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兵庫県赤穂市生島における照葉樹林の植生管理

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兵庫県赤穂市生島における照葉樹林の植生管理
報
告
兵 庫 県 赤 穂 市 生 島 に お け る 照 葉 樹 林 の 植 生 管 理
服
The
部
Vegetation
on
Tamotsu
保1)*・小
永 吉 照
Hattori
舘 誓 治1)*・石 田 弘
人1)*・南 山 典 子1)
Management
Ikishima
of Lucidophyllous
Island
1'*,Seiji Kodate1'*,
and
明1)*
in Ako,
Hiroaki
Noriko
Hyogo
Forest
Pref.
Ishida 1'*,Teruto
Minamiyama
Nagayoshi
1'*,
1'
Abstract
A forest on Ikishima Island in Ako, Hyogo
lucidophyllous
Cinnamomum
forests dominated
Prefecture, is one of the largest and richest
by Castanopsis
japonicum, Camellia japonica, Quercus
others in Hyogo
cuspidata, Actinodaphne
glauca, Ternstroemia
and
Prefecture. This forest has been preserved by the residents in Sakoshi, Ako, as
the sanctuary of shrine Osake-jinja,and was designated as a natural monument
for Cultural Affairs. Nevertheless,
concluded that it is necessary to manage
original forest canopy, Stauntonia
by the Agency
by the extraordinarilly luxuriant growth
Stauntonia hexaphylla, the forest canopy
February
lancifolia,
gymnanthera
has been seriously damaged
of the vine
since the 1970's. We
the forest immediately. For the purpose of restoring the
hexaphylla
vines were
cut by citizen participation on
16, 2002. We reported this procedure of the vegetation management
of lucidophyllous
forest on Ikishima Island.
Key
words
: citizen participation,Ikishima Island, lucidophyllous forest, natural monument,
Stauntonia hexaphylla, vegetation management
は
じ
め
に
が必 要という 結論に達し, 赤穂 市, 兵庫県, 文化庁, 環
境 省との協 議を経て, 大避神社お よび生 島樹林を愛 する
兵 庫 県 赤 穂 市 の 坂 越( さ こ し) 湾 に は 生 島( い き し ま)
会 を中心とす る組織 によっ て植 生管理が 進められる こと
と よば れ る 小 さ な 島 が あ る. そ こは, 大 避( お お さ け)
となっ た.2002 年2 月16 日に市 民参加の もとで生 島の樹
神 社 の神 域 と し て 林 内 の利 用 や 人 の 立 ち 入 り が 大 き く 制
林 調査と植 生管 理が行 われた. これら の一 連の作業 につ
限 さ れて き た ので, ス ダ ジイ, ア ラ カ シ な ど を 優 占 種 と
いて は, 今後 他地域 の照葉樹林管 理を進 めていく 上で,
す る 照 葉 樹 林 が 良 好 な 状 態 で 保 全 さ れ て き た. 当 地 の 照
参 考事例とし てたい へん重要と 考えら れる ので, これら
葉 樹 林は 「生 島 樹 林 」 と し て 国 の 天 然 記 念 物 に, また 瀬
の経過を まとめて報 告する.
戸 内 海 国 立 公 園 の 特 別 保 護 地 区 に も 指 定 さ れ て い る. し
か し な が ら, 照 葉 樹 林 構 成 種 の 一 つ で あ る 常 緑 ツ ル 植 物
調査 地 の概 要
の ム ベ が1970 年 代 よ り 目 立 つ よ う に な り, 近 年 そ の 繁 茂
は す さ ま じ く, 放 置 す る と 樹 林 全 体 の 崩 壊 に 至 る 可 能 性
調査対 象の生島は兵 庫県 の西 南端に位 置する赤 穂市の
も 認 め ら れ た. 著 者 ら が 慎 重 に 検 討し た 結 果, 植 生 管 理
坂 越湾内 にあって, 面積約9ha, 最高 海抜42m の小島で
1)兵庫県 立人と 自然の博 物館 自然・環 境評価研 究部 〒669-1546 兵 庫県三 田市弥 生が丘6丁 目 Division of Natural History,
Museum of Nature and Human Activities, Hyogo; Yayoigaoka 6,Sanda, 669-1546 Japan
*兼任: 姫路工業大学 自 然・環境科学研究所 〒669-1546 兵庫県 三田市弥生が丘6丁目 Institute of Natural and Environmental
Sciences,HIT; Yayoigaoka 6, Sanda,669ぐ1546 Japan
ある( 図1). 島は大避 神社の神域とし て保護さ れ, また
て い る.
海を 隔て, 人 の立ち入りが 困難なこともあっ て自然性 の
生島 の照 葉樹 林 保全 の 手順
高い 照葉樹林が 維持されてき た. 生島 の西側には築造 年
代不詳 の生島古 墳がある. そ の古墳につい ては江戸時 代
後 期 に 描 か れ た ス ケ ッ チ 画 が 残 さ れて お り( 八 木,
服 部 ・浅 見(1998) は 照 葉 樹 林 保 全 の 手 順 と し て, 「現
1984), そ の画には, ツバキ, カ シ, カクレミ ノなど の
状 診 断 」,「保 全 目 標 の 設 定 」,「保 全・復 元 計 画 」,「保 全・
照葉 樹が描か れ, 少なくと もそ の当時より 照葉樹林 が保
復 元 作 業 」,「モ ニ タ リ ン グ 」,「管 理 作 業( 継 続 的 な 維 持
全さ れていた こと がわかる. 1924 年12 月9 日には「生島
管 理 作 業)」 の6 段 階 を 区 分 し て い る. 生 島 の 場 合 は 天 然
樹林」 の名称で 国指定の 天然記念物となり, 瀬戸内海 国
記 念 物 や 特 別 保 護 地 区 に 指 定 さ れ て い る こ と に よ り,「保
立公 園の特別保護 区にも指定さ れている. 環境庁(1979)
全 ・ 復 元 計 画 」 の 次 に 「法的 諸 手 続 き 」 が 加 わ る こ と に
の特定 植物群落 にも記載さ れ, 兵庫県(1995)の兵庫県 版
な る( 図2).
レッドデ ータブ ックの貴重な 植物群落 のB ランクに位 置
生 島 の 照 葉 樹 林 に つ い て, 図2 の 手 順 に 基 づ い て 植 生
管 理 を 進 め た の で, そ の経 過 を 図2 に 従 っ て 報 告 す る.
づけ られている.
畔 柳(1985)は1950 年 代には一部畑 があり,その周 囲に
現
クロチ ク( ハチ クの変種) が生育し ていた と報告して い
状
診
断
る. 大 避神社 の宮 司の生浪 島氏 の聞き取り 調査では, 明
治時 代以前には 畑地があった 可能性があ るが, 1950 年 代
には 存在しな かっ たとして いる. いず れにし ても島内 の
1. ム ベ の 繁 茂 状 況 の 推 移
生 島 に お け る ム ベ の 繁 茂 状 況 の 推 移 に つ い て, 各 種 文
大 部分は照葉 樹林とし て保 全さ れてきた が, 古墳も 含め
献 と 著 者 の調 査 記 録 お よ び 撮 影 し た 写 真(1975
年1 月28
て, 人の影響は 認められる. 特に影響が明 らかな のは ク
日( 写 真1), 1983
年7 月30
ロチ クの分布であ る. クロチ クは中国原 産で, 国内 のク
日( 写 真3), 2002 年2 月16 日( 写 真4)) を も と に考 察し
ロチ クはす べて 植栽に由来 する.クロチ クは1950 年代 で
た.
は400m
程度の面積で あったとさ れている が( 生浪 島氏
年5 月14 日( 写 真2), 1995
兵 庫 探 検・自 然 編( 神戸 新 聞 社 学 芸 部, 1974) に は1970
の聞き取り 調査結果), 1960 年 代以 降増殖し, 1980 年 代
年 代 前 半 の 生 島 の 林 内 の写 真 が 載 せ ら れ て い る. そ の 写
には林縁部だけ でなく, 照葉樹林に大きな 負の影響を 与
真 の 解 説 は,「フ ジ の た れ 下 が る 林 内 の ジ ャ ン グ ル 的 様 相
え 始めた. そ のため, 1990 年 代に大って 大避神社 の氏 子
も ま た 照 葉 樹 林 に 特 有 の も の だ= 赤 穂 市 坂 越 の 生 島 で」
諸氏ほか によっ てクロチ クの伐採が進 められ, 照葉 樹林
とあ る が, そ の 写 真 の ツ ル 植 物 は, 葉 の 形 状 よ り フ ジ で
が保全された という経過 があ る.
は な く, 明 ら か に ム ベ で あ り, 写 真 が 撮 影 さ れ た1970 年
クロ チ クの加害が抑制さ れたので, 現状 では照葉 樹林
の保全にとって ムベの繁 茂がもっとも大き な問題となっ
代 前 半 に は, す で に ム ベ の 繁 茂 が 顕 著 で あ っ た こ と が 確
認 で き る.
1975 年1 月28 日 の 植 生 調 査 票( 付 表1) を み る と, ム
ベ は 高 木 層 や 亜 高 木 層 に 達 し て お り, そ こ で は 優 占 は し
て い な い も の の か な り の 被度 で 生 育 し て い た こ と が 示 さ
れて い る. ま た 当 日 の 島 の 北 部 を 撮 影 し た 写 真( 写 真1)
か ら も ム ベ の 繁 茂 の 状 況 が読 み と れ る.
1983 年 に は 兵 庫県 大 百 科 事 典 が 出 版 さ れ, そ の中 に 生
島 樹 林 の 項 目( 服 部, 1983)
が あ る. そ れ に よ る と, ム
ベ の 繁 殖 が 著 し い と 記 載 さ れ て い る. そ の 当 時 の 繁 殖 の
状 況 は 写 真2 に 示 し た とお り で あ る.
1995 年 出 版 の 日 本 の 天 然 記 念 物 の 生 島 樹 林 の 項 目( 中
西, 1995)
に は, 林 床 にニ タ ク 囗チ ク( ク ロ チ ク), 林
冠 に は ム ベ が 繁 茂 し, 樹 林 景 観 や 組 成 ・ 構 造 に 大 き な 影
響 を 与 え て お り, そ れ ら の 伐 採 が 必 要 と 記 さ れ て い る.
写 真3 は1995 年7 月30 日 の ム ベ の 繁 茂 を 撮 影 し た も の で
あ る. 写 真1 か ら 写 真4 は 生 島 の 北 部 に あ る 湾 内 よ り 東 側
のほ ぼ 同 じ 地 点 を 撮 影 し て い る.
以 上 の よ う に, す で に1970 年 代 に は ム ベ は か な り 繁 殖
図1
生 島 の位 置
し て お り,そ れ 以 降 ム ベ の 生 育 は 抑 え ら れ る こ と が な く,
年々 増加, 逆 に照葉樹 林は, 徐々 に衰退し たよう に思わ
ル 植 物 も多 く, 種多 様 性 は 高 い( 服 部 ほ か,2000).
ま
れる.
た, ム ベ な ど の 特 定 の ツ ル 植 物 が 優 占 す る こ と は な い.
生島の照葉 樹林もか つてはこ のような 状態であっ たと推
定 さ れ る の で, 保 全 目 標 と し て は 林 冠 の 連 続 す る 種 多 様
2. 照葉樹 林の現状
ムベ の繁殖状 態, ムベ の加害 によ る照葉 樹林の被 害の
性 の 高 い 照 葉 樹 林 と 設 定 し た.
程度を 明らか にする ために, 2001 年11 月19 日に生島 の
保 全 一復 元 計 画
植生調 査( 付表2 の調 査区℡1) およ び植生 状況の視察 を
行った.
照葉 樹林特有 の積乱雲 状に盛り 上かって いく ような 良
好 な林冠 を呈して いる所は 少なく, 高木層は 分断さ れ,
樹冠の不 連続が 目立った. 樹冠 の一 部はムベ に被陰さ れ
1. 組 織 一体 制
保 全 ・ 復 元 計 画 を 進 め る にあ た り, 所 有 者 の大 避 神 社
( 代 表 役 員: 生 浪 島
堯) を 中 心 に, 坂 越 地 区 連 合 自 治
て 枯死して いる ことが多く,枯 れ枝が特 徴的であっ た(写
会, 赤 穂 森 の ク ラ ブ, 坂 越 歴 史 研 究 会, 坂 越 漁 業 協 同 組
真4). 大 径木の 倒木も点在し, そ れらはムベ による樹冠
合, 船 渡 御 祭 保 存 会 によ っ て 保 全 ・ 復 元 を 目 的 と す る 生
の被陰 によ り衰 弱し,枯 死し たと 考えら れた. 亜 高木層,
島 樹 林 を 愛 す る 会( 代 表 者: 高 見
第一低木 層とも にムベ の被 度が高く, 上層 全体が危機的
赤 穂 市 教 育 委 員 会 の全 面 的 な 指 導 ・ 応 援, 兵 庫 県 教 育 委
な 状況と推 定さ れた. 第二 低木層, 草本層 には ムベ の葉
員 会 の 適 切 な 指 導, さ ら に 姫 路 工 業 大 学 自 然 ・ 環 境 科 学
群 は少ない もの のき わめて多 数のツル が立ち 上かって 低
研 究所
木や高木 の下枝 に巻き付き, お 互い に絡 み合っ て乱麻状
環 境 再 生 研 究 部) の研 究 員 全 員 に よ る 調 査 か ら 植 生 管 理
あ るいは ジャング ル状の 異様な景観 を呈し て いた.
作 業 ま で 全 般 に わ た る 作 業 の実 働 や 指 導・助 言 の も と に,
1975 年当 時と比 較し てム ベは異常 に増えてお り,また
甲 久) が 結 成 さ れ た.
生 物 資 源 研 究 部 門( 人 と 自 然 の 博 物 館
自然・
保 全 ・ 復 元 計 画 を 進 め て い く こ と と な っ た.
林冠の破壊 も大きく 拡大して いた. 樹林の被 害は今後 も
一 方, 天 然 記 念 物 の 保 全 に つ い て, 一 部 の 団 体 や 行 政
進み, 林冠 木の 消失 後ムベ の優占す る低木状 のブ ッシュ
だ け で 行 う の で は な く, 地 域 住 民 の 環 境 教 育 ・ 環 境 学 習
あ るいは地 被性 のマ ント 群 落化する 可能性もあ るよう に
と い う 観 点, あ る い は 参 画 と 協 働 に 基 づ く 市 民 参 画 に よ
思われた. 少なく とも放 置する限り, 林冠 の復活や林相
る 天 然 記 念 物 の 植 生 管 理 と い う 視点 か ら, 生 島 に お け る
の改善には 至らず, 樹林保 全のため の対策が必 要なこと
貴 重 な 自 然 の 学 習 と 植 生管 理 を 上 記 団 体 が 一 般 市 民 に 呼
が明らか になった.
び かけ る こ と と な っ た. そ の 結果, 赤 穂 市 内 か ら120 名,
市 外 か ら130 名, 合 計250 名 の 申 し 込 み が あ っ た. 自 然
保全 目標 の設 定
林 内 に多 数 の 市 民 が 入 る こ と に対 し て 自 然 保 全 の 観点 か
ら 反 対 す る 意 見 も あ っ た が, 荒 廃し て い く 樹 林 を 見 る こ
原生状 態にあ る 照葉樹 林は 高さ25m,
胸高直 径1m 以
と に よ り, 保 全 対 策 の必 要 性 を 市 民 が 理 解 で き る の で,
上もある 高木より 構成され, 所々にギ ャップ があるも の
放 置するより は市民が 樹林に入 るほうが重 要であ ると著
の, 林冠は 連続し ている( 服部 ・浅見, 1998).
者 は 考 え た. ま た, 参 加し た 市 民 に 事 前 に 十 分 説 明 を 行
また,
照葉樹だけ ではなく, 草本 植物や着 生・腐生 ・寄生・ツ
図2
う こ と に よ っ て, 立 ち 入 り に よ る 被 害 を 軽 微 に す る こ と
生島の照葉樹林保全の手順
教 育 委 員 会, 赤 穂 市 教 育 委 員 会 を 経 由し て, 申 請 者 に 許
が可 能で ある.
可 が 通 知 さ れ た. 許 可 要 件 と し て,「申 請 者 は 植 生 管 理 を
実 施 す る にあ た っ て 兵 庫 県 教 育 委 員 会( 赤 穂 市 教 育 委 員
2. ムベの 切断計画
生島 の照葉樹林が危機 的な状況に至っ た要因は ムベの
会) の 指 示 を受 け る こ と」 と 記 さ れ て い る.
異常な繁 茂にある. ム ベの異常増殖を抑 制するこ とがで
申 請 に あ た っ て, 問 題 と さ れ た の は 照 葉 樹 林 構 成 種 の
き れば, 林冠 木の回復や 亜高木層にある 樹木の今後 の生
一 つ で あ る ム ベ を 照 葉 樹 林 保 全 のた め に, な ぜ 伐 採し な
育 によって良好 な樹林 に復元させるこ とは十分可 能であ
け れば な ら な い か と い う 点 で あ っ た. 著 者 は 生 島 の ム ベ
る.
の 繁 茂 が 異 常 す ぎ る こ と, 自 然 林 と い え ど も 生 島 の よ う
ムベの生育 を抑制する ためのもっとも 簡単で確実な 方
な 小 面 積 の 樹 林 は, 問 題 が 発 生 す れば 植 生 管 理 が 必 要 な
法は, ムベのツルを 地際で切断( 伐倒) する ことである.
こ と, こ の ま ま 放 置 す る と 生 島 の 樹 林 全 体 の 崩 壊 へ つ な
切断後, 株元よ り萌芽枝 が発生し, ツル が再び生育 を始
が る 可 能 性 があ る こ と な ど を 記 し た 内 容 を 意 見 書 とし て
めるが, 切断 前の状態に戻 るまでに十年以 上を必 要とす
ま と め て 提 出 し, 理 解 を 得 た.
る. 従って, 切断後, ムベ の萌芽による 再生によって,
草本層, 低木 層の植物 の生育には多 少影 響がでる可 能性
2. 特 別 保 護 地 区 内 木 竹 の 伐 採 許 可 申 請 書
はあ るが, 林冠 木にはまっ たく 影響はない. 切断さ れた
国 立 公 園 の特 別 保 護 地 区 に 指 定 さ れて い る 生 島 にお い
地 上部のツルはそ のまま放 置する. ツル を処理する ため
て 植 物 の 伐 採 を 行 う 場 合, 自 然 保 護 法 第18 条 第3 項 の 規
に, ツルを引っ 張ることは 照葉樹の幹, 枝, 葉を傷つけ
定 に 基 づ い て, 環 境 大 臣 に表 題 の 申 請 書 を 提 出 し な け れ
る ことになる ので, 放置す る方 がよい. 切断された ムベ
ば な ら な い. 申 請 書 に は 目 的, 場 所, 伐 採 種, 伐 採 面 積,
の葉は2,3 日で 萎調し, ツルは 半年か ら1年で 腐って 落
方 法, 管 理 の予 定 囗等 の 記 述 を 行 っ た. 申 請 書 に は 著 者
ちる.
の指 導 を 受 け る こ と, 文 化 庁 長 官 に 現 状 変 更 許 可 申 請 の
手 続 き を 行 っ て い る こ と も 記 し た. 申 請後, 環 境 省 自 然
環 境 局 山 陽 四 国 地 区 自 然 保 護 事 務 所 長 よ り 環 境 大 臣 の指
3. 資金助 成計画
植 生の保全を 進めるにあたっ て交通費な ど様々な経 費
令書 が 交 付 さ れた.
が必 要となる. 天然記念物や 特別保護地区 の保全事業 に
保全 ・復元 作業
対して, 国は積 極的 に補助す べき と考えら れるが, 特別
な事 例を除けば, 今回のような 植生管理には 特に助成 金
1. モ ニ タ リ ング 地 点 の設 定 お よ び 事 前 調 査
はないよ うである.
兵庫県 緑化推進 協会は, 平成14 年度の緑化 事業計 画の
保 全 ・ 復 元 作 業 に 先 立 っ て, 作 業 の 有 効 性 を 事 後 に 評
中で, 森 林整備等助 成事業を 進めて いる. 森 林整備等助
価 す る た め の モ ニ タ リ ン グ の地 点 と し て 永久 調 査 区 を 設
成事業 は5 分野 に細 分されて いる. そ の一 つに
篋 し, そ の 地 点 の 植 生 調 査 を 実 施 す る 必 要 が あ る. 永 久
森 づく
りを進 める緑化意 識の高い住民団体 に必要な苗 木等の資
調 査 区 とし て, 面 積100 ㎡(10mX10m)
材を助成 するという 「みんな の森 造成事業」 がある. こ
測 の 上 で5 区 設 置 し た. 調 査 区 の 四 隅 に は 杭 を 打 ち, ロ ー
の助成事業 に前述 の生島樹林を愛 する会が応募し,28 万
プ で 結 ん で, 今 後 のモ ニ タ リ ン グ 調 査 に 備 え た.
円の助成 金を得るこ とができた. この助成金 によ って植
生管理を実 行する活動 資金が得 られたことにな る.
の調査区を実
植 生 調 査 は, 調 査 区 内 に 出 現 す る 全 て の 種 を 対 象 に,
高 木 層, 亜 高 木 層, 第 一 低 木 層, 第 二 低 木 層, 草 本 層 の
5 階 層 に 区 分 し, 各 階 層 の 高 さ(m) と 全 植 被 度(%) を 記 録
法的 諸 手続き
し た. 次 に
各 階 層 ご と に 全 出 現 種 の リ ス ト を 作 成 し,
出 現 種 ご と の 被 度 を パ ーセ ン ト で 記 録し た. 立 地 条 件 と
1. 史跡名勝 天然記念物現状変 更等許可申 請書
生 島の 植 生管 理を 進め る 前に土 地 所有 者 の大 避神 社
し て, 斜 面 の 方 位 ・ 傾 斜 ・ 海 抜 等 を測 定 し た. 植 生 調 査
の 結 果 は 付 表2,3
に 示 し た.
は, 標題 の現状変更等許 可申請書を文化 庁長官 に提出す
永 久 調 査 区No.lで は ム ベ が 出 現 せ ず, テ イ カ カ ズ ラ の
る必要があ る.申請書には現状変更 等を必 要とする理 由,
高 木 層 に お け る 繁 茂 が 目 立 つ. 永 久 調 査 区N0.2か らN0.5で
現状変更等 の内容及び 実施の方法, 現 状変 更等 によ り生
は 高 木 層 ま た は 亜 高 木 層 にお い て ム ベ の 繁 茂 が 著 し い.
ずべき天 然記 念物へ の影 響他を記述す る. このような 申
出 現 種 数 は17 種 か ら19 種 と 少 な い. 永 久 調 査 区No.lの よ
請書に赤穂 市教育委員会 の現状変更 申請について の副申
う な 植 分 は 稀 で,N0.2 か らNo.5の 植 分 か 生 島 の 現 状 の 典 型
や 著者の一 人で ある服部 の意見書が添え られて, 申請者
例 で あ る. な お, ム ベ の 本 数 はNo.2 (65 本), No.3 (24
から赤穂市 教育委員会 へ, 次いでそこ から兵庫県教育 委
本), No.4 (11 本), No. 5 (15 本) で あ っ た.
員 会を経て, 文化 庁に送 付さ れた. 文化庁 からは兵庫県
い た し ま し た.
2. 市民参 画による植 生管理
前述し たよう に250 名 の市民参 画が得 られ たことは た
皆 様 は そ の 趣 旨 に 積 極 的 に 賛 同 し,
参 加 も 呼 び か け て い た だ き ま し た.
そ の 結 果,
市民
参画と協
いへん望 まし いこ とである が, 問い 合わせ( 申し 込 み)
働 の 先 進 事 例 と な る200
の対応を はじ めとし て当 日のト イレ, 駐車場, バス の手
の 保 全 と い う 作 業 を 進 め る こ と が で き ま し た.
配, 船渡, 名前 の確 認, 班 編成な ど, 大避神 社・赤 穂市・
経過全体 をこのよう にまと めることが できまし たのは皆
生島樹林 を愛する 会を中心 とし た 各種団体 の作業量は 膨
様 の 御 理 解 と 協 力 の た ま も の と 存 じ ま す.
大 であっ たと推定さ れる.
謝 い た し ま す. ま た 赤 穂 市 教 育 委 員 会 の 宮 崎 素 一 氏 に は,
2002 年2 月16 日に植 生管 理が 実施され た.参加者は10
人 もの市 民の方 々と天然 記念物
皆様 に深く感
法的手続き を進めて いただく と共に手 続きに関 するたく
時ご ろに坂 越港 に集 合し,6 班( 各班30 名, 指導 者2名)
さ ん の 書 類 を お 送 り い た だ き,
に分かれて 船で生 島に渡っ た. 生 島に上陸し た市民 に,
氏 に は 生 島 の 調 査 で お 世 話 を い た だ き ま し た.
生島の照 葉樹林 の重 要性, そ の照葉 樹林が ムベに被害 を
を は じ め,
受け てい る現状, このま ま放置する と樹林 が崩 壊する 可
導 を い た だ き ま し た.
能性とムベ 除伐 の必要性, ムベの 切断方法な どを著 者は
説明した. また, ムベの総 切断本数 を把握す るため に各
そ れら の
な お,
赤 穂 市 農 林 部 の有 吉 清 史
榊
努氏
た く さ ん の 赤 穂 市 民 の 方 々 に も 御 協 力,
ご指
皆 様 に は 厚 く お 礼 申 し 上 げ ま す.
本 研 究 を ま と め る に あ た っ て,
平 成13 年 度 科 学 研 究 費 補 助 金(
日本学術 振興会
基 盤 研 究(C)(2),
課題番
個人が切 断し たム ベの本数 を報告 するよう に伝えた. 一
号13680649
「照 葉 樹 林 の 生 物 多 様 性 保 全 に 関 す る 研
般市民によ る作業は 危険を 伴うこ ともある ので, 地形 の
究 」) の 一 部,
お よ び 平 成13 年 度 人 と 自 然 の 博 物 館
ゆるやかな 場所 を選び, 作業 量が多く ならな いよう に午
然 ・ 環 境 再 生 研 究 部 の 部 門 研 究 「21 世 紀 の 森 構 想 支 援 の
前中 のみとし た. 午後 は50 名程度 の人数で2 時 間ほど 切
た め の 生 態 学 的 基 盤 研 究 」 の 研 究 費 を 使 用 し た.
自
断作業を 継続し た. これ らの作業 によって 約15,000 本の
文
ムベのツ ルを切断し た. 切断 すべきツル の1/2 から2/3 程
献
度は切断 できた と思われ る.
服部
保(1983)
大百科事典
モ ニ タ リング
服部
生 島 樹林. 神戸 新 聞出 版 セ ンタ ー( 編), 兵 庫県
上 巻, 神 戸 新 聞 社, 神 戸, 182-183.
保・浅 見佳 代(1998)
照葉 樹 林 の 自 然保 護. 沼 田
真( 編),
自 然 保 護ハ ン ドブ ッ ク, 朝 倉 書店, 東 京, 371-382.
追跡調査
服部
今後, 永久調 査区の植 生調査だけ でなく, 全体 の外観
保・小 舘誓 治・石 田弘 明 ・田村 和 也(2000)
調査を行 って切 断による ムベ生育抑 制 の効果 について 検
人 と 自 然, no. 11, 13-41.
兵 庫県(1985)
討する 必要があ る.
兵 庫の貴重な自 然一兵庫県版レ ッドデータブ ッ
ク ー. 兵 庫県 環 境 管 理課, 286p.
それ らの追跡 調査の 結果 をもと に今後 の植生管理 の指
環境 庁(1979
針を策定 する.
編) 囗本 の 重 要な 植 物 群 落
近畿 版. 大 蔵 省印 刷 局,
1008p.
神戸 新 聞 社 学 芸部(1974)
言
射
辞
畔柳
ついて大 避神社 の生浪島
穂市坂 越地区 の皆様, 兵 庫県 教育 委員会, 兵庫県緑化 推
進協会, 同・運営協 議会( 委員 長 上 羽慶市氏), 神戸 新
古川
鎮(1985)
赤 穂 地 点 周 辺 の 自 然度 の 高 い 植 物 群 落. 中 西
哲( 編), 赤 穂 お よ びそ の周 辺 地 域 植 生調 査 報 告 書, 関 西 総 合
環 境 セ ンタ ー, 大 阪, 120-146.
堯氏, 赤 穂市 教育 委員会, 赤
郷土振興 調査会( 事務局長
兵 庫探 検・自 然 編. 神 戸 新 聞 社, 神 戸,
348p.
著者は, 生島 のムベ の異常増殖 とその管 理の必要 性に
聞社
鹿 児島県 栗 野 岳
の 照葉 樹 林 にお ける 標 高頻 度 に対 す る構 成 種, 種多 様 性 の分 布.
中西
哲(1995)
畑
生 島 樹林. 加 藤 陸 奥雄 ・ 沼 田
真 ・渡 辺 景 隆 ・
正 憲( 監 修) 囗本 の天 然 記 念物, 講 談 社, 東 京, 263.
八木 誓 浩(1984
編)
赤 穂 市史 第 四 巻. 赤 穂 市, 585p.
潤氏) に相談
(2002 年7 月13日 受 付)
(2002 年12 月10 囗受 理)
付表1
植生調査票(1975 年1月28 日調査資料)
付表2
植生調査票(2001 年11月19 囗および2002 年2月16 囗調査資料)
付表3
植生調査票(2002 年2月16日調査資料)
写真1
写真3
生 島 の 照葉 樹 林 の外 観. 中央 部 か ら 右 上部 に かけ て ク ズ の 繁茂 が 目 立つ.
1975 年1 月28 囗 服 部 保撮 影.
生島 の 照 葉樹 林 の 外観. 全 体に ク ズ が目 立 つ 他, 中央 部 に クズ の ツ ル が見 え る.
1995 年7 月30 囗 服 部 保 撮 影.
写真2
生島 の 照 葉 樹林 の 外 観. 樹冠 の 間全 体 に ク ズ(明 る い 緑 の 部 分) の 繁 茂が 顕 著.
1983 年5 月14 日 服 部 保 撮 影.
写真4
生島の照葉樹林の外観. 中央部 の他各所に樹冠 の枯れ枝が見える.
2002 年2月16 囗 服部 保撮影.
写真5
写真7
照葉樹林内のムベのツル. 1995 年7月30 囗 服部
保撮影.
地 表部 にお ける ムベ のツ ル の繁 茂状 態. 緑 色の 針金 のよ う に見 える も のは若 い ムベ のツ ル.
2001 年11 月19 日 服 部 保 撮 影.
写真6
写真8
ムベの葉とツル.2001 年11 月19日 服部
保撮影.
からみつきあっているムベのツル.2002 年2月16 囗 服部 保撮影.
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