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【不動産リサーチレポート】ジャパン・クオータリー 2016年第3四半期

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【不動産リサーチレポート】ジャパン・クオータリー 2016年第3四半期
不動産リサーチレポート
ジャパン・クオータリー
2016 年第 3 四半期
2016 年 7 月
目
1
次
まとめ
3
2
経済・金融・投資家動向
2.1
マクロ経済情勢
2.2
不動産投資市場・価格
2.3
J-REIT
4
4
6
10
3
不動産ファンダメンタルズ
3.1
オフィス
3.2
商業施設
3.3
住 宅
3.4
物流施設
12
12
15
16
17
4
特集:マイナス金利がもたらす地殻変動
4.1
はじめに
4.2
上場 REIT 市場への影響
4.3
機関投資家への影響
4.4
個人投資家への影響
4.5
住宅市場への影響
4.6
今後の考察
18
18
19
21
21
22
23
バックナンバー
24
組織変更のお知らせ
平成 27 年 10 月 1 日より、ドイツ証券(株)不動産投資銀行部の業務はドイチェ・アセット・マネジメント
(株)に新設された不動産投資運用部に引き継がれました。
併せて、本レポートの配布元についてもドイツ証券(株)よりドイチェ・アセット・マネジメント(株)へ変
更となりました旨、お知らせ申し上げます。本書記載の内容については、日本国内ではドイチェ・アセット・
マネジメント株式会社がお問い合わせの窓口となりますので、ご質問などございましたらドイチェ・アセッ
ト・マネジメント株式会社の担当者までご連絡願います。
注意事項
本レポートの日本語版と英語版は発行のタイミングが異なるため、内容・データが一部異なることがあります
のでご了承願います。
本件に関するお問い合わせ先
ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社 広報担当
Tel: 03-5156-5000
2
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
1 まとめ
経済・金融・投資家動向: 本章では国内マクロ経済動向や不動産投資市場、キャップレート、投資リターンなど
について直近の動向と今後の見通しを分析している。2016 年第 2 四半期の実質 GDP は、企業や家計の先行
き不安感が強まってきたため 0.2%程度の低成長になったものと予想されている。英国による EU 離脱の国民投
票の結果を受けて円高傾向が強まり、自動車などの輸出産業の景況感が悪化しているため、GDP 成長率は
2016 年通期で 0.4%程度の伸びにとどまるものと予想される。
2016 年 6 月までの 12 ヶ月間における不動産売買高は約 4.3 兆円と前年同期比約 18%の減少となった。一方、
マイナス金利政策の後押しを受けて、2016 年 1 月-6 月の J-REIT による取得は約 1.0 兆円と全体の 6 割以上
を占めるなど、J-REIT の取引占有率が極めて高くなっている。
不動産ファンダメンタルズ: 本章ではオフィス・商業施設・住宅・物流施設の 4 セクターそれぞれにおける市場フ
ァンダメンタルズの動向について概観している。2016 年 6 月末時点の都心 5 区 のオフィスビルの平均空室率
は 4.1%と 2 ヶ月連続の改善となり、2010 年以来の低水準となった。空室率は需給均衡の目安となる 5%を 12
カ月連続で下回っており、オフィス需要の底堅さが現れている。
2016 年 1 月-6 月の訪日外国人数は前年同期比で 28.2%の増加、訪日ブームが起きる前の 2 年前と比べると
87.1%増の 1,171 万人となった。これに伴い消費額も同時期 3.8 兆円と過去最高となったが、直近 3 四半期は
円高の影響もあり拡大ペースが減速している。2016 年第 1 四半期の都心商業施設の賃料は新宿で上昇したも
のの、それ以外の地域では横ばいまたは軟調に推移した。
2016 年第 2 四半期の首都圏分譲マンションの平均販売価格は前年同期比 7.3%増の 5,699 万円と過去 20 年
で最高の水準で高止まりしている。販売価格の上昇が影響して供給戸数は前年同期比 13.5%減の 8,030 戸と
3 四半期連続で前年同期比割れ、契約率も 70%を下回っており低迷している。住宅ローン金利の低下もあるも
のの、一方で円高により外国人投資家の需要も一巡しており、今後は価格が横ばいかやや軟調に推移していく
可能性がある。
物流施設では東京圏で大型施設の新規供給が続き、2016 年第 1 四半期の平均空室率は 4.6%、大阪圏は
1.4%と前期比やや改善か横ばいとなった。平均賃料は新規供給の影響を受けて東京圏で前期比 2.0%の下落、
大阪圏では同 1.2%の下落と 3 四半期連続で下落した。2016 年半ばにかけて東京圏、大阪圏いずれにおいて
も高水準な供給が予定されているため、空室率は年末にかけて上昇傾向が続くものとみられる。
特集 マイナス金利がもたらす地殻変動: 本章では日本をはじめとする世界 24 カ国(6 つの中央銀行)で実施
されているマイナス金利政策の影響を分析した。マイナス金利の経済的な効果については依然として議論の余
地が残るものの、マイナス金利は投資家の投資行動やポートフォリオ戦略に根本的な変化をもたらしており、利
回りを求めてオルタナティブ資産に資金が流れ込む動きが強まっている。特にその影響が大きいのが、長期国
債金利がマイナス圏に転じているスイスと日本の投資家で、各機関投資家は抜本的なポートフォリオの見直しや
国際分散投資に乗り出すなど、地殻変動ともいえる大きな動きが出てきている。さらに個人投資家向けのオルタ
ナティブ商品にも兆円単位の資金が流れ込んでおり、その影響はグローバル市場に及んでいる。
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
3
2 経済・金融・投資家動向
マクロ経済情勢
2.1
2016 年第 2 四半期の実質 GDP は、企業や家計の先行き不安感が強まってきたため 0.2%程度の成長にとどまった
可能性がある。英国による EU 離脱の国民投票の結果を受けて円高傾向が強まり、企業の想定為替レートから大きく
かい離しはじめているため、自動車などの輸出産業の景況感が悪化している。日本経済の成長率も下方修正されてお
り、2016 年は 0.4%程度の伸びになるものと予想されている。
図表 1: 実質 GDP 成長率の推移
Q1
Q2
Q3
日経平均(前年同期比、右軸)
Q4
(前年同期比)
(年成長率、実質)
60%
6%
予想
4%
40%
2%
20%
0%
0%
-20%
-2%
-4%
-6%
1997.04 消費増税
1997.07 アジア通貨危機
-8%
2000.12
ITバブル崩壊
-40%
2014.04
消費増税
2011.03
東日本大震災
-60%
2008.09
リーマンショック
-80%
-100%
2020F
2019F
2018F
2017F
2016E
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
-10%
E:Deutsche Asset Management 推定値(文中全ての図表同様)、F:Deutsche Asset Management 予想値(文中全ての図表同様、詳細については末尾の免責事項を参照)
出典: 内閣府、Bloomberg、ドイツ証券の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
日銀短観による 2016 年 6 月の業況判断指数 DI(国内大企業・全産業ベース、黄線)は 2016 年 3 月からほぼ横ばい
の 12 となった。国内外の需要低迷に加え、円高が進んだ影響で輸出関連企業の景況感が悪化した一方、市況改善な
どを背景に素材関連企業が持ち直した。ただし本調査には 6 月末の英国による EU 離脱決定の影響は織り込まれて
いないため、今後は悪化していく懸念がある。2016 年 5 月の景気動向指数先行 CI(青線)は 100.0 で前期比 1.0 ポイ
ント増とやや持ち直した。
図表 2: 景気動向指数(先行指数)と日銀短観
景気動向指数 先行CI (左軸)
日銀短観 大企業DI (右軸)
(2010年=100)
DI業況判断指数:
('良い' - '悪い', % ポイント)
126
113
25
100
0
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
-50
1993
74
1992
-25
1991
87
出典: 日本銀行、内閣府の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
4
50
先行き
6 月末に英 EU 離脱決定などに伴う世界的なリスクオフの流れや米国での利上げ観測の後退を受けて、日経平均は
15,000 円台前半へ一旦弱含んだ。その後 7 月の参院選の勝利で、政府による経済対策や日銀による追加金融緩和
への期待が高まったため、株価は 16,000 円台後半まで回復した。円相場も 6 月末に一時 1 ドル=99 円台まで強含ん
だ後、7 月下旬には 107 円台まで円安に戻し落ち着きを取り戻したが、依然として 2 年来の円高水準となっている。
図表 3: 日経平均と円相場
日経平均(左軸)
円相場(右軸)
¥120
¥20,000
アベノミクス
¥100
¥15,000
¥80
¥10,000
2016.07
2016.01
2015.07
2015.01
2014.07
2014.01
2013.07
2013.01
2012.07
¥60
2012.01
2010.07
2010.01
2009.07
2009.01
2008.07
2008.01
2007.07
2007.01
2006.07
¥5,000
2011.07
2008.09
リーマンショック
2011.01
2011.10
円相場75円台
(史上最高値)
出典: Bloomberg の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
6 月末の英 EU 離脱決定をうけたリスクオフの流れから国債が買われており、10 年物国債の利回りは 2016 年 7 月末
現在-0.25%前後で推移している。消費者物価指数(コア CPI)は原油安の影響を受けて軟調に推移しており、足元で
は-0.4%、食料及びエネルギーを除いた指数(日銀版コアコア CPI)は 0.6%で推移している。2017 年にはコア CPI が
1%程度まで上昇する可能性があるものの、日銀が目標とする 2%の達成時期は順次先送りされている。
.
図表 4: 短期金利と消費者物価指数推移
翌日物コールレート(%, 期末)
(%)
消費者物価指数
10年国債
消費増税
影響含む
3
2
1
0
-1
予想
-2
2020F
2019F
2018F
2017F
2016E
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
-3
E:Deutsche Asset Management 推定値、F:Deutsche Asset Management 予想値
出典: Bloomberg、ドイツ証券の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
5
不動産投資市場・価格
2.2
金融機関による不動産ファイナンス1の状況は引き続き良好である。日銀短観によると 2016 年 6 月の金融機関の不
動産・大企業向け貸出態度 DI(黄線)は前期比横ばいだったものの、2016 年 3 月の不動産業の設備投資向け新規融
資額に前年同期比 16%増加した。足元で一部の取引価格が過熱感を増しており、投資家もレンダーも新規案件に対し
てはやや慎重な姿勢を示す例がみられる。
図表 5: 不動産向け新規融資の増減と金融機関の貸出指標の推移
不動産業の設備投資向け新規融資増減 (前年同期比、左軸)
貸出態度DI 全産業・大企業 (右軸)
貸出態度DI 不動産・大企業 (右軸)
40%
40
20%
20
0%
0
-20
-40%
-40
2008.03
2008.06
2008.09
2008.12
2009.03
2009.06
2009.09
2009.12
2010.03
2010.06
2010.09
2010.12
2011.03
2011.06
2011.09
2011.12
2012.03
2012.06
2012.09
2012.12
2013.03
2013.06
2013.09
2013.12
2014.03
2014.06
2014.09
2014.12
2015.03
2015.06
2015.09
2015.12
2016.03
2016.06
-20%
出典: 日本銀行の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
2016 年 6 月までの 12 ヶ月間における不動産売買高は約 4.3 兆円と前年同期比 18%の減少となっており、キャップレ
ートの低下や取引対象となる物件の枯渇が影響したものと思われる。都心を中心に取引利回りは引き続き低下傾向に
あり過熱感が出ている一方、周辺部では入札価格が売り主の希望価格に満たずに取引が成立しない事例も散見され
た。このような中、マイナス金利政策の後押しを受けて 2016 年 1 月-6 月の J-REIT による取得は約 1.0 兆円と半期で
みれば取引全体の 6 割以上を占めた。
図表 6: 収益不動産売買高と金融機関の不動産向け貸出指標の推移
売買高 (12ヶ月合計、左軸)
(兆円)
6ヶ月前の貸出態度DI(不動産-大企業)
E:Deutsche Asset Management 推定値
出典: 日本銀行、都市未来研究所、Real Capital Analytics のデータをもとに Deutsche Asset Management 作成
1
6
一般的なJ-REITのLTVは40%程度であるのに対して、金融機関は概ね50-60%程度まで許容している。
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
2016.03
2016.06E
2015.09
2015.03
2014.09
2014.03
2013.09
2013.03
2012.09
2012.03
2011.09
2011.03
2010.09
2010.03
2009.09
2009.03
2008.09
2008.03
2007.09
2007.03
-36
2006.09
0
2006.03
-24
2005.09
1
2005.03
-12
2004.09
2
2004.03
0
2003.09
3
2003.03
12
2002.09
4
2002.03
24
2001.09
5
2001.03
36
2000.09
6
図表 7 の左図はセクター別のキャップレートを示している。実勢価格を織り込んだ TMAX キャップレートは 2016 年 3
月期に 4.76%と約 7 年ぶりの低水準となったほか、東京オフィスの鑑定キャップレートも 3.43%(速報ベース)と統計開
始以来で最低の水準となった。マイナス金利政策の影響を受けてキャップレートの低下は地方やオフィス以外のセクタ
ーにも波及しており、東京や大阪のマンションでも前年同期比 20-30bps 程度の低下となった。
一方、東京のオフィスビル実取引における平均イールド・スプレッド(国債金利とキャップレートの差)は国債金利の低下
もあって前期比 10bps 増の 470bps と引き続き世界的に高い水準を維持しており、スプレッドが 300-350bps 程度の
ニューヨークやロンドン、180bps 強の香港など他の都市とは対照的となっている。
図表 7:鑑定キャップレートと世界主要市場のオフィス・イールドスプレッド
鑑定キャップレート
東京オフィス(鑑定)
大阪オフィス(鑑定)
東京マンション(鑑定)
大阪マンション(鑑定)
TMAX(実勢ベース)
オフィス取引イールドスプレッド
6%
6.5%
速報値
6.0%
5.0%
3%
4.5%
2%
4.0%
1%
3.5%
0%
3.0%
-1%
09
10
11
12
13
14
ロンドン
シンガポール
シドニー
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
4%
08
ニューヨーク
香港
5%
5.5%
07
東京
15 16
07
08
09
10
11
12
13
14
15 16
注: データは将来の傾向、数値等を保証もしくは示唆するものではありません。
出典: 不動産証券化協会、Real Capital Analytics、TMAX のデータをもとに Deutsche Asset Management 作成
2016 年第 2 四半期の東証 REIT 指数は前期比 3%の減少となり、7 月に入っても 1,800 ポイント台半ばでもみあって
いる。英国での EU 離脱問題を受けて一時 1,730 ポイントまで下落したものの、翌週には離脱決定前の水準まで盛り
返すなど底堅さを示した。一方、実物の資産価格の指標となる東京都心部 A クラスビルの 2016 年 3 月の床単価2イン
デックスは 825 万円/坪と前年同期比で約 11%の上昇となったものの、資産価格は 2008 年のピーク時より依然 28%
ほど低い水準にある。資産価格は REIT 指数を 1 年遅れで追いかける展開が続いていることから、今後価格はもう一
段強含む可能性がある。
図表 8: 不動産価格の推移
Aクラスビル資産価格(坪単価, 右軸)
J-REIT指数 (左軸)
(万円/坪)
2,400
1,200
2008年9月
リーマンショック
1,000
1,600
800
1,200
600
800
400
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
2,000
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015 16
出典: 大和不動産鑑定、Bloomberg のデータをもとに Deutsche Asset Management 作成
2
物件価格をビルの床面積で割った資産価格指標。ここでは賃貸可能面積(NRA)ベースで算出。
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
7
直近の主な不動産取引は以下の通りで、J-REIT による取引が再び活発化しつつある。最も高額だった取引はヒューリ
ックによるホテルグランパシフィック LE DAIBA の取得(推定 670 億円)で、続いてスターアジア投資法人の新規上場に
伴うポートフォリオの取得(615 億円)となった。単価が最も高額だったのはジャパンエクセレント投資法人によるマンサ
ード代官山の取得(114 億円)で、床単価は 1 平米当たり 136 万円(1 坪当り 449 万円)、最もキャップレートが低かっ
たのも同物件で 4.0%3となった。今期はホテルグランパシフィックをはじめホテルの取引が活発であり、引き続き JREIT や海外勢を中心にホテルセクターへ対する強い関心が伺える。
図表 9: 2016 年 4 月以降に取引・発表された主な国内不動産取引
種別
物件名称 ( 取得割合%)
晴海アイランドトリトンスクエア オフィスタワーY
品川シーサイドイーストタワーなど5物件
MG池之端ビルなど計8物件
取得額
単価
(億円)
(百万円/㎡)
キャッフ ゚
レート
場所
取引
年月
取得主
推500
1.01
-
中央
16年7月
イデラ・キャピタル(中)
492
0.58
4.5%
品川
16年6月
インベスコ・オフィス・ジェイリート
209
0.66
4.3%
東京ほか
16年5月
いちごオフィスリート
推156
0.54
-
江東
16年6月
インベスコ・オフィス・ジェイリート
マンサード代官山
114
1.36
4.0%
渋谷
16年6月
ジャパンエクセレント投資法人
大阪西本町ビルなど計5物件
84
0.26
5.6%
大阪ほか
16年5月
いちごオフィスリート
フォーキャスト堺筋本町
90
0.55
-
大阪
16年3月
ドイチェ・アセット(ドイツ)
本町セントラルオフィス
9
0.43
-
大阪
16年2月
強楓控股(シンガポール)
オリナスタワー
-
-
-
墨田
16年4月
メットライフ(米)
梅田ゲートタワーの88%
-
-
-
大阪
16年3月
フェニックス・プロパティ(香港)
Onze1852
-
-
-
中央
16年3月
兆望(香港)
日立ソリューションズタワーB
-
-
-
品川
16年1月
モルガン・スタンレー(米)
ホームセンターコーナン砂田橋店など計7物件
271
0.35
5.1%
愛知ほか
16年3月
ケネディクス商業リ-ト
商業
ららぽーと新三郷の持分50%
151
0.22
5.0%
埼玉
16年7月
フロンティア不動産投資法人
モラージュ佐賀、フィール旭川
61
0.08
-
佐賀ほか
16年3月
クリサス・リテール(シンガポール)
物流
GLP・MFLP市川塩浜
155
0.30
4.6%
千葉
16年6月
GLP投資法人
賃貸マンション20物件
516
-
5.3%
大阪ほか
16年7月
サムティ・レジデンシャル投資法人
錦糸町プライムタワー
オフィス
住宅
Daffitto難波東
ホテルグランパシフィックLE DAIBA
ホテルビスタグランデ大阪など計3物件
-
-
-
大阪
16年3月
アクサ(フランス)
推670
-
-
港
16年5月
ヒューリック
472
-
5.0%
大阪ほか
16年7月
ジャパン・ホテル・リート
ホテル/ヘルスケア 浦和ロイヤルパインズホテル
175
-
5.8%
埼玉
16年4月
ユナイテッド・アーバン投資法人
ホテルサンプラザ堺ANNEX
112
-
5.6%
大阪
16年3月
新龍国際(香港)
シルバーハイツ羊ケ丘
11
0.12
-
北海道
16年3月
パークウェイ・ライフ(シンガポール)
ポートフォリオ
開発用地
アサヒビルヂングなど計18物件
615
-
-
東京ほか
16年4月
スターアジアREIT(新規上場)
Landport柏沼南など計10物件
157
0.21
-
千葉ほか
16年5月
野村不動産マスターファンド
旧農林中央金庫札幌支店
推80
0.66
-
北海道
16年6月
森トラスト
注: 取得主が黄色は J-REIT による取得、グレーは外資系による取得を示したものです。個別の物件や企業名はあくまでも参考として記載したもので、その企業の株式や証券等の売買を推奨するも
のではありません。取得額は推定値を含みます。一部の取引は完了しておらず、優先交渉権が与えられただけのものも含みます。
出典: 日経不動産マーケット情報、各社公表資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
3
8
日経不動産マーケット情報によれば、実際の賃料相場などを勘案した推定利回りは 3.4%。これ以外にも東京や大阪、名古屋などで複数の取引のキャップレ
ートが 4%以下だった模様。
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
2016 年 6 月末までの過去 12 ヶ月間の収益不動産取引額4を都市別にまとめると図の通りで、東京の取引額は約 233
億ドルとドルベースで前期比ほぼ横ばいとなった。東京はニューヨーク、ロンドン、ロサンゼルス、サンフランシスコ、パリ
に次いで世界第 6 位へと下落したものの、アジア太平洋地域では依然として最大の取引市場となった。過去1年間の
J-REIT による物件取得は全体の 38%、外資勢による取得は同 14%とみられる。大阪の取引額は同期間で約 47 億ド
ルと主軸のオフィスビルの取引が回復しつつあるのに加え、商業施設、物流施設やホテルの取引も活況でアジア太平
洋地域では第 8 位となり、北京、ソウルなどアジア主要国の首都に肩を並べている。
図表 10: 世界の都市別収益不動産売買取引額ランキング (過去 12 ヶ月)
オフィス
商業施設
賃貸マンション
ニューヨーク
ロンドン
ロサンゼルス
サンフランシスコ
パリ
上 海
香 港
シドニー
メルボルン
シンガポール
北 京
大 阪
ソウル
台 北
広 州
ホテル
(売買額に占める外資系の割合 %)
33 %
60%
21%
21%
28%
東 京
ワシントンDC
シカゴ
物流施設
国内系
J-REIT
14%
外資系
16%
19%
~
~
8%
9%
63%
42%
64%
2%
18%
26%
30%
5%
0
10
20
30
40
50
60
70
(十億ドル)
80
注: 開発用地を除く
出典: Real Capital Analytics のデータをもとに Deutsche Asset Management 作成
実物不動産インデックスによるトールリターン5は 2009 年後半から上昇、2010 年からプラスで推移しており、2016 年 2
月は前年同期比 0.6 ポイント増の年 8.7%(速報値、図表 11 左図)と改善した。セクター別にみると回復が遅れていた
オフィスのリターンも同 0.8 ポイント増の 7.7%、商業施設は 8.0%、物流施設は 9.6%、住宅は 8.4%といずれも堅調に
推移した。
図表 11: 実物不動産投資の年間トータルリターン推移 (レバレッジ前)
年間トータルリターン
トータルリターン
15%
インカムリターン
セクター別総合リターン
キャピタルリターン
速報
オフィス
15%
5%
5%
0%
0%
-5%
-5%
-10%
-10%
-15%
-15%
住宅
物流
速報
2004
2006
2008.09
2009.03
2009.09
2010.03
2010.09
2011.03
2011.09
2012.03
2012.09
2013.03
2013.09
2014.03
2014.09
2015.03
2015.09
2016.02
10%
2004
2006
2008.09
2009.03
2009.09
2010.03
2010.09
2011.03
2011.09
2012.03
2012.09
2013.03
2013.09
2014.03
2014.09
2015.03
2015.09
2016.02
10%
商業
注: データは将来の傾向、数値等を保証もしくは示唆するものではありません。
出典: MSCI Real Estate –IPD(左表)、不動産証券化協会(右表)のデータをもとに Deutsche Asset Management 作成
4
5
ここでは持ち家の取引や開発用地の売買は、キャッシュフローを生まない取引のため含めていない。
投資家が投資のベンチマークとして利用する収益指標で、賃料収入による運用利回りと鑑定評価に基づくキャピタル・ゲインを加えたレバレッジ前の収益
率。「総合収益率」と同義。
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
9
2.3
J-REIT
マイナス金利の導入により投資家の間では株式市場と比べて相対的に利回りの高い REIT を再評価する動きが顕著
になっている。年初より日経平均株価が 12%の下落となっているのに対し、東証 REIT 指数は 2016 年 7 月現在
1,850 ポイント前後で年初比 5.8%上昇と比較的堅調に推移している。また、2016 年第 2 四半期は米国の利上げ観測
が後退したことから、米国やシンガポールなど主要国の REIT 指数も堅調に推移した。
図表 12: REIT インデックス(短期推移と長期国際比較)
東証 REIT 指数と日経平均比較(5 年)
REIT 指数の国際比較(10 年)
J-REIT
A-REIT (豪州)
(円)
US-REIT
S-REIT (シンガポール)
20,000
2,000
350
J-REITインデックス (左軸)
300
17,000
1,700
250
200
日経平均 (右軸) 14,000
1,400
150
100
11,000
1,100
2016.07
2015.07
2014.07
2013.07
2012.07
2011.07
2010.07
2009.07
2016.07
2016.01
2015.07
2015.01
2014.07
2014.01
2013.07
2013.01
2012.07
2012.01
2011.07
2011.01
2010.07
2008.07
8,000
800
2007.07
2006.07
50 (09年3月=100)
注: 参照インデックスは東証リート・インデックス、 FTSE NAREIT All Equity REITS Index (US-REIT), S&P/ASX 200 A-REIT Index (豪州 REIT), FTSE ST REIT Index (シンガポール REIT)
出典: Bloomberg の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
2016 年 5 月の J-REIT 平均分配金利回りは J-REIT 指数の回復を受けて前期比 14bps 下落の 3.32%(オフィス型
REIT に限れば 2.89%)となった。この間、日銀によるマイナス金利政策が導入されたため長期金利もマイナス圏へと
突入しており、国債利回りとの差(スプレッド)も 343bps(オフィス型 REIT に限れば 300bps)へと広がった。分配金・配
当スプレッドは米国 REIT、英国 REIT ともに 150-250bps 程度となっており、この利回りで比較すれば J-REIT の方が
投資妙味が高いとみる投資家もいる。
図表 13: J-REIT 分配金利回り
オフィスREIT
J-REIT
8%
10年国債
6%
4%
2%
スプレッド
0%
出典: 三井住友トラスト基礎研究所、Bloomberg の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
10
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
2016.05
2015.11
2015.05
2014.11
2014.05
2013.11
2013.05
2012.11
2012.05
2011.11
2011.05
2010.11
2010.05
2009.11
2009.05
2008.11
2008.05
2007.11
2007.05
2006.11
2006.05
2005.11
2005.05
2004.11
2004.05
2003.11
2003.05
2002.11
2002.05
-2%
2016 年 1 月-6 月期の 6 ヶ月間でラサールロジポート投資法人など 2 銘柄の新規上場があったほか、インヴィンシブ
ルなど 8 銘柄以上の公募増資が公表された。同期間の J-REIT による IPO・増資額は計 3,150 億円超、物件取得額
は計 9,600 億円超(売却額を除いたネットでは 8,300 億円)とマイナス金利の後押しを受けて J-REIT による取得が 2
月以降再び活発化しつつある。
図表 14: J-REIT の資金調達と物件取得額
直近の主要増資一覧
(兆円)
(億円)
J- REIT 銘柄
1.0
J-REIT物件取得額
(純増額)
投資法人債
第三者割当増資
公募増資
IPO
時期
ユナイテッド・アーバン
2016年5月
345
インヴィンシブル
2016年3月
361
ヒューリック・リート
2016年3月
294
ケネディクス商業リート
2016年3月
170
1-6月
742
合計
1,912
その他増資合計
0.5
増資額
新規上場のREIT
J- REIT 銘柄
2001.09
2002.03
2002.09
2003.03
2003.09
2004.03
2004.09
2005.03
2005.09
2006.03
2006.09
2007.03
2007.09
2008.03
2008.09
2009.03
2009.09
2010.03
2010.09
2011.03
2011.09
2012.03
2012.09
2013.03
2013.09
2014.03
2014.09
2015.03
2015.09
2016.03
2016.06E
0.0
時期
増資額
スターアジア不動産リート
2016年4月
226
ラサールロジポート・リート
2016年2月
1,016
合計
1,242
上場予定のREIT :
マリモ地方創生リート(複合)、リスト(総合)、森トラスト(ホテル)
三井不動産ロジスティクスパーク(物流)
注: 増資額は上限額。個別の物件や企業名はあくまでも参考として記載したもので、その企業の株式や証券等の売買を推奨するものではありません。
出典: 不動産証券化協会、Real Capital Analytics、各社公表資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
図表 15 は国内収益不動産の取引額(自己居住用住宅などを除く)及び J-REIT の物件取得額・売却額をそれぞれ示
している。2016 年 1 月-6 月の不動産取引額は速報ベースで約 1.4 兆円と前年同期比約 55%と大きく減少している一
方、J-REIT の取引に占める割合は約 69%にまで増加した。
図表 15: 収益不動産取引額の推移と J-REIT の取得割合
(兆円)
4
80%
取得 その他法人
取得 J-REIT
売却 J-REIT
3
全体の売買額に占める
J-REITの取得割合 (右軸)
60%
2
40%
1
20%
0
0%
-1
2016.03
2016.06E
2015.09
2015.03
2014.09
2014.03
2013.09
2013.03
2012.09
2012.03
2011.09
2011.03
2010.09
2010.03
2009.09
2009.03
2008.09
2008.03
2007.09
2007.03
2006.09
2006.03
2005.09
2005.03
2004.09
2004.03
2003.09
2003.03
2002.09
2002.03
2001.09
2001.03
2000.09
-20%
出典: 不動産証券化協会、都市未来研究所、Real Capital Analytics の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
白色:Deutsche Asset Management 推定による暫定値
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
11
3
不動産ファンダメンタルズ
3.1
オフィス
2016 年 6 月末時点の都心 5 区 のオフィスビルの平均空室率は 4.1%と 2 ヶ月連続の改善となり、2010 年以来の水
準に再び近づいた。空室率はオフィスの需給均衡の目安となる 5%を 12 ヶ月間下回っており、需要は底堅いとみられ
ている。大手町フィナンシャルシティ・グランキューブや東京ガーデンテラス紀尾井町など大型の新築ビル供給があった
ものの、新築ビル計 25 棟の平均空室率は 18.8%と前期比 10 ポイント以上の改善となった。
図表 16: 都心 5 区の平均空室率と新築ビルの空室率の推移
新築ビルの空室率 (右軸)
2016年以降
(Log表)
ビル名
11 %
32 %
9%
16 %
平均空室率(左軸)
2016.06
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
1%
2008
1%
2007
2%
2006
3%
2005
4%
2004
5%
2003
8%
2002
7%
新宿ガーデンタワー
JR新宿ミライナタワー
大手町フィナンシャルシティ・グランキューブ
東京ガーデンテラス紀尾井町
六本木三丁目プロジェクト
京橋エドグラン
住友不動産麻布十番プロジェクト
銀座六丁目計画
大手町パークビルディング
内幸町二丁目プロジェクト
赤坂一丁目再開発
目黒駅前地区再開発 オフィス棟
新日比谷プロジェクト
西品川一丁目再開発事業
浜松町二丁目計画A街区
ニッセイ浜松町クレアタワー
TGMM芝浦計画A棟
〃 B棟
虎ノ門トラストシティ ワールドゲート
大手町二丁目再開発A棟
〃 B棟
渋谷駅南街区 再開発
〃 道玄坂街区
丸の内3-2計画
虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー
竣工
階数
2016/3
2016/3
2016/4
2016/5
2016/9
2016/10
2016/12
2017/1
2017/1
2017/5
2017/8
2017/11
2018/1
2018/1
37
32
31
36
40
32
10
13
29
21
37
27
35
24
42
29
31
36
36
35
32
35
18
30
36
-
2018
2018
2019
2018
2018
2018
2018
2018
2019
2022
延床㎡
(オフィス部)
55,817
55,000
108,330
80,712
103,620
66,590
33,571
38,000
60,710
57,500
81,698
47,223
115,500
130,656
計270,000
51,900
101,400
118,400
計210,000
173,250
97,152
45,000
58,900
89,100
94,000
174,800
出典: 三鬼商事(左段)、三幸エステート、各社公表資料(右段)をもとに Deutsche Asset Management 作成
個別の物件や企業名はあくまでも参考として記載したもので、その企業の株式や証券等の売買を推奨するものではありません。
2016 年 6 月の東京都心 3 区6の基準階面積別オフィス空室率は概ね改善傾向にある。大規模ビル(基準階面積 200
坪以上)の空室率は前年同期比 1.9 ポイント改善し 2.2%となったほか、基準階面積 50-100 坪クラスのビルで同 1.8
ポイント改善し 4.8%となった。一方、これまで改善傾向にあったフリーレント期間は 2016 年 3 月で平均 3.2 ヶ月と 2
四半期連続で悪化していることから、価格交渉権が必ずしもオーナー側に渡っているとまではいえない構図が読み取
れる。
図表 17: 東京都心 3 区の基準階面積別オフィス空室率の推移
基準階 50~100坪のビル
基準階 100~200坪のビル
基準階 200坪以上のビル
平均
10%
6
5%
4
0%
2
-5%
0
6
12
千代田区、中央区、港区を指す。
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
2015.06
2014.12
2014.06
2013.12
2013.06
2012.12
2012.06
2011.12
2011.06
2010.12
2010.06
2009.12
2009.06
2008.12
2008.06
2007.12
2007.06
2006.12
2006.06
2005.12
2005.06
2004.12
2004.06
2003.12
2003.06
2002.12
2002.06
2001.12
2001.06
2000.12
2000.06
1999.12
1999.06
1998.12
1998.06
1997.12
1997.06
1996.12
1996.06
出典: ザイマックス不動産総合研究所、三幸エステートの資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
2016.06
(ヶ月)
8
2015.12
15%
フリーレント月数(右軸)
過去のデータをみると東京都心のオフィスビルでは空室率と賃料上昇幅に相関(正確には逆相関)関係がみられる。
2016 年 3 月の都心 3 区の基準階 200 坪以上のオフィス空室率は 2.7%と自然空室率の 5%を割っている。また、成
約賃料も 3 期移動平均で約 1 年ぶりに上昇傾向に転じている。
図表 18: 東京都心 3 区のオフィス空室率と成約賃料の推移 (基準階 200 坪以上)
成約賃料増加率 (前期比、3期移動平均)
空室率 (右軸)
8%
1%
4%
3%
0%
5%
-4%
7%
回復
-8%
9%
2016.03
2015.03
2014.03
2013.03
2012.03
2011.03
2010.03
2009.03
2008.03
2007.03
2006.03
2005.03
2004.03
2003.03
2002.03
2001.03
2000.03
1999.03
1998.03
1997.03
-12%
1996.03
:賃料が増加に転じた時点
11%
出典: ニッセイ基礎研究所、三幸エステートの資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
東京都心部のビルは 2016 年第 2 四半期の基準階 100 坪以上のビルの募集賃料は前年同月比 4.5%増と 8 四半期
連続で回復となり、新築ビルでも平均募集賃料は前期比で減少したが、前年同月比では 8.0%増(黄線)と 4 四半期連
続で上昇した。一方、2016 年初より急速に進んだ円高により年前半は製造業を中心に企業業績の鈍化が見られ、賃
料の回復スピードは年後半にかけてやや減速する懸念もある。
図表 19: 東京都心 5 区の基準階面積別オフィス募集賃料の推移
予想
(円/坪/月)
50,000
プライム賃料、丸の内・大手町
基準階200坪以上
40,000
Aクラスビル
30,000
10,000
新築ビル
基準階100坪以上
平均
基準階100坪以上
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008.03
2008.06
2008.09
2008.12
2009.03
2009.06
2009.09
2009.12
2010.03
2010.06
2010.09
2010.12
2011.03
2011.06
2011.09
2011.12
2012.03
2012.06
2012.09
2012.12
2013.03
2013.06
2013.09
2013.12
2014.03
2014.06
2014.09
2014.12
2015.03
2015.06
2015.09
2015.12
2016.03
2016.06
2016.12F
20,000
F:Deutsche Asset Management 予想値
出典: 三幸エステート、ニッセイ基礎研究所の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
13
国内主要都市のオフィス空室率は東京以外で引き続き改善傾向にある。2016 年 6 月の空室率は札幌が 4.2%、福岡
が 5.6%、大阪が 6.4%、名古屋が 6.8%といずれも長期的な平均値である 8%を下回り、とりわけ札幌と福岡は約 15
年ぶりの低水準となった。2016 年第 2 四半期は福岡と名古屋で新規供給があったものの、地方都市では需要が堅調
なうえ、2017 年まで供給も限定的なため空室率はいましばらく堅調に推移していくものとみられる。
図表 20: 国内主要都市のオフィス空室率の推移
札幌
(%)
福岡
名古屋
大阪
2016年以降
東京
ビル名
竣工
階数
15
10
2016.06
2015
2016.03
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2000
2001
1999
1998
0
1997
5
大名古屋ビルヂング
2015/10
JPタワー名古屋
2015/11
JRJP博多ビル(福岡)
2016/4
シンフォニー豊田ビル(名古屋)
2016/6
JRゲートタワー(名古屋)
2017
中之島フェスティバルタワー・ウエスト(大阪)
2017
グローバルゲート・ウエスト(名古屋)
2017
グローバルゲート・イースト(名古屋)
錦二丁目計画(名古屋)
2018
新南海会館ビル(大阪)
2018
札幌創世1.1.1区
2018
梅田3丁目計画(大阪)
2019
出典: 三鬼商事(左段)、三幸エステート、各社公表資料(右段)をもとに Deutsche Asset Management 作成
個別の物件や企業名はあくまでも参考として記載したもので、その企業の株式や証券等の売買を推奨するものではありません。
14
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
34
40
12
25
46
41
36
17
21
29
28
40
延床㎡
(オフィス部)
65,000
80,000
24,000
15,444
45,030
67,750
計157,000
45,586
34,650
35,112
120,000
3.2
商業施設
2016 年 1 月-6 月の訪日外国人数は前年同期比で 28.2%の増加、訪日ブームが起きる前の 2 年前と比べると
87.1%増の 1,171 万人となり、過去最速のペースで 1,000 万人を超えた。これに伴い 2016 年 6 月末までの過去
12 ヶ月間の消費額も前年同期比 39%増の約 3.8 兆円と過去最高となったが、直近 3 四半期は円高の影響もあり
拡大ペースが減速している。2016 年第 1 四半期の都心商業施設の賃料は新宿で 1.9%の微増となったものの、
それ以外の地域では横ばいまたは軟調に推移した。
図表 21: 東京都心と大阪の主要商業地の商業施設の平均募集賃料の推移
外国人消費額(右軸)
(円/坪/月)
銀座
表参道
新宿
渋谷
池袋
心斎橋(大阪)
(兆円)
Q2 2016
Q1 2016
Q4 2015
Q3 2015
Q2 2015
Q1 2015
Q4 2014
Q3 2014
Q2 2014
Q1 2014
Q4 2013
Q3 2013
Q2 2013
Q1 2013
Q4 2012
Q3 2012
Q2 2012
Q1 2012
Q4 2011
Q3 2011
Q2 2011
Q1 2011
0.0
Q4 2010
0
Q3 2010
0.5
Q2 2010
12,000
Q1 2010
1.0
Q4 2009
24,000
Q3 2009
1.5
Q2 2009
36,000
注: オフィス賃料は東京都心 5 区の基準階面積 100 坪以上の平均(図表 17 のベンチマーク)
出典: スタイルアクト、日経不動産マーケット情報、観光庁の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
2016 年第 2 四半期の百貨店売上は株価の低迷による高級宝飾品の売上や円高の影響により訪日客向けの免税品
売上が落ち込んだことで、東京・大阪の売上高は前年同期比で 2.6%の減少だった。コンビニの売上高は 0.8%と伸び
たものの、チェーンストアは 1.4%の減少、ショッピングセンター(政令指定都市)も 1.3%の減少となった。
図表 22: 形態別小売売上高の前年同期比推移 (%)
ショッピングセンター (13都市)
15%
百貨店 (東/阪)
チェーンストア (全国)
(全て既存店ベース)
10%
5%
0%
-5%
2016.06
2016.03
2015.12
2015.09
2015.06
2015.03
2014.12
2014.09
2014.06
2014.03
2013.12
2013.09
2013.06
2013.03
2012
2011
2010
2009
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
2008
-11%
-10%
出典: 日本ショッピングセンター協会、日本百貨店協会、日本チェーンストア協会の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
15
住 宅
3.3
2016 年第 2 四半期の首都圏分譲マンションの平均販売価格は前年同期比 7.3%増の 5,699 万円と過去の平均販売
価格である 4,500 万円を大きく上回り、過去 20 年で最高の水準で高止まりしている。一方、販売価格の上昇が影響し
て供給戸数は前年同期比 13.5%減の 8,030 戸と 3 四半期連続で前年同期比割れ、契約率も 70%を下回っており低
迷している。マイナス金利の影響で住宅ローン金利も低下した一方、年初から進んでいる円高により外国人投資家の
需要も一巡しており、今後は価格が横ばいかやや軟調に推移していく可能性がある。
図表 23: 首都圏新築分譲マンションの平均価格と販売戸数増加率の推移
平均販売価格
(万円)
販売戸数増加率(前年同期比)
(%)
120%
5,500
80%
5,000
40%
4,500
0%
4,000
-40%
3,500
-80%
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
6,000
96 98 00 02 04
06
08
09
10
11
12
13
14
15
16
出典: 不動産経済研究所の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
2016 年第 2 四半期の東京 3 区の高級賃貸マンションの募集賃料(黄線)は前年同期比 2.8%増と 2 四半期ぶりに増
加に転じた。23 区の募集賃料(茶線)は年初より堅調に伸びており、第 2 四半期は 2.4%増となった。
図表 24: 東京都心における賃貸住宅賃料と空室率の推移
オフィス平均賃料
23区住宅賃料
5区住宅賃料
3区住宅賃料
12%
9%
6%
3%
0%
-3%
出典: ケン不動産投資顧問、リーシング・マネジメント・コンサルティング、タス、三鬼商事の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
16
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
2016.06
2016.03
2015.12
2015.09
2015.06
2015.03
2014.12
2014.09
2014.06
2014.03
2013.12
2013.09
2013.06
2013.03
2012.12
2012.09
2012.06
2012.03
2011.12
2011.09
-6%
物流施設
3.4
物流施設では東京圏で大型施設の新規供給が続き、2016 年第 1 四半期の平均空室率は 4.6%、大阪圏は 1.4%とい
ずれも前期比強含みか横ばいとなった。平均賃料は新規供給の影響を受けて東京圏で前期比 2.0%の下落、大阪圏
では同 1.2%の下落と 3 四半期連続で下落した。
図表 25: 賃貸物流施設の空室率及び募集賃料推移
マルチテナント型物流施設の空室率推移
東京圏
20%
大型物流施設の募集賃料推移
大阪圏
(円/坪、月)
予想
4,800
15%
4,200
10%
3,600
5%
3,000
東京圏 賃料
大阪圏 賃料
2,400
2008.03
2008.09
2009.03
2009.09
2010.03
2010.09
2011.03
2011.09
2012.03
2012.09
2013.03
2013.09
2014.03
2014.09
2015.03
2015.09
2016.03
2016.12F
2008.03
2008.09
2009.03
2009.09
2010.03
2010.09
2011.03
2011.09
2012.03
2012.09
2013.03
2013.09
2014.03
2014.09
2015.03
2015.09
2016.03
2016.12F
0%
予想
F:予想値(一五不動産)、注: 延床面積 10,000m2 以上のマルチテナント型賃貸物流施設、募集面積1,000m2 以上の賃貸物流施設が調査対象
出典: 一五不動産情報サービスの資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
2016 年の東京圏の賃貸物流施設の供給量は 1.7 百万平方メートル、大阪圏でも 0.7 百万平方メートルと、いずれも
過去最高の新規供給水準となる見込みである。このため 2018 年に供給が落ち着くまでは今後 6-12.ヶ月ほどは需給
調整期に入る可能性があり、東京圏・大阪圏とも空室率は上昇に向かう見込み。
図表 26:賃貸物流施設の新規供給及び空室率推移
東京圏
大阪圏
新規供給(左軸)
空室率(右軸)
新規供給(左軸)
空室率(右軸)
(百万m2)
(百万m2)
15%
1.0
1.6
12%
0.8
12%
1.2
9%
0.6
9%
0.8
6%
0.4
6%
0.4
3%
0.2
3%
0.0
0%
0.0
0%
15%
18F
17F
15
16F
14
13
12
11
10
09
08
07
06
予想
05
18F
17F
15
16F
14
13
12
11
10
09
08
07
06
05
04
予想
04
2.0
F:予想値(日経不動産)
出典: 一五不動産情報サービス、日経不動産マーケットの資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
17
4
特集:マイナス金利がもたらす地殻変動
4.1
はじめに
2012 年 7 月にデンマークが世界に先駆けてマイナス金利に踏み切って以降、これまで欧州中央銀行(ECB)、スイス、
スウェーデンなどで導入されている。日本銀行も 2016 年 1 月に初めて同政策の実施に踏み切り、直近のハンガリーを
含めると 6 月末現在、全世界で 6 つの中央銀行、計 24 ヶ国7がマイナス金利政策を採用している。
図表 27: 各国の政策金利と国債利回り推移
(%)
5
10 年国債利回り
日本
スイス
(%)
5
4
3
3
2
2
1
1
0
0
-1
-1
-2
-2
2007.01
2007.07
2008.01
2008.07
2009.01
2009.07
2010.01
2010.07
2011.01
2011.07
2012.01
2012.07
2013.01
2013.07
2014.01
2014.07
2015.01
2015.07
2016.01
2016.07
4
米国
スウェーデン
日本
英国
ドイツ
スイス
2007.01
2007.07
2008.01
2008.07
2009.01
2009.07
2010.01
2010.07
2011.01
2011.07
2012.01
2012.07
2013.01
2013.07
2014.01
2014.07
2015.01
2015.07
2016.01
2016.07
政策金利
米国
欧州(ECB)
スウェーデン
出典: Bloomberg の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
マイナス金利の経済的な効果については依然として議論の余地が残るものの、マイナス金利は投資家の投資行動や
ポートフォリオ戦略に地殻変動ともいえる根本的な変化をもたらし始めている。特に 10 年物の国債金利がマイナス圏
にあるスイス、日本の投資家はその典型例で、6 月に入って長期金利がマイナス圏へ突入したドイツもこれに追随して
いる。投資家の主なトレンドとしては以下通り。
1. オルタナティブ投資の拡大:国債利回りの低下を受けて一部の投資家は、高い利回りを求めて不動産やインフラを
始めとしたオルタナティブ投資への配分を高め、兆円単位で資産配分の見直しを進めている。不動産への投資は
実物投資に留まらず、上場 REIT、各国の上場 REIT を組み込んだ投資信託(REIT 投信)、ドイツでは不動産オー
プンエンド・ファンドなど様々な形式がある。
2. グローバル分散の進展:マイナス金利の国の投資家はより高い利回りを求めて資金を海外へ分散する傾向があり、
当該国にとってみれば、これは自国からの資金流出を意味する。REIT 投信を通じた日本からの個人投資家の海
外への投資額(日本からの資金流出)は半年で 1 兆円を超える水準となっており、今後その勢いがさらに強まって
いく可能性がある。
これらの傾向は機関投資家のみならず、個人投資家においても同様の傾向がみられる。グローバル分散投資を通して、
マイナス金利の影響は世界中に広がってきており、米国や英国をはじめとしたプラス金利の国にもその影響がみられる。
7
18
ドイツやフランスなどユーロを導入している 19 ヶ国を含む。
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
4.2
上場 REIT 市場への影響
本邦の投資家は、2016 年 1 月に日銀がマイナス金利導入の発表をしたその日を境に大きく反応している。マイナス金
利の発表日から J-REIT 指数は日経平均を常に上回っており、7 月 15 日現在、日経平均が年初来マイナス 13%で推
移しているのに対し、J-REIT は+6%と大きく上回っている。6 月には英国の EU 離脱のニュースを受けて日経平均が
一時 10%超下げた一方、J-REIT 指数はすぐに値を戻し、離脱決定前の水準を上回っている。10 年国債の利回りは 7
月末現在-0.25%となっているのに対して、J-REIT は平均分配金利回りが 3.3%超と依然として高いことや、低金利の
影響でファイナンスコストが低下していることも J-REIT 株価のバリエーションには追い風となっている。
図表 28: 東証 REIT 指数と日経平均推移
東証REIT指数 (左軸)
2,000
日経平均 (右軸)
英EU離脱決定
マイナス金利導入
20,000
1,500
15,000
2016.07
16,000
2016.06
1,600
2016.05
17,000
2016.04
1,700
2016.03
18,000
2016.02
1,800
2016.01
19,000
2015.12
1,900
出典: Bloomberg の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
J-REIT 指数の上昇により、J-REIT 各社による物件取得の動きも再び強くなってきている。2016 年 1 月-6 月までの取
引量のうち、J-REIT による取引は市場全体の 6 割強を占めた。これら J-REIT による強気の取引価格により、不動産
市場ではもう一段のキャップレート低下が見られ、マイナス金利の影響が市場全体に広がりつつあるといえる。
図表 29: 取引に占める J-REIT の割合と鑑定キャップレート
取引全体に占める J-REIT の割合
100%
鑑定キャップレート
取引全体に占める
J-REITの割合(右軸)
80%
東京オフィス(鑑定)
東京マンション(鑑定)
TMAX(実勢ベース)
大阪オフィス(鑑定)
大阪マンション(鑑定)
6.5%
速報値
6.0%
60%
5.5%
3.5%
3.0%
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
2016.06E
2015.09
2014.09
2013.09
2012.09
2011.09
2010.09
4.0%
2009.09
0%
2008.09
4.5%
2007.09
20%
2006.09
5.0%
2005.09
40%
07
08
09
10
11
12
13
14
15 16
出典: Association for Real Estate Securitization, TMAX, Real Capital Analytics, Bloomberg,の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
19
日本と同じ傾向はマイナス金利を導入している他の国においてもみられる。例えばスウェーデンでは、2015 年夏に 10
年国債利回りが 0.5%まで落ち込んで以来、上場不動産株式指数は総合株価指数を上回っており、その差は鮮明にな
っている。
図表 30: スウェーデンの株価指数
EPRAスウェーデン
NASDAQスウェーデン
130
120
110
100
90
2016.05
2016.04
2016.03
2016.02
2016.01
2015.12
2015.11
2015.10
2015.09
2015.08
2015.07
2015.06
2015.05
2015.04
2015.03
2015.02
2015.01
80
出典: Bloomberg の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
米国の利上げ観測が後退したことで、インフラ指数も不動産指数と似たような動きになってきている。米 10 年国債利回
りは 1.5%前後であるのに対して、ダウジョーンズ・ブルックフィールド・グローバル・インフラ指数(米ドル建)の平均利回
りは 4.4%超で両者のスプレッドは 290bps 以上になっている。金利の低下で資産利回りの魅力が高まっていることや
ファイナンスコストの低下などが好感され、今年に入ってからインフラ指数のパフォーマンスは株式指数を一貫して上回
っている。
図表 31: グローバルインフラ株指数とグローバル株式指数
DJB グローバル・インフラ指数
MSCIワールド指数(株式)
120
110
(2016/1=100)
100
90
出典: Bloomberg の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
20
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
2016.07
2016.06
2016.05
2016.04
2016.03
2016.02
2016.01
80
機関投資家への影響
4.3
このような中、主要な機関投資家は資産ポートフォリオの見直しを進めており、海外不動産やインフラなどオルタナティ
ブ投資を増やす計画を次々と発表している。特に長期金利がマイナス圏に突入した 15 年 1 月以降のスイスや 16 年 2
月以降の日本ではこの傾向が顕著である。過去、日本の大手年金基金はオルタナティブ投資に限定的だったが、報道
によると今後数年間にわたり、オルタナティブ投資に数兆円単位で投資していくことを計画している基金も複数みられ、
長期金利がマイナスとなったことをきっかけに投資家の運用方針に大きな地殻変動が起きていることがうかがえる。
図表 32: スイス及び日本の機関投資家の投資計画の事例
国
スイス
種別
投資計画
出典
機関投資家
不動産投資は長期的に安定したリターンが見込める(4-7%程度)。優良な立地での物件取得、そしてグロー
バル分散投資を今後も続けていく。
会社資料
2015年7月
保険会社
2015年には引き続きバランスの取れた資産配分投資を続けていく。2014年に株式及びヘッジ ファンドへの
エクスポージャーを減らしたうえで、不動産投資への配分を0.7%増やした。
会社資料
2015年12月
保険会社
スイス国外の不動産に全体ポートフォリオの4%、さらに3%は新興国債(主要国通貨建)に再投資
保険会社
主要生損保14 社の2016年度の運用計画で、外国債券などへの投資額が計5兆円を超える。
日経新聞
2016年5月
年金基金
約140 兆円の年金資産のうち、国内外の不動産、インフラ や未公開企業など の代替投資に占め る割合を
現状の0.04%から、今後は最大で資産の5%(約7兆円)までリスク運用を増やす。
日経新聞
2016年6月
今後5年程度で国内外の不動産、インフラや未公開企業などの代替投資に最大6兆円を振り向ける。
日経新聞
2016年6月
2016年度内に82 兆円の運用資産の最大1%程度を海外の高利回り社債や銀行の融資債権に振り分ける
他、海外の未公開株式や不動産など代替資産への投資も検討する。
日経新聞
2016年7月
Top 1000 funds 誌
2016 年2月
日本
銀行
保険会社
出典: Deutsche Asset Management 作成
個人投資家への影響
4.4
マイナス金利の影響は機関投資家だけにとどまらない。投資商品の利回りが下がる中で、個人投資家の間では配当利
回りが高い REIT 投資信託(各国の上場 REIT を組み入れた金融商品)の人気が高まっている。2016 年にマイナス金
利政策が発表されて以降、海外 REIT に投資する米国やグローバル REIT 投資信託への資金流入が増えている。個
人投資家を主体とする海外 REIT 投資信託への投資額は 2016 年以降、半年間の合計で実に 1 兆円を超えたとみら
れる。
日本からの資金流入によってその影響は世界にも拡散している。図表 33 の赤線にみられる通り、米国 REIT 指数は
年初から 16%上昇しており、金利の先高観が後退したことに加え日本の個人投資家による資金流入が米国の相場を
下支えしているものとみられる。
図表 33: 国内における各種公募 REIT 投信への資金流入額推移
(億円)
3,000
国内REIT
外国REIT(アジア・オセアニア)
外国REIT(欧州)
外国REIT(米国)
外国REIT(グローバル)
米国REIT指数(右軸)
700
2,000
日本からの
資金流出
650
1,000
600
0
550
-1,000
500
2015.10
2015.11
2015.12
2016.01
2016.02
2016.03
2016.04
2016.05
2016.06
2016.07
出典: イボットソン・アソシエイツの資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
21
ドイツではこれまでマイナス金利政策の影響はそれほど大きくなかったが、2015 年頃より潮目が変わってきている。上
場 REIT が少ないドイツにおいて、不動産オープンエンド・ファンドは国内ではもともと個人投資家の間で人気を博して
きたが、2016 年 2 月にドイツの 10 年国債利回りが 0.1%台に突入してからはその動きが強くなった。さらに、2016 年
6 月に国債利回りがマイナス圏内になってからは、資金流入が一層増加している。また同月には、いくつかのファンドは
資金流入超過のために新規募集を一旦停止せざるを得ない事態となっている。2016 年以降に新規資金流入した金額
は 30 億ユーロを超えており、これら資金の一部は米国やアジア太平洋地域の物件取得に使われている。
図表 34: ドイツのオープンエンド型不動産ファンドへの資金流入の推移
(億ユーロ)
8
6
4
2
0
-2
2016/05
2016/04
2016/03
2016/02
2016/01
2015/12
2015/11
2015/10
2015/09
2015/08
2015/07
2015/06
2015/05
2015/04
2015/03
2015/02
-4
出典: BVI の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
4.5
住宅市場への影響
マイナス金利の影響は住宅ローン金利にも波及しており、北欧を中心に住宅価格の上昇が続いている。スウェーデン
の住宅価格は 2013 年から 2015 年の 2 年間で約 19%増加しており、アジアやその他地域からの資金流入が激しい
英国市場と同水準の上げ幅となった。Brexit の影響もあり今後英国の住宅相場は弱含むとの見方が出てきているが、
マイナス金利の続く北欧市場ではしばらく住宅ブームが続く可能性が高いとみられている。
図表 35: 欧州各国の住宅価格指数
130
ドイツ
英国
スウェーデン
120
スイス
デンマーク
ユーロ圏
110
100
(2010=100)
90
2010
2011
2012
出典: Oxford Economics の資料をもとに Deutsche Asset Management 作成
22
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
2013
2014
2015
2016 F
4.6
今後の考察
マイナス金利自体は 2014 年ごろから欧州各国で順次導入されてきた経緯があるが、長期国債利回りがプラスで推移
している限り、投資市場への影響は緩やかで漸進的なものとみられていた。ただ、今年 2 月に日銀がマイナス金利を
実施すると、ほどなく長期金利もマイナス圏に突入しこれが投資家の行動パターンに大きな地殻変動をもたらしている。
機関投資家や個人投資家は利回りを求めて次々とオルタナティブ投資の拡大や海外分散投資を進めており、マイナス
金利をきっかけに資金の流れが大きく変わってきているといえる。スイスでは同様の動きが 15 年ごろからみられ、今年
に入るとドイツでも不動産ファンドへの資金流入が加速し、これらの動きが欧米・アジアを含む国際的な不動産価格に
も影響を与えつつある。
兆円単位の資金移動がさらに進んだ場合、不動産やインフラをはじめとする「市場の機関化(収益物件・資産の保有形
態が機関投資家主体に移行していくこと)」が各地域で一層進み、資産価格はもう一段高騰する可能性がある。これは
一方で先行きの利回り低下を意味しており、オルタナティブ資産における投資リターンは投資年(ヴィンテージ)に応じて
今後徐々に低下していく事態も懸念される。
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
23
バックナンバー
版
Vol
1
特集のテ ー マ
発行年月
第2四半期
08年6月
賃料データの謎を読み解く
第3四半期
08年9月
クレジット・クランチ
3
第4四半期
08年12月
復活するか、J-REIT市場
4
第1四半期
09年3月
東京の魅力度を測る
第2四半期
09年7月
日本の住宅市場
6
第3四半期
09年10月
歴史は繰り返す?「2003年問題」当時と現在の比較
7
第4四半期
10年1月
ビルの価格指標に「取引単価」を
8
第1四半期
10年4月
なぜ不動産投資が必要か(ポートフォリオ理論からの説明)
第2四半期
10年7月
安全志向が強い国内投資家と資本市場
10
第3四半期
10年10月
四半期アップデート
11
第4四半期
11年1月
拡大するクロスボーダー取引と取り残される日本
12
第1四半期
11年4月
東日本大震災と日本の不動産市場への影響
第2四半期
11年7月
地価データの本当の使い方
14
第3四半期
11年10月
四半期アップデート
15
第1四半期
12年1月
J-REITの今後の10年
第2四半期
12年4月
四半期アップデート
17
第3四半期
12年7月
四半期アップデート
18
第4四半期
12年10月
内向き志向の強い日本の不動産市場
19
第1四半期
13年1月
住宅ローン減税は需要を喚起できるか?
第2四半期
13年4月
四半期アップデート
21
第3四半期
13年7月
急速に変革が進むアジア太平洋地域の物流不動産
22
第4四半期
13年10月
四半期アップデート
23
第1四半期
14年1月
クロスボーダー投資と日本市場の課題
第2四半期
14年4月
四半期アップデート
25
第3四半期
14年7月
四半期アップデート
26
第4四半期
14年10月
四半期アップデート
27
第1四半期
15年1月
四半期アップデート
第2四半期
15年4月
私募REITの国際比較と今後の可能性
29
第3四半期
15年7月
四半期アップデート
30
第4四半期
15年10月
四半期アップデート
31
第1四半期
16年1月
アベノミクス―三本の矢の成果
第2四半期
16年4月
四半期アップデート
第3四半期
16年7月
マイナス金利がもたらす地殻変動
2
2008年
5
2009年
9
2010年
13
2011年
16
2012年
20
2013年
24
2014年
28
2015年
32
33
24
2016年
ジャパン・クオータリー 2016 年第 3 四半期 | 2016 年 7 月
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25
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