...

バングラデシュ活動報告書(pdf) - 大阪大学グローバルコラボレーション

by user

on
Category: Documents
3

views

Report

Comments

Transcript

バングラデシュ活動報告書(pdf) - 大阪大学グローバルコラボレーション
大阪大学グローバルコラボレーションセンター
トランスカルチュラル・スタディ・プログラム
「貧困削減とBoPビジネス」
6 人の阪大生が
バングラデシュで考えた
貧困削減のための
「モノ作り」
目
次
1.プログラムの概要
テーマ(松田)
目的(松田)
メンバー
スケジュール(長田)
2.活動内容報告
1 Aarong(長田)
2 Agora スーパー(黒田)
3 魚市場・漁村(儀保)
4 ベドウィン族の村(松田)
5 ナオルヴァ村およびダッカのスラム視察(大澤)
6 JABA tour の経営する小学校(中塚)
7 JICA バングラデシュ事務所訪問(長田)
8 フェアトレード店(黒田)
9 ショッピングセンター(中塚)
10 農村部での活動報告
(1)大澤・儀保グループ
(2)黒田・長田グループ
(3)松田・中塚グループ
11 Shamin さんレクチャー(儀保)
12 アイデア発表(各々)
3.バングラデシュ実習を振り返って
4.引率教員の講評
∼おまけ・コラム集∼
1.プログラムの概要
テーマ
「貧困削減と BoP ビジネス」
目
的
バングラデシュの都市や農村において、聞き取り調査や住民からの意見聴収などを通じ
て、貧困と開発について深く理解する。同時に現地での経験を踏まえて、貧困削減に貢献
しうる製品のアイデアを考案する。帰国後にはこのアイデアを基にして、製品化を視野に
入れた提案を行う。
参加者
学生
教員
大澤
儀保
黒田
長田
中塚
松田
穣
里沙
篤規
玲奈
裕亮
和憲
小峯 茂嗣
小河 久志
大村 悦二
(経済学部経済経営学科 2 年)
(法学部国際公共政策学科 2 年)
(法学部国際公共政策学科 2 年)
(法学部国際公共政策学科 2 年)
(法学部国際公共政策学科 2 年)
(外国語学部外国語学科ウルドゥー語専攻 3 年)
(グローバルコラボレーションセンター特任助教)
(グローバルコラボレーションセンター特任助教)
(工学研究科ビジネスエンジニアリング専攻教授)
日本財団学生ボランティアセンター Gakuvo
(正式名称:特定非営利活動法人 日本学生ボランティアセンター)
2010 年 4 月設立。
学生のボランティア活動の支援、学生ボランティアのスキル
アップの支援、ボランティア体験を広く社会に伝えていく力
の育成を行う NPO 法人。また大学との連携により、出張講義、寄付講座の設置、学生ボランテ
ィアに対する相談業務も行う。
所在地
〒105-0001 東京都港区虎ノ門 1-11-2
E-MAIL [email protected]
TEL 03-6206-1529
FAX 03-6206-1530
ホームページ http://gakuvo.jp
本プログラムは Gakuvo との協力協定に基づき実施されました。
スケジュール(2013 年 2 月 23 日∼3 月 5 日の 11 日間)
月日
2月23日
曜日
土
時 間
活 動
00:35-12:30 空路(関空‐バンコク‐ダッカ)
16:15-16:45 フェアトレードショップAarong視察
17:10-17:45 スーパーマーケットAgora視察
2月24日
日
05:15-07:15 魚市場・漁村見学
09:15-10:30 ベドウィン族の村訪問
12:25-13:30 ナオルヴァ村見学
17:15-17:50 JABAツアー経営の小学校視察
2月25日
月
10:25-12:30 JICAダッカ事務所訪問
15:00-15:45 フェアトレードショップProkritee・Prabarta
15:45-16:15 ショッピングセンター視察
16:30-16:40 スラム視察
17:00-18:00 Aarong視察
2月26日
火
10:40-12:50 UBINIGオリエンテーション・農園視察
14:30-17:50 農村見学
2月27日
水
09:25-12:00 アルー堀り体験
15:00-16:00 農村見学
16:00-17:00 種まき体験
18:40-19:30 UBINIG代表シャミンさんのレクチャー
2月28日
木
09:45-12:00 農作業体験(水田の雑草取り)
3月1日
金
07:20-08:00 市場見学
09:30-11:30 UBINIG経営の小学校訪問
14:30-15:30 タンガイル織職人訪問
17:00-18:00 陶器職人訪問
3月2日
土
07:15-07:30 種まき体験
08:30-09:30 発表
3月3日
日
10:30-12:30 アイディア詰めワークショップ
13:45-15:00 市場聞き取り調査
3月4日・5日 月・火 13:25-翌06:30 空路(ダッカ-バンコク-関空)
※各日日程終了後にはメンバーが集まり振り返りを行った
2.活動内容報告
1 フェアトレードショップ Aarong 視察
視察日時:2 月 23 日
調査報告:
Aarong はバングラデシュの2大 NGO の一つである BRAC が経営するフェアトレードショッ
プである。店内はグランドフロアから 5 階まで、6 つのフロアに渡ってバングラデシュの農村で
生産されたアクセサリーや衣料品、生活雑貨、工芸品などを展示している。
GF JEWELLERY, LADIES’SHOUES & BAGS, HAIR & BEAUTY, BOOKS &
STATIONERY, GALLERY
1F WOMENSWEAR (Saree Shawl Designer), JEWELLEY (Gold Diamond),
PREMIUM LOUNGE
2F WOMENSWEAR (Shalwar Kameez Nightwear), KIDS, FABRIC
3F HOME, CRAFTS, GIFT WRAPPING, CUSTOMER CARE
4F MENSWEAR, MEN’S SHOES, MEN’S ACCESSORIES
5F TAAGA, AARONG CAFÉ, WC
店内は清潔で高級感あふれる内装になっており、女性の従業員も他のショッピングモールなど
よりも多く感じた。客層としては、バングラデシュ国内の富裕層や外国からの観光客らしき人々
がほとんどであった。バングラデシュの高級百貨店的位置づけなのであろう。
バングラデシュの伝統工芸品なども販売されているのだが、人気のあるデザイナーや作家の作品
は他のものより高値でうられている。このように、都市部では有名作家としてプレミアがつけら
れているのだが、商品を作成している作り手本人にはその情報が行き渡っていないようだ。3月
1日に行ったタンガイル織り職人へのインタビューによると、単純なデザインのものよりも報酬
の少ない、手間のかかる凝ったデザインの織物を織物職人は自ら好んで製作するという(例えば、
製作日数 1 日で 400 タカの報酬が得られるものより、製作日数 15 日で 4000 タカのものを職人
は作りたがる)。
Aarong 外観と内装。モダンなデザインで、周辺の建物とは趣を異にしている。
入り口横のフロアガイド。
グランドフロアから6階ま
で、カテゴリーごとに商品
がディスプレイされている。
2 スーパーマーケット Agora 視察
視察日時:2 月 23 日
視察目的:バングラデシュの中間層をターゲットとするスーパーマーケットにおいて、どのよ
うな商品がどのような形で販売されているか調査するため。
調査報告:
事前にリストアップしてあった、調査したい場所の一つとして、スーパーマーケットを訪れた。
ここ Agora はチェーン展開をしているスーパーマーケットらしく、町を車で走っているときに
もいくつか見かけた。ダッカ市内ではある程度ポピュラーなスーパーマーケットのようである。
店内に入った第一印象としては、日本のスーパーマーケットとそれほど変わらない、というの
が本音である。野菜のコーナー、魚のコーナー、肉のコーナーをはじめ、米、小麦粉、お菓子、
調味料、化粧品、台所用品などが部門別に置いてあり、ほぼすべての商品が綺麗にパッケージン
グされているようであった。化粧品のコーナーには常に 2 名の女性スタッフが待機しており、
肉のコーナー、また魚のコーナーには、商品を挟んで向こう側に店員がそれぞれ待機していた。
価格は路上のマーケットよりも少々高く、店内の客も身なりが綺麗な中間∼高所得者層らしき
人々であった。
ここでは主に、魚コーナーの店員にお話を伺った。魚コーナーには大小様々な魚が置いてあり、
中には養殖エビや生きたまま売られている魚もあった。基本的にはキロ売りで、奥の方に秤があ
った。ここの売り場には、路上のマーケットや港側のマーケットとは異なり、魚の下に氷が敷い
てあり、また海産の魚介類は冷凍庫の中に入れてあり、比較的保存状態は良いようであった。ま
た、店員へのインタビューの結果、バングラデシュでは海の魚よりも川、池の魚の方が一般的で
あり、養殖も池で行われるのが一般的であることがわかった。このスーパーマーケットに関して
は、近隣の川、池からトラックなどで運ばれて来るらしく、生きている魚も売られていたことか
ら、鮮度は担保されているようであった。
一方肉のコーナーに関しては、ケースの中に入れられてはいるものの、冷蔵ができている様子
はなく、鮮度が保たれている様子ではなかった。
考
察:
今後、経済発展が進展していくバングラデシュにおいて、このようなスーパーマーケットの存
在は、より一般的になっていくと思われる。そこで、重要となるのは、道端のマーケットよりも
高い値段ではあるものの、「食品の安全性」を担保できるという点である。現時点では、魚に関
しては特にそういった差別化が成功しているといえるが、肉に関しては、マーケットに比べると
ケースに入れられている分だけハエが寄りにくい、外気に触れない等のアドバンテージがあるが、
冷蔵保存をすることでより高い安全性を確保できる余地はある。マーケット調査の際も見られた
傾向として、肉の保存に関して、「火を通せば大丈夫」という理解が支配的で、まだまだ一般的
な意識はそれほど高くないようである。
製品開発のアイデアの種としては、川魚の需要が多いこと、肉の保存方法が不十分であること、
が挙げられる。
(左上)店内の様子。
(右上)市場調査の風景。
(左下)魚コーナーの様子。氷やラップを使用することにより、鮮度が高く保たれている。
(右下)米コーナーの様子。日本ではあまり見られない独特な売られ方をしている。
バングラデシュでは米の生産も多い。
3 魚市場・漁村見学
視察日時:2 月 24 日
調査報告:
朝 6 時すぎ、ダッカ市内の魚市場を訪れた。人が大勢いたがすべて男性であった。バスター
ミナルを通り抜けて漁村の方へ向かい、朝日を見た。川の横にはれんが工場があった。原料に川
岸の砂を使っているようだ。バングラデシュの建物は主にれんが造りらしく、後に訪れた JICA
の事務所も同様で、地震に弱いと聞いた。漁村から車までの帰り道、7 時ごろだったと思うが、
行きは閉まっていた店舗が徐々に開店しはじめていた。チャパティを焼く男性、魚を売る男性、
やはり働いているのは男性であった。車でマワ・ガット(船着き場)近くまで移動しその後歩い
て川岸に向かった。ここにもれんが工場があり、巨大な煙突が数本立っていた。川岸では英語の
書かれた洗剤を使用して洗濯を行う女性の姿があった。
考 察:
バングラデシュでは、長年の慣習や宗教的要因から、女性は家にいるものだという概念が形成
されてきた。都市部でこそ女性の労働者が多くみられるようになったものの、今回訪れた漁村の
ように、郊外部ではいまだその概念が強く残っている感じを受けた。長年にわたって形成された
概念を払拭することは容易ではないが、女性の社会進出を支援する上で、そのような意識の改革
は重要な課題であると考える。
チャパティを売る男性
早朝に漁から帰った漁民
もくもくと煙を出すれんが工場の煙突
魚市場で捕れたての魚を売る
4 ベドウィン族の村
訪問日時:2 月 24 日
視察報告:
2 月 24 日日曜日午前 10 時ごろダッカから南のボリ
シャル管区(Barisal Division)にある、ベドウィ
ン族の村に到着した。魚市場のあったマワのフェリ
ーターミナルからパドマ川(ガンガー)を下り、中
型船で 1 時間 30 分ぐらいのところにある。村では、
主に市場見学と手品ができるおばあさんの家を訪
問した。
まず浜辺につくと中洲のほうからやってきた小
学生に出会った。バングラデシュでは日曜から木曜
まで学校がある。始業時間は 9 時からということで
あったが、ハルタルで学校があるかないかわからなかったので、この時間に出てきたという。
ベドウィン族はもともと季節ごとに住む場所を変えて、生業を営んでいる人々である。しかし
現在はほとんど定住している人が大半で、今回訪ねた村側(陸地側)に定住したもの、中洲側に
住んでいる人々にわかれている。
村の入り口には牛糞が干してあった。これは燃
料や肥料に使われる。
村の家々は増水する雨季にそなえて、またネズ
ミなどの侵入を防ぐため高床式であった。トタン
屋根の家もあれば、新築されて新しい家もあった。
この村の小学校はサイクロンの災害時に緊急
避難場所になっていた。
市場では野菜や魚、生きたニワトリ、スナック
菓子や雑貨を売っていた。生活物資が不足してい
る様子はなかった。インドから輸入されてきた野
菜もあるらしい。また市場の奥にはヒンドゥーの
神様がまつられており、ヒンドゥーの神様のポスターを張ったお店があった。
まず浜辺につくと中洲のほうからやってきた小学生に出会った。バングラデシュでは日曜から
木曜まで学校がある。始業時間は 9 時からとい
うことであったが、ハルタルで学校があるかな
いかわからなかったので、この時間に出てきた
という。
ベドウィン族はもともと季節ごとに住む場所
を変えて、生業を営んでいる人々である。しか
し現在はほとんど定住している人が大半で、今
回訪ねた村側(陸地側)に定住したもの、中洲
側に住んでいる人々にわかれている。
村の入り口には牛糞が干してあった。これは
燃料や肥料に使われる。
村の家々は増水する雨季にそなえて、またネ
ズミなどの侵入を防ぐため高床式であった。トタン屋根の家もあれば、新築されて新しい家もあ
った。
この村の小学校はサイクロンの災害時に緊急避難場所になっていた。
市場では野菜や魚、生きたニワトリ、スナック菓子や雑貨を売っていた。生活物資が不足して
いる様子はなかった。インドから輸入されてきた野菜もあるらしい。また市場の奥にはヒンドゥ
ーの神様がまつられており、ヒンドゥーの神様のポスターを張ったお店があった。村の入り口に
もヒンドゥーの神様の祠があった。
最後に手品ができるおばあさんの家に行った。このおばあさんはサル使いでもあり、サルを使
った芸と、手品を見せてくれた。
ゥーの神様の祠があった。
最後に手品ができるおばあさんの家に行った。このおばあさんはサル使いでもあり、サルを使
った芸と、手品を見せてくれた。
5 ナオルヴァ村およびダッカのスラム視察
訪問日時:2013 年 2 月 24 日(日)、25 日(月)
訪問場所:ザジラ郡 ナオルヴァ村(24 日) ダッカ スラム(25 日)
訪問目的:都市と離れた農村の生活の様子を観察して貧困層の抱える問題とその問題解決のた
めの製品開発のヒントを得ること。スラムの実情とそこに起因する様々な問題点を探
ること。
ナオルヴァ村
ダッカのスラム街
明らかになった課題:
<スラム形成の原因とその影響>
ナオルヴァ村での視察で最も深刻に感じた問題は、都市でのスラム問題であった。当初の訪問
目的とは異なるものの、視察の中で垣間見えた問題点としてナオルヴァ村と都市のスラムの関係
性が見えたのでここでは二つ同時に視察報告する。
都市で深刻化している今回視察した村は、首都ダッカから車で 2∼3 時間ほどかかるガンジス
川沿岸にある小規模な村落であった。以前は、村落の規模も人口もより大きいものであったそう
だがガンジス川の岸が徐々に崩れていき、それとともに村の規模は小さくなり今の村の形になっ
たという。土地を失ったことによる都市部への人口の流出がダッカでのスラム形成の原因の一因
になっているという。視察したスラムは鉄道の線路に沿っておよそ 1km 続き、人々はトタンや
木材で小さな小屋を建てて暮らしていた。本来なら政府の土地であるが、家賃を払う必要がない
ためスラムが形成されたという。異臭に満たされ、衛生環境の悪さが目立っていた。麻薬取引な
ど犯罪も多いという。
以下、スラム形成による諸問題について考察し、スラム問題の解決の必要性を説く。
<スラム形成による諸問題>
スラム問題によって併発する問題としては、主に以下の 2 つが挙げられる。
都市交通問題
スラムを形成する人々にはリキシャと呼ばれる自転車タクシーで生計を立てているものが
多く、スラムの規模が大きくなるにつれ、都市での交通環境が悪化することが考えられる。
市内の道路では同じ車道に自動車とリキシャが行き交い、恒常的に渋滞が発生していた。
都市交通問題は、人やモノの円滑な流れを妨げるなどの経済的影響の他、大気汚染などの
環境悪化にもつながる。
治安の悪化
スラムはその生活環境の悪さから犯罪の温床となり、すなわちその国の治安悪化につな
がっている。都市での治安の不安定さは、環境業など海外から資本が流入する妨げとなり、
その国の発展を阻害する一因となっている。
以上の考察からもわかるようにバングラデシュにおいても他の発展途上国と同様スラム問題
は国の経済発展のために解決が至上命題であり、また都市だけでなく地方とも関わる複雑な問題
である。今回のテーマの一つでもある貧困削減の面からも有効な解決策を見出す必要性を感じた。
6 JABA ツアーが経営する小学校
訪問日時:2 月 24 日
訪問場所:JABA ツアー経営の小学校
活動報告:
JABA ツアー(日本人を対象にツアーを組ん
でいるバングラデシュのツアー会社)の運営し
ている学校を訪問した。初めに先生との話をし、
その後に授業を行っている校舎を回った。
<先生との話から>
小学校は JABA ツアーによって経営されて
いるもので、日本のバングラデシュ大使、ムハ
マド・ユヌス氏らにも支援されている。通され
た部屋には、彼らとの写真が飾られていた。
生徒数は 600 人ほどで、生徒の授業は 2 回のシ
フトに分かれている。また、日本での幼稚園に
あたる施設も併設している。英語教育は小学校
から行われており、日本よりもこの点において
日本の先を行っているといえる。しかし、一方
で芸術系の科
目(音楽、美術
など)はほとん
どなく、たとえば音楽の勉強といえば国歌を歌うことを教わる
くらいである。このような芸術系の科目については、専門の学
校に進みそこで学ぶ以外には勉強する手段がないようである。
また、バングラデシュ全土で就学率は向上しており、学校に
通うこどもの数は増え続けている。学校は公立、私立の両方が
あるが、特に私立あるいは公立の学校に通うことは特別なこと
ではない。しかし、公立の学校の数が不足しているのを私立学
校が補填しているというのが現状のようである。
バングラデシュのこどもたちの教育の習熟度をはかる場とし
て、12 月に行われる national exam がある。これは全国のこど
もたちが一斉に受けるもので、各校の教師たちはこの試験で子
どもたちによい成績を取らせることを目指しているようである。
最後に、学校関係者へのインタビューなので自分の学校のいい部分しか語ってくれなかった。
<校舎を見学して>
校舎自体は現在も改築中だが、未完成の部屋もすでに使用中とのことだった。2 階部分まで完
成していたが、3 階部分も建設中だった。建物は他のバングラデシュの多くの建物と同様、煉瓦
を積み上げた構造でできており地震などに対する備えなどは十分とは言い切れない。
教室は日本の一般的な小学校の教室とほぼ同じくらいの大きさだった。大きな違いは明るさで、
工事中の教室であっても授業を行っている教室もあるため、日本のものよりはるかに暗い。
7 JICA バングラデシュ事務所訪問
訪問日時:2 月 24 日
訪問目的:JICA バングラデシュにおける民間連携の実態・課題を把握するため。
活動報告:
JICA バングラデシュ事務所次長の富田洋行氏に、開発の歴史的背景を踏まえた開発事業にお
ける民間連携について、JICA バングラデシュの開発事業の民間連携や BOP ビジネスについて
お話を伺い、議論を交わした。
<開発事業における民間連携>
今日、開発事業おいて民間連携が注目される理由として二つのことが考えられる。一点目に、
開発をめぐるグローバルな環境の変化があげられる。近年、先進国公的資金の不足や新興国、巨
大財団のプレゼンスの高まり、ODA の持つ意味の変化等により伝統的開発援助機関の重要性が
相対的に低下しており、2005 年∼2008 年ごろから開発におけるビジネスが注目されるようにな
った。2 点目に、民間の開発事業への関心の高まりがあげられる。経済成長に基づく持続可能か
つ inclusive な開発が求められるようになり、民間も単なる ODA 受注ではなく、民間独自の活
動として開発へ参加するようになってきている。このように、開発事業の民間連携には PPP
(public–private partnership)による公的インフラの整備と CSR、BOP、Social Business な
ど貧困削減へのビジネスの参加といった 2 つの潮流が見受けられる。
<JICA バングラデシュと BOP ビジネス>
JICA の民間連携メニューは以下 5 つある。
1.BOP ビジネス協力準備調査
目的:ビジネスモデルの開発、事業計画策定、JICA 事業と共同可能性検討
対象:開発課題の改善に資する事業、JICA との共同により開発効果の増大が望める事
業
2.PPP インフラ協力準備調査
目的:円借款または海外投融資を活用したプロジェクトの基本事業計画策定
対象:4 条件=①途上国の経済社会開発・復興や経済の安定に資する事業
②日本政府、JICA の方針、先方政府の計画にそった事業
③円借款・海外投融資の活用見込み
④建設・O&M (Operation & Maintenance) を含む PPP インフラ事業
3.中小企業連携促進調査
4.海外投融資事業
5.民間連携ボランティア事業
これらの中で、1.BOP ビジネス協力準備調査は世界で約 70 件採択されており、うち以下
に挙げる 10 件がバングラデシュにおける事業案件である。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
案件名
マイクロクレジットシステムを取り入
れた雨水タンク事業準備調査
エネルギー・マイクロユーティリティ
展開 CDM 事業準備調査
緑豆生産の体制構築事業準備調査
自転車搭載型浄水器を活用した水事業
準備調査
安全な水供給のための BOP ビジネス
事業準備調査
軽量太陽光パネルを用いた貧困層の生
活水準向上事業準備調査
ローカル開発食品による妊産婦と乳幼
児の栄養改善事業準備調査
風力発電機と太陽光エネルギーによる
ミニ淡水化装置事業準備調査
スキンケア製品を切り口とした農村女
性の生活改善事業協力準備調査
無焼成固化技術を使った煉瓦事業構築
のための協力準備調査
実施団体
㈱天水研究所、㈱パデコ
㈱PEAR カーボンオフセット・イニシ
アティブ、㈱エネルギー環境研究所、
㈱アルセド
㈱雪国まいたけ
日本ベーシック㈱、八千代エンジニア
リング㈱
オリジナル設計㈱、岩崎電気㈱
㈱地球快適化インスティチュート、ア
ライアンス・フォーラム財団
日清食品ホールディングス㈱、アライ
アンス・フォーラム財団
A-WING インターナショナル㈱
㈱資生堂、㈱かいはつマネジメント・
コンサルティング
亀井製陶㈱、㈱アルセド
バングラデシュにおける BOP ビジネス協力準備調査事業の特徴としては、資生堂や日清など
日本での大量流通商品の現地展開の試み、岩崎電気や日本ベーシックなどのように先端の技術を
活用した現地の開発課題解決の試み、雪国まいたけなどのようなバングラデシュと日本の経済ギ
ャップを活用したビジネスモデルを構築、天水研究所のような現地適用化技術の開発などがあげ
られる。
<BOP ビジネスについて>
開発事業と民間連携、JICA の BOP ビジネス支援についてお話を伺った後、BOP ビジネスと
は何か、また BOP ビジネスを行うことのバングラデシュにおける意義、日本における意義につ
いて議論を交わした。BOP ビジネスの定義について、ビジネスとの差は何か、そもそもビジネ
スとは何で何のためにあるのかなど、我々が実習を行っていく上で避けては通れない根源的な問
いを投げかけてくださった。
また、BOP ビジネスの成功の鍵として、
・先端技術+現地適用=イノベーション
・日本と途上国の経済ギャップ
の二つを挙げていた。これらは 24 日以降の実習で、
アイディアを考案する際のヒントとなった。
その他にも富田次長のキャリアや途上国で働くことの意義についてもお話ししてくださり、
我々の将来を考える上でも示唆に富む濃密な時間を過ごすことができた。
JICA バングラデシュ事務所富田洋行次長と
8 フェアトレードショップ(Prokritee・Prabartana)視察
視察日時:2 月 25 日
視察目的:バングラデシュ国内で行われるフェアトレードの現場を見るため。
調査報告:
Prokritee はソーシャルビジネスとフェアトレードと自然保護とを組み合わせたフェアトレー
ドショップである。もともとは、キリスト教の団体である MCC が運営を行なっていたが、1978
年に Prokritee が独立し、農村の女性や、差別される女性のエンパワメントを目的とした、フェ
アトレード事業を行なっている。店内には、農村に住む女性たちによって、オーガニックの材料
から作られるハンドメイドの品々が並び、店員はすべて女性であった。アクセサリー、ノート、
伝統楽器、サリーをはじめとする様々な商品があり、地域の学生や外国人が客としてよく来るそ
うである。店内には仕立てる前のサロワカミューズも陳列してあり、顧客の体型に合わせた形に
店内で仕立てたあと、販売しているそうだ。
Prabartana は、1994 年に発足した、NGO UBINIG の本社という位置づけで、衣服やアクセ
サリーを中心としたフェアトレード商品を取り扱っている。大きな国際機関による大規模な開発
が主流であった時代に、農業支援を中心として、ビジネスも組み合わせたあたらしい形の地域密
着型開発の手法で、気候変動や化学肥料の誤用などの様々な問題に対して、包括的な解決策を提
示する NGO として発足したのが UBINIG である。ここで、UBINIG 代表のシャミン氏と対面
し、上記のような UBINIG に関する歴史などをお話してもらった。全体的に商品の値段は高め
で、男性用シャツは 1,500 タカ前後、女性用シャツは 1,000∼1,800 タカであった。アクセサリ
ーも 1000 タカ程で、ストールは 2000 タカ近くするものもあった。UBINIG はオランダ、カナ
ダの団体からの寄付金により運営を行なっており、支援先のサリー織り職人やノクシカタ職人か
ら製品を購入して、Prabartana などの店頭で販売している。ときには 1 万タカほどで買い取る
こともあるらしく、寄付金によるサポートが大きいのではないかと思われる。
考 察:
二国間で行われるフェアトレードが世界的に見れば一般的だが、国内におけるフェアトレード
の事例も存在するということは、都市と農村における物価の違いを利用したビジネスが可能であ
るということである。
一方、いずれの団体も、寄付をもらって運営しているということから、フェアトレードを行い
つつ、ビジネスとしてその団体だけで回していくのは非常に困難であるようだ。いかにコストを
下げ、効果的なブランディング、販売方法をとっていくことも、適正技術、BoP ビジネスを考
えていく上で重要なポイントであろう。
Prabartana の様子。店内は狭く、たくさ
んの商品がところ狭しと並んでいる。
Prokritee の店内。サロワカミューズや、アクセサリ
ーなどの小物が多い。
Prokritee 内のポスター。女性のエンパ
ワメントをわかりやすく伝えている。
9 ショッピングセンター視察
訪問日時:2 月 25 日
訪問場所:ダッカ市内
視察した売り場:主に電気製品の売り場
調査報告:
<ショッピングモール全体について>
構造は日本のデパートなどに似ている。各フロアに売り場が分かれていて、例えば1階や2階
などには電気製品、その上の階には衣料品などが売られていた。入り口に警備員がおり、入念に
身体検査を行っての入店で、客も着飾った女性やカップルが多い印象を受けた。衣料品売り場に
は伝統的な衣装であるサロワカミューズの専門店なども多かった。また、海外有名ブランドの海
賊版のような製品も多く見受けられた。
<1 階電気製品売り場>
■携帯電話売場
1 階の入り口のすぐそばに位置する。グラミンフォンが大きな売り場面積を占めていて、扱わ
れている製品のほとんどは、NOKIA 製もしくは SUMSUNG 製のいずれかであった。店員への
インタビューによると、客が携帯電話を選ぶ際の基準になっているのは、日本と同様「使いやす
さ」と「デザイン」のようだ。日本の携帯電話売場であれば、多くの場合キャリアの店員がいる
だけで、メーカーの店員はいないが、バングラデシュではグラミンフォンの店員に加えて、
SUMSUNG、NOKIA の店員が携帯電話の機能の説明などのために、常駐している場合もある
ようだ。
また、SONY の EXPERIA を扱っている店舗もあったが、iPhone や GALLAXY の人気には
劣るようだ。店員によると、EXPERIA は性能も GALLAXY とあまり変わらず、値段はより安
いという。
■カメラ・その他家電売り場
一方、カメラ売り場では日本メーカーのカメラが目立った。Nikon や Canon の一眼レフ、デ
ジカメが並んでいた。その多くは日本のデパートなどにあるアクセサリーが入っているガラスケ
ースのような入れ物に入れられており、気に入った商品があれば店員に声をかけて見せてもらう
ことになっている。価格は Nikon の一眼レフ:約 30000 円、Sony のデジカメ:約 9500 円。カ
メラ専門店は数が多かった。
電気洗濯機を販売している店もあった。洗濯機の相場は、いずれもパナソニック製で9kg→
43500tk、6.5kg→28800tk である。このエリアではすべての店員は男性であった。
10 農村部での活動報告
(1)大澤・儀保グループ
①UBINIG 施設見学
日 時:2 月 26 日
活動報告:UBINIG の職員に施設を案内してもらった。種子の保管所、ポン菓子・マスタ
ードオイルの生産工程などを見学した。
明らかになったこと:
まず種子の保管所を訪れた。UBINIG は農家に対し米や野菜の種子の貸出を行っている。
貸出に際して金銭は取らず、収穫時に倍量の種子を返却してもらう仕組みをとっている。
この保管所では 1700 種以上の米の種子がそれぞれ土製の容器に密閉保存され、番号で管
理されている。種ごとに栽培方法などを記帳した冊子もあった。
次にマスタードオイルの生産所を見学した。ここでは女性が石うすのような器具に種を
入れ、牛にひかせていた。牛に目隠しがされていたため理由を聞いたところ、牛を飽きさ
せない工夫だという回答を得た。
最後に、バングラデシュ国内のスーパーでもよく見かけるポン菓子の生産工程を見学し
た。ここでも女性が働いており、鍋に米(水稲)を入れポン菓子の元を作っていた。力作
業ではないが火を使うため煙や熱気が気になった。ここで作られたポン菓子の元は 1 パッ
ク 11TK で買われ、120TK で売られるらしい。また、米の脱穀過程を体験した。デキと
呼ばれる器具を使い女性 2 人がかりで作業していた。
シードバンクの見学
米の脱穀をする道具
②アクセサリー製作過程
日 時:2 月 27 日
マスタードオイルを牛の力で精製
ポン菓子の制作過程
活動報告:Aarong などに出荷されるアクセサリーの製作過程を見学した。
明らかになったこと:
男性の職人が銀を加工
してピアスなどのアクセ
サリーを製作していた。こ
こで加工された製品は大
手フェアトレードショッ
プ Aarong に出荷され、取
引に UBINIG は関与して
いない。話をうかがった 1
人の職人は先祖代々この
職を受け継いできたとい
い、他にやりたい仕事は無
いか聞いたところ「機会が
あればやりたいが何がし
たいかはわからない」と答
えてくれた。情報の少なさから職業を自由に選択できていないのではないかと考えられる。
(2)黒田・長田グループ
①UBINIG オリエンテーション・農村見学
日 時:2 月 26 日
目
的:UBINIG の活動・しくみの理解と農民への聞き取り調査
活動報告:
農村滞在 1 日目は首都ダッカからタンガイル県に移動し、UBING タンガイルセンター所
長のツンヌ氏による UBINIG の活動についてのプレゼンテーションの後、UBINIG の支援
で実際に食品の加工をしている現場やシードハウスの見学および農村見学を行った。
UBINIG は local knowledge を後世に残していくことを目的としてバングラデシュで活
動を展開している NGO 団体である。もともとは繊維業の工場化の波にのまれて衰退しつつ
あった織物工の支援から始まり、
現在では NiyakishAndolon と呼ばれる新農業法の支援や、
女性やエンパワーメントなども行っている。
初めに水稲の加工作業を見学した。ここではムリとコイという 2 種類のポップライスを
だっぷ
昔ながらの製法で作っていた。また、水稲のもみ殻を落とす脱皮作業を体験することもで
きた。丸太で上からもみ搗いてもみ殻と玄米を分離させる仕組みである。数十秒試してみ
ただけであったが、体力を要する作業であった。この作業を行っていた女性に聞いたとこ
ろ、1 日の作業時間は 10 時間程度だという。
次に、マスタードオイルの製油所を見学した。ここでの動力源は牛であり、働いていた
女性は種の追加や、牛のコントロールなどを行っていた。先に見た水稲の脱皮作業ほどの
重労働ではなさそうであった。このマスタードオイルは 1 キログラムあたり 360 タカ(5US
ドル)で売れるそうだ。
続いてシードハウスを見学した。
シードハウスには 1700 を超える種類の水稲の種と、350
種類の野菜の種が保管されていた。UBINIG はこれらの種を農民に無料で貸与し、農作業
の指導・アドバイスを行う。その代償として、農民は翌年にその倍の量の種を UBINIG に
返すという、取引に金銭の介在しないシードバンクの仕組みによりシードハウスは運営さ
れている。ここで疑問なのが UBING 職員への給料の出所である。UBING タンガイル事務
所の所長ツンヌさんに聞いたところ、スタッフの給料は他の NGO や他国政府からの基金で
賄われているという。Sustainability をキーワードに活動している UBINIG だが、ツンヌ
さんに伺った話から資金面に関してのみ言及するならば、持続可能性が高いとはいえず一
抹の不安が残る印象を受けた。
②畑でアルー(ジャガイモ)の収穫
日 時:2 月 27 日
目
的:農作業を実際に体験することを通して、問題発見、製品開発の一助とする。
活動報告:
この日は、朝 10 時ごろからコモラさん・ウットムさんご夫婦の畑でアルー(ジャガイモ)
の収穫を手伝った。この作業で先ず最初に驚いたことは、収穫するジャガイモの小ささで
ある。日本で売られているジャガイモは大体こぶしほどの大きさだが、この日に収穫した
アルーは大きいもので卓球の玉ほどのものであった。このサイズのジャガイモになじみの
ない私たちはなぜ未成熟のまま収穫するのかと不思議に思っていた。彼ら曰く、このアル
ーは霧のせいでこれ以上大きくならないからこのサイズで収穫するのだという。また、消
費者もこちらの小さいアルーを好んで買うらし
い。しかしながら、もし霧のせいでアルーの生育
が阻害されるのを防ぐことができて、大きいアル
ーを作ることができるならば、それに越したこと
はないとウットムさんも言っていた。詳しいこと
はわからなかったが、霧のせいで土の水分量が増
えることで成長がとまってしまうようである。こ
れに関しては帰国後、研究の余地があり製品開発
のヒントになるのではないかと感じた。
これらの収穫したアルーは 1kg あたり 50∼
100 タカで売れる。
③水田で雑草取り
日 時:2 月 28 日
目
的:農作業を実際に体験することを通して、問題発見、製品開発の一助とする。
活動報告:
この日は農業体験の 3 日目という位置づけで、UBINIG の支援する農家の水田の雑草取
りのお手伝いをした。水田は脛の真ん中辺りほどの深さで、土の質は日本のものほどは柔
らかくない。田んぼの境目、水路の脇には日本と同様あぜ道があるが、日本のあぜ道ほど
の広さはなく、片足分、広くても両足をピタリと並べたくらいの広さであり、よろけると
水路に落ちるか、水田に落ちるような狭さで、非常に歩きにくい。
雑草取りであるが、等間隔に植えられた水稲の間に無造作に生えた雑草を抜きつつ、泥
をかき混ぜて、抜いた雑草を土中に埋め込むという作業であった。この作業に関して、雑
草が再び生えてくる可能性があるのではないかという質問をしたところ、腐って肥料にな
るから良いのだという回答であった。実際に作業に取りかかったところ、泥が水中に舞い
上がり、水が濁って手元が見えにくく、誤って水稲の苗を抜きそうになったり、長時間屈
んで作業をするため、腰に負担がかかったり、と改善の余地がありそうな作業であった。
こういった単純な肉体労働をする際、その辛さを軽減するために、農民達が大声で歌を歌
いながら作業をする光景が見られた。
1 時間半ほど作業をしたところで、休憩をとることになった。普段から農民たちもある程
度作業をしたところで同時に休憩をとり、地面に茣蓙を敷いて、その日の農作物の状態な
どについて情報交換をしながら、お茶をしたりするそうだ。我々も、茣蓙を広げ、椅子を
並べて木陰で休憩をとり、昼食後に村人に対するインタビューを行った。
二人の農民に対して行ったインタビューの結果、以下のことがわかった。
①この地域では、水田に水を供給する電動汲み上げ井戸以外はすべて手作業で行なって
いる。(この二人に関しては、機械を購入する資金があれば機械で農作業をしたいと
のこと。)
②兄弟が多いほど、父親の持っていた水田を細かく分配しなければならないこと。(イ
ンタビューした一方の水田は 60 エイカーであるのに対し、他方は 2 エイカーの面積で
あった。もちろん、もともとの世帯ごとの農地面積によって、承継面積は異なる。60
エイカーの方はもともと比較的裕福な家庭であった。)
③農地を売ることで、また小作農家に貸すことで資金を得ることもあるということ。
④害虫・害獣駆除に関して:ⅰ.虫や鳥を農地に近づけないために、ニームという木から
伝統的な薬品を作ることもある。
ⅱ.鳥(鴨)が虫を食べて駆除する。蛇が鼠を食べる。魚が
虫や雑草を食べる。(かつてこの地域でも使用されてい
た化学農薬の影響で魚はほぼ全滅。)
⑤稀ではあるが、農家以外にも職を持っている人もいること。(インタビューした一方
はハルバルと呼ばれるローカルな医者、他方は魚の養殖家。一日の中で、農家として
働く時間、別の仕事をする時間が分かれている。)
⑥苗床を作り、水田に植えるまでに 3 ヶ月、そこからさらに収穫する前に 5 ヶ月を要
すること。1 つの穴に異なる種を植えることにより、12 ヶ月で季節により 3 種類の作
物を収穫していること。
⑦男性が主に畑や水田での農作業を行い、女性は収穫後の作物の保管の仕事をするのが
一般的であること。
⑧農業を行う上で最も重い作業は、雑草取り(月 3∼4 回)、頭に乗せて行う収穫後の作
物の運搬、化学肥料を用いない堆肥作りであること。
考 察:
農作業の中で最も体力を使う仕事、堆肥作り、雑草取り、農作物の運搬、に関して、高
額な機械の代わりになる適正技術を考案することで、農民の労働時間や疲労を軽減できる
可能性は大いにあると思われる。また、農家によって、作付面積に大きな差があるため、
狭い農地でも高い生産性を得られるような技術に関しても、一考の価値はありそうである。
日本では特にそういった技術は進んでいるはずであるので、日本の農業技術をバングラデ
シュに適合する形で導入する形を考えたい。また農業に関しては特に、生産地と都市部、
また地方の商業エリアとを効率的に繋ぐ流通システムに関しても非常に重要な切り口とな
る。農業であるからといって農村部にだけ着目するのではなく、都市部や交通システムに
も目を向けた、包括的な視点を持ってアイデアを考えていくことが重要である。
(3)松田・中塚グループ
①UBINIG の施設見学
見学日時:2 月 26 日
メンバー:小峯先生、松田、Redwin、中塚
事実概要:UBINIG の施設を見学した。種を保存しておく施設、魚の養殖池、牛を使って
の油の生産現場などを見て回った。
明らかになったこと:
UBINIG が、organic で non-chemical な農業を推進しているだけのことはあって、すべ
ての施設において機械に頼らず、有機農業の手法によって生産が行われていた。
まず、施設内にあった池では魚の養殖がおこなわれていた。このような人口の池はバン
グラデシュ農村部の各地にあって、乾季には水量が減って魚を捕まえる格好の場所となっ
ていた。
次に、種を保存するための施設では、種を入れて保存しておくための容器を製作してい
る女性たちに会うことができた。彼女たちは土で容器を作り、5 回ほど乾かして完成させる。
種を入れておくための容器は大きさはほぼ同じで、バングラデシュの豊富なローカルな種
の数を反映してか、その数は多かった。また容器を入れておく小屋の中には、容器のほか
にジュートで製作した網や小さなビンなどを用いて、うまくスペースを利用していた。
あちこちにみられる石臼上の物体は、牛の餌を入れておくための容器のようだ。中に乾
燥した牛の餌を入れ、そこに水を加えることによって柔らかくして牛に与えていた。
牛は、マスタードシードから油を搾る工程でも活用されていた。UBINIG では伝統的な
牛を使った油を搾る機械がまだ使われており、ゆっくり時間をかけて油を搾っていた。油
を搾った後の搾りかすは牛の餌になる。
多くの作物は夏に収穫される。特に果物などは夏に取れるものが多いようである。
②サリー製作現場
見学日時:2 月 27 日
メンバー:小峯先生、松田、Redwin、中塚
事実概要:農村でのサリー製作の全工程(デザイン、糸の製作、機織り)を見学した。
明らかになったこと:
まず、デザインを型に移している職人の家を訪れた。彼はデザイナーが製作したデザイ
ンを型に写し、それを売って生計を立てていた。基本的に自分でデザインを行うことはな
く、ほかの人が作ったデザインをもとにそれを移すのが仕事のようだ。
次にプロのデザイナーの方に会ってインタビューを行った。彼は父親の代からデザイナ
ーで、父親は政府から表彰されるほどのデザイナーだったそうで、家には多くのデザイン
の記録が残されていた。しかし、彼自身は PC のペイントの機能を使ってデザインを行って
いるようで、すべて手作業で行っていた父親の方法とはすこし違うようである。これによ
り、20 日かかっていたデザインの工程が 5−6 日に短縮された。
また彼は月に 5−6 個のデザインを顧客に依頼される形で製作している。顧客からの要望
があれば極力それに沿うものを製作しているという。また、販売はローカルマーケットの
みで、ダッカなどへの販売は行っていないようだ。
11 Shamin 氏レクチャー
日 時:2 月 27 日
概 要:UBINIG 代表である Shamin 氏に、UBINIG の理念や活動について講義をしていただ
いた。
以下にその概要を記す。
<UBINIG の目標>
1.村落における Nayakrishi Seed Network(NSN)、the Community Seed Wealth
Centers(CSW)、the Seed Huts(SH)の能力を統合し拡大すること
2.絶滅の危機に瀕する地元の家畜種を認識し、種の存続を維持することおよび農村共同体に
おいて家畜や水生多様性についての認識を高めること
3.気候変動や自然災害に対応するため、農村共同体の組織的な能力を高めること
4.最善の方法を促進し広めること
5.生物多様性と遺伝資源の損失との連関を強調し、法律や政策制定のための環境を形成する
こと
上に述べた目的を達成するために、UBINIG は技術訓練・学習所の設置、農家同士による定期
的なミーティング、米や野菜の種の貸出、学校教育における生物多様性指導などを行っている。
質疑応答:
(黒田)子供たちが生物多様性を守るのに重要だというのはなぜか。
→子供たちはいずれ次の世代の農業を担う存在になるから。
(中塚)5 つの目的の中で最も重要だと考えるものはなにか。
→その土地固有の知識を維持すること。
(中塚)今後都市化が進むと、共同体を維持するのが困難になると考えられる。つながりを維持
する上で大切なことはなにか。
→共同体の中で年配者が若年者に知識を伝達することが重要になってくる。
12 アイデア発表
以下、
農村滞在最終日の 3 月 2 日に UBINIG スタッフへプレゼンを行ったアイデア Eco-RIKI
と移動図書館、および 3 月 3 日のワークショップで考案した Mr.コンポストについて詳細を述
べる。
(1)Eco-RIKI
Eco-RIKI
ダッカ市内はもちろん、各地都市部や農村部において、リキシャは人を目的地に連れて行く
ための市民の足として幅広く利用されている。とりわけ都市部において、その運転手の人々
の大半は農村部出身、スラム居住者の人々である。
→目的地から帰るときにゴミ集めするシステムを作れば…
出発地
乗客運送
目的地
↑ここを活用する。
問題意識・現状
バングラデシュ、とりわけ都市部におけるゴミ問題は深刻である。ゴミがあらゆる場所に捨て
られており、その種類もプラスチックごみ、包装紙の一部、食べかす、ペットボトルなど数が多
い。道にゴミ箱もなく、人々のごみを捨てることに関する意識も希薄なようである。
また、ダッカ市内には多くの低
所得者層が集まるスラムがある。
そこでは農村部から自発的に都市
部に移った、もしくは都市部に出
てこざるを得なかった人々が暮ら
している。彼らの多くが従事して
いる仕事のひとつが「リキシャ引
き」である。しかし、その収入は
高いとは言えず、一月あたり日本
円でおよそ 1 万円前後である。
以上の現状、都市部を中心とする
路上などに投棄されたゴミの処分
に関する問題、そしてダッカなど都市部を中心とした、リキシャ引きの方の所得の低さという 2
点を問題と考え、その解決策を探った。
Eco-RIKI
Eco-RIKI は、そういった文脈の中で生まれたアイデアである。
バングラデシュの農村部でリキシャを利用した際には、目的地まで送ってもらったあと、運転
手の方は退屈そうに携帯電話をいじったり、休んだりしつつ手持無沙汰な様子で人通りの多いと
ころへと戻っていった。また、リキシャの運転手は客待ちの時間が多い仕事でもある。多くのリ
キシャ運転手はたいてい人通りの多い交差点などで集まって客を待っている。
以上の現状から、リキシャの運転手が目的地に乗客を連れて行ったあとの時間、すなわち再び
人通りの多い場所に戻って再稼働するまでの時間に何かできることがあればリキシャの仕事も
効率化でき、副収入にもつながるのではと考えた。かつ、先述したようにゴミは都市部のいたる
ところに捨てられている。そのため、都市部のあらゆるところに乗客を送り届けるリキシャはそ
の解決には最適であるといえる。
リキシャの運転手にはペットボトル、古新聞、缶など集めると換金できるゴミをあつめてもら
う。これはごみ自体から利益を生み出し、収益性を確保するためである。
今後の課題
いくつか挙げられるが、以下にいくつかを列挙した。
・人が乗る乗り物がゴミを集めるのはイメージが悪い
・バングラデシュだからこそできるが、応用が利かない。
・だれがこのシステムを統括は誰がするのか
・お金かかるかるため、政府の支援は得られないかもしれない。
(2)移動図書館
1 理念
地方の識字率上昇や、読書による教育の向上を促進し経済成長を促す。また、地方と都市
の情報格差を少なくする。
2
経緯
タンガイルでのインタビューを通して、学校に通う子どもたちの年齢に対する知的レベ
ルの低さを垣間見、学校から離れた地域に住む子どもたち、または学校開校中に家事など
のため学校に通えない子どもたちの知能向上に貢献したいと考え、このアイデアを考案し
た。また、今回拠点としたタンガイル県には NGO 団体 UBINIG が所有する二つの図書
館があることを知り、図書館近くの人々以外にも広く様々な本に触れてもらいたいという
思いから考案した。
3
システム
このアイデアにおいては、タンガイル県でのインタビューを通して考案した経緯から、
実施する地域に拠点となる図書館があることを前提とする。
移動はリキシャや CNG と呼ばれるタクシーのようなものに拠点となる図書館の本を乗
せて移動する。レンタル料をもらって本を貸し、期限を設けて返却してもらう。もらった
レンタル料は運搬する者の収益とするが、制度的に体系化できれば収益をサラリーとして
分配することも考えている。名前や住所を登録制にし、本の未返却を防ぐ。各地域を周る
曜日を設け、隔週で違う本を積んだ車両が周るようにして、様々な本と触れられる機会を
つくる。
4
Like
・様々な本に触れることによって情報や知識を得られる
・学校に通えない子どもと通えるこどもとの知的格差を軽減する
・雇用創出
etc…
Dislike
・学校に通わなくなる子どもが増える
・本が傷む
・ビジネスとしての体系化
etc…
5
(3)Mr. コンポスト
(衛生問題解決 × 農家の負担軽減)
問題意識: 路上マーケットに群がるハエが食品につくことにより、その食品を購入する
消費者が、蝿の媒介する菌やウイルスにより、腹痛や下痢などの健康被害を受
ける可能性が高まる。さらに、ハエがマーケットに飛び交っていると、そこを
詳
利用する消費者からの印象も悪く、売上が伸びない。ハエの発生源は、マーケ
ットの前に投げ捨てられるゴミにあることが認められる。
さらに、畑を持つ農家にとって、コンポスト(畑にまく肥沃な土)の作成は、
農業において最も重い行程の一つである。
細: マーケットの店主と、契約という形でゴミ箱(生ゴミ専用)を設置する。朝、
昼、夜に Mr.コンポストのトラック(農村においては人間)がそのゴミ箱を回
収し、集積工場に集める。そこで生ゴミと土、その他の材料(天然由来)と混
ぜあわせ、コンポストを大量に生産する。生産したコンポストを、農家に対し、
少額で販売する。
受益者: ゴミを出すマーケットの店主、ゴミを出さないマーケットの店主、消費者、通行人
協力者: 既存のゴミ処理業者、行政機関、農業関係者
課 題: より効率のよいシステムを考案すること。都市部においては、交通渋滞を助長しない
こと。コンポストのオーガニック性、信頼性を担保すること。
3.バングラデシュ実習を振り返って
大澤 穣(経済学部経済経営学科 2 年)
貧困削減と BOP ビジネスというテーマで、
現地調査を通して何かしら有効な製品を考案
しようと意気込んでバングラデシュでの実習
に臨んだ訳だが、実際に感じたのは、どのよ
うな製品が必要か以前に、貧困と何か、BOP
ビジネスとは何か、何のための実習なのかと
いうことを再考する必要性だった。それを、
痛切に感じたのは JICA ダッカ支部での話。
タンガイルでの直接的な最貧国の一つの地方
での生活に触れる前に、今一度それらについ
て考え直すことができたのは良かった。
日本と比べて、圧倒的にモノが少ない。イ
ンフレも未整備な部分が多く、不便である。
そんな生活にもかかわらず、現地の人々は皆
自分たちの生活、国に誇りを持っている。確かに日本など他国の先進諸国の生活を知らないこと
もあるだろうが、ほんの数日間の滞在ではあったが、タンガイルでの生活は有意義で、日本での
生活とは違う安らぎみたいなものを感じた。
タンガイルでの生活では、当初村人たちとの触れ合いの中で、彼らの現状に対する考えを聞い
て、本当にこの村に変えるべきものなどあるのだろうかと感じたが、小学生への訪問やインタビ
ューを通じて感じたのは、教育の向上の必要性だった。識字率とその国の経済成長率とは比例関
係にあり、教育の向上はバングラデシュのこれからの発展に必要不可欠なものだと考えた。もち
ろんそれは日本をはじめどの国にも当てはまることだが。バングラデシュに、タンガイルに、具
体的に何が必要なのか正直に言えば、数日間の滞在でははっきりと視ることはできなかった。初
めは、自分たちが彼らのために何かを作ろうということだけ頭にあったのだが、途中から大事な
ことは、誰がするかではないことではないかと思い始めた。だからこそ、彼らが彼ら自身で変え
ていってもいいのではないかと。そのためのものとして教育をより向上させていくべきだと考え
た。また、同時に、自分たちが彼らのことを知ろう知ろうと必死であったのが、徐々に自分のこ
と、自分の国のことも彼らに知ってほしいという思いに至った。そういう経緯を経て、移動図書
館を思いついた。
具体的なことは全く分からない。市場調査を始め、本格的に進めたいとすれば、様々なデータ
を取る必要もあるだろう。全然未熟なアイデアはあったが、思いついてそれを周りに話した時に、
肯定的に受け入れられたことが嬉しかった。
実習の最後では、体調を崩し周りに迷惑をかけたことが申し訳なかった。
自己管理が甘かったことが一番の反省点である。
貴重な経験をしたと思うので、これで終わりにせずに、これからの勉強、特に来セメからのゼ
ミに生かしていきたい。
儀保 里沙(法学部国際公共政策学科 2 年)
バングラデシュは、1 日 2 ドル∼年間 1000 ドル未満という低所得で生活する BoP(Base of
Pyramid)層が国民の大半を占める、世界最貧国の一つ。そのバングラデシュでの体験型学習を
通して、貧困削減に貢献しうる製品のアイディアを考案する、というテーマで行われたのが今回
のプログラムだった。参加動機は、将来途上国支援に携わりたいという思いがあり、しかし実際
に途上国への渡航経験は無かったため、この実習を通じてその現状を確かめたかったからである。
渡航前の事前学習では、バングラデシュが抱える社会問題や BoP ビジネスの事例、効果的なイ
ンタビュー方法などを学んだ。現地での 10 日間は、ダッカ市内散策や JICA への訪問・スラム
見学から農村での農業体験・村人との交流まで、その内容は多岐にわたっていた。ダッカ市内散
策とスラム見学では、貧困層の実態を垣間見ることができた。車の窓越しにすがってくる物乞い
は、テレビやインターネット、人づての話を介して知っているものではあったが、実際に目にす
るとやはり衝撃的だった。また、高層ビルや店舗が立ち並び、自動車やリキシャが渋滞をなすに
ぎやかな市内の一角で、線路沿いに続くスラムに足
を踏み入れたときは、格差社会とはこのことをいう
のだ、と突きつけられた気がした。ガイドの方から、
河川流域に住む者たちが土地の浸食を受けて移住
を余儀なくされ、スラム拡大の一因になっていると
聞き、なんともいいがたい気持ちになった。実習中
は、一日の終わりに先生方を含めたメンバー全員で
その日の感想を報告し合い、後半は製品開発に向け
たワークショップも行った。ハルタル(反政府運動)
の影響で外出自粛になり、思いがけず日程が変更に
なったこともあったが、アイディアの深化やワーク
ショップで生じた疑問をもとに市場調査に行くな
ど、上手く活用できたのではないかと思う。
今回のフィールドスタディを通して実感したこ
とは、問題発見・解決の難しさと面白みである。バ
ングラデシュに赴いて、市場や居住の衛生環境、教
育環境の改善など、解決しなければならない問題を
漠然と認識はできても、それを、政府や民間のボランティア等に頼るのではなくビジネスの観点
から解決しようと考えると難しさが増した。しかし、ワークショップを通じて解決策のアイディ
アが洗練されていく過程は、稚拙な表現になるがわくわくした。それぞれに異なる意見を持つメ
ンバーの発言にも刺激を受けた。今回私は自分のアイディアを発表するまでに至れなかったので、
機会があればぜひバングラデシュを再訪問して調査したい。また実習中、言語能力不足から現地
の人と満足に会話できなかったのが心残りになっているので、今後は英語学習に精力的に取り組
みたい。
最後に、小峯先生、小河先生、大村先生をはじめ、今回の実習を有意義なものにしてくださっ
たすべての人に感謝します。有難うございました。
黒田 篤規(法学部国際公共政策学科 2 年)
今回、BoP ビジネスによる貧困削減のためのフィールドワークに参加してみて、日本で考え
ていた BoP ビジネス、そして適正技術という概念が大きく揺さぶられたことが大きかった。も
ともと BoP ビジネスとは、一般的な「ビジネス」とは一線を画し、貧困層の抱く問題を解決す
るための新しく斬新な概念だと考えていた。しかし、今回 JICA バングラデシュの次長とのお話
を通して、また自分が実際に人々の生活を見て、話をしたことを通して、改めて考えた BoP ビ
ジネスとは、本来的に社会のために存在する企業が、そのターゲットを貧困層にも拡大して「ビ
ジネス」を行うものであり、言葉の定義としては、「ビジネス」と本質的な違いはないというも
のである。自分が、BoP ビジネスという言葉を単純に崇拝するような勘違いをしていたことに
気付かされた。もともと「ビジネス」という言葉に、搾取的な、また高圧的なイメージばかり抱
いていたため、基本的には苦手な言葉の一つであったが、今回そのイメージは完全になくなり、
「ビジネス」それ自体古くから存在した最も一般的な問題解決の一手段であったということに気
づいたことは大きな収穫であった。
また、調査に関しては、実地
調査を行うことの多くの利点と
困難を実感した。まず最も大き
な利点としては、日本にいては
見られない、聞けない、触れら
れない、味わえない、感じられ
ない、多くの事実に直面するこ
とができることである。住民の
生の声、生活の様子、食べ物の
味、畑の土の様子など、インタ
ーネットや本だけでは到底得ら
れない情報を数多く得ることが
できた。アイデアを出した後に
直接住民からフィードバックを
貰えることは現地にいるからこ
そできることであった。その際
に、問題を目の当たりにして、
それを問題と考える人、問題と
考えていない人の両方が見られ
たが、問題と考えている人も、
実際に解決策を実行しているわけではないが、改善したいと思っているにとどまっていた。誰も
改善しようとしないのであれば、もしかするとそれは問題の本質ではないのかもしれない。そう
いう見方ができるのも、現地にいるからこそであった。そして、今回の実地調査で感じた調査の
肝は、いくら調査と言えども、それは人と人の対話に他ならず、事務的で淡々とした聞き取り調
査や撮影を行なっても、問題の核心は見えてこないということである。こちらは調査を させて
もらう 側であるのだから、最低限の礼儀を尽くし、最大限の感謝をもって伺うことで、相手も
より多くのことをこちら側に伝えてくれる。そうして、見える問題だけでなく、見えないところ
に潜む問題も引き出すことができるのだと思う。実際に、短い事実質問を重ねて問題をあぶり出
すという手法も試してみたが、こちらは非常にテクニカルで難しかった。そういった技術ももち
ろん重要であるが、一番根本にある礼儀を尽くすという 手法 は常に忘れずにいたい。
全体を通しての反省としては、もっと多くのことに関心を持ち、もっと積極的に多角的な調査
を行えたらなおよい調査結果が得られただろうということである。調査の段階ではあまり気づく
ことができなかったが、もともとカテゴライズされた問題以外にも気づけるよう、綿密な分析を
行なっていこうと思う。
最後に、このフィールドワークを催行するにあたって、協力していただいた多くの方に感謝の
意を表したい。ありがとうございました。
長田 玲奈(法学部国際公共政策学科 2 年)
今回、「貧困削減と BoP ビジネス」というテーマのもと、日本での事前学習を経て実際にバ
ングラデシュに足を運んでみて実感したことは、学校の外、フィールドに出ることの重要性と有
用性である。
10 日間という短い期間ではあったが、都市部と農村部の両方に滞在することで居住環境や経
済のギャップを肌で感じることができたことは、バングラデシュという国を理解する上で貴重な
体験になったと思う。
今回の実習を通して貧困とは何か、ビジネスとは何か、何のためにあるのかを改めて考えさせ
られた。初めてのいわゆる発展途上国への渡航で、しかも統計上ではアジアの最貧国と言われて
いるバングラデシュに赴き、正直私は拍子抜けした。「貧困であると定義される人々が多く生活
している国なのだから、行けば何かしらの問題が転
がっているだろう」と心の奥では高を括っていたか
らなのかもしれない。実際は、当然のことながら人々
はごく普通に生活を営んでおり、目につく問題とい
えば日本で見聞きしていたマーケットの不衛生な状
態や交通渋滞、蚊の多さなどばかりで、それらの点
についてただただ事の深刻さを痛感するだけであっ
た。
その一方で、日本にいるだけでは知りえなかった
バングラデシュの一面もあった。特に印象的だった
のが、少なくとも私たちがインタビューした農村の
方々は自分の仕事や暮らし、ふるさとに誇りを持っ
て生きているということである。外国人を前にして
タテマエを言っているのかもしれないが、そうだと
しても、私は彼らがこれからも誇りをもって生きて
いける社会であり続けたらいいな、日本もそういう
社会にしたいと感じた。解決できそうな問題を探し
に行く意識で臨んだ実習で、改善ではなく今の状態
を維持したいと思うようなものに出会い、日本に思いを馳せることになるとは思ってもいなかっ
た。
私が事前学習を通して学んできたバングラデシュも、実際に見て、感じてきたバングラデシュ
も、この国の実情すべてではないし、それだけで物事を考えたり語ったりすることは得てして危
険であるのかもしれない。見たままを鵜呑みにして早急に結論を出すのではなく、フィールドワ
ークで大事なのは、よく観察し、自分が得た一部の情報から見えない部分を想像する力、そこで
あぶり出した課題をまた聞き取り調査などで洗い出す力なのであろうと感じた。
この 10 日間は、日本とは言葉、習慣、空気、音楽、町並み、目に入るすべてが違って見えた
新鮮な環境に身を置いて、今まで自分の中で形成されていた途上国像とのギャップに戸惑ったり、
自然とともにいきる人のたくましさを感じたりと目まぐるしく刺激的な毎日だった。
この授業のテーマにもある、BoP ビジネスについては結局最後まで自分なりに納得できる定義
ができないでいるが、BoP 層の人々であれ、富裕層の人々であれ、精神的に豊かな生活を送る
上で弊害となるようなこと・ものを少しでも軽減できるようなものづくり、システムづくりを今
後も考え続けていきたい。
中塚 裕亮(法学部国際公共政策学科 2 年)
今回のバングラデシュに渡航は、今回「BOP ビジネスと貧困削減」というテーマを掲げての
ものだった。しかし、今回の渡航での学びは必ずしもその枠組みの中に納まるものばかりではな
かった。
今回の渡航を通して得た学びは、大きく分けて以下の 3 つがある。1 つめは「BOP ビジネス
の可能性と限界」だ。次に「視点の違いによる問題意識の違い」、最後に「現地の友人を持つこ
との重要性」だ。
まず 1 点目、「BOP ビジネスの可能性と限界」についてだが、今回の渡航を通して BOP ビ
ジネスの立ち位置というものを肌で感じることができた。今日では BOP ビジネスが途上国にお
ける問題解決に当たり、あたかも万能のように語られることが多い。しかし、実際に自分が実感
したバングラデシュにおける多くの課題において、BOP ビジネスは何ら万能ということはなく、
むしろ非常に限定的な役割を果たしているに過ぎないと感じた。というのも、たとえば、トイレ
の設置あるいは下水道の普及といった問題は基本的に政府もしくは地方公共団体の役割と考え
るのがふつうである。この問題においては、下水道の設置という部分が問題解決のボトルネック
になっているので、確実に政府な
どの公的部門が解決を主導すべき
問題であることに疑いの余地はな
い。これはほんの一例に過ぎない。
しかしこのようにとりわけ衛生分
野などにおいては公的部門でなけ
れば解決が難しい問題も多く、ビ
ジネスという形で解決することに
こだわるのが正しいのかという疑
問も生じた。
一方で、BOP ビジネスに大きな
可能性を感じたのも確かだ。BOP
ビジネスのターゲットとなる人々
―一般的に 1 日 2 ドル以下で生活
しているような人々―は今後も確
実に存在し続け、かつ都市部への
人口流入によってこれまで彼らが
農村部で生活していた時とは全く
異なる、新たな問題も発生してく
る。実際、
バングラデシュでは政府の手が届かない、まかないきれないところをグラミンや BRAC
といった巨大な組織が補填しており、このような役割を担う組織は今後も必要とされるだろう。
続いて、2 点目の「視点による問題意識の違い」について記載する。よく言われることだが、
私たち先進国の人間とバングラデシュをはじめとする途上国で暮らす人々の価値観は同じでは
なく、またどこに問題意識を抱くかは異なってくる。同じ日本人であっても、個々人が持つ問題
意識というものはそれぞれ異なっている。同様に、バングラデシュ人の間でもそれは異なってい
る。象徴的な出来事が、市場の食品に群がるハエに対する意識の違いである。あるダッカ市内の
市場で調査を行ったところ、ある野菜売りの屋台の男性は食品にたかるハエについて「非常によ
くないものだと思う」と語っていた。しかし、そこからほんの十数メートルしか離れていない肉
屋の店主の答えは驚くべきものだった。彼は肉に群がっているハエについて「別に悪いとは思っ
ていいないし、仕方のないものだ」と悪びれる様子もなく答えたのだ。同じ市場で同じように食
品の販売を行っている人々の間でさえ、問題に対するとらえ方はこうも違うものなのかと驚かさ
れた出来事だった。このような事例からも、画一的に「バングラデシュにおける問題は○○だ」
と断定することはほぼ不可能で、個別的な問題について「どこで」それが「だれに」とって問題
なのかをはっきりさせる必要があることを実感した。
最後に、「現地の友人を持つことの重要性」について述べたい。現地で友人といえるバングラ
デシュ人を 2 人見つけることができた。バブとレドウィンだ。彼らと滞在中に話しあうことで、
彼らの考え方の 1 片を知ることができた。10 日間という期間は短かったが今後も繋がれる友人
を持つ機会を得れれたことは、バングラデシュで今後もプロジェクトを進めていくうえで非常に
力になるものだった。
松田 和憲(外国語学部外国語学科ウルドゥー語専攻 3 年)
今回のトランスカルチュラル・スタディ II で見えてきたこと
ダッカの喧騒…それはイラン映画に出てきた都市テヘランに、リキシャや CNG を加えた風景
が自分の中でぴったりと合う。今回のバングラデシュの実習の目的は「貧困削減と BoP ビジネ
ス」。バングラデシュに行く前までは「貧困層は農村にあり」という言葉がなんとなく自分の頭
の中を支配していた。しかし今回の実習で、農村よりも都市部の貧困層に目が向いた。もちろん
農村にも貧困は存在するし、不作になれば必然的にその層は増える。しかし、バングラデシュで
数多くの NGO が農村部における貧困層のサポートをしている中、都市部の貧困層には目が向け
られていないのではないか?この気づきは今回バングラデシュに行かなければわからないこと
であったと思う。ハルタルのために2日目の予定をパドマ川(ガンガー)下りと農村見学に変え
たのはいい意味で正解だった。そこでのパドマ川
の中州の形成と川岸が削られ村の土地が削られ
ていき、そのため家をなくしてダッカのスラムに
移住する人々もいるということを聞いた次の日
に、スラムを見ることができたのは農村部での貧
困と都市部での貧困を比較するうえでとても役
に立った。
3 日目の JICA のバングラデシュ事務所での富
田次長との懇談は BoP ビジネスとは何か?企業
や普通のビジネスとの違いは何か?ということ
を考えさせられるいい機会となった。日本の最先
端技術と現地とのマッチングの重要性をおっし
ゃっており、日本の強みとは何か、日本がバング
ラデシュで何を貢献できるのかといった、これか
らの製品開発を企画していく上で大事なことを
学ぶことができた。
4 日目以降のタンガイルでの現地 NGO である
UBINIG の活動見学は、農村と開発と持続可能
な社会を結びつけるものとして、とても考えさせ
られた。単に輸出や売れる商品作物のためだけに
農業をやるのではなく、もともとあった伝統的な農業、バングラデシュで昔から作らてきた多く
のコメの品種の栽培を継続するとともに、化学肥料を使わないで作物を作っていた。バングラデ
シュでも有機栽培がおこなわれていたことに驚いたし、実際に有機栽培作物の需要もあるらしく、
また持続可能な農業を展開していて、いい意味で不意打ちをくらった。また伝統文化の振興、特
に伝統音楽の保存にも取り組んでおり、とても興味深かった。
今回の実習では Community based organic farming をしきりにおっしゃっていた UBING 代
表の Shamin 氏をはじめ、私たちの質問に毎回答えてくれた英語通訳の Redwan Khan 氏、ハ
ルタルが起こっている中で私たちの安全を第一に考えてくれた日本語通訳の Kanan Barua 氏の
お力でとても有意義な実習となった。
最後に、今回のバングラデシュのトランスカルチュラル・スタディ II をアレンジしていただ
いた小峯先生をはじめ、引率の小河先生、工学研究科の大村先生、そしてバングラチームのみな
さんありがとうございました。
4.引率教員の講評
小峯茂嗣
グローバルコラボレーションセンター
特任助教
・ バングラデシュ社会が抱える問題解決へのサービスの提案
参加学生たちは首都ダッカおよび農村部タンガイル県での実習を経て、開発途上国の抱え
る問題を体験的に理解することができた。その過程で、開発途上国における参与観察や聞き
取り調査を実際に行ったことで、調査手法のあり方や課題について学習することができた。
本プログラムの目的は開発途上国の課題解決に貢献する製品やサービスを発案すること
であったが、成果として3つの提案を提示することができた。
第一は農村部の市場の生ごみに群がるハエによる衛生問題の改善に貢献することを目的
としたサービス「Mr. コンポスト」である。これは市場の生鮮食品販売の過程で放置される
生ごみを回収し、堆肥を作って農家に販売する業者サービスである。
第二は開発に伴い増加するごみ問題を解決するためのサービス「Eco-Riki」である。都市
部や農村部ではプラスチックごみ放置が拡大しており、それらの回収と処理が問題となって
いる。このサービスは交通サービスであるリキシャ(自転車がけん引する人力車)にゴミ回
収機能を持たせようというものである。車夫は回収したごみをリサイクル業者に売却し、収
入を得ることができ、放置ゴミの問題解決に貢献するものである。
第三は村落部の教育事情を踏まえた移動図書館の案である。バングラデシュでは近年、経
済発展に伴って教育への熱が高まっていると言われている。実際に子どもたちに将来の希望
をたずねれば、医者、弁護士、教師、エンジニアなどの回答が多かった。
これらの発案にあたって、参加学生たちは単なる思い付きではなく、真にニーズはあるの
か、持続性はあり得るかなどについてワークショップ手法を用いて案をまとめていった。
「ひ
らめき」を事業化させていくにはさらなる克服すべき課題もあるが、現地への再渡航による
試験的実施を行うことも視野に入れ、アイデアを現実にしていきたい。
・ 実習を経た今後への期待
参加学生は日本と異なる文化背景や開発段階の国において課題を抽出し、解決をはかる一
連のプロセス、すなわち現地調査の意義や困難さ、異文化の人々と関係を構築すること等を
体験的に学習した。これらを踏まえて、将来的には国際社会でグローバルに活躍することを
期待したい。必ずしも開発援助機関に身を置くことがすべてではない。開発や地域研究を行
う研究者として、あるいはどのような分野であろうとも職業人としてでもこれからは国際的
に活躍することができるだろうし、すでにそうしなければならない時代になりつつある。こ
の実習を一時の「青春の思い出」にしてはならない。「そこ」を知ってしまった者には、そ
の責任が伴うのだ。
最後に、本実習を実施するにあたって多大なる協力をいただいた日本財団学生ボランティ
アセンター(GAKUVO)にあらためて感謝申し上げたい。
大村悦二
工学研究科ビジネスエンジニアリング専攻
教授
本実習に同行したのは、2013 年度ビジネスエンジニアリング研究(BE 専攻 OJE 演習)の一
つとして、小峯先生らと協同で「開発途上国の生活環境を改善するものづくり」に取り組む
ための予備調査という意図もあった。先生お二人は国際関係論、文化人類学がご専門で、こ
のような異分野の先生方とご一緒することができたことは貴重な体験であり、有意義だった。
理系とは異なる研究スタイルは勉強になった。学生は法学部、経済学部、外国語学部の 2 年
生と 3 年生の 6 名で、彼ら学部生と意見交換できたことも新鮮だった。
このように、本実習には学生 6 名と教員 3 名が参加したわけだが、学生二人ずつ 3 班に分
かれて調査活動できた点で、参加人数は実習に適していた。女子学生 2 名が含まれていたこ
ともよかった。訪問先には、ダッカ市内だけでなく、タンガイル県という内陸の農村と、ダ
ッカ近郊のパドマ川の中洲にある農村などが組み込まれていて、さまざまな生活環境を知る
ことができる構成となっていた。工夫された実習内容であると感じた。
学生たちは、英語のできる通訳を通じて積極的に現地の人たちと会話し、ときには直接村
人の輪に入って、すぐに打ち解け、親しくなっていた。聞き取り調査では、上手に質問しつ
つ、一生懸命メモを取っていたのが印象的だった。毎日、夕食後にミーティングの時間を持
って、さまざまな角度から観察し、それぞれに感じたことなどをみなで共有した。若者らし
いものの見方や感じ方に感心するところが多くあった。一方で、住民が困っていることや相
手のものの見方、考え方を短い時間で聞き出す難しさ、相手の言語で会話できることの重要
性なども実感したようである。
「貧困削減と BoP ビジネス」というテーマの「ビジネス」という点については、実習前には
それぞれ受け止め方が違っていたように思われる。「(ビジネス)=(金儲け)」という先入観が
あって、幾分嫌悪感を持っていた人もいた。「ビジネス」は、「ものづくり」と同様、本来、人々
の生活を豊かにし、安心・安全や平和に貢献すべきものであって、単なる金儲けの手段ではな
い。ましてや「BoP ビジネス」は、開発途上国が抱える課題を解決する社会貢献の意義が大き
い。途上国では、単なる経済援助と違い、外から与えられるだけでなく、創意工夫によって
新しいもの自ら生み出し、その結果がさらに次の創造へとつながっていく、持続可能なビジ
ネス展開が望まれる。そのような認識も学生の中に生まれたのではないだろうか。
常日頃、学生には大きな夢や目標に向かって果敢に挑戦し、新しい世界を切り開いていっ
てほしいと思っている。日本はもちろん、世界で活躍する人材になってほしいと願っている。
今回の実習に参加した学生たちには、そのポテンシャルが十分備わっている。実際、実習中
にどんどん成長していくのを感じた。この度の体験が糧となって、より大きく成長してくれ
るものと思う。今後の発展・活躍を期待したい。
バングラデシュは、社会インフラが整備されておらず、物質的には決して恵まれていない。
しかし、人々は誇りを持ってたくましく生きている、というのが一番の印象である。人々の
目は輝いていたし、何より私たちに好意をもって接してくれた。貧困とは何か、豊かさとは
何か、改めて考えさせられるところが多々あった。一方で、市内の高層ビル街とスラム街の
格差に開発途上国の縮図を見た思いがした。インターネット環境の遅れなどが情報の欠如を
生み、その結果、さまざまな面で人々の選択肢が限定され、現状に甘んじて生きていかざる
を得ない状況にあるようにも感じられた。今後「開発途上国の生活環境を改善するものづく
り」を考えていく上で、今回の実習は大きなヒントを与えてくれた。
最後に、実習で大変お世話になりました JABA ツアーの Kanan さんをはじめ、多くの方々
に厚くお礼申し上げます。また、本実習を企画・実践され、充実した実習に導かれた小峯先
生と小河先生には、敬意と深甚の謝意を表します。
小河久志
グローバルコラボレーションセンター
特任助教
グローバル化が進み、異文化が身近な存在になった現在、日本から海外に飛び出す若者の数は
減っているという。そうした状況に抗うかのように、学部生 6 名を主体とする我々のグループ
がバングラデシュに向けて日本を出発したのは、今年(2013 年)の 2 月 23 日のことであった。
見るもの、触れるもの、口に入れるもの・・・五感を通して入って来る多くの物事が日本と異
なる国。本報告書に収められたレポートからは、バングラデシュが学生にとって刺激に満ち溢れ
た場所であったことを垣間見ることができる。とりわけ今回がはじめての海外訪問となった学生
にとって、そのインパクトはいかほどのものだったか、想像に難くない。
実習の初期はみな、程度の差こそあれ、現地の環境に慣れるのに精一杯であったように思う。
政治暴動や車の故障といった予期せぬ出来事に遭遇したことも、そこに追い打ちをかけたに違い
ない。しかし、時間の経過とともに学生は、各自が持つ疑問を解決すべく動き出した。わずか1
0日ほどのあいだに学生の好奇心の網にかかった事柄は、政治、経済、環境、宗教など多岐にわ
たった。彼らは、文化や環境の違いに戸惑い、時に苦しみながらもフィールドに飛び込んでいっ
た。そうした彼らの行動力とそれを可能にした柔軟性やパワーは、そのいずれもが減退気味
の!?私には頼もしくもあり、正直羨ましくもあった。
学生に対する嬉しい驚きは他にもあった。人は、自身が持つ常識や価値観を揺さぶられるよう
な環境に身を置いたり、そうした出来事に直面したりすると、往々にしてそれらを理解すること
に消極的になる。極端な場合、そうした「異なるもの」を自分たちよりも劣ったものと見なして、
理解する努力をやめてしまう。ましてや、内向きの傾向にあると言われる昨今の若者ならなおさ
らであろう。しかし、学生たちは、同時代を生きる人間としてバングラデシュで出会う多くの人
たちと触れあった。そして、自身が生きる日常とバングラデシュのあいだの差異を差異として受
け止め、それを理解しようと試みていた。その真摯な姿勢は、高く評価できるものである。
「フィールドワークで重要なのは、現地でいかに感動し、いかに違和感を覚えるかだ」。これ
は敬愛する人類学者が、長期のフィールドワークに出発する私にくれたアドバイスだ。フィール
ドワークを行う際の座右の銘となっている彼の言葉は、現地の人たちの生活に深く入り込んで
様々な経験をせよ、ということを意味していると言えるだろう。今回の実習に参加した学生たち
は、さまざまな困難に直面しながらも、かなりの程度それを実現することができたのではないだ
ろうか。実習を通して、バングラデシュという異文化ついて理解しようと努めた学生たち。その
経験は、今後の彼らの人生にとって有益なものになるに違いない。
最後に今回の実習では、実に多くの方からご支援をいただいた。見事な差配で実習を実りある
ものにしてくれた Kanan Barua 氏をはじめとする JABA ツアーの皆さん、Shahid Hussain
Shamim 氏をはじめとする UBINIG の皆さん、貴重なレクチャーをして下さった JICA ダッカ
事務所の富田洋行次長、ならびに Hannan Bhuiyan 氏らドエルハウスの皆さんには特にお世話
になった。ここに記して深謝申し上げる。
∼おまけ・コラム集∼
<バングラデシュのヒンドゥーとイスラーム、そしてベンガル人アイデンティティ>
CIA の 2004 年の統計によると、
バングラデシュのムスリムは 89.5%, ヒンドゥー教徒は 9.6%
である。10 人中 9 人がムスリムで、10 人中 1 人がヒンドゥー教徒。そしてたまに仏教徒がいた
りする。今回日本語通訳の Kanan 氏は仏教徒であった。また農村部でもヒンドゥーの神々がま
つられていた。雑貨屋さんや床屋さん、タンガイル織のデザイナーや経営者がヒンドゥーである
など、一般にイスラーム教国であるといわれているバングラデシュの中では彼らは私たちからす
ると目立った存在であった。
日本人が世界史の教科書で習うこととして、ヒンドゥーとムスリムが対立してインド・パキス
タン分離独立がある。宗教対立が分離独立の要因とされている。イスラームをアイデンティティ
とするパキスタンとして独立した当時、東パキスタンにいた多くのヒンドゥー教徒はインドに逃
げた。タンガイルの村に当時インドに逃げた人の家の後が残されていた。そしてパキスタンから
バングラデシュに独立するときにも、パキスタン側からの迫害を恐れて多くのヒンドゥー教徒が
逃げたとされている。この独立時はイスラームよりもベンガル人アイデンティティを掲げていた。
今回我々は全国的ハルタルに遭遇した。これはバングラデシュ独立戦争の裁判で、当時パキスタ
ン側を支持して多くの人を虐殺した指導者たちに判決が下されて起こったものであった。ある指
導者が終身刑になると、それに反対する人々がデモを起こし、ある指導者に死刑判決が下ると、
イスラーム政党のジャマーテー・イスラーミーという団体がハルタルを全国的に宣言、そしてそ
れに反対するハルタルも起こり死傷者も出している。私たちは日本語通訳の Kanan 氏のおかげ
で安全に移動することができた。
一概にイスラームの国と言われていても、バングラデシュのムスリムたちはヒンドゥーの人々
と共存していて、お互いのタブーを犯さないようにしていた。このような場面は実際にバングラ
デシュの農村に行かないとわからないことであったと思う。
参照:World Factbook Bangladesh People and Society https://www.cia.gov/library/
publications/the-world-factbook/geos/bg.html 2013 年 3 月 8 日閲覧
<乗り物とお札>
バングラデシュの乗り物にはアッラーやムハンマドといった、お札?シール?が張られていた。
日本で言う交通安全祈願の成田山のお守りのようなものであろう。
船や車、リキシャ、CNG、バス、トラックに今回発見することができた。リキシャヴァージョ
ンは今回写真を撮ることができなかった。船はほとんどのものに書いてあった。そのほかの乗り
物はたまに見られる程度であった。
CNG。真ん中にアッラーと書かれている。
船。右側にアッラー、左側にムハンマドと書かれている。
大阪大学グローバルコラボレーションセンター(GLOCOL)
2007 年 10 月に実施した大阪大学と大阪外国語大学の統合に先立ち、両大学の研究教育資源
を有効に活かすため、2007 年 4 月 1 日付で設置されました。総合大学としての大阪大学と、
言語・国際研究を専門とする大阪外国語大学の統合により、大阪大学の教育目標の一つであ
る「国際性」を強化し国際社会への貢献を目指します。国際協力と共生社会に関する研究を
さまざまな学問分野で推進し、真の国際性を備えた人材養成のための教育を開発するととも
に、その成果等にもとづく社会活動を実践することを目的としています。
本プログラムは日本財団学生ボランティアセンターとの協力協定に基づき実施されました。
Fly UP