Comments
Description
Transcript
異文化シミュレーション・ゲームへの参加がもたらす感情体験と内集団びいき
研究論文 1-7 るプログラム評価も重要であるが、参加者全体の客 観的な様相を把握するためには、量的な評価の蓄積 異文化シミュレーション・ゲーム への参加がもたらす感情体験と 内集団びいき もまた不可欠と思われる。そのため本研究では、体 験 型 の 異 文 化 訓 練 手 法 の1つ で あ る、Baf! Baf! (Shirts, 2 0 0 8)を取り上げ、ゲーム前後における参 加者の感情体験の変化や集団への認知について量的 な検討を行う。 山!瑞紀 1 本多―ハワード素子 2 Baf! Baf!は異文化シミュレーション・ゲームの 1つであり、他文化に行く疑似体験を通して、自文 化の価値観へのとらわれ(自文化中心主義)や他文 1.はじめに 化集団へのステレオタイプに気づき、カルチャー 近年国際化が進むなかで、文化背景や価値観の異 ショックへの対応について考え、学ぶことを主な目 なる他者とコミュニケーションを行う機会が増加 的とする(Shirts, 20 0 8) 。したがって、本研究では し、日本の大学でもコミュニケーションの授業など まず、ゲーム中にカルチャーショックや他文化集団 で学生を対象に異文化訓練を実施する試みが行われ への非好意的認知、内集団びいきなどを参加者は体 つつある(末田,1 9 9 4など) 。一般に異文化訓練は、 験しているのか、について検討を行う。さらに、こ 異なる文化背景を持つ他者とのコミュニケーション れらの体験と参加者のパーソナリティ特性や価値観 において、①多元的な視点の取得(認知レベル) 、 との関連についても併せて検討する。 ②ソーシャルスキルの獲得(行動レベル) 、③不安 カルチャーショックは、「①適応に要する努力に や偏見の低減(情動レベル)といった、認知面、行 よる緊張、②友人・地位・食べ物・娯楽等を剥奪さ 動面、情動面への働きかけ(Bennett,1 9 8 6など)を れたという感覚、喪失感、③滞在国側による被拒絶 目指して行われる。情動レベルの変容のためには、 感と拒絶感、④役割・役割期待・価値観・セルフア 自分とは異なる価値観や態度、ビリーフに対する忍 イデンティティの混乱、⑤文化の違いに気づいた際 耐力やカルチャーショックへの対処が求められ、そ の驚き、不快、不安、嫌悪、⑥新しい文化に対処で れらを学ぶことも異文化訓練の目的とされる きないことによる無力感」 (Taft, 1 9 7 7; (Gudykunst & Hammer,1 9 8 3) 。 Furnham & Bochner, 1 9 8 6) 、「文化的に新しい環境の中で、 体験型の異文化訓練である異文化シミュレーショ 個人が自分の well-being への脅かしを知覚する移 ン・ゲームは、ゲームの形式で複数の人々と楽しく 行過程」 (Ting-Toomey, 1 9 9 9, p2 4 5)などと定義さ 実施するなかで自身の事柄として学べるという利点 れ、「人とやりとりをする際の慣れ親しんだサイン がある。異文化への関心の高まりとともに、我が国 やシンボルをすべて失うために生じ、不安によって でも異文化シミュレーション・ゲームを実施した際 引き起こされる」 (Oberg, 1 9 6 0) と考えられている。 の成果が報告されつつあるが、その多くは参加者の そのため、本研究では、カルチャーショックが生起 感想を整理・分析するのにとどまっており、異文化 している場合、「不安」や「驚愕」といった否定的 シミュレーション・ゲームがどのような感情体験や な感情がゲーム後に生じているだろうと考えた。 認知をもたらすのかについて量的に検討した研究は ほとんどない。参加者の自由な記述や聞き取りによ 1 東京都市大学環境情報学部講師 2 江戸川大学社会学部非常勤講師 個人の特性としては、Baf! Baf!における α 文化、 β 文化の価値観に関連すると思われる「相互独立的 自己観―相互協調的自己観」のほか、他文化への参 加姿勢に影響を与えると思われる「異文化交流意 59 図」 、カルチャーショックの高さに影響を与えると あてはまらない”の7件法で尋ねた。(c)異文化交 思われる「曖昧さへの耐性」を取り上げる。ストレ 流意図(α=. 8 9)山!・平・中村・横山(1 9 9 7)を ス研究において、曖昧さに対する耐性の低い者は、 元に作成した。「異なる文化の友人がたくさん欲し ライフイベントの脅威を全般に高く感じる傾向のあ い」 「他の文化をもっとよく知りたい」など、異文 ることが示されており(増田, 1 9 9 8) 、カルチャー 化への関心や交流への意図を尋ねる4項目。“ぴっ ショックもより強く体験することが予測される。 たりあてはまる”から“全くあてはまらない”の7 件法で尋ねた。 2.方法 2. 1 参加者と調査手続き 東京都市大学大学生1 5名、青山学院女子短期大学 学生2 2名の計3 7名(男子1 1名、女子2 6名) 。平均年 その他、本研究では分析対象としていないが、 「 『日 本文化』から思いつくもの」 「『異文化』から思いつ くもの」 「異なる文化に入っていくために必要だと 思うもの」について自由記述で回答を求めた。 齢1 9. 4歳(1 8−2 2歳、SD=1. 1) 。ゲ ー ム を 実 施 す る1週間前、ゲーム実施直前、ゲーム実施直後の3 回、いずれも大学の授業内に調査用紙に回答しても 2. 2. 2 ゲーム直前に実施した項目 (d)感 情 状 態 寺 崎・岸 本・古 賀(1 9 9 2)に よ ら っ た。ゲ ー ム は2 0 0 8年6月 に 実 施 し、1 8名 が α る多面的感情状態尺度のうち、「抑うつ・不安」 (α 文化集団成員、1 9名が β 文化集団成員として参加 =. 8 0) 、「敵意」 (α=. 7 1) 、「活動的快」 (α=. 8 8) 、 し、教員2名がファシリテーターを担当した。参加 「非活動的快」 (α=. 8 7) 、「驚愕(α=. 8 3) 」の5側 者は2つの文化(α 文化、β 文化)にランダムに分 面について5項目ずつ計2 5項目を用いた。「現在の」 けられた。自文化のルールを習熟した後、4、5名 感情状態について、“はっきり感じている”から“全 ずつ「オブザーバー」や「ビジター」と称して全員 く感じていない”の4件法で尋ねた。項目は形容語 が互いの文化を訪問し、観察や交流の機会を持った。 であり、提示順序はランダムとした(抑うつ・不安 ゲーム終了後、デブリーフィングを行い、全員で体 「くよくよした」 、敵意「憎らしい」 、活動的快「は 験したことを話し合った。その後、事後調査を実施 つらつとした」 、非活動的快「のんびりした」 、驚愕 した。全体の所要時間は約2時間だった。 「びっくりした」など) 。 2. 2.調査項目 2. 2. 3 ゲーム直後に実施した項目 2. 2. 1 ゲーム1週間前に実施した項目 (e)感情状態 (d)と同様の2 5項目を用 い て、 (a)曖昧さへの耐性(α=. 7 0)Norton(1 9 7 5)に 現在の感情状態について4件法で尋ねた。 「抑うつ・ よる尺度(MAT-5 0)の邦訳を元に増田(1 9 9 8)が 不安」 (α=. 8 2) 、「敵意」 (α=. 8 4) 、「活動的快」 (α 設定した尺度(2 4項目)を用いた(「もしはっきり =. 8 8) 、「非活動的快」 (α=. 8 1) 、「驚愕(α=. 8 9) 」 。 した答えにたどり着けない可能性があるなら、問題 (f)α 文化集団と β 文化集団に対する認知 岩男・ に取り組むのは嫌だ」など) 。“そう思う”から“そ 萩 原(1 9 8 8) 、向 田・坂 元・村 田・高 木(2 0 0 1)に う思わない”の5件法で尋ねた。(b)相互独立的 よる SD 項目を参考に、「有能さ」4項目(「頭のよ ―相互協調的自己観(それぞれ α=. 8 3、. 7 5)高田 い」 「勤勉な」 「知的な」 「有能な」 、自文化集団で α (2 0 0 0)が作成した尺度(2 0項目)を用いた(相互 =. 7 4、他文化集団で α=. 8 8) 、「あたたかさ」4項 独立「常に自分自身の意見を持つようにしている」 、 目( 「親しみやすい」 「あたたかい」 「感じのよい」 「つ 相互協調「仲間の中での和を維持することは大切だ きあいやすい」 、自文化集団で α=. 9 5、他文化集団 と思う」など) 。“ぴったりあてはまる”から“全く で α=. 9 5) 、「信頼」3項目(「責任感がある」 「正 60 直な」 「信頼できる」 、自文化集団で α=. 6 3、他文 表 1 感情状態尺度得点の平均と SD 、 t 検定 事前 化集団で α=. 6 1)の計1 1項目を用いて、内集団と 外集団に対する好意的イメージを6件法で尋ねた。 他にダミー2項目を混ぜてランダムに提示した。 (g)α 文化集団と β 文化集団の魅力度(自文化集 団 α=. 9 3、他文化集団 α=. 9 4) 加藤・小杉・岡 本・野波(2 0 0 1) 、岡本(2 0 0 7)による集団へのア 抑うつ・不安 敵意 活動的快 非活動的快 驚愕 事後 M SD M 13. 8 4 6. 6 9 11. 1 7 11. 2 2 15. 0 0 3. 3 7 1. 9 8 3. 1 9 3. 2 4 3. 4 6 8. 76 7. 00 13. 17 12. 84 10. 68 SD t 値 3. 1 5 7. 5 7*** 2. 6 7 ‐ 0. 61 3. 0 9 ‐ 3. 29** 2. 8 1 ‐ 2. 39* 4. 2 1 5. 1 2*** イデンティティ尺度4項目を用いた。「自分の集団」 といった表現を「α(β)文化」に直して内集団、 −. 3 9, p<. 0 5;事後 r=−. 5 0, p<. 0 1) 、②「非活動 外集団の魅力度を尋ねた(「α(β)文化には、いい 的快」が高いほど「敵意」が低い(事前 r=−. 3 5、 人が多い」 「α(β)文化に愛着を感じる」など) 。 p<. 0 5;事後 r=−. 4 7, p<. 0 1) 、③「不安」が高い 該当項目を合計し、尺度得点とした。それぞれ得 ほど「驚愕」が高い(事前 r=. 6 1, p<. 0 0 1;事後 r 点が高いほど、「曖昧さへの耐性」 「相互独立的自己 =. 7 1, p<. 0 0 1)という3点については事前事後と 観」 「相互協調的自己観」 「異文化交流意図」が高い も共通していたが、事後ではそれらに加え、「不安」 こと、「抑うつ・不安」 「敵意」 「活動的快」 「非活動 と「敵意」 (前 r=. 1 4, p>. 4;後 r=. 3 3, p<. 0 5) 、 的快」 「驚愕」といった感情を多く体験しているこ 「驚愕」と「敵意」 (前 r=. 2 2, p>. 2;後 r=. 4 7, p と、α 集団、β 集団に対して好意的なイメージや態 度をもっていることを示す。 その他、参加した文化集団(α、β) 、性別、年齢、 「ゲーム中にどのような感情を体験したか」 、「自分 <. 0 1)間に有意な正の相関がみられた。 カルチャーショックの起きる程度と個人特性との 間に関連があるか検討するため、感情状態下位尺度 の事後得点から事前得点を引いた値と「曖昧さ耐性」 と相手の文化についてどう思ったか」 、「どちらの文 「文化的自己観」 「異文化交流意図」の各尺度得点間 化に住みたいか」 、「異文化に入るとき、受け入れる の相関を算出した。結果として、「異文化との交流 とき、どのような対応が必要と思うか」 、及び、全 意図」と「驚愕(事後―事前) 」の相関が. 3 6 (p=. 0 5) 般的な感想について自由記述で回答を求めた。 であり、事前に交流意図の高かった者ほど驚愕を多 く体験していた傾向がみられたものの、他に有意な 3.結果 相関はみられなかった。 3. 1 カルチャーショックの生起 多面的感情状態尺度の「抑うつ・不安」 、「敵意」 、 3. 2 内集団、外集団に対する認知・態度 「活動的快」 、「非活動的快」 、「驚愕」の5側面につ α 文化集団あるいは β 文化集団の成員として行 いて、事前と事後で変化が生じているか、平均値の 動することで、内集団、外集団に対してどのような 差の検定(t 検定)により検討したところ、「不安」 態度が形成されるか、を検討するため、好意的イ (t(3 6) =7. 5 7, p<. 0 0 1) 、「驚 愕」 (t(3 6) =5. 1 2, p メージ(「有能さ」 「あたたかさ」 「信頼」 )と集団魅 <. 0 0 1)が事後で有意に低くなっている一方、「活 力度のそれぞれについて、所属集団(α 文化、β 文 動的快」 (t(3 5) =−3. 2 9, p<. 0 1) 、「非活動的快」 (t 化)と評価対象(α 文化、β 文化)を2要因とする (3 6) =−2. 3 9, p<. 0 5)は 事 後 で 高 ま っ て い た 分散分析を行った。「あたたかさ」で評価対象の主 (表1) 。また、多面的感情状態尺度の下位尺度得点 効果(F(1, 3 3) =5. 9 8, p<. 0 5) 、及び交互作用(F 間の相関を事前事後それぞれで検討したところ、① (1, 3 3) =4 6. 6 6, p<. 0 0 1)が有意であったほか、「信 「活動的快」が高いほど「不安」が低い(事前 r= 頼」 (F(1, 3 2) =1 1. 6 7, p<. 0 1)と「魅力度」 (F(1, 3 2) 61 図1 各文化の「あたたかさ」イメージ(平均) 図2 注)該当項目の総和を項目数で除した 注)該当項目の総和を項目数で除した 各文化の集団魅力度(平均) =8 2. 1 4, p<. 0 0 1)においても交互作用が有意であ どの否定的感情を3名以外の全員(9 1. 9%)が記述 り、いずれの尺度得点でも、両文化集団とも、外集 していた。 団よりも内集団に対して好意的な認知や態度を形成 また「どちらの文化に住みたいか」の質問に対し していた(図1、図2) 。内集団には中立点以上の ては、4名以外の全員(8 9. 2%)が自文化を選択し 好意的イメージが、外集団には中立点以下の非好意 ていた。「自文化、他文化に対してどう思うか」の 的イメージが両集団で示されている。「有能さ」で 回答としては、「冷たい人達だなと思った。笑顔の は有意な効果はみられなかった。 自分達のが良いと思った」 「(他文化に対して)意味 内集団、外集団に対する好意的イメージや集団魅 わからない!なんで自慢しあっているのだろうと思 力度と個人特性間に関連があるか検討するため、各 いました」など自文化に肯定的、他文化に否定的な 尺度得点間の相関を算出したところ、「相互独立性 意見が多かったが、全体の感想としては、「α にい 自己観」の高い者ほど β 文化の「有能さ」を高く た人も β にいた人も自分の文化の方が良かったと 評価する一方(r=. 3 9, p<. 0 5) 、「相互協調的自己 言っていて、他の文化は『冷たかった』や『人間じゃ 観」の高い者ほど α 文化の「あたたかさ」を高く ない』など言っていました。その文化につかること 評価し(r=. 4 1, p<. 0 5) 、β 文化の「あたたかさ」 によって、このようになってしまうのだということ を低く評価することが示された(r=−. 4 9, p<. 0 1) 。 がわかりました」 、「自分の文化に、知らないうちに 愛着がついていた。なので β 文化を否定的にみて 3. 3 自由記述 「ゲーム中にどのような感情を体験したか」につ いては、「相手が何をしているのか理解できず、相 しまった」などの記述が多く、いつのまにか自文化 に好意的になったり愛着を持ったりする自身の傾向 に気づいたことが記されていた。 手のやるままに真似をして困惑した。何をしたらい いのか分からないので不安になった」 「相手の部屋 4.考察 に行った時に、言葉も通じないし、何を求めている 4. 1 異文化シミュレーション・ゲーム(BafáBafá) のか、自分が何をすれば良いのか分からなくて怖 で得られる体験 かったし、不快な感じがした。自分の部屋に帰って カルチャーショックについては、仮説に反し、 ゲー きたらホッとした」など、相手の文化に行ったとき ム実施後に「抑うつ・不安」 、「驚愕」の感情が低下 の「不安、不快感、緊張、疎外感、もどかしさ」な する一方、「活動的快」 、「非活動的快」は高まって 62 いた。異なる大学の学生が集まり、未知のゲームを 向は競争的か協調的かといった文化の性質にかかわ 行うということで事前の不安が高くなっていたと思 らず比較的短時間で生じることが明らかになった。 われる。自由記述での回答では相手の文化を訪れた ただし、「有能さ」に関するイメージでは差がみら ときの「不安、不快感、緊張、疎外感、もどかしさ」 れず、内集団への好意的認知は「あたたかさ」や「信 などの否定的感情が言及されていたが、カルチャー 頼」といった親和性イメージで現れやすいことが示 ショックの感情体験を量的に測定することはできな 唆された。自由記述をみると、参加者はゲーム後の かった。ただし感情間の関連をみると、事後では「不 振り返りの過程を経て、自身の認知の偏りに気づく 安」や「驚愕」の感情と「敵意」の関連が高くなっ 者の多いことも示されている。 ており、ゲーム前とゲーム後では感情の結びつきに 変化がみられた。今回は事後調査をデブリーフィン 4. 3 今後の課題 グの後で実施したが、今後はゲーム直後や実施中に 参加者はゲームに参加することを通して、ランダ 行うなど測定のタイミングについても考えていく必 ムに割り振られたはずの文化の価値観に自身が拘束 要があるかもしれない。 されていることに気づく機会を得るが、同時にデブ また、ゲーム直後に快感情が高まる結果について リーフィング後も外集団への非好意的認知や内集団 は、ゲームを授業に取り入れることの肯定的側面と びいきのみられることが示された。このことは、 「多 も考えられる。「敵意」について事前事後で平均に 面的視点を取るべき」という気づきは得られるが、 変化がみられなかった結果は、授業という観点では 気づきを得た後も実際の集団認知や態度にはそれら 望ましいものともいえる。また、「異文化との交流 が反映されない可能性を示唆している。内集団びい 意図」の高い者ほどゲーム後に「驚愕」を報告して きが生起した後、それをどのように消化させるのか、 いた。交流したいという意思を持つ者は「留学」し についてもさらに検討していく必要があろう。例え た際、積極的に他文化と交流しようとすることが考 ば、通常、Baf! Baf!では1つの文化を体験してゲー えられ、そうした者にとっては「言葉が通じない」 ム終了となるが、2つの文化を体験した方が、両者 「お互いのルールが違う」 「搾取された」などの感覚 の価値観を内面化する機会を得られるため、教育用 をより味わうことになり、驚きの感情を体験しやす ゲームとしてより有用かもしれず、新たな方法につ かったのではないかと思われる。参加姿勢により いても今後考えられていくべきだろう。 ゲームの与える影響の異なることが改めて示唆され た。 謝辞 Baf! Baf!を実施するにあたり、慶応義塾大学の 4. 2 外集団への非好意的認知と内集団びいき α、β の両集団とも、短時間の体験にもかかわら 吉川肇子先生に有益なご助言とサポートを頂きまし た。記して感謝申し上げます。 ず、ゲーム後に内集団を外集団よりもあたたかく、 信頼できると認知し、より魅力を感じていた。パー ソナリティ特性として「相互独立性自己観」の高い 引用文献 [1]Bennett, J. 1986 Modes of cross-cultural training : 者ほど β 文化の「有能さ」を、「相互協調的自己観」 Conceptualizing cross-cultural training as education. の高い者ほど α 文化の「あたたかさ」を高く評価 International Journal of Intercultural Relations, 10, するという傾向はあるものの、ランダムに割り振ら れた文化集団において外集団への非好意的認知や内 2 35−2 54. [2]Furnham,A. & Bochner,S. 1986 Culture shock Methum, London and NY. 集団びいきが全体としてみられており、こうした傾 63 [3]Gudykunst, W., & Hammer, M. 19 83 Basic training けるエスニシティの役割 Landis, & R. Brislin(Eds.), Handbook of intercul- −1 2 8. tural training : Vol.1. Issues in theory and design, Pp.118−154. New York : Pergamon. [4]岩男寿美子・萩原滋 1 98 8 日本で学ぶ留学生−社 会心理学的分析 剄草書房 [5]加藤潤三・小杉考司・岡本卓也・野波寛 20 01 仮 想世界ゲームにおける集団間葛藤―共通課題は仲を 悪くする?― 日本グループ・ダイナミックス学会 第4 9回大会発表論文集,6 5 8−6 5 9. [6]増田真也 1 99 8 曖昧さに対する耐性が心理的スト レスの評価過程に及ぼす影響 茨城大学教育学部紀 要,4 7,15 1−163. [7]向田久美子・坂元章・村田光二・高木栄作 20 0 1 アトランタ・オリンピックと外国イメージの変化 社会心理学研究,16,1 59−1 69. [8]Norton, R. W. 19 75 Measurement of ambiguity tolerance, Journal of Personality Assessment, 3 9, 6 0 7− 61 9. [9]Oberg,K. 1 96 0 Culture shock : adjustment to new cultural environments. Practical Anthropology, 7, 177−182. [10]岡本卓也 2 0 07 集団間交渉時の認知的バイアス― 他集団の参入が既存集団の影響力の知覚に及ぼす効 果― 実験社会心理学研究,4 6,2 6−36. [11]Shirts 2 008 Baf! Baf!: A cross culture simulation. Simulation Training Systems, Del Mar, CA. [12]末田清子 1 994 コミュニケーション関連科目にお ける異文化シミュレーション・ゲームの導入と学生 によるその評価 北星学園大学文学部北星論集,3 1, 1 2 9−157. [1 3]Taft,R. 1 97 7 Coping with unfamiliar cultures. In Warren, N.(Ed.), Studies in cross-cultural psychology. London, Academic Press, vol.1. Pp1 2 1−1 5 3. [1 4]高田利武 2 00 0 相互独立的―相互協調的自己観尺 度に就いて 奈 良 大 学 総 合 研 究 所 所 報,8,14 5− 1 6 3. [1 5]寺崎正治・岸本陽一・古賀愛人 1 99 2 多面的感情 状態尺度の作成 心理学研究,6 2,3 5 0−3 5 6. [1 6]Ting-Toomey, S.1 9 9 9Communicaing across cultures. The Guilford Press. New York ; London. [17]山!瑞紀・倉元直樹・中村俊哉・横山剛 19 9 7 ア 64 ジア系留学生の対日態度及び対異文化態度形成にお design : Approaches to intercultural training. In D. 教育心理学研究,4 5,1 1 9