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開業率は上昇しないのか-473KB
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CB
B
S
h。
SHINKIN
SHINKIN
CENTRAL
CENTRAL
BANK
BANK
産業企業情報
海外経済調査レポート
19-12
No.11
(2008.3.26)
2000.10
総合研究所
〒103-0028 東京都中央区八重洲 1-3-7
TEL.03-5202-7671 FAX.03-3278-7048
URL http://www.scbri.jp
創業・開業を巡る最近の動向
-開業率は上昇しないのか-
視点
開廃業率の逆転(開業率が廃業率を下回る状況)が指摘されて久しいなか、90 年代半ば以降
から今日に至るまで、政策面から創業・開業支援策が講じられてきた。また、信用金庫業界に
おいても、いわゆる“リレバン”を契機として、創業・開業局面を想定した融資商品の投入な
ど、独自の創業・開業支援策を掲げる信用金庫が増えている。しかし、こうした官民挙げての
創業・開業支援策の拡充とは裏腹に、いわゆる開業率が上昇基調に転じた、あるいは創業・開業
が増加したという話はあまり聞こえてこないのが実情である。
そこで本稿では、創業・開業支援に先進的に取り組む各方面の支援機関や信用金庫へのヒア
リングなどを通じて、創業・開業を巡る最近の動向を概観してみた。
要旨
z
90 年代半ば以降の創業・開業支援策の変遷を振り返ると、当初は「株式上場基準の段階的
緩和」が中心的であったのに対し、2000 年前後の“ネットバブル崩壊”後は、それまで以
上に「普通の創業・開業の支援」がより強く意識されるようになった。
z
統計数字から創業・開業の動向を正確に捉えていくのは難しいが、各種の統計調査から算
出されているものを総括すると、近年の開業率に対してはプラス要因とマイナス要因が拮
抗していることもあり、現状ではおおむね横ばい圏で推移しているものとみられる。
z
創業・開業局面での最大の阻害要因は現在に至っても資金調達問題とされているが、信用
金庫などの地域金融機関における創業・開業支援への取組み強化は大きな潮流となってお
り、今後は創業・開業局面で民間の金融機関を利用するようなケースも増加しよう。
z
“リレバン”を契機に信用金庫などの地域金融機関が創業・開業支援に取り組むケースが増
えているが、先進的な信用金庫では地域経済活性化への貢献もにらみながら“リレバン”
以前から取り組んでいる。今後は行政との連携など取組手法の多様化も進むとみられる。
キーワード
創業・開業支援、開業率、IT系ベンチャー、リレバン、信用金庫、国民生活金融公庫
©信金中央金庫 総合研究所
目次
1.“開廃業率の逆転”を背景に経済社会全体に広がる創業・開業支援の動き
(1)創業・開業支援の様相は“ネットバブル崩壊”を契機として一変
(2)ITベンチャー経営者台頭で「社長になる」という選択肢も認知が広がる
2.各方面の統計数字からみた最近の創業・開業の動向
(1)実態を正確に捉えていくのが難しい創業・開業の動き
(2)近年の開業率はおおむね横ばい圏で推移
(3)開業率に影響を与えるプラス要因とマイナス要因が拮抗中
3.創業・開業局面での資金調達問題
4.信用金庫などの地域金融機関にも広がる創業・開業支援の動き
おわりに
1.“開廃業率の逆転”を背景に経済社会全体に広がる創業・開業支援の動き
(1)創業・開業支援の様相は“ネットバブル崩壊”を契機として一変
わが国の開廃業率の動向をみると、90 年代以降、“開廃業率の逆転”という状況(開
業率が廃業率を下回る状態)が続いており、経済社会のダイナミズム停滞の象徴として、
各方面でしばしば指摘されている状況にある(図表1)。こうした“開廃業率の逆転”
に対し、これを開業率上昇によって前向きに解消していくことを目指し、わが国では
90 年代半ば以降、さまざまな創業・開業支援策が官民をあげて展開され、今日に至って
いる。
ただ、創業・開業支援策
7.0
と、90 年代半ばから後半
6.0
にかけては「株式上場基準
5.0
の段階的緩和」が支援策の
5.9
5.9
開業率
4.3
4.0
3.8
中心に据えられていたの
3.0
に対して、2000 年前後の
2.0
“ネットバブルの崩壊”以
1.0
降は様相が一変し、創業・
0.0
開業支援策の軸足がすそ
(図表1)開業率・廃業率の推移(企業数ベース、年平均)
(%)
の変遷を振り返ってみる
3.8
4.5
4.0
4.0
3.5
78-81
81-86
3.2
3.6
3.1
3.5
99-01
01-04 (年)
2.7
廃業率
75-78
6.1
5.6
86-91
91-96
96-99
(備考)総務省「事業所・企業統計調査」をもとに中小企業庁が算出
野の広い「普通の創業・開
業の支援」へ移行して今日に至っている状況がある点には留意しておく必要がある。
すなわち、90 年代半ばから後半にかけての創業・開業支援は、将来の株式上場を果た
すような新興企業の創出が念頭に置かれ、株式上場基準の段階的緩和(東証マザーズ
(1999 年 11 月)をはじめとした新興株式市場の創設など)をインセンティブとした創
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©信金中央金庫 総合研究所
業・開業の活発化に大きな期待が寄せられていた。
90 年代までの“創業・開業予備軍”の価値観も、20 世紀の名残もあってか、まだまだ
“成長拡大”に重きが置かれていた傾向があり、前述の政策的な流れを受けて、極論す
れば「どうせ創業・開業するなら株式上場を目指せ!」といったキャッチフレーズが主
流となっていた時代であった。結果的に、創業・開業に対する心理的なハードルは、今
日に比べるとやや高いところにあったものと推察される。
しかし、実際には期待したほどのベンチャー台頭がみられないなかで「支援ブーム」
が加熱していくような状況が生まれるに及び(非日常的な創業・開業に対する過大な期
待)、一部のIT系ベンチャー創出には一定の成果がみられたものの、支援の対象がI
T系企業に偏りすぎた結果、2000 年代初頭をピークとして、いわゆる“ネットバブル
の崩壊”といわれる世界的な経済社会現象を引き起こすまでに至っていた。
その後の創業・開業支援策は、支援対象のすそ野を広げていくような方向に大きく舵
を切り変えつつも脈々と継続していった。政府が打ち出した「開業創業倍増プログラ
ム」(2001 年6月)に沿って“1円起業”を特例として可能とする「中小企業挑戦支
援法」が制定・施行(2003 年 2 月)されたり、2002 年版の「中小企業白書」では「まち
の起業家」と地域経済活性化の関連が指摘されるなど、すそ野の広い「普通の創業・開
業の支援」がより意識されるような展開となっていった。
また、金融庁が 2003 年 3 月に打出した「リレーションシップバンキングの機能強化
に関するアクションプログラム」でも、「創業・新事業支援機能等の強化」が盛り込ま
れ、信用金庫などの地域金融機関においても、それぞれの地域で地道に創業・開業支援
に取り組む役割があることが改めて認識されるに及んでいった。
“ネットバブルの崩壊”以
(図表2)“普通の創業・開業”のイメージ
降の“予備軍”の価値観も、
個人事業
長期化する不景気の影響な
どもあり、急速に多様化が進
株式会社
展して今日に至っている。す
LLC
LLP
NPO
“普通の創業・開業”
なわち、成長拡大ばかりが重
生きがい・自分らしさ・社会貢献・存在価値・自己実現
視されるのではなく、自己実
現や社会貢献など、あくまで
「自分らしさ」に価値観の軸
“創業予備軍”
自分のやりたいことを職業にするために自ら創業にチャレンジ
足が移っていった結果、創
業・開業のコンセプトそのも
若年層
のも著しく多様化し、上場を
就職難
目指す気鋭のベンチャーば
中高年サラリーマン
リストラ圧力
高齢者
主婦
地域コミュニティ重視
(備考)信金中金総合研究所作成
かりでなく、株式上場とは無
2
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縁のコミュニティビジネス的な「普通の創業・開業」(例えば、ごく普通の飲食店の開
業や、NPO法人などで地域貢献を目指す高齢者介護ビジネスなど)も含めて、“創業・
開業予備軍”の価値観そのもののすそ野も急速に広がっていった(図表2)。
わが国の創業・開業支援の動きは、こうした変遷を経て、各種メニューの充実ととも
に、経済社会全体のコンセンサスとして広く定着しつつある。今日に至っては、“創業・
開業予備軍”にとって豊富な選択肢が用意されている状況となり、今後はいかに実際の
創業・開業者を増やすか(いわゆる開業率を上昇させるか)、あるいは、いかにしてそ
ういった気運を作り出していくか、などへ焦点が移ってきているものと認識される。
(2)ITベンチャー経営者台頭で「社長になる」という選択肢も認知が広がる
2000 年代前半から半ばにかけて、一部のIT系ベンチャー経営者の台頭が、マスメ
ディアなどによって急速にクローズアップされた。これらの動きは、わが国の “創業・
開業予備軍”の価値観に、さまざまな意味で一石を投じてきた面がある。
すなわち、90 年代半ば以降に創業・開業し、2000 年前後の“ネットバブルの崩壊”を
生き抜いてきた一部のIT系ベンチャーの経営者が、プロ野球再編問題(2004 年秋)
やメディア買収騒動(2005 年~)などを通じて、しばしばマスメディアに登場するよ
うになり、結果的に一般の人がテレビ画面等を通じて、IT系ベンチャー経営者を目に
する機会が飛躍的に増加した。
こうしたなかで、楽天(1997 年創業、ジャスダック上場)の三木谷浩史社長とイン
デックス(1995 年創業、ジャスダック上場)の小川善美社長が、躍進を遂げるIT系
ベンチャーの代表格として小学館の月刊誌「小学六年生」の対談記事に登場し、次代を
担う子供たちへ経営
者としてのメッセー
ジを伝えるなど、「創
業・開業して社長にな
る」という選択肢その
ものを認知する機会
の多様化が進んでい
(図表3)楽天㈱と㈱インデックスの概要
楽天株式会社
設立:1997年12月
上場:ジャスダック市場(2000年4月)
株式会社インデックス
設立:1995年9月
上場:ジャスダック市場(2001年3月)
従業員数:3,527人(連結)
代表者:三木谷浩史(代表取締役会長兼社長)
年商:2,139億円(2007年12月期連結)
主要事業:インターネットショッピングモール「楽天
市場」の運営など
従業員数:3,278人(連結)
代表者:落合正美(持株会社)、小川善美(インデックス)
年商:1,298億円(2007年8月期連結)
主要事業:携帯電話向けコンテンツ配信、サイト運営
(現在は持株会社インデックスホールディングスが上場)
(備考)各社のホームページなどをもとに信金中金総合研究所作成
った(図表3)。
しかし、メディアへの登場の仕方は徐々にエスカレート、一部のIT系ベンチャー経
営者の“セレブ”な生活ぶりが“勝ち組”として過度にもてはやされたりするケースが
増加する中で、2006 年には一部の経営者が証券取引法違反容疑等で逮捕されるといっ
た事件も発生し、“ブーム”のような様相を呈していた状況は次第に収束していった。
こうした一連の“ブーム”が “創業・開業予備軍”にもたらした影響には功罪両面
があるとみられるが、前述したように「創業・開業して社長になる」という選択肢もあ
ることを、次代を担う若年層等にあらためて知らしめることになったというプラス面の
3
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効果は小さくないとみられる。既存秩序を揺るがし続けた一部経営者の逮捕というマイ
ナス面の影響は否定し難いものの、わが国において起業家がクローズアップされた貴重
な機会であったことは間違いない。経済社会全体に「普通の創業・開業」への認識が着
実に広まるなかで、これと対極をなす気鋭のITベンチャー経営者がメディアを通じて
垣間見せた起業家精神の一端は、21 世紀型の自己実現の多様化の象徴ともいえよう。
なお、一連の創業・開業支援の大きな流れと、IT系ベンチャー経営者の動きをひと
つの表にまとめてみたので、大局を掴むうえでの参考としていただきたい(図表4)。
(図表4)創業・開業をめぐる最近の流れ
【創業・開業支援関連の政策的な動き】
1998 ・ 店頭市場(現ジャスダック市場)上場基準の大幅緩和
(2号基準)
1999 ・ 全国の商工会議所、商工会で「創業塾」スタート
・ 東証マザーズ創設(11月)
・ 中小企業基本法改正・施行(12月)
2000 ・ ナスダック・ジャパン(現ヘラクレス)市場創設(6月)
ネット
バブル
価値観の
多様化
普
通
の
創
業
・
開
業
自
己
実
現
I
T
系
ベ
ン
チ
ャー
2006 ・ 会社法施行、1円起業恒久化
1999
・ 東京・渋谷でITベンチャーの任意団体「ビットバレーアソシ
エーション」発足
2000
・ (米ナスダック株価総合平均指数が最高値を記録)
(その後急落=ネットバブルのピーク(3月))
・ 楽天㈱ ジャスダック上場(4月)
・ ㈱ライブドア(当時社名オン・ザ・エッジ) マザーズ上場(4月)
・ ㈱インデックス ジャスダック上場(3月)
2001
2001 ・ 政府が「開業創業倍増プログラム」や「大学発ベン
チャー1000社構想」を打ち出す
・ 国民生活金融公庫が無担保・無保証の「新創業融資
制度」の取扱い開始
2003 ・ 中小企業挑戦支援法施行、特例で1円起業可能に
・ 金融庁「リレーションシップバンキングの機能強化に関
するアクションプログラム」で地域金融機関に創業支援
を示唆
・ VECがDREAM GATE事業をスタート、起業の総合
支援サイト等を運営
2005 ・ 国民生活金融公庫が創業支援部を創設
【IT系ベンチャー経営者の動き】
株式上場基準
の段階的緩和
2003
・ 六本木ヒルズ竣工(4月)、多くの有名ITベンチャー経営者等
が集積し「ヒルズ族」として脚光を浴び始める
2004
・ ITベンチャー経営者主導によるプロ野球再編問題が勃発、
結果として「東北楽天ゴールデンイーグルス」や「福岡ソフト
バンクホークス」が誕生
・ ITベンチャー経営者によるメディア買収騒動(ライブドア→
ニッポン放送・フジテレビ、楽天→TBS)
・ 楽天・三木谷社長とインデックス・小川社長が小学館「小学
六年生」4月号の対談記事に登場
・ ライブドア社長(当時)の堀江貴文氏、証券取引法違反容疑
で逮捕(1月)
・ 村上ファンドの村上世彰氏、証券取引法違反で逮捕(6月)
2005
2006
(備考)信金中央金庫総合研究所作成
2.各方面の統計数字からみた最近の創業・開業の動向
(1)実態を正確に捉えていくのが難しい創業・開業の動き
開業率上昇へ向けての期待が高まる一方で、わが国の創業・開業の動きを統計データ
から正確に捉えていくことは困難なのが実情だ。
わが国の開廃業率の動向を示すうえで最もよく用いられているのは、総務省「事業所・
企業統計調査」をもとに中小企業庁が算出したもの(前出の図表1)で、近年の「中小
企業白書」でほぼ毎年のように登場する、ある意味で定番となっているものである。
ただ、「事業所・企業統計調査」を開廃業率の算出に用いることに対しては、いくつ
かの問題点も指摘されている。たとえば、①調査が5年おきにしか実施されないため、
その間に開業して廃業したような事業所の動きが捉えられない、②調査員による実地調
査であるため、看板が出ていないなど外観から把握しづらい事業所の動きを捉えること
は難しい、③地域単位で調査が実施されているため、調査地域を越えた事業所の移転は
4
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廃業と開業にカウントされてしまう、などである。
こうした統計上の“弱点”を補うべく、「中小企業白書」等で開廃業率の算出方法に
ついてさまざまな試みがなされているが、どのデータを利用するにも一長一短があり、
目下のところで主流となっている「事業所・企業統計調査」を決定的に代替するような
ものは見当たらないのが実情となっている。
なお、2007 年版「中小企業白書」では、NTTの「タウンページ」のデータベース
をもとに開廃業率の算出を試みている。これをみても、「事業所・企業統計調査」のケ
ースと同様、開業率が廃業率を下回るという結果が得られており、いわゆる“開廃業率
の逆転”という状況が、わが国経済社会の実態であることがあらためて認識できる内容
となっている(図表5)。
(図表5)タウンページデータベースによる開廃業率の推移
(%)
8
7.1
7
7.4
7.4
6.7
7.0
6.7
7.4
6.9
7.3
6.8
6
5.1
5
4.5
4.4
4.9
4.8
4.7
4.2
4.6
4.3
4.2
4
3
開業率(%)
廃業率(%)
2
1
0
2001.9
2002.3
2002.9
2003.3
2003.9
2004.3
2004.9
2005.3
2005.9
2006.3
(備考)1.中小企業庁がタウンページデータベース(エヌ・ティ・ティ情報開発㈱)を独自に再編加工して算出
2.中小企業庁「中小企業白書(2007年版)」をもとに作成(一部加筆修正)
(図 表 6)タ ウ ン ペ ー ジ デ ー タ ベ ー ス に よ る 業 種 別 開 業 率 の 推 移 (5年 間 )
10
9
情 報 ・通 信
8
事業活動
関連サービス
7
飲 食 ・宿 泊
6
その他の
サービス
金 融 ・教 育 ・
医 療 ・福 祉
運輸
生活関連
サービス
建 設 ・建 設 資 材
機 械 ・器 具
食 料 ・衣 料 ・
身の回り品
工業用素材
農林水産
5
4
3
2
1
2001.9
2002.3
2002.9
2003.3
2003.9
2004.3
2004.9
2005.3
2005.9
2006.3
2006.9
(備 考 )1.中 小 企 業 庁 が タウ ン ペ ー ジ デ ー タ ベ ー ス (エ ヌ ・テ ィ・テ ィ情 報 開 発 ㈱ )を 独 自 に 再 編 加 工 して 算 出
2.中 小 企 業 庁 「中 小 企 業 白 書 (2007年 版 )」を も と に 作 成 (一 部 加 筆 修 正 )
5
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また、「タウンページ」の業種区分をもとに、開業率の動きを業種別にみると、「情
報・通信」や「事業活動関連サービス」(人材派遣業やリース業など)の開業率が相対
的に高い水準で推移している状況があり、“IT系企業”の台頭という時代の流れを相
応に反映したものとなっている。ちなみに、「情報・通信」は廃業率でみても最も高い
業種となっており、近年の“IT系企業”は、新陳代謝も相対的に活発だったという状
況が推察されよう(図表6)。
(2)近年の開業率はおおむね横ばい圏で推移
ここ数年の開業率の推移に着目すると、“定番”である「事業所・企業統計調査」の
ケース(図表1)と「タウンページ」のケース(図表5)のいずれとも、著しい上昇や
低下の動きは認められず、おおむね横ばい圏内というなかで推移してきたというのが実
態とみられる。創業・開業支援の動きは、90 年代半ば以降の経済社会全体に広がってい
るが、現在までのところ、実際に開業率上昇に結びついたとは言い難いのが実情のよう
である。
ちなみに、政府系金融機関で創
(図表7)国民生活金融公庫の創業企業(創業前及び創業後1年以内)
に対する融資件数と金額
(件)
業・開業融資を手がける国民生活金
(百万
300,000
)
融公庫の融資件数や金額の推移を
250,000
見ると、ここ数年は緩やかな低下傾
200,000
向にあり、創業・開業の動きがあま
り活発とはいえない状況にあった
のではないか、ということを示唆す
るものとなっている(図表7)。
35,000
30,559
件数
31,541
27,624
183,736
28,032
30,000
26,257
金額
191,579
171,450
25,000
161,579
150,000
20,000
131,019
15,000
100,000
10,000
50,000
5,000
0
しかしその一方で、金融庁が 2007
0
2002
2003
2004
2005
2006
(年度)
年7月に公表した「地域密着型金融
(備考)国民生活金融公庫の資料をもとに信金中金総合研究所作成
(15~18 年度 第2次アクションプ
ログラム終了時まで)の進捗状況」
(図表8)地域金融機関における創業等支援融資商品による融資
をみると、地域金融機関(地域銀行
(億円)
1200
+信用金庫+信用組合=計 566 金融
(件)
8,000
6,983
1000
機関)全体の「創業等支援融資商品
金額
5,449
742
800
による融資」は着実に増加基調をた
どっている状況にあることも確認で
600
きる(図表8)。
400
件数
603
これらの機関がすべての創業・開
200
業をカバーしているわけではないた
0
179
6,000
5,000
4,000
2,817
1,948
7,000
3,000
250
2,000
1,000
0
2003
2004
2005
2006
(年度)
(備考)1.地域金融機関とは地域銀行、信用金庫、信用組合の合計(566金融機関)
2.金融庁「地域密着型金融(15~18年度 第2次アクションプログラム終了時
まで)の進捗状況の概要」をもとに信金中央金庫総合研究所作成
め、全体傾向を正確に掴むことはで
きないが、近年のわが国における創
6
産業企業情報
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©信金中央金庫 総合研究所
業・開業支援の担い手のすそ野自体は、着実に広がっているということがいえそうだ。
(3)開業率に影響を与えるプラス要因とマイナス要因が拮抗中
なお、今後の開業率がどのように推移していくのかを見通していくことも、現状把握
以上に困難といわざるをえないが、前述したように、2000 年代半ばの一部IT系ベン
チャー経営者がさまざまな形でマスメディアに登場することによって、「創業・開業し
て社長になる」という選択肢そのものが、広く国民全体に認知されるようになったこと
は、長期的にみればわが国の開業率に対しプラス要因として作用していく可能性もある
ものと考えられる。
しかしその一方で、ここ数年の景気の持ち直しの動きに対しては、①新たに事業を始
めようと考える“創業・開業の予備軍”にとっては好ましい事業環境という意味でプラ
ス要因となるとみられる反面、②雇用環境も改善したことによって「リスクをとって新
たに事業を始めるよりも、とりあえず就職しよう」という 20 世紀的な選択肢を再浮上
させることで、わが国の開業率に対してマイナス要因として作用しているという指摘も
あり、その影響度合いはプラス面とマイナス面が拮抗しているのが実情といえよう。
ややマクロ的な視点からは、「創業・開業の件数は生産年齢人口にほぼ比例する」と
いう指摘もあることなどを勘案すれば、創業・開業支援のすそ野は着実に広がっている
とはいえども、中長期的に生産年齢人口の増加が見込めない状況のなかで、今後のわが
国の開業率の動向については、決して楽観視できないとみるのがまずは妥当な見方であ
るとみられる。
3.創業・開業局面での資金調達問題
創業・開業の局面で、創業者が直面する
(%)
(図表9)創業・開業の準備期間中の苦労
60
大きな問題のひとつとして、資金調達に
50
関することがあげられる。
48.6
40
2007 年版「中小企業白書」においても、
31.6
30
6.3 5.8 5.8 5.8
9.0
2.8 2.0 1.6
その他
に、資金調達に次ぐ問題点(阻害要因)
7
(備考)1.データの出所は㈱日本アプライドリサーチ研究所「創業環境に関する
実態調査」(2006年11月)
2.中小企業庁「中小企業白書(2007年版)」をもとに作成(一部加筆修正)
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とくにない
有能な専門家(コンサルタント・会計
士等)の確保
前に経営していた会社の整理(負債
等)
業界慣行
前職からの退職
事業内容の選定
対象とするマーケットの選定
ることを示すものとなっている。ちなみ
家族の理解・協力不足
クリアすることが極めて重要な要素であ
量的な労働力の確保
目指していくうえでも、資金調達問題を
規制(許認可の取得等)
ト結果が示されており、開業率の上昇を
仕入先の確保
合が最も多い(48.6%)というアンケー
経営知識(財務・法務等)の習得
0
立地場所の選定
て「開業資金の調達」をあげる企業の割
事業に必要な専門知識・技能の習得
10
販売先の確保
る項の中で、創業準備段階での苦労とし
質の高い人材の確保
20
24.7
19.817.9
16.5
13.311.2
10.4 9.6
開業資金の調達
「創業を阻害する要因について」と題す
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としては、人材の確保(31.6%)、販売先の確保(24.7%)、などとなっている(図表
9)。
(図表10)創業・開業前に利用した資金調達先
一方、創業・開業の局面で実際に利用
した資金調達先をみると、「自己資金
(%)
90
80
(74.8%)」や「配偶者や親族からの
74.8
70
60
出資金や借入金(32.8%)」の回答割
50
合が高い点が目立ち、まずは自力で資
37.6
40
金調達、という厳しい現実を示唆する
32.8
30
19.5
20
ものとなっている(図表 10)。
11.1
0.1
5.0
そ の他
0.3
ベ ン チ ャー キ ャピ タ ルな ど か ら の 出
資金
たことを指摘したうえで、「創業時に
以 前 の勤 務 先 か ら の出 資 金 や 借 入 金
(16.1%)」という回答が多くを占め
2.9
民 間 企 業 (取 引 先 等 含 む )か ら の 出
資 金 や借 入 金
( 40.0 % ) 」 と 「 申 請 し な か っ た
友 人 や 知 人 か ら の出 資 金 や 借 入 金
白書」においては、「必要なかった
公 的 機 関 ・政 府 系 金 融 機 関 か ら の 借
入金
表 11)について、2007 年版「中小企業
配 偶 者 や親 族 か ら の出 資 金 や 借 入 金
いて尋ねたアンケート調査の結果(図
民 間 金 融 機 関 か ら の借 入 金
融機関への融資申込みとその対応につ
3.1
自 己 資 金 (預 貯 金 、退 職 金 な ど )
ちなみに、創業・開業局面での民間金
0
フ ラ ン チ ャイ ズ ・チ ェー ン本 部 か ら
の借 入 金
10
(備考)図表9に同じ
は相当厳しい資金調達状況に直面して
いることを示している。」と分
析している。
しかし、逆の見方をすれば、
「必要なかった」と「申請しな
かった」と回答している企業が、
実際に融資申請にトライしてみ
たら本当に断られたのかどうか
は明らかではなく、“トライす
(図表11)開業・創業前の民間金融機関への融資申込みとその対応
金利、返済期間などの条件面が折
り合わず、融資を受けなかった
融資を申請し
たが断られた
調達希望金額からは
減額されたが、ある程
度の金額の融資を受
けることができた
申請しても難し
いだろうと判断し
て、融資を申請
しなかった
民間金融機関
からの融資は
必要なかった
0.9%
6.2%
12.3%
40.0%
16.1%
24.4%
調達希望金額の
融資を受けること
ができた
らしなかった”という回答のみ
を指して「厳しい」とするのは
(備考)図表9に同じ
やや早計とも考えられる。実際、「融資を申請したが断られた」という回答は全体の
6.2%にとどまっているうえ、“リレバン”を契機として地域金融機関の創業・開業支援
への取組み強化が大きな潮流となってきていることも踏まえれば、融資申請さえすれば
通ったのではないか、というケースが相当数含まれている可能性もあるとみられる。
なお、国民生活金融公庫総合研究所が、2001 年に開業した同公庫の融資先企業の一
部(2,181 社)を対象として継続実施している「新規開業企業を対象とするパネル調査
結果」によると、開業当初から民間金融機関からの借入れのある企業割合は 13.8%に
8
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(図表12)民間金融機関から借入のある企業割合
過ぎなかったものの、2005 年末
50
には 45.6%にまで上昇しており、
45.6
会社設立後の時間の経過ともに
41.8
40
38.6
事業の実績も積み上がり、民間金
34.9
融機関との取引を開始する企業
30
が増加している様子がうかがえ
21.4
20
る(図表 12)。
13.8
また、同期間における民間金融
10
機関からの借入残高(1 企業当た
り)も、開業当初の 184 万円から
0
開業時
2005 年末には 975 万円へと大幅
2001年末 2002年末 2003年末 2004年末 2005年末
(備考)1.開業時と各年末時点における民間金融機関からの借入の有無について
確認できた企業(653社)について集計
2.国民生活金融公庫総合研究所「新規開業企業を対象とするパネル
調査結果について」(2006.10.25)より作成
に増加している(この間の国民生
活金融公庫からの借入残高は逆
に 824 万円から 558 万円へ
減少している)
(図表 13)。
いうまでもなく、事業見
通しの立てづらい創業・開
(図表13)金融機関からの借入残高(1企業当たり)
(万円)
1,800
1,400
業の局面では、本来的には
1,200
“ヒトのおカネ(=返さな
1,000
ければならないおカネ)を
800
あてにしてはならない”も
400
200
はいえ、自己資金だけでは
0
がでてくるのもまた現実と
みられ、まずは政府系金融
1,250
1,008
1,055
1,070
184
244
332
1,097
975
427
651
600
のであると考えられる。と
どうしても足りないケース
1,533
1,600
824
開業時
811
2001年末
738
670
599
558
2002年末
2003年末
2004年末
2005年末
民
間
金
融
機
関
国
民
生
活
金
融
公
庫
(備考)1.開業時から2005年末の各時点において、借入残高が確認できた
企業(529社)について集計
2.国民生活金融公庫総合研究所「新規開業企業を対象とするパネル
調査結果について」(2006.10.25)より作成
機関である国民生活金融公
庫からの借入れを優先するケースが多いとみられる。
しかし、前述してきたように、“リレバン”を契機として地域金融機関の創業・開
業支援への取組みが強化されてきている状況も踏まえれば、今後は創業・開業の局面
から民間金融機関のサポートのもとで「資金調達問題」をクリアしていく企業が増え
ていくことも予想されよう。
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4.信用金庫などの地域金融機関にも広がる創業・開業支援の動き
2003 年 3 月に金融庁が打ち出した“リレバン”が契機となって、信用金庫などの地
域金融機関においても、それぞれの地域社会のなかでの創業・開業支援を想定した融資
商品を新たに導入するなどの動きが活発化してきた経緯があることは前にも述べてき
たとおりである。しかし、一部の先進的な信用金庫においては、地域経済活性化への貢
献などの理念のもと、“リレバン”が打ち出される以前から創業・開業支援へ積極的に
取り組んできた経緯があることも見逃せない(図表 14)。
(図表14)創業・開業支援に先進的に取り組んでいる信用金庫の例
広島信用金庫(広島県広島市)
「起業家応援ローン」(01年6月~)、イ
ンキュベーション施設「B-スクエア」の
開設(05年6月)などに加えて、06年11
月より「創業実現応援サロン」を開
催、事業計画プレゼンテーションとそ
れに対する専門家の助言等を得られ
る機会を提供中。
呉信用金庫(広島県呉市)
地域経済活性化に寄与できる起
業・新規事業支援を資金面(助成
金)から支援するため、05年6月に
NPO法人「アクティブベースくれ」
を設立。外部審査委員も交え地域
経済活性化への寄与が見込める
事業者を選定、支援。
帯広信用金庫(北海道帯広市)
00年に「創業者支援制度」を創設、
融資と併せて経営に関する(事前)
相談、指導、サポート等を実施。05
年8月には「おびしんふれあい相談
室」を市内中心部に開設、経営相談
全般も含めた相談対応機能を拡
充。
東濃信用金庫(岐阜県多治見市)
創業支援に積極的に関わりながら地
域経済活性化に寄与していくため02
年1月に「創業支援制度&創業サ
ポートローン」を創設、相談対応拠点
として同年3月に「TOSプラザ」(くらし
と経営のサポートプラザ)を創設し、
事業計画を検証した「創業支援報告
書」の作成などキメ細かく対応。
横浜信用金庫(神奈川県横浜市)
03年4月より創業支援融資「創る」の
取扱いを開始して創業支援への取組
み姿勢を明確化。行政や国民生活金
融公庫とも積極的に連携し、小売・
サービス業から運送業、NPOまで含
めた幅広い支援体制を構築。
多摩信用金庫(東京都立川市)
創業支援融資「ブルーム」の取扱
い開始(03年4月~)、インキュ
ベーション施設「ブルームセン
ター」の開設(03年9月)などに加
え、07年秋より国民生活金融公庫
と共催で「ブルーム交流カフェ」を
開催、創業希望者が集まる機会を
創設するなどで地域経済活性化
を企図。
(備考)各信用金庫資料とヒアリングをもとに信金中金総合研究所作成
地域金融機関にとっての創業・開業局面での融資の実態は、1 件あたりが数百万円程
度と小口にとどまるケースが多いことに加えて、事業の将来性や事業計画の妥当性に対
する“見極め”に相応の時間と手間がかかることなどから、それ単独では“採算”に乗
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りにくいのが実情であると考えられる。しかし、多くの地域金融機関が融資商品の導入
などの形で創業・開業支援へ取り組んでいるのは、前述したとおり、地域経済活性化へ
の貢献といった理念的なものを実践に移しているという側面が大きいものと思われる。
また、“開廃業率の逆転”のもうひとつの側面である「廃業率」が高水準で推移するこ
とによる顧客基盤の喪失を最小限に抑え、創業・開業支援を通じて新たな顧客基盤作り
を図るという、中長期的な視点からの営業戦略という意味でも、重要性を認識するケー
スが増えているものと考えられる。
ただ、そうした“あるべき姿”とは裏腹に、創業・開業局面(=担保や保証が不十分
ななかで事業の将来性を有力な手がかりとして融資推進せざるを得ない局面)への対応
となると、リスクの見極めが難しいのが“現実”であり、元来の金融機関が苦手として
きた分野であることは今日でも変わらない。
なお、こうした見極めの難しいリスクを最小限に抑えていくため、多くの地域金融機
関では、政府系金融機関である国民生活金融公庫と連携・協調したり、国や地方自治体
の創業・開業支援制度などとのコラボレーションを図ったり、といった形で、創業・開業
支援を進めていくようなケースが増えている。
たとえば、地方自治体と地域金融機関のコラボレーションを図った最近の事例として
は、2008 年3月、東京都板橋区が板橋区立企業活性化センター(指定管理者:板橋区
起業支援フォーラムLLP)という組織を中心として、板橋区内を営業地盤とする6信
用金庫を含む 13 機関と「板橋区創業支援ネットワーク」の運営に関する協力協定書を
締結したというケースがあげられる。地域内に店舗を有する複数の金融機関に加えて、
中小企業診断士や税理士な
どの専門家が密接に連携を
図ることで、創業・開業希望
者をワンストップで支援し
ていく体制を構築するもの
で、今後の動向が注目され
(図表15)「板橋区創業支援ネットワーク」と協力協定書を締結した13機関
・東京都税理士会板橋支部
・板橋区中小企業診断士会
・東京都宅地建物取引業協会板橋支部
・国民生活金融公庫
・商工中金
・みずほ銀行
・りそな銀行
・城北信用金庫
・巣鴨信用金庫
・東京信用金庫
・瀧野川信用金庫
・東京シティ信用金庫
・東京東信用金庫
(備考)板橋区立企業活性化センターのプレスリリース(2008.3.4)を
もとに信金中金総合研究所作成
るもののひとつといえる。
信用金庫をはじめとした地域金融機関においても創業・開業支援が重要な役割である
という認識が今後も一段と広がっていくことが見込まれるなかで、その取組み手法は多
様性を帯びながら、これまで以上に地域社会全体に広がっていくことが期待されよう。
おわりに
IT系ベンチャーの経営者が頻繁にマスメディアに登場していた 2000 年代の前半は、
バブル崩壊後の長期にわたる景気低迷期の最終局面にあたり、不振を極める企業業績
や金融機関の不良債権問題など、わが国経済社会全体が閉塞感に覆われていた時期で
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もあった。当然ながら、当時の高校生や大学生らにとっての就職事情も“就職氷河期”
とよばれるほどに極端に悪化していた時期であった。
こうしたなかで、既存秩序に揺さぶりをかけ続ける若きITベンチャー経営者の“活
躍ぶり”は、当時の高校生や大学生らの目にはそれなりに痛快なものに映っていたの
ではないだろうか。既存の組織や枠組みに依存するのではなく、自らの裁量で働く道
を見つけ出していこうとする意識、すなわち「創業・開業して社長になる」という選択
肢が、現実味を帯びながら彼らの価値観のなかに刻まれていった時代でもあった。わ
が国経済社会全般に根深く浸透していた「寄らば大樹の陰」という価値観が大手企業
の経営破たんなどが相次いで現実となることで大きく揺らぎ、多かれ少なかれ、将来
の独立・開業も視野に入れているといった野望を抱く学生も少なくなかった。
振り返ってみれば、この時期がわが国経済社会にとって“開業率上昇”のきっかけ
をつかむ大きなチャンスではなかったかと考えられる。
その後、既存秩序に収まりきれない一部IT系ベンチャー経営者の逮捕という“不
幸な出来事”と歩調を合わせるかのように、わが国の景気も回復基調をたどり、高校
生や大学生らの就職事情も急速に回復していった。大手企業はこぞって新卒学生の囲
い込みに奔走、結果として「創業・開業して社長になる」という選択肢は大きく後退し、
代わって「とりあえず就職する」という選択肢が再浮上して今日に至っているように
思われる。「寄らば大樹の陰」という価値観が復活を遂げ、“開業率の上昇”がやや
遠のいたようにもみえる。
しかし、本稿の中でも述べてきたとおり、「創業・開業して社長になる」という選択
肢が一時的にでも頭の中に刷り込まれたことの意義は、いつかどこかで再び頭をもた
げてくる可能性がある。人々の価値観は今後も著しく多様化し、かつ、目まぐるしく
変化していく。こうしたなかで、21 世紀型の新しい価値観として「創業・開業して社長
になる」という選択肢が、再び脚光を浴びる日が来るかもしれない。あるいはすでに、
その胎動は始まっているのかもしれない。今後の創業・開業の動向に、あらためて注目
していきたい。
以
(鉢嶺
上
実)
《参考文献》
・国民生活金融公庫『新規開業白書』(2007 年版)
・中小企業庁『中小企業白書』(2007 年版)
本レポートのうち、意見にわたる部分は、執筆者個人の見解です。投資・施策実施等についてはご自身の
判断によってください。
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