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「ミカ・ロッテンバーグ」 美術手帖, 2011年7月号, p173
ARTIST INTERVIEW MIKA ROTTENBERG ミカ・ロッテンバーグ 藤森愛実=聞き手 Interview by Manami Fujimori 173 (PJとチェリル) 2008 P173_パフォーマンス・スチル (キャトの脚とトルソ) 2008 P174_パフォーマンス・スチル 174 (ピートの上に乗るラキ) 2008 P175_パフォーマンス・スチル P173-175_すべて、タケニナガワで開催中の個展出品作より Cプリント 49.5×35.6cm 175 176 P176_メリーズ・チェリーズ 2004 シングルチャンネル・ビデオ・ インスタレーションよりスチル 5分50秒 サイズ可変 P177上_m29 2011 紙に鉛筆、 アクリル絵具、 色鉛筆 27.9×35.6cm P177中_スタディ #3 2009 Cプリント 31.8×47cm P177下_「カラー・スタディ/ドウフェイス (捏ね粉のマスク) 」 より 2010 Cプリント 6点組 各88.9×59.1cm P177_すべて、個展出品作より 177 ミカ・ロッテンバーグ展 Mika Rottenberg 2000 年代半ばよりニューヨークを拠点に活 躍するミカ・ロッテンバーグの日本初個展。写 真作品とドローイングを展示。東京・東麻布の タケニナガワにて6月25日まで開催中。また、 同ギャラリーにて、2011年末∼12年春、映像 を中心とした第 2 回展も開 催予定(会期未 定)。 http://www.takeninagawa.com P178上_チーズ 2007 マルチチャンネル・ビデオ・インスタレーション よりスチル/Cプリント 16分5秒 サイズ可変 P178下_ポコノ・パーティー ♯1 2007 Cプリント 95.3×127cm 個展出品作より (圧搾) 2010 P179_スクイーズ シングルチャンネル・ビデオ・インスタレーショ ンよりスチル/Cプリント 20分 サイズ可変 178 179 Interview with MIKA ROTTENBERG 生産する身体と社会。 システムを 変換するエネルギーに惹かれる。 インターネットで彼女の存在を知り、ぜひ 太った女性の登場が多いのは、巨体に 一緒に仕事してみたいと思いました。 カさんは逆にプチサイズかと思いますが。 ことさら興味があるということですか。ミ │ タレントたちが協力してくれています。 新たな展示用のセットを組むつもりでした ロッテンバーグ 彼女たちは素人ではなく、 自分たちの特異な体形を売り物にしている レント﹂というのは? ﹁タ 長2 メートルを超えるキャトですね。 る。その彫刻の素材として、身体があるん 一種の覗き見趣味があることは確かです 思ったって。 自分とは違うものへの憧れや、 ロッテンバーグ そう、私に会った人はみ なびっくりするんですよ。もっと大女かと 体重300 キロのクイーン・ラキや身 難しいとわかり、急遽、写真作品や映像の が、日本の震災の影響で建設資材の入手が パフォーマーです。ラキの場合は、モデル 爪のように伸びるもの、血液や汗のように です。サイズや容積もそうですが、毛髪や でした。タケニナガワのスペースに合わせ、 スタディ中心の構成に変えたんです。映像 女性たちの声を代表する活動家でもある。 やレスラーとして活躍し、プラスサイズの ね。でも、私は自分を彫刻家だと思ってい 見せたいと思っています。出品作の一つ、 │ で、登場人物も、私の映像作品でなじみの の誌上プロジェクトとして制作したもの リーズは、もともとはファッション誌﹃W﹄ ﹁パフォーマンス・スチル﹂ ︵2008 ︶のシ 不条理で魅惑的、リアルでフェティッシュ。現代の人間の身体性や社会のあり方を 色鮮やかに描き出す映像作品によって、今、ニューヨークでもっとも熱い注目を集める若手の一人、 ミカ・ロッテンバーグ。待望の日本初個展を機に、そのアートについて聞く。 聞き手=藤森愛実 東京での展覧会は、写真とドローイ 生産する身体、映像の彫刻家 │ ングによる構成になりましたね。 Mika Rottenberg インスタレーションのほうは次回の個展で ロッテンバーグ 当初は、映像作品︽メリー ズ・チェリーズ︾ ︵2004 ︶を見せる予定 生まれ。イスラエル、ニューヨークに学 び、2004 年ニューヨーク、コロンビア大 学修士課程修了。 主な個展に、 P.S.1コン テンポラリー・アートセンター 「スペシャ ル・プロジェクツ」 展 (ニューヨーク、2004) 、 サンフランシスコ近代美術館( 2010)、 デ・アペル現代美術センター (アムステル ダム、2011)。グループ展に、 「Uncertain States of America」展(サーペンタイ ン・ギャラリー、 ロンドンほか巡回、 2005、抵抗できない力」展 (テート・モダ 06)「 ン、ロンドン、2007) 「 、ホイットニー・バイ エニアル 2008」 ( ホイットニー美術館、 ニューヨーク)など。2006 年カルティエ・ アワード受賞。現在、ニューヨーク在住。 P182_ Portrait Photo: Courtesy of the artist 1976 年アルゼンチン、ブエノスアイレス 180 181 手など、自らの肉体が生産手段になってい 一種のファクトリーです。その生産工程に 排出されるものなど、人間の体というのは かく。走るトラックを工 一定時間に一定量の汗を くりたかった。人が働き、 か時計のようなものをつ その工場では、トロピ カル・ブリーズ印のティッ │ だからです。 場にしたのは、水平構造 興味がある。ボディビルダーやスポーツ選 る人と仕事することが多いのはそのため です。 あなたの映像制作の出発点は、 ︽ジュ リー︾︵2003 ︶ですね。一面の雪の原を シュが生産されていきま 労働そのものに価値があるとする考え方。 *1 逆立ち歩きする女性。全編、天地が逆さに す。登場人物は、運転手 モノを生産する人間、その人間と自然の間 │ なっているため、見ているほうにも空を浮 をパッケージするダンサーの女性。 のプロセスとして労働を規定している点な 家内工業的な生産を扱っている点で ど、とても詩的だと思いました。 │ 真っ赤なマニキュアの爪が切り取られ、床 は、︽メリーズ・チェリーズ︾も同じですね。 そのボディビルダーは、運転しながら ロッテンバーグ 運転手は、プロのボディ ビルダーの女性です。 盛んに汗をかく。後ろのダンサーが、長い 性は小麦粉と一緒に丸めて、次の女性にバ トンタッチ。女性の手の中で、真っ赤な爪 の穴から階下に落とされる。受け取った女 返す。価値ある汗が染み込んだモイスト・ は砂糖漬けのマラスキーノ・チェリーに変 る。運転手はティッシュで汗を拭い、送り ティッシュのできあがり! こんな筋書き はどこから生まれるものでしょうか。 たというニュースに触発されました。記事 ロッテンバーグ この作品は、珍しい血液 型を持った女性が、その血液で商売を始め わっていく。 あります。使用価値や交換価値とは別の、 ロッテンバーグ 当時読んでいた、マルク スの﹃資本論﹄に感化されたということが ル装置で動く洗濯ひもに結びつけて前に送 足でひょいとティッシュを拾い取り、ペダ │ の黒人女性と、トラックの荷台でティッシュ トロピカル・ブリーズ 2004 シングルチャンネル・ビデオ・インスタレーションよりス チル/Cプリント 3分45秒 サイズ可変 遊するような不思議な感じがある。 ロッテンバーグ ダブルビジョンの実験です が、ワン・アクション、ワン・アクターによ る映像で、私の作品の中で は い ち ば ん シ ン プ ル な、 アート・ビデオ的な作品で す。その後一足飛びに、 セッ トも登場人物も複雑な︽ト ロピカル・ブリーズ︾︵20 04 ︶のような作品に展開 ││きっかけは? していきました。 ロッテンバーグ 作品の核 として、汗をかく行為と水 平の動きがありました。何 人間の体は一種の ファクトリー。その生産の工程に 興味がある。 *1 《ジュリー》 2003 コロンビア大学在学中に制作されたシング ルチャンネル・ビデオ作品 (3分19 秒) 。 真っ 白な雪原を3原色のスポーツウェアをまとっ たアスリートが逆立ち歩きする様子を、 天地 逆転に投影。 シンプルな作品だが、 空間と身 体性への意識がすでに見て取れる。 182 いろなアイデアが浮かんできて、気がつい を読んでいるうちに、肉体の増殖などいろ たら、爪やコンベヤーベルトや赤いサクラ 変容する物質、 奇想天外な錬金術 ジカルでシュールなこの映像は、その特異 タンと落ちて、パン生地が膨れ上がる。マ たのニューヨークでの画廊初個展で発表さ 垂直を統合する、+記号の形状でセットを たんです。大枠の構造として、 前作の水平、 ロッテンバーグ どんな形にもなりうる捏 ね粉に惹かれて、一時、いろいろ試してい なセットとともに大評判になりました。 れた︽ドウ︵捏ね粉︶ ︾ ︵2005 ∼06 ︶ この2 作品の延長にあるのが、あな ですね。巨体のラキがパン生地を捏ね、階 り立ち、摂取や排出などの一種神秘的な機 組みました。また、身体の内部と外部の成 │ 下に流し落とす。捏ね粉はベルトコンベ ふうに、作品が生まれる背景には、匂いや んです。そして、まずはセットを組み立て 音、タッチなど、形を持たない感覚がある ヤーに乗せられ、最終的にパン型ひとつ分 ンボのドローイングになっていた。こんな することもありますから。 ︽メリーズ・チェ 粉に涙したラキの大粒の涙が、捏ね粉にポ ずつにパッケージされる。その一方で、花 │ 登場人物の彫刻的な肉体に加えて、映 能も、作品の出発点になっています。 てみる。彫刻空間が後のストーリーを決定 リーズ︾では、重力が支配するシステムと ドウ (捏ね粉) 2005-06 シングルチャンネル・ビデオ・インスタレーションよりスチル 6分 サイズ可変 して垂直構造のセットを考えました。 183 MIKA ROTTENBERG Artist Interview 94 ︶と比較する人も多かったと思います。 シュー・バーニーの︽クレマスター4 ︾︵19 結 び つ い た 物 語 を 紡 ぐ と い う 点 で、マ 像自体が彫刻的であり、とくに身体機能と を独占しているようでもあ ナミ ズムを 表 していま す。 の空間、そのパワーやダイ 行動を規定するものとして なんです。また、人の行為、 しました。彫刻、ドローイング、デザイン、 り、また空間に抑圧されて 登場人物はそれぞれ、空間 ロッテンバーグ バーニーの作品は、イス ラエルで美大生だった頃に初めて見て驚愕 トロールの主体は曖昧です。 いるのかもしれない。コン 品があるのだと知って感激したものです。 そうした空間感覚は、 の上映の場合はとくに、会場での建築空間 が重要でした。 *4 ││2008 年のホイットニー・バイエニ の女性6 人が、ヤギの乳はもちろん、髪 アルの出展作品ですね。床まで届く長い髪 の毛を搾って︵ ︶チーズをつくるという、 こちらもまた奇想天外なストーリーです。 で、 それまでの作品と一線を画しています。 閉じられた空間から野外に出たという点 間が登場したことも話題を集めました。 また、農場の柵や納屋の一部を思わせる空 は、映像を見ながら自分の体を意識する。 ロッテンバーグ ミニマルでより建築的な インスタレーションを意図しました。観客 観客にも求められています │ 身体、あらゆるメディアを総合した映像作 その影響は避けられないと思います。 でも、 か? というのも、映像作 品のセットであるかのような建築空間が、 して意図されていると感じます。 インスタレーションで再現されています。 うな構造になっています。 と同時に、建設作業や労働を思い起こすよ 彼の場合は、精巧な彫刻が初めから作品と 私は、初めて︽ドウ︾を見たとき、イメー 確かにあなたの映像作品では、セット や立体は、例えばフィッシュリ&ヴァイス ジも強烈でしたが、狭く、一部傾いだよう せます。より特徴的な点は、場面展開がい ブ・ゴールドバーグ・マシン﹂を思い出さ ロッテンバーグ 厳密には再現ではないん ですが、展示にはつねに建築的な要素があ のを感じました。 な小部屋の設定が印象的で、離れがたいも │ ﹁ルー な、ナイーブな手づくりの作動機械、 ずれも狭い閉じられた空間にあるというこ ります。私の映像は、後にも先にも素材と として魅力的ですが、ミルク同様、モノ化 が大きいですね。もちろん、長い髪は素材 この作品には実在のモデルがあります。 しうる肉体の一部だということです。 実際、 の一部、商品化されうるものとしての関心 ロッテンバーグ 私の中ではやはり、身体 願望が投影されるのでしょうか。 ら見ても、憧れや一種のフェティッシュな ││ 長い髪の女性も印象的ですね。女性か とでしょうか。ネイルサロンやスウェット 感 触なんです。見る人には、作品との物 *2 ショップなど、いわば女性労働、移民労働 理的な接触を持ってほしい。そのために、 セットを構築します。 ︽チーズ︾︵2008 ︶ 身体と空間の関係を強調するような特別な *3 況には、心理的な意味がありますか? を象徴するような空間ですが、この閉塞状 ロッテンバーグ 私の中では、 ﹁ヘッドスペー ス﹂ 、登場人物の頭の中であり、身体の延長 19 *2 ルーブ・ゴールドバーグ・マシン 単純な作業をより複雑に実現する装置の通 称。 ある動きが次の動きを誘発し、 連鎖反応 を引き起こして展開する点が特徴。 しばしば 不要なからくりが用いられる。 名称は20世紀 アメリカの漫画家、 ルーブ・ゴールドバーグが機 械文明を風刺的に描いた手法に由来する。 *3 スウェットショップ 労働力を搾取する工場や環境の通称。 主と して第三世界の製造工場に多い劣悪な労働 環境を意味するが、 先進諸国においても、 技 能を持たない移民や女性の労働者を中心 に、 安い賃金で一日中汗して働く職場は少な くなく、 その総称。 !? の︽事の次第︾︵1986∼87 ︶にあるよう 物質の化学変化や、 そこに 生じるエネルギー変換。それは いわば、 錬金術です。 184 世紀半ばに、ナイアガラ近郊に育ったサ ザーランド姉妹です。7 人揃って長い髪 を売り物にサーカスで人気を博し、後に発 チキな薬ですが、自慢の髪の毛が何よりの 毛剤を売り出して大儲けをしました。イン ││ ︽チーズ︾ の中の女性たちは、 文字通り、 宣伝材料になったのです。 が、ミルクばかりか自分たちの髪の毛が素 チーズをつくることに奔走するわけです の 素 材 の 変 化 で す ね。 単 な る ト ラ ン ス 材になる。あなたの映像で面白いのは、こ フォーメーションではなく、 ﹁キリストの変 跡にして奇想天外な物質変化です。 容﹂的なトランスフィギュレーション、奇 ロッテンバーグ いわば錬金術。物質の化学 変化や、それに伴うエネルギー変換に興味 があるんです。肥満や長身など、自分の体 ミニスト的視点もよく取り沙汰されます。 分野であれ女性は少ないので、バランスを れにしろ、監督、俳優、脚本家など、どの ちの仕事には真摯なものを感じます。いず の中の負の部分を客観視して、自らコント れは身体の解放であり、ふだん疎外されて ロールすることも、ある種の錬金術です。そ ロッテンバーグ 身体的特徴や体液など、 女性性を強調している点で、フェミニスト いる人々がパワーを得る手段だと思います。 その一方で、私の作品の中にも、女嫌いや 作家には特別の思いがありますし、彼女た ピーみたいなもので、同類の嫌な部分を曝 女性蔑視の傾向はあるのです。自己セラ 取るべく、 私は女性ばかりでやっています。 メンディエータら、 年代のパフォーマンス のですが、その点は嬉しいですよ。アナ・ チーズ 2007 マルチチャンネル・ビデオ・インスタレーション 16分5秒 サイズ可変 「ホイットニー・バイエニアル2008( 」ホイットニー美術館、ニューヨーク)でのインスタレーション 内観(上)とスチル(下) Collection of Melva Bucksbaum and Raymond Learsy 第一世代との関連を指摘されることが多い │ 変換のエネルギー グローバル時代のシステムとパワー ││ 女性の登場が多いという点で、フェ 185 70 MIKA ROTTENBERG Artist Interview *4 ホイットニー・バイエニアル ニューヨークのホイットニー・ミュージアム・オ ブ・アメリカン・アート (ホイットニー美術館) で 開催される現代美術の隔年展。 1932年創 設。 新人の登竜門的色合いが強く、 選出され れば大きな話題を集める。 写真は2008年展 でのロッテンバーグの 《チーズ》 外観。 るとき、何か難しい 何か作業をしてい いるからです。人は 私が仕事を与えて その手がスパに届いて、中国人女性にマッ 移民が、地中深く汚れた手を潜らせると、 ││ 面白いのは、レタス畑で働くメキシコ です。 自然な体の反応を、 に集中する。そんな れてただその作業 ヒーであれ、どこかの国の生産物が、どこ の投影かもしれません。石油であれコー は、幻想でもなんでもなく、今の世界経済 受ける。テレキネティックめいたこの現象 たちも、地中に手を潜らせ、マッサージを カメラは捕えてい かの国の経済に影響を与えている。 サージされる。同様に、ゴム園で働く農婦 ます。 るとき、カメラを忘 ││さて、昨年発表 ロッテンバーグ レタスの卸値は 時間ご とに変わるとか、ラテックスは爆弾の材料 ことに直面してい さ れ た 新 作︽ ス ク ります。私は今、アフリカのボツワナに滞 にもなるとか、いろいろな面白い情報があ 1 ︾︵20 イーズ︵圧搾︶ アイデアが、ダイヤモンド鉱山のリサーチ 在していますが、ニューヨークで膨らんだ *5 10 ︶は、グローバ するようなスケール *5 個展 「スクイーズ (圧搾) 」 2010 ニューヨークのメアリー・ブーン・ギャラリー で開催。 ロッテンバーグをリプレゼントする 画廊、 ニコル・クラグスブラン・ギャラリーと の共催で、 同名の新作ビデオ・インスタレー ションが初公開された。 写真は会場風景。 *6 株式証書の形式での作品販売 映像制作の過程で生まれた副産物の立体 作品は、 作者と6人のコレクターが共同所有 し、 「その株券を売買することで作品の価値を コントロールする」 というコンセプトに基づく。 作品現物は、 現在、 銀行に保管されている。 ル経済の断片を縫合 て様々な連鎖反応が生まれるんです。 えば、ヨーロッパも見なければ。こうやっ 題も浮き彫りにしていますね。 に転じたんです。さらにダイヤの市場と言 オにセットした中国人のスパが舞台になっ ロッテンバーグ インドのゴム園とアリゾ ナのレタス畑、そして、ハーレムのスタジ ましたね。 ね。素人という感じも、演技しているとい ││登場の女性たちはみな自然な表情です ています。これまでの作品ではフィクショ 事するなか、白人のお尻が丸見えになって ロッテンバーグ メキシコ人、インド人、 中国人が、農業、製造業、サービス業に従 の大きな作品になり う感じもない。ディレクションの部分はど 業生産が加わったという点が、新しい試み ンでしかなかったモノの生産に、現実の農 ││︽スクイーズ︾は、移民労働や人種問 れくらいありますか? け出し、克服するということですね。 ロッテンバーグ 彼女たちが自然なのは、 スクイーズ (圧搾) 2010 シングルチャンネル・ビデオ・インスタレーションよりスチル/Cプリント 20分 サイズ可変 All Images on P186-187: Courtesy of Mary Boone Gallery, New York, Nicole Klagsbrun Gallery, New York and Take Ninagawa Tokyo 186 P173-187_ All Works (except P186-187): Courtesy of Nicole Klagsbrun Gallery, New York and Take Ninagawa, Tokyo 思いましたが、そうした摩擦にこそ、変換 いるという図は、ちょっときわどいかとも す。社会システムを動かす力です。 のエネルギーが潜んでいるのだと思いま 一方で、ゴム園やレタス畑など、リアル な生産の場を捕らえたつもりですが、これ らのシーンですらフィクションに見えませ んか? 私がこれまでの作品の中でつくっ てきたクレイジーな工場同様、現実もまた のシステムは金融界です ね。 例 え ば ウ ォ ー ル 街 な どをテーマに撮るという のはどうですか? ロッテンバーグ 実は、 ︽ス ク イ ー ズ ︾の 副 産 物 の 立 *6 体作品では、株式証書の形 式での販売を試みました。 フリーズドライのレタスと めたキューブ型の彫刻作品で、アート・ディー ゴムとほお紅を圧搾して固 ラーのメアリー・ブーンが写真の中で抱げ フィクションなのだと感じました。 にしている理由は何ですか? ││話は飛びますが、ニューヨークを拠点 わけです。でも、金融システム、それはい の作品ではなく、株券をシェアするという いアイデアだわ。私、使うかもしれない。 持っているのがそれです。購入者は、実際 *7 ロッテンバーグ 私はシステムやパワーに 興味があるので、自分が住む土地は、政治 なものが混在し、ワーカホリックでカオ ││︽スクイーズ︾は、巡り巡ってアート ありがとう︵笑︶ 。 です。 Manami Fujimori 的に複雑な街、 世界中から人が集まり、 様々 ティックな街がいいと思っていました。だ のは何かといった問題。アート批判ではな ロッテンバーグ アートに本来的にある錬 金術や、ゴミのような物体に価値を与える というわけですね。 作品の価値や所有権の問題をも含んでいる からニューヨークはとても好きですね。 ││システムと言えば、ニューヨーク有数 キューブを持つメアリー・ブーン 2010 Cプリント 162.6×91.4cm *7 メアリー・ブーン ギャラリスト。 ペンシルヴェニア州生 1951年、 まれ。 ニューヨークのソーホーに自身の 77年、 画廊をオープン。 ジュリアン・シュナーベル、 デ ヴィッド・サーレらを送り出し、 80年代を代表 する存在に。 今なおアート界に君臨し、 現在 は5番街とチェルシーに2店舗を構える。 アート・ライター。 「Art & Words」 主幹。 1985 年よりニューヨーク在住。 ニューヨーク大学、 ニューヨーク市立大学ハンター・カレッジ大 学院で美術史を学ぶかたわら、 90年代初頭 より執筆開始。 本誌をはじめ内外の雑誌に 寄稿多数。 専門はコンテンポラリー・アート。 現実もまたフィクション。 摩擦の中にこそ、システムを 動かす力がある。 く、あくまでもマルクス的価値の追求なん 187 MIKA ROTTENBERG Artist Interview