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中小(零細)製造業が 成功する経営戦略

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中小(零細)製造業が 成功する経営戦略
【中小企業マネジメント】
中小(零細)製造業が
成功する経営戦略
~ビジネスチャンスとBreak-through~
広島修道大学 商学部教授 川原
はじめに
直毅
自動車産業において
は、従来の1次、2次、
景気回復、
経済の好循環、
大胆な金融緩和策によっ
3次というような下請
て、
アベノミクスは円安も追い風になって自動車、電機、
け構造が見直され、
機械産業など、我が国の基幹産業に過去最高益をも
徹底的なコストダウン
たらした。一方、
2014年4月に消費税率が5%から8%へ
を図るために生産工
引き上げられたが、国民経済に積極的消費は見られ
程の見直しや部品の
ず、
結局、
消費税10%はGDPの成長率がマイナスに作
内製化、短納期、多
用し、先送りされた。
しかし、政府、
日銀、経済界では景
品 種 小ロットについ
気は緩やかな回復基調にあると言い、
大企業を中心に
ては自社もしくは外注
春闘ではベアアップする公算が強い。
の範囲を限定すると
このような一部の恩恵にあずかる大企業、
中堅企業
いう徹底ぶりである。
以外の中小(零細)製造業との格差は今なお拡大する
内 製 化について
ばかりである。
それでは中小(零細)製造業の現状と課
は、
いうまでもなくムダを省く原価低減が原則であり、
ひ
題は何か。脱下請け、新製品開発、企業内創業(第二
いては人件費、在庫を減らすことに繋がり、
これによっ
創業)
、
ベンチャー、
ブランド化、販路開拓、後継者育成
て設備の余力さえ生みだされるのである。世界的に
から人材確保など、内包する課題は複雑・多岐にわた
有名となったトヨタのかんばん方式(JIT)、
カイゼン
(改
る。本稿では、頑張る中小(零細)製造業が成功する
善)
はまさに最先端の経営革新であろう
(注1)。昔は自
要因について検討してみたい。
動車部品がおよそ3万点あるといわれ、
そこに下請け
激変する環境に適応する
中小(零細)製造業
中国新聞 2015年3月10日付
企業(サプライヤー)が1次から孫請けまで階層的なピ
ラミッド構造(現在はツリー状ともいう)が形成されてい
たが、
それも今は昔、現在の仕入れ数は110~150社
バブル崩壊後、失われた20年と揶揄されるこの期
以内に集約されている
(注2)。
間、
中小(零細)製造業は独自の固有技術によってそ
もちろん、
このドラスティックな環境変化に中小(零
の存在を明確にしたといっても過言ではない。
とりわけ、
細)製造業は、他社との競合のなか、
自社の得意な分
大企業からの容赦ないコストダウン、品質・精度の向
野で自ずと技術水準を高めなければ生き残ることがで
上、
そして品質保証という要求に耐えてきた。例えば、
きず、
ひたすらコストダウン、品質管理の向上、精度アッ
ワイエムビジネスレポート 2015. 4月号 No.79
1
中小(零細)製造業が成功する経営戦略
下請け構造は、所詮、親企業のコスト削減に貢献でき
るかなり優良な中小(零細)製造業であり、多分に親企
業の都合のいいバッファー
(緩衝)的存立として位置づ
けられる。
これら優良な中小(零細)製造業は、大手企
業1社に特に依存している訳ではなく、
企業規模を見る
と、資本金、従業員数、年間販売額など、中小企業基
本法のいずれかの規定の枠組みに入るものの、積極
的に海外生産拠点を持つなど、
いわばみなし大企業で
あり、
かつ形式的な下請け企業であって、
ある種、協力
的・連携的な意味合いを持っている。
これに対して、
従来の取引を解消された中小(零細)
製造業は、苦難の道に立たされる。支配・従属関係とま
地道に経営を続ける中小企業を取り巻く環境は厳しい
ではいかないにしても、
部品加工、
製品加工などサプラ
イヤーとして、
さらに専従の下請けに徹するか、
自社固
プに邁進したのである。
しかし、
それでも円高、原材料
有の技術(特許)
をもって、特定市場(nich=ニッチ)
に
価格の高騰によって、経営が成り立たず、
トカゲの尻尾
活路を見出すか、
さもなくば市場からの撤退を余儀なく
切りにあった企業も少なくはない。中小(零細)製造業
される、
極めて過酷・非情な状況に立たされる。
の機動性、機転、
その適応力など、
それは飽くなき経営
しかし、
見方を変えれば、
これは大きなビジネスチャン
努力の追求のなせる業なのである。
スでもあり、場合によっては経営者は、
自社固有の技術
(注1)
大野耐一『トヨタ生産方式~脱規模の経営を目指して~』1978年 ダ
イヤモンド社
(注2)
資料:東京商工リサーチ「TSR企業相関ファイル
(2010年)」経産省
「輸送用機械器具製造業の取引構造」第2-1-28図による
下請け構造の変化
周知のように、
我が国では大企業と中小企業の二重
2
力や経営資源を最大限生かし、社運を掛けて心機一
転して新たな事業分野へ進出ということも視野に入れ
なければならない。
中小(零細)製造業の
成長戦略の一側面
構造問題は、解決するどころか今なお根深く存在する
経産省では、
このような中小(零細)製造業にビジネ
が、
下請け構造問題はかつてのそれではない。
むしろ、
スチャンスを与えようと、
個々の中小(零細)製造業がお
下請け中小企業は、
本稿では中小(零細)製造業に限
互いの経営資源を持ち寄り、
相互に連携を図って新製
定して述べるが、それは親企業との取引関係を強化
品開発、
新たな役務、
販路開拓ができるよう支援に乗り
するかのように集約される中小(零細)製造業と、一方
出した。平成17年4月、
中小企業新事業活動促進法、
では、
集約化によってこれまでの取引を解消される中小
いわゆる地域新事業活動促進支援事業(新連携事
(零細)製造業に選択されている。
これは親企業が内
業)がそれである。
この制度も平成26年末の国会にお
製化を図るうえで、例えば、部品組み立て工程、部品
いて法改正が行われ、
平成27度4月からは地方創生の
加工工程、
製品組み立て工程など、
最終的には簡単な
一環として「ふるさと名物応援事業」
(地域間連携型
アッセンブル段階(工程)
において、
これら技術水準の
新連携支援事業)
に代わる。
( 平成26年度補正予算
高い中小(零細)下請け企業群に依存するという構図
額40.0億円)。
これによって、長年、分野別であった新
である。
連携、
地域資源、
農商工連携の3事業が1本化される。
しかし、一見すると互いに良好な関係に見えるこの
筆者はこれまで既に1,000社以上の中小(零細)製
ワイエムビジネスレポート 2015. 4月号 No.79
中小(零細)製造業が成功する経営戦略
造業者のプレゼンテーション、個別・直接的な指導を
自社ブランドとして、
既存市場に立ち向かう姿勢は素晴
行ったが、優れた技術力、新製品開発力、
これら2~4
らしいと思ったが、
“ブランディング”
は一朝一夕ではでき
社の連携企業体から生み出される新たな役務など、
そ
ない。筆者自身、非常に残念であると同時に、苛立ちさ
の発想力、
アイデアの創出に時として目から鱗状態にな
え覚えた。
る。
しかし、悲しいことに財務体質の悪化や市場規模
から想定される売上げ目標など収支計画は極めて甘
く、
しかも販路開拓はほとんど連携先に依存するなど、
中小(零細)製造業の
Break-through
分業体制が図られてはいるが、補助金採択後の売上
現在、
世界中でMade in Japanの製品、
モノ、
コトが
げについては1/10にも満たない中小(零細)製造業が
見直されている。
これは素晴らしいことである。
さすがモ
圧倒的に多いのも特徴である。
ノづくり大国、
日本である。今から10年前、経産省のモ
その原因は営業力、販売力など、いわゆるマーケ
ノづくりフォーラムで岡野工業(株)
の岡野雅行社長と
ティング力
(商品力、
ブランド力を含む)及び、
マーケティ
お会いし、話をすることができた。
ご存じのように、同社
ング志向(顧客ありき)
の発想が無いことに尽きる。
いく
は金属深絞り加工では世界トップの技術力を誇る。
ら特許(申請中を含む)
を取得していても、価格優位
その代表的な製品が痛くない注射針(ナノバス33)
性、
新製品の差別化がされていても、
市場の参入障壁
である。元々、糖尿病患者のインシュリン注射針に端を
(ハードル)
は高いのである。業界の見本市や業界誌
発するが、
その針先は蚊がヒトの皮膚に刺す大きさ
(外
へPRしても、
それが直接商談へ繋がる確率もそれほど
径200μm、内径80μm)。岡野はこの針をステンレス素
高くない。現実と理想の乖離があまりにも大きい。
材のプレス加工で実現化したのである。医療機器メー
中小(零細)製造業と
マーケティング力
カー・テルモとの共同開発だが、業界、学者からは不可
能とされていた異次元の分野を切り開いたのである。
東京都墨田区、大田区といえば、
日本を代表する中小
これは、
とある中小(零細)食品メーカーの事例であ
(零細)製造業が集積する一大町工場。昔気質の職
る。実は、
この企業は画期的な医学的エビデンスを持っ
人が多数集い、新たな発想と技術はここから発信され
ているにもかかわらず、薬事法優位となる特許出願の
る。
中小(零細)製造業は、
無限の可能性を秘めている
経費を惜しみ、初年度は出だし好調だった売上げも漸
といっても過言ではないだろう。
次売上げ不振となり、市場での優位性はおろか差別
ト状態にある。競合ひしめく業界にあって、健康志向の
高まりから、明らかに消費者ニーズと市場占有率も大き
かったのだが、
如何せん特許や特保などの取得は中小
(零細)製造業ではなかなか困難であることは当然納
得できるし、筆者も周知の上である。
それならば、大手
メーカーのOEM供給という黒子に徹し、
ひとまず、販路
拡大と安定的な売上げ確保によって存立基盤を確立
する手立てもあった筈である。
経営者には何度となく適切なアドバイスを促したが、
結局、補助金の支援は打ち切られた。
まさしく中小(零
細)製造業の経営課題に直面し、経営者が自社製品、
岡野工業の岡野雅行社長の名刺。
「代表社員」を自称し、社員と同じ
立場で仕事をするという姿勢を内外に示している
的な価格が足枷となって、
もはや市場からフェードアウ
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