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あってはならないこと

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あってはならないこと
うした困難な作業に中心的に携わったのは県の
建設業協会であった。また、九州農政局からも
職員が車両消毒等の防疫作業や埋却作業の監督
などの支援に携わっているし、隣接する鹿児島
で農水省のダムの建設に携わっていたゼネコン
も消石灰の散布で宮崎県外への防疫支援を行っ
たことなど、決して報道されることはないが多
くの自主的な取り組みがなされている。
*
宮崎県の非常事態宣言の解除からおよそ2年
半。2013(平成 )年1月 日、NHKの
BSプレミアムで「命のあしあと」と題するド
ラマが放映された。
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「 あってはならないこと
」
H2O
ね合わせたことだろう。
ドラマを制作したプロデューサーは、当時、
メディアは感染地帯に近づくこともできず、被
害の実態に迫りきれていないというもどかしさ
を感じていたとのことだが、出来上がったドラ
マは、殺処分という実際に起きた現実を踏まえ
た「あの時」を再現し、口蹄疫の悲劇を二度と
起こしてはいけないとの強いメッセージになっ
ている。口蹄疫が話題に上ることもなくなった
この時期にドラマ化に取り組んだNHKにマス
コミの良心を感ずる。
*
宮崎県は、5年に一度開催され和牛のオリン
ピックともいわれる全国和牛能力共進会の20
07(平成 )年大会で総合優勝し、宮崎牛は
揺るぎないブランド牛の地位を確立していた
が、口蹄疫によるイメージの低下や多くの牛を
失うという厳しい状況のため地域の再生・復興
には多くの困難が伴い、口蹄疫から2年を経過
した時点での経営再開状況は、農家数ベースで
%、頭数ベースで %に留まっていた。
しかし、ドラマに見られたように一筋の光、
希望をもって歩み出した宮崎県の農家は、20
12(平成 )年 月に長崎で開催された全国
和牛能力共進会で見事2連覇を成し遂げ、口蹄
疫を乗り越えた宮崎牛の力強い姿を全国に示す
こととなった。
呼応するかのように、2013(平成 )年
2月6日には、EUが日本産牛肉の輸入解禁を
決めたと報じられた。宮崎牛が、世界へ向けて
チャレンジすることを期待したい。
万頭の命と引き換えに終息に至った今回の
口蹄疫。
「あってはならないこと」からの力強
い歩みが、3・ から3度目の春を迎える東日
本大震災被災地の農家にとって一筋の光となり
希望となって欲しいと切に願う。
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牛とともに生きてきた家族が突然口蹄疫に襲
われる。主人公の飼育する牛は徹底した消毒で
未感染であったが、爆発的に拡大する感染を防
止するためワクチンを接種し殺処分することを
求められる。反対する主人公を獣医は自問しつ
つ説得する。
「何十万頭の牛や豚を殺して埋め
る。その土地を探している人、穴を掘っている
人、死んだ牛を運ぶ人、牛を埋める人、皆がこ
んな馬鹿げたことがあっていいのかと思ってい
る。こんなことがあってはならない。
」
放送を見た被災農家は、口蹄疫という目に見
えない敵と闘い続け、牛を失った喪失感を乗り
越え力強く歩み始める家族の姿に、
「あっては
ならないこと」に立ち向かった自分達の姿を重
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土地改良 281号
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Column
2010(平成 )年4月9日、宮崎県都農
町の 和 牛 繁 殖 農 家 か ら 獣 医 師 へ の 診 察 が 依 頼 さ
れたが、典型症状がみられず経過観察とされた。
しかし、4月 日には、家畜の伝染病の中で最
も伝染力の強い疾病である「口蹄疫」に感染し
ていることが国の検査によって判明した。
その後、4月 日の 例目では我が国初の豚
への感染が確認される等、感染は爆発的に拡大
し、5月 日時点で131例目の発生が確認さ
れ、処分対象家畜は 万頭を超え、県は「非常
事態宣言」を行う事態となった。こうした事態
を受け、爆発的な感染を阻止するために国の方
針で未感染の家畜にもワクチン接種が開始さ
れ、5月 日からほぼ5日間で終了し、その効
果が 6 月 中 旬 か ら 現 れ 発 生 件 数 が 減 少 す る こ と
となった。7月4日の292例目が最後の発生
事例となり、ようやく7月 日に至り非常事態
宣言は解除されることとなった。その後県内全
域での清浄性が確認されたことから、8月 日
に「口蹄疫終息宣言」が行われた。1例目の発
生確認から130日が経過していた。
口蹄疫と確認された患畜に治療が選択される
ことはない。患畜のみならず同じ畜舎に飼われ
る家畜も全て速やかに殺処分され、さらに、ワ
クチン接種を受けた家畜も順次殺処分される。
殺処分された牛は6万9454頭で、県内飼育
頭数の %にも上る。豚は 万7949頭で牛
を上回る %である。1200戸を超える畜産
農家で、牛・豚が1頭もいない状況となった。
万頭もの殺処分を目の当たりにせざるを得な
かった農家は、その2割が何らかの形で心と身
体の健康に影響が出たといわれる。
当然、大規模な殺処分には農家からの拒否反
応も強い。埋却用地の確保といった現実的な問
題もあり患畜等の埋却作業は困難を極めた。自
衛隊の献身的な活動が大きく報道されたが、こ
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