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議事録(PDF形式 151 KB)
国際フォーラム「日米欧の成長力−IT、企業の対応、経済政策」 議事概要 内閣府経済社会総合研究所 1.日 時:平成17年2月14日(月)14:00−17:00 2.場 所:赤坂アークアカデミーヒルズ36階 アカデミーホール 3.出席者:別紙参照 4.概 要:以下の通り 5.司 会:杉田総務部長 1.香西所長挨拶 本日は大変ご多用のところ多数ご参加いただきましてまことにありがとうございます。 本日は、内閣府経済社会総合研究所で「日米欧の成長力−IT、企業の対応、経済政策」 というテーマでフォーラムを開催させていただきたいと思います。ご参加いただいて本当 にありがとうございました。 私どもの経済社会総合研究所では、日本経済が長期的、持続的な成長経路を確保できる ように、そのための諸問題のうち特に成長を確保するということと、環境問題をその際克 服していくことと、2つの分野を中心としまして国際共同プロジェクトというのを実施し ております。本日は経済成長の確保に向けて課題を解決するための1つの重要なキーであ ります技術革新をテーマとして取り上げております。その研究の中から日米欧の成長力に ついて内外の専門家をお招きして、国際フォーラムを開催することとさせていただきまし た。 一国の成長力というのをどのように評価するかは経済政策を考える上でも一番大事な問 題であります。特に昨今の我が国の経済成長を考えるに当たりましては、急速に進展して いるITの効果や、あるいは生産年齢人口の変動の影響とか、あるいは構造改革をねらっ て行われている政策の効果、こういったことを国際的な比較を通じて十分に吟味していく 必要があると考えております。そこで、本日のフォーラムにはハーバード大学のジョルゲ ンソン教授、フランス経済研究所のクリール博士、それから東京大学の西村清彦教授、お 三方から最初にお話をいただきたいと。これらお三方はいずれも先ほど申しました私ども の研究所の国際共同研究に参加してくださっている方々であります。さらに東京大学教授 で、かつ経済財政諮問会議の議員でもいらっしゃる吉川洋先生にもコメントをかって出て いただいたというわけであります。 本日のフォーラムではこの日米EUという三極を比較しながら、潜在成長力なり、IT の効果なり、あるいは企業対応のあり方等について、またさらに経済政策について、この 4人を中心にご議論をいただきたいというふうに考えております。 我が国は90年代は非常に低い成長率しか示せなかったわけでありますけれども、今後 それをどういうふうにして持ち上げていくことが可能なのだろうかということであります とか、米国は90年代後半以降、成長を非常に高めてきているわけでありますけれども、 その原動力は何であって、それが将来どういうふうになっていくだろうか。またEUの潜 在成長力にはどういった展望をお持ちなのだろうか。あるいはこういったことについて供 給面と同時に需要面の動きをどう考えていくか。こういったような点を含めて、今ご紹介 しました4名の討論者によって活発な議論が行われることを期待しているわけでございま す。 本日のフォーラムが、我が国を初めとするこの世界の3つの重要な地域における成長力 の解明にいい機会となって、経済政策等にも、あるいは企業の対応等にも参考になってい くだろうということを期待しまして、 このフォーラムを開かせていただきたいと思います。 どうぞよろしくお願いいたします。 2.基調講演(配布資料参照) (ジョルゲンソン教授) ありがとうございます。今回、この国際フォーラムに参加でき大変光栄に存じます。1 年半前に東京で似たような主題についてフォーラムを開催したのを覚えています。当時、 日本における、またヨーロッパ、アメリカの将来の経済成長率に関していろいろ話をし、 予想がかなり明確になってきたわけです。きょう、今後、経済成長についてどういう見方 をしていくべきか、またどういった影響が考えられるかについてお話をします。 最初にアメリカ、そして後で日本、ヨーロッパの経済成長にもふれたいと思いますが、 まず今日お話をしたいのは、例外的な生産性の伸びというものが、アメリカで今起こって います。これは2001年のリセッションから、その後リセッションは数カ月続きました が、その後の回復を通じて生産性が大幅に伸びていますが、これは十分認識されているこ とではないので、あえて強調したいと思います。実は、この回復局面における生産性の伸 びは、以前の景気循環の状況とは違っています。今までの景気循環と比較をしてみたいと 思っています。その上で、この例外的な生産性の大幅な増大の原因は何なのか、2001 年のリセッション以降ずっと生産性が伸びている、その伸びの源泉について少し考察を加 えます。また、潜在成長力GDP及び労働生産性の予想を少ししてみたいと思いますが、 最後に結論として、米国景気の成長はやはり恒久的に状態が改善しており、これからも続 いていくというお話をしたいと思います。 これは、昨年12月14日のファイナンシャルタイムズの記事にもなっております。翌 日、ファイナンシャルタイムズの社説にもこれは取り上げられました。結論でそれについ て論じたいと思いますが、足元の景気循環について少しご説明したいと思います。これは 戦後すべてカバーしていますけれども、1948年からプロットをしています。ごらんの ように徐々に生産性の伸びというものは90年代半ばまで低下をしてきました。その後、 急速に生産性が伸びています。このグレーになっている部分は、これはリセッション、景 気後退局面を示しています。 直近では2001年のリセッションが一番右側に出ています。 ここで留意いただきたいのは、生産性の伸びが大幅に加速をしてきたということであり、 1995年から現在までこの生産性の加速的な伸びは続いているということです。これは 直近の景気循環と、それ以前の景気循環を比較しています。2001年のリセッションと リセッション以降の生産性の伸びを示しています。青い線、これはすべての1973年の リセッションの平均を示しています。戦後のすべてのリセッションの平均は黒で示してい ます。 ここでの結論はかなり明らかだと思いますが、この景気循環における生産性の伸びは未 曾有のレートで加速しているということであり、リセッション以降ずっとこれは続いてい ます。今や12四半期、リセッションから約3年間続いておりまして、アメリカの生産性 の伸びという意味では、アメリカの好景気は依然として持続しているということです。 それでは、2つ目のトピック、この生産性の伸びの要因は一体何なのか考えてみたいと 思いますが、まず生産量の伸びについて論じたいと思いますが、その場合には当然ながら 生産量の伸びを労働時間と労働生産性の伸びで分けて考えたいと思いますが、どの国もそ うであるように、アメリカにおける生産量の伸び、これはやはり人口構成の変化にも起因 していますので、労働生産性の伸びを考えなければいけませんが、労働生産性というのは 3つに分けることができます。資本進化、これは労働時間あたりの資本、また労働の質、 これは労働時間の伸び、労働力の質の向上及び高学歴の労働者の数の増大、また1投入単 位当たりの産出量、つまり全要素生産性に分かれることができます。そして、資本という のは非IT資本と、IT資本に分けることができます。これが資本の進化、また労働の質、 これは労働力の人口構成の変化ということで論じたいと思います。また全要素生産性はI T資本と非IT資本に分けて考えてみたいと思いますが、これが経済の成長の源泉の構成 要素ということになります。1959年から73年、73年から95年、95年から20 03年、3つの時期を比較しますと、この労働時間の伸びというものは着実に減少してい ます。その一方で、労働生産性は急速に1973年まで向上し、その後大幅に減少しまし たが、今や同じ1973年以前のペースで増大をしています。労働時間は大幅に減少した 一方、今や労働生産性は急速に伸びるようになりました。 アメリカの生産性の伸びの要因をここに示していますが、まず赤、これは労働の質の向 上を示しています。労働時間当たりの労働投入量、つまり労働力の質の向上を示している わけですが、戦後、直近、かなり上昇しましたが、その後徐々に低下しています。労働力 が成熟するに従って徐々に減少しています。資本進化に関しては労働時間当たりの資本で すが、これを紺色のIT資本、そして水色の非IT資本に分けています。ITの役割が着 実に増大してきています。また1995年以降、非IT資本の役割が再び増えてまいりま して、IT及び非IT資本は1995年以降、ほぼ均衡を保っています。全要素生産性、 これは投入1単位当たりの産出量を示しています。そしてITと非ITと、TFPを分け ているわけですけれども、 IT生産産業における労働全要素生産性は着実に伸びています。 非IT産業は1973年以降、急速に減少し、今多少そのレベルが復活しています。急激 な労働生産性の伸びというものがここで認められるわけですが、これは主に資本進化に起 因しています。その一方、全要素生産性も一つ重要な要因となっています。労働の質の低 下、これは労働力の人口構成の変化によりますが、これが生産性の伸びの足を引っ張って いるということであり、全要素生産性及び資本進化の伸びを多少減少させています。 今後、我々は見方をどのように変える必要があるのか。アメリカ経済の潜在成長力をど のように予想すべきか考えるに当たって、まずアメリカの生産量と労働生産性について予 測をする際、3つのコンポーネントに分けて考えてみたいと思います。まず基本的なケー ス、楽観的なケース、悲観的なケース、それぞれ成長の決定因子が違うわけですが、3つ のシナリオで考えてみたいと思います。労働生産性の伸び、労働時間の伸びの予測という ものがあるわけですが、これは人口構成変動を反映しており、すべての予測で時間と労働 の質の向上は同じであるという前提で考えていきます。 潜在成長率を予測する際、まず労働時間の予想を行った上で、次に資本深化について前 提を立てなければいけません。また投資の伸びが生産量の伸びと一環をしているという前 提を立てるわけですが、生産量と資本の伸びというものは大体10年ぐらいの間は比例す るという前提で考えていきます。資本深化の私の前提というのは、資本は生産量の伸びと 同じペースで伸びていかなければいけないということを大前提としています。 したがって、 成長を促す要因というのは全要素生産性ということになります。というのは、資本深化と いうのはもうおのずと私の前提では組み込まれていますので、IT及び非IT部門での成 長の予想というものを基本的なケース、楽観的ケース、それから悲観的なケースでTFP の伸びを考えるわけですが、基本的なケースでのTFPの伸びというのは1990年から 2003年の成長率の平均をとっています。全要素生産性は先ほど言ったように、199 5年以降急速に伸びています。したがって基本的なケースはこの急速な伸びというものが 多少緩和され、それが続いていくという予想です。 一方、楽観的なケースではTFPの伸びというものは急速に伸び続ける、1995年以 降の急速なペースを維持するということですが、それに必要なことは引き続き生産性の伸 びがIT生産産業で続かなければいけない。95年以降の急速なペースを保たなければい けないということです。また悲観的なケースは、TFPの伸びが1995年以前の緩やか なペースに戻るということを前提としています。 3つのこのケースに関してですけれども、労働時間の前提としては労働力の伸びと同じ 程度に伸びるということです。これは95年から2003年の労働時間の伸びよりも遅く なるということです。より緩やかな伸びということになります。これは3つのケースすべ ての共通する基本ケース、楽観的、悲観的ケース、すべてに共通するということになりま す。 それから悲観的なケースに関しては、労働生産性の伸びに関しては非常に低い、そして 基本的なケースに関しては中程度の伸び、そして楽観的なケースに関しては生産性の伸び は95年から2003年のペースと大体同程度という前提になります。ということになり ますと、楽観的な前提に基づいた米国経済の成長というのは、95年から2003年の程 度と大体同じになるということになります。ということは、結論としては生産性の伸びに 関して楽観的な予測がなければ95年以降の米国の経済の成長は持続できないということ になるわけです。 以上が生産性の伸びに関する予測ですが、その構成要素を見てみますと、労働の質の向 上に関してはスキルの向上であるとか、教育の向上等に関して労働投入量が伸びるという ことですが、この3つのケースにおいてこれは下がるということになっています。3つの ケース間の違いということを見てみますと、生産性の伸びに関しては非常に前提が違うと いうことになります。悲観的、及び基本的なケース、楽観的なケースによってそれぞれ過 程が違います。資本と生産は同じレートで伸びるということを前提にしますと、より高い 生産性の伸びのためには、基本的なケースの方が資本の深化が悲観的ケースよりも高くな るということです。そして楽観的ケースの場合には、さらに資本の深化が大きくなるとい うことです。 以上が米国の経済の潜在成長力に関する見方です。それを踏まえて結論を引きたいと思 います。楽観的な予測に基づきますと、95年から2003年に起きた米国の成長の復活 は持続可能ということになります。生産性の伸びがITの生産、及び非ITの生産におい て維持するということになりますと、年率3.5%ぐらいの成長の持続は可能です。しか しこのためにはITの急成長が必要になります。これに関しては詳しくここでお話する時 間はありませんので、Q&Aのところででもふれたいと思います。そして将来の人口構成 の変化が生産性上昇の足を引っ張るということになります。なぜなのか、1つは労働時間 が鈍化するということです。といいますのも労働力の成長が鈍化するからです。そして労 働の質の成長も減速するということで、これが生産性の上昇の足を引っ張りますが、これ を相殺するものがITということになります。ITは2つの経路を通して生産の伸びに影 響を与えます。 1つ目はIT産業における生産性の伸び、そして2つ目はIT利用産業、主に貿易サー ビスなどにおける資本の深化ということになります。楽観的予測に基づきますと、この結 果、米国の成長の復活が持続するということになります。ただ、これだけが想定ケースで はありませんで、生産性の伸びが90年代通期ぐらいのレベルに減速するということにな りますと、つまり基本的なケースの場合にはITの発達はそれほど早くないと仮定されま す。そして、人口構成の変化が生産性上昇の足を引っ張り、そして米国経済の成長を95 年以降よりも減速するということになります。そして、ITにおける95年以降の生産性 の伸びが持続されないということになりますと、米国経済の成長は非常に悲観的な前提に なるわけです。悲観的ケースにおいてはもちろん米国の成長の復活は持続できないという ことになります。 米国経済の成長は極めて劇的に95年以降起きております。これはITの開発に関連し ておりまして、未曾有の生産性の成長がもたらされたわけです。2001年のリセッショ ンまでこの生産性の伸びが続きました。そして、これはそれ以前の景気循環期とはかなり 状況が違っているということがわかっています。予測に関してはこの予測の内容は将来の テクノロジーの発展に大きく依存するということがわかります。楽観的な予測に基づきま すと米国の経済成長は持続可能ということになります。 以上です。 (クリール教授) ご紹介ありがとうございました。私にとりましてこの国際フォーラムに参加できるのは 大変光栄でございます。東京に参りますのは初めてでございます。それからジョルゲンソ ン先生に次いで発言できるというのも光栄でございます。 フィトシ教授は、残念ながら今回は参加できませんでした。先生は現在フランスの大統 領にかわりましてEUの財政ルールの改革に従事をしておりまして、その仕事のために今 回来日することができませんでした。彼の代理ということでございます。私はEUの潜在 成長力について話したいと考えております。 私のスピーチは3つの主要の問題を取り上げます。ほとんどがEU経済とアメリカ経済 の比較という形になります。ジョルゲンソン先生が先ほどおっしゃいましたけれども、劇 的な伸び率でアメリカ経済は成長を続けております。残念ながらEUでは長年にわたりま して劇的なほど低成長が続いております。どういった理由に基づいてEUの成長率がこん なに低いのか検討したいと思います。そのうちの1つが、IT革命に関連しております。 EUはIT革命そのものを完全につかまえ損ねたのかミスしたのか、EUは遅れているの か、ITテクノロジーにおいては遅れているのかどうかということを検討いたします。 第2点、これは経済政策に対してはEUの諸機関がございますし、目標もございます。 こういった経済政策のための手段、あるいは機関というのは、目標と守備、一貫している のでしょうかということを検討したいと思います。 もう1つはEUの統合であります。EUに対しましては昨年の5月、さらに10カ国が 加盟し拡大をしたわけですけれども、このようにEUが拡大をし統合したということは、 よりさらに統合度を強めることにつながるのか、弱めることにつながるのかということを 考えたいと思います。ですからまずはITの問題ということで、主としてジョルゲンソン 先生のペーパーから取り上げられました表、それからホールマー・ホーニーカンハルトが EU委員会のためにつくりましたペーパーの中から取り出してまいりました表をごらんい ただくことにしたいと思います。今ごらんいただいております表ですけれども、これで示 しておりますのは、EUの場合には成長率が低いと、しかも1995年から2000年に かけて低下を続けているということを示しております。他方、生産性、これも以前に比べ て落ち込んでおります。EUでは生産性に関する問題、労働問題があるといえるのかもし れません。これはすべて技術に関連しているのでしょうか。 ここには生産増の源泉がアメリカ、EU15カ国、日本に渡って比較されております。 すぐわかりますのが、EUの場合には1995年以前低成長であったということ。それか らまたアメリカと対比しても一番直近の期間でも生産増が低いということです。そこで、 IT、これは情報通信技術、ICTと言っていますけれども、ICTはヨーロッパで成長 に寄与しているのでしょうか、その寄与度というのはアメリカのそれとかなり似ておりま す。37%というのがアメリカの場合には、このICTによります貢献で、EUの場合に は30%です。ただ、EUとアメリカの主な違い、これは非ICT生産部門に見られます。 この表にはあらわわれておりませんけれども、国際共同研究プロジェクト報告会で、これ は明日発表いたしますが、 その中に出ておりますけれども、 労働投入にも差が見られます。 ヨーロッパの労働投入量、これはアメリカのそれに比べて劇的に低くなっております。で すからEUの場合、IT問題はないのかもしれません。むしろ労働問題が存在するという べきなのかもしれません。 こちらの方ですけれども、労働生産性上昇に関連した数字を出しております。アメリカ では労働生産性は直近までふえ続けております。ところがEUの場合には劇的に低下して おります。非ICT資本深化、それから非ICT生産からのTFP、並びに労働生産性の 伸びに対するICT全体の寄与を見てみますと、ICT寄与の労働生産性向上に対する寄 与の伸びがヨーロッパで起こっておりますけれども、TFPが非ICT生産から、それか らICT資本深化から落ち込んでおりますので、それによって完全に減殺されているわけ です。ですからITにおいて生産性向上が起こっていても、非ICT資本深化、それから 非ICT生産からのTFPによって、それは完全に相殺されてしまっているという現実が わかりました。 このことから結論として、ITそのものというような場合には、アメリカと比較した場 合に重要ではなかったということになります。これはIT革命に関連して、これは最後の 表になりますけれども、ここでごらんいただいておりますのはICT生産産業、ICT利 用産業及び非ICT産業の差を示しております。EUとアメリカの間の主な相違点が見ら れますのは、非ICT産業です。非ICT産業では問題があります。成長並びに労働生産 性向上率に対するICT生産産業からの寄与はアメリカとほとんど似ております。ただ遅 れておりますのは利用産業の方であります。EUにおける伸び、成長、これが低くなって おりますのは、労働生産性によるものだと言えます。これがEUの一番大きな問題であり ます。どうしてこのヨーロッパの場合には労働生産性の向上が低いのでしょうか。 次に経済政策に関してどういった実施手段があるのか検討したいと思います。その後で この経済政策運用に際する手段と目標等を対比してみます。整合性があるのかどうか、場 合によっては不整合かもしれないということを検討したいと思います。EUのポリシーミ ックスですけれども、これはアメリカの理論で見ております。要するにケドラーとプレス コットの通時的整合性であります。それからベイラーボードンとの総供給にも見られます。 政府が実際に取っております経済政策上の措置ですけれども、裁量ではなく、むしろル ールを使っていて、しかも手が縛られているということがわかります。さらにEUのポリ シーミックスというのは極めて具体的なケースに基づいております。一言で言えば、急激 な財政緊縮についての実例であります。公的な債務を減らしますと、急速に財政赤字を減 らさなくてはならないということになっています。そうなりますと、生産そのものにも影 響があるわけです。これはデンマーク、アイルランド、それぞれのケースから取り上げて おります。こういった具体的な実例は後にご紹介したいと思います。 こういった状況は単に理論上いえるだけのことなのか、あるいはほんのささいな例なの でしょうか。主要国で当てはまる例なのでしょうか。マーストリヒト条約締結以来、ヨー ロッパではポリシーミックスが完全に変わってまいりました。そのポリシーミックスとい うのはむしろ典型的な枠組みとしてドライな枠組みに似ております。Dというのは権限委 譲であります。EUの場合にはECB並びに欧州委員会に権限が移譲されております。す べての金融政策に関する権限というのはECBにゆだねられております。さらに競争政策 に関連した一部の権限は、EU委員会に委譲されております。EU委員会に移譲されてお ります。EU委員会、それからECBというのは選挙で選出される機関ではありません。 さらに財政ルールに関してもドライな枠組みがあります。この財政ルールというのは物価 安定に従属させられております。ヨーロッパの場合には政府は自分の手を縛って財政のパ ワーを引き下げることによって物価安定性を高めようとしているのが実態であります。で すから、EUの最も重要な目標というのは物価安定にほかなりません。それが第一義的な 目標だと言われております。成長よりも、それから失業率削減よりもとにかく物価安定だ というわけです。この目標は将来のEU憲章の第1条に上げられることになるでしょう、 もしも批准されれば。要するにEUの第一義的な目標は物価安定ということで、それ以外 の政策は物価の安定を損なわないような形で運営されなくてはなりません。財政政策は物 価安定を損なうものになってはなりませんし、とにかくEUの第一の目標は物価安定とい うわけであります。このドライ枠組みですけれども、IというのはECBが極めて強い独 立性を持っているというIであります。しかもこのECBは全く説明責任を担っておりま せん。 ヨーロッパでは成長を向上させることができませんでしたし、成長を高めることができ るような政策を出すこともできませんでした。ですから、政治経済的な議論を活用するこ とによって枠組みの実施に移さなくてはならなかったわけです。そこで、ヨーロッパでは 権限の移譲対自立ということが言われます。EU委員会に対して権限は委譲されておりま す。貿易政策はEU委員会で立案されますし、競争政策もEU委員会、それから裁判所、 独立して決められます。各国政府は競争政策に対してはいかなる権限も持っておりません。 この競争を尊重しなくてはならないというだけであります。そうしてEU委員会は、だれ が競争を尊重するかということが書かれております。さらに金融政策が極めて保守的な中 央銀行に委任されております。当局が、これに関する、ルールに関するペーパーを出して おります。これは極めて保守的な中央銀行であるということを取り上げたペーパーですけ れども、保守的であれば信憑性を獲得することもできますし、そうすることによって分権 性を改善できるというわけです。 権限委譲に加えて自立性ということが言われております。 租税政策は各国協調されておりませんが、租税の競争状態というものが今あります。教 育、また社会的な保護、これは各国の自主性にゆだねられていると言えます。ルール対調 整の枠組みに関してはルールというのは財政の枠組みに関連しています。ご存じのように EUでは安定成長協定があり2段階に分かれています。第一段階というのは非常に抑制的 な財政赤字の制限というものがGDP対比で設定されています。また、構造的な赤字とい うことではなく、トータルな財政赤字の上限というものが設定されており、GDPの3% がEUの加盟国であれば、どの国であっても守らなければいけない上限ということになっ ています。また、バランスのとれた予算を実現することに対して、拘束力のあるコミット メントというものが中期的に各国政府ゼロの財政赤字を実現するという形で求められてい ます。また調整、これは第2層目の安定成長協定によって促進されています。他国間のサ ーベランス、監査というのは欧州委員会によって実施され、加盟諸国間の対話、また欧州 委員会と加盟各国間の対話が必要とされています。 すみません、ちょっと緊張しているので早口になってしまいました。少しわかりやすく 話をするように心がけます。 権限委譲と自立性、ルール対調整という状況がEUにはあります。また独立性と説明責 任の対比というものがありますが、先ほどお話をしたように欧州中央銀行は独立性、非常 に強い独立性を有していると申し上げました。その理由は欧州中央銀行は独自の戦略を採 択することができます。そういう意味で強い独立性を担保していますが、1つ違っている ことはECBは目標においても独立しているということです。EUの条約であるマウスト リヒト条約によると、ECBは物価の安定というものを主たる責任として実現するという ことになっています。 物価の安定性ということに関してECBが一番理解しており、 2%、 インフレ率、中期的なインフレ率2%こそが物価の安定をもたらす水準であると決定して います。これは1%でも4%でもECBが目標とする水準を設定することがECBが独立 性を有しているからこそ、ドイツ連銀よりも当然ながらECBの方が独立性は強くなって います。世界のほかの中銀に比べて独立性は大変強くなっています。ECBの総裁は解任 することはできません。そして、ECBの総裁及び理事たちは説明責任を持った上で欧州 議会に対し、1年に1回、1年に実際には説明責任が強い人々ですから、2回説明を行っ ています。 欧州議会に対してとにかく独立性を持っている、 そして説明責任というものは、 これははっきりと持っているということにはなっていない、持たなくていいということに なっているわけです。 欧州中央銀行を完全に独立させる、そしてマウストリヒト条約の批准、これは各国の財 政赤字というものを削減し、EUに加盟する前に各国債務を減少させなければいけない、 そして財政政策に関しては政府が各国自由を奪われるという状況をEUの国民が選んだわ けです。欧州議会、これはヨーロッパの中から選出されるわけですけれども、説明責任を 持っています。立法という3権限を持っていますが、経済政策に対しては責任を持ってい ません。 ヨーロッパにおけるEUの予算、これはEUのGNPの1%未満ですが、この予算規模 が小さいEU予算というものはバランスが取れているわけで、これは各国の政府が責任を 持たなければいけないわけではないわけです。財政政策、それから物価安定性に関しては ECBが独立性を持っており、そして説明責任はないということ、そして欧州委員会がこ のルールを決定する、規律を決定する、競争政策を決定するということになっています。 リスボン戦略というのは知識経済への移行、また情報社会、また研究開発のためのより よい政策をしいていくということになっていたわけですが3つ問題があります。まずヨー ロッパはもしかすると情報通信技術の革命において、大幅に遅れをとっていないかもしれ ない。したがって、ヨーロッパでの最大の問題はIT革命に遅れてしまったということで はないかもしれないわけです。2番目の問題は、もし仮にITの革命に遅れをとっていた とすると、新しい革新的な社会への移行というものが遅れてしまっている。物まねの社会 から革新的な社会に円滑に移行することができない、それによって新しい製品に対する需 要が高い一方、供給が提供されないということでインフレ圧力というものをもたらし、イ ンフレ圧力というのはやはり金融政策で対応しなければいけないということになるわけで すが、インフレ率が非常に低く設定されており、金融政策は極端な金融政策がしかれてい ますので、やはりインフレ圧力があってもECBが金利を引き下げて、金融政策緩和策を とる、それによって対応するという余地が余りないわけです。インフレ率目標水準2%に 設定されているからです。 もう1つ、R&D支出の増大というものがより公的支出の増大をもたらすという可能性 もあります。しかし、生産的な支出と非生産的な支出というものを現在のルールでは差別 化することができません。また、ノン・コンティンジェントな支出ということも明確に区 別をすることができません。キラープレスコットによる通時的整合性に関して、オランダ の経済学者ビュータによると、通時的整合性のあるルールのためにはコンティンジェント なルールでなければいけない。もしも変化が必要な場合にはその変化を行った後、一貫し た整合したポリシーを実施していかなければいけないということが通時的整合性であると 言っています。 それからリスボン戦略というのは、欧州社会モデルを現代化すると言われているわけで すけれども、やはり説明責任を果たす機関への権限委譲、説明責任のある機関というもの がリスボン戦略では十分論じられていません。ヨーロッパの社会モデルの現代化、社会モ デルというものは実はこの10年間、劇的に変化してきました。ヨーロッパでは年金制度 など改革をしてまいりました。また、失業手当など、労働者に対する給付制度も改革して きました。リスボン戦略では欧州社会モデルをもっと現代化させ、向上させなければいけ ないと言っているわけですが、もしも経済政策が激変というものを受けるのであれば、改 革はよりうまくいくという前提のもとでこの戦略が練られているわけですが、ヨーロッパ においては金融緩和というものをこれ以上行うという余地が極めて限定されているという 問題があります。したがって、トレードオフがリスボン戦略によって求められるようにな ってまいりました。欧州の構築というものをより統合を強めていく、そしてより競争が強 まることによって成長が促進されるという前提で考えると、悲観的なケースと楽観的なケ ース、2つの可能性があると思います。まず、低成長が続く、統合化は余り進まない、し かしながらこの信憑性を指向する機関というものによって統合は弱められる。これが最初 のケースです。 その一方で、2番目のケース、これは成長を指向する機関との統合が強まるという可能 性を示しており、私たちのキャパシティ、あるいは機関を強化することによって成長を促 進していく。あるいはこの悲観的なケースというのは信頼性を指向する機関との統合を弱 めていくということになるわけですが、各財政政策においては経済安定協定、財政安定協 定というものがあるわけです。そして、EU全体では物価の安定を指向する、またEUの 競争というものが激化するという可能性があるわけですが、このフローズンランドスケー プというものは、新たに弱小の10カ国が加盟したことによってほぼあり得ないといえま す。10カ国の中で最大の国はポーランドであり、凍てついた風景というものは最近のE Uの加盟国というものが入ってきたことを考えるとあり得るという可能性があります。 この10カ国、国民一人当たりのGDPで考えると、貧しい、そして貧しいということ はEUの予算が大変先ほど申し上げたように小規模であり、コストがかかるということが 大きな問題です。富める国と貧しい国、富める国の貧しい地域は今までのEU予算の配分 というものをさらに貧しい国々が10カ国加わったことによって獲得することができなく なってしまいます。富める国はこういった今までの予算配分を失いたくないと考えていま すが、EUの予算が限定的であるという問題があります。また、安定成長協定で3%の財 政赤字を限定するという約束を守ることはできない、あるいはより貧しい国々に対してE Uの予算を配分するのであれば、我々としてはそれを許容できないというような状況も出 てきてしまうわけです。貧しい国々が加わったことによって、機関を改善し強化をしてい くということがより困難になってきました。しかし、貧しいとはいえ、成長指向的な国々 です。旧ソ連の国々、10年、15年前はソ連の一部であった国々が、そのころに比べれ ば大幅に改善をし、収れんのプロセスの中にあります。ヨーロッパにおいて非常に頑張っ て成長指向を持った上で機関制度を変えようとしています。 EUの中では各国1票を与えられています。国の規模にかかわらず、人口に関わらず、 各国が1票を与えられています。 今まで投票は行われておりませんけれども、基本的なEUの制度というものは一国1票 が原則となっています。貧しい国々は現在の機関、あるいは制度を変えたいとは思ってい ません。小さな国ですが競争力があるということを歓迎しています。そして物価が低いと いうことは彼らにとって歓迎すべきことであり、対外的な貿易が占める割合というのはよ り大きな国々よりも、小さい国の方が大きな効果をもたらします。財政赤字を削減するコ ストというのは、大国に比べて小さい国の方が高くなります。フランス、ドイツにおいて GDPの8割は国内のものです。財政赤字を削減する、減税をする、支出をふやす、これ はGDPに対しての方が小さな国に比べて大きな影響が出てきます。したがって、新たな 10カ国の加盟国は制度、機関を変えたくないと全体では考えているわけで、この凍てつ いた風景というものが大いにありえるということを考えると、成長率は非常に低成長、穏 やかである。そして自由貿易地域へと至る可能性というものを考えなければいけません。 もう1つ、楽観的なケースですけれども、成長目標を達成するために制度を変えるとい うことは考えられます。私が仕事をしておりますECFCでは、手段そのものを改善する 余地があるというふうにも考えております。第一にECB改革が考えられます。そして非 常にポジティブなレンジでのインフレターゲットを設定するように要請するというわけで あります。プラスのレンジ、プラスのレンジというのはゼロから2%と今いわれておりま すけれども、それを超えてもいいのではないでしょうか。そして非常に難しいケースの場 合には実質金利をプラスにできるようにすると。現在は世界のどこの地域、国よりも実質 金利はEUでは高くなっているわけです。ですから、私は2002年にこのECBのイン フレターゲットの設定水準を高くすべきだということを指摘いたしました。 それから説明責任をより高めるということもいい点ではないかと思います。ヨーロッパ の場合にはECBがきちんとした仕事をしているのかどうか、今ECBがやっていること を我々は満足をすべきかどうかはっきりと把握できない状況になっております。アメリカ の場合にはよりよいコミュニケーションが中央銀行によってなされておりますし、また、 FRBの議長は解任することもできるわけです。そういった差がECBとアメリカの中銀 の間にあります。 それからもう1つは、安定協定を改革するということで、経済活動が変動した場合には それに対応するようにすべきではないかと思います。例えば赤字のターゲットも景気循環 的に挑戦することもできるのではないかと思います。また、公的な財政に関してもゴール デン・ルールを採用するということも考えるでしょう。さらに公的な投資、公共投資、例 えば教育に対する投資、RNEに対する公共投資、そういったものをよくするためにEU 予算をふやすということも考えられるし、官民の協力を促進できるようなことも考えるべ きだと思います。ヨーロッパの場合には公的な部分は資金がないので民間も待っていると いう状況です。また、そのEU予算をふやすためには別の財源が必要ですから、例えば欧 州企業税のような財源を求めるということも考えるのではないかと思います。 ヨーロッパがヨーロッパレベルの税を持てば、ヨーロッパの企業に対する税金という形 で内容は長期的に安定したものになるでしょうから、そうすればより多くの財源を持つこ とによって極めて低成長地域の見通しをよくし、コンバージェンスを進めることができる と思います。ありがとうございました。 (西村教授) 東京大学の西村でございます。現在、東京大学と、それから内閣府の経済社会総合研究 所の総括政策研究官を兼任いたしております。18カ月前にちょうどここでジョルゲンソ ン先生と皆さんで生産性の話をしたときは、先ほどのお話もございましたように、日本経 済も今後どうなるやらということが話題になっていた時期なわけですが、それからこの1 8カ月で非常に大きな変化がありました。それと同時に、研究所の研究の方も進化いたし まして、これからお話しすることは先ほどのジョルゲンソン先生、それからクレール先生 のマクロの話を出発点にしながら、ミクロの生産性の話で、どういうことをこれから考え ていったらいいのか、その点について新研究が進んでいたということをお話したいという ふうに思います。 まず最初に、GDPとそれから労働投入量、それから労働生産性について、日本とそれ からEUと、それからアメリカを比較したいというふうに思います。これはクレール先生 のペーパーから引用でもありますし、それからジョルゲンソン先生からのペーパーからの 引用でもあるわけです。これを簡単に申し上げますと、1990年までは日本は生産性成 長に非常に助けられて、高い実質GDPの成長率を誇っていたという形になるのですが、 90年以降、GDPの成長率は急減いたします。この2大要因は何か、これマクロで見ま すと、実は2つあるわけです。1つは労働投入量が減少した、1990年前後の労働時間 の規制と変更というのが非常に大きな影響を実は及ぼしているわけです。それと同時に、 ご案内のように1990年以降の需要の減退ということに伴う長期的な労働力の調整とい うことがあり、この労働投入量の現象が起こったという形になります。 ここで注意していただきたいのは、人口減少というふうに言われていますけれども、実 際の労働力投入というのは、この労働力が減少するよりはるか前に、1990年に既に起 こっているということです。これが労働投入量が減少している、90年代に労働投入量が 減少したということで、それと並行して労働生産性の伸びがまた大幅に減少した。労働投 入量減に追いつかない生産性の上昇のために全体としてみるならば、実質GDPが減少す るという形になります。これは今労働生産性でこれからお話しますが、これをTFP、先 ほどジョルゲンソン先生やクレール先生がお示しになりましたTFPの全要素生産性で見 ても結果は同じであります。 これは簡単にこれを見ていただくと、 1980年から2002年の実質GDPの伸びです。 これが日本のデータです。これが米国で、これがEUという形になります。これで見ると 日本でGDPがどんどんと落ちたということは非常によく明確な形でわかります。注意し ていただきたいのは、これは2002年ということです。2002年というのは日本経済 の最近の中では最悪の時期であります。2003年から2004年にかけて日本経済が非 常に高い成長率を誇りましたので、これはいわばその日本経済が復活する直前の状況だと いうふうに考えていただきたいと思います。 残念ながら、2003年に関してはまだGDPのデータが完全なものが出ておりません で、2003年ものについて例えば労働投入量についての正確な動きをとることはできな いのですが、2003年の動きは当然恐らくこれは急速にこれが2003年、4年と急速 に上昇しているという形になります。 ここで見ていただきたいのは、この点なのです。これが米国で、マンアワーの伸びで、 これは2000年から2002年のこの米国の低下というのは、これは短期ではあります が景気の減退というのは少し影響を及ぼしておりますが、それからこれに対して日本は1 990年に既にマイナスのレンジに入って、それ以降ずっとマイナスが続いているという 形になります。恐らく2003年に再び少し上昇をしていますが、まだプラスの状態にな っているかどうか、まだ正確ではわかりません。でもいずれにせよ、ここで見ていただき たいのは、労働力が実際に減少する前に、労働投入は既に減少しているということです。 それから、これはもう単純な労働生産性です。GDPをマンアワーで割ったものです。こ れを見るとわかりますが、日本は非常に高い成長率を誇っていたわけですが、それがだん だん減少して2002年あたり、極めて低い状態に落ちていったという形がわかると思い ます。 これに対して米国は先ほどの話にありましたが、高い成長率を維持していると。EUは その中間をいっているという形がわかると思います。では、なぜ日本でこういった生産性 の減少が起きたかという現況なのですが、これを見ますと、それぞれの産業別に見ます。 産業別に見ますとまずわかるのは、ITのものに関しては、日本の製品の生産性というの は米国を凌駕している。少なくともいい勝負であると。つまりITのハードウエアが元凶 ではないということがわかります。これは後でお知らせします。しかし、産業分野によっ て非常に大きなばらつきがあるということもわかります。全体としてみるならば、米国に おくれをとった。 特にそれは非製造業分野での惨たんたる実績がその状態になっています。 これを見るために、製造業を取り上げましょう。製造業で見るならば、これは1995年 の購買力平価で見ています。その購買力平価、だからこの水準そのものはそれほど重要視 していただかなくても結構で、傾向を見ていただければわかるのですが、少なくとも日本 と米国で製造業を見たケースにおいては労働生産性で日本が特に劣っているということは ない。ただし、見るとわかりますが、米国に比べると日本の方が若干低いということがわ かると思います。これはIT製品ですが、IT製品で見るならば、日本はこの水準がちょ っと日本の方が低く出ていますけれども、 その伸び率から見れば決して遜色ないどころか、 少なくとも米国を凌駕しているということもわかります。これは労働生産性ですが。とこ ろが輸送と通信を見ればわかりますが、これはもう日米の差が極めて明快な形でわかると 思います。 実はIT産業についても同じことが言えます。ソフトウエア産業は非製造業ですので、 非製造業の1つとして非製造業と同じことが言えるわけです。 以上はマクロの話でした。 しかしマクロでは実は例えば政策を考えることは難しいのです。 特にITに関してマクロで政策を考えるということはなかなか難しいです。そうではなく て、やはり企業レベルまでおりて考えないと政策インプリケーションも出ないという形に なります。つまり、国の成長は産業の成長がもたらすものであり、その産業の成長という のは企業の成長がもたらすものであるわけです。したがって、国の生産性の伸びというの は結局のところ企業の生産性の伸び次第ですし、それには実は2つの側面がある。 それは既存企業の生産性がどういうふうに推移していったか、それから参入、退出を通 じて産業の生産性がどういうふうに推移していったかということです。 これからお話するのは、 この2つについてです。 まず既存企業について見てみましょう。 既存企業のこの生産性の低下ということに関しては、残念ながら80年代と90年代に関 して生産性の低下は明確にあったと言わざるを得ません。それは日本の企業、典型的なエ クセレント企業を考えたとすれば、そのエクセレント企業と、それからアメリカの典型的 なエクセレント企業、これは1980年代前後、ビックビジネス凋落後のアメリカのエク セレント企業、この2つを比べてみるとよくわかると思います。日本のエクセレント企業 というのは、基本的には長期的な関係、つまり長期的なサプライヤーとの関係、長期的な 労働者との関係というのを使って、生産のプロセスを最適化することによって、それによ ってコストの削減と品質の改善を同時に達成する。これが日本のエクセレント企業だった わけです。この一番典型的な例がトヨタで、またキャノンがこういったものの典型的なも のになるわけです。 これをよく見ますと、製品がいわゆるインテグラル型のアーキテクチャーである。乗用 車、例ですが、これはいわゆるすりこみというようなものが重要になってきます。そして 顧客の垂直的な囲い込みというようなものが重要になってくる。これに対して米国のエク セレント企業というのは、基本的には組み合わせの最適化です。M&Aでついたり離れた りして、距離を置いた関係で、そしてその新しい組み合わせで新しい付加価値を創造する というのがアメリカ型であります。そういうアメリカ型は基本的にはモジュラーでくっつ いたり離れたりするということが簡単にできるものが得意でありまして、そして顧客を垂 直的に囲い込むというか、顧客をカスタマーとして囲い込むというのではなくて、水平に モジュール、主要なモジュールでの水平支配をするという形になるわけです。 日本式は実は1990年以前では非常にうまく働いた。これは製品アーキテクチャーは安 定していて、 コスト削減と、 それから品質向上というのが競争の中心的なテーマであった。 そして世界的な制約があった、冷戦があったということもありまして、人の移動に関して も情報の移動に関しても世界的な制約があった。これに日本のエクセレント企業というの がうまくフィットしたという形になります。 ところが1990年頃に供給ショックが起こった。 これは技術的な変化ですが、 ICT、 インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジーというのが出てきた。 これはしかし米国と日本に共通だったのですが、これがもたらしたのは生産のモジュール 化と、それからグローバル化です。これは先ほどの説明からわかりますように、米国に有 利であって日本に不利であるということはすぐわかります。こういう形で日本に対してバ イアスがかかる形の技術進歩があったという形になるわけです。さらに、日本に固有なシ ョックとして、バブル経済の崩壊というのがあり、そして残念ながら総需要政策が失敗し たということがあるわけです。 では、今はどういう状態になっているかというと、変化は極端に遅いが進んだ。これは オリックスの宮内会長がよく言っていることですけれども、改革は遅々として進んでいる という言葉がありますが、そういう改革は遅々として進んで着実な調整が行われた。19 90年代の大半というのは非常に遅い調整が起こったと考えて良い。これは当初固定費が 急速に上昇したということをもたらします。早期退職手当を支払って自然減による雇用調 整を進め、そのために人件費増を招いた。需要政策が余り効果的ではなかったという形に なります。ターニングポイントは1999年、この時期が固定人件費と固定資本費が同時 に減少を始めるというのが1999年になるわけです。これがあったために、2001年 から2年にかけての中国からの需要増というのが極めて大きなインパクトをあらわすこと になります。したがって、企業の既存企業というか、今存在している企業、大企業、それ から一部の中小企業ですが、そういうものに関して見るならば、ようやく日本に対してバ イアスのかかっていた技術進歩にようやく追いついてきたというのが現在の状況になるわ けです。したがって、近未来は慎重ながら楽観的である。Cautiously optimisticという形 になるわけです。 では、これでいいかというと実は必ずしもそうではないわけですね。それは次の参入、 退出の産業ダイナミックスという話に関連します。今までは既存の企業の話です。今度は 新しい企業が生まれて古い企業がつぶれることによって産業全体としてダイナミックに成 長できるかどうかという話です。 産業の生産性というのは、 生産性の高い企業が参入して、 生産性の低い企業が退出すことによって改善されるわけです。これが市場経済における自 然淘汰のメカニズムになります。この淘汰のメカニズムというのは、ただ放ったらかした ら淘汰されるというわけではなくて、だれかが企業を選択しているわけです。この企業を 選択しているのは銀行であり、また株式市場、資本市場であるわけです。これが、日本ど ういうふうにうまくいったかというと、正確に言うとうまくいかなかった。これを見てみ ようというのが次のものです。 実は1990年代というのは、この自然淘汰のメカニズムが部分的にですが働かなかっ た時代という形になります。その1つが金融システム危機です。これを見ますと、これは 全産業でいわゆる残存企業、今存在している企業と、それから退出している企業と、その 企業のTFPがどういうふうに違っているかということを説明した表です。これを見ます と、1996年から97年以外では、残存企業の方が退出企業よりも生産性が高い。つま り、生産性の低い企業がマーケットから追い出されて、逆に言えば産業全体は生産性が高 くなっているという形になるわけです。ところが96年から97年にかけては、これが逆 転しているということがわかると思います。この時期は何かというと、実は97年という のはご案内のように金融危機の時代です。北海道拓殖銀行がつぶれる、そして三和証券が デフォルトをする、そして山一證券が壊滅するという、この時期なわけです。96年、9 7年に起こったこの金融の機能の不全というのが、実はこれと絡んでいるということがわ かるわけです。 じゃあこれは単なる銀行の問題で、 では株式市場に任せておけばいいのか、 つまり直接金融に任せておけばいいのかというと、必ずしもそうではない。 実はITバブルのときに同じようなことが起きているわけです。これはITのソフトウ エア産業のTFPを調べたものです。そこで見ますと、1999年から2000年、それ から2001年から2002年という時期では、残存企業のTFPの方が退出企業のTF Pの方が高い。 つまり、 市場経済の自然淘汰のメカニズムというのは働いているわけです。 ところが2000年から2001年というのはそうではない。この時期は何であったかと いうと、実はITバブルとITバブルがはじけた時期になるわけです。非常に短い期間で したが、日本にもかなり大きなITバブルがあり、そしてそれが2001年の崩壊という 形になるわけです。 それでは今までの話を元にして将来の見通しをしてみましょう。将来の見通しでは日本の 生産性は恐らく復活するだろうと思います。既存企業を見てもようやく調整が終わったと いう形になりますから、恐らく1995年から2000年の2001年から2002年ぐ らいまでの間の非常に低い生産性の成長率というのは、いわばボトムであって、今後、労 働生産性の向上が見られると、TFPも回復するということが予測できます。 しかしその後は、日本の生産性というのは2つの要因に依存すると思います。1つは先 ほど申し上げました企業内の生産性向上のイノベーションがどこまで続くかということで す。そのためには新しいアイデアのシナジー効果というのが必要になるということが研究 から出ています。そして、このプロダクト・イノベーションというか新しいアイデアによ って、新しい付加価値をつくると、こういうものが必要になってくる。やはりその意味で 付加価値を新しくつくる、つまりコストを下げるのではなくて付加価値をどこまでつくれ るかと、高めることができるかと、そのイノベーションに依存してくるということがわか ります。 それと同時に、効率的な選抜のメカニズムが必要になってくる。つまり金融システムと 株式市場の役割、日本はだから間接金融も直接金融も少なくとも市場経済の選択のメカニ ズムとしては必ずしもうまく機能していなかったという形になります。残念ながら日本の 現在の銀行界には失望しています。それから株式市場にも必ずしもうまく機能していると は思えない部分がある。しかしこの部分はこれから日本経済が成長していくためにはどう しても必要になってくる。将来の発展についても金融と証券のイノベーションがかぎであ ると思います。 この金融・証券のイノベーションというのは実はITというものが非常に絡んできます。 ご案内のように、昔はかなりの部分の金融というのは相対のところで情報をどうやって有 効に使うかということが重要だったわけですが、最近のさまざまな金融技術というのが出 てくることによって、それと同時にITの技術を使った新しいリスクの管理のシステムと いうのが必要になってくるわけです。 こういった金融・証券のイノベーションがどこまでつくることができて、そしてそれが 優秀な選抜システムとして日本の資本市場に定着するかということに、産業そして経済の 生産性は実は依存してくるわけです。このもとで初めて日本経済が今後成長を続けること ができるという形になると思います。 ここで私が強調したいのは、放っておいて日本の経済成長がそのまま最悪の状態を脱し て、そのまま成長軌道に乗るということではないということです。もっと能動的に制度を 変えて、そして新しい芽をどんどん植えつけていかないと、やはり日本経済というのは過 去の沈滞からさほど乗り切れない形でいってしまう。その意味で、政策の効果というのは 実はちまたで想像されるよりも大きく、その政策をいかに仕掛けていくかということが今 後の日本経済の成長率を高めるときに非常に重要な役割を果たすのだというふうに思いま す。 ご清聴どうもありがとうございました。 (吉川教授) 東京大学の吉川でございます。それでは3人のスピーカーの方たちのお話を踏まえて、 3人の方々にコメントをしながら生産性の上昇、あるいは経済成長といったようなことに ついて私が考えていることをお話したいと思います。 このコンファレンス、シンポジウムは大変タイムリーなものだと考えております。とい いますのは、ここにいらっしゃる方は皆さんご存じのことですが、現在、日本では将来の 経済成長、とりわけ潜在成長率、あるいは潜在成長力ということについて大変関心が高ま っているわけです。その理由は、ここで見ていただいているとおり、日本では今後急速に 高齢化が進んでいくという、そういう事情があります。高齢化が進むこと自体はグローバ ルな現象なのですが、日本ではその速度が大変早い。私が知っている限りではイタリアと かスペインが先進国の中で非常に速い速度で高齢化が進むわけですが、 日本もそれと同じ、 あるいはそれを上回るような速度で高齢化が進んでいく。それに伴ってここにもあります が、生産年齢人口、あるいは労働力人口が今後減っていくわけであります。今後減ってい くと申し上げましたが、正確には既に減り始めている。平均で見て年々マイナス0.6%、 あるいは0.7%ぐらいずつ労働力人口は減っていっているわけです。人口の方は少しそ れにおくれるわけですが、公式統計ですと1つの推計では日本の人口のピークは2005 年、つまりことしであって、来年2006年からいよいよ人口が減り始めるということに なっているわけです。 労働力人口が減っていくわけですから、成長できるのだろうか。これは素朴な疑問、も っともな疑問でありまして、エコノミストはともかくとして普通の人といいますか、多く の日本人の間では非常にペスミスティックな考えが持たれているわけであります。そこで 問題になるのが、労働生産性であるわけで、労働生産性が高まれば労働力人口が減ってい っても生産できる。このことは理解されているわけですが、さて労働生産性の上昇という のはどれぐらい見込めるのだろうか。今回のコンファレンスではこの点について3人の 方々からお話がありました。 ジョルゲンソン先生からもお話がありましたが、いわゆるグロスアカウンティング、少 し古いものですが、通産省(当時)がやったものですが、1960年代、70年代、80 年代、90年代について、グロスアカウンティングをしたものであります。結論的に言え ば、労働の直接的な寄与というのはそれほど大きなものではない。エコノミストの間では こうしたグロスアカウンティングはよく知られているわけでありますが、しかし、エコノ ミスト以外には必ずしもこうした手法はよく理解されてない。そこで生のデータを見ます と、この図表の3のような形になっております。この図表の3というのは、戦後の日本経 済をいわゆる高度成長期の15年、ここでは便宜上1955年から70年までにしていま すが、それから第一次オイルショック後の1975年から90年までの15年という、2 つの15年の期間に分けて、それぞれの期間について実質の成長率と労働力人口の伸びを 見たものであります。 右側にあります経済成長率の方は、これは非常によく知られていて、高度成長期につい てはほぼ10%、ここでは9.6となっていますが、約10%の成長を日本経済がしたと いうことは、これはほとんどの人が知っているわけであります。その後75年からバブル が崩壊するまでの90年までですと4%台に成長率が落ちる。このことも比較的よく知ら れている。知られていないのは、労働力人口の伸びであります。これをみますといずれの 15年でも平均で約1%ということになるわけであります。高度成長期10%の成長して いたわけですが、それは別に労働力人口が特に高い伸びをしていたわけではない。言いか えれば10引く1で9%の労働生産性の伸び率があったということであります。 そこで労働生産率の伸びの内実が問題になるわけでありますが、その点について3人の 方々からお話がありました。いずれもITの重要性を強調されたわけですが、そのことに 私は異存はございません。しかし、コメントをするという役回りですので、あえて幾つか の質問をさせていただきたいと思います。ジョルゲンソン教授に質問させていただきたい のは、今後のアメリカ経済のプロジェクション、将来のことですが、プロジェクションの ホライズンはどこまでなのか。ジョルゲンソン教授は幾つかのケースを紹介されて、ペス ミスティック、オプトミスティック、そういうことを言われたわけですが、オプトミステ ィックなケースというのは95年以降のアメリカのIT産業におけるTFPの伸び率が今 後も維持されるケースだと言われた。それをオプトミスティックなケースと名づけられて いたと思うのですが、それは仮定ですけれども、これが実現する可能性というのを教授は どのように考えられているのでしょうか。 私は決してITスケプティックではありません。 ITが生産性に大きく寄与したし、寄与しているということは十分認識しているつもりで すが、今後それがどこまで続くのか。どんな技術でも生産性への寄与はどこかでエグゾー ストすると思いますが、今後もサスティンされる可能性、つまりオプトミスティックなケ ースが実現すると考えるとしたら、その根拠は何なのかということをお聞きしたいと思い ます。 クリールさんのプレゼンテーションでは、やはり労働生産性の伸びについて述べられて、 ITの役割にも言及され、その上で私たちにEUにおけるマクロの経済政策のフレームワ ークといったようなものについてお話していただいたと思います。大変参考になったわけ ですが、1つお聞きしたいのは、「エクスパンショナリー・フィスカル・タイトニング」 というような、そういうようなことをおっしゃったような気がするのですが、ちょっと私 はそこまではついていけないなという、そういう感じがいたしております。これは一体、 どういうことなのかなと思います。 それともう1つ、プライス・スタビリティーの役割というのは非常に重要性というのを 強調されて、EUはそれにコミットしていると、お話だったのですが、その重要性という のはこれまた私もよく認識しているつもりなのでありますが、しばしば成長とそのスタビ リティー、これはロングランにはプライスタビリティーというのは成長に寄与するのだ、 それは1つのウィスドムかもしれません。しかしながら、ショートラン、あるいはミディ アムランではプライス・スタビリティーと、グロースというのはトレードオフがあると言 われてきました。その際に、ショートランであればそうしたトレードオフは無視すればい いと言えるのかもしれませんが、ミディアムランだったらどうなのだろうか。労働生産性 の伸びということとも関係するわけですが、プライス・スタビリティーに固執する余りに 成長のポテンシャルを殺してしまうということもがあるのではないか。一昔前、ドイツの 中央銀行ブンデスバンクはそういう傾向が強過ぎるという批判がしばしばなされてきたわ けですが、この点を現在のEUはどのように考えているのだろうか。この点を1つお聞き したいと思います。プライス・スタビリティーの重要性を十分認識した上で、ミディアム ランについてどのように考えているのだろうか。こういうことをお聞きしたいと思います。 西村さんのプレゼンテーションについては、大変イルーミネイティングなプレゼンテー ションだったと思うのですが、1つだけ細かいコメントをさせていただきたい。企業のエ ントリーとエグジット、どういう企業が参入、退出しているか、それぞれのTFPにどの ような違いがあったかという、大変興味深いプレゼンテーションがあったのですが、これ は大変細かいことになって恐縮ですが、不良債権問題との関係で、96年から97年にか けては非常に変なことが起きているというふうに言われた。それを金融の問題と結びつけ られて言われたのですが、よく見ますと97年から98年というのが隣にありこちらは正 常ということになっている。我々、日本経済を見てきたものからすると、金融危機という のは97年の秋からで、日本経済がそのためにマイナス成長に陥ったのも98年、ですか ら総じて言えば、 金融の問題がもっともシビアであったのは96から97年というよりは、 97から98年だというように多くの人は頭の中で認識していると思います。この点が少 し実証結果とくい違っている。大変細かいことで恐縮ですが、興味深いプレゼンテーショ ンだったので、あえて細かいことをコメントさせていただきました。 本題に戻りますと、日本経済の将来にとって、やはり労働生産性の伸びが大変重要だと いうことは、これはプレゼンターの方々と私全く意見が同じなのであります。またこれか らすぐ後で指摘しますように、その点においてITを含めてサプライサイドが大変重要だ という認識も持っております。しかしながら次に1つ指摘させていただきたい。成長にお いてイノベーションというのがサプライサイドにおけるTFPの成長、大変重要な役割を 果たす、これはたった今申し上げたとおり異存がありませんが、しかしながら、私は中長 期的にも私は需要側面というのが経済成長にとって大変重要な役割を果たしていると考え ております。 と申しますのは、この点を一番簡単にわかりやすく指摘するとすれば、例えば現在の日 本、ここ数年もそうですし、これから5年、10年をとってもそうですが、中国・チャイ ナというファクターが大変大きな役割を果たすと多くの人が考えているわけです。事実、 ここ数年の日本経済については、輸出が重要な役割を果たしたわけで、この点について中 国が果たした役割はだれも否定することができない。そこで、すべてのことはすべてに関 係していると言ってしまえばそれまでですが、あえて簡単化して言えば、チャイナとIT は独立であると仮定しますと、チャイナというファクターを理論的にどのように整理する のか。これは簡単に考えればやはり需要サイドの問題だ。もちろんチャイナの問題という のはサプライサイドでも大きな役割を果たしており、チャイナと日本の関係の背後にはI Tテクノロジーというのがあるということも事実ですが、しかしチャイナというのがやは り需要面から大きな役割を果たしているということ、これは否定することができないので はないか。 これは具体的な例を挙げてわかりやすく説明しているつもりなのですが、一般に需要の問 題というのは中長期的にも大きな役割をマクロ経済に与えると、私は考えております。そ れに伴ってマクロの生産性の上昇においては産業構造の変化ということも大きな役割を果 たす。それが図表の5で、これは成長と産業の構造変化をあらわす一つのメジャー、その コウリレーションを見たものであります。これは理論的にはマクロ経済学ではオウカン法 則というのがあるわけですが、オウカンズロウを説明するためにはさまざまな議論が考え られますが、マクロ的にはインダストリアルストラクチャーの変化というものも1つの大 きなポイントになると、このように思っております。 さらに議論を続けますが、労働生産性の上昇、あるいはTFPの上昇、このことについ ては製造業と非製造業の違い、これが大きな問題として、とりわけ日本経済の場合には挙 げられます。 ここにありますとおり日本全体としてみれば製造業の生産性は高いけれども、 非製造業の生産性が低い。日本経済はその意味でデュアルな構造を持った経済だというこ とが言えると思います。これは西村さんも指摘されました。ジョルゲンソン教授もITの 今後の可能性についてトレードとサービスのセクターで大きな役割を果たすであろうと、 指摘されたかと思いますが、日本経済の場合にはITが活躍するであろうセクターでの生 産性というのは現在低いということであります。 ITの可能性に戻って話を続けますが、ITが非製造業でも今後大きな役割を果たすた めには、やはりディレギュレーション、規制改革が果たす役割が日本では大きいのではな いか。例えばということで、ここでは具体的な例を挙げました。製薬業界に関係すること ですが、新薬の創出をする場合には治験というプロセスがございます。これを97年くら いまでさかのぼってみますと、アメリカでは約1年強に対して日本では3年近くかかって いたわけであります。こうした状況は、明らかに製薬業界におけるTFPの変化にマイナ スの影響を与えていたであろう。もっとも規制改革を通してこの問題は大分解決されてま いりました。 最後に挙げる具体的な例は、最近日本でようやく問題になってきて、国土交通省でもい ろいろ改善策を考えているようでありますが、日本ではいわゆるハブ機能を持った港がほ とんどなくなってきたという事実であります。かつては神戸、横浜が世界を代表する港だ った。我々もそう認識していたわけでありますが、現在、日本にはもはやそうした港はな い。時間がまいりましたので、細かいことは申しませんが、なぜ日本でハブ機能を持った 港がなくなっていったのか。その理由をたどっていきますと、答えは極めて簡単であり、 さまざまなレギュレーションのために日本の港が使い勝手が悪くなっていたということで あります。この点も今後の日本のプロダクティビティー、あるいはTFPに大きな影響を 与える。もっとも逆に言えば、こうした問題が現在存在するということは、そうした問題 を解決すれば生産性が伸びる余地があるわけでありますから、完全に問題がなくて、いわ ば伸び切って本当に新しいブランドニューのテクノロジーだけに頼らなくてはいけない国 に比べれば、やや逆説的ではありますが、日本の場合にはまだディレギュレーションが生 産性やTFPを高める余地があるという状況ではないかと、このように考えております。 ご清聴ありがとうございました。 3.パネルディスカッション (杉田) それでは、後半、パネルディスカッションを開始いたします。ここからは法專さんに議 事進行をお願いいたします。 (法專) 後半のパネルディスカッションの司会を務めます法專と申します。よろしくお願いいたし ます。 それでは、今までの3人の方の基調講演と、それから吉川先生のコメントに基づきまし てパネルディスカッションを継続していきたいと思いますけれども、最初に今、吉川先生 からコメントがございましたので、3名の基調講演をされた方々から吉川先生に対する反 応と、それからあとほかの2名の基調講演の方々に対するコメントも含めまして5分ない し10分程度、それぞれコメントをお願いしたいと思います。 それでは、順番としましては、ジョルゲンソン先生からクリール先生、それから西村先 生という順番でいきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。 (ジョルゲンソン教授) まず吉川先生、すばらしいコメントをちょうだいいたしまして御礼申し上げたいと思い ます。非常にいいディスカッションの始め方だという気がいたしました。吉川先生ご指摘 になりましたのは、私、アメリカの予測を発表いたしましたけれども、そのもとになって おりましたのは、悲観的な生産性向上に関する見方、もう1つは楽観的な見方、それから 基本的な見方と、この3つのシナリオで、この基本的な見方は両者のちょうど中間になっ ていたわけであります。ここでは楽観的なケースを中心にお話をいたします。 そして論点としては、これは本当に3つのうちでももっとも現実的だと考えるのもあり 得ることだということであります。楽観的なケースですけれども、ここでは生産性向上、 予測が今後とも継続すると、しかもその向上率は1995年以来と同じような速度で続く というものでありました。95年以来というのは、生産性の向上がアメリカでは加速的に 高まったのもので、特にそれが顕著だったのがIT生産産業でしたけれども、非IT生産 業界でも導入生産性向上が実現したという時期でありました。 しばしば吉川先生のような質問をなさいます。一体いつまでこれが続き得るのかという ことです。本当に続き得るのだろうかということです。あるいは通常ならば技術発展のソ ースというのもそろそろ枯渇するのではないかという見方です。ところが、驚くべきこと だという気が自らいたしますけれども、生産性の向上が急速に続き得るという気もいたし ます。技術が完全に枯渇してしまうこともありそうもないというのが現状であります。そ れを説明したいと思います。 ITにおける行動力となっておりますのが、いわゆるムーアの法則であります。半導体 素子の演算能力、それからその規模、能力ですけれども、時間とともにどんどん拡大する というもので、これはかなり一定したレートで40年も続いてきております。それ自体、 瞠目に値すると思いますけれども、それよりももっと驚くべきことだと思いますのは19 95年、半導体技術の開発スピード、半導体がすべてITのもとになっておりますけれど も、その開発スピードは加速化いたしました。より早くなったのです。これは半導体の商 品サイクルが3年から2年に短縮をするということに関連して起こったことでありました。 ですから、 以前は半導体商品というのは、 大体3年間隔で新しいものが出てまいりました。 ところが1995年以来、業界そのもので加速的に新しい世代の新世代の半導体商品を2 年に1度は導入するようになったわけです。これは完全には業界自身もわかっていない状 況であります。合意はありますけれども、完全には理解されていない現象です。 私なりの説明を試みてみますと、業界内での競争の結果こうなったと考えております。 半導体素子の製造企業は加速的に商品サイクルを高めることがみずからの競争上、優位性 につながると考えたわけであります。その結果、競争の勢力の結果としてこのように均衡 レートがどんどん加速化するということになったわけですけれども、一体いつまでこれが 続き得るのでしょうか。無限に続き得るということはまずあり得ないでしょう。このムー アの法則のもとになっておりますムーアですけれども、いかなる指数、関数と言えども無 限ということはないといっておりまして、それが言い尽くしていると言えるでしょう。た だ、半導体産業には極めて細かい技術的なロードマップがあります。これは2年に1度は 策定されまして、業界の中の技術屋がつくるわけです。直近のロードマップはちょうど昨 年の12月に発表されました。その予測を見てみますと、まさに2年間の今私が説明いた しました商品サイクルが続くと言っております。ですから向こう10年ぐらいは恐らく極 めて急速に半導体技術の発展、したがってITテクノロジーの発展が加速的に続くと予見 することができます。 それでは、経済の一体どこにそれがあらわれるかですけれども、例を挙げて見たいと思 います。 現在例えば、 音声通信のデジタル化がほとんど完了しつつあるところにあります。 かつて彼らはデータコミュニケーションというのはコンピュータ対コンピュータで行われ てまいりまして、デジタル信号で行われてまいりました。しかし、ごく最近まで音声伝送 というのは、伝統的なアナログ技術で扱われてきたわけです。ここ5年ばかりの間、ほと んどすべての音声伝送というのがデジタル化されました。そうして、音声をインターネッ トに乗せ、その結果、果たして伝統的な光ファイバー離れをするということが起こったわ けですけれども、あるいは銅ケーブルを使うということもなくなりつつあるわけですが、 以前は銅、あるいは光ケーブルでもって電気通信等のターミナルが続いておりましたけれ ども、それがインターネットに乗ってきたというのが基本的な差であります。それからも っと基本的なことは日本が恐らく一番進んでいるのですけれども、ビデオのデジタル化で あります。これも向こう5年から10年にわたってどんどん発展を続けるでしょう。これ は2つの例に過ぎませんけれども、情報技術が発展し、技術がどんどん加速的に発展をす るという例だと言えましょう。 次に、国際比較の問題に入りたいと思います。吉川先生が提起なさいました最初の質問 に戻りたいと思いますが、潜在成長を予測するタイムフォライズンはどの程度であるべき かということですけれども、人によって違うのでしょう、私は10年としております。で すから2004年から始まっての10年間です。ですから2004年末からの10年先と なりますと2014年末ということになるでしょうか、そしてこの10年間を対象に私の 予測を行って、それを先ほどご紹介いたしました。より長期、10年よりも長い期間を対 象にいたしますと、私よりももっと細かく人口動態上の変化に注目しなくてはなりません。 それ自体いかなる成長の予測においても重要なことであります。こういった人口動態的な 予測というのは20年ぐらいになりますと、それそのもの変わります。しかし10年ぐら いですと、妥当な形で近似的な結果として一定だと想定することもできます。ですから1 0年間を対象にいたしましたアメリカ経済の成長予測の場合には、少なくとも楽観的な技 術に関する前提のもとでは、極めて急速な生産性の向上も続くし、生産増も続くと考える ことができます。これはIT技術が1995年に発展をし始めて以来続いているのと同じ ようなものを期待することができます。 次に、国際評価の話に移りますよとさっき申し上げましたけれども、国際評価をするた めに非常に便利だと思いますのは、IT生産産業がどういった役割を果たしているかとい う観点から国を見るということです。それに加えて、IT利用産業、それから非IT産業、 この3つに分かれることが重要でありましょう。IT生産産業の場合には、アメリカは主 要先進工業国の中でもIT生産で先頭に立っております。しかし、その差は大きなもので はありません。日本はアメリカとIT生産という意味ではほんのわずかな差しかありませ んし、少なくとも20年間はそういった形で両方接近して続いておりました。アメリカと 日本、それからヨーロッパとの大きな違いは、IT生産産業の重要性は日本、アメリカの 方がヨーロッパよりもはるかに高いと、あるいは他の先進工業国よりも高いということで す。他方、EUの中でもフィンランド、アイルランド、スウェーデンのような小国を見て みますと、そういった国でのIT生産産業の重要性というのは相対的にアメリカよりもは るかに高くなっております。アメリカG7の中では顕著に目立ちますけれども、こういっ たヨーロッパの小国のIT生産産業というのは相対的にはその重要性がはるかに高いと、 アメリカよりも高いと言えましょう。 そこで1つ重要なチャンネルが生まれます。すなわちITに関連した急速な生産性向上 が実現するのは、まずIT産業そのものだからであります。IT生産産業において生産性 向上が顕著に続いております。 ITの影響というものは、IT利用産業がもう1つのチャンネルになっています。IT 装置、ソフトをIT利用産業が導入し、生産性が高まるわけですが、このIT利用産業の 状況は先進国間で事情が大きく違います。アメリカ、カナダ、イギリスはIT利用産業と、 それからITに対する投資というのがほぼ補完的な関係にあります。それから、ドイツ、 イタリア、フランス、日本において投資の水準、IT利用産業の投資水準というのはアメ リカを大幅に下回る、イギリス、カナダを大幅に下回るという状況であります。したがっ て、ITが及ぼす影響が各国で違ってくるということになるわけで、主要先進国の中でア メリカはやはりIT生産が一番進んでおり、ITから受ける影響も突出しています。また ITに対する投資額もアメリカは突出していますが、カナダとイギリスはかなり僅差で、 ITに対して投資をしています。ITの生産産業の重要性は日本とアメリカとほぼ同じで すけれども、日本がITの成長率を予測させるやはり1つのかぎは、IT利用産業におけ るITに対する投資をふやすということではないかと思います。 (クリール教授) 吉川先生からご質問をいただいて、どうもありがとうございました。もう少し詳しく説 明しろというご要望だと思うのですけれども、吉川先生がもしかすると一部誤解してらっ しゃるかもしれませんので確認をさせていただきたいと思います。 EUの財政政策、そして金融政策の枠組みを説明しましたが、これは外国人の目から見 ると、誤解の種になるのかもしれません。これはむしろ私たちにとってはいいニュースで す。EUで現在の政策の枠組みを説明すれば、だれもがよくわかります。そして急速な財 政緊縮といった場合には、この財政引き締めを行って政治を実現するということで、ヨー ロッパ人にとっては当たり前のことなのです。ヨーロッパの人はそれを確信しているわけ ですが、私はこれを信じていません。OFCE、フランス経済研究所もこれを支持してい ません。ただ信じないことには成長ももたらされない。やはり現在の政策の枠組みを生か していくためには、まずルールを確立し、別の国々に対する漏出効果というものを否定す ることがあってはいけないということです。 例えば、ヨーロッパにおいて財政赤字が大きい場合には、その結果、金利が欧州全土で 上昇してしまい、またユーロドル、ユーロ円の為替相場においてもユーロ高を喚起してし まうというふうに言われています。ですから、政府が財政赤字をさらに拡大させる可能性 を減らさなければいけないと考えているわけです。また、場合には財政政策を発動し、景 気循環を調整する必要があるという考え方があります。やはり雇用拡大の局面の中で、税 収が減少しているという状況が成長がなければ出てきてしまうわけです。 したがって、均衡財政を中期的には目標としなければいけません。均衡財政を実現する ことができれば、反景気循環的な財政政策というものを実施することもできます。グロー バルな効果をできるだけ減少させ、また均衡財政というものを達成することによって各国 政府が財政赤字をふやすことがないようにしなければいけないわけです。各国政府もEC 委員会も中期的なターゲットというものはよくわかっています。2000から2002年、 中期的には2003年と言えるかもしれませんけれども、 初めて加盟各国政府は財政赤字、 また均衡財政についての予算の予想を出してきました。そして2003年には均衡財政を 実現すると。2002年になったら2004年に均衡財政を達成すると。どんどんと動く 標的のように均衡財政が実現しないまま政府は必ず将来実現すると言い合っているわけで す。ヨーロッパでは依然として財政赤字の上限を設定し、均衡財政を目指し続けていくと いう必要性があるわけですが、それを信じることができなければ財政赤字が大きな国が短 期間に均衡財政を実現することはできません。 ヨーロッパにおける1つの逸話として、もしも財政赤字を減少させることができれば、 経済成長率は高くなると言われています。なぜならば、例えばデンマーク政府は83年か ら86年にかけて財政赤字をGDP対比9%縮小させました。非常に大幅な縮小です。そ して、消費をその期間、増大させることができました。したがって、財政赤字を縮小し、 消費を喚起し貯蓄率が上がったということで、1987年から89年も同じ状況が出てき ました。 フランチェスコ・ジャパチーと、おかしなイタリアのエコノミストが、イタリアのパブ リックファイナンスに関する学派というものを創設して、場合によっては財政赤字でアカ ウンティングフレームワークをずるをしてごまかしてしまうという状況があったので、イ タリアのやはり政府も財政赤字を削減するためにはルールで縛る必要があるという意見を 表明したわけです。 いずれにしても、 とにかく各国政府が財政赤字をこれ以上ふやさない、 減らしていくための仕組みが必要であり、拡張的な財政緊縮というものはやはり金融市場 の開放、自由化のプロセスの中でも必要です。 財政緊縮の中で信用は拡大しました。というのは、銀行融資が増大し、一般家計に対し て消費を喚起するためにも積極的に融資を行ったからです。財政は縮小しますが、一般国 民はより消費を行うために銀行から借金をして、需要を喚起する、消費が拡大するという ことが、デンマークでも、またアイルランドでも行いました。ただ、アイルランドとデン マークのエコノミストよりもイタリアの2人のエコノミストの方が学説としてはよく知ら れています。このイタリアのエコノミストの学派としては、やはり財政政策だけで財政赤 字を縮小していくことは難しいということです。権限委譲及び自主性のバランスですけれ ども、これはヨーロッパだけではなくアメリカでもやろうとしていることです。私たちは ITの寄与度、貢献度というものは同じかもしれません。しかしながら制度が整っていな い、機関が整備されていないということだと思います。やはり財政赤字を縮小するという ことがヨーロッパにおいては重要なわけですが、アメリカにおいてあれほど巨額な財政赤 字があってもアメリカの景気成長がそれによって減退すると考える人がいるでしょうか。 ですから、状況としてはかなり違うと思います。 吉川先生の2点目のご質問、物価を安定させるという標的に関してのご質問でした。長 期的には価格、 物価を安定させる必要があるわけですが、 それをどこまで重視していくか、 優先していくか、そしてどこまで経済成長を優先していくか、やはりトレードオフの関係 であると短期的には言えますが、ヨーロッパにおいては移行期間、より革新的なヨーロッ パにおけるプロセスを実現することができるように、ある程度もうちょっとインフレ率、 高いインフレ率を許容することができる。許容しなければいけないと思いますし、また金 融政策を発動する必要があります。名目短期金利というものは、もうECBによって変更 されていません。やはり今の経済の状況を考えると、ECBは金利を変える必要があると 思いますが、それをしていません。いい例はドイツの連銀です。ブンデスバンクが昔、本 当の意味でのドイツ社会モデルというものがあったと思いますが、説明責任の話をしまし たが、ドイツの連銀は国民に対して説明責任を持っておりました。政治家に対しても説明 責任を持っていました。したがって、通貨当局、金融当局と政治家が政策を調整すること ができました。ヨーロッパにおいては調整のための協定、条約というものはあります。し かし経済政策のコーディネーションといった場合、何を言っているかというと、あくまで も財政政策だけです。財政政策というのは、安定成長協定によって各国調整をしなければ いけないと言っているわけですが、一方、金融政策及び経済政策は調整ができない状況な っています。したがって、ECBとドイツのブンデスバンクでは状況が違うわけで、東西 ドイツの統合の後、ブンデスバンクは非常に引き締め政策をとるという決断をしたわけで すが、ECBと連銀は違います。 (西村教授) 吉川先生から金融危機は97年11月が金融危機に入ったときで、その後いろいろな形 で97年から98年にかけて実際の成長率の鈍化が起こったということなのですが、ここ で問題にしたいのは、金融システムの機能不全というのは、これは96、97年だけを強 調していましたが、これはこの時期に極端に出たということで、94、95年から95、 96年にかけて、TFPの差がだんだん縮小しているというところが重要なわけです。 つまり、金融危機で突然何か機能不全が起きたということではなくて、90年代の特に 半ばぐらいにかけて少しずつ起きていったことが、97年の11月にいわばそれが顕在化 して、逆に言えば顕在化することによってこの金融システム危機というものが終わり、か えって正常に復帰するという側面が実はあったわけです。それは追い貸しとかそういうこ とを考えていただければわかることだというふうに思います。 吉川先生のご指摘は全く正しくて、97、98年が確かに危機だったわけですが、つま りナチュラル・セレクション・メカニズムの崩壊というのは金融危機のときに起きたので はなくて、金融危機までの時期に起きた追い貸しなり何なりのそういった機能不全という のが問題であるということなのです。 少しこれから先に進みますが、ITとの関連で申し上げますと、実は日本のIT投資の 特にファイナンシャルセクターといいますか、銀行、それから証券のIT投資というのは 日本は極端に少ないのですね。ご案内のように、10年前と同じシステムをいまだに使っ ているわけですから、これはしかも24時稼動しない、そしてインターネットバンキング もそれほど便利ではないと。こういうようなことが起きているということが先ほどジョル ゲンソン先生のお話にもありましたが、日本のいわばこの非製造業の問題に実はつながっ ているわけです。ようやくこの不良債権問題、といってもこれはメガバンクの不良債権問 題といった方がよくて、地方銀行はまだ問題残っているわけですが、それで峠が越えたと いうことで、これからこういったシステムの問題というのに日本の銀行、それから証券業 界、それから保険業界が直面して、ここで新しくきちんとした投資がなされれば、私はか なり劇的な形で生産性の向上というのは見られるのではないかというふうに思っています。 こういうことを申し上げるのはなぜかといいますと、実は80年代、いろいろな数字を 見ますと、日本の金融の生産性の向上というのは目覚しいものがあったのですね。それが 実は90年代で崩壊してしまうわけですが、ということは、やはり80年代に起こったこ と、これは実はバブルの状況がありまして、この部分の上乗せ部分があるのですが、それ をとったとしてもかなり高い成長率があったわけですが、これをもう一度リプレイするこ とはそれほど難しいことでは私はないというふうに思います。以上です。 (法專) どうもありがとうございました。これでお三方から、吉川先生のコメントに対する反論 と申しますか、コメントがあったわけですけれども、これを踏まえて吉川先生、特に、追 加的にお話しなりたい点はございますか。 (吉川教授) 何もありません。3人の皆さん方、私の質問に正面から答えてくださった。 (法專) どうもありがとうございました。それでは、今までの話を踏まえて、さらに議論を進め ていきたいと思いますけれども、特に今日は私どもの日本の政府の関係機関が主催をして おりますし、また今日きてくださっている方々も多くも日本の方々ですので、恐らく日本 の今後の潜在成長力といったあたりが一番興味があろうかと思いますので、特に日本の今 後の潜在成長力をどう見るか、あるいはそのためにどのような政策をとるべきか、既に幾 つかの点、出てきていると思いますけれども、そうした点につきまして追加的にご議論を いただければと思います。 順番を変えまして、それでは西村先生の方から、追加的に日本の潜在成長力、そして今 後それを伸ばすための施策ということについてお話をいただきたければと思います。 (西村教授) 私が強調したいのは、潜在成長力を実は私のいる経済社会総合研究所でもそうなのです が、推計するときに過去のデータから推計してしまうのです。これはスタンダードのやり 方なのですが、決していいやり方ではない。やり方としてはいろいろなやり方があって、 1つは、過去の中のトレンドをとってきて、そのトレンドを延長するというやり方とか、 それから生産関数を推計して、それからとるというやり方をするのですが、こういった生 産関数とか、過去のもののトレンドもすべてその時期、その時期の日本企業の調整のプロ セスに実は依存してしまっているわけです。 したがって、それは1つのベンチマークにはなるのですが、それに拘泥するのが非常に 危険だというふうに思います。それと、もう1つ強調したいのは、潜在成長力というのは 与えられたものではなくて我々がつくるものです。したがって、有効な政策をやれば、こ の潜在成長力というのは極めて高くすることが可能である。先ほども吉川先生の指摘があ りましたように、日本は逆に言えば政策的なことで、つまり規制によって不当にといいま すか、低く抑えられている分野というのはたくさんあるわけです。先ほど言いました物流 のところとか、それから医薬品のところとか、そういったところ、それから混合医療の問 題もありますけれども、そういったところを改革すれば、これは成長力を高めるというこ とはそんなに不思議ではないと思います。 それからもう1つ重要なことは、これはなかなか役所の中で理解されないのですが、実 は人間が重要なのです。つまり言っていいかどうかわかりませんが、日本のブロードバン ドが伸びたというのははっきり言って1人の人物の強烈な個性、ほとんど破産の寸前のと ころまでいきながらやって、強烈な個性によって依存しているわけですし、もしかしたら 今テレビ業界に残っている方もそういうことになるのかもしれません、それはわかりませ ん。 ということはどういうことかというと、やっぱりアントレプレヌール・シップ(起業家 精神)といいますか、半分山師ですけれども、この山師をたくさんつくるということが実 は重要なことなのです。役所にいると山師の評判は悪い、山師になってはいけないという ことになるのですが、しかし役所もある程度、山師的な根性を出して、いろいろな仕掛け をつくっていかないとやはりだめだ。それはそれなりに責任を取らなくてはいけない。先 ほどアカウンタビリティーの話がありましたが、そういうことをやっていけば、日本の潜 在成長率は決して低くはないというふうに思います。 それから、日本の潜在成長力は幾つかという数字を出せと言われると非常に困るのです けれども、私は過去の経験からすればやっぱりTFPの成長率の方ですけれども、やっぱ り1. 3とか4とか、 それより上のところにいくのではないかというふうに思っています。 これは先ほど言いましたように、ある程度きちんとした非製造業におけるIT投資の進展 というのが前提になりますが、こういったものが今後日本の成長を引っ張るのであろうと いうふうに思います。さらに、医薬品、そういったところの規制緩和が進むという形で、 そして新しいアントルプレヌールが出てくるということであれば、私はもっと高いところ まで考えることは可能だというふうに思います。 (法專) どうもありがとうございました。それでは同じ日本へのインプリケーションという点に つきまして、ジョルゲンソン先生、そしてクリール先生の方から、一言ずつちょうだいで きればと思います。 それではジョルゲンソン先生、よろしくお願いします。 (ジョルゲンソン教授) 先ほど吉川教授が強調された点に戻りたいと思います。つまり人口構成に関してです。 国際的な比較をヨーロッパ、アメリカ、日本とする場合に、常に重要なのは日本の労働力 の減少が97年に始まったということです。それ以降一貫して減少し続けているというこ とです。しかも非常に急速に国際的な基準で見ると低下している、減少しているというこ とです。対照的にアメリカの労働力は徐々に減速していますが、成長率はプラスです、マ イナスではありません。これは非常に重要な要因です。成長予測においての重要な要因で す。 基本的な結論は、日本の成長見通しのかぎを握るのは生産性の伸びということになりま す。生産性の伸びには二つの要素があります。1つはTFPの伸び、これは投入量1単位 あたりの生産量ということです。もう1つは、資本進化の伸びということです。TFPの 伸びについて考えますと、機会があるというふうに思います。まだ活用されていない機会 が残っているというふうに思います。過去20年ほど見ますと、日本は最も高い生産性の 伸びを先進諸国の間で達成してまいりました。ということは日本は継続的に他の先進諸国 に追いつくキャッチアップのプロセスを続けていたわけです。このキャッチアップのプロ セスというのは、完了したのかどうかということですが、2001年が最新の数字として ありますけれども、日本の生産性をアメリカ、あるいはフランスのような主要ヨーロッパ 諸国、ここが先進諸国で一番高いわけですけれども、比較しますと90%です。つまり日 本の生産性というのはヨーロッパの先進諸国と比較いたしますと、90%であるというこ とです。ということは、日本の多くの産業においては生産性の向上の余裕があるというこ とです、余地があるということです。さらに競争を導入し、規制緩和をすることによって 生産性向上の余地があります。 このような形でIT投資に対してもその刺激が働くということが思われます。ITに関 しましては、重要な障壁があります。これは大半が日本語、中国語ではなくて、英語ベー スであるということです。この障壁は克服しなければなりません。これは恒久的な問題と して持続すると思われます。にもかかわらずITを活用するという意味においては、日本 において豊富な機会があるというふうに思います。必要となりますのは、規制緩和のプロ セスを継続する、そして競争導入をさらに進めていくということです。これは唯一の方法 としてさらに格差を縮めることができるというふうに思います。 日本の潜在的な成長率、さらに0.5%ぐらいこれから10年の間引き上げていくこと ができると思います。ただ、そのためにはミクロ経済的な問題にも注意を払う必要があり ます。政治的な問題も関わってくるということです。日本の産業が他の先進諸国の生産性 の水準よりも低いということは政治的な障壁が存在しているからです。それが障壁が取り 除かれませんと、年率0.5%ずつの生産性の向上というのも難しくなると思います。た だ私は楽観主義者ですので、この機会が活用されることを期待します。 (クリール教授) 私は日本の経済の専門家ではありませんが、まずジョルゲンソンさんがフランスについ て言及されたことを補足したいと思います。フランスについて私の方がよく知っていると いうふうに思います。フランスはG7諸国の中で最も高い労働生産性を誇っています。直 近の数字を見てみますと、労働人口は予想を上回っていると、そして労働生産性の方が予 想よりも低いということが2005年の2月のデータで示されています。ということは、 予想よりも労働人口の数は多いけれども、生産性は予想を下回っているということが直近 のデータで示されています。余りにも早くデータが変化いたしますので、残念ながら直近 ではフランスの生産性は下がっているということです。 プレスコットとブランシャールの議論ですけれども、余暇がふえているとブランシャー ルは言っておりましたけれども、プレスコットは余りにも税金がフランスでは多過ぎると いう議論をしていました。労働人口は少ないというふうに思っていたのですけれども、そ うではなかったということがわかります。以上、データに関しては余りにも頻繁に急速に 変わるので注意しなければいけないということです。 金融市場が解決策の中核であるというお話がありました。日本の生産性成長のためには 金融市場がかぎを握るので、金融市場の救済までにどのぐらい時間がかかるのかというこ となのですが。 (西村教授) まず1つは、フィナンシャルマーケットというのは非製造業の一部である。しかし極め て重要な一部であるということが1つと、それからファイナンシャルマーケットというの は単純に非製造業であるというだけではなくて、ほかのマーケットに非常に大きな影響を 及ぼしている。ほかの産業に影響を及ぼしているのだということが挙げられます。したが って、ファイナンシャルマーケットをきちんとするということは非常に重要な点であると いうことはそのとおりでございます。 不良債権問題が解決したかどうかということですけれども、ホールセールに言うことは できませんが、少なくとも大企業というかメガバンクのところに関しては、もう相当なと ころまできたというのはこれはまず間違いないことだと思います。ただし、地方銀行に関 してはまだ問題が残っている。それはどこに問題があるかといいますと、地方銀行の場合 に、出資先の問題のところでやはり問題がある。つまり、貸し出しがふえているわけでは なくて、結局投資がふえているだけになっているわけですね。その投資はどこでふえてい るかというと東京でふえている。東京もしくはファンドを経営のところでふえているとい う形になるわけです。この部分を解決しないと地方の問題というのは解決しない。これを やるための1つというのは、やはりITを活用したさまざまな新しい融資のシステムとい うようなことをやっぱり考える必要があるのではないか。さらに、リージョナル・メガバ ンクというのは日本にはほんの少ししかありませんので、こういったリージョナル・メガ バンクをつくることによって全体としての効率を確保する。実はそのためにはやはり先ほ ど言いました人間の問題が必要で、やっぱり地方のバンカーのところに有為の人材がいな いというのもこれまた大きな問題ですので、やっぱり人材の育成、もしくは人材の導入と いうことも非常に重要になります。 これは少なくとも金融再生プログラムというのはきちんと動き始めるとすれば、こうい った方向に上からプッシュという形で必ずしも望ましい形ではないのですが、上からプッ シュの形でそれがそういうふうに進みます。これを下から何らかの形で対応ができていけ ば、この部分に関してのかなり長足の進歩が見られるというふうに思っています。 (法專) どうもありがとうございました。それでは、最後になりますけれども、吉川先生、特に 日本の政策やらインプリケーション等でつけ加える点、あるいはそれ以外のヨーロッパ、 アメリカの点でも結構ですけれども、何かあればお願いいたします。 (吉川教授) 1つだけつけ加えさせていただきます。将来の日本の経済成長にとっては、生産性の上 昇がキーである。これは皆さん指摘されたとおりです。きょうのコンフランスでは特にI Tが強調されて、その点についてジョルゲンソン教授は、ITプロダクション、とりわけ 半導体の生産については今後も技術革新が続いていくだろう、と先ほど指摘されました。 多分そのとおりなのだろうと思います。しかし私は、最終的にはITが経済に及ぼす影響 については、半導体という中間生産物ももちろん大変重要なのですが、それがどのように 使われるかという、そこが一番大きなポイントだと考えております。この点についてジョ ルゲンソン教授は、声のデジタル化というボイスのデジタル化ということも既に始まって いるとおっしゃいました。 その後で、 ITは日本ではまだまだキャッチアップのプロセス、 あるいはその余地があるのだ、とおっしゃる一方で、日本にとって1つ不利な点はITが 主として英語でなされていて、日本語には言語の障害壁があるかもしれないということも 言われた。しかし私の考えではそれこそが1つのオポチュニティなのではないか。声すら デジタル化されているわけですから、ランゲージバリアというようなことも将来的にはI Tがそれを乗り越えるのではないかというように考えます。 その点について東大の工学部で翻訳ロボットのデモストレーションを見せてもらったこと があります。ロボットがいろいろな言語をすぐに翻訳する。プレゼンテーションでは、タ イ語か何かで道を聞かれた学生が困っていると、そのロボットが助けてくれる。そういう プレゼンテーションだったのですが、非常にインプレッシブでした。 最後に1つつけ加えますと、ITのアプリケーションと関連しますが、日本では高齢化 が進むのですが、高齢化は言うまでもなくいろいろな問題を引き起こします。高齢者は若 い人とは違って、違ったニーズがあるわけですが、そうした潜在的なニーズがあるという ことは、そこにポテンシャルがあるということでもある。日本のマーケットが非常に大き く日本の所得水準が高いということから言って、新しいプロダクトがつくられたときに、 日本経済はその実験をする実験場としては大変に貴重な場を日本の企業に提供している。 ですから、高齢化はもちろんチャレンジなのですが、それと同時に今日パネラーの方が強 調された、イノベーション、とりわけITに関連したイノベーションを生かすということ に関して、とりわけプロダクトイノベーションについて日本はある種のアドバンテージを 持てるのではないかと考えている次第です。 (法專) どうもありがとうございました。最後、主に日本の潜在成長力、あるいは日本の政策の あるべき姿等についてご議論をしていただきましたけれども、最後20分程度、フロアと のディスカッションに時間を費やしたいと思いますが、その前にもし最後に先生方の間、 パネラーの間でこの点だけはつけ加えておきたいという点がございましたら、ご指摘をお 願いしたいと思います。 特によろしゅうございますか。特によろしければ、あと25分程度時間がございますけ れども、せっかくの機会でございますので、フロアの方々とのQ&Aに移っていきたいと 思います。ご質問、ご意見等ございます方は挙手をお願いいたします。そして、私が指名 させていただきますので、お名前と所属の機関をおっしゃっていただきたいと思います。 それから質問等はなるべく手短にお願いをいたします。 それでは、どなたでも結構でございます。 4.質疑応答 (野村氏) ありがとうございます。野村と申します。住友生命総合研究所というプライベートシン クタンクのチーフエコノミストをやっております。きょうは大変示唆に富む議論をありが とうございました。 特にITの経済に対するインパクトというのは私も非常に関心を持って少し勉強をして おりますけれども、このグロスアカウンティングの話を聞くと、いつもどうもサプライサ イドに偏り過ぎていて需要サイドの話はどうなっているのかなということを心配しており ました。きょう吉川先生から中期の成長という面でも需要面が大事だというお話があった ので、意を強くいたした次第でございます。 規制緩和とか、それから最近の堀江さんみたいなアントルプロヌールシップが出てきた みたいな話もすべてやっぱりそれが需要につながっていくというところで、技術革新と需 要とのブリッジ、そこが何か大事だよと。それをよく分析をしないといけないのではない かなという気がしております。 ジョルゲンソン先生に質問させていただき、大変光栄に存じます。2つ質問をさせてく ださい。これは先生の楽観的シナリオに対しての私の懐疑論を開陳するものでございます けれども、まずITの需要サイドを考えた場合、生産性の伸びによって失業率は高まるは ずです。これは十分な需要が喚起され、潜在的に非常に高い供給に見合った形で需要が喚 起されない限りは失業率は下がるはずです。これが90年代後半に起こったと思いますが、 これから10年間、ITの生産性の高い伸びが持続するとおっしゃいましたけれども、そ の間、財政刺激策、あるいは貯蓄率が低下するという中、需要が十分創出されなくても、 この状況というのは持続するのでしょうか。 それからITの革命に関して90年代、生産性の伸びというのはITの分野においてP Cやインターネットなど、このITの創業者が利益を独占していたという状況があると思 いますが、ITの革命というものが引き続き起こるとすれば、アメリカの企業は他国の供 給業者、日本の供給業者などに対しても競争上の優位性を確保することができると思いま す。消費財、あるいはアメリカの技術を実用化するに当たって他国のこういったサプライ アンも重要な役割を果たしていると思いますが、先生はどのようにお考えでしょうか。 (ジョルゲンソン教授) ありがとうございます。急速な生産性の伸びというのは確かに需要サイドに置ける問題 を喚起します。これは2001年のリセッションからその後の回復局面において人々が雇 用なき回復を経験することによって認識するに至りました。雇用の伸びが景気拡大に伴う ようになったのはごく最近でありまして、2000年リセッションから回復する中、20 01年、これは非常に軽度なリセッションから回復する中、依然として失業率は上昇して いったわけです。多くの人たちが失業を続けていました。ですから、現在の失業率という のはそれほど4年前の失業率からは改善していません。 そういう意味では、需要を喚起するということは非常におっしゃるとおり重要だと思い ます。ITが急速に成長するということは確かに経済政策立案者にとっては重要な課題に なりましょう。こういった課題に今対応することができているかもはっきりしていません。 今、試算なさったように、アメリカの経済には大きな不均衡があります。これは貯蓄率が ほぼマイナスになっている、それに対してIT産業、非IT産業における投資水準は高い わけですが、投資がふえている中、その資金の調達というものは国内でかなり行われてい るわけで、今までのアメリカの景気の歴史の中では例外的であり、それによって貯蓄率が 低下し、企業と家計の財政の不均衡が出ています。財政制度、あるいは税制を改正するこ とによってこれに対応しなければいけません。したがって、アメリカの経済が世界のほか の国々の景気にとってお手本であるとはいいがたい状況であることは十分認識しています。 非常に大きな問題に直面しており、これをこれから10年ぐらいの間に解決しなければい けないことは間違いありません。 とはいえ、ITがもたらしてくれた大きな機会、これによって未曾有の10年間の成長 というものを実現することができました。その結果、長期的な問題には対応しきれていま せんけれども、バランスのとれた状況というものが出てまいりました。アメリカの政治家 もやはりバランスが重要であるということを前よりも認識するようになりました。劇的な 供給の伸びに匹敵する需要というものがまだありません。十分需要と供給がバランスが取 れているとはいえませんけれども、その重要性は前よりもずっと認識しています。 (手島氏) 情報通信総合研究の手島と申します。先ほど音声通信のデジタル化というのはITの利 活用の一例であるというお話があったのですけれども、それ考えてみますと、通常の音声 の今までのサービスを代替したサービスであって、それは今までのサービスよりもコスト が下がっていて、 市場全体としては小さくなっているというふうな認識を持っていまして、 新しい付加価値を創出するという議論、生産性が上がるという議論とどういうふうにつな がっているのかというのをもう一度ご説明いただければと思います。お願いいたします。 (法專) 今のはジョルゲンソン先生でよろしいですか。 (ジョルゲンソン教授) さっき申し上げましたけれども、アメリカ経済における生産性の向上、これは一投入量 単位当たりの生産量ですけれども、特にIT生産産業に集中して起こりました。急速な生 産性向上がこういった業界において続く中で、実態資源これは資本並びに労働力ですけれ ども、どんどんどんどん少なくても同じ量の生産量はつくれるようになったわけです。I T接待そのものはそこにおける生産量は急速にふえております、 実質では。 しかしながら、 その生産税というのはほとんどすべて生産性向上によってもたらされたもので、投入量の 方はどちらかというと減ったというのが実態であります。それが最も劇的にあらわれてお りますのが、雇用を見た場合であります。雇用統計に如実にあらわれておりまして、ブー ムの間、このIT接待における雇用というのは着実に減少を続けているわけであります。 これは生産性がこのように急速にふえたことと関連しております。ですから、そのことが 労働市場におけるブームを生むということではなく、むしろ逆でありまして、デフレ的な 傾向を労働市場では起こしております。そうしてそのこと自体がマクロ経済の運営という 意味では問題を惹起するわけです。 ですから、私は完全に同感できると思いますのは、今のご質問に代表されている見方で ありまして、急速な生産性の向上というのは、ある意味で縮小的であると。労働市場に関 しては縮小的であると私も思います。 (野村氏) たびたびすみません。 吉川先生がハブポートですか、 港のことをおっしゃったのですが、 確かに規制緩和の問題あると思うのですけれども、やはりものづくりからサービスがソフ ト化という、そういう生産の動きを反映した動きであって、昔のように原材料、港で積み おろしてつくったものを輸出するという時代ではなくなったという面の方が強いような気 がするのですね。 私が言いたいのは、今さら国が旗振って日本にもハブ空港がなくてはいけないとか、ハ ブポートがなくてはいけないというのは、何となく国粋主義的な感じがして余り経済的に はどうかなという気がするのですが、いかがでしょう。 (吉川教授) その点については私はちょっと違った考えを持っています。日本に船でカルゴというの でしょうか、荷を持ってくる必要がなくなった、先ほどおっしゃった物からサービスへと いうことで、船で海外から物を日本に運んでくる、あるいは日本から船で物を海外に持っ ていく必要が前よりも小さくなったのであれば、それは日本の港がシュリンクする、小さ くなるのは当然のことであって、合理的なことだと思いますが、そういうことでない。例 えばアメリカから日本に荷を船で運んでくるときに、ごく自然に考えればアメリカの港か ら日本の大きな港に運んでくるということなのでしょうが、よく指摘されることは韓国の 釜山港にほとんどの船は入港して、韓国の釜山から日本国内にそれをディスパッチすると いう、そういうことになっている。これはやはりマイナスです。 (野村氏) そこで何をマイナスですか。 (吉川教授) それはそこで付加価値が失われるわけです。港自体がひとつの付加価値を生んでいるわ けですから。日本が付加価値を生む必要がないのであれば、それはいいのかもしれません が、雇用がないといってみんな地域で困っている。港という1つのサービス産業が失われ ているということだと思うのですね。それはやはり問題でしょう。 あるいは飛行機の方で言えば、ハブ機能を持った空港がなくなって、それでどうしたと 言えるでしょうか。こちらの方は我々のような個人にとってはよりわかりやすい例だと思 いますが、我々が海外に乗り継いで行かねばならないということになればそれだけ不便な のではないでしょうか。 私が理解している限りでは、ヨーロッパの先進国の中でイタリアは今ハブ空港というの はないと思うのですが、私たちが日本からイタリアに行くとき、イタリアの首都であるロ ーマでも普通はスイスの例えばチューリッヒとか、ジュネーブあたりに1回降りて、それ からローマに入るというような形になっていると思うのですね。それはやっぱり不便なの ではないでしょうか。 ですから別に国粋主義的というか、日本の中にすごくメジャーなものをすべて持ってい たいというのでは必ずしもなくて、合理的な理由からやはりハブ機能を持った港、あるい は空港というものがあった方が便利なのではないかということです。1つの産業を変なレ ギュレーションによってみすみす競争力をなくさせるというのは、それは賢くないと私は 思います。 (野村氏) レギュレーションで競争力がないのであれば、そのレギュレーションをなくせばいいで すけれども、仮にレギュレーション完全フリーにしても人件費とかいうことを考えると、 やはり競争力がない可能性が高いなと、私は思うのですね。そうすると付加価値を失うの は確かに残念ですけれども、それは製造業の工場が中国へ行くのと同じです。そこはマー ケットの競争の結果だとあきらめていいのか、そうじゃなくてやっぱり国家プロジェクト としてしなくてはいけないのかというところなのですけれども。 (吉川教授) 生産性が仮に少しぐらいフィジカルに低くても、例えば空港などの場合だったらはっき りしていると思いますけれども、やはりウェルフェアという観点からすれば、明らかに不 便になる。ハブ機能を持った空港がなくなれば。人件費が高いといっても例えば散髪、床 屋、これは日本ではもう競争力がないから、といってほかの国に行くわけにいかないのと 同じような面が空港などの場合はあるのではないでしょうか。 それともう1つ事実の問題として、レギュレーションのためにというのならとおっしゃ ったのですが、レギュレーションの問題はやっぱりあるのですよ。シンガポールとか先ほ どの釜山などと比べると不便だった。役所だと週末は閉庁とか。ほかの港では大体365 日24時間の港になっている。それに対して日本の場合には週末はお役所ですから休みま す。また税関は財務省、それから検疫は農水省などばらばらになっていた。そうした極め て初歩的なレギュレーションが生産性の足を引っ張られているという事例が、日本の場合 にたくさんあるという認識を持っています。 (大守次長) 内閣府の経済社会総合研究所の大守と申します。大変貴重なお話ありがとうございまし た。できればジョルゲンソン先生にお伺いしたいのですが、ほかの先生もできればお願い したいのですが、ITの話と並んできょう人口要因のお話が何人かの先生、ふれられたと 思うのですが、グロスアカウンティングの単純な考え方で考えますと、労働力の伸び率が 例えば1%下がれば、それに労働のシェア、日本だと大体0.7ぐらいで、成長率が0. 7%下がるというふうな単純な計算ができるわけですが、もちろんこれはその他の条件が 一定だと考えればそうなるわけで、実際にはTFPとか、あるいは設備投資とか、そうい うものが影響を受けるわけですが、その仕上がりの姿として、特に日本を念頭においてご 質問しているのですけれども、労働力の伸びの減速の度合いに労働のシェアを掛けたもの よりも、成長率は大体同じぐらい下がるというふうに考えるべきなのか、あるいはもっと 成長率の減速の幅が小さいと考えるべきなのか、あるいは大きいというふうな可能性が高 いか、その辺について直感的なお答えでも結構ですので、いただけたらありがたいと思い ます。 (ジョルゲンソン教授) それに関しての見方は生産性の伸びは資本進化によって影響を受けると、そして資本進 化は生産の伸びと関連しています。ですから、バランスが起きるわけです。資本の伸びと 生産の伸びは均衡していなければいけないと。そして今言われましたように、労働力の成 長率を下げるとどうなるでしょうか。潜在的な生産の成長率が下がるということになりま す。それによって資本進化の程度が上がるということになるわけです。これは時間当たり の資本投入量という定義です。ということは、それによって生産性は上がるということに なるわけです、労働時間が減れば。ですから、これはすべて悪いことではないということ になります。労働力の成長率が減少するということはすべて悪いわけではありません。 先ほど吉川教授が高齢化のインプリケーションについてふれられました。これは別の問 題です。ただ、労働力自体の伸びということを考えますと、労働力の成長の減速が生産性 の伸びに対してはそのプラスに働く可能性があるということです。ですから、より生産性 の成長が起きるという可能性もあり、それによって生産性がさらに向上するという可能性 もあります。ただ、全体的な生産の伸びはどうなのか、そしてこういった要因がどのよう にそれぞれ相互作用を働かすのかということですが、労働力の成長が減速するということ になりますと、生産量自体が減る1つの要因になります。ですから、生産性の成長は加速 されても、生産量の伸びは減速するという可能性があります。 (西村教授) 人口が減っている場合、特に気をつけなくてはいけないのは、我々見なくてはいけない のは一人当たりGDPであるということで、パフォーマンスはやっぱり一人当たりGDP で考えなくてはいけないので、そこら辺のところ、マクロのGDPだけで見ていると判断 を誤る可能性がありますので、その辺だけはきちんとしておきたいと思います。 (会場) 一言だけですが、高齢化社会のいいニュースというのは、ライフサイクルモデルを信じ ればということだと思います。高齢者がより多く消費をするということになりますと、I Tテクノロジー、IT革命の需要がふえるということになると思います。製品に対する需 要がふえると高齢者の消費増加によってです。 (香西所長) どうもきょうは本当にありがとうございました。さっきの大守さんの質問の補充なので すけれども、それに対するジョルゲンソン先生はキャピタルディープニングという手があ るのではないかというお話がありましたけれども、現在の日本の状況を見ていると、成長 率は90年代非常に低かったわけですが、資本形成の比率は恐らくアメリカ並みちょっと 落ちるぐらいでしか落ちていないわけです。そして、これは資本ストック推計、私ども研 究所でやっていますが、非常に批判を受けているのですけれども、あのやり方で少なくと も考える限り、資本はむしろ多過ぎて、したがって資本収益率が非常に下がっているとい う状態だと思います。労働力が不足してくると資本の限界生産力はやっぱり落ちてくる可 能性があるわけですから、資本ディープニングに頼るやり方というのも簡単にはないので はないかという心配をしているのですけれども、その点はいかがでしょうか。 (ジョルゲンソン教授) 資本深化に依存するということは、キャッチアップの機会を活用するという意味での解 決策ではありません。ただ日本経済の潜在成長力を考えますと、生産性の伸びが1.5か ら2%ぐらいかもしれませんけれども、キャッチアップの機会を十分活用すれば、つまり ほかの先進諸国のレベルまで生産性を伸ばすことができれば、この成長力を十分活用でき ると思います。それから、非ITセクターの資本進化ということが重要だと思います。ま た、日本のIT業界の生産性というのは、ほかの先進諸国と同程度、あるいはそれよりも 高いわけです。ですから非IT産業の生産性を上げる必要があります。IT業界の関して は日本は優位性を持っております。コンピュータ、テレコム機器、という狭義だけではな くIT関連の家電、民生エレクトロニクスなどを見ましても同じようなことが言えます。 ですから、日本の経済が世界のIT市場で十分競争し、そして強い競争優位性を維持する ということはできると思います。 ただ、 その生産性の伸びを高めるという機会というのは、 IT業界ではなくてほかのところにあると思います。IT業界では十分それが活用されて おりますので、より幅広い業界を見る必要があると思います。IT以外の業界においてこ の生産性向上の問題というのは大きなチャレンジだというふうに思いますし、日本経済全 体の潜在成長力にとってもこれはチャレンジだと思います。 (法專) 時間もまいりましたので、恐縮ですけれどもこの辺で本日のシンポジウムを終了したい と思います。 本日は日米欧の潜在成長力という点につきまして、非常に活発な議論を展開していただ きまして、日本の経済政策等を考える上でも非常に有益だったと思います。4名のパネリ ストの方々、本当にどうもきょうはありがとうございました。 以上