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第X期プロフェッショナル翻訳家コース

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第X期プロフェッショナル翻訳家コース
第X期プロフェッショナル翻訳家コース
第3回モデル訳文
●More of Today’s Poor Are Severely Poor●(原文ゴチ)
The poor in the 2000s are also more deeply poor than in previous decades. One way
to calculate the depth of poverty is to measure the “poverty gap”: how far the average
poor person or poor family falls below its respective poverty threshold. Between 1959
and 1973, the average poverty gap for families declined from $7,126 to $6,373. The
extremity of poverty has increased significantly since the early 1970s, however,
growing even during the boom years of the late 1990s. In 2000, the income of the
average poor family fell $7,732 short of the poverty line, and by 2005, the poverty gap
or “income deficit” of families in poverty had risen to $8,125.33. Today’s poor are more
severely poor than in the past, with a longer climb to get out of poverty.
●厳しさを増す今日の貧困者の貧困度●(原文ゴチ)
2000 年代の貧困者もまたそれまでの数十年よりも貧困度を深めている。貧困度を計算す
る1つの方法は「貧困ギャップ」、すなわち平均的な貧困者あるいは貧困家庭がそれぞれ
の貧困ラインをどれほど下回っているかを測定することである。1959 年から 1973 年にか
けて、家庭の平均的貧困ギャップは 7,126 ドルから 6,373 ドルに低下した。ところが、極
貧家庭は 1970 年代初めから大幅に増加してきており、好景気だった 1990 年代後半の時期
にも増えつづけた。2000 年には、平均的な貧困家庭の所得は貧困ラインを 7,732 ドル下回
り、さらに 2005 年までに貧困ギャップ、すなわち貧困家庭の「赤字」は、8,125 ドルに上
昇していたのである。今日の貧困者の貧困度はこれまでよりも厳しさを増しており、貧困
から抜け出す道はますます遠くなるばかりだ。
<コメント>
・More of
以下、いわゆる「比較」の表現が多出します。これを「より~だ、より~する」などと
はしないで、なるべく自然な日本語表現にする工夫が必要でしょう。
・deeply poor / depth of poverty
述語的な表現ではないようです。文脈から「貧困度」の訳語を使いました。
・previous decades
意外に多くの受講者が、ここと後出3ページの decades の s を見逃して「10 年」と訳
1
出していました。不注意です。
・respective
ここの respective を無視した訳文も散見されました。貧困単身者と貧困家族とでは貧困
ラインとされる金額が異なっているので「それぞれの」と言っているのです。
・“poverty gap”
この用語の意味は文中に説明されているとおりですが、その説明にある poverty
threshold はすぐ後の poverty line と同義なので、本課題文ではどちらも「貧困ライン」
と訳出しました。また、poverty line は、「貧困線」「貧乏線」などとも訳され、最低
限度の生活を維持してゆくのに必要な所得水準を示す統計上の指標です。この基準は国
ごとに異なり、また同一の国でも年ごとに変更されます。例えば、アメリカでの貧困ラ
イン(税引き前の年収で表示)は、2000 年から 2005 年に次のように変動しています。
単身者:8,794 ドル
→
4 人家族:17,603 ドル
9,973 ドル
→
19,971 ドル
なお、貧困ライン推移のデータは次の米国勢調査局のサイトで見ることができます。
http://www.census.gov/hhes/www/poverty/data/threshld/index.html
・8,125.33.
33 は原注の番号です。削除もれをお詫びします。
Another way to assess the depth of poverty is to calculate the percentage of the
poverty population that is very poor: those persons whose income puts them below 50
percent of the poverty threshold. Poverty has become more extreme over time
according to this measure as well. The size of the very poor population, as a percentage
of the total poverty population, has increased significantly, rising from less than 30
percent in the mid-1970s to more than 43 percent in 2005, with an especially rapid rise
during the 1980s. In 2005, 15.9 million people had incomes less than half the poverty
line. This is the highest level recorded since 1975, when the government first began
measuring “deep poverty.”
貧困度を測るもう 1 つの方法は、極貧状態にある貧困人口、すなわちその所得が貧困ラ
インの 50 パーセントを下回る人びとのパーセンテージを計算することである。貧困はこ
の測定法によってもまた時とともに激しさを増してきた。極貧人口の規模は、貧困人口全
体に占めるパーセンテージから見ると大幅に増加してきており、1970 年代半ばには 30 パ
ーセント以下だったものが、2005 年には 43 パーセント以上に上昇した。とりわけ 1980
年代の上昇は急速である。2005 年には、1590 万人の所得が貧困ラインの半分にも達しな
かった。これは 1975 年以来の記録でもっとも高いレベルだ。アメリカ政府が「極貧度」
2
の計測を開始したのはこの年からである。
●More of Today’s Poor Are Stuck in Poverty●(原文ゴチ)
Poverty has become more of a trap in recent decades, both for adults and for their
children. It is more difficult today for a poor family to get out of poverty and stay out of
poverty. And children born into poverty are more likely in the current era to inherit
their parents’ economic status. Along with slower economic growth, the United States
since the 1970s has experienced both rising inequality and declining social mobility.
This combination, signifying the emergence of a more polarized and rigid class
structure, threatens the principle of equality of opportunity and the ideal of the
American Dream.
●貧困からの脱出がますます難しい現代の貧困者●(原文ゴチ)
貧困はここ数十年、ますます成人とその子供たちを捕えるワナと化してきた。今日では
貧困家庭が貧困から抜け出すこと、また貧困に陥らぬことがいっそう難しくなっている。
現代では、貧困家庭に生まれた子供は両親の経済状態をひきつぐ可能性が以前よりも高い。
遅々として進まぬ経済成長に加え、1970 年代以降、アメリカ合衆国は不平等の高まりと社
会的流動性の低下をともに経験してきた。こうした動きが同時に起きたことは階級構造の
両極化と固定化がさらに進んだことを意味しており、機会均等の原則とアメリカン・ドリ
ームの理想をおびやかすものである。
<コメント>
・to get out of poverty and stay out of poverty
ここを「貧困から抜け出して、そのまま後戻りしない」などのように訳出した受講者も
何人かいましたが、モデル訳文のように訳すべきでしょう。
・economic status
この表現は国や組織などについても人にも使いますが、ここで「経済的立場」はしっく
りきません。
「 経済状態」あるいは「経済事情」としておきましょう。なお、後出の economic
standing は economic status の言い換えです。
Many people who experience a year or two of poverty never entirely escape it; they
tend to fall back into poverty periodically throughout the course of their lives. Since
the 1980s, poverty has become even more of an enduring condition. Low-income
families today are more likely to remain low-income families and are less likely to
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escape poverty permanently. As Annette Bernhardt and her colleagues show, this is
due especially to the proliferation of low-wage jobs and the conversion of low-wage
work into a lifetime career. (原文改行なし)
1、2 年間の貧困を経験する多くの人びとが、貧困から完全に抜け出すことはまずない。
つまり、その生涯に何度も貧困に逆戻りするという傾向があるのだ。1980 年代以降、貧困
はさらに恒常的状態と化してきた。今日の低所得家庭は低所得家庭のまま変わらない可能
性が高く、また貧困ときっぱり縁を切れる可能性は低い。アネット・バーンハートとその
同僚が指摘したように、これはとりわけ低賃金の仕事が急増したこと、低賃金労働が生涯
の仕事になったことに原因がある。
<コメント>
・periodically
「周期的に」と訳出した受講者多数。「繰り返して」の意味にとらなければ、おかしい
でしょう。
・Annette Bernhardt
これをフランス語読みして「アネット・ベルナール」とカタカナ表記している訳文もあ
りましたが、
「アネット・バーンハート」と英語読みしておく方がいいでしょう。YouTube
でこの学者の講演やインタビューを見ると、そう発音されていることが分かります。
(原文改行なし)They compare two cohorts of male workers, the first tracked from 1966
to 1981 and the second from 1979 to 1994. Over these two periods, they find, “wage
growth has both stagnated and grown more unequal,” “there has been a marked
deterioration in upward mobility,” the percentage of workers who are stuck in
low-wage jobs has more than doubled, and workers at the bottom of the wage
distribution are especially liable to fall into the “bad-job trap.” Economic mobility is
harder to attain in today’s economy. A job is not enough, hard work does not
necessarily pay, and few individuals are able to pull themselves up by their own
bootstraps.
バーンハートたちは、2つの男性労働者集団を対象に、1つは 1966 年から 1981 年まで、
もう 1 つは 1979 年から 1994 年まで追跡調査を行ない、比較している。その結果分かった
のだが、この 2 つの期間を通じて、「賃金の伸び率が停滞するとともに、格差が拡大し」
「上昇流動性にははっきりと低下が認められ」、低賃金の仕事から逃れられない労働者の
パーセンテージは 2 倍以上に増えた。そして賃金分布の底辺にいる労働者たちは特に「低
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賃金職種のワナ」に落ちやすい。今日の経済情勢にあっては、経済的流動性を達成するの
がいっそう難しくなっている。仕事がありさえすればいいという訳ではない。重労働だか
らといって報酬がいいとは限らない。そして、自力で上に這い上がれる個人はほとんどい
ないのだ。
<コメント>
・“bad-job trap.”
bad job は low-paid job、
「割に合わない仕事、給料の低い仕事」。こうした低賃金の仕事
についた人が、その状態からなかなか脱け出せない状態を trap(ワナ、落とし穴)に落ち
る、と表現しています。Web 検索によると、”low-skill, bad-job trap”の表現がよく使わ
れるようです。ここでは、「低賃金職種のワナ」と訳しました。ちなみに、関連表現に
poverty trap 、low-wage trap などがあります。
・A job is not enough.
「仕事は十分でない」と直訳したのでは何のことか分かりません。「仕事は十分にはな
い(仕事が不足している)」とするのも無理があります。このパラグラフが「社会的流
動性」を論じていることを念頭におくと、[Having]a job is not enough.つまり「ただ
仕事を持っているだけでは十分ではない」と解釈するのがよさそうです。あるサイトの
次の文章が参考になります。
For many Americans, a job is not enough to ensure economic well-being. About three
million workers live in poverty despite working year-round in full-time jobs.
(http://www.spotlightonpoverty.org/workers_and_poverty.aspx)
There is also much less intergenerational social mobility than implied by the
American Dream ideology, and some studies show declining mobility since 1980.
Contrary to the Horatio Alger tale, it is quite rare for a poor child to become a rich
adult or for a rich child to become a poor adult. The economic status of the family into
which a child is born exerts a powerful influence on later life outcomes, especially at
the extreme ends of the class structure. (原文改行なし)
世代間の社会的流動性も、アメリカン・ドリームへの根強い信奉から予期されるより遥
かに低く、1980 年以降は流動性が落ちてきていると指摘する研究もある。ホレイショ・ア
ルジャー風のサクセス・ストーリーとは違って、貧乏な家の子供が金持ちの大人になった
り、はたまた金持ちの家の子供が貧乏な大人になったりするのはきわめて稀なことだ。子
供が生まれてくる家庭の経済状態は、その人生の行く末に絶大な影響を及ぼす。とくに階
級構造の上下の両端にあってはそうである。
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<コメント>
・ There is also much less intergenerational social mobility than implied by the
American Dream ideology
直訳すれば、「世代間の社会的流動性も、アメリカン・ドリームのイデオロギーが示す
より遥かに低く」とでもなるのでしょうが、それではよく分からないのではないでしょ
うか。それで、ここでは少し説明的に訳すことにしました。要するに、「アメリカン・
ドリームが今なお信奉されているわりには、世代間の社会的流動性は決して高くない」
といっているのです。やる気さえあれば誰でも成功者になれる、という「アメリカン・
ドリーム」について、著者は本書の別の箇所( p.159 )で次のようにいっています。
“Is it possible to start out poor, work hard, and become rich?” In 2005, 80 percent of
Americans said yes to this question, up from 60 percent in 1983.
ちなみに、本書は Amazon の Search Inside the Book では閲覧できませんが、他のサ
イトでは全文を閲覧し、上のようにその内容を検索することが可能です。
(原文改行なし)In one revealing study, Tom Hertz finds that a child born into the
bottom income decile has a 31.5 percent chance of remaining in that decile as an adult
and a meager 1.3 percent chance of reaching the top decile. A child born into the top
decile has a 29.6 percent chance of staying in that decile and only a 1.5 percent chance
of falling into the poorest decile. The rich and the poor have at least one thing in
common: they both tend to pass along their economic standing to their children. And
this is true in the United States more so than just about anywhere else in the
developed world. We do indeed stand out from other countries: not because we have ●
more●(原文イタ) mobility, but because we have ●less●(原文イタ).
示唆に富むある研究でトム・ハーツは、次のことを明らかにした。所得を 10 区分した場
合、最低所得の区分に生まれた子供が大人になってその区分にとどまっている可能性は
31.5 パーセントであり、最上位の区分に達する可能性はわずか 1.3 パーセントに過ぎない。
最上位の区分に生まれた子供がその区分にとどまっている可能性は 29.6 パーセントであ
り、極貧の区分に落ちる可能性はわずか 1.5 パーセントである。貧者と富者には少なくと
も 1 つだけ共通する点がある。つまり、どちらもその経済状態を子供たちにひきつぐ傾向
があるということだ。そして、このことは他の先進諸国のほとんどどこよりもアメリカ合
衆国に当てはまるのである。その点でわれわれは他国に断然抜きん出ている。というのも、
流動性が●どこよりも高い●(原文イタ)からではなく、●どこよりも低い●(原文イタ)
からである。
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<コメント>
・decile
これは「デシル」or「十分位数」と定訳のある統計学の用語で、「度数分布の総度数を
10 等分したときの 1 つの数値」(ジーニアス英和大辞典)と定義されます。しかし、こ
こでは所得額を上から下まで 10 に区分して、その一番上と下を比較していることが分
かればいいので、術語は使わずに少し訳出を工夫すればいいでしょう。
●The Shredding of the Safety Net●(原文ゴチ)
In 1996, Congress overhauled the welfare system, creating the new Temporary
Assistance for Needy Families (TANF) program. Since then, and despite a steady
increase in the rate and severity of poverty in the 2000s, the number of families
receiving cash welfare benefits has dropped substantially, to approximately 2 million,
less than half the number in 1996. (原文改行なし)
●セーフティネットが破れた●(原文ゴチ)
1996 年、アメリカ議会は福祉制度を全面的に見直し、新たに貧困家庭向け一時援助金
(TANF)プログラムを創設した。それ以来、2000 年代になって貧困の比率と厳しさがじり
じりと上昇したにもかかわらず、現金支給の生活保護を受ける家庭の数は大幅に落ちて
200 万世帯となった。これは 1996 年の半分以下の数字である。
<コメント>
・Temporary Assistance for Needy Families (TANF) program
クリントン政権下で 1997 年から施行された福祉制度。子供のいる貧困家庭に 5 年間に
限って現金が支給されます。この訳語は『英辞郎』によりました。needy は poor の婉曲
表現。
(原文改行なし)At the same time, because payment levels are not indexed to the rate
of inflation, the real value of welfare benefits has diminished. The percentage of poor
children on welfare has declined as well, from more than 50 percent in 1996 to less
than a third. And the percentage of families who do not receive welfare benefits despite
meeting eligibility requirements has increased from less than 20 percent in the early
1990s to more than 50 percent in 2002.
それと同時に、支給水準がインフレ率に連動していないので、生活保護費の実質価値は下
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がってしまった。生活保護を受けている貧困家庭の子供たちのパーセンテージもやはり下
がって、1996 年の 50 パーセントから 3 分の 1 以下になった。そして受給資格要件を満た
しているのに生活保護を受けていない家庭のパーセンテージは、1990 年代初期の 20 パー
セント以下から 2002 年には 50 パーセント超へと増加した。
Although low-income households may still benefit from a variety of social programs,
including food stamps and tax credits for low-wage workers, many of the poor, as the
figures in the previous paragraph suggest, have fallen through the cracks. The
reformed welfare system provides cash assistance to a shrinking number of families,
even as the size of the needy population continues to expand. (原文改行なし)
低所得の家庭が現在も低賃金労働者向けの食糧配給券や税額控除といったさまざまな社
会保障の恩恵を受けてはいるにしても、前のパラグラフの数字が示すように、貧困者の多
くはずっと放置されてきたのである。新しい福祉制度が現金援助を与える家族の数は減っ
てきているが、その実、貧困人口の規模は拡大しつづけている。
( 原 文 改 行 な し ) Government policies in recent years have made life harder for
low-income households in other respects as well: by eligibility rules restricting access
to unemployment insurance, by the reluctance of legislators to raise the federal
minimum wage, by tax policies that overwhelmingly benefit the rich, and by cutbacks
in funding for child care assistance, housing programs, health care, and college
scholarship aid for low-income students. Poverty is an especially serious problem in
the United States today because the poor have less recourse than in the past to
government assistance and a reliable safety net.
近年の政府の諸政策は、他の点でも低所得家庭の生活をいっそう困難なものにしている。
例えば、失業保険受給資格の制限、連邦最低賃金の引き上げに腰の重い議員たちの姿勢、
金持ちに対して圧倒的に有利な税制、さらには子育て支援や住宅援助計画、医療ならびに
低所得学生のための大学奨学金支援の予算削減がそうだ。貧困が今日、アメリカ合衆国の
とりわけ深刻な問題になっているのは、以前にも増して貧困者が政府の援助と信頼の置け
るセーフティネットにいよいよ頼れなくなったからである。
●Poverty Touches the Lives of Most Americans●(原文ゴチ)
In any particular year since the 1970s, somewhere between approximately 11 and 15
percent of the population has been poor. This is a lot of poverty, especially for a country
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with such great wealth. But on the brighter side, these numbers might leave the
impression that only a relatively small minority of Americans is economically
vulnerable. The reality is quite the opposite, however, as the research of Mark Rank
demonstrates. Calculating the likelihood that people during their adult years will
undergo a period of economic hardship, he discovers that poverty is a widespread
phenomenon. In fact, the majority of Americans, and the majority of white Americans
as well, experience at least a year of poverty during their adult lives, and about a third
experience four years or more. (原文改行なし)
●貧困は大抵のアメリカ人の生活にかかわりがある●(原文ゴチ)
1970 年以降のある特定の年をとった場合、全人口のまずおよそ 11 から 15 パーセント
は貧困者だった。とくにアメリカのような巨富を有する国にとって、これはとてつもない
貧困だ。だが楽観的に見れば、この数字は比較的少数のアメリカ人だけが弱者なのだ、と
いう印象を与えるかもしれない。しかし、マーク・ランクの研究が証明するように、現実
は正反対である。成人に達した後の人びとが一定期間に経済的困窮を経験する可能性を計
算したところ、貧困がごく一般的な現象であることが分かった。事実、大半のアメリカ人、
また大半の白人アメリカ人も、成人後の生活で少なくとも 1 年間は貧困を経験しており、
3 分の 1 はそれが 4 年以上におよぶ。
(原文改行なし)The likelihood that an adult will spend at least a year in poverty,
moreover, is much greater today than it was in the 1970s. Of course, poverty hits racial
minorities harder and more frequently. Relatively few African Americans manage to
stay above the poverty line over the entire course of their lives: over 90 percent endure
at least one year of adult poverty. But even for non-Hispanic whites, poverty is an
ordinary occurrence. Poverty in the United States is not a paradox or an anomaly, and
it is not something that happens only to inner-city minorities, teenage mothers, or
other “marginalized groups.” American poverty, Rank emphasizes, is “endemic to our
economic structure”; it is “as American as apple pie.”
しかも、成人が少なくとも 1 年間の貧困生活を送る可能性は、1970 年代よりも今日の方
が高いのだ。むろん、貧困が襲うのは人種的マイノリティの方に激しく、また頻繁である。
生涯にわたって貧困ラインを超えつづけられるアフリカ系アメリカ人は相対的にごく少な
い。すなわち、90 パーセントが成人後の貧困に少なくとも 1 年間は耐えている。だが、非
ヒスパニック系白人にとっても、貧困は当たり前のことになってしまった。アメリカ合衆
国の貧困は、起こりえないこと、あるいは異常事態などではなく、またスラム街のマイノ
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リティ、10 代の母親や他の「周縁化された集団」にだけ起こることでもない。ランクが力
説するように、アメリカの貧困は、「わが国の経済構造に固有」のもの、つまり、「アップ
ルパイと同じくアメリカ独自のもの」なのだ。
<総評に代えて>
おかげさまで第 X 期プロフェッショナル英訳講座も無事終了の運びとなりました。受講
者の皆様のご健闘にもう一度拍手をお送りいたします。
今期も、多くの方々が、全3回を経る内に着実な進歩を遂げられるのを目の当たりにし
て添削者一同、喜んでおります。
さて、最後の<総評に代えて>にあたって、受講者の皆様に、今後の翻訳修行において、
とりわけ留意すべき、と思われる点について申し上げたいと思います。
それは、屈折語である英語と違って膠着語である日本語の特性に注目していただきたい
ということです。具体的には、とりわけ助詞の意味と用法に習熟してほしいのです。たと
えば、英文で I like ~. と I’d [I would] like ~. とのニュアンスの違いは、助動詞 would
で表現されています。この2つの英文の訳しわけにはいろいろな方法があるでしょうが、
もっとも簡単にすますならば、
「わたしは~が好きです」と「わたしは~が好きなのですが
(……)」ぐらいでしょうか。ご覧のように、ここでの2つの日本文では、ニュアンスの
違い表現は助詞「が」が担っています。
むろん、その役割なら日本語だって助動詞も担当しているではないか、というご指摘が
あるでしょう。そのとおりです。しかもなお、ここで「助詞」を強調するわけは、2つ。
第1に助詞は助動詞よりも微妙、繊細なニュアンスを表現しうること、第2に、昨今、日
本語の助詞の用法が乱れに乱れていることです。
第1点についての例を挙げるなら、
「わたしは柿が好きだ」と「わたしは柿は好きだ」と
のニュアンスの違いをよくお考えになってください。
第2点についての例をあげましょう。近年、この「わたしは柿が好きだ」を「わたしは
柿を好きだ」と表現するような文章、言葉使いがテレビ、新聞、雑誌、本などに氾濫して
います。おそらく、これは主として英語の影響で、I like ~. →「わたしは~を好む」→
「わたしは~を好きだ」という道筋をたどってでしょう。
この、助詞「を」の濫用は目に余るものがありますが、とりわけ生け贄になっているの
はこの「が」と「に」です。
「自白が得られなくても」→「自白を得られなくても」
「いきなり通行人に切りつけました」→「いきなり通行人を切りつけました」(いずれも
TVニュースのキャスター)
例をあげれば切りがありません。どうか、みなさまも、当面、とくに文中に「を」がで
てきたとき、あるいはご自分が「を」を使われたときには、その正否を辞書などで確かめ
10
るとともに、その他の助詞にも広く、深い関心を向けてくださるよう、ご留意ください。
添削者一同
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