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4-3 自然公園

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4-3 自然公園
(4) 日本の保護区
4−3)自然公園
4−3−1) 自然公園(国立公園・国定公園・都道府県立自然公園)の指定
a)制度の概要
自然公園法に基づき、わが国を代表するすぐれた自然の風景地やそれに準ずる地域については、それぞれ国立公園
と国定公園に指定され、また、都道府県を代表するすぐれた風景地については、都道府県立自然公園に指定されてい
る。
全国で国立公園は 28 公園、国定公園は 55 公園、都道府県立自然公園は 304 公園あり、この総面積は国土面積の約
14%を占めている。また、美しく特色ある海中の景観を維持するため海中公園地区が全国で 61 地区指定されている
(平成8年 10 月1日現在)。
これらの公園では、自然の保護とともに、野外レクリェーションの場としての利用がなされ、年間約 10 億人が訪
れている。
b)指定
1)国立公園
わが国の風景を代表するすぐれた自然の風景地であり、環境庁長官が自然環境保全審議会の意見を聞いて指定し、
国が管理を行う。現在 28 公園、205 万 ha(国土面積の 5.4%)が指定されている。
2)国定公園
国立公園に準ずる自然の風景地で、都道府県の申出をうけ、環境庁長官が自然環境保全審議会の意見を聞いて指定
するが、管理は都道府県が行う。現在 55 公園、133 万 ha(国土面積の 3.5%)が指定されている。
3)都道府県立自然公園
国立、国定公園に次ぐ自然の風景地で、当該都道府県を代表するもの。都道府県が条例によって指定し、自ら管理
を行う。現在 303 公園、195 万 ha(国土面積の 5.2%)が指定されている。
c)自然公園選定要領
自然公園は傑出した自然の風景地中、次の用件を具備するものにつき選定するものとする。
第1要件 景観
1 国立公園 同一の風景型式中我が国の風景を代表すると共に、世界的にも誇り得る傑出した自然の風景であ
ること。
2 国定公園 国立公園の景観に準ずる傑出した自然の大風景であること。
3 都道府県立公園 都道府県の風景を代表する傑出した自然の風景であること。
(3)評価の条件
ア 国立公園
①景観の規模
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広大な地域で景観が雄大性に富み、その面積は原則として約 30,000ha 以上を基準とすること。ただし、海岸を
主とする公園にあっては、原則として面積約 10,000ha 以上を基準とすること。
②自然性
原則として面積 2,000ha 以上を基準とする原始的な景観核心地域を有し、1∼数個の生態系が人間の開発や占有
によって著しく変えられていないこと、あるいは動植物の種や地形地質及び動植物の生息地に特別な科学的、教
育的、レクリエーション的重要さのあること。海岸を主とする公園にあっては核心地域の海岸線の延長が原則と
して 20 キロ以上あること。
③変化度
2以上の景観要素から構成され、景観が変化に富んでいること。
イ 国定公園
①景観の規模
比較的広大な地域で、その面積は原則として約 10,000ha 以上を基準とすること。海岸を主とする公園にあって
は、原則として面積約 3,000ha 以上を基準とすること。
②自然性
原則として面積 1,000ha 以上を基準とする原始的な景観核心地域を有し、その生態系が良好な自然状態を保持し
ていること。海岸を主とする公園にあっては核心地域の海岸線の延長が原則として 10 キロ以上であること。
第2要件 土地 (略)
第3要件 産業 (略)
第4要件 利用 (略)
第5要件 配置
1 国立公園 前記第1乃至第4の要件を具備するものについては配置を考慮しないこと。
2 国定公園 前記第1乃至第4の要件を具備するものにつき利用の利便を考慮して全国的に配置の適正を図る
こと。
3 都道府県立公園 前記第1乃至第4の要件を具備するものにつき利用の利便を考慮して都道府県内の配置の
適正を図ること。
環境庁自然保護局(1997):人と自然の共生をめざして 環境庁 自然保護局 −その役割と仕事―
環境庁自然保護局国立公園課 (1995):第 7 次改訂 自然公園実務必携、第一法規
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(4) 日本の保護区
4−3)自然公園
4−3−2) 公園計画
自然公園の保護と利用を適正に行うために、それぞれの公園ごとに、公園計画が定められているが、大別すると保
護計画と利用計画がある。
保護計画には、一定の公用制限のもとで風致景観の維持を図るため風致景観の特質、公園利用上の環境保全の必要
性に応じて「特別保護地区」、「第1種、第2種、第3種特別地域」「普通地域」に地域を区分けする保護規制計画
と、植生の復元のための植生復元施設など、景観の保護や利用上の安全を確保するために必要な施設に関する保護施
設計画がある。
利用計画には適正な公園利用を図るために一定の行為を制限、禁止する措置等を定める利用規制計画と、自然公園
利用にふさわしい施設を計画的に整備するための利用施設計画がある。
a)保護計画
1.保護規制計画
(1)特別地域
ア 選定要件
特別地域は、すぐれた風致景観を有する地域(海面(最低低潮時における汀腺より海側をいう)を除く)であって、
次に掲げるもののうちから選定するものとする。
(ア)すぐれた自然の状態を維持する必要がある地域
(イ)利用上重要な土地及びその周辺地で、適正な環境を保全する必要がある地域
(ウ)社寺、史跡、霊場、伝説地、伝統的または風土的建築様式をそなえた集落地等の文化景観が、周囲の自然と
相まって特徴ある景観を呈している地域
(エ)自然景観の育成が必要であり、かつ、復元の見込みのある地域
(オ)上記の他特定の風致景観を維持する必要がある地域
イ 特別地域の区分
特別地域は、特別保護地区及びその他の特別地域(第 1 種、第 2 種及び第 3 種)に区分するものとする。この区分
は、風致景観の特質に基づき行うものとし、その区分に当たっては、他の法益との調整を図る等適切な保護管理が行
われるように留意するものとする。
(ア)
特別保護地区
特別保護地区は、特別地域内で特に厳重に景観の維持を図る必要のある地区であって、次に掲げるもののうちから
選定するものとする。
a 特定の自然景観が原生的な状態を保持している地域
b 高山帯、亜高山帯、風衝地、湿原等人為の影響を受けやすい地域
c 植物の自生地又は野生動物の生息地若しくは繁殖地として重要な地域
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d 地形、地質が特異である地域又は特異な自然現象が生じている地域
e 優れた天然林の地域
f 樹齢が特に高く、かつ学術的価値を有する人工林の地域
(イ)特別地域の地種区分
特別地域の区域から特別保護地区を除いた部分は、非常に多岐にわたる要素を含み、風致の維持の必要性も異なる
ので、これを自然公園法施行規則第 9 条の 2 の規定に基づき第 1 種、第 2 種及び第 3 種に区分するものとする。
(2)普通地域
普通地域は、公園区域のうち特別地域及び海中公園地区以外の区域をいう。
ア 地形、地貌、その他自然景観上特別地域と一体をなす地域内の集落地、農耕地、森林等であって、景観の維
持を図る必要性は特別地域ほど高くはないが、風景の保護を図る必要がある地域
イ 特別地域の保護又は利用上必要な地域
2. 保護施設計画
保護施設計画は、景観又は景観要素の保護及び利用上の安全を確保するために必要な個々の施設の配置と整備方針
を定めるものである。
b)利用計画
1.利用施設計画
利用施設計画は、公園における多様な利用形態のうち、当該公園にふさわしいものについて積極的にその増進を図
ることを目的として、計画的に施設の整備を行い利用者を誘導するため、集団施設地区及び自然公園法施行令第 4 条
第 1 号から第 9 号までに掲げる施設(以下「利用施設」という)について、その配置と整備方針を定めるものである。
利用施設計画を定めるに当たっては、次の事項に留意するものとする。
ア 利用施設計画は、当該公園内に現に存在し、又は将来設置が見込まれる利用施設すべてに関して網羅的に定める
ものではなく、公園というすぐれた自然の環境の中で、適正な利用を増進するため必要不可欠なものを定めるもので
あること。
イ 利用施設計画は、適正な利用を増進するために必要な施設及びその適地を今後の実現の可能性の見通しの上に立
って定めるものであること。
(1)集団施設地区
ア 選定要件
イ 区域
(2)利用施設
利用施設については、単独施設(道路及び運輸施設以外の利用施設をいう)、道路及び運輸施設に区分して定める
ものとする。
ア 道路(車道)、イ 道路(自転車道)、ウ 道路(歩道)、エ 宿舎
2.利用規制計画
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利用規制計画は、特に優れた景観地において利用の増大に対処し、これの適正な利用と周辺の自然景観の保護を図
るため、実情に応じ利用の規制を行う必要がある場合に定めるものとする。。
計画としては、対象地区の利用現況と当該地区の適正な利用のあり方を踏まえ、利用の時期、方法等につき特別に
調整し、制限し、又は禁止する必要のある事項について定めるものとする。
環境庁自然保護局(1997):人と自然の共生をめざして 環境庁 自然保護局
環境庁自然保護局国立公園課 (1995):第 7 次改訂 自然公園実務必携、第一法規
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(4) 日本の保護区
4−3)自然公園
4−3−3) 管理計画、管理体制、行為規制、自動車等の乗り入れの規制、
a)管理計画
国立公園管理計画は、地域の実情に即した現地管理業務の一層の徹底を期することにより国立公園の適正な保護と
利用の推進を図ることを目的として作成するもので、国立公園管理事務所長が作成することとなっている。
土地の所有によらない地域制の日本の公園は、国、地方自治体その他による共同管理が普通であり、管理計画の作
成に当たってはこれら関係者間の合意の形成が重要である。
管理計画は、最終的には環境庁自然保護局長により受理・認可された後、実施に移される。管理計画において検討
する項目は、おおむね以下の通りとなっている。
(1)管理のガイドライン
(2)風致景観の管理に関する事項
(3)地域の開発、整備に関する事項
(4)土地及び事業施設の管理に関する事項
(5)利用者の指導に関する事項
(6)地域の美化修景に関する事項
(7)その他
b)管理体制
国立公園内における風致景観の保護や管理、公園事業者に対する指導、公園利用者への自然解説など様々な業務を
行うため、主要な国立公園には、国立公園・野生生物事務所が置かれている。また、国立公園管理官(パークレンジ
ャー)が配置されている国立公園もある。
平成8年度末現在国立公園・野生生物事務所は、東北海道地区(釧路市)、西北海道地区(札幌市)、東北地区
(青森県十和田湖町)、北関東地区(日光市)、南関東地区(神奈川県箱根町)、中部地区(長野県安曇村)、近畿
地区(新宮市)、山陰地区(米子市)、山陽四国地区(岡山市)、九州地区(熊本県阿蘇町)、沖縄地区(石垣市)
の 11 ヵ所あり、パークレンジャーは 164 人(平成 8 年度末定員)配置されている。
c)行為規制
自然公園内には、風致景観の保護のため、特別地域、特別保護地区及び海中公園地区が指定されている。これらの
地域において建物などを作ろうとする場合は、あらかじめ環境庁長官又は都道府県知事の許可が必要とされている。
許可できるかどうかは、「国立公園内(普通地区を除く)における各種行為に関する審査指針」に照らして判断して
おり、風致景観の適正な保護に努めている。国立公園内の特別地域及び特別保護地区における環境庁長官に対する各
種行為の許可申請件数は平成 7 年度で 5,376 件あり、うち一定規模以上の開発行為等で環境庁長官の許可を要するも
のは 942 件であった。また、普通地域においても一定の行為はあらかじめ都道府県知事への届け出が必要となる。
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d)自動車等の乗り入れの規制
近年普及の著しいスノーモビルやオフロード車等の乗り入れによる植生や野生動植物の生息・生育環境への被害を
防止するため、1990(平成 2)年 12 月から国立公園又は国定公園の特別地域のうち環境庁長官が指定する区域にお
いては、これらの行為が規制されるようになった。1996(平成 8)年 10 月現在、大雪山国立公園をはじめとする 14
国立公園 25 地域 191,737ha と 7 国定公園 9 地域 42,490ha が乗り入れ規制区域に指定されている。
自然保護年鑑編集委員会 編(1996):総説、自然と共に生きる時代を目指して 自然保護年鑑4、日正社
環境庁自然保護局(1997):人と自然の共生をめざして 環境庁 自然保護局 −その役割と仕事―
環境庁自然保護局国立公園課 (1995):第 7 次改訂 自然公園実務必携、第一法規
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(4) 日本の保護区
4−3)自然公園
4−3−4)入園者数、予算、自然公園・野生生物保護関連税制、民有地買い上げ、地域経済への寄与
a)入園者数
わが国の自然公園への入園者数は、日本経済が急速に発展した昭和 40∼50 年代にかけて急増し、現在では、年間
10 億人以上の入園者数が見られ、これは日本の自然公園の大きな特徴の一つである。これに伴い各地で広範囲にわ
たるゴミの散乱、利用者の集中による混雑や施設の不備、広報の不足などの問題が発生するようになった。これらは
自然公園管理上重要な問題であり、誰が費用を負担するか等の新たな論議を呼んでいる。
b)予算
1995(平成 7)年度、1996(平成8)年度、1997(平成9)年度の環境庁自然保護局の総予算額はそれぞれ、
13,084,580(千円)、15,061,386(千円)、16,577,872(千円)であった(国立公園協会:1998)。
c)自然保護関係の税制
1)譲渡所得の特別控除
国立・国定公園の特別地域及び自然環境保全地域の特別地区内の土地が、国・地方公共団体等に買い取られる場合
においては、所得税及び法人税に関し、長期譲渡所得については 2000 万円、又は当該譲渡所得額のいずれか低い方
が特別控除され、短期譲渡所得については、2000 万円が特別控除されている。
また、鳥獣保護区特別保護地区のうち天然記念物等の生息地及び生息地等保護区管理地区内の土地が、国・地方
公共団体等に買い取られる場合においては、それぞれにつき特別控除額が 1500 万円とされている。
これらに加え、譲渡所得の特別控除(1500 万円)が適用される対象に、都道府県立自然公園特別地域内又は都道
府県自然環境保全地域特別地区内で、高度の規制が行われている地域として環境庁長官が認定したものが含まれる。
2)固定資産税の非課税
昭和49年、地方税法の改正がなされ、自然環境保全の推進とこれに伴う私権との調整をはかるため、国立・国
定公園の特別保護地区及び第1種特別地域の土地(地目山林・原野・池沼に限る)にかかる固定資産税の非課税措置
が新たに講じられたが、このほか、第2種特別地域について、同時に特別地区及び第1種特別地域内の土地と同様の
規制を受けていると認められる地域について固定資産税の軽減措置を講ずることが適当とされ、自治省から通知がな
された。
次いで、昭和 50 年には、都道府県立自然公園の特別地域内の土地についても、国立・国定公園の特別保護地区及
び第1種特別地域と同様の規制を受けていると認められる土地については、これらの地域との均衡を考慮して、固定
資産税の軽減措置を講ずることが適当である旨、自治省より上記通知の改正が行われた。
さらに、昭和 52 年には、自然環境保全地域特別地区(地目池沼・山林・原野に限る)及び都道府県自然環境保全
地域特別地区(地目池沼・山林・原野に限る)で、自然環境保全地域と同様の規制が行われている土地についても、
固定資産税の軽減措置を講ずることが適当である旨、自治省から通知がなされた。
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これらに加え、平成6年には、生息地等保護区の管理地区内の土地で、国立・国定公園特別保護地区内の土地と同
様の規制が行われていると認められる場合、非課税措置を講ずることが適当である旨、自治省から通知がなされた。
3)自然環境保全法人に係る課税の特別措置
ナショナル・トラスト(国民環境基金)活動の一層の推進を図ることを目的として、昭和 60 年4月から、優れた
自然環境の保全・活用に関する業務を行い適正な運営が確保されている法人(自然環境保全法人)に対する、寄付金
等についての税制上の優遇措置(所得税・法人税・不動産所得税・固定資産税関系)が設けられたところであるが、
これに引き続き、昭和 61 年4月からは、同法人に対して相続財産を贈与した場合の当該財産に係る相続税に非課税
措置が実現した。
4)その他の措置
自然環境の保全等特定の目的の公益信託に対する信託金等については、一定の範囲での寄付金控除(所得税)、損
金算入の課税の特例(法人税)措置等が認められている。
d)民有地買い上げ
国立・国定公園や国設鳥獣保護区の区域は、民有地を含んでいる。これらの民有地の内、すばらしい自然を有して
おり、所有者から申し出があったもので都道府県がこれらの土地を買い上げるものについて、資金の補助を行ってい
る。
1996(平成8)年3月末日現在、国立公園 13 ヵ所、国定公園5ヵ所、国設鳥獣保護区2ヵ所の計 20 ヵ所、6,587、
50ha(事業費約 125 億 7148 万円)が買い上げられている。
e)自然公園の地域経済への寄与
*自然公園が観光等の面で地域経済に貢献していることは大いに考えうるが、わが国では、この点に関する調査検
討資料ははなはだ乏しい。わずかに政策科学研究所(1978)などがある。
これはわが国の自然公園が無料入園制であることとも関係しているものと思われる。
自然保護年鑑編集委員会 編(1996):総説、自然と共に生きる時代を目指して 自然保護年鑑4、日正社
(財)国立公園協会 編(1998:1998):自然公園の手びき、国立公園協会
(財)政策科学研究所(1978):環境庁委託業務報告書 自然公園計画策定段階における社会・経済的影響予測手法
に関する調査報告書
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(4) 日本の保護区
4−3)自然公園
4−3−5)国立公園管理官、自然保護局の組織
a)レンジャー制度の概要
1.レンジャー制度の歩み
米国の国立公園では、パーク・レンジャーと呼ばれる国の職員が各国立公園の管理や利用者指導などの業務に従事
している。
我が国においても国立公園の現地管理に当たる専門家が必要であることは、戦前から考えられていたが、終戦前後
の混乱もあって実現に至らなかった。我が国でこうしたレンジャー制度が実質的に発足したのは、12 名の公園技術
者が国に採用され各地の国立公園に配属された昭和 28 年のことである。昭和 33 年には 40 名が初めて正式に定員化
され、その後毎年数名ずつの増員が認められて、現在では全国 28 の国立公園を 11 のブロックに分けて、各ブロック
に所在する国立公園管理事務所が管轄している。なお、国立公園管理事務所の傘下には、国立公園管理官事務所が置
かれ、管理事務所が設置されていない国立公園などの管理事務を分担している。
これら事務所に勤務する国立公園管理官(「レンジャー」という名称は米国の制度にならった通称である)は平成
4年度末現在 128 名であるが、最近では、増加する業務に対応するため、新規採用だけでなく、林野庁等からの部門
間配転(いわゆる移籍)による職員も受け入れて、現地管理体制の強化を目指している。
2.レンジャーの業務
国立公園は、風景や自然の質、人の生活と自然とのかかわりあいなどそれぞれの公園ごとに異なる特徴を持ってお
り、現地の状況に即した管理が必要である。とりわけ、管理の中心を占める風致景観の維持に関しては、風景の特質
を把握したきめの細かい技術と感覚が求められる。
レンジャーは、こうした各地域の特質に配慮して策定された公園計画の円滑かつ適正な実施を図るために以下のよ
うな業務を行っている。
ア.公園計画の策定や見直しに必要な現地調査を行ったり、それに基づき原案を作成して都道府県をはじめ地元関係
者等と意見調整を図る。
イ.風致景観の維持を図るため、木竹の伐採や工作物の新改増築が公園の風致景観を損なうことのないよう事業者を
指導・規制するとともに、本庁に対して各種開発行為等の許認可に関する審査状況を報告する。また、現地における
美化清掃活動や植生復元事業等を推進する。
ウ.公園の適正な利用を推進するため、公園利用者のための施設の適正な運営に当たるとともに、利用者に対し、自
然解説等による案内指導を行うなど適切な利用の誘導に努める。さらに快適な利用環境を維持するため、不適切な利
用に対して指導等を行う。
エ.環境庁所管の国有地及び施設等の適正な維持管理を図るため、土地使用の状況や施設の管理状況の把握に努め、
必要に応じその改善に当たる。
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b)パークボランティア、サブレンジャー
国立公園では、環境庁職員であるレンジャー以外にもボランティア活動等によって自然を守り、公園を訪れる利用
者が自然とふれあえるように活動している民間の人達がいる。これらの人達はパークボランティアやサブレンジャー
と呼ばれ、国立公園を守る上で重要な役割を果たしている。
1)パークボランティア
パークボランティアはボランティア活動により、国立公園の自然保護活動を行っている民間の人達である。公園内
をパトロールしながらゴミを拾ったり、国立公園利用者に自然観察やスライドによる自然の紹介、自然保護のために
守らなければならないマナーを伝えるといった活動を行っている。
平成7年 12 月現在、富士箱根伊豆国立公園箱根地区や雲仙天草国立公園雲仙地区など全国 21 の国立公園 33 地区で
約 1,700 人もの人達が自然を守るための活動を行っている。
2)サブレンジャー
日光国立公園尾瀬地区や中部山岳国立公園上高地地区のように特に利用者が多い地区で利用が集中する夏休みを中
心にサブレンジャーと呼ばれる人達が自然を守るために様々な活動を行っている。サブレンジャーはレンジャーの指
導のもとで自然保護活動に当たるアルバイトで主に学生が多い。活動をとおして自然を守るための知識と経験が得ら
れることから、毎年自然保護に関心のある全国の学生から多くの問い合わせがある。
c)自然保護局の組織
自然保護に関する行政機関は、環境庁のほか、関係する法律等を所管する国土庁、文部省、農林水産省、建設省な
ど多岐にわたっているが、ここでは自然環境の保護及び整備に関する総合調整を任務としている環境庁自然保護局の
組織の概要を示す。
自然保護局には、企画調整課、計画課、国立公園課、施設整備課、野生生物課の5課と、鳥獣保護業務室、自然ふ
れあい推進室、生物多様性センター(旧自然環境調査室)の3室が置かれている。また、出先機関として国立公園管
理事務所と国民公園管理事務所が各地に置かれている。
自然保護年鑑編集委員会 編(1992):総説、世界と日本の自然は今 自然保護年鑑3、日正社
環境庁(1992):自然と人とのよりよい関係を求めて 環境庁自然保護局 −その役割と仕事―
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(4) 日本の保護区
4−3)自然公園
4−3−6)自然公園等における自然とのふれあいの場の整備、美化清掃事業
a)公共施設の整備
環境庁では、自然とのふれあいを求める人々のニーズに応えるため、豊かな自然環境を有する自然公園から居住地
周辺の身近な自然地域まで、その自然の特質に応じた自然とのふれあいのための施設整備を行ってきている。
国立・国定公園においては、多様な自然環境を保全すると共に安全で快適な利用を図るため、ビジターセンターや
公衆トイレ、野営場等自然公園を利用するための基幹となる施設の整備を進める他、日本を代表するような国立・国
定公園の核心地域における自然環境の保全や復元と利用施設の整備を進める総合整備事業や、公園の中で生き物など
とふれあい、自然を学ぶことのできる中核的施設の整備等を推進している。
また、国立・国定公園区域の外でも身近な自然とのふれあいを推進するため、その保全と活用を図り、自然の中で
憩うことのできる場づくりを進めてきている。
国立・国定公園の施設整備や身近な自然とのふれあいの場の整備を行う「自然公園等事業」は、1994(平成 6)年
度から公共事業に位置づけられ、国民生活に密接に結びついた新たな公共事業としてその推進が図られている。
b)緑のダイヤモンド計画
自然環境保全審議会の答申「自然とのふれあいの確保の方策」1995(平成 7)年7月では、「地域の個性に応じた
多様な自然とのふれあいの場のネットワークを形成するための施策を展開する必要がある」とし、「すぐれた自然で
構成される国立公園、国定公園において、国を代表する自然地域にふさわしい風格を感じさせ、国民にとっても利用
しやすい公園づくりを、ハード、ソフト両面から実現し、質、量とも豊かな自然とのふれあいの機会を提供する」た
めの施策を一層充実させていくべきとしている。
緑のダイヤモンド計画(自然公園核心地域総合整備事業)は、わが国を代表する国立、国定公園の核心地域の自然
環境の保全の徹底と自然体験・学習といった他では得がたい利用の推進を図るための総合整備事業であり、1995(平
成 7)年度から着手されている。
[事業内容]
・自然環境保全修復事業
自然環境の保全・修復のために行う植生復元、動物繁殖、景観保全等のための事業等。
・自然体験フィールド整備事業
自然環境を保全しながら、適切な指導とマナー、ルールに従って自然学習、自然体験のできる質的に
すぐれたフィールドを面的に整備。
・利用拠点整備事業
自然とのふれあいのためのオリエンテーション及び利用者指導、保全活動を中心として、核心地域の
利用のための施設を集約的に整備。
・利用誘導拠点整備事業
核心地域へのルート上にアクセス・コントロール、核心地域のリアルタイム情報の提供及び利用ルー
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ルの指導のための拠点を整備。
c)エコ・ミュージアム整備事業
エコ・ミュージアム整備事業は、国立・国定公園の主要な利用エリアにおいて、子供達を始めとした公園利用者が、
生き物や自然の植生などとふれあい、自然を学ぶことのできる中核施設として整備が進められている。
エコ・ミュージアムは、地域の自然を生かしつつ、エリアの総合的な自然や利用の情報の提供、自然学習、適正な
利用指導等を行えるエコ・ミュージアムセンターと、野外で実際に観察などが行えるエコ・フィールドから成ってい
る。
[事業内容]
・エコ・ミュージアムセンター
常駐するインタープリターによる自然解説機能、ネイチャークラフトや実験などが行える体験学習機
能、利用情報提供機能、ボランティア活動等に対する支援機能等を備えた施設。
・エコ・フィールド
エコ・ミュージアムセンターと一体となって自然体験を行うフィールド。エコ・ミュージアムセンタ
ーと自然観察施設等をトレイル(歩道)で結び、野生動植物の生態や海、川、湿原などを観察する場。
d)美化清掃事業
自然公園を訪れる人々が出すゴミは、単に美観を損ねるだけでなく悪臭の発生などの環境汚染を引き起こす場合が
ある。そこで、特に利用者の多い国立公園内の主要な地域の美化清掃を積極的に進めるため、現地における美化清掃
団体の育成強化を図り、それらの団体が行う清掃活動事業に対し資金の補助を行っている。
また、毎年 8 月の第 1 日曜日を「自然公園クリーンデー」とし、関係都道府県等の協力の下に全国の自然公園で一
斉に美化清掃活動を行っている。
環境庁自然保護局(1997):人と自然の共生をめざして 環境庁 自然保護局 −その役割と仕事―
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(4) 日本の保護区
4−3)自然公園
4−3−7)日本の自然公園の特徴
a)国立公園に対する国民意識
我が国における国立公園を含む自然公園の制度は、すぐれた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を
図り、国民の保健・休養・自然保護教育を進める制度である。1991(平成 3)年 6 月の総理府「自然の保護と利用に
関する世論調査」により国民の自然公園に対する意識をみると、自然公園の制度を知らない人が 3 割以上あり、自然
公園へでかける目的についても、「風景を楽しむため」が 50.6%、「ドライブを楽しむため」30.0%、「登山、ハ
イキング、海水浴、森林浴などを楽しむため」が 29.7%と上位を占め、自然公園とは優れた風景地であるとの漠然
とした理解しか得られていないことがうかがわれる。
国立公園や野生動物保護区は、アウトドア指向を持つ米国やワンダーフォーゲル発祥のドイツなどでは、そこ訪ね
る人々にある種の野生動物が絶滅の危機にあることを認識させ、それが自然保護運動の強化に役立つとともに、一人
一人のライフスタイルを変えることにも多大の貢献をなしたといわれている。
こうした意味では、我が国においても、今後日本人の生活に日本の国立公園がプラスに作用するような政策が検討
される必要があろう。
b)欧米の国立公園との比較
データが入手されている欧米3国(英国、米国、カナダ)の国立公園との比較をしてみる。
土地所有形態からみると、米国、カナダは、国立公園当局が土地を所管する営造物型の公園であり、英国、日本は
土地所有に関わりなく区域を指定する地域性の公園である。米国、カナダに限らず新大陸の国々には営造物型の国立
公園の例が多いが、これは、一般にこれらの国々の国土が広いということだけでなく、米国が世界最初の国立公園を
1872 年に設置した後、英国をはじめとする当時の西ヨーロッパの有力国が、その海外領土に米国型の国立公園を設
置していったという経緯も影響しているものとみられている。一方、国土が狭かったり、古くから開発が進んでいる
ために、営造物型の大面積の国立公園の設置が難しいような国では、英国(本国)や日本のような地域性の公園制度
が採用されている。海外領土で米国型国立公園の設置を押し進めた英国も、事情の異なる本国内では異なる手法をと
らざるを得なかったわけである。この場合には、公園内での人間活動を制限、規制することにより自然環境や風景の
保全を図っていくこととなる。我が国の場合は主として規制的な手法がとられているが、英国の場合は、その社会に
伝統的に存在する「契約」の手法に則り「自然保護地役権」という契約制度により土地所有者との権利関係を調整し
ている。
国立公園の箇所数や国土面積に占める割合では、我が国の国立公園も他の3国に比べそう遜色はないが、国民一人
当たりの面積となるとかなりの格差がみられる。
管理員数や管理運営費用については、営造物型であるカナダ、米国の国立公園の一部は有料となっていることや、
地域性の我が国の場合には公園管理者たる環境庁は基本的に土地そのものの直接的管理は行わないなど各国の事情の
違いがあり単純な比較はできないが、表にも見られるように、一人当たりの管理面積、国民 10 万人当たりの管理員
数、管理運営に関する国民一人当たりの費用のいずれにおいても、大幅な格差が見られる。
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この他、カナダ、米国の国立公園は主として原始的大自然を対象としているのに対し、こうした原始的自然に乏
しい英国では、人手の加わった農山村風景などが国立公園として指定されている。我が国の国立公園は、北海道の国
立公園(知床、大雪山等)や北アルプス(中部山岳)、南アルプスのように原始的な自然を主体としたものから、瀬
戸内海、阿蘇くじゅうのように、人文的風景を多くとりこんだものまで多様なものが見られる。
c)IUCN(国際自然保護連合)による類型区分との関係
IUCN では、多様化する各国の国立公園や保護地域を類型区分した上で、おおむね5年ごとに、世界の国立公園及び
自然保護地域に関する国連リストを作成しており、現在は 1990 年版が公表されている。この中で、いわゆる国立公
園に関しては、Ⅱ類型(National Park)とⅤ類型(Protected Landscape)とに大きく区分されている。
我が国の 28 の国立公園は本リストの中では、Ⅱ類型に区分されているもの(15 公園)と、Ⅴ類型に区分されてい
るもの(13 公園)に分かれている。
自然保護年鑑編集委員会 編(1992):日本の国立公園は諸外国とどう違う、世界と日本の自然は今 自然保護年鑑3、
日正社
薄木 三生(1994):自然保護地域の種類と設定状況、地球環境ハンドブック(不破 敬一郎 編)、朝倉書店
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