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平成 23 年度 学位論文 アミノレブリン酸投与における 腫瘍特異的ポルフィリン蓄積機構と光感受性因子の解明 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生体分子機能工学専攻 09D25022 萩谷 祐一郎 指導教員: 指導教員 小倉 俊一郎 准教授 目次 目次 略語 第 1章 序論 章 序論 1.1 1.2 1.3 1.4 がんの光線力学療法 アミノレブリン酸による腫瘍特異的ポルフィリン蓄積とその応用 腫瘍抑制タンパク質 p53 1.5 1.6 ポルフィリン-ヘムの生合成と恒常性維持 ペプチドトランスポーターPEPT1 ヒトABCトランスポーターABCG2 1.7 本研究の目的 第 2章 章 ALA-PDTにおける腫瘍抑制タンパク質 における腫瘍抑制タンパク質p53の役割 の役割 章 における腫瘍抑制タンパク質 2.1 2.2 諸言 実験方法 2.3 結果 2.3.1 ヒト胃がん由来細胞株の光感受性に対するALA濃度・照射光強度依存性 2.3.2 ALA-PDTによる細胞形態変化の観察 2.3.3 p53特異的阻害剤がALA-PDT感受性に与える影響 2.3.4 ALA-PDTによるp53リン酸化の検出 2.4 考察 第 3章 章 ALA代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 章 3.1 3.2 諸言 実験方法 3.3 結果 3.3.1 ヒト胃がん由来細胞株におけるALA-PDT感受性の不均一性 3.3.2 ALA存在下における培養細胞内ポルフィリン蓄積量 3.3.3 ポルフィリン生合成関連遺伝子の発現プロファイリング 3.3.4 ヒト胃がん細胞株におけるPEPT1およびABCG2タンパク質の発現 3.4 考察 第 4章 章 ALA-PDTにおける薬物トランスポーター における薬物トランスポーターPEPT1および およびABCG2の役割 の役割 章 における薬物トランスポーター および 4.1 4.2 4.3 諸言 実験方法 結果 4.3.1 PEPT1-EGFP融合タンパク質安定発現株の樹立 4.3.2 PEPT1過剰発現が細胞内ポルフィリンおよびALA-PDT感受性に与える影響 4.3.3 ABCG2タンパク質一過性発現抑制株の樹立 1 2 8 11 15 19 20 21 22 23 23 27 27 30 32 33 35 37 38 38 45 45 46 49 49 54 56 57 57 60 60 61 64 ii 目次 4.3.4 ABCG2の発現抑制が細胞内ポルフィリンおよびALA-PDT感受性に与える影響 4.3.5 ABCG2特異的阻害剤が細胞内ポルフィリンおよびALA-PDT感受性に与える影響 4.4 考察 第5章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 5.1 5.2 5.3 諸言 実験方法 結果 5.3.1 ヒト膀胱がん細胞株におけるALA-PDT感受性と細胞内ポルフィリン蓄積の相関 5.3.2 ヒト膀胱がん細胞株におけるポルフィリン生合成関連遺伝子の発現プロファイリング 5.3.3 5.3.4 5.3.5 5.4 採取したヒト膀胱がん臨床検体の術中蛍光診断画像 ヒト膀胱がん検体におけるポルフィリン種の同定・定量 ヒト膀胱がん検体におけるポルフィリン生合成関連遺伝子の発現解析 考察 第6章 総括 6.1 6.2 結論 今後の課題と展望 64 64 69 73 74 75 78 78 82 84 86 88 92 94 95 101 参考文献 103 研究業績目録 111 謝辞 120 iii 略語一覧 略語一覧 略語一覧 ABC, ATP-binding cassette ABCP, ABC placenta ALA, 5-aminolevulinic acid ALAD, 5-aminolevulinate dehydratase ALAS, 5-aminolevulinate synthase ARF, alternate reading frame ATM, ataxia telangiectasia mutated ATR, AT-and Rad3-related BBB, blood-brain barrier BCRP, breast cancer resistance protein cMOAT, canalicular multispecific organic anion transporter CP, coproporphyrin CPOX, coproporphyrinogen oxidase DMEM, Dulbecco’s modified Eagle medium DMF, N,N-dimethyl formamide DNAPK, DNA-dependent protein kinase DTT, dithiothreitol EGFP, enhanced green fluorescent protein ERK, extracellular signal-regulated kinase FDA, the U.S. food and drug administration FECH, ferrochelatase FT, flat type FTC, fumitremorgin C GAPDH, glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase iv 略語一覧 略語一覧 HMBS, hydroxymethylbilane synthase HO-1, heme oxygenase-1 HpD, hematoporphyrin derivatives HPLC, High performance liquid chromatography HRP, horseradish peroxidase JNK, c-Jun N-terminal kinase LED, light-emitting diode MDM2, murine double minute 2 MDR, multi-drug resistance MRP, multi-drug resistance associated protein MTT, 3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide MXR, mitoxantrone resistance protein NPe6, mono-L-aspartyl chlorin e6 NM, normal mucosa PBG, porphobilinogen PBS, phosphate-buffered saline PDD, photodynamic diagnosis PDT, photodynamic therapy PEPT1, peptide transporter 1 PFT-α, pifithrin-α P-gp, P-glycoprotein PI, propidium iodide PK, protein kinase PpIX, protoporphyrin IX v 略語一覧 略語一覧 PPOX, protoporphyrinogen oxidase PPT, papillary pedunculated type PVDF, polyvinylidene difluoride QOL, quality of life Q-PCR, quantitative real-time PCR RING, really interesting new gene ROS, reactive oxygen species RT-PCR, reverse transcriptase-polymerase chain reaction SDS-PAGE, SDS-polyacrylamide gel electrophoresis SLC, solute carrier SUMO, small ubiquitin-like modifier TBS, Tris-buffered saline Tm, melting temperature TTBS, TBS with 0.05% (v/v) Tween 20 TURBT, transurethral resection of the bladder tumor UP, uroporphyrin UROD, uroporphyrinogen III decarboxylase UROS, uroporphyrinogen III synthase; WHO, world health organization vi 第 1 章 序論 第1章 序論 1.1 がんの光線力学療法 1.2 アミノレブリン酸による腫瘍特異的ポルフィリン蓄積とその応用 1.3 腫瘍抑制タンパク質 腫瘍抑制タンパク質 p53 1.4 ポルフィリン-ヘムの生合成と恒常性維持 ポルフィリン ヘムの生合成と恒常性維持 1.5 ペプチドトランスポーターPEPT1 ペプチドトランスポーター 1.6 ヒト ABC トランスポーターABCG2 トランスポーター 1.7 本研究の目的 1 第 1 章 序論 1.1 がんの光線力学療法 世界保健機構(WHO)によれば、がんは 2010 年に世界第 1 位の死亡原因となり、がんに よる年間死者数は 2030 年には 1330 万人に達すると予測されている。我が国における死 亡原因の第一位もがんである。人類の生命を脅かすがんを征圧するために、どの腫瘍細胞 をどれほど取り去れば十分であるのかを把握するための戦略を確立することは、がん研究 において重要である。現在、がんの治療には、外科療法、化学療法、および放射線療法の 三大療法が用いられる。分子生物学の進展に伴い、標準的に行われている化学療法は、腫 瘍細胞への作用機序と薬物抵抗性の獲得機構を理解する研究によって、より効率的で副作 用の少ない薬剤を生み出しつつある。しかし、これらによる化学療法には免疫力の低下や 脱毛、嘔吐など、いまだ重篤な副作用が伴う。そのため、患者の生活の質(QOL)を高く保 ち、有効で安全な治療方法を確立することは、人類の希求する医学・医療における重要課 題であり、がん研究における焦眉の急である。 がんとは腫瘍細胞が際限なく増殖を続け、周辺の正常組織に浸潤し、腫瘍の原発巣から 遠隔した組織に転移することで、人を死に至らしめる疾患として定義される。これまで臨 床的にがんは 100 種類以上に分類されており、原発組織の形態などからそれぞれのがんの 性質が区別されてきた(1)。近年では、原発した正常組織に特異的な性質を多く保持しつつ 無秩序化した組織として、がんを理解しようとする考え方が脚光を浴びている。がん幹細 胞仮説はこの考え方から派生したものであり、腫瘍細胞が無限の増殖能を獲得したごく僅 かながん幹細胞を取り巻き、階層的な構造を成して進展すると捉える(2,3)。新しい治療に 対する個々のがん細胞の多様な応答を調べることによって、がん幹細胞を死滅させる有望 な治療法の確立をもたらすことが期待される。 近年、がんの新しい治療法の一つとして光線力学療法(Photodynamic therapy, PDT)が 注目されている(Fig. 1-1)。PDT はポルフィリンの光化学的な性質を利用した治療法であ り、重篤な副作用は認められず、早期がんに対して高い臨床成績が報告されている。PDT に用いるポルフィリンは生体に由来する化合物と人工的に合成された化合物が存在し、腫 2 第 1 章 序論 瘍組織における可視光の照射を通じて、細胞傷害性活性酸素(ROS)である一重項酸素など を発生させる(4,5)。効率よく ROS を発生し、腫瘍組織を破壊するために適切な酸素濃度 も必要と考えられている(6)。1960 年に Lipson らによって、ヘマトポルフィリンの静脈 注射が手術中に腫瘍部位を可視化することが報告されて以来、ポルフィリンの腫瘍選択性 を最適化するために、様々な光増感剤が設計・開発されてきた。もっとも古典的な光増感 剤であるヘマトポルフィリン誘導体(HpD)は、ヘマトポルフィリンと酢酸、硫酸によって 合成されており、モノマーやダイマー、オリゴマーなど数種類のポルフィリンの混合物で あることが示されている(7)。これまでに世界的で広く臨床上使用されている光増感剤であ る Photofrin®は、HpD を HPLC やゲル濾過で部分的に生成したものである(8)。PDT の 標準的なプロトコルでは、光増感剤を患者に静脈注射した後、腫瘍に蓄積したポルフィリ ンを標的に光照射を行うことで病巣部を治療する(9)。HpD の腫瘍選択性は、正常組織と 腫瘍組織における吸収・分布・代謝・排泄などの特性に違いに基づくと同時に、治療標的 となる腫瘍組織にのみ光照射を加えることで達成されると考えられている(Fig. 1-2)。光照 射で励起された光増感剤は、腫瘍組織内で光化学反応に伴い発生する ROS によって、腫 瘍細胞の細胞死を引き起こす。数週間後に壊死した腫瘍組織を取り除くことで治療が終わ り、予後を経過観察することが一般的である。 3 第 1 章 序論 外科療法 免疫療法 温熱療法 化学療法 がん 放射線療法 光線力学療法(PDT) 光線力学療法 Fig. 1-1 がんの三大療法と代替療法 レーザー 腫瘍 48時間 時間 腫瘍 ヘマトポルフィリン誘導体 腫瘍親和性光感受性物質 (ヘマトポルフィリン誘導体) を静脈内注射 気管支鏡を使って レーザーを病巣部に照射 Fig. 1-2 肺がんに対する HpD を用いた PDT の適用例 4 第 1 章 序論 PDT で利用するポルフィリンの光化学反応は、一連の光酸化反応であると考えられてい る(Fig. 1-3)。波長 400 – 600 nm の可視光線を吸収した光増感剤(ポルフィリン)は、励起 一重項状態(1P*)へと活性化される。 1 P + hν → 1P* 寿命の短い励起一重項状態(1P*)のポルフィリンは、一部が蛍光を発して基底状態(1P)へ と戻る一方で、比較的安定に存在する励起三重項状態(3P*)へと項間交差によって遷移する (10)。 1 P* → 3P* その後、励起三重項状態は 2 種類の反応を介して ROS を発生する。励起三重項状態の ポルフィリンは、細胞膜や脂質、タンパク質など生体高分子(R)に直接電子を受け渡し、 ラジカル種を生成する。これらのラジカル種は酸素分子と反応し過酸化物が生成される (タイプ I 反応)。 3 P* + R → P-· + R+· タイプ I 反応とは別に、励起三重項(3P*)は溶存酸素と直接エネルギー交換を起こし、一 重項酸素を生成する(タイプ II 反応)。一重項酸素は脂質やタンパク質、核酸など、多くの 生体分子と反応する細胞傷害性 ROS である(10-14) (Fig. 1-4)。 3 P* + 3O2 → 1P + 1O2 多くの PDT 用光増感剤は一重項酸素を効率よく生成し、タイプ II 反応が PDT の細胞や 組織の環境に損傷を引き起こす主要な分子機構として考えられている(5,14)。 5 第 1 章 序論 Type I chemical reaction Production of free radical, ・OH, O2Excited singlet state 1P* Oxidation of DNA, lipid, protein 3P* hν Ground state 1P Singlet oxygen 1O 2 Type II reaction hν’ 3O 2 Porphyrin Molecular oxygen Fig. 1-3 PDT における光化学反応を介した ROS の発生原理 A B C D E Fig. 1-4 一重項酸素と生体分子の反応 (A)不飽和脂肪酸 (B)コレステロール (C)トリプトファン (D)メチオニン(E)グアニン 6 第 1 章 序論 現在のところ Photofrin® (HpD)は日本において、早期肺がん・早期胃がん・子宮頸がん・ 表在性食道がんの治療薬として認可されており、世界的にも広く使用されている(5,12)。 しかしながら、PDT には治療に使用する赤色光の組織透過性が十分でない点や、正常な皮 膚にも増感剤が留まることで治療後、数週間にわたり皮膚に光傷害を生じる副作用が起こ りやすい問題点がある。近年開発された Laserphyrin® (Talaporfin Sodium)や Visudyne® (Verteporfin)と言った第 2 世代の光増感剤は化学的に単一の化合物であり、ヘモグロビンの 吸収帯である 576 nm を避けるために、より長波長の光を効率よく吸収することが出来る 様に設計されている(Fig. 1-5)。 Laserphyrin® (Talaporfin Sodium, mono-l-aspartyl chlorine e6: NPe6)は 664 nm に主な吸収帯 を有する分子量 799.69 の親水性光増感剤である(15)。chlorine e6 の骨格にアスパラギン酸 の側鎖を有する Laserphyrin® は、日本で世界に先駆けて承認された光増感剤であり、 Photofrin® (porfimer sodium)に比べ光過敏症状を呈する副作用が低減されている。そのため、 Photofrin®を用いる PDT に比べ、入院期間を短縮化できる点で臨床上期待されているが、 現在のところ、認可されている適用疾患は早期肺がんのみとなっている。 Visudyne® (Verteporfin)は加齢黄斑変性疾患の PDT 治療薬として開発され、がんの治療薬 としての認可は受けていないが、眼科領域で広く標準的に用いられている。Visudyne® は 投与後すぐに排泄されることが知られており、24 時間以上に及ぶ光過敏症状は引き起こさ ない(6)。今後はがん治療薬としての開発が期待されている。 7 第 1 章 序論 First Generation Photofrin® Hematoporphyrin derivative 630 nm early lung cancer early gastric cancer cervical cancer superficial esophagus cancer Second Generation Laserphyrin® Talaporfin Sodium Visudyne® Verteporfin 690 nm 664 nm early lung cancer solid tumor from diverse origins Age-related Macular Degeneration Fig. 1-5 日本において承認されている PDT 薬の構造式 1.2 アミノレブリン酸による腫瘍特異的ポルフィリン蓄積とその応用 PDT 研究に新しいパラダイムシフトが起こり、ポルフィリン前駆体である光増感作用 を持たないアミノレブリン酸(ALA)が、プロドラッグとして臨床的に用いられるように なった。ALA の投与は腫瘍において、内在性のプロトポルフィリン IX (PpIX)の生合成、 蓄積を促進する(Fig. 1-6)。従来の光増感剤は静脈内注射による投与経路しか選択すること が出来なかったが、ALA は経口投与や局所塗布など患者の身体的負担が少ない点も利点 として挙げられる。このことから、欧米で ALA は特に皮膚がんの治療において、広く認 可されて一般的な治療薬となっている(16)。ALA そのものは光増感作用を有していないが、 内在性の光増感剤である PpIX は腫瘍組織に選択的に蓄積する強力な光増感剤である。 ALA 投与後の腫瘍選択的な PpIX 蓄積は、脳・食道・膀胱・子宮・皮膚など多くの組織に おいて認められる(16)。ALA は 1999 年に米国食品医薬品局(FDA)によって、黒色腫を除 8 第 1 章 序論 く皮膚がんの治療薬として認可されている。日本においては現在、脳腫瘍・膀胱がんの術 中蛍光診断用体内診断薬として、臨床試験が進められている。脳腫瘍の場合、ビンブラス チンやビンクリスチン、エトポシドやアドリアマイシンといった標準的な抗がん剤は、血 液脳関門(BBB)を通過することが出来ないため、治療に使用することが出来ない。BBB では隣接した内皮細胞同士が、種々の接着分子を介して膜タンパク質複合体を形成するこ とで、高密度のタイトジャンクション結合を発達させている(17)。この解剖学的な特徴の ために、細胞間隙の漏出を介した非特異的な生体外異物の透過は制限されており、脳毛細 血管内皮細胞が脳と循環血を明確に区別している。BBB に存在するヒト ABC トランス ポーターABCB1 (P-gp)や ABCG2 (BCRP)によって、多くの抗がん剤が脳への深到を制限 されている(17)。しかし、ALA は分子量 131 の低分子化合物であり ABCB1 や ABCG2 には認識されないため、BBB を透過して脳腫瘍に到達することが出来る。この事実から 脳腫瘍の治療にとって、ALA が有用であることが示されている。 PDT によるストレスにさらされることで、がん細胞では複数のシグナルが同時に活性化 されると考えられている。PDT に伴い発生する細胞傷害性 ROS の細胞内局在などに依存 して、細胞がストレスに順応するか、細胞死を引き起こすシグナルが起こる(18)。最近の 先行研究によれば、PDT は非アポトーシス経路の細胞死だけでなく、アポトーシスも効率 的に誘導することで、直接にがん細胞を死滅させることが示唆されている(4)。細胞死と細 胞防御の経路の間のシグナル伝達クロストークを制御する分子を同定するための研究が、 がん細胞の光感受性を研究する分野において精力的に行われている。 9 第 1 章 序論 A 6 enzymes in cells δ-Aminolevulinic acid (Pro-drug of protoporphyrin IX) Protoporphyrin IX (Endogenous photosensitizer) B O H2N OH C Mw 131.13 O 正常細胞 がん細胞 ALA Coproporphyrin Uroporphyrin Protoporphyrin Coproporphyrin ALA Coproporphyrin Uroporphyrin Coproporphyrin Fe2+ Heme Bilirubin 影響なし (機能温存) Bilirubin Protoporphyrin Fe2+ Heme 光照射 死滅(PDT効果) Fig. 1-6. (A) ALA から生合成される PpIX の構造 (B)DMSO 中における PpIX の吸収および蛍光スペクトル (励起波長 420 nm) (19) (C)ALA が正常細胞およびがん細胞に与える影響 10 第 1 章 序論 1.3 腫瘍抑制タンパク質 p53 腫瘍抑制タンパク質として知られる p53 は、DNA 傷害や酸化的ストレスなどの細胞ス トレスセンサーとして機能することで、腫瘍の進展を制限するために中心的な役割を担っ ている(20,21)。p53 という名称は分子量 53 kDa のタンパク質(protein)を意味しており、ア ポトーシスによる細胞死の制御にも関与する(Fig. 1-7)。p53 タンパク質は DNA 結合ドメイ ンを中心に、転写促進ドメイン、プロリンリッチドメイン、四量体ドメイン、カルボキシ ル末端制御ドメインなど、複数の制御ドメインから構成される(Fig. 1-8)。 ストレス刺激を受けていない定常状態の細胞において、新しく生合成された p53 タンパ ク質は 18-26 番目のアミノ酸領域にユビキチンリガーゼのヒト Murine double minite 2 (MDM2)タンパク質が結合し、ユビキチン-プロテアソーム系によって分解を受けている (20)。細胞が DNA 傷害や酸化的ストレスなどによるストレスに曝されると、INK4a 遺伝子 にコードされる p19ARF タンパク質が活性化されて MDM2 と相互作用することで、MDM2 の p53 との結合とユビキチンリガーゼ活性を阻害し、p53 タンパク質が安定化すると考え られている。この他、MDM2 はユビキチンリガーゼ活性に重要な Really Interesting New Gene (RING)フィンガー構造中のリシン残基の自己ユビキチン化(分解)の促進や Small Ubiquitin-like Modifier (SUMO)-1 化(安定化)の抑制によっても制御されており、p53 の活性 化に関与する。このように p53 タンパク質は分解経路の抑制を介して、ストレスに対する 迅速な応答機構を備えている。さらに、p53 の活性化と安定化には、アセチル化やリン酸 化などの翻訳後修飾も重要であり、様々な機構によって転写活性が多重に制御されている。 ストレス応答時の p53 の翻訳後修飾として最も代表的なものとして、15 番目のセリン (Ser15)におけるリン酸化が挙げられる。Ser15 のリン酸化はリン酸化酵素である ataxia telangiectasia mutated (ATM)や AT-and Rad3-related (ATR)、DNA-dependent protein kinase (DNAPK)によって行われることが報告されており、p53 の安定化や転写活性を亢進させる と考えられている。 11 第 1 章 序論 Cytosol DNA damage, Oxidative stress, Nutrient deprivation, etc. Mitochondrion p53 Activating signals Apoptosis Function of targets: Phos, Ub, Ac, Me, Sumo, Nedd p53 p53 Apoptosis Senescence Cell cycle arrest DNA repair Autophagy Metabolism Antioxidant Angiogenesis p53 p53 Nucleus p53 p53 p53 p53 Target gene DNA RRRCWWGYYY [0-13 bases] RRRCWWGYYY Fig. 1-7 p53 タンパク質の機能 Domain NH2a.a. #: Residue 1 -COOH 42 63 97 100 S15 ATR Kinases ATM modifying DNAPK p53 300 307 355 393 T18 S20 S46 T81 S315 S366 CK2 CHK2 DNAPK CHK2 JNK HIPK JNK CHK1 CHK2 CDK2 AurK CHK2 Fig. 1-8 p53 タンパク質の構造とリン酸化修飾部位 12 第 1 章 序論 p53 タンパク質をコードする遺伝子 TP53 は全がんにおける半数以上で遺伝子の変異が 認められており、p53 変異が化学療法や放射線治療の予後不良因子として知られている (Table 1-1)。p53 変異ががん治療の予後不良を引き起こす原因として、アミノ酸置換を伴う 変異型 p53 が野生型 p53 の正常な機能を失う一方、薬物抵抗性や増殖能・転移能などがん の生存に有利な機能を細胞に付与すると考えられている(Fig. 1-9)。p53 に認められるアミ ノ酸置換を伴う遺伝子変異のうち最も多くを占めるものは、DNA 結合ドメイン内に存在 するホットスポットとして知られる(22)。ホットスポットに変異の入った p53 タンパク質 は、アポトーシスが阻害されることが示されている。野生型 p53 の機能欠損は、がんの放 射線治療や化学療法における治療効率の低下を引き起こすため、がん治療の診療方針を決 定する上で重要な意義を持つと考えられる(23,24)。これまでに、種々の光増感剤を用いる PDT によって引き起こされる細胞死に関与するシグナル伝達経路ついて、PDT 治療効率 に及ぼす影響を調べるために多くの報告がなされている(25-30)。Fisher は、アポトーシス を起こす LS513 細胞とアポトーシスを起こさない MCF-7 細胞を用いた検討の結果、p53 の発現は Photofrin®-PDT に対する腫瘍細胞の感受性には影響しないと報告している。一 方、Lee らもまた、hypericin-PDT によって引き起こされるアポトーシスにおいて、p53 の 遺伝子変異は関与していない可能性を示唆している(26,30)。しかしながら、ALA-PDT に おける細胞死において、p53 の役割は報告されていない。 13 第 1 章 序論 Table 1-1 各臓器のがんにおける p53 の変異と臨床予後の相関 Tumor site Hematopoietic Breast Head & Neck Ovary Colon Lung Brain Bladder Esophagus Liver Pancreas Stomach Bones Prostate Soft tissues Larynx Renal pelvis Bad 12 28 7 7 16 8 3 4 2 3 1 1 1 1 2 0 1 Good 0 1 0 1 0 0 2 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 Not Related 0 5 2 2 8 6 4 3 2 0 1 2 1 1 0 1 0 ※コーホート研究による疫学調査で、調査対象患者 50 名以上の研究結果のみを記した(31)。 Database ver. R15, Nov. 2010 TP53 mutation Dominant negative Mutant p53 Gain of function Wild-type p53 Apoptosis Senescence Cell cycle arrest DNA repair Drug-resistance Proliferation Metastasis Survival Fig. 1-9 変異型 p53 によるがん細胞の悪性化 14 第 1 章 序論 1.4 ポルフィリン ポルフィリン-ヘムの生合成と恒常性維持 フィリン ヘムの生合成と恒常性維持 ポルフィリンはヘムの生合成中間体であり、植物からヒトに至るまで地球上の好気生物 において生命活動の基本的な機能を担う分子である。ヘムはヘムタンパク質の補欠分子族 として様々な生化学的過程に関与して、細胞の生命維持と機能発現・環境適応に不可欠な 役割を果たしている。血中のヘモグロビンやミオグロビンにおいてヘムは酸素の貯蔵と運 搬に関わり、細胞のミトコンドリアではシトクロム複合体として酸素呼吸に関与している。 最近の研究によって、ヘムは従来知られているよりもさらに多様で重要な役割を担ってい ることが明らかになってきた。その例としてヘムは転写・翻訳制御、タンパク質の輸送調 節、マイクロ RNA のプロセッシングの制御、イオンチャネルの制御、ストレス耐性獲得 の制御など、多くの生理的役割を担っていることが示されている。このような生物学的重 要性から、生化学の成立初期よりポルフィリン・ヘム研究は精力的に行われており、1950 年代にはその生合成に関わる酵素の系統的な経路の解明がなされていた(32-35)。長らくポ ルフィリンやヘムの膜間輸送は、濃度勾配に従った受動的な拡散によってなされていると 考えられていたが、分子生物学の発展に伴いポルフィリンやヘムの膜間輸送を担うトラン スポーターが次々と同定されてきた。近年ではポルフィリン-ヘムの生合成と恒常性維持 にとって、酵素だけなく膜間輸送を担うトランスポーターも重要な役割を担うことが示唆 されている。 哺乳類細胞内のポルフィリン-ヘム恒常性は少なくとも 8 つの生合成酵素と、2 つのヘム 代謝酵素と、2 つの ATP-binding cassette (ABC)トランスポーターによって厳密に制御され ている(36-38)。ポルフィリン-ヘムの生合成は、ミトコンドリアにおける ALA の生合成か ら開始される(Fig. 1-10)。ALA は ALA 合成酵素(ALAS)によって、サクシニル CoA とグリ シンが縮合して合成される。その後、細胞質において 4 つの酵素で ALA は順次代謝され て、テトラピロール骨格を形成する。2 分子の ALA は ALA 脱水酵素(ALAD)によってポ ルフォビリノーゲン(PBG)となったのち、4 分子の PBG はヒドロキシメチルビラン合成酵 素(HMBS)によって直鎖上の HMB となる。HMB はウロポルフィリノージェン III 合成酵 15 第 1 章 序論 素(UROS)によってテトラピロール骨格を有するウロポルフィリノージェン III となったの ち、ウロポルフィリノージェン脱炭酸酵素(UROD)によってコプロポルフィリノージェン III となる。同時に非酵素的に生じる副産物として、ウロポルフィリノージェン I やコプロ ポルフィリノージェン I といった異性体も生じる。以降のヘムまでの生合成反応は再びミ トコンドリア内で行われる。コプロポルフィリノージェン III は、ミトコンドリア膜上に 発現する ABC トランスポーターABCB6 によって細胞質からミトコンドリアへ輸送された のち、コプロポルフィリノージェン III 酸化酵素(CPOX)によってプロトポルフィリノー ジェン IX となる。プロトポルフィリノージェン IX は、プロトポルフィリノージェン IX 酸化酵素によって内在性の蛍光物質であるプロトポルフィリン IX (PpIX)となる。PpIX 自 身は量子収率が高く効率的に一重項酸素を発生させることが出来るため強力な光増感剤 であるが、PpIX そのものは疎水性が高く正常組織の光過敏症状を引き起こすため PDT 薬 として使用することはできない。ポルフィリン合成において ALAS による ALA の生合成 が律速となるため、ALA が PDT 用光増感剤のプロドラッグとして臨床的に利用されてい る(16)。外因的に投与された ALA は、ペプチドトランスポーターである PEPT1 や PEPT2 によって細胞内へと取り込まれ、ALAS による律速過程をバイパスして腫瘍特異的なポル フィリン蓄積を促進する。ミトコンドリアで生合成された PpIX はフェロキラターゼに よって 2 価の鉄イオンを配位されてヘムとなるが、がんにおいてはしばしばフェロキラ ターゼ活性の低下が報告されている(39-41)。このことは腫瘍組織におけるポルフィリンの 特異的蓄積を引き起こす一因であるかもしれない。 ABC トランスポーターABCB6 はコプロポルフィリノージェンを細胞質からミトコンド リア内へ輸送する一方、細胞膜上に発現する ABCG2 は細胞内ポルフィリン恒常性を維持 するためにポルフィリンを細胞外へと排出すると考えられている(37,38)。ミトコンドリア で生合成された PpIX やヘムが細胞質へ移行するための分子機構は、未だ十分に明らかに されてはいない。 16 第 1 章 序論 Extracellular Space PEPT1 δ-Aminolevulinic acid (ALA) ALA ALA dehydratase Cytoplasm PEPT2 PAT1 Porphobilinogen (PBG) PBG deaminase Mitochondria Hydroxymethylbilane ALA Glycine Uroporphyrinogen III synthase ALA synthase Succinyl CoA Coproporphyrinogen III Uroporphyrinogen III Coproporphyrinogen III oxidase Protoporphyrinogen Uroporphyrinogen decarboxylase ABCB6 Coproporphyrinogen III ABCG2 Protoporphyrinogen oxidase Protoporphyrin IX Fe 2+ Ferrochelatase Protoporphyrin IX ? Heme Heme Heme oxygenase I FLVCR Biliverdin Biliverdin reductase Bilirubin Fig. 1-10 ポルフィリン-ヘム生合成経路 17 第 1 章 序論 ポルフィリン-ヘム生合成経路における遺伝子の欠損によって、生体のポルフィリン恒 常性が維持できなくなり、ポルフィリン症と呼ばれる遺伝子疾患を引き起こす(42-45)。 ALAD の遺伝子欠損は急性肝性ポルフィリン症(46)、HMBS の変異は常染色体優性の急性 間欠性ポルフィリン症(47)、UROS の欠損は先天性赤芽球性ポルフィリン症(48,49)、UROD の変異および欠損は晩発性皮膚ポルフィリン症および肝骨髄性ポルフィリン症(50)、フェ ロキラターゼの欠損は赤芽球増殖性プロトポルフィリン症(50,51)のそれぞれ原因遺伝子 として知られている。しかしながら、ポルフィリン症患者の示す症状は個人差が大きいた め、ポルフィリン症は単一遺伝子疾患ではないと考えられている(43,44)。このことから ABCG2 の欠損はポルフィリン恒常性の破綻を引き起こし、ポルフィリン症の重篤度に関 わるかもしれない。 PpIX に 2 価鉄の配位したヘムは光増感作用を持たないが、タンパク質と結合していな い場合、ラジカルの発生を促進し細胞毒性を引き起こす。ヘムによる細胞毒性を回避する ため、フリーのヘムはヘムオキシゲナーゼ(HO)によって代謝されてビリベルジンとなり、 ビリベルジン還元酵素によって速やかにビリルビンと一酸化炭素と 2 価鉄となる(36)。 以上のように、生体におけるポルフィリン-ヘムの恒常性維持は種々の因子によって複 雑に制御されているが、ALA 投与後の腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に対して支配的に寄 与する分子はまだ十分に解明されていない。 18 第 1 章 序論 1.5 ペプチドトランスポーターPEPT1 ペプチドトランスポーター ペプチドトランスポーターPEPT1 (SLC15A1)は、小腸上皮細胞の刷子縁膜(52)で発見さ れて、腎近位尿細管 S1 領域(53)、胆管上皮細胞の頂端膜(54)にも発現している。PEPT1 は 広範な基質特異性を示し、β-ラクタム系抗生物質であるアミノセファロスポリン類の多く や、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、ペプチド分解酵素阻害薬などの膜間輸送を担うこ とが報告されている(55)。PEPT1 と相同性の高い PEPT2 (SLC15A2)も同様な基質特異性を 有しており、基質中のペプチド結合は必ずしも必要でなく、分子内距離 500-630 ピコメー ターで荷電した NH2 および COOH が対になっている単純な炭素鎖を持つ化合物を基質と して認識して輸送する(56)。PEPT1 や PEPT2 を介した ALA の輸送は放射性標識された ALA を用いた電気生理学的実験によって詳細に調べられた結果(57)、ペプチドトランスポー ターを介した ALA の取り込みは内在性の光増感剤である PpIX の蓄積をもたらすことが示 唆された。PEPT1 だけでなく PEPT2 もまた ALA の細胞内への取り込みを行うことが出来 るが、PEPT2 の輸送活性(Vmax)は PEPT1 よりかなり低いことが示されている。また最近に なって、プロトン共役アミノ酸トランスポーターである PAT1 (SLC36A1)も ALA の細胞内 への取り込みに関与することが報告された。PAT1 の ALA に対する親和性は PEPT1 より も低いが、Vmax は同程度である(58)。PAT1 は正常組織において発現が認められることから、 PAT1 の阻害薬と ALA を併用することで、ALA 投与における PpIX 蓄積の腫瘍特異性を向 上させることが期待されている。 19 第 1 章 序論 1.6 ヒト ABC トランスポーターABCG2 トランスポーター ABC トランスポーターの一種であるヒト ABCG2 は、1998 年に抗癌剤アントラサイク リン耐性の乳癌細胞株、ミトキサントロン耐性のヒト大腸癌細胞株などから発見、クロー ニングされ、抗癌剤耐性を癌細胞に賦与する薬物排出トランスポーターとして同定された (59-61)。正常組織において、ABCG2 は胎盤、脳、小腸、肝臓、腎臓、精巣などに発現し ており、ATP の加水分解エネルギー依存的に生体異物や薬物を能動的に排出して生体内へ の取り込みを制限することによって生体防御に寄与している。特に、小腸や大腸上皮に発 現する ABCG2 は、経口投与された薬物などの吸収を制御し、生体異物の体内侵入を阻止 している(62)。 これまで ABCG2 は抗癌剤を細胞外へと排出することで、癌細胞が抗癌剤に抵抗性を示 す因子として広く研究がなされており、ABCG2 の基質特異性は広範に渡り、非常に多く の化合物と相互作用することが明らかになっている(63-65)。一方で近年になって、ABCG2 が生理的に細胞内のポルフィリンを輸送し、光酸素障害を回避することを示唆する重要な 報告がなされた。すなわち、ABCG2 のオルソログである Abcg2 を欠損したマウスは、赤 血球中の PpIX レベルが通常の約 10 倍に増加し、餌に含まれるフェオフォルバイド a の増 加に伴ってポルフィリン症に酷似する皮膚の光線過敏症を発症した(62,66)。フェオフォル バイド a は、植物性クロロフィル a の分解物で、ポルフィリンと類似骨格を持つ光増感物 質である。ヒトにおいても遺伝子多型や化合物による ABCG2 のポルフィリン化合物の輸 送能低下が、Abcg2 欠損マウスに見られるようなポルフィリンホメオスターシスの破綻を 招き、光線過敏症のリスクを高めることが示唆された。 さらに、 造血細胞の分化においても ABCG2 が重要な役割を持つことが示唆されている(67)。 これらの知見から ABCG2 は細胞内ポルフィリンの恒常性維持という重要な生理的役割を担う ことが示唆された(37,68)。さらに Robey らによって、ABCG2 を介した光増感剤の輸送阻害は PDT の治療効果を向上させる報告もなされた(69)。このことから ABCG2 の発現は ALA-PDT における治療効果の指標となる可能性がある。 20 第 1 章 序論 1.7 本研究の目的 上述のように、PDT はがんの三大療法として確立している外科手術、化学療法、放射線 療法に比べて、侵襲性が低く患部の正常な機能を温存する。そのため、患者の身体的負担 が軽く、QOL を維持する上で PDT は有用な代替療法である。近年、新しい PDT 薬として 着目されているアミノレブリン酸(ALA)は、腫瘍におけるポルフィリン蓄積の特異性が高 く光過敏症状の副作用も起こさないため、臨床応用が普及しつつある。しかし、ALA-PDT の効果は化学療法や放射線療法と同様に、個人差が生じるという問題点がある。この問題 点は PDT に限らず、ALA を用いたがんの蛍光診断にも共通する。ALA 投与による腫瘍特 異的ポルフィリン蓄積を利用したがん診断は、脳腫瘍や膀胱がんの外科手術で広く用いら れており、術後の無増悪生存期間を統計的有意に延長することが報告されている。ALA を用いたがん診断においてがんの検出感度は著しく向上するものの、PpIX 蛍光が認めら ないがん(偽陰性)や PpIX 蛍光が認められるががんではない部位(偽陽性)を正確に判別する ことは容易でない。これは正常組織と腫瘍組織における吸収・分布・代謝・排泄などの特 性に違いが未だ十分明らかにされていないためであり、がんにおけるポルフィリン代謝異 常の解明は、ALA-PDT を効果的に行う上で非常に重要である。そこで、ALA 投与におけ る腫瘍特異的ポルフィリン蓄積の分子機構を解明し、ALA-PDT の治療効果を予測する因 子を同定することを本研究の目的とした。 21 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 第2章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 2.1 諸言 2.2 実験方法 2.3 結果 2.3.1 ヒト胃がん由来細胞株の光感受性に対する ALA 濃度・照射光強度依存性 2.3.2 ALA-PDT による細胞形態変化の観察 2.3.3 p53 特異的阻害剤 pifithrin-α が ALA-PDT 感受性に与える影響 2.3.4 ALA-PDT による p53 リン酸化の検出 2.4 考察 22 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 2.1 諸言 これまでに、種々の光増感剤を用いる PDT によって引き起こされる細胞死に関与する シグナル伝達経路ついて、PDT 治療効率に及ぼす影響を調べるために多くの報告がなされ ている(25-30)。Fisher は、アポトーシスを起こす LS513 細胞とアポトーシスを起こさない MCF-7 細胞を用いた検討の結果、p53 の発現は Photofrin®-PDT に対する腫瘍細胞の感受性 には影響しないと報告している。一方、Lee らもまた、hypericin-PDT によって引き起こさ れるアポトーシスにおいて、p53 の遺伝子変異は関与していない可能性を示唆している (26,30)。しかしながら、ALA-PDT における細胞死において、p53 の役割は報告されていな い。 本研究では、640 nm の発光ダイオード(LED)を使用した ALA-PDT における p53 の関与 を調べた。p53 は全がんの半数以上で遺伝子変異が認められ、野生型 p53 が本来有するア ポトーシスや細胞周期の制御機構が破綻していることが知られている。その結果、変異型 p53 は血液のがんや乳がん、卵巣がん、大腸がん、肺がんなどで、がん治療の予後不良因 子として報告されている(31)。ALA-PDT におけるアポトーシスにおいて、p53 特異的な阻 害剤である pifithrin-α (PFT-α) (70)を使用し、p53 経路を介したアポトーシス阻害の可能性 を検討した。がん細胞における TP53 の遺伝子型は ALA-PDT の治療効率を予測する上で、 実用的なバイオマーカーとなり得ることを示した。 2.2 実験方法 試薬 アミノレブリン酸 (ALA)塩酸塩はコスモ石油株式会社(東京)から購入した。 PFT-α は ALEXIS (Lausen, Switzerland)から購入した。MTT 試薬、propidium iodide (PI)、Hoechst 33258 は Sigma–Aldrich (St. Louis, MO)から購入した。RPMI-1640 培養液、protease inhibitor cocktail は Nacalai Tesque (京都)から購入した。Penicillin–streptomycin、ウシ胎児血清(FBS)は Invitrogen (Carlsbad, CA)から購入した。その他、すべての試薬は分析グレードのものを使 23 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 用した。 細胞培養 ヒト胃がん由来細胞株である KKLS (71)は、金沢大学がん研究所の Mai 博士から提供され た。MKN45 および MKN28 細胞は鈴木博士(福島医科大学、福島)から供与された。細胞は 10% 非働化 FBS、100 U/ml penicillin、および 100 µg/ml streptomycin を添加した RPMI-1640 培養液で、37°C 、5% CO2 のインキュベーター内で培養した。 ヒト胃がん細胞における p53 の非同義的変異の検出 MKN45、MKN28、KKLS 細胞における p53 の非同義的変異を検出するために、p53 cDNA (NM_000546)のタンパク質コード領域を RT-PCR によって増幅した。プライマーには、p53 cDNA に特異的な以下の配列を使用した。 the sense primer p53-37seq: 5’-TTG CCG TCC CAA GCA ATG GAT GAT TTG ATG CTG TC-3’ the antisense primer p53-2seq: 5’-GCG GAG ATT CTC TTC CTC TGT GCG CCG GTC TCT CCC A-3’ がんにおいて p53 のホットスポットとして知られるアミノ酸置換が高頻度に認められる 領域の配列は、ダイレクトシーケンス法によって決定した。使用したプライマーの配列を 以下に示す。 the sense primer p53-37seq: 5’-TTG CCG TCC CAA GCA ATG GAT GAT TTG ATG CTG TC-3’ p53-seq5: 5’-GAT GAA GCT CCC AGA ATG CCA GAG GCT GCT-3’ p53-1seq: 5’-ACC TGC CCT GTG CAG CTG TGG GTT GAT TCC ACA-3’ 24 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 p53-seq4: 5’-TTG CGT GTG GAG TAT TTG GAT GAC AGA AAC ACT TTT-3’ the anti-sense primer p53-44seq: 5’-GCA AGT CAC AGA CTT GGC TGT CCC AGA ATG CAA G-3’ p53-seq6: 5’-TCT CCC AGG ACA GGC ACA AAC ATG CA-3’ p53-2seq: 5’-GCG GAG ATT CTC TTC CTC TGT GCG CCG GTC TCT CCC A-3’ MKN45 細胞は野生型 p53 を有する一方、KKLS (Gly245Asp), MKN28 (Ile251Leu)細胞はア ミノ酸置換を伴う変異型 p53 を有することを確認した。 ヒト胃がん由来細胞の ALA 存在下での培養と LED 光の照射 細胞を 96-well 培養プレートに播種し(1 × 104 /well)、37°C 、5% CO2 のインキュベーター 内で 24 時間培養した。その後、様々な濃度の ALA を培養液に添加し、ALA 存在下で 4 時間光を当てずに培養した。培養液を新しいものに交換後、細胞に所定時間の LED 光(630 nm, 3.6 mW/cm2)を照射した。LED 光照射装置は SBI アラプロモ株式会社(東京)から提供さ れた(Fig. 2-1)。光照射後の細胞は、さらに 24 時間、光を当てずに培養後、MTT 法によっ て細胞生存率を測定した(72)。MTT 法は以下のようにして行った。MTT 試薬 (5 mg/ml)を 培養液に添加後、4 時間培養した。その後、培養液と同量の 10% (w/v) SDS を培養液に加 え、さらに一晩培養した。MTT 代謝物であるホルマザンは測定波長 570 nm、基準波長 655 nm における吸光度をマイクロプレートリーダーModel 550 (Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)で測定した。IC50 値は複数回の実験によって得られた ALA 濃度依存性の細胞生存曲線 から算出した。 また、細胞死がアポトーシスであるかネクローシスであるかを判定するために、光照射 後 24 時間培養した MKN45 細胞を 5 µM PI および Hoechst 33258 で 1 時間染色した。PI ま 25 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 た は Hoechst 33258 に よ る 細 胞 の 染色 像を 蛍 光 顕 微 鏡 で観 察し た (IX70/FLUOVIEW; Olympus、東京)。 A B Relative Intensity [a.u.] 6 5 4 3 2 1 0 350 450 550 650 750 Wavelength [nm] 850 950 Fig. 2-1 in vitro 光感受性試験に用いた LED 光 (A)LED 光照射装置の写真 (B)LED の発光スペクトル 26 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 Western blotting を用いたリン酸化 p53 タンパク質の検出 タンパク質発現解析のために、所定の処理を行った各細胞から細胞溶解液を以下の手順 で調製した(72)。細胞を PBS (-)で洗浄後、lysis buffer A [50 mM Tris-HCl (pH 7.4), 1 mM DTT, 1% (v/v) Triton X-100, and protease inhibitor cocktail]で処理した。サンプルは 27G の注射針を 用いて 10 回、ホモジェナイズを行った。1,000 g、4°C、10 分間遠心分離を行って得られ た上清を細胞溶解液として回収し、以後の実験に使用した。 サンプルは SDS-PAGE サンプルバッファーで処理した。その後、サンプルのタンパク質 溶液は 12%ポリアクリルアミドゲルで SDS-PAGE によって分離した。分離したタンパク 質は Immobilon-P PVDF membrane (Millipore Corp., MA)に転写後、5% (w/v)スキムミルクを 溶解した TTBS [20 mM Tris-HCl (pH 7.4), 150 mM NaCl, 0.05% (v/v) Tween 20]で、1 時間室 温でブロッキングした。 Ser15 のリン酸化 p53 を特異的に認識するポリクローナル抗体(Cell signaling technology, Boston, MA; 1:1,000 dilution)、内部標準である GAPDH を特異的に認識するモノクローナル 抗体(American Research Products, Belmont, MA; 1:1,000 dilution)を 1 次抗体として、それぞれ 使用した。2 次抗体には西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を結合する抗マウス IgG 抗体 (Cell Signaling Technology, Beverly, MA)、抗ラビット IgG 抗体(Santa Cruz Biotechnology)を それぞれ 3,000 倍希釈で使用した。HRP による化学発光は、基質である Western Lightning Chemiluminescent Reagent Plus (PerkinElmer Life and Analytical Sciences, Waltham, MA)を用 いて得られた。化学発光によって検出されたタンパク質は、Lumino Imaging Analyzer LAS-4000mini (GE Healthcare UK, Amersham Place, England)で検出された。 2.3 結果 2.3.1 ヒト胃がん由来細胞株の光感受性に対する ALA 濃度・照射光強度依存性 がん細胞の PDT 感受性を調べるために、各細胞を様々な濃度の ALA 存在下で 4 時間 培養後、LED 光(630 nm, 3.6 mW/cm2)を照射した。光照射は 0、0.5、1、2.5、5.10 分間と 27 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 プレート毎に時間を変化させて、細胞生存率の変化を MTT 法で測定した。Fig. 2-2 は ALA-PDT を行った MKN45 細胞、KKLS 細胞、MKN28 細胞に対する ALA 濃度および光 照射強度依存性の生存曲線を示す。いずれの細胞株も ALA 濃度と LED 光の光照射エネル ギーに依存した光感受性を示した。ALA を添加していないコントロール細胞の生存率は、 LED 光照射だけでは影響を受けなかった。光照射 10 分(2,160 mJ/cm2)における MKN45、 KKLS、MKN28 細胞の ALA に対する IC50 値はそれぞれ 100、700、1000 µM と算出された (Table 2-1)。野生型 p53 を有する MKN45 細胞と比較して、変異型 p53 を有する KKLS、 MKN28 細胞は ALA-PDT に対する感受性が低かった。これらの結果から p53 の遺伝子型 が ALA-PDT の治療効率を決定する可能性を示唆している。 Table 2-1 ヒト胃がん由来細胞株の p53 遺伝子型と ALA-PDT(光照射時間 10 分)の IC50 Cell line MKN45 p53 status Wild A.A. alteration No IC50 (µM) 100 KKLS Mutant G245D 700 MKN28 Mutant I251L N.D. 28 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 Fig. 2-2 ヒト胃がん細胞株の ALA-PDT 用量依存性 細胞の ALA-PDT 感受性は ALA 濃度、照射光の強度に依存した。(A) MKN45 細胞株(野生 型 p53) (B)KKLS 細胞株 (変異型 p53; Gly245Asp) (C) MKN28 細胞株 (変異型 p53; Ile251Leu) 29 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 2.3.2 ALA-PDT による細胞形態変化の観察 による細胞形態変化の観察 ALA-PDT においてアポトーシスが起こるか否かを検討する目的で、100 µM ALA 存在下 で 4 時間培養後に光照射を行った MKN45 細胞の形態変化を観察した。PI および Hoechst33258 染色の結果、ALA-PDT によってアポトーシスまたはネクローシスに典型的 な細胞形態の変化が認められた。Hoechst33258 の青色蛍光によって、ALA-PDT はアポトー シスに典型的な細胞形態変化であるクロマチン凝集を引き起こすことが観察された(Fig. 2-3)。一方で PI の赤色蛍光によって、アポトーシス後期やネクローシスを起こした細胞が 検出された。この結果から、ALA-PDT はアポトーシスとネクローシスを同時に誘導する ことが示された。ALA が高濃度の場合はネクローシス細胞の割合が増加し、アポトーシ ス細胞の割合は減少した。変異型 p53 を有する KKLS や MKN28 細胞において、IC50 条件 下での ALA-PDT ではアポトーシス細胞を検出することはできなかった。この結果から、 野生型 p53 を有するがん細胞は低濃度の ALA を投与された場合に、ALA-PDT の効果がア ポトーシスを介した細胞死に大きく起因することが示唆された。 30 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 Fig. 2-3 ALA-PDT が MKN45 細胞の形態に与える影響 PI (赤)および Hoechst 33258 (青)染色後の MKN45 細胞の顕微鏡写真。矢印はクロマチン凝 集や細胞の断片化を起こした典型的なアポトーシス細胞を示す。PI 陽性細胞はネクローシ ス細胞を示す。 31 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 2.3.3 p53 特異的阻害剤 pifithrin-α が ALA-PDT 感受性に与える影響 ALA-PDT によって引き起こされるアポトーシスにおける p53 の役割を検証する目的で、 p53 阻害が ALA-PDT 感受性に与える影響を評価した。野生型 p53 を有する MKN45 細胞 と、変異型 p53 を有する KKLS、MKN28 細胞に対して、p53 阻害剤である 50 µM PFT-α を ALA と併用して 4 時間培養した。4 時間後、速やかに培地を交換して LED 光を 10 分間 照射した。さらに 24 時間培養後、MTT 法によって各細胞の生存率を決定した。PFT-α の 併用効果は、野生型 p53 を有する MKN45 細胞にのみ顕著に認められ、ALA-PDT 感受性 が著しく低下した(Fig. 2-4)。この結果から、ALA-PDT によって野生型 p53 経路を介した 誘導されるアポトーシスが主要な役割を担っていることが示唆された。一方、KKLS や MKN28 細胞に対する PFT-α の効果はほとんど認められなかった。以上から、p53 の遺伝 子型が ALA-PDT 感受性を規定すると考えらえる。特に変異型 p53 は ALA-PDT の治療 効率を低下させる要因になる。 32 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 Fig. 2-4 PFT-α が ALA-PDT 感受性に与える影響 50 µM PFT-α の存在下、または非存在下で ALA と 4 時間培養後、ALA-PDT を行った。細 胞生存率は MTT 法によって測定した。 2.3.4 ALA-PDT による p53 リン酸化の検出 ヒト p53 タンパク質にはリン酸化修飾部位であるセリンまたはスレオニン残基が多く存 在する。細胞がストレスにさらされると、これら残基の大部分がリン酸化される。特に p53 の Ser15 がリン酸化されると、p53 の抑制因子であるヒト MDM2 と p53 の親和性が低下し 33 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 て、転写コアクチベータータンパク質と p53 の複合体形成を促進することが知られている。 ALA-PDT によって引き起こされる p53 のリン酸化および安定化の有無を、Ser15 リン酸化 p53 を特異的に認識する抗体を用いた Western blotting 法によって検証した(Fig. 2-5)。 ALA-PDT を行った MKN45 細胞で、p53 Ser15 のリン酸化が検出された。ALA を添加せず に LED 光のみの照射では、p53 リン酸化状態に影響は認められなかった。さらに、Ser15 のリン酸化は p53 特異的阻害剤 PFT-α によって、完全に抑制された。このことから、 ALA-PDT を行った MKN45 細胞で認められるアポトーシスは野生型 p53 経路を介してい ることが示唆された。 Fig. 2-5 ALA-PDT による p53 タンパク質のリン酸化に PFT-α が与える影響 MKN45 細胞における Ser15 リン酸化 p53 を Western blotting で評価した。 先行研究によれば、UV 照射や古典的抗がん剤であるシスプラチン、レスベラトロル、 ドキソルビシンで処理された種々の細胞系において、PFT-α は p53 の安定化を阻害するこ とが示されている(70,73-76)。本研究によって、PFT-α は ALA-PDT で引き起こされる MKN45 細胞における p53 リン酸化も阻害することが明らかとなった。これまでに、PFT-α は JNK や ERK といったアポトーシスの p53 下流の複数の段階を抑制することが示唆され ている(76)。ALA-PDT によって引き起こされるアポトーシスにおいて、p53 経路の下流の シグナル分子を同定することが今後必要となる。 34 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 2.4 考察 PDT を施行されたがん細胞では、複数のシグナル経路が同時に活性化される。細胞傷害 性 ROS の量や細胞内局在によって、細胞がストレスに順応シグナルを伝達するのか、細 胞死誘導シグナルを伝達するのかが左右されると考えられている(18)。本研究によって、 野生型 p53 を有する MKN45 細胞は、変異型 p53 を有する KKLS、MKN28 細胞に比べて ALA-PDT に高い感受性を示すことを明らかにした(Fig. 2-1)。すなわち、野生型 p53 は ALA-PDT の奏功予測因子として重要な意義を持つと考えられる。多くの臨床研究で、様々 ながん腫において p53 の変異とがん治療の予後不良の間の相関関係が明らかにされている。 ヒトの全がんの半数以上が p53 変異を有しており、アポトーシス抵抗性の原因となってい る。本研究によって ALA-PDT においても、変異型 p53 は治療効率を低下させる原因とな ることが示唆された。しかし、がん細胞に十分量のポルフィリンを蓄積させることが出来 れば、ALA-PDT はネクローシスによる細胞死も誘導することが出来る(Fig. 2-1、2-2)。こ れはアポトーシスにのみ依存する他の化学療法よりも ALA-PDT が優位な点であり、 ALA-PDT で十分な治療効果を得るために、がん細胞により多くの PpIX を蓄積させる試み が必要となる。いずれにせよ p53 の遺伝子型を把握することは、ALA-PDT によるがんの 治療方針を決定する上で重要な因子である。 ALA-PDT の効率は、光励起によって細胞傷害性一重項酸素やその他の ROS を発生させ る PpIX の細胞内濃度にも大きく依存すると考えられる。変異型 p53 を有するがんを ALA-PDT で治療する場合、ネクローシスを誘導するために十分な PpIX を細胞内に蓄積さ せる必要がある。腫瘍細胞における PpIX 蓄積量の向上は、PpIX 排出トランスポーターの 阻害剤によって達成されると推測できる。アポトーシスとネクローシスの両方を誘導する 点は、ALA-PDT が臨床的に優れている利点であり、p53 の遺伝子型が ALA-PDT の奏効を 予測するという仮説が考えられる(Fig. 2-6)。 35 第 2 章 ALA-PDT における腫瘍抑制タンパク質 p53 の役割 A 野生型p53発現がん 発現がん細胞 野生型 発現がん細胞 変異型p53発現がん 発現がん細胞 変異型 発現がん細胞 ALA-PDT ALA-PDT p WTp53 p WTp53 Necrosis p MTp53 p MTp53 p WTp53 Apoptosis p MTp53 Apoptosis Necrosis B p53阻害条件下での 阻害条件下でのALA-PDT 阻害条件下での PFT-α ALA-PDT PFT-α ALA-PDT p WTp53 p WTp53 Necrosis p MTp53 p MTp53 p WTp53 Apoptosis 感受性の低下 Necrosis p MTp53 Apoptosis 感受性に影響なし Fig. 2-6 p53 遺伝子型による ALA-PDT 感受性のスキーム (A) 野生型 p53 発現細胞は ALA-PDT によって、アポトーシスとネクローシスが同時に起 こる一方で、変異型 p53 ではアポトーシスは誘導されないため、治療効率が低下する。 (B) PFT-α による p53 阻害条件下では、ALA-PDT によるアポトーシスが抑制されるため、 野生型 p53 発現細胞の ALA-PDT 感受性が低下する。 36 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 第3章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積 に関わる生体分子の同定 3.1 諸言 3.2 実験方法 3.3 結果 3.3.1 ヒト胃がん由来細胞株における ALA-PDT 感受性の不均一性 3.3.2 ALA 存在下における培養細胞内ポルフィリン蓄積量 3.3.3 ポルフィリン生合成関連遺伝子の発現プロファイリング 3.3.4 ヒト胃がん細胞株における PEPT1 および ABCG2 タンパク質の発現 タンパク質の発現 3.4 考察 37 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 3.1 諸言 ALA-PDT において、ALA 投与によって腫瘍特異的にポルフィリンが蓄積することが知 られている。腫瘍に蓄積したポルフィリンの赤色蛍光を利用して、がんを診断することも 可能となる。これまでの先行研究では、ポルフィリン生合成に関わる酵素 ALAD や HMBS などの活性の上昇や、ヘム生合成に関わる酵素である FECH の活性低下が腫瘍特異的ポル フィリン蓄積の根拠として示唆されていた(39-41)。しかしながら、腫瘍特異的にポルフィ リンを蓄積させる分子機構については、未だ十分に明らかにされていなかった。そこで、 本研究では ALA 代謝経路であるポルフィリン生合成関連遺伝子に焦点を当て、ポルフィ リン蓄積に重要な役割を担う因子の同定を試みた。さらに、ポルフィリン蓄積量と ALA-PDT 感受性の相関関係を検証することで、腫瘍特異的ポルフィリン蓄積を担う因子 が ALA-PDT の効果予測因子となりうるかを検討した。興味深いことに、ポルフィリン蓄 積能の異なる 5 種類の細胞間で、ポルフィリン-ヘム生合成に関わる酵素の発現量に顕著 な差は認められなかった。一方、ALA やポルフィリンの膜間輸送に関わることが示唆さ れているトランスポーター遺伝子について、ALA 取り込みを担う PEPT1およびポルフィ リン排出を担う ABCG2 の発現が、細胞間で顕著に異なり、ポルフィリン蓄積能とよく相 関することを見出した。 3.2 実験方法 試薬 アミノレブリン酸 (ALA)塩酸塩はコスモ石油株式会社(東京)から購入した。MTT 試薬は Sigma–Aldrich (St. Louis, MO)から購入した。RPMI-1640 培養液、protease inhibitor cocktail は Nacalai Tesque (京都)から購入した。Penicillin–streptomycin、ウシ胎児血清(FBS)は Invitrogen (Carlsbad, CA)から購入した。その他、すべての試薬は分析グレードのものを使 用した。 38 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 細胞培養 ヒト胃がん由来細胞株である KKLS (71)および NKPS は、金沢大学がん研究所の Mai 博 士から提供された。TMK-1 は広島大学の田原博士より供与された。MKN45 および MKN28 細胞は鈴木博士(福島医科大学、福島)から供与された。細胞は 10% 非働化 FBS、100 U/ml penicillin、および 100 µg/ml streptomycin を添加した RPMI-1640 培養液で、37°C 、5% CO2 のインキュベーター内で培養した。 ヒト胃がん由来細胞の ALA 存在下での培養と LED 光の照射 細胞を 96-well 培養プレートに播種し(1 × 104 /well)、37°C 、5% CO2 のインキュベーター 内で 24 時間培養した。その後、様々な濃度の ALA を培養液に添加し、ALA 存在下で 4 時間、暗所で培養した。新しい培養液に交換後、細胞に 5 分間、LED 光(630 nm, 3.6 mW/cm2) を照射した。LED 光照射装置は SBI アラプロモ株式会社(東京)から提供された。光照射後 の細胞は、さらに 24 時間、暗所で培養後、MTT 法によって細胞生存率を測定した(72)。 MTT 法は以下の手順で行った。MTT 試薬 (5 mg/ml)を培養液に添加後、4 時間培養した。 その後、培養液と同量の 10% (w/v) SDS を培養液に加え、さらに一晩培養した。MTT 代謝 物であるホルマザンは測定波長 570 nm、基準波長 655 nm における吸光度をマイクロプ レートリーダーModel 550 (Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)で測定した。IC50 値は複数回 の実験によって得られた ALA 濃度依存性の細胞生存曲線から算出した。 ALA 存在下で培養したヒト胃がん細胞内に蓄積した 存在下で培養したヒト胃がん細胞内に蓄積した PpIX の定量 細胞を 6-well 培養プレートに播種し(5 × 105 cells/well)、37°C、5% CO2 のインキュベー ター内で 24 時間培養した。その後、1 mM ALA 存在下で光を当てずに 4 時間培養した。 細胞内ポルフィリンを抽出するために、細胞を PBS (-)で洗浄後、各 well に 600 µL の 0.1 N NaOH を加えて細胞溶解液を調製した。細胞溶解液のうち 500 µL を 1.5 mL チューブに回 収後、同量の 1M 過塩素酸-メタノール (1 : 1, v/v)でタンパク質を変性し、細胞内ポルフィ リンを抽出した。変性したタンパク質を除去する目的で 4°C、10,000 g、10 分間遠心分離 39 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 を行い、回収した上清を蛍光分光光度計(TypeF7000, 日立ハイテクノロジーズ、東京)で分 析した。PpIX の蛍光強度を測定するために、励起波長 405 nm、検出波長 605 nm を使用し た(Fig. 3-1)。標準物質 PpIX で作成した検量線に基づいて、細胞内 PpIX 濃度を算出した。 細胞内 PpIX 濃度は残った細胞溶解液のサンプルを用いて測定したタンパク質濃度で標準 化した(Fig. 3-2)。 40 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 Relative Fluorescence [a.u.] 25 20 15 10 5 0 550 Protoporphyrin IX 600 Wave length [nm] 650 Fig. 3-1 測定条件における PpIX 標準物質の蛍光スペクトル(励起波長 405 nm) 41 Fluorescence Intensity (x1000) ) 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 40 y = 83656x + 402.23 30 R2 = 0.9947 20 10 0 0 0.20 0.40 0.60 Protoporphyrin IX [µM] Fig. 3-2 PpIX 標準物質を用いて作成した検量線 42 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 RT-PCR による mRNA 発現の検出 培養細胞からの total RNA 抽出には High Pure RNA Isolation Kit (Roche Ltd., Mannheim, Germany)を使用した。抽出した total RNA を鋳型として、High Capacity cDNA Archive Kit (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)およびプライマーであるランダムヘキサマーを 使用して、1 µg の完全長 1 本鎖 cDNA を逆転写反応によって合成した(77)。得られた cDNA を鋳型として、PEPT1、PEPT2、ALAS1、ALAD、HMBS、UROS、UROD、ABCB6、CPOX、 PPOX、FECH、ABCG2 および GAPDH の配列に特異的なプライマー(Table 3-1)を用いて、 Thermal Cycler Dice Mini (TaKaRa バイオ、大津)で PCR 反応を行った(78)。GAPDH は内部 標準として使用して、細胞間で一定の発現が認められることを確認した。PCR 反応は 95°C、 5 分間でホットスタートインキュベーション後、95°C、30 秒間の解離反応と 60°C、1 分間 の伸長反応を 35 サイクル繰り返した。PCR によって得られた増幅産物は 2.5%アガロース ゲルで電気泳動後、エチジウムブロマイド染色を行い、UV イルミネーターFAS-III (東洋 紡、大阪)で検出した。 43 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 Table 3-1 ポルフィリン生合成関連遺伝子に特異的な PCR プライマー配列 Gene PEPT1 NM_005073 PEPT2 NM_001145998 ALAS1 NM_000688 ALAD NM_000031 HMBS NM_000190 UROS NM_000375 UROD NM_000374 ABCB6 NM_005689 CPOX NM_000097 PPOX NM_000309 FECH NM_001012515 ABCG2 NM_004827 HO-1 NM_002133 F/R Forward Reverse Forward Reverse Forward Reverse Forward Reverse Forward Reverse Forward Reverse Forward Reverse Forward Reverse Forward Reverse Forward Reverse Forward Reverse Forward Reverse Forward Reverse Primer sequence CCCTGAAGTGAAGGTGTTTGAAGATA GAATTGGCCCCTGACATGAA CTACCACAATATGCCCTGGTTACA GCCACTGAACTGTGCCACAA GGATTCGAAACAGCCGAGTG GAAGGTGATTGCTCCAAACTCAT CCTCGGTTCCAACCAACTGAT GATAGGCTGTATGTCATCAGGAACA CAAGGACCAGGACATCTTGGAT CCAGACTCCTCCAGTCAGGTACA TCAGCACTGCCTCTTCTATTTCC CTGGGTGTGCAACTGTCTGATAC CGGGAGTGTGTGGGGAA AAGCAGACGTGAGTGTTTATGCA CAGAAGGGCCGTATTGAGTTTG ATTGTCGGCGATGGTGTCA GGCGGAGATGTTGCCTAAGAC AATGCTCACCCCAGCCTTTT CAGGAGTCCTGGGAATCGTGTA TGCCTAGCTGACTCTAGTTTTTGC GGAAATCCATTGTTCTCTAAGGC CTAAATAACACCCTCTCCACATCG CTAAGCAGGGACGAACAATCATC TCCTGCTTGGAAGGCTCTATG GCTCAAAAAGATTGCCCAGAA TCACATGGCATAAAGCCCTACA Position 1772-1797 2168-2188 1894-1917 2045-2064 1371-1390 1542-1564 157-177 319-343 835-856 984-1006 668-691 761-789 982-998 1178-1200 2033-2054 2308-2326 401-421 709-728 1251-1272 1509-1533 1252-1274 1462-1485 1188-1210 1447-1467 518-538 926-947 Tm Amplicon 60.6 416 59.3 58.8 170 59.3 59.3 193 58.3 59.8 186 58.2 58.9 171 59.2 58.7 121 58.3 57.2 218 58.6 59.6 293 59.5 59.7 327 59.5 59.9 282 58.1 57.0 233 57.8 58.8 279 58.2 58.1 429 59.1 Western blotting によるタンパク質発現解析 タンパク質発現解析のために、所定の処理を行った各細胞から細胞溶解液を以下の手順 で調製した(72)。細胞を PBS (-)で洗浄後、lysis buffer A [50 mM Tris-HCl (pH 7.4), 1 mM DTT, 1% (v/v) Triton X-100, and protease inhibitor cocktail]で処理した。サンプルは 27G の注射針を 用いて 10 回、ホモジェナイズを行った。1,000 g、4°C、10 分間遠心分離を行って得られ た上清を細胞溶解液として回収し、以後の実験に使用した。 サンプルは SDS-PAGE サンプルバッファーで処理した。その後、サンプルのタンパク質 溶液は 12%ポリアクリルアミドゲルで SDS-PAGE によって分離した。分離したタンパク 質は Immobilon-P PVDF membrane (Millipore Corp., MA)に転写後、5% (w/v)スキムミルクを 44 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 溶解した TTBS [20 mM Tris-HCl (pH 7.4), 150 mM NaCl, 0.05% (v/v) Tween 20]で、1 時間室 温でブロッキングした。 ヒト PEPT1 を特異的に認識するポリクローナル抗体(H-235、1:200 dilution; Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA)、抗ヒト ABCG2 モノクローナル抗体(BXP-21、1:200 dilution; Convance Research Products, Emeryville, CA)、内部標準である GAPDH を特異的に 認識するモノクローナル抗体(American Research Products, Belmont, MA; 1:1,000 dilution)を 1 次抗体として、それぞれ使用した。2 次抗体には西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を結 合する抗マウス IgG 抗体(Cell Signaling Technology, Beverly, MA)、抗ラビット IgG 抗体(Santa Cruz Biotechnology)をそれぞれ 3,000 倍希釈で使用した。HRP による化学発光は、基質で ある Western Lightning Chemiluminescent Reagent Plus (PerkinElmer Life and Analytical Sciences, Waltham, MA)を用いて得られた。化学発光によって検出されたタンパク質は、 Lumino Imaging Analyzer LAS-4000mini (GE Healthcare UK, Amersham Place, England)で検出 された。 3.3 結果 3.3.1 ヒト胃がん由来細胞株における ALA-PDT 感受性の不均一性 感受性の不均一性 5 種類のヒト胃がん由来細胞株(NKPS、TMK-1、KKLS、MKN28、MKN45)における ALA-PDT 感受性を調べる目的で、in vitro ALA-PDT を行った。様々な濃度の ALA 存在下、 暗所で 4 時間、37°C、5% CO2 のインキュベーター内で各細胞を培養した。その後、培養 液を速やかに交換し、赤色の LED 光を 5 分間照射した(640 nm、1,080 mJ / cm2)。さらに 24 時間培養後、MTT 法によって各細胞の生存率を測定した。Fig. 3-3 は各細胞の ALA-PDT 後の細胞生存曲線を示す。MKN45 および MKN28、KKLS 細胞は、ALA 濃度に依存して ALA-PDT に感受性を示した(Fig. 3-3)。ALA 濃度に対する各細胞の IC50 は MKN45、MKN28、 KKLS の順に 50、400、700 µM と算出された。一方、NKPS、TMK-1 細胞は全ての濃度の ALA-PDT に対して抵抗性を示した。5 種類の異なる胃がん由来細胞株に対する ALA-PDT 45 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 感受性を測定することで、がんにおける ALA-PDT 後の細胞生存率の不均一性を再現した。 以降、5 種類の細胞株のパネルを用いて、ALA 投与後の細胞内ポルフィリン蓄積および、 ポルフィリン生合成経路の観点から ALA-PDT 感受性に対する細胞間の差異を検証するこ ととした。 3.3.2 ALA 存在下における培養細胞内ポルフィリン蓄積量 ALA-PDT の細胞死誘導効果は、細胞傷害性一重項酸素やその他 ROS を光励起によって 生じる PpIX の細胞内濃度に依存すると考えられる。そこで、ALA-PDT に対して異なる感 受性を示した 5 種類の胃がん細胞株を用いて、細胞内 PpIX 生合成および蓄積能を評価し た。1 mM ALA 存在下、暗所で培養した細胞を回収し、細胞内で合成された PpIX を蛍光 強度から定量した。Fig. 3-4 はパネルとして使用した各細胞における細胞内 PpIX 蓄積量を 示す。各細胞における PpIX 蓄積量はタンパク質濃度で補正している。ALA-PDT に最も高 い感受性を示した MKN45 細胞は、5 種類の細胞株の中で最も多く PpIX を蓄積した(Fig. 3-4)。一方で、ALA-PDT に抵抗性を示した NKPS 細胞は PpIX 蓄積量が最も少なかった。 TMK-1、KKLS、MKN28 細胞における PpIX 蓄積量は中程度であった。各細胞の ALA-PDT 感受性は、細胞内ポルフィリン蓄積量の序列と完全に一致した。これらの結果(Fig. 3-3 お よび 3-4)から、細胞内 PpIX 蓄積量は ALA-PDT 感受性と正に相関していることが明確に 示された。そこで、細胞内 PpIX 蓄積量を制御する因子を探索するために、各細胞におけ るポルフィリン-ヘム生合成経路の役割を検証することとした。 46 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 120 Cell viability [%] 100 80 60 40 20 0 NKPS TMK-1 KKLS MKN28 MKN45 10 100 1000 ALA [µM] Fig. 3-3 ヒト胃がん細胞株に対する ALA-PDT 感受性の不均一性 データは n=3 の平均値 ± S.D.で示されている。 47 Intracellular PpIX [nmol / mg-protein] 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 0.40 0.35 0.30 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0 NKPS TMK-1 KKLS MKN28MKN45 Fig. 3-4 1 mM ALA、4 時間培養時における細胞内 PpIX 蓄積量 48 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 3.3.3 ポルフィリン生合成関連遺伝子の発現プロファイリング ALA-PDT 感受性は、ALA 存在下で培養後の細胞内 PpIX 蓄積量と高い相関を示した。 細胞内に PpIX が多く蓄積するほど高い ALA-PDT 効果が期待できるため、ALA 代謝経路 であるポルフィリン-ヘム生合成経路の発現異常が腫瘍特異的ポルフィリン蓄積を生じる と考えられる。そこで、5 種類の胃がん細胞株のパネルを用いて、ポルフィリン生合成経 路に関わる 8 つの酵素と 4 つのトランスポーター遺伝子について、発現プロファイリング を RT-PCR 法で行った。各遺伝子の mRNA 発現量を測定するために、各標的遺伝子に特異 的な PCR プライマーを作成した(78)(Table 3-1)。NKPS、TMK-1、KKLS、MKN28、MKN45 細胞の遺伝子発現プロファイルの結果を Fig. 3-5 および 3-6 に示した。内部標準である GAPDH と同様、ポルフィリン生合成酵素(ALAS1、ALAD、HMBS、UROS、UROD、CPOX、 PPOX、FECH)の mRNA 発現量は細胞間でほとんど差が認められなかった。一方、トラン スポーターPEPT1 および ABCG2 の発現量は細胞間で顕著に差が認められた(Fig. 3-6)。 PpIX を最も多く蓄積する MKN45 細胞では、PEPT1 の発現が高い一方、ABCG2 の発現が 低かった。反対に PpIX 蓄積量の少ない TMK-1、NKPS 細胞では、PEPT1 の発現が極めて 低く、ABCG2 は高発現していた。一方、PEPT2 および ABCB6 の発現量は細胞間で差を 認めなかった。これらの結果から、ALA の細胞内取り込みに関わる PEPT1 とポルフィリ ンの細胞外への排出を担う ABCG2 の発現が細胞内ポルフィリン蓄積において、重要な役 割を担う可能性が示唆された。 3.3.4 ヒト胃がん細胞株における PEPT1 および ABCG2 タンパク質の発現 mRNA 発現プロファイリングの結果から、薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 が細胞内ポルフィリン蓄積に寄与している可能性が示唆された。そこで、実際に生体内で 機能している両者のタンパク質発現解析を行った。PEPT1・ABCG2 をそれぞれ特異的に 認識する抗体を用いて Western blotting を行った結果、ALA-PDT に最も高い感受性を示し た MKN45 細胞は最も高い PEPT1 発現量を示した一方、ABCG2 の発現は認められなかっ 49 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 た(Fig. 3-7)。これとは正反対に、ALA-PDT に抵抗性を示した TMK-1 細胞において、ABCG2 タンパク質発現が顕著に高く、PEPT1 タンパク質の発現は顕著に低下していた。これらの 結果は 3.3.3 で示した mRNA 発現プロファイリングの結果と同一傾向を示している。以上 のことから、PEPT1 を介した ALA の細胞内取り込みと ABCG2 による PpIX の細胞外への 排出の両方が、ALA-PDT 感受性を決定する因子となる可能性が強く示唆された。 50 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 ALAS1 ALAD HMBS UROS UROD CPOX PPOX FECH GAPDH Fig. 3-5 ポルフィリン生合成酵素の mRNA 発現プロファイリング ALAS1, ALAD, HMBS, UROS, UROD, CPOX, PPOX, FECH, および GAPDH の mRNA 発現 量は各遺伝子に特異的プライマーを用いた RT-PCR 法によって評価した。GAPDH は内部 標準として用いた。 51 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 PEPT1 PEPT2 ABCB6 ABCG2 GAPDH Fig. 3-6 ポルフィリン関連トランスポーターの mRNA 発現プロファイリング 52 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 PEPT1 ABCG2 GAPDH Fig. 3-7 PEPT1 および ABCG2 のタンパク質発現量 各タンパク質の発現量は PEPT1、ABCG2 および GAPDH に特異的な抗体を用いた Western blotting 法で評価した。 53 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 3.4 考察 ポルフィリン-ヘム生合成に関わる酵素についての研究の歴史は古く、1950 年代には全 ての分子が同定されていた。一方、がん細胞の PpIX 蓄積や正常細胞の恒常性維持におけ るトランスポーターの重要性は近年になって認識され始めた(57,69)。これまでの先行研究 では個々の遺伝子に着目して、ポルフィリン生合成における詳細な役割を明らかにする研 究が多く報告されてきた。本研究ではポルフィリン-ヘム生合成経路に関与する一連の遺 伝子群について包括的に研究し、ALA-PDT 感受性・ポルフィリン蓄積能と、PEPT1・ABCG2 の発現量が相関する点を初めて見出した。本研究によって、PEPT1 および ABCG2 タンパ ク質の発現のバランスが、ALA 処理後の細胞内 PpIX 蓄積量と ALA-PDT 感受性を制御す る重要な因子となることが示唆された。胃がんから樹立された異なる 5 種類の細胞株 (MKN45、MKN28、KKLS、TMK-1 および NKPS)を用いることで、ALA-PDT 感受性と PEPT1 発現量が正に相関していた。また ALA-PDT 感受性は ABCG2 の発現量と負に相関してい た。PEPT1 および ABCG2 の機能が ALA 処理後の PpIX 蓄積と ALA-PDT 感受性に与える 影響を検証することで、PEPT1 と ABCG2 が腫瘍特異的ポルフィリン蓄積と ALA-PDT の 効果予測因子として有効であるか検証する必要がある。 トランスポーターの発現が異なる細胞間で顕著に異なる一方、胃がんの培養細胞株にお いて、ALA-PDT 感受性や PpIX 蓄積量の違いによらず、PpIX からヘムを生合成する酵素 FECH の mRNA 発現には変化が認められなかった。これまで、FECH の酵素活性が低下す ることが PpIX 蓄積の原因としてしばしば論じられてきた。それにも関わらず先行研究に よれば、2 価鉄のキレート剤である deferoxamine を PpIX に 2 価鉄を配位させる FECH と 競合させることで、ALA-PDT 効果の向上が報告されている(79,80)。これはがん細胞にお ける FECH の活性が deferoxamine によって抑制されることを示唆している。しかしながら、 FECH の活性低下と PpIX 蓄積量の増加はがん細胞に特異的ではなく、正常細胞において も観測される。すなわち、光過敏症状の副作用の出現確率が増大することが予測されるた め、ALA と 2 価鉄キレート剤の併用は PpIX 蓄積の腫瘍特異性にとって必ずしも好ましい 54 第 3 章 ALA 代謝経路における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に関わる生体分子の同定 とは言えない。また、抗がん剤や放射線療法の副作用で骨髄における造血能力が低下して、 しばしば貧血症状が現れる。がん治療において、患者の貧血症状をコントロールする必要 性から鉄剤を服用することが多く、2 価鉄キレート剤を ALA-PDT と併用することは現実 的でない。 胃がんは世界で罹患率・死亡率ともに最も高いがんの 1 つである(81,82)。特に胃がん患 者の 10-20%で認められる腹膜播種(83)は、外科手術によって根治的に切除した場合であっ ても、進行度の高い T3 また T4 ステージの腫瘍を持つ患者の約 6 割で再発が起こる(84)。 胃がん細胞の腹膜播種を起こした患者の予後は非常に悪く平均生存期間はわずか 3 か月で ある(85,86)。腹膜は中皮によって覆われたゆるい結合組織の薄い層から形成されている (87)。PDT の課題として可視光を深部の腫瘍組織まで到達させることが出来ず、十分な治 療効果が得られない点が挙げられる。しかし、腹膜は組織中への光透過性の問題を考慮す る必要がなく、ALA-PDT を適用できるため、腹膜播種に対して ALA-PDT は相性の良い 有望な治療方法であると期待できる。ALA 投与における腫瘍特異的 PpIX 蓄積によって、 ALA-PDT はがんに選択的であるため侵襲が低いことは前述のとおりであるが、がん細胞 における PpIX の赤色蛍光を検出することで、外科手術の術中におけるがん細胞の蛍光診 断を可能にすると考えられる。 55 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 第4章 ALA-PDT における薬物トランスポーター PEPT1 および ABCG2 の役割 4.1 諸言 4.2 実験方法 4.3 結果 4.3.1 PEPT1-EGFP 融合タンパク質安定発現株の樹立 4.3.2 PEPT1 過剰発現が細胞内ポルフィリンおよび ALA-PDT 感受性に 与える影響 4.3.3 ABCG2 タンパク質一過性発現抑制株の樹立 4.3.4 ABCG2 の発現抑制が細胞内ポルフィリンおよび ALA-PDT 感受性に 与える影響 4.3.5 ABCG2 特異的阻害剤が細胞内ポルフィリンおよび 特異的阻害剤が細胞内ポルフィリンおよび ALA-PDT に与え る影響 4.4 考察 56 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 4.1 諸言 これまでポルフィリン生合成経路に関わる個々の酵素・トランスポーターの役割につい て、多くの研究結果が報告されている。しかし、ALA 投与における腫瘍特異的ポルフィ リン蓄積において重要な意義を持つ因子を体系的に検証した報告はなされていなかった。 本研究では ALA 代謝経路、すなわちポルフィリン-ヘム生合成経路に関与する遺伝子に焦 点を当て、複数の細胞間で網羅的に発現量を調べることによって、細胞内ポルフィリン蓄 積量・ALA-PDT 感受性と発現の相関する PEPT1・ABCG2 を見出した。両者の相関関係か ら、PEPT1 発現量が高いがん細胞ほど ALA 投与後の細胞内ポルフィリン蓄積量は多くな り ALA-PDT 感受性を示す一方、ABCG2 発現量が高いがん細胞ほどポルフィリン蓄積量 が低下し ALA-PDT 抵抗性を示すと考えられた。この関係を調べるために、本章では PEPT1 遺伝子を外因的に導入し、PEPT1-EGFP 融合タンパク質を過剰に発現する安定発現株を樹 立することで、ALA-PDT における PEPT1 の役割を検証した。その後、ABCG2 mRNA に 特異的な配列を有する siRNA を用いて、ABCG2 タンパク質の発現を一過的に抑制する株 を樹立し、ALA-PDT における ABCG2 の役割を検証した。さらに、ABCG2 特異的阻害剤 として知られる Fumitoremorgin C を ALA と併用することで、ABCG2 阻害が ALA-PDT に 与える影響を評価した。 4.2 実験方法 PEPT1 cDNA 発現ベクターの調製と PEPT1-EGFP 融合タンパク質安定発現株の樹立 PEPT1 を過剰発現する安定株を樹立するために、MKN45 細胞における PEPT1 cDNA (NM_005073)のタンパク質コード配列を PCR 法によって増幅した。PCR に使用したプラ イマー配列は以下のとおりである。 The sense primer: 5′-GCC ATG GGA ATG TCC AAA TCA CAC AGT TTC-3′ The antisense primer: 57 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 5′-CAT CTG TTT CTG TGA ATT GGC CCC TGA CAT-3′ 得られた PCR 産物は pEF/V5-His-TOPO ベクター(Invitrogen)にクローニング後、joining PCR 法によって、pEF6/V5-His-TOPO や pEGFP N2 (Clontech Laboratories, Mountain View, CA, USA)などのクローニングベクターを介して、PEPT1-EGFP 融合 cDNA 断片を作成した。 得られた PEPT1-EGFP 断片は、KpnI および PmeI の 2 つの制限酵素サイト で pcDNA4 Myc-His-A ベクター(Invitrogen)にクローニングした。PEPT1-EGFP 融合タンパク質安定発 現株を樹立するために、この pcDNA4 PEPT1-EGFP ベクターを遺伝子導入に使用した(Fig. 4-1)。KKLS 細胞への pcDNA4 PEPT1-EGFP ベクターの遺伝子導入は、FuGENE 6 HD トラ ンスフェクション試薬(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN, USA)を用いて、製造元のマニュ アルに従って行った。安定に形質を転換した細胞は、40 µg/mL zeocin を含む培養液でシン グルコロニーを形成させた後に単離した。Zeocin 耐性株である KKLS/PEPT1-EGFP は、25 µg/mL zeocin を含む培養液で維持した。このように得られた PEPT1-EGFP 安定発現株のコ ントロールクローンとして、pcDNA4 empty vector を遺伝子導入した細胞も同時に樹立し た。KKLS/PEPT1-EGFP 安定株の複数のクローンを得たが、本論文では発現量が高かった 典型的なクローンの結果を示す。 58 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 Kpn I Pme I PEPT1-EGFP pcDNA4_ PEPT1-EGFP (8,003 bp) Fig. 4-1 PEPT1-EFGP 発現ベクターの模式図 59 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 RNAi 法を用いた ABCG2 タンパク質一過性発現抑制株の樹立 ABCG2 の発現を一過的に抑制する目的で、100 nM ABCG2 siRNA (Ambion, Austin, TX, USA)を NKPS 細胞に遺伝子導入した。細胞へ導入した siRNA として、異なる 3 種類の配 列を使用した。いずれの siRNA でも同様な効果が認められたが、本論文では、最も発現 抑制の効果が高かったものの結果を示す。ABCG2 の発現抑制にもっとも高い効果を示し た siRNA の配列は以下の通りである。 sense, 5′-GCA GAU GCC UUC UUC GUU Att-3′; antisense, 5′-UAA CGA AGA AGG CAU CUG Cct-3′ NKPS 細胞への siRNA の導入は DharmaFECT™ 4 トランスフェクション試薬(Dharmacon, Lafayette, CO, USA)を用いて、製造元のマニュアルに従って行った。トランスフェクショ ン後、細胞を結果の Fig. 4-6 の脚注に示した通り、所定時間培養した。発現抑制の効果は、 定量 RT-PCR および Western blotting で評価した。 4.3 結果 4.3.1 PEPT1-EGFP 融合タンパク質安定発現株の樹立 PEPT1 が ALA 投与後の細胞内ポルフィリン蓄積に与える影響を調べるために、KKLS 細胞を親株とする PEPT1-EGFP を過剰発現する安定株(KKLS/PEPT1-EGFP)を樹立した。 過剰発現した PEPT1 が、膜タンパク質として正しく細胞膜に局在することを EGFP の緑 色蛍光で直接観測するために、本研究では PEPT1-EGFP 融合タンパク質を用いた。Fig. 4-2 は GFP の緑色蛍光を蛍光顕微鏡で観察した写真を示す。PEPT1-EGFP 融合タンパク質は KKLS/PEPT1-EGFP 細胞の細胞膜に発現していることを示している。一方で、EGFP 単体 を発現させた細胞では、EGFP の蛍光は細胞質に均一に分布していた(Fig. 4-2 下段)。抗 PEPT1 抗 体 を 用 い た Western blotting に よ っ て 、 KKLS/PEPT1-EGFP 細 胞 に お け る PEPT1-EGFP 融合タンパク質の過剰発現を示すバンドが Mock 細胞に比べて強く検出され た(Fig. 4-3)。以上のことより、この細胞は PEPT1-EGFP が過剰発現していると言える。 60 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 4.3.2 PEPT1 過剰発現が細胞内ポルフィリンおよび ALA-PDT 感受性に与え る影響 PEPT1 タンパク質の過剰発現が細胞内 PpIX 蓄積および、ALA-PDT 感受性に与える影響 を評価した。Fig. 4-4 に示したように、KKLS/PEPT1-EGFP 細胞では ALA 処理後の細胞内 PpIX 蓄積量が約 5 倍まで顕著に増加した。さらに KKLS/PEPT1-EGFP 細胞は、Mock 細胞 に比べて ALA-PDT に対して顕著に感受性を亢進した(Fig. 4-5)。これらの結果から、PEPT1 を介した ALA のがん細胞への取り込みは ALA-PDT 感受性を決める上で重要な意義を持 つことを強く示唆している。 61 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 KKLS/PEPT1-EGFP KKLS/EGFP (Control) Fig. 4-2 蛍光顕微鏡観察による KKLS 細胞に発現した PEPT1-EGFP 融合タンパク質の 発現確認 PEPT1-EGFP は細胞形質膜に局在して発現した。スケールバーは 10 µm を示す。 PEPT1 GAPDH Fig. 4-3 PEPT1 抗体を用いた Western blottng による PEPT1-EGFP (103 kDa) の発現確認 62 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 KKLS cells Intracellular PpIX [nmol / mg-protein] 0.8 * p < 0.05 0.6 0.4 0.2 0 Mock PEPT1-EGFP Fig. 4-4 1 mM ALA、4 時間培養時の.KKLS/PEPT1-EGFP 細胞における細胞内 PpIX 蓄積量 KKLS cells Cell viability [%] 120 100 * * * * * 80 * p < 0.05 * 60 40 20 Mock PEPT-EGFP 0 -20 0 10 100 ALA [µM] 1000 Fig. 4-5 KKLS/PEPT1-EGFP 細胞の ALA-PDT 感受性 データは n=3 の平均値 ± S.D.で示されている。*は統計学的有意差(p < 0.05)を示す。 63 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 4.3.3 ABCG2 タンパク質一過性発現抑制株の樹立 次に、ALA-PDT 抵抗性に対する ABCG2 の寄与を検証した。ALA-PDT 抵抗性細胞にお いて、ABCG2 の高発現ががん細胞内に蓄積した PpIX の細胞外への排出を促進するため、 ALA-PDT 抵抗性を細胞に賦与していると考えられる。ALA-PDT 抵抗性と同時に PpIX の 細胞外排出における ABCG2 の関与を検証するため、NKPS 細胞の ABCG2 発現を RNAi 法で抑制した。ABCG2 を特異的に標的とする siRNA の導入によって、NKPS 細胞におけ る ABCG2 mRNA、タンパク質ともに発現は劇的に抑制された(Fig. 4-6)。コントロールと して、非特異的な配列を有する siRNA を導入した NKPS 細胞では ABCG2 の発現に変化は 認められなかった。 4.3.4 ABCG2 の発現抑制が細胞内ポルフィリンおよび ALA-PDT 感受性に与 える影響 ABCG2 タンパク質の発現抑制によって、非特異的 siRNA を導入した細胞に比べて、 NKPS 細胞における細胞内 PpIX 量は 2.5 倍増加した(Fig. 4-7)。ABCG2 発現を抑制した NKPS 細胞を様々な濃度の ALA 存在下で 24 時間培養後、LED 光を 10 分間照射した。 ABCG2 の阻害によって、IC50 の変化から換算して、ALA-PDT 感受性は約 3 倍有意に亢進 した(Fig. 4-8)。 4.3.5 ABCG2 特異的阻害剤が細胞内ポルフィリンおよび ALA-PDT に与える 影響 RNAi 法による ABCG2 発現抑制が細胞内ポルフィリン蓄積および ALA-PDT 感受性に与 えた影響をさらに検証するために、ABCG2 に特異的な阻害剤である Fumitremorgin C (FTC) を用いて ABCG2 機能阻害の影響を調べた。ABCG2 を高発現して ALA-PDT 抵抗性を示す NKPS、TMK-1 細胞に対して、10 µM FTC を 1 mM ALA と同時に添加して 4 時間培養した。 64 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 NKPS、TMK-1 のいずれの細胞株も、FTC によって細胞内 PpIX 蓄積量は 3-4 倍まで顕著 に増加した(Fig. 4-9)。この細胞内 PpIX 蓄積量の増加に伴い、NKPS、TMK-1 細胞の ALA-PDT 感受性も、FTC によって顕著に亢進した(Fig. 4-10)。一方で、ABCG2 発現量が 極めて低い KKLS、MKN28、MKN45 細胞に対する ABCG2 特異的 siRNA や FTC の処理に よる ALA-PDT 感受性への影響はほとんど認められなかった。これらの結果から、ABCG2 は胃がん細胞における ALA-PDT 感受性を決定する上で抵抗性の因子となることが強く示 唆された。 65 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 A NKPS cells Relative mRNA levels [ABCG2 / GAPDH] 125 Non-specific siRNA siRNA (ABCG2) 100 75 50 25 0 48 72 96 Incubation time [h] B 120 NKPS cells Non-specific siRNA 48 72 96 siRNA (ABCG2) 48 72 96 [h] ABCG2 GAPDH Fig. 4-6 ABCG2 特異的 siRNA による NKPS 細胞の ABCG2 発現抑制 (A) Q-PCR によって決定された ABCG2 mRNA 発現量 (B) Western blotting 法によって決定 されたタンパク質発現量 66 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 NKPS cells Intracellular PpIX [nmol / mg-protein] 0.15 * p < 0.05 0.10 0.05 0 Non-specific siRNA siRNA (ABCG2) Fig. 4-7 ABCG2 の発現抑制が細胞内 PpIX 蓄積量に与える影響 NKPS cells Cell Viability [%] 120 * 100 * 80 * 60 40 NS siRNA siRNA (ABCG2) 20 0 0 100 ALA [µM] 1000 Fig. 4-8 ABCG2 発現抑制が ALA-PDT 感受性に与える影響 67 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 Fig. 4-9 ABCG2 阻害剤 FTC が細胞内 PpIX 蓄積に与える影響 Fig. 4-10 FTC が ALA-PDT 感受性に与える影響 68 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 4.4 考察 本研究で用いた胃がん細胞株では、ALA 存在下で培養後に蓄積した細胞内ポルフィリ ンとして、PpIX が主要な代謝物として検出された。生体内では PpIX が生合成される途中 の過程で uroporphyrin (UP)や coproporphyrin (CP)が合成されるが、HPLC 解析の結果、UP や CP は細胞から抽出したポルフィリンサンプル中に全く検出されなかった。つまり、細 胞内に存在するポルフィリンは主に PpIX であったため、ABCG2 特異的 siRNA 処理によ る ABCG2 発現抑制や FTC による ABCG2 機能阻害は、細胞内 PpIX 量を顕著に増加させ たと結論できる(Fig. 4-7、 4-9)。 ポルフィリンの恒常性維持や PDT における ABCG2 の生理的役割が認識されたのは近年 になってからであり(69)、歴史的に ABCG2 は抗がん剤として使用される doxorubicin 抵抗 性の乳がん細胞株で発見された(59-61)。ABCB1 (P-glycoprotein/MDR1)や ABCC1 (MRP1)、 ABCC2 (MRP2/cMOAT)と言った他の ABC トランスポーターと同様に、ABCG2 は多様な 構造の化合物を認識して相互作用して、薬物を輸送することが知られている(63,72)。 ABCG2 の過剰発現によって、がん細胞は様々な抗がん剤に対する抵抗性を賦与されるこ とが報告されている(88-90)。また、ABCG2 の発現はがん幹細胞のマーカーとしても考え られている(91)。これまでに ABCG2 特異的阻害剤を用いてがんの多剤耐性を克服する多 くの試みがなされている。gefitinib や imatinib などいくつかのタンパク質リン酸化酵素阻 害薬は ABCG2 の競合阻害剤であることが示されている(63)。これら ABCG2 阻害剤を患者 に長期に渡って投与することは、薬物による光毒性などの副作用を引き起こし(72)、痛風 などの疾患リスクを増大させるかもしれない。したがって、PDT における ABCG2 特異的 阻害剤の併用は短期間で限られた用量が実際的な方法として推奨するべきと考えられる。 PEPT1 は正常組織において小腸、腎臓、胆管での発現が報告されている(52-54)。そして、 PEPT1 もまた様々な化合物を基質として認識することが示されている(55,56,92)。PEPT1 および PEPT2 を介した ALA の膜間輸送は電気生理学的な実験によって明らかにされ(57)、 ペプチドトランスポーターを介した ALA の細胞内への取り込みが PDT に利用できる内在 69 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 性の光増感剤をがんに供給することが示唆されていた。 本研究では、PEPT1 の高発現および ABCG2 の低発現が ALA 投与後の PpIX 合成と in vitro における細胞の ALA-PDT 感受性を規定できることを示した(Fig. 3-4、3-6、3-7)。PEPT1 の過剰発現によって ALA-PDT 効果は顕著に亢進した(Fig. 4-5)。KKLS は変異型 p53 を有 する細胞であり、p53 経路を介したアポトーシスを引き起こさないが、PEPT1-EGFP 過剰 発現株における ALA に対する IC50 は約 15 µM と算出され、野生型 p53 を有する MKN45 細胞よりも高い感受性を示した。このことから PEPT1-EGFP の過剰発現によって、細胞内 に取り込まれる ALA の量が顕著に増加したことを示唆する。一方で、ABCG2 阻害との併 用で細胞内 PpIX 蓄積量は顕著に増加し(Fig. 4-7、4-9)、がん細胞の ALA-PDT 抵抗性を克 服できることを示した(Fig. 4-8、4-10)。ABCG2 発現抑制株では細胞内 PpIX 蓄積量が約 2 倍と有意に増加した。ALA-PDT 感受性も有意に亢進して、ALA に対する IC50 は約 350 µM と算出された。コントロールの ABCG2 が発現している株と比較して、PEPT1 の過剰発現 と比べて、ABCG2 発現抑制による細胞内 PpIX 蓄積量の増加が顕著でない理由として、残 存する ABCG2 タンパク質の影響が考えられる。PpIX は ABCG2 タンパク質の生理的な基 質であり、ABCG2 との高い親和性が報告されている。このため、ABCG2 の発現が完全に 欠損しない限り、PpIX の排出は完全には阻害されないと解釈できる。また、NKPS 細胞は 内在性の PEPT1 をほとんど発現しておらず、ALA の取り込みは PEPT2 など ALA との親 和性が低いトランスポーターを介したものであることも PpIX 蓄積量の増加が穏やかで あった結果を支持すると考えられる。 ALA を細胞内に取り込むトランスポーターとして PEPT2 (SLC15A2)、PAT1 (SLC36A1) の関与も報告されている。PEPT2 mRNA の発現はパネルとして用いた 5 種類の胃がん細胞 株のいずれにおいても検出された。しかしながら、5 種類の細胞間における PEPT2 発現量 の差はほとんど認められなかった。ALA を輸送するトランスポーターのうち、PEPT1 が 最も高い輸送活性を示すとされているが、細胞間で発現量が顕著に異なる点においても PEPT1 を介した取込みが支配的であると考えられる(57,58)。以上のことから、PEPT1 およ び ABCG2 は胃がん細胞株における細胞内 PpIX 蓄積の制御と、ALA-PDT 感受性を規定す 70 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 る上で支配的な役割を担っていると結論できる(Fig. 4-11)。 これによって、ALA-PDT 感受性を術前に予測することが可能になると同時に、ALA-PDT 効果を向上させる新しい治療戦略として、トランスポーターに対する制御薬と ALA-PDT を併用することが実用的であることが強く示唆された。変異型 p53 を有する治療抵抗性の がんも、トランスポーター調節薬の併用で ALA-PDT による治療が可能になると考えられ る。 71 第 4 章 ALA-PDT における薬物トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の役割 5-Aminolevulinic acid (ALA) PDT resistant cell PDT sensitive cell PEPT1 PEPT1 ALA ALA Little change in mRNA levels of porphyrin synthesis-related genes (PEPT2, ALAD, UROS, UROD, CPOX, ABCB6, PPOX, FECH) Protoporphyrin IX (PpIX) Protoporphyrin IX (PpIX) ABCG2 ABCG2 PpIX ABCG2 inhibitor (Fumitremorgin C) PpIX Fig. 4-11 ALA 投与後のヒト胃がん細胞における PpIX 蓄積のスキーム ALA-PDT 感受性細胞において、PEPT1 による ALA の取り込みが亢進し、ミトコンドリア で PpIX へ代謝されて細胞内に蓄積する。ALA-PDT 抵抗性細胞では ABCG2 の発現によっ て PpIX 排出が亢進しているため、細胞内 PpIX 蓄積量が少ない。ABCG2 阻害剤で PpIX 排出を抑制することで、ALA-PDT 抵抗性を克服することが出来る。 72 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 第5章 膀胱がん臨床検体における 膀胱がん臨床検体における 薬物トランスポーターの発現 5.1 諸言 5.2 実験方法 5.3 結果 5.3.1 ヒト膀胱がん細胞株における ALA-PDT 感受性と細胞内ポルフィリン 蓄積の相関 5.3.2 ヒト膀胱がん細胞株におけるポルフィリン生合成関連遺伝子の発現 プロファイリング 5.3.3 採取したヒト膀胱がん臨床検体の術中蛍光診断画像 5.3.4 ヒト膀胱がん検体におけるポルフィリン種の同定・定量 5.3.5 ヒト膀胱がん検体におけるポルフィリン生合成関連遺伝子の発現 解析 5.4 考察 73 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 5.1 諸言 1987 年 Malik らによって ALA-PDT のがんに対する臨床応用が報告されて以来(93)、が んの診断薬および治療薬として ALA の有効性・安全性を評価する多くの臨床試験が行わ れている。1997 年には Stummer らが脳腫瘍の動物モデルを用いて ALA の治療効果を確認 し、ALA が臨床的に有用な PDT 薬として使用できることを報告した(94)。現在では欧州 において ALA (GliolanTM)は脳腫瘍患者の光線力学的診断(PDD)薬として承認されており、 日本においても悪性神経膠腫に対する ALA の第三相臨床試験が進められている。 現在、日本では脳腫瘍と同時に膀胱がんに対する術中蛍光診断用体内診断薬として、 ALA の医師主導型治験が進められている。膀胱がんは世界的に 2 番目に患者数が多いが んであり、日本でも年間約 16,000 人が新しく膀胱がんと診断されて、50,000 人が内視鏡手 術を受けている(95)。膀胱がんの約 70%を占めるとされる非非浸潤性膀胱腫瘍に対して、 経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)と呼ばれる術式の内視鏡手術が標準的に行われている。 TURBT は膀胱組織の機能を温存し治療予後も良好であるため、患者の QOL を高く保つ外 科手術として普及している。しかしながら、TURBT はしばしば腫瘍を完全に取り除くこ とが出来ず、25-70%と高い割合で再発することが臨床上で深刻な問題としてあげられる (96,97)。膀胱がんの再発は目視で判断することが出来ない小さい腫瘍や、正常組織と区別 の付かない平坦な領域、隆起した腫瘍の周辺に存在する平坦病変が主な原因として考えら れている(98)。特に上皮内癌や異形成は細胞診によっても正確に検出することが難しく内 視鏡的には不可視領域であると言っても過言ではない。ALA-PDD ガイド下での TURBT は、上述の課題を解決しうる新しい術式として期待されている。 本研究では、in vitro で見出した PEPT1 および ABCG2 が細胞内ポルフィリン蓄積・ ALA-PDT 感受性に与える影響に関して、in vivo における役割を明らかにする目的で、膀 胱がん臨床検体におけるポルフィリン蛍光とポルフィリン関連遺伝子の関係を調べた。 74 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 5.2 実験方法 試薬 アミノレブリン酸 (ALA)塩酸塩はコスモ石油株式会社(東京)から購入した。MTT 試薬、 は Sigma–Aldrich (St. Louis, MO)から購入した。RPMI-1640 培養液、protease inhibitor cocktail は Nacalai Tesque (京都)から購入した。Penicillin–streptomycin、ウシ胎児血清(FBS)は Invitrogen (Carlsbad, CA)から購入した。その他、すべての試薬は分析グレードのものを使 用した。 細胞培養 ヒト膀胱がん由来細胞株である UMUC3、T24、KK47、KU7 およびヒト正常尿路上皮由 来細胞株 UROtsa は、奈良県立医科大学の穴井智博士から供与された。細胞は 10% 非働 化 FBS、100 U/ml penicillin、および 100 µg/ml streptomycin を添加した RPMI-1640 培養液で、 37°C 、5% CO2 のインキュベーター内で培養した。 ヒト膀胱 ヒト膀胱がん由来細胞の 膀胱がん由来細胞の ALA 存在下での培養と LED 光の照射 細胞を 96-well 培養プレートに播種し(1 × 104 /well)、37°C 、5% CO2 のインキュベーター 内で 24 時間培養した。その後、様々な濃度の ALA を培養液に添加し、ALA 存在下で 4 時間、暗所で培養した。新しい培養液に交換後、細胞に 5 分間、LED 光(630 nm, 3.6 mW/cm2) を照射した。LED 光照射装置は SBI アラプロモ株式会社(東京)から提供された。光照射後 の細胞は、さらに 24 時間、暗所で培養後、MTT 法によって細胞生存率を測定した。 MTT 法は以下の手順で行った。MTT 試薬 (5 mg/ml)を培養液に添加後、4 時間培養した。 その後、培養液と同量の 10% (w/v) SDS を培養液に加え、さらに一晩培養した。MTT 代謝 物であるホルマザンは測定波長 570 nm、基準波長 655 nm における吸光度をマイクロプ レートリーダーModel 550 (Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)で測定した。IC50 値は複数回 の実験によって得られた ALA 濃度依存性の細胞生存曲線から算出した。 75 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 ALA 存在下で培養したヒト膀胱がん 存在下で培養したヒト膀胱がん細胞内に蓄積した 膀胱がん細胞内に蓄積した PpIX の定量 細胞を 6-well 培養プレートに播種し(5 × 105 cells/well)、37°C、5% CO2 のインキュベー ター内で 24 時間培養した。その後、1 mM ALA 存在下暗所で 4 時間培養した。細胞内ポ ルフィリンを抽出するために、細胞を PBS (-)で洗浄後、各 well に 600 µL の 0.1 N NaOH を加えて細胞溶解液を調製した。細胞溶解液のうち 500 µL を 1.5 mL チューブに回収後、 同量の 1M 過塩素酸-メタノール (1 : 1, v/v)でタンパク質を変性し、細胞内ポルフィリンを 抽出した。変性したタンパク質を除去する目的で 4°C、10,000 g、10 分間遠心分離を行い、 回収した上清を蛍光分光光度計(TypeF7000, 日立ハイテクノロジーズ、東京)で分析した。 PpIX の蛍光強度を測定するために、励起波長 405 nm、検出波長 605 nm を使用した。 RT-PCR による mRNA 発現の検出 培養細胞からの total RNA 抽出には High Pure RNA Isolation Kit (Roche Ltd., Mannheim, Germany)を使用した。抽出した total RNA を鋳型として、High Capacity cDNA Archive Kit (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)およびプライマーであるランダムヘキサマーを 使用して、1 µg の完全長 1 本鎖 cDNA を逆転写反応によって合成した(77)。得られた cDNA を鋳型として、PEPT1、PEPT2、ALAS1、ALAD、HMBS、UROS、UROD、ABCB6、CPOX、 PPOX、FECH、ABCG2 および GAPDH の配列に特異的なプライマー(Table 3-1)を用いて、 Thermal Cycler Dice Mini (TaKaRa バイオ、大津)で PCR 反応を行った(78)。GAPDH は内部 標準として使用して、細胞間で一定の発現が認められることを確認した。PCR 反応は 95°C、 5 分間でホットスタートインキュベーション後、95°C、30 秒間の解離反応と 60°C、1 分間 の伸長反応を 35 サイクル繰り返した。PCR によって得られた増幅産物は 2.5%アガロース ゲルで電気泳動後、エチジウムブロマイド染色を行い、UV イルミネーターFAS-III (東洋 紡、大阪)で検出した。 ヒト膀胱がん臨床検体の術中蛍光診断 膀胱がん患者の ALA 経口投与による PDD は、2007 年 1 月に高知大学医学部の倫理委 76 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 員会で承認されたプロトコルに基づいて行われた。ALA-PDD ガイド下での TURBT を受 ける全ての患者は、ALA-PDD の有効性と共に、有害事象共通用語基準第 3 版 (99)に従い 予期される副作用について説明を受けた。高知大学医学部泌尿器科において、術前に書面 による同意を患者から得て検体の採取を行った。 ALA は、内視鏡検査の 3 時間前に 1 g を経口投与した。ALA-PDD には D-LIGHT システ ム(Karl Storz GmbH& Co.,Tuttlingen, Germany)を用いた。光源の D-Light C (300 W キノセン ランプ)は 375-445 nm を透過するバンドパスフィルターを備え、ビデオカメラの CCU Tricam SLII/3CCD CH Ticam-P PDD システムは、励起光を遮断するロングパスフィルター が搭載されている。通常の白色光と蛍光ガイド下において、腫瘍の部位を記録し、組織の 熱変性を伴わない生検鉗子によるパンチ生検を行った。手術は日本泌尿器科学会に認定さ れた 3 名の医師によって行われた。得られた臨床検体は、速やかに半割し一方を RNA 分 解抑制剤である RNAlater (Ambion)に浸し、暗所の 4°C 冷蔵庫で一晩保存後、total RNA の 抽出まで-80°C で保存した。残りの組織は、ポルフィリンの抽出まで、組織のまま-80°C で保存した。 HPLC によるポルフィリン種の同定 1 mm 角の組織、2 片を 1.5 mL バイオマッシャーII 専用滅菌チューブ (アシスト、東京) に移し、200 µL の 0.1 N NaOH を加えた後 Vortex で撹拌した。その後、パワーマッシャー を用いて氷上で組織をホモジェナイズした。サンプルのうち 50 µL を新しいチューブに回 収し、150 µL の N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)とイソプロパノールの混合液(100:1、v/v) を加えて Vortex で撹拌した。さらに 4°C、10,000g で 10 分間遠心分離し、変性タンパク質 の沈殿を除き、得られた上清をポルフィリン抽出液として、室温で暗所に一晩静置後、 HPLC 解析に用いた。残ったホモジェネートは、Quick Start™ Bradford プロテインアッセ イ(Bio-Rad Laboratories, Inc, CA)でタンパク質を定量した。 ポルフィリンの HPLC 解析には、40°C に維持した逆相 C18 カラム(CAPCELL PAK, C18, SG300, 5 µm, 4.6 mm × 250 mm, 資生堂、東京)を備えた Type Prominence システム(島津製 77 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 作所、京都)を使用した。ポルフィリンの溶出には pH 5.2 に調製した 12.5%アセトニトリ ル含有 1 M 酢酸アンモニウム溶液である移動相 A と、80%アセトニトリル含有 50 mM 酢 酸アンモニウム溶液である移動相 B を用いた。溶出プログラムは移動相 A のみで開始し、 流速 1 mL/min で 5 分間、その後、移動相 B を 0 から 100%までリニアグラジエントで 25 分間、さらに移動相 B 100%で 10 分間送液した。溶出液は蛍光分光計を備えた検出器で励 起波長 404 nm、検出波長 624 nm で連続的に検出した。サンプル中のポルフィリン濃度は 標準物質で作成した検量線を基に算出した。 SYBR Green I 検出系を用いた定量 PCR による mRNA 発現解析 RNAlater 中に保存された組織は氷上で溶解後、High Pure RNA Tissue Kit (Roche)で total RNA を抽出した。この total RNA を鋳型に、PrimeScript RT reagent Kit with gDNA Eraser (TaKaRa バイオ)を使用して、1 µg の完全長 1 本鎖 cDNA を逆転写反応によって合成した。 PEPT1、PEPT2、ALAS1、ALAD、HMBS、UROS、UROD、ABCB6、CPOX、PPOX、FECH、 ABCG2 および GAPDH の mRNA 発現量を、Thermal Cycler Dice® Real Time System Single (TaKaRa バイオ)で測定した。定量 PCR には 3.2 で示した各遺伝子に特異的なプライマー セット(Table 3-1)を使用した。各標的遺伝子の発現量は内部標準として測定した GAPDH の発現で標準化した。 5.3 結果 5.3.1 ヒト膀胱がん細胞株における ALA-PDT 感受性と細胞内ポルフィリン 感受性と細胞内ポルフィリン 蓄積の相関 4 種類のヒト膀胱がん由来細胞株(UMUC3、T24、KK47、KU7)および正常細胞株 UROtsa における ALA-PDT 感受性を調べる目的で、in vitro ALA-PDT を行った。様々な濃度の ALA 存在下、暗所で 4 時間、37°C、5% CO2 のインキュベーター内で各細胞を培養した。その 後、培養液を速やかに交換し、赤色 LED 光を 10 分間照射した(640 nm、2,160 mJ / cm2)。 78 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 さらに 24 時間培養後、MTT 法によって各細胞の生存率を測定した。Fig. 5-1 は各細胞の ALA-PDT 後の細胞生存曲線を示す。UMUC3 および T24、UROtsa 細胞は、ALA 濃度に依 存して ALA-PDT に感受性を示した(Fig. 5-1)。ALA 濃度に対する各細胞の IC50 は UMUC3、 T24、UROtsa の順に 200、300、700 µM と算出された。一方、KK47、KU7 細胞は全ての 濃度の ALA-PDT に対して抵抗性を示した。3.3.1 で示した胃がんの場合と同様、同じ膀胱 がんであっても ALA-PDT 感受性は細胞株によって異なった。 次に、これら 5 種類の細胞株を用いて、細胞内 PpIX 生合成および蓄積能を評価した。1 mM ALA 存在下、暗所で培養した細胞を回収し、細胞内で合成された PpIX を蛍光強度か ら定量した。Fig. 5-2 は各細胞における細胞内 PpIX 蓄積量を示す。各細胞における PpIX 蓄積量はタンパク質濃度で補正している。ALA-PDT に最も高い感受性を示した UMUC3 細胞は、5 種類の細胞株の中で最も多く PpIX を蓄積した(Fig. 5-2)。一方で、ALA-PDT に 抵抗性を示した KK47 細胞は PpIX 蓄積量が最も少なかった。各細胞の ALA-PDT 感受性 は、細胞内ポルフィリン蓄積量の序列と完全に一致した。これらの結果(Fig. 5-1 および 5-2) から、膀胱がんにおいても細胞内 PpIX 蓄積量は ALA-PDT 感受性と正に相関しているこ とを示した。そこで、細胞内 PpIX 蓄積量を制御する因子を探索するために、各細胞にお けるポルフィリン-ヘム生合成経路の役割を検証することとした。 79 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 120 Cell viability[%] 100 80 60 UMUC3 T24 UROtsa KU7 KK47 40 20 0 10 10 100 ALA [μM] 1000 Fig. 5-1 膀胱がん細胞株に対する ALA-PDT 感受性の不均一性 80 Intracellular protoporphyrin IX [nmol / mg-protein] 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 0.10 0.08 0.06 0.04 0.02 0 UMUC3 T24 KK47 KU7 UROtsa Fig. 5-2 1 mM ALA、4 時間培養における細胞内 PpIX 蓄積量 81 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 5.3.2 ヒト膀胱がん細胞株におけるポルフィリン生合成関連遺伝子の発現プ ヒト膀胱がん細胞株におけるポルフィリン生合成関連遺伝子の発現プ ロファイリング 腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に対するポルフィリン生合成経路の役割を調べるために、 5 種類の胃がん細胞株のパネルを用いて、ポルフィリン生合成経路に関わる 8 つの酵素と 4 つのトランスポーター遺伝子について、発現プロファイリングを RT-PCR 法で行った。 各遺伝子の mRNA 発現量を測定するために、UMUC3、T24、KK47、KU7、UROtsa 細胞 の遺伝子発現プロファイルの結果を Fig.5-3 に示した。3.3.3 で示した胃がん細胞株の結果 と同様、内部標準である GAPDH と同様、ポルフィリン生合成酵素(ALAS1、ALAD、HMBS、 UROS、UROD、CPOX、PPOX、FECH)およびトランスポーターABCB6 の mRNA 発現量 は細胞間でほとんど差が認められなかった。一方、トランスポーターPEPT1 および ABCG2 の発現量は細胞間で顕著に差が認められた(Fig. 5-3)。さらに膀胱がん細胞では PEPT2 の mRNA 発現も細胞内 PpIX 蓄積量と相関していた。PpIX を最も多く蓄積する UMUC3 細胞 では、PEPT1・PEPT2 の発現が高い一方、ABCG2 の発現が低かった。反対に PpIX 蓄積量 の少ない KK47 細胞では、PEPT1・PEPT2 ともに発現が極めて低く、ABCG2 は高発現し ていた。これらの結果から、トランスポーターを介した ALA の細胞内取り込みとポルフィ リンの細胞外への排出が膀胱がん細胞のポルフィリン蓄積においても、重要な役割を担う 可能性が示唆された。 82 NTC UROtsa KU7 KK47 T24 UMUC3 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 PEPT1 PEPT2 ALAS ALAD HMBS UROS UROD CPOX PPOX FECH ABCB6 ABCG2 GAPDH Fig. 5-3 膀胱がん細胞株におけるポルフィリン関連遺伝子の mRNA 発現量 NTC は no template control を示す。 83 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 5.3.3 採取したヒト膀胱がん臨床検体の術中蛍光診断画像 生検で採取した組織の内視鏡画像を Fig. 5-4 に示す。画像も同一患者から得られた画像 である。ブドウの房状に隆起した形態の乳頭型有茎性腫瘍(PPT)は、通常の白色光の下で も明らかにがんと判断できる所見であり、ALA-PDD によっても強い蛍光を発した。白色 光下で正常組織と区別することが出来なかった平坦型腫瘍(FT)は、ALA-PDD 陽性であり 赤色蛍光が認められる部分と認められない部分が混在していた。病理結果の結果、FT は 上皮内がんと診断された。ALA-PDD に完全に陰性であった平坦な領域は病理検査の結果 正常粘膜組織(NM)であり、以降の解析においてコントロールとして用いた。 乳頭性有茎性腫瘍(PPT) 乳頭性有茎性腫瘍 Fig. 5-4 生検で採取した膀胱がん臨床検体(次ページに続く) 84 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 平坦型腫瘍(FT) 平坦型腫瘍( ) 正常粘膜(NM) 正常粘膜 Fig. 5-4 生検で採取した膀胱がん臨床検体(前ページの続き) 85 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 5.3.4 ヒト膀胱がん検体におけるポルフィリン種の同定・定量 膀胱がんに対する ALA-PDD によって検出されるポルフィリン種を同定するために、 5.3.3 の検体から抽出したポルフィリンを HPLC で解析した。Fig. 5-5 は HPLC によって得 ら れ た 各 サ ン プ ル の ク ロ マ ト グ ラ ム を 示 し て い る 。 Uroporphyrinogen I, III お よ び Coproporphyrinogen I, III は サ ン プ ル 調 製 の 過 程 で 、 Uroporphyrin (UP) I, III お よ び Coproporphyrin (CP) I, III に自動酸化される。解析した全ての検体で UP、CP は検出されな かったが、いずれの検体においても溶出時間 33.6 分に PpIX のピークが検出された。特に PPT で PpIX のピークが顕著に検出された。PpIX のピーク面積から腫瘍に蓄積した PpIX を定量したところ、PPT における蓄積量は正常組織と比べて約 6.6 倍であった(Fig. 5-6)。 一方、FT における PpIX 蓄積量は、正常組織と比べて約 1.3 倍であった。この結果から、 PPT における腫瘍特異的な PpIX 蓄積が確認され、FT はがんと正常の細胞が混在した状態 であると示唆された。 Fluorescence Intensity 2500 2000 NM PPT FT PpIX (33.6 min) 1500 1000 500 0 0 10 20 30 Retension time [min] 40 50 Fig. 5-5 膀胱がん組織に蓄積したポルフィリンの HPLC 解析 86 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 PpIX [pmol / mg-protein] 35 30 25 20 15 10 5 0 NM PPT FT Fig. 5-6 膀胱がん検体における PpIX 蓄積量 87 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 5.3.5 ヒト膀胱がん検体におけるポルフィリン生合成関連遺伝子の発現解析 腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に対するポルフィリン生合成経路の役割を in vivo で調べ る目的で、PPT、FT、NM の検体におけるポルフィリン生合成関連遺伝子の mRNA 発現 量をリアルタイム PCR 法で定量した。目的遺伝子の発現量は、内部標準である GAPDH の発現で標準化した後、コントロールである NM に対する相対値で示した。in vitro の結 果と同様、腫瘍特異的 PpIX 蓄積が認められた PPT では、NM と比較して PEPT1 の発現 が 6 倍以上高く、ABCG2 の発現が 1/10 未満まで顕著に抑制されていた(Fig. 5-7、5-8)。 PEPT1 に加えて、ALAS1、HO-1、FLVCR も PPT で発現増加が認められた(Fig. 5-7)。 これらの結果から、PpIX が特異的に蓄積した腫瘍組織では ALA の合成とヘムの代謝・排 出が亢進していることが示唆された。一方、ABCG2 に加えて、ALAD、UROD、ABCB6、 FECH も PPT で発現の低下が認められた(Fig. 5-8)。これらの結果は、腫瘍組織における ポルフィリン輸送能、ヘム合成能の低下を示唆している。しかし、実際の腫瘍組織である PPT には PpIX が生合成されて蓄積していた。このことから、主に PEPT1 による ALA 取り込みの亢進と ABCG2 による PpIX 排出の低下によって、ポルフィリン蓄積が引き起 こされると考えられる。PEPT2、PAT1、HMBS、UROS、CPOX、PPOX は正常組織と 腫瘍組織の間で発現量に変化が認められなかった(Fig. 5-9)。測定した遺伝子のうち、最も 顕著に発現量の差が認められたのは PEPT1 と ABCG2 であり、この 2 つのトランスポー ターが腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に主要な役割を持つことが強く示唆された。 88 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 PEPT1 ALAS1 5.0 7.0 Relative mRNA levels (ALAS1 / GAPDH) Relative mRNA levels (PEPT1 / GAPDH) 8.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 3.0 2.0 1.0 0.0 NM PPT FT NM PPT FT FLVCR HO-1 3.5 Relative mRNA levels (FLVCR / GAPDH) 4.5 Relative mRNA levels (HO-1 / GAPDH) 4.0 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0.0 NM PPT FT NM PPT FT Fig. 5-7 PPT 膀胱がんで発現が顕著に亢進している遺伝子 89 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 ALAD Relative mRNA levels (ALAD / GAPDH) 1.25 1.00 0.75 0.50 0.25 0.00 NM PPT FT FECH ABCB6 1.25 Relative mRNA levels (FECH / GAPDH) Relative mRNA levels (ABCB6 / GAPDH) 1.25 1.00 0.75 0.50 0.25 1.00 0.75 0.50 0.25 0.00 0.00 NM PPT FT NM PPT FT ABCG2 Relative mRNA levels (ABCG2 / GAPDH) 1.25 1.00 0.75 0.50 0.25 0.00 NM PPT FT Fig.5-8 PPT 膀胱がんで発現が顕著に低下している遺伝子 90 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 PEPT2 PAT1 1.50 1.25 Relative mRNA levels (PAT1 / GAPDH) Relative mRNA levels (PEPT2 / GAPDH) 1.50 1.00 0.75 0.50 0.25 0.00 1.25 1.00 0.75 0.50 0.25 0.00 NM PPT FT NM HMBS 1.25 Relative mRNA levels (UROS / GAPDH) Relative mRNA levels (HMBS / GAPDH) FT UROS 1.50 1.25 1.00 0.75 0.50 0.25 0.00 1.00 0.75 0.50 0.25 0.00 NM PPT FT NM CPOX PPT FT PPOX 1.25 1.50 Relative mRNA levels (PPOX / GAPDH) Relative mRNA levels (CPOX / GAPDH) PPT 1.00 0.75 0.50 0.25 0.00 1.25 1.00 0.75 0.50 0.25 0.00 NM PPT FT NM PPT FT Fig. 5-9 正常粘膜 NM と腫瘍で発現量が同程度の遺伝子 91 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 5.4 考察 ALA 投与における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積は、特定のがんに限らず、脳腫瘍や食 道がん、胃がん、皮膚がん、膀胱がん、子宮頸がんなど、多くの癌腫で報告されている。 本研究では、ヒト膀胱がん検体において in vivo の PEPT1 および ABCG2 が細胞内ポルフィ リン蓄積・ALA-PDT 感受性に与える影響を調べることを目的として、ALA-PDD で検出さ れる蛍光強度の強弱を指標に、腫瘍におけるポルフィリン種を HPLC で同定した。さらに、 ポルフィリン生合成関連遺伝子の mRNA 発現量をリアルタイム PCR 法で定量した(Fig. 5-10)。PpIX が蓄積した膀胱がん臨床検体において、PEPT1 発現上昇と ABCG2 の発現低 下を報告するのは本研究が初めてである。 ALA Cytoplasm ALA ALA dehydratase Extracellular Space PEPT1 Porphobilinogen PEPT2 PBG deaminase Mitochondrion δ-Aminolevulinic acid (ALA) Glycine Succinyl CoA Hydroxymethylbilane Uroporphyrinogen III synthase ALA synthase Coproporphyrinogen III Uroporphyrinogen III ABCB6 Coproporphyrinogen III oxidase Protoporphyrinogen oxidase Fe Heme Up-regulated ABCG2 Protoporphyrin IX Protoporphyrin IX Ferrochelatase Uroporphyrinogen decarboxylase Coproporphyrinogen III Protoporphyrinogen 2+ PAT1 ? Heme Heme oxygenase I FLVCR Biliverdin Not changed Biliverdin reductase Down-regulated Bilirubin Fig. 5-10 PPT 膀胱がんにおけるポルフィリン関連遺伝子の発現 92 第 5 章 膀胱がん臨床検体における薬物トランスポーターの発現 生体では UPI および III、CPI および III、PpIX のポルフィリンが生合成され、特に ALA を服用したがん患者の尿中には UP が多く検出されることが知られている(Ishizuka et al., PDPDT)。そのため、膀胱がん組織には数種類のポルフィリンが混在していると予想され た。しかしながら、膀胱がん組織からは胃がんや膀胱がん細胞株と同様に PpIX のみが検 出され、UP や CP は検出されなかった。隆起腫瘍である PPT では正常組織 NM の約 6.6 倍の PpIX を蓄積しており、この性質は PEPT1 の発現上昇と ABCG2 発現低下という遺伝 子発現を反映していた。一方、平坦ながん FT で検出された PpIX は正常組織 NM と比べ て 1.3 倍程度であった。FT において、ALA の主要なトランスポーターである PEPT1 の発 現が認められないため、PEPT2 や PAT1 など、PEPT1 よりも ALA に対する親和性や輸送 活性の低いトランスポーターを介して ALA が腫瘍に取り込まれたためと考えられる。 PEPT1 を介した ALA の取り込みが亢進していないにも関わらず、FT は PPT と同様に N と比べて ABCG2、および PpIX からヘムを合成する酵素 FECH の発現が低下しているため、 PDD 陽性に検出されたと考えられる。以前から FECH はがんにおける活性の低下が示唆 されており、本研究においてもそれを支持する結果となった。FT における PDD 陽性と HPLC で定量した PpIX 蓄積量が少ないことは一見矛盾する結果と思われるが、Fig. 5-4 の 内視鏡画像が示すように FT は PDD 陽性領域と陰性領域が混在している。一般に平坦な領 域の生検において、鉗子が上皮だけでなく筋層まで到達するとされており、4 割程度の正 常組織が含まれると考えられている。また、平坦な病変に蓄積した PpIX は PDD に用いる 青色の励起光による退色の影響が大きいため、結果として HPLC による定量値は小さく検 出された可能性が考えられる。 以上のことから膀胱がんの臨床検体において、腫瘍特異的ポルフィリン蓄積および ALA-PDT 感受性を予測する上で、PEPT1 と ABCG2 の発現は臨床上実用的な効果予測因 子となり得ることを強く示唆している。しかし、ALA-PDD では炎症部位など病理学的に はがんと診断されない領域を偽陽性として検出されることも知られている。ポルフィリン 定量と遺伝子発現解析の症例を増やして、がんの悪性度との関係を調べる必要がある。 93 第 6 章 総括 第6章 総括 6.1 結論 6.2 今後の課題と展望 94 第 6 章 総括 6.1 結論 がんの三大療法として確立している外科手術、化学療法、放射線療法は、いずれも侵襲 性が高く患者に強い身体的負担を強いるものである。そのため、患部の正常な機能を温存 して治療を可能にする PDT は、患者の QOL を維持する上で有用な代替療法である。近年、 新しい PDT 薬として着目されている ALA は、腫瘍におけるポルフィリン蓄積の特異性が 高く従来の PDT 薬の問題であった光過敏症状を呈する副作用を起こさない。そのため、 ALA は PDT だけでなくがんの診断に至るまで、がんに関する多くの場面で臨床応用が普 及しつつある。しかし、ALA-PDT は化学療法や放射線療法と同様に、効果に個人差が生 じるという問題点がある。ALA を用いたがん診断においてもがんの検出感度は著しく向 上するものの、偽陽性や偽陰性を判別する基準は確立していない。ALA を用いたがん診 断の精度を高め、ALA-PDT 治療効果を術前に予測することは、個別化医療を実現するた めの第一歩であり効果的ながん治療に貢献すると考えられる。そこで本研究では、がん細 胞におけるポルフィリン代謝異常の分子機構を解明することにより、PDT 効果予測因子 を提供し、かつ PDT 薬の腫瘍選択性の向上に貢献することを目的として計画された。 胃がんは世界で罹患率・死亡率ともに最も高いがんの 1 つである(81,82)。特に胃がん患 者の 10-20%で認められる腹膜播種(83)は、外科手術によって根治的に切除した場合であっ ても、進行度の高い T3 また T4 ステージの腫瘍を持つ患者の約 6 割で再発が起こる(84)。 胃がん細胞の腹膜播種を起こした患者の予後は非常に悪く平均生存期間はわずか 3 か月で ある(85,86)。腹膜は中皮によって覆われたゆるい結合組織の薄い層から形成されている (87)。PDT の課題として可視光を深部の腫瘍組織まで到達させることが出来ず、十分な治 療効果が得られない点が挙げられる。しかし、腹膜は組織中への光透過性の問題を考慮す る必要がなく、ALA-PDT を適用できるため、腹膜播種に対して ALA-PDT は相性の良い 有望な治療方法であると期待できる。ALA 投与における腫瘍特異的 PpIX 蓄積によって、 ALA-PDT はがんに選択的であるため侵襲が低いことは前述のとおりであるが、がん細胞 における PpIX の赤色蛍光を検出することで、外科手術の術中におけるがん細胞の蛍光診 95 第 6 章 総括 断を可能にすると考えられる。このような PpIX の蛍光ガイド下での外科手術は、すでに 悪性脳腫瘍において確立されている。悪性脳腫瘍に対する ALA を用いた蛍光ガイド下で の外科手術について、臨床試験の結果、患者の無増悪生存期間の統計的有意な延長が報告 されている(100,101)。以下に各章で得られた知見を要約して述べる。 第 2 章では、胃がん細胞株を用いて ALA-PDT によって引き起こされる細胞死の機構を 調べた結果、ALA-PDT におけるアポトーシスの誘導は、腫瘍抑制タンパク質である p53 経路を介して起こることを見出した。がんの半数以上を占めるとされる変異型 p53 を有す る細胞ではアポトーシスは認められず、ネクローシスで細胞死が誘導された。このことか ら、野生型 p53 を有する細胞はアポトーシスとネクローシスが同時に誘導されるため、変 異型 p53 を有するがん細胞よりも ALA-PDT に対して高い感受性を示すことが示唆された。 変異型 p53 は化学療法や放射線療法に対して予後不良因子となることと同様、ALA-PDT においても治療抵抗性の一因と考えられた。しかし、アポトーシスを起こさないがん細胞 であってもネクローシスを誘導できる点において、ALA-PDT の優位性がある。p53 変異 等のため ALA-PDT 抵抗性を示すがん細胞には、PDT によって確実にネクローシスを誘導 するために必要十分な PpIX の蓄積を試みなければならない。 第 3 章では、ALA 投与における腫瘍特異的な PpIX 蓄積機構に関わる直接的な因子を解 明するために、ポルフィリン-ヘム生合成経路に焦点を当てて、胃がん細胞株における各 遺伝子の発現解析を行った。ポルフィリン-ヘム生合成に関わる酵素は 1950 年代にはすで に系統的に解明されていたが、近年、ALA やポルフィリンの細胞膜・ミトコンドリア膜 間の輸送においてトランスポーターの関与が示唆されていた。このため本研究における発 現解析の対象は、生合成酵素だけでなくトランスポーター遺伝子も含めた。その結果、ALA 投与における腫瘍特異的 PpIX 蓄積は、ALA の取り込みを担うペプチドトランスポーター PEPT1 と PpIX の細胞外排出を担うヒト ABC トランスポーターABCG2 の発現量のバラン スによって、制御されていることが強く示唆された。これまでの先行研究では個々の遺伝 子に着目して、ポルフィリン生合成における詳細な役割を明らかにする研究が多く報告さ れてきた。本研究ではポルフィリン-ヘム生合成経路に関与する一連の遺伝子群について 96 第 6 章 総括 包括的に研究し、腫瘍特異的ポルフィリン蓄積においてもっとも支配的な影響を与える因 子として、PEPT1 と ABCG2 を同定した点が独自の特色として挙げられる。 トランスポーターの発現が異なる細胞間で顕著に異なる一方、胃がんの培養細胞株にお いて、ALA-PDT 感受性や PpIX 蓄積量の違いによらず、PpIX からヘムを生合成する酵素 FECH の mRNA 発現には変化が認められなかった。これまで、FECH の酵素活性が低下す ることが PpIX 蓄積の原因としてしばしば論じられてきた。それにも関わらず先行研究に よれば、2 価鉄のキレート剤である deferoxamine を PpIX に 2 価鉄を配位させる FECH と 競合させることで、ALA-PDT 効果の向上が報告されている(79,80)。これはがん細胞にお ける FECH の活性が deferoxamine によって抑制されることを示唆している。しかしながら、 FECH の活性低下と PpIX 蓄積量の増加はがん細胞に特異的ではなく、正常細胞において も観測される。すなわち、光過敏症状の副作用の出現確率が増大することが予測されるた め、ALA と 2 価鉄キレート剤の併用は PpIX 蓄積の腫瘍特異性にとって必ずしも好ましい とは言えない。また、抗がん剤や放射線療法の副作用で骨髄における造血能力が低下して、 しばしば貧血症状が現れる。がん治療において、患者の貧血症状をコントロールする必要 性から鉄剤を服用することが多く、2 価鉄キレート剤を ALA-PDT と併用することは現実 的でない。本研究の結果から、ALA-PDT 感受性を向上させるための新しい治療戦略とし て、トランスポーターに対する制御薬と ALA-PDT を併用することで ALA-PDT 感受性を 向上する可能性が示唆された。 第 4 章では、ALA 投与における腫瘍特異的 PpIX 蓄積における PEPT1、および ABCG2 の役割を遺伝子工学的手法によって調べた。内在性の PEPT1 タンパク質をほとんど発現 していない胃がん細胞株 KKLS を親株として、PEPT1-EGFP 融合タンパク質の安定発現株 を樹立し、PEPT1 の過剰発現がポルフィリン蓄積量と ALA-PDT 感受性に与える影響を評 価した。PEPT1-EGFP は細胞膜上に局在して発現し、コントロールの PEPT1-EGFP を発現 しない細胞に比べて、PEPT1-EGFP 安定発現株では細胞内 PpIX 蓄積量が約 3 倍増加した。 PEPT1 の過剰発現によって、ALA-PDT 感受性も顕著に亢進した。KKLS は変異型 p53 を 有する細胞であり、p53 経路を介したアポトーシスを引き起こさないが、PEPT1-EGFP 過 97 第 6 章 総括 剰発現株における ALA に対する IC50 は約 15 µM と算出され、野生型 p53 を有する MKN45 細胞よりも高い感受性を示した。これは PEPT1-EGFP の過剰発現によって、細胞内に取り 込まれる ALA の量が顕著に増加したことを示唆する。ALA を細胞内に取り込むトランス ポーターとして PEPT2 (SLC15A2)、PAT1 (SLC36A1)の関与も報告されているが、ALA と の親和性や輸送活性の点に加えて、細胞間で発現量が顕著に異なる点においても PEPT1 を介した取込みが支配的であると考えられる(56,58)。 また、ABCG2 を高発現して ALA-PDT に抵抗性を示す胃がん細胞株 NKPS を親株とし て、ABCG2 mRNA の配列に特異的な siRNA を用いた RNAi 法によって、一過的な ABCG2 発現抑制株を樹立した。siRNA の導入によって、ABCG2 mRNA 発現量は 1/10 以下となり、 タンパク質発現量も顕著に抑制された。コントロールの ABCG2 が発現している株と比較 して、ABCG2 発現抑制株では細胞内 PpIX 蓄積量が約 2 倍、有意に増加した。ALA-PDT 感受性も有意に亢進して、ALA に対する IC50 は約 350 µM と算出された。PEPT1 の過剰発 現と比べて、ABCG2 発現抑制による細胞内 PpIX 蓄積量の増加が顕著でない理由として、 残存する ABCG2 タンパク質の影響が考えられる。PpIX は ABCG2 タンパク質の生理的な 基質であり、ABCG2 との高い親和性が報告されている。このため、ABCG2 の発現が完全 に欠損しない限り、PpIX の排出は完全には阻害されないと解釈できる。また、NKPS 細胞 は内在性の PEPT1 をほとんど発現しておらず、ALA の取り込みは PEPT2 など ALA との 親和性が低いトランスポーターを介したものであることも PpIX 蓄積量の増加が穏やかで あった結果を支持すると考えられる。 ABCG2 特異的な阻害剤として知られる FTC は、ABCG2 によって輸送される抗がん剤 の抵抗性を克服することが報告されている(102)。本研究でも ABCG2 の機能を阻害する目 的で FTC を ALA と併用して、細胞内 PpIX 蓄積と ALA-PDT 感受性に与える影響を調べ た。FTC の効果は、ABCG2 タンパク質を高発現している NKPS、TMK-1 細胞のみにおい て認められて、RNAi 法による ABCG2 発現抑制と同様な傾向を示した。以上の結果から、 PEPT1 と ABCG2 の発現が ALA-PDT 感受性を規定できる主要な因子であることが示され た。これによって、ALA-PDT 感受性を術前に予測することが可能になると同時に、 98 第 6 章 総括 ALA-PDT 効果を向上させる新しい治療戦略として、トランスポーターに対する制御薬と ALA-PDT を併用することが実用的であることを強く示唆している。 ALA 投与後の腫瘍選択的 PpIX 蓄積とその蛍光を利用したがんの検出は、脳腫瘍・食道 がん・膀胱がん・子宮頸がん・皮膚がんですでに臨床応用されている(103-107)。これらの 事実は ALA 投与における PpIX の腫瘍選択性は様々な組織で共通することを示している。 PEPT1 と ABCG2 の重要な役割は、ヘム生合成に依存する生化学的過程や正常細胞に優先 して、腫瘍特異的 PpIX 蓄積に密接な関わりを持っていると考えられる。遺伝子およびタ ンパク質発現と、ALA 代謝物である PpIX 蓄積量および ALA-PDT 感受性を体系的に調べ る本研究の方法論によって、胃がんだけでなく他の臓器のがんについても ALA-PDT の効 果予測バイオマーカー探索に貢献することが出来ると言える。この方法論で測定した PEPT1 と ABCG2 の発現量は、in vitro において ALA-PDT 感受性、ポルフィリン蓄積が非 常によく相関していたという点からも実現性の高さが伺える。以上の一連の研究結果から、 ALA 投与における腫瘍特異的 PpIX 蓄積とがんの ALA-PDT 感受性において、PEPT1 が主 要な感受性規定因子で p53 変異の有無は 2 次的な因子であると結論できる。また、ABCG2 は ALA-PDT の抵抗性因子であるが、変異型 p53 を有する治療抵抗性のがんも、トランス ポーター調節薬の併用で ALA-PDT による治療が可能になると示唆される。 第 5 章では、実際に in vitro で認められた ALA 投与後の腫瘍特異的ポルフィリン蓄積と PEPT1・ABCG2 の関係性を in vivo で調べるために、ヒト膀胱がんの細胞株および膀胱が ん臨床検体を用いて研究を展開した。膀胱がんに対する ALA-PDD で陽性と判定された検 体について、HPLC 解析によって腫瘍組織中に存在する主要なポルフィリンは PpIX であ ることに加えて、PpIX の蓄積量に相関して PEPT1 発現増加および ABCG2 発現低下を明 らかにした。この結果は膀胱がんに対する ALA-PDD の有効性を裏付けるものであり、胃 がんと膀胱がんという異なる組織に由来するがんにおいて、共通の腫瘍特異的 PpIX 蓄積 機構が存在することを示している。 TURBT による膀胱がんの内視鏡手術は、ALA でがんの術中診断を行う事によって、通 常の白色光下での施術に比べて、無増悪生存期間の統計的有意な延長が報告されている 99 第 6 章 総括 (98,108)。加えて、ALA-PDD を用いた TURBT では、重篤な副作用が発生せず、予後が向 上することも示されている。膀胱がんに対する ALA-PDD を用いたがん診断の精度は、感 度 93.4%と白色光下での 44.7%を凌駕する一方、特異度は 58.9%と白色光の 94.1%に比べ て劣っている(98)。これは ALA-PDD における偽陽性の出現率が高いことに起因する。し かし、ALA-PDD によって膀胱がんの検出感度が著しく向上したことは、特異度の低下を 伴ったとしても、術後の膀胱がんの再発率を著しく低下させた点で臨床上非常に重要であ る。従来の白色光下での TURBT では、上皮内癌や異形成と言った平坦な組織は内視鏡的 に不可視な病変として残存し、再発率が非常に高いことが問題であった。白色光下では正 常組織と区別することの難しかった上皮内癌などの平坦な病変も、ALA-PDD で可視化で きるようになったことは、ALA が医療技術の進歩にもたらした恩恵は大きいと言える。 膀胱がんの特徴として、形態と悪性度やがんの組織内深達度が良く相関していることが 知られる。Fig. 5-4 に示した膀胱内腔に隆起して突出している PPT は、多くが粘膜上皮に 留まる表在性のがんであり悪性度が低い一方で、FT のように膀胱内壁に平坦に広がった 形態のがんは、表在性であっても悪性度の高いとされている。膀胱がんではがんの悪性度 をグレード 1 から 3 で分類するが、上皮内癌はグレード 3 の悪性度の高いがん細胞が多く 含まれているため、浸潤がんに移行しやすい。ALA-PDD 下での TURBT はこのグレード 3 の膀胱がんの再発率を低下させる傾向が示唆されている。膀胱がんの悪性度とポルフィリ ン蓄積量の関係について報告された例は存在しないが、悪性脳腫瘍においては悪性度が高 いほど PpIX 蓄積量が多いことが知られている。本研究で、胃がんと膀胱がんでは ALA 投 与における腫瘍特異的 PpIX 蓄積において、トランスポーターである PEPT1 および ABCG2 が共通して重要である機構を見出した。大変興味深いことに先行研究において、悪性脳腫 瘍における選択的 PpIX 蓄積に関して、PEPT1 および ABCG2 の発現とは異なる分子機構 も示唆されている。悪性脳腫瘍の臨床検体について術中 PpIX 蛍光の強度に基づいて検体 採取を行い、ポルフィリン生合成経路の mRNA 発現を調べた結果、PpIX 蛍光が強い検体 で PEPT1 の発現が認められず CPOX の高発現が認められた(109)。脳腫瘍は神経細胞に由 来する一方、胃がんや膀胱がんは上皮細胞に由来するため、発生学的特徴が大きく異なる。 100 第 6 章 総括 このような組織間の性質の違いも、腫瘍選択的ポルフィリン蓄積の分子機構の違いに反映 されているかもしれない。 本研究によって、細胞内への ALA 取り込みを担う PEPT1 と細胞外への PpIX の排出を 担う ABCG2 の腫瘍特異的ポルフィリン蓄積に対する重要性を示した。がんの PDT は副作 用が少なく患者の QOL の維持のために効果的な治療法の選択肢である。PEPT1 および ABCG2 の発現量を考慮に入れて PDT を行うことで、PDT 効果の個人差を予測できるため、 がんにおける PEPT1 および ABCG2 発現パターン別の診療方針を立てることが可能となり、 個別化医療実現のための足掛かりとなることが期待される。 6.2 今後の課題と展望 ALA を用いたがんの腫瘍特異的ポルフィリン蓄積の学術的な知見とその応用に関して、 今後さらに詳細に調べる必要がある課題とその結果から予想される将来展望について述 べる。 第 2 章では、ALA-PDT によって引き起こされる細胞死の機構を調べ、ALA-PDT におけ るアポトーシスの誘導は、腫瘍抑制タンパク質である p53 経路を介して起こることを見出 した。p53 はミトコンドリアに直接働きかけてアポトーシスシグナルを伝達する経路や、 核内でアポトーシス関連の標的遺伝子の転写を促進する経路など、アポトーシスに限って も多岐に渡るシグナル伝達経路の上流に位置する。ALA-PDT によるアポトーシスシグナ ルにおいて、p53 の Ser15 リン酸化以降のシグナル伝達経路はまだ解明されていない。先 行研究によれば、p53 の特異的阻害剤である PFT-α は JNK や ERK といった多段階のアポ トーシス経路を止めることが報告されている(76)。ALA-PDT で活性化される p53 の下流シ グナルを解明することで、変異型 p53 を有する細胞であってもアポトーシスを誘導するこ とが出来る効率的な治療戦略に結びつく知見が得られるかもしれない。 第 3 章および第 4 章では、ALA 投与における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積において、 PEPT1 および ABCG2 の発現バランスが重要であることを明らかにした。複数のがん細胞 101 第 6 章 総括 株が ALA-PDT に対して示した不均一な感受性も、PEPT1 と ABCG2 の発現を調べること で予測できることを示した。同じ組織に由来するがん細胞であっても、PEPT1 と ABCG2 の発現量は細胞株によって大きく異なった。この発現量の違いは mRNA レベルで認めら れていることから、PEPT1 と ABCG2 の転写制御や遺伝子重複の機構を解明することに よって、発現の違いを生み出す分子機構を明らかにする必要がある。PEPT1 と ABCG2 の 発現制御機構の解明によって、治療抵抗性のがん細胞を ALA-PDT に感受性を示す細胞へ と分化誘導させる試みも期待できる。 第 5 章では、膀胱がん臨床検体を用いて PpIX が蓄積する隆起腫瘍 PPT における PEPT1 高発現と ABCG2 低発現を初めて報告した。ALA-PDD 陽性の平坦な腫瘍 FT においても ABCG2 低発現を認めた。今後、解析対象とする症例を増やし、膀胱がんの悪性度と PpIX 蓄積量、それに付随する PEPT1 や ABCG2 の発現量との相関関係を調べるする必要がある。 また、ポルフィリン生合成経路に限らず、DNA microarray やマススペクトロメトリーなど 網羅的解析を行うことによって、がんと非がんの本質的な違いが明らかにされると考えら れる。これによって、ALA-PDD の課題として残されている高い偽陽性検出率の問題点を 解決する糸口を見出す可能性がある。 日本の医療において、欧米諸国よりも新薬の承認が何年間も遅れてしまい、患者が効果 的な新薬の恩恵を受けることが出来ないというドラッグラグの問題が深刻である。残念な がら ALA もその例外ではなく、2011 年現在でもまだ日本における医薬品としての認可は 得られていない。米国では 1999 年、ヨーロッパでは 2001 年にそれぞれ ALA は医薬品と して承認されており、皮膚がんの PDT や脳腫瘍の外科手術において著しい成果を上げて いる。今後の研究の展開によって、ALA を用いたがん診断の精度と ALA-PDT 治療効率を 向上させることで ALA の信頼性を一層高めて、日本におけるがんの診断および治療薬と して ALA が承認されてがんの征圧に貢献することを期待したい。 102 参考文献 参考文献 1. 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Hagiya Y, Endo Y, Yonemura Y, Okura I, and Ogura S. Tumor Suppressor Protein p53-dependent Cell Death Induced by 5-Aminolevulinic Acid (ALA)-based Photodynamic Sensitization of Cancer cells in Vitro. ALA-Porphyrins Science. in press, 2011. 2. Hagiya Y, Endo Y, Yonemura Y, Takahashi K, Ishizuka M, Abe F, Tanaka T, Okura I, Nakajima M, Ishikawa T, and Ogura S. Pivotal Roles of Peptide Transporter PEPT1 and ATP-Binding Cassette (ABC) Transporter ABCG2 in 5-Aminolevulinic Acid (ALA)-Based Photocytotoxicity of Gastric Cancer Cells in Vitro. Photodiagnosis and Photodynamic Therapy. in press, 2011. 原著論文 1. Adachi T, Nakagawa H, Chung I, Hagiya Y, Hoshijima K, Noguchi N, Kuo MT, and Ishikawa T. Nrf2-dependent and -independent induction of ABC transporters ABCC1, ABCC2, and ABCG2 in HepG2 cells under oxidative stress. J Exp Ther Oncol. 6(4):335-48, 2007. 2. Hagiya Y, Adachi T, Ogura S, An R, Tamura A, Nakagawa H, Okura I, Mochizuki T, and Ishikawa T. Nrf2-dependent induction of human ABC transporter ABCG2 and heme oxygenase-1 in HepG2 cells by photoactivation of porphyrins: biochemical implications for cancer cell response to photodynamic therapy. J Exp Ther Oncol. 7(2):153-67, 2008. 3. An R, Hagiya Y, Tamura A, Li S, Saito H, Tokushima D, and Ishikawa T. Cellular Phototoxicity Evoked Through the Inhibition of Human ABC Transporter ABCG2 by Cyclin-dependent Kinase Inhibitors In vitro. Pharm Res. 26(2):449-58, 2008 4. Adachi T, Nakagawa H, Hagiya Y, Yasuoka T, and Ishikawa T. Transport-Metabolism 111 研究業績目録 Interplay: LXRα-Mediated Induction of Human ABC Transporter ABCC2 (cMOAT/MRP2) in HepG2 Cells. Molecular Pharmaceutics. 6 (6): 1678–1688, 2009. 5. Ogura S, Maruyama K, Hagiya Y, Sugiyama Y, Tsuchiya K, Takahashi K, Abe F, Tabata K, Okura I, Nakajima M, and Tanaka T. The effect of 5-aminolevulinic acid on cytochrome c oxidase activity in mouse liver. BMC Research Notes. 4 (1): 66, 2011. 6. Ishizuka M, Hagiya Y, Mizokami Y, Honda K, Tabata K, Kamachi T, Takahashi K, Abe F, Tanaka T, Nakajima M, Ogura S, and Okura I. Porphyrins in mouse urine after administration of 5-aminolevulinic acid as a potential tumor marker. Photodiagnosis and Photodynamic Therapy. 8 (4): 328-31, 2011. 7. Takahashi K, Ikeda N, Nonoguchi N, Kajimoto Y, Miyatake S, Hagiya Y, Ogura S, Nakagawa H, Ishikawa T, and Kuroiwa T. Enhanced expression of coproporphyrinogen oxidase in malignant brain tumors: CPOX expression and 5-ALA-induced fluorescence. Neuro-oncology. 13 (11): 1234-43, 2011. 総説 1. Tamura A, An R, Hagiya Y, Hoshijima K, Yoshida T, Mikuriya K, and Ishikawa T. Drug-induced phototoxicity evoked by inhibition of human ABC transporter ABCG2: development of in vitro high-speed screening systems. Expert Opin Drug Metab Toxicol. 4(3):255-72, 2008. 2. Toyoda Y, Hagiya Y, Adachi T, Hoshijima K, Kuo MT, and Ishikawa T. MRP class of human ATP binding cassette (ABC) transporters: historical background and new research directions. Xenobiotica. 38(7-8):833-62, 2008. 3. Hagiya Y, Adachi T, Ogura S, An R, Tamura A, Nakagawa H, Mochizuki T, and Ishikawa T. Role of Nrf2 in the Induction of Human ABC Transporter ABCG2 and Hemeoxygenase-1 in HepG2 cells via Photoactivation of Porphyrins. Porphyrins. 18 (1): 12-17, 2009. 112 研究業績目録 4. Adachi T, Hagiya Y, Nakagawa H, and Ishikawa T. Modulation of Redox Homeostasis by Daily Ingestion of Natural Products and Food Supplements. FFI Journal. 214 (1): 45-57, 2009. 5. An R, Hagiya Y, Tamura A, Li S, Saito H, and Ishikawa T. Cellular phototoxicity evoked through the inhibition of human ABC transporter ABCG2 by cyclin-dependent kinase inhibitors in vitro. Porphyrins. 18 (1): 7-11, 2009. 6. Hagiya Y, An R, Tamura A, and Ishikawa T. The significance of ABCG2 in cellular porphyrin homeostasis. Porphyrins. 18 (2-3): 7-14, 2009. 7. Ishikawa T, Nakagawa H, Hagiya Y, Nonoguchi N, Miyatake S, and Kuroiwa T. Key Role of Human ABC Transporter ABCG2 in Photodynamic Therapy and Photodynamic Diagnosis. Advanced in Pharmacological Science. Article ID 587306, 13 pages, 2010. 8. Yano S, Hirohara S, Obata M, Hagiya Y, Ogura S, Ikeda A, Kataoka H, Tanaka M, and Joh T. Current states and future views in photodynamic therapy. Journal of Photochemistry and Photobiology C: Photochemistry Reviews. 12(1): 46-67, 2011. 9. Ishikawa T, Takahashi K, Ikeda N, Kajimoto Y, Hagiya Y, Ogura S, Miyatake S and Kuroiwa T. Transporter-Mediated Drug Interaction Strategy for 5-Aminolevulinic Acid (ALA)-Based Photodynamic Diagnosis of Malignant Brain Tumor: Molecular Design of ABCG2 Inhibitors. Pharmaceutics. 3 (3): 615-635, 2011. 10. Ogura S, Hagiya Y, Tabata K, Kamachi T, and Okura I. Application of porphyrin-related compounds for cancer photodynamic therapy and diagnosis. Current Topics in Medicinal Chemistry. in press, 2011. 学会発表 口頭発表 1. ○萩谷 萩谷 祐一郎、足立 祐一郎 達彦、小倉 俊一郎、安 然、田村 藍、中川 大、 113 研究業績目録 望月 徹、石川 智久 「Role of Nrf2 in the Induction of Human ABC Transporter ABCG2 and Hemeoxygenase-1in HepG2 cells via Photoactivation of Porphyrins」、第 35 回 ポルフィリン研究会、AM-4、東京、2008 年 4 月 2. ○安 然、萩谷 祐一郎、 祐一郎 田村 藍、李 杉珊、齊藤 光、石川 智久 「Cellular phototoxicity evoked through the inhibition of human ABC transporter ABCG2 by cyclin-dependent kinase inhibitors in vitro」、第 35 回 ポルフィリン研究会、AM-5、 東京、2008 年 4 月 3. ○萩谷 萩谷 祐一郎、足立 祐一郎 望月 徹、石川 達彦、小倉 俊一郎、安 然、田村 藍、中川 大、 智久 「ポルフィリンの光励起によるヒト ABC トランスポー ターABCG2 とヘムオキシゲナーゼの誘導における Nrf2 の役割」、トランス ポーター研究会 4. 第二回関東部会、O-10、東京、2008 年 12 月 ○萩谷 萩谷 祐一郎、遠藤 祐一郎 良夫、小倉 俊一郎、大倉 一郎「アミノレブリン酸 投与における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積機構の解明」、日本化学会 第 90 春 季年会、3B4-50、大阪、2010 年 3 月 5. ○萩谷 萩谷 祐一郎、遠藤 祐一郎 良夫、小倉 俊一郎、大倉 一郎「Tumor specific porphyrin accumulation after administration of 5-Aminolevulinic acid」平成 22 年度が ん若手研究者ワークショップ、O-27、蓼科、2010 年 9 月 6. ○松本 健太郎、萩谷 萩谷 祐一郎、大倉 祐一郎 一郎、小倉 俊一郎 「アミノレブリン 酸を用いたポルフィリン蓄積に関わるトランスポーターの探索」日本化学会第 91 春季年会(2011)、3B2-39、神奈川、2011 年 3 月 7. ◯杉山 大倉 雄太、萩谷 萩谷 祐一郎、林 祐一郎 一郎、小倉 哲也、土屋 京子、石塚 昌弘、田中 徹、 俊一郎 「アミノレブリン酸投与によるマウスシトクロム c オキシダーゼ活性への影響」日本化学会第 91 春季年会(2011)、3B2-36、神奈川、 2011 年 3 月 8. ○湯浅 英哉、渡瀬 司、田中 寛也、小倉 俊一郎、萩谷 萩谷 祐一郎、高橋 究、井上 祐一郎 克 徹 「ALA とランタニドナノ粒子を併用した近赤外線力学治療法の 114 研究業績目録 開発」第 1 回ポルフィリン-ALA 学会、GO-5、東京、2011 年 5 月 9. ○高橋 賢吉、池田 一郎、小倉 一郎 直廉、野々口 俊一郎、中川 宣永、宮武 直助、梶本 大、石川 智久、黒岩 伸一、萩谷 萩谷 祐 敏彦 「アミノレブリン酸 (5-ALA)による悪性脳腫瘍の蛍光強度とその調節因子について」第 1 回ポルフィ リン-ALA 学会、GO-9、東京、2011 年 5 月 10. ○松本 健太郎、萩谷 萩谷 祐一郎、中川 祐一 大、大倉 一郎、小倉 俊一郎 「アミ ノレブリン酸を用いたポルフィリン蓄積に関わるトランスポーターの探索」第 1 回ポルフィリン-ALA 学会、SO-14、東京、2011 年 5 月 11. ○杉山 郎、小倉 雄太、萩谷 萩谷 祐一郎、林 祐一郎 哲也、土屋 京子、石塚 昌宏、大倉 一 俊一郎 「アミノレブリン酸のマウスシトクロム c オキシダーゼ活性 に及ぼす影響」第 1 回ポルフィリン-ALA 学会、SO-15、東京、2011 年 5 月 12. ○萩谷 萩谷 祐一郎、遠藤 良夫、米村 祐一郎 田中 徹、大倉 一郎、中島 豊、高橋 昌宏、安部 究、石塚 元夫、石川 智久、小倉 史紀、 俊一郎 「Pivotal Role of Peptide Transporter PEPT1 and ATP-Binding Cassette (ABC) Transporter ABCG2 in 5-Aminolevulinic Acid (ALA)-Based Photodynamic Sensitization of Cancer cells in Vitro」平成 23 年度がん若手研究者ワークショップ、O-17、蓼科、2011 年 9 月 13. ○Ishikawa T, Takahashi K, Ikeda N, Kajimoto Y, Hagiya Y, Ogura S, Miyatake S, and Kuroiwa T. Molecular fluorescence imaging to assist neurosurgery of malignant brain tumors in humans: from bench to bedside. 日独がんワークショップ、広島、2011 年 9月 ポスター発表 1. ○萩谷 萩谷 祐一郎、足立 祐一郎 達彦、中川 大、星島 一幸、石川 智久 「Nrf2/Keap1 系によって発現制御を受ける ABC トランスポーターの探索」、第 2 回トランスポー ター研究会年会、P-20、東京、2007 年 6 月 2. ○Adachi T, Nakagawa H, Hagiya Y, Hoshijima K, and Ishiakawa T. Nrf2-dependent and 115 研究業績目録 -independent induction of ABC transporters ABCC1, ABCC2, and ABCG2 in HepG2 cells under Oxidative Stress. Toin International Symposium on Biomedical Engineering 2007, LE1, Kanagawa, Japan, Nov., 2007. 3. ○萩谷 萩谷 祐一郎、足立 達彦、中川 祐一郎 大、星島 一幸、石川 智久 「酸化的スト レス誘導剤による ABCG2 遺伝子の発現調節機構の解析」、トランスポーター研究 会 4. 第一回関東部会、18、神奈川、2007 年 12 月 ○萩谷 萩谷 祐一郎、足立 祐一郎 達彦、中川 大、星島 一幸、野口 範子、石川 智久 「Nrf2-dependent Induction of ABC Transporters ABCC2 and ABCG2 in HepG2 Cells under Oxidative Stress.」、第 30 回日本分子生物学会年会、1P-0121、神奈川、2007 年 12 月 5. ○Hagiya Y, Adachi T, Ogura S, An R, Tamura A, Nakagawa H, Okura I, Mochizuki T, and Ishikawa T. Nrf2-dependent Induction of Human ABC Transporter ABCG2 and Heme oxygenase-1 in HepG2 cells by Photoactivation of Porphyrins: Biochemical Implications for Cancer Cell Response to Photodynamic Therapy. Gordon Research Conferences Drug Metabolism 2008, 48, Plymouth, NH, USA, Jul., 2008. 6. ○Hagiya Y, Adachi T, Ogura S, An R, Tamura A, Nakagawa H, Okura I, Mochizuki T, and Ishikawa T. Nrf2-dependent Induction of Human ABC Transporter ABCG2 and Heme oxygenase-1 in HepG2 cells by Photoactivation of Porphyrins. The 8th International Porphyrin-Heme Symposium, Shimane, Japan, Oct., 2008. 7. ○An R, Hagiya Y, Tamura A, Li S, Saito H, and Ishikawa T. Cellular phototoxicity evoked through the inhibition of human ABC transporter ABCG2 by cyclin-dependent kinase inhibitors in vitro. The 8th International Porphyrin-Heme Symposium, Shimane, Japan, Oct., 2008. 8. ○萩谷 萩谷 祐一郎、田村 藍、石川 祐一郎 智久 「Nrf2-dependent Induction of ABCG2 and HO-1 by Photoactivation of Porphyrins: Implications for Photodynamic Therapy」、第 67 回 日本癌学会学術総会、P-5163、愛知、2008 年 10 月 116 研究業績目録 9. ○An R, Hagiya Y, Tamura A, Li S, Saito H, and Ishikawa T. Cellular phototoxicity evoked through the inhibition of human ABC transporter ABCG2 by cyclin-dependent kinase inhibitors in vitro. Toin International Symposium on Biomedical Engineering 2008, LE1, Kanagawa, Japan, Oct., 2008. 10. ○足立 達彦、萩谷 萩谷 祐一郎、中川 祐一郎 大、石川 智久 「LXR plays a key role in the expression of ABC transporter ABCC2 (cMOAT/MRP2).」、トランスポーター研究会 第二回関東部会、P-20、東京、2008 年 12 月 11. ○萩谷 萩谷 祐一郎、足立 祐一郎 倉 一郎、望月 達彦、小倉 徹、石川 俊一郎、安 然、田村 藍、中川 大、大 智久 「ポルフィリンの光励起による Nrf2 依存的な ヒト ABC トランスポーターABCG2 およびヘムオキシゲナーゼ-1 遺伝子の発現誘 導」、第 31 回日本分子生物学会年会、1P-0230、兵庫、2008 年 12 月 12. ○安 然、萩谷 萩谷 祐一郎、田村 祐一郎 藍、李 杉珊、齊藤 光、石川 智久 「Cellular phototoxicity evoked through the inhibition of human ABC transporter ABCG2 by cyclin-dependent kinase inhibitors in vitro.」、第 31 回日本分子生物学会年会、1P-0229、 兵庫、2008 年 12 月 13. ○Hagiya Y, Adachi T, Ogura S, An R, Tamura A, Nakagawa H, Okura I, Mochizuki T, and Ishikawa T. Nrf2-dependent Induction of Human ABC Transporter ABCG2 and Hemeoxygenase-1 in HepG2 cells by Photoactivation of Porphyrins. 第 5 回武田科学振 興財団薬科学シンポジウム、07、東京、2009 年 5 月 14. ○萩谷 萩谷 祐一郎、遠藤 祐一郎 良夫、小倉 俊一郎、大倉 一郎 「アミノレブリン酸投 与における腫瘍特異的ポルフィリン蓄積機構の解明」、第 5 回トランスポーター研 究会年会、P-13、東京、2010 年 7 月 15. ○萩谷 萩谷 祐一郎、 祐一郎 遠藤 良夫、小倉 俊一郎 「Tumor specific porphyrin accumulation after administration of 5-Aminolevulinic acid」第 69 回日本癌学会学術総会、P-1247、 大阪、2010 年 9 月 16. ○Endo Y, Ogura S, Hagiya Y, Okura I, Yonemura Y, Ishizuka M, Tanaka T, Inoue K, 117 研究業績目録 Takahashi K, and Nakajima M. Role of membrane transporters in determining ALA-PDT sensitivity in human cancer cells. 第 69 回日本癌学会学術総会、P-0423、大阪、2010 年9月 17. ○Hagiya Y, Endo Y, Inoue K, Takahashi K, Ogura S, and Okura I. Tumor specific porphyrin accumulation after administration of 5-Aminolevulinic acid. The 2010 International Chemical Congress of Pacific Basin Societies (PACIFICHEM 2010), 542, Hawaii, Dec. 2010. 18. ○遠藤 司、高橋 俊一郎、萩谷 萩谷 祐一郎、米村 祐一郎 良夫、小倉 究、中島 豊、石塚 昌宏、井上 克 元夫 「5-アミノレブリン酸を用いるがんの光線力学的療法 感受性と膜輸送系の関連性」日本薬学会第 131 年会、静岡、2011 年 3 月 19. ○Endo Y, Ogura S, Hagiya Y, Yonemura Y, Ishizuka M, Tanaka T, Inoue K, Takahashi K, and Nakajima M. Role of membrane transporters in determining ALA-PDT sensitivity in human cancer cells.日本分子生物学会第11回春季シンポジウム、金沢、2011 年 5 月 受賞歴 Best Oral Presentation Award for: 1 ○萩谷 萩谷 祐一郎、足立 祐一郎 望月 徹、石川 達彦、小倉 俊一郎、安 然、田村 藍、中川 大、 智久 「ポルフィリンの光励起によるヒト ABC トランスポー ターABCG2 とヘムオキシゲナーゼの誘導における Nrf2 の役割」、トランス ポーター研究会 2. ○松本 第二回関東部会、O-10、東京、2008 年 12 月 健太郎、萩谷 萩谷 祐一郎、中川 祐一郎 大、大倉 一郎、小倉 俊一郎 「アミ ノレブリン酸を用いたポルフィリン蓄積に関わるトランスポーターの探索」第 1 回ポルフィリン-ALA 学会、SO-14、東京、2011 年 5 月 118 研究業績目録 Best Poster Awards for: 1. ○Adachi T, Nakagawa H, Hagiya Y, Hoshijima K, and Ishiakawa T. Nrf2-dependent and -independent induction of ABC transporters ABCC1, ABCC2, and ABCG2 in HepG2 cells under Oxidative Stress. Toin International Symposium on Biomedical Engineering 2007, LE1, Kanagawa, Japan, Nov., 2007. 2. ○萩谷 萩谷 祐一郎、足立 達彦、中川 祐一郎 大、星島 一幸、石川 智久 「酸化的スト レス誘導剤による ABCG2 遺伝子の発現調節機構の解析」、トランスポーター研究 会 3. 第一回関東部会、18、神奈川、2007 年 12 月 ○Hagiya Y, Adachi T, Ogura SI, An R, Tamura A, Nakagawa H, Okura I, Mochizuki T, and Ishikawa T. Nrf2-dependent Induction of Human ABC Transporter ABCG2 and Heme oxygenase-1 in HepG2 cells by Photoactivation of Porphyrins. The 8th International Porphyrin-Heme Symposium, Shimane, Japan, Oct., 2008. Fellowship for: ○Hagiya Y, Adachi T, Ogura SI, An R, Tamura A, Nakagawa H, Okura I, Mochizuki T, and Ishikawa T. Nrf2-dependent Induction of Human ABC Transporter ABCG2 and Heme oxygenase-1 in HepG2 cells by Photoactivation of Porphyrins: Biochemical Implications for Cancer Cell Response to Photodynamic Therapy. Gordon Research Conferences Drug Metabolism 2008, 48, Plymouth, NH, USA, Jul., 2008. 119 謝辞 謝辞 本論文は筆者が東京工業大学大学院生命理工学研究科生体分子機能工学専攻博士後期 課程に在籍中の研究成果をまとめたものである。同専攻准教授・小倉俊一郎先生には指導 教員として、本研究実施の機会を与えて頂き、その遂行にあたって終始、直接のご指導を 頂いた。ここに深謝の意を表する。本研究の第 2 章から第 4 章までの実験では、金沢大学 がん進展制御研究所准教授・遠藤良夫先生、NPO 法人腹膜播種支援機構・米村豊先生、並 びに SBI アラプロモ株式会社取締役 CTO・田中徹博士、学術部顧問・安部史紀博士、執 行役員・中島元夫博士、神戸研究所所長・石塚昌宏氏、研究開発部研究員・井上克司氏、 医薬開発本部探索研究部研究員・高橋究博士に研究試料を提供して頂くとともに有益なご 助言、論文の細部にわたりご指導を頂いた。ここに深謝する。本研究の第 3 章および第 4 章に関して、独立行政法人理化学研究所オミックス基盤領域・石川智久先生に論文の細部 にわたり有益なご助言を頂いた。ここに同氏に対して深謝する。本研究の第 5 章の実験で は、奈良県立医科大学泌尿器科学教室教授・平尾佳彦先生、准教授・藤本清秀先生、助教・ 穴井智先生、並びに、高知大学医学部泌尿器科学教室教授・執印太郎先生、准教授・井上 啓史先生、福原秀雄先生に研究試料を提供して頂くとともに、膀胱がんの臨床上の問題点 など有益なご助言を頂いた。ここに深く感謝する。 静岡がんセンター研究所遺伝子診療研究部部長・望月徹先生、主任研究員・大島啓一先 生、研究員・畠山慶一先生、並びに、実験動物管理室室長・丸山宏二先生には、本研究の 実施の機会を与えて頂き、研究遂行にあたり日頃より有益なご討論ご助言を頂いた。ここ に深謝の意を表する。また、中部大学応用生物学部応用生物化学科講師・中川大先生、本 学名誉教授・大倉一郎先生、本専攻教授・赤池敏宏先生、フロンティア研究機構生体代謝 工学(ALA)寄付研究部門准教授・田畠健治先生、並びに本専攻の小倉研究室の各位には研 究遂行にあたり日頃より有益なご討論ご助言を頂いた。ここに深謝する。 本研究の一部は、独立行政法人日本学術振興会から以下の研究費の助成を受けたもので ある。 120 謝辞 特別研究員奨励費 課題名:ポルフィリン化合物による遺伝子発現制御: 癌の光線力学療法への応用 課題番号:09J09159 特別研究員:萩谷 祐一郎 若手研究(B) 課題名:アミノレブリン酸投与後の腫瘍特異的ポルフィリン蓄積メカニズムの解明 課題番号:22700910 代表者:小倉 俊一郎 基盤研究(C) 課題名:細胞膜輸送系の機能修飾に基づく光線力学的治療の効果増強法の基礎開発 課題番号:23501305 代表者:遠藤 良夫 基盤研究(A) 課題名:脳を標的とするケミカルバイオロジー:効率的に脳移行する脳腫瘍治療薬の分子 デザイン 課題番号:18201041 代表者:石川 智久 最後に筆者の研究を継続的に支えて、励ましてくれた最愛の家族に深く感謝する。 121