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品質管理再認識

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品質管理再認識
連載 持続的成功のための顧客価値提供マネジメント
第 10 回
[最終回]
品質管理再認識
持続的成功のための顧客価値提供マネジメント
飯塚 悦功
Yoshinori Iizuka
東京大学大学院
金子 雅明
Masaaki Kaneko
青山学院大学
2011 年 6 月号から「持続的成功のための顧客価値提供マネジメント」と題し,持続的成功,
顧客価値提供,競争優位,それを実現するための特徴・能力,それらをシステム化し実行す
るためのマネジメントシステムの設計と運用,そしてこれらの検討を支援するツールについ
て考察を重ねてきました。今回で 10 回目となりますが,これを最終回とさせていただきます。
この連載を終了するにあたり,これまでに述べてきたことをまとめさせていただきます。
1.品質立国日本の衰退
私たちは,日本そして日本人が好きである。品質の専門家として「品質立国日本」の盛衰を分
析し,1980 年代に世界の注目を集める国になれた理由の考察を経て,ますます好きになっている。
その日本の相対的地位が落ちている。
日 本 は か つ て 一 人 当 た り GDP で 世 界 2 位 だ っ た。 も っ と も, こ の 統 計 は 世 界 中 の 国 々 の
GDP を比較するので,信頼性できる値を得るのは難しい。OECD の Annual National Accounts
Database を信じるなら,1980 年の 17 位から順調に順位を上げ 1989 年には 3 位に位置付けされ,
1990 年代は何とか 2 ∼ 5 位程度で推移したが,21 世紀を迎えついに下降の一途をたどる。2000
年の 3 位から 2008 年には 19 位まで落ち,その後少し持ち直して 2010 年には 14 位である。トッ
プの定位置は長らくルクセンブルクで 10 万ドル以上,上位には欧州の国々が並ぶ。米国は,2010
年は 8 位であり,この 10 年はほぼこのような順位にある。
スイスのシンクタンク IMD の世界競争力ランキングの推移はもっと劇的である。このランキン
グは世界の主要 50 か国ほどの総合的な競争力を測るものである。IMD は 1997 年に順位付けの考
え方・方法論を変えており,1996 年以前のデータを提供したがらない。1997 年以降の日本は 16
∼ 27 位の間を推移し 2011 年は 26 位である。この間米国は常に上位にいた。2011 年は,香港と
米国が同率の 1 位である。アジア諸国は,2010 年 1 位のシンガポールが 3 位,台湾 6 位,マレー
シア 16 位,中国 19 位,韓国 22 位,タイ 27 位である。1996 年以前の日本の順位は 4 位以内で,
1988 ∼ 1992 年は 1 位にランクされている。この時期がちょうどバブル経済期に合致する。IMD
自身が順位付けの考え方を変えたためデータを提供したくないと言っていることもあり,いかにも
泡 沫バブルの 1 位で実質を伴っていないと見ることもできるが,少なくともある時期にある尺度
で 1 位にランク付けされたことは事実である。その日本は,いま世界の主要国の中位に位置付け
される。とても好きな国ではあるが,国力の衰えは歴然である。
「先生,中国は世界の工場になりました」
7 ∼ 8 年前に中国で講演を行ったときの主催者の言で
ある。「えっ,日本を抜いたというのですか」,
「はい,先生。中国進出の海外企業の工場の生産も
含んでの中国製の工業製品という意味ですが」,
「本当ですか,信じられません」
,「本当です,先
生。日本から見れば,ちょっと古い,ハイテクでない普通の工業製品が主ですが」
。現に 2010 年
には,中国の GDP は日本を抜いて世界 2 位となった。
標準化と品質管理 Vol.65 No.3 ̶̶ 63
まさに「品質立国日本」
,「ものづくり大国日本」の相対的地位が落ちている。アジアの台頭に対
して工夫の余地のない人件費格差を指摘する向きもあるが,ジャパン・アズ・ナンバーワンとお
だてられていたころから日本の人件費は高かった。地位低下の原因はそんなところにあるのではな
い。成熟社会・経済における産業構造の変化に伴う競争優位要因の変化,そして事業収益構造の変
化に,我が国の社会・経済構造が追随できていないという構造的不整合にある。工業生産における
中国の台頭は著しいが,それは,ある種の工業製品の製造に関わる能力の,日本の能力像との比較
から必然的であることがわかる。
日本は,かつて家電製品,半導体,自動車,そしてその前の時代には鉄鋼で世界の経済を席巻し
た。ある国がある時期に成功するには理由がある。その環境で優位に立つための条件,すなわち
「競争優位要因」を現実に有しているからである。地位に変化が生じるのは,環境変化に応じて競
争優位要因の変化,経済構造の変化が生じ,自身が有すべき能力像との間にギャップが生じること
にほかならない。
ここでいう競争優位要因とは,ある事業領域において競争優位に立つために必要な能力・側面の
ことである。財務でいう方がわかりやすいなら「事業収益性」といってもよい。事業において利益
を生み出す源泉となっている能力・側面という意味である。経営環境が変化すると,当然のことな
がら競争優位要因・事業収益性が変化する。また経済構造の変化とは,事業の構造,役割分担,競
合構造の変化という意味である。例えば,アジアへの生産基地シフト,コスト構造の変化,生産―
消費地関係の変化,生産委託の状況の変化である。
中国,インドをはじめとするアジア諸国が台頭するには理由があり,また日本の相対的地位が低
下するのにも明確な理由があるのだ。
2.新・品質の時代
日本が好きな身としては日本の地位低下にあらがいたい。地位低下の理由が明らかなら話は簡単
である。環境変化の本質を知り,自身の特徴を活かして環境変化に対応できるよう自身を変化させ
ればよい。日本にはそのための知能や意欲はまだ残っているだろう。
品質立国日本はなぜ可能であったか。それは時代が品質を求めていたからである。1968 年,ド
ラッカー(Peter F. Drucker)は「断絶の時代」
(The Age of Discontinuity)というセンセーショ
ナルな書籍を書いた。断絶の時代,それは実は,品質の時代の始まりであった。ドラッカーは,こ
の本で,
「技術,経済政策,産業構造,経済理論,ガバナンス,マネジメント,経済問題の全てが
断絶の時代に突入する」と述べている。この変化は,マーケティングの分野では,「大量生産ベー
スの産業システム,投資設備中心の事業運営」から「顧客が求める価値を起点とした企業活動,事
業ドメインの考察」への変化をもたらした。まさに生産者の論理(プロダクトアウト)から,顧
客・市場の視点(マーケットイン)への変化であった。
工業製品の大衆化による経済高度成長期にあって,その競争優位要因は「品質」である。顧客の
要求に応える製品を設計し,仕様どおりの製品を安定して実現する能力をもつことによって,良質
安価な工業製品が生まれる。工業製品の企画,開発,設計,生産,販売,アフターサービスで成功
するためには,顧客のニーズの構造を知り,ニーズを実現するために必要な技術を熟知し,必要な
機能,性能,信頼性,安全性,操作性などを考慮した合理的な製品設計をし,品質,コスト,生産
性を考慮した工程設計をし,安定した製造工程を実現し,顧客ニーズに適合する製品を提供し続け
る経営システムを構築し運営する必要がある。こうして顧客が満足する品質のよい製品を合理的な
コストで生み出すことができれば,安定した利益を確保できる。経営において品質の考え方と方法
論を適用することが,工業製品の提供で成功する有力な方法である。日本が品質立国であり得た理
由,それは時代が品質を求め,競争優位要因が品質であった「品質の時代」に,品質の重要性を認
識し,これを経営の中心に置いたことにあったのだ。
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持続的成功のための顧客価値提供マネジメント 8
時代は移り,いま「新・品質の時代」を迎えている。四半世紀前までの四半世紀,すなわち
1960 ∼ 1985 年とは異なる意味での品質を中心に置くべき時代が来ている。それは,すなわち,成
熟経済社会における経営スタイルと総括できる。
成熟経済社会における経営に必要な組織能力・文化の観点で,好きな日本,日本人を過不足なく
考察してみると,悲観することはないという思いに至る。
品質の時代に日本が成功できたのは,総じて知的レベルが高いこと,チームで仕事をできる精神
構造をもっていること,そして真理追求型ハングリー精神ともいうべきマインドをもっていたから
である。広義の工業は科学・工学を活用して社会に有用なものを作り出すのだから,因果関係が理
解できる頭のよさが必要だし,勤勉でなければならないし,組織で仕事ができなければならない。
これらは,新・品質の時代にあっても依然として有効である。
ところで,日本人が有する精神構造のうち,私たちが直面している変化の時代に有効に働く特徴
は何だろうか。日本は,何をテコにして強くなるか,何が日本のコアコンピタンスになり得るかと
いうお題である。日本人の面目躍如たる特徴は「未定義でも前進できる精神構造」ではないかと思
う。未定義でも受け入れられる,図々しさというか,いい加減さというか,この精神構造が強みと
して効くのではないかと期待している。仕様が一部未確定でも前に進む図々しさ,度胸,いい加減
さ,諦めは強みになる。変更対応でも有利である。実際,開発中に変更が頻発する製品分野での,
日本人の相対的な競争力は世界トップではないかと思う。
新・品質の時代を迎え,こうした日本人の強みを生かしつつ,日本にとって強化した方がよいと
思われるのは「自律型精神構造」である。自己の価値基準をもち,自ら定義し,リスクを取り,新
たなことに取り組む,自律型人間が有する精神構造である。これにより,新たな価値・製品コンセ
プトの定義(企画)能力,新たなモデル構想・構築力の向上が促され,環境変化に対応した「新し
いものづくり能力」が向上するだろう。
日本人は他律的民族といえる。他者の基準で自分を測って自らの不足によよと泣き崩れつつも,
不屈の魂で克服する自虐的精神構造の民族といってもよい。美人を誉めるのに「日本人離れした
美人」とは何ごとか。国際化とは外国を受け入れることであり日本を売り込もうとは思わない日本
人のマインドを少し変えてもよいと思う。定義能力,モデル構想能力を向上させなければ,これか
らの日本,ものづくり,産業は立ち行かないだろう。日本人全てがそうなったら争いの国になるか
ら,自律型人間はそれほど多くなくてよい。だが,少なくとも,品質管理や品質保証部門に属して
いる方や,経営の意思決定や事業運営の中核を担う(次期)経営者層には,自律することの重要性
を理解してほしいし,現実に自律的であってほしいと思う。
3.変化の時代を生きる
バブル経済崩壊後,日本の経済は低迷を続け,失われた 10 年のはずが,いまや失われた 20 年
になっている。ようやく長く暗いトンネルから脱出できるかもしれないとの光明が見えかけたと思
ったらリーマンショック,東日本大震災,超円高,国家財政破綻寸前とたたみかけるような試練が
続く。私たちは,自分たちがどのような時代に生きていて,自分たちをどう変えるべきか強烈に意
識して,強い意志をもって自己変革を成し遂げた上で,品質立国日本を再現したいと強く思う。
社会・経済のパラダイムシフトにあって,その変化の本質・構造を理解し,将来に向けて取り組
むべき課題を明確にして敢然と立ち向かわなければならない。変化の時代に必要なこと,それは第
一に変化を知り,その意味を理解する能力(組織の学習能力)
,第二に自己の強み・弱み,特徴を
認識する能力,第三に変化した暁に実現すべき自らのあるべき姿を自覚する能力,そして第四に自
己を変革できる能力である。事業において何を変えなければならないかを正しく認識して対応する
ためには,事業環境の変化を知り,その変化が事業にどのような状況変化をもたらすかを理解し,
一方で自己の特徴を再認識しつつ,自らが有すべき新たな時代に必要な組織能力像を明確にし,現
標準化と品質管理 Vol.65 No.3 ̶̶ 65
実に自身を変えることである。
こうした思考は,様々な階層で行うことが望まれる。日本の産業競争力というレベルもよい。全
社,事業,部門というレベルでも必要である。個人のレベルでも必要だろう。それぞれが,自らが
保有する情報を基に,自らの見識をもって分析し,自分なりの洞察をもつべきだろう。それが変化
の時代に最も必要な能力,すなわち自律性のある人間が自然にとる行動様式である。自律とは,上
述したように,自分で考え,自分の価値基準をもち,自分で決め,リスクを取り,自分で実施する
という思考・行動の様式をいう。変化の時代の事業運営に必要なこと,それは「自律」である。
日本は,経済高度成長期に大成功を収めた。この大成功が,時代の変化に追従できない,あるい
は先回りできない理由かもしれない。社会経済構造が変化し,したがって競争優位要因が変化して
しまったこの成熟経済社会において,事業運営において持続的な成功を収めるためにどう考え,ど
う振る舞えばよいのか。心の呪縛を解き放ち,原点に返って再考し,この成熟経済社会期という変
化の時代に自らの思考の枠組みを再構築すること,それがこの連載の主題であった。
まずは,時代が変化したことを明確に意識しなければならない。そして,かつて成功した時代の
ビジネスモデルが成立し得ないことを理解し,新たな事業運営スタイルを確立しなければならな
い。巷には,様々な経営指南がある。これをしろ,あれはするなと口うるさい。そうした答えに安
易に飛びつくのではなく,まさに自律的に考察したい。そのための有益な視点は「顧客価値提供」
である。
事業は,製品・サービスを通して顧客に価値を提供するために,企てられ,営まれる。どうすれ
ばよいのかという即席の答えを求めるのではなく,原点に戻って自ら答えを導けばよい。私たち
は,この連載でそれを繰り返し説明し,語ってきた。そして,表 1 に示すような考察を経て,自
社の経営システム,品質マネジメントシステムのあるべき姿を明確にし,それを実現するための戦
略を策定し,実施するようお勧めしてきた。すなわち,
「顧客は誰ですか。その顧客に製品・サー
ビスを通してどのような価値を提供すべきですか。競争環境におけるその価値の提供において,も
つべき組織能力は何ですか。その能力は品質マネジメントシステムのどのような側面・要素で実体
化されていますか」というような思考プロセスで,自らの組織の経営,品質経営,品質マネジメン
トシステムについて考察する意義を訴え,その方法について説明してきた。
表 1 競争優位のための品質マネジメントシステム設計
① 製品,顧客,価値
誰(顧客)に何(製品)を提供しているのか?
顧客は製品のどんな側面(価値)を認めて(それゆえ買って)くれているのか?
② 必要な技術(再現可能な方法論)
①の製品を提供するためにどのような技術(再現可能な方法論)が必要か?
③ 競争優位要因,ビジネス成功要因
自分の特徴を考えると,どの勝ちパターンをねらうべきか?
②で特定された技術のうち競争優位要因,ビジネス成功要因の観点から重要なもの
は何か?
④ 重要な品質マネジメントシステム要素・活動
③で特定された競争優位要因の観点から重要な品質マネジメントシステム要素,品
質マネジメントシステム活動は何か?
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持続的成功のための顧客価値提供マネジメント 8
4.品質管理の再認識
変化の時代を生き抜くためには戦略的でなければならない。競争優位の視点から有効な戦略を立
案しなければならない。それが変化の時代の経営というものである。事業戦略とか,競争優位とい
うと,経営の様々な側面,例えば技術,生産,販売,調達,財務,人事,海外などについて,○○
戦略と称するもっともらしいマスタープランを作るとか,各領域における強み・弱み,機会・脅威
などについて議論しまとめ上げることをイメージするかもしれない。
だが,私たちがお勧めしたのは,品質マネジメントシステムの再設計であった。品質マネジメン
トシステムのアウトプットである製品・サービスを通して提供されるべき顧客価値,そしてその顧
客価値提供において競争優位であるためにどのような特徴・能力を有していなければならないかと
いう視点から考察することであった。
このようなアプローチは,変化の時代の戦略経営を考えるためには,視野が狭すぎるとお思いか
もしれない。だが,事業運営とは,いかに合理的に,しかるべき顧客にしかるべき価値を提供する
かが主題であるということに思い至れば,優れた製品・サービスを創出し提供するためにどのよう
なマネジメントシステムを有していなければならないかを検討することこそが中心課題となること
がわかるだろう。顧客価値提供という目的のために,その手段としてのマネジメントシステムをど
う設計・構築し,どう運営するかを考察するという方法は,まさに目的志向の賢い検討方法といえ
る。
組織を設立し経営する目的は製品・サービスを通した顧客への価値提供である。経営の目的は利
益であるという論は多いが,利益は顧客価値提供の総合的なよさを示す指標であり,また顧客価値
提供という再生産サイクルを回すための原資と考えるべきである。そして,品質とは,製品・サー
ビスを通して顧客に提供される価値に対する顧客の評価であると考えれば,品質こそがまさに経営
の目的となる。
経営・管理において,私たちはよく問題・課題という用語を使う。これらは,現状あるいは近未
来のあるべき姿からの,現状の乖離のことである。そのあるべき姿がわからなければ取り組むべき
問題・課題もわからない。そのあるべき姿を「競争力」の視点で考えるのが「競争優位のための品
質マネジメントシステム構築」であり,
「競争力の視点からの品質の考察」である。
経営ビジョン・経営課題の達成のためには,しかるべきビジョン・課題を設定し,それを実現す
るための具体的方策をもたなければならない。経営の目的は顧客価値提供なのだから,経営ビジョ
ン・経営課題の設定は,顧客価値提供,競争優位の視点から考察するのがよい。ビジョン実現,課
題達成のための具体的方策は,価値提供のために有すべき能力と,それらを実体化すべき品質マネ
ジメントシステムの要素・側面を特定することによって明確に策定できる。
このような思考ステップは,競争優位要因,ビジネス成功要因の観点での組織のあるべき姿を理
解して,この視点であるべき品質マネジメントシステムを考察しようとするものである。世の中
顧客価値提供マネジメント
組 織
特徴・能力
製品・サービス
価値
品質マネジメント
システム
顧 客
品質=価値に対する顧客の評価
図 1 品質管理の再認識
標準化と品質管理 Vol.65 No.3 ̶̶ 67
にあまた存在する品質マネジメントシステムモデルに合わせるのではなく,自らの組織のあるべき
姿を明確に認識した上で,それを自らの組織の品質マネジメントシステムに具現化するという立場
で,品質マネジメントを考えるということである。まさにこれが自律型精神構造をもつ組織の思考
様式である。
こう考えてみると,工業製品の大衆化による経済高度成長期に極めて有効であった品質管理は,
成熟経済社会期における顧客価値提供マネジメントとして依然として有効であることがわかる。し
かも,変化の時代における,持続的な成功のための戦略経営に有意義な視点を与えている。この連
載を通して再認識できたこと,それは品質立国日本を支えた経営ツールであった品質管理が現代の
経営においても依然として有効であるし,より強力な武器になり得るということである。
5.おわりに
日本は戦後,米国から学んだ品質管理の科学性に,経営・管理における人間的側面への考慮を加
え,経済高度成長を謳歌し,品質立国日本,ものづくり大国日本などと称賛された。時代は移り,
経済・社会の成熟に伴い,経営すなわち顧客・社会への価値提供のスタイルに変革が求められてい
る。
この連載では,顧客価値提供において,どのような経営環境の変化にも的確に対応し,顧客から
の高い評価を受け続けることによって財務的にも成功するような経営スタイルを考察してきた。そ
の考察をもとに,実際に持続的成功を具現化する品質マネジメントシステムの設計,構築,運営,
改善について,日本規格協会に組織された研究グループのメンバーが実践的研究内容を紹介してき
た。
連載を通して実現したかったこと,それは,品質に対する求心力の低下した日本の産業界に対し
て新たな品質経営のモデル・ツールを提示するとともに,自律的に,現代の成熟経済社会にふさわ
しい方法論を開発し発信することの重要性を訴えることであった。この連載で訴えてきた内容はゴ
ツゴツした成熟度の低いものだったかもしれない。だが,その心意気は感じてほしかった。わかっ
てくださる方がいらっしゃるに違いないと信じて連載を続けてきた。寛容の精神でお読みいただい
た読者諸賢に厚く御礼申し上げたい。
長らくお付き合いいただきありがとうございました。
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「変化の時代をたくましく生きる」
シンポジウム
∼製品の価値を通して自社の事業を見直す∼
参加のすすめ
経済・社会の成熟化は変化の時代をもたらし,組織にとって変化への対応が重要な経営課題の一
つとなっております。組織の持続的成功を実現するためには,提供する製品・サービスの価値が顧
客・社会から高く評価され,受け入れられなければなりません。
現在,わが国の中小・中堅企業は,グローバル化の進展による競争の激化など厳しい経営環境下
にありますが,高い付加価値を生み出し,多様なサプライチェーンを担うなど,わが国の産業を支
える存在であることは言うまでもありません。
当協会でも,中小・中堅企業がたくましい組織として発展・成長を続けていくことを支援したい
という思いから,産学の専門家の方々のご協力のもと,変化の時代をたくましく生きる組織作りに
資する研究を行ってまいりました。
今回のシンポジウムでは,変化の時代をたくましく生き続けようと日夜努力されている中小・中
堅企業の経営を担う方々に,製品を通して顧客に提供すべき価値を認識し,価値提供における競争
力の源泉となる組織能力を明確にし,能力を組織的に発揮できるマネジメントシステムを構築する
ための方法論及びその実践ツールをご紹介いたします。また,この方法論を適用した企業の取り組
み事例を紹介し,より深い理解を促すためのパネルディスカッションを行い,さらに意見交換の場
も設けます。
本シンポジウムを通じて,組織の存在意義と変化の時代を生きる優れた組織の要件を理解し,自
社の事業を見直すきっかけにしていただくとともに,
次世代の経営者の育成にもお役立てください。
本シンポジウムでは,
(財)日本規格協会主催の「超 ISO 企業研究会」の研究成果の一部をご紹
介いたします。
日 時
2012 年 2 月 21 日(火) 13:30∼18:00(開場 13:00)
会 場
東京開催 日本規格協会本部ビル 6F 大講堂(東京都港区赤坂 4–1–24)
対象者
主に中小・中堅企業の経営者,経営幹部,将来の経営を担う方々
参加費
維持会員:無料
一 般:5,250 円(消費税込み)
申込先・問合せ先
【※申込受付は名古屋支部にて
行います。
】
(財)日本規格協会 名古屋支部 担当/赤井澤(あかいざわ)
TEL:052–221–8316 FAX:052–203–4806
申込書は研究会のホームページよりダウンロードいただけます。(http://www.tqm9000.jp/)
プログラム ※プログラムは変更する場合がございます。
時 間
コンテンツ
タイトル
講演者(敬称略)
13:30–14:00
講 演
飯塚 悦功
「変化の時代をたくましく生きるために
東京大学工学系研究科特任教授/
組織が有すべき要件」 超 ISO 企業研究会委員長
14:10–15:10
講 演
「製品の価値を通して自社の事業を見直す 金子 雅明
青山学院大学理工学部助手/
ための方法論とその実践ツール」 超 ISO 企業研究会委員
15:20–16:20
事例紹介
「どのような事業環境でも成功できる
丸山 律夫
組織づくりをめざして」 岡谷電機産業(株)代表取締役会長
16:25–17:00
パネルディスカッション
17:10–18:00
意見交換(自由参加)
「変化の時代を生きる
超 ISO 企業研究会委員
∼価値,能力,システム∼」 +事例紹介者+他
参加者+超 ISO 企業研究会委員
標準化と品質管理 Vol.65 No.3 ̶̶ 69
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