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射出成形金型設計の 理論・基本技術体系
第1章 射出成形金型設計の 理論・基本技術体系 1−1 射出成形の分析・複雑な現象の単純化 (1)射出成形の原理 射出成形(インジェクションモールディング)は、加熱されて可塑化された プラスチック成形材料(本書ではメルトという) が金型内に流れ込んで充満し、 その後、金型で冷却されて固化するという原理である。これを、一般に「とけ て」 「ながれて」 「かたまる」という。 「とけて」は射出成形機のシリンダー内、 「ながれて」は金型内、 「かたまる」も金型内である。 成形材料 (熱可塑性) (200℃溶融) 40℃ 圧力40MPa (金型内) 図1−1 射出成形金型の構造 7 型締シリンダー 型締装置 射出装置 射出ノズル 材料投入ホッパ スクリュー駆動装置 スクリュー 押出シリンダ 加熱シリンダー(内部にスクリュー) 移動側ダイプレート (金型取付台) 固定側ダイプレート (金型取付台) 図1−2 射出成形機の構造 1)射出成形機の原理 射出成形機は、射出部と型締部とから構成される。射出部は、成形材料を加 熱(2 0 0℃)して可塑化するシリンダー(加熱筒)と、メルト(成形材料)を 高い圧力(4 0MPa)で金型(4 0℃)内に押し込むスクリューから成る。型締 部は、金型を取り付けるダイプレートと、射出時の高い圧力で金型が開かない ように押さえつける型締機構とから成る。 射出成形の原理を、射出成形機側から見ると、金型を閉じておいて(型締め) 、 スクリュー後退(可塑化:とけて) 、スクリュー前進(射出:ながれて) 、スク リュー後退(次のサイクルの可塑化と今のサイクルの冷却を兼ねる) (冷却: かたまる) 、その後型を開いて成形品を取り出す。1サイクルは例えば3 0秒で ある。 射出部は、スクリューとは限らないが、大多数の射出成形機はインラインス クリュー式(スクリュー1本で可塑化と射出をする)である。射出の動力は油 圧式が基本であるが、日本では純電動式が有力である。わざわざ純と言ってい るのは、油を一切使わないため、環境(油汚染)や安全(油火災)に非常に有 利だからである。 型締部は、直圧式とトグル式とがある。直圧式の原理は一目瞭然で、成形現 場でわかりやすい。油圧シリンダーで直接型締めする。純電動式では直圧式は 8 第1章 射出成形金型設計の理論・基本技術体系 ①金型が閉じる ②シリンダが前進 ③射出する ④保圧 ⑤冷却・可塑化 ⑥金型が開く 図1−3 射出成形機の動作 できない。 トグル式は、メカニズムで力を増強して型締めする。当然のことながらトグ ルが開いた状態では力が出ないが、メカニズム自体が成形現場ではわかりにく い。 2)射出成形金型の原理 金型は射出成形機の交換可能な一部(成形品ごとに製作する)と考えるとわ かりやすい。金型は、成形時の高い圧力(4 0MPa)で高い精度を維持しなけ ればならないため、高剛性かつ高精度の精密金型で、成形機本体より高価なこ 9 ともある。 金型はコア(雄型)とキャビティ(雌型)から成り、コアとキャビティの空 隙にメルトを流れ込ませて(射出という)成形品を作る原理である。 (2)複雑な現象の単純化 射出成形は複雑な現象であるが、これを単純化してわかりやすくする。ここ では、9 0% 適用できれば良いとして、単純化して考えることがポイントであ った。単純化したために生じた現実との違いは、誤差として認めることにする。 金型に流入したメルトの動きを単純化するとわかりやすい。 1)金型内をメルトが進みつつあるとき メルトの後に圧力がかかるとメルトの先端が進む(メルトの先端には圧力は ない) 。メルトを速く進めようとすると、金型の流路の抵抗によってメルト(ゲ ート付近)の圧力が高くなる(成形機では、メルトの後の圧力を高くしてメル トの先端の進みを速くする) 。 射出成形は、メルトの先端の進みを速く(5 0 0mm/sec 程度)することで、 メルトの温度があまり変わらないうちに金型充填を終えるのが特徴である。 金型に接したメルトの表面はすぐに冷えてスキン層を形成するが、プラスチ ックの熱伝導率は小さいので、内部はすぐには冷えずにコア層となってメルト が進む。時間がたてばコア層も冷え、メルトの粘度が増すので、射出速度が遅 いというだけで成形困難になるわけである。 2)金型内にメルトが充満した瞬間 メルトの先端が金型の末端に到達すると、メルトの後の圧力がメルトの先端 に伝わる(金型の末端に圧力センサーを設けておくと、金型内圧力として計測 できる) 。 メルトの先端が金型の末端に到達すると、抵抗が急に大きくなるのでメルト の圧力が急に高くなる(成形機ではメルトの先端の進みを速くするために、メ 10 第1章 射出成形金型設計の理論・基本技術体系 ルトの圧力を高くしていると、それに見合って高くなる) 。 射出成形は、金型の隅々まで高い圧力(4 0MPa 程度)をかけることで、均 質な成形品を得ることが特徴である。圧力が不足すると、寸法のばらつきがお きる。 3)金型内にメルトが充満した後 射出成形の基本的なテクニックとして、金型内にメルトが一杯に充填された 瞬間にグッと圧力をかけ、すぐにゆるめてしばらくキープする(スクリューが 最後まで押し切ってはならないというのがある) 。 射出圧(一次圧)をそのままキープすると、ゲート付近に無理な力がかかり 変形やクラックをおこす。つまり、射出圧が高すぎるのである。しかし高くし ないと金型の隅々までしっかり充填されない。そこで、このようなテクニック を用いる。これが保圧である。 保圧は、コア層が冷えるまでキープするのが原則であるが、ゲートが冷えて シールしたら、それ以上の保圧効果はない。 薄肉の成形品は冷却が速いので保圧をキープできないことがある。保圧をす るとスクリューが進むが、メルトが動いているのではない。単にスクリュー先 端の逆流防止リングから樹脂漏れしているだけである。 成形条件のばらつきは、金型内圧力の変化(圧力パターン)に現れるので、 圧力パターンの再現性を監視する(金型の末端に圧力センサーを設けておく) ことが成形のばらつきをなくす有力な手段である。 1 2 3 4 図1−4 メルトの流れ方 11 圧力センサー (ゼロ) ゲート 順序 1 スキン層 圧力センサー (ゼロ) コア層 ゲート 順序 2 スキン層 圧力センサー (ゼロ) コア層 ゲート 順序 3 圧力センサー (ゼロ) スキン層 コア層 ゲート 圧力センサー (ゼロ)スキン層 順序 4 コア層 ゲート 順序 5 図1−5 金型内流れの原理 金型内 圧力 (例) 適正条件 不適正条件 フルショット圧力 40MPa フルショット 圧力低下 30MPa 保圧 20MPa ショートショット圧力=0 0 0.5sec (例) 10sec 時間 1sec 図1−6 金型内圧力の変化 12