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2)第9回ガラスプラスチックへのコーティング国際会議ICCG9参加報告
ニューガラス関連学会 9th International Conference on Coatings on Glass and Plastics(ICCG9)参加報告 旭硝子(株)中央研究所 木 原 直 人 Report on the 9th International Conference on Coatings on Glass and Plastics Naoto Kihara Asahi Glass Co. , LTD.Research Center 2012年7月24日から28日 に か け て,オ ラ ンダの北ブレバント州ブレダ(Breda)で9th International Conference on Coatings on Glass and Plastics(ICCG9)が開催された。ブレダ は,アムステルダムから南に110km に位置す るオランダ南部の主要都市で,2009年にはオ ランダの BEST CITY に選出されたことがあ る 歴 史 的 な 街 で あ る。近 隣 に は,World s smartest region2011を 受 賞 し た Brainport Eindhoven 地 方 が あ り,TNO,Holst center ブレダの街並み や Smit Ovens などの多くの研究機関が所在し ている。 ブル基材上への薄膜形成,印刷技術の重要性の 学会会場となった Chasse Theater はコンベ 高まりから PET を代表とするプラスチック基 ンションセンターと映画館,飲食店を有した施 材も対象に広げ今日に至っている。本学会は,2 設であった。適度な大きさのホール,企業展示 年に一度,ドイツまたはオランダにて開催さ ブース,飲食コーナー,無線 LAN など,学会 れ,世界中の主要なガラスメーカー,Fraun- を通じて快適に過ごすことが出来た。 hofer(独) ,TNO(蘭) ,AIST(日)な ど の ここで本学会について少し紹介する。本学会 コーティング技術者や研究者が参加する。今回 は,1996年 に 主 に ガ ラ ス を 基 材 と し た ド ラ は270人の参加者があり,口頭発表件数は60 イ・ウェットプロセスによるコーティング技術 件,ポスター発表は45件,展示が31ブースで 全般に対する学会として始まった。2006年よ あった。口頭発表は,下記の7つのセッション りフレキシブルデバイスの技術進展やフレキシ からなり1つの会場にて活発に行われた。 Session 1.Deposition 〒221―8755 神奈川県横浜市神奈川区羽沢町1150 TEL 045―374―7733 FAX 045―374―8863 Email : naoto―kihara@agc. com technologies 1:Pulsed Plasma and Ion Sources in Vacuum Session 2.Deposition technologies 2: Wet Chemical and hybrid process 47 NEW GLASS Vol. 27 No. 106 2012 Session 3.Deposition technologies 3:CVD , はないが,噴出したガスによってフィルム基材 ALD and other emerging processes Process Session4. control Methods,Charac- Technologies が浮上しローラと接しない点が画期的である。 フィルム搬送速度と成膜源兼メインロラーが独 terization and Modeling Session5.Key 流すゾーンを空間的に分けることには目新しさ for displays, 立して回転できるために,厚膜が必要なときに はメインロールの回転を速くすることができ Touch panels and Flexible electronics Precision Optics and other high perSession6. る。成膜は大気圧下で行うことが出来て,加熱 されたガスを使用する。400mm 幅程度のフィ formance coatings Session 7,Solar ,Architectural ,Automotive and other applications ルムが適用可能であった。今後の技術進展に期 待する。 以下,筆者が興味を持った発表についていく M. Söderlund ら(Beneq)は 幅500mm 幅 のフィルムに対応可能な RtoR つか紹介する。 ALD 成膜装置 J. Van Deelen ら(TNO)は Transparent Con- を開発した。本装置は, 熱 ALD タイプで TMA ductive Oxide(TCO)の特性を Metal Grid に と H2O により Al2O325nm 厚をフィルム搬送速 より飛躍的に向上できることを報告した。TCO 度2m/min で成膜可能な構成となっている。 に求められる特性は低電気抵抗と高透過率であ 近年の RtoR やインライン ALD の技術進展に り,それぞれはトレートオフの関係にある。 は目を見張るものがあり注目される。 TCO に Metal grid を付与することで低電気抵 S.K.Gurram1ら(Fraunhofer IST) は ALD 法 抗かつ高透過な TCO が得られることを報告。 にて Diethylzinc+H2O を原料ガスとして ZnO2 1―50μm 幅 の Grid に よ っ て50Ω/□の ITO― を成膜した。成膜温度140度で0. 2Ωcm,170 PET が0. 1―550Ω/□と な り,透 過 率 低 下 は 度で8. 9×10―3Ωcm であった。ZnO/Al2O3/ZnO 10% 以下であった。課題は Metal―grid の低コ 7% とすることで疑似的に AZO を作製した。3. ストプリント技術である。今後の進捗が期待さ 3×10―3Ωcm を得 Al,成膜温度200度のとき2. れる。 た。スパッタで Al―dope ZnO で抵抗値が減少 P. Pood ら(TNO)は従来よりも高速成膜か つ RtoR 適 用 可 能 な Spatial Atomic Layer することは既知であるが,ALD のナノ積層で も抵抗値を下がる知見は新しい。 Deposition(ALD)を開発し た。ALD は 原 子 S. Günther ら(Fraunhofer IST)は Dual AC 層オーダーの成膜が可能であり,被覆性に富 cathode をプラズマ源として Hexamethyldisi- み,ピンホールレスである。そのため,熱 ALD loxane(HMDSO)を導入し Plasma Enhanced ―5 2 に よ る Al2O3 膜 は10nm 厚 で10 g/m /day に Chemical Vapor Deposition(PECVD)にて SiO 達している。しかし,成膜速度が極めて遅いこ 2成膜を検討した。HMDSO の増加と共に C 含 とやバッチプロセスであることが課題であり, 有量が増大し,ヤング率,硬さが減少しソフト これまで一部の電子製品用途にしか応用されて で柔軟な SiOC 膜が得られた。バリアフィルム こなかった。近年,ALD はハイバリアフィル の中間層として使用することで歪みに耐性が改 ム生産装置として注目されており,RtoR 装置 善し,TiO2/SiO2多層 IR 膜では反りを大幅 の開発が進んでいる。現在,RtoR に軽減することができた。スパッタカソードを ALD 装置 は Beneq, Lotus,Chambridge nanotech が開発 用いた PECVD 技術として注目される。 ALD という S. Nakao ら(KAST)は フ ル ス ペ ク ト ル 太 連続成膜可能な ALD を開発した。Al2O3 成膜 陽電池用 TCO として IR 領域を透過する高移 の 際,Trimethylaluminum(TMA)と H2O を 動度 TCO を開発した。1400nm で吸収5% 以 を進めている。TNO は,Spatial 48 NEW GLASS Vol. 27 No. 106 2012 下を達成するためには,移動度80cm2V―1s―1 が 必要である。アンダーコート層の格子定数が SnO2 と格子定数とマッチすることで高移動度 化が可能と考えた。Pulse Laser Deposition (PLD)を用いて,W dope SnO2 のシード層と して様々な組成の TiNbOxide を作製して格子 マッチングを検討した。その結果,Ti0.5Nb0.5O2 で最大値136cm2V―1s―1 を得た。その膜の吸収 5%,抵 抗 値 は9. 7Ω/□ は 波 長1400nm で3. であった。 T. Yamada ら(AIST)は Cu ホイル を 基 材 発表中の筆者 とした RtoR microwave CVD によってグラフ ントシートを開発した。フッ素樹脂は難接着性 ェン を350℃ で 成 膜 し た。フ ィ ル ム 幅 は300 が特性であり,特に外使いを模擬した加速試験 mm であった。PET に転写して測定した結果, では密着性耐久性が大きな課題となった。長期 7―89. 5%,比 抵 抗 は1×106Ωcm 透 過 率 は88. 密着安定性と水バリア性の両立のためには,フ であった。これまで1000℃ 程度必要であった ッ素樹脂に対する低ダメージ成膜が有効である グラフェン合成が350℃ と低温化され,今後タ ことを示し,熱 ALD で優れたバリアフィルム ッチパネル用 TCO として応用が期待される。 が得られたことを報告した。 Y. Shigesato ら(青山学院大)は Ti―Nb metal 学会最終日にカンパニーツアーが開催され alloy をターゲットとして,非加熱,遷移領域 た。TNO,Holst Center,Smit Ovens の3場所 を制御しやや還元された Nb―dope TiO2 を作製 から各自好きな見学場所を選択した。筆者は, した後,600℃ で1hr 真空加熱し,導電性を有 TNO を見学した。TNO はオランダ各地にあ TiO2 膜を得た。その結果,Nb る が,今 回 は Eindhoven に あ る High―Tech 7. 3at%含有で7. 2×10 Ωcm を得た。Mobility 1時間程度, Systems & Materials を訪問した。 する Nb―dope ―4 2 4cm /Vs は4. 21 ―3 carrier 濃度は2×10 cm ,Tv Spatial ALD について講演がありその後1時間 =60―70% であった。今回,酸化物系ターゲッ 程度,ラボツアーが開催された。ラボツアーで ト だ け で な く 金 属 タ ー ゲ ッ ト 出 発 で も Nb― は,太陽電池用高透過ガラス開発,バス内の生 dope TiO2 が作製できることを確認した。 地流れシミュレーション,CIGS 太陽電池作製 K. Murata ら(セントラルガラス)はタッチ パネル display 向けに Anti Finger ラ イ ン,TCO 用 常 圧 プ ラ ズ マ CVD 装 置, Printing Spatial ALD 装置,連続セレン化装置,食品加 (AFP)を開発した。3種類のタイプがありコー 工用技術開発などを見学し,TNO の技術力の ティング2種類とガラス表面形状である。フッ 高さを感じることが出来た。 素系樹脂 Perfluoropolyether silane,親油性樹 およそ1週間のオランダ滞在であった。学会 脂 polyoxalkylene glycol silane によって指紋が 期間中,海外メーカーの研究者と話をすること 目立たなくなった。またこれらのスクラッチ耐 で会社文化の違いや考え方の違いなど様々なこ 性,耐候性,化学安定性は問題ない。またテク とを感じ勉強することが出来た。今回の発表に チャーガラスによってふき取り性を向上させる 際し,有形無形のご協力を頂いた弊社研究所の ことが出来た。 皆様に感謝申し上げたい。次 回,ICCG10は 筆者は,フレキシブル太陽電池向けにフッ素 樹脂フィルムと水バリア膜コートからなるフロ 2014年6月22日 か ら26日 か け て ド イ ツ の Dresden にて開催される予定である。 49