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P21-P34( PDFファイル ,68KB)
Ⅲ 県立病院における財務的課題
今後、県立病院は、前章での対応策に基づいて政策医療の充実を図っていく必要
があるが、そのためには、各病院において経営基盤が安定していることが不可欠な
要件となる。
そのため、本章においては、現在の県立病院事業における財務的課題について整
理を行った。
1
これまでの経営改善の取組状況
県立3病院は、「Ⅰ2 これまでの経営改善の取組経過」(P2∼)において記載
したとおり、効率的な病院経営を目指して各種の経営改善に取り組んできた。
また、平成 17 年度から 19 年度までの 3 年間を経営改善推進期間と位置づけ、
一般会計からの繰入額等について目標を設け、各病院において集中的に経営改善
に取り組んでいる。
これまでの経営改善の取組状況は次のとおりである。
(1) 主な経営指標の推移(3病院全体)
3病院における経営改善の取組により、病院事業全体としては、医業収支比
率、病床利用率、人件費比率(職員給与費対医業収益率)ともに徐々に改善が
図られている。
<主な経営指標の推移>
(単位:%)
経営指標
H14
H15
H16
H17
H18
対 H14 比
医業収支比率
63.5
68.7
71.3
71.4
72.9
9.4
病床利用率
76.1
79.1
80.0
79.5
80.6
4.5
人件費比率
74.2
67.2
66.3
67.9
57.7
▲16.5
(2) 一般会計負担金の推移(3病院全体)
経営改善の取組により収支が改善したことなどにより、がんセンターを中心
に一般会計からの繰入金(一般会計負担金)が年々減少しており、この 5 年間
で約 12 億円が削減されている。
21
<一般会計負担金(3条負担金+4条負担金)の推移>
(単位:百万円)
5000
4500
4000
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
岡本台病院
がんセンター
リハセンター
合計
H14
H15
H16
H17
H18
(単位:百万円)
病
院 名
H14
H15
H16
H17
H18
対 H14 比
岡本台病院
730
725
705
697
742
12
がんセンター
2,930
2,552
2,203
2,063
1,776
▲1,154
リハセンター
971
870
865
894
924
▲47
4,631
4,147
3,773
3,654
3,442
▲1,189
合
計
※3条負担金 : 病院の事業活動に対する一般会計からの繰入金
4条負担金 : 設備投資や企業債償還に対する一般会計からの繰入金
2
課題
(1)
これまでの経営改善の取組により、医業収支比率等の主要な経営指標について
は改善傾向にあるものの、3病院とも経常収支が赤字となっている。
(2)
現在、一般会計負担金の削減を主たる目標に、財務的視点から収益確保と費用
削減に取り組んでいるが、県立病院としての役割や機能を勘案すれば、財務的視
点と非財務的視点の双方からの経営改善が必要である。
(3)
がんセンターとリハビリテーション病院では、常勤医師が欠員となっている診
療科があるため、早期に欠員を補充し、診療体制の充実を図る必要がある。
(4)
岡本台病院とがんセンターは病床利用率が低い状況にあるため、入院患者数の
改善が見込めない場合、病床の運用や病床数の見直しを検討する必要がある。
(5)
病院事業において職員給与費は最大の経費であることから、専門人材確保の困
難性に留意しながら、給与水準が適正であるか、職員配置が妥当であるかを検証
し、人件費の適正化を図る必要がある。
(6)
一般会計からの繰入れに当たり、どの部分が政策医療であり、どの部分がそう
でないかについて整理を行うとともに、政策医療に要する経費を可能な限り算出
する必要がある。
22
Ⅳ 今後の総合的な経営改善の進め方
本章では、これまでの各病院における政策医療の課題(第Ⅱ章)及び財務的課題
(第Ⅲ章)を前提として、県立病院が真に県民に信頼され、求められる病院となるた
めに、今後、取り組むべき経営改善のあり方や具体的な取組方策について検討を行
った。
1
基本方針
(1) 経営資源の選択と集中による政策医療への重点化
今後、県立病院が、より政策医療に重点をおいた病院経営を行っていくため
には、自らが有する経営資源の選択と集中を図ることが重要である。
したがって、民間医療機関において代替が可能となるなど、政策医療として
の位置づけが困難な診療機能については、原則として廃止・縮小を検討する必
要がある。
(2) 財務的視点と非財務的視点からの経営改善の推進
公立病院における経営改善については、単に財務的な指標の改善のみを指す
ものではなく、同じ財務状況であっても、政策医療の取組が充実したり、医療
の質や安全性が向上したりすれば、経営改善が進んだものと捉える視点が重要
である。
よって、これまでの財務的視点に加えて、非財務的視点を含めた総合的な視
点から経営改善に取り組むとともに、同様の視点で評価を行う必要がある。
(3) 数値目標の設定とPDCAサイクルの活用による取組の実施
今後、継続的かつ効果的に経営改善の取組を進めるためには、病院の経営実
態や県立病院に求められる諸機能の充実度合いについて把握・検証が可能な指
標を選定し、数値目標を設定するとともに、PDCAサイクル(計画(plan)
−実行(do)−評価(check)−改善(action)を順に実施すること)を活用するこ
とが必要である。
また、経営改善の実効性を確保するには、経営内容や経営改善の取組状況に
ついて、外部の有識者等から点検・評価を受けることが効果的である。
(4) 一般会計からの繰入れ後における経常収支の均衡
県立病院が、県民に対して安定的かつ継続的に政策医療を提供していくため
には、経営基盤の安定が不可欠である。したがって、政策医療の取組状況に応
じて、国の繰出基準(総務省自治財政局長通知において定められた地方公営企
業繰出金の基準)に基づき、必要な経費等に対して一般会計から適切に繰入れ
23
が行われる必要がある。
その結果、不採算な診療分野や事業活動に対して必要な繰入れが行われた場
合には、各病院において経常収支の均衡を図る必要がある。
(5) 県民に対する積極的な情報提供の実施
今後、より透明性の高い病院経営を実現させるためには、各病院の経営状況
や取り組む政策医療の内容について、広く県民に対して情報を提供することが
必要である。
特に、一般会計からの繰入れの必要性や妥当性について県民の理解を得るた
めには、各病院における政策医療の範囲を明確に区分した上で、病院経営のう
ち、どの部分が赤字で、どの部分が赤字でないかについて、県民にわかりやす
く説明する必要がある。
上記の基本方針に基づく経営改善の取組イメージ
<総合的な視点に基づく
重点方策の設定>
<選択と集中>
経営資源の選
択と集中によ
る政策医療の
重点化
方策1 : 政策医療の推進
○ 政策医療の明確化
○ 政策医療の充実
方策2 : 経営基盤の安定化
○ 収益構造の強化
○ 経営効率化の推進
○ 一般会計からの適切な
繰入れの実施
方策3 : 医療の質の向上
○ 質の高い医療の提供
○ 安全な医療の提供
○ 患者満足度の向上
2
<実効性の確保>
○ 達成可能な目標値を設定
○ PDCAサイクルの実践
○ 外部有識者等による点検・
評価
<県民への積極的な情報提供>
○ 経営状況
○ 政策医療の内容
○ 繰入れの考え方・内容 等
経営改善推進のための計画期間の設定
○
経営改善を効率的かつ効果的に進めるため、5ヶ年程度の計画期間を設定する。
○
なお、計画期間の中間年において、目標値の達成状況や経営改善の取組状況を
検証し、必要に応じて目標値や改善方策の見直しを行う必要がある。
24
3
数値目標の設定
(1)
数値目標については、P24 の図で示した「政策医療の推進」「経営基盤の安定
化」「医療の質の向上」という重点方策の改善状況を把握できるような指標を選
定する必要がある。
また、数値目標の設定と合わせて、当該目標値達成のため、
「いつ」
「どのよう
な取組を実施するか」について、詳細な行動計画を策定する必要がある。
(2)
数値目標については、他県の類似病院における直近の経営指標や公立病院改革
ガイドラインで示されている経営内容の優れた自治体病院の経営指標、さらには
これまでの3病院における経営改善の実績等を勘案し、努力目標を含んだ高めの
目標とすることが求められる。
(3)
具体的な数値目標については、下表における「改善の視点」
「区分」
「経営指標
(例)」を参考に、本庁所管課と病院が十分に検討を行い設定すべきである。
また、計画期間中の取組状況については、外部有識者等による点検・評価を
受ける必要がある。
数値目標として設定が見込まれる経営指標(例)
〔岡本台病院〕
改善の視点
1 政策医療的視点
区
分
経 営 指 標 (例)
①診療機能
・緊急措置・措置患者の受入れ数 (人)
②地域支援機能
・精神科救急情報センター依頼件数 (件)
③教育・研修機能
・臨床研修医等医師の受入れ数 (人)
・看護実習生の受入れ数 (人)
④情報発信・相談機能
・アルコール医療相談件数 (件)
・社会復帰相談・援助件数 (件)
2 財務的視点
⑤政策支援機能
・鑑定や審査会等への派遣人数 (人)
①収支改善
・経常収支比率 (%)
・医業収支比率 (%)
3 医療サービスの
②収入確保
・病床利用率 (%)
③経費削減
・職員給与費対医業収益比率 (%)
①医療の質
・精神保健指定医師数 (人)
・平均在院日数 (日)
視点
②医療安全
・医療安全管理研修・講習会への参加人数 (人)
③患者満足度
・患者満足度(%)
・職員満足度(%)
25
〔がんセンター〕
改善の視点
1 政策医療的視点
区
分
①診療機能
経 営 指 標 (例)
・ステージⅢ,Ⅳの受入れ患者比率 (%) 注 1
・外来化学療法センター利用者数 (人)
②地域支援機能
・逆紹介率 (%) 注 2
・セカンドオピニオン件数
・在宅療養支援診療所との診療連携件数 (件)
③教育・研修機能
・研修医の受入れ数 (人)
・コ・メディカル研修生の受入れ数 (人)
・看護実習生の受入れ数 (人)
④情報発信・相談機能
・医療相談件数 (件) 注 3
・ホームページアクセス件数
⑤研究機能
・治験・市販後臨床試験契約件数 (件)
・特殊外来・特殊検診件数 (件)
2 財務的視点
⑥政策支援機能
・地域がん登録の精度(DCO 割合)(%) 注 4
①収支改善
・経常収支比率 (%)
・医業収支比率 (%)
②収入確保
・病床利用率 (%)
・病床回転率 (%) 注 5
3 医療サービスの
③経費削減
・職員給与費対医業収益比率 (%)
①医療の質
・クリティカルパス適応症例率 (%) 注 6
・先進医療届出件数 (件)
視点
②医療安全
・医療安全管理研修・講習会への参加人数 (人)
③患者満足度
・患者満足度(%)
・職員満足度(%)
・認定看護師相談件数 (件)
・服薬指導実施件数 (件)
・栄養指導実施件数 (件)
注 1:ステージⅢ,Ⅳの受入れ患者比率=ステージⅢ,Ⅳ患者数/院内がん登録患者数
注 2:逆紹介率=診療情報提供料算定件数 /退院患者数(死亡退院を除く。
)
注 3:医療相談件数=情報・相談支援センター分+認定看護師相談件数+服薬指導件数+栄養指
導件数
注 4:DCO割合(死亡小票のみによる登録の割合)=死亡小票からの登録数/対象年の総罹患数
注 5:病床回転率= 365 日又は 366 日/平均在院日数(緩和ケア病棟を除く。
)
注 6:クリティカルパス適応症例率
= クリティカルパス使用件数/手術療法件数(胃・大腸・肝臓・肺・乳腺・前立腺がん分)
26
〔リハビリテーション病院〕
改善の視点
1 政策医療的視点
区
分
①診療機能
経 営 指 標 (例)
・発達障害児者外来受診件数 (件)
・ブレイス(装具)件数 (件)
・シーティング件数 (件)
②地域支援機能
・地域療養支援(退院前の住宅改造等指導)件数 (件)
・入院中の介護保険認定件数 (件)
③教育・研修機能
・療法士受入れ数 (人)
・看護実習生の受入れ数 (人)
2 財務的視点
④情報発信・相談機能
・電話・来所による相談人数 (人)
⑤政策支援機能
・医師の講師派遣人数 (人)
①収支改善
・経常収支比率 (%)
・医業収支比率 (%)
②収入確保
・病床利用率(4階病棟)(%)
・病床利用率(5階病棟)(%)
3 医療サービスの
③経費削減
・職員給与費対医業収益比率 (%)
①医療の質
・回復度(FIM指数) 注 1
・病棟別在宅復帰率 (%)
視点
②医療安全
・医療安全管理研修・講習会への参加人数 (人)
③患者満足度
・患者満足度(%)
・職員満足度(%)
・連休時のリハビリテーション実施人数(人)
注 1:FIMは機能的自立度評価法を指し、入院時と退院時の指数の差を測定するもの
4
経営改善の進め方
前述の「1 基本方針」の下に、今後「政策医療」「財務」「医療サービス」の3
側面から、病院全般にわたる経営改善に取り組むこととなるが、これらの取組は正
に病院経営戦略そのものということができる。そして、この取組を成功させるため
には、3病院がそれぞれ経営戦略を明らかにするとともに、その内容を行動計画に
落とし込む必要がある。
病院における経営戦略とは、病院のあるべき将来像に到達するための道筋に関す
る考え方であり、例えば「医療の質・安全性の向上」
「生産性の向上」
「医療人材の
確保と教育」
「当該病院の位置づけと連携」等の視点から考えることが重要である。
また、経営戦略に基づいた病院経営を行うためには、リアルタイムに近い情報収集
と分析が不可欠であることから、院内情報システムの充実や活用を検討する必要が
27
ある。
加えて、経営戦略を実際に執行するためには、詳細な行動計画の策定が不可欠で
あり、計画の中で病院各部門における具体的な取組内容とその実施スケジュールを
明らかにする必要がある。
したがって、県と各病院は、以下のような手順にしたがって経営戦略と行動計画
を取りまとめるとともに、PDCAサイクルを活用し、経営改善の取組を戦略的に
進めることが必要である。
(1) 県立病院改革プラン(仮称)の策定(平成 20 年度)
①
経営戦略の分析・決定
本委員会で整理した県立病院の使命や役割、あるいは県立病院を取り巻く外
部環境の変化や財務的課題等を参考に、各病院において考えられる経営戦略を
検討し、戦略を決定する。
②
目標設定と行動計画の策定
ア
経営戦略に基づき、先に示した表(P25∼P27)における「改善の視点」や
「区分」を参考にしながら、評価指標を選定するとともに数値目標を設定す
る。
イ
当該目標値を達成するための具体的な取組方策とその実施時期について、
行動計画として取りまとめる。
ウ
上記①及び②ア・イの検討結果に基づいて、国から策定を求められている
「県立病院改革プラン(仮称)」を取りまとめ、県民に対し公表する。
(2) 取組の実施と業績評価(平成 20 年度∼)
①
取組の実施
ア
改革プランに基づいて、病院各部門が業務改善等に取り組む。
イ
評価指標の達成状況について、定期的に進行管理を行い、何らかの問題等
が判明した場合には取組内容等の見直しを行う。
②
業績の評価
ア
評価指標に基づき年間の業績を評価するとともに、次年度以降の取組内容
の見直しを検討する。
イ
外部の有識者等からなる委員会組織を設け、年1回程度、取組状況や業務
改善の実績について点検・評価を受け、その結果を県民に対して公表する。
(3) 計画の見直し(計画期間の中間年)
①
それまでの経営改善の取組実績や数値目標の達成状況、外部有識者等からの
評価等に基づき、必要に応じて経営戦略や目標値、具体的な取組方策等の見直
しを行う。
28
②
また、診療報酬の改定等により、改革プラン策定時と比べて経営環境が変化
した場合には、その都度、目標値等の見直しを行う。
5
具体的な取組方策
今後、各病院が数値目標達成のために取り組むべき方策については、本庁所管課
と病院が十分に検討して決定すべきであるが、本委員会におけるこれまでの議論に
基づいて、今後検討を要すると考えられる取組方策を次のとおり整理した。
なお、具体的な取組方策の検討に当たっては、病院幹部のみならず、医師や看護
師などの主要な医療スタッフが議論に加わり、病院全体として取り組むことが重要
である。
また、個々の取組方策の実施に当たっては、取組ごとに責任者を決めるとともに、
具体的な取組目標や実施スケジュールを設定することにより、取組の実効性を確保
することが重要である。
(1)
政策医療強化のための方策
県立3病院における政策医療強化のための方策については、「Ⅱ 政策医療の
課題と今後の取組方向」において、病院別に「今後取り組むべき対応策」とし
て記載済みであるので参照願いたい。
(2)
経営基盤安定のための方策
①
経営分析に基づく課題の抽出と改善方策の設定
○
財務諸表や各種の経営指標に係るトレンドを分析するとともに、類似病
院における経営指標との比較等により経営課題を抽出する。
○
損益分岐点分析や部門別原価計算分析等に基づき、改善方策を設定する。
②
効率的な病床管理の実施
○
入院患者の入退院日の把握や長期入院患者のリストアップ等、リアルタ
イムによる入院患者管理と院内での入院患者情報の共有化を図る。
○
診療科や重症度による病床区分等の制約のため、空床でも利用できない
病床数について、その実情に合わせて見直しを図る。
○
③
診療科や病棟を超えた弾力的な病床利用の実施に努める。
紹介率の向上
○
地域の医療機関への戸別訪問等により、病院機能のPRに努める。
○
地域の開業医等を対象とした研修会の開催や医療機器の民間開放等を通
じて、地域の開業医とのネットワークの構築に努める。
29
○
地域医療機関の診療機能情報のデータベース化等により、紹介元医療機
関に対する逆紹介の取組を強化する。
④
人件費の適正化
○
各種手当等について、支給の必要性やその範囲、単価等について検討し、
必要に応じて見直しを実施する。
○
各部門の業務内容の点検による職員配置の見直しを行う。
○
正規職員が行うべき業務とそれ以外の業務の仕分けを行い、職員が行う
必要がない業務について、臨時職員等の活用や業務委託への転換を図る。
⑤
材料費の適正化
○
類似の医薬品や診療材料の見直しにより、品目数の削減と在庫額の縮減
に努める。
○
購入額・使用量の多い医薬品を中心に、後発医薬品への切り替えを推進
する。
⑥
病床数の見直し・病棟の再編
○
患者数や病床利用率の動向、今後取り組むべき政策医療の内容等を考慮
し、必要に応じて現行病床数の見直しや病棟再編を実施する。
(3)
医療の質の向上
①
医療の質の向上
ア
専門性の高い医師や医療スタッフの育成
○
各診療分野における専門医や専門性の高い医療スタッフを育成するた
め、院内教育活動の充実を図る。
○
研修医等の受入れ促進に向けて、研修条件の整備や研修内容の充実を
図る。
イ
平均在院日数の短縮
○
クリティカルパスの導入や手術に係るスケジュール管理の徹底等によ
る診療行為の効率化に努める。
○
入院患者の退院先確保や在宅生活支援施設との連携等により、長期入
院患者の社会復帰を促進する。
ウ
高度医療機器の更新・整備
○
高度専門医療の充実を図るため、機器の必要性、予想される患者数や
使用頻度、採算性等を考慮の上、高度医療機器に係る更新・整備計画を
30
策定し、計画的な更新・整備に努める。
○
高度医療機器について、地域医療機関からの検査受託や県立病院間で
の共同利用等を実施することにより、稼働率の向上に努める。
②
医療安全の向上
ア
医療安全管理体制の充実強化
○
医療事故やヒヤリハット事例の収集と分析に努め、その結果の現場へ
のフィードバックを徹底する。
○
事故の発生が懸念される診療分野や医療行為を選定し、事故発生の未
然防止に努める。
イ
医療スタッフに対する教育・研修の充実
○
③
医療安全管理に係る院内・院外研修の充実を図る。
患者満足度の向上
ア
患者サービスの向上に向けた取組の充実
○
患者満足度調査・職員満足度調査を実施し、その分析結果に基づいて
業務改善に努める。
○
病院に対する苦情等の対応窓口を明確化し、迅速かつ適切な対応に努
める。
○
医師等のコミュニケーション能力向上のため、必要な研修を実施する。
○
患者のプライバシーに配慮した医療サービスの提供や環境整備に努め
る。
イ
患者が納得できる医療情報の提供
○
インフォームド・コンセントの充実
○
患者用クリティカルパスを利用して、適時適切な診療計画の説明に努
める。
(4)
その他
①
医師の事務負担等の軽減
○
医療秘書等の活用や患者からの苦情・訴訟等に係る窓口の一元化などに
より、医師の診療業務以外の業務の負担軽減を図る。
②
経営戦略を担う企画部門の充実
○
病院において、院長の下で経営戦略を策定し、収集分析した経営関連デ
ータに基づき、経営改善を進める役割を担う企画部門の充実を図る。
31
③
職員の意識改革
○
各病院の使命や役割、取り組むべき政策医療の内容について、全職員に
対し周知を徹底する。
○
6
病院におけるリアルタイムの経営情報を全職員が共有できるよう努める。
一般会計からの繰入れのあり方
○
これまで見てきたように、県立病院は、自らの役割として政策医療に取り組む
ことが求められているが、政策医療は、もともと民間医療機関では対応が困難な
医療であり、その取組により収支が悪化することが多い医療分野である。そのよ
うな意味で、政策医療の実施に当たっては経営基盤の安定が不可欠であるが、そ
のためには、これまでの収入確保と経費削減の取組を継続するとともに、一般会
計からの繰入れを適切に行うことが重要である。
○
一般会計からの繰入れについては、まず、県が取り組む政策医療の範囲につい
て整理した上で、当該政策医療を執行するために必要な経費を可能な限り算出し
て評価を行い、繰入額を決定する必要がある。
○
また、経営改善の取組により収支の改善が図られた場合に、収支改善分の繰入
金を減らすような運用を行うことは、病院経営にとって具体的なメリットが生じ
ないばかりでなく、各病院職員の経営改善に対するモチベーションを低下させる
恐れがある。
よって、一般会計からの繰入れに当たっては、経営努力をした成果が病院側で
享受できるような仕組みを導入するなど、経営改善に向けてのインセンティブを
含んだ制度となるよう検討すべきである。
7
地域医療連携の推進
○
平成 18 年 4 月の診療報酬改定において、地域連携クリティカルパスによる医
療機関の連携体制が評価され、様々な疾患の治療において、新たな医療連携の取
組が模索されている。
○
病院を取り巻く経営環境が厳しさを増す中で、これまでのような全ての診療科、
人材、医療機器・設備を備えたフル装備型経営は困難な情勢となりつつある。ま
た、病院における診療機能はますます高度化・専門化すると見込まれることから、
今後は、各医療機関が相互に機能を分担しあうネットワーク型経営が主流になる
ものと考えられる。
○
また、県立3病院は、いずれも紹介型の病院であることから、患者数の確保の
ためには、病病連携・病診連携に基づく紹介率の向上が不可欠となる。加えて、
32
県内の医療水準の向上に貢献するという県立病院の使命を果たしていくために
は、地域の医療機関に対する診療支援や共同診療の充実を図るなど、地域医療連
携の中核施設としての役割が求められている。
○
このように、「地域医療連携」は、患者数や紹介率といった病院経営面をはじ
め、今後の県立病院の診療体制という点で診療機能の面から、また、地域におけ
る医療の確保という点で地域支援機能の面から、それぞれ県立病院の経営に大き
く関わることから、今後の経営戦略の中でどう位置づけるかが重要なポイントと
なる。
8
経営形態の見直し
○
現在、栃木県の県立病院は、地方公営企業法の財務規定等のみを適用する「一
部適用方式」で運営されているが、一般的に、この一部適用方式については、一
般会計の職員と同じ組織・給与体系であるため、経営努力が病院の経営状況や業
績につながらない等、経営体として必要な自律性や機動性が制度的に十分ではな
いといった課題が指摘されている。
○
医療環境や経営環境が目まぐるしく変化する今日、公営企業が本来の経済性を
十分に発揮していくためには、予算や財務、職員定数や人事等の面でより弾力的
な対応が求められるが、現行の知事部局の枠の中での一部適用方式では、制度的
に限界があるのも事実である。
○
よって、抜本的な経営改善の取組方策の一つとして、地方公営企業法の全部適
用や地方独立行政法人化等、経営形態のあり方についても、引き続き検討を行っ
ていく必要がある。
33
おわりに
栃木県の県立3病院は、それぞれが特色ある専門病院として、県民の医療ニー
ズを踏まえた政策医療に取り組んできた。しかし、医療環境の変化等に伴い、求
められる役割が変化しつつあり、新たに適切な経営判断が求められるものと考え
る。
また、平成 17 年度から3ヶ年間を経営改善推進期間と位置づけ、一般会計か
らの繰入金(負担金)の削減目標を定め、目標達成に向けて積極的に経営改善に
取り組んできた。しかし、財務的な視点を主とする取組であることから、県立病
院のあり方を考えると自ずと限界があり、これまでの経営改善の考え方そのもの
の転換が必要である。
本委員会では、医療分野や企業経営の専門家、県民代表等のメンバーによって
自由闊達な意見交換を行い、県立病院の政策医療のあり方について可能な限り具
体的な対応策を示すとともに、今後の経営改善の基本的な取組方向を整理した。
特に、県立病院の存在意義である政策医療の充実を念頭に、これまでの「財務
的視点」に加えて、「政策医療的視点」や「医療サービスの視点」から経営改善
を進める必要があること、そのために数値目標を設定し、目標管理のもとで経営
改善に取り組み、その結果について県民に対して明らかにすべきであることなど
を提言した。
折しも、国においては、昨年 12 月に公立病院改革ガイドラインを公表したと
ころであり、これを踏まえて栃木県でも、来年度において県立病院改革プランを
策定することとなる。
こうした改革プランを実効あるものとするためには、各病院が経営戦略、実行
計画(アクションプラン)及び実施日程(ロードマップ)を明らかにするととも
に、各病院における取組状況の追跡と評価については、第三者機関が行うことが
重要である。
また、県(県立病院を含む)内部の専門部署において、
「精神科医療」
「がん医
療」「リハビリテーション医療」における疾病対策の進捗状況や当該専門医療に
係る財務分析を行うことにより、県立病院の取組に対する第三者機関による評価
作業を支援するとともに、県の医療政策の充実を図ることが望ましいものと考え
る。特に、地方分権の進展とともに県が医療政策の中核を担うことが求められて
いる折から、県の「保健医療計画」
「がん対策推進計画」
「医療費適正化計画」等
の中に県立病院の果たすべき役割を位置付けることはもとより、相互に関連する
これらの計画の立案や推進に当たっては、県立病院が積極的にその役割を果たし
ていく必要があるものと考える。
おわりに、栃木県の県立病院が、改革プランに基づいて経営改善に着実に取り
組み、真に県民から信頼される県立病院となるとともに、県の政策医療のより一
層の充実が図られることを切に願うものである。
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