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スイミングプールを活用した自由航走模型試験の試み
第4回 船の操縦性に関するワークショップ 2011/3/16 スイミングプールを活用した自由航走模型試験の試み 北海道大学 水産科学研究院 北海道大学 水産学部 1. はじめに 船舶の操縦性能の推定は,拘束模型試験を実施して流体 力特性を求めた上で運動シミュレーションを行うことが 多いが,数学モデルにおける仮定などの問題も問題があり, 自由航走模型試験で運動性能を確認することが重要であ る。 本学では,角水槽や実験池がないため,自由航走模型実 験を行うには,他機関の施設を借りて行ってきたが,函館 キャンパスには単独学部ながら 25m のスイミングプール があり,これを自由航走模型試験に活用によることを考え, 卒業研究の一環として自前の実験装置を製作して実験を 試みた。本報には,その概略を紹介する。 2. 実験施設・機器 自由航走模型船を自航させるにあたり搭載した機器は 以下の通りである。 (a)自航モーター (b)自航モーター制御装置 (c)操舵機 (d)サーボアンプ (e)無線操縦装置 (f)慣性ジャイロ (g)データロガー (h)バッテリー(12V×4) 模型船にはプロペラを取り付け,これを自航モーターで回 転させることによって航走させた。自航モーターの回転数 は制御装置により自航モーターの回転数を所定の値に保 持することができ,船速を調整した。模型船の操舵は舵に 取り付けた操舵機と舵角を制御するサーボアンプによっ て行い,舵角信号はデータロガーに出力した。各試験の試 験時の操船は船体に搭載した自動操舵装置による自動操 舵によって試験を行い,試験開始までのアプローチ,及び 試験終了後の操船はラジコン送信機による手動操船によ って行った。船体運動は慣性ジャイロによって計測し,計 測データの記録はデータロガーによって行った。 芳 荻 村 康 男 野 諒 介 2.1 スイミングプール 本学のスイミングプールは,温室方式で毎年 6 月から 10 月まで使用できる。このプールは正課の授業科目(潜 水調査実習)として使用する他,一般学生の遊泳の他,水 泳・アクアラング部員の練習の場としても活用されている。 サイズは長さ 25m×幅 12m×深さ 1.4m(端の 10m は,深さ 3m)である。 2.2 無線操縦装置 市販のプロポーショナル型無線操縦機を購入し,これに アナログ演算回路などで自作した。実施できる試験は,以 下の標準的な操縦性試験である。 1) 旋回試験・スパイラル試験 2) 逆スパイラル試験 3) Z 試験 4) 停止試験 Fig. 2.2 無線機と受信機を内蔵した自動操縦装置 2.3 小型操舵機 操舵機は 3W DC サーボモータで駆動し,駆動サーボシ ステムは自作の操舵速度可変+アナログ PD 制御方式で電 動油圧操舵機の駆動特性を模擬できる。また,操舵機には 中空型の検力計を取付け,舵直圧力も計測することができ る。 Fig. 2.3 小型操舵機と制御装置 2.4 自航モータ制御装置 60WDC モータを自作の PID 制御方式で駆動する。前進 回転数と後進回転数の双方を設定することができ,自動操 縦装置から遠隔操作をすることができる。 Fig. 2.1 北大水産学部のスイミングプール -1- 2.5 ジャイロ 市販の小型軽量の 6 自由度運動計測用の慣性ジャイロ (Crossbaw AHRS400CC-100)を使用した。 で試験の開始時間がわかるよう,試験開始後に点灯する電 球を船体上に取り付けた。 Fig. 3.2 船首尾のポジション解析用マーカー Fig. 2.4 慣性ジャイロ 2.6 記録器 市販のメモリー型 AD 変換記録器(Keyence NR-2000) 撮影した画像は撮影位置による透視変形,カメラレンズ による画像変形などを修正して試験水面の座標に変換す る必要があるが,その手法は Appendix に詳しく紹介する。 この修正や変換に必要な 9 個の基準点の配置を Fig.3.3 に 示す。 基準点には発泡スチロールのブイにアルミパイプを貫 通させ,下部に錘を配置してそれぞれ浮かせ,Fig.3.4 に示 すようにブイを糸で固定した。なお,この基準点マーカー の水面からの高さは,先の模型船の船首船尾のマーカーと 位置させた。 Fig. 2.5 モリー型 AD 変換記録器 3. 航跡・速度・回頭角の計測 3.1 毎秒の模型船位置の計測 船体位置や船速,横流れ角は,慣性ジャイロでは計測で きないが,これらの計測については Fig.3.1 のように,1 秒間毎の高分解能の連続写真撮影画像を解析することに より行った。 Fig. 3.3 基準点の位置 Fig. 3.4 基準点のマーカーの設置 Fig. 3.1 時々刻々の模型船位置の計測 4. 自走模型試験例 使用した機器は以下のとおりである。 (a)高速連射カメラ(Nikon D90) (b)撮影台 (c)船首・船尾マーカー(模型船体上) (d)撮影開始表示電球(模型船体上) (e)基準点用マーカー9 個 撮影台はプールの監視台を使用し,カメラ台を製作して上 で監視台固定した。撮影はカメラに搭載されている定速連 続撮影機能を使用し,毎秒 1 枚の連続撮影によって船体運 動を計測した。船体には撮影用のマーカーを船首と船尾に 取り付け,そのマーカーの位置から船首位置と船尾位置を 算出した。この算出方法については Appendix に詳しく述 べる。船首と船尾マーカーを Fig.3.2 に示す。また写真上 供試模型船には幅広の北欧型トロール漁船を使用し,以 下の自由航走模型試験を行った。模型船の写真を Fig.4.1 に,主要目を Table 4.1 に示す。実船はフラップ舵を装備 しており、以前の研究において舵も実船に対応してフラッ プ舵で行ったが、舵の違いが操縦性に及ぼす影響を確認す る目的で、通常舵で実施した。 (a)旋回試験 舵角:±35°,±30°,±25°,±20°,±15°,±10° (b)逆スパイラル試験 r’=±0.24,±0.20,±0.16,±0.12,±0.08,±0.04,0 (c)Z 試験: 20°/20°Z,10°/10°Z で実施。 -2- 5. 自走模型試験結果 (a)旋回試験の結果 Fig. 4.1 供試模型船 Table 4.1 供試模型船の主要目 実船 模型船 scale 1/20 m 26.160 1.3080 Lpp B m 10.000 0.5000 D m abt 0.32 da m 4.571 0.2286 dm m 4.071 0.2036 df m 3.571 0.1786 BL..trim m 1.000 0.0500 Initial trim m 0.800 0.0400 △ kg 698,900 ▽ m3 681.85 0.08523 Cb 0.6403 m' 0.4895 0.4895 xG m -1.395 -0.0698 Dp m 2.044 0.0896 P/Dp 0.6895 Dp/H 0.6531 AR 3.904 0.01106 Asp. ratio 1.525 1.702 Fig. 5.1 舵角 35°旋回試験の航跡 (b)スパイラル・逆スパイラル試験の結果 r’(L/R) 1 0.5 0 ‐40 ‐20 0 20 40 RUDDER ANGLE(deg) ‐0.5 r’-δ 特性 ‐1 β(deg) 30 20 10 0 ‐35 ‐25 ‐15 Fig. 4.2 計測機器を搭載した模型船 ‐5 5 15 25 35 ‐10 β-δ 特性 ‐20 ‐30 RUDDER ANGLE(deg) U'(U/U 0 ) 1 0.5 U/U0-δ 特 0 ‐40 ‐20 0 20 40 RUDDER ANGLE(deg) Fig. 5.2 定常旋回特性 Fig. 4.3 実験中の模型船 -3- (c)Z 試験: Fig. 5.3 20°Z 試験結果 Fig. 5.4 -20°Z 試験結果 6. まとめと今後の課題 今回初めて北大学内においてスイミングプールで自由 航走模型試験を初めて行った。その計測結果はかつて水産 工学研究所で計測されたデータと比較しても非常に精度 の高い結果であった。今回は 1.3m 幅広船での試験であっ たが,十分にアプローチ速度も確保できたため,日本型漁 船であるならば船長 2m 程度までなら排水量も同程度とな り,計測可能であると思われる。 自由航走模型試験結果は概ねよい計測結果が得られた が,問題点としては Z 試験において,試験開始舵角が丁 度 0 度に設定されていないことや,回頭角が指定角度に満 たないままで反対舵角をきってしまうことがあった。これ は今回使用した慣性ジャイロが磁気方位のフィードバッ クによって方位を算出していたため,学内プールにある 様々な機器や鉄骨によって磁気が乱されてしまったため と考えられる。今後より正確な自由航走模型試験の計測を 行うには,磁気方位をフィードバックしないタイプのジャ イロが必要である。 -4- APPENDIX 画像の射影変換と船体運動の算出 A3.画像の射影変換方法 1) 射影変換式 今回の実験では佐藤らが提案した射影変換方法 [3] を用 いて,画像による船体位置の算出を行った。この方法は当 講座のビークルの研究でも実績がある。変換式を以下に示 す。 A1.カメラの配置 今回学内水泳プールにおける自由航走模型試験におい て,プール上を航走する船体の船体運動(航跡・船速・横 流れ角)を計測するため,写真による射影変換を用いた。 船体の運動を撮影する方法としては船体の真上から取る ことが望ましいのだが,プールを真上から撮影することは 非常に困難である。よって今回は本文の Fig.3.1 に示すよ うに,斜め上からプール上の模型船航走範囲を撮影し,射 影変換によって斜め上から見た船体位置を真上から見た プールの実座標上の位置へと変換した。 撮影代となる監視台をプールから 3m ほどの位置に配置 し,撮影台の上部にカメラの固定台を製作しカメラをしっ かりと固定した。カメラ台の設置位置は試験開始時船体進 行方向正面に配置した。 xp = a0 x + a1 y + a2 a3 x + a4 y + 1 yp = a5 x + a6 y + a7 a8 x + a 9 y + 1 ただし,(xp, yp): プールの座標 (x, y): カメラ画像の座標 α0~α9: 射影変換の係数 これを行列で示すと A2.基準面の撮影 斜めから撮影した画像を射影変換するために基準面の 撮影を行った。基準面を撮るために今回は 9 本の基準点を 設置した(Fig.3.3)。各基準点の水面からの距離は,船体に 取り付けた船首船尾マーカーの水面からの距離と同じ高 さに設定した。各基準点マーカーのプール水面上での設置 位置については,糸を水面上に張り設置位置を固定するこ とによって正確に設置した。糸を使用してマーカーを固定 した写真を Fig.3.4 に示す。また基準面の撮影は,射影変 換の精度を保てるようカメラの位置を動かす度に行った。 ⎛ x p1 ⎞ ⎛ x1 ⎟ ⎜ ⎜ ⎜ y p1 ⎟ ⎜ 0 ⎟ ⎜ ⎜ ⎜ x p 2 ⎟ ⎜ x2 ⎜y ⎟ ⎜ 0 ⎜ p2 ⎟ ⎜ ⎜ x p 3 ⎟ ⎜ x3 ⎟=⎜ ⎜ ⎜ y p3 ⎟ ⎜ 0 ⎟ ⎜ ⎜ ⎜ x p 4 ⎟ ⎜ x4 ⎜ y p4 ⎟ ⎜ 0 ⎟ ⎜ ⎜ ⎜ x p 5 ⎟ ⎜ x5 ⎟⎟ ⎜ 0 ⎜⎜ ⎝ y p5 ⎠ ⎝ ⎛ x p ⎞ ⎛ x y 1 − xx p − yx p 0 0 0 0 0 ⎞ T ⎜ ⎟=⎜ ⎟a ⎟ ⎜ y ⎟ ⎜0 0 0 x y − xy − yy 0 0 1 p p⎠ ⎝ p⎠ ⎝ a T = (a0 a1 a 2 a3 a 4 a5 a6 a 7 a8 a9 ) 上式より 10 個の係数 a0~a9 は,5 点のプールの座標(xp1,yp1, …xp5, yp5,)とカメラ画像の座標(x1, y1,…x5, y5,)より 次式のように 10 元連立一次方程式より求めることができ る。 y1 0 1 − x1 x p1 0 0 y2 0 1 − x2 x p 2 0 0 − y2 x p 2 0 0 0 0 x2 y2 1 − x2 y p 2 y3 0 1 − x3 x p 3 0 0 − y3 x p 3 0 0 x3 0 y3 0 0 1 − x3 y p 3 y4 1 − x4 x p 4 0 0 − y4 x p 4 0 0 x4 0 y4 1 − x4 y p 4 1 − x5 x p 5 0 0 − y5 x p 5 0 0 x5 0 y5 0 y5 0 − y1 x p1 0 0 0 x1 y1 0 0 1 − x1 y p1 0 0 0 0 0 1 − x5 y p 5 ⎞⎛ a ⎞ ⎟⎜ 0 ⎟ ⎟⎜ a ⎟ ⎟ 1 0 ⎟⎜ a ⎟ ⎜ 2⎟ − y 2 y p 2 ⎟⎜ a ⎟ ⎟⎜ 3 ⎟ 0 ⎟⎜ a 4 ⎟ − y3 y p 3 ⎟⎟⎜ a5 ⎟ ⎜ ⎟ 0 ⎟⎜ a6 ⎟ ⎟⎜ ⎟ − y 4 y p 4 ⎟ a7 ⎟⎜⎜ a ⎟⎟ 0 ⎟⎜ 8 ⎟ − y5 y p 5 ⎟⎠⎝ a9 ⎠ 0 − y1 y p1 上式を B = Aa と表すと,射影変換の係数αT は次式のよ うに求めることができる。 T a T = A −1 B 2) 画像からの座標の算出 カメラの画像上から座標を算出する計算には 「Graphcel110」というフリーソフトを使用した。このソ フトから算出した座標データを基に射影変換の係数を求 め,船体の位置座標を算出した。 -5- A4.船体運動の算出 画像の射影変換によって算出されたプール座標上の船 首船尾位置より,n 時刻のビークルの回頭角ψ n ,回頭角 速度 rn ,船速 U n ,横流れ角 β n は下記の式によって求める ことができる。 ⎛ xbn − x sn ⎝ y bn − y sn ψ n = tan −1 ⎜⎜ rn = ⎞ ⎟⎟ ⎠ ψ n − ψ n −1 ∆t ⎛ x − xcn −1 ⎞ ⎛ y cn − y cn −1 ⎞ U n = ⎜ cn ⎟ +⎜ ⎟ ∆t ∆t ⎝ ⎠ ⎝ ⎠ 2 2 x n = ( xcn − xcn−1 ) cosψ n −1 − ( y cn − y cn−1 )sinψ n −1 y n = (xcn − xcn−1 )sinψ n −1 + ( y cn − y cn−1 ) cosψ n −1 yn ∆t x vn = n ∆t un = β n = ψ n − tan −1 vn un (xbn, ybn)と(xbn-1, ybn-1):n 時刻と(n-1)時刻の船首座標 (xsn, ysn)と(xsn-1, ysn-1):n 時刻と(n-1)時刻の船尾座標 (xcn, ycn)と(xcn-1, ycn-1):n 時刻と(n-1)時刻の重心座標 A5.計測の精度 今回使用する射影変換の精度を求めるため,模型船を Fig.A1 のように水泳プールの 6 つのコース上で直進させ 毎秒 1 枚の連続撮影を行った。各コース上を直進する模型 船の船長を射影変換によって解析し,船体位置の違いによ る射影変換の精度の違いを調べた。 結果を Fig.A2 に示す。この図は 9 つの基準点の中心の 基準点座標を(0.0)として基準点からの距離を横軸,縦軸に とったものである。また各地点で計測した船長の誤差が 10cm 以上の地点を赤色のマークで,5cm 以上の地点を黄 色のマークで示した。これより,カメラから大きく離れた 地点かつ基準点より大きく離れている地点でも射影変換 の誤差は大きくないことが分かる。またカメラに非常に近 い地点では誤差が大きくなりやすいことも分かる。しかし プール上のほとんどの範囲で船長の誤差は小さく射影変 換の精度は高いといえる。 Fig. A2 Fig. A1 各コース直進撮影 -6- 各コース模型船航走の位置計測結果 黄色が 5cm 以上の誤差 赤色が 10cm 以上の誤差