...

有機単結晶を用いた高性能両極性トランジスタの開発

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

有機単結晶を用いた高性能両極性トランジスタの開発
The Murata Science Foundation
有機単結晶を用いた高性能両極性トランジスタの開発
High-performance ambipolar field effect transistor based on organic single crystals
A64103
派遣先 デルフト工科大学(オランダ)
期 間 平成18年10月23日〜平成19年1月21日(91日間)
申請者 東北大学 金属材料研究所 助教 竹 延 大 志
薄膜F E Tではなく、結晶粒界の影響がない単
海外における研究活動状況
結晶F E Tを用いた研究が不可欠である。我々
研究目的
は、このような有機単結晶F E Tの研究を精力
有機単結晶を用いた両極性トランジスタの
に行っており、近年 独自の技術によって有
駆動原理理解と高性能化。
機単結晶の両極性駆動に成功した。このよう
な両極性のトランジスタは、無機材料では作
海外における研究活動報告
製が困難なため、有機エレクトロニクスの新
本研究では、オランダ・D e l f t工科大学の
たな特徴として注目されている。しかしながら、
Alberto Morpurgo教授の研究グループと共同
将来の応用のためには更なる高性能化が必要
で、有機単結晶を用いた両極性トランジスタ
であり、解決すべき問題も多々ある。今現在、
の駆動原理の理解を中心に、その応用として
有機単結晶を用いた両極性トランジスタの作
のトランジスタの高性能化を行った。加えて、
製に成功しているのは、我々の研究グループ
駆動原理理解の過程で得た知識を基に、有機
とAlberto Morpurgo教授の研究グループの二
単結晶・金属界面での伝導機構についても知
グループのみである。そのため、両者の知識・
見を深める事が出来た。
技術を持ち寄り両極性トランジスタの駆動原理
有機材料を用いたトランジスタ(F E T)は
理解と更なる高性能化が本研究の目的である。
『柔らかさ』『安価』『低環境負荷』等の特徴
滞在初期段階では、Alberto Morpurgo教授
を持ち、次世代のエレクトロニクス素子とし
のグループで開発した両極性トランジスタ作
て注目されている。その発展は目覚しく、有
製プロセス習得に努めた。Alberto Morpurgo
機薄膜トランジスタを用いたフレキシブルディ
教授のグループではSiO 2 絶縁膜を成長させた
スプレイが試作されるまでになっている。そ
高ドープS i基板を用い、結晶の密着性を上げ
の一方で、基礎的な視点では有機トランジス
るために酸素プラズマによる基板洗浄を行っ
タについては多くの事が明らかになっていな
ている。この基板上にソース・ドレイン電極
い。例えば、本質的には真性半導体と思われ
を作製し、最後に薄片状有機結晶を配置し
る有機半導体がp型やn型半導体として振舞う
ている。また、熱処理を行うことによってト
理由ですら明確ではない。このような、基礎
ラップとして働く結晶吸着物(酸素および水
的な問題を解明するには、応用上用いられる
分)を取り除き、両極性駆動を安定化させ
─ 607 ─
Annual Report No.21 2007
ている。まずは、このプロセスを完全にマス
単結晶間でオーミック接触とショットキー接
ターした。我々のデバイス構造との顕著な違
触の任意な作り分けに成功した。この技術は、
いは、Alberto Morpurgo教授のグループでは
両極性トランジスタの高性能化はもちろん、
電極作製後に有機結晶を配置(ボトムコンタ
ショットキー接合を利用した新たな有機単結
クト)しているが、我々は有機結晶配置後に
晶デバイスへの展開も可能にするため、非常
結晶上に電極を作製(トップコンタクト)し
に有意義な結果であった。
ている点であった。この違いが有機材料への
最後に、滞在全般の感想を述べたい。本研
キャリア注入に与える影響について実験を重
究は両極性トランジスタの高性能化という枠
ねながら詳しく検討した。その結果、ボトム
組みに留まらず、有機単結晶・無機金属界面
コンタクトのメリットは結晶に一切のダメー
に対する理解を深めた事より、今後大きな発
ジを与えず比較的再現性の良い金属・半導体
展が期待できる。また、静かな田舎町である
界面を形成できるが、その一方で電極面積と
デルフト市での滞在はヨーロッパの歴史ある
接触抵抗には相関が無く金属の種類と電極表
文化を実感できる貴重な機会でもあった。思
面の状態が接触抵抗を決定しているという結
考に多面性を持たせるという意味で、今後の
論を得た。これに対して、トップコンタクト
研究活動に大きなプラスになると確信してい
は電極面積が接触抵抗と比例しておりデバイ
る。今回、このような貴重な機会を可能にし
ス構造での抵抗の低減が可能であった。トッ
て下さった村田学術財団、共同研究者とし
プコンタクトのデメリットとしては、電極作製
て受け入れて下さったDelft工科大学Alberto
時のダメージがあげられる。これらの特徴を
Morpurgo教授、そして快く送り出してくださっ
加味した上で、幾つかの金属・デバイス構造
た東北大学金属材料研究所 岩佐義宏教授に
を試みる事によって、最終的には金属・有機
篤く感謝申し上げる。
─ 608 ─
Fly UP