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論文本体
水撃圧の代数学的手法による解析と
揚水発電所水路系への応用に関する研究
2001 年 10 月
藤 野 浩 一
論文の内容の要旨
論文題目 水撃圧の代数学的手法による解析と揚水発電所水路系への応用
に関する研究
氏 名 藤野浩一
揚水式水力発電所の水路系など管路網に発生する水撃圧やサージングは圧力管路の一次
元非定常流問題であり、特性曲線法を用いて精緻な解析を行う手法が既に確立されている。
しかし、電力会社やコンサルタントの土木技術者が水理構造物の計画、設計あるいは計測
結果の解析に用いる場合、特性曲線法のプログラムは容量が大きく、計算時間が極めて長
く、入力データとして水路系を表現するのに手間がかかりすぎて多くのケースについて比
較検討することが難しい。一方、水路内の流体の圧縮性を無視した剛体理論ではサージン
グは求められるが、水撃圧を正しく求めることはできない。
そこで、著者を含む電源開発(株)土木設計部門では、高落差大容量の揚水発電所建設が始
まった 1960 年代末から、代数学的手法に基づくポンプ水車特性を織り込んだ水路系全体の
過渡現象をシミュレートするプログラムを開発し、これを用いて今日まで多数の揚水式お
よび一般水力発電所の計画および設計などに対応してきた。代数学的手法の特徴は、特性
曲線法が管路内を単位長さに区切って各格点の物理量を計算するのに対し、一様な管路で
あれば管路端の物理量さえ求めればよいことから、計算時間が大幅に短縮できることであ
る。これと並行して、管路網をネットワーク理論で扱うことにより任意の水路系に対応で
きるプログラムも 1970 年代末に著者により開発された。
しかし、これらの方法の妥当性および適用範囲について必ずしも十全の理論的根拠ない
し実証的背景を有していなかったことから本研究を行うこととし、代数学的手法を理論的
にレビューしてその限界を解明すると同時に、汎用性と高速性を兼ね備えたプログラムを
再構築した。1996 年に完成した奥清津第二揚水発電所の確認試験においてこの研究の目的
に沿った計測を実施して計算との対比を行い、併せて一般的手法である特性曲線法との比
較を行うことにより、本研究が主唱する代数学的手法とネットワーク理論の妥当性の検証
および適用範囲の確認を行なった。
本論文では、揚水発電所をめぐる一般論に続き、既往の研究を概観し、定式過程を論じ、
計算アルゴリズムの要諦を述べ、実測値および特性曲線法と照合することにより、提唱す
る手法の妥当性と適用範囲を論じている。
(1)
研究の背景および既往の研究の概要は次の通りである。
1.
揚水式発電所は水力・火力・原子力等からなる電源を最適な組み合わせで構成する上
で不可欠なものであるので、当面の供給力過剰状態に拘わらず長期的視点に立ち、こ
れまで培われた技術を集大成し維持向上する必要がある。
2.
揚水発電所の水路と発電機器を総合して経済的に最適化するために、各諸元を変化さ
せた多くのケースについて水撃圧計算をして各ケースの工事費を求める必要があり、
高速かつ信頼度の高い解析プログラムが求められる。
3.
世界のコンサルタントと互して海外における技術協力事業あるいは投資型事業を行う
ために、一般水力発電所および揚水発電所に関する解析ツールを用意しておかなけれ
ばならない。中でも計算が複雑で使用頻度が高い水撃圧・サージング計算プログラム
は必須であり、各種の制約からパーソナルコンピューターで処理する必要がある。
4.
水撃圧に関する既往の研究を概観すると、算術的手法や図式解法が主流であった歴史
を経て、現在ではコンピューターの発達を背景とした特性曲線法がほとんど唯一の解
析手法として定着している。本研究で取り上げる代数学的手法は計算時間が短いとい
う長所は認められながらも、損失水頭の取り扱いなど不明な点があるとして、ほとん
ど省みられることがない。
5.
我が国における水車発電機製造分野の動向を振り返ると、世界に先駆けた揚水発電所
の大容量・高落差化の開発実積とコンピュータの発達に対応した水撃圧解析方法に顕
著な進歩が見られ、特性曲線法を用いた精緻な解析方法が既に確立されているものの、
システム全体の概念設計や水路の設計など土木技術者のニーズに対応できる高速かつ
柔軟なプログラムとはなっていない。
6.
我が国の電力土木分野では、主として調圧水槽のサージングに関心があり、水の圧縮
性を無視した剛体理論で長く対応してきたが、近年における経済性追求の要請等から、
より精緻なプログラムを用いる傾向にある。
7.
電源開発(株)は早くからこの問題に注目し、代数学的手法に基づく水路系を主対象とす
る解析プログラムを開発利用し、並行して任意水路系に適用できるプログラムを開発
してきた。多くの施工および計測実積を積み重ねた結果、これまでの知見を総合し、
上記のニーズに対応する新たなプログラムを作成して、計測結果および一般解析手法
との比較によりその妥当性および適用性を再検証する必要が認識された。
8.
一般に揚水発電所の水路系は取水口、導水路、導水路調圧水槽、水圧管路、分岐部、
ポンプ水車、放水路、放水路調圧水槽、放水口などの水理施設の一部または全部から
構成され、それぞれが水理的、構造的な特徴を有している。最近完成した電源開発(株)
奥清津第二発電所は上記のすべてを有する代表的な揚水発電所である。
9.
揚水発電所は電力系統の安定化要請に対応して自動周波数制御(AFC)運転を行う。
最大出力の 50∼60%に及ぶ周期 2∼20 分の不規則な出力変動が要求され、これが水路
系の固有周期と一致する可能性があるので、その場合の水理的安定性を確認する必要
(2)
がある。
10. 揚水発電所ではその発電時または揚水時に、送電系統あるいは発電所内における電気
的・機械的事故が原因となって、水路系に水撃圧やサージングなどの過渡現象が発生
する可能性があり、これに対処することが水路系に対する支配的な設計条件である。
本研究は揚水発電所水路系に生ずる水撃圧の解析に関して、代数学的手法の再評価、ネ
ットワーク理論に基づく任意の水路系のモデル化、および数値解析により予測された結果
と実測結果との比較による検証を通して一般的な体系化を図ったものである。得られた成
果を各課題毎に取りまとめ、以下のような結論を得た。
まず代数学的手法の再評価について、次のような結論を得た。
1. 代数学的手法は、管路流れのマッハ数(流速の圧力波伝播速度に対する比)が 1 に較
べて十分小さいという条件さえ満足できれば、一般的に用いられている特性曲線法と
同様の過程を経て水撃圧の基本式から導出することができる。すなわち代数学的手法
はマッハ数が小さければ特性曲線法と同じ一般性を有している。
2. 管路を単位長さに区切って各格点ごとに計算を進めて行く特性曲線法に対し、一様管
路であればその両端のみ計算すればよい代数学的手法は、原理的に計算時間を大幅に
短縮することができ、このことが工学的利便性に結びつく。
3. 代数学的手法では管路に一様に分布する摩擦損失を近似的に一点に集中して扱わざる
を得ない点が問題とされているが、その誤差は、後述する実測値および特性曲線法に
よる解析結果との比較により、通常の揚水発電所の場合に十分実用的な範囲に収まる。
4. これらのことから、揚水発電所を含むマッハ数が小さく損失水頭も比較的小さい管路
網に限れば、代数学的手法が特性曲線法と同等の妥当性とそれ以上の高速利便性を発
揮する可能性がある。
また、ネットワーク理論に基づく任意の水路系のモデル化について、次のような結論を
得た。
1.揚水式発電所など水力発電所の水路系は複数の水理施設で構成される管路網である。
一般にどのような管路網であってもネットワークモデルにより表現することができる。
2.管路網における定常流および非定常流は、行列表示するネットワークモデルにより定
式化することができる。このとき、代数学的手法を用いれば線形表示することができ
るので、境界条件と過去における各管路端の圧力水頭および流量からなる状態変数を
代入し、逆行列を解くことにより現在の状態変数を容易に求めることができる。
3.管路網を形成する施設の特性に応じそれぞれの境界条件が与えられるが、揚水発電所
特有のポンプ水車の境界条件は、実機と相似した模型ポンプ水車の試験で得られる完
全特性を読みとることにより、ポンプ水車の各状態ごとに与えられる。
4.完全特性のS字曲線と呼ばれる部分を正しく追跡するために、流量−トルク−回転速
(3)
度からなる三次曲面を構成する微小平面を想定し、平面上あるいは連続する平面間で
移動しながら逐次計算するアルゴリズムに十分な妥当性が認められる。
5.以上の定式化およびアルゴリズムに従い計算プログラムが FORTRAN90 でコーディン
グされ、任意の水路系に適用できる過渡現象の数値シミュレーションが可能となった。
最後に、数値解析により予測された結果と実測結果との比較による検証を通しての体系
化について、次のような結論を得た。
1. 奥清津第二発電所における 2 台同時全負荷遮断試験、2 台同時揚水入力遮断試験、2 台
時間ずれ全負荷遮断試験および AFC 試験に際し、水路および機器に関する水圧、回転
速度などの計測が行われ、各試験条件に対応する初期条件の下で、この研究で開発され
た解析プログラムを用いたシミュレーションを実施し計測結果と照合すると、各ケース
とも実用的に十分な一致を見ることができるので、本研究の解析手法は妥当である。
2. 上記の試験と同様のケースについて、一般的手法である特性曲線法によるシミュレーシ
ョン結果を本研究で扱う代数学的手法に基づく解析結果と比較すると、各ケースとも極
めて良好な一致を見ることができるので、摩擦損失の取り扱いも含めて本研究の解析手
法は妥当である。
3. 代数学的手法においてマッハ数を変化させ、このことに関係なく解析できる特性曲線法
との誤差を計る数値実験をした結果、マッハ数が 0.05 程度以下であれば誤差は 10%以
下であり、かつ安定的に計算できるので、これが工学的に見た適用限界と考えられる。
揚水発電所など通常の水力発電所ではマッハ数が 0.01 程度であることから、この適用
限界に十分入っている。
4. 実用上の目的でパーソナルコンピューターに移植されたプログラムによる計算所要時
間を測定すると、代数学的手法を用いる本研究によるプログラムでは、特性曲線法によ
るものの 1/6∼1/8 となり、調圧水槽のサージング追跡など長時間を対象とする計算や最
適設計のために多数のケーススタディーを行う場合など、実務上の効用が期待できる。
5. 実機では試験不可能ないし仕様外とされている自動周波数調整(AFC)運転中の負荷遮
断およびポンプトリップと呼ぶ特殊事故について、本研究成果を用いることにより机上
で数値実験を行うことができ、それにより設備の安全性を評価することができる。
6. 本研究で体系化された手法は、揚水発電所を含む水力発電所の水路を中心とする計画お
よび設計に際し、円滑な業務処理のために実務面で活用するのに十分な一般性と実用性
を有している。今後、可能な範囲で本手法の公開がなされ、それらを通じてさらなる改
良が加えられ、水力発電以外の管路網非定常流解析に応用することが期待できる。
(4)
WATER HAMMER ANALYSIS BY THE ALGEBRAIC METHOD AND ITS
APPLICATION TO CONDUITS OF PUMPED STORAGE POWER PLANTS
SUMMARY
Koichi FUJINO
Transient phenomena in fluids such as water hammer and surge oscillation
occurring in the conduit system of pumped storage power plants have been analyzed by
the theory of one dimensional unsteady flow in pipelines. The method of characteristics
has already been established to minutely solve these problems.
The method is,
however, rather time-consuming and mostly unfeasible for civil engineers of electric
power companies and consultant firms in order to plan, design or analyze the hydraulic
structures, especially in case of comparative studies among many alternatives of
hydraulic systems.
On the other hand, the rigid water column theory is not suitable to
calculate the exact value of water hammer in a real system but good for surge
oscillation.
The author developed, in the end of 1960s when started the construction of high head
and large scale pumped storage power projects, a computer program that could simulate
the transients of whole hydraulic systems incorporating the characteristics of pumpturbines based on the algebraic method in a research group of the Electric Power
Development Company.
They have used the program for the planning and designing of
a number of pumped storage projects as well as conventional hydropowers.
Contrary
to the method of characteristics that requires many sections of unit length along the
pipe and that calculates many times for every section, the advantage of the algebraic
method is substantially time saving because only the physical quantities for both ends
of the pipe are necessary if it is uniform.
Another program was developed by the
author at the end of 1970s so that it is applicable to arbitrary set of hydraulic system by
promoting network theory.
The author has started this study since there was no complete theoretical and
experimental proof for the validity and applicability of the above mentioned method and
way of analysis.
The study includes the theoretical review of the algebraic method to
clarify the limitation as well as the redevelopment of the program with general validity
and fast usability.
The measurement in accordance with this study was executed at
the trial use of the Okukiyotsu No.2 Pumped Power Station.
The results of
measurement and simulations by the algebraic method and method of characteristics
(5)
are compared with each other.
The background of this study and previous research are as follows;
1.
The pumped power is an inevitable source of electricity for the optimum
combination of hydro, thermal and nuclear powers.
In spite of today’s oversupply
of power in Japan it is required for engineers to compile and advance all
information of technology derived from the experiences in developing a number of
power projects.
2.
For the most economical design of pumped storage plant in consideration of both
waterway and machine, a lot of case studies should be done to estimate each cost
for a set of alternatives after analyses of water hammer.
A fast and reliable
program to simulate transient phenomena in fluids has keen demand for this
purpose.
3.
In order to perform kinds of international cooperations and investments among
foreign competitors, various software should be provided for analyzing pumped
storage and conventional hydropower plants.
Particularly, the program of
complicated water hammer and surge oscillation is often required and should be
used on the personal computer because of the restriction on resources in
developing countries.
4.
The historical survey of the water hammer analysis clarifies that after the era of
arithmetic and graphical methods the method of characteristics has been
established as an unique method owing to the development of computers.
The
algebraic method proposed in this study is evaluated with its advantage of fast
calculation. It is, however, almost ignored because of the unskilled treatment of
friction loss of head.
5.
The review of the history of manufacturers of turbines and generators in Japan
shows that the methods to analyze transient phenomena in fluids have made
remarkable
growth
corresponding
to
the
enlargement
of
capacity
and
enhancement of effective head of the machines initiating the international
technology.
Although they have already completed the art of analysis using the
method of characteristics, it is not fast nor flexible enough for preliminary design
of the plant or detail design of conduit system by civil engineers.
6.
Civil engineers in the field of electric power facilities in Japan have been
interested mainly in oscillation of surge tanks using the rigid water column theory
with disregard for compressibility of water.
They tend to, however, utilize more
detailed program at the request of more strict design in recent years.
7.
Civil engineers in Electric Power Development Company have paid attention in
(6)
early stages to this problem and have developed the program to analyze mainly the
conduit system based on the algebraic theory as well as the program applicable to
every possible formation of conduit or piping system. After the cumulative results
of experience and measurement of a number of projects were obtained, it was
requested to review and confirm the validity and applicability of existing
methodology by redeveloping a new program and by comparing the results of
measurement and results of simulation of both algebraic method and method of
characteristics.
8.
In general, the conduit or piping system of pumped power station is composed of all
or a part of facilities such as intake, headrace, headrace surge tank, penstock,
manifold, pump-turbine, tailrace, tailrace surge tank, outlet, all of which have
their own hydraulic and structural characteristics. The Okukiyotsu No.2 Power
Station commenced in 1996 is a typical pumped storage plant having all the
facilities mentioned above.
9.
Pumped storage power stations operate automatic frequency control (AFC) to meet
the demand of stabilizing the power grid system.
The AFC requests fluctuation of
the output of the power station by 50 to 60% of maximum capacity in a period of 2
to 20 minutes. As the AFC is possibly harmonized with the natural period of the
conduit and surge tank, the hydraulic stability should be thoroughly investigated.
10. During the generation or pumping of the pumped storage power station seldom
occur the hydraulic transients in conduit system such as water hammer and surge
oscillation caused by the electrical or mechanical accident of transmission line or of
facilities in the station. It is a critical condition in design for conduit system to
meet these transients.
This study aims at the general systematization of the analysis of water hammer in
the conduit system of pumped storage power stations by reevaluation of the algebraic
method, modeling of arbitrary conduit systems based on network theory, verification
through the comparison of the numerical simulations with measured results.
Arranging the results of the study to each subject, following items are concluded.
Firstly, the reevaluation of the algebraic method draws the conclusion as follows:
1.
The algebraic method can be derived from the basic equations of unsteady flow
through the same process as the generally used method of characteristics if one
condition that the Mach number (ratio of velocity to the wave speed) of the fluid is
small enough comparing with 1 is satisfied.
Namely, the algebraic method has the
same generality as the method of characteristics in case of small Mach number.
2.
Comparing with the method of characteristics, where a pipe should be separated by
(7)
unit length and the physical quantities should be calculated one section by one, the
algebraic method, where the physical quantities of both sides of the pipe alone are
required, can dramatically reduce the time for calculation and yield the engineering
convenience.
3.
It is thought to be a problem that in the algebraic method the uniformly distributed
friction loss is forced to be treated as concentrated to one part of a pipe
approximately.
However that kind of margin of error is practically allowable in
case of pumped storage power stations as shown later by the comparison with the
measured value and calculation by the method of characteristics.
4.
These facts indicate that the algebraic method has the same validity as the method
of characteristics and higher convenience of fast calculation than the method of
characteristics.
Secondly, the modeling of arbitrary conduit systems based on network theory draws
the conclusion as follows:
1. The conduit system of hydro power plant including that of pumped storage power is
a network of pipes.
Generally speaking, any kind of network of pipes can be
expressed by the network model.
2. The steady flow and unsteady flow in the network of pipes can be formulated by the
network model expressed with the form of matrices.
As the algebraic method can
be linearly expressed, the variables of the present state can be easily derived from
the boundary conditions and the variables of past state for the pressure head and
discharge of each end of pipes by solving the inverse matrices.
3. The boundary condition for each facility is given based on the characteristics of each
structure.
The boundary condition for a pump-turbine is given for every state of
the pump-turbine by reading the complete characteristics obtained from testing the
scale model similar to the real machine.
4. In order to correctly trace the so-called S-characteristics, a micro plane is imagined
on the three dimensional surface composed of discharge(q), torque(τ), rotating
speed(n) and the algorithm to calculate stepwise on this plane or continuously
moving from plane to plane is confirmed to be valid.
5. Following the above mentioned formulation and algorithm, a program applicable to
the arbitrary conduit system is coded by using FORTRAN90, which makes it
possible to numerically simulate the transient phenomena in fluids.
Thirdly, the verification through the comparison of the numerical simulation with
measured value draws the conclusion as follows:
1. At Okukiyotsu No.2 Power Station, tests including simultaneous full load rejection
(8)
of two machines, simultaneous pump power loss of two machines, differential full
load rejection of two machines and AFC of one machine were executed.
The
pressure and rotating speed were measured for conduits and machines. Under the
initial condition same as the measurement the tests were simulated by the method
developed in this study.
The calculated results agree with the measured values
with enough accuracy for the practical purpose and consequently the method
developed in this study is valid.
2. Comparing the results of above mentioned simulation with those of the method of
characteristics in every case of measurement, both results are quite the same, which
indicates that the method developed in this study is valid including the treatment of
friction loss.
3. Numerical experiment was executed to examine the errors of the algebraic method
for higher values of Mach number against the method of characteristics that is not
influenced by Mach number.
The error is less than 10% and the process of
calculation is stable if the Mach number is less than 0.05, which suggests marginal
Mach number for the algebraic method.
Since the Mach number of an ordinary
conduit of a hydropower station including pumped storage is around 0.01, it is fully
within the limitation.
4. Measuring the computing time of the programs both of the algebraic method and
method of characteristics that have been transferred to personal computers for the
practical purpose, the former is 1/6∼1/8 to the latter.
Practical effectiveness can be
expected in case of long lasting simulation for analyzing the stability against the
oscillation of a surge tank or in case of plenty of case studies for optimum design.
5. The load rejection during AFC operation and the exceptional accident called pump
trip that are impossible to test for actual machine or out of specification can be
numerically experimented by employing the method developed in this study.
The
reliability of the plant can be examined in this way.
6. The method systematized in this study has sufficient generality and applicability for
planning and design of a conduit system of a pumped storage and conventional
hydropower project. The method should be opened to the public if possible in the
near future so that it will be improved and utilized in other fields of analysis of one
dimensional unsteady flow in pipelines.
(9)
摘 要
揚水式水力発電所の水路系など管路網に発生する水撃圧やサージングは圧力管路の一次
元非定常流問題であり、特性曲線法を用いて精緻な解析を行う手法が既に確立されている。
しかし、電力会社やコンサルタントの土木技術者が水理構造物の計画、設計あるいは計測
結果の解析に用いる場合、特性曲線法のプログラムは容量が大きく、計算時間が極めて長
く、入力データとして水路系を表現するのに手間がかかりすぎて多くのケースについて比
較検討することが難しい。一方、水路内の流体の圧縮性を無視した剛体理論ではサージン
グは求められるが水撃圧を正しく求めることはできない。
そこで、著者を含む電源開発(株)土木設計部門では、高落差大容量の揚水発電所建設が始
まった 1960 年代末から、代数学的手法に基づくポンプ水車特性を織り込んだ水路系全体の
過渡現象をシミュレートするプログラムを開発し、これを用いて今日まで多数の揚水式お
よび一般水力発電所の計画および設計などに対応してきた。代数学的手法の特徴は、特性
曲線法が管路内を単位長さに区切って各格点の物理量を計算するのに対し、一様な管路で
あれば管路端の物理量さえ求めればよいことから、計算時間が大幅に短縮できることであ
る。これと並行して、管路網をネットワーク理論で扱うことにより任意の水路系に対応で
きるプログラムも 1970 年代末に著者により開発された。
しかし、これらの方法の妥当性および適用範囲について必ずしも十全の理論的根拠ない
し実証的背景を有していなかったことから本研究を行うこととし、代数学的手法を理論的
にレビューしてその限界を解明すると同時に、汎用性と高速性を兼ね備えたプログラムを
再構築した。1996 年に完成した奥清津第二揚水発電所の確認試験においてこの研究の目的
に沿った計測を実施し計算との対比を行い、併せて一般的手法である特性曲線法との比較
を行うことにより、本研究が主唱する代数学的手法とネットワーク理論の妥当性の検証お
よび適用範囲の確認を行なった。
本研究においては代数学的手法を中心とする解析手法を確定し、そのプログラムをパー
ソナルコンピューターに移植した。その高速性を活用して多くのケースについてシミュレ
ーションすることにより最適設計が容易になる上、水路系の形状変更に柔軟に対応できる
特徴を有するので、本研究の成果は国内外でこれらの計画や設計業務に従事する土木技術
者にとって有用なツールとなる。その他、水力発電所以外の類似した管路網非定常流解析
に応用することも考えられる。
本論文では揚水発電所をめぐる一般論に続き、既往の研究を概観し、定式過程を論じ、
計算アルゴリズムの要諦を述べ、実測値および特性曲線法と照合することにより、提唱す
る手法の妥当性と適用範囲を論じる。
目 次
摘要
第1章
序論
1.1 本研究の背景
1.1.1
揚水発電所の必要性と開発見通し
1
1.1.2
大規模高落差化の要請と複雑な水路系の解析
7
1.1.3
建設費縮減の要請と多部門にわたる最適化
9
1.1.4
海外への技術移転における課題
11
1.1.5
本研究の背景のまとめ
15
1.2 既往の研究の概観
1.2.1
水撃圧解析の基礎理論
15
1.2.2
我が国における水車発電機製造分野の動向
28
1.2.3
電力土木分野の動向
32
1.3 本論文の目的と構成
1.3.1
本論文の目的
39
1.3.2
本論文の構成
39
第2章
揚水発電所水路系における水理現象の特徴
2.1 揚水発電所水路系の特徴
2.1.1 水路基本レイアウト
42
2.1.2
導水路および導水路調圧水槽
43
2.1.3
水圧管路
45
2.1.4
ポンプ水車
49
2.1.5
放水路および放水路調圧水槽
51
2.2
通常運転時の水理現象
2.2.1
電力系統への追随
52
2.2.2
奥清津第二発電所におけるAFCへの対応
54
2.3 事故時の水理現象
2.3.1
負荷遮断
56
2.3.2
揚水入力遮断
60
2.3.3
特殊な事故
61
i
第3章
管路網における水理現象の数値モデル化
3.1 ネットワーク理論
3.1.1
ネットワークの概念
63
3.1.2
ネットワークモデル
65
3.2
管路網における定常流のネットワークモデルによる定式化
3.2.1
単位管における定常流
66
3.2.2
管路網における定常流
67
3.3
管路網における過渡現象のネットワークモデルによる定式化
3.3.1
単位管における水撃圧の基本式
69
3.3.2
閉塞器を有する単純な管路系における定式化
78
3.3.3
管路網における定式化
81
3.3.4
水力発電所に特有の境界条件の定式化
88
第4章
任意水路ネットワーク水撃圧解析プログラムの開発
4.1
初期条件の設定
95
4.2
水路系各要素の境界条件と行列表示
99
4.3
水車の境界条件の線形化
4.3.1
ペルトン水車の場合
101
4.3.2
ポンプ水車の水理現象の特徴
103
4.3.3
ポンプ水車の状態変化の追跡方法
105
4.4
解析プログラムのコーディング
第5章
測定結果に基づく理論の検証
5.1
113
測定方法
5.1.1
奥清津第二発電所の概要
116
5.1.2
測定データの種類と計器配置
122
5.1.3
データ処理
128
5.2
水路系のモデル化と入力データの作成
5.2.1
水路系のモデル化
135
5.2.2
入力データの作成
137
5.3
測定結果とそのシュミレーション結果
5.3.1
負荷遮断試験
146
5.3.2
入力遮断試験
172
5.3.3
ずれ遮断試験
191
5.3.4
AFC 試験
208
5.4
測定結果に基づく理論の検証のまとめ
ii
223
本研究による解析手法の適用範囲と応用
第6章
6.1
代数学的手法の一般性と適用範囲
6.1.1
特性曲線法との比較
226
6.1.2
代数学的手法の適用範囲
234
6.2
本研究による解析手法の応用
6.2.1
パーソナルコンピューターへの移植
237
6.2.2
パラメータースタディー
238
6.2.3
AFC運転中の負荷遮断のシミュレーション
240
6.2.4
ポンプトリップのシミュレーション
256
6.3
257
今後の展開
第7章
258
結論
260
参考文献
謝辞
iii
第 1 章 序論
1.1 本研究の背景
一般に電力供給設備はその公益事業としての特性から、信頼度、安定度および経済性
を自律的に満足させることが求められており、本研究が対象とする揚水発電所も、ピー
ク供給力として、あるいはエネルギー貯蔵施設として、その役割を果たすことが期待さ
れている。ここでは、本研究の背景として、揚水発電所の必要性と開発見通し、大容量・
高落差化傾向とそれに伴い複雑化する水路系の解析の必要性と設計課題、建設費縮減の
要請と総合的最適化、海外への技術移転の見地からの要請について述べる。
1.1.1 揚水発電所の必要性と開発見通し
2001 年 4 月現在我が国には 43 カ所の揚水発電所があり、全設備出力は約 24,705MW
に及ぶ。これは図 1.1 に示すように、米国や中国あるいは欧州各国を抜いて揚水発電所と
して世界一の規模である。また、我が国の事業用発電所の全設備出力は 2001 年 4 月現在
約 231,870MW であり、その中で揚水発電所が占める割合は約 11%となっている。
その他
34,171
日本
24,705
ドイツ
U.S.A
5,529 スペイン イタリア
19,722
中国
7,759
5,762
8,157
フランス
(単位:MW)
5,772
図 1.1 揚水発電所設備容量(WOOD,J. ed., 2000)
我が国で多くの揚水発電所が開発された理由として、次の事情があったことが考えら
れる。
i)
急増する電力需要に対応する火力発電所や原子力発電所などと並ぶ新規供給力
として大規模な揚水発電所が積極的に開発されたこと
ii) 需要の伸びの中でも夏季や昼間のピーク需要の伸びが顕著であったため、それに対
応するピーク供給力としての揚水発電所の必要性が高まったこと。
iii)揚水発電所は上下の調整池とその間の落差を不可欠とし、経済性を確保するために
高落差化が求められるが、我が国には地形的・地質的に適地が多いこと
iv) 大規模高落差化に対応する技術開発が成功したこと
−1−
2001 年 4 月現在の我が国の既設、工事中、着工準備中の揚水発電所の基本諸元を表 1.1
および表 1.2 に示す。
表 1.1 我が国の既設揚水発電所 (2001 年 4 月現在)
事業者名
発電所名
都道府 運転開始 最大出力 最大使用 有効落差
県
年
(MW)
水量(m3/s) (m)
北海道電力
新冠
北海道 1974
200
234
99.6
〃
高見
北海道 1993
200
230
104.5
東北電力
池尻川
長野
1934
2.34
4.17
74.2
〃
沼沢沼
福島
1952
43.7
24.2
216
〃
第二沼沢
福島
1982
460
250
214
東京電力
矢木沢
群馬
1967
240
300
93.5
〃
安曇
長野
1970
623
540
135.8
〃
水殿
長野
1970
245
360
79.8
〃
新高瀬川
長野
1981
1,280
644
229
〃
玉原
群馬
1986
1,200
276
518
〃
今市
群馬
1991
1,050
240
524
〃
塩原
栃木
1995
900
324
338
〃
葛野川
山梨
2000
800
140
714
中部電力
畑薙第一
静岡
1962
137
160
101.7
〃
高根第一
岐阜
1969
340
300
135
〃
馬瀬川第一
岐阜
1976
288
335
99.6
〃
奥矢作第一
愛知
1981
315
234
161.3
〃
奥矢作第二
愛知
1981
780
234
404.4
〃
奥美濃
岐阜
1995
1,500
375
485.75
関西電力
三尾
長野
1963
35
30.9
137.2
〃
喜撰山
京都
1970
466
248
219.35
〃
奥多々良木
兵庫
1975
1,212
376
383.4
〃
奥吉野
奈良
1980
1,206
288
505
〃
大河内
兵庫
1995
1,280
382
394.7
〃
奥多々良木(増設) 兵庫
1998
720
218
387.5
中国電力
新成羽川
岡山
1969
303
424
84.7
〃
南原
広島
1976
620
254
294
〃
俣野川
鳥取
1996
1,200
300
489
四国電力
大森川
高知
1959
12.2
12
118
〃
穴内川
高知
1964
12.5
22
69.5
〃
蔭平
徳島
1968
46.5
60
89.7
〃
本川
高知
1984
600
140
528.4
九州電力
諸塚
宮崎
1961
50
27
226.4
〃
大平
熊本
1975
500
124
490
〃
天山
佐賀
1987
600
140
520
電源開発
黒又川第二
新潟
1964
17
28
72
〃
池原
奈良
1966
350
342
120.5
〃
長野
福井
1968
220
266
97.5
−2−
水車単機
容量(MW)
103
103
1.34
23
236
82
111
64
321
310
361
309
412
51.8
88
149
115.8
267
259
36
240
310
207
330
370
78.5
318
309
12.6
13.5
47.7
307
54
256
308
19.2
110
113
〃
〃
〃
〃
〃
神奈川県
合計
新豊根
沼原
奥清津
奥清津第二
下郷
城山
43 地点
愛知
栃木
新潟
新潟
福島
神奈川
1973
1973
1982
1996
1991
1965
1,125
675
1,000
600
1,000
250
24,704.74
645
172.5
260
154
314
192
203
478
470
470
387
153
230
230
260
310
260
65
表 1.2 我が国の工事中、着工準備中の揚水発電所 (2001 年 4 月現在)
事業者名
発電所名
東京電力
〃
中部電力
関西電力
九州電力
電源開発
〃
北海道電力
中部電力
合計
葛野川
神流川
川浦
金居原
小丸川
徳山
湯之谷
京極
木曽中央
9 地点
都道府 運転開始年 最大出力 最大使用 有効落差
県
(MW) 水量(m3/s) (m)
山梨
2003
800
140
714
群馬
2011
2,700
510
653
岐阜
2008
1,300
270
578
志賀
2008
2,280
529
515
宮崎
2008
1,200
222
652
岐阜
2008
400
396
121.2
新潟
2009
1,800
540
400.5
北海道
2010
600
190.5
369
長野
2016
1,800
486
449
12,880
水車単機
容量(MW)
412
463
334
390
310
205
463
N.A
N.A
3,000
神流川
2,500
金居原
最大出力(MW)
2,000
奥美濃
1,500
新豊根
1,000
500
0
1920
1930
1940
1950
1960
1970
1980
運転開始年
1990
図 1.2 運転開始年と最大出力の関係
−3−
2000
2010
2020
2030
また各発電所の運転開始年と最大出力の関係を図 1.2 に示す。この図から明らかなよう
に、1973 年に運転開始された電源開発(株)の新豊根・沼原発電所を契機として大規模な
揚水発電所が日本全国で次々と建設されて今日に至っており、現在建設中、あるいは着
工準備中のものにはさらに大規模な地点があるが、最近では、後述するような設備過剰
の実態に鑑み、開発工程が見直されている地点が多い。
東京電力における代表的な重負荷日の電力需要と、揚水発電所を含む各電源の負荷配
分の例を図 1.3 に示す。電力需要のピークは午後 2 時から3時付近を最高として昼間の数
時間に集中し、これに対応する供給力として揚水発電所を含む多くの電源が投入される。
一方、深夜から早朝にかけて需要が低下する軽負荷時間帯にあっては原子力発電所以外
の発電所で出力を低下するとともに、稼働中の火力発電所の出力を増して揚水発電所の
揚水を行う。原則としてこれを毎日続けるが、週末や休日には需要が低くなるので、揚
水発電所の発電と揚水は行わない。例外的に、週末や休日でも火力発電所の起動停止が
非経済的と判断される場合などに、余剰供給力を用いて揚水しそれに対応して揚水発電
所で発電をすることがある。
1999年8月18日
60,000
揚水
水力
50,000
40,000
負荷(MW)
火 力
揚水原資
揚水
水力
火力
原子力
流込式水力
30,000
20,000
10,000
原 子 力
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
揚水原資
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
流込式水力
-10,000
時刻
図 1.3 東京電力の日負荷曲線と発電種別ごとの負荷配分(中央給電連絡会議, 2000)
揚水発電所は上記のように需要のピーク部分を分担する供給力(日本電力調査委員
会,1997)としての役割を果たすが、それ以外にも、優れた負荷追随機能を活かして、後
述するような自動周波数制御(AFC)運転等を通じた電力系統全体の周波数や電圧の
安定化に貢献しており、また急速な起動特性を活用した運転予備力としての機能をも有
している。
−4−
それらの結果として、揚水発電所の稼働実積は、表 1.3 に示す電源開発(株)の例のよう
に、等価運転時間で年間約 510 時間(年間設備利用率で約 5.8%に相当)となっており、
これは原子力発電所や火力発電所の利用率が 70%程度であるのに比べれば非常に小さい
が、図 1.4 に示すように相対的に短い時間帯に需要が突出する現象が存するので、そのよ
うな需要のピーク部分に対応するのにふさわしい供給力として位置づけられている。
表 1.3 電源開発(株)が保有する揚水発電所の等価運転時間の推移 (単位:時間/年)
発電所名
(出力MW)
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
平均
下郷
1,000
485
532
624
470
799
809
946
649
720
723
503
660
奥清津
1,000
895
1,038
1,013
697
714
538
812
753
654
741
531
762
奥清津第二
600
1,264
1,625
1,394
1,004
1,322
沼原
675
282
303
543
386
751
463
762
644
647
598
507
535
新豊根
1,125
485
543
680
605
673
588
665
471
454
562
452
562
長野
220
20
66
111
206
211
242
269
356
259
229
284
205
池原
350
24
39
37
29
47
38
52
39
20
31
18
34
加重平均
414
469
545
421
552
464
602
560
585
591
445
513
注)
(等価運転時間)=(年間揚水発電電力量)/(最大出力)
図 1.4 は日本全国の 1 時間ごとの電力需要を最大値から降順に 1 年分並べたもの、す
なわち年負荷持続曲線である。主として夏の短期間(年間の6∼7%に相当する時間帯)
に集中するいわゆるピーク需要が約 30,000MW、最大需要の約 20%に及ぶことを示して
いる。
揚水発電所は火力発電所などで発生した電力エネルギーを受けて下部池の水を上部池
に揚げ、位置のエネルギーとして一時貯蔵した後、必要なときに上部池の水を下部池に
落として発電し、電気エネルギーとして供給するのであるが、この間に水路の摩擦損失
や水車発電機の機械損失など様々なエネルギー損失が生ずる。その総合効率(揚水発電
所に投入される電気エネルギーに対する算出される電気エネルギーの比率)は約 70%で
あり、決して高いものではない。従って、単位発生電力量あたりの発電原価は他の電源
に比べて非常に高いため、これをもって揚水発電所の存在意義を否定する向きもある。
しかし、発電設備の経費は資本費や人件費などの固定費用と燃料費などの可変費用の
合計なので、それら系統経費全体として捉えた場合、設備種別ごとの年経費は図 1.5 の
ようになり、負荷率あるいは設備利用率に応じてそれぞれ最も経済的な電源が充当され
る。揚水発電所についてみれば、単位出力あたりの建設費が安く運転人員も少ないこと
から固定費が他の電源より安いため、設備利用率が低い場合には可変費の高さがあまり
影響せず年経費が最も安いので、ピーク負荷に対応すべき電源となる。原子力や石炭火
−5−
力発電所は燃料費など可変費は安いが固定費が高いため、設備利用率が低い場合には揚
水発電所より高い電源となるので、むしろ需要のベース部分に対応すべき電源である。
200,000
180,000
ピーク需要
全国需要(毎時平均、MW)
160,000
2000.4.1∼2001.3.31
140,000
120,000
ミドル需要
100,000
80,000
60,000
ベース需要
40,000
20,000
0
0
2,000
4,000
6,000
8,000
時間(hr)
図 1.4 年負荷持続曲線
このように、原子力や石炭火力発電所のようなベース負荷対応電源、液化天然ガス(L
NG)火力などのミドル負荷対応電源、揚水発電所のようなピーク負荷対応電源を電力
需要の形態に応じて適切に組み合わせることが、系統経費を最少化し電力料金を低廉に
するために不可欠である。図 1.5 で見れば太線が最適組み合わせであり、これを電源のベ
ストトミックスと称している。揚水発電所は他の電源と比較して建設費が相対的に安い
限り、需要の伸長に応じて今後とも開発される可能性が十分あるものと言うことができ
る。
定量的にどの程度の比率で揚水電源を投入するのが最も経済的か、実務レベルで多く
の検討がなされ、研究成果としての発表もなされており、例えば宮田は東京電力管内で
の揚水式水力の最経済的な構成比率は 13%程度だとしている(宮田, 2000)
。
電気事業者がその供給義務を果たすことを第一義に開発を重ねてきた現有の発電設備
は、経済発展が停滞し電力需要が伸びない中で結果的に過大なものとなっており、2001
年夏季に見られたような異常気象に伴う一時的な需要の伸長はあるとしても、現在の設
備過剰状態が当分続くものと目されている。電力事業が自由化され競争原理が導入され
ようとしている現在、新たな設備を建設するより、既設設備を有効活用することが求め
−6−
られる時代に移行しようとしている。揚水発電所にあっても表 1.2 に示した工事中地点の
運転開始時期の繰り延べが行われており、当分の間、これらに続く新たな開発計画が浮
上する可能性は小さく、現在はむしろ従来の成果を踏まえた技術力の保持と、将来の開
発に応用できる新技術の培養が必要とされている。
90.0
80.0
kW当り年経費(千円/kW)
70.0
60.0
50.0
40.0
ベストミックス
揚水
原子力
石炭
LNG
石油
30.0
20.0
10.0
0.0
0%
20%
40%
60%
設備利用率(%)
80%
100%
図 1.5 電源種別ごとの設備利用率と年経費の関係(試算値)
1.1.2 大規模高落差化の要請と複雑な水路系の解析
水力発電所の出力は
P = ηgQH e
(1.1)
で表される。
ここにP:発電出力、η:総合効率、g:単位質量当たりの重力、Q:使用水量、He:
有効落差、である。揚水発電所にあって、経済性を追求して発電出力を拡大する場合、
使用水量も有効落差も大きくする必要があるが、同じ出力で使用水量を大きくする場合
と有効落差を大きくする場合を比較すると、有効落差を大きくすればするほど経済的に
−7−
なることが知られている。
高落差化には地形上の制約があり、また可逆式ポンプ水車の設計製作上の限界もある
ため、現在では 700∼800mがひとつの限界と見なされている。実際、我が国においては
地形的に見て、500m級の落差が得られる地点は多いが 800m級になると急減し、環境的
にも困難性が増す傾向にある。このことから、図 1.6 に示すように、500m 級の落差を有
する揚水発電所が多くなっている。
800
葛野川
700
有効落差 (m)
600
500
沼原
400
300
沼沢沼
200
100
0
1920
1930
1940
1950
1960
1970
1980
運転開始年
1990
2000
2010
2020
2030
図 1.6 運転開始年と有効落差の関係
高落差化を可能とするためには、水路、中でも水圧管路が高内圧に耐える必要があり、
高張力鋼の適用がその材料及び溶接性の点で技術的ブレークスルーを果し、高圧分岐管
の設計製作あるいは内圧の岩盤負担による鉄管重量の節減がさらに経済性を高めた。可
逆式ポンプ水車の高落差化も大きな技術的課題を有していたが、現在では解決され、技
術的に成熟したものとなっている。
電力系統の周波数及び電圧の安定化を図る要請から、昼間の発電運転時のみならず夜
間の揚水運転時にあっても、電気入力を時間的に変化することができれば、系統の要請
に応じて周波数や電圧を調整することが可能となる。しかし、通常のポンプでは揚水時
には一定の入力でしか運転できないことから、回転速度を変えることによって、入力が
変わってもポンプ機能を維持しようとする可変速発電電動機が開発され導入されている。
揚水発電所の水路系は上池から発電所を経て下池までを結ぶ圧力管路であり、その間
に自由水面を持つ調圧水槽を有するのが一般的であるが、圧力水路の長さに応じて上池
−8−
側の導水路、下池側の放水路それぞれに対し設置したり省略したりする。水槽は水面振
動の振幅を抑え、振動減衰効果を期待して、単働型より水室型、制水口型、あるいはそ
れらの混合型が用いられる。水路は発電機台数に応じて分岐し発電後に合流させること
が多いが、なるべく発電所の近くで分岐させ、合流させる方が経済的であり、分岐およ
び合流の数も多くした方が経済的であるため、高圧・大規模な分岐管が求められる。
またひとつの水路系で発電機台数が多くなると、ポンプ水車間の相互干渉が起きたり、
複数号機で発電と揚水が同時に行われることは極めて稀としても、機械の停止と運転及
び事故時の組み合わせが多くなり、それらの影響予測をする必要がある。
このように発電所全体が複雑化、高度化するのに伴い、水車を含む複雑な水路系の過
渡現象を正確に模擬する解析プログラムが求められ、これを用いた揚水発電所設備の計
画、設計、試験結果の解析が行われている。
1.1.3 建設費縮減の要請と多部門にわたる最適化
現在進められている電力の自由化、競争原理の導入に待つまでもなく、電力会社間の
競争、電源種別間の競争が行われてきた。
特に、電力卸売り業を営む電源開発(株)は、自らの直接小売供給区域を持たず、電力
会社に対して発電所地点別契約で電力供給を行うことから、電力各社が自ら開発するよ
りも安い建設費で発電所を計画し、売り込み、建設し、運転保守をしながら卸売り料金
収入で投下資金を回収するべく、技術的に先進するなどして競争力を有している必要が
あった。一方、電力会社でも自らの技術力を高めて電源開発(株)に追いつき追い越すこ
とを目指すと共に、自社の他の電源より経済的に仕上げることが求められ、厳しいコス
トダウンの要請に対応しなければならなかった。
今後はさらに、独立電気事業者(IPP)あるいは小売事業者(PPS)が登場し、新たな競争
関係が生じることが予想される。競争の激しいベース負荷対応電源ほどではないにして
も、新たな競争相手がピーク対応まで進出してくる可能性は否定できず、揚水発電所な
どピーク対応電源でも従来以上の競争力が求められる。
揚水発電所の工事費内訳の例を表 1.4 に示す。
表 1.4 揚水発電所の工事費内訳の例(最大出力=1,800MW)
比率
工事費
(108 円) (%)
94
2.6
土地・補償費
42
1.2
建物
674
18.8
水路
980
27.3
調整池
738
20.6
機械装置
1,058
29.5
その他
3,586
100.0
総工事費
項
摘 要
目
ダム土地、水路土地
本館、付属建物
取水口、導水路、調圧水槽、水圧管路、放水路、放水口
上部池、下部池
ポンプ水車、発電電動機、主要変圧器、発電所基礎
諸装置、仮設備、動力費、測量費、管理費、建設中利子
−9−
この例では、3,500 億円に及ぶ総工事費に占める水路の割合は 20%弱であり、金額と
して 700 億円弱に達する。水路系には第 2 章で詳述するように大規模なものが多く、そ
れに応じて工事費も大きく、全体の工事費に占める割合も調整池(上下のダム)や機械
装置に匹敵する。中でも、水撃圧の影響を直接受ける水圧管路の鉄管重量は一発電所当
たり 103∼104t に及び、その工事費単価が 106 円/t 前後であるので、仮に数%の重量の変
動があっても数億円の工事費の変動となり、間接的な影響を受ける他の水路系や水車発
電機などの工事費の変動も考えれば、水撃圧計算など設計手法の精度を上げることの経
済価値は大きい。
従来から大規模高落差化、大容量分岐管あるいは内圧の岩盤負担などによりコストダ
ウンに努めてきたが、それなりに目標が達成され技術的成熟が見られることから、さら
なるコストダウンの要請に応えるには個別技術の範疇内での改善に止まらず、複数の部
門にわたる総合的最適化が求められる。その典型的な例が水圧鉄管の経済的管径を決定
する過程である。
水門鉄管技術基準(水門鉄管協会, 1997)第 3 条(水圧鉄管の計画、設計)の解説では、
水圧鉄管の経済的管径を決定する式として次式を紹介している。
3


Q p ⋅ T p ⋅ γ 3 
5 × 78.4 f ⋅ η ⋅ σ a
3
D0 = 
η g ⋅ Q g (ρ1 ⋅ γ 1 + ρ 2 ⋅ γ 2 ⋅ Tg ) +

3
η p ⋅ ρ 3 
 λ ⋅ π ⋅ g ⋅ C p ⋅ µ ⋅ p (1 + y ) 
ここに、
D0
f
g
λ
Cp
μ
y
ηg
Qg
ρ1
ρ2
γ1
γ2
Tg
Qp
Tp
γ3
ηp
ρ3
η
σa
p
1
7
(1.2)
:水圧鉄管の直径(m)
:水圧鉄管の摩擦損失係数
:単位質量当たりの重力(9.8N/kg)
:発電所の維持運転費及び建設利息等の総和の建設費に対する比率
:水圧鉄管の建設費単価(円/t)
:水圧鉄管の比重(7.85)
:水圧鉄管の補剛材等による重量増加の割合(0.10∼0.25)
:発電時の水車・発電機総合効率
:発電時使用水量(m3/s)
:発電時送電ロス(kW)割引率
:発電時送電ロス(kWh)割引率
:kW 価格(円/kW)
:kWh価格(円/kWh)
:年間発電時間(h)
:揚水時使揚水量(m3/s)
:年間揚水時間(h)
:揚水 kWh価格(円/kWh)
:揚水時のポンプ・電動機総合効率
:揚水時受電ロス(kWh)割引率
:水圧鉄管の継手効率
:水圧鉄管の許容応力(N/mm2)
:設計水圧(MPa)
−10−
しかし、この式は管径に応じた摩擦損失に基づく損失経費と水圧鉄管のみの工事費に
着目していて、ポンプ水車発電電動機の影響を無視している。水車発電機には回転体と
しての慣性があり、これを左右する「はずみ車効果(回転部分の質量が半径方向にどの
ように分布するかを示す指標で一般にGD2と称する)」が大きければ回転速度が上昇し
にくくなり水撃圧は小さくなって水路の工事費は安くなるが水車発電機の重量が増える
結果工事費が割高となり、GD2が小さければ水車発電機の工事費は割安であっても水撃
圧が高くなり水路の工事費が高くなる、という二律背反の関係にある。
そこで水門鉄管技術基準第 3 条解説では、経済的管径と経済的GD2を同時に決定する
「水圧鉄管と水車発電機を組み合わせる場合の算式」を紹介しているが、この場合も水
撃圧は初期流速などから一義的に求まると仮定するなど揚水発電所の実態から乖離して
おり、このような算式を適用して解を求めることは実用的でなく、経験的に定めている
ことが多い。
本来的には、図 1.7 に示すフローチャートにより総合的なケーススタディーを行い、そ
れによって最経済的な管径やGD2などの諸元を決定すべきものと考えられる。その際に、
水撃圧やサージングなど過渡現象解析ができるプログラムが求められる。このとき、多
くのケースについて水撃圧のシミュレーションを行う必要があることから、なるべく高
速な水路系過渡現象解析プログラムが求められる。
1.1.4 海外への技術移転における課題
日本の水力発電の歴史は古く、第二次世界大戦以前から当時の満州、朝鮮、台湾など
で大規模な水力開発を行っていたことから、戦後の水力開発ブームが最盛期を迎える頃、
早くも海外進出が叫ばれ、例えば、電源開発(株)の設置を定めた電源開発促進法(1952
年施行)は昭和 1961 年に改正され、第 23 条の 2 項で「
(電源開発)会社は(中略)外国
における電源開発等及びこれに関連する大規模土木工事に関する調査、設計及び工事監
督その他の技術援助に関する事業を行うことができる。」とされ、同社はその後の約 40
年間に相当する 2001 年 3 月末までに 57 カ国 182 件の技術協力を実施しており、その内
103 件(約 57%)が水力発電案件であり、火力(33 件)
、送変電(24 件)などを大きく
上回っている。電源開発(株)以外のコンサルタント会社も我が国の政府開発援助(ODA)
を中心とする国際事業に関わっており、昨今の国内の経済状況を反映して海外志向は
益々高まりつつある。
−11−
開 始
計算条件の
読み込み
2
GD の仮定と水車発電機の年経費の計算
管径の仮定
損失水頭の
水撃圧計算
計算
鉄管板厚計算
年間損失電
力量計算
鉄管工事費
土木工事費
(発電時と揚水時の合計)
年効用算出
年経費算出
(基準ケースとの差と
して効用を算出)
年経費と年効用の和
NO
和が最小?
YES
水圧管路と水車発電機の年経費と年効用の和
NO
和が最小?
YES
結果の打出し
終了
図 1.7 総合的に最適な管径の決定の流れ
−12−
一般に、海外技術協力業務の内容は次のようなものである。
i)国際協力事業団(JICA)から委託を受けて実施されるもの
業務内容
予備調査
調査対象
流域又は計画地点調査
水文その他資料収集
水・火力発電計画お
よび送変電計画
開発地点の選定(複数)
調査工事計画
勧告
業務段階
プレ・フィジビリティ調
査
流域又は計画地点
調査水文その他資
料収集
地点の決定
(工事費概算・プラ
イオリティ)
勧告
フィジビリティ調査
(F/S)
電力市場調査
需給計画
規模諸元決定
工事費概算
概略設計
経済計算
財務分析
他
ii)一般契約案件
相手国政府機関等と直接契約締結するもの
業務内容
調査対象
予備調査
プレ・フィジビリティ
調査
フィジビリティ調査
業務段階
実施設計
施工監理
詳細設計
(S/V)
(D/D)
仕様書
図面
(JICA 契約案 各種設計計算
水・火力発電計画お 件 等 の 技 術 協 工事費積算
よび送変電計画
力に同じ)
その他の契約
書類作成
入札業務
施工監理
技術指導
工程管理
施工図等の承認
工場立会検査
竣工検査
竣工図作成
運転保守指導
運転保守指導
運転保守要綱
の作成
iii)政府専門家の派遣
エネルギー省、電力公社など相手国政府機関の要請に基づき技術者を派遣し、電源開
発計画に係わる調査、立案、設計、運転保守等の技術指導助言を行う。JICA から派遣
されることが多い。
揚水発電にかかわる技術移転について、例えば電源開発(株)では図 1.8 に示すように、
中国、台湾、タイ、インド等の各国で施工監理(S/V)を行っており、これらの地点を含
め、他にも多くのフィジビリティ調査(F/S)や実施設計(D/D)を実施している。
今後の世界の経済発展の中心のひとつは東南アジアと目されており、特に中国の発展
ぶりには刮目すべきものがあり、それに伴うエネルギー開発、特に電力の開発は急激に
−13−
進展するものと考えられる。その場合、上記(1)で述べた我が国と同様の理由で、一定
量の揚水開発が必要となり、世界一の実積を有する我が国の技術が活用される可能性は
大きい。
Shisanling
E
Shimogo
EENumappara
E
E
Okukiyotsu
Muju
E
Shintoyone
EOkinawa
EMinghu
E Mingtan
Purulia
Ghatghar
E
Srisailam
E
E
Lam Ta Khong
E
SrinagarindE
図 1.8 電源開発(株)が所有または施工監理した揚水発電所
揚水発電所のみならず一般水力発電所における水路についても、その過渡現象を容易
にシミュレートできるようになれば、地球環境問題が喧伝される中で、再生可能エネル
ギーとして注目される水力発電所の計画や設計が容易になり、開発が促進されるので、
CO2排出権取引とも関連して、新たな事業展開に結びつくことが期待される。
これらの国際事業は、JICA 案件を除き、欧米を中心とする世界のコンサルタント会社
と競争して受注に至るのが一般であり、これに打ち勝つためには徹底した合理化が必要
である。欧米のコンサルタントにあっては、業務処理のマニュアル類が整備されており、
数多くの計算ソフトや報告書などの情報を CD-ROM に詰め込み、パーソナルコンピュー
ターを用い必要に応じてこれらを駆使し、不足する部分はインターネットで情報を集め、
短時日の内に膨大な報告書を作成し提出する。これを当該国において現地スタッフを使
いこなして能率的に実施している。
日本の技術者は優秀で経験も豊富であるが、組織で業務を処理するのが通例であるた
め、一連の仕事をするのに多数の顔ぶれを要する。従って、世界に通用する技術コンサ
ルタントとして少人数で業務処理するためには、マニュアル類の整備と並んで、精度と
汎用性を有しパーソナルコンピューターレベルで利用できる計算ソフトが必須となる。
水力発電所の土木構造物の設計で最も難しいもののひとつが水撃圧・サージングなどの
−14−
水理計算であり、その解析プログラムを開発し駆使することによって常に適切な設計を
可能とし、クライアントの信頼を得るプレゼンテーションをすることが期待される。
1.1.5 本研究の背景のまとめ
以上述べた如く、我が国および海外における揚水発電所は、電力需要の動向に左右さ
れるとは言え、長期的視点に立てば常に一定量の開発が必要であり、他の電源や新規事
業者との競争に打ち勝つために、高落差大容量化を中心に建設費のさらなる節減と技術
課題の解決が求められており、それに伴い複雑化し新たな設計要件が加わる水路系の最
適設計を行い、激しい国際的技術競争に対抗する必要がある。このためには、パーソナ
ルコンピューターレベルで高速かつ実用的に十分な精度を有する水路系過渡現象解析プ
ログラムが求められている。
1.2
既往の研究の概観
本研究の位置づけを明確にするために、水撃圧解析の基礎理論、中でも本研究で対象
とする代数学的手法とこの種の問題で広く用いられている特性曲線法の関係を整理し、
我が国における揚水発電機器などの設計分野の動向、同じく電力土木分野での動向、等
について概観する。
1.2.1 水撃圧解析の基礎理論
管内流体の圧力波の伝播あるいは水撃圧と呼ばれる現象の研究に関する歴史は 100 年
以上に及ぶとされ、ロシアの Joukowsky(1900)、イタリアの Allievi(1903~1913)らの
功績により定式化がなされ図式解法が一般化した後、1960 年代以降のコンピューターの
発達に伴い特性曲線法が普遍化して今日に至っており、その解析手法はほとんど確立し
ていると考えることができる。
E.Benjamin Wylie 等によれば、管路内の流体に関する水撃圧解析手法は次のように分
類される(Wylie, Streeter, Suo, 1993)
。
1.算術的手法
2.図式解法
3.特性曲線法
4.代数学的手法
5.陰解法
6.有限要素法
7.線形解析
いずれの手法も次に述べる質量保存式、運動量保存式あるいはエネルギー保存式など
の基礎方程式から発し、それぞれの手法に応じた前提条件下で解くものである。
−15−
(1) 基礎方程式
通常の水撃圧問題のように温度変化がないか無視できる場合はエネルギー保存式は考
えなくて良いので、上記いずれの手法にも共通する管路内の流れの基礎方程式として、
次のような運動量保存式と連続の式を考える(水理公式集 p.321 土木学会, 1985)
。
g
∂H ∂v
∂v
f
+
+v
+
vv = 0
∂x ∂t
∂x 2 D
(1.3)
g
∂H
∂v
 ∂H

+ c2
+ gv 
− sin α  = 0
∂t
∂x
 ∂x

(1.4)
ここに、
g :単位質量当たりの重力(重力加速度)
H :圧力水頭と高度水頭の和(以下、慣例に従い単に圧力水頭と呼ぶ)
x :管路軸に沿った距離
v :管内の平均流速
t :時間
D :管の内径
f :管摩擦係数
c :管内の圧力波伝播速度
α:管路の傾き角度
である。
圧力水頭
x
H−z
v
H
D
管路軸
z
α
図 1.9
基本式の記号
(2) 算術的手法と図式解法
上記の式で摩擦項と微小項を無視し、cが管内で一定と仮定すると、第 3 章で詳述す
るように、次の波動方程式を得る。
−16−
2
∂2H
2 ∂ H
=
c
∂t 2
∂x 2
(1.5)
2
∂ 2v
2 ∂ v
=
c
∂t 2
∂x 2
(1.6)
これらの一般解は、
x
x
H ( x, t ) = H 0 + F (t + ) + f (t − )
c
c
v ( x, t ) = v0 −
(1.7)
g
x
g
x
F (t + ) + f (t − )
c
c
c
c
(1.8)
ここに、
H(x,t)、H0:任意の位置および時刻における圧力水頭とその初期値
v(x,t)、v0 :任意の位置および時刻における流速とその初期値
x
F (t + )
c
:水頭の次元を持つ任意の関数
x
f (t − )
c
:
である。 F (t +
〃 (損失水頭係数とは別)
x
x
) は x の負の方向に進む速度 c の圧力波、 f (t − ) は x の正の方向に
c
c
進む速度 c の圧力波と考えることができる。式 1.7、1.8 から次式が得られる。
H (x, t ) − H 0 = −
c
(v − v0 ) + 2 f  t − x 
g
c

(1.9)
もし、管路の一方(xの正の方向の端)が急閉鎖(水撃圧が管路を往復するより早く閉


鎖)される場合は、他の一方からの圧力波の影響がないので f  t −
x
 = 0 であり、従っ
c
て上式は
H ( x, t ) − H 0 = −
c
(v − v0 )
g
(1.10)
となる。この式の左辺、すなわち急閉鎖される管端の圧力上昇 ∆H の最大値は v = 0 にな
ったときに発生し
∆H =
c
v0
g
(1.11)
となる。これが急閉鎖の最大水撃圧を与える Joukowsky の式である。
次に、第 3 章で詳述する方法により、管径や圧力波伝播速度が長さ方向に一定である
単位管の両端(それぞれ添字 1 および 2 で表す)の圧力水頭と流速について次式が成立
する。
−17−
H 1 (t ) −
c
L
c
L
⋅ v1 (t ) = H 2 (t − ) − ⋅ v 2 (t − )
g
c
g
c
(1.12)
H 2 (t ) +
c
L
c
L
⋅ v 2 (t ) = H 1 (t − ) + ⋅ v1 (t − )
g
c
g
c
(1.13)
H2
H1
v1
v2
L
図 1.10 一様な単位管
これらの式の意味は、一方の管端の各時刻の圧力水頭と流速の関係はそれより L/c 時
間前の時刻の他端の圧力と流速の関係に等しい、であり、後者即ち上式の右辺は既知で
あることから、これと別に境界条件が定まれば解析的に解くことができることを示して
いる。
Allievi は境界条件として貯水池やバルブを想定し、その境界条件を含む連立方程式を
逐次計算する連鎖方程式を提案し、緩閉鎖にも対応できる一般的な解析手法を導いた。
緩閉鎖の場合の最大水撃圧を与える式、
(
h0
n
= n + n2 + 4
H0 2
)
(1.14)
ただし、
h0 :水撃作用による閉塞器位置における上昇水頭
H 0 :水車端における閉塞器全閉後の静水頭
n =
ρ=
ρ
θ
cv 0
(Allievi の管路定数)
2gH 0
θ =
cT
2L
(閉塞器の閉鎖時間定数)
T:閉塞器の閉鎖時間
L:管路の長さ
が有名であるが、Allievi の功績は、管路内の任意の点における圧力変化を求める定式化
をしたことにあるものと解釈され、その後に続く図式解法や代数学的手法への発展に大
−18−
きく貢献した。
図式解法は式 1.12、1.13 を書き換え、
L
c
L 
H 1 (t ) − H 2 (t − ) =  v1 (t ) − v 2 (t − ) 
c
g
c 
L
c
L 
H 1 (t ) − H 2 (t − ) = −  v1 (t ) − v2 (t − ) 
c
g
c 
(1.15)
(1.16)
とした関係式を、Hとvを軸とする平面上で直線として描き、境界条件を示す関係式と
の交点を逐次求めることにより、水撃圧現象を定量的に追跡するものである。図式解法
の長所は、境界条件がH−v平面上で表すことができるものであれば、仮にそれが非線
形であっても計算に反映できること、水路の摩擦損失水頭を取り込むことができること、
視覚的に把握しやすいことであり、コンピューター利用以前の標準的解析手法であった。
(3) 特性曲線法
水撃圧の基礎方程式である式 1.3、1.4 の偏微分方程式を常微分方程式に置き換え、こ
れを離散化してコンピューターで逐次解析するのが特性曲線法である。この方法では、
摩擦損失項を含め、式 1.3 および 1.4 に示す基本式のすべての項を解析対象とするもの
である。これらは未知数Hとvに関するtとxに関する偏微分方程式になっていて、こ
のままでは未知数が多く解けないので、これらを特性曲線上のtに関する常微分方程式
に変換する。二つの式の左辺を
L1 = g
∂H ∂v
∂v
f
+
+v
+
vv = 0
∂x ∂t
∂x 2 D
(1.17)
L2 = g
∂H
∂v
 ∂H

+ c2
+ gv 
− sin α  = 0
∂t
∂x
 ∂x

(1.18)
とおき、未定定数λを用いて両式を線形結合しても、次式が成立する。
L1 + λL2 = 0
(1.19)
これを満たすλが
dx 1
= + v = c 2λ + v
dt λ
(1.20)
をも満たすと仮定すると、式 1.19 は
λ
dH 1 dv
f
+
+
v v − λ sin α ⋅ v = 0
dt
g dt 2 gD
となる。λの値は任意なので c
2
(1.21)
λ2 = 1 とすると、式 1.20 から
dx
= ±c + v
dt
(1.22)
となる。整理すれば、次のように特性曲線式 1.24、1.26 上で常微分方程式 1.23、1.25
が成立する。
−19−
1 dH 1 dv
sin α
f
+
+
vv −
v=0
c dt
g dt 2 gD
c
C+
(1.23)
dx
=v+c
dt
−
C-
(1.24)
1 dH 1 dv
sin α
f
+
+
vv +
v=0
c dt
g dt 2 gD
c
(1.25)
dx
=v−c
dt
(1.26)
これを差分化して次の離散式を得る。
(v P − v A ) + g (H P − H A ) +
C+
c
f
g sin α
v p v A (t P − t A ) −
v A (t P − t A ) = 0
2D
c
(1.27)
x P − x A = (v A + c )(t P − t A )
(v P − v B ) − g (H P − H B ) +
C-
c
(1.28)
f
g sin α
v p v B (t P − t B ) +
v B (t P − t B ) = 0
2D
c
(1.29)
x P − x A = (v B − c )(t P − t B )
(1.30)
各添字は図 1.11 に対応している。なお、計算時間刻み Δt と空間的な離散幅 Δx が
Courant-Friedrichs-Lewy 条件と呼ばれる次式を満足している必要がある。
∆t (v + c ) ≤ ∆x
(1.31)
t
P
tP
∆t
C+
C
v+c
tA tB
-
v-c
A
B
xA
xP
xB
x
∆x ∆x
図 1.11
特性曲線法の x-t 平面上の格子点
−20−
ここで式 1.27、1.29 第 3 項に示す摩擦損失に注目する。これらはそれぞれ図 1.11 に示
すA点からP点およびB点からP点にかけての損失を積分したものに等しいと考え、式
に示すように添字を付与することが最も正確な近似値を与えるとされている(Wylie,
Streeter, Suo, 1993)
。これを 2 次近似と称し、式 1.27’、1.29’に示す1次近似にくらべて
計算の無条件安定を保証し、大きな時間ステップによる計算と収束性の加速を可能にす
るとされる(島田, 1986)
。
(v P − v A ) + g (H P − H A ) +
c
(v P − v B ) − g (H P − H B ) +
c
f
g sin α
v A v A (t P − t A ) −
v A (t P − t A ) = 0
2D
c
f
g sin α
v B v B (t P − t B ) +
v B (t P − t B ) = 0
c
2D
(1.27’)
(1.29’)
実際の計算にあたっては、求めようとする未知の点Pに対応する点は既知の点AとB
ではなくその近傍のRとS点なので、線形補間する必要があり、空間的に補間する方法
と時間的に補間する方法がある。
即ち、図 1.12 に示すように、空間補間とはRとSの値を既知の点A,Bの値から補間
して求め、それを使ってP点の値を求める方法であり、従来から多く用いられている補
間方法であるが、例えばR点はAには近いがBからは遠いので、線形補間する際に誤差
を生みやすい。一方、時間補間は、Rの代わりにR′をAとA′(Δt前のA点の値)
から補間し、S′は B とB′点の値から補間するする方法であって、誤差が比較的小さ
いとされる(Wylie, Streeter, Suo, 1993)
。
t
P
Δt
A
R
S
R′
B
S′
A′
B′
Δx
Δx
x
図 1.12 特性曲線の補間方法
特性曲線法は、最近になっても上記のような細かな工夫が積み重ねられ、ほとんど完
成された手法と言うことができる。
−21−
ここで前述の式 1.23∼1.26 で表される常微分方程式に戻り、本研究などが対象とする
大規模な管路の水撃圧について成立する「流体の流速(v)が圧力波伝播速度(c)に
比べて十分小さい」即ち「マッハ数(v/c)が1より十分小さい」なる仮定を適用した
場合について考察する。なお、通常の揚水式発電所のマッハ数は 2.1.3 に示すように 0.01
程度で、この仮定が成立している。この場合、当該の式は第 3 章で詳述するように、次
のようになる。
1 dH 1 dv
f
+
+
vv = 0
c dt
g dt 2 gD
C+
(1.32)
dx
=c
dt
−
C-
(1.33)
1 dH 1 dv
f
+
+
vv = 0
c dt
g dt 2 gD
(1.34)
dx
= −c
dt
(1.35)
このように式 1.33、1.35 で表される特性曲線は流体の流速vによらないので、もしc
即ち圧力波伝播速度が管路中で一定であれば、特性曲線は場所や時間に拘わらず一定勾
配となり、Δxを大きくしても、摩擦損失の問題を除き、計算精度が落ちることはない。
この点に着目したのが本研究が扱う代数学的手法である。
(4) 代数学的手法
本手法は(2)算術的手法で述べた方法、即ち管路の両端の圧力水頭と流速について
成立する式を境界条件式と連立させて逐次計算する方法に摩擦損失を加えて解くもので
ある。即ち、単一管路に関する式 1.12、1.13 を
H 1 (t ) −
c
L
c
L
r
L
× v1 (t ) = H 2 (t − ) − × v 2 (t − ) +
v1 (t ) v 2 (t − )
g
c
g
c
2D
c
(1.36)
H 2 (t ) +
c
L
c
L
r
L
× v 2 (t ) = H 1 (t − ) + × v1 (t − ) −
v 2 (t ) v1 (t − )
g
c
g
c
2D
c
(1.37)
のようにする。ここで、右辺第 3 項の摩擦損失項の係数 r は特性曲線法における f に対
して r =
L
f の関係にある。また同項において v1 (t ) と v2 (t ) を使い分ける手法は前記
g
の特性曲線法における 2 次近似に相当するものであるが、後述するように本研究ではこ
−22−
れとは別の方法に依っている。
一方、この手法は特性曲線法でΔxを大きく取ったものと見なすことも可能である。
なぜならば、式 1.32∼1.35 を離散化すれば、
C+
C-
(v P − v A ) + g (H P − H A ) +
c
x P − x A = c (t P − t A )
(v P − v B ) − g (H P − H B ) +
c
x P − x A = c (t P − t B )
f
v p v A (t P − t A ) = 0
2D
(1.38)
(1.39)
f
v p v B (t P − t B ) = 0
2D
(1.40)
(1.41)
となり、式 1.38 でAおよびP点の名前をそれぞれ1と2とし、P点の時刻をt、A点の
時刻を t−L/c とすれば、 (t P − t A ) = t − (t − L / c ) = L / c となるので
L  g
L 
f
L L

v2 (t ) v1 (t − ) = 0
 v 2 (t ) − v1 (t − )  +  H 2 (t ) − H 1 (t − )  +
c  c
c  2D
c c

(1.42)
となる。これは式 1.37 と本質的に同じである。同様に式 1.40 でP点およびB点を1と
2とすれば式 1.36 と同じになる。故に、代数学的手法は特性曲線法でΔxを管路長まで
大きく取った特殊なものと考えることができる。
以上のような代数学的手法と特性曲線法との相互関係をまとめれば 図 1.13 のように
表すことができる。即ち、特性曲線法も代数学的手法も同一の基礎方程式に発し、前者
が特性曲線上で格子点ごとの物理量を逐次計算するのに対し、後者は基礎方程式をある
仮定の下に直接解いて一般解を得た上、損失水頭項を加えて、管路の両端の物理量のみ
を求めるものであり、マッハ数が小さければ特性曲線法の微小項が省略できので、両者
の基本式は同じものとなる。
E.Benjamin Wylie 等(Wylie, Streeter, Suo, 1993)によれば、この代数学的手法の得
失は次のようである。
長所;
1.管路の途中を計算せずに一区間として計算できる。
2.途中の格点の計算をしないので、ネットワークなどの複雑な管路系の計算をするよ
うな場合でも、計算速度が速い。
3.Δt を小さく取ることで、境界条件の詳細を再現できる。
4.手回し計算機、電卓、マイクロコンピュータでも計算できる。
5.計算上の接点数が少ないので、その分記憶容量が小さくてすむ。
−23−
短所;
1.管路長をひとつの区間長として扱うので、摩擦損失の計算の精度が落ちる。
2.時間的に多くのステップの値を記憶していなければならないので、コンピューター
の記憶容量を多く必要とする。
この代数学的手法は、従来の図式解法からコンピューター利用へ移行する過程で、汎
用性を持つ特性曲線法の蔭に隠れて、あまり注目されずに今日に至ったのが歴史的経緯
と思われるが、その短所、特に摩擦損失の計算の問題を解決した上で、長所、特に計算
速度が速い特長を活かす可能性が予見される。
代数学的手法
特性曲線法
管路内非定常流の基礎方程式
運動量保存式(1.3)
質量保存式(1.4)
↓
特性曲線法
C+(常微分方程式)(1.23,24)
C−(常微分方程式)(1.25,26)
←(同一)→
↓
離散化
(差分法)
↓
離散式
C+(離散式)(1.27,28)
C−(離散式)(1.29,30)
↓
規定時間間隔法、線形補間
↓
水撃圧の基本式
管路中の格子点ごと
微小項省略
→
マッハ数小
管路内非定常流の基礎方程式
運動量保存式(1.3)
質量保存式(1.4)
↓
線形化
マッハ数小、一様管路の仮定、
微小項省略、
摩擦損失後送り
↓
波動型基礎方程式
(偏微分方程式)(1.5,6)
↓
一般解(1.7,8)
(離散式)(1.12,13)
↓
損失水頭の追加
管路端近傍に集中
↓
水撃圧の基本式
管路端のみ(1.36,37)
図 1.13 特性曲線法と代数学的手法の比較
(5) その他の手法
差分式を、自由水面の非定常流問題などに用いられる陰解法で解くことにより、式 1.31
で示される Courant-Friedrichs-Lewy 条件に拘わらずΔt を大きくできるので、計算時
間を短縮することが考えられる。このためには未知数を含む非線形連立方程式を解く必
要があり、各方程式を線形近似して解くか、逐次緩和法を用いて非線形連立方程式を解
くかする。しかし、このことによる計算時間の増分とΔt を大きくしたことによる減分が
−24−
相殺するので、必ずしも有利にはならない。また実用上の精度を確保するためには
Courant-Friedrichs-Lewy 条件に匹敵するΔt が要るとのことなので、この陰解法を管路
の水撃圧に適用することの意義はほとんどないとされている。
気液混合流のように圧力波伝播速度が急激に変化する場合などに有効とされる有限要
素法を単相状態にある管路の非定常流に用いる例は少なく、本研究においても考慮しな
い。
線形解析手法は、摩擦項を線形近似し、他の非線形項を省略することにより、管路の
上流と下流の圧力と流速の関係を線形化し、その解を正弦波の振動の集まりとして表現
する。これにより、周波数応答解析と自由振動解析ができる。前者は水路系に何らかの
外乱があったときの系の応答を解析することに用いられ、後者は系の振動の安定性に関
する解析に用いられる。この手法は、本研究が副次的に取り扱う定常運転時の問題に特
に関係が深く、多くの情報をもたらすことが期待されるが、本研究ではシミュレーショ
ン解析を積み重ねることで応答解析と安定解析をするとの立場から、この線形解析手法
は今後の課題と位置づける。
(6) 圧力波伝播速度
管路内を伝播する圧力波の速度は水などの流体の圧縮性と管路の剛性によって定まる
管路ごとの定数と考えることができ、次式で表すことができる(横山, 1969)
。
c=
1
(1.43)
 1
D (1 − λ ) 
ρ
+ ⋅

Es 
 Ew t
ここに
c :管内の圧力波伝播速度
Ew:水の体積弾性率(15℃のとき 2.14×10-1N/m2)
ρ :水の密度
D :管の内径
t :管の板圧
Es:管の弾性係数(埋設管の場合は周辺の拘束を考慮した等価弾性係数)
λ :水圧鉄管以外のコンクリートや岩盤が管の内圧を負担する比率
ここで、岩盤中に埋設された水圧鉄管など管路の剛性が非常に大きい場合には、
D (1 − λ )
×
≅0
t
Es
(1.44)
−25−
となるので、
c =
Ew
ρ
≅ 1,400m / s
(1.45)
となる。露出した鋼管については図 1.14 のようになる。
µ
;管路の上端のみ軸方向に固定されている場合
2
c1 = 1 − µ 2 ;管路全体に軸方向に固定されている場合
c1 = 1 ;管路全体に軸方向の移動が自由な場合
c1 = 1 −
図 1.14 露出鋼管の圧力波伝播速度(横山, 1969)
通常、水圧管路の D/t は 100∼200 程度であるので、図 1.14 から露出管の圧力波伝播
速度 c は 800∼1,000m/s 程度となる。岩盤中に埋設される水圧管路は露出鋼管より全体
に剛性が高まることから、圧力波伝播速度が高くなり、その値はほぼ 1,000m/s である。
一方、空気混入時には次図のようにかなり異なる様相を呈し、空気の混入量によって
は 200m/s 程度まで低下する。このことは、水撃圧により圧力が低下した際に気液分離が
起こる問題として把握され研究されている(河野, 1996)
。但し、通常の水圧管路の場合、
このような低圧状態が起こらないように設計される。
−26−
図 1.15 空気混入時の圧力波伝播速度(横山, 1969)
(7) 管内流体の周波数応答
岩盤内に埋設される管内における流体の圧力変動についてその周波数が高くなった場
合、(6)に示すようなモデルがあてはまらなくなることが知られている(L.Suo 他
1990)
。すなわち、管内の流体の圧力は岩盤に伝達され拡散しつつ無限遠まで伝播し、そ
の反力が拘束力として流体に作用し、それに応じて管路方向の圧力波伝播速度が定まる
のであるが、流体の圧力変動の周波数によってこれらの挙動が変化するので、圧力波の
見かけ上の伝播速度が変わると共に、管路方向に圧力波の減衰が生じその率も変化する。
これは通常の弾性挙動管における水撃圧では見られない現象である。
計算例として図 1.16 に示すのは、掘削径 4m、岩盤の弾性係数 3.0GPa、ポアソン比
0.25、密度 2,500kg/m3 の場合の圧力波周波数(ω)に対応する等価圧力波伝播速度(c’)
と指数減衰係数(φ)である。この計算条件を我が国の通常の埋設式水圧管路と対比す
ると、岩盤の弾性係数が大きい一方、水圧鉄管が考慮されていないなど、そのまま適用
することはできないが、掘削径などは近く、定性的傾向を把握する目的に使用すること
はできる。この図から明らかなように、周波数(角速度ω)がゼロ付近では等価圧力波
伝播速度(c’)は式 1.43 に示すような静的な拘束から定まる伝播速度を示し指数減衰係
数(φ)はゼロであるが、ωが 300rad/s(≒50Hz)程度になるとc’が増加し始め、φは非
常に大きな値となる。ωが無限大になった場合はc’は管路条件に無関係に水中の圧力波
伝播速度(音速)に一致する。
−27−
(c’)
(φ)
p = Pe −φ ⋅x e
iω ⋅( t −⋅ x ′ )
c
(ω)
図 1.16 圧力波周波数(ω)に対応する等価圧力波伝播速度(c’)と
指数減衰係数(φ)
(L.Suo 他 1990)
このような岩盤内埋設管の周波数応答の特性は、第 5 章で詳述するように、通常の水
撃圧の場合には圧力変動が小さいので無視できるが、ポンプ水車の挙動によって二次的
に発生する高周波水圧脈動のような現象の場合には無視できない。
(8) 水撃圧解析の基礎理論のまとめ
代数学的手法は従来からあった算術的手法あるいは図式解法と軌を一にするものであ
り、水撃圧解析で現在主流となっている特性曲線法からも「マッハ数が1より十分小さ
い」ことを仮定すれば導出することができ、摩擦損失の取扱いなどの問題点に配慮すれ
ば、計算速度が格段に速い長所を活用することが期待される。
1.2.2 我が国における水車発電機製造分野の動向
(1) ポンプ水車特性の解析の必要性
前節で述べた基礎理論を実際のシステムに適用する際の最も難しい問題は、ポンプ水
車によって課される境界条件をいかに表現するかである。通常のバルブやペルトン型水
車のようにある数式で表現できる場合には容易に解析できるが、第2章で詳述するよう
に、ポンプ水車は自らの回転速度によって流量特性が大きく変化するので、模型水車か
ら得られる特性を織り込んでポンプ水車の挙動を把握し、それを境界条件として解析す
る必要がある。
図 1.6 に示した高落差化の動向と、図 1.17 に示す単機容量の増大傾向に端的に現れて
−28−
いるように、1970 年代初期に大容量高落差可逆式ポンプ水車発電電動機を開発した重電
メーカーは、水撃圧問題に関して多くの知見と研究成果を有しており、その後も製造実
積を重ねることにより、解析手法を確立している。
500
神流川
450
葛野川
400
今市
350
水車単機容量 (MW)
南原
300
250
喜撰山
200
150
100
50
0
1920
1930
1940
1950
1960
1970
1980
運転開始年
1990
2000
2010
2020
2030
図 1.17 運転開始年とポンプ水車単機容量の関係
一般に、ポンプ水車のガイドベーン(案内羽根)を開閉したり、回転速度が変化する
ときには流量が変化し、水撃現象が発生する。この水撃は水圧鉄管、吸い出し管(ドラ
フトチューブ)の両方に発生し、しかも分岐管を介して接続された複数台のポンプ水車
は、相互に影響し合うという複雑な関係にあるので、ポンプ水車、水路系を含むトータ
ルシステムの解析が必要になる。さらにポンプ水車には、揚水、発電、調相など色々な
モードがあり、そのおのおのに起動から停止まで一連の運転操作があるので、これをつ
かさどるガバナーを考慮する必要がある。
揚水発電所の立地条件上の制約、土木設備を含む全体の経済性要求、単機容量の増大
などの要請から、長大、高落差かつ複雑な水路系が建設される場合が多く、また管径を
小さくして経済性を確保したいとの要請もあり、水撃問題は複雑かつ難解になった。
そのため、主要メーカーは水路系とそれに接続する複数台のポンプ水車、発電電動機、
ガバナを含むトータルシステムをディジタル式計算機でシュミレートするプログラムを
開発した。それまで一部に使われていたアナログ計算機は複雑なシステムのシュミレー
ションに適用するには限界があるため採用されなかった。このプログラムを用いること
により、ガイドベーンの開閉モード、起動停止シーケンスなど、あらゆる運転条件の最
適化が可能となり、発電所全体の計画段階やその後の設計段階でも土木構造物を含めた
−29−
最適計画、設計が可能となることが期待された。
但し、1960 年代においては、欧米においてもまだ特性曲線法をコンピューターに応用
することが始まったばかりであり、先ずは式 1.12 および 1.13 に示すような Allievi の式
を離散化して解く算術的手法がコンピューター化された。但し、水路系は一般化するこ
とが難しく、与えられた水路系に合わせて毎回プログラムを作成していた。その仕様の
あらましは表 1.5 のようであり、当時既に必要なものが基本的に具備されており、現在よ
り 30 年以上前に既に高い技術レベルに達していたことが分かる。換言すれば、その高い
技術水準があって初めて、世界に先駆けて大容量高落差揚水発電所を建設することがで
きたものと考えられる。
表 1.5 重電機メーカーによる水撃圧計算手法の推移
項目
基本式
摩擦損失
計算時間
水路系(概要)
調圧水槽
分岐・合流
ポンプ水車
1960 年代
算術的手法(Allievi の
式)
オリフィスで近似
短(管路端のみ計算)
基本的なもの
可
可
完全特性考慮
1970 年代
特性曲線法
同左
差分式内で考慮
長(格点の計算)
かなり一般的なもの
同左
同左
同左
同左
短(計算能力向上)
パターンから選択
同左
同左
同左
現在
ただ、この水撃圧計算には、当時の大型計算機をもってしてもかなりの計算時間を要
するため、多くの計算ケースを流して各パラメーターを最適化することは事実上難しく、
特に土木設備などプロジュクト全体の計画設計を担当している電力会社土木技術者から
要請して、このプログラムを使って結果を出すことは憚られるのが実態であった。
1970 年代に入ると重電メーカーでも世界的な傾向に対応して特性曲線法を用いた水撃
圧計算に移行し、同時に数多くの実機での測定結果と照合することを通じ、解析手法も
細部にわたり洗練され、解析手法として確立されるに至った。
現在ではコンピューターの能力が格段に向上したため、特性曲線法で計算する上で特
段の制約はなく、水路系などの境界条件が複雑化しても対応可能になっている。
(2)水撃圧解析とポンプ水車過渡現象制御
ここで、水撃圧解析手法の過渡現象制御への応用例として、最近注目されているイン
テリジェントガバナーの研究成果を示す(Kuwabara, Katayama, 2000)
。従来のガイド
ベーンの閉鎖モードが時間の関数としてあらかじめ定められていたのに対し、インテリ
ジェントガバナーは主機の回転速度に応じてガイドベーンの開度を変える回路を組み込
むことにより、流量変化およびそれに伴う水撃圧を従来より小さくしようとするもので、
水撃圧計算による数値実験によりその有効性が確認されており、近々実証試験が行われ
−30−
ようとしている。
従来のガバナーによるガイドベーン開度、回転速度、流量ならびに水圧鉄管および吸
い出し管における水頭の時間変化は図 1.18 の左図のようであり、同じく完全特性上の回
転速度と流量の関係が右図のように大きく振れることから、左図の流量や水頭が大きな
変動を来す。これは第2章で詳述するようなポンプ水車の特性から、それまで水車を通
って発電側に流れていた水が回転速度の上昇につれ水車の中を通りにくくなることに由
来し、それに伴い流量が減り回転トルクが減って回転速度が落ちる、するとまた水が通
りやすくなって流量が増えるという、一種の自励振動(「あおり」と称する)を引き起こ
していることが分かる。
図 1.18 通常のガイドベーン閉塞に伴う水撃圧(Kuwabara, Katayama, 2000)
ここに
Hp: 水車入り口圧力水頭(m)、 N: 回転速度(rpm)
Hd: 水車出口圧力水頭(m)、 Q: 流量(m3/s)、 Y: ガイドベーン開度
である。
この点に注目し、回転速度が上昇した場合はガイドベーンを開いて水の通りを良くし、
あまり急激な流量変化およびそれに伴う圧力変動を起こさずにすませられないかと考え
たのがインテリジェントガバナーであり、その結果は図 1.19 に示すように良好な結果を
もたらしている。即ち、あらかじめ定められたモードに従い閉鎖中のガイドベーンは、
水車回転速度がある値に達した以降、回転速度の変化に応じて開度を変化させていき、
ある回転速度以下では再び当初の閉鎖モードに戻す。こうすることにより、流量変化は
従来に較べ小さくなると共に、いわゆる「あおり」もほとんど消失する。これは、回転
速度の上昇で水が通りにくくなったときに、閉鎖中のガイドベーンを逆に開いて水の通
りを妨げないようにしているからである。その結果、水車入口および出口における圧力
変化(Hp および Hd)も、ピーク値はあまりかわらないものの、その変動幅が格段に小さ
くなる。
−31−
図 1.19 インテリジェントガバナーによる水撃圧の軽減(Kuwabara, Katayama, 2000)
回転速度とガイドベーン開度との応答関数のパラメーターを最適化すれば、上記の結
果をさらに改善することが期待され、その数値実験手段としての水撃圧計算プログラム
は極めて有用である。
(3)重電メーカーによる解析に関する課題
水路の設計には、初期の計画段階で水路の条数や調圧水槽の有無など基本的レイアウ
トを検討すること、その後の設計段階で個々の構造物の形状や寸法を決めること等のプ
ロセスがあり、その度に数多くのケーススタディーを行って諸元を最適化するので、数
値シミュレーションに使うことのできる過渡現象解析プログラムを必要とする。
重電メーカーは高精度の解析プログラムを有しており、水路系を含む複雑なシステム
の解析が可能なレベルに達しているが、その主な検討対象がポンプ水車および発電電動
機にあるので、上記のような水路の設計に適用するには限界がある。
例えば、水路形状をあらかじめパターン化したものから選択して指定するので、任意
の水路に適用させる自由度はない。また、特性曲線法であるために、管路の途中の格点
の計算をすべて行わなければ次のステップに進めないので計算速度が遅く、水撃圧のみ
を対象とする数十秒間の現象の予測計算はともかく、調圧水槽のサージングのように数
百秒間の現象の予測計算をする場合には時間がかかりすぎる。
恐らくこれらが障害となって、重電メーカーの解析手法を用いて水路系全体の計画や
設計の要請に対応した水撃圧の計算を実施する体制ができていないものと思われる。
1.2.3 電力土木分野の動向
(1) システム全体としての最適化の必要性
関係官庁、電力会社、コンサルタント、建設会社など水力発電所の開発に携わる諸組
織に属する土木技術者は、従前から単にダムやトンネルなど個々の土木構造物の設計や
施工に関わるのみならず、新規開発地点の調査や発電所全体の計画策定に中心的役割を
果たしてきた。中でも、水車発電機などの諸装置を含む水路系の過渡現象には多くの知
−32−
見を有し、それに基づき水力発電所全体システムの最適化を計ることに努めてきた。
揚水発電所においては、一般水力発電所と異なり河川の流入量の多寡を考慮すること
が不要なため地点選定の自由度が大きく、高落差化すればするほど、また大規模化すれ
ばするほど、プラント全体の経済性が上がることが明らかなことから、1960 年代後半か
ら、それまでにない大規模高落差の地点が開発された。また可逆式ポンプ水車の導入が、
それまでの比較的簡便な計算上の仮定を適用不可能なものとした。一方、この頃に相次
いで導入された大型汎用コンピューターは複雑・大量の計算を可能とし、それまであっ
た解析手法上の制約を取り払った。これらのことは、それまでの設計手法を一変させた。
発電水力に関わる水路の設計で初心者を悩ます問題のひとつが水撃圧と調圧水槽のサ
ージングであることは衆目の一致するところである。その最大の原因は、それらの現象
が水車発電機など土木技術者が直接関与しない機器に起因しているためではないかと考
えられる。即ち、システム全体を最適化するという意気込みにもかかわらず、機器の挙
動を正確に理解できなかったり、それが原因となって行き過ぎた簡素化をしているので
はないかと思われる。
この種の教科書や参考書では水撃圧とサージングを別項目で扱っている。例えば水理
公式集(土木学会, 1985)では「発電編」が8つの章に別れ、4.水撃作用、5.サージ
タンクとなっていて、それぞれの基礎方程式および基本方程式が異なる形で表現されて
いる。しかし当然のことながら、前者が水圧管路において、後者が調圧水槽において発
生する異なる現象で、水圧管路に対しては静水圧、水撃圧およびサージング水圧の算術
和を設計内圧に取らなければいけない、ということではない。
実際、経済産業省が定めている「発電用水力設備の技術基準」
(通商産業省, 1998)第
32 条において「考慮すべき内圧は、静水圧、水撃圧及びサージングによる上昇水圧の合
成最大水圧」と定められている。同様に、水門鉄管技術基準(水門鉄管協会, 1997)では
「第4条(設計に用いる内圧)水圧鉄管の設計に用いる内圧は、静水圧にサージング及
び水撃作用による上昇水圧を加味して、起こりうる最大水圧とする」と定められており、
同解説において「同時点で起こりうる最大値を取ればよい」と述べられている。
元来、水撃圧とサージングは負荷遮断などの事故時あるいはAFC運転など何らか特
別の運転の際に生ずる単一の現象から発生するもので、その影響を受ける水路内の水に
関する基礎方程式も同じものである。念のため、そのことをここで整理する。
水撃波の基礎方程式は一般に次式で表される(水理公式集)
。
∂V
∂V
∂H
f
+V
= −g
−
VV
∂t
∂x
∂x 2 D
c2
(1.46)
∂H
∂H
∂V
= −g
− gV
∂x
∂t
∂x
(1.47)
ここに
V:管内平均流速、H:圧力水頭と高度水頭の和、x:管路に沿う距離軸、t:時刻、
−33−
g:単位質量当たりの重力、f:抵抗係数、D:管内径、c:水撃波の速度
一方、サージタンクの基本方程式は、単働型を例として
dV z − kV V
=
L
dt
g
(1.48)
dz Q − fV
=
dt
F
(1.49)
ここに
z:サージタンク水位、k:損失水頭係数、L:圧力水路の長さ、F:調圧水槽の断面積、
Q:水車使用水量
F
z
V
f
Q
L
図 1.20 単働型サージタンク
サージタンクの計算においては水の圧縮性を無視して剛体と考えるので、流速は時間
のみの関数であり、圧力水路内の水に着目して式 1.46 を適用すると、同式の各項はそれ
ぞれ次のように置き換えられる。
∂V dV
=
∂t
dt
(1.50)
∂V
=0
∂x
(1.51)
V
∂H
z
=g
∂x
L
(1.52)
kV V
f
VV = g
2D
L
(1.53)
−g
故に式 1.46 から次式が導かれる。
kV V
dV
z
+0= g −g
dt
L
L
(1.54)
これは式 1.48 と同じなので、サージタンクの運動方程式は水撃圧基本式において水の
圧縮性を無視した特別のものであることが分かる。
−34−
また式 1.49 は、サージタンク基部での流量の連続性から導かれるが、ここで水槽基部
から水圧管路に向かう流量Qを水車使用流量と呼び所与のものとして扱う例が多い。し
かし、このQはそもそも未知数であり、調圧水槽を含む水路系全体の水撃圧計算をして
初めて求まるものなので、この方法が妥当性を有するのは特別な場合に限定される。
即ち、一般の水力発電所では水撃圧現象は数秒から数十秒の比較的短時間で終わるこ
とが多く、サージングは圧力水路の長さにもよるが数分から数十分に及ぶ比較的ゆっく
りした動きなので、上記のサージングの計算においてQの変化を初期値から数十秒でゼ
ロとなるとして適当に与えても、貯水池と調圧水槽を結ぶ圧力水路内の水のU字管振動
に帰着するサージングをほぼ正確にシミュレートすることができる、という事情がある
ために、近似的に扱われてきたものと考えられる。
しかし、揚水発電所にあってはポンプ水車を通過する流量を支配するガイドベーン閉
鎖速度が比較的遅い上、流量変化がポンプ水車の回転速度の上昇などによって支配され
るので、単純に流量変化を推測することが難しい。また例えば制水口式の調圧水槽など、
その基部での水撃圧の反射が単純でないものもある。従って、従来のように水撃圧とサ
ージングを別物として扱うことは、揚水発電所では実態から離れたものになっており、
すべての水路系を一体のものとした計算が不可欠である。
(2)電力会社による解析の課題
多くの事業者の場合、水撃圧計算の複雑さなどから、水撃圧とサージング圧を別々に
求め、水圧管路など各水路の各場所ごとに設計内圧を求めるのが通例となっている。こ
の方法は、実際にはそれらが同時に発生しないにも関わらず単純に重ね合わせている点
で過大な値を与えるが、安全側に作用するとして許容されているものである。
最近の電力各社の水撃圧とサージングの取扱いについて聞き取り調査をした結果をま
とめたものを表 1.6 に示す。
一般の電力会社では水撃圧計算はコンサルタントに委託して計算し、調圧水槽サージ
ングの計算は自社で行うことが多いようである。しかし、一部電力会社では、比較的最
近になって汎用性のある非定常解析プログラムに揚水発電所特有の条件を加味したプロ
グラムを開発し、これを用いるようになってきた。この元となるプログラムは特性曲線
法を用いたもので、多くの使用実績を重ね、汎用性を持つものである(富士総合研究所,
1995)
。
最近ではパーソナルコンピューターが発達し、数年前までは汎用機やエンジニアリン
グワークステーション上でのみ稼働できた大型プログラムもパーソナルコンピューター
に移植され、研究者や技術者あるいは学生がどこにあっても容易に複雑な計算ができる
ようになった。多くのケースがシミュレートでき、数値実験が可能になったことから、
思い切った設計の見直しが可能になった。
−35−
表 1.6 電力会社の水路の設計内圧算定方法とその推移
項目
水撃圧計算
実施主体
A社
コンサルタントに委託
〃 手法
調圧水槽サージン
グ計算
実施主体
〃 手法
B社
コンサルタントに委託
C社
コンサルタントに委託
電源開発(株)
自社で実施
Allievi の方法?
特性曲線法の汎
用プログラムを専
門会社と契約し
て改造
コンサルタントに委託
代数学的手法で
計算
上記のプログラム
で同時計算
上記のプログラム
で同時計算
平成 8 年 3 月に
上記プログラム
が完成するまで
は、A社、B社
と同様の手法
図 1.22 に示すよ
うな経緯があっ
た
自社で実施
自社で実施
水車側の流量を
与え RungeKutta 法で数値
積分
水車側の流量を
与え RungeKutta 法で数値
積分
過去の経緯
計算方法
自社で実施
静水圧
水撃圧・サージング
水圧脈動
+) 余裕
設計内圧
静水圧
水撃圧
+)サージング圧
設計内圧
以下に示すものは、ある電力会社が自ら建設し保有する発電所の負荷遮断試験時にお
ける水撃圧の計測値(図 1.21)と計算値(図 1.22)である。計算値は、特性曲線法に基
づく汎用の水撃プログラムを基本として水車特性を考慮して改造を加えたプログラムを
用いて、逐次計算したものである。この結果から見て、細かな相違を無視すれば、実用
に十分耐えるシミュレーションができる水準に達していることが理解されよう。
しかしながら、このプログラムは特性曲線法によっているために、計算速度が遅く、
実際の揚水発電所を対象に数百秒の水撃圧・サージング計算をするのに要する時間は、
クロック周波数 500MHz 程度のパーソナルコンピューターで数十分オーダーとのことで
あり、実際の計画や設計にあたって多くのケースについてシミュレーションするような
使い方には、かなりの制約があるのではないかと思料される。
なお、この例にも見られるように、水車出口側の計測結果や計算結果が明示される例
は少なく、その場合にあっても(Petry & Vieira, 1994)必ずしも十分な精度が確保され
てはいない。
−36−
図 1.21 ある発電所の負荷遮断試験結果(実測値)
図 1.22 ある発電所の負荷遮断試験結果(解析値)
(3)電源開発(株)における解析手法
電源開発(株)では、高落差大容量の揚水式発電所の開発が始まった 1965 年頃から、当
時の知見を総合して自らプログラムを開発し、これを使って計算し、導水路、調圧水槽、
水圧管路、放水路など水路施設の設計や実測結果の解析などに用いてきた。その計算方
−37−
法は、非定常流問題に通常用いられる特性曲線法ではなく、1.2.1 で述べた代数学的手法
に相当するもので、この手法を調圧水槽など総ての水路構造物に適用し、水撃圧計算と
サージング計算を同時に処理した。このプログラムの開発と沼原揚水発電所の設計への
適用については筆者も少なからず関与している。
電源開発(株)における揚水発電所建設とその過渡現象解析の歴史と本研究の対象範囲
を図 1.23 に示す。同図の右上に示す水撃圧解析プログラムを用いた設計成果のひとつが
放水路の長大化である(中山, 1982)
。それまで 100m以下が限界と考えられていた調圧
水槽を有しない放水路の長さを、一挙に 500mに拡大したのも、このような数値実験によ
り、どこまで水圧低下が起こるかが明らかになったことが寄与している。
1965 年頃
サージング計算
(剛体理論)
1970 年代
水撃圧解析プログラム
(代数学的手法、
ポンプ水車特性、
新豊根・沼原発電所の建設
サージング同時計算)
(日本初の大規模揚水発電所)
任意水路系
1980 年代
奥清津・下郷発電所の建設
解析プログラム
(新豊根・沼原の継承・発展)
特性曲線法
1990 年代
解析プログラム
奥清津第二発電所の建設
(複雑な水路・主機との整合)
1995 年頃∼
解析プログラムの
再開発
今後の開発
チェック&レビュー
国際事業
(理論・実測)
他分野への応用
本研究の範囲
図 1.23 電源開発(株)の揚水発電所建設の歴史ならびに本研究の背景と対象範囲
−38−
奥清津第二発電所(金澤, 井澤, 1993; Fujino, Mizuhashi, 1997)でも、このプログラ
ムを用いて水撃圧とサージングを同時に計算し、場所ごとに異なる最大水圧上昇を求め
た上、計算で求めることのできない後述する高周波水圧脈動(計算水撃圧の 10%)と余
裕分(同 5%)を上乗せして設計内圧としている。
ただ、微小項や摩擦損失水頭を考慮して計算する特性曲線法が一般化している中で、
従来から用いていた代数学的手法に基づく計算方法があまりに単純化しているように見
え、その妥当性、適用性に疑問を有していたため、実際の設計には「余裕」を持たせて
いたものである。このような疑問を払拭し設計を合理化し、できればこの「余裕」をゼ
ロにしたいというのが本研究の動機である。
図 1.23 に示すように、筆者は 1970 年代に任意水路系の行列演算のプログラムを開発
した(電源開発㈱, 開発計算センター, 1977)
。その詳細は第 4 章で述べるが、水力発電
所の水路系を単一管路とその境界条件となる各種の水理構造物からなるネットワークと
考え、それらの任意の組み合わせに対応して成立する連立方程式を行列演算で逐次計算
するものである。但し、このプログラムでは境界条件としてペルトン水車など簡単な水
車のみを対象とし、ポンプ水車の特性は織り込んでいなかったため、それが課題となっ
ていた。これらとは別に、社内の別グループにより特性曲線法によるプログラムも開発
されており、計算結果を対比してプログラムの妥当性を検証するために用いることが可
能な状態であった。
これらの経緯から、代数学的手法による水撃圧解析プログラムを任意水路系に適用拡
大すべくプログラムの再開発を行うと共に、その手法の理論的妥当性ならびに適用限界
を検証し、実際の発電所における試験結果と照合することによって、解析手法の確立を
目指すこととしたものである。
1.3 本論文の目的と構成
1.3.1 本論文の目的
本論文では、揚水発電所水路系の水撃圧やサージングなど過渡現象の解析方法につい
て、実用性の観点から、微小項を省いて計算速度を高めると共に任意の管路ネットワー
クに適用できる計算方法を提案し、既に確立されている他の手法との理論的関係を精査
し、実際の発電所で計測された結果および他の手法による計算結果と対比することによ
って、その有用性と適用性を明らかにすることを目的とする。
1.3.2 本論文の構成
本論文は次の内容から構成されている。
(1) 実用的なプログラムの必要性
現在の揚水発電所で広く用いられる可逆式ポンプ水車の水撃圧は、従来用いられてい
−39−
た式では正確に計算できず、ポンプ水車の特性を考慮した計算プログラムが必要である。
また、サージング計算も、水車方向の流量変化を水撃圧計算と独立に仮定して計算する
方法では、実態とかけ離れており、正確な計算ができない。従って、水圧管路や水圧鉄
管などの経済的管径を決定したり、適切な形状の調圧水槽を設計する上で、水路系全体
の過渡現象解析プログラムが不可欠である。
重電メーカーや専門の研究機関が開発して使用している解析プログラムは、特性曲線
法を基本とするものがほとんどであり、計算精度が高い上に様々な水理条件を包含して
おり汎用性が高い。一方、電力会社やコンサルタントの土木技術者が揚水発電所などの
水理構造物の計画、設計あるいは測定結果の解析をする場合、水撃圧計算をそのまま続
けて長時間に及ぶサージング現象を追跡する必要がある。そのため、計算速度が速く、
計算精度が実用範囲に収まるプログラムが筆者等により実用化されており、筆者により
任意水路系に適用するプログラムも作成されているが、これらを合体して複雑な水路に
も対応でき汎用性の高いプログラムを完成させると共に、その妥当性と摘要範囲を検証
する必要があるものと考えられた。
このような本研究の背景および既往の研究の概観は、既に 1.1 および 1.2 で述べた。
(2) 揚水発電所水路系における水理現象の特徴と解析上の問題点
揚水式発電所の水路系は数多い土木施設の中でも大規模かつ高圧の構造物であり、他
に例を見ない数々の特徴を有するので、その構造と水理現象について第 2 章で記述する。
本研究に関係の深いポンプ水車の特性、それによって引き起こされる通常運転時と事故
時における過渡現象、およびそれらの解析上の問題点について、電源開発(株)奥清津第二
発電所を例に取り、述べる。
(3) 定式過程の確認
第3章において、水撃圧の基本式から始まる定式過程を追跡し、マッハ数が1より十
分小さいという仮定が成立する範囲で、本研究が提唱する代数学的手法と一般的に用い
られている特性曲線法の間に本質的な差異がなく、代数学的手法は特性曲線法と同様の
一般性を有することが証明される。上記の仮定は揚水発電所を含む水力発電所の水路系
ではもちろん、その他の多くの場合に成立するので、この方法の適用範囲はかなり広く
なることが期待される。一方、水柱分離など上記の仮定が成立しない場合には適用でき
ないことが予想されるので、それらの適用条件については第 6 章で考察する。
(4) ネットワーク理論
非圧縮性の定常流であれば管路網を連立方程式で表現し、行列表示して解くことが可
能であり。仮にそこに非線形要素があっても繰り返し計算で解が得られる。しかし、圧
縮性非定常流の場合、一般的な特性曲線法では多数にのぼる格点の計算を含む非線形連
−40−
立方程式を解くことになり、それは実際上無理なため、格点ごとの逐次計算が行われ、
計算時間が長くなる原因になっている。
本研究の方法は、基本式と境界条件からなる総ての支配方程式が線形化され連立方程
式化され行列表示されることから、容易かつ分かりやすい形でインプットデータをコー
ド化でき、その逆行列を演算することによって短時間で逐次計算できる。一般にどのよ
うな管路網であってもこの方法が適用できることが、ネットワーク理論によって数学的
に証明される。このことを第 3 章で論ずる。
(5) プログラムの開発
以上の基本式および各境界条件を含む行列式を時系列的に解く汎用プログラムを作成
する。その際、従来から問題となっていたポンプ水車特性の特殊区間(S字特性と呼ば
れる部分)を計算に正しく反映させる方法の妥当性を検証する。これらのことは第 4 章
で述べる。
(6) 測定結果に基づく理論の検証
奥清津第二発電所の 2 台同時負荷遮断試験、揚水入力遮断試験、時間ずれ負荷遮断試
験、AFC運転試験などに際して得られた実測値と、その初期条件に合わせた解析結果
を比較し、解析方法の妥当性を確認し解析手法の問題点を摘出する。これらは第 5 章で
取り扱う。
(7) 特性曲線法との比較による理論の検証
本研究の解析結果をこの種の解析で広く用いられている特性曲線法による解析結果と
比較することにより、その妥当性の検証を行うと共に、本研究の方法の適用限界を明ら
かにする。
開発したプログラムはパーソナルコンピューターに移植され、誰でもどこでも容易に
シミュレーションできるようにする。特性曲線法に対する代数学的手法の高速性を数値
実験で確認する。
開発したプログラムを用いて、実機では試験を実施することのできないAFC運転時
の負荷遮断およびポンプトリップ(揚水入力遮断時にガバナーが不動作状態になる事故)
について、この解析プログラムで数値実験をする他、主機のはずみ車効果(GD2)の値
が変わった場合に水撃圧にどのような影響があるかを予測したりするなど、本研究の有
用性に対する考察を加え、今後の可能性を展望する。これらは第6章で取り扱う。
(8) 結論
本研究の結論を第 7 章で述べる。
−41−
第 2 章 揚水発電所水路系における水理現象の特徴
2.1 揚水発電所水路系の特徴
揚水式発電が火力原子力など他の電源種別と比較してピーク負荷対応上、経済性、負
荷追随性および起動特性の面で優位である特徴を発揮するためには、各立地地点の地形、
地質および環境制約などの特性に応じて、その設備が本来の機能を発揮し、十分に経済
合理性を持つように計画、設計、施工、保守ならびに運転される必要がある。ここでは、
揚水発電所の水路系に関して、その状態を支配するポンプ水車発電電動機を含めて、水
理現象に関連する設備の特徴を述べる。
第 5 章においてその現地測定結果を述べる電源開発(株)奥清津第二発電所を例にとる。
同発電所は、新潟県南魚沼郡湯沢町に位置する既設奥清津発電所(揚水式、1,000MW、
1978 年 7 月完成)の上下調整池をそのまま利用し、水路及び発電所を増設して新たに
600MW の出力を得ようとするものであり、1992 年 10 月に工事を開始し、1996 年 6 月
に運転を開始している。
2.1.1 水路基本レイアウト
揚水発電所の水路は上池と下池を結ぶものであり、基本的に次のような構成となる。
•
取水口:上池に設置され、発電時に静穏な取水をすると共に、揚水運転時には放水
口として逆方向の水流に対して安定した流況となる必要がある。構造物周辺に渦が
発生し取水口に空気を連行することがないよう、最終形状は水理模型試験などで確
認されることが多い。
•
導水路:圧力トンネルとすることがほとんどである。発電規模に応じて流量が大き
くなると断面積が大きくなるので、地質条件や施工方法および工期などを考慮して
経済的な断面および条数を決定する。
•
導水路調圧水槽:導水路・水圧管路が長い場合に、水撃圧を軽減させる目的で、導
水路と水圧管路の間に設置する。形式として、単動型、水室型、制水口型、差動型
などが選定される。
•
水圧管路:導水路とポンプ水車入り口を結ぶ高圧水路であり、一部または全部が地
上に露出するものと全体に地下に設置するものがあるが、最近の揚水発電所では景
観をも考慮して地下式とすることが多い。我が国では水圧鉄管を用いて水圧の全部
または一部を負担させることが一般的となっている。主機の台数に応じて途中で分
岐させることが多く、最近では経済性を追求して末端の高内圧箇所で分岐させる傾
向にある。縦断形状の決定に際して、水撃圧やサージングなどにより負圧箇所が生
じないことが条件となる。
•
発電所:地上あるいは地下式。水撃圧などがあってもポンプ水車や放水路が負圧に
ならぬよう、下部池水位から十分に低い位置に設置される。そのことから地下式に
なることが多い。
−42−
•
ポンプ水車:入り口弁、水車ケーシング、ガイドベーン、ポンプ水車、発電電動機、
吸出管(ドラフトチューブ)等から成る。単機容量の上限制約などから、複数台設
置されることが多い。
•
放水路:複数の放水路を合流させる場合が多い。導水路と同じく圧力トンネルとす
ることが多く、経済的な断面および条数を決定する。
•
放水路調圧水槽:導水路調圧水槽と同様、放水路が長い場合に水撃圧を軽減させる
目的で設置する。形式も導水路側と同様のものがある。
•
放水口:下池に設置され、取水口と全く同じ扱いになる。
•
奥清津第二発電所を例に取れば、あらかじめ与えられた条件は、次のとおりである。
(1) 計画地域が土砂流失防備保安林、国立公園(普通地域)にあるため、土地の改変
区域を最小限に抑えること。
(2) 既設発電所に隣接するので、その設備および運転に影響を与えないか、やむを得
ない場合でも最小限に止めること。
(3) 工事期間が 3 年 9 ヶ月と短い上、豪雪地帯にあって冬期工事が困難であること。
また、事前の調査期間が 1 年程度しかないこと。
(4) 地質は主に石英安山岩類(新第三紀)で、各所に流紋岩の貫入に伴う熱水変質が
あり、上部は第四紀の火山性堆積物が分布すること。
(5) 既設奥清津発電所の設計、施工の経験およびそれから得られた知見を活用するこ
と。道路など既設の構造物を極力有効利用すること。
•
奥清津第二発電所の水路基本レイアウトは、図 5.1、5.2 に示すように、一組の導水
路、導水路調圧水槽、水圧管路があり、水圧管路終端付近で二分岐してそれぞれの
ポンプ水車につながり、ドラフトチューブ下流で放水路が1条に合流し、放水路調
圧水槽を経て放水路から放水口へと連結されている。放水路が長いことに加え、発
電所が下部池の下流に設置されるため地上式となっていて標高を下げることが難し
いことから、放水路調圧水槽が必要となった。
•
既設構造物への工事中および完成後の影響を極力軽減させるために、既設と新設水
路の離隔距離を十分保つと同時に、新設水路が最短になるように各構造物をレイア
ウトした。既設水路は一部地上式であるが、新設水路は与件を総合勘案して全区間
にわたり地下構造物とする。発電所は既設と同じく地上式とする。
2.1.2 導水路および導水路調圧水槽
導水路トンネルの内径は、その工事費と摩擦損失落差に伴う損失電力量との関係から
最も経済的な断面積として求められ、揚水発電所は一般の水力発電所に比べて設備利用
率が低いことから、比較的小さな断面になる傾向にあり、図 2.1 に示すように、最大使用
水量時の流速(V)を 5∼6m/s 程度に設定する例が多い。調圧水槽の設計に影響する水
路延長(L)とVの積(LV)は、同図に示すように、計画の大規模化に伴い、最大
−43−
13,000m2/s 以上に達している。
神
流
川
15
玉
原
10,000
今
市
下
郷
奥
多
々
良
木
奥
吉
野
奥
美
濃
沼
原
天
山
塩
原
奥
清
津
第
二
10
V(m/s)
L(m), LV(m2/s)
15,000
5,000
5
0
0
延長L(m)
LV(m2/s)
流速V(m/s)
図 2.1 導水路の延長、流速、LVの例
導水路調圧水槽形式としては、表 2.1 に示すように、地形制約などから水位変化を抑え
るために水室型とする例が多く、サージングの減衰性を考えて制水口を設置する例が多
い。
表 2.1 導水路調圧水槽の形式と諸元の例
発電所
玉原
今市
奥多々良木
(増設)
奥吉野
天山
沼原
下郷
奥美濃
塩原
事業者
東京電力
東京電力
関西電力
関西電力
九州電力
電源開発
電源開発
中部電力
東京電力
運転
開始
1982
1988
1974
1979
1986
1973
1988
1995
1995
導水路調圧水槽
形式
水室式
(制水口付)
水室式
(制水口付)
水室式
水室式
(制水口付)
差動式
水室式
(制水口付)
制水口単胴型
制水口式
制水口式
数
2
1
1
2
1
1
2
2
1
−44−
諸元
上部水室:高さ 28m×内径 15m
下部水室:幅 6m×高さ 6.1∼7.18m
上部水室:高さ 11.3m×幅 9m 延長 84m
下部水室:内径 7.3m×延長 50m
立坑:内径 9m×高さ 66.88m
水槽立坑:内径 10m×高さ 75.9m
下部水室:内径 10m×延長 48m
立坑:高さ 92.35m×内径 5.3m
上部水室:幅 10m×長さ 29m×高さ 6m
下部水室:内径 5.3m 延長 47.65m
本体:内径 12m×高さ 74.75m
ライザー:内径 5m×高さ 68.25m
ポート:内径 3.5m
立坑:内径 7.0m×95.0m
上部水室:内径 15.0m×高さ 22.0m
下部水室:幅 7.0m×高さ 7.0m延長 60.0m
内径 12.00m×高さ 136.25m
1 号 立坑:内径 11m×高さ 58.45m
斜坑:内径 7m×高さ 82.03m
2 号 内径 6m×高さ 135.731m
内径 13m×高さ 107.16m
水圧管路ほど高圧ではないものの、導水路にも 100m 以上の圧力水頭が作用するので、
しかるべき対応策が必要となる。一般に、揚水発電所が高落差化を図る結果、導水路位
置の地質が高標高部で軟弱であったり火山影響を受けていたりすることが多く、そのこ
とに十分配慮した構造設計が求められる。
奥清津第二発電所では、掘削の結果、導水路トンネル通過地の地下水位が低いことが
判明し、大規模化に伴いコンクリート覆工に作用する応力が大きくなってクラックが入
りやすくなっていることも考慮して、全長 667m の内 540m の区間で漏水を防ぐための
内張管(内径 5.7m、板厚 11mm)を設置した。
導水路調圧水槽は、ポンプ水車に発し水圧管路を通じて伝播して来る水撃波をなるべ
く近距離で吸収するために設けるもので、単動型のような大きな断面を持つことが望ま
しいが、一方では、導水路を介する上部池と水槽間のU字管振動の減衰性を考慮すると、
制水口型のようにダンピング特性の良いものが望ましく、その場合は水撃圧の一部が導
水路から上流に及ぶこととなり、これらを総合した最適化が求められる。地形制約など
から水面変動を制限したい場合には水室型が適用され、制水口式との組み合わせもある。
奥清津第二発電所では、図 5.3 に示すように、安定した運転ができるよう、減衰性の高
い制水口式単働型調圧水槽を設置した。もし設計にかける時間が十分あったならば、導
水路調圧水槽を省略することが可能であったのではないかと考えられる。すなわち、水
圧管路延長が約 1,300mなのに対し導水路延長が 790mなので、仮に導水路調圧水槽がな
い場合を考えると、水圧管路延長は約 60%長くなるのであるが、それによる水撃圧を含
む圧力水頭は、最大となる水圧管路末端部でも 750mが約 800mへと約 7%増えるだけで
あって、これによる水圧管路などの増分コストは大きくはない。一方、調圧水槽は、急
傾斜地に設置することから難工事となった上、景観上も大きなインパクトを与える取り
付け道路が必要であった。したがって、調圧水槽を省略できた場合の費用減分は大きく、
ポンプ水車の上流側の水路に限れば、この案の方が優れていた可能性が高い。
しかし、導水路調圧水槽を省略した場合の他への影響が問題となった。特にポンプ水
車の回転速度の上昇(当初予想では規定数の 60%増で、上限とされる 45%を超えていた)
は水圧上昇(静水頭の約 40%)等に比べて対処が難しいこと、また放水路側の圧力低下
を助長する問題も、発電所位置を下げにくいレイアウト上の制約から、対処が難しかっ
た。一方では検討期間の制約があり、その中で対処策を見出すことができなかった。こ
のため最終的に原案のように導水路調圧水槽を設置することとしたものである。
2.1.3 水圧管路
水圧管路においても導水路と同様に工事費と摩擦損失落差に伴う損失電力量との関係
から最も経済的な断面積が求められるが、水圧管路ではこれに加えて、断面積に応じて
流速が変わり、それによって水撃圧水頭も変わり、それが水圧管路自体はもちろん、他
の水路系やポンプ水車にも影響するので、本来的にはこれら総ての要素を考慮して最適
−45−
化を図る必要がある。
水圧鉄管の単位管路長あたりの重量は次式のような関係にある。
W=
πDtγ
1000
(2.1)
ここに
W: 水圧鉄管の単位管路長あたりの重量(t/ m)
D: 水圧鉄管の直径(m)
t: 水圧鉄管の板厚(mm)
γ: 水圧鉄管材料の比重
また水圧鉄管の板厚は内圧と許容応力から
t=
PD
2σ a
(2.2)
ここに
σa: 水圧鉄管材料の許容応力(N/mm2)
P: 設計内圧(MPa)
なので、
W =
πPD 2
γ
2000σ a
(2.3)
となる。一方、流量と流速および管径の関係から
πD 2 Q
=
4
v
(2.4)
ここに
Q : 使用水量(m3/s)
v : 流速(m/s)
なので
W =
Q P
500σ a v
(2.5)
となる。この式は次のことを示している。
(1) 水圧鉄管の単位管路長あたりの重量は、水圧鉄管材料の許容応力を高くするほど、流
速を大きくするほど、小さくなる。
(2) 水圧管路は一般に上流から下流に行くほど高度が下がるが、ひとつの管路を考えると、
使用水量は場所にかかわらず一定であり、設計内圧は下流に行くほど高くなるので、
上記(1)の傾向は下流に行くほど顕著に現れる。
すなわち、水圧管路は下流に向かうほど許容応力の大きい高価な材料を用い、流速を上
げるように管径を小さくしていくのが全体として経済的な設計となる。実際の例を図 2.2
に示す。
結果的に 10m/s 程度の流速にする例が多いことが分かる。なお、管路末端で流速が急
に大きくなる例が多いのは、入り口弁やケーシングなどポンプ水車周辺の水路系の設計
−46−
と整合させた結果を示している。
従って、流速(v)の圧力波伝播速度(c)に対する比率を表すマッハ数(v/c)は、
v≒10m/s,
c≒1,000m/s(1.2.1 参照),
∴ v/c≒0.01
のオーダーになる。このようにマッハ数の値は1より十分に小さく、このことは、1.2.1
で述べたように何らかの理由で圧力波伝播速度が大幅に低下するような特殊な場合を除
き、通常の揚水発電所では常に成立する。
25
流速(m/s)
20
15
10
5
0
0
200
玉原
400
600
800
累加距離(m)
奥多々良木
下郷
1000
奥美濃
1200
1400
奥清津第二
図 2.2 水圧管路の流速の設定例
昨今の揚水発電所で多く見られる埋設式水圧鉄管の場合、内圧の一部を詰め込みコン
クリートを介して周辺岩盤に負担させる設計とすることが多い。その負担率は地質条件
によって左右されるが、設計値を 20∼50%程度にすることが多く、実測値はさらに大き
い。
このことは、水圧鉄管と岩盤などからなる水圧管路が十分な剛性を持っていて、気体
混入などがない限り、そこでの圧力波の伝播速度が十分大きいことを示している。
水圧鉄管には経済性、施工性を考慮して高張力鋼を用いることが多く、溶接構造用高
降伏点鋼板(JIS G 3128)およびそれに相当するさらに高強度の材料が用いられる。劣
悪な施工条件となる斜坑内の現場溶接作業の品質管理を確実なものとするために、自動
溶接を採用することが多い。
水圧管路の分岐管には、二分岐、三分岐、対称、非対称、多分岐管など管路形状によ
る分類と、Y形分岐、球形分岐、内部補強形分岐管やシェル形分岐管など構造形式によ
る分類ががあり、最近は水理的な合理性と構造的な合理性の両立を目指す傾向にある。
−47−
基本的になるべく下流で分岐するほど経済的であるため、高圧大口径のものが多くなっ
ている。
水圧管路の設計上の支配的要素である水撃圧とそれを考慮した設計水頭の値を、電源
開発(株)の既設揚水発電所の実例で示せば次の通りである。すなわち、水撃圧などを含む
設計水頭の静水頭に対する比率は、水路延長と流速の積を有効落差で除したものにほぼ
比例し、その値は 1.20∼1.35 程度である。
表 2.2 水圧管路の諸元と設計水頭の関係
地点名
黒又川第二
池原
長野
新豊根
沼原
奥清津
下郷
奥清津第二
静水頭
水撃圧等 設計水頭 (A)+(B)/ 水圧管路延 平均流速 (L)×(V)
(A)
(B)
(A)+(B)
(A)
長(L)
(V)
82.00
29.93
110.93
1.353
103.70
11.68
1,211
140.50
30.00
170.50
1.214
145.50
5.15
750
125.00
32.00
157.00
1.256
130.07
6.24
812
280.00
84.00
364.00
1.300
300.00
10.46
3,139
563.00
137.00
700.00
1.243
800.00
8.00
6,402
555.00
165.00
720.00
1.297 1,176.00
8.60
10,119
478.00
142.00
620.00
1.297
700.00
10.40
7,281
567.00
183.00
750.00
1.323 1,292.00
10.48
13,540
(設計水頭)/(静水頭)
1.40
黒又川第二
1.35
奥清津第二
新豊根
1.30
長野
1.25
下郷
奥清津
沼原
池原
1.20
0
5,000
10,000
(延長)X(流速)
図 2.3 水圧管路の諸元と設計水頭の関係
−48−
15,000
奥清津第二発電所水圧管路の各測点における設計内圧は次のように設定されている。
表 2.3 奥清津第二発電所水圧管路設計内圧(水頭表示)
測点
0
BC1
EC1
BC2
EC2
BC3
EC3
BC4
EC4
1
2
3
管径
(m)
5.70
〃
5.00
〃
〃
〃
4.40
〃
〃
−
3.20
−
累加距離
(m)
0.0
15.00
32.80
409.85
427.65
688.02
705.82
944.61
962.41
1,153.14
1,292.22
1,306.72
静水頭
(m)
58.15
〃
65.56
358.59
366.00
〃
373.41
559.19
556.60
566.72
567.00
〃
水撃圧水頭
(m)
43.45
43.05
46.95
87.22
89.12
116.92
118.82
144.35
146.25
166.60
181.45
183.00
全水頭
(m)
101.60
103.20
112.51
445.81
455.12
489.92
492.23
703.54
712.85
733.49
748.45
750.00
備考
水圧管路始点
分岐中心
水圧管路終点
水車中心
注 1)水撃圧水頭にはサージング水圧を含んでいる。
注2)水撃圧水頭には計算値の 15%(水圧脈動分 10%、計算誤差分 5%)の余裕を含む。
奥清津第二発電所の水圧管路は次のような仕様となっている。水圧鉄管は、地質状況
を考慮し、区間によって 15∼25%の内圧が岩盤によって負担されるとして板厚を定めた。
なお、この値はかなり控え目なものであり、完成後の実測では 45∼51%の内圧が岩盤で
負担されており、より薄肉の導水路および放水路の内張管では鉄管の応力は 20∼
50N/mm2 に過ぎず、70∼82%もの岩盤負担率が測定されている。
水圧鉄管の下半部において HT80(引張強度 800N/mm2 級の溶接構造用高降伏点鋼板)
を用いた。内径 4.40∼5.00m、板厚 30∼45mm である。現場溶接には自動TIG溶接工
法を採用した。分岐管は対称Y形外部補強型二分岐管であり、主管径 4.4mm 板厚 54∼
100mm である。埋設式水圧鉄管の鉄管と岩盤の間を填充する詰め込みコンクリートに、
自社で開発したフライアッシュを主体とした高流動コンクリートを用い、打設の省力化
とともに確実な充填による管路の剛性の確保を図った。
このように水圧管路の剛性が高いことは、1.2.1(6)で述べた圧力波伝播速度が十分に大
きいこと、従ってマッハ数が十分小さいことに関連する。
2.1.4 ポンプ水車
揚水発電所の主機は通常、可逆式立軸フランシス型ポンプ水車発電電動機とその付属
設備からなり、水路系に関係が深いのは次のものである。
•
入口弁:水圧管路の終点でポンプ水車の入口に設けられる止水弁。ガイドベーンが
流水を開閉する前後の静水状態で開閉し、完全に止水する。
−49−
•
水車ケーシング:水車の周囲から均等に水を導入させる渦巻き状の管路
•
ガイドベーン:案内羽根とも言い、ポンプ水車に流入流出する水の量を加減する可
動羽根。高圧で稼働するが閉鎖しても漏水があるので、入り口弁で完全に止水する。
サーボモーターで制御し、そのストローク量でガイドベーン開度を表わす。
•
ポンプ水車:ほとんどの揚水発電所でフランシス型可逆ポンプ水車が用いられてい
る。正転すれば水車としてガイドベーンからドラフトチューブに向かう水流のエネ
ルギーを軸を通して発電機に伝えて発電し、電動機から動力を受けて逆転すれば遠
心力で水を跳ね飛ばすようにしてドラフトチューブからガイドベーン・水車ケーシ
ングを通じて水圧管路に水を押し出し、揚水する。ポンプ水車本体の回転部をラン
ナ、羽根をランナベーンと称する。
•
発電電動機:正転時に発電した電力を送電線を通じて電力系統に送出し、逆転時に
電力系統から電力を受けてその動力をポンプに伝える。揚水時の周波数調整を行う
ことのできる可変速電動機を設置することがある。
•
ガバナー:通常、主機の回転速度を測定しながらそれが一定になるよう回転速度の
微小変化に対応してガイドベーン開度を微調整するが、負荷遮断などの事故時には、
あらかじめ定められた方式に従いガイドベーンを閉鎖するように制御する。
•
ドラフトチューブ:水車を通過した下向きの旋回流をなるべく均等な水平方向の層
流に戻す役割をする管路。吸い出し管とも言い、扁平な断面形状の曲がり管。
•
ドラフトゲート:ドラフトチューブと放水路を切り離すためのゲート。静水状態で
動作させる。
奥清津第二発電所では、主機2台の内、1台は GTO インバータ・コンバータを励磁装
置とする可変速機であることなどから、発注先の製造者が異なり、このことから工事初
期段階で次のような技術的問題が発生した。即ち、それぞれの機械は与えられた仕様を
満足する(同じ機械が2台あると想定して水撃圧などの計算をすると許容値内に入る)
が、別々の機械性能を有する2台の機械が、ある時間差を持って負荷遮断するシミュレ
ーションを行った結果、相互干渉を起こしてドラフトチューブ側の水圧が下がり、水柱
分離が起こる可能性があることが明らかになった。この現象は、図 2.4 に示すように、
2号機
放水路
調圧水槽
水圧管路
放水路
1号機
図 2.4 ポンプ水車の相互干渉による特殊な過渡現象
−50−
ポンプ水車の回転速度が上昇したときに発電方向の流れがポンプ方向に逆流する、その
タイミングのずれから、分岐管を通じて一方のポンプ水車から他方に向けて急激な流れ
が生ずると共に、その方向も急変することに起因する特殊な水撃現象と見られ、ポンプ
水車付近で分流し再度合流する水路形状を採用する以上、不可避の事象と考えられた。
この問題は、ガイドベーン閉鎖モードの適正化による改善など機器側でなし得る工夫の
限界を超えていると判断され、後述するように、既に工事を開始していた水路構造物を
設計変更するなど広範囲かつ実際的な対策が求められた。
2.1.5 放水路および放水路調圧水槽
水圧管路の分岐管と同様、複数の水路を1条に合流させる分岐管を設けることがある。
水圧管路に比べて内圧が低いので設計条件が緩くなり、水理的な合理性を追求すること
が容易になる。
放水路側の水撃圧の影響や、発電所周辺は水路以外にも空洞やトンネルが多く応力状
態が複雑になることを考慮し、一定の範囲に内張管を入れることがある。奥清津第二発
電所でも、ドラフトチューブとの接合点に始まり、分岐管および放水路調圧水槽を経て
全長約 220m の区間にわたり内張管を設置した。内径 4.10∼5.70m、板厚 17∼26mm で
ある。
導水路調圧水槽と同様の理由、即ち放水路の長さが長く水撃圧が大きくなり、他の手
段では対処できないときに水槽を設置する。特に、負荷遮断時にドラフトチューブの水
圧が下がるので、これが負圧となって水柱分離を起こすかどうかが判断基準になる。こ
の場合にあっても、ドラフトチューブなりポンプ水車の位置を下部池から十分下げるこ
とにより水槽を設けなくても対処できるが、水圧上昇に対応する必要が生ずることに加
え、発電所など主要設備が総て地下深くに設置されることから、そのアクセス関係(搬
入路トンネル、ケーブルトンネルなど)が長くなるので、総合的に見ると必ずしも経済
的にはならない。また、ドラフトゲートを設置する場合に、その昇降のために立坑が必
要になることから、これを利用して水槽を設置する場合がある。
奥清津第二発電所では、放水路の延長が約 900m に及び、調圧水槽を設けない場合に
は、ドラフトチューブの負圧の発生を防ぐために、水車中心を鉛直方向にさらに 60m 下
げて設置するか、あるいは放水路内径を 5.7mから 7.7m程度に大きくする必要があり、
いずれの場合も調圧水槽を設けた方が経済的になるので、これを設置することとした。
形式としては、導水路調圧水槽と同じ理由で制水口式単働型調圧水槽とした。設置位置
の地質が熱水変質を受けた石英安山岩であることを考慮して、水槽の水位変化範囲に内
張管を設置した。
放水路についても、上記の理由に加え、既設発電所の水圧管路と交差することから、
発電所から始まり合流して調圧水槽基部に至るまでの間、内張管を設置し、それより下
流、放水口までの間はコンクリート巻立てとした。
−51−
また 2.1.4 に述べた問題を次のように解決した
(藤野、
芳賀、
柳瀬 ,1996、Fujino, Haga,
1997)
。
当時、建設所に所属して施工管理の責にあった筆者等は、この問題を単なる主機の問
題ではなく、水路系を含むシステム全体の課題と捉え、既に掘削工事中であった放水路
調圧水槽(図 5.4)について制水口の模型試験を追加実施し、ポート係数を正確に推定し
た上、ポート形状を変えて水槽から水路への流れをスムーズにし、ドラフトチュ−ブの
水圧低下を防ぐ方策を取ることとし、直ちに総合技術試験所に縮尺1/30の比較的大
型の模型試験を依頼をした。
試験の結果、下表に示すように、流量係数は幾何学的形状に基づく設計値(0.78)に対
して約 40%大きな値(1.09)を取ることが分かり、この値を用いて改めて水撃圧計算を
実施したところ、十分に仕様を満足することが判明し、結果して主機の設計や工事中の
水槽に改造を加えることなく建設を進めることができた。この模型試験値は、表に示す
ように完成後の現場での計測でもほぼ同じ値が得られ、実機の負荷遮断試験時の水撃圧
計測結果も水車出口において負圧が生じないことを示した。
表 2.4 奥清津第二発電所放水路調圧水槽 制水口流量係数 Cd
流向
水槽→水路
水路→水槽
注) C d =
当初設計値
0.78
0.93
Qp
Fp 2 gh
模型試験
1.09
1.02
(実測値)
1.11
0.91
(詳細は 5.2.2(5)参照)
なお、水路から水槽に流入する方向の流量係数は約 10%の増に止まり、水槽内の水位
が上昇した際にも上部から溢水する可能性は少ないことが確認された。実測値では模型
試験よりむしろ当初設計値に近い値が得られ、溢水についての問題がないことが確認さ
れた。
このように、水路系とポンプ水車など機器関係の設計は相互に関係があり、常に一体
のものとして取り扱うことの重要性が再認識された。
2.2 通常運転時の水理現象
2.2.1 電力系統への追随
電力系統における需要と供給の差分が周波数の変動となって現れる(電力系統影響評
価検討小委員会, 2000)。すなわち、発電が需要を上回る場合には、発電機が系統全体で
余剰となったエネルギーをその回転エネルギーとして蓄えようとするため周波数が上昇
する。逆に、発電が需要を下回った場合には、発電機がエネルギーを放出しようとする
ため周波数は低下する。また、周波数は、電力系統全体で同一値をとり、その値は、上
−52−
述した発電と需要のバランス変化に伴い瞬時に変動するという特徴を有する。系統周波
数の変動は、電動機などを用いる需要側に障害をもたらすだけでなく、発電機にも問題
を生じ、保護装置が次々に動作して連鎖的遮断から大規模な供給支障につながる恐れが
ある。
電気事業法では、上記の周波数変動の影響に鑑み、一般電気事業者に基準周波数への
維持努力義務を課している。各電気事業者の変動管理目標は基準周波数に対して±0.1∼
±0.3Hz 以内となっている。この目標を達成するため、電気事業者は需要変動に追従して
発電量を制御している。需要変動は様々な周期成分の重ね合わせと考えられるので、そ
れぞれの周期成分に対応した制御方法を組み合わせて発電量を制御する。その代表的な
ものを図 2.5 に示す。
MW
負
荷
変
動
調速機(ガバナフリー) 給電調整
量
(DPC など)
自己制御
自動周波数制御
(AFC)
10∼20 秒 2∼3 分 10∼20 分 負荷の変動周期
図 2.5 負荷の変動周期と変動量およびその対応の分類(伊藤他,1973 を改変)
10∼20 秒以下の短周期で変動幅の小さいものは、発電機側で対応することが難しいが、
負荷の自己制御性と発電機のはずみ車効果などの系統自身の特性で吸収される。次に長
い周期で 2∼3 分までのものはガバナフリーと称する各発電機の調速動作(発電機と電力
系統の接続箇所における周波数に応じて自己の出力を変化させる動作)によって制御が
分担される。さらに長い 10∼20 分周期までの変動成分については、系統周波数を中央給
電司令所で検出し、設定周波数と比較して系統全体としての発電機出力制御必要量を設
定し、必要制御量を各発電機に配分する。指定された発電機は送られてくる制御信号に
対応して自動的に発電機出力を制御する。これを自動周波数制御(AFC)と称する。こ
れ以上の長周期成分は、中央給電司令所において需要予測を行い、これに応じて各発電
所の出力を制御したり(これを「運転基準出力制御(DPC)」と呼ぶ)、起動停止するこ
とで対応する。これを給電調整と総称する。
AFC は、最近では火力発電所でも行うが個々の発電機出力の数%程度までに制限して
おり、従来から対応している揚水発電所など大きな設備出力と十分な貯水池・調整池を
−53−
有する水力発電所では、その負荷追随性の容易さから、出力の数%から数十%の範囲で
出力制御を行って対応する。
一方、図 1.20 に示したような水路を介した調整池と調圧水槽間のU字管振動の固有周
期は次式で与えられる。
T = 2π
LF
gf
(2.6)
ここに、T:U字管振動の固有周期(s)
L:水路の長さ(m)
F:調圧水槽の断面積(m2)
f:水路の断面積(m2)
例えば、奥清津第二発電所の場合、
導水路調圧水槽で L=667m、F=133m2、f=25.5m2なので、T=118s
放水路調圧水槽で L=832m、F=113m2、f=25.5m2なので、T=122s
で、ほぼ2分程度の固有周期である。
このように、調圧水槽を含む水路のU字管振動の固有周期は周波数調整運転の周期の
範囲に入ることが多く、固有周期付近の周期を持つ流量変化があった場合には、共振現
象によって大きな水面振動が発生する。そこで、水面振動の安定条件およびサージング
最大振幅の推定問題が多数研究されている(例えば、是枝, 1995)
。
近似的には、図 1.20 に示したような簡単なモデルで、水槽基部から水圧管路に向かう
流量が発電所の出力変動と相似形で時間変化するものとして、周期と振幅を与えてサー
ジング計算を行う方法が用いられている。
しかし実際には、発電機出力が時間ごとにある値になるように制御され、サージング
水位に応じて落差が変化した分、流量が出力に比例せずに変化するので、上記の近似は
相当の誤差を含む。加えて、水車を制御する調速機はある時間遅れを有していて、この
時定数によって結果が異なる。また、水圧管路内の水の慣性も無視できない。さらには、
導水路と放水路共に調圧水槽を有する場合、それらの相互影響が無視できない。
従って、できる限り実際に近い数値解析モデルを用意し、様々な運転パターンを想定
し、それらを用いた数値シミュレーションを行うことによって水路の応答を予測した上
で、必要な対処をする必要がある。
なお、最近登場した可変速揚水機では、揚水運転時も入力変動があるが、水路、特に
調圧水槽に及ぼす影響は、発電時の出力変動と比較して特段の差異はないものと考えら
れている。
2.2.2
奥清津第二発電所におけるAFCへの対応
奥清津第二発電所では、売電先である東京電力から表 2.5 に示すような条件を限度とす
−54−
る AFC 運転への対応が要請された(電源開発(株), 1998)
。
これによれば、発電時の出力変動幅は、従来型の定速機である1号機に対して 50%、
新型の可変速機である2号機に対しては 60%という大幅なものであり、揚水時の入力変
動幅は、可変速機の本来の目的に沿い2号機に対して約 30%となっている。これらの変
動の周期成分は全く不明であるが、図 2.5 に示した一般的傾向から推して、上記の導水路
および放水路それぞれの調圧水槽系が有する固有周期である約2分に近い周期成分が含
まれる可能性は否定できない。
表 2.5 奥清津第二発電所のAFC運転条件
最大出・入力
AFC運転範囲
1 号機(定速機)
発電
揚水
300MW
320MW
±75MW
−
(±25%)
2 号機(可変速機)
発電
揚水
300MW
340MW
±90MW
±52.50MW
(±30%)
(±15.44%)
本地点の設計に際しては、上記の近似的なモデルを用い、水路系の固有周期に相当す
る 120 秒の周期の三角波で流量変化が 3 波あり、その後に続いて負荷遮断があるものと
して、数値シミュレーションにより水面振動の安定性を検証した。なお、遮断時の流量
変化は別途に行う水撃圧計算の結果を用いた。その結果、図 2.6 および表 2.6 に示すよう
に、AFC運転でない場合の負荷遮断によるサージング水位はわずかに超えるものの、
水槽の上端に対しては十分な余裕が残されていることが確認された。
図 2.6 奥清津第二発電所のAFC運転中の負荷遮断によるサージング計算
−55−
表 2.6 奥清津第二発電所のAFC運転中の負荷遮断によるサージング計算結果
導水路
調圧水槽
放水路
調圧水槽
最高上昇水位
(最高落差、負荷遮断)
最低下降水位
(最小揚程、入力遮断)
最高上昇水位
(最小揚程、入力遮断)
最低下降水位
(最高落差、負荷遮断)
通常の遮断
AFC運転中の遮断
差
1,317.84
1,318.31
0.47
1,264.82
1,260.98
−3.84
836.85
837.51
0.66
795.53
790.19
−5.34
なお、運転開始前の現地諸試験に際し、AFC運転時の水撃圧およびサージングの測
定が行われており、その結果と数値シミュレーションについては第5章で論ずる。
2.3 事故時の水理現象
電力系統および発電所自体に事故が発生した場合には、水路系に大きな影響を及ぼす
次のような過渡現象が発生する。但し、このような事故が発生する確率は非常に低く、
奥清津発電所(主機 4 台、最大出力 1,000MW)の例では表 2.7 に示すように、運転開始
後 19∼23 年経過する間に 7 回(平均約1回/10 年)の発生頻度に過ぎない。
表 2.7 奥清津発電所 負荷遮断・入力遮断 全実積(運転開始∼2001 年 8 月)
発生年月日
1988.10.29
1988.10.29
1989.08.06
1989.08.15
1992.05.27
1992.07.13
1996.12.02
号機
1
2
1
1
1
4
2
運転モード
発電(250MW)
発電(250MW)
揚水(264MW)
揚水(260MW)
発電(140MW)
揚水(260MW)
発電(142MW)
事故内容
1 号送電線遮断
1 号送電線遮断
所内継電器誤動作
1 号送電線遮断
1 号送電線遮断
2 号送電線遮断
1,2 号送電線遮断
事故原因
落雷
落雷
例年劣化
不明
落雷
保護装置誤動作
不明
注)1 運転開始:1,2 号機;1978 年 7,12 月 3,4 号機;1982 年 7 月
注)2 接続:1,2 号機;1 号送電線、3,4 号機;2 号送電線
2.3.1 負荷遮断
揚水発電所は電力系統に接続されており、発電時にあっては水の持つ位置のエネルギ
ーが水車から発電機に伝えられ電気エネルギーとなって送電線で系統に送られ消費され
る。揚水時には逆に系統から送られる電気エネルギーを電動機で回転エネルギーに変換
してポンプにより水を押し上げ、位置のエネルギーとして上部池に蓄える。これらのエ
ネルギーの流れは途中の損失を除き常にバランスしていて、定常状態が保たれている。
ここでもし送電線への落雷などがあって発電所が系統から急に切り離された場合、あ
−56−
るいは発電所内のいずれかの個所に故障など不具合が発生し系統から切り離す必要が生
じた場合、発電時であれば電気エネルギーは行き場を失い発電機は発電できなくなり、
水のエネルギーは水車発電機の回転速度を上げる方向に作用する。揚水時であれば、電
動機への電気入力が断たれ、ポンプ機能が失われて、揚水方向の回転速度が徐々に失わ
れ、揚水されていた水が重力方向に逆流しようとし、最終的には発電時の負荷遮断と同
じ現象に至る。水車ガバナーはこの事態を検知すると、あらかじめ定められたパターン
に従い、サーボモーターを経由してガイドベーンを閉鎖し始める。この閉鎖がなかった
りゆっくりしたものである場合、水車発電機は益々回転速度を上げ、ついにはあるバラ
ンス状態に達する。これは流下する水のエネルギーと回転速度が上がったことで消費さ
れるエネルギーが均衡した状態で、無拘束速度と呼ぶ。
ポンプ水車は、ポンプ性能を中心にその形状が決まっているので、図 2.7 に示すように、
この無拘束速度における流量は通常の運転状態より、また発電専用の水車より小さくな
る。この無拘束速度付近から不安定な挙動を示し、ある遷移領域を越えると、それまで
流れていた水が極端に流れ難くなり(水車制動領域と呼ぶ)
、ついには逆流して押し上げ
られる現象(逆転ポンプ領域と呼ぶ)が起こる。こうなると、無拘束速度を超えてさら
に回転速度が上がることになる。このように、水車の回転速度が上がることによりガイ
ドベーンの動きとは無関係に流量が下がる現象はポンプ水車特有のものであり、それが
揚水発電所の水理現象を複雑なものにしている。
図 2.7 ポンプ水車の流量特性(田中, 1976)
−57−
ある回転速度を超えると高周波水圧脈動が起こるのもポンプ水車特有の現象である。
、Zr:ランナーベーンの枚
これは NZr/60(但し、N:ポンプ水車の回転速度(r.p.m)
数)の周波数を持ち、ランナ入り口部におけるランナベーン腹背両面の圧力差が無拘束
速度から水車制動域、逆転ポンプ域にかけて著しく増大することが原因で発生するもの
(プライミング水圧脈動)とされている(志摩, 1977)
。この現象を水撃圧現象として計
算で求めることは未だ不可能である。なお、この脈動の振幅は、経験的に総落差の 10%
程度と言われ、水圧管路側(水車入口あるいは水車ケーシング)および放水路側(水車
出口あるいはドラフトチューブ)でほぼ同じ値を示す。従って、脈動の影響は水撃圧の
絶対値が低い放水路側の方が相対的に大きいことに留意しなければならない。
さらに負荷遮断時にはドラフトホワール(吸出管旋回流)と呼ぶ現象への配慮が必要
である。ポンプ水車が定常運転している場合、ランナから出た水はドラフトチューブ断
面内をほぼ整流状態で放水路に流出するが、負荷遮断時にはポンプ水車の回転速度が上
昇するために、断面内で旋回流を起こしながら流下するので、水路断面中央部ではこの
旋回流の速度水頭に応じてさらなる圧力低下を来す。これをドラフトホワールといい、
通常の水撃圧計算とは別に考慮する必要がある。
負荷遮断時にガイドベーンをどのように閉鎖すべきか、水撃圧の解析プログラムを用
いたシミュレーションで比較検討され、実機による試験で確認し微調整して決定してい
るが、実積を重ねることにより、ほぼ定着しつつある方法は次の通りである。
負荷遮断後、初期の数秒間は比較的速くガイドベーンを閉鎖する。これは、少しでも
早く過渡現象を終了させたいという基本的要請に対応したものである。この閉鎖につれ
て流量が減少するが、一方では回転速度が上昇することにより水車制動域から逆転ポン
プ領域に入り、自ら流量が急減して、それが原因で水撃圧がピークに達すると同時に高
周波水圧脈動が発生する。この状態でガイドベーン閉鎖による水撃圧が重畳すればその
分全体の水撃圧が上がるので、ガイドベーン閉鎖速度を落とし緩閉鎖とする。
もし初めの急閉鎖速度をさらに上げると、その時点で水撃圧の最大値が発生し絶対値
も大きくなる。もし初めから緩閉鎖をすると、回転速度の上昇値が大きくなり、その分、
流量変化が大きくなり水撃圧の絶対値が大きくなる。即ち、初期急閉鎖速度と緩閉鎖へ
の切り替えのタイミングを工夫することにより、水撃圧の二つのピークがいずれも突出
しないようにガイドベーン閉鎖モードを最適化する。
以上のようなプロセスで最適化されたガイドベーン閉鎖モードの例を図 2.8 に示す。
水圧管路側は水撃圧に応じて水圧鉄管などの強度を上げて対応することが可能である
が、放水路側は水撃圧の出方によっては負圧が生じ水柱分離に至る決定的な影響があり
うるので、十分慎重に扱う必要がある。
−58−
不動時間
遮断開度
第一段閉鎖レート
第一段腰折開度
第二段閉鎖レート
第三段閉鎖レート
第二段腰折開度
時間(sec)
遮断開度
不動時間
第一段腰折開度
第二段腰折開度
第一段閉鎖レート
第二段閉鎖レート
第三段閉鎖レート
単位
%
秒
%
%
秒/100%
秒/100%
秒/100%
1 号機
95.4
0.25
75.0
−
10.0
100.0
−
2 号機
91.0
0.25
64.0
10.0
7.0
68.0
100.0
図 2.8 奥清津第二発電所 ガイドベーン閉鎖モード
最適化された場合の負荷遮断時の過渡現象は図 2.9 に示すような過程をたどる。すなわ
ち、回転速度は急上昇した後、流量の減少やガイドベーンの閉鎖に対応して再び徐々に
低下し、最後には停止する。流量は、急減した後、逆流してポンプアップされるにおよ
び、何度か正流と逆流を繰り返してゼロに至る。水撃圧は、流量変化速度に応じて変化
し、ポンプ水車入口の水圧管路側(水車ケーシング)では台形状の水圧上昇を示し、出
口の放水路側(ドラフトチューブ)ではそれと上下対象の波形の圧力変化となる。
このようなポンプ水車の挙動を左右する要素として、ガイドベーン閉鎖モード以外に、
水車発電機のはずみ車効果(GD2)がある。これは回転の慣性モーメントの大きさを左
右する質量の半径方向の分布であり、これが大きいと回転速度の変化が緩慢になり流量
変化とそれによる水撃圧値が小さくなり、水圧変化の周期が大きくなる。逆の場合は逆
の結果になる。GD2が水撃圧に与える影響は大きく、また設計時の見積値と完成品の固
有値は必ずしも一致しないことに留意しなければならない。
−59−
図 2.9 負荷遮断時の過渡現象の例(田中, 1976)
ポンプ水車でこのような過渡現象を起こすことにより、水撃波が上下流に向かって伝
播する。上流向きの水撃波は水圧管路を通り、調圧水槽基部で一部あるいは全部が反射
し、調圧水槽水位を変化させ、調圧水槽基部で全部反射しなかった場合は一部が導水路
を経由して上部池に達し、そこで反射する。調圧水槽の水位はこれらの水撃波と相互干
渉する。これらの水路系の水撃波は反射して発電所に向かう。同様な水撃波がポンプ水
車から下流の放水路方向へも向かい、同様の反射がある。それらの反射波とガイドベー
ン開度など水路系の外部からの条件に対応してポンプ水車の状態が変化する。このよう
にしてポンプ水車を含む総ての水路系の状態は時々刻々変化する。
2.3.2 揚水入力遮断
揚水時には、電力系統から受電した電気エネルギーを電動機で回転エネルギーに変換
してポンプにより水を押し上げているが、何らかの事故によりこの電気入力が遮断され
た場合、図 2.10 に示すような過渡現象が発生する。
ポンプにより重力に逆らって上昇していた管路中の水は押し上げる力を失い急速に流
量を減じ、ついには発電方向に正流しようとする。一方、それまでポンプ方向に逆回転
していた水車発電機には慣性があり、ガイドベーンも閉鎖されるので、それらに対応し
た流量変化があり、その変化率に対応した水撃圧が発生する。水撃圧はポンプ水車入口
の水圧管路側(水車ケーシング)では下向きの台形状の水圧下降を示した後上昇し、出
口の放水路側(ドラフトチューブ)ではそれと上下対象の波形の圧力変化となる。
−60−
図 2.10 入力遮断時の過渡現象の例(田中, 1976)
揚水入力遮断時には負荷遮断時のような高回転数にはならないので、高周波水圧脈動
は発生しない。
ポンプ水車から発する水撃圧の影響は負荷遮断時と同様に上下流水路の各部分に及ぶ
が、水圧および水位変化の方向が逆になり絶対値も異なる。
2.3.3 特殊な事故
(1) 複数台機のずれ遮断
発電所の大規模化と輸送限界などから定まる単機容量の制約から、複数台機を有する
発電所が増え、経済性の要請と技術発展の成果から水車発電機の直上流と下流でそれぞ
れ分岐・合流している水路系が増えている。この場合、複数のポンプ水車などの特性が
同じであって同時に遮断が発生すれば、水路系を含めて予想通りの挙動を示すことが期
待できるが、次の場合には予想外の動きを示す場合がある。
i) ポンプ水車発電電動機の特性が異なる場合
ii)遮断が時間差(ずれ)を持って発生する場合
この現象は、2.3.1 で述べたポンプ水車特有の水車制動域および逆転ポンプ域での位置
のずれが相互干渉を起こすことによって発生する。例えば 2.1.4 で示したように、2台の
ポンプ水車の特性が異なり、片方のポンプ水車の流量が発電方向にあるのに別の方が揚
水方向にあれば、分岐・合流点を通過してポンプ水車同士の水の押し引きが生じ、相互
−61−
にその動きを助長することになり、同じ特性の機械が2台ある場合より大きな水撃圧を
生ずることになる。
また、複数のポンプ水車が別の送電系統に連携しているような場合など、何らかの事
由で、ある時間ずれで遮断が起こる可能性があり、その場合も上記と同様の事象が発生
する可能性がある。この場合、仮に同じ特性のポンプ水車同士であっても、問題が発生
する可能性がある(横山、古川, 1982)
。
どの程度のずれでどのような相互作用が起こるかは、数値シミュレーションで十分把
握した上で、実機試験で確認する必要がある。奥清津第二発電所では、2.1.4 および 2.1.5
で述べた異なる仕様のポンプ水車間で発生する相互干渉が、ずれ遮断で一層増大するこ
とが事前のシミュレーションで想定され、そのことから放水路調圧水槽の制水口流量係
数が支配的となった。即ち、図 2.11 に示すように、2台のポンプ水車の負荷遮断が6秒
の時間的ずれで発生する場合に、ドラフトチューブ側の水圧低下がもっとも大きくなり、
水柱分離の危険性が高いことが予想されたので、実機の試験においても後述するように
6秒ずれのケースについて実施された。
ドラフト水圧(m)
20
15
10
1号機 2号機 5
0
-5 0
2
4
6
8
-10
ズレ時間(秒)
注)1号機先行遮断
注)ドラフト水圧は
計算値にホワール
成分などを加味し
たもの。
図 2.11 奥清津第二発電所ずれ遮断のシミュレーション結果
(2)ポンプトリップ
揚水入力遮断の場合にガイドベーンが全く作動しない場合をポンプトリップと称する。
このとき、ポンプ水車は「逆転・揚水流」→「逆転・発電流」→「正転・発電流」→「無
拘束速度」の経過をたどり、全体として非常に大きな流量変化がある。
全体として流量変化が大きく調圧水槽の水位変動が大きくなるので、この条件で調圧
水槽を設計するという考え方もある(九州電力土木部, 1978)
。
ポンプトリップは、現在のシステムの信頼度からすれば生起確立が極めて低い事象で
あるので、設計対象から外されており、実機の試験も行われないのが通例である。しか
し、危機管理の観点からは、数値シミュレーションで現象を把握しておくことが望まし
い。実際の計算例は第 6 章で述べる。
−62−
第3章
管路網における水理現象の数値モデル化
揚水発電所など水力発電所の水路系は、その構成要素である上下池、調圧水槽、分岐、
断面変化点および水車などが節点となり、導水路、水圧管路および放水路などの管路に
よって連結されていることから、基本的にネットワーク構造を呈している。この章では、
どのような管路網であってもネットワーク理論により一般的に表現できることを示す。
また、本研究で取り扱う代数学的手法の定式化について詳細に述べる。これらネットワ
ーク理論と代数学的手法により、基本式と境界条件からなる総ての支配方程式が線形化
され行列表示され、その逆行列を演算することにより過渡現象の解が得られることを示
す。
3.1
ネットワーク理論
3.1.1 ネットワークの概念
枝の集合{Bk}(k= 1∼n)、点の集合{Na}(a = 1∼m)の上で、枝と点の接続関係を表
す関数(連結関数)[Bk:Na] が次のように定義されているとき、枝と点の集合とそれらの
間の接続関係の全体を「線分グラフ」
(linear graph)という(日本数学会, 1969)
。
Na が Bk の始点であるとき、
[Bk :Na]
= 1
Na が Bk の終点であるとき、
[Bk :Na]
= −1
Na が Bk の端点でないとき、
[Bk :Na]
= 0
(3.1)
関 数 [Bk:Na] の 値 を n 行 、 m 列 の 行 列 の 形 で 表 記 す る と き 、 そ の 行 列 を 連 結 行 列
(incidence matrix)という。
線分グラフの枝または点に何らかの物理量が与えられているとき、その線分グラフを
「回路」
(network、以下「ネットワーク」
)という。多くの場合、ネットワークの枝には
次の条件を満足する 2 種の実数量 ik 、Ek (変数あるいは時間 t の関数)が対応づけられ
る。
n
∑[B
k =1
k
: N a ]ik = 0
m
(a = 1∼m)
∀k∃E a s.t.∑ [ Bk : N a ]E a = E k
(3.2)
(k = 1∼n)
(3.3)
a =1
式 3.2 、3.3 の意味は、図 3.1 に示すような簡単な具体例で考えると理解しやすい。
図 3.1 に示す線分グラフにおいて点 N2(a = 2 である点)に着目すると、[Bk:Na]≠0
であるのは、k = 1、2、7 の場合のみである。従って式 3.2 は次のように書きかえられる。
−63−
n
∑[B
k
k =1
: N 2 ]ik = [ B1 : N 2 ]i1 + [ B2 : N 2 ]i2 + [ B7 : N 2 ]i7
=
–i1 + i2 + i7
図 3.1
=
0
(3.4)
簡単な線分グラフの例
式 3.4 からわかるように、式 3.2 を満足する物理量 i は、枝に対して与えられていて、
複数の枝が結合した点において連続条件を満足するような物理量である。
次に枝 B1(k = 1 である枝)に着目すると、[Bk :Na]≠0 であるのは、a = 1、2 の場合
のみである。従って式 3.5 が成立し、それを満足する Ea として、E1 および E6 が存在し
ている。
m
∴
∑[B
a =1
1
: N a ]E a = [ B1 : N 1 ]E (a = 1) + [ B1 : N 2 ]E (a = 2)
= E(a=1) – E(a=2) = E(k=1)
(3.5)
式 3.5 からわかるように、式 3.3 を満足する物理量 E は、枝と点のどちらにでも与え
ることができ、一つの枝の両端での値が(もしあれば)枝自体での値を介して相互に従
属であるような物理量である。
枝または点に与えられた物理量がこのような性質を持つことは、線型グラフがネット
ワークであるための必要条件ではない。しかし実務においてネットワークで解析される
物理量は、しばしばこのような性質を持つ。たとえば、ik、Ek、Ea をそれぞれ電流、起
電力(または電圧降下)
、点電位とみなすならば、図 3.1 の線分グラフは図 3.2 に示すよ
うな電気回路となる。このとき式 3.2 、式 3.3 は、Kirchhoff の法則にほかならない。
−64−
図 3.2
簡単なネットワークの例(電気回路)
3.1.2 ネットワークモデル
情報がネットワークに従って流れ移り変わっていく数学モデルを、ネットワークモデ
ルという(近藤, 1974)
。システムの状態を表現する変数(内生変数)がベクトル Y = (y1,
y2,----, yn)で表わされ、システムの状態を決定する変数(外生変数)がベクトルX= (x1,
x2,----, xm)で表されるとき、Xと Y の関係がネットワークで表現できるなら、そのモデル
はネットワークモデルである。すなわち、Xと Y の元は一つのネットワークの枝または
点に対応する物理量で、Y の各元がXの元の一部または全部の関数として表現されなけれ
ばならない。
ネットワークモデルは、
Y = K ×X
(K は n 行、m 列の行列)
(3.6)
の形で表記されることが多い。Xと Y が互いに独立で、K がXまたは Y の元を含まなけ
れば、そのネットワークモデルは線型ネットワークモデルとよばれる。線型ネットワー
クモデルにおいてXと Y が同次(n 次)で、かつ K が正則であれば、式 3.7 によってXか
ら Y を逆算できる。
X = K -1 ×Y (K -1 は m 行、n 列の行列)
(3.7)
図 3.2 に示した電気回路の例では、式 3.2 から式 3.8 ∼3.12 が得られ、式 3.3 から
式 3.13∼3.14 が得られる。
-i1 + i6
= 0
(3.8)
i5 – i6
= 0
(3.9)
−65−
i2 – i3
= 0
(3.10)
i3 – i4
= 0
(3.11)
i1 – i2 – i7
= 0
(3.12)
i1R1 + i5R5 + i7R7
= E6
(3.13)
i2R2 – i3R3 – i7R7
= E4
(3.14)
式 3.8∼3.14 を行列で表記すると、式 3.15 が得られる。
-1
0
0
0
1
0
0
i1
0
0
0
0
0
1 -1
0
i2
0
0
1 -1
0
0
0
0
i3
0
0
0
1 -1
0
0
0
0
0
0
0
-1
i5
0
0
0
R5 0
R7
i6
E6
0
0
0 -R7
i7
E4
1 -1
R1
0
0 R2 -R3
R ×
すなわち
i4
×
I
0
=
=
E
(3.15)
式 3.15 においてベクトル I は内生変数、ベクトル E は外生変数である。行列 R は I、
E の元を含まないので式 3.15 は線型ネットワークモデルである。従って R -1 を求めるこ
とにより、式 3.16 によって E から I を求めることができる。また、E の元が時間 t の関
数として変動する場合に、式 3.16 が得られていれば I、すなわち電気回路の状態の変化
を時系列で追跡することができる。
I
3.2
=
R
-1
×
E
(3.16)
管路網における定常流のネットワークモデルによる定式化
3.2.1 単位管における定常流
単位管(図 3.3)は、元が 1 個である枝の集合{Bk}(k = 1)、元が2個である点の集合{Na}
(a = 1,2)、両者の連結行列 [[B1:N1], [B1:N2] ]=[1, -1]で構成される線分グラフで
表現することができる。
−66−
図 3.3
単位管の定常流のネットワークによる表現
単位管の定常流の状態は、管内部の流量 Qk (k =1) = Q1 = Q2 と、損失水頭∆H(k =1) = H1
-H2 が時系列的に求められることによって決定される。従って単位管の流れは、図 3.3 に
示す線分グラフの枝に物理量 Q、∆H を対応づけたネットワークであると考えることがで
きる。ここで Q は、始点から終点に向かって流れている場合を正と定義することとする。
3.2.2 管路網における定常流
n 個の単位管を m 個の節点で接合して管路網を構成するとき、どの単位管がどの節点
に結合されているかは明らかである。また、全ての単位管の両端点の一方を始点、他方
を終点と定義することも可能である。従って単位管の総数や各節点に集まる単位管の数
にかかわらず、全ての単位管(枝)、節点に対して連結関数[Bk:Na] が定義され、連結行列
[[Bk:Na] ]が決定される。
また、各単位管の内部での流量 Q と損失水頭∆H が時系列的に求められれば、管路網の
定常流の状態は決定される。従って管路網の定常流もまたネットワークである。
管路網の流れが定常流である場合は、各単位管の流量 Qk は始点から終点までの間で一
定である。また、各単位管の内部での水頭損失∆Hk がわかれば、両端での水頭は決定され
る。従って、n 個の単位管で構成される管路網の内生変数の合計は 2n 個であり、それら
を元とするベクトル Y は、節点数 m に関係なく、
Y = (Q1, Q2,--,Qk,--,Qn, ∆H1, ∆H2,--, ∆Hk,--, ∆Hn)
(3.17)
で表される。
Y の元は、節点における流量の連続と複数の枝における水頭損失の和の整合から計算さ
れる。図 3.4 に例示する管路網は、n 個の単位管と m 個の節点から成る。また、管路網
を表す線分グラフは l 個の面(線分グラフを構成する最少の多角形に囲まれた部分)を含
−67−
むものとする。この管路網において、上記の条件を表す式は以下のように求められる。
図 3.4
管路網のネットワークによる表現例
∆Hk = Fk ×Qk2
(k = 1,2,3,-----,n)
(3.18)
(Fk は各単位管の損失水頭係数)
n
∑[B
k =1
k
: N a ]Qk = 0
(a = 2,3,-----,m-1)
= Qin
(3.19)
(a = 1)
= Qout (a = m)
(節点での流量の連続)
∑[B
k
: N a ]∆H k = 0
(a,k は各面を囲む単位管と節点の番号) (3.20)
(面を回って合計した損失水頭の和はゼロ)
ここで各々に含まれる式の数に注目する。式 3.18 は n 個の式を含む。式 3.19 は見か
け上 m 個の式を含むが、管路網が定常状態にあってQin とQout が等しいことを考慮する
と、これらの式はすべて独立ではなく、有義な式の数は m–1 個である。また、管路網を
表す線分グラフに l 個の面が含まれるとすれば、式 3.20 は l 個の式を含む。管路網が平
面上にあれば、Euler の定理より式 3.21 が成立する(通常の Euler の式ではネットワー
クの外側の面も加算するのでこれより 1 つ多い)
。
l= n–m+1
(3.21)
−68−
式 3.18 ∼3.20 に含まれる式の総数は 2n となり、ベクトル Y の次数に一致する。
従って、図 3.4 の管路網の定常流のネットワークモデルによる表現は、式 3.22 に示す
ようになる。
n列
n列
[B k :N a ]
0
m−1行
l行
n行
[B k :N a ]
0
0
すなわち
×
1
0
0
・
・
・
0
0
0
1
0
・
・
・
0
0
0
0
1
・
・
・
0
0
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
R ×
0
0
0
・
・
・
1
0
Y
0
0
0
・
・
・
0
1
=
Q1
Q2
・
・
・
・
・
Q n-1
Qn
∆H1
∆H2
∆H3
・
・
・
∆ H n-1
∆Hn
X
=
Q in
0
・
・
Q out
0
・
・
0
F 1 ×Q 1 2
F 2 ×Q 2 2
F 3 ×Q 3 2
・
・
・
F n-1 ×Q n-1 2
F n ×Qn 2
(3.22)
式 3.22 においてベクトル Y は内生変数、ベクトルXは外生変数である。行列 R は Y、
Xの成分を含まないが、Xに Y の元(Q1 ∼Qn)が含まれているので、式 3.22 は線型ネ
ットワークモデルではない。従って、最初に Q1∼Qn の値を仮定し、それに増分∆Q1 ∼
∆Qn を加えて式 3.22 に代入し、逐次近似法による収束計算を行ってXと Y を決定する必
要がある(Hardy-Cross の計算法や Newton-Raphson の計算法(富士総合研究所, 1995)
)
。
しかし、このような非線形式を直接解く方法は、後述するように非定常現象の解析計算
には実際上適用できないため、本研究では 3.3.1 で述べるような方法で線形近似する。
3.3
管路網における過渡現象のネットワークモデルによる定式化
3.3.1 単位管における水撃圧の基本式
3.2.2 で論じたように、管路網の定常流はネットワークモデルで表現することができる。
しかし管路網の流れが過渡現象をおこし、水撃圧が発生する場合についての解析法は、
一般的なものとはなっていない。本研究では、揚水発電所の水路系の過渡現象を解析す
る手段として、任意の管路網における水撃圧をネットワークモデルで解析する手法を開
発した。
−69−
一般に圧力管路の流れの運動方程式は式 1.3 で表されるが、損失水頭を無視した場合
には式 3.23 で表わされる。
g
∂v
∂H ∂v
+
+v
=0
∂x ∂t
∂x
(3.23)
ここに、
v :管内の平均流速
t :時間
g :単位質量当たりの重力(重力加速度)
H :圧力水頭と高度水頭の和(以下、慣例に従い単に圧力水頭と呼ぶ)
x :管路軸に沿った距離
である。
ここで流速 v は通常の水路の場合、高々10m/s 程度であって、圧力波伝播速度 c(=∂x /
∂t)が通常 1,000m/s 程度であるのに比べて十分小さいこと、即ちマッハ数(=v/c)が1
より十分に小さいことを考慮すると、3.23 式の第 2 項および第 3 項は
∂v
∂v ∂v 
+v
=
1 +
∂t
∂x ∂t 
v  ∂v
≅
c  ∂t
(3.24)
であるので、3.23 式は次のようになる。
∂v
∂H
+g
=0
∂t
∂x
(3.25)
一方、水の圧縮性を考慮した連続の方程式は、式 1.4 と同じく式 3.26 である。
g
∂H
∂v
 ∂H

+ c2
+ gv 
− sin α  = 0
∂t
∂x
 ∂x

(3.26)
ここに
α:管路の傾き角度
c :管内の圧力波伝播速度(例えば次式、詳しくは 5.2.2(6)参照)
c=
但し
1
 1
D (1 − λ ) 
ρ
+ ⋅

Es 
 Ew t
Ew:水の体積弾性率
ρ :水の密度
−70−
D:管の内径
t:管の板圧
Es:管の弾性係数(埋設管の場合は周辺の拘束を考慮した等価弾性係数)
λ : 水圧鉄管以外のコンクリートや岩盤が管の内圧を負担する比率
である。ここで式 3.26 の第 3 項に着目すると、
 ∂H ∂z  gv  ∂H ∂z  gv ∂H
 ∂H

− sin α  = gv 
− =
− =
gv 

 ∂x

 ∂x ∂x  c  ∂t ∂t  c ∂t
(3.27)
となり、ここでもマッハ数が1より十分小さいことを想定すると、同式の第1項 g
∂H
に
∂t
較べて十分小さいことがわかる。従って式 3.26 は次のように表わすことができる。
g
∂H
∂v
+ c2
=0
∂t
∂x
(3.28)
式 3.25 、式 3.28 が水撃作用の基礎方程式となる。これらを t と x で偏微分し v または
x を消去することにより、式 3.29、式 3.30 に示す波動型の基礎方程式が導かれる。
2
∂2H
2 ∂ H
c
=
∂t 2
∂x 2
(3.29)
2
∂ 2v
2 ∂ v
=
c
∂t 2
∂x 2
(3.30)
式 3.29、式 3.30 の一般解は、式 3.31、式 3.32 で表される。
x
x
H ( x, t ) = H 0 + F (t + ) + f (t − )
c
c
v ( x, t ) = v0 −
g
x
g
x
⋅ F (t + ) + ⋅ f (t − )
c
c
c
c
(3.31)
(3.32)
ここに、
H(x,t)、H0:任意の位置および時刻における圧力水頭とその初期値
v(x,t)、v0 :任意の位置および時刻における流速とその初期値
x
F (t + ) :水頭の次元を持つ任意の関数
c
−71−
x
f (t − ) :水頭の次元を持つ任意の関数(損失水頭係数とは別)
c
である。式 3.31 の物理的意味は、任意の時刻における任意の位置の水頭が、管路上流に
伝わる F 波(入射波)と下流へ伝わる f 波(反射波)を初期値 H0 に加算することによっ
て求められるということである。式 3.32 についても同様の解釈が成立する。
これに続いて通常用いられる解法は、特性曲線法に従い時刻と節点を細かく切り、各
時刻および節点ごとに次々に計算していくものであるが、ここでは計算時間を大幅に節
約する実用上の目的で以下の方法(山口, 1969)を用いる。これは代数学的手法に他なら
ない。
図 3.5 に示すような管径や圧力波伝播速度が長さ方向に一定である単位管において、始
点"1"の時刻 t における水頭と、終点"2"の時刻 t -L/c における水頭を式 3.31 から求めれば、
式 3.33、式 3.34 が得られる。
x
x
H 1 (t ) = H ( x, t ) = H 0 + F (t + ) + f (t − )
c
c
(3.33)
L
x
x 2L
L
H 2 (t − ) = H ( x + L, t − ) = H 0 + F (t + ) + f (t − − ) c
c
c
c c
(3.34)
図 3.5
一様な単位管における水撃圧
式 3.33、式 3.34 から F(t +x/c)を消去すれば、式 3.35 が得られる。
L
x
x 2L
H 1 (t ) − H 2 (t − ) = f (t − ) − f (t − − )
c
c
c c
(3.35)
同様に式 3.32 から、式 3.36、式 3.37 が得られる。
v1 (t ) = v ( x, t ) = v0 −
g
x
g
x
⋅ F (t + ) + ⋅ f (t − )
c
c
c
c
−72−
(3.36)
L
L
g
x
g
x 2L
) v 2 (t − ) = v ( x + L, t − ) = v0 − ⋅ F (t + ) + ⋅ f (t − −
c
c
c
c
c
c
c
(3.37)
式 3.36、式 3.37 から F(t +x/c)を消去すれば、式 3.38 が得られる。
L
g
x
g
x 2L
)
v1 (t ) − v 2 (t − ) = ⋅ f (t − ) − ⋅ f (t − −
c
c
c
c
c
c
(3.38)
(3.39)
(3.40)
式 3.35、式 3.38 から f 関数を消去すれば、式 3.39 が得られる。
L
c
L
H 1 (t ) − H 2 (t − ) = [v1 (t ) − v 2 (t − )]
c
g
c
式 3.39 は、式 3.40 のように書き換えられる。
H 1 (t ) −
c
L
c
L
⋅ v1 (t ) = H 2 (t − ) − ⋅ v 2 (t − )
g
c
g
c
実用上の利便性から、式 3.40 は、式 3.41 のように書き換えられる。
L
L
H 1 (t ) − S ⋅ Q1 (t ) = H 2 (t − ) − S ⋅ Q2 (t − )
c
c
(3.41)
(3.42)
ここに、
Q = Q(x, t) = a・v(x, t)
S=
c
a⋅g
(管路内の流量)
(管路定数)
a:管路の断面積
である。
以上と同様の過程によって、式 3.42 を導くことができる。
L
L
H 2 (t ) + S ⋅ Q2 (t ) = H 1 (t − ) + S ⋅ Q1 (t − )
c
c
式 3.41、式 3.42 が意味するところは、図 3.6 に示すように、任意の点("1"または"2" )
距離 L だけ離れた点
("2" または"1" )
における任意の時刻(t)の圧力水頭と流量の関係が、
−73−
における L/c だけ前の時刻の圧力水頭と流量によって決定されるということである。ここ
で注意すべきことは、両式は連続した t(実際には計算時間刻みΔt 時間刻みごとの t )
の値に対して成立するのであって、t が L/c の整数倍の場合に限定されるのでないことで
ある。両式の関係を用いることにより、長い管路であっても一様なものであれば、途中
の点の水頭、流量を求めることなく、管路の両端の値のみを計算することにより水路系
全体の過渡現象を解析できるので、同じ精度を保ちながら大幅な時間短縮をして数値解
析を行うことが可能となる。
なお、実際の計算に際しては L/c がΔt の整数倍であることが求められるが、その具体
的取り扱いは 4.1 で述べる。
t+2Δt
t
t+Δt
t
L/c
t-L/c+2Δt
t-L/c+Δt
t-L/c
x
L
x+L
1(上流端)
図 3.6
x
2(下流端)
代数学的手法による計算時間刻みと管路端の値の計算
以上の定式結果を、この種の非定常流解析で通常用いられている特性曲線法との対比
で論ずれば次のようである。
特性曲線法では、1.2.1(3)でも述べたとおり、前述の基本式 3.23 および 3.26 から、
特性曲線上で次の常微分方程式が成立するとする。
C+
1 dH 1 dv sin α
+
−
v=0
c dt g dt
c
(3.43)
dx
=v+c
dt
C-
−
(3.44)
1 dH 1 dv sin α
+
+
v=0
c dt g dt
c
(3.45)
dx
=v−c
dt
(3.46)
−74−
これを差分化して次の離散式を得る。
C+
C-
(v P − v A ) + g (H P − H A ) − g sin α v A (t P − t A ) = 0
c
x P − x A = (v A + c )(t P − t A )
c
(3.48)
(v P − v B ) − g (H P − H B ) + g sin α v B (t P − t B ) = 0
c
x P − x A = (v B − c )(t P − t B )
(3.47)
c
(3.49)
(3.50)
ここに添字 A、B および P はそれぞれ図 3.7 に示すような、x-t 座標上の2つの既知
の点および1つの未知の点を表す。上式において前述したと同様に c>>v を考慮するな
らば、
C+
C-
(v P − v A ) + g (H P − H A ) = 0
(3.51)
c
x P − x A = c(t P − t A )
(3.52)
(v P − v B ) − g (H P − H B ) = 0
(3.53)
c
x P − x A = c(t P − t A )
(3.54)
となり、未知の値を持つ点Pを管路端に想定することにより、図 3.8 に示すように特性
曲線法でも式 3.41 および 3.42 と同じ結果を得ることができる。すなわち、本研究で用
いる代数学的手法は、この種の問題に広く用いられている特性曲線法において、流速が
圧力波伝播速度に較べて十分小さい事象に限り、解析手順を大幅に簡素化したもの、と
いうことができる。
なお、特性曲線法で Courant-Friedrichs-Lewy 条件と呼ばれている計算時間刻み Δt
と空間的な離散幅 Δx が満たすべき条件、すなわち
∆t (v + c ) ≤ ∆x
(3.55)
は、本研究の方法ではΔx を管路長に取るので当然ながら十分に満足され、Δt をかなり
大きく取って計算時間を短縮するなどの実用的利便性にもつながっている。
−75−
t
t
P
tP
C-
C+
A
tA tB
t+2Δt
B
xA
xp
xB
x
t+Δt
Δt
t
x
Δx
x
x+L
L
1(上流端)
図 3.7
(下流端)2
特性曲線と格子点の値の計算
t
P
t
P
tP
C+
tA tB
C-
A
xA
xp
xB
C+
t+2Δt
B
x
L/c
t+Δt
t
x
x+L
x
L
1(上流端)
(下流端)2
図 3.8 c>>v と考えた場合の特性曲線と管路の値の計算
一方、実際の単位管には、摩擦等に起因する水頭損失があるので、これを基本式に組
み入れる必要がある。摩擦損失は実際には管路全体に分散しているが、本研究ではこれ
が 1 箇所に集中していると仮定して近似的に取り扱う。図 3.9 に示すように、その一端
図 3.9
損失水頭を持つ単位管
−76−
(終点"2" )に限りなく近い 1 点に損失水頭が集中しているような単位管を考えると、水
撃圧の基本式は式 3.56 および 3.57 のように修正される。
L
L
L
L
H 1 (t ) − SQ1 (t ) = H 2 (t − ) − SQ2 (t − ) + R × Q2 (t − ) Q2 (t − ) c
c
c
c
(3.56)
L
L
H 2 (t ) + SQ2 (t ) = H 1 (t − ) + SQ1 (t − ) − R × Q2 (t ) Q2 (t − ∆t )
c
c
(3.57)
ここに∆t は計算時間刻み、R は損失水頭係数である。単位管の中に形状等による損失
水頭を考慮する必要がある場合は、その係数を流量の 2 乗に対する値に換算し、摩擦に
よる R に加算して単一の値として扱うこととした。
式 3.57 中の損失水頭の項において、R に乗ずべきものは本来は Q2(t)|Q2(t)|である。
しかし後で述べるように、水撃圧のネットワークモデルにおいては、内生変数ベクトル
の元と外生変数ベクトルの元をそれぞれ時刻 t および t –∆t での物理量に統一する必要が
ある。時間刻み∆t が十分小さければ Q2(t)は Q2(t –∆t)にほとんど等しいと考えられるので、
Q2(t)|Q2(t)|の片方を既知量である Q2(t – ∆t)で置換した。
ここで、図 3.9 に示すような集中した損失を想定するのではなく、1.2.1(4)で述べたよ
うに特性曲線法と同様な単位管全長に一様に分布する損失を考え、式(3.56)、(3.57)を
それぞれ式(3.56’)、(3.57’)とすることにより、2 次近似として精度を向上させ計算の安
定性を確保するすることが考えられる。
L
L
L
H 1 (t ) − SQ1 (t ) = H 2 (t − ) − SQ2 (t − ) + R × Q1 (t ) Q2 (t − ) c
c
c
(3.56’)
L
L
L
H 2 (t ) + SQ2 (t ) = H 1 (t − ) + SQ1 (t − ) − R × Q2 (t ) Q1 (t − )
c
c
c
(3.57’)
しかし、本論文では旧来の経緯を尊重し、式(3.56)、(3.57)を用いて計算を進め、そ
の摘要限界を論じている。実際、下記のように、本研究が扱う管路条件では損失水頭の
影響が水撃圧計算に対して支配的でないことから、損失水頭の扱いの精粗が解析結果に
さほどの影響を与えないことが予見できる。
式 3.57 は次のように書き換えられる。
L
L
H 2 (t ) + S 'Q2 (t ) = H 1 (t − ) + SQ1 (t − )
c
c
(3.58)
S ' = S + R Q 2 ( t − ∆t )
(3.59)
−77−
ここで式 3.59 の右辺両項目の概略値を知るために実際の揚水発電所(例えば図 5.22)
を例に計算すると、 S =
c
=6.7 に対して R Q2 (t − ∆t ) =0.0032 と、摩擦損失項の影
a⋅g
響は相対的に小さい。
損失水頭を含む式 3.56 と式 3.58 の右辺は時刻tにおいては既知数であるので、それ
ぞれ C1,2(t –L/c)、C2,1(t –L/c)と置くと、両式は式 3.60∼式 3.61 のように表記される。
L
H1 (t ) − SQ1 (t ) = C1, 2 (t − )
c
(3.60)
L
H 2 (t ) + S 'Q2 (t ) = C 2,1 (t − )
c
(3.61)
式 3.60、式 3.61 が本論文で用いられる水撃圧の基本式であり、後述する境界条件を考
慮して解くことにより、過渡現象の解析が可能となる。
3.3.2 閉塞器を有する単純な管路系における定式化
3.3.1 で論じたように、単位管に水撃圧が発生する場合、その状態変化は両端における
圧力水頭 H と流量 Q が時系列的に求められることによって決定される。ここで Q は始
点から終点に向かって流れる場合を正と定義する。
従って単位管の水撃圧は、図 3.10 に示す線分グラフに両端の圧力水頭 H と流量 Q と
いう物理量を対応づけたネットワークである。
図 3.10
単位管の水撃圧のネットワークによる表現
管路網の水撃圧の状態変化は、ネットワークモデルによって解析することができる。
まず、最も簡単な単位管の場合(図 3.11)についてその方法を述べる。
−78−
図 3.11
簡単な水撃圧計算モデル
図 3.11 において、単位管の始点は調整池(水位一定)に開口し、終点は閉塞器の呑口
に接合されているものとする。水撃圧が発生するとき、同じ時刻における単位管の両端
の水頭、流量は一般に等しくない。以下の計算においては、単位管 B1 の始点、終点の水
頭、流量を、それぞれ H1,1(t) 、Q1,1(t) 、H1,2(t) 、Q1,2(t) と書く。初期状態(t =0)にお
いては、始点から流量 Q1,1(0) (既知)が流入し、終点から Q1,2(0) = Q1,1(0) が閉塞器を
経由して空気中(H =0)に流出しているものとする。また、両端の初期水頭 H1,1(0)、
H1,2(0)は既知とする。閉塞器の開度φ(t) は全ての時刻に対して既知とし、φ (t) と Q1,2(t) の
間に式 3.62 が成立するものとする。
Q1, 2 (t ) = φ (t ) (H 1, 2 (t ) − H (吐口)) = φ (t ) H 1, 2 (t )
(3.62)
単位管の長さを L、水撃波の伝播速度を c とすると、式 3.63、3.64 が成立する。
L
H 1,1 (t ) − SQ1,1 (t ) = C1,1, 2 (t − )
c
(3.63)
L
H 1, 2 (t ) + S 'Q1, 2 (t ) = C1, 2,1 (t − )
c
(3.64)
式 3.63、3.64 の右辺は、式 3.60、3.61 のそれと同じものであるが、単位管 B1 に係わ
る量であることを示す添字"1"を加え、合計 3 個の添字を与えている。これは次項 3.3.3
以降において、複数の単位管における水撃圧の基本方程式を同時に取り扱うための準備
である。上流端の水頭は調整池の水面からの水位差 HUR に等しいので、式 3.65 が成立す
る。
−79−
H1,1(t) = HUR
(const.)
(3.65)
また、式 3.62 から、Q1,2(t)と Q1,2(t -∆t)の間に、式 3.66 が成立する。
Q1, 2 (t )
Q1, 2 (t − ∆t )
=
H 1, 2 (t )
φ (t )
φ (t − ∆t ) H 1, 2 (t − ∆t )
(3.66)
ここに∆t は、解析結果に要求される精度を勘案して選定される計算時間間隔である。
φ(t)は時刻 t における閉塞器の所与の開度を示す。4.2.1 で詳述するように、∆t が十分
小さければ、式 3.66 は以下のように線型化される。
Q1, 2 (t )
Q1, 2 (t − ∆t )
∴ H 1, 2 (t )
H 1, 2(t ) 
φ (t ) 

1+

2φ (t − ∆t ) 
H 1, 2 (t − ∆t ) 
=
(3.67)
Q1, 2 (t )
φ (t )
φ (t )
−
=−
2φ (t − ∆t ) ⋅ H 1, 2 (t − ∆t ) Q1, 2 (t − ∆t )
2φ (t − ∆t )
(3.68)
以上から、図 3.11 のモデルにおいて、未知数 4 個(H1,1(t)、Q1,1(t)、H1,2(t)、Q1,2(t) )
に対して式 3.63 ∼3.65 、3.68 の 4 個の一次方程式が成立する。従って、図 3.11 の管
路網の水撃圧のネットワークによる表現は、式 3.69 に示すようになる。
1
0 -S
0
H1,1(t)
0
1
0
S’
× H1,2(t)
1
0
0
0
Q1,1(t)
HUR
0
Γ
0
Z
Q1,2(t)
-φ(t)/ 2φ(t –∆t)
すなわち
S ×
H
C1,1,2(t –L/c)
=
=
C1,2,1(t –L/c)
C
(3.69)
ここに、
Γ=
Z=
φ (t )
2φ (t − ∆t ) ⋅ H 1, 2 (t − ∆t )
−1
Q1, 2 (t − ∆t )
である。
式 3.69 に示すように、内生変数ベクトル H と外生変数ベクトル C は互いに独立であ
り、行列 S は H、C の成分を含まない。従って式 3.69 は線型ネットワークモデルであり、
−80−
式 3.70 によって C から H を逆算することができる。
H
=
S -1 ×
C
(3.70)
式 3.70 の意味するところは、時刻 t – L/c および t – ∆t における水撃圧の状態(両端
での水頭、流量)が既知であれば、現在時刻 t における状態が計算できるということであ
る。すなわち、初期時刻 t =0 での状態が既知であれば、時間∆t ごとに、水撃圧の状態を
逐次追跡することができる。
3.3.3 管路網における定式化
3.3.2 で論じたように、単位管の水撃圧はネットワークモデルで解析することができる。
同じ考え方によって、複数の単位管を組み合わせた管路網に発生する水撃圧を解析する
ことができる。
例として、図 3.12 のような、n 本の単位管と m 個の節点から成る管路網を考える。図
3.12 において、単位管 B1 の始点(節点 N1)は調整池(水位一定)に開口し、単位管 Bn
の終点(節点 Nm)は閉塞器の呑口に接合されているものとする。各単位管の両端の水頭
Hk,1、Hk,2(k =1,2,--,n)、両端の流量 Qk,1、Qk,2(k =1,2,--,n) は全て時間 t の関数である。
各単位管の長さ、管路定数、圧力波伝播速度は、互いに異なる値 Lk、Sk、ck(k =1,2,--,n) と
する。
図 3.12
管路網の水撃圧計算モデルの例
−81−
初期状態(t =0)においては、節点 N1 から流量 Q1,1(0)(既知)が流入し、節点 Nm か
ら Qn,2(0) = Q1,1(0) が閉塞器を経由して空気中(H =0)に流出しているものとする。また、
各節点の初期水頭 Hk,1(0)、Hk,2(0) と初期流量 Qk,1(0)、Qk,2(0)
(k =1,2,--,n) は既知と
する。閉塞器の開度φ(t) は全ての時刻に対して既知とし、φ(t) と Qn,2(t) の間に式 3.71 が
成立するものとする。
Qn , 2 (t ) = φ (t ) (H n , 2 (t ) − H (吐口)) = φ (t ) H n , 2 (t )
(3.71)
図 3.12 のモデルにおいて、未知数は Hk,1、Hk,2 (k =1,2,--,n)、Qk,1、Qk,2 (k =1,2,--,n)
の合計 4n 個である。これらの間に、以下のように同数の関係式が成立する。
i.各単位管に対して、水撃圧の基本式 3.72 と 3.73 が成立する。単位管は n 本あるか
ら、式 3.72 と 3.73 はそれぞれ n 個の式を含む。
H k ,1 (t ) − S k Qk ,1 (t ) = H k , 2 (t −
= C k ,1, 2 (t −
L
L
L
Lk
) − S k Qk , 2 (t − k ) + Rk Qk , 2 (t − k ) Qk , 2 (t − k )
ck
ck
ck
ck
Lk
)
ck
H k , 2 (t ) + S ' k Qk , 2 (t ) = H k ,1 (t −
= C k , 2,1 (t −
(k =1,--,n)
(3.72)
Lk
L
) + S k Qk ,1 (t − k )
ck
ck
Lk
)
ck
(k =1,--,n)
(3.73)
ここに
S = S + Rk Qk , 2 (t − ∆t )
'
(3.74)
ii. N1 と Nm(他の枝と接合されていない節点)を除く各節点における水頭の相同から、
式 3.75 が成立する。式 3.75 において ki、kj とは、1個の節点 Na において接合され
た単位管のうちの 2 本の番号である。式 3.75 は、2n–m 個の式を含む(証明は節末
の注を参照)
。
[Bki:Na] Hki,a(t) + [Bkj:Na] Hkj,a(t)
=
−82−
0
(3.75)
すなわち、
[B1:N2] H1,2(t) + [B2:N2] H2,1(t)
=
-1× H1,2(t)
+
1×H2,1(t)
= 0 (節点 N2)
-1× H1,2(t)
+ 1×H3,1(t)
=
0 (節点 N2)
-1× H2,2(t)
+ 1×H4,1(t)
=
0 (節点 N3)
-1× H3,2(t)
+ 1×H5,1(t)
=
0 (節点 N4)
-1× H3,2(t)
+ 1×H6,1(t)
=
0 (節点 N4)
以下同様に
・
・
-1×Hn-2,2(t) +
1×Hn,1(t)
=
0 (節点 Nm-1)
-1×Hn-1,2(t) +
1×Hn,1(t)
=
0 (節点 Nm-1)
iii. 調整池への開口部における水頭が一定であることから、式 3.76 が成立する。
H1,1(t)
= HUR (const.)
(3.76)
N1 と Nm(他の枝と接合されていない節点)を除く各節点における流量の連続か
iv.
ら、式 3.77 が成立する。定常流の場合と異なりaについて辺々合計しても恒等式には
ならないので、式 3.77 は節点と同数の m-2 個の式を含む。
n
∑[B
k =1
k
: N a ]Qk ,a (t ) = 0
(a= 2,3,-----,m-1)
(3.77)
すなわち、
[B1:N2] Q1,2(t) + [B2:N2] Q2,1(t) + [B3:N2] Q3,1(t)
=
-1×Q1,2(t)
+ 1×Q2,1(t) +
1×Q3,1(t)
-1×Q2,2(t)
+ 1×Q4,1(t)
-1×Q3,2(t)
+ 1×Q5,1(t) +
1×Q6,1(t)
-1×Qn-3,2(t)
+ 1×Qn-2,1(t)
=
-1×Qn-1,2(t)
+ (-1)×Qn-2,2(t) +1×Qn,1(t)
=
0 (節点 N2)
=
0 (節点 N3)
=
0 (節点 N4)
以下同様に、
・
・
−83−
0 (節点 Nm-2)
=
0 (節点 Nm-1)
v. 閉塞器における水頭と流量の関係から、式 3.78 が成立する。
H n , 2 (t ) ×
Qn , 2 (t )
φ (t )
φ (t )
−
=−
2φ (t − ∆t ) × H n , 2 (t − ∆t ) Qn , 2 (t − ∆t )
2φ (t − ∆t )
(3.78)
以上から、図 3.12 のモデルにおいて、未知数 4n 個に対して 4n 個の方程式が成立す
る。従って、図 3.12 の管路網の水撃圧のネットワークによる表現は、式 3.79 に示すよ
うになる。
2n列
2n行
1
0
0
0
・
・
0
0
0
0
0
1
0
0
・
・
0
0
0
0
0
0
1
0
・
・
0
0
0
0
0
0
0
1
・
・
0
0
0
0
・
・
・
・
・
・
・
・
・
2n列
・
・
・
・
・
・
・
・
・
0
0
0
0
・
・
1
0
0
0
0
0
0
0
・
・
0
1
0
0
2n−m行
[B k :N a ]
1
0
0
0
・
・
0
0
0
0
0
0
・
・
0
0
1
0
0 -S 1 0 0 0
0 0 S1 0 0
0 0 0 -S 2 0
0 0 0 0 S2
・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・
0 0 0 0 0
0 0 0 0 0
0 0 0 0 0
1 0 0 0 0
・
・
・
・
・
・
・
・
・
0
0
0
0
・
・
0
0
0
0
・
・
0
0
0
0
0
・
・
0
0
0
0
0
0
・
・
0
0
0
・
・ -S n-1
0 S n-1
・
・
0
0 -S n
0
0 0 Sn
・
・
・
・
・
0
0
0
0
0
0
0
・
・
0
0
0
0
0
0 Z
2n行
0
0
[B k :N a ]
0
m−2行
0
0
・
・
0
0 Γ
0
0
0
0
・
・
0
×
H 1,1 (t )
H 1,2 (t )
H 2,1 (t )
H 2,2 (t )
・
・
H n-1,1 (t )
H n-1,2 (t )
H n,1 (t )
H n,2 (t )
Q 1,1 (t )
Q 1,2 (t )
Q 2,1 (t )
Q 2,2 (t )
・
・
・
・
Q n-1,1 (t )
Q n-1,2 (t )
Q n,1 (t )
Q n,2 (t )
=
C 1,1,2 (t-L 1 /c 1 )
C 1,2,1 (t-L 1 /c 1 )
C 2,1,2 (t-L 2 /c 2 )
C 2,2,1 (t-L 2 /c 2 )
・
・
C n-1,1,2 (t-L n-1 /c n-1 )
C n-1,2,1 (t-L n-1 /c n-1 )
C n,1,2 (t-L n /c n )
C n,2,1 (t-L n /c n )
0
0
・
・
0
H UR
0
0
・
0
0
- φ (t )/2 φ (t- ∆ t )
Γ = φ (t)/ [2 φ (t- ∆ t )×H n,2 (t- ∆ t )]
Z = -1/Q n,2 (t- ∆ t )
S
×
H
=
C
(3.79)
式 3.79 においてベクトル H は内生変数、ベクトル C は外生変数である。式 3.79 に
示すように、内生変数ベクトル H と外生変数ベクトル C は互いに独立であり、行列 S は
H、C の成分を含まない。従って式 3.79 は線型ネットワークモデルであり、式 3.80 に
よって C から H を逆算することができる。
H
=
−84−
S −1 × C
(3.80)
以上から、図 3.12 のように任意の数の単位管と節点から成る管路網においても、図
3.11 の単位管と全く同様に、時間∆t ごとに、水撃圧の状態を逐次に追跡することができる。
ただし、初期状態(t =0)において全ての節点における水頭と流量が既知であることが前
提となる。
図 3.11 のような簡単な水路系であればこの初期値を求めることは容易であるが、水路
系が複雑な場合は、3.2.2 で論じたように管路網の定常流についてのネットワークモデル
による解析を別途行わなければならない。
注)
管路網の水撃圧における水頭の相同条件式の個数と枝数・節点数の関係
枝の集合{Bk} (k =1∼n)、点の集合{Na} (a =1∼m)、接続関数 [Bk:Na]で構成される線分
グラフの各節点に、枝の両端で互いに異なる値をとる水頭 Ha を対応させたネットワーク
において、節点における水頭の相同条件式の個数 F は、式 3.a1 で表される。これを数学
的帰納法によって証明する。
F =
2n - m
(3.a1)
まず、面の数が1である線分グラフに対して、上記のように水頭 Ha を対応させたネッ
トワークを考える(図 3.a1)
。このネットワークは平面上の s 角形の形状をなしており、
各頂点に 2 本の枝(2 個の節点)が接合されている。従って式 3.a2、式 3.a3 が成立する。
一方、各頂点に集まる節点は頂点ごとに全て異なるから、式 3.a4 が成立する。これらか
ら、面の数が1である任意のネットワークに対して、式 3.a1 が成立することは明らかで
ある。
n=s
(3.a2)
m=s
(3.a3)
F=s
(3.a4)
1
図 3.a1
面の数が1である任意のネットワーク
−85−
次に、面の数が i である線分グラフに対して、上記のように水頭 Ha を対応させたネッ
トワークを考える(図 3.a2)
。このネットワークに対して、式 3.a1 が成立すると仮定す
る。図 3.a2 のネットワークに、1 個の面を追加して、面の数が i+1 であるネットワーク
(図 3.a3)を作る。このとき、i+1 番目の面は p 角形をなす線分グラフで囲まれるもの
とし、p 角形の辺のうち q 本(q ≦ p-2)が元の線分グラフに共有されるものとする。こ
のとき、i+1 番目の面が追加されたことによるネットワーク全体の枝数、節点数、水頭の
相同の式の個数の増分をそれぞれ∆n、∆m、∆F と書くと、式 3.a5∼式 3.a7 が成立する。
∆n = p - q
(3.a5)
∆m = p - (q + 1)
(3.a6)
∆F = p - (q - 1)
(3.a7)
2
i-1
i
1
図 3.a2 面の数が i である任意のネットワーク
従って、図 3.a3 のネットワークに対して、式 3.a8 が成立する。
(2n-m)[i+1]
= 2(n+∆n)-(m+∆m)
= 2(n+p-q)-{m+p-(q +1)}
= 2n-m+2p-2q-p+(q+1)
= (2n-m)[i] + {p-(q-1)}
=(2n-m)[i]+∆F
−86−
(3.a8)
2
3
1
P
2
4
i-1
i+1
i
1
5
P-1
P-2
6
P-q+1
図 3.a3
7
面の数が i+1 である任意のネットワーク
式 3.a8 から、面の数が i であるネットワークに対して、式 3.a1 が成立するならば、面
の数が i+1 であるネットワークに対しても、式 3.a1 が成立する。従って、平面上の突出
した枝を持たない任意のネットワークに対して、式 3.a1 が成立する。
さらに、平面上の突出した枝を持たない任意の線分グラフに対して、1列の突出した
枝の列を付加したネットワークを考える(図 3.a4)
。枝の列は k 本の枝から成り、直列に
接合されている。枝の列が追加されたことによるネットワーク全体の枝数、節点数、水
頭の相同の式の個数の増分をそれぞれ∆n、∆m、∆F と書くと、式 3.a9∼式 3.a11 が成立
する。
∆n = k
(3.a9)
∆m = k
(3.a10)
∆F = k
(3.a11)
従って、図 3.a4 のネットワークに対して、式 3.a12 が成立する。
(2n-m)[付加後] = 2(n+k)-(m+k)
= 2n-m+2k-k
= (2n-m)[付加前]+k
=(2n-m)[付加前]+∆F
−87−
(3.a12 )
既存ネットワーク
突出枝 (k本)
k
・
・
・
・
2
1
(k)
(k-1)
(2)
(1)
2
1
P
2
4
i-1
i+1
i
1
5
P-1
P-2
6
P-q+1
7
図 3.a4 突出した枝の列を持つ任意のネットワーク
従って、突出した枝の列を持つネットワークに対して、式 3.a1 が成立する。枝の列が
複数あっても同式が成立することは明らかである。
以上から、平面上にある任意のネットワークに対して、式 3.a1 が成立する。
3.3.4 水力発電所に特有な境界条件の定式化
3.3.3 で扱った管路網は流入、流出、分岐、合流のみの節点で構成されているが、水力
発電所の水路系には調圧水槽や水車等の特有の境界条件があるので、これらを計算モデル
に組み入れる必要がある。
(1) 調圧水槽、閉鎖端の取り扱い
図 3.12 に示した水路系において、流入点(調整池)と流出点(閉塞器)につながる単
位管は、一方の節点が他のどの単位管とも接合されていなく、水路系から盲腸のように
突出した管となっている。このような管の孤立した側の節点における境界条件は、一般
の節点におけるそれとは別の方程式で表される。
式 3.76、3.78 に示したように、流入点(未知数である流入量)
、流出点(未知数であ
る流出量)が1個存在すれば、それに対して水頭と流量の関係式が1個成立する。従っ
−88−
て、流入点と流出点が複数存在する管路網に対しても、式 3.80 と同様の式を立てて、水
撃圧の状態を逐次に追跡することができる。すなわち、ネットワークモデルによる水撃
圧の解析法は、単位管、節点の数だけでなく、流入点(調整池)と流出点(閉塞器)の
数にも制約されない。
水力発電所の水路系においては、流入点と流出点以外にも一端が他の単位管に接合さ
れていないような単位管が存在するのが普通である。それは調圧水槽、閉鎖端(分岐し
た水圧鉄管の終端にある複数の水車のうち1台の入口弁を閉めて点検を行っている場
合)等である。このような単位管は、図 3.13 のようにモデル化される。
図 3.13
突出管を持つネットワークモデル
図 3.13 のネットワークは、既にネットワークモデルによる水撃圧計算式が成立してい
るネットワーク(以下、
「既存ネットワーク」という)の節点 Nm に、新たに突出管 Bn+1
を接合したものである。Bn+1 の孤立節点を Nm+1 と呼ぶ。Bn+1 の延長は、Ln+1 とする。
既存ネットワークに Bn+1 が追加されたことによって新たに出現する未知数は、
Hn+1,1(t) 、Qn+1,1(t)、Hn+1,2(t)、Qn+1,2(t) の4個である。既存ネットワークについては未知
数と同数の方程式が成立することが証明されている。従って、1本の突出管を接合した
ことによって新たに4個の方程式が成立することが証明されれば、突出管を持つネット
ワークモデルについても、式 3.80 と同様の式を立てて水撃圧を解析できることが証明さ
れる。
Bn+1 において、水撃圧の基本式(式 3.81、3.82)は常に成立する。
H n +1,1 (t ) − S n +1Qn +1,1 (t ) = C n +1,1, 2 (t −
Ln +1
)
c n +1
(3.81)
H n +1, 2 (t ) + S n +1Qn +1, 2 (t ) = C n +1, 2,1 (t −
Ln +1
)
c n +1
(3.82)
−89−
また、節点 Nm における水頭の相同から、式 3.83 が常に成立する。
-1×Hn,2(t) + 1×Hn+1,1(t)
= 0
(3.83)
従って、節点 Nm+1 の状態が何であっても、あと1個の式が成立することを示せばよい。
i. 節点 Nm+1 が閉鎖端である場合は、流量が常に 0 であるから、式 3.84 が成立する。
Qn+1,2(t) = 0
(3.84)
ii. 節点 Nm+1 が調圧水槽である場合は、水頭が調圧水槽の水位(初期状態から現在ま
での流入・流出量の累計を断面積で除したもの)と整合することから、式 3.85 が成
立する。
H n +1, 2 (t ) = [ ∫
t − ∆t
0
Qn +1, 2 (t )dt ] / F
(3.85)
ここに、F は調圧水槽の断面積である。
式 3.85 の右辺における積分の上限は、本来は t である。しかし水撃圧のネットワーク
モデルにおいては、内生変数ベクトルの元と外生変数ベクトルの元をそれぞれ時刻 t およ
び t –∆t での物理量に統一する必要がある。時間刻み∆t が十分小さければ t –∆t までの積
分値は t までのそれにほとんど等しいと考えられるので、t を t –∆t で置換することとし
た。
調圧水槽については、圧力波の反射境界が水位とともに動くため、それに直結された
単位管の延長 L が一定でなくなるという問題点があるが、本論文では水槽をその高さを
管路長とする一定の長さの管路とみなし、反射境界の位置を強制的に水槽表面に固定す
ることとした。
以上の考察から、突出管を持つ水路系においても水頭と流量の方程式が未知数と同数
個成立し、式 3.80 と同様のネットワークモデルによる逐次計算が可能となる。突出管が
複数あっても同様である。
(2) 水車側の境界条件
水撃圧のネットワークモデルを構成する水頭、流量の関係式の中には、閉塞器の水頭
−流量関係式が含まれる。水力発電所の水路系では、閉塞器に相当するものは水車であ
る。3.3.3 での説明においては、この関係式を、オリフィスの水頭−流量関係に基づいて
決定した(式 3.78)
。
−90−
式 3.78 はペルトン式水車のノズルに設けられたニードルバルブに対してはおおむね実
態と整合するが、揚水発電所で広く用いられているフランシス式の可逆ポンプ水車に対
しては整合しない。本論文では解析プログラムの作成に際し、両方式の水車のいずれに
対しても適用できるように、形式別に水車の水頭−流量関係の定式化を行った。その詳
細は 4.2 で述べる。結論として、フランシス式可逆ポンプ水車の水頭−流量関係は式 3.86
に示す1次方程式で表される。
-Qki,ai(t) + Ψ(t –∆t)×[Hki,ai(t) – Hkj,aj(t)] =
Z(t –∆t)
(3.86)
ここに、
Qki,ai(t):水車入口における流量(= 水車出口における流量)
Hki,ai(t):水車入口における圧力水頭
Hkj,aj(t):水車出口における圧力水頭
ki、kj :水車入口および出口に接合された単位管の番号
ai、aj :水車入口および出口を意味する節点の番号
関数Ψ(t -∆t)、Z(t -∆t)については 4.2 で説明する。
(3) 任意個数の構成要素を含むネットワークモデル
揚水発電所の水路系は、上部調整池、調圧水槽、ポンプ水車、下部調整池と、これら
を結合する圧力水路によって構成される。これらの構成要素が任意の数であるような水
路系は、図 3.14 のようにモデル化される。
、
図 3.14 に示す水路系は、l1 個の開放水面(取水する調整池または導水路調圧水槽)
l2 個の開放水面(放水する調整池または放水路調圧水槽)、s 個の運転中のポンプ水車、r
個の休止中のポンプ水車(閉鎖された入口弁または吸出管に接続された r 対の盲管)を含
む。調整池の水位は一定とする。開放水面につながる突出管と水車の間には、任意の形
状の管路網が存在する。これらの管路網は突出管を含まない(全ての管の両端が他の管
の1端に接合されている)ものとし、単位管と節点の個数はそれぞれ、n1、m1、n2、m2
である。
図 3.14 に示す水路系の管の総数 n および節点の総数 m はそれぞれ式 3.87、式 3.88
で表される。全ての管および節点には番号 k (k = 1,---,n)、a (a = 1,---,m)が与えられてい
るものとする。
n = l1 +n1+2s+2r+n2+l2
(3.87)
m = l1 +m1+2s+2r+m2+l2
(3.88)
k 番目の管 (k = 1,---,n) の一端が a 番目の節点 (a = 1,---,m) であるとき、この端点に
−91−
おける水頭、流量を式 3.89、式 3.90 で標記する。
H(t) = Hk,a(t)
(3.89)
Q(t) = Qk,a(t)
(3.90)
図 3.14 に示す水路系の水撃圧の解析では、各単位管の両端の水頭、流量が未知数であ
るから、未知数の総数は 4n である。以下に示すように、未知数の間にこれと同数の方程
式が成立するので、全ての未知数を決定することができる。
方程式のタイプは次の 5 種類で、水路系の部分別の式数は表 3.1 に示すとおりである。
各部分ごとに式数を合計するとその部分の管数の 4 倍となり、全体として未知数と同数
になる。
表 3.1 任意個数の構成要素を含む水路系のネットワークモデルの方程式数
Type
1
2
3
4
5
合計
方程式の個数
上流側の 上流側の 休止中のポ 運転中のポ 下流側の 下 流 側 の 開
開放水面 管路網
ンプ水車
ンプ水車
管路網
放水面
2l1
2n1
4r
4s
2n2
2l2
l1
2r
2s
l2
2n1-m1
2n2-m2
l1
0
0
0
0
l2
0
m1
2r
s
m2
0
0
0
0
s
0
0
4l1
4n1
8r
8s
4n2
4l2
Type 1 水撃圧の基本式
H k ,ai (t ) − S k Qk ,ai (t ) = C k ,ai ,aj (t −
Lk
)
ck
(3.91)
H k ,aj (t ) + S ' k Qk ,aj (t ) = C k ,aj ,ai (t −
Lk
)
ck
(3.92)
ここに ai 、aj は単位管 Bk の両端の節点番号である。
Type 2 接合された節点での水頭の相同
[Bki :Na]Hki,a(t) + [Bkj :Na] Hkj,a(t) = 0
ここに ki 、kj は節点 Na に集まる単位管のうち2本の管番号である。
−92−
(3.93)
Type 3
開放水面での水頭の一定(調圧水槽の場合は、前時刻までの累積流量/断面
積F )
Hk,a = HUR = const.
(取水口)
= HLR = const.
(放水口)
=
∫
⋅t − ∆t
⋅0
(3.94)
(調圧水槽)
Qk ,a (t )dt / F
Type 4 接合された管(水車を含む)での流量の連続
n
∑[B
k =1
k
: N a ]Qk ,a (t ) = 0
(通常の節点)
(3.95)
[Bki :Nai]Qki,ai(t) = [Bkj :Naj]Qkj,aj(t)
=
0 (休止水車)
(3.96)
[Bki :Nai]Qki,ai(t) + [Bkj :Naj]Qkj,aj(t)
=
0 (稼働水車)
(3.97)
ここに ki 、kj はポンプ水車の入口、出口に接合された管の番号である。
Type 5 ポンプ水車の水頭−流量関係
–Qki,ai(t) + Ψ(t –∆t)×[Hki,ai(t) – Hkj,aj(t)] =
Z(t –∆t)
(3.98)
ここに ki 、kj はポンプ水車の入口、出口に接合された管の番号である。
以上から、図 3.14 に示す水路系の水撃圧は式 3.99 で表される。この式は式 3.79 と本
質的に同じもので、線形ネットワークモデルとなっている。
図 3.14
任意個数の構成要素を含む揚水発電所水路系
−93−
2n列
2n行
Type 1の
方程式
2n列
-S 1 0 0 ・ ・ 0 0
0 S´1 0 ・ ・ 0 0
0 0 -S 2 ・ ・ 0 0
・ ・ ・ ・
・ ・
・ ・ ・
・ ・ ・
0 0 0 ・ ・ -S n 0
0 0 0 ・ ・ 0 S´n
Type 2の方程式
I
[ B k :N a ]
2n行
Type 3の
方程式
1 or 0
Type 4の
方程式
[ B k :N a ]
Type 5の方程式
-1 or 0
×
×
0
0
S
H 1,1 (t )
H 1,2 (t )
・
・
・
H n,1 (t )
H n,2 (t )
Q 1,1 (t )
Q 1,2 (t )
・
・
・
・
・
・
Q n,1 (t )
Q n,2 (t )
H
=
C
=
C 1,1,2 (t-L 1 /c 1 )
C 1,2,1 (t-L 1 /c 1 )
・
・
・
C n,1,2 (t-L n /c n )
C n,2,1 (t-L n /c n )
0
H UR or H LR
or ∫ Q k,a (t )dt/F
0
Z (t- ∆ t )
(3.99)
従って時刻 t –L/c における水撃圧の状態(各単位管両端での水頭、流量)が既知であ
れば、式 3.100 によって現在時刻 t における状態が計算できる。
H
=
S –1
×
C
(3.100)
以上から、任意個数の構成要素を含む揚水発電所の水路系に対して、初期状態 t = 0 で
の状態が既知であれば、時間∆t ごとに水撃圧の状態を逐次的に追跡することができる。
初期状態は 3.2.2 で論じたように別途求めることができるので、いかなる水路系の水撃圧
でもネットワークモデルによって解析できることになる。これがネットワークモデルに
よる水撃圧計算プログラムの原理である。
式 3.99 のように行列表示するためには基本式を含むすべての式を線形化する必要があ
り、代数学的手法を用いて初めて可能となった。行列表示することにより、水路系をシ
ステマティックかつ機械的にモデル化することが可能となり、モデルの変更も容易とな
ることから、水路系の計画・設計実務における利便性を大幅に向上させることとなった。
−94−
第4章
任意水路ネットワーク水撃圧解析プログラムの開発
本研究では揚水発電所水路系の過渡現象の解析手段として、ネットワークモデルに基
づく水撃圧解析プログラムを開発した。本章ではこのプログラムに必要な初期条件、境
界条件、特にポンプ水車の境界条件およびプログラムのコーディングについて述べる。
4.1 初期条件の設定
第 3 章で述べたとおり、水撃圧の基本方程式は、管の両端における水頭・流量を時間
間隔 L/c 前の値に基づいて逐次に追跡するものである。従って、計算開始(t =0)からあ
る時刻までの間の計算を行うためには、負の時刻における各節点の水頭値と流量値が必
要となる。開発したプログラムでは、全ての節点における水頭・流量値に対して、式 4.1 、
式 4.2 が成立すると仮定した。
H(t) = H(0)
(t≦0)
(4.1)
Q(t) = Q(0)
(t≦0)
(4.2)
第 3 章で示したネットワークモデルの計算を行うに際して、式 4.3 で示す「ステップ
数」の概念を導入した。
Lk ≒ Yk ・(ck ∆t)
(4.3)
ここに、
Yk:ステップ数(式 4.3 が成立するように選ばれた自然数。k = 1,2,--,n)
Lk:単位管の延長(k = 1,2,--,n)
ck:単位管内の圧力波の伝播速度(k = 1,2,--,n)
∆t :計算時間間隔
例えば ck = 1,000m/s、 ∆t = 0.01s とした場合、ck ∆t =10m が単位ステップ長さに
相当し、仮に長さ 122mの水路があれば、これを四捨五入して 120m とみなし、そのステ
ップ数を 12 と取ることとなる。また、この管路内を伝播する圧力波の管路端間の到達時
間は Lk / ck =0.12sであり、∆t(= 0.01s)が 12 ステップ進む時間に相当する。なお、
この例では厳密にはこの時間内には到達していないが、長さを式 4.3 のように取ることに
より、到達しているとみなす。このように、ステップ数は距離と時間の両方に関係する
無次元数であって、実際の計算を行う際の重要な概念である。なお、上記のように水路
長を加減しているので端点が格点間に到達することはなく、グリッド補間はしていない。
ステップ数を用いると、水撃圧の基本方程式 3.72、3.73 は式 4.4 、4.5 のように場合
分けされる。
−95−
H k ,1 (t ) − S k Qk ,1 (t ) = C k ,1, 2 (t −
Lk
)
ck
H k , 2 (t ) + S ' k Qk , 2 (t ) = Ck , 2,1 (t −
(3.72)
Lk
)
ck
Hk,1(t) - SkQk,1(t) = Ck,1,2(0)
(0≦ i <Yk)
C k ,1, 2 ((i − Yk ) ∆t )
=
Hk,2(t) +S’kQk,2(t) = Ck,2,1(0)
=
(4.4)
( Yk≦ i )
(0≦ i <Yk)
C k , 2 ,1 ((i − Yk ) ∆t )
(3.73)
(4.5)
( Yk≦ i)
ここに、
t = i ・ ∆t
(4.6)
式 4.4 、4.5 の意味するところは次のとおりである。管路網の水撃圧の追跡は、式 3.80
に示すように、閉塞機の開度の変化に従って微小時間∆t ごとに 1 回づつ連立方程式を解
いていくものであるが、行列の逆転回数 i が Yk に達するまで、その単位管の水撃圧の基
本式の右辺の値を一定値 Ck,1,2(0)、Ck,2,1(0)として計算を行うこととする。Yk≦i となっ
て初めて、基本式の右辺の値を現在時刻 t からみて Lk/ck だけ前の値、即ち、現在の計
算ステップ i より Yk ステップだけ前の値に逐次差し替えて計算を進めていく。言い換え
れば、各単位管の終(始)点で発生した圧力波が初めて始点に到達するまでは、始(終)
点の水頭・流量は終点の水頭・流量の初期値に基づいて決定され続けるということであ
る。
上記のことを、最も単純な管路網である図 3.11 の水路系を例として説明する。この水
路系の水撃圧のネットワークモデルは、式 3.69 で表される。
1
0 -S1
0
H1,1(t)
0
1
1
0
C1,1,2(t –L1/c1)
0
S’1
× H1,2(t)
0
0
0
Q1,1(t)
HUR
Γ
0
Z
Q1,2(t)
-φ(t)/ 2φ(t -∆t)
=
ここに、
Γ=
Z=
φ (t )
2φ (t − ∆t ) ⋅ H 1, 2 (t − ∆t )
−1
Q1, 2 (t − ∆t )
−96−
C1,2,1(t –L1/c1)
(3.69)
時間 t の変化に従って、式 3.69 は以下のように書き換えられる。
1) 初期状態(t =0)
1
0
-S1
0
H1,1(0)
0
1
0
S’1
× H1,2(0)
1
0
0
0
Q1,1(0)
0
Γ
0
Z
Q1,2(0)
C1,1,2(-L1/c1)
=
C1,2,1(-L1/c1)
C1,1,2(0)
=
HUR
-φ(0)/ 2φ(-∆t)
C1,2,1(0)
HUR
-φ(0)/ 2φ(0)
H1,2(0) - S1Q1,2(0) + R×Q1,2(0) │Q1,2(0)│
H1,1(0) + S1Q1,1(0)
=
HUR
-1/2
S
×
H
= C
(4.7)
ここに、
Γ=
Z=
1
φ (0)
φ ( 0)
=
=
= const.
2φ ( − ∆t ) ⋅ H 1, 2 ( − ∆t ) 2φ (0) ⋅ H 1, 2 (0) 2 H 1, 2 (0)
−1
−1
=
= const.
Q1, 2 (− ∆t ) Q1, 2 (0)
式 4.7 を成分で標記すると下記のようになる。
H1,1(0) -S1Q1,1(0) = H1,2(0) - S1Q1,2(0) +R Q1,2(0) │Q1,2(0)│
(4.7a)
H1,2(0) +S’1Q1,2(0) = H1,1(0)+ S1Q1,1(0)
(4.7b)
H1,1(0)
= HUR
(4.7c)
1/2 - 1
= -1/2
(4.7d)
これらの式のうち第 3 式は明らかに成立し、第 4 式は恒等式である。第 1、第 2 式を辺々
加減すると式 4.7e および式 4.7f が得られるが、これらも実現象と矛盾しない。
H1,1(0) - H1,2(0) = R Q1,2(0) │Q1,2(0)│
Q1,1(0) = Q1,2(0)
(4.7e)
(4.7f)
−97−
2) t = i ×∆t (1≦i ≦Y1)の場合
1
0
-S1
H1,1(i∆t)
0
1
0
S’1 × H1,2(i∆t) =
1
0
0
0
Q1,1(i∆t)
HUR
0
Γ
0
Z
Q1,2(i∆t)
-φ(i∆t)/2φ((i -1)∆t)
0
C1,1,2(i∆t - L1/c1)
C1,2,1(i∆t - L1/c1)
C1,1,2(0)
C1,2,1(0)
=
HUR
-φ(i∆t)/2φ((i -1)∆t)
S
H
×
=
C
(4.8)
ここに、
Γ=
φ (i∆t )
2φ ((i − 1) ∆t ) ⋅ H 1, 2 ((i − 1) ∆t )
Z=
−1
Q1, 2 ((i − 1)∆t )
閉塞器の開度φ(t) は既知であるから、ΓとZは∆t ごとに決定されて定数となる。従っ
て式 4.8 により∆t ごとに行列 S の逆転計算を行えば、内生変数ベクトル H の成分を逐次
に決定することができる。
3) t = i× ∆t (Y1 < i)の場合
H1,1(i ∆t)
C1,1,2(i ∆t -L1/c1)
1
0
-S1
0
0
1
0
S’1
1
0
0
0
Q1,1(i ∆t)
HUR
0
Γ
0
Z
Q1,2(i ∆t)
-φ(i ∆t)/2 φ((i -1) ∆t)
× H1,2(i ∆t)
C1,2,1(i ∆t -L1/c1)
=
C1,1,2((i –Y1) ∆t)
C1,2,1((i –Y1) ∆t)
=
HUR
- φ(i ∆t)/2 φ((i -1) ∆t)
S
×
H
−98−
=
C
(4.9)
ここに、
Γ=
φ (i∆t )
2φ ((i − 1) ∆t ) ⋅ H 1, 2 ((i − 1) ∆t )
Z=
−1
Q1, 2 ((i − 1)∆t )
式 4.9 において C1,1,2((i –Y1) ∆t)および C1,2,1((i –Y1) ∆t)は、時刻 (i –Y1) ∆t における H
の成分で決定されるが、同時刻の H は Y1 ステップ前(≡時間 L1/c1 前)の行列の逆転計
算によって常に計算されている。従って式 4.9 により∆t ごとに行列 S の逆転計算を行え
ば、内生変数ベクトル H の成分を逐次に決定することができる。
4.2 水路各要素の境界条件と行列表示
通常の水力発電所の水路を構成する境界条件としては次のものを考えておけばよい。
(1) 分岐点または断面変化点
この点における流量の連続性(管路の上流端か下流端かを判別して方向を考えた時に
接続する管路の流量合計がゼロになる)
、例えば、
Qi , 2 − Q j ,1 − Qk ,1 = 0
(4.10)
ここに
Qi , 2 :管路 i の下流端流量、 Q j ,1 :管路 j の上流端流量、 Qk ,1 :管路 k の上流端流量
(2) 行止端
この点における流量が常に 0、例えば、
Ql , 2 = 0
(4.11)
ここに Ql , 2 :行止りとなっている管路 l の下流端流量
(3) 調圧水槽
正確には式 3.94 あるいは制水口がある場合の式 5.14 によるが、説明の都合上単純化
して、
H m = (∆t F )Qm , 2 (4.12)
ここに H m :水槽の水頭、 Qm , 2 :水槽に接続する管路 m の下流端流量、
∆t :計算時間刻み、 F :水槽断面積
−99−
(4) 貯水池または調整池
水位が常に一定なので、例えば、
H n = HWw
(4.13)
ここに、 H n :貯水池または調整池の水頭、 HWw :貯水池または調整池の水頭(一定)
(5) 水車
水車の入り口と出口の流量は等しいので、
Qo , 2 = Q p ,1 = Q
(4.14)
ここに、 Q0, 2 :水車入り口に接続する管路 o の下流端流量、 Q p ,1 :水車出口に接続する
管路 p の上流端流量
ペルトン水車の場合、後述するように、次のような関係になっている。
(φ 2φ0 H 0 )(H p − H q ) − (1 Q0 )Q = − φ 2φ0
(4.15)
ここに、φ , φ 0 :時刻tおよび t-Δt におけるバルブ開度、 H p , H q :水車入り口および
出口の水頭、 H 0 :時刻 t-Δt における落差、 Q0 :時刻 t-Δt における水車流量
ポンプ水車の場合は、後述するように、次の関係がある。
 Γ2 M 2

2 H
0



M 2 H0
(H p − H q ) − Q = − Γ1 M 3 N + Γ2


2






(4.16)
ここに、 Γ1 , Γ2 :後述する模型特性から定まる係数、M:模型縮尺比、N:回転速度
以上に述べた境界条件を、単一管路の基本式である式 3.60 および 3.61 と組み合わせ
れば、任意の水路系を行列表示することができる。これらはすべて線形化されており、
逆行列演算で未知数を求めることができる。
ここで最も単純な水路系を例に取り、ペルトン水車とポンプ水車のそれぞれについて
行列式表示をすれば図 4.1 のようになる。
この例から類推できるように、水路系がネットワークとして体系的に表現される結果、
いかなる組み合わせに対しても対応できることに加え、一度組み上げた水路系を修正し
たり追加削除することも容易である。このことは、実際に土木技術者が設計業務や測定
結果の解析業務に携わる際に非常に重要なことである。
このようにいかなる水路系でも行列表示することが検証できたこと、ポンプ水車の境
界条件を表現することができたことが本研究の最も大きな成果のひとつである。
−100−
図 4.1 ペルトン水車またはポンプ水車を含むネットワークの行列式表示の例
4.3 水車の境界条件の線形化
4.3.1 ペルトン水車の場合
図 4.2 にペルトン水車のノズルのニードルバルブの概念図を示す。
図 4.2 ペルトン水車のニードルバルブ
このバルブはニードル部分で流量を支配しており、水頭 H(t)と流量 Q(t)の関係は小型
オリフィスにおけるそれを準用することにより、式 4.17 で与えられる。
−101−
φ (t )
Q(t )
=
Q(t − ∆t ) φ (t − ∆t )
H (t )
H (t − ∆t )
(4.17)
ここにバルブ開度φ(t) は時刻 t ごとに所与なので、式 4.17 は水頭と流量の関係を一
意的に定めるものとなる。時間間隔∆t が十分小さければ式 4.18 が成立するので、式 4.17
の右辺の一部は式 4.19 のように線型化される。
H (t − ∆t ) − H (t )
≪ 1
H (t − ∆t )
(4.18)
H (t )
H (t − ∆t ) − H (t )
H (t − ∆t ) − H (t )
≒ 1−
= 1−
H (t − ∆t )
H (t − ∆t )
2 H (t − ∆t )
=
1
H (t )
+
2 2 H (t − ∆t )
(4.19)
式 4.17 と式 4.19 から、式 4.20 が得られる。
φ (t )
1
φ (t )
⋅ H (t ) −
⋅ Q (t ) = −
2φ (t − ∆t ) ⋅ H (t − ∆t )
Q (t − ∆t )
2φ (t − ∆t )
(4.20)
前時刻 t -∆t での水頭、流量が既知量であれば、φ(t) も所与であるので、式 4.20 は
H(t)と Q(t)を変数とする一次方程式となり、ネットワークモデルに組み入れることができ
る。ここで H(t)は水車に作用する落差すなわち水車上下流の水頭差なので、式 4.20 は次
のように書き換えられる。
1
φ (t )
φ (t )
⋅ [H 1 (t ) − H 2 (t )] −
⋅ Q (t ) = −
2φ (t − ∆t )[H 1 (t − ∆t ) − H 2 (t − ∆t )]
Q ( t − ∆t )
2φ (t − ∆t )
(4.21)
ここに、
H1(t)、H2(t) :水車の入口および出口における圧力水頭
実際の解析において、対象とする発電所の水車がペルトン式であれば、水車の境界条
件として式 4.21 を使用する。水車がフランシス式などペルトン水車以外のものであって
も、ポンプ水車でない限り、この式で近似することができる。
−102−
4.3.2 ポンプ水車の水理現象の特徴
ペルトン式水車における水頭と流量の関係がノズル部分のバルブの開度のみでランナ
(羽根車)と独立に一意的に定まるのに対し、フランシス式の可逆ポンプ水車は過渡時
の挙動が複雑であるため、水路の境界条件として簡単な数式で表現することができない。
フランシス式可逆ポンプ水車の運転状態は、
「完全特性」と呼ばれる 3 次元的な関係に
、流量 q(m3/s)
、トルクτ(tm)の 3
支配されている。完全特性は、回転速度 n(rpm)
種の物理量を軸とする3次元空間内の 1 個の曲面で表され、模型実験によってのみ把握
することができる。
完全特性の 3 次元表示の一例を図 4.3 に示す。完全特性の曲面は実用上は、離散的な多
数の測定点を連ねた 3 次元の折れ線の集合として表示される。ここで注意しなければな
らないことは、n、q、τ の 3 種の物理量は実物の水車に対する値ではなく、模型の水車に
対する値であるということである。個々の折れ線は、ガイドベーン(案内羽根)開度φ
をパラメーターとする 3 種の物理量がとることができる値の組を連ねたものである。
図 4.3 完全特性の 3 次元表示
完全特性を水撃圧計算に使用する場合は、3 次元のままではなく、上記の折れ線群を n
-q 平面および n - τ 平面に正射影して得られる2枚の平面図形として使用する。これら
、
「n - τ 特性図」という。このように元来ひとつの曲面であるもの
の図を「n -q 特性図」
を 2 枚の平面に区分して扱うところに、後述するような問題が発生する原因がある。
−103−
図 4.3 の完全特性から得られる n -q 特性図を図 4.4 に示す。n、q の値は、発電方向
(ランナは正転、流量は水圧鉄管から吸出管に向かう)を正、揚水方向を負と定義する。
図 4.4 からわかるように、水車入口のガイドベーンの開度のみならずランナの回転速度の
大小が水車を通過する流量を左右している。n-q 特性図の各象限の物理的な意味は次の
とおりである。
i. 第 1 象限は、
「発電運転領域」である。ランナが水のエネルギを受け取って発電方
向に回転し、水は水圧鉄管から吸出管に向かって流れている(通常の発電運転)
。
ii. 第 2 象限は、
「ポンプブレーキ領域」である。ランナは揚水方向に回転しているが、
回転速度が小さいため自然水頭に負けており、水は水圧鉄管から吸出管に向かって
流れている(過渡状態)
。
iii. 第 3 象限は、
「揚水運転領域」である。ランナに外部からエネルギを与えて強制
的に揚水方向に回転させることにより、水を吸出管から水圧鉄管に向かって押し出
している(通常の揚水運転)
。
iv. 第 4 象限は、
「逆転ポンプ領域」である。ランナは発電方向に回転しているが、回
転速度が高すぎるため、遠心力で水を吸出管から水圧鉄管に向かってはじき飛ばし
ている(過渡状態)
。
発電
︵水車︶
ポンプブレーキ領域
0.08
q
発電運転領域
流量 (m3/s)
0.06
0.04
逆転
正転
n
0
-300
-200
-100
0
-0.02
100
200
300
回転数 (r.p.m)
-0.04
揚水
︵ポンプ︶
揚水運転領域
-0.06
-0.08
-0.1
図 4.4 模型 n-q 特性図の例
−104−
逆転ポンプ領域
ガイドベーン開度︵%︶
0.02
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
5
0
負荷遮断初期値
入力遮断初期値
同じガイドベーン開度に対する状態量の組を連ねた折れ線の、第 1 象限から第 4 象限
にかけての形状は、次のような挙動を示唆している。第1象限の発電運転状態から、ガ
イドベーン開度を一定に保ったまま回転速度が上昇すると、あるところから流量が急激
に減少し、回転速度がそれ以上上昇しなくなる。これは流水のエネルギと回転速度の上
昇に伴う機械損失とが均衡することを示しており、一般に無拘束速度と呼ばれる安定状
態である。この状態からさらに回転速度を上げようとする力が加わった場合、流量が逆
転して第 4 象限に入り、ランナは正転しているにもかかわらず水は揚水される状態に到
る。これは可逆ポンプ水車に特有の現象で、本質的にポンプとして作られているランナ
を水車として使用している故の必然的結果である。
図 4.3 の完全特性から得られる n - τ 特性図を図 4.5 に示す。水車の回転速度はトルク
(回転力)と回転の慣性力によって定まる。トルクと回転速度の関係もガイドベーン開
度に応じて図に示すように与えられ、流量と同じく非線形なものである。
︵加速︶
ポンプブレーキ領域
6
τ
発電運転領域
トルク (tm)
4
正転
n
0
-300
-200
-100
0
100
200
300
回転数 (r.p.m)
-2
︵減速︶
揚水運転領域
ガイドベーン開度︵%︶
2
逆転
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
5
0
負荷遮断初期値
入力遮断初期値
-4
逆転ポンプ領域
-6
図 4.5 模型 n-τ特性図の例
なお、これらの模型特性は個々の仕様に応じた水車模型が作成され試験測定されて初
めて得られるが、それがない場合には、類似仕様のポンプ水車に対する模型試験で得ら
れている所与の特性を伸縮して類推することにより、近似的な解析を行うことができる。
−105−
4.3.3 ポンプ水車の状態変化の追跡方法
(1) ポンプ水車特性の線形化
一般に、模型水車と実物水車の物理量の間には、任意の時刻tにおいて次の相似律が
成立する。
n(t ) =
q( t ) =
τ (t ) =
N (t ) M
(4.22)
H (t )
Q (t )
1
⋅ 2
H (t ) M
(4.23)
T (t ) 1
⋅
H (t ) M 3
(4.24)
ここに、
n(t)、N(t):模型および実物水車の回転速度
q(t)、Q(t):模型および実物水車の流量
τ(t)、T(t) :模型および実物水車のトルク
H(t):実物水車の作用落差(または揚程)
M :模型縮尺 = 実物ランナの直径/模型ランナの直径
フランシス水車はその入口と出口が必ず管路に結合されていることから、式 4.25 が成
立する。
H(t) = H1(t) - H2(t)
(4.25)
ここに、
H1(t)、H2(t) :水車の入口および出口における圧力水頭
図 4.4 に示すような n –q 特性図は非常に複雑な図形であるが、局所的には直線で近似
することができる。まず、ガイドベーン開度φ(t) は全ての t に対して既知であるとする。
次に、ある時刻 t -∆t における実物水車の流量 Q(t -∆t)が既知であるとする。このとき n
–q 特性図上において、q(t -∆t)と φ (t -∆t)の値から1個の状態点 P が決定される。点 P
は n –q 特性図を構成する折れ線の折れ点のうちいずれか4個で囲まれた四角形の中に
存在する(図 4.6)ことから、P の近傍において n –q 特性図は式 4.26 によって線型化さ
れる。
q(t -∆t) = Γ1 n(t -∆t) + Γ2
(4.26)
ここにΓ1、Γ2 は、P の周囲の4個の折れ点の座標値から決定される定数である。もし時
間∆t が十分小さければ、式 4.27 も成立する。
−106−
q(t) = Γ1 n(t) + Γ2
(4.27)
q
φi+1
φi
q(t − ∆t )
q(t − ∆t ) = Γ1n(t − ∆t ) + Γ2
n ( t − ∆t )
図 4.6
n
n-q 特性図の局所線型化
式 4.27 に式 4.22 と式 4.23 を代入すると、式 4.28 が得られる。
Q(t )
M
2
H 1 (t ) − H 2 (t )
= Γ1
N (t ) M
H 1 (t ) − H 2 (t )
+ Γ2
(4.28)
∆t が十分小さければ、4.3.1 で述べたペルトン水車の場合と同様な方法で、式 4.28 を
線型化することにより式 4.29 が得られる。
Ψ (t − ∆t ) ⋅ [H 1 (t ) − H 2 (t )] − Q (t ) = Ζ(t − ∆t )
(4.29)
ここに、
Ψ (t − ∆t ) =
Γ2 M 2
2 H 1 (t − ∆t ) − H 2 (t − ∆t )

M 2 H 1 (t − ∆t ) − H 2 (t − ∆t ) 
Z (t − ∆t ) = −  Γ1 M 3 N (t ) + Γ2

2


(4.30)
(4.31)
H1(t -∆t)および H2(t -∆t)は既知数であるから、式 4.29 は式 4.21 と同様に、実物水車
の水頭・流量関係を局所的に線形化した1次方程式にほかならない。しかし、Z(t -∆t) が
−107−
未知数である時刻 t における実機の回転速度 N(t)を含んでいるので、図 4.7 に示すよう
に、以下の方法でこれを決定する。
A. 模型 n-q 特性
q(t)= Γ1n(t)+Γ2
q(t -Δt)
q φ(t -Δt)
n
0
n(t -Δt)
B. 模型 n-τ特性
τ φ(t -Δt)
τ(t -Δt)
n
0
n(t -Δt)
図 4.7
ポンプ水車の状態変化の追跡
−108−
まず、時刻 t -∆t における既知の実機回転速度と落差を式 4.22 に代入して、時刻 t -∆t
における模型の回転速度 n(t -∆t)を求め、次にこの値と所与のφ(t -∆t)を用いて n-τ 特性
図上で模型のトルクτ(t -∆t)が求められ、これを式 4.24 に代入すれば T(t -∆t)が決定され
る。ここで T(t)と N(t)の間に式 4.32 が成立し、N(t -∆t) は既知であることから、同式を
線形化した式 4.33 によって N(t)が決定される。
T (t ) = I
dN (t )
dt
N ( t ) = N ( t − ∆t ) +
(4.32)
T (t − ∆t )
⋅ ∆t
I
(4.33)
GD 2 2π
I=
⋅
4 g 60
(4.34)
ここに、
I:回転部分(ランナ、水車軸、発電機の回転子)の慣性モーメント
GD2:回転部分(ランナ、水車軸、発電機の回転子)のはずみ車効果
以上の手順を計算時間刻み∆t ごとに繰り返すことにより、ポンプ水車の水頭・流量関
係は絶えず局所線形化され、式 4.29 の形でネットワークモデルに組み入れられる。
なお、ここまでに述べたペルトン水車とポンプ水車の境界条件を定める式を再記すれ
ば、
φ (t )
1
φ (t )
⋅ [H 1 (t ) − H 2 (t )] −
⋅ Q (t ) = −
2φ (t − ∆t )[H 1 (t − ∆t ) − H 2 (t − ∆t )]
Q (t − ∆t )
2φ (t − ∆t )
(4.21)
Ψ (t − ∆t ) ⋅ [H 1 (t ) − H 2 (t )] − Q (t ) = Ζ(t − ∆t )
(4.29)
であり、基本的に類似した形となっている。ペルトン水車の場合、所与のガイドベーン
開度 φ (t ) のみによって各時刻の水頭・流量関係が決定されて行くのに対し、ポンプ水車
では、ガイドベーン開度に加えて模型の特性図として与えられる模型の回転速度、流量
およびトルクの相互関係と実機の回転速度が各時刻の水頭・流量関係を支配する。
(2) S字曲線部の取扱い
図 4.4、4.5 に示すポンプ水車の模型特性図において、水車方向の高回転速度部分に注
目すると、ある回転速度(n)に対して流量(q)ないしトルク(τ)が2∼3個の値を
示し、ガイドベーン開度(φ)ごとに結んだ線が互いに交差しねじれている部分が見ら
れる。これは、発電運転領域から逆転ポンプ領域にかけてポンプ水車が示す極めて不安
定な挙動を実測し特性図に表した結果であり、S字曲線部と称する。類似のことは揚水
−109−
運転領域にも見られる。負荷遮断などの過渡現象のシミュレーションをする場合、時刻
の経過と共にこのS字曲線部に入ることが多く、この部分を単純に計算しようとすると、
図 4.8 に示すように特性図上で不連続な追跡結果をもたらし、計算不能に陥ることがある。
図 4.8 特性図上で誤った追跡をした例
この例では、不連続な結果になる前の図中にマークした場所で、不具合の元となる誤
った追跡が発生している。これは、模型実験による測定の結果、一組の値として与えら
れる n、q およびτが、図 4.3 に示すような3次元の曲面上の点としてあるにもかかわら
ず、図 4.4、4.5 のようにそれぞれ n-q および n-τの平面上に投影して扱う際に、S字曲
線区間にあっては 1 つの n に対して q ないしτが複数の値を持つことから、実在しない
組み合わせ、すなわち 3 次曲面上にない虚点を捉えることがあるためと考えられる。
具体的には、図 4.9 に詳細を示すように、平面AからBに向かって(1)から(5)に示す過
程を経て計算してきた後、流量は(6)(7)と平面Cに向かっているのに対し、トルクは(6)
より(6’)の方がひとつ前の(5)に近いという理由で選択されたため平面Bに止まってい
る。即ち、実在しない流量とトルクの組み合わせが選ばれている。このことは、流量と
トルクをそれぞれの投影面上で別々に求めようとしていることが原因で生じている。
そこで、n、q、τおよびφからなる特性曲線上の各測定点で構成される微小平面を想
定し、ひとつひとつに番号をつけ、常にひとつの面上あるいは連続する面間で移動しな
がら計算を進めることにより、常に実在する組み合わせになるようにした。
すなわち、図 4.9 に例示するように、流量特性図(n-q 平面)とトルク特性(n-τ平面)
−110−
それぞれに対応する共通の面番号を考え、その面を構成する4つの点番号を指定し、加
えて、各構成点についてφをパラメーターとする n-q 平面および n-τ平面上の座標を入
力する。
流量特性
-0.002
182
184
186
188
190
開度50%
-0.004
(C)
開度40%
(7)
(6)
(5)
-0.005
P2(187.1, -0.0044)
(4)
Q2(183.2, -0.0049)
P1(188.0, -0.0050)
(3)
(B)
(2)
(1)
(A)
Q1(184.5, -0.0055)
-0.006
模型回転速度(r.p.m)
トルク特性
-0.7
182
184
186
188
190
-0.8
模型トルク(t-m)
模型流量(m3/s)
-0.003
開度40%
(C)
正しい追跡
-0.9
(5)
(7)
(6)
(6')
(7')
Q2(183.2, -0.928)
誤った追跡
開度50%
P2(187.1, -0.908)
(4)
(3)
(B)
(2)
P1(188.0, -0.969)
(1)
-1.0
(A)
Q1(184.5, -0.999)
-1.1
模型回転速度(r.p.m)
図 4.9 特性図S字曲線部の入力方法および逐次計算結果の例
−111−
S字曲線が交差する部分についても面を構成する4点を適切に選定して表現すること
により、特性図上で追跡をすることができる。
この入力データを用い、これらの面番号に沿って順次計算を進めることにより、S字
曲線部にあっても計算不能に陥ることなく、正しく計算することができる。例えば図 4.9
に示す(6’) (7’)ではなく(6)(7)が正しく追跡できるようになる。全体としても、図
4.8 の追跡の誤りが訂正され図 4.10 に示すような不連続個所のない追跡が可能となる。
図 4.10 特性図上で正しい追跡ができた例
(3)通常運転状態の表現方法
ここまでに述べて来たことは、運転中の発電電動機が何らかの理由で電力系統から切
り離された場合に関する事象であるが、第2章で述べたAFC運転やズレ遮断時の遮断
前など、通常運転中のポンプ水車の挙動を模擬する必要がある。通常運転の場合、電力
系統と連携されていることから、水路系の条件から定まる圧力水頭や流量の変化に拘わ
らず、あるいは操作に基づくガイドベーン開度に拘わらず、水車発電機の回転速度が常
に一定となっている。
このことをシミュレーション計算の中で表現するには、計算に用いる GD2 に十分大き
な値を代入すればよい。これにより式 4.34 において慣性モーメント I が大きくなり、式
4.23 は
N ( t ) = N ( t − ∆t ) +
T (t − ∆t )
⋅ ∆t ≅ N (t − ∆t )
I
(4.35)
となるので、圧力や流量の変動に無関係に回転速度が常に一定となり、通常運転状態を
−112−
表現できる。
AFC運転の場合は、常に GD2 に十分大きな値を投入し、ガイドベーン開度を時間と
共に変化させることにより模擬する。ズレ遮断の場合は、ある時間経過するまで GD2 に
十分大きな値を投入しガイドベーン開度は初期状態のままとし、所要の時間経過後に
GD2 を通常の値に置き換えることにより、回転速度が変化するようになり、それ以降の
過渡現象を計算することができる。
4.4
解析プログラムのコーディング
1.プログラム設計
一般にプログラム設計は、処理の流れ、サブルーチンの定義、プログラムの定義、デ
ータ構造、入力データ、出力の順で行われる。
プログラム設計で重要なことは、プログラム全体を多数の機能に分割すること、つま
り分割した機能をそれぞれサブルーチンに割り当てることである。この時の実施方針と
しては、1つのサブルーチンに極力複数の機能を持たせないこと、および、サブルーチ
ンは極力独立とすることである。今回のプログラムもこのような方針に基づき、個々の
機能毎に独立性の高いサブルーチンとすることにより、改良・修正を容易とすることが
できるようなものとした。
2.プログラムフロー
図 4.11 にプログラム全体のフローを示す。このように、
「入力データの読み込み」
、
「定
数の設定」
、
「初期値の設定」
、
「非定常計算」
、
「結果の出力」という流れになっている。
1)入力データの読み込み
水撃圧計算に必要な水路系のデータ(管路数、節点数、調整池数、水車数、調圧水槽
初期水頭、初期流量、各管路の損失水頭係数など)を読み込む。
2)定数の設定
読み込まれた入力データにより、計算に必要な定数や未知数マトリクスのサイズを設
定する。
3)初期値の設定
入力データにより初期値を設定する。
4)非定常の計算
上記までで設定されたデータにより、水撃圧の基本式を離散化した式の連立方程式を
マトリクス演算により計算する。所与の時間刻みΔtごとに計算を進める。
5)結果の出力
水頭H、流量Q、水車の回転数Nなど、各時刻毎の値をファイルに時系列データとし
て出力する。
−113−
Start
入力データの
読み込み
定数の設定
初期値の設定
非定常計算
H, Q, N など
結果の出力
計算終了?
End
図 4.11
プログラム全体のフロー
3.プログラムの構造
サブルーチンはプログラムの処理の分割と部品の設計からなり、これを組み立てるの
がプログラム構造の設計である。ここで重要なことは、機能ごとにできるだけ独立した
モジュール構造にすることである。図 4.12 にプログラム構造図を示す。ただし、ここで
は主要なサブルーチンのみ記載し、小さなサブルーチンは省略している。
各機能はモジュール化されており、プログラムの改良や修正が容易にでき、プログラ
ムの検査やデバッグが簡単にできるようにしている。
解析プログラムは FORTRAN90 でコーディングされた。プログラムのサイズは約
3,500 ステップ、プログラム容量はソースプログラムが 111KB、実行ファイルが 593KB
となっている。
−114−
MAIN
メインプログラム
INPUT
入力データ読み込み(水路系諸元データ)
INPUT3
入力データ読み込み(水車特性データ)
MNCAL
計算
INITL
定数の設定
GETMAT
CALC
PRINT
マトリクスの定数を設定
SUB0
管路
SUB1
分岐
SUB2
調圧水槽
SUB3
貯水池
SUB4
水車
計算(メイン)
ORCALC
初期値設定
CALCAL
非定常計算
SUGTNK
サージング計算
SUBLST
各時刻での開度などの計算
CEFAB
1次式 q=An+B の係数 A,B の計算
CEFNT2
実機の回転数の計算
結果出力
図 4.12
プログラム構造図
−115−
第5章
測定結果に基づく理論の検証
5.1 測定方法
5.1.1 奥清津第二発電所の概要
(1) 発電所の基本諸元
奥清津第二発電所は、電源開発株式会社が 1996 年に新潟県湯沢町に建設した純揚水式
発電所である。本発電所は、信濃川水系清津川および同支川カッサ川において 1978 年か
ら運転中の既設奥清津発電所(最大出力 1,000MW)の上下調整池をそのまま利用し、増
設した水路と発電所によって最大 600MW の発電を行う(FUJINO & MIZUHASHI,
1997;金澤・井澤、1993)
。発電所の基本諸元は以下に示すとおりである。表 1.1 に示し
たように、これらの最大使用水量、基準有効落差、ポンプ水車単機容量等の数値は、1980
年代以降に主流となった大規模純揚水発電所として標準的なものである。
上部調整池(カッサ調整池、既設)
ダム高 : 90m
常時満水位:1306m
最低水位:1,278m
利用水深 : 28m
有効
最低水位: 804m
利用水深 : 21m
有効
貯水容量 : 11.4×106m3
下部調整池(二居調整池、既設)
ダム高 : 87m
常時満水位:825m
6
貯水容量 : 11.4×10 m
3
設備容量
最大出力: 600MW(2@300MW) 発電継続時間: 7.6 時間(既設 1,000MW を含む)
使用水量・落差
最大使用水量 : 154m3/s (2@77m3/s)
基準有効落差 : 470m
揚水量・揚程
最大揚水量 : 125m3/s
最高揚程 : 514m
ポンプ水車(立軸フランシス水車)
1 号機
最大出力:308MW
最大入力 : 320MW
回転数 : 429rpm(定速機)
2 号機
最大出力:310MW
最大入力 : 340MW
回転数 : 407-450rpm(可変速機)
発電電動機
1 号機
発電出力 :355MVA
揚水入力 : 320MVA
一次電圧 : 16,500V
2 号機
発電出力 :345MVA
揚水入力 : 340MVA
一次電圧 : 16,500V
奥清津第二発電所の一般平面図を図 5.1 に、水路断面図を図 5.2 に示す。
(2) 水路構造物の概要
i.管路の接続関係
奥清津第二発電所の水路系は全て圧力水路で、2台のポンプ水車に直接接続された管
−116−
路(条管部)と、それらを合流させた管路(本管部)から構成されている(図 5.1)
。ポ
ンプ水車の上流側、下流側とも本管部を長くとり、分岐管はポンプ水車の近傍に設けら
れている。このような管路の配置は、大規模揚水発電所として標準的なものである。
水路の延長はポンプ水車の上流側が約 2,050m、下流側が約 950m である。導水路の本
管部と放水路の本管部に各1基の調圧水槽が設置されている(図 5.2)
。
ii.取水口
延長 91.50m の横取式取水口である。調整池寄りの 31.50m は断面漸変部であり、それ
より下流は導水路と同一断面の圧力水路となっている。導水路との境界から 10.00m 上流
に、取水口ゲートを昇降させるためのゲート立坑が設置されている。
iii.導水路
内径 5.7m、延長 667.27m の円形断面圧力水路である。掘削の結果、導水路通過地の地
下水位が当初の想定より低いことが判明し、大規模化に伴いコンクリート覆工に作用す
る応力が大きくなってクラックが入りやすくなっていることも考慮して、調圧水槽中心
から上流に向かって 555.00m の区間で漏水を防ぐための内張管
(内径 5.7m、
板厚 11mm)
を設置した。
iv.導水路調圧水槽
図 5.3 に導水路調圧水槽の形状を示す。導水路調圧水槽は、水圧鉄管の上端に隣接して
設置される、高さ 73.3m(水槽天端から圧力水路天端まで)
、内径 13.0mの制水口型調圧
水槽である。底部には内径 3.5mの円形の制水口が設けられている。
v.水圧鉄管
延長 1,292.22m(分岐上流 1,153.14m、分岐下流 139.08m)の岩盤埋設式水圧鉄管で
ある。水圧鉄管は、図 5.1 に示すように、ほとんどの区間が 1 条であって終端部で 2 条
に分岐しており、縦断的には図 5.2 に示すように傾斜角 51°の斜部と水平部から構成さ
れ、斜部は中間の水平部で二分されている。
水圧鉄管の内径は、分岐前が上流から 5.7m、5.0m、4.4m、分岐後が 3.2m となってい
る。ただし入口弁直上流の 12.0m の区間において、内径を 2.25m まで急減させている。
vi.放水路調圧水槽
図 5.4 に放水路調圧水槽の形状を示す。放水路調圧水槽は、放水路内張管の分岐部に隣
接して設置される、高さ 107.3m(水槽天端から圧力水路天端まで)の制水口型調圧水
槽である。内径は 12.0mであるが、水位変動が生じない部分は 6.0mに狭められ、底部
には内径 2.8mの円形の制水口が設けられている。
−117−
−118−
図 5.1
奥清津第二発電所 一般平面図
−119−
図 5.2
奥清津第二発電所 水路断面図
vii.放水路
延長 882.42m(2 号系。分岐上流 105.25m、分岐下流 777.17m)の円形断面圧力水路
である。放水路はポンプ水車直下流では 2 条であるが、放水路調圧水槽の上流で合流す
る構造となっている。図 5.1 に示すように分岐上流部が非対称な形状に作られているため、
1 号系の延長は 874.56m でやや短い。放水路の内径は、合流前が 4.1m、合流後が 5.7m
となっている。ポンプ水車出口(吸出管との接合点)から放水路調圧水槽基部を経て全
長約 220m の区間には内張管が設置されており、それより下流の区間はコンクリート巻
立水路となっている。
viii.放水口
延長 71.00m の横取式放水口である。調整池寄りの 23.20m は断面漸変部であり、それ
より上流は放水路と同一断面の圧力水路となっている。放水路との境界から 10.00m 下流
に、放水口ゲートを昇降させるためのゲート立坑が設置されている。
(3) 有水試験
諸設備の完成時の各種試験として、初期の無水試験に続き、水路を充水し水圧を加え
た状態でのプラント全体の動作試験および過渡現象時の挙動の確認試験が 1996 年 4∼5
月に行われた。その試験及び計測には次表に示すようなものがある。
試 験 条 件
水 路 充 水
水 路 抜 水
1 号 機 負 荷 遮 断
1 号 機 入 力 遮 断
2 号 機 負 荷 遮 断
2 号 機 A F C
2 号 機 入 力 遮 断
1,2 号機同時負荷遮断
1,2 号機ずれ負荷遮断
1,2 号機同時入力遮断
1,2 号機同時負荷急増
静 的 計 測
○
○
−
−
−
−
−
−
−
−
−
動 的 計 測
−
−
○
○
○
○
○
○
○
○
○
ここに、負荷遮断、入力遮断はそれぞれ 2.3 で述べた発電時および揚水時における事故
時の過渡現象であり、AFC は 2.2 で述べた自動周波数制御運転に伴う現象であり、負荷
急増は最大出力の 1/2 から最大出力までの急増に伴う現象を示す。計測は、ポンプ水車発
電電動機について電圧、電流、水車入り口水圧、出口水圧、ガイドベーン開度、回転速
度等が測定され、水路については各構造物において水位、水圧、応力(歪)が計測され、
それらの結果はケーブルあるいはマイクロ波によって発電所にリアルタイムで伝送され、
集中的に管理し記録された。
−120−
図 5.3 導水路調圧水槽
図 5.4 放水路調圧水槽
−121−
5.1.2 測定データの種類と計器配置
(1) 測定データの種類
測定データの種類と測定位置を表 5.1 に示す。
表 5.1 測定データの種類と測定位置
測定データの種類
水路の内圧
測定位置
取水口ゲート立坑、導水路内張管、導水路調圧水槽(制水口
下側、同上側、水槽本体)
、水車入口弁直上流、水車出口(吸
出管)
、放水路内張管、放水路調圧水槽(制水口下側、同上側、
水槽本体)
、放水口ゲート立坑
水車の回転速度
1 号発電電動機軸、2 号発電電動機軸
ガイドベーンのサーボモータ 1 号機操作ロッド、2 号機操作ロッド
ーストローク(開度)
発電電動機の電流
1 号発電電動機、2 号発電電動機
発電電動機の電圧
1 号発電電動機、2 号発電電動機
発電電動機の出(入)力
1 号発電電動機、2 号発電電動機
発電電動機の全落差
上部(カッサ)ダム、下部(二居)ダム
揚水発電所の新設時には、機器の試験のために、通常ポンプ水車の入口弁直上流と吸
出管の下流端付近において内圧が測定される。(2)に述べるように、本研究ではこれらの
他に、導水路調圧水槽、放水路調圧水槽等の各所に圧力計を設置し、内圧を測定した。
水車の回転速度は機器の試験のために計測される。その初期値は水撃圧解析の初期条
件として必要であり、またその時刻歴は解析結果の妥当性を評価するための根拠となる。
ガイドベーンのサーボモーターストロークとは、ガイドベーンを開閉するための油圧
ロッドの変位量であり、機器の試験のために計測される。これは直接測定できない実機
ガイドベーン開度Φと比例関係にある量で、その時刻歴に基づいてガイドベーン開度Φの
時刻歴が計算される。
発電電動機の電流、電圧、出(入)力は、機器の試験のために計測される。前二者は
オシログラフに印字され遮断時刻の目安となるが、水撃圧解析の入力データとしては直
接的には使用されない。出(入)力の初期値は、水撃圧解析にとって、ポンプ水車の初
期流量を計算するために使用される初期電気出(入)力を求めるために必要な量である。
全落差は、水路の流れが停止している場合にポンプ水車に作用する静水頭で、上部ダ
ムと下部ダムの水位の差をとることによって求められる。全落差は、発電電動機の出(入)
力と合わせて初期流量と有効落差を推定するために必要な測定データである。
本研究の目的からは圧力の測定位置で流量をも測定することが望ましいが、揚水発電
所の水路のような大口径の管路の流量をその時間変化を含めて正確に測定する方法がい
まだ確立されていないことから、今回についても流量の測定は行っていない。なお、計
算に必要な初期流量については 5.2.2 で述べる方法で推定する。
−122−
(2) 計器の配置
負荷遮断時や入力遮断時のガイドベーンの開閉による水路内での水理過渡現象は、数
秒から数分の比較的速い現象となって観測される。従ってこれらの動的現象を全体的に
捉えるためには、水路内の種々の位置で同時測定を実施しなければならない。このよう
な水路系の全体的測定は日本の揚水発電所では先例のないもので、世界的にも米国 TVA
の Raccoon Mountain 揚水発電所における事例が報告されている(MARCH et al.,1988)
程度である。
奥清津第二発電所では、表 5.2 に示すように圧力計を配置し、水路系の内圧の変化を全
体的に把握した。水路系に設置した圧力計の位置の詳細を図 5.5、図 5.6 に示す。これら
の圧力計は、図示した位置の水中または水路内張管穿孔部に測定面が開放されるように
設置された。これに対し、ポンプ水車の入口管、吸出管に設置した圧力計は管に直付け
されるのではなく、管の所定の断面から引き出された圧力管の末端に接合された。圧力
管を引き出した断面の位置を図 5.7 に示す。吸出管の圧力の測定断面が放水路内張管との
境界に近い最下流にあるのは、旋回流の影響を避けるためランナからできるだけ離れた
位置を選んだことによる。
圧力計の容量は、それぞれの設置位置で発生すると予想される最大水圧を考慮し、0.5、
1、2、10MPa の 3 種を使い分けた。測定誤差は水位換算でそれぞれ最大±6、±12、±
34、±300cm である。
回転速度等の水車・発電機の諸量は、機械に付属する計器によって測定した。水車の
回転速度は、発電電動機の軸の上端部に設置された歯車の外周の山部分と谷部分を黒白
に色分けし、これを光センサで観測することによって測定した。ガイドベーンのサーボ
モーターストロークは、油圧ロッドにポテンショメータを設置することによって測定し
た。発電電動機の電流、電圧は、母線から分岐する専用の電気回路によって測定した。
表 5.2 圧力計の仕様と位置別個数
圧力計の設置位置
取水口ゲート室立坑
導水路内張管
制水口上側
導水路調圧水槽
制水口下側
ポンプ水車入口管
ポンプ水車吸出管
制水口上側
放水路調圧水槽
制水口下側
放水路内張管
放水口ゲート室立坑
0.5
1
−
−
−
−
−
1
−
−
1
−123−
圧力計の容量(MPa)
1
2
−
−
1
−
2
−
3
−
−
−
1
−
1
−
2
−
1
−
−
−
10
−
−
−
−
1
−
−
−
−
−
凡
例
■ 圧力計 ( 1 MPa )
(EL.1250.70)
図 5.5 導水路調圧水槽、導水路内張管の圧力計の設置位置
−124−
凡 例
□ 圧力計 ( 0.5 MPa )
■ 圧力計 ( 1 MPa )
◇ 圧力計 ( 2 MPa )
CH66 (EL.734.70)
CH65 (EL.734.70)
図 5.6 放水路調圧水槽、放水路内張管の圧力計の設置位置
−125−
水車入口内圧測定断面
吸出管内圧測定断面
図 5.7 ポンプ水車入口管・吸出管の圧力測定位置
圧力計の設置方法は次のとおりである。
ポンプ水車の入口管(後述する水車入口)および吸出管(後述する水車出口)には内
圧を測定するための「圧力測定座」と呼ばれる連通孔が予め設けられている。圧力測定
座は、断面内での圧力の不均一の影響を解消するため、測定断面内に中心角 90°を隔て
て各 4 箇所設けられている。そこから引き出される 4 本の圧力管は下流で合流しており、
圧力計はその合流点の直下流に設置された。
調圧水槽本体、取・放水口ゲート立坑に設置された圧力計は、ワイヤに固定して垂下
された。これらの圧力計は重錘を兼ねた保護ケースの内部に収納され、ケース側面の小
孔を介して、この面に垂直な圧力を測定する(図 5.8)
。
上記以外の圧力計は、発電所の建設工事の途中で所定の位置に設置された。それらの
圧力計の測定面は内張管内面と同一面に合わせてあり、内張管に穿孔された内径 20mm
の孔を介して、内張管の内面に垂直な圧力を測定する(図 5.9)
。
このように、圧力計は管壁付近の水圧を測定することになるので、後述するような管
壁に沿った旋回流など局所的な現象が支配的な場合には、これに伴う速度水頭の影響が
無視できなくなり、測定値が必ずしも管路断面内の平均的な圧力を表示しなくなる点に
注意が必要である。
−126−
図 5.8 ワイヤで垂下される圧力計
−127−
図 5.9 水路内張管に設置される圧力計
回転速度等の水車・発電機の諸量は、機械に付属する計器によって測定した(図 5.10)
。
水車の回転速度は、発電電動機の軸の上端部に設置された歯車の外周の山部分と谷部分
を黒白に色分けし、これを光センサで観測することによって測定した。ガイドベーンの
サーボモーターストロークは、油圧ロッドにポテンショメータを設置することによって
測定した。発電電動機の電圧は、母線から計器用変圧器と交直変換器を介して分岐され、
オシログラフに記録された。発電電動機の出(入)力は、前記の計器用変圧器から取り
出される電圧と母線から変流器を介して分岐する電流とを精密級電力計につなぎ、両者
の積として記録された。発電電動機の電流は、前記の計器用変圧器と精密級電力計の間
の回路にシャント抵抗を設置し、それによる電圧変化に変換してオシログラフにつない
で測定した。
ダム水位は、ポンプ水車の試験の有無に関係なく、既設ダムに設置してある水位計に
よって常時測定され、その数値は発電所に電送され記録されている。
5.1.3 データ処理
(1) 水車関係の測定データの処理
1 号水車関係の測定データの伝送システムを図 5.10 に示す。2 号水車関係も同様であ
る。表 5.1 に示した全ての測定値は、ストレインアンプを介してオシログラフに記録され
た。この際、電気的ノイズによる高周波成分をローパスフィルターで除去した。
−128−
図 5.10 計測システム概念図(水車まわり)
−129−
水力発電所水車の設計には、入口管、吸出管の内圧を、水車中心標高(ランナの高さ
の中央で、奥清津第二のような立軸フランシス水車の場合には入口管の中心線の標高に
一致する)から測った水頭で表現する技術的慣習がある。このため、オシログラフに記
録される内圧が式 5.1 によって補正された値となるように、予め調整が行われた。
Hosc = Hgau + (ELgau - ELrun)
ここに
(5.1)
Hosc : オシログラフに記録される圧力水頭(m)
Hgau : 圧力計によって測定される圧力水頭(m)
ELgau : 圧力計の測定面の設置標高(m)
ELrun : 水車中心標高(m)
ELrun の値は、1 号機、2 号機とも 739.00m である。従ってオシログラフに記録される
入口管、吸出管の圧力水頭は、
「もし標高 739.00m に圧力計の測定面が開放されていたと
したら測定されるであろう値」である。5.3 に示すオシログラフの測定結果に記載された
圧力水頭の初期値、極値等は全て上記の定義による値であり、圧力計の測定面の設置標
高や圧力測定座の標高における内圧ではないことに注意が必要である。
(2) 水路関係の測定データの処理
計測データの伝送システムを図 5.11 に示す。全ての計器(圧力計)の測定値は、スト
レインアンプを介して高速データロガーによる毎秒 40 回のサンプリングによって動的に、
かつデジタル値として測定された。動的測定は、負荷遮断または入力遮断の 60 秒前から
開始し過渡現象発生前の静的状態を把握した。測定されたデータはそのままでは電気的
ノイズを含んでいるので、30Hz 以上の高周波成分をローパスフィルターで除去した。
導水路調圧水槽
取水口ゲート立坑
カッサ調整池
上段計測室
PC
発電所 発電所
PC1 PC2
計測管理
システム
放水口ゲート立坑
二居調整池
凡 例
ケーブル
マイクロ波回線
下段計測室
PC
図 5.11 計測システム概念図(水路系)
−130−
放水路調圧水槽
測定されたデータは、作業坑トンネル内の計測室等に設置されたパソコンにいったん
収録された後、発電所本館内に設けられた計測管理システムのパソコンに伝送された。
データの伝送方法は、ケーブルまたはマイクロ波回線(有線)とした。
(3)測定データの精度
i.圧力計の精度
圧力計は、油圧、水圧等の液圧を検出する変換器である。圧力計の精度は非直線性 RO
で表される。非直線性と圧力計の容量(測定し得る最大圧力)
、生起し得る最大誤差の間
には式 5.2 に示す関係が成立する。
Emax = W ×RO
ここに
(5.2)
Emax : 生起し得る最大誤差(MPa)
W : 圧力計の容量(MPa)
RO : 圧力計の非直線性
本研究で使用した圧力計の RO および Emax 値は表 5.3 に示すとおりである。
圧力計の出力は DC アンプを介してオシログラフに伝達される。DC アンプとオシログ
ラフには、それぞれ±0.002 (±0.2%)の誤差がある。
表 5.3 圧力計の精度
容量 W(MPa)
0.5
1.0
2.0
10.0
非直線性 RO
0.0023 (0.23%)
0.0028 (0.28%)
0.0034 (0.34%)
0.005 (0.5%)
最大誤差 Emax(MPa)
±0.00115 (±6cm 水頭)
±0.00280 (±14cm 水頭)
±0.00680 (±34cm 水頭)
±0.05 (±250cm 水頭)
ii.発電電動機出(入)力測定関係機器の精度
変流器、計器用変圧器の誤差は、±0.01∼0.03(±1∼3%)である。誤差の率は変換対象
の電流または電圧値が大きいほど小さくなる傾向にあるので、全負荷遮断、入力遮断等
の初期状態(発電電動機が高出(入)力で運転されている状態)にあっては、誤差は±0.01
と考えてよい。精密級電力計の誤差は、±0.01 (±1%)である。以上 3 種類の機器の誤差
は法定規格値である。
シャント抵抗の誤差は±0.01 (±1%)であるが、これは精密級電力計に入る電流に抵抗
値を乗じて電圧変化(オシログラフでは「発電電動機電流」として記録される)を求め
る場合に発生する誤差であり、精密級電力計に入る電流値自体には影響しない。
−131−
iii.ガイドベーン(GV)サーボモーターストロークと回転速度の精度
GV サーボモーターストロークを測定するポテンショメーターの誤差は、周辺機器込み
で±0.02 (±2%)である。回転速度を測定する光センサの誤差は、周辺機器込みで±0.02
(±2%)である。これらの機器の出力はオシログラフに伝達される。オシログラフには±
0.002 (±0.2%)の誤差がある。
iv.全落差の精度
本研究では、ダムに設置された水位計から電気回路を介して電送されてきた水位デー
タを発電所で判読し、その差をとることによって全落差を計算した。このように遠方で
監視する場合のダム水位の値は、一般に 0.1m の位までは真値と一致しているが、0.01m
の位では一致しない場合がある。従って水位の測定値の誤差は±10cm であり、水位の差
である全落差の誤差は±20cm となる。全落差の最小値は上部ダム水位が最低水位
1,278m、下部ダム水位が常時満水位 825m の場合で、453m である。従って全落差の最
大誤差を率で表示すると、約±0.000442(±0.044%)となる。
v.誤差の累乗から推定される測定データの精度
測定値が複数の変換器を介して伝達される場合、最終的に出力される測定データの誤
差は途中の機器の誤差の累乗になる。精密級電力計の出力は、電流と電圧の積であるか
ら、両者に含まれている誤差の積に精密級電力計自体の誤差が乗ぜられることとなる。
表 5.4 誤差の累乗に基づく測定データの誤差の推定
測定データの種類
発電電動機出 電流
(入)力
電圧
GV サーボモーターストローク
回転速度
水車入口水圧
水車出口水圧
水路水圧
全落差
圧力計容量
10.0MPa
圧力計容量
2.0MPa
圧力計容量
0.5MPa
圧力計容量
1.0MPa
圧力計容量
2.0MPa
上部ダム水位
下部ダム水位
変換途中の誤差
累乗誤差
精密級電力計 ± [(1.01 × 1.01) ×
変流器 1±0.01
1±0.01
1.01] = 1±0.03
計器用変圧器 1±0.01
1±0.02(周辺機器込み) オシログラフ ±(1.02×1.002)
= 1±0.022
1±0.002
1±0.02(周辺機器込み) 同上
±(1.02×1.002)
= 1±0.022
圧力計本体
DC アンプ
同上
± (1.005 × 1.002 ×
1±0.005
1±0.002
1.002)= 1±0.009
圧力計本体
同上
同上
±(1.0034×1.002×
1±0.0034
1.002)= 1±0.007
圧力計本体
DC アンプ
パソコン
±(1.0023×1.002)
1±0.0023
= 1±0.004
1±0.002 1±0
圧力計本体
同上
同上
±(1.0028×1.002)
= 1±0.005
1±0.0028
圧力計本体
同上
同上
±(1.0034×1.002)
= 1±0.005
1±0.0034
±10cm(周辺機器込み)
1±(10+10)/453/100
= 1±0.00044
±10cm(周辺機器込み)
−132−
従って表 5.1.2-1 に示した各種測定データの誤差は、表 5.4 に示すようになる。これら
の測定データには、数値データとして機器に直接表示されるものと、オシログラフから
排出される紙の上で判読されるものがある。前者の場合は、測定値に表 5.4 右端列に示し
た誤差の率を乗ずることにより、誤差の大きさが計算される。後者の場合は、表 5.4 から
計算される誤差に紙面からの判読に伴う誤差が加算されることとなる。
オシログラフに出力されたデータを判読する場合は、時刻歴を示す曲線の初期値と各
時刻における値との垂直距離を定規で測定し、0.01mm の位を四捨五入して 0.1mm の位
まで判読した。従ってこの判読距離には±0.05mm の誤差を伴っている。オシログラフの
紙面上で垂直距離 1mm に対応する物理量の大きさは予め調整されているので、その大き
さに±0.05 を乗ずることにより、紙面からの判読に伴う誤差が求められる。
以上の考察に基づき、代表的な試験例である 2 台同時全負荷遮断試験(図 5.14)にお
ける 2 号機の測定結果について各測定データの精度をまとめると、表 5.5 のようになる。
表 5.5 代表的試験ケースにおける測定データの誤差
(2 台同時全負荷遮断試験における 2 号機および調圧水槽の測定結果)
±0.03
最大(小) 誤差
値
300.2
±9.0
紙面からの判読に
伴う誤差(定規誤差:
合計誤差
±0.05mm)
1mm の 誤差
対応値
--------±9.0
±0.022
±0.022
±0.009
±0.007
±0.004
239
572
711.1
22.4
23.7
±8.1
±12.5
±6.3
±0.2
±0.1
2.667
4.0
4.0
4.0
-----
±0.1
±0.2
±0.2
±0.2
-----
±8.2
±12.7
±6.5
±0.4
±0.1
±0.005
64.3
±0.3
-----
-----
±0.3
±0.005
83.5
±0.4
-----
-----
±0.4
±0.00044
489.2
±0.2
-----
-----
±0.2
変換機出力に伴う誤差
測定データの種類
単位
誤差率
発電電動機出(入) MW
力
mm
GV サーボモーターストローク
rpm
回転速度
m
水車入口水圧
m
水車出口水圧
m
水路水圧(圧力計
容量 0.5MPa)
m
水路水圧(圧力計
容量 1.0MPa)
m
水路水圧(圧力計
容量 2.0MPa)
m
全落差
注:水圧は m 水頭表示である。水路水圧の測定値は、以下の位置での値を使用した。
圧力計容量 0.5MPa: 放水路調圧水槽”CH42”圧力計(図 5.19)
圧力計容量 1.0MPa: 導水路調圧水槽”CH26”圧力計(図 5.16)
圧力計容量 2.0MPa: 放水路調圧水槽”CH65”圧力計(図 5.20)
−133−
表 5.5 から、測定データの数値において信頼がおける桁は、次のとおりであると考えら
れる。
発電電動機出(入)力: 10MW
GV サーボモーターストローク: 10mm
回転速度: 10rpm
水車入口水圧:10m 水頭
水車出口水圧: 1m 水頭
水路水圧(調圧水槽基部等、絶対値が数十 m 水頭の場合):1m 水頭
vi. 測定データの誤差が計算結果に及ぼす影響
表 5.4 に示す測定データのうち以下のものは、水撃圧解析の入力データ作成に使用され
る。
発電電動機出(入)力(初期値)
GV サーボモーターストローク(初期値、途中の折れ点値)
回転速度(初期値)
全落差(初期値)
その使用方法は、5.2.2 に述べるように、計算開始時点の初期状態(水路系の各節点の
圧力水頭 H、流量 Q、ポンプ水車の回転速度 N)および計算途中の模型ガイドベーン開
度φの時刻歴(折れ点での値)を決定するための入力値である。
表 5.5 に示した測定データの誤差は、計算結果として得られる H、Q、N の時刻歴に影
響を及ぼすと考えられるが、その影響の程度を定量的に推定することは、途中の計算過程
の複雑さから非常に困難である。電源開発㈱が国内の複数の重電メーカーから聴取した情
報によれば、メーカー各社においては、実物水路系の建設前の設計段階において、H の
計算誤差(計算結果と予想される実測値の差)を H の計算値、初期有効落差の入力値等
の定数倍として推定することが行われている。しかしその定数は入力データの誤差、数値
計算の誤差等、多くの誤差の全体としての影響を経験的に表すもので、個々の誤差の寄与
程度を分離して求めることは現状では不可能であると考えられている。
−134−
5.2 水路系のモデル化と入力データの作成
5.2.1 水路系のモデル化
第 3 章に述べたように、本研究の水撃圧解析方法では、長大な管路であっても断面が
一様であれば、ひとつの単位管として扱うことができる。摩擦、形状等による損失水頭
係数は単位管ごとに集計して 1 個の定数とし、単位管の一端に付加する。この原則に基
づき、奥清津第二発電所の水路系を図 5.12 に示す管路網でモデル化した。
1300.69
12
1
①
17
⑩
⑮
②
2
⑥
3
③
⑤
6
13
7
8
⑦
⑪
④
4
⑯
⑧
5
9
⑫
⑭
14 ⑬ 15
18
811.49
⑨
10
11
16
図 5.12 奥清津第二発電所水路系のモデル化
図 5.12 のモデルを構成する単位管の諸元を表 5.6 に示す。モデル化対象区間の境界は、
原則として水路の断面変化位置とした。ただし水圧鉄管の断面変化部である漸縮曲管は、
上流側に隣接する直管に含め、両者の合計延長を有する一様断面直管としてモデル化し
た。また取・放水口の断面漸変部は、トンネル部とともに導水路、放水路に含め、三者
の合計延長を有する一様断面直管としてモデル化した。なお取・放水口の断面漸変部の
うち末端付近のそれぞれ 2.50m、2.00m は無圧水路状態で調整池に開放されているので、
モデル化に際して単位管の延長から除外した。
図 5.12 中の単位管①と⑮、⑧と⑯は、構造的には単一の管路であるが、途中に設置し
た圧力計"CH22"、"CH66"の位置で分割し、それぞれ 2 本の管路としている。これは、両
圧力計による測定データを計算結果と対比するため、モデル上の対応する位置に節点"17"、
"18"を設けたためである。ここで注意すべきは、これらの節点番号、管路番号が隣接する
節点、管路のそれと連続していないことである。これはモデルの任意の位置に後から節
点、管路を追加する場合、単純にそれまでの総数に 1 を加えた番号を付すればよいこと
を意味し、第 3 章で説明したネットワークモデルの利点である。
調圧水槽基部の単位管⑩、⑪は、水槽本体と導水路・放水路を結合している制水口区
間をモデル化したものである。図 5.3、図 5.4 に示すようにこの区間の延長は非常に短く、
水槽本体が直接水路に接合されているような状態であるが、計算上はひとつの単位管と
して扱う必要がある。その理由は、水槽と水路の接合位置の節点 2 および 10 に、管の接
合に伴う水頭の相同(式 3.93)
、調圧水槽の累積流入量変化に伴う水頭の変動(式 3.94)
という異なる境界条件を同時に与えることができないことである。導水路、放水路調圧
−135−
水槽の制水口の実長はそれぞれ 1.23m、2.23m であるが、モデル上の単位管には 12.0m
の延長を与えている。その理由は、式 4.3 に示すように、単位管の延長 L が計算時間間
隔における圧力波の進行距離 c∆t より小さいと、ステップ数 Y が定義できず計算が不可
能になるためである。本研究では圧力波伝播速度 c と計算時間間隔 ∆t をそれぞれ
1,000m/s、0.01 秒としているので、単位管⑩、⑪の延長は c∆t = 10.0m とすればよいが、
他のケースへの対応も考慮して 12.0m とした。調圧水槽本体は、外見上は水路系を構成
する管路のようであるが、計算モデル上は管路としては扱われない。本研究では、単位
管⑩、⑪の上端において式 3.94 に示した調圧水槽の境界条件が成立するとして扱う。
各単位管の損失水頭係数は、それぞれのモデル化対象区間の管路の形状、材質(鋼材
またはコンクリート)を考慮し、各種水理公式および水路の材質別の粗度係数の標準範
囲(土木学会、1985)を用いて計算した。ただし単位管⑩、⑪の損失水頭係数は、別途
考慮する(表 5.8)制水口抵抗εに含まれると考えられるので、ゼロとして入力している。
損失水頭係数の計算に際しては、鋼材(水圧鉄管、内張管)とコンクリートの粗度係数
は、上記の標準範囲と過去の設計事例を勘案して、それぞれ 0.012、0.0125 とした。た
だしこのようにして計算した損失水頭係数値をそのまま入力値とするのではなく、5.2.2
で述べるように、計算値に補正係数ζを乗じた値を使用している。
表 5.6 モデルを構成する単位管の諸元
単位管
番号
①
⑮
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑯
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
モデル化対象区間
取水口-内張管圧力計
内張管圧力計-調圧水槽中心
調圧水槽中心-交点 1 曲管終点
交点1曲管終点-交点4曲管終点
交点4曲管終点-分岐中心
分岐中心-2号条管漸縮始点
2号条管漸縮始点-2号水車入口
2号水車出口-分岐中心
分岐中心-内張管圧力計
内張管圧力計-調圧水槽中心
調圧水槽中心-放水口
導水路調圧水槽
放水路調圧水槽
分岐中心-1号条管漸縮始点
1号条管漸縮始点-1号水車入口
1号水車出口-分岐中心
延長
L(m)
670.770
100.500
47.802
673.022
447.320
127.080
12.000
105.250
22.500
44.420
779.250
12.000
12.000
127.080
12.000
97.390
代表内径
D(m)
5.700
5.700
5.700
5.000
4.400
3.200
2.250
4.100
5.700
5.700
5.700
3.500
2.800
3.200
2.250
4.100
断面積 圧力波速度
c(m/s)
a(m2)
25.518
1,000
25.518
1,000
25.518
1,000
19.635
1,000
15.205
1,000
8.042
1,000
3.976
1,000
13.203
1,000
25.518
1,000
25.518
1,000
25.518
1,000
9.621
1,000
6.157
1,000
8.042
1,000
3.976
1,000
13.203
1,000
図 5.12 のモデルを構成する節点の諸元を表 5.7 に示す。モデル化対象位置は、表 5.6
に示す単位管の境界とした。5.2.2 で説明するように、水撃圧解析の入力データとして各
節点における初期圧力水頭の計算が行われる。この際、速度水頭の計算は厳密に各節点
−136−
における管路の断面積を用いた。すなわち水圧鉄管内の各節点における速度水頭は、対
応する漸縮曲管の下流端(最小断面)の断面積を用いて計算した。
表 5.7 モデルを構成する節点の諸元
接点
番号
1
17
2
3
4
5
6
7
8
9
18
10
11
12
13
14
15
16
モデル化対象位置
取水口
導水路内張管圧力計
導水路調圧水槽中心
交点1曲管終点
交点4曲管終点
水圧鉄管分岐中心
2号条管漸縮始点
2号水車入口
2号水車出口
放水路分岐中心
放水路内張管圧力計
放水路調圧水槽中心
放水口
導水路調圧水槽
放水路調圧水槽
1号条管漸縮始点
1号水車入口
1号水車出口
水路中心線
標高 EL(m)
内径
D(m)
断面積
a(m2)
1,262.850
1,249.988
1,247.850
1,240.436
932.586
739.600
739.000
739.000
731.050
731.850
731.850
731.850
795.850
−
−
739.000
739.000
731.050
−
5.700
5.700
5.000
4.400
4.400
3.200
2.250
4.100
5.700
5.700
5.700
−
−
−
3.200
2.250
4.100
−
25.518
25.518
19.635
15.205
15.205
8.042
3.976
13.203
25.518
25.518
25.518
−
−
−
8.042
3.976
13.203
境界条件
貯水池または調整池
単位管の接合点
単位管の接合点
単位管の接合点
単位管の接合点
単位管の接合点
単位管の接合点
水車入口
水車出口
単位管の接合点
単位管の接合点
単位管の接合点
貯水池または調整池
調圧水槽
調圧水槽
単位管の接合点
水車入口
水車出口
5.2.2 入力データの作成
(1) 各節点の初期流量の推定
第 3 章に述べたように、本研究の水撃圧解析方法では入力データとして各節点(単位
管の両端)における初期流量、初期圧力水頭が必要である。これらの値を求めるために
は、ポンプ水車の初期流量が必要となる。ポンプ水車の初期流量は実測できないので、
以下に述べる方法によって推定した。分岐点より水車寄りの水圧鉄管、放水路の条管区
間については、それぞれに接続されたポンプ水車の初期流量の推定値を各節点での初期
流量とした。分岐点より貯水池寄りの区間については両者を加算した値を初期流量とし
た。
ポンプ水車の初期流量 Q0 の推定は次の手順による。発電電動機の初期電気出(入)力、
初期全落差(=上下ダム水位差)、ポンプ・水車(発電・電動機)効率が既知であること
から、式 5.3∼式 5.6 を用いて試行代入計算により Q0 を推定する。この際、推定された
Q0 から損失水頭の積み上げによってポンプ水車の入口・出口における初期圧力水頭が計
算できるが、それらの計算値はポンプ水車の圧力測定座で測定された実測値と一致しな
−137−
ければならない。このため式 5.7∼式 5.10 を用いて、ポンプ水車の入口・出口での初期
圧力水頭を計算し、実測値との比較から Q0 の推定値の妥当性を検討する。
P0 = Q0×H0×g×ηt×ηg (発電時)
(5.3)
P0= Q0×H0×g /(ηp×ηm) (揚水時)
(5.4)
H0=Hg−ζ ×F×Q
(5.5)
2
0
H0=Hg + ζ ×F×Q02
(発電時)
(揚水時)
Q0 2 1
(発電時)
) ×
AP
2g
(5.7)
H P 0 = H UR + ζ × ∑ f U × Q02 − (
Q0 2 1
(揚水時)
) ×
AP
2g
(5.8)
H D 0 = H LR + ζ × ∑ f L × Q02 − (
Q0 2 1
(発電時)
) ×
AD
2g
(5.9)
H D 0 = H LR − ζ × ∑ f L × Q02 − (
Q0 2 1
(揚水時)
) ×
AD
2g
(5.10)
H P 0 = H UR − ζ × ∑ fU × Q02 − (
ここに
(5.6)
Q0 : ポンプ水車の初期流量(m3/s)
P0 : 初期電気出(入)力(kW)
Hg : 初期全落差(m)= HUR - HLR
H0 : 初期有効落差(全揚程)(m)
HUR : 上部調整池初期水位 (m)
HLR : 下部調整池初期水位 (m)
HP0 : 水車入口での初期圧力水頭 (m)
HD0 : 水車出口での初期圧力水頭 (m)
AP : 水車入口の流積 (m2)
AD : 水車出口の流積 (m2)
ηt : 水車効率
ηg : 発電機効率
ηp : ポンプ効率
ηm : 電動機効率
F : 水路系全体の損失水頭係数 = Σ fU + Σ fD
fU : 水車上流側の各単位管の損失水頭係数
fD : 水車下流側の各単位管の損失水頭係数
g : 単位質量当たりの重力 (m/s2)
ζ : 損失水頭補正率(試行代入で決定)
−138−
式 5.3∼式 5.10 は本来、損失水頭係数を補正しなくても成立しなければならないもの
であるが、実際には補正を行わないと水車入口・出口での初期圧力水頭の計算値が実測
値と合致しない。この理由は各種水理公式と前記の粗度係数の設計値に基づく損失水頭
係数の計算値が実態よりかなり大きいものとなっていることにあると考えられるが、そ
れぞれの寄与度を明確にすることは非常に困難であるので、損失水頭の積み上げ結果に
単一の定数ζを乗ずることとした。実際には、水車入口側における実測初期圧力水頭に着
目して試行代入した結果、0.7 の値がもっとも妥当として決定した。
(2) ガイドベーン開度の時刻歴の作成
第 3 章、4 章で述べたように、本研究の水撃圧解析方法では、ガイドベーン開度φ の時
刻歴が入力データとして必要である。ここでφ は模型水車のガイドベーン開度であり、
実物水車のガイドベーン開度Φと同一ではない。また、実物水車において計測されるのは
ガイドベーンの操作ロッドの変位量(または「サーボモータストローク」)S であり、Φ
そのものではない。このため、以下の手順によってφ の時刻歴を換算する。
(1)に述べた手順によって実物ポンプ水車の初期流量 Q0 が推定され、また実物ポンプ
水車の初期回転数 N0 は実測されている。これらの値をポンプ水車の実物・模型相似律(式
4.22、式 4.23)に代入することにより、模型ポンプ水車の初期流量 q0、初期回転数 n0 が
計算される。q0、n0 をポンプ水車完全特性の n-q 特性図にあてはめることによりφ の初期
値φ0 が計算される。
一方、実物ガイドベーンの操作ロッドの最大変位量 Smax は既知であるので、Φ の初期
値 Φ0 は式 5.11 によって計算される。
Φ0=S0 /Smax
(5.11)
そこでφ0/ Φ0 の値をガイドベーン開度の模型-実機変換比とし、式 5.12 によって初期値
以降のφ0 の値を計算する。
φ =Φ× φ0 / Φ0 = (S/Smax) × φ0 / Φ0
ここに
(5.12)
S : 初期値以降の実物ガイドベーンの操作ロッドの変位量 (mm)
実態としては、S は複数の折点を持つ折れ線を辿るように変化するので、先に S の折
点での値に対応するφ の値を求めておき、途中の値は直線補間する。
以上の入力データ作成手順を流れ図で示すと以下のようになる。
−139−
初期条件(その1)
初期電気出・入
初期全落差 Hg
水車入口・出口初
ポンプ・水車効率ηp 、ηt
力 P0(実測)
(= 上 下 ダ ム 水 位
期圧力水頭
発電・電動機効率ηg 、ηm
差:実測)
(実測)
(所与値)
初期実機流量 Q0
損失水頭補正率 ζ
試行代入
初期有効落差 H0 = Hg - ζ *F*Q02
F:水路系全体の損失水頭係数
NO
初期電気出(入)力:計算値 = 実測値?
初期水車入口圧力水頭:計算値 = 実測値?
初期水車出口圧力水頭:計算値 = 実測値?
YES
初期実機流量 Q0(推定値)
n0 =
初期条件(その 2)
初期実機回転数 N0 (実測)
相似律
q0 =
模型縮尺 M (所与値)
N 0M
H0
Q0
H
×
0
初期模型回転数 n0 (推定)
初期模型流量 q0 (推定)
−140−
1
M
ガイドベーン開度判読の概念図
ポンプ水車(模型)完全
q(t)
特性からの判読
φ
φ0
q0
初期模型ガイドベーン
開度 φ0 (無次元量 %)
0
n(t)
n0
初期条件(その 3)
初期実機ガイドベーン
実機サーボモータ最大ストローク Smax (所与値)
開度 Φ0 = S0/Smax
実機サーボモータストローク S の時刻歴
(無次元量 %)
S
S0
S1
S2
ガイドベーン開度の模型Sn
実機変換比 φ0/ Φ0
t
模型ガイドベーン開度の時刻歴(入力データ)
初期値:φ0
折点値:φi = Φi× φ0/ Φ0= (Si/Smax) × φ0/ Φ0
−141−
(i = 1,2,---,n)
(3) 各節点の初期圧力水頭の推定
(1)に述べた手順によって Q0 とζ を決定した後、式 5.7∼式 5.10 を用いて、各節点にお
ける初期圧力水頭を計算する。ただし各単位管の損失水頭係数を取(放)水口から水車
入(出)口まで累計するのではなく、取(放)水口と考えている節点との間にはさまれ
る単位管のみについて累計し、速度水頭も考えている節点における管の流積に基づいて
計算する。
(4) 各単位管の損失水頭係数の推定
、
(1)に述べた手順によって決定されたζ、fU (水車上流側の各単位管の損失水頭係数)
fD (水車下流側の各単位管の損失水頭係数)値に基づき、ζ× fU、ζ×fD を各単位管の損
失水頭係数とする。
(5) 調圧水槽の制水口流量係数の推定
奥清津第二発電所の 2 基の調圧水槽は、サージングを速やかに減衰させ水面の安定を
図るため、いずれも制水口を有している。制水口とは調圧水槽本体と圧力水路の接合部
に設けられるオリフィスで、両者の間を水が出入りする際に強制的に損失水頭を与え、
その流量を減衰させる(図 5.13)
。
Ft
Ft
Hs’
Hs’
Qp
Qp
Fp
・Hs
・Hs
制水口なし
制水口あり
図 5.13 制水口による損失水頭
第 3 章で説明したように、制水口がない場合には調圧水槽基部の圧力水頭は式 5.13 で
表わされる。制水口がある場合、その圧力水頭は式 5.14 で表わされる。
−142−
H S (t ) = H S' = [ ∫
t − ∆t
0
Q p (t )dt ] / Ft (制水口なし) (5.13)
ここに Ft : 調圧水槽本体の断面積
Qp : 調圧水槽基部または制水口を通過する流量(水槽から水路へ流れる場
合を正と定義する。
)
H S (t ) = H S' − ε × Q p (t ) Q p (t ) = [ ∫
t − ∆t
0
Q p (t )dt ] / Ft − ε × Q p (t ) Q p (t )
(制水口あり) (5.14)
本研究のプログラムでは、入力データとして制水口の抵抗εを用いる。ε の値は制水口
流量係数 Cd と制水口の断面積 Fp を用いて式 5.15 で表わされる。
ε=
1
1
)2
×(
2 g Cd × Fp
(5.15)
制水口の断面積 Fp の値は制水口の直径から直ちに計算される。Cd の値は以下に述べる
手順で計算した(FUJINO & HAGA,1997、藤野他, 1996)
。
式 5.15 の両辺に Qp2 を乗じて Cd について解くと、式 5.16 が得られる。
Cd =
Qp
F p 2 gk
=
Vp
(5.16)
2 gk
ここに、 Qp : 制水口通過流量(m3/s)
Fp : 制水口断面積 (m2)
Vp : 制水口通過流速 (m/s)
k : 制水口による圧力損失水頭 = ε× Qp2 (m)
従って、Vp と k を実測すれば Cd の実物値を求めることができる。水槽本体の断面積を
Ft 、水位を z、水面移動速度を Vt とすると、Vp は式 5.17 で計算される。
Vp =
Ft × Vt
F dz
= t ×
Fp
F p dt
(5.17)
5.3 に述べるように、調圧水槽制水口周辺に設置された圧力計の出力は、水撃圧の終息
後においては、調圧水槽の水位を表すとみなすことができる。調圧水槽本体内に設置さ
れた圧力計の時刻歴曲線から直線に近い部分を選び、そこでの接線の傾きを計算し、こ
−143−
れを dZ/dt とした。また、水槽本体側の圧力計の時刻歴と圧力水路側の圧力計の時刻歴の
それぞれについて dZ/dt を計算した時刻での値を求め、これらをその時刻における制水
口の両側の圧力水頭とした。両者の差に圧力計の標高差を補正した値を k とした。
以上の手順で求めた Cd の値とそれに基づくεの計算結果を表 5.8 に示す。
表 5.8 制水口流量係数 Cd およびε
調圧水槽
導水路
放水路
制水口断面積
Fp (m2)
3.502π/4
= 9.621
2.802π/4
= 6.158
流向
制水口流量係数
制水口抵抗
水路→水槽
水槽→水路
水路→水槽
水槽→水路
Cd
0.70
1.03
0.91
1.11
ε
1.12×10-3
5.19×10-4
1.62×10-3
1.10×10-3
(6) 圧力波伝播速度の推定
第 3 章に述べたように、水撃圧の基本方定式の係数を決定するために、圧力波の伝播
速度 c を決定する必要がある。c を実測することは困難であるので、一般に使用されてい
る Jaeger の式(土木学会、1971)を用いて計算した。
コンクリート巻立水路の場合、
c=
1
(5.18)
w0 1
2
[ +
]
g K ER
ここに
c : 圧力波の伝播速度(m/s)
w0 : 水の単位重量 = 9.8×103(N/m3)
g : 単位質量当たりの重力 = 9.8(m/s2)
K : 水の体積弾性係数 = 1.96×103(MPa)
ER : 岩盤の弾性係数 = 5.19×103(MPa)(取水口∼水圧鉄管交点 4)
(水圧鉄管交点 4∼放水口)
= 2.25×103(MPa)
岩盤埋設鉄管路の場合、
c=
1
(5.19)
w0 1 2r1
[ +
(1 − λ )]
g K ES t
r12
λ=
ES t
r12 (r32 − r12 ) (m R + 1)r1
[
]
+
+
ES t
2r3 EC
mR E R
−144−
ここに
ES : 鋼材の弾性係数 = 2.06×105(MPa)
EC : コンクリートの弾性係数 = 2.06×104(MPa)
t : 鋼材の板厚(m)
r1 : 鉄管板厚外面までの半径 (m)
r3 : 岩盤掘削面( =詰込コンクリート外面)までの半径 (m)
mR : 岩盤のポワソン数 = 5
上記の入力値のうち mR の値は、水門鉄管技術基準に提示された標準値である。鋼材の
板厚 t は場所ごとに異なるので竣工図から判読した。岩盤の弾性係数 ER の値は、着工前
の調査工事の一環として行われた水路沿線での平板載荷試験によって得られた測定値の
平均値とした。水路沿線の代表的な位置における c の計算結果を表 5.9 に示す。
表 5.9 水路沿線の代表的な位置における圧力波の伝播速度
計算位置
導水路巻立区間(任意位置)
導水路内張管上流端
水圧鉄管交点 1 曲管終点
水圧鉄管交点 2 曲管始点
水圧鉄管交点 2 曲管終点
水圧鉄管交点 4 曲管終点
水圧鉄管交点 5 曲管始点
水圧鉄管条管(任意位置)
放水路内張管条(任意位置)
放水路内張管本管上流端
放水路巻立区間(任意位置)
r1(m)
--2.861
2.518
2.539
2.532
2.232
2.244
1.641
2.067
2.872
---
r3 (m)
--3.350
2.950
2.950
2.950
2.650
2.650
2.050
2.500
3.300
---
t (mm)
--11
18
39
32
32
44
41
17
22
---
λ
--0.841
0.740
0.570
0.617
0.385
0.314
0.264
0.522
0.541
---
c(m/s)
1,057
1,047
1,076
1,131
1,115
1,039
1,085
1,120
964
956
846
表 5.9 に示すように、c の計算値は 850∼1,150(m/s)の範囲に分布し、水路の位置ご
とに変化する。しかし、計算の前提となっている岩盤弾性係数 ER の値は、水路の延長に
比べると極めて限定された位置(水車の上流側:3 箇所、下流側:2 箇所)で実施された
平板載荷試験の結果から求められたもので、水路の各位置での弾性係数が実際にこの値
になっているとは限らない。また r3 の値は図 5.2 に示した標準断面から計算したもので
あるが、実際の値は水路中心線から岩盤の掘削面までの距離であるので、必ずしも図面
どおりの値になっていない。このような事情を考慮すると、水路の区間ごとに c の入力値
を細かく変更することには意味がないと考えられる。そこで本研究では、c の計算値の分
布範囲の中間を採用し、水路の全ての区間において圧力波伝播速度を 1,000m/s とした。
−145−
5.3
測定結果とそのシミュレーション結果
5.3.1 負荷遮断試験
(1) 測定結果
i.試験条件
実物発電所で行われた試験の代表例として、1996 年 4 月 23 日実施の 2 台同時全負荷
遮断試験の測定結果をシミュレートする。試験条件を表 5.10 に示す。2 台の発電機の遮
断前負荷は、共に最大出力 300MW に達している。上池水位が満水位に近く下池水位が
低水位に近い高落差状態での運転であるため、初期流量(推定値)は最大使用水量より
約 5%少なくなっている。
表 5.10 負荷遮断試験条件
試験年月日
上池水位 HUR(m)
下池水位 HLR(m)
1 号機遮断前負荷 P0,1(MW)
2 号機遮断前負荷 P0,2(MW)
1 号水車効率 ηT1
1 号発電機効率 ηG1
2 号水車効率 ηT2
2 号発電機効率 ηG2
1 号実機サーボモータストロ
ーク
S1 (mm)
(S1max = 400.8)
2 号実機サーボモータストロ
ーク
S2 (mm)
(S2max = 264.4)
損失水頭補正係数 ζ
1 号機推定初期流量 Q0,1(m3/s)
2 号機推定初期流量 Q0,2(m3/s)
1996 年 4 月 23 日
1,300.69
811.49
300.6
300.2
0.91
0.98
0.90
0.98
t(sec)
S1 (mm)
0
369
2.91
264.2
56.71
37
t(sec)
S2 (mm)
0.239
239
1.84
178
6.56
120
32.74
19
0.7
72.54
73.26
ii. 水車に関連する諸量の測定結果
1 号、2 号ポンプ水車に関連する諸量の測定結果を、図 5.14、図 5.15 に示す。測定さ
れている量は、発電電動機("G/M")電流、発電電動機電圧、ガイドベーン("GV")サ
ーボモータストローク S、ポンプ水車入口("鉄管")内圧 HP、ポンプ水車出口("ドラフ
ト"、"吸出し管")内圧 HD、回転速度 N である。これらの時刻歴は、定性的に以下のよ
うな現象を示している。
−146−
−147−
図 5.14
負荷遮断試験
測定結果 (1号機)
−148−
図 5.15
負荷遮断試験
測定結果 (2号機)
水車の定常運転中に発電機の負荷が遮断されると、ガイドベーンの閉鎖によって鉄管
側に水撃圧による上昇水頭∆HP が生じ、吸出し管側には下降水頭∆HD が生ずる。一方、
電気的反発力の喪失により水車は空転を始め、回転速度が上昇し、最大値 Nmax に達する。
サーボモータストロークの時刻歴は、最初のうちは急速に開度を絞り、続いて緩やかに
絞っていくため、下に凸の折れ線をなしている。これは揚水発電用ポンプ水車で一般的
に行われる操作で、その理由は次のとおりである。
水圧鉄管の工事費を低減するためには、∆HP が小さいことが望ましいので、ガイドベー
ンの閉鎖時間を長くする方が有利である。反面、閉鎖時間を長くすると水流の遮断が遅れ
る結果 Nmax が増大し、水車・回転子の材料が持ちこたえられなくなるので、水車・回転
子のはずみ車効果 GD2 を増大して Nmax を抑制する必要が生じ、水車・発電機の工事費が
増嵩することとなる。このように∆H と Nmax の抑制は相反する関係にあるので、両者の
バランスをとるように閉鎖モードを決定する。 第 4 章に述べたように、揚水用ポンプ水
車は、発電方向の回転速度が定格値を超過して増加するときに流量が急減し、さらには逆
流を起こす性質を持つ。従って揚水用ポンプ水車においては、自流式水力用水車と異なり、
ガイドベーンの閉鎖時間を長くしても∆HP が小さくなるとは限らず、回転速度の上昇に
よって水圧管路内の流量が絞られ、水圧が上昇する可能性がある。そこでポンプ水車では、
定常運転状態(図 4.4 の n-q 特性図における第 1 象限)から逆転ポンプ領域(同図におけ
る第 4 象限)へ運転状態が移行するまでの間に、速いガイドベーン閉鎖速度によってガイ
ドベーンをある開度まで閉じておき、逆転ポンプ領域に入る直前で遅いガイドベーン閉鎖
速度に切り換えるという「2 段閉鎖方式」を採り、∆H と Nmax の両方を抑制する。
内圧 HP 、HD の時刻歴からわかるように、水撃圧の平均的な変動に重畳して、周波数
の高い水圧の変動が生じている。この水圧変動は 2.3.1 で述べた「高周波水圧脈動」であ
る。高周波水圧脈動はランナの高速回転による局所的な圧力の不均一によって発生する
とされ、水撃圧の基本方程式のような一次元モデルでは解析できない現象と考えられて
いる。本研究では、高周波水圧脈動を除いた水撃圧の平均的な変動に限定して、計算結
果と測定結果の比較を行う。
iii. 水路内圧の測定結果
導水路調圧水槽、導水路の内圧の測定結果を、図 5.16∼図 5.18 に示す。図 5.16 は、
水槽本体内部(制水口の上側)の水圧、図 5.17、図 5.18 は、導水路内部(制水口の下側
および調圧水槽から 100.50m 取水口寄りの位置)の水圧の時刻歴である。
放水路調圧水槽、放水路の内圧の測定結果を、図 5.19∼図 5.21 に示す。図 5.19 は、
水槽本体内部(制水口の上側)の水圧、図 5.20、図 5.21 は、放水路内部(制水口の下側
および調圧水槽から 44.42m 水車寄りの位置)の水圧の時刻歴である。これらの水圧は、
水撃圧だけでなく調圧水槽のサージングをも測定するため、水撃圧が終息する時間の約 5
倍の 300 秒にわたって測定されている。
−149−
Head
(m)
59.1
58.4
53.3
48.4
43.9
38.5
38.4
0
60
図 5.16
Head
120
240
180
300
(sec)
導水路調圧水槽内の水圧の実測結果 (CH26、負荷遮断)
(m)
70.0
64.3
56.0
54.0
46.8
41.2
38.0
0
60
図 5.17
Head
120
240
180
300
(sec)
導水路調圧水槽制水口下側の水圧の実測結果 (CH25、負荷遮断)
(m)
68.0
62.9
60.6
58.0
54.6
48.0
45.5
39.5
38.0
0
60
図 5.18
120
180
240
導水路内張管の水圧の実測結果 (CH22、負荷遮断)
−150−
300
(sec)
Head (m)
26.4
23.7
17.7
14.4
11.8
4.4
2.4
0
60
図 5.19
Head
120
180
240
300
(sec)
放水路調圧水槽内の水圧の実測結果 (CH42、負荷遮断)
(m)
87.8
83.5
78.0
72.4
67.8
64.3
54.7
47.89
0
60
図 5.20
Head
120
180
240
300
(sec)
放水路調圧水槽制水口下側の水圧の実測結果 (CH65、負荷遮断)
(m)
89.3
83.6
79.3
78.0
72.4
69.3
64.3
59.3
52.9
0
60
図 5.21
120
180
240
放水路内張管の水圧の実測結果 (CH66、負荷遮断)
−151−
300
(sec)
水槽本体内部の水圧の時刻歴は減衰を伴う正弦波であり、ほとんどサージングによる
静水圧の変化によって決定されている。これに対し導水路、放水路内部の水圧の時刻歴
には、初期の約 60 秒の期間において、正弦波と異なる形状の波形が重畳されている。こ
れは水車から伝播してきた水撃圧による圧力変化である。しかし、圧力変化の開始から
約 60 秒経過すると、時刻歴は水槽本体内部と同位相の正弦波になっている。
(2) シミュレーション結果
i.概要
5.2.1 に示した水路系のモデルと表 5.10 に示した各ポンプ水車の初期流量の推定値に基
づき、モデルを構成する各単位管の初期流量と各節点の初期圧力水頭を求めると図 5.22
のようになる。この初期条件および、表 5.10 に示した実機サーボモータストロークから
換算される模型ガイドベーン開度変化に基づいて水撃圧計算を行った。以下、すべての
ケースについて計算時間刻みを 0.01 秒とした。
実測とシミュレーション結果を比較し評価する指標として、これ以降、式 5.20 で定義
される誤差を用いることとする。
e=
Vc − Vm
× 100
Vm ,max
(5.20)
ここに
e :誤差(%)
Vc :計算値
Vm :測定値
Vm,max :測定値の最大値
ii.水車入口の水圧
1 号、2 号ポンプ水車に関連する諸量の時刻歴の計算結果を、図 5.23、図 5.24 に示す。
図 5.25、図 5.26 に 1 号、2 号ポンプ水車の入口・出口水圧の測定結果と計算結果を同じ
時間スケールで対比して示す。
図 5.14、図 5.15 に示すように、全負荷遮断時の水車入口の水圧(「鉄管水圧」と表示
されている)は、巨視的に見ると台形状の波動を繰り返しながら減衰していく。図 5.14
では、初期状態(533.0m 水頭)から最大圧力(701.0m 水頭)を経て最小値(461.8m 水
頭)に到るまでの区間が 1 回目の台形波であり、入口水圧はこの最小値とその後の 2 回
の極小値(遮断開始後 42.4 秒後、58 秒後)との間にはさまれた 2 回目、3 回目の台形波
を経て終息(551.2m 水頭)に向かっている。図 5.15 に示す 2 号ポンプ水車の挙動にお
いても、入口水圧は 3 回の台形波を経て終息している。今後これら 3 回の台形波を「第 1
波」
、
「第 2 波」
、
「第 3 波」と呼ぶこととする。
−152−
管路No. 上流節点 下流節点
−153−
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
1
2
3
4
5
6
8
9
10
12
13
5
14
16
17
18
1300.69
12
1
①
17
17
3
4
5
6
7
9
18
11
2
10
14
15
9
2
10
管路長
管径
670.77
47.80
673.02
447.32
127.08
12.00
105.25
22.50
779.25
12.00
12.00
127.08
12.00
97.39
100.50
44.42
損失水頭係数 初期流量
5.70
5.70
5.00
4.40
3.20
2.25
4.10
5.70
5.70
6.319E-05
9.951E-06
1.483E-04
2.195E-04
2.946E-04
1.347E-04
6.711E-05
1.314E-05
1.160E-04
0.000E+00
0.000E+00
2.946E-04
1.347E-04
5.452E-05
1.135E-05
4.290E-06
3.20
2.25
4.10
5.70
5.70
⑩
⑮
145.80
145.80
145.80
145.80
73.26
73.26
73.26
145.80
145.80
0.00
0.00
72.54
72.54
72.54
145.80
145.80
2号水車
②
2
節点No. 節点コード 水路中心 初期水頭
標高
1
3
1262.850 1300.6900
2
1
1247.850 1297.4398
3
1
1240.436 1296.0807
4
1
932.586 1291.0501
5
1
739.600 1286.3850
6
1
739.000 1285.2614
7
4
739.000 1271.4512
8
5
731.050
813.1157
9
1
731.050
812.3815
10
1
731.850
812.2903
11
3
795.850
811.4900
12
2
1297.4398
13
2
812.2903
14
1
739.000 1285.3751
15
4
739.000 1271.8351
16
5
731.050
813.0732
17
1
1249.988 1297.6811
18
1
731.850
812.6609
⑥
3
③
⑤
6
13
7
8 ⑦
⑪
④
4
⑯
⑧
5
9
⑫
⑭
18
10
16
14 ⑬ 15
1号水車
図 5.22
811.49
⑨
水撃圧計算モデルと初期値 (負荷遮断)
11
1号機出口水圧・ガイドベーン開度・流量
100
86.2
Q(m3/s), Hd(m), GVO(%)
80
72.5
74.1
60
38.8
40
出口水圧(Hd)
ガイドベーン開度(GVO)
流量(Q)
36.5
20
0
0
10
20
-11.1
30
40
50
60
-20
Time(sec)
1号機入口水圧・回転速度
750
703.9
700
650
Hp(m), N(r.p.m)
水車入口水圧(Hp)
回転速度(N)
642.6
600
580
532.8
550
512
500
475.4
450
443.8
429
427
400
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 5.23 1 号機の入口・出口水圧、回転速度、流量の計算結果(負荷遮断)
−154−
60
2号機出口水圧・ガイドベーン開度・流量
100
78.3
74.1
80
73.3
Q(m3/s), Hd(m), GVO(%)
60
40
34.5
出口水圧(Hd)
ガイドベーン開度(GVO)
流量(Q)
19.6
20
0
0
10
20
30
40
50
60
22.1
-20
-40
Time(sec)
2号機入口水圧・回転速度
750
693.5
700
水車入口水圧(Hp)
回転速度(N)
Hp(m), N(r.p.m)
650
638.0
600
578
550
532.5
500
483.0
471.2
450
461
426
400
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 5.24 2 号機の入口・出口水圧、回転速度、流量の計算結果(負荷遮断)
−155−
60
1号機入口水圧
750
計算
実測
700
650
Hp(m)
600
550
500
450
400
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
60
1号機出口水圧
100
計算
90
実測
80
Hd(m)
70
60
50
40
30
20
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 5.25 1 号機の入口・出口水圧の実測と計算の比較(負荷遮断)
−156−
60
2号機入口水圧
750
700
計算
実測
650
Hp(m)
600
550
500
450
400
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
60
2号機出口水圧
100
計算
90
実測
80
Hd(m)
70
60
50
40
30
20
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 5.26 2 号機の入口・出口水圧の実測と計算の比較(負荷遮断)
−157−
60
図 5.25、図 5.26 に示すように、計算された 1 号、2 号ポンプ水車の入口水圧の時刻歴
はいずれも 3 回の台形波を形成しており、一見して実測の時刻歴と似ている。
次に、第 1 波から第 3 波までの台形波の最小値(第 1 波については初期値)と最大値
の計算値と実測値を対比する。結果は 1 号機が表 5.11、2 号機が表 5.12 となる。極値の
出現時刻について第 1 波は 1、2 号機とも 1 秒以内のずれにとどまり、よく一致している
が、第 2 波以降は 15 秒付近の実測値にある小ピークが計算で再現できないまま進むため、
このずれが徐々に大きくなり、第 3 波付近では計算が実測より 4 秒程度先に進む結果と
なっている。極値の大きさについては、初期値との差∆HP で比較すると、1 号機の第 1 波
最大値では 2%の誤差で、よく一致している。1 号機の第 2 波以降は 7∼18%の誤差とな
る。2 号機については、第 2 波開始以降の誤差が 7∼18%で 1 号機と同じであるが、第 1
波最大値では 9%の誤差で 1 号機よりやや大きい。
表 5.11
時刻歴
第1波
第2波
第3波
出現
時刻
(sec)
0
9.4
22.5
36.7
43.0
46.5
初期値
最大値
最小値
最大値
最小値
最大値
表 5.12
時刻歴
第1波
第2波
第3波
1 号ポンプ水車入口水圧の実測と計算の対比(負荷遮断)
初期値
最大値
最小値
最大値
最小値
最大値
誤差
実測
計算
(式
圧力
初期値
出現
圧力
初期値
5.20)
水頭
との差
時刻
水頭
との差
(%)
(sec)
HP(m) ∆HP(m)
HP (m) ∆HP(m)
533.0
0
0
532.8
0
---701.0
168.0
9.3
703.9
171.1
1.8
20.4
443.8
461.8
−89.0
−10.6
−71.2
621.2
88.2
31.4
642.6
109.8
12.9
39.4
475.4
505.5
−57.4
−17.8
−27.5
585.2
52.2
42.3
596.0
67.0
6.5
2 号ポンプ水車入口水圧の実測と計算の対比(負荷遮断)
出現
時刻
(sec)
0
9.2
21.6
37.2
43.2
46.4
誤差
実測
計算
(式
圧力
初期値
出現
圧力
初期値
5.20)
水頭
との差
時刻
水頭
との差
(%)
(sec)
HP (m) ∆HP(m)
HP (m) ∆HP(m)
533.7
0
0
532.5
0
---711.1
177.4
9.9
693.5
161.0
−9.2
17.6
471.2
484.3
−61.3
−6.7
−49.4
613.2
79.5
31.8
638.0
105.5
14.7
39.7
483.0
515.5
−49.5 −17.6
−18.2
583.4
49.7
42.2
594.7
62.2
7.0
また各台形波の中には、高周波水圧脈動を除外しても、微視的な水圧の増減が含まれ
ている。このような微視的な水圧の極大値についても計算と実測での出現時刻がよく一
致し、両者の間に相同関係を認めることができる。またそれらの大きさも第 2 波開始前
後までは計算と実測がおおむね一致している。
−158−
以上のように、ポンプ水車入口水圧の時刻歴は実測と計算でおおむね一致しており、
高周波水圧脈動を除けば、本研究の水撃圧解析プログラムによる計算の精度は高いとい
うことができる。
図 5.25 および図 5.26 に見られる実測と計算の細かな相違、
殊に位相のずれは、
後に
「vii.
実測計算間の位相の乖離に関する考察」で詳述するように、模型特性の精度の限界によ
るものと考えられる。
なお、上記の計算で求められた最大水圧上昇値(1 号機 171.1m、2 号機 161.0m)は、
第 2 章の表 2.3 に示した設計内圧の根拠となった設計時点の水撃圧水頭 183.00m(これ
には水圧脈動と計算誤差に対する余裕約 24m が含まれている)と比較して、決して小さ
い値ではない。むしろ、実測値(1 号機で 168.0m、2 号機で 177.4m)に水圧脈動(片
振幅で 20m程度)を加えれば設計値はやや過小であった恐れもある。但し、主要耐圧部
を構成する水圧鉄管には許容応力に十分な余裕があり、岩盤の応力負担も実際には設計
値以上の率となっているので、全体としてはバランスの取れた設計および構造物となっ
ている。
iii.水車出口の水圧
図 5.14、図 5.15 に示すように、全負荷遮断時の水車出口(「ドラフト」あるいは「吸
出管」と表示されている)の水圧は、巨視的に見ると|sin|状の波動を繰り返しながら減
衰していく。この波動は水車入口水圧の台形波と同周期、逆位相となっている。図 5.14
では、初期状態(65.6m 水頭)から最小値(33.3m 水頭)を経て最大値(81.2m 水頭)
に到るまでの区間が 1 回目の|sin|波であり、出口水圧はこの最大値とその後の 1 回の極
大値(遮断開始後約 43 秒後)との間にはさまれた 2 回目の|sin|波を経て終息(76.4m
水頭)に向かっている(高周波水圧脈動に埋没して途中から判別できなくなっているが、
3 回目の波も存在している)
。図 5.15 に示す 2 号ポンプ水車の挙動においてはさらに不明
瞭であるが、出口水圧はやはり 3 回の|sin|波を経て終息している。今後これら 3 回の
|sin|波を「第 1 波」
、
「第 2 波」
、
「第 3 波」と呼ぶこととする。
図 5.25、図 5.26 に示すように、計算された 1 号、2 号ポンプ水車の出口水圧の時刻歴
は不明瞭ながら 3 回の|sin|波を形成しており、実測の時刻歴と類似した形状をなしてい
る。第 2 波以降の極値の時刻と大きさは不明瞭であるので、第 2 波初期値(最大値)ま
での計算値と実測値を対比する。結果は 1 号機が表 5.13、2 号機が表 5.14 となる。極値
の出現時刻については 1 号機の第 1 波でほとんど一致しているが、それ以外は最大 3.3
秒のずれが認められ、水車入口水圧の計算結果に比べると誤差が大きい。極値の大きさ
についても、1,2 号機および第 1,2 波おしなべて 9∼16%の誤差となっており、水車入口
水圧の計算結果に比べると誤差が大きい。
なお、初期値について実測と計算値の間で 5∼8m程度の不一致が見られるのは、
5.2.2(1)で述べた損失水頭補正率ζ を水車入口側に注目して表 5.10 に示すように 0.7 とし
−159−
ているが、この補正が出口側に十分対応していないためである。しかし、この不一致を
調整するための補正率を求めるとマイナスにする必要があるなど実態的な対応ができな
いため、放置せざるを得なくなっている。このことは、定常状態で既に、従来からの知
見では説明できない事象が発生していることを示唆している。
その可能性が高いものとして、水車出口付近の旋回流など局部的な高速流があって、
これが速度水頭となって水圧計の値を下げていることが考えられる。この付近の平均流
速は管径が 4.10mであることから 1 号機の場合で 5.5m/s であってその速度水頭は 1.57
mであるが、かりに流速が 12m/s となれば速度水頭は 7.3m となって 6m程度の差を説明
することができる。
また各|sin|波の中には、高周波水圧脈動を除外しても、微視的な水圧の増減が含まれ
ている。水車入口水圧に比べると不明瞭ではあるが、このような微視的な水圧の極大値
についても計算と実測での出現時刻が一致するものがあり、両者の間にある程度の相同
関係を認めることができる。しかしそれらの水圧値は計算と実測が一般に一致していな
い。
以上のように、ポンプ水車出口水圧の時刻歴は圧力値の実測と計算が必ずしも一致し
ておらず、本研究の水撃圧解析プログラムによる計算の精度は十分に高いとはいえない。
しかし極値の出現時刻など時刻歴の巨視的な特性はかなりよく再現されており、過去に
報告された特性曲線法に基づく解析プログラムによる計算結果(例えば PETRY &
VIEIRA, 1994)に比べて遜色がないものとなっている。
表 5.13
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最小値
最大値
表 5.14
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最小値
最大値
1 号ポンプ水車出口水圧の実測と計算の対比(負荷遮断)
誤差
実測
計算
(式
出現
圧力
圧力
初期値
初期値
5.20)
時刻
水頭
水頭
との差
との差
(%)
(sec)
HD (m) ∆HD(m)
HD (m) ∆HD(m)
0
65.6
0
0
74.1
0
---10.7
38.8
10.5
33.3
−35.3
−32.3
−9.3
22.6
81.2
15.6
19.8
86.2
12.1
10.5
出現
時刻
(sec)
2 号ポンプ水車出口水圧の実測と計算の対比(負荷遮断)
誤差
実測
計算
(式
出現
圧力
初期値
出現
圧力
初期値
5.20)
時刻
水頭
との差
時刻
水頭
との差
(%)
(sec)
(sec)
HD (m) ∆HD(m)
HD (m) ∆HD(m)
0
68.9
0
0
74.1
0
---12.1
34.5
8.8
22.4
−39.6
−46.5
14.8
19.4
80.4
11.5
16.7
78.3
4.2
15.7
−160−
ポンプ水車の出口側の水圧時刻歴の計算結果の精度が入口側のそれに比べて低くなる
原因の一つとして、2.3.1 で述べた吸出管内に発生する旋回流であるドラフトホワールの
影響が考えられる。ドラフトホワールとは次に述べるような水理現象である。
水車が定常運転している場合には、ランナから吸出管に流出する水はエネルギのほと
んどを失い、水路断面内であまり回転せずに流れる。しかし負荷遮断によって水車が空
転すると、水のエネルギがランナに奪われなくなるため、吸出管の内部において流水が
水路断面直交方向に流れるだけでなく、水路断面内で高速回転するようになる。この旋
回流をドラフトホワールという。ドラフトホワールは、水車が高速回転したときに水撃
圧と無関係に発生し、吸出管の内圧を低下させると考えられている。5.1.2 に述べたよう
に、吸出管の圧力測定座はドラフトホワールを避けて吸出管の最下流に設けられている
が、その影響を完全には回避できていない可能性がある。
また、水車出口側は入口側に比べて貯水池(下部調整池)との標高差が小さく、水車
出口から放水路調圧水槽までの距離が短いことから、水圧初期値や水撃圧の絶対値が小
さいため、高周波水圧脈動やドラフトホワールによる撹乱が相対的に大きくなり、純粋
な水撃圧の時刻歴と実際に観測される出口水圧のそれとの乖離が大きくなっていること
も原因の一つであろう。
iv.回転速度の変動
図 5.14、図 5.15 に示すように、負荷遮断に伴ってポンプ水車の回転速度は最大値 Nmax
まで上昇し、その後 1∼2 回の増減を経て定常値(無負荷回転速度)に収束していく。最
、その次の極大値を含む回転速度の
大回転速度 Nmax を含む回転速度の上昇を「第 1 波」
上昇を「第 2 波」と呼ぶこととする。図 5.23、図 5.24 に示すように、計算された 1 号、
2 号ポンプ水車の入口水圧の時刻歴は 1 号機で 3 回、2 号機で 2 回の波を形成しており、
2 号機の第 2 波が第 1 波に比べてはるかに小さいなど、一見して実測の時刻歴と似ている。
次に、実測された回転速度の時刻歴のうち、極値が明瞭な第 2 波の最大値までの区間
について極大値、極小値の出現時刻と大きさを判読し、計算値と対比する。結果は 1 号
機が表 5.15、2 号機が表 5.16 となる。極値の出現時刻については 1、2 号機とも 1∼3 秒
のずれにとどまり、よく一致している。極値の大きさについては、初期値との差ΔN で
比較すると、1、2 号機とも第 1 波の最大値では 2∼8%の誤差で、かなりよく一致してい
る。第 2 波以降は 1、2 号機とも 3∼17%とやや大きい誤差が出ている。しかしポンプ水
車・発電機の回転部分の安全性の評価およびドラフトホワールによる水圧低下の推定の
根拠として最も重要な最大値の誤差が小さいので、プログラムの性能としては良好であ
るといえる。
−161−
表 5.15
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最大値
極小値
極大値
表 5.16
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最大値
極小値
極大値
1 号ポンプ水車回転速度の実測と計算の対比(負荷遮断)
出現
時刻
(sec)
0
8.2
22.3
32.7
実測
計算
誤差
(式
回転
回転
出現
初期値
初期値
5.20)
速度
速度
時刻
との差
との差
(%)
N(rpm ∆N(rpm) (sec)
N(rpm) ∆N(rpm)
)
429
0
0
429
0
---569.5
140.5
7.4
580
151
7.5
6.2
20.0
427
418.3
−2
−10.7
488.6
59.6
30.0
512
83
16.7
2 号ポンプ水車回転速度の実測と計算の対比(負荷遮断)
出現
時刻
(sec)
0
8.6
24.6
30.0
実測
計算
誤差
(式
出現
回転
回転
初期値
初期値
5.20)
時刻
速度
速度
との差
との差
(%)
N(rpm) ∆N(rpm) (sec)
N(rpm) ∆N(rpm)
426
0
0
426
0
---572
146
8.1
578
149
2.1
435
9
17.9
443
14
3.4
446
20
29.1
461
32
8.2
v.完全特性上での運転状態の変化
1 号ポンプ水車の運転状態の変化を、n-q 特性図、n-τ特性図上の軌跡として図 5.27、
図 5.28 に示す。同様に 2 号ポンプ水車の運転状態の変化を、n-q 特性図、n-τ特性図上
の軌跡として図 5.29、図 5.30 に示す。これらの特性図は図 4.4 および図 4.5 に示した完
全特性の一部を拡大して示しており、この場合は第 1 象限と第 4 象限である。
図 5.27 に示す 1 号機の n-q 特性図上の軌跡は全負荷の発電運転から始まるので、始点
は第 1 象限(発電運転領域。流量>0、回転速度>0)の右上部分(高いガイドベーン開度)
にある。この状態から遮断が進むと流量が減少し、第 4 象限(逆転ポンプ領域。流量<0、
回転速度>0)に入る。その後流量は発電方向に戻り、再度減少して逆転ポンプ領域に入
り、最後に発電領域内の低いガイドベーン開度(無負荷回転に相当)に収束する。この
ように運転状態が第 1 象限と第 4 象限を 2 回行き来することは、計算された流量の時刻
歴(図 5.23)において 2 回の逆流期間が存在することと対応している。この間に運転状
態点の横軸座標(回転速度)は 3 回にわたり初期状態より右(高い回転速度)に移動す
るが、これは回転速度の時刻歴において 3 回の増減波が存在することと対応している。
図 5.28 に示す 1 号機の n-τ特性図上の軌跡の始点は第 1 象限(発電運転領域。トルク
>0、回転速度>0)の右上部分(高いガイドベーン開度)にある。この状態では水から水
車にその回転速度を上げる方向の回転力が伝達されている。遮断が進むとトルクが減少
し、第 4 象限(逆転ポンプ領域。トルク<0、回転速度>0)に入る。この状態では水車の
回転速度を下げる方向の回転力が伝達される。その後トルクは発電領域に戻り、再度減
−162−
1号機模型流量特性
0.05
t=0
110%
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
5%
0%
計算結果
0.04
流量 QM(m3/s)
0.03
0.02
0.01
t=60
0
160
170
180
190
200
210
220
230
240
-0.01
-0.02
回転数 NM(r.p.m)
図 5.27 負荷遮断時の 1 号機の運転状態変化(n−q 特性)
1号機模型トルク特性
2.5
t=0
2
1.5
トルク TM(t-m)
1
0.5
0
160
t=60
170
180
190
200
210
220
-0.5
-1
-1.5
-2
回転数 NM(r.p.m)
図 5.28 負荷遮断時の 1 号機の運転状態変化(n−τ 特性)
−163−
110%
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
230 5%
240
0%
計算結果
2号機模型流量特性
0.05
100%
85.71%
71.43%
57.14%
42.86%
28.57%
14.29%
0%
計算結果
t=0
0.04
0.02
0.01
t=60
0
160
170
180
190
200
210
220
230
240
-0.01
-0.02
回転数 NM(r.p.m)
図 5.29 負荷遮断時の 2 号機の運転状態変化(n−q 特性)
2号機模型トルク特性
2.5
100%
85.71%
71.43%
57.14%
42.86%
28.57%
14.29%
0%
計算結果
2
t=0
1.5
1
トルク TM(t-m)
流量 QM(m3/s)
0.03
0.5
t=60
0
160
170
180
190
200
210
220
-0.5
-1
-1.5
-2
回転数 NM(r.p.m)
図 5.30 負荷遮断時の2号機の運転状態変化(n−τ 特性)
−164−
230
240
少して逆転ポンプ領域に入り、最後に横座標軸上(トルク=0、無負荷回転に相当)に収
束する。
図 5.29、図 5.30 に示す 2 号ポンプ水車の n-q 特性図、n-τ特性図上の軌跡も、1 号機
のそれとほぼ同様である。ただし 2 号機では第 1 象限と第 4 象限の間の出入りが 1 回だ
けであり、これは計算された流量の時刻歴(図 5.24)において 1 回の逆流期間が存在す
ることと対応している。
以上のような挙動は可逆ポンプ水車の負荷遮断条件の解析によって一般に得られてい
るものと一致している。これらの軌跡に不連続な部分が認められないことから、本研究
の計算結果は妥当なものであると考えられる。
vi.調圧水槽のサージングおよび水路の水圧
図 5.31 に導水路調圧水槽のサージングおよび水槽基部、導水路内張管の水圧の計算結
果を測定結果と同じ時間スケールで対比して示す。なお、ここで用いるサージング水位
の実測値は、図 5.16 に示した調圧水槽内水圧計(CH26)の実測値を水位標高に換算し
たものである。実測値と計算値の比較は表 5.17 に示すように、水位の絶対値は2m以内
の誤差に収まっていて実用的に十分な精度と考えることができるが、水位変動周期が実
測より計算結果の方がやや長くなっていて、時間の経過と共にずれが大きくなる傾向が
見られる。
この原因として考えられるのは、時刻 20∼40 秒に見られるサージング波形の食い違い
が後まで影響していることであるが、その原因として、この時刻で前述のように水車入
口において水撃圧波形の食い違いが起こっていることが挙げられる。水撃圧は計算が実
測より早まっているのに比しサージングでは逆に遅れているが、これはサージングが水
車付近の水圧ではなく流量変化に対応していることから説明することができる。
表 5.17 導水路調圧水槽サージングの実測と計算の対比(負荷遮断)
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最大値
最大値
誤差
実測 (CH26)
計算
サージング 初期値 (式
サージング 初期値 出現
水位(m)
との差 5.20)
水位 (m)
との差 時刻
(%)
∆H(m) (sec)
∆H(m)
0
1,297.46
0
0
1,297.44
0
---35
1,312.70
15.24
39
1,310.91
13.47 −11.6
164
1,306.90
9.44
170
1,305.58
8.14
−8.5
出現
時刻
(sec)
同じく図 5.31 に示す導水路調圧水槽基部水圧の計算結果では、遮断開始から 12 秒後と 35
秒後に水圧の上昇が認められる。前者は主として水撃圧による水圧上昇であり、後者はサ
ージングに水撃圧が重畳したものと考えられる。これら 2 回の波を「第 1 波」
、
「第 2 波」
、
と呼ぶこととする。対応する実測時刻歴(CH25)では、第 1 波に対応する極大値が認めら
れる。第 2 波に対応する極大値はサージングの極大値と融合して識別し難く
−165−
導 水 路 調 圧 水 槽 サ ー シ ゙ン ク ゙
1315
1 ,3 1 2 .7
1 ,3 1 0 .9
1310
計算
実測
1 ,3 0 6 .9
1 ,3 0 5 .6
WL(m)
1305
1300
1 ,2 8 7 .4
1295
1290
0
60
120
180
240
300
T im e (se c )
導 水 路 調 圧 水 槽 基 部 (C H25、 負 荷 遮 断 )
80
7 5 .1
75
計算
実測
70
6 4 .3
Head(m)
65
6 1 .9
60
55
50
4 6 .7
45
40
0
60
120
180
240
300
T im e (se c )
導水路内張管(CH22、負荷遮断)
80
75
71.9
70
計算
Head(m)
65
実測
62.9
60
55
50
45.7
45
40
0
60
120
180
240
Time(sec)
図 5.31 導水路サージング・水圧の実測と計算の比較(負荷遮断)
−166−
300
なっているが、値として判読することは可能である。
次に、第 1 波、第 2 波の最大値の計算値と実測値を対比する。結果は表 5.18 となる。
極値の出現時刻については 0∼1 秒のずれにとどまり、よく一致している。極値の大きさ
については、初期値との差ΔH で比較すると、第 2 波は一致しているが、第 1 波で計算
値が実測値を 62%上まわっており、誤差が大きい。また両者とも 40 秒程度で水撃圧が消
散している。
表 5.18
導水路調圧水槽基部水圧の実測と計算の対比(負荷遮断)
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最大値
最大値
実測 (CH25)
圧力
出現
初期値
水頭
時刻
との差
(sec)
∆H(m)
H (m)
0
46.8
0
12
64.3
17.5
36
61.9
15.1
出現
時刻
(sec)
0
12.1
35.2
計算
圧力
水頭
H (m)
46.7
75.1
61.9
誤差
(式
初期値
5.20)
との差
(%)
∆H(m)
0
---28.4
62.3
15.2
0.6
導水路内張管の水圧時刻歴の計算結果、実測結果は、導水路調圧水槽基部のそれと形
状も大きさもほとんど同じである。第 1 波、第 2 波の最大値の計算値と実測値を対比す
ると、表 5.19 のようになる。極値の出現時刻についてはおおむね一致している。極値の
大きさについては、初期値との差ΔH で比較すると、第 2 波はほぼ一致するものの第 1
波で計算値が実測値を 51%上まわっている。水撃圧の消散と残留についても水槽基部と
同一傾向にある。
表 5.19
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最大値
最大値
導水路内張管水圧の実測と計算の対比(負荷遮断)
誤差
実測 (CH22)
計算
(式
出現
圧力
初期値
出現
圧力
初期値
5.20)
時刻
水頭
との差
時刻
水頭
との差
(%)
(sec)
(sec)
H (m) ∆H(m)
H (m) ∆H(m)
0
45.5
0
0
45.7
0
---12
62.9
17.4
13.8
71.9
26.2
50.6
36
60.6
15.1
35.2
59.2
13.5 −9.2
このように水路内の水撃圧の最大値が合致しない理由として制水口係数が実際と計算
の前提とで異なることが考えられる。しかし、係数を減ずると、第 1 波は低くなるが、
サージングが大きくなって第 2 波は高くなるので、両方とも実測と一致させることはで
きない。次に述べる放水路調圧水槽周辺で実測と計算がよく一致すること、後に述べる
入力遮断時には導水路周辺でもよく一致することを考えると、測定データに問題があっ
たのではないかと考えざるを得ない。
図 5.32 に放水路調圧水槽のサージングおよび水槽基部、導水路内張管の水圧の計算結
−167−
果を測定結果と同じ時間スケールで対比して示す。ここで用いるサージング水位の実測
値は、図 5.19 に示した調圧水槽内水圧計(CH42)の実測値を水位標高に換算したもの
である。実測値と計算値の比較は表 5.20 に示すように、水位の誤差は十分小さいが、水
位変動周期が実測より計算結果の方が長くなっていて、時間の経過と共にずれが大きく
なる傾向が見られる。
この原因として考えられるのは、導水路側と同様、時刻 20∼40 秒に見られるサージン
グ波形の食い違いが後まで影響していることであるが、その原因として、この時刻で前
述のように水車出口で水撃圧波形の食い違いが起こっていることが挙げられる。水撃圧
は計算が実測より早まっているのに比し、サージングでは逆に遅れているのも、導水路
と同じく、サージングは水車付近の水圧ではなく流量変化に対応していることから説明
することができる。
表 5.20
時刻歴
放水路調圧水槽サージングの実測と計算の対比(負荷遮断)
誤差
実測 (CH51)
計算
(式
出現
サ ー ジ ン 初期値
サージン 初期値
5.20)
時刻
グ水位(m) との差
グ 水 位 との差
(%)
(sec)
(m)
∆H(m)
∆H(m)
0
812.71
0
0
812.38
0
---38
799.04
23
799.39 −13.32
−13.34
−0.2
4.5
159
807.10
153
806.83
−5.28
−5.88
出現
時刻
(sec)
第 1 波 初期値
最小値
第 2 波 最小値
放水路調圧水槽基部の計算結果では、遮断開始から 12 秒後と 34 秒後に水圧の低下が
認められる。第 1 波、第 2 波の最小値の計算値と実測値を対比する。結果は表 5.21 とな
る。極値の出現時刻については 2 秒のずれにとどまり、よく一致している。また極値の
誤差も 4∼5%と小さく、導水路調圧水槽周辺と異なり、全体によい一致が見られる。
表 5.21
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最小値
最小値
放水路調圧水槽基部水圧の実測と計算の対比(負荷遮断)
誤差
実測 (CH65)
計算
(式
出現
圧力
出現
圧力
初期値
初期値
5.20)
時刻
水頭
時刻
水頭
との差
との差
(%)
(sec)
(sec)
∆H(m)
H (m)
H (m) ∆H(m)
0
78.0
0
0
77.6
0
---12.2
55.3
14.0
54.7
−22.3
−23.3
4.3
34.0
62.7
32.0
64.3
−14.9
−5.2
−13.7
放水路内張管の水圧時刻歴の計算結果、実測結果は、放水路調圧水槽基部のそれと形
状も大きさもほとんど同じである。第 1 波、第 2 波の最大値の計算値と実測値を対比す
ると、表 5.22 のようになる。極値の出現時刻および極値についてよく一致している。
−168−
放 水 路 調 圧 水 槽 サ ー シ ゙ン ク ゙
820
815
8 1 2 .4
WL(m)
810
8 0 7 .1
8 0 6 .8
805
計算
800
7 9 9 .4
実測
7 9 9 .0
795
0
60
120
180
240
300
T im e (se c )
放 水 路 調 圧 水 槽 基 部 (C H65、 負 荷 遮 断 )
90
85
80
77.6
Head(m)
75
70
65
計算
実測
60
55
55.3
54.7
50
0
60
120
180
240
300
Time(sec)
放 水 路 内 張 管 (CH66、負 荷 遮 断 )
90
85
80
78.0
Head(m)
75
70
65
計算
実測
60
55 52.9
53.4
50
0
60
120
180
240
Tim e(sec)
図 5.32 放水路サージング・水圧の実測と計算の比較(負荷遮断)
−169−
300
表 5.22
時刻歴
第1波
第2波
放水路内張管水圧の実測と計算の対比(負荷遮断)
誤差
実測 (CH66)
計算
(式
圧力
圧力
初期値
出現
初期値
5.20)
水頭
水頭
との差
時刻
との差
(%)
(sec)
H (m) ∆H(m)
H (m) ∆H(m)
0
78.0
0
0
78.0
0
---12.2
53.4
11.3
52.9
−24.6
−25.1
2.0
33.7
60.0
32.0
64.3
−18.0 −17.1
−13.7
出現
時刻
(sec)
初期値
最小値
最小値
以上のように、導水路、放水路各調圧水槽周辺の水路水圧の計算結果は、極値の出現
時刻など時刻歴の特性をよく再現したものとなっている。しかし極値の大きさについて
実測に比べて計算値が大きく出る場合があり、この部分については、本研究の水撃圧解
析プログラムによる計算の精度以外に何らかの原因があるものと考えられる。
vii. 実測計算間の位相の乖離に関する考察
図 5.25 および 5.26 に示す 1,2 号機入口・出口の実測と計算の間に見られる位相の乖
離について、実測に見られる水圧脈動、特にその周波数応答が計算の過程で十分に考慮
されていないことが原因ではないか、との視点から考察を加える。
実測結果を見ると、一次的ないし主要な水圧変動と二次的な水圧脈動が重畳している
ことが分かる。前者は周期約 20 秒(約 0.3rad/sec)程度の比較的緩やかに変動する波動
であり、後者は数十 Hz(50∼60Hz、約 300∼400rad/sec)の比較的高周波の波動である。
後者はさらに二分され、水車入口および出口に見られる 2.3.1 で述べたプライミング水圧
脈動に関わるものと、水車出口のみに見られる 2.3.1 で述べたドラフトホワール現象に関
わるものがある。
プライミング水圧脈動は、図 5.27 および 5.29 を参照することにより、計算過程で模型
特性上のS字曲線部分に入った場合に発生し、その区間に何度か出入りを繰り返しつつ
収束に向かう様子が見られる。このことは水車入口について顕著であり、出口について
はドラフトホワール現象による水圧脈動が混在するために不明瞭である。ドラフトホワ
ール現象による水圧脈動は、水車出口においてかなり長時間継続して発生しているよう
であり、水車出口における旋回流が下流まで広範囲に及び慣性があって収まり難くなっ
ていることが想定される。なお、後述するように、揚水時には、出口側に旋回流が発生
しないので、この種の水圧脈動も見られない。
1.2.1(7)で述べた周波数応答の点から見ると、一次的な水圧変動は上記のように低い周
波数であるので、図 1.16 の計算例から推測されるとおり、管路の静的な拘束条件から求
められる圧力波伝播速度を用いることにより十分な精度で解析することができ、管路内
の減衰も考慮する必要はないと考えられる。
二次的な水圧脈動は上記のように高い周波数を有するので、図 1.16 の計算例から推測
されるように周波数の影響を受けて見かけの圧力波伝播速度が上がるとともに、管路沿
−170−
いの減衰が発生するものと考えられる。実際、水車入口における脈動の全振幅が約 50m
であるのに対し、図 5.31 に見られるように、導水路調圧水槽付近では 5m程度になって
いる。このように、二次的な水圧脈動については管路の周波数応答を考慮しなければな
らない。しかしながら本研究では水圧脈動自体を解析に織り込んでいないので、上記の
減少を計算に反映することはできない。二次的水圧脈動は一次的水圧変動に重畳してい
るが、相互に従属しているとは考えにくいので、水圧脈動を無視していることが一次的
水圧変動の解析が実測から乖離していることに影響しているとは考えられない。
この考察の最初に戻り、実測と計算に見られる位相の乖離の原因を推測する。図 5.25
の入口水圧を仔細に見ると、位相の乖離の始まりは約 15 秒で発生している。この時刻に
おける回転速度の計算結果を図 5.23 の下の図から見ると、その少し前から回転速度の減
少がかなり急激であり、図 5.41 に見られる実測値に較べてもやや急すぎるように見える。
すなわち、ややブレーキが利きすぎているのではないかと思われる。図 5.28 に示す模型
トルク特性の負値の絶対値が仮にもう少し小さければ、ブレーキが弱くなって回転速度
の減少が緩やかになるので、第 6 章で例示するポンプ水車のはずみ車効果(GD2)が大
きくなった場合と同様に、水圧変動も遅くなり、位相の乖離が小さくなることが期待で
きる。同様に、35 秒付近に見られるブレーキについても模型のトルク値が小さければ、
再び位相の補正がなされることが期待できる。同様のことが出口側についても、2 号機に
ついても成立することが推測できる。
以上のように、1,2 号機入口・出口の実測と計算の間に見られる位相の乖離は、実測
に見られる水圧脈動がその周波数応答も含めて解析の対象外となっていることが原因で
はなく、模型特性(特にトルク特性)が実機と相違している等、模型の精度の限界によ
るものと推論される。
−171−
5.3.2 入力遮断試験
(1) 測定結果
i.試験条件
実物発電所で行われた試験の代表例として、1996 年 4 月 17 日実施に行われた揚水時
の 2 台同時入力遮断試験の測定結果をシミュレートする。試験条件を表 5.23 に示す。
表 5.23 入力遮断試験条件
試験年月日
上池水位 HUR(m)
下池水位 HLR(m)
1 号機遮断前入力 P0,1(MW)
2 号機遮断前入力 P0,2(MW)
1 号ポンプ効率 ηP1
1 号電動機効率 ηM1
2 号ポンプ効率 ηP2
2 号電動機効率 ηM2
1 号実機サーボモータストロ
ーク
S1 (mm)
(S1max = 400.8)
2 号実機サーボモータストロ
ーク
S2 (mm)
(S2max = 264.4)
損失水頭補正係数 ζ
1 号機推定初期流量 Q0,1(m3/s)
2 号機推定初期流量 Q0,2(m3/s)
1996 年 4 月 17 日
1,293.22
818.44
306.00
350.55
0.91
0.98
0.91
0.98
t(sec)
S1 (mm)
0
357.6
7.54
76.5
22.44
0
t(sec)
S2 (mm)
0
227
8.49
28.0
17.06
0
0.7
−57.36
−65.69
1 号、2 号発電電動機の遮断前入力は、最大入力のそれぞれ 96%、103%に達している。
上池水位が低水位に近く下池水位が満水位に近い低揚程状態での運転であるため、初期
揚水量(2 台合計、推定値)は最大揚水量の約 98%となっている。
ii. 水車に関連する諸量の測定結果
1 号、2 号ポンプ水車に関連する諸量の測定結果を、図 5.33、図 5.34 に示す。測定さ
れている量は、発電電動機("G/M")電流、発電電動機電圧、ガイドベーン("GV")サ
ーボモータストローク S 、ポンプ水車入口("鉄管")内圧 HP 、ポンプ水車出口("ドラ
フト"、"吸出し管")内圧 HD 、回転速度 N である。これらの時刻歴は、定性的に以下の
ような現象を示している。
ポンプの定常運転中に電動機の入力が遮断されると、ガイドベーンの閉鎖によって鉄
管側に水撃圧による下降水頭∆HP が生じ、吸出し管側には上昇水頭∆HD が生ずる。一方、
水圧鉄管内部の水柱の静水圧により水車の回転は妨げられ、回転速度は単調に減少する。
−172−
サーボモータストロークの時刻歴は、最初のうちは急速に開度を絞り、続いて緩やかに
絞っていくため、下に凸の折れ線をなしている。これは揚水発電用ポンプ水車で一般的
に行われる操作で、その理由は発電方向への逆流を回避しつつ水車出口側の上昇水頭を
できるだけ抑制することにある。
負荷遮断の場合のガイドベーン操作では、開度がある程度まで減少すればその値を維
持し、水車を無負荷状態で回転させながら小さい流量を流し続ける。これは水路内の水
に損失水頭を与えて水撃圧を速やかに減衰させるための措置である。これに対し入力遮
断の場合には水圧鉄管内の水の逆流を防ぐため、ガイドベーンを全閉し水路の水流を完
全に遮断する。この結果、水撃圧の主要部分が終息した後も振幅の小さい圧力変動が長
時間にわたって残留している。
iii. 水路内圧の測定結果
図 5.35 は、導水路調圧水槽本体内部(制水口の上側)の水圧、図 5.36、図 5.37 は、
導水路内部(制水口の下側および調圧水槽から 100.50m 取水口寄りの位置)の水圧の時
刻歴である。
図 5.38 は、放水路調圧水槽本体内部(制水口の上側)の水圧、図 5.39、図 5.40 は、
放水路内部(制水口の下側および調圧水槽から 44.42m 水車寄りの位置)の水圧の時刻歴
である。これらの水圧は、負荷遮断試験の場合と同様に 300 秒にわたって測定されてい
る。
水槽本体内部の水圧の時刻歴は、負荷遮断試験の場合と同様に減衰を伴う正弦波であ
り、ほとんどサージングによる静水圧の変化によって決定されている。導水路、放水路
内部の水圧の時刻歴には、負荷遮断試験の場合と同様に初期の期間において、正弦波と
異なる形状の波形が重畳されている。これは、水車から伝播してきた水撃圧による圧力
変化であるが、その継続時間は負荷遮断試験の場合より短く、約 30 秒である。水槽本体
内部でも、圧力変化の開始から約 30 秒経過すると、時刻歴は水槽本体内部と同位相の正
弦波になっている。
−173−
−174−
図 5.33
入力遮断試験
測定結果 (1号機)
−175−
図 5.34
入力遮断試験
測定結果 (2号機)
Head (m)
52.4
47.8
42.4
40.7
32.9
32.4
25.1
22.4
0
60
図 5.35
Head
120
240
180
300
(sec)
導水路調圧水槽内の水圧の実測結果 (CH26、入力遮断)
(m)
53.9
50.0
43.6
39.9
35.5
27.6
25.9
0
60
図 5.36
Head
120
180
240
300
(sec)
導水路調圧水槽制水口下側の水圧の実測結果 (CH25、入力遮断)
(m)
49.1
48.0
42.3
38.0
35.3
29.0
28.0
0
60
図 5.37
120
180
240
導水路内張管の水圧の実測結果 (CH22、入力遮断)
−176−
300
(sec)
Head (m)
36.2
34.4
27.6
26.2
20.7
16.8
16.2
0
60
図 5.38
Head
120
180
240
300
(sec)
放水路調圧水槽内の水圧の実測結果 (CH42、入力遮断)
(m)
101.8
97.5
91.3
91.8
81.7
81.2
81.8
0
60
図 5.39
Head
120
180
240
300
(sec)
放水路調圧水槽制水口下側の水圧の実測結果 (CH65、入力遮断)
(m)
109.3
99.3
94.2
89.3
87.9
81.0
79.3
77.3
0
60
図 5.40
120
180
240
放水路内張管の水圧の実測結果 (CH66、入力遮断)
−177−
300
(sec)
(2) シミュレーション結果
i.概要
5.2.1 に示した水路系のモデルと表 5.23 に示した各ポンプ水車の初期流量の推定値に
基づき、モデルを構成する各単位管の初期流量と各節点の初期圧力水頭を求めると、図
5.41 のようになる。この初期条件および、表 5.23 に示した実機サーボモータストローク
から換算される模型ガイドベーン開度変化に基づいて水撃圧計算を行った。計算結果を
図 5.42∼図 5.45 に示す。
ii.水車入口の水圧
1 号、2 号ポンプ水車に関連する諸量の計算結果を図 5.42、図 5.43 に示す。図 5.44、
図 5.45 に 1 号、2 号ポンプ水車の入口・出口水圧の測定結果と計算結果を同じ時間スケ
ールで対比して示す。
図 5.33、図 5.34 に示すように、入力遮断時の水車入口(鉄管側)の水圧は、巨視的に
見ると、周期の長い|sin|波をなして 1 回だけ大きく低下した後に揺り戻して初期値より
高い値を示し、その後は正弦波状の波動を繰り返しながら減衰していく。図 5.33 では、
初期状態(553.1m 水頭)から最小圧力(405.3m 水頭)を経て最大値(639.8m 水頭)に
到るまでの区間が|sin|波であり、その後入口水圧は約 7 秒の周期の正弦波を経て終息
(540.1m 水頭)に向かっている。図 5.34 に示す 2 号ポンプ水車の挙動も同様である。
今後この周期の長い|sin|波を「第 1 波」と呼ぶこととする。
図 5.44、図 5.45 に示すように、計算された 1 号、2 号ポンプ水車の入口水圧の時刻歴
はいずれも 1 回の|sin|波とそれに続く正弦波から構成されており、一見して実測の時刻
歴と似ている。
次に、第 1 波の最小値と最大値の計算値と実測値を対比する。結果は 1 号機が表 5.24、
2 号機が表 5.25 となる。極値の出現時刻については 1、2 号機とも 1∼2 秒のずれにとど
まり、よく一致している。極値の大きさについては、初期値との差ΔHp で比較すると、
1,2 号機とも第 1 波最小値では 4∼5%でよく一致しているが、最大値では 28∼30%の誤
差で、あまりよく一致していない。
なお実測の時刻暦では、第 1 波に続く正弦波の初期の部分(約 1.5 周期)に、周期が約
0.5 秒のより高周波な水圧の増減が重畳している。この増減波は一種の高周波水圧脈動と
思われ、計算の時刻暦に現れていない。
以上のように、ポンプ水車入口水圧の時刻歴は実測と計算でおおむね一致しており、
本研究の水撃圧解析プログラムによる計算の精度は高いということができる。
−178−
管路No. 上流節点 下流節点
−179−
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
1
2
3
4
5
6
8
9
10
12
13
5
14
16
17
18
1293.22
12
1
①
17
17
3
4
5
6
7
9
18
11
2
10
14
15
9
2
10
管路長
管径
670.77
47.80
673.02
447.32
127.08
12.00
105.25
22.50
779.25
12.00
12.00
127.08
12.00
97.39
100.50
44.42
損失水頭係数 初期流量
5.70
5.70
5.00
4.40
3.20
2.25
4.10
5.70
5.70
8.022E-05
1.069E-05
1.495E-04
2.117E-04
2.946E-04
1.987E-04
6.711E-05
1.588E-05
9.145E-05
0.000E+00
0.000E+00
2.946E-04
1.987E-04
5.452E-05
1.135E-05
4.290E-06
3.20
2.25
4.10
5.70
5.70
⑩
⑮
123.05
123.05
123.05
123.05
65.66
65.66
65.66
123.05
123.05
0.00
0.00
57.39
57.39
57.39
123.05
123.05
2号水車
②
2
節点No. 節点コード 水路中心 初期水頭
標高
1
3
1262.850 1293.2200
2
1
1247.850 1293.4201
3
1
1240.436 1292.7646
4
1
932.586 1293.6906
5
1
739.600 1296.8965
6
1
739.000 1298.1072
7
4
739.000 1288.4511
8
5
731.050
815.1986
9
1
731.050
815.8039
10
1
731.850
815.8689
11
3
795.850
818.4400
12
2
1293.4201
13
2
815.8689
14
1
739.000 1298.6101
15
4
739.000 1291.2333
16
5
731.050
815.6062
17
1
1249.988 1293.2482
18
1
731.850
815.5634
⑥
3
③
⑤
6
13
7
8 ⑦
⑪
④
4
5
9
⑫
⑭
16
14 ⑬ 15
1号水車
図 5.41
⑯
⑧
水撃圧計算モデルと初期値 (入力遮断)
18
818.44
⑨
10
11
1号機出口水圧・ガイドベーン開度・流量
114.9
120
100
76.6
80
Q(m3/s), Hd(m), GVO(%)
60
40
20
14.7
0
0
10
20
30
40
50
60
-20
出口水圧(Hd)
ガイドベーン開度(GVO)
流量(Q)
-40
-70.3
-60
-80
Time(sec)
1号機入口水圧・回転速度
600
552.2
Hp(m), N(-r.p.m)
500
396.6
400
水車入口水圧(Hp)
回転速度(N、正負反転表示) 300
200
100
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 5.42 1 号機の入口・出口水圧、回転速度、流量の計算結果(入力遮断)
−180−
60
2号機出口水圧・ガイドベーン開度・流量
120
113.6
100
76.2
80
Q(m3/s), Hd(m), GVO(%)
60
40
20
9.7
0
0
10
20
30
40
50
60
-20
出口水圧(Hd)
ガイドベーン開度(GVO)
流量(Q)
-40
-60
-65.7
-80
Time(sec)
2号機入口水圧・回転速度
600
549.5
Hp(m), N(-r.p.m)
500
395.3
400
水車入口水圧(Hp)
回転速度(N、正負反転表示) 300
200
100
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 5.43 2 号機の入口・出口水圧、回転速度、流量の計算結果(入力遮断)
−181−
60
1号機入口水圧
700
650
600
Hp(m)
550
500
450
計算
実測
400
350
0
5
10
15
Time(sec)
20
25
30
1号機出口水圧
120
Hd(m)
100
80
60
計算
実測
40
0
5
10
15
Time(sec)
20
25
図 5.44 1 号機入口・出口水圧の実測と計算の比較(入力遮断)
−182−
30
2号機入口水圧
700
650
600
Hp(m)
550
500
450
計算
実測
400
350
0
5
10
15
Time(sec)
20
25
30
2号機出口水圧
120
Hd(m)
100
80
計算
実測
60
40
0
5
10
15
Time(sec)
20
25
図 5.45 2 号機入口・出口水圧の実測と計算の比較(入力遮断)
−183−
30
表 5.24
時刻歴
第1波
1 号ポンプ水車入口水圧の実測と計算の対比(入力遮断)
誤差
実測
計算
(式
圧力
圧力
初期値
出現
初期値
5.20)
水頭
水頭
との差
時刻
との差
(%)
(sec)
HP(m) ∆HP(m)
HP (m) ∆HP(m)
0
553.1
0
0
552.2
0
---5.0
396.6 −155.6
6.7
405.3
−147.8
−5.3
12.1
639.8
86.7
11.4
598.0
45.8
−27.7
出現
時刻
(sec)
初期値
最小値
最大値
表 5.25
時刻歴
第1波
初期値
最小値
最大値
2 号ポンプ水車入口水圧の実測と計算の対比(入力遮断)
誤差
実測
計算
(式
出現
圧力
初期値
出現
圧力
初期値
5.20)
時刻
水頭
との差
時刻
水頭
との差
(%)
(sec)
(sec)
HP (m) ∆HP(m)
HP (m) ∆HP(m)
0
550.4
0
0
549.5
0
---5.5
395.3
4.9
402.7
−154.2
−147.7
−4.4
11.2
644.2
93.8
11.2
598.4
48.9 −30.4
iii.水車出口の水圧
図 5.33、図 5.34 に示すように、入力遮断時の水車出口(放水路側)の水圧は、巨視的
に見ると 1 回の周期の長い三角状の波動を形成しつつ最大値に達し、その後減少して、
遮断開始後約 12 秒以降はほぼ一定値を示す。この三角状波は最大値が出現する数秒前か
ら高周波水圧脈動を伴う。図 5.33 では、初期状態(69.4m 水頭)から最大値(120.8m
水頭)に到るまでの区間が三角状波の増加区間であり、出口水圧はこの最大値を経て終
息(86.8m 水頭)に向かっている。三角状波の減少区間の終点の時刻は不明瞭である。
図 5.34 に示す 2 号ポンプ水車の挙動も同様である。今後この三角状波を「第 1 波」と呼
ぶこととする。
図 5.44、図 5.45 に示すように、計算された 1 号、2 号ポンプ水車の出口水圧の時刻歴
は実測値と比較的よく一致している。極値について着目すると、表 5.26(1 号機)およ
び表 5.27(2 号機)に共通に見られるように、圧力変動の絶対値で 26∼28%の誤差とな
っており、水車入口と同じく計算結果が実測値より小さい。ただ、圧力水頭の絶対値は
それほど大きな差とはなっていない。
表 5.26
時刻歴
第1波
初期値
最大値
1 号ポンプ水車出口水圧の実測と計算の対比(入力遮断)
誤差
実測
計算
(式
出現
圧力
圧力
初期値
初期値
5.20)
時刻
水頭
水頭
との差
との差
(%)
(sec)
HD (m) ∆HD(m)
HD (m) ∆HD(m)
0
69.4
0
0
76.6
0
---7.9
120.8
51.4
7.4
114.9
38.3 −25.5
出現
時刻
(sec)
−184−
表 5.27
時刻歴
第1波
2 号ポンプ水車出口水圧の実測と計算の対比(入力遮断)
誤差
実測
計算
(式
圧力
圧力
初期値
出現
初期値
5.20)
水頭
水頭
との差
時刻
との差
(%)
(sec)
HD (m) ∆HD(m)
HD (m) ∆HD(m)
0
70.6
0
0
76.2
0
---8.8
122.8
52.2
8.5
113.6
37.4 −28.4
出現
時刻
(sec)
初期値
最大値
iv.回転速度の変動
図 5.33、図 5.34 に示すように、入力遮断に伴ってポンプ水車の回転速度は初期値から
単調減少する。図 5.42、図 5.43 に示すように、計算された 1 号、2 号ポンプ水車の回転
速度の時刻歴も単調減少しており、一見して実測の時刻歴と似ている。
次に、実測された回転速度の時刻歴のうち、ガイドベーン開度がゼロになった時刻で
の値を判読し、計算値と対比する。結果は 1 号機が表 5.28、2 号機が表 5.29 となる。ガ
イドベーンの全閉時刻と初期回転速度は入力データであるから当然一致している。全閉
時の回転速度については、初期値との差ΔN で比較すると、1、2 号機とも 13∼15%の誤
差で、比較的よく一致している。
表 5.28
時刻歴
初期値
全閉時
表 5.29
時刻歴
初期値
全閉時
1 号ポンプ水車回転速度の実測と計算の対比(入力遮断)
誤差
実測
計算
(式
回転
出現
回転
初期値
初期値
5.20)
速度
時刻
速度
との差
との差
(%)
N(rpm) ∆N(rpm) (sec)
N(rpm) ∆N(rpm)
0
429
0
0
429
0
---21.9
174
21.9
208
−255
−221
15.4
出現
時刻
(sec)
2 号ポンプ水車回転速度の実測と計算の対比(入力遮断)
実測
計算
誤差
(式
出現
回転
出現
回転
初期値
初期値
5.20)
時刻
速度
時刻
速度
との差
との差
(%)
(sec)
N(rpm) ∆N(rpm) (sec)
N(rpm) ∆N(rpm)
0
449
0
0
449
0
---16.9
248
16.9
271
−201
−178
12.9
v.完全特性上での運転状態の変化
1 号ポンプ水車の運転状態の変化を、n-q 特性図、n-τ特性図上の軌跡として図 5.46、
図 5.47 に示す。同様に 2 号ポンプ水車の運転状態の変化を、n-q 特性図、n-τ特性図上
の軌跡として図 5.48、図 5.49 に示す。これらの特性図は図 4.4 および図 4.5 に示した完
全特性の一部を拡大して示しており、この場合は第2象限と第3象限である。
−185−
1号機模型流量特性
流量 QM(m3/s)
0.04
-250
110%
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
5%
0%
計算結果
0.03
0.02
0.01
t=60
-200
-150
-100
0
-50
0
-0.01
-0.02
-0.03
t=0
-0.04
-0.05
-0.06
回転数 NM(r.p.m)
図 5.46 入力遮断時の 1 号機の運転状態変化(n−q 特性)
1号機模型トルク特性
2.5
t=0
2
t=0
トルク TM(t-m)
1.5
-250
110%
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
5%
0%
計算結果
1
0.5
t=60
0
-200
-150
-100
-50
0
-0.5
-1
回転数 NM(r.p.m)
図 5.47 入力遮断時の 1 号機の運転状態変化(n−τ 特性)
−186−
2号機模型流量特性
0.04
流量 QM(m3/s)
100%
85.71%
71.43%
57.14%
42.86%
28.57%
14.29%
0%
計算結果
0.03
0.02
0.01
t=60
0
-250
-200
-150
-100
-50
0
-0.01
-0.02
-0.03
t=0
-0.04
-0.05
回転数 NM(r.p.m)
図 5.48 入力遮断時の 2 号機の運転状態変化(n−q 特性)
2号機模型トルク特性
2.5
トルク TM(t-m)
100%
85.71%
71.43%
57.14%
42.86%
28.57%
14.29%
0%
計算結果
2
t=0
1.5
1
0.5
t=60
0
-250
-200
-150
-100
-50
0
-0.5
-1
回転数 NM(r.p.m)
図 5.49 入力遮断時の2号機の運転状態変化(n−τ 特性)
−187−
1 号機の n-q 特性図上の軌跡は揚水運転から始まるので、始点は第 3 象限(揚水運転領
域。流量<0、回転速度<0)の左下部分(大きい揚水量。図では判別できないがガイドベ
ーン開度も高い位置)にある。この状態から遮断が進むと流量が増加(= 揚水量が減少)
し、第 2 象限(ポンプブレーキ領域。流量>0、回転速度<0)に入る。このときランナは
揚水方向に回転しているが、流量は逆転して発電方向となっている。その後流量は再度
減少し、最後にガイドベーン開度ゼロ(全閉状態に相当)に収束する。このように運転
状態が第 3 象限と第 2 象限を 1 回行き来することは、計算された流量の時刻歴(図 5.42)
において 1 回の逆流期間が存在することと対応している。この間に運転状態点の横軸座
標(回転速度)は単調に右に移動するが、これは回転速度の時刻歴が単調減少であるこ
とと対応している。
1 号機の n-τ特性図上の軌跡の始点は第 2 象限(揚水運転領域。トルク>0、回転速度
<0)の左上部分(高いトルクおよびガイドベーン開度)にある。この状態では水から水
車に回転速度を上げる方向(実際には逆転しているのでその絶対値を下げる方向)の回
転力が伝達されている。遮断が進むとトルクが減少し、最後に横座標軸上(トルク=0、
全閉状態に相当)に収束する。
2 号ポンプ水車の運転状態の変化を示す n-q 特性図、n-τ特性図上の軌跡も、1 号機の
それとほぼ同様である。
以上のような挙動は可逆ポンプ水車の負荷遮断条件の解析によって一般に得られてい
るものと一致している。これらの軌跡に不連続な部分が認められないことから、本研究
の計算結果は妥当なものであると考えられる。
vi. 調圧水槽のサージングおよび水路の水圧
図 5.50 に入力遮断時の導水路調圧水槽のサージングおよび水槽基部、導水路内張管の
水圧の計算結果を測定結果と同じ時間スケールで対比して示す。ここでもサージング水
位の実測値は、図 5.35 に示した調圧水槽内水圧計(CH26)の実測値を水位標高に換算
したものである。同じく放水路関係の測定結果と計算結果を図 5.51 に示す。
サージング水位は導水路調圧水槽、放水路調圧水槽ともに負荷遮断時と同様の誤差に
収まっており、水路各箇所の水圧変化も実測値と計算結果がよく一致している。特に導
水路調圧水槽付近の水圧変化が、負荷遮断時と異なりよく一致していることが注目され
る。放水路の水路内水圧にあっても実測値と計算結果がよく一致している。
−188−
導 水 路 調 圧 水 槽 サ ー シ ゙ン ク ゙
1305
1 ,3 0 1 .4
1 ,3 0 0 .1
1300
1295
1290
1 ,2 8 7 .5
1 ,2 8 6 .5
1285
1280
計算
1 ,2 7 8 .7
実測
1 ,2 7 7 .3
1275
0
60
120
180
240
300
T im e (s e c )
導 水 路 調 圧 水 槽 基 部 (C H 25、 入 力 遮 断 )
55
50.1
50
49.2
計算
実測
45
Head(m)
42.8
40
35
30
2 7.7
26.6
25
20
0
60
120
180
240
300
Tim e(sec)
導 水 路 内 張 管 (C H 22、 入 力 遮 断 )
55
49.1
50
47.2
45
41.3
Head(m)
WL(m)
1 ,2 9 3 .4
40
35
計算
実測
2 9.0
30
26.5
25
20
0
60
120
180
240
Tim e(sec)
図 5.50 導水路サージング・水圧の実測と計算の比較(入力遮断)
−189−
300
放 水 路 調 圧 水 槽 サ ー ジンク ゙
8 35
計算
829.7
8 30
実測
829.4
8 25
WL(m)
822.6
8 20
815.8
8 15
811.3
811.8
8 10
0
60
120
180
240
300
Tim e(sec)
放 水 路 調 圧 水 槽 基 部 (C H 65、 入 力 遮 断 )
1 15
1 10
107.8
1 05
Head(m)
1 00
計算
95
実測
90
85
81.2
80
76.8
75
70
0
60
120
180
240
3 00
Tim e(sec)
放 水 路 内 張 管 (C H 66 、 入 力 遮 断 )
1 15
110.6
1 10
1 05
Head(m)
1 00
95
計算
実測
90
85
80.9
80
76.9
75
70
0
60
120
180
240
Tim e(sec)
図 5.51 放水路サージング・水圧の実測と計算の比較(入力遮断)
−190−
3 00
5.3.3 ずれ負荷遮断試験
2.3.3(1)で述べたように、同一管路に連結する複数台のポンプ水車が、ある時間差を持
って負荷遮断した場合、その時間差によっては比較的大きな水撃圧を生ずる可能性があ
り、奥清津第二発電所では、事前のシミュレーションにより、1 号機が 2 号機より 6 秒先
行したときに最も大きな影響があるがことが予測されていたため、そのケースを模擬し
た実機試験及び測定を実施した。
(1) 測定結果
i.試験条件
実発電所で行われた試験の代表例として、1996 年 4 月 16 日実施の 1 号先行 6 秒ずれ
全負荷遮断試験の測定結果をシミュレートする。試験条件を表 5.30 に示す。2 台の発電
機の遮断前負荷は、最大出力 300MW を 1.5∼3.3%下回るもののそれに近い値に達してい
る。上池水位、下池水位とも低水位よりは満水位に近く、初期全落差は最低落差よりは
最高落差に近い。落差が大きく遮断前負荷が小さいことから、初期流量(推定値)は最
大使用水量より約 6%少なくなっている。
発電電動機の負荷はまず 1 号機において遮断され、6 秒後に 2 号機の負荷が遮断されて
いる。この 6 秒間に 2 号機は電力系統に接続されたまま運転されている。なお、ずれ負
荷遮断試験においては調圧水槽等の水路における内圧の測定は行われていない。
表 5.30 ずれ負荷遮断試験条件
1996 年 4 月 16 日
1,295.94
816.12
295.65
290.25
0.91
0.98
0.90
0.98
t(sec)
S1 (mm)
0
380.1
3.15
263.3
55.25
41.4
t(sec)
S2 (mm)
2 号実機サーボモータストローク
0
241
S2 (mm)
1.90
177.4
(S2max = 264.4)
(1 号機より 6 秒後を t=0 と表 6.52
119.2
30.78
26.5
示)
36.22
10.6
0.7
損失水頭補正係数 ζ
3
1 号機推定初期流量 Q0,1(m /s) 72.76
2 号機推定初期流量 Q0,2(m3/s) 72.23
試験年月日
上池水位 HUR(m)
下池水位 HLR(m)
1 号機遮断前負荷 P0,1(MW)
2 号機遮断前負荷 P0,2(MW)
1 号水車効率 ηT1
1 号発電機効率 ηG1
2 号水車効率 ηT2
2 号発電機効率 ηG2
1 号実機サーボモータストローク
S1 (mm)
(S1max = 400.8)
−191−
ii. 水車に関連する諸量の測定結果
1 号、2 号ポンプ水車に関連する諸量の測定結果を、図 5.52、図 5.53 に示す。測定さ
れている量は、発電電動機("G/M")電流、発電電動機電圧、ガイドベーン("GV")サ
ーボモーターストローク S 、ポンプ水車入口("鉄管")内圧 HP 、ポンプ水車出口("ド
ラフト"、"吸出し管")内圧 HD 、回転速度 N である。これらの時刻歴は、基本的には 2
台同時全負荷遮断試験の場合と同様である。
発電機の負荷が遮断されると、ガイドベーンの閉鎖によって鉄管側に水撃圧による上昇
水頭∆HP が生じ、吸出し管側には下降水頭∆HD が生ずる。後述するように、これらの水圧
の時刻歴の一部区間には、2 台同時全負荷遮断試験試験では観測されない複雑な変動が加
わっている。一方、電気的反発力の喪失により水車は空転を始め、回転速度が上昇し、最
大値 Nmax に達する。1 号機の Nmax 値は 2 台同時全負荷遮断試験試験の場合より小さいが、
一方でその状態が約 5 秒にわたって持続する。2 号機の回転速度の時刻歴は、2 台同時全
負荷遮断試験試験の場合とほとんど同じである。サーボモーターストロークの時刻歴は、
2 台同時全負荷遮断試験と同様の下に凸の折れ線をなしており、初期値、各折点での値お
よびそれぞれの値の出現時刻もおおむね同様である。
内圧 HP 、HD の時刻歴には、2 台同時全負荷遮断試験試験の場合と同様に、高周波水
圧脈動が重畳している。
(2) シミュレーション結果
i.概要
5.2.1 に示した水路系のモデルと表 5.30 に示した各ポンプ水車の初期流量の推定値に
基づき、モデルを構成する各単位管の初期流量と各節点の初期圧力水頭を求めると、図
5.54 のようになる。この初期条件および、表 5.30 に示した実機サーボモーターストロー
クから換算される模型ガイドベーン開度変化に基づいて水撃圧計算を行った。
ii.水車入口の水圧
1 号、2 号ポンプ水車に関連する諸量の時刻歴の計算結果を、図 5.55、図 5.56 に示す。
図 5.57、図 5.58 に 1 号、2 号ポンプ水車の入口・出口水圧の測定結果と計算結果を同じ
時間スケールで対比して示す。
ずれ負荷遮断時の水車入口(鉄管側)の水圧は、2 台同時負荷遮断時と同様に、巨視的
に見ると台形状の波動を繰り返しながら減衰していく。図 5.52 に示す 1 号ポンプ水車の
挙動においては、初期状態(527.8m 水頭)から最大圧力(666.6m 水頭)を経て最小値
(473.9m 水頭)に到るまでの区間が 1 回目の台形波であり、入口水圧はこの最小値とそ
の後の 2 回の極小値(遮断開始後 48.7 秒後、58 秒後)との間にはさまれた 2 回目、3 回
目の台形波を経て終息(546.0m 水頭)に向かっている。図 5.53 に示す 2 号ポンプ水車
の挙動においても、入口水圧は 3 回の台形波を経て終息している。今後これら 3 回の台
形波を「第 1 波」
、
「第 2 波」
、
「第 3 波」と呼ぶこととする。
−192−
−193−
図 5.52
ずれ負荷遮断試験
測定結果 (1号機)
−194−
図 5.53
ずれ負荷遮断試験
測定結果 (2号機)
管路No. 上流節点 下流節点
−195−
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
1
2
3
4
5
6
8
9
10
12
13
5
14
16
17
18
1295.94
12
1
①
17
17
3
4
5
6
7
9
18
11
2
10
14
15
9
2
10
管路長
管径
670.77
47.80
673.02
447.32
127.08
12.00
105.25
22.50
779.25
12.00
12.00
127.08
12.00
97.39
100.50
44.42
損失水頭係数 初期流量
5.70
5.70
5.00
4.40
3.20
2.25
4.10
5.70
5.70
6.319E-05
9.951E-06
1.483E-04
2.195E-04
2.946E-04
1.347E-04
6.711E-05
1.314E-05
1.160E-04
0.000E+00
0.000E+00
2.946E-04
1.347E-04
5.452E-05
1.135E-05
4.290E-06
3.20
2.25
4.10
5.70
5.70
⑩
⑮
144.99
144.99
144.99
144.99
72.23
72.23
72.23
144.99
144.99
0.00
0.00
72.76
72.76
72.76
144.99
144.99
2号水車
②
2
節点No. 節点コード 水路中心 初期水頭
標高
1
3
1262.850 1295.9400
2
1
1247.850 1292.7258
3
1
1240.436 1291.3818
4
1
932.586 1286.4069
5
1
739.600 1281.7935
6
1
739.000 1280.7803
7
4
739.000 1267.3557
8
5
731.050
817.7481
9
1
731.050
817.0016
10
1
731.850
816.9114
11
3
795.850
816.1200
12
2
1292.7258
13
2
816.9114
14
1
739.000 1280.6970
15
4
739.000 1267.0747
16
5
731.050
817.6641
17
1
1249.988 1292.9645
18
1
731.850
817.2779
⑥
3
③
⑤
6
13
7
8 ⑦
⑪
④
4
⑯
⑧
5
9
⑫
⑭
18
10
16
14 ⑬ 15
1号水車
図 5.54
816.12
⑨
水撃圧計算モデルと初期値 (ずれ負荷遮断)
11
ガイドベーン開度・流量
100
1号機ガイドベーン開度(GVO)
2号機ガイドベーン開度(GVO)
1号機流量(Q)
2号機流量(Q)
80
72.8
Q(m3/s), GVO(%)
60
40
32.8
24.8
20
0
0
10
20
30
40
50
60
-16.2
-19.8
-20
Time(sec)
回転速度
600
562
546
550
1号機回転速度(N)
2号機回転速度(N)
N(r.p.m)
500
450
429
425
400
350
300
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 5.55 1,2 号機の回転速度、流量の計算結果(ずれ負荷遮断)
−196−
60
入口水圧
700
675.5
673.4
1号機入口水圧(Hp)
2号機入口水圧(Hp)
650
Hp(m)
600
550
528.1
500
450
400
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
60
出口水圧
100
1号機出口水圧(Hd)
2号機出口水圧(Hd)
89.8
90
83.6
78.7
80
Hd(m)
70
60
50
43.1
40
32.9
30
20
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 5.56 1,2 号機の入口・出口水圧の計算結果(ずれ負荷遮断)
−197−
60
入口水圧
700
計算
実測
650
Hp(m)
600
550
500
450
400
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
60
出口水圧
100
計算
実測
90
80
Hd(m)
70
60
50
40
30
20
0
10
20
30
Time(sec)
40
図 5.57 1 号機の入口・出口水圧の実測と計算の比較
−198−
50
60
入口水圧
700
計算
実測
650
Hp(m)
600
550
500
450
400
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
60
出口水圧
100
計算
実測
90
80
Hd(m)
70
60
50
40
30
20
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 5.58 2 号機の入口・出口水圧の実測と計算の比較(ずれ遮断)
−199−
60
1 号ポンプ水車実測結果を 2 台同時負荷遮断の場合(図 5.14)と比較すると、第 1 波の減
退区間(遮断開始後 15-25 秒)に現われる微視的な極大値・極小値が、2 台同時負荷遮断
の場合に比べてはるかに大きくなっており、そのうち 1 個目の極大値が時刻歴全体を通
じての最大値となっている。第 1 波、第 2 波の終わりの極小値は 2 台同時負荷遮断の場
合に比べて後へずれており、第 1 波、第 2 波全体の持続時間がより長くなっている。逆
に第 3 波は短時間で終了している。
2 号ポンプ水車実測結果では、先行する 1 号機の遮断から 2 号機の遮断までの 6 秒間に、
水車入口水圧は既に上昇し始めている。第 1 波の減退区間(1 号機遮断開始後 16-28 秒)
には、1 号機の時刻歴と同様に、顕著な水圧の増減が認められる。第 2 波の持続時間は、
1 号機のそれと異なり、2 台同時負荷遮断の場合(図 5.15)とほとんど同じである。第 3 波
は、2 台同時負荷遮断の場合に比べて短時間で終了している。
図 5.55、図 5.56 に示すように、計算された 1 号、2 号ポンプ水車の入口水圧の時刻歴
はいずれも 3 回の台形波を形成しており、しかも上に述べた 2 台同時負荷遮断の場合と
異なる特徴もおおむね再現されており、一見して実測の時刻歴と似ている。たとえば計
算された 1 号機時刻歴の第 1 波、第 2 波の持続時間はそれぞれ約 28 秒、20 秒で、実測
とほぼ同じである。1 号機の第 1 波、第 2 波の持続時間が 2 台同時負荷遮断の場合より長
くなるのは、遅れて生起する 2 号機の第 1 波、第 2 波の水圧上昇が水圧鉄管の分岐管を
介して伝播し、1 号機入口の水圧を押し上げるためだと考えられる。一方、計算された 2
号機時刻歴の第 1 波においては、1 号機の遮断から 2 号機の遮断までの 6 秒間に、実測と
同様水車入口水圧が上昇し始めている。これは、1 号機の遮断によって発生した水撃圧の
圧力波が水圧鉄管の分岐管を介して伝播し、2 号機入口の水圧を押し上げるためだと考え
られる。
しかし計算された 1 号機時刻歴の第 1 波の減退区間に現われる微視的な極大値・極小
値に着目すると、実測値に見られる 1 個目の極大値(666.6m 水頭)の直前の極小値がほ
とんど認められないなど、定性的傾向として実測時刻歴を再現できていない部分もある。
次に、第 1 波から第 3 波までの台形波の最小値(第 1 波については初期値)と最大値
の計算値と実測値を対比する。結果は 1 号機が表 5.31、2 号機が表 5.32 となる。極値の
出現時刻については、1、2 号機ともに第 1 波は 0∼1 秒のずれにとどまっているが第 2
波以降は 4∼5 秒ずれている。極値の大きさについては、初期値との差∆HP で比較すると、
1 号機の第 1 波最大値では 5%の誤差で、よく一致している。1 号機の第 2 波以降は 1∼
31%の誤差となる。2 号機については第 2 波開始以降の誤差が 1∼22%で 1 号機と同様に
やや大きい。しかしポンプ水車と水圧鉄管の設計内圧として最も重要な第 1 波の最大値
については 5%の誤差で、よく一致している。
以上のように、ポンプ水車入口水圧の時刻歴は実測と計算でおおむね一致しており、
本研究の水撃圧解析プログラムによる計算の精度は高いと言うことができる。
−200−
表 5.31
時刻歴
第1波
第2波
第3波
1 号ポンプ水車入口水圧の時刻歴の対比(ずれ負荷遮断)
出現
時刻
(sec)
0
18.4
27.4
38.4
48.8
51.5
初期値
最大値
最小値
最大値
最小値
最大値
表 5.32
時刻歴
第1波
第2波
第3波
誤差
実測
計算
(式
圧力
圧力
初期値
出現
初期値
5.20)
水頭
水頭
との差
時刻
との差
(%)
(sec)
HP(m) ∆HP(m)
HP (m) ∆HP(m)
527.8
0
0
528.1
0
---666.6
138.8
17.7
673.4
145.3
4.7
0.9
22.8
475.5
473.9
−52.6
−53.9
602.8
75.0
36.0
625.9
97.8
16.4
43.8
484.6
521.1
−43.5
−26.5
−6.7
577.4
49.6
46.5
604.1
76.0
31.4
2 号ポンプ水車入口水圧の時刻歴の対比(ずれ負荷遮断)
出現
時刻
(sec)
初期値
最大値
最小値
最大値
最小値
最大値
0
14.4
27.6
38.8
48.8
51.4
誤差
実測
計算
(式
圧力
初期値
出現
圧力
初期値
5.20)
水頭
との差
時刻
水頭
との差
(%)
(sec)
HP (m) ∆HP(m)
HP (m) ∆HP(m)
527.6
0
0
528.4
0
---682.6
155.0
14.2
675.5
147.1
−5.1
0.8
25.8
495.4
493.0
−33.4
−34.6
595.5
66.8
36.2
625.1
96.7
19.3
44.0
485.3
519.0
−43.1 −22.3
−8.6
571.1
43.5
46.5
602.4
74.0
19.7
iii.水車出口の水圧
図 5.52、図 5.53 に示すように、全負荷遮断時の水車出口(放水路側)の水圧は、巨視
的に見ると|sin|状の波動を繰り返しながら減衰していく。この波動は水車入口水圧の台
形波と同周期、逆位相となっている。図 5.52 では、初期状態(70.3m 水頭)から最小値
(33.0m 水頭)を経て最大値(88.8m 水頭)に到るまでの区間が 1 回目の|sin|波であり、
出口水圧はこの最大値とその後の 1 回の極大値(遮断開始後約 47.9 秒後)との間にはさ
まれた 2 回目の|sin|波を経て終息(79.4m 水頭)に向かっている(高周波水圧脈動に埋
没して途中から判別できなくなっているが、3 回目の波も存在している)
。図 5.53 に示す
2 号ポンプ水車の挙動においてはさらに不明瞭であるが、出口水圧はやはり 3 回の|sin|
波を経て終息している。今後これら 3 回の|sin|波を「第 1 波」
、
「第 2 波」
、
「第 3 波」と
呼ぶこととする。
1 号ポンプ水車の時刻歴を 2 台同時負荷遮断の場合(図 5.14)と比較すると、第 1 波の減
退区間(遮断開始後 15-25 秒)に現われる微視的な極大値・極小値が、2 台同時負荷遮断
の場合に比べてはるかに大きくなっており、そのうち 1 個目の極小値が時刻歴全体を通
じての最小値となっている。第 1 波、第 2 波の終わりの極小値は 2 台同時負荷遮断の場
−201−
合に比べて後へずれており、第 1 波、第 2 波全体の持続時間がより長くなっている。逆
に第 3 波は短時間で終了している。前述した水車入口における最高水圧(666.6m)が 2
台同時負荷遮断時(701.0m)よりかなり小さい値を示すのに対し、水車出口の最低水圧
では 2 台同時負荷遮断時(33.3m)と同じかむしろ低い値(33.0m)を示す。このことは、
ずれ遮断が水車入口よりも出口側により多く影響することを示している。
2 号ポンプ水車の時刻歴では、先行する 1 号機の遮断から 2 号機の遮断までの 6 秒間に、
水車出口水圧は既に下降し始めている。第 1 波の減退区間(1 号機遮断開始後 16-28 秒)
には、1 号機の時刻歴と同様に、顕著な水圧の増減が認められる。第 2 波の持続時間は、
1 号機のそれと異なり、2 台同時負荷遮断の場合(図 5.15)とほぼ同じである。第 3 波は、
2 台同時負荷遮断の場合に比べて短時間で終了している。
図 5.57、図 5.58 に示すように、計算された 1 号、2 号ポンプ水車の出口水圧の時刻歴
は不明瞭であるが 3 回の|sin|波を形成しており、しかも上に述べた 2 台同時負荷遮断の
場合と異なる特徴もおおむね再現されており、実測の時刻歴と類似した形状をなしてい
る。第 2 波以降の極値の時刻と大きさは不明瞭であるので、第 2 波初期値(極大値)ま
での初期値と最小値の計算値と実測値を対比する。結果は 1 号機が表 5.33、2 号機が表
5.34 となる。極値の出現時刻については第 1 波ではおおむね一致しているが、第 2 波で
は約 6 秒のずれが認められ、水車入口水圧の計算結果に比べると誤差が大きい。極値の
大きさについては、23∼39%の誤差があり、水車入口水圧の計算結果に比べると誤差が
大きいが、設計上問題となる 1 号機の最小水圧と 2 号機の最大水圧の絶対値 Hd で見る
限り、計算結果は実測値とよく一致している。
表 5.33
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最小値
最大値
表 5.34
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最小値
最大値
1 号ポンプ水車出口水圧の時刻歴の対比(ずれ負荷遮断)
誤差
実測
計算
(式
出現
圧力
出現
圧力
初期値
初期値
5.20)
時刻
水頭
時刻
水頭
との差
との差
(%)
(sec)
(sec)
HD (m) ∆HD(m)
HD (m) ∆HD(m)
0
70.3
0
0
78.7
0
---17.7
32.9
17.3
33.0
−45.8 −22.8
−37.3
27.3
88.8
18.5
21.2
83.6
4.9 −36.5
2 号ポンプ水車出口水圧の時刻歴の対比(ずれ負荷遮断)
誤差
実測
計算
(式
出現
圧力
初期値
出現
圧力
初期値
5.20)
時刻
水頭
との差
時刻
水頭
との差
(%)
(sec)
(sec)
HD (m) ∆HD(m)
HD (m) ∆HD(m)
0
74.0
0
0
78.7
0
---13.8
47.7
14.8
23.0
−31.0
−51.0
39.2
23.9
85.9
11.9
18.1
89.8
11.1
−1.6
−202−
以上のように、ポンプ水車出口水圧の時刻歴は実測と計算が必ずしも一致していない
が、極値の出現時刻など時刻歴の巨視的な特性はかなりよく再現されており、2 台同時負
荷遮断の場合と同程度の精度には達している。
iv.回転速度の変動
図 5.52、図 5.53 に示すように、負荷遮断に伴ってポンプ水車の回転速度は最大値 Nmax
まで上昇し、その後 1 回の増減を経て定常値(無負荷回転速度)に収束していく。最大
、その次の極大値を含む回転速度の上
回転速度 Nmax を含む回転速度の上昇を「第 1 波」
昇を「第 2 波」と呼ぶこととする。
1 号ポンプ水車の時刻歴を 2 台同時負荷遮断の場合(図 5.14)と比較すると、第 1 波は
Nmax までの上昇区間の勾配が Nmax 以降の下降区間のそれに比べてはるかに急な左右非対
称型となっており、Nmax の近傍は約 5 秒にわたって水平に近くなっている。また、第 3
波が認められない。
2 号ポンプ水車の時刻歴では、先行する 1 号機の遮断から 2 号機の遮断までの 6 秒間に、
回転速度はわずかに初期値からずれるものの、ほぼ同じ値を保っている。第 1 波の形状
は、1 号機ほどではないが、上昇区間の勾配が下降区間のそれに比べて急な左右非対称型
となっている。第 2 波は、2 台同時負荷遮断の場合と同じく、第 1 波よりはるかに小さい。
第 3 波は認められない。
図 5.55 に示すように、計算された 1 号、2 号ポンプ水車の回転速度の時刻歴は 1 号機
で 3 回、2 号機で 2 回の波を形成している。1 号機の波数が 1 個多いものの、1、2 号機
とも第 1 波が左右非対称型で、2 号機の第 2 波が第 1 波に比べてはるかに小さいなど、一
見して実測の時刻歴と似ている。
次に、実測された回転速度の時刻歴のうち、極値が明瞭な第 2 波の最大値までの区間
について極大値、極小値の出現時刻と大きさを判読し、計算値と対比する。結果は 1 号
機が表 5.35、2 号機が表 5.36 となる。極値の出現時刻については 1,2 号機とも第 1 波は
1∼2 秒のずれにとどまりよく一致しているが、第 2 波以降は 3∼4 秒の差で計算値の方
が早い。これは水圧変化と同一傾向である。仔細に見ると 1,2 号機とも計算結果には実
測にない第 1 波減衰途中のコブ状の動きがあり、これがその後の動きに影響している。
極値の大きさについては、初期値との差∆N で比較すると、1、2 号機とも第 1 波の最大
値では 1∼5%の誤差で、かなりよく一致している。第 2 波以降は 1 号機で 23∼29%とや
や大きい誤差が出ているが、2 号機では 3%と小さい。しかしポンプ水車・発電機の回転
部分の安全性の評価およびドラフトホワールによる水圧低下の推定の根拠として最も重
要な最大値の誤差が小さいので、プログラムの実用上の性能としては良好であるといえ
る。
−203−
表 5.35
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最大値
極小値
極大値
表 5.36
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最大値
極小値
極大値
1 号ポンプ水車回転速度の時刻歴の対比(ずれ負荷遮断)
出現
時刻
(sec)
0
7.0
26.7
36.9
実測
計算
誤差
(式
回転
回転
出現
初期値
初期値
5.20)
速度
速度
時刻
との差
との差
(%)
N(rpm) ∆N(rpm) (sec)
N(rpm) ∆N(rpm)
429.0
0
0
429.3
0
---539.6
110.6
6.2
545.6
116.3
5.2
22.4
441.1
11.8
28.6
409.2
−19.8
470.1
41.1
33.9
496.0
66.7
23.1
2 号ポンプ水車回転速度の時刻歴の対比(ずれ負荷遮断)
出現
時刻
(sec)
0
14.0
29.8
35.2
実測
計算
誤差
(式
回転
出現
回転
初期値
初期値
5.20)
速度
時刻
速度
との差
との差
(%)
N(rpm) ∆N(rpm) (sec)
N(rpm) ∆N(rpm)
425.0
0
0
425.0
0
---564.0
139.0
12.5
562.2
137.2
−1.3
442.0
17.0
26.5
445.8
20.8
2.7
452.4
27.4
32.4
456.7
31.7
3.1
v.完全特性上での運転状態の変化および各号機の流量の変化
1 号ポンプ水車の運転状態の変化を、n-q 特性図、n-τ特性図上の軌跡として図 5.59、
図 5.60 に示す。同様に 2 号ポンプ水車の運転状態の変化を、n-q 特性図、n-τ特性図上
の軌跡として図 5.61、図 5.62 に示す。
1 号機の n-q 特性図上の軌跡は全負荷の発電運転から始まるので、始点は第 1 象限(発
電運転領域。流量>0、回転速度>0)の右上部分(高いガイドベーン開度)にある。この
状態から遮断が進むと流量が減少し、第 4 象限(逆転ポンプ領域。流量<0、回転速度>0)
に入る。その後流量は発電方向に戻り、再度減少して逆転ポンプ領域に入り、最後に発
電領域内の低いガイドベーン開度(無負荷回転に相当)に収束する。このように運転状
態が第 1 象限と第 4 象限を 2 回行き来することは、計算された流量の時刻歴(図 5.55)
において 2 回の逆流期間が存在することと対応している。
2 台同時負荷遮断の場合と比較すると、運転状態が最初に第 4 象限に入る際の折り返し
点の縦座標が、横軸からみてより下方に位置している。これは遮断開始後 1 回目の逆流
流量が 2 台同時負荷遮断の場合より大きいことを意味する。実際、2 台同時負荷遮断の計
算流量時刻歴(図 5.23)を図 5.55 の計算流量時刻歴と比較すると、前者の最小値が
−11.1m3/s であるのに対し後者のそれ(遮断開始から約 19 秒後)は−19.8m3/s となってい
る。このような現象が生ずるのは、2 台のポンプ水車の挙動に時間ずれがあるために相互
干渉を起こし、より激しい現象が発生していることに起因する。
−204−
1号機模型流量特性
0.05
t=0
110%
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
5%
0%
計算結果
0.04
流量 QM(m3/s)
0.03
0.02
0.01
t=60
0
150
160
170
180
190
200
210
220
230
240
-0.01
-0.02
回転数 NM(r.p.m)
図 5.59 ずれ負荷遮断時の 1 号機の運転状態変化(n−q 特性)
1号機模型トルク特性
2.5
t=0
2
1.5
トルク TM(t-m)
1
0.5
0
150
t=60
160
170
180
190
200
210
220
-0.5
-1
-1.5
-2
回転数 NM(r.p.m)
図 5.60 ずれ負荷遮断時の 1 号機の運転状態変化(n−τ 特性)
−205−
110%
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
2305%
240
0%
計算結果
2号機模型流量特性
0.05
100%
85.71%
71.43%
57.14%
42.86%
28.57%
14.29%
0%
計算結果
t=0
0.04
0.02
0.01
t=60
0
150
160
170
180
190
200
210
220
230
240
-0.01
-0.02
回転数 NM(r.p.m)
図 5.61 ずれ負荷遮断時の 2 号機の運転状態変化(n−q 特性)
2号機模型トルク特性
2.5
100%
85.71%
71.43%
57.14%
42.86%
28.57%
14.29%
0%
計算結果
2
t=0
1.5
1
トルク TM(t-m)
流量 QM(m3/s)
0.03
0.5
0
150
t=60
160
170
180
190
200
210
220
-0.5
-1
-1.5
-2
回転数 NM(r.p.m)
図 5.62 ずれ負荷遮断時の2号機の運転状態変化(n−τ 特性)
−206−
230
240
一方、遮断開始から無負荷回転状態までの間に運転状態点の横軸座標(回転速度)は 2
回にわたり初期状態より右(高い回転速度)に移動するが、これは回転速度の時刻歴に
おいて 2 回の増減波が存在することと対応している。
1 号機の n-τ特性図上の軌跡の始点は第 1 象限(発電運転領域。トルク>0、回転速度
>0)の右上部分(高いガイドベーン開度)にある。この状態では水から水車にその回転
速度を上げる方向の回転力が伝達されている。遮断が進むとトルクが減少し、第 4 象限
(逆転ポンプ領域。トルク<0、回転速度>0)に入る。この状態では水車の回転速度を下
げる方向の回転力が伝達される。その後トルクは発電領域に戻り、再度減少して逆転ポ
ンプ領域に入り、最後に横座標軸上(トルク=0、無負荷回転に相当)に収束する。
2 号ポンプ水車の運転状態の変化を示す n-q 特性図、n-τ特性図上の軌跡も、1 号機の
それとほぼ同様である。2 号機でも第 1 象限と第 4 象限の間の出入りが 2 回あり、2 台同
時負荷遮断の場合が 1 回であったのと異なっている。これに対応して、計算された流量
の時刻歴(図 5.56)において 2 回の逆流期間が存在している。
ここで興味深いのは、2 回の逆流期間の間にはさまれた流量の極大値である。この極大
値は 1 号機の遮断開始から約 19 秒後に出現しており、大きさは 24.8m3/s となっている。
すなわち、この極大値は図 5.55 に示した 1 号機の計算流量時刻歴の最小値(揚水方向に
19.8m3/s)と同時に生起し、絶対値がほぼ同じで流向が逆であるような流れを意味して
いる。言いかえれば、1 号機の遮断開始から約 19 秒後において、1 号ポンプ水車の流量
は揚水方向に 19.8m3/s であり、2 号ポンプ水車の流量は発電方向に 24.8m3/s で、両者
を加算すると揚水方向に 5.0m3/s(水路の本管部分の 4∼5 倍の流量が両ポンプ水車と上
下流にある分岐で構成される閉管路を流れている)となっている。このことから、上記
の時刻において、図 2.4 に示したような過渡現象の相互干渉が実際に起こっていたと推定
することができる。
図 2.4 に示したような流れは、各号機の流量を重ねて示した図 5.55 から推測できるよ
うに、左回り→右回り→左回りと方向を変えながら 15 秒から 25 秒までの間、3 度にわ
たり交番しているものと推測される。このような流量および流向の急激な時間変化が、
前述した水車入口水圧などに見られる「第 1 波の減退区間(遮断開始後 15-25 秒)に現
われる微視的な極大値・極小値」を引き起こしているものと考えられる。
このような挙動は流量が実測できない状況にあって、数値シミュレーションでのみ確
認できる現象である。
以上のようなずれ負荷遮断時の挙動は既往の研究ではほとんど公表されていないため、
経験に基づいて計算結果の妥当性を判断するのは困難である。しかし上記の計算結果は、
可逆ポンプ水車のメカニズムから予想される現象と矛盾しない。また出力された軌跡に
不連続な部分が認められないことから、本研究の計算結果は妥当なものであると考えら
れる。
−207−
5.3.4
AFC 試験
(1) 測定結果
i.試験条件
実物発電所で行われた試験として、1996 年 5 月 10 日実施の 2 号機発電出力増減試験
の測定結果をシミュレートする。試験条件を表 5.37 に示す。この試験は、AFC 運転に伴
う水路の過渡現象を調査することを直接の目的として、2 号発電電動機を系統に並列した
状態でその電気出力を連続的に、しかも水路系の固有振動周期で増減させたもので、実
物発電所でこのような試験を行ったのは世界的にも珍しい事例である。この試験で 2 号
機の遮断前負荷は、最大出力 305MW と最小出力 163MW の間で三角波状に増減してい
る。1 号発電電動機は停止しており、1 号ポンプ水車の流量はゼロである。なお、2 台同
時の出力増減や出力増減の途中で遮断する試験は行われていない。
表 5.37
2 号機 AFC(発電出力増減)試験条件
試験年月日
上池水位 HUR(m)
下池水位 HLR(m)
1 号機初期負荷 P0,1(MW)
2 号機初期負荷 P0,2(MW)
1 号水車効率 ηT1
1 号発電機効率 ηG1
2 号水車効率 ηT2
2 号発電機効率 ηG2
1 号実機サーボモータストローク
S1 (mm)
(S1max = 400.8)
2 号実機サーボモータストローク
S2 (mm)
(S2max = 264.4)
損失水頭補正係数 ζ
1 号機推定初期流量 Q0,1(m3/s)
2 号機推定初期流量 Q0,2(m3/s)
1996 年 5 月 10 日
1,299.33
813.57
0
163.0
--------0.90
0.98
t(sec)
S1 (mm)
0
0
--------585
0
t(sec)
S2 (mm)
0
111.0(推定)
64
235.8(推定)
128
111.0
192
235.8
256
111.0
320
236.6
384
110.0
448
236.6
512
110.0
576
236.6
640
110.0
0.7
0
72.30
−208−
ii. 水車に関連する諸量の測定結果
2 号ポンプ水車に関連する諸量の測定結果を、図 5.63 に示す。測定されている量は、
ガイドベーン("GV")サーボモーターストローク S、ポンプ水車入口("鉄管")内圧 HP、
ポンプ水車出口("ドラフト"、"吸出し管")内圧 HD である。この試験では、オシログラ
フの事故のため、ガイドベーンの操作開始から約 50 秒間(サーボモータストロークにつ
いては約 85 秒間)のデータを記録することができなかった。表 5.37 において、試験開
始後 0 秒および 64 秒の 2 号機サーボモーターストローク S2 の値を「推定」としている
のはこのためである。
S の時刻歴は、最大出力に相当する開度と最小出力に相当する開度の間を三角波で往復
する動きとなっている。ただし初期値は両者の中間の出力に相当する開度である。三角
波の周期 128 秒とは、上部調整池、導水路、導水路調圧水槽で構成される U 字管状水路
系の固有振動周期である。三角波の勾配は、系統並列条件下でサーボモーターの油圧装
置の性能から可能となる最急勾配(電気出力換算で 100MW/分)である。最大出力は発
電電動機の定格出力 300MW である。最小出力は、三角波の周期、勾配と最大出力から、
幾何学的に決定される値である(詳細は 6.2.3 で説明する)
。
HP 、HD の時刻歴は、大局的にみれば、三角波である。しかし極大値と極小値の間の
移行区間は、かすかに上に凸の線となっており、極大値と極小値の近傍には段差状に見
える圧力の急変が生じている。この挙動は定性的に以下のような現象を示している。
上下調整池の水位は一定とみなしてよいので、ポンプ水車の入口、出口に作用する静水
頭は一定である。ここで上記のサーボモーターストローク操作によって発電機の負荷が増
減すると、それに対応する流量の増減はほぼ三角波となる。それによって水車の入口、出
口における速度水頭が増減する。速度水頭は流量の二乗に比例するから、流量の増減が三
角波であるなら、速度水頭の増減は下に凸の疑似三角波となる。従って水車入口・出口に
作用する圧力水頭(= 静水頭−速度水頭) の増減は、上に凸の疑似三角波となる。
上記のサーボモーターストローク操作は、系統並列条件下では最速であるが、負荷遮断
等の事故時の操作に比べればはるかに緩慢であり、それによって水撃圧が発生することは
ない。このため HP 、HD の時刻歴は基本的には速度水頭の増減を反映している。しかし
サーボモーターストローク時刻歴の頂点においては、ガイドベーンの動きが開度増加から
減少へ、あるいは減少から増加へと急激に方向を変える。その結果サーボモーターストロ
ーク時刻歴の頂点付近においては、負荷遮断、入力遮断の場合に比べれば微小であるが、
水撃圧が発生する。この水撃圧が、HP 、HD の時刻歴の頂点付近における段差状の圧力急
変となって現われていると考えられる。
2 号機発電出力増減試験においては、発電電動機が終始系統に並列されているので、回
転速度は一定値(407rpm)に保たれている。
−209−
−210−
図 5.63(1/2)
2号 AFC 試験
測定結果
−211−
図 5.63(2/2)
2号 AFC 試験
測定結果
iii. サージング等の測定結果
AFC に伴う出力増減運転で最も問題となる現象は、水路流量の増減が調圧水槽の水面
の振動を励起し、異常なサージングを惹起することである。このため 2 号機 AFC(発電出
力増減)試験に際しては、導水路調圧水槽、放水路調圧水槽において約 600 秒にわたって
水槽本体内部(制水口の上側)に設置した水圧計により水圧を測定し、サージングの状
態を調査した。導水路調圧水槽と放水路調圧水槽における測定結果を、それぞれ図 5.64、
図 5.65 に示す。
水槽本体内部の水圧の時刻歴は振幅の増加を伴う正弦波であり、ほとんどサージング
による静水圧の変化によって決定されている。水圧変動の振幅は、ポンプ水車流量の増
減に伴って増加するが、水路系の水頭損失との平衡のため、3 周期目以降はほぼ一定振幅
となっている。
(2) シミュレーション結果
i.概要
5.2.1 に示した水路系のモデルと表 5.37 に示した各ポンプ水車の初期流量の推定値に基
づき、モデルを構成する各単位管の初期流量と各節点の初期圧力水頭を求めると、図 5.66
のようになる。この初期条件および表 5.37 に示した実機サーボモーターストロークから
換算される模型ガイドベーン開度変化に基づいて水撃圧計算を行った。計算結果を図
5.67∼図 5.71 に示す。
ii.水車入口の水圧
1 号、2 号ポンプ水車に関連する諸量の時刻歴の計算結果を図 5.67、図 5.68 に示す。図
5.63 に示すように、出力増減試験時の水車入口(鉄管側)の水圧は、頂点に段差状部を
伴う三角波状の波動を繰り返す。図 5.63 では、初期状態(オシログラフに記録されてい
ない)から極小圧力(526.0m 水頭)を経て極大圧力(568.0m 水頭)に到るまでの 128
秒の区間が 1 回目の三角波であり、そこから次の極小圧力(525.0m 水頭)を経て極大圧
力(569.0m 水頭)に到るまでの 128 秒の区間が 2 回目の三角波である。入口水圧はガイ
ドベーン操作に応じてその後 3 回にわたって同様の三角波を繰り返す。
図 5.68 に示すように、計算された 2 号ポンプ水車の入口水圧の時刻歴はいずれも頂点
に段差状部を伴う三角波を形成しており、一見して実測の時刻歴と似ている。次に、第 1
波から第 5 波までの三角波の極小値と極大値の計算値と実測値を対比する。
結果は表 5.38
となる。前記のように初期状態から約 50 秒間の記録を採ることができなかったので、極
値の大きさを比較するための実測時刻歴の基準水圧値としては、第 1 波の最小値(526.0m
水頭、試験開始から 64 秒後)第 2 波の初期値(極大値 568.0m 水頭、試験開始から 128
秒後)の平均値 547.0m 水頭を使用する。
−212−
55
51.7
Head(m)
50
45.7
45
40
37.4
35
0
100
200
300
400
500
600
700
Time(sec)
図 5.64 導水路調圧水槽内水圧の実測結果(2 号機 AFC 試験)
30
24.9
Head(m)
25
20
18.5
15
12.7
10
0
100
200
300
400
500
600
Time(sec)
図 5.65 放水路調圧水槽内水圧の実測結果(2 号機 AFC 試験)
−213−
700
管路No. 上流節点 下流節点
−214−
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
1
2
3
4
5
6
8
9
10
12
13
5
14
16
17
18
1299.33
12
1
①
17
17
3
4
5
6
7
9
18
11
2
10
14
15
9
2
10
管路長
管径
670.77
47.80
673.02
447.32
127.08
12.00
105.25
22.50
779.25
12.00
12.00
127.08
12.00
97.39
100.50
44.42
損失水頭係数 初期流量
5.70
5.70
5.00
4.40
3.20
2.25
4.10
5.70
5.70
6.319E-05
9.951E-06
1.483E-04
2.195E-04
2.946E-04
1.347E-04
6.711E-05
1.314E-05
1.160E-04
0.000E+00
0.000E+00
2.946E-04
1.347E-04
5.452E-05
1.135E-05
4.290E-06
3.20
2.25
4.10
5.70
5.70
⑩
⑮
72.30
72.30
72.30
72.30
72.30
72.30
72.30
72.30
72.30
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
72.30
72.30
2号水車
②
2
節点No. 節点コード 水路中心 初期水頭
標高
1
3
1262.850 1299.3300
2
1
1247.850 1298.5308
3
1
1240.436 1298.1966
4
1
932.586 1296.9595
5
1
739.600 1295.8124
6
1
739.000 1291.3027
7
4
739.000 1277.8521
8
5
731.050
813.0883
9
1
731.050
813.7892
10
1
731.850
813.7668
11
3
795.850
813.5700
12
2
1298.5308
13
2
813.7668
14
1
739.000 1296.9659
15
4
739.000 1296.9659
16
5
731.050
814.2675
17
1
1249.988 1298.5901
18
1
731.850
813.8579
⑥
3
③
⑤
6
13
7
8 ⑦
⑪
④
4
⑯
⑧
5
9
⑫
⑭
18
16
14 ⑬ 15
1号水車
図 5.66
水撃圧計算モデルと初期値 (2号AFC運転)
813.57
⑨
10
11
ガイドベーン開度・流量
100
2号機ガイドベーン開度(GVO)
2号機流量
90
80
Q(m3/s), GVO(%)
70
60
50
40
30
20
注)1号機は停止中
10
0
0
100
200
300
400
Time(sec)
500
600
図 5.67 2 号機AFC運転時の流量計算結果
−215−
700
800
入口水圧
660
640
1号機入口水圧(Hp)
2号機入口水圧(Hp)
620
600
Hp(m)
580
560
540
520
500
480
460
0
100
200
300
400
Time(sec)
500
600
700
800
出口水圧
100
1号機出口水圧(Hp)
2号機出口水圧(Hp)
90
80
Hd(m)
70
60
50
40
30
20
0
100
200
300
400
Time(sec)
500
600
700
図 5.68 2 号機AFC運転時の 1,2 号機入口、出口水圧の計算結果
−216−
800
極値の出現時刻はガイドベーンの動作方向の転換が生ずる時刻であり、計算と実測は
ほとんど一致している。極値の大きさについては、基準水圧値(実測)または初期値(計
算)との差∆HP で比較すると、極大値では計算値が実測値の 60∼72%、極小値では計算
値が実測値の 17∼26%で、いずれも実測の方が大きくなっている。このように、ポンプ
水車入口水圧の時刻歴は実測と計算の誤差が大きい。この原因としては、解析対象の圧
力変動の振幅が負荷遮断等の場合に比べるとはるかに小さく、5.1.3(3)で論じたような各
種計器の誤差の影響が相対的に大きくなっていることが考えられる。
なお、対比する実測時刻歴が得られていないが、1 号ポンプ水車の入口水圧の計算時刻
歴も 2 号機と同様の形状となっており(図 5.58)
、水圧鉄管の分岐管を介して 2 号ポンプ
水車で発生した水撃圧が伝播してくるという結果になっている。
表 5.38
2 号ポンプ水車入口水圧の時刻歴の対比(AFC出力増減運転)
時刻歴
第1波
第2波
第3波
第4波
第5波
出現
時刻
(sec)
初期値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
0
64
128
192
256
320
384
448
512
576
640
誤差
実測
計算
(式
圧力
基準値
出現
圧力
初期値
5.20)
水頭
との差
時刻
水頭
との差
(%)
(sec)
HP(m) ∆HP(m)
HP (m) ∆HP(m)
---0
553.7
0
---欠測
72.2
64
549.3
526.0
−4.4
−21.0
568.0
21.0
125
568.8
15.1 −25.7
61.3
192
545.8
525.0
−7.9
−22.0
569.0
22.0
256
570.4
16.7 −23.0
61.7
320
544.9
524.0
−8.8
−23.0
568.0
21.0
384
570.8
17.1 −17.0
60.4
448
544.6
524.0
−9.1
−23.0
569.0
22.0
512
570.9
17.2 −20.9
60.4
576
544.6
524.0
−9.1
−23.0
568.0
21.0
640
570.8
17.1 −17.0
注)実測時刻歴の基準水圧値:547.0(m)
iii.水車出口の水圧
図 5.63 に示すように、出力増減試験時の水車出口(吸出管側)の水圧は、頂点に段差
状部を伴う三角波状の波動を繰り返す。ただし極小値側の頂点付近には高周波水圧脈動
が重畳し、水撃圧による段差状の水圧変化は不明瞭となっている。図 5.63 では初期状態
(オシログラフに記録されていない)から極大圧力(同)を経て極小圧力(65.0m 水頭)
に到るまでの 96 秒の区間が 1 回目の三角波であり、そこから次の極大圧力(73.5m 水頭)
を経て極小圧力(65.0m 水頭)に到るまでの 128 秒の区間が 2 回目の三角波である。入
口水圧はガイドベーン操作に応じてその後 3 回にわたって同様の三角波を繰り返す。
図 5.68 に示すように、計算された 2 号ポンプ水車の出口水圧の時刻歴はいずれも頂点
に段差状部を伴う三角波を形成している。次に、第 1 波から第 5 波までの三角波の極小
−217−
値と極大値の計算値と実測値を対比する。結果は表 5.39 となる。表 5.38 と同様に、極値
の大きさを比較するための実測時刻歴の基準水圧値としては、第 1 波の極大値(72.5m
水頭、試験開始から 64 秒後)と第 2 波の初期値(66.3m 水頭、試験開始から 128 秒後)
の平均値 69.4m 水頭を使用する。
極値の出現時刻はガイドベーンの動作方向の転換が生ずる時刻であり、計算と実測はほ
とんど一致している。極値の大きさについては、基準水圧値(実測)または初期値(計
算)との差∆HD で比較すると、極大値では計算値が実測値の 22∼56%、極小値では計算
値が実測値の 5∼34%となっている。このように、ポンプ水車出口水圧の時刻歴も入口水
圧と同様に実測と計算の誤差が大きく、本研究の水撃圧解析プログラムによる計算の精
度は高いとはいえない。
なお、対比する実測時刻歴が得られていないが、1 号ポンプ水車の出口水圧の計算時刻
歴も 2 号機と同様の形状となっており(図 5.68)
、放水路の分岐管を介して 2 号ポンプ水
車で発生した水撃圧が伝播してくるという結果になっている。
表 5.39
時刻歴
第1波
第2波
第3波
第4波
第5波
初期値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
2 号ポンプ水車出口水圧の時刻歴の対比(AFC出力増減運転)
出現
時刻
(sec)
0
64
128
192
256
320
384
448
512
576
640
誤差
実測
計算
(式
出現
圧力
圧力
基準値
初期値
5.20)
時刻
水頭
水頭
との差
との差
(%)
(sec)
HD (m) ∆HD(m)
HD (m) ∆HD(m)
---0
74.4
0
---欠測
72.5
3.1
61
78.9
4.5
21.9
128
69.7
66.3
−4.7 −25.0
−3.1
72.5
3.1
191
81.1
6.7
56.3
255
68.5
65.0
−5.9 −23.4
−4.4
73.8
4.4
317
81.4
7.0
40.6
4.7
384
68.3
63.0
−6.1
−6.4
73.3
3.9
445
81.5
7.1
50.0
512
68.3
64.5
−6.1 −18.8
−4.9
73.3
3.9
574
81.5
7.1
50.0
640
68.3
65.5
−6.1 −34.4
−3.9
注)実測時刻歴の基準水圧値:69.4(m)
iv.完全特性上での運転状態の変化
2 号ポンプ水車の運転状態の変化を、n-q 特性図、n-τ特性図上の軌跡として図 5.69、図
5.70 に示す。
2 号機の n-q 特性図上の軌跡は最小出力 163MW の発電運転から始まるので、始点は第
1 象限(発電運転領域。流量>0、回転速度>0)内の下位のガイドベーン開度(模型開度
38.75%)にある。この状態から出力を増加させるためにガイドベーン開度が増加するの
で、運転状態は第 1 象限右上の高いガイドベーン開度(模型開度 82.32%)に移行する。
−218−
2号機模型流量特性
0.05
100%
85.71%
71.43%
57.14%
42.86%
28.57%
14.29%
0%
計算結果
t=0
0.04
0.03
0.02
0.01
t=60
0
160
170
180
190
200
210
220
230
240
-0.01
-0.02
回転数 NM(r.p.m)
図 5.69 2 号機AFC運転時の運転状況変化(n−q特性)
2号機模型トルク特性
2.5
100%
85.71%
71.43%
57.14%
42.86%
28.57%
14.29%
0%
計算結果
2
t=0
1.5
1
t=0∼800
トルク TM(t-m)
流量 QM(m3/s)
t=0∼800
0.5
t=60
0
160
170
180
190
200
210
220
-0.5
-1
-1.5
-2
回転数 NM(r.p.m)
図 5.70 2 号機AFC運転時の運転状況変化(n−τ特性)
−219−
230
240
引き続いて出力を減少させるためにガイドベーン開度が減少するので、運転状態はもと
の低いガイドベーン開度(模型開度 38.75%)に移行する。その後は同じ振幅での出力増
減が繰り返されるので、運転状態は上記の経路を繰り返し往復することとなる。この間、
実機の回転速度は一定値(407rpm)に保たれているが、流量や水圧の増減によって有効
落差は変動するから、回転速度の相似律(式 4.22)に基づいて模型の回転速度は変動す
る。ガイドベーン開度が低い方が有効落差が高く、模型回転速度は小さくなる。このため
n-q 特性図上の運転状態の軌跡は右に傾いたループとなる。
2 号機の n-τ特性図上の軌跡の始点は第 1 象限(発電運転領域。トルク>0、回転速度>0)
の内の下位のガイドベーン開度(模型開度 38.75%)にある。この状態では水から水車に
その回転速度を上げる方向の回転力が伝達されているが、そのエネルギーは電気エネルギ
ーの形で系外に運び出されているので、実機の回転数を変化させることはない。その後出
力が増減しても、発電運転であることには変化がないから、運転状態は第 1 象限内で高い
ガイドベーン開度(模型開度 82.32%)と低いガイドベーン開度(模型開度 38.75%)の
間を繰り返し往復する。この軌跡は n-q 特性図上のそれと同様に、右に傾いたループとな
る。
v.サージング
2 号 AFC 運転時の導水路・放水路調圧水槽のサージングの計算結果を、測定結果と同
じ時間スケールで対比して図 5.71 に示す。ここでもサージング水位の実測値は、図 5.64
および図 5.65 に示した調圧水槽内水圧計(導水路 CH26、放水路 CH42)の実測値を水
位標高に換算したものである。
図 5.71 に示すように、導水路調圧水槽のサージングの計算結果は、振幅の増加を伴う
正弦波である。水圧変動の振幅は、ポンプ水車流量の増減に伴って増加するが、水路系の
水頭損失との平衡のため、3 周期目以降はほぼ一定振幅となっている。以上の挙動は図
5.64 および図 5.71 に示した実測時刻歴と同じである。
次に、サージング水位の極大値、極小値の計算値と実測値を対比する。結果は表 5.40
となる。極値の出現時刻については、第 1 波の極小値を除き計算値が実測値に遅れる傾向
にあるが、時刻の差は 1∼15 秒であり、サージングの時間スケールと比較すれば大きい
ものではない。極値の大きさについては、初期値との差∆H の誤差で比較すると、極大値
(上昇サージング)側では実測値の 6∼10%となっており、常に計算値が実測値を上回っ
ている。水位の絶対値では 0.7m 以下の誤差にとどまっており、調圧水槽の設計のための
解析精度としては十分実用に耐える水準に達している。
図 5.71 に示すように、放水路調圧水槽本体のサージング水位の計算結果は、振幅の増
加を伴う正弦波である。水圧変動の振幅は、ポンプ水車流量の増減に伴って増加するが、
水路系の水頭損失との平衡のため、3 周期目以降はほぼ一定振幅となっている。以上の挙
動は図 5.65 および図 5.71 に示した実測時刻歴と同じである。
−220−
導水路調圧水槽サージング
1310
計算
実測
1,305.7
1300
1,299.1
1295
1,290.7
1290
0
100
200
300
400
Time(sec)
500
600
700
800
放水路調圧水槽サージング
825
計算値
実測
819.9
820
WL(m)
WL(m)
1305
815
813.6
810
807.6
805
0
100
200
300
400
Time(sec)
500
600
700
図 5.71 調圧水槽サージングの実測と計算の比較(2 号機AFC運転)
−221−
800
表 5.40
時刻歴
第1波
第2波
第3波
第4波
第5波
初期値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
導水路調圧水槽水位の時刻歴の対比(AFC出力増減運転)
誤差
実測(CH51)
計算
(式
水槽
水槽
出現
初期値
初期値
5.20)
水位
水位
時刻
との差
との差
(%)
(sec)
H (m) ∆H(m)
H (m) ∆H(m)
0 1299.3
0
0 1299.1
0
---2.4
60 1296.2
69 1296.2
−2.9
−3.1
134 1303.4
4.1
131 1303.8
4.7
7.2
194 1292.3
199 1292.9
−6.8
−4.8
−6.4
263 1304.7
5.4
260 1305.3
6.2
9.6
323 1291.2
327 1291.7
−7.9
−3.6
−7.6
391 1305.3
6.0
389 1305.7
6.6
7.2
2.4
452 1291.0
455 1291.0
−8.1
−8.3
521 1305.2
5.9
518 1305.8
6.7
9.6
1.2
580 1290.7
583 1291.0
−8.2
−8.3
649 1305.2
5.9
648 1305.9
6.8
6.0
出現
時刻
(sec)
次に、サージング水位の極大値、極小値の計算値と実測値を対比する。結果は表 5.41
となる。極値の出現時刻については計算値が実測値に遅れる傾向にある。時刻の差は 2∼
11 秒であり、サージングの時間スケールと比較すれば大きいものではないが、導水路調
圧水槽の計算結果に比べるとやや大きい。この原因としては、ガイドベーン開度の変動周
期 128 秒が上部調整値と導水路調圧水槽の間の水路の固有振動周期から決まっており、
下部調整値と放水路の間の水路の固有振動周期(図 5.19 等に示す放水路調圧水槽の自由
サージングの時刻歴から判読すると、導水路側のそれより若干短く、約 120 秒と考えら
れる)と合致していないことが考えられる。
表 5.41
時刻歴
第1波
第2波
第3波
第4波
第5波
初期値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
極大値
極小値
放水路調圧水槽水位の時刻歴の対比(AFC出力増減運転)
誤差
実測(CH48)
計算
(式
出現
水槽
出現
水槽
初期値
初期値
5.20)
時刻
水位
時刻
水位
との差
との差
(%)
(sec)
(sec)
H (m) ∆H(m)
H (m) ∆H(m)
0
813.5
0
0
813.6
0
---69
816.8
3.3
58
817.1
3.5
3.1
129
809.1
131
809.1
−4.5
−1.6
−4.4
196
819.3
5.8
189
819.3
5.7
−1.6
0
256
807.9
258
807.8
−5.7
−5.7
320
819.7
6.2
317
819.8
6.2
0
0
384
807.7
387
807.6
−5.9
−5.9
449
819.9
6.4
445
819.9
6.3
−1.6
512
807.6
515
807.7
−6.0
−3.1
−5.8
577
819.9
6.4
573
819.9
6.3
−1.6
1.6
640
807.6
641
807.6
−6.0
−5.9
−222−
極値の大きさについては、初期値との差∆H の誤差で比較すると、極大値(上昇サージ
ング)側では実測値の 0∼3%となっており、第 2 波以降は計算値が実測値を下まわる傾
向がある。しかし水位の絶対値では 0.3m 以下の差にとどまっており、調圧水槽の設計の
ための解析精度としては十分実用に耐える水準に達している。
なお、図 5.68 に示すように 2 号ポンプ水車を通過する流量の変化はガイドベーン開度
の変化にほぼ追随するが、後者が直線的に変化するのに対し、前者は水圧変化や水車特
性の影響でやや上に凸の非直線性を有しており、変化幅も前者が約 40∼80%であるのに
対し後者が約 40∼70m3/s であり、両者は必ずしも比例関係にない。従来、ガイドベーン
開度に比例して流量が変化すると仮定して剛体理論により近似的なサージング計算して
いたのに対し、このような厳密な解析によって初めて正確な解析が可能となった。但し、
本ケースに関する限り、近似解を覆すほどの結果とはなっていない。
5.4 測定結果に基づく理論の検証のまとめ
各試験ケースに対する各項目の実測と解析結果の比較を整理すれば次のようになる。
1.
i.
2 台同時全負荷遮断時
水車入口の水圧
水圧変化の実測値は台形状の波動を繰り返しながら減衰して行っており、解析結果は
そのことをよく再現している。極値の出現時刻は 1、2 号機とも 1 秒以内のずれに止まり、
よく一致しているが、第 2 波以降は計算結果が実測より早まる傾向にある。極値の大き
さを初期値との差で見ると、設計上最も重要な最大水圧について 1 号機で 2%(3m)
、2
号機で 9%(6m)の誤差であり、5.1.3(3)に示したように測定誤差が±6.5m程度あるこ
とから考えて、計算結果としては十分な精度が得られているものと考えることができる。
ii.
水車出口の水圧
実測値は正弦波状の波動を繰り返しながら減衰しており、解析結果はこれと類似した
形状をなしている。極値の出現時刻は第 1 波でおおむね一致しているが第 2 波以降は入
口水圧と同様に計算結果が実測より早くなる傾向にある。極値の大きさにはおしなべて 9
∼16%(3∼7m)の誤差があり、これは水車入口より大きい上、測定誤差が±0.4m程度
であることを考えれば、無視できない大きさである。この原因としてドラフトホワール
現象が考えられ、特性曲線法など本研究を含む通常の解析の限界に抵触しているものと
思われる。
iii.
回転速度
設計上問題となる最大上昇値に関し、極値の出現時刻が 1,2 号機とも 1∼3 秒のずれ
に止まり、極値の大きさは初期値からの差で見て 1,2 号機とも 2∼8%(3∼11rpm)の
誤差となっている。回転速度の測定誤差が±6.5rpm であることを勘案すると、計算結果
は十分な精度を有するものと考えることができる。
−223−
iv.
調圧水槽のサージングと水路水圧
導水路調圧水槽のサージングは最高水位が 2m 以下の誤差にあり、実用的に十分の精度
であるが、水位変動周期は実測値より計算結果の方が長い。放水路調圧水槽の最低水位
は実測値と計算結果がほとんど一致しているが、周期がやはり長く計算される。導水路
および放水路それぞれの調圧水槽周辺の水路における水圧は、変動モードが実測と計算
でよく合致しており、極値も導水路水槽付近が 51%という例外的に大きな誤差を有する
のを除き、良好な一致を見せている。
2.
i.
2 台同時入力遮断試験
水車入口の水圧
実測結果は、周期の長い正弦波をなして 1 回だけ低下して揺り戻し、その後波動を繰
り返しながら減衰するが、計算結果もこの実測値とよく似ている。極値の出現時刻は第 1
波は 1,2 号機とも 1∼2 秒のずれでよく一致しているが、その後徐々に計算結果が遅れ
る傾向にある。第 1 波最小値は 1,2 号機とも 4∼5%の誤差でよく一致しているが、第 2
波は 30%前後の誤差となる。
。
ii.
水車出口の水圧
巨視的に見ると三角状の波動を形成しつつ減衰するが、計算結果も水圧脈動を除けば
ほぼ実測結果に一致している。極値の大きさは初期値との差で比較すると 26∼28%程度
の誤差となるが、絶対値の差は 6∼9mでそれほど大きくはない。このように入力遮断時
の圧力変化は負荷遮断時に較べて実測と解析結果が比較的よく一致する。これはドラフ
トホワール現象がないことや、ポンプ水車のS字特性と呼ばれる複雑な部分を通過しな
いことによるものと考えられる。
iii.
調圧水槽のサージングと水路水圧
両調圧水槽のサージング水位は、負荷遮断時と同じく実測と計算値が 2m 以内の誤差に
収まっている。水槽付近の水路内水圧変化は負荷遮断時よりさらによい一致を示してい
る。
3.
i.
ずれ負荷遮断試験
水車入口の水圧
1,2 号機の挙動がずれることによる相互干渉の影響で、2 台同時負荷遮断と較べて絶
対値は大きくないものの圧力変動が激しい。解析結果はこのことをかなりよく再現して
おり、極値の発現時刻が第 1 波で 0∼1 秒のずれに止まり、極値の大きさも第 1 波で 1,
2 号機とも 5%の誤差に止まっている。
ii.
水車出口の水圧
水車入口と同様に相互干渉の影響が再現されているが、極値の発現時刻は 0∼1 秒程度
のずれであるものの、極値の大きさは 1,2 号機で 23 および 39%と 2 台同時負荷遮断時
−224−
と同じく誤差が大きい。
iii.
流量変化
実測はできないが、流量の解析結果から見て、1,2 号機と上下流の条管および分岐管
を結んで形成される局部的閉管路の中で水流が循環し、流量と流向が急激に変化し交番
して大きな流量変化となっている状況がシミュレーションにより明らかになった。
4.
i.
AFC試験
流量変化
ガイドベーン開度が直線的に変化するのに対し、流量は非直線的に変化する。しかし、
その違いはサージングへの影響から見るとほとんど無視できる程度であり、ガイドベー
ン開度に比例して流量が変化すると見ても差し支えない。
ii.
サージング
導水路調圧水槽では、極値の出現が実測値より計算値が遅れる傾向にあるが、その遅
れは1∼5 秒であり 600 秒という時間スケールの中ではわずかな誤差である。水位の誤差
は 0.7m以下であり、実用上問題ない。放水路調圧水槽も同様な傾向にあり、それぞれ 2
∼11 秒、0.3mで、同じく実用上問題ない。
以上のように、本研究で開発した水撃圧解析プログラムによって、実際に行われた試
験における水路系の水理現象をシミュレートした結果、水路系各部における内圧と水車
回転速度の時刻歴の計算結果は実測結果と実用的な範囲でよく一致することが判明した。
このことから、本研究の解析理論とプログラムは水力発電所の水路系の水撃圧解析の手
法として十分信頼できると考えられる。
但し、高速回転するポンプ水車から発する高周波水圧脈動、同じく高速回転する水車
の出口部での旋回流に起因するドラフトホワール現象など、通常用いられている水撃圧
解析手法一般の限界を超えると考えられる二次的な事象については、本研究の手法でも
扱えないか、一定の誤差を伴う。従って、負荷遮断時の水車出口圧力低下などを正確に
把握する必要がある場合には、十分な注意が必要となる。
本研究が扱う代数学的手法固有の適用限界については第 6 章で述べる。
−225−
第6章
本研究による解析手法の適用範囲と応用例
本研究で取り上げる代数学的手法が現地測定結果とおおむね一致することを第5章で
示したのに続き、
ここではこの種の解析で汎用されている特性曲線法との比較でその一般
性を検証し、この手法の適用範囲を論ずるとともに、本研究による解析手法の応用例を示
す。
6.1
代数学的手法の一般性と適用範囲
6.1.1 特性曲線法との比較
第 5 章で扱った奥清津第二発電所における計測結果と本研究の計算結果に加え、
この種
の計算で広く用いられる特性曲線法による計算結果との比較で考察する。
比較に用いた特
性曲線法の解析プログラムは、1.2.1(3)に述べた式 1.27’、1.28、1.29’および 1.30 に基づ
き、電源開発(株)が独自に開発し、実測結果との検証がなされているものである。
特性曲線法の計算条件として特記すべきものは次の通りである。
計算時間刻み(Δt)
;0.005 秒
距離刻み(Δx)
; 10m
その他;計測結果および代数学的手法と同一
負荷遮断時における 1 号機および 2 号機のポンプ水車入口・出口の圧力水頭、回転速
度および流量を、実測値をも参照しつつ、特性曲線法および本研究で取り上げる代数学的
手法で計算した結果を比較して、それぞれ図 6.1、図 6.2 および表 6.1、表 6.2 に示す。
図から一見して明らかなように、両解析手法による解析結果は、1、2 号ポンプ水車の
入口側、出口側、変動モードおよび極値に加えて細かな点すべてについて、極めてよく一
致している。また、表 6.1 および表 6.2 によれば、両手法による解析結果の極値は、水車
入口側、出口側の水圧のみならず、回転速度および流量についても 0∼4%の誤差内に収
まっており、極めてよい一致である。
実測値と両手法による解析結果との比較では、表 6.1 および表 6.2 に示すように、水車
入口側の誤差(0∼12%)に較べて水車出口側の誤差(9∼15%)がやや大きいなど、5.3.1
で述べた代数学的手法の結果と同じ傾向にある。
以上の負荷遮断時と同様に、揚水入力遮断時における 1 号機および 2 号機のポンプ水
車入口・出口の圧力水頭、回転速度および流量を、実測値と対比しつつ、特性曲線法およ
び本研究で取り上げる代数学的手法で計算した結果を、それぞれ図 6.3、図 6.4 および表
6.3、表 6.4 に示す。
入力遮断時にあっても、入口側水圧の第 2 波以降のピーク値や出口側水圧の初期約 5
秒間で、両解析結果が多少異なる動きを見せるものの、全体として代数学的手法と特性曲
線法による 1,2 号機の入口側と出口側での計算結果はよく一致している。
−226−
1号機入口水圧
750
代数学的手法
700
特性曲線法
650
Hp(m)
600
550
500
450
400
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
60
1号機出口水圧
100
代数学的手法
特性曲線法
Hd(m)
80
60
40
20
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 6.1 代数学的手法と特性曲線法による計算結果の比較(負荷遮断時 1 号機)
−227−
60
2号機入口水圧
750
代数学的手法
700
特性曲線法
650
Hp(m)
600
550
500
450
400
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
60
2号機出口水圧
100
代数学的手法
特性曲線法
Hd(m)
80
60
40
20
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 6.2 代数学的手法と特性曲線法による計算結果の比較(負荷遮断時 2 号機)
−228−
60
表 6.1 代数学的手法の特性曲線法および計測結果との比較(負荷遮断時 1 号機)
ポンプ水車入口圧力水頭(m)
初期値
最大値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔHp)
533.0
701.0
168.0
実測結果
(9.4s)
(A)
533.2
701.7
168.5
特性曲線
(9.4s)
法(B)
532.8
703.9
171.1
代数学的
(9.3s)
手法(C)
1.00
(B)/(A)
1.02
(C)/(A)
1.02
(C)/(B)
ポンプ水車出口圧力水頭(m)
初期値 最小値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔHd)
65.6
33.3
−32.3
(10.5s)
74.1
37.5
−36.6
(10.6s)
74.1
38.8
−35.3
(10.7s)
1.13
1.09
0.96
回転速度(r.p.m)
初期値
最大値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔQ)
429.0
569.5
140.5
実測結果
(8.2s)
(A)
429.0
577.8
148.8
特性曲線
(7.3s)
法(B)
429.0
580.5
151.5
代数学的
(7.4s)
手法(C)
1.06
(B)/(A)
1.07
(C)/(A)
1.02
(C)/(B)
流量(m3/s)
最小値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔN)
−
−
−229−
初期値
−
72.5
72.5
−11.0
(11.3s)
−11.3
(11.4s)
83.5
83.8
−
−
1.00
表 6.2 代数学的手法の特性曲線法および計測結果との比較(負荷遮断時2号機)
ポンプ水車入口圧力水頭(m)
初期値
最大値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔHp)
533.7
711.1
177.4
実測結果
(9.2s)
(A)
532.7
689.6
156.9
特性曲線
(9.3s)
法(B)
532.5
693.5
161.0
代数学的
(9.9s)
手法(C)
0.88
(B)/(A)
0.91
(C)/(A)
1.03
(C)/(B)
ポンプ水車出口圧力水頭(m)
初期値 最小値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔHd)
68.9
22.4
−46.5
(8.8s)
74.1
33.9
−41.1
(12.1s)
74.1
34.5
−39.6
(12.1s)
0.88
0.85
0.96
回転速度(r.p.m)
初期値
最大値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔQ)
426.0
572.0
146.0
実測結果
(8.6s)
(A)
426.0
574.5
148.5
特性曲線
(7.9s)
法(B)
426.0
578.2
152.2
代数学的
(8.1s)
手法(C)
1.02
(B)/(A)
1.04
(C)/(A)
1.02
(C)/(B)
流量(m3/s)
最小値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔN)
−
−
−230−
初期値
−
73.3
73.3
−21.8
(13.8s)
−22.3
(13.9s)
95.1
95.6
−
−
1.01
1号機入口水圧
700
650
600
Hp(m)
550
500
450
代数学的手法
特性曲線法
400
350
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
60
1号機出口水圧
120
Hd(m)
100
80
60
代数学的手法
特性曲線法
40
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 6.3 代数学的手法と特性曲線法による計算結果の比較(入力遮断時 1 号機)
−231−
60
2号機入口水圧
700
650
600
Hp(m)
550
500
450
代数学的手法
特性曲線法
400
350
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
60
2号機出口水圧
120
Hd(m)
100
80
代数学的手法
特性曲線法
60
40
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 6.4 代数学的手法と特性曲線法による計算結果の比較(入力遮断時 2 号機)
−232−
60
表 6.3 代数学的手法の特性曲線法および計測結果との比較(入力遮断時 1 号機)
ポンプ水車入口圧力水頭(m)
初期値
最小値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔHp)
553.1
405.3
実測結果
−147.8
(6.7s)
(A)
552.5
395.2
特性曲線
−157.3
(5.1s)
法(B)
552.2
396.6
代数学的
−155.6
(5.0s)
手法(C)
1.06
(B)/(A)
1.05
(C)/(A)
0.99
(C)/(B)
ポンプ水車出口圧力水頭(m)
初期値 最大値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔHd)
69.4
120.8
51.4
(7.9s)
76.6
112.0
35.4
(6.5s)
76.6
114.9
38.3
(7.4s)
0.69
0.75
1.09
回転速度(r.p.m)
初期値
最大値
初期値との差
(全閉時)
(ΔQ)
221
実測結果
−429
−208
(21.9s)
(A)
234
特性曲線
−429
−195
(21.9s)
法(B)
255
代数学的
−429
−174
(21.9s)
手法(C)
1.06
(B)/(A)
1.15
(C)/(A)
1.09
(C)/(B)
流量(m3/s)
最大値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔN)
−
−
初期値
−
−57.4
−57.4
12.2
(10.4s)
14.7
(10.8s)
69.6
62.1
−
−
0.89
表 6.4 代数学的手法の特性曲線法および計測結果との比較(入力遮断時2号機)
ポンプ水車入口圧力水頭(m)
初期値
最小値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔHp)
550.4
402.7
実測結果
−147.7
(4.9s)
(A)
549.7
394.7
特性曲線
−155.0
(5.3s)
法(B)
549.5
395.3
代数学的
−154.2
(5.5s)
手法(C)
1.05
(B)/(A)
1.04
(C)/(A)
0.99
(C)/(B)
−233−
ポンプ水車出口圧力水頭(m)
初期値 最大値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔHd)
70.6
122.8
52.2
(8.8s)
76.2
113.7
37.5
(8.3s)
76.2
113.6
37.4
(8.5s)
0.71
0.72
1.00
回転速度(r.p.m)
初期値
最小値
初期値との差
(全閉時)
(ΔQ)
178
実測結果
−449
−271
(16.9s)
(A)
182
特性曲線
−449
−267
(16.9s)
法(B)
201
代数学的
−449
−248
(16.9s)
手法(C)
1.02
(B)/(A)
1.13
(C)/(A)
1.10
(C)/(B)
初期値
−
−65.7
−65.7
流量(m3/s)
最大値(出 初期値との差
現時刻)
(ΔN)
−
−
8.1
(10.7s)
9.7
(10.3)
73.8
75.4
−
−
1.02
以上に述べたように、
本研究で対象とする代数学的手法による解析結果がこの種の解析
で一般的に用いられている特性曲線法による結果とよく一致することは、
第1章および3
章で繰り返し述べたとおり、
代数学的手法が特性曲線法と同根の解析手法であることに由
来する当然の帰結であり、別の見方からすれば、代数学的手法が成立するための前提条件
であるマッハ数が1より十分小さいことが満足されているとともに、3.3.1 で述べた代数
学的手法による摩擦損失水頭の近似的取り扱いも解析結果に影響しない、
と考えることが
できる。
6.1.2 代数学的手法の適用範囲
3.3.1 で論じたように、代数学的手法は流体のマッハ数が1より十分小さいことのみが
前提となって成立しており、2.1.3 で述べたように通常の揚水発電所のマッハ数は 0.01
オーダーであって十分小さく、
実測結果および一般的手法である特性曲線法との対比でも
十分適用可能であることが確認されているが、その適用限界がどの程度であるか、またそ
れに対する工学的な安全率はどの程度であるかについて数値シミュレーションで確認す
ることとした。
流体のマッハ数は、その流速(v)を圧力波伝播速度(c)で除したもの(v/c)であり、
以下これをパラメーターとして考察するが、
流体の流速を大幅に増やすことは実態的でな
いので、圧力波伝播速度を小さくすることを考える。これは 1.2.1(6)に示したような、管
路の剛性が非常に低い場合あるいは空気混入時の伝播速度が低下した場合、
などに対応す
るものである。
−234−
表 6.5 マッハ数を変えた場合の代数学的手法の誤差の計算ケース
ケース名
流速(m/s)
基準ケース
1
2
3
4
5
10.48
10.48
10.48
10.48
10.48
10.48
圧力波伝播速度
(m/s)
1,000
500
300
200
150
100
マッハ数
0.010
0.021
0.035
0.052
0.070
0.105
前記の奥清津第二発電所負荷遮断と同じケースについて、表 6.5 に示すケースについて
マッハ数を変えてケーススタディーを行い、最大水撃圧値に関し、マッハ数に拘わらず成
立している特性曲線法による計算結果に対して、
代数学的手法による計算結果がどのよう
に対応するかを、両手法間の誤差で見ることとした。
結果は表 6.6 および図 6.5 に示すとおりであり、マッハ数を大きくするにつれて誤差が
徐々に増大するが、マッハ数 0.07 付近では誤差は 10%以下であり、マッハ数が 0.105 に
なると両手法とも計算が不安定となり誤差も大きくなる。従って、代数学的手法の適用範
囲はマッハ数 0.05 程度以下が目安かと考えることができる。マッハ数が 0.05 になるのは、
例えば水圧管路内の流速が図 2.2 に示した通例の 2 倍の 20m/s 程度になり、圧力波伝播
速度が図 1.15 に示す空気混入率 0.2%で 400m/s になる、といった場合であり、極めて特
殊なケースに限られる。
表 6.6 マッハ数を変えた場合の代数学的手法の誤差の計算結果
ケース
名
マッハ
数
基準
1
2
3
4
5
0.010
0.021
0.035
0.052
0.070
0.105
最 大 水 撃 圧 値(初期値からの増分)
特性曲線法(m)
代数学的手法(m)
誤差(%)
1 号機
2 号機
1 号機
2 号機
1 号機 2 号機 平均
168.5
156.9
171.7
161.0
1.9
2.6
2.3
198.5
177.4
206.5
177.4
4.0
0.0
2.0
197.5
169.9
202.7
181.5
2.6
6.8
4.7
155.1
152.8
149.9
153.8
3.4
0.7
2.0
144.1
123.8
131.3
127.5
8.9
3.0
5.9
139.1
98.6
164.0
107.5
17.9
9.0
13.5
このような結果が得られる理由として、1.2.1(5)に示した代数学的手法における最大の
問題点である「摩擦損失の計算精度が落ちる」ことが、水力発電所の水撃圧の場合、管径
が大きいこともあって損失そのものが終始小さい上、
静水圧や水撃圧の大きさに比べて損
失水頭の値が相対的に小さいために影響が小さい、という点をあげることができる。
以上に述べたことから、
代数学的手法は通常の水力発電所の水撃圧計算に十分適用でき
ることが明らかである。
−235−
M =0.035 (c=300m /s)
75 0
代数学的手法
特性曲線法
70 0
65 0
Hp(m)
60 0
55 0
50 0
45 0
40 0
0
10
20
30
Tim e(se c)
40
50
60
M =0.052 (c=200m /s)
750
代数学的手法
特性曲線法
700
650
Hp(m)
600
550
500
450
400
0
10
20
30
Tim e(sec)
40
50
60
M =0.105 (c=100m /s)
750
代数学的手法
特性曲線法
700
650
Hp(m)
600
550
500
450
400
0
10
20
30
Tim e(sec)
40
50
図 6.5 マッハ数(圧力波伝播速度)による代数学的手法と特性曲線法の計算結果
−236−
60
6.2
本研究による解析手法の応用例
6.2.1 パーソナルコンピュータへの移植
本研究の一環として、4.4 で述べた汎用機用のプログラムを、実用の利便性を考慮して、
近年著しい技術進歩を遂げたパーソナルコンピューターに移植した。
以前は大型コンピュ
ータまたはエンジニアリングワークステーションを使用して計算していたが、
今回パーソ
ナルコンピュータ上で水撃圧解析が実行できるようになったことにより、
技術者や研究者
が容易に計算をすることが可能となり、1.1.4 で述べた海外への技術移転における事業活
動にも適用することが可能となった。
パーソナルコンピューターへの移植には、コンパイラーとして富士通フォートラン 95
を用いた。実行ファイルのサイズは約 600KB、通常のデータファイルは模型水車の完全
特性を含めて約 100KB である。
実際のケースに関し、
パーソナルコンピューター上での特性曲線法と代数学的手法の計
算速度を比較する。
表 6.7 特性曲線法と代数学的手法の計算速度の比較
計算手法
特性曲線法
代数学的手法
比率
ケース1)対象時間 ケース2)対象時間
60 秒
800 秒
19.6 秒
253.7 秒
3.3 秒
31.7 秒
0.17(≒1/6)
0.12(≒1/8)
注1) 奥清津第二発電所 ケース1)
;負荷遮断、ケース2)
;AFCから遮断
注2) 特性曲線法のΔx=10m Δt=0.005 秒
注3) CPU:PentiumⅢ 750MHz, RAM;512MB OS;Windows2000
表 6.7 に示すように、両手法の計算時間の差は顕著であり、代数学的手法は特性曲線法
の 1/6∼1/8 の計算時間で済む。このような違いが生ずる理由は、3.3.1 で述べたように特
性曲線法が単一管路内をΔx(上記で言えば 10m)ごとに設けた格点ごとに物理量を計算
していくのに対し、
代数学的手法が管路の長さにかかわらず管路の両端のみの計算で済ま
すため、基本的な計算量が大幅に異なることである。表 5.6 に示すように、計算対象の管
路は全水路延長が約 3,500m であり、特性曲線法では 10mごとに格点をもうけるので全
体で約 350 の格点数となり、一方の代数学的手法では管路の数が 14 で各管路の両端を計
算するのでその数は 28 である。この比率 350:28≒12:1 が直接計算時間の比率に結びつ
くわけではなく、水車発電機などの境界条件の計算があり、その他に図 4.11、図 4.12 に
示すような前後処理があるので、表 6.7 に示す 1/6∼1/8 の計算時間の比率となるが、代
数学的手法の特性曲線法に対する計算速度の優位性は明白である。
通常の水撃圧計算で水車関係を中心に検討する場合、
水撃圧や回転速度などの最大値が
発生し終わるのに十分な長さとして対象時間を 60 秒程度に選べばよいが、サージタンク
−237−
の検討をする場合などにあっては 800 秒程度の計算対象時間は珍しくない。そのような
場合には上記の時間差は無視できない。勿論、日進月歩のコンピューター技術の進歩をも
ってすれば、この差が無視できる日も遠くないかと思われるが、図 1.7 に示したように、
多数のケースについて繰り返し計算するような場合があることなどをも考えるならば、
基
本的な計算速度の差は常に有意であると考えられる。
コンピューターも含め、
限られた資源を有効活用して業務処理を行わなければならない
国際事業分野にあっては、
このような軽便な解析ツールの存在は実務面から見て特に価値
が高いと考えられる。
6.2.2 パラメータースタディー
本研究で取り上げた代数学的手法を含む水撃圧解析では、その計算結果を実測値と照
合した場合、必ずしも両者が一致するとは限らない。不一致の理由には色々な事象と原因
が考えられ、例えば、
i)
解析が対象とし得ない事象(例:水圧脈動、ドラフトホワール)
ii) 物理定数が不明のもの(例:GD2、制水口流量係数、圧力波伝播速度)
iii)計算手法に関係するもの(例:Δt、Δx)
などがある。
このことは、設計などを行う際にあらかじめ熟知している必要があり、本研究において
開発されたプログラムを用いて、
設計者が上記のような不確定要素の影響度をシミュレー
ションにより事前に把握しておくことは、重要である。
例えば、実測と解析で過渡現象全体の周期が合わない場合が散見され、これはGD2を
加減することで調整できる。図 6.6 に示すように、GD2を 20%増減すると、周期が約
10%程度伸縮する。GD2の値は、機器メーカーが設計段階で推定する値はあるものの、
実物が最終的にどのような値を持つかは明確でなく、
かなり幅があるものと考える必要が
あり、このような数値実験をしておくことは有効である。
なお、
図 6.6 で明らかなように、
GD2が 20%小さいケースでは水撃圧の最大値が約 9%
大きくなり、GD2が 20%大きいケースでは同じく約 2%小さくなり、1.1.3 で述べたよ
うに、GD2の大きさは水撃圧の絶対値にも影響する。
図 5.25 に示したように 2 台同時負荷遮断時の実測値は 15 秒経過して以降、計算値よ
りもやや遅れる傾向にあり、図 6.6 に示すGD2が 20%大きいケースの計算結果はこの
ような傾向を有する実測値にかなり近い位相を示す。このことは実機のGD2が設計値よ
り 20%大きいことに直接はつながらないが、このような要素が影響している可能性は否
定できない。
−238−
1号機入口水圧
750
GDD-20%
700
GDD±0
GDD+20%
650
Hp(m)
600
550
500
450
400
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
60
1号機出口水圧
100
GDD-20%
GDD±0
GDD+20%
Hp(m)
80
60
40
20
0
10
20
30
Time(sec)
40
50
図 6.6 GD2 を増減させた場合の計算結果の比較(負荷遮断時 1 号機)
−239−
60
6.2.3
AFC 運転中の負荷遮断のシミュレーション
(1) 計算条件
i. 概要
AFC 運転は、2.2.1 で述べたとおり、電力系統の周波数を一定に保つために、発電機の
出力を 2∼20 分の短周期で大幅に変動させる運転である。水力発電所でこのような操作
を行う場合に最も問題となるのは、調圧水槽の水面の安定である。発電機の出力と水車の
使用水量は単純に比例するものでないとはいえ、大局的にみれば、出力が増加すれば使用
水量は増加し、出力が減少すれば使用水量も減少する。従って導水路調圧水槽の水位は、
出力増加の AFC 運転によって低下し、出力減少の AFC 運転によって上昇する(放水路
調圧水槽では逆となる)
。もし出力増加と出力減少の AFC 運転が交互に繰り返されれば、
調圧水槽の水面に強制振動を与えることとなり、
異常な水位上昇または低下が惹起されて
水路構造物や周辺環境に危険を及ぼす可能性がある。このため揚水発電所の調圧水槽は
AFC 運転の条件から予想される最も厳しいサージングに対しても安全であるように設計
される。その設計条件として日本の電力会社各社によって採用されているのは、
「共振 3
波遮断」と通称される下記の条件である。
a. 定常運転状態から始めて、電気出力(または入力)の増加と減少を 3 周期繰り返す。
この際電気出(入)力の極大値は、発電電動機の最大出(入)力とする。
b. 上記の増減の周期は、調圧水槽、調整池およびその途中の圧力水路からなるU字管
状水路系の固有周期とする。
c. 3 周期の強制振動によって調圧水槽の水面が振動を開始した後、その振動が加速さ
れるような時刻に負荷(または入力)遮断を行う。
このような現象が実際に生起する確率は極めて低いと考えられるが、
異常なサージング
が生起した場合の結果の重大さを勘案した上で、
工学的判断により選定された条件である。
図 2.6 に例示したサージング解析結果は、導水路調圧水槽の上昇サージングを上記の条件
で計算したものである。図に示すように、4 周期目の出力減少によって調圧水槽の水位が
上昇を開始し、しかもその水面上昇速度が最も大きくなった(4+1/4)周期時点で負荷遮断
を開始し、水車の使用水量をゼロに移行させている。その結果、出力減少によるサージン
グと負荷遮断によるサージングが重畳し、異常に高い水槽水位が出現している。
しかし図 2.6 の解析は、図 1.19 に示す水路モデルにおいて水車流量が水圧鉄管上流端
の流量に等しいと仮定した剛体理論の計算であり、
水撃圧とサージングを統一的に解析し
たものではない。ここでは本研究の水撃圧解析プログラムにより、図 2.6 と同じ条件(電
気出力の変動時刻歴および遮断開始のタイミング)に対する水路系の挙動を解析し、水車
入口・出口の水撃圧と導水路調圧水槽のサージングを求め、図 2.6 の解析結果と比較する。
−240−
ii. 遮断前の出力変動条件
奥清津第二発電所の AFC 運転条件は表 6.8 に示すとおりである。
表 6.8 AFC 運転条件
最大出・入力
AFC の運用範囲
出力変動速度の
最大値
1号機(定速機)
発電
揚水
300MW
320MW
-----±75MW
(±25%)
-----100MW/分
(ゼロ・フル 3 分)
2号機(可変速機)
発電
揚水
300MW
340MW
±52.5MW
±90MW
(±15.4%)
(±30%)
100MW/分
100MW/分
(ゼロ・フル 3 分) (ゼロ・フル 3 分)
導水路調圧水槽と上部調整池の間の水路系の固有振動周期 T0 は、途中の水路の損失水
頭係数を無視すれば式 2.6 によって計算され、約 118 秒となる。しかし実際には損失水
頭の影響により T0 の値は計算値と異なる。ここでは、実測されたサージングの時刻歴(図
5.16)からの判読により、T0 = 130 秒とした。
AFC 運転により発電機の出力を増減させる場合は、増減後の目標出力値とそこに到る
までの時間を先に設定し、目標値に向かって直線的に出力を変えていくのが普通である。
従って遮断前の発電機出力の増減は、三角波によるものとする。AFC 運転による調圧水
槽のサージングの振幅が最も大きくなるのは、
この三角波の変動周期が水路系の固有振動
周期 T0 に一致する場合である。一方で、出力変動速度にはサーボモーター等の性能に由
来する上限値があり、奥清津第二発電所の場合は 1、2 号機とも 100MW/分である(無負
荷状態から最大出力まで最小 3 分間で移行できることを意味する)。以上の条件から、固
有周期で実施し得る出力変動振幅の最大値 Pmax は、図 6.7 に示す幾何学的関係に基づき、
式 6.1 によって計算される。
Pmax = 100/60(MW/ 秒)×(T0 /4) (秒) = 54.17(MW)
(6.1)
上記の値は表 6.8 に示した 1 号機、2 号機の発電出力の増減振幅より小さい。従って
いずれの号機も、最大振幅での AFC 運転を固有周期で実施することはできない。固有周
期で AFC 運転を行う場合、三角波の極大値を最大出力 300MW とすれば、極小値は
191.66MW となり、極大・極小の中間値(初期値および、遮断が開始される(4+1/4)周期
での値)は 245.83MW となる。模型ガイドベーン開度φの時刻歴に反映させる出力変動
の時刻歴は、図 2.6 の解析と同様に、中間値から出発して極大値と極小値の間を往復変動
し、遮断開始時刻に中間値に戻るものとする。以上で遮断前の出力変動条件が決定された。
−241−
P (MW)
60sec
Pmax
100MW
0
T0/4
T0/2
3T0/4
T0
t (sec)
図 6.7 固有周期で実施し得る最大出力変動振幅 Pmax
iii. 初期条件の設定
入力データ作成の手順は、基本的には 5.2.2 に述べた方法による。ただし模型ガイドベ
ーン開度の時刻歴は後述する方法で作成した。
上部調整池の初期水位 HUR を H.W.L.(1306.0m)、下部調整池の初期水位 HLR を L.W.L.
(804.0m)とした。これは最高落差条件で、初期流量が最大値よりも小さくなることから
水撃圧については最も厳しい条件とならない可能性がある。
しかし導水路調圧水槽の初期
水位は可能最高値、放水路調圧水槽のそれは可能最低値となることから、負荷遮断に伴う
サージングに対しては最も厳しい条件となる。
ポンプ水車の初期使用水量 Q0 は、上記の初期水位から得られる全落差と初期電気出力
245.83MW に対して、式 5.2∼式 5.5 を適用して求めた。仮想条件であるから水車入口、
出口の初期水圧の実測値はないが、式 5.6∼式 5.9 に適用する損失水頭補正率ζは、5 章の
計算ケースとの整合をとるため、同じく 0.7 とした。求められた初期水車流量に基づき、
各節点における初期流量、初期圧力水頭を計算した。
ポンプ水車の初期回転速度 N0 についても実測値はないが、1 号機は定速機であるから、
N0 は定格回転速度 429rpm となる。2 号機については可変速機であって表 6.9 に示す出
力-回転速度関係が与えられていることから、N0 = 407rpm とした。
−242−
表 6.9 2 号ポンプ水車の出力-回転速度関係
有効落差 H
Hmax = 494m
Hnormal = 470m
Hmin = 432m
310
425.5rpm
434.1rpm
-----
285
407rpm
(直線比例)
-----
出力(MW)
278
407rpm
407rpm
-----
273
407rpm
407rpm
416.1rpm
265
407rpm
407rpm
407rpm
iv. 模型ガイドベーン開度の時刻歴の作成
発電機の出力が ii.で求めた三角波の時刻歴によって変動するとき、模型ガイドベーン
開度φ の時刻歴も三角波をなすと考えられる。この三角波の区間は以下の手順で求めた。
まず初期電気出力 245.83MW に対する初期流量 Q0 と初期回転数 N0 の値から、
5.2.2(2)
に述べた手順によって初期ガイドベーン開度φ0 を求めた。電気出力の極大値、極小値に
対するφの値は、電気出力 300.00MW および 191.66MW に対する推定流量 Q と回転数 N
の値から、同じ手順によって求めた。いずれの場合も 1 号機の N は定格回転速度 429rpm
とした。2 号機については、電気出力 191.66MW の場合は、表 6.9 により N = 407rpm
とした。
2 号機の電気出力が 300.00MW となった場合は、
表 6.9 によれば回転数が 407rpm
を超えて上昇するはずであるが、やはり N = 407rpm とした。これは本研究のプログラ
ムの性能上の限界によるもので、4.3.3(3)で述べたように通常運転状態を表現するために
は、計算に用いるはずみ車効果GD2を大きく取り回転数を一定とする方法に依っている
ためである。以上のようにして求めたφ の極大、中間、極小値の間を直線で結ぶことによ
り、三角波区間の時刻歴を求めた。
遮断開始後のφ の時刻歴は、5.3.1 に述べた 2 台同時全負荷遮断の計算で求められたも
のを流用することとした。ただし遮断開始時の値が異なるので、2 台同時全負荷遮断にお
けるφ の時刻歴のうち、φ 値が上記の三角波区間の中間値となって以降の部分を分離し、
三角波区間の時刻歴の末尾に接合することとした。
v. 計算条件
ii.∼iv.の手順によって求めた計算条件を表 6.10 に示す。
表 6.10
AFC 共振 3 波負荷遮断の計算条件
上池水位 HUR(m)
下池水位 HLR(m)
発電電動機運転状態
1,306.00
804.00
極小値
1 号機負荷 P1(MW)
2 号機負荷 P2(MW)
1 号水車効率 ηT1
1 号発電機効率 ηG1
2 号水車効率 ηT2
191.66
191.66
0.87
0.97
0.88
−243−
(H.W.L.)
(L.W.L.)
中間値
(初期、遮断前)
245.83
245.83
0.90
0.97
0.91
極大値
300
300
0.91
0.98
0.91
2 号発電機効率 ηG2
損失水頭補正係数 ζ
1 号機推定流量 Q1(m3/s)
2 号機推定流量 Q2(m3/s)
1 号模型ガイドベーン開度 φ1
2 号模型ガイドベーン開度 φ2
0.97
0.7
46.74
46.20
t(sec)
0
32.5
97.5
162.5
227.5
292.5
357.5
422.5
455
455+2.91
455+56.71
t(sec)
0
32.5
97.5
162.5
227.5
292.5
357.5
422.5
455
455+1.84
455+6.56
455+32.74
0.97
0.7
58.25
57.50
φ1
0.693
0.890
0.561
0.890
0.561
0.890
0.561
0.890
0.693
0.668
0.094
φ2
0.600
0.837
0.441
0.837
0.441
0.837
0.441
0.837
0.600
0.654
0.439
0.068
0.98
0.7
70.34
70.35
(遮断開始)
(遮断開始)
(2) シミュレーション結果
i.概要
5.2.1 に示した水路系のモデルと表 6.10 に示した計算条件に基づき、モデルを構成する
各単位管の初期流量と各節点の初期圧力水頭を求めると、図 6.8 のようになる。この初期
条件および、表 6.10 に示した模型ガイドベーン開度変化に基づいて水撃圧計算を行った。
計算結果を、図 6.9∼図 6.15 に示す。
ii.水車入口の水圧
1 号、2 号ポンプ水車に関連する諸量の時刻歴の計算結果を、図 6.9、図 6.10 に示す。
計算された水車入口(鉄管側)の水圧は、遮断開始前には頂点に段差(水圧の急変)を持
つ三角波をなして変化し、遮断開始後は台形状の波動を繰り返しながら減衰していく。こ
れらの時刻歴は図 5.63(遮断を伴わない出力増減のみの AFC 運転)
、図 5.14、図 5.15(2
台同時全負荷遮断)で実測された現象と定性的に一致する。2 台同時全負荷遮断の計算結
−244−
果の整理法に準じて、遮断開始後に出現する 3 回の台形波を「第 1 波」
、
「第 2 波」
、
「第 3
波」と呼ぶこととする。
第 1 波から第 3 波までの台形波の最小値(第 1 波については初期値)と最大値について、
2 台同時全負荷遮断条件での計算値(表 5.11、表 5.12)と AFC 共振 3 波負荷遮断条件で
の計算値を対比する。結果は 1 号機が表 6.11、2 号機が表 6.12 となる。これらの表にお
いて AFC 共振 3 波側の極値の出現時刻については、遮断開始時刻(計算開始から 455 秒
後)をゼロとするように換算してある。
極値の出現時刻については、2 号機第 2 は第 2 波最小値を除き 0∼1 秒の差であり、よ
く一致している。
遮断開始からサーボモーターストロークの最初の折れ点までの時間差は
共振 3 波負荷遮断試験の方が小さいが、極値の出現時刻は共振 3 波負荷遮断試験の方が
早いものと逆のものがあり、一定した傾向が現れなかった。極値の大きさについては、初
期値との差ΔHP で比較すると、第 3 波の最小値を除いて、1 号機、2 号機とも AFC 共振
3 波の方が小さい。これは遮断開始時刻における流量が 2 台同時全負荷遮断より小さいた
めだと考えられる。
表 6.11
時刻歴
第1波
第2波
第3波
初期値
最大値
最小値
最大値
最小値
最大値
AFC 共振 3 波負荷遮断
初期値
出現
圧力
との差
時刻
水頭
HP(m)
(sec)
∆HP(m)
0
567.1
0
10.3
673.9
106.8
21.8
487.9
−79.2
32.1
641.1
74.2
39.2
490.1
−77.0
42.5
611.9
44.8
表 6.12
時刻歴
第1波
第2波
第3波
初期値
最大値
最小値
最大値
最小値
最大値
1 号ポンプ水車入口水圧の時刻歴の対比
2 台同時全負荷遮断
出現
初期値
圧力
時刻
との差
水頭
HP (m) ∆HP(m)
(sec)
0
532.8
0
9.3
703.9
171.1
20.4
443.8
−89.0
31.4
642.6
109.8
39.4
475.4
−57.4
42.3
596.0
63.2
∆HP
AFC/2
台同時
---0.62
0.89
0.67
1.34
0.71
2 号ポンプ水車入口水圧の時刻歴の対比
AFC 共振 3 波負荷遮断
初期値
出現
圧力
との差
時刻
水頭
HP (m) ∆HP(m)
(sec)
0
567.2
0
10.9
664.1
96.9
22.3
509.5
−57.7
32.3
636.5
69.3
40.0
498.9
−68.3
42.5
609.5
42.3
−245−
2 台同時全負荷遮断
出現
圧力
初期値
時刻
水頭
との差
(sec)
HP (m) ∆HP(m)
0
532.5
0
9.9
693.5
161.0
17.6
471.2
−61.3
31.8
638.0
105.5
39.7
483.0
−49.5
42.2
594.7
62.2
∆HP
AFC/2
台同時
---0.60
0.94
0.66
1.38
0.68
管路No. 上流節点 下流節点
−246−
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
1
2
3
4
5
6
8
9
10
12
13
5
14
16
17
18
1306.00
12
1
①
17
17
3
4
5
6
7
9
18
11
2
10
14
15
9
2
10
管路長
管径
670.77
47.80
673.02
447.32
127.08
12.00
105.25
22.50
779.25
12.00
12.00
127.08
12.00
97.39
100.50
44.42
損失水頭係数 初期流量
5.70
5.70
5.00
4.40
3.20
2.25
4.10
5.70
5.70
6.319E-05
9.951E-06
1.483E-04
2.195E-04
2.946E-04
1.347E-04
6.711E-05
1.314E-05
1.160E-04
0.000E+00
0.000E+00
2.946E-04
1.347E-04
5.452E-05
1.135E-05
4.290E-06
3.20
2.25
4.10
5.70
5.70
⑩
⑮
115.75
115.75
115.75
115.75
57.50
57.50
57.50
115.75
115.75
0.00
0.00
58.25
58.25
58.25
115.75
115.75
2号水車
②
2
節点No. 節点コード 水路中心 初期水頭
標高
1
3
1262.850 1306.0000
2
1
1247.850 1303.9514
3
1
1240.436 1303.0948
4
1
932.586 1299.9239
5
1
739.600 1296.9835
6
1
739.000 1296.3583
7
4
739.000 1287.8508
8
5
731.050
805.0420
9
1
731.050
804.5619
10
1
731.850
804.5044
11
3
795.850
804.0000
12
2
1303.9514
13
2
804.5044
14
1
739.000 1296.2639
15
4
739.000 1287.5321
16
5
731.050
804.9796
17
1
1249.988 1304.1035
18
1
731.850
804.7380
⑥
3
③
⑤
6
13
7
8 ⑦
⑪
④
4
⑯
⑧
5
⑫
⑭
9
18
16
14 ⑬ 15
1号水車
図 6.8
水撃圧計算モデルと初期値 (AFC 負荷遮断)
804.00
⑨
10
11
1号機出口水圧・ガイドベーン開度・流量
100
Q(m3/s), Hd(m), GVO(%)
80
60
出口水圧(Hd)
ガイドベーン開度(GVO)
流量(Q)
40
20
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
-20
Time(sec)
1号機入口水圧・回転速度
700
650
水車入口水圧(Hp)
回転速度(N)
Hp(m), N(r.p.m)
600
550
500
450
400
350
0
100
200
300
400
Time(sec)
500
600
700
図 6.9 1 号機の入口・出口水圧、回転速度、流量の計算結果(AFC運転中負荷遮断)
−247−
800
2号機出口水圧・ガイドベーン開度・流量
100
水車出口水圧(Hp)
ガイドベーン開度(GVO)
流量(Q)
80
Q(m3/s),Hd(m),GVO(%)
60
40
20
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
-20
Time(sec)
2号機入口水圧・回転速度
700
水車入口水圧(Hp)
回転速度(N)
650
Hp(m), N(r.p.m)
600
550
500
450
400
350
0
100
200
300
400
Time(sec)
500
600
700
800
図 6.10 2 号機の入口・出口水圧、回転速度、流量の計算結果(AFC運転中負荷遮断)
−248−
iii.水車出口の水圧
計算された水車出口(吸出管側)の水圧は、遮断開始前には正弦波状に変形した三角波
をなして変化し、遮断開始後は不明瞭であるが│sin│状の波動を繰り返しながら減衰して
いく。前者の時刻歴は、繰り返し変動であるという点では図 5.63(遮断を伴わない出力
増減のみの AFC 運転)で実測された現象と一致するが、波形は似ていない。後者の時刻
歴は図 5.14(2 台同時全負荷遮断)で実測された現象と定性的に一致する。2 台同時全負
荷遮断の計算結果の整理法に準じて、遮断開始後に出現する 3 回の台形波を「第 1 波」
、
「第 2 波」
、
「第 3 波」と呼ぶこととする。
第 2 波以降の極値の時刻と大きさは不明瞭であるので、第 2 波初期値(極大値)までの
初期値と最小値について、2 台同時全負荷遮断条件での計算値(表 5.13、表 5.14)と AFC
共振 3 波負荷遮断条件での計算値を対比する。結果は 1 号機が表 6.13、2 号機が表 6.14
となる。これらの表において AFC 共振 3 波側の極値の出現時刻については、遮断開始時
刻(計算開始から 455 秒後)をゼロとするように換算してある。
極値の出現時刻については 1、2 号機とも 2 台同時全負荷遮断が AFC 共振 3 波より若
干早いが、その差は 2 号機最大値を除き 0∼2 秒で、おおむね一致している。極値の大き
さについては、初期値との差ΔHP で比較すると、1 号機、2 号機とも AFC 共振 3 波の方
が同じかやや小さい。これは遮断開始時刻における流量が 2 台同時全負荷遮断より小さ
いためだと考えられる。
表 6.13
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最小値
最大値
AFC 共振 3 波負荷遮断
初期値
出現
圧力
との差
時刻
水頭
HD (m) ∆HD(m)
(sec)
0
68.4
0
10.4
39.7
−24.7
20.3
76.6
12.2
表 6.14
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最小値
最大値
1 号ポンプ水車出口水圧の時刻歴の対比
2 台同時全負荷遮断
出現
圧力
初期値
時刻
水頭
との差
(sec)
HD (m) ∆HD(m)
0
74.1
0
10.7
38.8
−35.3
19.8
86.2
12.1
∆HD
AFC/2
台同時
---0.70
1.01
2 号ポンプ水車出口水圧の時刻歴の対比
AFC 共振 3 波負荷遮断
初期値
出現
圧力
との差
時刻
水頭
HD (m) ∆HD(m)
(sec)
0
64.4
0
13.7
30.6
−33.8
23.1
69.2
4.8
−249−
2 台同時全負荷遮断
出現
圧力
初期値
時刻
水頭
との差
(sec)
HD (m) ∆HD(m)
0
74.1
0
12.1
34.5
−39.6
16.7
78.3
4.2
∆HD
AFC/2
台同時
---0.85
1.14
iv.回転速度の変動
図 6.9、図 6.10 に示すように、負荷遮断に伴ってポンプ水車の回転速度は最大値 Nmax
まで上昇し、その後 1∼2 回の増減を経て定常値(無負荷回転速度)に収束していく。最
大回転速度 Nmax を含む回転速度の上昇を「第 1 波」
、その次の極大値を含む回転速度の
上昇を「第 2 波」と呼ぶこととする。計算された 1 号、2 号ポンプ水車の入口水圧の時刻
歴は 1 号機で 3 回、2 号機で 2 回の波を形成しており、2 号機の第 2 波が第 1 波に比べて
はるかに小さいなど、図 5.23、図 5.24 に示した 2 台同時全負荷遮断の計算時刻歴と同様
の挙動を示している。
次に、実測された回転速度の時刻歴のうち、極値が明瞭な第 2 波の最大値までの区間に
ついて極大値、極小値の出現時刻と大きさを判読し、2 台同時全負荷遮断の計算値と対比
する。結果は 1 号機が表 6.15、2 号機が表 6.16 となる。これらの表において AFC 共振 3
波側の極値の出現時刻については、遮断開始時刻(計算開始から 455 秒後)をゼロとす
るように換算してある。
極値の出現時刻については、2 号機第 2 波極大値を除き 0∼3 秒の差でほぼ一致してい
る。極値の大きさについては、初期値との差ΔN で比較すると、第 1 波の最大値 Nmax に
ついては、1 号機、2 号機とも AFC 共振 3 波の方が小さい。これは遮断開始時刻におけ
る流量が 2 台同時全負荷遮断より小さいためだと考えられる。第 2 波については、大き
さのみならず初期値との大小関係にもばらつきがあり、一定の傾向は認められない。
表 6.15
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最大値
極小値
極大値
AFC 共振 3 波負荷遮断
2 台同時全負荷遮断
∆N
出現
回転
初期値
出現
回転
初期値
AFC/2
時刻
速度
との差
時刻
速度
との差
台同時
(sec)
N(rpm) ∆N(rpm) (sec)
N(rpm) ∆N(rpm)
0
429
0
0
429
0
---8.0
566
137
7.4
580
151
0.91
---21.6
455
26
20.0
427
−2
30.5
511
82
30.0
512
83
0.99
表 6.16
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最大値
極小値
極大値
1 号ポンプ水車回転速度の時刻歴の対比
2 号ポンプ水車回転速度の時刻歴の対比
AFC 共振 3 波負荷遮断
出現
回転
初期値
時刻
速度
との差
(sec) N(rpm) ∆N(rpm)
0
407
0
11.0
553
146
18.0
456
49
20.9
464
57
−250−
2 台同時全負荷遮断
出現
回転
初期値
時刻
速度
との差
(sec) N(rpm) ∆N(rpm)
0
426
0
8.1
578
149
17.9
443
14
29.1
461
32
∆N
AFC/2
台同時
---0.98
3.50
1.78
v.完全特性上での運転状態の変化
1 号ポンプ水車の運転状態の変化を、n-q 特性図、n-τ特性図上の軌跡として図 6.11、図
6.12 に示す。同様に 2 号ポンプ水車の運転状態の変化を、n-q 特性図、n-τ特性図上の軌
跡として図 6.13、図 6.14 に示す。
始点は第 1 象限
(発
1 号機の n-q 特性図上の軌跡は中間負荷の発電運転から始まるので、
電運転領域。流量>0、回転速度>0)の中央部分(中程度のガイドベーン開度)にある。軌
跡のうち AFC 運転による出力増減に対応する部分は、始点をはさんで上下方向に同一振
幅で往復運動している部分である。3 往復後に運転状態が始点に戻ったところから遮断が
進むと流量が減少し、第 4 象限(逆転ポンプ領域。流量<0、回転速度>0)に入る。その後
流量は発電方向に戻り、再度減少して逆転ポンプ領域に入り、最後に発電領域内の低いガ
イドベーン開度(無負荷回転に相当)に収束する。このように運転状態が第 1 象限と第 4
象限を 2 回行き来することは、計算された流量の時刻歴(図 6.8)において 2 回の逆流期
間が存在することと対応している。この間に運転状態点の横軸座標(回転速度)は 3 回に
わたり初期状態より右(高い回転速度)に移動するが、これは回転速度の時刻歴において
3 回の増減波が存在することと対応している。
1 号機の n-τ特性図上の軌跡の始点は第 1 象限(発電運転領域。トルク>0、回転速度>0)
の中央部分(中程度のガイドベーン開度)にある。軌跡のうち AFC 運転による出力増減
に対応する部分は、n-q 特性図上のそれと同様に、始点をはさんだ往復運動となっている。
この状態では水から水車にその回転速度を上げる方向の回転力が伝達されているが、その
エネルギーは電気エネルギーの形で系外に運び出されているので、実機の回転数を変化さ
せることはない。負荷遮断があると、回転数を一定に保つ力は作用しなくなるので過渡現
象が始まり、トルクの大きさに応じて回転数が上昇する。過渡現象が進むとトルクが減少
し、第 4 象限(逆転ポンプ領域。トルク<0、回転速度>0)に入る。この状態では水車から
水に回転速度を下げる方向の回転力が伝達されるので回転数は下がる。その後トルクは発
電領域に戻り、再度減少して逆転ポンプ領域に入り、最後に横座標軸上(トルク=0、無
負荷回転に相当)に収束する。
2 号ポンプ水車の運転状態の変化を示す n-q 特性図、n-τ特性図上の軌跡も、1 号機のそ
れとほぼ同様である。ただし 2 号機では第 1 象限と第 4 象限の間の出入りが 1 回だけで
あり、これは計算された流量の時刻歴(図 5.24)において 1 回の逆流期間が存在するこ
とと対応している。以上のような挙動は 2 台同時全負荷遮断条件の解析によって得られた
ものと一致している。
−251−
1号機模型流量特性
0.05
110%
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
5%
0%
計算結果
t=0
0.04
0.02
0.01
t=800
0
150
160
170
180
190
200
210
220
230
240
-0.01
-0.02
回転数 NM(r.p.m)
図 6.11 AFC運転中負荷遮断時の 1 号機の運転状態変化(n−q 特性)
1号機模型トルク特性
2.5
t=0
2
1.5
1
トルク TM(t-m)
流量 QM(m3/s)
0.03
0.5
t=800
0
150
160
170
180
190
200
-0.5
210
220
110%
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
2305%
240
0%
計算結果
-1
-1.5
-2
回転数 NM(r.p.m)
図 6.12 AFC運転中負荷遮断時の 1 号機の運転状態変化(n−τ 特性)
−252−
2号機模型流量特性
0.05
100%
85.71%
71.43%
57.14%
42.86%
28.57%
14.29%
0%
計算結果
t=0
0.04
流量 QM(m3/s)
0.03
0.02
0.01
t=800
0
150
160
170
180
190
200
210
220
230
240
-0.01
-0.02
回転数 NM(r.p.m)
図 6.13 AFC運転中負荷遮断時の 2 号機の運転状態変化(n−q 特性)
2号機模型トルク特性
2.5
2
100%
85.71%
71.43%
57.14%
42.86%
28.57%
14.29%
0%
計算結果
t=0
1.5
トルク TM(t-m)
1
0.5
t=800
0
150
160
170
180
190
200
210
220
230
-0.5
-1
-1.5
-2
回転数 NM(r.p.m)
図 6.14 AFC運転中負荷遮断時の2号機の運転状態変化(n−τ 特性)
−253−
240
vi. 調圧水槽のサージング
導水路・放水路調圧水槽におけるサージングおよび各水槽基部にある制水口の下側にお
ける水圧の計算結果を図 6.15 に示す。
導水路調圧水槽基部の計算結果では、遮断前の出力変動によりサージングが発生し、遮
断開始から 14.5 秒後に最大の水位上昇が認められる。これは出力変動によるサージング
に遮断による水撃圧とサージングが重畳したものである。
導水路調圧水槽におけるサージング水位の第 1 波、第 2 波について、図 2.6 に示した剛
体理論の計算値と本研究のプログラムによる計算値を対比する。結果は表 6.17 となる。
表 6.17
導水路調圧水槽のサージングの時刻歴の対比(AFC 共振 3 波負荷遮断)
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最大値
極大値
出現
時刻
(sec)
0
488
622
水撃圧解析
水槽
初期値
水位
との差
∆H(m)
H (m)
1303.95
0
1318.04
14.09
1311.45
7.50
剛体理論
誤差
出現
水槽
初期値 (式
5.20)
時刻
水位
との差
(%)
(sec)
∆H(m)
H (m)
0 1304.56
0
---492 1318.31
13.75
−2.4
622 1310.92
6.36
−8.1
第 1 波の最大値および第 2 波の極大値の出現時刻についてはほとんど一致している。
極値の大きさについては、初期値との差∆H で比較すると、第 1 波では 2%、第 2 波では
8%だけ水撃圧解析による値の方が大きく、剛体理論の計算結果の方が危険側になってい
る。この理由は、剛体理論においては遮断開始後の水圧鉄管上流端の流量変化を水車にお
ける流量変化(他の水撃圧計算結果から流用したもの)で代用しているのに対し、水撃圧
計算においては水路系の一体的モデルによって調圧水槽基部に設けた節点における流量
を使用しているためだと考えられる。
放水路調圧水槽基部の計算結果では、遮断前の出力変動によりサージングが発生し、遮
断開始から約 13.8 秒後に最大の水圧降下が認められる。これは出力変動によるサージン
グに遮断による水撃圧とサージングが重畳したものである。
放水路調圧水槽におけるサージングの第 1 波、第 2 波について、剛体理論の計算値と本
研究のプログラムによる計算値を対比する。結果は表 6.18 となる。
表 6.18
放水路調圧水槽のサージングの時刻歴の対比(AFC 共振 3 波負荷遮断)
時刻歴
第1波
第2波
初期値
最小値
極小値
出現
時刻
(sec)
0
490
614
水撃圧解析
水槽
初期値
水位
との差
∆H(m)
H (m)
804.56
0
789.03
−15.53
799.39
−5.17
−254−
出現
時刻
(sec)
0
492
614
剛体理論
水槽
水位
H (m)
806.24
790.19
799.69
誤差
初期値 (式
5.20)
との差
(%)
∆H(m)
0
---−16.05
−3.2
−6.55
−8.6
導 水 路 調 圧 水 槽 サ ー シ ゙ン ク ゙
1320
1 ,3 1 8 .0
1315
1 ,3 1 1 .5
1305
1 ,3 0 4 .0
1300
1295
1290
0
100
200
300
400
T im e (s e c )
500
600
700
800
水 路 水 圧 (C H 2 5 ,C H 6 6 )
80
7 7 .7
6 9 .8
Head(m)
70
60
5 3 .3
5 0 .0
50
導 水 路 制 水 口 下 側 (C H 2 5 )
放 水 路 制 水 口 下 側 (C H 6 5 )
40
0
100
200
300
400
T im e (se c )
500
600
700
800
放 水 路 調 圧 水 槽 サ ージング
815
810
805
WL(m)
WL(m)
1310
804.6
799.4
800
795
789.0
790
785
0
100
200
300
400
Time(sec)
500
600
図 6.15 AFC運転中負荷遮断時の調圧水槽サージングおよび水路水圧の変化
−255−
700
800
第 1 波の最大値および第 2 波の極大値の出現時刻についてはほとんど一致している。極
値の大きさについては、初期値との差ΔH で比較すると、第 1 波では 3%、第 2 波では
9%だけ水撃圧解析による値の方が大きく、剛体理論の計算結果の方が危険側になってい
る。この理由は、剛体理論においては遮断開始後の調圧水槽直上流の流量変化を水車にお
ける流量変化(他の水撃圧計算結果から流用したもの)で代用しているのに対し、水撃圧
計算においては水路系の一体的モデルによって調圧水槽基部に設けた節点における流量
を使用しているためだと考えられる。
このことから、サージングの計算についても、水路系を一体的にモデル化した水撃圧解
析によることが望ましいと言えるが、その差は絶対値で 1∼2mであるので、第 5 章で述
べた計算と実測の誤差と同程度であることから、決定的なものではない。これは、サージ
ングが水撃圧に較べて大きな時定数を持った動きであることから、
流量変化が近似的なも
のであっても結果があまり変化しないことによるものと考えられる。
6.2.4 ポンプトリップのシミュレーション
2.3.3(2)で述べたポンプトリップ(揚水入力遮断時にガイドベーンが何らかの原因で閉
塞できないことを想定した事故)の数値実験を行った結果が図 6.16 および 6.17 である。
この場合、放水路調圧水槽が上昇サージングを起こし、最も危険な状態に至るが、計算結
果によれば、最高水位は 835.3mであり、放水路調圧水槽の最高標高 842.0mに対して十
分な余裕が残されていて、調圧水槽を溢水することはないことが確認できた。なお、図
6.17 に示す計算過程を見ると、模型の完全特性において第 3 象限の揚水運転領域に発し、
時間の経過と共に第 2 象限のポンプブレーキ領域を経由して第 1 象限の発電運転領域に
放水路水槽水位(m)
入り、無拘束速度で停滞する状況が確認できる。
835.3
835
825
805
817.2
816.7
815
808.4
0
60
120
180
240
300
360
420
時刻(s)
図 6.16 ポンプトリップのシミュレーション結果
−256−
480
540
600
0.06
0.04
0.02
0
-300
-200
-100
0
100
200
300
-0.02
-0.04
-0.06
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
5
0
QM
-0.08
-0.1
図 6.17 ポンプトリップ時の模型特性上の軌跡
6.3
今後の展開
本研究の結果、
従来からの懸案であった水車特性を織り込んだ任意水路ネットワークの
解析が可能となった。今後は、この手法を実用的にさらに洗練されたものにすると共に、
使用の簡便さを活用して多くの数値実験、パラメータースタディーを行い、概念設計や概
略設計に使用できるノモグラムを作成するなどに発展させることが考えられる。また、水
撃圧の発生頻度が非常に低く、
水圧脈動など二次的な荷重に相当するものも含まれること
から、構造物の設計に際し、より合理的な思想に統一すべきものと考えられ、そのために
は、計算手法をより広く公開して、誰でも自由に使うことができるようにし、解析手法の
認知度を上げるべきものと思われる。
現在考えられる今後の展開の可能性を列挙すれば次のようである。
(1) 計算プログラムの入出力方法の改善(初期値の完全自動計算等)
(2) 水車特性の一般化(計画諸元に合致する特性の自動作成)
(3) より多くの実測データとの照合
(4) 数値実験による概略設計用ノモグラムの作成(水撃圧、サージング)
(5) 解析手法の公開による手法の一般化と高度化
(6) 水力発電所水路系以外への摘要拡大
−257−
第7章 結論
本研究は揚水発電所水路系に生ずる水撃圧の解析に関して、代数学的手法の再評価、
ネットワーク理論に基づく任意の水路系のモデル化、
および数値解析により予測された結
果と実測結果との比較による検証を通して一般的な体系化を図ったものである。
得られた
成果を各課題毎に取りまとめ、以下のような結論を得た。
代数学的手法の再評価について、次のような結論を得た。
1. 代数学的手法は、管路流れのマッハ数(流速の圧力波伝播速度に対する比)が 1 に較
べて十分小さいという条件さえ満足できれば、一般的に用いられている特性曲線法と
同様の過程を経て水撃圧の基本式から導出することができる。すなわち代数学的手法
はマッハ数が小さければ特性曲線法と同じ一般性を有している。
2. 管路を単位長さに区切って各格点ごとに計算を進めて行く特性曲線法に対し、一様管
路であればその両端のみ計算すればよい代数学的手法は、原理的に計算時間を大幅に
短縮することができ、このことが工学的利便性に結びつく。
3. 代数学的手法では管路に一様に分布する摩擦損失を近似的に一点に集中して扱わざる
を得ない点が問題とされているが、その誤差は、後述する実測値および特性曲線法に
よる解析結果との比較により、通常の揚水発電所の場合に十分実用的な範囲に収まる。
4. これらのことから、揚水発電所を含むマッハ数が小さく損失水頭も比較的小さい管路
網に限れば、代数学的手法が特性曲線法と同等の妥当性とそれ以上の高速利便性を発
揮する可能性がある。
ネットワーク理論に基づく任意の水路系のモデル化について、次のような結論を得た。
1.揚水式発電所など水力発電所の水路系は複数の水理施設で構成される管路網である。
一
般にどのような管路網であってもネットワークモデルにより表現することができる。
2.管路網における定常流および非定常流は、
行列表示するネットワークモデルにより定式
化することができる。このとき、代数学的手法を用いれば線形表示することができるの
で、
境界条件と過去における各管路端の圧力水頭および流量からなる状態変数を代入し、
逆行列を解くことにより現在の状態変数を容易に求めることができる。
3.管路網を形成する施設の特性に応じそれぞれの境界条件が与えられるが、
揚水発電所特
有のポンプ水車の境界条件は、
実機と相似した模型ポンプ水車の試験で得られる完全特
性を読みとることにより、ポンプ水車の各状態ごとに与えられる。
4.完全特性のS字曲線と呼ばれる部分を正しく追跡するために、
流量−トルク−回転速度
からなる三次曲面を構成する微小平面を想定し、
平面上あるいは連続する平面間で移動
しながら逐次計算するアルゴリズムに十分な妥当性が認められる。
5.以上の定式化およびアルゴリズムに従い計算プログラムが FORTRAN90 でコーディン
グされ、任意の水路系に適用できる過渡現象の数値シミュレーションが可能となった。
−258−
数値解析により予測された結果と実測結果との比較による検証を通しての体系化につ
いて、次のような結論を得た。
1. 奥清津第二発電所における 2 台同時全負荷遮断試験、2 台同時揚水入力遮断試験、2 台
時間ずれ全負荷遮断試験および AFC 試験に際し、水路および機器に関する水圧、回転
速度などの計測が行われ、各試験条件に対応する初期条件の下で、この研究で開発され
た解析プログラムを用いたシミュレーションを実施し計測結果と照合すると、各ケース
とも実用的に十分な一致を見ることができるので、本研究の解析手法は妥当である。
2. 上記の試験と同様のケースについて、一般的手法である特性曲線法によるシミュレーシ
ョン結果を本研究で扱う代数学的手法に基づく解析結果と比較すると、各ケースとも極
めて良好な一致を見ることができるので、摩擦損失の取り扱いも含めて本研究の解析手
法は妥当である。
3. 代数学的手法においてマッハ数を変化させ、このことに関係なく解析できる特性曲線法
との誤差を計る数値実験をした結果、マッハ数が 0.05 程度以下であれば誤差は 10%以
下であり、かつ安定的に計算できるので、これが工学的に見た摘要限界と考えられる。
揚水発電所など通常の水力発電所ではマッハ数が 0.01 程度であることから、この適用
限界に十分入っている。
4. 実用上の目的でパーソナルコンピューターに移植されたプログラムによる計算所要時
間を測定すると、代数学的手法を用いる本研究によるプログラムでは、特性曲線法によ
るものの 1/6∼1/8 となり、調圧水槽のサージング追跡など長時間を対象とする計算や最
適設計のために多数のケーススタディーを行う場合など、実務上の効用が期待できる。
5. 実機では試験不可能ないし仕様外とされている自動周波数調整(AFC)運転中の負荷遮
断およびポンプトリップと呼ぶ特殊事故について、本研究成果を用いることにより机上
で数値実験を行うことができ、それにより設備の安全性を評価することができる。
6. 本研究で体系化された手法は、揚水発電所を含む水力発電所の水路を中心とする計画お
よび設計に際し、円滑な業務処理のために実務面で活用するのに十分な一般性と実用性
を有している。今後、可能な範囲で本手法の公開がなされ、それらを通じてさらなる改
良が加えられ、水力発電以外の管路網非定常流解析に応用することが期待できる。
−259−
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謝 辞
本研究は著者が勤務した奥清津第二建設所において 1995 年頃に着手したものですが、そ
の後の著者自身の有為転変によりその終了がほとんど絶望的な状態にあったものを、何と
かここまで持ち込むことに絶大な御力添えをいただいた玉井信行東大工学部教授、最初か
ら最後まで支えてくれた電源開発(株)芳賀馨、(株)開発計算センター久保道仁両兄、この御
三方にはお礼の申し上げようがない程のお陰をこうむりました。本当にありがとうござい
ました。また本研究に対し直接的なご指導を賜った河原能久香川大学工学部教授、島田正
志東大農学部助教授、河野幸夫東北学院大学工学部教授および矢吹信喜室蘭工大工学部助
教授に厚くお礼申し上げます。
30 数年前に本研究のテーマを初めて手がけて以来粘り強く追い続けて頂いた、齋藤俊彦
(株)開発計算センターシニアアドバイザー始め同社の皆様に心からお礼申し上げます。奥清
津第二発電所の現地試験およびこの工事全般に関与された電源開発(株)および多くの工事
関係者の方々に感謝申し上げます。貴重な情報を頂いた電力関係者の皆様、桑原尚夫日立
製作所水力設計部主任技師始めメーカー関係の多くの方々、本研究にご理解とご助力を頂
いた電源開発(株)の村良平エンジニアリングセンター電力・インフラ技術室長始め室員の皆
様、江原昌彦地下開発事業グループリーダー、金子和男研究センター所長始め所員の皆様、
田生宏禎工務部品質管理グループリーダー始め部員の皆様、小原秀夫営業部長代理、安田
正史国際事業部副部長、副島茂勝奥清津電力所長始め所員の皆様、その他多くの方々に深
甚なる謝意を捧げるものです。
著者は、海外の人跡未踏な地で仕事をすることを夢見て入社して以来、幸いなことにほ
とんどずっと水力発電所の建設に従事してきました。その中には揚水式、一般水力、大規
模、中小規模、国内国外といった物理的な区分のほか、企画、計画、設計、施工計画、施
工管理と仕事の内容の区分でも広い範囲に及んでいます。とは言っても所詮は井の中の蛙、
このような業務を通じ、多くの方々に接し、多くのことを教えていただき、多くのことを
思い知ることができました。一々お名前を挙げることはできませんが、それらの方々に心
から感謝申し上げます。
また、この研究のみならず著者の言動を支持し応援してくれた多くの友人に心からお礼
申し上げます。文句ひとつ言わず理解し協力し続けてくれた家族に深く感謝します。
そして何より、自分が愛してやまない水力発電所そのものに、心から謝意を表したいと
思います。現在の過小評価に負けることなく、エネルギー問題や環境問題に対処する有力
なオプションの一員として、末永く活躍して貰いたいと願っています。
2001 年 10 月 23 日 藤 野 浩 一
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