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研究紀要 第 208 号
21 世紀に求められる資質・能力を育成する授業デザインに関する研究(Ⅱ)
- ICT を活用して授業と家庭学習とを関連させた協働学習の内容・方法 -
平成 27 年(2015 年)3月
大阪市教育センター
研究紀要 第 208 号
21 世紀に求められる資質・能力を育成する授業デザインに関する研究(Ⅱ)
- ICT を活用して授業と家庭学習とを関連させた協働学習の内容・方法 -
本研究では,まず,21 世紀に求められる協働的な問題解決能力や批判的
思考力を育成する方法の一つとして,授業と家庭学習とを関連させた協働
学習の重要性について押さえた。次に,反転授業などの先行の研究・実践
を収集・整理し,その成果と課題について検討した。その結果を踏まえて,
ICT を活用して授業と家庭学習とを関連させた協働学習を教科の特性に応
じて構想し,その有効性を授業を通して検証した。
授業実践の結果,学習者が家庭学習において授業の課題に関する情報を
収集したり予習・復習したりなどして自分の考えを明確にして授業に臨む
ことによって協働学習は活性化し,その結果として彼らの問題解決能力や
批判的思考力が高まったことが明らかとなった。
【キ-ワ-ド】
21 世紀に求められる資質・能力
家庭学習
問題解決能力
協働学習
ICT の活用
批判的思考力
教育振興担当
谷
村
載
美
古
閑
龍
太
郎
藤
田
麻
衣
子
山
内
隆
史
目次
はじめに
Ⅰ
研究の経過と課題
1
I C Tを活用して授業と家庭学習とを関連させた協働学習の在り方 ・・・・・・・・・
協働学習の活性化と家庭学習・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
先行の研究・実践に学ぶ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(1) 反転授業(Flipped Classroom) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2) 反転授業以外で授業と家庭学習とを関連させた事例 ・・・・・・・・・・・・・
(3) 本研究が考える協働学習を活性化させる家庭学習の内容 ・・・・・・・・・・・
3
3
4
4
6
7
小学校国語科におけるICTを活用した協働学習の実際 ・・・・・・・・・・・・・・・
―「町のよさを伝えるデジタルリーフレットを作ろう」(小学校第6学年)の学習―
1 国語科において批判的思考力を高める必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 国語科における協働学習の活性化と家庭学習 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
3 授業計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4 ポイントとなる授業の実際 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5 授業の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
小学校理科における ICT を活用した協働学習の実際 ・・・・・・・・・・・・・・・
-「雲と天気の変化」(小学校第5学年)の学習-
1 理科において問題解決能力を育成する必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 理科における協働学習の活性化と家庭学習 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3 授業計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4 ポイントとなる授業の実際 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5 授業の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
21
1
2
Ⅳ
Ⅴ
Ⅵ
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅱ
Ⅲ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中学校数学科における ICT を活用した協働学習の実際 ・・・・・・・・・・・・・・
-「円の性質」(中学校第3学年)の学習-
1 数学科において問題解決能力を育成する必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・
2 数学科における協働学習の活性化と家庭学習 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
3 授業計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4 ポイントとなる授業の実際(実験群) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5 授業の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
研究のまとめと今後の課題
おわりに
資料1
資料2
資料3
資料4
9
9
11
13
17
21
21
24
25
27
33
33
33
35
38
40
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
「町のよさを伝えるデジタルリーフレットを作ろう」(小学校第6学年)の指導計画 ・・・・
児童が作成したデジタルリーフレットの例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「雲と天気の変化」(小学校第5学年)の指導計画 ・・・・・・・・・・・・・・
実験群における家庭学習ワークシート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
47
50
51
55
はじめに
聞くことができている」と回答する学校の方が,
教科の平均正答率や学習意欲が高い傾向が明ら
知識基盤社会化やグローバル化が進展してい
かにされている 3)ことからも,その重要性が確
く中で,情報を取り入れ,吟味し,それを活用
認できる。ただ,児童生徒がお互いの考えを交
しながら問題解決していくだけでなく,他者と
流しながら考えを練り上げ,新しい知識を仲間
協働して新しい情報を創造し発信できる能力の
とともに構築していく協働学習を充実するには,
育成が求められている。21世紀を生き抜くには,
そのための時間確保が欠かせない。一単位時間
多様な価値観をもつ人々と共に思考し,協力・
内でどのように生み出すかが課題となる。その
協働しながら正解のない課題,経験したことの
解決策として家庭学習と授業との関連を考えた
ない課題を解決していく能力を身に付けなけれ
い。学習者が家庭学習で授業の課題に関する情
1)
報を収集したり予習・復習したりなどして自分
ばならないからである
。
ICTを活用した協働学習は,まさにそれに応え
の考えをもって授業に臨むことによって,協働
るものと考える。学習者が,タブレット端末(以
学習を活性化することができる。それがひいて
下,TPC)や電子黒板などを活用して,学級内は
は,本来求められている家庭学習における学習
もちろんのこと学級外の人々と互いの考えを共
者の自主的な学習態度の形成につながると考え
有したり吟味したりしながら課題の解決にあた
る 4)。文部科学省が「家庭学習の継続的な習慣
る学習が可能となる。教室や学校,地域だけで
付けを図るために家庭学習の課題を与えるなど
なく世界が有する分散された知識を,道具を媒
の指導上の取組が,学力向上に有効である」 5)
介にして統合し学ぶという社会的分散認知の考
と提示していることからも,その有効性が期待
えを具現化できるのである。
できる。
そうした考えのもと,第1年次(2013年度)
そこで,本研究では,ICTを活用して授業と家
の研究では,協働学習を活性化するためのICT
庭学習とを関連させた協働学習の内容・方法を
の活用の在り方を検討し,その結果を踏まえて
探ることを目的とする。まず,ICTを活用して授
教科の特性に応じた授業を構想・実践した。授
業と家庭学習とを関連させた協働学習に関する
業実践の結果,ICTを活用した協働学習は,互い
先行の研究・実践を収集・整理し,その成果と
の考えを交流し合ったり組み合わせたりする学
課題について検討する。次に,その結果を踏ま
習を促進し,その結果として学習者の問題解決
えて,教科の特性に応じた学習教材及び学習プ
能力及び批判的思考力を高めることを明らかに
ログラムを開発し,授業を通してその有効性を
した
2)
。
検証した結果を提示する。
さらに,学習者が他者との相互作用を通して
Ⅰ
知識を構築しながら,協働的な問題解決能力な
研究の経過と課題
どを含む21世紀に求められる資質・能力を育む
には,協働学習の時間を十分に確保する必要が
第1年次の研究では,まず,国内外で議論さ
ある。全国学力・学習状況調査において「情報
れている 21 世紀を生き抜く児童生徒に求めら
通信技術を活用して,子ども同士が教え合い学
れる資質・能力に共通するのは汎用的な資質・
び合う学習(協働学習)や課題発見・解決型の
能力であり,なかでも批判的思考力や協働的な
学習指導を行った」と回答している学校の方が,
問題解決能力など,高次の思考や判断を必要と
また,児童生徒が「自分の考えをしっかりと伝
する能力が重視されていることを押さえた。次
えることができている,相手の考えを最後まで
に,そうした能力を育成するための協働学習の
-1-
在り方について検討した。その結果,協同学習
ら三宅なほみの提唱する知識構成型ジグソー法
と協働学習の考え方を比較し,次のことを明ら
に学び,本研究が考える協働学習の進め方の例
かにした
6)
(表Ⅰ-1,図Ⅰ-1)とそれを活性化する ICT
・協同学習は,個人の役割を意識しながら互恵
の活用法を提示した。さらに,それらをもとに,
的な相互依存関係を基に与えられた課題を解
教科の特性に応じて ICT を活用した協働学習を
決することによって,学ぶ内容の理解・習得を
構想し,その有効性を検証するために,大阪市
目指すと共に,協同の意義に気づき,協同の
学校教育 ICT 活用事業モデル校の協力を得て授
技能を磨き,協同の価値を学ぶことを意図し
業を実施した。
ている。
授業実践の結果,次のような成果を得た。
・協働学習は,グループを編成して学習する点
小学校国語科では,プレゼンテーションソフ
や役割分担する点では協同学習と同様である
トを活用して資料の加筆・修正に要する時間を
が,時間をかけた相互作用を重視し,学習者
短縮することにより,お互いの助言を参考にし
が他者から知識と学び方を学びながら,与え
て資料を点検・評価し,改善していく時間を確
られた課題だけでなく新たな課題に挑戦でき
保するよう授業デザインした結果,自分の考え
る力を身に付けることを期待している。
を見直し深めるなどの児童の批判的思考力を高
次に,上記の協働学習の考えを踏まえなが
表Ⅰ-1
めるのに効果を上げた。
グループの構成員を変化させ
全体で(学級全体)
て進める協働学習の例
①
全体で学習課題を把握する。
②
個人で,学習課題を解決するための小
学習課題を把握する
課題や解決方法について考える。
③
グループ(「学習班」と呼ぶ)や学級
全体で話し合い,学習課題を解決するた
ペア・グループで(2~6人)
めの小課題や解決方法を選択・決定する。
④
学習班から1名ずつが集まって学習課
題を解決するための小課題や解決方法別
の新しいグループを編成する(「研究班」
と呼ぶ)。各研究班では,担当する小課
題を解決するための資料を収集・整理し
たり他のグループとは異なる方法で観
察・実験を行ったりして,学習課題に対
する解を追究し,結果を得,考察する。
⑤
・協力して学習を進める。
・互いの考えを出し合い,自分の考えを見直す。
・互いの考えを組み合わせて,新しい見方をしたり,新しいもの
を創造したりする。
「学習班」に戻り,「研究班」で行っ
た学習内容を交流し合い,「学習班」に
おける考察をまとめる。
⑥
全体で(学級全体)
各「学習班」における考察を全体で交
各グループの考えなどを交流し,まとめをする。
流し,全体で結論を導出する。
個別で
学習を振り返る
図Ⅰ-1
-2-
協働学習の進め方
小学校理科では問題解決の8ステップ(①自
表Ⅱ-1
然事象への働きかけ,②問題の把握・設定,③
○
予想・仮説の設定,④検証計画の立案,⑤観察・
実験,⑥結果の処理,⑦考察の展開,⑧結論の
発表や話合い
考えや作品を提示・交換しての発表や話合い
○
導出)を確実に辿りながら「考察の展開」,「結
授業における協働学習の場面 7)
協働での意見整理
複数の意見や考えを議論して整理
論の導出」などの場面で自分の考えを見直した
○
り深めたりできるようにI C Tを活用した協働学
協働制作
グループでの分担や協力による作品の制作
習を位置づけることによって,児童が自分たち
○
で問題を見出し,予想や仮説の基に観察,実験
学校の壁を越えた学習
遠隔地の学校等との交流
などを行い,結果を整理し,相互に話し合う中
から結論を導出するといった問題解決能力を高
表Ⅱ-2
めるのに効果をあげた。
1
中学校数学科では,
「資料の活用」領域におい
学習面についての効果
第1
て統計的問題解決過程の一つである「PPDAC サ
協働学習の効果 8)
Piaget 的視点
学習者が他人と接するうち感じる認知
イクル」を生徒が意識して学習できるようにす
的葛藤が,自分の考えを見つめ直し,対立
るとともに,ICT を活用して作業時間を短縮し
する立場を両立させるために追加情報を
て互いの意見を交流できる協働学習の時間を確
求め,新しい考えを導く。
保することによって,生徒の統計的に問題を解
第2
決する能力を育成することができた。
Vygotsky 的視点
能力の低い者が,より熟練した者の支援
今後さらに ICT を活用した協働学習の有効性
(足場かけ)によって,一人で実行できな
を確実なものにするには,学習者が与えられた
かった課題を実行でき,新しいスキルおよ
学習課題の解決だけでなく,既に学習した事例
び知識が獲得される。
第3
や例題と類似性が低い課題でも,他者との相互
認知的精緻化
互いの提案を認識し,明確化・訂正・追
作用を通して解決できる能力の育成が求められ
加・構築・関連づけすることにより,グル
る。そのためには,協働学習の時間を十分に確
ープメンバーが開始時に有しなかった知
保し活性化する必要性が課題として残された。
識および問題解決方略を,共同で構築でき
る。
Ⅱ
ICTを活用して授業と家庭学習とを関
2
社会的育成面についての効果
・
連させた協働学習の在り方
競争や個別と比べると,個人間の好意
度を促進し,自尊感情の促進を促す。
1
・
協働学習の活性化と家庭学習
協働学習には,表Ⅱ-1に示すような場面があ
他者と適切に関わるための社会的能力
が育成される。
り,児童生徒同士の相互作用によって学習理解
が促進される。その理由として,町・中谷は,
協働学習の活性化を図りたい。家庭学習では,
Webb.N.M.による説明などを引用し,表Ⅱ-2の
持ち帰った動画やデジタル教材などを用いた予
ように紹介している。
習・復習を各自のペースで行ったり,学校内だ
ただ,こうした効果を得るために協働学習に
けでは得ることができない意見や事物・現象に
十分な時間を費やすには制約があるのも確かで
触れたりすることができる。その結果,学校の
ある。そこで,家庭学習と授業とを関連させて
授業の課題に対する自分の考えをもったり,基
-3-
礎的な事項の予習・復習をしたりして授業に臨
させた協働学習の在り方とはどのようなものだ
むことができ,授業での協働学習が充実したも
ろうか。先行の研究及び実践のいくつかを概観
のとなる。学習者は,家庭学習で考えてきた内
し,協働学習の具体化にあたっての留意点を探
容を授業中に他者に説明することによって自分
りたい。
の知識状況をモニタリングし,その結果を基に
(1) 反転授業(Flipped Classroom)
考えを修正することができ,概念変化の促進が
ICTを活用して授業と家庭学習との関連を図
可能となる。また,他者からの質問によって意
った協働学習として,近年になって注目を集め
見交流が活発になり,新たな視点に立つ機会が
ているのが「反転授業(Flipped Class-room)」
与えられる。
(以下,反転授業)である。反転授業とは,授
このように,家庭学習と授業を関連させるこ
業と宿題の役割を反転させ,授業時間外にデジ
とで,協働学習における相互作用が充実し,そ
タル教材等により知識習得を済ませ,教室では
の結果として,学習者の学習理解度の向上や見
知識確認や問題解決学習を行う授業形態のこと
方・考え方の深化が期待できるのである(図Ⅱ-
を指す(図Ⅱ-2)。
1)。
事前学習によって基礎的な知識を備えた状況
にすることで予め学習内容に関する理解を深め,
その後の対面授業では,インプットされた知識
見
方
・
考
え
方
自
分
な
り
の
相互作用
新しい視点への気付き
考えの見直し,改善
見
方他
・
考者
えの
方
をベースにグループワークやディベートなどを
行い,学習効果を高めることをねらっている
10 )。
反転授業は,2010年頃から欧米を中心に教育
関係者の間で注目を集めるようになり,授業の
補助教材とし使用できるオープン教材がインタ
学習理解度の向上
見方・考え方の深化
図Ⅱ-1
ーネット上に提供されるようになってから広が
協働学習の活性化による効果
りをみせた。日本においても2012年頃から高等
教育を中心に研究・実践報告がされるようにな
2
先行の研究・実践に学ぶ
った。そうした中から反転授業の実践事例を概
では,ICTを活用して授業と家庭学習とを関連
観し,その成果と課題を把握したい。
反転授業を導入した事例
①
外国語授業で単語や発音等
を事前学習でおさえ,対面授
業で実践の場を設定する。
②公式や方程式を事前学習で理
解し,対面授業で応用問題に
取り組む。
③操作や作業の手順等を事前に
学習し,対面授業で実践する
(実習・演習等)。
④事例を設定し,それに対する
考えを事前にまとめ,対面授
業で発表や討論をする。
図Ⅱ-2
従来授業と反転授業 9)(愛媛大学教育デザイン室「効果的な反転授業とは」より抜粋)
-4-
宮城県富谷町立東向陽台小学校の実践 11)
たな考えに気付く→本時のまとめと振り返りを
宮城県富谷町立東向陽台小学校では,日本に
する(算数の場合)→アンケートに回答する,
おいていち早く反転授業に取り組み,算数科(第
というように授業を展開し,協働学習の時間を
6学年 「比例」)における実践がされている。
確保するようにしている。対象科目は算数と理
家庭学習で VTR の視聴による予習を行い,分か
科,対象学年は,算数3~6年生,理科4~6年
ったことや分からなかったこと,大切だと思っ
生である。児童がより意欲的に授業に臨めるこ
たことなどをノートにまとめる。学校の授業で
と,教員が児童の実態を正確に把握して授業に
は,VTR の内容の確認を行った後に本時の課題
臨めること,授業で児童に協働的な問題解決能
を提示し,自力解決→グループで検討→発表→
力を育成できることを期待して,その効果検証
全体で検討,まとめ→適用問題の解決というよ
を進めている。
①
うに学習を進めている。その結果,授業そのも
ただ,動画コンテンツの作成に関しては課題
ののレベルアップができたり,話し合いを充実
が残っているという。各学校の教員が分担して
させたりすることができ,学習の見直しにつな
企業とやりとりしながら学期ごとに製作してい
がるなどの成果があったと報告している。
る動画コンテンツは,その製作者らの問題意識
②
12)
によって作成されたものであり,実際の授業で
佐賀県武雄市では,全ての児童が TPC を家庭
使用する授業者の問題意識や学習者の実態に合
佐賀県武雄市の「スマイル学習」の実践
に持ち帰り,動画による予習を終えてから,授
わない場合もあるなどである。
業 に 臨 む 学 習 方 法 を 「 ス マ イ ル 学 習 (School
③
近畿大学附属高等学校の実践 13)
Movies Innovate The Live Education classroom
近畿大学附属高等学校では,英語科及び数学
「教員の動画で教室の学びを革新する」意。)」
科での実践がされている。英語科では,レッス
と呼んで反転授業を実施している(図Ⅱ-3)。
ンの英文の訳及び解説を行ったビデオ講義を家
庭で視聴し,語彙の習得や音読活動を行ったり
従来の授業
学
校
家
学習管理システム上に作られた確認テストを行
庭
ったりする。その後,授業では語彙の復習とテ
ねらい
ひとり
グループ
学習
学習
「スマイル学習」
スト及び英文理解の確認を行ったうえで,生徒
まとめ
が数人のグループを編成して協働学習を行う。
算数科においては家庭で解説ビデオを使って自
家
庭
学
校
家
庭
習を行い,授業では問題演習を行い,個別学習
や一斉指導に加えてジグソー法を取り入れた協
ねら い
ひとり
グループ
発展
定着
学習
学習
学習
まとめ
働学習も行う。その結果,授業時間に余裕が生
まれ,生徒の学んだ知識の確認や協働学習をそ
図Ⅱ-3
武雄市が取り組む「スマイル学習」
の時間にあてることが可能となったため,学習
内容の定着が促され,授業の進度を速めること
家庭での動画視聴時間は5~7分間程度。そ
ができたとしている。
の後,ワークシートで演習問題を解き,解答後
こうした実践事例を収集・整理し,重田勝介
にアンケートで感想を記入するまでが家庭学習
は反転授業の効果と課題及び留意点を表Ⅱ-3
で,かかる時間は10~25分程度としている。学
のようにまとめている。
校では,予習動画について確認する→本時のめ
重田の指摘や実践事例にみるように,オープ
あてを知る→問題を解く→話し合いをする→新
ン教材が普及していない中では反転授業を容易
-5-
に導入するのは困難だといえる。また,土佐幸
型。理科教育は,帰納と演繹を行ったり来たり
子は,アメリカにおいては,反転授業は「学力
するのが本来望ましいので,日本の理科教育で
の高い子供には有効であるが,低い子供には有
反転授業の単純導入はそぐわないと考える」 15)
効ではないという議論があり,有効でないと判
と指摘している。
断する教師は,反転授業は導入していない」
「反
こうした反転授業の課題や問題点を踏まえる
転授業は,基本概念を先にレクチャーする演繹
と,「新しい授業を予習してくる」 16) という反
転授業の定義そのものを受けた進め方だけでな
表Ⅱ-3
重田勝介による反転授業の効果と
課題及び留意点
く,他の方法を探ることが必要だといえる。
14)
そこで,次に,反転授業以外で授業と家庭学
<効果>
習とを関連させた協働学習に取り組んでいる事
・生徒の学習時間を実質的に増加させる。
例をみてみる。
・学んだ知識を使う機会を増やす。
(2) 反転授業以外で授業と家庭学習とを関連さ
せた事例
・学習の進度を速めることも可能である。
佐賀県佐賀市立若楠小学校の実践 17)
○
<課題と留意点>
佐賀県佐賀市立若楠小学校では総務省「ICT
・教室外や学校現場に十分な広い帯域のイン
ターネット回線が整備され,十分な数の情
絆プロジェクト」実証校として,「学習者主体」
報端末が提供されることが必須である。
「コミュニケーションすることによる,子ども
・反転授業に用いることができる十分な質と
同士の相互作用」
「学習目標の達成,課題解決に
量のオープン教材が提供されることが欠か
向かう(個として,チームとして)」を要件とし
せない。
た「協働的な学び」の時間の確保及び授業の質
・生徒の学校外における自習時間を十分に確
の向上をめざし,家庭学習と翌日の授業とを関
保することが必要である。
連させる方法を模索している。その中で,4つ
・教師が「講師」としてだけではない専門性
のパターンとそれらを実践する上での留意点を
を持つことも不可欠である。授業において
図Ⅱ-4のように示している。
個々の生徒の理解度を十分に把握し,生徒
パターン1の例としては,国語科「新聞記事
に個別に学習支援を行い,協同学習を促す
を読み比べよう」(第5学年)の学習において,
ファシリテーターとしての力量が問われ
同じ事柄を取り上げているが書き手の異なる新
る。
パターン1
次時の課題に対する自分の考えをもっておく
(予習)
パターン2
次時の基礎基本的な事項の学習
(予習)
パターン3
次時の学習に必要な既習事項の復習中心,強制しない予習(復習+α予習)
パターン4
次時の学習に必要な既習事項の復習のみ
(復習)
<実施上の留意点>
・通常の宿題として課す。
・10~15分程度で終わる負担感の尐ないもの。
・予習部分は無理に強制しない。
・もし忘れても,登校時の朝の時間にでもできる程度のもの。
図Ⅱ-4
佐賀市立若楠小学校における翌日の授業と関連させる家庭学習の内容
-6-
聞記事を読み比べ,書き手の意図の違いを捉え
力,学びをファシリテートとする力をアップさ
るところまでを家庭学習で行い,学校ではTPC
せることがセットになる」と,実践上の留意点
に書き手の意図とそう思う根拠について学習者
について指摘している。
それぞれが書き込みながら話し合い,グループ
(3) 本研究が考える協働学習を活性化するICT
としての結論を出し共有することで,自分の考
を活用した家庭学習の内容
えを吟味するという学習を行っている。
以上,先行の研究・実践を概観した結果,反
パターン2の例としては,算数科「比例をく
転授業の考え方だけでなく他の方法も取り入れ
わしく調べよう」(第6学年)の学習において,
ながら協働学習を活性化する家庭学習の在り方
y÷xを出して解を求める式を書くところまで
を探るのが望ましいといえる。その際には,家
を比例に関する基礎的事項の予習として家庭学
庭学習に本来求められる自発的・自主的・探究
習で行い,次時では,発展的な課題を協働で解
的な学習態度を培う 18)ことを忘れてはならない。
決し,残りの時間はTPC上に映し出された練習問
そこで,本研究では,ICTを活用した家庭学習
題に各自で取り組むという学習を行っている。
として,次のような内容を考え,それらを授業
パターン3の例としては,算数科「立体をく
と関連させることで協働学習の活性化を図り,
わしく調べよう」
(第5学年)において,家庭で
児童生徒の協働的な問題解決能力及び批判的思
既習の長方形,正方形,平行四辺形,三角形の
考力を高めたいと考える。
面積の求め方の復習を行うとともに台形の面積
・教師が作成した動画やデジタル教材などを用
の求め方を考える。それを受けて,授業では,
いて授業の予習・復習を各自のペースで行い,
復習事項を確認した後に台形の求め方について
授業で求められる知識・技能を習得・活用し
TPCのシミュレーション教材を活用し,ペア→グ
たり,疑問をもったりする。また,授業の課
ループ→全体と話し合いを進め,児童主体で台
題に対する自分の考えをもつ。
形の面積の公式を導き出すという学習を行って
・学校内だけでは得られにくい事物・現象等に
いる。
触れるため,観察,調査,研究を行う。
パターン4の例としては,理科「流れる水の
・授業中に抱いた問題を解決するために探究的
はたらき」
(第5学年)において,校庭のミニチ
な学習を行う。
ュアモデルで実験した結果を実験中に記録する
第Ⅲ~Ⅴ章では,小学校国語科及び理科,中
だけでなく,実験中に撮影した映像を家に持ち
学校数学科において授業をデザインし,大阪市
帰り,何度も繰り返し見て観察結果を整理する。
学校教育ICT活用事業モデル校の協力を得て,そ
次時では,それを受けてグループで考察を深め,
の有効性を検証した結果を提示する。
全体で交流し結論を導出する時間を確保すると
いう学習を行っている。
注)
このように,家庭学習と翌日の授業とを関連
1)
コミュニケーション教育推進会議審議.子
させることで話し合いと全体共有の時間を確保
どもたちのコミュニケーション能力を育むた
することができ,学習者主体の学習が展開でき,
めに~「話し合う・創る・表現する」ワーク
児童は学ぶ楽しさや達成感を得るとともに学習
ショップへの取組~.2011,http://www.mex-
の理解度を深めたとしている。加えて,画像や
t.go.jp/b_menu/houdou/23/08/1310607.htm
映像より実物で学ぶ方が学習の定着度のよい児
(2014.11.14参照)
童がいる実態などを踏まえ,「ICTを導入しただ
2)
けでは,大した成果は得られない。教師の授業
谷村載美,古閑龍太郎,藤田麻衣子,山内
隆史.21世紀に求められる資質・能力を育成
-7-
する授業デザインに関する研究―ICTを活用
12) 平成 26 年 10 月 30 日に行われた佐賀県武雄
した協働学習の内容・方法-.大阪市教育セン
市立武雄小学校における「平成 26 年度スマイ
ター研究紀要第205号.2014,p.53.http://ww-
ルオープンデー」における公開授業資料
w.ocec.jp/center/index.cfm/31...c…/2014
13) 近畿大学附属高等学校.「生きる力」を育
11-095945.pdf(2014.4.11参照)
3)
む反転授業
国立教育政策研究所.全国学力・学習状況
自律的学習者を育てる.授業の
リ・デザイン. http://www.souken.shingaku-
調査報告書クロス集計.2013,pp.8-13.http:-
net.com/college_m/2014_RCM185_28.pdf
//www.nier.go.jp/13chousakkahoukoku/data
(2014.4.10参照)及び中西洋介.
「 反転授業」
/research.../crosstab_report.pdf(2014.11
の授業案
.21参照)
科書データの活用を通しての英語習得を目指
4)
依田新監修.新・教育心理学事典.金子書
して-.第6回デジタル教材勉強会. http://-
房.1979,p.120.
5)
–解説ビデオ,デジタル教科書,教
www.ogata-koan.blog.ocn.ne.jp/yes/files/
文部科学省.資料 2-5
全国学力・学習状
flippedclass(2014.4.10参照)
況調査によって明らかになった主な事項.ht-
14) 重田勝介.反転授業
ICT による教育改革
tp://www.mext.go.jp/bmenu/shingi/chousa/
の進展.科学技術振興機構.情報管理.Vol.
shotou/.../1295631.htm (2014.11.21 参照)
56,No.10,2013,p.667. http://www.jstage.
谷村載美,古閑龍太郎,藤田麻衣子,山内
jst.go.jp/article/johokanri/56/10156../j
6)
隆史.前掲書.2014,p.53.
o(2014.4.7 参照)
7) 文部科学省.学びのイノベーション
実証
15) 土佐幸子.小中学校理科と反転授業. NPO
p.107. http://www.mex.
法人『理科カリキュラムを考える会』の全国大
go.jp/bmenu/shingi/chousa/shougai/.../13
会の講演のまとめ.2014,http://www.blog.go-
46504.htm(2014.4.18 参照)
o.ne.jp/fin../e/aadbc090bde0 0287fb956e16
研究報告書.p.101
8)町岳,中谷素之.協同学習における相互作
44e4d669(2014.418 参照)
用の規定因とその促進方略に関する研究の動
16) 土佐幸子,前掲書
向.名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀
17) 内田明.家庭学習とリンクさせ,知と知が
要
心理発達科学.Vol.60.2013,p.84.
つながる「協働的な学び」の授業づくり,平成
http://www.hdl.handle.net/2237/19527
25 年度
(2014.12.17 参照)
科会発表要旨.2013,http://www.soumu.go.
9) 愛媛大学教育デザイン室.効果的な反転授
業とは- Flipped Classroom –
教育の情報化推進フォーラム
分
jp./main_cotent/00073203.pdf ( 2014.5.15
対面授業と
参照)及び佐賀市立若楠小学校における訪問
事前・事後の学習内容をどう効率的に設計で
調査時の資料・講和(平成 26 年 10 月 31 日)
きるかが大切.http://www.idoffice.cite.
18) 堀内敏夫,矢口新,渡辺茂監修.教育調査
ehime-u.ac.jp/ict/ictuse/08/08_use.pdf(2
研究所編.新教育用語事典.教育出版.1980,
014.12.17 参照)
p.405.
10) 愛媛大学教育デザイン室.前掲書
11) 佐藤靖泰.反転授業への挑戦
ICT を活用
した自宅学習が授業を進化させる.教育 zine
http://www.kknews.co.jp/maruti/news/2013
/1007_5a2.html
(2014.4.10 参照)
-8-
Ⅲ
-
1
小学校国語科における ICT を活用した協働学習の実際
「ようこそ,私たちの町へ」(小学校第6学年)の学習
国語科において批判的思考力を育成する必
-
えをもつ,③他者と交流する中で修正点を明ら
要性
かにする,④資料を修正する,という4つの活
情報化 やグ ロー バル 化 が進展 して いく 中で
動を行った。その結果,資料を批判的に読み,
様々な情報を鵜呑みにせず,膨大な情報を素早
よい点や改善点,改善策について理由を挙げな
く正確に判断・処理する能力や,自らの考えや
がら助言し合う姿が見られ,よりよい資料を作
主張を的確にまとめて発信していく能力の重要
成することにつながるなどの一定の成果を得ら
性が指摘されている。様々な情報の中から必要
れた。本年度はさらにピアレスポンスの考えを
なものを取り出し,組み合わせ,新しい知や価
取り入れ,課題設定や取材,書いた文章を交流
値を創造するためには,批判的思考力の育成が
する学習過程においても学習者同士が批判的に
欠かせない。本研究では,認知心理学者の楠見
思考し,意見を交流しながら資料を作成する学
孝の定義に基づき,批判的思考力を「信頼でき
習を展開していく中で,児童の書く力や批判的
る証拠を求め,論理的,客観的に正しい情報を
思考力が高まる授業をデザインする。そのため
選択し,それに基づいて思考する力」
「自分が正
には,交流の時間を十分に確保することが必要
しいと思わず,自分自身を振り返り,偏りのな
となる。本研究では,家庭学習に解決の道を求
い思考や柔軟な思考をする力」1) と捉える。正
め,協働学習がより活性化する家庭学習の在り
しい情報を受信・発信する能力の根底にあるも
方を探る。
のが国語科で培った力であり,この高度情報化
(2)
社会と呼ばれる現代において,国語科の果たす
ピアレスポンス
ピアレスポンスとは,留学生に対する日本語
役割は大きいといえる。
教育の分野で近年注目されている方法で,学習
者たちが自分たちの作文をよりよいものにして
2
国語科における協働学習の活性化と家庭学
いくために,
「仲間同士(ピア)で読み合い,意
習
(1)
見交換や情報提供(レスポンス)を行いながら
作文を完成させていく活動方法」3) である。池
研究の経過と課題
第1年次の研究では,小学校国語科における
田は指導者が作文を添削する従来型の方法では,
批判的思考力育成の必要性,
「書くこと」の領域
学習者の主体性が発揮しにくく,作文の授業が
において批判的思考力を高める授業デザインの
苦痛に感じる学生が日を追うごとに増加してし
ポイントをまとめた。単元を通した PDCA サイク
まったため,学習者自身の気付きによって書く
ルと5つの学習過程(①課題設定や取材の過程,
力を伸ばす方法として当時アメリカで開発され
②文章構成を考える過程,③文章を記述する過
ていたピアレスポンスの理論を取り入れ実践し
程,④文章を推敲する過程,⑤書いた文章を交
たところ,日本語を学ぶ留学生の書く力ととも
流する過程)ごとの PDCA サイクルを意識して授
に批判的思考力の伸びが確認されたという。ま
業をデザインし,推敲の学習過程において批判
た仲間と作文を交流し,よい点や改善点を指摘
的思考を促す学習活動を設定する重要性を押さ
することは,学習者の書き手になった体験と相
えた
2)
。その考えを基に,推敲の学習の際,①
手の学習者の作文の読み手になった体験とが重
学習者が資料を見る,②資料に対する自分の考
なり,「自分だったらこう書く」「このような情
-9-
報が欲しい」といったよりよい作文になるため
の助言を引き出すしかけになっている
4)
と分析
している。
者の意見や共通理解したことを生かして,学習
者自身が新たな課題を発見し,さらなる探究的
な課題に取り組む学習が展開されることを期待
ピアレスポンスは,留学生に対する日本語学
したい。
習の分野における方法であるが,記述したこと
を推敲する学習は小学校国語科の「書くこと」
課題解決学習と家庭学習の連携
においても重視されており,ピアレスポンスを
①学習課題の確認
取り入れることで,同様の効果が得られる可能
全体
性がある。小学校国語科学習指導要領「書くこ
と」の目標や指導事項には,
「目的や意図に応じ
て」という文言が繰り返し使われており,読み
②考えの形成
個人
手を意識して書く活動を行うことの必要性を強
※授業では扱わない。
く訴えている 5)。課題設定や取材,文章構成,
③考えの交流
記述,推敲,交流の学習の中で,他者と資料に
家庭学習
・情報収集
・記述
・分析
協働
ついて助言し合う場を設定し,児童の書く力や
批判的思考力をより高める授業をデザインした
時間の確保
い。
(3)
協働学習を活性化させる家庭学習の在り方
④学習のまとめ
協働学習の大きな特徴として,ある課題に対
全体
する学習者の考えを交換するだけに終わらず,
これまでなかった新たな考えや解決策を創り出
家庭学習
考えの交流に
よって生まれ
た探究的な課
題の解決
①学習課題の確認(次時)
そうとすることが挙げられる 6)。新たな考えや
解決策は,協働によってすぐに生まれるもので
はなく,時間をかけて創り上げることが必要に
なる。「時間をかけない協働はなし」 7) と池田
図Ⅲ-1
協働学習を活性化させる家庭学習の例
は著書の中で指摘しているが,言い得て妙であ
る。そこで本研究では,考えを交流し,新たな
(4)
考えや解決策を創り出す時間を確保するために,
協働学習を活性化するための ICT の活用
リーフレットやポスター,プレゼンテーショ
その交流に至るまでの学習過程の中で学習者が
ン資料づくりの中で,何度も推敲を行うために
一人でできると考えられる課題は家庭学習で行
ICT の活用を考えたい。従来の紙上で文章を書
い,他者と協働する時間を授業の中に設定する
き換える作業は,児童にとって時間的にも心理
(図Ⅲ-1)。これまでの国語科における家庭学
的にも多くの負担がかかるものであるが,ICT
習というと,音読や漢字の読み書きなどの反復
機器を活用することによって容易に修正するこ
練習によって知識の定着を図るものが多かった
とができる。書く内容を修正することも順序を
が,本研究では,取材などの情報収集や記述,
入れ替えることも TPC の画面上ですぐに行うこ
資料の分析を家庭学習の課題とする。そうする
とができ,修正作業にかかる時間を大幅に削減
ことで,授業の中では考えの交流に十分な時間
できると考えられる。それによって創出した時
を確保することができ,交流の中で出された他
間を話合いや振り返り,新たな考えの醸成に配
- 10 -
分したい。また容易に修正できることで,他者
(2)
の助言を聞き入れようとする児童の態度にも変
化が起こると考えられる。
単元設定の意図
本単元「町のよさを伝えるデジタルリーフレ
ットを作ろう」
(小学校第6学年)は,自分たち
の住む町のよさを他の地域に住む児童に紹介す
3
授業計画
るために,情報を収集,整理しそれらを編集し
授業は,学校 ICT 活用事業モデル校の大阪市
て,グループでデジタルリーフレットにまとめ
立A小学校の協力を得て,第6学年 30 人を対象
る学習である。この学習は,学習指導要領に示
に 2014 年9月に実施した。
されている「書くこと」の言語活動例のウ「事
(1)
物のよさを多くの人に伝えるための文章を書く
児童の実態
事前の意識調査の結果を見ると,国語科の学
言語活動」にあたるものである。
習は「楽しい」,「どちらかというと楽しい」と
学習指導要領で示されている「書くこと」の
感じている児童は 30 人中 25 人おり「友達と意
5つの学習過程を意識し,特に批判的思考が働
見の交流ができるから」を理由とする児童が多
くと考えられる課題設定や取材を行う過程,文
い。一方「あまり楽しくない」(5人)と回答し
章を推敲する過程,書いた文章を交流する過程
た児童は「文章を書くことが苦手」を理由とし
において PDCA サイクルに基づく学習を行う。そ
ている。「書くこと」に関する項目では,「調べ
の際,ピアレスポンスを取り入れ,自分たちの
たことを紹介するパンフレットなどを書くこと
グループが作成した資料や他のグループが作成
は楽しい」に対して,ほとんどの児童が「楽し
した資料を検討し,助言し合い,よりよい資料
い」(17 人),「どちらかというと楽しい」(11
にするために修正する協働学習を展開したい。
人)と回答している。それらの結果から,国語
話合いによって何度も資料の修正を行うため
科の学習に対して,楽しいと感じている児童が
に TPC の文書作成ソフトを活用する。デジタル
多くいることが分かった。また「書くこと」に
資料なら,紙媒体のような煩雑な修正作業を避
関してもほとんどの児童は好意的に捉えている
けることができ,修正にかかる時間もかなり短
が,苦手意識をもっている児童や,事実や意見,
縮することができる。また TPC を活用し,児童
感想を区別して書くことまでは意識できていな
自身が撮影した写真やインタビュー動画,グラ
い児童がいることも明らかになった。
フ等を使用して資料を作成することで,より意
また,内容や表現の仕方に着目し,助言する
ことに関する自由記述式の診断的評価テストを
欲的に学習に取り組むことができると考えられ
る。
行った結果,表現の仕方や内容に着目している
一単位時間の授業の中でより効率的に協働学
が,助言するまでには至っていない児童と無解
習が展開できるよう,必要に応じて家庭学習を
答の児童は合わせて 14 人であり,批判的に思考
組み合わせ,学習を進めていく。本単元の指導
し,助言する力に課題がみられた。意識調査に
計画(巻末資料1)の中で,授業と家庭学習を
おいて「友達の意見に対して,自分の考えを付
関連させた学習展開を表Ⅲ-1に示す。情報の
けたしたり,助言したりすることがある」に対
収集や資料の分析は家庭学習で行い,調べたこ
して,9人が「あまり当てはまらない」と回答
とや考えたことを基に気付いたことを話したり,
しており,批判的思考に関する意識の面でも高
助言したりして,よりよい資料を作成するとい
めていく必要がある。
う協働学習を授業の中で行う。
- 11 -
表Ⅲ-1 授業と家庭学習とを関連させた学習展開
(第6学年「町のよさを伝えるデジタルリーフレットを作ろう」
)
次
学習目標
(時)
◎
相手や目的に
Ⅱ
応じて書く事柄
(3)
を収集すること
学習活動
家庭学習
課題設定や取材の過程(Plan)
自分の担当の事柄に
○
取材メモを書く。
ができる。
ついて,写真や動画など
を含む必要な情報を収
集する。TPC
○
(4)
(5)
◎
収集した情報
編集会議を開き,取材内容を
検討し,町のよさを伝えること
編集会議で出た意見
につながる内容になっている
を受けて,再度取材を行
か,考えを出し合う。
う。TPC
文章構成を考える過程(Plan)
を構成に沿って
整理することが
○
編集会議を開き,取材内容を再検
討し,資料の割付を考える。
できる。
TPC
(6)
◎
資料を引用し
文書作成ソフト
文章を記述する過程(Do)
たり,写真や図表
などを用いたり
○
担当している項目の資料を
作成する。
して,考えが伝わ
るように書くこ
TPC
とができる。
文書作成ソフト
○
文書作成ソフト
◎
町のよさが効
TPC
文書作成ソフト
担当している項目の資料を完成
させる。TPC
(7)
資料を作成する。
文書作成ソフト
文章を推敲する過程(Check)
果的に伝わるよ
同じグループの児童の
資料を検討し,よい点,改
うに,内容や表現
善点,改善策を考える。
の仕方に着目し
TPC
て助言し合うこ
付箋
とができる。
- 12 -
文書作成ソフト
○
同じグループの児童とピアレス
ポンスを行い,記述内容や表現の仕
方に着目して助言し合う。
○
(8)
資料を検討し,よい点,
助言を基に資料を修正する。
TPC 文書作成ソフト
他のグループの児童の
改善点,改善策を考える。
付箋
TPC
文書作成ソフト
付箋
○
他のグループの児童とピアレス
ポンスを行い,記述内容や表現の仕
方に着目して助言し合う。
○
助言を基に資料を修正する。
TPC 文書作成ソフト
付箋
文章を交流する過程(Action)
4
(第Ⅲ次に続く)
表Ⅲ-2 取材先と伝えたいよさ
ポイントとなる授業の実際
取材先
(1) 拡大編集会議を開き,記述内容や表現の仕
京セラドーム
方に着目して助言し合う(第8時)
茨住吉神社
児童はこれまでに,
「B小学校の6年生に自分
り完成させている。グループごとの取材先と伝
津波高潮
ステーション
子ども・子育て
プラザ 本田公園
川口基督教会
様々な石碑
えたいよさは,表Ⅲ-2の通りである。事前の
靱公園
たちの住む町のよさを紹介しよう」という目標
のもと,取材や記述,推敲を行い,資料を一通
大阪市立
中央図書館
ケーキの ANSAN
カドヤ食堂
ヘアサロンシゲタ
家庭学習において指導者が指定したペアグルー
プの資料を検討し,記述内容や表現の仕方に着
目してよい点や改善点を考え,付箋にメモを書
いてきている。本時は,ペアグループの児童と
伝えたいよさ
みんなに親しまれ,楽しいイベ
ントがたくさん行われている。
歴史があり,今も続くお祭りや
行事がある。
津波の怖さを体験し学ぶこと
ができる。
違う学校の子どもと仲良くな
れる。
本田地区の深い歴史。
気楽に行けてとても楽しい公
園。
本がたくさんあって便利な図
書館。
身近でおすすめのお店。
表Ⅲ-3 資料を検討する際のポイント
資料を検討することで自分たちでは気付かなか
(構成)
○ 記事や写真の配置や大きさはよいか
(内容)
○ 知りたいと思うことが書かれているか
(書き方の工夫)
○ タイトルは短く興味をひくものか
○ 文章はできるだけ短くまとめているか
ったことをお互いに指摘し合い,助言を基に資
料を修正し,よりよい資料に仕上げる学習であ
る。
まず,資料を検討する際のポイントを確認し
(表Ⅲ-3),付箋(図Ⅲ-2)を活用して話し
合う活動を行った。
児童は,付箋を使いながら気付いたことを出
し合っていった。似た意見や同じ意見が出ると
その付箋の上に自分のものを貼り付け,効率的
(よい点)
(改善点)
図Ⅲ-2 児童が家庭学習で書いてきた付箋
に話し合う姿が見られた。
- 13 -
表Ⅲ-4,5は,話合いの際に出た意見の一
表Ⅲ-5 話合いで出された児童の意見の一部
部である。このように児童から構成や内容,書
(改善点と解決策)
き方の工夫について意見が出された。改善点と
構成
解決策を話し合う場面では,どうすればB小学
・ 写真と記事が離れていて,内容がわかり
校の児童にわかりやすく伝わるかという本単元
づらい。
の目標を意識して,話し合っている姿が見られ
→記事の横に写真を載せる。(A)
た(写真Ⅲ-1)
。
内容
表Ⅲ-4 話合いで出された児童の意見の一部
・ そもそもその施設が何なのか,書かれて
(よい点)
いないのでわかりにくい。
→施設自体を紹介する記事を載せる。
(B)
構成
・
・ 一番大切な記事と写真を真ん中に大きく
イベントが一つだけ紹介されているが,
他のものも知りたい。
載せていてわかりやすい。
→もう少し調べて,いくつか紹介する。
・ 一つの記事に対して,写真と文章と地図
・
も載せていて,わかりやすい。
事実が多く,自分の感想が少ない。
→事実に対する自分の感想を書く。
内容
書き方の工夫
・ みんなが知らない名前の由来や豆知識を
・
書いていて,勉強になった。
道のりの動画がおもしろかったけれど,
どこどこを曲がります,橋を渡ります,な
・ 館長さんのインタビュー動画があり,説
どの解説の音声ものせるとわかりやすい
得力があった。
のでは。
・ 店の人に聞いてわかったことと,自分で
→動画の上から解説の音声を入れる。
気付いたことを書いていて,わかりやす
い。
書き方の工夫
・ 動画の下に内容がわかるキャプションが
ついていて,開いてみたくなった。
・ 問いかけや読む人を誘っている文章があ
り,読みたくなった。
写真Ⅲ-1 資料を検討している様子
・ わかりにくい言葉の意味が,記事の下に
小さく書かれていて,よくわかった。
・ 「新幹線のように」などの例えがあって,
わかりやすい。
児童は家庭学習ですでに資料に対する自分の
考えをもって授業に臨んでいるので,話合いが
停滞することなく次々に意見を出し合っていた。
特に改善点を指摘するときは,TPC の画面を指
差しながら懸命に自分の考えを説明する姿が見
られた。
- 14 -
表Ⅲ-5 下線部(A)の指摘を受けた班は,
資料の割付を大幅に変更した。記事の内容に関
その後の話合いで,
「自分たちは,あえて写真と
係のある写真を近くに載せ,記事と写真を対応
記事を分けて載せていたけれど,確かに言われ
させて読むことができるように工夫している
た通り,様子が伝わりにくかった」と考え,
(図Ⅲ-3)。
修正前
記事と写真を上下に配置
修正後
記事に関係のある写真を
近くに載せ様子がわかりやすいよう工夫
図Ⅲ-3 ピアレスポンスによって変容した資料(割付の変更)
修正前
表Ⅲ-5 下線部(B)の児童の意見は,B小
追加記事
学校の児童の立場になって考え出された意見だ
と考えられる。この記事を書いた班の児童は,
修正後
自分たちはその施設をよく利用しているので,
みんな当たり前に知っているものだと思い込み,
施設自体を紹介していなかったと話していた。
助言を基に話し合い,施設自体を紹介する記事
を書き加え修正した(図Ⅲ-4)。
今回の学習では TPC の文書作成ソフトを使用
して資料を作成しているため,児童は文章を書
き換えたり,写真の大きさや位置を入れ替えた
図Ⅲ-4 ピアレスポンスによって変容した資料
りして,容易に修正を加えていた。紙上で文章
(記事の追加)
を書き換えるときのような煩雑な作業がなく,
- 15 -
児童は進んで助言を受け入れ,資料を仕上げて
に送付した。その際に資料だけでなく,B小学
いく様子が見られた。
校の児童がA小学校の資料を読んだ感想を収め
授業の最後にいくつかの班の修正後の資料を
電子黒板に投影し,どのように修正したのか,
たビデオレターも同封してもらった。図Ⅲ-5
は学習の概要である。
ねらいも合わせて発表した。その際,修正前の
まずB小学校から届けられたビデオレターを
資料を先に提示してから修正後の資料を提示す
視聴した。自分たちが作成した資料をB小学校
るようにしたことにより,聞いている児童も変
の児童が楽しそうに読んでいる姿や,自分たち
化を視覚的に捉えることができていた(写真Ⅲ
に対してのメッセージを伝えている様子を興味
-2)
。
深く見入っていた。その後,班ごとにB小学校
の児童が作成したデジタルリーフレットを読み,
見つけた工夫点や感想をワークシートに記述し
た。
「はじめにイベントについて詳しく書かれて
いたり,働く人からのメッセージ動画もあった
りして,行ってみたくなりました。」
「円グラフ
を使って,文章や写真だけでない伝え方をして
いてわかりやすかったです。
」
「こんなに長い商
店街があることを知りませんでした。自分たち
写真Ⅲ-2 修正後の資料を紹介する児童
の住む町の商店街はここまで長くないので,行
ってみて全部歩いてみたいです。
」など,写真や
授業終了後の感想には「他の班のリーフレッ
動画の位置や大きさなどの構成面での工夫,見
トを見ると,写真と文章がまとめて載せられて
出しやまとめ方などの記述面の工夫に着目した
いて,自分たちと違うと感じた。一緒に載せた
記述,初めて知ったことや自分たちの住む地域
方がいいよ,と言われ,自分たちの班も写真の
と比べた感想の記述が認められた。中には,
「商
位置を変えてみると,見やすくなっていいリー
店街にあるお店をもう少し紹介して欲しい。」
フレットになってよかったです。
」「授業の前は
「昔から行われている行事と書いているけれど,
今のリーフレットで大丈夫だと思っていたけれ
昔っていつですか,知りたいです。
」など,改善
ど,他のグループの意見を聞いて,たくさん直
点を指摘している記述が見られ,批判的思考を
すことがあると気付きました。それらを受けて
働かせながら資料を吟味していることがうかが
よりいいリーフレットにできるようにしたいで
えた。
す。
」という記述がみられた。ピアレスポンスに
授業後の感想には,B小学校の児童に自分た
よって改善点が見つかり,納得して修正を加え
ちの作成した資料を読んでもらえたことや,ほ
ている様子がうかがえた。
めてもらえたことが嬉しかったという記述が多
数認められた。B小学校の児童に自分たちが作
(2)
B小学校から送られた資料を読み,感想を
成した資料を実際に読んでもらい評価を得たこ
交流する (第 11 時)
とで,単元当初に設定した「自分たちの町のよ
完成させた資料をB小学校に送付し,見ても
さを伝える」という目標を達成できたことを実
らった。その後,B小学校でも町のよさを紹介
感し,児童は成就感を得ていた。
するデジタルリーフレットを作成し,A小学校
- 16 -
・実際にイベントに参加した人のイン
タビューがあり,分かりやすい。
・施設の説明がはじめに書いていて内
容がよく分かった。
・自分たちの気付きが書かれていた。
A小学校の資料を読み,感想を伝えるB小学校の児童
資料を読んだ感想(B小学校)
B
B小学校の資料を読み,工夫している点や感想を書いたA小学校の児童のワークシート
B
B
授業後の感想(A小学校)
B小学校の資料を読み,感想を伝えるA小学校の児童
図Ⅲ-5 B小学校の資料を読み,感想を交流する学習 (第 11 時)の概要
5
授業の評価
ここでは,批判的思考力の変容及び目的や意
図に応じて複数の内容を関係付けながら自分の
考えを具体的に書く力を評価する。また,授業
と家庭学習とを関連させたことにより協働学習
が活性したかを考察する。
- 17 -
(1)
批判的思考力の変容
も他者の資料を検討し,助言し合ったことが批
本実践での批判的思考力の変容をとらえるた
判的思考力の高まりにつながったと考えられる。
め,診断的評価テストと総括的評価テストにお
友達の意見に対して,自分の考えを付け足した
り助言したりすることがある
(人)
いて類似の設問を用意し,表現の仕方や内容に
着目して助言する力を自由記述式で調査した。
表Ⅲ-6
診断的
評価
総括的
評価
表現の仕方や内容に着目
し,理由を挙げて助言する
ことができる。
6
20
表現の仕方や内容に着目
し,助言することができる。
10
表現の仕方や内容に着目し
ているが,助言するまでに
は至っていない。
9
評価基準
A
B
C
D
(人)
無解答
図Ⅲ-6
6
9
当てはまる
あまり当てはまらない
(2)
4
18
事後
診断的評価テストと総括的評価テスト
の結果
19
事前
その結果を比較したものが表Ⅲ-6である。
1
3 0
少し当てはまる
あてはまらない
N=30
助言に関する意識調査の結果
複数の内容を関係付けながら自分の考え
を具体的に書く力
平成 25 年度全国学力・学習状況調査小学校国
4
語B問題2三の設問 8) を総括的評価テストと
5
6
0
して行い,複数の内容を関係付けながら自分の
考えを具体的に書く力を調査し,全国学力・学
習状況調査全体(以下全国)の結果9)と比較し
た(図Ⅲ-7)
。
N=30
複数の内容を関係付けながら自分の考えを具体
的に書く力
(%)
診断的評価テストの結果を分析すると表現の
全国
仕方や内容に着目しているが,助言するまでに
は至っていないC基準の児童は9人,無解答の
18
52
A小学校
児童は5人であった。総括的評価テストでは,
正答
B基準以上の児童は診断的評価テストの 16 人
から 24 人へと増加し,無解答の児童は5人から
28
考えなし
22
18
22
2項目不足
図Ⅲ-7 平成 25 年度
0人に減少している。C基準の児童の解答は,
36
国語B
4
N=1128326
N=30
無解答
2三の結果
問題の指摘や単なる感想になっており,助言に
意識調査の結果
正答数の割合を見ると全国の 18%に対し,A
なっていないという傾向がみられたため,様々
小学校は 52%と大きく上回っている。また全国
な学習場面において,友達の意見に対して助言
の結果では,無解答率の高さも課題とされてい
する機会をつくり,継続的に指導していった。
たが,A小学校の児童の無解答率は4%という
意識調査の「友達の意見に対して,自分の考
結果を得た。母数が違う上に,調査問題にかけ
えを付け足したり,助言したりすることがある」
られる時間も違うなど,様々な条件が異なるた
の項目では,肯定的な回答が増加している(図
め単純な比較は不可能であるが,本単元の取材
Ⅲ-6)
。他者の意見を批判的に聞き,考えを伝
の学習でいくつもの資料を集め,その中から自
える意識も高まっているととらえられる。
分たちの伝えたいよさにつながる資料を選び,
本単元においてピアレスポンスを行い,何度
考えたことを記述した経験が総括的評価テスト
- 18 -
の結果につながったものと考えられる。
ことが明らかになった。また,家庭学習が学校
(3)
での協働学習に役立ったと実感している意見も
授業と家庭学習とを関連させたことによ
る協働学習の活性化
多数みられた。また,家庭学習で資料をつくっ
本単元では,児童一人で行うことができる情
たり,検討したりしたとき,家の人に見てもら
報の収集や記述,記事に対する自分の考えを書
った児童は,15 人おり「詳しく書けていてすご
く学習は家庭で行い,次時の授業で自分の調べ
いね。」
「見やすくまとめられていてわかりやす
たことや考えたことを基に班で話し合い,よい
い。」
「今の小学生は,こんなものがつくれるの
点を認め合ったり,疑問点を出し合ったりした。
か。
」といった内容の励ましを受けた児童が多く
協働学習で意見を出し合ったことで新たな課題
いた。中には,
「文章が多いから,もっと写真を
が生まれ,その課題をまた家庭学習で解決して
増やすといい。」
「資料のバランスがよくないか
くるという探究的な学習が展開された。単元終
ら,変えた方がいい。
」など,家の人から助言を
了後の意識調査で「家庭学習で資料をつくった
もらった児童もいた。家の人の励ましによって
り検討したりしたことは,よかった」かと尋ね
学習意欲が高まったことや,助言によってより
た結果,
「当てはまる」
「少し当てはまる」と答
よい資料づくりにつながった例もあることがわ
えた児童は 30 人全員であった(図Ⅲ-8)。そ
かった。
の理由には,以下のような記述がみられた(表
Ⅲ-7)
。
児童が自分の考えを既にもった状態で授業に
臨むため,指導者としても一単位時間の中で,
児童の考えを広めたり深めたりする協働学習の
家庭学習で資料をつくったり検討したり
したことは,よかった
9
21
時間を十分に確保することができ,その結果,
1当てはまる
児童の批判的思考力を高めることにつながった
2少し当てはまる
と考えられる。
3あまり当てはま
らない
4当てはまらない
(4)
N=30
図Ⅲ-8
家庭学習に対する意識調査
意識調査の結果
表Ⅲ-7
家庭学習に対する特徴的な記述
意識調査の結果
・ 自分のペースで記事を書いたり,資料を
読んだりできた。
・ 資料を家に持って帰って考えることがで
きたので,気になるところを何度も見るこ
とができた。
・ 学校では時間が限られているけれど,家
でならゆっくり考えられて,学校ではうか
ばない案も出てきて,授業で発表できた。
成果と課題
本実践では,伝える相手として他校の同学年
の児童を設定し,完成した資料を送り合うこと
で交流を図った。ICT を活用することで学級や
学校の枠を越えて容易に交流することができ,
他校の児童から資料に対する評価を得られた。
このことは,
「書くこと」の学習の際に重要とさ
れる相手意識を高めることや,学習意欲の継続,
児童の強い達成感につながった。また,家庭学
習を取り入れたことで授業時間内の交流の時間
を十分確保することが可能となり,特に推敲の
学習では,内容面や構成面についてまで検討し,
助言を基によりよい資料になるよう修正できた。
単元全体の授業時数は 11 時間であり,
教科書会
社が提案している授業計画(12 時間)の範囲を
意識調査の結果,ほとんどの児童が自分のペ
ースで学習できたことを肯定的にとらえている
超えることなく,充実した学習活動を展開する
ことができた。
- 19 -
課題としては,課題設定や取材の学習過程に
6)池田玲子,原田三千代.ピア・レスポンスの
おける指導の工夫が挙げられる。
「書くこと」の
現状と今後の課題.お茶の水女子大学,
2008.
学習では,目的や意図に応じて児童自身が課題
http://hdl.handle.net/10083/51247(2014-6
を設定し,学習計画を立てることが必要である
-20.参照)
が,どのようなよさを伝えればよいのか,その
7)池田玲子,原田三千代.前掲書.2008.p.52
ために何を調べればよいのかを明確にできず,
8)国立教育政策研究所教育課程研究センター研
計画段階で躓く児童がみられた。事物のよさと
究開発部学力調査課.平成 25 年度全国学力・
いう概念が深く理解できていないことが原因の
学習状況調査の調査問題について.国立教育
一つとして考えられる。他の地域の有名な事物
政策研究所.2013.
http://www.nier.go.jp/13
を紹介する資料などを用意し,それらのよさは
chousa/13mondai.htm(2014-11-23 参照)
何か,よさを伝えるために何を書いているかを
9)文部科学省,国立教育政策研究所.全国学力・
学級全体で共通理解する機会を設けるなど,児
学習状況調査報告書国語.2013,pp.60-63.
童自身の気付きを生み出す支援が必要であった。
伝えたいよさを明確にもつことができれば,調
べる内容や方法など,取材計画を立てることも
円滑に進むと考えられる。
今後も児童が PDCA サイクルを意識し,
様々な
相手と交流しながら学びを深め,批判的思考力
及び書く力を高められる協働学習の在り方を探
りたい。
注)
1)楠見孝.批判的思考について-これからの教
育の方向性の提言-.文部科学省,2013.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/.../
1325670_03.pdf(2013-8-7 参照)
2)谷村載美,古閑龍太郎,藤田麻衣子,山内隆
史.21 世紀に求められる資質・能力を育成す
る授業デザインに関する研究―ICT を活用し
た協働学習の内容・方法―.大阪市教育セン
ター,研究紀要 205 号,2014,p.53.http
://www.ocec.jp/center/index.cfm/31...c…
/201411-095945.pdf(2014-12-11 参照)
3)池田玲子,舘岡洋子.ピアラーニング入門.
初版,ひつじ書房,2007,p.71.
4)池田玲子,舘岡洋子.前掲書.2007,pp.71-84.
5)文部科学省.
小学校学習指導要領解説国語編,
2008,pp.98-106.
- 20 -
Ⅳ
小学校理科における ICT を活用した授業の実際
―「雲と天気の変化」(小学校第5学年)の学習―
1
理科において問題解決能力を育成する必要
展開→⑧結論の導出)を確実に辿りながら協働
性
によって考えを深めて問題を解決することがで
21 世紀に求められる資質・能力の1つに問題
き,問題解決能力が向上してきたという成果が
発見解決力が挙げられている 1)。また,平成 20
得られた。
年版学習指導要領においても,問題解決の過程
しかし,「考えを組み合わせて新しい見方を
を通して問題解決の能力を育成することが求め
している」ことについては,自分の結果に囚わ
られている 2)。
れてしまい,視野を広げて考えを改善したり,
これらのことから第1年次の研究では,問題
複数の考えを組み合わせて結論を導いたりする
解決の過程を確実に辿る中で問題解決能力を育
ことに課題が認められた。
成するための授業をデザインする必要性がある
この課題を解決するためには,協働の時間を
と考え,
小学校第6学年の単元
「てこの規則性」
十分に確保し,学習したことを活用して新たな
について研究,実践を行った
3)
。単元を通して
問題を解決する場面を設定していく必要がある
グループで学習を行う場面を積極的に設定し,
と考えた。児童一人ひとりが確実に自分の考え
協働する中で問題解決能力の育成を図ることを
をもってグループで話し合う中で,視野を広げ,
目的とした。協働の場面では,コミュニケーシ
考えを深められるようにすること,また,互い
ョンを活性化するためのツールとして ICT を活
の考えを共有して新たな考えを生み出せるよう
用し,教え合い学び合う双方向型の授業を充実
にすることが重要となる。そこで,家庭学習と
させること,自分と他者の考えを合わせて新し
関連させた授業を展開することによって,協働
い考えをもつといった建設的相互作用
4)
を生み
の時間の確保と充実を図ろうと考えた。
出すことをねらいとした。
また,新たな問題解決への動機になると考え
その結果,特に問題解決過程における「予想・
られる理科を学ぶ有用性の実感を高めたいと考
仮説の設定」
「考察の展開」の場面で,児童はワ
えた。平成 24 年度全国学力・学習状況調査小学
ークシートや TPC を活用して考えを顕在化し,
校理科では,
「理科の授業で学習したことを普段
活発に言語活動を行った。振り返りの際に進ん
の生活の中で活用できないか考える」という項
で ICT を活用したり,常に他者を意識しながら
目について,
「当てはまる」と回答した割合が他
理由を添えて分かりやすく説明したりし,双方
の項目に比べて低かった
向のコミュニケーションの活性化に効果を上げ
よって獲得した知識を実生活において活用し,
た。その結果,他者の考えを聞いて分からなか
新たな問題解決に取り組む場面を設定すること
ったことが分かるようになったり,自分の考え
によって,学習したことが生活の中で役立つこ
を見直したりし,教え合いながら学習に取り組
とを体験し,理科の学習の有用性を実感できる
む様子が認められた。
ようにしたい。
実践を通して問題解決の8つのステップ
6)
からである。学習に
5)
(①自然事象への働きかけ→②問題の把握・設
2
定→③予想・仮説の設定→④検証計画の立案→
理科における協働学習の活性化と家庭学習
小学校理科においては,
「エネルギー」「
,粒子」,
⑤観察,実験の実施→⑥結果の処理→⑦考察の
「生命」
,「地球」といった科学の基本的な見方
- 21 -
や概念を柱として,内容の系統性が図られてい
②
問題の把握・設定
る。そのため,学習のつながりを意識できるよ
授業で自然事象に働きかけた場面を撮影する。
うに家庭で予習や復習を行うことは有効である
その画像や動画を家庭で何度も繰り返し視聴し,
と考える。家庭学習をすることによって,その
振り返ることによって,新たな気付きや問題を
成果を活かして協働学習を充実させることや,
発見できるようにする。
授業の質を高めることができると考える。
また,
授業で学習したことの定着,興味をもった事象
(例)第3学年「影のでき方と太陽の動き」
に対するより深い探究,生活においての積極的
家庭
・
学校で行った影踏み遊びの動画を
な活用が期待でき,身の回りの科学に興味・関
TPC で見直し,気付いたことや調べ
心をもち,自然事象を見直す機会が増えるとい
てみたいことなどをメモする。
う利点がある。しかし,単元によっては次の展
授業
・
開や結果を予習することで,問題解決の過程を
考えてきたことを話し合い,全体
で問題を共有する。
辿ることが難しくなる場合もあるため,家庭学
習を取り入れる際には,児童の主体的な問題解
③
決が可能となるかということを検討しなければ
予想・仮説の設定
結果の予想を考える際,数値や現象だけでな
ならない。
く,なぜそう考えたのかについて図や言葉を用
以上を考慮して,理科における家庭学習と授
いて根拠を表すことが大切であることから,そ
業とを関連させた実践例として,問題解決の8
の時間を家庭で十分確保するようにする。モデ
つのステップに沿って具体例を示す。
ル図や画像に考えをかき込んで顕在化し,他者
①
にもより分かりやすく伝えることができるよう
自然事象への働きかけ
家庭で実際に自然事象との出合いを体験する
にする。
ことや,TPC を活用して画像や動画を視聴し,
疑似体験をすることを通して,生活体験の不足
(例)第3学年「電気で明かりをつけよう」
を補ったり,見過ごしている事象に着目したり
家庭
・
TPC の乾電池,豆電球,ソケット
することができるようにする。このような学習
の画像に,明かりがつくつなぎ方を
を経ることによって,授業では獲得した経験や
考えて導線を描き入れ,その理由も
知識を基に考えることができるようになる。ま
考える。
(できるだけ多くのつなぎ方
た,単元に関係のある既習事項を復習すること
を考える。
)
で,次の学習への見通しをもつこともできるよ
授業
うにする。
・
④
四季それぞれの生き物の様子を観
・
検証計画の立案
予想や仮説を設定した後,それを確かめるた
察し,TPC で撮影する。
授業
予想をグループで交流し,予想を
基に実験の計画を立てる。
(例)第4学年「生き物のくらし」
家庭
・
めの方法について家庭で考え,観察,実験にお
学級全体で画像を共有し,特徴に
いて正確な結果を得るための計画案について,
ついて話し合い問題を見いだす。
時間をかけて練ることができるようにする。
- 22 -
⑦
(例)第5学年「もののとけ方」
家庭
授業
・
・
考察の展開
ものが水に溶けたときの重さの変
観察,実験の結果から考察するとともに,自
化について調べる実験計画を立て,
分の考えを他者に説明する準備を行う。家庭で
準備物も考える。
は,それぞれに合った時間やペースでじっくり
考え,考えたことを TPC の画像に書き込んだり,
考えてきた実験方法を交流し,考
えを組み合わせて実験方法を決定す
考えの根拠となる資料を集めたりして,自分の
る。その際,仮説を振り返り,結果
考えをより深めることができるようにする。
の見通しについても話し合う。
(例)第6学年「てこの規則性」
⑤
家庭
観察,実験の実施
・
てこの規則性を利用した道具につ
学校では環境や時間に制約のある事象につい
いて,より作業しやすい使い方とそ
て,家庭で観察,実験を行う。繰り返し何度も
の根拠を考える。TPC で撮影した画
観察,実験することによってより多くのデータ
像や描いた図に考えをかき込む。
授業
を得て,自然に触れる機会を増やすことができ
・
考察してきたことをグループや全
体 に向 け て プレ ゼ ン テ ー ショ ン す
るようにする。
る。
(例)第4学年「月や星」
家庭
・
⑧
一定時間ごとに月や星座の位置を
結論の導出
観察,記録する,TPC の星座検索ア
結論の導出は,グループや学級全体の話合い
プリケーションを活用して調べるな
の中で考察を広げ,それらの考えから導き出す
ど,月の動き方の観察や星座の形,
活動であるため,授業で行うことが望ましいと
星の名前などを学習する。
考える。
授業 ・ 結果をグループや全体で交流して,
⑨
共有,比較する。
知識の活用
問題解決によって獲得した知識を活用する場
⑥
面を設定することは,理科を学習する意義や有
結果の処理
実験で得られたデータをグラフに表したり平
用性を実感することにつながると考える。夏季
均値を算出したりする学習について,他教科の
休業中に行う自由研究や,疑問に思ったことに
復習も兼ねて家庭で学習することができるよう
ついてもっと追究する活動など,新たな問題に
にする。
取り組んだり探究したりすることができるよう
にする。
(例)第5学年「ふりこのきまり」
(例)第6学年「水溶液の性質」
家庭 ・ ふりこが 10 往復する時間を数回調
家庭 ・ 家庭にある液体の液性や用途を調べ
べたデータについて,平均値と1往
る。
復する時間を算出し,棒グラフに表
授業
す。
授業
・
・
結果を全体で共有し,よりよく生
活するための水溶液の使い方につい
算出した時間や棒グラフをグルー
て話し合う。
プで共有し,結果から考察する。
- 23 -
3
授業計画
も対応できるように,自分で天気を予想すると
授業は,2014 年9~10 月に,大阪市立B小学
いうめあてをもつことができるようにする。こ
校,第5学年 32 人の児童を対象に,大阪市学校
こでいう天気を予想するとは,過去や現在の気
教育 ICT 活用事業モデル校の協力を得て実施し
象情報を分析し,自分なりの根拠を明らかにし
た。
て未来の天気について考える活動である。気象
(1) 児童の実態
庁の平成 25 年のデータより,翌日の天気予報
事前調査の結果,
「理科の授業は楽しい」(31
(全国)の適中率は 88%7)であることを取り上
人),
「理科の学習は大切だ」
(31 人)
,
「結果を
げ,既成の天気予報だけに頼らず,自分で天気
予想しながら観察,実験をしている」(31 人)と
を予想してよりよく生活しようという意欲をも
回答する児童が多く,理科の学習に対する意識
つことができるようにする。特に,授業を行う
が全体的に高いことが分かった。それらに対し
時期は運動会が近いこともあり,
「運動会の日の
て,
「自分で体験したことや見聞きしたことから
天気を予想しよう」という目標を設定して,運
問題を見付けようとしている」(24 人),
「理科
動会当日の天気,持ち物,服装などについて発
で学習したことが普段の生活と結び付いている
信できるように学習を進めていく。
と思う」(20 人)と回答する児童はあまり多くな
次に,自分で天気を予想するためにどのよう
く,普段から自分の生活と理科の学習を関連付
なことを調べていくかを考えてカードに書き,
けて考えることにやや課題がある。
雲の様子や天気の変化のきまりについての問題
また,
「普段から天気が気になる」
(28 人)児
を解決していくことを学級全体で共有する。
童は多く,テレビ番組やデータ放送,人に聞く
学習を進める上で,特に「考察の展開」の場
などの手段で天気予報を調べている。しかし,
面と天気を予想する場面に重点を置いて協働の
「西の空には夕焼け,東の空には黒い雲が見え
場面を設定する。様々な気象情報を活用して天
るときの数時間後の天気はどうなるか」という
気を予想することができるように,学習班で問
問いに対しての正答者は7人で,観天望気や日
題に対する予想や仮説を設定した後,それを解
本付近の天気の変わり方についてはほとんどの
決するための方法を話し合い,気象情報を調べ
児童が知らないという結果であった。
るための役割を分担する。家庭学習では TPC を
(2) 単元設定の意図
持ち帰って,雲の様子を撮影して見直したり,
このような児童の実態を踏まえて,本単元で
リアルタイムの気象情報を収集,分析したりし
は問題解決能力を向上させることを目的として,
て天の変化を予想するとともに,その根拠を説
問題解決の8つのステップを辿り,協働しなが
明するためのツールとして活用する。家庭で一
ら雲の様子と天気の変化についての問題解決を
人ひとりがじっくり考察する時間を確保し,授
図る。その過程で協働学習を充実させるため,
業では家庭学習で考えてきたことについて交流
ICT の活用を図るとともに,家庭学習と授業と
する。その際,途中でグループの構成員を変え,
を関連させた学習を展開する。
気象情報ごとの研究班を構成して考察した後,
単元の展開として,初めの自然事象への働き
学習班に戻り,他者の考えと組み合わせて考察
かけの場面では,行事や遊びに行く時,登校す
を深める場面を設定する。こうして,他者の考
る時などに天気に注目した経験を振り返り,普
えを取り入れながら視野を広げて考えたり複数
段の生活と結び付けて自然事象を捉えることが
の考えを組み合わせたりして,新しい考えを生
できるようにする。そして,急な天気の変化に
み出すことができるようにする。
- 24 -
単元を通して「個人の考察→グループでの話
の変わり方の確認,インターネットで調べた実
合い→考察の深化」を繰り返し,問題解決の過
際の天気との比較を行い(写真Ⅳ-1),協働し
程をていねいに辿っていく。そして問題解決の
ながら考察した。そして,どの場所,時間でも,
中で獲得した知識を活用して天気を予想し,根
雲の様子によって天気が変化することを見いだ
拠を明らかにして説明できるようにする。
し,結論を導き出すことができた。
(3) 授業と家庭学習とを関連させた単元の展開
本単元の指導計画(巻末資料3)の中で,主
に授業と家庭学習とを関連させながら進めた第
1次と第3次の展開について,
表Ⅳ-1に示す。
第1次では,休日の雲の様子を家の近くで複数
回撮影した画像を基に,授業で雲の様子と天気
の変化との関連を考察する活動,第3次では,
最新の気象情報を家庭で調べて天気を予想し,
授業で交流,実際の天気を確認するという活動
を行う。
写真Ⅳ-1
4
撮影した画像と実際の天気の比較
ポイントとなる授業の実際
授業の実際の場面として,雲の様子と天気の
(2) 運動会の日の天気を予想する学習
変化についての問題解決過程において,TPC を
(④観察,実験の実施~⑧結論の導出)
家庭に持ち帰って調べたり考えたりしてきたこ
運動会当日までに天気の予想の精度を上げる
とを授業で発表,交流し,協働しながら考察や
ため,事前に予想を練習する機会を数回設けた。
天気の予想を練り上げる活動を行った場面につ
まず,天気図,アメダス,気象衛星,降水ナウ
いて紹介する。
キャストといった気象情報の見方をより詳しく
(1) 雲の様子と天気との関係を調べる学習
知るために,気象予報士による授業を実施し,
(④観察,実験の実施~⑧結論の導出)
直接指導を受けた。
第1次では,
「雲のようすが変化すると,天気
次に,学習班に分かれて4つの気象情報を調
も変化するのだろうか」という問題を解決する
べる役割を分担し,情報ごとの研究班を構成し
ために,学校の屋上で雲の量,色,形,動く方
た。研究班では,インターネットを使ってリア
向を観察するとともに,TPC を使って雲を撮影
ルタイムの情報を得て,それに基づき翌日の天
した。しかし,1日分の結果だけで考察するよ
気を予想した。予想の根拠を明らかにするとと
りも,他の日の違う場所の雲も観察した方が正
もに,学習班に戻って説明することができるよ
確な結論を得られることについて話し合い,家
うに TPC でスクリーンショットを保存し,提示
庭学習で雲の観察をする課題を設定した。TPC
する資料をたくさん準備する児童の様子がみら
を家庭に持ち帰って休日の雲の様子を複数回観
れた。学習班に戻って研究班で調べたことを説
察,撮影し,画像には撮影した時間,天気,雲
明する際には,画像にマーキングしたり,気象
の動く方向,雲量などをかき込んだ。授業では
情報の動画をコマ送りや巻き戻したりしながら
それぞれが撮影した画像をグループで見せ合っ
説明し,グループで TPC を囲んで活発に話し合
て,結果の交流,雲の資料を参照しながら天気
う姿が認められた。このようにして,自分が調
- 25 -
表Ⅳ-1 第5学年「雲と天気の変化」における授業と家庭学習とを関連させた展開
次(時)
学習目標
授業
1
(1)
◎ 気象情報に興味・関
心をもち,
天気の変化
について調べようと
する。
○ これまでの行事の日の天気
予報を振り返り,運動会の日の
天気を自分たちで予想すると
いうめあてをもつ。
TPC
◎ 雲の量や動きは天
気の変化と関係があ
ることについて,
理解
している。
1
(2)
(3)
家庭学習
○ 雲の様子によって天気が変
化するのかを予想する。
○ 屋上で雲の様子を観察し,
記録する。
TPC
○ 家の近くで雲の様子を観
察し,記録する。
TPC
協働学習
○ 結果を交流し,雲の様子と
天気の変化について考察す
る。
TPC
電子黒板
○ 雲の量や動きは天気の変化と関係があることについて理解する。
次(時)
学習目標
◎ 天気の変化のきま
りから,
気象情報を基
に天気を予想し,
表現
している。
授業
家庭学習
○ 気象予報士から天気予報の
方法について指導を受け,気
象情報の活用の仕方を知る。
電子黒板
TPC
協働学習
○ 予想とその根拠について研
究班で話し合い,考えを深め
た後,学習班に戻って考えを
交流する。
TPC
3
(1)
(2)
(3)
(4)
○ 予想した天気と実際の天気
を照らし合わせ,予想が正し
かったかを確かめる。 TPC
○ テレビ会議式遠隔授業にお
い て 気 象 予報 士 の 予想 を聞
き,考えを練り直す。
電子黒板
○ 気象情報を活用して翌日の
天気を予想し,予想の根拠を
考える。
TPC
※数回予想の
練習をする。
○ 気象情報を活用して運動会
の日の天気を予想し,予想の
根拠を考える。
TPC
TPC
○ 運動会の日の天気予報番組
を制作し,予想を発信する。
電子黒板
3
(5)
◎ 天気の変化は,映像
などの気象情報を用
いて予想できること
を理解している。
TPC
○ 予想した天気と実際の天気
を照らし合わせ,予想が正し
かったかを確かめる。 TPC
○ 天気の変化は,映像などの気象情報を用いて予想できることを理解する。
- 26 -
べた気象情報以外の情報についても詳しく知
後日,録画した番組を見直すとともに,イン
り,それらが関連していることや,どの情報を
ターネットで運動会の日の気象情報を確かめ,
見ればどのようなことが分かるといった,それ
実際の天気と予想の根拠とを比較した。このよ
ぞれの長所を実感することもできた。
うにして,児童は,天気の変化は映像などの気
授業で天気の予想について学習した後,TPC
象情報を用いて予想できることについて理解し,
を家庭に持ち帰ってより新しい情報から天気を
番組制作や予想の発信を通して獲得した知識を
予想するという課題を設定した。新聞やテレビ
活用することができた。
のデータ放送,ウェブサイトなどから気象情報
を探して撮影し,その画像に気付いたことを書
き込んで翌日の天気の予想とその根拠を考えた。
授業では,考えてきたことについて画像を見
せながらグループで説明し合い,他者が何の情
報を使ってどのように予想したのかを共有した。
さらに,実際の空を観察したり,インターネッ
トでリアルタイムの気象情報を調べたりして,
自分の予想が正しかったのかを振り返った。そ
写真Ⅳ-2
予報番組の録画
して,もっと正しく予想するための改善点につ
いて話し合い,次時の学習に活かすことができ
た。
以上のように,
数回天気の予想を練習した後,
運動会当日の天気を予想した。家庭学習で気象
情報を調べて天気を予想し,授業でその根拠を
説明し合うところまでは練習と同じように進め
た。次に,天気予報番組を制作するためにグル
ープで予想をまとめ,説明するための資料を選
んだり台詞を考えたりした。そして,グループ
写真Ⅳ-3
ごとに電子黒板や TPC を活用しながら予報番組
気象予報士によるテレビ会議式
遠隔授業
を録画し(写真Ⅳ-2)
,運動会後に予想を振り
返ることができるようにした。
5
授業の評価
またテレビ会議式遠隔授業を行い,以前指導
学習記録や児童を対象にした質問紙調査,総
してもらった気象予報士から,運動会の日の天
括的評価テストの結果等から,家庭学習と ICT
気予報について教えてもらう場面を設定した
を活用した協働学習が,問題解決能力や理科を
(写真Ⅳ-3)。
児童が録画した番組の講評をも
学ぶ有用性の実感の高まりに有効であったかを
らった後,気象予報士の考えた予報を聞き,教
検討する。
室から離れた場所にいる人とも積極的に対話し,
問題解決能力については,
平成 20 年版学習指
コミュニケーションを活性化させることができ
導要領小学校理科に記されている「比較」,「関
た。そして,児童はグループでもう一度予想を
連付け」,
「推論」する力が高まったか,また,
練り直し,全校放送で予想を発信した。
問題解決の8つのステップのうち,
「考察の展開」
- 27 -
を協働学習で進める際に,言語活動を充実させ
て考察を深めることができたかについて評価す
る。また,家庭学習と授業を関連させることに
よって,家庭学習の成果を授業で発揮し,協働
学習を充実させることができたかについても評
価する。
(1) 問題解決能力の向上
1)
授業に関連した家庭学習を行った効果
①
雲の様子と天気の変化とのかかわりについ
て考える場面から
「雲の様子が変化すると,天気も変化するの
図Ⅳ-1 TPC で撮影し考えをかき込んだ天気図
だろうか」という問題解決の場面において,休
業日に学校以外の場所で時間を変えて数回雲の
授業ではグループに分かれて,家庭学習でま
様子を観察し,TPC で撮影する課題を家庭学習
とめた TPC の画像を活用し,根拠を明らかにし
として行った。児童は撮影した画像に天気,雲
ながら予想について説明し合った
(写真Ⅳ-5)。
の動く方向,雲の種類,時間などをかき込み,
家庭学習でそれぞれが確実に考えをもつことが
授業の話合いにおいて観察結果を詳しく説明す
できたので,他者に説明する際に自信をもって
ることができた。
発表する児童の様子が認められた。グループで
また,その後の考察の場面でも「画像の雲は
協働する場面では,お互いに調べてきたことに
うろこ雲だから,この後雨が降ると思ったけど
興味をもって耳を傾け,質問し合ったり意見を
うろこ雲は消えていったので降らなかった」
「西
まとめたりして,言語活動を充実させることが
に雲がなかったから,1時間後はやっぱり晴れ
できた(表Ⅳ-2)。家庭で考えてきた様々な意
だった」など,結果の見通しをもちながら観察
見を聞くことによって,それぞれの資料や予想
することができ,雲の様子と天気の変化が関係
のよさを知り,意欲的に協働学習を行うことが
していると考え,理由を明らかにして説明する
できた。その結果,事後調査において,協働学
ことができた。
多くの結果を得てそれらを比較,
習に対する児童の意識も高まり(表Ⅳ-3),広
関連付けながら考察する力が高まった。
い視野に立ち,より多くの結果を得て,天気の
②
予想について考えを深めることができた。
天気の予想についての話合いの場面から
家庭学習で気象情報を探して次の日の天気を
予想する課題を設定した。なお,収集する情報
はどの種類でも何種類でもよいこととし,持ち
帰った TPC で気象情報を撮影して天気を予想す
るとともに,その根拠も考えるようにした。児
童は,それぞれのペースで家庭学習を行い,
「く
もりのち雨」という言葉だけではなく,注目し
てほしい部分に文字や矢印をかき入れ(図Ⅳ-
1)
,次の日の授業で分かりやすく説明すること
写真Ⅳ-5
を意識して家庭学習に取り組むことができた。
- 28 -
家庭学習で予想した天気の説明
表Ⅳ-2 天気を予想した根拠を説明する児童の会話
C1: 僕は晴れるって予想した。理由は天気図で高気圧が右に進んでて,低気圧は上の方に進んでるから。
C2: 私は今日の朝6時の天気図で調べて,高気圧が大阪の上に…
C3: かかってる。
C2: そうそう,通ってるから晴れやと思ってん。
C3: この辺かな?
C2: そう,通ってるやろ?
C3: 私は気象衛星を見て,ここ(西)に雲がないから晴れると思った。
C2: それ,いつの画像?
C3: 昨日の夜8時 54 分。
C4: 私は,ここ(南)から台風は来てるけど,大阪までは来えへんと思うから晴れやろうと思う。日本の
近く(西)に雨雲がないから晴れると思ったけど,快晴にはならへんと思う。
C3: 質問はありますか?
C2: この資料は何を撮ったん?
C3: テレビの画面。
C2: テレビでも見られるんや。でも,もっと雲の動きは速い気がするけど…。
C3: 今のアメダスで風について調べてみよう。
C2: 風が北北東から吹いているから雲もそう動く?
C1: それは違うと思う。
C2: 大阪だけかな。
C3: じゃあ今の天気についてどういうことが分かった?
C2: 晴れやということが分かった。
C1: 快晴ではないけど晴れということが分かった,でいいんちゃう?
T1: なんで快晴ではないといえるんかな?
C1: ここ(気象衛星画像)にも雲がちゃんとあるし,空もところどころ曇っているから。
T1: ちゃんと気象情報も見てていいね。でもはじめの予想では雲がないから快晴やと思ってた?
C1: 高気圧がいっぱいあったから快晴やと思った。
T1: 実際の天気はどうやったん?
C3: 晴れてるけど,ちょっと雲もあった。
C1: ところどころ曇りでいいやん。
C2: 雲の量でいうと8ぐらい?
C3: 9や 10 は曇りになるから8やな。
C4: 晴れたけど快晴ではないと書いとこう。
C2: 気象衛星やったら薄い雲は見えへんから曇りの予想が難しいなあ。
C3: そうやな。曇りはどうやって予想するんかな。
表Ⅳ-3 協働学習に対する児童の意識
・いろいろな人といっしょに学習をすることで,いろいろな意見などを聞いて学習できると思う。
・自分以外の新しい意見を出し合える。
・他の意見を聞いて考え直すことができる。
・自分で考えるとき,分からなくて,友だちの意見を聞くと分かりやすくなる。
・分からないときに,グループの友だちが教える協力が大事だと思う。
・自分だけの意見じゃなく,他の人の意見も組み合わせたら新しい見方ができる。
- 29 -
さらに,その日のリアルタイムの気象情報を
運動会の日の天気を予想する活動においては,
インターネットで調べて自分の予想と比較した。
家庭学習や協働を経てグループで練り上げた天
図Ⅳ-2のワークシートのように,家庭学習で
気予報についての番組を制作した。番組の進行
「晴れのち曇り」と予想していた児童は,なぜ
を考える際,
「台風のスピードが落ちると思うか
予想と違ったのかを振り返ってその根拠を明ら
ら,雨は午後から降るだろう」
「アメダスを見る
かにし,
次の天気の予想に活かすことができた。
と今台風が来ている九州の気温は□℃だから,
また,1つの資料だけを見て予想していた児童
大阪もそれぐらいの気温になるだろう」など,
は,他者が調べた資料についての発表を聞くこ
これまで学習してきたことを活かし,根拠を明
とによって,他の資料も参考にして予想するよ
らかにしてより詳しく天気を予想することがで
さを実感し,もっと正確に予想するためにはよ
きた。
「晴れや雨」以外にも風の強さ,暑さなど
り多くの情報から判断すること,風向きや雲が
に着目したことによって,
「1日中太陽が出なく
動く速さなどにも着目すること,情報を詳しく
て涼しいと思うから,上着を持っていきましょ
見ることの大切さなどを意識することができた。
う」「水筒のお茶の量は少なめでよいでしょう」
そして,この経験を運動会の日の天気を予想す
「午後から雨が降る予想だから,折り畳み傘を
る際に活かすことができた。
持ってきておいた方がよいでしょう」など,準
備した方がよいと思う持ち物についても発信す
ることができた。
さらに,テレビ会議を通して番組を気象予報
士に見てもらい,指導を受ける場面を設定した
ことによって,児童は自分たちの予想や根拠と
比較することや,もう一度詳しく資料を見直す
ことができた。そして,自分たちの考えに確信
をもったり修正したりして,より正確な予想に
しようと意欲的に話し合い,番組を録画し直し
たグループもみられた。単元の最終目標である
運動会の日の天気を予想する活動では,それま
図Ⅳ-2
天気を予想した児童のワークシート
で積み上げてきた経験,知識,技能を活用し,
グループで予想を練り上げた。活発な言語活動
以上のように,授業と関連させた家庭学習を
のもと,自らの考えやグループの考えを発展さ
行うことによって,児童はより集中して主体的
せて天気を予想することができた。
に授業に臨むことができた。また,グループで
このように,家庭学習によって児童一人ひと
協働する場面においては,家庭学習で気象情報
りが確実に自分の考えをもって授業に臨み,授
を調べたり分析したりしたことを話合いの場面
業では他者の考えと比較,関連付けしながら協
で説明することができ,一人ひとりの視野が広
働して問題解決を図った。言語活動を活発に行
がるとともに,複数の考えを組み合わせて結論
うことによって,一人ひとりが考察を深めると
を導き出すことができた。家庭学習によって学
ともに,考えを組み合わせて結論を導き出すこ
習の準備ができたことで言語活動が活性化し,
とができた。
より考えを深めた上で結論を導き出すこと
2) 総括的評価テストの結果から
ができた。
事前に天気の変化に関する知識や思考に関す
- 30 -
る調査を行い,事後にも同じ設問の総括的評価
の空に雲画像に写らない雲があるかもしれない
テストを行った。その中で,特に思考の変容が
ということ,日本付近の天気は西から東へ変化
みられたA児の記述を示す(図Ⅳ-3)。
するということと,その後どうなるのかという
推論を組み合わせて天気を予想することができ
問題
下の図を見て答えましょう。
図(ア),図(イ)のとき,大阪はどのような天
気だと考えられますか。また3月 14 日の午後3
時の天気はどうなると予想できますか。予想した
理由も書きましょう。
(ア)3月 12 日 午後3時
ている。これまで学習した知識が定着している
だけでなく,それを活用して考察し,説明する
力が身についてきていると考えられる。
3)
家庭学習に関する意識調査の結果から
事後の意識調査においては,
「TPC を持ち帰っ
て学習したことはよかった」(22 人),
「家庭で
学習したことが学校での話合いに役立った」
(22
大阪
(イ)3月 13 日
人)と感じている児童が多くいた。その理由と
して,
「家庭で考えてきたからしっかり話せた」
午後3時
「自分が分からないところをしっかり調べられ
た」
「授業中にやると時間がかかるから家庭でし
た方がよい」という意見があり,学校の授業と
関連した家庭学習が有用であったことが明らか
大阪
になった。
(ウ)3月 14 日
午後3時
また授業者からは,TPC を持ち帰った方が家
庭学習に対する児童の意欲が向上し,普段宿題
事前
の提出が難しい児童も,TPC を使う家庭学習に
(ア)3月 12 日午後3時 (イ)3月 13 日午後3時
継続して取り組むことができたという回答を得
た。
(2) 理科を学ぶ有用性の実感
理科を学ぶ有用性の実感については,天気の
事後
変化について意識の変容がみられたか,また学
(ア)3月 12 日午後3時 (イ)3月 13 日午後3時
習したことが実際の生活で活用できたかについ
て評価する。
事前調査において,
「理科で学習したことが普
段の生活と結び付いていると思う」と答えた児
童があまり多くなかった。そこで,児童が天気
に注目している行事の日に着目し,目標を「運
図Ⅳ-3
動会の日の天気を予想して発信しよう」とした。
A児の事前・事後の記述
これによって,本単元の学習を通して常に運動
事前でA児は,3月 12 日と 13 日の雲画像を
会の日を意識しながら問題解決を進めることが
見て,地図上の大阪の位置に雲がかかっている
できた。
かどうかで天気を判断していることが分かる。
特に,予報番組の制作の際には,学校全体に
しかし,
3月 14 日の天気については明らかな根
発信するという目的があったので,生活に関連
拠をもたない予想をしている。事後では,12 日
した情報も伝えようとする姿が認められた。そ
- 31 -
して運動会当日,予想した天気や持ち物が的中
ったが,家庭で資料を探す難しさ,TPC の操作
したグループがたくさんあり,天気を予想する
や故障への不安,自主的に家庭学習に取り組む
ことへの自信と充実感を得ることができた。事
ことなどについては課題が認められた。
後調査においても,児童はこれまでより天気を
今後は,学校や家庭において ICT をどのよう
気にかける機会が多くなったと答え,
「天気のこ
に活用していくのかということや,児童が探究
とを学習して分かるようになったから天気に注
心をもって問題解決できるような教材や活動に
目するようになった」
「天気が分かっていればい
ついて検討することが必要である。そして,協
ろいろな対策ができる」というように,事前と
働学習や家庭学習の充実を図りながら,問題解
比較して肯定的な意見に変化している児童もい
決能力を育成できるような授業デザインをして
た。天気を予想するときにも,これまではニュ
いきたい。
ース番組などの天気予報に頼っていたが,学習
を終えて,気象衛星画像や天気図などの気象情
注)
報を活用して予想すると答えた児童が 24 人増
1)
え,情報を活用する技能も向上したといえる。
国立教育政策研究所.社会の変化に対応す
る資質や能力を育成する教育課程編成の基本
さらに,
「自分で天気を予想することは生活に
原理,2012,88p.
役立つ」と答えた児童は 27 人おり,
「星がある
2)
かを見て翌日の予定を立てる」
「天気によって服
文部科学省.小学校学習指導要領解説
理
科編,初版,大日本図書,2008,7p.
装や持ち物を変える」など,天気と生活を関連
3)
谷村載美,古閑龍太郎,藤田麻衣子,山内
させて考え,天気を予想して自分の行動を変え
隆史.大阪市教育センター研究紀要 第 205
ることができるようになった。単元を通して,
号.21 世紀に求められる資質・能力を育成す
天気の変化を自分事の問題と捉えて解決するこ
る授業デザインに関する研究―ICT を活用し
とができ,その達成感や充実感が児童の意識の
た協働学習の内容・方法―.
http://www.ocec.
変容につながったと考える。意識調査において
jp/center/index.cfm/31,11346,c,html/11346
も理科と生活が結び付いていると思うと答えた
/20140411-095945.pdf,2014,p.25-38.
児童が増え(図Ⅳ-4)
,理科学習に対する有用
(参照 2014-12-25)
性の実感が高まった。
4)
それぞれの見方の違いを積み重ねていくこ
とで,一人ひとりが自らの考えをより質の高
い方向に変える働き
5)
村山哲哉.小学校理科「問題解決」8つの
ステップ―これからの理科教育と授業論―.
初版,東洋館出版社,2013,24 p.
6)
国立教育政策研究所,
平成 24 年度
全国学
力・学習状況調査【小学校】報告書,http://
図Ⅳ-4
理科の学習と生活との結び付きにつ
www.nier.go.jp/12chousakekkahoukoku
いての意識調査の結果
/03shou_houkokusho.htm (参照 2014-8-5)
7)
(3) 今後の課題
国土交通省 気象庁.天気予報の検証結果
平成 25 年の年集計.http://www.data.jma.
本研究において,家庭学習と授業とを関連さ
go.jp/fcd/yoho/data/kensho/HPdata2013
せながら学習を進めることの利点が明らかにな
/zc_2013.html (参照 2014-8-5)
- 32 -
Ⅴ
中学校数学科における ICT を活用した協働学習の実際
-「円の性質」(中学校第3学年)の学習 -
1
数学科において問題解決能力を育成する必
ると指摘している。
要性
以上のことから,今般,生徒に問題解決能力
学習指導要領(平成 20 年版)において,数学
を育成する必要があり,その指導に当たって,
科の指導は与えられた問題を解いて答えを求め
問題解決過程に配慮する必要があることが分か
られるようにすることだけをめざすのではなく,
る。
「数学的活動」を通して,新たな性質や考え方
そうした問題意識に立って,第 1 年次の研究
を見いだそうとしたり,具体的な課題を解決し
では,統計的問題解決過程の一つである「PPDAC
ようとしたりするなど,数学の学習に主体的に
サイクル」に沿って ICT を活用した協働学習を
取り組む態度を養うことが大切だと謳われてい
実践した。その結果,生徒が統計的分析に基づ
る。さらに,
「数学的活動」は基本的に問題解決
いて考察し,具体的に判断し行動する力の育成
の形で行われ,その指導に当たって配慮する事
に一定の効果があることを明らかにした 5) 。し
項として「自ら課題を見いだし,解決するため
かし,一人ひとりの生徒が主体的に「計画を立
の構想を立て,実践し,その結果を評価・改善
てる」,「振り返る」学習場面における時間を十
1)
する機会を設けること」 とある。この配慮事
分に確保できたとは言いがたく課題が残された。
項は,数学的問題解決過程の研究に関して,最
そこで,本年度は引き続き 21 世紀型能力の一
もよく参照されているポリアの問題解決の4段
つである問題解決能力の育成のため,問題解決
階(「問題を理解する」
「計画を立てる」
「実行す
過程に配慮しつつ,協働学習を活性化するため
る」「振り返る」)2)に当てはまる。
の「家庭学習の工夫」に焦点を当てて研究を進
このような主体的な問題解決能力の育成につ
める。
いて国立教育政策研究所の勝野頼彦らは「『何を
知っているか』を中心とする学校教育から,『何
2
数学科における協働学習の活性化と家庭学
ができるか』,『どのような問題解決ができるの
習
か』を中心とする学校教育への転換が求められ
生徒の生活経験や学習経験は個別性をもって
3)
るようになったと言える」 と報告書にまとめ
おり,授業への参加の仕方も多様である。他方
た。さらに,文部科学大臣の下村博文が,初等
で学校の授業は集団的問題解決の場であり,学
中等教育における教育課程の基準等のあり方に
習内容が共有されなくてはならない。そこで,
ついて諮問した。その中では,新しい時代にふ
協働学習における対話を通して,生徒一人ひと
さわしい学習指導要領等の在り方について,
「必
りが自分なりの考えをさらに深めることが必然
要な力を子供たちに育むためには,
『何を教える
となるような学習場面を設定することが大切に
か』という知識の質や量の改善はもちろんのこ
なる。それは,単に話し合わせればよいというこ
と,
『どのように学ぶか』という,学びの質や深
とではなく,異なる考えをもつ他者との意見交
まりを重視することが必要であり,課題の発見
換の過程で,自分一人で問題を解くよりも答え
と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわ
の質が上がるなど,「他者とのかかわりから学ぶ
ゆる「アクティブ・ラーニング」
)や,そのため
活動」をうまく設定する必要がある。そのよう
の指導の方法等を充実させていく必要」 4) があ
な協働学習をデザインする際,生徒が考える材
‐33‐
料にできる知識・経験を補う工夫が必要となる。
学力を高めるためにも,家庭学習の習慣化は
「考えなさい」
と言われても,考える材料がなけ
喫緊の課題である。生徒が自律的に家庭学習に
れば考えにくいのは当然である。家庭学習にお
取り組むには,生徒自身が家庭学習に対して有
いて,次の日の授業につながる考えをもつこと
用感や達成感をもつ必要がある。
ができるような学習材料が適切に提供されれば
協働学習は充実すると考える。
ポリアは問題解決過程において,
「問題を解く
ことの大部分はどんな計画を立てたらよいかと
平成 26 年度の全国学力・学習状況調査の報告
書において,
「家で,学校の宿題をしている」こ
いうことを考えつくことにあるといってよい」
7 )
とと「学力」が有意に関係することを示してい
る(表Ⅴ-1)。
と「計画を立てる」段階を重視している。
しかし,一人ひとりが問題解決への有効な計
画を考えつくための学習場面を授業の中で確保
するのは時間的に難しい。そのため,問題解決
表Ⅴ-1
「家で,学校の宿題をしている」
生徒の回答割合と平均正答率(%)6)
生徒数の
割合
当該選択肢を選ん
だ生徒の平均正答率
数学 A
数学 B
能力を高める授業デザインを指導者が進めるた
めには,学校だけで授業を完結するのではなく,
家庭学習も含めた学習過程を構築することが重
1
し て い る
63.8
72.3
65.1
要だと考える。図Ⅴ-1は問題解決能力の育成
2
どちらかといえば,している
24.5
63.3
55.5
をめざした授業と家庭学習との関連の在り方を
3
あまりしていない
8.6
56.0
48.1
示したものである。
4
全くしていない
2.9
48.3
40.3
24.0
24.8
1「している」と4「全くしていない」の平均正答率の差
図Ⅴ-1
授業と家庭学習を関連させる過程
‐34‐
3
授業計画
の形」で行われ,「疑問や問いの発生,その定
1・2節の考えを踏まえ,
「授業と家庭学習を
式化による問題設定,問題の理解,解決の計画,
関連させることで,協働学習が充実し問題解決
実行,検討及び新たな疑問や問い,推測などの
能力が育成される」との仮説を設定し,その仮
発生と問題の定式化」と続く一連の活動である
説を検証するため,同一授業者によって「家庭
9)
学習も含めた学習の過程を辿る授業デザインを
って取り組み,振り返ることが求められている。
適用したクラス(以下,実験群)」と「学校だけ
単元「円の性質」(中学校第3学年)は,観
で完結させる従来の授業デザインを適用したク
察,操作や実験などの活動を通して,数学的に
ラス(以下,統制群)」に分けて実施する。その
推論することによって円周角と中心角の関係に
際,両者ともに授業の中で協働学習の場面を適
ついて考察し,円の性質の理解を深めるととも
宜設定する。その上で実験群,統制群の学習に
に,円周角と中心角の関係を具体的な場面で活
対する理解度と意識の変容という観点で学習の
用する学習である。このような学習のねらいを
成果を捉え家庭学習の効果を検証する。
達成し問題解決能力を高めるために,既習事項
。その指導に当たっては,生徒が見通しをも
授業は学校 ICT 活用事業モデル校の大阪市立
を活かしてじっくり考える時間をとり,考えを
C中学校の協力を得て,第3学年2クラス 75
深め,他人の考えを知り,自分に活かすような
名を対象に平成 26 年 12 月に実施した。
協働学習を展開したい。ここでは,実験群・統
(1) 生徒の実態
制群において一人の授業者が同一の単元目標,
実験群の生徒数は 37 名,統制群の生徒数は
評価規準のもと授業を展開する。年間を通して,
38 名であった。授業前に実施された校内実力テ
学習内容の定着を目的に問題集による家庭学習
ストの数学の結果は,表Ⅴ-2のようであった。
の機会を両群ともに与えているが,実験群のみ
に表Ⅴ−3に示した家庭学習を適宜設定してい
表Ⅴ-2
校内実力テスト(数学)の結果
個数(人)
平均点(点)
標準偏差
実験群
37
56.3
20.7
く。この家庭学習ワークシートが授業に関連し
統制群
38
58.1
20.3
ている旨のみ伝え,自主的に取り組むように指
導する。そのワークシートを授業開始前に提出
するよう指示するが,提出状況も含めて検証す
るため未提出者への指導・支援は特別行わない
この2つの平均点の差が統計的に有意かを確
ようにする。
かめるために,F 検定で等分散であったことを
確認した後, t 検定を行った。その結果両群の
(3)
観察,操作や実験などの活動を通して,円周
平均点に有意差は見られなかった(両側検定:
t(73)=0.13, p =.90) 8) 。したがって,両群等
角と中心角の関係を見いだして理解し,それを
用いて考察することができるようにする。
質であるといえる。
(2)
単元の目標
ア.
単元設定の意図
数学は系統性が強く,既習事項と関連させて
新たな学習を進めていくことが多い教科である。
また,「数学的活動」を充実させることも求め
られている。数学的活動は「基本的に問題解決
‐35‐
円周角と中心角の関係の意味を理解
し,それが証明できることを知ること。
イ.
円周角と中心角の関係を具体的な場
面で活用すること。
表Ⅴ-3
家庭学習
①
家庭学習
②
家庭学習
③
家庭学習
④
家庭学習
⑤
家庭学習
⑥
家庭学習
⑦
実践群における家庭学習の内容とデジタル教材(巻末資料4)
ねらい
問題解決の見
通しをもつ。
問題解決の意
義を見いだす。
既習事項の確
認をする。
活用するため
の既習事項を
確認する。
学習内容から
派生する発展
的内容に挑む。
学習内容の定
着を図る。
内容
動的な数学ソフトで図形を動かし,中心
角や円周角の関係を見通す。
動的な数学ソフトで図形を動かし,円周
角の定理を証明する場合分けを見いだ
す。また,証明に使う外角定理など既習
事項を動画で視聴する。
円周角の定理の使い方を説明している動
画を視聴する。
動的な数学ソフトで図形を動かし,円に
内接する四角形の性質や接弦定理を見い
だす発展的探究的学習に挑戦する。
円周角の定理や等しい弧に対する円周角
の性質を使って角度を求める練習問題を
解き知識の定着を図る。
問 題 解 決 の 見 動的な数学ソフトを使って与えられた条
通しをもつ。
件で点を動かして宝の位置を予想する。
既 習 事 項 の 確 接線の作図方法を理解するために,動的
認をする。
な数学ソフトで 90 度の角の頂点の集まり
を記録し,斜辺を直径とする円を見通す。
(4)
デジタル教材
Geogebra 10 ) で作 成 し た フ
ァイル
Geogebra で作成したファ
イル
授業者が解説する動画フ
ァイル
授業者が解説する動画フ
ァイル
Geogebra で作成したファ
イル
授業者が練習問題を全問
解説する動画ファイル
Geogebra で作成したファ
イル
GC/html5 11 ) で作 成 し た フ
ァイル
単元の評価規準
数学への
数学的な
数量や図形など
学習内容
数学的な技能
関心・意欲・態度
見方や考え方
についての知識・理解
円 周 角 の ・円周角と中心角に ・円周角と中心角の ・円周角と中心角の ・円周角の意味,円
定理
関心をもち,それら 関係や,同じ弧に対 関係や,同じ弧に対 周 角 と 中 心 角 の 関
同 じ 弧 に の関係や性質を見 する円周角の性質 する円周角の性質 係及び同じ弧に対
対 す る 円 いだしたり,その証 を 見 い だ す こ と が を 記 号 を 用 い て 表 す る 円 周 角 の 意 味
周角
明 に ど の よ う な 図 できる。円周角と中 したり,その意味を を理解している。
等 し い 弧 形 の 性 質 が 用 い ら 心 角 の 関 係 の 証 明 読 み 取 っ た り で き ・円周角と中心角の
に 対 す る れ て い る の か を 考 を読み,どのような る。円周角と中心角 関 係 が 証 明 で き る
円周角
え た り し よ う と し 図 形 の 性 質 が 用 い の関係を用いて,角 こ と を 理 解 し て い
(4時間) ている。
ら れ て い る の か を の 大 き さ を 求 め る る。
考えられる。
ことができる。
円 周 角 の ・角の大きさから円 ・円周角の定理の逆 ・円周角の定理の逆 ・円周角の定理の逆
定理の逆
周角の定理の逆に が成り立つ理由を を用いて4点が同 の意味を理解して
(1時間) つ い て 考 え よ う と 三 角 形 の 外 角 の 性 じ 円 周 上 に あ る か いる。
している。
質から考えること 読み取ることがで
ができる。
きる。
円 周 角 と ・円周角と中心角の ・与えられた図形の ・円の外側にある 1 ・円の外側にある 1
中 心 角 の 関係を用いて具体 中に円を見いだし 点から円に接線を 点から円に接線を
関 係 の 活 的 な 事 象 を 捉 え る たり,日常生活の場 ひく作図や,長方形 ひく作図の方法,長
用
ことに関心をもち, 面 で 対 象 を 理 想 化 を 使 っ て 円 の 中 心 方 形 を 使 っ て 円 の
(4時間) 問 題 の 解 決 に 活 か や 単 純 化 す る こ と を 求 め る こ と な ど 中 心 を 求 め る 方 法
そうとしている。
で 円 と み な し た り ができる。
などの手順を理解
して,円周角と中心
している。
角の関係を用いる
ことで図形の性質
などを考えること
ができる。
‐36‐
(5)
実験群の授業計画(全9時間)
次(時)
学習目標
授業
1
円周角と中
協働学習(知識構成型ジグソー法 12))
(1)
心角の関係
を見いだし,
円周角の定
理を予想す
る。
1
円周角の定
(2)
理が証明で
きることを
知る。
1
円周角の定
(3)
理を用いて
角の大きさ
を求めるこ
とができる。
1
等しい弧に
(4)
対する円周
角の性質を
見いだすこ
とができる。
家庭学習
○ エキスパート班(A,B,C)
に分かれて,家庭で学習してき
たワークシートと Geogebra を
用いながら,円周角と中心角の
関係について考えを深める。
○ エキスパート班で得た考えを
ジグソー班で説明し合い,円周
角と中心角の関係を考える。
○ 円周角と中心角の関係を予想
し,ワークシートに考えをまと
め発表をする。
(使用する ICT TPC,電子黒板)
○ 家庭で学習してきたワークシ
ー ト と Geogebra を 用 い な が
ら,中心角と円周角の位置関係
を分類する。
○ 分類したそれぞれの場合で円
周角の定理が成り立つことを証
明する。
(使用する ICT 電子黒板)
協働学習
○ 家庭で習得した円周角の定理
を活用して応用問題をグループ
で解決し説明する。
(使用する ICT 電子黒板)
○ 等しい弧に対する円周角が帰
納的に等しくなることを予想す
る。
○ 中心角の大きさと円周角の大
きさと弧の長さの関係を考え
る。
(使用する ICT 電子黒板)
‐37‐
家庭学習①
Geogebra ファイルを操作,
観察して中心角と円周角の
関係について分かったこと
をまとめる。
(使用する ICT TPC)
家庭学習②
Geogebra ファイルを操作,
観察して中心角と円周角の
位置関係を場合分けする。
動画を視聴し円周角の定理
の証明に使う既習事項(二
等辺三角形の性質・外角定
理)を確認する。
(使用する ICT TPC)
家庭学習③
動画を視聴し円周角の定理
の使い方を基本問題で習得
する。
(使用する ICT TPC)
家庭学習④
Geogebra ファイルを操作,
観察し円に内接する四角形
や接弦定理を見いだす。
(使用する ICT TPC)
家庭学習⑤
ここまで習った様々
な角の大きさを求め
る演習問題をし,解説
動画を視聴し知識の
定着を図る。
(使用する ICT TPC)
2
(1)
3
(1)
3
(2)
3
(3)
3
(4)
4
角 の 大 き さ 協働学習
から円周角
○ GC/html5 の記録機能を使い
の定理の逆
60°と 90°の角の頂点の集ま
を考えるこ
りから円周角の定理の逆を考え
とができる。
る。
○ 円周角の定理の逆が成り立つ
理由を三角形の外角定理から考
える。
(使用する ICT TPC 電子黒板)
与えられた
条 件 を 理 想 協働学習
化,単純化
○ Geogebra ファイルのヒント
し,円の性質
を見ながら,条件を満たす作図方
を活用して
法を見いだす。
問題を解決
○ 作図方法が正しい理由を考え
することが
る。
できる。
(使用する ICT TPC,電子黒板)
円の外側に
ある1点か
ら円に接線
をひく方法
を考えるこ
とができ,作
図できる。
協働学習(知識構成型ジグソー法)
○ エキスパート班(A,B,C)
に分かれて,それぞれの資料に
ついて考えを深める。
○ エキスパート班で得た考えと
家庭で学習してきたワークシー
トも用いながらジグソー班で説
明し合い,円の外側にある1点
から円に接線をひく方法を考え
発表する。
(使用する ICT 電子黒板)
家庭学習⑥
条件を満たす宝の場
所を Geogebra ファイ
ルを操作,観察して見
通す。
(使用する ICT TPC)
家庭学習⑦
GC/html5 の記録機能
を使い直角三角形の
外に斜辺を直径とす
る円がかけることを
見通す。
(使用する ICT TPC)
円周角と中
○ 円周角の定理を使って三角形
心角の関係
の相似を証明する。
を用いるこ
(使用する
ICT 電子黒板)
とで図形の
性質を考え
ることがで
きる
単 元 を ま と 自己評価テストをする。
め,学習内容
を振り返る。
ポイントとなる授業の実際(実験群)
で円周角の定理を活用し,様々な角の大きさを
円周角の定理を用いて角の大きさを求める学
求められるようにしたい。また,多様な考え方
習場面である第1次の第3時限目の授業を紹介
を交流し問題解決することでそれぞれの考えの
する。生徒はこれまでに,操作,観察を通して
よさを感じ,数学のよさや楽しさに触れて欲し
円周角と中心角の関係を見いだし,その関係を
い。そこで,事前の家庭学習で3分程度の動画
演繹的に証明することで円周角の定理としてま
を視聴し,図Ⅴ-2の基本問題で円周角の定理
とめている。本時では,できるだけ多くの場面
の使い方の習得を済ませておくという反転学習
‐38‐
を行った(写真Ⅴ-1)。家庭学習ではあらかじ
授業者へのインタビューからも,統制群の授
め問題解決過程の「問題を理解する」
「計画を立
業では,前時の授業内容を確認する際,
「忘れて
てる」場面を学習し,授業では「計画を実行す
しまっているのでは」という懸念から,想起さ
る」「振り返る」時間を十分に確保した。
せてから本時の課題に入るため導入に時間がか
かってしまったが,実験群の授業では動画を視
聴している前提で授業を始めることができ,導
入がしやすかったと感じていることが分かった。
図Ⅴ-2
家庭学習に よって 事前に習得する
基本問題
図Ⅴ-3
写真Ⅴ-1
授業者が説明した例題
家庭学習における予習動画の
一場面
授業は,動画の内容の確認(導入)を行った
後,図Ⅴ-3の2つの例題を一斉学習で授業者
図Ⅴ-4
協働学習で解決した問題
より説明し,図Ⅴ-4の6題を自力解決→グル
ープで検討(協働学習)→発表(まとめ)とい
うように展開した。それぞれの学習場面に要し
19
統制群
5
6
15
5
た時間を測定し,統制群と比較した。図Ⅴ-5
がその結果である。実験群では家庭学習を工夫
することで協働学習の時間がより確保され,生
徒は他者の考えを知り,自分の考えを活かし,
実験群
5
6
8
19
12
多様な考え方に触れることができた。
(分)
一方統制群では,導入時に図Ⅴ-2を授業者
が説明する時間が必要となり,まとめの時間で
は6問中2問だけを生徒が発表し,残りは授業
者が説明する形になった。
導入
展開(自力解決)
まとめ(振り返り)
図Ⅴ-5
‐39‐
展開(一斉学習)
展開(協働学習)
各学習場面での時間配分
授業後,学校での話し合いを通して育まれた
数学的な思考力を発揮し,活用する発展的な内
容を家庭学習で 挑むよ うにした。図Ⅴ ―6の
図形の問題を解決するために自分で見
通しや予想を立てている
事前
(実験群)
9
8
14
6
Geogebra ファイルを操作,観察し,高校数学
の内容である内接する四角形の性質や接弦定理
を見いだす内容である。
「振り返る」場面を家庭
事後
(実験群)
14
13
8
2
(人) N=37
学習にもつなげ,数学の楽しさに触れながら本
時の内容を見直し,確かなものにすることをね
事前
(統制群)
らいとした。
8
15
事後
(統制群)
12
14
14
3
8
2
(人) N=38
当てはまる
少し当てはまる
あまり当てはまらない
当てはまらない
その日に学習する目標(めあて・ねら
い)をつかんで学習に取り組んでいる
図Ⅴ−6
5
探究的な家庭学習の一例
事前
(実験群)
授業の評価
6
13
事後
(実験群)
8
事前
(統制群)
10
学習記録や総括的評価テストなどから家庭学
13
16
10
3
(人) N=37
習の効果を検証する。
(1)
5
意識の変容について
事前・事後調査(4段階評定尺度法)によっ
18
8
2
て対象生徒の問題解決能力,協働学習,家庭学
習に関する意識を問い評価を行う。
1)
事後
(統制群)
問題解決能力に関する意識
14
図Ⅴ-7に見られるように,問題解決過程を
15
7 2
(人) N=38
意識した授業では「計画を立てる」段階に実験
当てはまる
少し当てはまる
群,統制群ともに一定の効果があることが分か
あまり当てはまらない
当てはまらない
る。
図Ⅴ-7
特に,実験群の方が統制群に比べて肯定的な
問題解決能力に関する意識
反応を示す生徒が増加している。このことから,
家庭学習を利用して「計画を立てる」段階に生
2)
協働学習を行った結果(写真Ⅴ-2),他者と
徒一人ひとりが行うことで授業のめあてがより
明確になり,問題解決への見通しが立てやすく
なったものと考えられる。
協働学習に関する意識
協働しながら問題解決する価値を見いだしてい
る生徒が実験群,統制群ともに増加した(図Ⅴ
-8)。生徒の感想にも「様々な意見を共有して
‐40‐
理解を深められた」や「自分だけでなく他の人
学習の有用性を感じている生徒が多かった。こ
の意見を取り入れることができた」など,協働
れは,問題解決過程を意識し協働的に問題を解
決した成果だと考えられる。また,
「これまで学
習したことや友だちの考えを組み合わせて,新
グループで学習するときは,友だちの考えを聞く
ことにより,自分の考えを振り返り,もう一度考
え直している
しい見方をしたり,新しいものを作り出したり
している」と肯定的に回答している生徒が実験
事前
(実験群)
4
13
13
7
群では 15 人から 26 人に増加し,統制群では 25
人から 30 人に増加した。このことから,家庭学
習を授業と関連させることで「他者と話し合い,
事後
(実験群)
11
14
7
5
考えを比較吟味して統合し,よりよい解や新し
(人) N=37
い知識を作り出」 13)すような 21 世紀型能力の
中核である思考力の育成に一定の効果があると
事前
(統制群)
10
事後
(統制群)
16
12
9
17
3
8
考えられる。
1
(人) N=38
当てはまる
少し当てはまる
あまり当てはまらない
当てはまらない
これまで学習したことや友だちの考えを組み合わ
せて,新しい見方をしたり,新しいものを作り出
したりしている
事前
(実験群)
4
11
14
写真Ⅴ-2
8
3)
協働学習の一場面
家庭学習に関する意識
今回の統制群では,通常通り副教材として各
事後
(実験群)
自が持っている問題集を適宜家庭で解くことを
12
14
10
1
(人) N=37
指示し,実験群はそれに加えて7種類の家庭学
習を宿題とした。そのため,単純に比較できな
いが,家庭学習を工夫し授業と関連させること
事前
(統制群)
8
17
8
5
で,宿題以外の家庭での学習意欲にも一定の効
果があることが分かった(図Ⅴ-9)。また,
「授
業が分かりやすくなった」や「予習しているか
事後
(統制群)
13
17
6
(人) N=38
当てはまる
少し当てはまる
あまり当てはまらない
当てはまらない
2
ら話し合いについていける」など,家庭学習が
学校での協働学習に役立ったと実感している生
徒が実験群の方が顕著に増加した。このことか
ら,家庭学習を工夫することによって話し合う
ために必要な自分の考えをもった上で授業に臨
図Ⅴ-8
協働学習に関する意識
め,協働学習が充実したと考えられる。
‐41‐
学習するために必要な最低限度の考えを揃え,
(2)
学習内容の理解度について
協力して学習を創りあげる有用感を得ることが
事後に,単元「円の性質」の総括的評価テス
できれば,生徒の主体的に学習に取り組む姿へ
トとして,「自己評価テスト」 14) を実施し,事
つながると考える。
前に実施した校内実力テストと比較した。図Ⅴ
-10 はそれぞれ正答率で成績上位Aから成績
下位Eで層別した結果である。
宿題以外に学校の予習をしている
事前
(実験群)
4
10
14
9
事前
(人)
25
20
事後
(実験群)
10
7
16
4
15
5
10
10
12
8
10
(人) N=37
事前
(統制群)
6
5
15
9
7
5
4
D
9
C
少し当てはまる
あまり当てはまらない
当てはまらない
15
5
家庭で学習したことが学校の話し合い
に役立った
8
22
4
4
6
統制群
N=38
1
D
C
B
A※
15
15
11
4
N=38
8
0
6
6
(人) N=37
事前
(統制群)
実験群
N=37
E
10
N=38
A※
21
19
10
事後
(実験群)
統制群
事後
(人)
当てはまる
18
B
25
20
22
6
0
(人) N=38
事前
(実験群)
9
22
E
事後
(統制群)
実験群
N=37
1616
14
※A:正答率 80%以上
B:正答率 60%以上
C:正答率 40%以上
D:正答率 20%以上
E:正答率 20%未満
図Ⅴ-10
9
事前と事後における成績層別の人数
事前と事後の間で実験群の成績上位層の人数
が統制群と比較してより増加傾向がみられた。
事後
0
(統制群)
19
9
10
(人) N=38
以上の結果から,実験群における家庭学習の工
夫が学習理解度を高めるのに一定の効果をあげ
たと考えられる。
当てはまる
少し当てはまる
次に,実験群における家庭学習の取り組みを
あまり当てはまらない
当てはまらない
分析する。表Ⅴ-3は全7種類の家庭学習ワー
家庭学習に関する意識
クシートの提出回数について,実験群における
図Ⅴ-9
‐42‐
該当者数と全体に占める比率を示したものであ
の相関をもち,授業と関連した家庭学習に取り
る。今回,提出に際しては生徒の自主性に任せ,
組めば,学習理解度の向上に一定の成果が見ら
とりわけ特別な支援は行わなかった。その結果,
れることが分かった。ただし,全7種類を提出
全種類を提出した生徒の割合が 40.5%,5種類
しているにも関わらず,テストの結果につなが
以上を提出した生徒を含めると 62.2%であり,
っていないケースもあるので,個別の支援が必
2種類以下しか提出しなかった生徒が 27.0%
要になると考える。
いた。このことからも,家庭学習の提出への支
援が課題であるといえる。
表Ⅴ-4
家庭学習ワークシートの提出数と総
括的評価テストとの関連
表Ⅴ-3
実験群における家庭学習
ワークシートの提出状況
提出回数
該当者数
全体の比率
(回)
(人)
(%)
7
15
40.5
6
5
13.5
5
3
8.1
4
2
5.4
3
2
5.4
2
5
13.5
1
4
10.8
0
1
2.7
計
37
100
提出
回数
(回)
A
B
C
D
E
7
9
4
1
0
1
6
4
0
1
0
0
5
1
1
1
0
0
4
1
1
0
0
0
3
2
0
0
0
0
2
2
0
1
2
0
1
2
0
0
1
1
0
0
0
0
1
0
計
21
6
4
4
2
(3)
表Ⅴ―4は,家庭学習ワークシートの提出数
と総括的評価テストの正答数とのクロス集計を
した結果である。総括的評価テストの結果は図
Ⅴ-10 と同じ正答率で分類し,提出数ごとに内
訳を調べた。なお,家庭学習ワークシートの提
出数と総括的評価テストの正答率との相関関係
を統計的に確かめるため,ピアソンの相関係数
を求めたところ,r=0.367 であり,提出数と正
答率との間に低い相関があることが分かった 15)。
その結果,家庭学習ワークシート7種類すべ
て提出している生徒の 60.0%が成績最上位層A
であり,B層も含めると 86.7%であることが分
かった。これらのことから,家庭学習ワークシ
ートの提出数は,総括的評価テスト結果に一定
総括テストの正答率における層別(人)
今後の課題について
授業実践の結果,協働学習に臨むために必要
な学習を家庭で行うことによって,学校では時
間をかけて考えを交流し合う授業をデザインす
ることができた。しかし,その質を高めるため
には家庭学習に取り組んだ結果を評価し,必要
に応じて指導し,再評価する必要があり,その
ような支援を行う場面の確保が課題になる。
「中学生だから自己責任で」ではなく,生徒
が達成感を得られるよう継続して支援すること
が,学習の取り組み方が分からず,あきらめて
しまう生徒を支えることにつながると考える。
さらに,継続的な支援がより発展的な学習に挑
戦したいと感じている生徒のもつ力を伸ばすと
ともに,主体的に学び,自らの将来を切り拓く
力になると考える。
‐43‐
授業でも授業外でも生徒が主体的に学ぶこと
ができる学習指導法を今後も研究し,学校での
学びが日常や将来の生活に役立つと実感できる
探究的な学習の在り方を探っていきたい。
https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinka
n/j-math/jiko-test/pdf/3-006.pdf,(参照
2014-12-1)
15) 稲垣宣生.山根芳和.吉田光雄.前掲書,
p.40.
注)
1) 文部科学省.中学校学習指導要領.2008,p.
43.
2) G. ポリア著.垣内堅信訳.いかにして問題
をとくか.丸善出版,1954,p.9.
3) 国立教育政策研究所.資質や能力の包括的
育成に向けた教育課程の基準の原理(報告書
7),2014,p.22.
4) 下村博文.初等中等教育における教育課程の
基準等の在り方について(諮問).文部科学省,
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chuk
yo/chukyo0/toushin/1353440.htm,(参照
2014-12-26)
5) 谷村載美.古閑龍太郎.藤田麻衣子.山内隆
史.大阪市教育センター紀要第 205 号「21 世
紀に求められる資質・能力を育成する授業デ
ザインに関する研究−ICT を活用した協働学習
の内容・方法−」,
http://www.ocec.jp/center/index.cfm/31,1
1346,cf,html/311346/20140411-095945.pdf,
2013,p.39-40. (参照 2014-12-25)
6) 国立教育政策研究所. 平成 26 年度全国学
力・学習状況調査報告書, 2014, p.22.
7)G.ポリア.前掲書,p.12.
8) 稲垣宣生.山根芳和.吉田光雄.統計学入門,
1992, p.125-126.
9) 文部科学省. 前掲書, p.63.
10) Geogebra, 動的な数学ソフトウェア,
http://www.geogebra.org,
(参照 2014-12-25)
11) GC/html5, 愛知教育大学飯島研究室,
http://www.auemath.aichi-edu.ac.jp/teac
her/iijima/gc_html5/index_online.htm,
(参照 2015-12-25)
12) CoREF, http://coref.u-tokyo.ac.jp,
(参照 2015-12-25)
13) 国立教育政策研究所. 社会の変化に対応す
る資質や能力を育成する教育課程編成の基
本原理(報告書5), 2013, p.27.
14) 啓林館. 平成 24 年度 中学校数学自己評
価テスト, 2013,
‐44‐
Ⅵ
研究のまとめと今後の課題
明らかにしながら自分で天気を予想し,授業で
は互いに説明し合いながら天気予報の精度を上
本研究は,21 世紀に求められる資質・能力で
げるという協働学習をデザインした。その結果,
ある協働的な問題解決能力や批判的思考力の育
児童一人ひとりが様々な情報を基に自分の考え
成をめざし,授業と家庭学習とを関連させた協
を明確にして授業に臨むことによって,活発な
働学習の在り方を探ることを目的としたもので
話し合いによる結論の導出が可能となり,問題
ある。まず,先行の研究・実践を整理・検討し
解決能力の育成に効果をあげた。
た結果を踏まえて,協働学習の活性化に効果を
中学校数学科では,家庭学習において次時の
発揮する家庭学習の内容を次のように考えた。
問題を理解して解決の計画を立てる場面までを
・教師が作成した動画やデジタル教材などを用
TPC 上の動画を視聴して時間をかけて予習し,
いて授業の予習・復習を各自のペースで行い,
授業では問題の自力解決→グループで検討(協
授業で求められる知識・技能を習得・活用し
働学習)→発表・まとめ,と展開するよう授業
たり,疑問をもったりする。また,授業の課
をデザインした。これを実験群として,家庭学
題に対する自分の考えをもつ。
習を行わずに授業時間内に協働学習を行う統制
・学校内だけでは得られにくい事物・現象に触
れるため,観察,調査,研究を行う。
群との学習効果を比較した。その結果,実験群
の方が統制群に比べて見通しをもって学習に取
・授業中に抱いた問題を解決するために探究的
な学習を行う。
り組んだという意識が高く,学習理解度も高い
ことが明らかになった。
次に,これらの考えを基にして,教科の特性
今後さらに ICT を活用して授業と家庭学習と
に忚じた授業をデザインし,その有効性を検証
を関連させた協働学習の有効性を確実なものに
した。
授業実践の結果,次のような成果を得た。
するには,いく例かの実践を重ねていかなけれ
小学校国語科「書くこと」の学習では,他校
ばならない。その際には,家庭学習における児
の児童に自分たちの地域のよさを知らせるため
童生徒の自立的な学びを支援するとともに,授
に,デジタルリーフレットを作成するという内
業における彼らの協働的な問題解決能力の育成
容で学習を行った。取材と推敲は TPC を持ち帰
を可能とする学習とはどのようなものかを問い
って家庭で時間をかけて行い,授業ではその結
続け,授業デザインにさらなる工夫を加えてい
果を持ち寄って互いにアイデアを出し合ったり
きたいと考える。
改善点を指摘し合ったりして,一つのものを作
り上げるという協働学習をデザインした。その
おわりに
結果,児童は原稿に対する自分の考えを練り上
げたうえで授業に臨むことができるようになり,
ICT を活用した協働学習の効果については,
協働的な問題解決過程の中で批判的思考力を高
①学習動機を高める,②時間と空間を超えて学
めていった。
習機会を拡大させる,③学習効率を高める,④
小学校理科では,TPCを家に持ち帰って①雲の
学習者の自律性の育成に貢献することが指摘さ
動きを撮影し,授業ではその画像を持ち寄り,
れてきた。本研究における授業実践においても
吟味・検討して雲の様子と天気の変化との関係
同様の効果が認められた。
についての結論を導き出す,②天気予報に関す
とりわけ,TPCを持ち帰って行う家庭学習で
る画像等を複数収集し,それらをもとに根拠を
は,予習動画を視聴したり演習問題に取り組ん
- 45 -
だりなどして予習・復習を行うだけでなく,他
<付記>
者の考えと自分の考えを比較しながら自分の考
えを見直し改善する児童生徒の姿が認められた。
本研究は,平成 26 年度「がんばる先生支援」
を受けて実施したことを付記しておく。
こうした学習の継続によって,学習の機会の増
加,自主的な学習の促進といった家庭学習の本
<研究協力校:大阪市 ICT 活用事業モデル校>
来の目的が達成され,授業中の協働学習がさら
大阪市立阿倍野小学校
に活性化するものと考える。
大阪市立本田小学校
今後も,21世紀に求められる資質・能力を育
大阪市立旭陽中学校
成することをめざした授業として,ICTを活用し
た協働学習の展開が求められると考える。ただ,
<執筆担当者>
ICTはあくまでもツールであることを忘れては
谷村載美
はじめに,Ⅰ,Ⅱ,Ⅵ,おわりに
ならない。重要なのは,指導者がどのように効
山内隆史
Ⅲ,資料1
果的な協働学習をデザインしていくかである。
藤田麻衣子
Ⅳ,資料2
本稿がその先行研究としての役割を果たせるな
古閑龍太郎
Ⅴ,資料3
ら幸いである。多くの方々のご指導ご叱正をお
願いする次第である。
なお,本研究における授業実施にあたり,忙
しい時間を割いてご協力いただいた関係の方々
に対して心から感謝申しあげる次第である。と
りわけ,授業実践者には,授業実践や資料提供
をいただいた。
- 46 -
資料1
(1)
○
・
・
・
(2)
町のよさを伝えるデジタルリーフレットを作ろう
「ようこそ,私たちの町へ」
単元の目標
自分たちの住む町のよさについて,調べたことを整理し,デジタルリーフレットにまとめる。
相手や目的に応じて書く事柄を収集し,構成に沿って整理することができる。
資料を引用したり,写真や図表などを用いたりして,考えが伝わるように書くことができる。
町のよさが効果的に伝わるように,内容や表現の仕方に着目して助言し合うことができる。
評価規準
国語の関心・意欲・態度
書く能力
言語についての
知識・理解・技能
・ 自分たちの住む町の情 ・ 相手や目的に応じて書く事柄を収集し,構成に沿っ ・ 話し言葉と書き言葉の違
報を収集・整理し,相手
て整理することができる。
いを理解し,目的に応じて
に内容が伝わるように
・ 資料を引用したり,写真や図表などを用いたりして,
使い分けることができる。
まとめようとしている。
自分の考えが伝わるように書くことができる。
・ 町のよさが効果的に伝わるように,内容や表現
の仕方に着目して助言し合うことができる。
(3)
次
指導計画(全 11 時間)
指導・支援
学習活動
時
評価の観点(◎)
書く活動の指導過程
1
○
デジタルリーフレット
・
について知り,単元の流
町のよさを伝えるデジタルリーフレット(以
れを確認する。
自分たちの住む町のよ
・
ーフレットで伝える
発表するように促す。写真や動画,音声が入っ
ことに興味をもち,進
ていて様子がよくわかることや見出し,短い文
んで特徴や,自分達の
章が書かれていることを確認する。
住む町のよさについ
・
おすすめの場所,もの,人物,行事など,他
の地域に住む人に紹介したい事柄を挙げるよう
①課題設定や取材の過程
2
○
グループごとに伝えた
のよさをデジタルリ
指導者が作成した資料を見せ,資料の特徴を
さを考える。
Ⅰ
自分たちの住む町
下資料)を作ることを知らせる。
①課題設定や取材の過程
○
◎
て考えている。
(関心・意欲・態度)
伝える。
・
自分が調べてきたことや友達の調べてきたこ
◎
目的や意図に沿っ
い事柄を考え,担当を決
とから,伝えたい事柄を選ばせ,4人程度のグ
て,報告したい事柄
める。
ループを編成する。選んだ事柄の歴史や関わっ
を考えている。
(書く
ている人,関係している人の思いなどグループ
能力)
①課題設定や取材の過程
ごとに考えるよう指導する。その際,選んだ事
柄のよさを伝えることにつながるか十分吟味す
るよう伝える。
- 47 -
3
○
取材の方法を調べ,自
・
分の担当している事柄の
取材メモを書く。
これまでの経験や教科書P53 を参考に,取材
◎
についてまとめる。
・
①課題設定や取材の過程
・
目的や意図に沿っ
て,報告したい事柄
何のために,誰に,何を,どのような方法で
を考え取材メモを書
取材するのかノートにまとめるよう指示する。
い て い る 。( 書 く 能
取材メモをグループで交流し,よい点や改善
力)
点,改善策を出し合うよう指示する。町のよさ
を伝えることにつながるかを考えるよう指導す
る。
家
○
①
自分の担当の事柄につ
・
必要に応じて写真や動画を撮影することが考
◎
目的や意図に沿っ
いて,取材を行う。
(家庭
えられるが,相手がいる場合には,必ず許可を
て,取材している。
学習)
取るよう指導しておく。安全面にはくれぐれも
(書く能力)
①課題設定や取材の過程
気をつけ,できる限り保護者同伴で取材に行く
よう伝える。
4
○
編集会議を開き,取材
・
内容を検討する。
①課題設定や取材の過程
町のよさを伝えることにつながる内容になっ
◎
目的や意図に沿っ
ているかを検討するよう指導する。よい点や改
て,取材内容を検討
善点,改善策についても出し合うよう指示する。
し て い る 。( 書 く 能
力)
家
Ⅱ
○
②
編集会議で出た意見を
・
受けて,自分の担当の事
町のよさを伝えることにつながる事柄を取材
◎
するよう伝える。
目的や意図に沿っ
て,取材している。
柄について再度取材を行
(書く能力)
う。
(家庭学習)
①課題設定や取材の過程
5
○
編集会議を開き,取材
・
どのように記事や写真や動画を配置すれば,
◎
目的や意図に沿っ
・
内容を検討し,資料の割
町のよさがよく伝わるかを考えながら検討する
て,文章全体の効果
6
付を考える。
よう指導する。実際に TPC を操作しながら考え
を考えている。
(書く
るよう指示する。
能力)
②文章構成の過程
○
担当している項目の資
・
料を作成する。
③記述の過程
・
取材してきた資料を引用したり,写真や図表
◎
資料を引用したり,
などを用いたりして,町のよさが伝わるように
写真や図表などを用
まとめられるように指導する。
いたりして,自分の
見出しは話し言葉で興味をひくように書く,
考えが伝わるように
説明は短く書き言葉で書くなど,目的に合わせ
書いている。
(書く能
て使い分けるよう指導する。
力)
◎
話し言葉と書き言
葉の違いを理解し,
目的に応じて使い分
けている。
(言語)
- 48 -
家
○
③
グループの児童の資料
7
・
を検討する。
○
編集会議を開き,記述
・
町のよさが伝わる資料になっているかを表現
◎
町のよさが効果的
の仕方に着目して,見出しや説明している文章,
に伝わるように,表
写真や動画など,それぞれの内容や構成につい
現の仕方に着目して
て,よい点や改善点,改善策を考え,付箋に書
資料を検討してい
いてくるよう指示する。
る。
(書く能力)
町のよさが伝わる資料になっているかを表現
◎
町のよさが効果的
内容や表現の仕方に着目
の仕方に着目して話し合うよう指示する。付箋
に伝わるように,内
して助言し合う。
を活用し,見出しや説明している文章,写真や
容や表現の仕方に着
④文章を推敲の過程
動画など,それぞれの内容や構成について,よ
目して助言してい
い点や改善点,改善策を出し合うよう指導する。
る。
(書く能力)
○
助言を基に,資料を修
・
正する。
助言されたことをそのまま修正するのではな
◎
資料を引用したり,
く,どうすればより町のよさが伝わる資料にな
写真や図表などを用
るかを吟味してから資料を修正するよう指示す
いたりして,自分の
る。
考えが伝わるように
書いている。
(書く能
力)
家
○
④
他のグループの児童の
8
・
資料を検討する。
○
他のグループと拡大編
・
町のよさが伝わる資料になっているかを表現
◎
町のよさが効果的
の仕方に着目して,見出しや説明している文章,
に伝わるように,表
写真や動画など,それぞれの内容や構成につい
現の仕方に着目して
て,よい点や改善点,改善策を考え,付箋に書
資料を検討してい
いてくるよう指示する。
る。
(書く能力)
他のグループの資料を見て,町のよさが伝わ
◎
町のよさが効果的
集会議を開き,記述内容
る資料になっているかを表現の仕方に着目して
に伝わるように,内
や表現の仕方に着目して
話し合うよう指示する。付箋を活用し,内容や
容や表現の仕方に着
助言し合う。
(ピアレスポ
構成について,よい点や改善点,解決策につい
目して助言してい
ンス)
て出し合うよう指導する。
る。
(書く能力)
④文章を推敲する過程
○
助言を基に,資料を修
正する。
・
助言されたことをそのまま修正するのではな
◎
資料を引用したり,
く,どうすればより町のよさが伝わる資料にな
写真や図表などを用
るかを吟味してから資料を修正するよう指示す
いたりして,自分の
る。
考えが伝わるように
書いている。
(書く能
力)
- 49 -
9
○
グループで資料を完成
・
町のよさを伝えられる資料になっているか最
◎
町のよさが効果的
させ,次時の学級内報告
終チェックを行い,改善点がなければ,次時の
に伝わるように,内
会に向けて練習する。
学級内報告会に向けて,練習を行うよう指示す
容や表現の仕方に着
る。
目して助言してい
④文章を推敲する過程
る。
(書く能力)
10
○
学級内報告会を行う。
・
報告する人は,何を伝えたいと思って資料を
◎
書いたものを発表
作ったのかをまず紹介するように伝える。聞く
し合い,内容や表現の
人は,伝えたいことがわかる資料になっている
仕方に着目して助言
かを考えながら聞くよう指示する。一つのグル
し合っている。(書く
ープの発表が終わるたびに,よい点や改善点,
能力)
⑤書いた文章を交流する過程
Ⅲ
感想等を伝える時間をとる。
○
他の小学校の児童が作
成した資料を読み,工夫
11
・
必要に応じて修正するよう指示する。
・
内容や構成について,気付いたことを出し合
うよう指示する。
◎
書いたものを読み
合い,内容や表現の仕
点や感想を交流する。
方に着目して感想を
⑤書いた文章を交流する過程
交流している。(書く
能力)
資料2
児童が作成したデジタルリーフレットの例
- 50 -
資料3 「雲と天気の変化」(小学校第5学年)の指導計画
(1) 第5学年「雲と天気の変化」単元の目標
○
1日の雲の様子を観測したり,映像などを活用したりして,雲の動きなどを調べ,天気の変化の仕
方についての考えをもつことができるようにする。
ア 雲の量や動きは,天気の変化と関係あること。
イ 天気の変化は,映像などの気象情報を用いて予想できること。
(イについては,台風の進路による天気の変化や台風と降雨との関係についても触れるものとする。
)
(2) 単元の評価規準
自然事象への
科学的な思考・表現
観察・実験の技能
関心・意欲・態度
① 天気の変化などの気
① 天気の変化と雲の量
① 雲の様子を観察する
象情報に興味・関心をも
や動きなどの関係につ
など天気の変化を調べ
ち,自ら雲の量や動きを
いて予想や仮説をもち,
る工夫をし,気象衛星
観測したり,気象情報を
条件に着目して観察を
やインターネットなど
収集したりして天気を
計画し,表現している。
を活用して計画的に情
予想しようとしている。 ② 天気の変化と雲の量
報を収集している。
② 雲の様子や気象情報
や動きなどを関係付け
② 雲の量や動きなどを
を基にした天気の予想
て考察し,自分の考え
観測し,その過程や結
を日常生活で活用しよ
を表現している。
果を記録している。
うとしている。
自然事象について
の知識・理解
① 雲の量や動き
は,天気の変化と
関係があること
について理解し
ている。
② 天気の変化は,
映像などの気象
情報を用いて予
想できることを
理解している。
(3) 指導計画
第1次《雲のようすと天気の変化》
時間
児童の学習活動
教師の指導・支援
評価の観点
どうすれば自分で天気が予想できるか考えよう。
1
○ 生活の中で天気に注目すると
きを振り返る。
○ 林間学校の日の天気予報と実
際の天気を振り返る。
○ 予報の精度や方法などについ
て知る。
2
○ 運動会に向けて,自分たちで天
気を予想することができるよう
になるという課題をつかむ。
○ 天気の変化を予想するために
はどのようなことが必要かを考
えて学習カードに記入し,学級全
体で共有する。
○ 学習カードから,雲の様子と
天気の変化についての問題を見
いだす。
・ 天気が予想できるとよいと実感
できるようにする。
・ 事前に天気予報に関する資料を
収集しておき,TPC を使って天気
を比較したり,天気予報の作り方
について知ったりすることができ
るようにする。
・ 予想した天気や持ち物を発信す
るという目標をもつことができ
るようにする。
・ 自分で予想するにはどのような
ことを知っておく必要があるのか
を考え,学習計画を立てられるよ
うに支援する。
◎ 気象情報に興味・関心
をもち,天気の変化につ
いて調べようとしてい
る。
(関・①)
雲のようすが変化すると天気も変化するのだろうか。
- 51 -
2
○ 屋上で午前,午後の空を見て, ・ 雲の色,量,形,動きに着目し
雲の色,量,形,動きを観察し,
て予想することができるように
記録する。
助言する。
・ 方位磁針を正しく使用して観察
するとともに,
TPCで空の様子を撮
影し,ワークシートに雲の形や量
を記録できるようにする。
○ 天気用語や雲の種類について
知る。
家庭学習
○ 家庭学習で,休業日の天気
と雲の様子を観察・記録する。
○ 観察結果を交流し,雲の様子
と天気の変化の関係について考
察する。
3
○ 学習のまとめをする。
○ 雲の様子,動き,位置を観察
すれば,天気が予想できること
に気付く。
第2次《天気の変化のきまり》
時間
児童の学習活動
○ 天気を予想するには,広範囲の
雲の様子を知る必要があること
に気付き,問題を見いだす。
・ 雲の量によって天気が決まるこ
とを押さえる。
・ 家の近くで空を観察する方角を
決めてTPCで数回撮影し,
より多く
の結果を集めることができるよう
にする。
・ 記録したTPCの画像を学習班で
振り返り,雲の様子と天気の変化
について考察できるように支援す
る。
・ 雲の動く方角を観察すれば,数
時間後の天気が予想できることに
気付くよう助言する。
教師の指導・支援
・ 数日後の天気を予想するには,
広範囲の雲と天気を把握し,天気
の変化のきまりを調べる必要があ
ることに気付くことができるよう
支援する。
◎ 天気の変化と雲の量や
動きなどの関係について
予想や仮説をもち,自分
の考えを表現している。
(思・①)
◎ 雲の量や動きなどを観
測し,その過程や結果を
記録している。(技・②)
◎ 天気の変化と雲の量や
動きなどを関係付けて考
察し,自分の考えを表現
している。
(思・②)
◎ 雲の量や動きは,天気
の変化と関係があること
について理解している。
(知・①)
評価の観点
天気の変化にはきまりがあるのだろうか。
1
2
協
働
学
習
(
ジ
グ
ソ
ー
型
)
○ 天気の変化のきまりについて
仮説を立て,調べる計画を立て
る。
・ 日本各地の雲と天気の様子に着
目し,複数の地点の雲や天気を調
べる計画を立てられるように支援
する。
○ 雲画像,天気図,アメダス,降
水ナウキャストなどの資料の活
用について知る。
・ TPC で天気に関する資料を確認
し,活用方法を知ることができる
ようにする。
○ 学習班で天気を調べる都道府
県と担当する資料を決める。
○ 資料別の研究班を編成し,イン
ターネットで都道府県ごとに気
象情報を調べる。
【学習班】
【研究班】
ナ
雲
ナ
雲
ナ
ナ
ア
ア
ア
天
ア
天
ナ
ナ
ア
ア
ナ
雲
ナ
雲
雲
雲
天
天
ア
天
ア
天
雲
雲
天
天
1 3
2 4
A
B
C
D
・ 天気図,雲画像,アメダス,降
水ナウキャストの資料を調べる役
割を分担し,多面的に天気の変化
を調べることができるようにす
る。
・ 過去数日間の資料を調べ,雲の
動きや天気の変化の傾向を捉える
ことができるようにする。
・ TPC で資料を保存し,気付いた
ことを書き込むように助言する。
- 52 -
◎ 天気の変化の規則性に
ついて予想や仮説を設定
し,見通しをもって調べ
る計画を立てている。
(思・①)
◎ 気象情報に関心をも
ち,自ら気象情報を収集
しようとしている。
(関・①)
◎ 天気の変化を調べる工
夫をし,気象衛星やイン
ターネットなどを活用し
て計画的に情報を収集し
ている。
(技・①)
・ 複数の結果から,雲と降雨,気
温などと関連付けて天気の変化の
きまりについて考察することがで
きるように支援する。
○ 学習班で調べた結果を交流し, ・ 研究班で考察した内容を説明し
天気の変化のきまりについて考
合い,資料を比較しながら,天気
察する。
はおよそ西から東へ移動すると
いうきまりがあることを見いだ
せるように支援する。
○ 学習のまとめをする。
3
○ 昔の人の天気の予想の仕方に ・ 昔は観天望気を用いて天気を予
ついて知る。
想していたことを知らせる。
○ 天気の変化のきまりや資料を ・ 自分で天気を予想するときの方
活用して天気を予想する計画を
法や使う資料について考え,天気
立てる。
を予想する計画を立てられるよ
うに支援する。
第3次《天気の変化の予想》
時間
児童の学習活動
教師の指導・支援
2
○ 研究班で各都道府県の結果を
比較,関連付けし,気付いたこと
を交流する。
◎ 気象情報から,天気の
変化には規則性があると
考え,自分の考えを表現
している。
(思・②)
◎ 天気は,およそ西から
東へ変化していくことを
理解している。 (知・①)
評価の観点
自分で天気を予想しよう。
○ 自分で天気を予想するという
めあてをもつ。
1
○ 気象予報士から天気予報の方
法について教わる。
○ 翌日の天気を予想する。
2
学家
習庭
(
グ
ル協
ー働
プ学
別習
型
家庭学習
○ 家庭学習で資料を見なが
ら翌日の天気を予想をする。
○ 予想した天気について学習班
で交流し,実際の天気を確かめ予
想を見直す。
)
・ 学習したことを活用して運動会 ◎ 気象情報に興味・関心
当日の天気を予想し,全校に向け
をもち,天気を予想しよ
て発信するという意欲をもつこと
うとしている。 (関・①)
ができるようにする。
・ 天気の予想の仕方を教わり,自
分たちの予想に役立てられるよう
にする。
・ 練習をすることで天気の予想に
慣れ,正確に予想できるようにす
る。
・ 資料を家庭で見ながら根拠を明 ◎ 天気の変化を予想する
らかにして予想し,考えを TPC や
ために必要な情報を集め
ワークシートに記入するように指
ている。
(技・①)
示する。
・ 他の学習者の予想した天気や, ◎ 天気の変化のきまりか
実際の天気を基に予想を見直し,
ら,気象情報や観天望気,
次回の予想に活かせるようにす
雲の様子をもとに天気を
る。
予想し,表現している。
(思・②)
運動会の日の天気を予想して発信しよう。
3
家
庭
学
習
○ 運動会の日の天気を予想し,発
信するというめあてをもつ。
家庭学習
○ 家庭学習で資料を見ながら運
動会の日の天気を予想をする。
・ これまで学習したことを基に,
天気以外にも生活と関連付けた
情報を踏まえて予想するように
指示する。
・ 複数の資料を家庭で見ながら根
拠を明らかにして予想し,考えを
TPC やワークシートに記入するよ
うに指示する。
- 53 -
◎ 天気の変化を予想する
ために必要な情報を集め
ている。
(技・①)
3
○ 予想について資料ごとの研究
班で予想した天気について考察
する。
(
・ 複数の資料から 1 つを選んで研
究班を構成し,予想やその根拠に
ついて話し合い,考えを深められ
るようにする。
○
話し合ったことを学習班で交
・
研究班で交流したことも踏まえ
(
ジ協
流して予想をまとめ,運動会の日
て学習班で考えを組み合わせ,グ
グ働
の天気予報番組を制作する。
ループの予想をまとめられるよう
ソ学
に支援する。
ー習
・
解説する様子を TPC で録画し,
型
)
後日振り返ることができるように
する。
4 ○ 録画した内容を気象予報士に ・ テレビ会議式遠隔授業を通して
見てもらい,講評と予報士の予報
気象予報士から予想の講評をも
グ
を聞く。
らい,再度予想を見直すことがで
ル協
ー働
きるようにする。
プ学 ○ 学習班で天気予報を見直し,
全 ・ 修正した予報を校内放送で発信
別習
校に向けて天気予報を放送する。 できるように支援する。
型
◎ 天気の変化のきまりか
ら,気象情報や観天望気
をもとに天気を予想し,
表現している。(思・②)
◎ 気象情報を基にした天
気の予想を日常生活で活
用しようとしている。
(関・②)
)
○ 運動会当日の予報を振り返り, ・ ビデオや気象情報を確認し,実
実際の天気と雲の動きなどを確
際の雲や天気の変化と,予想した
5
認する。
内容について比較することができ
○ 学習のまとめをする。
るようにする。
第4次《台風と気象情報》
時間
児童の学習活動
教師の指導・支援
○ 台風のときの様子を振り返り, ・ 台風襲来のときの天気の変化も
台風のときの天気はどのように
予想してみようという意識をもつ
変化するのかという問題を見い
ことができるようにする。
だす。
1
評価の観点
◎ 台風と天気の変化に興
味をもち,天気を予想し,
日常生活で活用しようと
している。
(関・②)
台風が近づくと,天気はどのように変化するのだろうか。
○ 台風のときの天気を予想する。 ・ TPC で台風の進路や災害などに
○ 学習班で台風による天気の変
ついて調べ,台風の動きや天気の
化,台風の発生する場所や進路, 変化,災害について知ることがで
台風による災害などについて調
きるようにする。
べる。
○ 台風について調べたことを学 ・ 台風の特徴や天気について,よ
級全体で交流し,台風のときの天
り多くの結果から考えることがで
気の変化について考察する。
きるようにする。
2
◎ 天気の変化は,気象情
報を用いて予想できるこ
とを理解している。
(知・②)
○ 学習のまとめをする。
・ 台風が近づくと雨風が強くなる
こと,天気は台風の進路によって
変わることを理解できるように支
援する。
- 54 -
◎ 気象情報や台風による
災害の情報を収集し,結
果をまとめている。
(技・①)
◎ 台風の動きと天気の変
化に関係があると考え,
自分の考えを表現してい
る。
(思・②)
◎ 台風のときの天気の変
化や台風による降雨,強
風と災害について理解し
ている。
(知・①)
資料4 実験群における家庭学習ワークシート i
PQ
5
r
b
a
b
e
g
3
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(実物はA4版)
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【宝の場所を示している文章】
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【宝の地図】
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A
5
B
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5
(実物はA4版)
­56­
研究紀要
第 208 号
平成 27(2015)年 3 月 25 日
発行所
大 阪 市 教 育 セ ン タ ー
552-0007
電
話
発行者
発行
大阪市港区弁天 1-1-6
06( 6572) 0667
沢田
和夫
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