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平成 24 年度 『内外一体の経済成長戦略構築に かかる

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平成 24 年度 『内外一体の経済成長戦略構築に かかる
経済産業省 通商政策局
アジア太平洋地域協力推進室 御中
平成 24 年度
『内外一体の経済成長戦略構築に
かかる国際経済調査事業』
成果報告書
(新興国における企業信用情報に係る制度の改善に関する調査・分析
(インドネシア))
APEC 経済委員会を通じたインドネシア共和国の
資金調達 (Getting Credit) 環境改善協力に関わる調査・分析
株式会社コーポレイトディレクション
平成 25 年(2013 年)3 月 29 日
平成 24 年度『内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業』成果報告書
構 成
エグゼクティブサマリー
【 序論 】
●
背景
Doing Business report の資金調達指標
目的
●
資金調達の全体像とスコープ
●
アプローチ
●
●
【 本論 】
●
「法的基盤」の現状
●
課題
(A) 制定法規上の課題
(1) 担保対象物の特定方法 (Q2, Q3)
(2) 動産担保登記の電子データベースの有無 (Q.6)
(3) 債務不履行時の弁済の優先順位・制約・執行 (Q7, Q8, Q9, Q10)
(B) 制度運用上の課題
(1) 法的安定性
(2) サポート産業の育成
●
ロードマップ
【 提言書 】
・ 「法的基盤」指標 (Strength of legal rights index) 改善に関する各論提言書
・ 2013 Recommendations for improving “Strength of legal rights”
<参考資料>
・関係法令の概説
・「APEC・インドネシアにおける企業の資金調達円滑化ワークショップ」(於ジャカルタ)開催資料
-1-
エグゼクティブ・サマリー
【 前提と目的 】
わが国は、アジア太平洋経済協力 (APEC) 経済委員会を通じてインドネシア共和国のビジネス環境整備
に協力している。具体的には、世界銀行の発行する Doing Business report における資金調達 (Getting
Credit) 分野の「法的基盤」指標 (Strength of legal rights index) の改善を支援している。
2013 年現在、インドネシア共和国は 10 項目中 3 点という低い評価にとどまっている。この指標は主と
して動産・債権を担保とした資金調達の容易さを評価している。そのため、この指標を改善することは直
接的にインドネシア企業の資金調達の円滑化に資するのみならず、わが国企業の取引先である現地産業の
発展を通じて本邦インドネシア進出企業の事業運営の促進にも裨益する取り組みである。
【 現状と課題 】
「法的基盤」指標のうち評価が低い要素となっている項目は、下記の 5 項目に大別できる。
(A) 制定法規上の課題
(1) 担保対象物の特定方法 (Q2, Q3)
・『信託担保法』(1999)、『倉庫証券法』(2004)
(2) 動産担保登記の電子データベースの有無 (Q6)
・法務人権省の登記簿
(3) 債務不履行時の弁済の優先順位・制約・執行 (Q7, Q8, Q9, Q10)
・『破産法』(2004)、『民法』(1847)、『国税一般通則法』(2007)、『労働法』(2003)
(B) 制度運用上の課題
(1) 法的不安定性
・登記担当官の裁量による運用、法曹従事者による判断内容の不統一
(2) サポート産業の未成熟
・動産評価鑑定士、モニタリングシステム、処分市場
【 論点 】
課題の中には、単に法規上・事務上の整備を進めれば良い項目もあれば、大陸法系 (civil law) の物権概
念に新たな概念を導入する理解を進める必要がある項目や、異なる法益間の優先順位に関する価値判断を
伴う項目もある。また、現状の法規に関しても、著しい見解の相違がみられた。もとより法改正には様々
な関係者の合意形成を通じた推進が必要になるうえ、特に社会的な意思決定を伴う項目に関しては、関係
当事者が強固に協力する体制を組んで推進する必要がある。
【 提言 】
目下、予定されている信託担保登記の電子データベースの全国展開を絶好の機会と捉え、当制度に対す
る関係者の統一的な理解を促進する。先ずは、当該システムの操作説明に伴って登記内容に関しても登記
官の間で共通の理解を促す。同時に、対外的にも法曹関係者(裁判官や弁護士、破産管財人、公証人、金
融関係者 等)に対する公開セミナーを実施する。
これと並行して、社会的な意思決定を要する項目については、経済担当調整大臣府や法務人権省を中心
に関係当事者の検討を経て、法改正の方向性・必要性について議論を進めるべきである。
-2-
序 論
【背景】
アジア太平洋経済協力 (APEC) 経済委員会 (Economic Committee) は、加盟諸国のビジネス環境整備
のため、世界銀行が発行する Doing Business report が評価する指標改善の取り組み (Ease of Doing
Business (EoDB) Initiatives) を進めている。
APEC 2009 閣僚会議(於シンガポール)において、2015 年までに 25%の指標改善を行うことが目標
とされ1、このうち日本政府は資金調達 (Getting Credit) 分野の改善の主導国を担っている2。経済産業省通
商政策局アジア太平洋地域協力推進室は、2012 年度の取り組みとしてインドネシア共和国経済担当調整
大臣府及び中央銀行と協力して同国の「法的基盤」指標 (Strength of legal rights index) に関する現状調査
と提言検討を行った。
本報告書はその成果を報告するものである。
【Doing Business report の資金調達指標】
世界銀行の Doing Business report が評価する 10 分野のうち資金調達 (Getting Credit) 分野の指標は、
「法的基盤」(Strength of legal rights index)、及び「信用情報」(Depth of credit information index) の 2 つ
の柱から構成されている。(図表 1)
<図表 1: Doing Business report の全体像>
• Champion Economy:
Hong Kong, China, Singapore
• Champion Economy:
NZ, US
• Champion Economy:
Singapore
Source: The WB-IFC, Doing Business 2013
1
2
• Champion Economy:
South Korea
• Champion Economy:
Japan
• Indonesia-Japan Joint
Economic Forum (JEF)
APEC Ease of Doing Business (EcDB) Action Plan 2009, ”APEC will make it 25% cheaper, faster and
easier to do business within APEC economies by 2015, and aim to achieve a 5% improvement by 2011.”
ibid., “the following champion economies have also reconfirmed their leadership of work programmes in
the priority areas:
i) Starting a Business – NZ and US
ii) Getting Credit – Japan
iii) Enforcing contracts – Korea
iv) Trading Across Borders – Hong Kong, China and Singapore
v) Dealing with Permits - Singapore”
-3-
このうち、後者に関しては「日本インドネシア経済合同フォーラム」(Japan-Indonesia Joint Economic
Forum) において改善に向けた取り組みをしているため、今回の調査分析は「法的基盤」指標 (Strength of
legal rights index) の改善を対象とした。
「法的基盤」指標 (Strength of legal rights index) は、動産・債権に対する非占有担保権 (nonpossessory security interests) の設定を通じた資金調達の容易さを評価している。その理由は、新興国経
済における特に中小企業にとっては、不動産担保を通じた資金調達よりも動産・債権担保を通じた資金調
達の方が重要な位置づけを担っているからである3。
「法的基盤」指標 (Strength of legal rights index) を構成する 10 項目の具体的な内容は以下の通りであ
る。(図表 2) 2013 年現在、インドネシア共和国は 10 項目中 3 点という低い評価にとどまっている。
<図表2: “Strength of legal rights” index>
Strength of legal rights index (0-10)
 Can any business use movable assets as collateral while keeping possession of the assets; and
1
Yes
any financial institution accept such assets as collateral ?
 Does the law allow businesses to grant a non possessory security right in a single category of
2
No
movable assets, without requiring a specific description of collateral?
 Does the law allow businesses to grant a non possessory security right in substantially all of its
3
No
assets, without requiring a specific description of collateral?
 May a security right extend to future or after-acquired assets, and may it extend automatically to
4
Yes
the products, proceeds or replacements of the original assets ?
 Is a general description of debts and obligations permitted in collateral agreements; can all
5
types of debts and obligations be secured between parties; and can the collateral agreement
Yes
include a maximum amount for which the assets are encumbered?
 Is a collateral registry in operation, that is unified geographically and by asset type, with an
6
No
electronic database indexed by debtor's names?
 Are secured creditors paid first (i.e. before general tax claims and employee claims) when a
7
No
debtor defaults outside an insolvency procedure?
 Are secured creditors paid first (i.e. before general tax claims and employee claims) when a
8
No
business is liquidated?
 Are secured creditors either not subject to an automatic stay on enforcement when a debtor
9
enters a court-supervised reorganization procedure, or does the law provides secured creditors No
with grounds for relief from an automatic stay or sets a time limit to it?
 Does the law allow parties to agree in a collateral agreement that the lender may enforce its
10
No
security right out of court, at the time a security interest is created?
Score (number of "yes" responses)3
出所:世界銀行 Doing Business report
【目的】
本調査の目的は、直接的には、APEC 経済委員会を通じてインドネシア共和国の Doing Business report
における資金調達 (Getting Credit) 分野の「法的基盤」指標 (Strength of legal rights index) に関する評価
向上に資する提言をすることにある。しかしながら、最終的には、インドネシア共和国の資金調達環境の
改善に協力することによって、インドネシア企業の資金調達を円滑化するのみならず、わが国企業の取引
先である現地産業の発展を通じて本邦インドネシア進出企業による内外一体の経済成長の促進を図ること
を目的としている。
3
The World Bank, Doing Business 2012, “In the developing world 78% of the capital stock of businesses is
typically in movable assets, and only 22% in immovable property.”
-4-
【資金調達の全体像とスコープ】
物的担保の提供を通じた資金調達を広義に捉えた全体像を下記に示す。(図表 3)
横軸には、担保の客体別に、左から
・不動産担保(土地・建物、船舶、航空機)
・動産担保(自動車・二輪車、機械・装置、家畜、在庫)
・債権担保(売掛金)
・無担保
を表した。
縦軸には、担保融資の実行を支える要素として、下層から、
・「慣習/伝統」層
・「制定法(所有権・担保権)」層
・「法の適用/執行」層
・「事業における利活用」層
を表した。
物的担保を通じた資金調達が円滑に機能するためには、これら全ての要素が有機的に組み合わせられて
機能することが不可欠である。
<図表 3: 物的担保を用いた資金調達の全体像>
Immovable Assets
Land/ Buildings
Ships
Movable Assets
Aircrafts
Machines,
Machineries
Cars/
Motorcycles
(agri.,const.,
factory, etc)
Business
enabler /
Utilization
Livestock
(cow, chicken,
fish, etc.)
Inventory
(materials,
crops, etc.)
Account
Receivables
Uncollateralized
loans
(KTA)
Scope of Doing Business
“Strength of legal rights”
indices
Practice /
Enforcement
Civil Code (1847) <Hipotik> / <Gadai>
Security rights
Ownership rights
Legal/statutory system
(formal/written law)
Custom/
Tradition
Mortgage Law
(1996)
<Hak Tanggungan>
Agrarian Law
(1960)
<HM/HGU/HGB, etc.>
CommAviaercial
tion
Law
Law
(1847) (2009)
<Hipotik> <Hipotik>
Fiduciary Law
(1999)
<Fiducia>
Warehouse
Receipt
Law
(2006)
Registration of ownership
Customary Law
(Hukum Adat)
出所:CDI 分析
関連する法令を図中に併せて表記した。まず、『民法』(Indonesian Civil Code (ICC), 1847) は、占有担
保権である「質権」(Gadai, 第 1150 条) 及び非占有担保権である「抵当権」(Hipotik, 第 1162 条) を定め
-5-
ている。しかし、『土地抵当法』(Mortgage Law, Law No.4/1996) に「土地抵当権」(Hak Tanggungan)
が規定され、『信託担保法』(Fiduciary Law, Law No.42/1999) に動産の「信託担保権」(Fiducia) 4が定め
られて以降、『民法』(ICC, 1847) 上の「抵当権」(Hipotik) が設定されるのは、中型以上の船舶及び航空
機5に限られる。また、『倉庫証券法』(Warehouse Receipt Law, Law No.9/2006) は、「倉庫証券」
(warehouse receipt) 及びそれを用いた担保の設定方法を定めている。
このうち、世界銀行 Doing Business report における資金調達 (Getting Credit) 分野の「法的基盤」指標
(Strength of legal rights index) が評価対象としているのは、動産・債権を対象とした非占有担保権に関わ
る「制定法(担保権)」層と「法の適用・執行」層の一部である。(図中の赤で取り囲んだ部分。) そ
のため、本報告書では、『信託担保法』(Fiduciary Law, Law No.42/1999) 及び『倉庫証券法』
(Warehouse Receipt Law, Law No.9/2006) を議論の主対象とする。なお、機能が類似した契約形態である
リース契約や所有権留保による販売契約は、世界銀行 Doing Business report は調査の対象としていない。
この全体像の中で現状の課題を捉えると、今回の主たるスコープとするテーマの周辺にも大きな問題点
が存在している様子が把握できる。(図表 4)
制定法の下部構造にあたる「慣習/伝統」層では、例えば、不動産担保融資の場合、主として慣習法
(Hukum Adat) に基づく土地所有形態に起因する未登記の土地 (tanah girik 又は tanah adat) が最も頻繁に
直面する問題である。土地の権利関係が複雑・重層的であるため、所有権の登記をするに先立って、村長
(lurah 又は kepara desa) 等の協力を得ながら伝統的な土地所有・利用形態を近代法の概念に読み替える作
業が必要になる。本プロジェクトで開催した「資金調達セミナー」(2013 年 3 月 28 日・於ジャカルタ)
において、国土庁が引き続き登記の促進に向けて意欲的に取り組む姿勢が確認された。これにより、今後
わが国金融機関による不動産担保の利用が進むのみならす、わが国事業会社による不動産の開発・調達が
円滑化し、進出が加速することが期待できる6。
4
5
6
正確には、「信託担保」(Fiducia) の対象は「有形・無形の動産」(同法第 1 条 2 項, 第 3 条)である。
・a. 不動産である土地抵当権 (Hak Tanggungan) の対象には適用されない。
* ただし、不動産登記のない「建物のみ」の場合は適用される。
・b. 不動産である中型以上の船舶(総トン数 20m3 (約 7t) 以上)は適用されない。
・c. 不動産である航空機には適用されない。
・d. 占有担保権である質権 (Gadai) は対象にならない。
『民法』(ICC, 1847) 上の「抵当権」(Hipotik) に基づいて『商法』(Commercial Law, 1847) 第 313 条,
第 314 条に船舶を対象とする「抵当権」(Hipotik) が定められ、『海上先取特権及び抵当権に関する国際
条約』(1993) の批准を受けて制定された国内法において手続の詳細が定められている。
同様に、航空機を対象とする「抵当権」(Hipotik) が 1992 年の『航空法』(Aviation Law, 2009 改正) に
規定されていたものの(第 12 条 (1), (2))施行規則が未制定であるため利用されていなかった。その後、
2009 年改正で同条文が削除された。そのため、現在では『民法』(ICC, 1847) 上の規定に従うことにな
る。しかし、実務上は使われていない。
「APEC・インドネシアにおける企業の資金調達円滑化ワークショップ」(2013 年 3 月 28 日・於ジ
ャカルタ開催)における国土庁 (National Land Agency (BPN)) の土地情報データシステム開発 (Land
Information, Data, and System Development) 課長の発表によれば、国土庁が推進する登記促進に向けた
取り組みは、近年著しい進捗を遂げている。例えば、1961 年から 1995 年までの間に全国土の 1 億区画
(parcel) のうち 1 千万区画までしか進んでいなかったものが、2013 年現在では 4 千万区画が登記完了
している。しかしながら依然として国土の 40%の登記が完了したにすぎないため、引き続き登記の促進
を進める方針である。
-6-
一方、動産担保融資の場合も、中小・零細企業がインフォーマルセクターで個人事業主として事業を運
営するケースが多いために、法人単位での契約や信用情報が蓄積されにくいことも課題である。また、制
定法の上部構造にあたる「法の適用・執行」層では、不動産担保融資・動産担保融資を問わず全体に共通
して法的手続を通じた紛争解決に対する信頼性が低いことが融資を妨げる要因になっている。
<図表 4: 物的担保を用いた資金調達の課題の所在>
Immovable Assets
Land/ Buildings
Business
enabler /
Utilization
Practice /
Enforcement
Ships
Movable Assets
Cars/
Motorcycles
Aircrafts
Machines,
Machineries
(agri.,const.,
factory, etc)
Livestock
(cow, chicken,
fish, etc.)
Inventory
(materials,
crops, etc.)
Account
Receivables
Uncollateralized
loans
(KTA)
*** appraisers (conformance evaluation institutions)***
*** on-site due diligence ***
*** secondary market ***
Scope of Doing Business
“Strength of legal rights”
*** un-transparent court procedures (invalid appeals, inconsistent application of laws, etc.) ***
indices
*** governmental spatial planning ***
*** land usage / development permissions ***
*** Inconsistent/unclear application of laws by registry officers ***
*** weak credit information system (public registry / private bureau) ***
*** off-line / un-integrated registration system ***
Civil Code (1847) <Hipotik> / <Gadai>
Security rights
Ownership rights
Legal/statutory system
(formal/written law)
Custom/
Tradition
Mortgage Law
(1996)
<Hak Tanggungan>
Agrarian Law
(1960)
<HM/HGU/HGB, etc.>
*** non-public registration ***
*** countervail v. third party ***
CommAviaercial
tion
Law
Law
(1847) (2009)
<Hipotik> <Hipotik>
Warehouse
Receipt
Law
(2006)
Fiduciary Law
(1999)
<Fiducia>
Registration of ownership
*** unregistered lands ***
Customary Law
(Hukum Adat)
*** unclear ownership ***
*** conflicts of ownership***
*** prevalence of informal MSME sectors ***
出所:CDI 分析
以上、問題の構造的な理解を踏まえた上で、本報告書では「法的基盤」指標 (Strength of legal rights
index) が評価対象としている動産・債権担保融資の「制定法(担保権)」層と、「法の適用・執行」層を
検討とする。
【構成とアプローチ】
本調査・分析では、まずインドネシア共和国の現状がなぜ低い評価にとどまっているのか、その実態を
把握する。その上で、課題とその解決の方向性について提言を検討する。
本調査・分析のアプローチは、ヒアリングを中心に文献調査によって補完した。
ます、各項目の評価の現状について、世界銀行 Doing Business report の調査に実際に回答した法律事
務所を中心に、各質問に対する回答とその根拠をヒアリングした。次に、こうした現状に起因するビジネ
ス上の課題・問題点については、日系事業会社(メーカー、商社、不動産開発会社)、日系金融機関(銀
行、ファイナンス会社)、及び、インドネシア系金融機関にヒアリングした。加えて、規制当局である中
央銀行・法務省・国土省や、学識経験者・識者に対するヒアリングで全体像を把握した。
-7-
本 論
【「法的基盤」の現状 】
「法的基盤」指標 (Strength of legal rights index) のうち評価が低い、即ち「No」と評価されている項目は、
下記 5 項目に大別できる。
(A) 制定法規上の課題
(1) 担保対象物の特定方法 (Q2, Q3)
・『信託担保法』(1999)、『倉庫証券法』(2004)
(2) 動産担保登記の電子データベースの有無 (Q6)
・法務人権省の登記簿
(3) 債務不履行時の弁済の優先順位・制約・執行 (Q7, Q8, Q9, Q10)
・『民法』(1847)、『国税一般通則法』(2007)、『労働法』(2003)、
『破産法』(2004)
(B) 制度運用上の課題
(1) 法的不安定性
・登記担当官の裁量による運用、法律従事者による判断内容の不統一
(2) サポート産業の未成熟
・動産評価鑑定士、モニタリングシステム、処分市場
以下、これらの項目に従って課題の分析とビジネス上の意義、解決に向けた方向性を検討する。
【課題】
(A) 制定法規上の課題
(1) 担保対象物の特定方法 (Q2, Q3)
<課題の分析>
大陸法系 (civil law) であるインドネシア法においては、担保物権における客体特定の原則(有体物一物
一権主義)ゆえ、「独立した物の集合体の上には独立した物権は存在しない」とされる。この原則に則っ
て『信託担保法』(Fiduciary Law, Law No.42/1999) 第 6 条本文は、登記証書において「担保の対象物」及
び「対象物の価値」を記述により特定することを求めている7。同様に、『倉庫証券法』(Warehouse
Receipt Law, Law No.9/2006) 第 5 条 h 項、k 項、及び第 14 条 c 項、e 項も同様の要件で記述による特定
を求めている。
7
Article 6, “The deeds of fiduciary guaranty … shall at least contain:
c. descriptions of goods serving as objects of fiduciary guaranty;
e. values of goods serving as fiduciary guaranty.”
-8-
[Q.2: No] (Could be “Yes”)
上述の規定により、Q.2 で問われている「記述による特定なしに (without requiring a specific
description)」に対する回答は、”No” である。
しかし、担保の対象物が個別動産ではなく在庫や売掛金のような流動動産の場合、「記述による特定」
の要件を緩和すべき実務上の要請にどう答えるかが論点となる。そもそも同法第 9 条(1) 及び、第 21 条は、
対象物が「1 個ないしそれ以上の個数または種類の物または債権」である集合動産や流動動産の信託担保
を認めている。その場合、同法第 6 条 c 項の説明注釈 (elucidation) によれば、対象物が集合・流動動産の
場合の特定方法を「type, brand, quality (種類、ブランド、品質)」によると定めている8。ただし、実務上
は個別具体的な事情や登記担当官の裁量によって幅広い裁量余地がある。
① 第 6 条 c 項本文に従って、個別動産としてシリアル番号 3278632 で特定して登記した上で、
第 16 条(1)9を用いて登記を更新する場合
② 第 6 条 c 項本文に従って、個別動産としてシリアル番号 3278632 で特定して登記した上で、
第 21 条(3)10を用いて「シリアル番号 3278633, 3278634…に移転する」とする構成をとる場合
③ 第 6 条 c 項の説明注釈に従って、集合動産として「種類・ブランド・品質」で特定する場合
④ 条文に規定はないが、集合動産として「場所」による特定が許される場合
上記の①から④の記述方法になるに従って、対象物の特定要件が緩和されている。
売掛債権の特定方法は、法に定めがないため登記担当官の裁量に任せられているが、一般的には、「売
掛金が発生した原契約を特定する」必要があるように運用されている。
なお少数意見として、以上のような特定方法の緩和が実務上認められているから「Q.2 の回答は ”Yes”
になりうる」と回答した法律事務所もあった。しかし、総じて登記担当官も債権者も個別特定性の高い記
述を要求する傾向にある。動産は「占有を以て所有権を推定する」原則と、大陸法系 (civil law) の物権概
念に例外を設けるという事の性質上、実務上の運用が大幅に変わる、あるいは制定法ないし説明注釈
(elucidation) による明文化がない限り ”No” と評価する法律事務所が多い。
8
Article 6 c (elucidation), “A description of the object as the target of Fiduciary is simply done by identifying
objects, and explaining the proof of ownership.
In the event that the object as the target of Fiduciary is the object in stock (inventory), which is always
changing and or not fixed, such as the stock of raw materials, finished goods, or the portfolio company's
securities, the Fiduciary deed included a description of the type, brand, quality of the object.”
9
Article 16 (1), “In the case of any change in matters contained in certificates of fiduciary guaranty as meant
in Article 14 paragraph (2), fiduciary recipients shall apply for registration of the change to the Fiduciary
Registry Office.”
10
Article 21,
“(1) Fiduciary providers can transfer stocks of goods serving as fiduciary guaranty by means of procedures
usually adopted in trading businesses.
(2) The provision as meant in paragraph (1) shall not be valid, in the case of default on commitments by
debtors and/or fiduciary providers of the third party.
(3) Goods serving as objects of fiduciary guaranty which have already been transferred as meant in
paragraph (1) shall be replaced by fiduciary providers with the equivalent objects.
(4) In the case of fiduciary providers committing default, returns of the transfer and/or claims arising from
the transfer as meant in paragraph (1), shall by law become objects of fiduciary guaranty of the objects
of fiduciary guaranty transferred. ”
-9-
対象物の特定方法が厳密である理由には、登記が義務であることも影響している。世界銀行 Doing
Business report の調査質問票では、「担保契約書と登記の両方で」(both in the security agreement and
when it is registered) 一般的な記述が認められるか否かを尋ねている。日本の場合、登記は公示による第
三者に対する対抗要件具備の要件にすぎないので契約内容は自由度が高く、登記内容もそれを反映して記
述の自由度が高い。これに対し、インドネシア共和国の場合、登記の完了が信託担保契約の成立要件であ
り(第 14 条(3)11)、登記は義務とされている(第 11 条)。あまつさえ、登記を怠った場合には罰金を徴
収されるという噂すら存在している12。そのため、契約自由の原則は制約され、登記官に認められないよ
うな特定方法が使われにくい結果をもたらしている。
結論として、登記が契約の成立要件でありながら許される特定方法の基準が不明確であることが、集合
動産登記を用いた柔軟な在庫担保融資を利用する妨げになっている。
[Q.3: No]
企業全体の資産を担保とする工場抵当・企業担保(floating charge, enterprise charge)の制度は存在し
ない。その代わりに実務上は、物上保証 (in rem) ではなく人的保証 (in personam) の仕組みを用いて企
業保証 (corporate guarantee) が用いられている。従って、物上保証に認められる先取権 (preemptive
right) はない。
<ビジネス上の意義>
担保対象物の特定の要件が緩和されると、在庫担保や売掛金担保を通じた資金調達の手続に際する煩雑
さを解消し、事業の促進に役立てることができる。その結果、動産・債権担保融資の利用が進むと、不動
産を有しない多くの中小事業者による資金調達が容易になる。金融機関は、無担保の運転資金融資に比べ
て、低金利を提供できる可能性がある。また、より機動的な動産・債権担保融資 (asset-based lending
(ABL)) が利用されるようになると、不動産担保に過度に依存して事業上の資金ニーズを超えた過剰融資を
するリスクを抑制できる。
・製造業
インドネシアの現地製造業が納品先である日系製造工場に対する製品在庫・売掛債権を有している場合、
これらは現金化が確実かつモニタリングが容易な動産・債権であるため、資金調達手段に利用することが
できる。これにより、インドネシアのローカル製造業の事業拡大を容易にすることができる(主として初
期投資ではなく製造量拡大への対応)。また、知的財産を担保にすることも可能である。更に、こうした
資産を担保にしたレバレッジド・バイアウト(LBO)、経営陣/従業員による企業買収 (management
buyout (MBO) / employee buyout (EBO)) による企業再編や起業活性化が進むことも想定できる。
日系進出企業にとっては、裾野産業となる調達先/販売先企業の育成や投資・再編に活用することによ
り、現地調達率の向上・製品の普及に役立てることができる。
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Article 14 (3), “Fiduciary guarantee shall come into being on dates of recording of fiduciary guaranty in the
Fiduciary Registry Book.”
資金調達セミナー(2013 年 3 月 28 日・於ジャカルタ開催)における質疑応答による。
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・商業
在庫を担保とした資金調達により、事業の拡大に比例した適切な融資の拡大が可能になる。担保不動産
を有しない中小・零細商業従事者に事業拡大のための有担保融資を提供することにより商業活動・起業が
活性化する。その結果、耐久消費財等の製品普及にも裨益する。
・農林水産業
近代的土地所有権が確立していない地方において、生産性向上(機械化)や高付加価値化(食品加工)
のための資金として活用することができる。特に、農林水産業は季節に応じて在庫・生産量が大きく変動
しうる (cyclical) 業態であるため、製品販売までの仕入代金の融通に活用することで生産量の変動に柔軟
に対応することが可能になる。
・医療機関、医療機器・医療情報システム
インドネシア共和国では全国民を対象とする社会保障制度 (Sistem Jaminan Sosial Nasional (SJSN)) の
導入が予定されている。増加する医療ニーズ・医療の高度化に対応するため、医療機関が先進的な医療機
器・医療情報システムを導入する際に、健康保険の受取債権を担保にすることが考えられる。インドネシ
ア国民の福祉が向上するのは勿論のこと、わが国の医療機器・検査装置、情報システム産業にも裨益する
ことになる。
・インフラストラクチャー開発(プロジェクトファイナンス)
インフラ開発事業では、国有地の上に抵当権登記のできない建物・設備が存在するケースがしばしば存
在する。これらに工場抵当・企業担保の仕組みを用いたり、長期売掛債権を担保としてインドネシアルピ
ア建てのプロジェクトファイナンスに用いることができる。今後増加が予想される Public-PrivatePartnership (PPP) 事業によるインフラ開発、Build-Own-Operate (BOO) 及び、Build-Operate-Transfer
(BOT) 契約が促進される。
・銀行/ファイナンスカンパニー(担保獲得・証券化)
財閥企業の資本関係が複雑で特に不動産担保を既に財閥グループ内の金融機関が独占している場合、財
閥が海外に所有する資産を担保として利用できる。第三者による海外資産を用いた物上保証もインドネシ
アにおいて登記が可能である。有担保融資にする事により金利競争力が強化できる。
一方、金融機関自身の資金調達に活用することで、インドネシアルピア建ての貸付を担保とした現地通
貨建のオフバランス化も考えられる。
一方で、担保対象物の特定要件を緩和する際に考慮すべきリスクとして、消費者金融事業者が債務者の
年金資産を信託担保として取得しないよう留意する必要がある。また、日系企業のサプライチェーン傘下
の地場企業が敵対的買収にあうことがないよう、あらかじめ担保登記しておく予防手段も必要である。
<解決の方向性>
最も本質的に重要な取り組みは、「集合動産登記」という新たな概念に対する理解を促すことである。
そのうえで個別の課題に対する対策を講じるべきである。
この概念の理解は、法曹関係者・金融関係者のいずれにおいても不足しているために「記述による特定
なしに」という表現に対して、担保の実行 (execution) 対象の不明確性や詐欺的譲渡 (fraudulent
conveyance) を恐れる発言が多く聞かれた。このことは、同じ大陸法系 (civil law) のわが国において『動
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産・債権譲渡特例法』の導入に先立って行われた各種研究会13 における議論の過程をインドネシア共和国
の法曹関係者と共有することが大いに役立つ。借り手の事業をモニタリングをしつつ機動的な融資をする
在庫担保融資 (asset-based lending (ABL)) の具体的な手法や留意点が実感を以て理解できれば、法制度の
整備に対する要望が高まる。現時点では、実務上での活用イメージが湧かないために必要を感じていない
段階である。
個別の課題に関しては、以下の通り。
Q.2 に関して具体的な法改正による解決法には、2 つの方法がある。第一の方法は、『信託担保法』
(Fiduciary Law, Law No.42/1999) 第 6 条 c 項の説明注釈 (elucidation) に文言を加え、「type, brand,
quality (種類、ブランド、品質)」のみならず、「location (場所) による特定」を認める方法である。これ
により、わが国と同程度まで特定性の要件を緩和できれば、”Yes” にすることができる。その際には、全
国の登記官への周知が必要になるため、登記で認められる記載のガイドランを公開・配布することが有効
である。第二の方法として、別途、特定方法を緩和できる条件を定め、登記に関する特例法を制定する方
法も考えられる。
なお、登記を信託担保契約の成立要件にしていることの課題に関しては、合理性もある(かつて一部の
金融機関が顧客から登記手数料を徴収しながら登記せずに利益としていたことを防ぐ)ため、インドネシ
ア共和国の実情を踏まえた上で最終的な判断をすべきである。
Q.3 に関しても、2 通りの解決策がある。第一は、わが国の『工場抵当法』『企業担保法』に類する特
別法を制定する方法である。この場合、特定の公共サービスに限定して設備投資や長期運転資金を確保す
るために利用する選択肢もあれば、一般企業の社債担保にも利用できるようにする選択肢もある。第二は、
現行の『信託担保法』(Fiduciary Law, Law No.42/1999) の適用範囲を企業担保に拡大するための章を付加
する方法も取りうる。その際は、財閥グループ企業に対する協調融資 (joint-financing) においてグループ
内の金融機関に担保を独占され、一般の金融機関が無担保になることがないよう配慮が必要である。
(2) 動産担保登記の電子データベースの有無 (Q.6)
<課題の分析>
[Q.6: No] (Will be Yes.)
従来、全国に存在する法務人権省 (Ministry of Law and Human Rights (Kemenkumham)) の信託担保登
記事務所 (Fiduciary Registry Office) がそれぞれに紙による登記簿原本 (Fiduciary Registry Book) を保管
していた。2013 年 3 月から電子化されたデータベースが稼働を開始しはじめたばかりであるが、まだ試
験段階にとどまり全国展開はされていない14。また、この新データベースが過去分の蓄積データの検索も
含めて “Yes” の要件を満たし得るか否かは未詳である。
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経済産業省「ABL 研究会」等
資金調達セミナー(2013 年 3 月 28 日・於ジャカルタ開催)における法務人権省 (The Ministry of Law
and Human Rights (Kemenkumham)) 一般管理行政局民法局 (The Directorate of Civil Law, Directorate
General of Legal Administrative Affairs) による。
なお、新たな登記・検索方法が同省のウェブサイトで紹介されている。(http://www.sisminbakum.go.id/)
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<ビジネス上の意義>
登記の事務手続にかかる時間が大幅に短縮される。登記簿原本のコピーである証書 (certificate of
Fiduciary guarantee) が作成されるまでにかかる時間も短縮される見込である。
占有者に所有権が推定される動産の場合、特に信託担保登記の公示の確認を容易にすることが重要であ
る。電子データベースが導入されれば公示登記の検索にかかる手間も軽減される見込である。従来、担保
設定の有無を確認するためには、それぞれの動産が登記されている各地域に分散された信託担保登記事務
所 (Fiduciary Registry Office) に赴いて確認する必要があった。担保提供者の所在地にある登記所に登記す
る必要があるため 1 つの動産が別の登記所で二重登記される事態はなかったが、確認にかかる手間が解消
されることはメリットになる。
<解決の方向性>
未だ試験段階であるため、今後の本格全国展開に伴って登記や公示の実務を改善する必要がある。また、
過去に登記された紙の登記簿にある蓄積データの移行が終了する時期は不明である。
今回の信託担保登記電子データベースの全国展開は、全国の登記担当官や公証人に対して形式的な登記
システムの使用方法を説明するだけでなく、実質面である信託担保制度の意義や活用方法について認識を
共有する絶好の機会となる。従来から課題になっていた登記担当官による内容の不統一性を解消し共通の
理解を進めることが有益である。
(3) 債務不履行時の弁済の優先順位・制約・執行 (Q7, Q8, Q9, Q10)
<課題の分析>
これらの質問は、回答者によって最も見解が分かれた。その原因は、世界銀行 Doing Business report
の調査質問票における用語の概念がインドネシア共和国の倒産法制の概念と一致しないため、質問内容に
曖昧さが生じることがある。しかし、単純な質問の条件の読み間違いや法解釈の間違い、あるいは実際の
法の適用の不安定性も含まれていた。
先ず、インドネシア共和国における倒産 (insolvency/bankruptcy) 法制を概観する。インドネシア共和国
の倒産法制は『破産法』(Bankruptcy Law, Law No.37/2004) に定められている。同法は清算型手続
(liquidation procedure) と再建型手続 (re-organization procedure) を定めている。清算型手続は、同法第 2
章(第 2 条以降)に基づいて債権者・債務者・検察官が申し立てる「破産」(bankruptcy) であり、他方、
再建型手続は、同法第 3 章(第 222 条以降)に基づいて債務者・債権者が申し立てる「支払猶予」
(Suspension of Obligations for Payments of Debts, Penundaan Kewajiban Pembayaran Utang (PKPU))
である。ただし、支払猶予 (PKPU) は文字通り弁済猶予をする間に再建計画 (rehabilitation plan) の合意
に至ることを期待するものであり、『会社更生法』『民事再生法』に類する再建型の手続について特別に
定めた法はない。
また、倒産手続上の特徴として、破産申立 (petition of bankrupt) は特定の債務が不履行になったことに
よって可能になる(かつ複数の債権者いさえすれば良い)ということが重要である。そのため、その段階
では支払能力の有無は問われない。つまり、破産手続開始の決定/破産宣告 (adjudication of bankruptcy)
が先になされてから支払不能 (insolvency) が確定する。このプロセスの相違が、世界銀行 Doing
Business report の調査質問票で用いられる用語の概念に基づいて回答がしにくい一因になっている。
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以下、個別の質問について検討する。
[Q.7: No] (Could be Yes.)
第一に、Q.7 で問われている「債務者が債務不履行 (default) をしているものの破産・支払猶予手続に
入っていないケース」では、債権者は破産裁判(商業裁判所 (commercial court))ではなく、通常の民事
裁法廷 (civil court) を通じた信託担保権の実行をすれば良い。従って、回答は ”Yes” が多数であった。
しかし、“No” とする有力な見解もある。インドネシア共和国の倒産法制では、既述の通り特定の債務
を不履行しただけで法的な破産手続 (bankruptcy/insolvency procedure) が開始され得る。そのため、債務
不履行になった債権を回収する場合、通常裁判所で債務履行の請求をする代わりに、商業裁判所で破産申
立をした方が回収が早いとする風潮がある。従って、結果として Q.7 の想定する状態は存在せず Q.8 の状
態と同じになってしまうために “No” になるとする考え方である。
なお、その他の少数意見として、『民法』(ICC, 1847) 第 1134 条、及び『国税一般通則法』(Tax Code,
Law No.28/2007) 第 21 条 (1), (3) の既定により租税債権が優先されるとする解釈もあった。(この解釈
については Q.8 の項で詳述する。) 更に、その他の少数意見として『破産法』(Bankruptcy Law, Law
No.37/2004) 第 42 条により「経営状態が悪化した段階で信託担保権が設定された場合は、特に破産宣告
前 1 年以内の取引は反証がない限り否認権 (annulment, actio pauliana) が適用される15ため ”No”」と回
答した法律事務所も存在した。しかし、調査質問の意図はそのような状況を想定しているとは考えにくい。
従って、Q.7 に対する回答は現状で既に ”Yes” であるとの考え方も十分に成り立つ。ただし、そのた
めには、債務不履行を商業裁判所で破産申立手続 (Q.8) を通じて回収するのではなく、通常裁判所(又は、
国内/外国の仲裁裁判所)を通じた回収方法が通例となることが必要である。
(Q.8 [No]) (Theoretically Yes, but in practice No)
第二に、Q.8 で問われている「債務者が『破産法』(Bankruptcy Law, Law No.37/2004) に規定される破
産・支払猶予手続に入ったケース」においては論争がある。法規の条文を厳密に解釈すると ”Yes” である
(多数説)ものの、実務上では “No” になる運用がされている(判例・破産管財人実務)。
条文上の弁済の優先順位は以下のとおりである。
1. 「留置権」(retaining right)『破産法』第 61 条
2. 「裁判費用」(court charges/legal fees)『民法』第 1139/1149 条
3. 「破産管財人費用」(curator, auction fee)『国税一般通則法』第 21 条(3)但書
4. 「国税債権」(tax)『国税一般通則法』第 21 条(3)(多数説は 5.担保権者.が優先されると解釈)
5. 「担保権者」(secured creditor, kreditur separatis)『民法』第 1134 条
6. 「労働債権」(labor claim)『労働法』95 条(4)
7. 「一般優先債権」(general statutory priority)『民法』第 1139 条
8. 「無担保債権」(unsecured creditor, kreditur konkruen)『民法』第 1132 条
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Bankruptcy Law, Article 42, “If the legal act that damages the Creditors was performed within a time
period of 1 (one) year before the decision declaring bankruptcy is rendered, while the Debtor and the
party with whom said act was performed shall be deemed to have realized or should have realized that
such act would result in damage to the Creditors as set forth under Article 41 paragraph (2)
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まず、信託担担保の別除権 (separation rights, hak separatis) については、『信託担保法』(Fiduciary
Law, Law No.42/1999) 第 27 条 (3) が、担保提供者が破産または清算した場合も先取権 (preemptive
rights) は無効にならない旨、定めている16。更に、『破産法』(Bankruptcy Law, Law No.37/2004) 第 55
条 (1) も、破産時にも実行できる旨、定めている17。一方、一読するとこれら別除権に優先する債権があ
るように読める条文が複数存在しているため、解釈の混乱を招いている。
『民法』(ICC, 1847) 第 1134 条は、債権の優先順位を「担保権者 (pledge and mortgage) は、明文上
の規定がない限り優先債権者 (privileged creditor) に優越する」と定めている18。その上で、同法第 1139
条(動産の先取特権)/第 1149(一般の先取特権)条は、債権の優先順位 (statutory priority rights) を定め
(第 1138 条は、第 1139 条の第 1149 条に対する優先を定めている)、裁判費用 (legal charges, court
charges) のみを「担保権者 (pledges and mortgages) よりも優先される」旨、明文上に規定している19。
一方、『国税一般通則法』(Tax Code, Law No.28/2007) 第 21 条(1), (3) は租税優先権を「あらゆる資
産・優先債権に優先する」と定めてはいる
11
ものの、「抵当権より優先される」旨の明文上の規定がされ
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ているわけではない 。従って、担保権者は租税債権に優先すると解釈するのが有力である。ただし、同
じ第 21 条 (3) の但書の記述を以て「租税債権は、競売・救済・管財人費用にのみ劣後する」とあるため
担保権に優先すると解釈する説もある。
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Fiduciary Law, Article 27 (3), ‘’Preemptive rights of fiduciary recipients shall not be annulled because of
bankruptcy and/or liquidation of fiduciary providers”
Bankruptcy Law, Article 55 (1), “With due observance to the provisions of Articles 56, 57, and 58, any
Creditor holding lien, fiduciary security, security right, mortgage, or other collateral rights on property, may
execute his rights as if no bankruptcy occurred. ”
ICC, Article 1134, “Privilege is a right acknowledged by the law applicable to one creditor over the other,
based upon the nature of the debt. Pledge and mortgage are superior to privilege, with the exception of
the circumstances in which the law expressly stipulates otherwise.”
ICC, Article 1149, “The priority of debts in respect of certain specific assets shall be as follows:
1. court charges which specifically result from the disposal of a movable or immovable asset. These shall
be paid from the proceeds of the sale of the assets over all other priority debts, and even over a pledge
or mortgage;
2. the rent from immovable assets, the costs incurred in the repairs for which the lessee is responsible,
including anything related to the compliance with the provisions of the lease agreement;
3. unpaid consideration for the sale of movable assets;
4. the costs incurred in the maintenance of the property;
5. the wages owing to laborers for the work carried out to the property;
6. anything delivered to a traveler by an innkeeper;
7. freight costs and additional charges;
8. any amount due to bricklayers, carpenters and other workmen as a result of the renovation, addition to
and repairs of immovable assets, including a debt which is in existence for not more than three years,
and the title to a plot which has been held by the debtor;
9. the compensation and payment for which public officials are responsible, due to negligence, error,
violations and misdemeanor, which were committed during the course of their service..”
Tax Code, Article 21,
“(1) The state shall have preemptive rights to tax claims over goods belonging to a tax guarantor
(2) Provisions on the preemptive rights as referred to in paragraph (1) shall cover tax principal,
administrative sanction in the form of interest, fine, increase and tax collection expenses.
(3) The Preemptive rights to tax claims shall be above all other preemptive rights, except for:
- court fees merely as a result of punishment to auction movables and/or immovables;
- expenses spent on rescuing the goods in rescuing the goods in question;
- court fees merely as a result of auction and settlement of heritage.”
- 15 -
また労働債権に関しては、倒産時の扱いについて定めた『労働法』(Manpower Law, Law No.13/2003)
第 95 条 (4) の規定21により労働債権が優先すると解釈する法律事務所もあった。『労働法』(Manpower
Law, Law No.13/2003) 第 95 条 (4) の規定により、他の優先債権者よりも優先されると定められているが、
これも民法 (ICC, 1847) 第 1149 条に定める一般優先債権者に優先されるだけで、有担保債権者より優先
されるとする明文上の規定があるわけではない。そのため、担保権者には劣後すると解釈すべきである。
留置権は、『破産法』(Bankruptcy Law, Law No.37/2004) 第 61 条に定められている22。
従って、条文上は、Q8 に対する回答は “Yes” である。
しかしながら、実務上は租税債権が優先されるように運用されている。
破産手続に入った場合、担保権者は自動停止期間の終了後、『破産法』(Bankruptcy Law, Law
No.37/2004) 第 60 条(1)23 を通じて担保権を実行すれば良い。しかし、実務上は、破産管財人 (receiver,
curator, Balai Harta Peninggalan (BHP)) が有担保権者に対しても同法 第 60 条(2)24に基づいて租税債権が
要求されることがあり、その場合、担保権者であっても租税債権に劣後した上で弁済を受ける。破産管財
人は、『国税一般通則法』(Tax Code, Law No.28/2007) 第 21 条(3a)25における租税債権の優先義務違反
(breach of duty) を恐れるために、このような予防的行動をとっていると言われている。事業上の不可欠な
財産に対する担保権消滅請求や、債権を回収した上で余剰額 (equity) があるケースのような場合分けに基
づいたルールが明確になっていない。
一方、Q.7 の場合は、破産申立手続に入らなければ破産管財人が介在しないため、こうした予防的行動
の問題は生じないが、Q.7 で論じたとおり通常の債権回収を商業裁判所を通じて行う場合は、Q.8 で論じ
た破産管財人・監察裁判官 (supervisory judge) の予防的行動が問題になる。
また、”No” とした少数意見には、「担保権者はその担保対象物の価値の範囲内において優先弁済を受
けるが、担保目的物の価値が下落していた場合の不足部分の債権については破産債権に入るので ”No” で
ある」とする法律事務所もあった。しかし、調査質問の意図はそのような状況を想定しているとは考え難
い。
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Manpower Law, Article 95 (4), “In case the enterprise is declared bankrupt or liquidated based on valid
statutory legislation, the payment of the enterprise’s workers/labourers’ wages shall take priority over the
payment of the other debts.”
Bankruptcy Law, Article 61, “A creditor that has the right to retain the goods owned by the Bankrupt
Debtor shall not lose this right following the decision of the bankruptcy declaration”
Bankruptcy Law, Article 60 (1), “The Creditors who hold the rights as referred to in Article 55 paragraph
(1) that exercises his rights must account to the Curator for the proceeds of the sale of goods serving as
collateral and return to the Curator the balance of the proceeds from the sale after deducting the amount
of the debt, interest and expenses.”
Bankruptcy Law, Article 60 (2), “Upon the demand of the Curator or creditor having higher priority than
that of the creditor holding the right as referred to in paragraph (1), the Creditor holding the right shall give
up such portion of the proceeds of such sale that equal to the amount of the preferred claim.”
Tax Code, Article 21 (3a), “In the case of the taxpayer being declared bankrupt or liquidated, curator,
liquidator or person or body assigned to settle the case shall be prohibited from sharing assets of the
taxpayer in bankruptcy, dissolution or liquidation to other shareholders or creditors before using the
assets for paying tax due of the taxpayer.
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[Q.9: No] (Could be Yes)
第三に、Q.9 については、信託担保権者は「自動停止 (automatic stay)・支払停止 (moratorium) には従
うものの、日数の既定や短縮の申立に関しては保護規定があるので ”Yes” である」とする意見が多数あっ
た。しかしながら、Q.9 で主として問われているのは再建型手続のケースである。つまり、インドネシア
共和国では、支払猶予 (PKPU) にあたる。この場合は、会社再建を優先させるため、請求が却下されるケ
ースも多い。そのため “No” とする意見が多数あった。
『破産法』(Bankruptcy Law, Law No.37/2004) の規定によれば、担保権者は、破産 (bankruptcy) の場
合には 90 日間の自動停止 (automatic stay)26、支払猶予 (PKPU) の場合は最大 270 日間の支払停止
(moratorium)27に従う。
自動停止や支払停止からの救済については、同法第 57 条(2) が、破産申立の場合に自動停止
(automatic stay) からの救済を請求できる旨、定めている。同様に、支払停止 (moratorium) の場合も、同
法第 246 条の規定28により、同法第 57 条(2) が類推適用される。ただし、第 57 条(6)は、請求事由や要件
については明確に定められてはいない。
[Q.10: No] (Could be Yes)
最後に、Q.10 で問われている私的実行に対する回答は、ヒアリング対象の殆どの法律事務所が “Yes”
であると回答した。何故なら、『信託担保法』(Fiduciary Law, Law No. 42/1999) 第 29 条(1) c 項は、私
的実行 (underhand sales) について「双方合意があり、かつ関係者の利益となる最高価格が実現できる
場合」可能であると定めている29からである。
しかし、実務上は様々な困難に直面しうる。私的売却に向けた公告期間中に、他の債権者から「最高価
格」が実現できない旨の異議が申し立てられることは頻繁にあり、それゆえ多くの場合、競売事業者は
裁判所の執行命令を要求するため、私的実行ができないことがある。また、Q7 及び Q.8 に対する回答と
同様に、破産管財人から『破産法』(Bankruptcy Law, Law No.37/2004) 第 60 条 (2) に定める要求をさ
れる事態を想定すると “No” になる。弁護士事務所によっては「そうした事態は存在するが、当事務所
で扱えばそのようなケースにはならない」という見解を述べる事務所もあった。
少数意見として、調査質問票に「(i) 対象物を占有 (take possession) し」とある部分を指して、担保対
26
Bankruptcy Law, Article 56 (1)
27
ibid. Article 228 (6)
28
Ibid. Article 246, “Provisions as referred to in Article 56, Article 57 and Article 58 shall apply mutatis
mutandis to implementation of Creditor’s right as referred to in Article 55 paragraph (1) and preferred
Creditors, provided that the stay shall apply during the continuation of the suspension of obligations for
payment of debt.”
Fiduciary Law, Article 29 (1) c,
“(1) In the case of debtors or fiduciary providers committing default, the execution of goods serving as
objects of fiduciary guaranty can be realized by means of:
c. underhand sales realized on the basis of agreements between fiduciary providers and recipients if
by this means the highest prices benefiting relevant parties can be obtained.
(2) the sales as meant in paragraph (1) letter c shall be realized after the period of one month has
elapsed as from the notification in writing by fiduciary providers and/or recipients to interested parties
and announcement in at least 2 [two] newspapers circulating in relevant regions.”
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象物の所有 (own) はできない、即ち、債権者は債権に見合った担保権を保有するのみで残額は債務者・
破産管財人に返還しなければならないので “No” とする回答もあった。調査質問はそのような概念を意図
したものではないが、それを根拠に私的売却ではなく裁判所を通じた競売が主張されることがある。また、
質問の意図を「破産手続に入った事後に (ex post) 、新たに私的処分をする旨定めた契約を締結できる
か」との意味に捉え、”No” とする意見もあった。調査質問の意図はそのような状況を想定しているとは
考え難い。
<ビジネス上の意義>
信託担保権者の保護について、法律事務所の間でかなり異なった意見が聞かれた。その原因は、世界銀
行 Doing Business report の調査質問の用いる用語・概念がインドネシア共和国の倒産法制における概念
と一致しないこともある。しかし、実態面での法律解釈についても理解に相違がある例が多く見られた。
こうした理解の相違は、インドネシア共和国でビジネスを行う企業にとって、権利が保護されるか否か
が事前にわららない(予測可能性が低い)結果をもたらしているため、動産担保制度を用いた資金調達が
普及する上で大きな障害になっている。
<解決の方向性>
まず、Q.7 で問われている通常の債権の回収においては、通常裁判所による(あるいは国内・海外の仲
裁裁判所を通じての)回収を原則とする方針を明確に指示すべきである。これは、現行法規の下で可能で
ある。
次に、Q.8 に関しては、法規の記述を明確化することにより、条文上の解釈と実務上の運用の相違を解
消すべきである。『国税一般通則法』(Tax Code, Law No.28/2007) 第 21 条 (3) に、
・担保権者を優先させる場合であれば、「ただし担保権には劣後する (except for secured creditors,
such as pledges, mortgages, and fiducia)」と明文化する。
・租税債権を優先させる場合であれば、「これらは担保権に優先する (these shall have priority over
pledges, mortgages, and fiducia)」とする記述を明文化する。あるいは、
・同位で債権の発生時期に応じて優劣を判断するのであれば、「債権発生時期/登記の先後により
決する (prioritized according to the chronological order)」と明文化すべきである。
このいずれにすべきかは、債権の優先順位に関する価値判断を伴うため、関係者間で合意形成を進めた
上で法改正すべきである。
同時に、議論の過程と結果について法曹関係者の間で理解を共有することで、法的安定性を確保するこ
とが必要である。(後述)
(A) 制定法規上の課題の結論をまとめる。動産・債権に対する信託担保権は、利用の自由度が低く、か
つ債権者の保護範囲も不明確である。その結果として、金融実務では信託担保は「添え担保」的な位置づ
けにとどまりやすく、本格的な動産・債権担保融資が普及するためには、多くの法整備が必要である。
最後に、これまで議論してきた「制定法」層の課題に加え、その上部構造である「法の適用/執行」層
の課題、及び「事業における利活用」層の課題に言及する。
- 18 -
(B) 制度運用上の課題
(1) 法的安定性 (「法の適用/執行」層)
本調査を通じ、動産・債権担保融資に関する法適用の不統一性・法解釈の不一致が顕著にみられた。
第一に、登記内容については、登記担当官の裁量により運用が統一されておらず、登記担当官のスキル、
登記所の所在地(ジャカルタ/地方)によって認められる記述の範囲に幅があった。
第二に、債権者保護の範囲については、法曹関係者の間でも判断内容の不統一が著しく、条文の解釈に
ついて誤った回答をする場合もあった。調査に回答した法律事務所が必ずしも信託担保法や破産法を専門
としているとは限らないものの、ある法律事務所では、破産・支払猶予の手続に関して誤った情報をウェ
ブサイトに掲載している例も見られた。
こうした事態は、インドネシアでビジネスを行う企業にとって、法適用の予測可能性が低いため、動産
担保制度を用いた資金調達が普及する上で大きな障害になっている。
こうした法的不安定性を解消するためには、
・法規定の明確化
・登記担当官の訓練・標準化
・法曹関係者の間での理解の共有(裁判官、弁護士、公証人、破産管財人、金融関係者)
が必要である。
(2) サポート産業の育成 (「事業上の利活用」層)
動産・債権担保を通じた融資/資金調達を実際に運用するにあたって利用可能な不可欠の周辺サービス
(business enabler) が未成熟であることも課題である。今後想定される高度な融資手法である機動的な動
産・債権担保融資度(asset-based lending (ABL))の健全な発展、利用の促進のためには、実務上のプロ
セス(評価-管理-換価)のそれぞれの段階において、事業をサポートするサービスが必要になる。
<評価>
・動産鑑定手法の洗練・普及
(fair market value (FMV), orderly liquidation value (OLV), forced liquidation value (FLV))
・評価鑑定士向け情報システムの充実
・動産鑑定士の育成、有資格化
・金融機関による自己査定、金融監督機関による金融検査 (BIS 規制) に耐えうる確かな評価の確立
<管理>
・在庫実態のモニタリング、レポーティング
・第三者による市場価格情報の蓄積・提供、
・第三者機関の透明性、技術的・スキルへの債権者・債務者双方からの信頼
・信用供与枠 (credit line) の機動的な管理
・財務制限条項 (covenants) の洗練
<換価>
・換価処分市場の形成
・処分事業者(オークション、ブローカー)の育成
- 19 -
【ロードマップ】
今後の資金調達環境改善に向けた取り組みをまとめる。
本調査で明らかになった課題の中には、様々なレベルでの対応を必要とする項目が混在している。
・単に法規上・事務上の整備を進めれば良い項目
・大陸法系 (Civil law) の物権概念に新たな概念を導入する理解を進める必要がある項目
・異なる法益間の優先順位に関する価値判断を伴う項目
もとより法改正には様々な関係者の合意形成を通じた推進が必要になるうえ、特に社会的な意思決定を
伴う項目に関しては、関係当事者が強固に協力する体制を組んで推進する必要がある。
目下、予定されている動産担保登記の電子データベースの全国展開は、動産・債権担保制度に対する関
係者の統一的な理解を促進する絶好の機会である。当該システムの全国展開に伴って全国の信託担保登記
官を対象とした操作説明・オリエンテーションが必然的に行われることになる。この機会を単なる操作説
明にとどめず、登記内容に関しても登記官の間で共通の理解を促す教育・訓練の機会にすることができる。
同時に、対外的にも裁判官や弁護士、破産管財人、公証人、金融関係者 等に対する公開セミナーを実施
する。
これと並行して、社会的な意思決定を要する法改正を伴う項目については、経済担当調整大臣府
(Kemenko Prekonomian)、法務人権省一般管理局 (Ditjen AHU of Kemenkumham)、国家法整備局
(BPHN)、国家開発計画庁 (Bappenas) を中心に関係当事者の検討会合を開始し、法改正の方向性・必要
性について議論を進めるべきである。(図表 5)
<図表5: ロードマップ>
 Nation-wide training with the rollout of new
Fiduciary Registration System
• Publish guidelines
• Provide training for Registration Officers
• Hold open seminars w/judges, lawyers, notaries, bankers, curators, etc.
 Initiatives for Statutory Reform
• Fiduciary Law Reform
• Collaboration w/ Bankruptcy Law Reform
2013
2014
---
出所:CDI 分析
以上
- 20 -
株式会社コーポレイトディレクション
140-0002 東京都品川区東品川 2-2-4
天王洲ファーストタワー23 階
Tel:
03-5783-4640
Fax: 03-5783-4630
URL: http://www.cdi-japan.co.jp
- 21 -
提言書
- 22 -
平成 24 年度『内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業』成果報告書
「法的基盤」指標 (Strength of legal rights index)
改善に関する各論提言書
【 指標 (10 項目) の全体像 】
 インドネシア共和国は、「資金調達」(getting credit) の「法的基盤」(Strength of legal rights) 指標において、
10 点満点中 3 点の評価にとどまっている。
Strength of legal rights index (0-10)
[1. Parties to a security agreement]
1
Can any business use movable assets as collateral while keeping possession of
the assets; and any financial institution accept such assets as collateral ?
[2. Assets and their description]
2
Does the law allow businesses to grant a non possessory security right in a single
category of movable assets, without requiring a specific description of collateral?
3
Does the law allow businesses to grant a non possessory security right in
substantially all of its assets, without requiring a specific description of collateral?
4
May a security right extend to future or after-acquired assets, and may it extend
automatically to the products, proceeds or replacements of the original assets ?
[3. Debts and obligations]
5
Is a general description of debts and obligations permitted in collateral
agreements; can all types of debts and obligations be secured between parties;
and can the collateral agreement include a maximum amount for which the
assets are encumbered?
[4. Notification and collateral registry]
6
Is a collateral registry in operation, that is unified geographically and by asset type,
with an electronic database indexed by debtor's names?
[5. Priority of Claims Outside of Insolvency/Bankruptcy]
7
Are secured creditors paid first (i.e. before general tax claims and employee
claims) when a debtor defaults outside an insolvency procedure?
[6. Priority of Claims within Insolvency/Bankruptcy proceedings]
8
Are secured creditors paid first (i.e. before general tax claims and employee
claims) when a business is liquidated?
[7. Secured Creditors’ Exemption from Automatic Stays in Reorganization]
9
Are secured creditors either not subject to an automatic stay on enforcement
when a debtor enters a court-supervised reorganization procedure, or does the
law provides secured creditors with grounds for relief from an automatic stay or
sets a time limit to it?
[8. Enforcement of Security Interests]
10 Does the law allow parties to agree in a collateral agreement that the lender may
enforce its security right out of court, at the time a security interest is created?
Score (number of "yes" responses)
出所:世界銀行 Doing Business report 2013
ID
JP
MY
Yes
Yes
Yes
No
Yes
Yes
No
Yes
Yes
Yes
No
Yes
Yes
Yes
Yes
No
No
Yes
No
Yes
Yes
No
No
Yes
No
Yes
Yes
No
Yes
Yes
3
7
10
【 前提条件・シナリオ 】
 各個別項目の評価に共通して、下記の前提 (assumptions)、ケース (case study) とシナリオ (scenarios A/B)
を想定して評価している。
(Survey Case)
Case Study Assumptions
IMPORTANT: THIS SURVEY FOCUSES ON NON-POSSESSORY SECURITY INTERESTS IN MOVABLE
PROPERTY. For the following sections please base your answers on fiduciary transfer-of-title arrangements only
if the law does not allow non-possessory security interests in movable property.
CASE STUDY
Note: Please refer to the below assumptions when answering sections 2 and onwards of this survey.
ABC (the Debtor):
1. Is a Private Limited Liability Company. 100 employees work for the company.
2. Has its registered office and only base of operations in: Dubai.
3. Both ABC and BizBank are 100% domestically owned.
SCENARIOS
Note: Please consider scenarios A or B when answering the survey, according to what is required by
each question. This will allow us to measure your economy’s secured transactions system.
Scenario A: Security interest in ONE CATEGORY
of revolving movable assets
 As collateral for a loan ABC grants BizBank a nonpossessory security interest in one category of
revolving movable assets, for example its accounts
receivable or inventory.
 ABC keeps ownership and possession of the
assets.
1
Scenario B: Security interest in the company’s
COMBINED assets
 ABC grants BizBank a business charge, enterprise
charge, floating charge, or any other charge that
gives a security interest over ABC’s combined
assets.
 ABC keeps ownership and possession of the
assets.
[Section 1: Parties to a security agreement]
1. Any business may use movable assets as collateral while keeping possession of the assets, and any financial
institution may accept such assets as collateral.
【設定者・取得者に関する制限】
1. いかなる企業も、占有を維持したまま動産を担保として利用することが出来る。また、いかなる金融機関
も、そのような資産を担保として受け入れることが出来る。
[ID: Yes]
[JP: Yes]
(Survey questions)
Section 1: Parties to a security agreement
a. Are there any restrictions on who can legally grant a security interest in movable property?
(This question relates to individuals and companies. Please do not take into account minors or mentally impaired
individuals. E.g. in case where a foreign company/bank or state owned company needs prior approval from a
Ministry)
 非占有動産担保 (Fiducia) を提供する主体に、特に制限はない。
b. Are there any restrictions on who may legally hold a security interest in movable property?
(This question relates to individuals, companies and any financial institution or bank. Please do not take into
account minors or mentally impaired individuals. E.g. charges that can only be held by authorized bodies)
 非占有動産担保 (Fiducia) を引き受ける主体に、制限はない。
<Legislation>
 オランダ統治時代に制定された現行『民法』(Indonesian Civil Cove) (1847) の第 1162 条に非占有担保権として
「抵当権 (Hipotik)」が定められている。

しかし、動産の場合には、占有による所有権推定の原則があるため、従来、信託譲渡 (fiduciary transferof-title) という手法が使われてきた。この仕組みを成文化し、動産担保登記による公示の手続を法に定め
るため『信託担保法』(Fiduciary Law) (1999) が制定された。

現在では動産に対する担保権の設定は『信託担保法』(Fiduciary Law) (1999) に基づく登記が義務になっ
ている。
 『信託担保法』(Fiduciary Law) (1999) 第 1 条-5 項、1 条-6 項は、動産担保の提供・引受主体とも、制限を設け
ていない。

Article 1-5. “Fiduciary providers shall be individual or corporate owners of goods”

Article 1-6. “Fiduciary recipient shall be individual or corporate possessors of claims.”
2
Section 2: Assets and their description
(Q.2: General description of collateral)
2. The law allows a business to grant a nonpossessory security right in a single category of movable assets (such
as accounts receivable or inventory), without requiring a specific description of the collateral.
【担保対象物の特定方法 (1)(流動動産)】
2. 動産のうちのある特定のカテゴリー(売掛金や在庫 等)に対し、その担保物を記述により特定せずに非占有
担保を設定することが、法律上認められている。
[ID: No] (Could be Yes)
[JP: Yes]
(Survey questions)
IMPORTANT: This survey focuses on NON-POSSESSORY SECURITY INTERESTS in movable property. For
the following sections, please base your answers on non-possessory security interests in movable property.
Otherwise, if not allowed, use fiduciary transfer-of-title arrangements.
2.1. Scenario A : Security interest in ONE CATEGORY of movable assets
Can ABC (the Debtor), grant BizBank (the Secured Creditor) a non-possessory security interest over:
a.1. Only its accounts receivable (e.g. the amounts that ABC expects to receive from third-party buyers for
goods or services that ABC sold to them) or the outstanding debts owed to ABC (debtor) by third parties.
 売掛金担保は可能。(売掛金に限らない。)
a. 2. According to the law, can the accounts receivable/outstanding debts be described in general terms
both in the security agreement and when it is registered (e.g. “all accounts receivable”) or do they need to
be specified with particularity?
 担保の対象物は、記述による特定が必要である。
b. Only its inventory?
 在庫担保は可能。(在庫に限らない。)
b. 1. Are there any major restrictions/requirements prescribed by law when using inventory as security?
(e.g. specific description of storage location, updating of lists, etc.)
 担保の対象物は記述による特定が必要である。
b. 2. According to the law can the inventory be described in general terms both in the security agreement
and when it is registered? (e.g. “all laptop inventory” instead of “PXS laptop, serial number 3278632, metal
colored, 14 inch screen, etc. ” )
 担保の対象物は記述による特定が必要である。
c. Only its tangible movable property? (e.g. machinery, furniture, livestock, crops, etc.)
 有形動産は可能。(有形動産に限らない。)
c. 1. According to the law can tangible movable property be described in general terms both in the
security agreement and when it is registered? (e.g. “300 head of Hereford cattle instead of Roger Prime Blue
ribbon Hereford bull, tattoo#125, breading registry#456, etc.” )
 担保の対象物は記述による特定が必要である。
<Legislation>
 『信託担保法』(Fiduciary Law) (1999) 第 6 条 c 項、e 項は、登記証書において「担保の対象物及びその担保価
値」を記述により特定することを求めている。
 Article 6. “The deeds of fiduciary guaranty … shall at least contain:

c. descriptions of goods serving as objects of fiduciary guaranty;

e. values of goods serving as fiduciary guaranty.”
 また、上記第 6 条 c 項の説明注釈 (elucidation) は、対象物が在庫のような流動動産の場合の特定方法を、
「種類、ブランド、品質」によってすると定めている。

“A description of the object as the target of fiducia is simply done by identifying objects, and explaining
3
the proof of ownership.

In the event that the object as the target of fiduciary is the object in stock (inventory), which is always
changing and or not fixed, such as the stock of raw materials, finished goods, or the portfolio
company's securities, the fiduciary deed included a description of the type, brand, quality of the
object.”
 『信託担保法』(Fiduciary Law) (1999) 第 16 条(1) は、対象物が変更された際の登記の更新について定めている。

Article 16.

(1) “In the case of any change in matters contained in certificates of fiduciary guaranty as meant in Article
14 paragraph (2), fiduciary recipients shall apply for registration of the change to the Fiduciary Registry
Office.”

(2) The Fiduciary Registry Office on dates of receipt of applications for the change in the Fiduciary Registry
Book and issue statements of change as an inseparable part of certificates of fiduciary guaranty. “
 『信託担保法』(Fiduciary Law) (1999) 第 21 条(3) は、商業における在庫が対象物であった場合、商取引によっ
て特定の対象物が変化した場合であっても、信託担保権が補充された等価物に移転する旨規定している。

Article 21,

“(1) Fiduciary providers can transfer stocks of goods serving as fiduciary guaranty by means of procedures
usually adopted in trading businesses.

(2) The provision as meant in paragraph (1) shall not be valid, in the case of default on commitments by
debtors and/or fiduciary providers of the third party.

(3) Goods serving as objects of fiduciary guaranty which have already been transferred as meant in
paragraph (1) shall be replaced by fiduciary providers with the equivalent objects.

(4) In the case of fiduciary providers committing default, returns of the transfer and/or claims arising from
the transfer as meant in paragraph (1), shall by law become objects of fiduciary guaranty of the objects of
fiduciary guaranty transferred. ”
 また、『倉庫証券法』(Warehouse Receipt Law) (2006) 第 5 条 h 項、k 項、及び、第 14 条 c 項、e 項は、倉庫
証券を使った動産担保の方法について、同様に定めている。


Article 5,

(h) description of goods

(k) value of goods on the basis of the market price when the goods are inserted to warehouse
Article 14,

(c) specification of collateralized warehouse receipt

(e) value of goods on the basis of the market price when the goods are inserted into the warehouse
4
<Practice>

法規を厳密に読めば「No」である。しかし、流動動産の場合は実務上の要請に対応するため、柔軟に運用
される場合もあるので「Yes」とも言えるという意見もあった。

但し、担当官の裁量で「記述による特定」が厳密に求められる場合も多く、特に流動動産の扱いに慣
れてない地方に立地する登記所の場合は、個別動産と同様な「記述による特定」が求められる。また、
債権者も保全の観点から厳密に特定することを好む傾向にある。

また、わが国における「動産・債権譲渡特例法(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例
等に関する法律)」のように、民法における特定の原則に明示的な例外を設けてはいる訳ではない。
従って、現時点では「No」と判断するのが妥当である。

流動動産の場合、登記の実務上「記述による特定」をどのように運用するかは、登記担当官の裁量やスキ
ルによって大きく異なっている。(現地法律事務所、現地金融機関ヒアリング)

流通在庫の例:

自動車ディーラーの在庫担保の場合、
 第 6 条 c 項本文に従って、個別動産として車体番号 3278632 で特定して登記した上で、第
16 条を用いて登記を更新する場合
 第 6 条 c 項本文に従って、個別動産として車体番号 3278632 で特定して登記した上で、第
21 条(3)項を用いて「車体番号 3278633, 3278634…に及ぶ」とする構成をとる場合
 第 6 条 c 項の説明注釈に従って、集合動産として「種類・ブランド・品質」で特定する場合
 条文に規定はないが、集合動産として場所による特定(「C ショールーム」)が許される場
合

スーパーマーケットにおける在庫担保の場合、第 6 条の c 項本文の個別動産や、第 6 条 c 項の
説明注釈に従って「種類・ブランド・品質」を何百とある商品についてリストで記述して特定す
ることは実務的ではない。その場合、法に規定はないが

条文に規定はないが、集合動産として場所による特定(「A 倉庫の B 区画」)
を以て代用することがある。しかし、担当官によってはこれを認めないこともある。また「場所
による特定は認められたことがない」とする法律事務所もあった。

製造在庫の例:

機械組立工場の場合、部品・製品の

第 6 条 c 項本文に従って、個別動産として部品番号 3278632 で特定して登記した上で、第
16 条を用いて登記を更新する場合

第 6 条 c 項本文に従って、個別動産として部品番号 3278632 で特定して登記した上で、第
21 条(3)項を用いて「部品番号 3278633, 3278634…に及ぶ」とする構成をとる場合

条文に規定はないが、集合動産として場所による特定(「D 機械の製造ライン 1」)
を以て代用する場合がある。

売掛金の場合の特定方法は法に定めがないため、登記担当官の裁量に任せられている。

一般的には、「売掛金が発生した原契約を特定する」必要があるように運用されている。
5
<Recommendation>

「集合動産登記」という新たな概念に対する理解を促すことが第一。

法曹関係者・金融関係者のいずれのヒアリングにおいても、この概念の理解が欠如しているために
「記述による特定なしに」という表現に対して、担保の実行 (execution) 対象の不明確性や詐欺的譲
渡 (fraudulent conveyance) を恐れる発言が多く聞かれた。

わが国において『動産・債権譲渡特例法』の導入に先立って行われた各種研究会 における議論の過
程をインドネシア共和国の法曹関係者と共有することが役立つ。
 金融機関は、第三者に対する対抗要件具備の観点から、一般に「記述による特定」を厳密に適用することを
望む傾向にある。

これには、個別動産のケースを想定して担保実行段階での対象物の特定性を確保したいという動機が
ある。悪質な実行妨害に対する不安がある。

個別動産の場合、対象物を担保提供者が売却することは違法である。(『信託担保法』
(Fiduciary Law) (1999) 第 23 条(2))

Article 23 (2), “Fiduciary providers shall be prohibited from transferring, pawning, or leasing
goods serving as objects of fiduciary guaranty which are not stocks of goods to other parties,
except with prior written approval from fiduciary recipients.”

流動動産の場合、担保実行する際には担保対象物の登記を更新するとするコメントもあった。
(第 16 条(1))

具体的な法改正の方法は、2 つの方法が考えられる。

第一は、『信託担保法』(Fiduciary Law) 第 6 条 c 項の説明注釈 (elucidation) において、「type,
brand, quality」に加えて「location (場所) による特定」という文言を加える方法

第二の方法として、別途、特例法を制定する方法も考えうる。
6
(Q.3: Enterprise charge)
3. The law allows a business to grant a nonpossessory security right in substantially all its movable assets, without
requiring a specific description of the collateral.
【担保対象物の特定方法 (2)(会社担保)】
3. 実質的に全ての動産についてその担保物を記述により特定せずに非占有担保を設定することが、法律上認め
られている。
[ID: No]
[JP: Yes]
(Survey questions)
2.2 Scenario B: Security interests in a COMBINED CATEGORIES of movable assets
a. According to the law, can ABC (the Debtor), grant BizBank (the Secured Creditor) a security interest in
a combined categories of assets? (e.g. a security interest over a combined category of assets, a floating charge
or enterprise charge)
 不可。記述による特定が求められる。
b. According to the law, is there a limitation on the assets that can be included in this security interest?
 N/A
c. According to the law can this collateral be described in general terms both in the security agreement
and when it is registered? (e.g., “all combined assets of the enterprise”)
 不可。記述による特定が求められる。
<Legislation>
 既述の『信託担保法』(Fiduciary Law) (1999) の第 6 条 c 項、e 項の既定から、会社担保は認められない。
 また、わが国における『工場抵当法』(明治三十八年三月十三日法律第五十四号)(工場財団)による工場財団
登記や『企業担保法』(昭和三十三年四月三十日法律第百六号)による登記簿登記に類する特別法も存在しない。
<Practice>
 企業全体の財産を担保にする場合、物的担保 (in rem) ではなく人的担保 (in personam) の仕組みを用いて
「企業保証 (corporate guarantee)」が用いられることが多い。

その場合、物上保証に認められる優先債権者にはならない。
<Recommendation>

わが国の『工場抵当法』『企業担保法』に類する特別法を制定する。

第二の方法として、『信託担保法』(Fiduciary Law) (1999)に該当章を追加する方法もある。
7
Q4. Future and after-acquired assets
4. May a security rights extend to future or after-acquired assets and may extend automatically to the products,
proceeds or replacements of the original assets.
【将来資産・事後取得資産、物上代位】
4. 担保権は、将来資産および事後取得資産に対しても拡張し得る。かつ、自動的に元の資産の製品、換価金、
代替物に対しても自動的に拡張し得る。
[ID: Yes]
[JP: No]
(Survey questions)
2.3 Can ABC (the Debtor) use the following movable assets to secure a loan?
a. Future assets (e.g. ABC knows that it will receive a fleet of trucks in January 2012 and uses them as collateral)
and after-acquired property (e.g. Property that it has not yet acquired and that it may never acquire, “all present
and future inventory”):
 契約時点で取得していないものでも特定すれば可能。
b. By law, does the security interest automatically extend to “products, proceeds, and replacements” of
the original collateral? Does it apply to scenarios A and B? (e.g. if the original collateral is a pile of lumber, the
products of this asset could be the wooden furniture made from it; the proceeds could be the money received from
selling the furniture or the lumber; and the replacements could be another pile of lumber given in replacement after
the original pile of lumber was destroyed.)
 自動的に及ぶ。
c. According to the law, can future assets, after-acquired property and products, proceeds and
replacements be described in general terms both in the security agreement and when it is registered?
(e.g. “all future, all after acquired, all products, proceeds and replacements”)
 不可。記述による特定が求められる。
<Legislation>
 『信託担保法』Fiduciary Law (1999)

第 9 条 (1), (2) に、将来資産につき定められている。

(1) Fiduciary guaranty can involve one or more units or kinds of goods including claims, which
already exist at the time of guaranty and will be obtained later.

(2) The binding of goods or claims to be obtained later as meant in paragraph (1) under fiduciary
guaranty need not to be done with separate agreements.

第 23 条 (2) は、加工物 (products) に及ぶ旨定めている。

(1) “… if fiduciary recipients agree that fiduciary providers can use, combine, mix or transfer goods or
returns of goods serving as objects of fiduciary guaranty or agree to collect or compromise on claims,
the approval shall not mean that fiduciary recipients give up fiduciary guaranty.”

第 10 条 a, b 項は、収益 (proceeds) と保険金 (replacements) に及ぶ旨定めている。

Article 10. Except otherwise agreed upon:

a. Fiduciary guaranty shall cover returns of goods serving as objects if fiduciary guaranty.

b. Fiduciary guaranty shall cover insurance claims, in the case of goods as objects of fiduciary
guaranty being insured

第 21 条 (3) は、等価物 (replacements) に及ぶ旨定めている。

(3) “Goods serving as objects of fiduciary guaranty which have already been transferred as meant in
paragraph (1) shall be replaced by fiduciary providers with the equivalent objects.”
8
Section 3: Debts and obligations
5. A general description of debts and obligations is permitted in the collateral agreement and in registration
documents; all types of debts and obligations can be secured between the parties, and the collateral agreement
can include a maximum amount for which the assets are encumbered.
【不特定債務】
5. 担保契約および登記書類において、負債・債務の包括的な記述が認められる。当事者間のあらゆる種類の負
債・債務が保護され、また、担保契約は、当該資産を抵当とする債務の総額まで及ぶことができる。
[ID: Yes]
[JP: Yes]
(Survey questions)
IMPORTANT: This survey focuses on NON-POSSESSORY SECURITY INTERESTS in movable property. For
the following sections, please base your answers on non-possessory security interests in movable property.
Otherwise, if not allowed, use fiduciary transfer-of-title arrangements.
a. Are there any restrictions on the types of debt and obligations that can be secured in Scenario A and
Scenario B? (e.g. future obligations, conditional obligations, present obligations, fluctuating obligations, etc.)
 なし
b. By law, can a maximum amount of the debt or obligation be stipulated without setting a fixed amount
both in the security agreement and when it is registered? (e.g. “a debt of up to USD 1,000,000 as in a line of
credit. The obligations will fluctuate under that threshold without requiring a new agreement every time a new
obligation is created.”)
 可能
c. By law, can the debt and obligations be described in general terms in the security agreement and when
the security interest is registered? (e.g. “all obligations between the parties”) If no, please indicate what the
requirements are to describe the obligation/debt.
 不可
 最大金額を表記する必要
<Legislation>
 『信託担保法』Fiduciary Law (1999) 第 7 条 a 項, b 項, c 項に、定められている。

Article 7 “Debts whose settlement are allowed fiduciary guaranty can be in the form of:

a. Debts already existing

b. Debts which will arise later as agreed upon in fixed sums; or

c. Debts which at the time of execution can have their sums determined on the basis of principal
agreements obliging the fulfillment of specified commitments.
 『信託担保法』Fiduciary Law (1999) 第 6 条 d 項に債務金額の特定が定められている。

Article 6. “The deeds of Fiduciary guaranty as meant in Article 5 shall at least contain:

a. identities of fiduciary providers and recipients;

b. data of principal agreements containing fiduciary guaranty;

c. descriptions of goods serving as objects of fiduciary guaranty;

d. values of guaranty; and

e. values of goods serving as objects of fiduciary guaranty.
9
Section 4: Notification and Collateral Registry
6. Is a collateral registry in operation, that is unified geographically and by asset type, with an electronic database
indexed by debtor's names?
【動産担保の登記所および電子データベース】
6. 動産担保の登録簿および登記所が運営され、全国統一かつ資産の種類別に債務者名での索引のついた電子デ
ータベースがある。
[ID: No]
[JP: No]
(Survey questions)
Section 4: Notification and Collateral Registry
a. If your economy allows non-possessory security interests in movable property, must BizBank register
its security interest for the security interest to be valid and enforceable against third parties?
 登記は義務とされている。(対抗要件に過ぎないとする考え方もある。)
b. Please name the registry (or registries) where BizBank’s security interest would be registered in
Scenario A and Scenario B:
 各地の信託担保登務局 (Fiduciary Registry Office)。
c. Could you please provide the contact information of the main collateral registry (e.g. Collateral Registry,
Registre du Commerce et du Crédit Mobilier, Registro de Garantías Mobiliarias, Companies Registry, etc.) of
movable property? (e.g. website, phone number, email, name of registrar, etc.)
 法務人権省(Kemenkumham )
 Kantor Pendaftaran Fidusia (Kanwil DKI Jakarta)
 Jalan Let. Jend. MT Haryono, No. 24, Cawang, Jakarta Timur, Telp (021)-8090704
d. Is the registry in operation?
 運用されている。紙ベースで各法務局ごとに保管されている。
e. Does the registry cover all types of movable assets (other than vehicles, ships, aircraft or intellectual
property)?
 全ての種類が網羅されている。
f. Is the collateral registry limited to security interests granted by certain types of borrowers or creditors
(e.g. incorporated entities, only individuals, etc.) ?
 個人・法人の別を問わず、登記されている。
g. Is the collateral registry (the database) either centralized geographically for the entire economy or
linked among different geographical regions within the economy? Is it an electronic database?
 現在、テスト稼働中である。まだ全国展開はしていない。
h. Does the registry have an electronic database searchable by debtor’s name?
 現在、テスト稼働中である。まだ全国展開はしていない。
<Legislation>
 『信託担保法』Fiduciary Law (1999) 第 11 条 (1) により、登記は義務である。

(1) “Goods bound under fiduciary shall be registered.”
 『信託担保法』Fiduciary Law (1999) 第 14 条 (3) により、登記簿への記載が信託担保契約の効力発生要件であ
る。(対抗要件に過ぎないとする考えもある。)

(3) “Fiduciary guaranty shall come into being on dates of recording of fiduciary guaranty in the Fiduciary
Registry Book.
10
 『信託担保法』Fiduciary Law (1999) 第 12 条に、登記簿の運用方法が規定されている。

(1) The registration of fiduciary guaranty … shall be done at the Fiduciary Registry Office.

(2) For the first time, the Fiduciary Registry Office shall be set up in Jakarta with its operational area
covering the entire territory of the Republic of Indonesia.

(3) The Fiduciary Registry Office as meant in paragraph (2) shall be under the authority of the Ministry of
Justice.

(4) Provisions on the establishment of fiduciary registry offices in other regions and their working areas
shall be stipulated in presidential decrees.
<Current situation>
 全国統合のオンライン化された、動産の「信託担保登記」データベース・システムは、2012 年中に稼働予定で
あったが、火災により遅れている。2013 年 3 月より、範囲を絞ってテスト実施している段階、稼動予定は未定
である。(紙ベースの情報を電子データに移し変える作業に時間を要する。)

データベースの中身

過去分のオンライン化の進捗状況
は稼働後の確認を待つ必要がある。
11
Section 5: Priority of Claims Outside of Insolvency/Bankruptcy
7. Secured creditors are paid first (for example, before general tax claims and employee claims) when a debtor
defaults outside an insolvency procedure.
【支払不能手続の外で債務不履行状態に陥った場合の優先弁済】
7. 担保権を有する債権者は、債務者が支払不能手続の外において債務不履行の状態に陥った際に、優先弁済
(例えば一般的な税や労働債権に先立って)を受けることができる。
[ID: No] (Could be Yes)
[JP: Yes]
(Survey questions)
Assumption: ABC has defaulted on its loan but has not entered any kind of formal insolvency or bankruptcy
procedure.
a. Does BizBank have absolute priority over all other creditor claims that were never registered or
registered afterwards in both Scenarios A and B? ( e.g. the secured creditor with a pledge is paid before any
other possible creditor claim such as labor wages or State taxes)
 通常裁判所(倒産裁判所(商業裁判所)でなく)を通じて、債務支払命令の請求をするのみ。
 勿論、担保価値が下落していた場合は、担保価値の範囲内で優先される。
b. If not could you please provide us with the rankings? (e.g. please note that since we are outside any
insolvency/bankruptcy procedure, sometime the relevant articles might be found in different laws: Labor Code, Tax
law, etc.)
 N/A
c. Does the law authorize the registration of claims (e.g. labor claims, tax claims, etc.) against the company
at the registry where security interests over movable property are registered? If yes, do these
registrations have an effect on priorities amongst creditors? Please explain and provide the relevant
articles in the law.
 N/A
<Legislation>
 正確に法令を解釈すると「Yes」の筈である。債務の履行を要求するのみ。

『信託担保法』Fiduciary Law (1999) 第 27 条(1)項に、先取特権 (preemptive rights) が定められている。

Article 27 (1) “Fiduciary recipients shall have preemptive rights over other creditors.”
 ただし、実務上は、破産裁判所(商業裁判所)を通じた「破産申立」を通じて回収することも多いため、7.のケ
ースは存在せず、次項の 8.と同じ状態になるので、「N/A」または、「No」とする考えが有力。
<Recommendation>
 法規運用上の問題。

債権回収を通常裁判所を通じて行うケースを通例とすべきである。
12
Section 6: Priority of Claims within Insolvency/Bankruptcy proceedings
8. Are secured creditors paid first (i.e. before general tax claims and employee claims) when a business is
liquidated?
【会社清算の際の優先弁済】
8. 担保権を有する債権者は、事業が清算される際に優先弁済(即ち一般的な租税債権や労働債権に先立って)
を受けることができる。
[ID: No] (Theoretically Yes. But in practice, No)
[JP: No]
(Survey questions)
Assumption: ABC is now in an insolvency/bankruptcy procedure and creditors have been invited to file claims.
a. Does BizBank have absolute priority over all other creditor claims including the State and Employees
in both Scenarios A and B? ( e.g. the secured creditor is paid before any other possible creditor claim)
 有担保債権者として別除権を有する。(優先弁済は担保価値の範囲内で。)
b. Do Labor claims (e.g. wages) have priority over BizBank’s secured claim even if they were never
registered or registered afterwards?
 労働債権は一般優先債権にのみ優先される。
c. Do State claims (e.g. taxes) have priority over BizBank’s secured claim even if they were never
registered or registered afterwards?
 租税債権が担保権者に優先されるか否かについては見解が定まっていない。
 しかし、破産管財人による実務上、及び判例上は、租税債権が優先されている。
d. Does the law establish any restrictions, in time or monetary value, on the extent that labor claims and
State claims rank ahead of secured creditors claims? (e.g. employees claims up to X amount will have
priority)
 条文上は上記 b と c がないので、N/A。
 実務上は、租税債権の優先に制限はない。
e. Does the law provide for an actual ranking of claims during a bankruptcy procedure (e.g. 1.bankruptcy
costs 2. labor claims 3. tax claims 4. secured creditors 5. judgment claims, etc.)? If yes could you please
provide us with the actual rankings?
 民法
<Legislation>
 条文上は、別除権 (right of separate satisfaction) を有する。(自動停止や支払猶予には従う。)

1. 「留置権」(retaining right)『破産法』第 61 条

2. 「裁判費用」(court charges/legal fees)『民法』第 1139/1149 条

3. 「破産管財人費用」(curator, auction fee)『国税一般通則法』第 21 条(3)但書

4. 「国税債権」(tax) (序文上は 5.が優先される筈とする解釈が多数)『国税一般通則法』第 21 条(3)

5. 「担保権者」(secured creditor, kreditur separatis)『民法』第 1134 条

6. 「労働債権」(labor claim)『労働法』95 条(4)

7. 「一般優先債権」(general statutory priority)『民法』第 1139 条

8. 「無担保債権」(unsecured creditor, kreditur konkruen)『民法』第 1132 条
 『信託担保法』Fiduciary Law (1999) 第 27 条(3) に、債務者が破産した場合であっても先取権は無効にならな
い旨、定められている。

Article 27 (3) “Preemptive rights of fiduciary recipients shall not be annulled because of bankruptcy and/or
liquidation of fiduciary providers”
13
 『破産法』Bankruptcy Law (2004) 第 55 条(1) にも、破産時に実行できる旨(別除権)が定められている。

Article 55 (1) “With due observance to the provisions of Articles 56, 57, and 58, any Creditor holding lien,
fiduciary security, security right, mortgage, or other collateral rights on property, may execute his rights as if
no bankruptcy occurred. ”
 一方で、別除権の存在を否定するように読めかねない規定が存在している。

『破産法』(Bankruptcy Law) ( 2004) 第 60 条 (2)

(2) “Upon the demand of the Curator or creditor having higher priority than that of the creditor holding
the right as referred to in paragraph (1), the Creditor holding the right shall give up such portion of the
proceeds of such sale that equal to the amount of the preferred claim.”

『国税一般通則法』(Tax Law) (2007) 第 21 条(1), (3)

Article 21,

“(1) The state shall have preemptive rights to tax claims over goods belonging to a tax guarantor

(2) Provisions on the preemptive rights as referred to in paragraph (1) shall cover tax principal,
administrative sanction in the form of interest, fine, increase and tax collection expenses.

(3) The Preemptive rights to tax claims shall be above all other preemptive rights, except for:
- court fees merely as a result of punishment to auction movables and/or immovables;
- expenses spent on rescuing the goods in rescuing the goods in question;
- court fees merely as a result of auction and settlement of heritage.”

『労働法』(Manpower Law) (2003) 第 95 条(4)

(4) In case the enterprise is declared bankrupt or liquidated based on valid statutory legislation, the
payment of the enterprise’s workers/labourers’ wages shall take priority over the payment of the other
debts.
<Practices>
 別除権は行使できないことが多い。

『破産法』第 60 条(2) に基づく破産管財人からの要求により、国税債権が優先される運用をされている。
<Recommendation>
 法規の記述を明確化することにより、条文上の解釈と実務上の運用の相違を解消することがまず第一である。

担保権者を優先させる場合であれば、『国税一般通則法』(Tax Code, Law No.28/2007) 第 21 条 (3) に
「但し担保権には劣後する (except for secured creditors, such as pledges, mortgages, and fiducia)」と明
文化する。

租税債権を優先させる場合であれば、「これらは担保権に優先する (these shall have priority over
pledges, mortgages, and fiducia)」とする記述を明文化する。

あるいは、同位で債権の発生時期に応じて優劣を判断するのであれば、「債権の発生時期の前後により
決まる (prioritized according to the timing)」と明文化すべきである。
このいずれにすべきかは、債権の優先順位に関する価値判断を伴うため、関係者間で合意形成を進めた上で法改
正すべきである。
14
Section 7: Secured Creditors’ Exemption from Automatic Stays in Reorganization
9. Are secured creditors either not subject to an automatic stay on enforcement when a debtor enters a courtsupervised reorganization procedure, or does the law provides secured creditors with grounds for relief from an
automatic stay or sets a time limit to it?
【会社再建手続中における自動停止(支払停止)からの救済】
9. 担保権を有する債権者は、債務者が裁判所監督の再建手続に入った場合に、その執行手続きにおいて自動停
止(支払停止)を被ることがない。または、法律が、債権者に対して自動停止(支払停止)に対する救済の根拠
を提供したり、自動停止に対する時間的猶予を与えている。
[ID: No] (Could be Yes.)
[JP: Yes]
(Survey questions)
a. Is a judicial reorganization procedure available, either within a general insolvency/bankruptcy
procedure or as a separate process? (Please do not consider informal workouts. If there is no judicial
reorganization procedure available, only consider a general insolvency/bankruptcy procedure)
 再建型の手続について定めた特別法はなく、『破産法』の中の支払猶予 (PKPU) が使われる。
b. If there is more than one reorganization procedure available, could you please indicate which would be
the most commonly used, taking into account that the insolvent company is considered a small LLC, in
your jurisdiction?
 N/A
c. Are enforcement actions by secured creditors subject to an automatic stay (or automatic suspension,
moratorium, etc.) in reorganization (or in bankruptcy if a reorganization procedure is not available)?
 自動停止には従う。
 破産 (bankruptcy) の場合は、90 日の自動停止 (automatic stay) 破産法 (第 56 条(1))
 支払猶予 (PKPU) の場合は、270 日の支払停止 (moratorium) 破産法 (第 228 条(6)項)
d. Is there a time limit prescribed by law on the automatic stay imposed on the secured claims in the
reorganization procedure (or bankruptcy if reorganization is not available)? If yes, what is such time
limit?
 期間の既定はある。
 同上
e. Does the law stipulate that secured creditors may apply for a relief of the stay when the collateral is not
needed for the reorganization or sale of the business as a going concern?
 破産 (bankruptcy) の場合、破産法 (Bankruptcy Law) 第 57 条(2) に、請求できる旨が定められている。
 支払猶予 (PKPU) の場合も、第 246 条の定めにより、第 57 条(2)の類推適用が可能である。
f. Does the law stipulate that secured creditors can apply for a relief of the stay in reorganization (or
bankruptcy if reorganization is not available) when the stay poses a great risk to the existence of the
collateral (e.g. perishable goods)?
 破産法 (Bankruptcy Law) 第 57 条(6) a, b, c, d 項
g. Does the law allow for the insolvency representatives to provide additional or substitute assets to
compensate for the diminution of the encumbered asset’s value due to the stay in reorganization (or
bankruptcy if reorganization is not available)?
 破産法 (Bankruptcy Law) 第 56 条(4) が債権者の合理的な保護 (reasonable protection) を求めている。
h. Does the law impose the payment of interest to secured creditors during the period of the automatic
stay to secured creditors in reorganization (or bankruptcy if reorganization is not available)?
 自動停止中に利子は発生するが、支払は破産手続終了後。
 定期的に担保権者に金銭を支払うことはない。
15
<Legislation>

破産手続および支払猶予 (PKPU) の手続とも、自動停止・支払停止に従う。

『破産法』第 56 条(1)

(1) The right of enforcement of Creditors as set forth under Article 55 Paragraph (1) and the rights of
any third parties to claim assets that are under the control of the Bankrupt Debtor or the Curator shall
be stayed for a time period of at most 90 (ninety) days counted from the date of the decision declaring
bankruptcy is rendered.

『破産法』第 228 条(6)

(6) If the permanent suspension of obligation for payment of debt as referred in paragraph (4) is
approved, such suspension of obligation for payment of debts and the extension thereof shall not
exceed 270 (two hundred and seventy) days following the decision on the temporary suspension of
obligation for payment of debt is stipulated.

破産手続、支払猶予 (PKPU) とも、担保権者が時間的猶予や諸条件の変更を申し立てることができる。

第 57 条 (2),

(2) Creditors or third parties whose rights have been stayed may file petition to the Curator for the
lifting of the stay or to amend the conditions of such stay.

(6) In deciding upon the petition as referred to in paragraph (2), the Supervisory Judge shall take into
consideration:
 a. the length of the stay period which has already elapsed;
 b. the protection of the interests of the creditor and related third party;
 c. the possibility of reconciliation;
 d. the impact of such stay on the survival and management of the Debtor’s business and the
settlement of bankruptcy estate.

第 246 条

Provisions as referred to in Article 56, Article 57 and Article 58 shall apply mutatis mutandis to
implementation of Creditor’s right as referred to in Article 55 paragraph (1) and preferred Creditors,
provided that the stay shall apply during the continuation of the suspension of obligations for payment
of debt.
<Recommendation>

Q8 に同。

加えて、再建型の手続に関する特別法を制定する。
16
<破産及び支払猶予 (PKPU) のフロー>
Insolvency Procedures
Pursuant to the law
Stay (90 days)
Chronology
Defaults
Bankruptcy
Events
Bankruptcy File
Acceptance at
Comm. Court
Separatist Rights’
Claim is Superior
(under Article 55 (1) )
Reconciliation
Plan
Bankruptcy
Declaration, together with the
appointment
Of receiver
Court Fee, Curator
Fee, Tax Debt,
Wage Debt are
Up to 2 months
Superior
*
Implementation
of Reconciliation
Plan
If fail
Insolvency
Assets
Liquidation by
curator
End of
Bankruptcy
Corporate
Rehabilitation
If fail
If succeed
Execution
Rights
Secured
Creditors
Secured
Creditors, if petition of
relief granted
(Article 57 (2))
Secured
Creditors
*
Secured
Creditors
*
*
Receiver
(curator)
up to 270 days
Chronology
Suspension
Of
Obligation
Of Debt
Payment
(PKPU)
Events
up to 45 days
Defaults
or
expected
defaults
Petition
by
Debtor
Temporary Court appoints Creditors vote Permanent
Suspension supervisory for Permanent Suspension
judge and
Decision
Suspension
Decision
administrator
Debtor pro- Creditors Creditors End of Corporate
poses rehabi- Vote on
endorse Suspen- Rehabililitation plan the plan
the plan
tation
sion
If rejected, Debtor declared bankrupt
Execution
Rights
Secured
Creditors
Secured creditors, if petition of relief granted (Article 246 juncto Article 57 (2))
* Curator has the right to demand the execution (Article 60 (2))
出所:CDI 分析
17
Section 8: Enforcement of Security Interests
10. The law allows parties to agree in a collateral agreement that the lender may enforce its security right out of
court.
【裁判手続外(私的売却など)での担保権実行】
10. 債権者が裁判手続外で担保権を実行できる旨、担保契約内で合意することを、法律が認めている
[ID: No] (Could be Yes, but in practice, could be No.)
[JP: Yes]
(Survey questions)
Assumption: ABC is now in an insolvency/bankruptcy procedure and creditors have been invited to file claims.
a. Does the law allow parties to a security agreement to agree to enforce the security interest outside of
court if the debtor defaults, at the time a security interest is created, in both Scenario A and Scenario B?
(e.g. upon default the secured party may: (i) take possession of the collateral; (ii) sell, exchange, convert into
money or otherwise enforce against the collateral privately or by auction)
 可能
b. If out of court enforcement is possible, can you please briefly describe what steps the two parties need
to take in order for the asset to be seized and sold (e.g. notice of seizure, contact a bailiff, schedule a private
auction, etc.)?
 新聞 2 紙以上での公告。
<Legislation>
 『信託担保法』(Fiduciary Law) (1999) 第 29 条(1)項, (2)項は、私的実行について定めている。

“(1) In the case of debtors or fiduciary providers committing default, the execution of goods serving as
objects of fiduciary guaranty can be realized by means of:

c. underhand sales realized on the basis of agreements between fiduciary providers and recipients if
by this means the highest prices benefiting relevant parties can be obtained.

(2) the sales as meant in paragraph (1) letter c shall be realized after the period of one month has elapsed
as from the notification in writing by fiduciary providers and/or recipients to interested parties and
announcement in at least 2 [two] newspapers circulating in relevant regions.”
<Practice>
 但し、実務上は、様々な異議申し立てや、実行上の不都合に遭うことが多い。
 破産管財人が『破産法』Bankruptcy Law (2004) 第 60 条(2) に基づいて、破産管財人を通じた実行を要求する
ことがある。
<Recommendation>
 Q.8 に同。
以上
18
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