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農研機構 食品総合研究所 研究報告 77号

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農研機構 食品総合研究所 研究報告 77号
94
抄 録
Separation and Purification Technology, 88, 216-226 (2012)
Analysis of transport mechanism on binary organic solvent system through a PDMS-based dense membrane using a regular solution model
combined with a solution-diffusion model
Atsushi Miyagi*1, Hiroshi Nabetanib*2, Mitsutoshi Nakajima*3
*1
Chiba Industrial Technology Research Institute
National Food Research Institute, NARO
*3 Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba
*2
本研究では,regular solution モデルと solution diffusion モデルを用いて,アルコール ― ヘキサン系,アルカン ― ヘキサン系,脂質 ―
ヘキサン系および軽油 ― ヘキサン系といった二成分系が PDMS 素材とする緻密膜を透過する際のメカニズムを解析した.この統合
モデルは,拡散係数,膨潤度,膜厚,浸透圧といった膜透過に関する重要な要素を考慮に入れており,本モデルを用いることによ
り,二成分系の膜透過のメカニズムを良好に表現できることが明らかになった.
regular solution モデルと solution diffusion モデルを統合したモデルを用いた有機二成分系の膜透過メカニズムの解析
宮城 淳*1,鍋谷 浩志*2,中嶋 光敏*3
*1
*3
千葉県産業支援技術研究所
*2(独)農研機構食品総合研究所
筑波大学大学院生命環境科学研究科
食品総合研究所研究報告,76,45-50(2012)
ダイズ種子エポキシド加水分解酵素変異体の作出及びその性質検討
荒平正緒美*,Benjamin Sailas**,Sam-Pin Lee**,Ngoc Minh Nghiem**,Van Chi Phan**,深澤 親房**
*(独)農研機構食品総合研究所
**
元農研機構食品総合研究所
真菌に対する種子の生態防御のため,天然の殺菌剤と考えられている物質の中には,様々なエポキシ脂肪酸及びそれらの誘導体
が含まれる.これらの構成要素となるエポキシドについてはその生合成経路やその分解経路が報告されて来ており,これらの経路
を構成する酵素群の1つがエポキシド水解酵素(EH)である.エポキシド水解酵素は,エポキシドを加水分解し,ジオール体に
変換する触媒作用を示す.ダイズ種子からクローニングしたエポキシド水解酵素を大腸菌体内で発現させ,部位特異的変異体の作
出を試み,22種の変異酵素を構築し,6種の可溶性変異酵素が得られた.得られた変異酵素の内,ゲノム上極めて高度に保存され
ている領域に変異を有する3種の酵素については,野生型酵素の2倍近い酵素活性が得られた.野生型酵素及び変異酵素の CD ス
ペクトルを測定した結果,顕著な差異は見られなかった.変異による酵素活性の上昇はアミノ酸変異による微少な変化を反映して
いるものと予想された.
Characterization of soybean epoxide hydrolase mutant
Masaomi Arahira*, Benjamin Sailas**, Sam-Pin Lee**, Ngoc Minh Nghiem**, Van Chi Phan** and Chikafusa Fukazawa**
**
* National Food Research Institute, NARO
Former National Food Research Institute, NARO
95
Jouranl of Separation Science, 34, 3546-3552 (2011)
Metabolic profiling of beta-cryptoxanthin and its fatty acid esters
by supercritical fluid chromatography coupled with triple quadrupole mass spectrometry
A. Matsubara*1, *5, Y. Wada*1, Y. Iwasaki*2, S. Morimoto*3, T. Ookura*4, E. Fukusaki*1, T. Bamba*1
*1 Graduate School of Engineering, Osaka University
Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University
*3 Ehime Institute of Industrial Technology
*4 National Food Research Institute NARO
*5 Research Fellow of the Japan Society for the Promotion of Science
*2
トリプル四重極マスに連結した超臨界クロマトグラフィーを用いてβクリプトキサンチン及びその脂肪酸エステル体の代謝物を
高スループット・高感度で分析するシステムを構築した.βクリプトキサンチン及び9つの脂肪酸エステル体は ODS カラムを用
いて20分以内で分離することができ,検出限界はフリー体で540 fmol,エステル体で32 ― 30 fmol と,従来法よりも感度と分析時間
の面で優れていた.このシステムを利用して,柑橘果皮よりβクリプトキサンチンと5種のエステル体の検出に成功し,そのエス
テル体の構成比は品種間による差が認められた.ここで開発された方法は,キサントフィルのエステル体の解析を進めるのに強力
な手法となりうる.
トリプル四重極マス連結超臨界クロマトによるβクリプトキサンチンとその脂肪酸エステルの代謝物解析
松原 惇起*1, *5,和田 雄介*1,岩崎 雄吾*2,森本 聡*3,大倉 哲也*4,福崎英一郎*1,馬場 健史*1
大阪大学工学研究科
名古屋大学農学研究科
*3 愛媛県産業技術研究所食品産業技術センター
*4(独)農研機構 食品総合研究所
*5 日本学術振興会特別研究員 DC
*1
*2
Food Science and Technology Research, 18 (1) , 119 (2012)
Effect of dietary fat on methylmercury accumulation, antioxidative defense, and lipid profile in adult mice with exposure to low levels of MeHg
Nobuya SHIRAI*1, *2, Kohji YAMAKI*1, Yumiko YAMASHITA*3, Michiaki YAMASHITA*3
*1
National Food Research Institute, NARO
Institute of Vegetable and Tea Science NARO
*3 National Research Institute of Fisheries Science, Fisheries Research Agency
*2
食事脂肪と低レベル塩化メチル水銀暴露のマウス組織における抗酸化性因子と水銀蓄積に対する相互作用を調べるため,マウス
(雄,4ヵ月齢)に,4ヵ月間0,1,2 ppm の塩化メチル水銀添加5% のラードまたは魚油食を与えられた.塩化メチル水銀の低レ
ベル暴露は血漿アスコルビン酸濃度を有意に減少させた.それは食事脂肪と関係なく,脳の抗酸化効果の影響ではなかった.全水
銀濃度は,ラード食群のそれらと比較して,魚油食群の筋肉で有意に低く,血漿値でより高かった.脳の水銀含有量は,食事脂肪
によってほとんど影響されなかった.これらの結果から,食事脂肪が筋肉で水銀蓄積に影響する可能性を示唆し,低レベル塩化メ
チル水銀暴露によって誘導される酸化性因子にはほとんど影響しないことが示唆された.
低レベルメチル水銀暴露成熟マウスでのメチル水銀蓄積,抗酸化,脂質代謝に対する脂肪食の効果
白井 展也*1, *2,八巻 幸二*1,山下由美子*3,山下 倫明*3
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2(独)農研機構野菜茶業研究所
*3(独)水産総合研究センター中央水産研究所
96
Food Science and Technology Research, 17 (6), 567 (2011)
Inhibition of angiotensin-converting enzyme by components of traditional mongolian fermented milk products
Dolgorsuren BAYARSAIKHAN*, **, Mayumi OHNISHI-KAMEYAMA*, Nobuya SHIRAI*, Yoko TAKAHASHI*, Kohji YAMAKI*
**
* National Food Research Institute, NARO
Clinical Nutrition Department, Shastin Central Hospital
アンジオテンシン変換酵素(ACE)抑制ペプチドは,乳製品で発見されている.多くの伝統的乳製品が,モンゴルには存在する.
この研究では,いくつかのモンゴルの乳製品は集め,これらの試料の ACE 阻害活性をテストした.馬乳から作られる aaruul に活性
が確認された.この試料を透析と HPLC による精製を行い,その分画の分子量を,質量分析により362.05と決定した.精密質量分
析の結果から,aaruul の活性物質は,5 ′ ― GMP であると確認された.5 ′ ― GMP の抑制活性は,酸乳の活性ペプチドや他の報告さ
れているフラボノイドと比較してそれほど高くはなかった.しかし,これは,5 ′ ― GMP が ACE 活性を抑制することを示した最初
のレポートである.これらの結果は,高血圧治療薬の開発に役に立つものと推測される.
伝統的なモンゴル産発酵乳中のアンジオテンシン変換酵素阻害活性
ドルゴルスレン・バイヤルサイカハン*, **,亀山眞由美*,白井 展也*,高橋 陽子*,八巻 幸二*
*(独)農研機構食品総合研究所
**シャステン中央病院臨床栄養部
The Journal of Agricultural and Food Chemistry 59 (16), 8976-8984 (2011)
Tofu (soybean curd) lowers serum lipid levels and modulates hepatic gene expression involved
in lipogenesis primarily through its protein, not isoflavone, component in rats
Yoko Takahashi* and Tomokazu Konishi**
*
National Food Research Institute, NARO
** Akita Prefectural University
大豆食品は脂質異常症や関連する疾患を予防する食品として推奨されているが,大豆中の成分がどのようにして作用を示すのか
は明らかでない.本研究では,豆腐(凍り豆腐)と,凍り豆腐中の作用成分と予想される大豆タンパク質とイソフラボンが,雄ラッ
トの脂質代謝に及ぼす影響を比較した.凍り豆腐と大豆タンパク質は,カゼインと比べて血清中の中性脂肪とコレステロール濃度
を有意に低下させたこと,マイクロアレイ解析により,血清脂質を合成する主要な組織である肝臓で,脂肪酸およびステロイド合
成に関わるトランスクリプトームを集中的に変化させることが明らかになった.一方,イソフラボンは血清脂質濃度や遺伝子発現
にはほとんど影響がなく,大豆タンパク質や凍り豆腐との相乗効果も示さなかった.凍り豆腐中のタンパク質成分の作用は,脂質
合成関連酵素の活性が低下したことからも確認された.これらの結果から,大豆のイソフラボンではなく,タンパク質が遺伝子発
現レベルで肝臓での脂質合成を抑制し,これが血清脂質濃度を低下させるとの結論に達した.
豆腐(凍り豆腐)は主にイソフラボン成分ではなくタンパク質成分がラットの血清脂質濃度を低下させ,
肝臓の脂質合成関連の遺伝子発現を変化させる
高橋 陽子*,小西 智一**
*(独)農研機構食品総合研究所
**
秋田県立大学
97
Analytical Sciences, 27 (2), 159-165 (2012)
Method validation by interlaboratory studies of improved hydrophilic oxygen radical absorbance capacity methods
for the determination of antioxidant capacities of antioxidant solutions and food extracts
Jun Watanabe*1, Tomoyuki Oki*2, Jun Takebayash*3, Koji Yamasaki*4, Yuko Takano-Ishikawa*1, Akihiro Hino*1 and Akemi Yasui*1
*2
*1 National Food Research Institute, NARO
National Agricultural Research Center for Kyushu Okinawa Region, NARO
*3 National Institute of Health and Nutrition
*4 Taiyo Kagaku Co.,
水溶液の抗酸化能評価に用いる親水性酸素ラジカル吸収能評価法(H-ORAC)を改良(改良法 A および B)し,それぞれ5種類
の抗酸化物質および農産物抽出液を用いて室間共同試験を行った.ハーモナイズドプロトコルに則り,試験を行ったところ,改良
法 A では併行標準偏差が4.6 ― 18.8%,室間再現相対標準偏差 RSD(R)
(%)が7.0 ― 21.1%,HorRat が0.40 ― 1.93であった.しかし,測
定法にまだ問題点が残っていたことから,さらに改良を重ねた改良法 B ではそれぞれ1.8 ― 9.4%,4.4 ― 13.8% となり最終的に HorRat
が全ての試料で1.3以下となったことから,精度の良い H ― ORAC 評価法であることが確認された.
抗酸化物質および食品抽出物の抗酸化能評価に用いる改良親水性酸素ラジカル吸収能評価法の室間共同試験による妥当性確認
渡辺 純*1,沖 智之*2,竹林 純*3,山崎 光司*4,石川(高野)祐子*1,日野 明寛*1,安井 明美*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2(独)農研機構九州沖縄農業研究センター
*3(独)国立健康・栄養研究所
*4
太陽化学株式会社
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 75 (9), 1649-1653 (2011)
Production of starch with antioxidative activity by baking starch with organic acids
Shoji Miwa*1, Megumi Nakamura*1, Michiko Okuno*2, Hisako Miyazaki*2, Jun Watanabe*3, Yuko Ishikwawa-Takano*3
Makoto Miura*4, Nao Takase*4, Sachio Hayakawa*5, Shoichi Kobayasi*5
*1
Ishikawa Agricultural Research Center
*2 Iwata Chemikacl Co., Ltd.
*3 National Food Research Institute, NARO
*4 Iwate University
*5 Japan Confectionery and Innovative Food Ingredients Research Center
コーンスターチを有機酸とともに加熱することにより抗酸化能を有するデンプンを作成し,ANOX 糖(antioxidant 糖)と命名す
るとともに,その抗酸化能を DPPH 法により測定した.
焼成温度および時間をそれぞれ170 ℃,60分に固定して,いくつかの有機酸で検討したところ,フィチン酸による ANOX 糖が最
も高い抗酸化能を示したが,焼成後の色は黒色となった.そのため,L ― 酒石酸を用いて作成した2番目に抗酸化能の高い ANOX
糖が最も利用しやすいと考えられた,この糖は光や温度,あるいは酵素抵抗性が高かった.ANOX 糖の抗酸化能は水分含量や pH
によって変化するが,熱水や窒素ガスによる処理,あるいは pH の調整により安定化する.
デンプンを有機酸と加熱することによりデンプンに抗酸化能を負荷する
三輪 章志*1,中村 恵美*1,奥野美智子*2,宮崎 久子*2,渡辺 純*3,石川(高野)祐子*3,三浦 靖*4
高瀬 奈緒*4,早川 幸男*5,小林 昭一*5
石川県農業総合研究センター
*2 磐田化学工業株式会社
*3(独)農研機構食品総合研究所
*4 岩手大学
*5 社団法人菓子・食品新素材技術センター
*1
98
Japan Agricultural Research Quarterly, 46 (1), 81-87 (2012)
Antioxidant Potential of Green and Black Teas of Selected South India Cultivars
Yuko TAKANO-ISHIKAWA*, Jun WATANABE*, Masao GOTO*, Lingamallu Jagan Mohan RAO** and Kulathooran RAMALAKSHMI**
*
**
National Food Research Institute, NARO
Central Food Technological Research Institute
茶は世界中で最も消費されている飲料の一つであり,カテキンやテアフラビン,テアルビジンなどのポリフェノールには生体調
節の機能が期待されている.
そこで,8つの茶系統からそれぞれ緑茶および紅茶を作成し,抗酸化能評価(DPPH ラジカル消去活性および親水性酸素ラジカ
ル吸収能)とポリフェノール含量測定を行った.
その結果,緑茶の H-ORAC 値は2730 ― 5031(umol TE(トロロックス当量)/g),紅茶は1429 ― 2766,DPPH ラジカル消去活性は緑
茶で1098 ― 1376(μmol TE/g),紅茶では508 ― 798となり,同じ品種 / 系統では緑茶の法が高い傾向を示した.総ポリフェノール量と
H-ORAC,あるいは DPPH ラジカル消去活性の間には高い相関が見られたことから,茶の抗酸化能は主にポリフェールに由来する
ものと考えられた.
南インド産緑茶および紅茶の抗酸化能
石川(高野)祐子*,渡辺 純*,後藤 真生*,Lingamallu Jagan Mohan RAO** and Kulathooran RAMALAKSHMI**
*(独)農研機構食品総合研究所
** 中央食品工業研究所(インド)
Biochemical and Biophysical Research Communications 410 (3), 654-658 (2011)
Caffeine lengthens circadian rhythms in mice.
Hideaki Oike*, Masuko Kobori*, Takahiro Suzuki**, Norio Ishida**
**
* National Food Research Institute, NARO
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, AIST
カフェインは多くの動物で睡眠を変化させるが,概日リズムに影響するかは明らかになっていない.ここでは,哺乳類の培養細
胞株であるヒト骨肉腫由来 U2OS 細胞,マウス繊維芽細胞 NIH3T3細胞でカフェインが概日リズム周期を伸長することを見出した.
Per2::Luciferase レポーター遺伝子のノックインマウスより摘出した培養肝臓片でも,カフェインの添加により概日リズム周期長の
伸長が確認され,哺乳類の概日時計中枢である視交叉上核(SCN)を含む脳切片の培養にカフェインを添加すると,位相後退が観
察された.さらに,マウスにカフェイン溶液を1週間自由飲水させると,12時間の明暗周期下で肝臓の時計位相が後退し,恒暗条
件下では行動の概日リズムの周期長が伸長した.われわれの結果は,細胞,組織,個体レベルで,カフェインが哺乳類の概日時計
に影響を与えることを示した.
カフェインはマウスの概日リズムを伸長する
大池 秀明*,小堀真珠子*,鈴木 孝洋**,石田直理雄**
*(独)農研機構食品総合研究所
**(独)産総研
99
Biochemical and Biophysical Research Communications 416 (3-4), 362-366 (2011)
Endoplasmic reticulum stress enhances γ -secretase activity
Kazunori Ohta*, Akihito Mizuno*, Shimo Li*, Masanori Itoh*, Masashi Ueda*, Eri Ohta*, Yoko Hida*, Miao-xing Wang*
Manabu Furoi*, Yukihiro Tsuzuki*, Mitsuaki Sobajima*, Yoshimasa Bohmoto*, Tatsuya Fukushima*, Masuko Kobori**
Takashi Inuzuka*, Toshiyuki Nakagawa*
*
Gifu University Graduate School of Medicine
National Food Research Institute, NARO
**
小胞体は,3つの異なる細胞内シグナル伝達経路により,小胞体ストレスとなる変性タンパク質を処理する.ER ストレスは,
アルツハイマー病の危険因子である肥満及び糖尿病の発症に関わっているが,ER ストレスがアルツハイマー病の進行に関わって
いるかどうかは不明のままである.本研究において,私達は ER ストレスが ATF4を介したプレセニリン1の発現を誘導し,γ ― セ
クレターゼ活性によるアミロイドβの分泌を誘導し,ケルセチンが UPR シグナルを修正してこれを抑制することを明らかにした.
このことから,ER ストレスは肥満や2型糖尿病により促進され,その結果,アルツハイマー病の発症に関わるγ ― セクレターゼ
活性を高めることが示唆された.
小胞体ストレスはγ ― セクレターゼ活性を増幅させる
太田 和徳*,水野 彰人*,李 詩沫*,伊藤 正徳*,上田 昌史*,太田 瑛里*,樋田 陽子*,王 淼星*
風呂井 学*,都築 行広*,傍島 光昭*,坊本 佳優*,福島 立也*,小堀真珠子**,犬塚 貴*,中川 敏幸*
*
岐阜大学
**(独)農研機構食品総合研究所
Molecular Nutrition & Food Research 55, 530-540 (2011)
Chronic dietary intake of quercetin alleviates hepatic fat accumulation associated with consumption of a Western-style diet in C57/BL6J mice
Masuko Kobori, Saeko Masumoto, Yukari Akimoto, Hideaki Oike
National Food Research Institute, NARO
C56BL6J マウスにコントロール食(AIN93G)及び西洋型食(高コレステロール,高糖食)にそれぞれ0又は0.05 %のケルセチン
を添加した飼料を20週間摂取させた.その結果,ケルセチンを摂取させることにより,8週後に血漿のトリグリセリド及び肝臓の
酸化ストレスマーカー TBARS,グルタチオンレベル及び PPARα の発現が改善した.また,20週後には内臓及び肝臓の脂肪蓄積が
減少し,高血糖,高インスリン血漿,血中脂質異常,血中アヂィポネクチン及び TNFα レベルが改善した.肝臓の脂肪化に関与す
る PPAR γ及び SREBP ― 1c の発現も正常に近づいた.ケルセチンはコントロール食を摂取したマウスの体重は減少させなかったが,
血中の TNFα 及び肝臓の TBARS レベルを減少させた.ケルセチンはおそらく酸化ストレス及び PPARα の発現を改善し,次いで肝
臓の脂肪化に関わる遺伝子発現を抑制して,西洋型食で誘導される肝臓の脂肪蓄積及びメタボリックシンドロームに関連するパラ
メーターを改善したと考えられた.
ケルセチンの長期摂取は西洋型食で C57/BL6J マウスで誘導される肝臓の脂肪蓄積を軽減する
小堀真珠子,升本早枝子,秋元由香里,大池 秀明
(独)農研機構食品総合研究所
100
PLos One 6 (8), e23709 (2011)
Feeding cues and injected nutrients induce acute expression of multiple clock genes in the mouse liver.
Hideaki Oike*1, Kanji Nagai*1, *2, Tatsunobu Fukushima*2, Norio Ishida*3, Masuko Kobori*1
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 Mitsubishi Rayon Co. Ltd.
*3 National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, AIST
概日時計はエネルギー代謝と密接に関連している.肝臓の時計は新しい食餌サイクルにすぐに適応するが,肺の時計は1週間
ほどかかる.しかし,その組織特異性に関する分子機構はわかっていない.食餌に対する肝臓時計の即時応答を理解するため,
Per2-luc レポーターのノックインマウスを利用して,1回の食餌遅延に対する影響を検討した.1週間夜間のみの制限給餌に馴化さ
せ,最後の晩に,4,8,13時間遅延させて給餌を行った.肝臓時計の位相は全ての給餌遅延グループで遅延していたが,肺の時計
は影響がなかった.次に,DNA マイクロアレイを使用して,時計遺伝子と代謝関連遺伝子の即時応答を検討した.Clock 変異マウス
を恒明条件で飼育し,内在の概日リズムを減弱させた,24時間の絶食後の8時間の再給餌による遺伝子応答を解析した.給餌後1
時間以内に,Per2と Dec1遺伝子の発現応答が見られた.リアルタイム PCR による解析により,野生型マウスを一晩絶食させた後の
再給餌でも同様の応答が見られた.Per2,Dec1遺伝子に加えて,Per1の発現上昇と Rev-erba の発現低下が肝臓では見られたが,肺で
は変化がなかった.さらに,グルコースとアミノ酸の混合栄養液の腹腔注射により,肝臓で同様の応答が見られたが,各単独の栄
養液では見られなかった.われわれは,栄養情報により,肝臓では1時間以内に様々な時計遺伝子が応答することを明らかにした.
食餌摂取と栄養液の注射はマウスの肝臓で複数の時計遺伝子の即時発現を誘導する
大池 秀明*1,永井 寛治*1, *2,福島 達伸*2,石田直理雄*3,小堀真珠子*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2
三菱レイヨン株式会社
*3(独)産総研
Bioscience and microflora 30 (3) 65-71 (2011)
Dihydrodaidzein-producing Clostridium-like intestinal bacterium, strain TM-40: Effects on in vitro metabolism of daidzein
by fecal flora from human male equol producers and non-producers.
Motoi TAMURA, Sachiko HORI, Hiroyuki NAKAGAWA
National Food Research Institute, NARO
新鮮な健常人の糞便から単離されたジヒドロダイゼイン産生菌 TM-40株は,Coprobacillus catenaformis と16S rRNA のホモロジー
が93% の相同性がある新菌種であった.新鮮な健常人の糞便希釈液にダイゼインと TM ― 40株を添加し,TM ― 40株の in vitro におけ
るヒト糞便菌叢のエコール生産性に及ぼす影響を検討した.TM-40株をエコール非産生者でジヒドロダイゼイン産生者の糞便菌叢
に添加した場合,TM ― 40株の添加は,非添加に比べて,糞便菌叢のジヒドロダイゼイン産生性を向上した.しかし,エコールは
検出されなかった.一方,TM ― 40株をエコール産生者の糞便菌叢に添加した場合,エコール産生量は増加した.TM ― 40株は,腸
内菌叢のイソフラボン代謝を活性化する可能性がある.
クロストリジウム様腸内細菌 TM ― 40株はインビトロのヒトエコール産生者
及び非産生者の糞便菌叢のダイゼイン代謝に影響を及ぼす.
田村 基,堀 幸子,中川 博之
(独)農研機構食品総合研究所
Current Microbiology 62 (5): 1632-1637 (2011)
Lactobacillus rhamnosus JCM 2771: impact on metabolism of isoflavonoids in the fecal flora from a male equol producer.
Motoi TAMURA, Sachiko HORI, Hiroyuki NAKAGAWA
National Food Research Institute, NARO
ラクトバチルス ラムノーザス JCM 2771をダイジンと嫌気培養したところ,ラクトバチルス ラムノーザス JCM 2771はダイ
ジンからダイゼインを産生するだけでなく,ゲニステインも産生することを見出した.しかし,ラクトバチルス ラムノーザス
JCM 2771は,ダイゼインからはゲニステインを産生しなかった.このラクトバチルス ラムノーザス JCM 2771をエコール産生者
の糞便菌叢に添加して,ダイジンと嫌気培養したところ,ラクトバチルス ラムノーザス JCM 2771非添加の場合に比してエコー
ル産生者の糞便菌叢のエコール産生量は増加した.ラクトバチルス ラムノーザス JCM 2771は,イソフラボンを代謝するととも
に,エコール産生者の腸内菌叢のイソフラボン代謝に影響を及ぼす事が示唆された.
ラクトバチルス ラムノーザス JCM 2771 がエコール産生者の糞便菌叢のイソフラボン代謝に及ぼす影響
田村 基,堀 幸子,中川 博之
(独)農研機構食品総合研究所
101
International Journal of Molecular Sciences 12 (4): 2088-2099 (2011)
Effects of New Dietary Fiber from Japanese apricot (Prunus mume Sieb. et Zucc.) on Gut Function and Intestinal Microflora in Adult Mice
Motoi TAMURA*, Yuriko OHNISHI**, Tatsuya KOTANI** and Nobuki GATO**
**
* National Food Research Institute, NARO
Food Science Research Laboratory, Nakano BC Co. Ltd.
新規に製造した梅ファイバー(梅果肉乾燥粉末)の成熟マウスの消化管機能と腸内菌叢に及ぼす影響を検討した.血漿 NEFA 濃
度は,梅ファイバー食群で低い傾向(p =0.058)が認められた.盲腸内フローラの構成では,Bacteroides and Clostridium cluster IV
の占有率が有意に高値を示した.また,糞便排泄量は,梅ファイバー食群は,コントロール食群に比べて有意に高値を示した.最
終日に排泄された糞便中の総脂質含有量は,梅ファイバー食群は,コントロール食群に比べて有意に高値を示した.梅ファイバー
は,糞便排泄量および脂質排泄促進作用を有していることから,新規機能性食品素材としての有用性が示唆された.
梅由来の新規食物繊維が成熟マウスの消化管機能と腸内菌叢に及ぼす影響
田村 基*,大西由里子**,小谷 竜也**,我藤 伸樹**
*(独)農研機構食品総合研究所
**
中野BC株式会社
Appetite, 58 (3), 1070-1075, (2012)
Infant visual preference for fruit enhanced by congruent in-season odor
Yuji Wada*1, Yuna Inada*2, Jiale Yang*3, Satomi Kunieda*4, Tomohiro Masuda*1, Atsushi Kimura*5
So Kanazawa*2, Masami K. Yamaguchi*3
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 Japan Women s University
*3 Chuo University
*4 Takasago International Corporation
*5 Tokyo Denki University
視覚・嗅覚刺激として,季節によって流通量が著しく変化するイチゴと,年間を通して流通量が比較的安定しているトマトが用
いられた.生後6 ― 8ヶ月児を対象として選好注視法を用いて検討した.その結果,イチゴの流通量が比較的多い3月から6月に
実験を行なったところ,イチゴのニオイ刺激呈示時のみイチゴ画像が選好され,トマトのニオイ刺激呈示時はトマト画像が選好さ
れなかった.イチゴの流通量が少ない7月から8月に行った実験では,イチゴ画像への選好は示されなかった.これらの現象は,
生後6 ― 8ヶ月で嗅覚情報は視覚に影響を与えることと,その連合は接触経験の影響を受けることを示唆している.
Bioscience, Biothchnology, and Biochemistry 75 (6), 1061-1066 (2011)
FXYD6, a Na,K-ATPase regulator, is expressed in type II taste cells.
Yoichiro Shindo*1, Kana Morishita*2, Eiichi Kotake*2, Hirohito Miura*3, Piero Carninci*4, Jun Kawai*4
Yoshihide Hayashizaki*4, Akihiro Hino*2, Tomomasa Kanda*1, Yuko Kusakabe*2
*1 Asahi
Breweries ltd.
Food Research Institute, NARO
*3 Kagoshima University
*4 Riken
*2National
味蕾には I,II,III の3種類の味細胞が含まれており,II,III 型が電気的に興奮することができるが,II 型と III 型細胞では性質
が異なっている.この研究では,II 型の細胞にナトリウムイオンの濃度を調節する Na, K-ATPase のレギュレーター FXYD6が発現
していることを見出した.In situ ハイブリダイゼーション法により,FXYD6は甘味,苦味,うま味の情報伝達を担い,II 型の細胞
に発現する TRPM5と共発現していることが明らかになった.また,FXYD6は Na, K-ATPase β1とも高い割合で共発現していた.
これらの結果から,FXYD6は II 型の味細胞で,ナトリウムイオンの動態の制御をしていると考えられた.
Na, K-ATPase のレギュレーター,FXYD6は II 型の味細胞に発現している
進藤洋一郎*1,森下 加奈*2,小竹 英一*2,三浦 裕仁*3,カルニンチ・ピエロ*4,河合 純*4
林崎 良英*4,日野 明寛*2,神田 智正*1,日下部裕子*2
*1
アサヒビール
*2(独)農研機構食品総合研究所
鹿児島大学
理化学研究所
*3
*4
102
Food Quality and Preference 24 (1), 213-217 (2011)
Conceptualization of food choice motives and consumption among Japanese in light of meal, gender, and age effects.
Yasushi Kyutoku*1, Yuko Minami*2, Takeshi Koizumi*2, Masako Okamoto*3, Yuko Kusakabe*4, Ippeita Dan*1
*1
Jichi Medical University
Nichirei Foods Inc.
*3 Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine
*4 National Food Research Institute, NARO
*2
食事の質を最適化するためには,食事の適切な選択と消費が重要である.しかしながら,食品の選択の動機の概念と,実際の消
費との関係は,まだよく解っていない.そこで,本研究では,食べたいと思う,食べなければならないと思う,実際に食べている,
の3つの項目を利用して,食事(朝,昼,夕食),性別,年齢が食の質の表現にどのように影響するかについて調べた.その結果,
食べたい,食べなければならないという動機付けと,実際に消費するものには乖離があることが明らかになった.動機には,年齢
による差はなかったが,実際に消費しているものの質については40代は低いと感じていることが明らかになた.また,これらの連
関は朝食より夕食の方が強かった.
日本人の食事,性別,年齢による食の選択の動機と実際の消費の関係の概念化
久徳 康史*1,南 祐子*2,小泉 雄史*2,岡本雅子*3,日下部裕子*4,檀 一平太*1
自治医科大学
ニチレイフーズ
*3 帯広畜産大学
*4(独)農研機構食品総合研究所
*1
*2
Food Quality and Preference 24 (1), 92-98 (2012)
Package images modulate flavors in memory: Incidental learning of fruit juice flavors.
Nanami Mizutani*1, Ippeita Dan*2, Yasushi Kyutoku*2, Daisuke Tsuzuki*1, Lester Clowney*2, Yuko Kusakabe*3
Masako Okamoto*4, Toshimasa Yamanaka*1
*1
University of Tsukuba
Jichi Medical University
*3 National Food Research Institute, NARO
*4 Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine
*2
果物のジュースについて,パッケージのイメージが,それに付随したフレーバーに与える効果について解析を行った.92人の被
検者に対して,1:1でリンゴと桃のジュースを混合した溶液にリンゴのラベル,桃のラベル,コントロールのラベルを貼ったサ
ンプルを味見してもらい,10分後に様々な割合でリンゴと桃のジュースを混合したものの中から,最初に味見したものに近いもの
を選抜してもらうという方法を採った.その結果,リンゴのパッケージのイメージがフレーバーのイメージに影響を与えることが
観察された.一方,桃のイメージの効果は観察されず,理由として桃のジュースを飲む経験がリンゴよりも少ないことが考えられ
た.これらの結果より,フレーバーの記憶が,パッケージのイメージと飲み物の第一印象との関係を左右することが明らかになっ
た.
容器のイメージは記憶したフレーバーの質を変化させる:果物ジュースのフレーバーにおける偶発的な学習効果
水谷奈那美*1,檀 一平太*2,久徳 康史*2,續木 大輔*1,レスター・クラウニー*2,日下部裕子*3
岡本 雅子*4,山中 敏正*1
筑波大学
自治医科大学
*3(独)農研機構食品総合研究所
*4 帯広畜産大学
*1
*2
103
Japanese Psychological Research, 53 (4), 440-447 (2011)
Hardness perceptions in visual penetrating motion influenced by velocity change
Tomohiro Masuda*, Atsushi Kimura**, Syo-ichi Goto*, Yuji Wada*
*
National Food Research Institute, NARO
** Tokyo denki University
われわれは視覚的運動から運動対象の様々な物理的性質を知覚することができる.本研究では,貫入運動を対象として,貫入前
後それぞれの速度変化(減速,等速,加速)と,貫入後の平均速度が運動対象の視覚的なかたさ判断に及ぼす影響を検討した.実
験参加者(N =11)は,貫入前後とも等速の運動を基準とした場合に , ターゲットとなる被貫入対象の表面と内部がどの程度のか
たさであるかを,それぞれビジュアルアナログスケールを用いて評定した.その結果,物体表面のかたさ評定は,貫入対象が貫入
前に減速,あるいは貫入後に加速する条件で高くなった.一方,内部のかたさ評定は,貫入前に等速で貫入後に減速する条件,あ
るいは貫入後の平均速度が貫入前よりも速い条件で低くなった.以上の結果より,貫入運動における貫入前後の各速度変化と平均
速度の差が,視覚的なかたさ判断に影響を及ぼすことが示唆された.また,視覚的かたさ判断には実際の貫入運動の振る舞いには
直接影響しない貫入前の速度変化までもが影響を及ぼすことが見出された.
Journal of Food Science, 76 (3), S217-224 (2011)
Conjoint Analysis on the Purchase Intent for Traditional Fermented Soy Product (Natto) among Japanese Housewives
Atsushi Kimura*1, Shigetaka Kuwazawa*2, Yuji Wada*3, Yasushi Kyutoku*4, Masako Okamoto*5, Yui Yamaguchi*3
Tomohiro Masuda*3, Ippeita Dan*4
*1
Tokyo denki University
Takano Foods Co. Ltd.
*3 National Food Research Institute, NARO
*4 Jichi medical university
*5 Obihiro University of Agriculture & Veterinary Medicine
*2
本研究では,納豆の購買にかかわる要因をコンジョイント分析によって検討した.実験では,仮想の納豆商品を用意し,それを
日本の主婦に評価させた.納豆の条件分岐として,ねばりけ,豆の原産国,たれの有無,価格,ニオイの強弱,パッケージの環境
配慮が存在した.その結果,原産国,たれ,価格によって,購入意思の81 %が説明できることが示された.消費者の納豆に対す
る好みに基づいてクラスター分析を行った結果,たれに関するセグメント,価格に関するセグメント,原産国に関するセグメント
が見つかり,消費者層などは購入意思に大きな影響を与えなかった.
Protein Science 20 (10) 1720-1734 (2011)
GFP-based evaluation system of recombinant expression through the secretory pathway in insect cells
and its application to the extracellular domains of class C GPCRs.
Ashikawa Yuji*, Ihara Makoto*, Matsuura Noriko*, Fukunaga Yuko*, Kusakabe Yuko**, Yamashita Atsuko*
**
* Riken
National Food Research Institute, NARO
GFP を付加したタンパク質の産生技術は,構造解析に有用な,質の良いタンパク質の量産に非常に有効である.本研究では,昆
虫細胞を用いて,生産したタンパク質について,GFP を指標とした評価を行った.我々は,GFPuv が細胞質や細胞小器官,細胞外
に至るまで,適切な折りたたみ構造を取っていることを検証した.その上で,G タンパク質共役型受容体(GPCR)のクラス C の
細胞膜外ドメインをこの GFPuv の評価システムに組み込み,昆虫細胞における局在,折りたたみ構造,多量体化について検討した.
代謝型グルタミン酸 mGluR1の膜外部位を昆虫細胞 Sf9細胞に発現させたところ,多量に分泌されただけでなく,二量体を形成す
るなど,既報で構造解析を成功させた場合と同等の結果が得られた.一方,甘味/うま味受容体 T1R ファミリーの膜外ドメインに
ついても同様の実験を行ったところ,タンパクは細胞内に留まったままとなった.特に,mGluR1も T1r ファミリーも細胞内に留
まると,二量体は形成せずに凝集した形で多分散流体となっていた.これらの結果から,GPCR のクラス C の細胞膜外ドメインが
適切な折りたたみ構造を取るには,分泌することが必要であると示唆された.
GFP 融合技術を利用した昆虫培養細胞による組換えタンパク質分泌発現の評価系の開発と,その GPCR クラス C の膜外領域への適用
芦川 雄二*,伊原 誠*,松浦 紀子*,福永 優子*,日下部裕子**,山下 敦子*
*
理化学研究所
**(独)農研機構食品総合研究所
104
Vision Research, 51, 1728-1740 (2011)
Effects of environmental context on temporal perception bias in apparent motion
Tomohiro Masuda*1, Atsushi Kimura*2, Ippeita Dan*3, Yuji Wada*1
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 Tokyo denki University
*3 Jichi Medical University
Kappa 効果とは刺激間距離によって刺激間の時間間隔の知覚が左右される現象である.この効果は上方向の運動が近くされると
きにより顕著になることが知られているが,それが網膜異方性によるのか,環境的な文脈によるのかを検証した.各刺激系列では
CG で合成した3次元空間内で仮現運動が見えるように,球の位置を変えて3回明滅させた.実験1では坂の上を移動する重力や
摩擦などで再現できる範囲の球の運動(直進または U ターン),実験2では同様の平面状での球の運動,実験3,4では対象が外
的あるいは内的な動力がないと不可能な運動が見える刺激系列を観察し,恒常法により,第一の ISI と比較し,第二の ISI の相対的
な長さを判断させた.この結果,上方向の運動中の時程の課題評価は実験1でのみ見られた.この結果は,従来 kappa 効果の方向
の効果は,単なる異方性ではなく観察された事象の文脈によって生じることを示している.
食品総合研究所研究報告,76,9-16,(2012)
苦味マスキング効果の定量的解析
河合 崇行,日下部裕子
(独)農研機構食品総合研究所
マウスは提示された試料溶液の嗜好に依存して,その溶液を舐める回数が変化する.この習性を利用して,種々の濃度の安息香
酸デナトニウム苦味溶液に対する嗜好性を解析した.さらに,甘味素材であるサッカリン Na,うま味素材であるグルタミン酸 Na,
塩味素材である塩化ナトリウムを苦味溶液に添加した場合の嗜好性変化を検討し,変化の大きさを数値化した.その結果,2.5 mM
サッカリン Na では約44%,500 mM グルタミン酸 Na では約69%,100 mM 塩化ナトリウムでは約47% 苦味を弱くさせている可能性
が示された.このことは,ヒト官能パネリスト試験の前段階として,実験動物を用いたマスキング効率の客観的評価が有効である
可能性を示唆している.
Quantitative analysis for the masking effects to bitter taste.
Takayuki Kawai, Yuko Kusakabe
National Food Research Institute, NARO
Food Chemistry, 133, 1420-1426 (2012)
Influence of non-starch polysaccharides on the in vitro digestibility and viscosity of starch suspensions
Tomoko SASAKI and Kaoru KOHYAMA
National Food Research Institute, NARO
4種類の非澱粉性多糖類(NSP:キサンタンガム,グアガム,コンニャクグルコマンナン,ペクチン)を添加した澱粉懸濁液を
調製し,添加した NSP が消化酵素による澱粉分解率と澱粉懸濁液の粘度に及ぼす影響を解析した.添加したいずれの NSP も,澱
粉分解率を抑制する効果を示し,その効果には添加した NSP の濃度依存性が認められた.同じ添加濃度で比較すると,キサンタ
ンガムは他の NSP と比較すると顕著に高い抑制効果を示した.NSP の添加により,澱粉懸濁液の粘度は増加した.澱粉分解率と見
かけの粘度との関連性を解析した結果,ずり速度が低い時の見かけの粘度と澱粉分解率との間に有意な相関性が認められたが,粘
度の増加だけでは澱粉分解率の抑制効果が説明できなかったため,澱粉と NSP の相互作用の関与が示唆された.
澱粉懸濁液の消化性および粘度に及ぼす非澱粉性多糖類の影響
佐々木朋子,神山かおる
(独)農研機構食品総合研究所
105
Food Hydrocolloids, 27, 228-234 (2011)
Complex formation, thermal properties, and in-vitro digestibility of gelatinized potato starch-fatty acid mixtures
Kiyoshi KAWAI*1, Setsuko TAKATO*2, Tomoko SASAKI*3 and Kazuhito KAJIWARA*2
*1
Department of Biofunctional Science and Technology, Graduate School of Biosphere Science, Hiroshima Umiversity
*2 Department of Bioscience and Biotechnology, Tokyo University of Technology
*3 National Food Research Institute, NARO
6種類の脂肪酸(ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸)を糊化させた馬鈴薯澱
粉に添加し,脂肪酸の種類と量が複合体形成,澱粉の熱的性質および消化性に及ぼす影響を解析した.複合体形成の指標となるコ
ンプレックスインデックス(CI)はラウリン酸,リノール酸,ミリスチン酸,オレイン酸,ステアリン酸,パルミチン酸の順で高
い値を示した.澱粉と脂肪酸の複合体の融解エンタルピーと CI 値とに間に正の相関性が認められた.澱粉消化性に及ぼす脂肪酸
の影響を解析した結果,ある一定量の脂肪酸を添加した際に,消化酵素によって分解される澱粉の量が減少した.0.50 mmol/g の
濃度でラウリン酸とオレイン酸を添加した際に,澱粉消化性に対する最も高い抑制効果を示した.
糊化した馬鈴薯澱粉と脂肪酸の混合物の複合体形成,熱的性質および澱粉消化性について
川井 清*1,高藤勢津子*2,佐々木朋子*3,梶原 一人*2
広島大学生物圏科学研究科
東京工科大学応用生物学部
*3(独)農研機構食品総合研究所
*1
*2
International Journal of Food Properties, available online 08 Jun (2011) doi: 10.1080/10942912.2010.535186
Molecular structure and physicochemical properties of acid-methanol-treated chickpea starch
Navdeep Singh SODHI*1, *2, Yung-Ho CHANG*3, Sushant MIDHA*1, Kaoru Kohyama*2
*1
Department of Food Science and Technology, Guru Nanak Dev University, India
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 Department of Food and Nutrition, Providence University, Taiwan
酸とアルコール(036% 塩酸メタノール溶液,25 ℃で216時間まで)で処理したヒヨコマメ澱粉の分子構造と物理化学的性質を調
べた.本処理でのヒヨコマメ澱粉の収率は82から91% であった.この酸 ― メタノール処理により,澱粉の膨潤性,粘性,ゲル強度
は大きく減少したが,澱粉粒の形状は変わらなかった.処理中にアミロースとアミロペクチンの長鎖が分解し,物理化学的性質に
も影響することがわかった.ヒヨコマメ澱粉はアミロペクチンの短鎖と長鎖の比率が低いので,酸 ― メタノール処理での分解が速
かった.澱粉の平均分子量のデータから酸 ― メタノール処理したヒヨコマメ澱粉の平均分子量のデータから,分解速度を示す指数
関数モデルも導かれた.
酸 ― メタノール処理したヒヨコ豆澱粉の分子構造と物理化学的性質
Navdeep Singh SODHI*1, *2,Yung-Ho CHANG*3,Sushant MIDHA*1,神山かおる*2
*1
Department of Food Science and Technology, Guru Nanak Dev University, India
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3 Department of Food and Nutrition, Providence University, Taiwan
106
Journal of Japanese Society for Mastication Science and Health Promotion, 21 (1), 40-48 (2011)
Influence of boiling time or partial cutting food on the masticatory behavior in humans
Kouichi SHIOZAWA*1, Kaoru KOHYAMA*2, Nobuhiro HANADA*3
*1
Department of Physiology, Tsurumi University School of Dental Medicine
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 Department of Translational Research, Tsurumi University School of Dental Medicine
食べやすくするために,食物をゆでる,あるいは食物に刻み目(隠し包丁)を入れることが広く行われているが,これらの調理
法がヒトの咀嚼行動に及ぼす具体的な影響についてはいまだ十分には調べられていない.そこで本研究は,健康な成人被験者に,
ゆで時間の異なるブロッコリー,刻み目を入れたきゅうりとカマボコ,および刻み目を入れないきゅうりとカマボコをそれぞれ咀
嚼させ,咀嚼時の咬筋筋電図と最終嚥下までの咀嚼回数を計測した.咀嚼回数の計測には咀嚼回数カウンターを用いた.ゆで時間
が増すと,ブロッコリーの硬さの機器測定智は有意に減少した.また,刻み目を入れるとカマボコの硬さは有意に減少したが,きゅ
うりの硬さには有意な減少が認められなかった.咀嚼開始期の咬筋筋電位振幅の大きさ,および嚥下までの咀嚼回数は,摂取する
咀嚼試料の硬さの程度を反映していた.本研究の結果から,摂取する食品の硬さを有意に減らす調理法をとると,咀嚼開始時の閉
口筋活動や嚥下までの咀嚼回数を有意に減少させること,またきゅうりのように刻み目を入れても硬さが減少しない場合には,こ
れらの効果は得られないことが示唆された.
食品のゆで時間,または刻み目がヒトの咀嚼行動に及ぼす影響
塩澤 光一*1,神山かおる*2,花田 信弘*3
*1
鶴見大学歯学部生理学講座
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3
鶴見大学歯学部探索歯学講座
Journal of Oral Biosciences, 53 (2), 148-157 (2011)
Effects of addition of water on masticatory behavior and the mechanical properties of the food bolus
Kouichi SHIOZAWA*, Kaoru KOHYAMA**
*
Department of Physiology, Tsurumi University School of Dental Medicine
** National Food Research Institute, NARO
食塊の力学的性質に及ぼす水の効果を調べるため,食塊のテクスチャー解析を行った.13名の成人被験者が 6 g のビスケットと
餅を被験食品とし,水なしと 2 ml の水を加えた場合で咀嚼した.被験者には,咀嚼初期,中期,後期において食塊を吐き出させ,
テクスチャープロファイルアナリシスにより,硬さ,付着性,凝集性を調べた.水を添加すると,両食品とも咀嚼回数が有意に減
少した.硬さ値は咀嚼の進行に従い,両食品で,水の有無に関わらず減少した.付着性と凝集性は,ビスケット食塊では咀嚼中に
増加したが,餅の食塊は水の有無に関わらず減少した.咀嚼回数は水の存在下で少なくなったが,嚥下直前の食塊のテクスチャー
パラメータは,水の有無で有意差が認められなかった.以上より,水あるいは唾液が,嚥下できる状態の食塊を形成しやすくする
ことが示唆された.
水添加が咀嚼挙動及び食塊の力学的性質に及ぼす影響
塩澤 光一*,神山かおる**
*
鶴見大学歯学部生理学講座
**(独)農研機構食品総合研究所
107
Journal of Texture Studies, 42 (4), 254-267 (2011)
Electromyography during oral processing in relation to the mechanical and sensory properties of soft gels
Sauaka ISHIHARA*1, Makoto NAKAUMA*1, Takahiro FUNAMI*1, Toshie TANAKA*2, Katsuyoshi NISHINARI*3, Kaoru KOHYAMA*2
*1 San-Ei Gen F.F.I., inc.
National Food Research Institute, NARO
*3 Graduate School of Human Life Science, Osaka City University
*2
軟らかいゲルを舌と硬口蓋との間での圧縮による押し潰してから自然に嚥下する際の,ゲルの力学的,感覚的性質と舌骨上筋群
の筋電位(EMG)を研究した.EMG は健康な成人が摂食中に,咬筋と舌骨上筋群から記録した.ゲルの力学特性は,圧縮歪と変
形速度を変えて調べた.ゲル化剤濃度が高くなると,摂食時間は延長し,舌骨上筋群 EMG 活動が高値となった.舌骨上筋群 EMG
活動は,90% 等の極めて大きい歪条件下でのゲルの圧縮荷重,また官能評価による硬さと高い相関関係があった.舌骨上筋群の
EMG 活動は,軟らかいゲルのヒト摂食挙動を解析するのに,有効なパラメータであり,大歪条件での圧縮荷重により客観的に推
測できると考えられた.
軟らかいゲルの口腔内プロセス中の筋電位と力学的,感覚的性質との関係
石原 清香*1,中馬 誠*1,船見 孝博*1,田中 敏江*2,西成 勝好*3,神山かおる*2
*1
*3
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
*2(独)農研機構食品総合研究所
大阪市立大学大学院生活科学研究科
日本食品科学工学会誌,58(6),252-258(2011)
フィッシュコラーゲンペプチドがコンニャクグルコマンナン ― κ ― カラギーナン混合ゲルのテクスチャーに及ぼす影響
加藤 愛*,小谷 幸敏*,島田 宏美**,佐々木朋子**,早川 文代**,神山かおる**
*(地独)鳥取県産業技術センター 食品開発研究所
**(独)農研機構食品総合研究所
一口サイズのコンニャクゼリーは,咀嚼されないで飲み込まれた場合,窒息を引き起こす危険性があるとして,幼児や高齢者に
対しては不向きであるとことを示す警告,注意書きの記載が徹底されている.これは,このゲルのもつ,弾力があり,破断しにく
いという力学的性質に起因している.この力学的性質を改変するため,市販のコンニャクゼリーにも利用されているコンニャクグ
ルコマンナンとκ ― カラギーナン混合ゲル(50:50)に,コラーゲンペプチドを添加した際のゲルに対する影響について,動的粘
弾性,押し出し試験,咀嚼筋筋電位を測定した . その結果,フィッシュコラーゲンペプチド(低分子量,高分子量)またはゼラチ
ンを添加すると,混合ゲルの弾性率が低下した.ゼラチンを0.8% 添加した場合,体温で融解することが分かった.また,高分子
量のフィッシュコラーゲンペプチドを0.8% 添加した場合,咀嚼回数,咀嚼時間,筋電位振幅,総仕事量が減少した.このゲルは
唯一押し出し試験により完全に2分割されたが,他の9試料は一部が破壊された.
Effects of fish collagen peptides on physical properties of mixed gels containing konjac glucomannan and kappa-carrageenan
Ai KATO*, Yukitoshi KODANI*, Hiromi SHIMADA**, Tomoko SASAKI**, Fumiyo HAYAKAWA**, Kaoru KOHYAMA**
*
Tottori Institute of Industrial Technology, Food research Institute
** National Food Research Institute, NARO
108
日本食品科学工学会誌,59(2),96-103(2012)
2バイトテクスチャー試験における測定速度条件の検討
野内 義之*,安食 雄介*,飛塚 幸喜*,佐々木朋子**,神山かおる**
*
山形県工業技術センター
**(独)農研機構食品総合研究所
テクスチャープロファイルアナリシス(TPA)での基本パラメータに測定速度が及ぼす影響を調べるため,3種類の試料を4
種の市販試験機で測定した.プランジャーが試料に対し下向きと上向きに2回運動方向を変える2バイトの TPA 試験を,速度
10 mm/s と 1 mm/s で行い,最大応力,引張時の仕事,第2バイトと第1バイトの圧縮仕事の比を異なる試験機で比較した.4機種
で調べたテクスチャーパラメータの有意差は,速度条件10 mm/s では認められたが,1 mm/s では認められなかった.10 mm/s 条件
では,4機種のうち2種で設定した距離で運動方向が変わらなかった.ある測定機は,極めて長い加速時間が必要であり,仕事の
測定値に影響した.またいくつかの測定機ではテクスチャーパラメータに影響するほど大きな,慣性に基づくノイズが検出された.
市販の試験機で10 mm/s 条件で得られたデータは,異なる機種での測定値と比較することが困難であることを示していた.
Bite-speed effects in two-bite texture analysis
Yoshiyuki NOUCHI*, Yusuke AJIKI*, Koki TOBITSUKA*, Tomoko SASAKI**, Kaoru KOHYAMA**
*
Yamagata Research Institute of Technology
National Food Research Institute, NARO
**
日本食品科学工学会誌,58(8),359-374(2011)
日本語テクスチャー用語の対象食物名の収集と解析
早川 文代*1,風見由香利*1,井奥 加奈*2,阿久澤さゆり*3,西成 勝好*4,神山かおる*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*3
*2 大阪教育大学
東京農業大学,*4 大阪市立大学
これまでに,食品の研究者および技術者への質問紙調査,テクスチャー研究者への面接調査によって,日本語テクスチャー用語
として445語を収集した.本研究では,445語の日本語テクスチャー用語から想起される食物名を収集し,解析した.具体的には,
各用語を,テクスチャー評価に関して訓練された十分な経験のあるパネリスト18人に提示し,用語が描写する対象となりえる食物
名を思いつく限り挙げさせた.データを集計したところ,テクスチャー用語から想起される935品目の網羅的なデータベースを作
成することができた.次に,日本語テクスチャー用語の語彙構造を把握するために,データにコレスポンデンス分析を適用した.
第1次元は破砕と流動の軸であった.第2次元は空気による軽さの軸と解釈できた.本研究で得られたデータは,記述型官能評価
の候補用語源として利用でき,また,日本語テクスチャー用語の国際的な理解の有用な手掛かりとなり得る.
Collection and Analysis of Foods Associated with Japanese Texture Terms
Fumiyo Hayakawa*1, Yukari Kazami*1, Kana Ioku*2, Sayuri Akuzawa*3, Katsuyoshi Nishinari*4 and Kaoru Kohyama*1
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 Osaka Kyoiku University
*3 Tokyo University of Agriculture, *4 Osaka City University
Bangladesh Journal of Microbiology, Vol. 28, No. 2, pp 58-63 (2011)
Antibacterial activity of ethanol extract of betel leaf (Piper betle L.) against some food borne pathogens.
Md. Mahfuzul Hoque*, Shemona Rattila*, Md. Asaduzzaman Shishir*, Md. Latiful Bari*, Yasuhiro Inatsu**, Shinichi Kawamoto**
**
* University of Dhaka
National Food Research Institute, NARO
バングラデシュのつた類植物であるキンマの葉のエタノール抽出物の食中毒菌 Vibrio cholerae ATCC 6395, E. coli ATCC 25922, E.
coli O157:H7 NCTC 12049, Shigella dysenteriae-1 MJ-84 と Staphylococcus aureus ATCC 25923にたいする抗菌活性を調べた.エタノー
ル抽出物は,これらの菌に対して抗菌活性を示し,最少増殖阻止濃度は,0.625(w/v)から0.75(w/v)の範囲であった.この抽出
部の抗菌活性は,中温度域の中性 pH で最大となった.また100 ℃或いは pH10での処理に対して,この抽出物の抗菌活性の大きな
低下は認められなかった.
キンマの葉のエタノール抽出物の食中毒菌株に対する抗菌活性
M Mahfuzul Hoque*, Shemona Rattila*, M Asaduzzaman Shishir*, M L Bari*, 稲津 康弘**, 川本 伸一**
*
University of Dhaka
**(独)農研機構食品総合研究所
109
Japan Journal of Food Microbiology, Vol. 28, No. 3, 193-200 (2011)
Biopreservation of Kamaboko (Steamed Surimi) using Piscicolin KH1 produced by Carnobacterium maltalomaticum KH1.
Kenya Hashimoto*1, Md. Latiful Bari*2, Yasuhiro Inatsu*2, Shinichi Kawamoto*2, Jun Shima*3
*1
Industrial Technology Institute, Miyagi Prefectural Government
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 Kyoto University
かまぼこに Leuconostoc sp. や Enterococcus sp. の乳酸菌が汚染するとネトなどを生じ,品質を低下させると共に消費期限が短く
なる.これら有害菌の制御を目的に乳酸菌の生産するバクテリオシンをスクリーニングした.その結果,ニシンの腸から分離し
た株の Carnobacterium maltalomaticum が生産するバクテリオシンがこれらの細菌の増殖を強く阻害することが明らかとなった.ピ
スコリン KH1と命名したこのバクテリオシンを精製し,部分一次構造を決定したところ,ピスコリン126の配列と一致した.E.
faecium と L. mesenteroides を接種したかまぼこの10 ℃保存試験により,保存料として広く使用されているバクテリオシンのナイシ
ンに比べ,ピスコリン KH1の方がこれら菌株に対してより強い増殖阻害効果を示すことが明らかとなった.
Carnobacterium maltalomaticum KH1が生産するピスコリン KH1を用いたかまぼこのバイオプリザベーション
橋本 健也*1,Md. Latiful Bari*2,稲津 康弘*2,川本 伸一*2,島 純*3
*1
宮城県産業技術総合センター
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3
京都大学
Mutation Research, 741, 95-100 (2011)
Age- and time interval-specific gamma radiation-induced DNA damage in adult maize weevils, Sitophilus zeamais Motschulsky,
assessed using comet assays
Md. Mahbub Hasana*, Setsuko Todoriki**, Akihiro Miyanoshita**
**
* Rajshahi University
National Food Research Institute, NARO
成虫のコクゾウムシ中でガンマ線照射により引き起こされた DNA 損傷をコメットアッセイで検出した.0.5および1.0 kGy のガン
マ線を用い,1日目と15日目の成虫を使用した.両方とも典型的な DNA 分割を示した一方,非照射の成虫は幼虫より,より完全
な DNA を示した.DNA 損傷の割合は照射後24時間で増加した.
ガンマ線照射が引き起こすコクゾウムシの DNA 損傷のコメットアッセイによる検出
モハメッド・M・ハッサン*,等々力節子**,宮ノ下明大**
*
ラジャヒ大
**(独)農研機構食品総合研究所
食品衛生学雑誌,52,321-329(2011)
Detection of irradiated food using 2-Alkylcyclobutanones as markers:verification of the European committee standardization
Tomoaki Tutumi*, Setsuko Todoriki**, Daisuke Nei**, Takahiro Watanabe*, Rieko Matsuda*
*
**
National Institute of Health Sciences
National Food Research Institute, NARO
2 ― Alkylcyclobutanones は食品照射による特異的放射線分解生成物で,放射線照射食品の検知に使用できる.ヨーロッパ標準規格
法(EN1785)は GC/MS を使用して2 ― ドデシルシクロブタノンおよび2 ― テトラデシルシクロブタノンを検知する.この研究では単
一研究所の定性試験として EN1785を評価し,0.5 kGy 以上で照射された牛肉,豚肉,鶏およびサケへ適用できることが確認された.
6∼9ヶ月冷凍した食物の照射も判断することが可能だった.
2 ― アルキルシクロブタノン類を指標にした放射線照射食品の検知:ヨーロッパ標準規格法(EN1785)の
脂肪含有食品における検知性能の検証
堤 智昭*,等々力節子**,根井 大介**,渡辺 敬浩*,松田りえ子*
*
国立医薬品食品衛生研究所
**(独)農研機構食品総合研究所
110
食品照射,46,1-7(2011)
PSL 法による豆類の照射履歴の検知
関口 正之*1,中川 清子*1,柚木 俊二*1,大藪 淑美*1,萩原 昌司*2,等々力節子*2,多田 幹郎*3,本田 克徳*4
*1(地独)東京都立産業技術研究センター
*2(独)農研機構食品総合研究所,*3
*4
中国学園大学
日本放射線エンジニアリング株式会社
低線量を照射された豆類の照射履歴の判別について,国内に輸入される10種類の豆類(中国の大豆および小豆,斑インゲンマメ,
大角豆,グリーンのグラム,カナダの青いエンドウおよび大豆,アメリカのササゲ豆およびヒヨコマメ,金時豆)を対象に,光刺
激ルミネッセンス測定装置を使用して,PSL 積算発光量の経時変化と線量応答,校正 PSL 測定による PSL 発光比による検討を行っ
た.照射した豆類の PSL 積算発光量は時間とともに緩やかに減少したが,0.5 kGy 照射し3∼6ヶ月保存したものでも PSL 測定の
上限閾値を大きく上回り照射履歴の判定ができた.カナダ産青エンドウと大豆は未照射にもかかわらずPSLが下限閾値(700 counts)
を越えたが,PSL 発光比で再評価し「未照射」と正しく判定できた.豆類の PSL 発光比の経時変化と線量応答性の情報を蓄積する
ことにより,照射された線量を推定できる可能性があった.
Detection of Irradiated Pulses by PSL Method
Sekiguchi Masayuki*1, Nakagawa Seiko*1, Yunoki Shunji*1, Ohyabu Toshimi*1, Hagiwara Shoji*2
Todoriki Setsuko*2, Tada Mikirou*3, Honda Katsunori*4
*2
*1 Tokyo Metropolitan Industrial Research Institute
National Food Research Institute, NARO, *3 Chugoku Gakuen University
*4 Japan Radiation Engineering Co, Ltd.,
食品照射,46,19-23(2011)
PSL 法によるエビの照射履歴の検知
陳 蘇蘇*, **,齊藤希巳江**,萩原 昌司**,中嶋 光敏*,等々力節子**
*
筑波大学
**(独)農研機構食品総合研究所
産地や種類の異なる5種類のエビ背腸の内容物について,国産 PSL システムで光ルミネッセンス測定を行った.その結果,非照
射試料の PSL 積算発光量は下限しきい値(T1=1000 counts/90 s)を下まわり,一方,1 kGy 照射した試料は全て上限しきい値(T2
=4000 counts/90 s)を超えることが確認された.また,LED による光照射前後の発光量の増加と PSL 発光の減少を評価パラメータ
として用いても,非照射と 1 kGy 照射の試料との間に明確な差が確認された.したがって,本 PSL 法はスクリーニング方法として
エビの照射履歴を検知することができる.
Detection of Irradiated prawns by Photostimulated Luminescence
Susu Chen*, **, Kimie Saito**, Shoji Hagiwara**, Mitsutoshi Nakajima*, Setsuko Todoriki**
**
* Univercity of Tsukuba
National Food Research Institute, NARO
日本食品科学工学会誌,58(9),464-469(2011)
NaI(T1)シンチレーションサーベイメータによる穀物試料の放射性セシウム測定
−環境放射線の遮へい効果と Ge 半導体検出器測定との相関−
亀谷 宏美*,萩原 昌司*,根井 大介*,柿原 芳輝**,木村啓太郎*,松倉 潮*,川本 伸一*,等々力節子*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
財団法人日本穀物検定協会
福島第一原子力発電所の事故後の環境放射線量の条件で食品中の放射性セシウムを NaI(T1)シンチレーションサーベイメータ
で検出ために有効な遮へい条件を検討した.つくば市内を例に取り,環境放射線の遮へいによる低減効果を示した.また,大麦試
料中の放射能の検出に有効な遮へい条件と測定ジオメトリを設計し,適切な遮へい条件下で NaI(T1)シンチレーションサーベイ
メータで計測した正味計数率と Ge 半導体検出器による放射性セシウム濃度とに良好な直線的相関があることを検証した.
The shielding of radiation for the detection of radioactive cesium in cereal sample by using a NaI (TI) scintillation survey meter
Hiromi Kameya*, Shoji Hagiwara*, Daisuke Nei*, Yoshiteru Kakihara**, Keitaro Kimura*, Ushio Matsukura*
Schinichi Kawamoto*, Setsuko Todoriki*
*
National Food Research Institute, NARO
The Japan Grain Inspection Association
**
111
Applied Magnetic Resonance, 40 (3), 395-404 (2011)
Electron spin resonance (ESR) spectroscopy of gamma irradiated glucose polymers
Hiromi Kameya*1, Hideo Nakamura*2, Mitsuko Ukai*2, Yuhei Shimoyama*3
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 Hokkaido University of Education
*3 Japan Atomic Energy Agency
ガンマ線による殺菌処理は食品や生薬の香りや味,薬効を損なうことなくシェルライフを伸ばす.さらに,有害な微生物や寄生
虫への不妊や殺虫に有効であり,害虫が付着した野菜や果物が輸出入されないよう防疫を目的とした食品への照射も行われてい
る.著者らは植物性食品に照射することで誘導されるラジカルについて報告してきた.植物性照射食品では2種の ESR 信号が観
測されてきた.1種は g =2.0近傍の1本線信号,もう1種は1本線信号に対称の位置に観測されるサイド信号である.1本線信
号はセミキノンラジカルなどの有機フリーラジカルに由来する信号である.サイド信号は,照射コショウ,朝鮮人参で観測したこ
とを報告している.また,セルロースやデンプンを含有する小麦粉では,照射コショウで観測されたサイド信号と類似しているが,
より複雑な信号が観測された.
ガンマ線照射グルコースポリマーの電子スピン共鳴解析
亀谷 宏美*1,中村 秀夫*2,鵜飼 光子*2,下山 雄平*3
*1(独)農研機構食品総合研究所
*3
*2 北海道教育大学
日本原子力研究開発機構
Applied Magnetic Resonance, 42 (2), 153-159 (2011)
Relaxation behaviors of free radicals from gamma-irradiated black pepper using pulsed EPR spectroscopy
Hiromi Kameya*1, Masahiro Kikuchi*2, Hideyuki Hara*3, Masakazu Furuta*4, Setsuko Todoriki*1
Yasuhiko Kobayashi*2, Mitsuko Ukai*5, Yuhei Shimoyama*2
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 Japan Atomic Energy Agency
*3 Bruker BioSpin K. K.
*4 Osaka Prefecture University
*5 Hokkaido University of Education
Pulse-ESR と CW-ESR による照射黒コショウ中のラジカルの計測を試みた.Pulse-ESR と CW-ESR から得られた緩和時間(T1,
T2)の比較を行った.pulse-ESR の実測値,CW-ESR による計算値ともに,T1,T2を求めることができた.緩和時間は T1の値は照
射処理による変化が少なかった.T2の値は,照射によって増大した.Pulse-ESR 実測値と CW-ESR 計算値(T1,T2)は同様の傾向
を示すことがわかった.
パルス EPR 分光器を用いたガンマ線照射黒胡椒中のフリーラジカルの緩和挙動
亀谷 宏美*1,菊地 正博*2,原 英之*3,古田 正和*4,等々力節子*1,小林 泰彦*2,鵜飼 光子*5,下山 雄平*2
*1(独)農研機構食品総合研究所
*3
*2 日本原子力研究開発機構
ブルッカーバイオスピン株式会社
*4 大阪大学
*5 北海道教育大学
112
Food Additives and Contaminants Part A 28 (10), 1447-1456 (2011)
Detection of new Fusarium masked mycotoxin in wheat grain by high-resolution LC-Orbitrap MS
Hiroyuki NAKAGAWA*1, Kimihide OHMICHI*2, Shigeru SAKAMOTO*2, Yuki SAGO*1, Masayo KUSHIRO*1
Hitoshi NAGASHIMA*1, Megumi YOSHIDA*3, Takashi NAKAJIMA*3
*1
*3
National Food Research Institute, NARO, *2 Thermo Fisher Scientific
National Agricultral Research Center for Kyushu Okinawa Region, NARO
新規 Fusarium マイコトキシンの配糖体,fusarenon X ― glucoside(FUXGlc)が Fusarium 属糸状菌を感染させた麦粒中に存在する
ことが初めて報告された.この新規配糖体は高分解能 LC ― Orbitrap 質量分析装置(LC ― Orbitrap MS)を用い,特徴的なイオンの精
密質量と MS/MS フラグメントパターンに基づいて同定された.FUXGlc の構造は LC ― MS では完全には明らかにはされなかった
が,フラグメントの特徴や構造が類似しているかび毒である deoxynivalenol(DON)の糖誘導体として deoxynivalenol ― 3 ― glucoside
(DON3Glc)が有意に存在することを考慮して,3 ― OH 基におけるグルコシル化が最も可能性が高い構造であると思われた.別の
かび毒配糖体である,nivalenol-glucoside(NIVGlc)も同じ麦粒内において発見された.LC-Orbitrap MS を用いた半定量分析により,
15% 以上の FUX や NIV がそれぞれのグルコシド体に変換されていると推定された.これらの新規マスクドマイコトキシンの存在
はリスク評価の際に考慮されるべきである,というのはこれらの配糖体は特定の条件,例えば各種の食品加工工程や哺乳類による
摂食後の消化器官内において加水分解されて元のかび毒に戻る可能性があるためである.
高分解能 LC ― Orbitrap MS による麦粒中に含まれる新規 Fusarium マスクドマイコトキシンの検出
中川 博之*1,大道 公秀*2,坂本 茂*2,佐合 由紀*1,久城 真代*1,長嶋 等*1,吉田めぐみ*3,中島 隆*3
*1(独)農研機構食品総合研究所,*2
サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)
*3(独)農研機構 九州沖縄農業研究センター
Japan Agricultural Research Quarterly 45, 441-444 (2011)
Geldanamycin, an Inhibitor of Heat Shock Protein 90, Mitigates Nivalenol-caused Changes in Cytokine Secretion in HL60 Cells
Hitoshi NAGASHIMA, Hiroyuki NAKAGAWA, Masayo KUSHIRO
National Food Research Institute, NARO
ニバレノール(NIV)の毒性発現機構解明のため,熱ショックタンパク質90(Hsp90)のヒト白血病細胞 HL60における NIV の細
胞毒性への関与を,Hsp90の特異的阻害剤ゲルダナマイシン(GA)を用いて検討した.測定は24時間処理後に行った.NIV は顕著
にインターロイキン(IL)― 8の分泌を誘導したが,GA による変化はわずかだった.両薬剤で同時処理後の分泌量は NIV 単独処理
より顕著に少ないことから,NIV 誘導性の IL-8分泌には Hsp90が重要であると考えられた.NIV と GA は,単独で単球走化性タン
パク質(MCP)― 1の分泌を減少させた.GA 処理の有無にかかわらず,NIV 処理した試料の値はほとんど同じだった.統計的解析
から GA は MCP ― 1分泌への NIV の影響を緩和していると考えられた.NIV が細胞増殖を顕著に阻害したのに対し,GA の効果は穏
やかだった.両薬剤による同時処理の値は NIV 単独処理より低かった.このことは GA は NIV による細胞増殖阻害を防がないこと
を意味している.この研究で Hsp90の NIV によるサイトカイン分泌変化への関与を示した.しかし NIV による細胞増殖阻害への
Hsp90の関与は可能性が低いと考えられた.
熱ショックタンパク質90の阻害剤ゲルダナマイシンはニバレノールによって起こる HL60 細胞のサイトカイン分泌の変化を緩和する
長嶋 等,中川 博之,久城 真代
(独)農研機構食品総合研究所
Journal of Materials Science and Engineering B, 1, 347-351 (2011)
New ESR detection method of hydroxyl radical scavenging activity of blue berry
Hiromi Kameya*, Mitsuko Ukai**
*
National Food Research Institute, NARO
** Hokkaido University of Education
電子スピン共鳴(ESR)分光学を使用したブルーベリーのヒドロキシルラジカル捕捉能の新たな評価法を報告した.ヒドロキシ
ルラジカル捕捉能は5 ―(2,2 ― dimethy ― 1,3 ― propoxycyclophosphoryl)― 5 ― methyl ― 1 ― pyrroline N ― oxide(CYPMPO)という無色結晶で水
溶性の高い新しいスピントラップ剤を用いて計測した.計測法は,Hg-Xe ランプにより,過酸化水素と CYPMPO を含有するリン
酸緩衝液を照射する.この手法は非常に純粋なヒドロキシルラジカルを生成した.また,観測されるアダクトも非常に安定してお
り,ブルーベリーのヒドロキシルラジカル捕捉能を評価するのに非常にふさわしい計測方法を開発した.
ブルーベリーのヒドロキシルラジカル捕捉能の新しい ESR 検知方法
亀谷 宏美*,鵜飼 光子**
*(独)農研機構食品総合研究所
**
北海道教育大学
113
Mycopathologia 172 (4), 323-330 (2011)
Distinct distribution of deoxynivalenol, nivalenol, and ergosterol in Fusarium-infected Japanese soft red winter wheat milling fractions
Manasikan THAMMAWONG*, Hiroshi OKADOME*, Takeo SHIINA*, Hiroyuki NAKAGAWA*
Hitoshi NAGASHIMA*, Takashi NAKAJIMA**, Masayo KUSHIRO*
**
* National Food Research Institute, NARO
National Agricultural Research Center for Kyushu Okinawa Region, NARO
かび毒による穀類の汚染とかび毒の最終食品での残存は食品安全上大きな問題である.以前われわれは,国産軟質冬小麦に含ま
れるデオキシニバレノールとニバレノール量の製粉での動態を解析し,両毒素がヒトの可食部となる粉分画にも分布することを見
出した.本研究では,菌体量の指標となるエルゴステロールの製粉分画(上質粉,末粉,大フスマ,小フスマ)での分析法の試験
室内妥当性確認を行い,各分画中エルゴステロール量を定量し,両毒素の蓄積量と菌の穀粒内部への侵入との関連を調べた.汚染
レベルが異なる穀粒を製粉した結果,エルゴステロール濃度はいずれも上質粉で最も低く,フスマで最も高かったことから,高汚
染粒においても菌の大部分は穀粒の外皮に留まっていることが示された.両毒素濃度は上質粉・末粉ともに,汚染レベルが中程度
以上の試料では,原粒での濃度よりわずかに低いのみであった.エルゴステロールの分布度は汚染レベルに関わらず大フスマで最
も高かったが,両毒素は異なる分布度を示した.以上より,両毒素の穀粒内部での拡散が,菌の侵入とは独立して起こっているこ
とが示された.
フザリウム属菌に感染した国産軟質冬小麦中デオキシニバレノール , ニバレノールと
エルゴステロールの製粉分画における分布度の違い
Manasikan Thammawong*,岡留 博司*,椎名 武夫*,中川 博之*,長嶋 等*,中島 隆**,久城 真代*
*(独)農研機構食品総合研究所
**(独)農研機構九州沖縄農業研究センター
Mycotoxins 61 (2), 47-52 (2011)
Fumonisin B2 production on agar media by Aspergillus niger of Japanese origin
Masayo KUSHIRO, Hiroyuki NAKAGAWA, Hitoshi NAGASHIMA, Michihiko SAITO
National Food Research Institute, NARO
Aspergillus niger は産業微生物として重要な糸状菌の一種である.近年,典型的 Fusarium 属菌産生マイコトキシンとされるフモ
ニシン B2が,A. niger によって産生されたという報告が諸外国から出されている.しかし,これまでに日本国内で分離された A.
niger についてフモニシン B2産生性を調査した報告はない.今回われわれは,国内で分離された A. niger の7菌株についてフモニシ
ン B2の産生性を解析した.菌株を各種寒天培地で培養後,菌体を含む培地全体を収穫し,AOAC995.15法に準じた方法でフモニシ
ンの産生性を調査した.その結果,調査に供した7株中1株がフモニシン B2産生陽性であり,その産生性には培地の組成依存性
が認められた.
国内分離 Aspergillus niger 菌株の各種寒天培地でのフモニシン産生
久城 真代,中川 博之,長嶋 等,斉藤 道彦
(独)農研機構食品総合研究所
Radiation Physics and Chemistry, 81, 316-321 (2011)
Assessment of gamma ray-induced DNA damage in Lasioderma serricorne using the comet assay
Hiromi Kameya, Akihiro Miyanoshita, Taro Imamura, Setsuko Todoriki
National Food Research Institute, NARO
害虫の照射処理を確認するためにアルカリ性条件の下の DNA コメットアッセイ分析を試みた.Lasioderma serricorne にコバルト
60から 1 kGy のガンマ線照射を行った.照射直後から7日間,時間経過とともにコメットアッセイを行った.その結果,Ratio 値
は照射の有無の判別に使用できることを提案し,アルカリ性条件のもとでの DNA コメットアッセイ分析は照射履歴の識別に利用
可能であると結論した.
コメットアッセイを用いた Lasioderma serricorne のガンマ線照射により引き起こされる DNA 損傷の評価
亀谷 宏美,宮ノ下明広,今村 太郎,等々力節子
(独)農研機構食品総合研究所
114
Radioisotopes, 60 (4), 173-180 (2011)
ESR Analysis of Irradiated Red Peppers and Commercial Red Peppers in Japan
Hiromi Kameya*, Mitsuko Ukai**
*
National Food Research Institute, NARO
** Hokkaido University of Education
放射線照射唐辛子と,加工処理の異なる市販唐辛子を ESR で解析した.加工処理は天日干し,機械的加工処理(加熱殺菌,粉
末化など)である.一定量の試料で計測した.唐辛子のESRスペクトルはg=2.00の鋭い1本線信号が検出された.これは有機フリー
ラジカル由来の信号と考えられる.加熱処理のラジカル生成への関与は必ずしも大きくないと考えた.粉末化処理は唐辛子のラジ
カル生成に大きく関与していると考えた.放射線照射処理した試料では ESR 信号強度は照射量が増すに従い増大した.粉末試料
の信号強度と照射処理試料の信号強度とはほぼ同じ値を示した.放射線照射試料と非照射試料の緩和挙動と緩和時間(T1,T2)に
は差異があった.照射試料の緩和時間は非照射試料と比較し,T1は増え,T2は減少した.唐辛子は加工処理のうち,放射線照射
処理と粉末化処理によるラジカル生成の影響が大きいことが分かった.
国内の市販唐辛子と放射線処理唐辛子の ESR によるラジカル解析
亀谷 宏美*,鵜飼 光子**
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2
北海道教育大学
Report of National Food Research Institute 76, 29-32 (2012)
Comparison of anti-proliferative effects of trichothecene mycotoxins nivalenol and deoxynivalenol in cultured cells
Hitoshi NAGASHIMA, Masayo KUSHIRO, Hiroyuki NAKAGAWA, Keiko IWASHITA
National Food Research Institute, NARO
ニバレノール(NIV)とデオキシニバレノール(DON)の毒性発現機構を解明するために,培養細胞の増殖に対する両毒素の阻
害効果を検討した.毒素処理24時間後に試験を行った.両毒素は試験に供した4つの培養細胞の増殖を遅らせた.ヒト前骨髄球白
血病細胞 HL60とヒトリンパ芽球白血病細胞 MOLT-4,ラット大動脈筋芽細胞 A-10においては,DON よりも NIV の方が効果が強かっ
た.これに対し,ヒト肝芽腫細胞 HepG2では両毒素ともほぼ同じ効果を示した.もし両毒素が同一の毒性発現機構で毒性を発揮し
ているのであれば,細胞の種類にかかわらず DON と NIV の50 % 阻害濃度(IC50)の比は一定になると考えられるが,各々の細胞
の IC50の比は一様でないことから,両毒素の毒性発現機構には違いがあると考えられた.
培養細胞におけるトリコテセン系マイコトキシンのニバレノールとデオキシニバレノールの細胞増殖阻害活性の比較
長嶋 等,久城 真代,中川 博之,岩下 恵子
(独)農研機構食品総合研究所
Toxicology Letters 206, 238-243 (2011)
Rubratoxin B induces signs of fatty acid oxidation disorders (FAODs) in mice
Keiko IWASHITA, Hitoshi NAGASHIMA
National Food Research Institute, NARO
ルブラトキシンB(RB)は低血糖と脂肪肝を起こすカビ毒である.血糖値は肝グリコーゲンの貯蔵状態と関連するので,RB が
肝グリコーゲン量とその制御に与える影響を検討した.マウスは RB で24時間処理した.処理マウスの胃は極端に膨らんでおり,
内容物は対照群より顕著に重かった.低血糖は食欲を亢進させるので,RB は満腹を感じにくくしているのかもしれない.RB は肝
グリコーゲンを枯渇させた.処理マウス肝臓のホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)活性及びその mRNA 量は
減少していた.このことは RB の PEPCK 活性阻害が肝グリコーゲンを枯渇していることを示している.PEPCK 活性と mRNA 量は
同程度に減少していたので PEPCK 活性は転写レベルで制御されていると考えられた.処理群の肝臓では PEPCK 遺伝子の転写活性
化因子が顕著に減少していたので,これらが PEPCK 遺伝子の転写に重要であることを示している.RB 中毒症と脂肪酸酸化異常症
(FAOD)は特徴的な症状を共有している.FAOD は遺伝病であるが,我々の結果は化学物質によっても FAOD 様の症状が起こされ
ることを示している.
ルブラトキシンBはマウスに脂肪酸酸化異常症(FAOD)の症状を誘導する
岩下 恵子,長嶋 等
(独)農研機構食品総合研究所
115
食品照射,46(1),13-18(2011)
照射食品に誘導されるラジカルの減衰挙動
貝森 良彦*1,坂本 侑輝*1,菊地 正博*2,亀谷 宏美*3,中村 秀夫*1,下山 雄平*2,小林 泰彦*2,鵜飼 光子*1
*1
北海道教育大学,*2 日本原子力研究開発機構
*3(独)農研機構食品総合研究所
黒コショウ,コーヒー生豆及び朝鮮人参にγ線を照射し,照射直後の ESR 信号強度の減衰を観測した.照射直後にラジカル信
号が観測され , 時間の経過につれてラジカル減衰した.g 値約2.00の1本線信号の強度は,吸収線量の増加につれて増加した.ESR
信号強度の減衰挙動から , 異なる半減期を持つ2つ以上のラジカルの存在が示唆された.照射された試料は類似した減衰挙動を示
したが,信号強度は黒コショウが高かった.
Initial Decay Process of Radicals Induced in Irradiated Food
Yoshihiko Kaimori*1, Yuki Sakamoto*1, Masahiro Kikuchi*2, Hiromi Kameya*3, Hideo Nakamura*1
Yuhei Shimoyama*2, Yasuhiko Kobayashi*2, Mistuko Ukai*1
*1
Hokkaido University of Education
Japan Atomic Energy Agency
*3 National Food Research Institute, NARO
*2
Food Science and Technology Research, 17, 479-483 (2011)
Effectiveness of stable ozone microbubble water on reducing bacteria on the surface of selected leafy vegetables
Yasuhiro Inatsu*, Tomoko Kitagawa*, Nobutaka Nakamura*, Susumu Kawasaki*, Daisuke Nei*, Md Latiful Bari**, Shinichi Kawamoto*
*
National Food Research Institute, NARO
** University of Dhaka
殺菌剤としてマイクロバブルオゾン水処理による効果を in vitro で13種類の微生物を用いて評価した.さらに浸漬法により汚染
させた大腸菌 O157: H7および4種類の自然汚染された葉物野菜を用いて評価した.比較として,オゾンガス・次亜塩素酸ナトリ
ウム水溶液・蒸留水で処理した際の影響も調べた.in vitro 系での実験では5.0∼7.4 log の一般生菌数の減少が観察された.一方4
種類の葉物野菜において,大腸菌数はマイクロバブルオゾン水では0.8∼1.2,次亜塩素酸ナトリウム水溶液では0.9∼1.8 log CFU/g
の減少が観察された.マイクロバブルオゾン水・オゾン水・蒸留水による処理での明確な差は認められず,さらにオゾンガスに葉
物野菜を曝露した際の生菌数の減少は観察されなかった.自然汚染の系についても同様の結果を得た.色調・外観の変化は,蒸留
水で処理した場合との違いは見られなかった.葉物野菜表面におけるマイクロバブルオゾン水の殺菌効果はオゾン水と同等と考え
られた.
葉物野菜表面付着微生物殺菌におけるマイクロバブルオゾン水の効果
稲津 康弘*,北川 智子*,中村 宣貴*,川崎 晋*,根井 大介*,Md Latiful Bari**,川本 伸一*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
ダッカ大学
Foodborne Pathogens and Disease 8 (10), 1089-1094 (2011)
Disinfection of Radish and Alfalfa Seeds Inoculated with Escherichia coli O157:H7 and Salmonella by a Gaseous Acetic Acid Treatment
Daisuke Nei*1, Bari, M. Latiful*2, Katsuyoshi Enomoto*3, Yasuhiro Inatsu*1, Shinichi Kawamoto*1
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 University of Dhaka
*3 Daisey Machinery Co. Ltd.
酢酸ガスを8.7% の濃度で2-3時間処理することにより,アルファルファ種子およびカイワレ種子に接種した大腸菌 O157: H7およ
びサルモネラの生菌数を5 log CFU/g 以上低下させることができた.また,酢酸ガスを48時間処理することにより,大腸菌 O157:
H7を完全に死滅させることが可能であった.ガス処理にともなう発芽率の低下は認められなかった.
酢酸ガスによるカイワレ種子およびアルファルファ種子に接種した病原菌の殺菌
根井 大介*1,モハメド・ラティフル・バリ*2,榎本 克義*3,稲津 康弘*1,川本 伸一*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2
ダッカ大学
*3(株)大生機械
116
Journal of AOAC International, 94, 857-862 (2011)
Evaluation of TA10 broth for recovery of heat- and freeze-injured Salmonella from beef
Naoko Kamisaki-Horikoshi*1, Yukio Okada*1, Kazuko Takeshita*1, Takashi Sameshima*1, Susumu Kawasaki*2
Shinichi Kawamoto*2, Pina M. Fratamico*3
*2
*1 Prima Meat Packers Ltd.
National Food Research Institute, NARO
*3 USDA/ERRC
BAM で 認 め ら れ て い る Salmonella の 前 培 養 培 地 で あ る Lactose(LAC)broth, Buffered Peptone water(BPW),Universal Preenrichment(UP)broth と開発培地 TA10 broth を用いて,加熱および凍結損傷させた Salmonella の牛挽肉中からの検出率を比較した.
汚染レベルは加熱区では0.44∼ <0.001および凍結区では0.44∼0.14 MPN/g となるように設定し,各25 g のサンプル20個をそれぞれ
の培地に供し,検出率を培養法で比較した.加熱損傷区では TA10と LAC broth では189(67.5%)対156(55.7%)の陽性数が得られ,
検出率に有意差(χ2=7.73)を認めた.凍結損傷区においては,TA10とLAC brothでは189(72.7%)対133(51.2%)の陽性数が得られ,
検出率に有意差(χ2 = 24.7)を認めた.損傷 Salmonella では,TA10は LAC および UP よりも効果的な回復を示したことから,TA10
は LAC よりも,加熱および凍結損傷した Salmonella に汚染された牛挽肉からの検出率を高めると考えられた.
加熱および凍結損傷させた Salmonella の牛挽肉中を用いた TA10 Broth の回復率評価
上崎(堀越)菜穂子*1,岡田 幸男*1,竹下 和子*1,鮫島 隆*1,川崎 晋*2,川本 伸一*2,Pina M. Fratamico*3
*1
プリマハム基礎研究所
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3
USDA/ERRC
食品衛生学雑誌,52(2),108-111,(2011)
新規液体食品用容器 PID(Pouch in Dispenser)の微生物に対する保護特性の検討
富成 啓太*1,田中 朝土*1,篠田 裕馬*2,二瀬 克規*2,根井 大介*3,一色 賢司*1
北海道大学大学院
株式会社悠心
*3(独)農研機構食品総合研究所
*1
*2
液体食品用容器 PID(Pouch in Dispenser)の通常使用時,および人為的汚染時における内容物保護特性の検討を行った.開封後,
静置あるいは風を当てた場合,ならびに内容物を注ぎ出した場合も,PID への菌の侵入は確認されなかった.人為的に菌液を注ぎ
口に塗布した場合,供試菌が内部に侵入した.乾燥させた布を用いて供試菌を塗布した場合,内部への侵入が確認されなかったこ
とから,清潔な乾燥した布で注ぎ口をふいた場合は微生物が侵入する可能性は低いと考えられた.注ぎ口に触れない注意喚起表示
や,内容物によっては水分活性,pH 等の調整,保存料の使用が必要であると考えられた.
Food Protective Property of New Liquid Food Container PID (Pouch in Dispenser) for Microbes
Keita Tominari*1, Asato Tanaka*1, Yuma Shinoda*2, Katsunori Futase*2, Daisuke Nei*3, Kenji Isshiki*1
*1
Hokkaido University
Yushin Industries, Ltd.
*3 National Food Research Institute, NARO
*2
117
日本食品微生物学会雑誌,28,219-225(2011)
果物・野菜における食中毒菌多重検出キット“[TA10]Pathogenic Bacterial Multiplex PCR Detection System”
の評価と前培養条件の検討
川崎 晋*1,鄒 碧珍*2,難波 豊彦*2,有馬 和英*2,木内勲*3,上
(堀越)菜穂子*4,川本 伸一*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
財団法人 東京顕微鏡院
*3 株式会社 ドール
*4 プリマハム 株式会社
*2
食中毒菌多重検出システム“[TA10]Pathogenic 24 Bacterial Multiplex PCR Detection System”を用いて,果物・野菜からの検出
法について評価した.16種類の果物・野菜を上記キットに供したところ,いずれも35±1 ℃,22時間培養後の前培養液 1 ml から
Multiplex PCR 法で検出可能であった.しかしながら,pH の低い試料では増菌時での増殖への影響が示唆されたため,増菌培地間
の比較と試料液の中和操作を行った場合での培養改善効果について検討した.その結果,試料液の事前の中和操作よりもむしろ夾
雑微生物の増殖により引き起こされる培地 pH 低下の緩和が重要である可能性を示唆した.前培養培地の pH 緩衝能は,上記の遺伝
子検査法や培養法での検出において検討すべき重要な因子となりうる.
Evaluation of detection sensitivity and pre-enrichment efficacy of [TA10] pathogenic bacterial multiplex PCR detection system kit in fruit
and vegetable food samples.
Susumu KAWASAKI*1, Bizhen ZOU*2, Toyohiko NAMBA*2, Kazuhide ARIMA*2, Isao KIUCHI*3
Naoko KAMISAKI-HORIKOSHI*4 and Shinichi KAWAMOTO*1
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 Tokyo Kenbikyoin Foundation
*3 Dole Japan Ltd.
*4 Prima Meat Packers Ltd.
ペストロジー 26(2):53-57(2011)
チョコレート製品でのノシメマダラメイガ Plodia interpunctella 幼虫の発育
宮ノ下明大,今村 太郎
(独)農研機構食品総合研究所
チョコレート製品でのノシメマダラメイガ幼虫の発育を調べた.ミルクチョコレートでの成虫羽化率は25 ℃で8%,30 ℃で
22 %と低く,発育日数は25 ℃で140日以上,30 ℃で88日以上であった.これらの結果より,ノシメマダラメイガ幼虫にとってチョ
コレート製品は適した食物ではないと考えられた.アーモンドを含むミルクチョコレート製品では,アーモンドを含まないものに
比べて短い発育日数(約69日/25 ℃・約52日/30 ℃ )と高い成虫羽化率(50 %/25 ℃・53 %/30 ℃ ),思い成虫体重を示した.
Larval development of the Indian meal moth, Plodia interpunctella (Lepidoptera: Pyralidae), on chocolate products.
Akihiro Miyanoshita, Taro Imamura
National Food Research Institute, NARO
食品照射,46,24-26(2011)
繭の中のタバコシバンムシに対する低エネルギー電子線の効果
今村 太郎,宮ノ下明大,等々力節子
(独)農研機構食品総合研究所
低エネルギー電子線は食品を外側から加害する昆虫には高い殺虫力を持つが,穀物などの粒の中で発育するものに対しては完全
な殺虫は難しい.タバコシバンムシはその生活環におけるどのステージにおいても食品を外側から加害する性質を持つものの,後
期の幼虫は繭を作り,その中で蛹化する.よってこの繭が電子線を遮る効果があるかを確かめるために,エネルギーの異なる電子
線を繭ごとタバコシバンムシに照射し,その生死を観察した.加速電圧80 kV では全く生存率に変化はなく,150 kV では少数が生
存した.
Effect of Low-Energy Electrons on the Cigarette Beetles Inside the Cocoons
Imamura Taro, Miyanoshita Akihiro, Todoriki Setsuko
National Food Research Institute, NARO
118
Canadian Journal of Plant Pathology 33 (3) 347–354 (2011)
Identification and activity of a phytotoxin produced by Calonectria ilicicola, the causal agent of soybean red crown rot
Sunao OCHI*1, Mitsuru YOSHIDA*2, Akio NAKAGAWA*1, Masahiro NATSUME*3
*1
National Agricultural Research Center, NARO
National Food Research Institute, NARO
*3 Department of Applied Biological Science, Tokyo University of Agriculture and Technology
*2
ダイズ黒根腐病菌 Calonectria ilicicola の生産する植物毒素として,4種類のアミノ酸から成る環状ペプチド PF1070A を単離し
た.本化合物は,抗腫瘍性抗生物質として報告があり,マウスの Ltk- 細胞にメタロチオネインの合成を誘導する.黒根腐病菌へ感
受性の異なる3種類のダイズ品種を PF1070A で処理した結果,品種間差は認められなかった.一方,黒根腐病菌17菌株における
PF1070A生産量を調べたところ,病原性の強さとPF1070A生産量には強い正の相関があることが明らかになった.以上のことから,
植物毒素 PF1070A はダイズ黒根腐病菌の病原性発現に関与していることが示唆された.
ダイズ黒根腐病菌 Calonectria ilicicola の生産する植物毒素の同定と活性
越智 直*1,吉田 充*2,仲川 晃生*1,夏目 雅裕*3
*1(独)農研機構中央農業総合研究センター
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3
東京農工大学応用生物科学科
Journal of Agricultural and Food Chemistry 59 (17) 9581–9587 (2011)
Isolation and identification of flavonoids accumulated in proanthocyanidin-free barley
Hiroshi NAKANO*1, Naoyuki KAWADA*1, Mitsuru YOSHIDA*2, Hiroshi ONO*2, Rika IWAURA*2, Takuji TONOOKA*3
*1
National Agricultural Research Center for Kyushu Okinawa Region, NARO
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 National Institute of Crop Science, NARO
大麦品種ニシノホシのプロアントシアニジン非含有準同質遺伝子系統である iso ant 13,iso ant 17,iso ant 12に蓄積されるフラ
ボノイドを調べたところ,tricin や新規フラボノイド(2RS)― dihydrotricin 7 ― O ― β ― D-glucopyranoside を含む7種類のフラボノイ
ドが同定された.これらのフラボノイドの濃度は上記3系統でほぼ同レベルであったが,tricin 以外はニシノホシやあまぎ二条,
Harrington のような栽培品種には検出されなかった.ニシノホシにおける tricin の含量は,ニシノホシの iso ant 13,iso ant 17,iso
ant 12における含量の半部であった.Tricin とその前駆体である dihydrotricin やそのグルコシドである dihydrotricin 7 ― O ― β ― D ―
glucopyranoside,chrysoeriol や homoeriodictyol のニシノホシの iso ant 13, iso ant 17, and iso ant 22 における蓄積は,プロシアニジン
合成におけるflavanone 3 ― hydroxylase の阻害によるプロシアニジン前駆体の他の生合成系への利用の増加によるものと推測された.
プロアントシアニジン非含有大麦に蓄積するフラボノイド類の単離と同定
中野 洋*1,河田 尚之*1,吉田 充*2,小野 裕嗣*2,岩浦 里愛*2,塔野岡卓司*3
*1(独)農研機構九州沖縄農業研究センター
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3(独)農研機構作物研究所
119
日本食品科学工学会誌,58(11),525-530(2011)
日本における炊飯米由来のアクリルアミド摂取量評価
吉田 充*1,三好 恵子*2,堀端 薫*3,水上 裕造*4,竹中真紀子*1,安井 明美*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
女子栄養大学短期大学部
*3 女子栄養大学
*4(独)農研機構野菜茶業研究所
*2
日本人の主食である炊飯米からのアクリルアミド摂取寄与を推定するために,炊飯米に関して臭素化誘導体化 GCMS 法による
低濃度での定量分析法を確立し,アクリルアミドの測定を行った.2種類の家庭用炊飯装置および業務用炊飯装置の1機種を用い
て精白米を炊飯した結果,米に生じたアクリルアミドの平均濃度は,0.24 ― 1.18 μg/kg の範囲にあった.本測定結果を日本人の炊飯
米の摂取量と合わせて考えると,他の食品を含めたアクリルアミドの摂取量全体に対して,炊飯した精白米からのアクリルアミド
摂取の寄与は小さいことが確認された.発芽玄米や玄米を炊飯した際のアクリルアミドの濃度は精白米の場合よりも高くなり,焦
げの生じない炊き方で炊飯すればアクリルアミド摂取に対する寄与率は小さいが,焦げを生じさせるとアクリルアミドの摂取源の
一つとして無視できないものとなり得ると考えられる.
Estimation of acrylamide intake from cooked rice in Japan
Mitsuru Yoshida*1, Keiko Miyoshi*2, Kaoru Horibata*3, Yuzo Mizukami*4, Makiko Takenaka*1, Akemi Yasui*1
*1
National Food Research Institute, NARO
Junior College of Kagawa Nutrition University
*3 Kagawa Nutrition University
*4 National Institute of Vegetable and Tea Science, NARO
*2
Chemistry Letters, 41 (3), 242-243 (2012)
A novel method to discriminate between natural and synthetic fibers by stable carbon, nitrogen, and oxygen isotope analyses
Yaeko Suzuki*1, *2, Ryo Kobe*1, Rumiko Nakashita*1, *3
*1 Japan Certification Services
National Food Research Institute, NARO
*3 Forestry and Forest Products Research Institute
*2
化学繊維・動物繊維・植物繊維について,炭素・窒素・酸素安定同位体比を測定した.炭素・窒素同位体比は,動物繊維が最も
高く,化学繊維は非常に低い値を示した.酸素同位体比は,植物繊維が動物繊維や化学繊維よりも高かった.動物繊維については,
カシミヤは炭素同位体比が高く,アルパカは酸素同位体比が低い傾向が得られた.よって,安定同位体比分析によって繊維の原料
判別の可能性が示唆された.
安定同位体比分析を用いた繊維の原料判別の可能性
鈴木彌生子*1, *2,河邉 亮*1,中下留美子*1, *3
*1
日本認証サービス株式会社
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3(独)森林総合研究所
120
Researches in organic geochemistry 27, 73-79, (2011)
Ecological application of compound-specific stable nitrogen isotope analysis of amino acids-A case study of captive and wild bears
Rumiko NAKASHITA*1, Yaeko SUZUKI*2, Fumikazu AKAMATSU*3, Yuichi I. NAITO*4
Miho SATO-HASHIMOTO*5, Toshio TSUBOTA*6
*1
Forestry and Forest Products Research Institute
National Food Research Institute, NARO
*3 Public Works Research Institute
*4 University of Tokyo
*5 Gunma University
*6 Hokkaido University
*2
水棲動物のアミノ酸の窒素安定同位体比が,餌に対して,非必須アミノ酸であるグルタミン酸で約8.0 ‰高くなり,必須アミノ
酸のフェニルアラニンではほとんど変化しないことから,生物に含まれる両者のアミノ酸窒素安定同位体比を比較することで,栄
養段階や一次生産者の窒素同位体比を推定できると期待されている.本研究では,飼育個体3頭と餌食物との栄養段階を推定した
ところ,ほぼトウモロコシを摂取していた飼育個体の栄養段階は1.7 ― 1.9(ほぼ2)という妥当な結果が得られた.さらに,ニジマ
スの養魚場周辺で,ニジマス被害に関連していた疑いで捕獲されたツキノワグマ3個体と,その周辺に生息していたコントロール
3個体のアミノ酸窒素安定同位体比解析を行った.被害との関連性が疑われた3個体のうち2個体について,ニジマス被害との関
連性が明らかとなり,残りの1個体はニジマスを摂取した可能性が低いと推定された.
アミノ酸の化合物別安定窒素同位体分析の生態学への応用 捕獲と野生熊でのケーススタディー
中下留美子*1,鈴木彌生子*2,赤松 史一*3,内藤 裕一*4,橋本 美穂*5,坪田 敏夫*6
*1(独)森林総合研究所
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3(独)土木研究所
東京大学
群馬大学
*6 北海道大学
*4
*5
日本食品科学工学会誌,58,259-262(2011)
安定同位体比分析によるしらす干しの原料原産地判別の可能性
小泉 鏡子*1,中下留美子*2, *3,鈴木彌生子*2, *4
静岡県水産技術研究所
日本認証サービス株式会社
*3(独)森林総合研究所
*4(独)農研機構食品総合研究所
*1
*2
本研究では,炭素・窒素安定同位体比分析によるしらす干しの原料原産地判別の可能性について検討した.国産しらす干しの炭
素・窒素安定同位体比を用いてクラスター分析を行ったところ,国内9産地を九州,瀬戸内海東部から太平洋沿岸,瀬戸内海西部
の3つのグループに分類することが出来た.各グループの炭素・窒素同位体比を比較すると,炭素同位体比は九州地方および瀬戸
内海西部地方)が瀬戸内海東部から太平洋沿岸地方より有意に高く,窒素同位体比は瀬戸内海西部地方が九州地方および瀬戸内海
東部から太平洋沿岸地方より有意に高かった.輸入しらす干しについては,炭素同位体比は中国産しらす干しが国産,韓国産より
も有意に高い値を示し,窒素同位体比は中国産が国産,韓国産よりも有意に低い値を示したが,国産と韓国産の間には炭素・窒素
安定同位体とも有意差は見られなかった.以上の結果から,養殖ではなく天然海域で漁獲された水産物の加工品であるしらす干し
においても安定同位体比分析による原料原産地判別の可能性が示唆された.
Stable isotope analysis for verifying the geographical origin of Shirasuboshi
Kyoko KOIZUMI*1, Rumiko NAKASHITA*2, *3, Yaeko SUZUKI*2, *4
*1
Shizuoka Prefectural Research Institute of Fishery
*2 Japan Certification Services
*3 Forestry and Forest Products Research Institute
*4 National Food Research Institute, NARO
121
日本食品科学工学会誌,59,69-75(2012)
炭素・酸素安定同位体比分析による青森県産および中国産リンゴの産地判別の可能性
鈴木彌生子*1, *4,中下留美子*1, *5,河邉 亮*1,北井亜希子*2,富山 眞吾*2, *3
日本認証サービス株式会社
三菱マテリアルテクノ株式会社
*3 東北大学大学院工学研究科環境機能利用工学寄附講座
*4(独)農研機構食品総合研究所
*5(独)森林総合研究所
*1
*2
青森県(青森市,鶴田町,田舎館村,黒石市,弘前市,平賀町,西目屋村,大鰐町)および中国(山東省・甘粛省・遼寧省・陜
西省・新疆ウイグル自治区)で収穫された素姓の確かなリンゴについて,炭素・酸素同位体比を測定し,産地判別の可能性を検証
した.青森県産と中国産を比較すると,どの地域においても,青森県産は中国産よりも炭素・酸素同位体比ともに低い傾向が得ら
れた.青森県産を地域別に比較すると,炭素同位体比においては,西目屋村が有意に低い値を示した.また,西目屋村や大鰐町は
酸素同位体比が低い傾向が得られた.降水量や地形による生育水の酸素同位体比など複数の環境要因を反映していると考えられる.
以上より,炭素・酸素安定同位体比分析を用いることにより,中国産と青森県産の判別だけではなく,青森県内においても,リン
ゴの産地判別の可能性が見出された.
Tracing the geographical origin of Japanese (Aomori Prefecture) and Chinese apples using stable carbon and oxygen isotope analyses
Yaeko Suzuki*1, *4, Rumiko Nakashita*1, *5, Ryo Kobe1*1, Akiko Kitai*2, Shingo Tomiyama*2, *3
*1 Japan Certification Services
Mitsubishi Materials Techno Corporation
*3 Tohoku University
*4 National Food Research Institute, NARO
*5 Forestry and Forest Products Research Institute
*2
分析化学,60,563-570(2011)
青森県津軽平野を対象とした生育水と精米の軽元素安定同位体比の相関性
富山 眞吾*1, *4,鈴木彌生子*2,中下留美子*3,相川 良雄*4
*1
三菱マテリアルテクノ株式会社
*2(独)農研機構食品総合研究所
*4
*3(独)森林総合研究所
東北大学大学院工学研究科環境機能利用工学寄附講座
近年社会問題化しているコメの産地偽装問題に対し,科学的根拠に基づいた判別技術の確立が求められており,そのためにはコ
メと生育水の軽元素安定同位体比の相関性を確認する必要がある.本研究は,青森県津軽平野を対象に生育水の酸素・水素安定同
位体比及び炭素安定同位体比の空間的分布を明らかにし,その上でコメの安定同位体比との相関性を検討した.津軽平野の中央部
では平野縁辺部と比較して生育水の酸素・水素安定同位体比が高い傾向にある.δ ダイアグラム上における天水線の傾きは4.95で
あり,蒸発散により平野中央部では同位体比がシフトしている可能性を示している.コメの酸素安定同位体比は生育水と有意な相
関を持ち,酸素安定同位体比によるコメの産地判別法の可能性が示唆された.生育水の炭素安定同位体比は pH と相関関係にあり,
無機炭酸の化学種の存在比を反映している可能性がある.コメの炭素安定同位体比は生育水との相関が認められず,大気中 CO2を
起源の大部分とし,土壌の水分条件など水利用環境の違いを反映した同位体比を示しているものと考えられる.
Correlation of stable isotope ratios of light elements between ambient water and polished rice, Tsugaru Plain, Aomori Prefecture
Shingo TOMIYAMA*1, *4, Yaeko SUZUKI*2, Rumiko NAKASHITA*3, Yoshio AIKAWA*4
*1
Mitsubishi Materials Techno Corporation
National Food Research Institute, NARO
*3 Forestry and Forest Products Research Institute
*4 Tohoku University
*2
122
Animal Science Journal, 82 (1), 181-186 (2011)
Proteome analysis of whole and water-soluble proteins in masseter and semitendinosus muscles of Holstein cows
Mika OE*1, *2, Mayumi OHNISHI-KAMEYAMA*3, Ikuyo NAKAJIMA*1, Susumu MUROYA*1, *5, Masahiro SHIBATA*4
Koichi OJIMA*1, Shiro KUSHIBIKI*1, *2, Koichi CHIKUNI*1
*2
*1 National Institute of Livestock and Grassland Science, NARO
Graduate School of Life and Environmental Science, University of Tsukuba
*3 National Food Research Institute, NARO
*4 National Agricultural Research Center for Western Region, NARO
*5 Department of Food Science, University of Copenhagen
速筋と遅筋の定性的,定量的な相違を評価するため,ホルスタイン牛の咬筋(速筋)と半腱様筋(遅筋)におけるタンパク質発
現を2D DIGE と MS により分析した.8M 尿素により抽出したタンパク質画分の27スポットから20のタンパク質,水溶性画分の16
スポットから11のタンパク質を同定した.咬筋にはmyosin light chain-1 slow-bやmyosin light chain-2 slow,aconitase-2 mitochondriaが,
半腱様筋には myosin light chain-1 fast や myosin light chain-2 fast,myosin light chain-3 fast,tropomyosin-1などの筋繊維タンパク質に
加え,解糖系の enolase-3, aldolase-A,triosephosphate isomerase が有意に高濃度に存在していた.これらの結果から,速筋と遅筋で
は筋線維タンパク質だけでなく,筋小胞体タンパク質の組成も異なることが明らかになった.
ホルスタイン牛の咬筋と半腱様筋のタンパク質のプロテオーム解析
大江 美香*1, *2,亀山眞由美*3,中嶋 郁世*1,室谷 進*1, *5,柴田 昌宏*4,尾嶋 孝一*1
櫛引 史郎*1, *2,千国 幸一*1
*1(独)農研機構畜産草地研究所
*2
筑波大学
*3(独)農研機構食品総合研究所
*4(独)農研機構近畿中国四国農業研究センター
*5
コペンハーゲン大学
Carbohydrate Polymers, 87 (2), 1425-1432 (2011)
Enzymatically derived aldouronic acids from Cryptomeria japonica arabinoglucuronoxylan
Takashi Yamasaki*1, Ayumi Enomoto*1, Atsushi Kato*2, Tadashi Ishii*2, Mayumi Kameyama*3, Hiroshi Anzai*1, Kazumasa Shimizu*1
*1
Graduate School of Bioresource Sciences, Nihon University
*2 Forestry and Forest Products Research Institute
*3 National Food Research Institute, NARO
スギの木のホロセルロースから,10 %水酸化カリウムでアラビノグルクロノキシランを抽出し,市販のセルラーゼから粗精製
したキシラナーゼで加水分解した.切り出した中性糖をサイズ排除クロマトグラフィで分析した結果,キシロースのみから成る7
糖までのオリゴ糖が存在することがわかった.また陰イオン交換クロマトグラフィでアルドウロン酸を精製した.単糖分析,陰イ
オン交換クロマトグラフィにおける容量分布係数の標品との比較,1H NMR,13CNMR の解析から,4 ― O ― Me ― α ― D ― GlcAp 2残基
と D ― Xyl 3∼5残基から成る8種のアルドウロン酸であることがわかった.
ストレプトマイセス TM-34に含まれるアンジオテンシン変換酵素に対する阻害活性を有する新規シデロフォア
山崎 隆志*1,榎本あゆみ*1,加藤 厚*2,石井 忠*2,亀山眞由美*3,安齋 寛*1,志水 一允*1
*1 日本大学
森林総合研究所
*3(独)農研機構食品総合研究所
*2
123
European Journal of Organic Chemistry, 17, 3191-3196 (2011)
A new siderophore isolated from Streptomyces sp TM-34 with potent inhibitory activity against angiotensin-converting enzyme
Shinya Kodani*1, *2, Mayumi Ohnishi-Kameyama*1, Mitsuru Yoshida*1, Kozo Ochi*1, *3
*1 National Food Research Institute, NARO
Current address: Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University
*3 Current address: Faculty of Applied Information Science, Hiroshima Institute of Technology
*2
ストレプトマイセス TM-34の鉄欠乏培地から新規シデロフォアを見いだし,ツクバケリンと名付けた.2次元 NMR と TOFMS
のデータから,ツクバケリンは3個のセリンと N ― α ― メチル ― l ― N ― δ ― ヒドロキシ ― N ― δ ― フォルミルオルニチン,N ― α ― メチル ― N ―
δ ― ヒドロキシオルニチン,環化 N ― ヒドロキシオルニチンの合計6個のアミノ酸残基から成っていることがわかった.この化学構
造と類似するシデロフォア,デスフェリ(鉄を配位していない)フォロキシミチンがアンジオテンシン変換酵素阻害活性を示すこ
とが報告されていたため,デスフェリツクバネケリンのこの酵素に対する阻害活性を調べた.デスフェリツクバネケリンは,デス
フェリフォロキシミチンより14倍強い阻害活性を示したことから,鉄を配位していないツクバネケリンがアンジオテンシン変換酵
素阻害剤として潜在的な可能性を有すると考えられた.
ストレプトマイセス TM ― 34に含まれるアンジオテンシン変換酵素に対する阻害活性を有する新規シデロフォア
小谷 真也*1, *2,亀山眞由美*1,吉田 充*1,越智 幸三*1, *3
*1(独)農研機構食品総合研究所
静岡大学
広島工科大学
*2
*3
Genes, 2 (4), 788-803 (2011)
Identification of genes involved in the glycosylation of modified viosamine of flagellins in Pseudomonas syringae by mass spectrometry
Masanobu Yamamoto*, Mayumi Ohnishi-Kameyama*, Chi L. Nguyen**, Fumiko Taguchi**, Kazuhiro Chiku*
Tadashi Ishii*, Hiroshi Ono*, Mitsuru Yoshida* and Yuki Ichinose**
*
National Food Research Institute, NARO
** Okayama University
われわれはこれまでに,タバコ野火病菌(Pta6605)の鞭毛タンパク質フラジェリンは糖タンパク質で,病原性の発現には修飾ビ
オサミン ― ラムノース ― ラムノースから成る三糖糖鎖が必要であることを明らかにするとともに,その糖鎖修飾に関わる遺伝子を同
定してきた.今回,Pta6605のフラジェリンの糖鎖の非還元末端に存在する修飾ビオサミンの生合成を担う,ビオサミンアイランド
と呼ばれる遺伝子群に,vioR と vioM という遺伝子が存在することを,それらの遺伝子の欠損変異株と質量分析法を用いて明らかに
した.また,Pta6605と同じ P. syringae に属するが病原型が異なる菌株について,修飾ビオサミン関連遺伝子を Pta6605と比較した.
その結果,修飾ビオサミン関連遺伝子は Pta6605以外の病原菌においてもフラジェリンの糖鎖合成に必須であること,ビオサミンア
イランドを持たない P. syringae pv. syringae B728a ではフラジェリンの糖鎖の構造が異なっていることが明らかになった.
植物病原菌 Pseudomonas syringae の鞭毛タンパク質フラジェリンの糖鎖を構成する
修飾ビオサミンの生合成に関与する遺伝子の同定
山本 雅信*,亀山眞由美*,Chi L. Nguyen**,田口冨美子**,知久 和寛*,石井 忠*,小野 裕嗣*
吉田 充*,一瀬 勇規**
*(独)農研機構食品総合研究所
**
岡山大学
124
Journal of Agricaltural and Food Chemistry, 59 (18), 10317-10321 (2011)
Annual Variation of Natural 15N Abundance in Tea Leaves and Its Practicality as an Organic Tea Indicator
Nobuyuki Hayashi*1, Tomomi Ujihara*1, Eri Tanaka*2, Yasuhiro Kishi*2, Hideyuki Ogawa*2 and Hirofumi Matsuo*3
*1
*2
National Institute of Vegetable and Tea Science, NARO
Saitama Prefectural Agriculture and Forestry Research Center
*3 Miyazaki Prefectural Agricultural Research Institute
有機肥料の施肥と有機栽培茶葉中のδ15N値の関係に関する基礎的知見を得るために,茶葉中のδ15N値の年次変動が調査された.
δ15N 値の変化は有機肥料の施肥後すぐには現れないが,δ15N 値の低い有機肥料を用いた場合を除き,基本的に有機栽培開始3年
後には有機栽培区では慣行栽培区よりも高いδ15N値が観測された.その変化量は使用した有機肥料のδ15N値に依存した.続いて,
δ15N 値が有機栽培茶の実用的な判別指標になり得るか否かを調べた.有機栽培を実施している茶生産者の圃場より採取した茶葉
の δ15N 値は市販の非有機栽培茶の値と比べ,必ずしも高くは無い事が判明した.この結果は,茶葉の δ15N 値のみを根拠に有機栽
培茶を判別することは容易ではない事を示している.
茶葉中の窒素安定同位体天然存在比の年次変動と有機栽培茶指標としてのその実用性
林 宣之*1,氏原ともみ*1,田中 江里*2,岸 保宏*2,小川 英之*2,松尾 啓史*3
*1(独)農研機構野菜茶業研究所
*2
埼玉県農林総合研究センター
*3 宮崎県総合農業試験場
Molecular Reproduction and Development, 78 (4), 263-273 (2011)
Comparison of liver mitochondrial proteins derived from newborn cloned calves and from cloned adult cattle
by two-dimensional differential gel electrophoresis
Kumiko Takeda*1, Mariko Tasai*1, Satoshi Akagi*1, Shinya Watanabe*1, Mika Oe*1, Koichi Chikuni*1
Mayumi Ohnishi-Kameyama*2, Hirofumi Hanada*3, Yoshiaki Nakamura*1, *4, Takahiro Tagami*1, Keijiro Nirasawa*1
*1
National Institute of Livestock and Grassland Science, NARO
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 Laboratory of Animal Breeding, Tokyo University of Agriculture
*4 Faculty of Agriculture, Shinshu University
動物のクローニングにおいて,ドナーの体細胞核の異常な再プログラミングが深刻な問題を引き起こすことが多い.畜牛の体細
胞核移植(SCNT)におけるタンパク質発現についての詳細な知見はないため,本研究では,SCNT 畜牛とコントロール,人工授精
で生まれた仔牛のミトコンドリアのタンパク質レベルを調査した.凍結した肝臓試料からミトコンドリア画分を調製し2D ― DIGE
を行った結果,発現量が2倍以上異なるタンパク質が認められた.同じドナー細胞から発生した個体間でタンパク質発現のパター
ンは異なったが,新規なタンパク質の発現は認められなかった.ミトコンドリアにおけるタンパク質発現量は,生き延びることが
できない SCNT 仔牛や SCNT 牛の個体間で相違があった.この結果は,SCNT 胚の発達初期にミトコンドリア関連遺伝子の発現が
欠損していることを意味し,比較プロテオミクス分析は,SCNT 動物の更なる研究のための重要なツールであることを示している.
クローン仔牛とクローン成牛における肝臓ミトコンドリアタンパク質の2次元電気泳動解析による比較
武田久美子*1,太齊真理子*1,赤木 悟史*1,渡邊 伸也*1,大江 美香*1,千国 幸一*1,亀山眞由美*2
花田 博文*3,中村 隼明*1, *4,田上 貴寛*1,韮沢圭二郎*1
*1(独)農研機構畜産草地研究所
*2(独)農研機構食品総合研究所
信州大学
東京農業大学
*3
*4
125
食品総合研究所研究報告 , 76, 51-57 (2012)
食用油の加熱によって生じる有害アルデヒド4 ― hydroxy ― 2E ― nonenal およびその類縁化合物4 ― hydroxy ― 2E ― hexenal の定量分析
箭田 浩士,亀山眞由美
(独)農研機構食品総合研究所
油の加熱によって生成する有害アルデヒド,4 ― hydroxy ― 2E ― nonenal
(4 ― HNE)および 4 ― hydroxy ― 2E ― hexenal
(4 ― HHE)を安定同位
体で標識した内部標準を用いて定量分析する方法を開発した.この方法を用いて,様々な食用油を加熱した際に生成する4 ― HNE, 4 ―
HHE量を調べた.その結果,4 ― HNEも4 ― HHEも加熱時間に応じて増加した.油の種類により4 ― HNEの生成量は5倍程度の差があり,
n ― 6系多価不飽和脂肪酸の含有量の濃度の影響が大きいと考えられた.サラダ油を繰り返し天ぷら調理に使用した場合には,4 ― HNE,
4 ― HHE共に繰り返し使用の初期にPOVの上昇に遅れて増加した.その後,4-HNEはやがて頭打ちとなりほぼ一定の値を示したが,4 ―
HHEは減少した.
Quantitative analysis of 4-hydroxy-2E-nonenal and 4-hydroxy-2E-hexenal in heated cooking oil
Hiroshi Yada and Mayumi Ohnishi-Kameyama
National Food Research Institute, NARO
日本食品科学工学会誌,59(1),6-16(2012)
釜炒り茶と煎茶の渋味の解析
松尾 啓史*1, *4,林 宣之*2,氏原ともみ*3,藤田 進*1,龍野 利宏*1,御手洗正文*4,槐島 芳徳*4
豊満 幸雄*4,木下 統*4,谷口 知博*4
*1
宮崎県総合農業試験場
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3(独)農研機構野菜茶業研究所
*4
宮崎大学
釜炒り茶と煎茶の渋味について味覚センサーを用いて比較を行ったところ,釜炒り茶は煎茶よりも渋味が少ないこと,煎茶では
蒸熱時間が長くなると渋味が緩和されることが明らかとなった.味覚センサーでの渋味推定値を目的変数,浸出液のカテキンと水
溶性ペクチン含有量を説明変数として重回帰分析を行った結果,渋味は浸出液のカテキンと水溶性ペクチン含有量で説明でき,カ
テキン含有量が多いほど,水溶性ペクチン含有量が少ないほど渋味が強くなることが判明した.浸出液のカテキンと水溶性ペクチ
ン含有量は,釜炒り茶よりも煎茶で高い結果となったが,これは釜炒り茶の製茶工程では茶葉に対して煎茶ほど揉圧が加えられな
いためと考えられた.また茶葉中の水溶性ペクチンは蒸熱時間が長くなると増加し,恒率乾燥が保たれる殺青以降の工程では明確
な増加が見られないことから,茶葉が90∼100 ℃程度に加熱される工程で増加するものと推察された.
Astringency of Kamairi-cha nad Sen-cha
Hirofumi Matsuo*1, *4, Nobuyuki Hayashi*2, Tomomi Ujihara*3, Susumu Fujita*4, Toshihiro Tatsuno*4, Masafumi Mitarai*4
Yoshinori Gejima*4, Yukio Toyomitsu*4, Osamu Kinoshita*4 and Tomohiro Taniguchi*4
*1
Miyazaki Prefectural Agricultural Research Institute
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 National Institute of Vegetable and Tea Science, NARO
*4 University of Miyazaki
126
CrystEngComm, 13, 4536-4548 (2011)
Crystal structures and chiral recognition of the diastereomeric salts prepared from 2-methoxy-2-(1-naphthyl) propanoic acid
Akio Ichikawa*1, Hiroshi Ono*2, Takuya Echigo*3, Yuji Mikata*4
*1
National Institute of Agrobiological Sciences
National Food Research Institute, NARO,
*3 Japan International Research Center for Agricultural Sciences
*4 Nara Women s University
*2
本論文は,(R)― 2 ― メトキシ ― 2 ―(1 ― ナフチル)プロパン酸[(R)― MαNP 酸,(R)― 1]と(S)― 1のそれぞれ(R)― 1 ― フェネチルア
ミン[(R)― PEA,(R)― 7]との結晶性ジアステレオマー塩の構造に関する最初の報告である.これらの結晶構造は MαNP 塩の新
規な不斉認識機構を解明する上での有用である.(R)― 1と(R)― 7から得られる溶解度の低いジアステレオマー塩8は,メトキシ基
の補助による塩橋と芳香環 CH/ π相互作用によってアンモニウム ― カルボキシレートのイオン対を形成していた.(S)― 1と(R)― 7
から得られる溶解度のより高いジアステレオマー塩9は,1 ― ナフチル基とフェニル基が重ならず,メトキシ基の補助による塩橋に
よりイオン対を形成していた.それどころか,塩9は塩橋,CH/O 水素結合とπ/π相互作用によって,接近したイオン対を形成し
ていた.これらの結晶構造はカルボキシ基とメトキシ基を含む MαNP 平面からの分子長がジアステレオマー塩の結晶化に重要で
あることを示唆している.これら両方の塩の結晶充填を弱い相互作用(塩橋,NH/O と CH/O の水素結合,芳香族 CH/ π,CH/ π,
π / π相互作用)について検討した.最後に,(S)― 2 ― メトキシ ― 2 ―(2 ― ナフチル)プロパン酸[(S)― M β NP acid,(S)― 2]と(R)― 2
それぞれの(S)― 1 ―(1 ― ナフチル)エチルアミン[(S)― 10]とのジアステレオマーアミド11と12を調製した.M β NP アミドの溶液
中の構造と分離について,NMR と HPLC で検討した.立体化学の制約がより少ないことと,長い2- ナフチル基は M β NP を MαNP
よりフレキシブルで低極性としている.酸2は酸1よりアミド11と12を分離する上で効果的であった.
2 ― メトキシー2 ―(1 ― ナフチル)プロパン酸から調製したジアステレオマー塩の結晶構造と不斉認識
市川 明生*1,小野 裕嗣*2,越後 拓也*3,三方 裕司*4
*1(独)農業生物資源研究所
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3(独)国際農林水産業研究センター
*4
奈良女子大学
Journal of Peptide Science, 17 (8), 595-600 (2011)
Increasing the hydrolysis constant of the reactive site upon introduction of an engineered Cys14-Cys39 bond into the ovomucoid
third domain from silver pheasant
Hikaru Hemmi*1, Takashi Kumazaki*2, Shuichi Kojima*3, Takuya Yoshida*4, Tadayasu Ohkubo*4, Hideyoshi Yokosawa*5
Kin-ichiro Miura*3, Yuji Kobayashi*6
*1 National Food Research Institute, NARO
Faculty of Pharmaceutical Sciences, Aomori University
*3 Department of Life Science, Faculty of Science, Gakushuin University
*4 Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Osaka University
*5 School of Pharmacy, Aichi Gakuin University
*6 Osaka University of Pharmaceutical Sciences
*2
プロテアーゼインヒビターであるキジ卵白由来オボムコイド第3ドメイン(OMSVP3)の変異体である P14C/N39C は,ホヤ由来
トリプシンインヒビターとの配列類似性を基に阻害反応部位近傍に新たに Cys14 ― Cys39のジスルフィド結合を導入した変異体であ
る.すでに,筆者等は,この変異体がより狭い阻害活性特異性を持つこと,NMR による立体構造解析から阻害活性部位を含む N
末端ループ構造のみ大きな構造変化が生じることを報告している.今回,さらに,その阻害活性特異性の変化のメカニズムを解明
するため,熱安定性及び加水分解定数についての解析を行い,野性体との比較を行った.その結果,野性体と比べ,熱安定性に変
化が見られなかったにもかかわらず,加水分解定数においては有意に上昇が見られた.従って,この変異体のように N 末端ループ
構造へのジスルフィド結合の新規導入法は,ペプチド結合加水分解阻害反応部位の熱力学解析のための有意義な方法である.
キジ卵白由来オボムコイド第3ドメイン(OMSVP3)の阻害活性部位への Cys14 ― Cys39のジスルフィド結合を
新規に導入した変異体の加水分解定数の増加
逸見 光*1,熊崎 隆*2,小島 修一*3,吉田 卓也*4,大久保忠恭*4,横沢 英良*5,三浦謹一郎*3,小林 裕次*6
*1(独)農研機構食品総合研究所
青森大学薬学部
学習院大学理学部
*4 大阪大学薬学部
*5 愛知学院大学薬学部
*6 大阪薬科大学
*2
*3
127
International Journal of Food Sciences and Nutrition, 62 (7), 671-677 (2011).
The use of summary statistics for sample size allocation for food composition surveys and an application to the potato group
Yoshiki Tsukakoshi, Akemi Yasui
National Food Research Institute, NARO
食品成分表に掲載されるようなデータの取得には,どのように分析および調査の資源を振り分けることによって,最適な配分が
達成できるかという問題がある.そこで,イモ類について,比例配分,ネイマン配分などの配分法を調べて,栄養調査における調
査精度に与える影響を調査した.
食品調査におけるサンプルサイズ配分に関する検討
塚越 芳樹,安井 明美
(独)農研機構食品総合研究所
Applied Physics Letters, 99 (1), 011913 (2011).
Surface plasmon modes guided by Ga-doped ZnO layers bounded by different dielectrics
Wasanthamala Badalawa*, Hiroki Matsui*, Akifumi Ikehata**, Hitoshi Tabata*
**
* Kwansei Gakuin University
National Food Research Institute, NARO
Ga をドープした ZnO(ZnO: Ga)膜を導波する空気とガラス面に生じる2種の表面プラズモン(SP)モードについて報告する.
leaky 波成分を持つ対称 SP モードは ZnO: Ga 膜の厚さが107 ― 141 nm の場合において空気− ZnO 界面に生じる.この結果としてガラ
ス− ZnO 界面において非対称 SP モードが残存することが確認された.有限差分時間領域(FDTD)シミュレーションによってこれ
らのモードはZnO:Ga膜の厚さによって高いカットオフを示し,界面近傍に強く閉じ込められたSP場であることが明らかとなった.
異なる誘電体に接した Ga ドープ ZnO 層によって導波される表面プラズモンモード
ワサンタマーラ・バダラワ*,松井 裕章*,池羽田晶文**,田畑 仁*
*
東京大学
**(独)農研機構食品総合研究所
Applied Spectroscopy, 66 (1), 1-25 (2012)
Far-ultraviolet spectroscopy in the solid and liquid states: A review
Yukihiro Ozaki*1, Yusuke Morisawa*1, Akifumi Ikehata*2, Noboru Higashi*3
*2
*1 Kwansei Gakuin University
National Food Research Institute, NARO
*3 KURABO Industries Ltd.,
従来の紫外可視分光の範囲より短波長の190 nm 以下の遠紫外領域は豊富な電子繊維吸収に由来する情報が豊富である.しかし
ながら吸収強度が強すぎるため,遠紫外分光はガス状態にのみ使われてきた.この問題を克服するため,我々は attenuated total
reflection(ATR)法を用いて140 ― 280 nm での液体および固体の遠紫外分光法を開発した.装置に関する詳細,水や水溶液の基礎的
特徴,有機溶媒の基礎的特徴,量子化学計算による遠紫外スペクトルの帰属,オンライン分析や,高分子材料,地質学への応用を
含む遠紫外分光法の利用について紹介する.
液体および固体の遠紫外分光法:総説
尾崎 幸洋*1,森澤 勇介*1,池羽田晶文*2,東 昇*3
*1
関西学院大学
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3
倉敷紡績株式会社
128
Journal of Near Infrared Spectroscopy, 19 (1), 55-60 (2011)
Short communication: A feasibility study using simplified near infrared imaging to detect fruit fly larvae in intact fruit
Sirinnapa Saranwong*1, Ronald Haff*2, Warunee Thanapase*3, Athit Janhiran*3, Sumaporn Kasemsumran*3, Sumio Kawano*1
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 ARS-USDA
*3 Kasetsart University
近赤外(NIR)イメージング技術によってマンゴーのミバエ汚染を調べた.産卵から0時間,24時間および48時間後に400 ―
1000 nm のハイパースペクトルデータを取得した.8個のテスト用マンゴーと8個のコントロールを比較した.反復ベイズ判別分
析ルーチンによって3つの波長帯を使用して48時間後のデータを比較したところ,偽陰性0.9 %,擬陽性5.7 %の分類結果を得た.
マハラノビス距離に基づいてミバエ汚染の状態を可視化することに成功した.
単純化された近赤外イメージング法を用いた果実のミバエ汚染検出の可能性
シリンナパー ・サランウォング*1,ロナルド ・ハフ*2,ワルニー ・タナパ*3,アチット ・ジャンヒラン*3
スマポルン ・カゼムサムラン*3,河野 澄夫*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2
米国農務省 ARS 西部研
*3 カセサート大学,
Food Science and Technology Research, 17 (3), 227-232 (2011)
Determination of crude protein in macaroni products by the combustion method and comparison with the Kjeldahl method: interlaboratory study
Akiko HAKODA*, Yusuke II*, Shigehiro NAITO**, Tadanao SUZUKI*, **, Akemi YASUI**
*1
Food and Agricultural Materials Inspection Center
** National Food Research Institute, NARO
日本農林規格(JAS 規格)で規程されたマカロニ製品の粗たん白質定量法として,燃焼法の室間再現精度を評価するために室間
共同試験を実施した.室間共同試験には14試験室が参加し,5材料(非明示2反復の5対)を国内でよく利用されている6機種で
測定した結果,併行相対標準偏差は0.16%k ∼0.53%,室間再現相対標準偏差は0.89% ∼1.1% の分析性能が得られた.HorRat(Horwitz
比)は0.25∼0.31であった.燃焼法の分析性能の結果を同じ5材料をケルダール法で定量した前報の結果と比較したところ,二つ
の方法の平均値の差は0.10%(m/m)∼0.13%(m/m)であり,これらの差は JAS 規格マカロニ製品の粗たん白質の基準値である11%
(m/m)と12%(m/m)付近の判定に大きな影響は与えない.
燃焼法によるマカロニ製品の粗たん白質定量及びケールダール法との比較:室間共同試験
箱田 晃子*,井伊 悠介*,内藤 成弘**,鈴木 忠直*, **,安井 明美**
*(独)農林水産消費安全技術センター
**(独)農研機構食品総合研究所
日本食品科学工学会誌,58(12),597-603(2011)
市田柿の品質管理への小型 MRI の応用
深井 洋一*1,田中 廣彦*2,内藤 成弘*3
*2
*1(社)長野県農村工業研究所
JA みなみ信州,*3(独)農研機構食品総合研究所
市田柿の水分分布が関係するカビ発生について新たな知見を得る目的で,予め試験品として選別した健全品とカビ発生品の水
分分布を磁気共鳴画像(MRI)法を用いて検討した.カビ発生品と健全品をスピンエコー法を用いて,0.2テスラの永久磁石と1辺
12 cm の開口部をもつ検出器を備えた小型 MRI で一緒に測定した.水分及び水分活性に有意差が認められない( p > 0.05)健全品
とカビ発生品の MR 画像では,NMR 信号の強さを MR 画像の明るさで表現した場合,両者の明るさに明瞭な違いが認められた.カ
ビ発生品は健全品よりも中果皮,内果皮ともに明るくなるが,内果皮が特に明るくなった.T1及び T2緩和時間測定の結果,MR 画
像の明るい部分では運動性の高い水が増えていた.この明るさの違いは,市田柿のへた側から尻側までのどの横断面でも見られた.
MRI は市田柿の健全品とカビ発生品の水分分布の違いを,水の運動性の違いからとらえることができたため,品質管理の手段とし
て実用化の進展が期待される.
Magnetic Resonance Imaging Applied to Quality Control of“Ichidagaki”Dried Persimmon Fruit
Yoichi Fukai*1, Hirohiko Tanaka*2, Shigehiro Naito*3
*1 Agricultural
*2
Technology Institute of Nagano Farmers' Federation
JA Minami-Shinsyu, *3 National Food Research Institute, NARO
129
Biological and Pharmaceutical Bulletin, 34(10)1648-1651(2011)
Identification and detection method for genetically modified papaya resistant to papaya ringspot virus YK strain
Kosuke NAKAMURA*1, Hiroshi AKIYAMA*1, Kiyomi OHMORI*2, Yuki TAKAHASHI*3, Reona TAKABATAKE*4
Kazumi KITTA*4, Hiroyuki NAKAZAWA*3, Kazunari KONDO*1, Reiko TESHIMA*1
*1 National Institute of Health Sciences
Chemistry Division, Kanagawa Prefectural Institute of Public Health
*3 Department of Analytical Chemistry, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Hoshi University
*4 National Food Research Institute, NARO
*2
パパイヤを主原料とする加工食品中から,未承認遺伝子組換えパパイヤ(Carica papaya Linnaeus)が検知された.パパイヤリン
グスポットウィルス YK 株の感染に対し,抵抗性を有するよう作り出された遺伝子組換えベクターのコンストラクトを同定した.
遺伝子組換えパパイヤのパパイヤ加工品中への混入の有無を定性的にモニターするために,リアルタイム PCR に基づく特異的検
知法を開発した.
パパイヤリングスポットウィルス YK 株抵抗性遺伝子組換えパパイヤの検知法開発
中村 公亮*1,穐山 浩*1,大森 清美*2,高橋 勇貴*3,高畠令王奈*4,橘田 和美*4,中澤 裕之*3
近藤 一成*1,手島 玲子*1
国立医薬品食品衛生研究所
神奈川県衛星研究所理化学部
*3 星薬科大学薬品分析化学教室
*4(独)農研機構食品総合研究所
*1
*2
Food Hygiene and Safety Science, 52 (2) 100-107 (2011)
Development and evaluation of event-specific quantitative PCR method for genetically modified soybean A2704-12
Reona TAKABATAKE*1, Hiroshi AKIYAMA*2, Kozue SAKATA*2, Mari ONISHI*3, Tomohiro KOIWA*4, Satoshi FUTO*3
Yasutaka MINEGISHI*5, Reiko TESHIMA*2, Junichi MANO*1, Satoshi FURUI*1, Kazumi KITTA*1
*1
National Food Research Institute, NARO
National Institute of Health Sciences
*3 FASMAC Co., Ltd.
*4 Food and Agricultural Materials Inspection Center
*5 NIPPON GENE, Co., Ltd.
*2
GM ダイズ系統 A2704-12の系統特異的定量分析法を開発し,試験室間共同試験による妥当性確認を実施した.A2704-12は,ゲノ
ム中に複数の pUC19由来の DNA 断片が存在することから,特異的 PCR 増幅領域として,これらの配列を用いた.pUC19を鋳型に
PCR を行ったところ非特異的な増幅が観察されたため,定量用標準プラスミドの構築には pUC19ではなく,別の汎用プラスミド
pBR322を用いた.また,本研究によって,A2704-12混入率算出の際に必要な係数である内標比を実験的に決定した.さらに,複
数の濃度の A2704-12を含む疑似混入試料を調製し,試験室間共同試験を実施したところ,本分析法の定量下限値は0.1% と見積も
られ,偏差,室間再現相対標準偏差ともに20% を下回る結果が得られた.
遺伝子組換え大豆 A2704-12系統の特異的定量 PCR 法の開発および評価
高畠令王奈*1,穐山 浩*2,坂田こずえ*2,大西 真理*3,小岩 智宏*4,布藤 聡*3
峯岸 恭孝*5,手島 玲子*2,真野 潤一*1,古井 聡*1,橘田 和美*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
国立医薬品食品衛生研究所
株式会社ファスマック
*4(独)農林水産消費安全技術センター
*5 株式会社ニッポンジーン
*2
*3
130
Food Hygiene and Safety Science, 52 (4) 265-269 (2011)
Interlaboratory validation of quantitative duplex real-time PCR method for screening analysis of genetically modified maize
Reona TAKABATAKE*1, Tomohiro KOIWA*2, Masaki KASAHARA*2, Kaori TAKASHIMA*1, Satoshi FUTO*3, Yasutaka MINEGISHI*4
Hiroshi AKIYAMA*5, Reiko TESHIMA*5, Taichi OGUCHI*1, Junichi MANO*1, Satoshi FURUI*1, Kazumi KITTA*1
*2
*1 National Food Research Institute, NARO
Food and Agricultural Materials Inspection Center
*3 FASMAC Co., Ltd.
*4 NIPPON GENE, Co., Ltd.
*5 National Institute of Health Sciences
遺伝子組換え(GM)トウモロコシ二重リアルタイム PCR 定量法に関して,試験室間共同試験により妥当性を確認した.本検知
法は,2種類の蛍光色素を利用することにより,カリフラワー・モザイク・ウイルス35S プロモーター(P35S)配列と,GA21系統
特異的配列を同時に検出可能である.本室間共同試験によって,混入率算出の際に必要となる内標比が実験的に決定された.また,
ブラインド定量試験の結果から,本分析法の定量下限値は,P35S,GA21ともに0.5% 以下と見積もられた.また,偏差および室間
再現標準偏差は,それぞれ,20% および25% を下回る結果が得られた.本法は,GM トウモロコシのスクリーニング定量分析法と
して有用である.
遺伝子組換えトウモロコシのスクリーニング分析のための定量的多重リアルタイム PCR による妥当性確認
高畠令王奈*1,小岩 智宏*2,笠原 正輝*2,高島かおり*1,布藤 聡*3,峯岸 恭孝*4,穐山 浩*5,手島 玲子*5
小口 太一*1,真野 潤一*1,古井 聡*1,橘田 和美*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2(独)農林水産消費安全技術センター
株式会社ファスマック
株式会社ニッポンジーン
*5 国立医薬品食品衛生研究所
*3
*4
Food Science and Technology Research, 17 (6) 499-504 (2011)
Immunoblotting analysis of nsLTP1 in cereal grains with antiserum raised against recombinant rice nsLTP1
Gang-hua LANG*, Yukari KAGIYA*, Mayumi OHNISHI-KAMEYAMA*, Shinichi KAWAMOTO*
Tatsuya MORIYAMA**, Kazumi KITTA*
*
National Food Research Institute, NARO
** Kinki University
Nonspecific lipid transfer protein 1(nsLTP1)は植物中に広く存在し,植物の汎アレルゲンとして認識されている.本研究において
は,大腸菌において発現させたイネ nsLTP1組換えタンパク質を,抗原としてウサギに免役することで抗血清を得た.得られた抗
血清はイネnsLTP1および他の穀物種子のnsLTP1相同タンパク質を特異的に認識した.さらに,抗血清を用いて,イネ品種間或いは,
精米によるコメ画分間の nsLTP1含量の比較を行ったところ,品種間で nsLTP1含量に大きな差異が見られた.また,nsLTP1はコメ
の外層に局在し,精米により nsLTP1含量を減少させることが可能であることを見出した.
イネ nsLTP1組換えタンパク質に対する抗体を用いた穀物種子中に存在する nsLTP1タンパク質の免疫ブロティング解析
郎 剛華*,鍵屋ゆかり*,大西(亀山)真由美*,川本 伸一*,森山 達哉**,橘田 和美*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
近畿大学
131
Journal of Agricultural and Food Chemistry, 59 (13) 6856-6863 (2011)
Practicable group testing method to evaluate weight/weight GMO content in maize grains
Junichi MANO*1, Yuka YANAKA*1, Yoko IKEZU*1, Mari ONISHI*2, Satoshi FUTO*2, Yasutaka MINEGISHI*3, Kenji NINOMIYA*4
Yuichi YOTSUYANAGI*4, Frank SPIGELHALTER*5, Hiroshi AKIYAMA*6, Reiko TESHIMA*6, Akihiro HINO*1, Shigehiro NAITO*1
Tomohiro KOIWA*7, Reona TAKABATAKE*1, Satoshi FURUI*1, Kazumi KITTA*1
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 FASMAC Co., Ltd.
*3 NIPPON GENE, Co., Ltd.
*4 Shimadzu Corporation
*5 GeneScan, Inc.
*6 National Institute of Health Sciences
*7 Food and Agricultural Materials Inspection Center
遺伝子組換えトウモロコシ掛け合わせ品種(スタック品種)の増加により,これまでに確立されている定量 PCR 法は,実際の重量
比に比べて組換え体混入率を過大に評価する傾向にある.そこで本研究では,定量 PCR 法に代わる方法としてグループテスティン
グ法を考案し,その検討を行った.グループテスティング法は,20粒の穀粒からなる複数のグループを定性分析した結果から,統計
学的に組換え体混入率を算出する方法である.この方法は,スタック品種の混入に影響を受けることなく,重量混合比で組換え体混
入率を評価することが可能である.グループテスティング法を実際の検査に利用しやすくするため,簡易なサンプル調製法とトウモ
ロコシの粗抽出液から直接分析が可能な PCR 分析条件を確立した.一連の分析法は複数試験室共同試験により妥当性が確認された.
トウモロコシ穀粒中の遺伝子組換え体混入率測定を目的とした実用的なグループテスティング法
真野 潤一*1,谷中 有香*1,池津 陽子*1,大西 真理*2,布藤 聡*2,峯岸 恭孝*3,二宮 健二*4,四柳 雄一*4
Frank SPIGELHALTER*5,穐山 浩*6,手島 玲子*6,日野 明寛*1,内藤 成弘*1,小岩 智宏*7,高畠令王奈*1
古井 聡*1,橘田 和美*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
株式会社ファスマック
株式会社ニッポンジーン
*4 島津製作所
*5 GeneScan, Inc.
*6 国立医薬品食品衛生研究所
*7(独)農林水産消費安全技術センター
*2
*3
Journal of AOAC International, 94 (5) 1540-1547 (2011)
Interlaboratory study of DNA extraction from multiple ground samples, multiplex real-time PCR, and multiplex qualitative PCR
for individual kernel detection system of genetically modified maize
Hiroshi AKIYAMA*1, Kozue SAKATA*1, Daiki MAKIYAMA*1, Kosuke NAKAMURA*1, Reiko TESHIMA*1, Akie NAKASHIMA*2
Asako OGAWA*3, Toru YAMAGISHI*4, Satoshi FUTO*5, Taichi OGUCHI*6, Junichi MANO*6, Kazumi KITTA*6
*2
*1 National Institute of Health Sciences
Hiroshima Prefectural Technology Research Institute, Health and Environment Center
*3 Yokohama Quarantine Station
*4 Kobe Quarantine Station
*5 FASMAC Co., Ltd.
*6 National Food Research Institute, NARO
穀粒,飼料,食品原材料において遺伝子組換え農産物の混入率が一定レベル以上にあった場合,多くの国において対象物への表
示が義務付けられている.我々は以前に個別の穀粒の粉砕,DNA 抽出,マルチプレックスリアルタイム PCR,マルチプレックス
定性 PCR からなる粒単位検査法を開発している.本研究では,粒単位検査法の適用性,実用性,頑健性を評価することを目的と
して,穀粒の粉砕,マルチプレックスリアルタイム PCR 及びマルチプレックス定性 PCR の試験室間共同試験を行った.日本国内
の5試験室で試料の分析を行った結果,全ての試験室で組換え体の混入とその系統の識別に関して,いずれも期待された通りの結
果が得られた.この結果から,穀粒からの DNA 抽出,マルチプレックスリアルタイム PCR,マルチプレックス定性 PCR は,スタッ
ク品種を含めた組換えトウモロコシの混入レベルの規制を目的とする試験室において利用可能である.
遺伝子組換えトウモロコシ粒単位検査法における DNA 抽出,マルチプレックスリアルタイム PCR
及びマルチプレックス定性 PCR の試験室間共同試験
穐山 浩*1,坂田こずえ*1,牧山 大樹*1,中村 公亮*1,手島 玲子*1,中島安基江*2,小川 麻子*3,山岸 亨*4
布藤 聡*5,小口 太一*6,真野 潤一*6,橘田 和美*6
*2
*1 国立医薬品食品衛生研究所
広島県立総合技術研究所保健環境センター
*3 横浜検疫所
*4 神戸検疫所
*5 株式会社ファスマック
*6(独)農研機構食品総合研究所
132
Metrologia, 49 (08002) (2012)
CCQM-K86/P113.1: Relative quantification of genomic DNA fragments extracted from a biological tissue
Philippe CORBISIER*1, Sandra VINCENT*1, Heinz SCHIMMEL*1, Anna Maria KORTEKAAS*1, Stefanie TRAPMANN*1
Malcolm BURNS*2, Claire BUSHELL*2, Müslüm AKGOZ*3, Sema AKYÜREK*3, Lu DONG*4, Boqiang FU*4, L ZHANG*4
Jing WANG*4, Melina Pérez URQUIZA*5, J L BAUTISTA*5, A GARIBAY*5, B FULLER*5, Anna BAOUTINA*6, Lina PARTIS*6
Kerry EMSLIE*6, Marcia HOLDEN*7, W Y CHUM*8, Hyong-Ha KIM*9, Nittaya PHUNBUA*10, Mojca MILAVEC*11
Jana ZEL*11, Maxim VONSKY*12, Leonid A KONOPELKO*12, T L T LAU*13, B YANG*13, M H K HUI*13, A C H YU*13
Dongkamol VIROONUDOMPHOL*14, C PRAWETTONGSOPON*14, K WIANGNON*14, Reona TAKABATAKE*15
Kazumi KITTA*15, Mamoru KAWAHARASAKI*16, Helen PARKES*2
*1
Institute for Reference Materials and Measurements (IRMM), Joint Research Centre, European Commission, Geel, Belgium
*2 LGC, Teddington, United Kingdom
*3 TÜBITAK UME, Ulusal Metroloji Enstitüsü, Gebze, Kocaeli, Turkey
*4 National Institute of Metrology P. R. China, Beijing, China
*5 Central Nacional de Metrología, Del Marqués Qro, Mexico
*6 National Measurement Institute Australia, Pymble, Australia
*7 National Institute of Standards and Technology, Gaithersburg, USA
*8 Government Laboratory Hong Kong, Kowloon, Hong Kong
*9 Korea Research Institute of Standards and Science, Daejeon, Republic of Korea
*10 Department of Medical Sciences, Nonthaburi, Thailand
*11 National Institute of Biology, Ljubljana, Slovenia
*12 D.I. Mendeleev Institute for Metrology, St Petersburg, Russian Federation
*13 Peking University, Beijing, China
*14 National Institute of Metrology Thailand, Pathumthani, Thailand 12120
*15 National Food Research Institute, NARO, Ibaraki, Japan
*16 National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Ibaraki, Japan
基幹国際比較 CCQM-K86は,遺伝子組換え(GM)トウモロコシ MON810が一定量含まれた生物試料中のゲノム DNA の二箇所の
特異的配列を利用した相対定量に関して,国家計量標準機関(NMI)および指名計量標準機関(DI)の校正・測定能力を明らかに
するため実施された.本研究は,“粉砕トウモロコシ種子試料から抽出された,単一ゲノム DNA 内に存在する70∼100ヌクレオチ
ドの長さの特定塩基配列のコピー数比を用いた定量”の測定要求事項を裏付けるものである.本研究は,物質量諮問委員会(CCQM)
のバイオアナリシスワーキンググループ(BAWG)による支援および標準物質及び計量技術研究所(IRMM)による指導の下行わ
れた.報告された11機関の結果には,良い呼応が認められた.
CCQM-K86/P113.1: 生物試料から抽出されたゲノム DNA による相対定量
Philippe CORBISIER*1,Sandra VINCENT*1,Heinz SCHIMMEL*1,Anna Maria KORTEKAAS*1,Stefanie TRAPMANN*1
Malcolm BURNS*2,Claire BUSHELL*2,Müslüm AKGOZ*3,Sema AKYÜREK*3,Lu DONG*4,Boqiang FU*4,L ZHANG*4
Jing WANG*4,Melina Pérez URQUIZA*5,J L BAUTISTA*5,A GARIBAY*5,B FULLER*5,Anna BAOUTINA*6
Lina PARTIS*6,Kerry EMSLIE*6,Marcia HOLDEN*7,W Y CHUM*8,Hyong-Ha KIM*9,Nittaya PHUNBUA*10
Mojca MILAVEC*11,Jana ZEL*11,Maxim VONSKY*12,Leonid A KONOPELKO*12,T L T LAU*13,B. YANG*13,M. H K HUI*13
A C H Yu*13,Dongkamol VIROONUDOMPHOL*14,C PRAWETTONGSOPON*14,K. WIANGNON*14,高畠令王奈*15
橘田 和美*15,川原崎 守*16,Helen PARKES*2
標準物質計測研究所(ベルギー)
*2 LGC(イギリス)
*3 トルコ科学技術研究会議国家計量標準研究所(トルコ)
*4 中国計量科学研究所(中国)
*5 国家計量研究機関(メキシコ)
*6 オーストラリア国家計量機関(オーストラリア)
*7 米国標準技術局(アメリカ)
*8 香港政府研究所(香港)
*9 韓国標準研究所(韓国)
*10 厚生省医科学局(タイ)
*11 国際生物学研究所(スロベニア)
*12 D. I. メンデレーエフ計量科学研究所(ロシア連邦)
*13 北京大学(中国)
*14 タイ国家計量標準機関
*15(独)農研機構食品総合研究所
*16(独)産業技術総合研究所
*1
133
食品総合研究所研究報告,76,17-22(2012)
Cooking and roasting effect on composition and digestibility of common bean proteins
Michiko Momma*, Keiko Sasaki**, Kiyoshi Ohba**, Seiichiro Isobe*
**
* National Food Research Institute, NARO
Hokkaido Tokachi Area Regional Food Processing Technology Center
いんげん豆蛋白質の有効利用を図るため,生餡加工,ペースト化における細胞粒子形成ならびに蛋白質組成への影響について調
べたところ,いんげん豆の全粒加熱調理により耐消化性細胞粒子が形成され,蛋白質の利用効率が低下するが,一方でペプシンに
耐性をもつレグミン塩基性サブユニットが除去されることが示された.いんげん豆主要蛋白質ファゼオリンの消化性を高めレグミ
ンの混入を防ぐことを目的に,粉砕前に焙煎処理を行った.焙煎処理によってファゼオリンはペプシン分解を受けやすくなったが,
痕跡量のファゼオリン,レクチンおよび15 kDa タンパク質の残存が見られた.焙煎粉末ではペプシン耐性蛋白質であるレグミンの
バンドは観察されなかった.本研究により,加熱処理条件による,いんげん豆調理製品の蛋白質組成ならびに消化性制御の可能性
が示唆された.
いんげん豆加工処理が耐消化性粒子の形成,蛋白質組成ならびに試験管内消化性に与える影響について
門間美千子*,佐々木香子**,大場 潔**,五十部誠一郎*
**
*(独)農研機構食品総合研究所
財団法人十勝圏振興機構食品加工技術センター
Food Chemistry, 129, 104-109 (2011)
Effect of antioxidants on heat-induced trans fatty acid formation in triolein and trilinolein
Wakako Tsuzuki
National Food Research Institute, NARO
脂質の不飽和結合における熱誘導性シスートランス異性化反応に対する抗酸化剤の効果を調べた.トリオレインやトリリノレイ
ンに,トコフェロール,ローズマリー抽出物,背差モールなどの抗酸化剤を添加して,180 ℃に加熱し,不飽和脂肪酸の熱酸化と
熱誘導性のトランス異性化の反応を GC 分析で調べた.まず,窒素気流下で,これらの油脂を加熱したところ,脂質の不飽和結合
の熱劣化とトランス異性化はほとんど進行せず,これらの反応には酸素が必要であることが示された.また,抗酸化剤を脂質に添
加すると,加熱中の脂質の不飽和結合の熱劣化とトランス異性化の両方が同時に抑制されることがわかった.添加する抗酸化剤の
種類や濃度は,熱劣化とトランス異性化の反応の進行速度に影響を与えていたが,熱劣化反応と熱誘導性のトランス異性化反応は
連動して生じることが示唆された.
トリオレインやトリリノレインの熱誘導性トランス異性化生成に対する抗酸化剤の効果
都築 和香子
(独)農業機構食品総合研究所
Food Science and Technology Research, 17 (2), 121-128 (2011)
Effects of rice properties on bread made from cooked rice and wheat flour blend
Keiko Iwashita, Keitaro Suzuki, Kanae Miyashita, Tomoya Okunishi
National Food Research Institute, NARO
小麦粉の一部を炊飯米で代替した「ごはんパン」の膨らみには,米成分ではアミロース含量が,炊飯米特性では表層の粘りが大
きく影響することがわかりました.グルテン膜にかわり糊化澱粉が観察されました.
ごはんパンにおける炊飯米特性の影響
岩下 恵子,鈴木啓太郎,宮下 香苗,奥西 智哉
(独)農研機構食品総合研究所
134
Plant and Cell Physiology, 52 (10), 1822-1831 (2011)
Allocation of absorbed light energy in PSII to thermal dissipations in the presence or absence of PsbS subunits of rice
Satoshi Ishida*, Ken-ichi Morita*1, Masahiro Kishine*2, Atsushi Takabayashi*1, Reiko Murakami*1, Satomi Takeda*3
Ko Shimamoto*4, Fumihiko Sato*1, Tsuyoshi Endo*1
*1 Kyoto University
National Food Research Institute, NARO
*3 Osaka Prefecture University
*4 Nara Institute of Science and Technology
*2
光化学系 II に吸収された光エネルギーの熱放散(TD)は,光合成における重要な光防御機構であると考えられている.TD の一
部は,PsbS サブユニットの存在に依存したエネルギー消失(qE)としてクロロフィル蛍光解析を通して検出可能である.qE によ
る TD(qE ― TD)の生理学的重要性は広く理解されているものの,吸収された光エネルギーのどの程度が qE ― TD へ分配されるかは
明らかとなっていない.本研究では,RNAi によって PsbS の発現を抑制させたイネ形質転換体を用いて,光化学系 II に吸収された
光エネルギーの分配を典型的なエネルギー分配モデルとして定量的に見積もった.PsbS の発現抑制によって,TD のうち光誘導さ
れる部分が減少した一方で,電子伝達に利用されるエネルギーは広範囲の光強度において変わりなかった.本研究におけるエネル
ギー分配モデルでは,飽和光下で30 ― 50% が qE ― TD に分配されていた.また,吸収された光エネルギーの大部分が qE に依存しな
い経路で熱放散されていることも明らかとなった.
光化学系 II に吸収された光エネルギーの熱放散への分配における PsbS サブユニットの有無の影響
石田 智*1,森田 健一*1,岸根 雅宏*1, *2,高林 厚史*1,村上 怜子*1,竹田 恵美*3,島本 功*4
佐藤 文彦*1,遠藤 剛*1
*1
京都大学
*2(独)農研機構食品総合研究所
*4
*3 大阪府立大学
奈良先端科学技術大学院大学
日本食品科学工学会誌,58(12),591-596(2011)
LAMP 法を利用したコシヒカリの高精度・迅速識別
岸根 雅宏,奥西 智哉
(独)農研機構食品総合研究所
LAMP 法を用いた簡易で迅速なコシヒカリの識別技術を開発した.コシヒカリを検出するプライマー(陽性プライマー)および
コシヒカリを除く品種を検出するプライマー(陰性プライマー)は,いもち病抵抗性遺伝子である Pi5-1とその感受性対立遺伝子の
配列を用いて作製した.陽性および陰性プライマーによる上位48品種の増幅解析の結果,両プライマーは,それぞれコシヒカリも
しくはコシヒカリ以外の品種を約90% の確度で検出可能であることが示された.また,粒サンプルからの迅速な識別を目指し,水
酸化ナトリウムを用いた極簡易 DNA 抽出法の開発も合わせて行った.簡易法で抽出した DNA は,キットで精製した DNA とほぼ
同等の LAMP 増幅を行うことが可能であった.これらの手法を組み合わせ,コシヒカリとひとめぼれ(コシヒカリ以外の品種の代
表)間における試料混入の検出を試みた結果,どちらのプライマーも1 % の混入から検出可能であることが示された.
Rapid Identification of Rice Cultivar“Koshihikari”Using Loop-mediated Isothermal Amplification (LAMP)
Masahiro Kishine, Tomoya Okunishi
National Food Research Institute, NARO
135
Applied Biochemistry and Biotechnology, 166 (7), 1781-1790 (2012)
Improved Ethanol and Reduced Xylitol Production from Glucose and Xylose Mixtures by the Mutant Strain of Candida shehatae ATCC 22984
Yuan Li, Jeung-yil Park, Riki Shiroma, Masakazu Ike, Ken Tokuyasu
National Food Research Institute, NARO
Candida shehatae ATCC 22984株からアンチマイシン A と2,3,5 ― トリフェニルテトラゾリウム クロライドを用いたスクリーニン
グにより,キシロース及びグルコースの混合物を基質とした際のキシロース発酵性が優れた変異株 Cs3512株を得た.本菌は,
121.3 g/L のキシロースから44.4 g/L のエタノールを生産し,この値は親株の成績よりも13% 高いものであった.それと同時に,副
産物であるキシリトール生産性は,親株の16.3 g/L から10.2 g/L にまで減少した.52.9 g/L のグルコースと21.2 g/L キシロースを含
む混合液を用いた場合,親株では0.39 g エタノール /g 糖質の収率だったのに対して,Cs3512株では0.42 g エタノール /g 糖質まで上
昇した.CaCCO法により水酸化カルシウムで前処理した稲わらをCs3512株により並行複発酵した結果,理論収率の77%のエタノー
ルを生成した.このように,Cs3512株はリグノセルロース系バイオマスのエタノール変換に用いるための非組換え酵母としての
潜在性が高いものと期待される.
Candida shehatae ATCC 22984の変異によるグルコース・キシロース混合物からのエタノール生産能の改良
およびキシリトール生産性の低下
李 源,朴 正一,城間 力,池 正和,徳安 健
(独)農研機構 食品総合研究所
Biomass & Bioenergy, 35 (8), 3733-3735, 2011
Contents of various sources of glucose and fructose in rice straw, a potential feedstock for ethanol production in Japan
Jeung-yil Park*1, Eiji Kanda*2, Akira Fukushima*2, Kota Motobayashi*3, Kenji Nagata*4, Motohiko Kondo*5, Yasuo Ohshita*6
Satoshi Morita*7, Ken Tokuyasu*1
*1 National Food Research Institute, NARO
National Agricultural Research Center for Tohoku Region, NARO
*3 National Agricultural Research Center, NARO
*4 National Agricultural Research Center for Western Region, NARO
*5 National Institute of Crop Science, NARO
*6 National Agricultural Research Center for Hokkaido Region, NARO
*7 National Agricultural Research Center for Kyushu Okinawa Region, NARO
*2
日本におけるバイオエタノール生産原料としての潜在性を評価するため,主要品種稲わら中の糖質成分について分析した.主要
国産品種(14品種21検体)の成熟期収穫稲わらを試験試料とした.分析した全ての試料において,セルロースやキシランなどの細
胞壁糖質に加え,易分解性糖質(グルコース,フルクトース,スクロース,澱粉,β ― 1,3 ― 1,4 ― グルカン)も顕著量(62 ― 303 g/kg)
含まれていた.易分解性糖質と細胞壁リグノセルロース部の両方から発酵性糖質を豊富に得ることができることから,稲わらはエ
タノール生産原料として有用であることが示唆された.
日本においてエタノール生産の原料となり得る稲わら中のグルコース・フルクトース供給源の含有量
朴 正一*1,神田 英司*2,福嶌 陽*2,元林 浩太*3,長田 健二*4,近藤 始彦*5,大下 泰夫*6
森田 敏*7,徳安 健*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2(独)農研機構 東北農業研究センター
*3(独)農研機構 中央農業総合研究センター
*4(独)農研機構 近畿中国四国農業研究センター
*5(独)農研機構 作物研究所
*6(独)農研機構 北海道農業研究センター
*7(独)農研機構 九州沖縄農業研究センター
136
Biomass & Bioenergy, 39, 120-127 (2012)
Sweet potato having a low temperature-gelatinizing starch as a promising feedstock for bioethanol production
Sathaporn Srichuwong*1, Takahiro Orikasa*2, Junko Matsuki*1, Takeo Shiina*1, Tooru Kobayashi*3, Ken Tokuyasu*1
*2
*1 National Food Research Institute, NARO
School of Food, Agricultural and Environmental Sciences, Miyagi University
*3 National Agricultural Research Center for Kyushu Region, NARO
新規開発されたカンショの九州159号を原料としたエタノール生産特性を,通常型のダイチノユメを用いたものと比較した.九
州159号から得た澱粉の糊化温度は,49.2 ― 66.2 ℃であったのに対して,ダイチノユメでは約20 ℃高い値(70.9 ― 85.4 ℃ )となった.
九州159号の澱粉の糊化温度が低い理由は,短鎖長のアミロペクチン側鎖の比率が高いことに起因するものと考えられた.カンショ
磨砕物(0.3 kg/L より高密度のもの.)を酵素を用いた粘性低下によって調製し,液化および並行複発酵に供した後に,液化温度に
対するエタノール生産性を評価した.その結果,九州159号では,液化温度60℃で十分なエタノール生産性を示し,15.1 ― 15.4%(v/v)
のエタノールを並行複発酵開始後48 ― 72時間目に生産(理論収率の88.8 ― 90.6%)した.それに対して,ダイチノユメでは,液化温
度90 ℃とした条件で同様の成績となった.環境負荷を考慮した場合,九州159号ではダイチノユメを用いた場合と比較して,エネ
ルギー消費及び CO2排出量を約50% 低減できるものと評価された.このように,九州159号を原料として用いることにより,エネ
ルギー効率の高いエタノール生産技術が提供できるものと考えられる.
低温糊化澱粉を有するカンショはバイオエタノール製造原料として有望である
Sathaporn Srichuwong*1,折笠 貴寛*2,松木 順子*1,椎名 武夫*1,小林 透*3,徳安 健*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2
宮城大学食産業学部
*3(独)農研機構 九州沖縄農業研究センター
Bioresource Technology, 102, 11183-11188, 2011
Efficient conversion of sugarcane stalks into ethanol employing low temperature alkali pretreatment method
Wu Long*1, Yuan Li*1, Mitsuhiro Arakane*1, Masakazu Ike*1, Masahisa Wada*2, Yoshifumi Terajima*3, Shoko Ishikawa*4, Ken Tokuyasu*1
*1 National Food Research Institute, NARO
Graduate School of Agricultural and Life Sciences, University of Tokyo
*3 Japan International Research Center for Agricultural Sciences
*4 National Agricultural Research Center for Kyushu Okinawa Region, NARO
*2
サトウキビ茎部を原料としたバイオエタノール製造プロセスの評価を行った.本プロセスは,サトウキビ茎部搾汁後のバガスを,
低温アルカリ(LTA)前処理及び酵素糖化を行って得られる糖液と,茎部搾汁液とを混合し,エタノール発酵を行うものである.
2 kg のサトウキビ生茎を搾汁して得られたバガスについて,LTA 前処理後,市販酵素製剤(セルラーゼ製剤及びβ ― グルコシダー
ゼ製剤)によって糖化反応を行った.この時,比較的少量酵素での72時間糖化反応にて,前処理バガス中セルロースからのグルコー
ス変換率は98% であった.糖化反応で得られた糖液と,サトウキビ茎部搾汁液とを混合し,Saccharomyces cerevisiae NBRC 0224を
用いてエタノール発酵を行った結果,混合液中の発酵性糖質は速やかにエタノールに変換され,12時間で193.5 ml のエタノールが
得られた.サトウキビ茎部の糖液とセルロース中のヘキソース総量から換算すると,88% のエタノール収率であった.本プロセス
では,茎部に含まれるヘキソース分のほぼ全量を利用し,効率的にエタノールに変換することが可能である.
低温アルカリ前処理法によるサトウキビ茎部の効果的エタノール転換
武 龍*1,李 源*3,荒金 光弘*1,池 正和*1,和田 昌久*2,寺島 義文*3,石川 葉子*4,徳安 健*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
東京大学大学院農学生命科学研究科
*3(独)国際農林水産業研究センター
*4(独)農研機構 九州沖縄農業研究センター
*2
137
Bioresource Technology, 102, 4793-4799, 2011
Low temperature alkali pretreatment for improving enzymatic digestibility of sweet sorghum bagasse for ethanol production
Wu Long*1, Mitsuhiro Arakane*1, Masakazu Ike*1, Masahisa Wada*2, Tomoyuki Takai*3, Mitsuru Gau*3, Ken Tokuyasu*1
*1 National Food Research Institute, NARO
Graduate School of Agricultural and Life Sciences, University of Tokyo
*3 National Agricultural Research Center for Kyushu Okinawa Region, NARO
*2
我々は,エタノール製造において,リグノセルロースバイオマスの酵素糖化効率を向上する低温アルカリ(LTA)前処理法を提
唱した.LTA 前処理が,スウィートソルガムバガスの構造・組成及び酵素糖化性に与える効果について検討した.前処理により,
僅かにグルカンを損失したものの,バガス中の大部分のリグニンとキシランが除去された.また,特定の前処理条件下において,
セルロース結晶構造が変化した.処理したバガスの糖化性は格段に向上し,市販酵素(セルラーゼ製剤及びβ ― グルコシダーゼ製
剤)での24時間の糖化反応において98 %のグルカン糖化率が達成された.また,BMR 変異体バガスは,非 BMR 株と比較して前処
理効果が高く,より高い酵素糖化性を得ることができた.
エタノール生産のためのスウィートソルガムバガス低温アルカリ前処理による酵素消化性向上
武 龍*1,荒金 光弘*1,池 正和*1,和田 昌久*2,高井 智之*3,我有 満*3,徳安 健*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
東京大学大学院農学生命科学研究科
*3(独)農研機構 九州沖縄農業研究センター
*2
Bioresource Technology, 102, 6502-6507, 2011
DiSC (direct saccharification of culms) process for bioethanol production from rice straw
Jeung-yil Park*, Masakazu Ike*, Mitsuhiro Arakane*, Riki Shiroma*, Yuan Li*, Yumiko Arai-Sanoh**
Motohiko Kondo**, Ken Tokuyasu*
*
**
National Food Research Institute, NARO
National Institute of Crop Science, NARO
本研究では,易分解性糖質(SCs:グルコース,フルクトース,スクロース,澱粉,β ― 1,3 ― 1,4 ― グルカン)を多く含む稲わら稈
部を原料とした,エタノール製造 DiSC(稈部直接糖化)法を構築した.本法は,SCs 含有量が高い稲わら稈部を風力選別により分
離・回収し,アミラーゼによる液化反応後,並行複発酵によりエタノール生産を行うものである.リーフスター(乾重あたりのヘ
キソース含量69.2 %(SCs 及びセルロース由来))を原料とした例では,風力選別により SCs 回収率83.1% で稈部濃縮画分が分離さ
れ(重量回収率54.1%),20% 固形分濃度における稈部画分の液化・並行複発酵(24時間)を経て,5.6%(w/v)のエタノールを得た.
本法は,SCs を多く含む稲わらから,熱・化学的前処理を行うことなく比較的高濃度のエタノール発酵液を得ることができること
から,前処理や蒸留に係るコストの大幅低減に繋がる.
稲わらからのバイオエタノール生産のための DiSC(稈部直接糖化)法
朴 正一*,池 正和*,荒金 光弘*,城間 力*,李 源*,荒井(三王)裕見子**,近藤 始彦**,徳安 健*
*(独)農研機構食品総合研究所
**(独)農研機構 作物研究所
International Journal of Food Science and Technology, 46 (12), 2628-2633 (2011)
Effect of debranching and heat-moisture treatment on the properties of Thai rice flours
Prajongwate Satmalee*, **, Junko Matsuki**
*
Institute of Food Research and Product Development, Kasetsart University, Thailand
** National Food Research Institute, NARO
高アミロースおよび低アミロースのタイ米を用いて,米粉の難消化性澱粉(RS)含量の増加を試みた.プルラナーゼ処理およ
び湿熱処理により米粉の粘度特性が変化し,剪断安定性が増加したことが示された.SEM 観察から,米粉の外観には変化は認め
られなかった.本処理により,高アミロース米粉の緩消化性澱粉(SDS)含量は増加し,低アミロース米粉の RS 含量は11.6% から
18.3% まで増加した.澱粉の構造を保持しつつ RS の増加と粘度特性の改善が可能であることが示された.
枝切りおよび湿熱処理がタイ米の米粉の澱粉特性に及ぼす影響
Prajongwate Satmalee*, **,松木 順子**
*
タイ国カセタート大学
**(独)農研機構食品総合研究所
138
Journal of Bioscience and Bioengineering, 111 (6), 682-686 (2011)
Bioethanol production from rice straw by a sequential use of Saccharomyces cerevisiae and Pichia stipitis
with heat inactivation of Saccharomyces cerevisiae cells prior to xylose fermentation
Yuan Li, Jeung-yil Park, Riki Shiroma, Ken Tokuyasu
National Food Research Institute, NARO
稲わらからの効率的バイオエタノール生産システムの構築に向けて,新たな発酵戦略を提案した.本戦略では,グルコースとキ
シロースの混合物を Saccharomyces cerevisiae(Sc)および Pichia stipitis(Ps)を順次添加する方法を提案しており,Ps の添加前に熱
処理を行い Sc を不活性化することを特徴とする.条件検討の結果,50 ℃で6時間の Sc 不活性化処理によって,高いキシロース発
酵性が観察された.本法を適用した合成培地での発酵試験では,理論収率の85% の収率が得られた.同時に,副産物となるキシリ
トールの生成量が対照試験での値と比較して42.4% 低減した.水酸化カルシウム前処理・炭酸ガス中和後の稲わらを用いた並行複
発酵試験では,80時間でグルコースおよびキシロースが消失し,10%(w/w)の前処理稲わらを用いた結果,21.1 g/L のエタノール
(理論収率の72.5%)の生成を記録した.本法は,大規模での遺伝子組換え菌使用が制限させる地域でのリグノセルロース系エタ
ノール生産に役立つものと期待される.
キシロース発酵前に Saccharomyces cerevisiae を熱失活させることを特徴とする,Saccharomyces cerevisiae
および Pichia stipitis の連続使用による稲わらからのバイオエタノール製造
李 源,朴 正一,城間 力,徳安 健
(独)農研機構食品総合研究所
Starch/Stärke, 64 (6), 452-460 (2012)
Effect of lime treatment and subsequent carbonation on gelatinization and saccharification of starch granules
Junko Matsuki, Jeung-yil Park, Riki Shiroma, Masakazu Ike, Kazutaka Yamamoto, Ken Tokuyasu
National Food Research Institute, NARO
モデル物質としてイネ胚乳澱粉を用いて,水酸化カルシウム処理および二酸化炭素中和が澱粉粒の糊化および糖化特性に及ぼす
影響について解析した.水酸化カルシウムの濃度が上昇するに従い,DSC 糊化温度は顕著に上昇し,糊化エンタルピーは減少した.
カルシウムイオンの架橋によって澱粉粒が安定化するとともに,水素結合の切断が起きていると考えられた.この効果は水酸化カ
ルシウム濃度9% 程度で頭打ちとなった.穏やかな温度処理を施すことで,糊化は促進された.温度処理によって水素結合の切断
が促進され,カルシウムイオンが結合できる水酸基が増加したと考えられた.水酸化カルシウム処理後に50 ℃ 24時間の温度処理
を経て二酸化炭素中和をすることで,温度処理しないときに比べて糖化率を1.9倍まで上昇させることができた.澱粉と繊維質の
共存する原料から効率的にグルコースを回収する際に応用できるものと期待される.
水酸化カルシウム処理および二酸化炭素中和が澱粉の糊化および糖化特性に及ぼす影響
松木 順子,朴 正一,城間 力,池 正和,山本 和貴,徳安 健
(独)農研機構食品総合研究所
農業施設,42(3),100-108(2011)
バイオエタノール蒸留廃液の成分特性と圃場還元利用のポテンシャル
谷 昌幸*,加藤 拓*,宮竹 史仁*,小池 正徳*,徳安 健**
*
帯広畜産大学 地域環境学研究部門
**(独)農研機構 食品総合研究所
小麦,テンサイ,サトウキビ廃糖蜜からのバイオエタノール製造時に副生する蒸留廃液について,圃場還元による有効利用の可
能性を検討するため,肥料成分,着色成分の解析,ポット試験による作物生産に及ぼす影響解析等を行った.肥料成分の濃度や質
は原料の影響が強く反映された.蒸留廃液は易分解性有機物に富み土壌中で速やかに分解されたが,液体画分中の着色成分や溶存
腐植物質は,原料や製法の影響を受けることが示唆された.ホウレンソウのポット試験では,化学肥料施肥区と比較して,地上部
および地下部の乾燥重量,並びに地上部の抗酸化活性に大きな差は見られなかった.
Physico-Chemical Properties of Distillation Wastes from Bio-Ethanol Production and their Potential for Arable Land Application
Masayuki Tani*, Taku Kato*, Fumihito Miyatake*, Masanori Koike*, Ken Tokuyasu**
*
Department of Agro-Environmental Science, Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine
** National Food Research Institute, NARO
139
食品総合研究所報告,76,1-7(2012)
澱粉の糊化と酵素処理が米蛋白質の溶解性に与える影響
矢野 裕之*1, *2,竹内 正彦*3,加藤(江森)澄恵*4,我妻 義則*5,田口 計哉*6,岡澤 由晃*6
西澤 賢一*3,黒田 秧*2, *7
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2(独)農研機構作物研究所
*3(社)長野県農村工業研究所
*4 トキタ種苗株式会社
わがつまこどもクリニック
*6 長野興農株式会社
*7(独)農研機構生物系特定産業技術研究支援センター
*5
米デンプンの糊化と,その後のアミラーゼおよびプロテアーゼ処理が蛋白質の挙動に与える効果を解析した.前報では,米粉に
加水・加熱し糊化させた後,アミラーゼ処理で液化した糖化液を遠心すると,上清には蛋白質がほとんど含まれないことを報告し
た.本研究では,糖化液をさらにプロテアーゼ処理し,遠心後の上清にやはり蛋白質がほとんど含まれないことを SDS ― PAGE で
確認した.また,糖化液に含まれる蛋白質の36 %がアミノ酸として,アミノ酸とペプチドを併せると63 %が上清に回収されるこ
とがわかった.本報は極低蛋白質・低アレルゲンでアミノ酸,糖類に富む食品原料を開発するための予備研究に位置づけられる.
Influence of starch gelatinization and the following enzymatic treatments on the solubility of rice protein
Hiroyuki Yano*1, *2, Masahiko Takeuchi*3, Sumie Kato-Emori*4, Yoshinori Wagatsuma*5, Keiya Taguchi*6, Yoshiaki Okazawa*6
Kenichi Nishizawa*3, Shigeru Kuroda*2, *7
*1
National Food Research Institute, NARO
National Institute of Crop Science, NARO
*3 Agriculture and Technology Institute of Nagano Farmers
*4 Research Station, Tokita Seed Co., Ltd.
*5 Wagatsuma Pediatricand Allergy Clinic
*6 Nagano Kono Co., Ltd.
*7 Bio-oriented Technology Research Advancement Institution, NARO
*2
日本食品化学学会誌,18(2),103-109(2011)
イムノプロテオミクス手法を用いたソバ IgE 結合タンパク質の網羅的検出
佐藤 里絵*,中村 里香**,手島 玲子**
*(独)農研機構食品総合研究所
**
国立医薬品食品衛生研究所
イムノプロテオミクスの手法を用いることにより,ソバに含まれる IgE 結合タンパク質の網羅的検出(アレルゲノーム解析)を
行った.ソバ種子より塩可溶性タンパク質を抽出し,一次元及び二次元電気泳動により分離した後,ソバアレルギー患者血清を用
いたイムノブロットを行った.その結果,一次元イムノブロット解析により,数種類のIgE結合タンパク質の存在が示された.また,
二次元電気泳動とプロテオミクスの手法を組み合わせたアレルゲノーム解析の結果,既知アレルゲンである Fag e 1や,新規 IgE 結
合タンパク質を含む複数のスポットが検出された.検出されたスポットのうち,いくつかは新規な13S グロブリンタンパク質サブ
ユニットあるいはアイソフォームであった.また,ビシリン様タンパク質と相同性を持つスポットが検出されたことから,新規ビ
シリン様タンパク質の存在が示唆された.これらの結果から,今回のアレルゲノーム解析により得られた情報は,ソバの網羅的
IgE 結合タンパク質マップの構築に貢献するだけでなく,ソバの様々な品種における IgE 結合タンパク質のバリエーションを検出
する際にも有用であると期待できる.
Proteomic identification of IgE-binding proteins in buckwheat
Rie Satoh*, Rika Nakamura**, Reiko Teshima**
*
National Food Research Institute, NARO
National Institute of Health Sciences
**
140
Food Chemistry, 132 (2), 865-872 (2012)
Antioxidant behavior of carotenoids highly accumulated in HepG2 cells.
Irwandi JASWIR, Miyuki KOBAYASHI, Toshie KOYAMA, Eiichi KOTAKE-NARA, Akihiko NAGAO
National Food Research Institute, NARO
主要な食品カロテノイドについて,HepG2ヒト肝細胞内に高濃度で集積した状況下における抗酸化挙動を α ― トコフェロー
ルと比較検討した.報告されているヒト肝臓の蓄積量より高い濃度でカロテノイドと α ― トコフェロールを細胞内に蓄積させ,
tert- ブチルヒドロペルオキシドに暴露し酸化ストレスを負荷した.β ― カロテン(>2.6 nmol/mg タンパク)とアスタキサンチン
(>1.8 nmol/mg タンパク)は有意に脂質過酸化を抑制したが,β ― クリプトキサンチンとルテインは抑制しなかった.α ― トコフェ
ロールは顕著に脂質過酸化を抑制し,その IC50値は0.16 nmol/mg タンパクであった.リコペン以外のカロテノイド及び α ― トコフェ
ロールは高濃度領域においてプロオキシダント作用を示さなかった.細胞内でのカロテノイドの抗酸化挙動はリポソームや均一溶
液系で報告されているものとは顕著に異なっていた.培養細胞で見いだされた抗酸化挙動がヒトの健康へどのような関わりがある
かについては今後の研究が必要であろう.
HepG2細胞内に集積した高濃度カロテノイドの抗酸化挙動
Irwandi JASWIR,小林みゆき,小山 寿恵,長尾 昭彦
(独)農研機構食品総合研究所
食品総合研究所研究報告,76,59-66(2012)
食品害虫サイトの大幅改訂による訪問者のアクセス行動の変化
曲山 幸生,七里 与子,宮ノ下明大,今村 太郎,和田 有史,増田 知尋
(独)農研機構食品総合研究所
2010年6月から3か月間実施したウェブアンケートの結果を受けて,2010年11月に食品害虫サイトを大幅に改訂した.この改訂
では,各ページに共通メニューを設け,訪問者が食品害虫サイトに存在する情報を見つけやすくした.また,ページごとに関連情
報へのリンクを設けて,訪問者が興味を持ちそうな情報が他にもあることを示した.この改訂の前後でアクセス解析結果を比較し
たところ,図鑑から他のページへ誘導される訪問者が増加し,図鑑以外のページの閲覧数が増えていた.この結果から,食品害虫
サイトの利便性が向上し,図鑑以外の有用な情報を掲載したページの存在に気づきやすくなったと考えられる.また,検索キー
ワードに図鑑関係以外の単語も現れてきているので,改訂後の食品害虫サイトは図鑑への依存度が低下してきたと考えられる.
Changes in Access Behavior of Visitors to Food-Insect Site after a Large Revision
Yukio Magariyama, Kumiko Shichiri, Akihiro Miyanoshita, Taro Imamura, Yuji Wada, and Tomohiro Masuda
National Food Research Institute, NARO
Biocontrol Science 16 (2), 79-83 (2011)
Decontamination Effect of Milling by Jet Mill on Bacterium in Rice Flour
Itaru Sotome, Daisuke Nei, Masuko Tsuda, Mohammed Sharif Hossen, Makiko Takenaka, Hiroshi Okadome, Seiichiro Isobe
National Food Research Institute, NARO
ジェットミルにより粉砕された米粉の一般生菌数を測定した.平均粒径が100から 3 um へと小さくなるにしたがい,米粉中の一
般生菌数は減少し,原料米粒中の菌数が玄米および精米でそれぞれ約 6 および5 Log10 CFU/g であったものが,平均粒径 3 um の米
粉では約 4 および 3 Log10 CFU/g に減少した.粉砕中に試料が受けた温度および圧力変化は小さく微生物の生存に影響を及ぼして
いないと考えられ,米粉中の生菌数は粉砕後の分級などにより減少した可能性があると考えられた.
ジェットミルによる粉砕工程の米粉中の細菌に対する除染効果
五月 女格,根井 大介,津田 升子,モハメド ・シャリフ ・ホッセン,竹中真紀子,岡留 博司,五十部誠一郎
(独)農研機構食品総合研究所
141
Bioscience Biotechnology and Biochemistry, 75 (7), 1240-1244 (2011)
Identification of 2,4 ― dihydroxy ― 2,5 ― dimethyl ― 3 (2H) ― thiophenone as a low ― molecular ― weight yellow pigment in soy sauce
Miki Satoh*, Yuri Nomi*, Masatsune Murata*, Shinji Yamada*, Makiko Takenaka**, Hiroshi Ono**
**
* Ochanomizu Univercity
National Food Research Institute, NARO
醤油の色は主に Maillard 反応によって生成したメラノイジンによると考えられる.しかし,メラノイジンは高分子量の不均一な
ポリマーであるため , メラノイジンの化学構造は解明できない.著者らは醤油から低分子量の色素を単離し,醤油の色全体に対す
るその寄与は極めて低いが,2,4 ― ジヒドロキシ ― 2,5 ― ジメチル ― 3(2H)― チオフェンを Maillard 反応によって生成したこの色素とし
て同定した.
醤油の低分子量黄色色素としての2,4 ― ジヒドロキシ ― 2,5 ― ジメチル ― 3(2H)― チオフェンの同定
佐藤 美紀*,能見 祐理*,村田 容常*,山田 真司*,竹中真紀子**,小野 裕嗣**
*
お茶の水女子大学
**(独)農研機構食品総合研究所
Japan Journal of Food Engineering(日本食品工学会誌),12(1),29-35(2011)
Effect of Particle Size of Different Crop Starches and Their Flours on Pasting Properties
Md. Sharif Hossen*, **, Itaru Sotome*, Makiko Takenaka*, Seiichiro Isobe*, **, Mitsutoshi Nakajima*, **, and Hiroshi Okadome*
**
* National Food Research Institute, NARO
Graduate school of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba
本研究では微粉砕が米,小麦,トウモロコシ,馬鈴薯,甘藷及びキャッサバ等デンプンの糊化特性に与える影響を明らかにした.
微粉砕前では粒子の平均粒径やデンプンの糊化特性は作物によって異なった.しかし,微粉砕回数の増加とともに粉末の平均粒径
は全ての作物で減少し(10μm 未満),それらの粉末は類似の糊化特性を示した.また大きいデンプン粒を含む市販の粉末ほど微
粉砕後では損傷デンプンの割合が高かった.
The effect of particle size reduction on the pasting properties of rice, wheat, corn (maize), potato, sweet potato,
and cassava starches was elucidated. Before pulverizing, the mean particle size and the pasting properties of the starches differed by crop.
With increased pulverizing, the mean particle size decreased in all flours (to <10 μm) and the pasting properties converged.
Commercial flours containing the larger starch granules have the higher starch damage after pulverization.
Md. シェリフ ・ホッセン*,五月 女格*,竹中真紀子*,中嶋 光敏*, **,五十部誠一郎*, **,岡留 博司*
**
*(独)農研機構食品総合研究所
筑波大学大学院生命環境科学研究科
Phytotherapy Research,
Bile acid-binding ability of Kaki-tannin from young fruits of persimmon in vitro and in vivo
Kenji Matsumoto*1, Shinichiro Yokoyama*2, Akio Kadowaki*3, Natsumi Ozaki*3, Nobuki Gato*3, Makiko Takenaka*4, Hiroshi Ono*4
*2
*1 Ishikawa Prefectural Univercity
Gifu Prefectural Research Institute for Bioengineering
*3 Nakano BC Co. Ltd.
*4 National Food Research Institute, NARO
柿未成熟果の胆汁酸結合能について調べた.高脂肪食と柿未成熟果乾燥粉末を10週間与えられたマウスは有意に胆汁酸排泄が
促進され,中性脂肪と血漿コレステロール濃度が下がった.また,in vitro での柿未成熟果の胆汁酸結合能測定では,100 ― 2000 μM
の胆汁酸水溶液において1%の柿未成熟果乾燥粉末は約60%の胆汁酸を吸着したのに対し,柿成熟果は約20%の胆汁酸を吸着した.
柿未成熟果から得られた粗タンニン抽出物は54.7% のタンニンを含んでおり,2000 μM の胆汁酸水溶液において約78% の胆汁酸を
吸着した.
in vivo と in vitro における柿の未熟果由来の柿タンニンの胆汁酸結合能
松本 健治*1,横山慎一郎*2,門脇 昭夫*3,尾崎なつみ*3,我藤 伸樹*3,竹中真紀子*4,小野 裕嗣*4
*1 石川県立大学
岐阜県生物工学研究所
*3 中野 BC 株式会社
*4(独)農研機構食品総合研究所
*2
142
日本食品科学工学会誌,58(11),537-541(2011)
ヤーコンの16品種・系統間のポリフェノール含有量等の特性評価
竹中真紀子*,七山 和子*,井上 栄一**
*(独)農研機構食品総合研究所
**
茨城大学 農学部
ヤーコンの品種・系統間の各種特性を比較し,健康増進への寄与が期待できる食品として有望な品種・系統を見出すことを目的
として,2カ年分の3品種および13系統のヤーコンの塊根および塊茎に含まれるポリフェノール化合物の含有量を中心に各種特性
を評価した.3品種のうち‘サラダオトメ’および‘サラダオカメ’は塊根のポリフェノール含有量が多かった.16品種・系統の
うち‘ペルー1’,
‘ペルー3’および‘ペルー4’は特に塊茎のポリフェノール含有量が多く,
‘CIP205029’は糖含量が最も多かっ
た.ヤーコンの同一品種・系統の塊根および塊茎のポリフェノール含有量には正の相関が認められた.
Evaluation of Polyphenol Content and Other Properties of 16 Cultivars/Strains of Yacon
Makiko Takenaka*, Kazuko Nanayama* and Eiichi Inoue**
*
National Food Research Institute, NARO
** Ibaraki University
Food Science and Technology Research, 18 (1), 7-15, 2012
Application of nanofiltration to recover benzoic acid from cranberry juice
Dat Quoc LAI*1, *2, Nobuhiro TAGASHIRA*3, Shoji HAGIWARA*1, Mitsutoshi NAKAJIMA*4
Toshinori KIMURA*2 and Hiroshi NABETANI*1
*1 National Food Research Institute, NARO
Graduate School of Agricultural Science, Hokkaido University
*3 Aohata Corporation
*4 Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba
*2
クランベリー・果汁に含まれる余剰の安息香酸をナノろ過による回収の可能性を検討した.
まず,ナノろ過膜のスクリーニングとして,市販のナノろ過膜を使用してクランベリー果汁の安息香酸と他の成分(糖類,有機
酸)の阻止率を調査した結果,HC50,NFT50,G5,Desal-DK,DRA4510,UTC60と NTR7250を含む7種類の膜が有効であった.
これらの膜では安息香酸と他の成分(糖類,他の有機酸(クエン酸,リンゴ酸とキナ酸)とアントシアニン)の阻止率には40%
以上の差があり,クランベリー果汁から安息香酸の分離ができる可能性が示された.さらに,供給液の pH を調整した際のろ過特
性も評価した.pH を4.5に調整すると , 安息香酸の阻止率は負となり,ナノろ過膜を選択的に透過することが明らかになった.
以上より,クランベリー果汁からナノろ過膜を使用して安息香酸を選択的に分離できることが示された.
ナノろ過膜のクランベリー果汁からの安息香酸の回収への応用
ライ ・クオック ・ダット*1, *2,田頭 伸洋*3,萩原 昌司*1,中嶋 光敏*4,木村 俊則*2,鍋谷 浩志*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
北海道大学大学院農学院
*3 アオハタ株式会社
*4 筑波大学生命環境科学研究科
*2
日本食品科学工学会誌,58(5),208-215(2011)
活性酸素種による DNA 分子切断と食物由来の天然抗酸化剤によるその制御作用
高橋 真介*, **,柳内 延也*, **,塩谷 茂信*, **,遠藤 準也**,萩原 昌司*,鍋谷 浩志*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
東海物産株式会社
次亜塩素酸ラジカル,水酸化ラジカルおよび過酸化亜硝酸ラジカルに過酸化水素を加えた4種の活性酸素種(ROS)に対する食
品由来の各種天然抗酸化剤の抗参加活性を,DNA 分解抑制作用を指標として評価した.次亜塩素酸ラジカルに対しては,チキン
エキスから得られたイミダゾールジペプチドであるアンセリン ― カルノシンが,水酸化ラジカルに対してはフェルラ酸が,そして
過酸化亜硝酸ラジカルに対してはビタミン C とイミダゾールジペプチドが高い抗酸化性をしました.また,過酸化水素に対しては
試験した抗酸化剤の中ではイミダゾールジペプチドが最も高い抗酸化性を示した.
The degradation of DNA molecules by reactive oxygen species and the protective activity of naturally occurring antioxidants drived from foods
Masayoshi Takahashi*, **, Nobuya Yanai*, **, Shigenobu Shiotani*, **, Jyunya Endo**, Shoji Hagiwara*, Hiroshi Nabetani*
*
National Food Research Institute, NARO
** Tokai Bussan Co. Ltd.
143
Biotechnology Progress, 27 (6), 1785-1792 (2011)
The potential of spatially resolved spectroscopy for monitoring angiogenesis in the chorioallantoic membrane
Eva Verhoelst*1, Flip Bamelis*1, Bart De Ketelaere*1, Nghia Nguyen Do Trong*1
Josse De Baerdemaeker*1, Wouter Saeys*1, Mizuki Tsuta*2, Eddy Decuypere*3
*1
BIOSYST -MeBioS K. U. Leuven, Belgium, *2 National Food Research Institute, NARO
*3 BIOSYST -Livestock-Nutrition-Quality, K. U. Leuven, Belgium
本研究では,ニワトリ絨毛尿膜の変化を非破壊でモニタリングする手法の検討を行った.空間分解分光装置を構築し,これを用
いて抱卵時間や炭素過剰及び通常条件の違いが血管新生に及ぼす影響の計測を試みた.胎生期10,13,16日目にニワトリ絨毛尿膜
を直接計測し,その反射スペクトルを得た.その結果,血液の特徴的なスペクトルパターンが観察され,胎生期が進むにつれ血液
量が増加すること,また反射スペクトルが光源 - 検出器距離の違いによって有意に異なることが明らかとなった.しかしながら,
炭素過剰及び通常条件下で抱卵した試料に有意な差は観察されなかった.
空間分解分光法によるニワトリ絨毛尿膜における血管新生モニタリングの可能性
ヴァーホルスト ・エヴァ*1,バメイユ ・フリップ*1,デ ケートラール ・バート*1,ングエン ・ド ・トロング ンギャ*1
デ ・バエルデマエカー ・ジョス*1,サイズ ・ウォーター*1,蔦 瑞樹*2,デキュイペール ・エディ*3
*1
ルーヴェンカトリック大学 メビオス部門(ベルギー),*2(独)農研機構食品総合研究所
*3 ルーヴェンカトリック大学 家畜栄養品質部門(ベルギー)
Biotechnology Progress, 75 (7), 1312-1316 (2011)
Predicting the buckwheat flour ratio for commercial dried buckwheat noodles based on the fluorescence fingerprint
Mario Shibata*1, Kaori Fujita*1, Junichi Sugiyama*1, Mizuki Tsuta*1, Mito Kokawa*2, Yoshitane Mori*3, Hiroshi Sakabe*3
*2
*1 National Food Research Institute, NARO
Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo
*3 Food and Agricultural Materials Inspection Center
蛍光指紋と PLS 回帰分析を用いて迅速にそば乾麺のそば粉割合を推定する手法を開発した.
蛍光指紋データとそば粉実測値データに PLS 回帰を適用して得られたキャリブレーションモデルをバリデーションセットに適用
した結果,バリデーションセットの当てはまりは R 二乗値=0.78,SEP =12.4% であった.さらに添加物を含むサンプルを除外し
てより当てはまりの良いモデルを探索したところ,酢,緑茶,海藻,増粘多糖類および山芋を含むサンプルを除外したモデルが
R 二乗値=0.84,SEP =10.4% とバリデーションセットに対して最も当てはまりが良かった.このことは,当てはまりの良いキャ
リブレーションモデルは,サンプル組成が類似したデータセットを用いて構築した場合に得られることを示していると考えられ
た.本手法は複雑な前処理が必要なく,少量のサンプルで迅速な計測が可能であることから食品産業への応用が期待される.
蛍光指紋による市販そば乾麺のそば粉割合推定
柴田真理朗*1,藤田かおり*1,杉山 純一*1,蔦 瑞樹*1,粉川 美踏*2,森 良種*3,坂部 寛*3
*1(独)農研機構食品総合研究所
東京大学大学院農学生命科学研究科
*3 独立行政法人農林水産消費安全技術センター本部横浜事務所
*2
Journal of Food Engineering,105 (4), 617-624 (2011)
Prediction of optimal cooking time for boiled potatoes by hyperspectral imaging
Nghia Nguyen Do Trong*, Mizuki Tsuta**, Bart M. Nicolaï *, Josse De Baerdemaeker*, Wouter Saeys*
*
BIOSYST -MeBioS K. U. Leuven, Belgium
National Food Research Institute, NARO
**
本研究では,400 ― 1000 nmにおけるハイパースペクトルイメージング,ケモメトリクスおよび画像解析の組み合わせによる,ジャ
ガイモの調理境界の非接触検出の可能性を検討した.部分最小二乗判別分析により,未調理および調理済みの領域における反射ス
ペクトルを判別した.次に,画像解析により,部分最小二乗判別により得られた画像における調理境界を検出した.調理境界を検
出した画像から,未調理領域のジャガイモ断面全体に占める割合を算出した.最後に,調理時間と未調理領域割合の関係をモデル
化し,最適な調理時間を推定した.本研究の結果より,ハイパースペクトルイメージングによるジャガイモ調理業界における工程
モニタリングの可能性が示唆された.
ハイパースペクトルイメージングによるゆでジャガイモの最適調理時間推定
ングエン ・ド ・トロング ・ンギャ*,蔦 瑞樹**,ニコライ ・バート*,デ ・バエルデマエカー ・ジョス*,サイズ・ウォーター*
*
ルーヴェンカトリック大学 メビオス部門(ベルギー)
**(独)農研機構食品総合研究所
144
日本食品科学工学会誌,58(5),196-201(2011)
粥状に糊化処理した米を添加したパンの粘弾性および気泡構造
柴田真理朗*,杉山 純一*,蔡 佳瓴 *,蔦 瑞樹*,藤田かおり*,粉川 美踏**,荒木 徹也**
**
*(独)農研機構食品総合研究所
東京大学大学院農学生命科学研究科
糊化させた米のパンの品質への影響を評価するため,小麦粉パン,米粉パンに加え,糊化させた米粉を添加したパン(糊化米粉
パン),お粥を加えたパン(お粥パン)を調製し,それぞれの形状,粘弾性係数,および気泡パラメータを計測した.
(1)お粥パンが最も膨張し,糊化米粉パンも小麦粉と同等に膨張したことから,糊化処理した米の添加によってパンの膨張が促
進されることが分かった.
(2)糊化させた米を添加したパンは,小麦粉,米粉パンより粘弾性が低い,つまり柔らかいことがわかった.
(3)4種類のパン試料の気泡構造は同一であったことから,粘弾性の差は気泡壁(固相)の違いに依るものと推察された.
以上より,糊化処理をした米粉または米の配合が15 %の場合,グルテンなどの品質改良剤や,特別な前処理なしで従来の小麦
粉100 %のパン,または米粉パンより膨張性が良く,柔らかい食感を持つパンを調製することが可能であることが確認された.
Viscoelastic Properties and Air-bubble Structure of Bread Containing Gelatinized Rice Porridge
Mario Shibata*, Junichi Sugiyama*, C. L. Tsai**, Mizuki Tsuta*, Kaori Fujita*, Mito Kokawa*, Tetsuya Araki**
**
* National Food Research Institute, NARO
Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo
日本食品科学工学会誌,58(8),375-381(2011)
蛍光指紋による小麦粉中のデオキシニバレノールの非破壊計測
藤田かおり,蔦 瑞樹,杉山 純一,久城 真代,柴田真理朗
(独)農研機構食品総合研究所
蛍光指紋を用いて人工的に Fusarium 感染させた小麦を粉砕した小麦粉中のデオキシニバレノール(DON)濃度の推定を行った.
DON濃度の推定式作成にはPLS回帰分析を用い,小麦粉の蛍光指紋からDON濃度を推定する回帰式を作成した.
(1)キャリブレー
ション群およびバリデーション群における推定精度は決定係数 R2=0.990と R2=0.983であり,残差も SEC =1.1 ppm,SEP =1.4
ppm と大きくは異ならなかった.(2)キャリブレーション群における PLS 回帰係数の絶対値は,励起波長240 ― 400 nm/ 蛍光波長500
― 600 nm の波長範囲において比較的大きいことから,上記波長条件が DON 濃度推定に寄与していると推定された.
(3)DON 検知
には迅速性が求められるため,計測時間の短縮を目的に上記波長条件における蛍光指紋のみに PLS 回帰を適用した.その結果バリ
デーションデータの推定精度は,R2=0.977,SEP =1.6と全波長条件を用いた場合と大きく変わらず推定可能であることが明らか
となった.以上のことから,蛍光指紋により,迅速かつ非破壊で小麦粉の DON 濃度の推定が可能であることが示された.
Non-destructive Measurement of Deoxynivalenol in Wheat Flour Using Fluorescence Fingerprinting
Kaori Fujita, Mizuki Tsuta, Junichi Sugiyama, Masayo Kushiro, Mario Shibata
National Food Research Institute, NARO
Biotechnology and Biochemistry, 75 (11), 2112-2118 (2011)
Visualization of gluten and starch distributions in dough by fluorescence fingerprint imaging
Mito Kokawa*, **, Kaori Fujita**, Junichi Sugiyama**, Mizuki Tsuta**, Mario Shibata**, Tetsuya Araki*, Hiroshi Nabetani*, **
*
Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo
** National Food Research Institute, NARO
本研究では,蛍光指紋測定とイメージング技術を組み合わせた新たな手法を開発し,染色等の前処理を行わずに小麦粉生地中の
グルテンとデンプン分布を可視化することに成功した.蛍光指紋を構成する63の波長条件を用いて小麦粉生地,グルテン,および
デンプンの薄片化試料を撮像し,各画素の蛍光指紋データを得た.小麦粉生地画像における各画素の蛍光指紋と,グルテンまたは
デンプンの蛍光指紋のコサイン類似度を計算し,コサイン類似度の値に応じて各画素を色付けすることにより,グルテンおよびデ
ンプンの分布を示す疑似カラー画像を得た.また,本手法による可視化結果と同サンプルを蛍光染色した結果を比較したところ,
類似した分布パターンが見られ,可視化手法の妥当性が示された.本手法は食品工学分野以外にも応用が期待される.
蛍光指紋イメージングによる小麦粉生地中のグルテン・デンプン分布の可視化
粉川 美踏*, **,藤田かおり**,杉山 純一**,蔦 瑞樹**,柴田真理朗**,荒木 徹也*,鍋谷 浩志*, **
*
東京大学大学院農学生命科学研究科
**(独)農研機構食品総合研究所
145
Journal of Cereal Science, 55, 15-21 (2012)
Quantification of the distributions of gluten, starch and air bubbles in dough at different mixing stages by fluorescence fingerprint imaging
Mito Kokawa*, **, Kaori Fujita**, Jun ichi Sugiyama**, Mizuki Tsuta**, Mario Shibata**, Tetsuya Araki*, Hiroshi Nabetani*, **
*
Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo
** National Food Research Institute, NARO
蛍光指紋測定とイメージング技術を組み合わせた可視化手法を開発し,小麦粉生地中のグルテンとデンプンの分布を可視化し
た.小麦粉生地は,ミキシング不足,最適ミキシング,ミキシング過剰,の3段階のものを用意した.蛍光指紋を構成するすべて
の波長条件にて,3段階の試料の蛍光画像を取得し,各画素の蛍光指紋に対して,グルテンとの類似度,及び,デンプンとの類似
度に応じた色を当てはめた.さらに,気泡に当たる部分を黒色でマスキングした.結果として得られた画像では,グルテン,デン
プン,及び,気泡の分布が見られた.各ミキシング段階につき,グルテンとデンプンの分布の均一さ,及び,気泡領域に関するパ
ラメータを抽出し,ミキシングに伴いグルテンとデンプンの分布が均一になること,気泡の量が増えることを示した.
蛍光指紋イメージングによる異なるミキシング段階における小麦粉生地中のグルテン・デンプン・気泡分布の可視化と定量
粉川 美踏*, **,藤田かおり**,杉山 純一**,蔦 瑞樹**,柴田真理朗**,荒木 徹也*,鍋谷 浩志*, **
*
東京大学大学院農学生命科学研究科
**(独)農研機構食品総合研究所
Analytical Sciences, 28 (1), 61-64 (2012)
Gold nanoparticles as localization markers for direct and live imaging of particle absorption through a caco-2 cell
monolayer using dark-field microscopy.
Toshiro Kobori*, Jun Watanabe*, Hidenobu Nakao**
*
National Food Research Institute, NARO
National Institute for Materials Science
**
近年,食品素材の腸管吸収効率を向上させることを目的として食品の超微細化が試みられているものの,その多くについては吸
収機構が明らかになっていない.そこで本論文では,微細粒子と腸管細胞の相互作用を解析するため,暗視野顕微鏡を用いた生細
胞観察技術を開発した.散乱強度の強い金粒子を用いることにより腸管モデルである Caco-2細胞の相互作用を非染色,生細胞で可
視化する条件を最適化した.これにより,金粒子を食品微細粒子に内包することにより光学限界よりも小さな粒子であっても直接
可視化できる可能性が示唆された.
金粒子をマーカーとした暗視野顕微鏡による Caco-2生細胞−粒子間相互作用のイメージング
小堀 俊郎*,渡辺 純*,中尾 秀信**
*(独)農研機構食品総合研究所
**
物質・材料研究機構
Biochemistry, 51 (1), 32-42
Evaluation of Temperature Effect on the Interaction between β -Lactoglobulin
and Anti- β -lactoglobulin Antibody by Atomic Force Microscopy
Jun ichi Wakayama, Shigeru Sugiyama
National Food Research Institute, NARO
抗体抗原相互作用のような分子識別は,動力学のパラメーターおよびエネルギーランドスケープにより規定される.そこで,異
なる温度において,原子間力顕微鏡(AFM)を使用し,25度,35度,45度において実験を行った.その結果,以下の情報が得られた.
(1)ア ン バ イ ン デ ィ ン グ 力 は 温 度 が 上 昇 す る に つ れ て 減 少 し た .(2)そ れ ぞ れ の 温 度 で, 解 離 プ ロ セ ス に お い て, β ―
lactoglobulin ― antibody complex では少なくとも2つのエネルギーバリアが存在する.(3)温度の上昇とともに,解離速度は温度が
上昇するにつれて増大した.
若山 純一,杉山 滋
(独)農研機構食品総合研究所
146
Journal of Food Science, 77 (1), N2-N7 (2011)
Ultrastructural Analysis of Buckwheat Starch Components Using Atomic Force Microscopy
Suresh Neethirajan*, Kazumi Tsukamoto**, Hiroko Kanahara**, Shigeru Sugiyama**
**
* University of Gulf
National Food Research Institute, NARO
ソバのデンプン粒子を原子間力顕微鏡と動的光散乱を使用して解析した.部分的に消化した澱粉粒子では中心にコアを有する極
めて明瞭な成長リング状が観察された.また,原子間力顕微鏡と動的光散乱による解析詳細な解析では,ソバ澱粉は多角形であり,
直径は2∼19 μm であった.さらに,酸加水分解によって球状の120から200 μm の長さで,直径が 4 から30 nm のナノクリスタルも
構造が観察された.
Suresh Neethirajan*,塚本 和己**,金原 浩子**,杉山 滋**
*
グエルフ大学
**(独)農研機構食品総合研究所
Microscopy and Microanalysis, 17 (4) (2011)
Karyotype Analysis of Buckwheat Using Atomic Force Microscopy
Suresh Neethirajan*, Tamaki Hirose**, Junichi Wakayama**, Kazumi Tsukamoto**, Hiroko Kanahara** and Shigeru Sugiyama**
**
* University of Guelph
National Food Research Institute, NARO
原子間力顕微鏡(AFM)により普通ソバ(F. esculentum)及びダッタンソバ(F. tartaricum)の核系判別を行った.ダッタンソバの
染色体は,根端の細胞を採取しサンプルとした.
乾燥させた普通ソバ及びダッタンソバの高さは,それぞれ350 nm及び150 nmであっ
た.普通ソバ及びダッタンソバのメタフェーズセットの容積の推定は,3次元 AFM 測定により行った.その計算の結果,普通ソ
バにおいては1.08 ― 2.09 μm3,ダッタンソバでは0.49 ― 0.78 μm3であった.
Suresh Neethirajan*,廣瀬 玉紀**,若山 純一**,塚本 和己**,金原 浩子**,杉山 滋**
*
グエルフ大学
**(独)農研機構食品総合研究所
Scanning 34, 186-190 (2012)
Karyotyping of Barley Chromosomes by a New Fluorescence Banding Technique Combined with Scanning Probe Microscopy
Shigeru Sugiyama*, Tomoyuki Yosino**, Tamaki Hirose*, Toshio Ohtani*
*
National Food Research Institute, NARO
** Hiroshima Prefectural University
オオムギは,7つの染色体を持つが,そのうちの4つがほぼ同じサイズであり,判別が極めて困難であった.そこで,蛍光バン
ド法は,染色体の判別において良く使われる手法であるが,オオムギ染色体においては,これまで適用されてこなかった.そこで,
本研究では,染色体を暖かい酢酸溶液で処理し,その後,YOYO-1による染色を行ったところ,それぞれの染色体に特徴的な蛍光
バンドが現れ,すべてのオオムギ染色体の判別を簡便に行うことができた.蛍光染色した染色体の表面を原子間力顕微鏡で走査し
たところ,蛍光バンド部位は概ね平坦であった.即ち,このことは,それぞれの染色体において内部 DNA の密度がほぼ同等であ
ることを示唆するものかもしれない.
新規蛍光バンド法と走査型プローブ顕微鏡の組み合わせにによるオオムギ染色体の核径判別
杉山 滋*,吉野 智之**,廣瀬 玉紀*,大谷 敏郎*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
県立広島大学
147
Biomass & Bioenergy, 37, 188-195 (2012)
A techno-economic and environmental evaluation of the life cycle of bioethanol produced from rice straw by RT-CaCCO process
Poritosh Roy*, Ken Tokuyasu*, Takahiro Orikasa**, Nobutaka Nakamura*, Takeo Shiina*
**
* National Food Research Institute, NARO
School of Food, Agriculture and Environmental Sciences, Miyagi University
ライフサイクルアセスメント手法を用いて,コシヒカリの稲わらからの酵素糖化法によるバイオエタノール(BE)生産につい
て解析した.3つのシナリオを設定し,日本国内での稲わらからの BE 生産について,純エネルギー使用量(NEC),CO2排出量,
コストを指標として解析し,BE の環境負荷の低減効果,経済性を評価した.3つのシナリオに基づく解析の結果,NEC は10.43∼
11.56 GJ/m3,CO2排出量は1106.34∼1144.94 kg/L-Ethanol,88.54∼137.55 千円/m3と試算された.BE 生産にかかわる技術革新と再
生可能エネルギー導入促進施策の充実は,BE 生産による環境負荷低減効果の拡大と低コスト化において不可欠であると考えられ
た.
RT-CACCO 法による稲わらからのバイオエタノール生産に関する技術経済的および環境影響に関する評価
Poritosh Roy*,徳安 健*,折笠 貴寛**,中村 宣貴*,椎名 武夫*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
宮城大学食産業学部
Colloids and Surfaces A: physicochemical and Engineering Aspect, 361, 31-37 (2010)
Evidence of the existence and the stability of nano-bubbles in water
Fernanda Yumi Ushikubo*, Takuro Furukawa*, Ryou Nakagawa*, Masatoshi Enari*, Yoshio Makino*, Yoshinori Kawagoe*
Takeo Shiina**, Seiichi Oshita*
*
Graduate School of Agriculture, University of Tokyo
** National Food Research Institute, NARO
動的光散乱によりバブル処理水を観察したところ,バブル処理に純酸素ガスを用いた場合には数日間,空気を用いた場合には1
時間未満,それぞれナノ粒子の存在が確認された.マンガンイオン含有条件でマイクロ・ナノバブルを導入した水を NMR により
観察したところ,スピン−格子緩和時間が延長され,マンガンイオンを吸着する気液界面が存在することを示した.また,バブル
処理水のζポテンシャル測定の結果,酸素マイクロ・ナノバブル導入水では−45∼−34m V,空気バブル導入水では−20∼17mV
であり,酸素マイクロ・ナノバブル処理水では安定的な荷電粒子が存在することを示した.これらの結果から,酸素マイクロ・ナ
ノバブル処理水では,数日間にわたって安定的なナノバブルが存在する可能性が高いと考えられた.
水中におけるナノバブルの存在証左と安定性
フェルナンダ・ユミ・ウシクボ*,古川 琢郎*,中川 亮*,江成 雅俊*,牧野 義雄*,川越 義則*
椎名 武夫**,大下 誠一*
*
東京大学大学院農学生命科学研究科
**(独)農研機構食品総合研究所
148
Food Preservation Science, 37 (6), 273-282 (2011)
Influence of impact stress on the postharvest physiological and chemical properties of cabbage heads
Manasikan Thammawong*, Tomoko Kaneta*, Nobutaka Nakamura*, Makoto Yoshida**, Ayaka Soga**, Takeo Shiina*
*
**
National Food Research Institute, NARO
Kanagawa Agricultural Technology Center
バルクでの荷扱いを想定し,物理的ストレスのうちの落下衝撃が,キャベツの生理的,化学的特性に及ぼす影響について検討
した.適期収穫したキャベツを,10,20,40,80 cm の高さから水平コンクリート床に自由落下させ,その後,20 ℃に6日間保存
し,保存中の呼吸速度,糖含量(スクロース,グルコース,フラクトース,およびそれらの合計としての全糖)を経時的に測定し
た.キャベツの呼吸速度は,落下処理直後に上昇し,その程度は,落下高さが大きいほど顕著であった.その後,呼吸速度は低下
し,落下処理1日後には,対照区(落下処理無し)のそれとの間に,有意な差は見られなくなった.フラクトースと全糖は,保存
1,3日後にやや低下し,6日後には顕著な低下が見られ,80 cm,40 cm から落下処理したキャベツで最も低い値を示した.すな
わち,落下処理による生理的,化学的な影響として,呼吸速度の上昇と,糖含量の低下があることが示された.一方,落下処理後
に,20 ℃,CA 環境下に保存したキャベツにおいては,呼吸速度の上昇と糖含量の減少が抑制されたことから,CA 環境条件によっ
て落下ストレスによる生理的な損傷が低減されるものと考えられた.以上の結果から,収穫後のキャベツにおいて,落下処理は,
処理直後の呼吸速度の上昇と,保存中の糖含量の減少を引き起こすこと,その影響が落下高さに依存すること,さらに,CA 環境
を含めた適切な環境の維持によりストレスの軽減と品質劣化の抑制が可能であることが示された.
衝撃ストレスが収穫後キャベツの生理的・化学的特性に及ぼす影響
Manasikan Thammawong*,兼田 朋子*,中村 宣貴*,吉田 誠**,曽我 綾香**,椎名 武夫*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
神奈川県農業技術センター
Household and Personal Care today, n2/2011, 13-15 (2011)
Evaluation of a novel soybean oil-based surfactant for fine emulsion preparation
Qingyi Xu*1, Mitsutoshi Nakajima*2, Zengshe Liu*3, Nobutaka Nakamura*1, Takeo Shiina*1
*2
*1 National Food Research Institute, NARO
Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba
*3 NCAUR/ARS/USDA
大豆油由来界面活性剤による,微細エマルション作製について検討した.大豆油をエポキシ化することで得られた Porazengs
R-004は,水中油滴(O/W 型)微細エマルションの作製と安定化に極めて効果的であった.油対水の比が20:80の混合液に R-004
を添加して超音波ホモジナイザにより処理したところ,R-004濃度が0.04,0.08,0.2 %では,それぞれ,平均粒子径が1.41,1.04,
0.61 um のエマルションが得られた.油の量を10,20,30,40 %としたところ,濃度が低いほど平均粒径が小さいものの,40 %に
おいても平均粒径1.29 um の微細エマルションを作成することができた.
大豆油由来界面活性剤による微細エマルション作製に関する評価
許 晴怡*1,中嶋 光敏*2,Zengshe Liu*3,中村 宣貴*1,椎名 武夫*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*3
*2 筑波大学大学院
米国農務省農業部国立農業利用研究センター
International Journal of Environmental Research and Public Health, 8, 1957-1976 (2011)
Processing conditions, rice properties, health and environment
Poritosh Roy*, Takahiro Orikasa**, Hiroshi Okadome*, Nobutaka Nakamura*, Takeo Shiina*
**
* National Food Research Institute, NARO
School of Food, Agriculture and Environmental Sciences, Miyagi University
パーボイルドライス,玄米,発芽玄米,歩搗き米,精白米のそれぞれの水飯米について,加工方法が水飯米特性および健康,環境に
及ぼす影響について検討した.玄米,歩搗き米は,精白米に比べて健康に有益な成分含量が多く含まれる.搗精程度などの加工方法も
水飯米のヒ素含量に影響を及ぼすものの,パーボイルドライスにおけるそれに比べて,かなり影響度が小さい.加工方法に応じて水飯
米のライフサイクルCO2は大きく異なり,喫食パターンを変えることによって,温室効果ガスの削減が可能であることが示された.
米の加工方法,水飯米特性,健康および環境負荷について
Poritosh Roy*,折笠 貴寛**,岡留 博司*,中村 宣貴*,椎名 武夫*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
宮城大学 食産業学部
149
Japan Agricultural Research Quarterly, 46 (1), 41-57 (2012)
A Review of life cycle assessment (LCA) of bioethanol from lignocellulosic biomass
Poritosh Roy*, Ken Tokuyasu*, Takahiro Orikasa**, Nobutaka Nakamura*, Takeo Shiina*
**
* National Food Research Institute, NARO
School of Food, Agriculture and Environmental Sciences, Miyagi University
リグノセルロースバイオマスを原料とするバイオエタノールのライフサイクルアセスメント研究を調査し,エネルギーバラン
ス,環境負荷,コストの視点を重視することで,バイオエタノールの環境負荷低減効果と社会経済的メリットについて論じた.バ
イオエタノールの温室効果ガス削減効果については,ほとんどの解析事例で正の効果が示されている.一方,バイオエタノールの
コストについては,使用する原料,採用するプロセス,配分方法,プラント規模などの違いで,解析事例の間で大きな違いが見ら
れた.酵素のオンサイト生産は,環境負荷およびコストの大きな割合を占めることから,両者の削減のため,今後の研究開発が期
待される.また,価値の高い副産物生産についても期待される.
リグノセルロースバイオマスを原料とするバイオエタノールのライフサイクルアセスメント
Poritosh Roy*,徳安 健*,折笠 貴寛**,中村 宣貴*,椎名 武夫*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
宮城大学食産業学部
Journal of Environmental Management, 93, 218-224 (2011)
Life cycle of meats: An opportunity to abate the greenhouse gas emission from meat industry in Japan
Poritosh Roy*, Takahiro Orikasa**, Manasikan Thammawong*, Nobutaka Nakamura*, Qingyi Xu*, Takeo Shiina*
**
* National Food Research Institute, NARO
School of Food, Agriculture and Environmental Sciences, Miyagi University
日本国内で生産される主要な3種の食肉(鶏肉,豚肉,牛肉)について,ライフサイクル CO2を算出し,相互比較した.その結果,
単位精肉質量あたりの CO2排出量は,鶏肉,豚肉,牛肉で,それぞれ,6.0,6.9,35.6 kg CO2-eq/kg であった.また,単位タンパク
質当たりでは,鶏肉<豚肉<<牛肉であったが,単位エネルギー当たりでは,豚肉<鶏肉<牛肉となった.現在の食肉の喫食量(全
エネルギーの10 % )および喫食パターン(鶏肉:36.6 %,豚肉:43.9 %,牛肉:19.5 % )から,喫食量を WHO の推奨値である現
在量の1/4程度に減らす(全エネルギーの2.2)ことで,54,00,000 t-CO2-eq/year の温室効果ガスの削減が可能と試算された.
食肉の LCA −日本における食肉産業からの CO2排出量削減の可能性−
Poritosh Roy*,折笠 貴寛**,Manasikan Thammawong*,中村 宣貴*,許 晴怡*,椎名 武夫*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
宮城大学食産業学部
Journal of Miyagi University, School of Food, Agricultural and Environmental Sciences, 5 (1), 35-42 (2011)
Analysis of changes in moisture content and L-ascorbic acid of sweet potatoes during hot air drying
Takahiro Orikasa*1, Takeo Shiina*2, Akio Tagawa*3
*1
School of Food, Agriculture and Environmental Sciences, Miyagi University
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 Graduate School of Horticulture, Chiba University
30,40,50および60 ℃の温度条件下において,サツマイモの熱風乾燥を行い,サツマイモ乾燥試料の含水率変化および L- アス
コルビン酸変化について調査した.含水率変化は指数モデルおよび拡散方程式の無限平板モデルにより解析され,両モデルより得
られた計算値と測定値は良く一致した.含水率モデルより得られた拡散係数には,アレニウス型の温度依存性が認められた.熱風
乾燥過程における L- アスコルビン酸変化は1次反応に従うことが示され,サツマイモの熱風乾燥過程における L ― アスコルビン酸
分解の活性化エネルギーは48.8 kJ mol-1と算定された.
宮城大学紀要,5(1),35-42(2011)
サツマイモの熱風乾燥における含水率および L ― アスコルビン酸の変動解析
折笠 貴寛*1,椎名 武夫*2,田川 彰男*3
*1
宮城大学食産業学部
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3
千葉大学大学院園芸学研究科
150
日本食品科学工学会誌,58(7),284-290(2011)
ジャガイモのブランチングにおけるカリウム溶出およびマイクロ波の適用
安藤 泰雅*1,折笠 貴寛*2,椎名 武夫*3,五月 女格*3,五十部誠一郎*3,村松 良樹*4,田川 彰男*1
千葉大学大学院園芸学研究科
*2 宮城大学食産業学部
*3 農研機構食品総合研究所
*4 東京農業大学生物産業学部
*1
熱湯ブランチング過程におけるカリウム溶出現象の解析を行った結果,熱湯浸漬過程における円柱状試料のカリウム含量変化に
は拡散方程式の無限円筒モデルが適用され,拡散係数の値には Arrhenius 型の温度依存性が確認された.また,最適なブランチン
グ条件の把握を目的とし,ジャガイモのブランチングに熱湯浸漬,マイクロ波およびマイクロ波・熱湯併用法を適用して酵素活性,
力学特性,カリウム残存率について検討した.
Leaching Losses of Potassium during Soaking in Hot Water and Application of Microwave for Blanching Potatoes
Yasumasa Ando*1, Takahiro Orikasa*2, Takeo Shiina*3, Itaru Sotome*3, Seiichiro Isobe*3, Yoshiki Muramatsu*4, Akio Tagawa*1
*2
*1 Graduate school of Horticulture, Chiba University
Department of Environmental Sciences School of Food, Agriculture and Environmental Sciences, Miyagi University
*3 National Food Research Institute, NARO
*4 Department of Food Science and Technology, Faculty of Bioindustry, Tokyo University of Agriculture
根の研究,21(1),11-16(2012)
アスパラガスの1年株における貯蔵根 Brix 値測定法の提案
北澤 裕明*1,元木 悟*2,山崎 篤*3,浦上 敦子*4
*1(独)農研機構食品総合研究所
*3
*2 長野県野菜花き試験場
農研機構東北農業研究センター
*4 農研機構野菜茶業研究所
アスパラガスの貯蔵根 Brix 値は若茎の品質や収量性を左右するとされているが,その測定方法は産地により様々であり,統一化
が望まれる.そこで,1年株を対象に根株における貯蔵根 Brix 値の分布と変動を調査するとともに,測定に用いる貯蔵根からの搾
汁を容易に採取する手段として,凍結・解凍による貯蔵根の軟化処理について検討した.その結果,定植から若茎の収穫終了まで
間,30 cm長の貯蔵根の鱗芽基部から10 cmの範囲におけるBrix値が根株全体の平均値をほぼ反映することが明らかとなった.また,
貯蔵根をそのまま搾って測定した場合と凍結・解凍を経た後に搾って測定した場合とでは,測定値に大きな変化が生じないことも
確認できた.以上の結果に基づき,1年株における貯蔵根 Brix 値の調査方法として,30 cm 長の貯蔵根の鱗芽基部から10 cm の範
囲より根サンプルを採取し,凍結・解凍を経た後に測定する手順を提案した.
A newly proposed protocol for measuring the Brix value of the storage root of 1-year-old asparagus
Hiroaki Kitazawa*1, Satoru Motoki*2, Atsushi Yamasaki*3, Atsuko Uragami*4
*1 National Food Research Institute, NARO
Nagano Vegetable and Ornamental Crops Experiment Station
*3 National Institute of Tohoku Agricultural Research Center
*4 National Institute of Vegetable and Tea Science
*2
151
日本作物学会紀事,81(1),77-82(2012)
マメ類の連作圃場における活性炭の施用がダイズの生育および収量性に及ぼす影響
元木 悟*1,西原 英治*2,北澤 裕明*3,久徳 康史*4,上原 敬義*5,矢ヶ崎和弘*1,酒井 浩晃*1,重盛 勲*1
長野県野菜花き試験場
*2 鳥取大学農学部
*3(独)農研機構食品総合研究所
*4 自治医科大学
*5 長野県農業試験場
*1
ダイズを0,1,2,3および5年間作付けした土壌を採取し,レタスの幼苗による成長検定を行ったところ,1年以上作付けし
た土壌は,生育阻害活性を有することが明らかとなった.その際,活性炭添加による生育阻害の軽減効果は連作年数の増加により
小さくなったことから,生育阻害活性は連作年数の増加に伴い上昇するものと考えられた.一方,供試土壌において理化学性の異
常や病害の発生は認められなかったことから,ダイズにおける連作障害の一因としてアレロパシーの関与が示唆された.以上の結
果を踏まえ,マメ類連作圃場への活性炭の施用がダイズの生長に及ぼす影響を,「タチナガハ」,「エンレイ」,「玉大黒」,「小真木
ダダチャ」および「夏の声」の5品種を用いて調査した.その結果,「タチナガハ」,「玉大黒」および「夏の声」では,活性炭の
施用により,マメ類の連作に起因する収量性の低下が軽減された.
Effect of Activated Carbon Application on the Growth and Yield of Soybean in the Field of Continuous Beans Cropping
Satoru Motoki*1, Eiji Nishihara*2, Hiroaki Kitazawa*3, Yasushi Kyutoku*4, Takayoshi Uehara*5, Kazuhiro Yagasaki*1
Hiroaki Sakai*1, Isao Shigemori*1
*1
Nagano Vegetable and Ornamental Crops Experiment Station
*2 Faculty of Agriculture, Tottori University
*3 National Food Research Institute, NARO
*4 Jichi Medical University
*5 Nagano Agricultural Experiment Station
Applied and environmental microbiology, 77 (3): 1021-1032 (2011)
Modeling of pathogen survival during simulated gastric digestion
Shige Koseki, Yasuko Mizuno and Itaru Sotome
National Food Research Institute, NARO
実際の消化過程を想定した実験系で人工胃液を種々の食事パターンに対応させて分泌させ,その過程における食中毒細菌の死滅
挙動を解明した.さらに得られた実験結果から,食事パターンに応じた食中毒細菌の生残予測を可能とする数理モデルを開発した.
人工消化過程における病原菌の死滅モデルの開発
小関 成樹,水野 康子,五月 女格
(独)農研機構食品総合研究所
Carbohydrate Polymers, 87 (1), 314-321 (2012).
Effect of temperature on gelatinization and retrogradation in high hydrostatic pressure treatment of potato starch–water mixtures
Kiyoshi Kawai*1, Ken Fukami*2 and Kazutaka Yamamoto*3
*1
Graduate School of Biosphere Science, Hiroshima University, *2 San-ei Sucrochemical Company Limited
*3 National Food Research Institute, NARO
馬鈴薯澱粉 - 水混合物(10 ― 70%,w/w)の高静水圧処理(HHP:400 ― 1000 MPa)における糊化及び老化に及ぼす温度(20 ― 70 ℃ )
の影響を調べた.HHP 処理澱粉の糊化エンタルピー変化(ΔHgel)及び老化結晶部分の再糊化エンタルピー変化(ΔHretro)を示差
走査熱量計で評価した.10 ― 20% 試料の ΔHgel は圧力及び温度の増加により減少したが,30 ― 50% 試料では温度に依存して圧力増
加とともに一定値にまで低下した.高温高圧条件では,10 ― 40% 試料では ΔHgel が零に到達したが,50 ― 70% 試料ではしなかった.
HHP 処理した20 ― 60% 試料において老化が観測されたが,ΔHretro は澱粉含量,圧力,温度で異なった.ΔHretro の値は,澱粉含量
が高い程高い傾向があった.更に,老化は,HHP 処理を低温で行うと促進された.20 ― 70 ℃での馬鈴薯澱粉 - 水混合物(10 ― 70%)
の HHP 処理(400 ― 1000 MPa)における糊化及び老化挙動は,一連の状態図としてまとめられた.
馬鈴薯澱粉‐水混合物の高静水圧処理における糊化及び老化に及ぼす温度の影響
川井 清司*1,深見 健*2,山本 和貴*3
*1
広島大学大学院生物圏科学,*2 サンエイ糖化株式会社
*3(独)農研機構食品総合研究所
152
Journal of Cereal Science, 54 (2), 229-235 (2011).
Effects of two novel Wx-A1 alleles of common wheat (Triticum aestivum L.) on amylose and starch properties
Makoto Yamamori* and Kazutaka Yamamoto**
*
National Institute of Crop Science, NARO
National Food Research Institute, NARO
**
フツウコムギ(Triticum aestivum L.)は三種の Wx タンパク質(Wx-A1, Wx-B1, Wx-D1)を有し,これらは澱粉粒結合性澱粉合成
酵素 I であり,アミロース合成に関与している.二つの新規タンパク質 Wx-A1をゲル電気泳動で同定し,そのアミロース含量及び
澱粉特性に及ぼす影響を解析した.対立遺伝子 Wx-A1i でコードされる変異型 Wx-A1タンパク質は,Wx-A1a 対立遺伝子を持つ標
準系統よりも少量存在し,アミロース含量は,標準系統(21.5%)と比べて7.3% と少なかった.Wx-A1i 遺伝子により澱粉の特性は
変化し,膨潤力,グルコアミラーゼ消化性,糊透明性,示差走査熱量分析における糊化エンタルピー変化がいずれも増加した.ま
た,Wx-A1i 系統の澱粉では,ラピッドビスコアナライザーにおける糊化特性も変化し,高いピーク粘度,低い最終粘度,低い糊
化温度を示した.Wx-A1i 対立遺伝子は,小麦のアミロース含量を低下させる新規な遺伝資源であり,Wx-A1j 対立遺伝子でコード
される他の Wx-A1タンパク質は,電気泳動ゲル上で Wx-A1a よりも塩基性の等電点を示した.Wx-A1j 系統は,標準系統 Wx-A1a と
アミロース含量の差は見られなかった.澱粉の膨潤力,糊透明性,グルコアミラーゼ消化性においても,Wx-A1j 系統は Wx-A1a
系統と同程度のアミロースを生産していることを示唆した.
フツウコムギ(Triticum aestivum L.)の二つの新規対立遺伝子 Wx-A1がアミロース及び澱粉特性に及ぼす影響
山守 誠*,山本 和貴**
*(独)農研機構作物研究所
**(独)農研機構食品総合研究所
Journal of Food Protection, 74 (4), 176-187 (2011)
Modeling and predicting the simultaneous growth of Listeria monocytogenes and natural flora in minced tuna
Shigenobu Koseki*, Yoshiko Takizawa**, Satoko Miya**, Hajime Takahashi** and Bon Kimura**
**
* National Food Research Institute, NARO
Tokyo University of Marine Science and Technology
マグロすきみ中における L. monocytogenes と常在菌との関係を数理モデル化した.温度2 ― 30 ℃における L. monocytogenes 数と常
在菌数とを同時に相互の影響を考慮して予測することを可能とした.一定温度下のみでなく,変動する温度条件下においても高い
精度での菌数変化を予測することを可能とした.
マグロすきみ中におけるリステリアと常在菌の同時予測モデル
小関 成樹*,滝沢 是子**,宮 聡子**,高橋 肇**,木村 凡*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
東京海洋大学
Journal of Food Protection, 74 (9), 1536-1542 (2011)
Comparison of two possible routes of pathogen contamination of spinach leaves in a hydroponic cultivation system
Shige Koseki, Yasuko Mizuno and Kazutaka Yamamoto
National Food Research Institute, NARO
水耕栽培ホウレンソウをモデル野菜として,食中毒細菌の汚染ルートを検討した.葉表面からの汚染と根からの吸収汚染とを定
量的に比較検討した.その結果,葉表面の汚染は生育途中では主たる原因とはならず,葉表面の汚染はカット後の二次的な汚染が
原因であることが示された.また,生育途中での汚染は主に根からの食中毒細菌の吸収移行が原因であることが示された.
水耕栽培ホウレンソウにおける食中毒細菌の汚染ルートの検討
小関 成樹,水野 康子,山本 和貴
(独)農研機構食品総合研究所
153
Journal of Food Protection, 74 (9), 1543-1546 (2011)
A survey of iceberg lettuce for the presence of Salmonella, Escherichia coli O157: H7, and Listeria monocytogenes in Japan
Shige Koseki, Yasuko Mizuno, Susumu Kawasaki and Kazutaka Yamamoto
National Food Research Institute, NARO
日本国内で市販されているレタスの Salmonella, Escherichia coli O157: H7, and Listeria monocytogenes の食中毒細菌の汚染実態を2
年間に渡り調査した.総計419サンプルを調査したが,いずれのサンプルからも上記の食中毒細菌は検出されなかった.
日本国内における市販レタスの病原性細菌汚染実態の調査
小関 成樹,水野 康子,川崎 晋,山本 和貴
(独)農研機構食品総合研究所
Chemical Engineering Science, 66 (12) 5556-5565 (2011)
CFD Analysis of Microchannel Emulsification: Droplet Generation Process and Size Effect of Asymmetric Straight-Through Microchannels
Isao Kobayashi*2, Goran T. Vladisavljevic*1, Kunihiko Uemura*1, Mitsutoshi Nakajima*1, *3
*1 National Food Research Institute, NARO
Chemical Engineering Department, Loughborough University, UK
*3 Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba
*2
本研究では,CFD(数値流体力学)を利用することにより非対称貫通型マイクロチャネルを介した液滴作製プロセスの三次元シ
ミュレーションおよび解析を行った.CFD 計算データをもとに可視化した結果を解析することにより,実験では把握困難であっ
た非対称貫通型マイクロチャネルを介した植物油滴の作製時における油水界面の挙動の詳細が明らかにされた.筆者らは,系内の
流速・圧力分布データを詳細に解析し,油水界面の自発的変形にもとづく独特な液滴作製プロセスが複数の重要なステップから構
成されていることを見いだした.また,チャネルサイズや液滴生産性に直結する分散相流速の影響についても定量的かつ有用な知
見を得た.
マイクロチャネル乳化の CFD 解析:液滴作製プロセスおよび非対称貫通孔型マイクロチャネルのサイズ効果
小林 功*1,Goran T. Vladisavljevic*2,植村 邦彦*1,中嶋 光敏*1, *3
*1(独)農研機構食品総合研究所
英国 Loughborough 大学化学工学科
筑波大学大学院生命環境科学研究科
*2
*3
Food Science and Technology Research, 18 (2) 149-156 (2012)
In vitro gastrointestinal digestibility of soybean oil-in-water emulsion droplets stabilized by polyglycerol esters of fatty acid
Zheng Wang*1, *2, Marcos A. Neves*1, *2, Li-Jun Yin*3, Isao Kobayashi*2, Kunihiko Uemura*2, Mitsutoshi Nakajima*1, *2
*1
Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 College of Food Science and Nutrition Engineering, China Agricultural University, China
本研究では,in vitro 消化モデルにおいて,乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルモノラウレート(PGE)の種類が水中大
豆油滴型サブミクロンエマルションの消化特性に与える影響について検討した.分散相として大豆油を用い,連続相として PGE
を添加したリン酸緩衝液を用いた.In vitro 小腸消化において,膵リパーゼのみまたは膵リパーゼと胆汁エキスを添加することに
より,エマルションの粒子径およびゼータ電位の絶対値が増大した.In vitro 胃腸消化モデルにおいて,エマルションの凝集や合
一に対する安定性は乳化剤の種類に強く依存した.In vitro 消化後におけるトータル遊離脂肪酸の放出量は乳化剤の種類に依存し
なかったが.一方,分散相の割合を10 wt% から1 wt% に減少させた場合に粒子脂肪酸の転換率が36.2% から91.5% に増大すること
がわかった.
ポリグリセリン脂肪酸エステルにより安定化された水中大豆油滴型エマルションの in vitro 胃腸消化性
王 政*1, *2,Marcos A. Neves*1, *2,殷 麗君*3,小林 功*2,植村 邦彦*2,中嶋 光敏*1, *2
筑波大学大学院生命環境科学研究科
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3 中国農業大学食品科学栄養工程学院
*1
154
Journal of Bioscience and Bioengineering, 112 (3) 299-303 (2011)
Emulsion Cultivation: A Miniaturized Library Screening Systems Based on Micro-droplet in Emulsion Medium
Takaaki Kojima*1, Nobuhito Nagao*1, Daisuke Ando*1, Teruyo Ojima*1, Yasuaki Kawarasaki*2, Isao Kobayashi*3
Mitsutoshi Nakajima*4, Hideo Nakano*1
*2
*1 Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University
Graduate School of Nutritional and Environmental Sciences, University of Shizuoka
*3 National Food Research Institute, NARO
*4 Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba
本研究では体外分泌酵素を持つ目的微生物のみを高効率に培養することを目的とし,サンプル中に存在する全ての菌体をそれぞ
れ一体ずつエマルジョン内に区画化して培養・単離するエマルジョン培養法を考案した.ラクトースを炭素源とした液体培地を水
層に,ミネラルオイルを油層に用いた W/O エマルジョン内で,β ― ガラクトシダーゼを分泌発現しラクトース資化能を持つ酵母 L
(+)株と,持たない L(−)株を1菌体ずつ培養することで L(+)を濃縮した.エマルジョン培養法により三日間培養すること
を1ラウンドとし,L(+)と L(−)を混合したものを菌液として3ラウンドまで培養した結果,L(+)を3.2% から87.5% まで濃
縮することに成功した.
エマルション培養法:エマルション液滴内での微小化ライブラリースクリーニングシステム
兒島 孝明*1,長尾 伸人*1,安東 大介*1,小島 晃代*1,河原崎泰昌*2,小林 功*3,中嶋 光敏*4,中野 秀雄*1
*2
*1 名古屋大学大学院生命農学研究科
静岡県立大学大学院食品栄養環境科学研究科
*3(独)農研機構食品総合研究所
*4 筑波大学大学院生命環境科学研究科
食品総合研究所研究報告 76号 23-28(2012)
Arthrobacter nocotinovorans K-9の inulin fructotransferase (DFA III-producing)
原口 和朋
(独)農研機構食品総合研究所
新たに分離した DFAIII オリゴ糖合成酵素生産菌 K-9株について分類学的検討行った結果,本菌は Arthrobacter nicotinovorans と同
定された.本菌株の DFAIII 合成酵素を粗酵素液である培養上清からイオン交換クロマト,疎水クロマトによって電気泳動的に均
一に精製した.本酵素の反応至適 pH は6.0,反応至適温度は60 ℃であった.本酵素の耐熱性について検討すると SDS ― 電気泳動か
ら40 kDa,ゲル濾過から70 kDa という価が得られた.このため本酵素はホモダイマーと推察された.
Inulin fructotransferase (DFA III-producing) from Arthrobacter nicotinovorans K-9.
Kazutomo Haraguchi
National Food Research Institute, NARO
Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology, 39 (2) 307-315 (2012)
Characterization of Candida sp. NY7122, a novel pentose-fermenting soil yeast
Itsuki WATANABE, Akira ANDO, Toshihide NAKAMURA
National Food Research Institute, NARO
リグノセルロース系バイオマスからのエタノール生産において,六炭糖と五炭糖の両方が効率良く発酵できる酵母がコスト削減
等の観点から非常に重要である.我々の分離した土壌酵母 NY7122株は,六炭糖だけでなく,五炭糖(キシロースとアラビノース)
を発酵することができた.種同定の結果,NY7122株は Candida subhashii の近縁種であった.NY7122株は,これまでに報告のある
いずれの酵母株よりも高いアラビノース発酵性を示した.また NY7122株は,Scheffersomyces stipitis 等の既存の五炭糖発酵性酵母
が発酵できない比較的低い pH(3.5)や37 ℃の条件においても発酵できることが明らかとなった.
新規ペントース発酵性土壌酵母 Candida sp. NY7122の特性解析
渡邉 樹,安藤 聡,中村 敏英
(独)農研機構食品総合研究所
155
Acta Crystallographica Section F (2011) F67, 1542–1544
Crystallization and preliminary crystallographic analysis of dextranase from Streptococcus mutans
Nobuhiro Suzuki*1, Young-Min Kim*2, Zui Fujimoto*1, Mitsuru Momma*1, Hee-Kwon Kang*2, Kazumi Funane*3
Masayuki Okuyama*2, Haruhide Mori*2, Atsuo Kimura*2
*1
Biomolecular Research Unit, National Institute of Agrobiological Sciences
*2 Research Faculty of Agriculture, Hokkaido University
*3 National Food Research Institute, NARO
グリコシド・ヒドロラーゼファミリー66に属し,5個のペプチド鎖より成るストレプトコッカス・ミュータンス由来のデキス
トラナーゼの N 末端と C 末端を短縮した変異酵素を結晶化した.分解能は1.6 Å で,空間群 P21に属し,格子定数は,a =53.2,
b =89.7,c =63.3 Å ,β=102.3 °であった.Matthews 係数は4.07 Å3 Da −1であった
ストレプトコッカス・ミュータンス由来デキストラナーゼの結晶化と予備結晶解析
鈴木 喜大*1,キム・ヨンミン*2,藤本 瑞*1,門間 充*1,カン・ヒゴン*2,舟根 和美*3
奥山 正幸*2,森 春英*2,木村 淳夫*2
*1(独)農業生物資源研究所
*2
北海道大学農学部
*3(独)農研機構食品総合研究所
Applied and Environmental Microbiology, 77, 6463-6469 (2011)
Phylogenetic analysis of Bacillus subtilis strains applicable to natto (fermented soybean) production
Yuji Kubo*1, Alejandro Rooney*2, Yoshiki Tsukakoshi*3, Rikio Nakagawa*1, Hiromasa Hasegawa*1 and Keitarou Kimura*3
*2
*1 Industrial Technology Institute of Ibaraki Prefecture
Crop Bioprotection Research Unit, National Center for Agricultural Utilization Research, Agricultural Research Service,
U.S. Department of Agriculture
*3 National Food Research Institute, NARO
細胞外にγ ― ポリグルタミン酸を生産し且つ胞子形成能を有する Bacillus 属細菌を,納豆発酵能の有無によってスクリーニン
グした.Bacillus subtilis および Bacillus amyloliquefaciens を含む424株から,我々は59株の納豆発酵適性株を選抜することができ
た.納豆発酵能とビオチン要求性は強く連鎖しており,59株すべてがビオチン要求性を示した.選抜された株を ropB, purH, gyrA,
groEL, polC および16S rRNA の遺伝子配列による Multicolus Nucleotide Sequence Type 法と Amplified Fragment Length Polymorphysm 法
で更に詳しく系統分析したところ,納豆発酵株は B. subtilis subsp. subtilis のなかの狭い領域にかたまって存在することが明らかと
なった.
納豆発酵能を有する Bacillus subtilis 株の系統解析
久保 雄司*1,ルーニー・アレハンドロ*2,塚越 芳樹*3,中川 力男*1,長谷川裕正*1,木村啓太郎*3
*2
*1 茨城県工業技術センター
米国農務省・ARS 穀物防御研究ユニット
*3(独)農研機構食品総合研究所
156
Applied and Environmental Microbiology, 77, 8249-8258 (2011)
Mutations Suppressing loss of DegQ function in Bacillus subtilis (natto) poly-gamma-glutamate synthesis
Thi-Huyen Do*, Yuki Suzuki**, Naoki Abe**, Jun Kaneko**, Yoshifumi Itoh*, ** and Keitarou Kimura*
**
* National Food Research Institute, NARO
Department of Microbial Biotechnology, Graduate School of Agricultural Science, Tohoku University
納豆菌の degQ 遺伝子は46アミノ酸からなる小さなペプチドをコードするポリ ― γ ― グルタミン酸(PGA)の生産に必須な遺伝子
である.DegQ の PGA 生産における機能を理解するため納豆菌の degQ 遺伝子を破壊し,PGA 生産を回復させる抑制変異を探した.
抑制変異は2成分制御系 DegS-DegU の受容体型リン酸化酵素である degS 遺伝子に見つかった.DegQ を大腸菌細胞内で生産,精製
して試験管内リン酸化実験に供した.野生型 DegS と比較したところ,変異型 DegS(R208Q, M195I, L248F, D250N)はより高い自
己リン酸化能を有し,D250N 変異体はより低い自己脱リン酸化能を有していた.また,5つの変異体はすべてより低い DegU 脱リ
ン酸化能もしくはより低い DegU 自己リン酸化能促進効果を示した.これらの性質によって変異体 DegS は DegU をリン酸化された
状態で安定化させ,この作用は野生型の DegS-DegU に DegQ が及ぼす効果とよく似ていた.興味深いことに,DegQ は DegU 存在下
でのみリン酸化 DegS を安定化した.このことはこれら3つのタンパク質が細胞内で複合体を作っていることを示唆する.
納豆菌のポリ - γ - グルタミン酸生産に必要な DegQ の欠失を抑制する変異
チ・フエン ・ドウ*,鈴木 由貴**,阿部 直樹**,金子 淳**,伊藤 義文*, **,木村啓太郎*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
東北大学大学院農学研究科
Applied Microbiology and Biotechnology, 93, 1877-1884 (2012)
Extracellular production of cycloisomaltooligosaccharide glucanotransferase
and cyclodextran by a protease-deficient Bacillus subtilis host–vector system
Yasuyuki Kawabata*, Keitarou Kimura**, Kazumi Funane**
*
Faculty of Food Science and Nutrition, Osaka Shoin Women s University
** National Food Research Institute, NARO
枯草菌宿主−ベクターシステムを用いて環状イソマルトオリゴ糖グルカノトランスフェラーゼ(CITase)遺伝子を発現させるこ
とによって,環状イソマルトオリゴ糖(CI;サイクロデキストラン)の生産法を開発した.バチルス・サーキュランス T-3040株由
来の CITase 遺伝子およびバチルス・アミロリケファシエンス由来 α アミラーゼプロモーター遺伝子(PamyQ)および amyQ シグナ
ル遺伝子を枯草菌発現ベクター pUB110に組込み,バチルス・サブチリス168株およびそのアルカリプロテアーゼ遺伝子(aprE)あ
るいは中性プロテアーゼ遺伝子(nprE)欠損株を宿主として発現させた.プロテアーゼ欠損株を宿主として用いると,培養48時間
以内で組換え CITase を1 U/mL 生産することができた.これはサイクロデキストラン工業生産株バチルス・サーキュランス G22-10
株の約7.5倍の生産量である.プロテアーゼ欠損株を宿主とし,10% デキストラン40を加えて培養すると,うち17% のデキストラ
ンがサイクロデキストランに転換した.枯草菌宿主−ベクター系を用いることにより,CITase およびサイクロデキストランを直接
発酵生産することが可能になった.
プロテアーゼ欠損枯草菌宿主−ベクターシステムによる環状イソマルトオリゴ糖グルカノトランスフェラーゼと
サイクロデキストランの菌体外生産
川端 康之*,木村啓太郎**,舟根 和美**
*
大阪樟蔭女子大学
**(独)農研機構食品総合研究所
157
Biochimica et Biophysica Acta, 1814, 428-434 (2011)
Deletion analysis of regions at the C-terminal part of cycloisomaltooligosaccharide glucanotransferase from Bacillus circulans T-3040
Kazumi Funane*1, Yasuyuki Kawabata*2, Ryuichiro Suzuki*1, Young-Min Kim*3, *4, Hee-Kwon Kang*3, Nobuhiro Suzuki*5
Zui Fujimoto*5, Atsuo Kimura*3, Mikihiko Kobayashi*6
*1 National Food Research Institute, NARO
Faculty of Food Science and Nutrition, Osaka Shoin Women's University
*3 Research Faculty of Agriculture, Hokkaido University
*4 KRIBB (Eco-Friendly Biomaterial Research Center, Jeonbuk Branch Institute, Korea Research Institute of Bioscience and Biotechnology)
*5 Protein Research Unit, National Institute of Agrobiological Sciences
*6 Department of Food and Health Science, Jissenn Women's University
*2
環状イソマルトオリゴ糖グルカノトランスフェラーゼ(CITase)はグリコシド・ヒドロラーゼファミリー66に属し,5つの領
域{N 末端保存領域(Ser1 ― Gly403),介在領域 R1(Tyr404 ― Tyr492),2つの保存領域 R2(Glu493 ― Ser596)および R3(Gly597 ―
Met700),C 末端領域 R4(Lys701 ― Ser934)}から構成される.CITase は7個から17個のグルコースより成る環状イソマルトオリゴ
糖(CI,構成するグルコースの数により CI-7∼ CI-17と表す)をデキストランから合成する反応を触媒する.R1∼ R4領域の機能を
明らかにするため,15種類の欠失変異酵素を作製した.M123Δ(R4 ― 欠失),MΔ234(R1 ― 欠失)および MΔ23Δ(R1および R4欠失)
変異酵素は CI を生産したが,他の変異酵素は不活性であった.M123Δ,MΔ234および MΔ23Δ 変異酵素はデキストラン40に対する
Km値が上昇した.野生型酵素とM123Δ変異酵素は主としてCI-8を生産した.MΔ234およびMΔ23Δ変異酵素はCI-8生産特性を失い,
その kcat 値は減少し,pH および熱安定性が低下した.以上,R2および R3領域は CITase が活性型を取るために必須であり,R1お
よび R4領域は基質との結合に関与することが示唆された.
バチルス・サーキュランス T ― 3040株由来環状イソマルトオリゴ糖グルカノトランスフェラーゼにおける
C 末端部位の欠失による機能解析
舟根 和美*1,川端 康之*2,鈴木龍一郎*1,キム・ヨンミン*3, *4,カン・ヒゴン*3,鈴木 喜大*5
藤本 瑞*5,木村 淳夫*3,小林 幹彦*6
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2
大阪樟蔭女子大学
*3(独)農業生物資源研究所
*4
KRIBB(韓国)
*5(独)農業生物資源研究所
*6
実践女子大学
Food Science and Technology Research, 17, 447-451 (2011)
Loss of γ PGA synthesis of Bacillus subtilis (natto) due to IS4Bsu1 translocation to swrA gene
Keitarou Kimura, Lam-Son Phan Tran and Kazumi Funane
National Food Research Institute, NARO
納豆菌の動く遺伝因子 IS4Bsu1が自然発生的に swrA 遺伝子へ転移しポリ ― γ ― グルタミン酸(PGA)生産能を失わせることを見出
した.納豆菌株 NAFIS1(swrA::IS4Bsu1)の PGA 生産欠損はプラスミド上に保持された swrA 遺伝子によって相補された.IS4Bsu1
の swrA 遺伝子への挿入は,その下流にある minJ 遺伝子の発現には影響を及ぼしていないと考えられた.なぜならば,NAFM16株
(minJ::Spc)で観察された細胞運動障害が NAFIS1株では観察されなかったからである.我々は新たに minJ 遺伝子が PGA 生産に必
要であることを見つけた.
IS4Bsu1の swrA 遺伝子への挿入によって引き起こされる納豆菌ポリ - γ - グルタミン酸合成欠損
木村啓太郎,ラムション・ファン・トラン,舟根 和美
(独)農研機構食品総合研究所
158
Proteins, 80, 722-732 (2012)
Crystal structure of bacteriophage FNIT1 zinc peptidase PghP that hydrolyzes gamma-glutamyl linkage of bacterial poly-gamma-glutamate
Zui Fujimoto* and Keitarou Kimura**
*
Protein Research Unit, National Institute of Agrobiological Sciences
** National Food Research Institute, NARO
PghP(ポリ ― γ ― グルタミン酸加水分解酵素)は枯草菌ファージ FNIT1由来で,枯草菌が生産するポリ ― γ ― グルタミン酸の
γ ― グルタミル結合を加水分解して娘ファージの増殖を促進する.PghP の結晶構造を1.9Åの解像度で決定した.PghP 構造は,そ
れが α/ β混合コアと7つの平行 / 逆平行βシートをもつ球状タンパク質であることを示し,亜鉛結合モチーフである His-Glu-His が
βシートの C 末側に同定された.既知のタンパク質とアミノ酸配列相同性を持たないためにいずれのペプチダーゼファミリーにも
分類されていなかった PghP は,亜鉛イオンを活性中心に持っている動物由来のカルボキシペプチダーゼ A と全体構造上の相似性
を有することが判明した.構造比較によって PghP の触媒作用に関与するアミノ酸残基が推定され,そのことはアミノ酸置換変異
体の導入によって確認された.
γ ― ポリグルタミン酸を加水分解するバクテリオファージ FNIT1由来の亜鉛ペプチダーぜ PghP の結晶構造
藤本 瑞*,木村啓太郎**
*(独)農業生物資源研究所
**(独)農研機構食品総合研究所
Applied Microbiology and Biotechnology, 93, 655-669 (2012)
Enzymatic properties of the glycine D-alanine aminopeptidase of Aspergillus oryzae and its activity profiles
in liquid-cultured mycelia and solid-state rice culture (rice-koji).
Junichiro Marui*1, Mayumi Matsushita-Morita*1, Sawaki Tada*1, Ryota Hattori*1, Satoshi Suzuki*1, Hitoshi Amano*2
Hiroki Ishida*3, Youhei Yamagata*4, Michio Takeuchi*4, Ken-Ichi Kusumoto*1
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 Amano Enzyme Inc.
*3 Gekkeikan Sake Co., Ltd.
*4 Department of Applied Molecular Biology and Biochemistry, Tokyo University of Agiculture and Technology
S12ファミリーに属するグリシン ― D ― アラニンアミノペプチダーゼ(GdaA)をコードする gdaA 遺伝子が,産業用糸状菌である
Aspergillus oryzae において見出された.同酵素はグラム陰性菌 Ochrobactrum anthropi の D ― アミノペプチダーゼとアミノ酸配列で
43% の同一性を示した.A. oryzae を宿主として過剰発現させ精製した同酵素は,高い D ― 立体特異性を示し,N 末端のグリシンあ
るいは D ― アラニンを基質から極めて特異的に遊離した.また,同酵素の酵素化学的性質を解明した.GdaA は液体培養における静
止期で,細胞内のグリシン及び D ― アラニンアミノペプチダーゼ活性の大半を担っていた.A. oryzae のアミノペプチダーゼは,様々
なアミノ酸やペプチドを酵素的に遊離し,発酵食品の旨味促進の点から重要である点で,注目されている.GdaA 活性は,日本の
伝統的発酵食品の種菌として広く用いられている A. oryzae の米固体培養物(米麹)の抽出液から検出された.
丸井淳一朗*1,松下(森田)真由美*1,多田 功生*1,服部 領太*1,鈴木 聡*1,天野 仁*2
石田 博樹*3,山形 洋平*4,竹内 道雄*4,楠本 憲一*1
*1(独)農研機構 食品総合研究所
天野エンザイム株式会社
*3 月桂冠株式会社
*4 東京農工大学大学院共生科学技術研究院
*2
159
Bioscience, Biotechnology, Biochemistry, 75 (4), 662-668 (2011)
Enzymatic properties of the recombinant serine-type carboxypeptidase OcpC, which is unique to Aspergillus oryzae
Hiroto Morita*1, Haruka Abo*1, Ayako Okamoto*1, Hiroshi Maeda*1, Youhei Yamagata*1, Ken-Ichi Kusumoto*2
Hitoshi Amano*3, Hiroki Ishida*4 and Michio Takeuchi*1
*1
Department of Applied Molecular Biology and Biochemistry, Tokyo University of Agiculture and Technology
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 Amano Enzyme Inc.
*4 Gekkeikan Sake Co., Ltd.
Aspergillus oryzae RIB40の遺伝子 AO090103000153は,セリン型カルボキシペプチダーゼをコードすると推測される.本研究で
は,同遺伝子産物を異種生産させ,精製,特性解明した.同精製酵素は実際にセリン型カルボキシペプチダーゼ活性を示した.こ
のプロテアーゼは45 ℃以下,低 pH 領域で安定であり,N アセチル化ペプチドに対する広い基質特異性を示した.一方,既報の A.
oryzae 由来カルボキシペプチダーゼよりも,極めて低い基質特異性と,基質に対する低い kcat 値を示した.
Aspergillus oryzae に特有なセリンタイプカルボキシペプチダーゼ OcpC の組換え酵素の特性
森田 寛人*1,阿保 春花*1,岡本 綾子*1,前田 浩*1,山形 洋平*1,楠本 憲一*2,天野 仁*3
石田 博樹*4,竹内 道雄*1
*1
東京農工大学大学院共生科学技術研究院
*2(独)農研機構 食品総合研究所
*3 天野エンザイム株式会社
*4 月桂冠株式会社
Food Science and Technology Research, 18 (1), 83-90 (2012)
Comparison of acid phosphatase gene expression profiles in solid-state rce and soybean cultures of an Aspergillus oryzae strain
with low acid phosphatase activity (KBN8048): implications for miso brewing
Junichiro Marui*1, Sawaki Tada*1, Mari Fukuoka*1, Satoshi Suzuki*1, Ryota Hattori*1, Yutaka Wagu*2, Yohei Shiraishi*2
Noriyuki Kitamoto*3, Tatsuya Sugimoto*4 and Ken-Ichi Kusumoto*1
*1
National Food Research Institute, NARO
*2 Bio c
*3 Food Research Center, Aichi Industrial Technology Institute
*4 Nakamo
Aspergillus oryzae KBN8048は,味噌醸造における米麹及び豆麹において低レベルの酸性ホスファターゼ活性を示す菌株として選
択された.後者ではその酵素活性は特に低く,味噌の呈味性を増強する IMP の脱リン酸化活性の低下と相関していた.転写解析に
基づき,13種類の同株由来酸性ホスファターゼ遺伝子群を,米麹で高発現する R 型と豆麹で高発現する S 型に分類した.R 型遺伝
子群は,酸性 pH 域及び低リン酸下に応答してその発現が上昇し,それぞれの応答は pH 依存性転写因子 PacC,出芽酵母の Pho4p に
相同なリン酸欠乏下転写促進因子を介すると考えられた.一方,S 型遺伝子群の転写様式から考察すると,豆麹においては pH や
リン酸獲得性以外の誘導的制御要因に応答した未解明な遺伝子制御機構が存在することが示唆された.
Aspergillus oryzae 低ホスファターゼ株(KBN8048)の米麹及び豆麹における酸性ホスファターゼ遺伝子発現様式の比較
丸井淳一朗*1,多田 功生*1,福岡 真里*1,鈴木 聡*1,服部 領太*1,和久 豊*2,白石 洋平*2
北本 則行*3,杉本 達哉*4,楠本 憲一*1
*1(独)農研機構 食品総合研究所
*3
*2 株式会社ビオック
愛知県産業技術研究所 食品工業技術センター
*4 ナカモ株式会社
160
Food Science and Technology Ressearch, 18 (1), 59-65 (2012)
Disruption and overexpression of acid phosphatase gene (aphA) from a miso koji mold, Aspergillus oryzae KBN630,
and characterization of the gene product
Shoko Yoshino-Yasuda*1, Osamu Hasegawa*1, Yoshimi Iga*2, Yohei Shiraishi*2, Yutaka Wagu*2, Tohru Suzuki*3
Tatsuya Sugimoto*4, Ken-Ichi Kusumoto*5, Masashi Kato*6 and Noriyuki Kitamoto*1
*1
Food Research Center, Aichi Industrial Technology Institute
*2 Bio c
*3 The United Graduate School of Agricultural Science, Gifu University
*4 Nakamo
*5 National Food Research Institute, NARO
*6 Department of Applied Biological Chemistry, Faculty of Agriculture, Meijo University
味噌用麹菌株である A. oryzae KBN630の酸性ホスファターゼ A 遺伝子(aphA)を,近年開発された相同遺伝子置換技術を用いて
破壊した.同遺伝子破壊は,蒸煮大豆上の生育に影響が見られなかった.同破壊株における酸性ホスファターゼ生産量は,野生型
株の約80% となった.A. oryzae TEF1遺伝子のプロモータを利用し,AphA 酵素を A. oryzae で高生産した結果,培地中に分泌する
ことに成功した.AphA 酵素は,58.0から65.0 kDa の分子量を有し,反応の最適 pH は4.0,同最適温度は40 ℃であった.AhpA 酵素
は核酸系調味料として用いられる GMP や IMP から無機リン酸を遊離する活性を示した.
味噌用麹菌株 KBN630の酸性ホスファターゼ遺伝子(aphA)の破壊,高発現及び,遺伝子産物の特性解明
安田 庄子*1,長谷川 摂*1,伊賀 佳美*2,白石 洋平*2,和久 豊*2,鈴木 徹*3
杉本 達哉*4,楠本 憲一*5,加藤 雅士*6,北本 則行*1
*1
愛知県産業技術研究所 食品工業技術センター
*2 株式会社ビオック
*3 岐阜大学大学院農学研究科
*4 ナカモ株式会社
*5(独)農研機構 食品総合研究所
*6 名城大学農学部
Journal of Applied Glycoscience, 58, 31-34 (2010)
Enzymatic production of Glucosylxylose using a cellobiose phosphorylase-yeast combined system
Akio Kumagai*, Sawaki Tada**, Kouichi Nozaki*, Masahiro Mizuno*, Takahisa Kanda*, Satoshi Suzuki**
Kenichi Kusumoto**, Takashi Sasaki*, Yutaka Kashiwagi** and Yoshihiko Amano*
*
Department of Chemistry and Material Engineering, Faculty of Engineering, Shinshu University
** National Food Research Institute, NARO
セロビオースホスホリラーゼ(CBP)を用いて希少なβ型二糖類を合成するため,Cellvibrio gilvus の同酵素遺伝子を Aspergillus
oryzae を宿主として,細胞内で発現させた.組換え型 CBP を宿主菌糸内に維持させたまま冷アセトン処理を行い,菌糸乾燥粉末を
調製した.次に,反応液からグルコースを除去することにより4 ― O ― β ― D ― glucopyranosyl ― D ― xylopyranose(GX)の合成を促進さ
せるため,乾燥酵母を反応液に添加した.この酵素含有粉末−酵母複合系は,酵母を添加しない場合よりも,セロビオースからの
GX 合成効率が3.5倍高くなった.
セロビオースホスファターゼ−酵母複合系によるグルコシルキシロースの酵素的生産
熊谷 明夫*,多田 功生**,野崎 功一*,水野 正浩*,神田 孝久*,鈴木 聡**
楠本 憲一**,佐々木 堯*,柏木 豊**,天野 良彦*
*
信州大学工学部
**(独)農研機構 食品総合研究所
161
食品総合研究所研究報告,76,33-38(2012)
醤油粕の植物細胞壁分解酵素製剤及び糸状菌培養による減量効果
服部 領太*,楠本 憲一*,鈴木 聡*,北本 則行**,柏木 豊*
**
*(独)農研機構 食品総合研究所
愛知県産業技術研究所 食品工業技術センター
醤油加工副産物である醤油粕の低減化と微生物培養基への利用を目的とした.市販植物細胞壁分解酵素製剤により,供試した醤
油粕の不溶性固形分は,最高で対照区の約70 %に減少した.また,醤油粕培地上における糸状菌14株の静置培養を行ったところ,
A. tamarii NFRI1618は生育菌体量が高く,不溶性固形分の減量も対照区の69% と,酵素製剤使用時の固形分減量率に匹敵した.そ
のため,A. tamarii NFRI1618は醤油粕培地で生育量の高い菌株として,醤油粕の飼料としての栄養的価値を上昇させる可能性が考
えられる.
The decreasing effect of soy sauce refuge by degradation with plant cell wall hydrolyzing enzymes and culture of filamentous fungi
Ryota Hattori*, Ken-Ichi Kusumoto*, Satoshi Suzuki*, Noriyuki Kitamoto** and Yutaka Kashiwagi*
**
* National Food Research Institute, NARO
Food Research Center, Aichi Industrial Technology Institute
Acta Horticulturae 907, 367-370 (2011)
Microarray analysis of blue or yellow weak light effect to genes in arabidopsis
Rimi OKUSHIMA*1, Sadanori SASE*1, Yumiko IWAHASHI*1, Yoshinori MURATA*2, Naoya FUKUDA*3
*2
*1 National Food Research Institute, NARO
Japan International Reserach Center for Agricultural Sciences
*3 University of Tsukuba
Arabitopsis を弱ブルー又はイエローライト下で栽培し,その影響を DNA マイクロアレイを用いて調べた.42% の遺伝子はイエ
ローライト下でその発現が誘導され,38% の遺伝子がブルーライト下で発現が誘導された.その中で,2倍以上発現が誘導された
遺伝子は,イエローライト下では498個,ブルーライト下では652個であった.
弱ブルーまたはイエローライト下で発現しているアラビドプシスの遺伝子のマイクロアレイを用いた解析
奥島 里美*1,佐瀬 勘紀*1,岩橋由美子*1,村田 善則*2,福田 直也*3
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2(独)国際農林水産業研究センター
*3
筑波大学
162
Applied and Environmental Microbiology 77, 437-4382 (2011)
Involvement of the azorhizobial chromosome partition gene (parA) in the onset of bacteroid differentiation during
Sesbania rostrata stem nodule development
Chi-Te Liu*1, Kyung-Bum Lee*2, Yu-Sheng Wang*3, Min-Hua Peng*3, Kung-Ta Lee*3, Shino Suzuki*4
Tadahiro Suzuki*5, Hiroshi Oyaizu*6
*2
*1 Institute of Biotechnology, National Taiwan University (Taiwan)
Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan (DDBJ), National Institute of Genetics
*3 Department of Biochemical Science and Technology, National Taiwan University (Taiwan)
*4 J. Craig Venter Institute (USA)
*5 National Food Research Institute, NARO
*6 Biotechnology Research Center, The University of Tokyo
根粒菌 Azorhizobium caulinodans ORS571の parA 遺伝子欠損株(ΔparA)を用いて根粒菌と植物の共生機構に対する parA の機能を
調べた.宿主植物であるSesbania rostrataの茎にΔparAを接種すると,3種の未成熟な茎粒が形成され,窒素固定能も不十分であった.
茎粒内のバクテロイドは複数の成長段階にある事が示されたため,バクテロイド形成のインディケーターと考えられている bacA
遺伝子の変異株(ΔbacA)との比較を行った.比較 - 相補試験の結果,bacA の遺伝子発現は parA の発現に依存している事が示唆さ
れた.parA の発現と茎粒の成熟には負の相関があり,茎粒の成熟と共に転写が停止した.これらの結果は,parA が植物共生時の
根粒菌バクテロイド化において負の制御を担っている事を明らかにした.
セスバニアロストラータの茎粒形成時におけるバクテロイド分化に関して根粒菌の parA 遺伝子が果たす役割
Chi-Te Liu*1,Kyung-Bum Lee*2,Yu-Sheng Wang*3,Min-Hua Peng*3,Kung-Ta Lee*3,鈴木 志野*4
鈴木 忠宏*5,小柳津広志*6
*1
Institute of Biotechnology, National Taiwan University (Taiwan)
*2 国立遺伝学研究所
*3 Department of Biochemical Science and Technology, National Taiwan University (Taiwan)
*4 J. Craig Venter Institute (USA)
*5(独)農研機構食品総合研究所
*6 東京大学生物生産工学研究センター
Chem-Bio Inform J. 11, 41-51 (2011)
Gene expression profile of MAP kinase PTC1 mutant exposed to deoxynivalenol
Tadahiro Suzuki, Yumiko Iwahashi
National Food Research Institute, NARO
かび毒生産病害に対する食品の安全性確保技術の開発のため,酵母細胞の豊富な遺伝子情報を活用し,デオキシニバレノー
ル(DON)の引き起こす DNA ダメージの情報を遺伝子発現変化として抽出し,同様の条件において過去に実施したアフラトキシ
ン B1(AFB1)の結果と比較した.酵母の PTC1遺伝子変異株に対する DON の曝露試験結果から,一般的な DON の毒性と同時に
AFB1とは異なる核酸合成遺伝子の異常が認められた.また,スフィンゴ脂質代謝経路の遺伝子発現が抑制され,細胞周期の調節
シグナルに異常が生じていると考えられた.葉酸合成系の遺伝子発現が抑制されていたことから葉酸の添加試験を行い,DON の
毒性作用を低減できる可能性が示唆された.
酵母 PTC1遺伝子変異株に対するデオキシニバレノールの暴露と遺伝子発現変化
鈴木 忠宏,岩橋由美子
(独)農研機構食品総合研究所
163
J Agric Food Chem. 59, 7145-7154, (2011).
Gene expression profiles of yeast Saccharomyces cerevisiae sod1 caused by PAT toxicity, and evaluation of recovery potential of ascorbic acid
Tadahiro Suzuki, Yumiko Iwahashi
National Food Research Institute, NARO
国内において規制対象のマイコトキシンであるパツリンの細胞毒性と,アスコルビン酸(AsA)の効果に関して網羅的な情報を
得るために,酵母の酸化還元酵素をコードする SOD1の遺伝子変異株(sod1)を用いた毒性評価試験を実施した.曝露試験の結果,
sod1には生育の遅延・阻害が生じ,sod1のパツリンに対する強い感受性が確認された.そこで抗酸化機能を持つ AsA を添加したと
ころ,生育阻害は解消された.DNA マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析においても AsA を添加することで遺伝子発現
の変化を抑える事が確認された.しかし,遺伝子発現のレベルでは完全な回復は確認されなかった.また,細胞周期の遺伝子群を
抽出・比較したところ,AsA の添加は G2/M 期よりも G1/S 期に関与する遺伝子の回復に効果的であった.これらの結果は AsA がパ
ツリンの毒性に対して一定の毒性緩和能力を有しているものの,完全な回復剤とはならない事を示唆した.
パツリンの毒性によって引き起こされる酵母 SOD1遺伝子変異株の遺伝子発現変化とアスコルビン酸による回復効果の評価
鈴木 忠宏,岩橋由美子
(独)農研機構食品総合研究所
Applied Microbiology and Biotechnology, 93 (4), 1513-1522 (2012)
Discovery of nigerose phosphorylase from Clostridium phytofermentans
Takanori Nihira*, **, Hiroyuki Nakai*, **, Kazuhiro Chiku* and Motomitsu Kitaoka*
*
**
National Food Research Institute, NARO
Faculty of Agriculture, Niigata University
糖加水分解酵素ファミリー(GH)65に属する Clostridium phytofermentans 由来新規ホスホリラーゼ(Cphy1874)の特異性を解析
した.大腸菌で調製した組換え Cphy1874タンパクはリン酸存在下でニゲロースをグルコースとβ ― グルコース1 ― リン酸に反転型
加リン酸分解した.ニゲロース加リン酸分解の速度パラメータは kcat = 67 s −1, Km = 1.7 mM であった.本酵素は他の GH65酵素の
基質であるトレハロース,マルトース,トレハロース6 ― リン酸には作用せず,コージビオースには微弱な加リン酸分解活性を示
した.逆反応においてグルコースが最も良いアクセプターとなり反応初期には生成物の大部分はニゲロースであった.グルコース
以外では活性順にキシロース,1,5 ― アンヒドログルシトール,ガラクトース,メチル α ― グルコシドがアクセプターとして作用し
た.すべての基質で1,3結合が主生成物であったが,キシロースおよびメチル α ― グルコシドを用いた場合には著量の1,2結合も生成
した.本酵素の正式名として3 ― α ― D ― glucosyl ― D ― glucose:phosphate β ― D ― glucosyltransferase,慣用名としてニゲロースホスホリラー
ゼを提案する.
Clostridium phytofermentans 由来ニゲロースホスホリラーゼの発見
仁平 高則*, **,中井 博之*, **,知久 和寛*,北岡 本光*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
新潟大学農学部
Bioscience, Biotechnology and Biochemistry, 76 (2), 343-348 (2012)
Characterization of a bacterial laminaribiose phosphorylase
Motomitsu Kitaoka, Yasuyuki Matsuoka, Kiyotaka Mori, Mamoru Nishimoto, Kiyoshi Hayashi
National Food Research Institute, NARO
細菌性ラミナリビオースホスホリラーゼ(LBPbac)は Paenibacillus sp YM-1株の無細胞抽出液より初めて単離同定された.本酵
素はラミナリビオースを加リン酸分解し,グルコース1リン酸とグルコースを生成するが他のグルコ二糖には作用しない.また,
わずかだが,ラミナリトリオースやそれ以上の重合度のラミナリオリゴ糖にも作用する.基質の重合度特異性はユーグレナ由来
のラミナリビオースホスホリラーゼ(LBPEug)と明確に異なっていた.LBPbac は LBPEug よりもラミナリビオースに特異性が高
いといえる.LBPbac のアクセプター特異性はは LBPEug と同様であった.LBPbac の遺伝子をクローニングしたところ,LBPbac は
セロビオースホスホリラーゼやセロデキストリンホスホリラーゼ,ジアセチルキトビオースホスホリラーゼが属する GH94のメン
バーであることがわかった.その遺伝子の上流には細胞外で生じたラミナリビオースを利用するためのラミナリオリゴ糖に特異的
な ABC トランスポーターコンポーネントをコードする遺伝子が存在していた.この役割は細胞内貯蔵型β1,3グルカン,パラミ
ロンの利用に関与する LBPEug と箱となるものである.
細菌性ラミナリビオースホスホリラーゼの特性解析
北岡 本光,松岡 靖幸,森 清貴,西本 完,林 清
(独)農研機構食品総合研究所
164
Carbohydrate Research, 346 (15), 2432-2436 (2011)
One-pot enzymatic production of 2-acetamido-2-deoxy-D-galactose (GalNAc) from 2-acetamido-2-deoxy-D-glucose (GlcNAc)
Kousuke Inoue, Mamoru Nishimoto, Motomitsu Kitaoka
National Food Research Institute, NARO
N ― アセチルガラクトサミンは生物学的機能を持った糖鎖を構成する単糖である.しかしながら,自然界にはそれを多く含んだ
資源が存在しないことからその利用が制限されている.N ― アセチルガラクトサミンを生成するため,豊富に存在している N ― アセ
チルグルコサミンからビフィズス菌のガラクト ― N ― ビオース / ラクト ― N ― ビオース I 経路に関与する3つの酵素を用いてワンポッ
トで N ― アセチルガラクトサミンに変換した.最適条件の下,600 m M の N ― アセチルグルコサミンから触媒量の ATP および UDPGlc を加えることで反応平衡である170 mM の N ― アセチルガラクトサミンが生成した.生成した N ― アセチルガラクトサミンは工
業用分離に良く用いられるカチオン交換担体によるクロマトグラフィーによって N ― アセチルグルコサミンから分離することがで
きた.
N ― アセチルグルコサミンからの N ― アセチルガラクトサミンへのワンポット酵素変換
井上 公輔,西本 完,北岡 本光
(独)農研機構食品総合研究所
Carbohydrate Research, 350, 94-97 (2012)
3-O-α-D-Glucopyranosyl-L-rhamnose phosphorylase from Clostridium phytofermentans
Takanori Nihira*, **, Hiroyuki Nakai*, ** and Motomitsu Kitaoka*
*
**
National Food Research Institute, NARO
Faculty of Agriculture, Niigata University
我々は Clostridium phytofermentans. の糖加水分解酵素ファミリー65(GH65)に属するタンパクの一つ(Cphy1019)が報告例の無
いホスホリラーゼ活性を示すことを見つけた.大腸菌に生産させた組換え Cphy1019は他の GH65の基質であるトレハロース,コー
ジビオース,ニゲロース,マルトースに作用しなかった.逆反応ではβ ― D ― グルコース1 ― リン酸をドナーとしたとき L ― ラムノー
スのみアクセプターとして作用し,3 ― O ― α ― D ― グルコピラノシル ― L ― ラムノースを生成した.本酵素の正式名として3 ― O ― α ― D ―
glucopyranosyl ― L ― rhamnose: phosphate β ― D ― glucosyltransferase,慣用名として3 ― O ― α ― D ― グルコピラノシル ― L ― ラムノースホスホ
リラーゼを提案した.
Clostridium phytofermentans 由来3 ― O ― α ― D ― グルコピラノシル ― L ― ラムノースホスホリラーゼ
仁平 高則*, **,中井 博之*, **,北岡 本光*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
新潟大学農学部
165
Glycobiology, 22 (3), 361-368 (2012)
Bifidobacterium longum subsp. infantis uses two different β -galactosidases for selectively degrading type-1
and type-2 human milk oligosaccharides
Erina Yoshida*1, Haruko Sakurama*1, Masashi Kiyohara*1, Masahiro Nakajima*2, Motomitsu Kitaoka*2, Hisashi Ashida*3, Junko Hirose*4
Takane Katayama*1, Kenji Yamamoto*1 and Hidehiko Kumagai*1
*1
Research Institute for Bioresources and Biotechnology, Ishikawa Prefectural University
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 Graduate School of Biostudies, Kyoto University
*4 Department of Life Style Studies, University of Shiga Prefecture
母乳栄養乳児腸管には特定種のビフィズス菌が定着し,ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)がビフィズス菌増殖因子と考えられて
いる.最近の研究から Bifidobacterium longum subsp. infantis は HMOs を唯一の炭素源として増殖できることは示されている.この
HMOs 代謝能は遺伝子クラスター(HMO クラスター1)によるものと考えられている.しかしながら本菌株の HMOs 代謝経路に
関わる酵素活性は未解明である.我々は本亜種のβ ― ガラクトシダーゼの特性解析を行い,HMOs のタイプIおよびタイプ II 分解
に関わる酵素を特定した.HMOs クラスター1と離れた位置に存在する Blon_2016遺伝子のコードする酵素(Bga42A)は LNT に特
異性の高い新規なガラクトシダーゼであり,LNT β ― 1,3 ― ガラクトシダーゼと命名した.HMO クラスター1中にある Blon_2334遺
伝子はラクトースとタイプ II 分解に関わるβ - ガラクトシダーゼ(Bga2A)をコードしていた.リアルタイム PCR 解析により,両
酵素遺伝子ともに HMOs 代謝時に発現していることが示された.この結果は,この亜種は HMOs のタイプ I およびタイプ II 代謝に
異なるβ ― ガラクトシダーゼを用いていることを示している.タイプ I 分解β ― ガラクトシダーゼ が天然では希少なこと,および
Bga42A ホモログが乳児型ビフィズス菌に広く分布しておりこれらの菌種は LNT を資化できることは,ビフィズス菌とヒトの共進
化を示唆している.
Bifidobacterium longum subsp. infantis uses はヒトミルクオリゴ糖タイプ I,II 鎖の分解に二種の異なるβ ― ガラクトシダーゼを用いる
吉田永史奈*1,櫻間 晴子*1,清原 正志*1,中島 将博*2,北岡 本光*2,芦田 久*3,広瀬 潤子*4
片山 高嶺*1,山本 憲二*1,熊谷 英彦*1
石川県立大学・生物資源科学研究所
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3 京都大学大学院生命科学研究科
*4 滋賀県立大学人間文化学部
*1
Journal of Applied Glycoscience, 58 (3), 107-114 (2011)
Mutational analysis of fungal family 11 xylanases on the pH optimum determination
Shinya FUSHINOBU*, Takeo UNO*, Motomitsu KITAOKA**, Kiyoshi HAYASHI**, Hiroshi MATSUZAWA* and Takayoshi WAKAGI*
*
Department of Biotechnology, The University of Tokyo
** National Food Research Institute, NARO
糖加水分解酵素ファミリー(GH)11に属するキシラナーゼは種々の至適 pH を示す.酸 / 塩基触媒残基近傍に存在する一つの残
基が至適 pH を決定している.酸性キシラナーゼではこの残基は Asp であり,中性及びアルカリ性キシラナーゼでは Asn である.
Aspergillus kawachii は2種の GH11キシラナーゼを産生し,この残基は酸性キシラナーゼの XynC では Asp37,中性キシラナーゼの
XynB では Asn43である.至適 pH 決定メカニズムを調べるために,Asp/Asn を含む種々の変異酵素を作成した.pH 活性相関は天然
基質であるキシランまたは合成基質である o ― ニトロフェニルキシロビオシドを用いて測定した.XynC-D37N 変異は至適 pH を2.8
から5.5まで上昇させ,XynB-N43D 変異は,4.2から3.6まで低下させた.XynC-D37N の構造から,変異により酸塩基触媒残基との
水素結合が弱まることが示唆された.変異体酵素の速度解析の結果から,ES 複合体のイオン化が XynC の好酸性を決定している
要因であることが示唆された.そこで活性クレフトに存在する他の残基の変異を調べたところ,Glu118および Tyr10も XynC の好
酸性に関与していることがわかった.XynC-F131W 変異は合成基質に対する活性を8.4倍高めた.血漿康応解析の結果から,基質
結合クレフト内の芳香族側鎖のパッキングが活性に影響していることが示唆された.
カビ由来ファミリー11キシラナーゼの pH 特異性決定機構の解析
伏信 進矢*,宇野 武生*,北岡 本光**,林 清**,松沢 洋*,若木 高善*
*
東京大学大学院農学生命科学研究科
**(独)農研機構食品総合研究所
166
Journal of Applied Glycoscience, 58 (3), 115‒118 (2011)
p-Nitrophenyl β -glycosides of β -1,4-gluco/xylo-disaccharides for the characterization of subsites in endo-xylanases
Mamoru Nishimoto, Atsushi Kobayashi, Yuji Honda, Motomitsu Kitaoka, Kiyoshi Hayashi
National Food Research Institute, NARO
グリコシドヒドロラーゼファミリー10に属するエンドキシラナーゼの−側のサブサイトにおける基質認識を調査するため,4
種のβ1, 4グルコ / キシロ二糖の pNP 配糖体を基質としたときの4種のエンドキシラナーゼにおける速度論パラメーターを求め
た.4種のエンドキシラナーゼはそれぞれ Bacillus halodurans C-125株,Thermotoga maritima MSB8,Clostridium stercorarium F9,
Cellulomonas fimi 由来の酵素を使用した.全てのキシラナーゼは4種全ての基質を加水分解した.全ての酵素において4種の基質
に対する Km 値を低い順に並べると全て同様の並びになった.このことはサブサイト−1,−2において全ての酵素がグルコースよ
りもキシロースを好むことを示している.基質による速度論パラメーターの比較はサブサイト−1および−2における基質の認識性
に対する詳細な情報を与えた.
β1, 4グルコ / キシロ二糖の pNP 配糖体によるエンドキシラナーゼのサブサイト特性解析
西本 完,小林 厚志,本多 裕司,北岡 本光,林 清
(独)農研機構食品総合研究所
Journal of Applied Glycoscience, 58 (3), 125‒127 (2011)
An enzymatic colorimetric quantification of orthophosphate
Bingxue Li*, **, Takanori Nihira*, Hiroyuki Nakai*, Mamoru Nishioto*, Motomitsu Kitaoka*
*
National Food Research Institute, NARO
** Shenyang agricultural University
リン酸エステル存在下におけるオルトリン酸の定量には生化学的なアッセイが必要とされる.我々はピルビン酸オキシダーゼと
ペルオキシダーゼを用いた酵素的なオルトリン酸の比色定量法を開発した.定量のための標準曲線はリン酸エステル存在に全く影
響を受けなかった.さらにこの方法の利点はリン酸を遊離する酵素の反応を経時的にモニターすることを可能にした.
オルトリン酸の酵素を用いた比色定量法
Bingxue Li*, **,仁平 高則*,中井 博之*,西本 完*,北岡 本光*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
Shenyang agricultural University
Journal of Applied Glycoscience, 58 (3), 91-97 (2011)
Interactions between glycoside hydrolase family 94 cellobiose phosphorylase and glucosidase inhibitors
Shinya FUSHINOBU*, Masafumi HIDAKA*, Andressa M. HAYASHI*, Takayoshi WAKAGI*
Hirofumi SHOUN* and Motomitsu KITAOKA**
*
Department of Biotechnology, The University of Tokyo
** National Food Research Institute, NARO
アザ糖は糖加水分解酵素の強力な阻害剤として知られている.今回,Cellvibrio gilvus 由来セロビオースホスホリラーゼ(CBP)
に対する四種のアザ糖(イソファゴミン,1- デオキシノジリマイシン,カタノスペリミン,カリステジン B2)およびアザ糖以外の
グルコノラクトンの阻害効果を調べた.イソファゴミンは CBP を強力に阻害したが,1 ― デオキシノジリマイシン,カタノスペリ
ミンおよびグルコノラクトンは中程度 ― 微弱な阻害しか示さなかった.カリステジン B2は CBP を阻害しなかった.硫酸はリン酸
に対する非常に弱い拮抗阻害剤として作用した.CBP のイソファゴミンおよび1- デオキシノジリマイシンとの共結晶の構造解析に
より加リン酸分解酵素の阻害剤への認識機構について明らかにした.阻害剤はサブサイト -1に結合し,アミノ酸残基及びアニオン
(リン酸または硫酸)と数個の水素結合を形成していた.イソファゴミンの強力な阻害は環内アミノ基とリン酸との静電相互作用
によるものと推定した.
糖加水分解酵素ファミリー94セロビオースホスホリラーゼと糖加水分解酵素阻害剤の相互作用
伏信 進矢*,日高 將文*,林アンドレッサ*,若木 高善*,祥雲 弘文*,北岡 本光**
*
東京大学大学院農学生命科学研究科
**(独)農研機構食品総合研究所
167
Journal of Applied Glycoscience, 58 (4), 129-132 (2011)
Self-transferring product inhibition observed during the hydrolysis of aryl- β -glucopyranosides
by a β -glucosidase from Agrobacterium tumefaciens
Motomitsu Kitaoka*, Tomoya Takahashi*, Li Ying*, ** and Kiyoshi Hayashi*
*
National Food Research Institute, NARO
** China Agricultural University
酵素反応は一般的に反応初期には一定速度で進行する.我々は,Agrobacterium tumefaciens 由来β ― グルコシダーゼ(Cbg1)の
1 mM pNP-Glc 加水分解の経時変化が Km よりも十分高い基質濃度にも関わらず分解率5%以内の範囲で直線性を示さないことを
観測した.より高濃度の pNP-Glc 分解でもほぼ同じ挙動を示したことから,直線性を示さない原因は生成物 pNP 濃度によると考え
た.種々のアルコールを反応系に添加すると直線性を回復した.生成物である pNP が糖転移アクセプターとして作用する自己転移
生成物阻害機構を提案した.理論線は実測値と良く一致した.
Agrobacterium tumefaciens 由来β - グルコシダーゼのアリール ― β ― グルコシド分解で観測される自己転移生成物阻害
北岡 本光*,高橋 智也*,Li Ying*, **,林 清*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
中国農業大学
Journal of Molecular Catalysis B: Enzymatic, 74 (1-2), 97-102 (2012)
Identification of amino acid residues determining substrate preference of 1,3 - β - galactosyl-N-acetylhexosamine phosphorylase
Mamoru Nishimoto*, Masafumi Hidaka**, Masahiro Nakajima*, Shinya Fushinobu**, Motomitsu Kitaoka*
*
National Food Research Institute, NARO
** The University of Tokyo
β1, 3ガラクトシル N アセチルヘキソサミンホスホリラーゼの3つのアミノ酸残基がガラクト ― N ― ビオース(GNB)とラクト ― N
― ビオース I(LNB)の基質の好みを決定する因子であることがタンパク質の立体構造から示唆された.そこで GNB と LNB に同様
に働くビフィズス菌由来のβ1, 3ガラクトシル N アセチルヘキソサミンホスホリラーゼを用いてミュータントを作製し,それらの
基質特異性について調べた.その結果,V162T 変異酵素は GNB に対する選択性が増加した.一方,P161S, S336A 両変異酵素はそ
れぞれ独立して LNB に対する選択性が増加していた.アミノ酸配列のアラインメントでは相同性の高い多くのアミノ酸配列の基
質選択性がどのようになっているかをこの3つのアミノ酸残基を比較することで予測可能であることが示唆された.
β1, 3ガラクトシル N アセチルヘキソサミンホスホリラーゼの基質特異性に関与するアミノ酸残基の同定
西本 完*,日高 將文**,中島 将博*,伏信 進矢**,北岡 本光*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
東京大学
168
The Journal of Biological Chemistry, 286 (40), 34583-34592 (2011)
Physiology of the consumption of human milk oligosaccharides by infant-gut associated bifidobacteria
Sadaki Asakuma*1, Emi Hatakeyama*2, Tadasu Urashima*2, Erina Yoshida*3, Takane Katayama*3, Kenji Yamamoto*3
Hidehiko Kumagai*3, Hisashi Ashida*4, Junko Hirose*5 and Motomitsu Kitaoka*6
*1
National Agricultural Research Center for the Hokkaido Region, National Agriculture and Food Research Organization
*2 Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine
*3 Research Institute for Bioresources and Biotechnology, Ishikawa Prefectural University
*4 Graduate School of Biostudies, Kyoto University
*5 Department of Life Style Studies, University of Shiga Prefecture
*6 National Food Research Institute, NARO
ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)によるビフィズス菌増殖作用は古くから知られていたが,詳細な作用機構は未解明である.最
近の研究からいくつかのビフィズス菌種/亜種は HMOs 代謝に関わる遺伝子セットを保持し HMOs 培地で生育できることが示さ
れているが,HMOs 代謝能が実際の代謝経路と一致していない可能性が残されている.我々は,HMOs を炭素源とした乳児腸管
によく見られるビフィズス菌種を培養し,HMOs 各成分の消長を詳細に調べた.試験菌株として Bifidobacterium bifidum JCM1254,
Bifidobacterium longum subsp. infantis JCM1222, Bifidobacterium longum subsp. longum JCM1217, Bifidobacterium breve JCM1192を用い
た.培地中の糖は2 ― anthranilic acid により標識し,順相 HPLC で定量した.各成分の消長パターンは各菌種の持つ酵素を反映して
いた.B. bifidum は菌体外酵素で HMOs を分解しており,B. longum subsp. infantis では HMOs をそのまま菌体内に取り込むことが示
唆された.B. longum subsp. longum および B. breve は lacto ― N ― tetraose のみ資化した.興味深いことに,B. bifidum は HMOs 分解物を
増殖中に残し,他の種/亜種が利用できる可能性が示された.HMOs の主成分がタイプI糖であること及び,乳児型ビフィズス菌
がタイプI糖を好むことは,ビフィズス菌とヒトの共進化を示唆している.
乳児型ビフィズス菌のヒトミルクオリゴ糖各成分の消費パターン
朝隈 貞樹*1,畑山 恵美*2,浦島 匡*2,吉田永史奈*3,片山 高嶺*3,山本 憲二*3
熊谷 英彦*3,芦田 久*4,広瀬 潤子*5,北岡 本光*6
農研機構北海道農業研究センター
*2 帯広畜産大学
*3 石川県立大学・生物資源科学研究所
*4 京都大学大学院生命科学研究科
*5 滋賀県立大学人間文化学部
*6(独)農研機構食品総合研究所
*1
The Journal of Biological Chemistry, 287 (1), 693-700 (2012)
An α-N-acetylgalactosaminidase from infant-associated bifidobacteria belonging to a novel glycoside hydrolase family 129 is implicated
in an alternative mucin degradation pathway
Masashi Kiyohara*1, Takashi Nakatomi*1, Shin Kurihara*1, Shinya Fushinobu*2, Hideyuki Suzuki*3, Tomonari Tanaka*3
Shin-ichiro Shoda*4, Motomitsu Kitaoka*5, Takane Katayama*6, Kenji Yamamoto*6 and Hisashi Ashida*1
*1 Graduate School of Biostudies, Kyoto University
Department of Biotechnology, The University of Tokyo
*3 Graduate School of Science and Technology, Kyoto Institute of Technology
*4 Graduate School of Engineering, Tohoku University, *5 National Food Research Institute, NARO
*6 Research Institute for Bioresources and Biotechnology, Ishikawa Prefectural University
*2
ビフィズス菌はヒトを含むほ乳類腸管深部に生息する.腸管深部にはムチン粘膜層が存在し,常在性細菌の定着場所になってい
る.我々は以前乳児型ビフィズス菌からムチン糖鎖分解及び代謝に関わると考えられる菌体外膜結合型 endo ― α ― N ― アセチルガラ
クトサミニダーゼ(EnfBF)を同定した.EnfBF は胃粘膜に多く存在するコア1鎖(Gal β1 ― 3GalNAcα1 ― Ser/Thr)に特異的である.
腸管粘膜にはコア3鎖(GlcNAc β1 ― 3GalNAcα1 ― Ser/Thr)が多く存在している.我々は Bifidobacterium bifidum JCM 1254から Tn 抗
原(GalNAcα1-Ser/Thr)分解性の新規 α ― N ― アセチルガラクトサミニダーゼ(NagBb)を同定した.ヒト S 字結腸の杯細胞の分泌す
る MUC2ムチンの主要四糖糖鎖構造はシアリルまたはガラクトシルコア3(Gal β1 ― 3/4GlcNAc β1 ― 3(Neu5Acα2 ― 6)GalNAcα1 ―
Ser/Thr)であり,これらの糖鎖は既に同定済みのビフィズス菌分泌型グリコシダーゼにより Tn 抗原まで分解される.NagBb は菌体
内酵素であるので,ペプチド鎖を含んだ Tn 抗原が何らかのトランスポーターにより菌他内に取り込まれ分解する物と考えられる.
NagBb ホモログは乳児型ビフィズス菌に保存されており,これらはムチン糖鎖分解経路として少なくとも2種対の異なる酵素系を利
用していることが示された.NagBb は既知酵素とアミノ酸配列の相同性が低く新規糖加水分解酵素ファミリー129に属している.
新規糖加水分解酵素ファミリー129に属する乳児型ビフィズス菌由来α ― N ― アセチルガラクトサミニダーゼはムチン分解経路に関与する
清原 正志*1,中富 毅*1,栗原 新*1,伏信 進矢*2,鈴木 秀之*3,田中 知成*3
正田晋一郎*4,北岡 本光*5,片山 高嶺*6,山本 憲二*6,芦田 久*1
京都大学大学院生命科学研究科
東京大学大学院農学生命科学研究科
*3 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科
*4 東北大学大学院工学研究科,*5(独)農研機構食品総合研究所
*6 石川県立大学・生物資源科学研究所
*1
*2
169
Journal of Applied Glycoscience, 59, 1, 1-12 (2012)
Synthesis of novel thioglycoside analogs as the substrates and/or the inhibitors of cellobiohydrolases
Takeshi Terauchi*, Yoshiyuki Koyama**, Sachiko Machida*, Takafumi Kasumi** and Shiro Komba*
**
* National Food Research Institute, NARO
Enzymology and Molecular Biology Laboratory, Department of Agricultural and Biological Chemistry, Nihon University
セロビオヒドロラーゼの活性測定のために基質または阻害剤となる5種類のβ(1 ― 4)チオオリゴ糖,O ― β ― D ― glucopyranosyl
→ 4)― S ― β ― D ― glucopyranosyl ―(1 → 4)― 4 ― deoxy ― 4 ― thio ― D-glucopyranose (1: Glc-O-Glc-S-Glc), S ― β ― D-glucopyranosyl ―(1 →
4)― O ―(4-deoxy ― 4 ― thio ― β ― D-glucopyranosyl)―(1 → 4)― D ― glucopyranose
(2: Glc-S-Glc-O-Glc), S ― β ― D ― glucopyranosyl ―(1 → 4)― 4
― deoxy ― 4 ― thio ― D ― glucopyranose(3: Glc-S-Glc)
, O ― β ― D-galactopyranosyl ―(1 → 4)― S ― β ― D ― glucopyranosyl ―(1 → 4)― 4 ― deoxy ― 4 ―
thio-D ― glucopyranose(4: Gal-O-Glc-S-Glc)and O ― β ― D-glucopyranosyl ―(1→4)― S ― β ― D-glucopyranosyl ―(1→4)― O ―(4-deoxy-4-thio
― β ― D-glucopyranosyl)
―
― D ― glucopyranose(5: Glc-O-Glc-S-Glc-O-Glc)を合成した.トリフレートアクセプターはベンゾイル
(1→4)
化とトリフレート化の2段階で合成した.S グリコシド化の後,アシル保護基を脱保護し目的物を得た.こうして,5種類の目的
物はいずれもわずか4段階で合成に成功した.
―
(1
セロビオヒドロラーゼの基質または阻害剤となる新規なチオグリコシドの合成
寺内 毅*,小山 善幸**,町田 幸子*,春見 隆文**,今場 司朗*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
日本大学 生物資源科学部
Journal of Bioscience and Bioengineering, 113 (6) 715-718 (2012)
Biochemical Characterization of L-Arabitol 2-Dehydrogenase from Pantoea ananatis
Yoshikiyo Sakakibara and Kyoko Torigoe
National Food Research Institute, NARO
植物病原菌である Pantoea ananatis において,キシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)と L ― アラビトールデヒドロゲナーゼ(LAD)
の2種類の酸化還元酵素が,糖代謝に関与すると考えられる単一のオペロン上にコードされていることが見出された.XDH と
LAD を遺伝子組換えにより大量調製し,生化学的解析を行ったところ,LAD は L ― アラビトールの2位の炭素を酸化する L ― アラ
ビトール2 ― デヒドロゲナーゼであることが明らかとなり,短鎖酸化還元酵素ファミリーに属する L ― アラビトール2 ― デヒドロゲ
ナーゼの最初の報告となった.さらに,LAD は L ― アラビトールの他にも,L ― トレイトール等の2位と3位の炭素が L ― threo 配置
の糖アルコールに作用することがわかった.一方,XDHは2位と3位の炭素がD ― threo配置の糖アルコールを基質としたことから,
LAD と XDH は相補的な基質特異性を有していることが明らかとなった.
パントエア・アナナティス菌由来の L ― アラビトール2 ― デヒドロゲナーゼの生化学的解析
榊原 祥清,鳥越 香子
(独)農研機構食品総合研究所
The Journal of Biological Chemistry, 286 (22) 19943-19957 (2011)
Lipid peroxidation modification of protein generates Nε- (4-oxononanoyl) lysine as a pro-inflammatory ligand
Takahiro Shibata*1, Yuuki Shimozu*1, Chika Wakita*1, Noriyuki Shibata*2, Makio Kobayashi*2, Sachiko Machida*3
Xiaochun Zhu*4, Lawrence M. Sayre*4 and Koji Uchida*1
*1
Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University
Department of Pathology, Tokyo Women's Medical University
*3 National Food Research Institute NARO
*4 Department of Chemistry, Case Western Reserve University
*2
4 ― Oxo ― 2 ― nonenal (ONE) ― リジン付加体に特異的なモノクローナル抗体の作製に成功し,ONE ― リジン付加体が動脈硬化巣に存
在すること,並びに,酸化 LDL 受容体 LOX ― 1のリガンドとして機能することを明らかにした.
柴田 貴弘*1,下津 祐樹*1,脇田 知佳*1,柴田 亮行*2,小林真紀子*2,町田 幸子*3
ツ−・キアカン*4,サイラ・ローレンス*4,内田 浩二*1
名古屋大学・農学部
*2 東京女子医大
*3(独)農研機構食品総合研究所
*4 Department of Chemistry
カーサ ウエスタン大学
*1
170
The Biochemical Journal, 442, 171-180 (2012)
Identification of 4-hydroxy-2-nonenal-histidine adducts that serve as ligands for human lectin-like oxidized LDL receptor-1
Miyuki Kumano-Kuramochi*, Yuuki Shimozu**, Chika Wakita**, Mayumi Ohnishi-Kameyama*, Takahiro Shibata**, Shigeru Matsunaga*
Yuko Takano-Ishikawa*, Jun Watanabe*, Masao Goto*, Qiuhong Xie*, Shiro Komba*, Koji Uchida** and Sachiko Machida*
*2
*1 National Food Research Institute NARO
Graduate School of Bioagricultural Science, Nagoya University
脂質過酸化反応の結果生じるアルデヒド修飾により,酸化 LDL の構成分子であるアポ B に4 ― hydroxy ― 2 ― nonenal ― ヒスチジン付
加体が生成する.この付加体が動脈硬化の初期過程に関与する受容体である LOX ― 1のリガンドであることを明らかにした.
4 ― hydroxy ― 2 ― nonenal ― ヒスチジン付加体はヒト酸化 LDL 受容体 LOX ― 1のリガンドとして機能する
倉持(熊野)みゆき*,下津 祐樹**,脇田 知佳**,亀山(大西)眞由美*,柴田 貴弘**,松永 茂*
石川(高野)祐子*,渡辺 純*,後藤 真生*,謝 秋宏*,今場 司朗*,内田 浩二**,町田 幸子*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
名古屋大学農学部
Applied and Environmental Microbiology 77 (22). 8181-8183. (2011)
Scandium Stimulates the Production of Amylase and Bacilysin in Bacillus subtilis
Takashi Inaoka* and Kozo Ochi**
*
National Food Research Institute, NARO
** Hirosima Institute of Technology
枯草菌の菌体外酵素及び抗生物質生産における希土類元素の効果について調査した結果,増殖培地へのスカンジウムの添加は培
養後期において菌体外酵素であるアミラーゼやプロテアーゼ,抗生物質であるバシリシンの生産能を高めることが判明した.しか
しながら,他の希土類元素ではこのような効果は認められなかった.レポーター遺伝子によるプロモーター活性測定及び定量リア
ルタイム PCR による転写産物量の比較を行なったところ,スカンジウム無添加の場合と比較して培養後期の細胞においてアミラー
ゼ遺伝子の発現誘導が観察された.また,バシリシン生合成遺伝子の発現は定常期初期では変化は認められないが,培養後期にお
いても発現が高レベルで維持されていることがわかった.これらの結果は,スカンジウムが枯草菌の定常期後期においてこれら遺
伝子発現に直接又は間接的に影響を及ぼすことを示している.
スカンジウムは枯草菌においてアミラーゼ及びバシリシン生産を高める
稲岡 隆史*,越智 幸三**
*(独)農研機構食品総合研究所
**
広島工業大学
ChemBioChem, 12 (18), 2767-2773 (2011)
Epoxyquinone Formation Catalyzed by a Two-Component Flavin-Dependent Monooxygenase Involved
in Biosynthesis of the Antibiotic Actinorhodin
Takaaki TAGUCHI*1, Susumu OKAMOTO*2, Kimiko HASEGAWA*3, Koji ICHINOSE*1
*1
Research Institute of Pharmaceutical Sciences, Musashino University
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 Rigaku Corporation
Streptomyces coelicolor A3(2)の生産する actinorhodin(ACT)は,benzoisochromanequinone(BIQ)系抗生物質に属する芳香族ポ
リケタイド化合物である.本化合物の生合成に関与する ActVA-5は,フラビン還元酵素 ActVB と共にフラビン依存型二成分系モノ
オキシゲナーゼ(ActVA-5/ActVB)として機能し,6位への酸素導入によるキノン形成を触媒する.今回我々は,dihidrokalafungin
を基質とした場合,本酵素系が6位酸化とは別の活性を示すことを見いだした.2種類の酵素反応生成物について NMR 分析およ
び X 結晶構造解析を行い,それらの構造を5S, 14R ― epoxy ― kalafungin および5R, 14S ― epoxy ― kalafungin であると決定した.この結果
は,ActVA-5/ActVB 酵素系がエポキシ化活性を有することを示す.
Actinorhodin 生合成に関わる二成分系モノオキシゲナーゼによるエポキシキノン形成反応
田口 貴章*1,岡本 晋*2,長谷川仁子*3,市瀬 浩志*1
*1
武蔵野大学薬学研究所
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3
株式会社リガク
171
Mycoscience, 52 (6), 431-435 (2011)
Molecular breeding of a novel Coprinopsis cinerea strain possessing a heterologous laccase gene, lccK, driven by a constitutive promoter
Hajime Muraguchi*, Manami Kondoh*, Yasuhiro Ito**, Sonoe O. Yanagi*
**
* Akita Prefectural University
National Food Research Institute (NARO)
担子菌ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)のラッカーゼ遺伝子(LccK)を,担子菌ネナガノヒトヨタケ(ウシグソヒトヨタケ;
Coprinopsis cinerea)で異種発現させるために,ネナガノヒトヨタケβチューブリン遺伝子のプロモーターに結合させ,ネナガノヒ
トヨタケに遺伝子導入を行った.得られた組換え処理系統について,後代の分離解析,酵素の native-PAGE 解析,酵素の基質特異
性解析,発現解析を行い,ネナガノヒトヨタケ組換え体がヒラタケ LccK 酵素を分泌していることを明らかにできた.従って,ヒ
ラタケ LccK 遺伝子はネナガノヒトヨタケ内で,正常に,スプライシングが生じ,細胞外分泌シグナルが機能していることが示唆
された.ラッカーゼを継続的に発現する組換え体は,芳香族化合物の分解に利用できるかも知れない.
継続的に発現誘導するプロモーターに接続した異種ラッカーゼ遺伝子(lccK)を持つ新規ネナガノヒトヨタケ系統の分子育種
村口 元*,近藤 愛美*,伊藤 康博**,柳 園江*
秋田県立大
*
**(独)農研機構食品総合研究所
Plant Physiology, 158 (1), 439-450 (2012)
MACROCALYX and JOINTLESS Interact in the Transcriptional Regulation of Tomato Fruit Abscission Zone Development
Toshitsugu Nakano*1, Junji Kimbara*2, Masaki Fujisawa*1, Mamiko Kitagawa*2, Nao Ihashi*1, Hideo Maeda*3
Takafumi Kasumi*4 and Yasuhiro Ito*1
*1
National Food Research Institute, (NARO)
Research Institute, Kagome Co., Ltd.
*3 National Institute of Crop Science (NICS) (NARO)
*4 Nihon University
*2
器官脱離とは,葉,花,果実といった植物器官が老化したり,傷害をうけたり,成熟したときに,植物がこれら器官を植物本体
より落とすプロセスをいう.器官脱離は,あらかじめ決まった場所に形成される離層とよばれる組織から起こる.果実の脱離制御
は,農業上重要であるにもかかわらず,離層形成の制御機構はよくわかっていない.本報では,トマト果柄の離層形成を制御する
新規転写因子遺伝子について報告する.私たちは,萼サイズの制御因子として知られていた MADS-box 転写因子の MACROCALYX
(MC)が,トマト果柄の離層形成に必要であることを明らかにした.MC は,シロイヌナズナの鞘の裂開帯の形成を制御する
MADS-box 転写因子 FRUITFUL と高い相同性を示す.MC は,果柄の離層形成制御因子である MADS-box 転写因子 JOINTLESS と相
互作用し,ヘテロ二量体を形成することで,特異的 DNA 配列へ結合できるようになることが判明した.また,脱離前の花柄を用
いた遺伝子発現解析によって,MC と JOINTLESS が,植物ホルモン,細胞壁修飾,脂質代謝に関連する遺伝子や転写因子遺伝子
の発現を制御していることが明らかになった.MC と JOINTLESS が制御している転写因子遺伝子のなかには,WUSCHEL(WUS),
REGULATOR OF AXILLARY MERISTEMS(RAX),CUP-SHAPED COTYLEDON(CUC),LATERAL SUPPRESSOR(LAS)の ホ
モログ遺伝子がみつかった.WUS, RAX, CUC, LAS は,シロイヌナズナにおいて茎頂分裂組織の維持,脇芽分裂組織の形成,組織
境界部の決定を制御している遺伝子である.トマトでは,WUS, RAX, CUC, LAS のホモログ遺伝子が,花柄の離層特異的に発現し
ていることから,これら遺伝子が離層の形成制御に関わる可能性が示された.
転写因子 MACROCALYX と JOINTLESS は,複合体を形成してトマト果柄の離層形成を制御する
中野 年継*1,金原 淳司*2,藤澤 雅樹*1,北川麻美子*2,伊橋 順*1,前田 英郎*3,春見 隆文*4,伊藤 康博*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2
カゴメ総研
*3(独)農研機構作物研究所
*4
日本大
172
Planta, 235 (6), 1107-1122 (2012)
Direct targets of the tomato-ripening regulator RIN identified by transcriptome and chromatin immunoprecipitation analyses
Masaki Fujisawa*, Yoko Shima*, Naoki Higuchi**, Toshitsugu Nakano*, Yoshiyuki Koyama**, Takafumi Kasumi**, Yasuhiro Ito*
**
* National Food Research Institute, NARO
Department of Agricultural and Biological Chemistry, Nihon University
トマトの果実成熟制御因子である MADS-box 型転写因子 RIN が直接的に転写制御している標的遺伝子を同定するために,トマ
ト(Solanum lycopersicum)正常株および RIN 変異株の成熟前後の果実についてマイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解
析を行い,RIN 依存的に発現が上昇する遺伝子を342個,下降する遺伝子を473個見出した.その内主な成熟関連遺伝子7個につい
て,抗 RIN 抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)と定量 PCR によりプロモーター領域への RIN の結合を明らかにし,これらが
RIN の標的遺伝子であることを示した.これらの遺伝子は,果実の軟化・香気成分合成・防御応答や転写制御に関わっており,エ
チレン合成も含め RIN が成熟の様々な現象を直接制御していることが遺伝子レベルで示された.特に成熟に関わる転写因子遺伝子
CNR や TDR4が RIN の標的であるという発見は,成熟制御カスケードを理解する上で重要である.
トランスクリプトーム解析およびクロマチン免疫沈降解析により同定されたトマト果実成熟制御因子 RIN 標的遺伝子
藤澤 雅樹*,嶋 羊子*,樋口 直樹**,中野 年継*,小山 善幸**,春見 隆文**,伊藤 康博*
*(独)農研機構食品総合研究所
**
日本大学 生物資源科学部
食品総合研究所研究報告,76,39-43(2012)
蛋白質の溶液 X 線散乱測定における2次元データの評価
渡邊 康*,猪子 洋二**
**
* 農研機構食品総合研究所
大阪大学大学院基礎工学研究科
食品素材成分である蛋白質を有効利用するため,溶液中の蛋白質の特性を解析する技術の開発は重要である.本研究では,蛋白
質溶液についての溶液 X 線散乱測定における2次元データを評価した.2次元データの1次元データへの変換において,垂直方向
の扇形(0時と6時方向の±30 ° ),水平方向の扇形(3時と9時方向の±30 ° ),および全方向同心円の積算データは,測定さ
れた散乱角領域において良好な一致を示した.さらに,全方向同心円の積算データの中角領域は,同測定条件下の1次元検出器に
よる測定データと比較して,きわめてばらつきが小さいことが明らかとなった.これらの結果は,蛋白質水溶液のような分散溶液
の静的測定では,疑似点収束光学系における溶液 X 線散乱測定システムに2次元検出器を導入することのメリットが十分にあるこ
とを示している.
An assessment study on two-dimensional X-ray scattering data for protein solutions
Yasushi Watanabe* and Yoji Inoko**
**
* National Food Research Institute, NARO
Graduate School of Engineering Science, Osaka University
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 75,2415-2417 (2011)
Effect of lime pretreatment of brown midrib sorghums
Tomoko Maehara*1, Tomoyuki Takai*2, Hiroaki Ishihara*3, Makoto Yoshida*3, Kiyoharu Fukuda*3, Mitsuru Gau*2 and Satoshi Kaneko*1
*1 National Food Research Institute, NARO
Forage Crop Breeding Unit, National Agricultural Research Center for Kyushu Okinawa Region
*3 Department of Environmental and Natural Resource Science, Faculty of Agriculture, Tokyo University of Agriculture and Technology
*2
ソルガムの酵素糖化におけるライム前処理の影響を検討した.ほとんどの条件下で,ブラウンミッドリブ(bmr)変異を有す
るソルガムの糖化は遺伝的に同じ背景を有する野生型のソルガムに比べ,高い糖化率を示した.この結果は,bmr変異を有する
ソルガムは野生型に比べて前処理条件をマイルドにすることが可能であり,bmrはバイオマスの前処理コストを低減するために
有用な性質であることを示唆する.
ブラウンミッドリブソルガムに対するライム前処理の影響
前原 智子*1,高井 智之*2,石原 啓明*3,吉田 誠*3,福田 清春*3,我有 満*2,金子 哲*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2(独)農研機構九州沖縄農業研究センター
*3
東京農工大学
173
Carbohydrate Research, 346, 1029-1036 (2011)
Structure of arabinogalactan oligosaccharides derived from arabinogalactan-protein of Coffea arabica instant coffee powder
Mária Matulová*1, Peter Capek*1, Satoshi Kaneko*2, Luciano Navarini*3, Furio Suggi Liverani*3
*1
Institute of Chemistry, Center for Glycomics, Slovak Academy of Sciences
*2 National Food Research Institute, NARO
*3 Illycaff&egrave; s.p.a., Research & Innovation
インスタントコーヒーより調製したアラビノガラクタン - プロテイン(AGP)をマイルドな酸及び酵素によって分解した.得ら
れた糖はゲル濾過と HPLC により分離し,その構造を NMR により解析した.マイルドな酸分解によって得られたオリゴ糖はアラ
ビノフラノースを全く含まなかったが,酵素分解により得られたオリゴ糖にはアラビノフラノースが含まれ,2糖,3糖,4糖と
して存在した.いずれの場合も,アラビノフラノースは末端に存在し,ガラクトースの3位の水酸基,6位の水酸基または両方に
結合していることが示唆された.マイルドな酸処理または酵素処理によって得られた高分子の糖鎖についても解析を行った.
インスタントコーヒーのアラビノガラクタン - プロテイン由来オリゴ糖の構造
マリア・マツロバ*1,ピーター・チャペック*2,金子 哲*2,ルシアノ・ナバリニ*3,フリオ・スギ・リベラニ*3
*1
スロバキア化学研究所
*2(独)農研機構食品総合研究所
*3
イリカフィ
Journal of Cereal Science, 53, 244-249 (2011)
An arabinogalactan-protein from whole grain of Avena sativa L. belongs to the wattle-blossom type of arabinogalactan-proteins
Esther M. Göllner*, Hitomi Ichinose**, Satoshi Kaneko**, Wolfgang Blaschek*, Birgit Classen*
*
Pharmaceutical Institute, Department of Pharmaceutical Biology, Christian-Albrechts-University of Kiel
** National Food Research Institute, NARO
β ― グルコシルヤリフ試薬による沈降を2回行うことによりオート麦全粒より初めてアラビノガラクタン - プロテイン(AGP)を
単離し,タンパク部分と糖鎖部分の解析を行った.高分子の糖鎖部分はガラクトース(63.0% w/w)とアラビノース(32.8% w/w)
を多く含んだが,ウロン酸は検出されなかった.AGP の糖結合解析結果とエキソ ― 1,3 ― ガラクタナーゼ処理によるプロダクトの構
造解析により,本 AGP は1,3 ― ガラクタンを主鎖とし,末端にアラビノフラノースを有する短鎖の1,6 ― ガラクタン側鎖で構成させ
ることを示唆した.タンパク部分は AGP に特徴的なアミノ酸であるアラニン,ヒオドロキシプロリン,セリンを多く含んだ.単
離した AGP の分子量は83 kDa であり,タンパク質部分のアルカリ分解で遊離された糖鎖のサイズは約 7 kDa だった.この様にオー
トの AGP の構造は花盛りの網枝様タイプのアラビノガラクタン - プロテインの構造をしていた.
オート麦全粒由来アラビノガラクタン ― プロテインは花盛りの網枝様タイプのアラビノガラクタン ― プロテインに属する
エステル・ゴルナー*,一ノ瀬仁美**,金子 哲**,ウォルフガング・ブラスチェック*,ブルジット・クラッセン*
*
クリスチャン ― アルブレクツ大学
**(独)農研機構食品総合研究所
174
Process Biochemistry, 47,358-365 (2012)
Structure-based engineering of glucose specificity in a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86
Hitomi Ichinose*1, Shaghik Diertavitian*2, Zui Fujimoto*3, Atsushi Kuno*4, Leila Lo Leggio*2 and Satoshi Kaneko*1
*1 National Food Research Institute, NARO
Biophysical Chemistry Group, Department of Chemistry, University of Copenhagen
*3 National Institute of Agrobiological Resources
*4 Research Center for Glycoscience, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
*2
基質特異性は最も重要な酵素の特性の一つである.我々は糖加水分解酵素の基質特異性を研究する一つのモデルとしてストレプ
トマイセス オリバセオビリディス由来ファミリー10キシラナーゼについて研究を行っている.サブサイト−1と−2における糖選
択制をキシロースからグルコースへ改変するため,7種類の変異体酵素をデザインした.変異体のデザインはサブセット1,2と
してファミリー10キシラナーゼにおいて区別できるサブサイト−1におけるトリプトファン残基の可動性と周りの環境への影響も
考慮した.Q88A/R275A 変異体はp ― ニトロフェニルセロビオシドとp ― ニトロフェニルキシロビオシドの分解性を比較したとこ
ろ,グルコースに対する選択制が最も向上していた.Q88A/R275A 変異体の立体構造を解析したところ,Trp274が Arg275との相互
作用がなくなったことから野生型酵素に比べて大きく動けるようになり,また,Q88A の変異により側鎖が短くなったことから,
グルコースのC6位が入るスペースが生じ,p ― ニトロフェニルセロビオシドに対するKm値が低くなったが,Q88の変異により,
kcat が低下したことが示唆された.Q88A/R275A 変異体に更に変異を加えたところ,最もグルコースに対する選択制が高まった変
異体では,p ― ニトロフェニルセロビオシドに対する活性が,野生型酵素に比べ,5.2倍改善されていた.
ストレプトマイセス オリバセオビリディス由来ファミリー10キシラナーゼの
グルコース選択制の構造を基にしたエンジニアリング
一ノ瀬仁美*1,シャギック・ディタビティアン*2,藤本 瑞*3,久野 敦*4,レイラ・ロ・リッジョ*2,金子 哲*1
*1(独)農研機構食品総合研究所
*2 コペンハーゲン大学
独立行政法人農業生物資源研究所
*4 独立行政法人産業総合技術研究所
*3
The Journal of Biological Chemistry, 286, 15483-15495 (2011)
The structure and function of an arabinan-specific alpha-1,2-arabinofuranosidase identified
from screening the activities of bacterial GH43 glycoside hydrolases
Alan Cartmell*1, *2, Lauren S. McKee*1, *2, Maria J. Pen ~ a*2, Johan Larsbrink*3, Harry Brumer*3, Satoshi Kaneko*4
Hitomi Ichinose*4, Richard J. Lewis*1, Anders Viksø-Nielsen*5, Harry J. Gilbert*1, *2 and Jon Marles-Wright*1
*1
Institute for Cell and Molecular Biosciences, Newcastle University, The Medical School
*2 Complex Carbohydrate Research Center, University of Georgia
*3 School of Biotechnology, Royal Institute of Technology, AlbaNova University Centre
*4 National Food Research Institute, NARO
*5 Novozymes A/S,
植物の細胞壁の多様な構造に対して,微生物は複雑な構造に対する一連の糖加水分解酵素を生産し,分解する.これらの酵素は
アミノ酸配列,機能,構造を基盤とするファミリーに分類されている.いくつかの微生物のゲノム遺伝子配列を解析すると植物細
胞壁を分解する微生物には非常に多くの糖加水分解酵素ファミリー43(GH43)に分類される配列が存在する.そこで,我々は腐
生性土壌細菌 Cellvibrio japonicus と人の腸内細菌である Bacteroides thetaiomicron の有する GH43酵素の生化学的な特性について報告
する.そのデータは C. japonicus はアラビナンを分解するために主にエキソ型の酵素を利用するが,B. thetaiotaomicron はエンド型
酵素と側鎖を取り除く酵素をコンビネーションで利用していることを示唆する.両菌株ともこれまでに報告のないアラビナン特異
的 α ― 1,2 ― アラビノフラノシダーゼをアラビナン分解に利用していることが示された.本酵素はアラビナンに存在する α ― 1,2 ― 結合
を分解し,一般的なアラビノフラノシダーゼが作用できないダブルブランチの側鎖に対しても作用する.C. japonicus 由来アラビ
ナン特異的 α ― 1,2 ― アラビノフラノシダーゼの結晶構造は5つのβ ― シートを基盤とする羽根状構造が組み合わさった様なフォール
ディングをしており,クレフト部分が主鎖を識別することで,アラビナンに対する選択制を作り出し,活性部位となるポケット構
造には α ― 1,2 ― 結合のアラビノフラノースのみが入り得る構造を作り出していた.また,ダブルブランチの場合には α ― 1,3 ― 結合の
アラビノフラノースが入り得るスペースが空いていることが観察された.
バクテリア由来 GH43糖加水分解酵素のスクリーニングにより見出された
アラビナン特異的 α ― 1,2 ― アラビノフラノシダーゼの構造と機能
アラン・カートメル*1, *2 ,ローレン・マッキー*1, *2 ,マリア・ペナ*2 ,ヨハン・ラースブリング*3,ハリー・ブルーマー*3,金子 哲*4
一ノ瀬仁美*4,リチャード・ルイス*1,アンダース・ビコソ ― ニールセン*5,ハリー・ギルバート*1, *2,ジョン・マーレス ― ライト*1
ニューカッスル大学
ジョージア大学
*3 王立工科大学
*4(独)農研機構食品総合研究所
*5 ノボザイム
*1
*2
175
The Journal of Biological Chemistry, 286, 27848-27854 (2011)
Endo-beta-1,3-galactanase from winter mushroom Flammulina velutipes
Toshihisa Kotake*1, Naohiro Hirata*1, Yuta Degi*1, Maki Ishiguro*2, Kiminari Kitazawa*1, Ryohei Takata*1, Hitomi Ichinose*3
Satoshi Kaneko*3, Kiyohiko Igarashi*2, Masahiro Samejima*2 and Yoichi Tsumuraya*1
*2
*1 Faculty of Science, Saitama University
Graduate School of Agricultural and Life Sciences, University of Tokyo
*3 National Food Research Institute, NARO
アラビノガラクタン‐プロテイン(AGP)は高等植物の細胞表層に存在するプロテオグリカンである.AGP の糖鎖部分は1,3 ― ガ
ラクタンを主鎖とし,アラビノース等の糖で修飾された1,6 ― ガラクタン側鎖を有する.本研究では,初めて FvEn3GAL と命名した
エンド ― β ― 1,3 ― ガラクタナーゼをエノキタケより精製するとともに遺伝子をクローニングした.本酵素はβ ― 1,3 ― ガラクタンを加
水分解したが,β ― 1,3 ― グルカン,β ― 1,3 ― : 1,4 ― グルカン,キシログルカン,アガロースを分解しなかった.β ― 1,3 ― ガラクトヘ
キサオースに作用させた場合,様々な長さのβ‐1,3‐ガラクトオリゴ糖を初期反応生成物として生産したことから,本酵素はエ
ンド型にβ ― 1,3 ― ガラクタンを分解することが示唆された.系統樹解析により,本酵素は糖加水分解酵素ファミリー16において,
既知のエンド ― 1,3 ― グルカナーゼやエンド ― 1,3: 1,4 ― グルカナーゼと明確に区別できるサブグループを形成するすることが明らかと
なった.触媒残基と予想されるファミリー16に保存されているグルタミン酸とアスパラギン酸の変異により,本酵素は活性を失っ
た.これらの結果は FvEn3GAL は極めて厳密な基質特異性を有するファミリー16エンド ― β ― 1,3 ― ガラクタナーゼであることを示
唆する.
エノキタケ由来エンド ― β ― 1,3 ― ガラクタナーゼ
小竹 敬久*1,平田 尚弘*1,出木 雄太*1,石黒 真希*2,北澤 仁成*1,高田 遼平*1,一ノ瀬仁美*3
金子 哲*3,五十嵐圭日子*2,鮫島 正浩*2,円谷 陽一*1
埼玉大学
東京大学
*3(独)農研機構食品総合研究所
*1
*2
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