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日本とインドの架け橋として
日本とインドの架け橋として 組織・人の能力を最大発揮する職場づくり ∼インドから見た日本的経営∼ ∼KI (Knowledge Intensive Staff Innovation Plan)のススメ∼ 株式会社エイチシーエル・ジャパン 代表取締役社長 ハリクリシュナ・バート ■ 会社概要 KIはホワイトカラー(Knowledge Intensive Staff)の し」「業務ばらし」「総 会社名 :株式会社エイチシーエル・ジャパン 設 立 :1996年2月 資本金 :2億2,000万円 従業員数:250名 主な事業:ソフトウェア開発、 インフラ管理、 BPO インド本社:HCL Technologies 約60,000名(2009年6月30日現在) 年間約50億ドル (2009年6月30日現在) **売上高はHCL全体のもの 職場に「場」をつくる活動である。ヨコのつながりを強 量ばらし」など独特なや くし、チームプレーによる生産性向上を狙いとする。1 り方で、仕事やテーマを 年間の活動後は職場の雰囲気を大きく変え、組織が活性 進める上での懸念・不安 化される。働く人の能力が最大発揮されるマネジメント を掘り起こす。 を、職場の全員でつくり上げる活動である。 仕事に潜む問題の掘り起 こしにチームの知恵を集め 職場を“改善”するKI 「人は育っているか」「仕事の品質はよくなるのか」「一 株式会社エイチシーエル・ジャパン(以下HCLジャパン) る“5S”即ち、整理・整頓・清掃・清潔・躾の標語が掲 人ひとりは楽しく仕事をしているか」「職場に漂う悪魔のサ は1996年、HCLテクノロジィーズの100%出資によって設立さ げられているのを目にすることが多くなった。他国の長 イクルはいつになったら断ち切れるのか」―経営の悩みはつ れた。HCLは“ブラックブック・オブ・アウトソーシング” 所は、柔軟に迅速に取り入れて伸びていく姿勢が、最近 きないが、職場の問題として、しばしばコミュニケーション から世界No1のインフラアウトソーシングベンダーとして選 のインド発展の原動力となっている。 が挙げられる。現場は上司の考えが分からないと嘆き、コ 出され、フォーチュン誌ではインドで最も近代的な経営をし JMAC 佐藤滋 ミュニケーション不足が問題だと言う。一方で、ミーティン るのがKIの特徴である。掘り起こしにワイガヤの本音でのコ ミュニケーションが役立つ。また掘り起こされた懸念点、不 安、問題を上司とメンバーが合意する。このように計画づく りを通じて、仕事がスムーズに進められるようにすると共 に、お互いの仕事を理解し、助け合えるようになる。個人商 店を乗り越えたヨコの場づくりである。「計画を練ることに より、30%は効率化できる」「計画づくりの場はOJTの場で ている会社として評価された。私は1981年1月に日本の文部 2 0 1 5 年 が インド進出のデッドライン グは多過ぎる、会議ばかりで自分の仕事ができないのも現場 省(当時)からの奨学金によって日本の大学に留学し、大学 日・欧・米の市場が飽和停滞状態にある今、日本だけで の悩みでもある。いったい職場はどうなっているのだろう 院を卒業。その後16年間日本企業に勤め、さらにインドのIT なくあらゆる国の企業が、新興国市場を視野に入れてい か。問題や悩みが複雑に絡み合っているようである。 企業で10年間マネジメントにあたり、日本での滞在期間は30 る。インドの人口は約12億人、平均年齢は24歳、20歳以下 KIは、職場の悪魔のサイクルの要因となっている問題 年間近くになる。社会人としての一歩を日本企業で踏みだし が約7億人を占めている。つまり、民生品市場が非常に大 を、チームで一つひとつ掘り起こしながら解決していく た後、インド企業に勤め、2008年弊社の社長に就任した。そ きい。しかし、携帯電話は約5億台と急激な伸びを示して 活動である。仕事の結果として出てくる生産性の低さや うした経験から、インドから見た日本の企業経営について日 いるものの、自動車所有世帯は約7%、テレビや洗濯機、 モチベーション低下の原因を特定するのでなく、仕事が 頃感ずることを述べてみたい。 掃除機も20%にも達していない。この様な巨大市場は、日 計画通り進められるよう、チームの知恵を集める活動が 本企業にとってビッグ・チャンスではないか。また、イン 展開される。活動前の計画達成率は50%いけばいいほう コンセンサス重視が“スピード”阻む フラ面でインドが最も力を入れているのは、豊富な日照時 だが、活動の半年目くらいになると80∼90%に高まり、 私が大学院修了後、日本企業に魅力を感じたポイントの 間を利用したソーラー発電だが、こういった分野も日本は 職場の活性化が実感できるようになる。 一つに、パンクチュアリティ(時間厳守)がある。さら 世界をリードしており可能性が高いであろう。 に、職場は整理整頓がいきとどき、社員が真面目で誠実で インド政府は2020年ビジョンを打ち出したが、2020年を 悪魔のサイクルを断つKIの3つの武器とYWT アでも導入されている。日常業務として職場の全員が参加す あることも日本企業の素晴らしさだと感じた。そうした良 待つまでもなく、インドの購買力は爆発的に拡大すると思 「ワイガヤミーティング」「見える計画づくり」「合意 る活動である。従来のように特定の改善テーマを掲げ、特別 さを感じる一方で、入社3年目で一定の責任を任された われる。これに乗り遅れないためには、今から2∼3年、遅 と納得」の3つが、KIの職場改善の武器である。この3つで の体制を作っての活動ではない。日常の仕事をスムーズに計 時、日本企業のコンセンサス重視の強さを実感した。多く くとも2015年までにインドに進出しておかなければ、その 職場の悪魔のサイクルを断つ。その中で「見える計画づく 画通りに進めることを目指した活動に取り組み、業務成果と の場合、マネジャーであってもボスであっても、一人で決 後の熾烈な競争に勝つことは困難になるだろう。 り」が特徴的である。KIでは、ホワイトカラーの知的生産 共に組織力向上と人の成長を獲得する、新たな“改善手法” めることはしない。ミーティングを繰り返した後も、稟議 現在、電気製品では韓国製が圧勝しているが、その要因 性を高めるポイントは「計画」にあると考える。 である。さらに、個人中心の教育研修の効果に対する疑問も 書を回して何人もの“ハンコ”が必要で意思決定に時間が は、単に価格の問題だけではなく、マーケティング面での差 ホワイトカラーの仕事の大半は個々の分担になり、担当 多く、KIは“チーム丸ごと”の実践研修ができることから、 かかった。日本的経営の良さである一方、これが経営のス が大きい。インドで売れる製品をつくるには、インド人の性 者のスキルや経験に依存しがちであり、所謂「個人商店化」 人材育成担当者からも期待されているのである。 ピードを鈍らせているようにも思われた。さらに当時の日 格を知り、それに合わせた製品をつくらなければならないか しやすい。見える計画づくりは、チーム全員で取り組む。 ■ KIではメールマガジンを配信しております。 本の会社組織のヒエラルキーの強さは、異文化の壁と思え らだ。さらに重要なのはマネジメントの問題である。インド 仕事やテーマの「背景、目的、目標ばらし」「課題ばら http://www.jmac.co.jp/mail/ki/ るほど強烈だったとも記憶している。 で成功しようとすれば、日本をよく知るインド人の社長を置 インド企業に移ったとき、この点は全くやり方が異 き、同時にナンバー2には必ず日本人を置いてマネジメント なっており、経営判断の速さには驚いた。インド企業で していくことを、私はいつもお勧めしている。スズキ自動車 は権限と責任の範囲が明確であり、極端に言えばメール はそうした点で最も成功しているといえるであろう。 一つですべてが決まる。そうした意思決定の速い経営 インドでの製造業は、まだまだこれから伸びていく大きな は、日本よりもはるかに欧米に近い。イギリスがインド 可能性を秘めている。日本企業が世界水準のスピード感ある に残したプラスの遺産に英語があるが、その英語と技術 経営を行うには、アウトソーシングを早めに、且つ有効に活 合意と納得 力の高さを生かしてインドのITは世界を変えつつある。 用していく必要がある。そこでも、インド企業の仕事の質や ⇒正しいマネジメント インド内においてもIT企業は女性の職場進出でも大きな スピードが役立つはずだ。今後、日印経済はますます広く、 役割を果たした。日本の方からよく質問されるカースト 深く、強力な連携を深めていくことは間違いないが、この大 制度に関しても、ITの職場では全く影響がない。また、 きなうねりの中、その架け橋の一部になることができれば、 最近はインドの工場に行くと、日本の企業文化ともいえ これほど嬉しいことはない。 ある」と導入企業では語られている。生産性と人材育成の2 軸マネジメントがKIの3つの武器には織り込まれている。 KI活動では、日常の仕事を計画通り進めることを目指 し、工夫の積み重ねを振返りながら、組織の力として身 につくようにしている。振り返りは「YWT」(Y=やっ たこと、W=わかったこと、T=次にやること)で行わ れる。仕事とその工夫を通じて気づいたことを一人ひと りが語るのがYWTであり、人に焦点を合わせ、現実実態 を直視するマネジメントツールとなる。 KIはメーカー、SIなどさまざまな業界、技術、営業、企画 管理など様々な職場や、日本国内にとどまらず、欧州、アジ 悪魔のサイクルを断つK Iの3つの武 器とY W T ワイガヤミーティング ⇒オープンマインド化 日常の仕事を スムーズに! YWT (振り返り) ⇒カイゼン推進力 見える計画づくり ⇒日常業務の見える化