
?
レレイ﹁⋮⋮分かった。﹂
!
第二十二話:ヤオ、絶望を知る
328
狭間陸将と第一から第六までの戦闘団の大隊長達が集められ、ヤオの相談を聞いた。
テーブルの上に置かれたダイヤの塊をしばらく見つめると、全員が特地地図でシュワ
ルツの森を探す。
全員が難しい表情を浮かべる中、狭間は口を開いた。
狭間﹁ヤオ・ハー・デュッシさん、遠路はるばるおいでくださったのに力になれず申
し訳ない⋮⋮﹂
その言葉にヤオは自分の耳を疑った。
ヤオ﹁み、緑の人と巨人は十人と一人程と聞き及んでいます。将軍の軍勢からほんの
少しご助勢を││﹂
狭間﹁滅相もない、部下に死地へ赴けなんて命令は出せません。それにあなたの故郷
であるシュワルツの森は地図によるとエルベ藩王国領内であることが分かります。軍
﹂
が相手国の断りもなく国境を越えて進行する⋮これがどういうことを表すのか、あなた
にもお分かりになるでしょう
外はまるで彼女の心情を表すかのように、大雨が降っていた⋮⋮
その時、ヤオの目から光が消えた。
?
いせいしゃ
というラフな格好をしている。もはや一見すればただのコミケ帰り腐女子達によるB
選定をしていた。彼女達の服装はPXで購入したTシャツやノースリーブにジーパン
すぐ近くの席では薔薇騎士団のメンバーが、梨紗から送られてきた冬コミの同人誌の
降りしきる雨を見続けるだけだった。ヤオは食堂へと案内され、奥の貴賓席に座った。
レレイは柳田の言葉を翻訳し彼女に説明するが、当の本人は何も反応せず、ただただ
レレイ﹁イタミとワシヤならやるかも⋮⋮﹂
の二人ならやるかもな⋮あの二人が大切にしているモノを救うためなら⋮⋮﹂
断で判断し勝手に行動しちゃいかんものなんだ⋮⋮だがあいつらなら⋮⋮伊丹と鷲谷
・・・・
柳田﹁俺達の世界の軍隊ってのは為政者が動かし命令するだけの暴力装置、個人が独
断った理由を話し始める。
で屍のように座り込んでいた。柳田はそんな彼女をルームミラー越しに見ると、願いを
乗せられ、レレイと共に新コダ村へと送られている。ヤオの目からは生気が消え、まる
ダイヤの入った袋を力なく抱きしめるヤオは、柳田が運転する73式小型トラックに
第二十三話:伊丹と鷲谷なら⋮⋮
329
第二十三話:伊丹と鷲谷なら……
330
L同人誌品評会である。
ボーゼス﹁イタミ殿よりリサ様が入手した﹃冬の新刊﹄を賜りました。リサ様ご自身
のと﹃オオテサークル﹄の新刊と﹃キギョウ﹄の戦利品もです。今年はかなりの戦いだっ
たとリサ様から聞き及んでおります。﹂
早速翻訳を始めましょう
﹂
パナシュ﹁流石は日本⋮⋮あぁ、私も一度でいいから行ってみたい⋮⋮﹂
スィッセス﹁もう待ちきれません
!!
楽しそうな女子会
をしていると黒髪清楚な執事番が、紅茶と菓子を持ってやってき
ニコラシカ﹁終わったものから至急便でピニャ様にお送りしましょう。﹂
!
四人﹁おいしい
﹂
有名菓子店から取り寄せたミルフィユ・グラッセでございます。﹂
執事﹁新しい茶葉が入りました、是非お試しください。本日のケーキは日本国青山の
た。茶葉の良い香りと菓子の甘い匂いが彼女達の鼻を刺激する。
?
らしいわ
﹂
二
の者なのだ。帝国との和平を選んだ日本は、最も多く日本のことを知っている彼女達が
執事はテーブルの上の同人誌を見て身震いを起こした。実はこの執事番は情報担当
科
ボーゼス﹁日本という国は些細な食べ物すら芸術の域に高めてしまうのですね。素晴
!
執事﹁そのことを理解できる方に食されて菓子職人も満足しておりましょう。﹂
!
331
興味を示す物を調べるために彼を執事番として向かわせた。
情報主要素
だが彼女達が興味を示す物と言えばBL同人誌とお茶とケーキぐらいなもので、彼と
しては非常に困っている。
執事﹁︵腐ってやがる⋮遅すぎたんだ。何に関心があるかっていうEEIの答えがこ
れじゃ報告書に何を書けっていうんだ⋮︶﹂
﹂
彼は肩を落としながらその場を後にする。それを第一と第四、第六の隊長と副隊長は
見ていた。
加茂﹁⋮⋮あれって二科だよな
柘植﹁〟執事番〟か⋮﹂
ようやく掴んだ希望という名の糸は、この地獄から救ってくれると思っていた。
前の現実が信じられないらしい。
彼女はデリラが持ってきたお茶を二杯飲むと、顔を押さえて泣き始めた。やはり目の
んだ魚のように濁っていた。
用賀は奥に座っているヤオを見ながら指を差した。口は半開きになっており、目は死
用賀﹁それよりあれ⋮⋮﹂
大明﹁おぉおぉ、ようやるわ。﹂
健軍﹁柳田が池袋の店に研修に行かせたらしいですよ。﹂
?
第二十三話:伊丹と鷲谷なら……
332
だがそれは叶わなかった。目の前で糸が切られ、再び地獄へと引きずり込まれたのだ
から。
顔を押さえる手から大粒の涙が溢れ、とめどなく流れ続ける。
﹂
防
衛
省
六人はそんな彼女を見ながら、申し訳なさそうにコーヒーを啜った。
﹂
健軍﹁⋮⋮用賀、なんとかしてやれんのか
用賀﹁無理ですね。﹂
健軍﹁じゃあ、大明。お前はどうだ
?
党が反応するようなことはするなって。﹂
?
材料です。﹂
﹂
しかしよ、伊丹達ならまたうま
!
あの国会中継は爆笑ものだったぜ
加茂﹁内閣不信任の口実になるってか
いことかわせるんじゃないか
?
くそったれ
用賀﹁それに今回は帝国国境外ですから、越境攻撃というのは野党議員の格好の攻撃
柘植﹁伊丹の三偵か。﹂
用賀﹁実際、初めて遭遇戦した時の件があったじゃないですか。﹂
柘植﹁なんだそりゃ、ドラゴン退治がそうだって
﹂
大明﹁第四が無理なら俺達だってできねぇよ、市ヶ谷の連中から釘刺されてんだ、野
?
?
柘植﹁あんだけ言っておきながら注意だけで済むのは人徳⋮いや﹃伊丹﹄と﹃鷲谷﹄だ
?
333
からか
﹂
﹂
?
加茂﹁じゃあ俺達は何のためにこれだけの戦力を特地に持ってきたんだよ
﹂
!?
!
それこそ
ら帝都進行と攻略が開始されるでしょう。計画立案は済んでいるので作戦が開始され
用賀﹁現在帝都で和平交渉のための工作と準備が進んでいます。その交渉が決裂した
どの戦力だぞ
MSなんて代物、帝国にとっては過剰戦力だ ザク三機で米軍一個連隊にも匹敵するほ
!
の時代に突入だ。結局いつの時代も冷戦という名の平和が一番なんだよ。﹂
ロシアや中国、朝鮮の連中や中東の過激派が暴れ出すように、こっちの世界は戦国乱世
の情勢も分かってきた、帝国の立場はアメリカと同じだ。そのアメリカがいなくなれば
大明﹁坊やだからだよ、はっきり言って連中は弱腰の事なかれ主義者ばかりだ。特地
ルダウンしちまった。なぜだ
償を支払わせるのが目的だった。だがそれがいつの間にか﹃門﹄の確保と防御にスケー
鷹﹁問題は今度の内閣だ、当初は帝国を叩き潰したら銀座事件の責任者を処罰し、賠
け一服すると、話を進める。
その発言に加茂、柘植、健軍の三人は﹃うっ⋮﹄と息を飲んだ。鷹はタバコに火をつ
のが我々だったらそのまま避難民を連れて来たか怪しいですが⋮⋮﹂
用賀﹁いやあれはあの後の三人がインパクトが凄かったからですよ。コダ村に行った
?
第二十三話:伊丹と鷲谷なら……
334
﹂
たらMSも総動員して、帝都占領は約五十時間で完了する予定です。﹂
柘植﹁それいつになるんだ
デリラちゃん、コーヒーおかわり
用賀﹁明日、明後日じゃないのは確かだ。﹂
加茂﹁待つのも仕事の内か、くそっ
!
﹂
大明﹁空自のA A Mはどうだ
空対空ミサイル
﹂
﹂
加茂﹁飛んでるドラゴンなんかに三偵の連中はよくLAMを当てられたよな。﹂
鷹﹁最小戦力ねぇ⋮⋮﹂
小戦力でどうにかならんのか
L A Mが通用する、戦車並みの装甲とヘリ並みの機動力を持った化物だ。本当に最
パンツァーファウスト3
ざ め 泣 い て い る ⋮⋮ 相 手 は 魔 法 だ と か 精 霊 だ と か 目 に 見 え な い も の じ ゃ な い。
健軍﹁そんでもってドラゴンを倒す力のある俺達の後ろでは⋮女が助けを求めてさめ
!
?
?
彼が考えた作戦は以下の通りである。
対艦ミサイル
用賀はそう言いながら自前の手記に構想を書き始める。
揮官ならこうします。﹂
Tを撃破できるA T Mは機動力が足りない、ASMも同じく⋮⋮そうですね、自分が指
対戦車ミサイル
用賀﹁相手は第三世代MBT並みの装甲を持ってるんです、威力が足りません。MB
?
335
①空自による攻撃で高度50m以下まで追い込む。
えいか
②そこに99式自走砲とMS│06Kザクキャノン編成による特科大隊の曳火射撃
で地上に釘付けにする。
C
4
﹂
③コブラのTOWと74式のAPFSDS弾、MS│06JザクⅡとMS│05Jザ
クⅠの連続射撃による攻撃で目標を無力化。
④普通科中隊による撃破確認を行い、必要なら爆薬でとどめを刺す。
この作戦に六人は難しい表情を浮かべた。
大明﹁なんだよこの戦力図は⋮⋮俺達ジャブローに攻め込むわけじゃないんだぞ
健軍﹁とても最小戦力とは⋮⋮言えんなぁ⋮﹂
六人は自由に動けない不甲斐無さを実感した。
打ちひしがれ自ら命を絶つ者もいる。だがそこはダークエルフ、こういった経験は何度
オは店から出ることにした。普通なら大抵の者は途方に暮れ、来た道を戻るか、絶望に
何かほかに用があれば組合事務所へ行くようにと伝言を残して。他にする事もないヤ
時は経ち、外はもう闇に包まれていた。レレイは仕事があるため先に店を出ている。
?
第二十三話:伊丹と鷲谷なら……
336
かしてある。
軍が全体的に動くことが出来ないのであれば、名のある武将を金か色仕掛けで落と
す。誰を落とせば効率的に軍を動かせるか彼女が考えていると、ふとある二人の人物の
名前が頭の中に浮かび上がる。
ヤオ﹁︵イタミと⋮⋮ワシヤなら⋮⋮か⋮︶﹂
彼女は不気味に頬を上げると、レレイに言われた通りPXの裏手にある組合事務所へ
と向かった。そこではテュカが受付で仕事をしていた。
ヤオ﹁すまない、レレイ殿の紹介で来たんだが⋮﹂
テュカ﹁あぁ、レレイから聞いているわよ。ちょっと待ってて、今空き部屋探すから。﹂
ヤオはそんな彼女を見て再び、不気味に笑った。
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