...

News Letter Vol.15

by user

on
Category: Documents
73

views

Report

Comments

Transcript

News Letter Vol.15
大阪大学大学院 グローバルCOEプログラム「生命環境化学グローバル教育研究拠点」
n
o
i
t
a
v
r
e
s
n
o
C
by Global
研究支援者の紹介
■ 平成23年度グローバルCOEフェロー (RA) 採択者
15
News Letter vol.
【工学研究科】
2011年6月30日発行
清 川 謙 介、吉 村 彰 真、吉 井 一 記、上 原 了、福 本 和 貴、大 村 聡、中 島 秀 人、小 林 志 寿、重 光 孟、
松下 尚嗣、
本多 立彦、
森本 祐麻、
大洞 光司、
樋上 友亮、
岡田 智、
佐野 洋平、
尾上 晶洋、
二科 昌文、
山本 淳志、
兵頭 功、阿野 勇介、Liu, Went-Tzu、杉野 光彩、稲本 佳寛、園井 理恵、長町 俊希、佐々木 俊之、村上 雄太、
西村 章、Park, Sung-Bin、太農 哲朗、 本 総一郎、Chen, Chien-Chih、采女 泰久、松本 匡広、沼本 穂、
浅田 実希、Lee, Jae-Won、宮坂 彰浩、津川 裕司、山本 慎也、Alipour, Atefeh、Zhu, Ye、岡本 泰典、
柿倉 泰明、門脇 功治、松原 惇起、早川 純平、大西 祥晴、玉置 喬士、星本 陽一(以上51名)
理論から新しい物質や性質を予言し発見する
【理学研究科】
橋 本 悠 治、足 立 和 彦、角 永 悠 一 郎、小 森 有 希 子、
厚見 宙志、新家 雄、柴田 一、藤木 勝将、Lee, Pei-Shan、
和 佐 英 樹、吉 満 隼 人、吉 村 優 一、Mazumder, Kishor、
従来の実験をしない化学研究もある
Lee, Rae-Eun、瀧 野 裕 輔、石 堂 泰 志、柴 田 知 範、
を数値計算により求めることで様々な物質や化学現象の機構の
解明、
さらにその予測と発見を行うもので、従来の化学における
現代の化学の研究は、大きく分類すると実験化学、理論化学、
装置を使った実験に対応するものと言えます。
計算化学の3つに分けることができます。実験化学は、新たな物
私たちの研究室は、理論化学と計算化学を専門としています。
質を合成したり、
物性を測定したりして研究を進めるもので、
化学
中でも、
「非線形光学材料」
と呼ばれる物質の性質を説明できる
津田 崇暁、
福井 仁之、
角谷 繁宏、
米田 京平、
菅野 義経、
の研究というとほとんどの人はこのようなものを想像するでしょ
理論をつくり、より優れた性質を持つ物質を設計するというの
田中 真司、前野 禅、上野 直遵、長野 卓人、川端 崇仁、
う。そして、理論化学は物理学の基礎理論をもとに、原子・分子か
が、主な研究テーマのひとつです。
らなる物質の構造、
性質、
反応について理解するための数理モデ
非線形光学効果は、
レーザー等の強い光が物質に入射したと
ルや新しい概念を含む化学原理の探求と創出を行う学問です。
きに生じる入射光強度に比例しない非線形な光学現象で、入射
また計算化学は、理論化学によって明らかになった原理をもと
光の波長変換や、物質の屈折率変化による入射光の振幅や位相
に、実際に分子や分子集団の構造、性質、反応に関わる振る舞い
変化などを引き起こします。
福岡 脩平、Wang, Ning、岡田 悠悟
(以上20名)
【基礎工学研究科】
南 拓也、菅 恵嗣、山本 浩二、能島 明史、林 結希子、
金 子 裕、日 比 大 治 郎、松 本 裕 樹、末 岡 祥 一 郎、
Choi, Gyeong-Shin、
宇都宮 徹、
木畑 貴行、
高橋 佑輔、
中 原 靖 人、杉 田 智 彦、Lee, Sun-Min、齊 藤 輝 彦、
<採択者オリエンテーション実施風景>
2011年4月13日、
コンベンションセンターにて拠点リーダー/福住教授からの説明
塚本 大治郎(以上28名)
※今年度、グローバルCOEフェロー秋募集は予定致しておりませんのでご了承ください。
この物質の重要な応用の1つとして、超高速光スイッチという
ものが注目されています。現在、
インターネット等では光通信が
主に使われていますが、途中で光の信号を電子の信号に変換し
お知らせ
て処理しているため、速度が遅くなり、そこがボトルネックとな
り、全体の通信速度が落ちてしまっているのです。電子の信号に
第11回グローバルCOE生命環境化学国際会議(GCOEBEC-11)
変換せずに光のままON/OFFを切り替えられるスイッチング素
子をつくることができれば、通信の大容量化、超高速化や将来の
● 日時:2011年12月19日(月)∼21日(水) ● 場所:大阪大学 銀杏会館
光コンピュータの実現にもつながるはずです。
おもな招聘予定者
key
1. Dr. Pierre BRAUNSTEIN(ストラスブルグ大) speaker
8. Prof. T. Don TILLEY(UC バークレー)
2. Prof. Sylvie BEGIN-COLIN(ストラスブルグ大)
9. Prof. Chris CHANG(UC バークレー)
実験不可能なモデルで理論を生み出す
3. Dr. Chantal DANIEL(ストラスブルグ大)
10. Prof. Jay R. WINKLER(Caltech)
4. Dr. Luc LEBEAU(ストラスブルグ大)
11. Prof. Kenneth KARLIN(Johns Hopkins)
5. Dr. Michel MIESCH(ストラスブルグ大)
12. Prof. David GOLDBERG(Johns Hopkins)
の探索は、昔から考えられてきました。
しかし、実用に耐える理想
13. Prof. Jonathan SESSLER
(Univ. of Texas, Austin)
的な材料が見つかっていないのが現状です。例えば光スイッチの
6. Prof. John ARNOLD(UC
key
バークレー) speaker
7. Prof. Dean TOSTE(UC バークレー)
様々な応用が期待される非線形光学材料の原理の提案や物質
場合、
光に対する応答性が大きい無機材料では、
応答速度が遅い
ために結局は速度向上につながりません。一方、
有機材料では応
分子情報化学グループ
中野 雅由
発 行・企 画 編 集 大阪大学大学院グローバルCOEプログラム「生命環境化学グローバル教育研究拠点」広報委員会
TEL&FAX 06-6879-7805 ホームページhttp://www.gcoebec-osaka-u.jp/index_j.php
デ ザ イン・編 集 有限会社ヴィスプロ
取 材( 研 究 紹 介 ) 株式会社リバネス
発
行
日 2011年6月30日
●この印刷物は環境に配慮した
植物性大豆油インキを使用しています。
NAKANO MASAYOSHI
答は速いけれどその大きさが十分でない、
という状況が続いてい
ました。そこで私たちは、光に対する分子材料の応答をその分子
基礎工学研究科物質創成専攻・教授
の結合の性質に基づいて説明できる理論を組み立て、応答速度
非線形光学物質の理論設計と量子ダイナミクス
が速く、
より応答性の高い分子材料を設計しようとしています。
エネルギー
環境化学
onservation
by Global C
分子情報化学グループ 中野
分子情報
化学 生命環境化学
雅由
物質変換
環境化学
2010
Lectureship Award
グローバル教育
環境生物
化学
生命分子
化学
光に対する電子の応答性は、
分子内での電子のゆらぎやすさに
分子では三重項状態)
では劇的に応答性が小さくなる」
という新た
よって決まります。そこで、
分子の中での原子間の結合を弱くすれ
な化学原理が
「発見」
されたのです。
GCOE
GCOE
Lectureship Award Report
Name:
基礎工学
研究科物
質創成専
田
攻
Young Researcher Support Program
Japan
ETH Zü
ric
K.U. Le h
uven
原 一邦
KAZUK
UNI TA
HARA
E u ro p e
RWTH
Aa
Univers chen
ität Bo
nn
GCOE Lectureship Awardに選出していただき、ヨーロッパの四つの
動 し、ア ー ヘ ン 工 科 大 学 に 到 着 し て す ぐ に、ホ ス ト で あ る
大学を訪問して得られた経験について紹介させて頂きます。訪欧する前月
Albrecht教授と、現在共同して進めている四面体カゴ型錯体の合成と構
ばいいのではないかと考え、モデルとして「水素分子の結合を
にヨーロッパが強力な寒波に覆われ空港や交通機関が麻痺しているとの
造決定に関する情報の交換と今後の進め方について議論しました。その
切っていく」
という仮想系を使ったのです。安定な水素分子は化
報道がなされており、寒さだけでなく移動などにトラブルが起こらないか
後、Albrecht教授やOppel教授らの多くの聴衆の前で講演させていただ
学の言葉で「閉殻系」
(互いに反平行なスピンを持った電子が強く
と心配していましたが、滞在期間中には寒さは和らぎ心配していた問題も
きました。昼食の後には、Oppel教授とカゴ型錯体の多孔性二次元分子
なく過ごすことができました。
ネットワークの空孔への吸着に関する共同研究の可能性に関して意見を
初めの訪問機関はスイスで研究活動が活発なことで知られるチュー
交換しました。また、Albrecht教授の研究室を見学させて頂き、学生さん
リッヒ工科大学でした。チューリッヒの郊外に作られた広大なキャンパス
とも議論させていただきました。Albrecht教授と夕飯をともにして、日本
に定義できます)
は大きくなると言えます。
の中に、巨大な研究棟がいくつもあり(長い通路で連結されている)、その
とドイツの研究環境や大学のシステムに関して話し交流を深めました。
2つの水素原子の距離を徐々に広げたとき、
光に対する応答性
一つに訪問した材料学科がありました。ホストであるDieter Schlüter教
最後にドイツ、ボン大学Kekulé Insituteを訪問しました。アーヘンか
授を訪問し、精密に設計された有機分子を構成成分とした固液界面におけ
ら ボ ン へ は 鉄 道 で 一 時 間 程 度 で し た。到 着 し て ホ ス ト で あ るSigurd
る単分子膜の構築に関して講演しました。私にとって初めての海外での講
Höger教授と議論し、続いて講演を行いました。講演は、三度目で余裕も
演であり、とても緊張しましたが、徐々に講演はスムーズになりました。
あ り、ス ム ー ズ に 分 か り や す く 話 す こ と が で き ま し た。午 後 か ら は、
講演後には数多くの質問を受け、特にSchlüter教授からは鋭い指摘をし
Lützen教授とポリフェニレンナノワイヤの合成とその集合体の構造決定
理論化学の重要でおもしろいところは、たとえば無関係に見
ていただき、とても有意義な議論をすることができました。講演後は
と物性の調査に関する興味深い研究について議論しました。続いて、
このような開殻性をもつ分子や物質の応答の性質を予測する
える分子の形や元素の違いが、理論モデル上は同じく扱えるこ
Schlüter教授と、同グループの上級博士研究員であるSakamoto博士と
Höger教授の研究室を見学させていただきました。数多くある測定装置の
ことは最先端の量子化学計算法を使っても困難でした。そこで、
とがわかったり、磁気的性質と非線形光学効果というように、
まっ
昼食をとりながら、さらに議論を深めました。昼食後は最新の成果につい
中で、走査型トンネル顕微鏡の設備と環境を見学できたことは大きな収穫
これらの量を高精度に予測可能な新しい近似法や解析法を開発
たく関係ないように見える現象が実はつながっているんだとい
て説明していただくとともに、ラボを見学させてもらい楽しい時間を過ご
でした。最後に、Höger教授がベートーヴェンハウスに案内してくださり、
す こ と が で き ま し た。夕 方 に は、Schlüter教 授 とSakamoto博 士 と
音楽の歴史と触れられることができました。
しました。
うことを示せることです。それぞれの
“もの”
や
“現象”
にこだわっ
Zürich市中心部に移動し、美しい旧市街を案内していただくとともに(数
今回の渡航を通じて、数多くの講演を経験することで、英語での長時間
て実験をしていても予想できないことを、理論なら統一的に示
多くの銀行とブランド店がありました)、スイス料理レストランで夕食を
の講演と議論に自信が持てるようになりました。また、多くの異なる分野
すことができる可能性があるのです。このようなより普遍的に適
いただきながら日本とスイスの大学のシステム、特に研究や教育環境の違
の研究者と交流することができました。交流の中で、材料化学に基づくグ
いについて話し交流を深めました。
リーンケミストリー分野におけるイノベーションへの挑戦が話題となる
翌朝はベルギー、ルーバンに航空機で移動し、ルーバンカトリック大学
ことが多く、その重要性を再認識するとともに、自らの研究に活かしたい
化学科のSteven De Feyter教授を訪問しました。De Feyter教授とは共
新しいアイデアが湧いてきました。また、数多くの議論を通じて進行中の
結合している系)
、
一方、
弱い結合を持った仮想水素分子は
「一重項
開殻系」
と呼ばれます。結合を切っていくにつれて開殻性
(理論的
がどのように変化していくか。実験ではとても実現できませんが、
理論上であれば計算できます。そのモデルで原子間の距離を離
していき、
高精度の計算を行うと、
予想通りに結合が切れていく途
中で応答性が極大をとることを確かめることができました。
数式が予言する新しい分子
図1 分子レベルの非線形性を表す第二超分極率 γ(黒等高線)のジラジカル因子依存性。
Aが従来系、B−Dが理論から予測された系。
三位一体の共同研究で新しい成果を目指す
用される統一的な数理モデルをつくり、新しい概念や化学原理
ひとつ強調しておきたいのは、
新しい計算法をつくり、
計算した
を提唱していくことが、私自身の目標にもなっています。
ら性質がわかりましたというだけでは意味がないということです。
私たちが、新しい性質を持った分子を予測して、合成を専門と
同して有機分子を構成成分とした固液界面における自己集合単分子膜の
共同研究の打ち合わせができ、新しい共同研究の可能性も生まれました。
実験でも、
装置を使って測定しました、
というだけでは研究にはな
する研究者に伝える。そして実際に合成して、性質を測定して確
形成と走査型トンネル顕微鏡観察に関する研究を五年以上行っています。
このような有意義な講演旅行の機会をいただいたGCOEプログラムに心
りません。
「なぜそうなるのか」
を考えることが必須であり、
原理を
かめていく。または、新規に合成した分子を持ってきていただき、
到着してすぐに、進行中の多くのプロジェクトについて打ち合わせを行い
より感謝いたします。
明らかにし、
未知の物質や現象を予測することが重要です。
これに
私たちがその性質を説明する新しい理論をつくり、さらに面白
ました。翌日は、De Feyter教授のグループのセミナーに参加し、両グルー
余談ですが、スイスからベルギーの移動においてロストバゲッジするハ
対して強力な方法論を持つのが理論化学・計算化学の強みなので
い性質を持った未知の化合物を予測していく。そういった共同
プの進展状況に着いて発表、議論を深めて、今後の進め方について確認し
プニングがありました。当日の夜に荷物は配達され、結果的には問題とな
ました。共同研究関係者5名(ベルギー、日本、中国、英国籍)で夕食を共に
りませんでしたが、タイトなスケジュールの中でどの都市で荷物が受け取
す。非線形光学材料の応答性についても、
ただ計算するだけでな
研究を進めていくことで、新しい物質設計指針を生み出していく
し、研究内容の他にも政治情勢や科学技術政策、文化の違いについて話し
れるか不安になりました。また、アーヘン滞在後に食あたりを起こし、ボ
く、
その性質を予言できる数理モデル
(数式)
をつくりました。そし
ことができるはずです。
ながら楽しく過ごしました。
ン滞在中は体調がすぐれない中スケジュールをこなしました。これらトラ
て高精度計算により、
グラフェンなどの開殻性をもつ多環芳香族
最近は合成や測定を専門とする研究室から私たちのところや
次の訪問地はドイツ、アーヘン工科大学でした。ルーバンから鉄道で移
ブルへの対応も貴重な経験となりました。
分子系や金属錯体系が応答性を示すことがわかってきたのです。
他の理論を専門とする研究室に学生を送り込み、理論化学に関
この数理モデルは、様々な分子における非線形光学効果につ
する知見を持たせて再び実験に戻るという動きが始まっている
いて的確な予測を行えるという他に、
もうひとつ重要な情報を与
ところもあります。私たちも実験に関する知見を得て、
より交流
えてくれました。これまでの分子設計では、大きな非線形光学効
を深めていきたいと考えています。このGCOEは、私たちのよう
果をもつ系は、
閉殻系に限られていました。我々の数理モデルは、
な理論を専門とする者も入っているのが特徴のひとつだと思い
新たに開殻性をもつ系の応答性がこれまでの閉殻系に比べて著
ます。理論・計算、合成、測定と、それぞれ強みとする部分は違う
しく増大するという非線形光学物質系の新しいパラダイムを開き
けれど目指す先は一緒ですから、互いを知り、三位一体の共同研
ました
(図1)
。すなわち、
(1)
「一重項開殻系の電場に対する応答
究を行うことでより多くの見方ができるはずです。ネットワーク
性は開殻性によって劇的に変化し、
とくに中間の開殻性をもつ場
を組み、お互いの専門性を活かしながら、研究を進めていけるよ
合に応答性が極大になる」
(
、2)
「最も高いスピン状態
(例えば水素
キューカービチュリル、
フェロセン超分子複合体
うにしたいですね。 【文・西山 哲史 株式会社リバネス】
Zürich市中心部
Schlüter教授と坂本博士と共に
ETH Zürichでの講演風景
ベートーヴェンハウス
(ボン)
エネルギー
環境化学
onservation
by Global C
分子情報化学グループ 中野
分子情報
化学 生命環境化学
雅由
物質変換
環境化学
2010
Lectureship Award
グローバル教育
環境生物
化学
生命分子
化学
光に対する電子の応答性は、
分子内での電子のゆらぎやすさに
分子では三重項状態)
では劇的に応答性が小さくなる」
という新た
よって決まります。そこで、
分子の中での原子間の結合を弱くすれ
な化学原理が
「発見」
されたのです。
GCOE
GCOE
Lectureship Award Report
Name:
基礎工学
研究科物
質創成専
田
攻
Young Researcher Support Program
Japan
ETH Zü
ric
K.U. Le h
uven
原 一邦
KAZUK
UNI TA
HARA
E u ro p e
RWTH
Aa
Univers chen
ität Bo
nn
GCOE Lectureship Awardに選出していただき、ヨーロッパの四つの
動 し、ア ー ヘ ン 工 科 大 学 に 到 着 し て す ぐ に、ホ ス ト で あ る
大学を訪問して得られた経験について紹介させて頂きます。訪欧する前月
Albrecht教授と、現在共同して進めている四面体カゴ型錯体の合成と構
ばいいのではないかと考え、モデルとして「水素分子の結合を
にヨーロッパが強力な寒波に覆われ空港や交通機関が麻痺しているとの
造決定に関する情報の交換と今後の進め方について議論しました。その
切っていく」
という仮想系を使ったのです。安定な水素分子は化
報道がなされており、寒さだけでなく移動などにトラブルが起こらないか
後、Albrecht教授やOppel教授らの多くの聴衆の前で講演させていただ
学の言葉で「閉殻系」
(互いに反平行なスピンを持った電子が強く
と心配していましたが、滞在期間中には寒さは和らぎ心配していた問題も
きました。昼食の後には、Oppel教授とカゴ型錯体の多孔性二次元分子
なく過ごすことができました。
ネットワークの空孔への吸着に関する共同研究の可能性に関して意見を
初めの訪問機関はスイスで研究活動が活発なことで知られるチュー
交換しました。また、Albrecht教授の研究室を見学させて頂き、学生さん
リッヒ工科大学でした。チューリッヒの郊外に作られた広大なキャンパス
とも議論させていただきました。Albrecht教授と夕飯をともにして、日本
に定義できます)
は大きくなると言えます。
の中に、巨大な研究棟がいくつもあり(長い通路で連結されている)、その
とドイツの研究環境や大学のシステムに関して話し交流を深めました。
2つの水素原子の距離を徐々に広げたとき、
光に対する応答性
一つに訪問した材料学科がありました。ホストであるDieter Schlüter教
最後にドイツ、ボン大学Kekulé Insituteを訪問しました。アーヘンか
授を訪問し、精密に設計された有機分子を構成成分とした固液界面におけ
ら ボ ン へ は 鉄 道 で 一 時 間 程 度 で し た。到 着 し て ホ ス ト で あ るSigurd
る単分子膜の構築に関して講演しました。私にとって初めての海外での講
Höger教授と議論し、続いて講演を行いました。講演は、三度目で余裕も
演であり、とても緊張しましたが、徐々に講演はスムーズになりました。
あ り、ス ム ー ズ に 分 か り や す く 話 す こ と が で き ま し た。午 後 か ら は、
講演後には数多くの質問を受け、特にSchlüter教授からは鋭い指摘をし
Lützen教授とポリフェニレンナノワイヤの合成とその集合体の構造決定
理論化学の重要でおもしろいところは、たとえば無関係に見
ていただき、とても有意義な議論をすることができました。講演後は
と物性の調査に関する興味深い研究について議論しました。続いて、
このような開殻性をもつ分子や物質の応答の性質を予測する
える分子の形や元素の違いが、理論モデル上は同じく扱えるこ
Schlüter教授と、同グループの上級博士研究員であるSakamoto博士と
Höger教授の研究室を見学させていただきました。数多くある測定装置の
ことは最先端の量子化学計算法を使っても困難でした。そこで、
とがわかったり、磁気的性質と非線形光学効果というように、
まっ
昼食をとりながら、さらに議論を深めました。昼食後は最新の成果につい
中で、走査型トンネル顕微鏡の設備と環境を見学できたことは大きな収穫
これらの量を高精度に予測可能な新しい近似法や解析法を開発
たく関係ないように見える現象が実はつながっているんだとい
て説明していただくとともに、ラボを見学させてもらい楽しい時間を過ご
でした。最後に、Höger教授がベートーヴェンハウスに案内してくださり、
す こ と が で き ま し た。夕 方 に は、Schlüter教 授 とSakamoto博 士 と
音楽の歴史と触れられることができました。
しました。
うことを示せることです。それぞれの
“もの”
や
“現象”
にこだわっ
Zürich市中心部に移動し、美しい旧市街を案内していただくとともに(数
今回の渡航を通じて、数多くの講演を経験することで、英語での長時間
て実験をしていても予想できないことを、理論なら統一的に示
多くの銀行とブランド店がありました)、スイス料理レストランで夕食を
の講演と議論に自信が持てるようになりました。また、多くの異なる分野
すことができる可能性があるのです。このようなより普遍的に適
いただきながら日本とスイスの大学のシステム、特に研究や教育環境の違
の研究者と交流することができました。交流の中で、材料化学に基づくグ
いについて話し交流を深めました。
リーンケミストリー分野におけるイノベーションへの挑戦が話題となる
翌朝はベルギー、ルーバンに航空機で移動し、ルーバンカトリック大学
ことが多く、その重要性を再認識するとともに、自らの研究に活かしたい
化学科のSteven De Feyter教授を訪問しました。De Feyter教授とは共
新しいアイデアが湧いてきました。また、数多くの議論を通じて進行中の
結合している系)
、
一方、
弱い結合を持った仮想水素分子は
「一重項
開殻系」
と呼ばれます。結合を切っていくにつれて開殻性
(理論的
がどのように変化していくか。実験ではとても実現できませんが、
理論上であれば計算できます。そのモデルで原子間の距離を離
していき、
高精度の計算を行うと、
予想通りに結合が切れていく途
中で応答性が極大をとることを確かめることができました。
数式が予言する新しい分子
図1 分子レベルの非線形性を表す第二超分極率 γ(黒等高線)のジラジカル因子依存性。
Aが従来系、B−Dが理論から予測された系。
三位一体の共同研究で新しい成果を目指す
用される統一的な数理モデルをつくり、新しい概念や化学原理
ひとつ強調しておきたいのは、
新しい計算法をつくり、
計算した
を提唱していくことが、私自身の目標にもなっています。
ら性質がわかりましたというだけでは意味がないということです。
私たちが、新しい性質を持った分子を予測して、合成を専門と
同して有機分子を構成成分とした固液界面における自己集合単分子膜の
共同研究の打ち合わせができ、新しい共同研究の可能性も生まれました。
実験でも、
装置を使って測定しました、
というだけでは研究にはな
する研究者に伝える。そして実際に合成して、性質を測定して確
形成と走査型トンネル顕微鏡観察に関する研究を五年以上行っています。
このような有意義な講演旅行の機会をいただいたGCOEプログラムに心
りません。
「なぜそうなるのか」
を考えることが必須であり、
原理を
かめていく。または、新規に合成した分子を持ってきていただき、
到着してすぐに、進行中の多くのプロジェクトについて打ち合わせを行い
より感謝いたします。
明らかにし、
未知の物質や現象を予測することが重要です。
これに
私たちがその性質を説明する新しい理論をつくり、さらに面白
ました。翌日は、De Feyter教授のグループのセミナーに参加し、両グルー
余談ですが、スイスからベルギーの移動においてロストバゲッジするハ
対して強力な方法論を持つのが理論化学・計算化学の強みなので
い性質を持った未知の化合物を予測していく。そういった共同
プの進展状況に着いて発表、議論を深めて、今後の進め方について確認し
プニングがありました。当日の夜に荷物は配達され、結果的には問題とな
ました。共同研究関係者5名(ベルギー、日本、中国、英国籍)で夕食を共に
りませんでしたが、タイトなスケジュールの中でどの都市で荷物が受け取
す。非線形光学材料の応答性についても、
ただ計算するだけでな
研究を進めていくことで、新しい物質設計指針を生み出していく
し、研究内容の他にも政治情勢や科学技術政策、文化の違いについて話し
れるか不安になりました。また、アーヘン滞在後に食あたりを起こし、ボ
く、
その性質を予言できる数理モデル
(数式)
をつくりました。そし
ことができるはずです。
ながら楽しく過ごしました。
ン滞在中は体調がすぐれない中スケジュールをこなしました。これらトラ
て高精度計算により、
グラフェンなどの開殻性をもつ多環芳香族
最近は合成や測定を専門とする研究室から私たちのところや
次の訪問地はドイツ、アーヘン工科大学でした。ルーバンから鉄道で移
ブルへの対応も貴重な経験となりました。
分子系や金属錯体系が応答性を示すことがわかってきたのです。
他の理論を専門とする研究室に学生を送り込み、理論化学に関
この数理モデルは、様々な分子における非線形光学効果につ
する知見を持たせて再び実験に戻るという動きが始まっている
いて的確な予測を行えるという他に、
もうひとつ重要な情報を与
ところもあります。私たちも実験に関する知見を得て、
より交流
えてくれました。これまでの分子設計では、大きな非線形光学効
を深めていきたいと考えています。このGCOEは、私たちのよう
果をもつ系は、
閉殻系に限られていました。我々の数理モデルは、
な理論を専門とする者も入っているのが特徴のひとつだと思い
新たに開殻性をもつ系の応答性がこれまでの閉殻系に比べて著
ます。理論・計算、合成、測定と、それぞれ強みとする部分は違う
しく増大するという非線形光学物質系の新しいパラダイムを開き
けれど目指す先は一緒ですから、互いを知り、三位一体の共同研
ました
(図1)
。すなわち、
(1)
「一重項開殻系の電場に対する応答
究を行うことでより多くの見方ができるはずです。ネットワーク
性は開殻性によって劇的に変化し、
とくに中間の開殻性をもつ場
を組み、お互いの専門性を活かしながら、研究を進めていけるよ
合に応答性が極大になる」
(
、2)
「最も高いスピン状態
(例えば水素
キューカービチュリル、
フェロセン超分子複合体
うにしたいですね。 【文・西山 哲史 株式会社リバネス】
Zürich市中心部
Schlüter教授と坂本博士と共に
ETH Zürichでの講演風景
ベートーヴェンハウス
(ボン)
大阪大学大学院 グローバルCOEプログラム「生命環境化学グローバル教育研究拠点」
n
o
i
t
a
v
r
e
s
n
o
C
by Global
研究支援者の紹介
■ 平成23年度グローバルCOEフェロー (RA) 採択者
15
News Letter vol.
【工学研究科】
2011年6月30日発行
清 川 謙 介、吉 村 彰 真、吉 井 一 記、上 原 了、福 本 和 貴、大 村 聡、中 島 秀 人、小 林 志 寿、重 光 孟、
松下 尚嗣、
本多 立彦、
森本 祐麻、
大洞 光司、
樋上 友亮、
岡田 智、
佐野 洋平、
尾上 晶洋、
二科 昌文、
山本 淳志、
兵頭 功、阿野 勇介、Liu, Went-Tzu、杉野 光彩、稲本 佳寛、園井 理恵、長町 俊希、佐々木 俊之、村上 雄太、
西村 章、Park, Sung-Bin、太農 哲朗、 本 総一郎、Chen, Chien-Chih、采女 泰久、松本 匡広、沼本 穂、
浅田 実希、Lee, Jae-Won、宮坂 彰浩、津川 裕司、山本 慎也、Alipour, Atefeh、Zhu, Ye、岡本 泰典、
柿倉 泰明、門脇 功治、松原 惇起、早川 純平、大西 祥晴、玉置 喬士、星本 陽一(以上51名)
理論から新しい物質や性質を予言し発見する
【理学研究科】
橋 本 悠 治、足 立 和 彦、角 永 悠 一 郎、小 森 有 希 子、
厚見 宙志、新家 雄、柴田 一、藤木 勝将、Lee, Pei-Shan、
和 佐 英 樹、吉 満 隼 人、吉 村 優 一、Mazumder, Kishor、
従来の実験をしない化学研究もある
Lee, Rae-Eun、瀧 野 裕 輔、石 堂 泰 志、柴 田 知 範、
を数値計算により求めることで様々な物質や化学現象の機構の
解明、
さらにその予測と発見を行うもので、従来の化学における
現代の化学の研究は、大きく分類すると実験化学、理論化学、
装置を使った実験に対応するものと言えます。
計算化学の3つに分けることができます。実験化学は、新たな物
私たちの研究室は、理論化学と計算化学を専門としています。
質を合成したり、
物性を測定したりして研究を進めるもので、
化学
中でも、
「非線形光学材料」
と呼ばれる物質の性質を説明できる
津田 崇暁、
福井 仁之、
角谷 繁宏、
米田 京平、
菅野 義経、
の研究というとほとんどの人はこのようなものを想像するでしょ
理論をつくり、より優れた性質を持つ物質を設計するというの
田中 真司、前野 禅、上野 直遵、長野 卓人、川端 崇仁、
う。そして、理論化学は物理学の基礎理論をもとに、原子・分子か
が、主な研究テーマのひとつです。
らなる物質の構造、
性質、
反応について理解するための数理モデ
非線形光学効果は、
レーザー等の強い光が物質に入射したと
ルや新しい概念を含む化学原理の探求と創出を行う学問です。
きに生じる入射光強度に比例しない非線形な光学現象で、入射
また計算化学は、理論化学によって明らかになった原理をもと
光の波長変換や、物質の屈折率変化による入射光の振幅や位相
に、実際に分子や分子集団の構造、性質、反応に関わる振る舞い
変化などを引き起こします。
福岡 脩平、Wang, Ning、岡田 悠悟
(以上20名)
【基礎工学研究科】
南 拓也、菅 恵嗣、山本 浩二、能島 明史、林 結希子、
金 子 裕、日 比 大 治 郎、松 本 裕 樹、末 岡 祥 一 郎、
Choi, Gyeong-Shin、
宇都宮 徹、
木畑 貴行、
高橋 佑輔、
中 原 靖 人、杉 田 智 彦、Lee, Sun-Min、齊 藤 輝 彦、
<採択者オリエンテーション実施風景>
2011年4月13日、
コンベンションセンターにて拠点リーダー/福住教授からの説明
塚本 大治郎(以上28名)
※今年度、グローバルCOEフェロー秋募集は予定致しておりませんのでご了承ください。
この物質の重要な応用の1つとして、超高速光スイッチという
ものが注目されています。現在、
インターネット等では光通信が
主に使われていますが、途中で光の信号を電子の信号に変換し
お知らせ
て処理しているため、速度が遅くなり、そこがボトルネックとな
り、全体の通信速度が落ちてしまっているのです。電子の信号に
第11回グローバルCOE生命環境化学国際会議(GCOEBEC-11)
変換せずに光のままON/OFFを切り替えられるスイッチング素
子をつくることができれば、通信の大容量化、超高速化や将来の
● 日時:2011年12月19日(月)∼21日(水) ● 場所:大阪大学 銀杏会館
光コンピュータの実現にもつながるはずです。
おもな招聘予定者
key
1. Dr. Pierre BRAUNSTEIN(ストラスブルグ大) speaker
8. Prof. T. Don TILLEY(UC バークレー)
2. Prof. Sylvie BEGIN-COLIN(ストラスブルグ大)
9. Prof. Chris CHANG(UC バークレー)
実験不可能なモデルで理論を生み出す
3. Dr. Chantal DANIEL(ストラスブルグ大)
10. Prof. Jay R. WINKLER(Caltech)
4. Dr. Luc LEBEAU(ストラスブルグ大)
11. Prof. Kenneth KARLIN(Johns Hopkins)
5. Dr. Michel MIESCH(ストラスブルグ大)
12. Prof. David GOLDBERG(Johns Hopkins)
の探索は、昔から考えられてきました。
しかし、実用に耐える理想
13. Prof. Jonathan SESSLER
(Univ. of Texas, Austin)
的な材料が見つかっていないのが現状です。例えば光スイッチの
6. Prof. John ARNOLD(UC
key
バークレー) speaker
7. Prof. Dean TOSTE(UC バークレー)
様々な応用が期待される非線形光学材料の原理の提案や物質
場合、
光に対する応答性が大きい無機材料では、
応答速度が遅い
ために結局は速度向上につながりません。一方、
有機材料では応
分子情報化学グループ
中野 雅由
発 行・企 画 編 集 大阪大学大学院グローバルCOEプログラム「生命環境化学グローバル教育研究拠点」広報委員会
TEL&FAX 06-6879-7805 ホームページhttp://www.gcoebec-osaka-u.jp/index_j.php
デ ザ イン・編 集 有限会社ヴィスプロ
取 材( 研 究 紹 介 ) 株式会社リバネス
発
行
日 2011年6月30日
●この印刷物は環境に配慮した
植物性大豆油インキを使用しています。
NAKANO MASAYOSHI
答は速いけれどその大きさが十分でない、
という状況が続いてい
ました。そこで私たちは、光に対する分子材料の応答をその分子
基礎工学研究科物質創成専攻・教授
の結合の性質に基づいて説明できる理論を組み立て、応答速度
非線形光学物質の理論設計と量子ダイナミクス
が速く、
より応答性の高い分子材料を設計しようとしています。
Fly UP