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Ⅱ-1 国語科 1年 「くじらぐも」
Ⅱ-1 国語科 ― 1 1年 「くじらぐも」 お話のイメージを膨らませるために ― 実践の概要 国語科の目標には、 「A 話すこと・聞くこと」 、 「B 書くこと」、 「C 読むこと」がある。 「C 読むこと」 の内容の取り扱いに、 「昔話や童話などの読み聞かせを聞くこと,絵や写真などを見て想像を膨らませ ながら読むこと,自分の読みたい本を探して読むことなど」とあり、「第1学年において、入門期であ ることを考慮し、(中略)絵や写真などを見て創造を膨らませながら読むことなどを主として配慮する (1) こと」となっている。 物語というのは、言葉からイメージをもちにくい特性のある児童や、文字の認知が難しい児童にと って理解しにくい面がある。しかし、この「くじらぐも」は、児童の想像をかきたてるような挿絵が あり、また、内容が体育の時間という普段の生活の中から物語が始まるというイメージが持ちやすい 教材である。本事例では、どの児童にとっても、 「くじらぐも」というお話のイメージを膨らませ、楽 しめるように取り組んだ。運動場での体育の授業の中で、ジャングルジムに登ったり、青空を見上げ て雲を眺めたりするなど物語の内容を動作化したり、また自分の化身である自分の絵を綿で作ったく じらに乗せることで、より物語の世界に近づけたいと考えた。体感すること、視覚的な情報から理解 することなどを大切にした。 2 取組の内容 <指導の展開> * UD は、ユニバーサルデザインの視点にもとづいた指導の工夫 子どもの活動 あいさつをする 授 指導者の役割 UD1 背筋を伸ばす、腕を上げるなど簡単な動作を 入れ、気持ちの切り替えを促す。 業 の 始 ま り 1時間の予定を知る UD2 黒板の隅に 授業の流れカード を貼る。 5 新出漢字の学習 UD3 ①見本を見る ②空書き ③なぞり書き ④ドリルに書く 前 教科書を開ける ◇ページ数を伝えるとともに黒板に書く。 時 これまで学習した場面を読み返し、前時 UD4「本を立てて読んでも寝かして読んでもよい」 場 の学習を想起する。 (一斉個人音読) と指示する。 面 ◇指さしがうまくできない児童には手を添える。 の ◇文字を読むことに課題のある子どもについて 想 は側で読みを教える。 起 UD5 席から離れるという動きを入れることで注 前時の場面(3 の場面)を役割(くじら 意喚起もできる。 ぐも、子どもたち、先生)ごとに集まり 一斉読みをする。 ◇動作を入れることでイメージを持ちやすい。 1 年 2 組の子ども役の児童が「風で吹き 飛ばされる」動作をする。 自分の席に座る。 UD6 大きな「くじらぐも」を黒板に貼る。 本時(4 の場面)の教師の範読を聞く。 本時(4 の場面)を各自で読む。 課 本時(4 の場面)を一斉音読する。 題 設 定 黒板の文字をノートに写す UD7 児童の使っているノートと同じマス数にな るように書く。 事前に作っておいた自分の絵を出す 6 課 自分の絵を黒板の「くじらぐも」に貼り 児童が自分の貼りたいところに貼れるよう補助 題 に行く する。 追 求 くじらに乗った子どもになったつもり 思い浮かばない児童には、黒板をみてイメージを で、ワークシートの吹き出しに思いを書 持たせる。 く。 書けた児童から黒板に貼りに行く。 振 ○今日の場面を読む。 ○今日の学習を思い出しながら、音読させる。 り 返 り <学習におけるユニバーサルデザインの視点にもとづいた工夫のポイント> UD1 気持ちの切り替え 休み時間から授業への切り替えが難しい児童がいる。授業の始まりに気持ちを落ち着けさせ、休み 時間と学習時間の切り替えをさせる。30 秒ほどの沈黙や背筋伸ばし、肩上げなどで身体を弛めること (2) で、気持ちを落ちつかせることができる。 UD2 見通しをもつ 1日のスケジュールや、1 限の予定を書いて示すことで見通しを もたせる。この時間が何をすれば終わりなのか明確にすることで がんばれる。 黒板の隅やホワイトボードに小さく書く。変更の際は簡単に書き直 す。 (カードを使ったり簡単に書いたりするなどの工夫をする) 7 1日のスケジュール 1時間のスケジュール UD3 得意な方法で、漢字や言葉を覚える 書くという微細な動きだけでなく、体全体や大きな空間を使うと、文字の形を捉えやすい。 (空書き・ 粘土で文字を作るなど)また、書き順を声に出して言う(マスを4分割し「1の部屋から2の部屋へ」 と運筆を言葉で言う)など、さまざまな方法を使う。 1と2の部屋の間から、 3の部屋に向かって はらいます。 力 1 2 3 4 UD4 本を読む 指さしをすると読みやすい児童もいる。本を立てて読むか、本を 置いて指さしをしながら読むかは自分で選択させる。特に読むことが 苦手な児童は、読む範囲の一部だけを読むように指示したり、決まっ た時間で終了したりする。 UD5 動作を入れる。気分転換をする 低学年にはじっとしていることが苦手な児童が多いので、一定時間じっとできたら体を動かす時間 をつくる。例えば、ノートを先生に見せに行く。黒板に答えを書きに行く。プリントを配るなど。 UD6 視覚的支援 自分を自分の絵に置き換えることで「くじらぐも」に乗っているイメージを膨らませた児童が多か った。絵や写真などの視覚的な情報を提示することは児童が想像することに役立ち、イメージをうま くもてない児童への支援となる。 わたし、あそこで 私、右足をケガ してるの。 ○○くん おーい 跳んでるねんで こんにちは 8 UD7 板書をノートに写す 児童の使っているノートのマス数に板書の文字数を合わせる。罫線のない黒板の場合は緑のマジッ クで児童のノートのマス目に合わせた罫線を引いておくと、マス目を意識して板書しやすい。また、 ノートを写すのが苦手な児童は隣の児童のノートを見てもいいというルールにしておくなどの配慮も あるとよい。 緑のマジックで引いた罫線 3 板書 成果と今後に向けて 児童のノート (1)成果 綿のついていない発泡スチロールの「くじらぐも」を出した クラスは「くじらぐもってどんなのだと思う?」と聞いたとき、 ある児童は、 「雲って・・・、すぐ消えて乗れない」と言って いた。雲のイメージや雲の知識はあっても、お話の中の1年2 組のみんなが乗れる「くじらぐも」のイメージはできないよう 発泡スチロールのくじらぐも だった。綿のついた「くじらぐも」を出したとき、 「わー!」と いう歓声があがり、児童の目は釘付けになった。児童の前にどんな素材を出すかで、児童がもつイメ ージは大きく変わったようだった。 「乗れない」と言っていた児童も「のれていい。きもちいい。まち がきれい」や「また、いっしょにおよごうね」などの感想を書いていた。自分の絵を「くじらぐも」 にはりつけたとき、子どもたちは自分で書いた自分の絵に自分を置き換え、 「くじらぐも」の上や下で 楽しそうに遊んでいる疑似体験ができていた。 (2)今後の取組の課題 児童に十分にイメージがふくらませられるように有効な素材を提示することは、どの児童にとって も必要な手立てだと思う。ただ提示のしすぎは、イメージの幅を狭くし、自由な発想の妨げにもなり うる。どのようなものが有効な資料提示になるのかを十分に吟味する必要がある。 学習に集中するために、授業をどう構成するかも重要なポイントになる。授業も始まりはその1時 間を左右する。尐しの気持ちの切り替えで気持ちも体も授業に向かえるように思う。 すべての児童にもあてはまるユニバーサルデザインの視点を取り入れた授業というのは、今自分が 担当している児童の実態を把握し、そのクラスに合ったユニバーサルデザインの視点を取り入れた工 夫を探すことも、多くの児童が理解できる授業づくりになると考える。 参考資料及び参考文献 (1)「小学校指導要領 第1節 国語」文部科学省 2010 (2)「動作とイメージによるストレスマネジメント教育 北大路書房 2000 9 基礎編」 山中寛 富永良喜/編著