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第9号 - 日本薬学会
日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 Pharma VISION NEWS No. 9 ( Feb. 2007 ) Index 巻頭言 ヒトの健康に立脚した薬学研究を 内海 英雄(九州大学大学院薬学研究院)1 特別寄稿 「薬学教育と創薬の現場に望むこと」 高柳 輝夫(第一製薬) 2 薬学研究最前線 (1)創薬におけるタンパク質立体構造予測法の開発と応用 竹田-志鷹 真由子(北里大学薬学部)3 (2)体内時計の中枢「視交叉上核」由来の光反応細胞株の樹立 橋本 誠一(アステラス製薬)8 第4回(平成18年度)薬学研究ビジョン部会 部会賞受賞者 (1)バイオケミカル-バイオ情報に基づく創薬インフォマティクス研究 奥野 恭史(京都大学大学院薬学研究科 統合薬学フロンティア教育センター)13 (2)組織培養を用いた中枢神経細胞変性機序と神経保護薬の作用に関する研究 香月 博志(京都大学大学院薬学研究科)17 (3)創薬を指向した関節リウマチ関連遺伝子PAD4の構造科学研究 清水 敏之(横浜市立大学国際総合科学研究科)21 (4)機能性人工核酸を用いた遺伝子発現制御による新しい創薬手法の開発 永次 史(東北大学多元物質科学研究所)24 薬学研究ビジョン部会からのお知らせ 創薬ビジョンシンポジウムとフォーラムのご案内 編集後記 長洲 29 毅志(エーザイ株式会社) 30 社団法人 巻 頭 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 言 ヒトの健康に立脚した薬学研究を 内海 英雄 九州大学大学院薬学研究院 創薬研究ビジョン部会は「薬学研究を領域横断 的にかつ研究領域を統合的に発展させていく」た めの醸成部会として発足した。日本の薬学研究は 長井長義先生の天然物化学を源とし、有機化学を 中心に発展してきた。その後、学術動向が生命科 学へシフトし、薬学研究および薬学会もその担い 手として多いに貢献した。一方、医薬品産業を取 り巻く世界情勢は大きく変化し、米国でのビッグ ファーマ化に端を発し、わが国でも製薬産業の合 併が連日報道されている。昨年9月に安倍新首相 が誕生し、その所信表明で、「成長に貢献するイ ノベーションの創造に向け、医薬、工学、情報技 術などの分野ごとに、2025 年までを視野に入れ た、長期の戦略指針『イノベーション 25』を取 りまとめ実行します。」と話し、医薬を国の重要 課題の最重要課題の筆頭に挙げた。このような情 勢の下、日本薬学会は医薬品の科学を網羅する唯 一の学術団体として果たすべき責任は大きい。 「イノベーション 25」での“医薬”には医薬品の ほかに、「ヒトの健康・医療」を対象とする医療 機器、再生医療も含まれている。従って、この戦 略指針に適切に対応するには、「薬学は、ヒトの 健康・医療に向け創薬化学・生命科学から薬の適 正使用まで加わった幅広い科学技術・学術を担う 学問」を明確にし、基礎に重点がおかれた研究か らヒトを対象にした総合応用研究への展開を強 く求められている。総合科学技術会議の意向で、 2003 年に日本学術振興会に学術システム研究セ ンターが設立され、このセンターで、医療全体(臨 床医学から基礎医学、薬学、歯学を網羅)に亘る 科学技術振興を議論する機会があった。私自身、 いろんな病態モデルを用いて研究しているが、医 学部の先生は「ヒトと動物は全然違う。その病態 モデルは、ヒトの対象疾患の何%に相当するか」 と話題にする。ある賞での選考会で、「開発した 薬はヒトで有効であることが示されているの か?」。これらの発想が、医学研究、トランスレ ーショナルリサーチの意義を明瞭にしている。薬 学では病院薬剤部での研究者を除くと、ヒトの意 識は希薄となる。薬学の原点は“ヒト”の健康に向 け、医薬品を創出し安全に供給し適性に使用する ことの科学的支援をすることであり、そのための 科学技術・学術を展開するが薬学研究であろう。 今後、薬学の原点に振り返り、ヒトの健康を常に 意識したマインドを薬学研究・教育に醸成するこ とで、これまで為された種々の議論が氷解するこ とを願っている。 ◆略 歴◆ 内海 英雄 (Hideo UTSUMI) :九州大学大学院薬学研究院機能分子解析学教授。日本学術会 議連携会員。1947 年静岡県生まれ。1971 年東京大学薬学部製薬化学科卒業。1976 年薬学博士。帝京大学薬 学部講師、昭和大学薬学部助教授を経て、1994 年より現職。学術振興会学術システム研究センタ主任研究 員(2003-07 年)。磁気共鳴による病態モデルでの生体内レドックスの分子イメージングシステムを研究、2007 年学振先端研究拠点に採択。2005 年日本フリーラジカル学会賞。2006 年文部科学大臣表彰科学技術賞 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 1 社団法人 特 別 寄 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 稿 「薬学教育と創薬の現場に望むこと」 髙柳 輝夫 第一製薬株式会社 筆者の32年間に亘る製薬企業の研究開発部 門での経験を通して医薬品について最も重要で あると実感していること、それは、医薬品の本質 である倫理性、科学性、医薬品情報(図1)なら びに適正使用(図2)である。従って、大学での 教育・研究の現場ならびに、企業でのマネジメン トや教育・研修の機会に、これらを正しく理解さ せていただくことを強く望んでいる。 これらの概念は、医薬品を通して生命関連業務 に従事する人にとって常に立ち帰るべき原点、即 ち「きほんのき」である。言い換えれば、薬学を 学ぶ学生や創薬研究者は、医薬品の特性(生命倫 理性・科学性、公共性、高品質性、安定供給、グ ローバル商材等)や医 医薬品 療の現場の実態・問題 点について正しく理解 するとともに、患者の もの 方々に対する視点や思 科学 倫理 いを常にもち続けるこ 情報 とができるような内容 の教育・研修を継続的 に受けていただきたい 図1 医薬品の本質 ということである。 診 断 最適な薬剤・剤形 用法・用量 フィードバック 効果・副作用 評価 医薬品の適正使用 一連のサイクル 正確な 使用 調 剤 取締役研究開発戦略部長 日本製薬工業協会から公表されている実績によ ると、日本における創薬の成功率は化合物ベース で1万3千分の1と驚くほど低い。また、成功ま での期間は9年から17年と非常に長く、必要経 費も一つの医薬品当り500億円規模と非常に 大きいものである。このような厳しい状況の中で、 上述の製薬企業の重大な使命を現実のものとす るためにも、最近は創薬の基本的な考え方・手法 が大きく変わっていることはご存知の通りであ る。 成功確率の向上・開発期間の短縮のための技術 としてコンビナトリアル化学(CC)、ハイスル ープット・スクリーニング(HTS)さらには標 的タンパク質の構造に基づく理論的薬物設計(S BDD・FBDD)等が確立・活用され、従来の 経験的創薬から理論的・効率的創薬へと大きく転 換が図られている。同時に、まだ克服されていな い多くの疾患に対する画期的な医薬品の創製の ためには、ゲノミクス、プロテオミクス等の手法 の最大限の活用により、新しい疾患関連タンパク 質の獲得に向けて多大な努力が続けられている。 このような創薬研究の現場では、最先端の科学技 術の導入と活用が決定的に重要であることは言 うまでもないが、同時にすべての研究者が日々忘 れてならないのは、上述の「きほんのき」である。 同様に、大学における薬学教育や実務実習を通 して「きほんのき」を若い学年から継続的に学ぶ 機会が確実に確保されることを強く望んでいる。 筆者の要望がより確実に現実のものとなるた めにも、薬学研究ビジョン部会の会員の皆様のご 理解とお力添えを改めてお願いするものである。 患者さんへの 説明・理解 ◆略 図2 医薬品の適正使用 歴◆ 高柳 輝夫 (Teruo TAKAYANAGI) :1975 年東大薬・博士課程修了 第一製薬入社、1997年学術管 理部長、2000年研究企画部長、2001年取締役 様々な疾患で苦しむ世界中の患者の方々に、優 れた医薬品を、一刻も早く、しかも確実にお届け することがわれわれ製薬企業の使命である。一方、 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 2001年蛋 白質研究所長(兼務)、2004年研究開発業務部長を経て 2006年 研究開発戦略部長 2 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 薬学研究最前線(1) 創薬におけるタンパク質立体構造予測法の開発と応用 竹田-志鷹 真由子 1.はじめに 創薬において、ターゲットとなるタンパク質 の探索や新規化合物の探索などの様々な段階に おいて in silico 技術が重要な役割を果たしてい るが、コンピュータを用いたタンパク質立体構造 予測法もその重要な技術の1つである。ターゲッ トとなるタンパク質の機能を解析し、効率よくド ラッグデザインを行うには、遺伝子情報のみなら ずタンパク質の立体構造情報が必要不可欠であ る。しかしながら莫大な遺伝子情報に比べて、実 験的に立体構造が決定されているタンパク質の 数は少なく、アミノ酸配列がわかっているのにも かかわらず立体構造はわからないターゲットタ ンパク質が多数存在しているのが現状である。そ のような場合、コンピュータを用いた手法でその 立体構造を予測することができる。タンパク質立 体構造予測の国際コンテスト Critical Assessment of Techniques for Protein Structure Prediction (CASP)が隔年に開催されていることからも、 その手法の開発および応用への国際的な関心の 高さがうかがえる(http://predictioncenter.org/)。 本稿では、タンパク質立体構造予測の手法の中で も、現在最も精度が良いとされているホモロジー モデリングについて概説し、次に筆者らが参加し た CASP6(2004 年開催)および CASP7(2006 年開催)について紹介する。さらに、筆者らが開 発したホモロジーモデリングソフトを用いた応 用例として、モデルデータベースの公開について 紹介する。 2.ホモロジーモデリング ホモロジーモデリングとは、立体構造未知の タンパク質(目的タンパク質)の立体構造を、類 似の配列を持つ立体構造既知のタンパク質(参照 タンパク質)を参照して予測する手法であり、コ ンピュータを用いたタンパク質立体構造予測法 の中で、現在最も精度が良いとされている。ホモ ロジーモデリングは通常2つのステップよりな っている。 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 北里大学薬学部 (1) 参照タンパク質の選定および目的タンパク 質と参照タンパク質の間のアライメント作 成 (2) アライメントに基づいたモデル構造の構築 モデルの信頼性は、 (1)および(2)の両方 のステップに依存するため、どちらのステップも 重要である。まず、(1)のステップで現在使わ れている代表的なプログラムは、PSI-BLAST1)な どの類似性検索プログラムである。PSI-BLAST により、参照タンパク質の候補および目的タンパ ク質とそれら候補の間のアライメントが得られ る。PSI-BLAST から出力されたアライメントは、 精度を上げるために実験情報などをもとに微調 整されることもある。(2)のステップに対して は、世界中で各種ホモロジーモデリングソフトが 開発されている。例えば、筆者らはホモロジーモ デリングソフト CHIMERA2-6)と FAMS3-7)を開発 した。CHIMERA は対話的に研究者の工夫を入れ ながらモデリングできるソフトであり、公に得ら れる情報、研究者が持つ独自の情報、知識などを モデルに反映させることにより、精度の高いアラ イメントやモデル構造を構築することができる。 個々のタンパク質の機能解析やコンピュータを 用いた創薬技術 Structure-Based Drug Design など においては精度の高いモデルが必要であるが、そ のような場合に必要不可欠な技術である。一方 FAMS は、CHIMERA の手法を自動化することを 目指して開発された全自動ホモロジーモデリン グソフトであり、アライメントを入力として全工 程全自動でモデル構造を構築する。ゲノム上にコ ードされているタンパク質の網羅的な(大規模 な)モデリングを行う場合などに適している。筆 者らは、CHIMERA と FAMS の開発において、主 鎖構造のみならず、側鎖構造も精度良く予測でき ることを目指した。タンパク質の機能、リガンド との相互作用などを考える際に、側鎖のコンフォ メーションは非常に重要なものであり、モデルを 活用できるかどうかは側鎖の精度に大きく依存 すると考えられるからである。 3 社団法人 3.タンパク質立体構造予測の国際コンテスト (CASP6、CASP7) コンピュータで予測されたモデルを実際に創 薬研究などで用いる場合には、モデルの精度を知 っておくことは重要である。精度の高いモデルを 構築する上では、例えば隔年に開催されるタンパ ク質立体構造予測の国際コンテスト CASP で優 秀な成績を収めている参加者のモデリング手法 が大変参考になる。CASP は 1994 年に CASP1 と して始まり、最近では 2006 年に CASP7 が開催さ れた。CASP では、実験的に立体構造が解明(公 開)される直前のタンパク質のアミノ酸配列がそ のホームページ上に出題され、それに対し参加者 はタンパク質立体構造を予測し、指定された期間 内にインターネットを介してそれぞれの予測構 造を提出する。つまり正解となる立体構造が完全 に伏せられた状態で行うタンパク質立体構造予 測のブラインドコンテストである。CASP への参 加登録には server と human predictor の 2 区分ある。 server として参加する場合は、人間の介入のない 完全に自動化された方法でモデリングを行わな くてはならないという制約があり、モデリングソ フトそのものの性能が試される。予測構造の提出 の締め切りは、出題されてから 48 時間以内であ る。一方、human predictor として参加する場合は、 server 区分のような方法の制約はなく、立体構造 未知のタンパク質に対して立体構造をどれだけ 正確に予測することができるか、いわば研究者の タンパク質立体構造予測に対する総合力を競う ものであり、様々な手法を駆使して参加者は予測 を行う。human predictor 区分の予測構造の提出の 締め切りは server 区分よりも遅く設定されてい る。成績が優秀であったグループは、同コンテス トの結果発表会において、主催者からの招待を受 け招待講演を行うことになっている。筆者らのグ ループは、2004 年に開催された CASP6 (http://predictioncenter.org/casp6/)および 2006 年 に開催された CASP7 (http://predictioncenter.org/casp7/)において、2 回 連続で招待講演を行うことができたのでここに 紹介する。今までの CASP において日本人で招待 を受けたのは延べ 6 人であるが、そのうちの 2 人が筆者らのグループから選ばれたことになる。 まず CASP6 についてであるが、予測期間は 3 ヶ 月、出題は 90 ドメイン、参加グループは 250 を 超えた。CASP6 の結果については、学術誌 Proteins に CASP6 特集号が組まれ、主催者側の審査報告 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 および招待講演を行ったグループの参加報告が 掲載されている。筆者らは、独自に開発した2つ のシステム CHIMERA と FAMS を統合したウェ ブユーザーインターフェースシステム SKE-CHIMERA を用いて CASP6 の human predictor 区分に参加した(グループ名: CHIMERA)。SKE-CHIMERA は、モデリングの際 に参考になる様々な情報をデータベース化し、そ れらの情報を取り入れながら研究者の工夫を反 映させて対話的にアライメントを構築 (CHIMERA)、そのアライメントをもとに全自動 でモデルを構築(FAMS)、そのモデルをもとに さらにアライメントを修正(CHIMERA)、それら を繰り返しながら精度の良いモデルを構築する システムである。筆者らは、イタリアで開かれた CASP6 の結果発表会の Homology Based Modeling 部門において招待講演を行うことができ(講演 者:筆者)、本方法の有効性が実証された (http://predictioncenter.org/casp6/meeting/presentati ons/CASP6_Program.doc)4)。次に CASP7 につい てであるが、予測期間は 3 ヶ月、出題は 124 ドメ イン、参加グループは 300 を超えた。筆者らは、 human predictor として 5 グループ(グループ名: CHIMERA, CIRCLE-FAMS, FAMS-ACE, FAMS-MULTI, LIGAND-FAMS)登録しコンテスト に参加した。CASP7 における筆者らの最大の特 徴は、CASP6 後に新たに独自開発したタンパク 質立体構造評価プログラム CIRCLE (http://famshelp.gsc.riken.jp/famsbase/GSIC_casp7 _report_fix.pdf)を用いたことであり、5 グループ 全てが CIRCLE を用いている。CIRCLE とは、埋 没面積率と極性面積率によって決定されるアミ ノ酸残基の側鎖の環境を評価する関数 (3D1Dscore)と、2 次構造予測と予測構造の 2 次構造の一致度をスコア化した関数(SSscore) により構造を評価するものである。CASP7 の詳 しい結果については学術誌 Proteins に CASP7 特 集号に掲載される予定であるが、現時点では下記 サイトが参考になる (http://predictioncenter.org/casp7/meeting/talks.htm l および http://zhang.bioinformatics.ku.edu/casp7/な ど)。後者サイトによると、出題された全ドメイ ンの成績(official GDT_TS score of the first model を用いた評価)は 5 グループ中で CHIMERA が最 も良かった(全参加グループ中 4 位)。全ドメイ ンを、Template Based Modeling 部門と Free Modeling 部門に分類した場合、Template Based 4 社団法人 Modeling 部門では FAMS-ACE(全参加グループ中 4 位)が、Free Modeling 部門では CIRCLE-FAMS (全参加グループ中 4 位) がそれぞれ 5 グルー プ中で最も良い成績であった。FAMS-ACE と CIRCLE-FAMS は今回新たに開発したメタサーバ ー(メタセレクター)である。CASP においては、 前述した通りに出題してから 48 時間後に server 区分で参加しているグループの予測構造の提出 が締め切られるが、それらのグループの予測構造 は即座にホームページで公開される。メタサーバ ーというのは、それらの他グループの予測構造情 報を使って立体構造を予測する全自動サーバー のことである。CIRCLE-FAMS は CIRCLE のスコ アを指標として、FAMS-ACE は CIRCLE および Consensus8)のスコアを指標として他グループの 予測構造情報をもとに構築した多数のモデル候 補の中から最高スコアのモデルを選び出す全自 動メタサーバーである。CASP7 の結果発表会で は、Template Based Modeling 部門において FAMS-ACE グループが招待講演を行うことがで き (http://predictioncenter.org/casp7/meeting_docs/me eting_program.html)、CIRCLE と Consensus の組み 合わせが構造評価法として有効であることが示 された(講演者:梅山秀明北里大学薬学部教授)。 4.モデルデータベースの公開 FAMS はアミノ酸配列を入力として全工程全 自動でモデル構造を構築するため、ゲノム上にコ ードされているタンパク質の網羅的な(大規模 な)モデリングを行う場合などに適している。そ こで、創薬研究に向けて FAMS を用いて構築さ れ公開されたモデルデータベースを2つ紹介す る。 2003 年末からアジアをはじめとして高病原 性鳥インフルエンザが流行し、多大な家禽の被害 が報告されている。また、ウイルスがヒトにも感 染し死亡した例も報告されている。現時点ではヒ トからヒトへの感染は確認されていないものの、 高病原性鳥インフルエンザウイルスがヒトから ヒトへと感染する新型インフルエンザウイルス へと変異した場合、新型インフルエンザの世界的 大流行を引き起こす可能性が危惧されている。イ ンフルエンザウイルスの増殖に必須なノイラミ ニダーゼが治療薬開発における標的タンパク質 となっているが、既存のノイラミニダーゼ阻害剤 に対する耐性ウイルスも報告されている。新規の Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 阻害剤開発のためにも、ノイラミニダーゼに関し て様々な亜型や変異体の立体構造が必要である が、実験構造が解かれているものはわずかであり、 次々に報告される変異体の立体構造を実験的に 解くのは不可能である。そこで筆者らは、NCBI nr (nonredundant protein sequence database)から 1603 種のノイラミニダーゼのアミノ酸配列を取 得し、FAMS を用いて立体構造モデルを構築し、 2006 年 1 月に公開した (http://protein.gsc.riken.jp/jp/Research/index_na.ht ml)。このデータベースはニュースや日本経済新 聞の 1 面で紹介されるなど反響が非常に大きく、 アクセスも多かった。 本研究室では、277 生物種のタンパク質モデ リングデータ(約 140 万個)を収めた FAMSBASE9)を長浜バイオ大学から公開してい たが、2006 年 9 月に新たなモデリングデータベ ース RIKEN FAMSBASE を理化学研究所から全 世界に向けて公開した (http://famshelp.gsc.riken.jp/famsbase/)。RIKEN FAMSBASE には、ヒトや実験動物(ラット・マ ウス)などを含む入手可能な全生物種の約 600 万種類のタンパク質モデリングデータが格納さ れていて、誰でも自由にデータをダウンロードで きるような形にまとめてある。データベースには、 予測した立体構造それぞれについて、モデル評価 値や、他の化合物と相互作用可能なタンパク質上 の場所の情報、タンパク質の説明などを充実させ、 医学、薬学、生物学、理工学などのライフサイエ ンス分野をはじめ、創薬やタンパク質機能改変を 目指す研究者などが利用できるようになってい る。さらには、継続的なデータの更新を可能にす るための自動更新システムを開発し、本データベ ースが高品質のデータを提供できるようになっ ている。このようなデータベースは世界初であり、 創薬研究の活性化に貢献できるものと期待して いる。 5.タンパク質複合体のホモロジーモデリング CHIMERA および FAMS は単体タンパク質を モデリングするソフトである。しかしながら、タ ンパク質の多くは複合体を形成することにより 機能を発現していることからも、単体タンパク質 の立体構造予測のみでは完全にタンパク質の機 能を解析することはできず、タンパク質複合体の 立体構造を予測できる手法の開発が望まれてい る。そこで筆者らは、タンパク質複合体の全自動 5 社団法人 ホモロジーモデリングシステム FAMS Complex を開発した 10)。FAMS Complex は立体構造既知の タンパク質複合体構造(参照タンパク質)をもと に、立体構造未知のタンパク質複合体(目的タン パク質)をホモロジーモデリングするソフトであ る。FAMS Complex を医薬品開発に用いた例を1 つ紹介する。 2003 年始めに新型肺炎 SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)が世界的に流行した。 抗 SARS 薬開発を急ぐためにも原因ウィルス (SARS coronavirus; SARS-CoV)の増殖に関与す る main protease(Mpro)の立体構造は必要不可欠 であったが、SARS-CoV のゲノム解読が終了した 段階ではその立体構造は解かれていなかった。そ こで筆者らは SARS-CoV Mpro のダイマー構造を FAMS Complex を用いて予測し、抗 SARS 薬開発 に広く活用してもらうために座標を公開した。筆 者の知る限りでは、世界で最も早い座標公開であ った。多くの研究者が実験構造が解かれるのを待 たずに、筆者らのモデルを用いて抗 SARS 薬の開 発を開始した。後に X 線構造が公開され、FAMS Complex のモデルが非常に精密であったことが 実証された 5,11)。SARS-CoV Mpro は、医薬品開発 を加速するためにホモロジーモデリングが用い られた良い例である。 6.おわりに タンパク質の多くは立体構造がわかっていな いのが現状であり、ホモロジーモデリングは創薬 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 において欠かすことのできない手法である。ホモ ロジーモデリングは目的タンパク質と同じファ ミリーに属する参照タンパク質の立体構造をも とに構造予測するものであるので、ホモロジーモ デリングで立体構造予測を行えるかどうかは参 照タンパク質の有無により決まる。国際的な構造 ゲノムプロジェクトによりあらゆるタンパク質 ファミリーの代表構造が実験的に決定されつつ あり、近いうちに多くのタンパク質の立体構造が ホモロジーモデリングで予測できることになる。 このような意味でも、ホモロジーモデリングはま すます欠かすことのできない重要な手法となる ことは疑いない。実際の創薬研究において求めら れる精度の高いモデルを構築するためには、 CASP7 の結果から考察すると、現時点では、 FAMS-ACE などのメタサーバーを用いることに より多くのサーバーの情報を効果的に取り込み、 目的に応じて SKE-CHIMERA などの方法で研究 者独自の情報や公に得られる情報などを反映さ せてモデルを構築することでより良いモデルが 構築できると可能性が示唆される。筆者らは、人 間が介入して行っていた手法をもとに自動化で きる部分は自動化を進め、さらには他サーバーの 予測構造情報に頼らない(メタサーバーではな い)精度の良い全自動モデリング法の開発を続け たいと考えている。 参考文献 1) Altschul SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Zhang Z, Miller W, Lipman DJ : Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs. Nucleic Acids Res 25 : 3389-3402, 1997 2) Yoneda T, Komooka H, Umeyama H : A computer modeling study of the interaction between tissue factor pathway inhibitor and blood coagulation factor Xa. J Protein Chem 16 : 597-605, 1997. 3) Takeda-Shitaka M, Takaya D, Chiba C et al : Protein structure prediction in structure based drug design. Curr Med Chem 11 : 551-558, 2004 4) Takeda-Shitaka M, Terashi G, Takaya D et al : Protein structure prediction in CASP6 using CHIMERA and FAMS. Proteins CASP6 special issue : Proteins Suppl 7 : 122-127, 2005 5) 竹田-志鷹真由子、梅山秀明 : 抗 SARS 薬開発におけるホモロジーモデリング. 薬剤学 64 : 168-171, 2004 6) 竹田-志鷹真由子、梅山秀明 : タンパク質の立体構造予測. ゲノム医学 5 : 399-402, 2005 7) Ogata K, Umeyama H : An automatic homology modeling method cons :isting of database searches and simulated annealing. J Mol Graphics Mod 18 : 258-272, 2000 8) Ginalski K, Elofsson A, Fischer D, Rychlewski L : 3D-Jury: a simple approach to improve protein structure prediction. Bioinformatics 19 : 1015-1018, 2003. Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 6 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 9) Yamaguchi A, Iwadate M, Suzuki E et al : Enlarged FAMSBASE: protein 3D structure models of genome sequences for 41 species. Nucleic Acids Research 31 : 463-468, 2003 10) Takeda-Shitaka M, Terashi G, Takaya D et al : FAMS Complex: a fully automated homology modeling system for protein complex structures. Med Chem 2 : 191-201, 2006 11) Takeda-Shitaka M, Nojima H, Takaya D et al : Evaluation of homology modeling of the SARS coronavirus main protease for structure based drug design. Chem Pharm Bull 52 : 643-645, 2004 ◆略歴◆ 竹田-志鷹 真由子(Mayuko TAKEDA-SHITAKA):北里大学薬学部・助教授 1993年東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了。薬学博士。北里大学薬学部助手、同講師を経て、2004年より現職。 2005年より理化学研究所ゲノム科学総合研究センター客員研究員(兼任)。タンパク質立体構造予測法の開発と応用に 従事。平成17年度日本薬学会薬学研究ビジョン部会賞受賞。 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 7 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 薬学研究最前線(2) 体内時計の中枢「視交叉上核」由来の光反応細胞株の樹立 橋本 誠一 アステラス製薬株式会社 1.はじめに 近年、睡眠時間帯が後退し、明け方近くになら ないと寝付けず昼過ぎまで寝ているような睡眠 相後退症候群の患者が増加している。高照度光療 法は、このような睡眠相後退症候群などの概日リ ズム睡眠障害を改善する治療法として知られて いる。具体的には、例えば起床直後に 2,500 ルク ス以上の人工光を 2-3 時間浴びることで入眠時 間が徐々に早まり数日後には通常の睡眠時間帯 に眠れるようになるという治療法である。光照射 で目から入った光のシグナルは、主に網膜-視床 下部路を経て体内時計の中枢である「視交叉上 核」の腹外側部(光反応領域)に入力し(図1)、 時計遺伝子 Per1 および Per2 の発現を誘導して覚 醒レベルを向上し、また、リズム位相を調整する ことにより概日リズム障害を改善することが示 唆されている。この高照度光療法は、患者を光照 射装置の前に 2-3 時間拘束する必要があることか ら、これに代わる治療薬の創製が求められている。 高照度光療法に代わる低分子治療薬を探索する には、視交叉上核の光反応細胞を用いた時計遺伝 子 Per1 および Per2 の発現上昇を指標とする化合 物スクリーニング系を構築する必要があるが、こ れまでそのような細胞株は存在しなかった。 第三脳室 視交叉上核 背内側部 視交叉上核 腹外側部 目-網膜-視神経 視交叉 光 図1.光刺激のシグナル伝達経路 (目から入った光の シグナルは、主に網膜-視床下部路を経て体内時計の 中枢である「視交叉上核」の腹外側部に入力する。 ) 我々は、温度感受性 SV40-T 抗原遺伝子を導入 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) したトランスジェニックラットの視交叉上核か ら光反応細胞株を樹立した1)。そこで、近年急速 に明らかになった体内時計システムと樹立した 光反応細胞株の特徴について概説する。 2.概日リズムと体内時計 概日リズムは、生物が地球の自転による昼夜環 境に適応するために獲得した基本的な形質であ り、単細胞生物からヒトにいたるまで、ほとんど の生物にみられる。哺乳動物における概日リズム は、睡眠・覚醒のリズム、ホルモン分泌リズム、 血圧や体温のリズム、代謝のリズムなど広範な生 命現象において見られる約24時間周期のリズ ムである。これらの概日リズムを作り出している のが体内時計であり、その中枢は、脳の視床下部 にある視交叉上核と呼ばれる一対の神経核に存 在する。視交叉上核には、その中に自律振動体が 含まれており、摘出して培養すると神経発火頻度 の概日リズムが見られる。この視交叉上核を破壊 すると概日リズムが消失し、視交叉上核を破壊し た動物に胎仔の視交叉上核を移植すると概日リ ズムが回復することから、哺乳類における中枢時 計は視交叉上核に存在することが証明されてい る。一方、中枢時計である視交叉上核の制御下に あって、体内の殆どの組織・細胞に存在する末梢 時計は、多数の遺伝子の概日発現振動を惹起し、 それぞれの組織・細胞特有のリズムを作り出して いる。 3.体内時計の同調因子 体内時計の周期時間は生物種によって一様で はなく、24時間より長いものもあれば短いもの もある。ヒトが昼夜の明暗変化など時刻の手がか りのない環境下で生活すると、睡眠・覚醒サイク ルやホルモン分泌リズムの位相が日々遅れて約 25時間周期のリズムを示すことが知られてい る。一方、マウスでは同じように時刻の手がかり のない環境下では24時間よりも短い周期リズ ムを示す。しかし、生物種固有の体内時計の周期 8 社団法人 時間に係らず、全ての哺乳動物の概日リズムは、 主に太陽光による昼夜の明暗サイクルに同調し て地球の自転周期と同じ24時間周期になる。即 ち、光が主要な同調因子として体内時計をリセッ トしているのである。 24 6 12 18 時 正常睡眠時間帯 睡眠相後退症候群 睡眠相前進症候群 非24時間 睡眠覚醒 症候群 患者の光療法 薬学研究ビジョン部会 きる(図2)。また、日中の照明を明るくするこ とで覚醒レベルを向上させることが示唆されて いる。 5.リズム障害改善薬創製研究と視交叉上核の光 反応細胞 4- 光治療 睡眠相後退症候群 患者の光療法 位 相 変 位 (時間) 18 日本薬学会 3210-1-2-3- 光治療 図2.睡眠相後退症候群、睡眠相前進症候群、 CT0 CT6 CT12 CT18 概 日 時 刻 CT0 図3.光刺激による位相反応曲線 非 24 時間睡眠覚醒症候群の睡眠時間帯と 明け方から早朝の時間帯に光刺激を受けると位相が 光療法による睡眠時間帯の位相変位の模式図 前進し、夜の始めに光刺激を受けると位相が後退する。 4.概日リズム障害と高照度光療法 社会生活のグローバル化・24時間化が進むに つれて巷間には夜間でも人工の光があふれて、現 代社会は体内時計の同調因子として機能してい る太陽光による昼夜変化の光環境を大きく損な ってきた。このような光環境の急激な変化に伴っ て、概日リズム障害、特に概日リズム睡眠障害に 起因する様々な事象が社会問題ともなってきて いる。パソコンゲーム、インターネット、受験勉 強など原因は様々だが、継続的な夜更かしを誘因 とする睡眠相後退症候群およびそれに起因する 不登校や不出社、夜間交代勤務者に見られる睡眠 障害や体調不良、非 24 時間睡眠覚醒症候群、認 知症患者に見られる睡眠障害と随伴する夜間徘 徊などの行動障害、高齢者などに見られる睡眠相 前進症候群、さらには、リズム障害に伴う「不眠」、 「うつ」、それに起因する「自殺願望」など、家 庭や学校、さらには企業などにおいても大きな問 題となってきている。上述したように、このよう な概日リズム障害の有効な治療法として高照度 光療法が知られている。適切な時間帯に数千ルク スの人工光を一定時間浴びることで、体内時計の 位相を前進させたり後退させたりすることがで 光と同じ作用を有する治療薬を開発しようと 考えるとき、光刺激がどのようにしてリズム位相 変位等の生物作用を惹起するかを明らかにする ことが重要である。これまでに明らかになってい ることのひとつは、光刺激で体内時計の位相が変 化するには、光刺激のタイミングが大切だという ことである。それぞれの時刻における光刺激によ る位相の変化をプロットしたものを光刺激によ る位相変位曲線という(図3)。恒暗下、日中の 時間帯(主観的昼)に光を浴びても位相は変化し ないが、夜の初めに光を浴びると体内時計が遅れ て、まだ昼が続いている状態に身体を維持しよう とする。一方、明け方から早朝にかけて光を浴び ると体内時計が進んで、身体を早く昼の状態にし ようとする。即ち、光は身体を昼の活動状態に保 つように働いていると考えられる。このような光 刺激による位相変位と相関してみられる現象と して、視交叉上核腹外側部の神経細胞における時 間依存的な時計遺伝子 Per1 および Per2 の発現誘 導が知られている2)、3)。従って、光と同じ作用 を有する化合物を探索するには、視交叉上核由来 の光反応細胞を用いて、夜間の光刺激に対応する 時間帯に時計遺伝子 Per1 および Per2 の発現を惹 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 9 社団法人 起する化合物をスクリーニング可能とするアッ セイ系を構築する必要がある。このためには、視 交叉上核腹外側部の光反応細胞を生体組織から 調製した初代培養細胞を用いてスクリーニング 系を構築することが考えられるが、調製できる細 胞数が少なく、また、操作が煩雑なことなどから 現実的ではない。 6.温度感受性 SV40 T-antigen トランスジェニ ックラットを用いた視交叉上核由来の不死化細 胞株の樹立 1 9 9 0 年 代 初 頭 に 温 度 感 受 性 の SV40 T-antigen 遺伝子を導入したトランスジェニック 動物から温度制御下で不死化した細胞株を樹立 する技術が確立し、これまでに多くの機能保持細 胞株が樹立されてきた4)。そこで、温度感受性の SV40 T-antigen 遺伝子を導入したトランスジェニ ックラットを用いて、概日リズム障害患者の治療 法として有効性が確認されている高照度光療法 の標的細胞である視交叉上核腹外側部の光反応 細胞を含む種々の細胞株の樹立を試みた。トラン スジェニックラットの脳切片から視交叉上核を パンチアウトし、10%ウシ胎仔血清を含む DMEM 培地を加えたコラーゲンコート培養皿に静置し、 5%CO2、33℃の条件で培養した。この条件で3 日毎に培地交換を繰り返し、約2ヵ月後に神経細 胞培養用の培地に交換し、39℃の培養条件で神経 細胞様の形態を示す細胞が含まれていることを 確認した。次いで、極めて低密度に播種して 33℃ の培養下に増殖してコロニーを形成した細胞を クローン化した。この一連の研究によって、オリ ゴデンドロサイト細胞株 OLP65)および VIP 発現 神経細胞株 N14.51)を樹立した。 7.視交叉上核由来の樹立細胞株 N14.5 の免疫染 色 分離した細胞株 N14.5 を 33℃および 39℃の条 件化で培養した位相差顕微鏡写真を図 4.に示す。 N14.5 細胞を 33℃で培養すると SV40 T 抗原の発 現が認められ、線維芽細胞様の形態を示して増殖 した。これを 39℃に温度シフトして培養すると SV40 T 抗原は消失して増殖を停止し、長い神経 突起を伸長した神経細胞様の形態を示すように なった(図 4)。 日本薬学会 A 33℃ 薬学研究ビジョン部会 B 39℃ SV40 T抗原 → 図4.N14.5 細胞の位相差顕微鏡写真(A:N14.5 細胞 を 33℃で培養すると SV40 T 抗原の発現が認められ、線 維芽細胞様の形態を示して増殖する。 一方、39℃に温度シフトして培養すると SV40 T 抗原は 消失して増殖を停止し、神経突起を伸長した神経細胞様 の形態を示す。 )(文献1より改変して引用) ま た 、 神 経 の マ ー カ ー と し て TUJ1 、 microtuble-associated protein 2 (MAP2)、及び TAU2 を、アストロサイトのマーカーとして GFAP を、 また、オリゴデンドロサイトのマーカーとして CNPase を選択し、それぞれ特異抗体を用いて N14.5 細胞の免疫組織染色を行なったところ、温 度シフトによる分化誘導後において神経マーカ ーである TUJ1, MAP2 及び TAU2 に免疫陽性を示 し、神経細胞株であることが明らかとなった。さ らに、視交叉上核腹外側部の神経細胞が VIP を、 また、背内側部の神経細胞が AVP を発現してい ることが知られていることから、抗 VIP 抗体およ び抗 AVP 抗体を用いて免疫組織染色を行ったと ころ、VIP 陽性で AVP 陰性を示したことから、 N14.5 細胞株は、視交叉上核腹外側部の VIP 発現 細胞に由来すると考えられた(図5)1)。 VIP TUJ1 MAP2 図5. AVP TAU2 N14.5 細胞の免疫染色像: 培養 N14.5 細胞 を 39℃に温度シフトして分化誘導後、各種神経マーカー に対する抗体を用いて免疫染色した。TUJ1, VIP,MAP2 及び TAU2 に陽性を示し、AVP には陰性を示した。 (文献 1 より改変して引用) 8.体内時計の転写制御ネットワークと N14.5 細胞を用いた概日振動解析 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 10 社団法人 9.N14.5 細胞における NMDA 受容体の発現解析 光刺激は、網膜―視床下部路を介して視交叉上 核腹外側部に存在する光反応細胞に投射する神 経により伝達されることが知られており、その主 な伝達物質は、グルタミン酸であると考えられて いる。また、光刺激による同調作用は、グルタミ ン酸受容体のうち NMDA 受容体を介して惹起さ れること、機能的な NMDA 受容体として働くに は、NR1 サブユニットと NR2 サブユニットがヘ テロマーを形成する必要があること、さらに、視 交叉上核腹外側部では NR2B サブユニットが、一 方、視交叉上核背内側部では NR2C サブユニット が発現していることなどが知られている3)。そこ Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 薬学研究ビジョン部会 で、N14.5 細胞の培養温度を 39℃にシフトして分 化誘導し、4日後における NMDA 受容体サブタ イプの発現を分化誘導前と比較解析した。N14.5 細胞は、分化誘導により NR1 と NR2B 及び NR2D の発現が認められ、腹外側部における NMDA 受 容体の機能発現が期待された(図6)1)。 copy ratio to Gapdh 体内時計は、中枢時計も末梢時計も、ともに時 計遺伝子及び時計関連遺伝子と呼ばれる主に転 写制御因子(3種類の時計応答エレメントに働く 転写活性化因子と転写抑制因子)によって構成さ れ、その転写制御ネットワークは、これらの転写 制御因子が相互に転写レベルで制御し合いなが らサーキット構造を形成し、時間依存的に働くこ とで約 24 時間周期のリズムを作り出すと考えら れている6)。中枢時計である視交叉上核には機能 の異なる二つの領域がある。ひとつは、AVP 産 生ニューロンが密に存在し、自律振動体として機 能する背内側部であり、もうひとつは、VIP 産生 ニューロンが存在して、光刺激の反応領域として 光同調に働く腹外側部である。一方、Rat1 細胞 株を含むいくつかの培養細胞株は、末梢時計の優 れたモデル系であり、血清刺激やデキサメタゾン 刺激によって培養細胞に時計遺伝子及び時計関 連遺伝子の概日発現振動を惹起することが知ら れている。そこで、視交叉上核から樹立した神経 細胞株 N14.5 の時計機能について検討した。まず、 N14.5 細胞が自律振動体として機能するか否か検 討した。N14.5 細胞は、温度シフトによる分化誘 導後であっても、無刺激下では時計遺伝子等の概 日振動を示さなかった。即ち、N14.5 細胞には自 律振動体としての機能は無いものと考えられた。 次に、デキサメタゾン刺激による時計遺伝子・時 計関連遺伝子の発現変動を調べた。その結果、 N14.5 細胞は、デキサメタゾン刺激に応答して Dbp, Per2, Rev-ErbAα, Rev-ErbAβ, Dec1, Cry1, Npas2 及び Bmal1 などの時計遺伝子・時計関連遺 伝子の概日振動を示した。そこで、次に、N14.5 細胞が光反応細胞として光同調に働く機能を有 するか否か検討した。 日本薬学会 33℃培養 39℃培養 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 NR1 NR2A NR2B NR2C NR2D 図6.培養温度シフトによる NMDA 受容体 サブユニットの遺伝子発現変化 (文献1より改変して引用) 10.NMDA 刺激による MAPK のリン酸化亢進と時 計遺伝子 Per1 及び Per2 の発現誘導 主観的夜の時間帯に光刺激を加えると、哺乳類 の視交叉上核において MAPK のリン酸化が亢進 すること、また、視交叉上核腹外側部において時 計遺伝子 Per1 及び Per2 の発現が誘導されること が知られている。そこで、N14.5 細胞においても 同様の応答が見られるか否か検討した。N14.5 細 胞培養系にデキサメタゾンを添加して概日リズ ムを惹起し、主観的昼、主観的夜の早い時間、及 び主観的夜の遅い時間に、NMDA 刺激を行った。 主観的昼及び夜の早い時間に NMDA 刺激を行っ た場合は、刺激 15 分後をピークとする MAPK の リン酸化亢進作用が、また、主観的夜の遅い時間 に刺激した場合は、刺激 10 分後をピークとする MAPK のリン酸化亢進作用が認められた 1)。in vivo においては、主観的昼の時間の光刺激に対し て MAPK のリン酸化亢進は認められないことか ら、N14.5 細胞における反応性が一部 vivo におけ るのと相違が見られる。主観的昼に NMDA 刺激 を行った場合には、Per1 の発現誘導も Per2 の発 現誘導も見られず、主観的夜の早い時間に NMDA 刺激を行った場合は、Per1 及び Per2 の発 現誘導が認められた。一方、主観的夜の遅い時間 に NMDA 刺激を行った場合は、Per2 の発現誘導 のみが認められた1)。このように N14.5 細胞は、 11 社団法人 NMDA 刺激に対して MAPK のリン酸化の亢進及 び時間依存的な時計遺伝子 Per1 及び Per2 の発現 誘導を惹起することから、視交叉上核における光 反応細胞の機能を保持する細胞株であり、高照度 光療法に代わる低分子治療薬を探索するための 有用な研究ツールになるものと期待される。 11.おわりに 生体における機能を保持した細胞株は、創薬研 究ツールとして重要である。今後は、N14.5 細胞 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 において発現する GPCR 等の創薬標的候補遺伝 子の解析を進め、概日リズム障害改善薬の創製を 視野に入れて研究を発展させていきたいと考え ている。 視交叉上核腹外側部由来の光反応細胞株の樹 立は、NEDO 委託研究「細胞内ネットワークのダ イナミズム解析技術開発」の一環として、松下智 子博士、天貝裕地博士を中心に実施したものであ り、深く感謝いたします。また、東北大学加齢医 学研究所の帯刀益夫教授には、ts SV40 T-antigen TG rat をご提供いただき、深謝いたします。 参考文献 1) Matsushita, T., Amagai, Y., Terai, K., Kojima, T., Obinata, M., and Hashimoto, S. (2006). A novel neuronal cell line derived from the ventrolateral region of the suprachiasmatic nucleus. Neuroscience 140: 849-856. 2) Shigeyoshi, Y., Taguchi, K., Yamamoto, S., Takekida, S., Yan, L., Tei, H., Moriya, T., Shibata, S., Loros, J.J., Dunlap, J.C., and Okamura, H. (1997). Light-induced resetting of a mammalian circadian clock is associated with rapid induction of the mPer1 transcript. Cell 91:1043-1053. 3) Moriya, T., Horikawa, K., Akiyama, M., and Shibata, S. (2000). Correlative association between N-methyl-D-aspartate receptor-mediated expression of Period genes in the suprachiasmatic nucleus and phase shifts in behavior with photic entrainment of clock in hamsters. Molecular Pharmacology 58:1554-1562. 4) Obinata, M. (2001). Possible applications of conditionally immortalized tissue cell lines with differentiation functions. Biochem. Biophys. Res. Commun. 286:667-672. 5) Matsushita, T., Amagai, Y., Soga, T., Terai, K., Obinata, M., Hashimoto, S. (2005). A nobel oligodendrocyte cell line OLP6 shows the successive stages of oligodendrocyte development: late progenitor, immature and mature stages. Neuroscience 136:115-121. 6) Ueda, HR., Hayashi, S., Chen, W., Sano, M., Machida, M., Shigeyoshi, Y., Iino, M., and Hashimoto, S. (2005). System-level identification of transcriptional circuits underlying mammalian circadian clocks. Nature Genetics 37(2):187-92. ◆略 歴◆ 橋本 誠一(Seiichi HASHIMOTO) : 1975年東北大薬・修士課程終了、東北歯科大学 年 東北大薬 博士号取得 助手、講師、1980 同年NIH留学、1991年 山之内製薬(現アステラス製薬)入社、1997分子医学研究所室長、 2000年分子医学研究所主席研究員 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 12 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 第4回(平成18年度)薬学研究ビジョン部会部会賞受賞者(1) ケミカル・バイオ情報に基づく創薬インフォマティクス研究 奥野 恭史 京都大学大学院薬学研究科 1、はじめに ヒトゲノムが解読された今日、莫大なゲノム情 報から創薬への手がかりを発見すること、すなわ ち「ゲノム創薬」に大きな期待が寄せられている。 ゲノム創薬は、ゲノム情報を出発点とし創薬の標 的遺伝子探索からリード化合物探索を経て臨床 段階に至る広範で高度に専門化した複合領域で あり、その実践にはこれらの複合領域の橋渡しを 実現する統合的なインフォマティクス基盤(創薬 インフォマティクス)が必須となる。我々は、創 薬インフォマティクスという新たな研究分野の 創成に向け、バイオ情報を扱うバイオインフォマ ティクスとケミカル情報を扱うケモインフォマ ティクスの独立に発展してきた2つの情報科学 分野の統合を図り、バイオ情報とケミカル情報の 両者を同時に統合的にマイニングする新しい情 報技術の開発に着手している。さらに本研究は、 現在、国内外で注目されているケミカルゲノミク ス・ケミカルバイオロジーのための有力な情報基 盤ともなり得るものと考えられる。 2、化合物の宇宙探索(ケミカル空間の探索) 2004 年 12 月の Nature 誌において、Chemical Space 特集号が発表された(1)。そこでは、化合物 の種類は 1060 個を越える天文学的なバリエーシ ョンを有しており、化合物空間を探索することは 宇宙探索と同様に壮大な課題であることが提示 されている。このことは医薬品の候補化合物とな り得る新規な活性化合物を見つけ出すことが如 何に困難でセレンディップなことであるかを示 唆するものである。 これらケミカル空間の探索の基礎研究として ケミカルゲノミクス・ケミカルバイオロジー研究 が近年注目されている。ケミカルゲノミクスでは、 その命題として「莫大な数の化合物と生体系(タ ンパク質や細胞など)との相互作用を包括的に明 らかにすること」が挙げられている。実際、米国 では、ケミカルゲノミクスプロジェクトを掲げ、 数百万もの膨大な化合物に関する情報を収集し、 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 統合薬学フロンティア教育センター 有用化合物の探索に国策として取り組んでいる。 しかしながら、広大な化合物空間から生物活性 を有する化合物を探し当てる化合物探索には、天 文学的な数量に対応できる新たなインフォマテ ィクス技術とハイスループット技術の研究開発 が必須である。そこで、我々は、莫大な化合物群 とタンパク質群との相互作用様式をゲノムスケ ールで解析することを目的とした情報学的技術、 すなわちケミカルゲノミクスのためのインフォ マティクス技術の研究開発を行っている。 3、ケモインフォマティクスとバイオインフォマ ティクス(図1) ケミカルゲノミクス・ケミカルバイオロジーで は、化合物のケミカル情報と生体系のバイオ情報 の2種の異なる情報が対象となる。従って、ケミ カルゲノミクスのための情報処理技術には、ケミ カル情報を処理するケモインフォマティクスと バイオ情報を処理するバイオインフォマティク スを融合する新たなインフォマティクス技術の 開発が必須となる。しかしながら、化学と生物学 という異なる分野を背景にもつ2つのインフォ マティクスは、独立して発展してきており現状で は互いに相容れない。そこで、我々はケモインフ ォマティクスとバイオインフォマティクスにお ける方法論的なアナロジーに着目しその融合を 図った。すなわち、ケモインフォマティクスもバ イオインフォマティクスも共に、個体(化合物や タンパク質)の特徴量を数値やベクトルで表現す ることにより、各個体の相対的な特性の違いを探 索空間上の個体間の距離として定量的に算出す る方法論を基本としている。例えば、ケモインフ ォマティクスでは、データベースに集積された膨 大な化合物エントリーは化学構造や特性を定量 的に表すベクトルとして表現され、その相対的な 違いを距離の尺度として持つ座標空間(探索空 間)をコンピュータ内部に構築する。データベー ス検索はこの探索空間において距離が近接する 化合物を類似化合物として選出してくることに 13 社団法人 なる。また、バイオインフォマティクスでも同様 の考え方であり、遺伝子・タンパク質エントリー は配列や構造として表現され、それぞれの相同性 (類似度)を尺度として持つ探索空間(バイオデ ータの場合、探索空間は系統樹やネットワーク構 造になっている場合もある。)が構築され、デー タベース検索にはこの探索空間に基づき、類似 (類縁)遺伝子・タンパク質が選出される。 一方、ケミカルゲノミクスとは、ケミカル空間 の個体(化合物)とバイオ空間の個体(遺伝子・ タンパク質)との相互作用関係を網羅的に明らか にする研究であり、図1の赤線に示す対応関係を 付加したモデルであると考えられる。ここで、 我々は、ケミカル情報とバイオ情報を統合的に処 理するために、ケミカル空間(緑色)とバイオ空 間(黄色)を独立して扱うのではなく、2つの空 間を融合したモデルをケミカルゲノミクスのた めのインフォマティクスモデルとして初めて考 案した。 図1.ケモインフォマティクスとバイオインフォマティ クス Database Computational Exploration of Search Space 薬学研究ビジョン部会 して定義するとともに、タンパク質についても類 似関係(配列や構造の相同性)を相対的な位置関 係として表現したものをバイオ空間(青がタンパ ク質、黄色領域がバイオ空間)として定義する。 さらに個々の化合物とタンパク質の結合をリン ク(黒線)することによって、これらケミカル空 間とバイオ空間を融合した単純モデルをコンピ ュータ内部に構築できる。(図 2) ここで、標的タンパク質に作用する化合物候補 を探索する In silico スクリーニングにこの融合モ デルを適用する場合を考えると、 1)標的タンパク質(青星)の配列構造から、そ のタンパク質がバイオ空間座標にマッピングさ れる。 2)バイオ空間にマッピングされた標的タンパク 質の近隣タンパク質からのケミカル空間へのリ ンク情報をたどること(青矢印)により、その標 的タンパク質が関係するケミカル空間のエリア (青円内)を指定することができる。 3)上記エリア内の化合物群が、標的タンパク質 に相互作用する可能性のある化合物群と推定さ れる。(ここでは、類似のタンパク質は、類似の 化合物を結合するという前提を基にしている。 ) Knowledge extraction Chemoinformatics Chemical space Chemical Database 日本薬学会 図2.ケミカル空間-バイオ空間融合モデルを Lead discovery Activity prediction ….. 用いた In silico スクリーニング Chemical Genomics Prediction of Lead Compounds Chemical space Biological Database Bioinformatics Biological space Gene finding Functional annotation ….. 4、ケミカル空間−バイオ空間の融合モデル 情報科学的アプローチによる化合物探索は、こ れまで化合物のケミカル情報のみを用いたケモ インフォマティクス手法が用いられてきた。これ に対し、我々の手法は、このケミカル情報のみの 従来手法にバイオインフォマティクス技術を融 合させ、バイオ情報を考慮に入れた化合物探索を 実現する新しいインフォマティクス手法と言え る。(図1) 例えば、化合物について構造や特性の類似性を 相対的な位置関係として表現したものをケミカ ル空間(赤が化合物、緑領域がケミカル空間)と Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) Biological space Query gene (protein) (sequence structure) 我々は、このケミカル空間とバイオ空間の融合 モデルを用いた探索を、GPCR ファミリーとその リガンド化合物の探索に適用し、GLIDA データ ベース(2,3)として Web サービスを行っている。 5、ケミカル空間−バイオ空間の相関モデル 我々が考案する融合モデルで最も重要なこと は、モデルの構築方法である。我々の方法は、こ 14 社団法人 のモデル構築方法においても、従来法より大きな 優位性を有している。 ケミカル空間の構築に用いられる従来法の代 表的なものに主成分分析(PCA)がある。これは、 ケミカル情報のみを用い、化合物の化学特性がで きる限り多様になるように、ケミカル空間座標を 定義するものであり、ここでの大きな問題点は、 化合物の多様性と生物活性との直接の因果関係 は無いということである。 これらの問題点を克服することを目的とし、 我々は正準相関分析(CCA)を用いて相関モデル 構築を試みた。本手法は、ケミカル情報とタンパ ク配列情報の両情報を用いて、ケミカル空間とタ ンパク空間の両空間の相関が高くなるように互 いの空間座標を定義するものである。これはバイ オ空間の分布を考慮して、ケミカル空間座標を定 義する方が、生物活性にとって都合の良い空間座 標を構築できるという大きな特徴を有する。 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 とから、本手法の方が、従来法よりも高い予測性 能であることがわかる。 6、Biologically relevant chemical space ごく最近、宇宙観測において、暗黒物質(ダー クマター:目には見えない物質)の宇宙空間での 分布が初めて観測され宇宙の起源解明に期待が 寄せられている。化合物の宇宙空間では、我々は 何を探索しなければならないのであろうか? Chemical Space 特集号では、その答えとして「生 物 に と っ て 意 味 の あ る 化 合 物 群 ( Biologically relevant chemical space)」を探索することの重要性 を 提 示 し て い る 。 し か し な が ら 、 Biologically relevant chemical space を定義する具体的方法に 関する報告は未だなされていない。 Chemical Library Design Chemical space True positive rate Limited biological space 図4.Biologically relevant chemical space 本手法CCA 従来法PCA False positive rate 図3.本手法と従来法との性能比較 実際に、従来法(PCA)と本手法(CCA)の性能を 比較するために、既知データ(DrugBank データベ ース(4))を用いた 5-fold cross validation テストを 実施し、化合物とタンパク質の相互作用予測の予 測性能評価を行った。その結果を図 3 に示す。図 は、予測性能を評価する有名な方法の一つである ROC 曲線(横軸は化合物-タンパク質相互作用を 誤って予測した割合、縦軸は正しく予測した割合 を示す。)であり、このグラフは曲線が上に位置 するほど、予測性能が良いことを表す。本手法の 赤曲線が従来法の黒曲線より上方に位置するこ Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 我々の開発した融合モデルはこの難問に一つ の解答を与える事ができ、タンパク質群と化合物 群の相互作用様式の統計モデルを構築すること により、広大なケミカル空間のうち黄色のバイオ 空 間 に 対 応 す る ケ ミ カ ル 空 間 ( biologically relevant chemical space)を限定することを可能に する。 (図 4)また、バイオ空間のタンパク群を、 例えば GPCR ファミリー(赤点線エリア)などに 限定することにより GPCR 用のフォーカスライ ブラリーの設計も可能になり、生物活性を有する 化合物ライブラリーの合理的設計が実現できる。 例えば、図 5 は、カナダでサービスされている DrugBank データベース(4)における 3476 個の既 知薬物ターゲットタンパク質からなるバイオ空 間とそれに対応する 3079 個の既知薬物からなる ケミカル空間の実際の相関モデルである。このよ うに、Biologically relevant chemical space の定義が 可能となる。 15 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 7、おわりに 医薬品の開発プロセスにおいて、現在用いられ ている In silico 技術には、我々が研究開発を行う 情報科学的アプローチの他に、立体構造モデルを 用いたドッキングシミュレーションのような計 算化学的アプローチが有名である。情報科学的ア プローチと計算化学的アプローチには、それぞれ 一長一短があるが、欠点を互いに補完し合い In silico 創薬の確度向上を図ることが今後の課題で あろう。特に、ケミカルゲノミクスが盛んな今日、 日々増加し続ける莫大なデータを処理すること は必須であり、情報科学的アプローチである創薬 インフォマティクスのさらなる研究開発が必要 である。 図5.DrugBank データを用いた実際のケミカル空間 とバイオ空間 謝辞 本研究の一部は、文部科学省、厚生労働省の支 援によって行われている。また、検証実験等の共 同研究を行って頂いている京都大学薬学研究科 ゲノム創薬科学分野の辻本豪三教授に深く感謝 申し上げる。 参考文献 1) Nature, 432 (7019) (Insight), 823-865 2) Okuno, Y., Yang, J., Taneishi, K., Yabuuchi, H., Tsujimoto, G., Nucleic Acids Research, 34, D673-677 3) http://pharminfo.pharm.kyoto-u.ac.jp/services/glida/ 4) http://redpoll.pharmacy.ualberta.ca/drugbank/ ◆略 歴◆ 奥野 恭史 (Yasushi OKUNO):1995 年京大薬・修士課程修了、京大薬・博士後期課程進学、1996 年 京大薬・博士後期課程中途退学、京都大学化学研究所教務職員、2000 年京大薬博士号取得、2001 年京都大学化学研究 所博士研究員、2002 年京都大学化学研究所特任助手、2003 年京都大学大学院薬学研究科特任助手、2005 年産業技術総 合研究所外来研究員(併任)、2006 年京都大学大学院薬学研究科助教授 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 16 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 第4回(平成18年度)薬学研究ビジョン部会部会賞受賞者(2) 組織培養を用いた中枢神経細胞変性機序と神経保護薬の作用に関する研究 香月 博志 京都大学大学院薬学研究科 脳の高次機能は、中枢神経系に存在する数多く のニューロンの構成するネットワークによって 支えられている。ニューロン同士が緻密なネット ワークを構成していることと、一部の例外を除い て成体の脳ではニューロン新生がほとんど起こ らないことから、何らかの原因によって脳組織に 変性が生じると、永続的な機能障害に陥ることと なる。脳組織の変性には、脳卒中や脳挫傷のよう に急速にダメージが進行する場合と、パーキンソ ン病などのように特定のニューロン集団が長期 にわたって変性・脱落する場合とがあるが、いず れについてもニューロンが死に至る機序の解明 や、ニューロン死を抑制する手段の確立など、多 くの課題が残されている。 ニューロン死の機序を実験的に解析する場合、 一般にはニューロン系細胞株や、胎仔脳より得た ニューロンを分散させた初代培養を用いる方法 が行われているが、これらの実験系では細胞自体 の性質や細胞をとりまく環境が脳内のニューロ ンと多くの点で異なっている。一方で、全身動物 を用いる in vivo 実験系は、効率性において in vitro の系には及ばず、また薬物作用機序の詳細な解析 にも不向きである。 脳組織切片培養法は、研究対象とする脳部位の 切片を新生仔動物から得て多孔質膜上に静置し、 気液界面にて培養する手法である(図1)。この 培養手法は、(1) 作製時に細胞に与えるダメージ が少ないことや、生後動物脳のニューロンを安定 に培養できることから、分散培養では扱いの困難 なニューロン集団を研究対象にできること、(2) 脳組織の細胞構築が保たれているので、ニューロ ン間、あるいはニューロン-グリア細胞間の相互 作用がニューロン死誘導の制御に関与する場合 の解析に有効であること、(3) in vivo の実験系と 比較して薬物作用の解析が容易であること、など の利点がある。我々はこの手法を用いて、中脳、 大脳皮質、線条体、視床下部および網膜における 疾患と関連したニューロン変性の機序と神経保 護薬の作用に関する研究を展開している。 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 中脳切片 免疫組織化 学 100 μm 1 mm 新生仔ラット脳 図1 脳組織切片培養法(中脳の例) 中脳ドパミンニューロン死 パーキンソン病は中脳黒質ドパミン作動性ニ ューロンの選択的脱落を特徴とする神経変性疾 患である。近年、家族性パーキンソニズムの原因 遺伝子産物の機能解析などを手掛かりとして病 理形成機序の研究が進められているが、パーキン ソン病は明確な遺伝的背景を持たない孤発性の ケースが圧倒的に多く、多様な要因が病理形成の 引き金になりうる。したがって、ドパミンニュー ロン変性の引き金となる個々の要因よりもむし ろ、ニューロン変性を二次的に促進する機序をタ ーゲットとするほうが多くのケースのパーキン ソン病に対する治療戦略として有効と考えられ る。そこで我々は炎症性応答に着目した。パーキ ンソン病患者の脳では炎症性応答の存在を示唆 するミクログリアの形態変化や、誘導型 NO 合成 酵素 (iNOS)、シクロオキシゲナーゼ-2 (COX-2) および諸種サイトカイン類の発現増大が見られ、 グリア-ニューロン間の相互作用が病理の進行に おいて重要な役割を担っていることが推察され る。 ミクログリアを活性化する刺激として IFN-γ/LPS を培養中脳切片に適用したところ、進 行性にドパミンニューロンの変性と細胞数の減 少が誘導された。このドパミンニューロン数の減 少は、ミクログリアにおける iNOS の強い発現誘 導に続いて生じ、iNOS 阻害薬や iNOS 発現を抑 制する p38 MAPK 阻害薬を適用すると顕著に抑 制された。一方、IFN-γ/LPS 刺激は COX-2 の発現 とエイコサノイド類の産生増加も誘導したが、 17 社団法人 COX-2 の阻害はドパミンニューロンに対して保 護作用を示さなかった。また、TNF-αや IL-1βに 対する中和抗体もドパミンニューロン変性に影 響を与えなかった 1)。 ミクログリアの活性化刺激としてトロンビン を用いた場合にも、ドパミンニューロンの遅延性 の変性が誘導され、これはミクログリアの iNOS 発現誘導と NO 産生増大を伴っていた。さらに、 iNOS の阻害によってトロンビンによるドパミン ニューロンの変性は妨げられた 2)。したがってこ れらの結果は、ミクログリア由来の NO が、炎症 性応答に伴うドパミンニューロンの変性誘導に おいて中心的な役割を果たす細胞間メディエー タであることを示唆している(図2)。中脳細胞 の分散培養を用いて炎症性ドパミンニューロン 変性の機序を解析した研究ではサイトカイン類 の重要性が強調されているのに対し、in vivo 動物 モデルでは NO がドパミンニューロン変性の誘 導に重要な役割を果たすことが示されており、培 養中脳切片は分散培養に比べて脳内の病理状況 をよりよく再現していると考えられる。 IFN-γ / LPS NS-398 Nimesulide グリア細胞の活性化 SB203580 p38 MAPK COX-2↑ Aminoguanidine Eicosanoids ドパミンニューロン死 図2 iNOS↑ NO TNF-α IL-1β Neutralizing antibodies (その他の細胞の障害) グリア細胞の活性化によるドパミンニューロン死 誘導 脳卒中に伴う大脳皮質/線条体ニューロン死 国内の死亡原因のなかで常に上位を占める脳 卒中は、麻痺などの永続的障害を高率で生じる疾 患でもあり、適切な予防・治療法の確立が急務と なっている。脳卒中には、脳硬塞などの虚血性の ものと脳内出血などの出血性のものが含まれる が、いずれの場合も急性期の病理変化の大部分は 培養脳組織切片において再現が可能である。 培養大脳皮質切片を酸素-グルコース除去 (OGD) 条件下に置き、その後通常の培養条件下 で維持すると、虚血性脳卒中時に見られるのと同 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 様の遅延性ニューロン死が誘導される。In vivo 虚血の場合と同様に、OGD 負荷時には大量のグ ルタミン酸が細胞外に遊離されており、NMDA 型グルタミン酸受容体の遮断によって遅延性ニ ューロン死は阻止された。このグルタミン酸遊離 の機序として、グルタミン酸トランスポータの逆 作動や、容積感受性アニオンチャネルの開口など の関与も示唆されているが、我々が検討した結果 では、OGD 負荷時初期にはグルタミン酸作動性 神経終末からの開口放出によるグルタミン酸遊 離が重要な役割を担っていることが示唆された 3) 。遊離されたグルタミン酸は、共同アゴニスト である D-セリンやグリシンとともに NMDA 受容 体に作用して Na+や Ca2+の過剰流入を促し、これ がニューロン死誘導の引き金となる。一方、流入 した Ca2+によってシナプス後細胞の Ca2+感受性 K+チャネルが活性化され、NMDA 受容体の活性 化に対して負のフィードバック制御をかけてい ることも明らかになった 4)。 出血性脳卒中の場合、脳実質に浸潤した血液成 分によるニューロンの障害が病理形成機序の中 心をなしている。培養大脳皮質-線条体切片に血 中プロテアーゼであるトロンビンを適用すると、 大脳皮質ではニューロン死が、線条体では組織全 体の萎縮が遅延性に誘導された。各脳部位の病理 変化の機序について検討した結果、MAP キナー ゼ群の関与に大きな差異があることが判明した (図3)。すなわち、大脳皮質ニューロン死の誘 導には ERK が促進性に、JNK が抑制性に働いて おり、p38 MAPK は関与しないが、線条体の組織 萎縮の誘導に関してはこれらのキナーゼがいず れも促進性に働いている。さらに、線条体の組織 萎縮には組織内のミクログリアが関与するが、大 脳皮質ニューロン死にはミクログリアの積極的 な関与は認められなかった 5)。線条体組織萎縮に 関与するこれらの機序については、トロンビンの in vivo 線条体内投与によるニューロン死の誘導 にも同様に関与していることが示され 6)、培養脳 組織切片がニューロン死誘導機序を検討する上 で有用な実験系であることが裏付けられた。 18 社団法人 トロンビン ERK p38 MAPK JNK ERK p38 MAPK JNK 無効 促進 抑制 大脳皮質ニューロン死 図3 促進 促進 促進 線条体組織萎縮 トロンビン神経毒性の脳部位特異的な機序 視床下部オレキシンニューロン死・網膜神経節細 胞死 ナルコレプシーは日中の抗し難い眠気などの 睡眠障害を主徴とする神経疾患で、日本人には約 600 人に1人という高い有病率が認められる。患 者の脳内では、視床下部外側部に細胞体が局在す るオレキシン含有ニューロンの選択的な減少が 認められるが、なぜこのようなニューロンの脱落 が生じるのかについては研究が進んでいない。脳 内のオレキシンニューロンはもともと数が非常 に少なく、また発達段階の遅い時期にならないと 十分に出現しないので、分散培養には適していな い。我々は生後 7〜9 日齢ラット脳から視床下部 の培養切片を作製することにより、オレキシンニ ューロンを安定に培養維持することに成功した。 培養切片を障害性因子に曝露した後、切片内のオ レキシンニューロンを免疫組織化学的に同定し たが、同時にオレキシンニューロンと同様の領域 に分布するメラニン凝集ホルモン (MCH) 含有 ニューロンも同定した。これまでの検討により、 NMDA 型グルタミン酸受容体の刺激がオレキシ ンニューロンに対して比較的選択的な毒性を発 現することが判明した。特に、NMDA 受容体ア ゴニスト活性を有する内在性化合物のキノリン 酸は、MCH ニューロン数に影響を与えない濃度 で生存オレキシンニューロン数を著明に減少さ せた 7)。オレキシンニューロンは MCH ニューロ ンに比べて静止膜電位が浅く、また緊張性に発火 を維持している細胞であることが知られている。 そのような易興奮性は、Mg2+による NMDA 受容 体チャネルの電位依存性遮断の解除を容易にす るものと推察される。オレキシンニューロンに強 い過分極性応答を誘発する GABAA 受容体刺激 によってキノリン酸毒性が顕著に抑制された 8) ことからも、膜興奮性レベルの制御がオレキシン Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 ニューロンの選択的変性において重要な鍵を握 っているものと考えられる。 視神経を構成する網膜神経節細胞 (RGC) の変 性・脱落は、緑内障を代表とする網膜変性疾患の 病理学的特徴であり、その阻止は失明などの視機 能障害を防止する上で極めて重要である。我々は、 視神経の投射する中脳上丘に蛍光色素の DiI を注 入して RGC を逆行性標識しておいたラット新生 仔眼から網膜組織片を作製し、これを培養下で観 察することによって RGC の細胞死を評価する実 験系を確立した 9)。培養開始後から経日的に認め られる生存 RGC 数の減少は DNA 断片化を伴っ ており、caspase-3 阻害薬の適用によって有意に 抑制されたことから、軸索切断によって誘導され たアポトーシスを反映するものと考えられた。ま た、この RGC 数の減少は神経型 NO 合成酵素の 阻害薬によって顕著に抑制され、細胞死誘導への NO の関与が示唆された 10)。 ニューロン保護薬の探索と今後の展望 上述したように、培養脳組織切片において観察 されるニューロン死は、誘導機序の面において諸 種神経変性疾患の脳内でのニューロン死をよく 再現している。そのため、本実験系はニューロン 保護薬の研究を行う上でも有用であり、我々はこ れまで主にドパミンニューロン死や虚血性の大 脳皮質ニューロン死を抑制する薬物の探索を行 ってきた。 炎症性応答に伴う中脳ドパミンニューロンの 変性については、α-tocopherol が IFN-γ/LPS 刺激 後のドパミンニューロン死を 11)、ポリフェノール 系化合物の resveratrol がトロンビンの誘発するド パミンニューロン死を 12)それぞれ顕著に抑制す ることを見出した。いずれの薬物も NO の産生量 に影響を与えない濃度で保護作用を発現するこ とから、NO 過剰産生の下流でドパミンニューロ ン変性に寄与する経路を遮断するものと考えら れる。NO 産生以降の細胞死誘導機序の解明と併 せて、各薬物の作用点についての検討が今後必要 である。 また、神経系において内因性に合成されるステ ロイド系化合物(ニューロステロイド)が興奮毒 性の発現に対して二面的な制御作用を示す 13)と の知見に基づき、ステロイドの合成を阻害する aminoglutethimide (AGT) の虚血性ニューロン死 に対する作用を検討した。AGT の前処置により、 NMDA や AMPA の適用、あるいは一過性の OGD 19 社団法人 負荷によって誘発される培養大脳皮質切片のニ ューロン死は顕著に抑制された。予想外なことに、 虚血性ニューロン死に対する AGT の保護作用の 発現には長時間の前処置を必要とせず、また AGT の亜急性処置によって OGD 負荷に伴うグル タミン酸遊離量の増大がほぼ完全に抑制された ことから、AGT はステロイド合成阻害とは無関 係の作用を介して神経保護作用をもたらすと考 えられる 14)。AGT の神経保護作用の分子ターゲ ットが今後明らかになれば、新たな神経保護薬の 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 開発につながる可能性もある。 以上のように、培養脳組織切片は諸種の神経変 性疾患に見られる脳内病理変化を in vitro で再現 できる有用な実験系であり、神経保護戦略のター ゲットとなるニューロン死誘導機序や、神経保護 薬の作用機序の解明に向けた重要な情報を提供 するものである。分散培養系や in vivo 全身動物 などの他の実験系との連携を図りながら、神経疾 患治療薬創出に資する基盤技術として活用され ることが期待される。 参考文献 1) Shibata, H., Katsuki, H. et al., J. Neurochem., 86, 1201 (2003). 2) Katsuki, H. et al., J. Neurochem., 97, 1232 (2006). 3) Fujimoto, S., Katsuki, H. et al., Neurosci. Res., 50, 179 (2004). 4) Katsuki, H. et al., Eur. J. Pharmacol., 508, 85 (2005). 5) Fujimoto, S., Katsuki, H. et al., Neurobiol. Dis., 22, 130 (2006). 6) Fujimoto, S., Katsuki, H. et al., Neuroscience, 144, 694 (2007). 7) Katsuki, H. and Akaike, A., Neurobiol. Dis., 15, 61 (2004). 8) Katsuki, H. and Akaike, A., Neuroreport, 11, 1157 (2005). 9) Manabe S. et al., Neurosci. Lett., 334, 33 (2002). 10) Katsuki, H. et al., J. Pharmacol. Sci., 94, 77 (2004). 11) Shibata, H., Katsuki, H. et al., J. Neurosci. Res., 83, 102 (2006). 12) Okawara, M., Katsuki, H. et al., Biochem. Pharmacol., 73, 550 (2007). 13) Shirakawa, H., Katsuki, H. et al., Eur. J. Neurosci., 21, 2329 (2005). 14) Shirakawa, H., Katsuki, H. et al., Brit. J. Pharmacol., 147, 729 (2006). ◆略 歴◆ 香月 博志(Hiroshi KATSUKI):京大院薬・薬品作用解析学分野助教授 1991 年京大院薬・博士後期課程中退、同年東大薬助手、1992 年東大薬博士号取得、1995 年 Washington Univ. in St. Louis 博士研究員、1997 年東大院薬助手(復職) 、1998 年京大院薬助教授、2007 年 4 月より熊本大学大学院医学薬学研究部薬 物活性学分野教授。 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 20 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 第4回(平成18年度)薬学研究ビジョン部会部会賞受賞者(3) 創薬を指向した関節リウマチ関連遺伝子 PAD4 の構造科学研究 清水 敏之 横浜市立大学大学院国際総合科学研究科 1.はじめに 創薬を目指す上でタンパク質の立体構造情報 はますます重要な地位を占めてきている。この手 法は画期的な創薬分子の開発につながることが 期待されるが、標的タンパク質の解析、基質(阻 害剤)複合体解析という構造科学に立脚した基礎 科学がなくては成り立たない。我々は創薬を念頭 においた構造科学を推し進めるため、全身の多関 節の炎症と破壊をきたす代表的な自己免疫疾患 である関節リウマチに注目した。関節リウマチは 多数の因子が複雑に絡み合う多因子疾患と考え られるが、最近ぺプチジルアルギニンデイミナー ゼ4(PAD4)が原因遺伝子の一つであることが 報告された。我々はこの酵素の立体構造情報を X 線結晶解析により取得し、阻害剤の開発を目指し た。本稿では我々がこれまで得た結果を紹介する (1,2)。 節リウマチ感受性の一塩基多型が報告された(4)、 などが知られている。 一方で PAD4 は転写制御におけるアルギニン残 基のメチル化に拮抗するものとしてヒストン修 飾酵素としての関心ももたれている(5,6)。 H2N BA H2N NH2 C-terminal domain O HN HN PAD + H2O + NH4+ Ca2+ HN N-terminal domain HN O O アルギニン残基 NLS シトルリン残基 (a) (b) Fig. 1 PAD4 の酵素反応と全体構造 2+ (a) PAD は Ca 依存的にタンパク質中のアルギニン残基 を脱イミノ化してシトルリンへと変換する (b) BA が結合した PAD4 の構造(リボン図) 。赤線は核 移行シグナル(NLS)を含む領域であるが結晶中では 2.PAD はシトルリン化反応を触媒する アルギニンが脱イミノ化されるとシトルリン というアミノ酸が生成する。タンパク質中では PAD と呼ばれる Ca2+依存性の翻訳後修飾酵素に よって触媒される(Fig.1a)。研究の歴史は古くシ トルリンを含むタンパク質は今からおよそ半世 紀前の 1958 年に初めて報告され、1977 年にはこ の反応が PAD によって触媒されることが明らか にされた。 3.注目を浴びる翻訳後修飾シトルリン化 シトルリン化が特に最近注目を浴びるように なったのは関節リウマチとの関連及び転写制御 との関連が報告されたためである。PAD と関節 リウマチとの関連では①関節リウマチの患部で ある滑膜組織におけるタンパク質のシトルリン 化が知られていた②関節リウマチの患者は関節 リウマチに特異的な自己抗体を産生しているが, いずれの自己抗体も PAD によってシトルリン化 されたタンパク質を非自己(自己抗原)として認 識して産生されている(3)③ヒト全ゲノムを対象 にした関節リウマチ関連遺伝子の大規模ケース コントロール関連解析から、PAD4 遺伝子上に関 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) disorder していた。黄色球はカルシウムイオンを表す。 4.全体構造 我々は高純度に精製された PAD4 を用いて結晶 化を行い Ca2+非結合型、Ca2+結合型、基質(benzoyl L-arginine amide: BA)結合型の構造解析に成功し た。Fig.1b に PAD4 の全体構造を示す. PAD4 は 2 つのドメイン[N 末端ドメインと C 末端ドメイ ン]から構成され, その形は細長いブーツ状であ る. Ca2+は 5 つ確認され, そのうち 3 つは N 末端 ドメインに, 残り 2 つは C 末端ドメインに見出さ れた。 N 末端ドメインは 1-300 番目のアミノ酸から構 成されている。冒頭で述べた関節リウマチ感受性 の一塩基多型は G55S, V82A, G112A というアミ ノ酸置換を引き起こすが, これらのアミノ酸置 換部位はすべて N 末端ドメインに局在し, C 末端 ドメインに存在する活性部位(後述)からは遠く 離れている。さらにこれらのアミノ酸は Ca2+の結 合にも関与していないので, これらの関節リウ マチ感受性の一塩基多型は PAD4 の活性には影 響しないものと思われる。 301-663 番目のアミノ酸残基からなる C 末端ド 21 社団法人 メインは, α/βプロペラ構造をとっていた。この構 造は, L-アルギニン修飾酵素(arginine deiminase (ADI)(7), arginine:glycine amidinotransferase (AT)(8))において共通に認められる構造である。 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 することによって酵素の活性部位が誘起され, そこに基質 BA が結合することがわかる(Fig. 3c)。 今回のX線結晶構造解析で示された Ca2+によ る PAD4 の構造変化や酵素反応の場の形成機構 はこれまでにないまったく新しい酵素の活性機 構であるといえる。 Ca2+の結合 Ca2+非結合型PAD4 (a) Fig. 3 基質の結合 Ca2+結合型PAD4 Ca2+-BA結合型 PAD4 (b) (c) 2+ Ca による活性部位誘起機構。図は活性部位付 2+ (a) (b) Fig. 2 基質 BA の認識機構 近の分子表面に静電ポテンシャルを表示したもの。Ca が結合していない状態(a)では広い範囲で負に帯電して 2+ いる(黄色の点線)。Ca が結合すると活性部位が誘起さ れ(緑の点線, (b))、そこに BA が結合する(c)。 Fig.2 に基質 BA 認識の様子を示す。基質 BA の アルギニン側鎖のグアニジノ基の窒素原子は 2 つの酸性残基 Asp350 と Asp473 によって認識さ れ、その近傍には Cys645(Ala645)と His471 が位 置している。また, アルギニン側鎖のアルキル基 部分には Trp347 と Val469 との疎水的な相互作用 も認められる。一方、基質 BA の主鎖部分では, BA のアルギニンのカルボニル酸素と窒素がそれぞ れ Arg374 と Arg639 の主鎖カルボニルと水素結合 を形成している。また, BA のベンゾイル基のカ ルボニル酸素と Arg374 の間にも水素結合が認め られる。PAD4 はタンパク質中のアルギニン残基 (ペプチジルアルギニン)を基質として認識する が, フリーの L-アルギニンは認識しない。これは 基質 BA のベンゾイル基のカルボニル酸素に相 当する部分がフリーの L-アルギニンには存在し ないためで, この部分の分子認識が PAD4 の基質 認識の特異性に重要であることが示唆される。 5.Ca2+の結合により活性部位が形成(誘起)さ れる PAD4 の活性化には Ca2+が必須であるが、今回 の解析により Ca2+の役割が明確になった。Ca2+ 非結合型 PAD4 の活性部位周辺は disorder してい てその表面に酸性のアミノ酸残基が露出してい る(Fig. 3a)。この酸性の窪みの表面に 2 つの Ca2+ が結合すると, disorder していた領域が安定化し て活性部位が誘起される(Fig. 3b). また, Ca2+結合 型 PAD4 と Ca2+結合型 PAD4-BA 複合体の活性部 位の構造は一致しているので, 2 つの Ca2+が結合 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 6.PAD4 によるヒストン認識と配列特異性 これまで述べてきた基質 BA は PAD4 の人工の 基質で, 生体内の本来の基質はタンパク質のア ルギニン残基(ペプチジルアルギニン)である。 我々は生体内基質の一つであるヒストンの N 末 端テールとの複合体構造解析にも成功しその認 識機構を明らかにした。ターゲットのアルギニン 残基 の位置を N とすると いずれも (N-2)から (N+2)の 5 残基のアミノ酸残基の電子密度が確認 され, そのうち(N-2)から(N+1)の 4 残基が PAD4 によって認識されることがわかった(Fig. 4a)。主 鎖原子は 4 残基にわたって認識されているが、側 鎖の認識はターゲットとなるアルギニン残基の 側鎖と(N-2)の残基の側鎖だけで基質認識の配列 特異性はきわめて低い。ただ, (N-2)の残基の側鎖 が大きいと PAD4 と立体障害を起こすことが考 えられるので, (N-2)の残基は小さな側鎖を持つ ことが必須であると考えられる。事実, これまで に報告されている PAD4 によるシトルリン化さ れるヒストンペプチドの(N-2)の位置は Gly, Ala, Ser などのアミノ酸残基が占めている。次に, ヒ ストンペプチドの構造を比較してみると、その構 造は共通してペプチド鎖は折れ曲がったβターン 様の構造をとっていることがわかる(Fig. 4b)。こ れはヒストンペプチドが PAD4 の活性部位周辺 の形状と Arg374 との相互作用によって折れ曲が ったβターン様の構造が誘起されるためである。 このように, 通常は一定の決まった構造をとっ ていないペプチド鎖も PAD4 に認識されると折 22 社団法人 れ曲がったβターン様の構造をとるようになる。 このことは PAD4 の基質特異性を考える上に非 常に重要である。すなわち, PAD4 による認識は, アミノ酸残基の配列特異性はきわめて低いが, 構造の特異性は非常に高いといえる。 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 はこの化合物と PAD4 との複合体構造を解析し て狙い通り触媒残基に直接共有結合することを 原子レベルで明らかにしている(10)。 Arg374 N-2 N+2 N+1 N-1 (a) N H3 peptide 1 H3 peptide 2 H4 peptide (a) Fig. 4 (b) ヒストンペプチドの認識機構 (a) ヒストン H3(Arg8 を含む)との複合体構造 (b) ヒストン H3(Arg8 を含む)、ヒストン H3(Arg17 を含む) )とヒストン H4(Arg3 を含む))の構造を重ね合わ せた図。PAD4 の分子表面と Arg374 も表示してある。 ペプチド領域は良く重なりいずれもβターン様構造をと っている。 7.阻害剤デザイン 基礎的な構造科学的知見をふまえ我々は阻害 剤の開発という創薬を目指した応用面にも着手 した。基質 BA の認識機構をもとにメチル化修飾 化合物を数種類合成し、その中の一つが弱いなが らも PAD4 の活性を阻害することを示した(IC50= ~0.2 mM)(Fig. 5a)。また、シトルリン化反応の 際、グアニジノ基からアンモニアが遊離すること に注目して、解離基を導入することにより PAD4 の触媒残基に直接結合する化合物を合成した (Fig.5b)。この化合物は IC50 が 20 μM 程度とな り、さらに強く阻害することが判明した(9)。我々 (b) Fig. 5 阻害剤の構造 (a) 基質 BA のメチル化修飾体の構造式 (b) 活性残基に直接結合する阻害剤の構造式 8.まとめ 今回我々は標的タンパク質の解析、阻害剤複合 体解析を行い PAD4 に関する構造科学的な知見 を得た。この研究の中で Ca2+による新規の酵素活 性化機構などの新知見も得られた。今回得られた 基質認識に関する構造学的知見は, 関節リウマ チの新規薬剤の開発に必要な PAD4 の阻害剤候 補物質の設計にも有効で, PAD4-阻害剤複合体の X 線結晶構造解析を通じて, より特異性に優れ阻 害活性の高い化合物の創製が期待される. 謝辞 ここで紹介した研究は、横浜市立大学の有田恭平 博士(現, 京都大学)、橋本博博士、佐藤衛教授 並びに山田道之教授(現, 名誉教授)との共同研 究で行ったものです。また, ペプチドの合成や化 合物合成にご協力いただいた日高雄二博士(近畿 大学理工学部)、Thompson 博士(South Carolina 大)、X線データ収集にご協力いただいた PF スタ ッフおよび SPring-8 スタッフに心より感謝いた します。 参考文献 1) Arita, K. et al, Nat. Struct. Mol. Biol. 11, 777-783 (2004) 2) Arita, K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 5291-5296 (2006). 3) van Boekel, M. A. et al. Arthritis Res. 4, 87-93 (2002). ◆略 4) Suzuki, A. et al. Nat. Genet. 34, 395-402 (2003). 大学大学院薬学系研究科修士課程修了(1989 年) 、博士 5) Cuthbert, G. L. et al. Cell 118, 545-553 (2004). (薬学)。キリンビール,蛋白工学研究所,奈良先端科 6) Wang, Y. et al. Science 306, 279-283 (2004). 学技術大学院大学助手を経て、2001 年より横浜市立大 7) Das, K. et al. Structure 12, 657-667 (2004). 学大学院総合理学研究科助教授。2005 年、大学の法人 8) Humm, A. et al., EMBO J. 16, 3373-3385 (1997). 化により公立大学法人横浜市立大学国際総合科学研究 9) Luo, Y. et al., J. Am. Chem. Soc. 128, 1092-1093 (2006) 科準教授。 歴◆ 清水 敏之(Toshiyuki SHIMIZU) :東京 10) Luo, Y. et al., Biochemistry 45, 11727-36 (2006) Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 23 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 第4回(平成18年度)薬学研究ビジョン部会部会賞受賞者(4) 機能性人工核酸を用いた遺伝子発現制御による新しい創薬手法の開発 永次 史 東北大学多元物質科学研究所 らの方法の標的となりうることから、最近さらに 1.はじめに 注目されている。我々はオリゴヌクレオチドによ 遺伝子発現とは遺伝子に書き込まれた情報が細 る遺伝子認識の原理を利用し、独自に設計した機 胞における構造及び機能に変換される過程であ 能性人工核酸を用いることで、遺伝子に対して選 り、この種々の過程の異常は多くの疾患の原因に 択的な化学反応を実現し、特異的な遺伝子発現阻 なることが知られている。特にヒトゲノム解析の 害さらには機能変換(点変異誘導)を誘起するこ 終了に伴い、膨大な遺伝子の配列情報が明らかに とを目標に研究を進めてきた(図2)。 され、様々な病気の原因となる遺伝子の異常が解 てきている。遺伝子の化学的本体である DNA に 蓄えられた情報は RNA へと転写され蛋白へと翻 図2 反応性オリゴヌクレオチドの機能 ①反応性分子 明され、創薬の新しい標的になりうると考えられ 標的遺伝子 ②共有結合 形成 訳され様々な機能を示す(図1)。最近、蛋白質 へと翻訳されない non coding RNA(ncRNA)が蛋 白質の合成量とタイミングの調節に中心的役割 DNAオリゴ ヌクレオチド ③特異的阻害 ④点変異 を果たしていることが解明されてきており、その 機能に注目が集まっている。このようにますます 複雑になっていく遺伝子発現機構を化学的に制 ⑤特異的変異及び修復 御する方法は、生命現象を解明する上で重要な技 遺伝子に対するアルキル化のような化学反応 術になりうるのみではなく、新しい創薬手法とし は古くから抗ガン剤のメカニズムとして知られ ての可能性も期待される。 ており、実際にシスプラチンなどが臨床応用され 図1 遺伝子発現の流れと病気の原因 DNA mRNA 翻 訳 変異 変異 変異 制御 制御 ているが、標的遺伝子に対する選択性がないこと が問題とされている。またメチル化やアセチル化 癌 な ど の 病 気 の 原 因 などの単純な化学反応が、遺伝子発現調節に重要 な働きを持つことが明らかにされており、遺伝子 に対する化学反応の選択的な誘起は、遺伝子発現 を人工的に制御できるものと考えられる。我々は 化学反応として、まずアルキル化反応を選択し、 非常に選択的に特定の塩基配列及び塩基に対し てのみ反応する機能性人工核酸の開発を計画し ncRNA 遺伝子の小さな断片(オリゴヌクレオチド) を医薬品として用いる方法は、原理的には病気に た。本稿ではこの人工核酸の設計、その試験管内 及び細胞内における機能評価、さらにはこの反応 を利用した薬物放出システムへの展開について 述べる。 関係する遺伝子配列情報から理論的に阻害剤が 設計できる方法であり、現在広く実用化研究が行 われている。前述した ncRNA も原理的にはこれ Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 24 社団法人 日本薬学会 2.2本鎖 DNA を形成し反応する機能性人工核 X 酸1) 図2に示したように、標的遺伝子にたいして共有 N N N N 結合を形成できる人工核酸を組み込んだ反応性 N H O H X O S H2N N 薬学研究ビジョン部会 S H2N N N N N N N N H O 3 H H2 N N N N N N N H O 1H N N オリゴヌクレオチドは標的に対して、強固に結合 し遺伝子発現を効率的に阻害できると考えられ る。生体内で特異的に目的の遺伝子に対してのみ 共有結合を形成する反応性分子としては1)安定 性 2)高反応性 2: X=H 4: X=COOH 図4. 3)高選択性を持つことが望 まれる。そこで我々はこのような条件を満たして 効率的に目的の塩基に対してのみ共有結合を形 成する分子として、まず2−アミノー6−ビニル プリン誘導体(1)を設計した。 この分子は図に示すようにシトシンと錯体を これらの分子を持つオリゴ DNA を合成しその反 応性を検討した結果を図5にまとめてある。 図5 シトシン選択的クロスリンク反応及び活性化反応 N よく進行すると考え設計した分子である。1を持 N 5' CTTT 3' GAAA GAAA るシトシンに対してのみ非常に効率よく反応す ることがわかった。 T N N N H N H2N R 形成し反応点同志が接近することで反応が効率 つ人工 DNA 断片は期待どおり、1の相手側にあ 2本鎖 DNA 内での自動活性化概念 N N N NH2 O TTCTCCTTTCT 3' AAGAGGAAAGA 5' AAGAGGAAAGA 5' クロスリン反応の収率 (%) S Ph 100 O シトシンアミノ基との効率的な反応を期待した 2-アミノ-6-ビニルプリン誘導体のデザイン 0 NH2 N DNA N N+ H N 1 H N H O N NH2 O COOH 相補的な位置の CのかわりにT がある標的に対 O するビニル体の S 生成収率 COOH S Ph 50 ビニル基 アミノ基 N N TTCTCCTTTCT 3' AAGAGGAAAGA 5' 5' CTTT 3' GAAA S 図3. N N 12 24 時間 (hr) 48 スルフォキシド(3)及びスルフィド(4)を組み込ん N だオリゴ DNA は2本鎖内で活性化されビニル体 DNA シトシンとの錯体の予想図 空間充填モデル を経由し効率的なアルキル化反応が進行するこ とがわかった。このクロスリンク反応は相補的な さらに細胞内への適用を考えた場合、標的近くで 位置にシトシンがある時のみ効率よく進行し塩 のみ高い反応性を示す分子設計が必要とされる。 基、位置選択性とも非常に高いことも確認してい そこで、1の高い反応性を目的の配列を持つ る。またスルフォキシド体及びスルフィド体のシ DNA の近傍でのみ発生させる方法として、2本 トシンに対するクロスリンク反応の効率と、標的 鎖を形成することで自動的に活性化される反応 がチミンである時のビニル体の生成収率を比べ を設計した(図4)。 た結果、クロスリンク反応の収率が高く、ビニル 体への活性化反応もシトシンに対して効率的に おこることが示唆される。 このように試験管内においてモデル反応は当初 の設計どおりに進行することがわかったので、次 に細胞内でこれらの反応が進行するかどうかを 検討することとした。細胞内でクロスリンク反応 が進行すれば、天然型のオリゴ DNA のアンチセ Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 25 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 ンス効果による阻害効率を向上できると考え、蛋 スルフィド官能基が脱離しシトシン特異的にア 白質合成阻害効率を反応の指標とした。天然型の ルキル化反応を起こす。そこで、この脱離反応に オリゴ DNA は細胞透過性さらには細胞内におけ 注目し、この一連の反応を遺伝子配列特異的薬物 る安定性が低く、細胞内にこれらを適用するため 放出システムに展開することにした。このシステ には、適切なドラッグデリバリーシステムが必要 ムでは異常となった遺伝子がある場合にのみ2 である。そこで我々は、東大・片岡教授、筑波大・ 本鎖を形成し活性化され、たんぱく質を阻害する 長崎教授との共同で PEG をコンジュゲートした 薬物を放出し、蛋白レベルでの阻害と同時に遺伝 オリゴ DNA とポリカチオンを混合させることで 子レベルにおける阻害ができるものと期待して 形成される、PIC ミセルを用いる薬物送達システ いる(図7) 。 ム 2) を利用し、細胞内におけるルシフェラーゼ 図7 を標的とする蛋白質合成阻害を調べた。その結果 遺伝子配列特異的薬物放出システム 癌細胞内 を図6にまとめてある。 クロスリンク 形成 複合体形成 HS S 図6 標的蛋白 機能性人工核酸の選択的なアンチセンス効果 反応性 ODN-PEG 複 合体 H ATGC3ATACT XT2GAGCA2T OH アンチセンス部分 (A) O O O n OEt OEt SMe O N N NH N G N NH2 N N N NH2 過剰発現してい る標的遺伝子 SMe 80 60 40 20 X=G or SPh 80 •ハイブリッド形成による 複数標的同時制御 •正常細胞と癌細胞の区別 5 G 10 1 5 10 SMe まず標的選択的に薬物を放出するシステムが細 胞内で進行することを確認するために、この反応 60 の進行を蛍光の増大で検出する方法として FRET 40 を利用したシステムを検討した。すなわち機能性 20 1 蛋白レベル での制御 遺伝子レベル での制御 - C-AACTCGTTA 標的mRNA --3' TACGGGTATGA 100 ミスマッチ5' ATGCCCATACT - X --TTGAGCAAT フルマッチ5' ATGCCCATACT G - G-XTGAGCAAT Normalized firefly luciferase (%) renilla luciferase Normalized firefly luciferase (%) renilla luciferase O O (B) 100 0 濃度(μM) X: S N 標的蛋白に結合 機能性 する薬剤放出 mRNA 人工核酸 オリゴの末端を蛍光標識し、スルフィド基で消光 0 フル ミス フル ミス マッチマッチ マッチマッチ 天然核酸 反応性核酸 反応性核酸を含むオリゴ DNA は天然型の DNA 剤を結合させることで、反応の進行とともに蛍光 が増強するシステムを構築し、試験管内で本反応 が効率よく進行する構造の検索を行った。 に比べて効率よく蛋白合成を阻害していること がわかる。さらに図6(B)に示すように、1塩基 図8 蛍光増大による反応の検出と塩基選択的蛍光増大 のミスマッチを含む配列では、機能性核酸を含む quenching オリゴ DNA による阻害効率が低下しており、天 Fluorescein 然型では認識できない1塩基の違いの認識でき ることがわかった3)。これらの結果は機能性核酸 S H2N N N が細胞内においても試験管内と同様に、標的との + N N H N N H O H HS 示唆しており、さらに今後は内在性の蛋白質阻害 へと展開する予定である。 Fluorescence Intensity (a.u.) ス効果により蛋白質合成を阻害していることを C 50 550 600 650 0 500 N(CH3)2 T 550 G 50 600 650 0500 + N N H N NH O H N 100 100 50 12 hr 0.5 hr 0500 NN 24 hr100 100 100 NH N N N ハイブリッド形成による活性化さらにはアルキ ル化反応が選択的に進行し、効率的なアンチセン Fluorescein N(CH3)2 NN 550 600 50 650 0 500 550 A 600 650 Wavelength (nm) 3.2本鎖形成活性化反応の薬物放出システムへ その結果、蛍光剤としてフルオロセイン、消光剤 の展開 としてダブシル基を導入した機能性オリゴが標 前項で述べた我々が開発した機能性人工核酸を 含むオリゴ DNA は2本鎖形成内で活性化され、 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 的との2本鎖形成によりダブシル基を放出し、蛍 光を増強することがわかった。さらにこの蛍光の 26 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 増強は相補的な位置にシトシンがある時に効率 なわち点変異が起こることが知られている6)。そ 的に進行することも確認した4)。今後、細胞内に こで非常に高い選択性を持つこれらの反応性分 おける反応の検出を検討する予定である。 子を用いて、図10に示す方法により、モデル細 4.三本鎖形成クロスリンク反応への展開および 点変異導入への応用 胞内における点変異導入について検討した。その 結果、細胞内における変異の導入効率(反応した 塩基が他の塩基に置き換えられる効率)は 前項で述べたように我々は、2本鎖 DNA を形成 0.1-0.3 %と高くないものの、変異が導入されたの し非常に選択的に反応する人工 DNA の開発に成 はすべて反応した塩基に限定されていることが 功した。そこで次に標的を2本鎖 DNA に拡大す わかった7)。 るために、3本鎖内で反応する新規の機能性人工 図10 DNAへの点変異導入を調べた方法 核酸の設計を行った。安定な3本鎖 DNA は、ポ リプリン(A,G のみからなる配列)-ポリピリミ プラス ミド 細胞に導入 ジン(T,C のみからなる配列)に対して、ポリピ リミジンからなるオリゴ DNA により形成される。 この3本鎖内で反応する反応性分子として、反応 細胞 反応性人工 DNA断片 変異頻度 0.2-0.3% 性塩基を適切な長さのスペーサーで糖部分と連 チルスペーサーを有する(5)はシチジンにエチル 白い大腸菌 のDNAの配 列を調べる 変異した塩基はすべて Gへの変異 結した(5,6)を設計した(図9)。これらの分 子を組み込んだオリゴ DNA は設計どおりに、ブ プラスミド DNAを抽出し て大腸菌に 導入 5’.... 2本鎖の標的DNA 3’....TTCATTTCTCTTTTTTCTTCT A CTCCC.. AAGTAAAGAGAAAAAAGAAGA T GAGGG.. TTTCTCTTTTTTCTTCT X スペーサーを有する(6)はアデノシンに対して非 またアデノシン(A)と反応する反応剤を用いた場 常に選択的に共有結合を形成することを明らか 合には、反応したアデノシン(A)はグアノシン(G) にした5)。 へと選択的に変換されることがわかった。このよ 図9 うな反応剤の例は、光により活性化され反応する 3本鎖内で反応する反応性分子の設計と反応性の 評価 ソラーレンが知られているのみであり、新規の反 (A) 3' 応剤により変異が導入できたことは非常に興味 (B) 3' O O ブチルスペーサー (5) O N 3' N TFO N O + N N G N H N H H O NH N H PU 3' N N O N TFO C ついて検討したいと考えている。 + N T 3' PY N N H N H H H2N O N N N H N N A O N N H2 H 深い。今後はさらに変異効率を向上できる方法に エチルスペーサー (6) O N O 3' PU 5' C T T T Z X Y T T C T C C T T T C T A A G A G G A A A G A C C C 3' TFO A A A C T T T T T T G A A A 5' 3' T T C T C C T T T C T G G G Pu G C A T X C G T A Y Labeled Pu Pu Pu Pu 5.結 論 PY 遺伝子に対して選択的に結合し反応する分子の C G T A G C A T PY PY PY PY 開発は、新しい遺伝子操作技術として発展する可 付加体 Z=5 1本鎖 能性があると考えられる。我々は、これらの新し い機能を実現できる分子を創製し、それらを用い てさまざまなバイオ機能の実現さらには創薬の Z=6 付加体 展開を目指している。本稿で述べたように、我々 1本鎖 は独自に設計した分子を用いて、DNA に対する 5' Py Parallel Triplex 選択的かつ効率的な反応の開発に成功し、前記し たような基本的な機能を実現できる技術を開発 した。今後は細胞内における機能の実現を目指し、 共有結合を形成した部分は細胞内の修復系など の酵素に認識され他の塩基に置き換えられる、す Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) さらには新しい創薬手法としての展開を目的に 研究をすすめていきたいと考えている。 27 社団法人 謝 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 辞 この度は日本薬学会薬学研究ビジョン部会賞に選出いただき、関係諸先生方に感謝いたします。本受 賞の対象となりました研究は筆者の前任地であります九州大学大学院薬学研究院 佐々木茂貴 教授 のご指導の下、行ったものであり深く感謝いたします。また細胞内におけるアンチセンスの結果は共 同研究者のご協力により得られた結果であり CREST 研究代表者 片岡一則教授、共同研究者 長崎幸 夫教授、大石基助手、原島秀吉教授に感謝いたします。また最後に述べた細胞内での点変異の結果は 筆者の留学先である NIH で行ったものであり、 ご指導いただいた Dr. M. M. Seidman に感謝いたします。 本研究は文部科学省科学研究費、科学技術振興機構戦略的基礎研究推進事業などの助成を受けて行っ たものでありその資金援助に深く感謝いたします。 参考文献 1) Kawasaki, T.; Nagatsugi, F.; Md. Monsur Ali; Maeda, M.; Sugiyama, K.; Hori, K. And Sasaki, S. J. Org. Chem. 70, 14-23 (2005); Nagatsugi, F.; Kawasaki, T.; Usui, D.; Maeda, M.; Sasaki, S. J. Am. Chem. Soc., 121, 6753-6754 (1999); 2) M. Oishi, S. Sasaki, Y. Nagasaki, K. Kataoka, Biomacromolecules, 4, 1426-1432 (2003); M. Oishi, F. Nagatsugi, S. Sasaki, Y. Nagasaki, K. Kataoka, ChemBioChem, 6, 718-725 (2005). 3) Ali M. M., Oishi M., Nagatsugi F., Mori K., Nagasaki Y., Kataoka K., Sasaki S., Angew. Chem. Int. Ed.,45, 3136-3140 (2006) 4) S. Nakayama, F. Nagatsugi, S. Sasaki, Novel drug releasing system triggered by hybridization with target sequence, Nucleic Acids Symp. Ser., 50, 143-144 (2006) 5) Nagatsugi F.; Matsuyama, Y.; Maeda, M.; Sasaki, S., Bioorg Med Chem Lett, 12, 487-9 (2002); Nagatsugi, F.; Usui,D; Kawasaki, T.; Maeda, M.; Sasaki, Bioorg. Med. Chem. Lett, 11, 343-345 (2001) 6) Wang, G., Levy, D.D., Seidman, M.M., Glazer, P.M. Mol Cell Biol., 15, 1759-1768 (1995); Majumdar, A., Khorlin, A., Dyatkina, N., Lin, F.L., Powell, J., Liu, J., Fei, Z., Khripine,Y., Watanabe, K. A., George, J., Glazer, P. M., Seidman, M. M. Nature Genet., 20, 212-214 (1998). 7) Nagatsugi, F.; Sasaki, S; Miller P. S.; Seidman M. M. Nucleic Acids Research, 31, e31 (2003) ◆略 歴◆ 永次 史 (Fumi NAGATSUGI) :1988 年九州大学薬学部研究科修士課程卒 1989 年 九州大学薬学部助 手 1996 年薬学博士取得 2001-2002 年米国国立衛生試験所(NIH)博士研究員 2003 年九州大学大学院薬学研究院 2006 年4月 東北大学多元物質科学研究所 教授 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 28 助教授 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 薬学研究ビジョン部会からのお知らせ 第5回創薬ビジョンフォーラム「薬学研究における分子イメージング」 日 時:平成19年3月29日(木) 9:00-12:00 (日本薬学会第127年会シンポジウムS20) 会 場:ボルファートとやま Co-Chairs:西島 和三(持田製薬医薬開発本部) 藤林 靖久(福井大学高エネルギー医学研究センター) 開催趣旨:生体内で生じた分子・細胞レベルでの事象を非侵襲的に検出・画像化する分子イメージン グは、詳細な薬物の挙動研究、あるいは疾病の分子機構解明等に大いに貢献して、生命機能を理解す るための必須テクノロジーになると期待される。PET(Positron Emission Tomography:ポジトロン断層 法)やMRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像法)などの画像診断技術の進展に伴い、文 部科学省の分子イメージング研究プログラムが2005年に開始され、PET疾患診断研究施設として 放射性医学総合研究所(放医研)、創薬候補物質探索施設として理化学研究所(理研)が拠点となって いる。また、分子イメージングは医学・薬学・工学・生物学など各分野で注目され、2006年に日 本分子イメージング学会が設立されている。現在、分子イメージング技術は、医薬品の体内動態視覚 化を含めた直接検出、臨床早期試験段階での開発候補品の絞込など、診断薬・治療薬の研究開発推進 に大きな力を発揮しつつある。本フォーラムでは、現在の分子イメージング研究、特にin vivo イメー ジングについて、欧米、日本の現状を含めて解説した後、放医研、理研、および大学などにおけるPET、 MRI、光(蛍光)等を活用した最新の分子イメージング研究、さらに脳神経系等への応用を踏まえた 研究の現況と今後の展開を話題とする。 9:00 オーガナイザー挨拶 9:05 藤林 靖久(福井大学高エネルギー医学研究センター) 「分子イメージングとは」 9:15 樋口 真人(放射線医学総合研究所) 「モデルマウスの生体イメージングを利用したアルツハイマー病診断薬・治療薬開発」 9:45 尾上 浩隆(理化学研究所) 「創薬と病態科学のための分子イメージング」 10:15 青木 伊知男(放射線医学総合研究所) 「高磁場磁気共鳴画像法による細胞・分子イメージング:マンガン増感法を中心に」 10:45 浦野 泰照(東京大学大学院薬学系研究科) 「蛍光プローブの精密設計に基づく病態光イメージング」 11:15 内海 英雄(九州大学大学院薬学研究院) 「ESRI/OMRI による生体レドックス動態の分子イメージング」 11:45 総合質疑応答・総括 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 29 社団法人 編 集 後 長洲 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 記 毅志 エーザイ株式会社 Pharma VISION NEWS 編集委員長 薬 学 研 究 ビ ジ ョ ン 部 会 よ り 、 Pharma VISION NEWS No.9 をお届けいたします。本部会では毎 年優れた研究に対する部会賞を選出しておりま す(詳細は HP を御参照ください)。受賞者の講演 はシンポジウムで行っていただくのですが、時間 も限られていることからなるべく多くの方に見 ていただくためにこのビジョンニュースで執筆 していただくことにいたしました。 今回(2006年度)は、非常に優れた応募が多く 最終的に 4 人の方が受賞されております。ケモイ ンフォマティクス、中枢神経組織培養、創薬標的 タンパク構造科学、機能性核酸に関する研究と、 今日的な話題でかつ多岐にわたっての優れた研 薬学研究ビジョン部会 大和田 智彦 小澤 正吾 片倉 晋一 鈴木 洋史 辻本 豪三 長洲 毅志 長瀬 博 西島 和三 松崎 勝巳 三橋 晴美 南野 直人 横井 毅 究であり、皆様にとって 御一読の価値があるも のになっていると思っ ております。そのほかも いつものように、大所高 所からの薬学研究への 提言や、最先端の話題が 満載ですのでどうぞお 楽しみください。また、 お楽しみいただけまし たら、バックナンバーを取り揃えておりますので 一度部会の HP にもお立ち寄りいただければ幸い です。そして、まだでしたらぜひとも本部会への 御登録をしていただきますようお願い申し上げ ます(登録は無料です)。また、編集部では皆様 からの御感想、御意見をお待ちしております。 ぜひとも御一報ください。(長洲・記) 常任世話人 【部会賞選考委員長】 東京大学大学院薬学系研究科 厚生労働省 国立医薬品食品衛生研究所 第一製薬株式会社 【副部会長】 東京大学医学部付属病院 京都大学大学院薬学研究科 【編集委員長】 エーザイ株式会社 【編集副委員長】 北里大学薬学部 持田製薬株式会社 京都大学大学院薬学研究科 【部会賞選考副委員長】 サノフィ・アベンティス株式会社 国立循環器病センター研究所 【部会長】 金沢大学薬学部 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 30 社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 編集委員会からのお知らせ この Pharma VISION NEWS は、本部会が年 2 回の予定で部会員宛にメール発信いたします。 ご希望の方は、薬学研究ビジョン部会事務局宛 にお問合せ下さい。 部会員登録が必要です。部会員登録用紙は、部 会 HP から PDF ファイルをダウンロードして 下さい 部会員の登録には、入会金・年会費は無料です。 日本薬学会の会員でなくても部会委員登録は できます。 投稿原稿を募集いたします。詳細は、編集事務 局にお問合せ下さい。 発行:薬学研究ビジョン部会【部会長:横井 毅】 編集委員会: 長洲 毅志【委員長】,長瀬 博【副委員長】 鈴木 洋史 ,辻本 豪三 甲斐 俊次 ,曽我 公美子【編集事務局】 編集事務局: 甲斐 俊次 北里大学薬学部生命薬化学教室 〒108-8641 東京都港区白金 5-9-1 TEL:03-5791-6375 FAX : 03-3442-5707 曽我公美子 エーザイ株式会社 創薬研究本部 〒300-2635 茨城県つくば市東光台 5-1-3 TEL:029-847-5603 FAX:029-847-1006 薬学研究ビジョン部会事務局: ※お問合せ、登録内容変更等のご連絡はこちらへ 金沢大学薬学部 薬物代謝化学研究室内 〒920-1192 金沢市角間町 TEL:076-234-4438 FAX:076-234-4407 E-mail:[email protected] ※本誌全ての記事、図表等の無断複写・転写を禁止いたします。 Pharma VISION NEWS No.9 (February 2007) 31