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第 6章 2種系の数理モデル

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第 6章 2種系の数理モデル
環境基礎数学演習 2009
第 6 章 2 種系の数理モデル
第 6 章 2 種系の数理モデル
§ 6.1 2 種間の競争
1. Lotka-Volterra 方程式
前章では 1 種類の生物種のみの増加、競争を考えたが、ここでは 2 種類の生物種が競争する状況を考え
る。この場合、それぞれの種の自然増加率、同種間競争に加え、新たに異種間競争を同時に考えなければ
ならない。
異種間競争の影響は、同種間競争と同様に考えることができる。すなわち、生物種 1、生物種 2 の個体
数をそれぞれ N1 、N2 とすると、生物種 1 の特定の個体が生物種 2 に遭遇する確率は、エコロジー島内の
生物種 2 の生息密度 N2 /S に比例すると考えられる。したがって、生物種 1 が全体として、生物種 2 に
よって阻害される効果は、 N1 N2 に比例し、その比例定数を µ12 と置ける。また逆に、生物種 2 が生物種
1 によって阻害される効果も、 N1 N2 に比例するので、その比例定数を µ21 と置く。一般に µ12 6= µ21 で
ある。
これに加え、生物種 1、2 の自然増加係数をそれぞれ ε1 、ε2 、同種間競争の比例係数を µ11 、µ22 とおく
と、2 種の個体数の変化を表す連立微分方程式は、
dN1
= ε1 N1 − µ11 N12 − µ12 N1 N2 = ( ε1 − µ11 N1 − µ12 N2 ) N1
dt
(6.1a)
dN2
= ε2 N2 − µ21 N1 N2 − µ22 N22 = ( ε2 − µ21 N1 − µ22 N2 ) N2
dt
(6.1b)
である。これを Lotka-Volterra 方程式 という。
(6.1a)、(6.1b) 式は連立常微分方程式であるが、これは込み入った非線形方程式であり、ロジスティッ
ク方程式のように解析的に解を求めることはできない。
そ こ で 数 値 的 に 解 を 求 め る こ と に な る が 、いきなり安易にシミュレーションを行うべきではない。
(6.1a)、(6.1b) 式にはパラメータが 6 個あり、2 個の初期値まで含めれば、全部で 8 個になる。この 8 個
のパラメータをそれぞれ何段階かに場合分けして、それぞれのケースについてシミュレーションを行うと
すれば、全体の計算量は莫大なものになる (5 段階ずつテストするとしても、5 の 8 乗 ' 40 万ケース)。シ
ミュレーションは強力な手段ではあるが、決して万能の手段ではない。
したがってシミュレーションを行う前に、まずは方程式の特性に対する視察を行うことが必要である。
2. パラメーターのとり得る範囲
まず、個体数 N1 、N2 は当然ながら非負、すなわち N1 、N2 >
= 0 でなければならない。
また N1 は無限大に発散することはない。(6.1a) 式で、N1 が大きくなり、ε1 /µ11 を越えると、右辺が負
になり、N1 は減少する方向に動くからである。N2 についても同様で、N1 、N2 とも有限値におさまる。
競争に関するパラメータ、µ11 、µ12 、µ21 、µ22 に関しても、今は競争関係のみを考察の対象とし、共生
関係のようなことは考えていないので、すべて正とする。
最後に、増加率 ε1 、ε2 に関してであるが、もし ε1 < 0 であれば、生物種 1 は絶滅する。なぜならば、
(6.1a) 式の右辺の項はすべて負になり、N1 が増加することはないからである。しかも、N1 の減少の割合
は単なるマルサス方程式、すなわち右辺が ε1 N1 のみのときよりも大きい。マルサス方程式でも絶滅する
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環境基礎数学演習 2009
第 6 章 2 種系の数理モデル
のだから、この場合も絶滅し、ある程度時間がたてば生物種 2 だけが残る。その場合 N2 の時間変化は、
(6.1a) 式から N1 の項を除いた式になるが、これは単に N2 に対するロジスティック方程式である。
同じことは ε2 についてもいえるので、結局特別な目的のある場合を除き、 ε1 、ε2 > 0 の場合だけを調
べればよい。
3. 平衡点に関する考察
次に、Lotka-Volterra 方程式の平衡点に注目する。平衡点とは N1 、N2 の値に変化がなくなる点、すなわ
ち (6.1a)、(6.1b) 式の左辺が 0 になる点である (このような特別な点を一般に特異点というが、平衡点は
特異点の 1 種である)。理解を容易にするため、次の式 M1 、M2 を定義する。
M1 = ε1 − µ11 N1 − µ12 N2
(6.2a)
M2 = ε2 − µ21 N1 − µ22 N2
(6.2b)
この M1 、M2 を使って、(6.1a)、(6.1b) 式を書き直すと次の式になる。
dN1
= M1 N1
dt
(6.3a)
dN2
= M2 N2
dt
(6.3b)
このように書くと、(6.3a)、(6.3a) 式の左辺をともに 0 にする平衡点は、次の 4 個であることがわかる。
(平衡点 1) N1 = 0、N2 = 0
これは両種がともに絶滅する平衡点である。
(平衡点 2) M1 = 0、N2 = 0
このときの N1 は、ε1 /µ11 = K1 (種 1 の環境定数) 6= 0 すなわち、種 2 だけが絶滅する平衡点である。
(平衡点 3) N1 = 0、M2 = 0
このときの N2 は、ε2 /µ22 = K2 (種 2 の環境定数) 6= 0 すなわち、種 1 だけが絶滅する平衡点である。
(平衡点 4) M1 = 0、M2 = 0
ε2 µ22 − ε1 µ12
ε2 µ11 − ε1 µ21
このとき、N1 =
、N2 =
すなわち、両種が共存する平衡点である。
µ11 µ22 − µ12 µ21
µ11 µ22 − µ12 µ21
ただし、前述したように、 N1 、N2 > 0 でなければならない。
4. 増加及び減少する ( N1 、N2 ) の範囲に関する考察
次に、N1 、N2 をそれぞれ x、y 軸にとり、その座標平面内で、N1 、
N26
N2 の増加する範囲と減少する範囲をそれぞれ考える。ここで、
N1 、N2 >
= 0 であるから、考察する範囲は第 1 象限だけでよい。
L1Z
Z
まず N1 について考えると、 N1 の増加、減少は (6.3a) 式の符号
で決められる。また第 1 象限では N1 >
= 0 であるから、M1 の符号
だけで決まる。符号の変わる境界は、M1 = 0 すなわち、
0 = ε1 − µ11 N1 − µ12 N2
Z
Z
- ZZM1 = 0
Z
Z K1 N1
図 6.1
(6.4)
ε1
ε1
= K1 、N2 切片が
= L1 の直線である。
µ11
µ12
この直線より原点側では増加、反対側では減少傾向となる。 図 6.1 中の矢印はその傾向を表している。
であり、これは N1 切片が
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環境基礎数学演習 2009
第 6 章 2 種系の数理モデル
同様に N2 について考えると、 N2 の増加、減少は (6.3b) 式の符
号で決められる。また第 1 象限では N2 >
= 0 であるから、やはり
M2 の符号だけで決まる。符号の変わる境界は、M2 = 0 すなわち、
0 = ε2 − µ21 N1 − µ22 N2
であり、N1 切片が
(6.5)
ε2
ε2
= L2 、N2 切片が
= K2 の直線である。
µ21
µ22
これもやはり、直線より原点側では増加、反対側では減少傾向
N26
K2S
S
S
S
?
S
6S
S M2 = 0
S
L2
N1
図 6.2
となる。図 6.2 中の矢印でその傾向を表す。
5. N1 、N2 の時間変化の概要
ε2 、µ11 、µ12 、µ21 、µ22 を決めれば、K1 、L1 、K2 、L2 が
パラメータ、 ε1 、
計算できる。これらを切片として、N1 − N2 平面上に 2 直線、M1 = 0、
M2 = 0 を引いたとき、直線相互の位置関係は K1 、L1 、K2 、L2 の大小関
係より、4 つの Case に分かれる。
(Case:A) K1 > L2 and K2 < L1
図 6.3 に、この Case での 2 直線の位置関係を示す。M1 = 0 が太い直
線、M2 = 0 が細い直線である。図中の番号つきの黒丸は平衡点の位置で
ある。平衡点 4 は存在しないか、存在しても第 1 象限には現れない。
N26
L1@
@
@
@
s3
K2@
@
R @
@ @
@
@
s
@s2@
1
L2
K1 N1
図 6.3
図中の 3 本の矢印は、直線 M1 = 0、M2 = 0 で分割される 3 つの領域そ
れぞれでの、
Case : A
dN1 dN2
、
の正負を同時に示したものであり、図 6.1、図
dt
dt
6.2 の矢印を合わせたものになっている。
図 6.3 より、N1 、N2 のおよその時間変化を知ることができる。初期値
が原点付近にある場合は、N1 、N2 とも増加する。逆に、N1 、N2 が大きい
場合は、双方とも減少し、両直線にはさまれた帯状の領域にと進行する。
その後は、N1 が増加、N2 が減少し、最終的には平衡点 2 に収束する。
(Case:B) K1 < L2 and K2 > L1
この Case では、直線 M1 = 0 と M2 = 0 の位置関係が Case A とは逆に
なっていて、両直線にはさまれた帯状の領域では変化の進行方向が逆に
なる。この領域に進行した後は、N2 が増加、N1 が減少し、最終的には平
衡点 3 に収束する。
N26
s3
K2@
@
Case : B
@
@
L1@
@
I @
@ @
@ 2 @
@s
s
@1
K1
L2 N1
図 6.4
(Case:C) K1 < L2 and K2 < L1
この Case では、平衡点 4 が第 1 象限内に現れ、直線 M1 = 0 と M2 = 0
は交差して第 1 象限は 4 つの領域に分割される。そして 4 つの領域の変
化の進行方向を示す矢印は、いずれも平衡点 4 に向かって収束する。
このように、周囲のすべての方向から収束してくる特異点を、アトラ
クター という。Case:A の平衡点 2 や、Case:B の平衡点 3 も、アトラ
クターである。逆に周囲のすべての方向へと発散していく特異点を、リ
ベラー という。すべての Case で平衡点 1 はリベラーである。系は最終
的にはアトラクターで平衡に達するが、どの平衡点がアトラクターにな
るかは、パラメータによって変化する。
− 66 −
N26
Case : C
L1A
A
A
RA
3s@
H
K2 H A 4
HAsH
HH
A2 @
AsI HH s
1
K1
L2 N1
図 6.5
環境基礎数学演習 2009
第 6 章 2 種系の数理モデル
(Case:D) K1 > L2 and K2 > L1
この Case でも第 1 象限は 4 つの領域に分割されるが、もはや平衡点 4
には収束せず、近くまできても結局両側に分かれていき、平衡点 2 ある
いは平衡点 3 に収束する。
このように、収束する方向と発散する方向がある特異点をサドル とい
う。Case:A の平衡点 3 や、Case:B の平衡点 2 も、サドルである。
この場合のアトラクターは平衡点 2 および平衡点 3 であり、どちらの
アトラクターに収束するかは、初期値によって決まる。
N26
Case : D
s
K2A3
A
A
@
IA
H
L1 H A 4
HAsH
H
H
A @
s
A R HH2s1
L2
K1 N1
図 6.6
6. Excel による Lotka-Volterra 方程式のシミュレーション
(6.1a)、(6.1b) 式の Lotka-Volterra 方程式を数値的に解く。
【1】前回と同様に時間
軸を設定する。右の例
では凡例の文字の変更
を楽にするために、第
2 行以下に初期値を置
く配置にしているが、
必ずしもこの位置に記
入する必要はなく、各
人好きなようにレイア
ウトしてよい。
【2】次に適当な位置に
計 6 個のパラメータを
記 入 す る 。(図 6.7 は
Case:A のもの)。
【3】初期値の設定
図 6.7
計算領域の最上段
(図 6.7 では < B2 > および < C2 >)に N1 と N2 について、1 以上 100 以下の初期値を入れる。
【4】計算式の代入
初期値のすぐ下の段2つに、(6.1a) 式および (6.1b) 式を差分化した式を記入する (図 6.7 は (6.1a) 式を
差分化したものを表示している)。その際、パラメータは相対参照でなく、固定参照することを忘れないよ
うに。以下その式を下の段にそれぞれコピーする。
【5】グラフ化
< A >、< B >、< C > をドラッグして選択し、以下前回と同様にグラフ化する。ただし、今回は 2 本
の線が入るので、図 6.7 のように凡例によって区別しなければならない。
【6】初期値の変更
まず Case:A のパラメータを使い、初期値をいくつか変えていずれも同じ値に収束すること。また初
期値によって収束のスピードが異なることを確認せよ。
【7】パラメータの変更
次にパラメータを、Case:B、Case:C、Case:D のものに順に変更し、収束する先が変わることを確
認せよ。とくに Case:D については、初期値によって収束先が異なることを確認せよ。
− 67 −
環境基礎数学演習 2009
第 6 章 2 種系の数理モデル
§ 6.2 捕食、被捕食関係にある 2 種
1. 餌食と捕食者
ある生物種が他の生物種を一方的に捕食する場合を考える。このとき食べられる方の種を餌食 (prey)、
食べる方の種を捕食者 (predator) という。この関係には様々なバリエーションがあり、1 つの数理モデル
で代表させることは無理である。ここでは非常に簡明なモデルを扱うが、2 種の関係が変われば全然違っ
た様相を示すこともおこる。
2. モデル
エコロジー島にはウサギとキツネが棲んでいて、キツネはウサギを主な餌にしている。この両者の個体
数の変動を、次のようにモデル化した。
(A) ウサギはマルサス−モデルによって増加するが、キツネによる補食のため、極端な増加は抑えられる。
したがって同種間競争の起きる数までには達しないのでこの項は無視してよい。
(B) キツネは全くウサギを捕らえられなくても、とりあえず生きては行けるが、栄養不良のため、自然増
加率はマイナス、すなわち一定の死亡率で減少していってしまう。
(C) またキツネ同士は争わないので、やはり同種間競争は起きない。
(D) ウサギとキツネの遭遇は、両者の個体数の積に比例して発生し、一定の割合で捕らえられる。
(E) 一定数のウサギが捕らえられるたびに、一匹のキツネが増える。
このようなモデルは、次の連立方程式で表される。
dN1
= ε N1 − τ N1 N2
dt
(6.6a)
dN2
= −γ N2 + α τ N1 N2
dt
(6.6b)
ここで、N1 、N2 はそれぞれウサギとキツネの個体数。また、各パラメータの意味は 以下の通り。
ε · · ·ウサギの自然増加率
τ · · ·ウサギとキツネの遭遇率 × ウサギの被捕獲率
−γ · · ·キツネの (ウサギを捕獲しない時の) 自然減少率
α · · ·ウサギが1羽捕らえられるごとにキツネの増える割合
3. シミュレーションによる解
この連立微分方程式は解析的に解くの
が不可能なため、計算機でシミュレーショ
250
ンを行い、ウサギとキツネの個体数を縦
ウサギ
軸、時間を横軸にとってその時間変化を見
キツネ
ることにする。使ったパラメータの値は、
ε = 0.015、τ = 0.001、γ = 0.01、α = 0.1 で
ある。また初期値は、N1 = 100、N2 = 7
とした。
時間
その結果は図 6.8 に示すように、特定の
図 6.8
値に収束することはなく、かといって無
限に発散することもなく、一定の範囲を周期的に振動する解となる。
− 68 −
環境基礎数学演習 2009
第 6 章 2 種系の数理モデル
4. 解の解釈
このような変動を解釈するために、図 6.9 にウサギの個体数
を横軸に、キツネの個体数を縦軸にとって示す。
40 キツネ
前節と同様に、(6.6a)、(6.6b) 式の左辺を 0 として平衡点を
γ
ε
、N2 = の 1 点であることがわかる。
ατ
τ
また増加、減少を分ける (6.2a)、(6.2b) にあたる境界は、平
計算すると、N1 =
衡点を通ってそれぞれ x 軸、y 軸に平行な直線である。
さらに前節と同様に増加、減少の傾向を示す矢印をこれらの
¡
¡
ª
@
I
@
r
@
@
R
¡
µ
¡
領域に対して決定し、これらを図 6.9 に記入した。
ウサギ
これらから変動は、以下のように解釈することができる。最
初は図の曲線の下端付近から始まり、
250
図 6.9
(phase 1) まずウサギが増加し、えさが増えたため、それを追ってキツネが増える。
(phase 2) キツネが増えたため、ウサギの数は減少に転ずる。しかしキツネの数はすぐには減らず。しばら
くは増加が続く。
(phase 3) エサのウサギがなくなり、キツネも減少に転ずる。
(phase 4) キツネが減ったため、ウサギが増加に転ずる。(→ phase 1) にもどる
5. Excel によるシミュレーション
(6.6a)、(6.6b) 式を数値的に解く。これにはかなりの行数が必要で、下の例だと 600 行ほどである。
グラフ化
図 6.10
< A >、< B > をドラッグして選択し、以下は前回と同様にグラフ化する。ただし、今回は軸に図のよ
うに名称を記入する。そのためには、途中の設定画面で設定するか、図の軸上を右クリックして設定を変
更する必要がある。
注)本来1周すれば重なるはずであるが、図ではわずかにずれる。これは差分化による誤差がたまるた
めである。Excel では精度をあげると計算量が膨大となるので、本格的なシミュレーションには向かない。
− 69 −
環境基礎数学演習 2009
第 6 章 2 種系の数理モデル
§ 6.3 2 種間の闘争
1. 群闘争方程式
集団 A、B がそれぞれ群を作り特定の場所に集合して、互いに相手を倒すために闘争することを考える。
すでに述べた生物種同士の競争との違いは次の 2 点である。
• 味方である A 群の個体同士、B 群の個体同士は争わない。
• 闘争は短時間で終結するので、自然増加率 (自然死亡率) はゼロとする。
このとき単位時間あたりの個体数の減少、すなわち損害を考えると、すでに遭遇は行われているので
(6.1a)、(6.1b) 式のように、双方の個体数の積には比例せず、単純に他種、すなわち敵の個体数と攻撃力と
の積に比例すると考えられる。つまり A 種の個体 1 体は、単位時間当たり攻撃力 γA の割合で B 種の個体
を倒し、逆に B 種の個体1体は、単位時間当たり攻撃力 γB の割合で A 種の個体を倒すと考えられる (た
だし、0 < γA 、γB ¿ 1)。
このように仮定すると、両群の個体数 NA 、NB の時間変化を表す連立微分方程式は、
dNA
= −γB NB
dt
(6.7a)
dNB
= −γA NA
dt
(6.7b)
と表される (以後、闘争方程式という)。これを t = 0 での初期値をそれぞれ、NA0 、NB0 として、どちら
かが全滅するまで闘争を継続する。
2. 闘争方程式の解
闘争方程式の解は以下のように求めることができる。
1) まず (6.7a) 式の両辺を t で微分して、
dNB
d 2 NA
= −γB
2
dt
dt
2) (6.8) 式の
(6.8)
dNB
に (6.7b) 式を代入して NB の項を消去し、次の NA だけの微分方程式を導く。
dt
d 2 NA
− γA γB NA = 0
dt 2
(6.9)
3) これは、NA に関する2階線形斉次方程式であるから、第 1 章で述べた方法で解ける。すなわち特性
√
√
方程式の2根は、λ = ± γA γB であるから、γ = γA γB と置けば、一般解は C1 、C2 を任意定数として、
次のように書ける。
NA = C1 eγ t +C2 e−γ t
(6.10)
4) 最後に初期値を代入して解を求める。まず (6.10) 式の t = 0 での条件より、次の式が求まる。
NA0 = C1 +C2
(6.11)
5) これだけでは任意定数を決定する式が足りないので、もうひとつの条件が必要である。そのために
(6.10) 式の NA を (6.7a) 式の左辺に代入して微分する。それから t = 0 での条件を考えると、
γ (C1 −C2 ) = −γB NB0
(6.12)
− 70 −
環境基礎数学演習 2009
第 6 章 2 種系の数理モデル
6) この 2 つの式を連立させて、C1 と C2 を決定する。最終的
な解は以下のようになる。
NA0
NA = (
−
2
r
γB NB0 γ t
NA0
)e +(
+
γA 2
2
r
A0
B0
γB NB0 −γ t
)e
(6.13)
γA 2
7) NB についても同様の計算を行い、
r
r
γA NA0 γ t
NB0
γA NA0 −γ t
NB0
(6.14)
−
)e +(
+
)e
NB = (
2
γB 2
2
γB 2
NA
NB
時間
この場合、NA と NB の特性方程式の根は一致する。
図 6.11
闘争の勝敗は (6.13) 式あるいは (6.14) 式で、NA 、NB のどちらかがゼロになった時点で決まる。勝った
方の残存個体数は、負けた側がゼロになった時刻 te を、(6.13) 式あるいは (6.14) 式に代入することによっ
て求められる。
3. ランチェスターの第一法則
(6.13) 式および (6.14) 式はいくらか複雑な形をしていて、この式から te 、および残存数を求めるのはか
なりの手間を要する。しかし途中の経過や te の値は問わず、最終的な勝敗および残存数だけを知るためな
らば、次のような簡単な方法がある。
元の (6.7a) 式の両辺に 2γA NA 、(6.7b) 式の両辺に 2γB NB をそれぞれかける。
2γA NA
dNA
= −2 γA γB NA NB
dt
(6.15a)
2γB NB
dNB
= −2 γA γB NA NB
dt
(6.15b)
(6.15a) 式、(6.15b) 式の右辺同士は等しいので、辺々ひくと以下の式が導かれる。
γA
dNA2
d
dN 2
− γB B = (γA NA2 − γB NB2 ) = 0
dt
dt
dt
(6.16)
(6.16) 式を積分すると、
γA NA2 − γB NB2 = D (D は積分定数)
(6.17)
すなわち D = γA NA2 − γB NB2 は時間によらない定数であり、これを利用して結果を簡単に求めることがで
きる。まず、初期値 NA0 、NB0 および γA 、γB を代入して初期の D の値を計算する。闘争終了時には NA ある
いは NB のどちらかは 0 になるが、その時も D の値は初期値から変化しない。したがって。もし D が正
の値ならば、NB = 0 のとき NA は正の値を取るはずである。つまり A 群の勝利であり、その時の A 群の
残存数は、
s
D
γA
NA (残存数) =
(6.18)
で求められる。
逆に D が負の値ならば B 群の勝利であり、そのときの B 群の残存数は、
s
NB (残存数) =
−D
γB
(6.19)
と求められる。これをランチェスターの第一法則 (2乗則) という。
− 71 −
環境基礎数学演習 2009
第 6 章 2 種系の数理モデル
6 章 の 練 習 問 題
【 問題 6-1 】
(6.1a)、(6.1b) の Lotka-Volttera 方程式で、パラメータを次のよ
うにとる。
N2
100
ε1 = ε2 = 0.1、µ11 = 0.001、µ12 = 0.0014、µ21 = 0.0017、µ22 =
0.001
このとき、解のパターンは Case:D になる。初期値が、(N1 、N2 )
平面上で、0 < N1 < 100、0 < N2 < 100 の範囲にあるとき、最終
的に平衡点 2 に収束する範囲と最終的に平衡点 3 に収束する領域
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
の概略を示せ。
(ヒント) 右図のように N1 、N2 の領域で、黒点のところを初期
N1
100
値として、N1 と N2 のどちらが残るかを調べる。境界付近のとこ
ろは、もう少し詳しく点を取って調べる。
【 問題 6-2 】
図 6.8、あるいは図 6.9 のような周期解で、初期値が平衡点に近くなるにしたがって、周期は短くなる
のかそれとも変わらないのかを調べよ。
【 問題 6-3 】
(1) 勢力の等しい A 群と B 群が闘争することになった。すなわち NA0 = NB0 = 1000、γA = γB = 0.005 と
全く互角である。
そのまま衝突すれば相打ちになってしまうが、A 群は B 群がまだ全部が集結できず、2 つの場所に半分
ずつ分散していることに目をつけ、まず A 群全部で B 群の半分 (500 個体) と闘争し (当然 A 群が勝つ)、
引き続いて残存した個体全部で残りの B 群の半分と闘争することにした。
それぞれの闘争での経過が、(6.7a)、(6.7b) 式にしたがうとした場合、2 回の闘争の後での A 群の残存
数は何個体になるか、ランチェスター第一法則より計算せよ。
(2) (1) の結果を、Excel でシミュレーションすることにより確認せよ。
(だいたい 100 ステップ内外でどちらかがゼロになる。それ以上の計算は意味がない)
【 問題 6-4 】
溶液中の (2 次) 化学反応 A + B *
) C において、A、B、C のモル濃度をそれぞれ [A]、[B]、[C] とする。
このとき、質量作用の法則により、[A]、[B]、[C] の濃度が小さい場合には、
・正反応 (→) の生成速度は、反応速度係数を k1 として、k1 [A][B]
・逆反応 (←) の生成速度は、反応速度係数を k2 として、k2 [C]
で表される。いま、k1 = 0.0002、k2 = 0.002 として、以下の初期濃度から始めた場合の濃度変化を Excel
でグラフ化せよ。(500 ステップほど必要)
(1) [A] =100、[B] =100、[C]=0
(2) [A] =100、[B] = 50、[C]=0
(3) [A] = 0、[B] = 20、[C]=100
− 72 −
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