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新形四重極質量分析計JMS-K9の特長と応用~水道法対象農薬類の固

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新形四重極質量分析計JMS-K9の特長と応用~水道法対象農薬類の固
新形四重極質量分析計 JMS-K9 の特長と応用
∼水道法対象農薬類の固相抽出-GC/MS 法による一斉分析∼
阿部 吉雄
日本電子(株)応用研究センター
はじめに
容易なイオン源およびレンズユニットの採用
● GC
(Agilent 6890N)
により、メンテナンス性も従来機種と比較し
● プリンタ&ディスプレイ
近年、四重極型質量分析計(Q-MS)は操作
て大幅に向上している。今回は JMS-K9 の基
性・汎用性の向上により、普及著しい分析機
本性能および GC/MS としての応用データを
器となっている。特にガスクロマトグラフィ
またオプションとして以下のユニットが用意
紹介する。
されている。
ー(GC)と Q-MS を組み合わせた GC/MS は、
GC の高分離能と MS の高感度の特長により近
年有機化合物の微量分析の分野に広く利用さ
基本構成
● CI イオン源
● 直接導入プローブ
れている。
JMS-K9 の基本構成(Fig. 1)は下記の通りで
弊社では 2003 年に四重極 GC/MS の新機種と
ある。
して“JMS-K9”を発表した。JMS-K9 は大形
● JMS-K9 本体
(本体内に PC を内臓)
JMS-K9 は排気量 400L/秒の大形のターボ分子
のターボ分子ポンプ、高精度加工の双曲型四
● スプリットフローターボ分子ポンプ ポンプを搭載している。このクラスの Q-MS
重極の採用により Q-MS としてクラス最高の
感度・分解能を実現し、さらに、取り外しの
(400L/秒)
● ロータリーポンプ
(80L/分)
に搭載されている真空ポンプの排気能力が
250L/秒∼ 300L/秒であることを考えると、
Fig. 1 JMS-K9 外観
日本電子ニュース Vol.36(2004)
(29)
JMS-K9 の排気性能はきわめて高いと言える。
さらに、このターボ分子ポンプはスプリット
フロー方式(Fig. 2)であるため効率良くイオ
分析部
(検出器&四重極)
ン源部と分析部の両方を排気することができ
る。また、分析部の四重極には高精度加工の
双曲型四重極(Fig. 3)を搭載することで高分
解能を実現している。
JMS-K9 ではメンテナンス性についても従来
機種と比べ大幅な改善を行った。イオン源ブ
ロックおよびレンズユニット(Fig. 4)はネジ
類を多用しない設計になっており、さらにそ
JMS-K9 のケーシングの立体図
の取り外しも極めて容易である。
基本性能
断面図
イオン源
以下に JMS-K9 の基本性能をあげる。
● 測定質量範囲: 1.5 ∼ 1022(m/z)
● 分解能: 3M
(PFTBA 注 1, m/z 614)
排気の流れ
● 感度
スキャンモード: SN 比 90 以上
(R. M. S 注 2)
Fig. 2 スプリットフローによる排気の仕組 (1pg オクタフルオロナ フタレン, m/z272)
ポストフィルタ
SIM モード: SN 比 120 以上(R. M. S)
(0.1pg オクタフルオロナ
フタレン, m/z272)
● ダイナミックレンジ: 1.6 × 10 7(= 2 24)
双曲型四重極
JMS-K9 の高感度を示すデータの一例として
1pg のオクタフルオロナフタレン(以後 OFN
と省略)のスキャン測定の結果を Fig. 5 に示
した。Table 1 に示すような条件で測定を行
プレフィルタ
ったところ、OFN の分子イオンである
m/z272 のマスクロマトグラムでは、リテン
ションタイム 6 分付近にピークが得られた。
このピークについて SN 比を計算した結果、
SN 比 =106 と非常に高感度で測定が可能であ
ることがわかる。
同様に OFN をテストサンプルとして 1 ∼
1000pg/mL の範囲で SCAN 測定を行い、得ら
れた検量線を Fig. 6 に示した。測定を行った
Fig. 3 双曲型四重極 濃度範囲では非常に直線性の良い結果が得ら
れている。また SN 比 =3 を検出限界として
1pg/mL の測定結果から計算すると、検出限
界として 0.13pg/mL という値が得られる。よ
って今回の OFN の測定結果からは
0.13pg/mL ∼ 1000pg/mL の範囲が検量線の直
線領域となり、JMS-K9 はスキャンモードの
測定では、実際上 4 桁以上のダイナミックレ
Fig. 4 イオン源ブロック(左)
、レンズユニット(右)
注1
PFTBA :パーフルオロトリブチル
アミン (PerFluoroTriButylAmine)
注2
R.M.S. : Root Mean Square
(30)日本電子ニュース Vol.36 (2004)
ンジを有していると言える。
次に、SCAN 測定と同様に濃度 0.1pg/mL ∼
1000pg/mL の範囲を SIM で測定し検量線を
作成した結果を Fig. 7 に示す。SIM 測定にお
いても、今回の測定範囲内で直線性の良い検
量線を得ることができた。この場合、最低濃
度である 0.1pg/mL の測定結果の SN 比は
121.7 であり、スキャン測定の場合と同じよう
に SN 比 =3 を検出限界とすると、SIM 測定で
は 0.01pg/mL が検出限界値となる。以上のこ
とから今回の測定条件では 0.01pg/mL ∼
1000pg/mL の範囲が検量線の直線範囲という
ことになり、実際上 5 桁以上のダイナミック
レンジが得られていることになる。
Fig. 5 1pg OFN のマスクロマトグラム(m/z272)
Table 1 OFN 測定の GC/MS 条件
このように、JMS-K9 のダイナミックレンジ
は SCAN 測定において 104 以上、SIM 測定で
は 105 以上であり、GC/MS として必要十分な
ダイナミックレンジを有している。
使用カラム
Agilent HP-5 30m × 0.32mm、 膜厚: 0.25μm
カラム流量
1mL/min (He)
昇温条件
35 ℃(2min) → 40 ℃/min → 200 ℃(10min)
以上、JMS-K9 の基本性能に関するデータを
示した。OFN の SN 比、検量線の測定結果よ
り、JMS-K9 の特長であるクラス最高の感度
インジェクタ温度 200 ℃
および広範なダイナミックレンジを有してい
注入量
1μL (Splitless)
ることがわかる。
測定モード
SCAN (m/z 100−300, 360msec)
イオン源温度
160 ℃
応用データ
インターフェース温度
180 ℃
次に JMS-K9 を用い測定した応用データを示
す。
平成 16 年 4 月より施行された、新水道法では
検査法の一つとして GC/MS 法が採用されて
おり、いくつかの検査項目が対象となってい
る。今回はその中から水質管理目標設定項目
として目標値が設けられている農薬類 68 成分
の固相抽出 GC/MS による一斉分析に関して、
検討を行った。今回の測定の手順は厚生労働
省より発表されている資料に記載されている
方法に準じて行った。以後、この資料に記載
されている測定方法を本文中では定法と呼
ぶ。
農薬類→平成 15 年 10 月 10 日健水発第
Fig. 6 OFN の検量線(SCAN、1−1000pg/mL)
1010001 号「水質基準に関する省令の制定及
び水道法施行規則の一部改正等並びに水道水
質管理における留意事項について」
現行の水道法では 101 成分の農薬が水質管理
目標設定項目として検査の対象となってお
り、そのうち 68 成分の農薬が、固相抽出−
GC/MS 法による一斉分析の対象となってい
る。対象となる 68 成分の農薬類の中には
CNP-アミノ体、クロルニトロフェンなどの
GC/MS の測定感度の低い成分が含まれてお
り、その測定には高感度検出が可能な SIM 法
を使用するのが一般的である。しかし、今回
の農薬類のような多成分同時測定のケースで
はグルーピングの作業が非常に煩雑であるこ
Fig. 7 OFN の検量線(SIM、0.1−1000pg/mL)
とが予想される。そこで今回は、SCAN 法と
SIM 法とを混在させた状態で測定が行える
日本電子ニュース Vol.36(2004)
(31)
Table 2 固相抽出− GC/MS 法の検査対象の農薬一覧 番号
農薬名(和名)
番号
農薬名(和名)
番号
農薬名(和名)
番号
農薬名(和名)
2
シマジン
25
ピリダフェンチオン
46
メチルダイムロン
69
エンドスルファンα&β
3
チオベンカルブ
26
イプロジオン
47
アラクロール
70
エトフェンプロックス
5
イソキサチオン
27
エトリジアゾール
49
エディフェンホス
71
フェンチオン
6
ダイアジノン
29
キャプタン
50
ピロキロン
73
マラソン
7
フェニトロチオン
30
8
イソプロチオラン
31
9
クロロネブ
トルクロホスメチル
51
フサライド
77
シメトリン
52
メフェナセット
78
ジメピペレート
クロロタロニル
32
フルトラニル
53
プレチラクロール
79
フェニトエート
10
プロピザミド
33
ペンシクロン
54
イソプロカルブ
80
ブプロフェジン
11
ジクロルボス
34
メタラキシル
56
テニルクロール
81
エチルチオメトン
12
フェノブカルブ
35
メプロニル
57
メチダチオン
83
エスプロカルブ
37
ジチオピル
59
ブロモブチド
85
ビフェノックス
13
クロルニトロフェン
14
CNP-アミノ体
38
テルブカルブ
60
モリネート
88
ピペロホス
15
イプロベンホス
39
ナプロパミド
61
プロシミドン
89
ジメタメトリン
16
EPN
40
ピリブチカルブ
62
アニロホス
97
プロピコナゾール
22
イソフェンホス
41
ブタミホス
63
アトラジン
99
ピリプロキシフェン
23
クロルピリホス
43
ベンフルラリン
65
ジクロベニル
100
トリフルラリン
24
トリクロルホン
44
ペンディメタリン
66
ジメトエート
101
カフェンストロール
Fig. 8 SCAN 法による GC/MS 測定で得られた農薬類 1mg/L 混合標準溶液の TIC
Table 3 農薬類の GC/MS 条件 (GC 条件)
(MS 条件)
使用カラム: DB-5MS 長さ 30 m×内径 0.25mm(膜厚: 0.25μm)
オーブン: 50 ℃(2min)∼ 10 ℃/min ∼ 220 ℃(0min)
∼ 2.5 ℃/min ∼ 250 ℃(0min)
∼ 10 ℃/min ∼ 300 ℃(0min)
注入口温度: 250 ℃
測定方法: SCAN 法
SCAN 範囲 =m/z50−450,サイクルタイム =400msec
インターフェース温度: 250 ℃
イオン源温度: 250 ℃
検出器電圧: 2000V
イオン化エネルギー: 70eV
注入量: 2μL
注入方法: Pulsed splitless
ベント制御: Pulse Time=1.5min、Pulse Press.=30psi
Purge Time=1.5min、Purge Flow=50mL/min
キャリアガス制御: Constant Flow、1mL/min
(32)日本電子ニュース Vol.36 (2004)
JMS-K9 を用いて、感度が不足している農薬
のみ SIM 法を適用し、それ以外の成分(SIM
法 に よ る 測 定 を 必 要 と し な い 農 薬 類 )は
SCAN 法を適用する条件(以後、SCAN-SIM
法と表記する)で測定を行った。
固相抽出− GC/MS 法の検査対象になってい
る 68 成分の農薬の一覧を Table 2 に示した。
なお、表中 24 番のトリクロルホンについては、
PTV もしくオンカラム法を利用した GC/MS
測定が必要となるため、今回は検討の対象か
ら除外することとした。従って、農薬類の成
(a) CNP-アミノ体 10μg/L の m/z289 SIM ク
ロマトグラム
(a) CNP-アミノ体 10μg/L の m/z289 マスク
ロマトグラム 分の総数については、以後は 67 成分と表記す
ることとした。
67 成分の農薬の混合標準溶液 1mg/L を
SCAN 法で測定した結果を Fig. 8 に示した。
Table 3 には GC/MS 条件を示した。この
SCAN 測定の結果から、各成分ごとの感度を
調べたところ、CNP −アミノ体、クロルニト
ロフェン、ピペロホスの 3 成分が特に感度が
低いことがわかった。次に 10 μ g/L の混合標
準溶液を測定し、得られた測定結果から
CNP-アミノ体、クロルニトロフェン、ピペロ
(b) クロルニトロフェン 10μg/L の m/z317 マ
スクロマトグラム
(b)クロルニトロフェン 10μg/L の m/z317
SIM クロマトグラム
ホスの 3 成分について保持時間付近のマスク
、
(b)および(c)に示
ロマトグラムを Fig.9(a)
した。
これらの 3 成分について、マスクロマトグラ
ムの SN 比を計算したところ、全ての成分に
ついて SN 比が 1 桁であり、GC/MS の測定感
度が不足している。
次に SCAN-SIM 法を用いて、農薬類の 10 μ
g/L 混合標準液を測定した。その際のグルー
ピング条件を Table 4 に示した。CNP-アミノ
体、クロルニトロフェン、ピペロホスに保持
時間が近接している成分も SIM 測定の対象と
(c) ピペロホス 10 μ g/L の m/z320 マスクロ
マトグラム
(c) ピペロホス 10μg/L の m/z320 SIM クロマ
トグラム
して SIM グルーピングに含めてある。なお、
グルーピング以外の GC/MS 条件については、
Table 3 に示した SCAN 法による測定条件と
Fig. 9 SCAN 法による GC/MS 測定で得られた
マスクロマトグラム
Fig. 10 SCAN-SIM 法による GC/MS 測定で得ら
れた SIM クロマトグラム 同一であり、測定方法の欄が SCAN 法から
SIM 法に変更されるだけである。
10 μ g/L 混合標準液の測定結果より、CNPアミノ体、クロルニトロフェン、ピペロホス
Table 4 SCAN-SIM 混合測定のグルーピング条件
設定時間
測定方法
SCAN 範囲
または
モニターイオン
サイクルタイム
の 3 成分について保持時間付近のマスクロマ
、
(b)および(c)にそれ
トグラムを Fig. 10(a)
SIM 法の対象農薬
ぞれ示した。これらの農薬類について SN 比
を計算したところ、SCAN 法における測定結
04:00 ∼ 23:26
SCAN
m/z50 ∼ 450
400msec
23:27 ∼ 23:52
SIM
m/z105, m/z108
m/z175, m/z289
100msec × 4
=400msec
23:53 ∼ 25:38
SCAN
m/z50 ∼ 450
400msec
25:39 ∼ 26:32
SIM
m/z109, m/z173
m/z259, m/z317
m/z319
80msec × 5
=400msec
26:33 ∼ 28:18
SCAN
m/z50 ∼ 450
400msec
28:19 ∼ 29:00
SIM
m/z140, m/z157
m/z169, m/z320
100msec × 4
=400msec
29:01 ∼ 36:00
SCAN
m/z50 ∼ 450
400msec
果に対して、5 倍∼ 10 倍の感度向上を確認す
ププロフェジェン
CNP-アミノ体
クロルニトロフェン
エディフェンホス
プロピコナゾールA
プロピコナゾールB
テニルクロール
ることができた。
以上のように水質管理目標設定項目の農薬類
のうち、検査方法として固相抽出− GC/MS
法が対象となっている 67 成分について、
GC/MS として JMS-K9 を使用して SCAN −
SIM 混合測定を行った。その結果、SCAN 法
の簡便さを維持した状態で、SIM 法による高
感度測定が可能なことが確認できた。
EPN、ピペロホス
日本電子ニュース Vol.36(2004)
(33)
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