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アジアモンスーン予測の改善
気象庁・気象研究所大気海洋結合モデルによる アジアモンスーン季節予測の改善 気象庁地球環境・海洋部気候情報課 および 気象研究所気候研究部・海洋研究部 (注意) この資料は、平成21年(2009年)8月31日から9月4日にかけてスイス・ジュネーブの国際会議場において、「よりよい世界に向けた気候情報の利用」をテーマに世界気象機関(WMO)が関係国連機関と共同で開催した第3回 世界気候会議での発表ポスターをもとに作成したものです。ここで解析した大気海洋結合モデルおよびその実験データは開発終盤段階のものであり、その後、気象庁において現業的に運用されている季節予報システムはさ らに調整されており完全には同一のものではありません。 アブストラクト: 気象庁と気象研究所でエルニーニョ予測モデルとして開発された新大気海洋結合モデルは、東アジア域の気温や降水量の季節予測に高い予測精 度を示している。この季節予測システムは、2010年2月から気象庁の現業季節予報システムとして利用される予定である。 1. 新大気海洋結合モデルによる季節予測実験 2. 夏季アジアモンスーンの季節予測 1997/98年冬季の4か月リードの季節予測結果 気象庁と気象研究所において新大気海洋結 合 モ デ ル ( JMA/MRI-CGCM ) が 開 発 さ れ 、 2008年3月からは気象庁でエルニーニョ予測モ デルとして使用されている。この予測システム は、水平分解能180km・鉛直40層からなる気象 庁統一大気モデル、経度分解能1度・緯度分解 能0.3-1.0度・鉛直50層(表面から200m以内に 24 層 ) の 気 象 研 究 所 共 用 海 洋 モ デ ル (MRI.COM)および3次元変分法(3DVAR)に よ る 気 象 研 究 所 海 洋 同 化 シ ス テ ム ( MOVE/ MRI.COM; Usui et al., 2006)からなる。 (図5ab) モデル 観測 図1 (左) 1997年12月から1998年2月の平 均の観測データ解析、(右)1997年7月初期値からの 予測結果。(上段)海面水温、(中段)降水量、(下段) 地上気温の平年偏差。 図2 図2 大気モデル(左)と結合モデル(右)による予測。 ■ 結合モ デル ■ 大気モ デル モデルの改良は、アジアモン スーンの予測精度の改善をもた らした。6-8月平均の南アジア・ 東アジアモンスーン指数に対す る、4か月リードの季節予測可 能性は、結合モデルを利用する ことにより大気モデルに比べて 大きく改善した。 世界気候研究計画の気候システム季 節予測実験プロジェクト( WCRP-Climatesystem Historical Forecast Project) に沿って、 1979年から2006年の期間の季節予測 図1 ) 。ここでは、夏季の 実験を行った ((図1) アジアモンスーンの季節予測結果につい て、従来の気象庁大気モデル(AGCM) (図2) による季節予測 単独システム (図2) (図3) 。 結果と比較しながら、紹介する (図3) 南アジアモンスーン指数 図5a 6-8月平均の南アジアモンスーン指数の予測値(青 線)と観測値(赤線)を1984年から2005年までの時系列で示す。 (左) 結合モデル、(右) 大気モデルの場合。ACCは時間相関係数。 1月末初期値の3-5月平均降水量予測精度を 3分割上位3分の1のROCスキルスコアで示す。 ROC>50は気候値予測を上回る予測精度。 相関0.82 2-4月平均 相関0.74 3-5月平均 1月末初期値の6-8月平均降水量予測精度を 3分割上位3分の1のROCスキルスコアで示す。 ROC>50は気候値予測を上回る予測精度。 4-6月平均 相関0.62 5-7月平均 相関0.27 東南アジア 結合モデルを用いた新システム (JMA/MRI-CGCM)では、エルニーニョの 海域に加えて、熱帯インド洋から熱帯西 太平洋にかけてのほぼ全海域で、海面 水温および降水量の季節予測を改善し ている(図略)。これは、大気モデルでは 再現できなかった現実の海面水温変動と 降水量変動の関係が、結合モデルでは 大気海洋相互作用の物理過程を導入し たことにより、現実的に正しく再現された ためと思われる (図4) (図4) 。 図6 1月末初期値のアンサンブル降水量予測の精度評価。 (左上) 3-5月平均のROCスキルスコア、(左下) 6-8月平均。(右) 東 南アジア域のメンバ予測値(青点)と観測値(黒点)の時系列図と散布図。 大気モデル 1月末初期値の6-8月平均地上気温予測精度を 3分割上位3分の1のROCスキルスコアで示す。 ROC>50は気候値予測を上回る予測精度。 3. 熱帯低気圧発生数の季節予測可能性 熱帯北西太平洋における熱帯低気圧 発生数の季節予測可能性を調べた。こ のため、結合モデルを用いた4月末初期 値の季節予測結果に熱帯低気圧の客観 的な診断法(略)を適用した (図8) (図8) 。 6-10月の熱帯低気圧発生数の年々変 動予測結果は、観測と正相関であったが、 統計的には有意ではなかった (図9) (図9) 。 海域別に見ると、エルニーニョの影響を 受ける南東海域で、非常に良い予測が 図11) 。 (図10 と (図11) 得られた (図10) 図10 観測デー タ 解 析が 示 す7-9月 の 熱帯低気圧の発生位 置(点)と海面水温偏差 (0.1度等値線、さらに正 値域は陰影)の関係 (Wang and Chan, 2002)。 (上)エルニー ニョ傾向の場合、(下)ラ ニーニャ傾向の場合。 直線は4分割域境界 を示す。 図11 Figure 11 図9と同じ図。ただし、解析対象海域を図 10の4分割した域内に限った場合。 6-8月平均 9月 相関0.89 7月末初期値の9-11月平均降水量予測精度を 3分割上位3分の1のROCスキルスコアで示す。 ROC>50は気候値予測を上回る予測精度。 10月 7月 図7 1月末初期値の6-8月平均気温の アンサンブル予測の精度評価。(左)地上気温予 測 値 の ROC ス キ ル ス コ ア 、 ( 右 ) 北 日 本 域 の 850hPa気温のメンバ予測値(青点)と観測値(黒 点)の時系列図と散布図。 4. 冬季アジアモンスーンの季節予測 海洋大陸域(東経110-135度、南緯5度 -北緯5度)では、7月末初期値による降水 量予測が相関係数0.89から0.65の高い精度 で可能となっている (図12) (図12) 。 6月 熱帯域の降水量変動の高い予 測可能性は、大気の応答を通して 中高緯度大気の予測可能性を高め ているものと考えられる。 6-8 月 平 均 の 北 日 本 域 ( 東 経 140-145 度 、 北 緯 37.5-45 度 ) の 850hPa気温は、結合モデルの4か 月リード予測では相関係数は0.4 5であり (図7) (図7) 、大気モデルの場 合の相関係数0.12から、かなり改 善している。 ●1月初期値の6-8月平均した北日本域850hPa気温の予測 相関0.46 図4 北半球夏季(6-8月平均)のそれぞれの地 点での月平均降水量変動と月平均海面水温変動の時間 相関係数の分布。(上)観測データ解析を、(左下)結合モ デルと(右下)大気モデルで比較。観測で見られる熱帯中 央太平洋や東太平洋、南(冬)半球の正相関は、結合モ デル、大気モデルともに再現しているが、北(夏)半球側 の負相関は結合モデルのみが再現している。 東南アジア域(東経115-140度、 北緯10-20度)の乾季末期(2-4月) から雨季初期(5-7月)にかけては、 相関係数0.6から0.7の高い精度で (図6) 、1か月から3か月リードの (図6) 季節予測精度が示されている。 相関0.64 観測解析 結合モデル 図5b 東アジアモンスーンの場合。 そのほかは図5aと同じ。 ●1月末初期値の降水量予測 (左図は確率予測の精度評価、右図は東南アジア域の時系列と相関図) 6-8月平均 図3 4か月リードの季節予測成績を確率的予測スキ ル(ROC: Relative Operating Characteristics) を用いて評 価した結果。ROC>50は気候値予測を上回る予測成績を意 味する。(左)地上気温、(右)降水量。 東アジアモンスーン指数 西日本域(東経130-135度、北緯30-35 度)では、11月末初期値の冬季850hPa気温 の予測について相関係数0.47の予測精度が (図13) 。 得られている (図13) 11月末初期値の12-2月平均地上気温予測精度を 3分割上位3分の1のROCスキルスコアで示す。 ROC>50は気候値予測を上回る予測精度。 相関0.47 9-11月平均 相関0.65 12-2月平均 8月 図8 6月から10月の各月における熱帯北西太平 洋での熱帯低気圧発生数気候値。(左)モデル、(右)観測 ベストトラック。 図9 6-10月の熱 帯北西太平洋における 台風発生数の年々変動 時系列図と散布図。黒線 は観測、モデル予測値は 相関0.23 アンサンブル幅を表示。 北東域 北西域 北緯 17度 南西域 相関 0.46 相関0.34 相関 0.03 東経120度 SE 南東域 相関 0.74 11-1月平均 図12 図13 11月末初期値の12-2月平均気温アンサンブル予 7月末初期値のアンサンブル降水量予測の精 測の精度評価。(左)地上気温予測値のROCスキルスコア、(右) 度評価。(左) 9-11月平均のROCスキルスコア、(右) 海洋 大陸域の予測値(青点)と観測値(黒点)の時系列と散布図。 西日本域の850hPa気温予測である他、図12(右)と同じ。 5. まとめ 気象庁・気象研究所共同開発の新大気海洋結合モデルは、特別な統計的アプリケーショ ンを使用しない場合においても、東アジア域の降水量および気温について高い季節予測精 度を示している。しかしながら、予測精度がその時のENSOの発生状況の他、予測対象地域 や季節、予測要素に強く依存している。 ここで紹介した大気海洋結合モデルを用いた51メンバアンサンブル季節予測システムは、 2010年2月から、気象庁で発表される3か月予報や暖候期・寒候期予報において利用される 予定である。