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平成26年度教師海外研修報告書(パラグアイ)(PDF/8.55MB)

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平成26年度教師海外研修報告書(パラグアイ)(PDF/8.55MB)
平成26年度
教 師 海 外 研 修
報
告
書
【派遣国:パラグアイ】
んと
人学校の皆さ
イグアス日本
独立行政法人 国際協力機構 東北支部
目 次
JICA 教師海外研修について… …………………………………………………………………………… 1
平成26年度 教師海外研修 パラグアイ 派遣者名簿……………………………………………… 2
1 .国内研修… ………………………………………………………………………………………………… 3
( 1 次・ 2 次国内研修日程、写真、事後研修日程、写真、参加教員による実践授業写真)
2 .海外研修… ………………………………………………………………………………………………… 9
(日程、写真、研修国主要データ・地図、コラム)
3 .実践報告書
小 学 校
加藤 奈々(宮城県:仙台市立寺岡小学校/全教科)--------------------------------------32
【学級活動 道徳( 4 年生)
】
『パラグアイと出会う』
中 学 校
松倉 晶子(宮城県:仙台市立西多賀中学校/美術)-------------------------------------40
【美術( 2 年生)
】
『生きるためのデザイン』
高等学校
千葉 みどり(岩手県:岩手県立遠野高等学校/英語科)---------------------------------50
【総合、英語( 1 年生~ 3 年生)
】
『地球の裏側パラグアイ~ Paraguay から Tono の抱える問題を解決しよう~』
山内 洋美(宮城県:宮城県塩釜高等学校/地理歴史(地理)
)----------------------------58
【地理歴史( 2 年生、 3 年生)
】
『ラテンアメリカをとらえる視点 ―パラグアイを事例として―』
安藤 紀子(山形県:山形県立寒河江高等学校農業校舎/地歴公民科)---------------------70
【世界史( 1 年生)
】
『開発教育~地球市民をめざして~』
庄司 洋一(山形県:山形県立村山産業高等学校/工業)---------------------------------82
【キャリア基礎( 1 年生)
】
『日本と世界のつながり』
中高一貫校
中田 伸幸 ( 青森県:青森明の星中学・高等学校/地歴・公民科 )--------------------------94
【総合(中学 1 ~ 3 年生、高校 1 ~ 3 年生)
】
『発展途上国について考える ~パラグアイを通じて~』
JICA 教師海外研修について
1 .目的
開発教育に関心を持つ学校教師および教育委員会の指導主事等(以下「教師」
)を対象に、実際
に開発途上国(以下「途上国」
)を訪問することで、途上国が置かれている現状や国際協力の現場、
途上国と日本との関係に対する理解を深め、その成果を、学校現場での授業実践などを通じて、時
代を担う児童・生徒への開発教育に役立ててもらうことを本事業の目的とする。
研修参加後は、JICA 国内機関と協力し、教育現場で開発教育を実践・推進する中核となるよう
な人材となってもらうことを、本事業の波及効果として期待する。
2 .対象
国公立、私立の小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、高等専門学校、特別支援学校の教師
及び教育委員会の指導主事等。
3 .主催
独立行政法人国際協力機構(JICA)
4 .後援
外務省、文部科学省、青森県教育委員会、岩手県教育委員会、宮城県教育委員会、秋田県教育委
員会、山形県教育委員会、仙台市教育委員会
5 .実施内容(年間スケジュール)
4 - 5 月 募集
6 - 7 月 国内研修( 2 回)
8 月 海外研修
9 -12月 帰国後の実践(学校の授業)
12月 事後研修
6 .国内研修について
海外研修の前に、国内研修を 2 回( 6 月・ 7 月、それぞれ 2 日間)実施。
派遣国の概要・視察先概要理解、過年度派遣教員・開発教育実践者の事例紹介、情報交換、実践
授業プラン作成、渡航情報などを行った。
参加者が、研修からの帰国後に「開発教育の担い手」となれるよう、事前研修では、
「海外研修
の効果が上がる」ようにサポートし、実施後のネットワーク作りのために過年度参加者・地域の開
発教育実践者にも参加を促している。
― 1 ―
平成26年度 教師海外研修 派遣者名簿 【校種毎】
※担当教科名、所属学校名は派遣当時のものを記載。
No.
校種
県名
氏 名
学 校 名
1
小
宮城
加 藤 奈 々 仙台市立寺岡小学校
2
中
宮城
松 倉 晶 子 仙台市立西多賀中学校
3
中高
青森
中 田 伸 幸 青森明の星中学・高等学校
4
高
岩手
千 葉 みどり 岩手県立遠野高等学校
5
高
宮城
山 内 洋 美 宮城県塩釜高等学校
6
高
山形
安 藤 紀 子 山形県立寒河江高等学校農業校舎
7
高
山形
庄 司 洋 一 山形県立村山産業高等学校
役職/担当教科等
教諭
教諭/美術
教諭/地歴・公民科
教諭/英語
教諭/地理歴史(地理)
教諭/地歴公民科
教諭/工業
【県 毎】
No.
県名
県毎
No.
1
青森
1
2
岩手
3
氏 名
学 校 名
校種
役職/担当教科等
中 田 伸 幸 青森明の星中学・高等学校
高
教諭/地歴・公民科
1
千 葉 みどり 岩手県立遠野高等学校
高
教諭/英語
宮城
1
加 藤 奈 々 仙台市立寺岡小学校
小
教諭
4
宮城
2
松 倉 晶 子 仙台市立西多賀中学校
中
教諭/美術
5
宮城
3
山 内 洋 美 宮城県塩釜高等学校
高
教諭/地理歴史(地理)
6
山形
1
安 藤 紀 子 山形県立寒河江高等学校農業校舎
高
教諭/地歴公民科
7
山形
2
庄 司 洋 一 山形県立村山産業高等学校
高
教諭/工業
1
同行者
小 田 隆 博 盛岡大学経理部長、ファシリテーター役
2
同行者
渡 辺 紀 和 JICA 東北支部 市民参加協力課職員、業務調整役
― 2 ―
1 .国内研修
1 次研修日程
2 次研修日程
事後研修
1 次研修 日程
第 1 日目 6 月 7 日(土)
時間
研 修 内 容
講 師 ・ 担 当
教師海外研修について概要説明
13:00~13:05 主催者あいさつ
内島光孝(JICA 東北 市民参加協力課 課長)
13:05~13:10 オリエンテーション当日スタッフ紹介
13:10~13:30 アイスブレーキング
13:30~13:45 JICA 事業全般説明
開発教育支援事業説明
13:45~14:00 研修全体日程確認
保険・VISA の確認
研修国訪問先について説明
14:00~14:40
研修国ごとの打ち合わせ
渡辺紀和(JICA 東北 市民参加協力課 職員)
清水千絵(JICA 東北 市民参加協力調整員)
パラグアイ:小田隆博氏(盛岡大学経理部長、同行ファシリテーター)
渡辺紀和(業務調整)
ルワンダ:藤澤義栄氏(矢巾町立徳田小学校、同行ファシリテーター)
三澤香織(JICA 山形デスク、業務調整)
14:40~14:55
休 憩
派遣国について知ろう
14:55~15:45 パラグアイについて
15:45~16:35 ルワンダについて
ホセ・ルイス・バルボーサ氏(アルパ奏者、在日パラグアイ人)
西城幸江氏(パラグアイ青年海外協力隊経験者)
カゲンザ・ジャンマリー・ヴィアニー氏、ムタバジ・ミンク・エメ氏、
ルバシャラザ・ウィリアム氏、ルジガナ・パメラ氏
(全て山形大学留学生、在日ルワンダ人)
大和田美香氏(ルワンダ青年海外協力隊経験者)
16:35~16:50
16:50~17:20
休 憩
派遣国について
グループごとに質問
17:20~17:30 まとめのプログラム
ホセ・ルイス・バルボーサ氏、西城幸江氏、大和田美香氏、
カゲンザ・ジャンマリー・ヴィアニー氏、ムタバジ・ミンク・エメ氏、
ルバシャラザ・ウィリアム氏、ルジガナ・パメラ氏
清水千絵
第 2 日目 6 月 8 日(日)
時間
研 修 内 容
9 :00~ 9 :10 開会、連絡、アイスブレーキング
講 師 ・ 担 当
清水千絵
海外研修を教材・授業につなげよう①
9 :10~10:00 過年度参加者実践事例紹介
平岡静香氏
(仙台白百合学園中学・高等学校、平成23年度教師海外研修参加教員)
10:00~10:10
休 憩
海外研修を教材・授業につなげよう②
10:10~12:30 開発教育体験ワークショップ
12:30~13:00
向井一郎氏
(特定非営利活動法人 開発教育協会)
昼食休憩(開発教育教材展示・販売)
海外研修を教材・授業につなげよう③
13:00~14:00
開発教育概論【講座】
開発教育実践に向けた効果的手法
向井一郎氏
14:00~15:00 授業実践のイメージ構築
向井一郎氏、清水千絵
15:00~15:10 事務連絡・解散
清水千絵
― 3 ―
2 次研修 日程
第 1 日目 7 月 5 日(土)
時間
研 修 内 容
13:00~13:15 開会、事務連絡、アイスブレーク
講 師 ・ 担 当
清水千絵(JICA 東北 市民参加協力調整員)
海外研修を教材・授業につなげよう④
13:15~14:05 スケジュールの説明・解説・質疑
各国同行者
パラグアイ:渡辺紀和(JICA 東北 市民参加協力課職員、業務調整)
ルワンダ:三澤香織(JICA 山形デスク、業務調整)
14:05~14:45 実践報告
中野真琴氏(平成25年度教師海外研修参加教員)
14:45~15:00
休 憩
15:00~15:40 実践報告
徳能克也氏(仙台二華高校、平成23年度教師海外研修参加教員)
15:40~15:45
休 憩
15:45~16:45 授業づくりの手法~その 1
小田隆博氏(盛岡大学経理部長、同行ファシリテーター)
藤澤義栄氏(矢巾町立徳田小学校、同行ファシリテーター)
16:45~17:30 授業づくりの手法~その 2
小田隆博氏、藤澤義栄氏
17:30~17:35 まとめ、事務連絡
清水千絵
第 2 日目 7 月 6 日(日)
時間
9:00~9:05
研 修 内 容
開会、事務連絡
講 師 ・ 担 当
清水千絵
海外研修を教材・授業につなげよう⑤
9:05~9:50
国ごとミーティング 1
(自由時間)
9:50~11:20 地球の食卓 ワークショップ体験
各国同行者・同行ファシリテーター
阿部眞理子氏
(NPO 法人 IVY 理事、開発教育協会理事)
11:20~11:35
休 憩
11:35~12:20 フォトランゲージ手法解説等
12:20~13:30
阿部眞理子氏
昼食休憩(開発教育教材展示・販売)
海外研修を教材・授業につなげよう⑥
13:30~14:15
国ごとミーティング 2
(検討事項の共有・協議)
各国同行者・同行ファシリテーター
14:15~15:00 県ごとミーティング
清水千絵/各県 国際協力推進員
青森:小笠原直子
岩手:熊谷彬衣
宮城:伊東和希子
秋田:櫻庭武蔵
山形:三澤香織
15:00~15:10 閉会、事務連絡
清水千絵
― 4 ―
ドキドキの初対面。研修に参加した動機は何?
パラグアイってどんな国?
在日パラグアイ人よりレクチャーを受ける
ルワンダってどんな国?
在日ルワンダ人よりレクチャーを受ける
過年度参加者より海外研修の内容や
帰国後の実践について話を聞く
「私にとっての開発のイメージはこれ!」
同行ファシリテーター藤澤氏による
たくさんある写真から一枚選んで発表する。 「開発教育の実践」についての意見・現状共有会
同行ファシリテーター小田氏による「研修先で
やりたいこと」を出し合うワークショップ
― 5 ―
それでは、行ってきます!
事後研修 日程
第 1 日目 12月13日(土)
時間
内 容
13:00~13:05 挨拶・事務連絡、など
13:05~13:45
13:45~14:00
各派遣国 研修内容の紹介
(各国 20分ずつ)
講 師 ・ 担 当
教師海外研修について概要説明
内島光孝(JICA 東北 市民参加協力課課長)
清水千絵(JICA 東北 市民参加協力調整員)
パラグアイ:中田 伸幸 団長、山内 洋美 副団長
ルワンダ:伊藤 恵 団長、橋場 哲 副団長
休 憩
〈実践授業発表〉
研修参加教員17名全員が授業実践記録を
模造紙に書いて持参し一人ずつ発表。発
表後、聴衆は感想などを書いてそれぞれ
の実践記録に貼る。
A グループ発表30分・入れ替え 5 分
14:00~16:30 〈過年度向け研修〉
15:00~16:30 別会場にて同時開催
①平成25年度参加教員による実践発表
②意見共有会
③平成10年度参加教員による実践発表
16:30~16:35
各県ごと
16:35~17:25 開発教育ネットワークづくりのための意
見交換会
17:25~17:35 本日のまとめ・事務連絡
ファシリテーター:
小田 隆博氏(パラグアイ同行ファシリテーター)
藤澤 義栄氏(ルワンダ同行ファシリテーター)
①実践発表者:中野真琴氏(岩手県立盛岡工業高等学校、平成25
年度教師海外研修参加教員)
②石森広美氏(宮城県仙台二華高等学校)
高橋芳江氏(仙台市立台原小学校)
片平恵氏(利府町立青山小学校)
※いずれも平成16年度教師海外研修参加教員)
ファシリテーター:
川村宏義氏(あおもり開発教育研究会/青森県立八戸北高校)
休 憩
青森県:川村 宏義氏
秋田県:藤本 恵子氏(NPO 法人 バニヤンツリー)
山形県:阿部 眞理子氏(認定 NPO 法人 IVY)
岩手県:吉田 武夫氏(いわて国際理解教育研究会/岩手県立北
上翔南高等学校)
清水千絵
第 2 日目 12月14日(日)
時間
内 容
講 師 ・ 担 当
国ごとに「新作」の教材作り
ファシリテーター:
9:00~10:40 パラグアイ 2 チーム(小中学校チーム、高校チーム)
小田 隆博氏、藤澤 義栄氏
ルワンダ 2 チーム(小学校チーム、中高チーム)
10:40~10:50
休 憩
パラグアイ 小中学校チームの授業
チームメンバーの想い:一つの国について知って終わりにしたくない。児童生徒が興味関心を持ったことについてどんど
ん調べてほしい。小→中→高→社会人とつなげていってほしい。私たちがパラグアイに行ったことをきっかけにして自分
10:50~11:30 たちで動く力を育みたい。
テーマ:「世界報道取材班」パラグアイ人のカルロスさんにインタビューしてみよう
ねらい:知らない国について調べる手法を学ぶ
加藤奈々氏/中田伸幸氏/松倉晶子氏
11:30~11:40
休 憩
ルワンダ 中高チームの授業 テーマ:ルワンダの教育
ねらい:ルワンダの教育の現状を知り、アクションプランを考える。
内容:①ルワンダを知る(基本情報を学び、講演などを聞く)
11:40~12:20
②ルワンダの教育について考える(「ちがいのちがいカード」を通して)
③自分たちにできることを考える。
石原幸子氏/菊池尚子氏/福原康子氏/伊藤恵氏/山内洋美氏
12:20~13:20
昼食休憩
パラグアイ 高校チームの授業 テーマ:岩手県和平村開拓団(満州からの引揚者)の決断
ねらい:ロールプレイングを通して、移民の背景や移民にまつわる期待と不安、移民の実際を理解させる。
内容:①移民について知る。(数、国、時代)
13:20~14:00
②岩手県和平村開拓団のもとにきた「南米に移住する」という話について、賛成反対のロールプレイをする。
③実際の話をし、課題を説明する。
千葉みどり氏/山内洋美氏/安藤紀子氏/庄司洋一氏
14:00~14:10
休 憩
ルワンダ 小学校チームの授業 ねらい:自分にできることを考える
知る:ニュースを見て、困っていることを考える、どこで何が起きて、どんな団体が支援しているか調べる。
付箋紙に世界のニュースを書き出し、グループ分けし、発表。出てきたグローバルイシュー
(人権、自然災害、
14:10~14:50 環境問題、宗教民族、イスラム圏女性問題、紛争、病気、自然災害、原油安、マグロの乱獲、海底資源、帆言
調査妨害、水の安全、難民、為替相場の暴落)
調べる:支援団体について報告書などを参考にして信憑性について調べる。
橋場哲氏/小池亜季氏/武田渉氏/遊佐理子氏/笹原寛氏
14:50~15:00
休 憩
15:00~15:10 閉会行事
清水 千絵
― 6 ―
各派遣国の研修内容発表。スペイン語にて
「カエルの歌」を披露(パラグアイチーム)
研修先で披露した「虹」の再演
(ルワンダチーム)
実践授業の発表
実践授業の発表
同時開催で行なった過年度参加者向け研修
県ごとに集まり「開発教育のネットワーク」を
広めるための話し合いを行なう(青森県)
持ち寄った実践授業案を元に
「より良い授業案」を考える
「より良い授業案」を発表し意見共有を行なう
― 7 ―
各学校での実践授業の様子
中田 伸幸 教諭(青森県)
千葉 みどり 教諭(岩手県)
松倉 晶子 教諭(宮城県)
加藤 奈々 教諭(宮城県)
庄司 洋一 教諭(山形県)
山内 洋美 教諭(宮城県)
安藤 紀子 教諭(山形県)
― 8 ―
2 .海外研修
日程
主要データ・地図
コラム
JICA 東北支部 HP も併せてご覧下さい。↓
http://www.jica.go.jp/tohoku/enterprise/kaihatsu/kaigaikenshu/2014par/index.html
日 程
日順
月日
1
8月4日
(月)
成田空港集合→成田発→アトランタ経由
2
8月5日
(火)
サンバウロ経由→アスンシオン到着
3
8月6日
(水)
4
8月7日
(木)
5
8月8日
(金)
6
8月9日
(土)
研 修 行 程
内 容 ・ 備 考
JICA パラグアイ事務所訪問
谷口所長と大石職員よりパラグアイ及びパラグアイにおける JICA 事業のブリーフィングを受ける。
パラグアイ日本大使館表敬訪問
上田大使を表敬し、今回の訪問趣旨を伝達、意見交換。
アスンシオン市内にて教材等購入
ショッピングセンターの書店・文具店にて教材等購入。
NIHON GAKKO 訪問
日本で研修を受けた創始者が日本の教育手法に感銘を受けて設立した私立学校。
教員、生徒による歓迎セレモニー、施設・授業見学後、パラグアイの教育制度及び NIHON GAKKO の
教育方針についての説明と意見交換。
メルセデス・ミルトス小学校訪問
青年海外協力隊員が配属されている地元の公立小学校。
教員、生徒による歓迎セレモニーの後、協力隊員から活動内容についての説明を受け、意見交換。授業
見学の後、生徒と給食を一緒に食べたり、新聞紙で兜を一緒に折って交流を深める。
エンカルナシオン障碍者支援センター訪問
現地 NGO が運営している施設。運営委員長から概要説明を聞き、施設見学後、意見交換。
ラパス市で活動する日系青年海外協力隊員との 日系の方が経営する食堂で昼食を取りながら、 3 名の協力隊員より「ラパス市総合コミュニティ開発プ
昼食
ロジェクト」活動の説明を受ける。
ラパス市役所及びラパス農協・製粉工場訪問
ラパス市市長を表敬後、ラパス農協にて日系社会の歩みを説明いただき、製粉工場を見学。
トリニダ遺跡見学
世界遺産にも登録されている、18世紀にイエズス会により宣教の目的で作られた「ミッション村」の遺
跡を見学。
イグアス日本語学校訪問
日本式朝礼に参加後、授業見学。非日系の生徒の姿も見られる。教育制度上の学校とは認められないた
め、、通常は地元の学校に通い、週に 2 日ほど日本語学校に通う。
イグアス日本人会連合会訪問
日本人会会長を表敬、イグアス移住地の歴史・概要・課題等を説明いただく。
イグアス日本人会連合会デイサービスなのはな
訪問
協力隊員が配属されているデイサービス施設。協力隊員に概要や課題を説明いただく。
イグアス日本人会連合会採石場・イグアス日本 日本匠センターは、日系移民の歴史が分かる資料展示館。日本人会が所有する採石場を訪れた後、日本
匠センター訪問
匠センターを見学。
7
8
イグアス日本人会との懇親会
日本人会会長をはじめ、日本語学校校長、ホームステイ時のホストファミリーのみなさん等総勢30名が
出席。
8 月10日
(日)
ブラジル・イグアスの滝見学
休日を利用し、世界遺産でもある滝を訪問。任意であったが全員が参加し、お土産等も購入。
ホームステイ
おもに東北出身の日系家庭に 2 人 1 組でホームステイ。夕食を囲みながら移住前から現在までの話に花
が咲いた。
8 月11日
(月)
サン・ホアキン市食品フェリア見学
協力隊員の配属先である USF(家族保健ユニット)が主催する、妊婦健診率向上を目指すイベント(寸
劇やダンス、詩の朗読、地元野菜を使った料理の試食等)を見学。
プライマリーヘルスケア体制強化プロジェクト
見学
実施中の JICA 技術協力プロジェクトの概要説明を受ける。
イグアス湖流域総合管理体制強化プロジェク
ト・イグアス湖見学
実施中の JICA 技術協力プロジェクトの「イグアス湖」の美しい夕陽を見学。
ホームステイ
ホームステイ 2 日目(最終日)。名残惜しさが残る。
9
8 月12日
(火)
イグアス湖流域総合管理体制強化プロジェクト イグアス市・マヨルキン市・オカンポス市をまわりながら、地域の資源を有効活用している方々
(ひょう
見学
たんに細工・販売している方、多肉植物や蘭を栽培している方、バイオガス・野菜の複合農家、開拓農
家、イグアス湖畔植林活動家等)のお宅を見学。開拓農家では地元野菜を使った昼食をいただく。
10
8 月13日
(水)
ニャンドゥティ文化センター
地元のニャンドゥティ製作者からの説明を聞き、ニャンドゥティ
(*)を購入。
* パラグアイの先住民族・グアラニー族の言葉で「蜘蛛の巣」を意味し、パラグアイ・レースとも呼ば
れるカラフルな伝統的な民芸品。
カテウラ音楽団訪問
ゴミから作った楽器を演奏する子供の楽団。練習風景を見学し、創設者のファビオ氏及び支援者から現
在の状況を説明いただく。
アスンシオン市卓球センター訪問
シニアボランティアの活動先の一つである地元の卓球練習場。状況の説明を受け、見学。
懇親会
パラグアイの民族的な楽器「アルパ」
(パラグアイハープ)教室にて、地元の奏者が演奏するアルパを
聞きながら、お世話になったスタッフとの懇親会。
11
8 月14日
(木)
JICA パラグアイ事務所訪問
谷口所長に研修報告、挨拶及び意見交換。
アスンシオン郊外ランパレの丘見学
アスンシオン市を一望できる丘から、先の水害で浸水の被害を受けた「カテウラ」地区の浸水被害を目
の当たりにする。カテウラ地区は最貧困地区の一つといわれている。また道中、トタンを被せただけの
質素な住居で避難生活を送っている様子が、車窓から伺えた。
アスンシオン市内にて教材等購入
ショッピングセンターのスーパーマーケット、書店・文具店に教材等購入。
アスンシオン空港発→サンパウロ経由
12
8 月15日
(金)
アトランタ経由
13
8 月16日
(土)
成田到着
― 9 ―
在パラグアイ日本大使館訪問
パラグアイと日本の深いつながりを知る
NIHON GAKKO で歓迎のセレモニーを受ける
街角での一コマ
到着日の夕食の風景
日本の生徒が折った鶴に興味津々の子供たち
メルセデス・ミルトス小学校
授業の様子
ラパス農協の製粉工場を訪問
― 10 ―
メルセデス・ミルトス小学校にて
生徒と一緒に兜を折って交流
休日に訪れた世界遺産「イグアスの滝」
イグアス日本人居住地の象徴の鳥居にて
イグアス日本人会の方々との懇親会
ホストファミリーとご対面
エンカルナシオン障碍者支援センター訪問
青年海外協力隊の活動現場を訪問
食生活の重要性を訴える隊員
― 11 ―
小規模農家を訪問
牛の糞からバイオガス作り体験
パラグアイの国民的飲料
マテ茶用のポットやカップ
手づくりのギターを奏でるカテウラ音楽団の子供たち
音楽団創設者の指導者とともに
ニャンドゥティ文化センター訪問
技術を伝承する女性から作り方を教えていただく
アスンシオン市内を見渡すランバレの丘からの景色
水害被害の様子が伺える
― 12 ―
パ ラ グ ア イ 主 要 デ ー タ
出典:外務省ホームページ ・面積:40万6,752平方キロメートル(日本の約1.1倍)
・人口:約669万人(2012年、世銀)
・首都:アスンシオン(人口訳51万人)
・民族:混血(白人と先住民)95%、先住民 2 %、欧州系 2 %、その他 1 %
・言語:スペイン語、グアラニー語(ともに公用語)
・宗教:主にカトリック(信教の自由は憲法で保障)
・政体:立憲共和制
・元首:オラシオ・マヌエル・カルテス・ハラ(2018年 8 月まで)
・議会:二院制(上院45、下院80、任期 5 年)
・経済状況:主要産業は農牧畜業で、輸出総額の 8 割以上を占める。長く続いた経済停滞から脱却し
つつあるが、貧困層の生活改善にまでは至っていない。2009年は、国際金融危機の影響により、マ
イナス成長(-3.8%)となったが、2010年は農業生産の回復とメルコスール(南米南部共同市場)
諸国の景気回復により、15%の成長を遂げた。
(第45回メルコスール首脳会議にて、パラグアイの
メルコスール参加権の一時停止措置が新政権の発足する 8 月15日で解除されることが決定された。
しかし、同会議において、パラグアイが正式加盟を認めていないベネズエラが議長国に就任したこ
とにパラグアイが反発。現時点でのパラグアイのメルコスール復帰の見通しは立っていない。
)
2011年もプラス成長は続き、2011年 8 月にはスタンダード&プアーズ社がパラグアイの長期ソブリ
ン格付けを引き上げた(B+ から BB-)ほか、2011年の経済成長率は3.7%(パラグアイ中銀)
。
2012年は干ばつの影響もあり、マイナス成長(-0.9%)となった。
・軍事力:(1)予算:約248百万ドル
(2)兵役:徴兵制
(3)兵力:陸軍7,600人、海軍1,950人、空軍1,100人)
(出典:ミリタリー・バランス、2011)
・主要産業:農牧業(綿花、大豆)
、牧畜業(食肉)
、林業
― 13 ―
訪問先地図
(出典:http://www 2 m.biglobe.ne.jp/ZenTech/world/map/Paraguay/Map_of_Paraguay_and_neighboring_countries.htm)
(出典:http://www 2 m.biglobe.ne.jp/~ZenTech/america/paraguay.htm)
― 14 ―
コ ラ ム
1 日目 8 月 4 日(月曜日)
『出発』
長い一日の始まりである。13時55分に成田空港第 1 ターミナル北ウィング B カウンター前に集合。
10分前には全員揃っていた。荷物を預けた後に撮った集合写真の顔は希望に満ち溢れていた。 3 機の
飛行機を乗り継いで到着したパラグアイの首都アスンシオンは、とても綺麗に整備された街並みだっ
た。集合から到着までは30時間を越えたが、南米の大地を踏みしめたとき、その疲れは吹き飛び、こ
れから始まるパラグアイでの研修に大きな期待を抱かせた。
(コラム提供:青森明の星中学・高等学校 中田 伸幸)
2 日目 8 月 5 日(火曜日)
約34時間の移動を経て、地球の裏側パラグアイ・アスンシオン
に到着。さすがに遠かった…。空港では現地 JICA 事務所の大石
未来さん、通訳の高橋ナルミさんが出迎えてくれた。これ以降、
移動は全てバス。
バスで市街地に向かいながら、道路の脇にはラパーチョの花が
咲いていた。日本でいう“桜”で、季節の訪れを知らせる花だそ
う。市街地の路面状況は良好。
さて市街地に入り、最初は両替所へ。それぞれが円→グアラニー
(またはドル→グアラニー)に両
替したが、通貨グアラニーはとにかく“ 0 ”の数が多い。お札の状態もプラスチック製ではなく、メ
モ書きがされた紙製のものも流通している。
両替したてのグアラニーを握りしめ、現地の観光センターへ向かった。そこには日本語のパンフ
レットもあり、一か所でパラグアイの工芸品を見ることができた。パラグアイでは銀を細く糸のよう
に伸ばし、紡いで形を作る銀細工が有名であるが、ここ観光センターには種類が豊富に取り揃えられ
ていた。
続いて一行は露店街へ。この露店は観光客相手に開かれているものが多く、小さな店の中にたくさ
んの種類の商品がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。ここでは現
地の正装である、
“アオ・ポイ”を購入。
“アオ・ポイ”は麻製の
シャツに色とりどりの刺しゅう糸で刺しゅうを施したものであ
る。購入した“アオ・ポイ”は65,000グアラニー。日本円に換算
すると、約2,000円弱。女性用だけでなく男性用もあり、形も様々
であった。
夕食はファストフード店の外席で、エンパナーダ(肉まんを油
― 15 ―
で揚げたもの。中身ぎっしりで 1 個で十分)を食べる。この辺りから長時間フライトの影響が出始め、
話をしつつもうつらうつらとしてしまう。
夕食を済ませ、一行はホテル内山田へ。ホテルスタッフは日本語が堪能。レトロな作りの部屋にて
ゆっくり休もう…と思うが、時差ボケで眠れない!スペイン語のテレビを見ながら、ゆっくりと夜を
過ごした。後で知ったのだが、どうやらこのホテルのテレビでは BS を観ることが出来て、某演歌歌
手の歌が流れていたとか…。
(コラム提供:岩手県立遠野高等学校 千葉 みどり)
3 日目 8 月 6 日(水曜日)
昨夜は、各自持ってきたお土産を分けたり、出し物「マカレナ」
の練習をしたりしていたので、少し遅めの就寝になったにもかかわ
らず、みんな元気。内山田ホテルの朝食は、きゅうりと豚肉の炒め
物などちょっと変わった和食という感じだった。ホテルを出発し、
アスンシオン市の街並みを眺めながら JICA 事務所へ向かった。
JICA 事務所があるビルは、とても厳重な警備がされていて、
パスポートのチェックと顔認証のための写真を一人一人撮られ
た。JICA 事務所の隣は、イギリス大使館のようだ。谷口誠所長
からは、「パラグアイは、いろいろな分野で JICA の援助があり、
青年海外協力隊・シニア海外ボランティアが活躍している国であ
るので、ここを選んで正解である」という話をいただき、これか
ら始まる研修がさらに楽しみになった。また、現地 JICA の職員
である大石未来さんからパワーポイントを使った全体の概要を説
明していただいた。
日本大使館に到着。ここでもまた、厳重なセキュリティチェックを受けた。中の様子は、安全を確
保するために撮影はできなかったが、敷地は広く、日本の大庭園と同じだった。建物内には、書道の
掛け軸や日本の置物などがあり、ソファーで上田大使にお話を伺った。JICA の谷口所長と同じよう
に、「日系の方は大成功した」とおっしゃっていた。この言葉の意味を、探っていこうと決意した。
上田大使は、とても気さくな方で、日系移民の史料や別館にある茶道室なども見せてくれた。また、
JICA の大石さんや通訳の高橋ナルミさんのことも知っているようで、いろいろ話していた様子から、
日系社会とのつながりが分かった。
Mariscal Lopez Shopping で教材購入と昼食。大きくてきれい
なショッピングモールだった。現地の教科書や地図などを買った。
言葉が分からず、通訳のナルミさんに頼って購入。私立学校で使
われている教科書を入手できた。
昼食はフードコートでビュッフェ
スタイル。釜がありアサード(牛肉の炭火焼き)を食べたい分だ
け切ってもらい、ファロッファ
(タピオカの原材料となるキャッサ
バ芋をすりおろし、乾燥させたものをオニオン、ガーリック、香
辛料、ハーブなどで味付けしたもの)をかけて食べてみた。
― 16 ―
NIHON GAKKO では、素晴らしい歓迎を受けた。他国でここまで日本語を話すことができ、日本
の文化を学んでいることに驚いた。 1 歳半から大学生までがここで学んでいる。復唱教育が主であっ
た。また、茶道などを教わっている中学生がいた。教室に入ると、子どもたちが私たちを見て起立し、
自然体の授業の様子は見られなかったのが残念だった。
興味深かったのは、施設見学の途中で、休憩があったことだ。飲み物や軽食が準備されていた。そ
れは、パラグアイ人は軽食など準備されていないと訪問しないことが多いと聞いた。見学終了後、日
本で研修を受けていたという先生がプレゼンを行った。教育への意識の低さが問題だということを再
確認したとともに、未来を担う子どもたちなのだから、教育にお金をかけるべきだと改めて感じた。
NIHON GAKKO の先生方のとても熱心でさらに教育の質を上げようとする姿が印象に残った。
NIHON GAKKO を後にしホテルに向かう途中、ガソリンスタンドに立ち寄った。テレレ(冷た
いマテ茶)を飲みながら談笑する方がいた。あんなに大きな物をだれもが当然のように持ち歩き飲ん
でいる。とても面白いと思った。夕食はアサード。アサードは塩がきいてしょっぱい。
パラグアイ一の教会の近くに宿泊した。朝食は、チピタ(マンディオカ〈別名キャッサバ〉という
芋の粉などで作るパンの一種)などが出た。
(コラム提供:仙台市立寺岡小学校 加藤 奈々)
4 日目 8 月 7 日(木曜日)
ホテル出発 8 :00。
40分程でメルセデス・ミルトス小学校へ到着。
緩やかな斜面に建つ平屋の可愛らしい校舎。緑豊かな山あいに 1 年生から 9 年生までの教室が連な
る。朝から昼間まで、朝から給食を食べて午後まで、午後からという三部制で通う子供たち。40名あ
まりの教員と 3 歳から15歳くらいの220名ほどの子供たちがこの学校に時間を違えて集い学ぶ。
始業までの間、子供たちは思い思いの場所で、思い思いの活動に勤しんでいる。至るところに雑草
が伸びる傾斜地の〝校庭〟で生き生きと走り回る子供たち。学年は関係なくみんなでサッカーボール
を追いかける。朝のひんやりとした空気の中でも子供の額にはびっしりと汗が流れる。
ゴールに向かっ
ているようにも、戯れているようにも見える。どの子も生き生きと満面の笑みだ。
〝知らない私たち〟
に動じることもなく「Hola !」と気軽にあいさつを交わしてくる。おおらかで自由な朝の風景が広がっ
ていた。
校舎の一角、校庭に面して朝から開く売店にはお菓子やパン、エンパナーダが並ぶ。塊になって並
― 17 ―
ぶ子供たちは小額を握りしめ、目を輝かせて自分の好みのものを選んでいる。買ったモノはすぐに口
に入れ、また自由に走り回る。始業前のおやつの風景に異国の学校を感じる。ありふれた光景が異な
る。学校のあり方が日本とは大きく違うのだとこんなところからも実感する。しかし、子供たちは天
真爛漫、明朗活発、世界中のどこでもこの姿は同じに違いないと確信させられる。赤い土にまみれ、
薄汚れた格好もだれも気にする風もない。
時間を告げるのは教員が鳴らす鐘。鐘の音が届かないような遠くからも一目散に集まる子供たち。
校舎前のコンクリートで整備された空間に整然と集合した。決められた順に整列したようで、いつの
間にやら朝礼が始まった。前に並び紹介される私たちに視線が集中する。私の拙いスペイン語のあい
さつにも熱心に耳を傾けている。みんな揃って大きな声であいさつを返す瞳は好奇心でいっぱいだ。
1 時間目の授業が始まる。各教室を参観させていただく。雑然と並べられた不揃いの机に違和感を
覚える。教室によってもその風景は様々に変化する。ある教室の机と椅子は個人で準備したものとの
こと。一人一人、明らかに違う形、大きさの机と椅子。肩肘が机を兼ねるモノもある。教室の床も凸
凹で机も椅子もガタガタと落ち着かない。聞けば教科書も揃わず、持っていないのも普通のこと。だ
から授業の黒板は先生の書いた文字でいっぱいだ。黒板が教科書になり、ノートに書き写して教科書
をつくる。日本の学習環境との違いはあまりにも大きすぎる。しかし、この中で学ぶ子供たちの笑顔
は変わらない。学ぶ環境を整えられたら…と思わず考えてしまった。今ある環境の中でよりよい学習
を目指し、尽力されている先生方のご苦労が忍ばれる。この学校では 8 月から無償の給食を準備し、
教育活動の充実に努めていることを最後の懇談で伺った。
昼食の時間、保護者の差し入れまで一緒に盛られたワンプレー
トの給食をいただく。校舎の一角の調理場で朝から準備されてい
たものを自然にできた列に並び、一人一人受け取る。学年もクラ
スも関係なく整然と列をなす。受け取ると自分のクラスの席に戻
り、ランチョンマットを敷いて順次いただく。いつの間にやら先
生も含め、みんな食べ始めていた。午後から〝Origami〟をする
4 年生のクラスで一緒にいただく。遅れをとり、座る場所を探す
私に一人の少年が机の隅をすっと空けてくれた。それぞれの机で
無言で食べるのがマナーのようだ。今回は私たちがしきりに話し
かけるので、マナー違反でおしゃべりに応じてくれた。この日の
ために、一人一人の机にはカタカナの名前が表記してある。名前
を呼ぶと、はにかみながらも嬉しそうに返事をする。私が胸に付
けた名前「akko」は発音しにくかったようで「あこ↓」
「あこ↑」
― 18 ―
と私の反応を見ながら呼び返してくる。そんなことをしているうちに次々と食事を終えていく子供た
ち。下膳は食べ終えた子供からのようだ。先生の前にはいつの間にか、大きなバナナの房が置かれて
いた。自由にもいで頬張る。そしてまた歯ブラシを握りしめて走り去る。きちんと習慣化されている
のだと感じられた。
午後、 4 、 5 年生の 2 クラスで〝Origami〟の授業をさせていただいた。どちらも10人ほどの生徒
が在籍している。先ずは世界地図を示し、日本の位置を紹介する。アジアの島国「日本」は遙か彼方
だ。知る子供も少ない。話しながら、地球の反対側にあるこの地を実感する。準備していった Movie
を流し、手順の写真を示し、折り方を説明する。みんなで一斉に〝かぶと〟を折る。小さな折り紙の
角と角を合わせるのはちょっと難しいようだ。苦戦する子供も…しかし、一人一人を私たちでサポー
トしてみんな上手に折り上がった。次に新聞紙を折り紙にして実際にかぶれるサイズに挑戦。すいす
いと手を動かし、器用に折り進める子供の姿にちょっと驚いた。理解が早い。頭にかぶり、ちょっと
誇らしげな表情になる。どの子も満足気だ。子供たちの顔を見て私もホッとする。
この日の研修の締め括りに、回って来ていた教育委員さんを交え懇談の機会をいただいた。よりよ
い学校教育を目指し、少しずつ改善を図っている状況が伝わってきた。JICA ボランティア派遣の夏目
さんは算数・数学教育の効果的な教授を行うために「Mapara」と命名した指導書の編纂と教授法の講
習を現地教員と共に進めている。日本のしっかりとしたカリキュラムがここでの基礎となり、しっかり
と生かされている。こんな地道な活動が日本の教育力を世界に伝え、広めている。日本に学び、日本
を目指すパラグアイの学校に誇れる教育ができるように日本の教員として努めていこうと心に誓った。
14:20学校を後にする。この日のホテルがあるエンカルナシオン市まで 5 、 6 時間の道のりをひた
走る。延々と続く広い台地。いつの間にやら暗くなり、街灯の少ないこの地では周りの風景がよくわ
からないまま20:00頃ホテルに到着した。
(コラム提供:仙台市立西多賀中学校 松倉 晶子)
5 日目 8 月 8 日(金曜日)
今回のホテルで一番豪華で快適だと聞くホテル・デ・ラ・コスタ(エンカルナシオン市)で目覚め
る。朝食も種類が多くておいしく、ついつい食べ過ぎる。それにしても野菜がないなあ、と思う。レ
ストランの窓からはパラナ川が、そして対岸のアルゼンチンが見渡せる。河川国境をまじまじと眺め
るのは、実は初めて。渡るのに車で10分はかかるというその橋が架かってなければ、確かにそう簡単
には渡りようがないと感じる。そして、今日もまた忘れ物がないように荷造りをして、出発。エンカ
ルナシオン市は確かに大都市で、ホテルだけでなく周辺の建物も中高層のものが多く、片側 2 車線の
― 19 ―
道路を、日本車を含めたくさんの車が走っている。
最初の訪問先は、ホテルから車で30分くらいのところにある障
がい者のための NPO・CENADE。教育文化省生涯教育局の認可
を受けて、障がい者に対する専門的な教育や理学療法などを無償
で実施しており、JICA ボランティアがいたこともあるという。
1986年にここをはじめられた方の娘でもある理事のグラディス・
ベルガラさんにご案内いただく。ちょうど、通所の人たちが訪れ
る時間だった。入ると、入口に近い棟には、医療関係施設、真ん中の棟には教室や実習・リハビリ施
設、一番奥の棟には遠くから来る人たちのための宿泊室と食堂があった。さらに奥に工事中の 2 階建
ての建物があった。子供と大人のリハビリ棟を分け、プールなども作りたいのだが、資金不足で果た
せていないとうかがった。国からも運営予算はついているのだが、年度の最後のほうは来なかったり
するとも。それで、自己資金を調達しなければならず、バザーをしたり、工事現場におかれたたくさ
んのペットボトルを換金するのだともうかがった。教室をのぞくと、子どもたちはそれぞれ数人の小
さなグループに分かれて、新聞紙をリサイクルしたカラフルな可愛い袋を作っていたり、それぞれに
合わせた勉強をしたりしていた。教室にお邪魔した時などに、晶子先生が持参した鶴をあげたら、と
てもうれしそうだった。鶴をいろんな方向から眺めている子どもたちの様子に、日本の子どももパラ
グアイの子どもも変わらないと感じた。そしてグラディス・ベルガラさんをはじめ、スタッフは熱意
にあふれ、パラグアイの障がい者のためにと使命感に燃えているように感じられた。
エンカルナシオン市を出てしばらく走ると、どんどん周りの風景が赤っぽくなっていく。土がテラ
ローシャに変わっていくのだと気づく。 1 時間ほどで通訳のナルミさんの故郷でもあるラパス市に着
いた。まず日系のスーパーを覗き、その品揃えと店の佇まいに、母の田舎の雑貨屋にでも行ったよう
な錯覚を覚える。ナルミさんも馴染みだという日本人の経営する食堂で、JICA ボランティアの方々
も一緒に昼食を頂く。チャーハンやラーメン、かつ丼など、パラグアイ料理のメニューとともに日本
の懐かしい味のメニューが並ぶ。今回お世話になる阿部江里さんが宮城県農業高校の先生ということ
もあって、共通の知人の話で意気投合する。こうして、ますますパラグアイにいる気がしなくなって
くる。周りの風景はどう見ても赤茶けた南米大陸の風景だというのに。
ここでは【ラパス市総合コミュニティ開発プロジェクト】が行われており、まず日系の市長がい
らっしゃるということでラパス市役所を表敬訪問する。その後、ラパス農協でラパス市の日系社会に
ついてお話を伺い、農協の方にご案内いただいて、製粉工場を視察する。アメリカのような大規模な
圃場と大型機械を持っており、製粉工場もフル稼働していた。製粉工場は日系人が監督し、作業の多
くはパラグアイ人が行っている様子であった。工場の上に上がると、広々とした耕地が見渡せた。ま
るでカリフォルニアや南アフリカを訪れた時のような風景だった。かつてはうっそうとした亜熱帯林
であったこのテラローシャの土を耕し、これだけの耕地に仕立て
上げる苦労を思うと、気が遠くなるようだった。そしてそこで故
郷と変わらない暮らしを作り上げてきた日系人の思いを想像しよ
うとしたが、とても想像の及ぶところではなかった。
日が傾き始めた中を、 1 時間ほど南西に移動してトリニダー遺
跡についた。唯一の世界遺産。ぽつぽつと人家の点在する中に、
その遺跡はあちこち崩れながらも美しく佇んでいた。17世紀にこ
― 20 ―
こに移り住んだスペイン人宣教師たちの思いと先住民グアラニー
族の人たちの思いが重なり合ってこの遺跡があるのだと思ったと
き、不思議な気持ちになった。ここを世界遺産にしようと思った
パラグアイ人たちは、パラグアイ人とはどのような人たちかと問
われたときに、何と答えるのだろうかと考えたのだ。ラパス移住
地に暮らす日本からの移住者、その子孫たちは日本人なのか、パ
ラグアイ人なのかと考えるように。日の暮れたでこぼこ道を走る
バンの中でうとうとしながら、そんなことを考えつつ、夜遅くにイグアス居住地に着いた。
(コラム提供:宮城県塩釜高等学校 山内 洋美)
6 日目 8 月 9 日(土曜日)
イグアス日本語学校
この日は朝 7 時からの朝礼に合わせて、それぞれの宿泊先から
直接学校へ集合。私と加藤先生、中田先生は福岡旅館に宿泊して
いたので、学校までは徒歩で向かった。少し肌寒い中、大鳥居の
ある中央公園を抜けると学校が見えてきた。校門近くの掲示板を
見て思わずクスッと笑った。そこには「アナ雪」のエルサのイラ
ストとともに「私は寒くないけど、みんなは風邪をひかないで
ね。」の注意書きが…。佃校長に出迎えられ、他の先生方の到着
を待つ。子どもたちが続々と登校し校庭に整列すると朝礼が始まった。パラグアイと日本の国旗掲揚
に続き、ラジオ体操第 2「!?」平静を装いなんとか無事に体操をこなす。周りを見ると他の先生方
もなんだか動きがぎこちない。子どもたちも早朝ゆえに体が硬い。
1 時間目の授業が始まり、私たちはそれぞれ小学部、中学部、高等部の授業を見学。私は佃校長が
受け持つ小学部低学年のクラスを見学させていただいた。教科書にびっくり!私の息子、娘が小学校
で使っているのと同じ!光村図書ではないか。児童に音読をさせ、ひらがなの練習。書き順を丁寧に
指導されている様子を見てさすが日本人の先生だなと感心することしきり。
その後、私が児童に日本の小学校の様子を紹介したり、一緒に折り紙を作って遊んだ。子どもたち
は日本の子どもたちの持つカラフルなクーピーやキャラクターものの筆箱などに興味を持っていたよ
うだ。ランドセルをわざわざ日本から送ってもらった児童もいて、どこの親も子どもの入学準備には
お金をかけるのね。日本の学校の写真の中に、水泳バッグが写っていて、
「これは何?」と聞かれた。
日本の学校にはプールがあって水泳の授業があること、水泳大会もあることを伝えると子どもたちは
驚くと同時に感心していた。
パラグアイの公立学校では見られなかった「清掃」にもしっかり取り組んでいた。中学部の生徒に
どう思うか尋ねてみると、
「面倒くさいけど、気持いい」と答えてくれた。事実、彼女のモップがけ
はかなり気合が入っていた。
「家庭で日本を話さない子どもが増えていて、年々日本語の指導が難しくなっている」と先生方は
心配されていた。今後 4 世、 5 世の時代を迎えるにあたり直面する課題だろう。
― 21 ―
イグアス日本人会
日本語学校のすぐ近くにある日本人会事務所を訪問。福井一郎
会長と面会。この人が「100万丁の豆腐計画」の立案者か。イグ
アスの大豆を東日本大震災の被災地に送ってくださった方であ
る。堂々とした体躯のまさに広大なパラグアイの大地を体現した
人物であった。イグアス日本人会の歩みを DVD にて説明してい
ただいた。ちょうど前日、イグアスの農場に不法侵入者が現れ夜
通し見回りをしていたという。日本人会は警備や病院の設置など
も自分たちで行ってきたそうで、日本人会はそうした活動を通して結束を強めていった。
車で移動し、採石場を見学させていただいた。宮城県白石市出身の山内先生がしきりに「地元の材
木岩に似ている!」と指摘。農業中心のイグアスにまた新たな産業が生まれた。
デイサービスセンター視察
渡航前、私と同じ山形県出身の JICA ボランティア佐藤浩美さ
んがパラグアイで活躍していると知りお会いできることを楽しみ
にしていた。施設は新しく清潔で、お年寄りが作った人形や小物
がかわいらしい。まだまだ元気なお年寄りが多いので日本でよく
行われている「入浴サービスをまだ実施していないことが残念で
す」と佐藤さん。福井一郎会長の奥様はこの施設でのボランティ
ア活動が今一番楽しいとおっしゃっていた。お母様もここでの活
動をとても気に入っていて、みんなで集まる日を楽しみにしている。施設の裏には桜の木が植えられ、
ちらほら花が咲いていた。明日はアスンシオン日本人会の老人クラブがここでお花見をするとのこと
であった。さぞきれいだろう。
イグアス日本人会との懇親会
園田さんのレストランにての懇親会を開催。午前中お世話に
なったイグアス日本語学校の先生方もお招きして賑やかなパー
ティーとなった。この場でホームステイ先の御家族と初めての御
対面。私は山形県出身の石井さん御夫婦と。私と年齢の近い娘さ
んが 4 人もいるそうで、もう一人の娘として追加してもらえたか
な?石井さんの母校の話で大盛り上がり。遠く山形を思う気持ち
がひしひしと伝わった。昨年、山形県人会発足50周年を祝い、山
形県知事がパラグアイを来訪されたことをことのほか喜んでおられた。実は知事と私は同じ町内出身
者。地球の裏側とのひょんな御縁。世界は広し。されど世間は狭し。
(コラム提供:山形県立寒河江高等学校農業校舎 安藤 紀子)
― 22 ―
7 日目 8 月10日(日曜日)
気温20.7度の朝。イグアスのペンション園田で全員が合流し、研修中唯一の観光ともいえるイグア
スの滝へと向かう。この日のガイド兼ドライバーを務めてくれたのは、園田パブロさん。ペンション
園田に事務所を構え、主に日本人を相手に観光ガイドをしているという。その園田さんから、イグア
スの滝での注意点を車の中で伺う。チームパラグアイのメンバーは、はやる気持ちを抑えながら話に
聞き入る。一つ目、ハナグマに食べものやお菓子を与えない。かわいいけどかなり凶暴なので注意す
ること。二つ目、滝の近くまで行くことができるがびしょ濡れにはならない。でも、風向きによって
滝しぶきが来るので濡れることは間違いないのでカッパを着用すること。三つ目、この車は公園内に
乗り入れることはできないので、国立公園内10キロは専用バスで移動する。公園内で滝に向かうとき
に約1.5キロ歩く。
イグアスを出発して 1 時間、ブラジルへ入国。入国審査は待ち時間もなくスムーズであった。そし
て、パラグアイとブラジルを結ぶ「友情の橋」を渡るとそこはブラジル。ラ・プラタ河の主流である
パラナ河をまたぐこの橋の欄干には、色で国境がわかるようになっている。何とも粋なペインティン
グだ。橋を渡りブラジルに入ると街並みもパラグアイとは違って見える。信号の形、看板の作り方、
ネオンサインなど陸続きなのにこんなに文化が違うのかと実感する。特に信号は F 1 のスタートシグ
ナルのようになっている。園田パブロさんの話では、ブラジルの国民的英雄 F 1 ドライバー故アイル
トンセナの影響らしい。ブラジルに入ると道路沿いで日曜市が開催されていた。前日のイグアス日本
人会との懇親会で日本語学校の福岡先生がたこ焼き屋を出しているとの情報を得ていたことから、目
を凝らして店を探す。
「名物たこ焼」という日本語ののれんが見えた。車を止めてもらい、早速たこ
焼き屋さんへ向かうと「ほんとに来たの!」と福岡先生に逆に驚かれてしまった。ブラジルで食べる
日本のたこ焼き。場所は変わっても味は「たこ焼き」そのものであった。
そしてイグアス国立公園に到着。入場ゲートを通り、二階建てバスに乗りイグアスの風を体いっぱ
いに受けながら滝へ向かう遊歩道入口に到着。いよいよ世界三大
瀑布の一つイグアスの滝へ!歩き始めて 5 分ほどで滝が見える場
所に到着。一斉に写真を撮る。しかし、ここはまだ端っこの方だ
と知ると、あの本の写真で見た滝はどこだと胸が躍る。今回の研
修では、ブラジル側からアルゼンチン側の滝を眺める。そして、
悪魔の喉笛と評される場所を目指し、 1 時間ほど歩く。一同カッ
パを手に取り防水対策。幅 2 メートルほどの鉄製の道を進み展望
「名物たこ焼」がブラジルに
台へと向かう。途中滝しぶきでカメラを濡らしながらの撮影が続
く。デジカメはここで終わりかと思いながらも先へ進む。すると
そこには想像を絶する滝の姿が目の前に広がった。聖なる水イグ
アス。本で見るのとは全く違う光景がここにはあった。滝しぶき
を眺めていると滝の中に虹がかかる。目の前に広がるこれらの光
景は、世界三大瀑布の一つに数えられるのにふさわしく、三大瀑
布を制覇する者の多くが最後に訪れるという言葉に納得させられ
る。水の落差、大きさ、幅、滝しぶき、すべてが想像を絶し、見
る者すべてが感動と躍動を胸にする。
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しぶきの中
果敢に集合写真を撮る面々
感動を味わったところで昼食。川と滝を眺めながらのブラジル
料理の味を堪能した。ハナグマが描かれているバスに乗り、公園
出口へと向うメンバー全員の顔には、満面の笑みがあふれていた。
パラグアイに戻った面々は、ホームステイ先へと向かって
いった。
(コラム提供:山形県立村山産業高等学校 庄司 洋一)
イグアスの滝を眼下に
ブラジルの味を堪能
8 日目 8 月11日(月曜日)
『イグアス市からサンホアキン市へ』
今日は朝早くから行動する。
ホームステイ先の堤さんのお宅は、
いつも朝早くから活動しているということで、 5 時に朝食を用意
してくれた。私と庄司先生は、予定時刻である 5 時30分には迎え
の車が来るのをリビングで待つことができた。各ホームステイ先
を回って、堤家を出発したのは 6 時20分頃になった。ここからサ
ンホアキン市へ約 2 時間半の移動となる。
『サンホアキン保健センター農業フェスタ ~妊産婦の健康と家族の幸せ~ 』
サンホアキン市役所広場にて青年海外協力隊の白川良美さんと現地住民で構成された家族保健ユ
ニット(USF)「サンホアキンチーム」が発表をしている様子を見学した。目的は妊産婦とその家族
への健康アプローチを強化することにある。この取り組みは、妊産婦の死亡率や乳児死亡率、 5 歳未
満児死亡率が高いことが背景になっている。そこで、この USF では地域住民の食生活の実態と栄養
補給の改善を図るためにアンケートをとり、住民の野菜不足と栄養バランスの偏りが目立ったため、
栄養の基礎講座( 3 大栄養素について)等について模造紙にまとめ住民にその重要性を訴えていた。
その他にもフェスタでは劇や民俗舞踊、ダンスなどが催され大盛況であった。また、健康料理の発
表は、地区ごとに用意した試食品を食べることができた。こちらも好評で、各地区のブースには行列
ができていて、大いに賑わっていた。
『プライマリーヘルスケア体制強化プロジェクト』
プロジェクトチーフアドバイザーである小川雅子専門家からプ
ロジェクトの概要をパワーポイントで説明していただいた。
最終的な目標を「プロジェクトの対象地域において、母子保健
水準が向上すること」とし、そのために、プロジェクト対象地域
において前述の USF を核とした保健医療サービス体制の整備を
進めるという計画である。期待される成果として、次の 4 つが考
えられている。 1 つ目として、厚生省において、保健医療サービ
ス(USF を含む)における PHC 体制が明確にされる。 2 つ目と
― 24 ―
して、カアグアス県における USF 活動に関係する保健行政機関、保健サービス提供機関およびガバ
ナンス(医療審議会)の運営管理能力が向上する。 3 つ目として、カアグアス県における USF の包
括的マネジメント能力(臨床的、行政的、住民参加促進)が向上する。 4 つ目として、県レベルの救
急連絡体制の確立が支援される。
このプロジェクトは、資料にあるように地域住民の健康を保持するために、政府・地方自治体・住
民が一体となって取り組むことができ、今後は USF がさらに存在感を示していくことで地域密着型
の活動がなされると期待されている。
『イグアス中央公園・イグアス日本人会』
イグアスに戻り、イグアス中央公園前にある有名な鳥居の前で
集合写真を撮ることができた。ちょうど催し物に向けてペンキの
塗り直し作業をする所だった。公園内には、今の天皇・皇后両陛
下が皇太子であった時代に植えられたラパチョの木があり、パラ
グアイにいながら日本を体験できるという不思議な時間を過ごし
た。日本語も飛び交っていた。
『イグアスダムの夕焼け』
イグアス湖流域総合管理体制強化プロジェクトの一環として、
美しい夕焼けを眺めることができた。自然を活かした観光業の観
点から、多くの人に夕日を見にきて欲しいということがイグアス
ダムでのプロジェクトの目的である。徐々に沈んでいく太陽を、
時間を気にせずに見ることができるのは、とても贅沢な時間に思
えた。また、パラグアイでは夕日だが、時差を考えると、日本で
は朝日として同じ太陽の光を受けている人がいるかもしれないと
思うと、改めて遠い所にきたのだと実感させられた。
(コラム提供:青森明の星中学・高等学校 中田 伸幸)
9 日目 8 月12日(火曜日)
イグアス湖流域総合管理体制強化プロジェクト
この研修のバス移動はとにかく長い。時速100キロ以上で走り
続けること 5 時間…なんて日もざらにある。
本日はオカンポス市にて各プロジェクトの見学。前日の夕方、
イグアス湖の美しい夕焼けに圧倒され、パラグアイの自然の豊か
さに改めて感動してからの見学ということもあり、わくわく期待
しながら現場へ。
― 25 ―
①バイオガスの配給
パラグアイではいまだに薪を使って家事をしている家庭が多
い。今回見学した家庭は農業を生業とし、野菜の有機栽培に取り
組んでいた。この家庭がバイオガスに着目した理由は、山林が減
少しており、たき火ができなくなってしまったからだ。そこで牛
フンを使ってのバイオガスを考えるようになった。このバイオガ
スの設備は手作り感満載で、近くに火の気があったらひょっとし
たら引火してしまうのではないか…という心配が頭をよぎる。
バイオガスは主に調理に利用している。そしてバイオガス生成の段階で残りかすが出るそうだが、
それは野菜栽培の肥料として使っている。実際畑を眺めてみると、イチゴやカモミール、レタス、ト
マト、ピーマンなどがすくすくと育っていた。これらの作物は、週に数回産直のような形で販売して
いるらしい。
しかしこの家は不思議である。
木造平屋で二部屋ほどしかないところに家族 6 ~ 7 人が住んでいる。
バイオガスが間に合わないときは、まだたき火を使って調理をしているが、一方テレビは液晶で42型
くらいの大きなものが置いてあった。
家の中が合成写真のように新旧さまざまものが入り乱れている。
どっちの姿が本当のパラグアイなんだろう…。
②ランの栽培
続いて一行は、元小学校校長の女性宅へ。こちらではランの栽
培をしている。パラグアイの原種は日本で嗅いだことのないよう
な不思議な匂いで、こちらの庭には様々なランが並べられていた。
ところでこちらのお宅にはお手伝いさんがいて、作業をしてい
た。通訳のナルミさんに聞くと、パラグアイではお手伝いさんを
雇う家庭も多いらしい。かたや先日の大雨で家を失い、バラック
生活をしている人もいて、貧富の差を感じる瞬間だった。
③多肉植物を栽培する家庭
こちらは家族( 3 人)で多肉植物を栽培している。一戸建ての
庭に大小さまざまな鉢が所せましと並んでいる。日本で見たこと
があるもの、見たことない蔓タイプの多肉植物…など、とにかく
量がすごい。 3 人家族でこんなに育てられるものなのだろうか…
と思っていたところ、どうも多肉植物は勝手にどんどん増えてい
くそうだ。そして増えすぎたと思ったら、週 1 回市場で販売して
いるらしい。
またこちらの庭にはバナナの木もある。パラグアイに来て何度も遭遇したのが、このバナナである。
木からバナナの房を刈り取った後、しばらく軒先につるして熟すのを待ったあと、お客さんが来ると
そのバナナをもぎり、差し出されることが多々ある。こちらの家庭でもバナナをいただいた。小さめ
サイズだが味は甘い。
― 26 ―
③教育庁とタイアップした工芸品
そもそもこのプロジェクトの目的は、イグアス湖流域の保全で
ある。ダムで水力発電を行うとき、必要なものはきれいな水と木
だそうだ。しかし政府としては植林を推進したいものの、民有地
のため植林をおこなうことはそう簡単なことではないらしい。そ
こでこのプロジェクトは、今後 2 か月間の EXPO を開催し、こ
の湖流域に多くの人を呼び込み、期間中、植林や工芸、湖流域に
すむ家庭への訪問、特産品などを体験してもらい、環境保全の大
切さを理解してもらう予定だそうだ。
また自治体や政府だけでなく、このプロジェクトは教育庁とタイアップし、学校を巻き込んだ活動
も視野に入れている。パラグアイの未来を担う子どもたちに“グリーンツーリズム”の大切さを理解
してほしいそうだ。
工芸品も子どもが取り組みやすいような、ひょうたんを使ったもの、卵の殻を使っ
たものなど多種多様であった。
④イグアス湖近くの小農家庭
最後にイグアス湖のすぐ近くに住む家庭にお邪魔した。この湖
流域にはたくさんの小農家庭が住んでいるが、所有している土地
3 ha のうち、一部の森林は残しておかなければならないらしい。
しかし場合によってはたき火としてその一部の森林を使うことも
可能だそうだ。
こちらの家庭では野菜だけでなく、チーズ、穀物などたくさん
の作物を育てている。庭ではニワトリが駆け巡り、小屋には子豚
もいた。パラグアイには台風や地震などが無く、また肥沃な土壌のため何を植えても育つらしい。ど
うしても育てられない油と塩だけを購入するそうだが、この生産方法になってからこちらの家庭は店
から野菜などを買わなくなった。いわゆる自給自足の生活であるが、余剰分の作物は週 1 回の市場で
売りに出すらしい。しかし売れないこともあり、現金収入として当てにできないところもあるという。
また、こちらの家庭の土地に 3 本の植林を行った。イグアス湖そしてパラグアイの環境が保たれる
こと、これからもずっとイグアス湖が美しい景観であり続けることを願った。
(コラム提供:岩手県立遠野高等学校 千葉 みどり)
10日目 8 月13日(水曜日)
朝、 6 :30から、パラグアイ一の教会のミサをのぞいた。入り
口で深々とひざまづき、十字を切る姿。どんな気持ちで来ている
のか想像しながら見ていた。
ニャンドゥティ(手編みのレース)の工場を見学。太い糸・細
い糸・白・カラフルな色などの材料と職人が持つ技の融合。細や
かな作業は、忍耐を必要とする。エウセビアさんは、52年の職人。
指導者としても45年の年月が経っている。パラグアイの伝統工芸
― 27 ―
であるニャンドゥティを残していくためには、後継者が必要であ
る。どの国でも、後継者の問題があるように思う。教育現場でも、
それらを伝えたり、実際にやってみるなどすることで、自国の伝
統を知るだけでなく、集中して取り組んだり、互いに教え合った
りする姿が見られるようになると感じた。
お昼は、ショッピングモールで具を選んでオリジナルのパスタ
を作ってもらった。値段は日本とそう変わらない。平均年収が低
いと聞いていただけに、ここに来て買い物ができる人は、裕福だ
と感じた。スーパーマーケットで最後のお土産調達。
アスンシオン市でも、一つ道を外れるとまた違う光景が見られ
る。子どもが赤ちゃんを連れてバスの運転手さんに「お金をちょ
うだい」と言った。歩道には、馬が横たわっていた。先ほどのスー
パーマーケットとはうってかわって、貧しさが垣間見られた。
カテウラ音楽団へ向かう途中は、写真を撮ることもためらうよ
うな光景だった。バスから降りるときは、荷物はぜんぶ置いていくように指示された。物が取られる
恐れがあったからだそうだ。ファビオさんに話を聞くと、貧しい子どもたちが、行き場をなくし、悪
いことに手を出さぬように始めたことだという。幼い頃から麻薬を使うなど、いろいろな事件を起こ
している子どもたちがいる。また、洪水で家が沈んだ子もここで一時的に避難生活をしているという。
楽器を作っているニコラスゴメスさんの家もなくなったそうだ。たくさんの人の支援で土地や家を買
い、家を失った子どもたちに提供する準備をしている。ストリートチルドレン(200人中22人はなり
そう)にならないように、奨学金を出している。
高い位置に土地を購入し、川沿いに住んでいる子もいるのでその子どもたちに移ってもらう。福祉
関係に力を入れていた。
ゴミ処理場には2500人の人たちが働いているという。
(子どもたちの多くは抜けたが、まだ200人も
いるようだ)政府は関与していない。おかしな話だ。
どんな音楽団にしていきたいかという質問に「他の音楽団と変わらない正規の楽器も使えて、さら
にアイデンティティであるゴミの楽器も使い続けていきたい」とおっしゃっていた。夢を持つことの
大切さを伝え、意識改革をしていた。
スポーツ庁では、卓球センターを見学させていただいた。 夕食は、アルパの演奏を聴きながらの
ビュッフェスタイルだった。とても美しい音色だった。また、瓶を頭の上に載せたダンスも見ること
ができ、最後のパラグアイの夜を堪能した。
(コラム提供:仙台市立寺岡小学校 加藤 奈々)
― 28 ―
11日目 8 月14日(木曜日)
8 :00 JICA パラグアイ事務所訪問。屋上からアスンシオン市
を展望。背の低い赤っぽい建物が見渡す限り連なる。ヨーロッパ
と見間違いそうな風景。アスンシオン市はスペインの香りがする
想像以上の大都市だった。
名残惜しさを感じながら JICA 所長へ報告会。一人一人この研
修への想いを語る。 1 時間ほどの懇親。最初に訪れたときにはあ
んなにも期待で胸が高鳴ったのに、今日はこの地を後にしなけれ
ばならない。何とも言えない思いが残る。
最期の訪問地となるランバレの丘を訪れる。アスンシオンの街並みを一望できる高台だ。カテウラ
地区の水害とごみの集積場も一望できる。研修の日々を思い返しながらこの地の風景を脳裏に焼き付
ける。
研修を共にした JICA の大石さん、通訳の高橋さんと別れを惜しむ時間はあまりにも短く、しかし
心には深く刻まれた。大石さんの涙はきっと忘れることはない。
アスンシオン空港発の飛行機はかなり遅れ、待合室で流れるアルパの音色を聴きながらこの研修の
日々を思い返すには十分な時間があった。
(コラム提供:仙台市立西多賀中学校 松倉 晶子)
12日目/ 8 月15日(金曜日)
朝早くアトランタ空港に着く。疲れていたにもかかわらず、飛
行機の中ではあまりよく眠れなかった。デルタ航空の機内食に飽
き飽きしていたにもかかわらず、惰性で食べて胃が重くなってし
まったからかもしれない。乗換を済ませゲートに移動するなり、
みんな荷物を置いてどこかへ行ってしまう。わたしもしばらく携
帯を充電したりしていたが、ふと両親に土産を買ってなかったこ
とを思い出して、荷物をお願いしてうろうろする。
それにしてもアトランタ空港は新しくてきれいだ。SIM フリーの携帯やアイスクリームなんかが
自販機で、しかもクレジットカードで買える。ごみ箱の投入口まで電動なのには驚いた。吹き抜けが
飾りでキラキラしているのを横目にエスカレーターで 2 階に上がると、みんなコーヒーなんかを買っ
てフードコードでくつろいでいた。スタバにマックか…違うのないかなあ。ぐるっと様子を見てから
また降りようとすると、パトロールの人か、なんと自転車を押していた。空港が広いから、建物の中
も自転車で回るんだな。またエスカレーターで降りたら、本屋の隣に、オーガニックコーヒーの店を
見つけたので、そこでコーヒーとサンドイッチを買った。少し高くて、おいしかった。そして、ゲー
トの隣の CNN ショップで、ATLANTA と正面に刺しゅうされたキャップと、アトランタ州の形を
したマグネットを両親へのお土産に買い、あと何時間待てば日本行きの飛行機に乗れるんだろう、と
ぼんやり考えながら窓の外を眺めていた。少なくとも昼食は、この空港で食べないと…。
(コラム提供:宮城県塩釜高等学校 山内 洋美)
― 29 ―
13日目/ 8 月16日(土曜日)
アトランタ空港から成田空港到着&解散
サンパウロからアトランタ空港に到着すると、入国審査に長蛇の列。げんなり…。と思ったら
ESTA 登録済みのため、端末を使いセルフ入国審査で OK !その後の全身 X 線検査などやっぱりア
メリカはセキュリティが厳しいなあ。空港での待ち時間は 7 時間。 8 月 4 日に到着したフロアとは違
い、ブランド店が立ち並ぶ。しかし、早朝ゆえまだ開店前。オーガニックカフェにてバナナマフィン
とブルーベリーマフィンをゲット。パラグアイではアサードやマンディオカを楽しんだが、そろそろ
文明的な味!?が恋しくなってきたところ。私的な見解ではマフィンはアメリカが一番うまい。
Yummy ! アトランタ空港から最後の乗り継ぎで一路成田を目指す。飛行機内には、きっとお盆を
海外で過ごした観光客なのだろう、日本人の家族やカップルが大勢搭乗していた。最後の機内映画を
楽しみ(往復で 8 本観た!)
、無事成田空港に到着。隣席の日本人兄妹は一度も起きることがなかっ
た…。日本時間16時。ここで研修団は解散となる。最後の記念撮影を行い、それぞれの家族の待つ故
郷へと帰った。(ちなみに私が新幹線の中で食べた帰国後初の日本食は「鮭弁当」♡)
(コラム提供:山形県立寒河江高等学校農業校舎 安藤 紀子)
― 30 ―
3 .実践報告書
~帰国後の実践授業~
小 学 校
実践の目的
授業の構成
授業の詳細
実践の成果
課題
関連する学習指導要領の記述
出典
― 993 ―
高等学校
教科、時間数、対象生徒
中 学 校
実践報告書の構成
加藤 奈々
パラグアイと出会う
加藤 奈々
仙台市寺岡小学校
教 科
Ⅰ
学級活動 道徳
対 象
4 年生 36名
実践の目的
小学校は,いかにたくさんの人やモノや世界などに出会わせるかだと考えている。子どもたち
にとって,身近な大人の一人として,たくさん出会い,挑戦する姿を子どもたちに見せることに
よって,自分も知りたい,やってみたいという気持ちを持たせたい。
Ⅱ
授業の構成
〈活動の流れ〉
①パラグアイってどんな国?
(海外研修前)
地図帳からパラグアイを見つけ,どんなイメージを持っているかアンケートを実施。
②パラグアイにお友達を作ろう(海外研修前)
好きな字を書いた書やメッセージカードの作成をする。
③パラグアイってどんな国?
(海外研修後)
パラグアイをスライドショーで紹介
④パラグアイで出会った日本人(海外研修後)
パラグアイで出会った日本人に焦点を当てて紹介するとともに,元青年海外協力隊の方々の経
験を聞き,国際協力の仕方について考える。
○パラグアイをスライドショーで紹介後の感想から
― 32 ―
加藤 奈々
小 学 校
― 33 ―
加藤 奈々
Ⅲ
授業の詳細
……………………………………………………………………………………………………………………
本時の活動 道徳学習指導案 ────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
1 資料名 写真資料〈勤労・社会奉仕〉
2 主題設定の理由
他国(パラグアイ)で自分の持っている技術・知識や経験を生かし,生きがいを持って仕事に
取り組み,その仕事に誇りと喜びを見いだしている日本人の姿を見た。そのことを子どもに伝え
ることで,他者のために役立つ活動に目を向けさせ,自分にできることをやろうとする心情を養
いたい。
3 ねらい
日々の生活が人々の支えや助け合いで成り立っていることを知り,自分にできることをやろう
とする態度を育てる。
4 授業展開
段階
主な学習活動
13:50
1 担任が研修に参加し
た理由を聞く。
2 担任がパラグアイで
出逢った人の写真を見
予想される児童の反応
・日本人もいるね。
指導上の留意点
・事前にパラグアイの映像
・パラグアイ人と違うね。
を見せ,どんな場所かを
・白い服を着ているよ。
つかませる。
・子どもに何かを教えているね。 ・ たくさんの日本人と出
逢ったことを伝える。
せる。
・写真を見て気付いたこと
を発表させる。
14:00
3 青年海外協力隊の思
・ボランティアなんだ!
術・知識や経験を(開発
いを話し合う。
・青年海外協力隊を
知る。
・どうして 2 年間もここ
にいるんだろう。
・
「自 分 の 持 っ て い る 技
・手伝いをしにいくため
途上)国の人々のために
・人が足りないのかな
活かしたい」という強い
・自分が得意なことを生かすため
意欲を持つ人であること
・貧しい国でかわいそうだから
を伝える。
・他の国に住んでみたいから
・約 2 年間働くことや,仕
事を辞めるなどして働い
ていることなどを確認
する。
・人の役に立つことをした
り,見たり聞いたりした
経験を聞き,それの世界
バージョンであることを
伝 え, 考 え る ヒ ン ト に
する。
― 34 ―
加藤 奈々
段階
主な学習活動
予想される児童の反応
14:15
4 実際に参加した 2 名
・どんなところか聞きたいな。
・貧しいなどの意見が出た
・今は何をしているのかな。
場合は,実際に参加した
2 名の方に話を聞き,そ
うではないことを知ら
せる。
・新たな疑問も取り上げ,
時間がなければ,今度調
べるように促す。
14:25
5 教師の話を聞いてま
・自分も人のために役に立ちた
行って日本の文化や技術
いな。
とめる。
・ワークシートに記入
する。
・思いやりのある人になりたい。
を伝えて,その文化や技
・困っている人がいたら声を掛け
術が地域に根づいたとい
う事実や,他の国から日
よう。
・感想を発表する。
・昔から,日本人が海外に
本に伝えられ根付いたも
のがあるということを知
らせ,図書室などで探し
てみるように促す。
青年海外協力隊
― 35 ―
・技術・知識や経験を他国の
人々のために生かす
○元青年海外協力隊から実際に聞いた参加のきっかけ
・約二年間他国で活動する
・現地の人と協力している
どうして長い間日本を離れて
感じたこと
活動しているんだろう。
板書→
小 学 校
の話を聞く。
指導上の留意点
加藤 奈々
○本時授業最後に伝えたパラグアイで出会った日本人の協力隊に参加したきっかけ
授業の様子
― 36 ―
加藤 奈々
小 学 校
子どもたちの振り返り
……………………………………………………………………………………………………………………
事後検討会から ────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
○プラスに伝えることが大切である。子どもたちは,知らないところをプラスにとらえていた。
○「自分から」=「ボランタリー」が子どもたちに伝わっていた。子どもたちに落ちる言葉で説
明できていた。
○一生懸命聞く子どもたちだった。
○日本人が海外に行って日本の文化や技術を伝えて,その文化や技術が地域に根づいたという事
実や,他の国から日本に伝えられ根付いたものがあるということを知らせ,図書室などで探し
てみるという声掛けが次につながると思った。
△写真をテレビで見せるときのクローズアップの仕方は工夫する必要がある。
― 37 ―
加藤 奈々
△子どもの発言をどう拾い,どうつなげるとよいか瞬時に判断する必要がある。
△日本でやればいいんじゃないか?という疑問が出てくるかもしれない。
△人を助けることが,自分の成長につながるということを体感していくことが大切である。
(「やってあげる」ではない。
「やらせていただける」
)
△ 2 人の話を聞いた後,感想を書かせ,その後にパラグアイで出会った人からの話をしたので,
その部分が子どもたちの振り返りに無かったので,次の日にお礼の手紙を書くことで振り
返った。
Ⅳ
実践の成果
・実物や写真資料を多く掲示することで,パラグアイに興味を持ち,楽しんで活動ができた。
また,海外の文化に関心を持ち,国旗や食べ物などを自主学習ノートにまとめてくる子ども
たちが増えた。
・昔から,日本人が海外に行って日本の文化や技術を伝えて,その文化や技術が地域に根づい
たという事実や,他の国から日本に伝えられ根付いたものがあるということを知らせること
でお互いに支え合っていることを考えさせることができた。
・手紙が海外に届き,返事が返ってきたことで,外国の人と身近に感じられた。
・元青年海外協力隊から直接話を聞くことができ,子どもたちが知らない世界に出会わせるこ
とができた。また,
「自分から」というキーワードから,普段の学校生活においても,ボラ
ンティア精神を垣間見ることができた。
・ボランティアに興味を持ち,自分からやってみることの大切さを感じていた。
Ⅴ
課 題
・今年度は,こちらから伝える授業が多かったので,児童が体験的に行える活動になるような
教材を作り,実施したい。
・他の学年と,早い段階で授業をする日程を決めるなどして,確実に時間を確保していきたい。
・今回は,元青年海外協力隊の方々が訪問してくださり,直接話を聞くことができたが,他の
クラスで同じようにできないので,工夫が必要である。
・伝えたいことが多かったり,子どもたちの実態や教科と合致しない部分があったりというこ
とがあり,実践までに時間が掛かってしまった。内容の精選をしなければいけない。
・これからも,メンバーと連絡を取り,互いの実践を試したり,新しい情報を取得したりして
継続的に行うことが必要だと感じた。
― 38 ―
加藤 奈々
小 学 校
― 39 ―
松倉 晶子
生きるためのデザイン
松倉 晶子
仙台市立西多賀中学校
教 科
Ⅰ
美術 1 時間
対 象
2 年生 1 ~ 4 組 122名
実践の目的
私たちの生活はデザインであふれている。デザインは日本に住む私たちにとって,日常生活の
中に自然に溶け込み,意識すらしていない。先進国に数えられる国や大都市に生活する人々の多
くも同じ状況であろうと想像できる。もちろん生徒にとっても当然のことで「身のまわりのデザ
インについてあげてみよう」と問いかけても,当たり前すぎてなかなか気づけないというのが実
情である。豊かに生活している人々がより豊かに生活するために「デザインの力」を求めている
のが,今の社会の現状であると考える。
本来デザインは人々の生活をより快適に,より便利にする役割を担っている。しかし,この恩
恵を享受しているのは主に大都市に生活する人々であろう。それは地球上のほんの10%の人々に
すぎないといわれる。しかし,切実に生活にデザインの力を求めているのは〝発展途上〟と言わ
れる国や地域,大都市以外に住む人々であろう。この人々の不便な,不自由な生活を少しでもよ
りよいものに変える力が発揮されてこそ,デザインの力が再認識されるに違いない。
そこで,この授業を通して「デザインの力」で生活が変わる様子にふれ,知らせることから始
めたいと考える。意識的にデザインについて考え,生活の中で取り入れることの意義を感じさせ
たい。デザインという視点を通して,
〝美術〟の担う社会的役割について意識させる機会としたい。
そして,国際社会の中で生きる一人として,社会との関わりや担うべき役割について考える視点
がもてるように指導したいと考える。
デザインを通して〝世界を知り〟デザインの力を通して〝世界に貢献する〟という意識をもっ
た生徒の育成を目指す。
Ⅱ
授業の構成
美術の鑑賞の時間としての実践を行うために,次のような構成とした。
1 事前学習 「パラグアイの子供たちへ折り鶴を贈ろう」
7 月 出発前・学級活動
2 美 術(30分)
「デザインとはなんだろうか?」
9 月 美術の授業
3 学年集会(20分)
「パラグアイを知ろう!」
10月 学年集会
4 美 術(50分)
「生きるためのデザイン~デザインの力で世界を救おう!~」
10月 美術の授業
年間指導計画が決まっているので,授業の中で特設枠を組むのは難しい。そこで,学年集会や
学期末の美術のまとめの時間を活用した。 4 の美術は年間計画の中に位置づけられており,今回
の研修の内容を入れることにより,実体験をもとに深まった内容となった。
― 40 ―
松倉 晶子
Ⅲ
授業の詳細
……………………………………………………………………………………………………………………
1 事前学習「パラグアイの子供たちへ折り鶴を贈ろう」
────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
学級活動の時間にクラスごとに鶴を折った。羽根にランダムに提示した日本語とスペイン語の
文字を書き,読み方をローマ字で添える。生徒たちは地図上のパラグアイの場所を見ながら,初
めて接するスペイン語に興味を示し,積極的に取り組んだ。生徒にとっては突然の国際交流,顔
一羽のつもりで考えていたが,予備にと準備したものも含めて全部折り鶴になった。
一羽の鶴を通して,世界の国と交流しましょう。
南米大陸の内陸部「パラグアイ」の子供たちに日本の文化を伝えます。
パラグアイってどんな国か知っていますか?
あなたの折った折り紙が日本との懸け橋です。
〝漢字〟と〝折り紙〟で日本の文化を伝えましょう。
① 漢字を選ぼう
廊下の掲示から自分の書きたい文字を選ぶ。
切り取って持って来て!
一人一語選びましょう。
② 鶴を折ろう
きれいに角と角をあわせて折りましょう。
広げないように注意。
③ 漢字を書こう
羽根に〝漢字〟と〝スペイン語〟を書きましょう。
パラグアイの公用語はスペイン語とグアラニー語です。
漢字にローマ字で読み方 を書きましょう。
日本語を知らない人に読めるように・・・
④ 集めよう
クラスごとにまとめましょう。
大切にパラグアイの子供たちへ届けます。
パラグアイ共和国
Republic of Paraguay
赤
白
青
……………………………………………………………………………………………………………………
2 美 術(30分)
「デザインとはなんだろうか?」
────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
「デザインとは何か」ということを知り,デザインの担う社会的役割について気づかせること
に主眼を置いた。日常生活の中にはデザインがあふれていることに気付かせ,自分の生活の中に
なくてはならないものであることを認識させる。デザインによって生活はより快適に便利になっ
ていることに気付くと,豊かな生活になくてはならないものだと実感することができる。デザイ
ンという視点を通して考える基礎知識とし,パラグアイの生活の様子と関連づけて考えるための
一つの視点とさせた。
「デザインとはなんだろうか」
①自分の周りにある〝デザイン〟を挙げてみよう。
― 41 ―
中 学 校
の見えない相手へのプレゼントであったが,未知なる地への興味が勝っていたようだ。当初一人
松倉 晶子
・教室の中,家庭での生活を想像させる。
・身近な文房具から車や建物まで広く考えさせる。
②もし〝デザイン〟がなかったら,どんな生活になるのだろう。
・具体的な生活ではなくとも,雰囲気を考えさせる。
③自分の生活の中に〝デザイン〟は必要か?
・必要が圧倒的多数であった。
・必要,不必要だけではない考えが出れば採り上げたいと考えたが,なかなかそこまでは至ら
なかった。
④その理由は?
・それぞれに感じたこと考えたことを素直な言葉で書いていた。
・各クラス数名,発表したがいずれの意見も建設的なものだった。
― 42 ―
松倉 晶子
中 学 校
……………………………………………………………………………………………………………………
3 学年集会(20分)
「パラグアイを知ろう!」
────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
パラグアイの研修の様子をまとめた Movie を見せた。現地の街並みや生活の様子の概略,現
地の学校の様子がわかるようにまとめた。生徒の折った鶴を贈ったときの様子や折り鶴をうれし
そうに手にするパラグアイの子供たちの姿を伝えた。また,日本との違いが際立つようにまとめ,
次時の導入になる内容にするよう配慮した。
― 43 ―
松倉 晶子
― 44 ―
松倉 晶子
中 学 校
……………………………………………………………………………………………………………………
────────────────────────────────────────────
4 美術 1 時間(50分)
「デザインの力で世界を救おう!」
……………………………………………………………………………………………………………………
この授業はデザインを通してモノを見,考え味わう鑑賞の時間である。
美術の鑑賞というと,有名な絵画や彫刻などを思い浮かべる人が多いだろう。しかし,私たち
の生活の中の美術は過去の遺産ばかりではない。今を生きる私たちの今の生活の中にもたくさん
の〝美術〟が存在する。現在進行形の〝今の美術〟
〝今のデザイン〟を題材にすることで,芸術
としての美術だけではなく,社会的役割を担う美術に気付かせるきっかけとしたいと考える。そ
して,現代社会の状況を踏まえ「デザインを鑑賞する」ことで見えてくる現状を知り,見えてく
る課題に取り組もうとする姿勢を育む。生徒にとってはデザインの視点から,美術の担う社会的
役割が理解され,学習することの意義が感じられるものと考える。デザインを通して〝世界を知
り〟デザインの力を通して〝世界に貢献する〟という視点を育むことを目標とした。テーマは大
きいが,何事も一人一人の意識から始まり,一人一人の行動で変化は生まれるものと信じる。
今回は身体で感じ,実感して考えられるように動きを取り入れる工夫をした。受動的な場面ば
かりではなく,自ら動いて考えることで授業への積極的取り組みを促したいと考えた。重さを感
じたり,量を知ること,手で触れてみることが大切であろう。疑似体験の枠は出なくとも,問い
かける力は大きいに違いない。
また,自分たちと同じ年代の子供たちがどのような生活をしているのかを考えさせた。カテウ
ラの子供たちを通してデザインの力を感じてほしい。自分たちと同年代の姿から親しみを感じた
り,違いを感じたり,考えることも多くなると期待した。
時に,〝広い世界で美術を語ることは大切なことの一つだ〟と伝えたいという思いでこの授業
に取り組んだ。
― 45 ―
松倉 晶子
段階
学習活動
導 入
・水は 1 日に何 L あれ
(10分)
ば生活できるか考える
・班ごとに必要だと思う
量の水を持ってみる
予想される児童の反応
備 考
・始業前に各自ペットボトルに水を入れておく ペットボトル
ように指示する
バケツ
震災の経験から想像できる生徒は多いと思わ 水
教科書
れる
必要な量を実感する
・ 1 日に必要だと思う水の重さを実感させる
・水汲みの仕事をする子
・デザインの力で水汲みを変えた様子を見せる
供がいる現状を知る
→「デザインの力で」という点に注意させる
→水汲み労働の大変さ
を実感する
・どうしたら,もっと楽
に便利に運ぶことがで
きるか考える
展 開
(30分)
・パラグアイ,カテウラ
地区の様子を知る
・同じ年代の子供たちの
・ゴミの山,収集したゴミを示し状況をできる 家庭ごみ
だけ身近に想像させる
・準備した家庭ごみを見せ,想像の一助とする
生活状況について想像
・写真資料から生活の様子を読み取らせる
する知る
・カテウラ地区の人々はどんな生活をしている
・デザインの力でこの状
況をよりよくすること
はできないだろうか,
考える
・班ごとに話し合う
・互いの考えを聞き,話
し合うことで考えを深
める
・互いの考えからいい点
を見つける,発展させ
る
・言葉にすることで曖昧
なアイディアを具体的
に高める
・班ごとのアイディアや
話し合いの過程を発表
する
・カテウラ音楽団の様子
を見る
のだろうか,想像させる
・子供たちはどんな一日を過ごしているのだろ
うか
→学校には行っているのだろうか
・ゴミを見せながら,リサイクルしたり活用し
たりすることはできないだろうか,考えさせ
る
・一人一人のアイディアや考えが出せるように
支援する
・プリントを活用させ,まとまらない考えも書
き出させる
・単語や不完全な文章でもキーワードとなる言
葉は積極的に書かせる
・話し合う中で形が見えてくることもあるとい
うことも体験させたい
・小さな意見やまとまらない考えでも発展でき
そうなモノがあれば積極的に発表させる
・カテウラ音楽団の創始者ファビオさんの活動
を紹介する
― 46 ―
DVD 写真
松倉 晶子
段階
学習活動
予想される児童の反応
・カテウラ音楽団の活動
・カテウラ音楽団の活動を通してデザインの力
を通してデザインの力
備 考
を考えさせる
を考える
まとめ
・デザインの力について
(10分)
考えながら感じたこと
・発表する
をまとめる
・デザインの力について視点のはっきりしてい
る生徒に発表させる
教科書
― 47 ―
中 学 校
をまとめる
・デザインの力について考えながら感じたこと
松倉 晶子
― 48 ―
松倉 晶子
Ⅳ
実践の成果
日々の授業とは異なる視点での授業展開ができた。私が経験したこと,目にしたことが題材
になっているので,生徒へ投げかける力は大きかった。見たからこそ話せる,経験し知ってい
るからこそ伝えられる。見せたムービーや写真は不鮮明さがあり,決して完成度の高いモノで
はなくても,教科書にはない生きた思いや感覚が伝わったに違いない。少なからず狭い教室か
つも以上に遠い国の異なる生活を身近に感じ,考えることができた。疑似体験的に物事を考え
ることの力を私自身,再認識できた。
その後,授業以外の場面でも,ちょっとした会話に〝パラグアイ〟に関することが入り,生
徒の関心の大きさが感じられた。この授業がひとつのきっかけになり,広い世界を考える視点
が育まれたに違いない。
Ⅴ
課 題
学校の生活の中でこのような授業を持続的に行うことの難しさを痛感する。日々の中で扱う
題材は多岐にわたり,学校教育に求められる内容は広い。次々と追われるように行事や諸活動
が山積みで,余韻に浸る時間がないのが実情ではないだろうか。折に触れ,広い視点で物事を
考えるような内容は意識的に組み入れてはいるが,思いを持続させていくことの難しさを感じ
る。生徒の思いが高まっても,それを広げ継続的に行っていくこと,発展させていくことも課
題である。
公教育の使命は子供の未来の保障である。まだ視野の広がらない時期に広い世界に導くこと
は進むべき未来の可能性を広げること,育むことに違いない。一美術科教員として,鳥瞰図の
ような視点から世界を感じさせる授業ができるように,努めていきたいと誓う。教育に時間と
ゆとりを!と叫びたい。パラグアイのゆったりした時間が懐かしい。決して数字では測りえな
い心を育む教育を行っていると自負し,努めていきたいと心する。
― 49 ―
中 学 校
ら飛び出し,大きな世界を感じさせることができたものと確信する。生徒は授業を通して,い
千葉 みどり
地球の裏側パラグアイ
~ Paraguay から Tono の抱える問題を解決しよう~
千葉 みどり
岩手県立遠野高等学校 英語科
総合的な学習( 4 時間)
対 象
教 科
コミュニケーション英語Ⅱ( 2 時間)
Ⅰ
総合的な学習( 2 時間)… 1 学年 4 クラス(149名)
3 学年 1 クラス( 39名)
総合的な学習( 2 時間)、コミュニケーション英語
Ⅱ( 2 時間)…
2 学年 4 クラス(145名)
実践の目的
本校は県内で 3 番目に古い学校であり、現在は全日制普通科 4 クラス( 1 学年160名定員)で
ある。高校の統廃合などが進み、遠野市には高校が 2 つしかないため、生徒の進路希望は就職か
ら大学進学までさまざまである。それと関連してか、学年内だけでなくクラス内においても学力
差が激しい。
部活動ではサッカー部が全国でも強豪とされ、平成26年度全国高校サッカー選手権大会岩手県大
会では 2 年連続24回目の優勝を果たした。なお、サッカー部員の占める割合は、全校の男子の 3 分
の 1 にも上る。ということは、この大部分の運動部系の生徒をどうコントロールするかがカギになる。
進路状況は就職が20%程度(30名程度)
、大学進学が30%程度(50名程度)
、国公立大学が20%
程度(35名程度)である。
目指す学校として、
「遠野の人材は遠野で育てる」があげられている。サッカー部をはじめ、生
徒は「地域に愛される遠高生」をスローガンに生徒会活動、部活動に励んでいる。また、地域の
人材や特色を生かした進路指導は、生徒に地元・遠野について深く考えるきっかけになっている。
今回私がこの教師海外研修への参加を希望したのも、文化祭での講演会にて遠野出身の岸田袈
裟さんを知ったことに始まる。岸田さんのケニアでの活動を聞くにあたり、遠野だけでなく、遠
野高校ともつながりがあることがわかった。けれども講演を聞いている生徒の表情を伺うと、ケ
ニアという国があまりにも遠いというか想像が出来ないらしく、あまり自分たちの地域の話とし
て実感がわいていない様子だった。そのような様子を見て、国際理解・協力についてただ一度の
講演会だけでなく、私が本校に勤務している間は、生徒に対して継続的に国際理解・協力につい
て考える機会をつくることは出来ないかと考えた。そこで今回パラグアイに渡り(地理的にも日
本・遠野から最も遠い研修先)
、生徒たちと一見何も関わりが無いように見えるパラグアイでの
実践から、遠野が抱える問題を解決する糸口を見つけることはできないかと考えた。
Ⅱ
授業の構成
〈渡航前〉
2 学年コミュニケーション英語Ⅱを受講している生徒に、パラグアイの学校へ持っていく「お
気に入りの漢字カード」と「千羽鶴」の作成を依頼。
「漢字カード」には自分の名前に入ってい
る漢字や、気に入っている漢字を 1 文字書き、その下にスペイン語で意味を書き、カード全体を
飾り付けする。
― 50 ―
千葉 みどり
〈渡航後〉
コミュニケーション英語Ⅱ…渡航後すぐに授業にて簡単な報告を行った。漢字カードを渡した
パラグアイの相手と、パラグアイの様子を併せて説明。
総合的な学習…約90分でパラグアイの概要説明、遠野の抱える問題をパラグアイでの実践から
考える時間にする。
Ⅲ
授業の詳細
対象: 2 学年 4 クラス145名(コミュニケーション英語Ⅱ、総合的な学習)
テーマ
渡航前①
ねらい・内容・教材
〈ねらい〉
「パラグアイの場所を知ろう」〈内容〉
・パラグアイの基礎知識
・パラグアイのイメージ
渡航前②
〈ねらい〉
(コミュニケーション英語Ⅱ) ・これまで生徒に関係する人たちでも渡航したことのないパラグア
「まだ会ったことのないパラ
グアイの生徒に漢字カードを
おくろう」
イで生活する学生(生徒と同じくらいの年齢)に向けて、漢字
カード作成を通して、国際交流について考える。
〈内容〉
・
「お気に入りの漢字カード」
色画用紙や筆ペンを使い、手のひらサイズのカードを作成した。
・千羽鶴制作→訪問するいずれかの学校に届ける
渡航後①
〈ねらい〉
(コミュニケーション英語Ⅱ) ・現地で撮影した写真を多く用いて、視覚の視点からパラグアイに
「パラグアイ、行ってみたら
こんなとこだった」
ついて知る。
(写真のほうがインパクトがある…はず)
〈内容〉
・日本~パラグアイまでの渡航時間
・パラグアイの食生活、生活様式
・日本からパラグアイに移住した人たちがいること
渡航後②
(総合的な学習)
「地 球 の 裏 側 パ ラ グ ア イ ~
〈ねらい〉
・パラグアイの基礎知識をはじめ、生徒にそれまでなじみのなかっ
た“移住”について考える機会をつくる
Paraguay か ら Tono の 抱 え
・パラグアイに移住した人たちの中には遠野から行った人たちもいる
る問題を解決しよう~」
・日本人移住地で抱えている問題が、遠野市の抱えている問題と似
※ 2 学年 4 クラス、 3 学年 1
ていることに気づき、解決策を移住地での実践から探る
クラス対象
― 51 ―
高等学校
(コミュニケーション英語Ⅱ) ・日本と海外(英語圏以外の国)の違いを考える
千葉 みどり
テーマ
ねらい・内容・教材
〈内容〉
・パワーポイント利用
・移住地が抱える問題について知る
・遠野市が抱える問題について知る
・遠野と移住地の距離は離れていても、その中にあるコミュニティ
が抱える問題が似ていることから、解決策(改善策)を各々が考
え、文章にまとめる
※事前配布資料(目を通しておくこと)
・週刊パラグアイ通信①~③
渡航後③
上記の短縮バージョンを実施
(LHR)
「地 球 の 裏 側 パ ラ グ ア イ ~
Paraguay か ら Tono の 抱 え
る問題を解決しよう~」
※ 1 学年 4 クラス対象
~番外編~
校内にて「勝手にパラグアイ紹介」と題し、廊下のコルクボードを利用してパラグアイに関す
る写真を掲示した。渡航前、パラグアイの認知度を調べたところ、ほぼ(全くと言っていいほど)
誰もパラグアイの位置を言い当
てることが出来なかった。(数
年前、ワールドカップで日本対
パラグアイの試合があったこと
は知っているらしく、南米にあ
るとは予想がつくもののパラグ
アイの隣国がブラジルやボリビ
ア、アルゼンチンであることま
では分からない)そこで実際に
私が現地で撮った写真を掲示し
て、パラグアイの紹介をするこ
とにした。(写真参照)
……………………………………………………………………………………………………………………
────────────────────────────────────────────
◆渡航後①「パラグアイ、行ってみたらこんなとこだった」の詳細 ……………………………………………………………………………………………………………………
※コミュニケーション英語Ⅱ
2 学年それぞれのクラスで、夏休み明け最初の授業はパラグアイの紹介を行った。初めに日本
(成田)~パラグアイまでの距離、移動にかかった時間を話すと、生徒は大変驚いた表情を見せて
いた。生徒の多くは海外への渡航経験はもとより、飛行機に乗ったことのない生徒が大多数を占
― 52 ―
千葉 みどり
める。そこで、今回の研修を“移動”の面から説明することにした。地球の円周は約 4 万キロで、
パラグアイは日本の裏側にあるため、片道約 2 万キロある。それを往復したため、地球を一周し
たことになる。移動時間にすると約34時間もかかった。飛行機内のシートはそんなに広くないた
め、「今座っているイスに10時間ずーっと座るとしたら、どう思う?」と生徒に聞いたら、「い
やー、無理だー。
」
「お尻痛くなっちゃう。
」という声が聞こえた。
続いて、距離的にも時間的にも遥か遠くに感じるパラグアイだが、日本と似ているところ、全
く似ていないところ、初めて知ったことを私の視点から話した。そもそも授業で使う教科書内に
は英語圏の国の話題は出るものの、他言語圏の国の話はなかなか出でこない。特にパラグアイは
スペイン語圏であるため、食生活や文化、服装など生徒にとっては「全く知らない」ことが多数
あったように思われる。実際、写真を見せたとき「マンゴー」はこれまで食べたことがある生徒
も多いにも関わらず、そのまま(丸ごと)の姿を見たことが無い生徒は、それがマンゴーだとは
また、チピータ(親指と人差し指で円を作ったくらいのドーナツ型のお菓子?)を実際に食べ
てみた生徒は、
「スコーンに似てる」
「ちょっと焦げてるけど、製品として大丈夫?」
「見た目よ
り意外とおいしい」など感想を話していた。
他、千羽鶴作成の際、余った折り鶴を現地の小学校で手渡した時、小学生が喜びすぎて昼ごは
んもそっちのけになったこと、パラグアイの移動手段は鉄道が無いため、主に車(バス)であり、
その時速は常に100km/h を超えることなど、生徒にとっては非日常のことが多いようであった。
……………………………………………………………………………………………………………………
────────────────────────────────────────────
◆渡航後②「地球の裏側パラグアイ~ Paraguay から Tono の抱える問題を解決しよう~」 ……………………………………………………………………………………………………………………
※総合的な学習
※ 2 学年 4 クラス、 3 学年 1 クラス対象 計184名
事前配布資料あり
(1)週刊パラグアイ①
(2)週刊パラグアイ②
(3)週刊パラグアイ③
90分ほどの講義は、ゴールを、
①パラグアイに移住した日本人が、現地で抱える問題に対してどう対処しているかを知る
②パラグアイでの実践から、遠野の抱える問題を解決する糸口を探る
とし、パラグアイ特にイグアス日本人移住地での実践を見ることとした。
最初に知識のベースとして、パラグアイで撮影した写真を用いて作った、パラグアイ紹介ムー
ビーを流した。写真に写っているパラグアイの人々の姿や、街の様子、子どもたちが遊んでいる
ところ、それぞれの学校の風景などを見て、概略を掴んだようだった。
講義の重要なポイントに「日本人の移住」があげられる。しかし「日本人の移住」と聞いても生
徒はピンとこない様子であった。これまで他教科を含め、日本人が海外へ移住した歴史を学ぶ機
会が無かったせいかもしれない。けれどもこの「日本人」の中に、生徒たちが今住んでいる遠野の
人が含まれているということを知り、急に身近なというか、大きな問題のようにとらえることがで
きたようである。実際、イグアス日本人移住地の日本人会会長の福井一郎さん宅にホームステイを
させていただいたとき、夕食をご一緒した方が遠野の出身の方だった。というのも、このイグアス
― 53 ―
高等学校
分からなかった。
千葉 みどり
日本人移住地に住む日本人の出身都道府県割合は、岩手県が多いそうだ。日本人会会長の福井さ
んも、岩手県の外山開拓地(現 盛岡市玉山区藪川)の出身である。遠野出身の方は武田さんと
いう。武田さんが当時住んでいた場所は「小友」と言い、現在もそこから通学している生徒も多い。
その生徒からみれば、自分たちが今住んでいる場所から、約50年前に地球の裏側へと移住した人
たちがいたのだと思うと、パラグアイという国はそう遠くに感じるものではなくなるそうだ。
福井さんが考えるイグアス日本人移住地が抱える問題として、
①治安の維持
②言語(日本語・スペイン語)の堪能具合で、理解・コミュニケーションの度合いが異なる
③行政としての役割
④日本の社会と大差が無いように、公共サービスを充実させる
⑤主要生産物である大豆が、第 1 次生産で止まっている
ことがあげられる。
これらを現在遠野が抱えている問題と照らし合わせてみる。遠野の抱える問題として、
①高齢社会(過疎化)
②産業の衰退
③医療サービス(医師不足)
④学校の統廃合(昨年 6 つの中学が 3 つに統合)
⑤沿岸部への物流の拠点として
⑥伝統文化の継承
などがあげられる。
そこで生徒に 3 つの問題を提起した。
①遠野(地方)と東京(中央)の公共サービスの違いを埋めることはできるだろうか
②遠野の産業を活性化させるために何が出来るだろうか
→生産だけにとどまらず、加工・販売まで
③県外の大学を卒業した若者が戻ってくる場所は?
上記 3 つの問題に生徒がそれぞれ回答および感想を書いた。以下はそれらの抜粋(原文まま)
である。
〈 2 年男子〉
①について
地方と中央のやり方や行っていることは違うので、日本では難しいと思う。
②について
行政と企業が一体となって事業を行いながら、新しい仕事場や会社のようなものを誘致、開発
する必要がある。
③について
生活はできるかもしれないが、仕事がないと破綻してしまう。
・考え
自分たちの町は自分たちの手で何とかしていくべきだが、高校生以上の若い人(20歳代)が少
ないので、新しいことをするのも難しくなってきている。私は地元が好きなので地元を離れたく
― 54 ―
千葉 みどり
ないと思っている。さまざまな活動がおこなわれているが中心となっている人は40~50歳代だっ
たり、活動が途絶えているものもある。これからはパラグアイの人たちのように自分たちのこと
は自分たちで行っていく体制づくりが必要だ。若い人たちが外に出てから戻ってこれるような環
境づくり、活動できる場面を官民一体となって作っていけたらいいと思う。
〈 2 年女子〉
①について
埋めることが出来ないわけではないが、東京にある公共サービスを遠野につくったとして、集
まる人の年齢層も違えば、人数、働き手の年齢など違いが生じる。しかし全く同じサービスを作
るのではなく、今ある施設をもう少し高齢者向けにしてみたり、少しでも手厚い保護?に変えて
みるだけでも、今よりは違いが埋まってくるのではないかと思う。
遠野ではホップをはじめ農産物などがたくさん正さんされている。ホップ加工工場もある。販売
はとぴあ(駅前のショッピングセンター)内にある産直などもある。しかし活性化に際し、人手不
足が大きな原因となっている。少子化など人口減少を食い止められればもっと活性化すると思う。
③について
場所を作ることが難しくても、少しでも戻ってきやすく、若者が働きたいと思えるような施設
などが整えられるならば、今より少しでも若者は増えるのではないかと思う。パラグアイの人々
のように、自分たちの地域は自分たちが守るという気持ちも大切になってくると思う。
〈 1 年男子〉
①について
運輸業を発達させる。情報伝達や物流の速度を上げていけば、違いを埋めることが出来ると思
う。そのために道路を作る。
②について
現在は農業が特に盛んだと思うので、遠野で採れた野菜や果物を使用して、新しいスイーツや
食事を考案して、それを食べることのできる施設を作る。
③について
県外での生活や学んだことを後輩に語る講演会や、サイトを作る。また遠野の名を活かして企
業誘致をし、若者の注目を集め、来てもらう。定住してもらうためにアパートの開発も進める。
・考え
「パラグアイは発展途上国で貧しい」というイメージのみがあったので、
「日本人が移住してい
る」というのは今日初めて知った。
戦争という特異な状況によって移住し、多くの苦労をしてきた人々のおかげで土地が畑に変
わっていったのだと思う。しかし現地には、日本人の抱えている多くの問題点がある。両国での
協力や、現地の人々に理解してもらうことが大切だと思う。
また遠野の抱える問題について、若者が少ないこと、医師不足、高齢化社会といった、人口に
関しての多くあげられていたので、人口の確保と維持のために行政の取り組みや、若者によるイ
ベント開催などがあれば、若者を増やしていくことが出来ると思う。
― 55 ―
高等学校
②について
千葉 みどり
〈 1 年女子〉
①について
交通網を発達させて、中心都市などから人が来やすいようにする。人手を確保し、公共サービ
スに力を入れる。
②について
遠野の特産物を活かす。
東大イノベーションサマープログラムで遠野の特産品について学んだ。
そこで分かったことは、遠野にいてもあまり知られていない特産物が多かったことだ。もっとそ
の特産物の製造を拡大して全国に PR すれば、産業が発展していくと思う。そしてその特産物を
製造する機械を増やすと雇用が増え、人が戻ってくる。伝統的な作り方も継承できる。
※東大イノベーションサマープログラム:遠野の旧土淵小・中学校(昨年閉校)の校舎を利用
し、東京大学と遠野市が連携して遠野市の魅力を再発見するプログラム。
③について
働き口が多くなければいけない。今の遠野には市役所職員などしか働き口がない。だからみん
な都市部へ流れてしまう。
大学で学んだことを活かして就職できるような仕事場が必要だと思う。
〈 1 年男子〉
①について
地方において特にも問題なのは、医師不足だと思う。高齢化、若者減少が進む一方、圧倒的に
医師の数は足りない。この問題の解決の糸口として、最低限地方と中央で、人口の差はあるが、
医師の定員数設定の方針を変えてみるべきだと思う。
②について
まず、遠野の産業と言われてもすぐに思いつくものがない。よって、地元の特産品を知るところ
から始めないと、活性化にはつながらないと思う。特産品そのものを知らないと、相手にもうまく
説明できないし、PR の仕方次第では印象も変わってきてしまうかもしれない。スマートフォン、
PC、テレビなど情報社会の今日だからこそ、情報メディアをうまく使いこなすのも得策だと思う。
③について
今私達が大学を卒業して地元に帰ってきたときには、町は衰退しているだろう。地域の活性化
のためには「開拓」かと言っても、町の景観を壊さないためにはやはり難しい問題になってくる。
一個人としては、帰ってきたときの町の景観が変わらないほうが、地元に戻ってきたときによ
かったと思えるのが好ましい。
〈 1 年女子〉
①について
できない。
(お金がないから)
②について
PR。外国へ輸出。新しいものの開発。
③について
働ける場所がない。
― 56 ―
千葉 みどり
〈考え〉
印象的な話ばかりだった。まず移住計画が立てられ、14家族が移住したということだ。 2 万
km も離れているところに 2 カ月もかけて船で移動するのは、今では想像がつかない。パラグア
イでは日本語が通じてしまうということも初めて知った。パラグアイは思っていたよりもお金が
あって、設備もしっかりしていて、発展途上国とは思えなかった。でも川が氾濫したり(※昨年
6 月に起きた川の氾濫でスラム街が水没してしまったことと思われる)
、生活が大変な部分も
あったり、不便なところもある。もう 1 つ驚いたのは、運転免許はお金で買う所だ。基本的に移
動はバスで、長い距離を移動していることも知った。
Ⅴ
課 題
コミュニケーション英語Ⅱの授業は一人で受け持っているため、時間割の融通はきくかと
思っていたが、授業時間がなかなか確保できなかったため、不完全燃焼の部分がある。また渡
航までに思っていたより時間が無く、事前に行いたいと思っていた授業もうまく進めることが
出来なかった。
今回は慌ただしく説明してしまったところも、来年度の文化祭などを利用してのパネル展示
や、岩手県の国際交流協会および JICA 主催のイベントで研修成果を提示できる場面があれば
参加したいと考えている。
・ 1 回きりの授業(講演)ではなく、一つのテーマで継続して行うために
一回の実践に終わらず、年間を通して“国際交流”などのテーマに基づき、継続した指導を
行っていきたい。そのために上記に記述したように、年間指導計画に予定を入れておくことが
必要である。
関連する学習指導要領の内容と文言
総合的な学習
指導計画の作成と内容の取扱い
1(5)学習活動については、地域や学校の特色、生徒の特性等に応じて、例えば国際理解、情報、
環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題についての学習活動、生徒が興味・関心、進路
等に応じて設定した課題について知識や技能の深化、総合化を図る学習活動、自己の在り方生
き方や進路について考察する学習活動などを行うこと。
2 (2)問題の解決や探究活動の家庭においては、他者と協同して問題を解決しようとする学習
活動や、言語により分析し、まとめたり表現したりするなどの学習活動が行われるようにする
こと。
― 57 ―
高等学校
・授業時間の確保に苦労
山内 洋美
ラテンアメリカをとらえる視点 ―パラグアイを事例として―
山内 洋美
宮城県塩釜高等学校 地理歴史科
教 科
Ⅰ
地理歴史(地理 B)
5 時間+ 1 時間
対 象
3 学年(選択者)21名
2 学年(選択者)91名
実践の目的
―パラグアイをどうとらえるか―
普段,地理の授業を行っていて,ラテンアメリカについては,先住民文化や植民地支配と民族
問題,開発と環境問題,格差といったものが多く取り上げられていると感じていた。しかしパラ
グアイに行ってみて,そのような視点だけでは教材にできにくいと感じた。そこで,高校地理 B
の教科書を改めていくつか見てみたところ,先住民(インディオあるいはインディヘナ)と移住
者(ヨーロッパ系,アフリカ系,アジア系)の文化が融合した「混成文化」
(東書地理 Bp307)
「新
しいラテン系の文化」
(帝国地理 Bp305)といった表現がみられ,これだ,と思った。パラグア
イはラテンアメリカのなかでも群を抜いて民族・文化的に混血が進んだ国であると感じたから
だ。したがって,パラグアイを事例として高校地理 B の授業を考えるときに「混成文化」がキー
ワードとなると考えた。
(1)問題の所在 ―
「混成文化」を形成することがら―
パラグアイという国は,歴史的には,内陸国であったために征服者であるスペイン人が先住民
の言葉や文化を取り入れざるを得なくなったことや,スペイン人イエズス会宣教師たちによるパ
ラグアイの先住民の多数派であったグアラニー族とともに形成したミッションと呼ばれる伝道村
の役割が大きい。つまり周辺のさまざまな脅威から土地と生活を守るために先住民の暮らしごと
囲い文化となったとされる。
例を挙げれば,亜熱帯で冬もさほど冷え込まないことが多いパラグアイでは先住民の伝統的民
族衣装が見られず,スペインから持ち込まれた綿花やレース編み(テネリフレース)の技術が先
住民の編み物の技術と合わさって,アオポイーやテイポイー
(図 1 )と呼ばれる刺繍の施された
綿布,ニャンドゥティと呼ばれるレース編みが生ま
れ,スペイン風の衣装となって先住民の身を覆った。
さらに白一色だったそれらの衣装に鮮やかな色を与え
たのは先住民であったとされる。また,ニャンドゥ
ティの模様には,先住民がパラグアイの自然からみら
れるモチーフを多く取り入れている。
また,食に関しては,先住民が食しなかった牛乳や
卵をスペイン人が持ち込んだ結果,先住民のトウモロ
コシのスープにチーズや卵が入って代表的なソパ・パ
― 58 ―
図 1 テイポイーをまとう子どもたち
山内 洋美
ラグアージャ(図 2 )というケーキになったともされ
る。また,左右対称の住居という意味のクラタ・ジョ
ヴァイ(ランチョ・図 3 )は先住民の住居に元の形が
あるとされるが,地方の農家では先住民に限らず多く
見られ,アスンシオンなど都市部の住居にもとりいれ
られている。
さらに,ドイツや日本からの移民の影響も大きい。
西部チャコ地方に入植したメノニータ(メノナイト)
図 2 ソパ・パラグアージャ
(左下)
の人々は,その信仰と伝統的な暮らしを守りながら,
年降水量が少ないうえに塩分が多い土壌の地域で,た
め池を作り,酪農を定着させ,ドイツ政府の支援も得
高等学校
てパラグアイで最も質の良い乳製品を生産する地域と
なっている。また,大戦後のどさくさに紛れてナチス
の残党も亡命しており,東部の小さな町の教会を見学
したときに,かつて金属供出で失われた 3 つの鐘を,
ドイツ政府が大戦のお詫びにと寄贈したと聞いた。お
もに第二次世界大戦後にチャコ戦争で減少した労働力
を補う目的で多く移民した日系移民も,パラグアイで
図 3 クラタ・ジョヴァイ
いくつかの移住地を形成し,もっとも東部でブラジル
に近いイグアス移住地では不耕起農法による大規模大
豆栽培を成功させ,パラグアイの大豆生産量 6 位,輸
出量 4 位を達成する足掛かりを作った。また,先住民
の飲み物マテを愛飲し,それによって野菜を取らずと
も生きてこられたパラグアイ社会に,日系移民は野菜
の生産と消費の文化を持ち込み,広げた。さらに青年
海外協力隊員が野菜の消費を進めるプロジェクトを実
施し,高血圧と糖尿病が増えているとも言われるパラ
グアイ農村地域の生活改善に役立てようとしている
図 4 野菜料理のレシピを広める
協力隊員
(図 4 )。
同じラプラタ川に面する平野部であっても,南部の
アルゼンチンやウルグアイは,ヨーロッパ系白人が先住民をほぼ追放した「白人国家」になった
のに対し,パラグアイがこのように「混成文化」となったのはなぜか。地理的に考えると,内陸
国であり南回帰線上に位置するパラグアイの自然環境および他国との位置関係が深くかかわって
いると考えている。
現在のパラグアイの中心地域である東部は,ブラジル高原とアンデス山脈にはさまれた平原
で,一年を通じて氷点下に気温が下がることはほとんどなく,降水量も1,400~1,800㎜と多く,
農耕に適している。また首都アスンシオンは,パラナ川の支流パラグアイ川に面し,河川交通を
利用することが可能で,しかも河岸に丘陵地を有したため水害に遭いにくい地域を市域とするこ
とができた。一方で,アスンシオン市郊外,パラグアイ川の低地にはスラムが広がり,今年はエ
― 59 ―
山内 洋美
ルニーニョの影響で 6 月に大雨が降り, 8 月中旬にお
いてもまだ冠水していた(図 5 )
。
もともとパラグアイ川・パラナ川下流は大水害地帯
で,ヨーロッパからのアクセスが良いラプラタ川河口
のブエノスアイレスは,周辺の先住民との争いもさる
ことながら何度も水害や風土病によって盛衰を繰り返
しているため,中心都市になることが難しかったとさ
れる。そのような地域を中心に勢力を広げたのがアル
図 5 パラグアイ川の氾濫で水没した
ゼンチンであり,かつては広大だったパラグアイから
河岸のスラム,カテウラ地区(奥には
分離し,南部に広がったものであった。 ウルグアイ
生活の場となるごみ捨て場が見える)
も同様で河口に位置し,首都のモンテビデオは周辺よ
りやや高く「山」に見えたことから名付けられたという。
また,パラグアイ東部,特にテラローシャの肥沃さは,19世紀のパラグアイ戦争(三国同盟戦
争)も含めブラジルからの攻撃を絶えず受けており,現在もブラジルの資本家がその手続きの簡
便さや土地の安さを魅力として大規模農業を行うために進出してきていることからも推察され
る。またパラグアイ戦争で敗北を喫した後も,平地を持たないボリビアとの間に,西部チャコ地
方の領有権を巡ってチャコ戦争が行われた。このように,常に周辺諸国が,パラグアイの地理的
な利便性・優位性を求めて侵略を繰り返したことが,パラグアイという小国を先住民・移民問わ
ず結束させるとともに「混成文化」が形成された理由ではないかと考えている。
(2)「混成文化」をキーワードとしてパラグアイを地誌教材にするために
帰ってきてから写真を見返してみた時に,気づいた
ことがあった。地元の公立小学校の教室で撮った写真
(図 6 )には,明らかにヨーロッパ系白人の血が濃い
と思われる子どもと,明らかに先住民の血が濃いと思
われる子どもと,その間に位置すると思われる子ども
が,当然のように混在していた。教室の中で写真を
撮っていた時には,彼らの顔立ちの違いを意識するこ
とはほとんどなかったし,もちろん子どもたち同士が
図 6 パラグアイの公立小学校の
そのことを気にしている様子も全く感じられなかった
子どもたち
が,写真から思った以上に混在していたことに,パラ
グアイの「混成文化」の熟成度を強く感じた。それは,
イグアス日本人移住地の日本語学校(図 7 )で日本語
がたどたどしい非日系のパラグアイ人の子どもたちと
会話に関しては全く不自由しない日系の子どもたち
が,教室で違 和 感 な く 机 を 並 べ て いる姿からも感
じた。
また,シウダー・デル・エステ市から陸路国境を越
えてブラジルのイグアスの滝を訪れた際に,パラグア
― 60 ―
図 7 イグアス日本人学校の中学生たち
山内 洋美
イとブラジルの違いを大きく感じたのは,レストランでつり銭から勝手にチップを取っていく店
員のふるまいであった。パラグアイでは,たとえ大都市や観光地であってもそのようなことは一
切なかったし,観光客価格というものがあるようにも感じられなかった。パラグアイのほうが経
済的には低位であるにもかかわらず,また40倍ともされる経済格差を実感することができないほ
どに人々が金銭にがつがつすることなく,穏やかで親切であると感じたのはなぜか。それは例え
ば,メノナイトや日本人が自分たちの文化と言語を他国の移民と比べても変容少なく守り続けな
がら,パラグアイの中で一定の社会的地位を築くとともにパラグアイ社会に溶け込んでいるよう
に見えるように,もう民族・人種を分けられないくらいに文化的にも混血が進んだパラグアイの
寛容性が,格差をある意味受容することにつながってはいないかと考えたのである。それは,
「テ
レレ」と呼ばれる,パラグアイ原産のマテ茶の回し飲みの文化や,道端で「テレレ」ばかりして
いるように見える,パラグアイの男性たちののんびりした仕事ぶりともつながっているかもしれ
もっとも,日系移民がスムーズに「居住地」と呼ばれる土地を得られたのは,ストロエスネル
独裁政権(1954-89)下の「日本・パラグアイ移住協定」締結によるものであり,独裁政権下で
政治家などによる土地の占有が進んでいたためでもあっただろう。日系移住地の中でも例えばイ
グアス移住地では,頻繁に土地なし農民による土地の占拠が行われ,自警団を作ったり,警察に
パトカーや武器などを移住地の予算から提供するなどして土地を守っているという実情もある。
また,アスンシオン周辺の大規模なスラムの形成やストリートチルドレン・ホームレスの存在等
も含め,格差から生まれる問題がないわけではない。
いずれにしても,
「メスチーソ」と呼ばれる先住民とスペイン人の混血の人々のみならず,パ
ラグアイ戦争で失われた労働力を補う移民等も含めた,
“サラダボウル”よりは“マーブル”に
近い民族・文化の混血の度合い。そして,格差を感じさせない社会の空気と寛容性。以上が「混
成文化」のなかでも特に混成が進んだというパラグアイの特色を明らかにするための大切な要素
ではないかと考えている。
Ⅱ
授業の構成
これまで述べたパラグアイの特色を用いて,ラテンアメリカ地誌を学習するための指導案を作
成した。
(1)単元名
ラテンアメリカ
(2)単元の目標
ラテンアメリカの「混成文化」がなぜ形成されたのか,ヨーロッパをはじめとする世界各地か
らの移民の流入のみならず,自然環境との関連も合わせて考察する。
(3)評価の観点
・パラグアイについてのフォトリーディングに主体的に取り組ませる。
(関心・意欲・態度)
・ラテンアメリカおよびパラグアイの位置・自然環境・社会環境についての適切な作業をプリン
トに行わせる。
(技能・表現)
― 61 ―
高等学校
ない。
山内 洋美
・「混成文化」をキーワードにラテンアメリカ諸国とパラグアイの特色を比較させ,その違いと
背景を考えさせる。
(思考・判断)
・パラグアイの地誌を,他のラテンアメリカ諸国の地誌と関連・対比させて具体的に理解させ
る。(知識・理解)
(4)指導計画( 5 時間+ 1 時間)
1 時限:ラテンアメリカの自然環境を概観する
特に,グランチャコ周辺の地形・気候について,他地域と比較させる
2 時限:ラテンアメリカの産業について概観する
パラグアイの産業が教科書・地図帳にほとんど記載されていないことに注意させる
3 時限:フォトリーディングによりパラグアイ地誌の特色を探る
グループで,それぞれ自然環境,資源と産業,交通・通信・貿易,生活文化(民族,宗
教,言語,工芸・芸術・スポーツ)の各分野に分かれて写真を読み取り,その内容を共
有してパラグアイの特色を探る
4 時限:パラグアイの地誌をまとめる
写真から読み取ったことを補足する資料を用いて,パラグアイの地誌についてまとめる
5 時限:ラテンアメリカの特色である「混成文化」について理解する
パラグアイの特色をラテンアメリカ諸国と比較することで,パラグアイの突出した民
族・文化の混成度に気づき,そこからラテンアメリカがなぜ「混成文化」となったのか
を考察する
6 時限:番外編「パラグアイと日本 ちがいのちがい」の実践
「パラグアイと日本 ちがいのちがい」をつくって実践することで,パラグアイと日本
の共通点や差異を確認するとともに,
「ちがうこと」は必ずしも価値判断の対象になら
ないことに気づく
Ⅲ
授業の詳細
3 年生は旧課程の教科書を使っており,ラテンアメリカは世界の地域区分のところで現れる。
また、2 年生でも世界の地域区分を地誌で扱う。したがって,世界の地域区分を意識させながら,
ラテンアメリカの地誌を概観させ,その中でパラグアイを扱うことにした。
……………………………………………………………………………………………………………………
1 ・ 2 時間目 ラテンアメリカの自然環境・産業について概観する ────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
○教科書等の記述に従って,一斉授業で行った。赤道をはさんで北緯30度~南緯45度まで広がる
ラテンアメリカの自然環境の特色と,自然環境に大きく影響される農林水産業および他大陸と
の距離の遠さからくる貿易の不利益性を中心に認識させようとした。
……………………………………………………………………………………………………………………
3 時間目 フォトリーディングによりパラグアイ地誌の特色を探る( 3 年のみ公開授業)
────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
○生徒たちにはあらかじめグループワークの形で座ってもらい,パラグアイのテイポイーに似せ
た服装をして,アルパの音を聞かせながら,これからパラグアイのことについて学ぶことを知
らせた。
― 62 ―
山内 洋美
○各グループには衣食住,自然環境と農業,商業・貿易,民族・言語・宗教,交通・インフラに
ついての組写真( 8 枚)がそれぞれ渡されていることを知らせ,模造紙に写真を自由に貼り付
けて,写真から読み取れることをどんどん書き込んでいくように指示した。
ゴミの穴
(イグアス移住地)
乗り合いバス
(アスンシオン近郊)
変圧器のついた電柱
(イグアス移住地)
3 人乗りのバイク
(国道 7 号線沿い)
イグアスダム
(イグアス移住地)
水道で手を洗う子どもたち
(ミルトス小学校)
赤土のレンガで舗装された道路
(ラパス移住地)
*生徒が交通・インフラの組写真から読み取ったことがら
(イグアス)ダムが放水中 → 発電してる?
家族 3 人がノーヘルでバイクに乗ってる
広い道路・土が赤い
子どもが手洗い・うがいをしている
家に電気が流れている・電柱に何かついている
日本の家のような家
草やごみが燃やされている → ガラスのビンも燃やしてる?
貯水池みたい・水道?
― 63 ―
高等学校
上水道水源の井戸と給水塔
(イグアス移住地)
山内 洋美
○時間を区切って各グループにその場で模造紙を掲げ
させ,それぞれの項目に従って組写真を簡潔に説明
させた。その後黒板に模造紙を貼らせた(図 8 )
。
*生徒が組写真から読み取ったことがら
〈自然環境と農業〉
・生協のパクリ?
(ラパス生協)の工場・小麦
の貯蔵庫
・小麦粉の包装がでかい(ラパス生協)
・緑の見たことのない作物(*キャッサバ)
・ラ・フランスを売っているおじさん(アス
ンシオン旧市街)
図 8 フォトリーディングの様子
〈民族・言語・宗教〉
〈商業・貿易〉
・果物の積み方がうまい(露店)
・周辺は
草原
・おそらく中古品しか売ってない店だと
思うが、新品だと言い張っているよう
な店(都市部)
・日本の商品がたくさん売られてる・商
品の種類が多い(日系スーパー)
・人形がたくさん売ってる(お土産物屋)
・デパートがある(都市部)
・引っ越しのサカイ的な会社(国境免税
都市シウダー・デル・エステ)
・赤ちゃんがいる・外で服などを売って
いる=治安が良い(アスンシオン旧市
街)
・外国の子どもが日本語を習っている
(日本語学校)
・さまざまな外国人がパラグアイにいる
(日本語学校)
・ さまざまな国の人にも分かるように、
看板はいろいろな言語で書かれている
(日本語学校)
・パラグアイも情報社会になってきてい
る(PC の授業)
・栄養士の方が栄養成分について教えて
いる
・日本の鳥居がパラグアイにもある
・教会?
〈衣食住〉
・ケバブがある(牛のアサード)
・消火器が壁にある
・民族衣装を着てる・シンデレラみたいな服(テイポイー)
・髪飾りが同じ・はだし・壁が
はげてる・混血(メスチーソ)
・窓枠が木製
・七輪を使ってる(バイオガス)
・服が派手・ビーチサンダル履いてる
・ドーナツ的なもの(*チパ)を路上販売してる
・屋台・コカコーラ・置き方が雑(都市部)
・衛生状態が悪そう
・白身魚(*ピラジャバ(淡水魚)
)の寿司がある(日系レストラン)
・土釜がある(穴が二つ・チパを焼く窯)
・全体的に黄色で味が薄そう・違うジャンルのものが同じ皿に乗ってる(パラグアイの農
家での食事)
・統一感がない・うねうねしてる住宅・建物の距離が近い(国境免税都市シウダー・デル・
エステ)
― 64 ―
山内 洋美
○その後,各グループに「ニャンドゥティ」と「テネリフェレース」
(ニャンドゥティの起源と
なったカナリア諸島のレース)を 1 枚ずつ配り,その違いを挙げさせた。そして,テネリフェ
レースがスペイン人によってパラグアイにもたらされ,デザインや色をパラグアイの先住民グ
アラニー族が加えてニャンドゥティとなったこと,さらにその原料である綿花はもともとラテ
ンアメリカ原産であることを伝え,長い時間をかけて原料や技術・文化が大陸間を行き交って
新たな文化が生まれたことを意識させた。
……………………………………………………………………………………………………………………
4 時間目 パラグアイの「混成文化」をかたちづくるものがどこから来たか探る ────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
○一斉授業で行った。アスンシオン中心の正距方位図法を用いて,パラグアイに移入されたもの
の原産地・経由地を書き入れることで,パラグアイと他地域の距離や移動手段などを考えさせ
るとともに,パラグアイの「混成文化」がどのようにかたちづくられたかを考えさせた。
大豆 ゴマ 野菜
寿司 豆腐 米
海苔 酢 日本語
神道 仏教
小麦 サトウキビ バナナ
プロテスタント
オレンジ サフラン 肉牛 羊
ニャンドゥティ アオポイ・テイポイー
フィリグラーナ チパ チーズ
エンパナーダ 小麦粉 ケーキ
レンガ タイル 洋銀 魔法瓶
スペイン語 アルパ カトリック
乳牛(ホルスタイン)
ドイツ語
プロテスタント
鶏
マカダミアナッツ
*日本―パラグアイ:約20,000km(図の半径とほぼ同じ)
*スペイン―パラグアイ:約10,000km(図の半径の 1 / 2 )
……………………………………………………………………………………………………………………
5 時間目 ラテンアメリカの特色である「混成文化」について理解する ────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
○一斉授業で行った。ラテンアメリカの民族・言語の構成から,ラテンアメリカの「ラテン」は
ヨーロッパのラテン民族という区分からきていることを知らせ,大航海時代以降にラテンアメ
リカに多くの南ヨーロッパ人が移民し,またアフリカからの奴隷が移入されたことで,先住民
に加えてヨーロッパ,アフリカの文化が混じり合ってラテンアメリカの「混成文化」が形成さ
れたことを伝えた。そして,パラグアイにはそれが当てはまらないことも確認した。
― 65 ―
高等学校
〈アスンシオン中心の正距方位図法とパラグアイへ訪れたことがら〉
山内 洋美
……………………………………………………………………………………………………………………
────────────────────────────────────────────
6 時間目 番外編「パラグアイと日本 ちがいのちがい」の実践 ……………………………………………………………………………………………………………………
○グループに分かれ,作成した「ちがいのちがい」カードを配り,その内容を読み合わせながら
「あってもいいちがい」
「あってはならないちがい」に分けてもらった。
○その後,各グループから 1 枚ずつ異なるカードを取り上げて「あってもいいちがい」か「あっ
てはならないちがい」かを,理由を含めて説明してもらい,賛成者の数をそれぞれ数え,もっ
とも賛成者の多かったグループに,パラグアイで買ってきたブラジル製のキャンディーを商品
として渡した。
〈「パラグアイと日本 ちがいのちがい」
印象に残ったカードと理由〉
パラグアイの日系の人たちは朝食にご飯
・何を食べるかは人それぞれでいいんじゃないの。
とみそ汁と焼き魚などを食べるが、パラ
・パラグアイ人がそれしか食べられないのは貧困から
グアイ人の朝食はミルクを入れたマテ茶
きているのか疑問に思った。
とチパというクッキーのみである。
パラグアイに移住した日本人はどのよう
な仕事でもできるが、日本に移り住んだ
・パラグアイ人の職が限定され、仕事に就けない人が
出ると収入が少なくなってしまう。
日系パラグアイ人は製造業などの単純労
・みな等しく権利を与えるべきだ。
働にしか就けないことが多い。
・教育・収入の格差が起こる。
パラグアイの乗り合いバスはドアが開 ・死亡事故が起こるかもしれない。
きっぱなしで走るが、日本のバスはドア
・日本だったら危険だから絶対にそんなことはない。
が閉まらないと走らない。
・パラグアイのバスには安全性がない。
・安全性より機能性を優先すると常にリスクと戦わな
ければならない。
パラグアイでは運転免許をお金で買うこ
・お金で解決しちゃいけない。
とができるが、日本では試験を受けない
・試験を受けて知識を得ないと事故につながってし
と免許を取得できない。
まう。
パラグアイ人は雪を見たことがないが、 ・気候的にしょうがない。
日本人の多くは雪を見たことがある。
・パラグアイはあったかいんだなあ。
・日本にとっては当たり前のことでも、パラグアイに
とっては当たり前じゃないんだ。
・雪を見たことない人たちは雪にどんなイメージを
持っているのか気になった。
パラグアイの大学生は働きながら夜間に
・日本人は親が働いたお金で大学に通っていることが
大学に通うことが多いが、日本の大学生
多いけど、パラグアイでは自分で働いて通わなけれ
は昼に大学に通うことが多い。
ばならないのか。
・経済的な格差があるから違いが生まれるのか。
パラグアイの小学校には給食がないとこ
・資金的にも衛生的にもあまりよくないのか。
ろが多いが、日本の小学校にはほとんど
・給食がないのは毎日お弁当を作る親が大変だ。
給食がある。
・高校になったら給食がない不便さが身にしみたから。
― 66 ―
山内 洋美
パラグアイの多くの人々は野菜を食べな
・野菜はうまいので残念です。
いが、日本人の多くは野菜を食べないと
・野菜を食べずにどうやって栄養を取っているのか驚
つらいと言う。
いた。
・体で作れないビタミンをとるために野菜がないと辛
いのだろう。
パラグアイの日系の子どもたちの多くは
スペイン語とグアラニー語と日本語を話
・日本人も周りに韓国とか中国があるのに、その言葉
を話せないのが不思議だ。
せるが、日本人の子どもたちの多くは日
本語しか話せない。
○最後に,その月が誕生月であった生徒を助手として,パラグアイのスーパーで購入した風船に
このようにして誕生日を迎える人が周りの人をもてなすのだという説明をした。生徒たちは戸
惑いながらも、ブラジルやアルゼンチン・ペルー産のキャンディーやチョコレートをほおば
り、日本の菓子との見た目や味の違いなどを話し合っていた。
Ⅳ
実践の成果
後述する学習指導要領の内容と文言からもわかるように、高校地理 B という科目はもとも
と「開発教育」的な要素を含んでいる科目である。ゆえに、常日頃から世界におけるさまざま
なことがらを素材として授業を行っており、今回もそのような形でパラグアイという素材を調
理しようと試みた。生徒たちは、その聞きなれない国名の響きや、私が訪れた国ということに
非常に関心を持ってくれた。そのため、生徒たちの反応も良く、フォトリーディングやグルー
プワークにも意欲的に取り組んでくれた。しかし、今年度は地誌中心で授業を行ってきた関係
上、基礎的な系統地理の知識に欠けている部分もあり、どうしても写真からの読み取りが浅く、
また読み取ったことがらと系統地理的な知識をつなぎ合わせることが難しいと感じられた。
+ 1 時間として行った「パラグアイと日本 ちがいのちがい」の授業に関しても、生徒たち
の経験値の少なさや系統化・知識化されていない経験の多さも含めて、少ない予備知識と関連
付ける力のなさからか、
「あってもよいちがい」
「あってはならないちがい」の判断基準や理由
などが表面的・一面的なものになりがちだと感じられた。多様な視点で事象を見られるように
するには、もっと知識を得るだけでなく、使う・つなげる・共有するといった学習が必要だと
いうことに、改めて気づかされた。
Ⅴ
課 題
これまで「混成文化」
,つまり混じりあうことにより生まれた独自性といった教科書に描か
れたステレオタイプについて疑わずに授業を行ってきたが,パラグアイに滞在して,パラグア
イの地誌が「混成文化」の究極の形でありながら,これまで用いてきたステレオタイプのイ
メージとかけ離れていることに気づいた。つまり,ラテンアメリカの「混成文化」≒ヨーロッ
パのラテン地域の文化の変形と考えられるような記述が多く,一方で先住民の文化は独自のも
― 67 ―
高等学校
菓子を詰め込んで割り,落ちてきた菓子を拾うという「ピニャータ」を行い,パラグアイでは
山内 洋美
のとしてそれから分けてとらえられることが多かったように感じた。ところが,パラグアイに
おいては,先住民の文化も,ヨーロッパのラテン地域の文化も,さらにはゲルマン地域,スラ
ブ地域,日本,韓国,台湾…と,さまざまな文化の特色が,まるでマーブル模様のように見え
隠れしているように感じられた。特に先住民の文化が非常に色濃く,しかも他の文化の影響を
受けた形で日常に現れていた。さらに,それは人々の風貌にすら見受けられたのだ。
このようなパラグアイを地理の教材として取り上げることで,地域の捉え方(スケール,地
域区分,分類等)について改めて考えるとともに,世界の多様性をわかりやすく捉えられるよ
うな授業にできないかと考えたが,そのような教材を作ることは困難であった。グローバル化
が進み,違いが見えにくくなった世界で,さらに相手との違いを無視しあるいは抹消してしま
うような捉え方をすることを防ぎ,地域性や多様性を大切にできる生徒を育てるための教材を
開発することが,今後の課題となると考えている。
関連する学習指導要領の内容と文言
第 6 地理 B
1 目標
現代世界の地理的事象を系統地理的,地誌的に考察し,現代世界の地理的認識を養うとともに,
地理的な見方や考え方を培い,国際社会に主体的に生きる日本人としての自覚と資質を養う。
2 内容
(2)現代世界の地誌的考察
地域の規模に応じて地域性を多面的・多角的に考察し,現代世界を構成する各地域は多様な
特色をもっていることを理解させるとともに,世界諸地域を規模に応じて地誌的にとらえる視
点や方法を身に付けさせる。
ウ 州・大陸規模の地域
世界の州・大陸を事例として幾つか取り上げ,それらを多面的・多角的に考察してそれぞ
れの州・大陸を地誌的にとらえさせるとともに,それらを比較し関連付けることを通して
州・大陸規模の地域を地誌的にとらえる視点や方法を身に付けさせる。
(3)現代世界の諸課題の地理的考察
現代の世界や日本が取り組む諸課題について,広い視野から地域性を踏まえて考察し,現代世
界の地理的認識を深めさせるとともに,地理的に考察する意義や有用性に気付かせ,地理的な見
方や考え方を身に付けさせる。
ア 地図化してとらえる現代世界の諸課題
世界各地に生起している地球的課題に関する諸事象を地図化して追究し,その現状や動向
をとらえさせるとともに,地図化することの有用性に気付かせ,それに関する技能を身に付
けさせる。
イ 地域区分してとらえる現代世界の諸課題
世界各地に生起している地球的課題に関する諸事象を分布などに着目し地域区分して追究
― 68 ―
山内 洋美
し,その空間的配置や類似性,傾向性をとらえさせるとともに,地域区分することの有用性
に気付かせ,それに関する技能を身に付けさせる。
ウ 国家間の結び付きの現状と課題
現代世界の国家群や貿易,交通・通信などの現状と課題を地域の環境条件と関連付けて追
究し,それらを世界的視野から地域性を踏まえてとらえさせるとともに,国家間の結び付き
を地理的に考察することの意義に気付かせる。
ク 民族,領土問題の地域性
人種・民族と国家との関係,国境,領土問題の現状や動向を世界的視野から地域性を踏ま
えて追究し,それらの問題の現れ方には地域による特殊性や地域を超えた類似性がみられる
ことをとらえさせ,その解決には地域性を踏まえた国際協力が効果的であることなどについ
て考察させる。
(1)内容の全体にわたって,次の事項に配慮するものとする。
イ 地理的な見方や考え方及び地図の読図や作図,景観写真の読み取りなど地理的技能を身に
付けることができるよう系統性に留意して計画的に指導すること。
ウ 現代世界の動向や地域の変容に留意し,歴史的背景を踏まえて地域性を追究するようにす
ること。
オ 各項目の中にできるだけ日本を含めて扱うとともに,日本と比較し関連付けて考察させる
こと。
(2)内容の取扱いに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
イ 内容の(2)については,次の事項に留意すること。
(ウ)イ及びウについては,それぞれ地誌的にとらえる視点や方法を学習するのに適した二
つ又は三つの地域を事例として選び,地誌的に考察する学び方が身に付くよう工夫すること。
その際,地域性を地誌的に考察するに当たっては,取り上げた地域における特徴的な事象とそ
の動きに着目し,他の事象を有機的に関連付けるかたちで多面的・多角的に追究する地誌と,
取り上げた地域の多様な事象を項目ごとに整理するかたちで多面的・多角的に追究する地誌と
があることに留意し,この両方の地誌を学習できるよう工夫すること。また,イにおける国家
及びウにおける州・大陸に替えて,州・大陸を幾つかに区分した規模の地域を選ぶことができ
ること。ただし,その場合,替えるのはイ又はウのいずれかにすること。
●出典・参考図書
・
『高等学校学習指導要領 地理歴史編 平成11年12月 平成19年 3 月 一部改正』文部科学省
・『新詳地理 B』帝国書院
・『最新地理図表 GEO』二宮書店
・『データブック・オブ・ザ・ワールド』二宮書店
― 69 ―
高等学校
3 内容の取扱い
安藤 紀子
開発教育~地球市民をめざして~
安藤 紀子
山形県立寒河江高等学校 地歴公民科
教 科
Ⅰ
世界史 A 6 時間
対 象
普通科 1 学年 40名
実践の目的
本校は間もなく創立100周年を迎える地域の伝統校であり私の母校でもあります。進学校とし
ての実績と部活動の活躍でも知られ文武両道・質実剛健をモットーとしている学校です。近隣市
町から入学する生徒が多く、祖父母の代から本校の卒業生であるという筋金入りの寒河江高校生
も少なくありません。
近年の生徒は、学習と部活動だけでなくボランティア活動にも熱心に取り組んでおり、特に東
日本大震災以降は定期的に被災地を訪問し活動を続けています。弱者や他人を思いやる優しさと
行動力を持った生徒が多いことを頼もしく思います。その一方で、世界のニュースや時事には疎
く、国際的な問題や課題についてはどこか他人事のような印象を持っている生徒が多いことを憂
慮していました。
今回の実践を通して国際社会に広く目を向けて世界の人々について知り、課題と解決策につい
て考え、行動に移すことができる生徒の育成をめざして授業を展開しました。また、本校の位置
する寒河江・西村山地域は果樹や花卉、米の生産が盛んであり農業従事者も多いことから、農業
が主な産業であるパラグアイとの類似点や相違点を考えさせることで、はるか遠くの南米パラグ
アイをより身近に捉えさせることを意識しました。最後に、私が今回の研修で最も関心のあった
日系社会については、実際に現地で見聞きした内容を教材として用いることでより具体的に南米
移民の歴史や背景及び現状について理解させ、その過程において日本と諸外国との係わりを大き
な視点から考え、地球市民としての自覚を持たせることを目的として実践しました。
Ⅱ
授業の構成
時間
1
( 6 月11日)
2
( 7 月 9 日)
テーマ
貧困の悪循環を断ち切ろう
パーム油のはなし
ねらい
最低限度の生活が保障されない貧困の構造と原因を探
り、その解決に向けて何ができるかを考える。
パーム油を通して問題の構造と私たちの消費行動との
つながりを理解し何ができるかを考える。
3
パラグアイの人にもっと野菜
パラグアイの基礎情報(位置、人口、産業など)理解。
( 7 月15日)
を食べてもらおう
野菜摂取量が少ない現状の問題点と解決策を考える。
― 70 ―
安藤 紀子
時間
4
( 8 月26日)
テーマ
パラグアイ帰国報告会
5
(11月12日)
ねらい
現地で収集した伝統工芸品や食品などの紹介。
写真を紹介しフォトリーディングを通しての理解。
パラグアイ移民の歴史と現状を理解する。
パラグアイの日系社会
ロールプレイングを通して日系人について理解を深
める。
6
開発教育のまとめ
(12月16日)
~行動する~
Ⅲ
開発教育のまとめ。
「行動する」ことを考える。
仮想募金を通して行動に移す方法を考える。
授業の詳細
〈導入〉
教師海外派遣研修に参加することになった経緯を説明。
JICA について説明。開発途上国に様々な援助活動を実施している。
(図 1 )
〈展開〉
★ワークシート「もしも地球に暮らす人が100人だとしたら…」
(図 2 )を配布して記入させる。
予想を書かせた後に、正解と実際の数を発表し私たちの暮らしとはまったく異なる環境や状況
下で生活せざるを得ない人々がいる現状を知る。
共通するキーワードとして「貧困」を考える。
★グループ活動「貧困の輪」
「貧困」にかかわるカードのセットを配布する。
(図 3 )
「貧困」から始まる「負の連鎖」を考えながら、カードを模造紙に貼る作業をさせる。
次に、負の連鎖を断ち切る「支援カード」(図 4 )をグループに 1 枚ずつ配布する。
「支援カード」を負の連鎖のどこに投入すればよいかを考え、カードを模造紙に貼る。
(図 5 )
★各グループは、貧困をなくすための自分たちの考えや意見を発表する。
(図 6 )
〈整理〉
開発途上国の現状と貧困の原因を知り、自分たちにできること意識して行動しよう。
図1
図2
― 71 ―
図3
高等学校
……………………………………………………………………………………………………………………
1 時間目 テーマ「貧困の悪循環を断ち切ろう」
────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
安藤 紀子
図4
図5
図6
……………………………………………………………………………………………………………………
────────────────────────────────────────────
2 時間目 テーマ「パーム油のはなし」
……………………………………………………………………………………………………………………
〈導入〉
私が持参したいくつかの品物を提示し、共通することは何か考えさせる。
・カレールー ・カップラーメン ・スナック菓子 ・アイスクリーム ・口紅 ・石鹸
「油」を使用している点に気付かせる。
〈展開〉
★「パーム油について考えよう」
様々な食品や日用品に「植物油脂」が使用されており、そのほとんどが輸入である。
中でも「パーム油」の使用が多く、約 8 割が食用に使われている。
「植物性」は「石油系」よりも「環境にやさしい」というイメージが定着している。
日本人 1 人当たり年間4.5㎏のパーム油を消費している。
主にマレーシアからパーム油を輸入している。
★グループ活動 ロールプレイング
【設定】‌マレーシア A 地区の森林では、政府と開発企
業の話し合いによって油ヤシ農園の開発が計
画されている。開発が予定されている土地に
は、先住民族の二つの村があり森が含まれて
いる。今日、この開発計画に対して関係者に
よる話し合いの場がもたれることになった。
図1
【関係者】
○賛成派 マレーシア政府、農園開発企業、
洗剤メーカー勤務、先住民族の村の村長
×反対派 先住民族の村の村長、環境保護 NGO
【話し合い】
ロールプレイカードを配布し、各グループで話し合い
をする。(図 1 と 2 )
話し合いの結果(開発賛成か反対か)を話し合いの内
図2
容とあわせて発表する。
※話し合いの結果: 7 グループ中 賛成 3 グループ、反対 4 グループ
― 72 ―
安藤 紀子
賛成派の意見の主なもの:移住すればよい。開発すれば豊かになれる。
反対派の意見の主なもの:環境破壊につながる。先住民の土地である。
〈整理〉
開発途上国の問題とわたしたちの生活は密接に係わっていることを知る。
今後、商品を選択する際には原材料の「パーム油」を意識して見よう。
〈生徒の感想〉
「自分たちの生活が誰かの犠牲の上に成り立っているかもしれないと考えることができた。
これからパーム油に気をつけていきたい。
」
「ロールプレイングを通して、はじめに自分の意見があっても他の人の意見を聞いているとい
ろいろ考えさせられて、多様な意見を取り入れるのは難しいと実感できた。
」
「環境破壊と開発の問題はお金やその土地に住んでいる人たちの問題もからんでくるので、簡
「(ロールプレイングで)村長としてがんばって闘ったが負けてしまって残念でした。
」
……………………………………………………………………………………………………………………
────────────────────────────────────────────
3 時間目 テーマ「パラグアイの人に野菜をもっと食べてもらおう」
……………………………………………………………………………………………………………………
〈導入〉
パラグアイについていくつかの質問をする。
発問「首都はどこですか?」
、
「何語を話すのかな?」
、
「通貨単位は?」
、
「移動に何時間かかる
かな?」
〈展開〉
★プリント(図 1 )を用いてパラグアイについて基礎知識を得る。
(首都、面積、人口、言語、民族、宗教、出生率、乳児死亡率、平均寿命)
いずれの項目についても日本のデータをあわせて提示し、パラグアイと比較させる。
「乳児死亡率」と「平均寿命」について、日本との違いが顕著である。
理由を考えさせる。→生徒の考えを聞く。
(生徒の回答:治安が悪いから。栄養状態が悪いから。
)
★写真の提示「アサード」
(図 2 )と「マテ茶」
(図 3 )
アサードはパラグアイの名物料理であり、パラグアイ人は肉類の消費が多い割に野菜の消費が
少ない。
マテ茶は南米で広く飲まれている飲み物で、食物繊維が豊富なことから「飲む野菜」とも言わ
れている。
★グループ活動「ブレーンストーミング」
パラグアイではマテ茶をよく飲むが野菜摂取が少なく、このことが平均寿命や健康に悪影響を及
ぼしているのかもしれないと仮定し、野菜摂取を増やすためにどんなことができるか考えさせる。
付箋紙を配布し、個人の意見を模造紙に貼っていく。
出された意見をまとまりごとにグループ分けをする。
★各グループの意見を発表する。
⇒「野菜の種を送る」
、
「野菜の栽培を教える」
、
「野菜料理を教える」
、
「健康にいいことを教え
る」など
― 73 ―
高等学校
単には答えが出せなかった。またこういう勉強をしてみたい。
」
安藤 紀子
〈整理〉
パラグアイの青年海外協力隊員(図 4 )を紹介。→母子保健の向上のための活動を行っている。
野菜栽培の仕方や野菜料理を紹介し野菜摂取の普及活動も行っている。
研修の際、生徒からの提案意見やパラグアイ人の健康について高校生が話し合いをしたことを
協力隊員に伝えることを約束した。
図2
図3
図1
図4
……………………………………………………………………………………………………………………
────────────────────────────────────────────
4 時間目 テーマ「パラグアイ研修帰国報告」
……………………………………………………………………………………………………………………
〈導入〉
パラグアイで購入したお土産を提示。
・アオポイ ・ニャンドゥティ ・マテ茶 ・お菓子 など
〈展開〉
★プリント(図 1 )を配布して、研修先や行程を説明。
★グループ活動「フォトリーディング」
パラグアイで撮影した写真と
付箋紙をグループに数枚ずつ配
布し写真から読み取れることを
付箋紙に記入し写真に貼ってい
く。生徒の意見が多く集まった
写真(図 2 )は次のとおり。
「イグアス日本語学校」
:日本
人がいる。ひらがなを書いてい
る。掲示物が面白い。同じ教科
書だ。
「NIHON GAKKO」:制服を
図1
着ている。茶道の授業。ヨサコ
― 74 ―
安藤 紀子
イ。裕福そうだ。
「カテウラ音楽団」
:普通の楽
器ではない。ゴミをリサイクル
している。子どもが大勢いる。
「大型スーパー」
:意外とたく
さん野菜や果物がある。日本食
がある。肉が多く、魚が少ない。
付箋紙の貼られたそれぞれの
グループの写真を回収し、付箋
紙の内容と写真の内容(正解)
を比較しながら解説していく。
図2
視聴する。
(図 3 )
・「NIHON GAKKO」の歓迎セレモニー・・・日本語のあいさつ、合唱、ヨサコイ披露など
・「伝統芸能・工芸品」
・・・ダンスパラグアージャ、ニャンドゥティ、アルパ演奏など
図3
〈整理〉
都市部と農村部では経済格差がある。
(住居、街並み、未舗装の道路、校舎や制服など)
多くの日系人が暮らし、日系社会を築いている。
……………………………………………………………………………………………………………………
────────────────────────────────────────────
5 時間目 テーマ「パラグアイの日系社会」
……………………………………………………………………………………………………………………
〈導入〉
パラグアイの日系人社会の歴史と現状について学ぶ。
(図 1 )
入植当初は移民が大変な苦労をして広大な土地を開拓
してきたこと。
その後、大豆や小麦栽培を導入したことにより、日系
人がパラグアイの農業発展に貢献したこと。
「大豆」がパラグアイの重要輸出農産物となりパラグ
アイの経済発展にも貢献していること。
その歴史がパラグアイ国民の今の日系人社会への高い
図1
信頼と評価へとつながっていること。
― 75 ―
高等学校
★パラグアイで撮影した動画を
安藤 紀子
〈展開〉
★ロールプレイングをする。
(図 2 )
「イグアス移住地に暮らす日系人家族の決断」
日系 3 世の大君はこのままパラグアイで大豆農家とし
て生きるのか、それとも憧れの日本の大学に進むべきか
について、家族の意見を聞きながら考える。
役割は日系一世の祖父母、日系二世の両親、日系三世
図2
の大君と妹の六人。
★グループで議論をした後、各グループの大君は進路を決断し発表する。
〈結果〉
パラグアイで農業を続けると決めたグループは 3 グループ。
・・・A
日本の大学に進学すると決めたグループは 4 グループ。
・・・・・B
A の理由「自分の家族はパラグアイにいる。自分の家族やこれまで祖父母と両親が大事にし
てきた畑を守りたいから」
、
「必ず日本のいい大学に行けるとは限らないから」
、
「農業を継いで家
族を助けていくことで日本に行かなくても楽しく生活していけるから」
B の理由「日本の大学で農業について学び、パラグアイの家族の生活を楽にさせてあげたいか
ら」「一度日本を見てみたい。大豆栽培を更に発展させる方法を学べるかもしれないから」
「農業
はつまらない。日本での生活の方が楽しそうだから」
★感想記入「パラグアイの日系人社会について」
「ロールプレイングを行ってみて」
〈整理〉
パラグアイの今後の課題について考える。
○「就職先」
:日系人社会では職業選択の幅は決して広くはないこと。多くは農業従事者だが、
子どもが後継者を目指すとは限らないこと。
○「高齢化」
:移民一世、二世の世代は高齢化が進んでいる。デイサービスなどの介護福祉サー
ビスなども整備されつつあるが、十分ではない。
○「日本語教育」
:日系人社会では日本語の教育をコミュニティー内や家庭内で行ってきたが、
日本語よりもスペイン語に力を入れるべきと考える家庭も増えてきている現状があり、美し
い日本語の継承が憂慮されること。
〈生徒の感想〉
「パラグアイに住んでいる日本人としての利点と難しい点があることがわかった」
「日系人ならではの悩みがあることを実感しわかった。結論を出すことが難しかった」
……………………………………………………………………………………………………………………
────────────────────────────────────────────
6 時間目 テーマ「まとめ~仮想募金~」
……………………………………………………………………………………………………………………
〈導入〉
「くらべてみよう、日本と世界」
・・・プリントを参考に日本と世界を比較する。
(図 1 )
・5 歳まで生きられない子どもの数、安全な飲み水を得られない割合、一日 1 ドル以下で暮ら
す割合など
― 76 ―
安藤 紀子
〈展開〉
★開発教育のまとめ
開発教育とは「知る」
、
「考える」
、
「行動する」こと。
○発問・・・
「どんなことができる?」
生徒の意見:エコバッグ、マイはし、ウォームビズ、
クールビズ、ペットボトルのキャップ回収など
○発問・・・
「どんなことをしている人がいる?」
生徒の意見:国境なき医師団、青年海外協力隊、ユ
図1
ニセフ、UNHCR、WFP など
★仮想募金をしよう
生 徒 の 中 か ら 3 名 を 選 出 し、 そ れ ぞ れ ユ ニ セ フ、
各団体の活動を紹介するカードを読み上げ、自分の団
体への募金を呼びかける。
生徒には千円と書かれたカードを配布し、代表者の説
図2
明を聞いた後で募金を行う。(図 2 、図 3 )
★データでみる、国際協力のいま(図 4 )
問:「先進国の中で日本はどのくらい援助をしてい
る?」→正解:世界第 5 位
問:「日本の援助は日本人が働いて得たお金のどのく
らいの割合?」→正解:0.19%
問:「日本にある国際協力に参加している団体の数
は?」→正解:7,613団体
★わたしたちの募金でできること(図 4 )
図3
各団体がホームページ等で公開している募金でできる
ことを紹介する。
(例)WFP では、五千円の募金でこども 1 人に 1 年
間の給食を与えられます。など
〈整理〉
「行動する」ことの大切さを理解する。
これまでの授業をふりかえり感想を書く。
〈生徒の感想〉
「日本はとても豊かな国なのに援助額が少ないことに
図4
驚きました。今回学んだことをこれからの生活に活かし
ていきます。
」
「日本にいてはあまり実感のない世界の問題(子ども、難民、飢餓)を知りました。
私も身近なできることから一つずつ行動していこうと思いました。
」
「世界には自分と同じように
教育を受けたりごはんを食べられない人がたくさんいて、そんな人たちを援助するためにたくさ
んの人が活動をしていることがわかった。
」
― 77 ―
高等学校
UNHCR、WFP の代表者となってもらう。
安藤 紀子
Ⅳ
実践の成果
【生徒の成果】
実践当初の生徒の印象は、世界のニュースや時事に疎く国際的な問題や課題についてはどこ
か他人事のような態度が見られましたが、実践を重ねるにつれて「日本と世界のちがい」につ
いて興味を深めていきました。特に世界の貧困や食糧問題、学校に通えない子どもたちなどの
話題については、心を痛めながらも真剣にその解決に向けた議論を交わすことができました。
中でも印象的だったのが、
「教師になる」という夢を国際問題の解決のための方法として挙げ
てくれた生徒がいたことです。生徒の回答の大半は「募金をする」や「資源を大事に使う」と
いうものでしたが、彼は「いつか自分も世界中を旅して、この目で見た世界の現実を子どもた
ちに伝える仕事をしたい」と語りました。
「そうすることで少しでも困っている人を助けたい」
とも。私たち教師ができることは時間的にも物理的にも限られていますが、こうして自分の体
験や実践を生徒へ授業の形で伝えることで、一人でも多くの生徒の心とやる気に火を灯し、や
がて温かい援助の手が世界中に広がるための広報活動を今後も継続していきたいと思います。
特に近年、お互いの文化や宗教観の相違から痛ましい紛争や事件が多発している世界情勢の中
で、これからの未来を生きていく高校生には日本だけに目を向けた暮らしや自国の繁栄のみを
優先する生き方はできないのだということを深く印象付けることができたと思います。今後の
彼らの行動の中でどのような変容が起きるのかをとても楽しみにしています。
【自身の成果】
「新しい学び」
教師として採用されて以来、私のモットーは学び続ける教師でありたいということと、新鮮
味を失わないということです。今回の研修では、またとない学びの機会を得ることができたこ
とを大変うれしく思います。南米の文化に触れ、日系移民の歴史と現状について理解を深める
ことができました。担当教科が「地理歴史」なので折に触れてこの経験を生徒に伝えることも
できます。今後の教師人生の強みができました。
「貴重な経験」
また、勤務校にとどまらず、地元の小学校でも児童を対象にパラグアイについてのお話し会
を渡航前と渡航後の 2 回実施することができました。自分の子ども(小 2 と小 4 )を前にして
「先生」として話をする体験は後にも先にも今回だけでしょう。小学生向けのプリントを作成
したり話し方も工夫するよい経験となりました(次ページ参照)
。今回の研修をきっかけにラ
ジオ出演(FM やまがた「カラフルパーソン」
)をさせていただいたことと JICA パラグアイ
事務所だより(平成26年 9 月号)に寄稿させていただいたこともよい経験となりました。
「望めば叶う」
振り返ってみれば身近なところに「日系移民」はあったのだと今更ながら感心しています。
というのは、80年代後半、歌謡界ではブラジル出身の日系人歌手が活躍していました。当時の
私は「見た目は日本人だけどちょっと日本語が変だな。
『日系人』と『日本人』は何が違うの
だろう。
」と思っていました。それ以上深く調べることがないまま時が過ぎ、やがて NHK で
ブラジル移民を題材としたドラマが放映されると、その内容に強い興味と感動を覚えました。
― 78 ―
安藤 紀子
その時から日系移民について知りたいと思うようになりました。折しも参加した講演会でパラ
グアイでのシニアボランティア経験者に出会い、南米への憧れは高まるばかりのところへ教師
海外研修の案内が届きました。長年の想いを経てやっと夢が叶いました。
〈小学校での実践〉
高等学校
― 79 ―
安藤 紀子
Ⅴ
課 題
生徒は投げかけられた問題や疑問について、いつも真剣に考えてくれました。教員が授業や
教材を工夫し、学ぶ機会を用意し、きっかけさえ与えれば生徒は自分で課題を見つけて世界に
目を向けてくれました。
私自身の国際理解や国際貢献についての学びを深め、さらに授業の内容を精選し改善させて
いきます。そして、これからも継続して開発教育を授業の中で実践していきたいと思います。
― 80 ―
安藤 紀子
関連する学習指導要領の内容と文言
世界史 A
1 目標
近現代史を中心とする世界の歴史を諸資料に基づき地理的条件や日本の歴史と関連付けなが
ら理解させ、現代の諸課題を歴史的観点から考察させることによって、歴史的思考力を培い、
国際社会に主体的に生きる日本国民としての自覚と資質を養う。
2 内容
(3)地球社会と日本
地球規模で一体化した構造をもつ現代社会の特質と展開過程を理解させ、人類の課題につ
いて歴史的観点から考察させる。その際、世界の動向と日本のかかわりに着目させる。
科学技術の発達、企業や国家の巨大化、公教育の普及と国民統合、国際的な移民の増加、
マスメディアの発達、社会の大衆化と政治や文化の変容などを理解させ、19世紀後期から
20世紀前半までの社会の変化について、人類史的視野から考察させる。
オ 持続可能な社会への展望
現代社会の特質や課題に関する適切な主題を設定させ、歴史的観点から資料を活用して
探究し、その成果を論述したり討論したりするなどの活動を通して、世界の人々が協調し
共存できる持続可能な社会の実現について展望させる。
●出典・参考図書
・「学校に行きたい 国際協力とわたしたち」
(独立行政法人 国際協力機構)
・「開発途上国で教育経験を生かして活躍する日本の先生たち」
(文部科学省、JICA)
・「世界の食料」
(JICA 地球ひろば 独立行政法人 国際協力機構)
・「いのち、輝け!途上国の健康を守るために」
(JICA 地球ひろば 独立行政法人 国際協力機構)
・「どうなってるの?世界と日本 わたしたちの日常から途上国とのつながりを学ぼう」
(JICA)
・「開発教育実践ハンドブック [ 改訂版 ]」
(特定非営利活動法人 開発教育協会)
・「国際理解教育実践資料集~世界を知ろう!考えよう!~」
(JICA 地球ひろば)
・「遥かなる地球の裏側に夢を馳せた人々-南米パラグアイ在住日系移住者の声-」
(編集代表 仙道 富士郎)
― 81 ―
高等学校
ア 急変する人類社会
庄司 洋一
日本と世界のつながり
庄司 洋一
山形県立村山産業高等学校 工業科(電気・電子)
教 科
Ⅰ
キャリア基礎 4 時間
対 象
1 学年 5 クラス 164名
実践の目的
本校は、東根工業高校と村山農業高校が統合し、農業・工業・商業の学科を併置した村山産業
高校として、平成24年 4 月に開校した。
この学校が目指す学校像の一つに、
「複数の学科が連携し、
グローバルな視点に立った先進的な産業教育を展開する高校」とある。
そこで、高校生活の 3 年間を形作る学校設定科目「キャリア基礎」の中で、開発途上国を知り、
自分達が学校で学んでいることから、それらの地域で役立つことを考えさせ、行動を起こすきっ
かけにすることを目的に授業を実践する。
これにより、目指す学校像に近付け、教育目標の一つである「次代を拓く知識や技術・技能を
養い、グローバル化に対応した地域産業の発展を担う人間を育成する」にもつながると考える。
学校設定科目「キャリア基礎」の学習の目的は以下の通りです。
①社会的・職業的自立に向け、基盤となる能力や態度を育てる。
②進路選択に対する目的意識や勤労観・職業観を育てる。
③産業社会の理解やコミュニケーション能力等を育てる。
Ⅱ
授業の構成
授業実践のテーマをもとに、 3 回の内容構成で実施する。
1
授業形態
時間
一斉授業
1
164名
学 習 目 的
・広い視野で物事を見る感覚を養う。
・学科ごとのクラスの垣根を取り払い、生徒同士がコミュニケーション
を取り、結論を導き出させる。
・自分達が知っている国や地域に留まらず、世界の広さを体感させる。
2
一斉授業
2
164名
・本研修で訪れたパラグアイを素材として、生徒がパラグアイを知る。
・日本と世界のつながりをパラグアイから考えさせる。
・パラグアイの課題や問題点について考えさせる。
3
学級単位での
授業
1
・パラグアイを通して日本と世界のつながりをまとめる。
・パラグアイで自分達の力で何が出来るかを考えさせ、まとめさせる。
― 82 ―
庄司 洋一
Ⅲ
授業の詳細
■第 1 回
区分
導入
学習活動
○指導上の留意点 □評価
・32班のグループ分けをし、着席させる
○事前にグループ分けをし、同一班に同
一クラスの生徒が集中しないように配
慮する
□着席し準備ができているか
・「世界と日本のつながり~私たちがやりたい ○パワーポイントを使って視覚的に分か
こと」をテーマに 3 週に渡って行うことを話
りやすいように説明する
しする
○映像に注目させる
答えの数を挙手で答えさせる
□正解者の数を把握する
人間が思い込みによって、視覚的に錯覚を起
こすことを体験から学ぶ
展開
・外国の写真分類クイズ
○プレゼンに注目させる
いくつかの写真を示しどこの国か考えさせる
□聞く体制が整っているか確認する
○シートを班ごとに配布し、班ごとに話
・「 4 つの国に分けてみよう」をする
し合いができるようにする
写真シートと解答シートを配布し、16枚の写
真を 4 か国に分類させる
写真はこれまで訪問したことのあるバングラ
デシュ/ネパール/ケニア/パラグアイの写
真を用いる【写真シートは図 1 ~ 4 、回答
シートは図 5 を参照】
最初はヒントなしで行い、状況を見ながら、 ○班ごとに話し合う時間を十分に取る
□班ごとに話しあっているか確認する
見るポイントを紹介する
○机間巡視をし、話し合いが滞っている
班には、考え方の助言をする
・答え合わせをする
□班ごとに正解の数を発表させる
・ 4 つに分類した写真から予想される国名を考 ○班ごとに考えさせる
えさせ記入させる
まとめ
□班ごとに正解の数を発表させる
国名の解答する
印象に残った写真を覚えておくように指示する ○他のクラスの人と一緒に活動した自分
を振り返させる
本時の振り返りをする
写真シートを回収する
次回の説明をする
― 83 ―
高等学校
・映像クイズ
庄司 洋一
■第 2 回
区分
導入
学習活動
○指導上の留意点 □評価
○前回の参加状況を振り返り、能動的な
・前回の復習
世界の国々の写真を16枚見せ、その中で一番
参加態度をつくる
印象に残っている写真を思い出させ振り返る □着席の状況を確認する
前回の活動した班での自分自身の参加状況を
振り返る
前回と違う映像クイズを通して、人間は思い
込みでフィルターをかけてしまうことを振り
返る
・JICA(国際協力機構)について発問する
○パワーポイントを使って視覚的に分か
りやすいように説明する
○写真を様々な角度からみて、情報を得
・写真クイズ
写真の中に隠れているものの数を数える
展開 1
るように指導する
○パワーポイントを使い説明する国の位
・パラグアイについて紹介する
国の位置や文化等について話しをする
置やパラグアイのイメージがわくよう
にする。
・今回の教師海外研修のビデオを上映する
「よく見る」
「感じる」
「考える」をキーワー
○キャプションなしの映像にし、映像に
集中できるようにする
ドに映像を集中して見させる
・パラグアイへの移住の歴史、日系社会、日本 ○村山農業高校出身の方を取り上げ、興
味関心を持たせる
語教育ついて紹介する
実際の訪問地やホームステイ先を紹介し、日 ○農業・工業・商業の各分野に関するこ
本とパラグアイのつながりを感じとらせ、次
とを入れる
のグループワークでの話し合いが円滑に進む
内容にする
・グループワークの説明をする
○班員同士の緊張感を和らげる
展開 2 【体育館】
□話し合いが出来る体制ができているか
・アイスブレーク
確認する
○写真シートはランダムに配布する
・フォトランゲージ
4 種類の写真シート(メルセデス小学校・イ ○ 5 人の教員が協力して班の指導にあた
グアス日本語学校・カテウラ音楽団・セナデ
る
障害者支援施設)から好きなところを選ん □話し合いが出来ているか確認する
で、
「気になること」
「わからないこと」を書
かせる【写真シートは図 6 ~ 9 参照】
○不足している情報を与え、話し合いが
・情報カードを配布する
円滑に進むようにする
― 84 ―
庄司 洋一
区分
学習活動
○指導上の留意点 □評価
・他の班の覗き見タイムを設定する
○他の班が何を書いているか見させ、視
点を広げさせる
□「気になること」
「わからないこと」
の記入状況を机間巡視する
○進行状況を確認しながら、助言を与え
る
□シートの記入状況を確認する
まとめ
・写真シートに書いたことを発表させる。
○ 4 種類の写真シートごとに発表させる
・まとめ
区分
導入
学習活動
○指導上の留意点 □評価
・前回の振り返りをする
○前回のグループワークでの参加の状況
や世界と日本のつながりについて、振
り返る
展開
・ワークシートの記入の仕方について説明する ○記入の進まない生徒をサポートしなが
ら机間巡視をする
・ワークシートをまとめさせる
【ワークシートは図10から13参照】
まとめ
・発表させる
□自己評価をつけさせる
・まとめ
写真の分類①
写真の分類②
写真の分類③
①
②
⑤
⑥
⑨
⑩
③
④
⑦
⑧
⑪
⑫
図1
図2
写真の分類④
⑬
⑭
⑮
⑯
図4
図5
― 85 ―
図3
高等学校
■第 3 回
庄司 洋一
①
班
わからないこと
Ⅳ
20141120【写真】
写真
気になること
②
班
わからないこと
20141120【写真】
写真
③
気になること
班
わからないこと
20141120【写真】
写真
気になること
④
班
わからないこと
20141120【写真】
写真
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
気になること
実践の成果
第 1 回目の授業実践では、クイズ形式の内容で行い、生徒が取りかかりやすく、はじめての
グループでもコミュニケーションが取れるように配慮した。導入の映像クイズでは、簡単な内
容ではあるものの、インパクトを与えられる教材により、生徒の興味関心を引き出す上で有効
であった。
グループ分けは、学年全体で異なる学科の生徒同士が話し合う機会を作り、新しい発想を導
き出させたいと考え、同じ班に同じクラスの生徒にならないように配慮して行った。これによ
り、グループワークでの話し合いが進まないと予想していたが、はじめて会った者同士、解答
をまとめようと努力していた。このことは、生徒の感想からも伺える。
〈生徒の感想〉
(男子)最初は、誰とも話さず、話し合いにならなかったけど、次第に班員が意見を出す
ようになってきて、最終的に意見をまとめることができてよかった。自分もしっかり
意見を伝えることが出来たと思う。
(女子)はじめてクラス以外の人と話してみて、やっぱりはじめてと言うだけあって話し
が進まなかったり、意見を言わないで黙ったりと暗い感じが多かった。しかし、積極
的に発言しないと、話がまとまらないので、積極性が大事なんだなあと思った。
― 86 ―
庄司 洋一
第 2 回目の授業実践では、授業の開始前から生徒の興味関心が前回より低く感じられ、導入
部分の工夫が必要になった。展開 1 のパラグアイの紹介では、よく見て、そこから感じてもら
いたいという意図から映像にキャプションを入れずに行った。また、この映像は次のグループ
ワークで取り上げる訪問先のヒントになるように工夫した。ここでは、現地に卒業生がいたこ
とという話を通して、パラグアイに興味を持った生徒が多くおり、山形から世界を見て・感じ
る糸口になったと考える。その続きの展開 2 で、会場を移して行ったグループワークでは、お
互いに遠慮してコミュニケーションが取れない班や写真が小さく見づらい、質問がわからない
などの課題がでて、話し合いがうまく進まない班もあった。その改善策として、ぞれぞれの班
に教員が助言に入り、話し合いを進められるようにしたが、事前に予定していた内容まで到達
出来なかった。
高等学校
パラグアイの紹介
アイスブレーク
グループワーク
〈生徒の感想〉
(男子)発展途上国はたくさんあると思いますが、パラグアイでは、日本語を学んでいた
り、自作の楽器でオーケストラを作り、日本でも公演をしたりなど、日本と深く関わっ
ている国だということがわかりました。
(女子)自然が豊かな場所だと思いました。パラグアイの人たちは森を大切にするような
意識があるのかわかりませんが、木の苗を植えている写真が心に残りました。また、
国旗には表と裏があり、昨年、国旗のデザインを新しくしたところに興味を持ちま
した。
(女子)医療施設や建物などがちゃんとしていなくて、貧しい国なのかと思いました。し
かし、パラグアイの子ども達は、学校生活をとても楽しんでいるように思えました。
学習も一生懸命で楽しそうに受けていると思いました。
(男子)貧しい国だと思っていたのですが、素晴らしい国ということに気づき、パラグア
イはいい国だと思いました。楽器をゴミから作り、しかもその楽器を使って素晴らし
い演奏をしているのも見て感動しました。山形に来て演奏してほしいです。これから
の人生の中で、何回かパラグアイに行きたいと思いました。
第 3 回目の授業実践では、 2 回目の授業で到達出来なかった所を補充する内容のワークシー
トを作成し、各クラスごとに実施した。特に、2 回目の授業で写真を「よく見る」
「感じる」
「考
える」の 3 つのキーワードをワークシートの中で再度行うように工夫をした。また、 3 回の授
業の反省と、生徒の自己評価も記述させた。
(ワークシートは資料参照)
感想を見てみると、パラグアイという国の理解が深まり、世界の国々に興味を持ち始めてい
るように感じられた。また、写真から自分達が行動を起こすとしたら何が出来るかと考えさせ
― 87 ―
庄司 洋一
る問いにも、
「募金をする」といった意見が多くあった中に「衛生状態をよくするためのボラ
ンティア活動をする」
「環境に配慮した生活をしていく」など、自分達に今できることは何か
を考える機会になったと考える。
〈生徒の感想〉
(女子)今まで知らなかったことに少し目を向けてみると、とてもおもしろいと感じた。
また人との関わることが重要だと改めて気づいた。
(男子)農作物を作っている畑の面積が、日本に比べて広く、パラグアイという国が自分
が想像していたのと大きく違っていた。卒業生がパラグアイにいたことが一番印象に
残っている。
(男子)パラグアイは、名前を聞いたことがあったけど、具体的にどんな国なのかは知ら
なかったので、実際に、写真や映像を見てはじめてするものばかりであった。その中
でも、ゴミを使って楽器を作り、それで演奏するというものはとても良いことだと思っ
た。ゴミのリサイクルにもなるし、みんなでたのしむことが出来て素晴らしいと思った。
生徒の自己評価から見てみると、今回のテーマである世界と日本のつながりについて64%の
生徒が世界とのつながりをよく理解している。また、パラグアイについても、60%の生徒がよ
く理解できている。得た知識から行動につなげる観点から、
「世界の現状や課題に興味を持ち、
将来を考えること」の質問に注目すると54%の生徒がこれからの世界について考える機会に
なっている。
以上のことから、今回の授業を通して、日本と世界のつながりを理解し、グローバル化に対
応した地域産業の発展を担う生徒の育成につながると考える。
■自己評価の結果
(1)講師の先生の伝えたいことをしっかり理解するこ
(2)世界と日本がつながっていることを理解することができま
とができましたか。
したか。
1
3%
5
26%
2
7%
1
5%
2
5%
5
32%
3
32%
4
32%
3
26%
4
32%
(3)日本とパラグアイのつながりについて理解すること
(4)世界の現状や課題に興味を持ち、将来を考えること
ができましたか。
ができましたか。
5
27%
1
5%
5
28%
2
7%
3
28%
4
26%
4
33%
1
4%
2
8%
3
34%
1 ほとんどできない 2 できない 3 普通 4 できた 5 よくできた
― 88 ―
庄司 洋一
Ⅴ
課 題
知識から行動へと考えたとき、様々な知識や経験をもった
人の集団が必要である。今回の授業では、人為的に各クラス
から一人ずつ集め、 5 人のグループを作ることを基本に実施
した。そのため、お互いの名前もわからない状況から始めた
ため、コミュニケーションが上手く取れない生徒もおり、班
で話し合いが進まない所も見えた。その改善策として、アイ
スブレークをいくつか行ってから、グループワークに取り掛
1 学年 一斉で実施
からせた方が、より効果的だったと考える。その他の要因と
して、座席のある部屋での実施であったため、車座になっての話し合いができなかったことの
教材について、 2 回目の授業で使用した図 6 から 9 について、写真が小さく、意図した部分
が見えにくいなどの問題があり、授業の進行が遅れてしまった。多くの写真から考えて選んだ
が、一つのシートに 4 枚並べたのは効果的でなかった。生徒に、写真から読み取らせる場合、
意図することを明確にして写真を精選する必要があった。
単一学級での実践ではなく、学年全体で実践するダイナミックな国際理解教育を目指した。
実践の結果、全体指導のいい面と悪い面の両方が見え、今後の課題も明らかになった。また、
今回の実践を通して、開校して間もない学校での国際理解教育の継続的な実践のはじめの第一
歩を作ることができたと考える。
今後、校内の先生方との協力と内容の改善を加え、学校全体で取り組む国際理解教育を展開
していきたいと考える。
結びに、今回の研修でお世話になりました国際協力機構東北支部をはじめとして、ご協力・
ご指導いただきました皆様に感謝申し上げます。
関連する学習指導要領の内容と文言
高等学校学習指導要領
第 1 章 総則
第 2 款 各教科・科目及び単位数等
4 学校設定科目
学校においては,地域,学校及び生徒の実態,学科の特色等に応じ,特色ある教育課程の
編成に資するよう,上記 2 及び 3 の表に掲げる教科について,これらに属する科目以外の科
目(以下「学校設定科目」という。)を設けることができる。この場合において,学校設定
科目の名称,目標,内容,単位数等については,その科目の属する教科の目標に基づき,各
学校の定めるところによるものとする。
5 学校設定教科
(1)学校においては,地域,学校及び生徒の実態,学科の特色等に応じ,特色ある教育課程
― 89 ―
高等学校
課題である。
庄司 洋一
の編成に資するよう,上記 2 及び 3 の表に掲げる教科以外の教科(以下「学校設定教科」
という。
)及び当該教科に関する科目を設けることができる。この場合において,学校設
定教科及び当該教科に関する科目の名称,目標,内容,単位数等については,高等学校教
育の目標及びその水準の維持等に十分配慮し,各学校の定めるところによるものとする。
学校設定科目「キャリア基礎」について
科目名
キャリア基礎
単位数
1
探究的学習や学習成果の発表を通し、キャリアを積み上げていく上で必要
科目の目標
な知識や地域産業の理解、聞く力と伝える力などのコミュニケーション能
力、進路を開拓するために意欲的に学ぼうとする態度を育成し、主体的に
キャリアを形成することができるようにする。
1 自分を見つめる
科目の内容
2 産業社会と自分
3 生きていくこと働くこと
4 ライフプラン
●出典・参考図書
・『学校教育へコーチングを活かす』
北村勝朗 東北大学
・『世界を照らす僕たちの手作り太陽電池パネル』
東根工業高校ものづくり委員会
― 90 ―
庄司 洋一
授業実践第 3 回目で使用したワークシートの抜粋
日本と世界のつながり
●前回の授業を思い出しながら次のことをまとめましょう。
1、次の写真をよく見ましょう。
この学校は日本語を教える学校です。普段、子どもたちは、午前中スペイン語で授業を受けて、学校
が終わった後に日本語を学びに来ています。日本でいうと塾のような学校です。この学校の目標は、
(1)
日本語による学習を通し、日本の優れた文化・習慣を吸収し、国際的文化人になるための素質を養う。
(2)パラグアイ国民としての自覚を持ち、パラグアイ国の文化・技術の発展と充実に正しく貢献でき
る人材になるための素質を養うです。
高等学校
①写真から感じたこと、読み取れることを書きましょう
2
次の写真をよく見ましょう。
ここは、音楽学校で、小学生から大人まで学んでいます。楽器は、とても高価なので、ごみのなかか
ら素材を集め、作っています。作った楽器で、オーケストラをつくり演奏会などを開催しています。日
本のテレビでも紹介され、東京と大阪で演奏会を開催しました。
①写真から感じたこと、読み取れることを書きましょう
― 91 ―
庄司 洋一
②今年の5月に洪水のために家を失った生徒が数多くいます。今も、仮の家で住んでいます。衛生状態
も悪く、病気で亡くなる人も出てきました。ここに住む人たちに対して、あなたなら何ができますか。
考えをまとめましょう。
●11 月 13 日の第 1 回目の授業を振り返りましょう。
1、次の写真で一番印象に残っていた写真はどの写真でしょうか。番号を記入してください。
(
)
2、はじめて同じクラス以外の同級生と活動をした時の自分の参加の状態を振り返りましょう。話し合
いに参加していたか、自分から問題の解答を考えていたかなど、文章にまとめましょう。
― 92 ―
庄司 洋一
●11 月 20 日の第 2 回目の授業を振り返ります。この授業では、南アメリカ大陸の中央部に位置するパ
ラグアイについて紹介しました。
1、パラグアイについてどのような印象を持ちましたか。自分が感じたことをまとめましょう。
●2回の授業を通して、新たに知ったこと、気付いたこと、一番印象に残ったことなどをまとめましょ
う。
高等学校
― 93 ―
中田 伸幸
発展途上国について考える ~パラグアイを通じて~
中田 伸幸 青森明の星中学 ・ 高等学校 (中学)社会科 (高等学校)地歴・公民科
教 科
Ⅰ
総合的な学習の時間( 3 時間) 対 象
中学校 1 ~ 3 年生 22名、
高等学校 1 ~ 3 年生(普通科・音楽科)214名
実践の目的
本校では、現在の急速なグローバル社会の到来によって世界規模で生起する諸課題に取り組
み、解決していく人材の育成を目指している。地球全体として私たちの未来を考える態度やさま
ざまな角度からものごとを捉える態度の育成を図るため、グローバル教育を充実させるべく、
「俯
瞰的視野で異文化理解力を育むとともに、常識的知識の深化を図る」ことで幅広い教養を身につ
けさせたいと考えている。
グローバルな視野は、現在社会に求められている重要な能力である。将来、生徒たちが社会人
として生活する頃には、今よりももっとグローバル競争が激化していると想定される。各企業は
世界に目を向けて働きかけており、現状、もう既に国際社会における市場は飽和状態で、新しい
市場を切り拓く必要に迫られている。一方で、この状況をビジネスチャンスと捉えられている面
がある。つまり、国際社会を舞台として、課題を見出し、その解決方法を打ち出す人材に光が当
てられる世の中に変化しているところなのである。
このような現代社会において、本校生徒の実態は、社会人として求められる能力がまだ充分に
備わってはいない。そこで、中高生として、まずは世の中で何が起こっているのかを把握する段
階を踏みたいと考えている。そして、理想としては、社会をより正確に捉え、その中で考えられ
る諸々の課題について考察し、グローバル人材として課題解決のために行動を起こす能力を身に
つけて欲しいと願っている。その第一歩として、今回の教師海外研修で得たものを生徒に伝え、
多面的・多角的な視野を養成したいと考えている。
そこで、実践の目的として、私が実体験してきたさまざまな場面を写真や映像を活用して伝達
することで、現在の国際的な視点の一つとして、パラグアイを発展途上国の一例として焦点を当
て、開発途上国における貧富の差と異文化に対する理解を深めさせたい。また、私たちが実施可
能な国際協力について考察することで、生徒たち自身の考えで課題を見出し、何ができるかを考
察する力を身につけさせたいと考えている。
― 94 ―
中田 伸幸
Ⅱ
授業の構成
総合的な学習の時間
時数
事前活動
ねらい
内容
*アンケート
*対象国に関わる意識調査
(出国前) パラグアイについて既知の部分とそうで パラグアイについて知っていることを答
ない部分を捉えることができる。
1 時間目
える。
*パワーポイント利用(写真提示)
*異文化理解
(帰国後) グローバル化が進展する現代社会におい *ワークシート
て、発展途上国の一例としてパラグアイ 対象国であるパラグアイについての理解
に焦点を当て、開発途上国内で格差(=
を深める。
貧富の差)が生じていることを写真から ・位置の確認 基礎的・基本的
読み取り、異文化に対する理解を深める ・時差の計算 知識の定着
・歴史や地理 ことができる。
・写真を見てパラグアイの様子を確認
する。
2 時間目
*ワークシート
*国際協力
前時の学習から自分たちが実施可能な国 *プレゼンテーション
際協力について考察することができる。 グループワークによって、各グループが
国際協力について考察する。
・中高生としてできること
・将来社会人としてやってみたいこと
事後活動
*行動を起こす
*アクション
前時で考察した国際協力の中から実際に 自分たちで考察した国際協力のアクショ
ンプランを実践する。
行動を起こすことができる。
・実践計画
・アクション
Ⅲ
授業の詳細
……………………………………………………………………………………………………………………
総合的な学習の時間【
1 時間目】
────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
*異文化理解
(1)〈ねらい〉グローバル化が進展する現代社会において、発展途上国の一例としてパラグア
イに焦点を当て、途上国内で格差(=貧富の差)が生じていることを写真から読み取り、異文化
に対する理解を深めることができる。
― 95 ―
中田 伸幸
(2)展開
導入(
時数
分)
15
教師の働きかけ
1 パラグアイについて
「パラグアイはどこにあるで
しょう」
「時差を計算してみよう」
生徒の反応
・南米、日本から考えて地球の ・パワーポイント(PP)
反対側
・知らない
「 2 枚の写真のうち、アスン
シオンはどれでしょう」
・ワークシート配布
・グループ活動
・時差13時間
・左の写真は車がたくさん通っ
2 都市と地方について
評価・留意点
ている
・左の写真は大きな建物が
ある。
・右の写真は人通りが少ない。
課題:なぜ途上国の都市と地方とでは生活の様子が異なって見える
【関心・意欲】パラグア
イについて発表できる。
【知識・理解】
時差の計算ができる。
【技能・表現】写真を見
て首都だと思う理由を
説明できる
のだろうか。
展開( 分)
25
3 都市と地方の学校の比較
「どちらが都市の学校でしょ
うか」
・NIHON GAKKO(都市)と
ミルトス小学校(地方)の両
・制服を着ている、人がたくさ ・早押しクイズ形式
んいる
・椅子がある、屋内
・机と椅子がみんな同じ
・パソコンが最新式
校の写真を並べ、説明させる
4 都市の私立学校と地方の公
立学校
【NG】屋根付きの集会場、平
屋じゃない
「都市の学校は私立学校、地
方の学校は公立学校です」
・両校の概要を箇条書きで提示
【ミル】机と椅子が揃ってな
い、暗い
【技能・表現】写真を見
て首都だと思う理由を
説明できる
【思考・判断】
両校の概要やパラグア
イについて得た知識か
ら、学校やパラグアイ
(途上国)に対して、し
てあげられることを考
察し、発表できる。
例)【NG】都市の私立学校
幼稚園から大学まで設置
【ミル】地方の公立学校
授業を終日受けないで帰る
終結(
分)
10
子がいる
5 格差社会の負のスパイラル
・教育が充実すれば前進できる
「負のスパイラルを断ち、格
差を埋める必要がある」
【知識・理解】経済格差
の負のスパイラルを理
解できる。
・特に教育が重要であることに
気付かせる
まとめ:途上国の都市と地方は経済的格差があり、国民の生活には貧富の差が生じている。
― 96 ―
中田 伸幸
使用したパワーポイント抜粋
導入部分(15分)
どちらがパラグアイの国旗でしょう?
時差
13時間

①

②
表
裏
独立記念日の「5月の星」
ヤシとオリーブの葉
自由の帽子とライオン
「平和と正義」
スライド 2「パラグアイの国旗」
西経
60度
経
度
0
度
南アメリカ
パラグアイ
本
初
子
午
線
東経
135度
スライド 3「日本とパラグアイとの時差」
Q.どれがアスンシオンでしょう


首都アスンシオン
人口は
市部と都市圏を
併せて約85万人
青森市の人口の
2倍以上!
スライド 4「首都アスンシオン①」
スライド 5「首都アスンシオン②」
パラグアイに関わる基礎的・基本的な知識をパワーポイントのスライドショーで国旗や地図、
写真を提示することで理解を深めた。そもそも出国前の事前活動で実施したパラグアイの意識調
査では、
「どこにあるのかもわからない。
」
、
「アフリカかな。
」
、
「よくわからないけど命を大切
に。」、
「病気とか気をつけて、予防接種とか何が必要か調べて行ってね。
」といった状況であった。
つまり、意識調査をした生徒のほぼ全員がパラグアイについてほとんど何も知らなかったのであ
る。そこで、より正確なイメージを与えるため、地図や写真を活用し、パラグアイを捉えてもら
えるようにした。世界の中でも珍しい裏表で模様が違う国旗であることや、海外研修時は日本と
の時差が13時間であるなどといった知識がわかると生徒は一様に驚いていた。また、写真の提示
はこの後の展開部分でも続けていくのだが、私が見た最新のパラグアイの様子は生徒たちにとっ
ては、開発途上国を疑似体験できる貴重な教材である。私が目の当たりにしてきた現状の一つと
して、「なぜ途上国の都市と地方とでは生活の様子が異なって見えるのだろうか。
」を学習課題に
パラグアイを通じて開発途上国を知る時間の導入とした。
― 97 ―
中田 伸幸
展開部分(25分)
なぜ途上国の都市と地方とでは生活の
様子が異なって見えるのだろうか。
なぜ途上国の都市と地方とでは生活の
様子が異なって見えるのだろうか。
スライド 7「教育環境の違い①」
スライド 8「教育環境の違い②」
なぜ途上国の都市と地方とでは生活の
様子が異なって見えるのだろうか。
なぜ途上国の都市と地方とでは生活の
様子が異なって見えるのだろうか。
スライド 9「教育環境の違い③」
スライド10
「教育環境の違い④」




実際に見てきた学校で撮影した写真を比較し、見比べた中で感じた違いをグループによる早押
しクイズ形式で発表する活動を行った。対象としたのは、首都アスンシオンにある「NIHON
GAKKO」とイタクルビ市にある「メルセデス・ミルトス小学校」である。NIHON GAKKO は
都市部の私立学校の例として、メルセデス・ミルトス小学校は地方の公立学校の例として説明
し、スライドショーで提示される 2 枚の写真を比べて、
「どちらが都市の学校で、どちらが地方
の学校なのかを理由をつけて発表する。
」というルールでグループ対抗活動を行った。スライド
7 は、集会が屋内外で異なることや服装が私服と制服であることが発見された。スライド 8 は、
教室の壁の様子や机・椅子といった教室環境の違いが発見された。スライド 9 は、パソコンのサ
イズや生徒一人あたりが使用できるパソコンの台数が異なることが発見された。スライド10は、
地方の学校でも都市の学校でも楽しそうに学校生活を過ごしている様子が伝わるという発表がな
された。
グループ活動の最中に生徒が見つけてくれたこのような相違点に加えて、都市の私立学校は幼
稚園から大学まで併設されていること、設備が充実している印象が強かったことを補足した。ま
た、地方の公立学校では午前だけ学校に行って午後には帰ってしまうという児童・生徒がいるこ
と、設備は不十分な印象を受けたことを説明した。
― 98 ―
中田 伸幸
終結部分(10分)
途上国の都市と地方では経済的には格差があり、
国民の生活貧富の差が生じている。

どこかを断ち切れば
止められる!
4
生活が
困難
2
就職に
支障
1に戻
る!?
教育・知識
不十分
負
の
ス
パ
イ
ラ
ル
子どもが
働き手となる
5
収入が
不安定
3
教育・知識
不十分
1
スライド12
「負のスパイラル」
本時の終結は、展開部分までで確認できた途上国内に存在する教育現場における異なる点を格
差、つまりは貧富の差と捉え、どのようにすればそのような貧富の差が生まれないような社会を
形成することができるようになるかを上記の「負のスパイラル」から生徒と一緒に考察した。星
マークの 1 ~ 5 は、開発途上国内で貧困層に数えられる人々がその困難な生活から抜け出すため
の改善ポイントを示した図である。いずれかの場面が克服されれば、生活環境に変化が生まれ、
貧困から脱することができるかも知れないと考えられる。この授業では、落とし所として都市部
と地方の学校を比較対象とし、意見を発表していった。子どもたち全員に「教育の機会」が行き
渡るようになると負のスパイラルを抜け出すことができると結論づけた。そして、私たちの立場
でこのような格差社会に住んでいる国の人々のために何ができるか考えていこうと促すことで次
時に繋げた。
……………………………………………………………………………………………………………………
総合的な学習の時間【
2 時間目】
────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
*国際協力
(1)〈ねらい〉私たちが実施可能な国際協力について考察することができる。
(2)展開
導入(
時数
分)
10
教師の働きかけ
1 私たちができること
生徒の反応
・グループ活動準備
「何ができるかグループで考
えよう」
課題:自分たちでできる国際協力について考えよう。
― 99 ―
評価・留意点
中田 伸幸
展開( 分)
時数
20
教師の働きかけ
生徒の反応
2 意見を出し合う
・支援
グループで話し合うこと
・勉強を教える
①今やってみたいこと
・不使用教材の寄付
②将来やってみたいこと
・ボランティア活動 等々
*グループの構成は 1 年生から
・ワークシート配布
【関心・意欲】パラグア
イについて話し合える。
【思考・判断】
前 時 の 知 識 を 生 か し、
パラグアイで求められ
ることを考えることが
できる。
3 年生まで混合のグループと
な っ て お り、 3 年 生 が リ ー
ダーシップを発揮して下級生
を牽引する。各々が意見を出
【表現】パラグアイにつ
いて発表できる。
しやすい環境にするように司
終結( 分)
20
評価・留意点
会者となる。
3 発表する
・発表する
「グ ル ー プ 毎 に 発 表 し ま
【関心・意欲】パラグア
イについて発表できる。
しょう。
」
まとめ:実情を知ることが行動に繋がる。世の中の動きにも注目し、国際協力の意識を高めよう。
活動の場面
グループの発表で出た国際協力の例
①今、やってみたいこと
・募金活動をして、設備を充実させる。
・途上国についていろいろな人に伝え知ってもらう。
・ボランティア活動(教科書や衣服の寄付、募金)
・自分自身のグローバル意識を高める。
・コミュニケーション能力を高めてさまざま勉強する。
― 100 ―
中田 伸幸
②将来、やってみたいこと
・インターネットを通じての授業をする。
・青年海外協力隊になる。
・現地に行って日本のことを伝える。
・途上国の現状についての講話を増やす。
・一度その国へ行ってどのような状況か自分の目で確かめる。
・日本から人材を派遣して技術を伝える。
・途上国内で交換留学をする。
(学校間交流)
*事後活動
総合的な学習の時間から得られた知識や意見をその時だけのものにしないように行動を起こす
ことを考えている。本校はボランティア活動を積極的に実施しているので、上記の「①今やって
みたいこと」にある「教科書や衣類の寄付、募金」は実行可能なアクションプランとして考えら
れる。特に、私が今回の教師海外研修中に訪問したイグアス日本語学校の様子を口答にて伝え、
「学校では、生徒たちは個人の教科書や副教材をもっていない」といったことに驚いていた。「ど
うやって授業を受けるのか」という疑問が当然のように聞こえてきた。
「教科書や副教材は学校
に置かれている物を共有して使っていた」
、
「その教科書や副教材は未だに昭和のデータでなけれ
ば数値がわからないようなものも使われていた」ということに、
「そうなのであれば、私たちで
集めて送ろう」という考えが出された。
今後、学校の取り組みとして使用済み・未使用を問わずに教科書や副教材を収集し、縁あって
行くことができ、さまざまな経験をさせてもらったパラグアイに恩返しができれば本当に嬉しく
思う。
Ⅳ
実践の成果
授業後の生徒の感想の抜粋
・発展途上国には、都市と地方で、設備や生活が違うとわかり、私は地方の学校に使用済みの
教科書や衣服を寄付したいと思いました。
・発展途上国の貧富の差についてよくわかり、その貧富の差をなくしたいと心から思った。
・今回の話で、初めて発展途上国のパラグアイについて知ることができました。都市と地方で
はこんなにも差があるんだと感じました。私は少しでも途上国のことをいろいろな人に伝え
たいです。
・地球の裏側なので、簡単に行くことはできませんが、お話を聞いたり写真を見たりして興味
が湧きました。
・都市と地方の格差がとても激しいことにビックリしました。私は今キレイな学校で貧しいと
いうことを感じていませんが、地方の学校は午前だけ受けて午後は働いたりしないといけな
いことがとても信じられませんでした。この先、地方の人達がちゃんと勉強できるよう募金
などがあったらしたいです。
― 101 ―
中田 伸幸
・パラグアイという国の中でも、このような差が生まれてしまうことにショックだった。
・途上国のことについてもっと詳しく調べてみたいと思いました。そして、将来ボランティア
などできることをたくさんしたいです。
このような感想から、はじめは知りもしなかったパラグアイについて知識を身につけたこ
と、パラグアイを通じて途上国に興味・関心を抱いたこと、異文化理解の心が育ったこと、国
際協力のために意見を考え発表したことなど私にとって手応えを充分に感じられる実践と
なった。
授業の前後には、マテ茶を試飲したり、ニャンドゥティに触れてみたりとパラグアイに親し
む時間もとることができた。このことをきっかけに、真の国際人になってくれることを願って
いる。
Ⅴ
課 題
今回の実践授業では、グループ活動が中心であったが、生徒たちの協力もあり活発に意見交
換がなされていた。しかし、個々に目を向けたときに必ずしも全員が意見を発言できた訳では
ない。周りの話に合わせていた生徒もいた。いきなりグループでの話し合いを授業の展開の中
核においてしまったため、そのような場面が見えてしまったので、今後、このような授業を実
施するときは、個人で考える時間を設定することで自信をもって意見を言い合える工夫をして
いきたい。また、前述ではあるが、一過性のもので終わるのではなく、折角、異文化理解や国
際協力に対して意識が芽生えたので、その気持ちを生かしていけるようにアクションを起こし
ていくことが大事なことだと考えている。
関連する学習指導要領の内容と文言
第 1 目標
横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主
体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに,学び方やものの考え方
を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の生
き方を考えることができるようにする。
第 3 指導計画の作成と内容の取扱い
1 指導計画の作成に当たっては,次の事項に配慮するものとする。
(2) 地域や学校,生徒の実態等に応じて,教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習,探
究的な学習,生徒の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行う
こと。
(4) 育てようとする資質や能力及び態度については,例えば,学習方法に関すること,自
分自身に関すること,他者や社会とのかかわりに関することなどの視点を踏まえること。
(5) 学習活動については,学校の実態に応じて,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健
康などの横断的・総合的な課題についての学習活動,生徒の興味・関心に基づく課題につ
― 102 ―
中田 伸幸
いての学習活動,地域や学校の特色に応じた課題についての学習活動,職業や自己の将来
に関する学習活動などを行うこと。
2 第 2 の内容の取扱いについては,次の事項に配慮するものとする。
(2) 問題の解決や探究活動の過程においては,他者と協同して問題を解決しようとする学
習活動や,言語により分析し,まとめたり表現したりするなどの学習活動が行われるよう
にすること。
(3) 自然体験や職場体験活動,ボランティア活動などの社会体験,ものづくり,生産活動
などの体験活動,観察・実験,見学や調査,発表や討論などの学習活動を積極的に取り入
れること。
(5) グループ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態,地域の人々の協力も得
つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制について工夫を行うこと。
●出典・参考図書
『Career Guidance Vol.404』
(2014年10月)
、発行:リクルートホールディングス
― 103 ―
中田 伸幸
発展途上国について考える
~ パラグアイを通じて ~
名前
1
時差を計算してみよう
2
課題
3
私たちができること
4
まとめ
5
感想
自由メモ欄
― 104 ―
イエズス会の
ミッション村
−世界遺産ト
リニダ遺跡
発行:平成27年 3 月
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(代表)
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