...

本文は - 化学と生物

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

本文は - 化学と生物
セミナー室
澱粉生合成研究の新潮流-4
キャッサバ澱粉の生産性向上を目指して
内海好規 *1,櫻井哲也 *1,石谷 学 *2,関 原明 *1
*1理化学研究所環境資源科学研究センター,* 2国際熱帯農業センター(CIAT)
地であり,アフリカおよびアジアの熱帯,亜熱帯地域で
はじめに
広く栽培されている.キャッサバ塊根は全世界で 5 ∼ 10
一般に「キャッサバ」と説明するよりも,
「タピオカ」
億人の重要なエネルギー源となっており,食糧安全保障
と言えば,ご理解していただけることが多い.「タピオ
上,産業利用上,重要な作物として位置づけられている
カ」とは「キャッサバ」の塊根から精製した澱粉のこと
キャッサバは世界主要食用作物の総収穫面積では第 6 位
である.中南米では「マニオカ」
「ユカ」と呼ばれてお
に 位 置 し,2010 年 度 の キ ャ ッ サ バ の 総 生 産 量 は 2 億
り,世界中でさまざまな呼び名で親しまれていると思う
3,671 万トンで,地域別では,アフリカ地域で最も生産
のだが,本稿では「キャッサバ」という呼び名に統一し
量が多く,アジア,南アメリカと続く.国別では西アフ
たい.われわれは東南アジアで食糧安全保障や貧困削
リカのナイジェリア,東南アジアのタイ,インドネシ
減,産業上重要な熱帯作物「キャッサバ」の分子育種研
ア,南アメリカのブラジルで生産量が多い(1).キャッサ
究をキャッサバ主要生産国であるタイのマヒドン大学や
バは酸性土壌や貧栄養土などのさまざまな悪環境下にも
ベトナムの農業遺伝学研究所(AGI)
, 世界最大のキャッ
耐えうる能力をもち,葉は飼料として,茎は挿し木とし
サバ遺伝資源を保有するコロンビアの国際熱帯農業セン
て栽培に利用される.キャッサバは,比較的栽培が容易
ター(CIAT)と共同で推進している.これら研究機関
で,他作物との混作や輪作も行われ,高地利用に多様性
と 連 携 し て ゲ ノ ム 解 析 基 盤, 分 子 マ ー カ ー の 構 築,
があることなど,熱帯作物として有利な特性を備えてい
キャッサバ形質転換法の開発を行い,特に東南アジアに
る(2).その根には塊根を形成し,生重量当たり 20 ∼
おける分子育種を推進している.また,共同研究を介し
30% の澱粉を蓄積する(図 1)
.
てこの分野の人材育成にも力を入れている.本稿ではこ
世界のキャッサバの年間総生産量は,この 30 年間に
のキャッサバ生産の現状と課題,われわれの東南アジア
倍増し,今世紀に入り世界の総生産量は上昇している.
でのキャッサバ分子育種の取り組みについて報告する.
アジアのキャッサバ生産はベトナム,中国,カンボジア
などアジア全域に広がり,食糧,家畜飼料と澱粉原料か
キャッサバの栽培地域と生産と利用について
キャッサバ(学名:
らバイオマス資源にも用途を広げて拡大が続いている.
一方,アフリカでは,
「裏庭の作物」として主に食糧安
)はトウダイグ
全保障の観点から栽培されているが,近年では地域の市
サ目トウダイグサ科イモノキ属に分類され,南米が原産
場や生活スタイルの変化から,伝統加工品のインスタン
622
化学と生物 Vol. 51, No. 9, 2013
図 1 ■ 熱帯作物キャッサバは無駄な
く利用できる植物である
ト食品や食材がスーパーマーケットで販売されるように
増した.さらなる増産を目指して,幅広い栽培地域適応
なっている(3).
力と高収量のキャッサバの育種が望まれている(1).
平成 23 年度の日本の澱粉供給量の実績は,国産コー
アフリカでは,古くからアジアや南米で報告されてい
ンスターチが全体の 85% を占め,次が国産ばれいしょ
ないキャッサバ病害虫が蔓延し,総合的な病害虫対策を
で,その次が輸入澱粉で全体の 6.3% を占めている.平
とる必要に迫られている.主要病害として,Cassava
成 23 年澱粉年度の外国産澱粉の輸入量は,キャッサバ
Mosaic Disease(CMD), Cassava brown streak disease,
澱粉が全体の 80.6% を占めており,その輸入量は年々増
細 菌 病 に は Cassava Bacterial Blight(CBB), Cassava
(4)
加している .キャッサバ澱粉は化学的に加工もしくは
Bacterial Leaf Spot が挙げられる.たとえば,CMD は
無加工で食品物性改良材や工業材料として広く利用され
1894 年にタンザニアで最初に報告され,その後各地に
ている.
広がったアフリカの最重要病害であり,新葉への被害が
著しい.CMD の被害により,80% もの減収となること
キャッサバ澱粉生産向上における課題
が報告されている(5).
東南アジアではキャッサバに対する病害虫が蔓延した
上記のようにキャッサバ栽培の目的は大陸,国および
と い う 報 告 が な か っ た が, 近 年,各 地 で コ ナ ジラ ミ
地域によって大きく異なる.キャッサバ澱粉生産向上に
(Whitefly), コナカイガラムシ(Mealybug), CBB, Cas-
向けて今後取り組むべき課題を下記に列挙した.
sava Witches Broom Disease(CaWB)の蔓延が報告さ
1) キャッサバ塊根の高収量化
れるようになり,これらの病害虫に対する対策が急がれ
2) キャッサバ塊根中の澱粉含有量の向上
ている.実際,2009 年にタイの東部や北東部の地域や
3) キャッサバの産業利用に向けた澱粉形質の改変
ラオス,カンボジアでコナカイガラムシが大量発生し
4) 気候変動などによる病害蔓延に対処するための
た.タイだけでも約 160,000 ha にも及ぶコナカイガラム
キャッサバ耐病性向上
これらの課題にはキャッサバ澱粉の加工利用に直接か
シの被害が報告され,その結果,この年,国内生産量が
20 ∼ 30% 減少し,大きな社会問題となった(6).現在,
かわる課題もあるが,4)のように広域で取り組まなけ
タイでは農薬と益虫の使用によりコナカイガラムシを防
ればならない喫緊の課題もある.
除するとともに国内および国外からのキャッサバ品種の
キャッサバの単位面積当たりの収量は 30 年前と比較
移動を厳しく制限している.
し,40% 程 度 増 加 し た(2011 年, 単 位 面 積 当 た り の
キャッサバ塊根収量は 12.8 t/ha である).これは,高収
キャッサバ研究基盤の開発と国際的な研究ネット
量品種の育種と農家への普及によるところが大きい.ま
ワークの構築
た,作付け面積も全世界で 40% 増加し,その結果,世
日本では熱帯作物であるキャッサバ栽培がほとんど行
界のキャッサバ塊根の総生産量は 30 年前と比較して倍
われていない.キャッサバは生育期間が長いこと(10
化学と生物 Vol. 51, No. 9, 2013
623
∼ 12 カ月),低木という特性をもつこと,またアメリ
ラリーを構築した(10).19,968 完全長 cDNA クローンの
カ,ヨーロッパ,日本などの先進国の食糧安全保障上の
5′ および 3′ 末端の端読み配列を解読し,塩基配列の一
重要な作物でなかったため,ほかの重要穀物と比べその
致に基づき配列データの連結,冗長性の排除を行った結
研究基盤がこれまで十分に整備されてこなかった.
果,6,355 個のコンティグ *1 と 9,026 個のシングルトン *2
世界標準のキャッサバのゲノム解析基盤を構築するこ
配列を得た.得られたコンティグとシングルトン配列を
とは,キャッサバの育種を効率化するうえで必要不可欠
構成する cDNA 末端読み配列を精査することで,転写
である.そこで,理研,CIAT(コロンビア),マヒド
される RNA に相当する 10,577 個のスキャフォルド *3 を
ン大(タイ)の研究グループは,2009 年から 3 年間の国
構築し,7,796 個の遺伝子転写単位を把握することがで
際共同研究プロジェクト(科学技術戦略推進費事業,課
きた.このうち 78% については,遺伝子機能注釈を付
題:熱帯作物分子育種基盤構築による食糧保障)を実施
与することができ,シロイヌナズナで同定されている酵
した.理研は,モデル植物で培った完全長 cDNA 作製,
素遺伝子の半数以上をキャッサバ完全長 cDNA として
トランスクリプトーム解析,データベース構築など高い
獲得できたことがわかった.また,重複遺伝子が 230 遺
ゲノム解析技術をキャッサバに応用するとともに,その
伝子に及ぶことが判明し,これら遺伝子の重複はキャッ
ゲノム解析に必要な育種資源はキャッサバ遺伝資源を保
サバが非生物的ストレスに対して適応するために何かの
有する CIAT(http://isa.ciat.cgiar.org/urg/)から提供
役割を果たしているのかもしれないと考えられた.われ
を受けた.一方,マヒドン大学などのタイグループは,
われはさらにキャッサバ在来品種 MECU72(コナジラ
高塊根収量,高澱粉含有,高シアン含有キャッサバ品種
ミに対して耐性)や MPER417-003(コナジラミとコナ
HuayBong60 と低塊根収量,低澱粉含有,低シアン含有
カイガラムシに対して耐性)から完全長 cDNA クロー
のキャッサバ品種 Hanatee 間で交配することで F1 系統
ンを単離,解析し(Uemura
を作出し,高塊根収量,高澱粉含量などに関するマー
性にかかわる遺伝子の同定を進めている.
, 未発表),病害虫耐
カー育種を進めた(7).われわれがこれまで獲得してきた
植物分子育種にかかわる最先端ゲノム科学技術と人材を
結集し,キャッサバ野生種などの有用な遺伝資源を活用
キャッサバ有用遺伝子の解析と同定
することで国際標準のキャッサバのゲノム解析基盤を構
環境適応や生長制御の生命現象は,単一の遺伝子の働
築するとともに,世界のキャッサバ研究機関とのネット
きだけでなく多数の遺伝子が機能することにより調節さ
(6)
ワークを構築することができた (下記参照)
.
れている.多数の遺伝子の発現プロファイルを網羅的に
解析できる方法の一つに DNA マイクロアレイ解析があ
完全長 cDNA クローンの単離
る.理研では,シロイヌナズナなどを用いて,DNA マ
イクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析などから,乾
キャッサバに限らず,生物のゲノム研究および基礎研
燥,低温,塩,高温などの環境ストレスに対する応答機
究を加速するための一つの方法として,完全長 cDNA
構に関与する遺伝子を多数同定し,それら遺伝子の機能
クローンの解析が挙げられる.完全長 cDNA クローン
解明を行ってきた(11, 12).それらストレス応答性遺伝子
はゲノム研究の最重要基盤リソースの一つであり,その
を過剰発現させることで環境ストレス耐性を示す例が多
充実度が研究の戦略・進行・結果に大きく影響を与える
数報告されている.このように,DNA マイクロアレイ
ことは言うまでもない.完全長 cDNA の配列情報解析
を用いれば,環境ストレス耐性付与への応用などが期待
は遺伝子機能の理解をはじめとする機能ゲノム解析にお
できる有用遺伝子の同定,転写因子の下流因子の探索・
いてとても重要であり,ゲノムシーケンスや翻訳された
同定,ゲノム情報と組み合わせることによりシス因子の
タンパク質の機能予測を正確に達成できる(8, 9).また,
探索などができ,環境ストレス応答などの生命現象の分
育種の観点から育種材料の遺伝学的解析や重要形質にか
か わ る 遺 伝 子 マ ー カ ー を 構 築 す る の に 重 要 で あ る.
キャッサバの cDNA リソースはこれまで完全長 cDNA
として大規模に解析されたことがなく,われわれの研究
チームでは世界に先駆けて,乾燥,高温,酸性などのス
トレス処理したキャッサバの葉と根および収穫後劣化し
始めた塊根から全 RNA を調製し,完全長 cDNA ライブ
624
*1コンティグ(Contig):塩基配列決定に際し,2 つ以上のフラグ
メント同士が共通の塩基配列をもつ場合,塩基配列の一致に基づ
き一つの結合された配列を作ることができる.この連結配列のこ
とを意味する.
*2シングルトン(Singleton):ほかのフラグメントとオーバーラッ
プしなかったフラグメント.
*3スキャフォルド(Scaffold):フラグメント両端配列の組み合わ
せなどに基づき,コンティグ群の位置関係を決定した一群の配列.
化学と生物 Vol. 51, No. 9, 2013
図 2 ■ GFP ま た は GUS 遺 伝 子 を 発
現した遺伝子組換えキャッサバ
pCAMBIA1302(CaMV35S-GFP 遺伝
子 を 含 む) を ア フ リ カ 株,pCAMBIA1303(CaMV35S-GUS 遺伝子を含
む)をアジア株へアグロバクテリア
法により導入した.アフリカ株に関
しては,植物体,根,葉のすべての
組織で GFP の発現を観察した.1 回
の感染操作で最低 20 個の形質転換株
を得ることが可能である.アジア株
に関しては複数の系統から小葉を回
収 し,GUS 染 色 を 行 っ た.1 回 の 感
染操作で形質転換株は 1 個のみと形
質転換効率は低い.
子機構の理解につながる(13).
しかし,Phytozome では主にゲノム配列や遺伝子構
われわれは,20,000 個のキャッサバ遺伝子の発現プロ
造情報が収録されているため,周辺研究推進に十分では
ファイルの解析が可能な DNA オリゴマイクロアレイ
な い. 理 研 で 収 集 し た 完 全 長 cDNA 情 報 と 現 状 の
(アジレント社)を独自に構築して,乾燥ストレス応答
キャッサバゲノム配列とを統合し,ほかのモデル植物で
遺伝子の解析を行い,作製したキャッサバオリゴマイク
培われた情報統合手順に則り,キャッサバに応用すれ
ロアレイが種々のキャッサバ遺伝子型の解析に利用可能
ば,遺伝子機能注釈の拡充や DNA 多型などキャッサバ
(14)
であることを示した
.この結果に基づき,30,000 個
育種を効率化する遺伝学的情報を提供することができる
のキャッサバ遺伝子由来のオリゴマイクロアレイを同様
と考えらえる.そこでわれわれは,ゲノム情報と転写情
に作製し,現在このアレイを用いて,マヒドン大学のグ
報のようなほかの研究フィールドとを統合したデータ
ループと商業品種,KU50 系統における塊根形成過程の
ベ ー ス Cassava Online Archive(http://cassava.psc.
遺伝子発現の解析やコナジラミ耐性キャッサバを用いた
riken.jp/)を作成し,情報基盤整備を進めている.
遺伝子発現解析を CIAT と進めている(Utsumi
,
未発表).
キャッサバデータベースの構築
キャッサバは染色体数 = 18 で 2 倍体植物である(15).
有用遺伝子のキャッサバ形質転換による育種利用
従来型の交配育種によるキャッサバの新品種開発には
時間を要する.その主な要因として,ヘテロ接合型の割
合が高いこと,自家受粉が難しく,花数や,花粉が少な
そのゲノムサイズは推定 770 Mb である.現在,推定ゲ
いことなどが挙げられる(17, 18).このため,有用遺伝子
ノムサイズの約 29 倍に及ぶ 224 億塩基の配列データが得
の育種利用をキャッサバで促進するためには従来型の交
られ,その配列データをアセンブル *4 した結果,532.5
配育種に加え,遺伝子組換えによる分子育種が重要にな
Mb の塩基配列を決定している.予想される遺伝子数は
る.キャッサバの形質転換法であるが,キャッサバ組織
30,666 個であり,選択的スプライシングを受けていると
を脱分化させ,アグロバクテリウムと共存培養後,再分
予想される遺伝子数は 3,485 個であった(16).緑色植物の
化を行う方法が一般に用いられている(19, 20).理研では
ゲノム配列を集約しているウェブデータベース Phyto-
アフリカ株(TMS60444)を使ったキャッサバ形質転換
zome(http://www.phytozome.net/)は,2013 年 4 月現
技術を確立するとともに,その形質転換技術のキャッサ
在,42 植物種について収録されており,キャッサバの
バ品種へ応用を試みている(図 2)
.この分子育種法を
遺伝子情報についても閲覧可能である.
用いて,ソース機能を強化させた高塊根収量や高澱粉含
有量キャッサバ,耐病性遺伝子を導入した耐病性品種,
*4アセンブル:大量の塩基配列間の配列を相互比較し,配列の一
致性などを基に元の塩基配列を構築すること.
化学と生物 Vol. 51, No. 9, 2013
澱粉生合成遺伝子に着目した澱粉特性の異なるキャッサ
バの作出を目指している.
625
澱粉生合成遺伝子に関して,これまでのキャッサバゲ
JST の「東アジア・サイエンス & イノベーション・エリ
ノム解析から,キャッサバはほかの高等植物と同様に澱
ア構想」共同研究プログラム(e-ASIA 共同研究プログ
粉 生 合 成 の キ ー 酵 素 で あ る 4 つ の 酵 素,ADP-glucose
ラ ム)(http://www.the-easia.org/jrp/plantscience) を
pyrophosphorylase(AGPase)
, starch branching en-
進めている.このプログラムでは,形質転換や重イオン
zyme(SBE)
,starch synthase(SS)
, starch debranch-
ビーム変異育種による有用キャッサバの作出やキャッサ
ing enzyme(SDBE)を保持しており,各酵素のアイソ
バ病害に対する分子メカニズムの解明を目指している.
ザイムのアミノ酸一次構造はジャガイモなどの双子葉植
構築された分子育種技術と研究ネットワークは,国内
物に類似していた.これら酵素機能の保存性は植物間で
外のキャッサバ研究をこれらの分野で発展させる礎とな
高く,キャッサバでもイネと類似したメカニズムで澱粉
る.高塊根収量,高澱粉含量キャッサバなどの高付加価
(21)
,これら酵素の遺伝子発現を制御するこ
値キャッサバの品種開発により,小農が多いと言われる
とで澱粉の構造とその性質を自在に改変することが期待
キャッサバ農家に裨益するだけでなく,将来の世界食糧
できる.澱粉の興味深い特色として,澱粉の性質が植物
需要の増加といった課題に対する重要な解決策を科学的
起源により大きく異なる点である.特にキャッサバ澱粉
に提示し,さらに,日本国内の産業界と連携し,社会還
は高い粘着性を示す.すでに産業上重要な位置にある
元型の研究を目指していきたい.
が合成され
キャッサバの澱粉特性を改変し,ユニークな物性をもつ
澱粉を作製することで,新素材として加工適性の幅が広
がり,産業利用の幅も同時に広がることが期待され
(22)
る
.
キャッサバ研究の今後の取り組みと展開に向けて
キャッサバのゲノム解析基盤の構築は科学技術戦略推
進費事業「熱帯作物分子育種基盤構築による食糧保障」
の研究活動で達成することができた.幸いにも「S」評
価をいただき,キャッサバ研究のための基盤整備と国際
研究機関とのネットワーク形成が高く評価されたと考え
ている.この基盤技術を活用し,キャッサバ塊根の澱粉
生産メカニズムや塊根形成メカニズムを解析し,遺伝子
組換えなどの手法を用いて澱粉高生産性のキャッサバの
分子育種を目指す研究を国内外の研究機関と共同で実施
している.
世界,特にキャッサバの主要生産地である東南アジア
諸国と連携して地域のキャッサバの共通問題解決に取り
組むために,分子育種分野での共同研究の推進や人材育
成を通して,キャッサバ研究ネットワークの強化を図っ
ている.具体的な活動として,第一に,人材育成が挙げ
られる.ベトナムの AGI から研究者を招聘し,キャッ
サバの形質転換技術を教授し,今後 AGI と連携してベ
トナムにおける遺伝子組み換えによるキャッサバの分子
育種を推進する予定である.第二に,AGI と CIAT が設
立した,
「International Laboratory for Cassava Molecular Breeding」
(AGI に設置)に理研は中核機関として
参加し,キャッサバ分子育種の圃場現場で実証できる研
究環境を整備した.第三に,日本(理研)
,タイ(マヒ
ドン大学,DOA など),ベトナム(AGI) の研究者で
626
文献
1) FAO stat(http://faostat3.fao.org/home/index.html)
.
2) J. H. Cock : Cassava : New Potential for a Neglected
Crop,
,
, 1985, p. 1.
3) D. S. Caccamisi :
, 50, 15
(2010).
4) 農林水産省:デンプン需給の見通し (http://www.maff.
go.jp/j/seisan/tokusan/kansho/denpun.html).
5) R. Sayre, J. R. Beeching, E. B. Cahoon, C. Egesi, C. Fauquet, J. Fellman, M. Fregene, W. Grussem, S. Mallowa,
M. Manary
:
, 62, 251(2011)
.
6) Y. Utsumi, T. Sakurai, Y. Umemura, S. Ayling, M. Ishitani, J. Narangajavana, P. Sojikul, K. Triwitayakorn, M.
Matsui, R. Manabe
:
, 5, 110
(2012).
7) S. Sraphet, A. Boonchanawiwat, T. Thanyasiriwat, O.
Boonseng, S. Tabata, S. Sasamoto, K. Shirasawa, S. Isobe,
D. A. Lightfoot, S. Tangphatsornruang
:
, 122, 1161(2011).
8) M. Seki, M. Narusaka, A. Kamiya, J. Ishida, M. Satou, T.
Sakurai, M. Nakajima, A. Enju, K. Akiyama, Y. Oono
:
, 296, 141(2002).
9) M. Seki & K. Shinozaki :
, 122, 355(2009)
.
10) T. Sakurai, G. Plata, F. Rodriguez-Zapata, M. Seki, A. Salcedo, A. Toyoda, A. Ishiwata, J. Tohme, Y. Sakaki, K.
Shinozaki
:
, 7, 66(2007).
11) M. Seki, M. Satou, T. Sakurai, K. Akiyama, K. Iida, J.
Ishida, M. Nakajima, A. Enju, M. Narusaka, M. Fujita
:
, 55, 213(2004).
12) M. Seki, M. Narusaka, H. Abe, M. Kasuga, K. YamaguchiShinozaki, P. Carninci, Y. Hayashizaki & K.
Shinozaki :
, 13, 61(2001).
13) K. Urano, Y. Kurihara, M. Seki & K. Shinozaki :
, 13, 132(2010).
14) Y. Utsumi, M. Tanaka, T. Morosawa, A. Kurotani, T. Yoshida, K. Mochida, A. Matsui, Y. Umemura, M. Ishitani,
K. Shinozaki
:
, 19, 335(2012).
15) F. Awoleye, M. van Duren, J. Dolezel & F. J. Novak :
, 76, 195(1994).
16) S. Prochnik, P. R. Marri, B. Desany, P. D. Rabinowicz, C.
Kodira, M. Mohiuddin, F. Rodriguez, C. Fauquet, J.
化学と生物 Vol. 51, No. 9, 2013
Tohme
:
, 5, 88(2012)
.
17) H. Ceballos, A. Iglesias, J. Pérez & A. G. O. Dixon :
, 56, 503(2004)
.
18) J. Liu, Q. Zheng, Q. Ma, K. K. Gadidasu & P. Zhang :
, 53, 552(2011)
.
19) N. Taylor, P. Chavarriaga, K. Raemakers, D. Siritunga &
P. Zhang :
, 56, 671(2004)
.
20) S. E. Bull, J. A. Owiti, M. Niklaus, J. R. Beeching, W.
Gruissem & H. Van-derschuren :
, 4, 1845
(2009)
.
21) Y. Nakamura :
, 43, 718(2002).
22) 中村保典:化学と生物,44, 155(2006)
.
プロフィル
内海 好規(Yoshinori UTSUMI) <略歴> 2001 年福山大学工学部食品工学
科卒業/2003 年同大学大学院工学研究科
修了/2007 年秋田県立大学大学院生物資
源科学研究科修了/同年同大学研究員/
2010 年 理 化 学 研 究 所 植 物 科 学 研 究 セ ン
ター特別研究員/2013 年同研究所環境資
源研究センター研究員,現在に至る<研究
テーマと抱負>キャッサバの塊根形成や塊
根デンプン生産メカニズムの解明,抱負は
基礎研究を楽しみつつ,研究成果を社会へ
還元していくこと,そして,実際利用して
もらうこと<趣味>黙々とできるスポーツ
(ランニングなど),町にいる猫の探索
櫻井 哲也(Tetsuya SAKURAI) <略歴> 1996 年横浜市立大学文理学部生
物学課程卒業/同年ソフトウエア興業株式
会社/2000 年理化学研究所ゲノム科学総
合研究センター植物ゲノム機能研究グルー
プ技師/2003 年同研究所ゲノム科学総合
研究センターゲノム情報科学研究グループ
技師/2005 年同研究所植物科学研究セン
ターゲノム情報統合化研究ユニットユニッ
トリーダー/2013 年同研究所環境資源科
学研究センター統合ゲノム情報研究ユニッ
トユニットリーダー<研究テーマと抱負>
ゲノムを主としたオミクス情報を活用した
DNA 多型,遺伝子,表現形質の関連性の
解析および周辺研究の推進<趣味>釣り
化学と生物 Vol. 51, No. 9, 2013
石 谷 学(Manabu ISHITANI) <略歴> 1994 年名古屋大学農学部農学研
究科博士課程修了/同年日本学術振興会特
別研究員,アリゾナ大学生化学部門,アメ
リカ合衆国/1996 年アリゾナ大学植物科
学部門ポストドクトラルフェロー,アメ
リ カ 合 衆 国/2000 年 BASF Plant Science
L.L.C. 研究員,ノースカロライナ州,ア
メリカ合衆国/2003 年国際熱帯農業セン
ター農業生物多様性研究部門主任研究員,
コロンビア,現在に至る<研究テーマと抱
負>多様な遺伝子資源からイノベーション
に繋がる新規形質の発見,分子育種による
新品種の開発促進<趣味>旅行,特に日本
での温泉周り
関 原 明(Motoaki SEKI) < 略 歴 > 1988 年 京 都 大 学 農 学 部 卒 業/
1990 年同大学大学院農学研究科修士課程
修了/1994 年広島大学大学院理学研究科
博 士 課 程 修 了/1995 年 理 化 学 研 究 所 基
礎科学特別研究員/1998 年同研究所研究
員/1999 年同研究所ゲノム科学総合研究
センター植物ゲノム機能情報研究グループ
上級研究員(兼務)/2006 年同研究所植物
科学研究センター植物ゲノム発現研究チー
ムチームリーダー/2008 年横浜市立大学
木原生物学研究所植物ゲノム発現制御シス
テム科学部門客員教授(兼務)/2013 年理
化学研究所環境資源科学研究センター植物
ゲノム発現研究チームチームリーダー<研
究テーマと抱負>高収量・高デンプン含量
などの有用キャッサバの創出法の開発,エ
ピゲノム・RNA 制御ネットワークの解明
を通した環境ストレス適応力の強化<趣
味>ジョギング
627
Fly UP