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LRT安全運行システムの研究開発

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LRT安全運行システムの研究開発
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
平成 18 年度
エネルギー使用合理化技術戦略的開発
エネルギー使用合理化技術戦略的開発(FS調査)
LRT安全運行システムの研究開発
成果報告書
(平成 18 年 11 月 8 日~平成 19 年 6 月 30 日)
平成 19 年 8 月
委託先:株式会社ライトレール
川崎重工業株式会社
独立行政法人交通安全環境研究所
(再委託先:大同信号株式会社)
目
次
目 次 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
まえがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
研究従事者一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
Ⅰ 要約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
(1) 和文要約
(2) 英文要約
Ⅱ 研究開発の成果
第1章 システム仕様に関するFS <川崎重工業(株)> ・・・・・・・・・・・・・
1.1 システムの基本構成と基本性能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
8
1.2 列車位置検出の仕様案の策定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
1.3 データ通信の仕様案の策定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
1.4 運転指示の仕様案の策定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
(1) 基本事項
(2) 出発・到着・通過時の進路構成
(3) 駅への到着
(4) 速度制限箇所の通過
(5) 同方向への続行運転
(6) 踏切の通過
(7) 異常検知箇所の通過
(8) 単線区間行違い時の先着列車の出発
第2章 システム評価に関するFS
<(独)交通安全環境研究所、一部を大同信号(株)へ再委託> ・・・・ 17
2.1 仕様案の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
(1) 機能性
a.最高速度(現行 40km/h)の向上
b.駅での先行列車出発から後続列車到着までの時間
c.行違い時の双方向列車の到着
d.行違い時の先着列車の出発
(2) 安全性
a.追突・正面衝突・速度超過に至る可能性のある事象の発生確率
b.異常情報の不伝達の発生確率
c.上記事象が起きた場合も正面衝突等の重大事故へ直結しない
- 1 -
d.運転席モニタの運転指示が安全確認を低下させない
(3) 安定性
a.システムダウン頻度が 100 万列車キロ当り 6 回以下
b.縮退モードに切換えて最低限の運行が継続可能
(4) 経済性
a.複線路線
b.単線路線
2.2 簡易走行試験による評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
(1) 試験の目的
(2) GPSとドップラーレーダによる速度検出
a.走行試験線区と計測装置
b.GPS受信状況
c.検出速度の比較
(3) GPSによる 1 列車 2 点の位置検出
a.2 点検出のねらい
b.走行試験線区と計測装置
c.試験結果
(4) 簡易走行試験のまとめ
第3章 システム有効性に関するFS <(株)ライトレール> ・・・・・・・・・・・ 30
3.1 LRT普及に向けた基礎的調査・検討 ・・・・・・・・・・・・・・・ 30
(1) LRT整備に対する支援制度
(2) 富山ライトレールの成功要因
(3) 高速・高頻度運行と利用増の関係
3.2 LRT実現構想の調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
(1) 全国のLRT構想
(2) LRT導入に熱心な自治体
a.大阪府堺市
b.栃木県宇都宮市
c.福井県福井市
d.京都府京都市
e.東京都豊島区(池袋)
(3) 新規LRT普及に向けた本システムの有効活用
3.3 既存地方鉄道の調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53
(1) 相応の沿線人口がありながら廃止された路線
a.名鉄旧岐阜路面電車等(岐阜県岐阜市、瑞穂市、関市)
b.旧鹿島鉄道線(茨城県石岡市、小美玉市、鉾田市)
c.旧日立電鉄線(茨城県日立市、常陸太田市)
d.旧桃花台新交通桃花台線(愛知県小牧市)
(2) 現存の鉄道インフラが有効活用されていない路線
- 2 -
a.JR山田線の盛岡近郊区間(岩手県盛岡市)
b.茨城交通湊線(茨城県ひたちなか市)
c.銚子電鉄(千葉県銚子市)
d.江ノ島電鉄(神奈川県藤沢市、鎌倉市)
e.広島電鉄(広島県広島市、廿日市市)
f.東武宇都宮線(栃木県宇都宮市、栃木市)
(3) 地方鉄道LRT化推進に向けた本システムの有効活用
3.4 運輸部門の省エネ効果試算 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78
Ⅲ 目的に照らした達成状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82
Ⅳ 研究開発の事業化の見込み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83
Ⅴ 研究発表・講演、文献、特許等の状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85
(1) 研究発表・講演
(2) 文献
(3) 特許等
(4) その他の公表(プレス発表等)
- 3 -
まえがき
運輸部門における省エネルギー対策としては、自動車から軌道交通へのモーダルシフトが効果的であ
り、LRT(次世代型路面電車システム)の普及(既存地方鉄道LRT化含む、以下において同様)が
期待されている。平成 18 年 4 月に開業した富山ライトレール(都心部は道路上に軌道を新設、郊外部
はJR西日本の旧富山港線を流用)は、運行本数をJR時代の 3.4 倍として利便性を大幅に向上したと
ころ、利用人員がJR時代の 2.7 倍となり、LRTの先進成功モデルとして注目されている。
一方、多数のLRT構想は現存の路面電車と同様に低速・低頻度運行を当然として鉄道信号システム
も設置せず、少ない需要予測により赤字試算となっており、また、既存地方鉄道の大半は低速・低頻度
運行のため、需要は減少一途で赤字経営となり次々と廃止が進んでいる。
そこで、軌道交通において安全かつ低コストに高速・高頻度運行を可能とし、利便性を高めて利用を
喚起することにより鉄道経営を好転させてLRTを普及させ、自動車から軌道交通へのモーダルシフト
を促進するため、LRT安全運行システムを研究開発することとした。
本報告書は、本格的な研究開発の前段として実施した調査研究(FS調査)を取りまとめたものであ
る。以下に、研究開発項目と役割分担を示す。
FS2
システム評価
に関するFS
FS1
システム仕様
に関するFS
汎用の技術・インフラ・機
器により経済的システムに
川崎重工業(株)
機能性・安全性・安定性・
経済性の観点から評価
(独)交通安全環境研究所
|
大同信号(株)
FS3
システム有効性
に関するFS
LRT構想・既存地方鉄道
を調査し省エネ効果を試算
(株)ライトレール
なお、本FS調査におけるLRT(Light Rail Transit)とは、超低床の路面電車といった見掛けの
区別でなく、「コストが低い、手軽に乗れる」等の良い意味でのライトな(軽い)軌道交通を意味し、
既存地方鉄道を本システム導入により近代化して利便向上させることも含む。
- 4 -
研究従事者一覧
研究開発分担
所 属 組 織
氏 名
阿部 等
システム有効性に関す
(株)ライトレール
るFS
岩本欣也
システム仕様に関する
川崎重工業(株)
FS
部 署 ・ 役 職
代表取締役社長
研究開発責任者
技術開発部長
河野行伸
システム技術開発センター
主要研究員
システム開発部 部長
佐藤 理
同 第二課 上級専門職
宇野昌嘉
同 第二課 上級専門職
水間 毅
交通システム研究領域
副領域長
システム評価に関する (独)交通安全環境
FS
研究所
林田守正
同 上席研究員
大野寛之
同 主席研究員
菊池 実
第一技術部 IT設備PJ
次長
システム評価に関する
大同信号(株)
FS(一部再委託分)
備 考
阿久根寿則 同 係長
伊藤 昇
- 5 -
同 主任
主要研究員
Ⅰ 要約
(1) 和文要約
運輸部門における省エネルギー対策としては、自動車から軌道交通へのモーダルシフトが効果的であ
る。そこで、軌道交通において安全かつ低コストに高速・高頻度運行を可能とするシステムを開発して
利便性を高めて利用を喚起し、さらには鉄道経営を好転させてLRT普及(既存地方鉄道LRT化含
む)を進めてモーダルシフトを実現するためFS調査を実施した。
「システム仕様に関するFS」の成果は以下である。汎用の技術・インフラ・機器により経済的なシ
ステムを構築することを基本コンセプトに、センターと駅・列車・踏切等を地上汎用回線及び携帯電話
回線で結ぶこととした。列車位置検出・データ通信・運転指示の 3 機能の仕様案を策定した。全体の要
となる「運転指示」機能に関しては、8 項目に区分して仕様案を策定し、運転席モニタへの表示イメー
ジを作成した。
「システム評価に関するFS」の成果は以下である。策定した仕様案を機能性・安全性・安定性・経
済性から評価する際の基準を定めた。最高速度向上に関しては、専用軌道区間ではほぼ認められる、併
用軌道区間では自動車や人との事故防止策が必要と評価した。運行頻度向上・安全性・安定性に関して
は、評価数値算出及び実現化の条件を抽出した。経済性に関しては、モデル配線及び想定ダイヤを作成
して一部の機能に関して試算した。また列車位置検出に関して簡易走行試験を実施し、GPS+マップ
マッチングとドップラーレーダ速度計による位置・速度計測の精度を確認した。
「システム有効性に関するFS」の成果は以下である。富山ライトレールの成功要因を調査した上
で、いくつかの事例から高速・高頻度運行と利用増の間には概ね平方根の関係があることを示した。L
RT実現構想はいずれも低速・低頻度運行で需要予測が小さく実現には現行支援制度を上回る公的支援
を要し、既存地方鉄道の大半は低速・低頻度運行のため利用減少一途で廃止が進んでいることが分かっ
た。いずれも本システムを導入した高速・高頻度化による利用増進が望まれる。本システムの実用化を
通してLRT普及が進むことによる 2030 年における運輸部門省エネルギー効果は、廃止危機の既存地
方鉄道輸送量分その他を合せて、成功率 10%を掛けて 10.3 万 kL/年と試算した。
- 6 -
(2) 英文要約
As energy-saving measures in the transport sector, modal shift from cars to rail is
effective. Thus, we performed feasibility study (FS) to promote the spread of LRT (including
conversion from existing local rail to LRT) and realize modal shift by developing the system
to enable safe, low-cost, high speed/high frequency services of rail, which enhance
convenience, encourage its greater use, and furthermore improve rail management.
The results of "FS on system specifications" were as follows. We were to connect the
control center with stations, trains, railroad crossings, etc. by general-purpose ground
telephone lines and/or mobile telephone lines as a basic concept to build an economical
system by using general-purpose technology, infrastructure and equipment. We made a plan of
specifications
for
train
position
tracking,
data
communication
and
train
operation
instructions. Regarding the "train operation instructions", which is the principal part of
the total system, we made a plan of specifications by dividing eight items, and made the
image to the drivers seats monitors.
The results of "FS on system evaluation" were as follows. We made a standard for
evaluating a plan of specifications in terms of functionality, safety, stability and
economy. We evaluated that for improvement of the maximum speed, we can almost accept it in
the dedicated section of rails, and measures to prevent accidents with cars and men are
required in the joint section of rails. For improvement of frequency, safety and stability,
we made the conditions to calculate evaluation value and to realize. For economy, we made
model line alignments and prospected timetables, and did a trial calculation of a part of
the functions. And, we executed simple running tests regarding train position tracking, and
examined the accuracy of position tracking and speed measurement through GPS+Map-matching
and Doppler-radar speed measurement equipments.
The results of "FS on system effectiveness" were as follows. We investigated success
factors of Toyama Light Rail, and showed that there is roughly a square root relationship
between high speed/high frequency services and the increase of passenger numbers by some
examples. We found that all existing LRT projects are planned with low speed/low frequency
services, expect small passenger demand, and need more amount of public subsidy than the
current financial support system, and that the most of existing local rail operates in low
speed/low frequency services, and decreases passenger numbers, and abolishment of lines go
on. It is expected that our system would be introduced to increase passenger numbers for
every cases. We did a trial calculation that the effect of energy-saving in the transport
sector in 2030 by the spread of LRT through the practical use of our system would be 103,000
kL/year multiplied successful rate as 10% combined with transport volumes of existing local
rail to be abolished and others.
- 7 -
Ⅱ 研究開発の成果
第1章 システム仕様に関するFS <川崎重工業(株)>
1.1 システムの基本構成と基本性能
図1-1に、本システムの基本構成と機能を示す。既に実用化されている技術(IP通信、マップマ
ッチング手法等)・普及済みのインフラ(GPS、地上汎用回線、携帯電話回線等)・汎用機器(パソ
コン、モニタ等)を活用することにより、インフラレスで経済的なシステムとする。また、自動運転さ
らには無人運転とするには、限りない安全・安定性が求められてコストが莫大となり、決してライトな
軌道交通とならなくなるので、本システムは有人運転を前提とし、運転制御でなく運転指示の機能を持
たせる。ただし、重大事故を防止し、また複雑な機構でなく実現できることから、速度超過等の恐れあ
る時はブレーキ指令する。
駅
列車
踏切
災害箇所
GPS
センター
地上汎用回線
携帯電話回線
ライトな軌道交通へ適用
(1)列車位置検出
GPS・各種センサー及び
マップマッチング等により
列車の位置・速度を検出
(3)運転指示
他列車の位置・速度及び現地の
状況に応じ、各列車の運転席モ
ニタへ運転指示を表示
速度超過等の恐れある時はブ
レーキ指令
(2)データ通信
列車⇔センター、現地⇔センター、
直近の列車⇔列車間にてデータ通信
図1-1 LRT安全運行システムの基本構成と機能
さらに、軌道法の適用される路線は追突防止の保安システムが必須でないことから、本システムで
は、万一システム不具合となっても運転士の目視や縮退モード(最高速度引下げ・運行間隔拡大等)へ
の切換えにより、追突・正面衝突・速度超過による脱線・踏切無遮断時の所定速度での列車通過等へ至
らせず、また最低限の運行を継続可能とし、過剰な仕様としない。
表1-1に、本システムが目標とする基本性能を示す。高速・高頻度運行の実現を目的としたシステ
ムなので、運行速度と運行頻度の 2 つに関わる性能に分類した。
- 8 -
表1-1 LRT安全運行システムが目標とする基本性能
現
状
鉄道信号が未設置(単線 鉄道信号が設置
区間は設置)の路面電車 された地方鉄道
運行速度に
関わる性能
最高速度
軌道法により 40km/h
車両・線路の性
40km/h を上回る
能による
同方向へ続行運転時の
30 秒以内は可能だが低
数分以上
駅での先行列車出発か
速走行
ら後続列車到着まで
運行頻度に
関わる性能
本 シ ス テ ム
30 秒以内
単線区間行違い時の双 重厚な設備でないと一方の列車が駅外に 双方の列車が停車・
方向列車の到着
停車または双方の列車が減速
減速せず到着
JRは行違いの後着列車の到着後にドア 行違いの後着列車の
単線区間行違い時の先
を閉めた後に出発、一部民鉄は行違いの 到着よりできるだけ
着列車の出発
早く前に出発
後着列車の到着直前に出発
「最高速度」は、軌道法で定められた「40km/h を上回る」ことを目標とする。
「同方向へ続行運転時の駅での先行列車出発から後続列車到着まで」は、「30 秒以内」を目標とす
る。現状の鉄道向け信号システムでは、国内においては 60 秒程度が最小である。路面電車では一般鉄
道より高頻度運行している区間もあるが、車間距離を調節する信号システムは設置せず運転士の注意力
で運転しており、超低速走行である。安全性は高いと言えず、数年に 1 度くらい追突事故が発生して新
聞紙上を賑わすのが現実で、軌道法の路線では、最高速度 40km/h、車間距離 100m以内では 15km/h を
原則としている所以である。本システムにより、最高速度を向上すると同時に、車間距離が短くとも安
全上の限界速度で走行できるようになる。
「単線区間行違い時の双方向列車の到着」は、「双方の列車が停車・減速せず到着」を目標とする。
現状は、過走した場合の正面衝突を回避するため、有効長が長く過走防護余裕を取れる、安全側線を設
けて過走列車を線路外へ誘導する等の重厚設備でないと、先着列車が到着するまで後着列車を駅外に停
止させるか警戒信号(25km/h 制限)により双方の列車を超低速走行させるかしている。そのため時間
ロスが発生し、単線区間の運行頻度の上限を低下させている。
「単線区間行違い時の先着列車の出発」は、「行違いの後着列車の到着よりできるだけ早く前に出
発」を目標とする。本研究開発の着手前は、行違いの後着列車の到着と同時に出発はできないと考えて
いたが、事例調査したところ、到着直前に出発している路線すらあることが分かった。検討を進め、安
全を確保しながらさらに早く出発できる可能性があることが分かり、それを目標とした。なお、JR
(全てを調査できていないが、少なくともJR東日本とJR西日本の多くの路線)では、過去の行違い
駅での先着列車の誤出発事故の対策として、行違いの後着列車が到着して先着列車に対する出発信号機
が進行となって初めてドアを閉め、その後に出発としている。そのため時間ロスが発生し、単線区間の
運行頻度の上限を低下させている。
- 9 -
1.2 列車位置検出の仕様案の策定
列車の安全運行を確保するためには、各列車の位置をできるだけ正確に把握することが必須であり、
既存の鉄道向け軌道回路方式では、左右のレールに電流を流して在線すると車輪が短絡することで列車
を検知するが、建設・改修・保守費とも極めて高価なためLRTへ適用するには不適である。さらに、
軌道回路方式による列車位置検出は、数百m~数 km 刻みの軌道回路内のどこに在線しているかを判別
できず、精度も非常に低い。
そこで本システムでは、エンコーダー・GPSといった各種センサや、自動車のカーナビゲーション
システムで実用化済みのマップマッチング手法等を活用することにより、低コストなシステムで位置と
速度を軌道回路方式より精度高く検出する。
図1-2に、運転席回りの関連機器構成を示す。車両デジタル化ボード(KCC)は、単位時間当り
車輪回転数に比例した電圧を出力する速度発電機または車輪回転数を示すエンコーダーからの入力を得
る。また、GPSから緯度経度情報を、線路上の必要箇所に設置の位置補正地上子からキロ程(始端駅
からの km 数)情報を得る。さらに、自らが予め持つMAP情報を使ったマップマッチングによりキロ
程の精度を向上させる。
通信装置
携帯キャリア1
位置補正地上子
携帯キャリア2
スピーカ
注意喚起
IF1 IF2
PC
センター
GPS
モニタ表示
駅LAN無線2
MAP 地上 運行
駅LAN無線1
車両デジタル化ボード(KCC)
既存装置 ブレーキ制御器
ブレーキ ブレーキ
速度発電機
(エンコーダー)
図1-2 運転席回りの関連機器構成
- 10 -
1.3 データ通信の仕様案の策定
既存の鉄道信号では、把握した各列車の位置や現地機器の情報を鉄道事業者の自前回線により信号機
器室や他列車へ送信しているが、極めて高価なためLRTへ適用するには不適である。そこで本システ
ムでは、地上汎用回線や携帯電話回線といった既存インフラを活用して列車とセンター、現地とセンタ
ーの間で交信し、駅構内では局所的な無線LAN環境を構築して列車同士が直接交信する。
図1-3に、場面に応じたデータ通信方法を示す。センターと駅・踏切・異常箇所等の現地の間は、
地上汎用回線により通信する。近年、使い放題で、自前回線を持つ場合の設備投資減価償却費及び保守
費と比較すると大幅に廉価なインターネット通信回線の契約が可能となった。安定性を高めるため、重
要な通信ルートは複数の通信会社と契約し、1 社が不通となっても支障のないようにする。
列車とセンターの間は、携帯電話回線により通信する。複数の通信会社と契約し、1 社が不通となっ
ても支障のないようにする。携帯電話は近年急速に普及したものの、高頻度のデータ送受信が廉価にで
きるのはPHSのデータ通信使い放題のみであり、都市部にしか普及していない。本システムを導入す
る路線の全区間で使用できるとは限らず、特にLRT化を目論む既存地方鉄道においては、現時点では
大半の区間が使用できないと想定される。従って、交信頻度・データ量を最小限とするシステム設計上
の工夫を要する。また今後、低額のデータ通信サービスは次々と出現すると想定されるので、そういっ
たサービスを活用するよう常に心掛けておく必要がある。
駅構内においては、局所的な無線LAN環境を構築して列車同士が直接交信することとし、携帯電話
回線を使用してセンター経由で通信するのと比較して、伝送時間を短縮し、信頼性を向上させ、通信経
費を節減する。
いずれの方式とも、通信量を検討しデータ量の多い場合は TCP/UDP を用い、少ない場合は TCP/IP を
用いる。このため、制御に使用するコマンドの送信は確実に通達する TCP/IP、データの送信はデータ
量の少なく済む TCP/UDP とし、全体として信頼性を確保しつつデータ通信量を最小限とする。
踏切
駅
異常箇所
地上汎用回線
使い放題契約で経費節減
列車
センター
携帯電話回線
交信頻度・データ量を最小限に
無線LAN(駅構内)
伝送時間短縮、信頼性向上、経費節減
図1-3 場面に応じたデータ通信方法
- 11 -
1.4 運転指示の仕様案の策定
軌道回路方式では、後続列車の速度制限は、先行列車が数百m~数 km 刻みの軌道回路の最後端に在
線していることとして定めるため、ロスが生じる。さらに、その制限速度を運転士へ伝えるに際し、地
上信号・車内信号いずれも、伝えられる箇所(信号機建植位置、軌道回路境界等)と速度値(地上信号
の青は無制限、青黄は 75km/h、黄は 45km/h、赤は 0km/h、車内信号は 10km/h 刻み等)が限定されるた
め、ロスが生じる。ロスを少なくするほど、軌道回路の刻みが細かくなり信号機が増え、コストがかさ
む。その結果、例えば、駅での先行列車出発から後続列車到着まで、銀座線・田園都市線 60 秒、中央
線 70 秒、山手線・京浜東北線 80 秒、東海道線 120 秒(以上、実測値)といったところで、諸外国の信
号システムでもこれを画期的に改善したものはない。
本システムでは、1.2に示した方式により、先行列車の位置を離散値でなく連続値として検出しロ
スを少なくできる。さらに、当該列車への速度制限指示箇所、速度制限値とも離散値でなく連続値とで
きるよう、運転席モニタに表示して運転士へ運転指示し、運行間隔を大幅に短縮できるようにする。L
RTは上記路線と比較して短編成長であることもあり、1.1に既述した通り、「同方向へ続行運転時
の駅での先行列車出発から後続列車到着まで 30 秒以内」を技術的目標とする。
また、表1-1に、安全性を担保するため、運転士の運転に必要な情報の把握方法及び運転操縦誤り
時の対処を示す。現状の欄に示したように、既存の鉄道の方式では運転士へ与えられる情報は標識及び
信号機(地上または車内)等によるその時点・箇所の速度制限くらいで、その他は運転士の記憶力と注
意力、場合によっては経験と勘に頼っている。
表1-1 運転士の運転に必要な情報の把握方法及び運転操縦誤り時の対処
現
状
鉄道信号が未設置(単線 鉄道信号が設置された
区間は設置)の路面電車 地方鉄道
本 シ ス テ ム
駅・配線・線形等
運転士の記憶力
事前にモニタに表示
駅への到着
事前にモニタに表示
運転席に掲出する帳票、運転士の記憶力と注意
オーバーランの恐れある場合は
力
警報・ブレーキ指令
曲線・分岐器等によ
一部は現地の標識、残りは運転士の記憶力
る速度制限
同方向へ続行運転時
運転士の注意力
の速度制限
事前にモニタに表示
速度超過の恐れある場合は警
報・ブレーキ指令
地上に建植の信号機、 事前にモニタに表示
ATS(一部路線は未 追突の恐れある場合は警報・ブ
レーキ指令
設置)
事前にモニタに表示
単線区間での行違い 地上に建植の信号機、ATS(一部路線は未設
誤出発の恐れある場合は警報・
時の出発タイミング 置)
ブレーキ指令
踏切の位置・遮断状 運転士の記憶力と注意力
況
一部は現地手前に遮断状況の表示あり
- 12 -
事前にモニタに表示
無遮断踏切への進入の恐れある
場合は警報・ブレーキ指令
現
状
本 シ ス テ ム
鉄道信号が未設置(単線 鉄道信号が設置された
区間は設置)の路面電車 地方鉄道
事前にモニタに警報
応答ない場合はブレーキ指令
沿線の異常情報
なし
一部は現地直近で警報
一定時間無応答時
なし
一部は警報・ブレーキ 警報・ブレーキ指令
そこで本システムでは、各列車が、保有するデータベース及び受信する他列車や現地機器の情報に基
づき、以下により自列車に対する運転指示内容を求め、運転席モニタへビジュアルに表示する。
① 駅・配線・線形等:データベースを参照
② 曲線・分岐器等による速度制限:データベースを参照
③ 同方向へ続行運転時の速度制限:先行列車の位置・速度を受信して安全な車間・速度を決定
④ 単線区間での行違い時の出発タイミング:対向列車の位置・速度を受信して出発可否を判断
⑤ 踏切の位置・遮断状況:位置はデータベースを参照、遮断状況は情報を受信して走行を判断
⑥ 沿線の異常情報:現地機器の情報を受信して緊急停止・速度制限を判断
さらに、運転士のヒューマンエラーを回避するため、運転士の挙動や生体信号をモニタリングして運
転士の状態を推定し、異常状態を検知した場合は運転士に警報を発し、さらに正常状態へ戻らない場合
はブレーキへ動作指令を出すと同時にセンター・周辺列車及び関係駅へ異常情報を伝達する。図1-4
に、運転士の挙動モニタリングのイメージを示す。運転操作中の顔面をビデオ撮影したものを画像処理
し、日光が差している、眼鏡を掛けているといった悪条件でも、目を開けているか閉じているかを判別
できている様子が分かる。
図1-4 運転士の挙動モニタリングのイメージ
図1-5に、運転席モニタへの表示イメージを示す。
- 13 -
図1-5 運転席モニタへの表示イメージ
- 14 -
運転席モニタへの表示及び警報・ブレーキ指令は以下による。
(1) 基本事項
① データベースにより、走行線区の駅・配線・線形(曲線半径等)・速度制限・踏切位置、自列車
の運転曲線を表示
② 自列車情報に基づき、自列車の位置・速度・車長を表示
③ 受信情報に基づき、他列車の位置・速度・車長、踏切の遮断状況、沿線の異常情報を表示
④ 進路の保障された区間を線路略図上に太線表示
(2) 出発・到着・通過時の進路構成
① ダイヤに基づき関係分岐器の転換を指示し、転換・鎖錠した情報を受信して進路開通を表示
② ダイヤの乱れによる列車順序の変更を配慮(運転整理の機能であり、理想的なものとするには高
度の新規システムの開発を要する。本システムでは、列車順序の変更が必要な場合は指令員が介
在することとし、最低限の機能は実現する)
(3) 駅への到着
① 停止位置までに通常ブレーキにて停止できる「通常ブレーキパターン」及び非常ブレーキにて停
止できる「非常ブレーキパターン」を表示
② 「非常ブレーキパターン」を超えない限界地点にてブレーキ指令
これにより、単線区間での行違い時に双方向列車が停車・減速せずに到着可能となる。
(4) 速度制限箇所の通過
① 速度制限(曲線・分岐器等、以下同様)を超過したら警報、3km/h 超過したらブレーキ指令
② 速度制限箇所までに通常ブレーキにて停止できる「通常ブレーキパターン」及び非常ブレーキに
て停止できる「非常ブレーキパターン」を表示
③ 「非常ブレーキパターン」を超えない限界地点にてブレーキ指令
(5) 同方向への続行運転
① 先行列車の最後尾までに通常ブレーキにて停止できる「通常ブレーキパターン」及び非常ブレー
キにて停止できる「非常ブレーキパターン」を表示
② 「非常ブレーキパターン」を超えない限界地点にてブレーキ指令
(6) 踏切の通過
① 無遮断の踏切(通信途絶を含む、以下同様)までに通常ブレーキにて停止できる「通常ブレーキ
パターン」及び非常ブレーキにて停止できる「非常ブレーキパターン」を表示(直近以外の踏切
は薄色表示)
② 無遮断の踏切は 15km/h 制限での通過を許容、安全確認して通過後は通常運転に復帰
③ 踏切が遮断したことを受信した時点でブレーキパターンを消去
④ 「非常ブレーキパターン」を超えない限界地点にてブレーキ指令
(7) 異常検知箇所の通過
- 15 -
① 異常検知(踏切障害物検知・土砂崩壊・ホーム旅客転落等、センサーの誤動作もあり得る)箇所
までに通常ブレーキにて停止できる「通常ブレーキパターン」及び非常ブレーキにて停止できる
「非常ブレーキパターン」を表示
② 異常検知箇所は 15km/h 制限での通過を許容、安全確認して通過後は通常運転に復帰
③ 異常検知がクリアされた時点でブレーキパターンを消去
④ 「非常ブレーキパターン」を超えない限界地点にてブレーキ指令
(8) 単線区間行違い時の先着列車の出発
行違いの後着列車の到着よりできるだけ早く前に出発可とする
以上のシステムにより、運転士への訓練(現行は、国家資格である動力車操縦者運転免許を取得する
まで最低 6 ヶ月の専属訓練、運転経験のない区間を運転するには最低 5 回の訓練運転等)を大幅に低減
でき、地方鉄道や路面電車の運営経費の相当割合を占める運転士人件費を格段に低減できる可能性があ
る。それには省令の改正を要し、本システムが実用化して即実行できる訳ではないが、LRTを高コス
ト構造から脱却させ社会に普及させるには重要な要素である。
図1-7に、上記(2)~(8)のうちの(5)同方向への続行運転の処理系統図を示す。センターは各列車
の位置を常時把握しているので、当該列車が先行列車へ接近したことに気付いた時点で、先行列車へ 1
秒おきの位置・速度の報告を要求する。先行列車は 0.1 秒以内に位置・速度をセンターへ報告し、セン
ターはその情報を当該列車へ送信する。当該列車は自列車情報と組合せて先行列車最後尾までのブレー
キパターンを運転席モニタへ表示する。先行列車は先ほどの 1 秒後に位置・速度をセンターへ報告し、
センターはその情報を当該列車へ送信する。当該列車は自列車情報と組合せて運転席モニタのブレーキ
パターンを更新する。以下 1 秒おきに、同様の処理を繰返す。
自列車
センター
先行列車
各列車の位置把握
位置・速度要求
先行列車へ接近
0.1秒
先行列車情報
位置・速度報告
先行列車最後尾までのブレ 自列車情報も
ーキパターンをモニタ表示
1秒
先行列車情報
ブレーキパターンを更新
自列車情報も
1秒
先行列車情報
ブレーキパターンを更新
位置・速度報告
位置・速度報告
自列車情報も
1秒
図1-7 同方向への続行運転の処理系統図
(2)~(4)及び(6)~(8)も、同様に処理系統図を作成できる。
- 16 -
第2章 システム評価に関するFS<(独)交通安全環境研究所、一部を大同信号(株)へ再委託>
2.1 仕様案の評価
第1章で策定した仕様案に関して、評価基準の数値を機能性・安全性・安定性・経済性の点から明確
にし、その妥当性の評価またはシステム試作時の評価手法の検討を行なった。
(1) 機能性
高速・高頻度運行を実現するため、本システムが目標とする基本性能を表2-1に示す。
表2-1 LRT安全運行システムが目標とする基本性能
現
状
鉄道信号が未設置(単線 鉄道信号が設置
区間は設置)の路面電車 された地方鉄道
運行速度に
関わる性能
最高速度
軌道法により 40km/h
車両・線路の性
40km/h を上回る
能による
同方向へ続行運転時の
30 秒以内は可能だが低
数分以上
駅での先行列車出発か
速走行
ら後続列車到着まで
運行頻度に
関わる性能
本 シ ス テ ム
30 秒以内
単線区間行違い時の双 重厚な設備でないと一方の列車が駅外に 双方の列車が停車・
方向列車の到着
停車または双方の列車が減速
減速せず到着
JRは行違いの後着列車の到着後にドア 行違いの後着列車の
単線区間行違い時の先
を閉めた後に出発、一部民鉄は行違いの 到着よりできるだけ
着列車の出発
早く前に出発
後着列車の到着直前に出発
a.最高速度(現行 40km/h)の向上
専用軌道区間においては、先行列車以外の障害物が進入する可能性は一般の鉄道とあまり大差はな
い。軌道法において 40km/h 制限が原則とされているのは、先行列車への追突防止が運転士の注意力
に頼った仕組みだからであり、それを解消すれば 40km/h 制限を上回ることは可能だと考えられる。
参考として、鉄道に関する技術上の基準を定める省令第 101 条に以下のようにある。
列車は、列車間の安全を確保することができるよう、次に掲げるいずれかの方法により運転し
なければならない。
一 閉そくによる方法
二 列車間の間隔を確保する装置による方法
三 動力車を操縦する係員が前方の見通しその他列車の安全な運転に必要な条件を考慮して
運転する方法
軌道法の最高速度 40km/h を上回るには、上記の一または二による運転を要すると考えられる。同
省令第 54 条には以下のようにある。
1 閉そくを確保する装置は、進路上の閉そく区間の条件に応じた信号を現示し、又は閉そくの
保証を行うことができるものでなければならない。
2 列車間の間隔を確保する装置は、列車と進路上の他の列車等との間隔及び線路の条件に応
じ、連続して制御を行うことにより、自動的に当該列車を減速させ、又は停止させることがで
- 17 -
きるものでなければならない。
3 第一項又は第二項に掲げる装置を単線運転をする区間において使用する場合は、相対する列
車が同時に当該区間に進入することができないものでなければならない。
本システムは、正常動作時は上記の機能を有し、不具合時は縮退モードに移行して 40km/h 制限と
することから、ブレーキ制御の信頼性が確保できれば 40km/h 制限を上回ることを認められる条件は
整っていると評価する。ただし、汎用品や汎用通信インフラを活用することから、鉄道向けの高度な
保安装置ほどの信頼性(動作の成功確率)を確保できない可能性があり、試作と充分な走行試験によ
り信頼性を定量的に評価する必要がある。
一方、併用軌道区間においては、第1章にて策定の仕様案のみでは列車同士の衝突・追突防止は図
られるものの、道路交通流と錯綜することによる自動車や人との衝突・接触等の事故防止策は特に考
慮されていない。そのため併用軌道区間での最高速度向上を実現するには、自動車や人との衝突・接
触等の事故防止策を別途講じることが必要である。
b.駅での先行列車出発から後続列車到着までの時間
現行の軌道法によれば先行列車との距離が 100m以下となった場合の後続列車の運転速度は 15km/h
以下とされる。後続列車の駅への接近パターンは先行列車の進出状況に左右されるが、単純計算では
15km/h で 100m走行するには約 24 秒を要し、出発から到着まで 30 秒以内をクリアするのは困難と予
想される。連続的な位置検出により後続列車が先行列車に対し距離 100m以内でも 15km/h 以上で接
近することにより 30 秒以内の間隔が実現可能となるかどうかを、列車位置検出精度や情報伝送速度
等に基づいて判断することが今後の課題である。
c.行違い時の双方向列車の到着
前省令第 105 条に「二以上の列車が停車場に進入し、又は停車場から進出する場合において、過走
により相互にその進路を支障するおそれがあるときは、これらの列車を同時に運転してはならな
い。」とある。さらに、その解釈基準や解説によれば、同時到着を可能とするためには、ATC、速
度照査付ATS等の自動的に列車停止させることが可能な装置が設置されている場合以外は、下記の
何れかの条件を満たす必要がある。
① 警戒信号を現示
② 安全側線を設置
③ 信号機等からの過走余裕距離が 100m以上
しかし本システムではその主旨や表2-1に示す基本性能から、上記①~③の条件を想定しないた
め、行違い時の過走対策に関してはATC、速度照査付ATS等と同等の機能を有することが必須で
ある。これは運転台モニタ表示による運転指示と万一過走の恐れある場合のブレーキ指令により担保
されるが、その可否は列車位置検出精度や情報伝送速度、機器故障率等に基づいて判断する必要があ
る。また運転士の操縦誤りだけでなく、ブレーキ作動不良や滑走による過走への対策も極めて重要で
ある。さらなる評価は、システム試作及び走行試験を通して実施する必要がある。
d.行違い時の先着列車の出発
JR等の地方鉄道においては過去の重厚長大輸送の名残で長い有効長を有しながら現在は極めて短
い編成の列車のみが発着する駅が少なくなく、行違いにおいて後着列車の到着が完了するまで先行列
- 18 -
車が必要以上に待機を強いられる例が見られる。このような場合、本システムを活用して、対向列車
の到着完了前に先行列車が早めに出発することにより、待機時間を削減して所要時間の短縮及び線路
容量の向上を図ることが可能になると考えられる。そのためには、図2-1に示すように、GPS位
置検出精度や通信速度、行違い駅の有効長や分岐器の仕様、双方の列車の加減速パターンや列車長を
考慮し、対向の行違い後着列車到着前に先行列車がどのようなタイミングで出発可能かを判断する必
要がある。
また、1 列車 2 点のGPS位置検出に関する走行試験により、早めの出発に関する技術的な可能性
を検討することができる。
列車B
(1列車1点検知)
①
①
列車A(列車Bが到着してから発車)
列車B
①
②
(1列車2点検知)
①
②
列車A(①②の位置検知により列車Bの到着前に発車)
図2-1 1列車2点位置検出による列車行違い待ち時間短縮の可能性
(2) 安全性
現行法の下での軌道交通の安全性を下回らないよう、以下の要件を満たすかどうかを評価する必要が
ある。
a.追突・正面衝突・速度超過に至る可能性のある事象の発生確率
万一、本システムの運転席モニタの表示に誤りが生じ、仮にその誤表示に従って運転した場合に追
突・正面衝突・速度超過に至る可能性のある事象が発生する確率を、現状の列車衝突事故発生率と同
等以下に留めることを前提として、次のように検討した。
すなわち、平成 16 年度の全鉄道事業者の列車キロ 13.3 億 km に対し列車衝突事故は 7 件であっ
た。これを基に事故発生率を単純計算すると、7 回/年÷13.3 億 km/年≒0.6 回/1 億 km となる。本シ
ステムの場合、モニタ表示に不具合事象が起きても 9 割のケースでは運転士自身の判断により事故に
は至らず、残り 1 割のケースが事故に繋がると仮定すれば、「モニタ表示の不具合事象により追突・
正面衝突・速度超過に至る可能性のある事象」が発生する確率の、許容しうる上限値は、0.6 回/1 億
km÷0.1≒6 回/1 億 km となる。
この要件を満たすかについて明確に判断するには、汎用機器の故障、列車位置・速度検出のズレ、
通信時のデータ誤り及び通信途絶等の確率から試算する必要がある。
- 19 -
b.異常情報の不伝達が発生する確率
前項のシステム仕様に関するFSにおいて、非常ブレーキ指令が必要となるような地上側の異常情
報の不伝達が発生する確率を予測した結果を表2-2に示す。この予測値は、異常情報伝達に関わる
機器故障率や通信障害率を個別に算定し総和することによって得たものである。
これらの異常情報の伝達は、現状の鉄軌道路線の多くでは運転席に直接リアルタイムには行われて
いないので不伝達となっても安全度が低下することはないが、安全性の向上に大きく寄与する機能で
あり、不伝達が発生する率は 1 年に 1 回以下が望ましいとして評価した。
表2-2 異常情報の不伝達の発生確率
異常情報
情報不伝達が
発生する確率
目標値
踏切遮断の異常
6.50E-05
1.14E-04
沿線の異常情報
(自然災害等)
6.50E-05
1.14E-04
※目標値は 1 年に 1 回発生する確率。
c.上記事象が起きた場合も正面衝突等の重大事故へ直結しない
列車-センター間等の通信でデータが届かない場合、速やかに最高速度、運行頻度等を現行路面電
車並に低下させる縮退モードに移行するシステムとなっており、フェールセーフ性が確保されると言
える。ただし、正常運行モードに対する縮退モードの具体的なあり方や、移行の判断条件を詳細に規
定したうえで、最終的に判断する必要がある。
d.運転席モニタの運転指示が安全確認を低下させない
常に運転席モニタの運転指示を受ける本システムの運転においては、従来の速度計等の計器や警告
灯等を確認しながらも前方注視が主体の運転方法に比べ、前方安全確認等の低下が生じないかをチェ
ックすることが不可欠である。システムを試作し、机上検討及び走行試験により、安全確認の観点か
ら、モニタの視認性や前方注視とのバランスを考察する必要がある。
(3) 安定性
汎用機器の故障等によりシステムダウンしても重大事故には直結せず、かつ以下の要件を満たすかど
うかを評価する必要がある。
a.システムダウン頻度が 100 万列車キロ当り 6 回以下
明確な判断を行うためには詳細なシステム仕様を確定したうえで、安全性と同様に機器故障率や通
信時のデータ誤り及び通信途絶等の確率から試算する必要がある。運転士のヒューマンエラーについ
ては、検出方式も含めて検討することが適切である。
b.縮退モードに切換えて最低限の運行が継続可能
システムダウンして輸送機能が低下しても、運休に至らないという点で安定性が高いと言える。た
だし前述の安全性と同様に、正常運行モードに対する具体的な縮退モードのあり方とそれに伴う輸送
機能低下についての検討が必要である。
- 20 -
(4) 経済性
複線路線・単線路線のそれぞれに関して、モデル配線及び想定ダイヤを以下により作成した。
a.複線路線
図2-2に、複線モデル線区の配線を示す。路線長を 10km、駅間距離を一律 1km、踏切を 1km おき
とすると、駅は 11 駅、踏切は 10 箇所となる。急行と各停を 1 本おきに運行させ、待避駅では同じホ
ームの反対側で相互に乗換えでき、中長距離と他距離の双方の利便を確保できるようにする。駅名を
左から順に駅 NO.1~駅 No.11 とし、駅 No.4 と駅 No.7 を待避駅として急行は途中その 2 駅のみに停
車する。折返し駅は 2 線とも折返しに使用できる。
図2-2 複線モデル線区の配線
図2-3に、複線モデル線区の 10:00 から 12:00 の想定ダイヤ(縦軸を駅、横軸を時刻としたグラ
フで、1 本 1 本の斜め線が列車の動きを表し各駅の着発時刻が分かる)を示し、前後の時間帯も同パ
ターンのダイヤとする。急行(赤線)は、全区間 10km を 10 分、表定速度(途中駅での停車時間も含
めて計算した平均速度)60km/h で走行する。各停(黒線)は、待避駅で停車時間が伸びることも含
めて急行より 10 分余計に時間を要し、20 分、表定速度 30km/h で走行する。図2-2の配線によ
り、急行・各停とも 4 分間隔の運行が可能で、合せて片道 30 本/h の運行となる。
図2-3 複線モデル線区の想定ダイヤ
片道 30 本/h の運行は、既存の鉄道信号システムでは、軌道回路割を相当に細かくし、さらに地上
信号式だと進行(速度制限なし)、注意(45km/h 制限)、停止の 3 現示の他に、減速(65km/h 制
限)、警戒(25km/h 制限)も出せる 5 現示式にする等が必要で、高コストなものとなる。あるい
は、さらに高コストな車内信号式(指示速度段を地上信号式より多くしやすい)としなければならな
い。
b.単線路線
図2-4に、単線モデル線区の配線を示す。路線長を 10km、駅間距離を一律 1km、踏切を 1km おき
とすると、駅は 11 駅、踏切は 10 箇所となる。駅名を左から順に駅 NO.1~駅 No.11 とし、駅 No.4 と
駅 No.7 を行違い駅とする。折返し駅は 1 線とする。
図2-4 単線モデル線区の配線
- 21 -
図2-5に、単線モデル線区の 10:00 から 12:00 の想定ダイヤを示し、前後の時間帯も同パターン
のダイヤとする。全て各停として、16 分、表定速度 38km/h で走行する。図2-4の配線により、12
分間隔の運行が可能で、片道 5 本/h の運行となる。
図2-5 単線モデル線区の想定ダイヤ
モデル配線及び想定ダイヤに対して、実用化時のシステム価格(投資額及び、保守費を含む運営費)
を試算し、同機能を実現する場合の既存システムと比較することを目標としていた。
既存システムの価格は公開されていないため、地方鉄道事業者 3 社(固有名詞は出せない)へヒアリ
ングしたところ、例えば、単線路線の行違い駅を 1 箇所増設する場合、用地確保及び線路・ホーム・
架線・信号の各工事の中で信号工事が投資額の過半を占め 1 億円以上を要すとのことだった。本シス
テムであれば、分岐器とのインターフェースを取りシステムのデータを改めるのみであり、初期開発
費を含まない純導入費は数百万円以内と想定しており、大幅に投資額を低減できる。
運営費に関して、本システムでは通信費を節減できるシステム設計が重要であり、設計の巧拙によっ
ては多額となる恐れがある。一方、既存システムは保守費が直轄人件費・外注費とも相当の金額なの
で、本システムを適切にシステム設計すれば運営費も低減できると想定している。
その他、出発・到着・通過時の進路構成、同方向への続行運転、急行の待避、踏切の制御等、多くの
処理機能を実現するに当り、本システムは既存システムより投資額及び、保守費を含む運営費とも低
減できるのではないかと推定される。それを詳細に検討するのは今後の課題である。
- 22 -
2.2 簡易走行試験による評価
(1) 試験の目的
前述のようにGPS位置検出技術を鉄軌道に応用すれば、廉価で高精度な列車位置・速度の同時検出
が可能となり、本FSのLRT安全運行システムの実現に大きく寄与すると考えられる。しかしながら
現時点では、GPSによる列車位置検出は衛星信号の受信状態や機器性能の限界による誤差が不可避な
ため、従来の鉄道信号システムと同等の信頼性、安全性を担保するためには、何らかの方法でその機能
を補完し精度を向上させる必要がある。これまでの研究例では車軸速度発電機信号による列車位置検出
の補完を検討した例が見られるが、本FSでは新たな試みとして、GPSと同時に車上のドップラーレ
ーダ速度計(スピードガン)により列車速度を検出し、比較照合した。また、LRT運行頻度の向上に
資すると考えられる、1 列車 2 点の位置検出の可能性についても、実車走行実験により検討した。
(2) GPSとドップラーレーダによる速度検出
a.走行試験線区と計測装置
走行試験は山形県内の山形鉄道・荒砥-赤湯間で実施した。走行線区を図2-6、試験車両に仮設
した計測装置の構成を図2-7、その設置状況を図2-8に示す。供試車両は全長 18m級の気動車
であり、車端部の車内にGPS受信機およびドップラーレーダ速度計(レーザ光線を利用したいわゆ
るスピードガン)を仮設し、双方のデータをパソコンに入力した。
荒砥
鮎貝
蚕桑
白兎
羽前成田
山形鉄道フラワー長井線
荒砥~赤湯間
30.5km
あやめ公園
長井
南長井
時庭
おりはた
今泉
西大塚
宮内
梨郷
南陽市役所
赤湯(山形新幹線)
赤湯
図2-6 GPSとドップラーレーダによる速度検出の試験線区
- 23 -
GPS 受信機
ドップラーレーザ速度計
パソコン
(アンテナ一体型)
ドップラーレーザ
速度計
パソコン
アンテナ一体型
GPS受信機
三脚
図2-7 GPSとドップラーレーダによる速度計測装置の構成
図2-8 試験車両車内に仮設したドップラーレーダ速度計とGPS受信機
GPS受信機およびドップラーレーダ速度計の諸元を表2-3、表2-4に示す。GPS受信機は
アンテナ一体型、ドップラーレーダ速度計は三脚支持で、それぞれ車両端面の窓ガラスを通して信号
を検出した。
表2-3 GPS受信機の諸元
外形寸法
56mm(直径)×28mm(厚さ)
外部出力
チップセット
USBインターフェース(RS-232C互換)
Antaris4
DGPS
WAAS(米国式),EGNOS(欧州式)
測位データ更新間隔
通信速度
1Hz~4Hz
2400/4800/9600/38400/57600/115200 bps
受信感度
-146dBm
測位精度
出力プロトコル
15m(2DRMS)
NMEA0183 Ver2.30
- 24 -
表2-4 ドップラーレーダ速度計(レーザ光線)の諸元
速度範囲
精度
1~480(km/h)
±0.16km/h
動作温度
サイズ
連続使用時間
-30~50℃
89.0(幅)×235.0(高さ)×259.1(長さ)
3~4時間(連続計測時)
b.GPS受信状況
実験走行区間の 1 往復において計測したGPSデータの受信状況を停車中・走行中の別に、表2-
5に示す。トンネルや主だった高架、沿線高層建築物がないため、受信率はほぼ 100%であった。ま
た捕捉衛星数は概ね 4 以上、DOP値は 8 以下という良好な測位状況であった。
表2-5 GPSデータの受信状況
進行方向
状態別
上り:荒砥 → 赤湯
停車中
全データ数
有効データ数
無効データ数
受信率
644
644
0
100%
上り:荒砥 → 赤湯
走行中
2704
2696
8
99.70%
下り:赤湯 → 荒砥
停車中
1161
1161
0
100%
下り:赤湯 → 荒砥
走行中
2811
2811
0
100%
c.検出速度の比較
GPSとドップラーレーダによる連続的な列車速度計測値を図2-9・10に比較して示す。両者
による走行中の計測値はほぼ一致している。ただしGPSによる速度計測値は、一時的に衛星からの
受信が無効となる場合には不安定となる。一方、ドップラーレーダの計測値は、停車時にはゼロとな
らず数 km/h 程度の値を示したため、この停車部分のデータに対してはソフト的な補正を施すことと
した。
GPS
レーザドップラー
80
速度計測値 (km/h)
上り 荒砥→赤湯
60
40
20
0
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
時間 (sec)
図2-9 GPSとドップラーレーダによる速度計測値(上り)
- 25 -
GPS
レーザドップラー
80
速度計測値 (km/h)
下り 赤湯→荒砥
60
40
20
0
0
500
1000
1500 2000 2500
時間 (sec)
3000
3500
4000
図2-10 GPSとドップラーレーダによる速度計測値(下り)
また走行中のドップラーレーダによる速度計測値は運転席速度計の表示値とほぼ一致することが確
認された。後者は車軸速度発電機のパルス信号を利用しているため、これを基準とすれば、走行中の
ドップラーレーダ計測値は信頼性が十分に高いと言える。
図2-11に、約 60km/h で走行中のGPS測位(生データおよびマップマッチングによる補正デ
ータ)と、上記のドップラーレーダ速度計測値の積分による同時位置検出の結果を例示する。GPS
補正位置と速度積分の位置は地図上で重なっており、ほぼ同じ位置を検出していることが確認され
た。なお低速走行時は両者の差は最大数m程度であった。以上の結果から、ドップラーレーダによる
速度計測、その積分による位置検出は、停車中のデータ補正を行えば、速度発電機信号と並んで、G
PSによる速度、位置検出の照合、補完手段として有用であると判断できる。
:GPS生データ
:GPS生データ
:GPS補正データ
:GPS補正データ
:速度データ
:速度データ
図2-11 GPSとドップラーレーダ速度積分による同時位置検出(右は拡大)
- 26 -
(3) GPSによる 1 列車 2 点の位置検出
a.2 点検出のねらい
本システムは、GPS応用により列車位置検出の低コスト化とともに、高頻度運行による利便性向
上をもねらうものである。これまでのGPSによる列車位置検出は 1 列車1点であるが、列車は自動
車等より全長が長いため、前述の図2-4に示すような単線区間での交換待ち時間等を短縮するため
には、LRTのような短編成運行でも、列車の先端および後端の位置情報を把握して運行管理に活用
することが有効であると考えられる。そこで、車両の前端・後端の 2 箇所にアンテナを設置して、1
列車 2 点の位置検出を試みた。この 2 点位置検出は各々別個の計測システムで行われるため、2 点の
計測値の差異が実際の車上のアンテナ位置の差異と整合していれば、確率的にもそれら 2 点の計測値
の精度は十分高く、両者の差は有意であると考えられる。したがって仮に衛星配置等に起因する偏り
の誤差があっても、近傍の列車同士の相対位置関係を正しく把握できることが期待できる。
b.走行試験線区と計測装置
試験車両に仮設した計測装置の構成を図2-12に示す。走行試験は愛媛県松山市近郊の伊予鉄
道・横河原-高浜間で実施した。供試車両は全長 18m級(2 車体連接式LRT車両と同等)の電車で
あり、車両両端部の屋根上にGPSアンテナ・受信機を各 1 台仮設し、双方のデータをパソコンに入
力した。アンテナ設置位置はそれぞれ端面より約 50cm 中央寄りのため、アンテナ間の距離は 17mで
ある。その取付状況を図2-13に示す。
データ取得装置
GPSアンテナ
GPSアンテナ
車輌長:約 18m
図2-12 GPSによる 1 列車 2 点位置検出の計測装置構成
図2-13 GPSによる 1 列車 2 点位置検出のアンテナ取付位置(左:先頭部 右:後端部)
- 27 -
c.試験結果
GPSによる 1 列車 2 点検出の位置計測結果を図2-14・15に例示する。車両前後における測
定結果より、時々刻々の 2 点の計測値に、おおむねGPSアンテナ間距離に近い差異を連続的に確認
することができた。特に直線区間においては、アンテナ間距離とほぼ同じ 16m~18mの、有意であ
ると判断できる差異が確認された。
図2-14 GPSによる 1 列車 2 点位置計測結果の例(直線区間)
図2-15 GPSによる 1 列車 2 点位置計測結果の例(曲線区間)
- 28 -
ただし、図2-15の曲線区間では 2 点の計測値の差が縮まる傾向がみられ、最小の場合、2 点の
計測値はアンテナ間距離の約半分にまで接近することも確認された。なお、計測値 2 点間の線分と列
車進行方向を照合すると、逆転は無いものの一致しない部分が多く、最大で左右に 45°程度のずれ
が生じている。
(4) 簡易走行試験のまとめ
① 鉄道路線上で実車走行によるGPSとドップラーレーダによる速度計測を行い、停車中以外は両
者の計測値がほぼ一致することを確認し、ドップラーレーダによる計測がGPS計測の補完、照
合手段として有用であると判断した。
② GPSによる 1 列車 2 点の位置検出を試み、アンテナ間距離にほぼ相当する 2 点計測値の差異を
確認したが、曲線区間での差異縮小や方向性の不一致が課題である。
- 29 -
第3章 システム有効性に関するFS <(株)ライトレール>
3.1 LRT普及に向けた基礎的調査・検討
(1) LRT整備に対する支援制度
国交省では、LRT普及のために、地域の合意形成に基づくLRT整備計画に対して、関係部局が連
携してLRT総合整備事業による補助を同時採択する等、支援制度を充実させている。図3-1に、L
RT総合整備事業のあらましを、表3-1に、LRT総合整備事業の内訳を示す。
国交省HPより <http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/lrt/lrt_index.html>
図3-1 LRT総合整備事業のあらまし
表3-1 LRT総合整備事業の内訳
補助事業名
概
要
補助対象者
補 助 率
LRTシステム LRTシステムの構築に不可欠な施設(低床式 鉄軌道事業者
整備費補助
車両、制振レール、車庫、変電所等)の整備に
対して補助
国 1/4
地方公共団体 1/4
都市交通システ 総合的な都市交通の戦略に基づくLRTの施設 地方公共団体等
ム整備事業
(車両を除く)の整備に対し包括的に支援
国 1/3
路面電車走行空
間改築事業
交通結節点改善
事業
LRTの走行空間(走行路面、停留所等)の整 地方公共団体
備に対して支援
※交通結節点においては、道路区域外の空間を
活用するものを含む
- 30 -
国 1/2 等
(2) 富山ライトレールの成功要因
富山ライトレールは、JR北陸本線の富山と接する富山駅北と岩瀬浜 7.6km を結ぶ単線電化の路線
で、平成 18 年 4 月 29 日に開業し、日本で初の本格的LRTの先進成功モデルとして注目されている。
図3-2に、富山ライトレールの路線図を示す。都心部 1.1km は道路上に軌道を新設し、郊外部 6.5km
はJR西日本の旧富山港線の土地・設備を承継した。新型LRT車両の投入・新駅設置・行違い駅増
設・架線電圧の降圧・低床車両用ホームの新設等の設備投資をし、運行本数を大幅に増やした。
岩瀬浜
至新潟
至高山
J
R
北
陸本
線
富山ライトレール
至金沢
富山駅北
富山地方鉄道本線
富山
1km
富山地方鉄道市内線
図3-2 富山ライトレールの路線図
旧富山港線は、昭和 62 年にJR西日本が国鉄から経営を引継いだ後、利用減→本数減→利用減の悪
循環を繰返し、昭和 63 年と平成 16 年を比較すると沿線人口は 45,906 人から 45,350 人への 1%強の減
少に対し、旧富山港線の利用者は 6,500 人から 3,100 人へと 52%の減少だった(数値は『富山港線の
事業概要』富山市、平成 18 年 4 月より)。
平成 13 年度の北陸新幹線の富山延伸の事業認可、15 年度の北陸本線高架化の調査採択の後、JR富
山港線を高架化するより北陸本線との並行区間は道路上に新設する軌道経由とした方が、高架化工事の
効率も向上して総合的に見て得策との判断になり、富山ライトレールの事業が決定した。
施設整備・車両新造等の総事業費 58 億円は全額が国・県・市からの補助で賄われた。連続立体交差
事業からの負担金が 33 億円、鉄道事業補助(LRTシステム整備費補助)が 7 億円、街路事業(路面
電車走行空間改築事業)が 8 億円、富山市単独補助事業(JR西日本からの寄付金が原資)が 10 億円
という内訳で、(1)に既述したLRT総合整備事業による支援制度をさらに上回る公的支援がされた。
- 31 -
さらに、将来の富山地鉄市内線との直通までの間に発生すると見込まれた 2,000~3,000 万円/年の運営
赤字を富山市が支援するスキームとした。
過去の利用実績である昭和 63 年度 6,500 人/日、平成 10 年度 4,900 人/日、平成 14 年度 3,400 人/日
に対し、LRT化報告書の需要予測では開業時 4,200 人/日、富山地鉄市内線との直通時 5,000 人/日と
したが、平成 17 年秋の利用調査では 2,266 人/日まで落込み、開業間際での目標は 3,400 人/日とし
た。それに対し、計画作成の関係者の一部では、過去の国内外の鉄軌道サービスの改善事例からする
と、大幅な運行本数増により開業時から 4,200 人/日を上回るだろうとの意見もあった。
国交省と富山市は共同で、富山港線LRT化の整備効果把握のためJR富山港線と富山ライトレール
の利用状況等を以下の月日に調査した(以下のデータは富山市HP中の「富山港線LRT化の整備効果
調査結果について」http://www7.city.toyama.toyama.jp/pr/interview/070104a.html)。
JR富山港線:平成 17 年 10 月 2 日(日)、6 日(木)
富山ライトレール:平成 18 年 10 月 5 日(木)、8 日(日)、12 日(木)、15 日(日)
表3-2に、両者の運転本数・利用者数を比較したものを示す。富山ライトレールの平日 10~16 時
及び土休日は、通常運賃 200 円に対して半額の 100 円となっており、それによる利用増効果を補正する
ため、利用者数を平日は 1.1、土休日は 1.4 で割って補正値とした。
表3-2 富山ライトレール開業前後の運転本数・利用者数の比較
平 日
土 休 日
平 均
運転本数 利用者数 同補正 運転本数 利用者数 同補正 運転本数 利用者数 同補正
[往復/日] [人/日] [人/日] [往復/日] [人/日] [人/日] [往復/日] [人/日] [人/日]
JR富山港線
19
2,266
19
1,045
19
1,917
富山ライトレール
65
4,988
4,535
62
5,576
3,983
64
5,156
4,377
倍 率
3.4
2.2
2.0
3.3
5.3
3.8
3.4
2.7
2.3
※運転本数は、下りと上りの全区間運行列車の本数の平均。
※利用者数は、平成17年10月と18年10月の実績。
※利用者数の補正値は、運賃半額の効果を除くため、平日は1.1、土休日は1.4で割って求めた。
※運転本数と利用者数の平均は、(平日×5+土休日×2)÷7により求めた。
平均の運転本数を 19 往復/日から 64 往復/日へ 3.4 倍に増やしたところ、平均の利用者数は 1,917 人
/日から 5,156 人/日へと 2.7 倍に増え、目標の 3,400 人/日を大幅に上回り、計画作成した関係者の一
部の意見通りとなった。開業初年度は赤字決算の計画だったが黒字決算となった。予想を大幅に上回る
利用者数となった要因は何であろうか。多くの利用者の声を冷静に聞くなら、欧米タイプのお洒落な超
低床車両の導入による「車両の快適性」以上に「待たずに乗れるようになった!!」が重要であり、思
い切った本数増が大きな効果をもたらした。
具体的に見てみる。表3-3に、富山ライトレール開業前後の比較を駅の時刻表形式で示す。本数増
及び終列車繰下げの様子が良く分かる。JR富山港線は、朝夕 2 本/h、その他 1 本/h が基本で、しか
も規則性がなく分かりにくかった。それに対し富山ライトレールは、朝 10 分おき、その他 15 分おき
と、本数を大幅に増やした上に規則性を持たせて分かりやすくした。さらに、終列車を富山発 21:32 か
ら 23:15 へと 1 時間半以上遅らせた。
- 32 -
表3-3 富山ライトレール開業前後の時刻表の比較
富山(富山駅北)発
富山港線
47
52 08
23
36 01
00
11
09
04
04
04
08
51 26
32
13
20
32
19本
時
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
計
岩瀬浜 発
富山ライトレール
57
35 53
14 24 35 45 55
05 15 25 45 57
14 30 45
00 15 30 45
00 15 30 45
00 15 30 45
00 15 30 45
00 15 30 45
00 15 30 45
00 15 30 45
00 15 30 45
00 15 30 45
00 15 30 45
00 15 45
15 45
15 45
15
64本
富山港線
55 11
26
35 00
25
28
37
36
29
29
28
34
54
35
41 15
47
56
19本
時
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
計
富山ライトレール
30
00 22 39 49
00 10 21 31 41 51
01 11 21 31 43
00 14 31 46
01 16 31 46
01 16 31 46
01 16 31 46
01 16 31 46
01 16 31 46
01 16 31 46
01 16 31 46
01 16 31 46
01 16 31 46
01 16 31 46
16 42
12 42
12 42
66本
図3-3に、富山ライトレール開業前後の比較をダイヤ形式で示す。行違い駅を 3 箇所増設し、投入
編成数も大幅に増やした様子が良く分かる。
JR富山港線
※朝夕は 2 編成(運転士 2 名+車掌 2 名)、その他は 1 編成(運転士 1 名+車掌 2 名)が行き来
富山ライトレール
※朝は 6 編成(運転士 6 名)、その他は 4 編成(運転士 4 名)が行き来
図3-3 富山ライトレール開業前後のダイヤの比較
森 雅志富山市長は「車に依存しないコンパクトなまちづくり」を明確に標榜している。近年全国的
に、環境問題をはじめ様々な面で「自動車へ過度に依存した交通体系や生活様式からの脱却」が叫ばれ
るようになりつつある。その際、単に「自動車の利用を控えましょう」では市民に不便な生活を強いる
こととなり、あまり実効は上がらず、自動車の代りとなる交通システムを用意してこそ実効が上がる。
今後のLRT普及のヒントを得る上で、富山ライトレールは、良質な交通サービスを提供すれば一般的
な見方より大きな需要が生れることを示す成功モデルと言える。JR時代と比べた大増発(30~60 分
おき→10~15 分おき)と終電繰下げが大きな効果をもたらした。
また、JR時代は、3km まで 140 円、6km まで 180 円、6km 超 200 円で、しかも他路線との通し運賃
だったので、富山ライトレールの 200 円均一、JRとの乗継割引なしは基本運賃の値上げである。しか
も、高校生の通学定期は 2,360 円/月~4,210 円/月だったものが 7,200 円/月均一となり、JRとの乗
- 33 -
継割引もなく大幅な値上げとなった。にも関わらず、先の国交省と富山市の調査によると平日の通学利
用も 224 人から 285 人へと 27%増加しており、利用者は運賃の安さより利便性の高さにより敏感に反
応することが分かる。値上げによる収益性の向上も注目に値する。
ただし、直接のモーダルシフトの効果という点では不充分である。図3-4に、平成 12 年国勢調査
データを用いた富山ライトレールの沿線及び各駅 1km 圏の人口を示す。沿線人口は約 5.4 万人である。
先の国交省と富山市の調査によると、開業後の自動車からのモーダルシフトは平日 572 人/日、休日
700 人/日であり、1 日平均を求めると(平日×5+休日×2)÷7=(572×5+700×2)÷7=609 人/日であ
る。1 日当り自動車利用を沿線人口の 2 倍弱とすると 10 万トリップ/日となり、モーダルシフト率は
609 人/日÷10 万トリップ/日≒0.6%であり、思いのほか僅かなのが現実である。
図3-4 富山ライトレールの沿線及び各駅 1km 圏の人口
さらに、連続立体交差事業の負担金やJR西日本の寄付金という財源があったが故に実現できた面も
あり、社会的に許容し得る公的支援の範囲で全国へLRT普及を進めるには、富山ライトレールを上回
るさらなる利用増を要する。冷静に分析するなら、富山ライトレールの朝ラッシュ 10 分おき、他の時
間帯 15 分おき、夜間帯 30 分おきという運行頻度は、都市鉄道の利便性としては不充分であり、また運
行速度も高くなく、本格的なモーダルシフトを実現するには、さらなる高速・高頻度運行を実現すべき
である。
総合的に見て、富山ライトレールは、軌道を新設した新規LRT、既存インフラを活用した地方鉄道
LRT化の両面において先進成功モデルであることは間違いない。その上で、全国にLRT普及を進め
- 34 -
本格的モーダルシフトを実現する上で、さらなる取組みを要する点も分かった。
(3) 高速・高頻度運行と利用増の関係
鉄軌道の利便向上・不向上と利用動向の関係を調べると、速度・頻度・運賃と利用者数の間には、お
おむね平方根の関係が成立つ傾向が見られる。所要時間を半分、頻度を 2 倍または運賃を半分にする
と、利用者は約 1.4 倍、それぞれ 3 分の 1 または 3 倍にすると利用者は約 1.7 倍になるくらいの関係で
ある。実例をいくつか示す。
表3-2に示した通り、富山ライトレールは運転本数を平均 3.4 倍に増やしたところ、利用者数は補
正値で 2.3 倍に増え、平方根の法則を上回る利用増となった。それは、超低床でデザインの優れた新車
投入の効果や、マスコミの繰返し報道による宣伝広告効果と考えられる。
表3-4に、国鉄からJR東海にかけての名古屋-岐阜の所要時間・運転本数・利用者数の時系列を
3 時期に分けて示す。
表3-4 名古屋-岐阜の所要時間・運転本数・利用者数の時系列
朝 ラ ッ シ ュ 1 時 間
項 目
終 日
所要時間
[分]
運転本数
[本/時間]
利用者数
[万人/時間]
所要時間
[分]
運転本数
[本/日]
利用者数
[万人/日]
昭和50年代
30
7
0.9
23
45
2.6
平成5年頃
25
13
1.5
20
139
5.1
平成12年頃
21
14
1.6
18
145
5.7
時 期
※各年度の『都市交通年報』から作成。
ここで、所要時間の短縮と運転本数の増加は利用者数に対して平方根の法則で効くと仮定する。表3
-5に、欄外注釈に示した計算式で計算した数値を示す。これを見ると、総合改善比ルートと利用者数
比はおおむね近い数値となっており、前記の仮定がほぼ妥当なことを示す。
表3-5 名古屋-岐阜の所要時間・運転本数の改善と利用者数の相関
朝 ラ ッ シ ュ 1 時 間
項 目
時 期
終 日
所要時間 運転本数 総合改善比 利用者数 所要時間 運転本数 総合改善比 利用者数
改善比 改善比
ルート
比
改善比 改善比
ルート
比
平成5年頃/昭和50年代
1.20
1.86
1.49
1.67
1.15
3.09
1.88
1.96
平成12年頃/平成5年頃
1.19
1.08
1.13
1.07
1.11
1.04
1.08
1.12
※所要時間改善比=改善前所要時間/改善後所要時間
※運転本数改善比=改善後運転本数/改善前運転本数
※総合改善比ルート=√(所要時間改善比×運転本数改善比)
※利用者数比=改善後利用者数/改善前利用者数
さらに、平成 19 年 4 月に廃止された鹿島鉄道と、現在廃止の危機にある茨城鉄道湊線と、数少ない
過去 20 年間に大幅に運転本数を増やした時期のある 4 路線を選び、表3-6と図3-5のような運転
本数と利用者数の相関を見る図表を作成した。
- 35 -
表3-6 運転本数と利用者数の相関
豊橋鉄道渥美線JR関西線(名古屋口) JR奈良線 鹿島鉄道
甘木鉄道
路線 茨城交通湊線 輸送人員
輸送人員
輸送密度
輸送人員
輸送人員
輸送人員
本数
本数
本数
本数
本数
本数
年度
人員 比
人員 比
密度 比
人員 比
人員 比
人員 比
S60(1985) 23 1,468 100 20 1,352 100 7
653 100 39 6,385 100 22 3,973 100 32 9,621 100
H6(1994) 25 1,157 79
H15(2003) 28
813 55
26 1,359 101
34 2,293 351
66 7,881 123
56
9,035 227
55 19,549 203
27
41 1,742 267
69 7,336 115
58 12,441 313
86 28,579 297
883 65
※本数は1日片道当りの全区間平均値を、輸送人員は年間の全人員[千人]を、輸送密度は1日当りを示す。
※茨城交通湊線・鹿島鉄道・甘木鉄道:『鉄道統計年報(国土交通省鉄道局)』
豊橋鉄道渥美線:『数字で見る中部の運輸(国土交通省中部運輸局)』
JR関西線(名古屋口)・JR奈良線:『都市交通年報(財団法人運輸政策研究機構)』
利用者数
300
:茨城交通湊線
:鹿島鉄道
:甘木鉄道
:豊橋鉄道渥美線
:JR関西線(名古屋口)
:JR奈良線
200
100
S60(1985)→H6(1994)→H15(2003)
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90 列車本数
(全区間平均、片道当り)
図3-5 運転本数と利用者数の相関
大幅な利便向上をした路線・時期は平方根の法則に近いかそれを上回る関係があり、利便向上の不充
分な路線・時期は着実に利用者を減らしている。最近 20 年間の道路建設、自動車の価格性能比向上、
自動車運転免許保有者の増大を考えるなら当然のことである。さらに、大幅な利便向上をした後は沿線
への住居・企業・施設等の立地が進み、利便向上度合いが少なくなっても利用増傾向が続いていること
が推定される。
一方、過去に廃止された多くの鉄軌道路線において、交通利便性を改善しないまま「皆で乗って残そ
う」運動が展開され、各所でのPR活動、沿線でのイベント、イベント列車運行、駅や沿線の美化活動
といった取組みがされたが、残念ながら利用減傾向は変えられず廃止に到った。
以上のように、鉄軌道の速度・頻度のみが利用の多寡を決める訳ではないにしろ、決定付ける最重要
なファクターであることは間違いない。鉄軌道に限らず交通の歴史を振返った時、その盛衰を決定付け
るのは「速さ」である。乗車中の速度と同時に、移動しようと思い立ってから目的地に着くまでの時間
を短縮するには、待たずに乗れる高頻度運行も重要である。
さらに言うなら、自動車系交通システムと比較した軌道交通システムの最大の弱点は玄関から玄関ま
で移動できないことであり、ドアツードア性改善も重要である。その弱点を大幅に緩和できるのが、J
R北海道が開発し試験営業運転中のDMV(線路・道路両用車)であるが、車両が軽いために既存の軌
- 36 -
道回路方式による鉄道信号システムが活用できない(雨上りでレールに薄い錆ができた状態や落葉の季
節に列車進来を検出できず、運転保安や踏切制御に不具合を起す)ことが本格導入の大きな障害となっ
ている。その点も、本システムの実用化により解消できる可能性がある。
鉄軌道の利便向上(高速・高頻度運行、ドアツードア性改善)のみでなく、鉄道駅や軌道電停を中心
としたまちづくりが進めば、多くの人にとって自動車へ過度に依存しない生活が可能となりモーダルシ
フトがより効果的に進展する。過去 50 年間、大都市圏中心部以外はモータリゼーションの進展をベー
スとしたまちづくりが進み、交通に伴うエネルギー消費も増大の一途をたどった。1965(昭和 40)年
から 2003 年(平成 15)年までの 38 年間で、国民 1 人 1 年当りの移動距離は 2.7 倍になったのに対
し、CO2 排出量は 5.8 倍となった(上岡直見『新・鉄道は地球を救う』P36)。エネルギー消費量はC
O2 排出量とほぼ比例するから同様の傾向であり、自動車への過度の依存が交通に伴うエネルギー消費
の大幅な増大を招いたことが分かる。
そういった問題点を受け、国交省は、近年、モーダルシフトによる省エネルギーも目的の 1 つとして
薄く広く広がる市街地の形成からコンパクトシティ指向へとまちづくりの戦略を転換した。平成 19 年
7 月 20 日の社会資本整備審議会『新しい時代の都市計画はいかにあるべきか(第二次答申)』におい
て、「都市交通・市街地の現状と課題を踏まえ、拡散型都市構造に起因する諸問題に対して、集約型都
市構造を選択する都市圏における都市像と、その実現に向けた戦略的な取組みの方向性、国としての支
援の考え方、今後取組むべき課題」が示された。
現実場面においては、核となる軌道交通を整備・活用することが重要であり、特に既存鉄道インフラ
のある地域では創意工夫により低コストに実現できる可能性がある。軌道交通が核となりエネルギー消
費の少ない交通体系・生活様式を構築するには、単に線路があるだけでは意味がなく、高速かつ高頻度
な運行とし、自動車の代りに利用し得る局面のある利便性の高い交通システムとすることが肝要であ
る。
その際、地方において自動車による移動の大半を今すぐに軌道交通に転換することは現実的でない。
現在、鉄軌道のある地方都市におけるバス等も含んだ公共交通の移動全体に対する分担率は 3%以下が
大半で、本システムの導入により軌道交通の利便性を大幅向上し、その分担率を若干引上げられるのみ
で経営を好転させられ、社会的に許容し得る公的支援の範囲で地方鉄道を存続・再生できる。地方鉄道
が今の低利便(低速・低頻度運行)を継続するなら利用・売上げとも減少一途で赤字は拡大し、同時に
地域貢献度の低下が公的支援に賛同する民意をさらに引下げ、税金を投入した赤字補填による存続も叶
わず、早晩、地方鉄道の大半が廃止されよう。利便向上による鉄道経営好転やモーダルシフトの効果は
後述する。
- 37 -
3.2 LRT実現構想の調査
(1) 全国のLRT構想
平成 18 年 9 月 2 日付け朝日新聞夕刊によると、全国で約 70 のLRT実現構想があるという。表3-
7に、入手可能な情報により取りまとめた全国のLRT構想を示す。この内、新規LRT(延伸含む)
は、20,22,23,25,40 を除いた 38 件である。
表3-7 全国のLRT構想(3 ページ先まで続く)
No 都市名
1 札幌市
活動団体
活動目標
当面の措置としての車両の
安全性への対応など課題解
交通局
決のために、関係部局と
様々な角度から積極的に取
組んでいく。
検討組織を立上げてループ
化や経営形態のあり方を検
討し、路面電車の活用方策
総合交通計画 を取りまとめる。車両は、
部
低床車両に限らずコストや
機能面から他の新たな車両
システム導入の可能性も幅
広く検討。
活動状況
昭和33から36年に製造され老朽
http://www.city.sappor
化の著しい200 形車両の改修の
o.jp/st
ための詳細調査を行う。
路面電車活性化について過去に
委員会にて繰返し検討し、04~
http://www.city.sappor
05年には市電フォーラムを3回
o.jp/sogokotsu
開催。ループ化・桑園延伸・札
幌延伸・苗穂延伸の案あり。
明日の札幌の都市像について研
究し、その成果をもとに幅広い
政策提言活動を展開している。
「LRTが走る2015年の札幌」
「ひと中心の都心」「LRTで
札幌がかわる」を発刊。
「札幌・市電の走る街」と「札
幌市電が走った街今昔」を出
札幌LRTの 札幌市電の将来的な有効活
版。05.5.18に市長へ駅前通へ
会
用。
の市電延長の検討を求めて要望
書を提出。
旧国鉄手宮線(約2.6㎞)
小樽まちづく
の跡地を利用しLRTを走 97年に小樽市に報告書を提出。
り協議会
らせる。
都市内の交通や具体化して
「新たな交通システム検討協議
いる拠点施設とのアクセス
会」を設立して検討を重ね、さ
として、またこれからの高
らに市民アンケート・都市交通
新潟市
齢化社会や環境負荷を考
フォーラム・市民ワークショッ
え、市民の意見や提案を取
プを開催し、市民の意識向上に
入れながら新しい公共交通
努めている。
機関について検討。
既存貨物線の有効活用や行
政が基盤整備して民間に運 99.12に「21世紀に向けた新潟
新潟商工会議
営委託する運営形態も視野 の街づくりと都市交通」を発
所
に入れ、市街循環線等の5 表。
ルート案の実現を目指す。
第1ステップで08年に現行
路線を札幌駅前まで延伸
LRTさっぽ
し、次いで15年に20KmのL
ろ
RTネットワークとトラン
ジットモールを作る。
2 小樽市
3 新潟市
古町~新潟駅~鳥屋野潟
新たな交通シ (新潟スタディアム)~県
ステムを考え 庁の約8kmにLRTを敷
る会
設。軌道や車両、駅の建設
費は205億円。
データの出所
会は、市民や学識経験者らで構
成。県が中心となる協議会で策
定中の都市交通計画について、
市民の目線で議論。
- 38 -
http://www.lrtsapporo.gr.jp
http://www.h2.dion.ne.
jp/~syuchan/slrt
http://www.asahinet.or.jp/~JR5MMNT/OMC/index2.html
http://www.city.niigat
a.niigata.jp/info/kots
u/aratanakoutsuu/arata
naindex.htm
http://www.urban.ne.jp
/home/yaman/news26.htm
#niigata
http://ns.kensetsunews.co.jp/honbun/chor
yu/05_3_24.html
http://www.urban.ne.jp
/home/yaman/news58.htm
##289
No 都市名
活動団体
栃木県、宇都
宮市
4 宇都宮市
雷都レールと
ちぎ
5 前橋市
6
前橋市
さいたま 埼玉県、さい
市
たま市
7 浦安市
浦安市
8 中央区
中央区
9 豊島区
池袋の路面電
車とまちづく
りの会
10 江東区
江東区
11 大田区
路面電車と大
森の未来を考
える会
12 葛飾区
葛飾区
調布・三
調布・三鷹・
鷹・武蔵
13
武蔵野・西東
野・西東
京市
京市
14 町田市
まちだ路面電
車の会
活動目標
活動状況
99,00年度に「新交通システム
導入基本方針」、01,02年度に
「新交通システム導入基本計画
宇都宮テクノポリスセン
策定調査」を策定。前知事がL
ター地区~JR宇都宮駅
RT反対派だったが、04.11に
(約12km)及びJR宇都宮
LRT推進派の新知事が当選し
駅~桜十文字付近(約
情勢が変化。05年度は県市共同
3km)へLRTを敷設。
で「新交通システム導入課題検
討委員会」を設置して構想の具
体化に向け検討。
今後のLRT導入に向けて
県知事と宇都宮市長も会員に加
その利点や諸問題について
わり、活発に活動。県市の計画
市民の目からの研究や啓蒙
実現に向けバックアップ。
を行う。
新交通システムについて 98~07年度に実行の「第五次前
は、将来的な総合交通網整 橋市総合計画」に左記を記載。
備の中で研究を行うととも 00~02年度にLRT導入を検討
に、LRTなどの導入につ したがコミュニティバスの導入
で結論
いても検討。
埼玉県が「鉄道新線整備検討調
査」の中でLRTの概算事業費
JR大宮駅~さいたま新都
を算定。さいたま市も検討委員
心~埼玉スタジアム2002
会を設置して調査検討。05.3に
〔東西交通大宮ルート〕に
「LRTプロジェクト推進協議
LRTを敷設。
会」が立上り、早期実現に向け
検討をスタート。
浦安市07年度予算にLRT導入
東京メトロ東西線浦安駅~ 可能性検討経費630万円が計上
京葉線新浦安駅~同舞浜駅 され、民間コンサルに調査委託
の間にLRTを導入。
し現状把握とLRTの必要性を
検証。
08年目途で、東京駅~銀座
~月島の環状型LRTを敷 中央区が発表。
設。
03.2に区がLRT構想を発表
池袋駅東口のグリーン大通
し、11月に区民により左記の会
りにLRTを約1km敷設
が出来、PR活動を展開してい
し、街の再生を計る。
る。
01年の日本PFI協会からの提
案を受け、02年度に「LRT基
本構想策定調査委員会」を設置
亀戸-新木場間(約
して調査、03年度は庁内の検討
6.1km)の貨物線をLRT 委員会で議論。交通利便性の向
化。
上とまちの活性化に極めて重要
だが、国道357号と平面交差で
きず新木場駅へ接続できないた
め、採算性を確保できず。
臨海部と市街地を巡る約
大田区に提案されたが、その後
8kmのルート案にLRTを
の進展なし。
敷設。
新金貨物線(金町(常磐
03年度に調査費300万円を計上
線)-新小岩(総武線)
し、トーニチコンサルタントに
7km)を活用してLRTを
基礎調査を委託。
導入。
東京都が「平成10,11年度 LR
T導入に関する調査報告書」の
調布駅~三鷹駅~保谷駅に 中でケーススタディとして検
LRTを敷設。
討。三鷹市も庁内に設置したプ
ロジェクトチームにより同時検
討。
中心市街地を循環させる約
2kmの2リングを建設。将来
01.10に発足したが、あまり活
は各方面へ延伸させ町田市
発な活動の様子は見られない。
全体をクリーンで快適な近
代都市に。
- 39 -
データの出所
http://www.pref.tochig
i.jp/koutsu/shingi/01/
iinkaisetti.html
http://www.city.utsuno
miya.tochigi.jp/kikaku
/shinkotsu
http://plans.ishii.uts
unomiya-u.ac.jp
http://www.t-lrt.com
前橋市電話ヒアリング
05.4.18日刊工業新聞
07.2.19日刊建設工業新
聞
http://www.city.chuo.t
okyo.jp/index/download
/013604;000001.pdf
03.11.28東京新聞
http://www.city.koto.l
g.jp/seikatsu/toshisei
bi/7798/
99.2.15読売新聞
http://www5a.biglobe.n
e.jp/~s-kenzo/omoshiro
No 都市名
活動団体
15 川崎市
交通ビジネス
研究会
16 横浜市
横浜にLRT
を走らせる会
17
藤沢市、
神奈川県
寒川町
18 静岡市
静岡にもLR
Tを走らせる
会
19 浜松市
浜松都市環境
フォーラム
20 豊橋市
豊橋市、豊橋
鉄道
21 名古屋市
22 富山市
富山ライト
レール(株)
万葉線(株)
23 高岡市
24 金沢市
25 福井市
滋賀県、
大津・草
26
津市、栗
東町など
27 京都市
28 枚方市
29 堺市
路面電車の都
市と未来を考
える会・高岡
(RACDA高岡)
石川県、金沢
市
活動目標
活動状況
データの出所
川崎商工会議所の提言報告書を
http://homepage2.nifty
川崎駅東口に約4.1kmの環
参考に独自のビジネスプランを
.com/rail-plan/
状ルートのLRTを敷設。
作成。
①本牧地区、②みなとみら
い・関内・野毛、③馬車 03.12に左記の会が発足し、継
http://yokohama道・伊勢佐木の3ルートに 続的にフォーラムを開催してい
lrt.com
09年LRTを敷設すること る。
を提案。
神奈川県県土整備部は「いずみ
相鉄湘南台駅から寒川町倉 野線延伸研究会」最終答申を基 http://www.kentsu.co.j
見地区の新幹線新駅構想地 に、事業の手法や枠組みなどを p/kanagawa/news/p03032
調査・検討し、LRT延伸計画 .html
区をLRTで結ぶ。
を07年度末までにまとめる。
1962年廃止になった市内路
http://www.gofukucho.c
面電車(安西-静岡)を復 05.1に設立総会開催。
om/html/kawaraban02.ht
活。
ml
05.5に「新交通システム導入に
http://www.alcclub.net
市内及び浜名湖方面への路
関する要望書」を浜松市長、浜
/lake-hamana
線計画(7路線31.5km)。
松市議会議長に提出
豊橋鉄道東田本線5.4kmに 愛知県と豊橋市で05.6に協議会 人と環境にやさしい交通
LRV導入計画。
を立上げ。
をめざす全国大会
一部市民から要望はあるが、組
名古屋市電話ヒアリング
織立った動きは未確認。
06.4に富山港線(約8km)
06.4に開業し、順調に推移。 http://www.t-lr.co.jp
をLRT化。
すでに2編成導入したLR
人と環境にやさしい交通
Vのさらなる増備を計画。
をめざす全国大会
路面電車を「まちの装置」
万葉線の存続に貢献。フォーラ http://www.geocities.c
として活用した、人が真ん
ム等を開催。路線新設等の具体 o.jp/HeartLand中、暮らし基本の街づくり
的提案なし。
Ayame/1282
を目指す。
県庁~都心~北陸鉄道石川
99~01年に検討委員会で検討、
金沢市電話ヒアリング
線野町(7.5km)などにLR
03.1からバスで試験運行中。
T整備。
http://www.urban.ne.jp
えちぜん鉄道三国芦原線と
福井市都市交通戦略協議会にて
/home/yaman/news74.htm
福井鉄道福武線を田原町で
検討中。
##404
接続してLRT化する。
整備済みの制振軌道に部分
福井鉄道電話ヒアリング
低床車両等導入計画。
福井市、えち
ぜん鉄道、福
井鉄道
福井市、福井
鉄道
ふくい路面電
安心して誰もが利用でき環
フォーラム等を開催。路線新設 http://roba.cocolog車とまちづく
境に優しい公共交通機関の
等の具体的提案なし。
nifty.com/roba/home
りの会(ROBA
活用を目指す。
の会)
JR石山駅~びわこ栗東駅
(仮称)~JR栗東駅、J
滋賀県が「新交通システム導入
同左
R南草津駅~京阪石山寺駅
構想基礎調査」を実施。
など7ルートにLRT敷
設。
市内7路線を候補として挙 商工会議所からの計画に市側が
04.11.20京都新聞
京都市
げ検討を進める。
同調。
交通WGの活動によりフォーラ
京のアジェン
http://web.kyoto環境にやさしい交通体系の
ム等を開催。路線新設等の具体
ダ21フォー
inet.or.jp/org/ma21f
創出を目指す。
的提案なし。
ラム
右京の交通問
路面電車とまちづくり
交通問題に関する提案。上
環状ルートなどの提案。
題を考える懇
(RACDA編)
記フォーラムへの参加。
談会
枚方・LRT 枚方市ー藤阪にLRTを敷 98年発足。ルート検討、会報の http://www.techno推進会
設。
発行等。
net.com/~lrt-hrkt
04。10に近畿地方交通審議会の
臨海新都心~堺駅~堺東駅
答申に盛込まれた。堺市が東西 http://www.city.sakai.
~堺市駅~近鉄南大阪線方
鉄軌道整備事業として事業者を osaka.jp/city/info/_te
堺市
面(約8km)にLRT敷
公募、南海電鉄グループに決 tuki/
設。
定。
- 40 -
No 都市名
30 奈良市
活動団体
奈良市
活動目標
奈良駅~市内の各観光拠点
等へLRT敷設。
31 和歌山市 岡山電気軌道 10年後を目標にLRT化。
32 神戸市
神戸市
三宮地区と臨海部を結ぶL
RTの実現可能性を検討。
33 伊丹市
兵庫県
JR伊丹駅と大阪国際空港
をLRTで結ぶ。
34 尼崎市
兵庫県
35 姫路市
兵庫県
岡山市
36 岡山市
路面電車の都
市と未来を考
える会
(RACDA)
37 広島市
広島市
38 松江市
松江市
39 松山市
松山市
40 高知市
土佐電鉄の電
車とまちを愛
する会
41 熊本市
熊本市
活動状況
LRTを将来の新交通システム
として導入したいという「夢」
を奈良市長が提案し、奈良市職
員17名のプロジェクトチームで
検討中。
南海電鉄が廃止予定だった貴志
川線(和歌山―貴志、14.3km)
を岡山電気軌道が継承。
協議会を設置し05年度予算に調
査費を計上。
兵庫県は07年度に導入空間・事
業採算性・整備費など調査、導
入可否の判断材料にする。
データの出所
http://www.d6.dion.ne.
jp/~wanpaku/lrt/specia
lty_top2.htm
05.6.20日経
05.2.25日経(関西版)
07.7.18日刊建設工業新
聞
http://web.pref.hyogo.
99年ひょうごLRT整備基本構
jp/koutsu/koutsu/lrt/p
想に盛込まれた。
df/lrt_6.pdf
http://web.pref.hyogo.
姫路駅を中心とした南部及 99年ひょうごLRT整備基本構
jp/koutsu/koutsu/lrt/p
び北部への路線。
想に盛込まれた。
df/lrt_6.pdf
まつづくり交通計画調査委員会
市内線等の延伸計画。
01.12.15岡山新聞
が検討
市民や利用者の立場から誰
にも分かりやすく使いやす
バスマップの作成、フォーラム http://www1.harenet.ne
い公共交通の整備を謳い、
等の開催。
.jp/~racda
路面電車の環状化等を目指
す。
小延伸8ルートの計画。
04.12.2中国新聞
松江市、中海宍道湖圏の新
中海宍道湖圏会議で路線検討。 97.12.23山陰中央新報
設計画。
松山駅連続立体交差化事業
にあわせ西側への延伸計画
松山市電話ヒアリング
(700m)。
市民や利用者の立場から誰
バスマップの作成、フォーラム
にも分かりやすく使いやす
http://www.morimachi.c
等の開催。路線新設等の具体的
い公共交通の整備を目指
om/toden/home.htm
提案なし。
す。
健軍から益城に延伸する計
03年熊本市が調査費を計上。 03.7.12熊本日日新聞
画。
臨海西部地域新路線。
長崎市、長崎
鉄道ピクトリアル
42 長崎市 交通まちづく 滑石地区への延伸計画。 02年長崎市が協議会を設置。
No.F42688
り研究会
JR谷山駅乗入れ(0.5k 谷山地区土地区画整理事業にか
43 鹿児島市 鹿児島市
00.12.20南日本新聞
m)を検討。
らめて検討。
(2) LRT導入に熱心な自治体
表3-7の中で、LRT導入に特に熱心な自治体の構想 5 件について以下にまとめる。なお、以下に
おける各構想や計画に対する評価は、本章の担当である(株)ライトレールの考えであり、当該の自治体
や交通事業者と意見調整したものではない。
a.大阪府堺市
木原敬介市長は、LRT導入に非常に熱心で、10 年以上前から基礎的検討を重ね、現在は建築都
市局に鉄軌道企画担当と鉄軌道推進担当の 2 部署を置き、赤字事業で阪堺電気軌道(株)が撤退を要望
している阪堺線の利用促進と合せてLRT導入に向けた取組みを進めている。
図3-6に、堺市のLRT構想図を示す。全体計画区間 8.3kmのうち、臨海部~堺東駅 6.7km を
段階整備区間と位置付け、さらに堺駅~堺東駅 1.7km を早期開業区間としている。建設と運営の分離
を図る上下分離方式を前提に、道路の改築整備や停留場など道路と見なされる部分とレール・車両・
車庫などの軌道施設の大部分の費用を公(市等の公共団体)が負担し、運営や運行を民間の軌道事業
- 41 -
者等が行う公設民営方式を検討している。堺市は、平成 19 年 2 月に事業者を公募し、6 月 27 日に南
海電鉄(株)と阪堺電気軌道(株)(以下、「南海グループ」と言う)を経営予定者として決定した。今
後、市と経営予定者の責任、費用負担、リスク分担、公設の範囲について協議していく。
堺市の計画では、(1)に既述したLRT総合整備事業による支援制度をさらに上回る公的支援を市
が独自に行い、南海グループには初期投資を一切負担しないスキームである。従って、南海グループ
は減価償却費・固定資産税・投資資金調達に伴う金利負担が発生せず、日々の運営費のみを賄えれば
事業が成立する。以下、南海グループが提出した『事業計画(案)の概要』(堺市HPにて公開、
http://www.city.sakai.osaka.jp/city/info/_tetuki/img/gaiyou.pdf)を分析する。
堺市HPより <http://www.city.sakai.osaka.jp/city/info/_tetuki/tetu_ken.html>
図3-6 堺市のLRT構想図
所要時間の具体的記述はないが、「運賃箱による料金収受、ICカードシステムの導入を検討」と
あるのみなので、停車時間を画期的に短縮する工夫はなく、専用軌道化やPTPS(Public
Transport Priority Systems、公共交通優先走行システム)は検討されておらず、シャトルバスより
高速走行する工夫も盛込んでいない。多くの都市において、路面電車とバスが同じ道路を走行してい
る場合、専用軌道でなければバスの方が高速に走行する。路面電車はバスと比べて加減速性能が低い
上、軌道内に進入した自動車をハンドルでよけられないので低速走行するからである。そもそも、軌
道法では原則として最高速度 40km/h に制限される。従って、南海グループの計画ではシャトルバス
より所要時間が長くなると予測される。
表3-8に、南海グループによる運行本数計画を示す。数値は往復合せた本数なので、片道当りの
運行本数はこの半分である。片道当り、8 時台はシャトルバス 15 本/h(4 分おき)に対し 12 本/h(5
分おき)、10~19 時台はシャトルバス 10 本/h(6 分おき)に対し 8 本/h(7 分 30 秒おき)とする計
画であり、現行のバスよりも低頻度運行となる。
すなわち、交通サービスの基本である速度と頻度に関して、現行のシャトルバスと比べてサービス
水準が落ち、より低速・低頻度運行となる。
- 42 -
表3-8 南海グループによる運行本数計画
表3-9に、南海グループによる需要予測を示す。下位値(シャトルバス実績)4,900 人/日、上
位値(南海グループ予測)5,500 人/日は、堺市が『堺市東西鉄軌道(LRT)事業公募型プロポー
ザル募集要項』(http://www.city.sakai.osaka.jp/city/info/_tetuki/img/kouboyou.pdf)で示し
た運賃 200 円で 8,700 人/日、運賃 100 円で 12,600 人/日を下回る。客観的に見るなら、シャトルバ
スと比較して基本的な利便性(速度・頻度)が低下するのだから、LRT化によるイメージ向上によ
る需要喚起が多少あっても、シャトルバス実績を大幅に上回ることはなかろう。従って、モーダルシ
フト効果も期待できない。
表3-9 南海グループによる需要予測
表3-10に、南海グループによる収支予測を示す。上記の下位値(シャトルバス実績)で若干の
赤字、上位値(南海グループ予測)で若干の黒字予測となっている。本システムの導入及び、専用軌
道化、合理的な運賃収受方式による停車時間短縮、PTPS導入による交差点での停止回避等を通し
て高速・高頻度運行とし、需要喚起、収益改善、モーダルシフトへの貢献が望まれる。
- 43 -
表3-10 南海グループによる収支予測
以上の他に、東西鉄軌道と既設の阪堺線を直通運転するケースが提案されているが、日中時間帯に
限定され、本数も堺東から大阪方面と浜寺方面に対し各 3 往復/h と低頻度であり、それに応じて阪
堺線が減便される計画となっている。
b.栃木県宇都宮市
前栃木県知事は、赤字事業で将来の県財政のお荷物になるとしてLRT推進に反対だったが、平成
16 年の県知事選において前宇都宮市長でLRT推進派の福田富一氏が当選し、同時に宇都宮市長に
もLRT推進派の佐藤栄一氏が当選し、県・市ともに積極的にLRT導入を推進することとなった。
宇都宮市の総合政策部にLRT導入推進室という専属部署を設置し、県職員まで派遣され取組みを進
めている
図3-7に、宇都宮市のLRT構想図を示す。鬼怒川左岸の宇都宮テクノポリスセンター地区から
JR宇都宮駅と東武宇都宮駅を経由して桜通り十文字付近を結ぶ約 15km の路線である。宇都宮市H
Pで公開されている情報によると、全区間の所要時間は 45 分(表定速度 20km/h)、運行間隔はピー
ク 4 分おき、オフピーク 6 分おきを想定している。需要予測は 4.5 万人/日で、整備費 355 億円、運
賃を平均 150 円/人として 40 年間で黒字にできるとしている。
しかし、民主党県議団が赤字事業を理由に、地元バス会社がバス経営の赤字(バスにとって 1 番の
ドル箱区間にLRTが割込んで来ることになる)を理由に反対している。宇都宮市は 6 月中に「LR
T導入検討会議」と「都市・地域交通戦略策定協議会」の両検討会を発足させる予定だったが、バス
会社が参加に同意せず発足できない状況となっている。
延長が長く駅数の多い路線では、各駅停車のみの運行では速度が低く中長距離利用に不便となり、
また駅間距離を長くすると短距離利用が不便となる。中長距離・短距離の両方が便利で、かつ車両・
運転士を極力少なくするには、各停と急行を混在させたダイヤが有効である。2.1(4)に既述した
通り、主要駅に待避線を設け、そこでは同じホームの反対側で急行と各停が相互に乗換えできる配線
とし、急行と各停を 1 本おきに運行するダイヤとすれば良い。そして、既存の鉄道信号システムでは
そのための設備投資が高額となるので、本システムの導入が有効である。低コストな高速・高頻度運
行により需要が喚起され、3.1(1)に既述したLRT総合整備事業による支援制度のみで黒字経営
とできる可能性は充分にある。
- 44 -
『広報うつのみや 2006 12/15』より
図3-7 宇都宮市のLRT構想図
また、バス会社としては、ドル箱区間に多額の公的支援を受けたLRTが割込んで来るのは確かに
民業圧迫である。タクシー会社も同様であろう。しかし、LRTの開業と同時にその運転業務を請負
えるとなったら、今までの雇用は確保され話は大きく変らないだろうか。高速走行とは、運営側から
見れば運転士の運用効率が向上することであり、1 労働時間当りの売上げが多くなることを意味し、
バスやタクシーが渋滞道路に巻き込まれることと比較したら生産性の向上である。高頻度運行とすれ
ばその分多くの運転士を必要とし、別の見方をすれば雇用確保となる。現在、JR宇都宮駅と東武宇
都宮駅の間は、1 日に 1,000 往復のバスが走行しており、有効時間帯を 16 時間とすると約 60 本/h で
平均 1 分おきである。それに対して、LRT計画の 4~6 分おきは如何にも少ないことが分かる。
さらに言うなら、宇都宮駅前には、東口と西口と合せて常時 50 台前後のタクシーが客待ちしてい
る。その労働力をLRTの運転士として活用できれば、社会的コスト増なしに思い切った高頻度運行
が可能である。例えば、片道 30 分(市の計画より短縮)で往復 60 分に折返し 10 分を加えた 70 分の
間に配置されるLRTの各編成に 35 名のタクシー運転士を配置すれば 2 分おきの運行が可能であ
る。バス運転士と合せれば 1 分おきの運行とできよう。
ところが、現行の運転士の免許制度は、鉄軌道は動力車操縦者運転免許に関する省令にて、バス・
タクシーは道路交通法にて定められ別体系となっている。1.3に既述した通り、現行の鉄軌道の免
許制度は非常に厳格で、バス・タクシー運転士がLRT運転士に転換するのは容易でない。本システ
ムの導入により、運転士にバス・タクシーを大幅に上回る特別高度の訓練を施さなくとも安全を確保
できることとなるので、現行の制度を改めてバス・タクシー運転士がLRT運転士に容易に転換でき
るようになる可能性が生まれよう。そうすれば、LRT事業者は運転士を直接雇用せず、バス・タク
シー会社へ業務委託することとし、バス・タクシー会社の賛同を得られLRTを早期に開業できる。
- 45 -
c.福井県福井市
坂川 優福井市長は、マニフェストにも「福井に残された貴重な資産路面電車を、より使いやすく
美しいLRTに進化させ、福井のシンボルにします」と明記され、LRT導入に積極的である。県議
会議員だった平成 13 年に京福電鉄の旧福井鉄道線が 2 度の正面衝突事故で運休となった際、鉄道廃
止の意見が大勢を占める中、存続に向けて奔走され、第三セクター会社であるえちぜん鉄道(株)によ
る事業承継の実現に関わられた。
図3-8に、福井市のLRT構想図を示す。田原町において鉄道線であるえちぜん鉄道三国芦原線
から軌道線である福井鉄道福武線へ乗入れて福井へ到るもので、富山ライトレールと類似している。
また、市役所前-福井が単線のため高頻度運行のネックとなっており、複線化・ループ化等が構想さ
れている。具体化に向け、福井市が主催する都市交通戦略協議会において検討が進んでいる。田原町
の線路接続箇所及び市役所前-福井が大幅な配線変更となるが、信号の工事費が従来技術では相当巨
額となる見通しで、全体の実現可能性に大きな影響を与えている。
都市交通戦略協議会(http://www.city.fukui.lg.jp/d360/koutu-s/koutu-senryaku.html)では、
自動車へ過度に依存した都市構造や生活様式が地球環境問題を含めた様々な問題を招いているとし、
都市交通の診断(シナリオ予測)において 3 つのシナリオを描いている。シナリオA(このまま放
置、自動車利用や郊外化がさらに進展)では「死亡」に至る、シナリオB(投薬、趨勢的な状況で推
移)では「悪化」する、シナリオC(手術、郊外化抑制と公共交通利用に取組む)では「健康」にな
るとしている。そして、LRTを問題解決の有力なツールと位置付け、都市政策として不退転の決意
でLRT導入を進める考えである。
JR北陸本線
えちぜん鉄道
三国芦原線
至 三国
至 金沢
えちぜん鉄道
勝山永平寺線
至 勝山
福井 口
田原町
相互乗入れ
福
井
市役
所前
福井鉄道 福武線
えちぜん鉄道
JR北陸本線
福井鉄道
至 武生
福井市HP資料を元に作図<http://www.city.fukui.lg.jp/d360/koutu-s/koutu-senryaku.html>
図3-8 福井市のLRT構想図
本システムにより、信号工事費を大幅に低減でき、かつ同じ配線でもより高頻度とできる可能性が
ある。また、えちぜん鉄道の三国芦原線と勝山永平寺線の福井口以遠は単線で、昼間は両線とも 30
分おきの運行である。福井鉄道福武線は都心部は複線だが郊外は単線で、昼間は 20 分おきの運行で
ある。いずれの線とも大幅な高頻度化が望まれるが、現行の信号システムでは行違い駅で上下列車が
同時に進入できず、高頻度化のネックとなっている。それを改修するには数千万円/1 箇所の経費を
- 46 -
要するが、本システムでは行違い駅の上下列車同時進入は基本機能である。2.1(4)に既述した通
り本システムでは低コストでできる。福武線の都心部複線区間のみの折返し運行も、行違い駅を増設
したさらなる高頻度運行も、現行信号システムの改修は高額となるが本システムは低額である。
d.京都府京都市
桝本頼兼市長は、LRTに関して市議会にて「新しい観光資源になるし、世界の大都市の新しい潮
流になる。新しいものに果敢に挑戦する攻めの姿勢であろうと思う」と明言される等、導入に積極的
である。また、京都商工会議所・京都経済同友会等の地元経済界もLRT導入を強く要望している。
図3-9に、京都市のLRT構想図を示す。京都市HPで公開されている情報によると、3~22km
の 7 路線からなり、所要時間は 10~62 分(表定速度 20km/h 前後)、運行間隔はピーク 5 分、オフピ
ーク 7.5 分が基本である。利用者は各 4,700~54,900 人/日(輸送密度各 900~18,000 人/日)、事業
費は各 120~598 億円を見込んでいる。3.1(1)に既述したLRT総合整備事業による支援制度を活
用した上で、40 年以内に資金収支が黒字化するかで評価し、4 線は黒字化する、3 線は黒字化しない
との評価となった。市長は実現に強い意志を持つが、市民は道路渋滞と赤字を心配して慎重となって
いる。
京都市HPより <http://www.city.kyoto.jp/tokei/trafficpolicy/lrt/leaf.html>
図3-9 京都市のLRT構想図
- 47 -
京都市の構想も、低速・低頻度運行である。京都市交通局やバス会社の減収への対処方法も解決策
が見出されていない。本システムを導入して低コストに高速・高頻度運行とし需要喚起、収益改善、
モーダルシフトへの貢献を図ることが望まれる。
e.東京都豊島区(池袋)
高野之夫区長は、池袋LRTの実現に並々ならぬ意欲を持たれており、区役所の移転を含め沿線の
再開発計画とも連携させ、新しい時代に相応しいまちづくりを指向されている。また地元では「池袋
の路面電車とまちづくりの会」という市民グループが積極的な活動を重ねている。
図3-10に、豊島区のLRT構想図を示す。東池袋・雑司が谷・サンシャインの 3 ルート(いず
れも 1km 弱)があり、都電荒川線または大規模施設との結節が構想されている。サンシャインビルは
全国的に有名だが、東池袋地区の再開発も進んで既に 40 階超の高層ビルが 1 棟完成し、さらに 1 棟
が建設中である。さらには、雑司が谷ルートの途中に区役所移転を含む再開発の構想が具体化しつつ
ある。いずれの大規模施設も池袋駅から徒歩 10~15 分離れ、歩こうと思えば歩けるが便利で割安な
交通システムがあれば使いたくなる距離である。
都電荒川線
LRT導入ルート案
JR山手線
都電大塚駅
③ サンシ ャインルート
向原駅
西武池袋線
② 雑司が谷ルート
① 東池袋ルート
東池袋四丁目駅
JR山手線・埼京線
雑司が谷駅
鬼子母神駅
都電荒川線
第5回「池袋の路面電車とまちづくり」シンポジウム資料より(表3-11,12も同様)
<http://www.LRT.co.jp/event/files/ikebukuro_051022/171022Ike_sympo_paper.doc>
図3-10 豊島区のLRT構想図
- 48 -
表3-11に、豊島区による需要予測を示す。世界 No.2 の乗降人員である池袋駅と、来訪あるい
は居住者が数万人の大規模施設を結ぶ路線としては非常に少ない。
表3-11 豊島区による需要予測
ルート
需要密度
①東池袋ルート
3,598人/日
②雑司が谷ルート
2,880人/日
③サンシャインルート
4,990人/日
以下、豊島区の計画は、『池袋副都心再生プラン』(平成 16 年 4 月)中の「5.再生プラン、5-1
安心、安全に集える、人と環境に優しいまち・池袋、プランA:LRT導入とグリーン大通りの整
備」(http://www.city.toshima.tokyo.jp/seisaku/plan/2004/saiseiplan/5-a.pdf)の記述に基づ
く。交通サービスに関する計画としては「運行間隔約 6~8 分、所要時間 5~6 分」とあるのみで、停
車時間を画期的に短縮する工夫も専用軌道化やPTPSによる時分短縮の検討もない。距離を 1km と
すると、表定速度 10~12km/h と低速である。
表3-12に、豊島区による収支予測を示す。利用者が少ない裏返しとして、赤字事業となってい
る。
表3-12 豊島区による収支予測
ルート
想定需要量
総建設費
人/日
億円
国庫補助
建設費負担の内訳 地方(区)
事業者
事業者 運賃
百万円/年
収入
雑収入
百万円/年
計
百万円/年
事業者 人件費
百万円/年
の支出 動力費
百万円/年
修繕費
百万円/年
その他経費 百万円/年
支払利息 百万円/年
諸税
百万円/年
減価償却 百万円/年
計
百万円/年
事業者の収支
東池袋
3598
47.8
4.6
7.6
35.6
131
5
136
176
4
11
20
100
36
128
475
雑司が谷
2880
48.3
4.8
7.8
35.7
105
4
109
187
4
13
23
101
36
128
492
サンシャイン
4990
48.2
4.8
7.8
35.7
182
7
189
165
4
10
25
101
36
128
469
△ 339
△ 383
△ 280
百万円/年
池袋LRTは、都電荒川線と直通し、池袋と早稲田を直結してこそ真価を発揮するのではないだろ
うか。距離にして 3km であり、専用軌道化、合理的な運賃収受方式による停車時間短縮、PTPS導
入による交差点での停止回避と組合せ、急行を設定すれば 4 分程度で走行することは充分に可能であ
る。3km とは言え電停数は 7 程度となり、b.で既述した通り、中長距離・短距離の両方が便利で、
かつ車両・運転士を極力少なくするには、各停と急行を混在させたダイヤとすべきであり、それには
本システムの導入が有効である。以下、具体的に示す。
- 49 -
図3-11に、池袋LRTの提案ダイヤ(その1)を、図3-12に、それを実現するのに必要な
配線略図を示す。急行と各停を各 5 分おきとするもので、急行 2 編成、各停 4 編成を要す。
※急行と各停が始発駅では併結して出発し走行中に分割、急行の終着駅到着と同時に併合
図3-11 池袋LRTの提案ダイヤ(その1)
※池袋・早稲田とも各停 2 分・急行 1 分の折返し時間となり、1 線とし両開き分岐器を 1 台ずつ敷設
図3-12 池袋LRTの提案ダイヤ(その1)に必要な配線略図
図3-13に、池袋LRTの提案ダイヤ(その2)を、図3-14に、それを実現するのに必要な
配線略図を示す。急行と各停を各 4 分おきとするもので、急行 4 編成、各停 6 編成を要す。
※急行と各停が始発駅では併結して出発し走行中に分割、終着駅の到着間際の走行中に併合
図3-13 池袋LRTの提案ダイヤ(その2)
※池袋・早稲田とも到着と同時に他列車が出発となるので、2 線とし両開き分岐器を 2 台ずつ敷設
図3-14 池袋LRTの提案ダイヤ(その2)に必要な配線略図
図3-15に、池袋LRTの提案ダイヤ(その3)を、図3-16に、それを実現するのに必要な
配線略図を示す。急行と各停を各 2 分おきとするもので、急行 6 編成、各停 10 編成を要す。
※(その2)と同様の他に、途中駅にて急行は各停を追抜き
図3-15 池袋LRTの提案ダイヤ(その3)
- 50 -
※(その2)と同様の他に、鬼子母神前に待避設備を設置
図3-16 池袋LRTの提案ダイヤ(その3)に必要な配線略図
本システムを実用化し、道路交通流との調整ができれば(その3)まで実現可能である。1 時間片
道当り急行と各停が 30 本ずつ、計 60 本の運行となり、ここまで高利便なものは計画も含めて世界に
1 つもない。一方、ピーク時に 1 時間片道当り 60 本程度のバスが運行している区間は、全国に多数
ある。各地を巡った印象では、県庁所在都市にはたいてい 1 箇所くらいあるようである。大きな都市
には複数箇所あると考えると、全国で 100 箇所以上あり、諸外国にも多数あろう。
LRTを真に社会に役立つ交通システムとして普及させ、モーダルシフトにも大きく貢献させるに
は、このくらいまで高速・高頻度運行とすべきであるし、本システムの実用化がそれを実現する技術
的な礎となると考える。LRTは、本来バスより一世代後の高度な交通システムであるべきであり、
そのためには現行のバスよりも安全かつ低コストに高速・高頻度運行としなければならない。
(3) 新規LRT普及に向けた本システムの有効活用
表3-13に、(2)でまとめたLRT導入に特に熱心な自治体の構想の概要を示す。いずれも首長が
熱心で、国も支援制度を構築したが、堺市の構想以外は事業採算性が不透明で、既存のバス会社への対
応も見通しが立たず、具体化には時間を要している。堺市は、恵まれた財政状況をバックに車両を含む
インフラを市が全て整備する条件で構想を進めており、全国各地で同様のスキームを取入れることは現
実的でない。
共通の特徴は、鉄道信号システムは導入せず、低利便(低速・低頻度運行)を前提とするため少ない
需要予測となっており、3.1(1)に既述したLRT総合整備事業による支援制度をさらに上回る公的
支援を要する可能性が高い点である。一方、「沿線のみの利益のために多額の税金を投入することは認
められない。将来的な財政のお荷物を抱えるわけにはいかない。」といった意見が強く、さらなる公的
支援をベースとしたLRT実現の社会的合意の形成も容易ではない。
(2)の中で具体的路線における活用方策を説明したように、本システムは、低コストに高利便(高
速・高頻度運行)を実現でき、また地場のバス・タクシー会社へ運転業務を委託することにより良好な
関係を構築できるように制度改変する技術的裏付けとなる可能性も持つ。
一般市民が、経済的にも技量的にも自動車を利用しようと思えばできるようになった時代において、
軌道交通が多くの利用を得、本格的なモーダルシフトを実現するには、今までの常識にとらわれない究
極の高速・高頻度運行を普及させることが肝要である。(2)e.で説明した池袋LRTの片道当り 60 本
/h の運行は、現行走っている路面電車からは想像も付かず、不安全で現実感がないと取られるかも知
れないが、バスでそれ以上の頻度の箇所は多数あり、多くは片方向 1 車線でさばいているのだから、軌
道交通で実現できない根本的理由はない。道路交通流との錯綜防止策、合理的な運賃収受による停車時
間の最小化、ブレーキ性能の向上等、同時に実施すべきこともあるものの、本システムは究極の高速・
高頻度運行実現の骨格となる。
- 51 -
表3-13 LRT導入に特に熱心な自治体の構想の概要
都 市
区 間
所要時間
都市人口
距 離
表定速度
堺市
83 万人
運行間隔
需要予測
経 費
収 益
収 支
堺-堺東(早 未公表
ピーク 5 分 運賃 200 円で
期開業区間) 特に高速化 昼 6 分
8,700 人/日、
6.4 億円/年
の工夫はな
1.7km
し
運賃 100 円で
12,600 人/日、
4.6 億円/年
宇都宮市 桜通り十文字 45 分
-宇都宮駅-
20km/h
50 万人
テクノポリス
センター地区
えちぜん鉄道 未発表
三国芦原線か
ら福井鉄道福
武線へ乗入れ
てLRT化
田原町-福井
徴
検討数値は非公開
車両含むインフラを市
が整備する条件で運営
既存の補助制度の下
する経営者を公募し、
、民間の独立採算で
南海グループに決定
は事業成立せずと判
断
ピーク 4 分 4.5 万人/日
オフピーク
6分
知事・市長は実現に強
い意思、地元バス会社
運賃 150 円平均、5
がバス経営の赤字を理
万人/の利用で 40 年
由に反対、民主党県議
で黒字
団が赤字事業を理由に
反対
未発表
未発表
15km
福井市
27 万人
特
未発表
整備費 355 億円
市長は県議時代にえち
ぜん鉄道発足にも関わ
り、実現に強い意志
1.8km
京都市
7 路線
147 万人 各 3~22km
豊島区
24 万人
ピーク 5 分 利用者各4,700~ 事業費 120~598 億円 市長は実現に強い意志
、市民は道路渋滞と赤
オフピーク 54,900 人/日
20km/h 前後
40 年以内に資金収支
字を心配して慎重
7.5 分が基本 輸送密度各900~
が黒字化するかで評
18,000 人/日
価し、○4 線、×3 線
10~62 分
池袋-雑司ヶ 5~6 分
6~8 分
谷など 3 ルー
10~12km/h
ト
各 0.8~1km
利用者各2,900~ 総建設費 38~48 億円 区長は実現に強い意思
5,000 人/日
、事業化には定常的な
事業者支出 4.8 億円
公的支援が必要との試
収入各1.1~1.9 前後
算のため議会は慎重
億円/年
事業者赤字 2.8~3.8
億円
- 52 -
3.3 既存地方鉄道の調査
(1) 相応の沿線人口がありながら廃止された路線
以下、相応の沿線人口がありながら廃止された路線を取上げ、仮に本システムを導入した場合の高
速・高頻度運行による利用増・経営改善策も提案するが、本システムの有効性を検証するための机上検
討に過ぎず、復活を保障するものでも、元経営主体を責めるあるいは復活を求めるものでもない。
a.名鉄旧岐阜路面電車等(岐阜県岐阜市、瑞穂市、関市)
名古屋鉄道(株)が経営していた旧岐阜路面電車等は、路線単独としては長年赤字経営で、平成 17
年 3 月に廃止された。図3-17に、その路線図を示す。路線としては、岐阜市内線の岐阜駅前-忠
節 3.7km(うち岐阜駅前-新岐阜駅前は平成 15 年 12 月から休止)、揖斐線の忠節-黒野 12.7km、田
神線の田神-競輪場前 1.4km(市内線扱い)、美濃町線の徹明町-関 18.8km(徹明町-日野橋は市内
線扱い)の計 36.6km だった。運転系統は 2 つに分かれ、揖斐線系統は新岐阜駅前-黒野 16.1km、美
濃町線系統は、一般鉄道の各務原線を 1 駅だけ走行する新岐阜-関 19.4km の電車と、徹明町と日野
橋等までのみを行き来する電車の 1 本おきが基本だった。42 万人の県庁所在都市の都心に乗入れる
路線が廃止とは、世界的なLRT普及の趨勢とは異なる動きと言わざるを得ない。
至 樽見
樽見鉄道
黒野
新関
関
2.5km
岐阜市内線
美濃北方
美濃町線
忠節
日野橋
新岐阜駅前
至 大垣 JR東海道本線
至 高山
JR高山本線
岐阜
至 名古屋
名鉄各務原線
忠節
日野橋
岐阜市内線
美濃町線
徹明町
競輪場前
新岐阜駅前
JR東海道本線
名鉄名古屋本線
田神線
田神
名鉄各務原線
1km
図3-17 名鉄旧岐阜路面電車等の路線図(上段は全体、下段は中心部)
揖斐線系統の新岐阜駅前-黒野の所要時間は平均 46 分(表定速度 21km/h)、美濃町線系統の新岐
阜-関の所要時間は平均 56 分(表定速度 21km/h)だった。岐阜市内線と田神線は併用軌道で軌道内
- 53 -
への自動車進入禁止の交通規制もなく、自動車・バスより走行速度が低い上に、電停以外の交差点の
道路交通信号で停止することも多かった。マイカーなら通常は新岐阜-黒野を 30 分前後、新岐阜-
関を 40 分前後と、旧岐阜路面電車等よりも短時間で移動できていた。
揖斐線系統の運行間隔は、新岐阜駅前-忠節が朝 7~15 分おき、他が 15 分おき、忠節-黒野が 15
分おきだった。美濃町線系統の運行間隔は、新岐阜-新関が朝 16 分おき、他 30 分おき、徹明町-競
輪場前と新関-関が 30~60 分おきだった。
典型的な低速・低頻度運行で、自動車の利便向上(自動車の価格性能比向上、道路建設、免許保有
率向上)とともに利用の減少が続いた。平成 9 年と 12 年に低床の新車が計 10 両投入されたが、低利
便のままでは目立った乗客増効果はなかった。
表3-14に名鉄旧岐阜路面電車等の経営成績を示す。運転系統と財務区分が別体系で、さらには
新岐阜-田神の利用はこの表に含まれず、市内線と郊外線の重複乗車を除いた実輸送人員も運転系統
別の経営成績も不明である。新岐阜-田神を除くトータルで収入 6 億円/年に対し経費 16 億円/年と
2.7 倍で、赤字 10 億円/年の経営だった。これだけ利便が低くとも 2 系統で 1 万人/日以上の利用が
あった模様(正確な数値は不明)で、相当の潜在需要があったと推定される。
表3-14 名鉄旧岐阜路面電車等の経営成績
名古屋鉄道(株)HP<http://www.meitetsu.co.jp/ICSFiles/afieldfile/2006/07/19/041109.pdf>
図3-18に、揖斐線系統の廃止時ダイヤ(朝ラッシュ)を、図3-19に、同(その他)を示
す。新岐阜駅前-忠節は複線で、忠節-黒野は単線で行違い可能駅に○を付したが、上下列車の同時
進入ができなかった。新岐阜駅前-忠節は 3.4km を 17~18 分走行なので表定速度 11~12km/h と、マ
イカーの倍くらいの時間を要しバスよりも遅かった。忠節-黒野は 12.7km を 23~30 分走行なので表
定速度 25~33km/h と、行違い時の待ち時間ロスが大きく鉄道線の割に遅かった。赤線は急行を示す
が、忠節-尻毛の間の 2 駅を通過するのみで時分短縮効果はほとんどなかった。
図3-18 揖斐線系統の廃止時ダイヤ(朝ラッシュ)
- 54 -
図3-19 揖斐線系統の廃止時ダイヤ(その他)
朝ラッシュ・その他ともに 15 分サイクルを基本としたダイヤとなっていた。行違い駅間で走行時
間が最長となる尻毛-美濃北方(3.0km 途中 3 駅)の 6 分 30 秒の 2 倍の 13 分に、上下列車が同時進
入できないロスタイム 1 分を足した 14 分が設定できるサイクルの最小で、60 分の約数である 15 分
サイクルとしていた。また、必要な編成数(=運転士の従事人数)は、朝ラッシュは全区間用 7 と新
岐阜駅前-忠節の区間運転用 2 の計 9、昼は 7 だった。
以下、本システムを導入した場合のメリットを説明する。図3-20に、揖斐線系統の提案ダイヤ
(終日)を示す。始発駅はJRの岐阜に改めた上で、岐阜-忠節は、専用軌道化、合理的な運賃収受
方式による停車時間短縮、PTPS導入による交差点での停止回避等により所要時間を短縮し各停
13 分(表定速度 18km/h)、急行(新岐阜駅前と徹明町のみに停車)9 分(表定速度 25km/h)とす
る。大幅な時間短縮だが、特段の高速走行ではなく充分に実現可能である。
図3-20 揖斐線系統の提案ダイヤ(終日)
単線区間の忠節-黒野は、「行違い駅での双方の列車が停車・減速せず到着可」と「行違い時に先
着列車が後着列車の到着前に出発可(15 秒前に可とする)」により、走行時間が最長の尻毛-美濃
北方を 5 分 15 秒以内とできれば、5 分の倍の 10 分サイクルダイヤとできる。合理的な運賃収受方式
による停車時間短縮と若干のスピードアップにより充分に可能と考えられる。図3-20はそれに基
づき組んだものであり、全区間を運転する急行(新岐阜駅前と徹明町のみ停車、忠節以遠は各停)と
岐阜-忠節を区間運転する各停が各 10 分おき、合せて 12 本/h の運行となり、廃止時の朝ラッシュ 7
本/h、昼 4 本/h と比べて大幅な利便向上となる。また、必要な編成数(=運転士の従事人数)は、
全区間用 7 と岐阜-忠節の区間運転用 4 の計 11 であり、高速化で運用効率(回転率)が向上する
分、意外と増えない。
忠節-黒野に注目すると、図3-20は図3-18・19と比較して、アコーディオンを横方向に
10/15 倍に縮めたのと同じことで、所要時間は 10/15 倍に短縮され、運行頻度は 15/10 倍に増大し、
- 55 -
必要な編成数(=運転士の従事人数)は変らない。
図3-21に、美濃町線系統の廃止時ダイヤ(朝ラッシュ)を、図3-22に、同(昼)を示す。
徹明町と野一色または日野橋を結ぶ電車は記載していない。田神以遠は単線で行違い可能駅に○を付
したが、上下列車の同時進入ができなかった。
図3-21 美濃町線系統の廃止時ダイヤ(朝ラッシュ)
図3-22 美濃町線系統の廃止時ダイヤ(昼)
行違い駅間で走行時間が最長となる日野橋-下芥見(3.5km 途中 2 駅)の 7 分 30 秒の 2 倍の 15 分
に、上下列車が同時進入できないロスタイム 1 分を足した 16 分が設定できるサイクルの最小で、朝
ラッシュは 15 分より微妙に長い間隔となり覚えにくいダイヤだった。30 分サイクルは組めるので、
昼間は 30 分サイクルの覚えやすいダイヤだったが、本数があまりに少なく使い勝手が悪かった。ま
た、必要な編成数(=運転士の従事人数)は、朝ラッシュは 9、昼は 5 だった。
以下、本システムを導入した場合のメリットを説明する。図3-23に、美濃町線系統の提案ダイ
ヤ(終日)を示す。始発駅はJRの岐阜に改め新岐阜-競輪場前は田神経由でなく徹明町経由とし、
岐阜-徹明町は揖斐線系統と線路を共用することとする。その上で揖斐線系統と同様の考えで 10 分
サイクルとするが、日野橋-下芥見を 5 分 15 秒以内とするのは困難なので、日野橋-岩田坂の中間
の日野坂付近に交換可能駅を新設する。また、必要な編成数(=運転士の従事人数)は 9 であり、高
速化で運用効率(回転率)が向上する分、廃止時の朝ラッシュと同数である。
競輪場前-関に注目すると、図3-23は図3-21と比較して、アコーディオンを横方向に
10/16 倍に縮めたのと同じことで、所要時間は 10/16 倍に短縮され、運行頻度は 16/10 倍に増大し、
必要な編成数(=運転士の従事人数)は変らない。
- 56 -
図3-23 美濃町線系統の提案ダイヤ(終日)
以上に基づき、表3-15に、名鉄旧岐阜路面電車等の利便性の廃止時と提案の比較を示す。平均
して表定速度は 1.6 倍程度に、運行間隔は半分程度に改善される。3.1(3)に既述した平方根の法
則が当てはまるとするなら、√(1.6×2)≒1.8 倍程度への利用増を期待でき、さらにJR岐阜駅へ乗
入れることを考えると 2 倍以上への利用増を期待できよう。一方、必要な編成数(=運転士の従事人
数)はあまり変らないので、運営費はあまり増えない。
表3-15 名鉄旧岐阜路面電車等の利便性の廃止時と提案の比較
廃止時(新岐阜から)
提 案(岐阜から)
距 離 所要時間 表定速度 運行間隔 距 離 所要時間 表定速度 運行間隔
[km] [分] [km/h] [分] [km] [分] [km/h] [分]
揖斐線
系統
美濃町線
系統
黒 野
16.1
46
21
15
16.5
29
34
10
忠 節
3.4
18
11
7~15
3.8
9~13
18~25
5
徹明町
0.6
4
9
7~15
1.0
3~4
15~20
3~4
関
19.4
56
21
20~60
19.8
40
30
10
新 関
19.1
54
21
15~30
19.5
39
30
10
※所要時間は終日の平均、運行間隔は早朝深夜を除く。
※美濃町線系統は、廃止時は田神線経由、提案は徹明町経由。
※廃止時の全区間と提案の忠節・徹明町までの運行間隔は等間隔ではない。
名鉄時代は費用が収入の 2.7 倍だったので、費用はあまり変らず収入が 2 倍となっただけでは黒字
経営とならないが、社会的に許容し得る公的支援の範囲で復活させられる可能性はあるのではないだ
ろうか。廃止後、岐阜市中心部の人通りはますます減り、ヒット曲名にまでなった柳ヶ瀬は昔の面影
をなくしてしまっている。中心部の再活性化の起爆剤や高齢者や学生のモビリティ確保のため、復活
を望む声は未だに根強く、自動車の利用を減らして省エネルギーを実現するにも効果的である。美濃
町線系統は、42 万都市の県都と 9 万都市の関を結ぶ都市間鉄道となり得る立地条件でもある。
なお、都心部の併用軌道区間の線路は撤去されたが、自動車交通量は多くなく再度敷設しても大渋
滞にはならないと推測される。郊外の専用軌道区間と鉄道線区間は線路の撤去は進むかも知れない
- 57 -
が、用地の売却まで早急には行われないと推測される。
b.旧鹿島鉄道線(茨城県石岡市、小美玉市、鉾田市)
鹿島鉄道(株)が経営していた旧鹿島鉄道線は、赤字経営が長年続き、平成 19 年 3 月に廃止となっ
た。図3-24に、その路線図を示す。石岡から常陸小川を経由して鉾田に到る 27.2km、全線単線
非電化の路線だった。
至 水戸
至 水戸
鹿島臨海鉄道
常陸小川
石岡
JR
常
磐線
鹿島鉄道
鉾田
至 上野
玉造町
新鉾田
5km
至 鹿島神宮
図3-24 旧鹿島鉄道線の路線図
運行頻度はおおむね、石岡-常陸小川は 10~40 分おき、常陸小川-鉾田は 20 分~1 時間おきと、
地方鉄道としては極端に少なくはないが、自動車が普及した現代社会において手軽に使うには運転本
数が少なく、石岡 22:29 発と終列車も早かった。全区間の所要時間は 53 分程度、表定速度 31km/h と
あまり速くない。小川高校向けに昭和 63 年に小川高校下を新設したにも関わらず、多くの列車は 1
駅手前の常陸小川で折返していた。
表3-16に、旧鹿島鉄道線「経営改善 5 ヵ年計画書」の計画と実績を示す。年数を経るに従い営
業収益の計画に対する実績の乖離が広がり、それを補うために営業費の圧縮を進めたことが分かる。
営業費の圧縮は、公開されている鹿島鉄道対策協議会の会議資料及び議事録によると以下により実施
されており、同じ手法でのさらなる経費節減は困難だった。
・親会社である関東鉄道(株)による出向者の人件費負担と請負業務の値引き
・駅職員の嘱託化による人件費圧縮
・設備及び車両の修繕費節減
- 58 -
表3-16 旧鹿島鉄道線「経営改善 5 ヵ年計画書」の計画と実績(平成 14 年 9 月策定)
14
15
16
17
18
年 度 13
項 目
実績 計画 実績 計画 実績 計画 実績 計画 実績 計画 予算
営業収益
344
326
314
321
304
316
296
312
277
308
269
旅客
229
224
214
218
206
213
198
209
183
205
171
運輸雑収
36
24
22
24
26
24
27
24
23
25
28
付帯事業
78
79
77
79
73
79
71
79
71
79
71
営業費
434
382
359
352
320
335
305
331
280
328
292
鉄道事業
414
339
301
287
262
計画ナシ
計画ナシ
計画ナシ
計画ナシ
計画ナシ 不明
付帯事業
20
20
20
18
18
営業損益
-90
-56
-45
-32
-16
-19
-9
-19
-4
-19
-23
営業外損益
-7
-11
-3
-10
-8
-10
-3
-9
-9
-9
-10
経常損益
-97
-67 不明
-42 不明
-29 不明
-29 不明
-29 不明
関東鉄道支援
0
24 不明
19 不明
18 不明
18 不明
18 不明
支援後損益
0
-44
-48
-23
-24
-12
-12
-11
-13
-11
-33
運営補助
0
44
44
23
23
12
12
11
12
11
11
税引前損益
-97
0
-4
0
-1
0
0
0
0
0
-22
工事負担金受入
0
8
8
60
58
60
48
60
33
61
61
※単位は百万円、13年度の運輸雑収には貨物収入を含む。
※14~17年度実績と18年度予算では、関東鉄道支援により営業費が圧縮されているが金額は不明。
※従って、関東鉄道支援前の経常損益額も不明。
※工事負担金受入は特別利益として計上しているが、同額を特別損失として計上し圧縮。
一方、この間に実施された利用促進策を同資料に基づき列挙すると以下の通りである。交通サービ
スとしての利便向上策は 7)のみで、高速・高頻度化の取組みは一切されなかった。
1) 地元各地の祭り会場や首都圏の鉄道イベントにてPRと関連グッズの販売
2) 駅イベントの際にフリーマーケット、沿線ウォーキングガイドの作成
3) 小学生対象に鹿島鉄道を題材の絵画を募集し優秀作を駅・車内に展示
4) クリスマス期に車内をイルミネーション装飾、駅に停めた客車内で朗読劇とクリスマス賛歌
5) 霞ヶ浦と筑波山を結ぶ子供向けイベント、イベント列車運行と模型運転会
6) フリー切符と昼食セット券・学生フリー切符・シルバーフリーパス・80 周年乗車券の販売
7) 主要駅へ無料貸し自転車の配備、自転車持込み列車の運行
8) 浴衣モデル撮影会、関東の駅百選スタンプラリー
9) 鉄道用品・チョロQ・オリジナルカレンダーの通信及び駅での販売
10)石岡駅構内にて体験運転、映画やCMの撮影協力、「鉄路を駆け抜けた車両たち」写真展
11)沿線工業団地連絡協議会にて鉄道利用の協力を依頼
12)沿線の学校を通じて各家庭へ鉄道利用の呼びかけ文書を配布
13)駅前商店街・企業へ利用促進ポスター掲示を依頼、住宅地へビラ配り
14)沿線高校始業式にて生徒へ利用促進を呼びかけ
これらの取組みにも関わらず利用者は減る一方だった。交通サービスの本質的改善をせずにPRや
イベントを行うのみでは利用者を増やせないことを如実に物語る事例と言えよう。廃止された平成
18 年度の輸送人員は 83 万人/年(2,300 人/日)だった。
図3-25に、旧鹿島鉄道線の廃止時ダイヤを、図3-26に、本システム導入による提案ダイヤ
を示す。a.と同様に考察し、「行違い駅での双方の列車が停車・減速せず到着可」と「行違い時に
先着列車が後着列車の到着前に出発可」により線路容量を向上させる効果が出ている。また、小川高
- 59 -
校下折返しという単純なことを実行するだけでも現行の信号システムでは多額の改修費を要するのに
対し、本システムは少額で改修できる。
図3-25 旧鹿島鉄道線の廃止時ダイヤ(6:00~10:00)
図3-26 旧鹿島鉄道線の提案ダイヤ(終日)
- 60 -
c.旧日立電鉄線(茨城県日立市、常陸太田市)
日立電鉄(株)が経営していた旧日立電鉄線は、赤字経営が長年続き、平成 17 年 3 月に廃止となっ
た。図3-27に、その路線図を示す。常北太田から大甕を経由して鮎川まで 18.1km、全線単線非
電化の路線だった。
wikipedia より(引用フリー)<http://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/1/12/Map-hitachid.png>
図3-27 旧日立電鉄線の路線図
運行頻度はおおむね、朝ラッシュが 15~20 分おき、それ以外が 30 分おきと、地方鉄道としては極
端に少なくはないが、旧鹿島鉄道線と同様に手軽に使うには運転本数が少なかった。全区間の所要時
間は 40 分程度、表定速度 27km/h とあまり速くなかった。
20 万人都市の日立と 5 万人都市の常陸太田を結ぶ都市間鉄道となり得る立地条件でもあり、廃止
された平成 16 年度でも利用人員は 140 万人/年(3,800 人/日)と比較的多かった。また、半数以上
の駅で行き違いが可能で、最長の行違い駅間は大橋-常陸岡田の 3.7km(途中 1 駅)なので、a.及
びb.と同様の考察をすれば、本システム導入により 10 分サイクルダイヤか、少なくとも 12 分サイ
クルダイヤを組める。
d.旧桃花台新交通桃花台線(愛知県小牧市)
桃花台新交通(株)が経営していた旧桃花台線は、赤字経営が長年続き、平成 18 年 9 月に廃止とな
った。図3-28に、その路線図を示す。小牧口から桃花台東に到る 7.4km、全線複線の新交通シス
テムだった。鉄道路線ではないが、今後の鉄道経営のあり方を考える上で様々な教訓を得られるので
取上げる。
- 61 -
至 犬山
桃花台新交通
桃花台線
小牧口
桃花台東
牧線
名 鉄小
上飯田
地下鉄上飯田線
地下鉄名城線
平安通
名古屋
栄
至 本山
地下鉄東山線
2km
図3-28 旧桃花台新交通桃花台線の路線図
旧桃花台線は、全国初の新交通システムとして桃花台ニュータウンの開発とともに注目を集めた
が、昭和 40 年代の検討開始から紆余曲折の末、平成 3 年にようやく開業した。しかし、名古屋都心
と結ぶ名鉄小牧線の上飯田から都心側は昭和 46 年の市電廃止以来、バスを使うか平安通まで 800m
を歩くかしかなく、極めて利便が悪かった。そのためもあり、桃花台ニュータウンの入居も進まず、
旧桃花台線の利用は予想を大幅に下回り累積債務が増える一方だった。
開業時、ラッシュ 5 本/h、昼 4 本/h でスタートし、せっかく複線でありながら本数が多くなかっ
たのを、経費節減のため平成 11、12 年と本数をさらに減らし、利用減傾向を加速させた。また、道
路上の高架に敷設されているが、交差点を曲がる箇所は 35km/h、45km/h 等の速度制限を受け、同じ
箇所をさらにきつい線形で走行する自動車より低速だった。
平成 15 年に待ちに待った地下鉄上飯田線が開業した際、運賃を 30%値下げした。輸送人員は 1.4
倍以上に増えたにも関わらず、収益増効果はほとんどなく赤字体質から脱却できず、翌年にもさらに
輸送人員が増えたにも関わらず、廃止の検討が始まった。
運賃に関しても3.1(3)に既述した平方根の法則が当てはまるとしたら、平成 15 年の 30%の値
下げは 1.2 倍程度の増客効果であり、値下げしていなければ利用は 1.2 倍程度への増加に減るもの
の、1.2 倍程度の増収効果があったであろう。むしろ、経費を多少増額して高速・高頻度運行を実施
していれば、さらなる利用増・増収になっていたと推定される。
どのくらい低頻度運行だったかを具体的に示す。表3-17に、小牧駅における旧桃花台新交通線
と名鉄小牧線の時刻表を示す。朝ラッシュは名鉄小牧線の 7.5 分おきに対し 15 分おき、昼は名鉄小
牧線の 15 分おきに対し 3 本/h、夕ラッシュは名鉄小牧線の 10 分おきに対し 20 分おき、終電は名鉄
小牧線の 2 本に接続しない。
- 62 -
表3-17 小牧駅における旧桃花台新交通線と名鉄小牧線の時刻表
名鉄小牧線の
平安通方面からの到着
58
56 46 38 28 14
54 46 39 31 24 16 06
54 46 39 31 24 16 09 01
57 47 37 27 17 09 01
48 33 18 07
48 33 18 03
48 33 18 03
48 33 18 03
48 33 18 03
48 33 18 03
48 33 18 03
55 45 35 25 14 02
55 45 35 25 15 05
55 45 35 25 15 05
55 45 35 25 15 05
47 32 17 05
47 32 17 02
47 34 17 02
22 02
94本
時
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
0
計
旧桃花台新交通
の発車
50
08 32 52
07 22 37 52
07 22 40
00 22 42
02 22 42 58
22 38 58
22 38 58
22 38 58
22 38 58
22 38 58
22 38 58
20 40
00 20 40
00 20 40
00 20 40 59
22 37 58
13 37 53
13 40 53
旧桃花台新交通
の到着
43
47 25 05
47 32 17 02
55 35 17 02
57 35 15
55 39 15
55 31 15
55 31 15
55 31 15
55 31 15
55 31 15
55 31 15
53 33 13
53 33 13
53 33 13
53 33 13
55 32 15
46 31 10
49 30 10
57本
57本
時
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
0
計
名鉄小牧線の
平安通方面への発車
32 47
00 10 20 30 37 45 52
00 07 15 22 30 37 45 52
00 07 15 22 30 40 50
00 10 20 30 40 50
05 20 35 50
05 20 35 50
05 20 35 50
05 20 35 50
05 20 35 50
05 20 35 50
05 20 35 48 58
08 18 28 38 48 58
08 18 28 38 48 58
08 18 28 38 48 58
08 18 28 38 50
05 20 35 50
04 19 34 49
04 21 37 56
94本
どのくらい低速走行だったかも具体的に示す。全線 7.4km、途中駅 5 に対し 15 分走行、表定速度
30km/h である。以下の好条件にも関わらずである。
1) 全線が専用空間で、路面電車のように交差点で止まることは一切ない、
2) 全駅に自動改札が設備され、運転士による運賃収受はなく停車時間は最小
3) タイヤ走行のため、一般鉄道と比較して加減速度が高い
4) 全線複線であり、行違いによるロスタイムはない
ATCが導入されていたので、曲線の速度制限を見直すにはその改修に相当の経費を要したと思わ
れるが、本システムであれば極めて低額である。時分短縮と増発を同時に実行すれば、必要な編成数
(=運転士の従事人数)は思いのほか増えないことは、単線路線での検討と同じ理屈である。
最も高頻度だった 15 分おきでは、片道 15 分走行×2+両端駅の折返し時間合せて 15 分=45 分で
一巡し、運行間隔の 15 分で割算すると 3 編成(=運転士 3 名従事)で運行していてことが分かる。
片道 10 分に短縮し、片道 10 分×2+両端駅での折返し時間合せて 4 分=24 分で一巡とし、4 編成
(=運転士 4 名従事)で運行すると 6 分おきの運行が可能である。配置車両は 5 編成だったので、車
両がネックで実行できないことはなかった。
所要時間が 10/15 倍、運行頻度が 10/4 倍になるので、3.1(3)に既述した平方根の法則に当ては
めると利用者数は√(15/10×10/4)≒1.8 倍強となる。多くの利用者は名古屋都心との行き来で、全
区間としてのサービス水準はここまでは上がらないので、1.8 倍強までは行かないだろうが、大幅な
サービス改善が思いのほか低コストで実現可能であり、許容し得る公的支援の範囲での存続・再生の
可能性は充分にあったと言えよう。
- 63 -
(2) 現存の鉄道インフラが有効活用されていない路線
以下、現存の鉄道インフラが有効活用されていない路線を取上げ、仮に本システムを導入した場合の
高速・高頻度運行による利用増・経営改善策も提案するが、本システムの有効性を検証するための机上
検討に過ぎず、経営主体との協議に基づいたものでも実現可能性を保障するものでもない。
a.JR山田線の盛岡近郊区間(岩手県盛岡市)
JR東日本が経営する山田線は、路線別の経営数値は公表されていないが、おそらく単独路線とし
ては赤字経営で、積極的な利便向上を進められる状況ではないと推定される。全体としては盛岡から
宮古を経由して釜石までを結ぶ 157.5km の路線であるが、盛岡-宮古を結ぶ列車は 4 往復/日のみ
で、長距離の移動はほとんどマイカーと路線バスに転換しており、山田線による移動は 1 日に数十人
程度と推定される。図3-29に、その盛岡近郊区間の路線図を示す。盛岡から最初に行違い・折返
しができるのは上米内である。
至 八戸
いわ
て
銀河
鉄道
東北
新幹
線
上米内
至 宮古
JR山田線
至 秋田
山岸
上盛岡
JR田沢湖線
盛
岡
JR東北本線
2Km
至 仙台
図3-29 JR山田線の盛岡近郊区間の路線図
写真3-1に、JR山田線の盛岡近郊区間の沿線の様子を示す。山田線は、自動車の普及に伴い都
市間鉄道としては大きな役割を担うのが困難としても、盛岡近郊の都市鉄道としては機能し得る立地
条件であることが分かる。しかし、わずか 6 往復/日のみの低頻度運行で、盛岡からの終列車の到着
が 19:15 では日々の生活に使うには不充分である。
- 64 -
↑上盛岡駅前に県立中央病院、岩手大も沿線
↑上盛岡駅周辺の高層マンション群
↑その他の区間も沿線に住宅その他が集積
↑上盛岡駅の時刻表、1 日に上下各 6 本
写真3-1 JR山田線の盛岡近郊区間の沿線の様子
図3-30に、平成 12 年国勢調査データを用いたJR山田線の盛岡近郊区間の沿線及び各駅 1km
圏の人口を示す。沿線人口は約 7.1 万人であり、図3-4に示した富山ライトレール沿線の約 5.4 万
人を上回る。さらに、県立中央病院や岩手大学という全県的な集客施設が立地していることを考える
と、移動ニーズは富山ライトレールをはるかに上回ろう。また、盛岡は戦災を受けていないために道
路が狭く、冬の積雪・凍結の時期は道路渋滞が激しく、5km 程度の移動に 30 分以上要することが頻
繁にあり、せっかくある鉄道インフラの有効活用が望まれる。ただし、沿線 1km 幅には含まれるが駅
1km 圏に含まれない人口が多いので、多くの利用を取込むには駅の増設も必要である。
- 65 -
図3-30 JR山田線の盛岡近郊区間の沿線及び各駅 1km 圏の人口
図3-31に、JR山田線の現行ダイヤを示す。朝方、盛岡-上米内のみ運行が 2 往復ある。
図3-31 JR山田線の現行ダイヤ
- 66 -
図3-32に、現行の設備・車両を前提としたJR山田線の提案ダイヤを示す。近郊区間の最初の
折返し駅は上米内なので、現行運行している列車は一切変更せず、盛岡-上米内のみ運行の列車をで
きるだけ多く設定したものである。14~15 分走行・6~5 分折返しの繰返しで 40 分おきの運行が基本
となる。盛岡-上米内の運行本数は、現行の 6 往復に対し 22 往復と 3.7 倍になる。3.1(3)に既述
した平方根の法則が当てはまるとするなら、√3.7≒2 倍近くへの利用増が期待できる。現行の利用
数は公開されていないが、6 往復 12 本の列車の平均乗車人数が 40 人とすると約 500 人/日であり、2
倍になって 1,000 人/日である。富山ライトレールが約 5,000 人/日なので、潜在ニーズはまだまだあ
り、さらなる高頻度運行と駅増設により数倍オーダーの利用増が期待できよう。
図3-32 JR山田線の提案ダイヤ
以下、本システムの活用方法を説明する。図3-32のダイヤを実現するには、本システムの導入
は不要である。実際の移動ニーズを考えるなら、短距離運行は上米内まででなく山岸までとしたい。
しかし、現行の信号システムをベースに山岸で折返せるようにするには、前後の踏切の改修を含めて
おそらく数百万円以上の改修費を要すると推定される。本システムではそのように設計するだけで実
現でき、付加経費はほとんどない。
また、現行の信号システムでは、上り列車の盛岡到着時に相当手前から警戒信号(25km/h 制限)
- 67 -
が現示され、所要時間が 1 分余計に掛かっており、それを改修するにはおそらく数千万円の改修費を
要すると推定される。本システムでは1.4(3)に既述した通り、事前に減速せずの駅への到着は基
本機能である。盛岡-山岸で折返し運行する場合、現行の設備では下り 8 分上り 9 分となり、折返し
時間を 2~1 分として 20 分サイクルダイヤとするのは無理があるが、上下とも 8 分走行とできれば、
2 分折返し(運転士は一定連続乗務ごとに適宜交替、運賃収受と車内整備は駅で対応)として 20 分
サイクルダイヤとできる。
さらに高頻度運行とするには、行違い駅(以前は上盛岡にあり用地はある)の増設を要するが、本
システムは現行の信号システムと比較して大幅に低価格で実現できる。
b.茨城交通湊線(茨城県ひたちなか市)
茨城交通(株)は、経営状況が厳しいため湊線を平成 20 年 3 月に廃止したい旨、平成 17 年 12 月に
ひたちなか市へ協議を申入れた。湊線の利用者は昭和 40 年度の 350 万人から平成 17 年度には 72 万
人にまで減少して単年度で 3,700 万円の赤字経営となり、平成元年度からの累積赤字は 4 億円を超え
ている。その後、市が設置した「湊鉄道対策協議会」での協議が重ねられ、市に加え、茨城県も支援
に乗出す考えを打出したこともあり、茨城交通(株)は平成 19 年 3 月に予定していた国への事業廃止
届の提出を当面は見合わせることとした。現在、県・市と同社は財政支援を含めた支援策の枠組みに
ついて協議を継続している。
なお、以下の記載は(株)ライトレールが平成 19 年 3 月に茨城県及びひたちなか市から請負った
「茨城交通(株)湊鉄道線の再生に関する調査業務」を参考とした。
茨城交通(株)HPより <http://www.ibako.co.jp/rail/ensen-map1.htm>
図3-33 茨城交通湊線の路線図
- 68 -
図3-33に、その路線図を、図3-34に、その配線略図を示す。常磐線の勝田から那珂湊を経
由して阿字ヶ浦に到る 14.3km、全線単線非電化の路線で、途中行違いのできる駅は那珂湊のみであ
る。
那珂湊機関区
勝田
日工前
金上
中根
那珂湊
殿山
平磯
磯崎
阿字ヶ浦
※点線はJR常磐線の線路を示す。営業運転用に那珂湊は 2 線、阿字ヶ浦は 1 線のみを使用。
図3-34 茨城交通湊線の配線略図
最高速度は 50km/h と低速で、全区間を平均 26 分走行(表定速度 33km/h)である。図3-35に
現行ダイヤを示す。終日同様で、2 編成がほぼ同時に勝田と阿字ヶ浦を出発し、中間の那珂湊で行違
い、ほぼ同時に阿字ヶ浦と勝田に到着するというケーブルカーのような運行パターンである。JR常
磐線との接続の関係で等時隔でないのだが、ほぼ 26 分走行・14 分折返しの繰返しで 40 分サイクル
のダイヤである。
図3-35 茨城交通湊線の現行ダイヤ
図3-36に提案ダイヤを示す。26 分走行を 23 分走行に改めている。現行、昭和 40 年前後に製
造された性能の低い車両も使用されているが、湊線は線路状態が地方鉄道としては非常に良いので、
他の廃止された路線の車両を購入する等により性能の良い車両に統一すれば、70km/h 程度へのスピ
ードアップが可能である。それにより 23 分走行とし、7 分折返しとすれば、分かりやすい 30 分サイ
クルのダイヤとできる。図3-36は図3-35と比較して、アコーディオンを横方向に 30/40 倍に
縮めたのと同じことで、所要時間は 23/26 倍に短縮され、運行頻度は 40/30 倍に増大し、必要な編成
数(=運転士の従事人数)は変らない。
図3-36 茨城交通湊線の提案ダイヤ
- 69 -
以上を実行するために、スピードアップする分だけ踏切への列車接近に対する警報開始点を早める
のに、現行の軌道回路方式では数千万円を要すると推定される。本システムであれば、必要な鳴動時
分を確保するのは基本機能であり、列車の走行速度を変えても新たな改修は不要である。
3.1(3)に既述した平方根の法則が当てはまるとすると、√(26/23×40/30)≒1.2 倍以上への利
用増を期待できる。さらに、沿線には国営ひたち海浜公園・阿字ヶ浦海岸・おさかな市場・ジョイフ
ル本田等、多数の観光エリア・集客施設がある。特におさかな市場は 130 万人弱/年の来訪があり、
往復を考えると 250 万人/年の移動ニーズで、湊線利用者 72 万人/年の 3 倍以上である。週末には駐
車場待ちの行列ができ、周辺は違法駐車があふれる状況なので、1km 弱離れた那珂湊駅と乗合タクシ
ーで結ぶ等して、おさかな市場来訪者の 1/10 を湊線利用にできるだけで利用者は 35%増となる。
その他、鉄道運賃を観光施設や旅館が負担(駐車場コストの節減を考えれば充分あり得る)する
等、様々な誘客策が考えられるが、本体の湊線が低速・低頻度運行のままでは効果を期待できず、高
速・高頻度運行化があらゆる施策のスタートであり、本システムはそれを低コストに実現する上で有
効である。
さらに高頻度運行するには、行違い駅の増設を要するが、本システムは現行の信号システムと比較
して大幅に低価格で実現できる。勝田-那珂湊間に行違い駅を 1 箇所増設すれば、特に移動ニーズの
高いその区間を 15 分おきの運行とできる。編成数(=運転士の従事人数)は 1 増えるのみである。
c.銚子電鉄(千葉県銚子市)
銚子電気鉄道(株)が経営する銚子電鉄は、厳しい経営が続く中、塗れ煎餅の販売やサポーターズか
らの寄贈により運営経費を賄っている状況で、マスコミでも度々取上げられ有名になった。図3-3
7に、その路線図を示す。JR総武本線の銚子から外川に到る 6.4km、全線単線電化の路線である。
文 第一中
H
市役所
H
飯沼観音
H
仲ノ町
観音
ヤマサ醤油 文
工場 第三中
文
文
市立銚
春日小
子高
文 飯沼小
市民球場他
笠
黒 上
生
西
鹿 海
島
市立総合病院
文
県立銚子高
銚子市民センター
H
H
H
海
島
鹿
文
銚子商業高
文 清水小
明神小
本銚子
文 奥野小
銚子
ヒゲタ醤油
工場
文
H
海鹿島海水浴場
H
君
ヶ
浜
銚子電鉄
君ヶ浜しおさい公園
JR
文
H
地球の丸く見
える丘展望館
学校
公共施設等
H
犬吠崎灯台
犬
H 犬吠崎マリン
吠 HH
観光地等
H
H
主要ホテル
千葉科学大学
文
銚子マリーナ
バスルート
外川線
長崎線
海鹿島線
千葉科学大学線
定期観光バス
H
パーク
文
文
高神小外 第二中
H
500m
川
イルカウォッチング
犬岩
千騎ヶ岩
図3-37 銚子電鉄の路線図
- 70 -
長崎海水浴場
1km
図3-38に、大正 14 年の電車化のちらしを示す。当時としては 30 分おきの運行は相当画期的な
サービスだったろう。そして、現在も 2 本/h の運行である。b.に既述した茨城交通湊線と同様
に、2 編成が中間の笠上黒生で行違って行き来するケーブルカーのような運行パターンで、80 年以上
前から同様だったことが分かる。
銚子電鉄HPより <http://www.choshi-dentetsu.jp/old1/old.htm>
図3-38 銚子電鉄の電車化のちらし
最高速度は 40km/h、6.4km を 19 分走行、表定速度 20km/h と速度も遅く、この路線も低速・低頻度
運行である。笠上黒生は上下列車の同時進入をできないので、本システムを導入すれば、それによる
1 分のロスを解消し 18 分に短縮できる。若干の線路改良・車両性能向上により、さらに 2 分短縮で
きれば、16 分走行、4 分折返しの繰返しで 20 分サイクルダイヤとできる。
所要時間は 16/19 倍に短縮され、運行頻度は 30/20 倍に増大し、必要な編成数(=運転士の従事人
数)は変らない。踏切鳴動時分の調整も、本システムでは安上がりである。利用者数は、3.1(3)
に既述した平方根の法則が当てはまるとすると、√(19/16×30/20)≒1.35 倍程度への増加を期待で
きる。
また、銚子電鉄は車両の老朽化が進んでおり早急な更新が望まれている。さらに、電力設備も老朽
化が進んでいるので、電車ではなく3.1(3)に既述したDMVへの更新が得策と考えられる。DM
V実用化にも本システムが貢献する可能性があることも既述した通りである。また、銚子電鉄は線路
状態があまり良好でないので、安全確保やスピードアップのためには線路改良が必要だが、DMV導
入後であれば期間を区切って区間毎に線路を使用停止し、道路迂回して営業継続し効率的かつ低コス
トに工事実施できる。
d.江ノ島電鉄(神奈川県藤沢市、鎌倉市)
江ノ島電鉄(株)が経営する江ノ島電鉄は、東京近郊の路線で身近な遊び場として来訪者も多く、ま
た並行する国道が片側 1 車線で渋滞が日常化しているため、電車利用者が多く安定した経営となって
いる。しかし、昭和 40 年前後には赤字経営が続き廃止も検討されたほどで、人気テレビドラマ「俺
- 71 -
たちの朝」の舞台となったことで注目が集まって利用者が増え始め、廃止の危機を乗越えられた。図
3-39に、その路線図を、図3-40に、その配線略図を示す。JR東海道本線の藤沢から江ノ島
を経由してJR横須賀線の鎌倉に到る 10.0km、全線単線電化の路線である。
至 大船
至 静岡
藤沢
JR東海道本線
JR横須賀線
湘南モノレール
鎌倉
江ノ島
江ノ島電鉄
至 久里浜
1km
図3-39 江ノ島電鉄の路線図
図3-40 江ノ島電鉄の配線略図
図3-41に、現行のダイヤを示す。約 1.5km おきにある全行違い駅を活用し 6 分おきに対向列車
と行違う 12 分サイクルのきれいなパターンダイヤである。現行の信号システムでは、鵠沼以外のみ
有効長が長いため警戒信号(25km/h 制限)により上下列車の同時進入ができるが、他の駅は全て上
下列車が同時に到着できない。そのため行違い駅間の最大運転時間が 5 分で収まらず、10 分サイク
ルダイヤにはできないでいる。
図3-41 江ノ島電鉄の現行ダイヤ
図3-42に、提案ダイヤを示す。行違い駅で上下列車が停車・減速せず到着でき、かつ先着列車
- 72 -
が行違いの後着列車の到着前の安全なタイミングで出発できることにより、行違い駅間の最大運転時
間を 5 分以内に収まり、10 分サイクルダイヤとできる。
図3-42 江ノ島電鉄の提案ダイヤ
図3-42は図3-41と比較して、アコーディオンを横方向に 10/12 倍に縮めたのと同じこと
で、所要時間は 10/12 倍に短縮され、運行頻度は 12/10 倍に増大する。運行本数が増える分、電力費
は 12/10 倍になり、現行の約 7,000 万円/年に対し約 1,500 万円/年と見込まれ、現行の収益 26 億円/
年と比べると僅かである。必要な車両編成数と運転士数は同じなので、車両減価償却費と運転士人件
費はほぼ変らない。車両と地上設備の保守費も大差ないが、諸々の経費増を約 500 万円/年と見積
り、総計で約 2,000 万円/年となる。
利用者数は3.1(3)に既述した平方根の法則が当てはまるとすると、√(12/10×12/10)=1.2 倍
への利用増を期待できる。現行の収益 26 億円/年に対し 5 億円の増収となり、2,000 万円/年の経費
増に対し大幅な収益改善である。10 分サイクルというのは 12 分サイクルと比較して圧倒的に覚えや
すく、利用増はもっと大きいと推測されるので、5 億円/年は控えめに試算した数値である。また、
0.2 倍分の利用増の少なからぬ人数は自動車からのモーダルシフトを期待できよう。
e.広島電鉄(広島県広島市、廿日市市)
広島電鉄(株)は、120 万都市である広島市内と隣接の廿日市市において鉄道線 16.1km と軌道線
19.0km、計 35.1km を経営している。図3-43に、その路線図を示す。系統は 4 が欠番で 1~9 ま
であり、8 系統ある。各系統とも、7~12 分間隔の運行となっており、複数の系統が運行する区間は
次から次に電車が来る感じで相当の高頻度運行をしている印象を受ける。
輸送人員は、平成 16 年度に鉄道線 1,800 万人/年(4.8 万人/日)、軌道線 3,900 万人/年(11 万人
/日)で、通し利用は重複計上されるので総人員は単純な足し算でなく 5,000 万人/年(14 万人/日)
程度と推定される。日本で最大の路面電車都市であり、多くの市民や来訪者にとって日々の欠かせぬ
足となっている。
しかし、冷静に見るなら究極の高速・高頻度運行とはなっていない。中心街の紙屋町付近等、複数
の系統の集まる箇所でしばらく様子を見ていると、確かに路面電車が続々と来るのだが、路線バスの
方がむしろ本数が多い。時間帯によっては、タクシーの方がさらに多い。どの時間帯も、自動車が最
も多い。速度はちょうど逆の順序で、自動車・タクシー・バス・路面電車の順である。運転士の労働
力が 1 人ずつ必要なのは共通である。
路面電車・バス・タクシー・自動車という 4 種の交通システムの中で、路面電車は速度と頻度とい
う最も重要な要素が劣るのである。安全性と環境負荷の軽さは最も勝るのは間違いないが、利用者は
それよりも利便性を重視して交通システムを選択する。上記の 14 万人/日の利用を広島市の人口の 2
倍の 240 万で割ると 6%の利用率に過ぎないのが現実である。
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広島電鉄(株)HPより<http://www.hiroden.co.jp/trans/tr_top_d.htm>
図3-43 広島電鉄の路線図
広島電鉄は、路面電車に関して日本のトップランナーであるのは間違いないが、新しい時代に相応
しいLRTに脱皮するにはさらなる高速・高頻度運行が不可欠であり、本システムが効果を発揮しよ
う。ただし、本システムのみで理想的な高速・高頻度運行が実現できるものではなく、自動車や人と
の衝突・接触等の事故防止策、合理的な運賃収受方式による停車時間短縮、PTPS(3.2(2)
a.参照)導入による交差点での停止回避等を同時に実施する必要がある。
f.東武宇都宮線(栃木県宇都宮市、栃木市)
東武鉄道(株)が経営する東武宇都宮線は、浅草を基点とした東武鉄道のネットワークからすると最
末端路線で重要度もあまり高くないと評価されようが、宇都宮都市圏として見るなら都心部に乗入れ
る重要幹線鉄道である。図3-44に、その路線図を示す。東武日光線の新栃木から東武宇都宮に到
る 24.3km、全線単線電化の路線である。
写真3-2に、東武宇都宮駅の時刻表を示す。朝ラッシュが 4 本/h、夕ラッシュが 3 本/h、その他
が 2 本/h、終列車が 22:49 発と、都市鉄道として利用するには不充分なサービスと言わざるを得な
い。東武宇都宮駅は東武宇都宮百貨店と同じビルであり、物理的には理想的な都心型デパートとター
ミナル駅の組合せとなっている。しかし、運行頻度が低いために地域の基幹交通システムとして充分
には利用されておらず、東武宇都宮百貨店への来店者の多くは自動車利用で、バーゲンセールや中
元・歳暮の時期の週末ごとに何棟もある駐車場ビルに収容し切れないマイカーが周辺にあふれること
- 74 -
が繰返されている。
至 仙台
至 日光
光線
東武日
東武宇都宮
宇都宮
東北新幹
線
JR東北
本線
東武
宇
都
宮線
新栃木
4km
栃木
至 東京
至 浅草
図3-44 東武宇都宮線の路線図
写真3-2 東武宇都宮駅の時刻表
全線単線だが、全駅に行違い設備があり、高頻度運行できる条件は整っている。最も高頻度のダイ
ヤを組むとすると、所要時間が最長となる壬生-国谷及び安塚-西川田の 3.5km の所要時間の 2 倍の
サイクルのダイヤとなる。しかし、それでは所要時間の短い駅間の到着時に時間調整で長時間停車す
ることになり、所要時間が伸びて不便になると同時に車両と運転士が余計に必要となる。
そこで、隣接の短い駅間を組合せて行違いをする駅を絞込み、高頻度運行と高速運行のバランスを
- 75 -
取るのが良い。そういった視点で考えると国谷-谷塚の 4.0km(途中 1 駅)が最長になる。現行の信
号システムでは一部の駅以外は上下列車の同時進入はできない模様で、先着列車の早め出発もできな
いので、上記駅間をロスタイム含めて 6 分以内とするのが精一杯で 12 分サイクルダイヤとなる。現
行、朝ラッシュでもそれを実行していないので本当に実現できるかは不明である。
本システムを導入すれば、「双方向列車が停車・減速せず到着」と「先着列車が行違いの後着列車
の到着より前に出発」が可能となり、東武宇都宮線は以前に貨物列車が走行していたことから各駅の
有効長が長く、後者の効果が大きい。3.3(1)a.と同様の考察をして、12 分サイクルダイヤは確
実に組めて、10 分サイクルダイヤも組めると予測される。ただし、可能かどうかギリギリなので、
最終的な判断をするには、現地の有効長・先着列車の出発可能タイミング・駅間走行時間・駅停車時
間等を詳細に検討する必要がある。
12 分サイクルで 5 本/h、10 分サイクルで 6 本/h と、現行の昼の 2 本/h と比較すると 2.5 倍または
3 倍となり、3.1(3)に既述した平方根の法則が当てはまるとするなら、√2.5≒1.6 倍弱または√3
≒1.7 倍以上への利用増を期待できる。特に、東武宇都宮百貨店への来店者で駐車場に収容し切れな
い時の自動車利用者の満足度は相当低いはずで、東武宇都宮線を高頻度運行とすれば、沿線からの来
店者には相当のモーダルシフトが起きると予測される。
(3) 地方鉄道LRT化推進に向けた本システムの有効活用
表3-18に、(1)(2)でまとめた路線の概要を示す。共通の特徴は、低利便(低速・低頻度運行)の
ため潜在利用を取りこぼし、多くは利用者が減少一途で経営状況も厳しく、高利便(高速・高頻度運
行)は高コストで実現できないという点である。一方、3.2と同様に、公的支援をベースとした存続
や復活あるいは利便向上の社会的合意の形成も容易でない。
3.2(3)の繰返しとなるが、一般市民が、経済的にも技量的にも自動車を利用しようと思えばでき
るようになった時代において、軌道交通が多くの利用を得、本格的なモーダルシフトを実現するには、
今までの常識にとらわれない究極の高速・高頻度運行を普及させることが肝要である。既存地方鉄道を
LRT化する際には単線路線を活用するケースが多く、新規LRTのように片道当り 60 本/h の運行と
いう訳にはいかないが、既存インフラを有効活用し、また最小の設備改良や車両性能向上により、段階
的に高速・高頻度運行を実現していくのが良い。
その点で、本システムの低コスト性と単線区間行違いの効率向上に資する機能は有効である。(1)(2)
の検討や提案は、関係する鉄道事業者等を場合によっては批判しているように聞こえたかも知れない。
しかし、それぞれの冒頭に書いた通り、具体例をいくつも出したのは本システムの有効性を検証するこ
とが目的である。本システムが、既存の線路設備・車両を有効活用した低コストな高速・高頻度運行
と、線路設備改良・車両性能向上と連携した低コストなさらなる高速・高頻度運行を可能ならしめるこ
とを具体的に示したものである。
- 76 -
表3-18 調査した路線の概要
路線名
都 市
都市人口
区 間
距 離
名鉄旧岐阜路面 揖斐線系統
電車等
新岐阜駅前-
黒野 16.1km
岐阜市 42 万人
瑞穂市 5 万人
美濃町線系統
関市 9 万人
新岐阜-関
19.4km
旧鹿島鉄道
石岡-鉾田
27.2km
石岡市 8 万人
小美玉市 5 万人
鉾田市 5 万人
経 費
輸送人員
運行間隔
収 支
収 益
表定速度 (片方向) (注記外16 年度) (注記外16 年度)
所要時間
46 分
21km/h
56 分
21km/h
朝 7~15 分 15 年度名鉄発表
他 15 分
岐阜市内線
7,900 人/日
3.3 億円/年
朝 16 分
他 30~60 分
揖斐線
4.400 人/日
1.8 億円/年
その他特記事項
15 年度名鉄発表 運転系統と財務区分が
別体系
岐阜市内線
平成 17 年 3 月廃止
5.7 億円/年
▲2.4 億円/年
揖斐線
5.8 億円/年
▲4.0 億円/年
美濃町軌道線
3.200 人/日
1.2 億円/年
美濃町軌道線
4.7 億円/年
▲3.4 億円/年
53 分
31km/h
10~40 分
84 万人/年
2.2 億円/年
2.9 億円/年
▲0.6 億円/年
平成 19 年 3 月廃止
鮎川-常北太 40 分
旧日立電鉄線
27km/h
日立市 20 万人 田 18.1km
常陸太田市 5 万人
おおむね
2 本/h
139 万人/年
3.2 億円/年
3.5 億円/年
▲0.3 億円/年
平成 17 年 3 月廃止
旧桃花台新交通 小牧-桃花台 15 分
小牧市 15 万人 東 7.4km
30km/h
朝 15 分
他 3 本/h
126 万人/年
2.5 億円/年
4.7 億円/年
▲2.2 億円/年
平成 18 年 9 月廃止
ニュータウン路線
JR山田線
盛岡市 29 万人
盛岡-上米内 15 分
9.9km
40km/h
6 本/日
未公表だが 500 未公表だが赤字 相応の沿線人口
人/日程度か
と思われる
集客施設の立地も
茨城交通湊線
勝田-阿字ヶ 26 分
浦 14.3km
33km/h
1.5 本/h
ひたちなか市12万人
78 万人/年
2.4 億円/年
2.5 億円/年
▲0.1 億円/年
廃止届提出を見送り
(平成 19 年 3 月)
銚子電気鉄道
銚子市 7 万人
銚子-外川
6.4km
19 分
20km/h
おおむね25分 65 万人/年
1.1 億円/年
1.3 億円/年
▲0.2 億円/年
濡れ煎餅の販売による
経費捻出で有名に
江ノ島電鉄
藤沢市 10 万人
鎌倉市 10 万人
藤沢-鎌倉
11.1km
20 分
20km/h
早朝深夜
以外 12 分
1,400 万人/年
25 億円/年
22 億円/年
3 億円/年
昭和 40 年前後に廃止
の危機
広島電鉄
広島市内
広島市 116 万人 鉄道 9.9km
廿日市市 12 万人 軌道 11.1km
15 分
40km/h
7~12 分
鉄道 1,800 万人/ 鉄道 41 億円
年、45 億円/年 4 億円
軌道 3,900 万人/ 軌道 20 億円
年、18 億円/年 ▲2 億円
東武宇都宮線
宇都宮 50 万人
栃木市 8 万人
東武宇都宮- 34 分
新栃木 24.3km 43km/h
朝夕15~20分 660 万人/年
他ほぼ 30 分
日本で最大の路面電車
都市
未公表だが赤字 相応の沿線人口
と思われる
都心部は駐車場不足
※『鉄道統計年報(国土交通省鉄道局)』、各種『時刻表』等による
※運行間隔は早朝深夜を除き、「n 本/h、n 本/日」の表示は等間隔でないことを示す。
※輸送人員・収益・経費・収支は、有効数字 2 桁(一部 1 桁)とした。
- 77 -
3.4 運輸部門の省エネ効果試算
『交通関係エネルギー要覧平成 18 年版』(国土交通省総合政策局情報管理部)によると、国内の平
成 16 年度における自家用乗用車輸送量は(P.34)、
7,389 億人 km/年 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
①
指標Aである 1 人 km 運ぶのに消費するエネルギーの自家用車と鉄道の差は(P.49)、
2,635-467 = 2,168kJ/人 km = 2,168kJ/人 km÷38.2MJ/L
= 0.0568L/人 km = 5.68×10-5kL/人 km
2030 年における指標Bである本システム普及によるモーダルシフト量を以下とする。
廃止危機の地方鉄道輸送量a×(1+利便向上によるモーダルシフト率b)
+自家用乗用車輸送量c×新規LRTモーダルシフト率d ・・・・・・・・・・ ②
表3-19に、国内における鉄道輸送の内訳(平成 16 年度)を示す。『平成 16 年度鉄道統計年報』
(国土交通省鉄道局監修)の(24)JR旅客会社運輸成績表から計算すると、JRの 2,423 億人 km の内
訳は、新幹線 6 路線で 747 億人 km+幹線 80 路線で 1,623 億人 km+地方交通線 93 路線で 53 億人 km で
ある。
表3-19 国内における鉄道輸送の内訳(平成 16 年度)
区分
事業者数
営業キロ 輸送人キロ
km
JR
大手民鉄
準大手
公営
地方交通
その他
合計
事業社名(例示)
億人キロ
6
20,007
2,423 JR北海道、JR東日本、JR東海、JR西日本
16
2,979
5
117
22 新京成、北大阪急行、大阪府都市開発、山陽電鉄、神戸高速
11
570
179 仙台、東京、京都、神戸、福岡、函館、大阪、熊本、鹿児島
118
3,754
33
255
189
27,682
1,158 東武、相鉄、東京地下鉄、名鉄、近鉄、西日本
57 津軽鉄道、関東鉄道、江ノ島電鉄、三陸鉄道、しなの鉄道
15 東京モノ、多摩都市モノ、ゆりかもめ、神戸新交通
3,854
※『数字でみる鉄道2006』(国土交通省鉄道局監修)による
地方鉄道が今の低利便(低速・低頻度運行)を継続した場合に 2030 年時点で廃止されているだろう
路線の平成 16 年度時点の輸送人 km を仮に以下で計算してみる。
(JR地方交通線+地方交通)×80%+(大手民鉄+準大手)×1%+(公営+その他)×10%
= (53+57)×0.8+(1,158+22)×0.01+(179+15)×0.1 = 119 億人 km/年
これだけの路線が廃止されるとは想像しにくいかも知れないが、人口 42 万人の県庁所在都市の都心
へ乗入れる岐阜路面電車が、低速・低頻度運行では利用が減る一方で財務的に破綻して既に廃止され、
政令指定都市の中心部を縦貫する阪堺線が低速・低頻度運行では利用が低迷して赤字経営で事業者が廃
止の意向を持っているという現実からすると、むしろ過小な見通しとも言える。
図3-45に、輸送密度 4,000 人/km 以下が廃止された場合の近未来の鉄道ネットワークを示す。輸
送密度 4,000 人/km 以下とは、国鉄時代に第 3 次特定地方交通線の定義となった数値である。上記の
119 億人 km/年が消滅するとした試算よりさらに厳しい予測である。
- 78 -
上岡直見『新・鉄道は地球を救う』P140 より
図3-45 輸送密度 4,000 人/km 以下が廃止された場合の近未来の鉄道ネットワーク
ただし、119 億人 km/年は相当荒い試算なので、過大とならないよう以下とする。
廃止危機の地方鉄道輸送量a = 100 億人 km/年 ・・・・・・・・・・・・・・
③
富山ライトレールの自動車から鉄道への転換率は、3.1(2)の調査の数値で計算すると、自動車か
らの転換者 609 人/日÷従前の鉄道利用者 1,917 人/日=32%であり、これを流用して以下とする。
利便向上によるモーダルシフト率b = 32% ・・・・・・・・・・・・・・・・ ④
cは①より以下となる。
自家用乗用車輸送量c = 7,389 億人 km/年 ・・・・・・・・・・・・・・・・
⑤
dは以下と考える。
新規LRTモーダルシフト率d
= 新規LRT人口カバー率e×本システム適用路線モーダルシフト率f ・・ ⑥
3.2(1)に既述した通り、全国で、朝日新聞報道によると約 70 件のLRT実現構想(うち新規の件
数は不明)、本調査では 38 件の新規LRT構想がある。現時点での構想ありなしに関わらず、社会的
に許容し得る公的支援の範囲でLRT実現が可能となる技術開発とビジネスモデルの構築がされれば、
次々と実現しよう。2030 年までに何件が実現可能かを正確に推測はできないが、仮に 100 路線とし、1
路線当りの沿線人口を 10 万人とすると、
新規LRT人口カバー率e = 新規 10 万人/路線×100 路線÷1.2 億人 = 8.3% ・ ⑦
fは、3.1(2)に既述の通り、富山ライトレールは僅かに 0.6%だったが、以下 3 点の理由により
- 79 -
それを大幅に上回らせることは可能と考えられる。
・新規LRTの実現するであろう地域は富山ライトレールの沿線より都市部が多い
・本システムの導入により、より高い利便性を実現する
・鉄軌道の既利用者がいない
諸外国の例では、ポートランドが持続可能な都市づくりの成功例として有名である。LRTの路線数
増と自動車の相乗り奨励等を組合せ、1990 年からの 6 年間で通勤に要する自動車交通量を 20%減らし
た。さらに、ロイド地区への一人乗り自家用車通勤を 1997 年の 60%から 2001 年の 45%へ低下させ、
25%がモーダルシフトしたことになる。
国内では、公共交通の利便向上を核とした本格的なモーダルシフトの成功例はまだないが、諸外国の
成功事例から勘案して、以下は充分に可能と考える。
本システム適用路線モーダルシフト率f = 8% ・・・・・・・・・・・・・・
⑧
⑥に⑦⑧を代入し、②に③~⑤とそれを代入して、
2030 年の指標B(本システム普及によるモーダルシフト量) = 181 億人 km/年
図3-46に、以上のモーダルシフト量試算の模式図を示す。
図3-46 モーダルシフト量試算の模式図
2020 年は 2030 年の半分と予測し、
2020 年の指標B = 90.5 億人 km/年
指標Cは、FS調査なので 10% = 0.1 とする。
以上に基づき、
省エネ効果量 = 指標A×指標B×指標C
= <2020 年>0.0568L/人 km×90.5 億人 km/年×0.1 = 5.14 万 kL/年
= <2030 年>0.0568L/人 km×181 億人 km/年×0.1 = 10.3 万 kL/年
費用対効果 = 研究総額/(省エネ効果量×2.4 億円/万 kL)
= <2020 年>1.66 億円/(5.14 万 kL/年×2.4 億円/万 kL) = 13.5%
= <2030 年>1.66 億円/(10.3 万 kL/年×2.4 億円/万 kL) = 6.7%
表3-20に、以上の省エネ試算の総括表を示す。低利便(低速・低頻度運行)の継続による鉄軌道
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路線の廃止、鉄道インフラの破棄は留まるところを知らぬペースで進んでおり、本試算はむしろ過小見
積りとなる可能性すらある。
表3-20 省エネ試算の総括表
2020年
2030年
指標A(効果量)
0.0568L/人 km
(5.68×10-5kL/人 km)
0.0568L/人 km
(5.68×10-5kL/人 km)
指標B(導入量)
90.5 億人 km/年
(9.05×109 人 km/年)
181 億人 km/年
(1.81×1010 人 km/年)
指標C(成功率)
0.1
0.1
省エネ効果量
5.14 万 kL/年
10.3 万 kL/年
研究総額
1.66 億円
1.66 億円
費用対効果
13.5%
6.7%
※第3章においては、ホームページ等にある多数の図表・統計数値等を利用した。
著作物の利用に関して、著作権法第 32 条に以下のように定められている。
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣
行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれ
るものでなければならない。
ここで言う「公正な慣行に合致」と「引用の目的上正当な範囲内」は判例上、以下の通りである。
[1] 主従関係:引用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係
[2] 明瞭区分性:両者が明確に区分されている
[3] 必然性:なぜ、それを引用しなければならないのか
本FSは国費による公益性の高い取組みであり、成果物も販売せず、また本文中の図表・統計数値等
の利用は上記の 3 条件を満たすとも解釈できる。さらに官公庁のホームページ等は社会への周知を目
的としており、利用許諾は不要と判断できる。しかし念のため、以下からそれぞれ利用許諾を得た。
・堺市(3.2(2)a.の関連)
・京都市(図3-9)
・豊島区(3.2(2)e.の関連)
・茨城県、ひたちなか市(3.3(2)b.の関連)
・茨城交通(株)(図3-33)
・銚子電鉄(株)(図3-38)
・広島電鉄(株)(図3-43)
・上岡直見氏(図3-45)
- 81 -
Ⅲ 目的に照らした達成状況
下表に示す通り、全体計画及び個別研究項目とも当初の目標を、一部を除き達成した。本成果をベー
スに、自動車から軌道交通へのモーダルシフトを促進して運輸部門における省エネルギーを実現するた
め、実用化に向けたシステムの試作・評価及び、高速・高頻度運行と利用増・鉄道経営好転・モーダル
シフトの関係をより明確化する調査研究の推進が望まれる。
項
目
目
標
成 果 概 要
全体計画
運輸部門モーダルシ シ ス テ ム 仕 様 案 の 策 システム仕様案の策定、その評価、システム普
フトに資するシステ 定、その評価、システ 及の有効性把握
ム普及の有効性把握
ム開発のFS
個 別 研 究 項 目
1 システム仕様に 高速・高頻度運行を可 汎用の技術・インフラ・機器により経済的なシ
関するFS
能とする仕様案策定
ステムを構築することを基本コンセプトに、列
車位置検出・データ通信・運転指示の 3 機能の
仕様案を策定。全体の要となる「運転指示」機
能に関しては 8 項目に区分して策定。運転席モ
ニタへの表示イメージを作成。
2 システム評価に 機能性・安全性・安定 最高速度向上は専用軌道では概ね可、併用軌道
関するFS
性・経済性から評価
ではさらなる対策を要す。運行頻度向上・安全
性・安定性は、数値算出及び実現化の条件を抽
出。経済性では、一部機能のコスト低減を試
算。簡易走行試験でGPSとドップラーレーダ
の精度を確認。
3 システム有効性 適用による運輸部門の LRT実現構想はいずれも低速・低頻度運行で
に関するFS
省エネ効果の試算
需要予測小さく、現行制度以上の公的支援を要
す。地方鉄道の大半は低速・低頻度運行で利用
減少、廃止が続出。いずれも本システムを導入
し高速・高頻度化による利用増進が望まれる。
省エネ効果は 2030 年 10.3 万 kL/年と試算。
- 82 -
Ⅳ 研究開発の事業化の見込み
本システムの実用化により軌道交通の利便性を大幅に向上し、その分担率を若干引上げられるのみで
社会的に許容し得る公的支援の範囲でLRTを普及でき、モーダルシフトによる運輸部門の省エネルギ
ーに大きく貢献できる可能性が充分にある。実用化に向けた本格的な研究開発及び、高速・高頻度運行
と利用増・鉄道経営好転・モーダルシフトの関係をより明確化する本格的な調査研究の推進が望まれ
る。
本格的な研究開発においては、LRT事業者の意見も踏まえて要求仕様をさらに具体的かつ実践的な
ものとした上でシステムを試作し、机上検討及び鉄道線での走行試験により評価する。評価→改良→試
験の繰返しにより、より良好なものへ改良する。
その後、鉄道線(現行の信号システムは活かす)及び軌道線へ仮設して長期動作試験を実施し、実用
化に向けた基礎的データを収集する。さらに、列車運行上の位置付け・役割を明確化し、実システムと
して運用する場合の技術基準を確立して保安システムとしての国の認証を受けた上で、標準化を図り低
コスト化の条件を整備する。
本システムは、委託先 3 者のみで独占的に使用する考えはなく、基幹技術に関して特許取得した上で
広く鉄道関連業界へ情報開示することにより、本システムを活用したLRT普及に貢献していきたい。
以下に、システムの社会への普及と省エネルギーへの貢献をフローで示す。
交通安全環境研究所
L
R
T
高
速
・
高
頻
度
運
行
シ
ス
テ
ム
自 治 体
システム普及の基盤作り(安全性・必要な規制整備の認証等)
連携
低コストに高速・高頻度運行とし利用増、採算性改善
LRT事業者
コンサルティング
ライトレール
基幹技術の特許を取得の上
で広く鉄道業界へ情報開示
システム納入
特許使用料
システム対応車両納入
信号メーカーA
信号メーカーB
特許使用料
L
R
T
車
両
川崎重工業
車両メーカーA
特許使用料
LRT普及(既存地方鉄道のLRT化を含む)
自動車から軌道交通へのモーダルシフト
運輸部門にける省エネルギー
- 83 -
車両メーカーB
その中で、委託先 3 者はそれぞれの強みを活かして以下により事業化を図る。
(株)ライトレールは、全国のLRT事業者や自治体等へのコンサルティングを通して高速・高頻度運
行の有効性を情報発信して本システムを普及させていく。また、さらなる調査研究により本システム導
入によりLRTを実現できる有望路線を把握し、短期間で本システムを普及させる。
川崎重工業(株)は、開発中のLRT車両を本システム対応とし、全国あるいは海外へのLRT普及を
進める。さらに、車両と運行システムをインテグレートさせたシステムインテグレータとして商圏を拡
大し、本システムを普及させる。
(独)交通安全環境研究所は、鉄道の安全性評価等に関して国内における指導的立場にあるので、安全
性や必要な規制整備の認証を通してシステムを標準化し、関係メーカーが低コストにシステムと車両を
製造できる基盤を作り、本システムを普及させる。
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Ⅴ 研究発表・講演、文献、特許等の状況
(1) 研究発表・講演
以下の 3 件を発表予定である。
発表日
発 表 先
タイトル
発 表 者
概
要
平成 19 年 交通・電気鉄道研究 LRT高機能運行 (独)交通安全環境 列車位置検出に関して、鉄道線
9月6日 会
支援システムの開 研究所 水間、林 路上の走行試験により、GPS
田、工藤、吉永 +マップマッチングとドップラ
発(第 1 報)
大同信号(株) 伊 ーレーダによる位置・速度計測
藤、竹内、菊池 の精度を評価した。
平成 19 年 第 2 回人と環境にや LRT高速・高頻 (株)ライトレール
9 月 22 日 さしい交通を目指す 度運行システムの 阿部
川崎重工業(株)
研究開発
全国大会 in 京都
宇野
(独)交通安全環境
研究所 大野
LRT普及(既存地方鉄道LR
T化含む)を推進するには、低
コストでの高速・高頻度運行が
重要であり、それを実現するた
めのFS調査を実施した。
平成 19 年 平成 19 年度県立機 人と環境にやさし (株)ライトレール
い公共交通を実現 阿部
12 月 8 日 関活用講座
川崎重工業(株)
(神奈川県立川崎図 する技術
村上
書館主催)
(独)交通安全環境
「これからの公共交
研究所 大野
通とまちづくり」
人と環境にやさしい公共交通を
実現するには、鉄軌道の低コス
トでの高速・高頻度運行が重要
であり、そのための技術的可能
性を解説する。
(2) 特許等
以下の 1 件を出願した。他に 1 件を準備中。
【出願日】平成 19 年 7 月 26 日
【発明の名称】列車運転指示装置
【出願番号】特願2007-194353
【発明者】(株)ライトレール:阿部 等、岩本欣也
川崎重工業(株):村上 好
【出願人】(株)ライトレール、川崎重工業(株)
【課題】列車の運転計画に沿った運転曲線に自列車の位置と速度を一緒に示した画面上に進行方向前方
における運転を支援する情報を表示し、また、列車の制動を制御する列車運転指示装置を提供する。
【解決手段】走行線区に係る情報および計画運転曲線を表示し、また列車の現在位置と速度を表す自列
車符号を表示すると共に、進行方向前方において列車が停止もしくは徐行通過すべき場所を探知して、
このような場所が検出されたときは列車が当該場所において停止もしくは徐行できるようなブレーキパ
ターンを算出して、運転席に配備した表示装置に重複表示させ、また、ブレーキパターンを超えない限
界地点で非常ブレーキを動作させる。
(3) 受賞実績
なし
- 85 -
(4) その他の公表(プレス発表等)
なし
- 86 -
契約管理番号
06990953-0
契約管理番号
06990954-0
契約管理番号
06990955-0
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