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実用化には “運”も必要 です。

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実用化には “運”も必要 です。
Topics
01
Topics
02
ヒトを理解するためのロボット
認知発達研究の普及型ヒト型ロボット・プラットフォームを実現
怪奇現象はなぜ 起きるのか ?
日本科学未来館で企画展「お化け屋敷で科学する!2∼恐怖の実験∼」開催中
Close up
実用化には
透明
“運”
も必要 アモルファス
酸化物半導体
です。 (TAOS)
が
実用化へ!
Vol.7
2010
No. 1
April
4
月号
Vol.7
No. 1
2010
April
4
月号
Contents
科学技術振興機構の最近のニュースから……
JST Front Line
03
Close up
透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)が実用化へ!
実用化には“運”
も必要です。
06
3Dテレビなど、
ディスプレイ産業が新時代を迎えるいま、
「TAOS-TFT」という新技術が実用化に向けて
大きな注目を集めている。物質科学の基礎研究が製品化技術に結びついたことに、
細野秀雄教授は「運ですよ」と言いきるが、
もちろん、
そこには運だけでは片づけられない理由があるのだ。
自分の発見した成果が世の中の役に立つ――。それは、科学者なら誰もが見る夢ではないだろうか。
Topics 01
認知発達研究の普及型ヒト型ロボット・プラットフォームを実現
ヒトを理解するためのロボット
10
Topics 02
日本科学未来館で企画展「お化け屋敷で科学する! 2∼恐怖の実験∼」開催中
怪奇現象はなぜ起きるのか?
ようこそ、私の研究室へ
12
14
中内啓光 東京大学 医科学研究所 教授
理科の先生がオススメする 私のイチ押しデジタル教材
体感! 植物で見る生殖のしくみ
16
理 事 長 茶 話
――4月を迎え、新たに研究職に就く人たちがいます。一方、最
「いま、世界で問題になっているのは低炭素社会の実現です。環
近では、若者が理系・研究職に進みたがらない傾向もあると聞き
境技術については、日本は世界のトップといえます。たとえば、
ラ
ます。
イフサイエンスの力で植物の光合成を促進し、二酸化炭素の吸
「国が豊かになれば、そういう傾向はあるのではないでしょうか。
収率を上げようという研究がありますが、
この技術は、
日本のみな
私たちが高度経済成長期だったときには、理系でさえあれば仕事
らず、中国やアメリカ、
インドなどへも移転され、そこには新たな市
がある、
この国を支えていける、
という気構えが若者にありました。
場も生まれるでしょう。
いま、中国が同じような状況を迎えていますね。中国の若者たち
これは、たいへん夢のある話です。大学や研究機関ではこんな
の科学技術立国にかける思いは、たいへん熱いものがあります。
ことをやっている、世の中を変えるこんな研究がある、
ということを
こういう話をすると、すぐに「中国に追い抜かれるのでは」と危機
もっと呼びかければ、若者たちも「よし、やるぞ!」という覇気をもっ
論を唱える人もいますが、
日本は長年、培ってきた技術を生かして
て、理系や研究職に魅力を感じるようになるのではと思います。
いくことを心がけて、必要以上に騒ぐことはないと思います」
二酸化炭素削減は、科学が立ち向かうべき大きな壁ですが、同
――雇用や収入面もありますが、
そもそも、いまの日本の若者は
時に、日本の若者たちに未来への挑戦の夢を与えるものでもあ
研究職にあまり魅力を感じないのではないかという気がします。
るのです」
編集長:田口敬子(JST)
/編集・制作:株式会社トライベッカ/デザイン:中井俊明 / 印刷:株式会社テンプリント
科学技術振興機構(JST)の 最近のニュースから……
2010
4
月号
科学技術情報を総合的に探索できるWebサービス=J-GLOBALのバージョンアップの紹介や、
世界初のフラーレンによる遺伝子導入の研究成果、各種シンポジウムのお知らせなど、最新ニュースをお届けします。
NEWS
01
Webサービス
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
JSTのWebサービス「J-GLOBAL」が バージョンアップ !
さまざまな科学技術情報をつなぐ“ハブサイト”へ
Search
JSTの「つながる、
ひろがる、
ひらめく」を
コンセプトにした無料の新サービス=J-G
LOBAL(科学技術総合リンクセンター)
試行版(β版)は、
これまでばらばら
に存在していた科学技術に関する
つながる
膨大な情報をつなぐことで、
さまざま
な情報を簡単に入手することが可能
になり、意外な発見や、新たな気づきを
ユーザに提供しています。
登載されている基本情報は、
研究者、
文献、
特許、研究課題、大学・研究所、科学技術
用語など9種類に分類され、J-GLOBAL内
のこれらの基本情報を相互につなげるだけ
でなく、J-GLOBAL以外のさまざまな有用
サイトとも連携して、
リンクや関連情報をた
どりながらの情報検索が可能です。
J-GLOBALの使い方としては、
あるキーワードでJ-GLOBALを検索
↓
ヒットした特許情報から、関連する
文献情報を表示
↓
文献の著者名から研究者の
詳細情報を表示(中央のブラウザ画面)
↓
問い合わせフォームで研究者にコンタクト
といった例があります。
登載されている研究者情報は、国内の
大学・研究所に所属する約20万人
におよび、J-GLOBALは研究者の
大学
研究所
登録者数で日本最大級といえます。
ひろがる
科学技術
研究者
用語
これら研究者情報に、文献の著者
や特許の発明者からリンクがはられ
ている場合は、
前述の例のように著者や
文献
化学物質
9つ の基本情報
発明者のプロフィールや連絡先を調べるこ
とができ、技術開発のパートナー探しに役
立ちます。
特許
遺伝子
なお、文献情報については1993年から
現在までの1600万件、特許情報について
研究課題
資料
は同じ期間の650万件を登載して、
β版1.1
にバージョンアップしました(2009年12月)。
さらに、2010年3月にはβ版1.2にバージ
ひらめく
ョンアップし、WebAPIの公開と検索窓の
配布を開始しています。詳細は下記をご覧
ください。
JSTは、本サービスをさらに機能強化して
提供することで、
激しさを増す科学技術の
問い合わせフォームにリンク
国際競争を情報面からサポートし、新しいシ
ーズの発掘、異分野技術の応用、
イノベー
ションの創出に貢献することを目指していま
す。J-GLOBALをぜひ、
ご利用下さい。
⇒http://jglobal.jst.go.jp/
J-GLOBALの特徴
w 検索窓の利用例
J-GLOBALへの入り口をより広く!
画面は、科学技術の総合サイト
る「文献」
「特許」
「研究者」情報
S c i e n c e Po r t a l(http://scien
が自動的にJ-GLOBALから呼び
ceportal.jp/)で、J-GLOBALの
出され表示されます。
WebAPI機能と検索窓を利用した
w検索窓の利用例:
例を示しています。
(検索窓はイメ
J-GLOBAL以外のWebサービ
ージ)
スでも、J-GLOBALの検索窓を導
qWebAPIの利用例:
入することができます。検索窓をサ
J-GLOBALのWebAPIを試験
イト内に設けることにより、自由に
的に導入した例です。ニュースタブ
J-GLOBALの情報にアクセスす
を開くと、
そのニュースに関係のあ
ることが可能になります。
q WebAPIの利用例
03
科学技術振興機構(JST)の 最近のニュースから……
NEWS
02
研究成果
戦略的創造研究推進事業CREST「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御基盤技術」/ 研究課題「代謝解析による幹細胞制御機構の解明」
慢性骨髄性白血病の治療抵抗性原因分子を発見!
新たな白血病治療法開発のための重要な鍵
もととなる白血病幹細胞がチロシンキナ
ーゼ阻害剤に対して抵抗性を持つためで
す。平尾敦教授らの研究チームは、白血
病幹細胞において代謝制御に重要な役
割を果たすFOXO遺伝子が活性化してい
ることを、慢性骨髄性白血病マウスを使っ
た実験で明らかにしました。さらに、この
FOXO遺伝子の活性化にはTGFベータ
というたんぱく質が重要であることも突き
止め、白血病幹細胞におけるTGFベータ
からFOXO遺伝子活性化へとシグナルが
伝達される経路が、チロシンキナーゼ阻害
剤抵抗性の要因であることを明らかにしま
した。今回の発見は、新たな慢性白血病
治療法の開発につながることと期待され
ています。
白血病幹細胞に お けるFOXOの活性化
非幹細胞
がん幹細胞特定
FOXO遺伝子の動態観察により、
白血病幹細胞の核内に局在化し、
FOXO遺伝子の活性化が生じて
いることが示され、
チロシンキナー
幹細胞
金沢大学がん研究所の平尾敦教授と
仲一仁助教らの研究チームが、慢性骨髄
性白血病治療剤に対する抵抗性原因分
子の発見に成功しました。慢性骨髄性白
血病は、造血細胞が異常増殖するために
起こる骨髄増殖性疾患で、世界では年間
10万人に1∼2人の割合で発症する病気
です。
この疾患は、遺伝子異常によって作り
出されるBCR-ABL遺伝子が、チロシンキ
ナーゼの活性を異常亢進することが原因
であることがわかっており、また、これまで
の研究で、チロシンキナーゼ活性の異常
亢進に対する特効薬としてチロシンキナ
ーゼ阻害剤が開発され、患者の治療に使
われてきました。しかし、一部の患者で薬
剤投与中止後、病気が再発する事例や
新たな遺伝子異常の発生が報告されて
おり、問題の解決が期待されていました。
再発の原因となるのは、白血病細胞の
ゼ阻害剤抵抗性の原因がFOXO
遺伝子にあることが示されました。
FOXOの核内における活性化
NEWS
戦略的創造研究推進事業ERATO「中村活性炭素クラスタープロジェクト」
03
研究成果
世界初、
フラーレンによる動物への遺伝子導入に成功!
低毒性で高機能な遺伝子導入法の開発へ
東京大学大学院理学系研究科の中村
栄一教授らの研究チームが、世界で初め
て成功しました。
フラーレンは、60個の炭素原
子がサッカーボール状に結合し
た分子で、
カーボンナノチューブ
アミノ基
と同じく、
さまざまな工業製品の
次世代材料として期待されてい
る物質です。フラーレンはそのま
までは水に溶けないため利用が
水溶性フラーレン(TPFE)
困難ですが、2006年に中村教
フラーレンを用いたマウス生体内への
遺伝子導入に、東京大学医学部附属病
院血液浄化療法部の野入英世准教授、
DNA
TPFE
細胞膜
水溶性フラーレン
(TPFE)による生体への遺伝子導入
TPFEはDNAと結合して100nm程度の小さな粒子となり、細胞膜
細胞
を通り細胞内へと取り込まれます。
この粒子は、
その後再びTPFEと
TPFE
DNAに分かれ、導入されたDNAからは、
たんぱく質が作られます。
蛋白質
04
April 2010
授らにより開発されたフラーレン(TPFE)
は、
アミノ基を4つ持つため水に溶け、
さらに、
正の電荷を持つので、負に帯電したDNA
と結合することができます。
今回、野入准教授らの研究チームは、
この特性を利用して、糖尿病治療効果の
あるインスリン 遺 伝 子を含 む D N Aを
TPFEと結合させ、動物の体内に導入し
ました。その結果、導入したインスリン遺
伝子が細胞内で発現することで、血中の
インスリンが増え、血糖値が下がることを
示しました。
これまで、特定の遺伝子を含むDNAを
体内に導入する技術には、ウイルスや脂
質類似物質が用いられてきましたが、安全
性や導入効率などに問題があり、実用に
は時間がかかると見られてきました。一方、
TPFEは毒性が低く、大量合成も可能な
物質です。今後、遺伝子導入医療における
有力な新技術としての期待が高まります。
NEWS
Good
04
イベント
米国科学雑誌「Science」を発行するAAASの年次大会に
東京大学、理研らと共同でジャパン・ブースを出展
2月18日(木)∼22日(月)の4日間、全米
科学振興協会(AAAS)年次大会が米国
サンディエゴで開催されました。JSTは、理
化学研究所、東京大学、海洋研究開発
機構、科学技術政策研究所と共同で参
加し、
「ジャパン・ブース」を出展しました。
ジャパン・ブースは、
「Science and
Technology for the Development of
Sustainable Society」をテーマに掲げ、
持続可能な社会づくりのための取り組み
について、各機関がポスターや動画などを
出展。JSTからは、研究開発戦略センター
や低炭素社会戦略センターの取り組み、
2009年に行われたCOP15のサイドイベ
1848年創設の全米科学振興協会は科学の社会
貢献を目指す非営利団体。科学雑誌「Science」
の出版元としても知られる。
NEWS
05
シンポジウム
シンポジウム“未来への挑戦”
「低炭素社会を実現し雇用を創出する
ビジネスモデルとは」を開催
2010年3月8日(月)、東京・秋葉原コ
ンベンションホールにて、
シンポジウム“未
来への挑戦”
「低炭素社会を実現し雇
用を創出するビジネスモデルとは−」を
開催しました。
低炭素社会の実現に向けたエネル
ギー・環境関連技術の開発と普及は、
地球全体で早急に解決すべき問題の1
つです。一方、
この世界的転機は、高い
技術力を持つ日本にとって、新たなビジ
ネスチャンスの到来ともいえます。
日本企業の技術力は世界でもトップ
レベルの水準にありますが、
その技術力
を活かした製品化や販売戦略という点
では、必ずしもトップレベルにあるとはい
えません。
基調講演のマッキンゼー・アンド・カ
ンパニー・インク・ジャパン・中原雄司氏
は、
「日本国内の削減可能なCO2は世
界の1%程度。地球全体のCO2削減
のためには、日本の技術を世界に広め
ることが重要」と語り、同じく基調講演
の東京大学・妹尾堅一郎特任教授は「技
術力だけなく、
ビジネスモデルや知的マ
ネジンメントが必要な時代。
『事業軍師』
を育成する必要がある」と語りました。
このような社会の変化、価値観の変
化をビジネスチャンスとして、
日本の持つ
高い技術力を活かしていきたいという企
業の方々に多くご来場いただきました。
定員400名の会場は満席となり、
モニターを設置してロビーに生中
継を行った。低炭素社会への取り
組みと、経済合理性をどう結びつ
けるか、活発な議論が展開された。
ント報告などを行いました。相撲を科学的
に紹介した動画「サイエンスチャンネル」や、
地球環境の変化を体感できる「触れる地球」
(日本未来館に展示予定)は幅広い年齢
層の関心を集めました。
また、20日(土)には、
「Communicating
Science to the Public: Culture and
Social Context in East Asia」と題した
セッションを開催し、日中韓3国の文化的
背景を踏まえた科学コミュニケーション推
進の方法を論じ、各国間のネットワークを
深めました。
大会の様子はUSTREAMやJSTホー
ムページから、動画でご覧いただけます。
NEWS
06
シンポジウム
低炭素社会戦略センターのシンポジウム
日々のくらしの
グリーン・イノベーション
4月13日
(火)
一橋記念講堂にて開催
温室効果ガスの排出などによる気
候変動問題は、国家を越えて解決す
べき課題です。JSTでは、持続可能
で豊かな低炭素社会の実現に貢献
するため、低炭素社会づくり推進の
司令塔となるべく低炭素社会戦略セ
ンターを2009年12月に新設しました。
気候変動問題の解決には、
ブレイ
クスルーをもたらす研究開発が必須
ですが、同時に、既存の社会から新
技術による新しい社会への転換と、
それを受け入れる社会的枠組みの整
備、社会的雰囲気づくりが不可欠だ
といえます。
とくに「ものづくり」において高い
エネルギー効率を実現している日本
では、
「日々のくらし」で低炭素化を推
進することが重要です。本シンポジウ
ムでは、
日本各地で行われている取り
組みや、研究開発の現状についての
情報を共有し、科学技術と社会が目
指すべき未来を考えます。詳しくは低
炭素社会戦略センターのサイトをご
覧下さい。
http://www.jst.go.jp/lcs/index.html
TEXT:設楽愛子
05
細野秀雄
ほ そ の・ひ で お
東京工業大学フロンティア研究セン
ター教授。1982年、東京都立大学大学
院工学研究科博士課程修了。専門は無
機材料科学(特に材料探索)。戦略的
創造研究推進事業発展研究(ERAT
O-SORST)
「透明酸化物のナノ構造
を活用した機能開拓と応用展
開」研究総括(2004年
10月∼2010年3月)。
C lose up
透 明 ア モ ル フ ァ ス 酸 化 物 半 導 体( T A O S )が 実 用 化 へ !
「3Dテレビ元年」のいま
注目を集める新材料「TAOS」
を集めている新材料が、透明アモルファス
表である東京工業大学の細野秀雄教授。
酸化物半導体(TAOS=Transparent Am
TAOSの生みの親だ。
今年の家電業界の注目商品の1つが「3D
orphous Oxide Semiconductor)だ。
テレビ」だ。画面から飛び出すような立体映
TAOSはモビリティがアモルファスシリコ
像といえば、
これまではアミューズメント施設
ンの約10倍で、理論的には十分に要求を満
や映画館に足を運ばなければ体験できなか
たせる。また、工業的プロセスである低温ス
細野教授は物質科学のトップランナーだ。
った。しかし、技術の進歩により、いまや3D
パッタリング法により、製造も簡易でコストの
1つの材料を突き詰めながら、同時に、いく
映像は家庭で楽しめる時代を迎えつつある。
低減も可能だ。実用化に向けクリアすべき
つものフィールドを自在に行き来するスタイ
2009年末には韓国・サムスン電子が世界
問題は残されているものの、新たなTFT材
ルで、
「電気を通すセメント」や「鉄系超伝
「世界デビュー」を果たすも
国際会議でゼロに近かった反応
初の3Dテレビを発売し、2010年に入って国
料として大いに期待されているのだ。
導物質」など、常識を覆す新材料を見出して
内メーカーも相次いで製品を発表。市場は
ディスプレイ分野最大の国際会議である
きた。そんな細野教授の最大のテーマが、
「透
大いに熱を帯びている。
国際情報ディスプレイ学会(SID)
で、2007年、
明で電気を通す物質」なのだ。
より立体感のある3Dテレビなどの実現には、
初めてTAOS-TFTを用いたディスプレイの
ガラスのように透明な物質は、一般に電
さらに高性能で大画面のディスプレイが求
試作品が展示された。以来、年々サイズが
気を通さない。ガラスはアモルファス物質で
められる。これまでは、ディスプレイの画像情
大型化。2010年1月には東京工業大学で
ある。アモルファスとは「結晶」の対語で、原
報を制御する薄膜トランジスタ(TFT)には、
国際ワークショップ「TAOS2010」
(P07右
子の並び方に規則性がない状態を指す。
アモルファスシリコン半導体が長く使われて
上記事参照)が開かれ、超満員の参加者を
一般に、結晶状態ではよく電気を通す物質も、
きたが、アモルファスシリコン半導体は電子
集めた。
アモルファス状態ではモビリティが格段に低
の速さの指標である「電子移動度(モビリテ
「大学などの研究機関の関係者ではなく、
下してしまう。細野教授はそんな壁を越える
ィ)」が低く、このままでは要求を満たせそう
大半が、日本・韓国・台湾の企業関係者だ
べく研究を重ね、1994年に大きな成果を挙
にない。次世代TFTとして研究が進められ
ったんですよ。これは、大学主催のワークシ
げた。
ている有機半導体も、
それ以上にさまざまな
ョップとしては異例なことだと思います」
「結晶透明酸化物半導体の薄膜を作って
課題を残している。そんななか、ひときわ注目
そう語るのは、
ワークショップの主催者代
いたとき、失敗した出来損ないのなかに、ア
06
April 2010
TAOSをめぐる近頃の状況
2010年1月25日(月)26日(火)、東
極材料によく使われているモリブデン
京工業大学すずかけホールにて、
「透
ではなくアルミニウムを使用し、
それに
明アモルファス酸化物半導体の現状
合わせて構造を見直したことなどを挙
と将来を探る」をテーマに、国際ワーク
げていた。
ショップ「TAOS 2010」が開催された
日本のシャープ、NEC、NEC液晶テ
(東京工業大学・JST主催)。参加者
クノロジー、日立製作所、キヤノン、凸
は国内外企業の技術者240名以上を
版印刷、大日本印刷、
日鉱金属、三井
はじめ360名以上にのぼり、入りきれ
ない参加者は別室でモニターを見ると
金 属 、豊 島 製 作 所 、韓 国 のサムスン
世界を代表する研究者がそろい、次世代ディ
スプレイの最前線の講演が聞けるとあって、企
業の技術者を中心に多くの関係者が訪れた。
電子、サムスンモバイルディスプレイ、
の前副社長・昔俊亨氏が「次世代デ
用いたフルHD対応の37型液晶ディ
およぼす影響などの研究発表を行った。
ィスプレイの駆動源にはTAOS-TFT
スプレイの 試 作 品を発 表 。これまで
2010年代後半には量産化できると
は最有力候補であり、早期の実用化
TAOS-TFTを用いた液晶ディスプレ
の見通しを発表した企業もあり、TAO
S-TFTを用いたディスプレイの市場導
いう盛況ぶりだった。
基調講演では、韓国・サムスン電子
LGディスプレイなどの企業も、TAOSTFTの長期の信頼性や、光が特性に
に向けて開発を加速させる」と発言。
イのサイズは20型未満にとどまってい
その他の発 表 者からも、最 新 研 究 成
ただけに、大型化を一気に進めたこの
入が近く、今後、国際競争が激しくな
果や世界的な開発動向が紹介された。
試 作 品は大きな注目を集めた。大 型
ることを予感させてワークショップは幕
台 湾のA U O 社は、T A O S - T F Tを
化に成功した要因としては、TFTの電
を閉じた。
戦略的創造研究推進事業発展研究(ERATO-SORST)
「透明酸化物のナノ構造を活用した機能開拓と応用展開」
3Dテレビなど、ディスプレイ産業が新時代を迎えるいま、
「TAOS-TFT」という新技術が実用化に向けて
大きな注目を集めている。 物質科学の基礎研究が製品化技術に結びついたことに、
細野秀雄教授は「運ですよ」と言いきるが、もちろん、そこには運だけでは片づけられない理由があるのだ。
自分の発見した成果が世の中の役に立つ――。それは、科学者なら誰もが見る夢ではないだろうか。
モルファス状態でも導電性を保っているも
いTAOSにあえて手を出す必然性はなかっ
とか出さなければいけない。そこで、TAOSの
のがあることに気づきました。そこからヒント
たのだ。しかし、冷ややかな反応にも細野教
コンセプトのなかでTFTに適した特性を持つ
を得て、モビリティがアモルファスシリコン半
授はめげなかった。
材料を設計しました。それが酸化インジウム・
導体よりはるかに大きな材料が、透明酸化
「認められなくてもともと、
というつもりで出
ガリウム・亜鉛(IGZO)だったのです」
物のアモルファスで実現する発想が得られ
た会議でしたから。勝負はこれからと思って
アモルファスなら結晶にくらべて均一で大
たのです」
いました。何しろ新しいタイプの半導体なの
きな薄膜を安く作れる。しかも、IGZOはふだ
記念すべきTAOSの誕生だ。しかし、いま
ですから」
でこそ脚光を浴びているTAOSも、当初はま
んはほとんど電気を流さないが、電圧をかけ
るとよく電流が流れるようにすることが容易
TAOSが「世界デビュー」を果たしたのは
10年後、
同じ国際会議に
基調講演者として招かれる
1995年のこと。神戸のポートアイランドで開
その後、
しばらくは研究の土台を固める時
催された第16回アモルファス半導体国際
期が続いた。1999年から始まったERATO「細
や有機半導体を用いた場合の約10倍のモ
会議で、細野教授は発表を行った。ところが、
野透明電子活性プロジェクト」の一環として、
ビリティを持ったTAOS-TFTの作製に成功。
反響はゼロに近かったという。
TAOSの持つポテンシャルについて決定版
この研究成果は『ネイチャー』に掲載され、
「ポスター発表だったと勘違いしている人
ともいえる論文を発表(2002年)。翌年には
世界中に公表された。そこから、状況が一変
もいますが、
ちゃんと口頭発表したんですよ
(笑)。
アモルファスではなく、結晶の透明酸化物
する。
しかし、質問者は1人か2人。口の悪い人か
半導体を用いて高性能のTFTの作成に成
「日本はもちろん、韓国、アメリカ、
ドイツと、
らは、
『キミの来る会議じゃないんじゃないの?』
功する。そして2004年、大きな転機が訪れた。
さまざまな国の企業からものすごい数の問い
なんて言われもしました」
「この年から、ERATOの継続研究として
合わせがありました」
関係者にしてみれば、すでにアモルファス
SORST(課題名「透明酸化物のナノ構造
あまりの反響にとまどっていた2005年5月、
シリコン半導体が市販の製品に組み込まれ、
を活用した機能開拓と応用展開」)が始まり
1本の電話があった。9月にリスボンで開催
たしかな実績を積み重ねているのに、生まれ
ました。課題を解決するための基礎研究の
される第21回アモルファス半導体国際会議
たばかりで海のものとも山のものともつかな
継続なので、実用化につながる成果をなん
での基調講演の依頼だ。
るで相手にされなかった。
にできた。これは、実用化に向けて大きな武
器になると細野教授は確信した。満を持し
て研究を進めた結果、アモルファスシリコン
07
Close up 透 明 ア モ ル フ ァ ス 酸 化 物 半 導 体( T A O S )が 実 用 化 へ !
「ビックリしましたね! 10年前にはまったく
その遠い距離をつなげ、実用化へと導くこ
反響がなかった会議に、今度は向こうから、
とがTAOSにできたのはなぜか。そう尋ねると、
主流で、大型のものは求められていませんで
それも基調講演者として来てほしいと言って
細野教授はこう即答した。
した。それなら既存のTFTで十分。だれも困
きたんですから。そんなこと、夢にも思ってい
「運ですよ! 間違いなく運です!
(笑)」
っていなかったのです。しかし、
より高性能で
ディスプレイ開発は携帯電話やノートPCが
なかったですよ」
運、
とは言うが――。
大型のディスプレイが求められる時代になっ
そのときの講演を、細野教授はこんなふう
世界のだれも作ったことがない、
まったく
てくると、従来のTFTでは対応できません。
に始めた。
「This presentation is a kind
新しい性質を持った透明な物質を作りたい――
市場が新しいTFTを求めていたところに、
of revenge.(この発表は一種のリベンジで
細野教授は、
そんな科学者としての情熱から
TAOS-TFTが登場したのです」
ある)」。
研究に取り組み、課題解決のために、
それを
いくら科学的に価値があっても
世の中で使われるとは限らない
たのだ。
TFTというデバイスにしたから
世の中がTAOSの価値に気づいた
「まったく新しい特性をもつ物質を見出せ
細野教授は、ニーズが生まれることを見越
継続させてきた。その先に、TAOSが生まれ
自分の生み出した新材料が世の中の役
た自信はありました。でも、いくら科学的に価
してTAOSの研究を始めたのではない。しかし、
に立つことは細野教授の大きな夢だった。
値があっても、世の中で使われるとは限りま
ただ手をこまねいて「運」が来るのを待って
「いくら新材料の論文をたくさん書いたとこ
せん。たとえば野球で、能力の高い三塁手
いたわけでもない。TAOSを見出した後は、
ろで、デバイスなどとして世の中で使われな
がいたとしても、
チームメイトに同じ三塁手の
実用化に結びつけるための努力を怠らなか
いと意義は半減します。でも、実際には、物
長嶋茂雄がいたら出番はないでしょう?」
った。
質科学とデバイスとの距離は遠い。せめて
TAOSの場合は、液晶ディスプレイのTFT
すでに述べたように、2004年に細野教授
一生に1つでいいからそんな材料を生み出せ
というポジションで、当初は隙がないように見
が自らTAOSを用いてTFTというデバイスの
たらいいなと思っていました。だから、
こうして
えたライバル選手に、
ときが経つにつれてほ
試作品を作製したことが、TAOSがブレイク
実用化されようとしている状況は、ほんとうに
ころびが生じてきたため、出番がやって来た
するきっかけとなった。注目してほしいのは、
うれしいですね」
といえる。
TAOS-TFTが薄くて指で簡単に曲がること
ディスプレイ業界のトップ企業で、細野教
だ(左下写真参照)。
まったく
新しいタイプの
物質を作り
たかったのです。
授の協力を得てTAOSの実用化に取り組む
従来のTFTは硬いガラスなどの基盤の上
韓国・サムスン電子の太田隆司専務・技術
に半導体の薄膜が作製される。その基盤を
顧問はこう解説する。
薄くて曲げられるプラスチックに変えれば、下
「TAOSが最初に発表された1995年当時、
細野教授が開発したTAOS-TFT。薄いプラスチ
ックの基盤は指で簡単に曲がる。中央に光って見
えるのが、TAOSで出来たトランジスタ部分だ。
敷きのように曲がるディスプレイ、紙のように
ペラペラの家電など、従来の常識を覆す製
品が実現可能だ。
こうした技術革新の方向性はフレキシブル・
エレクトロニクスと呼ばれ、数年前から注目を
集めてきた。しかし、アモルファスシリコン半
導体の場合、薄膜作製に必要な温度が高く、
基盤となるプラスチックが耐えられないため
適していない。一方、有機半導体は室温で
の薄膜作製が可能だが、十分なモビリティを
獲得するにはまだ時間がかかりそうだ。
そんなとき、細野教授がTAOSを用いた
TFTを作り、
「ほら、
こんなふうに曲がるんで
すよ!」とデモンストレーションしてみせた。し
かもTAOS-TFTは室温での薄膜作製が可
能で、モビリティも優れている。このタイムリ
ーな提案に、
これこそフレキシブル・エレクト
ロニクスにうってつけの材料だと、業界が騒
然となった。
TAOS-TFTを知った企業は、その高いモ
ビリティに、
フレキシブルに限らない大きな可
08
April 2010
能性が秘められていると気づいた。こうして、
の場合にもそんな状況が生まれつつあると
執念がある。そして、元気で明るい。これは
高性能で大型のディスプレイ実現に適した
思います。TAOS-TFTについては、
日本のメ
たいせつなことだと思います」
新材料として、実用化への道が踏み出され
ーカーも含め、
どうもただごとではなさそうだと
細野教授の原点には、大学院生時代の
たのだ。
いう気運が高まってきてますね」
忘れられない感動がある。当時、電子技術
TAOS-TFTというアンコウを
いち早く食べてくれたことに感謝
体の底にある研究者魂に正直に
成果が出れば世に出す努力を
いた田中一宜博士(現・JST研究開発戦略
センター上席フェロー)の講演だ。
TFTというデバイスを自ら作製することで
太田さんは日立製作所で長年、ディスプレ
「アモルファスカルコゲナイドというガラス
総合研究所(現・産業技術総合研究所)に
企業の注目を集めた細野教授だが、それだ
イの製造ライン開発に携わり、カラーブラウ
半導体が、光によって全体の構造が変わる
けでは急速な実用化への進展はなかったと
ン管およびTFTで世界初の全自動ラインな
ことを発表した講演でした。非常にオリジナ
考えている。一部の企業がすぐに関心を示し、
どを建設。数々の世界シェアナンバー1を実
ルで、情熱的で、田中さんの個性が輝いてい
もう一歩先へと進めてくれたことが大きかっ
現してきた。しかし、2002年、社が大型ディ
て、心の底から感動しました。そのとき、
『自
たというのだ。
スプレイの開発から撤退の方針を決めてしま
分もアモルファスの半導体の研究をしたい』
「アンコウは外見がとてもグロテスクな魚です。
う。図らずも人生の岐路に立たされた太田さ
と強く思ったんですよ」
おいしいと知らなかったら、食べてみようとは
んは、熟慮の末、日立を離れ、サムスン電子
体の底にある研究者魂に正直に、粘り強
思わないでしょう。勇気を出して初めて食べ
へ移った。自らの開発者魂に正直に、長年
く研究にあたり、成果が出ればそれが世に出
るための工夫や努力を惜しまない――シンプ
た人がいたから、他の人たちも食べようと思
の経験を生かせる道を進もうと決断したのだ。
えたのです。TAOS-TFTだって、おいしいか
そんな太田さんは、細野教授の成功要因を3
ルではあるが、
そうした姿勢こそが「運」を引
どうかは食べてみなければわからない。でも、
つ指摘する。
き寄せ、物質科学とデバイスとの距離を縮め
サムスン電子など業界のトップ企業がいち
「まず、長年の経験に裏打ちされた直観力
たのではないだろうか。細野教授の明るく前
早く注目して、ディスプレイという形に料理し、
がある。やり抜いてきた人ならではの直観です。
向きな笑顔には、
そう思わせるだけの魅力と
おいしさを実証してくれた。だからこそ、他社
次に、失敗してもくじけず、成功を追い求める
パワーがあった。
も追随し、開発が進んだのだと思います。デ
バイスならともかく、製品という形で試作品を
作るには莫大な費用がかかる。大学の一研
究室ではなかなか実現できません。企業の
力が必要なのです」
そう考える細野教授は、研究結果をできる
だけオープンにし、国内外のどの企業からの
問い合わせにも、科学に根ざしたものならば
太田隆司さん
韓国・サムスン電子専務・技術顧問。1972年東京
都立大学大学院工学研究科修士課程卒。日立
製作所で世界初カラーブラウン管(TV用)全自動
ライン、世界初カラーディスプレイ管(PC用)全自
動ラインなどを建設。2002年にサムスン電子に入
社し、LCD-TV事業化などに携わる。専門は新ライ
ン建設、新プロセス量産適用および不良対策。
市場が
新しいTFTを
求めて
いました。
よろこんで答えてきた。サムスン電子ともそう
したやり取りを続けてきたが、感心したのは
企業側のまっすぐでオープンな姿勢だったと
いう。
「研究状況などを率直に明かし、現場も見
せてくれたのです。対応はいつも紳士的で
誠意にあふれ、気持ちよくつきあえます」
サムスン電子にいる太田さんも、そうした
オープンな姿勢が、TAOSの開発を促進して
いると指摘する。
「他社との競争に勝つために、自社の研究
を秘密にするのも1つの考え方でしょう。しか
し、サムスンは違います。研究初期の段階で、
どんどん成果を外に発表してしまうのです。
刺激を受けた他社も、負けじと同じ研究を進
める。それによって業界全体が、なだれを打
って自分たちの目指す方向に向かう。TAOS
ディスプレイ写真提供:東京工業大学
TEXT:十枝慶二/PHOTO:今井 卓
09
認 知 発 達 研 究 の 普 及 型 ヒト 型 ロ ボット・プ ラットフォー ム を 実 現
Topics
ヒトの動きのメカニズムを知るために
ロボットに動きを覚えさせる
を作り、
それがどうやって動きを身につけてい
現状でもこのロボットには、
われわれが作成し
ひと言にロボットといっても、産業用から愛
くかを研究して、人間に置き換えてみてはど
た学習プログラムが入っていますが、
そのプ
玩用まで、
その種類は千差万別だが、おおま
うか?――という逆転の発想から生まれたのが、
ログラムが適性とは限らないわけで、発達心
かに共通しているのは、
それが人間(あるいは
今回、大阪大学に拠点があるERATO浅田
理の研究者が自分なりのパラメーターを入れ
生物)の動きを模しているという点だろう。とく
共創知能システムプロジェクトの社会的共
てみて、独自の仮説を検証することができる
に人型ロボットの場合、動きの再現性という
創知能グループ(グループリーダー・石黒浩
んです」
のは、
それだけでひとつの「売り」になる。とな
教授)が開発したM3-neony(エムスリー・ネ
いってみれば、心のない肉体。そこにどうい
ればロボット学者はおのずと、人間の動きを
オニー)である。
う心を持たせるかは研究者次第ということだ。
新しい機能ではなく
新しいプラットフォームを提示する
ロボット工学の非専門家にも使える構造にな
っています。ただ、
そうはいっても機械につい
ところが、
なんとも歯がゆいことに、人間が
「発達心理の先生が、歩行の発達について
てわからないことは多いでしょうから、
こちらに
物事を学習するメカニズムは、
まだほとんど解
ある仮説を持っているとします。その仮説を検
問い合わせは来ると思います。逆にいうとそ
明されていないのが現状だ。たとえば、人はま
証するうえで、実際の赤ちゃんを使ってもいい
こが大事なんです。われわれとしてはちゃんと
研究しなければならないし、突き詰めると、人
間はどうやって動きを身につけるのか、
を知っ
ておかなければならない。
ならば、
まっさらな赤ちゃん状態のロボット
というのがいちばんの目的なんです。むろん、
「ですから、基本的には動きの調節も含めて、
ず四つん這いで動くことを覚え、
それからつか
けれど、人道的に許されないこともあるかもし
したものを提供したつもりなのに、何がいけな
まり立ちを経て、二足歩行をするようになるが、
れない。たとえばスウォードリングといって、赤
かったのか? どこがわからないのか? お互
この過程についてわかっているのは、
いまのと
ちゃんの手足をグルグル巻きにして育てる風
いの思っていることが完全にズレていたとい
ころ赤ちゃんは身体をランダムに動かす(身
それでも手足
習が世界各地にあるんですが、
うことは、異分野交流ではしょっちゅうあるんで
体バブリング)なかで、筋肉の動きや身体の
を自由にしてやると、はいはいをしたことがな
すよ。たとえば『環境』なんて言葉はものすご
部位の関係性を認識していくということだけ。
いのに、普通に歩けるようになる。そうした問
く誤解を招きやすい。分野によって定義がぜ
詳細はほとんど明らかになっていないのだ。
題の検証をしたいときに、赤ちゃんロボットを
んぜん違いますから。そこで、やっぱり人と人
使えば存分にやれるかもしれないというこ
となんです」と語るのは、
プロジェクトの
研究総括である浅田稔教授。
が交わるということが大事なんです。プラッ
トフォームを作るということは、
プラットフォ
ームをベースとして人が集まって来ること
新開発のロボットというと、つ
なんですね。われわれがコミットして、いろ
いつい新機能を期待してしまい
いろ議論する。技術的なサポートだけじゃ
がちだが、
このロボットのポイント
なくて、本質的な問題をそこでディスカッシ
はそこにはない。
ョンすることがたいせつなんですよ。そこでは、
「ひと言でいうとプラットフォーム。
研究の『領域』というものが消え去って、
たと
われわれが作ったのは、全身に触
えば、人間とは何かといった、
よ
覚を持ち、そのほかに聴覚と視覚
り本質に近づく議論ができる
を備えた赤ちゃんロボットです。この
んです」
ロボットを使って、心理学や社会学など
異分野の研究者に実験をしてもらおう、
浅田 稔
あさだ・みのる
1953年生まれ。大阪大学基礎工学部制
御工学科卒業。同大学院基礎工学研
究科物理系専攻博士課程を修了後、
メ
リーランド大学客員研究員、大阪大学工
学部電子制御機械工学科助教授などを
経て、1997年より大阪大学大学院工学
研究科 知能・機能創成工学専攻教授。
2001年に文部科学大臣賞を受賞。
10
April 2010
戦 略 的 創 造 研 究 推 進 事 業 ( E R A T O )「 浅 田 共 創 知 能 シ ス テ ム プ ロ ジ ェ ク ト 」
「ロボット」というと物理的に人を助けてくれるイメージだが
今回、登場したのは「人の理解」を助けてくれるロボットだ。
未解明な部分が多いヒトの認知発達について
さまざまな検証をするためのプラットフォームとして活躍するばかりでなく
人間社会に適応して振る舞うロボットの実現にもつながることが期待される。
全身をセンサで覆われた
自由度の大きい完全自立型ロボット
いなさそうだ。現に浅田教授も、
このロボット
を使った研究に、大いに意欲を燃やしている。
では、具体的にこのロボットはどういう特徴
「いま、浅田プロジェクトでは複数のグルー
を持っているのか? それについては浅田プ
プで、
はいはいから歩行の発達の研究を進め
ロジェクトの港隆史研究員に語ってもらおう。
ています。実際の赤ちゃんからもデータを取っ
「基本はロボカップで優勝したTeam OSA
てるんですが、ぜんぜん仮説通りにならなく
KAのロボットです。そこに触覚も視覚も聴
そこがおもしろいんですよ。
て(笑)……でも、
仮説通りに動いたらなんの不思議もないわけ
覚も全部つけてやって、
ロボットとしていろん
なことができるようにした、
ということですね。
ポイントは自立型で中にコンピュータが入っ
「赤ちゃんロボットはいろいろありますが、
このロボット
の顔がいちばんかわいいと思います」と語る港研究員。
で、実証実験をする意味もない。赤ちゃんを
使い、
ロボットを使うことで、赤ちゃんのことも
ていること。そうしないと自由に歩き回れませ
えば母親との関係を考えるとき、やっぱりかわ
わかってくるし、
ロボットのことも
んし、自由度を大きくしないと、研究の自由度
いくないと、お母さん役の人に愛情を持って
理解できる。それはある
意味でよろこびですね。
も大きくなりませんからね。あと、ほかのロボ
扱ってもらえませんからね」
ットと違うのは、全身にセンサがついているの
このプラットフォームを使ってどのよう
苦しみとともによろ
で、触覚でやりとりができることです。もっと
な研究成果があがるのか、
それは現時
こびでもある。次々
脚を動かせとか、止めろとか、言語じゃなく、
点では未知な部分も多いが、少なくとも
に課題が出てきま
やさしくさわることで指示することができる。
魅力的なツールであることだけは間違
すが、
でもそれは、
コミュニケーション、すなわち『相手の意図を
研究者としていちば
くむ』ということを人はどうやって学
んハッピーなことです
から」
習しているのか? このロボ
ットを使えば、触 覚などを
通じて、理解を研究する
こともできるでしょう」
もう1つ 特 徴 的な
ロボットを
通じてヒトが
見えてくる。
のが、無機的なのに
どことなく愛らしいこ
のロボットの顔だ。
「それは狙ってます。
目の位置や、おでこの
出方とか。かわいく見え
る必要があるんです。たと
同時に発表された集団コミュニケーションロボット M3-synchy
身振り、表情(目線、口の動き、頬の紅潮)、視覚、聴覚による、多彩なコミュニケーション機能を持つ。
複数のロボットたちと人間との間で、社会的コミュニケーション能力の学習・発達の研究に使われる。
メンテナンス性も高く、
また小型なので、机上で実験が可能。
TEXT:奥田祐士/PHOTO:今井 卓
11
Topics
日 本 科 学 未 来 館 で 企 画 展「 お 化 け 屋 敷 で 科 学 す る ! 2∼恐 怖 の 実 験∼」開
恐怖がパワーアップ
科学解説も充実!
は昨年よりさらに上がっているので、怖いモ
廃屋になった昭和の民家をイメージした
ノ好きの人にはたまらない内容になっていま
「お化け屋敷」に入るなり、次から次へと襲
「お化け屋敷で科学する!2∼恐怖の実験」
す」
いかかる怪奇現象。恐怖がパワーアップして
は、
「2」と付くように、2009年に行われた好
会場は、怪奇現象を体験する「お化け屋
いるというだけあって、音や光、振動などを駆
評企画展の第2弾だ。
敷エリア」、怪奇現象を科学的に分析して
使して、人間の五感に迫ってくる恐怖は、
ま
昨年は、先端の脳科学を用いて、恐怖感
学習する「科学トピックスエリア」、ほかのお
さにスリル満点。暗闇から聞こえてくるほか
情のメカニズムに迫ることを目的としていた
客さんが体験している恐怖を客観的に観察
のお客さんの悲鳴も、雰囲気をよりいっそう
が、今回は何が変わっているのか? 第2弾
することができる「観察エリア」、心霊現象を
盛り上げてくれる。
の見どころについて、企画展の共同制作を行
疑似体験できる「体験エリア」の4つのエリ
怖いモノが苦手な人には、
エスケープルー
ったフジテレビの長井典子さん(ライツ開発局
アで構成されている。
トがあって、
「お化け屋敷エリア」から「科学
コンテンツ事業センターCG事業部)
は語る。
最初の「お化け屋敷エリア」では、入る前
トピックエリア」に出てリタイアすることもでき
るので、前に進めなくなっても安心だ。
「今回は、誰もさわっていないのにモノが動
に「マル秘調査資料」
(P13右上)
という小
くなどの、人間が恐怖として感じるさまざまな
パンフレットを受け取る。来館者は、
そこに書
怪奇現象が起こります。これらを先端の物
かれた「怪しい光」や「不気味な音」など怪
理学、化学、生物学で解き明かしていくこと
奇現象を体験しながら中古住宅の中を進む
がテーマです。お化け屋敷の怖さのレベル
ことになる。
12
April 2010
「幽霊の正体見たり……」
怪奇現象を科学する。
恐怖の一軒家を出ると、
「科学トピックス
調 査 対 象 の“ お 化 け 屋 敷 ”
エリア」が待っている。ここでは、いま体験し
た怪奇体験が、
じつは科学的に説明でき、
再現することも可能だということが、パネル
やイラストなどを使ってわかりやすく解説され
ている。
「怪奇現象のように不可解と思われる現
象にも、
その背後には隠された本質というも
のが必ずあるんです。このエリアで、そこ
は、観察窓とモニターによってお化け屋敷の
催中
服し、豊かさを獲得してきたといえるのです。
中の様子がのぞける仕組みで、
しかも、
その
恐怖を感じ、恐怖を解決することが進歩に
気になればほかのお客さんを脅かすことがで
つながってきたのです」
きる。思わず意地悪な気持ちになってしまい
わたしたちは怪奇現象を、非科学的なもの
そうだが、自分がたったいま感じてきた恐怖
と切り捨てて無視したり、逆に、科学には解
を、他人が感じている場面を観察することで、
明できないものがあるのだと簡単に割り切っ
恐怖の実体とは何なのか、理解することが
て、考えることを止めてしまってはいないだろ
できるエリアだ。
うか? この企画展は、不可解な現象を科学
会場の最後にあたる「体験エリア」には、
的に追及することがいかにたいせつで、
しか
人 魂 、ポ ル タ ー ガ イ スト 、霊 界 通 信 、呪 い の 人 形 …… 。怪 奇 現 象 の 正 体 に 科 学 で 迫 れ!
「恐怖を感じる」とはいったいどういうことなのだろうか? 怪奇現象の正体は科学で解明できるのか?
(開催5月21日(金)まで)
そんな疑問に答えてくれるユニークなお化け屋敷が、
日本科学未来館に現れた!
科学を通して恐怖を考えることにより、
また新しい未来の扉が開かれるかもしれない!
?
今回のために特別に開発された写真撮影
も、おもしろいものなのだということを教えて
「科学トピックスエリア」を統括した日本科
機がある。これがじつは、心霊写真が撮れる
くれる。
学未来館・科学コミュニケーターの池辺靖
……かも、
というプリクラ(写真シール機)。
ところで、将来、われわれは科学の力によ
さんは言う。
科学の知識を身につけたあなたなら、
もう怖
って、恐怖を完全に取り去ることはできるの
人魂の正体にはどんな物質が考えられる
くはない?
だろうか。
のではなく、恐怖を忘れて、そこに謎や問題
りするのは視覚や脳のはたらきのいたずらな
科学で恐怖はなくなる?
それともなくならない?
が存在することに気づかなくなってしまうこと
のか、
などなど、次々と超常現象の正体が分
恐怖と科学の関係について、池辺さんは
こそ危険なのではないでしょうか。そういう意
析・解説されていく。お化けが本気で怖い子
語る。
味で、
この企画展で恐怖という感情を再認識
どもも、科学の知識がある大人も、
「なるほ
「怪奇現象のような不可解な出来事は、わ
していただければと思っています。まずは楽し
ど!」と楽しく学べる科学トピックスが充実だ。
たしたちに恐怖を引き起こします。この恐怖
みながら恐怖してもらいたいですね(笑)」
とくに、髪が伸びる人形の意外な真実には
という感情は、そこに解決すべき謎や問題
なるほど。まずは深く考えずにお化け屋敷
思わずびっくり!
が存在しているということを表わす重要なセ
に侵入しよう。すべてのエリアを通過する頃
怪奇現象を科学的に学んだあとで、次に
ンサーなのではないかと思います。わたした
には、恐怖の存在についての認識が深まっ
待ち受けているのは「観察エリア」だ。ここ
ちは科学という道具を使って、謎や問題を克
ているはずだ。
に気づいてもらえたらと思っています」と、
のか、ポルターガイストは自然現象でも発生
するものなのか、霊感によって幽霊が見えた
「恐怖はなくなるか? ということが重要な
TEXT:大宮耕一/PHOTO:今井 卓
13
Welcome to my laboratory
戦略的創造研究推進事業ERATO
「中内幹細胞制御プロジェクト」研究総括
ようこそ
私 の研究室 へ
37
1952年北海道生まれ。76年、
ハーバード大学医学部留学
(1年間)
。78年、
部免疫学助手を併任。87年、
同大学講師を経て、
理化学研究所フロン
中内啓光
横浜市立大学医学部を卒業し、同大学病院研修医。83年、東京大学
ティア研究システム研究員。93年、
筑波大学基礎医学系教授に就任。
大学院医学系研究科博士課程を修了し、
スタンフォード大学医学部遺
97年、
CREST「造血幹細胞の分化と自己複製の制御機構」研究代表
東京大学 医科学研究所 教授
伝学教室の博士研究員となる
(∼85年12月)
。84年、順天堂大学医学
者。02年4月より現職。07年より中内幹細胞制御プロジェクト研究総括。
(なかうち・ひろみつ)
100年後から
今の課題を考えてみる
だから、HLA(白血球の型)のなるべく近い
ど、起こっている現象は、注入された造血幹
ドナーを選び、薬で患者の免疫のはたらき
細胞による骨髄再生なのです」
を抑えて移植するのだが、免疫機構を研究
造血幹細胞は骨髄中にあり、血液を構成
「現在のところ、患者の臓器が使えなくな
していた中内さんは、この方法に限界を感
するさまざまな細胞を作り出す。そこで、
まず
った場合、生体や脳死患者から臓器を移植
じていた。
この細胞についての理解を深めるところから
したり、人工臓器を利用したりしていますが、
「トカゲのしっぽが再生するのは、増殖して
研究を着手した。その頃、造血幹細胞の存
さまざまな課題やリスクをともないます」
さまざまな種類の細胞に分化できる幹細胞
在はまだ仮説の域を出ていなかった。骨髄
「かつては、人から切り取った臓器を別の
がはたらくからだが、
この細胞は人の体にも
細胞に0.004%程度(マウスの場合)
しか存
人に移植するなどという野蛮な治療が行わ
ある。人の臓器も再生できるのではないか」
在しないため、実際に抽出してそのはたらき
れていた」と教授が言うと、学生たちが驚く
――こんなアイデアは、当時はSFに聞こえ
を調べることは難しかったのだ。
…そんな100年後の医学部の授業を中内
た。できるわけない、
といわれた。研究費を申
幸い、ポスドク時代の留学先が、細胞1個
啓光さんが想像したのは20年前のこと。
請しても書類審査でボツ。いきなり臓器再
1個を高速で選別する細胞分離技術「FAC
移植には拒絶反応のリスクがともなう。
生をテーマに掲げても無理だった。
S」を開発した研究室だった。この技術を日
「じつは、臓器再生といえるような治療は
本にいち早く導入し、造血幹細胞1個だけを
FACS室
すでにあったのです。白血病などに対して施
取り出してマウスに移植し、その存在とはた
される骨髄移植がそれです。移植というけれ
らきを実証することに成功した。
毎秒数万個の細胞を選り分
けられる、抗体蛍光標識法に
よる細胞分離装置。商品名
で「FACS」と呼ばれることが
多い。特定の抗体に結合す
る細胞を、抗体に結合させた
蛍光たんぱく質にレーザーを
照射して読み取り、識別する。
14
April 2010
プ ロジェクト 研 究 室
小動物モデル研究
培養室
新しいiPS細胞の樹立やそれを用いた遺伝子操作実験、胚盤胞の培養など、主として細胞レベ
ルでの実験が日常的に行われている。
一般実験室
大動物モデル研究
胚操作室
中内さんの研究室とは別棟にある プロジェクトメンバーの長嶋比呂志グループリーダー
(明治大学農学部生命科
ERATOプロジェクト専用の実験室。 学科発生工学研究室教授)
は、
マウスで成功したことがブタでもできるか実験中。
SF的アイデアが
期待の研究テーマになるとき
「幹細胞から臓器一般を再生させるには、
さ
時代はやって来た。協力者を得て行った実験
写真上の部屋で、動物の卵管から取り出した胚盤
胞に、幹細胞を注入し、再び動物の体内に戻す。顕
微鏡(写真下)で観察しながら行う繊細な作業だ。
局数を競うコンテストで何度も優勝した。研
で、膵臓の欠損したマウスの胚盤胞に別のマ
究の道を選ぶきっかけは、ハーバード大学へ
ウスの幹細胞を導入すると、膵臓だけ別のマ
の1年間の留学経験が与えた。
ウスに由来するキメラが誕生した。目論見は
「ハーバードの臨床実習は要求レベルが高
らなる飛躍が必要です。
3次元的な複雑な構
正しかったのだ。
くハードでたいへんでしたが、
自分の技量がぐ
造をどうやって作らせたらいいのか。胚盤胞
この成功に勢いを得て、臓器再生技術の
んぐん向上するのを実感しました。学生たちは
補完法がヒントになりました」
開発を目指すERATOプロジェクトを立ち上げ
みんな、猛烈に勉強してるんです。そんな環
1993年、米国の研究者が遺伝的にリンパ
たのが2007年。同じ年、
まるでこれに加勢す
境から帰国した後は、
こんなことをしていては
ダメだ、
と焦りを感じましたね」
球の欠損しているマウスの胚盤胞にES細胞
るかのように、京都大学の山中伸弥さんがヒ
を注入すると、
リンパ球を備えたマウスが成長
トiPS細胞の樹立に成功する。胚盤胞に入れ
米国で知り合ったエリートたちと互角に戦い
すると報告した。胚盤胞とは受精後3∼4日の
る幹細胞として患者の体細胞から作製するiP
たい。
その思いから研究者の道を選んだ。研究
受精卵だ。
S細胞が使えるなら、実用性は格段に高まる。
テーマを決めるときも、
すぐに評価が得られそう
もっと複雑な臓器の場合にも同じことが起
こるのではないか。もしそうなら、患者の幹細
胞を、再生したい臓器が欠損している動物の
胚盤胞に導入すれば、
その動物の体内で、患
なことをやるのではなく、
それができれば本当に
未来を切り拓くのは
予測ではなく志
まい しん
素晴らしいと思えることに向かって邁進した。
科学の先端をリードする研究者たちを取材
「未来を予測してやっているのではありませ
していくと、彼らの歩みがしばしば研究分野の
者の細胞由来の臓器が作られることになる。
ん。自分の将来すら予測できなかったのです
興隆とシンクロしていることに気づく。けれど
そのような臓器なら、患者の体は拒絶反応を
から。勉強が嫌いでしたし、研究を始めてから
も、
それは後から振り返ればそう見えるだけで、
起こさずに受け入れるはずだ。
はずっと臨床医に戻るつもりでいました」
彼らが時流に乗った結果ではない。志の高い
このアイデアもすぐには賛同を得ず、
なかな
勉強は嫌いでも、難しい課題に挑戦してや
研究者たちが世界中で同時多発的に同じ夢
か実験に取りかかれなかった。雌伏の間に、
り遂げることによろこびを見出す少年だった。
を抱くことで、科学技術は前進していく。その
よく似たアイデアのSF小説が登場して驚く。
中高時代はアマチュア無線に夢中になり、世
とき、必然的に中内さんのような研究者たち
けれども、
「再生医療」が現実的に語られる
界中の人と会話を楽しんだ。時間内に交信
が先端にいるのだ。
研 究 の概 要
中内幹細胞制御プロジェクトでは、患者の幹細胞(iPS細胞など)由来
の移植臓器を、動物の体内で形成する方法を確立し、臓器再生の基盤
技術の開発を目指す。研究チームは2グループで構成。小動物モデル研
究グループではマウスやラットを使い、方法論の検証を行う。鍵になるア
イデアは、ホスト動物の遺伝的欠損が発生過程で外部から導入された幹
細胞によって自然に補われる、
というもの。遺伝的に特定の臓器の欠損
したマウスの胚盤胞にラットの幹細胞を導入し、ラットの臓器を持つマウ
スを作る実験を進めている。大動物モデル研究グループでは、
ブタを実験
動物とし、実際に臓器再生を行うための諸技術を探索する。任意の臓器
の欠損したホスト動物を量産する方法、異なる種間のキメラ作製におけ
る問題、安全性などが検討される。マウスやラット以外の動物においても、
iPS細胞から多様な臓器が作れるかどうかは、再生医療全体の課題とし
て浮上している。多くの患者を救済できると期待される臓器再生だが、技
術開発に不可欠な、家畜を使ってヒト臓器を形成する実験は、現在の日
本の法律では許されていないという問題もある。
TEXT:黒田達明/PHOTO:今井 卓/パース:意匠計画
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http://www.rikanet.jst.go.jp/( 一般公開版はhttp://rikanet2.jst.go.jp/)
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〈理科ねっとわーく〉
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小・中・高等学校の授業で使える
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動画・静止画で構成される
約110タイトルのデジタル教材の
活用例を毎月1タイトルずつ
ご紹介します。
13 回
体感! 植物で見る生殖のしくみ
授業例
オススメポイントはココ!
体感! 植物で見る生殖の仕組み
学術的に貴重な映像をふくむ豊富な実写映像により、植物を中
心とした「生き物の殖え方」が学べるコンテンツです。実写とア
ニメーションのリンク、
自ら操作できるシミュレーションなど、学習
効果を高める工夫も盛り込まれています。
練馬区立八坂中学校
伊藤 聡 先生
中学校 3年
「生物の子孫の残し方」
実写映像で
生徒にイメージを
持たせる。
観察の仕方 スイートピー
授業の狙い
粉管の伸長の観察はそれ
ほど難しい 操 作は必 要な
いが、かなりゆっくりと伸びていく
ので、生徒はその様子を動的にと
らえることが難しい。伸びていくイ
メージを持たせ、短時間で確実に
理解させるためには、デジタルコ
ンテンツの映像を見せることが必
要である。
受 精については、観 察できる
植物が限られている。
トレニアは
そのための教材として適している
が、実際には入手が困難なので、
実写映像でぜひ見せたい。
そして、植 物の生 殖は受 粉で
終了するのではなく、受精がおこ
って新しい個体( 種子 )になるこ
と、つまり、花 粉 管の伸 長は、受
精することが目的であることを理
解させたい。
花
花粉管の伸長の観察を通して、
植物の種子が出来るために、受
粉後どのようなことが起こってい
るのか、
その仕組みについて興味・
関心を持たせる。
1 植物がどのような仕組みで子孫を
残しているのか考える。
生徒の思考:雄花と雌花、おしべと
めしべ、受粉、胚珠と種子、子房と
果実など。
花粉管が伸びる様子 16倍速
2 花粉管が伸びる様子を観察する
方法について説明を聞く。教科
書による説明の後、
デジタルコン
テンツを見る。
3 花粉管が伸びる様子を観察する。
5分ごとに顕微鏡で観察し、
スケ
ッチする。
教 育 関 係 者 向 け
4 花粉管が伸びる映像をデジタル
実際に行った観察の確認に、
コンテンツを使う。
コンテンツで見る。
有性生殖・受精 トレニア
5 伸びた花粉管は、
このあとどうな
るか考える。
理 科 ね っと わ ー く
http://www.rikanet.jst.go.jp/
非営利・教育目的という条件で、ホー
ムページ上での簡単な利用者登録だ
けで、無償で利用できます。
一 般 向 け
生徒の思考:どこに向かっているの
か。なぜ伸びていくのか。
理 科 ね っと わ ー く
5 花粉管が伸びて受精するデジタ
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一般の
方もご覧
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一般公開版
ルコンテンツを見る。
生徒の思考:めしべや子房の中でど
んな現象が起きているのだろうか。
Vol.7 / No.1 2010 / April
〈 理科ねっとわーく〉
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発行日/平成22年4月1日
編集発行/独立行政法人 科学技術振興機構 広報ポータル部広報担当
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